8: 代行感謝 2011/06/02(木) 17:39:03.06 ID:Pqk8WRTN0

 ドバタン! ザッ!


剣士「魔王ッ!」

魔王「ほう、人間か。随分と荒々しい入場だな、扉が壊れたらどうする」

剣士「その時は豪勢な焚火にしてあげるから安心なさい。今は自分の命の心配をすべきね」

魔王「女のくせにずいぶんと勇ましいことだ。我輩の軍勢を退けてここまで来たその実力、気に入ったぞ」

剣士「わたしはあんたのその悪趣味な仮面が気に入らないわ。それも火にくべてあげる」

魔王「一応のこと話し合いの席は設けておいたのだが」

剣士「不要」

魔王「まあ、そうだろうな」

剣士「先に勇者がここに来たはずよ。あの子はどこ?」

魔王「見当はついているのだろう?」

剣士「っ……」チャキ

魔王「いいだろう、許可する。かかってこい」

引用元: 勇者「魔王捕まえた」

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 17:51:49.19 ID:Pqk8WRTN0

剣士「ちぇぇぇぇぃやッ!」ジャッ!

魔王「ふっ」ヂィン

剣士(……!?)バックステップ

魔王「どうした、もう終わりか?」

剣士「……さすが、魔王といったところかしら。勇者にも防げないわたしの全力を簡単にいなすなんて」

魔王「……」

剣士「技量は勇者以上……いえ、そんなチャチな籠手で受け流すなんて常識の埒外だわ」

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 18:01:47.42 ID:Pqk8WRTN0

魔王「来ないのか? なら我輩の方から行くぞ」スッ

剣士(――!? 気配が、消えた? 目の前にいるのに!)

魔王「ふ、破ッ!」ズ――ドン!


 バキャァ――!


剣士(ッ――鎧が!)

魔王「それだけで済むと思うか?」

剣士「ぅがふ!」ガク

魔王「"貫拳"、了」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 18:10:09.42 ID:Pqk8WRTN0

剣士(強い……だめ、意識が)

魔王「ここまで来れたことに対する敬意だ。命までは取らん」

剣士「……!」

魔王「去れ」

剣士「……めるな」

魔王「?」

剣士「舐めるなぁ!」ビッ!

魔王「投剣!?」


 ガッ!


32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 18:13:15.77 ID:Pqk8WRTN0

魔王「くっ……」

剣士(浅い……仮面に阻まれた)


 パキ……


剣士(でもまあ、死ぬ前にこのいけすかない仮面野郎の素顔が見れるだけでも良しと――)


 ポロ カラン カラン……


剣士「え……?」

?「……」

剣士「そんな、嘘……」

?「ええと」

剣士「……勇者?」

勇者「……久しぶり」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 18:15:46.81 ID:Pqk8WRTN0




 title:勇者「魔王捕まえた」




35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 18:17:49.07 ID:Pqk8WRTN0

剣士「……で?」

勇者「……」

剣士「どういうことかしら?」

勇者「……仮面の機能で声を変えてたんだ」

剣士「そういうことじゃないでしょ、一体なんであなたが魔王のフリなんか」

勇者「……」

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 18:20:58.54 ID:Pqk8WRTN0

剣士「それに剣はどうしたの」

勇者「ああ、あれか、折れたよ」

剣士「……折れた?」

勇者「魔王城の門番とやり合ったときに」

剣士「そ、それでどうやって城内を進んだのよ?」

勇者「あれ、言ってなかったか? 俺、剣より拳の方が得意なんだよ。
   どうも道具は自分の身体に馴染まない」

剣士「拳の方がって……それでわたしと剣で渡り合ってたっていうの!?」

勇者「いや、剣も得意は得意だよ? でも剣は実際君の方が強いじゃないか」

剣士「……」

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 18:26:49.91 ID:Pqk8WRTN0

剣士「ま、まあいいわ。最初の質問に戻るわよ」

勇者「なんで魔王のフリを、か」

剣士「まさかあなた魔王軍に寝返ったの?」

勇者「そうだと言ったら?」

剣士「ここで殺す」

勇者「物騒だ」

剣士「わたしは並みの覚悟で家を飛び出してきたわけじゃないの。
   たとえ相手があなたでも容赦なく斬るわ」

勇者「君らしい」

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 18:31:17.19 ID:Pqk8WRTN0

勇者「でも、幸か不幸か俺は魔王軍に寝返ったってわけじゃない」

剣士「本当?」

勇者「本当だよ。だからその殺気に満ちた剣を下ろしてほしい」

剣士「……ほっとした」

勇者「それが本心みたいで俺としてもうれしいよ」

剣士「それで?」

勇者「ああ。実は俺、魔王を捕まえたんだ」

剣士「そう……え? 今なんて」

勇者「俺は、魔王を、捕まえることに、成功したんだ」

剣士「……」

剣士「えっ」

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 18:33:58.26 ID:Pqk8WRTN0

<牢屋>


 ギィィィィィ……


勇者「ここだ」

「! ここから出せ!」ドン!

剣士「……」

勇者「こいつが魔王だ」

剣士「……この坊やが?」

魔王「誰が坊やですか!」

剣士「あなただけど」

魔王「撤回しなさい! ぼくはこれでも魔界を統べる魔王なんですよ!」

勇者「だそうだ」

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 18:37:15.63 ID:Pqk8WRTN0

剣士「見たところ十四歳ほどってところかしら。でも魔族は見た目では……」

勇者「いや、こいつは見たまんまだ」

魔王「確かに十四ですが! それでもぼくは魔王です!」

剣士「敬えってことかしら」

魔王「ひれ伏せってことです!」

剣士「威厳ないわね、敬語のせいかしら」

魔王「敬語は癖です! 仕方ないでしょう、そう躾けられてきたんですから!」

剣士「知らないわよ」

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 18:42:57.31 ID:Pqk8WRTN0

剣士「それで、勇者? もしかしてと思うんだけど」

勇者「何だ?」

剣士「この子がかわいそうで殺害を放棄したってこと?」

勇者「確かに可愛いが違うな」

剣士「……そっちの趣味?」

勇者「違うな」

剣士「わたしそういうのはちょっと……」

勇者「違うな」

魔王「そっちの趣味ってなんですか?」

勇者「お前は知らなくていいよ」

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 18:49:43.73 ID:Pqk8WRTN0

勇者「同情もある。でもこいつを捕まえたのは別に理由があるよ」

剣士「聞かせて」

勇者「俺は平和主義者なんだ」

剣士「初耳ね」

勇者「変かな?」

剣士「いいえ。似合わないってだけ」

勇者「まあそうだよな、暗殺技能者だし」

剣士「……?」

勇者「あ、いや、いいんだ」

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 18:53:41.17 ID:Pqk8WRTN0

勇者「ともかく俺は平和主義者だ。無益な殺生は好まない」

剣士「相手は魔王よ?」

勇者「今更魔族一人殺すのにためらいがあるわけじゃないさ。いやこいつの場合あるけど」

魔王「……」

剣士「生け捕りにして帝国に移送するってこと?」

勇者「もっとたくさん殺すことになるのは嫌だってことさ」

剣士「もっとたくさん?」

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 18:58:20.20 ID:Pqk8WRTN0

勇者「いいか、魔王は魔界をまとめる長だ」

剣士「ええ」

勇者「それが突如なくなったらどうなる?」

剣士「魔界はばらばらになるわね」

勇者「それから?」

剣士「魔族の結束がもろくなったところで人間側が見逃すはずないわ。即座に総力戦ね」

勇者「そういうこと」

剣士「総力戦が嫌なわけ? 人間が負けるとでも?」

勇者「事はそう簡単じゃないさ。
   窮鼠猫をかむ、と言うくらいだし、魔界の抵抗はそれはそれは豪華なことになる」

剣士「それでも帝国の騎士軍は負けないわ」

勇者「勝つまでの犠牲はどうなるんだ?」

剣士「それは……」

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 19:03:14.21 ID:Pqk8WRTN0

勇者「俺はさらに先を考える」

剣士「先?」

勇者「敵を失った巨大な国がどうなるのか、さ」

剣士「……」

勇者「帝国は最近になって統一に成功した国だ。
   元は大小様々な国だったものの集合体で、表面上は穏やかだが、軋轢は並大抵のものではなかった。
   酷いもんだぞ? とりこまれた国の末路ってのはな。いや、奴隷とかそういうのはないんだが。
   だが似たようなものだ」

剣士「もし……魔族の根絶に成功してしまったら」

勇者「平和になる。わけじゃない。わかるだろ?
   何かの間違いで百年安泰もあり得ないでもないけど」

剣士「……」

53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 19:08:11.81 ID:Pqk8WRTN0

剣士「あなたは、それを防ぐために?」

勇者「そうだな、そういうことになる。
   人間同士で血の浴びせっこはごめんこうむりたい」

剣士「……」

勇者「俺は手の届く範囲でしか物事を動かせない。
   これが身の丈に合わないことだってのはわかる。
   俺は厳密には勇者じゃないし、こう見えて臆病だ
   でもやる」

剣士「勇者じゃない?」

勇者「それはまあ、後々話すよ」

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 19:12:12.06 ID:Pqk8WRTN0

勇者「そういうわけだ。邪魔しないでほしい」

剣士「勇者、わたしは」

勇者「できれば手伝ってほしい」

剣士「OK、その言葉がほしかったのよ」

勇者「……ありがとう」

魔王「勝手に話をまとめないでください!」

剣士「あら」

56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 19:17:29.92 ID:Pqk8WRTN0

魔王「ぼくは魔王だ、誰にも邪魔させない! 必ず人間を根絶やしにしてみせます!」

勇者「お前が友好的ならもう言うことなしだったのに、とは思うよ」

魔王「ふざけないでください! 父さんは人間に殺された。兄さんたちもだ!」

勇者「先代魔王はこいつの父親だったそうだ。
   いや厳密には兄たちが魔王の座についたそうだから先代じゃないんだが、すぐに戦で死んでこいつにお鉢が回ってきた」

剣士「そんなに簡単に死ぬもんなの? 魔王でしょう?」

勇者「こちらの王と違って、魔族は長が先陣を切って戦うことが多い。
   勇敢さが王の資質だとかで」

魔王「それを人間どもは利用したんです!」

剣士「利用?」

勇者「単に狙いやすいところに出てきた的に一斉射撃を加えただけだけどな」

魔王「魔族の誇りを汚した!」

勇者「言うな。人間にも人間の戦い方があるんだ」

57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 19:21:34.97 ID:Pqk8WRTN0

魔王「この後に及んで言い逃れなんて」

勇者「お前は怒りに我を忘れているのか」

魔王「何を!」

勇者「見えなくなったんだな。あの頃と違って」

魔王「訳のわからないことを言わないでください!」

剣士(何かしら?)

61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 19:28:02.68 ID:Pqk8WRTN0

勇者「ともかく、俺はお前を殺す気はないよ」

魔王「ぼくにはあります!」

勇者「止めはしない。だが、できないなら同じことだ」

魔王「この首輪さえなければ……」

剣士「首輪?」

勇者「魔封じだ。こいつ、まだ未発達なせいか、魔術以外にとびぬけた才はなかった。
   だから魔術を封じてやればこうやって閉じ込めておける」

魔王「くっ……」

剣士「なるほどね」

勇者「そういうわけだ、大人しくしてるんだな」

63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 19:36:58.43 ID:Pqk8WRTN0

<城内>


勇者「じゃあ、剣士はこの部屋で寝てくれ」

剣士「ありがとう」

勇者「それじゃ、俺は」

剣士「待って」

勇者「ん?」

剣士「ちょっと確認したいんだけど」

勇者「うん」

剣士「わたしたちは仲間よね?」

勇者「相棒だよ」

剣士「わたしを置いて魔王城に乗り込んだのは、なぜ?」

勇者「どう思う?」

剣士「信頼されてなかったって思う」

64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 19:43:51.50 ID:Pqk8WRTN0

勇者「信頼」

剣士「大事よ」

勇者「事はもっと単純だな。俺は君に危険な思いをしてほしくなかった。これまでも、これからも」

剣士「それが信頼してないっていうのよ」

勇者「そうかな」

剣士「だいたい、あなたわたしより年下のくせして生意気。もっとお姉さんを頼りなさい」

勇者「これからは存分に頼るよ」

剣士「まったく……」

勇者「おやすみ」

剣士「ええ、おやすみ」

65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 19:49:45.34 ID:Pqk8WRTN0

 ガチャ バタン



 コソ……

「……」

「よし。敵は部屋に入りましたわね。とりあえずは一安心ですわ」

「さて、こちらを直接叩くのもいいですが」

「あの人間、隙が全くありません」

「わたしの力では悔しいですが、きっと返り討ちでしょう」

「ならば時間を待って、魔王さまのところへ!」

67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 19:58:55.52 ID:Pqk8WRTN0

<牢屋>


魔王「……疲れました」

魔王「もう声もかれちゃいましたし、体当たりしたせいで肩も痛いですし……」

魔王「……ぼくはもうここから出られないんでしょうか」


 ギィィィィィィ……


魔王「……!」

「魔王さま……!」

魔王「メイドさん!」

メイド「お久しぶりです魔王さま!
    わたくし、心から無事を祈っておりましたわ!」

68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 20:07:00.19 ID:Pqk8WRTN0

魔王「助けに来てくれたのですか?」

メイド「はい!」

魔王「でも、牢屋の鍵は勇者が……」

メイド「魔王さま、吸血鬼の力を侮ってはいけませんわ。
    こんな牢屋の鍵くらいちょちょいと処理できます」

魔王「吸血鬼の力と鍵開けって関係あるのでしょうか?」

メイド「ふふ、細かいことは気にしてはいけませんわ」

魔王「と、とにかくお願いします!」

「そこまでだ」

メイド「っ……!」

魔王「勇者!」

72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 20:20:52.32 ID:Pqk8WRTN0

勇者「鍵開けができるやつがいたのか。これは迂闊だったな」

メイド「なぜあなたがここに!」

勇者「いや、俺が魔王を捕まえてもう五日だ。そろそろ余計なことする奴がいるんじゃないかというただの予想だよ」

メイド「くっ……」

勇者「早いうちに厄介な奴のあぶり出しができて良かった。止めさせてもらおうか」

73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 20:26:19.69 ID:Pqk8WRTN0

メイド(どうする……? 相手は魔王さまを降した人間)

メイド(わたくしの力では間違いなく敵わないでしょう)

メイド(ならば)バッ!

勇者「!」


 ガチャン!


メイド「魔王さま、早く外へ!」

勇者「ノーラグで開錠か!」

79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 20:36:56.75 ID:Pqk8WRTN0

魔王「おおおおおおおお!」バッ!

勇者「くっ! "崩拳"!」シュッ!

魔王「がふッ!」ガクン

メイド(魔王さま!)

メイド「ですがこのタイミングでわたくしの攻撃はかわせない!」ヒュッ!

勇者(まず――)

「ふっ――!」ブン!


 バキィ!


メイド「きゃああああああ!?」ドサァ

82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 20:43:06.97 ID:Pqk8WRTN0

「大丈夫?」

勇者「助かったよ剣士」

剣士「言ったでしょ、もっと頼りなさいって」

勇者「悪い、忘れてた」

剣士「もう。で、この娘は?」

勇者「この城のメイドらしい。吸血鬼とか言っていたな。
   特技は開錠のようだ」

剣士「厄介ね」

勇者「だな」

83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 20:48:13.05 ID:Pqk8WRTN0

勇者「こいつも牢屋に放り込んでおきたいけど」

剣士「開錠が魔術じゃなくて特技なら意味ないわね。殺すか腕折る?」

勇者「気が進まないな」

剣士「そうよね……」

勇者「よし仕方ない」

剣士「どうするの?」

勇者「俺の奴隷にする」

剣士「えっ」

88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 20:52:24.15 ID:Pqk8WRTN0

勇者「というのは冗談で」

剣士「驚きと疑問と殺意が同時に湧いてどうしようかと思ったわ」

勇者「四六時中こいつを監視できるようにしようと思う」

剣士「つまり?」

勇者「俺専属のメイドにする」

剣士「ちょっと」

勇者「他に良い手は?」

剣士「ないけど」

勇者「ならいいよな」

剣士「なんだか気にいらないわ」

メイド「うう……」

勇者「目が覚めたか」

91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 20:56:53.44 ID:Pqk8WRTN0

メイド「この……」

勇者「諦めた方がいい。この二対一は絶望的だよ」

メイド「う……」

勇者「というわけで、君は今夜から俺の専属メイドだ。よろしく」

メイド「え゛?」

勇者「じゃあ行こうか」

剣士「どこへよ?」

勇者「寝室だよ?」

剣士「な!? 一緒の部屋で寝るっていうの!?」

勇者「そういえばベッド一つしかなかったな」

剣士「寝るときはわたしが見張るから!」

勇者「そうか? じゃあ頼む」

メイド(ええと……)

92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 21:02:14.76 ID:Pqk8WRTN0

メイド「そ、そうですわ、魔王さま!」

魔王「」グッタリ

メイド「魔王さまー!?」

勇者「あ、悪い、思わず崩拳ぶちこんだから多分起きないぞ」

剣士「崩拳?」

勇者「すごいパンチ」

剣士「そ、そう……」

勇者「とりあえず魔王は牢屋に放り込んで、じゃあさっさと寝ようか」ガシ

メイド「いやー! 魔王さまー!」ズルズル

     ・
     ・
     ・

94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 21:06:51.57 ID:Pqk8WRTN0

<帝国>


騎士軍元帥「陛下、お待たせして申し訳ありません。本日も陛下におかれましては――」

皇帝「元帥か。挨拶はよい」

元帥「は」

皇帝「単刀直入に聞こう。魔界侵攻の具合はどうだ?」

元帥「ありていに申しあげまして……芳しくありません」

皇帝「そうか……。"勇者"からの連絡は?」

元帥「二十日前に途切れたきりです」

皇帝「……」

元帥「もともと勇者計画は失敗を前提としております、どうか気を落とさぬよう」

皇帝「分かっておる」

97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 21:14:39.58 ID:Pqk8WRTN0

元帥「ですが、代わりといいますか良い報せがございます」

皇帝「何だ?」

元帥「魔術士計画の土台が整いました。それほどしないうちに実戦投入ができるかと」

皇帝「それはまことか?」

元帥「神に誓って申し上げます。我々は皇帝陛下に輝かしき勝利を献上すると」

皇帝「期待しているぞ」

元帥「は!」

99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 21:20:42.75 ID:Pqk8WRTN0

<魔界>


鬼人族長「思うことがある」

鬼人従者「何でしょう?」

鬼人族長「なぜ我らは耐えねばならぬのだろう」

鬼人従者「……」

鬼人族長「魔王さまは確かに大器のお方だ。しかし……」

鬼人従者「族長」

鬼人族長「すまぬ」

鬼人従者「……もしものときは私があなた様を支えましょう」

鬼人族長「……すまぬ」

101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 21:30:57.24 ID:Pqk8WRTN0

勇者「おはよう」

メイド「……」ムス

剣士「……」グッタリ

勇者「どうした?」

メイド「……」プイ

剣士「きついわ……」

勇者「よくわからないけど、大変だったんだな」

剣士「この娘、夜通し暴れてたのよ……
   ベッドに縛り付けてもすぐ抜け出しちゃうし、最終的には気絶させたけど」

勇者「ほほう」

メイド「ふんっ」

103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 21:33:59.38 ID:Pqk8WRTN0

勇者「まあいいか、朝食を頼む」

メイド「いやですわ」

勇者「魔王がどうなってもいいのか?」

メイド「うぐ……」

勇者「さっさと用意を始めてくれ」

メイド「わかりましたー」ブス

104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 21:37:51.34 ID:Pqk8WRTN0

メイド「どうぞ」

勇者「質素だな」

剣士「パンとスープだけ……」

メイド「あなた方にはこれで十分ですわ」

勇者「贅沢は言わないよ」パク

剣士「まあ、仕方ないわね」

勇者「あ、スープは飲まないように」

剣士「何でよ?」

勇者「毒」

メイド「……!」

107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 21:40:09.22 ID:Pqk8WRTN0

メイド「な、なんで……」

勇者「本当に入ってたのか」

メイド「え?」

剣士「カマかけたのね」

勇者「いや、変な確信はあったけど、まさか当たるとは」

剣士「残念ね」

メイド「ぐぬぬ……」

109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 21:42:45.22 ID:Pqk8WRTN0

     ・
     ・
     ・


剣士「ねえ勇者、思ったんだけれど」

勇者「何だ?」

剣士「わたしたち、実は結構危険なんじゃ」

メイド「今頃気付いたんですの?」ジト

勇者「ここは敵陣の真っただ中なんだぞ」

剣士「……魔王が捕まってることは魔界中に知れ渡ってるの?」

勇者「いいや、この城の中だけで情報は止めてある。
   情報を漏らすようなことがあったら魔王の命はないってな」

剣士「そんなの……」

勇者「まあ、そんなに長くはもたないだろうよ。早々に手を打つ必要がある」

剣士「何かいい手はあるの?」

勇者「いいや」

剣士「え?」

110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 21:45:22.15 ID:Pqk8WRTN0

勇者「俺は手の届く範囲でしか物事を動かせない。だから、ここはできることだけやるさ」

剣士「できることって?」

勇者「例えば」

魔族近衛兵「喰らえ!」ジャッ!

勇者「"貫拳"」シュッ!

魔族近衛兵「がっ!」ドサリ

本文「は、反撃しただと!?」

勇者「自分の身を必死に守ることぐらいかな」スッ

剣士「……」ポカン

本文「く、くそ!」バッ!

勇者「"爆拳"!」


     ・
     ・
     ・

119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 21:55:02.47 ID:Pqk8WRTN0

剣士「あれから五日……」

剣士「とてもじゃないけど生き延びられる気がしなくなってきたわ……」

剣士「昼間は襲撃に気を張り詰め、夜はメイドが暴れる……」

剣士「……眠い」

勇者「おはよう」

剣士「わたしはまだ寝てたい」

勇者「それがそうもいかなくなってきたみたいだ」

剣士「どういうこと?」

120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 22:02:03.51 ID:Pqk8WRTN0

勇者「メイド、説明してやってくれ」

メイド「はぁ、なんでわたくしが……
    ええとですね、簡単に言いますと人間たちが攻めてきましたの」

剣士「騎士軍?」

メイド「本腰を入れてきたわけではなさそうですわ。
    でもやはり帝国の最高軍事力、こちらも相応の用意をしなければ立ち向かえません」

剣士「まさか……」

勇者「いや、俺たちの事がバレたとかそういうことはなさそうだ。ほとんど勘だが」

剣士「そう……あとどれくらいで衝突するの?」

メイド「騎士軍の移動速度からして、危険域に入るまであと二日程でしょうか。
    わたくしたちも迎え撃つ準備をしなくてはなりませんわ」

122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 22:05:14.58 ID:Pqk8WRTN0

剣士「どうするの勇者?」

勇者「魔王軍で応戦する」

剣士「魔族があなたの言うことを聞くの?」

勇者「この前の仮面とローブで魔族のふりをすることはできるよ。
   後は魔王の剣でもひっさげて、魔王の右腕とでも称すれば多分」

剣士「わたしも行くわ」

勇者「申し出はうれしいけど、一応魔王と魔王城の番をする人員はほしい」

剣士「そんな」

勇者「剣士。その仕事はもしかしたら戦よりも大事かもしれないんだ」

剣士「……」

勇者「信頼してる」

剣士「……分かったわ」

123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 22:09:37.92 ID:Pqk8WRTN0

勇者「メイド」

メイド「なんですの?」

勇者「至急魔王軍の手配を頼む。戦闘力はおいといて集団行動が得意な奴を集めてくれ」

メイド「……仕方ないですわね」

勇者「あと、君も来るんだ」

メイド「は?」

勇者「君も来るんだ」

メイド「ええ!? そんな、わたくしは魔王さまのおそばに」

勇者「それが困るんだ。君が魔王城にいては剣士の苦労が半端ないよ」

メイド「いやですわいやですわ!」

勇者「剣士、ちょっと魔王に崩拳を……」

メイド「行きます! 行かせてください!」

勇者「それでいいよ」

128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 22:23:03.24 ID:Pqk8WRTN0

剣士「ねえ勇者」

勇者「何だ?」

剣士「無事帰ってきなさいよ」

勇者「分かってる」

剣士「約束だからね」

勇者「分かってるよ。それじゃ行ってくる」


 ツカツカ ツカツカ……


剣士「……」

132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 22:32:57.46 ID:Pqk8WRTN0

<二日後.平原.天幕の前>


メイド「……そろそろですわね」

勇者仮面「うむ」

メイド「あの地平に見えるのが騎士軍でしょうか」

勇仮「どうであろうな」

メイド「……」

勇仮「む、どうしたのだ?」

メイド「そのしゃべり方何とかなりませんの?」ヒソヒソ

勇仮「威厳はあるに越したことはないだろ?」ヒソヒソ

メイド「確かに魔族はそういったものを尊びますが……」ヒソヒソ

勇仮「ならほっといてくれ」ヒソヒソ

メイド「……」

136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 22:41:14.95 ID:Pqk8WRTN0

勇仮「さて、今回配置した魔王軍の内訳を教えてほしい」

メイド「……ええと、あなたが所望されたのはとにかく集団行動が得意な魔族でしたわね?」

勇仮「うむ。武勲を焦るような種族では困る」

メイド「ということで獣人のコボルト族がメインとなっております」



コボルト剣士「ワオーン!」

コボルト弓兵「グルル……」

本文「ぅらぁぁぁいセイ! セセセセセイ!」



メイド「と、このように」

勇仮「うむ、よろしい」

141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 22:59:34.15 ID:Pqk8WRTN0

勇仮「では指揮官を集めてくれ、作戦を発表するぞ」

メイド「話し合うのではなく?」

勇仮「今までの騎士軍と魔王軍の戦を見てればわかる。魔王軍はろくな戦術を持っておらん」

メイド「……魔族を馬鹿にしますか?」

勇仮「違う。それでも、また圧倒的物量差がありながら互角に戦っている魔族を褒めておるのさ」

メイド「……」

勇仮「ともかくだ、我輩の戦略に従ってもらう必要がある。今回は必ず勝たねばならん」

メイド「なぜ?」

勇仮「信頼を得るためだな」

146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 23:22:32.55 ID:Pqk8WRTN0

<天幕>


勇仮「――以上で説明を終わる。何か質問はあるか?」

コボルト第一部隊指揮官「……お前は何者だ?」

勇仮「ぬ、自己紹介はしたはずだが?」

コボルト第一部隊指揮官「新たに魔王さまの右腕として側近となった仮面人、だったか。
                確かに証として魔王さまの剣を帯びている。
                だが、俺はそんなこと今日初めて知ったぞ」

勇仮「なにぶん急な就任だったものでな、各部族への通達が遅れたのだ」

コボルト第一部隊指揮官「……」

勇仮「すまぬとは思う。お主らを軽んじたのではないことだけは信じてほしい」

コボルト第一部隊指揮官「……ふん」

148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 23:34:27.51 ID:Pqk8WRTN0

勇仮「他には?」

コボルト第二部隊指揮官「俺からも一つ。先ほどの作戦だが、なぜそんな回りくどい事をする?
                我ら魔族の力をもってすれば簡単に――」

勇仮「簡単に、何だ? 相手はあの騎士軍であるぞ?」

コボルト第二部隊指揮官「だが! 俺たちは小細工は好まぬ!」

勇仮「小細工かどうかは単なる視点の違いでしかない。
   それに相手はあの騎士軍だ。今回敗北すれば立て直すのは難しい。
   我輩らは今は勝たねばならん」

コボルト第二部隊指揮官「……」

勇仮「すまぬがここは魔王さまの名に免じて呑み込んでくれ」

149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 23:42:27.44 ID:Pqk8WRTN0

勇仮「他にも質問を受け付けたいところだが、そろそろお出ましのようだな」

メイド「来ました! 騎士軍です!」

勇仮「今回竜族や鬼人族、その他単純に力の強い者たちで軍を構成しなかったのは理由がある」

「理由?」

勇仮「うむ、君たちには可能性がある。ただ単に強力でないゆえの決戦力がな」


     ・
     ・
     ・

152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 23:48:47.51 ID:Pqk8WRTN0


 ザワザワ ザワザワ……


メイド「うう、緊張感でピリピリしますわ……」

勇仮「ふははは、睨み合ったままというのはなかなかスリルがあるな!」

メイド(性格……)

メイド「と、ところで、本当に勝算はありますの?」ヒソヒソ

勇仮「あるに決まってるだろ」ヒソヒソ

メイド「言っちゃあなんですが、コボルト達の実力は大したことありませんわよ?
    せいぜい人間二人分といったところです」

勇仮「今回の騎士軍の規模はおおよそ一万二千だったか」

メイド「こちらは半分の六千ですわ」

勇仮「ならぴったしだな」

メイド「……正気ですか?」

勇仮「本気だ」

153: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/02(木) 23:58:54.30 ID:Pqk8WRTN0

勇仮「そろそろ頃合いだな」

コボルト伝令兵「騎士軍が前進の構えを見せております」

勇仮「うむ! では指揮官に作戦実行を伝えよ!」


 オオオオオオオオオオオオオオオオオ!



