1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/31(日) 11:50:42.81 ID:U2HS3I1q0
エヴァSS 本編再構成

基本の流れはTV版+旧劇場版

本編からは何も引かない

omit scene(未放映/未公開シーン)の継ぎ足し・・・という趣向

漫画版、新劇場版その他の要素が適宜入ります

「**** omit scene ****」で挟まれた部分や「*」で始まる行が追加部分(書き方途中で変わるかも)

本編部分は必要箇所だけ投下するので、あとは適当に補ってください

■免責事項■

会話形式ですが情景描写のト書きみたいなものが随時入ります

前スレ  もしもあの時貞本エヴァでシンジのサルベージがうまく行かなかったら

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1433040632

引用元: エヴァ Omit Scenes 



2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/31(日) 11:54:20.16 ID:U2HS3I1q0
(第壱話~第伍話 略)

第六話 「決戦、第3新東京市」

(中略)

==== 零号機プラグ内 ====

   涙を浮かべて力なく笑うシンジ

シンジ「自分には……自分には、ほかに何も無いなんて、そんなこと言うなよ」

   シートに横たわったままシンジを見つめているレイ

レイ「……」

シンジ「別れ際に『さよなら』なんて、悲しいこと言うなよ……」

レイ「……」

シンジ「うっ……うう」

   俯き嗚咽するシンジ

レイ「何、泣いてるの?」

   少し上体を起こし、シンジを見るレイ

シンジ「……」グスッ

   俯くレイ

レイ「……ごめんなさい、こういう時、どんな顔をすればいいのか分からないの」

   顔を上げるシンジ 微笑んで

シンジ「笑えばいいと思うよ……」

レイ「!」

   ハッとするレイ  瞳に映りこむシンジの微笑み

   零号機事故の際、レイを救助したゲンドウの微笑みが重なる  

レイ「……」ニコ…

**** omit scene ****

シンジ「……」

   レイの微笑みに目を奪われるシンジ

   我に返って表情を緩め、レイに手を差し伸べる

シンジ「立てる?」

レイ「……ええ」

   結ばれる手と手

==== 零号機プラグの外 ====

   レイに手を貸しながらハッチから後ずさりに這い出すシンジ

   降りてきたレイに肩を貸す

   上空を見上げるシンジとレイ  舞い降りてくる救急VTOL

   側方のハッチから身を乗り出して、下方と機内に交互に何か叫んでいるミサト

    :
    :

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/31(日) 11:57:03.52 ID:U2HS3I1q0
==== 着陸しているVTOLの周囲 ====

   慌ただしく働いている救護班

   後方に降りてくるもう一機のVTOL

   救急機の側面に開いたハッチ

   ストレッチャーに横たえられているレイ

   傍らに立つシンジとミサト

   ガウンを羽織って見送るシンジ

ミサト「いいわ、お願い」

救護員「はい」

シンジ「じゃあね」

レイ「ええ」

   機内に運び込まれていくストレッチャー 

   レイを目で追うシンジ

   シンジを見ているレイ 

   シンジの肩に手を置いているミサト

**** omit scene ここまで ****

   擱座している零号機と初号機

   それらを照らしている月

(第六話 おわり)

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 00:28:08.53 ID:d686+2eV0
第七話 「人の造りしもの」

(中略)  

==== 朝 学校 ====

   窓の外を見ているシンジ  市街地に横たわる第5使徒の残骸を眺めている

   なにかに気付き眉をひそめる

シンジ「ん?」

   スキール音を響かせて駐車場に滑り込む青いルノー

トウジ「いらっしゃったで~!」 

   あっけにとられているシンジを押しのけて窓から身を乗り出すトウジ

   ビデオカメラ構えたケンスケ

   颯爽と降り立つミサト

   校舎の窓に鈴なりになっている男子生徒たち

男子「カッコイイ! 誰あれ!?」

男子「碇の保護者!?」

   席についているレイ

   机に肘をつき両手に顎をのせ、関心なさげに窓とは反対側のどこかを見ている

男子「なに!? 碇ってあんな美人に保護されてるの?」

   不愉快そうなヒカリと女子二人

ヒカリ「バカみたい!」

*    窓際からふと教室内に視線をもどすシンジ

* シンジ「……」

*    席についているレイの後姿

   ケンスケのビデオのファインダーの中  歩きながらVサインをこちらに突き出すミサト

トウジ「はあー、やっぱミサトさんって、ええわあー! うん!」

*  ケンスケの声に窓に向き直るシンジ

シンジ「そうかなあ……」

   :
   :

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 00:29:29.35 ID:d686+2eV0
(中略)

=== 旧東京 夕刻 ジェットアローン実験場====

   組み合ったまま停止しているエヴァ初号機とジェットアローンのシルエット

シンジ『ミサトさん! 大丈夫ですか!?――』

=== ジェットアローン内部 ====

   制御室の床に防護服姿のミサトが座り込んでいる

シンジ『――ミサトさん!!』

ミサト「ええ……。ま、サイテーだけどね……」 ハァ…ハァ…

シンジ『良かった、無事なんですね! 良かった、ホントに良かった!』

シンジ『でも凄いや。僕、見直しちゃいました。本当に奇跡は起きたんですね!』

ミサト「ええ…」

  防護服のバイザーの中、厳しい表情で顔を上げるミサト

ミサト(奇跡は用意されていたのよ……誰かにね)

   :
   :

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 00:30:28.39 ID:d686+2eV0
(中略)

=== 翌日 朝 通学路 ====

   歩道を歩いていくシンジ、トウジ、ケンスケ

トウジ「はぁ~やっぱかっこえーなー、ミサトさんは!」

シンジ「僕もそう思ったけど、家の中じゃみっともないよ」

   憮然と答えるシンジ

シンジ「ほんと、ずぼらだし、かっこ悪いし、つくづくだらしないし。 見てるこっちが恥ずかし

いよ」

ケンスケ「羨ましいな、それって」

   立ち止まるシンジ

シンジ「どうして?」

ケンスケ「やっぱ碇ってお子様な奴」

トウジ「ほんまやな」

シンジ「どうして!?」

ケンスケ「他人のおれたちには見せない、本当の姿だろ?」

シンジ「……?」

ケンスケ「それって、家族じゃないか」

シンジ「あ……」

   少し困ったように微笑むシンジ

   :
   :

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 00:32:19.32 ID:d686+2eV0
**** Omit Scene ここから ****

==== 同日 午後 学校 ====

キーンコーンカーンコーン…

ケンスケ「終わった終わったーっと』

   レイの席のあたりを見ているシンジ

シンジ(綾波、どうしたのかな……結局、きょうは来なかったけど……)

トウジ「あーあ、腹へったなあ。なあ、シンジ、お好み焼きでも食うてこか」

シンジ「あ、うん――」

ヒカリ「ちょっと、どこ行くのよ。あなたたち、掃除当番でしょ?」

トウジ「ええやん。せんでも十分きれいや」

ケンスケ「そうそう」

ヒカリ「そうはいかないの! あ、碇くん。あなただけは帰っていいわ」

シンジ「え?」

ヒカリ「その代わり、これ」

   プリントを差し出すヒカリ

ヒカリ「修学旅行の通知。先生が綾波さんに届けてくれって」

シンジ「あ……うん。わかった」

  :
  :

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 00:34:05.50 ID:d686+2eV0
==== 同日 午後 レイのマンション ====

ガコーン ガコーン…

   戸口に立つシンジ  「402 綾波」の表札を見上げている

シンジ(ここに来ると、どうしても思い出しちゃうな……あの時のこと……)

   前回、レイを誤って押し倒した場面が蘇える

シンジ「……」カチッ カチッ…

   呼び鈴を押してみるシンジ

シンジ(まだ壊れてるのか……)

シンジ「綾波、いる?」ゴンゴン……

   鉄製の扉をノックするシンジ

ガチャ…

   開くドア  レイが目をこすりながら顔を出す

   学校の女子制服のワイシャツを羽織っただけの姿

レイ「なに?」

シンジ「あ……ごめん……寝てた?」

レイ「……ゆうべ零号機の試験、徹夜だったから」

シンジ「え? でも零号機はまだ――」

レイ「機能中枢の試験だけ、前倒しになったから」

シンジ「そうなんだ……大変だったね。あの、これ」

   プリントを手渡すシンジ 

シンジ「じゃあ、ゆっくり休みなよ。睡眠の邪魔してごめん」

   踵を返すシンジ

レイ「……少し、上がっていけば」

   立ち止まるシンジ

シンジ「……あ……うん……」

   :
   :

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 00:37:18.02 ID:d686+2eV0
==== レイの部屋 ====

シュンシュンシュン……

   台所で薬缶が湯気を上げている

   フロアの中央に置かれた椅子に少しかしこまって座っているシンジ

シンジ(相変わらず殺風景な部屋だな……花でも持って来ればよかったかな……)

   台所で何かしているレイの後姿

シンジ(でも、なんだか変な感じだ。綾波が台所に立ってるなんて)

シンジ「……?」

   腰を浮かせるシンジ

シンジ「どうしたの?」

   紅茶の茶葉の缶を持って考えている風のレイ

レイ「どれくらい入れるのかしら」

シンジ「え?」

レイ「茶葉。紅茶、あっても淹れたこと、なかったから」

シンジ「あ……い、いいよ。気を遣わなくても」

レイ「……これくらい?」

   茶葉をスプーン山盛りにすくって見せるレイ

シンジ「そ、それじゃ入れ過ぎじゃないかな……」

   茶葉をポットに入れ、お湯を注ぐために薬缶を掴もうとするレイ

レイ「あ」ガチャン…

シンジ「大丈夫!?」

   慌てて駆け寄るシンジ

レイ「少し……やけどしただけ」

シンジ「しただけって……早く冷やさないと!」グイッ

   少し乱暴にレイの手をとりシンクに差し出すシンジ

キュッ…ジャー……

   レイの手を流れ落ちる水道水

   それを無心に見ているシンジ

シンジ「あ……ご、ごめん!」

   レイに寄り添っていたことを意識し慌てて離れるシンジ

シンジ「あの、紅茶、僕が淹れるから、綾波は少しそうしてなよ!」

レイ「……ええ」

   少し頬を染めているレイ

   :
   :

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 00:43:29.00 ID:d686+2eV0
   流し台の上に並んだ二つの紙コップ

   紅茶を注いでいくシンジ

シンジ「――っていうことがあったんだ」

レイ「そう」

シンジ「正直、家族って言われてもピンとこないけど……ミサトさんのこと、少し見直したっていうか……」

レイ「そう……よかったわね」

シンジ「うん……はい、これ」

   紙コップをレイに手渡すシンジ

   紅茶に口をつけるシンジとレイ

シンジ「……少し苦かったね」

レイ「ええ……」

   液面を見つめたまま少し微笑むレイ

レイ「でも、暖かいわ」

   しばし見とれるシンジ

シンジ「……うん」

   微笑み、答えるシンジ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第七話 おわり)

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/13(土) 15:32:53.79 ID:pHJmw4tC0
第八話 「アスカ、来日」
(中略)

==== 朝 飛行する輸送ヘリ機内 ====

ケンスケ「ミル55-D輸送ヘリ! こんなことでもなけりゃあ、一生乗る機会ないよ。まったく、持つべきものは友達って感じ! な、シンジ!」

シンジ「え?」

ミサト「毎日同じ山の中じゃ息苦しいと思ってね。たまの日曜だから、デートに誘ったんじゃないのよ」

トウジ「ええっ! それじゃ、今日はホンマにミサトさんとデートっすか? この帽子、今日のこの日のために買うたんです~! ミサトさ~ん!」

シンジ「で……どこに行くの?」

ミサト「豪華なお船で太平洋をクルージングよ」

*トウジ「そう言やあ、綾波はどないしたんや。来んのかいな」

*シンジ「あ、うん。綾波は待機だって」

*ケンスケ「当たり前だろ。本部が空になってる間に敵が来たらどうするんだよ」

*トウジ「そらまあ、そうやな」

*シンジ「……」

   雲間から見えてくる海面

   航走する艦艇の群れ

ケンスケ「おおーっ、空母が5、戦艦4。大艦隊だ! ほんと、持つべきものは友達だよなあー!」

トウジ「これが……豪華なお船?」

ケンスケ「まさにゴージャス! さすがは国連軍が誇る正規空母、『オーバー・ザ・レインボウ』!」

シンジ「でっかいなあ!」

ミサト「よくこんな老朽艦が浮いていられるものねー」

ケンスケ「いやいや、セカンドインパクト前の、ビンテージものじゃないっすかあ!!」

  :
  :

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/13(土) 15:55:23.66 ID:pHJmw4tC0
(中略)

==== 新横須賀(旧小田原) 港湾内 ====

   接岸した空母の横を車両に乗って走りすぎるミサトとリツコ

リツコ「また派手にやったわね」

ミサト「水中戦闘を考慮すべきだったわー……」

リツコ「あら珍しい。反省?」

ミサト「いいじゃない。貴重なデータも取れたんだし」

リツコ「そうね」ペラッ…

   書類をめくるリツコ

リツコ「……ん?」

   書類に見入るリツコ

リツコ「ミサト」

ミサト「んー?」

リツコ「これはほんとに貴重だわ」



==== 埠頭 ====

グウウウウウウゥン…

   起重機で吊り降ろされてくる弐号機

   その様子を見ているケンスケとトウジの後姿

   二人の背後、エスカレーターで降りてくるプラグスーツ姿のアスカ

   振り返るトウジ  驚いて

トウジ「ペ、ペアルック!」

   トウジの声にさっとビデオカメラを向けるケンスケ

ケンスケ「イヤーンな感じ!」

   アスカに続いて恥ずかしげに降りてくる赤いプラグスーツ姿のシンジ

   :
   :

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/13(土) 16:07:08.05 ID:pHJmw4tC0
(中略)

==== 朝 第壱中学校 2年A組 教室 ====

キーンコーンカーンコーン…

   談笑している生徒たち

トウジ「――ほーんま、顔に似合わず、いけ好かん女やったなあ!」

ケンスケ「ま、おれたちはもう会うことも無いさ」

トウジ「センセは仕事やからしゃーないわなあ。同情するで、ほんま」

ガラガラガラ…

   扉が開く音に振り向く生徒たち、トウジ、ケンスケ、シンジ

   一様に驚く

トウジ「うわあっ!」 ガタン…「なはあっ!!」

   床に転がり、起き上がって入口の方を指さすトウジ   

   :
   :

カリカリカリ…

   黒板にドイツ語で名前を書いているアスカ

   振り返ってにっこり笑う

   げんなりした表情のトウジ、ケンスケ、シンジ

アスカ「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしく!」

  :
  :

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/13(土) 16:19:03.17 ID:pHJmw4tC0
**** Omit scene ここから ****

==== 放課後 レイのマンション ====

   テーブル代わりのカラーボックスの上面  数枚のプリントが乗っている

シンジ「――っていうことがあったんだ」

   回転いすに座っているシンジ   

シンジ「最初から最後まで振り回されっぱなしだったよ」ハァ…

   眉をしかめて紅茶をすするシンジ

レイ「そう」

   シンジの向かい、紙コップを両手で包むようにしてベッドに腰掛けているレイ

シンジ「なんだか、ちゃんとうまくやっていけるか心配――どうしたの?」

   紙コップの中を見て少し俯いているレイ

シンジ「綾波?」

レイ「……なに?」

シンジ「あの、大丈夫?」

レイ「問題ないわ。なぜ?」

シンジ「い、いや、何となく」

   コップを持っているレイの指を眺めるシンジ

シンジ「あの……痛くない?」

レイ「何が」

シンジ「このあいだの火傷――」

   一瞬、シンジの顔を見るレイ

レイ「ええ、へいき」

   自分の指を見て微笑むレイ

シンジ「そっか、よかった」

   微笑むシンジ

   :
   :

15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/13(土) 16:20:54.98 ID:pHJmw4tC0
=== 戸口 ===

ガチャン…

   閉まるドア

   見送っているレイの後姿

   振り返り部屋に戻るレイ

   立ち止まる

レイ(なせ?)

   胸のあたりをこぶしで少し押さえてみる

レイ(わからない。でも、とても嫌な気持ち)

   :
   :

==== 夕暮れ 路上 ====

   歩道を歩いているシンジ

   ふとレイのマンションの方を振り返る

   少し首をかしげながらまた向き直り歩き続けるシンジ  

   :
   :

**** Omit scene ここまで ****

(第八話 おわり)

16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/21(日) 00:07:34.97 ID:e6Ue2kmp0
第九話 「瞬間、心重ねて」

(中略)

==== 朝 通学路 ====

   歩いてくるシンジ

アスカ「ハローウ、シンジ!」

シンジ(えっ…)

アスカ「グーテンモーゲーン!」

シンジ「グ、グーテンモルゲン……」

アスカ「まーた、朝から辛気臭い顔して! このアタシが声かけてんのよ? ちったあ嬉しそうな顔しなさいよ」パチン!

   シンジの額を指ではじくアスカ

シンジ「痛っ……」

アスカ「――で? ここにいるんでしょ、もう一人」

シンジ「……誰が?」

アスカ「あんたバカぁ? ファーストチルドレンに決まってるじゃない」

シンジ「ああ、綾波なら――」

   シンジの視線を追って振り返るアスカ

   視線の先 ベンチで本を読んでいるレイの後姿

    :
    :

   本を読んでいるレイ そのページに影が差す

   影を避けるように本を移動させるレイ

   追うようにさらに射してくる影

アスカ「ハローウ!」

   不機嫌に視線を向けるレイ

アスカ「あなたが綾波レイね。プロトタイプのパイロット」

レイ「……」

アスカ「あたし、アスカ。惣流・アスカ・ラングレー」

   歩道橋の下、アスカの後ろに人だかりができている

アスカ「エヴァ弐号機のパイロット。仲良くしましょ」

   ページに視線をもどすレイ

レイ「どうして?」

アスカ「その方が都合がいいからよ。いろいろとね」

レイ「……命令があれば、そうするわ」

   あきれ顔のアスカ

アスカ「変わった子ね」

==== 歩道橋の上 ====

   二人のやりとりをあきれ顔で眺めているトウジ、シンジ、ケンスケ

トウジ「ほんま、エヴァのパイロットって、変わり者が選ばれるんちゃうか?」

シンジ「……」

*シンジ(な……なんか機嫌悪いな、綾波……)

   :
   :

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/21(日) 00:25:54.75 ID:e6Ue2kmp0
(中略)

==== ミサトの家 リビング ====

アハハハ…

   テーブルを囲んで座っているトウジ、ケンスケ、ヒカリ、ミサト、レイ

トウジ「そうならそうと、はよ言うてくれたらよかったのにー」

ヒカリ「――で、『ユニゾン』はうまく行ってるんですか?」

ミサト「それが見ての通りなのよ……」

プー プピー

一同「……」

ビーーー

トウジ・ケンスケ・ヒカリ・ミサト「はぁ~…」

カシャン…カラカラ…

アスカ「当ったり前じゃない!」

   アスカのヘッドフォンが飛んできて転がる

   訓練装置の上で息巻いているアスカ その隣の訓練装置で這いつくばっているシンジ

アスカ「このシンジに合わせてレベルを下げるなんて、うまく行くわけないわ! どだい無理な話なのよ!」

ミサト「じゃ、やめとく?」

   ミサトの隣でバインダに挟まれた書類を見ているレイ

アスカ「他に人、いないんでしょ?」

   したり顔のアスカ

ミサト「レイ」

レイ「はい」

ミサト「やってみて」

レイ「はい」

   立ち上がるレイ

アスカ「……え?」

   *顔を上げるシンジ

*シンジ(えっ?)

   *立ち上がったレイと一瞬目があう

   *少し驚くシンジ

   装置に向かって歩いてくるレイ

   不安げに見るアスカ

シンジ「……」

   隣でヘッドフォンをつけるレイを少しを見やるシンジ

   始まる電子音

   正確に同じリズムでこなしていくシンジとレイ

アスカ「えっ……」

   動揺するアスカ

   *ちらりとレイの様子をうかがうシンジ

   *黙々と動作をこなしているレイの横顔

   *向き直り、動作に集中するシンジ

トウジ・ケンスケ・ヒカリ・ミサト「おおぉー!」

18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/21(日) 00:43:03.26 ID:e6Ue2kmp0
ミサト「これは作戦変更して、レイと組んだほうがいいかもね」

   *顔を上げるレイ

アスカ「ええっ!?」

   すまし顔でウーロン茶を飲んでいるミサト

*シンジ「……」ハァ…ハァ…

   *まだ息を切らせて屈んでいるシンジ

*シンジ(確かに……今までよりずっとやりやすかったな……)

   *隣のレイの様子をうかがうシンジ

   *ちらりと横目でシンジの方を見るレイ

アスカ「もう、イヤっ! やってらんないわ!」

ピシャッ!

   乱暴に扉を閉め部屋を飛び出すアスカ

シンジ「あっ……」

ヒカリ「アスカさん!」

トウジ「鬼の目ぇにも涙や」

ヒカリ「いーかーりーくーん!!」

シンジ「あ……」

   ヘッドフォンをはずすシンジ

ヒカリ「追いかけて!!」

シンジ「え……」

   *少し驚いた顔でヒカリを見るレイ

ヒカリ「女の子泣かせたのよ!! 責任取りなさいよ!!」

*シンジ「あ……う、うん……」

   *おずおずと立ち上がるシンジ ふと隣のレイを見る

   *先ほどの訓練姿勢のまま床に膝をついているレイ 床を見つめている

   *戸口に走るシンジ

   *それを見ている一同

   *戸を閉める間際、何気なく室内を振り返るシンジ

   *まだ装置の上に座っているレイ 外したヘッドフォンを包み込んだ自分の手を見ている

   *閉まる引き戸

     :
     :

==== コンビニエンスストア 店内 ====

   壁の冷蔵庫のガラス扉を開けたまましゃがみこんでいるアスカ

シンジ「あのー……」

アスカ「何も言わないで」

シンジ「……」

   アスカの右後ろにしゃがみこみ様子をうかがうシンジ

アスカ「分かってるわ。私はエヴァに乗るしかないのよ」

シンジ「……」

   立ち上がり扉を閉めるアスカ

アスカ「やるわ、私」

    :
    :

19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/21(日) 01:04:55.37 ID:e6Ue2kmp0
**** Omit Scene ここから ****

==== 夕暮れ ミサトの部屋の戸口 ====

ケンスケ「――それでは、失礼します!」

ミサト「ごめんね、みんな」

トウジ「ええんです。ほな――」

ヒカリ「でも……大丈夫かな、アスカさん」

ミサト「だーいじょうぶ。心配ないわよ」

   廊下を去っていく三人

   ミサトの後ろから出てくるレイ

ミサト「レイも、悪かったわね」

レイ「……いえ」

   真顔になるミサト

ミサト「でもいい動きだったわ。零号機がああでなきゃ、あなたに任せてたかもしれない」

   顔を上げるレイ  少し口惜しそうに

レイ「……失礼します」

   立ち去るレイ  後姿を見送るミサト

   ため息をひとつついて部屋に引っ込むミサト


==== ミサトのマンションの前の道 ====

   歩いて行くレイの後姿

   ふと、振り返ってミサトのマンションを見上げるレイ  少し目を眇める

   レイ「……」

   しばらく見て、また向き直り歩み去っていく

**** Omit Scene ここまで ****

   :
   :
 
==== 屋上 ====

アスカ「こうなったら何としてもレイやミサトを見返してやるのよ!」

シンジ「そんな、見返すだなんて……」

アスカ「なぁーに甘いこと言ってんのよ! 男のくせに!」

シンジ「……」

アスカ「傷付けられたプライドは10倍にして返してやるのよ!」

シンジ「……」クスッ…

   *ふと下界を見下ろすシンジ

   *歩み去っていくレイの後姿が目に留まる。

   *シンジ「……」

*アスカ「シンジ!」

*シンジ「……な、なに?」

*アスカ「『なに』じゃないでしょ! 行くわよ!」

*シンジ「う、うん――」

   *立ち上がるシンジ

   *少し振り返ってから向き直り、アスカに続く

    :
    :

20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/21(日) 01:13:12.67 ID:e6Ue2kmp0
(中略)

==== 夜 ミサトのマンション ====

   灯りの消えた室内  床に横たわって寝たふりをしているシンジ

ヒタヒタヒタ…

   近づく足音

…ドサッ

シンジ(……え?)

