唯「あ、けいちゃん先生!」桑田佳祐「はいはい。」 前編

57 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 00:25:27.64 ID:07x4WJiu0


律「・・・!」

私はまた、精一杯の勇気を振り絞って顔を上げる。
そして・・・そして何か、何か言葉を・・・

律「あああああの、、あの、えっと・・あ、あれ?あれ・・・」

言葉が、言葉が出てこない。そうだ、何を言うか、何て言うか、結局何も思いつかなかった。

律「あの・・・あの・・」ポロポロ


けいおん! 田井中律 (1/7スケールPVC塗装済み完成品)
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76 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 00:30:01.14 ID:07x4WJiu0
桑田「・・・」

律「わ、私・・・田井中律と・・・い、言いま・・・ち、ちが・・そうじゃなくて・・そうじゃなく・・て・・・」

律「う・・うぅ・・うう・・・」

律「くわっちょ・・・


95 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 00:35:07.44 ID:07x4WJiu0
駄目だ。また顔を下に向けてしまった。
しかも私の事を覚えているかどうかもわからない、業界の大御所に‘くわっちょ’などと言ってしまった。

もう、もう駄目だ。私は・・・私は・・・

桑田「・・・なんだよ全くー・・・」

律「・・・!」

あぁ、そうだ。この人は。
この人は・・・そうなんだ。
久しぶりに聞くくわっちょの声。
歳を取って、更にしゃがれたような気がする。
この声のこの感じ・・そう、これは・・これは・・・

109 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 00:39:07.74 ID:07x4WJiu0
桑田「シケた面してんなぁ、律・・・」

・・くわっちょ・・・桜高軽音楽部の顧問・・・放課後ティータイムのメンバー・・
そうだ・・そうだこの人は・・・

律「うぇ・・・うぇぇぇん・・くわっちょ・・くわっちょ・・・」

桑田「・・・」

律「くわっちょぉーうわあぁぁぁぁん!!」


133 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 00:44:36.25 ID:07x4WJiu0
私は、それまで溜まっていた感情を全て爆発されるようにくわっちょに抱きついていた。
久しぶりに会えた・・声が聞けた・・・そして・・そして・・・

‘覚えてた’

私は、ずっと、ずっとくわっちょにしがみついて泣いた。
涙で前が見えない。息がしにくい。でも・・でも・・
私は、今は、今だけはくわっちょの胸から離れたくなかった。
もうすこし・・もうすこしだけ・・


159 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 00:58:22.86 ID:07x4WJiu0
‘・・・あれ?・・律・・?’

澪達の声が聞こえた。私が楽屋に戻ってこないから、
とりあえず自分達だけで挨拶に来たのだろう。・・・あ、まずい。
澪達はくわっちょの事を覚えていないんだ。それなのにこの状況を見られたら・・
私は急いでくわっちょから離れようと・・

唯「くわ・・・っちょ?」

律「・・え?」


172 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 01:00:54.79 ID:07x4WJiu0
梓「くわた・・桑田先生?」

・・・どういう事だろう。
みんなくわっちょの事を覚えてる・・いや、今思い出したみたいだ。
みんながこちらに走って来る。はは、みんな泣いてる。今日生放送なのにどうすんだよ。
気がつくと、くわっちょは私の腰に手を回し、かなり際どい部分を触っていた。

律「な・・な・・」

桑田「よしよし、おじさんの胸だったらいくらでも・・」

律「ドコ触ってんだコルァァァー!!」ドパグプシッ

桑田「マンビ!!」


184 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 01:03:35.10 ID:07x4WJiu0
律「はぁ、はぁ、・・・ふ、ふふ・・あはは!」

なんか昔に戻ったみたいだ。
・・いや、戻ってきたんだ、今。

唯「くわっちょぉー・・えーん・・くわっちょぉぉ・・」
紬「どうして私達これまで・・うぅ・・」

こうして、またHTTのメンバーが一つの空間を共有する。・・・さわちゃんはいないけど。

澪「先生・・・私達・・・私達・・・・ぐすっ」

あの日。
バンドコンテストのあの日から止まったままの時計が、

今、再び動き出した。


唯「あ!けいちゃん先生―!」桑田「はいはい。」
けいおん!世界エンディング
fin


304 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 07:08:17.90 ID:v0x+i7DO0
おはようございます!
保守ありがとうございました。
30分後から投下します。

