1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 01:43:31.67 ID:xt8eLDEu0
男「ええと……」
男性「こんなことになって、君には申し訳ないと思っている」
男「ちょっと待ってください。そ、それじゃ……」
男性「…………」
男「あいつがいなくなって、あの子は……」
男性「他に頼める人間がいないんだ、君以外には」
男「…………」
男性「やってくれるか?」
男「……分かりました」
男「僕が、彼女の兄になります」
男性「こんなことになって、君には申し訳ないと思っている」
男「ちょっと待ってください。そ、それじゃ……」
男性「…………」
男「あいつがいなくなって、あの子は……」
男性「他に頼める人間がいないんだ、君以外には」
男「…………」
男性「やってくれるか?」
男「……分かりました」
男「僕が、彼女の兄になります」
引用元: ・妹「兄さんって呼ばせて下さい」
5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 01:48:21.95 ID:xt8eLDEu0
──自宅
男「……もしもし、母さん?」
男「うん、うん」
男「そうなんだ。仕事がやっと決まった」
男「はは、やっぱり、母さんの言った通りだったね」
男「うん……あ、でも、それは……」
男「ごめんね、こっちが落ち着くまでは戻れそうもないんだ……」
男「……うん」
男「分かったよ、頑張る」
男「母さんも元気でね? また時間できたら、すぐに向かうから」
男「うん、じゃあ、バイバイ」
男「…………」
男「……もしもし、母さん?」
男「うん、うん」
男「そうなんだ。仕事がやっと決まった」
男「はは、やっぱり、母さんの言った通りだったね」
男「うん……あ、でも、それは……」
男「ごめんね、こっちが落ち着くまでは戻れそうもないんだ……」
男「……うん」
男「分かったよ、頑張る」
男「母さんも元気でね? また時間できたら、すぐに向かうから」
男「うん、じゃあ、バイバイ」
男「…………」
9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 01:51:41.55 ID:xt8eLDEu0
コンコン。
男「失礼しまーす」
ガラガラガラ……。
妹「……え?」
男「よっ! どう、元気にしてたか?」
妹「……す、すみません……ええと」
男「ん? どうかしたか?」
妹「その……わたし」
男「?」
妹「…………」
男「もしかして、俺のこと、覚えてない?」
妹「……すみません」
男「失礼しまーす」
ガラガラガラ……。
妹「……え?」
男「よっ! どう、元気にしてたか?」
妹「……す、すみません……ええと」
男「ん? どうかしたか?」
妹「その……わたし」
男「?」
妹「…………」
男「もしかして、俺のこと、覚えてない?」
妹「……すみません」
12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 01:55:29.78 ID:xt8eLDEu0
男「そうか……そうだなぁ」
妹「…………」
男「こういう場合、どう言っていいのか、分かんないな」
妹「はぁ……」
男「この際、しょうがない。単刀直入に言うね」
男「実は俺、君の兄なんだ」
妹「……え?」
男「覚えてない? 顔とか、声とか」
妹「……え、す、すみません」
男「……そうか、覚えてないかぁ」
妹「…………」
男「あっ、そんなに落ち込まないで」
妹「…………」
男「こういう場合、どう言っていいのか、分かんないな」
妹「はぁ……」
男「この際、しょうがない。単刀直入に言うね」
男「実は俺、君の兄なんだ」
妹「……え?」
男「覚えてない? 顔とか、声とか」
妹「……え、す、すみません」
男「……そうか、覚えてないかぁ」
妹「…………」
男「あっ、そんなに落ち込まないで」
14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 02:01:10.51 ID:xt8eLDEu0
妹「わたし……昔のこと、全然覚えてなくて」
男「…………」
妹「気がついたときには、このベットで横になってて」
男「うん」
妹「何にも分かんないです……どうなったのかも、自分のことも」
男「……うん」
妹「悪気があるわけじゃなくて」
妹「……いや、すみません。これは、ただの言い訳ですよね……」
男「いいんだ。気にしなくていいよ」
妹「……はい」
男「…………」
男「ちょっと疲れさしちゃったみたいだね」
男「……うん、日を改めて、また来るから」
男「…………」
妹「気がついたときには、このベットで横になってて」
男「うん」
妹「何にも分かんないです……どうなったのかも、自分のことも」
男「……うん」
妹「悪気があるわけじゃなくて」
妹「……いや、すみません。これは、ただの言い訳ですよね……」
男「いいんだ。気にしなくていいよ」
妹「……はい」
男「…………」
男「ちょっと疲れさしちゃったみたいだね」
男「……うん、日を改めて、また来るから」
15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 02:05:45.51 ID:xt8eLDEu0
──病室前
男「…………」
男性「どうだった?」
男「全く、気づいた様子ではないです」
男性「それは良かった」
男「でも、いいんですか?」
男性「何が?」
男「こんな偽るような真似して、後で問題になりませんか?」
男性「親の私がいいと言ってるんだ。その責任は、私が負う」
男「でも……」
男性「君が、そんなに難しく考えることはない」
男性「ただ、言われた通りにあの子の兄代わりをして欲しい」
男「…………」
男「…………」
男性「どうだった?」
男「全く、気づいた様子ではないです」
男性「それは良かった」
男「でも、いいんですか?」
男性「何が?」
男「こんな偽るような真似して、後で問題になりませんか?」
男性「親の私がいいと言ってるんだ。その責任は、私が負う」
男「でも……」
男性「君が、そんなに難しく考えることはない」
男性「ただ、言われた通りにあの子の兄代わりをして欲しい」
男「…………」
19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 02:13:06.51 ID:xt8eLDEu0
男性「君も、あの子の手首を見ただろう?」
男「それは……」
男性「大惨事だったんだ」
男性「風呂場が血の海で、それを見た妻は失神してしまった」
男「…………」
男性「これ以上、もう誰も失いたくない。分かってくれるか?」
男「はい……」
男性「良かった。それに、これは君にも利がある話なんだ」
男性「だからくれぐれも、良心の呵責に耐えきれなくなって」
男性「あの子に打ち明けるなんてことは、ないようにしてくれ」
男「……分かりました」
男性「よし。なら、会社に行っていいぞ」
男「はい、社長」
男「それは……」
男性「大惨事だったんだ」
男性「風呂場が血の海で、それを見た妻は失神してしまった」
男「…………」
男性「これ以上、もう誰も失いたくない。分かってくれるか?」
男「はい……」
男性「良かった。それに、これは君にも利がある話なんだ」
男性「だからくれぐれも、良心の呵責に耐えきれなくなって」
男性「あの子に打ち明けるなんてことは、ないようにしてくれ」
男「……分かりました」
男性「よし。なら、会社に行っていいぞ」
男「はい、社長」
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 02:20:24.07 ID:xt8eLDEu0
──会社
ドサッ。
男「……え?」
上司「この仕事、明日までに終わらせておくように」
男「ちょ、ちょっと待ってください」
上司「ん?」
男「こんな量……ただでさえ、入ったばかりですし……」
上司「そんなの言い訳になるか?」
男「……いえ、失言でした」
上司「徹夜してでも終わらせろ。いいな?」
男「はい……」
上司「あ? なんだよ、その不服そうな返事は」
男「…………」
ドサッ。
男「……え?」
上司「この仕事、明日までに終わらせておくように」
男「ちょ、ちょっと待ってください」
上司「ん?」
男「こんな量……ただでさえ、入ったばかりですし……」
上司「そんなの言い訳になるか?」
男「……いえ、失言でした」
上司「徹夜してでも終わらせろ。いいな?」
男「はい……」
上司「あ? なんだよ、その不服そうな返事は」
男「…………」
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 02:25:31.68 ID:xt8eLDEu0
上司「フン、いいよなー?」
上司「こんな不景気でもコネがあるお坊ちゃん様はさー」
男「…………」
上司「中途採用のお前を入れるために、こっちは仲間を一人左遷してるんだ」
上司「加えて、新しく入った奴は即戦力にもならないと来てる」
上司「どれだけ皆の仕事が増えたと思ってるんだ?」
男「申し訳ない……です」
上司「そんなのデスクワークなんだから、さっさと済ませろ」
上司「慣れたらすぐに、外出てもらうからな?」
男「……はい」
上司「ほんと、上の奴は何考えてるか、分かんないわ」
上司「この糞忙しい時に、新卒より使えないボンクラ入れやがって……」
男「…………」
上司「こんな不景気でもコネがあるお坊ちゃん様はさー」
男「…………」
上司「中途採用のお前を入れるために、こっちは仲間を一人左遷してるんだ」
上司「加えて、新しく入った奴は即戦力にもならないと来てる」
上司「どれだけ皆の仕事が増えたと思ってるんだ?」
男「申し訳ない……です」
上司「そんなのデスクワークなんだから、さっさと済ませろ」
上司「慣れたらすぐに、外出てもらうからな?」
男「……はい」
上司「ほんと、上の奴は何考えてるか、分かんないわ」
上司「この糞忙しい時に、新卒より使えないボンクラ入れやがって……」
男「…………」
29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 02:31:18.14 ID:xt8eLDEu0
──自宅
男「……ただいまー」
男「…………」
男「はは、空しいな」
男「返事がないの分かってるのに、慣れでいつも言っちゃう……」
男「……ふぅー」
男「さて、明日の出勤まで、残り二時間」
男「……これじゃあ、眠れないなぁ……」
男「…………」
男「……俺が、兄……か」
男「…………」
男「なぁ、親友」
男「なんで、お前……死んじゃったんだ……?」
男「……ただいまー」
男「…………」
男「はは、空しいな」
男「返事がないの分かってるのに、慣れでいつも言っちゃう……」
男「……ふぅー」
男「さて、明日の出勤まで、残り二時間」
男「……これじゃあ、眠れないなぁ……」
男「…………」
男「……俺が、兄……か」
男「…………」
男「なぁ、親友」
男「なんで、お前……死んじゃったんだ……?」
33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 06:00:55.21 ID:xt8eLDEu0
──病院
コンコン。
ガラガラ……。
妹「……あ」
男「うん、また来た」
妹「お、兄さん……?」
男「もしかして、思い出した?」
妹「いや、違うんです。ただ、前にそう言ってたから……」
男「あーそうか……ごめん」
妹「いえ……」
男「え、ええとさっ」
妹「は、はい」
男「……どう? 体の調子とか」
コンコン。
ガラガラ……。
妹「……あ」
男「うん、また来た」
妹「お、兄さん……?」
男「もしかして、思い出した?」
妹「いや、違うんです。ただ、前にそう言ってたから……」
男「あーそうか……ごめん」
妹「いえ……」
男「え、ええとさっ」
妹「は、はい」
男「……どう? 体の調子とか」
44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 17:04:58.62 ID:xt8eLDEu0
妹「体はもう回復してるみたいですけど……」
妹「お医者さんの話だと、まだ安静が必要だって」
男「そうか」
妹「呼び方は、『兄さん』……でいいですよね?」
男「あー……」
妹「えっと、前は違いました……?」
男「……そうだなぁー、昔は──『お兄ちゃん』だったなぁ」
妹「『お兄ちゃん』?」
男「うん、小さい頃からずっと、そう呼ばれてた」
男「自分で言うのもなんだけど、本当に仲の良い兄妹だったんだぞ?」
妹「そうだったんですか……すみません、思い出せなくて」
妹「お医者さんの話だと、まだ安静が必要だって」
男「そうか」
妹「呼び方は、『兄さん』……でいいですよね?」
男「あー……」
妹「えっと、前は違いました……?」
男「……そうだなぁー、昔は──『お兄ちゃん』だったなぁ」
妹「『お兄ちゃん』?」
男「うん、小さい頃からずっと、そう呼ばれてた」
男「自分で言うのもなんだけど、本当に仲の良い兄妹だったんだぞ?」
妹「そうだったんですか……すみません、思い出せなくて」
45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 17:06:10.16 ID:xt8eLDEu0
男「いいんだ、焦る必要なんてないから」
妹「はい……」
男「うん」
男「……『兄さん』……ね」
妹「…………」
妹「……あの、『お兄ちゃん』?」
男「ん?」
妹「仲が良かった昔の話……聞かせてもらえないですか?」
男「…………」
妹「それを聞いたら、わたし、もしかしたら……」
男「……そうだなー」
男「あれは、まだ俺が小学生で」
男「近所にいる仲のいい友達といつものように遊んでたんだ」
……………。
………。
妹「はい……」
男「うん」
男「……『兄さん』……ね」
妹「…………」
妹「……あの、『お兄ちゃん』?」
男「ん?」
妹「仲が良かった昔の話……聞かせてもらえないですか?」
男「…………」
妹「それを聞いたら、わたし、もしかしたら……」
男「……そうだなー」
男「あれは、まだ俺が小学生で」
男「近所にいる仲のいい友達といつものように遊んでたんだ」
……………。
………。
47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 17:07:04.44 ID:xt8eLDEu0
男『おーい、こっちだ!』
親友『悪い悪い、遅くなって』
男『約束の時間から、もう一時間も経ってるぞ?』
親友『実はさ……その』
?『…………』
男『ん?』
親友『ええと、なんだろ、俺の妹?』
男『妹? お前に妹なんて、いたっけ?』
妹『うぅ……』
親友『すごく人見知りする奴でさ……ほら、挨拶しろって』
妹『そ、その……はじ、初めまして……』
男『う、うん……』
親友『悪い悪い、遅くなって』
男『約束の時間から、もう一時間も経ってるぞ?』
親友『実はさ……その』
?『…………』
男『ん?』
親友『ええと、なんだろ、俺の妹?』
男『妹? お前に妹なんて、いたっけ?』
妹『うぅ……』
親友『すごく人見知りする奴でさ……ほら、挨拶しろって』
妹『そ、その……はじ、初めまして……』
男『う、うん……』
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 17:08:26.01 ID:xt8eLDEu0
親友『遊びに行くっつったら、今日は「私もついてく」って言うんだ』
親友『だからさ……』
妹『……うぅ』
男『……別にいいよ』
親友『本当か? ごめん……ありがとう』
男『気にすんなって! よし!』
妹『……ん?』
男『今日から、お前は、俺の妹になるっ!』
妹『ふへぇ……?』
親友『は……?』
親友『だからさ……』
妹『……うぅ』
男『……別にいいよ』
親友『本当か? ごめん……ありがとう』
男『気にすんなって! よし!』
妹『……ん?』
男『今日から、お前は、俺の妹になるっ!』
妹『ふへぇ……?』
親友『は……?』
49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 17:09:21.34 ID:xt8eLDEu0
男『親友の妹なら、それこそ、俺の妹でもあるわけだろ?』
妹『お、お兄ちゃん……』
親友『いや、えっと……』
男『ん? 親友のことは『お兄ちゃん』って呼んでるのか』
妹『あ、うん……』
男『なら、俺のことは……』
男『──『兄さん』にしようっ!』
妹『お、お兄ちゃん……』
親友『いや、えっと……』
男『ん? 親友のことは『お兄ちゃん』って呼んでるのか』
妹『あ、うん……』
男『なら、俺のことは……』
男『──『兄さん』にしようっ!』
54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 18:02:58.27 ID:xt8eLDEu0
──社長室
男「……失礼します」
ガチャ。
男性「おー、来てくれたかっ」
男「はい……それで、ご用件は……」
男性「もちろん、あの子のことだよ」
男性「最近、余り時間が取れなくてな……病院に行けてないんだ」
男「そうですか……」
男性「どうだ? 彼女の様子は?」
男「日が経つにつれて、元気を取り戻してるように見えます」
男性「うん、うん。それは良かった」
男「はい……」
男「……失礼します」
ガチャ。
男性「おー、来てくれたかっ」
男「はい……それで、ご用件は……」
男性「もちろん、あの子のことだよ」
男性「最近、余り時間が取れなくてな……病院に行けてないんだ」
男「そうですか……」
男性「どうだ? 彼女の様子は?」
男「日が経つにつれて、元気を取り戻してるように見えます」
男性「うん、うん。それは良かった」
男「はい……」
55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 18:10:26.87 ID:xt8eLDEu0
男性「……ん? 浮かない様子のようだな?」
男「え……」
男性「もしかして、会社内のことか?」
男性「確かに、無理やり入れこんだ感があるから」
男性「初めのうちは、君も苦労することだろう。しかし……」
男「……いや、そのことではなくて」
男性「ん?」
男「彼女のことです」
男性「私の娘の話か?」
男「はい」
男性「……どうした? 何が問題だ」
男「これは……いつまで続ければいいんでしょうか?」
男性「…………」
男「え……」
男性「もしかして、会社内のことか?」
男性「確かに、無理やり入れこんだ感があるから」
男性「初めのうちは、君も苦労することだろう。しかし……」
男「……いや、そのことではなくて」
男性「ん?」
男「彼女のことです」
男性「私の娘の話か?」
男「はい」
男性「……どうした? 何が問題だ」
男「これは……いつまで続ければいいんでしょうか?」
男性「…………」
56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 18:11:41.16 ID:xt8eLDEu0
男「今はまだいいです。彼女が思い出さないうちは、まだ」
男性「けれど?」
男「僕には分からないんです。この仕事の、終わりが」
男性「終わり……か」
男「何をもって達成とするんですか?」
男「彼女が事実を一人で、受け止められるようになってから?」
男性「……それは、恐らくない」
男「…………」
男性「事実がばれたら、そこで全て終わりだよ」
