1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 18:32:12.51 ID:2dBcljAqO
──世界は、生まれた時から灰色だった

私以外は何のために生きているのかもわからず、ただ、生きている。

いや……それは私が生きる意味を失いかけているからそう見えているだけなのだろうか。

──わからなかった


人が、人間が、自分が、私が……平沢唯が

わかる事と言えば……

私はみんなとは違う、それだけは確かなことだった。

引用元: 唯「……私は、平沢唯」 



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 18:37:25.36 ID:2dBcljAqO
唯「……」

ゆっくりと覚醒して行く……。

唯「……」

閉めきった筈のカーテンから薄く光が射し込む。それをぼんやりと眺め、自然と「朝か……」と呟いた。

唯「学校に行こう」

誰に言い聞かせるわけでもなく私はそう言い準備に取りかかる。

また、つまらない一日が始まろうとしていた。

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 18:43:12.57 ID:2dBcljAqO
唯「……おはよう、憂」

憂「あっお姉ちゃんおはよ~」

元気よく朝の挨拶をくれたのは他の誰でもない、私の妹の平沢憂。

名前とは裏腹にその表情には憂いなど一つもなかった。
どうやらうちの親は名前をつけ間違えたらしい。

憂「朝ごはん出来てるよ」

唯「うん」

顔を洗ってから食卓につき、パンを貪る。
今日は時間がなかったのかメニューは簡単なものだった。

『続いてのニュースです……』

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 18:56:14.19 ID:2dBcljAqO
『昨晩未明、桜ヶ丘駅付近でまた殺人事件が……』

唯「……」

つまらなげにニュースを見ていると憂が、

憂「怖いね…」

と不安な表情をしながら呟いた。

唯「そうだね」

憂「……お姉ちゃんは怖くないの?」

唯「?」

どうしてそんなことを聞くのか、といった表情で顔を見合わせる。

憂「だってお姉ちゃんいつも……ううん、なんでもない」

そう言って憂は静かにチャンネルを変えた。

唯「変な憂」

そうしてまた私はまた朝ごはんを食べる作業に戻る。

「お姉ちゃんは怖くないの?」
怖い?
一体何が怖いのだろう。私にはわからなかった。

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 19:03:58.26 ID:2dBcljAqO
唯憂「行ってきます」

二人で出発の合図。
寒空の中を二人で歩き、学校を目指す。

憂「寒いね~お姉ちゃん」

唯「そうだね」

首元に巻いたそれが風に揺られて私の鼻孔を擽る。

唯「今日は遅いの?」

そう尋ねると憂はバツが悪そうに俯いた。

憂「今日は日直と掃除当番だから……」

唯「そっか。なら先に買い物しとくよ」

憂「一人で大丈夫?」

唯「大丈夫だよ。殺人鬼さんも日が明るい時は出てこないよ」

憂「でも……」

唯「大丈夫だから、ね?」

憂「うん……わかった」

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 19:11:41.71 ID:2dBcljAqO
唯一楽しいこの時間も、ものの10分で終わってしまう。

憂「じゃあね、お姉ちゃん」

唯「うん。買い物終わったら迎えに行くから」

憂「うんっ」

唯「……」

手を振りながら憂と別れ、

唯「……っ」

その掌をグッと握り潰す。

唯「行かなきゃ……いけないか」

そう漏らしてから三年の教室へ向かう。

私の居場所がどこにもない、あの四角い空間に。

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 19:16:35.83 ID:2dBcljAqO
エリ「でさ~……なわけなのよ」

アカネ「マジでっ? いいなぁ~」

エリ「でも行く前に予約しないと……」

──ガラララ

唯「……」

エリ「あ、平沢さんおはよ」

唯「……」スタスタ

エリ「あちゃ~今日も駄目だったか」

アカネ「あんたも懲りないね~」

エリ「あそこまで無口だと逆にしゃべらせたくなるじゃん?」

アカネ「そんなもんかね~」

悪いけど人形と話す趣味はないの、ごめんね。

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 19:22:35.70 ID:2dBcljAqO
律「でさ! 今度の休み和も行かない?」