154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 00:01:03.74 ID:0I5Kghy80

メイド「作戦ってなんですの?」

勇仮「一つずつ解説していこうか」

メイド「はあ……」

勇仮「まず陣形だが」

メイド「はい」

勇仮「騎士軍は見ての通り横陣だ。
   読んで字のごとく横に広い陣だな。最も基本的な陣形だと思う」

メイド「そうですわね。わたくしたちも同じですわ」

勇仮「いいや似ているがちょっと違う」

メイド「え?」

157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 00:06:52.63 ID:0I5Kghy80

勇仮「よく見てみるといい。何かおかしな点に気付かないか?」

メイド「ええと……右側の方が人数が多いですわね」

勇仮「その通り」

メイド「何か意味ありますの?」

勇仮「これは斜行陣という陣形だよ」

メイド「斜行陣?」

勇仮「その陣形の極意は……まあ見てれば分かる」

159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 00:14:24.86 ID:0I5Kghy80
本文「ここから先はにわか知識とファンタジー戦術だよ! 信じたら各方面から笑われるから注意してね!
    本文さんとのお約束だよ!」

163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 00:18:05.93 ID:0I5Kghy80

コボルト指揮官「移動開始ぃぃぃぃ!」

メイド「な、なんですの?」


 ザッザッザッザッザッ……


メイド「え!? 騎士軍がこっちに向かってくるのに、左側に移動し始めましたわよ!?
    これでは道を空けてるようなものではありませんか!」

勇仮「いや違う」

メイド「何を冷静に! 魔王軍の背後、つまり私たちの守りががら空きになりますわ!」

勇仮「違う」

168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 00:27:37.16 ID:0I5Kghy80

メイド「いやー! わたくしは逃げますわ―!」

勇仮「おっと」ガシ

メイド「放してくださいましー!」

勇仮「よく見るんだ」

メイド「え?」

勇仮「ほら」

メイド「騎士軍が前進をやめて同じく左側に動き始めた?」

勇仮「あちらから見て右側だ」

メイド「な、なんで?」

勇仮「騎士軍の前衛はファランクス隊だ。右手に武器を持ち左手に盾を持つ。大体はな」

メイド「それが何か関係あるんですか?」

勇仮「一番右側には守りがない。だからそこを突かれると弱いんだ。
   逆にいえば最も強い兵士たちが右側にいることにもなるが」

メイド「だから右側を守るように動く……」

勇仮「そうだ」

171: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 00:33:52.02 ID:0I5Kghy80


 ザッザッザッザッザッザッ……


メイド「で、でも、こちらも相手も動くなら、永遠に左に移動し続けるんですの?」

勇仮「さすがにそれはない」

メイド「では?」

勇仮「まあ見てれば分かる。上手くいけば、だけど」

メイド「……?」

勇仮「……」

173: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 00:42:05.84 ID:0I5Kghy80


 ザッザッザッザッザッザッザッ……


勇仮「……」


 ザッザッザッザッザッザッザッ……


勇仮「……来た」

メイド「え?」

174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 00:46:21.87 ID:0I5Kghy80

勇仮「今だ! 前進せよ!」


 ――オオオオオオオオオオオオオオッ!


メイド「なに? なに? なんですのー!?」


 ザッザッザッザッザッザッ……


勇仮「右翼を先行させよ! 突撃だ!」

メイド「そ、そんな無茶ですわ!」

勇仮「いいや」

メイド「だって……」

メイド「!」

177: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 00:58:13.36 ID:0I5Kghy80

 ――オオオオオオオオオオオオオオオ!


 キィン! カン! ガキン! ドシュ!


メイド「騎士軍が……割れた?」

勇仮「あれだけ急いで移動したんだ、当然隙間ができるさ」

メイド「つまりこういうことですか?
    "横への移動が急すぎて、陣形が乱れた"!」

勇仮「当たりだ」

メイド「そこへ魔王軍、数の多い右側が突撃したから」

勇仮「騎士軍の陣が分断されたんだな」

メイド「でも、こちらだってその危険があったのでは?」

勇仮「何のために集団行動が得意な魔族を集めたと思ってるんだ?」

メイド「あっ」

178: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 01:04:59.36 ID:0I5Kghy80

メイド「な、なるほど」

勇仮「陣ってのは横や後ろが弱いもの。
   あとは魔族の得意な乱戦でかき乱してくれればいい」

メイド「じゃ、じゃあ!」

勇仮「ああ、もう勝ったようなもんだな」

メイド「や、やったっ」

勇仮「でもまあ」


 ――ギャアアアアアアアアアアア!


メイド「!」ビク!

勇仮「やっぱり相手もただでは倒れないよな……」

179: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 01:12:35.01 ID:0I5Kghy80

メイド「なんですの!?」

勇仮「相手の方が数段上なんだよ……」

メイド「読まれていたんですか!?」

勇仮「いや、相手も油断してたんだろう。だからこそ弓射隊を使わず近接戦闘で片付けようとしたんだ。
   だから俺たちにも勝機はあった。でも……」


 カッ ズゥゥゥゥゥゥン!


メイド「……!」

勇仮「中央突破したコボルト兵が狙われてる……」

180: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 01:15:34.54 ID:0I5Kghy80

メイド「な、なんで……」

勇仮「呼びの兵力を背後に用意しておいたんだろうな。
   それならば突破されても迎撃できる」


 カッ ドゴォォォォォッ!


メイド「あれは魔術ですの!?」

勇仮「人間側の魔術だな。血陣魔術だ」

メイド「名前しか知らないです」

勇仮「人間は魔族と違って造作もなく魔術を行使するなんてできない。
   それでも何とか模索して編み出されたのが血陣魔術なんだ」

183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 01:19:17.62 ID:0I5Kghy80

 ――カッ ズガァァァァァン!


メイド「っ……ここまで余波が!」

勇仮「血を使って魔法陣を描画する!
   血は生命力の源だから術式を使ってそれを引き出す!」


 ――カッ ドゴォォォォォォォォ!


勇仮「特徴として、速射性はないが時間をかけられるぶん精密で強力な魔術を使えるんだ!
   戦向きだな!」

メイド「よく聞こえませんでしたわー!」

185: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 01:21:22.10 ID:0I5Kghy80

メイド「対策! 対策は!?」

勇仮「乱戦に持ち込めばやむはずだ。味方にも当たるからな」

メイド「……やみましたわね」

勇仮「これでこちらが有利のはず……多分」

メイド「もっと自信を持って言ってくださいまし……怖いですわ……」

勇仮「仕方ないよ、俺は本来ただの暗殺技能者にすぎないし。
   手の届く範囲で精一杯なんだ」

メイド「……」

186: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 01:23:32.30 ID:0I5Kghy80

メイド「あ……でも」

勇仮「……」

メイド「あれは退却ではありませんか?」

勇仮「どうだろうな。騎士軍はこちらよりも数段上手だ。
   遅滞行動かも」

メイド「痴態行動……?」

勇仮「ああ、ええと、まあいいや。こちらも魔王軍を戦場から離脱させよう」

メイド「みんな言うこと聞いてくれるでしょうか?」

勇仮「……コボルトさんたちの知性を信じよう」

193: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 02:00:28.51 ID:0I5Kghy80

<魔王城>


剣士「……」

剣士「そろそろ衝突している頃かしら?」

剣士「……」

剣士「心配だわ、やっぱりついていった方がよかったんじゃ」

剣士「だってあの子、なんだかんだ言ってまだ十八よ。
   魔王軍をだまくらかして大規模戦闘なんて……」

剣士「……案外できてそうな気がするのが怖いけど」

194: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 02:10:04.40 ID:0I5Kghy80

剣士「まあ、正直に白状すると微妙に暇なのよね」

剣士「何だか魔王城もひっそりしちゃってるし」

剣士「今まであんなにピリピリしてたのが嘘みたい」

剣士「まるで嵐の前の静けさね」

剣士「……いけないわ、独り言が多すぎる」

剣士「でも暇なわけよ」

196: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 02:30:20.34 ID:0I5Kghy80

剣士「だからと言って寝るわけにもいかないし」

剣士「……」


 ――……ズゥゥゥン


剣士「……?」

剣士「何かしら?」

199: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 02:39:44.88 ID:0I5Kghy80

<牢屋>


 ――モクモクモク……


魔王「フゥ――フゥ――……」

魔王「ッ」クワ!

魔王「見たましたか、ぼくの力を!」

魔王「こんなチャチな首輪でどうにかできる程甘くありませんッッ!」

魔王「待ってなさい、勇者に剣士! ぼくを閉じ込めたこと、後悔させてあげます!」

200: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 02:44:23.05 ID:0I5Kghy80

<廊下>


剣士「こっちからだったわよね」

魔王「勇者ぁぁぁぁぁ!」

剣士「!」ビク!


 ――ドン!


魔王「わぁ!」ドスン

剣士「きゃっ」ドサ

魔王「……」

剣士「……」

204: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 02:49:21.35 ID:0I5Kghy80

剣士「魔王?」ムクリ

魔王「剣士ィ!」ガバ!

剣士「さんをつけなさい」

魔王「剣士さんッ!」

剣士「よろしい。……あなたどうやって牢屋出たの? それに首輪は?」

魔王「舐めないで下さい! あんなもので魔王を閉じ込めておけるなんて、そんな認識が間違いなんです!」

剣士「どうやってか分からないけど、抜け出したのは事実ね」

206: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 02:54:29.06 ID:0I5Kghy80

剣士「あの首輪、予備はあるのかしら?」

魔王「また閉じ込める気ですね!?」

剣士「当然でしょ。わたしは勇者の相棒よ」

魔王「そうはいきません! "炎牙"!」ゴゥッ!

剣士「魔術っ……」バックステップ

魔王「喰らいなさい、“雷爪”!」ジャッ!

剣士「っと……」ヒョイ

魔王「ちょこまかとっ……」

209: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 02:58:29.26 ID:0I5Kghy80

剣士「ふッ!」ズダン!

魔王(踏み込み――速すぎる!)

剣士「やッ!」ビッ!

魔王「わわ!」ヨケ

剣士「もう一丁!」

魔王「え、“炎牙”!」ボッ!

剣士「っと……」ササッ!

210: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 03:01:42.12 ID:0I5Kghy80

剣士「……」

魔王「く……」

剣士「どうやらわたしの方に分がありそうね」

魔王「そんなこと……」

剣士「いいえ、わたしの方が速い、鋭い」

魔王「そんなこと……!」

剣士「いいことを教えてあげる。わたし、魔術の両断も得意なの」

魔王「! そ、そんなの嘘だ!」

剣士「本当だったらどうする? あなたは魔術を撃った瞬間に真っ二つよ」

魔王「っ……」

211: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 03:05:59.03 ID:0I5Kghy80

魔王「そ、それでも……でも……」

剣士(この子は未熟。たとえ魔術が達者に扱えようと、心はまだ子供)

魔王「そんなハッタリなんて!」

剣士「試してみれば? わたしは子供を斬るなんて気が進まないけど」

剣士(だから、どうしようったって必要以上に警戒してしまう、力んでしまう)

魔王「う、うう」

剣士(たとえ真っ赤な嘘でもね)

魔王「え、“炎――」

剣士「遅い!」

剣士(そんなに力んでは遅すぎる!)ブン!

215: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 03:11:37.25 ID:0I5Kghy80

 ――ヒュンヒュンヒュンヒュン!


魔王「う、うわぁぁあッ!」

剣士(必殺の距離! 投擲した剣は!)

魔王「ギャッ!」ドスン!

剣士(目標を確実に貫く!)

魔王「あ……あ……」ヘナヘナ

剣士「頭の横、紙一枚ってとこかしら。良かったわね外れて」

魔王「あ、あう、あう……」

剣士(まあ外したんだけど)

魔王「」ガク

剣士「あらら、気絶しちゃったわ」

217: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 03:18:27.26 ID:0I5Kghy80

魔王「」ブクブク……

剣士「気絶して泡吹く人って本当にいるのね」

剣士「さて、予備の首輪を探して、この子を――あら?」

剣士「……」

剣士(指が酷く傷ついてる……)

剣士「……首輪を取るときに、かしら」

剣士「……」

剣士「まったくあの子もこの子も……」

剣士「仕方ないわね、もう」

219: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 03:20:30.74 ID:0I5Kghy80
訂正

剣士(指が酷く傷ついてる……)

剣士(この子の指、酷く傷ついてる……)

220: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 03:23:16.60 ID:0I5Kghy80




『――友達になってください!』




222: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 03:25:41.79 ID:0I5Kghy80

<牢屋>


魔王「――……う、ううん」

魔王「!」ハッ!

魔王「ここは!」ガバ

魔王「……う、ううううう!」

魔王「また牢屋ですかぁっ!」

魔王「もう嫌だ……」ガックシ……

魔王「……あれ?」

魔王(指に包帯が巻いてある……)

魔王「誰が……」

魔王(剣士さん?)

魔王「……そんな馬鹿な」

魔王「……???」

225: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 03:35:09.39 ID:0I5Kghy80

<数日後.魔王城>


勇者「ふー、終わった終わった……」

メイド「ただいま帰りましたー……」

剣士「おかえり」

勇者「ああ、ただいま……」

剣士「ずいぶん疲れてるわね」

勇者「大規模戦闘はそんなもんさ。俺もう当分は戦いたくない……」

メイド「わたくしも……」

剣士「あらあら珍しい」

235: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 03:43:30.10 ID:0I5Kghy80

剣士「食事にする? わたしじゃろくなもの作れないけど」

勇者「他のメイドは……もれなく毒を盛りそうだしなあ。
   じゃあお願いしていいかな?」

メイド「わたくしはお風呂ですわー……」フラフラ

剣士「あれなら今日は夜の心配はしなくてもよさそうね」

勇者「大人しいものだったよ。夜も襲われなかったし」

剣士「襲われ……そう」

勇者「寝顔も可愛いもんだった」

剣士「え?」ピタ

勇者「……おっと」

剣士「どういうことかしら?」

勇者「どう思う?」

剣士「たたっ斬りたい」

238: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/03(金) 03:45:52.24 ID:0I5Kghy80

 ――ギャアアアアアアア!


メイド「いやですわ、こんなところでも悲鳴が聞こえるなんて……はぁ」ヌギヌギ……


6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 05:05:51.28 ID:SdirUp2Qo

<帝国>


元帥(馬鹿な)

元帥(馬鹿な馬鹿な……)

元帥「それは、まことかね。何かの間違いでは?」

「いいえ、確かに十日前、我が軍第一師団は撤退を余儀なくされました」

元帥「……まこと、かね」

「……はい」

元帥「信じられん、なぜそのようなことになったのだ」

「相手はコボルトの群れでした」

元帥「コボルト!?」

「はい」

7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 05:08:51.24 ID:SdirUp2Qo

元帥「あのコボルトか?」

「ええ、確かに間違いありません」

元帥「確かに、人間よりもはるかに強靭だが……」

「六千の、コボルトにです」

元帥(馬鹿な!)

元帥「……」

「……」

元帥「にわかには、信じられんな」

「私もです」

元帥「だが、君が嘘をついているようには見えん……信じよう」

「光栄です」

8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 05:18:40.47 ID:SdirUp2Qo

元帥「となると、だ」

「はい、その通りです」

元帥「ああ、計画を前倒しにする必要が出てきたやもしれん」

「ええ」

元帥「現在の進捗状況は?」

「約三割といったところでしょうか」

元帥「急ぐように伝えろ」

「は!」

元帥(魔界に何か動きがあった……そう見た方が妥当か)

元帥「……勇者」

元帥(まさかな……)

9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 06:39:10.12 ID:SdirUp2Qo

<魔界.魔王城>


勇者「と、言うわけで、魔族の強化を始めようと思う」

剣士「唐突に口を開いて何が『と言うわけで』、よ」

メイド「わたくしにも分かりませんわ」

勇者「ん。まあ、大したことじゃないんだ。
   今度のことみたいに俺がいちいち出張ってたんじゃ色々都合が悪い。
   だから魔族の軍事力を底上げして騎士軍と互角に戦えるようにしようと思って」

剣士「そんなことして大丈夫?
   今度は人間側が脅かされるわ」

勇者「そうだな。だから前回みたいに比較的弱い……もとい温和?な種族に戦術を授けようと思う」

剣士「例えば?」

勇者「ゴブリン?」

剣士「どこが温和よ」

10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 06:51:10.65 ID:SdirUp2Qo

勇者「まあ、ただの例えだよ。
   まあ、そこら辺はメイドに訊こう」

メイド「わたくしですの?」

剣士「まあ、当たり前だけどこの中では一番魔界通だものね」

メイド「ちょっと待ってくださいまし。
    わたくしはあなた方の仲間になった覚えはありませんわ」

勇者「でも魔族の強化は悪い話じゃないだろう?」

メイド「……わたくしは戦は嫌いですわ」

勇者「あんまり魔王を脅しには使いたくないんだけれど……」

メイド「それはもう脅しになりませんわ」

勇者「?」

メイド「あなたはそういう人じゃないってなんとなくわかりましたもの」

勇者「……」

11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 06:57:47.79 ID:SdirUp2Qo

勇者「でも、俺はやるときはやる男だ。そういう訓練も受けた」

メイド「それでもあなたはやりません」

勇者「どうかな」

メイド「やりません」

勇者「やるよ?」

メイド「やりません」

勇者「……困ったな」

12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 07:18:49.78 ID:SdirUp2Qo

メイド「ではわたくしはお洗濯をしに行きますわ」スク

勇者「……」

メイド「……」ツカツカ

メイド「……そういえば、資料室」

勇者「!」

メイド「あらやだわたくしったら独り言を。変な癖は治しませんと」

剣士「……」

メイド「お洗濯お洗濯」ツカツカ……

剣士「……素直じゃないわねえ。
   あれでもだいぶ懐柔できたのかしら」

勇者「どうだろうね」

22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 15:31:51.00 ID:SdirUp2Qo

<魔界.会議堂>


コボルト族長「……」

ゴブリン族長「……」

妖精族長「~♪」

勇仮「……」

勇仮(とりあえず、資料室で調べてピックアップした種族はこの三つだ。
   個としての力は強くないが、数が多く集団行動が得意で、なおかつ比較的思慮深い。
   こいつらを鍛えれば、程よい戦力になるはず……)

コボルト族長「……そろそろ聞かせてもらっても良いのではないか?
         我らはなぜここに集められた?」

勇仮「ぬ、そうだな。説明を始めたいと思う」

ゴブリン族長「儂らはあまり頭がよくない。分かりやすく頼む。
         出ないといつ手が出るかわからんぞ……?」

妖精族長「~♪」

勇仮「ふむ。鋭意努力いたそう」

23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 15:37:12.93 ID:SdirUp2Qo

勇仮「まず、各部族に報せは回っていると思うが、我輩は新しく魔王さまの側近となった仮面人と申す。
   ここであらためて挨拶を申し上げたい。これからどうかよろしく頼む」

ゴブリン族長「仮面人、か」

妖精族長「~♪」

コボルト族長「我々は比較的早くその情報を頂いておる。
       先の戦は……まあなかなかのお手前であった」

ゴブリン族長「東平原の戦いか。儂も一応は聞いておるな」

勇仮「ならば話は早い。我輩の実力はもう分かっていただけたと思う」

コボルト族長「まあ、一応は、な。あれがマグレの可能性もあるが。
         それに前に出て戦わない指揮官など、ただの臆病者だ」

勇仮「どのように思って頂いてもよい。
   我輩の力によって騎士軍を敗走させた……は言いすぎにしても追い払ったのは事実だ」

ゴブリン族長「……ふむ」

妖精族長「~♪」

24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 15:43:46.32 ID:SdirUp2Qo

コボルト族長「それで? 話を先に進めていただこうか」

勇仮「単刀直入に申しあげよう。あなた方の種族の者を我輩の手駒にしたい」

ゴブリン族長「……!」

コボルト族長「ほう……」ピク

勇仮「我輩はまだ就任したばかりで組織を動かすだけの力は持たん。
    だが、これから魔王さまを補佐していくうえでその力は絶対に必要となる。
    だから、あなた方の力がほしい」

ゴブリン族長「……」チラ

コボルト族長「……」コクリ

勇仮「……」

ゴブリン族長「ずいぶんな物言いではないか、若いの。
         儂らは物では――ないぞッ!」バッ!

コボルト族長「ふっ!」シュッ!

勇仮(まあそうだよな!)バックステップ

25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 15:49:43.52 ID:SdirUp2Qo

勇仮「待たぬか。我輩に刃を向けるのは魔王さまへ刃を向けるのと同じこと」

コボルト族長「ぬかせ、この若造が。臭いで分かる。お前は異端の者だ」

ゴブリン族長「儂は仮面から覗く目で分かる。お主はそれほど強くはないな」

勇仮「……」

勇仮(確かに俺はただの暗殺技能者。
   たとえ比較的弱い種族相手といえども、真正面からじゃ絶対に負ける)

コボルト族長「覚悟しろ、異端者め」ジリジリ

ゴブリン族長「……」ジリ……

勇仮(いけるか?)スッ

妖精族長「お待ちになってください」

26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 16:13:13.24 ID:SdirUp2Qo

コボルト族長「のんきに鼻歌を歌っていた輩が口をはさむな」

ゴブリン族長「話はこやつを殺してからでも遅くはあるまい?」

妖精族長「いいえ、遅すぎます」

勇仮「……ふむ」

妖精族長「仮面人様、わたしはあなたをたいそう名のある方とお見受けします」

勇仮「いや無名であるが」

妖精族長「ふふ、ご謙遜なさらないで。
       先ほどからあなたの鋭い闘気をひしひしと感じます」

勇仮「……」

妖精族長「それに騎士軍を、半分の数のコボルト軍で追い払ったそうですね。
       並大抵のことではありませんわ」

勇仮「先ほどから何が言いたい?」

妖精族長「協力して差し上げてもよい、と申し上げているのです」

コボルト・ゴブリン「!」

27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 16:55:25.83 ID:SdirUp2Qo

勇仮「それはありがたい」

妖精族長「ただし条件がありますわ」

勇仮「なんであろうか」

妖精族長「妖精族があなたの手駒になるのではなく――あなたが妖精族の手駒となるのです!」


 ヒュッ! ビィィィィイイン!


勇仮(弓射!)

妖精族長「わざと外しましたが、次は当てさせますよ」

28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 16:56:31.25 ID:SdirUp2Qo

ゴブリン族長「……お主」

コボルト「……」

妖精族長「あなた方も動かないでください」

勇仮(どこから射撃を……)チラ

妖精族長「妖精族は魔族の中で一番力が弱いですが、その分隠密行動が得意です。
       探しても無駄ですよ」

勇仮「……」

妖精族長「~♪」

29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 16:57:37.85 ID:SdirUp2Qo

妖精族長「ふふ、たとえあなたが異端者であろうと、魔王さまに近いところにいるのは事実。
       ならばわたしたちの部族の発展に利用させていただきます」

勇仮「ふむ……」

妖精族長「あなたの持てる知識を全て引き渡しなさい」

勇仮「……」

妖精族長「……」

勇仮「断る」

妖精族長「そうですか。残念です」


 ヒュッ!


妖精族長「では痛い思いをしてもらうまで!」

30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 16:59:22.80 ID:SdirUp2Qo

勇仮「くっ」サッ


 ――ビィィィィイイン!


妖精族長「無駄です」


 ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ!


勇仮「“連拳”!」ズガガガガ!