305 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/15(土) 07:25:12.38 ID:wrA/ohQj0

306 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 07:27:32.62 ID:v0x+i7DO0
深夜の半蔵門スタジオ。やさしい夜遊びの収録を終え、
桑田は楽屋で身支度をしながらの短い休憩に身を委ねていた。

スタッフ「桑田さん、お疲れさまでしたー!」
桑田「お疲れ、ありがとね。」


310 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 07:38:12.20 ID:v0x+i7DO0
労いの言葉に一瞬の安堵を感じるが、桑田の仕事はまだ終わっていない。

この後は自らがプロデューサーを勤める、新しく始めた音楽番組の企画会議。
それに伴い、
朝からは地方へ出向き直々に地方アマチュアバンドの開拓・PR活動為の調査へ行かなければならない。


313 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 07:50:38.10 ID:v0x+i7DO0


今日は、どんな若手と会えるのだろう。
桑田は用意されていたコーヒーを飲まずに手に持ったまま、
スタッフ達に「お疲れ!」と声を掛け、まだ撤収作業で騒がしいスタジオを後にした。

桑田は、ある日を境に突然、
音楽業界の行く末を憂い、それをなんとかするべく活動するようになった。


314 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 07:57:07.14 ID:v0x+i7DO0
自らが先頭に立つ事はもちろん、30年間培ってきた人脈・権力もフルに活用する。
驚いたのは、自分と同じような事を思っていた音楽人・業界人が案外多くいたことだ。
ありがたい事に、そのそれぞれが利益云々関係無しに、好意的に桑田に協力してくれた。
特に事務所の後輩であるマサジなんかはとても熱心にしてくれて、本当に頭が下がる思いだ。


315 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 08:02:26.68 ID:v0x+i7DO0
その甲斐もあり、
数年経った今音楽界は‘若手最盛期’とマスコミや一般に呼ばれるようになっていた。
メジャー以外でも、巷ではメディアでは捉え切れない程のミュージシャンがひしめき合い、
互いに刺激し合いながら音楽に取り組んでいる。

桑田は、全国的に‘音楽’いわゆる‘バンド’の活動をもっとし易くする為国に働きかけたのだ。



317 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 08:10:59.15 ID:v0x+i7DO0
最初は煙たがられたものの、桑田の諦めない姿勢に政治家達はとうとう折れ、
桑田は自らの活動に協力させる事に成功した。
結果、今はライブハウスや劇場の数も増え、更に使用料金は格段に安くなり、
若手ミュージシャン達は表現の場に何も苦労しないようになっている。

もちろん、良いことばかりではない。
業界の‘陰’はしぶとくまだまだ拭いきれてはいないし、
桑田の活動を快く思わないその他の大御所は多くいる。


とある番組司会者は「金儲けや」と自らの番組で吐き捨てていたらしい。


318 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/15(土) 08:11:11.94 ID:rD8leJ5f0
音楽業界の事はよくわからんが
このssの桑田さんみたいに思っている人がいてくれたら
日本の音楽業界も変わるのかね

319 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 08:17:58.98 ID:v0x+i7DO0
こんな事金にならねぇよ・・・
フッと笑いながら桑田は車に乗り込む。

車に揺られながら、桑田はボーッと窓の外を眺める。
桑田には、一つ疑問に思う事があった。



・・自分は何故、突然こんな活動をするようになったのか?
桑田は、それまで無意識の内に自らの保守・保身を第一に考えていた。
そんな自分が、どうして今更、こんな革命的な危ない橋を渡るのか。



321 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 08:26:08.60 ID:v0x+i7DO0
桑田(…まぁいいか。考えるのはよそう)

いくら考えても、答えが出る事はない。
桑田は何故かそう確信があった。
伸びをして、頭をポリポリと掻く。
桑田は移動中の車の中で目を閉じると、次のスタジオに着くまでの時間を仮眠に使い、
少しでも疲れた身体を癒す事にした。



323 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 08:33:43.73 ID:v0x+i7DO0
数日後

(・・わっちょ!)
(・・・くわっちょ!)

