1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 10:46:45.77 ID:+Ub63Mpe0
 季節は夏真っ盛り。茹だる様な暑さの中、アスファルトの熱を
スニーカー越しに感じながら、鼻歌交じりに軽やかなステップで歩く、
黄色いカチューシャを着けたうら若き乙女の姿。

律「イエェーイ! 元気ですくわァー!」

 彼女は桜が丘高二年、田井中律。目的地である友人の平沢唯宅に、
今辿り着いた所である。そして物語はここから始まる。

唯「はれ? りっちゃん」

律「ハッピーニューイヤー!」

唯「あはは、今八月だよ?」

律「突然尋ねてきちゃったけど平気ィ? 元気そうだけど!」

唯「うん、別に暇人~」

律「じゃあちょっと外出ない? 遊ぼうぜ!」


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3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 10:51:38.16 ID:+Ub63Mpe0
唯「今から? りょーか~い! あ、上がってて!」

律「いーよいーよ、ここで待ってっから」

 それから数十分の時が過ぎた。女の仕度というのは無駄に長い。
唯とてそれは例外ではなかったが、律は急き立てる真似はせんかった。
まるで雛鳥の巣立ちを待つ母鳥の様に、じっと見守っていたのである。

唯「りっちゃんおまたせ!」

律「お、そのスカート似合うじゃん。回って回って~」

唯「でへへ~、照れるぅ」

律「ウフッ、かわゆい奴め! めくっちゃうぞッ!」

唯「あん! りっちゃんの●●●!」

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 10:55:44.58 ID:+Ub63Mpe0
 繰り広げられる美少女同士の戯れ。薄着の女子、輝く汗、うなじに貼り付く
髪の毛、ホットパンツ、サーフィン。どれも夏に欠かせぬ風物詩である。

律「そういえば憂ちゃんは? あのポニーテール握りたいんだけど」

唯「怖いもの知らずだね、りっちゃん」

律「やばいの? もしや外れるとドカーンて」

唯「ていうか憂なら、友達の所へ遊び行っちゃった」

律「へぇ、じゃあ唯はお留守番してたのか~」

唯「ぴーすっ!」

律「それ位で胸張ってんじゃねえー、こいつぅ!」

唯「はぅっ! わ、脇はダメ……」

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 11:01:02.25 ID:+Ub63Mpe0
律「しかし弱ったな、唯連れ出したら留守番いないのかぁ」

唯「鍵かけとけば大丈夫だよ、ギー太もいるし」

律「アホか。憂ちゃん鍵もってった?」

唯「うぅ……分かんない」

律「そっか――まあ無用心だけど、勝手口開けとけば憂ちゃんも平気かな」

唯「ウチはいつもポストに入れてる」

律「マジで? 植木蜂の下とかの方がよくない?」

唯「あははっ! それもベタだよベタ子さん」

律「まー、あれこれ考えてもしゃーない。それでいこう」

 日本の平和さを象徴するかの様な戸締り対策。防犯意識が希薄に
なりつつある今の若者。さながら無防備なハトの群れを形成しつつあり、
外国人から犯罪者天国と揶揄されるのも頷ける。

 ともあれ二人は連れ立って、平沢家を後にしたのであった。

6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 11:05:40.40 ID:+Ub63Mpe0
唯「それでどこ行くの、りっちゃん♪」

律「バッ、何で急に手繋ぐんだよ!」

唯「いいじゃんいいじゃん、フローラルエッセンス配合じゃん~」

律「年考えろよお前は……そういう所がかわいいんだけどさ」

唯「かわいい? 参ったな~、それ程でもあるけど~」

律「いやでもマジ恥ずかしいから。やめよ」

唯「フリ? フリなの?」

律「そーじゃないって。唯にも分かるよ」

唯「何それ偉そう。りっちゃんの癖に」

律「オホン、まー、そういう訳だからして聞き分ける様に」

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 11:11:44.10 ID:+Ub63Mpe0
 律の素っ気ない対応に頬を膨らませる唯。一見蔑ろにされた事を怒って
いる様だが、内心は彼女から大人の余裕を感じ、自分の知っている律が
遠くに行ってしまうのではないかという不安の表れであった。

 故に唯は、律のそうした態度を強く否定せずにはいられない。

唯「……りっちゃんのアホ」

律「っさいなー! 私は唯の為に言ってるの!」

唯「アッホー! アッホー!」

律「やかましい! アホはお前だ!」

唯「アホっていう方がアホなんだもん!」

律「何だそのブーメラン!」

唯「うー! 憂にメールしてやる!」

律「やめろ! 意味分からん!」

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 11:16:40.62 ID:+Ub63Mpe0
 道中そんな低級な言い争いがあったものの、まるで仲の良き姉妹の様で
あったと、近所の野良猫も感想を洩らしておる。まあそんなこんなで二人は
律が目的地としていた、とあるファミレスに無事到着した。

唯「どうしてファミレスなの? ここじゃ遊べないしお金かかるよ」

律「安心しろ唯隊員。五百円までなら私が出す」

唯「えっ、りっちゃん奢ってくれんの? やっさしっ!」

律「いや実は、話したい事があってさ」

唯「いよっ、太っ腹! もしかしてりっちゃん私が大好きなの!?」

律「お、大声で言うなよ。恥ずかしい人になってるぞ」

唯「ねえパフェ頼んでいい? パフェ! 略さないとパーフェクトだよ!」

律「あー、あー、好きにしろい」

唯「ごっつぁんです! りっちゃん大好き!」

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 11:23:15.99 ID:+Ub63Mpe0
 唯は遠慮せず、おいしそうにストロベリーパフェにむしゃぶりつく。
とはいえ食べるスピードは緩やかで、幸せそうに味わっている様子。
律はそんな彼女を眺めながら意を決し、話を切り出したのである。

律「なあ唯、驚かないで聞いてくれるか?」

唯「りっちゃん何も食べないの? おいしいよ~」

律「ああ後でな……実はアタシ、彼氏が出来たんだよね」

唯「へぇ~……カレーシュガー?」

律「彼氏だ彼氏」

唯「何だ彼氏か~……って彼氏いいぃぃっ!?」

律「おほほほ♪」

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 11:30:32.85 ID:+Ub63Mpe0
 律の衝撃の告白に、大好きなアイスを食べる手さえ止まる唯。

 澪や紬ならいざ知らず、根拠なく同レベルと決め付けておった律からの
彼氏ゲット宣言。本来なら祝福すべき所と分かっていても、テンションは
だだ下がる一方であった。

 しかし単なる妬みという訳ではない。

 出し抜かれたショックは勿論あるが、それよりもまず現在の律との
交友関係が揺らぐ事を危惧していたのである。男が出来たとなれば
軽音部や友達なんか二の次、そうなってもおかしくない。

 言われてみれば今日の律、いつもの少女らしい中性的な野暮ったさは薄れ、
女っぽい色気まで撒き散らしておるではないか。

 唯は暗転しそうな意識を何とか保ちつつ、恐る恐る確認を試みる。

唯「えいやぁー、今日って四月一日だっけ?」

律「エイプリルでも嘘でもねーし」

唯「り、りっちゃんが彼氏。ほえ~」

律「何だ文句あっか」


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 11:37:04.61 ID:+Ub63Mpe0
唯「りっちゃん何だか大人です」

律「イヤー、スビバセン!」

唯「ま、眩しい。りっちゃんが物理的じゃない意味で眩しい」

律「ヘッヘー、羨ましい? 羨ましいだろ!」

唯「というか寂しひ……」

律「えっ、どうしてだよー?」

唯「だってりっちゃん、もう私と遊んでくれなくなるんでしょ?」

律「アハッ、んな事ありませんわよう!」

唯「嘘だ。妊娠して高校中退して親に勘当されて駆け落ちしちゃうんだ」

律「オイィッ! 何だその極端な例!」

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 11:41:25.66 ID:+Ub63Mpe0
唯「男女交際した高校生はみんなそうなるって、憂が」

律「んなわけあるか! 間に受けすぎだろッ!」

唯「本当? 憂が嘘ついたの?」

律「い、いや中にはそういうのもいるかもだけどさぁー」

唯「うえぇ……りっちゃ」

律「落ち着け! 私のはあくまでプラトニックだ!」

唯「バンダイの」

律「プラモデルじゃねえ! その――やらしい事とかしてないしッ!」

唯「やらしいって?」

律「に、  関係には及んでないっていうか……何言わせんだ」

15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 11:46:49.12 ID:+Ub63Mpe0
唯「そ、そうなんだぁ……」

律「うん……」

唯「りっちゃんはまだ、純潔って事だね?」

律「ま、まーな」

唯「でも夏休み明けには大人の女になっちゃうんだ」

律「由規並の直球ですのね唯さん」

唯「ピンクのモヒカンで二学期デビューしちゃうんだ」

律「何故にモヒカン!? しかもピンク!?」

唯「垢抜けたりっちゃんなんて見たくないよ……」

律「大丈夫! その路線はないって確実に言えるから!」

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 11:50:44.88 ID:+Ub63Mpe0
唯「じゃあ、別れておくんなまし」

律「なんでだよッ!」

唯「だってまだ私、りっちゃんと遊びたいもん」

律「いや私、憂ちゃんが言った様な末路にはならないからね?」

唯「憂の言う事はいつも鉄板だもん」

律「そうでもないと思うぞ多分!」

唯「説得力ないよ、りっちゃんじゃ」

律「過保護すぎるよ憂ちゃん! 唯の事信じてねーのかと!」

唯「ふがっ!?」

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 11:55:40.39 ID:+Ub63Mpe0
 その台詞で唯の雰囲気が一変した。今にも泣きそうというべきか、癇癪を
起こしかけた幼い童女の様に身を震わせ、下唇を噛んだまま黙って律を睨み
つける。その様子に驚いた律は慌てて唯を宥め、この場を収めようとする。

 律は天真爛漫で甘え上手な唯が本気で怒った所を見た事がなく、これには
彼女自身、かなり動揺しておる様じゃった。

律「冗談! 冗談だよ唯!」

唯「……」

律「ごめん……」

唯「……私もごめん」

律「唯も憂ちゃんも、お互い凄く信頼しあってるの分かってんのにさ」

唯「えへへ……」


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 12:02:19.04 ID:+Ub63Mpe0
律「あのさ、こういっちゃ何だけどマジ楽しいんだぜ彼氏いると」

唯「りっちゃんがそう言うんならそうなんだろうね」

律「そうだよ。だからさ――唯だけ特別に男紹介してやろうと思ったんだ」

唯「私に? い、いいよ私は」

律「まっ、そう言わずに~! 今日彼氏が友達連れてくるから!」

唯「えっ」

律「あっ、嫌だったらすぐ帰らせるから」

唯「騙したの!?」

律「騙したって……そりゃないだろー」


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 12:06:44.92 ID:+Ub63Mpe0
唯「でも私頼んでないよぉ」

律「唯と彼氏持ちの気分を分かち合いたいってだけだよ」

唯「勝手すぎだよー、そんなの」

律「唯~……」

唯「りっちゃんはアホだなあ」

律「はいはいアホで結構ですよ~だ」

 ここで律が得意の変顔を見せる。場を和ませたり誤魔化したりする時に
使う手なのじゃが、その完成度とバリエーションの豊富さに唯は内心、
感心しておった。きっと家でも練習しているに違いない。

唯「ぷっ、いいよ付き合ったげる!」

律「おおッ! 流石は唯! 心の友よ~!」

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 12:11:39.56 ID:+Ub63Mpe0
 少女達の和解が成立した頃、このファミレスに忍び寄る影が二つ。
諸星あたると面堂終太郎、友引高校が誇る変態コンビであった。

面堂「何故この私が貴様なんぞに女を紹介されにゃならんのだ」

あたる「うるさい! 俺だって本意ではない。だけどりっちゃんの頼み、
断わる訳にもいかんじゃないか」

面堂「でもボクにだってプライドはある。別に女の子に困ってる訳じゃないし」

あたる「まあそういうな。お前だって友引高の連中より、他校の生徒と
付き合った方が角が立つまい。悪い話じゃないと思うが」

面堂「何を調子のいい事を。大体貴様にはラムさんがいるだろうが」

あたる「関係ないね、あいつに振り回されるだけの人生なんて真っ平だ。
俺は自由に生きたいしその権利がある」



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 12:16:14.00 ID:+Ub63Mpe0
面堂「はっ! 相変わらず人間のクズだな。ラムさんが貴様に愛想尽かすのも
時間の問題といえる。無用な心配だった」

あたる「残念でしたぁ~、ラムは俺にご執心だからそれはない」

面堂「アホには付き合いきれんな」

あたる「そう言いながら足並み揃えて付いてきてるじゃないの、面堂ちゃん」

面堂「貴様の事はどうでもいい。ただ相手がいるなら迷惑掛けれないだろ」

あたる「期待してて頂戴よ。りっちゃん、すっごくかわいい子連れてくるって
言ってたからさ」

面堂「そ、そう? ぐひひっ……んっ、オホン。勘違いするな馬鹿者」

あたる「顔は素直だな。腑抜けきっとる」

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 12:22:22.68 ID:+Ub63Mpe0
 そのアホ二人を見つめる四人組が一つ。メガネ率いるラム親衛隊であった。
どうやらあたる達を発見し、その様子が変である事に気が付いて尾行をして
いた様である。