妖精族長「打ち落としますか。さすがですね。でも――」

勇仮「く……」

妖精族長「あなたを狙う矢がこの倍に増えたら?」


 キリキリキリ……


妖精族長「もっと倍に増えたら?」


 キリキリキリキリキリキリ……


妖精族長「さらに倍に増えたら?」


 キリキリキリキリキリキリキリキリキリ……


妖精族長「きっとあなたは死ぬのでしょうね」


 ――ギリリ……!


31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 17:01:07.24 ID:SdirUp2Qo

勇仮「……」

妖精族長「……」

コボルト族長「……」

ゴブリン族長「……」









勇仮「……プッ」

コボルト族長「?」

妖精族長「……ふふ」

ゴブリン族長「?」

勇仮「ふ、はは……」

妖精族長「ふふふふ」

勇仮「く、はは、はははははははは!」

妖精族長「うふふ、あははははは!」

32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 17:02:02.12 ID:SdirUp2Qo

コボルト族長「……???」

ゴブリン族長「……いったい何だと言うのだ」

勇仮「ははははは……。いやすまない。随分と面白い冗談だと思ってな」

妖精族長「クスクスクスクス……」

コボルト族長「冗談?」

勇仮「いや、我輩の知識がほしいのに殺してどうする」

ゴブリン族長「む……」

妖精族長「ふふふ、その通りです」

コボルト族長「まさか、最初から」

妖精族長「いいえ、本当に知識を絞り出して手駒にするつもりだったんですけれど」

勇仮「我輩が口を割らないのではどんなに脅しても意味はないしな」

33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 17:02:47.02 ID:SdirUp2Qo

妖精族長「痛めつけても良かったんですけれど」

勇仮「力の弱い奴が手加減なんて器用な真似は出来まい?」

妖精族長「その通りです。仮面人様、わたしたち妖精族は、あなたに従いましょう」

勇仮「助かる」

コボルト族長「悪ふざけが過ぎる……」

妖精族長「あら知らないんですか?」

ゴブリン族長「?」

妖精族長「妖精族はいたずらが好きなんですよ♪」

勇仮「ははは!」

34: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 17:03:42.08 ID:SdirUp2Qo
一区切り

42: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 20:34:01.69 ID:SdirUp2Qo

<魔王城>


剣士「あなたって」パチン

メイド「なんですの?」パチン

剣士「いえ、なんだかずいぶん大人しくなったものねって」パチン

メイド「そうですか?」パチン

剣士「だってちょっと前まで夜ごとに大暴れだったじゃない」パチン

メイド「毎日暴れていては疲れますわ」パチン

剣士「まあ、そうだけど」パチン

43: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 20:34:45.25 ID:SdirUp2Qo

メイド「まあ、馬鹿らしくなったっていうのはありますわね」パチン

剣士「ふーん?」パチン

メイド「あなた方を放置していても特に危険はないと分かりましたもの」パチン

剣士「まあ、わたしは暴れたりしないし」パチン

メイド「あ、その手は待ってもらえませんこと?」

剣士「えーまたあ?」

メイド「一生のお願いですわ!」

剣士「一生のお願いいくつあるのよ」

44: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 20:35:50.23 ID:SdirUp2Qo

メイド「えーと、何の話でしたか」パチン

剣士「あなたが大人しくなったって話」パチン

メイド「そうでしたわね。ううん、なんといいますか。
    わたくし、勇者と一緒に戦闘にいったじゃないですか」パチン

剣士「ええ」パチン

メイド「あの時の大規模戦闘なんですけれど、勇者はなんだか堂々としていて」パチン

剣士「……」パチン

メイド「なんとなく、逆らう気が失せたっていいましょうか」パチン

剣士「……そう」パチン

メイド「あ! 王手ですわ!」パチン!

剣士「……」

メイド「どういたします?」ニヤニヤ

剣士「……降参」

メイド「やったー! ついに勝ちましたわー!」バンザーイ

剣士「飛車・角落ちのハンデ付きだけどね」

メイド「それでも勝ちに違いはありませんわー!」バンザーイ

剣士「……ふう」

45: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 20:36:50.32 ID:SdirUp2Qo

メイド「勝った後のお茶はおいしいですわー」ズズ……

剣士「……でもそうなると魔王がかわいそうよねー」ズズ……

メイド「……あ」

剣士「唯一頼りにしていたメイドも助ける気がなくなっちゃうなんて」

メイド「そ、それは……」

剣士「それは?」

メイド「……」

剣士「……」

メイド「魔王さま、今助けに!」

剣士「させないわよ」サッ

メイド「きゃっ」コケ

46: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 21:01:20.87 ID:SdirUp2Qo

勇者「仲がよさそうで何より」

剣士「あ、おかえり」

勇者「ただいま」

メイド「どうでした?」

勇者「かよわい者ほど危険って身にしみたよ」

メイド「なんですのそれ?」

勇者「いいや、こっちのことだ」

48: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 21:21:56.83 ID:SdirUp2Qo

勇者「とりあえず三種族の協力は取り付けた」

剣士「じゃあ、第一段階はクリアね」

メイド「次はどうなりますの?」

勇者「教習に入る。とりあえず戦術の基本を頭に入れてやって、実地訓練を積ませるんだ。
   できれば戦術だけじゃなくて戦略も叩き込ませたいけど、俺にもよくわかってないから無理だな」

メイド「戦術と戦略ってどう違いますの?」

勇者「俺もよくは呑み込めてない。
    戦に勝って何をするのかが戦略で、戦にどうやって勝つかが戦術、かな?
    とにかく戦略の方が上位なんだ」

メイド「難しいんですのね」

勇者「ああ、でも戦術だけでも事足りるはずだ。
    早速明日から訓練だよ」

剣士「わたしも行ってみたいけど」

勇者「留守番を頼む」

剣士「そうよね」

メイド「わたくしはどうしますの?」

勇者「大人しくしていてくれるならどちらでもいい」

49: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 21:28:13.29 ID:SdirUp2Qo

メイド「じゃあ――」


     ・
     ・
     ・

メイドさんの行動安価:勇者についてくor留守番

現レス番+2

※ストーリーの大筋に影響なし。気楽に

52: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 21:44:02.37 ID:SdirUp2Qo

メイド「ついていきますわ」

剣士「……なんで?」

メイド「え? なんとなくですが」

剣士「だってあなた戦は嫌いって」

メイド「そういえばそうですわね。あれ、なぜでしょう?」

剣士(この娘……)

メイド「まあ、いいじゃありませんか」

勇者「その方が安全と言えば安全だしな」

剣士「……分かったわ」

54: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/03(金) 21:58:00.16 ID:SdirUp2Qo

勇者「それじゃ」

メイド「わたくしも失礼します」


 ギィィ バタン


剣士「……」

剣士「……気にいらない、わねえ」

剣士「……」

剣士「……!」ハッ!

剣士「だめだめ、ここで余裕を失っちゃだめよ剣士。
    もっとどっしり構えなさい。ファイトよ、ファイト」

剣士「……でもねえ」

剣士「……あの娘、勇者に惹かれてるのかしら?」

 
61: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 01:49:04.21 ID:gD1nMCCqo

<翌日>


 ザワザワ ザワザワ……


勇仮「……」ツカツカ……



 「お、来たぞ。あいつが噂の……」

 「確かに魔王さまの剣だ……」

 「あれを使って先陣を切り、鬼のような強さでこないだの人間の軍を蹴散らしたとか……」



メイド(だいぶねじ曲がって伝わっているようですわね……まあどうでもいいですけれども)

62: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 01:49:37.38 ID:gD1nMCCqo

勇仮「あー、諸君、静粛に頼む」


 ――シーン


勇仮「ありがとう」

勇仮「では、お初にお目にかかる方が大勢なので改めてごあいさつ申しあげよう……」

勇仮「我輩は先日魔王さまの急な任命によりその側近職に就任した仮面人、である。
   この間の騎士軍との戦闘で指揮をとり、その撃退に努めたのを知ってる方もおられるかもしれない」

勇仮「我輩は魔王様より一つの使命を頂いておる。
   それを成すために全てを賭してかかるようにと」

 「それは、一体?」

勇仮「魔王軍の軍事力、その底上げである」

 「……」

63: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 01:50:11.61 ID:gD1nMCCqo

勇仮「我輩が諸君らにできることはそう多くない」

勇仮「我輩は諸君らの強化を助けることはできるかもしれないが、実際強くなるのは諸君らである」

勇仮「身命を賭して諸君らを鍛える。諸君らも全力でそれに応えてほしい」

 「……」

勇仮「……よいか!」

 「……!」

勇仮「諸君らは確かに魔界のあらゆる種族の中で下位の位置にあるかもしれない!」

勇仮「だが! それは持てる能力の使い方を知らない、ただそれだけのことである!」

勇仮「我輩は諸君らに飛び方を教える! それをしっかりと頭に刻み込め! 身体に覚えさせろ! その血肉に嫌という程叩き込め!」

勇仮「そして誓えッ! そうして得た力の全てを魔王さまのために! あの方のためだけに行使すると!」

 「……!」

 「おお……!」

 「おおお!」

勇仮「……我輩からは、以上だ」

勇仮「諸君らの頑張りに期待する」

64: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 01:50:38.63 ID:gD1nMCCqo

メイド(まったく口が達者なことですわね)

勇仮「さて……」

勇仮「今日はこれから、そうだな、簡単なテストを受けてもらう」

勇仮「メイド、説明してやってくれ」

メイド「かしこまりました!」

メイド「ええと、皆さんはこれから各隊に分かれてあの遠くに見える山までの道を往復していただきます」

メイド「簡単にいえばこれだけです」

65: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 01:51:05.31 ID:gD1nMCCqo

 「それだけ?」

勇仮「ああ、今日明日はそれだけだ。ただし真剣にやってくれ。
   これはテストであるが、大事な下準備でもある」

 「……」

勇仮「うむ、諸君はいい目をしておる」

勇仮「そんな諸君によい知らせだ!」

 「なんだなんだ?」

勇仮「優秀な成績を残した、つまり往復して一番に戻ってきた指揮官には褒美を与えよう!」

 「褒美?」

66: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 01:51:41.49 ID:gD1nMCCqo

勇仮「諸君! ここにいるメイドについてどう思う!?」

 「可憐だ」

 「可愛い」

 「抱きしめたい」

メイド「え? え?」

勇仮「うむ。皆も我輩と同じ感想を持っているようだな、よかったよかった」

勇仮「さて! 優秀な成績を収めた指揮官! そなたにはこのメイドから愛情のこもったキスをプレゼントする!」

「なんだと!?」

メイド「なんですって!?」

勇仮「と、いうわけで頑張ってくれ。
    おっと、女性指揮官には別途賞与を用意するから安心してほしい」

67: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 01:52:08.12 ID:gD1nMCCqo

メイド「ちょ、ちょっと!」

勇仮「では出発だ!」

 「おおおおおおおおおおおお!」

勇仮「頑張ってくるのだぞー!」

メイド「ま、待って――」


 ドドドドドドドドドドドドド!


メイド「ああ、待ってくださいましー!」

勇仮「はーっはっはっはっはっはっは!」

68: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 01:52:35.62 ID:gD1nMCCqo

メイド「……」ムスー

勇者「いたた……」ヒリヒリ

剣士「……お疲れ様」

メイド「わたくし、あんなふうに訓練のダシに使われるのはもう嫌ですわ!」

勇者「でも効果はてきめんだった。
   みんなあれほど熱心に……」

メイド「わたくしの意思はどうなりますの!」

勇者「今回は女性指揮官が優勝だったし。結果オーライ」

メイド「それを盲目と言うんです! 結果以外にも目を向けてくださいまし!」

69: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 01:53:04.04 ID:gD1nMCCqo

勇者「結果は結果」

メイド「と・に・か・く! もう一度あんなことしたらただでは済みませんわよ!」

勇者「でも」

メイド「……」キッ!

勇者「分かりました」

メイド「よろしい」

剣士(お茶おいしい)ズズ……

70: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 01:53:30.99 ID:gD1nMCCqo

剣士「ところで、今回の訓練にはどんな意味があったの?」

勇者「ああ、強化という視点では別に大した意味はないよ」

メイド「破ァッ!」バキ!

勇者「へぶし!」

メイド「何の意味もなくあんなことを!?」

勇者「落ち着くんだ。その手に持ったフォークを下ろしなさい」

剣士「……」ズズ……

71: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 01:54:06.93 ID:gD1nMCCqo

勇者「まあ、平たく言えば、現状把握だよ」

メイド「現状把握?」

勇者「ああ。現在の実力が分からないとこれからの計画も立てにくい
   だから移動・機動の速度や手際、そして団結力、統率力を見る必要があった」

剣士「なるほど」

勇者「大体わかった。三つの種族のどの部隊も平均して集団行動は得意だ
   でも本能や経験に頼る面が大きくてなかなか効率的じゃない
   だからこれからそれを補っていけばいい」

メイド「……」

勇者「そろそろフォークを下ろしてもらえる?」

メイド「……はあ。仕方ないですわね」

72: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 01:54:54.03 ID:gD1nMCCqo

勇者「さて、本腰を入れなきゃな。これから訓練することはいくらもある」

メイド「頑張ってくださいまし」

勇者「何言ってるんだ? 君も勉強すべきだよ」

メイド「え?」

勇者「俺に何かあったときは君が対処できるようにする必要がある」

メイド「そんな」

勇者「まあ一応ね、一応」

メイド「わたくし戦は」

勇者「嫌いな食べ物は食べなくてもいいって? それは違うだろう
   別に実際戦うわけじゃなくても知っておいて損はない」

メイド「……分かりました」

勇者「うん、そういうわけでこれからもよろしく」

メイド「はあい……」

87: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 18:09:03.18 ID:gD1nMCCqo

<魔界.会議堂>


 ザワザワ ザワザワ……


勇仮「――静かに。それではこれから講習を行いたいと思う」

 「実際に身体を動かす訓練はしないのですかー?」

勇仮「実地訓練は後だ。諸君らにはまず、座学によって戦術の基本を学んでほしい」

 「……そんなもの役に立つのか?」

 「実際に身体を動かして鍛錬を積んだ方が……」

勇仮「諸君らの思いももっともである。だが諸君らは今まで漫然と戦ってきただろう。
    それでは良くないのだ。戦い方と言うものを体系的に学んでもらいたい」

 「でも」

勇仮「我輩とてそのように学んできたのだ。その前提は呑み込んでくれ、頼む」

 「……」

 「仕方ないな」

 「俺も了解だー」

勇仮「分かっていただけたか、感謝する。では講習に入ろう」

89: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 18:40:34.63 ID:gD1nMCCqo

勇仮「まず戦いにはいくつかの原則がある。それを頭に叩き込んでくれ」

勇仮「まず一つに『目標の原則』だ」

勇仮「目標をしっかり把握しておくこと。簡単にいえばこれだけだ」

勇仮「だがこと戦場においてはそれすらできていない輩がたくさん出てくる」

勇仮「それは仕方のないことかもしれない」

勇仮「だがそれによって自軍を危険にさらしてしまうならばそれは悪だ!」

勇仮「……だから、『今自分が"何のために""何をしているか"』。それを忘れるな」

90: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 18:48:09.20 ID:gD1nMCCqo

勇仮「次に『統一の原則』」

勇仮「集団戦においては、全員がばらばらの行動をしていたのでは勝てない」

勇仮「だから、各人の行動を一つにまとめる必要がある」

勇仮「そのために最高指揮官を一人に定める事が必要だ」

勇仮「二人の指揮官で行動すれば二倍の戦果が望めると思うか?」

勇仮「否! その効率は格段に落ちる! ……四分の一程度だと思っておけ」

91: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 18:54:08.97 ID:gD1nMCCqo

勇仮「さらに主導権を常に握っておくことを説いた『主導の原則』」

勇仮「戦力を一点に集中させることを説いた『集中の原則』」

勇仮「相手の意表をつく『奇襲の原則』」

勇仮「集団の移動について。『機動の原則』」

勇仮「その他『経済の原則』『簡明の原則』『警戒の原則』などがある」

 「仮面人殿、一つよろしいか?」

勇仮「うむ、聞こう」

92: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 19:00:18.37 ID:gD1nMCCqo

 「聞いていれば当たり前のことではないか。そんなものに時間をかけたのか?」

勇仮「……諸君らは歴戦の戦士だ。当然このようなことは経験的に知っているだろう」

勇仮「だがどうだろう。諸君らの内にこれらの事を明言した者はいたか?」

勇仮「それを書物にのこした者はいたか?」

 「それは……」

勇仮「それが人間たちと諸君らの大きな違いだよ。
    人間は弱いなりにこのような事をしっかり認識するだけの知恵があるのだ」

勇仮「いいか、原則を甘く見るな、おろそかにするな」

勇仮「そうすればそれらの認識は君たちを強くしてくれるだろう」

 「……」


     ・
     ・
     ・

93: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 19:15:16.41 ID:gD1nMCCqo

     ・
     ・
     ・


メイド「ええと、以上が戦闘の原則でしたわね」

メイド「……よし」

メイド「次にやったのは、戦いの基本となる四つの部隊」

メイド「すなわち……ええと」

メイド「前衛部隊、射撃部隊、機動部隊、兵站部隊……」

メイド「……だったでしょうか、たしか」

94: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 19:17:52.65 ID:gD1nMCCqo

メイド「他にも発見、拘束、制圧、機動、打撃……」

メイド「そういう『仕事』という面から部隊をまとめる見方もあるそうですわね」

勇者「まだまだ兵科という分け方もある」

メイド「あ、勇者」

勇者「騎兵、歩兵、魔術兵、工兵、伝令兵エトセトラエトセトラ……」

メイド「あわわ」

勇者「まあ少しずつ覚えていけばいいさ」

メイド「頭が痛いですわ……」

勇者「いや、メイドは頑張ってるよ」

メイド「これからこれが続くと思いますと気分が重くなります」

勇者「もっと頑張ってくれ」ポンポン

メイド「気安く頭をタップしないでくださいまし。まったく……」

95: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 19:19:38.14 ID:gD1nMCCqo
一区切り

103: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 22:37:31.02 ID:gD1nMCCqo

<牢屋>


魔王「……」

魔王「魔王です」

魔王「……ぼくのこと覚えてる人はいるんでしょうか」

魔王「寂しい」

魔王「でも、何気に慣れてきちゃったっていうのが、悔しいです……」

魔王「魔王です……」

剣士「哀れね」

104: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 22:38:43.33 ID:gD1nMCCqo

魔王「あ、剣士さん……」ススス

剣士「なんで逃げるのよ……って仕方ないか」

魔王「なんですか、ぼくを笑いに来たんですか?」

剣士「なんか卑屈になってるし」

魔王「ふ。ぼくなんて勇者に勝てず、なおかつ死ぬこともできないただのゴミですよ……」

剣士「そんなに落ち込んでるならいっそ餓死でもして見せなさい。いつも食事は残さず食べるくせに」

魔王「だっておなかの虫が」

剣士「殺虫剤あるわよ」

魔王「死にたくありません」

剣士「どっちなのよ、まったく」

105: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 22:52:25.34 ID:gD1nMCCqo

剣士「……」

魔王「……?」

剣士「……ふう」

魔王「どうかしましたか?」

剣士「いえ、別に――っていえるほど強くないのよね、わたしも」

魔王「はい?」

剣士「愚痴ってもいい?」

魔王「聞く義理はありません」

剣士「そうよね」

魔王「……でもぼくはゴミなので勝手に話されても止めることはできません」

剣士「……あなた優しいのね」

106: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 23:11:48.28 ID:gD1nMCCqo

剣士「じゃあ、壁に向かって話すわね。
   ……あるところに女の子がいました。
   彼女は父親に厳しく鍛えられてとても強い女の子でした」

魔王「……」

剣士「彼女の父親は名のある、強い剣士でした。
   息子がいればその子を鍛えていたのでしょうが、残念ながら男の子が生まれる前に妻が死んでしまいました。
   だから一人娘のその女の子を鍛えたのでした」

魔王「……」

剣士「つらく長い鍛錬。女の子は次第に疲弊し疲れ、すりへってしまいます。
   それでも父親は訓練と称した暴力をやめてはくれません。
   女の子はとうとう家を飛び出しました」

魔王「……」

剣士「女の子には行くあてがありません。
   仕方なく魔王を倒すために家を飛び出したのだと思い込むことにしました。
   もしくは魔王に殺されたかったのかもしれません。
   そんな時、ある男の子に会いました」

魔王「……それって」

剣士「……」

107: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 23:14:47.01 ID:gD1nMCCqo

剣士「男の子は一緒に行こうと言ってくれました。……相棒だと言ってくれました。
   女の子はうれしかった……
   でもその男の子は今は別の娘と仲良くしています。
   女の子は寂しくて仕方ありません」

魔王「……」

剣士「おしまい」

魔王「……」

剣士「悪かったわね、変な話して」

魔王「……別に。ゴミですから」

剣士「ふふ、そうだったわね」

108: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 23:20:31.60 ID:gD1nMCCqo

剣士「ま、そういうわけなのよ」

魔王「ゴミなので聞いていませんでした」

剣士「……徹底してるわね」

魔王「ゴミなりのプライドです」

剣士「あんまり卑屈になると後でつらいわよ」

魔王「後……ってなんでしょう?」

剣士「別に殺すわけじゃないんだからいつかは出られるでしょ」

魔王「いつか……いつですか?」

剣士「さあ?」

魔王「ええ、期待していませんでしたとも」

109: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 23:25:02.54 ID:gD1nMCCqo

剣士「聞いてもらったお礼よ。いや、聞いてはないんだっけ。
   まあ、なんでもいいわ。あなたも何か話すといいわよ。
   わたしは聞き流すから」

魔王「話すこと……何かあったでしょうか」

剣士「天井のしみの数とか、ネズミとの共同生活とか」

魔王「……。そうですねえ」

剣士「……」

魔王「じゃあ、一つ疑問が」

剣士「……?」

魔王「女の子っていいますけど、もうそういう年齢じゃない人もいますよね」

剣士「殺す」

110: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/04(土) 23:29:05.05 ID:gD1nMCCqo


 ――ギャアアアアアア!


メイド「……?」

勇者「どうした?」

メイド「何か聞こえたような気が」

勇者「そうか? 俺は聞こえなかったけど」

メイド「空耳でしょうかねえ」

勇者「ま、そんなことはともかく勉強勉強、ほら」

メイド「ううう、頭痛いですわー……」

133: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 11:18:15.24 ID:B/++CPHjo

<十数日後.魔界.平原>


メイド「……」


 ザワザワザワザワ……


メイド「……全軍、前進です」


 ――オオオオオオオオオオ!


 ――ザッザッザッザッザッザッ!


メイド(わたくしの軍も相手の軍も横陣……
    ただし相手の方が千名程多い……)


 「相手軍も前進を始めました!」


メイド(相手は数を生かしてこちらを多方面から攻撃する手法を取ってくるでしょう。
    大勢を一点に集中させる手法によって。つまり外線作戦です)

134: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 11:19:37.14 ID:B/++CPHjo

メイド(ならばわたくしたちは各個撃破、つまり内戦作戦で対抗すればよい)

メイド(……そうでしたわよね、勇者様?)


 「衝突まであと少し!」


メイド「今です! 斜行陣に移行を!」


 ――オオオオオオオオオオオ!


メイド(右側を多く、そして前へ。左側を少なく、そして後ろへ)

メイド(右側がせり出した斜め陣です!)

135: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 11:21:07.08 ID:B/++CPHjo

 「右側が敵軍と接触いたしました!」


メイド(さあ、どうなります!?)


 カン! ガコン! バキ! ドゴウ!


メイド「押しもせず押されもせず……互角ですか」


 ――オオ、オオオオオオ……


メイド(勝機はまだ見えませんが……それでもまだいい方でしょうね)

136: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 11:22:35.67 ID:B/++CPHjo

 「……大変です。相手軍も陣の変形を始めました」

メイド「報告なさい」

 「こちらを相手の右翼がこちらを囲いこむように伸びてきています。
  これではこちらから見て左側が囲まれるのも時間の問題かと……!」

メイド「……」

 「どうなさいます?」

メイド「ふふ……」

 「……?」

メイド「計画通り! ですわ!」

137: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 11:23:31.00 ID:B/++CPHjo

メイド「では、左側背後に用意していた予備を前進させなさい!」

 「は!」

メイド「いいですか、変形した相手陣の、屈折点を狙うよう厳命なさい! わかったわね!?」

 「合点承知!」

メイド「さあ、これで完了ですわ」


 ザッザッザッザッザッザッザッザッザ!


メイド「わたくしの力、思い知りなさい!」

138: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 11:23:58.75 ID:B/++CPHjo

 ドゴ! ドガッ! ガゴ!


 「……」

メイド「……」


 オオオオオオオオオオオオオ!


 「成功です。相手の本体と回り込んだ隊とを分断いたしました」

メイド「やったっ!」

139: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 11:24:26.01 ID:B/++CPHjo

 「後は各個撃破ですね」

メイド「そこら辺は各指揮官がうまくやってくれるでしょう」

 「お見事です」

メイド「ふふふ。もっと褒めてもよいですわよ」


 ――オオオオオオオオオオオオオ……


141: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 11:35:00.87 ID:B/++CPHjo

メイド「勇……仮面人さまー!」タッタッタ

勇仮「おお、よくぞ――」

メイド「やりましたわ、やりましたわよー!」ダキツキ!

勇仮「うおっと!」

メイド「このメイドやりました! 褒めてくださいまし!」

勇仮「うむ、よくぞこの訓練を乗り越えた。褒めてつかわそう」

メイド「……」ムス

勇仮「すごい。びっくりした」ヒソヒソ

メイド「!」パアァ

142: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 11:37:42.63 ID:B/++CPHjo

勇仮「では今回の模擬戦闘はメイド軍の勝ちである。
   残念ながら相手軍の指揮官はメイドとのデート権を逃したわけだな」

指揮官「ちくしょー!」

メイド「べー、ですわっ」

勇仮「だが両軍とも見事であった。この短期間でよくぞここまで成長してくれた。
   我輩は誇らしく思うぞ」

 「仮面人さまの教え方がうまいのですー」

 「私たちも自信がつきました!」

勇仮「うむ、よいことだ。だが慢心するなよ。
   落とし穴は常に足元に開いているのだから」

 「はい!」

勇仮「では今日は解散だ
   皆の者、お疲れ様」

 「お疲れさまでーす!」

144: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 11:45:19.43 ID:B/++CPHjo

<魔王城>


メイド「王手!」ビシィ!