   目を開けるシンジ 間近にアスカが横たわって寝入っている

シンジ(あ……!)

   目をしばたたくシンジ

シンジ「……」

   半ば閉じられたアスカの唇に視線が吸い寄せられる

シンジ「……」

   衝動的に顔を寄せていくシンジ

   視界をおおっていくアスカの寝顔

*シンジ「!」ハッ…

   *踏み込んだ零号機のプラグの中の光景がよみがえる

   *気を失ってうなだれているレイ

*シンジ「……」

   *少し驚いた顔をしたあと、静かに微笑むレイ

*シンジ「……」

   *つい先日おとずれたレイのマンション

   *紅茶をすするレイの横顔

   *唇に意識が吸い寄せられる

*シンジ「……」

アスカ「んっ…」

   我に返るシンジ

   アスカの唇が動く

アスカ「マ……マ……ママ……」

シンジ「!」

アスカ「ママ……」

   閉じられたアスカの瞼から涙が一粒伝う

シンジ「……」

   アスカが寝る布団から離れて床に横たわるシンジ

シンジ「……自分だって子供のくせに……」

   毛布を頭からかぶるシンジ

*シンジ「……」

   *ユニゾン訓練の直前、一瞬目があったレイの表情

*シンジ「……」

   *床に座り込み俯くレイの姿

   *毛布から目をのぞかせるシンジ

*シンジ「……」

*シンジ(何やってんだろ……)

25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 10:40:02.05 ID:vK4e+EdN0
 

(中略)

==== 翌日 発令所 ====

   主モニターの中、第七使徒の爆発クレーターに折り重なって倒れている初号機と弐号機

   それぞれの機体の上で受話器を片手に口論しているシンジとアスカ

   呆れ顔のミサトたち発令所職員

アスカ『――ひっどーい! 冗談で言っただけなのに、ほんとだったの!? キスしたのねー!?』

シンジ『してないよ! 途中でやめたんだよ!』

アスカ『●●●! チカン! ヘ   ! 信じらんない!』

ワハハハ…

シンジ『そっちこそ、寝言と寝相が悪いのが悪いんじゃないかあ!』

冬月「また恥をかかせおって……」

   :
   :


**** Omit Scene ここから ****

==== 数日後 レイのマンション ====

シンジ「――っていう感じだったんだ」

レイ「そう」

   小さな折り畳み式のテーブルの上、手作りらしい冊子が載っている

   表紙に「旅のしおり 市立第一中学校」と表題があり、その下に南国風の建築の白黒写真がプリントされている

シンジ「なんとか勝てたからよかったけど――」

   レジャー用のプラスチック製のカップから紅茶をすするシンジ

   ふと、レイを見る

シンジ「……」

   自分のカップの液面を見つめているレイ

シンジ「……案外、綾波のおかげかな」

   顔を上げるレイ

シンジ「あ、あのとき、綾波がやってみせてくれただろ? 惣流も、やればできるって、あれでわかったんじゃないかな」

   きょとんとしてシンジを見るレイ

シンジ「うん、きっとそうだよ」

レイ「そう」

   わずかに表情をゆるめるレイ

   微笑むシンジ

シンジ「あの……綾波の方はどうだったの? 父さんと一緒だったんじゃ――」

レイ「極秘だから」

シンジ「えっ……あ……ごめん」

レイ「……」

   少し気まずい沈黙

22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/21(日) 01:33:58.79 ID:e6Ue2kmp0
シンジ「あ、そうだ。これ――」

   テーブルの上のしおりをレイに手渡すシンジ  受け取るレイ

シンジ「班、いっしょだね」

レイ「え?」

シンジ「二日目の現地見学。名前の順だから。……あ、ケンスケも」

レイ「……」

   手渡されたしおりを開くレイ

シンジ「惣流はトウジと一緒だし――」

レイ「……」

シンジ「見たい場所、相談したり、下調べしたりするから――」

レイ「……」

シンジ「……どうしたの?」

レイ「待機」

シンジ「えっ?」

レイ「こんなに、パイロットが本部を明けられないと思う」

シンジ「あ……そっか……」

レイ「……」

シンジ「そうかもしれないね……」

   しおりを見ているレイ

シンジ「で、でも、そうと決まったわけじゃないし……それに、もしそうでも……いろいろ調べるのも、あの……楽しいんじゃないかな」

   顔を上げるレイ

   不安そうにレイを見るシンジ

レイ「そうね」

   微笑むレイ

シンジ「う、うん!」

   安心したように微笑むシンジ  カップを口に運ぶ

   しおりのページをめくっているレイ

   紅茶をすすりながら、その様子を眺めているシンジ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第九話 おわり)

26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 10:41:47.25 ID:vK4e+EdN0
シンジ「そ、そうだ。これ――」

   テーブルの上のしおりをレイに手渡すシンジ  受け取るレイ

シンジ「班、いっしょだね」

レイ「え?」

シンジ「現地見学。名前の順だから。……あ、ケンスケも」

レイ「……」

   手渡されたしおりを開くレイ

シンジ「惣流はトウジと一緒だし――」

レイ「……」

シンジ「見たい場所、相談したり、下調べしたりするから――」

レイ「……」

シンジ「……どうしたの?」

レイ「待機」

シンジ「えっ?」

レイ「こんなに、パイロットが本部を明けられないと思う」

シンジ「あ……そっか……」

レイ「……」

シンジ「そうかもしれないね……」

   しおりを見ているレイ

シンジ「で、でも、そうと決まったわけじゃないし……それに、もしそうでも……いろいろ調べるのも、あの……楽しいんじゃないかな」

   顔を上げるレイ

   不安そうにレイを見るシンジ

レイ「そうね」

   微笑むレイ

シンジ「う、うん!」

   安心したように微笑むシンジ  カップを口に運ぶ

   しおりのページをめくっているレイ

   紅茶をすすりながら、その様子を眺めているシンジ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第九話 おわり)

27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 10:49:22.14 ID:vK4e+EdN0
第拾話 「マグマダイバー」

(中略)

==== 夜 ミサトのマンション ====

アスカ「えーっ!? 修学旅行に行っちゃダメぇ!?」

ミサト「そ」

アスカ「どうして!?」

ミサト「戦闘待機だもの」

アスカ「そんなの聞いてないわよ!」

ミサト「いま言ったわ」

アスカ「誰が決めたのよ!」

ミサト「作戦担当のあたしが決めたの」

*シンジ「……」

*シンジ(綾波が言ったとおりになっちゃったな……)

アスカ「あんた! お茶なんかすすってないで、ちょっとなんか言ってやったらどうなの!? 男でしょう!?」

シンジ「いや、僕は多分こういうことになるんじゃないか、と思って……」

アスカ「諦めてた、ってわけ?」

シンジ「うん」

アスカ「情けない。飼い慣らされた男なんてサイテー!」

シンジ「そういう言い方はやめてよ……」

ミサト「気持ちは分かるけど、こればっかりは仕方ないわ。あなたたちが修学旅行に行っている間に使徒の攻撃があるかもしれないでしょ?」

アスカ「いつもいつも待機、待機、待機、待機! いつ来るか分かんない敵を相手に、守ることばっかし! たまには敵の居場所を突き止めて、攻めに行たっらどうなの?」

ミサト「それができればやってるわよ」

シンジ、アスカ「……」

ミサト「ま、二人ともこれをいい機会だと思わなきゃ。クラスのみんなが修学旅行に行っている間、少しは勉強ができるでしょ?」

  シンジとアスカの学籍番号と氏名が書かれた記憶媒体を取り出して見せるミサト

  『2-A-003碇シンジ』『2-A-116惣流・アスカ・ラングレー』


ミサト「あたしが知らないとでも思ってるの?」

シンジ「うっ……」

ミサト「見せなきゃバレないと思ったら大間違いよ。あなたたちが学校のテストで何点取ったかなんて情報くらい、筒抜けなんだから」

アスカ「フン、バッカみたい! 学校の成績が何よ。旧態依然とした減点式のテストなんか、何の興味もないわ」

ミサト「『郷に行っては郷に従え』。日本の学校にも慣れてちょうだい」

アスカ「イーーーーーッだ!」

   :
   :

28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 11:07:10.53 ID:vK4e+EdN0
(中略)

==== 修学旅行当日 ネルフ本部 第一発令所 ====

女性オペ『――浅間山の観測データは、可及的速やかにバルタザールからメルキオールへペーストしてください――』

   各々、自席でくつろいでいるオペレーターたち

   読書しているマヤ、漫画を読んでいるマコト、ギターのイメージトレーニングをしているシゲル

リツコ「修学旅行? こんなご時世に呑気なものね」

ミサト「こんなご時世だからこそ、遊べるときに遊びたいのよ、あの子達」

   :
   :

==== ネルフ本部 プール ====

ザバアアン…

  水面に飛び込み、泳いでいく白い水着のレイ

  プールサイドのテーブルについているシンジ

  学生服姿、ノート型端末をテーブルに広げている

アスカ「何してんの?」

シンジ「理科の勉強」

アスカ「……ったく、お利口さんなんだからぁ」

シンジ「そんなこと言ったって、やらなきゃいけないんだから……あ……」

   顔を上げ、声を失うシンジ

アスカ「ジャーン! オキナワでスキューバーできないから、ここで潜るの!」

   ビキニスタイルで立っているアスカ

シンジ「そ、そう……」

アスカ「どれどれー、何やってんの? ちょっと見せて……」カチャカチャ…

シンジ「……」

   赤面して、屈んだアスカの胸元に目を奪われているシンジ

アスカ「この程度の数式が解けないの?……はい、できた。簡単じゃん」

シンジ「……どうしてこんな難しいのができて、学校のテストが駄目なの?」

アスカ「問題に何が書いてあるのか、分かんなかったのよ」

シンジ「それって、日本語の設問が読めなかったってこと?」

アスカ「そ。まだ漢字全部覚えてないのよねー。向こうの大学じゃ、習ってなかったし」

シンジ「大学?」

アスカ「あ、去年卒業したの。……で、こっちのこれはなんて書いてあるの?」

シンジ「あ、熱膨張に関する問題だよ」

アスカ「熱膨張? 幼稚な事やってるのね」

シンジ「……」

アスカ「とどのつまり、モノってのは温めれば膨らんで大きくなるし、冷やせば縮んで小さくなる、ってことじゃない」

シンジ「そりゃそうだけど……」


29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 11:09:29.00 ID:vK4e+EdN0
アスカ「あたしの場合、胸だけ暖めれば、少しは●●●●が大きくなるのかなあ?」

シンジ「そ、そんな事聞かれたって、わかんないよ!」

アスカ「つまんないオトコ……」

ザバア…

   水音の方を振り向くシンジ

シンジ「……」

   水から上がったレイがタオルで髪を拭いている

   その横顔に見入るシンジ

アスカ「見て見て、シンジ!」

シンジ「ん?」

   振り返るシンジ アクアラングを装着したアスカ

アスカ「バックロールエントリー!」

ドボン…

シンジ「はあ……」

*レイ「碇くん」

*シンジ「えっ?」

*   首からタオルをかけたレイがいつの間にかそばに立っている

*レイ「泳がないの?」

*シンジ「う、うん……」

*レイ「……なに?」

*シンジ「えっ……あの……あ、綾波も、学校の水着じゃないんだね」

*レイ「ええ」

*   少し顔を赤らめて視線をはずすシンジ

*レイ「どうしたの?」

*シンジ「いっいや! 何でもないよ!」

*   端末に向き直り何か打ち込み始めるシンジ

*レイ「?」

*シンジ「……」カチャカチャ…

   :
   :

30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 11:17:34.06 ID:vK4e+EdN0
(中略)

==== 浅間山地震研究所 地震波分析室 ====

   モニタを見ているミサト

   シートについているマコト、研究所の職員たち

ビーーーッ

女性オペ『観測機、圧壊。爆発しました』

ミサト「解析は?」

マコト「ぎりぎりで間に合いましたね。パターン青です!」

ミサト「間違いない、使徒だわ」

   顔を上げるミサト

ミサト「これより当研究所は完全閉鎖、ネルフの管轄下となります。一切の入室を禁じた上、過去6時間以内の事象は、すべて部外秘とします」

   :
   :

(中略)

==== ネルフ本部 ====

   床面モニタに映し出された透視画像

   卵のような楕円形の中にヒトの胎児のようなシルエット

   見下ろしているリツコ、マヤ、シンジ、レイ、アスカ

シンジ「これが使徒?」

リツコ「そうよ。まだ完成体になっていない、サナギの状態みたいなものね」

一同「……」

リツコ「今回の作戦は使徒の捕獲を最優先とします。できうる限り原形をとどめ、生きたまま回収すること」

アスカ「できなかったときは?」

リツコ「即時殲滅。いいわね?」

シンジ・アスカ・レイ「はい」

リツコ「作戦担当者は――」

アスカ「はいはーい! あたしが潜る!」

シンジ「……」

シンジ(でも、また僕なんだろうな……)

リツコ「アスカ、弐号機で担当して」

アスカ「はーい! こんなの楽勝じゃん!」

レイ「私は?」

マヤ「プロトタイプの零号機には、特殊装備は規格外なのよ」

リツコ「レイと零号機には本部での待機を命じます」

レイ「はい」

アスカ「残念だったわねー、温泉行けなくて」

レイ「……」

   黙って前方を見ているレイ

*  レイの横顔をそっと見やるシンジ

リツコ「A-17が発令された以上、すぐに出るわよ。支度して」

シンジ・アスカ「はい!」

  :
  :

31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 11:23:26.28 ID:vK4e+EdN0
(中略)

==== ネルフ本部 弐号機ケージ ====

アスカ「いやあああぁ! なによ、これぇ!」

   着ぶくれてケージの横に座らされている弐号機

リツコ「耐熱・耐圧・耐核防護服。局地戦用のD型装備よ」

アスカ「これがあたしの……弐号機?」

一同「……」

アスカ「嫌だ! あたし降りる! こんなので人前に出たくないわ! こういうのはシンジのほうがお似合いよ!」

加持「そいつは残念だな」

   作業通路から見下ろしている加持

加持「アスカの勇姿が見れると思ってたんだけどな」

アスカ「いやーっ! でもこんなダサいの着て、加持さんの前に出る勇気なんてないわ!」

マヤ「困りましたね……」

リツコ「そうね」

シンジ「あの……僕が……」

   遮るように右手を上げるレイ

レイ「あたしが弐号機で出るわ」

アスカ「!」

パシッ…

   レイの手をつかんで降ろさせるアスカ

アスカ「あなたには私の弐号機に触ってほしくないの、悪いけど!」

   向き直るアスカ

アスカ「ファーストが出るくらいなら私が行くわ」

   弐号機を見上げるアスカ

アスカ「カッコ悪いけど、我慢してね……」

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 弐号機ケージ ====

ガコーン ガコーン…

  持ち場へ散っていく面々

女性オペ『――各担当は、所定の作業を速やかに完了させてください。――』

シンジ「あの……」

レイ「……」

   俯き佇んでいるレイ

シンジ「また、待機になっちゃったね」

レイ「仕方ないわ。命令だもの」

シンジ「うん……」

32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 11:31:52.52 ID:vK4e+EdN0
シンジ「じゃあ、行くね」

   ためらいがちに踵を返すシンジ  数歩歩き出す

レイ「碇くん」

   振り返るシンジ

   シンジの方を見ているレイ

レイ「気を付けて」

シンジ「う、うん。それじゃ――」

   少し表情が明るくなるシンジ

   振り返り走り去る

   見送っているレイ

   :
   :

==== ネルフ本部 エヴァ専用操車場 ====

グオングオングオン…

  駐機場に通じるリニアレールを、台車に乗って運ばれていく2機のエヴァ

  その様子を作業通路から見下ろしているゲンドウとレイ

レイ「碇司令」

ゲンドウ「何だ」

レイ「もし使徒の捕獲が失敗したら、私も現場に行くのですか」

ゲンドウ「いや……お前は本部で待機だ」

レイ「……」

  レイを見るゲンドウ

ゲンドウ「使徒の捕獲が失敗したら、初号機および弐号機が使徒の殲滅に当たる」

レイ「……」

ゲンドウ「もしそれにも失敗したら、上空で待機している国連軍がN2爆雷による熱処理を試みる」

レイ「……!」

ゲンドウ「それでも処理できなければ、使徒はここへやってくるだろう。お前はそれを零号機で迎え撃つ」

レイ「……」

ゲンドウ「それも失敗すれば……そこで終わりだ」

レイ「……」

ゲンドウ「そのためにお前はここにいる。いいか、レイ」

レイ「……はい」

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 11:36:38.42 ID:vK4e+EdN0
(中略)

==== 昼 浅間山 ====

   割れ目火口の縁にクレーンが設置されている

女性オペ『レーザー、作業終了』

男性オペ『進路確保』 

女性オペ『D型装備、異常無し』

   クレーンに吊り下げられ火口直上に水平移動してくるD型装備の弐号機

マコト『弐号機、発進位置』

==== 仮設発令所 ====

ミサト「了解。アスカ――」

==== 弐号機プラグ内 ====

ミサト『――準備はどう?』

アスカ「いつでもどうぞ」

==== 仮設発令所 ====

ミサト「発進!」

==== 火口直上 ====

ガラガラガラ…

 吊り降ろされていく弐号機

アスカ『うっわあ、熱っつそおー!』

マヤ『弐号機、溶岩内に入ります』

アスカ『見て見て、シンジ!』

シンジ『え?』

アスカ『ジャイアント・ストロング・エントリー!』 

ゴボオオオオォ…

  ポーズをつけたまま脚から溶岩の液面に沈み込んでいく弐号機

シンジ『はあ……』

   あきれ顔のシンジ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== その頃 ネルフ本部 零号機ケージ アンビリカルブリッジ上 ====

   ベンチに腰かけているレイ

   ゲンドウのメガネケースを手にして俯いている

レイ(使徒を殲滅できなかったら……「熱処理」?)

   ケースを不安げに握りしめる

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 11:49:13.94 ID:vK4e+EdN0
(中略)

==== 浅間山 火道内 ====

アスカ「――捕獲作業終了。これより浮上します」

シンジ『アスカ、大丈夫?』 

アスカ「当ったり前よ! 案ずるより生むが易し、ってね。やっぱ楽勝じゃん」

アスカ「……でも、これじゃあプラグスーツと言うよりサウナスーツよ。あー早いとこ温泉に入りたい! 」

==== 浅間山 仮設発令所 ====

リツコ「緊張がいっぺんに解けたみたいね」

ミサト「そう?」

リツコ「あなたも今日の作戦、恐かったんでしょ?」

ミサト「まあね。下手に手を出せば、あれの二の舞ですものね」

リツコ「そうね……『セカンドインパクト』……二度とごめんだわ」

ビーーーーッ

リツコ、ミサト「えっ!?」

==== 火道内 ====

アスカ「何よ、これぇー!?」

==== 仮設発令所 ====

リツコ「まずいわ、羽化を始めたのよ。計算より早すぎるわ!」

   モニタの中、急速に変容していく使徒のシルエット

ミサト「キャッチャーは!?」

マコト「とても持ちません!」

グオオオオ…

   捕獲器の電磁柵を突き破って腕のようなものを伸ばす使徒

ミサト「捕獲中止、キャッチャーは破棄!」

==== 火道内 ====

アスカ「くっ!」カチッ

   捕獲器を弐号機から切り離すアスカ

==== 仮設発令所 ====

ミサト「作戦変更、使徒殲滅を最優先!――」

==== 弐号機プラグ内 ====

ミサト『――弐号機は撤収作業をしつつ戦闘準備!』

アスカ「待ってました!」

**** Omit Scene ここから ****

==== 同時刻 ネルフ本部 零号機ケージ ====

ビーーーッ

レイ「!」

   天井のスピーカーをふり仰ぐレイ

女性オペ『総員、第一種戦闘配置――』

   立ち上がるレイ

女性オペ『エヴァ零号機、発進準備』 

   エントリープラグがイジェクトされている零号機に向かって駆け出すレイ

**** Omit Scene ここまで ****

35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 11:54:36.26 ID:vK4e+EdN0
(中略)

==== 浅間山 火道内 ====

グオオオオオ…ガキッ!

   弐号機の脚部を捕える使徒

アスカ「しまった!」

==== 仮設発令所 ====

リツコ「まさか、この状況下で口を開くなんて……」

マヤ「信じられない構造です」

==== 火道内 ====

バチバチバチ…

アスカ「ううっ…くっ…」

マヤ『左足損傷!』

アスカ「耐熱処置!」

バシュッ!