和「私はいいけど……あんた達受験大丈夫なの? まあ心配してるのは律だけだけど」

澪「もっと言ってやってくれよ和。後数ヶ月しかないって言うのに律は……」

律「終わった後みんなでやればいいだろ? それに家ではちゃ~んとやってるよ。な~ムギ」

紬「ね~りっちゃん」

澪「全くムギも律を甘やかして……」

唯「……」

律「仲良しでちゅものね~」

紬「ね~」

唯「どいて」

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 19:29:09.29 ID:2dBcljAqO
律「うわっとごめんごめん平沢さん。席借りてたよんっ」

片手拝みで謝られても目障りなだけだから。
そう思いつつも侮蔑もくれずに席につく。

唯「……」

紬「ごめんなさいね」

唯「いいよ別に。学校の備品だし」

一つ溜め息をついてやる。するとどうだろう、性格がいいこの人、確か紬とか言った人はもっと申し訳なさそうな顔になるから面白い。

律「いいじゃんかー席借りたぐらいでそんな怒んなくたって」

澪「や、やめろ律。せ、席に戻ろう、な?」

唯「怒ってないよ。呆れてただけだから」

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 19:35:29.94 ID:2dBcljAqO
明らかに嫌そうな顔をする黄色のと、私と関わりたくないのか逃げたそうにしてる黒いの。

和「唯、それぐらいにしたら?」

唯「……」

紬「私達も席に戻りましょ。ほんとにごめんね平沢さん」

律「ちっ」

澪「さ、先に戻ってるから」

私の、いや、正確に言えばこの前の人の席から離れて行く三人。

真鍋和

私の幼なじみにして私と憂を裏切った人間だ。

和「いい加減みんなと仲良くしたら?」

唯「する意味のないことをしてなんになるの?」

和「はあ……憂は大変ね」

唯「」ピクッ

唯「どういう意味?」

24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 19:42:10.44 ID:2dBcljAqO
和「あなたが周りを遠ざけるせいで憂も迷惑してるって言ってるのよ」

唯「死にたいの、和ちゃん」

──刹那、

    震動する

大気が空気を震わせ、教室内を駆け巡る。

震源地となった私からは常人には見えないであろう黒い霧のようなものが発生される。

和「やめときなさい、学校よ」

唯「構わないよ。人形がいくら死んだところで……」

和「じゃあ憂も人形ってことになるわね。憂と彼女達は同じだもの」

唯「違うよ、憂は憂だよ。人形じゃない」

和「本当にそう思ってるのかしら」

唯「憂のことちょっと知ってるからって調子に乗らないでね」

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 19:47:41.93 ID:2dBcljAqO
和「あなたがずっとそうである限り、憂はあなたを心配し続ける。そういう子だってことくらいわかってる筈でしょう?」

唯「……」

和「憂の為を思うならやめるべきね。例えあなたが私達と同じ人間じゃないとしても……ね」

さわ子「みんな席につきなさーい」

唯「……ふん」

教師が来たためこの話は中止となった。

憂の為……。

憂は私にどうして欲しいんだろう。今更ただの人間として生きろとでも言うのだろうか。

今更そんなこと……無理に決まってるのに。

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 19:56:45.56 ID:2dBcljAqO
つまらない授業が一つ、二つ、三つ……数え飽きた頃に放課後となった。

当然私は部活など一切していない。とは言ってもこの時期三年はもう部活を引退しているので帰宅部の私にとっても帰りやすい。

律「じゃあ部室いこ~ぜ~」

中には例外もいるようだが。
私は鞄を背中にかけるとゆっくりと教室を後にしようとした、

風子「あ、あのっ! 平沢さんっ!」

唯「ん?」

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 20:03:07.63 ID:2dBcljAqO
風子「これから軽音部でお茶とかするんだけど……平沢さんも来ない?」