男性「私はまた大事なものを失う。それだけは避けたい」
男「……だから、永遠に隠し通せと?」
男性「いいか。そう難しく考えることなんかじゃないんだ」
男「…………」
男性「けれど?」
男「僕には分からないんです。この仕事の、終わりが」
男性「終わり……か」
男「何をもって達成とするんですか?」
男「彼女が事実を一人で、受け止められるようになってから?」
男性「……それは、恐らくない」
男「…………」
男性「事実がばれたら、そこで全て終わりだよ」
男性「私はまた大事なものを失う。それだけは避けたい」
男「……だから、永遠に隠し通せと?」
男性「いいか。そう難しく考えることなんかじゃないんだ」
男「…………」
57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 18:12:47.15 ID:xt8eLDEu0
男性「君は死んだ私の息子の代わりをする」
男性「自責の念にかられている娘の兄となる」
男「……はい」
男性「幸いにも、生前の息子と私の関係は良好なものではなかった」
男性「会社の人間で、成人した彼の顔を知っているものはいない」
男性「それに……今、この会社には不穏な空気がたちこもっているからな」
男「……というと?」
男性「時期が来たら、また知らせる」
男性「どう転んでも、君には悪い話ではない。だから、心配するな」
男「……はい」
男性「あと、そうだな」
男性「そろそろ、機会を設けるから、私の妻にも会って欲しいな」
男「……分かりました」
男性「よし、話は以上だ。職務に戻って欲しい」
男性「自責の念にかられている娘の兄となる」
男「……はい」
男性「幸いにも、生前の息子と私の関係は良好なものではなかった」
男性「会社の人間で、成人した彼の顔を知っているものはいない」
男性「それに……今、この会社には不穏な空気がたちこもっているからな」
男「……というと?」
男性「時期が来たら、また知らせる」
男性「どう転んでも、君には悪い話ではない。だから、心配するな」
男「……はい」
男性「あと、そうだな」
男性「そろそろ、機会を設けるから、私の妻にも会って欲しいな」
男「……分かりました」
男性「よし、話は以上だ。職務に戻って欲しい」
59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 18:35:33.93 ID:xt8eLDEu0
──病院
妹「……お兄ちゃん?」
男「あ、うん?」
妹「すごい思い詰める顔してましたよ?」
男「そうだったか……いや、最近、少し仕事で疲れててね」
妹「大丈夫ですか?」
男「はは、病人のお前に心配されるなんてな」
妹「ふふ、そうだ。お話でもしませんか?」
男「話?」
妹「そうそう、両親のこと聞かせてください」
男「ええと……」
妹「ん?」
男「それは、お前の父親と母親の話か?」
妹「もちろん、そうですけど……」
妹「……お兄ちゃん?」
男「あ、うん?」
妹「すごい思い詰める顔してましたよ?」
男「そうだったか……いや、最近、少し仕事で疲れててね」
妹「大丈夫ですか?」
男「はは、病人のお前に心配されるなんてな」
妹「ふふ、そうだ。お話でもしませんか?」
男「話?」
妹「そうそう、両親のこと聞かせてください」
男「ええと……」
妹「ん?」
男「それは、お前の父親と母親の話か?」
妹「もちろん、そうですけど……」
60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 18:36:17.11 ID:xt8eLDEu0
男「あっ、うんとな……」
男「父さんは……その、ちょっと強面の人だったろ?」
妹「あ……はい」
男「初めて見た時、どう思った?」
妹「その……正直な感想言っていいですか?」
男「うん。親父には内緒にしとくよ」
妹「……実は、結構、怖かったんです……」
男「はは」
妹「だから、その父に「明日、お前の兄が見舞いに来るぞ」って言われた時」
妹「どんな怖い男の人がくるのかと、心配でした」
男「ほほう、それで」
妹「でも、実際の兄はとっても優しそうな方で」
男「父さんは……その、ちょっと強面の人だったろ?」
妹「あ……はい」
男「初めて見た時、どう思った?」
妹「その……正直な感想言っていいですか?」
男「うん。親父には内緒にしとくよ」
妹「……実は、結構、怖かったんです……」
男「はは」
妹「だから、その父に「明日、お前の兄が見舞いに来るぞ」って言われた時」
妹「どんな怖い男の人がくるのかと、心配でした」
男「ほほう、それで」
妹「でも、実際の兄はとっても優しそうな方で」
61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 18:36:55.22 ID:xt8eLDEu0
妹「だから初めて会った時、兄じゃない人だと思ってました」
男「……うん」
妹「……その……ええと」
男「ん?」
妹「もしかしたら、わたしのこ、恋人だったり……したらなーみたいな……」
男「『恋人』……か」
妹「いやっ、そのもちろん……違ったわけですけど……」
男「昔のお前には恋人はいたのかなぁ……」
妹「その辺、お兄ちゃんも知らないですか?」
男「プライベートについては、あまり話さなかったしなぁ」
妹「……私って、今」
男「うん、大学生」
妹「だったら、恋人の一人や二人くらい、いてもおかしくないですよね……」
男「……うん」
妹「……その……ええと」
男「ん?」
妹「もしかしたら、わたしのこ、恋人だったり……したらなーみたいな……」
男「『恋人』……か」
妹「いやっ、そのもちろん……違ったわけですけど……」
男「昔のお前には恋人はいたのかなぁ……」
妹「その辺、お兄ちゃんも知らないですか?」
男「プライベートについては、あまり話さなかったしなぁ」
妹「……私って、今」
男「うん、大学生」
妹「だったら、恋人の一人や二人くらい、いてもおかしくないですよね……」
62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 18:37:56.93 ID:xt8eLDEu0
男「二人いたら困るけど、まあ、そういう年頃だよな」
妹「もしかして……わたしって、ブスだったりします……?」
男「……は?」
妹「その……恋人みたいな人が来ることもないですし」
妹「今は、自分の顔を見ても、なんだか自分のじゃない気がして」
男「…………」
妹「お兄ちゃんから見て、わたしってどうですか?」
男「……ええと」
妹「もしかして……わたしって、ブスだったりします……?」
男「……は?」
妹「その……恋人みたいな人が来ることもないですし」
妹「今は、自分の顔を見ても、なんだか自分のじゃない気がして」
男「…………」
妹「お兄ちゃんから見て、わたしってどうですか?」
男「……ええと」
63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 18:38:44.36 ID:xt8eLDEu0
妹「正直に言ってください。気を使ったりは、絶対しないで」
男「…………」
男「……綺麗だよ。普通に」
妹「ほんとに?」
男「ああ、もしも、俺が兄じゃなかったら……」
男「お前を好きになってたかもしれないな」
……………。
………。
男「…………」
男「……綺麗だよ。普通に」
妹「ほんとに?」
男「ああ、もしも、俺が兄じゃなかったら……」
男「お前を好きになってたかもしれないな」
……………。
………。
69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 18:58:35.82 ID:xt8eLDEu0
親友『おらー、当たれっ!』
妹『きゃっ!』
ビューン……。
親友『あっ、やちった』
男『おいおい、どこ投げてんだよ。草むらのほうに行っちゃったぞ?』
親友『くそぉ……なんで、お前、当たんないんだよ』
妹『お兄ちゃんこそ、本気で妹に当てにいくなんて、たち悪いよ……』
男『いいから、取ってこいって。多分、川までには行ってないと思うから』
親友『うー、めんどくせぇなぁ』
男『はやくっ』
親友『分かったよ……でも、今度こそ、お前に当ててやるからな!』
男『はいはい』
たたたたっ……。
妹『きゃっ!』
ビューン……。
親友『あっ、やちった』
男『おいおい、どこ投げてんだよ。草むらのほうに行っちゃったぞ?』
親友『くそぉ……なんで、お前、当たんないんだよ』
妹『お兄ちゃんこそ、本気で妹に当てにいくなんて、たち悪いよ……』
男『いいから、取ってこいって。多分、川までには行ってないと思うから』
親友『うー、めんどくせぇなぁ』
男『はやくっ』
親友『分かったよ……でも、今度こそ、お前に当ててやるからな!』
男『はいはい』
たたたたっ……。
72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 19:00:29.43 ID:xt8eLDEu0
男『やっと行ったな』
妹『だね』
男『しかし、こんな遊びに参加しなくてもいいんだぞ?』
妹『うーん……』
男『玉当たると、痛いぞ?』
妹『でも……外で見るだけじゃ、つまんないし』
男『いいんだよ、女の子はそれで』
男『学年も全然違うんだし、無理するなよ』
妹『……うぅ』
男『怪我したらどうすんだ。俺の母さんがいつも言ってるんだ』
妹『なんて?』
男『『女の子への傷は一生もんだから』ってさ』
妹『だね』
男『しかし、こんな遊びに参加しなくてもいいんだぞ?』
妹『うーん……』
男『玉当たると、痛いぞ?』
妹『でも……外で見るだけじゃ、つまんないし』
男『いいんだよ、女の子はそれで』
男『学年も全然違うんだし、無理するなよ』
妹『……うぅ』
男『怪我したらどうすんだ。俺の母さんがいつも言ってるんだ』
妹『なんて?』
男『『女の子への傷は一生もんだから』ってさ』
74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 19:01:20.77 ID:xt8eLDEu0
妹『ええと……意味わかんないかも』
男『実は俺も分かってない』
妹『なにそれ、ふふっ』
男『ははっ』
妹『あっ、兄さん』
男『ん?』
妹『ここほら、血が出てる』
男『あーほんとだ……でも、これぐらいの傷……』
妹『駄目だよっ! ばい菌が入っちゃったらどうするのっ!』
男『えっでも、いつもはこんなの……』
妹『ほら、こっち来て』
男『お、おう……』
男『実は俺も分かってない』
妹『なにそれ、ふふっ』
男『ははっ』
妹『あっ、兄さん』
男『ん?』
妹『ここほら、血が出てる』
男『あーほんとだ……でも、これぐらいの傷……』
妹『駄目だよっ! ばい菌が入っちゃったらどうするのっ!』
男『えっでも、いつもはこんなの……』
妹『ほら、こっち来て』
男『お、おう……』
75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 19:02:39.13 ID:xt8eLDEu0
ガサガサ……。
妹『確かここに、キティーちゃんのバンドエイドがあったはず』
男『お、おい……?』
妹『うん、あった!』
男『やっ、やめろって、そんな女っぽいやつ』
妹『いいから、じっとしてて』
男『…………』
妹『消毒して……貼って……これで、よしっと』
男『……あ、ありがと』
妹『確かここに、キティーちゃんのバンドエイドがあったはず』
男『お、おい……?』
妹『うん、あった!』
男『やっ、やめろって、そんな女っぽいやつ』
妹『いいから、じっとしてて』
男『…………』
妹『消毒して……貼って……これで、よしっと』
男『……あ、ありがと』
76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 19:07:39.35 ID:xt8eLDEu0
妹『ううん、いつも兄さんには優しくしてもらってるし』
妹『それに……やっぱり、使う時に使わないとね』
男『?』
親友『おーいっ! ボール見つかったぞっ!』
妹『あっ、お兄ちゃん戻ってきた』
男『…………』
妹『ほら、兄さんっ! 行こっ!』
男『う、うん』
妹『それに……やっぱり、使う時に使わないとね』
男『?』
親友『おーいっ! ボール見つかったぞっ!』
妹『あっ、お兄ちゃん戻ってきた』
男『…………』
妹『ほら、兄さんっ! 行こっ!』
男『う、うん』
77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 19:23:18.90 ID:xt8eLDEu0
──会社
男「ふぅ……終わった」
上司「ん?」
がたっ。
上司「どうした? 俺はもう帰るぞ?」
男「頼まれていた仕事、とりあえず、全て終わりました」
上司「ほう……」
男「慣れるまで時間がかかってしまい、申し訳ないです」
男「いままでパソコンを使った作業をしてこなかったもので」
男「本当にご迷惑をおかけしました」
上司「……ふむ」
男「それで、追加のお仕事があれば早速……」
上司「いや」
男「ふぅ……終わった」
上司「ん?」
がたっ。
上司「どうした? 俺はもう帰るぞ?」
男「頼まれていた仕事、とりあえず、全て終わりました」
上司「ほう……」
男「慣れるまで時間がかかってしまい、申し訳ないです」
男「いままでパソコンを使った作業をしてこなかったもので」
男「本当にご迷惑をおかけしました」
上司「……ふむ」
男「それで、追加のお仕事があれば早速……」
上司「いや」
78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 19:24:17.35 ID:xt8eLDEu0
男「え?」
上司「今日はもう帰りなさい。今まで毎日、残業だっただろ?」
男「ですが……」
上司「いいんだ。警備の人からも話は聞いてる」
男「ええと」
上司「毎日、夜遅くまで、時には明け方まで……本当に頑張ったな」
男「…………」
上司「初めは全てにおいて鈍臭いし、やることは不慣れだし」
上司「本当に困ったやつを部下にさせられたものだと憤慨した」
男「……申し訳ないです」
上司「だが、人一倍の根性は持ってるみたいだ」
男「え?」
上司「今日はもう帰りなさい。今まで毎日、残業だっただろ?」
男「ですが……」
上司「いいんだ。警備の人からも話は聞いてる」
男「ええと」
上司「毎日、夜遅くまで、時には明け方まで……本当に頑張ったな」
男「…………」
上司「初めは全てにおいて鈍臭いし、やることは不慣れだし」
上司「本当に困ったやつを部下にさせられたものだと憤慨した」
男「……申し訳ないです」
上司「だが、人一倍の根性は持ってるみたいだ」
男「え?」
79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 19:24:58.13 ID:xt8eLDEu0
上司「そういう奴は大成する」
上司「文句も言わずに、仕事を黙々とこなす奴を俺はもう貶さない」
男「……あの」
上司「四ヶ月、本当に大変だったな」
上司「明日からはもう新入りみたいな仕事はしなくていい」
男「…………」
上司「俺が進めている新規の顧客との会談に付いてこい」
上司「少なからず、得るものはあるはずだと思うぞ?」
男「……はいっ」
男「よろしくお願いしますっ!」
上司「文句も言わずに、仕事を黙々とこなす奴を俺はもう貶さない」
男「……あの」
上司「四ヶ月、本当に大変だったな」
上司「明日からはもう新入りみたいな仕事はしなくていい」
男「…………」
上司「俺が進めている新規の顧客との会談に付いてこい」
上司「少なからず、得るものはあるはずだと思うぞ?」
男「……はいっ」
男「よろしくお願いしますっ!」
82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 19:35:46.59 ID:xt8eLDEu0
──自宅
男「……ふぅ……」
男「今日も一日が終わった……っと」
男「よし、母さんに電話しようか」
ピッ……ピピッ。
男「……もしもし」
男「あっ、うん。夜遅くごめんね」
男「もう時間過ぎてる? あーそうか、でも電話、大丈夫?」
男「うん……あ、うん」
男「いや、こっちの仕事がうまくいきそうなんだ」
男「ん……ははっ、やっぱり、声が違う?」
男「……ふぅ……」
男「今日も一日が終わった……っと」
男「よし、母さんに電話しようか」
ピッ……ピピッ。
男「……もしもし」
男「あっ、うん。夜遅くごめんね」
男「もう時間過ぎてる? あーそうか、でも電話、大丈夫?」
男「うん……あ、うん」
男「いや、こっちの仕事がうまくいきそうなんだ」
男「ん……ははっ、やっぱり、声が違う?」
83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 19:36:50.56 ID:xt8eLDEu0
男「うん……頑張るよ」
男「みんなに認められるように……失敗はしちゃいけないよね」
男「うん、それは分かってる」
男「……そうだね」
男「俺も戻りたいんだけど……まだ、ちょっと難しそう」
男「うん……」
男「土日はいつも用事が入っててさ……」
男「もう少しすれば、こっちも落ち着けると思う」
男「うん……だから、その時にね」
男「ん、じゃあ、また」
男「みんなに認められるように……失敗はしちゃいけないよね」
男「うん、それは分かってる」
男「……そうだね」
男「俺も戻りたいんだけど……まだ、ちょっと難しそう」
男「うん……」
男「土日はいつも用事が入っててさ……」
男「もう少しすれば、こっちも落ち着けると思う」
男「うん……だから、その時にね」
男「ん、じゃあ、また」
102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 23:27:36.17 ID:xt8eLDEu0
──病院
妹「ちょっと質問してもいいですか?」
男「ん? なに?」
妹「お兄ちゃんは……お父さんの会社で働いてるんですよね?」
男「あ、うん」
妹「いつぐらいから?」
男「そうだな……ぶっちゃけの話でもいいか?」
妹「はい」
男「実は、今年に入ってからなんだ」
妹「ええと……じゃあ、その前は」
男「んと……まあ、フリーターみたいなことをしてた」
妹「じゃあ、どうしてまた急に?」
男「やっぱり、今のままじゃ駄目かなって」
妹「ちょっと質問してもいいですか?」
男「ん? なに?」
妹「お兄ちゃんは……お父さんの会社で働いてるんですよね?」
男「あ、うん」
妹「いつぐらいから?」
男「そうだな……ぶっちゃけの話でもいいか?」
妹「はい」
男「実は、今年に入ってからなんだ」
妹「ええと……じゃあ、その前は」
男「んと……まあ、フリーターみたいなことをしてた」
妹「じゃあ、どうしてまた急に?」
男「やっぱり、今のままじゃ駄目かなって」
103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 23:28:23.46 ID:xt8eLDEu0
男「長い目で、将来のことも考えて……でも、そうだな」
男「自分の限界を知ったというか、ある意味、逃げてきたのかもしれない」
男「うん……そんなところだ」
妹「その実は……」
男「ん?」
妹「昨日、初めてお母さんに会ったんです」
男「あ、うん」
妹「その、今までは記憶を失ってるわたしと会う覚悟がなくて」
妹「でも、勇気を振り絞って会いにきたって、そう正直に話してくれました」