妙に親しみを感じる自らの呼び名が聞こえる。
いつだったっけな。自分の事をこうして呼ぶ奴らがいたような気がする。
お転婆な奴らで・・・
バカばっかやって教師を困らせて・・
・・ん?教師?・・誰が・・俺が・・・?
頭がゴチャゴチャになってきた。
・・だめだ、考えるのはやめよう。
どうせ答えなんて出ない・・・どうせあいつらとは、もう・・
・・・あいつら?あいつらって・・

324 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 08:40:05.71 ID:v0x+i7DO0
・・・くわっちょ・・)
「くわっちょ!」

桑田(・・・!)
桑田「・・・律・・・!?」

突然頭の中に浮かび上がってきた名前。
桑田は反射的に起き上がり、声の主を凝視する。

ユースケ「わぁ!なんだよくわっちょ!いきなりそんな勢いよく起き上がるなって!」

326 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 08:43:53.08 ID:v0x+i7DO0
桑田「・・・?ユースケ・・」

ユースケ「もうすぐ収録だからさ、そろそろ起きなよ!」

桑田「・・・」

そうか、今から音楽寅さんの収録が・・

ユースケ「ところでくわっちょぉ律って誰なのよ?律ってぇ。」

桑田「え?」

ユースケ「どっかの店の女の子?(笑)全く忙しい中でやる事はやってんだからぁ。」

桑田「・・・」


327 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 08:50:47.78 ID:v0x+i7DO0
誰だろう。
律・・・‘くわっちょ’と呼ばれて、反射的に出てきた名前。
自分の娘かのように親しみを覚える、その名前は・・・

ユースケ「くわっちょ!くわっちょ!」

思い出せない。・・律・・律とは誰なのか。何なのか・・・

ユースケ「くわっちょ!くわっちょ!」

・・まぁ良い。とにかく収録に・・

ユースケ「くわっちょ!くわ・・・いて!」

桑田「気持ち悪い呼び方するな!」

理由はわからないが・・
今は、誰にも「くわっちょ」とは呼ばれたくなかった。
・・思い出せない‘あいつら’以外には、誰にも・・



329 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 08:55:16.55 ID:v0x+i7DO0
マネージャー「桑田さん、お疲れ様です!次回のMステ、出演決定しました。」

桑田「お、ありがと。」

マネージャー「これが出演者リストです。」

桑田「ん。」

リストを受け取り、出演者を確認する。
こうして見ると、やはり若手も多くなったものだ。
Mステで半分以上が若手なんて、昔じゃなかなか・・・


330 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 08:57:13.18 ID:v0x+i7DO0
桑田「・・ん?」

マネージャー「どうしましたか?」

桑田「いや・・この、‘HTT’って何?ヒットチ   ?」

マネージャー「なに言ってるんですか(笑)放課後ティータイムですよ。」

桑田「放課後ティータイム・・・」

懐かしい名前だ。
桑田は瞬間、そう思い、すぐ別の所から来た疑問に思考を奪われた。

桑田(・・懐かしい?何でだ・・・?)


331 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 09:03:06.03 ID:v0x+i7DO0
まただ。
またこのおかしな、気持ちの悪い感覚。
放課後ティータイム。
確か、今若手で最も注目されているガールズバンドだ。
多分、テレビか何かで見たんだろう。
それで、懐かしいように思えて・・・

マネージャー「・・桑田さん?」

桑田「・・あ、あぁ、はいはい。」

マネージャー「今日は久しぶりに、夜がオフです。たまには家に帰って、ゆっくり疲れを癒したらどうですか?」

桑田「・・・あぁ、そうだな。・・そうする。」

そうだ、きっと疲れているんだ。
桑田はそう思い立ち上がると、マネージャーの車で自宅へ向かうのだった。


334 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 09:08:39.27 ID:v0x+i7DO0
次の日。
自宅で身支度を整えた桑田は、ふと何かが気になって自室クローゼットの扉を開けた。

桑田(・・・?)