  左脚をパージするアスカ

アスカ「こんちきしょーっ!!」

ガキイイイィン

  使徒にプログレッシヴナイフを突き立てる弐号機

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 同時刻 ネルフ本部 零号機プラグ内 ====

ヴォーーー…

   シートにつきインダクションレバーを握り締めているレイ

レイ「……」

レイ(私の中にはいつも、わら人形のようにぽっかりと空っぽの部分があった)

レイ(その空洞が、私をときどき怯えさせ……不安にさせる)

レイ(その部分を、碇司令を思うことで埋められるような気がしていた)

   左太腿のあたり、シート座面横の道具入れから少し覗いているメガネケース

レイ(なのに……)

   目を伏せるレイ

   開いた零号機の非常ハッチからこちらを覗き込んでいるシンジのシルエット

   火傷を冷やしていたレイから慌てて離れる赤面したシンジ

   修学旅行のしおりを差し出しているシンジ

レイ「……」

   わずかに目を開けるレイ  苦しげな表情

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 11:59:55.54 ID:vK4e+EdN0
(中略)

==== 浅間山 火道内 ====

キュオオオオオオォン…ゴボゴボゴボ…

   溶岩の中を沈んでいく使徒の死骸

   弐号機を吊っているケーブルがちぎれかけており、破断した配管から冷却液がとめどなく漏出している

バキ…バキン…

   外圧で変形していく弐号機のD型装備

   フェイスプレートに亀裂が入る

アスカ「せっかくやったのに……」

   ほとんど破断している支持ケーブル

アスカ「やだな……ここまでなの?」

ブチッ…

   破断するケーブル

   溶岩の中を沈み始める弐号機

アスカ「……」

ガキイイイイイィン!

アスカ「うっ!!」

   沈んでいくケーブルの端をすんでのところで掴む初号機の手

アスカ「……シンジ?」

   上方で初号機の双眸が光っている

アスカ「バカ……無理しちゃって……」

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 同時刻 ネルフ本部 零号機プラグ内 ====

ビーーーッ

女性オペ『状況終了』

レイ「!」

女性オペ『使徒の殲滅を確認。第2種警戒体制へ移行』

レイ「……」ドサッ

   シートにもたれかかり、大きく息を付くレイ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 12:03:36.33 ID:vK4e+EdN0
(中略)

==== 夕方 浅間山麓 温泉旅館「近江屋」 男子浴室 露天風呂 ===

シンジ「はあー、極楽極楽……」

シンジ(風呂がこんなに気持ちいいものだなんて、知らなかったなあ……)

ミサト『シンジくーん、聞こえるー?』

シンジ「は、はい!」

ミサト『ボディーシャンプー、投げてくれる?』

アスカ『持ってきたの、無くなっちゃったー』

シンジ「うん……行くよ!」

アスカ『りょーかい!』

   容器を放るシンジ

アスカ『痛っ! バカね、どこ投げてんのよ、ヘタクソ!』

シンジ「う……ごめん」

アスカ『もーお、変なとこに当てないでよね!』

ミサト『どれどれー?』

アスカ『あ、あん!』

ミサト『あー、アスカの肌って、すっごくプクプクしてて面白ーい!』

アスカ『やーだ! くすぐったいー!』

38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 12:08:20.94 ID:vK4e+EdN0
ミサト『じゃ、ここはー?』

アスカ『きゃは! そんなとこ触んないでよー!』

ミサト『いいじゃない、減るもんじゃないし』

シンジ「……」

ペンペン「?」クー…

シンジ「わぁっ!」 ドボン

  慌てて湯に沈むシンジ

シンジ「膨張してしまった……恥ずかしい……」

(中略)

**** Omit Scene ここから ****

シンジ「はあ……」チャプン…

   星が見え始めた空を見上げるシンジ

パシャン…パシャン…

   仰向けに浮いているペンペン

シンジ「……」

シンジ(綾波、何してるかな……)

パシャパシャ…

シンジ(お風呂? シャワー……)

   初めてレイの部屋を訪れたとき遭遇した裸身が思い浮かぶ

シンジ「……」

   紅くなるシンジ

ペンペン「?」クー…

   湯船に沈み込むシンジ

シンジ「……また……膨張してしまった……」ブクブクブク…

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 12:15:47.37 ID:vK4e+EdN0
**** Omit Scene ここから ****

==== 翌日 夕方 ネルフ本部 ====

ガコーーン ドドド…

収容されていく2機のエヴァ

   :
   :

==== 地上 本部前エントランス ====

   軍用車両から降り立つミサトたち

ミサト「――終わった終わったーっと。さ、二人とも帰りましょ」

アスカ「シンジ? どこ行くのよ」

  本部に入っていこうとしていたシンジが振り返る

シンジ「えっと、図書室。こないだ借りた理科の参考資料、持ってきちゃったから……」

アスカ「バカね、何やってんのよ! 置いてくわよ!」

ミサト「まあまあアスカ――」

シンジ「あ、いいですよ、ミサトさん。バスでも帰れますから――」

   困った笑みを浮かべるシンジ

ミサト「そお? 悪いわね、シンちゃん」

アスカ「フンだ! いこ、ミサト」

   :
   :

==== ネルフ本部 図書室 ====

   広大な図書室 夕暮れの赤い光に満たされている

   窓際の席に座っているレイ

レイ「……」パタン…

   表紙を閉じるレイ 表題を見る

   『The Happy Prince and Other Tales』(幸福な王子 )

   「あれ?」

   振り向くレイ

   何かの本を片手にシンジが立っている

レイ「……」

   :
   :

シンジ「――っていう感じだったんだ」

レイ「そう」

   レイの席の斜め後ろに立っているシンジ

シンジ「そっか……こっちも大変だったんだね」

レイ「……」

   シンジの顔を見上げるレイ

シンジ「……綾波?」

   俯くレイ

レイ「よかった」

シンジ「え?」

レイ「碇くんが、無事で」

40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 12:18:44.09 ID:vK4e+EdN0
シンジ「い……いやだなあ、大げさだよ、そんな――」

   首を振るレイ

レイ「正常性バイアス」

シンジ「――え?」

レイ「誰も、自分が死ぬとは本気で思わないわ。客観的にどんなに危険でも」

シンジ「……」

レイ「あの時……もしセカンドが失敗していたら……」

シンジ「……」

レイ「私が……そのあと、使徒を倒したとしても」

シンジ「……」

レイ「その時、碇くんは、もうこの世にいないかもしれないと思った」

シンジ「……」

レイ「どうしたらいいか、わからなくなった」

シンジ「え……」

レイ「碇くん」

シンジ「な、なに?」

レイ「私は……」

シンジ「……」

レイ「私は……碇くんに……そばにいてほしい」

シンジ「え……」

レイ「だから――」

シンジ「ごめん」

レイ「……」

41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/28(日) 12:21:50.95 ID:vK4e+EdN0
シンジ「ごめん。ありがとう。あの……」

レイ「……」

シンジ「僕も……綾波に、そばにいてほしい」

レイ「……」

シンジ「ご、ごめん。こんなこと――」

   赤面するシンジ

レイ「ううん」

シンジ「……」

レイ「嬉しい」

   微笑むレイ

シンジ「う、うん」

  少し困った笑みを浮かべ、頬を指先でかくシンジ

シンジ「そ、そうだ。これ――」

   鞄をさぐるシンジ

レイ「?」

シンジ「はい、これ」

レイ「なに?」

シンジ「あけてみて」

レイ「……」ガサガサ…

   草花を封入したしおりが出てくる

レイ「……」

シンジ「あ、あのさ、お土産、何がいいかなと思ったんだけど、綾波、よく本を読んでるから……だから」

レイ「ありがとう」

シンジ「……」

レイ「大切にするから」

シンジ「そっか、よかった」

  はにかんだように笑うシンジ

  先ほどまで読んでいた本を開き、しおりをはさんで閉じなおすレイ

シンジ「あの、帰る? もしそうだったら――」

  出口に向かって歩き出すシンジとレイ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第拾話 おわり)

42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/04(土) 01:58:16.98 ID:QHnd+vbz0
第拾壱話 「静止した闇の中で」

(中略)

==== 午後 第壱中学校付近 ====

**** Omit Scene ここから ****

   蝉の声

シンジ「……」

   店先の公衆電話の前

   俯き何か考えている

   「碇くん」

   振り向くシンジ  少し離れた場所にレイが立っている

レイ「本部、行かないの?」

シンジ「え?……いや、あの……」

レイ「……電話?」

シンジ「あ、うん」

   緑色の公衆電話を振り返る

シンジ「進路相談。きょう、言われただろ」

レイ「ええ」

シンジ「父さんに言わなきゃと思って」

レイ「電話で話すの?」

シンジ「……うん……でも……何て話したらいいかわからなくて」

レイ「そう」

   シンジを見ているレイ

シンジ「……」

   鞄を開き、少し厚めの本を取り出すレイ

シンジ「……?」

   自販機を挟んだ少し離れた軒先まで歩いていき日陰に入るレイ

レイ「待ってるから」

シンジ「あ……うん」

   しばしレイの様子を見て、公衆電話に向き直るシンジ

   受話器をあげ、カードを差し込む

   立ったまま本を開くレイ  押し花を封入したしおりが挟まっている   

   しおりをいったん別のページに挟み込み、本を読み始めるレイ

トゥルルルル…

   受話器を耳に当てているシンジ

**** Omit Scene ここまで ****

女性オペ『――はい、しばらくお待ちください』

   電話の向こうで流れている保留メロディ

ゲンドウ『なんだ』

シンジ「あ……」

   少し緊張して顔を上げるシンジ

*  気づかぬふうで本を読み続けているレイ

43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/04(土) 02:05:13.39 ID:QHnd+vbz0
シンジ「あ、あの……父さん――」

ゲンドウ「どうした。早く言え」

シンジ「――あ……」

*  ページをめくるレイ

シンジ「あ、あの……実は今日、学校で……」

   無意識に右手を握ったり開いたりしているシンジ

シンジ「進路相談の面接があることを……父兄に……報告しとけって……言われたんだけど……」

ゲンドウ『そういうことは全て葛城君に一任してある。くだらんことで電話をするな」

シンジ「……」

   通話にノイズが混じり始める

ゲンドウ「こんな電話をいちいち取り次ぐんじゃない――」 ブツッ…

シンジ「ん……」

**** Omit Scene ここから ****

   「どうしたの」

   レイがそばに立っている

シンジ「……切れちゃった」

   眉をひそめるレイ

レイ「司令が、切ったの?」

シンジ「うん……いや……どうなのかな……ちょっと違う感じだったんだけど……」

   受話器を置くシンジ  少し不満そうに

シンジ「ミサトさんに任せてあるって。くだらないことだって」

レイ「そう」

   ふと何かに思い当たったように、

シンジ「……綾波はどうするの?」

レイ「何が」

シンジ「進路相談」

レイ「……」

   やや表情を曇らせるレイ

シンジ「あの……もしかして、父さん――」

レイ「赤木博士に、任せてあると言われてるわ」

   俯くレイ

シンジ「そ、そう……」

   少しうろたえるシンジ

シンジ「ごめん、あの――」

レイ「行きましょう」

シンジ「う、うん……」

   歩きかけるシンジとレイ

   「こーんなとこで何やってんのよ、あんたたち」

   振り向くシンジとレイ

   アスカが歩いてくる

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/04(土) 02:12:02.66 ID:QHnd+vbz0
(中略)

==== 道路上 ====

ミーンミンミンミー…

   陽炎が立つ二車線道路の歩道

   本部に向かって歩いているアスカ  そのあとをついていくシンジとレイ

アスカ「――それは碇司令、本当に忙しかっただけじゃないの?」

シンジ「そっかなあ……途中で切ったって言うより、なんか故障した感じだったんだけど」

アスカ「もーお、男のくせに、いちいち細かいこと気にするの、やめたら?」

   やりとりを黙って見ているレイ

   :
   :

==== ネルフ本部 地上部エントランスゲート ====

   カードリーダーにIDカードを通すシンジ

   表示部が消灯したままで反応がない

シンジ「……あれ?」

   もう一度通してみるが、やはり反応がない

    :
    :

   自分のカードを通してみるレイ

   やはり反応がない  カードの表面を確かめるように見るレイ

レイ「……」

アスカ「何やってんの、ほら、代りなさいよ!」

   レイを粗っぽく押しのけるアスカ

*  不満そうにシンジの顔を見るレイ

*  レイの顔を見てため息をつくシンジ

   自分のカードを通してみるアスカ  が、やはり反応がない

アスカ「ん?」

   何度も通してみるアスカ

アスカ「もおーっ! 壊れてんじゃないの、これぇ!?」

    :
    :

45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/04(土) 02:22:38.76 ID:QHnd+vbz0
(中略)

==== エントランス ====

レイ「――だめ。連絡つかない」

   携帯電話を耳から離すレイ

アスカ「こっちもだめ。有線の非常回線も切れちゃってる」

   公衆電話の受話器を置くアスカ

シンジ「……どうしよう」

   携帯電話を耳から離してレイを見るシンジ

レイ「……」

   鞄を開け、「TOP SECRET」と書かれた手のひら大の小冊子を取り出すレイ

   読み始める

*  冊子を読むレイの様子を見るシンジ

アスカ「あ!」

   はっとして自分も取り出すアスカ

   鞄を探り出したアスカの様子を覗き込むシンジ

シンジ「……何してるの?」

アスカ「あんたバカぁ!? 緊急時のマニュアルよ!」

レイ「とにかく本部へ行きましょう」

アスカ「そ、そうね。じゃあ、行動を開始する前に、グループのリーダーを決めましょ」

   きょとんとするシンジとレイ

アスカ「で、当然私がリーダー。異議無いわね?」

   ぽかんとした顔でアスカを見るシンジとレイ

アスカ「じゃあ行きましょう!」

   手を腰に当てて振り向くアスカ

   マニュアルを一瞥するレイ

レイ「こっちの第7ルートから下に入れるわ」

   アスカと反対方向を見て言うレイ  そちらを見るシンジ

アスカ「あ……」

   ひきつった笑みを浮かべるアスカ

   :
   :

==== 非常用ハッチの前 ====

   突き当りに薄暗い通路 「R-07」と書かれたドア

シンジ「――でも、ドアは動かないんじゃ……あ……」

   ハンドル付きの開閉装置がついている

シンジ「手動ドア……」

アスカ「ほらシンジ、あんたの出番よ」

   シンジを見るレイ

   :
   :

シンジ「んっ……んんっ!!」

   全身でハンドルを回すシンジ

シンジ「こーんな時だけ……人に頼るんだもんなあ!」

46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/04(土) 02:51:45.09 ID:QHnd+vbz0
(中略)

==== 闇に包まれた通路 ====

   耳を澄ます三人

   くぐもった自動車の走行音に混じってなにか聞こえてくる

マコト 『……! ……!』 

アスカ、シンジ「日向さんだ! おぉーい!!」

   前方の闇の中  構内道路と思しき道筋を明滅しながら通り過ぎていく前照灯

マコト『使徒、接近中! 繰り返す! 現在、使徒、接近中!』

アスカ、シンジ「……使徒接近!?」

レイ「時間が惜しいわ。近道しましょう」

アスカ「リーダーは私よ。勝手に仕切らないで!」

レイ「……」

アスカ「……で、近道ってどこ?」

   :
   :

==== ダクト ====

   四つんばいになって狭いダクトを進む三人

アスカ「いくら近いからって、これじゃカッコ悪すぎるわ!」

シンジ「ねぇ、使徒って何なのかなあ……」

アスカ「何よ、こんな時に!」

シンジ「使徒……神の使い……天使の名を持つ僕らの敵……」

   シンジの後ろを進んでいるレイ   シンジの方を見る

シンジ「なんで戦うんだろ……」

アスカ「あんたバカぁ? ワケわかんない連中が攻めてきてんのよ!? 降りかかる火の粉は払いのけるのが当ったり前じゃない!」

   :
   :

==== 通路 ====

   道が左右に分かれている

アスカ「うーん……右ね!」

レイ「私は左だと思うわ」

アスカ「うるさいわねぇ! シンジはどうなのよ!?」

シンジ「あの……」

   ちらりとレイを見るシンジ

シンジ「どっちかな……」

アスカ「もう! 私がリーダーなんだから、黙ってついてくればいいのよ!」

*  さっさと歩き出すアスカ

*  不満そうにシンジを見るレイ

*  ため息をつくシンジ

   :
   :

47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/04(土) 02:53:53.25 ID:QHnd+vbz0
==== 通路 ====

シンジ「やっぱり変だよ……上り坂だよ? ここ」

アスカ「やっぱりとは何よ! いちいちうるさい男ね……あ……」

   前方に「7」と書かれたハッチ

アスカ「ほら、今度こそ間違いないわ!」

   扉を蹴り開けるアスカ

アスカ「でええええいっ!!」ガンッ!

   陽光が降り注ぐ市街地 蝉の声

アスカ「……」

ガアアアアアアアン!!

アスカ「きゃっ!!」 ドサッ

   突然、目の前の路面に巨大な物体が突き刺さり、ハッチ内に倒れこむアスカ

   1ブロック先を通り過ぎていく、目玉模様のついた黒い物体

アスカ「えっ!?」

   慌ててハッチを閉じるアスカ

アスカ「はあ……ん?」

   冷たい目でアスカを見てるシンジとレイ

アスカ「……使徒を肉眼で確認! これで急がなきゃいけないのが分かったでしょ?」

*  顔を見合わせるシンジとレイ

*  開き直って歩き出すアスカ

   :
   :

48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/04(土) 03:01:24.11 ID:QHnd+vbz0
(中略) 

  ==== 通路 ====

シンジ「まただ……」

   分岐で立ち止まっている三人

レイ「こっちよ」

   歩き出すレイ

アスカ「!」

   小走りに追うアスカ

   :
   :

   レイに続いて歩くアスカ、シンジ

アスカ「あんた、碇司令のお気に入りなんですってね」

レイ「……」

   黙って歩き続けるレイ

アスカ「やっぱ、可愛がられてる優等生は違うわね」

シンジ「こんな時に、やめようよ――」

アスカ「いつも澄まし顔でいられるしさー」

レイ「……」

アスカ「くっ……」

   歩き続けるレイの前に回り込み立ちはだかるアスカ

アスカ「あんた! ちょっと贔屓にされてるからって、なめないでよ!」

レイ「なめてなんかいないわ」

   まだレイを睨んでいるアスカ

レイ「それに、贔屓もされてない。自分で分かるもの」

*シンジ(あ……)

*   昼間のレイの様子を思い出すシンジ

  :
  :

49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/04(土) 03:11:42.14 ID:QHnd+vbz0
(中略)

==== 通路 ====

   突き当たり、R057と書かれた隔壁が損壊し、行く手がふさがっている

シンジ「これは、手じゃ開けられないよ」

レイ「仕方ないわ。ダクトを破壊して、そこから進みましょう」

   隔壁に進み出るレイ

   シンジに耳打ちするアスカ

アスカ「……ファーストって恐い子ね。目的のためには手段を選ばないタイプ――」

   瓦礫の中から黙って鉄パイプのようなものを拾い出すレイ

アスカ「――いわゆる独善者ね」

   隔壁の上方を見上げるレイ

*   黙ってレイの方へ進み出るシンジ

*   自分も道具になりそうなものを漁り出すシンジ

*アスカ「……何よもう!」

*   肩をいからせてにシンジに続き、瓦礫を漁り出すアスカ

   :
   :  

51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/04(土) 03:21:45.53 ID:QHnd+vbz0
(中略)

==== ネルフ本部 ケージ ====

シンジ「――エヴァは?」

リツコ「スタンバイできてるわ」

シンジ「え?」

   薄闇の中にたたずむ初号機を見るシンジ

シンジ「何も動かないのに?」

リツコ「人の手でね。……司令のアイディアよ」

シンジ「父さんの?」

   作業員たちとともに歯を食いしばってケーブルを引くゲンドウ

リツコ「碇司令は、あなたたちが来ることを信じて、準備してたのよ」

   作業に没頭するゲンドウを見上げているシンジ

* レイを振り返るシンジ

* 微笑むレイ

   :
   :

(中略)

==== 地上 ====

ジュワーーーー……

  縦穴に溶解液を流し込んでいる使徒


==== ネルフ本部 地上付近の立坑に通じる横穴の一つ ====

   投棄され落下するバッテリーを追うように縦穴を断続的に流れ落ちていく使徒の溶解液

   横穴に待避している3機のエヴァ

レイ「――目標は、強力な溶解液で本部に直接侵入を図るつもりね」

シンジ「どうすんの?」

アスカ「決まってるじゃない、やっつけるのよ!」

シンジ「だからどうやってだよ! ライフルは落としちゃったし、背中の電池は切れちゃったし……あと3分も動かないよ!」

ピピピピピピ……

   減っていく残時間表示

アスカ「作戦はあるわ」

   :
   :

アスカ「ここにとどまる機体がディフェンス。A.T.フィールドを中和しつつ、奴の溶解液からオフェンスを守る」

アスカ「バックアップは下降。落ちたライフルを回収し、オフェンスに渡す」

アスカ「そして、オフェンスはライフルの一斉射にて目標を破壊。これでいいわね?」

レイ「いいわ。ディフェンスは私が――」

アスカ「おあいにくさま。あたしがやるわ」

シンジ「そんな、危ないよ!」

アスカ「だからなのよ。あんたにこの前の借りを返しとかないと、気持ち悪いからね」

シンジ「……」

アスカ「シンジがオフェンス、優等生がバックアップ、いいわね?」

レイ「分かったわ」

シンジ「………うん」

52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/04(土) 03:25:27.94 ID:QHnd+vbz0
アスカ「じゃ、行くわよ! Gehen!」

   縦穴に飛び出す3機のエヴァ

   手足を突っ張って縦穴を塞ぐ弐号機

   その背中に流れ落ちる溶解液

ジュー…

アスカ「うっ……ううっ!!」

   歯を食いしばるアスカ

   スラスターを噴射して減速、縦穴の底に着地する零号機

   弐号機の下、手足を突っ張って上向を向いて機体を固定する初号機

シンジ「綾波!」

   下方に向かって手を伸ばす

*レイ「くっ……!」

*   歯を食いしばりインダクションレバーを握るレイ

   ライフルを投げ上げる零号機

   キャッチしたライフルを縦穴の上方に向けて構える初号機  

シンジ「アスカ、よけて!」

   ライフルを斉射する初号機

====  地上 ====

ズズズン…

  くずおれる使徒

==== 縦穴 ====

   落下する弐号機  受け止める初号機

アスカ「これで借りは返したわよ」

シンジ「うん」

   :
   :

53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/04(土) 03:32:19.69 ID:QHnd+vbz0
**** Omit Scene ここから ****

