1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 21:11:13.75 ID:pX+m9Yt50
少佐「ああ、電子掲示板上のQ&Aコミュニティーサービスのことか?」

バトー「TVのワイドショーじゃ京大入試のカンニング問題でもちきりだぜ?
     …にしてもカンニングでここまで騒ぐことねーだろ。」

新巻「その件で9課に要請が入った。」

 

引用元: トグサ「少佐、yahoo知恵袋ってご存知ですか?」 




3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 21:14:24.39 ID:aYhqqvK3P
バトー「しかし猿オヤジ、この事件はもう犯人と思われる少年が保護されているはずだぜ?
    9課が足を突っ込む事件でもなさそうだが…」

新巻「その保護されている少年が使っていたHNが電子掲示板のいたるところに出没しているそうだ。
   ……今現在もな。」

少佐「…京都府警では電脳にアクセスできないようネットワークを遮断しているはずでは?」

トグサ「もちろん、取調べ中の容疑者が外部の者と接触できないようにあらゆる情報媒体ツールは制御されているはずです。」

新巻「それにもかかわらず、その少年のHNを名乗った何者かがネット上のあらゆるQ&Aサイトに質問を繰り返している。
    IPアドレスを調べた結果、少年の使用していた通信器具と一致したそうだ。」

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 21:18:33.46 ID:aYhqqvK3P
少佐「…愉快犯、ネットワークセキュリティの漏えい、その他少年の監視の不手際などの可能性は?」

新巻「現在捜査中だが、それらの可能性は低いだろう。」

バトー「だが、なぜこの件が9課に回ってきたんだ?」

新巻「この少年の使っていたHN……aicezukiが企業や地方公共機関のデータをハッキングしているらしい。」

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 21:21:24.82 ID:aYhqqvK3P
トグサ「しかしカンニングの際に使用していた携帯は既に京都府警のほうに保管されていて、内部の人間が使用した痕跡もありません。
    もちろんaicezuki本人も使用できません。」

バトー「ってことはなんだ、まさか携帯端末が意思を持って勝手に書き込みをしているってことか?」

新巻「現段階ではそういう事になるな。」

バトー「おいおい、ただの情報端末にゴーストが宿る訳ないだろう?
    いまどきセルロイドの人形にだって魂が入ってると信じている奴なんかいやしないぜ。」

新巻「その真相は明らかではないが、企業や公共機関の内部情報が漏えいしていることは確かだ。
    お前達にはそのハッキングしている人物を探し出してもらいたい。」

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 21:24:51.45 ID:aYhqqvK3P
新巻「バトーとトグサは京都府警に行ってaicezukiの取り調べを兼ね電脳の使用の痕跡を調べてもらいたい。
   イシカワとボーマは引き続きaicezukiの書き込み履歴とIPアドレスをあらってくれ。」

バトー「了解!」

少佐「で、私は?」

新巻「書き込みが行なわれたと思われるインターネットカフェに行ってくれ。」

少佐「了解よ」

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 21:27:59.33 ID:aYhqqvK3P
バトー「…それにしてもこの件はわざわざ9課が動くような事件じゃない気がするんだが…。」

タチコマ「まぁまぁ。久しぶりのお仕事なんですからもっと張り切っていきましょうよー!」

バトー「なんだタチコマ、お前もいたのか。」

トグサ「確かに、現段階ではaicezukiによってハックされた情報はaicezuki本人がデータを所持している以外に直接的な被害はない。
    ネット上でデータがばら撒かれるわけでもなく、個人で所有する以外何もしないというのは不気味だな。」

バトー「本当何考えてるんだか…。ま、それも本人に口割らせりゃあ解決することさ。」

トグサ「おいおい、相手はまだ19歳の予備校生なんだぞ。あんまり無茶すんなよ。」

バトー「無茶なんざしねーさ、ちょっと話を聞かせてもらうだけだよ。」

タチコマ「もーあんまり怯えさせちゃダメですよ。バトーさん。」

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 21:32:08.03 ID:aYhqqvK3P
トグサ「aicuzuki君、別に君をどうにかしようとしている訳じゃないんだ。
    お願いだから正直に話してくれないかな?」