見慣れないギターケースがある。
このクローゼットは随分開けていないというのに、何故か何も埃を被っていない。

桑田(・・・)

桑田は中身が気になり、ケースを開けてみる。

・・そこに入っていたのは、ゴチャゴチャに寄せ書きがされた真っ白なギター・・
何故こんな物があるのかはわからないが、少なくともその寄せ書きは自分に宛てられた物だという事だけはわかった。
・・でも。


335 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 09:19:57.17 ID:v0x+i7DO0
桑田(くわっちょ・・先生?なんだ、なんで‘先生’なんて・・
いや、そもそも俺はこんな物を受け取った記憶は・・)

原坊「けいちゃんー!マネージャーさん来てるわよー!」

・・もう行かなくてはならない。
桑田は何故かギターを手放すのが惜しく、片手にギターケースを持ち、収録へ向かった。


336 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 09:27:38.51 ID:v0x+i7DO0
“桑田佳祐様楽屋”

桑田は楽屋で、寄せ書きがされたギターを一人眺めていた。

桑田(これが何なのかはわからないが・・・)

桑田(俺にとって、何か凄く大事な物・・)

桑田(それだけはわかる。)

桑田(しかし、なんで大事な物なのか・・)

桑田(誰から受け取った物なのか・・)

桑田(・・・)

桑田(・・・ダメだ、どうしても思い出せない。・・・トイレでも行くか。)

桑田はまた考える事を断念し、本番前のトイレを済ませに楽屋を出た。

桑田(・・ふう。)
用を足し、手を洗ってトイレから出る。
何となく、今日の収録ではあのぎたーを使って演奏しようか・・そんな事を思いながら廊下を歩き、再び楽屋へ戻る。

桑田(・・・ん?)

自分の楽屋の前に、若い女の子が一人立ち尽くしているのが見える。


340 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 09:38:20.16 ID:v0x+i7DO0
桑田(出演者かな?楽屋挨拶に来たのか・・でも、今日の出演者に女性ソロなんていたかな。)
こちらから声を掛けた方が良いのだろうが、何故か言葉が出てこない。
いつの間にか、桑田はその女の子の後ろで立ち止まってしまった。

桑田(・・・あれ・・)

懐かしい感じを覚える。・・それと同時に、何故か身体を大分殴られた事があるような、そんな苦笑してしまう思い出が頭を過ぎる。

桑田(・・会った事ある子かな・・えっと・・)

桑田が何とか思い出そうとしていると、そお女の子は勢いよく桑田の方に振り向いた。



342 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 09:44:41.50 ID:v0x+i7DO0
桑田(・・・)

一瞬目が合うが、彼女はすぐ下を向いてしまった。なにやら小刻みに身体を震わせている。

顔を見ても、やはり誰なのかは思い出せなかった。・・・しかし、何だろう、この感覚は。

懐かしいような、悲しいような・・・数年前から慢性的に押し寄せてくるこの感じ。
それが、彼女を目の前にして、これまでにないような勢いで増幅して来ていた。
とりあえず、何か声を掛けよう、そう思い口を開こうとすると、
彼女は再び顔を上げ、真っ直ぐにこちらを見つめてきた。

「あああああの、、あの、えっと・・あ、あれ?あれ・・・」

しかし彼女は、
口が上手く回らないようではみ出したような言葉の断片しか形となって出てこない。


343 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 09:52:03.14 ID:v0x+i7DO0
「あ・・・あの・・」ポロポロ

彼女の目はみるみる涙が溜まって行き、今にも零れ落ちてきそうだ。
・・おかしい。
前にも確か、こんな状況があったような気がする・・
その時。
その時もこの子は泣いていて・・
・・そう、俺のせいで。
俺のせいで、泣かせてしまって・・・

桑田「・・・」

律「わ、私・・・田井中律と・・・い、言いま・・・ち、ちが・・そうじゃなくて・・そうじゃなく・・て・・・」



346 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 09:59:35.06 ID:v0x+i7DO0
田井中律・・律・・前にユースケの前で呟いてしまった名前だ。
偶然か・・しかし、こんな偶然あるのだろうか。
やはり俺は、何かしらの形で彼女と・・・

律「う・・うぅ・・うう・・・」

彼女の目からはとうとう涙が溢れ出し、今にも声をあげて泣き出してしまいそうな雰囲気だ。
・・まただ、また、俺は彼女を泣かせてしまう。
・・・また、俺は彼女を悲しませてしまう・・・・
彼女を・・俺は守らなければいけないのに・・
彼女を・・もう、悲しませてはいけないのに・・


347 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 10:00:15.70 ID:v0x+i7DO0
でも・・でもそれなのに。
思い出せない。
思い出せない。
彼女が誰なのか。
この覚えのない思い出が一体なんなのか・・
俺は・・
俺は・・・

律「くわっちょ・・・」

桑田(・・・!)