剣士「……」

メイド「どうします?」

剣士「……完敗だわ」

メイド「ふぅ、そろそろ勝ち飽きましたわね」フフン

剣士「なんだか鬼のように強くなったわね。
   まさかハンデもらって五戦全敗とは思わなかったわ」

メイド「わたくしの成長幅は天井知らずですわ!」

剣士「確かに横幅も増えてきたような」

メイド「えっ」

145: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 11:55:14.93 ID:B/++CPHjo

メイド「ど……どどどどどういう意味ですの!?」

剣士「あなた最近運動してる? 勉強ばっかりじゃなかった?」

メイド「そ、それは!」

剣士「そのくせ食いしん坊だし」

メイド「うぐ……」

剣士「ちょっとは散歩でもしてきなさい」

メイド「……吸血鬼は日光に弱いのです」

剣士「今更何言ってるのよ普通に浴びてたじゃない」

勇者「そういえばなんで日光平気なんだ?
   吸血鬼は日光に弱いって嘘なのか?」ズズ……

メイド「あ、いえ、わたくし実はクォーターですの」

剣士「……ってことは吸血鬼の血は薄いってこと?」

メイド「ええ」

剣士「ますます吸血鬼関係ないわね」

146: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 12:03:12.83 ID:B/++CPHjo

剣士「ほら、とにかく散歩してきなさい。勇者も太った娘は嫌いでしょうよ」

メイド「! 行ってきます!」

剣士「いってらっしゃーい」


 ガチャ バタン


勇者「なぜそこで俺が出るんだよ」

剣士「分かってるくせに」

勇者「……」

剣士「はぁ、まったく」

剣士(……わたしだって)

147: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 12:05:26.80 ID:B/++CPHjo

勇者「……お茶飲むか?」

剣士「……いただくわ」

勇者「ほい」コト

剣士「どうも」

勇者「……」ズズ

剣士「……」ズズ

勇者「……」

剣士「……」

148: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 12:13:10.37 ID:B/++CPHjo

勇者「行かせてよかったのか?」

剣士「メイド? 大丈夫。今のあの子ならあなたに逆らうことはないでしょうよ」

勇者「……」

剣士「それより聞かせてちょうだい」

勇者「なんだ?」

剣士「いつまでこんなこと続けられると思うの?」

勇者「こんなことって?」

剣士「こんなこと、よ」

149: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 12:24:35.74 ID:B/++CPHjo

剣士「わたし、留守番してる間魔王城の資料室にも何度か足を運んだの」

勇者「……」

剣士「それで、色々な統計――と言えるほど立派なものじゃないけど――を見てわかったわ」

勇者「何が?」

剣士「魔界は何もしなくてもそのうち人間に負ける」

勇者「……」

剣士「魔界の未来は決まっているのよ」

勇者「……」

150: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 12:31:16.92 ID:B/++CPHjo

剣士「言ってることが分からないなんてことはないわよね」

勇者「……ああ」

剣士「魔王軍は、その軍事力を最大限に発揮するための基盤を持ってないのよ」

勇者「分かってる」

剣士「政治も経済も商業も工業も。みんなみんな未熟すぎるの。
   軍を支えるだけの兵站が整ってないの」

勇者「分かってる」

剣士「このまま続ければ必ず敗北がやってくる」

勇者「分かってる。いままで互角にやってこれた……ように見えたのは、ただの錯覚だ」

勇者「魔界は常に攻め込まれる側だったし、なんとか自分の陣地で待ち受けることでしか対抗できてなかった」

剣士「……」

勇者「魔獣がうろついているから人間の少数行動は制限される。人間の領域でないから兵站能力も少しは落ちる。
   また、人間は疫病に対する対抗策をまだ見つけておらず、そのおかげで何とか滅ぼされずに済んでいる」

剣士「そうよ。人間はうかがってるの。確実に勝てるタイミングをね」

151: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 12:35:57.57 ID:B/++CPHjo

勇者「俺のやっていることは……応急措置だ」

剣士「いいえ、それすらできていないかもしれない」

勇者「俺は彼らに戦術を教えたが、戦術は戦略なしには意味がない。
   その戦略を支える政略なしには機能しない」

剣士「……」

勇者「分かってるんだ。そんなこと」

剣士「……」

勇者「分かってる……」

剣士「それでも?」

勇者「ああ、それでも」

152: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 12:46:03.88 ID:B/++CPHjo

勇者「それでも、俺はあがくよ。物事が手の届く範囲にある間は、ずっと」

剣士「……」

勇者「それに剣士は勘違いしてる」

剣士「勘違い?」

勇者「俺たちの目標は、延命であって勝利じゃない」

剣士「……?」

勇者「人間を打ち負かせばいいってもんじゃないってことさ」

剣士「……」

勇者「俺たちがすべきことは、ただ一つ」

剣士「……魔界、人間界間の争いの調停」

勇者「そうだ」

154: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 13:03:59.93 ID:B/++CPHjo

勇者「……いい機会だから話そう」

勇者「いいか。俺は勇者じゃない」

剣士「前にも言ってたわね。どういうこと?」

勇者「俺はただの暗殺技能者だ。騎士軍によって作られたコードネームが勇者というだけの、ね」

剣士「……?」

勇者「勇者計画という。
   人間の限界を超えた人間によって魔王を排斥しようという計画だったんだ」

剣士「人間の限界を超えた?」

勇者「これで人間の限界値を超えてるんだよ。一応はな」

剣士「……」

155: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 13:04:44.07 ID:B/++CPHjo

勇者「俺より強い候補者はいくらでもいたよ。それこそ極大広域消滅魔術なんて反則技を使う奴もいた」

剣士「でもあなたが生き残った?」

勇者「そうだ。俺は目的だけは忘れなかったからな」

剣士「生き延びること……」

勇者「ああ。後はそのためにできることをすればいい。
   手の届かない範囲に物事があるんだったら手の届く範囲にもってくればいい」

剣士「……」

勇者「極大広域うんちゃらなんて馬鹿らしいものはいらないんだ。
   人間なんて耳元で爆竹鳴らせば気絶する。
   それだけのことなんだ」

剣士「つまり?」

勇者「目的達成のための力さえあれば後は不要。十分量以上は望むな。
   ……とは師匠の弁だけどな」

156: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 13:05:12.37 ID:B/++CPHjo

剣士「……」

勇者「話を戻すと、俺は余分なものは求めない。手の届く範囲で何とかする。そういうことだ」

剣士「それでも」

勇者「……?」

剣士「それでも失敗した時は――わたしと逃げてくれる?」

勇者「……」

剣士「ずっとわたしと一緒にいてくれる?」

勇者「……約束は、できない」

157: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 13:06:18.19 ID:B/++CPHjo

剣士「……」

勇者「……」

剣士「それなら話はシンプルよ」

勇者「え?」

剣士「失敗しちゃいけないものは成功させればいい。
   一緒に居たければそばに寄ればいい」

勇者「……手の届く範囲にないものは手の届く範囲にもってくればいい」

剣士「いい? 勇者。いえ勇者じゃないかもしれないけれど。
   それでもわたしはあなたのそばを離れないわ。ずっとよ」ツカツカ

勇者「……」

剣士「ずっとよ……」ギュッ

勇者「……ありがとう」

剣士「馬鹿……」

158: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 13:06:46.00 ID:B/++CPHjo


メイド「……」


168: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 20:30:56.94 ID:B/++CPHjo

<牢屋>


魔王「HAHAHAHA、それは本当かいジョン!」

魔王「本当だともトム! ぼくのママはその時奴に言ってやったんだ、●無しクソ野郎って!」

魔王「でもジョン、ぼくはその先を知ってるぜ、そいつは既に●を犬に食いちぎられてたってね!」

魔王「HAHAHAHA!」

魔王「……」

魔王「いまいちですねえ……」


 ギィィィィィ ガチャン


魔王「! メイドさん!」

メイド「……」

169: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 20:31:36.90 ID:B/++CPHjo

魔王「助けに来てくれたんですか!? よくあいつらの隙を突けましたね!」

メイド「……」

魔王「どうやったんですか!? あ、いやそんなことより早く出して下さい!」

メイド「……」

魔王「よーし、これで魔王復活です! 見てなさいあの二人!」

メイド「……」

魔王「再びぼくの力を見せつけて……?」

メイド「……」

魔王「……」

メイド「……」

魔王「……どうかしましたか?」

メイド「魔王さま……」

魔王「はい?」

メイド「わたくし、どうしちゃったんでしょう……」

魔王「……はい?」

170: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 20:32:47.54 ID:B/++CPHjo

     ・
     ・
     ・


魔王「……なるほど、そんなことが」

メイド「……」

魔王「……鍵を開けては……もらえませんよね?」

メイド「……はい」

魔王「……」

メイド「わたくしは、今はあの方の嫌がることをしたくないのです、何故か」

魔王「……」

メイド「どうしてしまったんでしょう……」

魔王「……」

メイド「誓って申し上げますのは、決してあなた様への忠誠が薄らいだわけではないことです。
    でも何故か今のわたくしにはできない……」

魔王(……なるほど)

171: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 20:33:27.49 ID:B/++CPHjo

メイド「わたくしは……」

魔王「はい」

メイド「……わたくしは」

魔王「はい」

メイド「わたくしは……っ」

魔王「メイドさん」

メイド「はい……」

魔王「ゆっくり、話してください。ゆっくりでいいです」

メイド「はい……っ」

172: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 20:34:03.13 ID:B/++CPHjo

メイド「どこから、何を話しましょう」

魔王「どこからでも、話しやすいことを」

メイド「はい……では。わたくしは楽しいです。いえ、楽しかった……」

魔王「はい」

メイド「あの方と一緒に勉強しているのが……」

魔王「ええ」

メイド「だからそれを壊したくない。どうしてもです」

魔王「はい」

メイド「どうしてもどうしても」

魔王「……」

173: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 20:35:23.28 ID:B/++CPHjo

メイド「初めは嫌いでした、あんな方。妙にひょうひょうと人を馬鹿にしているようで。
    見下されているようで嫌でした」

魔王「……」

メイド「でも接してきてみてなんとなくわかりました。あの方はそういう意図があったわけではないと」

魔王「……はい」

メイド「優しかった」

魔王「……はい」

メイド「優しかったんです……」

魔王「……ええ」

メイド「あの頭をぽんぽんと撫でてもらったとき、勉強を教えてもらって目が合ったとき、抱きついて体温を感じるとき」

魔王「……」

メイド「わたくしは胸の奥にぬくもりを感じずにはいられなかった」

魔王「……っ」

174: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 20:36:28.68 ID:B/++CPHjo

メイド「……」

魔王「……」

メイド「……っ」

魔王「……?」

メイド「……っ……っ」

魔王(……泣いて、るんですか?)

メイド「……ひぅっ……ヒック」

魔王「メイドさん」

メイド「っ……ハイ……っ」グス

魔王「ぼくにはメイドさんの話はよく分かりませんでしたが、でもこれだけは分かります」

メイド「なんでしょう……?」

魔王「彼女が何を言ったからといって、気にしちゃダメです。
   あなたはやりたいようにやるべきだ」

メイド「……」

175: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 20:37:01.06 ID:B/++CPHjo

魔王「あなたはふるまいたいように、ふるまうべきだ。
   遠慮しちゃいけない。気持ちに素直になってください」

メイド「……」

魔王「多分、その方がメイドさんらしいから……」

メイド「っ……」ゴシゴシ

魔王「……ね?」

メイド「はい」

魔王「負けないでください」

メイド「え……?」

魔王「諦めないでください」

メイド「……」

魔王「くじけないでください。絶対に勝ってください」

メイド「……っ」

魔王「応援、しますから」

メイド「はい……!」

176: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 20:37:51.84 ID:B/++CPHjo

メイド「魔王さまのいうこと、よくわからないけど、分かります」

魔王「うん」

メイド「わたくし、がんばりますわ!」

魔王「……うん」

メイド「では、お仕事に戻ります」

魔王「……」

メイド「……お助けできなくて、申し訳ありませんでした」


 ギィィィ……バタン


魔王「……」

178: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 20:38:53.13 ID:B/++CPHjo

魔王「……」

魔王「まったく……」

魔王「メイドさんはああ見えて――かどうかは分かりませんが――天然ですから、
   本当に自分のことに気付いてないのかもしれませんね」

魔王「……まったく」



『はじめまして、今日からわたくしがあなたのお世話をさせていただきます! よろしくお願いしますわ!』



魔王「……」

魔王「あーあ……」

魔王「ちょっと、寝ようかな……」ゴロン……

魔王「……」

183: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 21:36:13.74 ID:B/++CPHjo

<魔界>


鬼人族長「……」

鬼人従者「報告は以上です」

鬼人族長「……」

鬼人従者「どう、思われます?」

鬼人族長「……よくない前触れだと」

鬼人従者「同感です」

184: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 21:36:55.71 ID:B/++CPHjo

鬼人族長「弱者どもが力を伸ばしておる、ということだが」

鬼人従者「ええ、仮面人を名乗る者によってです」

鬼人族長「何者だ?」

鬼人従者「分かりません」

鬼人族長「分からない?」

鬼人従者「調査に行った者たちが帰ってこないのです」

鬼人族長「……?」

鬼人従者「魔王城です」

鬼人族長「……」

185: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 21:37:39.30 ID:B/++CPHjo

鬼人従者「ここのところの魔王城は何か様子がおかしい。人の出入りが制限され、中の従者たちも家に帰れていない……」

鬼人族長「そして魔王さまの姿は見えず、仮面人という新参者が出しゃばっておる……」

鬼人従者「極め付けが今回のことです」

鬼人族長「うむ……」

鬼人従者「しかし様子を見ようにも、仮面人に心酔した者たちのせいで近付けません」

鬼人族長「……」

鬼人従者「どうなさいますか?」

鬼人族長「皆の者を集めよ」

鬼人従者「……」

鬼人従者「は!」

186: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 21:40:01.85 ID:B/++CPHjo

<魔王城>


勇者「人間界に行くぞ」

剣士「えっ」

メイド「えっ」







魔王「えっ」

187: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/05(日) 21:41:11.09 ID:B/++CPHjo
一区切り

194: 時間ないのでとりあえずこれだけ 2011/06/06(月) 08:57:02.44 ID:aTEo4bBjo

<ある村.宿>


?「あー」

主人「……」

?「……腹減った」

主人「そうかい」

?「おう」

主人「ならそのまま餓死しちまえ。その方が世のためだ。
   金も払えねえくせにずっとここに居座りやがって」

?「悪いなあご主人」

主人「あ?」

?「いつも宿代も出せないのにごちそうしてもらって、悪いなあ」

主人「……」

?「意味もなくごちそうしてくれるなんて、うれしいなあ……」

主人「とうとう頭がやられたか」

?「意味もなくごちそうしてくれるなんてうれしいなあッ!」ガバア!

主人「やかましいわ!」

199: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 16:00:47.99 ID:aTEo4bBjo
コポォ

201: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 16:47:10.15 ID:aTEo4bBjo

<魔王城>


剣士「人間界に」

メイド「行く」

魔王「ぞ?」

剣士・メイド・魔王「……」

剣士「ちょっと待って、どういうことよ」

メイド「そうですわ、いきなりなにを言いだしますの」

魔王「ていうか出てきてよかったんですかぼく」

勇者「まあ、順番にいこうじゃないか」

207: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 17:22:09.59 ID:aTEo4bBjo

勇者「まず、人間界に行く第一の目的。それは俺の師匠に会うことだ」

剣士「勇者の、師匠?」

勇者「ああ」

メイド「先生ですの?」

勇者「先生……か。あの人がそんなできた人かはともかくとして、確かにいろいろ教えてもらったな」

魔王「いろいろ?」

勇者「拳法、兵法、暗殺術。騎士軍で学んだよりも多くの事。
   あの人がいなければ今の俺も魔王軍もない。
   戦闘の原則や兵科の分類なんかもあの人が考案したからね」

メイド「そんなすごい人ですのね……」

209: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 17:28:43.40 ID:aTEo4bBjo

勇者「そう。だから師匠ならばこの閉塞した状況も打破できるんじゃないかって」

剣士「こちらに入れられれば心強いわね。魔族に理解はあるの?」

勇者「どうだろう……? 結構適当な人だけど、分からないな」

メイド「その人はどこにいますの? 人間界といっても広いですわよ?」

勇者「ああ、あの人のいるところはわかってる。そこは心配しなくていい」

剣士「でも」

勇者「ああ、魔王城を留守にすることか。まあ大丈夫だろう。
   魔王を手元に置いとけば、魔王城の連中も無茶はできないよ」

剣士「でも、前も報告した通り――」

勇者「ああ、あれか……」

魔王「?」

勇者「まあ、大丈夫だろう。妖精族長あたりに魔王城の警備を頼むよ」

剣士「不安ね……」

210: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 17:33:06.60 ID:aTEo4bBjo

勇者「あとは見た目の話だが、幸い魔王もメイドも完全に人型だ」

メイド「わたくしには人間の血も入ってますし」

剣士「さすがに近くで見ればバレるだろうけどね」

勇者「まあ、そういうわけだ。準備してくれ」

魔王「まだぼくが出ていい理由を聞いてませんが」

勇者「出たくなかったのか?」

魔王「いえ、そういうわけじゃないです」

勇者「そうだな、それは第二の目的に関係しているが……」チラ

魔王「……?」

勇者「まあ、なにはともあれ、お前の力が必要なんだよ」

魔王「はあ」

211: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 17:41:27.26 ID:aTEo4bBjo

     ・
     ・
     ・


メイド「準備できましたわー♪」

剣士「こっちもOKよ」

魔王「ええと、はい、できました」

勇者「ん、了解」

メイド「見てくださいまし勇者さま! わたくし、どうでしょう!?」

勇者「どうって?」

メイド「……」ムスー

勇者「冗談。可愛いよ」

メイド「本当ですの!?」

勇者「ああ、ワンピースドレスがよく似合ってる」

メイド「ありがとうございますぅ!」ダキツキ!

剣士・魔王「……」

212: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 17:47:44.46 ID:aTEo4bBjo

剣士「……ゴホン。勇者」

勇者「うん、黒いシャツにベージュのスラックス。剣士らしいな」

剣士「似合ってる?」

勇者「最高に」

剣士「よろしい」

勇者「魔王は半ズボンなんだな」

魔王「え? いけませんか?」

勇者「いや、ある意味一番似合ってる」

魔王「そうですか」

剣士・メイド「……」

剣士・メイド(……なんか複雑)

214: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 18:01:39.49 ID:aTEo4bBjo

剣士「……それで、移動はどうするの? まさか正門から堂々と出るわけにもいかないでしょう?」

勇者「それだな。魔王、お前は転移魔術を使えたよな?」

魔王「え、あ、はい、使えますが?」

勇者「じゃあ、それを使って目的地まで移動しよう」

魔王「ちょっと待ってください、転移魔法は奥義の一つです。
   そんなにホイホイ使えるもんじゃありませんし、長距離も移動できませんよ?」

勇者「そうだな。だから今回は魔術の併用を行う」

メイド「魔術の併用……ですの?」

勇者「人間の魔術を覚えているか?」

メイド「血陣魔術、でしたか?」

勇者「あれは大規模かつ精密な魔術をするのに適しているってのは前にも言ったな。
   その性質を利用するんだ」

215: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 18:08:43.36 ID:aTEo4bBjo

剣士「合成魔術ってことよね? そんなの危険じゃないの?」

勇者「そうだな、あまり例はない」

剣士「じゃあ血陣魔術単体で行なった方が……」

勇者「いや、実は血陣魔術というのはまだまだ発展途上で、物を転移させるほど高度な魔術は使えないんだ。
   せいぜい高速移動させるだけ」

魔王「なるほど」

勇者「だから、危険可能性があるからといって尻込みはできない。
   事態はこう見えて緊急を要するんだ」

剣士「……」

メイド「……」

魔王「……」

勇者「ついてきてもらえるかな?」

剣士「もちろん」

メイド「聞くまでもないですわ」

魔王「ぼくは怖いです」

勇者「ありがとう」

魔王「え? ぼくの意見は?」

219: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 18:21:12.83 ID:aTEo4bBjo

勇者「じゃあ、準備を始めるからちょっと待っててくれ」

メイド「わたくしも手伝いますわ」

勇者「そう? じゃあ頼むよ」

魔王「ですからぼくの意見は……いやもういいですが」


     ・
     ・
     ・


  勇者「じゃあ、そっちのはしを引っ張ってくれ」

  メイド「アイアイサー、ですわ」


魔王「……ふう」

剣士「……ちょっといいかしら?」

魔王「あ、剣士さん」

221: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 18:23:03.31 ID:aTEo4bBjo

  勇者「じゃあ、ちょっと失礼して」ザシュ ブシャ

  メイド「あ。血……」ソワ……


魔王「なんですか剣士さん?」

剣士「いえ、大したことじゃないのだけれど」

魔王「はい」

剣士「あなたずいぶん大人しいじゃない、前はあんなに血の気が多かったのに」

魔王「……」

剣士「何かあった?」

222: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 18:39:10.33 ID:aTEo4bBjo

  勇者「ええと、確かここがこうで、あっちがこうで……」

  メイド「……」ソワソワ


魔王「……」

剣士「どうなの? 何もないならいいんだけど。
   でも何かあるのよね。わたしにはわかるわ」

魔王「まあ……はい……」

剣士「聞いてあげなくもないわよ」

魔王「……」

223: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 18:40:13.61 ID:aTEo4bBjo

  勇者「まあ、ざっとこんなもんかな」

  メイド「……」ジー

  勇者「どうかした?」


魔王「いえ、大したことじゃないんですけど」

剣士「ええ」

魔王「その、気になる人が、ちょっと違うところ向いてるというか……」

剣士「……」

魔王「まあ、そんな感じです」

224: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 18:41:06.24 ID:aTEo4bBjo

  メイド「あの」ゴゴゴ……

  勇者「な、なに?」

  メイド「ちょっと失礼しますわ」グワシ!

  勇者「え? え?」


剣士「なるほど、ね」

魔王「……ぼくは諦めるべきなんでしょうかねえ」

剣士「なんで?」

魔王「邪魔しない方がいいかなって。ぼくはゴミですし……」

剣士(後でつらいって言ったのに)

225: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 18:41:57.11 ID:aTEo4bBjo

  メイド「……」ペロ……

  勇者「あ」

  メイド「……」ペロ 

  勇者「ちょ、ちょっと……」


魔王「自信ないんですよ。ぼくなんかじゃ見向きもされないって分かってるんです」

剣士「……」

魔王「ゴミはゴミらしくしてるのが一番なんですよね……」

剣士「はぁ……やめなさいよそういうの」

魔王「え?」

227: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 18:43:10.38 ID:aTEo4bBjo

  メイド「ん……」チュパ

  勇者「う……」

  メイド「はぁ……ムチュ……」ヌロリ……


剣士「やめなさいっていってるの。見苦しいわよ」

魔王「そんなこと言っても……」

剣士「見苦しいの。いいからしゃんとしなさい。男の子でしょう」

魔王「まあ、ついてますが」

剣士「だったら根性見せなさい」

魔王「……」

230: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 18:51:31.88 ID:aTEo4bBjo

  勇者「悪い……これ以上は……」

  メイド「あ……ご、ごめんなさいっ」


剣士「いい? わたしの前で今後一切そんな弱音は吐かないこと。
   理屈なんてどうでもいいわ。わたしが嫌なの」

魔王「……」

剣士「……大丈夫」

魔王「え?」

剣士「あなたの優しいところは、みんな好きになってくれるはずよ」

魔王「あ……」

剣士「自信もって、ね?」

魔王「……はい」

231: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 18:53:01.24 ID:aTEo4bBjo

勇者「……終わったよ」

メイド「……」ソワソワ

剣士「……あなたたちわたしが見てないところで、なんかとんでもないことしてなかった?」

勇者「いやその別に……」

メイド「否定しますっ、否定しますわ!」

剣士「……まあ、いいけど」

魔王「ぼくはさらに死にたくなりました」

232: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 18:53:48.27 ID:aTEo4bBjo

勇者「ま、まあなにはともあれ準備はできた。
   みんな荷物を持って魔方陣の中に入ってくれ」

剣士「入ったわよ」

メイド「おっけーですわ」

勇者「そしたら後は魔王が発動権を握ってる」

魔王「ぼくですか?」

勇者「ああ、目的地は設定してあるから、あとはいつもの感覚で魔術を使ってくれ」

魔王「分かりました。では――」



魔王「“瞬、転”!」カッ!


     ・
     ・
     ・

252: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 22:20:54.09 ID:aTEo4bBjo

<国境近くの村>


 ――シュン!


勇者「……」

剣士「ついた、のかしら?」

メイド「小さな村ですわね」

魔王「なかなかいいところじゃないですか」

勇者「ああ……久しぶりだ」

剣士「師匠はどこに?」

勇者「大体この時間にいるところは決まってる。
    あっちだ、行こう」

253: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 22:21:37.04 ID:aTEo4bBjo

<安宿前>


勇者「ここなんだが」

メイド「この中ですの? じゃあ入りますわね」


 ――ガチャ


メイド「ごめんくださあい」

?「……」

メイド「あ、こんにち――」

?「お前は」

メイド「はい?」

?「お前はだんだん俺に飯をおごりたくなーる……」ウニョロウニョロ

メイド「な……」

メイド(なんか変なことをつぶやきつつ指をくねらせてるー!?)ガビーン!

?「うう、腹減った……」ガク

メイド(しかも力尽きたー!)ガビビーン!

254: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 22:24:32.33 ID:aTEo4bBjo

勇者「お久しぶりですお師様」

メイド「えっ」

剣士「……」

魔王「はい?」

師匠「お?」

勇者「いきなり押し掛けて申し訳ありません。知恵を拝借に参りました」

師匠「……お前か」グキュルルル……

勇者「はい、勇者です」

師匠「恥ずかしげもなく勇者を名乗るようになったのか。は、上等じゃねえか」キュルルン……

勇者「……」

師匠「お前みたいなやつが名乗っていい称号じゃねえだろ」グギュルギュル……

勇者「……はい」

師匠「分かったら俺に飯おごれ」

メイド(結局そこに行きつくんですのー!?)ガビビビーン!

