2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/19(月) 03:46:19.50 ID:vtdVA4QA0



…おめでとう!…


ありがとうございます


…よく頑張った!…


教えてくれた人のおかげです


…君はすごい子だよ!…


……そうですか


…良かったね!…


……何が、ですか?







「ああ、静香か」


「良かったな、おめでとう」






そんな


たった一つだけで、私は


引用元: 【ミリマスSS】静香「たった一つだけの」 



アイドルマスター ミリオンライブ! B2タペストリー 最上静香
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3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 03:47:24.02 ID:vtdVA4QA0


小鳥「静香ちゃん!」

静香「…あっ、はい、小鳥さん、どうかしましたか?」

小鳥「いえ、なんだかぼーっとしていたから…」

静香「そうでしたか?すみません…少し緊張、しちゃって」

小鳥「大丈夫よ、静香ちゃんは凄いことを成し遂げたの。堂々と自信持って、行ってらっしゃい!」

静香「はい、小鳥さんありがとうございます」




舞台袖で、くだらない記憶を思い出していた。

あの日と似たような、でも、本当はまるで似ていない舞台なのに。

4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 03:48:00.48 ID:vtdVA4QA0


「それではこれより、授賞式を始めます。入場、していただきましょう!」


舞台の中心で、マイクを持った司会者の男性が呼ぶ。



これからして違う。

あの日は司会者は女性だったし、会場だってもっともっと…



小鳥「静香ちゃん、行ってらっしゃい!胸を張って、ね!」

静香「はい、行ってきます」




大きかった。今日とは、比べ物にならないほどに。


5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 03:48:39.86 ID:vtdVA4QA0



わあっ

ぱちぱちパチパチ……



「765シアター新人アイドルの、最上静香さんです!」



歓声も、拍手を受けるのも、初めてではない。

それに驚き感動する気持ちは、いつから無くしてしまっただろう。



「最上静香さん、おめでとうございます。今回受賞した賞は、~年より毎年、素晴らしい功績を残した新人アイドルに贈られる…」



微笑み、祝辞を述べ、嬉しそうに。




ありがとうございます。




6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 03:49:20.62 ID:vtdVA4QA0

…………


劇場 事務室



小鳥「プロデューサーさんはそのうち帰ってくる予定だから、待っていてあげてくれる?私は少し、書類の整理で奥にいなくちゃいけないから」

静香「はい、分かりました」



私の人生で何度目かの授賞式は、何事もなく終わった。



小鳥「プロデューサーさん、今日の授賞式に出られなかったことを本当に悔しがってたから。静香ちゃんから報告してあげてね?」



今日の授賞式なんて、もっと上がある。まだ私は満足していない。


それに、私から伝えることに何の意味が



小鳥「そうすればプロデューサーさん、疲れなんか吹っ飛んじゃって喜ぶと思うわ、ふふっ。それじゃあ、よろしくね」



……疲れなんか吹っ飛んで、か…


7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 03:50:37.18 ID:vtdVA4QA0

…………



…今回の、ジュニアピアノコンクール、金賞は…最上、静香ちゃんです!…


わあっ…ほんとうですか!?ほんとうに、あたしが…?やった…やったよ!


…おめでとう。今回の受賞したこと、静香ちゃんはまず最初に誰に伝えたい?…


えっと…さいきん、いそがしいっておうちでつかれた顔してるから…お父さん!お父さんに伝えたい!


…そう!静香ちゃんが受賞したことで、お父さんも元気が出るといいね!…


はい!うふふ、早く帰って、お父さんのおどろく顔がみたいなぁ…






―子供ながらに、自信があった―


―お父さんは喜んでくれる。私は、疲れているお父さんを癒すことができると、信じていた―


8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 03:51:14.82 ID:vtdVA4QA0



おかえりなさいお父さん!聞いて聞いて、あたしね!コンクールで金賞もらったんだよ!


お父さん、さいきんお仕事たいへんだって言ってたから…あたしががんばって、お父さんを元気づけられるかなぁって!あたし、たくさんレッスンしたんだよ!


ねえお父さん、どう?お父さんは、よろこんで





「ああ、静香か」


「良かったな、おめでとう」





よろこんで、くれるよね…………?