誰だっけ、この子。めんどくさい……。

唯「なんで私? 軽音部の集まりなんでしょ?」

風子「和ちゃんとか軽音部じゃない人も来るから……大丈夫。演奏……聴いて……ほしいの。だめかな?」

唯「……ごめん。他当たって」

風子「……そっか」

軽く手を振りながらそこを後にする。

あんな耳障りな音を聴きたい人もいるんだね。

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 20:10:17.28 ID:2dBcljAqO
二年の教室をわざと通ってみる。

憂「──」

「──」

憂は楽しそうに他の誰かと話している。

黒板を消しているのは憂じゃない子だった。
おかしい、黒板を消すのは日直の筈だ。今日の日直は憂の筈。

憂「──」

「──」

消される前、黒板に書かれている名前を見る。

日直 鈴木純
   中野梓

誰だ、お前らは。

今日の日直は憂だろう!!!

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 20:20:34.64 ID:2dBcljAqO
その文字を睨み付ける、すると人形の名前は消え、新たに平沢憂という文字が書き出された。

唯「憂……なんで嘘つくの」

愚然と寂しくなり、憂に話しかけることなくその場を離れた。

──

和「ちょっと、唯」

唯「……なに」

昇降口で呼び止められ、振り向いて見ると憎き幼なじみがいた。

和「なんで風子の誘い断ったのよ」

唯「私の勝手でしょ? そんなこと」

和「……あなた本当に何もわかってないのね」

唯「……勝手にそっちが押し付けてるだけでしょ?」

和「……一つだけ言っておくわ。憂の為を思うなら、みんなと仲良くなる努力をしなさい」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 20:30:46.42 ID:2dBcljAqO
唯「またそれ? あー、もしかして私と憂の仲を裂く作戦でも展開中なのかな?」

和「……好きにしなさい」

そう言い残し、和は去って行く。

唯「……意味わかんない。憂の為? 憂の為ならなんだってしてるよ……」

じゃあなんで日直じゃなかったの?

唯「……」

どうして憂は私に嘘ついたの?

唯「うるさいな……」

憂は、私のことキライなんじゃないの?

唯「ああああああああああああああああっ」

唯「……買い物しなきゃ。商店街に行こう」

終わったら憂を迎えに行かなきゃ。約束したもんね、憂。

34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 20:41:53.37 ID:2dBcljAqO
おじさん「おっ唯ちゃんお買い物かい。偉いね~」

唯「……どうも」

憂に頼まれたものを瞬時にかごの中に入れて行く。

唯「これください」

おじさん「毎度っ。唯ちゃん可愛いからりんごおまけしとくよ!」

唯「……どうも」

おじさん「最近ここいらも物騒だから気をつけて帰りなよ!」

唯「はい」

このおじさんは人形の中でもいい人形だった。
いつも憂に優しくしてくれる。だから私もこのおじさんを邪険にしたことはなかった。

唯「りんご……もらっちゃった」

何だろう……この違和感は。

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 20:51:30.50 ID:2dBcljAqO
それから約束の5時までそこら中を歩いて時間を潰すことにした。

冬の早い仕舞いな夕日を眺めて見る。

唯「……」

どことなく寂しさに襲われるのは何故だろう。

不安?

唯「何が」

自分には帰る場所がないから夜が怖いんでしょ?

唯「……憂がいるから」

その憂は、私のことをどう思ってるの?