チビ「メガネ~、もう帰ろうぜ。こんな所まで来ちゃってさ」

メガネ「馬鹿者、おかしいと思わんのか! あのあたるが宿敵面堂と行動を
共にし、あまつさえ面妖な笑い声を上げて密談しているなど! 何かある!
何かあるぞこれは! あたるのアホの塊の如き不逞の輩が、面堂の様な嫌味で
顔だけが取り得の●●●な成金野郎と組んで何かするとすれば、それは
ラムさんにとって相当、心理的ショックの大きい事件を巻き起こすに違いない!
その証拠を押さえ! 提示し! あたるとの理不尽で如何わしい交際を
根本的に見直す切っ掛けになれば、我らが望むラムさんの幸せに一歩近付く
事になり、延いては俺とラムさ――ゴホン! つまりだな、我らラム親衛隊と
しての矜持があるなら、自分の事よりまずラムさんの事を考えるべきであり、
今はこの行動がラムさんの幸せに繋がると信じるのが当然だ! 分かるな?」

チビ「あんまり顔近付けんなよ。こええよ」

カクガリ「乗りかかった船だ。付き合ってやろうぜ」

パーマ「ちょっとおもしろそうだしな」


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 12:43:04.11 ID:+Ub63Mpe0
 そして遂に変態コンビはファミレスに足を踏み入れ、律、そして唯との
コンタクトを果たす事となった。

あたる「りっちゃん待った~? あなたのあたるだよ~ん!」

律「おう、あたる遅いぞ! これが話してた唯だよ、ほら」

唯「平沢唯でっす! 高校二年で軽音部のギターやってま~す!」

あたる「おっほ~! 本当にかわい子ちゃんじゃないの!」

面堂「どうも。ボクは友引高校二年、面堂終太郎です。以後お見知りおきを」

あたる「はいはい! ボク諸星あたるちゃんね!」

律「あたるも顔のいいのを連れて来たじゃん」

唯「りっちゃんの彼氏君もおもしろそうな人だねぇ」

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 12:46:31.48 ID:+Ub63Mpe0
あたる「えへっ、そう? あっ、ギターといえばボクも持ってるのよこれが」

唯「へ~、あたる君もギターを弾くんですか?」

あたる「いや~、イシシシ、弾けるというかそれ程でもないけどね」

律「三日坊主だろ。根性ないよなぁー」

あたる「そうそう――って余計な事いわないでよりっちゃん~」

面堂「だらしない奴だ。それに引き換え唯さんは素晴らしいですね」

律「私が言うのも何だけど、唯の進歩は目覚しいぜい!」

唯「きりっ!」

面堂「おおっ、何という自信に満ち溢れた仁王立ち!」

律「いよっ! さすが軽音部のエース!」

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 12:51:17.12 ID:+Ub63Mpe0
あたる「あひゃひゃ、唯ちゃんって素直なのねぇ~」

面堂「諸星も折角買ったんなら無駄にせず努力するべきだ」

あたる「別に無駄になっとらん。部屋を彩るオブジェとしてなくてはならん
存在になっちょる。そもそも湯水の様に金を使う面堂に言われる筋合いはない」

面堂「怠け者の言い草だ。ボクと庶民の金銭感覚のズレはこの際関係ない」

律「まあ多分思われてる程、唯は努力家じゃございませんけどね!」

唯「いや~、りっちゃんには負けますよぉ」

あたる「だ、そうだ面堂」

面堂「ボ、ボクも別に真面目で堅物って訳じゃないですよ~! わはは!」

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 12:56:31.57 ID:+Ub63Mpe0
 唯はコロコロ変わる表情が想像以上にキュートで、自然に周りを和ませる
雰囲気を持ち合わせており、美しいというよりはかわいらしいといった感じの
癒し系。

 そして律は、盛り上げ役に徹しておってもその溌剌とした健康的な美しさは
覆い隠せるものではなく、時折見せるその凛々しい表情からポテンシャルの
高さはおのずと窺い知れた。

 男連中はこの両名の魅力に一発で参ってしまいおった。無論、後を付けて
いたラム親衛隊も。

パーマ「おいメガネあれを見ろ! すっげえ美少女だぞ! しかも二人!」

チビ「俺もお近付きになりてえ~」

カクガリ「いいよな、あいつら。どこで知り合ったんだろ?」

メガネ「ゆ、許せん」

パーマ「あん?」

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 13:02:15.27 ID:+Ub63Mpe0
メガネ「浮気を重ね、道徳心も羞恥心も貞操観念も一欠片もないクズで非常識で
無作法で無法者のあの二人が、かくも清廉潔白にして牛丼買い食いな人生を送る
我らと何故、これほどのまでに差が開くのか? 理屈で説明出来ないこの
不条理なる仕組みは一体何を根拠に生まれたというのか……考えるまでもない!
あたるも面堂も拷問! 逆さ吊りじゃ! 火刑に処すのだああぁぁっ!!」

パーマ「待てメガネ! 冷静になれって! 気持ちは分かるが!」

メガネ「おっ、おっ、俺は冷静だああああぁぁぁっ!! 悲観的に準備し、
楽観的に実施せよ!! 奇襲じゃ!! 突撃じゃ!! キエエエェ!!」

カクガリ「こいつはやべえ! 取り押さえるぞチビ!」

チビ「ひ、ひいぃ~!」

メガネ「離せええぇぇっ!! 傍観しているだけの弱者に成り下がるのか!!
俺は嫌だ!! 死ぬなら戦って死ぬ!! 誇りある死を選ぶうううぅぅっ!!」

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 13:06:55.54 ID:+Ub63Mpe0
あたる「何だか向こうが騒がしいな」

律「不良かな? うひゃ、おっかねぇ~」

面堂「どこにでも迷惑な連中がいるものですね」

あたる「ほっとこうぜ、関わっても疲れるだけだ。それより唯ちゃん、
俺に住所と電話番号教えてよ~」

唯「えぇ? あたる君りっちゃんの彼氏じゃ……」

律「あ、あたるお前な~!」

面堂「諸星! 貴様という奴は!」

あたる「かて~事いうなよ。俺だって唯ちゃんとお友達になりたいさぁ」

面堂「そこへ直れ! 叩き斬ってくれるわ!」


41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 13:11:31.69 ID:+Ub63Mpe0
律「うお、真剣!? マジですかッ!?」

あたる「けけ、ワンパターンな奴!」

面堂「貴様にだけは言われたくぬぁいっ!」

あたる「はっ! 真剣白刃取り!」

唯「すごーいコントみたい! 二人共、息ピッタリだね!」

律「よ、余興だったんだ。ビックリしたぁー」

面堂「喜んで貰えたなら何よりです」

あたる「なははははは、コイツ魔法みたいに刀出すだろ? 手品師かって」

唯「そっかー、終太郎君は手品師なのぉ?」



43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 13:16:22.38 ID:+Ub63Mpe0
面堂「お望みとあらば、ご披露致しますが」

あたる「無理すんなよ面堂。出来もしないのに安請け合いか?」

面堂「ボクはやれば出来るんだよ。君と一緒にするな」

律「はは、唯みたいな事を言うんだねえ」

唯「やれば出来る子です! 妹にもそう褒められています!」

あたる「うん唯ちゃんはそうよね。でも面堂は金しかないから」

面堂「貴様はさっきから喧嘩売っとるのか」

唯「仲いいんですね!」

あたる「よくないっ!」面堂「よくありません!」

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 13:21:23.18 ID:+Ub63Mpe0
唯「あははっ! やっぱり仲いい~」

面堂「無邪気な方だ。これでは怒るに怒れない」

あたる「いい子だ。面堂には勿体無い」

律「なー、あたる。さっきから唯ばっかり構ってる」

あたる「あれあれ、寂しかったの? りっちゃん」

面堂「ボクにもちゃんと紹介しろ諸星」

律「あり? 失礼、私まだでしたっけ?」

面堂「はい。お願い出来ますか?」

あたる「いやそれは何だか抵抗があるな」

面堂「どういう意味だ?」

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 13:27:11.81 ID:+Ub63Mpe0
律「私は桜が丘高二年、田井中律。軽音部の部長でドラムスやってます。
特技はモノマネとか断髪式とか――まあそんな所ですかね!」

面堂「二年で部長とは……さぞ人徳がおありになられる」

律「いや~、そもそも上がいなくて。元は廃部寸前だったんで」

面堂「なるほど軽音部存亡の機に自ら立ち上がり救った、そういう訳ですね?」

律「タハハハ……」

唯「ニヒヒ……」

律「こら唯、頬っぺたツンツンすな」

面堂「素晴らしい、感動した。正に現代のジャンヌダルク」

あたる「歯が浮く。やめろ面堂この通りだ」

面堂「別に貴様にいっとらんわドアホ」

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 13:31:22.06 ID:+Ub63Mpe0
唯「りっちゃんはドラムも凄いんだよ!」

あたる「意外と力あるんだよなぁ」

面堂「ふむ、小柄で可憐なあなたが。人は見かけによりませんね」

律「テヘッ、鍛えてマスカラ~。ドラマーは体が資本だしい」

唯「でも時たま澪ちゃんに走り気味だって言われるけどね」

律「うっさい! あれ位の方が元気があっていいんだいッ!」

面堂「是非一度、ご拝見したいものです」

律「いいよ。あたるも見たいだろ?」

あたる「俺は唯ちゃんのギターが見たいなぁ。挫折したもんで」

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 13:39:17.34 ID:+Ub63Mpe0
唯「あははっ、よろしい! ならば私が教えてしんぜよう!」

あたる「本当~? いや~、唯ちゃんって優しいんだな! むふふっ!」

律「デ~レデレして……」

面堂「こりゃ諸星! いくらなんでもデリカシーなさすぎだぞ!」

あたる「え~?」

律「分かったよ、あたるは唯の方がいいんだッ!」

あたる「ちょちょちょっと、そんな事ないよりっちゃ~ん!」

面堂「ざまみろ。自業自得だ」

唯「あたる君とりっちゃん、思ったより楽しくなさそうだね」

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 13:46:53.38 ID:+Ub63Mpe0
面堂「諸星がとんでもない浮気性なのがいけないんですよ唯さん。
あなたをボクに紹介したのだって、新しい女の子のアドレスを得る為の
口実に決まってる」

あたる「おい面堂、誤解を招く様な言い方はやめろ」

面堂「事実じゃないか」

あたる「やかましい。俺は平等に愛を与えられる男だからいいの!」

面堂「最低な言い訳だな」

律「……」

唯「やっぱり別れた方がいいよぉ」

あたる「ちょ、ちょっとぉ! どうしてそうなるの! ねえ?」

チェリー「不吉じゃ」

51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 13:55:05.44 ID:+Ub63Mpe0
あたる「うわはっ! どっから湧いたこの錯乱坊!」

面堂「クッ、こんな所にまでこいつに出くわすとは! ええい消えろ!」

チェリー「これ食うてよいか? うむ美味美味」

律「はは、タコが喋ってる。ショックで頭がおかしくなったのかな私」

唯「りっちゃんしっかりして! タコは陸を泳げないよ!」

面堂「そうですっ! 一緒にされたらタコもいい迷惑です!」

チェリー「左様、タコではない。チェリーと呼んでくれ」

唯「チェリーさんこんにちは! 唯だよ!」

チェリー「うむ、よき返事じゃな。それによい人相をしておる。必ずや
お主は幸せを掴むであろう」

唯「ホント? あっ、でもでも今幸せだし当たってるかも!」

52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 14:02:12.15 ID:+Ub63Mpe0
律「悩みとかまるでないもんなぁ、唯は」

唯「ぶぅ~! 師匠! りっちゃんがいじめます!」

チェリー「師匠? ほっほっほ、苦しゅうない」

あたる「調子に乗るな! 純粋な乙女を誑かしおって!」

面堂「騙されてはいけません唯さん! こいつは妖怪です!」

唯「おじいちゃん可哀相だよ~」

チェリー「こんな年端のいかない少女でさえ老人を労わる精神がある。
それに比べてお主等は老人に対する敬意がまるで感じられん」

あたる「やかましい! 今更か弱い老人ぶったって白々しいんだよ!」

チェリー「おいでなすったぞ」

53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 14:10:48.89 ID:+Ub63Mpe0
あたる「何――げぇっ!? ラムゥーッ!!」

 あたるが視線を移した窓の向こう側で、怒りの電力に満ちたラムが
鬼の様な形相であたるを睨みつけておった。まあ鬼なのじゃが。

 動揺を隠し切れぬアホ面で身を震わせるあたる。突然のグラマラスな
虎縞ビキニの美女の登場に状況を飲み込めない律と唯。ラムへの言い訳を
考える面堂。

 十人十色、その場に会する人々が、この降って湧いた特異な状況に
様々な思惑や想像をする中、それを吹き飛ばすかの様にラムが電撃で壁を
ぶち破った。

ラム「ダーリン何してるっちゃ?」

あたる「ま、待てラム、話せば分かる!」

唯「ねえ! 何今の! サンダガ!?」

54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 14:15:50.51 ID:+Ub63Mpe0
律「ファッションセンスとかその他諸々……ツッコミ所が多すぎっぞ」