―返ってきた言葉は、そのたった一言だけ―


―お父さんの疲れた表情には、一切の変化はなかった―


9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 03:51:53.11 ID:vtdVA4QA0


…………


いつまで、覚えているというんだろう。あんな昔の、たった一日、一瞬の景色を。


一言だけ返してお父さんは、すぐに部屋に入っていった。


お父さんはきっとあの時も仕事が押していて、たまたま私の相手をする時間が無かった。それだけだろう。


そもそも最初から根拠なんて無かった。私がコンクールで金賞を得ることと、お父さんの疲れの癒しになんて、なんの繋がりもない。


それでも、何か。自分に出来ることをして、それがお父さんの力になって。それで私を、褒めて、認めてくれるって



私は、お父さんの力になれるって、認めてもらいたかった。


……喜んで、貰いたかった。






ずっとずっと、忘れられない。


あれからずっと


ずっと、私は……

10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 03:52:39.43 ID:vtdVA4QA0



だから、私はアイドルになった。


どうしたらいいのか、ずっと考えていた。


私に思いつく限りの輝きを目指して、前へ進むと決めた。


気を抜くことも、手を抜くことも、許さずに


早く、その頂へたどり着く。




早くしなければ、すぐに


私の背後には、あの日の気持ちが迫ってくる。




逃げても逃げても、どうしようもなく忘れられない心細さを、消し去る為に。


必ず、この手を、この声を、届かせてみせる。




……そうしたら、きっと……

11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 03:53:18.24 ID:vtdVA4QA0



ガチャ



ふと、ドアが開いて




P「…ふぅ。ただいま戻りました」




プロデューサーが帰ってきた。




最近、仕事が立て込んでいるらしい。


数日ぶりに見た顔は、酷く疲れているような


…なんだか嫌な記憶を思い出す


楽しくない、表情をしていた。



12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 03:55:46.66 ID:vtdVA4QA0


静香「お疲れ様です、プロデューサー。私、授賞式を終えてきましたよ」



淡々と、伝えて


終わりにして、帰ってしまおう。


それだけで…









ドクン。








思い出してしまう。


プロデューサーは、気だるそうな動きで


俯きかけの頭を動かして、声をかけた私の方を見て





P「ああ、静香か」





似ている。


あの日のお父さんの、酷く疲れた顔だ。





ああ、また



こんなところでも、この記憶が





P「良かったな、おめでとう」







……笑っ、た………?




13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 03:56:32.57 ID:vtdVA4QA0


P「そうか…そうだよ、なんでこの瞬間まで暗いことばっか考えてたんだ俺…そうだよ、今日は静香が授賞式を受けてきたんだ…」



声に


目に


表情に


力が、巡ってくる。



P「そうだ…静香!おめでとう!本当に、ちゃんと授賞式受けてきたんだよな!トロフィーとか貰っただろ、見せてくれよ、本物!」



プロデューサーが、明るくなっていく。



P「ああちょっともう、そうだよ忘れてたことあんだろ俺。ちょいメールして呼んで……ほい送信!よし、いいぞ、そうだ、やったんだ!なあ、静香!」



なんだか、その様子が、どうしようもなく心の中で暖かくて



P「ああ、でも本当、成し遂げたんだな…やったな静香、本当…」



P「良かったな、おめでとう」




ああ、なんだか


気持ちが、揺れて


14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 03:57:12.06 ID:vtdVA4QA0



静香「…………」ポロポロ


P「うおっ、静、香…?どうした、いきなり涙を…」


静香「…えっ、私…ですか…?私、泣いてなんて、そんな……そんな……」


P「いや泣いてるって、涙出てるって。待ってろ、ティッシュ持ってくるから!」





ああ、もう、指摘なんてしないでほしかった。


自覚してしまったら、もう、私は


この涙の止め方を知らない。






静香「……っ…っぅ…う……」ボロボロ






まだだ、まだ、私が目指す頂はまだ先で。


一番に届かせたい人にまだ届いていない。それなのに、それなのに





どうして、こんなに嬉しいんだろう。こんな



あなたの、たった一つだけの言葉で



こんなにも心が、救われるだなんて。




15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 03:58:06.23 ID:vtdVA4QA0



静香「ありがとう…ありがとう、ございますっ…」




涙で、喉が震えて、頭は気持ちがいっぱいで、


自分の言葉が、ちゃんと言葉になっているのかよく分からない。


それでも、言葉は溢れてくる。


私は、こんなにも、ありがとうって


こんなにも、こんなにも、沢山、の…





P「あーと、こ、れは…」チョイチョイ


プロデューサーが、私の後ろへ向かって手招きのジェスチャーをする。




がちゃり、ドアが開いて


未来「静香ちゃーーーーーん!!」

星梨花「静香さんっ!おめでとうございますっ!」



未来と星梨花が、私に向かって飛び込んできた。

16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 03:58:44.70 ID:vtdVA4QA0


静香「…え、ええっ!?どうして、ふたりがここに…」

未来「プロデューサーがこの時間私たち空くようにしてくれたんだよ!もちろん私たちも、とにかく早く静香ちゃんにおめでとうって言いたくて!待ってた!」

星梨花「静香さん、本当に、受賞おめでとうございますっ!わたし、すっごくすーっごく、嬉しくって!ずっと未来さんと、静香さんはすごいねって話してて!それで、それでっ」