349 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 10:02:15.93 ID:v0x+i7DO0
‘くわっちょー!’
‘桑田先生―!’

思い出が。
面影だけ残し、すっぽりと抜け落ちていた俺の大事な思い出が・・
彼女の声で、まるで夢から醒めたかのように蘇っていく。

・・・あぁ。
・・そうか。
そうだったよ。

351 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 10:08:00.21 ID:kgC/D5ge0
何で忘れてたんだろうな。
こんな・・恩師に対して“くわっちょ”なんて呼んで来る失礼なクソガキを・・
生意気でしょうがない、俺の大事な教え子達を・・
俺はどうして忘れていたんだろうな。

・・・俺は最低な教師だ。
・・やっぱり、俺は教師なんていう器じゃなかったんだよ。
お前と・・お前達と一緒にいるんならさ。
同じ。
お前らと同じミュージシャンとして。
付き合っていくべきなんだよ。
・・・互いに楽器でも鳴らしながらさ。

352 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 10:10:29.06 ID:kgC/D5ge0
・・それにしても律の奴、ひでぇ顔して泣きやがって。
いつもはアホみたいに元気一杯のクセにさ。
・・そんな所まで・・
そんな所も、お前らしいよな。律。

桑田「・・・何だよ全くー・・・」

お前あれからプロになったんだろ?
高校も卒業して・・
背も少し伸びたみたいじゃないか。胸はご愁傷様だけど・・

それなのに変わんない顔で泣きやがって。
あの時みたいに・・いつまでも手のかかる奴だ。全く。



355 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 10:15:30.20 ID:kgC/D5ge0
桑田「シケた面してんなぁ、律・・・」

お前は、笑っとけ。
そうやって、これからも周りを巻き込んじまえ。
俺があの時そうなったみたいに。
俺が、今、またお前に巻き込まれているように。

だから。
そんな悲しそうな顔すんな。

・・・これからは、また一緒に音楽やれんだからさ。

律「うぇ・・・うぇぇぇん・・くわっちょ・・くわっちょ・・・」

桑田「・・・」

律「くわっちょぉーうわあぁぁぁぁん!!」


358 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 10:23:06.89 ID:kgC/D5ge0
・・はは、ようやく・・ようやく嬉しそうな顔になりやがったな・・・と思ったら思いっきり抱きついて来やがって。こちとらもう50も中盤で体力無くなってきてるってのにさ。
あーあ。服が涙とメイクでぐちゃぐちゃだ。
お前コレ原坊になんて言い訳したらいいんだよ。涙は良いとして、メイクはまずいぞ、メイクは。

桑田「・・・」

・・でも。
良かったな・・・
そうだ。俺は。
俺はこいつらを守るために・・・
こいつらがやりやすい世界を作る為に・・
それがこいつらとの‘約束’だと思って、これまで活動していたんだ・・・
それが・・それがこいつらとの繋がりだから・・・


361 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 10:33:12.46 ID:kgC/D5ge0
澪「・・・あれ?・・律・・?」

唯「くわ・・・っちょ?」

梓「くわた・・桑田先生?」

ああ、みんなも来たみたいだな。
これでHTT全員集合だ。・・・さわ子先生はいないけどな。

やれやれ、律の奴まだ泣いてやがるのか。
そろそろ元気付けてやらないとな。もう本番も始まる・・・

律「な・・な・・」

・・ん?どうしたんだ律の奴。急に変な顔して・・ははぁ、みんなに見られてるのが恥ずかしいんだな?もうそんな事を気にする年頃でもないだろうに・・


363 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 10:46:03.28 ID:kgC/D5ge0
桑田「よしよし、おじさんの胸だったらいくらでも・・」

律「ドコ触ってんだコルァァァー!!」ドパグプシッ

桑田「マンビ!!」

律「はぁ、はぁ、・・・ふ、ふふ・・あはは!」

こ・・こいつは・・こいつは老人を労わるという事を知らないのか・・
泣いてたと思ったら急に殴りかかってきやがって・・・なんか笑ってるし・・・コワイ

唯「くわっちょぉー・・えーん・・くわっちょぉぉ・・」


紬「どうして私達これまで・・うぅ・・」
澪「先生・・・私達・・・私達・・・・ぐすっ」


365 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 11:01:31.37 ID:kgC/D5ge0
あー、でも懐かしいな。この感じ。
間の前で殴り倒されてる人がいるってのに、なんの心配もしてこないこの感じ。