男「……そうか」
妹「嬉しかったです」
妹「優しそうな方で、どことなく顔立ちも自分と似てて」
男「自分の限界を知ったというか、ある意味、逃げてきたのかもしれない」
男「うん……そんなところだ」
妹「その実は……」
男「ん?」
妹「昨日、初めてお母さんに会ったんです」
男「あ、うん」
妹「その、今までは記憶を失ってるわたしと会う覚悟がなくて」
妹「でも、勇気を振り絞って会いにきたって、そう正直に話してくれました」
男「……そうか」
妹「嬉しかったです」
妹「優しそうな方で、どことなく顔立ちも自分と似てて」
104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 23:28:58.46 ID:xt8eLDEu0
妹「本当にわたしはこの方の娘なんだなって……そう実感できました」
男「それは良かった」
妹「それで、その時にこれ……」
男「なんだろ? ええと……写真?」
妹「はい」
男「映ってるのはお前だな。大学の入学式か?」
妹「そうです。お兄ちゃんも覚えてます?」
男「……ああ」
妹「お母さんは、他にもいっぱい思い出の写真を持ってきてくれたんですけど」
妹「これだけは唯一、ちょっと違って」
男「どういうことだ?」
男「それは良かった」
妹「それで、その時にこれ……」
男「なんだろ? ええと……写真?」
妹「はい」
男「映ってるのはお前だな。大学の入学式か?」
妹「そうです。お兄ちゃんも覚えてます?」
男「……ああ」
妹「お母さんは、他にもいっぱい思い出の写真を持ってきてくれたんですけど」
妹「これだけは唯一、ちょっと違って」
男「どういうことだ?」
105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 23:29:28.16 ID:xt8eLDEu0
妹「……お兄ちゃんが」
男「俺が?」
妹「撮ってくれたんですよね」
男「…………」
妹「お母さんが言ってました」
妹「『お兄ちゃんは写真家を目指してた』って」
男「……それは」
妹「そう言った後、お母さんは……」
妹「少し、まずいこと言ってしまったような顔をしてました」
男「……そうか」
妹「目指してたんですよね、写真家」
男「うん」
妹「でも、どうしてやめちゃったんですか……?」
男「…………」
男「俺が?」
妹「撮ってくれたんですよね」
男「…………」
妹「お母さんが言ってました」
妹「『お兄ちゃんは写真家を目指してた』って」
男「……それは」
妹「そう言った後、お母さんは……」
妹「少し、まずいこと言ってしまったような顔をしてました」
男「……そうか」
妹「目指してたんですよね、写真家」
男「うん」
妹「でも、どうしてやめちゃったんですか……?」
男「…………」
106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 23:30:44.85 ID:xt8eLDEu0
妹「すみません、人の傷口をえぐるみたいな真似をして」
妹「でも、その話を聞いた時に何か胸の奥で、ひっかかるものがあって」
妹「きっとそれは、自分の記憶を取り戻すきっかけになるんじゃないかなって」
妹「本当に、ごめんなさい……でも、無理なら」
男「……そうだな」
妹「お兄ちゃん?」
男「俺は小さい頃から、写真の魅力に取り付かれてた」
男「人の一瞬、物事の一瞬」
男「その場面で一番最高な瞬間を、写真という形で後世に残す」
男「そんな仕事をする写真家に、憧れていたんだ」
……………。
………。
妹「でも、その話を聞いた時に何か胸の奥で、ひっかかるものがあって」
妹「きっとそれは、自分の記憶を取り戻すきっかけになるんじゃないかなって」
妹「本当に、ごめんなさい……でも、無理なら」
男「……そうだな」
妹「お兄ちゃん?」
男「俺は小さい頃から、写真の魅力に取り付かれてた」
男「人の一瞬、物事の一瞬」
男「その場面で一番最高な瞬間を、写真という形で後世に残す」
男「そんな仕事をする写真家に、憧れていたんだ」
……………。
………。
112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 23:44:41.46 ID:xt8eLDEu0
親友『…………』
男『あーつまんねーな……』
親友『そういえば、もうすぐ小学生卒業だな』
男『うん、あっという間だった』
親友『中学生かー』
男『正直、心配だよな』
親友『何が?』
男『ほら、お前の妹』
親友『ああ……』
男『俺たちがいなくなっても、ちゃんとやってけるかな』
親友『大丈夫だろ? 見てくれはいい方だしさ』
男『あーつまんねーな……』
親友『そういえば、もうすぐ小学生卒業だな』
男『うん、あっという間だった』
親友『中学生かー』
男『正直、心配だよな』
親友『何が?』
男『ほら、お前の妹』
親友『ああ……』
男『俺たちがいなくなっても、ちゃんとやってけるかな』
親友『大丈夫だろ? 見てくれはいい方だしさ』
113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 23:45:28.59 ID:xt8eLDEu0
男『どうすんだよ、逆に好きで意地悪するみたいな男子がいたら』
親友『はは、お前、そんなこと心配してんのか』
男『……ちょっとだけね』
親友『大丈夫。もし、そんなことがあったら』
男『どうする?』
親友『妹が必ず、俺たちに相談してくるはずだから』
男『つまり、その時に──』
男・親友『『そいつをボッコボッコにしてやろうっ!』』
男『ぷっ』
親友『くっ』
男・親友『『はははっ!』』
親友『はは、お前、そんなこと心配してんのか』
男『……ちょっとだけね』
親友『大丈夫。もし、そんなことがあったら』
男『どうする?』
親友『妹が必ず、俺たちに相談してくるはずだから』
男『つまり、その時に──』
男・親友『『そいつをボッコボッコにしてやろうっ!』』
男『ぷっ』
親友『くっ』
男・親友『『はははっ!』』
114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 23:46:00.28 ID:xt8eLDEu0
男『やっぱり、お前とは気が合うよっ』
親友『俺も今、同じこと考えてた』
男『このまま、二人で仲良くやっていければいいよな』
親友『それこそ、妹もいれて三人でな』
男『ああ……』
親友『なんだ? どうかしたか?』
男『いや、もしあいつが男の子だったらなって思ってさ』
親友『ああ、そしたらもっと楽しかっただろうな』
男『うん……余計なこと考えなくても済むし』
親友『……余計なこと?』
男『……察してくれ』
親友『まあ、もう少ししたら俺たちからは離れていくかもな』
親友『俺も今、同じこと考えてた』
男『このまま、二人で仲良くやっていければいいよな』
親友『それこそ、妹もいれて三人でな』
男『ああ……』
親友『なんだ? どうかしたか?』
男『いや、もしあいつが男の子だったらなって思ってさ』
親友『ああ、そしたらもっと楽しかっただろうな』
男『うん……余計なこと考えなくても済むし』
親友『……余計なこと?』
男『……察してくれ』
親友『まあ、もう少ししたら俺たちからは離れていくかもな』
115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 23:46:34.85 ID:xt8eLDEu0
男『四年違いか』
親友『そういうこと』
男『……で、さっきからお前、何見てんだ』
親友『これのこと?』
男『うん』
親友『いや、世界を旅してる写真家の本』
男『そんな本見て、楽しいか?』
親友『めっちゃ楽しい』
男『ふーん……それはよく分かんないわ、俺』
親友『すごいんだけどなぁ……』
親友『そういうこと』
男『……で、さっきからお前、何見てんだ』
親友『これのこと?』
男『うん』
親友『いや、世界を旅してる写真家の本』
男『そんな本見て、楽しいか?』
親友『めっちゃ楽しい』
男『ふーん……それはよく分かんないわ、俺』
親友『すごいんだけどなぁ……』
116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 23:56:00.79 ID:xt8eLDEu0
──親友宅
女性「今日は、よく来てくださいました」
男「いえ、こちらこそ……」
男「本来なら、もっと早く、お伺いすべきでした」
女性「いいですよ。その辺の事情は聞いていますから」
男「申し訳ありません……」
女性「どうぞ、線香をあげていって下さい」
女性「きっと、あの子も」
女性「長いこと、あなたに会いたがっていたはずですから」
男「…………」
女性「今日は、よく来てくださいました」
男「いえ、こちらこそ……」
男「本来なら、もっと早く、お伺いすべきでした」
女性「いいですよ。その辺の事情は聞いていますから」
男「申し訳ありません……」
女性「どうぞ、線香をあげていって下さい」
女性「きっと、あの子も」
女性「長いこと、あなたに会いたがっていたはずですから」
男「…………」
118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/07(火) 23:56:25.82 ID:xt8eLDEu0
女性「久しぶりに親友同士が対面するんですね」
女性「きっと話したいこと、考えたいことがあると思いますので」
女性「私はリビングの方で待っております」
女性「全てが終わったら……そちらの方で、お話しましょうね」
男「ご配慮ありがとうございます」
女性「気を使わず、ゆっくりとなさっていって下さい」
女性「こうやって遺灰をまだお墓に入れないのも、あなたのためでしたので」
男「…………」
女性「では、また」
ガチャ……。
女性「きっと話したいこと、考えたいことがあると思いますので」
女性「私はリビングの方で待っております」
女性「全てが終わったら……そちらの方で、お話しましょうね」
男「ご配慮ありがとうございます」
女性「気を使わず、ゆっくりとなさっていって下さい」
女性「こうやって遺灰をまだお墓に入れないのも、あなたのためでしたので」
男「…………」
女性「では、また」
ガチャ……。
120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 00:17:14.23 ID:LURKkJPd0
男「…………」
男「…………」
男「……っ」
男「……は、はは……」
男「久しぶりに会ったと思ったら……」
男「こんな小さな壷に入っちゃうって……」
男「……何してんだよ……お前」
男「どうしてこんなことに……なっちゃったんだよ……」
男「ああ……」
男「…………」
男「……昔のこと、お前は覚えてるか?」
男「確か、あれは俺たちが中学生だった頃」
男「…………」
男「……っ」
男「……は、はは……」
男「久しぶりに会ったと思ったら……」
男「こんな小さな壷に入っちゃうって……」
男「……何してんだよ……お前」
男「どうしてこんなことに……なっちゃったんだよ……」
男「ああ……」
男「…………」
男「……昔のこと、お前は覚えてるか?」
男「確か、あれは俺たちが中学生だった頃」
121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 00:17:46.31 ID:LURKkJPd0
男「漫画の巻頭グラビアにあるアイドルに俺が目を離せなくて」
男「そんで、お前にも共感して欲しくて見せたらさ」
男「いちいち、アイドルのポーズについての批判しまっくって」
男「そんなの誰も聞いてないって言うんだっ」
男「そんで、俺が言った」
男「『だったら、お前の言う最高のポーズはどれだよ』って」
男「そしたらお前、嬉しそうに鞄からどこぞの写真集持ち出してきてさ」
男「『このシーンはここが凄い』『このアングルはこの場面だから生きる』とかさ」
男「でも俺からすれば、その写真は全部、白黒だったから」
男「はっきり言って、微妙だったんだよ」
男「そしたら、そんな俺を見かねて、お前はこう言ったよな」
男「そんで、お前にも共感して欲しくて見せたらさ」
男「いちいち、アイドルのポーズについての批判しまっくって」
男「そんなの誰も聞いてないって言うんだっ」
男「そんで、俺が言った」
男「『だったら、お前の言う最高のポーズはどれだよ』って」
男「そしたらお前、嬉しそうに鞄からどこぞの写真集持ち出してきてさ」
男「『このシーンはここが凄い』『このアングルはこの場面だから生きる』とかさ」
男「でも俺からすれば、その写真は全部、白黒だったから」
男「はっきり言って、微妙だったんだよ」
男「そしたら、そんな俺を見かねて、お前はこう言ったよな」
122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 00:18:47.02 ID:LURKkJPd0
男「『なら、この本の中でお前が一番好きな写真はなんだ?』ってさ」
男「…………」
男「分かったよ、もちろん、分かってる」
男「本当、お前ってやつはさ……死んでもなお、厄介な奴だ……」
男「でも……今は無理なんだよ」
男「それよりも、大切なことがある」
男「お前なら、全て成し遂げろって言うと思うけど」
男「不器用な俺は、どうやったって器用にはできないんだ」
男「結局、何かを為すためには、何かを犠牲にしなきゃいけない」
男「…………」
男「分かったよ、もちろん、分かってる」
男「本当、お前ってやつはさ……死んでもなお、厄介な奴だ……」
男「でも……今は無理なんだよ」
男「それよりも、大切なことがある」
男「お前なら、全て成し遂げろって言うと思うけど」
男「不器用な俺は、どうやったって器用にはできないんだ」
男「結局、何かを為すためには、何かを犠牲にしなきゃいけない」
123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 00:19:41.59 ID:LURKkJPd0
男「だから、分かってくれ」
男「お前の気持ちは分かる……でも、それでも」
男「本当に……ごめんな……」
男「……要するに、俺は──」
男「敗者になっちまったんだよ……」
男「お前の気持ちは分かる……でも、それでも」
男「本当に……ごめんな……」
男「……要するに、俺は──」
男「敗者になっちまったんだよ……」
126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 00:46:15.71 ID:LURKkJPd0
──病院
男「……結局、あいつの形見を渡されちゃったな」
男「カメラ……」
男「……まだこれ、使ってたのか……」
男「…………」
男「よし、切り替えないと」
男「ふー……」
コンコン。
ガラガラ……。
妹「あっ、お兄ちゃん」
男「よっ!」
妹「今日も、来てくれたんですね」
男「……結局、あいつの形見を渡されちゃったな」
男「カメラ……」
男「……まだこれ、使ってたのか……」
男「…………」
男「よし、切り替えないと」
男「ふー……」
コンコン。
ガラガラ……。
妹「あっ、お兄ちゃん」
男「よっ!」
妹「今日も、来てくれたんですね」
127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 00:46:52.02 ID:LURKkJPd0
男「そりゃ、愛しの妹のためだからな」
妹「ふふ。今日は一段と機嫌がいいみたい」
妹「何か、良いことでもありました?」
男「そうだなぁ……」
男「……久しぶりに、大切な人に会えたかな」
妹「……大切な人、ですか」
男「深い意味はないよ。ただ、懐かしかったんだ」
妹「懐かしい?」
男「今まで、無駄に逃げ回ってたんだけど」
男「会ってみると意外と気楽に話ができた」
妹「……いいですね、そういうの」
男「もっと早く、それこそな……」
妹「ふふ。今日は一段と機嫌がいいみたい」
妹「何か、良いことでもありました?」
男「そうだなぁ……」
男「……久しぶりに、大切な人に会えたかな」
妹「……大切な人、ですか」
男「深い意味はないよ。ただ、懐かしかったんだ」
妹「懐かしい?」
男「今まで、無駄に逃げ回ってたんだけど」
男「会ってみると意外と気楽に話ができた」
妹「……いいですね、そういうの」
男「もっと早く、それこそな……」
128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 00:47:55.61 ID:LURKkJPd0
男「色々、話さなきゃいけないことがあったはずなんだ」
男「はは。俺は、やっぱり、どうしても駄目人間だよ」
妹「でも、お兄ちゃん」
男「ん?」
妹「これからがあるじゃないですか」
男「…………」
妹「やっと、その人と仲直りできたのなら」
妹「これからの関係を大切に。幾ら、過去を悔やんでも仕方ないんですから」
男「……ああ」
妹「今度、また会ったら、色々話し合ってくださいね」
妹「そうすれば、今までのわだかまりもきっと……」
妹「いつかは時が解決してくれるはずですから」
男「…………」
男「はは。俺は、やっぱり、どうしても駄目人間だよ」
妹「でも、お兄ちゃん」
男「ん?」
妹「これからがあるじゃないですか」
男「…………」
妹「やっと、その人と仲直りできたのなら」
妹「これからの関係を大切に。幾ら、過去を悔やんでも仕方ないんですから」
男「……ああ」
妹「今度、また会ったら、色々話し合ってくださいね」
妹「そうすれば、今までのわだかまりもきっと……」
妹「いつかは時が解決してくれるはずですから」
男「…………」
129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 00:48:39.22 ID:LURKkJPd0
男「……そう、だな」
男「また会ってみるよ」
妹「はいっ」
男「それこそ、かなり時間がかかっちゃうかもしれないけど」
男「いつか、きっと。また、会える日が来るはずだからさ」
妹「……?」
男「気付かせてくれて、ありがとう」
妹「……あの」
男「ん?」
妹「わたし、もしかして、見当違いなこと言っちゃいました?」
男「そんなことないって」
男「また会ってみるよ」
妹「はいっ」
男「それこそ、かなり時間がかかっちゃうかもしれないけど」
男「いつか、きっと。また、会える日が来るはずだからさ」
妹「……?」
男「気付かせてくれて、ありがとう」
妹「……あの」
男「ん?」
妹「わたし、もしかして、見当違いなこと言っちゃいました?」
男「そんなことないって」
130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 00:50:10.97 ID:LURKkJPd0
妹「……でも」
男「それよりっ」
妹「え?」
男「ほら、これ」
妹「……あっ、カメラ?」
男「今から撮るぞ? 最高の表情してくれよ?」
妹「え、ええとっ、そんな急に……っ」
男「ハイチーズ」
妹「あっ……」
……………。
………。
男「それよりっ」
妹「え?」
男「ほら、これ」
妹「……あっ、カメラ?」
男「今から撮るぞ? 最高の表情してくれよ?」
妹「え、ええとっ、そんな急に……っ」
男「ハイチーズ」
妹「あっ……」
……………。
………。
188: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 20:58:53.69 ID:LURKkJPd0
パシャ!