256: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 22:32:31.34 ID:aTEo4bBjo

     ・
     ・
     ・


師匠「なるほど、魔界と人間界の調停ねえ……」パクパク

勇者「ええ」

師匠「ずいぶんと身の程知らずなことしてるじゃねえか」

勇者「はい」

師匠「お前には無理だ。わるいことは言わない、やめとけ」

勇者「……」

メイド「ちょっと! なんですのその対応は!」

師匠「あ?」

メイド「勇者さまは真剣にことに取り組んでるんですのよ!
    それをお食事をたかりながらちょっと聞いただけで!」

師匠「そんなこと言ったって、こいつがよくわかってるだろ」

勇者「それは……はい」

257: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 22:35:44.02 ID:aTEo4bBjo

メイド「勇者さま!」

剣士「あなたは黙ってなさい」

メイド「剣士まで!」

魔王「メイドさん、少しだけ我慢しましょう、ね?」

メイド「……分かりましたわ」

勇者「……お師様」

師匠「あん?」

勇者「それでもやりたいんです」

師匠「……」

勇者「やらなければ、ならないんです」

師匠「……」

258: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 22:36:29.58 ID:aTEo4bBjo

勇者「俺だけじゃだめなのは分かってます。
   だからみんなここにいてくれますし、また、お師様に会いに来ました」

師匠「……」

勇者「だから、力を、貸してください」

師匠「……フゥゥゥ」

勇者「……」

師匠「俺に得は?」

勇者「満足感が」

師匠「……上等だ」

メイド「ってことは!」

師匠「別にお前らのためじゃないけどな」

メイド「やった!」

259: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 22:37:41.61 ID:aTEo4bBjo

師匠「つってもなー、ぱぱっとアイディアなんて浮かばない。
   ちょっと待ってもらうことになるが、いいか?」

勇者「かまいません」

師匠「じゃあ、適当に待っててくれ。主人!」

主人「んだよ!」

師匠「上の部屋借りるぞ」

主人「好きにしろ。金払ってくれるならだれでもいいやい」

師匠「一部屋でいいか? 勇者と嫁三人だし」

勇者「え?」

剣士「は?」

メイド「はい?」

魔王「???」

師匠「ん?」

260: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 22:38:26.87 ID:aTEo4bBjo

師匠「違ったか?」

勇者「ええ、かなり」

魔王「ぼくは男です」

師匠「お? おお……マジか」

剣士「わたしたちは女だけど、嫁じゃないわね。まだ」

メイド(まだ?)

師匠「なんだ、そうか」

勇者「というわけで四部屋ほしいんですが」

師匠「あるように見えるか?」

勇者「いえ」

主人「あと二部屋しかないぞ」

剣士・メイド「!!」ガタタ!

魔王「……!」ビク!

262: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 22:39:54.56 ID:aTEo4bBjo

     ・
     ・
     ・


剣士「ここは魔界組と人間組で分かれるべきだと思うの。
   だってその方が気心知れてるわけだし」

メイド「異議あり! やはり教師と教え子は一緒にいるべきですわ!
    というわけで少なくともわたくしと勇者さまは一緒の部屋です!」

勇者「……」

魔王「普通に男女で分かれれば……」

剣士・メイド「……」キッ!

魔王「ごめんなさい」

263: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/06(月) 22:41:38.04 ID:aTEo4bBjo

魔王「まあ結局男女別なわけですが」

勇者「正直ほっとした」

魔王「……」ジト

勇者「ああ、贅沢な悩みだと自覚してはいるよ。
   でも怖いものは怖い」

魔王「あーあ、これだから嫌なんです」

勇者「悪いね」

魔王「気分が悪いです。ちょっと散歩行ってきます」

勇者「ああ、行ってらっしゃい」

魔王「まったくもう……」

276: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:12:34.57 ID:OaS0/vZfo

<村>


「――ねえねえ、あの子可愛くない?」

「え、どの子どの子?」

「あの子よあの子」

「あ、かわいー!」

魔王「?」

「あ、こっち向いたわよ」

魔王「何か、用ですか?」

「キャー! 声も可愛いわ!」

「本当、可愛い可愛い!」

魔王「かわ、いい……?」

277: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:20:37.96 ID:OaS0/vZfo

魔王「一応確認します。ぼくのことですか?」

「うんうん、君のこと君のこと」

「鈍いところも可愛いー!」

魔王「ええと」

魔王(これはもしや……)

「ねえねえ、抱きしめてもいーい?」ギュッ

「あ、抜け駆けずるーい!」

魔王(間違いない! ぼくの時代、到来!)

278: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:23:35.13 ID:OaS0/vZfo

<宿>


メイド「……」

剣士「……」

メイド「……」チラ

剣士「何よ……」

メイド「いーえ」

剣士「……」

メイド「……」スク

剣士「……どこへ?」ピク

メイド「いえ、どこにも」トサ

279: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:24:49.80 ID:OaS0/vZfo

剣士「……」ムクリ

メイド「……」ピク

剣士「何よ?」

メイド「いえ、どこか行くのかと」

剣士「ただ身体起こしただけじゃない」

メイド「それはすみませんでした」

剣士「……」

メイド「……」

剣士・メイド(どうにかして勇者(さま)のところに行けないかしら……)

剣士・メイド「……」チラ

剣士「何?」

メイド「そちらこそ」

剣士・メイド「……」ソワ……

280: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:25:21.03 ID:OaS0/vZfo

勇者「……」


 『お兄ちゃんは、誰?』


勇者「……」


 『そうですか。ぼくも勇者候補なんですよ』


勇者「……」


 『じゃあ、ぼくと友達になってください!』


勇者「……」

281: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:26:27.23 ID:OaS0/vZfo

<村>


「ほら、あーん」

魔王「あーん」デレデレ ニヨニヨ

「はい」

魔王「ん」パク

「おいしい?」

魔王「美味です!」

「本当? 良かった!」

魔王「もうひとついいですか~?」デレニヨ

「もう、食いしん坊ね♪ ほら、あーん」

「あなただけ独り占めずるいわ。今度はあたしよ。ほら、あーん」

魔王「あはは、困っちゃいましたね~」ニヨヨ

282: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:27:17.17 ID:OaS0/vZfo

少年「……」コソ

魔王「……?」

少年「!」ササッ!

魔王「あの隠れてる子はなんですか?」

「え? ああ、あの子はあたしの弟よ。ほら、出てきなさいよ」

少年「……」オズオズ……

魔王「こんにちは」

少年「こ、こんにち、は……」

「ごめんね、この子人見知り激しいの」

少年「お、お兄ちゃんは、誰?」

魔王「え、あ、ええと、ぼくは遠くから来たんだよ?」

少年「お、お客さんだ」

魔王「うん、そうだね」

少年「じゃ、じゃあ――」


『――ぼくと友達になってください』


魔王「っ……?」ピクリ

283: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:27:58.01 ID:OaS0/vZfo

<帝国.宮殿>


元帥「皇帝陛下」

皇帝「元帥か」

元帥「失礼ながら挨拶は省かせていただきます」

皇帝「急ぎの用か」

元帥「は」

皇帝「申せ」

元帥「魔術士計画の準備が、整いました」

皇帝「……! まことか」

元帥「は!」

皇帝「では……分かっておるな」

元帥「もちろんでございます。必ずや魔界の全てをあなたに献上いたしましょう」

皇帝「ふ、楽しみにしておるぞ」

284: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:28:41.80 ID:OaS0/vZfo

<数刻後.帝国.騎士軍事務所>


 ――コンコン


元帥「入れ」

?「……」

元帥「! これはこれは……」

?「久しぶりだな」

元帥「まったくですな。お変わりありませんでしたか」

?「まあ、な」

元帥「……何故剣聖のあなたがここに?」

?「このたびの戦、俺も連れて行ってもらえぬだろうか」

元帥「あなたが!?」

?「駄目か?」

元帥「……断っても、来るのでしょう?」

?「ふふ……」

元帥「よろしいでしょう、ならばあなたの力をお借りします」

?「それでよい……」

285: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:29:12.62 ID:OaS0/vZfo

<村>


少年「お兄ちゃん、そっち行ったよ!」

魔王「オーライ! それ!」

少年「わーい!」

魔王「……」

魔王(さっきのは、なんだったんだろう?)


『友達になってください!』


魔王「まだ聞こえる……」

魔王(ぼくはこの声に聞き覚えがある……?)

少年「お兄ちゃーん!」

魔王「はいはーい!」ダダ!

286: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:29:40.16 ID:OaS0/vZfo

<宿>


メイド「……」スク

剣士「どこへ?」ピク

メイド「……お手洗いですわ」

剣士「そう。行ってらっしゃい」

メイド「ええ」


     ・
     ・
     ・


メイド「……ふぅ」

メイド(勇者さまの部屋は、ここ……でしたわね)

メイド「あ」

メイド(少し開いてる……)

287: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:30:56.90 ID:OaS0/vZfo

 ――ギィィ……


勇者「すぅ……すぅ……」

メイド「あ……眠ってらっしゃいましたか」

勇者「ううん……」

メイド「……」ソロソロ……トサ

メイド「こうしてみると、精悍な顔つきながら、なかなか可愛い寝顔ですわね」

勇者「zzz……」

メイド「……」ウズ……

メイド「……」ソー……

メイド「っ……」ペロッ

勇者「んん……」

メイド「!」ササ!

メイド(唇舐めちゃいましたわ……!)ドキドキ

288: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:31:53.74 ID:OaS0/vZfo

勇者「……」ゴロン

メイド「……」ソー……

メイド「ん……」カプ

勇者「んあ。……何をしてるんだ?」

メイド「! こ、これは!」

勇者「……」

メイド「その、申し訳ありません……ちょっと血が飲みたくなって」

勇者「……」ムクリ

メイド「……駄目でしたでしょうか」

勇者「いや……」

メイド「……じゃ、じゃあ」

勇者「少しだけならね」

289: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:32:38.19 ID:OaS0/vZfo

メイド「は……ん……」チュウ……

勇者「……」

メイド「んむ……チュパ……」

勇者「……」

メイド「チュルルル……」チロ……

勇者「……ねえ」

メイド「はぁ、ん……なんでしょう?」

勇者「一応聞いておきたいんだけど」

メイド「はい」ペロ 

勇者「吸血って、君たちにとって、どんな意味があるんだい?」

メイド「意味、とは?」ヌロリ……

290: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:33:35.30 ID:OaS0/vZfo

勇者「つまり……そうだな。
   補給行為として特に感慨はないのか。
   それとも親しみとかそういう意味があるのか、あるいはその逆なのか」

メイド「……」

勇者「確認しておきたいんだ」

メイド「……わたくしのおばあさまは……血を吸った人間と結ばれました」

勇者「え……」

メイド「わたくしのお母様も、血を吸った魔族と結ばれました」

勇者「……それじゃあ」

メイド「ええ……そういうことです」ムクリ

勇者「……」

メイド「……」

291: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:34:56.66 ID:OaS0/vZfo

メイド「……」ガバ

勇者「っ」ドサ

メイド「ああ勇者さま……」

勇者「ちょっと待ったっ」スッ

メイド「……勇者さまはわたくしのこと、お嫌いですか?」

勇者「好きだな。だからこそ流されるようなことはしたくない。
   君にも失礼だ」

メイド(……わたくしは、かまいませんのに)

勇者「離れてくれ」

メイド「わたくしは! 勇者さまの事が好きです!」

勇者「……」

メイド「やっと気付いたんです。わたくしはずっと勇者さまといたい……!」

勇者「……」

メイド「聞かせてください。勇者さまはわたくしと剣士、どちらが好きなのですか?」

勇者「剣士だ」

メイド「え……」

292: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:36:01.70 ID:OaS0/vZfo

勇者「どちらかを選べと言われるなら、俺は迷うことはない」

メイド「……」

勇者「理由も言える。彼女は本気だからだ」

メイド「わたくしだって本気です!」

勇者「ごめん、そういう意味じゃないんだ。
   でも、君は俺を勘違いしているよ」

メイド「勘違い?」

勇者「俺は弱いよ」

メイド「そんなことありませんわ!」

勇者「ほら、それが勘違いだ。剣士なら言うさ。俺が弱いってね」

メイド「……そんなこと」

勇者「彼女は俺の弱さを知った上で、ずっとそばにいてくれると言った。
   本気だ」

メイド「わたくしに時間をくれればもっと勇者さまの事を知ることができます」ギュッ

勇者「……」グイ

メイド「そん、な……」

293: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:36:39.67 ID:OaS0/vZfo

勇者「本当にごめん、それも多分ごまかしだ」

メイド「……」

勇者「俺は剣士が好きだ」

メイド「……」

勇者「あの長い黒髪が好きだ」

メイド「……」

勇者「その髪からするいいにおいが好きだ。彼女の目が好きだ。
   そのたおやかな立ち居振る舞いが好きだ。
   強いところが好きだ。それでいて優しいところが好きだ」

メイド「……っ」

勇者「だから、ごめん」

294: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:37:30.51 ID:OaS0/vZfo

 ガチャ バタン


勇者「……」

勇者(これで、良かったんだよな……)

勇者「これで……」


 ガチャ


剣士「後悔してるなんて言わせないわ」

勇者「……剣士」

剣士「というより、後悔はさせない。してほしくない」ツカツカ

勇者「……」

剣士「……」スル……

勇者「……」スッ

剣士「ん……」ギュッ

295: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:38:53.84 ID:OaS0/vZfo

     ・
     ・
     ・


剣士「ん、はぁ……あ……」

勇者「……剣士」

剣士「うん……」

勇者「もう、俺……」

剣士「うん、きて……」

勇者「……ありがとう」


 ――ヌチ……


296: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:39:38.54 ID:OaS0/vZfo




 『愛しているぞ……我が娘よ』




297: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:40:48.29 ID:OaS0/vZfo

剣士「や……!」

勇者「……? どうした剣士?」

剣士「や、やだ……!」

勇者「どうした……!?」

剣士「や、やめて……!」

勇者「大丈夫か剣士?」

剣士「も、もう逆らわないから、もうしないからやめて……!」

勇者「剣士! 剣士!」

剣士「いや! 助けて勇者っ!」

勇者「俺だ! ここにいる!」ギュッ!

剣士「ハァ、ハァ……!」

勇者「……大丈夫か?」

剣士「うん……大丈夫……ありがとう」

勇者「……」

298: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 07:42:10.53 ID:OaS0/vZfo

勇者「ごめんな剣士……」

剣士「いいえ、あなたのせいじゃないわ」

勇者「……」

剣士「でも、ごめんなさい。わたし、今はできない」

勇者「したい。けど無理強いはしないさ」

剣士「ありがとう……」

勇者「……やっぱり」

剣士「ええ」

勇者「……くそ!」

剣士「……」

勇者「約束するよ。君を、絶対救ってみせる」ギュッ

剣士「ええ……」

勇者「それから、愛してる」

剣士「……ええ。わたしもよ」


 ――チュ……

306: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 10:30:33.34 ID:OaS0/vZfo

<宿>


魔王「ただいまですー」

勇者「ん?」

剣士「あら」

魔王「……なんで剣士さんがこっちの部屋にいるんですか?」

剣士「部屋割変更よ。あなたはあっちの部屋ね」

魔王「そんな勝手な……って、メイドさんは?」

剣士「そっちの部屋」

魔王(やっほい!)

勇者「魔王、頼みたいことがある」

魔王「なんですか? 今のぼくならなんでもできますよ!」

剣士「あの娘をお願いね」

魔王「……?」

307: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 10:31:06.83 ID:OaS0/vZfo

 ガチャ


魔王「ただいまですー」

メイド「……」

魔王「メイドさん、どうも」

メイド「……」

魔王「メイドさーん?」

メイド「……」

魔王「……」

メイド「……」

魔王(何があったかわからないけど重傷……いや致命傷だこれは)

魔王「……そんな端っこに座ってないでこっちに来てください」

メイド「……」

魔王「じゃあぼくがそっち行きますからね? いいですね?」

308: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 10:31:46.63 ID:OaS0/vZfo

魔王「……」チョコン

メイド「……」

魔王「……」

メイド「……」

魔王「……なんとなく予想はつきます」

メイド「……」

魔王「頑張りましたね、メイドさん」

メイド「……」グス……

魔王「ちょっと休みましょう。ね?」

メイド「ハイ……」

309: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 10:32:42.48 ID:OaS0/vZfo

メイド「わたくし……」

魔王「ええ」

メイド「……駄目でした」

魔王「……ええ」

メイド「もう……死んでしまいたい……」

魔王「駄目です。それは許しません」

メイド「だって……だって……っ」ヒック

魔王「ほら、顔を上げて」

メイド「……」

魔王「……」ニコー

メイド「……なんですか?」

魔王「ちょっとだけ、笑ってみましょう」

メイド「無理です……」

魔王「まあ、そうですよ。当たり前です」

メイド「……」

魔王「でも、笑っちゃいけないなんてことはありません。だから、ほら」

メイド「……」

310: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 10:33:28.26 ID:OaS0/vZfo

メイド「……」

魔王「……」ニコー

メイド「……」

魔王「……」ニヘラ-

メイド「……っ」ガバ!

魔王「!?」ドサ

メイド「ん……!」ガブリ!

魔王「いたっ! め、メイドさん!?」

メイド「――っ」チュ ……

魔王「あっ、あ……っ!」

メイド「ンチュ……」ペロ

魔王「うあ……」

魔王「メ、イド、さん……」

魔王(死ぬ……ほど気持ちいい……!)

 

312: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 10:35:45.76 ID:OaS0/vZfo

メイド「魔王さまの、たくさん……」

魔王「ハァ、ハァ……」

メイド「入れますわね……」スッ

魔王(メイドさん……泣いてる?)

メイド「一緒に"良く"なりましょう……」





 バチン――ッ!


メイド「いたっ!」

魔王「ふぅっ、ふぅっ……メイドさん!」

メイド「魔王さま……」

魔王「メイドさん、やめてください! こんなの違います!」

メイド「魔王さま……泣いてるんですか……?」

魔王「こんなの間違ってる!」

メイド「……」

313: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 10:36:32.45 ID:OaS0/vZfo

魔王「あなたは確かに振られたかもしれない。悲しいのは分かる!
   でも、こんなことで解決なんて、絶対するものか! 絶対に!」

メイド「……」

魔王「それに言わせてもらうぞメイド! ぼくは勇者の代わりじゃない!」

メイド「っ……」

魔王「もうひとつ! ぼくは君が好きだ!」

メイド「魔王、さま……?」

魔王「ああ、大好きだとも! 初めて会った時からずっとだ!」

メイド「魔王さま……」

魔王「だからこんなの余計に許せない……」

メイド「……」

314: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 10:37:31.55 ID:OaS0/vZfo

魔王「立ちましょう、メイドさん」

メイド「は、い……?」

魔王「今こそ立つべきだ。崩れ落ちそうな今だからこそ」

メイド「それは……」

魔王「君は勇者を諦められますか?」

メイド「……それは」

魔王「諦められないなら、諦められるまで頑張りなさい。
   ぼくはその後ろを全力で追いかけます。はさみうちです」

メイド「……」

魔王「先に相手に追いついた方が勝ちです、いいですね」

メイド「でも……」

魔王「でもも糞もあるかあッ! 決めたぞ、ぼくは君を絶対に落として見せるからなあ!」ブンブン!

メイド「……」

315: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 10:38:29.24 ID:OaS0/vZfo

魔王「ハァ、ハァ……」

メイド(……)

メイド「クス……」

魔王「フゥ……やっと笑いましたね」

メイド「あ……」

魔王「そしたら後は泣きなさい。胸なら貸します。初回限定無料セールです」

メイド「……」

魔王「ほら」

メイド「……では、少しの間だけ、お借りします……」スス……ギュッ

魔王「……」ナデナデ

メイド「ふっ……くっ……うう」グス

メイド「うぐ……ヒック……」

魔王「……」ナデナデ

316: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 10:39:18.00 ID:OaS0/vZfo

勇者「……」

剣士「……」

勇者「あっちは大丈夫かな」

剣士「大丈夫よ。魔王は思いやりにかけては世界一だから」

勇者「そうか。そうだな」

剣士「わたしたちはもう寝ましょう。明日も早いわ」

勇者「ああ、そうだな……」

剣士(頑張りなさいよ、魔王……)

329: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 14:01:22.62 ID:OaS0/vZfo

<数日後>


勇者「お師様、いかがでしょう」

師匠「うーむ、それなんだがな……」

剣士「どうなのよ?」

師匠「いや、どう考えても無理難題すぎて」

勇者「お師様でも、無理ですか……」

師匠「いや思いついたには思いついた。が、これはそれこそ子供にでも思いつく」

剣士「どうするの?」

師匠「皇帝への直談判」

勇者「直、談判……」

剣士「……呆れたわ」

330: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 14:02:00.63 ID:OaS0/vZfo

剣士「そんなのアイディアと呼べないわよ。
   皇帝に会うには一級の兵士たちの防衛を越えたうえで、さらに実力でのし上がってきたあの元帥を排除しなければいけないわけで」

勇者「皇帝もこれまで幾度も死線を抜けてきた。
   そんな大人物が頷くとも思えない……」

師匠「俺だってわかってるよそんなこと。ただ、現状思いつける一番のアイディアってったらこれくらいで」

勇者「でもそうですね。簡明でなおかつ相手が予想だにしない方法だ」

師匠「簡明の原則と奇襲の原則だな」

剣士「でも、ねえ……」

331: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 14:02:30.03 ID:OaS0/vZfo

師匠「まあ、いいじゃねえか。まだ時間はある。
   ……それよりあの坊主ともう一人の嬢ちゃんはどうした?」

勇者「ああ、彼らはまだ上で寝てます」

師匠「え? できてるのあいつら?」

剣士「あの子たちに限ってそういうふしだらなことはないわよ」


 「チュルルル……ん……はぁ、ん……」


剣士「……た、多分」

師匠「思いっきり声が漏れて聞こえてきてるわけだが」

勇者「あれは吸血です」

師匠「どう違うんだ?」

勇者「……あまり違わないかもです」

332: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 14:02:57.46 ID:OaS0/vZfo

<村>


少年「はぁ……お兄ちゃん来ないかなあ」

少年「つまんないなあ……」

?「やあこんにちは」

少年「え、あ……お、おじちゃん誰?」ササッ

?「はは、そんなに怖がらなくてもいいよ。ちょっと探してる人がいるんだけど、いいかな?」

少年「は、はい……」

333: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 14:03:28.64 ID:OaS0/vZfo

勇者「――じゃあ、こんなところですかね」

剣士「あまり収穫はなかったけれど……」

師匠「そう言うなよ、俺だって珍しく頑張ったんだし」

剣士「でも毎日飯たかられてるしねえ……」

師匠「賃金求めちゃわりーかよ」

剣士「……なんでこんな人が勇者の師匠なのかしら」

勇者「これでも国立の大学に通っていたらしいよ」

剣士「マジ?」

師匠「大マジ」

勇者「もっとも途中で抜けたそうだけど。女性を追うためとかで」

剣士「ださ」

師匠「……大事な、人だったんだよ」

334: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 14:04:06.61 ID:OaS0/vZfo

師匠「ま、そんなことより……」


 ――ゾク……


師匠・勇者・剣士「ッ――!?」

師匠「……勇者」

勇者「ええ」

師匠「上の坊主らを連れてこい」

勇者「了解です」タタッ!

剣士「……」スラリ……

師匠「いい剣だな」

剣士「……ええ」

335: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 14:04:59.55 ID:OaS0/vZfo

魔王「どうかしました?」

メイド「なんですの?」

師匠「こっちに裏口がある。全員でそこから逃げるぞ」

魔王「逃げる?」

勇者「いいから。行こう」


 ガチャ


?「おやどちらへ行かれるのかな?」

剣士「!?」

336: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 14:05:28.17 ID:OaS0/vZfo

?「師匠を名乗る人物を探していたのだが……おや」

剣士「っ……っ……」ガタガタ!

?「ずいぶんと懐かしい顔がいるではないか」

勇者「どうした剣士……!?」

剣士「剣聖……!」

剣聖「お初にお目にかかる、剣を極めし者だ。そして……」

剣士「パパ……!」

勇者「何!?」

剣聖「その娘の、父親だよ」

337: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 14:06:28.38 ID:OaS0/vZfo

剣聖「探したよ、我が娘。どこにいたのだ」

剣士「ヒッ……!」

剣聖「なぜ俺のもとから逃げたんだい?」

剣士「ヒッ……ヒッ……!」

勇者「剣士! しっかりしろ!」ギュッ

剣聖「おや、君が娘の良人候補か?」

勇者「どうだろうな」

剣聖「その娘は俺のモノだ。取るんじゃない」

剣士「違うッッ!! わたしはあなたのものなんかじゃない!」

剣聖「違うものか。お前のことならなんでも知っているよ。そう、なんでもだ」

剣士「やめて……」

剣聖「好きな食べ物、本、歌……」

剣士「やめてよパパぁ……」

剣聖「そして最も悦ぶ場し――」

剣士「やめてぇッ!」ダッ!

勇者「剣士、出るな!」

338: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 14:07:24.96 ID:OaS0/vZfo

剣士「うわああああああッッ!!」ブオン!

剣聖「はぁ……」スカ

剣士(わたしの全力が……!)ヨロ

剣聖「ホントに分かってないなお前は」ガシ グイ!

剣士「いや……髪つかまないでぇ……!」

剣聖「お前は俺のモノなんだ。俺を斬れるわけないだろう?」ギギ!

剣士「うう……っ!」

勇者「剣士を放せ!」

魔王「剣士さん!」

剣聖「お前の剣は俺が与えたものだ。お前の技術も俺が与えたものだ」

剣士「放してよぉ……」

剣聖「そしてお前の艶やかな髪も恵まれた躰も、俺が与えたものだろう?」スッ

剣士「やめて、触らないで!」

勇者「くっ!」

師匠「出るな勇者!」

339: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 14:08:04.00 ID:OaS0/vZfo

剣聖「君」

勇者「……なんだ?」

剣聖「この娘の事はどれくらい知っている?」

勇者「相棒だ」

剣聖「零点だ、答えになってない。そうだな、例えば」グニュ

剣士「あっ……」ピク……

剣聖「この娘はこういうふうに触られるのが好きなんだ」グニグニ

剣士「あっ、んっ……!」ビクン

勇者「貴様ァッ!」

剣聖「ふふふ……」ヌロリ

剣士「耳……だめぇ……」ビクビク

剣聖「俺のもとに帰ってこい」

剣士「いやぁ……」

メイド「そこまでですわ!」

340: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 14:08:57.98 ID:OaS0/vZfo

メイド「喰らいなさい、持ってて良かった小型ボウガン!」シュッ!