ラム「うぅ! また女の子と浮気してたっちゃね~!」

律「う、浮気だぁ?」

あたる「ち、違うよりっちゃん! ラムッ、お前には関係ない!!」

ラム「へぇ~、お前ダーリンの何だっちゃ?」

律「彼女だけど。文句あるのかしら?」

あたる「そうだ、邪魔をするなラム! 俺達は今楽しいデート中なのだぞ!」

面堂「あぁ、またそんな刺激する様な事を……」

唯「すご~い! 角、角も生えてるよ! ねえねえ本物?」

55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 14:20:44.13 ID:+Ub63Mpe0
ラム「ちょ~っと待っててねー? うちら今、大人の話してるから」

唯「うん!」

律「で、何なのアンタこそ」

ラム「悪い事は言わないっちゃ。ダーリンとは関わらない方がい~よ?」

律「ご忠告ど~も。でもそういうのは自分の意思で決めるからお構いなく」

ラム「あのね、うちとダーリンは」

あたる「分かったら早く帰れ。興醒めじゃ」

ラム「ダーリンのバカァーッ!!」

あたる「アホッ!! こんな所で――危ない!!」

律「あ、あたるッ!?」

56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 14:28:27.82 ID:+Ub63Mpe0
 諸星あたるの浮気で、嫉妬による怒りの頂点に達したラムが、電撃放射を
行おうとした瞬間、あたるは咄嗟に律を突き飛ばし、ラムの胸へ飛び込んだ。

あたる「あだだだだだああああぁっ!!」

ラム「ダ、ダーリン!?」

 結果は言うまでもなく黒こげであったが、あたるが自らその身を犠牲にした
のは、流れ弾ならぬ流れ電撃が周囲に飛散せぬ為、つまりは律と唯を庇っての
事だった。

 しかしゴキブリの如き生命力と、トカゲの尻尾の如き再生能力を持つ
あたるは、その程度で死ぬ玉ではない事を付け加えておく。

律「あたる……お前どうして……」

あたる「へへっ、好きな女一人守れなくてどうするよ……」

律「あたる……」

57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 14:42:10.53 ID:+Ub63Mpe0
 駆け寄って来た律にキメ顔でそう告げるあたる。しかし律からあたるに待って
おったのは熱き抱擁でなく、場内に響き渡る様な強烈なビンタじゃった。

律「ふっざけんなぁ!! 私の目の前でイチャつきやがってッ!!」

あたる「え、えぇ~っ!?」

ラム「嬉しい!! ダーリンやっぱりうちの事が好きだっちゃね~!!」

唯「こ、これは! どういう事ですか巨匠!?」

チェリー「運命じゃ」

面堂「律さん加勢します。ぐひひ諸星ぃ、貴様の命運もここで終わりだ!」

あたる「よ、よせっ! 暴力反対! 俺が一体何をしたというのだ!」

メガネ「己の胸に聞けい!!」

あたる「メ、メガネまでぇっ!?」

58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 14:51:19.96 ID:+Ub63Mpe0
メガネ「今朝、大空を無邪気に飛び回る小鳥を見て、ついラムさんを重ね合わせ
てしまいました。大空への憧れは古来より人々の夢でもあり、それを道具に
よって成し得たライト兄弟の偉業は褒め称えられるべきものとはいえ、結局は
個人の結果だけではなく、それに向かってひた走る人々の執念が生み出した
結晶と言えるのではないでしょうか……それはさておき空への憧れを持つのは、
俗世で地べたを這いずり日々つまらぬ事にあくせくするしかない我らが、
自由への羨望としていだく当然の欲求であり、小鳥は小鳥としてその罪のない
幸福をひけらかし続けるべきなのだと思います。しかし――しかしだ、いつか
読んだ本の一節を許されるなら叫びたい。何故、何故私は鳥ではなかったのか!
どうして小鳥……ラムさんと並び立てる存在に成り得なかったのか!
ですが私はそれでも悔いはありません! 即ちラムさんが決して手の届かぬ
小鳥であっても憧れ続けるのが当然で、青春の全てを捧げても惜しくはない!
そう断言出来るからであります!!」

あたる「離れろっ! こら! 巻き添え喰らうぞ!」

ラム「もう覚悟してうちとの夫婦関係を認めてみんなに許して貰うっちゃ」

メガネ「……」

あたる「誰が認めるか、んなもん!! 絶対お断りじゃ!!」

ラム「うふふ、ダ~リーン! 素直になるっちゃよ~?」


60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 14:57:31.16 ID:+Ub63Mpe0
メガネ「あ~た~るぅ、外道である貴様を処分するのに、法律など気にしてる
場合じゃないと今気が付いたよ。すまなかったなぁ~?
これより貴様に一斉攻撃を開始する! つまりリンチだあぁぁっ!!」

ラム「やめるっちゃメガネさん! そんな事しても、うちとダーリンの仲は
裂けないっちゃ!」

メガネ「済みませんラムさん。例え一時あなたを悲しませる事になっても」

パーマ「よし、やっちまえ!」

カクガリ「おらぁー!」チビ「いひひひっ!」

メガネ「おい!! 今いい所だったのにぃぃ!!」

あたる「じょ、冗談ではない! 俺は逃げる!」

唯「待ってあたる君」

あたる「あっ、ゆ~いちゃ~ん!」

61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 15:05:13.32 ID:+Ub63Mpe0
 唯からの呼び掛けに、脊髄反射で飛び付くあたる。その類稀なる凶相ゆえ、
次々と降り掛かる厄災を、人並み外れた反射神経と耐久力で乗り越えてきた
彼ではあったが、こと女と食い物に対しては忠実で無防備な男である。

 故に素人の付け焼刃とも言える足技にさえ、簡単に引っ掛かってしまうの
じゃった。

唯「大外刈り!!」

あたる「ぐひゃぁっ!?」

面堂「おお素晴らしい一本!!」

メガネ「み、見えた!! 純白だっ!!」

律「唯……」

唯「りっちゃん……私はりっちゃんを裏切ったりしないよ絶対に」

律「うええぇっ!! 唯いぃぃッ!!」



63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 15:14:59.60 ID:+Ub63Mpe0
 あたるに振られたと思い込んでおった傷心の律は、唯の優しい言葉に癒され、
公衆の面前にも拘わらず彼女の胸で大泣きした。

 その光景にあたるはショックを受け、歯噛みし、アホ面が益々エスカレート
したカバの様な凄い形相となり、気が狂わんばかりに独白する。

あたる「何という事だ……女同士なんて不健全じゃ! しかもあんなかわいい
女の子が! 俺は認めん、認めんぞ! 正しい男女交際のあり方を俺が教え直さ
せねばならぬ! これは俺に課せられた使命じゃ! ぬおおおおぉぉっ!!」

面堂「クソォ、これは不本意ながら諸星に同意せざる得ない!」

ラム「ダーリン浮気は許さないっちゃよ!!」

あたる「ぐぎゃあああああぁぁぁっ!!」

 唯と律に襲いかかろうとするあたるを、ラムが電撃で仕留める。いかにあたる
とはいえ、ラムの射程範囲内で自由に行動する事は困難である。

 だがゾンビの如くしぶとく、新聞勧誘の如くしつこいあたるは、中々諦めない。
その様があまりにも悲惨であった為、律や面堂やメガネ達は自ら手を下す事無く
溜飲を下げたのじゃった。



65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 15:29:22.89 ID:+Ub63Mpe0
律「あー、えらい目に遭った」

唯「りっちゃん黙って出てきちゃったけどいいの?」

律「いいよ。もう私には収拾つけられる問題じゃなさそうだしなぁ」

 どさくさに紛れ、地獄絵図と化したファミレスを後にした律と唯。
その帰路の最中も唯は、律の頭を優しく撫で続けておった。

唯「よしよし~、かわいいかわいい」

律「……慰めてくれるのはいいけど、いつまでやんだ?」

唯「え~と、とりあえず今日中は」

律「ああそう。所で柔道? 凄かったよ、意外な特技あったのね」

唯「でへへぇ~、たまたまですよ~、褒めて褒めて!」


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 15:35:18.13 ID:+Ub63Mpe0
律「おう、偉い偉い――ってか迷惑掛けたゴメン!」

唯「気にしないで! いつもの事じゃん!」

律「お、お前に言われると釈然とせんな~……」

唯「にひひー」

律「まいっか。あたるとは別れる、そう決めたらスッキリしたぜ」

唯「ナイス決断、と言いたい所だけど気付くのが遅いよぉ」

律「ハハ、唯の言う通りだ。ちょっと癪だけど実はあんまり好きじゃなかった
のかも知んない」

唯「うふっ、りっちゃんは私の方がよっぽど好きだもんね」

68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 15:38:46.62 ID:+Ub63Mpe0
律「そうだな。彼氏ってやつが欲しかっただけだったのかも」

 そこで唯は思案する。自分と律の望みを叶える為、いや心のどこかで
いつも考えていた事だったかも知れぬ。唯は提案した。

唯「――じゃあさじゃあさ、私がりっちゃんの彼氏になったげる!」

律「あん?」

唯「わ! た! し! がー、りっちゃんの~」

律「聞こえとる聞こえとる。でも流石に無理っしょ~」

唯「何で? ひどい! 私の何が不足だって言うの!?」

律「あのな、アタシら女同士。アンダスタン?」

69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 15:43:03.94 ID:+Ub63Mpe0
唯「やだなぁりっちゃん。ただのごっこだよ」

律「ごっこ?」

唯「りっちゃんに彼氏が出来るまでの繋ぎでいいからさ、やってみよ?」

律「ふぅん、ごっこねぇ。ごっこならいいかもなアハハ」

唯「ホント? だったらあたる君のアドレス今すぐ消去して!!」

律「え? あー、はいはい」

唯「やったー!! 私一生りっちゃんの傍を離れないからね!!」

律「うえっ! 重ッ!! 重いわアホッ!!」

唯「それは愛。愛ゆえ~」

70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 15:47:23.51 ID:+Ub63Mpe0
律「取り消せ、さっきの発言取り消せ。付き合わないぞ」

唯「もー、りっちゃんの癖に細かいなぁ」

律「私のアバウトさを持ってしても気になるわい」

唯「別に心の中で思ってるだけならいいじゃん」

律「いや、そういう訳にもいかない。やるなら期間限定で後腐れなくだ」

唯「え~!」

律「言っとくけど私には同性愛は考えられない。ごっこでもこんな事、
唯じゃなかったら無理だし」

唯「あはは、りっちゃん真面目すぎだよお」

律「だから明るく楽しくやろうって話でんがな」


72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 15:53:24.28 ID:+Ub63Mpe0
唯「そんなに私と一緒がイヤなの?」

律「ちげーよ! 友達としてはずっといたいけど恋人としては無理ってだけ!」

唯「そっかあ。う~んどうしよっかな~」

律「じゃあやめるか?」

唯「分かった、分かったよぉ。じゃあ高校卒業までで」

律「うっし、それならいい」

唯「ああん、それじゃ寂しいとか言ってよ! りっちゃんのいけずう!」

律「何考えてんだ、全く」

唯「でもこれで私がりっちゃんの彼氏です!」

律「ごっこだけどね」

74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 16:00:19.30 ID:+Ub63Mpe0
唯「じゃ行こっか! りっちゃん!」

 唯はふいに律の手を掴んだ。昼間は一度拒んだ手、しかし今はごっこという
暫定形式とはいえ彼氏役の手。不覚にも律は胸がときめいてしまった。

 だが唯は大切な友人ではあるが恋愛感情が芽生えるなど絶対にありえない。
律はそう考えていたし、線引き出来る自信もあった。なのにそれが少し揺らいだ
気分である。

 しかしながら本能的に同性愛を認めてはいなかったし、自分にそのケが
あるのではなく、唯が魅力あり過ぎるせいであると結論付け、その時はあまり
深く考え様とは思わなかったのじゃ。

律「唯、その――ありがとな」

唯「ほほう、りっちゃん少し顔が赤い。さては私にメロンメロンだなっ!?」

律「もう! ちゃかすなあッ!」

唯「へへ~、だって幸せなんだもーん彼氏が出来て」

律「ちょっ! 彼氏役は唯でしょーが!」

78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 16:49:35.24 ID:+Ub63Mpe0
 一方その頃、あたるはどうしていたのかと言うと、唯律が消え、
ラムの電撃によって大破したファミレスには用がないので、
仕方なしに帰路へ就く所であった。