男『なっ……』
妹『もう不意打ちやめてよ、お兄ちゃんっ!』
親友『はは、ごめんごめん』
男『ったく、このカメラ好きめ……』
親友『でも、我ながら、今のはいい感じに撮れた』
妹『ほんとに?』
親友『ああ。いつに増して、可愛く写ってる』
妹『ふふ、ならいいや』
男『そうやってすぐに甘やかすなよ。だから、調子に乗るんだぞ?』
男『なっ……』
妹『もう不意打ちやめてよ、お兄ちゃんっ!』
親友『はは、ごめんごめん』
男『ったく、このカメラ好きめ……』
親友『でも、我ながら、今のはいい感じに撮れた』
妹『ほんとに?』
親友『ああ。いつに増して、可愛く写ってる』
妹『ふふ、ならいいや』
男『そうやってすぐに甘やかすなよ。だから、調子に乗るんだぞ?』
189: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 20:59:39.50 ID:LURKkJPd0
妹『でも、兄さんとツーショットだったよ?』
男『いや……まあ、うん』
妹『あとで、焼き増し貰おうね』
男『……お、おう』
親友『はは、いつもお前は妹に弱いな』
男『うるさい。いいから、お前も宿題手伝え』
親友『だから、俺の答えを見せてやってるじゃん』
男『時間がないんだって。書き写し手伝ってくれよ』
親友『そこまでは面倒見切れないって。頑張れ』
男『……はぁー』
男『いや……まあ、うん』
妹『あとで、焼き増し貰おうね』
男『……お、おう』
親友『はは、いつもお前は妹に弱いな』
男『うるさい。いいから、お前も宿題手伝え』
親友『だから、俺の答えを見せてやってるじゃん』
男『時間がないんだって。書き写し手伝ってくれよ』
親友『そこまでは面倒見切れないって。頑張れ』
男『……はぁー』
190: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 21:00:07.22 ID:LURKkJPd0
妹『兄さん』
男『……ん?』
妹『わたしは手伝ってるから、えらいよね』
男『ほんと、お前は兄と違って優しいやつだなぁ』
妹『いいのいいの。困ったときはお互い様』
親友『……ほー、お前もそんな言葉知るようになったのか』
妹『まあね』
男『四歳も年下には見えないな。えらいえらい』
妹『へへへ』
男『……ん?』
妹『わたしは手伝ってるから、えらいよね』
男『ほんと、お前は兄と違って優しいやつだなぁ』
妹『いいのいいの。困ったときはお互い様』
親友『……ほー、お前もそんな言葉知るようになったのか』
妹『まあね』
男『四歳も年下には見えないな。えらいえらい』
妹『へへへ』
191: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 21:00:44.31 ID:LURKkJPd0
親友『…………』
親友『よし』
パシャッ!
男『あっ、お前っ!』
妹『あれ? 今、もしかして、お兄ちゃん撮った?』
男『フィルムをかせーっ!』
親友『やなこった!』
男『ま、まてっ! 逃げるなぁ!』
だだだだだっ……。
親友『よし』
パシャッ!
男『あっ、お前っ!』
妹『あれ? 今、もしかして、お兄ちゃん撮った?』
男『フィルムをかせーっ!』
親友『やなこった!』
男『ま、まてっ! 逃げるなぁ!』
だだだだだっ……。
195: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 21:21:58.27 ID:LURKkJPd0
──親友宅
男性「わざわざ、来てもらってすまない」
男「いえ」
男性「今後について、改めて、話し合う必要が出てきた」
女性「…………」
男「それは……」
男性「母さん」
女性「実は、あの子の退院が昨日、決まったんです」
男「……退院ですか」
男性「もちろん、私は反対したよ」
男性「ずっと病院にいてくれたほうが、安心だからだ」
男性「……だが」
女性「それじゃあ、あの子が可哀想だと思いまして」
男性「わざわざ、来てもらってすまない」
男「いえ」
男性「今後について、改めて、話し合う必要が出てきた」
女性「…………」
男「それは……」
男性「母さん」
女性「実は、あの子の退院が昨日、決まったんです」
男「……退院ですか」
男性「もちろん、私は反対したよ」
男性「ずっと病院にいてくれたほうが、安心だからだ」
男性「……だが」
女性「それじゃあ、あの子が可哀想だと思いまして」
196: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 21:22:51.99 ID:LURKkJPd0
女性「私がこの人を説得したんです」
男「……その、記憶の方は?」
男性「まだ戻ってない」
男「……はい」
男性「だからこそ、形としては自宅療養となると思う」
男性「医者は前の環境に合わせたほうが、記憶の戻りの促進に繋がると言っている」
男性「いや……本当は、思い出してなど欲しくないのだがな」
女性「…………」
男性「私たちからすれば、今のままの彼女でいい」
男性「確かに、思い出を共有できないという悲しさはあるが」
男性「……あの子の命には替えられないからな」
男「……その、記憶の方は?」
男性「まだ戻ってない」
男「……はい」
男性「だからこそ、形としては自宅療養となると思う」
男性「医者は前の環境に合わせたほうが、記憶の戻りの促進に繋がると言っている」
男性「いや……本当は、思い出してなど欲しくないのだがな」
女性「…………」
男性「私たちからすれば、今のままの彼女でいい」
男性「確かに、思い出を共有できないという悲しさはあるが」
男性「……あの子の命には替えられないからな」
197: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 21:23:20.53 ID:LURKkJPd0
男「じゃあ……大学は?」
女性「そのことなんですが、実は、学長さんに休学願いを提出しました」
男「そうですか……」
女性「記憶がないあの子からしたら、見る人会う人が初対面のはずですし」
女性「下手に仲良かった人たちと出会ったら、逆に混乱しちゃうと思うんです」
男「…………」
男性「……君が言いたいことは分かる」
男性「だが、私たちにはもう他に選択肢がない」
男「はい……」
男性「分かってくれ……親の私たちでさえ本当は辛いんだ」
女性「…………」
男「…………」
男性「……そこで、君に折り入って話がある」
女性「そのことなんですが、実は、学長さんに休学願いを提出しました」
男「そうですか……」
女性「記憶がないあの子からしたら、見る人会う人が初対面のはずですし」
女性「下手に仲良かった人たちと出会ったら、逆に混乱しちゃうと思うんです」
男「…………」
男性「……君が言いたいことは分かる」
男性「だが、私たちにはもう他に選択肢がない」
男「はい……」
男性「分かってくれ……親の私たちでさえ本当は辛いんだ」
女性「…………」
男「…………」
男性「……そこで、君に折り入って話がある」
204: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 22:16:21.60 ID:LURKkJPd0
男「……話?」
男性「いや、ここからが今日の本題だと言ってもいい」
男「……どういった話でしょうか?」
女性「その前にまずは謝らせて下さい」
男「謝るって……」
女性「あなた」
男性「ああ……」
男性「子供たちと昔からの付き合いだった君に」
女性「死んだ息子の代わりになってくれ、なんて残酷な真似をしてしまい」
男性「本当に、申し訳ないことをした……」
女性「この通り、申し訳ありません」
男性「いや、ここからが今日の本題だと言ってもいい」
男「……どういった話でしょうか?」
女性「その前にまずは謝らせて下さい」
男「謝るって……」
女性「あなた」
男性「ああ……」
男性「子供たちと昔からの付き合いだった君に」
女性「死んだ息子の代わりになってくれ、なんて残酷な真似をしてしまい」
男性「本当に、申し訳ないことをした……」
女性「この通り、申し訳ありません」
205: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 22:16:37.31 ID:LURKkJPd0
男「そ、そんなっ、いいから、顔を上げて下さいっ」
男性「にもかからずっ」
男「……えっ?」
ダンッ!
男「……立ち上がって、一体、何を……」
女性「……ごめんなさい」
男「……あ……」
ドン……ドン……。
男「…………」
男「……あ」
男「ああ」
男性「…………」
女性「…………」
男性「にもかからずっ」
男「……えっ?」
ダンッ!
男「……立ち上がって、一体、何を……」
女性「……ごめんなさい」
男「……あ……」
ドン……ドン……。
男「…………」
男「……あ」
男「ああ」
男性「…………」
女性「…………」
206: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 22:17:05.61 ID:LURKkJPd0
男「──僕に土下座なんてやめて下さいっ!」
男性「頼むっ! この通りだっ!」
男「いいからっ、早く立って……」
男性「あの子が退院しても、彼女の兄を演じ続けてくれ!」
男性「この家に住んで、この家で、あの子を支えてやってくれっ!」
女性「一生のお願いです……っ」
男「……そんなこと、言われなくても……っ」
男「……って」
男性「頼むっ! この通りだっ!」
男「いいからっ、早く立って……」
男性「あの子が退院しても、彼女の兄を演じ続けてくれ!」
男性「この家に住んで、この家で、あの子を支えてやってくれっ!」
女性「一生のお願いです……っ」
男「……そんなこと、言われなくても……っ」
男「……って」
207: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 22:17:33.71 ID:LURKkJPd0
男「……あれ?」
男性「……いいのか?」
男「え?」
男性「文字通り、始めたら最後……」
男性「君は息子の代わりをするだけじゃなくなるぞ」
男「……それは……」
男性「端から見れば、君は私たちの息子となる」
男「……俺が……?」
男「……息子……」
………。
……………。
男性「……いいのか?」
男「え?」
男性「文字通り、始めたら最後……」
男性「君は息子の代わりをするだけじゃなくなるぞ」
男「……それは……」
男性「端から見れば、君は私たちの息子となる」
男「……俺が……?」
男「……息子……」
………。
……………。
208: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 22:17:57.31 ID:LURKkJPd0
親友『なあ、知ってるか?』
男『ん?』
親友『世の中には、「弱肉強食」って言葉があるだろ?』
男『ええと、弱いものは強いものに食われるってことだっけ?』
親友『そうそう、もっと具体的に言うとさ』
親友『この社会は弱い奴の犠牲によって栄えてるってこと』
男『……う、ん』
親友『お前はそれ、どう思う?』
男『つまり、強者と敗者がいるってことだよな』
親友『そうそう。んで、敗者は要は社会の犠牲者みたいな感じかな』
男『……んーなんだろうな』
男『ん?』
親友『世の中には、「弱肉強食」って言葉があるだろ?』
男『ええと、弱いものは強いものに食われるってことだっけ?』
親友『そうそう、もっと具体的に言うとさ』
親友『この社会は弱い奴の犠牲によって栄えてるってこと』
男『……う、ん』
親友『お前はそれ、どう思う?』
男『つまり、強者と敗者がいるってことだよな』
親友『そうそう。んで、敗者は要は社会の犠牲者みたいな感じかな』
男『……んーなんだろうな』
210: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 22:18:26.53 ID:LURKkJPd0
親友『結局、勝者ってのは、自分の思い通りになんでも出来る訳』
親友『でも、みんなが思い通りに行動をしてたら、社会が回らなくなる』
男『それは俺でも分かるよ』
親友『じゃあ、我慢してるのは?』
男『敗者?』
親友『そういうこと』
男『……うわぁ……大人になりたくねぇな……』
親友『もし仮にさ、将来、俺たちが勝者じゃなくて敗者になっちまった時』
親友『どうすれば、そこから抜け出せられると思う?』
男『いや、もう無理なんじゃない?』
男『貧乏くじ引いてる時点で、もう泥沼じゃん』
親友『うん……そう普通は思うよな』
親友『でも、みんなが思い通りに行動をしてたら、社会が回らなくなる』
男『それは俺でも分かるよ』
親友『じゃあ、我慢してるのは?』
男『敗者?』
親友『そういうこと』
男『……うわぁ……大人になりたくねぇな……』
親友『もし仮にさ、将来、俺たちが勝者じゃなくて敗者になっちまった時』
親友『どうすれば、そこから抜け出せられると思う?』
男『いや、もう無理なんじゃない?』
男『貧乏くじ引いてる時点で、もう泥沼じゃん』
親友『うん……そう普通は思うよな』
211: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 22:19:05.77 ID:LURKkJPd0
親友『でも俺、気づいちゃったんだよ』
男『何を?』
親友『とっておきの、抜け出し方法』
男『……え?』
親友『実は、すごい簡単な事なんだ。なんで、みんな知らないのってぐらい』
男『教えてくれよっ』
親友『仕方ないなぁ。本当は誰にも言いたくないんだけどな』
親友『……お前だけは特別だ』
男『さすがっ!』
親友『方法は簡単さ。よく聞いとけよ?』
親友『それは──』
……………。
………。
男『何を?』
親友『とっておきの、抜け出し方法』
男『……え?』
親友『実は、すごい簡単な事なんだ。なんで、みんな知らないのってぐらい』
男『教えてくれよっ』
親友『仕方ないなぁ。本当は誰にも言いたくないんだけどな』
親友『……お前だけは特別だ』
男『さすがっ!』
親友『方法は簡単さ。よく聞いとけよ?』
親友『それは──』
……………。
………。
212: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 22:19:36.52 ID:LURKkJPd0
男性「……断るのなら、この瞬間にして欲しい」
男性「始めてしまったから、辞めたいと言われても困るんだ」
男「…………」
男性「前に君は私に聞いた。『終わりはいつですか』と」
男性「分かるだろ? 終わりがあるとしたら、今だ」
男「……はい」
男性「……終わりにしてくれてもいい」
男性「だが、今のあの子は、君をこの世界で一番頼りにしている」
男性「本当の兄じゃないと疑うことも知らずに、信じきっている」
男「…………」
男性「実の兄が、自分のせいで死んでしまい」
男性「ついには自責と後悔の念に耐えきれず」
男性「自分が自殺未遂を謀ったということも知らない」
男「……っ」
男性「始めてしまったから、辞めたいと言われても困るんだ」
男「…………」
男性「前に君は私に聞いた。『終わりはいつですか』と」
男性「分かるだろ? 終わりがあるとしたら、今だ」
男「……はい」
男性「……終わりにしてくれてもいい」
男性「だが、今のあの子は、君をこの世界で一番頼りにしている」
男性「本当の兄じゃないと疑うことも知らずに、信じきっている」
男「…………」
男性「実の兄が、自分のせいで死んでしまい」
男性「ついには自責と後悔の念に耐えきれず」
男性「自分が自殺未遂を謀ったということも知らない」
男「……っ」
213: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 22:20:08.98 ID:LURKkJPd0
男性「残念ながら、彼女に必要なのは私たちじゃないんだ」
男性「私たちが代わりをやれるなら、何を捨ててでも成し遂げる」
男性「けれど、現実は不条理だな」
男性「あの子が、この世界で、唯一必要としているもの……」
男性「皮肉にも、それは君なんだ」
男「……それは」
男性「止めてくれても、一向に構わないぞ」
男性「けれど、君には捨てられるのか?」
男性「あの子を……──見殺しに出来るか?」
男「…………」
男性「私たちが代わりをやれるなら、何を捨ててでも成し遂げる」
男性「けれど、現実は不条理だな」
男性「あの子が、この世界で、唯一必要としているもの……」
男性「皮肉にも、それは君なんだ」
男「……それは」
男性「止めてくれても、一向に構わないぞ」
男性「けれど、君には捨てられるのか?」
男性「あの子を……──見殺しに出来るか?」
男「…………」
217: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 22:34:20.65 ID:LURKkJPd0
──病院
パーンっ!
妹「きゃっ」
男「退院おめでとうっ!」
妹「お兄ちゃん……もう、びっくりしました……」
男「はは、それは良かった」
妹「もう、病院でクラッカーなんて迷惑ですよ?」
男「妹の新たな門出なんだ。せめて盛大にと思ってな」
パーンっ!