剣聖「おっと」バッ

剣士「あ……!」ドサ

勇者「剣士!」タタッ

剣士「勇者ぁ……」グス

勇者「もう大丈夫だ。な?」ギュッ

剣士「悔しい……わたし悔しいよぉ……」グスグス……

勇者「……分かった」

341: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 14:10:15.78 ID:OaS0/vZfo

剣聖「邪魔するな小娘。貴様も"汚して"やろうか……?」ギロ

メイド「っ……あ、あなたなんて怖くありませんわ!」

剣聖「そういうことを言う奴ほどいい声で鳴くのが面白い」

勇者「そこまでだ」

剣聖「ほお……」

勇者「あんたに会ったら一言言ってやろうと思ってた」

剣聖「よろしくお願いしますお義父さん、か?」

勇者「相棒を舐め腐りやがってッ! テメエは絶対許さねえッ! 殺してやるッッ!!」バッ!

剣聖「若さとはいいものだ。君も女に生まれるべきだったよ」

勇者「死ねぇッ! "爆拳"!」シュバ!

剣聖「来い、若造!」ジャキ!

 
348: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 15:47:02.48 ID:OaS0/vZfo

 ――キャァン! ドゴッ!


勇者「がはッ!」ドサァ!

魔王「馬鹿な、勇者が!?」

メイド「えい!」シュッ!

剣聖「ふっ」カィン!

メイド「矢を斬り落としましたの!?」

剣聖「不意打ちでなければ喰らうことはない。当然だろう?」

勇者「く……」

勇者(太刀筋が、全く見えない……実力が違いすぎる。
   超人のさらに上だ!)

剣聖「娘を返してもらおうか」

剣士「いや……!」

349: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 15:48:09.53 ID:OaS0/vZfo

師匠「フッ――!」ズジャ――!

剣聖「なに!?」

師匠「"崩拳"!」

剣聖「チッ」ガキン

師匠「残念、防いでも無駄だ」

剣聖「ぬおお!?」ビリビリ

師匠「伝染する打撃……どうだ、効くだろう。この子たちの怒りだ」

剣聖「ぬかせ!」

350: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 15:49:07.75 ID:OaS0/vZfo

師匠「勇者!」

勇者「お師様……?」

師匠「今は逃げろ、お前では敵わない!」

勇者「でも!」

師匠「まだ"お前の手の届く範囲"にいないんだよ! 分かれ!」

勇者「く……了解です! 逃げるぞみんな!」ダッ

剣士「うう……」

メイド「……行きましょう剣士」

魔王「急いでください!」

351: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 15:50:37.27 ID:OaS0/vZfo

師匠「最後に勇者!」

勇者「はい!」

師匠「どんなにつらいことがあっても諦めるな!
   お前の想い人がどんなに姿を変えようと、それでもそれはお前の想い人だ!」

勇者「……」

師匠「お前が諦めるな! 何かあるんだ! 奇跡はないかもしれないがそれと同じものが!
   じゃなけりゃ、誰も生きてなんかいけるものか!」

勇者「……はい!」ダダ!

師匠「さて……」

剣聖「……貴様の経験談か?」

師匠「ああ……好きな人が、いや愛した人がいたんだよ」

剣聖「過去形か」

師匠「まあな。御託はいい。行くぞ」

剣聖「まあ、元は貴様に用があったのだ」

師匠「へえ?」

剣聖「騎士軍から勇者に協力する者は殺せとのお達しだ」

師匠「……あんたは強い。だから適当なところで逃げさせてもらうよ」スッ……

352: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 15:51:10.85 ID:OaS0/vZfo

<村>


 タッタッタッタッタッタッタッタッ――!


魔王「勇者、どうするんですか!?」

勇者「適当なところで紙かシーツを拝借する! それで転移魔方陣作って逃げるぞ!」

メイド「そんな都合よく手に入りますの!?」

勇者「今はそんなこと考えてられない。強奪もやむなしだ!」

魔王「! そうだ、いいところがあります!」

353: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 15:51:39.70 ID:OaS0/vZfo

 ――ガチャ


少年「はい」

魔王「こんにちは」

少年「あ、お兄ちゃん! 遊びに来たの!?」

魔王「ごめん、そうじゃないんだ、借りたいものがあるんだけど、いいかな?」

少年「そうなんだあ……うん! わかったよ!」

魔王「ありがとう!」

354: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 15:52:34.64 ID:OaS0/vZfo

勇者「よし、やるぞ」ビッ ツー……


 カキカキカキカキ……


剣士「……」

メイド「剣士、元気出しなさい……」

魔王「……」

少年「ねえ、お兄ちゃん」

魔王「ん、なんだい?」

少年「お兄ちゃんは、人間じゃないよね? ぼくにはわかるよ」

魔王「……!」

少年「魔物さんかな。初めて見た」

魔王「そのことは、誰かに?」

少年「んーん。ぼくとお兄ちゃんは友達だもん。友達が困ることはしないよ?」

魔王「え……?」

355: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 15:53:16.30 ID:OaS0/vZfo

少年「それよりお兄ちゃん、帰っちゃうんだよね?」

魔王「あ、ああ」

少年「また会いに来てほしいな……」

魔王「いいのかい?」

少年「駄目なの……?」ジワ……

魔王「いや、駄目じゃないよ! ……分かった。絶対会いに来る」

少年「ホント!?」

魔王「うん、ホントホント」

少年「じゃあさ――」


『指切りしましょう!』


魔王「……」

356: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 15:53:48.79 ID:OaS0/vZfo

勇者「……よし、できたぞ! みんなの準備はいいか!?」

メイド「ええ!」

魔王「はい!」

勇者「じゃあ、魔王、頼む!」

魔王「合点承知!」

少年「ばいばい、お兄ちゃん」

魔王「うん、ばいばい……」

魔王「――"瞬転"!」


 ――ピシュン!

357: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 15:54:23.03 ID:OaS0/vZfo

     ・
     ・
     ・


<魔界>


 ――シュン!


勇者「……」

魔王「着きました、けどここはどこでしょう」

勇者「細かい場所を設定する余裕はなかった。でも魔王城近くだ」

剣士「……」

勇者(剣士……)ズキ

メイド「では早く帰還しましょう!」


「お待ちください」


勇者「……!?」

358: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 15:56:19.40 ID:OaS0/vZfo

妖精族長「ごきげんよう……」

妖精兵「……」ギリリ……

勇者(武装した妖精兵たち……!?)

妖精族長「はじめまして勇者」

勇者「……」

妖精族長「それともお久しぶりというべきでしょうかね? 仮面人さま?」

勇者「なんだと!?」

妖精族長「あら、わたしたちに情報収集を教えてくれたのはあなたじゃありませんか」

魔王「……」

メイド「……」

勇者「俺たちを、どうするつもりだ?」

妖精族長「……」

359: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 15:56:53.20 ID:OaS0/vZfo

妖精族長「ついてきてください」

勇者「……」

妖精族長「……お願いします」

勇者「え?」

妖精族長「実は……」






妖精「魔界の危機なのです」






373: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 17:59:43.32 ID:OaS0/vZfo

鬼人従者「族長、魔王城の掌握が完了しました」

鬼人族長「うむ」

鬼人従者「これで、準備が整いましたね」

鬼人族長「魔界の、大掃除の始まりだ」

鬼人従者「わたくしはおそばに」

鬼人族長「……すまぬ」

374: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 18:00:10.05 ID:OaS0/vZfo

<魔界.天幕>


 ――ファサ……


勇者「……」

 「おお、あれが……」

 「あれが仮面人の正体……!」

 「人間……勇者だ」

妖精族長「どうぞこちらへ」

勇者「ありがとう」

剣士「……」

魔王「……」

メイド「……」

375: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 18:00:42.92 ID:OaS0/vZfo

勇者「いつからばれてたんだ?」

妖精族長「あなた方が人間界に旅立つ少し前でしょうか」

勇者「なぜ放っておいた?」

妖精族長「"仮面人"の存在があまりにも大きすぎたのです。
     考えなしに暴露すれば、せっかく築かれた団結が失われる恐れがありました
     そうなれば人間に決定的な隙を与えてしまいます」

魔王「なるほど」

妖精族長「事実が判明した時は、妖精族の中だけでも大騒ぎだったんですよ?」

勇者「それはすまなかった……でいいのかな?」

妖精族長「ふふ……」

メイド「今はどのくらいの魔族が知っているんですの?」

妖精族長「魔界の、軍事に関わる魔族はほぼすべて」

勇者「それはなぜ? 何があったんだ? 魔界の危機とは何なんだ?」

376: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 18:01:19.01 ID:OaS0/vZfo

妖精族長「それは一言で説明がつきます。クーデターです」

魔王「クーデター、ですって? 一体だれが!?」

妖精族長「鬼人族をご存知ですね?」

剣士「……最近魔王城に忍び込もうとしてた。わたしが捕まえた……」

妖精族長「ええ。彼らが魔王城を急襲したのです」

メイド「あの鬼人族が!?」

勇者「魔界の人型魔族の中で最も強く賢い種族か……」

魔王「なぜ?」

妖精族長「それは想像でしか分かりません。
     これまでの魔王さまのやり方が気に食わなかったのか、それとも仮面人という存在のことを不審に思ったのか。
     それともそれ以外の利権などの理由か……」

勇者「それではまだ魔界の危機というほどじゃないな。何が差し迫ってるんだ?」

妖精族長「……」

377: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 18:01:46.61 ID:OaS0/vZfo

妖精族長「問題は、鬼人族がいまだ魔界全体を掌握できていないことにあります。
     今はまだ魔王城のみ。他の魔族はいまだ魔王さまや仮面人を信奉しているのです」

勇者「そんな状態で迫っている危機……まさか!」

妖精族長「ええ、騎士軍です」

メイド「数は?」

妖精族長「およそ十万」

魔王「じゅ、十万!?」ガタ!

勇者「……こちらは?」

妖精族長「動員できるのはコボルト、ゴブリン、妖精のみ。
     多く見積もっても三万です」

魔王「そ、そんな……」ズルズル……

378: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 18:02:38.51 ID:OaS0/vZfo

勇者「早急に、対処する必要ありだ」

妖精種族「ええ。事態はわたしたちの手に余ります。あなたの、いえあなた様方の力が必要なのです」

剣士「無茶よ……」

妖精族長「ええその通りです。しかしあなた方に選択肢はないのです」

魔王「……」

メイド「……」

勇者「やりましょう」

妖精族長「ありがとうございます……!」

379: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 18:03:22.94 ID:OaS0/vZfo

     ・
     ・
     ・


勇者「じゃあ、作戦通りに」

妖精族長「ええ」

メイド「任せてくださいまし!」

魔王「ぼくも、やります」

剣士「……」

勇者「剣士……もし無理だったら、休んでても」

剣士「……休むって何?」

勇者「え?」

剣士「安らかな場所は、あなたの手の届く範囲よ。なら行くしかないじゃない」

勇者「剣士……」ギュッ

剣士「……ちょっと、みんなが見てる……」

勇者「……」ギュゥゥゥ

剣士「……」……ギュッ

メイド「……」

380: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 18:04:36.03 ID:OaS0/vZfo

妖精族長「……位置につきます。それではご武運を」

メイド「ちょちょいの、ちょいっと」ガチャ!

勇者「メイド」

メイド「地下道への入り口は開きました。それではわたくしはこれで」

勇者「メイド……」

メイド「行ってまいります。そちらも気をつけて」

勇者「メイド!」

メイド「……勇者さま」

勇者「……」

メイド「わたくしあなたのために戦います。魔王さまへと同等の忠誠をあなたに。
    それでは」ダッ!

勇者「……君は、俺にはできすぎた生徒だったよ」

魔王(……メイドさん)

381: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 18:05:27.54 ID:OaS0/vZfo

 ――コォォォォォォォォ……


勇者「では……」




仮面人「行こうか」




魔王「はい!」

剣士「ええ……」

389: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 19:28:51.76 ID:OaS0/vZfo

鬼人従者「来ました! コボルト軍です!」

鬼人族長「弱者どもめ……蹴散らしてやれ!」

鬼人従者「は!」

「伝令です! 城内に不審な者が!」

鬼人族長「もしや……」

「正体がつかめました! "仮面人"です!」

鬼人従者「来ましたか!」

鬼人族長「ふ、ここまで通してやれ」

390: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 19:29:28.26 ID:OaS0/vZfo

仮面「ふっ――」ザシュ!

鬼人兵「ぐはぁッ!」ドサ

仮面「……」ツカツカ ツカツカ……



 勇者『いいか、作戦は単純だ』

 勇者『メイドが騎士軍を抑え、俺たち三人が城内をかき乱す』

 勇者『コボルト・ゴブリン・妖精の三種族小隊には、正門を押さえてもらおう』

 勇者『俺たちにならできる。大丈夫だ……!』



仮面「……」ジャキ!

391: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 19:30:04.57 ID:OaS0/vZfo

<玉座の間>


仮面「ずいぶんと、少ないのだな」

 「は、余裕じゃねえか」

 「確かに少数だが、鬼人族は人間の五倍は強いんだぜ!」

 「覚悟するんだな!」

鬼人族長「よくぞ来たな、仮面人。大したおもてなしはできんがね」

鬼人従者「……」

392: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 19:30:57.33 ID:OaS0/vZfo

鬼人族長「……いや、勇者か。お主の正体はばれておる。そのような仮面とローブ、暑苦しいだけだろう。外したらどうだ?」

仮面「……そうだな」

鬼人族長「その顔を、この老人に見せてくれ」

仮面「いいだろう」カポ

 「!?」

 「あれは、女!?」

鬼人族長「……誰だお主は?」

?「心強い相棒よ……」

剣士「勇者のね!」

鬼人従者「何!?」

393: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 19:31:32.08 ID:OaS0/vZfo

 ――ズザァァァァァァァ!


勇者「"貫拳"!」

魔王「"炎牙"!」


 ドゴドゴォッ!


鬼人族長「ぬぐッ!」

鬼人従者「ぬかった!」

剣士「奇襲、成功ね」

鬼人族長「この、弱者どもがァッ!」

勇者「弱者で結構、凡人で結構」

魔王「止めさせて、もらいますよ!」

394: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 19:32:03.02 ID:OaS0/vZfo

<東平原>


 ――ヒュオオオオォォォォォォォォ……


メイド(……降るかしら)

 「伝令! 騎士軍がやってきます」


 ――……ザッザッザッザッザッ……


メイド「あの時と同じですわね。いえ、あのときよりもちょっと敵の割合が大きいですか」

 「どうなさいます?」

メイド「街道沿いの山は押さえましたわね?」

 「ええ」

メイド「ならば後はやることはありません。待ちうけるのみ。
    ここはわたくしたちの土地なのですから」

 「かしこまりました」

メイド「挑戦、受けて立ちますわよ……!」

395: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 19:32:31.22 ID:OaS0/vZfo

鬼人族長「ぬぅ……」

勇者「あなたの相手は俺が」

鬼人従者「……」

魔王「あなたの相手はぼくです!」

 「くっ……」

剣士「あなたたち雑兵はわたしが片付けるわ」

396: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 19:33:23.22 ID:OaS0/vZfo

勇者「先手必勝! "連拳"!」ズガガガガ!

鬼人族長「ふん!」パシ!

勇者「な! 左手が!」

鬼人族長「……」ニタァ……

勇者「っ!」ゾク……

鬼人族長「ふぬ!」グッ!


 ――バキャアァッ!


勇者「うわあああああ!?」

鬼人族長「我の武器は握力だ」スッ

勇者「ムグ……!」

鬼人族長「ほれ、今度は頭をつかんだぞ? 死ぬか?」ギリギリ……

勇者「ぐ、あ、あ……」

鬼人族長「そうかそうか死にたいか!」

鬼人族長「ならば、死ね!」


 ――ボグン!


397: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 19:34:08.02 ID:OaS0/vZfo

魔王「"雷爪"!」バリバリ!

鬼人従者「……」ヒラリ……

魔王「当たりませんか……」

鬼人従者「わたしはそのような攻撃に捕まえられる程遅くはないので」

魔王「……」

鬼人従者「いいことを教えてあげましょう」

『いいことを教えてあげる』

魔王「え?」

鬼人従者「私は――」

『魔術の両断も得意なの』

魔王「……」ポカン

鬼人従者「……どうしました?」

魔王「いや、できすぎだなあと……」

鬼人従者「言ってなさい、あなたは私に斬られるのです」

魔王「そうですか」

鬼人従者「ふん……いざ!」ダッ

398: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 19:34:47.07 ID:OaS0/vZfo

<東平原>


 「伝令! 騎士軍動きません!」

メイド「ええ。見えてますわ」

 「一体どういうことでしょう?」

メイド「わかりません……消耗でいえば、数も多く慣れない土地であるあちらの方が不利なのに……」

 「迎撃に絶対の自信があるのか……」

メイド「しかし統率力と機動力は圧倒的にこちらの方が上ですわ」

メイド(しかし――あの妙な密集具合が、気になりますね……)

メイド「なんでしょう?」

 「で、伝令!」

メイド「何かしら?」

 「や、奴ら武器を持っていません!」

メイド「……なんですって?」

399: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 19:35:28.54 ID:OaS0/vZfo

 「一つも、何も持っていないのです! 本当です!」

メイド「罠……」

 「と、思うのが自然ですな」

メイド「しかし……」

 「どうなさいます? 我々はあなたに従います」

メイド「……」


 勇者『選択肢がいくつかあって、どれも不確実なとき』

 勇者『そんなときは、大胆な案を採用するんだ』

 勇者『これが鉄則だよ』


メイド「大胆な、案……」

メイド「こちらに弓射・魔術部隊はいくらいますか?」

 「およそ五千です。魔術隊はいません」

メイド「分かったわ、その隊で弓射を加えなさい。
    ついで、戦闘機動に入りますわ」

 「アイマム!」

メイド(勇者さま、わたくしを守って……!)

400: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 19:35:59.32 ID:OaS0/vZfo

メイド「行きますわよ! 前進です!」


 ――オオオオオオオオオ!


メイド「右翼を伸ばしてそちらから囲むように動いて! さらに弓射を加えて! 手加減は無しですわ!」


 ――ドドドドドドドドド!


メイド(さあ……どうなります!?)


 ――カッ!


メイド「え?」


 ――ドゴオオオオオオウッ!


メイド「き、きゃああああああああ!?」

     ・
     ・
     ・

409: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:08:59.78 ID:OaS0/vZfo

     ・
     ・
     ・


<十年前.どこか>


男子「ここ、どこだろう」


 キチキチキチキチ……


男子「やっぱり騎士軍の人の言うこと聞いてれば良かった……」


 ガサ……!


男子「っ!」ビビクン!

男子「な、何?」


 ガサガサ!

410: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:09:52.80 ID:OaS0/vZfo

男子「う、うひゃああああ!」ダダダ!


 ガサガサガサガサ!


男子「お助けー!」

「よっと!」ガバ!

男子「わあっ」スッテン!

「あははははは!」

男子「だ、誰だよう……」

子供「お兄ちゃん、はじめまして!」

男子「え?」

子供「ぼく、魔物の子です! あのあの、ええとですね。ぼくと――」





『友達になってくれませんか!』





411: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:10:30.65 ID:OaS0/vZfo

     ・
     ・
     ・


<現在>


鬼人族長「……」

勇者「……」

鬼人族長「これは、どうしたことだ?」

勇者「フゥゥゥゥ……」

鬼人族長「我の右腕が、動かん」

勇者「"崩拳"、了」

鬼人族長「なんだそれは? 我の右腕と関係あるのか?」

勇者「師匠の拳法、その奥義だよ」

鬼人族長「馬鹿な……拳を撃ち込む暇なぞなかったはずだ」

412: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:11:15.94 ID:OaS0/vZfo

勇者「いや、拳は引いてない。押し当てたままだ。というより拳でなくともいい」

鬼人族長「……?」

勇者「爆発的な筋肉の振動。それが崩拳の正体」

鬼人族長「……」

勇者「その振動に触れれば筋肉が共鳴して機能不全を起こす」

鬼人族長「化け物かお主は?」

勇者「ただの暗殺技能者さ。弱者のね」

鬼人族長「……ふ……やれ」

勇者「"貫拳"!」ジャッ!

鬼人族長「ぐハァぁァッ!」

勇者「――終わりだ」


 ドサァ……



413: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:12:00.70 ID:OaS0/vZfo

鬼人従者「はああああああッ!」ブオン!

魔王「遅い! "炎牙"ァッ!」ゴウ!

魔王(……終わった!)



鬼人従者「ふん!」ザシュゥッ!



魔王「な!? 魔術を、斬った!?」

鬼人従者「予告したでしょうに」ユラアァ……

鬼人従者「終わりですッ!」ブオン!

414: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:12:38.31 ID:OaS0/vZfo

魔王「ふ――っ」

鬼人従者(――?)





魔王「"貫拳"!」





鬼人従者「なぐハァァッ!!?」ドゴオッッ!

415: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:13:10.38 ID:OaS0/vZfo

魔王「ハァ、ハァ……」

魔王「ぼくが、勇者にやられっぱなしなわけないでしょう……」

魔王「研究しましたとも、たくさん、たくさん」

魔王「コツさえわかれば大したものじゃありませんでした」

魔王「そして、あなたは魔術を切った後は、確実に斬るために近付いてくる」

魔王「チェックメイト、というわけです」

魔王「……や、やった」

魔王「やりましたよ、メイド、さん」ヨロ……

魔王「ふ、はあ……」ヘタリ

416: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:13:53.33 ID:OaS0/vZfo

剣士「ちぇぇぇぇいや!」ズザシュぅッ!

 「が……!」ドサリ

剣士「……終りね」

勇者「こっちも終わった」

魔王「ぼくもです……!」ヘロヘロ……

剣士「! 勇者、その手」

勇者「ああ、握りつぶされた」

魔王「痛そうです……」

勇者「ああ……クソ痛い……」

剣士「早く治癒魔術か何かを妖精に……」

「それは大変だ」

勇者・剣士・魔王「ッ――!」

417: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:14:55.77 ID:OaS0/vZfo

剣聖「何を驚くことがあるかね」

勇者「お前……ッ! その肩に担いでいるのは!」

剣聖「ああ、"ごちそうさま"」ポイ!



メイド「」ドサリ!



魔王「メ、メイドッ!」

剣士「『ご、ごちそうさま』って……」フルフル……

剣聖「ああ、美味だったよ」ニタァァ

魔王「このおォッ!」ダッ

勇者「……」ガシ!

魔王「勇者!?」

418: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:15:51.18 ID:OaS0/vZfo

勇者「落ちつけ」

魔王「これが落ち着いてられますか! メイドが! メイドさんが!」

勇者「そんな時間と余裕があったと思うか?」

剣士「あ……」

剣聖「チッ……その通りだよ。私は早 ではないからな」

魔王「あ……よかった……」ヘナヘナ……

419: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:16:21.95 ID:OaS0/vZfo

勇者「それより、どういうことだ」

剣聖「どういうこと、とは?」

勇者「お前が騎士軍にいたことは分かる。だが、どう考えてもここへ来るのが早すぎる!」

剣聖「兵は拙速を尊ぶ。巧遅よりもな」

勇者「ごり押しにしたって早い!」

剣聖「やかましいな、聞こえないのかあの音が」

魔王「あの、音?」


 ――カッ ドグォオオオオオオオオオオ!


魔王「う、うわ!」グラグラ……

勇者「まさか、『砲』が実戦投入されたのか!?」

剣聖「惜しいな」

420: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:17:12.64 ID:OaS0/vZfo

剣聖「『砲』が開発されているのは帝国では公然の秘密だ。
   だが、その裏にもっと大きな秘密が隠れていることに気付かなかったのか?」

剣士「秘密?」

剣聖「現在の技術で『砲』とタメをはれるものはなんだ?」

勇者「血陣、魔術」

剣聖「ビンゴだ」

魔王「え、あの血陣魔術!? で、でも」

剣聖「ああ、あれに速度はない。
   注射器で血を抜いて、専用の道具を使って魔方陣を描写する手間は、戦場では致命的だな」

勇者「まさか!」

剣聖「その通り。『魔術士計画』だ」

剣士「魔術士、計画?」

421: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:18:12.29 ID:OaS0/vZfo

剣聖「血陣魔術に必要なもの。血と魔方陣だ」

勇者「だが、血は人間の体内に充満していて、血管によって巡っている……」

魔王「つまり……?」

剣士「血管を魔方陣の効果があるように並び変えれば、描写の手間は要らない……!」

剣聖「その通り、愛しているぞ、我が娘よ!」

剣士「くっ……」

勇者「それに、メイドは負けたのか……」

メイド「ぅ……ぁ……」

魔王「酷い……こんな……」

勇者「……」スッ

メイド「ゆ……しゃ……」

勇者「ああ……」ナデ……

勇者「大丈夫、あいつは絶対ぶっ飛ばす……!」スク

メイド「……」

422: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:18:54.95 ID:OaS0/vZfo

剣聖「ふふ、ははははははっ! その片方潰れた拳で俺と勝負するかね!?」

勇者「……」

剣聖「三分間待ってやる! その間好きなように治すがいい!」

勇者「……」……クル

剣士「……?」

勇者「……」ツカツカ ツカツカ……

剣士「な、なによ」

勇者「……」ギュッ

剣士「あっ……」

勇者「……勝ってくる」

剣士「……ええ!」

423: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:19:32.02 ID:OaS0/vZfo

勇者「……」ザッ

剣聖「治療はいいのかね?」

勇者「お前もお師様とまともにやり合ってる。そんなに早く怪我が治るはずがない」

剣聖「……」ビリ……

勇者「お師様の崩拳をまともに受けたら握力にも異常が出てるはずだ」

剣聖「……」ペッ

勇者「イーブンだ」

剣聖「勘違いするな若造。俺は生まれながらにして人間の頂点だった。
   少しぐらいの不調で揺らぎはせんぞ」

勇者「不調は認めるんだな」スッ

剣聖「……殺す」ジャキ!

424: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:20:02.90 ID:OaS0/vZfo

勇者「……」

剣聖「……」


 ――…………






 ――ズダンンッッ!!!


勇者「シッ――!」ジャッ!