==== 縦穴 ====

ガシーン… ガシーン…

   縦穴をよじ登ってくる零号機

ピピピピピ…

   急速にゼロに近づく残り時間表示

シンジ「綾波、早く!」

レイ「……」

   初号機を見上げながら黙々と零号機を操るレイ

   手を伸ばす零号機

   零号機の手を掴んで、一気に横穴に引き揚げる初号機

ブヒュウウウゥン…

   ゼロを示す残時間表示

ガシャアアアアン…

   横穴の床に倒れこむ初号機 その上に覆いかぶさったまま活動停止する零号機

   青い非常灯の明かりに満たされる初号機プラグ内

シンジ「間に合った……」ハァ…ハァ…

   額の汗を拭くしぐさをするシンジ

   初号機の奥で擱座している弐号機

アスカ『まったく……何やってんのよ、見っともないわね!』

   非常灯が灯った零号機プラグ内

シンジ『綾波、大丈夫?』

   映像はなく音声だけが聞こえる

レイ「……ええ」

   青い闇の中  一瞬きょとんとし、微笑むレイ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****


54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/04(土) 03:43:03.04 ID:QHnd+vbz0
(中略)

==== 夜 市街地を見下ろす斜面の草地 ====

   眼下に、灯りが全て消えたビル群

   寝そべっているプラグスーツ姿のシンジ、アスカ
 
   膝を抱えて座っているレイ
   
シンジ「電気……人工の光が無いと、星がこんなにきれいだなんて、皮肉なもんだね」

アスカ「でも、明かりが無いと人が住んでる感じがしないわ」

   と、点々と明かりが灯って行く市街地

アスカ「――ほら! こっちのほうが落ち着くもの」

レイ「人は闇を恐れ、火を使い、闇を削って生きてきたわ」

アスカ「てっつがくぅ~!」

シンジ「だから人間って特別な生き物なのかな……だから使徒は攻めてくるのかな……」

アスカ「あんたバカぁ? そんなの、わかるわけないじゃん」

**** Omit Scene ここから ****

アスカ「さーてと。行くわよ、あんたたち」

   立ち上がるアスカ

   身を起こすシンジ  まだ座ったままのレイ

   街に向かって斜面を下り始めるアスカ

シンジ「行こ」

   レイを振り返るシンジ

シンジ「……ん?」

   くぐもったエンジン音に続いてブレーキ音

   斜面の上方を振り仰ぐ三人  ドアの開閉音

ミサト「みんなー、無事ー?」

   斜面の上方から降ってくるミサトの叫び声

   上方の道路に車両が止まっている  傍らにミサトらしきシルエット 手を振っている

アスカ「……よくここがわかったわね」

   目をしばたたくアスカ

レイ「救難信号」

シンジ「え?」

   片手に携帯電話を持っているレイ パイロットランプが音もなく明滅している

アスカ「あ……あんたにしては気が利くじゃない」

シンジ、レイ「……」

アスカ「ほら、行くわよ!」

   斜面を登り始めるアスカ

   ぽかんとアスカの後姿を見ているシンジとレイ

   不満そうにシンジを見るレイ  困った笑みを浮かべるシンジ

   立ち上がり、アスカの後を追って斜面を登り始めるシンジとレイ

**** Omit Scene ここまで ****

   夜空

   ビル群の明りにかき消されがちな星の光

「(第拾壱話 おわり)」

56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/14(火) 00:33:45.67 ID:n6INX21K0
**** Omit Scene ここから ****

==== 数時間後 ネルフ本部 自販機コーナー ====

ピッ…ゴトッ

   自販機の取り出し口に落ちてくるパック飲料

   それを取り出すシンジの手

プシュッ

   スポーツ飲料のパックにストローを刺すシンジの手

シンジ「……」

   S-DATのイヤフォンをしたシンジ  学校の制服姿

   ベンチに腰を下ろし、ストローを口に運ぶ

   「帰らないの?」

   振り返るシンジ

   制服を着て鞄を手にしたレイが立っている

シンジ「ミサトさんを待ってるんだけど……」

   イヤフォンを耳からはずすシンジ

シンジ「アスカが、リツコさんに捕まってるから――」

   ケージ  吊り降ろされる弐号機

   背中の装甲が部分的に融解している

   作業通路でその様子を見ているアスカ、ミサト、リツコ、マヤ

   プラグスーツ姿のアスカが身振りを交えてリツコに何か訴えている

   腰に手を当てて聞いているリツコ

   バインダを胸に抱えてリツコの後ろからアスカの様子を見ているマヤ

   弁明するように言いつのっている風のアスカ

   アスカの後ろ、腕を組んで考えている風のミサト

レイ「――そう」

シンジ「うん……そうだ、綾波も乗せてってもらったら? もう遅いし……」

レイ「……」

  シンジの方を見ているレイ

シンジ「ミサトさんに頼んでみるけど」

レイ「……わかった」

シンジ「うん」

   微笑むシンジ

   傍らに置いてあった鞄をどかすシンジ

   空いた場所に腰掛けるレイ  鞄から本を取り出そうとする

   シンジがS-DATのデッキを鞄の脇に置こうとするのに目をとめるレイ

シンジ「……なに?」

レイ「それ、いつも聞いているのね」

シンジ「え?……ああ、これ」

   手を止めるシンジ

レイ「何を聞いているの?」

シンジ「うーんと……いろいろ。歌とか、クラシックとか――」

レイ「クラシック?」

シンジ「あ、うん、……チェロの曲が多いかな。習ってたから――」

57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/14(火) 00:36:39.28 ID:n6INX21K0
レイ「……聞いてみたい」

シンジ「これ?」

   イヤフォンを持ち上げてみせるシンジ

   うなづくレイ

シンジ「そ、そう……」

   イヤフォンのケーブルをほどいてレイに渡すシンジ

   両耳にはめるレイ

   再生ボタンを押すシンジ  動き出すテープ

レイ「……」

シンジ「……」

レイ「……何ていう曲?」

シンジ「え? えーと……」

レイ「……」

   イヤフォンをはずして差し出すレイ

   耳に当てるシンジ

シンジ「ああ、無伴奏チェロ組曲だよ、バッハの――」

レイ「碇くんも、弾くの?」

シンジ「えっ?……う、うん、いちおう――」

レイ「聞いてみたい」

シンジ「えっ?」

レイ「……」

シンジ「い、いや全然、僕のは人に聞かせるような――」

レイ「……」

シンジ「……じゃ、じゃあ、そのうち――」

レイ「そう」

シンジ「う、うん」

  ヘッドフォンをはずしてレイに渡そうとするシンジ

レイ「一緒には、聴けないの?」

シンジ「えっ?」

レイ「……」

   右手と左手にそれぞれもったイヤフォンを眺めているシンジ

   :
   :

   ベンチに並んで座っているシンジとレイ

   二人の間に置かれているS-DATプレイヤー  テープが回っている

   イヤフォンを片方ずつ、互いに近いほうの耳に挿しているシンジとレイ

   少し紅くなりながらストローで飲料をすすっているシンジ

   ちらりと隣を見る

   姿勢よく座り、目を閉じて聞き入っているレイ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第拾壱話 おわり)

60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 04:08:06.87 ID:jff3U5Ce0
第拾弐話 「奇跡の価値は」

(中略)

==== テストプラグ管制室 ====

   窓の向こうに半ばLCLに浸かった3本のエントリープラグ

リツコ「――シンジ君、よくやったわ」

シンジ「何がですか?」

リツコ「ハーモニクスが前回より8も伸びているわ。たいした数字よ」

アスカ「でも、あたしより50も少ないじゃん」

リツコ「あら、10日で8よ。たいしたものだわ」

アスカ「たいしたことないわよ!」

   リツコにくってかかるアスカ プラグスーツ姿

   その後ろで聞いているプラグスーツ姿のシンジ、レイ

アスカ「良かったわねぇ、お褒めの言葉を頂いて」

   シンジを振り返って皮肉交じりに笑って言うアスカ

シンジ「あ……あは…」

アスカ「先に帰るわ! バーカ!」

   言い捨てて立ち去るアスカ  それを目で追うシンジ

*  足音高く管制室を出ていくアスカの後姿   閉まる自動ドア

*  ふと、レイが自分を見ているのに気づくシンジ

*  ため息をつくシンジ

   :
   :

==== 夜 ミサトの自家用車の中 ====

   ラジオから聞こえてくるパーソナリティのトーク

   運転するミサトの横顔をおそるおそる窺うシンジ

シンジ「あ、あの……昇進、おめでとうございます」

ミサト「ありがとう。でも、正直、あまり嬉しくないのよね」

シンジ「あ、それ分かります。僕もさっきみたいに誉められても、あまり嬉しくないし……逆にアスカを怒らせるだけだし……」

ミサト「……」

シンジ「どうして怒ったんだろう……何が悪かったんだろう……」

ミサト「さっきの、気になる?」

シンジ「はい」

ミサト「そうして、人の顔色ばかり気にしているからよ」

   :
   :

61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 04:16:54.09 ID:jff3U5Ce0
==== 夜 ミサトのマンション ====

   玄関のドア

   「御昇進おめでとう 祝賀会場 本日貸切」と貼り紙

子供たち「おめでとうございまーす!」

   乾杯する一同  座卓を囲んでいる

ミサト「ありがとう!……ありがとう、鈴原くん」

トウジ「ちゃうちゃう、言い出しっぺはこいつですねん」

ケンスケ「そう! 企画立案はこの相田ケンスケ、相田ケンスケです!」

   芝居がかって直立するケンスケ

ミサト「ありがとう、相田くん」

   ミサトの隣、俯き気味に黙って会話を聞いているシンジ

ケンスケ「いえ、礼を言われるほどのことは何も。当然のことですよ!」

トウジ「せやけど、なんで委員長がここにおるんや?」

アスカ「私が誘ったのよ」

アスカ、ヒカリ「ねー!」

ミサト「レイは?」

アスカ「誘ったわよ、ちゃんと。でも、付き合い悪いのよね、あの子」

シンジ「……」

* ==== レイの部屋 ====

*   明かりが消え、月光が射し込んでいる

*   チェストの上、内服薬の紙袋  少しはみ出している錠剤の包装シート

*   ベッドに腰掛けているレイ  何か指につまんでいる

*     :
*     :

アスカ「んー、加持さん遅いわねー」

ヒカリ「そんなにかっこいいの、加持さんって?」

アスカ「そりゃあもう! ここにいるイモのかたまりとは月とスッポン、比べるだけ加持さんに申し訳ないわ!」

トウジ「なんやてぇ!? もういっぺん言うてみいや!!」

   口論をはじめるアスカとトウジ

ミサト「……まだだめなの? こういうの?」

シンジ「いえ……ただ、苦手なんです。人が多いのって……なんでわざわざ、大騒ぎしなきゃならないんだろう」

   ミサトの横顔を窺うシンジ

シンジ「昇進ですか……それって、ミサトさんが人に認められたってことですよね?」

ミサト「ま、そうなるわね」

シンジ「だから、みんなこうして喜んでいるわけですよね……でも、嬉しくないんですか?」

ミサト「ぜんぜん嬉しくないってことはないのよ。少しはあるわ……でもそれが、ここにいる目的じゃないから」

シンジ「じゃあなんでここに……ネルフに入ったんですか?」

ミサト「さて……昔のことなんて忘れちゃった」

   ビール缶をすこし振ってみるミサト  わずかに残ったビールが音を立てる

シンジ「……」

156: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/09(水) 21:56:32.88 ID:wbxFf2Ue0
 

加持「――いや、この度はおめでとうございます、葛城三佐……これからはタメ口聞けなくなったな」

ミサト「何言ってんのよ、バーカ」

加持「しかし、司令と副司令がそろって日本を離れるなんて、前例のなかったことだ。これも、留守を任せた葛城を信頼してるってことさ」

シンジ「父さん、ここにいないんですか?」

リツコ「碇司令は今、南極に行ってるわ」

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 2日後 夕方 レイのマンション ====

   レジャーシートの上、折り畳み式の小さなテーブル

   学校からの配布物らしい紙が載っている

シンジ「――綾波も、来られたらよかったのに」

   テーブルの脇、クッションに座っているシンジ

レイ「いいの」

   テーブルから少し離れたところ ベッドに腰掛けているレイ

   プラスチック製のカップを両手で持っている

レイ「そういうの、あまり好きじゃないから」

シンジ「そう……そうだよね……」

   自嘲するように笑うシンジ

シンジ「南極……何で、南極なんかに行ってるんだろ、父さん」

レイ「……」

   俯いているシンジを見るレイ

   顔を上げてレイを見るシンジ

シンジ「そうだ、綾波は知ってる? ミサトさんの、お父さんのこと」

レイ「葛城博士?」

   頷くシンジ

レイ「知らない」

   カップの中 揺れる液面を見るシンジ

シンジ「聞いたんだ、ゆうべ。ミサトさんの、お父さんは――」

   シンジを見ているレイ

   :
   :

**** Omit Scenre ここまで ****
 

63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 04:31:17.69 ID:jff3U5Ce0
(中略)

==== 翌日 ネルフ本部 発令所 ====

   コンソールからミサトを振り返るマコト

マコト「二分前に、突然現れました」

ピピピピピ……

  主モニターに映し出される軌道図

女性オペ『第6サーチ、衛星軌道上へ』

男性オペ『接触まで、あと2分』

シゲル「目標を映像で捕捉」

ブイン…

   主モニターいっぱいに映し出される宇宙空間の使徒の映像

   沸き起こるどよめき

マコト「こりゃすごい!」

ミサト「常識を疑うわね」

   :
   :

(中略)

==== ネルフ本部 ブリーフィングルーム ====

アスカ「えーっ!? 手で、受け止める!?」

ミサト「そう。落下予測地点にエヴァを配置、A.T.フィールド最大で、あなたたちが直接、

使徒を受け止めるのよ」

シンジ「使徒がコースを大きく外れたら…?」

ミサト「その時はアウト」

アスカ「機体が衝撃に耐えられなかったら?」

ミサト「その時もアウトね」

シンジ「勝算は?」

ミサト「神のみぞ知る、と言ったところかしら」

   :
   :

64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 04:33:27.90 ID:jff3U5Ce0
(中略)

ミサト「すまないわね……終わったらみんなにステーキおごるから」

アスカ「ええっ!? ほんと!?」

ミサト「約束する」

シンジ「わあい!」

アスカ「忘れないでよ!」

ミサト「期待してて」

   立ち去るミサト

シンジ「……ごちそうと言えばステーキで決まりか」

アスカ「今時の子供がステーキで喜ぶと思ってんのかしら? これだからセカンドインパクト世代って、貧乏くさいのよね」

シンジ「仕方がないよ、そんなの」

アスカ「ふん! 何が『わあい』よ。大げさに喜んだりしちゃってさ!」

シンジ「それでミサトさんが気持ちよく指揮できるんなら、いいじゃないか」

アスカ「さてと、せっかくご馳走してくれるって言うんだもの。ど・こ・に・し・よ・う・か・なっと」

   「東京グルメMAP」と表紙に書かれたガイドブックらしい冊子を開くアスカ

アスカ「――あんたも今度はいっしょに来るのよ」

レイ「私、行かない」

シンジ「どうして?」

レイ「肉、嫌いだもの」

シンジ「……」

*   少し驚いた顔でレイを見るシンジ

   :
   :

65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 04:35:40.74 ID:jff3U5Ce0
(中略)

==== ネルフ本部 エレベーター内 ====

   ケージに向かって上昇していくエレベーター内

   プラグスーツ姿で佇むアスカ、シンジ、レイ

   金網のドアの向こうを立坑内の明かりが通り過ぎていく

シンジ「ねえ」

アスカ「何よ」

シンジ「アスカは、なぜエヴァに乗ってるの?」

アスカ「決まってるじゃない、自分の才能を世の中に示すためよ」

シンジ「自分の存在を?」

アスカ「ま、似たようなもんね……あの子には聞かないの?」

   意地悪そうに笑ってレイの方を見るアスカ

   レイの方を見るシンジ レイの斜め後ろの横顔

シンジ「綾波には、前、聞いたんだ」

アスカ「ふーん……仲のおよろしいこと」

シンジ「……そんなんじゃないよ」

*アスカ「……」

*   黙って立っているシンジの横顔

*   やはり黙って立っているレイの斜め後ろ姿

*アスカ「……はん! どうだか!」

*   腕を組んでそっぽを向くアスカ

*シンジ「……」

*   向き直るアスカ

アスカ「シンジはどうなのよ」

シンジ「わからない」

アスカ「わからないって……あんた、バカぁ?」

シンジ「そうかもしれない」

   俯くシンジ

アスカ「……ほんとにバカね」

   立て坑の側壁が切れ金網の向こうに開けるケージの風景

   立ち並ぶ零号機、初号機、弐号機   

   :
   :

66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 04:42:12.32 ID:jff3U5Ce0
==== 昼 とある谷合 ====

   水力発電所のような建造物の手前に待機している初号機

==== 初号機プラグ内 ====

   シートについているシンジ

シンジ「……」

   シンジ回想

   夕暮れ 新第三東京市の都心を見下ろす高台 

ミサト『シンジくん、昨日聞いてたわね。私がどうしてネルフへ入ったのか』

シンジ『……』

ミサト『私の父はね、自分の研究、夢の中に生きる人だったわ。そんな父を許せなかった。憎んでさえいたわ』

シンジ『!』

シンジ(父さんと同じだ……)

(中略)

ミサト『――結局、私はただ、父への復讐を果たしたいだけなのかもしれない……父の呪縛から逃れるために』

   シンジの脳裏によみがえるゲンドウの威圧的な面影、泣いている幼い自分

   初めてネルフ本部を訪れた日

   ギュッと目をつぶるシンジ

シンジ(逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ!)

*  シンジの腕の中、歯を食いしばってうめくレイ

   フラッシュバックする、それ以降の困難に直面した場面の数々

------
----
--

シンジ「そう……逃げちゃだめだ」


==== 発令所 ====

シゲル「目標を最大望遠で確認!」

マコト「距離、およそ2万5千!」

   主モニターに映し出される使徒のシルエット

ミサト「おいでなすったわね……エヴァ全機、スタート位置!」

   クラウチングスタートの姿勢をとるエヴァ各機

   :
   :

67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 04:46:54.74 ID:jff3U5Ce0
(中略)

==== 新第三東京市近郊の山稜 ====

   受け止めた使徒を必死で支える初号機

シンジ「うっ、ぐぁぁ……」

   地面にめり込む初号機の足

   走る零号機と弐号機

レイ「弐号機、フィールド全開!」

アスカ「やってるわよ!」

   落下地点にたどりつき使徒を支える零号機と弐号機

シンジ「今だ!」

   歯を食いしばるレイ

   使徒のA.T.フィールドをナイフで切り開く零号機

アスカ「こんのおおおおおぉっ!」

   目玉状のコアをナイフで突き刺す弐号機

   くずおれる使徒

   大爆発

   残された爆発クレーター

   :
   :   

==== 発令所 ====

   制服姿で立っているレイ、シンジ、アスカ

アスカ「ふふーん!」

   腰に手を当て、得意げに笑うアスカ

シゲル「電波システム、回復。南極の碇司令から、通信が入っています」

ミサト「お繋ぎして」

シゲル「はい」

   スクリーンに現れる「音声 SOUND ONLY」のウィンドウ

ミサト「申し訳ありません。私の勝手な判断で初号機を破損してしまいました。責任はすべて、私にあります。」

冬月『構わん。使徒殲滅がエヴァの使命だ。その程度の被害はむしろ幸運と言える』

ゲンドウ『ああ。よくやってくれた、葛城三佐』

ミサト「ありがとうございます。」

ゲンドウ『ところで、初号機のパイロットはいるか』

シンジ「あ、はい」

   驚いてウィンドウを見るシンジ

ゲンドウ『話は聞いた。よくやったな、シンジ』

シンジ「え?……はい」

   あっけにとられるシンジ

ゲンドウ『では葛城三佐、後の処理は任せる』

ミサト「はい」

   まだ呆然とウィンドウを見ているシンジ

* レイ「……」

*   シンジの右隣、目でシンジの横顔をうかがっているレイ

   :
   :

68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 04:48:50.13 ID:jff3U5Ce0
==== 夜 新第参東京市街 ====

   とあるラーメン屋台の前に佇むレイ、シンジ、アスカ、ミサト

アスカ「ミサトの財布の中身くらい、わかってるわ」

   あっけにとられているミサト

アスカ「無理しなくていいわよ。優等生もラーメンなら付き合うって言うしさ」

レイ「私、ニンニクラーメンチャーシュー抜き」

アスカ「私はフカヒレチャーシュー。大盛りね!」

   微笑むミサト

   :
   :

   差し出されるラーメンの椀

店員「へい、フカヒレチャーシュー、お待ち!」

   屋台の席についているレイ、アスカ、ミサト、シンジの後姿

   流れている流行歌  通過する列車の響き

シンジ「ねえ……ミサトさん」

ミサト「なあに?」

シンジ「さっき、父さんの言葉を聞いて、誉められることが嬉しいって、初めて分かったような気がする」

   箸を止めているミサトの横顔

   その向こうで食事を続けているレイ

シンジ「それに、わかったんだ。僕は、父さんのさっきの言葉を聞きたくて、エヴァに乗ってるのかもしれないって」

ミサト「……」

アスカ「あんた、そんなことで乗ってんの?」

   噛みながら割り込むアスカ

   微笑んでいるシンジの横顔

アスカ「……ほんとにバカね」

*   食事を続けているレイの横顔

   :
   :

69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 04:56:03.36 ID:jff3U5Ce0
**** Omit Scene ここから ****

   屋台の赤ちょうちん

ミサト「ごちそうさま」

アスカ「ごっちそーさまっ!」

シンジ「ごちそうさま……」

店員「まいどありい!」

   :
   :

==== 駅前の交差点 ====

   鳴り響くクラクション ほとんど動かない車列

   赤が点灯している歩行者用信号

アスカ「もう!」

   信号待ちをしている人混み

アスカ「まったく、何とかならないの、これぇ?」

   人並みの先頭で大げさに身振りするアスカ

ミサト「仕方ないわよ」

   斜め後ろの人混みに立つミサト 困ったように笑って言う

   ミサトの少し後ろ  ワイシャツ姿の男性の後ろに立っているシンジの横顔

   はっと顔を上げるシンジ

   シンジの薬指と小指をゆるく握っているレイの手

シンジ「……」

   斜め後ろを振り返るシンジ

   真顔で正面を見ているレイ

レイ「よかったわね」

   ぽかんとするシンジ  やがて微笑んで

シンジ「……うん」

   前を向き直るシンジ しばらくしてつぶやくシンジ

シンジ「綾波も、来れてよかった」

   シンジの斜め後ろの横顔を見ているレイ

   またレイを振り返るシンジ 微笑んでいる

   しばらくして微笑むレイ

   青に変わる歩行者用信号

   動き出す人並み  依然として動かない車列

   明るい駅舎の向こう、夜空に聳えるビル群のシルエット その縁で明滅する赤い航空障害灯

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第拾弐話 おわり)