aice「……………」

トグサ「う~ん、じゃあもう一度聞くよ。君が拘留されたその日…」

バトー「(タチコマ、そいつの電脳の使用履歴はどうだ?)」

タチコマ「(拘留されてからの3日間、ネットワークは強制的にOFFにされたままで、特に再起動を試みた形跡もないですねぇ。)」

バトー「(そんなはずあるか。ちゃんと調べたのか?)」

タチコマ「(ん~……そう言われてもー…)」

20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 21:34:26.02 ID:aYhqqvK3P
トグサ「君が企業や公共機関の内部情報を不正にアクセスしているって話があるんだ。現に君の携帯のIPアドレスで…」

aice「…………タ…キカ…」

トグサ「ん、どうした…?」

aice「デ…タ…グラ…」

タチコマ「……!!バ、バトーさん!これアンドロイドです!!」

バトー「なんだって!?」

aice「…フセイナハックヲニンショウ…データヲサクジョ…デンノウヲハカイシマス」

トグサ「バトー!危ない!!」

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 21:37:30.44 ID:aYhqqvK3P
ドーン


バトー「なんてこった、こいつはアンドロイドだったのか…。」

トグサ「という事は本体はどこか別の場所に…!?」

少佐「________バトー、トグサ、聞こえる?」

トグサ「少佐!今大変なことが…!」

少佐「そいつはただの人形よ。別に書き込みを行なっている人物がいるわ!」

バトー「……そいつをもう少し早く聞きたかったぜ…。」

少佐「書き込みは今現在も行なわれているわ。それも全国各地のサーバーからね。」

バトー「犯人は1人じゃないのか!?」

少佐「まぁ、そう考えるのが普通だけど…
   イシカワが調べたところ、IPアドレスや電脳の仕様はaicezukiと完全に一致しているみたい。」

バトー「じゃあなんだ?全国にaicezukiのクローンがたくさんいるってことか?」

少佐「有り得ないけどゴーストのパターンまで同じじゃそう考えるしかないわね。」

バトー「ゴーストダビング装置…!?でもありゃ個人レベルで購入したり操作できる機材じゃねぇぞ!
     こいつにそんな金も知識もないと思うが。」

タチコマ「バトーさん!アンドロイドの電脳片からウイルスが検出されました!」

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 21:39:54.18 ID:aYhqqvK3P
少佐「ウイルスの感染元は!?」

タチコマ「え~、ちょっと待ってくださいね~…んんん!?これは一体…???」

タチコマ「これは僕と似た電脳回線…?いやこれは僕…?僕…かつ君…達?」

バトー「おい、どうした!?タチコマ!!」

少佐「…まさか!?」

24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 21:44:37.42 ID:aYhqqvK3P
少佐「バトー、トグサ、すぐにそいつの家に行くぞ!」

バトー「お、おい。一体どうしたってんだ!?」

タチコマ「今何か僕と似たような電脳を記録したような…
     …ってあれ?少佐~!待ってくださいよ~!」

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 21:48:36.72 ID:aYhqqvK3P
――――aicezukiの家


ドンドンドン!ドンドンドンドン!

バトー「おい、そこにいるのはわかってるんだ!大人しく出て来い!」

少佐「…。多分呼んでも出てこないわ。ここは力ずくでこじ開けるしかないわね。タチコマ!!」

タチコマ「はいは~い!」

ドカン!

トグサ「少佐、いくらなんでもこんなことしたら後で訴訟になりますよ…。」

少佐「……中に入るぞ。」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 21:52:08.49 ID:aYhqqvK3P
バトー「う、一体なんだ、この匂いは…。」

少佐「このドアの向こうからみたいね。開けるわよ。」

ガチャ…

少佐「…どうやらこの子がオリジナルみたいね。」

バトー「……!?こいつがaicezuki…!?いやしかし…」




バトー「こいつ、もう死んでるぞ…。」

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 21:56:02.63 ID:aYhqqvK3P
トグサ「この様子から見て、死後一週間はたってますね…。」
バトー「じゃああの書き込みは一体誰が…?」

少佐「既に電脳は焼き切られているみたいだけど、PCに電脳データのコピーが保存されているわ。」
バトー「どれどれ…」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 22:00:54.47 ID:aYhqqvK3P
aice「……こんなところへ何しに来たんだい?」