妹「きゃっ」
男「退院おめでとうっ!」
妹「お兄ちゃん……もう、びっくりしました……」
男「はは、それは良かった」
妹「もう、病院でクラッカーなんて迷惑ですよ?」
男「妹の新たな門出なんだ。せめて盛大にと思ってな」
220: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 22:51:29.01 ID:LURKkJPd0
妹「めっ、ですよ」
男「なんだそれ」
妹「あれ、わたし、なんか変なこと言いました……?」
男「言っただろ。『めっ』て」
男「俺をやんちゃな子供だと思って、言ったのか?」
妹「いや、その……なんか、不意に」
妹「ていうか、そもそも、お兄ちゃんが悪いんですから」
妹「もっとすまなさそうにしないと、駄目です」
男「まあ、確かにそうだな」
妹「ニヤニヤしないっ!」
男「無意識なんだから、許して」
妹「だーめーですー」
男「なんだそれ」
妹「あれ、わたし、なんか変なこと言いました……?」
男「言っただろ。『めっ』て」
男「俺をやんちゃな子供だと思って、言ったのか?」
妹「いや、その……なんか、不意に」
妹「ていうか、そもそも、お兄ちゃんが悪いんですから」
妹「もっとすまなさそうにしないと、駄目です」
男「まあ、確かにそうだな」
妹「ニヤニヤしないっ!」
男「無意識なんだから、許して」
妹「だーめーですー」
221: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 22:51:52.32 ID:LURKkJPd0
男「ならこの顔は?」
妹「どことなく小馬鹿にされてるみたいです」
男「……んー、ならこれ」
妹「……今度は、イヤらしいですね」
男「なら……んっ、よしこれでイケメンになったろ?」
妹「……はぁ」
妹「今日はいつになく、テンション高いですね」
妹「でも、そんなことしてると、彼女さんに嫌われますよ?」
男「そう思うだろ?」
妹「……えっ」
男「こう見えてもな、俺の学生時代はなー」
妹「は、はい」
男「…………」
妹「どことなく小馬鹿にされてるみたいです」
男「……んー、ならこれ」
妹「……今度は、イヤらしいですね」
男「なら……んっ、よしこれでイケメンになったろ?」
妹「……はぁ」
妹「今日はいつになく、テンション高いですね」
妹「でも、そんなことしてると、彼女さんに嫌われますよ?」
男「そう思うだろ?」
妹「……えっ」
男「こう見えてもな、俺の学生時代はなー」
妹「は、はい」
男「…………」
222: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 22:52:06.87 ID:LURKkJPd0
男「やっぱり、モテなかった」
妹「……ですよね」
男「同意しないでくれない? ちょっと悲しいよ?」
妹「そう言われても……」
男「しかし、最近のお前って、毒舌じゃないか?」
男「ほんと、初めのしおらしい子が嘘のようだ」
妹「それはわたしが言いたいです」
男「なんで?」
妹「お兄ちゃんも、前はもっと丁寧なしゃべり方でした」
男「そうか?」
妹「覚えてないんですか? 例えば……」
妹「……ですよね」
男「同意しないでくれない? ちょっと悲しいよ?」
妹「そう言われても……」
男「しかし、最近のお前って、毒舌じゃないか?」
男「ほんと、初めのしおらしい子が嘘のようだ」
妹「それはわたしが言いたいです」
男「なんで?」
妹「お兄ちゃんも、前はもっと丁寧なしゃべり方でした」
男「そうか?」
妹「覚えてないんですか? 例えば……」
223: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/08(水) 22:52:16.33 ID:LURKkJPd0
妹「『いいんだ。気にしなくていいよ』」
妹「『ちょっと疲れさしちゃったみたいだね』」
妹「『……うん、日を改めて、また来るから』」
男「……確かに」
妹「少女漫画に出てくる好青年みたいでした」
男「いいんだ。今の方が本来の俺に近いし」
妹「ちょっとげんなりですね」
男「それより……そろそろ、家に向かうか」
妹「あっ、はい」
男「病院の横に車を止めてあるんだ。急ごう」
妹「『ちょっと疲れさしちゃったみたいだね』」
妹「『……うん、日を改めて、また来るから』」
男「……確かに」
妹「少女漫画に出てくる好青年みたいでした」
男「いいんだ。今の方が本来の俺に近いし」
妹「ちょっとげんなりですね」
男「それより……そろそろ、家に向かうか」
妹「あっ、はい」
男「病院の横に車を止めてあるんだ。急ごう」
293: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:39:27.74 ID:5XIqJLN+0
――車内
男「そうだ、少し言い忘れたことがあった」
妹「何ですか?」
男「ほら、父さんと母さんの二人、今日、病院に来なかっただろ?」
妹「……あ、はい」
男「ちゃんとした理由があるんだ。話してもいいか?」
妹「別に……特に何とも思ってませんよ」
男「いや、聞いてくれ。二人とも本当は来たがっていたんだけど」
妹「…………」
男「親父は取引先との急な仕事が入って、休日出勤」
男「お袋は、親戚の方が突然倒れたっていうんで、急いで病院に行ったんだ」
妹「……そうですか」
男「そうだ、少し言い忘れたことがあった」
妹「何ですか?」
男「ほら、父さんと母さんの二人、今日、病院に来なかっただろ?」
妹「……あ、はい」
男「ちゃんとした理由があるんだ。話してもいいか?」
妹「別に……特に何とも思ってませんよ」
男「いや、聞いてくれ。二人とも本当は来たがっていたんだけど」
妹「…………」
男「親父は取引先との急な仕事が入って、休日出勤」
男「お袋は、親戚の方が突然倒れたっていうんで、急いで病院に行ったんだ」
妹「……そうですか」
294: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:39:52.93 ID:5XIqJLN+0
男「二人とも悪気があったわけじゃない」
男「お前の病院に行こうとするのを、俺が何とか食い止めて」
男「だからさ、今日は俺だけだったけど、許してくれよ?」
妹「……ふふ」
男「へ?」
妹「もうそんな必死にならなくてもいいですよ」
妹「今日、お兄ちゃんが異様にテンションが高い理由も分かりましたから」
妹「本当は、わたしに気を遣ってくれたんですよね?」
男「……いや、それはだな……」
妹「それに、思うんです」
男「ん?」
男「お前の病院に行こうとするのを、俺が何とか食い止めて」
男「だからさ、今日は俺だけだったけど、許してくれよ?」
妹「……ふふ」
男「へ?」
妹「もうそんな必死にならなくてもいいですよ」
妹「今日、お兄ちゃんが異様にテンションが高い理由も分かりましたから」
妹「本当は、わたしに気を遣ってくれたんですよね?」
男「……いや、それはだな……」
妹「それに、思うんです」
男「ん?」
295: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:40:57.65 ID:5XIqJLN+0
妹「逆に、お兄ちゃんだけでよかったなって」
男「…………」
妹「もし二人がいたら、なんだか、緊張してしまって」
妹「気まずい空気が流れてたかもしれません」
男「……そんなこと」
妹「本当は、もっと自然に振る舞えればいいんですけど」
妹「やっぱり、親と子の関係って、そう簡単にはいきませんね」
男「なら、兄妹は?」
妹「『友達』……みたいな感じかな?」
男「…………」
妹「どうかしました?」
男「いや、気にしなくていい」
男「それより、もうそろそろ、家に着くぞ」
妹「は、はい」
男「…………」
妹「もし二人がいたら、なんだか、緊張してしまって」
妹「気まずい空気が流れてたかもしれません」
男「……そんなこと」
妹「本当は、もっと自然に振る舞えればいいんですけど」
妹「やっぱり、親と子の関係って、そう簡単にはいきませんね」
男「なら、兄妹は?」
妹「『友達』……みたいな感じかな?」
男「…………」
妹「どうかしました?」
男「いや、気にしなくていい」
男「それより、もうそろそろ、家に着くぞ」
妹「は、はい」
296: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:41:14.34 ID:5XIqJLN+0
男「緊張してる?」
妹「……ええと」
男「…………」
妹「…………」
男「……不安か?」
妹「え……?」
男「知っているはずの家に戻るはずなのに」
男「何の感慨も覚えない自分が怖い?」
妹「……それは」
男「大丈夫、焦る必要はないから」
男「仮に今後、過去を思い出さなかったとしても」
男「あの二人はきっとお前を温かく迎えてくれるはずだ」
妹「…………」
妹「……ええと」
男「…………」
妹「…………」
男「……不安か?」
妹「え……?」
男「知っているはずの家に戻るはずなのに」
男「何の感慨も覚えない自分が怖い?」
妹「……それは」
男「大丈夫、焦る必要はないから」
男「仮に今後、過去を思い出さなかったとしても」
男「あの二人はきっとお前を温かく迎えてくれるはずだ」
妹「…………」
297: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:41:36.53 ID:5XIqJLN+0
男「もちろん、俺も含めてね」
妹「……うん」
男「よし、なら安心だな」
妹「お兄ちゃん……ありがと」
男「はは、感謝されて嫌な奴はいないよなぁ」
妹「……ふふ」
男「……さて」
キキッ……。
男「我が家への到着です」
妹「……うん」
男「ちょっと待ってろ。エスコートする」
妹「え?」
バンッ……トコトコ……。
……ガチャ。
妹「……うん」
男「よし、なら安心だな」
妹「お兄ちゃん……ありがと」
男「はは、感謝されて嫌な奴はいないよなぁ」
妹「……ふふ」
男「……さて」
キキッ……。
男「我が家への到着です」
妹「……うん」
男「ちょっと待ってろ。エスコートする」
妹「え?」
バンッ……トコトコ……。
……ガチャ。
298: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:42:01.45 ID:5XIqJLN+0
男「さて、どうぞ」
妹「……意外と紳士なんですね」
男「だろ?」
妹「ふふっ」
男「ほら見ろよ。豪華な周りの家々に引けを取らないぐらい」
男「我が家も、捨てたもんじゃないだろ?」
妹「……うん」
男「早速、入ろうか?」
妹「ちょっと待って」
妹「もしかしたら……何か……」
妹「……意外と紳士なんですね」
男「だろ?」
妹「ふふっ」
男「ほら見ろよ。豪華な周りの家々に引けを取らないぐらい」
男「我が家も、捨てたもんじゃないだろ?」
妹「……うん」
男「早速、入ろうか?」
妹「ちょっと待って」
妹「もしかしたら……何か……」
299: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:42:20.67 ID:5XIqJLN+0
男「……ん」
妹「……いや」
妹「だめ……みたいですね」
男「無理するなよ?」
妹「……分かってはいるんですけど、やっぱり……」
男「家にも思い出の品は一杯あるからさ」
妹「うん……」
男「開けるぞ?」
ガチャリ……。
妹「…………」
妹「……え?」
妹「……いや」
妹「だめ……みたいですね」
男「無理するなよ?」
妹「……分かってはいるんですけど、やっぱり……」
男「家にも思い出の品は一杯あるからさ」
妹「うん……」
男「開けるぞ?」
ガチャリ……。
妹「…………」
妹「……え?」
300: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:42:37.41 ID:5XIqJLN+0
パンッ、パーンッ!
男性・女性「「退院おめでとうーっ!!」」
妹「う、うそ……だっ、だって……」
男「はははっ」
妹「まさか……」
男「簡単な騙しのテクニックだよ」
男「一度、小さなサプライズをやって、油断させる」
男「そして、そこから……」
妹「お、お兄ちゃんっ」
男「どうだ? 最高だったろ?」
妹「もうっ! 本当にびっくりしたんだから……」
男「お叱りは後で聞くよ、今は……」
妹「あっ……」
男性・女性「「退院おめでとうーっ!!」」
妹「う、うそ……だっ、だって……」
男「はははっ」
妹「まさか……」
男「簡単な騙しのテクニックだよ」
男「一度、小さなサプライズをやって、油断させる」
男「そして、そこから……」
妹「お、お兄ちゃんっ」
男「どうだ? 最高だったろ?」
妹「もうっ! 本当にびっくりしたんだから……」
男「お叱りは後で聞くよ、今は……」
妹「あっ……」
301: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:42:57.69 ID:5XIqJLN+0
女性「本当におめでとう……こっちに来て頂戴」
妹「は、はい」
ギュッ……。
妹「お、お母さん?」
女性「…………」
妹「あの……」
男性「お前が、どんなことになろうとも」
男性「決して、私たちの絆が切れることはない」
妹「…………」
男性「安心しろ」
男性「ここが、お前の居場所だから」
男性「家族四人で乗り切ろうな……」
妹「……っ」
妹「……は、はい……」
男「…………」
妹「は、はい」
ギュッ……。
妹「お、お母さん?」
女性「…………」
妹「あの……」
男性「お前が、どんなことになろうとも」
男性「決して、私たちの絆が切れることはない」
妹「…………」
男性「安心しろ」
男性「ここが、お前の居場所だから」
男性「家族四人で乗り切ろうな……」
妹「……っ」
妹「……は、はい……」
男「…………」
302: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:43:19.80 ID:5XIqJLN+0
──リビング
女性「さーて、準備は整ったかしら」
男性「おー、今日はいつに増して豪華な夕飯だなっ」
女性「お祝いの日だからね。かなり奮発しました」
男「確かに、これはご馳走だなぁ」
妹「食べきれるかなぁ……」
男「なんだ? みんなの分も全部、食うつもりか?」
妹「は……?」
男「こりゃまた、凄い食欲だな」
妹「ち、違いますっ!」
男性「確かに、昔から食いっぷりは良かった」
妹「お、お父さんまで!」
女性「さーて、準備は整ったかしら」
男性「おー、今日はいつに増して豪華な夕飯だなっ」
女性「お祝いの日だからね。かなり奮発しました」
男「確かに、これはご馳走だなぁ」
妹「食べきれるかなぁ……」
男「なんだ? みんなの分も全部、食うつもりか?」
妹「は……?」
男「こりゃまた、凄い食欲だな」
妹「ち、違いますっ!」
男性「確かに、昔から食いっぷりは良かった」
妹「お、お父さんまで!」
303: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:43:41.70 ID:5XIqJLN+0
男「はは、やっぱりそうじゃん」
妹「お兄ちゃんっ!」
女性「そろそろ、可愛い妹弄りはその辺にしときなさい」
女性「ほら、温かいうちに食べましょ?」
女性「お父さん、いつものお願いしますね」
男性「分かった」
男性「じゃあ、みんな、手を合わせて」
男「よし」
妹「は、はい」
男性「頂きます」
男・妹「「いただきまーすっ」」
……………。
妹「お兄ちゃんっ!」
女性「そろそろ、可愛い妹弄りはその辺にしときなさい」
女性「ほら、温かいうちに食べましょ?」
女性「お父さん、いつものお願いしますね」
男性「分かった」
男性「じゃあ、みんな、手を合わせて」
男「よし」
妹「は、はい」
男性「頂きます」
男・妹「「いただきまーすっ」」
……………。
304: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:44:06.02 ID:5XIqJLN+0
男「いやぁ……食った食った……」
妹「もう何も食べられないです……」
女性「ありがとうね。綺麗に完食してくれて」
男性「ふぅー、やっぱり母さんの作る飯はうまいな」
男性「さて……食後の一服を」
女性「お父さん、煙草はベランダで吸って下さい」
男性「まあ、そう堅い事は言わずにな」
男性「どうだ、お前も吸うか?」
男「……ええと、止めとくよ」
女性「あら? いつ頃から吸うの止め……」
男性「母さん」
女性「……あっ」
妹「?」
妹「もう何も食べられないです……」
女性「ありがとうね。綺麗に完食してくれて」
男性「ふぅー、やっぱり母さんの作る飯はうまいな」
男性「さて……食後の一服を」
女性「お父さん、煙草はベランダで吸って下さい」
男性「まあ、そう堅い事は言わずにな」
男性「どうだ、お前も吸うか?」
男「……ええと、止めとくよ」
女性「あら? いつ頃から吸うの止め……」
男性「母さん」
女性「……あっ」
妹「?」
305: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:44:36.01 ID:5XIqJLN+0
女性「で、でも、いい傾向ですよ」
女性「やっぱり、このご時世、煙草を吸う男性はだめよね?」
妹「え? いや、どうでしょうか……」
男「最近は、嫌いな人多いからね」
男「父さんも早くやめないと、秘書の人たちに嫌われるよ?」
男性「今更止めたところで、好感度は上がらないさ」
男「はは、そりゃそうか」
妹「あの、昔は、お兄ちゃんも吸ってたんですか?」
男「……うん、そこそこね」
妹「へー意外」
男「そうか?」
妹「なんか、そういうの吸う感じの人には見えないですね」
女性「顔が童顔だからね」
女性「やっぱり、このご時世、煙草を吸う男性はだめよね?」
妹「え? いや、どうでしょうか……」
男「最近は、嫌いな人多いからね」
男「父さんも早くやめないと、秘書の人たちに嫌われるよ?」
男性「今更止めたところで、好感度は上がらないさ」
男「はは、そりゃそうか」
妹「あの、昔は、お兄ちゃんも吸ってたんですか?」
男「……うん、そこそこね」
妹「へー意外」
男「そうか?」
妹「なんか、そういうの吸う感じの人には見えないですね」
女性「顔が童顔だからね」
306: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:45:03.87 ID:5XIqJLN+0
妹「ふふ、分かります。少し、男らしさには欠けてるかも」
男「止めてくれよ、気にしてるんだから」
妹「今日の意地悪のお返しですよーだっ」
男「根に持つ奴だなぁ……」
男性「…………」
男性「……本当に仲がいいな」
女性「そうですね」
妹「え?」
女性「こんなこと言うと、あなたは傷つくかもしれないけど」
女性「記憶を失ったとは、到底、思えないぐらい」
妹「そ、そう見えますか……?」
男「…………」
男性「……ああ」
男「止めてくれよ、気にしてるんだから」
妹「今日の意地悪のお返しですよーだっ」
男「根に持つ奴だなぁ……」
男性「…………」
男性「……本当に仲がいいな」
女性「そうですね」
妹「え?」
女性「こんなこと言うと、あなたは傷つくかもしれないけど」
女性「記憶を失ったとは、到底、思えないぐらい」
妹「そ、そう見えますか……?」
男「…………」
男性「……ああ」
307: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:45:24.09 ID:5XIqJLN+0
男性「かつての頃のままだ……」
男性「何もかも……」
女性「…………」
妹「……ええと」
男「…………」
男「……つまり、だ」
妹「え?」
男「俺たち兄妹には、次元を超えた見えない絆があるわけさっ」
ぎゅっ。
妹「ちょ、ちょっと兄さんっ!?」
男「過去なんて関係ないぞーっ」
男「昔から大好きだー、妹よっ!」
妹「抱きつくの、止めてっ。禁止ーっ!」
男性「何もかも……」
女性「…………」
妹「……ええと」
男「…………」
男「……つまり、だ」
妹「え?」
男「俺たち兄妹には、次元を超えた見えない絆があるわけさっ」
ぎゅっ。
妹「ちょ、ちょっと兄さんっ!?」
男「過去なんて関係ないぞーっ」
男「昔から大好きだー、妹よっ!」
妹「抱きつくの、止めてっ。禁止ーっ!」
308: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:45:39.94 ID:5XIqJLN+0
男「はは、顔真っ赤にしてやんの」
妹「はぁー……はぁー……」
妹「もう急になんてことするんですか……心臓に悪いです……」
男「心の準備が必要だったか?」
妹「そうです。これから、抱きつく時には事前に言って下さいよ」
男「いや、兄妹で抱きつくシーンなんてそうそうないから」
妹「あっ……そうでした」
男「でも、お前が良いっていうなら──」
妹「へ?」
ぎゅうっ!