70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/02(日) 23:40:41.64 ID:P/0Saxbj0
第拾参話「使徒、侵入」

(中略)

==== ネルフ本部 模擬体管制室 ====

リツコ「――また水漏れ?」

マヤ「いえ、浸蝕だそうです。この上のタンパク壁」

リツコ「まいったわね……テストに支障は?」

マヤ「いまのところは、何も」

リツコ「では続けて。このテストはおいそれと中断するわけにいかないわ……碇司令もうるさいし」

マヤ「了解」

   管制室全景  前方に模擬体の収められた水槽

   窓際に立つリツコとミサトの後姿

   その奥、多数のパイプを埋め込まれたエヴァ模擬体が吊られている

マヤ「シンクロ位置、正常」

男性オペ「シミュレーションプラグを模擬体経由でエヴァ本体と接続します」

男性オペ「エヴァ零号機、コンタクト確認」

   モニタ上、零号機の状態表示

   ステータス表示が高速でスクロールしていく

女性オペ「A.T.フィールド、出力2ヨクトで発生します」

==== 零号機ケージ ====

シュオオオオオオン…

   立位で固定されている零号機

   なにかが作動する音

==== 第87タンパク壁 ====

   壁面材の継ぎ目にカビのような青黒い染みが広がっている

   と、染みがにわかにまだら状の赤い光を帯びる

==== 模擬体管制室 ====

   鳴り響く警報  赤く明滅する「ALART」の表示

リツコ「どうしたの!?」

女性オペ『シグマユニットAフロアに、汚染警報発令』

男性オペ「第87タンパク壁が劣化、発熱しています」

男性オペ「第6パイプにも、異常発生」

マヤ「タンパク壁の浸蝕部が、増殖しています。爆発的スピードです!」

リツコ「実験中止、第6パイプを緊急閉鎖!」

マヤ「はい!」

   「全閉鎖」ボタンを押下するマヤの指

   上部に並ぶ7つのトグルスイッチが一度にオフになる

==== 配管スペース ====

   次々に閉鎖される隔壁

71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/02(日) 23:44:34.82 ID:P/0Saxbj0
==== 模擬体管制室 ====

男性オペ「60、38、39、閉鎖されました!」 

男性オペ「6の42に浸蝕発生!」 

マヤ「だめです、浸蝕は壁伝いに進行しています!」

リツコ「ポリソーム、用意!」

   水槽の内壁が開いて水中ドローンが送り込まれる

リツコ「レーザー、出力最大!侵入と同時に、発射!」

   No.6とマーキングされた配管に向かって数機のドローンが近づいていく

ピピピピピ…

マヤ「浸蝕部、6の58に到達――」

   モニタ上、右上から赤色の標示が左下に向かって広がり、「PRIBNOW BOX」と書かれた領域を取り囲む3枚の隔壁に接触する

マヤ「――来ます!」

   模擬体の水槽内を凝視する一同

リツコ、ミサト「……」   

   過ぎてゆく時間

レイ『きゃああああああああっ!』

リツコ「レイ!?」

*シンジ『綾波!?』

*アスカ『な、なに!? どうしたの!?』

*==== 零号機プラグ内 ====

*レイ「く……」

*‘   右腕を押さえて顔をゆがめているレイ

*シンジ『綾波!? 大丈夫!? 綾波!』

ガシイイイイイィン!

   模擬体の右手のひらが、不随意に背面の壁に叩きつけられる

==== 模擬体管制室 ====

マヤ「レイの模擬体が、動いています!」

リツコ「まさか!」

   マヤのコンソールに駆け寄るリツコ

   水槽内、壁に背をつけるように並んだ3体の模擬体

   一番手前の模擬体が拘束を解こうとするように腕を背後の壁面に突っ張る

マヤ「浸蝕部、さらに拡大!」

   No.6と書かれた配管の外壁に急速に黒ずんだ染みが広がっていく

マヤ「模擬体の下垂システムを侵しています!」

ギギギギギ…

   水槽の中、模擬体が観測窓の方を向かって状態をよじる

   せりあがってくる右腕を厳しい表情で見下ろしているミサト

72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/02(日) 23:49:38.10 ID:P/0Saxbj0
グオオオオオオォ

   観測窓に掴みかかろうとする模擬体の右手

   コンソールの一角、「FORCED SHUTDOWN」と書かれた緊急スイッチのカバーガラスを拳で叩き割り、内部の赤いレバーを掴み一気に引き上げるミサト

   模擬体の右肩が爆破され、右腕が切り離される

*レイ『きゃあっ!!』

*   右肩を押さえて悲鳴を上げるレイ

*シンジ『綾波!』

   ミサトのいる観測窓に向かって惰性で飛んでくる右腕

   観測窓に激突、反動で漂い戻っていく

ミサト「レイは!?」

マヤ「無事です!」

*   プラグ内、右肩を押さえて両目をぎゅっとつぶって歯を食いしばっているレイ

リツコ「全プラグを緊急射出! レーザー、急いで!」

   3体の模擬体の頸部から一斉に上方に射出されるシミュレーションプラグ

*レイ『うっ!』

*シンジ『うわっ!!』

*アスカ『きゃっ!』

   シミュレーションプラグ通過後、天井の隔壁が閉じる

   No.6の配管とレイの乗っていた模擬体に向け、ドローンから一斉に赤色のレーザーが照射される

   と、多角形状の光の壁が展開され、レーザーが反射される

ミサト「A.T.フィールド!?」

リツコ「まさか!」

   水槽中を漂っていた模擬体の右腕、続いて模擬体本体の表面に赤色の

光の染みが広がっていく

ミサト「なに……これ……」

リツコ「分析パターン、青。間違いなく、使徒よ」

   鳴り響く警報

   明滅する「非常事態」「EMERGENCY」の表示

   :
   :

73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/02(日) 23:54:03.05 ID:P/0Saxbj0
(中略)
==== ネルフ本部 発令所 ====

自動音声『――自爆装置作動まで、あと15秒』

   両手を顔の前に組んで席についているゲンドウ

   モニタ上、「CASPER・3」と書かれた領域が白から赤に急速にモザイク状に塗りつぶされていく

==== マギシステム カスパー筐体内部 ====

ミサト「リツコ、急いで!」

リツコ「大丈夫、1秒近く余裕があるわ」

   膝に乗せた端末のキーボードを猛然と叩きながら応じるリツコ

自動音声『自爆装置作動まで、10秒――』

ミサト「1秒って!」

自動音声『9秒、8秒、7秒――』

リツコ「ゼロやマイナスじゃないのよ」

   モニタ上、カスパー状態表示の左下にわずかに残された白い領域が赤く塗りつぶされていく

自動音声『6秒、5秒――』

リツコ「マヤ!」

マヤ「行けます!」

自動音声『4秒、3秒――』

リツコ「押して!」

自動音声『2秒、1秒、0秒――』

一同「……」

   固唾をのんで推移をみている一同

   モニタ上、カスパー状態表示の左下の1ブロック残った白色が明滅している

   と、そこから白色が一気に全体に広がり、モード表示が「審議中」から「否決」に切り替わる

自動音声『人工知能により、自律自爆が解除されました』

シゲル、マコト「やったあーー!」

   筐体から這い出してくるミサト  安堵の声を上げるミサトとマヤ

自動音声『なお、特例582も解除されました。マギシステム、通常モードに戻ります』

リツコ「はぁ……」

   筐体内、安堵の息をつくリツコ   

   :
   :

74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/02(日) 23:55:26.92 ID:P/0Saxbj0
==== ジオフロント 地底湖 ====

   湖面に3本のシミュレーションプラグが浮かんでいる

女性オペ『R警報解除。R警報解除――』

==== シンジ用プラグ内 ====

女性オペ『総員、第一種警戒態勢に移行してください――』

シンジ「何がどうなっているんだろう……」

==== レイ用プラグ内 ====

レイ「……」

==== アスカ用プラグ内 ====

アスカ「もおー! 裸じゃどこにも出れないじゃないのー!」

==== 地底湖俯瞰 ====

アスカ『早く誰かたすけてえー!』

**** Omit Scene ここから ****

==== シンジ用プラグ内 ====

   通信ウィンドウが開いている  「SOUND ONLY」の表示

シンジ「あはは……」

シンジ(そうだよな、裸じゃ……)

シンジ(……裸……)

   シンジの脳内

   バスタオルを首から下げただけのレイの裸身が振り返る

シンジ「……」

   床に横たわっているレイが冷たく見つめ返している

シンジ「……」

   無意識に開閉するシンジの左手


75: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/02(日) 23:56:23.67 ID:P/0Saxbj0
レイ 『碇くん』

シンジ「えっ?」

   声が裏返っているシンジ

   側面に通信ウィンドウが開いている  「SOUND ONLY」 と表示

レイ『どうしたの?』

シンジ「えっ!? あ……えっと、あの……」

   膝を引き寄せて丸くなり、真っ赤になって答えるシンジ

==== レイ用プラグ内 ====

   側面に通信ウィンドウが開いている  「SOUND ONLY」の表示

シンジ『――な、なんでもないよ!!』

レイ「……そう」

シンジ『う、うん!』

   新たに通信ウィンドウが開く  「SOUND ONLY」の表示

アスカ『あーっ! イヤらしいこと考えてたわね!』

シンジ『えっ!?』

レイ「……」

   きょとんとした表情のレイ

==== 地底湖俯瞰 ====

   浮いている三本のシミュレーションプラグ

アスカ『――●●●! バカ! ヘ   !!』

シンジ『ち、ちがうよ! 違うってば!』

   続くシンジとアスカの言い争い

    :
    :


**** Omit Scene おわり ****

76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/03(月) 00:01:25.33 ID:DLvDJQSV0
==== ネルフ本部 発令所 ====

   床からせりあがり基部の複雑な配管が露出しているマギ=カスパーの筐体

   その傍ら、シートに腰掛け、コーヒーカップの液面を見つめているリツコ

   操作卓に腰を預けて立ち、リツコを見下ろしているミサト  片手にコーヒーカップ

リツコ「――私は母親にはなれそうも無いから、母としての母さんは分からないわ。だけど、科学者としてのあの人は尊敬もしていた。……でもね、女としては憎んでさえいたの」

   両手で包んだカップのコーヒーをあおるリツコ

ミサト「今日はお喋りじゃない」

リツコ「たまにはね」

グオオオオオン…

   床に向かって沈んでいくカスパーの筐体

リツコ「カスパーにはね、女としてのパターンがインプットされていたの。最後まで女でいることを守ったのね、ほんと、母さんらしいわ」

   立ち上がるリツコ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 模擬体管制室 ====

リツコ「――以上が、今回の事故のあらましよ」

   観測窓を背に立つリツコ

   背後の水槽内、何人ものダイバーが破損した模擬体の修復作業に従事している

   リツコの前に立っているアスカ、その左に立つシンジ、レイ  学校の制服姿

   彼らの背後、操作卓のカバーを開け、オペレーターたちが何か作業をしている

リツコ「質問は?」

アスカ「結局、手抜き工事が原因ってこと?」

リツコ「手抜き工事じゃないわ。施工不良よ」

   リツコの傍ら、少し居心地が悪そうにバインダを胸に抱えて立っているマヤ

   目だけでちらりとリツコの表情を覗う

アスカ「どっちだっていいわよ! 何やってんのよ、もう! こっちは体張ってるのにー!」

   観測窓に向かって悪態をつくアスカ

77: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/03(月) 00:20:03.89 ID:DLvDJQSV0
   子供たちの背後、壁に背を預けて厳しい表情で腕組みをしているミサト

ミサト(そう……あの子たちの命に関わる事態だったのに……)

   眉をひそめるミサト

ミサト(委員会はともかく、司令はなぜ、あの子たちにまで事実を伏せようとするのかしら……)

シンジ「あの……テストは、もうやらないんですか?」

リツコ「いいえ。模擬体を含め、システムの修復が済み次第、再テストということになるわね」

アスカ「えーーーっ!? 乗る前のあれをもう一回やれって言うの!?」

リツコ「そうよ。もっとも、次のテストがいつできるようになるか、今の段階では何とも言えないけど」

   まだリツコにくってかかっているアスカ

   その様子をぼんやりと聞いているシンジ

   ふと左隣のレイの様子を振り返る

   関節を試すように右腕を少し動かすレイ

シンジ「痛いの?」

   小声で聞くシンジ

レイ「少し、違和感があるだけ」

シンジ「リツコさんには言ったの?」

レイ「ええ」

シンジ「そっか」

   また少し腕を動かすレイ

   制服の半袖がすこしずり上がり、白い二の腕が半分ほど露わになる

シンジ「……」

レイ「……なに?」

シンジ「えっ?」

   真顔でシンジを見ているレイ

シンジ「べっ……別に……」

   少し赤くなって前を向くシンジ

レイ「……」

   しばしシンジの横顔を見てから、リツコとアスカのやりとりに注意をもどすレイ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第拾参話 おわり)

78: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/10(月) 15:22:23.26 ID:YIYxGk++0
第拾四話 「ゼーレ、魂の座」

(中略)

レイ(――山。重い山。時間をかけて変わるもの)

レイ(空。青い空。目に見えないもの。目に見えるもの)

レイ(太陽。一つしかないもの)

レイ(水。気持ちのいいこと)

レイ(碇司令?)

レイ(花。同じ物がいっぱい……いらないものもいっぱい)

レイ(空。赤い、赤い空)

レイ(赤い色。赤い色は嫌い)

レイ(流れる水。血)

レイ(血の匂い。血を流さない女)

レイ(赤い土から作られた人間、男と女から作られた人間)

レイ(街。人の作り出したもの)

レイ(エヴァ。人の作り出したもの)

レイ(人は何? 神様が作り出したもの。人は人が作り出したもの)

レイ(私にあるものは命。心。心の入れ物)

レイ(エントリープラグ。それは魂の座)

レイ(これは誰? これは私)

レイ(私は誰? 私は何? 私は何? 私は何? 私は何?)

レイ(私は自分。この物体が自分。自分を作っている形。目に見える私)

レイ(でも、私が私でない感じ。とても変。体が融けていく感じ)

レイ(私が分からなくなる。私の形が消えていく。私でない人を感じる)

レイ(誰かいるの? この先に……)

レイ(碇くん)

*レイ(……かけがえのない人)

*レイ(あの人を思うと、とても不思議。不思議な気持ちになる)

*レイ(ずっと一緒にいたような感じ。私が私になる前から)

*レイ(どうして? あの人を見ると、心が動く)

レイ(この人知ってる。葛城三佐)

レイ(赤木博士……みんな……クラスメイト……弐号機パイロット)

レイ(……碇司令)

レイ(あなた誰? あなた誰? あなた誰?――)

   :
   :

レイ「……」ハッ…

==== 初号機プラグ内 ====

ヴォーーーー

リツコ『どう? レイ。初めて乗った初号機は」

レイ「……碇くんの匂いがする」

79: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/10(月) 15:23:29.55 ID:YIYxGk++0
==== 管制室 ====

ピピピピピ…

リツコ「シンクロ率は、ほぼ零号機のときと変わらないわね」

マヤ「パーソナルパターンも酷似してますからね。零号機と初号機」

リツコ「だからこそ、シンクロ可能なのよ」

   二人のやりとりを腕組みして聞いているミサト

マヤ「誤差、プラスマイナス0.03。ハーモニクスは正常です」

リツコ「レイと初号機の互換性に問題点は検出されず」

==== 初号機プラグ内 ====

リツコ『では、テスト終了。レイ、あがっていいわよ』

レイ「はい」

   周囲の光景が消え、ただの金属の壁面に戻る

   :
   :

(中略)

==== 零号機ケージ ====

マヤ『エントリー、スタートしました』

==== 零号機プラグ内 ====

女性オペ『L.C.L.電化』

マヤ『第一次接続開始』

リツコ『どう?シンジ君。零号機のエントリープラグは』

シンジ「なんだか、変な気分です」

マヤ『違和感があるのかしら?』

シンジ「いえ、ただ―」

==== 弐号機プラグ内 ====

シンジ『――綾波の匂いがする……』

アスカ「なーにが匂いよ! 変 じゃないの?」

   ひとりごちるアスカ

   :
   :


80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/10(月) 15:24:08.17 ID:YIYxGk++0
(中略)

==== 管制室 ====

ミサト「どう?」

リツコ「やはり初号機ほどのシンクロ率は、出ないわね」

マヤ「ハーモニクス、すべて正常位置」

リツコ「でもいい数値だわ。これであの計画、遂行できるわね」

マヤ「ダミーシステムですか?先輩の前ですけど、私はあまり…」

リツコ「感心しないのは分かるわ。しかし備えは常に必要なのよ。人が生きていく

ためにはね」

マヤ「先輩を尊敬してますし、自分の仕事はします。でも、納得はできません」

リツコ「潔癖症はね、辛いわよ。人の間で生きていくのが」

マヤ「……」

リツコ「汚れた、と感じたとき分かるわ。それが」

マヤ「……」

   顔をしかめるマヤ

==== 零号機ケージ ====

   拘留されている零号機

女性オペ『第3次接続を開始』

ググググ…

   顔を上げる零号機

81: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/10(月) 15:26:25.45 ID:YIYxGk++0
(中略)

==== 零号機プラグ内 ====

リツコ『――A10神経接続開始』

マヤ『ハーモニクスレベル、プラス20』

シンジ『!?』ハッ!…

   目を見開くシンジ

シンジ(何だこれ!?)

   額を押さえるシンジ

シンジ(頭に入ってくる……直接……何か……)

   細切れに想起されるイメージ

   レイの顔

   病室から去っていくレイ

   包帯を巻いている制服姿のレイ

   点滴を挿されストレッチャーに横たわっているプラグスーツ姿のレイ

シンジ(綾波?)

   レイのマンション、床に横たわりシンジを見返しているレイ

   校庭で座っている体操着姿のレイの後姿

   停電したネルフ本部内、拾い上げた金属のパイプを持ち、天井が崩落し塞がれた通路を見つめるレイ

   プラグスーツ姿で佇むレイ

   レイのマンション、ブラウスを着るレイの後姿

   零号機ケージ、ゲンドウに微笑んで受け答えするレイの横顔

   頭に包帯を巻き顔をしかめるレイ

   包帯を巻かれストレッチャーで運ばれていく入院着のレイ

   レイのマンション  バスタオルを首から下げてこちらを睨んでいるレイ

シンジ(綾波レイ?)

   シンジの頬を叩くレイ

   プラグスーツ姿で佇むレイの静かな横顔

   初号機の前面、閃光をバックにシールドを掲げている零号機の後姿

   シンジが踏み込んだ零号機プラグ内、苦しげに眼を開くレイ

   二子山仮設ケージ  月光を背景に佇むレイ

   *ネルフ本部の図書室  夕刻のオレンジ色の陽光を背に振り返る制服姿のレイ

   *レイのマンション  山盛りに紅茶葉をすくったスプーンをシンジに見せるレイ

   *商店の軒先、シンジが贈ったしおりが挟まれた本を鞄から取り出すレイ

   *駅前の人ごみ   振り返ったシンジに微笑み返すレイ

シンジ(綾波レイだよな、この感じ……)

   電線から飛び立つスズメたち

   道路の先、陽炎の中に佇む制服姿のレイ

   それを見つめているシンジ

   道路の先、誰もいない   

シンジ「綾波……違うのか!?」

   レイのイメージが急速にシンジに迫る

82: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/10(月) 15:28:43.09 ID:YIYxGk++0
==== 零号機ケージ ====

   突如動き出す零号機

   拘束具を引きちぎろうとする

==== 管制室 ====

ミサト「どうしたの!?」

男性オペ「パイロットの神経パルスに異常発生」

マヤ「精神汚染が始まっています!」

リツコ「まさか!このプラグ深度ではありえないわ!」

マヤ「プラグではありません、エヴァからの侵蝕です!」

==== 零号機ケージ ====

   拘束具を壁から引きちぎる零号機

マヤ「零号機、制御不能!」

==== 管制室 ====

リツコ「全回路遮断、電源カット!」

==== 零号機ケージ ====

   零号機背面のソケットがロケット噴射で遠ざかる

   頭をかかえてもがく零号機

マヤ『エヴァ、予備電源に切り替わりました』

男性オペ『依然稼働中』

   管制室の観測窓ににじり寄っていく零号機

   観測窓の中央にプラグスーツ姿で佇んでいるレイ

==== 管制室 ====

ミサト「シンジ君は?」

マコト「回路断線、モニターできません!」

リツコ「零号機がシンジ君を拒絶!?」

マヤ「だめです、オートエジェクション、作動しません!」

リツコ「また同じなの!? あの時と……シンジ君を取り込むつもり!?」

   レイが立っている観測窓に拳を叩きこむ零号機

   割れて管制室内に飛び散る観測窓の破片

ミサト「レイ、下がって! レイ!」

   窓際に立ち厳しい表情で正面を見ているレイ

*レイ(碇くん……なぜ?)

==== 零号機ケージ ====

マヤ『零号機、活動停止まで、あと10、9、8、7――」

   頭部をケージ壁面に叩きつける零号機

マヤ『6、5、4、3、2、1、ゼロ!」

ギュウウウウウゥン…

   不自然な姿勢で停止する零号機

マヤ『零号機、活動を停止しました』

==== 管制室 ====

ミサト「パイロットの救出急いで!」

ミサト(まさか、レイを殺そうとしたの? 零号機が!)