バトー「な!?喋った?」

少佐「ただのプログラムよ」

aice「…まさかこの抜け殻の僕を捕まえに来たのかい?」

バトー「お前…一体何をたくらんでやがったんだ!?」

aice「別に何も…僕は何も考えてないよ…。」

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 22:06:04.92 ID:aYhqqvK3P
aice「そう、僕は考えることをやめた。一個人の思考能力なんて高が知れているし
   この電脳の発達した世界では僕よりも優れた人間の考えを簡単に手に入れることが出来る。
   例えばyahoo知恵袋…ここに書き込むだけで自分の今起こっている出来事を、誰かが変わりに考えてくれる…。」

バトー「お前…じゃあ企業や地方公共機関のデータをハックしていたのは…?」

aice「別にその会社の情報をネット上に漏えいさせるつもりは無いよ。ただ…ただ単に僕は“思考”が欲しかった。」

バトー「思考…だと!?」

aice「僕はただ単に自分を超えた“思考能力”が欲しかったんだよ。
   その思考の結果に従って行動どうすれば間違えることもないし、悩む事自体の苦しみも無い…。」

少佐「…それでこの電脳ウイルスを開発したの?」

aice「…そのプログラムは全世界の電脳掲示板に書き込まれている優れた“思考”を回収し
   僕のゴーストに合う適合思考≪ベスト・アンサー≫を導いてくれる。
   得た情報は僕個人が使う以外悪用したりするつもりは無いさ…。」

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 22:13:36.22 ID:aYhqqvK3P
aice「自分で考えなくてもいいって言うのは便利だ…。代わりに誰かが背負ってくれるだけでこんなに楽になれる…。
   やがて僕は思考だけでなく自分の感情も他人に背負ってもらうようになった…。

   何も感じず、何も考えない。
   そして、僕は…僕の代わりに生きてくれる人間を見つけたんだ。」

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 22:17:36.97 ID:aYhqqvK3P
バトー「どういうことだ………?」

aice「このプログラムはいわば僕自身でもあり、あなた自身でもある。
   僕はこの電脳掲示板の中を漂い、僕の代わりに導き出された≪ベスト・アンサー≫を
   僕の変わりに実行してくれる肉体に宿す…。肉体などもう必要ない。」

40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 22:22:12.06 ID:aYhqqvK3P
aice「プログラムになった僕を抹消するのかい?
   でも僕のような考えは世界中の誰でも行なっているんじゃないかな?
   他人の思考、他人の価値観…君だって例外じゃないはずだ。
   僕を消しても第二、第三のaicezukiが現れるかも知れないよ?」

バトー「…悪いが仕事なんでね。消させてもらうよ。」

43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 22:30:28.54 ID:aYhqqvK3P
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バトー「あれだけのプログラムを作り上げる技術を持ってしても、自分の考えより他人の思考のほうが価値があるって言うのか?」

タチコマ「なんだかあのプログラムは僕の電脳プログラムと似ている気がしましたけど…。」

トグサ「電脳に蔓延る適合思考…か…。俺の今考えている事だって自分の意思じゃなく、他人の思考だとしたら…。
    なんか今回の件はオカルト話みたいでしたね、ダンナ。」

バトー「ウイルスに感染しても、その思考は本人が自分で導き出した思考という事になるから被害届も出されない。
    なんか恐ろしいような、恐ろしくないような、よく分からない事件だったな。
    
トグサ「京大のカンニング問題が無かったら、この事件自体立件されませんでしたしね。」

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/06(日) 22:34:01.87 ID:aYhqqvK3P
タチコマ「でもトグサ君、より良い回答を求めるためには一個体だけの思考じゃ妥当性に欠けるし、
     aicezukiの理念は僕たちAIでは当たり前の理念なんだけど…それでも人間は集合理念より個体の考えを優先してしまうものなの?」

トグサ「お前達みたいにゴーストの無いAIには分からんさ。」

バトー「まぁaicezukiの考えも理解できなくはないぜ。
    現に人間の思考ってのは一個体が自身の力だけで考え出したものじゃなく、本や雑誌、その他のメディア情報から電脳の書き込みまで
    ありとあらゆる情報思念の中で生まれるものだからな。これを自分の考えだって言うのも怪しい話だぜ。」

トグサ「やめてくれよ、そんなこと言われたらaicezukiの思考プログラムウイルスを除去しようとすること自体無意味な行動に感じてくるじゃないか…。」     

バトー「ま、これは仕事と割り切ってせっせとプログラムを解除することだな。」


新巻「これ、何を無駄話しておるのだ。仕事はまだまだ山積しておるぞ!」

バトー「へいへい…。」

END