剣聖「ふ、破ッ!」キィン!

425: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:20:36.49 ID:OaS0/vZfo

 ――ガキャンッ!


勇者「っ!」グググ……

剣聖「ぬ!」ギギギ……


 ――ッキャァン!


勇者「おおおおおおおおおおお!」

剣聖「はああああああああああ!」


 ヂィン! ジャッ! ジャァン! ビシ! ガツン!

426: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:21:13.65 ID:OaS0/vZfo

勇者「やっぱりだ! 今は見える!」ジャッ!

剣聖「く! だが右手だけでは防ぎきれんぞ!」ビッ!

勇者「いや、もう詰んでいる!」キィン!

剣聖「ほざけッ!」ビュッ!


 バッ! ズザザザザザザザ……


勇者「ヒュー……ヒュー……」

剣聖「ふ……は……」

勇者「……」

剣聖「……」

427: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:22:12.30 ID:OaS0/vZfo

勇者(これが……)



 ――これが最後だ



勇者(悔いはないか……?)



 ――あるものか



勇者(そうだ……いつだってそうだった……
   手の届く範囲でやってるんだから、それだけでもう、十分だ……)



 ――……行こう



勇者「ああ、もちろんだともッ!」

428: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:22:40.91 ID:OaS0/vZfo


 ズ――ダンッッ!!


勇者「くらえやあああああああ!」

剣聖「ぬうううううううううん!」


 ――ガ……


勇者(ここだ……ッ! 今なんだッ!)


 ――ビィィィン!


剣聖「な!?」

勇者「その通り! 持ってて良かった小型ボウガン!」

429: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:23:44.26 ID:OaS0/vZfo

剣聖(こんなもの! 打ち落とせる!)

剣聖(どんなに刹那の間であろうと、俺の剣の方が速い!)



勇者「――って思ってるんだろ?」

剣聖「!?」

勇者「あめえんだよッ!」ズギュウウゥゥ!




 ――ガキイイイイイィィィィィィンッ!




430: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:24:25.18 ID:OaS0/vZfo

魔王「あ……!」

剣士「うん……!」

勇者「ああ!」



剣聖「がハアああああああ!」カラーン……



勇者「当然だ。矢を撃ち落とそうと思ったら、矢の通る軌道に剣が入る。
   その瞬間をねらって崩拳を叩きこめば――」

剣聖「腕が……! 腕が……!」ビリビリビリビリ!

勇者「こうなるってわけだ」

431: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:24:50.96 ID:OaS0/vZfo

勇者「終わりだッ!!」

剣聖「くそおッ!」

勇者「"貫拳"!」カアァァァァン……!

剣聖「ぶごふッッッ!!!」


 ――ドシャア!


勇者「俺の手の届く範囲に入ったこと……それがお前の敗因だ。覚えとくといい」

432: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:25:23.73 ID:OaS0/vZfo

剣士「勇者!」

魔王「勇者!」

勇者「ふぅ……あれ……」ヨロ……

剣士「っと……」ガシ

魔王「大丈夫ですか?」

勇者「もう、だめかもな」

勇者(でも、悔いはない……)



「お前の手の届く範囲に入ったことが俺の敗因ならば……」



勇者「何!?」



「俺を殺さなかったことがお前の敗因だよ……」



 ――……ゴウッ!

433: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:25:50.74 ID:OaS0/vZfo

勇者(しまった、投擲剣!)



 ――ザグンッッ!



「が……は……」

勇者「な……!」

剣士「メ……」

魔王「メイドさんッ!」

メイド「勇、しゃ……さま……」ドサリ……

434: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:26:22.03 ID:OaS0/vZfo

魔王「あ……」


 ――……ドクン


勇者「……メイド!」

魔王「ああ……」


 ――ドクン!


剣士「――ッ! ――ッ!」

魔王「あああ……」


 ――ドクンッ!


435: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:26:55.84 ID:OaS0/vZfo

魔王「ああああああ……」

勇者「どうした魔王、しっかりしろ!」

魔王「あああああああはははははっはははっははははは!」


 ――ぴいいいぃぃぃぃぃいいん


剣士「何の音!?」

魔王「ふふふああっははははふははふっふふふふはははは!」

勇者「魔王! 魔王!」

魔王「……死ね」


 ――ゴゴウン!


436: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:27:38.70 ID:OaS0/vZfo

勇者「……広域極大消滅魔術」

剣士「え……」

勇者「これが、それだ……」

魔王「――――」

剣士「そ、そんな、このあたりには今、たくさん人がいるのよ?
   止めさせないと……!」

勇者「……」

剣士「勇者!」

魔王「――――」

437: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:28:09.20 ID:OaS0/vZfo

勇者「魔王……」

魔王「――――」

勇者「滅ぼすのか? 全部」

魔王「――――」

勇者「お前らしくもないな」スッ

魔王「――――」

勇者「……」ナデナデ

剣士「勇者……!」

勇者「黙っててくれ」

438: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:28:44.09 ID:OaS0/vZfo

勇者「聞いてくれるか、魔王」

魔王「――――」

勇者「俺はお前の事を覚えていたよ」

魔王「――――」

勇者「懐かしかった。うれしかった。
   でも、お前は覚えてなかった……」

魔王「――――」

勇者「いろいろ記憶をいじられたんだな……かわいそうに」ギュッ

魔王「――――」

勇者「なあ、俺、もしかしたら世界を救うなんてどうでもよかったのかもしれない」

魔王「――――」

勇者「ただただ、お前に思い出してほしくて行動してた気がする。あのころを取り戻したくて……」

439: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:29:26.37 ID:OaS0/vZfo



『ぼくと友達に――』



440: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:30:04.45 ID:OaS0/vZfo

勇者「だから信じたかった。お前がまだ俺の手の届かない場所にいってしまってなんかいないって!」

魔王「――――」

勇者「帰ってこい! 魔王! お前、ふざけてんじゃねえぞ!」

魔王「――――」

勇者「いいか、五秒だ! それ以上は待たねえ!」

魔王「――――」

勇者「五、四、三」

魔王「――――」

勇者「二……一……」

勇者(ああ、俺、泣いちゃってるな……)





勇者「……ゼロッ!」バキイッ!


 ……カッ――――!

441: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:30:32.26 ID:OaS0/vZfo


     ・
     ・
     ・


442: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:31:00.79 ID:OaS0/vZfo

メイド「ん……」

勇者「メイド?」

メイド「あれ、わたくし……」

勇者「起きたか……」

メイド「勇者、さま……?」

剣士「おはよう」

メイド「剣士……」

勇者「大丈夫か? 痛いところとかないか?」

メイド「いえ……あの、わたくし」

勇者「ああ、死んでたのかもな」

メイド「! やっぱり……じゃあなぜ?」

勇者「……」チョイチョイ

メイド「……?」

魔王「スゥ……スゥ……」

メイド「魔王さま?」

443: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:31:28.80 ID:OaS0/vZfo

勇者「ああ、そうだ、あいつのおかげだ。多分」

メイド「え? え?」

剣士「極大広域消滅魔術なんてものじゃなかったわね」

勇者「ああ、大魔術……いや魔法の領域だな」

剣士「あなたが殴ったからかしら?」

勇者「さあ? 殴らなくてもこうしてたのかも」

メイド「……魔王さま」

魔王「んん……」ハッ

444: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:32:01.22 ID:OaS0/vZfo

魔王「……」ムクリ

メイド「魔王さま!」

魔王「……」

メイド「……魔王さま?」

魔王「~~~~~ッ!」ガバ!

メイド「きゃっ!」

魔王「よかった……よかったぁ……」グスグス……

勇者「ん……」

剣士「ふふ……」

445: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:32:30.90 ID:OaS0/vZfo

魔王「もう、駄目かと……駄目かとぉ……!」

メイド「……ありがとうございました」

魔王「え、ぼく?」

メイド「はい、あなたのおかげで生き返ることができました」

魔王「え? え?」

メイド「……」チュッ

魔王「~~~~ッ!」

446: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:33:01.76 ID:OaS0/vZfo

勇者「あー、盛り上がってるところ悪いが……」

魔王「はい?」

勇者「魔王、最後の仕事だ」

魔王「え?」

勇者「行くぞ」

魔王「ど、どこに?」

勇者「決まってる。平和な世界に、だよ」

447: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:33:46.73 ID:OaS0/vZfo

     ・
     ・
     ・


勇者「じゃあ、行ってくる」

剣士「ちゃんと、帰ってくるのよ」

勇者「ああ」

メイド「魔王さまもですよ」

魔王「うん、分かってます!」

勇者「剣士。……頑張れよ」

剣士「……ええ」

魔王「?」

勇者「メイド、病み上がりのとこ悪いが戦の後始末を頼む」

メイド「かしこまりました!」

勇者「じゃあ――」

魔王「はい!」

魔王「――"瞬転"!」


 ――ピシュウン!

448: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:34:16.77 ID:OaS0/vZfo

<魔王城.廊下>


剣聖「くっ……ふぅ……ぐふっ」ヨロ

剣聖「あの、若造め……!」

剣聖「待っていろ! 必ずやこの屈辱を……」

剣聖「……!」



剣士「……」



剣聖「なんだ、お前か……」

449: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:34:58.61 ID:OaS0/vZfo

剣聖「どうした、抱かれにでも来たか……?」フフ

剣士「……」ポイッ カラン……

剣聖「剣……? 何のつもりだ……?」

剣士「必殺の距離」

剣聖「!」

剣士「パパが教えてくれた殺人の距離」

剣聖「……」

剣士「決闘よ」

450: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:35:25.59 ID:OaS0/vZfo

     ・
     ・
     ・


剣聖「後悔するなよ……」

剣士「パパはするの?」

剣聖「くくっ……」

剣士「剣士に言葉はいらないわ」

剣聖「まったくだ」

剣士「……」

剣聖「……」

451: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:35:52.43 ID:OaS0/vZfo

剣士(わたしは、後悔ばかりだった)


 ――手の届かない距離


剣士(いつもいつもあがいてて、でもようやく届く)


 ――泣こう


剣士(そうね。ちょっと泣いて……)


 ――……立とう


剣士(それから、穏やかに笑おう……)

452: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:36:31.58 ID:OaS0/vZfo




 ――ブン! ヒュンヒュンヒュン――ザグン!




453: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:36:58.19 ID:OaS0/vZfo

<帝都.宮殿>


 ――シュン!


勇者「……」

魔王「ここ、ですか」



 「何者だ」



勇者・魔王「……!」

皇帝「この庭は、余の領域であるぞ。
   どうやって入った」

勇者「皇帝陛下……」

皇帝「何者だ」

454: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:37:30.79 ID:OaS0/vZfo

魔王「ぼくは! ぼくは……魔王です」

皇帝「……なんと」

勇者「わたくしはただの暗殺者です。勝手にあなたの領域に入ったこと、深くお詫び申し上げます」

皇帝「暗殺者……余を殺しに参ったか」

勇者「いえ」

魔王「あの!」

皇帝「ふむ?」

魔王「あの、ですね……色々いいたいことはあるんですが、それよりもまず……」

皇帝「……」

魔王「ぼくと――」

455: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:38:29.48 ID:OaS0/vZfo




子供『ぼくと友達になってください!』




456: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:39:04.34 ID:OaS0/vZfo

皇帝「友達……?」

魔王「はい!」

皇帝「馬鹿な、人間と魔族が友達などと……」

勇者「わたくしは、この子の友達です」

皇帝「……」

魔王「でも、具体的には……ええと」

勇者「魔界と人間界との間の休戦協定の締結、国交の回復、エトセトラエトセトラ……」

魔王「はい、それです!」

皇帝「馬鹿を言え、余がそれを飲むとでも?」

魔王「そうですよねえ……」

勇者「いや、いい案があるぞ」

魔王「なんですか?」

勇者「皇帝陛下を捕まえて人質にしてしまおう」

魔王「なるほど」

皇帝「……!」

457: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:39:34.53 ID:OaS0/vZfo

皇帝「何を……!」

魔王「いえ、捕虜の生活も悪くないですよ」

勇者「経験談です」

皇帝「馬鹿を、言うな……!」

魔王「あの、勇者、思ったんですけれど……」

勇者「ん?」

魔王「皇帝も結構悪いことやってきたんですよね?」

勇者「ああ、そりゃもう」

魔王「じゃあ、ぼくよりも魔王じゃないですか」

勇者「……なるほど」

皇帝「……?」

魔王「つまり、これがホントの――」

458: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:40:09.38 ID:OaS0/vZfo



 勇者「魔王捕まえた、だな」



459: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 22:41:01.83 ID:OaS0/vZfo

     ・
     ・
     ・


本文「……終わりだよ!」

471: 後日談1 2011/06/07(火) 23:19:19.70 ID:OaS0/vZfo
<勇者と剣士>


剣士「 女よ」

勇者「えっ」

472: 後日談1 2011/06/07(火) 23:20:42.65 ID:OaS0/vZfo

剣士「何よその顔……うれしくないの?」

勇者「うれしいかどうかはわからないけれど、びっくりした」

剣士「まあ、そうよね」

勇者「いやだって普通……」

剣士「普通、何?」

勇者「いや」

剣士「……」

勇者「……」

473: 後日談1 2011/06/07(火) 23:21:43.42 ID:OaS0/vZfo

剣士「……わたしは身体の隅々まで、パ……あの男に汚されてるの」

勇者「……」

剣士「顔も、首も、方も、背中も、もちろん●●やお尻も」

勇者「……」

剣士「でも最後まで汚されなかった場所があるの」

勇者「……」

剣士「一番最後に残しておこうとでもしたのかしら。それともわたしがそれだけは本気で拒んだからかしら。
   わからないけれどとにかく事実として残ってる」

勇者「……」

剣士「ねえ、勇者」

勇者「……ああ」

剣士「その……あの……今なら、ね……? なんとかなる気がするの」

勇者「……うん」

剣士「……行こう」

勇者「君となら、どこへでも」

485: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 23:39:18.05 ID:OaS0/vZfo
師匠と魔王把握

486: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 23:44:12.36 ID:OaS0/vZfo

<師匠と魔王>


魔王「とりあえず休戦協定が結ばれて一時の平和が――」

師匠「飯くれ」

魔王「来なかった!」

488: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 23:47:16.59 ID:OaS0/vZfo

魔王「ていうかあなた生きてたんですね」

師匠「ずいぶんな言い草じゃねえか」パクパク

魔王「だってあのシーンは弟子を守って死ぬ感じじゃないですか」

師匠「それに乗っからないカッコよさ?」

魔王「邪道です」

489: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 23:50:19.43 ID:OaS0/vZfo

師匠「だってよー」

魔王「だってもクソもありませんよ」

師匠「そんなこと言うとお前鍛えてやんないぞ」

魔王「勇者さんに学ぶからいいでーす」

師匠「あいつかー。立派になったもんだよな」

魔王「元帥補佐ですもんね」

師匠「実質最高権力者」

魔王「ですよねー」

490: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 23:53:13.32 ID:OaS0/vZfo

魔王「ところで、勇者さんとの馴れ初めってどんなんだったんですか?」

師匠「ああ、あれはいつだったか……」


     ・
     ・
     ・


師匠「腹減った……」

勇者「奢りましょうか?」

     ・
     ・
     ・


魔王「……だけ?」

師匠「いやー、運命だな」シミジミ

魔王「どこが……」

師匠「お前空腹の恐ろしさを知らんのだな!」

魔王「まあ、知りませんが」

師匠「これだからボンボンは……」

492: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/07(火) 23:58:35.87 ID:OaS0/vZfo

師匠「もっと食い物の大事さをだなー」

魔王「あ、ごめんなさい、メイドさんが呼んでます」

師匠「そういえば最近嬢ちゃんとはどうなんだ?」

魔王「聞きます?」ニヘラ

師匠「やっぱりいい」

魔王「そんなこと言わずにー」

師匠「さっさと行った行った」

魔王「メイドさーん、今行きますよー」

師匠「やれやれ……人の気も知らずによ」

498: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 00:15:38.24 ID:N6YWZ/2jo
剣士メイド把握

502: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 00:25:42.78 ID:N6YWZ/2jo

<剣士とメイド>


剣士「……」

メイド「……」

剣士「あれ以来話す機会、なかったわよね」

メイド「そう、ですわね」

剣士「その、最近どうなのよ」

メイド「まずまず、ですわね」

剣士「……」

メイド「……」

剣士・メイド(なんとなく気まずい……)

503: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 00:30:32.48 ID:N6YWZ/2jo

剣士「あー……」

メイド(ええと……)

剣士「そう、そうよ、あれあれ」ゴソゴソ

メイド「?」

剣士「将棋よ」ドン

メイド「あ……」

剣士「久しぶりにどう?」

メイド「……わたくしに勝てますの?」

剣士「わたしもあれから勉強したのよ?」

メイド「だったら相手になりますわ」フフン

剣士「そうこなくちゃね」

504: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 00:33:51.41 ID:N6YWZ/2jo

メイド「……」パチン

剣士「……」パチン

メイド「なるほどそうますか……」パチン

剣士「少しは成長してるでしょ」パチン

メイド「そこそこ、ですわね」パチン

剣士「見てなさいよー」パチン

505: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 00:36:24.47 ID:N6YWZ/2jo

メイド「win!」エッヘン!

剣士「相変わらずでたらめに強いわね……」

メイド「ああ、頑張ったらお腹が好きましたわ」

剣士「お茶にしましょうか」

506: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 00:37:58.93 ID:N6YWZ/2jo

メイド「……」ズズ……

剣士「……」ズズ……

メイド「……」

剣士「……」


 チュンチュン……


メイド「平和、ですわね」

剣士「平和ねー」

メイド「……」

剣士「……」ズズ

507: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 00:42:25.70 ID:N6YWZ/2jo

メイド「さて」スッ……

剣士「……?」

メイド「剣士」

剣士「なによ改まって」

メイド「わたくし、あなたに申し上げなければならないことがありますわ」

剣士「……何?」

メイド「ありがとうございます」ペコリ

剣士「え?」

メイド「剣士には感謝してますの」

剣士「やめてよすぎたこと」

メイド「いえ、あの頃の関連ではなく。
    わたくしと友達でいてくれることに関してですわ」

剣士「友達?」

508: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 00:45:49.49 ID:N6YWZ/2jo

剣士「友達、友達……」

メイド「違いますの……?」シュン……

剣士「あ、いや、そうじゃなくて、どちらかというと仲間って方が近いんじゃないかしら」

メイド「なるほど、そうかもしれませんわね。
    ともかくわたくし、同性の知り合いがいませんでしたから」

剣士「え? メイド仲間は?」

メイド「その、わたくしは人間の血が入ってますから、その……」

剣士「あーなるほど……」

509: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 00:50:43.00 ID:N6YWZ/2jo

メイド「そういうわけであなたには感謝してますの」

剣士「そういうことね……分かったわ」

メイド「はい……」

剣士「でも、それをいうならあなたにもお礼言わなきゃね。わたしだって同じだったから」

メイド「あ……」

剣士「だからおあいこ。これからもよろしく」スッ

メイド「握手ですわね」ギュッ

剣士「……勇者の事は任せて」

メイド「えっ」

剣士「えっ」

510: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 00:53:18.43 ID:N6YWZ/2jo

剣士「……」

メイド「……」

剣士「まさかと思うけど……」

メイド「はい」

剣士「まだ勇者の事諦めてないの?」

メイド「一応は」

剣士「何でよ! 最近魔王といい感じじゃない!」

メイド「それとこれとは話が別ですわ!」

剣士「呆れた……あなたってそんなに軽い女だったの?」

メイド「違います、純情なんですわ!」

剣士・メイド「むー!」

511: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 00:58:34.58 ID:N6YWZ/2jo

メイド「実は今度勇者さまとデートですの!」

剣士「ええ!? 聞いてないわよそれ!」

メイド「べー、ですわっ」

剣士「魔王にいいつけるわよ」

メイド「そ、それは……」

剣士「……」

メイド「ああ、板ばさみになるわたくし……」

剣士「ハァ……わたし、ちょっとこれからの付き合い方について勇者と相談してくるわ」

メイド「それならわたくしもいきますわ」

剣士「なんでよ!」

メイド「なんですか!」


 ギャイギャイ ギャイギャイ……


523: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 05:30:23.79 ID:N6YWZ/2jo

<勇者と魔王>


勇者「よっ」

魔王「あ、どうも」

524: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 05:30:54.84 ID:N6YWZ/2jo

魔王「お茶どうぞ」コト

勇者「どうも」ズズ……

魔王「どうですか最近は?」

勇者「まあ、ぼちぼちかな」

魔王「そうですか」

525: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 05:31:23.77 ID:N6YWZ/2jo

勇者「……」ジー

魔王「……なんですか? ぼく男と見つめ合う趣味はありませんよ?」

勇者「俺もないけど」

魔王「じゃあ、なんですか」

勇者「思い出してはくれないのかな、って」

魔王「ああ、そのことですか……」

526: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 05:32:09.17 ID:N6YWZ/2jo

魔王「ぼくたちはもともと勇者候補生同士だった……でしたよね?」

勇者「ああ。別々のクラスで鍛えられてた」

魔王「勇者さんを信用しないわけじゃないですが、魔王の息子を勇者候補生にしますかね?」

勇者「……」

魔王「?」

勇者「あの頃のお前は、俺のことをお兄ちゃんと呼んだよ」

魔王「それが?」

勇者「いや……」

527: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 05:33:13.54 ID:N6YWZ/2jo

勇者「魔王の息子を勇者候補生とするか、という質問には、イエスとしか答えられない」

魔王「……」

勇者「魔王にも人間並みの情の厚さを求められるかといえば、疑問に思わざるを得ない。
   しかし我が息子を簡単に殺す親はいないと判断された」

魔王「子供に親殺しさせようとしたわけですか……」

勇者「酷い話だよ」

528: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 05:33:43.89 ID:N6YWZ/2jo

魔王「じゃあぼく誘拐された子なわけですか?」

勇者「そうだ。そしてまた騎士軍の方から逆に魔界に誘拐された」

魔王「……」

勇者「そして魔術的処理によって記憶を改竄・消去されてしまった」

魔王「……」

勇者「……」

529: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 05:34:22.23 ID:N6YWZ/2jo

魔王「酷い、話です」

勇者「全くだ」

魔王「あの」

勇者「ん?」

魔王「ぼくの話をしてもらえませんか? ぼくはどんな子だったんでしょうか?」

勇者「……元気な子だったよ。いたずらが好きでね。一緒に騎士軍の監視をすり抜けては夜遊びに出かけた」

魔王「へえ……」

勇者「といっても、夜の森で星を見たり、蛍を追いかけたり、花の蜜を吸ってみたりだけどな」

魔王「……」

530: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 05:34:55.73 ID:N6YWZ/2jo

魔王「そうですか。ありがとうございます、勇者さん」

勇者「……」ジー

魔王「だから男と見つめ合う趣味はありませんって」

勇者「……」ジー

魔王「……あーはいはい、お兄ちゃん! これでいいですか!?」

勇者「もっと優しく」

魔王「……お兄ちゃん?」

勇者「もっと情熱的に」

魔王「お兄ちゃーん!」

勇者「もっと――」

魔王「遊ばないでくださいよ」

531: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 05:36:01.93 ID:N6YWZ/2jo

勇者「でも、結局完全には思い出してはもらえなかったな……」

魔王「なんかすみませんね」

勇者「いや……」

魔王「いや、でも……ほんの少しだけ」

勇者「?」

魔王「友達に――」



子供『ぼくと友達になってください!』



勇者「……ああ。お前の殺し文句だ」

魔王「え? ぼくそれいろんな人に言ってたんですか?」

勇者「『お兄ちゃん』と合わせて男女関係なく効く最終兵器だった」

魔王「は、はあ……」

勇者「今度メイドに『お姉ちゃん』って言ってみるといい」

魔王「やってみます」コクコク

532: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 05:36:37.52 ID:N6YWZ/2jo

勇者「よし、じゃあ行くかな」

魔王「もうですか?」

勇者「ああ、仕事が残ってる」

魔王「ええ、分かりました」

勇者「行ってくるよ」

魔王「行ってらっしゃい、……お兄ちゃん」

勇者「……効くな」

魔王「そうですか」

574: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 20:26:17.73 ID:N6YWZ/2jo

<メイドと剣士と後一人>


メイド「キャッキャ」

剣士「ウフフ」

575: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 20:28:38.19 ID:N6YWZ/2jo

<帝都>


メイド「楽しいですわねー」

剣士「そうね、楽しいわ」

メイド・剣士(今この場においてあなたさえいなければ!)

576: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 20:30:07.62 ID:N6YWZ/2jo

メイド「あれはなんですの? 露店? なんですかそれ」

剣士「あなたそんなことも知らないの?」

メイド「わたくしは勇者さまと話してるんですわっ
    ……ふむふむ、野外に出したお店ですか」

剣士「……」

メイド「え!? 何か買ってやる? ホントですの!?」

剣士「!」

メイド「ありがとうございます!」

577: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 20:30:36.48 ID:N6YWZ/2jo

剣士「……」ブス

メイド「~♪」ルンルン!

剣士「ねえ、勇者……いえ何でもないわ」

剣士(ここで欲しがっては、女がすたるわよ剣士……!)

メイド「ブレスレット~♪ 勇者さまから買ってもらったブレスレット~♪」

剣士「やめなさいよみっともないわ」

メイド「……」ジー

メイド「フッ……」ヤレヤレ

剣士(『悔しいんですのね』。そう言いたげでムカツク……)

579: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 20:38:18.19 ID:N6YWZ/2jo

メイド「あっちの広場が賑やかですわ! 行ってみましょう!」グイグイ

剣士「あ、ちょっと……」

剣士「……」ポツン……

580: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 20:39:23.33 ID:N6YWZ/2jo

剣士「――フッ……」カタスクメ

剣士「あんな娘に何ムキになってるの剣士。冷静に行きなさい、冷静に」

剣士「決して悲しくなんかないわ。だって冷静だもの」

剣士「だからこれは涙じゃないし、顔も歪んでなんか……」グス

剣士「……あーあ。本当に魔王に言いつけちゃおうかしら」

581: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 20:40:37.69 ID:N6YWZ/2jo

 ポンポン


剣士「はい……って勇者」

剣士「!」ササ! ゴシゴシ

剣士「何かしら?」キリ!