ひでぇ所だよ放課後ティータイム。
可愛い名前してるクセによ。こいつらほんとこのバンドがお似合いだ。


ふと楽屋の中から、あの白いギターの一弦から六弦まで・・
ゆっくりと順番に鳴る音が聞こえたような気がした。


・・あぁ、そうか。あのギターが、
俺達六人をまた引き合わせてくれたのかもしれないな・・・。



367 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 11:10:24.40 ID:kgC/D5ge0
・・・全く。一から十まで音楽音楽か。

・・俺らはミュージシャンなんだもんな。・・そうだ。仲間なんだよ。
しばらく離れてはいたけど・・
でも、それも‘そんな事もあったな’って流せる事になるくらい、
これからはずっとこいつらと音楽やっていけるさ。

唯「くわっちょ・・私・・私達ね?くわっちょに・・くわっちょに・・・」
梓「先生・・何て言ったら良いのか・・」
紬「でも・・でも私達、先生に凄く・・凄く申し訳ない事を・・」
澪「先生・・・!」


368 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 11:18:28.36 ID:kgC/D5ge0
桑田「みんな。」

HTTのメンバーが、涙でぐしゃぐしゃになった顔を隠そうともせずにこちらを見てくる。
こんな所も、あの時のままなんだな。全く・・・

桑田「今日この後・・コンテストの打ち上げ行こうな。」

梓「先生・・!」

唯「うん・・うん!行く!行こう?みんなで行こう?」

澪「ぐすっ・・・先生・・」

紬「先生、私達、コンテストで優勝したんですよ?・・先生の・・先生のお陰で・・」

桑田「知ってるよ。」


371 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 11:28:46.13 ID:kgC/D5ge0
桑田「・・・みんな。」

桑田「優勝おめでとう。・・最高のライブだったな。」

みんなの泣きっ面に笑顔が被せられる。ごちゃごちゃに混ざったその表情は、
ハタからみると少し滑稽だ。

ふっ・・とつい笑顔がこぼれる。

ふと律の方に顔を向ける。
すると、律は無言で、しかししっかりとした面持ちで、
‘言うのが遅せーんだよ、バーカ’と視線を送ってくる。

成長したHTTの姿。
それなのに、中身は全然変わっていない問題児共。


372 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 11:30:13.02 ID:kgC/D5ge0
桑田(戻って・・・これたんだな。)

そう、塊のような未練を残してあの世界を去ってから数年。

桑田佳祐はやっと。

HTTの待つこの世界に。

やっと戻って来れたのだった。


唯「あ!けいちゃん先生!」桑田佳祐「はいはい。」
‘TOP OF POPS’世界エンディング 
fin.


381 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 11:42:31.15 ID:kgC/D5ge0
エピローグ

桑田佳祐とHTTが再会してから一年が経とうとしている。
しかし桑田佳祐は音楽業界の変革活動。
HTTは売れっ子実力はバンドとしての活動が本格化。

HTTメンバー個人と桑田が、ラジオ等で共演する事は何度かあったのだが、
あのMステ放送日以来全員で顔は合わせていない。

385 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 11:48:46.77 ID:kgC/D5ge0
世間はバンドブームの再来。
バンドファンの多さはもちろん、
バンド活動を行っている若者達は日に日に増え、
‘バンド’はある種の社会現象となっていた。
特に‘ガールズバンド’が・・・

405 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 12:31:38.50 ID:kgC/D5ge0
この日は朝から快晴で、
雲一つ無い青空が街全体を見下ろし人々の眠気と喧騒を交互に煽る。

澪「さて・・みんな、そろそろリハだな。」

HTTのメンバー、秋山澪が他の面々に声を掛ける。
今日はHTTとして非常に大きな、ずっと夢に見続けて来た大事な一日。

そう、夢であった‘武道館ライブ’の日だった。


409 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 12:38:49.17 ID:kgC/D5ge0
唯「よーし!みんな気合入れて行くよー!」