男「何度だって抱きしめてやるぞーっ!」
妹「ちょっ、心臓がっ! 事前にっ! 約束違うーっ!」
妹「はぁー……はぁー……」
妹「もう急になんてことするんですか……心臓に悪いです……」
男「心の準備が必要だったか?」
妹「そうです。これから、抱きつく時には事前に言って下さいよ」
男「いや、兄妹で抱きつくシーンなんてそうそうないから」
妹「あっ……そうでした」
男「でも、お前が良いっていうなら──」
妹「へ?」
ぎゅうっ!
男「何度だって抱きしめてやるぞーっ!」
妹「ちょっ、心臓がっ! 事前にっ! 約束違うーっ!」
309: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:46:02.45 ID:5XIqJLN+0
──親友の部屋
男「…………」
男「……今日は、疲れたな」
バタン……。
男「はー……」
男「いいのかな……」
男「……本当にこれで間違ってないんだろうか……」
男「…………」
男「……ええと、カメラはどこに……」
男「ん、あった」
男「……よし、これで」
男「…………」
男「……なあ、親友」
男「…………」
男「……今日は、疲れたな」
バタン……。
男「はー……」
男「いいのかな……」
男「……本当にこれで間違ってないんだろうか……」
男「…………」
男「……ええと、カメラはどこに……」
男「ん、あった」
男「……よし、これで」
男「…………」
男「……なあ、親友」
311: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:46:33.25 ID:5XIqJLN+0
男「もしかしたら、俺は、最低なことをしてるのかもしれない」
男「アイツを騙して、お前に成り代わって」
男「……うん」
男「やっぱり、俺は最低だよ」
男「…………」
男「……お前の両親に頼まれた時な」
男「正直、本当は困った」
男「だって、ずっと前から、早くこの関係が終わればいいと思ってたから」
男「他人だったお前を演じるのは、難しいし」
男「それに……お前との友情を踏みにじってる気がするから」
男「なぁ……?」
男「お前……怒ってないか?」
男「本来なら、この日常は、決して俺のもの何かじゃない」
男「アイツを騙して、お前に成り代わって」
男「……うん」
男「やっぱり、俺は最低だよ」
男「…………」
男「……お前の両親に頼まれた時な」
男「正直、本当は困った」
男「だって、ずっと前から、早くこの関係が終わればいいと思ってたから」
男「他人だったお前を演じるのは、難しいし」
男「それに……お前との友情を踏みにじってる気がするから」
男「なぁ……?」
男「お前……怒ってないか?」
男「本来なら、この日常は、決して俺のもの何かじゃない」
313: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:47:09.96 ID:5XIqJLN+0
男「お前は死んじまったけど、俺が成り代わっていいものじゃないはずだ」
男「結局、俺はさ……」
男「土下座して頼み込んだ二人の願いを渋々聞いてやって」
男「妹のためだから、見殺しにはできないから、なんて理由つけて」
男「そんな体裁を守れないと、踏み出せないちっぽけな人間なんだ……」
男「……多分、お前は言うと思う……」
男「『やるなら、やりきれ』『迷うな』って」
男「……でも、俺は」
男「こうしている間も、この行動の善悪を決めかねてる」
男「ぐだぐだと、正解のない問いを悩み続けてる」
男「……そのくせ」
男「結局、俺はさ……」
男「土下座して頼み込んだ二人の願いを渋々聞いてやって」
男「妹のためだから、見殺しにはできないから、なんて理由つけて」
男「そんな体裁を守れないと、踏み出せないちっぽけな人間なんだ……」
男「……多分、お前は言うと思う……」
男「『やるなら、やりきれ』『迷うな』って」
男「……でも、俺は」
男「こうしている間も、この行動の善悪を決めかねてる」
男「ぐだぐだと、正解のない問いを悩み続けてる」
男「……そのくせ」
314: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:47:29.99 ID:5XIqJLN+0
男「俺が、とうの昔に失った……」
男「家族っていう幸せの形を、楽しんでる……」
男「……どうだ? 最低だろ?」
男「……なあ、親友」
男「……頼むからさ……」
男「返事してくれよ……」
男「……俺を……罵ってくれよ……」
男「…………」
男「……はぁ」
男「…………」
男「ん?」
男「家族っていう幸せの形を、楽しんでる……」
男「……どうだ? 最低だろ?」
男「……なあ、親友」
男「……頼むからさ……」
男「返事してくれよ……」
男「……俺を……罵ってくれよ……」
男「…………」
男「……はぁ」
男「…………」
男「ん?」
315: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:47:53.19 ID:5XIqJLN+0
ピピピピッ……。
男「……え? 電話?」
男「ええと……このタイミング……」
男「いや、違う。そんなことある訳がない……」
男「……母さんだ」
男「そういえば、最近電話してなかったからなぁ……」
ピピピピピッ……。
男「…………」
男「…………」
ピピピピピピッ……。
男「…………」
男「……え? 電話?」
男「ええと……このタイミング……」
男「いや、違う。そんなことある訳がない……」
男「……母さんだ」
男「そういえば、最近電話してなかったからなぁ……」
ピピピピピッ……。
男「…………」
男「…………」
ピピピピピピッ……。
男「…………」
316: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 18:48:15.04 ID:5XIqJLN+0
ピピッ……ピッ……。
男「…………」
…………。
男「……ふぅ……」
男「…………」
男「……出れるわけ、ないよな……」
……………。
………。
男「…………」
…………。
男「……ふぅ……」
男「…………」
男「……出れるわけ、ないよな……」
……………。
………。
324: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 19:31:29.30 ID:5XIqJLN+0
男『…………』
男『……すぅ……すぅ……』
──■■□ッ!
男『……ん?』
男『あれ……今、なんか音がしたような……』
男『……一階?』
男『…………』
男『まだ父さんと母さん、起きてるのかな……?』
ガバッ……。
男『……行ってみよう』
トコトコ……ガチャ。
……………。
男『……すぅ……すぅ……』
──■■□ッ!
男『……ん?』
男『あれ……今、なんか音がしたような……』
男『……一階?』
男『…………』
男『まだ父さんと母さん、起きてるのかな……?』
ガバッ……。
男『……行ってみよう』
トコトコ……ガチャ。
……………。
325: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 19:31:51.88 ID:5XIqJLN+0
トコトコトコ……。
男『…………』
男『……ん?』
男『…………』
男『……あっ』
?『一体、こ……から……のよっ!』
?『まだ家の……も、あなたっ……分……てるの!?』
男「これは……』
男『……母さんの声……?』
男『もしかして……』
男『…………』
男『……ん?』
男『…………』
男『……あっ』
?『一体、こ……から……のよっ!』
?『まだ家の……も、あなたっ……分……てるの!?』
男「これは……』
男『……母さんの声……?』
男『もしかして……』
326: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 19:32:44.40 ID:5XIqJLN+0
父親『うるせぇっ! 言われなくてもそんなこと分かってる!』
母親『だったらどうして!?』
父親『仕方ねぇだろ、クビになっちまったんだからさっ』
母親『いい加減にしてよっ! また酔って帰ってきたと思ったら』
母親『急に、会社を辞めさせられたじゃ、こっちも納得できないわっ!』
父親『何を聞きたいんだっ』
母親『辞めさせられた理由よっ!』
父親『……それは』
母親『いいから言って! あなた、一体、何したっていうのっ!?』
父親『……った』
母親『聞こえないわっ。もっと大きな声で言って!』
父親『あーもうっ! 殴ったんだよっ!』
母親『だったらどうして!?』
父親『仕方ねぇだろ、クビになっちまったんだからさっ』
母親『いい加減にしてよっ! また酔って帰ってきたと思ったら』
母親『急に、会社を辞めさせられたじゃ、こっちも納得できないわっ!』
父親『何を聞きたいんだっ』
母親『辞めさせられた理由よっ!』
父親『……それは』
母親『いいから言って! あなた、一体、何したっていうのっ!?』
父親『……った』
母親『聞こえないわっ。もっと大きな声で言って!』
父親『あーもうっ! 殴ったんだよっ!』
327: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 19:33:11.35 ID:5XIqJLN+0
母親『……殴った? だ、誰を?』
父親『前から言ってた、いけ好かない上司だよ……』
母親『……どこで』
父親『昼間、会社の中でだ』
母親『……そ、そんな……』
父親『腹が立ったんだ。いつも俺に雑用ばっかり押し付けて』
父親『その割に、何かあると責任は俺にあるとほざく』
母親『…………』
父親『それでも、俺は我慢した方だ』
父親『けど、結局、こうなる運命だったんだよ』
母親『……ああ……』
母親『…………』
父親『ふんっ……』
父親『前から言ってた、いけ好かない上司だよ……』
母親『……どこで』
父親『昼間、会社の中でだ』
母親『……そ、そんな……』
父親『腹が立ったんだ。いつも俺に雑用ばっかり押し付けて』
父親『その割に、何かあると責任は俺にあるとほざく』
母親『…………』
父親『それでも、俺は我慢した方だ』
父親『けど、結局、こうなる運命だったんだよ』
母親『……ああ……』
母親『…………』
父親『ふんっ……』
328: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 19:34:02.96 ID:5XIqJLN+0
母親『…………』
母親『……ねぇ』
父親『あっ? まだ、文句あんのか?』
母親『……もしかして、あなた』
父親『何だよ』
母親『そのときも、酔ってたんじゃないでしょうね?』
父親『…………』
母親『質問に答えて』
父親『……だからさ』
母親『アルコール中毒のあなただけど』
母親『会社に酒を持ち込んでたりしないわよね?』
父親『…………』
母親『……ねぇ』
父親『あっ? まだ、文句あんのか?』
母親『……もしかして、あなた』
父親『何だよ』
母親『そのときも、酔ってたんじゃないでしょうね?』
父親『…………』
母親『質問に答えて』
父親『……だからさ』
母親『アルコール中毒のあなただけど』
母親『会社に酒を持ち込んでたりしないわよね?』
父親『…………』
329: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 19:34:27.31 ID:5XIqJLN+0
母親『……なんで、黙ってるの?』
母親『何か、言ってよ』
父親『……それは……』
母親『なに?』
父親『……つい、な……』
母親『……なっ……』
父親『…………』
母親『最低よっ! あなたは本当に人間の屑っ!』
父親『……そこまで──』
ガシャーンっ!
父親『いてっ……』
母親『何か、言ってよ』
父親『……それは……』
母親『なに?』
父親『……つい、な……』
母親『……なっ……』
父親『…………』
母親『最低よっ! あなたは本当に人間の屑っ!』
父親『……そこまで──』
ガシャーンっ!
父親『いてっ……』
331: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 19:35:06.62 ID:5XIqJLN+0
母親『こんな時ぐらい、酒を飲むのはやめなさいっ!』
父親『な、なにすんだっ!』
母親『毎日、帰ってくるのは深夜をとうに回って』
母親『時には、女の香水つけた背広で機嫌良く帰ってくる』
母親『暇さえあれば、酒は飲むわ、煙草は吸うわ』
母親『あなたは夫としても、父親としても、失格よっ!』
父親『……っ』
ガタンッ……。
母親『な、何をっ……』
父親『な、なにすんだっ!』
母親『毎日、帰ってくるのは深夜をとうに回って』
母親『時には、女の香水つけた背広で機嫌良く帰ってくる』
母親『暇さえあれば、酒は飲むわ、煙草は吸うわ』
母親『あなたは夫としても、父親としても、失格よっ!』
父親『……っ』
ガタンッ……。
母親『な、何をっ……』
332: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 19:35:06.71 ID:5XIqJLN+0
母親『こんな時ぐらい、酒を飲むのはやめなさいっ!』
父親『な、なにすんだっ!』
母親『毎日、帰ってくるのは深夜をとうに回って』
母親『時には、女の香水つけた背広で機嫌良く帰ってくる』
母親『暇さえあれば、酒は飲むわ、煙草は吸うわ』
母親『あなたは夫としても、父親としても、失格よっ!』
父親『……っ』
ガタンッ……。
母親『な、何をっ……』
父親『な、なにすんだっ!』
母親『毎日、帰ってくるのは深夜をとうに回って』
母親『時には、女の香水つけた背広で機嫌良く帰ってくる』
母親『暇さえあれば、酒は飲むわ、煙草は吸うわ』
母親『あなたは夫としても、父親としても、失格よっ!』
父親『……っ』
ガタンッ……。
母親『な、何をっ……』
333: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 19:35:38.84 ID:5XIqJLN+0
バチッ!
母親『きゃっ……』
父親『言いたいことを言わせておけばっ!』
父親『くそっ! なんで、お前に、そこまで言われなきゃいけない!』
母親『……叩いたわね……』
父親『あっ?』
母親『……もう嫌……もう、いやよ……』
母親『これ以上は耐えられない……』
父親『何だと?』
母親『……私と、別れて下さい』
父親『……あ?』
母親『お願いですから……もう、別れて下さい』
父親『なっ……』
父親『こ、この……糞女が……』
母親『きゃっ……』
父親『言いたいことを言わせておけばっ!』
父親『くそっ! なんで、お前に、そこまで言われなきゃいけない!』
母親『……叩いたわね……』
父親『あっ?』
母親『……もう嫌……もう、いやよ……』
母親『これ以上は耐えられない……』
父親『何だと?』
母親『……私と、別れて下さい』
父親『……あ?』
母親『お願いですから……もう、別れて下さい』
父親『なっ……』
父親『こ、この……糞女が……』
334: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 19:36:09.37 ID:5XIqJLN+0
母親『……お願いです……』
父親『うるせぇっ!』
バンッ!
母親『……うっ』
父親『別れないぞっ! 絶対に別れてやるもんかっ!』
バゴッ!
母親『……くふっ……』
父親『お前だけいい思いをするなんて、そんなこと……』
たたたたたっ!
父親『あ……』
男『やめてっ!』
ガバッ……。
母親『……男……?』
父親『うるせぇっ!』
バンッ!
母親『……うっ』
父親『別れないぞっ! 絶対に別れてやるもんかっ!』
バゴッ!
母親『……くふっ……』
父親『お前だけいい思いをするなんて、そんなこと……』
たたたたたっ!
父親『あ……』
男『やめてっ!』
ガバッ……。
母親『……男……?』
335: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 19:36:41.62 ID:5XIqJLN+0
男『もう母さんに乱暴するなっ!』
父親『ち、違うんだ……』
男『殴るなら俺を殴れっ。それで気が済むなら、我慢するからっ!』
父親『……あ、ああ……』
男『母さん……母さん……』
母親『……う……うぅ……』
男『もう大丈夫だから……大丈夫だからさ』
母親『……うぅ……ああ……うあああ……』
男『うん……僕が、母さんを守るよ……』
父親『…………』
父親『……俺は』
父親『ち、違うんだ……』
男『殴るなら俺を殴れっ。それで気が済むなら、我慢するからっ!』
父親『……あ、ああ……』
男『母さん……母さん……』
母親『……う……うぅ……』
男『もう大丈夫だから……大丈夫だからさ』
母親『……うぅ……ああ……うあああ……』
男『うん……僕が、母さんを守るよ……』
父親『…………』
父親『……俺は』
336: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 19:36:53.50 ID:5XIqJLN+0
父親『な、なんてことを……』
父親『………ああ』
父親『…………』
父親『……手が震える』
父親『……駄目だ……』
父親『……もう……』
父親『俺は……』
父親『…………』
父親『………ああ』
父親『…………』
父親『……手が震える』
父親『……駄目だ……』
父親『……もう……』
父親『俺は……』
父親『…………』
342: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:19:06.58 ID:5XIqJLN+0
……………。
………。
男「…………」
……ン……ン。
男「…………」
コンコンっ!
男「あっ……」
……ガチャ。
妹「……お兄ちゃん?」
男「な、何だ……?」
妹「結構、扉をノックしたんですよ」
男「あ、ああ……気づかなかったみたいだ……」
………。
男「…………」
……ン……ン。
男「…………」
コンコンっ!