剣士「……え。これ指輪」

剣士「高いものじゃないけどって?」

剣士「……そんなのどうでもいいわよ」

剣士「いい? あなたがくれる物は、例え生ごみだろうと宝物になるの」

剣士「だから」スッ

剣士「……」

剣士「……ちょっとくらいサイズが違おうとわたしの宝物になるの」

剣士(……ダイエットって指も痩せるかしら?)

582: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/08(水) 20:44:19.98 ID:N6YWZ/2jo

剣士「メイドは?」

剣士「あっちで人形劇に夢中になってる?」

剣士「……子供ね」

剣士「……」ウズ

剣士「別にわたしも見たいなんてそんなことないわよ?」

剣士「……そこまで言うなら仕方ないわね。見てあげないこともないわ」

剣士「あ、ちょっと,待って」

剣士「……」グイ


 ――チュッ


剣士「……さあ、行くわよ」

剣士「別に赤くなってなんかないわ。ホントよ?」

剣士「ホント! 行くわよ!」グイグイ!

599: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 00:15:09.21 ID:kujgr3tlo
ではそのように把握
でも俺に多人数を書き分ける力がないのでもしかしたら種族長たちの会談だけになるかも
あと、もし寝ちゃったら朝あたりに投下します

604: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 06:59:29.89 ID:kujgr3tlo

<魔族トリオ>


コボルト族長「おう」

ゴブリン族長「うむ」

妖精族長「~♪」

605: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 07:03:17.46 ID:kujgr3tlo

コボルト族長「生き残ったな」

ゴブリン族長「儂もお主も運が良かったとしか言いようがない」

コボルト族長「ああ、あの時の人間の火力は異常だった。あれは魔族並みだったのではないか?」

ゴブリン族長「仮面人、いや勇者が行っていたことが今ならわかる。実力が同じなら、人間の方が戦いは巧い」

コボルト族長「認めたくはないがな」

妖精族長「~♪」

606: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 07:04:21.23 ID:kujgr3tlo

ゴブリン族長「人間が撤退していなかったら儂もお主もここにはおらん」

コボルト族長「あれは一体どういうことだったのだ? なぜ人間たちは退いたのだ?
         あのまま攻められていれば魔王城は陥落していたに違いないのに」

ゴブリン族長「儂も後から聞いた話にすぎんが。人間たちの使う魔術は血を使うことは知っておろう」

コボルト族長「ああ」

ゴブリン族長「単純に血液が足りなくなったのが一つらしい」

コボルト族長「何?」

妖精族長「~♪」

607: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 07:05:06.03 ID:kujgr3tlo

コボルト族長「なぜそんな間抜けな事態になったのだ」

ゴブリン族長「魔術士といってな、魔方陣を体内に持つ人間が騎士軍の主力だったそうだ。
         魔術を使うごとに体内から血液を失う。それは表からは見えない」

コボルト族長「見誤ったのか」

ゴブリン族長「それともう一つ」

コボルト族長「何だ?」

ゴブリン族長「竜族だ」

コボルト族長「あいつらが?」

妖精族長「~♪」

608: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 07:05:32.30 ID:kujgr3tlo

ゴブリン族長「今回、魔界の危機ということで腰の重いあやつらがようやく動いた」

コボルト族長「本当にようやくだな。プライドばかり高いものぐさどもが」

ゴブリン族長「しかし実力は本物だ。その脅威によって人間は退いていった」

コボルト族長「なるほどな」

妖精族長「~♪」

609: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 07:06:01.43 ID:kujgr3tlo

コボルト族長「さて、一応休戦協定は結ばれたわけだが。これからどうなるのであろうな」

ゴブリン族長「そのうち両者の軍縮が始まるとは思うが、儂らの仕事はなくならんだろうな」

コボルト族長「なぜだ?」

ゴブリン族長「最低限の武力は残しておく必要があるからだ」

コボルト族長「ん?」

妖精族長「怪我のない喧嘩をするにも力が必要ということです」

610: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 07:06:33.19 ID:kujgr3tlo

コボルト族長「……?」

妖精族長「魔族であるあなたも知っているでしょう。本当に力のある者は大きな怪我を負う戦闘は原則しない。
       力の弱い者ほど血みどろな戦いをするものです」

ゴブリン族長「そういうことだ」

コボルト族長「なるほどな」

妖精族長「今後わたしたちは抑止力としての働きを持つことでしょうね」

ゴブリン族長「うむ」

611: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 07:07:11.48 ID:kujgr3tlo

コボルト族長「我々は勝てなかったが、負けもしなかったな」

妖精族長「ですが旅立った者も多い……」

ゴブリン族長「儂らがまだ生きているのは、その散っていった者たちのおかげとも言える。
         儂らで祈りを捧げよう」

コボルト族長「……そうだな」


 ――……ヒュルルルルルル


ゴブリン族長「! なんだ!?」


 ――ドォォォォンッ!


コボルト族長「敵襲か!?」

妖精族長「……ふふ」

612: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 07:07:38.93 ID:kujgr3tlo

     ・
     ・
     ・


 ――ヒュルルルルルル……ドォォォン!


コボルト族長「……」ポカン

ゴブリン族長「花火……?」

妖精族長「妖精族お手製ですよ」

613: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 07:08:05.41 ID:kujgr3tlo

コボルト族長「妖精族が?」

ゴブリン族長「なぜ?」

妖精族長「旅立った者を祝福するために」

コボルト族長「……」

ゴブリン族長「……」

妖精族長「妖精族はいたずら好きなんですよ」

614: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 07:08:37.08 ID:kujgr3tlo

 ――ヒュルルルルルル……ドォォォン……パチパチ……


コボルト族長「……」

ゴブリン族長「きれいで、あるな」

妖精族長「……祈りましょう。明日もまた、いい日であるように」

コボルト族長「……ああ」

ゴブリン族長「うむ」

615: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 07:09:29.31 ID:kujgr3tlo
魔族トリオ、了
後日談もだいぶ書いたなー
やっぱりそろそろ潮時かもね

635: じゃあ、失礼ながら投下するよ 2011/06/09(木) 19:33:26.90 ID:kujgr3tlo

<剣士とメイドと後一人>


剣士「キャッキャ」

メイド「ウフフ」

636: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 19:33:54.26 ID:kujgr3tlo

剣士「楽しいわねー」

メイド「楽しいですわー」

剣士・メイド(今この場においてあなたさえいなければパート2!)

637: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 19:34:21.28 ID:kujgr3tlo

<帝都>


剣士「これはどういうことなのかしら」

メイド「どう、とは?」

剣士「わたしは勇者とデートしていたと思ったら何か余計なものがついてきていた。
   非常に恐ろしいものの片鱗を味わってるわ」

メイド「別に超スピードでも催眠術でもありませんけどね」

剣士「ええそうね、あなたが軟派な女ってだけよね」

メイド「純情なだけですわ!」

剣士「純情の使いどころ多分間違ってる」

638: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 19:34:50.14 ID:kujgr3tlo

<店>


メイド「勇者さま! これはいかがですか!?」シャ!

剣士「……」

メイド「じゃあ、こちらは!?」シャ!

剣士「……」プル……

メイド「ふむぅ、ではこれでどうでしょう!?」シャ!

剣士「……」プルプル……

メイド「あら剣士、どうしましたの? あなたも試着しませんの?」

剣士「あなたって 女だったのね」

メイド「え?」

剣士「勇者も勇者よ!  着のお店に一緒に入ってどういうつもり!?」

639: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 19:35:17.53 ID:kujgr3tlo

メイド「ほらほら、剣士も試着しませんと!」グイグイ

剣士「ちょ、ちょっと!」

メイド「えい!」シュババババ!

剣士「きゃ!」

メイド「完成ですわ!」シャ!

剣士「……」

メイド「勇者さま、いかがですの!?」

剣士「……っ」

剣士「~~~~ッ!」シャ!

メイド「ああ! なんで隠れるんですの剣士!?」

剣士「見ないで勇者ぁぁぁッ!」

640: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 19:35:46.74 ID:kujgr3tlo

店員「どうしました殿方、やや前かがみでは立ちにくくありませんこと?」

店員「お気になさらず? はぁ……?」

店員(二人もきれいな女性をお連れして……一体この殿方は何者でしょう?)

641: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 19:36:15.05 ID:kujgr3tlo

<夜>


剣士「ああ、もう、今日は散々だったわ」

剣士「勇者、あなたもそう思うでしょう?」

剣士「……どうしたのよ、そんなにそわそわして」

剣士「ちょっとどこ触ってるのどこ見てるのどこおっ立ててるの」

剣士「まったく」

剣士「いえ安心したわ。あなたもちゃんと男なのよね」

剣士「いいわよ……来て」

剣士「んっ……」

剣士「あ、そうそう、今あの 着つけてるの。だから――キャッ!」

剣士「……もう、がっつかないの! わたしは逃げはしないわ」

剣士「うん、そう。ずっと一緒よ。ね?」

剣士「……一緒に――」

647: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 19:57:58.85 ID:kujgr3tlo

<哀愁二人組>


元帥「最後に見せ場がやってくる。そんな風に考えていた時期が私にもありました……」

皇帝「最後に見せ場はあったが、何か釈然とない扱いであった……」

648: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 19:58:28.36 ID:kujgr3tlo

元帥「皇帝は今何をなさっているのですか?」

皇帝「今は密かに魔王城で暮らしておる」

元帥「敵地の真ん中で捕虜ですか。心中お察しします」

皇帝「……」

元帥「……?」

皇帝「……メイドとは良いものだ」

元帥「おいこら」

655: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 21:51:11.34 ID:kujgr3tlo

 『この物語において、奇跡あるいはそれと同じ何かは起きなかったことを報告する』

656: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 21:51:47.30 ID:kujgr3tlo

 ――彼女は泣き虫だった俺にいつも言っていた


 『泣いちゃだめよ。あなたが悪いんだから
  手の届かない範囲に手を伸ばそうとしたのが駄目なの』


 ――最後においても彼女は言っていた


 『泣いちゃだめよ。わたしが悪いんだから』


 ――彼女の言葉を忘れた日は、ない

657: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 21:52:13.99 ID:kujgr3tlo

<十年前>


女「やっふー!」ガバ!

男「うわあ!」ヨロ……

女「ふふ、元気?」

男「いきなり飛びつかないでよ……」

女「スキンシップスキンシップ♪」

男「全くもう……」

658: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 21:53:09.63 ID:kujgr3tlo

女「大学の講義、どう? タルくない?」

男「いや別に?」

女「そう? あたしはタルいわー」

男「それは姉さんがあまりに頭がいいからだよ」

女「褒めてもキスくらいしかできないわよ?」

男「ちょっ……そんな軽々しくキスとか……!」

女「ん? 何? 期待した?」

男「べ、別にそういうわけじゃないよ」

女「……後であたしの部屋に来なさい」

男「え、え!?」

女「バーカ、期待するんじゃないわよ。
  あんたも大概頭いいから、見てもらいたいのがあるだけ」

男「な、なんだ」

女「そんなにがっかりしないの。あんたには期待してるんだから」


 ――それが最後に見た彼女の姿だった

659: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 21:54:14.12 ID:kujgr3tlo

「あ……あ……」


 ――彼女はゆっくりと人間をやめていった


「うあ! ああ!」


 ――それは悲鳴にも歓声にも聞こえた。人間をやめることを彼女が望んでいたならば、それも間違っていなかっただろう


「がああああああ!」


 ――肉が裂け、崩れ、また膨らみ、はじけ、散り


「……見ないで」


 ――しわがれた声で最後にそう告げると、彼女はすっかり変わってしまった姿を引きずって、空に消えた

660: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 21:54:52.11 ID:kujgr3tlo

 「まさか、あの彼女が……」


 ――酷く耳障りだった


 「実験に失敗……」


 ――耳障りだった


 「魔術士計画の……」


 ――耳障り、耳障り、耳障り、耳障り……


 「魔族の体組織の組み込み……」


 ――叫んでいた。一人一人殴りとばしていた。取り押さえられるまで暴れ続けた。


 「――大学の汚点……」


 ――それでもどうしてか、涙は止まらなかった

661: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 21:55:29.02 ID:kujgr3tlo

教官「討伐隊を組むことになった」

男「……」

教官「彼女は既に人間をやめている。すぐに排除しなければ帝国が危うい。わかるだろう?」

男(大学の立場が危ういの間違いだろう……!)

教官「君も協力してくれるね?」

男「……お断りします」

教官「君には期待してるんだ」


 『あんたには期待してるんだから』


男「期待……期待ってなんですか。彼女を殺すことを期待されても困ります。
  彼女は、ぼくの姉なんだ」

教官「だった」

男「……?」

教官「過去形だ。今は違う」

男「違わない!」


 ――彼女の討伐隊は、その夜出発した

662: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 21:56:02.31 ID:kujgr3tlo

男「……」


 ――俺は、何もせずに部屋でうずくまっていた


男「……」


 ――場所は分かっている。彼女には会いに行くことができる


男「……」


 ――あそこにいるだろう。昔彼女と一緒に暮らしていた場所。そんな気がした


男「……」


 ――だが動けなかった


男「っ……」


 ――怖かった。彼女を直視するのが。変わってしまった彼女に会うのが


男「っ……っ……」


 ――泣いていた。しばらく泣いて、気付かぬうちに眠っていた

663: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 21:56:31.17 ID:kujgr3tlo

◆◇◆◇◆


少年「うわぁぁん……」

「こら、泣かないの」

少年「だって……だってっ……」

「手の届かないことに文句を言っても始まらないわ」

少年「死……母さんがっ……ヒック」

「泣いちゃだめ」

少年「うわぁぁぁぁぁん!」

「……」

少年「グス……グス……」

「……あたしはずっとそばにいてあげるわよ」

少年「……」

「だから泣きやんで。お願いだから。ね?」

少年「……うん」ヒック


◆◇◆◇◆

664: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 21:56:57.72 ID:kujgr3tlo

 ――部屋を飛び出した


男「……っ」


 ――暗い夜の道を、どこまでも走った


男(まにあえ……まにあえ!)


 ――母の生家。そこに向かって脇目もふらずにどんどん走った


男「っ……っ……」


 ――視界がにじんだ。よく見えなかった


男「姉さん!」


 ――それでも、走った

665: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 21:57:25.99 ID:kujgr3tlo

男子「おい、やっぱりやめようよ……」

子供「お兄ちゃんは怖がりですね」

男「君たち! ……このあたりで、そうだな、大きな音がしたりしなかったかい?」

子供「ええ、あっちからしましたよ」

男「ありがとう!」

666: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 21:58:22.13 ID:kujgr3tlo

 ――終わっていた


男「ッ……」


 ――着いたときには、全てが終結していた


男「……」


 ――そこには討伐隊と、躯しかなかった


男「姉さん!」


 ――まだ焼かれた熱が残っている死骸。火傷するのにもかまわずすがりついた


男「姉さん……」


 ――その時気付いた。彼女は見る影もなく変わってしまったが、ほぼ躯となってしまった彼女の細い吐息は、昔のままだと

667: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 21:59:10.72 ID:kujgr3tlo

『……』


 ――姉の目が開いた。薄く、弱く


男「姉さん……!」


『――泣かないで』


男「……姉、さん」

668: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 22:00:00.39 ID:kujgr3tlo

     ・
     ・
     ・


師匠「ううん……」

魔王「おはようございます」

師匠「……よう」

669: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 22:00:27.10 ID:kujgr3tlo

魔王「姉の夢、ですか?」

師匠「憧れだった」

魔王「……」

師匠「愛していたよ。本当に」

魔王「……」

師匠「気付くのが遅かったんだ。たとえ姿が変わっていようが、彼女は彼女のままだって」

魔王「師匠さん……」

師匠「気付ければ、奇跡かそれと同じ何かは起きていたかな」

魔王「……」

師匠「……いや、不毛か」

670: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/09(木) 22:00:55.28 ID:kujgr3tlo

師匠「さて、腹も膨れたし俺は行くよ」

魔王「師匠さん」

師匠「ん?」

魔王「……いえ、なんでもありません」

師匠「そうか」

魔王「でも、これだけは」

師匠「なんだ」


 『泣かないで』


師匠「……」

魔王「……」

師匠「……分かった。それじゃあな」


 ガチャ……バタン


 ――彼女のことは、忘れない

682: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 05:12:48.41 ID:lsBUaxylo

<魔王とメイド>


魔王「お姉ちゃん」

メイド「ブフォッ!」

683: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 05:13:28.35 ID:lsBUaxylo

メイド「な、なんですのそれは」ボタボタ……

魔王「メイドさん、鼻血はないでしょう鼻血は」

メイド「だ、だって」

魔王「お姉ちゃん」

メイド「~~~ッ!」ブシャ!

684: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 05:13:54.97 ID:lsBUaxylo

魔王「まったくもう……」フキフキ

メイド「ずびばぜん……」

魔王「いや、ぼくもごめんなさい、遊びすぎました」

メイド「吸血鬼が逆に血を噴き出すなんて屈辱ですわ……」

魔王「その考え方は吸血鬼らしいんでしょうかどうなんでしょうか?」

685: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 05:14:22.77 ID:lsBUaxylo

メイド「もしかして勇者さまですか、入れ知恵したのは……」

魔王「良く分かりましたね」

メイド「いえ、あの方常々魔王さまに『お兄ちゃん』って呼ばれたがってる節がありましたから……」

魔王「そ、そうですか」

メイド「それにしても……」

魔王「……?」

メイド「……」フルフルフルフル……

魔王「???」

メイド「あーん、魔王さまかーわーいーいー!」ガバ!

魔王「わわ!」

686: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 05:14:49.89 ID:lsBUaxylo



本文「濃厚な吸血タイムだよ! しばらく待ってね!」



687: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 05:15:16.76 ID:lsBUaxylo

魔王「……っ」ピクピク

メイド「ごちそうさまでした」

魔王「お……お粗末さまでした」

メイド「魔王さまがかわいすぎるのが良くないんです」

魔王「褒め言葉として受け取っておきましょう……」

688: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 05:15:48.05 ID:lsBUaxylo

魔王「でもぼくだって格好いいところはあるですけれど」

メイド「そうでしょうか?」

魔王「ありますよ!」

メイド「ちょっとよくわからないので実演してもらえますか?」

魔王「分かりました。ぼくの本気、受け取ってください」

689: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 05:16:28.51 ID:lsBUaxylo

魔王「あー、こほん……」

メイド「♪」ワクワク

魔王「メイド……」

メイド「!」

魔王「君が欲しい……」

メイド「……」

魔王「……ど、どうですかね?」

メイド「……」

魔王「メイドさん?」

メイド「――ッ!」ブバ!

魔王「ああ!? 出血過多!?
   メイドさん! メイドさーん!」


     ・
     ・
     ・

692: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 06:10:27.79 ID:lsBUaxylo

<魔王と剣士>


魔王「お姉ちゃん」

剣士「……」

魔王「あれ?」

693: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 06:10:55.51 ID:lsBUaxylo

剣士「何それ?」

魔王「え? いや、別になんとなく……」

剣士「そう……」

魔王(さすがに効かないかー)

剣士「――」

魔王「……?」

剣士「……わたしには勇者がいる、わたしには勇者がいる、わたしには勇者がいる……」ブツブツ

魔王「……」

剣士「……浮気は駄目よ剣士、いいわね……」ブツブツ

魔王(思いのほか効いてた)

剣士「……よし」

694: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 06:11:25.04 ID:lsBUaxylo

剣士「ところで、最近あの娘とはどうなの? 進んだ?」

魔王「聞きます?」ニヘラ

剣士「聞かなくても分かった」

魔王「そんなこと言わずに聞いてくださいよー!」

剣士「いいけど……あまりにムカツクこと言ったら帰るわよ?」

魔王「話せるならなんでもいいです!」ニヨニヨ

剣士「今からしてもうムカツキはじめてるわけよ」

695: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 06:11:59.72 ID:lsBUaxylo

魔王「じゃあ、話しますよ。最近一緒に出かけたんですが……」

剣士「……」

     ・
     ・
     ・

魔王「それでメイドさんにお姉ちゃんって……」

剣士「……」

     ・
     ・
     ・

魔王「それからそれから」

剣士「……」

     ・
     ・
     ・

魔王「――というわけです!」

剣士「え? あ、終わったの?」

魔王「さては聞いてませんでしたね!」

剣士「聞いてたわ、一緒に出かけたあたりまでは」

魔王「それ一番最初じゃないですか!」

696: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 06:12:41.62 ID:lsBUaxylo

剣士「でも安心したわ。あの娘と仲悪いわけじゃないのね」

魔王「そんなわけないじゃないですか」

剣士「最近ちょっと心配だったのよ。
   あの娘あまりに勇者にべたべたするもんだから、あなたと上手くいってないんじゃないかって」

魔王「え!?」

剣士「一応友達だから心配なの」

魔王「勇者とべたべた……?」

剣士「あ、聞かなかったことにして」

魔王「勇者と、べたべた……」

剣士(しまったわね)

697: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 06:13:09.35 ID:lsBUaxylo

剣士「あー……うん、でも安心なさい」

魔王「何がですか……」

剣士「あの娘、あれでも勇者のこと諦め始めてる節があるから」

魔王「根拠は?」

剣士「女の勘?」

魔王「剣士さんってそんなの持ってたんですね」

剣士「どーいう意味よ」ツネリ

魔王「あいたたた……」

698: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 06:13:37.55 ID:lsBUaxylo

剣士「ま、あんたも頑張んなさい。
   その方がわたしも助かるから」

魔王「頑張ります」

剣士「じゃあね」

魔王「はーい、さようならお姉ちゃん」

剣士「……」ツー

魔王「剣士さん、鼻血です」

705: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 10:48:47.08 ID:lsBUaxylo

<皇帝陛下と主人公四人組>


メイド「こーてーへーか、朝ですわ」

皇帝(妻に欲しい)


     ・
     ・
     ・


魔王「おはようございます、おじいちゃん♪」

皇帝(息子に欲しい)


     ・
     ・
     ・


剣士「突然だけど皇帝と●●って響きが同じよね」

皇帝(妾に欲しい)


     ・
     ・
     ・


勇者「ご機嫌麗しゅう、皇帝陛下」

皇帝「死せよイケメン」

勇者「えっ」

707: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 10:52:15.32 ID:lsBUaxylo

 『何かを諦めたことはあるかい?』

 『そうかないか。……ぼくは、ある』


 ――休戦協定締結から半年後


勇者「独立運動?」

元帥「そうだ」


 ――再び事件は勃発する


 「独立運動を行っているのは帝国南部諸地域。
  保有軍事力はそれほどでもないものの、有力者が暗躍している模様……」


勇者「一仕事だ、行ってくる。待っててくれ」


 ――すぐに収まると思えたそれは、意外な展開を見せ始める


勇者「なぜ、このような……」


 ――苦悩の中、だがしかし一筋の光


剣士「わたしは――わたしたちはあなたの何? 言ってみなさい」

勇者「それは――」


 ――手の届くところに、答えはあるか


 『君にも味わってもらおう』

 『絶望の味を』




"title:勇者「魔王捕まえたその後に」"




 ――かみんぐすーん(嘘)

718: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 21:46:49.80 ID:lsBUaxylo

<世界は――>


勇者「……」

剣士「こんなとこにいたのね勇者」

719: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 21:47:16.90 ID:lsBUaxylo

勇者「剣士か」

剣士「ええ、邪魔しちゃ悪かったかしら?」

勇者「いや……」

剣士「何か考え事?」

勇者「ああ」

剣士「聞いてもいい?」

勇者「うん、いいよ」

720: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 21:47:44.57 ID:lsBUaxylo

勇者「……俺はね」

剣士「うん」

勇者「親がいないんだ」

剣士「……」

勇者「家族のことも、覚えてない」

剣士「……」

721: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 21:48:11.25 ID:lsBUaxylo

勇者「いや、だからどうってわけじゃないんだけど」

剣士「……」

勇者「でも何かが欠けてる気がして、ここまでずっとあがいてきた」

剣士「……」

勇者「手の届く範囲でしか物事は動かせない。それを知っていてもつらかったな」

剣士「……そう」

722: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 21:48:45.71 ID:lsBUaxylo

勇者「でも」

剣士「?」

勇者「今は、違うかな」

剣士「……」

勇者「……」

剣士「……」

勇者「結婚しよう」

剣士「うん……え?」

723: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 21:49:33.22 ID:lsBUaxylo

勇者「結婚しよう。大事なことだから二回だ」

剣士「え? え?」

勇者「……もしかして嫌だったか?」

剣士「そんなわけないじゃない! でも……」

勇者「俺は君以外目に入らない」

剣士「……!」

勇者「……それじゃ、駄目かな?」

剣士「いいえ、十分よ」

724: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 21:49:59.84 ID:lsBUaxylo

勇者「……」

剣士「……」

勇者「夕日がきれいだな」

剣士「ええ」

勇者「……」

剣士「……」


 ……オーイ!


勇者「ん?」

魔王「何してるんですかー、こんなところで」

メイド「わ、きれいな夕日ですわねー!」

剣士「ここは特等席なの」

魔王「ご一緒してよろしいですか」

勇者「かまわないよ」

725: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 21:50:26.63 ID:lsBUaxylo

勇者「……」

剣士「……」

魔王「……今日が終わりますね」

メイド「……はい、魔王さま」

勇者「でもまた日は昇る」

剣士「そうね」

魔王「明日はどんな日になりますかね?」

メイド「わたくし、勇者さまとなら――いいえ、みんなとならどんな日でもかまいませんわ!」

勇者「俺もだ」

剣士「わたしも」

魔王「もちろん、ぼくもです!」

726: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 21:51:03.88 ID:lsBUaxylo

 ――世界は


コボルト族長「きれいな夕日だ」

ゴブリン族長「うむ」

妖精族長「~♪」


 ――時に酷く残酷で


元帥「陛下、ご覧ください」

皇帝「うむ、美麗である」


 ――だがそれでもどこか美しく


鬼人族長「……」

鬼人従者「……」


 ――手の届くところに答えを置いていく


師匠「ああ、腹減った……」


 ――きっとそれは何かの奇跡だろう


子供『……』

男子『……』

727: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 21:51:36.40 ID:lsBUaxylo

 ――生きようと思えるなら


勇者「……」

剣士「……」

魔王「……」

メイド「……」


 ――必ずまた、日は昇る

728: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/10(金) 21:52:23.43 ID:lsBUaxylo



 title:勇者「魔王捕まえた」



      ~了~