83: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/10(月) 15:30:19.31 ID:YIYxGk++0
**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 病室 ====

   ベッドに寝かされているシンジ

   少し眉をひそめた表情のまま眠っている

   ベッドの傍ら  椅子に座り本を読んでいるレイ  学校の制服姿

**** Omit Scene ここまで ****

==== 会議室 ====

ミサト「この事件、先の暴走事故と関係があるの? あのレイのときと」

リツコ「今はまだ何も言えないわ。ただ、データをレイに戻して、早急に零号機との追試、シンクロテストが必要ね」

ミサト「作戦課長として、可及的速やかにお願いするわ。仕事に支障が出ないうちにね」

リツコ「分かっているわ。葛城三佐」

   退室するミサト   残されるリツコ

リツコ(零号機が殴りたかったのは私ね……間違いなく)


==== 病室 ====

シンジ「……」ハッ…

   目を覚ますシンジ  半身を起こす

ラジオ音声『それでは、次の万国びっくりさんは、なんと! 算数のできるワンちゃんの登場です!……』

   また仰向けに横たわるシンジ

シンジ「嫌だな……またこの天井だ」

==== 発令所 ====

   受話器をコンソールに置くマコト

マコト「シンジ君の意識が戻りました。汚染の後遺症はなし。彼自身は何も覚えてないそうです」

ミサト「そう……」


==== 夜 ミサトのマンション ====

   不機嫌そうな顔で自室のベッドに仰向けに寝転んでいるアスカ

ラジオの音声『はーい、私は元気にやってんだけど、世間では南沙諸島をめぐ

ってのテロが――』

アスカ(ミサトも加持さんも教えてくれない。シンジは知りもしない)

アスカ「ファーストって、どんな子なの?」

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 朝  新第三東京市立第壱中学校 ====

   校舎外観

キーンコーンカーンコーン…

教師「あー綾波……綾波はまた休みか。……まあいい」

   教室内   レイのいない席を後ろからぼんやり見ているシンジ

   :
   :

84: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/10(月) 15:33:19.08 ID:YIYxGk++0
==== 午後 レイのマンション ====

   レイの部屋の前

   ドアをノックしようと拳を上げるシンジ  ふと通路の向こうを振り返る

シンジ「あ……」

   制服姿で手ぶらのレイが立っている

   歩いてくるレイ

   破顔するシンジ

シンジ「ちょうどよかった――」

   鞄から学校の配布物らしき紙を取り出すシンジ

シンジ「はい、これ」

   受け取るレイ

レイ「……」

シンジ「な、なに?」

レイ「ボタン」

シンジ「え?」

   自分の胸元を見るシンジ

   ワイシャツのボタンの一つが取れかかってぶらぶらしている

シンジ「あれ? ほんとだ、おかしいな――」

   シンジの脇をすり抜けてドアを開けるレイ

レイ「上がって」

   部屋に入っていくレイ

シンジ「――え?……あ、あの……」

   続くシンジ

レイ「直すから」

   室内、チェストを開け中を探っているレイ

シンジ「え?」

   学校教材らしき裁縫道具箱を手に振り返るレイ

シンジ「って……これ?」

   シャツの胸元、ぶら下がっているボタンをつまむシンジ

シンジ「い、いいよ!……悪いし――」

レイ「脱いで」

シンジ「いや、あの……」

   箱を開け、道具を取り出しているレイ

シンジ「あ……綾波、裁縫、できるの?」

レイ「教科書で、読んだもの」

   赤面し、ばつが悪そうにレイを見るシンジ

   一番上のボタンに指をかける

   :
   :

85: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/10(月) 15:35:41.26 ID:YIYxGk++0
   部屋の中央の椅子に所在無げに腰かけているシンジ  Tシャツ姿

   ベッドに背筋を伸ばして腰掛け、シンジのシャツを繕っているレイ
   
   ふと、手を止め、シャツを鼻先に持ち上げる

シンジ「あ!……汗臭いよ!?」

レイ「……」

   少し考えてから作業を再開するレイ

レイ「……っ……」

   顔をしかめるレイ

シンジ「どうしたの!?」

   腰を浮かすシンジ

   シャツの下になっていた指を出すレイ

   先端に小さい血の球

シンジ「絆創膏! 絆創膏、どこ!?」

   :
   :

   ベッドに腰を掛けているレイ

   その指に絆創膏を巻いてやっているシンジ  真剣な表情

   少し頬を赤らめて大人しく手当されているレイ

   :
   :

レイ「――できた」

   シャツを広げるレイの手  さらに何枚か絆創膏が増えている

シンジ「あ……ありがとう」

   腰を浮かせるシンジ

   シャツを持って歩み寄るレイ

   受け取ろうとするシンジ

   シンジの目の前で何か確かめようと視線を宙に彷徨わせるレイ

シンジ「ん?」

   そのまま顔を寄せてくるレイ

シンジ「な……なに?」

レイ「……碇くんの匂いがする」

シンジ「え?」

   目を閉じてシンジの体臭を確かめようとしているレイ

   紅くなっているシンジ  目と鼻の先にレイの青い髪

   鼻の穴が少し広がる   
 
   ためらいがちにシンジの両腕がもちあがり、レイの背に廻りかける

   目を開くレイ

シンジ「!」

   ぱっとシンジの体側にもどる両腕


86: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/10(月) 15:37:02.45 ID:YIYxGk++0
レイ「……なに?」

   少し怪訝に体側を見るレイ

シンジ「いっ……いや! その……」

レイ「……」

シンジ「あっ……綾波の……匂いが、する……」

   気を付けの姿勢で固まっているシンジ

レイ「……」

   不思議そうにシンジの顔を見るレイ

   :
   :

   ベッドに腰掛けているレイ

   紅茶の入ったグラスが汗をかいている  液面に氷が浮いている

シンジ「――ねえ」

   椅子に腰かけ、手の中のグラスを見ているシンジ

レイ「なに」

シンジ「綾波の母さんって……どんな人?」

レイ「……いない」

シンジ「えっ?」

レイ「いないわ」

シンジ「ご……ごめん。知らなかったから」

レイ「構わないわ」

シンジ「……」

レイ「……」

シンジ「……あの……お父さんは――」

レイ「いない」

シンジ「――そ、そう……」

レイ「……」

シンジ「えっと……事故……か何かで?」

レイ「わからない」

   少し眉根を寄せるレイ

シンジ「……覚えてないの?」

レイ「いいえ、知らないの」

   俯いているレイ

シンジ「知らない……って……」

   怪訝な顔をするシンジ

レイ「私が知っているのは、碇司令と、ネルフ本部だけ」


87: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/10(月) 15:39:14.23 ID:YIYxGk++0
シンジ「父さん?」

レイ「それと、赤木博士」

シンジ「……ごめん」

レイ「なぜ、謝るの」

シンジ「だって……僕、綾波のこと、何もわかってなかった」

レイ「でも、知ろうとしたわ」

シンジ「あ……当り前だよ!」

   驚いた顔をするレイ

   少し怒ったような、困ったような表情のシンジ

レイ「……」

   微笑むレイ   

   :
   :

==== 夕暮れ 新第参東京市街を見下ろす山腹 ====

   駐車場に止められた青いルノー

   運転席についているミサト      

男の声『――サードチルドレンは、ファーストチルドレンの自宅を出ました』

ミサト「そう」

   襟のマイクに向かって答えるミサト

男の声『その都度、報告が必要ですか?』

ミサト「……」

   少し考えるミサト

ミサト「いいえ……必要ないわ」

男の声『了解しました』ブツッ

   市街地を見下ろすミサト

ミサト(あの部屋は、諜報部の監視も及ばない)

   わずかに眉をひそめるミサト

ミサト(碇司令は、何をしようとしているの?……あの子たちを使って)

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

==== ネルフ本部 司令執務室 ====

   桂馬を将棋盤に指す冬月の指

冬月「予定外の使徒侵入……その事実を知った人類補完委員会による突き上げか。ただ文句を言うことだけが仕事の、くだらない連中だがな」

ゲンドウ「切り札はすべてこちらが擁している。彼らは何もできんよ」

冬月「だからといってじらすこともあるまい。今、ゼーレが乗り出すと面倒だぞ。いろいろとな」

ゲンドウ「すべて、われわれのシナリオ通りだ。問題ない」

冬月「零号機の事故はどうなんだ? 俺のシナリオにはないぞ、あれは」

ゲンドウ「支障はない。レイと零号機の再シンクロは成功している」

冬月(レイにこだわり過ぎだな、碇……)

冬月「アダム計画はどうなんだ?」

ゲンドウ「順調だ。2パーセントも遅れていない」

冬月「では、ロンギヌスの槍は?」

ゲンドウ「予定通りだ。作業はレイが行っている」

88: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/10(月) 15:41:53.17 ID:YIYxGk++0
==== ターミナルドグマ ====

ズシン…ズシン…

レイ「……」

   右腕にロンギヌスの槍を携え、水平の坑道を奥に進んでいく零号機   

**** Omit Scene ここから ****

==== 司令執務室 ====

冬月「常に血で濡らされたロンギヌスの槍……」

ゲンドウ「神を殺し、また神を生む力をもった槍……事は我々のシナリオどおりだよ」


==== ターミナルドグマ リリスの間 ====

   磔にされたリリスに向き合う零号機

   片手にはロンギヌスの槍

レイ(私……ためらってる)

レイ(なぜ? どうして? この槍を刺すだけでいいのに)

   リリスの仮面を見ているレイ

レイ「……」

   表情を引き締めるレイ

   リリスの心臓のあたりに槍を突き刺す零号機

   :
   :


**** Omit Scene ここまで ****

(第拾四話 おわり)

91: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/17(月) 00:40:55.64 ID:RqOiZdQp0
第拾伍話 「嘘と沈黙」

(中略)

==== 午後 新第三東京市立第壱中学校 2年A組教室 ====

レイ「……」

   床に膝をついて雑巾を絞るレイ

   水を張ったバケツに水が滴り落ちる

シンジ「……」

   その様子に見とれているシンジ

トウジ「メーン!!」パシッ…

シンジ「っ!……」

   シンジの頭にふいに打ち下ろされるホウキ

「まじめにやらんかい!」

   構えているトウジ

シンジ「ごめん……」

ヒカリ「まじめにやるのは、掃除でしょ!」

   廊下から戻ってきてトウジに怒鳴るヒカリ

   :
   :

(中略)

==== 放課後 ネルフ本部 実験場管制室 ====

ピピピピ…

   窓の向こう、半ばL.C.Lに浸かっている3本のテストプラグ

リツコ「――三人とも、あがっていいわよ」

==== 初号機プラグ内 ====

ヴォーーーー…

シンジ「……」

   目を開くシンジ


リツコ『お疲れさま』

アスカ『あーあ、テストばっかでつまんなーい!』

シンジ「……」

   右隣のプラグの方、レイの横顔を映した通信ウインドウを見るシンジ

   プラグ内壁モニタが切れ、ウインドウと風景が消え、灰色の壁面に戻る


==== 管制室 ====

リツコ「そう言えば、今日はまた一段と暗いわね、シンジくん」

ミサト「……明日だからね」

リツコ「そうね。明日ね……」

   :
   :

92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/17(月) 00:48:46.82 ID:RqOiZdQp0
==== ネルフ本部 エレベーター内 ====

カチン…カチン…

   切り替わっていく階数表示

   ドアの前に立つレイ

   その後ろ、壁際に立つシンジ

*シンジ「綾波」

*レイ「なに」

*シンジ「綾波は……父さんとはいつもどんな話してるの?」

*レイ「どうして」

シンジ「明日、父さんに会わなきゃならないんだ。何話せばいいと思う?」

レイ「どうして私にそんなこと聞くの」

シンジ「いつか、綾波が父さんと楽しそうに話ているのを見たから……」

   零号機のアンビリカルブリッジ上、会話しているゲンドウとレイの横顔がシンジの脳裏によみがえる

シンジ「ねえ、父さんって……どんな人?」

   レイの後姿に問うシンジ

*   口を開きかけるレイ

レイ「……わからない」

シンジ「……そう」

   俯くシンジ

*レイ「怖いの? 碇司令と会うのが」

*シンジ「……よく、わからない」

*レイ「この前、ほめてもらえて、嬉しかったんじゃなかったの?」

*シンジ「うん……でも……」

*レイ「……」

*シンジ「あのあと、口聞いてないし……結局、何も変わってないっていうか……」

*ゲンドウ『帰れ!』

*   シンジの脳裏をよぎるゲンドウの威圧的な姿

*レイ「……」

*シンジ「僕には、父さんが何を考えているかわからなくて……話して何か変わるかどうか、わからないけど……」

*レイ「……」

*   顔を上げるシンジ

*シンジ「嫌なんだ……こんな気持ちのまま、エヴァに乗ってるのは……」

*  俯くシンジ

*レイ「なら、そう言えば」

*シンジ「……え?」

*  顔を上げるシンジ

*  レイがこちらを振り返り、静かに見つめ返している


93: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/17(月) 00:50:27.70 ID:RqOiZdQp0
*レイ「思ってる本当のこと、碇司令に言えばいいのよ」

*   驚いた顔でレイを見るシンジ

*レイ「そうしないと、何も始まらないわ」

*シンジ「……」

*レイ「……なに?」

*シンジ「うん。その……そうだね」

*   少し困った笑みを浮かべるシンジ

*レイ「……」

*シンジ「綾波の言うとおりだと、思う」

*レイ「……」

*   少し俯き、ドアに向き直るレイ

*レイ「……外でこんなに話すなんて、初めて」

*シンジ「えっ?」

*レイ「今日は、碇くん、すごくおしゃべりみたい」

*シンジ「あ……ご、ごめん……」

レイ「それが聞きたくて昼間から私のほうを見てたの?」

シンジ「うん……」

レイ「……」

シンジ「あ、掃除のときさ、今日の……雑巾絞ってたろ? あれって、なんか『お母さん』って感じがした」

レイ「お母さん?」

   わずかにシンジの方に顔を向けるレイ

シンジ「うん……」

   昼間のレイの様子を思い浮かべるシンジ

シンジ「なんか、お母さんの絞り方、って感じがする」

   シンジに背を向けたまま赤面しているレイ

シンジ「案外、綾波って主婦とかが似合ってたりして。はは……」

*   赤面しているレイの横顔

レイ「何を言うのよ……」

   :
   :


94: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/17(月) 00:52:24.98 ID:RqOiZdQp0
==== 夜 ミサトのマンション リビング ====

テレビ音声『――なによ……あの時別れようって言ったのは、あなたの方じゃない!!――』

   寝転んでテレビドラマを見ているアスカ

ミサト「ただいまー」

アスカ「おかえりー」

   入ってくるミサトの足

ミサト「もう寝なさいよー。明日デートなんじゃなかったの?」

アスカ「そ、美形と。あ、そうだ」

   起き上がるアスカ

アスカ「ねえ、あれ貸してよ。ラベンダーの香水」

ミサト「だめ」

アスカ「ちぇっ、ケチぃ!」

   奥の部屋で着替えているミサト

ミサト「子供のするもんじゃないわ。……シンジくんは部屋?」

アスカ「こもりっぱなしよ。父親に会うのがイヤみたい。嫌なら嫌って言えばいいのに、日本人てのはねー!」

   また寝転ぶアスカ

ミサト「嫌、っていうわけでもないのよ。……それが問題なのよね……」

   :
   :

==== シンジの部屋 ====

   ベッドに仰向けに寝転んでいるシンジの足

   見上げた天井の灯具をぼんやり見つめているシンジ

   思い浮かぶゲンドウの様々な姿

ゲンドウ『帰れ!』

シンジ「……」

   開いたエレベーターの扉の向こうから威圧的に見下ろすゲンドウ

   停電したケージで作業員とともにワイヤーを引くゲンドウ

シンジ「……」

ゲンドウ『よくやったな、シンジ』

   SOUND ONLYの通信ウィンドウ越しに聞こえるゲンドウの声

   それを聞いているシンジとレイ

*レイ『思ってる本当のこと、碇司令に言えばいいのよ』

*シンジ「……」

*シンジ(思ってる本当のこと……か……)

ミサト「シンジくん?」

シンジ「!」

   目を見開くシンジ

ミサト「開けるわよ」

   開く襖

   壁の方を向き、ミサトに背を向けて横たわっているシンジ

ミサト「恐いの? お父さんと二人で会うのが」

シンジ「……」

95: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/17(月) 00:57:15.96 ID:RqOiZdQp0
ミサト「逃げてばかりじゃだめよ。自分から一歩を踏み出さないと、何も変わらないわ」

*   はっと目を開けるシンジ

*レイ『そうしないと、何も始まらないわ』

シンジ「分かってるよ……」

   壁を向いたまま不満げに応じるシンジ

ミサト「これから分かるのよ。最初の一歩だけじゃなく、その後に続けることも大切だっていうことが」

シンジ「……」

ミサト「とにかく、明日は胸を張っていきなさい。お母さんにも会うんだから。……じゃ、お休み」

   閉じる襖

   目をギュッと閉じたままうつ伏せになり枕に顔をうずめるシンジ

   :
   :

(中略)

==== 翌日 午後 共同墓地 ====

   緩やかに起伏する大地

   見渡す限りつづく質素な墓標の群れ

   佇むシンジ

   ユリの花束を抱え、墓標の一つの前に立っている

   「IKARI YUI 1977-2004」と刻まれている

ゲンドウ「3年ぶりだな。2人でここに来るのは」

   シンジの後ろに立っているゲンドウ

シンジ「僕は、あの時逃げ出して、その後は来てない。ここに母さんが眠ってるって、ピンと来ないんだ。顔も覚えてないのに」

   墓標の前に跪き、花束を供えているシンジ

ゲンドウ「人は思い出を忘れる事で生きていける。だが、決して忘れてはならない事もある」

シンジ「……」

ゲンドウ「ユイはそのかけがえのないものを教えてくれた。私はその確認をするためにここへ来ている」

   立ち上がるシンジ

シンジ「写真とか無いの?」

ゲンドウ「残ってはいない。この墓もただの飾りだ。遺体はない」

シンジ「先生の言ってたとおり、全部捨てちゃったんだね」

ゲンドウ「すべては心の中だ。今はそれでいい」

シンジ「……」

   :
   :

96: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/17(月) 01:00:15.83 ID:RqOiZdQp0
キイイイイイイイィン…

   降下してくるネルフのVTOL機

ゲンドウ「時間だ。先に帰るぞ」

   振り返りゲンドウに相対するシンジ

   踵を返し、着地しかけているVTOLに向かって歩き始めるシンジ

   VTOLの窓際、レイが座っているのがわかる

*   シンジの方を見ているレイ  瞬きをひとつする

シンジ「父さん!」

   振り返るゲンドウ

シンジ「あの!……今日は、嬉しかった。父さんと話せて」

ゲンドウ「……そうか」

   :
   :

ドオオオオオオォ…

   飛び去っていくVTOL

   見上げているシンジ  しばらくして踵を返し歩み去る

   :
   :

==== 夕暮れ ミサトのマンション ====

   聞こえてくるチェロの音

   バッハ 無伴奏チェロ組曲

   ダイニングの椅子に腰かけチェロを奏でているシンジの後姿

ペンペン「……」クゥーー…

   自分のベッドで寝ているペンペン

   最後の長音を弾き終えるシンジ

   背後から聞こえてくる拍手

シンジ「ん……」

   振り返るシンジ

   戸口に私服姿のアスカが立っている

アスカ「結構いけるじゃなーい。そんなの持ってたの」

シンジ「5歳のときから始めてこの程度だからね……才能なんて別にないよ」

アスカ「継続は力、か。少し見直しちゃった」

シンジ「先生に言われて始めたことだし、すぐやめてもよかったんだ」

アスカ「じゃあ、なんで続けてたのよ」

シンジ「誰もやめろ、って言わなかったから……」

アスカ「やっぱりね」

   シンジの脇をすり抜け、リビングに寝転がるアスカ

シンジ「早かったんだね。夕飯、食べてくるんだと思った」

アスカ「退屈なんだもん、あの子。だからさ、ジェットコースター待ってるあいだに、帰ってきちゃった」

シンジ「それはないと思うな……」

   リビングに大の字になっているアスカ

アスカ「あーあ! まともな男は加持さんだけね」

   屋外から聞こえる救急車のサイレンの音

97: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/17(月) 01:13:25.71 ID:RqOiZdQp0
*シンジ「……」

*アスカ「さてと……よっ! ……と」

*   弾みをつけて起き上がるアスカ

*アスカ「着替えてこーようっと」

*    自室に向かうアスカ

*シンジ「……」

*   見るともなしに見送るシンジ

*   向き直り、床にかがむシンジ

*   床に置かれたS-DATのデッキ  テープが回っている

*   ボタンを押すシンジの手 テープの回転が止まる

*   拾い上げるシンジの手

*   イヤフォンを耳にはめて何か操作しているシンジ

*   しばらく何かの操作をしたあと、イヤフォンをはずし、またデッキを床に置くシンジ

*   デッキを何か操作したあと、弓を構え、またチェロの演奏を始める

   :
   :

(中略)

==== 夜 ミサトのマンション ダイニング ====

   受話器を耳に当てているシンジ

シンジ「――はい……はい……じゃ」ピッ…

   電話を切るシンジ

   奥から髪をタオルで拭きながら入ってくるアスカ

アスカ「ミサト?」

シンジ「うん。遅くなるから先に寝ててって」

アスカ「ええっ!! 朝帰り……って事じゃ、ないでしょうね!?」

シンジ「まさか。加持さんも一緒なのに」

アスカ「あんたバカァ!? だからでしょ!」

   :
   :

(中略)

==== 夜の路上 ====

ミサト「――あの時だって、加持君を利用してただけかもしれない! 嫌になるわ!」

   泣きじゃくるミサト

加持「もういい! やめろ!」

ミサト「自分に絶望するわよ!……んっ……」

   ミサトの肩をつかみ、唇をふさぐ加持

   ミサトの手から滑り落ちるハイヒール

   ためらいがちに加持の体側にそえられ、また垂れ下がるミサトの手

   :
   :

98: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/17(月) 01:19:33.16 ID:RqOiZdQp0
==== ミサトのマンション ダイニング ====

*   リビングとの境の戸口 柱に背を預けて床に座っているシンジ

*   イヤフォンをはめ、膝に乗せた雑誌をめくっている

*   開かれている音楽誌

*   めくったページに付箋を貼るシンジの手

*   ステージ上、楽団をバックに正装した演奏家がチェロを構えている写真

*   手前にいると思われる指揮者を見つめている

*   さらにページをめくるシンジ

   テーブルに突っ伏して指で天板をこつこつと叩いているアスカ

アスカ「ねえシンジ……キスしようか」

シンジ「え? なに?」

   耳からイヤフォンを外しながら聞きかえすシンジ  イヤフォンから漏れ出す音楽

   手前の暗いリビングで寝入っているペンペン

アスカ「キスよ、キス。した事ないでしょ?」

シンジ「うん……」

   怪訝な顔で応えるシンジ

アスカ「じゃあ、しよう」

   テーブルから身を起こすアスカ

シンジ「え……」

   息を呑んで後ずさるシンジ

シンジ「……どうして!?」

アスカ「退屈だからよ」

シンジ「退屈だから……って、そんな!」

   赤面して俯くシンジ

   意地悪い笑みを浮かべるアスカ

アスカ「お母さんの命日に、女の子とキスするの嫌? 天国から見てるかもしれないからって」

シンジ「……別に」

   憮然とするシンジ

アスカ「それとも、恐い?」

シンジ「恐かないよ! ……キスくらい」

   立ち上がるシンジ

アスカ「歯、磨いてるわよね」

   立ち上がるアスカ

シンジ「うん……」

アスカ「じゃ、行くわよ」

   歩み寄るアスカ

   近づく顔と顔

   ふと止まるアスカの動き

   目を開けるシンジ

99: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/17(月) 01:23:14.01 ID:RqOiZdQp0
アスカ「鼻息こそばゆいから、息しないで」