あたる「クソッ、みんな寄って集って俺の邪魔をしおって。
お陰で振られてしまったではないか」

面堂「この期に及んで他人のせいにしようとは。その図太さだけは褒めてやる」

あたる「お前に図太さをどうこう言われる筋合いはない」

ラム「ど~せこうなっていたっちゃ」

あたる「やかましい! 大体どーして俺の居場所が分かったんだ?」

ラム「その襟首に真相が隠されているっちゃ」

あたる「なぬぅ――はっ、発信機ィ! いつの間にぃ!?」

ラム「うちに隠れて浮気なんて許さないんだから」

79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 16:55:37.56 ID:+Ub63Mpe0
あたる「やりすぎじゃ! プライバシーの侵害じゃないか! なあ面堂!?」

面堂「自業自得だ。というかラムさんに監視されるなら悪くない」

ラム「終太郎、うちだって本当はこんな事したくないっちゃ」

あたる「孤独だ……誰も俺の気持ちなんて理解しちゃくれない」

面堂「真面目腐った顔で何を抜かしとる」

ラム「ダーリンを相手にするのなんて、うち位のもんだっちゃよー?」

あたる「フン、破壊の限りを尽くしおって。ファミレスはボーナスステージ
じゃないぞ。お前みたいな鬼を相手に出来るのだって俺だけだ」

ラム「アハハハッ! やっぱりうちらは似合いの夫婦だっちゃ!」

あたる「や、やめろラム! ひっつくな! 鬱陶しい!」

面堂「うっ、めまいがする。熱中症かなぁ……」


81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 16:59:00.16 ID:+Ub63Mpe0
 そんなあたる一行の前に、向こうから何やら談笑しながらやってくる
二人の少女の姿。

 唯をポニーテールにした様な風貌。しかし明るいが落ち着いた雰囲気と、
控えめで気立てのよい性格は全くの別物。そう、彼女こそは唯の妹である
平沢憂その人であった。

 ついでにもう一人、ドアラを彷彿とさせる少女はその友達の鈴木純である。

純「いやぁ、いい汗かいたね」

憂「純ちゃん途中から、私にばっかりやらせてたじゃない」

純「そうだっけ? 憂の方が上手いから参考にといいますか」

憂「もうっ! 純ちゃんから誘った癖に!」

純「あはは、ごめんごめん。何か手首疲れちゃってさー」

憂「嘘っ。飽きたんでしょ?」

82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 17:03:18.39 ID:+Ub63Mpe0
純「ほら私って文化系だから。もっと言えば気だるいセクシー系だから」

憂「う~んでも、もうちょっと頑張って欲しかったな……」

純「何で私にそこまで期待してんのよ今更」

憂「純ちゃんって熱くなるのも早いけど、冷めるのはもっと早いよね」

純「まあ初めてだったし、最初は燃えるのが当然っしょ」

憂「私だってそうだよっ? 指だってどうやって入れるか分からなかったし」

純「その辺の手探りというか好奇心くすぐられる所までは良かった」

憂「ちゃんとやれば気持ちいいんだけどなー」

純「かもね。でも思ったよりしんどい」

83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 17:16:21.47 ID:+Ub63Mpe0
憂「条件がイーブンなら、私が勝つだなんて言ってたのに」

純「ゲームなら負けないんだけどねぇ。どうしても私が不利でしょ? 憂は
ほら運動神経抜群なんだし」

憂「ボウリングはゲームじゃないの?」

純「ボウリングは競技っしょ。プロあるし」

憂「あははっ! 純ちゃんには敵わないなあホント」

純「へへっ、まーねぇ~♪」

あたる「お嬢さん達何してるのぉ~? 暇ならボクとお茶しない?」

 先程の失敗をものともせず、年頃の若い娘を視界に捉えるや否や、
電光石火で口説きにかかる諸星あたる。

 ここまで学習能力が欠如した畜生以下の理性や、常軌を逸した行動力には、
例え俗世を超越した高僧といえども憐憫を感じざる得ないであろう。

84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 17:17:34.38 ID:+Ub63Mpe0
純「何々? ナンパってやつですか?」

あたる「そうそう。両方かわいいね~、お友達同士かな? ぐっしっし」

純「たは~、モテる女は辛いね!」

憂「ちょっとよしなよ純ちゃんっ! 済みませんが私達まだ学生だし、
そういうの興味ありませんので」

あたる「うは~、しっかりしてる! でも青春は待っちゃくれないんだぜ!?」

面堂「これ諸星いい加減にせんか。女性と見れば見境なしに」

純「あっ! 凄いイケメン!」

面堂「面堂終太郎と申します。どうです? これからご一緒にカフェでも」

純「きゃいー! ウッソォ~!」

あたる「面堂っ! お前は横から何だ! すっこんどれ!」

ラム「また電撃でおしおきする仕事が始まるっちゃ」



86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 17:25:08.64 ID:+Ub63Mpe0
あたる「ていうか君、どっかで会った気がするんだよね~?」

憂「し、知りません。気のせいです」

純「うははは! 古! 奈良時代の口説き文句だ!」

ラム「ダーリンこの子は迷惑がってるっちゃ。バカみたいだよ~?」

面堂「言われてみれば唯さんに似てるな、ポニーテールの子」

あたる「あ~、そうそう! 君、唯ちゃんそっくりだ! もしかして姉妹とか
だったりして?」

ラム「まっさかぁ~」

あたる「ぐひゃひゃひゃ、そうね冗談冗談。変な話をしてゴメンね~」

憂「……何故あなた方がお姉ちゃんを?」


89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 17:30:49.00 ID:+Ub63Mpe0
 表面上は笑顔、しかしえも言われぬプレッシャーを醸し出し、憂はあたるに
尋ねた。突然、雰囲気が一変した目の前の少女に一瞬面食らったあたるでは
あったが、こういうタイプは初めてではなく、むしろ慣れておったので動揺は
なかった。

 あたるは相変わらず締まりのないヘラヘラとした口調のまま返答する。

あたる「あら~、本当に姉妹? 偶然にも一日で別々に出会いを果たすなんて!
これって奇跡? や~、運命感じちゃうなボク」

ラム「うちにもたまにはそんな気の利いたセリフ言って欲しいっちゃね」

純「今更だけどめちゃ大胆な格好だね、お姉さん」

面堂「驚きです。唯さんとはまた違ったチャーミングさをお持ちで」

憂「お姉ちゃんも私と同じ様にナンパなさったんですか?」

あたる「違うよ、りっちゃんが連れて来たのさ。あ、りっちゃんっていうのは」

憂「りっちゃんって――律さんっ!?」


91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 17:36:52.80 ID:+Ub63Mpe0
あたる「おひょっ、そうよ知ってたの?」

憂「知ってます、姉と同じ軽音部の人ですからっ! あなた律さんと
どういう関係なんです!?」

あたる「彼氏。んまぁ振られちまったから元彼かな!」

憂「律さんの彼氏っ!?」

あたる「そうそう。しっかし君はお姉ちゃんと外見は似てるけど中身は
まるで違うね。唯ちゃんはボケーっとしてて周囲を和ませる感じだったけど、
君は奥ゆかしいというか。好きだなぁ君みたいなタイプ」

憂「お姉ちゃんは律さんの紹介によって、あなた方と会っていたのは
分かりました。それでどういう集まりだったんですかっ!?」

ラム「宇宙ではこれ位当たり前だっちゃよ?」

純「スケールでかっ! でも似合ってるしカッコいいかも」

ラム「そ、そう? そういう褒められ方されると照れるっちゃ」

92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 17:40:22.78 ID:+Ub63Mpe0
純「私、お姉さんみたいなセクシーさに憧れてるんですよ!」

ラム「アハッ、よく分かってるっちゃね! 気に入った!」

純「私もあなたみたいになれますか?」

ラム「それは無理じゃないー?」

純「そ、そうですよね……身の程知らずですよね私なんか」

ラム「あっ、えっと冗談! なれるっちゃよ!」

あたる「全然悪い事じゃないよ? 高校生として健全な男女交際を広げるって
いうのかなぁ? その手助けとしてここにいるアホの面堂、もといアホの面堂を
仕方なしに紹介したという……」

面堂「おい貴様、黙って聞いておれば女性の前で人を侮辱しおって! 斬る!」

憂「だ、男女交際なんて……そんな……」

あたる「そういう訳で妹ちゃん、名前と住所と電話番号を」

93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 17:46:08.69 ID:+Ub63Mpe0
憂「そんなのお姉ちゃんにはまだ早過ぎるもんっ!! うわああぁぁん!!」

 憂は駄々をこねる童女の如くそう泣き叫ぶと、サイレンススズカを思わせる
凄まじい加速力であっという間にその場を逃げ去った。

 呆気にとられるあたるであったが、全盛の高田純次すらかわいげを感じさせる
持ち前の図太い精神力を発揮し、僅か数秒で高笑いをしながら立ち直るので
あった。

あたる「だははは! 恥ずかしがっちゃってまあ! だがあれ位の方が初々しく
ていい! 最近の若い女子には羞恥心が足りんからな!」

面堂「懲りん奴だ。ほとほと呆れる」

純「体が浮いてていいな~。マラソンとか楽そう」

ラム「地球人は飛べなくて不便だっちゃね~」

純「そうなんですよ――あれっ? 憂がいない……」

ラム「暇ならうちの宇宙船に遊び来る? 色々あるっちゃ!」

純「いいんですかっ!? 行きます行きます!」


97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 18:17:26.41 ID:+Ub63Mpe0
 場面は平沢家に移るが、唯と律は何とここに戻って来ておった。
唯が律の事を家まで引っ張り込んだ格好である。

 とはいえ律も唯の事は元々普通の友達以上に好感を持っていた訳であり、
その相手からこれだけ慕われるとなると満更でもない。しょうがなしに
付き合ってる様で、実は律も唯との恋人ごっこを楽しみ始めておる様じゃった。

唯「たっだいま我が家!」

律「ハハッ、誰もいないだろ~」

唯「そこはりっちゃんがお帰りと言う所でしょ! 嫁として!」

律「知らない内に夫婦ごっこに格上げされてる!?」

唯「ほらお帰りって言ってごらん?」

律「お邪魔しま~す」

唯「無視!?」

98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 18:22:15.49 ID:+Ub63Mpe0
律「しかし唯の家で結局何をするの?」

唯「だから恋人らしい何かをしようではありませんか」

律「ふ~ん。じゃゲームでもする?」

唯「ほほう、すなわち私がりっちゃんに手取り足取りゲームを教える。
そういうプレイ?」

律「やだやらし。そういう人だったの唯って」

唯「ここまで来てつもりがなかったなんて言い訳は通らないよ奥さん?」

律「ひどいわ! 信じていたのに!」

唯「素直じゃないんだから。身体に直接聞いてみるしかないかなぁ」

律「ち、近寄らないでケダモノ!」

99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 18:26:56.28 ID:+Ub63Mpe0
唯「ふふ、君の瞳が私の理性を狂わせるの。満月の持つ魔性の様にね」

律「ちょ、ちょっと唯、マジ近いってばッ!」

唯「へへ~、りっちゃんか~わい!」

律「わぷっ! ゆ、唯……」

 唯は小柄な律を包み込む様に抱き締め、そのままゆっくりソファに押し倒す。
いかに仲の良い相手とは言え、性別を意識する年齢ともなれば、恋愛感情の伴う
同性同士の抱擁に抵抗があるのは当然である。

 例えば異性であっても、親子や兄妹等の近親  同様、同性愛は倫理的問題で
ある以上に繁殖するのに不適切だと、生得的に訴えかけてくるものだからの。

 無論それは律も例外ではなく、唯を意識した途端に何とも思ってなかった筈の
スキンシップが急に汚らわしくなり、恐怖にも似た嫌悪感さえ抱いてしまうのも
無理からぬ事であった。

100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 18:31:31.80 ID:+Ub63Mpe0
 しかし一方で律は、その生理的拒絶反応よりも強く、唯の事を信じてもいた。
唯は私を絶対に傷付けたりしないと。故に律の抵抗は弱く、事実上唯の行為を
自分の意思で受け入れていた。

 そして二人はしばらく抱き合ったまま目も合わさず沈黙し、リビングには
僅かな衣擦れとソファの軋む音だけが●●に響き渡るのみ。とはいえ 的と
いうより児戯にも等しい無邪気なハグに留まり、それ以上の行為はなかった。

 まるで以心伝心し、唯が律の意思を尊重したかの様に。

律「……唯ー、お前ってめちゃくちゃ気持ちいいのな」

唯「くふふ、りっちゃんもいい匂い~♪」

 唯にこうして抱きつかれるだけなら、恐ろしいまでに心地良かった。
木目細かく吸い付く様な柔らかい肌の感触は、感覚の鋭い指先や手の平には
いつまでも残り続ける様だった。

 この唯の抱擁ならば、お堅い和や梓が懐柔されてしまうのも納得である。
麻薬の様な身体という表現があるがまさにそれ。病み付きになる質感。
いやらしい意味でなく、こんな布団があったら間違いなく売れるであろう。



102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 18:35:37.50 ID:+Ub63Mpe0
律「嗅ぐなこら。犬か」