唯「わからない……」

また、わからないんだね。

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 20:56:17.31 ID:2dBcljAqO
和ちゃんに言われたことを思い出す。

「憂の為を思うなら、みんなと仲良くなる努力をしなさい」

唯「憂のため? 仲良くなる努力……?」

駄目だ……全然わかんないや。

呆けていると時間が過ぎるのも早い。そろそろ憂を迎えに行かないと。

唯「憂の為……。憂は私がみんなと仲良くなれば喜ぶのかな……」

だとしても……人間じゃない私には無理な話だ。
誰かと仲良くなるなんて……そんなこと。

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 21:07:25.65 ID:2dBcljAqO
学校へ向かう途中の出来事。

「──ッ」

「────ッ!」

唯「ん? あれは……」

風子「離してください…ッ!」

ガラの悪そうな女「だからさ~ちょっと金貸してって言ってるだけだろ~?」

ガラの悪そうな女B「そうそう。つかさっさと出せしwww」

確か風子だったっけ? あの子。運が悪かったね、あんなのに捕まるなんてさ。

風子「離してよぉ……」

女「こいつ泣いてんぞwww」

女「きもちわるっwww」

私が知ったことじゃない。無視を決め込み学校へ向かう。

それでいいの?

唯「……何が?」

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 21:13:29.84 ID:2dBcljAqO
和ちゃんに言われたじゃない。憂が喜ぶことをしなさいって。

唯「あれを助けたら憂は喜ぶの?」

私は知らないよ。けど憂なら間違いなく止めに入ると思うな。それに知らない子ってわけじゃないし。

唯「……。憂が喜ぶことをしたら……憂は私のこと好きになってくれるかな?」

わからないよ。自分のことだってわからないのに。

唯「……そっか」

40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 21:29:12.69 ID:2dBcljAqO
ポーン、ポーン……。

りんごが私の掌で上下に躍る。

唯「こんなとこで何やってるの?」

女「なんだお前。財布献上しにきたのか?」

女「せっかくだしさ、あんたも金貸してくんない? てかくれない?」

憎々しいほど笑顔な二つの人形は放っておき、奥の眼鏡の女の子に話しかける。

唯「大丈夫? 風子ちゃん」

風子「平沢……さん?」

まるで熊でも見たように目を丸くしている。

唯「ほら、帰ろ」

泣き崩れている彼女に近寄り手を伸ばす。

女「シカトくれてんじゃねぇよ」

ポーン……ポーン……(グシャ

唯「あ、いたんだ」

私から闇が、広がった。

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 21:42:28.79 ID:2dBcljAqO
景色が螺曲がる。

リンゴを持った手から虚色が溢れだし、辺りを覆う。

唯「早くお家に帰りなよ」ニヤリ

女「なんだこいつ……」

女「なんかきもちわり……行こうぜ」


唯「ふう……良かった」

殺さずに済んで。

風子「ありがとう……助けてくれて……。平沢さん……ほんとに……」

声を震わしながらお礼を言う彼女が不憫で何となく頭を撫でてみる。

唯「リンゴ食べなよ。美味しいよ」シャクッ

半壊したリンゴの味は、やっぱりリンゴの味だった。

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 21:51:40.10 ID:2dBcljAqO
風子「私こんなだから……よくああいう人達に絡まれるの」

唯「ふぅん」

風子「平沢さんは凄いね。私だったら絶対見て見ぬ振りしちゃうのに……」

唯「私もいつもはそうだけどね」

風子「えっ」

憂が喜ぶことをしたら憂に好きになってもらえる、そう思ってやっただけ。

唯「風子ちゃんだったから」

あれ?

風子「そうなんだ……なんか……凄い嬉しいな」

おかしいな。いつもの私じゃない。

風子「平沢さんって思ってたのよりずっと優しいんだね」ニコッ

唯「そんなこと……ないよ」

そんなこと……ない筈なのに、なんでこんなにも……嬉しいのだろう。

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 21:59:42.71 ID:2dBcljAqO
唯「私学校に用事があるから、ここで」

風子「うん。わかってる」

唯「?」

風子「じゃあね、……唯ちゃんっ」

何が嬉しいのかニコニコしながら跳ねるように帰って行った。

唯「早くしないと。憂が待ってる」

買い物袋を吊り下げながら小走りする。

唯「……風子ちゃん、か」

もしかしたら、初めての……。

唯「あるわけないだろそんなことっ!!! 何もわからないのにっ!!! 自分もわからないのにっ!!! 他人がわかるわけっ……わかるわけ……」

頬を伝う涙の感触が更に悲しさを生む。

唯「どうしたらいいの……教えてよ……憂」

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 22:05:13.69 ID:2dBcljAqO
──学校