静香「ちょっと、そんなに早口で沢山話されても…しかもふたりとも、どうして既に泣いてるのよ!?」

未来「えっ、泣いてる?私泣いてる!?う、うわーーーーん!!だって、だってぇ、静香ちゃんが、凄い賞貰って、嬉しくって私…うわーーーーん!!」

星梨花「ぐすっ…ぐすっ…静香さん、本当に…おめでとうございます……ぐすっ…」

静香「星梨花、そんな、服の袖を握り締めないで…未来、分かったから、分かったからもう少し落ち着いて頂戴、未来…」




P「はっはっは。やっぱり呼んで正解だよなぁ。なあ、静香?」


静香「ああ、もう、プロデューサー!見てないで、少しふたりをなだめてください!」


未来「うわーーーーん!!おめでとー、おめでとー静香ちゃーーーん!!」

星梨花「静香さん、パーティ、開きます!わたしのお家に、プロデューサーさんも、小鳥さんも、劇場のみんなも呼んで!みんなで、お祝いしましょうっ!ねっ!」


静香「全くもう、分かったから、ふたりとも……本当に、私も…ぐすっ…」

17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 03:59:26.31 ID:vtdVA4QA0



ふたりに泣かれ、もみくちゃにされる。


少し離れて、プロデューサーが優しい顔で私たちを見ている。






暖かい


暖かい


焦りも


不安も



感じない時間だった。


19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 04:00:38.05 ID:vtdVA4QA0


…………



本当に良かったな、静香。


どこか冷めているところのある静香の事だ。

受賞しても、無邪気に喜べないでいる可能性は考えてた。


だから、未来と星梨花に声をかけておいた。

静香、俺にはクールを保ってても、ふたりにはめっぽう弱いからな。

未来と星梨花にはちゃんと、涙を見せてくれて良かった。

ふたりとも自分のこと以上に喜んで、静香より先に泣いててさ。

本当、いい友達、仲間に恵まれたよな、静香。

ふたりと、そして皆がいれば

焦らないで、一緒に歩む道を、楽しんで進んでくれるよな。


ふたりがくる前に泣いた、静香の気持ちは分からないけれど

あれは…俺の言葉のせいか?

はは、自惚れ、なんだろうな。

でも、それくらい、許されるよな?

だってさ


俺だって、皆と一緒に歩いた道だ。


これからもずっと一緒だから、また可愛い顔、見せてくれな。

まだ色々、問題はあるけれど、乗り越えていけるさ。静香と、皆なら。


これから、また、頑張ろうな。



…………

………

……




20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 04:01:12.65 ID:vtdVA4QA0




「プロデューサーさん!なにぼーっとしてるんですか、そろそろですよ!」

「ん、ああ、すまない。少し、昔を思い出してた」

「全く、そんな老人みたいなこと言って…ボケますよ?プロデューサー」

「はは、怒るな怒るな。ちゃんと静香のこと考えてたからさ」

「っな、何を言ってるんですか、恥ずかし気もなく、そんな!」

「いやなに、今度はちゃんと来られて良かったな、ってさ。前に静香が、賞を授賞したときの」

「本当に何年前のことですか…。それよりも今、ですよ」

「ああ。そうだ、静香の親父さんな。今日の授賞式、来てるらしいぞ」

「はい、電話で直接聞きました。良かったな、式には行く。って言って、たった一言だけです」

「うん、そうか。…色々、変わったな」


21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 04:01:50.10 ID:vtdVA4QA0


「無愛想は相変わらずです。長年の夢が叶う娘に向かって、一言だけなんて、昔っからそうで……。でも、確かに少しは変わりました」

「静香も、変わったもんな。前よりも、自然に泣けるようになった」

「…そうですよ、どうせまた泣きますよ、プロデューサーの前で…」

「恥ずかしがること、無いのにな。未来なんか、最近は誰かに会う度再会の涙を流してるぞ」

「未来は未来です。別に今だって、昔と変わらずしょっちゅう連絡もしてるのに、全く…」

「星梨花も、未来さんはちょっと泣きすぎですって言ってたな、そういや」

「ああ、とうとう星梨花にまで言われて…。プロデューサー、未来をどうにかしてください」

「ま、あれが未来らしさだよな。静香だって星梨花と一緒で、昔からそんな未来が楽しいんだろ?」

「…否定はしませんよ。いつまでも落ち着かないというのも、一種の才能だと思います」

「はっはっは。その点、星梨花は大人びたもんだ。昔の好奇心旺盛さも少し残った、いい大人に育ったよな」

「ええ、星梨花は本当に、綺麗になりましたよね…」

「静香だって……お、話してたら出番だな。静香、次だ」

「ああ、そうでしたか。……じゃあ、プロデューサー」



「行ってきます」

「行ってらっしゃい」


22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 04:02:26.35 ID:vtdVA4QA0


「それではこれより、授賞式を始めます。入場、していただきましょう!」


舞台の中心で、マイクを持った司会者の男性が呼ぶ。




劇場のみんな。

プロデューサー。

お父さんも。



本当に、ありがとう。



私の周りの、全てのおかげで


この日、叶う。



23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 04:03:00.61 ID:vtdVA4QA0



私の



たった一つだけの


かけがえのない夢。






わあっ


ぱちぱちパチパチ…




「トップアイドルの、最上静香さんです!」



24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/19(月) 04:03:31.33 ID:vtdVA4QA0
終わりです。
ありがとうございました。HTML化依頼してきます。