紬「唯ちゃん元気ねぇ♪」

唯「うん!だって、とうとう武道館まで来たんだよ!ずっと夢だったんだよ!」

梓「でもまだリハですよ。気合入れすぎて燃え尽きないで下さいね。」

澪「・・まぁ、今の唯なら大丈夫そうだけどな。・・・あれ?そういえば律はどこ行ったんだ?」

 ガチャッ

澪「あ、律!どこ行ってたんだ!もうリハに行かないと・・・」

律「あぁ、悪い悪い。ちょっと迎えに行っててな。」

紬「迎えに?」

律「ああ。」

桑田「よう、みんな、武道館おめでとう。」

唯「くわっちょ!」


411 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 12:46:20.81 ID:kgC/D5ge0
梓「先生!」

桑田「揃って会うのは久しぶりだなー。あ、コレ差し入れのマムシドリンク。」

梓「ま、マムシ・・・」

澪「」ガクガクブルブルブルブル

律「それで・・・くわっちょ、みんなに話があんだろ?」

桑田「あぁ・・・」

唯「?お話?なぁに?」

澪「改まった・・お話ですか?」

桑田「・・・あぁ、まだ家族にしか話していないんだけど・・・」


414 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 12:52:59.30 ID:kgC/D5ge0
ワー!ワー!ユイチャーン!!ミオチャーン!コッチムイテー!!

唯『キミを見てるといつもハートDOKI☆DOKI』

澪『揺れる思いはマシュマロみたいにふわ☆ふわ』

ワーワー!!!


‘え!?くわっちょ・・それ本当なの・・・!?’

‘あぁ、本当だ・・わるいな、みんな、こんな大事な日に。’

‘私がくわっちょに頼んだんだ。話すなら今日、みんなの前で話してくれって。’


415 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 12:53:44.01 ID:kgC/D5ge0
‘で、でも、でも、これからは・・これからはどうするんですか!?’

‘なに、やる事はたくさんある。何も変わらないよ。’

‘先生・・でも先生が活動を止めたら・・・’

‘・・・これからの音楽業界の第一線はな。’

‘・・・’

‘もう、お前達若手で走って行くべきなんだよ。’

‘くわっちょ・・・’

‘ネガティブな意味で言ってるんじゃないぞ?むしろ良い事なんだ。新しい、良い物に移り変わって行くって事はさ。それに俺は・・・’

‘先生は・・・?’


417 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 13:02:31.35 ID:kgC/D5ge0
ワーワー!アズニャーン!ムギムギ―!!

唯・澪『ふわふわ時間(タイム) ふわふわ時間(タイム) ふわふわ時間(タイム)・・・』

‘そういう事だから、何も心配するな。じゃあ、ライブ頑張れよ。客席で見てるからな。’

‘くわっちょ・・・’

‘でも、先生、私達若手にこの世界の未来を託してくれたんですよね・・・’

‘そうね・・・’

‘・・・なぁ、みんな。’

‘なんだ?律。’

‘・・・提案があるんだ。’



419 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 13:15:24.50 ID:kgC/D5ge0
ジャジャ、ジャーン!!

キャーキャー!ワー!!!

唯「みんな、ありがとー!!!」

最後の曲、ふわふわ時間の演奏を終え、メンバーは全員袖へハける。

アンコール!アンコール!!

しかし予想通り、客席からはアンコールの要望が大声援で響いている。


420 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 13:16:10.44 ID:kgC/D5ge0
律「・・・じゃあ、良いな?みんな。」

澪「あぁ。」

梓「いつでもオッケーです!」

紬「ふふ・・久しぶりね。」

唯「・・うん!」

澪「・・まぁ、後で怒られるだろうけど、そんな事気にしなくていいだろう。」

唯「・・・よぉし!」

律「じゃあ・・・行くぞ!みんな!」

全員「おおおー!!!」

425 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 13:25:55.10 ID:kgC/D5ge0
桑田(・・・お、来たな。アンコール。)

ワー!ワー!!!ユイチャーン!!リッチャーン!!コッチムイテー!!

桑田(やれやれ、本当に、凄い人気だよな。)


唯「みんなー!本当に今日はありがとうー!!アンコールいっくよー!!」

ワーーーーー!!!!!