男「あっ……」
……ガチャ。
妹「……お兄ちゃん?」
男「な、何だ……?」
妹「結構、扉をノックしたんですよ」
男「あ、ああ……気づかなかったみたいだ……」
343: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:19:24.58 ID:5XIqJLN+0
妹「その、大丈夫……?」
男「……何がだ?」
妹「顔、真っ青です……」
男「……え」
妹「体調が悪いなら、また明日にしますよ?」
男「いや、いいんだ……」
妹「で、でも……」
男「ほら、入って入って」
妹「……お兄ちゃんがそう言うなら」
男「よし」
男「でも……ちょっとだけ、時間くれ」
妹「はい……」
男「……何がだ?」
妹「顔、真っ青です……」
男「……え」
妹「体調が悪いなら、また明日にしますよ?」
男「いや、いいんだ……」
妹「で、でも……」
男「ほら、入って入って」
妹「……お兄ちゃんがそう言うなら」
男「よし」
男「でも……ちょっとだけ、時間くれ」
妹「はい……」
344: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:19:48.71 ID:5XIqJLN+0
男「…………」
妹「…………」
男「……ふぅー……」
妹「お兄ちゃん……?」
男「いや、少し嫌な記憶を思い出してな」
妹「嫌な記憶?」
男「まぁ、なんていうか……」
男「思い出したくない過去って、誰にも一つや二つあるだろ?」
妹「……その」
男「ん?」
妹「わたしは昔のこと覚えてないので……」
男「……あっ、ごめん……」
妹「…………」
男「……ふぅー……」
妹「お兄ちゃん……?」
男「いや、少し嫌な記憶を思い出してな」
妹「嫌な記憶?」
男「まぁ、なんていうか……」
男「思い出したくない過去って、誰にも一つや二つあるだろ?」
妹「……その」
男「ん?」
妹「わたしは昔のこと覚えてないので……」
男「……あっ、ごめん……」
345: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:20:11.60 ID:5XIqJLN+0
妹「いや、いいんです」
男「くそっ……何やってんだ俺」
妹「余り気にしないで下さいね?」
男「本当に悪い……まだ頭がうまく切り替わってないみたいだ」
妹「……あの──」
妹「聞いてもいいですか?」
男「ん? 今、思い出した過去をか?」
妹「そうじゃなくて……その」
男「うん」
妹「昔の記憶があるって、どんな感じなんですか?」
男「……それは」
妹「やっぱり、唐突にぱっと思い浮かんだりするんですか?」
男「……たまにだけどね」
男「くそっ……何やってんだ俺」
妹「余り気にしないで下さいね?」
男「本当に悪い……まだ頭がうまく切り替わってないみたいだ」
妹「……あの──」
妹「聞いてもいいですか?」
男「ん? 今、思い出した過去をか?」
妹「そうじゃなくて……その」
男「うん」
妹「昔の記憶があるって、どんな感じなんですか?」
男「……それは」
妹「やっぱり、唐突にぱっと思い浮かんだりするんですか?」
男「……たまにだけどね」
346: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:20:32.45 ID:5XIqJLN+0
妹「それは楽しかった記憶も?」
男「もちろんだ……というより」
男「嫌な記憶を思い出すなんてことはめったにない」
妹「でも、時にはある……」
男「……稀にだけど」
妹「そういう時、お兄ちゃんはどうしてます?」
男「どうするっていうのは?」
妹「辛くて苦しくて、とっても悲しいような、嫌な思い出が沸き起こった時」
妹「お兄ちゃんは、それをどうやって対処してるんですか?」
男「……そうだな」
妹「…………」
男「もちろんだ……というより」
男「嫌な記憶を思い出すなんてことはめったにない」
妹「でも、時にはある……」
男「……稀にだけど」
妹「そういう時、お兄ちゃんはどうしてます?」
男「どうするっていうのは?」
妹「辛くて苦しくて、とっても悲しいような、嫌な思い出が沸き起こった時」
妹「お兄ちゃんは、それをどうやって対処してるんですか?」
男「……そうだな」
妹「…………」
347: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:21:05.55 ID:5XIqJLN+0
男「受け入れる」
妹「『受け入れる』?」
男「……どう足掻いたって、過去は変えられない」
妹「……はい」
男「どんなにやるせなくて、なんとかしたくても」
男「過ぎてしまった日々は、もうやり直すことは出来ないんだ」
妹「…………」
男「だから、受け入れる」
男「前へと進む」
妹「……ん」
男「そうしないといけない」
男「いや、そうするしか方法がない」
妹「『受け入れる』?」
男「……どう足掻いたって、過去は変えられない」
妹「……はい」
男「どんなにやるせなくて、なんとかしたくても」
男「過ぎてしまった日々は、もうやり直すことは出来ないんだ」
妹「…………」
男「だから、受け入れる」
男「前へと進む」
妹「……ん」
男「そうしないといけない」
男「いや、そうするしか方法がない」
348: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:21:34.90 ID:5XIqJLN+0
妹「……そうですか」
男「俺もさ、昔やったヘマを今でも思い出す」
男「何で、あの時、ああしてなかったんだろうって」
男「悔しくて、でも、どうしようもなくて」
妹「…………」
男「苦しいし、もがき続けてしまうこともあるよ」
男「でも、それに意味はないんだ」
妹「本当に?」
男「うん」
男「後悔をし続けても、その先には何もない」
男「終わり無き道が永遠と続いているだけなんだ」
妹「…………」
男「だからこそ、時には振り返ってしまうかもしれないけど」
男「ひたすらに、必死に、前へと足を進める」
男「俺もさ、昔やったヘマを今でも思い出す」
男「何で、あの時、ああしてなかったんだろうって」
男「悔しくて、でも、どうしようもなくて」
妹「…………」
男「苦しいし、もがき続けてしまうこともあるよ」
男「でも、それに意味はないんだ」
妹「本当に?」
男「うん」
男「後悔をし続けても、その先には何もない」
男「終わり無き道が永遠と続いているだけなんだ」
妹「…………」
男「だからこそ、時には振り返ってしまうかもしれないけど」
男「ひたすらに、必死に、前へと足を進める」
349: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:22:03.30 ID:5XIqJLN+0
男「結局、それが一番なんだ」
妹「……凄いですね」
男「……そう思うか?」
妹「はい、凄く強いと思います」
男「……強くなんかないよ」
妹「でも、そうやって過去を乗り越えられるって」
妹「そう容易くできない気がするんです」
男「……俺は、ただ」
男「『今』に必死なんだと思う」
妹「……今……」
男「だから、後ろを振り返る余裕がないだけなんだ」
男「強くなんかないし、凄いわけでもない」
男「ただ、がむしゃらに生きてるだけ」
妹「……凄いですね」
男「……そう思うか?」
妹「はい、凄く強いと思います」
男「……強くなんかないよ」
妹「でも、そうやって過去を乗り越えられるって」
妹「そう容易くできない気がするんです」
男「……俺は、ただ」
男「『今』に必死なんだと思う」
妹「……今……」
男「だから、後ろを振り返る余裕がないだけなんだ」
男「強くなんかないし、凄いわけでもない」
男「ただ、がむしゃらに生きてるだけ」
350: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:22:32.68 ID:5XIqJLN+0
妹「……それでも」
妹「わたしは、お兄ちゃんを立派だと思いますよ」
男「…………」
妹「いつか、わたしも」
男「……ん?」
妹「これから、仮に記憶が戻ったとしても」
妹「そうやって、前へと進むような強い意志があるといいです」
男「…………」
妹「わたしが記憶を失った理由。自らで、自分の命を断とうと思った訳」
妹「お兄ちゃんは事情を知っていると思いますが」
妹「それを、わたしは何ひとつ知りません」
男「……うん」
妹「相当、辛い過去なんだと思います」
妹「わたしは、お兄ちゃんを立派だと思いますよ」
男「…………」
妹「いつか、わたしも」
男「……ん?」
妹「これから、仮に記憶が戻ったとしても」
妹「そうやって、前へと進むような強い意志があるといいです」
男「…………」
妹「わたしが記憶を失った理由。自らで、自分の命を断とうと思った訳」
妹「お兄ちゃんは事情を知っていると思いますが」
妹「それを、わたしは何ひとつ知りません」
男「……うん」
妹「相当、辛い過去なんだと思います」
351: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:23:01.31 ID:5XIqJLN+0
妹「だからこそ、今のような自分になったんだと思います」
男「……それは」
妹「お兄ちゃんのような、強い意志」
妹「躊躇わず、今を生きようとするその覚悟」
男「…………」
妹「わたしに、その時が来ても」
妹「どうか、授かっていますように」
男「……妹」
妹「もし、それでも──」
男「……それは」
妹「お兄ちゃんのような、強い意志」
妹「躊躇わず、今を生きようとするその覚悟」
男「…………」
妹「わたしに、その時が来ても」
妹「どうか、授かっていますように」
男「……妹」
妹「もし、それでも──」
352: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:23:24.83 ID:5XIqJLN+0
妹「わたし一人じゃ、どうにもならない程のものだったとしたら」
妹「お兄ちゃん……」
男「……ああ」
妹「わたしの側にいて……」
妹「一緒に、背負ってくれますか? 助けてくれますか?」
男「…………」
男「……もちろん」
男「──そのつもりだよ」
……………。
………。
妹「お兄ちゃん……」
男「……ああ」
妹「わたしの側にいて……」
妹「一緒に、背負ってくれますか? 助けてくれますか?」
男「…………」
男「……もちろん」
男「──そのつもりだよ」
……………。
………。
357: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:55:35.21 ID:5XIqJLN+0
男『今度こそ、負けないからなっ』
親友『倒せるもんなら倒してみろよ』
男『ちっ、いい気になりやがって』
親友『そりゃ、今まで全勝だから、いい気分ではあるね』
男『くそっ……絶対に倒してやる』
妹『頑張れーっ!』
親友『……おい』
妹『もぐもぐ……ん? わたし?』
親友『菓子食ってばかりいる、そこのお前だよ』
妹『なによ、お兄ちゃん』
親友『そうだ、お前は俺の妹だろ?』
妹『だから?』
親友『倒せるもんなら倒してみろよ』
男『ちっ、いい気になりやがって』
親友『そりゃ、今まで全勝だから、いい気分ではあるね』
男『くそっ……絶対に倒してやる』
妹『頑張れーっ!』
親友『……おい』
妹『もぐもぐ……ん? わたし?』
親友『菓子食ってばかりいる、そこのお前だよ』
妹『なによ、お兄ちゃん』
親友『そうだ、お前は俺の妹だろ?』
妹『だから?』
358: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:55:52.55 ID:5XIqJLN+0
親友『応援するのは、俺にしろって』
妹『んー……』
妹『やっぱ、兄さんを応援する』
親友『なっ……』
男『残念だったな。この子は優しい『兄さん』がいいみたいだ』
なでなで。
妹『ふふっ』
親友『ちっ……今に見てろよ』
男『はは、燃えてきたじゃねぇかっ』
……………。
妹『んー……』
妹『やっぱ、兄さんを応援する』
親友『なっ……』
男『残念だったな。この子は優しい『兄さん』がいいみたいだ』
なでなで。
妹『ふふっ』
親友『ちっ……今に見てろよ』
男『はは、燃えてきたじゃねぇかっ』
……………。
359: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:56:12.44 ID:5XIqJLN+0
男『よっしゃーっ!』
妹『やったね! 兄さんっ!』
親友『……まぐれだ……絶対、まぐれだ……』
男『うおおおっ! 勝利の雄叫びっ!』
妹『ひゃあほおおおっ!』
ぎゅっ。
男『この可愛いやつめっ!』
妹『うわっ、に、兄さん……』
男『あ……ご、ごめん』
妹『……え、ええと』
男『その……感極まってさ……本当に悪い……』
妹『い、いや、別に……』
妹『やったね! 兄さんっ!』
親友『……まぐれだ……絶対、まぐれだ……』
男『うおおおっ! 勝利の雄叫びっ!』
妹『ひゃあほおおおっ!』
ぎゅっ。
男『この可愛いやつめっ!』
妹『うわっ、に、兄さん……』
男『あ……ご、ごめん』
妹『……え、ええと』
男『その……感極まってさ……本当に悪い……』
妹『い、いや、別に……』
360: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:56:31.76 ID:5XIqJLN+0
親友『…………』
親友『おーい、そこのお二人さん』
男・妹『は、はいっ!?』
親友『キリもいいし、そろそろゲームを止めよう』
男『ん? いいのか、俺の勝ちで終わりで』
親友『ふんっ、たかが一勝で何言ってんだよ』
男『……まあ、そうりゃそうだけど』
妹『良かったね、兄さん。勝ち逃げだよ』
男『お、おう』
親友『そんなことより──』
親友『じゃーん、これはなんでしょう?』
男『ん? ビデオ?』
妹『あっ!』
親友『おーい、そこのお二人さん』
男・妹『は、はいっ!?』
親友『キリもいいし、そろそろゲームを止めよう』
男『ん? いいのか、俺の勝ちで終わりで』
親友『ふんっ、たかが一勝で何言ってんだよ』
男『……まあ、そうりゃそうだけど』
妹『良かったね、兄さん。勝ち逃げだよ』
男『お、おう』
親友『そんなことより──』
親友『じゃーん、これはなんでしょう?』
男『ん? ビデオ?』
妹『あっ!』
361: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:57:16.42 ID:5XIqJLN+0
親友『実は、こないだ借りてきた映画があるんだ』
妹『……それは……』
男『?』
親友『他の奴は全部二人で見たんだが』
親友『この一本だけは、未だに見る事ができない』
妹『お兄ちゃん……やめようよ……』
男『どういうことだ?』
親友『見てみろ』
男『……ん……』
男『……ホラー映画か?』
親友『正解』
妹『……うぅ……』
男『ああ、だから嫌がってたわけか』
妹『……それは……』
男『?』
親友『他の奴は全部二人で見たんだが』
親友『この一本だけは、未だに見る事ができない』
妹『お兄ちゃん……やめようよ……』
男『どういうことだ?』
親友『見てみろ』
男『……ん……』
男『……ホラー映画か?』
親友『正解』
妹『……うぅ……』
男『ああ、だから嫌がってたわけか』
362: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:57:27.53 ID:5XIqJLN+0
親友『そこで、今日こそは、これを見ようと思う』
妹『お兄ちゃん……やめようよ……』
親友『何だよ、お前、約束しただろ?』
親友『『兄さんも入れて、三人なら見る』ってさ』
妹『言ったけど……』
男『…………』
親友『てなわけで、鑑賞タイムだ』
親友『部屋も暗くして、雰囲気も出そう』
……………。
妹『お兄ちゃん……やめようよ……』
親友『何だよ、お前、約束しただろ?』
親友『『兄さんも入れて、三人なら見る』ってさ』
妹『言ったけど……』
男『…………』
親友『てなわけで、鑑賞タイムだ』
親友『部屋も暗くして、雰囲気も出そう』
……………。
363: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:57:45.26 ID:5XIqJLN+0
──ぎゃあああああああっ!
妹『きゃああああああっ!』
ぎゅっ!
男『……あっ……』
妹『やだやだっ! もういやっ!』
親友『うわぁ……想像以上にグロいな……』
妹『兄さん兄さんっ』
男『……な、なんだよ』
妹『もう……怖いシーン終わった?』
親友『終わったぞ』
──うぎゃあああああああっ!
妹『嘘つきっ!』
親友『はははっ、騙されるほうが悪いんだぞ』
妹『きゃああああああっ!』
ぎゅっ!
男『……あっ……』
妹『やだやだっ! もういやっ!』
親友『うわぁ……想像以上にグロいな……』
妹『兄さん兄さんっ』
男『……な、なんだよ』
妹『もう……怖いシーン終わった?』
親友『終わったぞ』
──うぎゃあああああああっ!
妹『嘘つきっ!』
親友『はははっ、騙されるほうが悪いんだぞ』
364: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:58:13.68 ID:5XIqJLN+0
妹『もうやだよぉ……やめようよぉ……』
ぎゅっ!!
男『……お、おう』
親友『本当に、妹は怖い系、苦手だよなぁ』
親友『あー、部屋からカメラもってくれば良かった』
親友『今なら妹のベストショット撮れたのになぁ』
男『おい、タチが悪いぞ』
妹『そうだよ、お兄ちゃんっ!』
親友『分かってるって。撮らないからさ』
妹『……兄さん、終わった?』
男『……うん、大丈夫』
ぎゅっ!!