唯「くう~ん」

律「よ~しよしよしよしッ」

唯「わうわう!」

律「キャアッ! 急に体重かけんな!」

唯「リッツパーティだよ~」

律「じゃあしょうがないな――ってオイ」

唯「は~、落ち着くなぁ」

律「あちぃってばもう」

唯「照れなくてもいいのにぃ~、うりうり~」

103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 18:41:39.24 ID:+Ub63Mpe0
律「甘えん坊だな唯は」

唯「そうだよ。だから大好き。いつも構ってくれるりっちゃんが」

律「唯……私もさ、唯みたいに落ち着かない奴が一緒だと落ち着くよ」

唯「知ってるよ――寂しがり屋だもんね、りっちゃん」

律「でもムードがない。少し黙っててくれっか?」

唯「ん……」

律「ずっとこうしているのも悪くないかもなあ」

唯「う~ん、でも一つだけ問題点がありまして……」

律「何です唯さん?」

唯「お腹減った」

律「おおう、そういえば腹減ったなぁー」

104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 19:16:14.89 ID:+Ub63Mpe0
 律と唯は揃って台所を漁り始めた。唯はすぐに食べられそうな物を
探しておったのだが律は違った。手際よく使えそうな材料を引き出し、
適当に並べて行く。

律「え~、にんにく玉ねぎひき肉……おっ、トマト缶もあんじゃん!」

唯「りっちゃんもしかして何か作ってくれるの?」

律「任せとけ! 私は唯の嫁だしなッ!」

唯「それなら私も手伝う! 愛の共同作業ってやつですよ!」

律「うははは! すっげえ恥ずかしくて最高!」

唯「で、献立は?」

律「スパゲッティミートソース」

唯「おおー! それならサクランボ入れてみたい!」


106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 19:20:03.99 ID:+Ub63Mpe0
律「キノコか茄子以外は却下。スタンダードにしておけば間違いない」

唯「じゃあ溶き卵を入れるとか! ふわふわにしよう!」

律「創作料理なんて素人が手を出していいジャンルじゃないやい」

唯「大丈夫、この雄山に任せたまえ! どーんと!」

律「考えてみたら料理は火や刃物を使うんだから唯にはまだ危ないな!
そこで私の勇姿を見てろ!」

唯「優しい様で戦力外通告!?」

律「いや~、冗談だって。で、本当に手伝ってくれるの?」

唯「私やれるもんバカにしないで! お料理するの好きだし!」

律「お~、よちよち」

唯「ふんすっ!」

107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 19:25:21.48 ID:+Ub63Mpe0
律「でもアタシの言う事は聞いて下さいね!」

唯「分かりました! りっちゃんコックさん!」

律「語呂ワリィよ、それ!」

 という訳で二人は晩御飯を作り始めた。唯は口だけでなく意外に頑張って
おったものの、天性のドジっぷりを発揮する場面もあり、目に見えて律の足を
引っ張ってしまう。

 しかしそれでも律は唯と何かを一緒にする事が楽しくて仕方なかったし、
唯もそれは同様であった。悪戦苦闘し、時にはふざけ合うのが二人にとって
自然で嬉しい事だったのである。

唯「お料理配置完了致しやした!」

律「うっしゃあ! 出来上がりだッ!」

唯「はうあうあぁぁ……もうダメエェ~」

律「ど、どーした唯!?」

108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 19:28:11.76 ID:+Ub63Mpe0
 テーブルには二人分のスパゲッティの他にコーンポタージュとサラダが
付け合せで並べられた。めいらくのコンポタは実に美味であるとは律の談。

 しかしこれらを用意するのに要領の悪さも手伝って優に一時間は越えており、
唯の腹ペコは限界に達していた。先程までの意気軒昂さはどこへやら、
飯を目前にしてテーブルに突っ伏し、グッタリしてしまったのである。

唯「お腹が空き過ぎて最早フォークを持つ力もない」

律「しっかりしろ! 傷は浅いぞ唯ー!」

唯「私に構わずりっちゃんだけでも食べて……」

律「バカ言うな! 私が食べさせてやる! ほれ!」

唯「お、おい……しい……」

109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 19:33:47.29 ID:+Ub63Mpe0
律「当たり前だ! どんどん食え! ガンガン元気になるぞ!」

唯「りっちゃんペース速い。もういいや」

律「あっそう。所でタバスコない?」

唯「ないよ。うちみんな辛いの苦手だもん」

律「ちぇっ、タバスコ美味しいぬにー」

唯「このままで凄くおいしいよ、りっちゃんのスパゲッティ」

律「二人の、だろ」

唯「えへへ……はい粉チーズ」

律「おっ、サンキュー♪」



111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 19:41:56.18 ID:+Ub63Mpe0
 結局ギー太も赤面してしまう程のラブラブっぷり。多少の葛藤はあるにせよ、
唯は律に依存し、律はそれに応えるのが心地よくて仕方がないという有様。
二人がこういう関係になったのは、ひょっとしたら必然だったかも知れぬ。

 だが、もし女同士じゃなかったならという思いも、律の中には燻り続けて
おったし、またそれは、そう簡単に割り切れるものでもないというのも
事実であった。

律「ほいっ、家に連絡終わりっと」

唯「わ~い! 今日はずっと一緒だね!」

律「ナハハハ、そういや唯ん家泊まるの初めてだなぁ」

唯「遠慮しないでゴロゴロしてって」

律「そりゃ唯の専売特許だし遠慮しとく」

唯「りっちゃんと力を合わせたいのに」

律「意味分からん。しかしこの時間ニュースしかやっとりゃせんな~」

112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 19:47:40.88 ID:+Ub63Mpe0
唯「録りためた銀魂あるけど観る?」

律「おっ、いいね。一緒に観ると楽しいもんな!」

唯「神楽ちゃんが一番おもしろいよね」

律「え~、銀さんだろ? 唯もそうじゃなかった?」

唯「りっちゃん変わってないんだ。一途う~」

律「うるへー」

唯「憂は定春が好きなんだよ」

律「私の知る限りじゃ定春好きな人って初めて聞いた」

唯「そういえば憂遅いなぁ。晩御飯とっといてあるのに」

律「何やってんのかしらね? 連絡してみる?」

113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 20:00:11.78 ID:+Ub63Mpe0
 律の言葉に唯は壁に立て掛けてある時計を見やる。針は午後六時半を
回った所。唯は少し考えてから苦笑し、かぶりを振った。

唯「う~ん……まだいいや。憂も楽しんでるのかも知れないし」

律「まー、憂ちゃんだし心配いらないか」

唯「りっちゃんの心の準備も必要だろうし」

律「えっ、どういう事?」

唯「そりゃ勿論、憂に一番に報告したいじゃない? りっちゃんの事」

律「まさか恋人って紹介するつもりじゃあ……」

唯「当然じゃん」

律「わっ、待て待て! もしかしてみんなにも公開すんのそれ!?」

114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 20:02:27.64 ID:+Ub63Mpe0
唯「りっちゃん今更ですか?」

律「ぶっちゃけ考えてませんでしたッ!」

唯「内緒の方がいいの?」

律「う、うんうんうんうん! 凄くメンドクサそうだし!」

 焦る律にジト目で唯がそう問い掛けると、律はバスケットボールが
激しくバウンドする様に頷き、唯はそれが苛立ったのか少し口調を尖らせる。

唯「でも憂だけには言っておきたいんだけど」

律「そうかう~ん……そうだなー、仕方ないかそれは」

唯「いいの?」

律「いいって? 当たり前だろー、付き合うんだからさあ」

唯「あははっ――良かったぁ」


116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 20:06:44.28 ID:+Ub63Mpe0
 煮え切らないと思われた律が一応それなりの返答をしたのが嬉しかった
のか、唯は突然目を潤ませ身体ごと律に擦り寄ってきた。

 しかし予期していなかった律は驚き、かなり間抜けな声を出して尋ねた。

律「へっ、どした?」

唯「ごっこって自分で言ったからさ、りっちゃんが真剣かどうかちょっと
不安だったんだよね」

律「何だよそれ。私だけその気になってたみたいで寒いじゃん。唯こそ
ノリ軽すぎだし実は何も分かってないんじゃないの? 恋人って事」

唯「だからぁ――もう! そうじゃないってば!」

律「そうじゃないってぇ~?」

唯「う、嬉しいの!」

117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 20:10:01.90 ID:+Ub63Mpe0
律「おぉ……そかアハハハ」

唯「何~、その反応?」

 律は思ったより冷静じゃった。それは予想というより、覚悟が出来ていたと
表現する方がふさわしいであろう。とはいえ、自分が意外に真面目に考えて
いた事に、他でもない律自身が一番驚いている事も確かであった。

 大雑把な彼女にしては丁寧な手付きで唯の頭を撫でる。それは唯にとって
だけでなく、律にとっても心の充足を満たす行為であった。

 どちらかといえば律は追いかけるタイプだったので、犬の様に自分を慕って
くる唯に戸惑いはあったのだが、今はそれが何より愛しく掛け替えのない
ものに感じておったのである。

律「よしよし、ういやつういやつ」

唯「私は唯だよ?」

律「じゃあ、ゆいやつゆいやつ」

唯「へへ~、苦しゅうない苦しゅうない」

118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 20:14:01.28 ID:+Ub63Mpe0
律「しかしあれだな、あんま普段と変わらない気もしてきた」

唯「全然違うよ。こんなに心があったかいもん」

律「そんなもんですか?」

唯「心配しなくてもりっちゃんに変な事なんてしないよ。付き合って
一緒にいるだけで満足。それとも物足りない?」

律「ちげーし! 私だってこれでいいよ! いやらしい事とか無理だし!
でも唯はそれでいいのかなって思っただけ!」

唯「いいね~、その私を思いやる感じ。とても嬉しいよ!」

律「……何かおまー、妙な拘り持ってるよなぁ」

唯「にへ~」

119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 20:18:52.28 ID:+Ub63Mpe0
律「ちぇっ、なんっか調子狂うな。そういや銀魂は?」

唯「んっ、ちょっと待って。ギー太持って来るから」

律「何だそれ? まさかギターも一緒にアニメ観賞ってか?」

唯「いや~、一日一回はギー太いじらないと落ち着かなくってさ」

律「そーかそーか、感心感心。じゃあむしろ練習見せてくれよ」

唯「えへへっ、ラジャーっす!」

 唯は言われてすぐにギー太を持参し、いつもより激しく掻き鳴らす。

 多少悪ふざけもあるがご愛嬌。アンプが繋がってないとはいえ、楽しげで
表現力豊かな轟音が響き渡ってくるかの様だった。それほど普段の彼女が弾く
ギターには高揚感があり、周囲を魅了する力があるのを律は知っていた。

120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 20:23:59.44 ID:+Ub63Mpe0
 唯のこうした、僅か一年半のギター歴でメンバーの中心となる卓越した
音楽センスは、律が彼女に惹かれた大きな理由の一つであろう。

 しかし何より唯は軽音部の仲間が好きだという気持ちが強く、バンドとしての
一体感を重視していた。それがギタープレイにも表れている。だからこそ律は
唯の上達を自分の事の様に喜べるのじゃった。

律「唯、上手くなったな。カッコよかったぞ」

唯「そ、そっかなぁ、でへへ」

律「まあ適当に言ったんだけど」

唯「ぶう! りっちゃんしどい!」

律「ナハハッ、冗談だって。私もドラム叩きたくなったぜ!」

唯「りっちゃんもドラムやってる時はカッコいいよ!」

律「まあねん――って、こらあ! は、は余計だ!」

唯「あははっ!」

121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 20:28:20.54 ID:+Ub63Mpe0
 してその頃、姉が男遊びしていると勘違いした傷心の憂はどうしていたのか
というと。

 姉の自主性を信じるべきなのか、まだ学生なのだから時期尚早と咎めるべき
なのか。今まで通り接しても大丈夫なのだろうか、男が出来れば姉離れしない
妹など煩わしいだけではないだろうか。

 そんな葛藤が頭の中を廻り続け、ちょっと涙目になっておったのじゃった。
そして気がつくと、夢中で走ってきたせいで見知らぬ街に迷い込んでしまって
おった。

 憂は途方に暮れ、とりあえず踵を返し、元来た道に引き返そうと思った。
その時である。背後から何者かの優しげな声が、彼女を呼び止めた。

サクラ「もし。酷く落ち込んでおる様だがどうした?」

憂「――えっ?」

 憂は息を呑み、その謎の女に一瞬見蕩れて動けずにいた。


123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 20:33:46.51 ID:+Ub63Mpe0
 それもその筈、印象的な切れ長の瞳に鼻筋の通った端整で気品ある顔立ち。
シミ一つない病的なまでに白く透き通った肌、長くしっとり艶やかな世界が
嫉妬する黒髪。男共を瞬時に悩殺するであろうその豊満な をさらに強調する、
モデルさながらの完璧なプロポーション。