シンジ「あ……っ!?」

   シンジの鼻をつまんで一気に唇を押し付けるアスカ

   首筋まで紅くなるシンジ

   固まったまま動かないシンジとアスカ

   シンジとアスカの間を関心なげにすり抜けて自室に入っていくペンペン

   紅くなり、やがて青ざめるシンジの手

シンジ「ぶはっ!!………はあああっ……」

   後ろに跳びすさり、大きく呼吸をつくシンジ

アスカ「……っ……」ダダダッ…

   洗面所に駆けこむアスカ

   聞こえてくるうがいの音

アスカ「うっえーっ! やっぱ暇つぶしにやるもんじゃないわ!」

   続いて聞こえてくるうがいの音

   戸口にぽつねんとたたずむシンジ

*   シンジの足元   広げられたままの音楽誌とS-DATデッキ

   :
   :

==== ミサトのマンション 玄関 ====

プシュー…

   開く玄関ドア

加持「ほら、着いたぞ。 しっかりしろ!」

   自力歩行できないミサトに肩を貸して入ってくる加持

シンジ「加持さん」

   ダイニングから玄関に顔をのぞかせるシンジ

アスカ「えーっ!」

   飛び出してくるアスカ

アスカ「あ、加持さん!」

   :
   :

  自室の布団にうつ伏せに横たわり寝息を立てているミサト

  閉まる襖

加持「――じゃあ、俺は帰るから」

アスカ「加持さんも泊まっていけば?」

加持「この格好で出勤したら、笑われちゃうよ」

   着崩れた礼服の襟をつかんで見せる加持

アスカ「えー?」

   玄関に向かう加持に追いすがるアスカ

アスカ「大丈夫よ! ねえ、加持さんってばあ!」

加持「ハハ……またな」

   加持の腕にまとわりついていたアスカ  何かに気付きはっとして立ち止まる

   そのまま歩み去る加持

   眉をひそめるアスカ

アスカ「……ラベンダーの香りがする」

100: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/17(月) 01:28:37.85 ID:RqOiZdQp0
==== 玄関先 ====

加持「すまないが二人とも、葛城のこと頼んだぞ」

シンジ「はい」

加持「じゃ、おやすみ」

シンジ「おやすみなさい」

   立ち去る加持  閉まるドア

ピッ…

   ロックをかけるシンジ  先ほどからリビングの戸口に立ったままのアスカに気付く

シンジ「どうしたの? 元気ないね」

   我に返るアスカ

アスカ「あんたとキスなんかしたからよっ!!」

   自室へ走り去るアスカ

シンジ「……」

   唖然として見送るシンジ

   :
   :

==== 翌朝 第一中学校 2年A組 教室 ====

教師「えー、では、続いて女子。綾波……」

教師「お?……綾波は、今日も休みか?」

シンジ「……」

   頬杖をついてレイの空席を見つめるシンジ

   その背後の席、不機嫌そうに学習用端末の画面を見ているアスカ



==== その頃 ネルフ本部 大深度地下施設中央部 セントラルドグマ ====

シュオー…ドクン…ドクン…

   天井を占める脳を思わせる配管

   そこから続く脊髄のような配管から床につながっている透明な円柱

   内部に満たされた液体に浸かっている裸身のレイ 目を閉じている

   その様子をフロアで見ているゲンドウ

   目を開けるレイ  微かに笑みを浮かべているようにも見える

   微笑むゲンドウ

   佇むゲンドウの後姿

**** Omit Scene ここから ****

   踵を返し歩み去るゲンドウ

レイ(やっぱり……)

   表情を曇らせるレイ

レイ(私のことを気遣ってくれているようでも、本当は他の人のことを思っている)

   L.C.Lに揺れているレイの髪

レイ(何も始まっていないのは、私の方だわ……)

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

101: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/17(月) 01:36:03.14 ID:RqOiZdQp0
(中略)

**** Omit scene ここから ****

==== 夕方 レイの部屋 ==== 

   折り畳みテーブルの上

   紅茶のカップが二つと学校からの配布物、付箋の張られた音楽誌が置かれている

   ベッドに並んで腰掛けているシンジとレイ

   互いに近いほうの耳にイヤフォンをひとつずつ挿している

   間に置かれているS-DATデッキのテープが回っている

   少し赤面して座っているシンジ

   かすかにチェロの音色が漏れている

   隣のレイの様子をちらりと窺う

   姿勢よく座り目を閉じて聞き入っているレイ

シンジ「あ……あの……」
  
レイ「なに?」

   目を閉じたまま聞き返すレイ

シンジ「綾波は……その……」

   赤くなって正面を見ているシンジ

   膝においた手を無意識に握ったり開いたりしている

シンジ「キ……キス!……したこと……ある?」

   目を開くレイ  正面を見たまま

レイ「ないわ」

シンジ「じゃ、じゃあ……してみる?」

レイ「……」

   シンジの顔を見るレイ

レイ「どうして」

シンジ「どうして……って……ことは、ないんだけど……その……」

レイ「……」

シンジ「あの……怖く……ない?」

レイ「怖くないわ」

   見つめ返しているレイ

シンジ「じゃ、じゃあ、いくよ?」

   赤面したまま顔を引き締めるシンジ

レイ「ええ」

   近づいていくシンジの顔

シンジ「あ……あの……」

レイ「なに」

シンジ「目……つぶってくれる?」

レイ「……」

   目を閉じるレイ

   ふたたび近づくシンジの顔

   少し躊躇し、やがてレイの唇に触れるシンジの唇

102: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/17(月) 01:40:25.54 ID:RqOiZdQp0
   鳴り響いている重機の音

   顔を離すシンジとレイ

シンジ「……」

レイ「……」

   シンジを見ているレイ

   紅くなって見つめ返しているシンジ

   ゆらりとシンジの肩に額を預けるレイ

   驚くシンジ

シンジ「あ、綾波!?」

レイ「……体に、力が入らない」

   細い声で言うレイ

シンジ「えっ?」

レイ「もう少し、このまま」

   目を閉じているレイ  頬が少し紅い

シンジ「……」

   紅くなって目だけで自分の肩にかかるレイの青い髪を見下ろすシンジ

レイ「……どうして、こういうこと、するの?」

   目を閉じたままシンジの肩でつぶやくレイ

シンジ「えっ?」

   わずかに目を開くレイ

レイ「セカンドに、言われたの?」

シンジ「えっ!?……い、いや……あの……」

レイ「セカンドと、したの?」

シンジ「!」

   言葉につまるシンジ

   ゆっくりと身を起こし、シンジの目を見つめるレイ

シンジ「きゅ、急に聞かれて!……僕も、あの……ムキになってたって言うか……その――」
   
レイ「もう、しない?」

   真顔で問うレイ

シンジ「しっ……」

レイ「……」

   赤くなってレイの顔を見るシンジ

   少し汗をかいている

シンジ「……しない」

レイ「そう」

   シンジを見つめる赤い瞳

   見つめ返しているシンジの瞳

   瞳に写っているレイの顔

   :
   :

106: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/23(日) 23:20:11.23 ID:xeUJh5yt0
   ベッドに腰掛け、互いに上体を少し捻って向き合っているシンジとレイ(顔は画面の上端外になっていて見えない)

   レイの上体がシンジの方にさらに少し捻りながら伸びあがる

   一瞬硬直するシンジの上体

    そのまま静止する二人の体

    おずおずと持ち上がりレイの肘の上あたりに添えられるシンジの手

   :
   :

   ヒグラシの声

   夕日を受けて輝いている市街地のビル群

**** Omit Scene  ここまで ****

(第拾語話 おわり)

107: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/23(日) 23:25:53.80 ID:xeUJh5yt0
第拾六話 「死に至る病、そして」

(中略)

==== 朝 ミサトのマンション ダイニング ====

   浴室から飛び出してきたアスカ バスタオルを巻いた格好で不満を並べている

アスカ「――シンジって、なんだか条件反射的に謝ってるように見えんのよねー! 人に叱られないようにさ!」

シンジ「ごめん……」

   学校の制服にエプロンをしているシンジ

アスカ「ほらあ! 内罰的過ぎるのよ、根本的に!」

ミサト「まあまあ、それもシンちゃんの生き方なんだから――」

   ビールを片手になだめるミサト

アスカ「彼の生き方を容認するなんて、甘い! 最近ミサト、シンジに甘すぎるんじゃない!?」

ミサト「そぉ?」

   両手鍋をもったままあきれ顔でやり取りを見ているシンジ

アスカ「加持さんと撚りが戻ったからって、他人に幸せ、押し付けないでよね!」

ミサト「加持なんかとは何でもないわよ――」

プルルルルル…ブツッ

   誰も受話器をとらないまま留守電が作動する

加持『よう、葛城。酒のうまい店、見つけたんだ。今晩どう? じゃ――』

ミサト「あ……」

アスカ「どーせ私はフケツな大人の付き合いなんて、した事ないわよ!」

   延々と不満を述べるアスカ

   あきれ顔で聴いているシンジとミサト

アスカ「なにさ! 保護者ぶったりしてさ。偽善的! 反吐が出るわ!」

   カーテンを閉めて浴室に消えるアスカ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 朝 通学路 ====

   喋りながら歩いているシンジ、トウジ、ケンスケ

   ふと顔を上げるシンジ

   レイが横の道から文庫本を読みながら歩いてくる

   本の読み終わった方のページにしおりが挟まっている

シンジ「あ、綾波」

   無表情に顔を上げるレイ

シンジ「おはよう」

レイ「……おはよう」

   また文庫本に視線をもどし歩み去るレイ

シンジ「……」

   立ち止まって、しばし歩み去るレイをぼんやり見送るシンジ

   先日のレイのマンションでの口づけの場面がよみがえる

   少し赤面するシンジ

シンジ「ん?」

   我に返るシンジ  後ろで固まっているトウジとケンスケ

108: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/23(日) 23:29:06.01 ID:xeUJh5yt0
シンジ「どうしたの?」

ケンスケ「綾波が――」

トウジ「挨拶しよった!」

シンジ「えっ?……うわっ!!」

トウジ「おいシンジ! なんや今のは!?」

シンジ「い……今のって?」

ケンスケ「綾波が挨拶するなんて今までいっぺんもなかったじゃないかっ!」

シンジ「あ……挨拶くらい! ……するんじゃないかな……」

トウジ「さては、お前らなんかあったな!?」

シンジ「な、何かって……」

ケンスケ「ちくしょう、なんだよ碇ばっかり……」

トウジ「ミサトさんのような美人と暮しとるだけじゃ、飽き足らんとでも言うんかあ!?」

シンジ「な、なんでそうなるの!?」

   文面に視線を落としたまま黙々と歩くレイ

   その後方、まだ言い合いながら歩いてくる三人

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(中略)

==== 放課後 ネルフ本部 実験場管制室 ====

   窓の向こうには半ばL.C.Lに浸かった3本のテストプラグ

   コンソールにつくマコト、マヤ達オペレーター

   バインダに何か書きつけているリツコ

   腕組みして実験の様子を見ているミサト

ミサト「――どう?サードチルドレンの調子は?」

マヤ「見てくださいよ」

   嬉しそうに報告するマヤ

ミサト「え?」

ピピピピピ…

   1号テストプラグのハーモニクス・シミュレーショングラフの画面

ミサト「ほおー……これが自信につながればいいんだけどねー」

=== 1号テストプラグ内 ====

ミサト『聞こえる? シンジ君』

   目を開けるシンジ

シンジ「ミサトさん! 今のテストの結果、どうでした?」

   通信ウィンドウの中、親指を立ててみせるミサト

ミサト『はーい、ユー・アー・ナンバーワン!!』

   満面の笑みを浮かべるシンジ

109: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/23(日) 23:31:19.57 ID:xeUJh5yt0
**** Omit Scene ここから ****

==== 0号テストプラグ内 ====

ヴォーーーー…

  目を開くレイ

シンジ『――ホントですか!?』

ミサト『ほんとよ。 これが終わったら、詳しい結果を説明するから――』

  左隣のプラグに重なっている1号プラグ内ウィンドウを見るレイ

  笑っているシンジの横顔

レイ「……」

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

==== パイロット更衣室 ====

アスカ「まーいっちゃったわよねー! あーっさり抜かれちゃったじゃない?」

   脱ぎ捨てられた赤いプラグスーツ

   学校の制服に着替えているアスカの後姿

アスカ「ここまで簡単にやられると、正直ちょっと悔しいわよねー」

レイ「……」

   黙々と着替えているレイ

アスカ「すごい! すばらしい! 強い! 強すぎる!」

   大げさに身振りを交えて喋り続けているアスカ

アスカ「あー、無敵のシンジ様ぁ! これであたし達も楽できるってもんじゃないのー! ねー!」

   着替え終わったレイ

   ロッカーを閉じる

アスカ「まあねー、私たちもせいぜい置いてけぼり食わないように、頑張らなきゃ!」

   部屋を出ていくレイ

レイ「さよなら」

   閉じる自動ドア

アスカ「……」

ガンッ!

   ロッカーのドアに叩き込まれるアスカの拳

アスカ「くっ!……」

   悔しさに震えているアスカ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 夜 路線バスの車内 ====

   後部座席に背筋を伸ばして座り、本を読んでいるレイ

   その隣で本を読みながら小さく鼻歌を歌っているシンジ

   シンジの様子を横目で見るレイ

レイ「嬉しいの?」

シンジ「え?」

レイ「今日のテストの結果」

110: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/23(日) 23:34:20.72 ID:xeUJh5yt0
シンジ「そりゃ嬉しいよ! 初めて一番になったんだもん」

レイ「前にシンクロ率が良かったときは、そんなに嬉しそうじゃなかったわ」

シンジ「――え?」

   ぽかんとレイを見るシンジ

シンジ「そ、そうかな……」

レイ「……」

シンジ「そう……だったかもしれない」

レイ「今は違うの?」

   少し考えるシンジ

シンジ「うん……何ていうか……ちょっと前とは違う感じで……」

   シンジを見ているレイ

レイ「……」

シンジ「何か、こう……わかったような気がするんだ。だから――」

レイ「……」

シンジ「よくわからないけど……嬉しいんだと思う」

レイ「そう……よかったわね」

   レイを見るシンジ

   わずかに笑みを浮かべているレイ

シンジ「うん!」

   微笑んで答えるシンジ

   :
   :

=== バス停付近 ===

   方向指示器を点滅させながら近づいてくるバス

==== バスの車内 ====

   立ち上がるレイ

   軽く握手を交わすシンジとレイ

レイ「おやすみなさい」

シンジ「うん……おやすみ」

   微笑むシンジ

   ほどかれる手と手

==== バス停 ====

   降りてくるレイ

   閉まるドア  方向指示器を点滅させながら走り出すバス

   行き過ぎるバスの窓  シンジが手を小さく振っている

   少しバスを見送ってから踵を返し歩み去るレイ

111: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/23(日) 23:39:09.95 ID:xeUJh5yt0
==== バスの車内 ====

   バスの後部座席、一人で座っているシンジ

シンジ「……」

   先ほど握った手の感覚を確かめるように右手を握ったり開いたりしている

   目を閉じるシンジ

   軽く握られている右手

   昼のシンクロの感覚を思い出そうとするシンジ

   目を閉じているシンジ

   テストプラグ内の回想  プラグスーツに包まれている自分の腕

   目を閉じているシンジ

   エヴァ初号機の頭部

   目を閉じているシンジ

   初号機の右手

   目を閉じているシンジ

   不意に力強く握り締められる初号機の手

   目を開くシンジ

   握られているシンジの右手

**** Omit Scene ここまで ****

アナウンス『次は、セイショウカノセ、セイショウカノセ。古本、中古ソフトの店、バシャール前』

   右手を握ったり開いたりしているシンジ

シンジ「……よし!」

   前の方の座席に座っている小学生らしき子供たちがシンジのしぐさを見て笑っている

シンジ「あ……」

   我に返り、少し困った表情になるシンジ

   :
   :


==== 昼 ネルフ本部 発令所 ====

   鳴り響く警報音  明滅する警報表示

女性オペ『西区の住民避難、あと5分かかります!』

男性オペ『目標は微速で進行中。毎時2.5キロ』

   開くドア  駆け込んでくるミサト

リツコ「遅いわよ」

ミサト「ごめん!」

   シゲルの方を振り向くミサト

ミサト「どうなってんの!? 富士の電波観測所は!!」

シゲル「探知してません。直上にいきなり現れました」

マコト「パターンオレンジ。A.T.フィールド、反応無し!」

ミサト「……どういうこと!?」

リツコ「新種の使徒!?」

マヤ「マギは判断を保留しています」

ミサト「もう……こんな時に碇司令はいないのよね……」

   :
   :

112: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/23(日) 23:45:28.17 ID:xeUJh5yt0
==== 市街地 ====

   ビル群の上空をゆっくりと移動していく白黒の球体

   そのあとをビルの陰に隠れながら移動するエヴァ初号機

ミサト『みんな聞こえる?目標のデータは送ったとおり。今はそれだけしか分からないわ』

   ライフルを構えている零号機 

ミサト『慎重に接近して反応をうかがい、可能であれば市街地上空外への誘導も行う』

   ビルの陰に隠れて斧を構えている弐号機

ミサト『先行する1機を残りが援護。よろしい?』

アスカ「はーい、先生! 先鋒はシンジ君がいいと思いまーす!」

シンジ「はあ?」

アスカ「そりゃもう、こういうのは、成績優秀、勇猛果敢、シンクロ率ナンバーワンの殿方の仕事でしょう?」 

シンジ「……」

アスカ「それともシンちゃん、自信無いのかなぁ?』

   顔をしかめて聞いているシンジ

==== 発令所 ====

シンジ『行けるよ!……お手本見せてやるよ、アスカ!』

アスカ『んなっ……な、なんですってぇ!?』

   困った顔で二人のやりとりを聞いているミサト、リツコ、オペレーターたち

ミサト「ちょっと、あなたたち……」

   主モニターに映し出された各エヴァのプラグ内画像

シンジ『言ったでしょ、ミサトさん。ユー・アー・ナンバーワン、って』

ミサト「いや、あれは……」

シンジ『戦いは男の仕事!』

   親指を立ててみせるシンジ   消えるシンジのウィンドウ

アスカ『前時代的ぃ! 弐号機、バックアップ!』

レイ『零号機も、バックアップにまわります』

   つぎつぎと消えるウィンドウ

ミサト「あの子達、勝手に……」

リツコ「シンジ君、ずいぶん立派になったじゃない?」

ミサト「だめよ、帰ったら叱っておかなきゃ」

リツコ「……あなた、いい保母さんになれるわよ」

(中略)

==== 市街地 ====

   ビル影から球体の様子を窺う初号機

シンジ(まだか……)

   零号機と弐号機のいると思しき方角に視線を走らせるシンジ

   右手を握り締めるシンジ

シンジ(こっちで、足止めだけでもしとく!)

   ビル影からさっと身を乗り出し拳銃を発砲する初号機

   着弾と同時に消失する球体

113: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/23(日) 23:49:16.59 ID:xeUJh5yt0
==== 発令所 ====

リツコ「消えた!?」

ピーーーー!

ミサト「なに?」

マコト「パターン青、使徒発見!初号機の直下です!」

==== 市街地 ====

   初号機の足元にさっと広がる黒い円形の影

シンジ「はっ! か、影が……あっ!!」

   影がふいに泥沼のようになり初号機の足元が沈下していく

   足元の陰に向かって発砲する初号機

   なおも沈んでいく初号機

シンジ「何だよこれ、おかしいよ!」

   直上を見上げて目を見張るシンジ

   白黒の球体がエヴァ初号機の直上にいつの間にか浮かんでいる

==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「あ……」

   怯えた表情のシンジ

ミサト『シンジ君、逃げて! シンジ君!?』


==== 零号機プラグ内 ====

   初号機がいると思しき方角を振り返るレイ

レイ「碇くん!!」

==== 弐号機プラグ内 ====

アスカ「バカ! 何やってんのよ!」

(中略)

==== 発令所 ====

シンジ『ミサトさん! どうなってるんですか!? ミサトさん! アスカ、綾波、援護は!? ミサトさん! 聞こえてます!? ミサトさん!!』

   我に返るミサト

ミサト「プラグを強制射出! 信号送って!」

マヤ「だめです!反応ありません!」

==== 市街地 ====

   首だけ見えている初号機   さらに沈んでいく

シンジ『ミサトさん! ミサトさあああぁん!!』

   ついに影に飲み込まれ見えなくなる初号機

ミサト「シンジ君!」

   走る弐号機

ミサト『アスカ、レイ! 初号機を救出! 急いで!』

114: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/23(日) 23:52:20.83 ID:xeUJh5yt0
(中略)

   斧とナイフを足掛かりにビルの屋上に逃れる弐号機

   振り返ると一面タールの海のような陰に兵装ビル群が傾いて半ば沈んでいる

アスカ「街が!」

ミサト『アスカ、レイ。後退するわ』

アスカ「えっ……ちょっ――」

レイ『待って!!』

アスカ「!」

   零号機の通信ウィンドウをみやるアスカ

レイ『まだ初号機と碇君が!!』

   必死の表情のレイに目を奪われるアスカ

==== 発令所 ====

   俯き、肩を震わせているミサト

ミサト「命令よ……下がりなさい」

リツコ「……」

   :
   :

==== とあるビルの屋上 仮設発令所 ====

シゲル「国連軍の包囲、完了しました」

ミサト「影は?」

マコト「動いてません。直径600メートルを超えたところで停止したままです。でも、地上部隊なんて役に立つんですか?」

ミサト「プレッシャーかけてるつもりなのよ、私たちに」

   使徒を見ていた双眼鏡を降ろすミサト

アスカ「やれやれだわ! 独断専行、作戦無視。まったく、自業自得もいいとこね! 」

   腰に手をあてて使徒のいる方を眺めているアスカの後姿

   その手前、壁によりかかって腕組みして立つレイ

   アスカの様子を横目で見ている

アスカ「昨日のテストでちょっといい結果が出たからって、お手本を見せてやる? ははあ!! とんだお調子もんだわ!……ん…… 」

   立ちはだかるレイ

   アスカを冷たく睨む

アスカ「な、何よ……シンジの悪口を言われるのが、そんなに不愉快!?」

レイ「あなたは、人に誉められるためにエヴァに乗ってるの?」

アスカ「違うわ! 他人じゃない。自分で自分を誉めてあげたいからよ!」

ミサト「やめなさい、あなたたち」

   使徒の方を眺めているミサトの後姿

ミサト「そうよ……確かに独断専行だわ」

アスカ、レイ「……」

ミサト「だから……帰ってきたら叱ってあげなくちゃ」

**** Omit Scene ここから ****

アスカ「……フン! ほんっと、ミサトはシンジに甘いんだから!!」

   肩をいからせて立ち去るアスカ


115: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/23(日) 23:57:49.38 ID:xeUJh5yt0
   まだ睨んでいるレイ

ガチャン…

   アスカが入っていったハッチが閉まる

   振り返るレイ

   先ほどの姿勢のまま、黒い海を見晴るかしているミサト

   その様子をしばらく眺め、やがて俯くレイ

**** Omit Scene ここまで ****

(中略)
==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「ん?」

   周囲の景色が赤みを帯びていることに気付くシンジ

シンジ「水が濁ってきてる! 浄化能力が落ちてきてるんだ!」

   浮遊物を手ですくうしぐさをするシンジ

シンジ「うっ!」ゴボゴボゴボ…

   口を押えて目を見開くシンジ

シンジ「生臭い…… 血? 血の匂いだ!」

   内壁上面の非常ハッチを開こうとするシンジ

シンジ「嫌だ! ここは嫌だ! なんでロックが外れないんだよ!」

   内壁を力任せに叩くシンジ

シンジ「開けて! こっから出して! ミサトさん、どうなってるんだよ、ミ

サトさん! アスカ! 綾波!……リツコさん……父さん……」

   うずくまるシンジ

シンジ「お願い、誰か、助けて……」

   :
   :

==== 夜 仮設発令所 ====

ミサト「エヴァの強制サルベージ?」

リツコ「現在、可能と思われる、唯一の方法よ」

リツコ「992個、現存する全てのN2爆雷を、中心部に投下。タイミングを合わせて残存するエヴァ2体のA.T.フィールドを使い、使徒の虚数回路1000分の1秒だけ干渉するわ」

リツコ「その瞬間に、爆発エネルギーを集中させて、使徒を形成するディラックの海ごと破壊する」

ミサト「でも、それじゃあエヴァの機体が……シンジ君がどうなるか……救出作戦とは言えないわ!」

リツコ「作戦は初号機の機体回収を最優先とします。たとえボディが大破しても構わないわ」

ミサト「ちょっと待って!」

リツコ「この際、パイロットの生死は問いません」

ミサト「!」

パシッ!