憂「あっ、お姉ちゃーん」

唯「お待たせ。ごめんね、遅れちゃって」

憂「ううん。こっちこそごめんね。一人で買い物させちゃって」

唯「気にしないで。さ、帰ろ」

手を差し出す。

憂「うんっ」

手を繋ぐ。

暖かい。

今ではこの温もりだけが確かなものだった。

唯「憂……。今日…ね、クラスの女の子が絡まれてたんだ」

憂はどう言った反応をしたらいいか、という複雑な表情をしていた。
多分私は見過ごしたのだろうと思って何も言えないのだろう……憂はそういう子だ。

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 22:15:40.38 ID:2dBcljAqO
唯「その子……助けたら喜んでた。ありがとうって。友達になろうって……言ってくれた」

本当は言ってないけど……あれはそれに近い反応だろう。

唯「憂は……嬉しい?」

憂「うんっ!!! 良かったねお姉ちゃん! でもあんまり危ないことはして欲しくないかなぁ~」

何でだろう、なんで憂は私のことで……そんなに嬉しそうな顔をするんだろう。

憂「お姉ちゃんが嬉しいと、私も嬉しいよ」

唯「えっ」

憂「お姉ちゃんのこと好きだから。大好きだから。お姉ちゃんが嬉しいと私も嬉しいよ」

好き……。

そうか、そうだったんだ。

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 22:21:14.31 ID:2dBcljAqO
おじさんの時に違和感を感じたのはこれだったんだ。
憂を大切にしてくれるから私もおじさんを大切にする。
憂も同じだったんだ。

好きだから……。

自分のことじゃなくても喜べる。

好きだから……相手を大切に思える。

好きって?

それは、私が憂を思う気持ちその物だろう、きっと。

わかったよ、全て。

そう、良かったね。

今までごめんね、ずっと。

いいよ、だって私は私だから。

これからは憂の為にも、自分の為にも……この気持ちを大切にしよう。
わからないからって突き放すんじゃなくてちゃんと向き合って行こう。

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 22:24:25.34 ID:2dBcljAqO
憂「そうだね」

唯「?」

憂「帰ろっ、お姉ちゃん」

唯「うんっ」


この日私は私を持った。ずっと逃げ続けていた不安と明日から戦おう。

そう……心から思った。

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 22:31:04.26 ID:2dBcljAqO
次の日、学校

ガラララ

エリ「あっ、平沢さんおはよ~」

唯「ただの人形……じゃなくておはようエリちゃん」

アカネ「おぉっ! やったねエリ!」

エリ「苦節数ヶ月……やっとこの日が!」


律「んで今日もやるの?」

澪「風子がどうしてもって言うからさ」

風子「ごめんね澪ちゃん……。でも今日はきっと来るから!」

唯「……」ジー

紬「あっ! りっちゃん!」

律「んごっ! ああごめんごめん平沢さん……」

唯「また今日も懲りずに……と言いたいところだけど席を貸すぐらいならいいか。私のじゃないし…ね。 いいよ、気にしないで」

律「(また始まったよ…)」

澪「(また何だこの肉の塊はとか言われないかな…)」ブルブル

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 22:36:11.57 ID:2dBcljAqO
風子「おはよう唯ちゃん」

唯「おはよう風子ちゃん。今日軽音部覗いてもいいかな?」

風子「ほんとに?! 勿論喜んで!」

唯「可愛い子犬みたいにはしゃぐのを見ていとおしく思うのは……やっぱり好きだからなのかな。 じゃあ放課後に」

紬「そろそろ席に戻りましょうか…」

唯「美味しそうな沢庵」

紬「ひいっ」

唯「?」

律「(おい和ほんとにこんなやつ軽音部で引き取れっての?)」

和「(憂のお願いなのよ……友達になってあげて)」

唯「なにコソコソ話してるの? 私の指から黒いの……」

和「唯、学校よ、やめときなさい(ほんと疲れるわ……)」

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 22:43:16.15 ID:2dBcljAqO
放課後