 そして冷酷な悪人さえ感涙する気がする、全てを包み込む菩薩の如き微笑み。

 そんな芸能人でも滅多にいないであろう美女が、いきなり話し掛けてきたの
じゃから。ちなみにこやつはサクラ、さる高僧の姪じゃ。

サクラ「ワシはサクラ、怪しい者ではない。友引高校で保険医をしておる者だ」

憂「あ、はい……」

サクラ「何か悩みがあるのであろう? 顔にそう出ておる。よかったら相談に
乗るぞ?」

憂「あのぅ、でも私」



125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 20:41:50.19 ID:+Ub63Mpe0
サクラ「実は飯を食いに行く所でな、一人では味気ないと思っておったのじゃ。
どうじゃワシに付き合わぬか? 奢るぞ」

憂「どうして見ず知らずの私にそんなに構うんですか?」

サクラ「気にするな他意はない、性分じゃ。ほれ奢ると言っておるのだから、
いい若い者が遠慮するな」

憂「は、はい――じゃあちょっとだけっ!」

 いささか強引なサクラに引っ張られる様にして、憂は定食屋に連れて来られた。
だが直感的にサクラの人柄の良さや包容力に惹かれた為、嫌な感じはなく
むしろ少し救われた気分でさえあった。

 とはいえこれだけの美貌を目の前にすると、いかに同性とはいえ緊張を
隠せない。左大腿上に右大腿から脹脛にかけて密着交差させる着座スタイルは
非常に  ティックであるが、見えない。

 そんな憂を和ませようと終始にこやかにサクラは会話を投げ掛ける。


135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 23:49:46.72 ID:+Ub63Mpe0
サクラ「そういえばまだ、お主の名を訊いておらんかったな」

憂「失礼しました。私は平沢憂、桜が丘高の一年です」

サクラ「憂、憂ちゃんじゃな。その様に笑った方がかわいらしいぞ」

憂「ありがとうございます。サクラさんこそ凄く素敵で」

サクラ「しっかりしてて礼節も正しい感心な子だのう。きっとご両親の教育が
良いのじゃろう」

憂「お、おだてないで下さいっ! 恥ずかしいですっ!」

サクラ「はははっ、しかしそう畏まらんでよろしい。ここは私の行きつけでな、
何でも好きな物を頼んで良いぞ」

憂「いえ、まだお腹が空いてないので、サクラさんどうぞ私に構わずお先に」

136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/01(土) 23:52:36.48 ID:+Ub63Mpe0
サクラ「なんと……タダ飯じゃぞ? お主どこか具合でも悪いのか?」

憂「い、いえいえ! とんでもないっ!」

サクラ「任せろ、これでも保険医じゃ。どれ少し診察を」

憂「あのっ、平気です! 健康だけには自信ありますので!」

サクラ「照れずともよろしい。こんな所で服を脱げとは言わん」

憂「ですから私、どこも悪くありませんしっ!」

サクラ「しかし顔が少々赤い様だが」

憂「そ、それはちょっと緊張してるだけで」

サクラ「ん~? 人見知りには見えんが」

憂「あ、あははっ、そんな事ないですよっ!」

137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 00:00:24.83 ID:MVfdz1cI0
サクラ「まあよい、ワシは腹が減って倒れそうじゃ。悪いが勝手にやらせて貰う。
店主、こっからここまで。大至急頼むぞ」

店主「へいっ! サクラさん!」

憂「こっからここまで?」

 テーブルに次々と並べられる料理を見て、サクラの言葉の意味が分かった
憂は唖然とした。

 ラーメン、餃子、天丼、チャーハン、カツ丼、牛丼、春巻きetc……
どう考えても一人で食べ切れる量ではない。しかし憂はさらに驚嘆する事となる。

 凄まじいスピードでそれらを平らげて行くサクラ。それまで彼女に抱いておった
イメージが全壊する程の迫力。妖艶で優しき謎の美女は、突如として人知を
超えたフードファイターへと変貌したのである。

憂「そ、そんなに食べて平気なんですかっ!?」

サクラ「むむっ……すまん、我を忘れてしまった」

138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 00:09:22.05 ID:MVfdz1cI0
憂「いえ、少しびっくりしましたけど」

サクラ「そうだな、この辺の肉が気になっていた所じゃ。今日は少食で
済ませよう」

 そう言ってスリムな腹をつまむサクラに、憂は漫画の様にズッコケそうに
なった。

 ちなみにこれだけ食べてもボディラインに変化はなく、サクラの胃袋は
ブラックホールと通じておるのではなかろうかと、そんな荒唐無稽な想像を
してしまうのも無理からぬ程の衝撃じゃった。

サクラ「それに憂ちゃんと話をしたいしな」

憂「あははは……」

サクラ「ん? どうした、まだ緊張しておるのか?」

憂「ちょっとコケましたけど、それは大丈夫です」



140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 00:19:41.85 ID:MVfdz1cI0
サクラ「なら話してみよ。何か悩みがあるのじゃろ?」

憂「はいっ……実は友達の話なんですけど」

サクラ「ほほう」

 サクラの思い掛けぬ特技によって緊張が解れた憂は暫し思案し、
直接的な表現を避ける事にして語り始めた。それに対しサクラは、
友達=憂というパターンだと思い込んで応答する。

憂「私の友達の友達、Rさんとします。そのRさんに最近彼氏が出来たそう
なんです」

サクラ「ふむ。高校生らしい健全な男女交際なら、別に構わんと思うが」

憂「それは個人の自由だし私もいいと思いますけど、そのRさんが私の友達にも
男の子を紹介してきて、それが困るといいますか」

141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 00:37:18.45 ID:MVfdz1cI0
サクラ「成る程……じゃが本当に困っておるのか? Rさんは友達の為に親切で
やっておるのだろう?」

憂「ダメです、困りますよっ! 友達はまだ高校生だし――凄く純粋な子
だから、男の人と付き合ったら変に影響受けて、人生台無しにしちゃうに
決まってますっ!」

サクラ「ではRさんの紹介を断わる様に進言してみたらどうじゃ?」

憂「そ、それはそうなんですけどっ、Rさんは友達にとって大切な人だから、
顔を潰せないっていうか」

サクラ「友達は男と付き合える様な子ではない、しかしRさんとの仲も壊したく
ない。つまりはそういう事か」

憂「はい」

 無駄に慈悲深いサクラは親身になって考えてる様じゃが、何の事はない
リア充の悩みであり、一般的には御座なりな対応に終始し、唾を吐きかけ
帰るのが普通である。

142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 00:53:56.35 ID:MVfdz1cI0
サクラ「ふむ。憂よ、お主の言い分も良く分かる。確かに世の中には碌でもない
男共で溢れておる。自慢でも怖がらせたい訳でもないが、極端に悪い例も幾つも
知っている。彼奴等の様な連中なら全力で交際はやめさせるべきじゃ。しかし
男とて性別の差はあれど、同じ人間じゃ。獣と決め込んで接触を避けるのも
一つの道ではあるが、修道女でもないならその道を進み続ける訳にもいかん。
無論まだ高校生なのだし、無理に男女交際をする必要もRさんに合わせる必要も
ないが、ここは経験と思ってRさんの紹介を信じ、実際会わせてみてその友達の
意思で決めさせれば良いのではないか?」

憂「で、でも友達が男の人と付き合うなんて不安で……」

サクラ「その友達を信じてやるのじゃ。ただ会うからと言って、付き合うと
決まった訳ではなかろう。それに恐らく自分で思ってる程、友達は人を見る目が
ない訳ではないし幼くはないと思うぞ」

憂「サクラさん……そうですね! 会っても付き合うって決まった訳じゃない
ですよねっ!」

サクラ「そうじゃ、男など恐るるに足りん。気に入らなければ盛大に振る様に
言ってやれ。それでRさんと仲が悪くなる様なら、最初からその程度だったと
いう事じゃ」

143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 00:56:28.93 ID:MVfdz1cI0
憂「分かりました! 私、お姉ちゃんに会って話を聞いてみますっ!」

サクラ「そうか! 頑張れよ!」

憂「ありがとうございますサクラさんっ! いつかお礼に伺いますね!
ではっ!!」

サクラ「おお……ん? あれ姉?」

 一陣の風を残し去って行く少女を見送りながら、自分が微妙に勘違いしていた
事を知るサクラ。

 しかしそれ程大きな間違いでもなさそうだし別にいいかと気にせず残った食事を
再開しようと思ったその瞬間、不意に飛び掛からんとする黒い影。

あたる「サクラさあぁぁぁ~ん!! 好きじゃあああぁっ!!」

サクラ「脈絡なく現れるでないっ!! こんの●●ガキがあぁーっ!!」

 無惨、あたるはサクラ渾身のアッパーカットに弾き飛ばされ、星となった。
南無阿弥陀仏。

144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 01:16:54.85 ID:MVfdz1cI0
憂「ただいまー! お姉ちゃ~ん?」

 さて憂は大急ぎで人伝に道を訊く等し、自宅への帰館を無事果たす。

 時刻は午後六時五十四分、姉が腹を空かせて泣いておるのではないかと心配して
いたが、玄関開けるとすぐにいい匂いが漂ってきて、もしや姉が自分の為に飯を
作ってくれたのかという思いが一瞬過ぎったが、見覚えのない靴を発見し、
すぐに霧散した。

 自分の知らない誰かが家に来ている事は明白であった。

唯「ういっ、お帰り!」

律「どもー! 律でヤンス! お邪魔してるでゴンス!」

憂「お姉ちゃんっ! あっ――律さん。いらっしゃい」

律「イッシッシッシ……」

145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 01:19:20.22 ID:MVfdz1cI0
 どうやら唯が連れて来たのは律だったらしい。考えられる最悪のケースでは
なかった。しかし二人っきりになれなければ唯が男を紹介されたその後の状況を
聞き出し辛い。

 況やその原因の張本人たる律が、事実をしらばっくれる様に唯と打ち合わせ
している可能性もあるかも知れない。憂は湧き上がる律への敵愾心と猜疑心を
抑え、やや引き攣りながらも笑顔で会釈した。

 律はその憂に多少の違和感を覚えながらも、調子よく憂に合わせ頭を
ヘコヘコさせる。

唯「今日はりっちゃんと一緒にご飯作ったんだ」

律「憂ちゃんの分も、とっといてあるから食べなよ」

憂「本当!? 嬉しいなぁお姉ちゃんが私の為にっ!」

律「あのぅ」


147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 01:28:38.57 ID:MVfdz1cI0
憂「ついでに律さん! ありがとうございます!」

律「エヘヘヘ……いやぁいやぁ」

唯「何か憂もりっちゃんも、ちょっと変」

憂「普通だよっ!」

律「そ、そうだぞ!」

唯「う~ん?」

 律は憂が理由もなく人を傷つける事はしない子だと思っていたし、
また嫌われてるというよりは、避けられてるという様なぎこちなさだったので、
自分が苦手に思われてるのではなく憂が単にアガってるという解釈をした。

 もしかしたらそう思い込みたかっただけかも知れぬが。



149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 01:35:50.35 ID:MVfdz1cI0
唯「どう? おいしい憂?」

憂「うん、おいしいっ!」

律「ハハハ、憂ちゃんにそう言って貰えると嬉しいな」

憂「ねえ律さん知ってます? トマトってもっと煮詰めた方がおいしく
なるんですよ?」

律「へ、へえ~、そうなんだ~」

唯「あははっ、ちょっと豆しばっぽい」

 一方で憂は、早くも律に辛くあたった事に後悔し始めていた。あまり人に
対して敵意を持った事がない為、それ自体が苦行であった。

 それに感情的になりすぎたが姉が男と交際するという最悪の事態には到って
いない様であるし、八つ当たりにしてもフライングではないのか。

 そう考えると憂は急に自分が恥ずかしくなり、まともに律の顔が見られないと
いった有様であった。

150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 01:41:49.21 ID:MVfdz1cI0
律「あのシリーズいつまで続くんだろうな。すぐ終わると思ってたハハ」

唯「DVD化狙ってると見たね」

律「売れるのか……売れそうだけど」

憂「り、律さんが心配する事じゃないです」

唯「ちょっと憂、りっちゃんに冷たくない?」

律「ぜ、全然そんな事ねーし! 変な事いうなよ唯!」

憂「ご、ごめんなさいっ、生意気言ってしまって」

律「アハッ、憂ちゃんは私の為に教えてくれたんだろ? 年上相手だからって
気なんか遣うなよ」

憂「律さん……やっぱりいい人ですねっ!」

律「よ、よせやい! ぬわんだ急に! 今日の憂ちゃんおかしいぞ!」



152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 01:49:44.09 ID:MVfdz1cI0
唯「りっちゃん照れてやんの」

律「うっさい! マジあせっからやめい!」

憂「うふふっ」

律「あああ憂ちゃん! かわいいぞ憂ちゃんめ!」

憂「り、律さん急にそんな」

唯「あはは! りっちゃんきんもー!」

 律は今日初めて憂の顔が自然に綻ぶのを見て内心ホッとした。本当は
嫌われていたらどうしようかと冷や冷やしておったのだ。

唯「ういー、そういえば今日は何して遊んでたの?」

憂「純ちゃんとボウリングだよ、お姉ちゃんっ!」

律「ボウリングか! 得意だぜ私!」

唯「音がいいよね~」

153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 01:54:34.66 ID:MVfdz1cI0
憂「律さんはいかにも上手そうですよねー」