   リツコの頬を打つミサト  上空をヘリが飛び去っていく

リツコ「……シンジ君を失うのは、あなたのミスなのよ! それ、忘れないで!」

ミサト「碇司令やあなたが、そこまで初号機にこだわる理由は何!?」

   リツコにつかみかかるミサト

ミサト「エヴァって何なの!?」

リツコ「あなたに渡した資料が全てよ!」

116: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/24(月) 00:00:55.45 ID:cAuTFgys0
ミサト「嘘ね!」

   遠くを行き過ぎていくサイレン

リツコ「ミサト、私を信じて」

ミサト「……」

リツコ「この作戦についての一切の指揮は、私が執ります」

   メガネを拾い上げ、ミサトの脇をすり抜けているリツコ

   拳を握りしめ立ちつくすミサト

リツコ「……関空には便を廻すわ。航空管制と空自の戦略輸送団にも連絡を」

男性オペ『了解』

ミサト(セカンドインパクト……補完計画……。まだ……まだ私の知らない秘密があるんだ……)


**** Omit Scene ここから ****

   トレーラーハウスのような仮設の部屋の入口の階段を上がっていくレイ

==== 仮設パイロット控室 ====

   入ってくるレイ

   数人の女性職員が働いている

女性職員「――ううん、それはサードのよ。ファーストはそっち」

女性職員「これね」

   手提げ袋に収められたレイたちの衣類、手荷物などを整理して並べている

レイ「……」

   シンジの手荷物の袋

   たたまれた学生服の上にS-DATプレイヤーが載っている

**** Omit Scene ここまで ****

(中略)

==== 仮設発令所 ====

ピピピピピ…

マコト「エントリープラグの予備電源、理論値ではそろそろ限界です」

マヤ「プラグスーツの生命維持システムも危険域に入ります」

リツコ「12分予定を早めましょう。……シンジ君が生きている可能性が、まだあるうちに」



**** Omit Scene ここから ****

==== 仮設パイロット控室 ====

   ベンチに腰掛け、目を閉じてシンジのS-DATを聞いているレイ

   わずかにチェロの音が漏れている

女性オペ『作戦開始、30分前』

   目を開けるレイ

女性オペ『各パイロットは搭乗して待機――』  

   立ち上がるレイ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

117: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/24(月) 00:04:54.71 ID:cAuTFgys0
==== 初号機プラグ内 ====

(中略)

シンジ「ここは嫌だ……一人はもう、嫌だ……」

シンジ「保温も、酸素の循環も切れてる……寒い……だめだ、スーツも限界だ……ここまでか……もう、疲れた……何もかも……」

   目を閉じるシンジ

   ひそめられていた眉が緩む

   シンジの頬に射す光

   光る空間で膝を抱えて浮かんでいる裸身のシンジ

   髪の長い大人の女性のような光のシルエットがシンジを抱きしめるように包み込む

シンジ「お母さん?」

   こちらにかがみこんでいる女性のシルエット

   逆光で顔立ちはよくわからない

女性「もういいの?」

   両手で赤い飴玉のようなものを付きだして、笑って何か話している幼児

   シンジに似ている

女性「そう……よかったわね」

   :
   :

==== 明け方 市街地 ====

シゲル「エヴァ両機、作戦位置」

マヤ「A.T.フィールド、発生準備よし」

   ビルの上、たたずむ弐号機と零号機

リツコ「了解」

マコト「爆雷投下、60秒前」

   上空、伸びてくる多数の飛行機雲

**** Omit Scene ここから ****

==== 弐号機プラグ内 ====

   使徒のいる方に身を乗り出すように構え、表情を引き締めているア

スカ

==== 零号機プラグ内 ====

   インダクションレバーを握り締めているレイ

   その太腿のあたり

   シンジのS-DATが留められている  

*** Omit Scene ここまで ****

==== 市街地 ====

   使徒の影が落ちた路面に突然亀裂が入り、割れていく

アスカ「何が始まったの!?」

ピーッピーッ…

ミサト「状況は?」

マコト「分かりません!」

マヤ「全てのメーターは、振り切られています!」

   突如、球体が破れ、大量の血のような駅が噴き出す

   這い出してくる初号機  中空に向かって咆哮する

118: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/24(月) 00:08:48.19 ID:cAuTFgys0
リツコ「まだ何もしていないのに!」

ミサト「まさか、シンジ君が!?」

リツコ「ありえないわ! 初号機のエネルギーは、ゼロなのよ!?」

   どよめく一同

==== 弐号機プラグ内 ====

アスカ「私、こんなのに乗ってるの?」

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「……」

   :
   :

(中略)

==== 初号機プラグ内 ====

ミサト「シンジ君、大丈夫!? シンジ君!」

   シンジに縋って泣くミサト

シンジ「……ただ会いたかったんだ、もう一度……」

   ミサトの後ろ、初号機プラグの戸口に立ってあきれ顔のアスカ

アスカ「……叱るんじゃなかったの?」

*   プラグ外、アスカの後ろで佇んでいるレイ

*   右手にS-DATを携えている

==== ネルフ本部 初号機ケージ ====

ザアアアアアアアァ…

   大量の水で高圧洗浄されている初号機

リツコ「私は今日ほど、このエヴァが恐いと思ったことはありません。本当にエヴァは味方なのでしょうか?」

ゲンドウ「……」

リツコ「私たちは、憎まれているのかもしれませんね」

   オレンジ色の雨合羽を羽織って作業を眺めているゲンドウとリツコ

リツコ「葛城三佐、何か感づいているかもしれません」

ゲンドウ「そうか……今はいい」

リツコ「レイやシンジ君がエヴァの秘密を知ったら、許してもらえないでしょうね」

ゲンドウ「……」

   :
   :

==== 夕暮れ ネルフ本部 病室 ====

   ヒグラシの声

   目を開けるシンジ

*   ページをめくる音

*   本を読んでいるレイ  ベッド脇に腰かけている

*   本にシンジが贈ったしおりが挟まれている

*   その様子を見ているシンジ

   それに気づきシンジの方を見るレイ

   起き上がるシンジ

レイ「今日は寝ていて。後は私たちで処理するわ」

   立ち上がるレイ

119: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/24(月) 00:11:58.10 ID:cAuTFgys0
シンジ「うん……でも、もう大丈夫だよ」

レイ「そう、よかったわね」

シンジ「!」

   はっとするシンジ

   開く自動ドア  覗き込んでいたアスカが慌てて引っ込む

   思わず吹き出すシンジ  病室の外、ばつが悪そうにしているアスカ

   歩み去るレイ  閉じるドア

   ふと右手の匂いをかぐシンジ

   ふたたびベッドに仰向けに横たわる

シンジ「取れないや……血の匂い」

   :
   :


**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 零号機ケージ ====

   吊られてくる零号機

   その手前の作業通路

   腰に手を当てているリツコ  その後ろにミサト

   リツコの前に立つプラグスーツ姿のレイ  俯いている

リツコ「――もういいわ。行きなさい」

レイ「……失礼します」

   歩み去るレイ

ミサト「……で?」

リツコ「2日というところね。さいわい致命的な損傷はなかったみたいだから」

ミサト「よかった」

リツコ「エヴァはこういう仕事向きじゃないのよ。作業班には、今回は例外中の例外だと、あれほど釘を刺したのに」

ミサト「少し張り切り過ぎたわね」

リツコ「レイもわかってるはずなのに。考えられない行為ね。何が原因かしら」

ミサト「……愛、じゃないの?」

リツコ「……何を言い出すの?」

ミサト「え?……いや、あの……」

リツコ「……」

ミサト「シンジくんに、後はやるから寝てなさいって請け合ったんですって」

リツコ「レイが?」

ミサト「それに、ほら、シンジくんが飲み込まれたとき、アスカにはすごい剣幕だったし。だから――」

リツコ「まさか! ありえないわ」

ミサト「……ま、そうよねー」

   笑うミサト

ミサト「さーて、あたしも書類片付けなくっちゃ」

   立ち去るミサト

120: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/24(月) 00:14:02.50 ID:cAuTFgys0
   ため息をついて零号機の収容作業を見下ろすリツコ

   ふと、眉をひそめる

リツコ「……まさか……ね」

   通路を歩いているミサト  眉をひそめている

ミサト(確かに……そんな微笑ましい話だけとは限らないわね……)

   :
   :

==== 夜 ネルフ本部 病室 ====

   寝息をたてているシンジ

   丸椅子に座ってそれを眺めているレイ

   ふとシンジの額に係る前髪を指でかき分ける

   :
   :

   目を開けるシンジ

   ベッド脇に丸椅子があるが誰もいない

   ふと枕元に目をやるシンジ

   S-DATデッキが置いてある

   ふとんから手を出してそれに触れるシンジ

   顔に引き寄せ、ふと匂いをかぐ

   安心したように目を閉じるシンジ

   :
   :

==== 午後 レイのマンション =====

   共用廊下、ドアの前に立つシンジ  学校の制服姿

   ノックするが返事がない

   配布物を鞄から取り出すシンジ

   郵便受けに入れようとしたところでドアがあく

   眠そうな顔で出てくるレイ  寝間着代わりのシャツ姿

シンジ「あ、ごめん……起こしちゃった?」

レイ「……」


==== レイの部屋 ====

   折り畳みテーブルの上に置かれているプリント

   テーブルの脇に座るシンジ  紅茶が入ったカップを持っている

シンジ「――ごめん」

レイ「なぜ、謝るの」

   ベッドに腰掛けたレイ  カップを持っている

シンジ「だって、綾波は心配してくれてたのに」

レイ「……」

シンジ「僕が……いい気になって……」

レイ「そうね」

シンジ「……ごめん」

レイ「でも、いい」

121: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/24(月) 00:16:36.83 ID:cAuTFgys0
シンジ「……え?」

レイ「帰ってきたもの」

シンジ「……」

   :
   :

   流しで二つのカップをすすぐシンジ

シンジ「じゃあね。綾波もゆっくり休んで」

   レイを振り返るシンジ

   シンジを見るレイ

   向かい合ったシンジとレイの足下

   スリッパを履いたレイの白い足が少しだけ背伸びする

   :
   :

   戸口に向かうシンジ

   その背中を見ているレイ

   寝間着代わりのシャツのすそを握り締めている

   ドアノブにかかるシンジの手

レイ「碇くん」

シンジ「え?」

   振り返るシンジ

   シンジの前に立つレイ

シンジ「どうしたの?」

   少し考えて、シンジの体に腕を回すレイ

シンジ「え……」

   レイの腕がさらに締まり、体が密着する

   ブラウスの胸がシンジの胸で柔らかくつぶれる

シンジ「あ、あの……まずいよ……その……」

   紅くなるシンジ

レイ「嫌」

   かすれた声

シンジ「えっ?」

   シンジの肩口に顔を埋めるレイ

レイ「いつ、またああいう目に遭うか、わからないもの」

シンジ「で、でも……」

   レイの髪に半分隠されているシンジの顔

   視線が動く

   シンジの目に写る、レイのベッド

   :
   :

==== レイのマンション 外観 ====

   道路に沸き立つ陽炎

   響き渡る重機の音

   :
   :

122: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/24(月) 00:23:36.87 ID:cAuTFgys0
==== レイの部屋 ====

   誰もいないベッド

   カーテンの隙間から傾いた日差しが差し込んでいる

   浴室でシーツの一隅をバケツに入れた水でゆすいでいるシンジ  学生ズボンにTシャツ

   ふと振り返るシンジ

   脱衣所に立つレイのシルエット

   寝間着代わりのワイシャツ  虚ろな表情

   立ち上がるシンジ

シンジ「あ、ああ、だいたい落ちたよ」

レイ「……」

シンジ「だから、あの――」

   シンジに向かって倒れこむレイ

   慌てて抱き止めるシンジ

シンジ「だ、大丈夫!?」

   シンジの肩に預けられたレイの青い後ろ頭

レイ「……痛かった」

   細い声

シンジ「えっ?」

   赤面するシンジ

シンジ「ご、ごめん! あの――」

レイ「でも、幸せ」

シンジ「――えっ?」

   シンジの体にレイの腕が回る

   シンジの肩に顎をあずけ、目を閉じているレイ

レイ「こういう気持ち、初めて」

シンジ「……」

レイ「みんなに、教えてあげたい」

シンジ「そ、それは……まずいんじゃないかな……」

レイ「わかってる」

   体を少し離すレイ

レイ「だから、ひみつ。私たちだけの」

   少し眠そうな顔で微笑むレイ

シンジ「……うん」

   シンジの顔に近づくレイの顔

   向かい合った二人の足

   レイの裸足の白い足が少しだけつま先立ちになる

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第拾六話 おわり)

127: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/30(日) 00:10:00.21 ID:IYErnIOp0
==== レイの部屋 ====

   誰もいないベッド

   カーテンの隙間から傾いた日差しが差し込んでいる

   浴室でシーツの一隅をバケツに入れた水でゆすいでいるシンジ  学生ズボンにTシャツ

   ふと振り返るシンジ

   脱衣所に立つレイのシルエット

   寝間着代わりのワイシャツ  虚ろな表情

   立ち上がるシンジ

シンジ「あ、ああ、だいたい落ちたよ」

レイ「……」

シンジ「だから、あの――」

   シンジに向かって倒れこむレイ

   慌てて抱き止めるシンジ

シンジ「だ、大丈夫!?」

   シンジの肩に顎を預けるレイの、青い後ろ頭

レイ「……痛かった」

   細い声

シンジ「えっ?」

   赤面するシンジ

シンジ「ご、ごめん! あの――」

レイ「でも、しあわせ」

シンジ「――えっ?」

   シンジの体にレイの腕が回る

   シンジの肩に顎をあずけ、目を閉じているレイ

レイ「こういう気持ち、初めて」

シンジ「……」

レイ「みんなに、教えてあげたい」

シンジ「そ、それは……まずいんじゃないかな……」

レイ「わかってる」

   体を少し離すレイ

レイ「だから、ひみつ。私たちだけの」

   少し眠そうな顔で微笑むレイ

シンジ「……うん」

   シンジの顔に近づくレイの顔

   向かい合った二人の足

   レイの裸足の白い足が少しだけつま先立ちになる

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第拾六話 おわり)

128: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/30(日) 00:14:07.86 ID:IYErnIOp0
第拾七話 「四人目の適格者」

(中略)

==== 午後 病院 ====

   病院の廊下を歩くトウジ

   看護師たちの話声がオーバーラップする

看護師「12号室のクランケ?」

看護師「例のE事件の救急でしょ? ここに入院してからずいぶん経つわね」

看護師「なかなか難しいみたいよ、あの怪我」

看護師「まだ小学生なのに」

看護師「今日もきてるんでしょ、あの子」

看護師「そうそう。週2回は必ず顔出してるのよ、妹思いのいいお兄さんよねえ……」

看護師「ほんと、今時珍しいわね、あんな男の子」

   :
   :

=== ネルフ本部 自動通路 ルート15 レベル20 ====

   ベルトコンベア式の自動通路に立ったまま運ばれていくゲンドウ

   その後方に立ち同様に運ばれているレイ

ゲンドウ「――レイ、今日はいいのか?」

レイ「はい。明日、赤木博士のところへ行きます。明後日は学校へ」

ゲンドウ「学校はどうだ?」

レイ「問題ありません」

ゲンドウ「そうか、ならばいい」

*レイ「……」

*   ゲンドウの後姿を見つめるレイ

*   何か言おうと口を開きかけるが、しばらくしてつぐむ

*   俯くレイ

   :
   :

==== 朝 第壱中学校 2年A組 教室 ====

ヒカリ「きりーつ! 礼! 着席!」

教師「あ?……ああ、今日の休みはいつもの綾波と、相田か……あと、今日は小池先生がお休みで――」

   後方の席のトウジを振り返り小声で話しかけるシンジ

シンジ「ケンスケ、どうしたの?」

トウジ「新横須賀。今日も軍艦の追っかけや。ミョウコウとかいうんが入港しとるんやと」

老教師「――鈴原!」

トウジ「あ、はい!……はい……」

   慌てて起立するトウジ  首をすくめて前を向き直るシンジ

老教師「後で、綾波にプリントを届けておくように」

トウジ「はい!」

   気を付けをして返答するトウジ

*   着席するトウジ

*トウジ「……って、ワシ?」

*   怪訝な顔で前方のシンジに小声で話すトウジ

*   トウジを振り返って困ったように笑うシンジ

129: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/30(日) 00:21:39.91 ID:IYErnIOp0
(中略)

==== ネルフ本部 エスカレーター ====

ミサト「――で、残った参号機はどうするの?」

リツコ「ここで引き取ることになったわ。米国政府も第1支部までは失いたくないみたいね」

ミサト「参号機と四号機はあっちが建造権を主張して強引に作っていたんじゃない! いまさら危ないところだけうちに押し付けるなんて、虫のいい話ね」

リツコ「あの惨劇の後じゃ誰だって弱気になるわよ」

ミサト「で、起動試験はどうするの?例のダミーを使うのかしら?」

リツコ「……これから決めるわ」

   :
   :

==== ネルフ本部  実験場 ====

   暗い大きな工場のような部屋

   「REI DUMMY PLUG EVANGERION 2015 REI-00」と書かれたプレートが打ち付けられた赤いエントリープラグが天井から吊り下げられている

   それを見上げているゲンドウとリツコ
  

リツコ「試作されたダミープラグです。レイのパーソナルが移植されています」

ゲンドウ「……」

リツコ「ただ、人の心、魂のデジタル化はできません。あくまでフェイク、擬似的なものです。パイロットの思考の真似をする、ただの機械です」

ゲンドウ「信号パターンをエヴァに送り込む。エヴァがそこにパイロットがいると思い込み、シンクロさえすればいい」


ゲンドウ「初号機と弐号機にはデータを入れておけ」

リツコ「まだ問題が残っていますが」

ゲンドウ「構わん。エヴァが動けばいい」

リツコ「はい」

   :
   :

==== セントラルドグマ L.C.Lプラント ====

   オレンジ色の液体で満たされたガラスの円柱に収まっている裸身のレイ

   目を閉じている

ゲンドウ「機体の運搬はUNに一任してある。週末には届くだろう。あとは君のほうでやってくれ」

リツコ「はい。調整ならびに起動試験は、松代で行います」

ゲンドウ「テストパイロットは?」

リツコ「ダミープラグはまだ危険です。現候補者の中から」

ゲンドウ「4人目を選ぶか」

リツコ「はい。一人、速やかにコアの準備が可能な子供がいます」

ゲンドウ「任せる」

リツコ「はい」

130: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/30(日) 00:23:53.25 ID:IYErnIOp0
ゲンドウ「レイ、上がっていいぞ」

   目を開けるレイ

   わずかに微笑んでいる

レイ『はい』

ゲンドウ「食事にしよう」

   微笑んでいるゲンドウ

レイ『はい』

リツコ「……」

   ゲンドウの後ろ  冷やかな目でやりとりを見ているリツコ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 総司令公務室 ====

   長いテーブルの両端の席についているゲンドウとレイ

   黙々と食事をしている  ふと手を止めるレイ

レイ「碇司令」

ゲンドウ「何だ」

   手を止め、顔を上げるゲンドウ

レイ「……」

   何か口を開きかけ、やめるレイ

レイ「……いいえ。何でもありません」

   食事を再開するレイ

ゲンドウ「……そうか」

   その様子をしばらく見た後、食事を再開するゲンドウ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで****


==== 昼 第壱中学校 ====

キーンコーンカーンコーン…

ヒカリ「きりーつ! 礼!」

   :
   :

トウジ「さーて、メシやメシ! 学校最大の楽しみやからなあ!――」

アスカ「えーっ!?」

トウジ「――ん?」

   シンジの席  机に両腕をついてシンジに挑みかかっているアスカ

アスカ「お弁当、持ってきてないの!?」

シンジ「き、昨日は宿題で、つくる暇なかったんだよ……」

アスカ「だからって、この私にお昼無しで過ごせってえの、あんたは!!」

トウジ「なんや、また夫婦喧嘩かいな……」

   笑う生徒たち  赤面するシンジとアスカ

シンジ、アスカ「ち……違う(わ)よっ!」

   :
   :