唯「・・・でもね!みんな!!」

ザワザワ

唯「アンコールの曲は、私達が作った曲じゃないの。
・・でも、でもどうしても今日ここで歌いたいから、歌わせて下さい!!」


427 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 13:29:51.39 ID:kgC/D5ge0
ザワザワ、ナンノキョクダ?ザワザワ

桑田(・・・)

澪「わ、私達には高校時代、すっごくお世話になった先生がいて・・・!」

梓「その先生のお陰で・・・その先生がいたから・・今の私達があります!」

紬「その先生が・・今日、私達に大きな転機の事を・・知らせに来てくれました。」

唯「私達お世話になってばっかりで・・うぅん、迷惑ばっかり掛けて・・・
どうしようもない悪い子だったかもしれないけど・・」

澪「私達に出来る事・・私達しか出来ない事で先生にお返しがしたいから・・だから・・」

紬「この曲を歌わせて下さい!」


429 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 13:35:20.38 ID:kgC/D5ge0
桑田(あいつらまさか・・)

律「くわっち・・先生が私達の為に書きk・・・教えてくれた曲!!」

唯「・・・せーの!」

HTT「桑田佳祐で、‘明日晴れるかな’!!」

オー!!コノキョクシッテルー!!!

桑田(・・・はは、なにやってんだ、あいつら。怒られるぞ、後で・・)

桑田(・・・)


432 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 13:47:03.97 ID:kgC/D5ge0
桑田佳祐とHTTの出会い。
その意味。
出会う筈のない両者が出会い、絆を深めてしまう奇跡。

それはこのライブに来ているファン達のように。
生まれた場所、時代、性別・・・
その全てを超越し、結束させる物、‘音楽’

彼女達のようなバンドが、この素晴らしくも恐ろしい‘音楽’の力を奮えるのならば、
日本の、いずれは世界中の音楽界の明日は明るいだろう。

HTTの演奏を聞きながら、桑田はそう感じていた。


435 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 13:49:02.39 ID:kgC/D5ge0
澪『在りし日の己れを愛する為に』

唯『想い出は美しくあるのさ』

澪『遠い過去よりまだ見ぬ人生は』

唯・澪『夢一つ叶えるためにある』

桑田(そう、あいつらなら・・)

桑田(あいつらがこの世界にいるのなら・・)


439 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 13:51:23.96 ID:kgC/D5ge0
唯『誰もがひとりひとり胸の中でそっと』

澪『囁いているよ』

桑田はこの不思議な出会いに、まだ正直気持ちの整理がつかない部分がある。
自分の世界に、彼女達‘放課後ティータイム’は存在しなく・・彼女達の世界に、
‘桑田佳祐’は存在しない・・・筈だった。
しかしその二つの世界はいつしか繋がってしまい・・・
今、自分と彼女達は同じ会場で音楽の揺りかごに揺られている。
これは、一体どんな言葉を使えば説明できるのか・・

HTT『明日晴れるかな・・・』

桑田(・・・ふふっ)

それも含めて、‘音楽の力’なのかもな・・と勝手に桑田は結論付けた。


440 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 13:53:16.74 ID:kgC/D5ge0
彼女達の演奏する曲を聴いている事。
そこに難しい考えなどいらない。
そう、少なくとも今、ここにいる自分と彼女。
胸に残る美しい思い出達は、紛れもない事実なのだから・・


唯『遥か空の下・・・・』

いつの間にか目を閉じていた桑田は、
彼女達の演奏が終わるとこの会場の誰よりも先に大きな拍手を送った。
それにつられて、他の観客達も惜しみない拍手と声援をHTTにぶつける。


441 :ぴー ◆GmOthd37QY :2010/05/15(土) 13:54:10.64 ID:kgC/D5ge0
彼女達の目には、うっすらと涙が溜まっている。

桑田(・・あーあ、まーた泣いてるよ、あいつら・・・)

その涙の理由が何なのか、どこから来る物なのか、それは桑田はもちろん彼女達にもわからなかった。
何故、桑田とHTTの存在が交わったのか。それと同じくらい・・どこから来る物なのかは・・・。

桑田は心の中でただ一つ。

桑田(・・・さて、どんな後褒美をくれてやろうかな・・)

と呟き、ふと彼女達から送られた白いギターの事を思い出し、優しい笑顔を浮かべ会場を後にするのだった・・・。



唯「あ!けいちゃん!」桑田佳祐「はいはい。」
fin.