唯「将来ドラム缶転がす仕事とかしそうだよねー」

律「ドラマーだけに――っておい!」

憂「あははっ、律さんのお手並み是非拝見したいなあ」

律「エヘヘーンッ! いいぜ勝負すっかぁ? クルーン並のコントロールを
見せ付けちゃうぞお?」

憂「いいですよっ!」

唯「じゃあ今度みんなでやろう!」

律「ほ~、グループ戦にするなら憂ちゃんと組みたいな」

唯「なんでやねん!」



156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 02:00:45.15 ID:MVfdz1cI0
律「アタシだって憂ちゃんと親睦深めたい? みたいな?」

唯「折角付き合う事にしたのにそれはないでしょ」

憂「……ん?」

律「そりゃそうだけど、それとこれとは話は別っていうかさ」

唯「あっそう。別なんだぁ」

律「何いじけてんだよ」

唯「元々りっちゃんの為に付き合ってあげたのにー」

律「何だそれ? 頼んでないだろ私からは」

唯「でも寂しそうにしてたじゃん!」

憂「んん?」

157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 02:10:00.27 ID:MVfdz1cI0
律「わ、分かったよ悪かった。ほら憂ちゃんびっくりしてるよ」

唯「別に憂には話すつもりだったし」

憂「あのっ……付き合うってお姉ちゃんが?」

唯「そうだよ! へへへ恋人同士ってやつです」

律「あー、勘違いしないで憂ちゃん。恋人っていっても変な事は絶対ないから」

唯「うん。でもキス位はいいよね、りっちゃん?」

律「い、いやいやダメだって! さっきいやらしい事はしないって自分で
言ってたろッ!?」

唯「え~! キスはいやらしくないよ!」

律「分からん! 唯の境界線が分からん!」



159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 02:15:36.74 ID:MVfdz1cI0
唯「だからキスまでだよ。りっちゃんこそ急に堅過ぎるんじゃない?」

律「そんな事いったって高校生がそこまでしたらマズいらしいよ!」

唯「何がどうマズい訳?」

律「ほら若いと突っ走ってしまうというか何と言うか……とにかく危ない」

唯「あはは~、大丈夫だよぉ」

憂「ダァメに決まってるでしょうがあぁぁっ!!」

 憂は激怒した。必ず、唯につく悪い虫を取り除かねばならぬと決意した。
憂には恋愛が分からぬ。憂はシスコンである。憂は家を空けがちな両親と
怠け者の唯に代わり家事を一手に引き受け暮らして来た。

 けれども悪い虫に対しては人一倍に敏感であった。唯は憂にとって太陽で
ある。それを手放すには彼女はまだ幼すぎた。

 もっとも憂は今、ナンパされた時の話から、唯と付き合うのが律の彼氏の
あたるの紹介という、オールバックの●●●そうな色男だと早合点しており、
唯と律が付き合っているとは夢にも思ってなかったのである。


182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 17:22:45.15 ID:MVfdz1cI0
律「ほ、ほら憂ちゃんもこう言ってますし」

唯「ぶうぶうー、なにさキス位で」

憂「お姉ちゃぁぁあんっ!! ピンクのモヒカンで二学期デビューしたい
のおぉぉっ!!?」

律「憂ちゃん恋人って言っても遊びだから! 真剣ではないから!」

憂「真剣じゃないいぃぃっ!!?」

唯「りっちゃん! 私は真剣白刃取りだからね!」

憂「真剣んんがぁっ!!?」

律「一体どうしたんだ憂ちゃん……」

憂「うるさいうるさいっ!! みんな律さんがああぁぁっ!!」



184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 17:30:01.05 ID:MVfdz1cI0
唯「憂ほら! 頭からハトが出てるよぉ~、ハトだよぉ~!」

憂「かわいいいいぃぃっ!!」

律「何このテンション」

唯「それが皆目」

憂「つべこべ言わずに交際なんてやめてよ、お姉ちゃんっ!!」

唯「矢田亜希子」

律「そんな拘らなくっても……」

憂「じゃあ私がグレる!! グレーテルは食べられちゃうっ!!」

唯「ええっ!? それは困るよ!」



186 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 17:36:06.52 ID:MVfdz1cI0
律「やっぱ軽いノリで付き合うとか、やっちゃいけなかったんだよ」

唯「でも憂は聞き分けのない子じゃないのに」

憂「私どうせガキだもんっ!!」

唯「憂……あのね」

憂「うわああぁぁーっ!!」

唯「うっ、ういー!?」律「憂ちゃん待って!」

 憂は自分の意思が受け入れられないと分かるや否や、泣き喚いた末その場から
逃げ出し自室へ籠ってしまった。唯による再三の呼び掛けにも応じず、天岩戸に
籠りし天照大神の如き強情で、唯の裸踊りでもなければ一歩も引かぬ様子である。

 唯は強攻策を避け話し合いで解決するべく一旦ここは退き、
リビングで律と相談する事にしたのじゃ。

唯「憂のあんな姿、久々に見たよ」

律「まあ同性愛だし。憂ちゃんが猛反対するのも仕方ない」

187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 17:43:26.41 ID:MVfdz1cI0
唯「――別に私はりっちゃんとどうこうしようとか、そんなんじゃなかったん
だけどなぁ」

律「十分挑発してたじゃねーかッ!」

唯「反省してるけど、まさかあそこまで反発するなんて」

律「それが例え友達の延長みたいなもんでも心配なんだろ、妹としては」

唯「そりゃ普通じゃないかも知れないけど、普通じゃなきゃいけないのかな?」

律「ククッ、ちょっとカッケーですわね唯さん」

唯「茶化さないでぇ、今は意外と真面目なんですよほほ……」

律「唯は憂ちゃんがああいう反応した事が意外そーだな」

唯「だって憂もマリア様がみてる好きだったし」

律「何それ?」

189 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 17:49:35.24 ID:MVfdz1cI0
唯「私が持ってる本。女の子同士が特別な関係スール――姉妹になるの」

律「ほー、唯の拘りはその本の影響だったのか」

唯「言っておくけど、いやらしい本じゃないからね!」

律「ウヘヘッ、どうだかな~」

唯「もう! そういうりっちゃんのデリカシーの欠片もない所が好き!」

律「くぁ~、反応し辛い反応するなぁ」

唯「あはは! 本題に戻るけど、やっぱり憂が納得するの無理なのかな?」

律「う~ん、突然の事で驚いてるだけかも知んないけどな」

唯「でも我慢とかされても。憂に変な目で見られるのは辛いし」

190 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 17:54:51.49 ID:MVfdz1cI0
律「やっぱり付き合うとかさ、形式的な事がいらなかったんじゃないか?
お互い大切に思っていればそんなのなくったって」

唯「でもそうしないと澪ちゃんには勝てない気がしたんだもん」

律「なっ、何でそこで澪が出てくるッ!?」

唯「だってりっちゃん澪ちゃん大好きでしょ? デコにも書いてあるよ」

律「お、お前の事だって大好きだよ!」

唯「違うもん! りっちゃんの澪ちゃんに対する好きは私が割り込めない様な
……そういう感じがする」

律「んな事ねぇよ! どうしてそう考える!?」

唯「嘘。りっちゃんはいつだって澪ちゃんを一番に考えてる。りっちゃんは
澪ちゃんコンプレックスだから」

191 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 18:00:46.49 ID:MVfdz1cI0
律「ち、違う、澪はただほっとけないってだけで……一番は唯、唯だから!!」

唯「調子いい事いわないでよ、このミオコン!!」

律「だッ!! お前こそシスコンだろうが!! このシスコン!!」

唯「ふんだ、ミオコン!!」

律「うっせうっせー、シスコンシスコン!!」

唯「……分かったよ、付き合うとか無理だね。私も憂が大事だし」

律「唯……そっか、それがいいよ」

唯「あ、今ホッとしたでしょ?」

律「ウハハッ! お前ホントいい性格してるよなー」

192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 18:07:57.90 ID:MVfdz1cI0
 苦渋の決断であったが、律との交際を解消する事で憂との交渉に当たる事に
した唯。しかしドアをノックしてもまるで反応は得られず、何となく様子が
おかしい。

唯「ういー、開けるよ? 憂……あれっ、憂がいない!?」

律「んあッ、マジで!? いつの間に!」

 部屋の中は既にもぬけの殻であった。トイレなど他も探したが、家から憂の
気配は感じられない。唯は手足を震わせあからさまに動揺し、舌を噛みそうな
勢いで言った。

唯「わわ、わら私探し行って来る!」

律「待てよ! 探すったって一体どこを」

唯「大丈夫、憂は私が追って来るの待ってるから!!」

律「そっか、だったら私を置いてくなよッ!」

唯「うん!! 行くよりっちゃん!!」



194 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:04:39.99 ID:MVfdz1cI0
 足音すら立てずそっと家を飛び出し、夜の街へと逃げ込んだ憂。

 そもそも自分は姉に彼氏が出来ようとも、心中穏やかとはいかぬまでも、
表向きは姉の幸せなら祝福するだろうし、看過出来るものと高を括っていた。
だが、いざその時がやって来てみればこの体たらく。

 いい歳をして姉の色恋が気に食わないのである。こんな妹は気持ち悪いに
決まっている。よしんば和解するしろ、自分の起こした行動は消去不能であり、
この先どう姉と接して行けばいいというのか。

 憂は自分を恥ずかしく思い、自己嫌悪のスパイラルに陥ってしまっていた。
大体、恥を忍んで一悶着起こした所で、何か変えられる訳ではなかったのに。

 現にこうして自分の知らぬ間に姉は勝手に変わって行くのが当然であり、
自分が納得していれば丸く収まる事であっただろう。そしてそれこそが、
最善かつ唯一の選択肢ではなかったか。

 時には割り切れぬなら割り切れぬまま、その思いと付き合っていかねば
ならぬ事もある。自らにそう言い聞かせていた、しかし……

憂「……っ」

男A「よお、かわいい顔してるじゃないの」

男B「君、暇ならボク達にちょっと付き合わない?」

195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:12:32.55 ID:MVfdz1cI0
竜之介「あ? 俺に言ってんのかてめえら」

男A「ああ……」

竜之介「こ、これってもしやナンパってやつか? 俺によォ!」

男A「話が早いな、助かるぜ」

男B「ボク、君の様な美少年を一度相手してみたかったんだよね」

竜之介「び、び、美少年だァ?」

男A「ヒュー、お前よりよっぽど男気ありそうな坊やだぜ」

男B「ハハハ、参っちゃうな」

憂「た、大変だ……」



197 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:17:08.34 ID:MVfdz1cI0
 一人で佇む粗末な格好をした美少年に、声を掛ける男が二人。憂はそれを見て
昼間の出来事がフラッシュバックした。無意識的に釘付けになり、目が離せない。

 憂は彼が自分と重なり同情的になったが、周りに誰も助けようとする者はなく、
いざとなれば自分が助けに入ろうかと思った。その時である。

竜之介「変態野郎共よく聞けよ――俺はお、ん、なだあぁーっ!!」

 咆哮と同時に竜之介の稲妻の様なパンチがホ 二人に炸裂する。

男A「アッー!」

男B「アッー!」

竜之介「ふん、他愛のねぇ」

 彼等は相当鍛えた体格をしていたものの、その鋭いパンチに一溜まりもなく
伸びてしまった。もしかしたら竜之介の発言に受けたショックが強かったのかも
知れぬが。

198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:21:07.57 ID:MVfdz1cI0
 ともかく公衆の面前である。ただの喧嘩さえ目立つというのに、たった一人の
少年、もとい少女が大人二人をあっさり撃退したとなれば大騒ぎになる事は必至。

 それなのに呆然と立ち尽くしたままの竜之介に、憂は強引に手を掴み、
急いでその場から連れ出した。

 突然現れた見知らぬ少女の行動に、竜之介は困惑しながらも尋ねた。

竜之介「なんでィおめえ? 逃げたらまるで俺が悪いみてえじゃねえか」

憂「でもあのままなら警察を呼ばれたりして後々面倒な事になります」

竜之介「上等……いや、わりぃ助かったぜ」

憂「ここまで来れば大丈夫かな」

竜之介「おう、世話かけたな。誰だか知らねーけど」

憂「お強いんですね! 大の大人をあんなにあっさり蹴散らして」

199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:25:03.78 ID:MVfdz1cI0
竜之介「どうって事ねえよ。慣れてるんでな、喧嘩は」

憂「でも見た所、学生さんの様だし、こんな時間に出歩いていたら
危ないですよ?」

竜之介「お節介だな。あんたこそ人の事が言えるのかい?」

憂「私は……」

竜之介「チェッ、しょうがねえ俺が送ってってやるよ」

憂「いえっ! 家には――家には戻りたくありませんっ!」

竜之介「ハハハッ、お互い事情が似てんのかな」

憂「あなたも家出?」

200 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:32:15.61 ID:MVfdz1cI0
竜之介「うん、バカ親父にほとほと愛想が尽きてなー。
それから俺は藤波竜之介でィ」