唯「どうも」

律「あっ、来た来た」

風子「こっちこっち」

紬「座って。唯ちゃんの分のケーキもあるから」

唯「ん~ケーキうまあ~」

律「(おお、ここら辺は素直だな)」

和「連れてきたわよ」

憂「やっと来てくれた、お姉ちゃん」

唯「憂? なんでここに?」

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 22:50:49.98 ID:2dBcljAqO
憂「昨日風子さんに頼んでここに連れてきてもらうよう言ったのは私なの。もうそんな必要もなくなったけどね」

唯「なんで……? まさか昨日の日直が嘘だったのと何か関係があったのだろうか」

憂「それはただ間違えちゃったの。日直は今日だったから」

唯「えっ? あれ? 私は何も言ってないのに……。そうか、こんな些細な仕草でも憂は読み取れるんだね」

澪「(こわいよーこわいよー)」

律「(我慢しろっ)」

風子「唯ちゃん、私達の演奏聞いてくれる? もしかしたら……耳障りかもしれないけど」

唯「……うん、わかった」

57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 22:57:13.81 ID:2dBcljAqO
~~~~♪

風子「どうだったっ!?」

唯「なんていうか……あんまり上手くないですね」

律「(こいつまた思ったことを)」

唯「これはちゃんと口から言った言葉だよ黄色人」

澪「(もしかして気づいて……)」

律「田井中律。ちゃんと名前で呼べよな。友達は」

唯「えっ……」

澪「私は黒いのでも肉の塊でもなくて秋山澪だ。よろしく」

紬「私は紬であってるわ。よろしくね、唯ちゃん」

唯「そんな……どうして……。今までいっぱい酷いこと言ってきたのに……友達だなんて……」

60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 23:10:25.10 ID:2dBcljAqO
風子「友達になるのに理由なんていらないんだよ。きっかけなんてなんだっていいの。一緒にいて楽しいとか、助けてもらったりとか……それでもう友達なの」

唯「……私ね、薄々気づいてたんだ。思ったことも全部喋っちゃうって。でもどうしても考えちゃう……言葉に出ちゃうから……だから……全部わからない振りをして……ずっとごまかしてた」

唯「みんなとは違うんだって……だからどう思われたっていいって……周りを遠ざけて……」

憂「そんなことすることないんだよ、お姉ちゃん」

唯「憂……」

憂「素直なままのお姉ちゃんでいれば……きっとみんな大好きでいてくれるよ」

62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 23:18:31.29 ID:2dBcljAqO
和「唯。思ったことも全部言ってしまうってことは嘘はつけないってことなの。それって凄い勇気がいることなの。故意にじゃないとしてもね」

和「だからもっと素直になって、唯。いつも憂に接する時みたいに」

唯「いつも憂に接する時みたいに……」

和「あなたは確かに言葉では嘘はつけない、けど態度では嘘をついてるわ。思ったことが伝わるからって自分を人間じゃないなんて偽らないで」

唯「私は……」

憂「お姉ちゃん……頑張って」

63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/02/09(水) 23:24:21.54 ID:2dBcljAqO
律「ほら、みんな自己紹介したんだから。次は唯の番だぞ」

澪「唯から直接聞いたことないもんな」

紬「本当の言葉ではね」

風子「え~っと、コホン。私は高橋風子、あなたは?」

もう偽る必要はないんだ。嫌われるのを恐れて自分を隠すのはやめよう。

何があっても、私は私だ。

平沢唯だ。

唯「……私は、平沢唯」

ちゃんと、聞こえただろうか。

それだけが少しだけ、心配だった。


おわり