憂「私は平沢憂といいます。男らしい名前ですね竜之介さんって」

竜之介「言っとくけど俺は女だから。それをクソ親父が勝手にな?
ガキの頃なんて赤フンで相撲大会出場させられたりそりゃあもう」

憂「複雑な家庭事情なんですね」

竜之介「そうさ。本当はおめえみたいに女の子らしくなりたかった」

憂「心配しなくても竜之介さんはお綺麗ですよ」

竜之介「う、うっせぇ! 俺ばっか話させねーでおめえも……うっ」

憂「りゅ、竜之介さん大丈夫ですかっ!? やっぱりさっきどこかお怪我を」

竜之介「バッキャロー! 違うっ、俺に構うんじゃねえ!」

憂「でもっ!」

201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:38:25.57 ID:MVfdz1cI0
 突然腹を抱えてうずくまった竜之介。心配し慌てて駆け寄った憂を手で制した
のも束の間、腹の虫が騒ぎ立てる。一瞬何が起こったのか理解出来ず憂は小首を
傾げて竜之介と顔を見合わせる。

 竜之介は顔を真っ赤に染め、慌てて視線を逸らした。そして無言になって
誤魔化そうとする竜之介に、憂が笑顔であっさりと言った。

憂「もしかしてお腹が空いてるんですか?」

 言われて竜之介は、非常にばつが悪そうにしながらも正直に答えた。
あまり賢くはないが素直で飾り気のない気持ちの良い男――いや女じゃったか。

竜之介「お、俺だって無計画に飛び出したって思ってる。でもよ、クソ親父に
男として育てられたけど俺は女でィ。女に生まれたからには普通の女としての
人生を歩みたいって思うのがそんなにいけない事かい?」

憂「いえ、自分の思う様に生きたいのは当然ですよっ!」

竜之介「そうか――へへっ、おめえ優しいんだなァ」

憂「あ、あのっ、別に気を遣ってる訳じゃ……」

202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:45:30.35 ID:MVfdz1cI0
竜之介「でもアホ親父がいる限り俺はずっとこのまんまでィ。だから
家を出たのさ」

憂「お父さんの事、随分気にしてるんですね」

竜之介「バッ、バカ言うな! 話聞いてたか憂!?」

憂「聞いてますよっ。本当は認めて欲しいんですよね竜之介さんは」

竜之介「ぐっ……ぐぐ……お、俺は――俺はなぁ……」

憂「――竜之介さん、私の家に来ませんか? 食べる物ならありますし」

竜之介「な、何だチクショウ! おめえに施し受ける理由はねえ!」

憂「その代わり、お願いがあるんですっ!」

竜之介「お願いだと?」

203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:50:16.86 ID:MVfdz1cI0
 一方、唯と律は変わらず当てもなく憂捜索を続けておった。

 人通りの少ない通学路。既に辺りはどっぷりと暗く、不規則に明滅する
外灯のせいか、いつもと違って不気味に感じる。

 だが、肉体的にも精神的にも厳しいが、打ち切る選択肢はない。唯にとって
憂とは、我が半身とも言える何者にも代え難い存在であったのだ。

唯「ういー!! ういー!!」

律「もしかして梓ん家とか和ん家とか、そういう線じゃないのか?」

 律の推測に唯はかぶりを振る。その表情は憂を必ず見つけ出すという
意志で決然としていたが、今にも泣き出しそうでもあり、律は胸が
締め付けられる思いじゃった。

唯「あずにゃんや和ちゃんの所なら、必ず私に連絡が来る筈だよ」

律「そっか……そうだよな、あの二人ならしっかりしてるし」

唯「りっちゃん急ごう! 早く憂を見つけないと白い仮面と義手を着けた、
赤いトレンチコートのおじさんにさらわれちゃうよ!」

律「何その奇怪なイメージの不審者像!?」

204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 20:32:58.49 ID:MVfdz1cI0
憂「……あれっ、お姉ちゃん?」

 焦燥しあらぬ妄想を口走る唯。しかし拍子抜けする程あっさりと憂が
目の前に現れたのであった。

 こうして偶然出くわしたのも姉妹の絆がなせる業であり、決して安易な
ご都合主義などではないという事は、賢明な読者諸君にはご理解いただける
ものと存じ上げる次第じゃ。

唯「――うっ、ういっ!? ういーっ!!」

律「憂ちゃん! 心配したんだぞこの!」

憂「済みませんでした。ご迷惑おかけしたみたいで」

唯「本当だよぉ! 憂がいなくなったら私、私ぃっ……」

憂「お姉ちゃん……ごめん、ごめんなさいっ!」

竜之介「……」

律「所でアンタ誰?」

205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 20:37:54.09 ID:MVfdz1cI0
竜之介「えっ、いや俺はそのぉ~」

 感動の姉妹再会も束の間、律に指摘され場違いでしどろもどろになる
竜之介を尻目に、憂がキッパリと言い放った。

憂「お姉ちゃん、この人は私がお付き合いしてる人なの。はい自己紹介して」

竜之介「おっ、お初にお目にかかる! 俺は藤波竜之介でィ!」

唯「ふぅ~ん」

律「そうなんだ~」

唯律「「って、ええええええぇっ!?」」

憂「えへへっ」

律「どういう事だ……」

唯「私にもさっぱり……」

206 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 20:41:34.65 ID:MVfdz1cI0
 憂の突然の彼氏宣言に状況が飲み込めず呆然と竜之介を眺める唯律。
その視線がどうにも落ち着かず、そわそわした様子で竜之介は憂に耳打ちする。

竜之介「憂、いつまでこんな」

憂「竜之介君は男らしく無言でキリッとしていればいいのっ」

竜之介「わ、分かったから! そんなに引っ付かねえでくれよ!」

憂「何を照れてるの?」

竜之介「おっ、おめえなァ!」

律「しっかし驚いたな~、憂ちゃんいつの間にこんなイケメンと」

唯「りっちゃんや、それはおかしいですぞ」

律「ぬに?」

唯「だってこの子、女の子でしょ」

律「ははあ? 唯、お前何言ってんの?」

207 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 20:49:46.66 ID:MVfdz1cI0
竜之介「おお! 分かるのかおめェ!」

律「へっ?」

唯「ほらやっぱり女の子じゃん、竜之介ちゃん」

竜之介「おめえ、見る目あるじゃねえかぁーっ! ははっ!」

律「うわ、マジっすか」

憂「流石お姉ちゃん。よく見破ったね」

唯「分かるよ~、女の子の匂いするもん」

律「たまに無駄にすげーよな、唯って。謎のウイルスとかにやられても
一人だけ生き残りそう」

唯「いっえーいっ!」

208 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 20:55:02.19 ID:MVfdz1cI0
竜之介「匂い、匂いかぁ~、俺にも女のフェロモンってやつが出てきたって
事かな? へへへ」

唯「ひよこ鑑定士になれるかな私?」

律「喜んでる様だし余計な事は言ってやるなよ」

憂「とにかく私達も付き合ってるから。さっきは反対したけどお姉ちゃんも、
私を気にしないで自由に付き合えばいいよ」

 竜之介が女である事をあっさりと見破った唯。しかしそれに焦る事無く、
憂は穏やかでどこか悲しげな表情のまま、台本を読む様に唯に伝えた。

 つまり憂は竜之介に彼氏の振りを頼み込み、高校生の交際を認めないという
主張を自ら破り負い目を作る事で、唯を縛り付けたであろう自身の発言を
相殺させ、唯が気分よく交際出来る様に仕向けた、という訳である。

 妙なしこりを残さず、穏便に現在の姉妹関係を継続するにはこれが一番よい
方法だと、憂は憂なりに考えたのじゃ。


210 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:01:23.05 ID:MVfdz1cI0
竜之介「おい! 俺は変態じゃ――」

憂「約束っ!」

竜之介「お、おう」

唯「憂、もう下手な芝居なんて打たなくていいよ。竜之介ちゃんも」

律「えっ、芝居?」

 唯は冷静にそう返した。まるで憂の事を全てを見透かしたかの様な澄んだ瞳。
憂は思わず目を逸らし、律は急展開について行けず間抜けな声を上げる。

憂「お、お姉ちゃん、これは嘘なんかじゃっ!」

唯「心配しなくてもりっちゃんとの付き合いはもう解消したし、憂が無理する
必要なんてないの」

律「唯……」

憂「律さんとの付き合い? 解消って……」

211 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:05:51.01 ID:MVfdz1cI0
唯「女の子同士で付き合うって言ったから憂反対したんだよね? でも後から
私に気を遣わせまいと竜之介ちゃん連れて来て平気だよって私に言って、私を
許してくれる筈だったんでしょ? でもいいの、憂が私の為に無理なんか
しなくたって――ありがとう、憂」

 ここに来て初めて、憂は唯が見知らぬ男性ではなく、律と交際をしていたの
だと知る。さらに憂が反対した理由が同性愛だった為であると、唯が勘違いを
している事にも気がついた。

 そして自分のせいで、いや自分と唯自身の為に、唯が律と別れたのだと
理解した。憂は自分を身勝手に思いながらも、その唯の行為に感動していた。
姉の愛と優しさは、憂が考えていたよりずっと深かった。

憂「お、お姉ちゃん私……私いぃっ!!」

 だが、勘違いなのだからすぐに否定すれば済む事である。しかし憂は
おこがましくも少しの間だけこの唯の愛情に溺れていたい、そう思い
彼女の胸に飛び込んだのじゃった。

212 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:10:57.51 ID:MVfdz1cI0
唯「あ~あ、泣かせたくなかったのに。でも仕方ないよね、憂は泣き虫さん
なんだから……グスッ」

律「は~、やれやれ一件落着っぽいな」

竜之介「何か解決したみたいだから言っとくけど、俺は女同士で付き合うとか
そういう変態じゃねえからな。憂がどうしてもって頼むから仕方なく……」

律「はいはい、ご苦労だったねアンタも」

唯「りっちゃん、ごめんね?」

律「何でお前が謝るんだよ」

憂「り、りづざぁん……」

律「あー、あー、いいっていいって。やめてよもう」

213 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:16:09.77 ID:MVfdz1cI0
唯「でも付き合えなくなっても、私とりっちゃんはずっと繋がってるよね!」

律「はい?」

唯「一番は唯だから!!」

律「だああぁッ!! やっ、やめろおッ!!」

唯「え~、私一生忘れないよぉ?」

律「だから重い事さらっと言うなよ、お前はッ!!」

唯「イヤ?」

律「な、泣きそうな顔すんなっての!」

唯「そんな事ないもん!」



215 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:21:47.58 ID:MVfdz1cI0
律「強がりやがってこいつ」

唯「いでででで! コブラツイストはやめて!」

律「大袈裟だなあ。身体硬いんじゃね?」

唯「油断したね! あちょっ!」

律「たッ! デ、デコは女の命なのよ!?」

竜之介「仲いいな、こいつら」

憂「ですね。ふふっ」

唯「だってりっちゃんが」

律「……わ、私の前だけにして欲しいのッ」



217 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:27:20.66 ID:MVfdz1cI0
唯「あははっ! ねぇ、りっちゃん――」

律「な、何だぁ?」

 それから結局どうなったのかというと、憂は唯と律との交際を正式に認め、
高校生の間という限定ながら、晴れて憂公認の恋人同士になれたのだった。

 とはいえ、他の皆に打ち明ける事もなく、やってる事も普段と変わったかと
言えば、周りの者も殆ど気付かない様な微々たる変化であった。しかしながら、
大きな第一歩と言えるのだろうか。それは本人達にしか分からない。

 恋人という変化を求めた律と、現状維持を望む唯との間で始まった、奇妙な
交際関係。そのどちらともつかぬあやふやな、砂上の楼閣の如き儚さなれど、
それゆえ美しく、心には永遠に刻まれるやも知れぬ。多分。

 ちなみに竜之介はというと、やはり父と決着しなければ女にはなれないとの
事で、一宿一飯の恩義として掃除洗濯を手伝った後、帰って行った。

 出会いあらば別れあり、別れあらば出会いあり。ああ無常なる人間交差点、
これにて閉幕。

 そして願わくば、彼女達の幸せを。


219 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:35:05.26 ID:MVfdz1cI0
純「おはよ~ん♪」

梓「えっ、純? 何その格好……」

純「これからの時代、宇宙を見据えていかなきゃダメなのよ! アハ~ン!」

梓「良く分からないけどクレイジーだよ」

先生「鈴木~、職員室~」

憂「純ちゃんどうして……でもお姉ちゃんならありかも」

梓「う、憂は相変わらずだねー」

チェリー「ちなみに余談ではあるが二学期初日、鈴木純がラムの影響を受け
虎縞ビキニの出で立ちで参上、桜が丘の伝説となった事は付け加えねば」

サクラ「さて伯父上、いい加減警察か保健所に通報されん内に帰るぞ」

チェリー「やれやれサクラ、お主には遊び心というものが」

サクラ「くどい! おしまいじゃ!」