男『……お、おう』
親友『本当に、妹は怖い系、苦手だよなぁ』
親友『あー、部屋からカメラもってくれば良かった』
親友『今なら妹のベストショット撮れたのになぁ』
男『おい、タチが悪いぞ』
妹『そうだよ、お兄ちゃんっ!』
親友『分かってるって。撮らないからさ』
妹『……兄さん、終わった?』
男『……うん、大丈夫』
365: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 20:58:52.08 ID:5XIqJLN+0
妹『はぁ……やっと見れるよ……』
男『…………』
妹『ねぇ、兄さん』
男『ん?』
妹『終わるまで、手握っててもいい?』
男『……え』
妹『だ、駄目かな?』
男『……い、いいよ』
妹『ありがと、兄さん』
男『…………』
男『…………』
妹『ねぇ、兄さん』
男『ん?』
妹『終わるまで、手握っててもいい?』
男『……え』
妹『だ、駄目かな?』
男『……い、いいよ』
妹『ありがと、兄さん』
男『…………』
370: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 21:57:25.41 ID:5XIqJLN+0
──会社
男「……あの」
上司「ああ、来てくれたか」
男「その、何か、ミスでもしましたでしょうか?」
上司「いや……お前は、ここ最近、よくやってくれている」
男「そうですか……でも、何の用件で?」
上司「聞いたぞ」
男「……は?」
上司「なぜ、もっと早く言わなかった」
男「すみません……その何の話か……」
上司「なかなか、隙を見せない奴だな」
上司「……いや、流石といったところか」
男「……はい?」
男「……あの」
上司「ああ、来てくれたか」
男「その、何か、ミスでもしましたでしょうか?」
上司「いや……お前は、ここ最近、よくやってくれている」
男「そうですか……でも、何の用件で?」
上司「聞いたぞ」
男「……は?」
上司「なぜ、もっと早く言わなかった」
男「すみません……その何の話か……」
上司「なかなか、隙を見せない奴だな」
上司「……いや、流石といったところか」
男「……はい?」
371: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 21:57:48.90 ID:5XIqJLN+0
上司「お前、社長の息子なんだろ?」
男「……え」
上司「さきほど呼び出されたよ」
上司「『いままで黙っていたが、実は……』とな」
男「社長からですか……?」
上司「ああ、全く気がつかなかった」
男「……その」
上司「別に隠していたことを怒っている訳じゃない」
上司「ただ、そんな重大なことに気づけなかった自分を恥じると同時に」
上司「驕りや高慢な態度をとらないお前を凄いなと思ってな」
男「……いや」
上司「正直に言おうか」
上司「ただただ、感心したよ。降参だ」
男「……え」
上司「さきほど呼び出されたよ」
上司「『いままで黙っていたが、実は……』とな」
男「社長からですか……?」
上司「ああ、全く気がつかなかった」
男「……その」
上司「別に隠していたことを怒っている訳じゃない」
上司「ただ、そんな重大なことに気づけなかった自分を恥じると同時に」
上司「驕りや高慢な態度をとらないお前を凄いなと思ってな」
男「……いや」
上司「正直に言おうか」
上司「ただただ、感心したよ。降参だ」
372: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 21:58:05.87 ID:5XIqJLN+0
男「……いや、そんなことは全くありません」
上司「それだっ!」
男「へ?」
上司「その低姿勢が君の魅力なんだ」
上司「身分が判明したというのに」
上司「まだ続けようとする、根っからの素直さ」
男「…………」
上司「今まで、なぜかと疑問に思っていたんだが」
上司「やっとしっくりとくる理由が分かった」
男「……疑問ですか?」
上司「ほら、そのだな、初めのうちは君に厳しく当たっただろ?」
男「いえ、それは僕に必要なことでした」
上司「それだっ!」
男「へ?」
上司「その低姿勢が君の魅力なんだ」
上司「身分が判明したというのに」
上司「まだ続けようとする、根っからの素直さ」
男「…………」
上司「今まで、なぜかと疑問に思っていたんだが」
上司「やっとしっくりとくる理由が分かった」
男「……疑問ですか?」
上司「ほら、そのだな、初めのうちは君に厳しく当たっただろ?」
男「いえ、それは僕に必要なことでした」
373: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 21:59:09.39 ID:5XIqJLN+0
上司「君はそう言ってくれるが、やはり私怨がなかったとは言い切れない」
上司「かわいがっていた部下が飛ばされて、確かに、君へ当たった」
男「そんなことは──」
上司「いや、そこは謝らせて欲しい。申し訳なかった」
男「そんな、頭を上げて下さい……」
上司「けれどだ。君をいつの間にか、慕っている自分に気がついた」
上司「初めは無能な部下……いや、これまた、すまん」
上司「その、新入りを俺が鍛えてやろうという気持ちだと思っていたんだが」
上司「無駄に、私の仕事に連れて行きたくなり」
上司「多少のミスも何故だか、自然と許せるようになっていた」
男「……そうだったんですか?」
上司「それが、君の魅力だよ」
上司「かわいがっていた部下が飛ばされて、確かに、君へ当たった」
男「そんなことは──」
上司「いや、そこは謝らせて欲しい。申し訳なかった」
男「そんな、頭を上げて下さい……」
上司「けれどだ。君をいつの間にか、慕っている自分に気がついた」
上司「初めは無能な部下……いや、これまた、すまん」
上司「その、新入りを俺が鍛えてやろうという気持ちだと思っていたんだが」
上司「無駄に、私の仕事に連れて行きたくなり」
上司「多少のミスも何故だか、自然と許せるようになっていた」
男「……そうだったんですか?」
上司「それが、君の魅力だよ」
374: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 21:59:39.51 ID:5XIqJLN+0
上司「上の身分の者が醸し出す、独特な高圧感が君にはない」
男「……はぁ」
上司「本当に、今まで、その才能を持っていたというのに」
上司「どこで胡座をかいていたというんだ」
男「……その」
上司「……まあ、そんなことはどうでもいい」
上司「ただ、少しだけ忠告をしておこうと思ってな」
男「忠告ですか?」
上司「というより、だてに長く生きていない年配者の知恵というか、だな」
上司「それを君に授けたい」
男「あ、ありがとうございます……?」
上司「どうせ私は後数年経ったら、定年の身分だ」
上司「出世が遅くてね。もうこれ以上、上にはいけないだろう」
男「いや、そんなことは……」
男「……はぁ」
上司「本当に、今まで、その才能を持っていたというのに」
上司「どこで胡座をかいていたというんだ」
男「……その」
上司「……まあ、そんなことはどうでもいい」
上司「ただ、少しだけ忠告をしておこうと思ってな」
男「忠告ですか?」
上司「というより、だてに長く生きていない年配者の知恵というか、だな」
上司「それを君に授けたい」
男「あ、ありがとうございます……?」
上司「どうせ私は後数年経ったら、定年の身分だ」
上司「出世が遅くてね。もうこれ以上、上にはいけないだろう」
男「いや、そんなことは……」
375: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 21:59:56.01 ID:5XIqJLN+0
上司「でも、君は違う」
男「…………」
上司「創業者である社長の息子だ」
上司「今しばらくは下っ端で経験させているだろうが」
上司「もう少し経てば、自ずと上の役に就くだろう」
男「……それは」
上司「今ではもう若くない社長も」
上司「ゆくゆくは、会社を息子に継がせたいと思っているはずだ」
上司「君が今後、幾ら無能だったとしても」
上司「自然と重役となり、ひいては、社の長となるだろう」
男「…………」
上司「だが、それでは、部下はついてこないぞ?」
上司「馬鹿な上司だと思われて、身内は敵ばかりとなる」
男「……はい」
男「…………」
上司「創業者である社長の息子だ」
上司「今しばらくは下っ端で経験させているだろうが」
上司「もう少し経てば、自ずと上の役に就くだろう」
男「……それは」
上司「今ではもう若くない社長も」
上司「ゆくゆくは、会社を息子に継がせたいと思っているはずだ」
上司「君が今後、幾ら無能だったとしても」
上司「自然と重役となり、ひいては、社の長となるだろう」
男「…………」
上司「だが、それでは、部下はついてこないぞ?」
上司「馬鹿な上司だと思われて、身内は敵ばかりとなる」
男「……はい」
376: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 22:00:31.49 ID:5XIqJLN+0
上司「だからこそ、今の君の魅力を将来にも生かすんだ」
上司「加えて、実績も出せば、誰一人文句を言わないはずだ」
上司「例えそれが、コネでのし上がった若者であっても、な」
男「……あ」
上司「分かっただろ?」
上司「少しでも私の想いが伝わればいいと思っている」
上司「しかし、本当に、君は恵まれているな」
男「……そうでしょうか?」
上司「何を言ってるんだ。もっと親に感謝しなさい」
男「親に……」
上司「君をこの世界に誕生させ、ここまで育ててくれたんだ」
上司「その魅力ある性格も加えてだ」
男「……そう、ですね」
上司「ああ」
上司「加えて、実績も出せば、誰一人文句を言わないはずだ」
上司「例えそれが、コネでのし上がった若者であっても、な」
男「……あ」
上司「分かっただろ?」
上司「少しでも私の想いが伝わればいいと思っている」
上司「しかし、本当に、君は恵まれているな」
男「……そうでしょうか?」
上司「何を言ってるんだ。もっと親に感謝しなさい」
男「親に……」
上司「君をこの世界に誕生させ、ここまで育ててくれたんだ」
上司「その魅力ある性格も加えてだ」
男「……そう、ですね」
上司「ああ」
377: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 22:00:51.16 ID:5XIqJLN+0
男「そうだ……」
男「……そうだよ……」
上司「ん?」
男「今の自分がいるのは……親のおかげ……」
男「だからこそ、俺は……」
上司「お、おい、どうした?」
男「なんで、こんな大事なこと……」
男「……でも」
男「どうすればいい……?」
男「俺は……一体……」
男「…………」
男「やっぱり……駄目だ」
男「……この世界からは、もう抜け出せない……」
男「母さん……」
男「……ごめんね……」
男「……そうだよ……」
上司「ん?」
男「今の自分がいるのは……親のおかげ……」
男「だからこそ、俺は……」
上司「お、おい、どうした?」
男「なんで、こんな大事なこと……」
男「……でも」
男「どうすればいい……?」
男「俺は……一体……」
男「…………」
男「やっぱり……駄目だ」
男「……この世界からは、もう抜け出せない……」
男「母さん……」
男「……ごめんね……」
384: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 22:51:44.33 ID:5XIqJLN+0
──車内
妹「わたしに、月に一度の検査って、なんか不思議ですよね」
男「どうしてだ?」
妹「だって、病院に行ったところで、記憶が戻るわけないじゃないですか」
男「それはそうだが……」
妹「家に戻ってから数ヶ月」
妹「けれど、一向に過去を思い出す気配もないんですから」
男「……それでも」
男「やっぱり、お医者さんに見てもらうのは大事だよ」
妹「……分かってはいるんですが」
妹「どうも駄目ですね。最近、ネガティブな思考ばっかりです」
男「…………」
妹「わたしに、月に一度の検査って、なんか不思議ですよね」
男「どうしてだ?」
妹「だって、病院に行ったところで、記憶が戻るわけないじゃないですか」
男「それはそうだが……」
妹「家に戻ってから数ヶ月」
妹「けれど、一向に過去を思い出す気配もないんですから」
男「……それでも」
男「やっぱり、お医者さんに見てもらうのは大事だよ」
妹「……分かってはいるんですが」
妹「どうも駄目ですね。最近、ネガティブな思考ばっかりです」
男「…………」
385: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 22:52:37.39 ID:5XIqJLN+0
妹「お兄ちゃんはなんでだと思いますか?」
男「ん?」
妹「わたしの記憶が未だに戻らない理由」
男「それは……」
妹「お兄ちゃんが、どう考えているのか、聞きたいです」
男「……いや、俺は専門家じゃないから分からないよ」
妹「お願いします」
男「…………」
妹「…………」
男「……はぁ」
男「こんなことは言いたくないんだが……」
男「昔の生活をなぞっているのに、過去を思い出せないってことは」
男「それが今の日々に必要ないってことなんじゃないか」
男「ん?」
妹「わたしの記憶が未だに戻らない理由」
男「それは……」
妹「お兄ちゃんが、どう考えているのか、聞きたいです」
男「……いや、俺は専門家じゃないから分からないよ」
妹「お願いします」
男「…………」
妹「…………」
男「……はぁ」
男「こんなことは言いたくないんだが……」
男「昔の生活をなぞっているのに、過去を思い出せないってことは」
男「それが今の日々に必要ないってことなんじゃないか」
386: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 22:53:05.35 ID:5XIqJLN+0
妹「……必要ない?」
男「もしかしたら、記憶があること自体、問題なのかもしれない」
男「思い出すことによって、今に支障をきたすからこそ」
男「身体が無意識のうちにそうさせているんだと思う」
妹「……自殺未遂するほどですからね」
男「もう、やめよう……」
男「これが建設的な会話だとは、俺には思えない」
妹「でも、お兄ちゃんの意見はすごく参考になりました」
妹「何となく、わたしもそんな気がします」
男「…………」
妹「最近、わたし、思うんです」
男「……さっきの話の続きか?」
妹「はい」
男「もしかしたら、記憶があること自体、問題なのかもしれない」
男「思い出すことによって、今に支障をきたすからこそ」
男「身体が無意識のうちにそうさせているんだと思う」
妹「……自殺未遂するほどですからね」
男「もう、やめよう……」
男「これが建設的な会話だとは、俺には思えない」
妹「でも、お兄ちゃんの意見はすごく参考になりました」
妹「何となく、わたしもそんな気がします」
男「…………」
妹「最近、わたし、思うんです」
男「……さっきの話の続きか?」
妹「はい」
388: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 22:53:33.24 ID:5XIqJLN+0
男「なら、今は聞きたくないな」
男「病院に着いて、検査を受け終わってからにしよう」
妹「……これで最後にします」
男「……ふぅ」
男「分かったよ……」
妹「……ありがとう」
男「…………」
妹「その、わたしが記憶が戻らないのには多分大きな訳があるんです」
男「……どうして、そう思う?」
妹「調べたんですが、大抵の記憶喪失はすぐに治るみたいです」
妹「それは今までの生活をなぞったりすれば、次第に気づくから」
男「……ああ、だから、今もそうしてるだろ?」
男「病院に着いて、検査を受け終わってからにしよう」
妹「……これで最後にします」
男「……ふぅ」
男「分かったよ……」
妹「……ありがとう」
男「…………」
妹「その、わたしが記憶が戻らないのには多分大きな訳があるんです」
男「……どうして、そう思う?」
妹「調べたんですが、大抵の記憶喪失はすぐに治るみたいです」
妹「それは今までの生活をなぞったりすれば、次第に気づくから」
男「……ああ、だから、今もそうしてるだろ?」
389: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 22:53:56.67 ID:5XIqJLN+0
妹「本当ですか?」
男「どういうことだ……?」
妹「なにか、欠けてるんじゃないんですか?」
男「……は?」
妹「実のところ、わたしも全く思い出せないという訳じゃないんです」
男「……そ、それは本当に?」
妹「はい。誰にも言いませんでしたけど、事実です」
男「いや、待てっ。それは、かなり重要なことなんじゃないか?」
妹「でも、結果的に駄目なんですから意味はないですよ」
男「それでも……」
妹「問題は、思い出そうとする瞬間」
妹「何かが、わたしの記憶が蘇るのを遮ることです」
男「どういうことだ……?」
妹「なにか、欠けてるんじゃないんですか?」
男「……は?」
妹「実のところ、わたしも全く思い出せないという訳じゃないんです」
男「……そ、それは本当に?」
妹「はい。誰にも言いませんでしたけど、事実です」
男「いや、待てっ。それは、かなり重要なことなんじゃないか?」
妹「でも、結果的に駄目なんですから意味はないですよ」
男「それでも……」
妹「問題は、思い出そうとする瞬間」
妹「何かが、わたしの記憶が蘇るのを遮ることです」
390: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 22:54:28.27 ID:5XIqJLN+0
男「……遮る?」
妹「それが何なのか、前までは分からなかったんですけど」
妹「最近、違和感が」
男「……なんだ?」
妹「昔通りと言っている生活に、何か、不自然さを感じるんです」
男「……それは」
男「昔のように、大学に行ってなかったりするからだろ?」
妹「そんな些細なことじゃなくて、もっと根本的な……」
妹「前提をひっくり返すような、そんな感覚です」
男「…………」
妹「お兄ちゃんは、見当つかないですか?」
男「……いや」
妹「それが何なのか、前までは分からなかったんですけど」
妹「最近、違和感が」
男「……なんだ?」
妹「昔通りと言っている生活に、何か、不自然さを感じるんです」
男「……それは」
男「昔のように、大学に行ってなかったりするからだろ?」
妹「そんな些細なことじゃなくて、もっと根本的な……」
妹「前提をひっくり返すような、そんな感覚です」
男「…………」
妹「お兄ちゃんは、見当つかないですか?」
男「……いや」
391: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 22:54:49.76 ID:5XIqJLN+0
男「俺には、分からないよ」
妹「……そうですか」
男「すまん……」
妹「いや、お兄ちゃんがそう言ってるなら、わたしの勘違いなんでしょうね……」
妹「でも……何かが、おかしいんですよ……」
男「…………」
男「……少し、焦りが出てきてるみたいだな」
妹「え?」
男「過去を取り戻せない自分に、憤りを感じているんだろ?」
妹「…………」
男「よし、そうだ。今度、時間を作って、どこか──」
妹「……そうですか」
男「すまん……」
妹「いや、お兄ちゃんがそう言ってるなら、わたしの勘違いなんでしょうね……」
妹「でも……何かが、おかしいんですよ……」
男「…………」
男「……少し、焦りが出てきてるみたいだな」
妹「え?」
男「過去を取り戻せない自分に、憤りを感じているんだろ?」
妹「…………」
男「よし、そうだ。今度、時間を作って、どこか──」
392: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 22:55:18.42 ID:5XIqJLN+0
妹「『前に進みたい』」
男「……え?」
妹「わたしも、前に進みたいんです」
男「…………」
妹「今のままじゃなくて、わたしもお兄ちゃんみたいに」
妹「辛い過去を乗り切って、今を生きたい」
男「……それは……」
妹「ねぇ、お兄ちゃん」
男「……ん?」
妹「最近、見るからにお兄ちゃん、疲れてますよ?」
男「俺が?」
妹「顔も窶れてるし、最近はふざけるのも少なくなりました」
男「……え?」
妹「わたしも、前に進みたいんです」
男「…………」
妹「今のままじゃなくて、わたしもお兄ちゃんみたいに」
妹「辛い過去を乗り切って、今を生きたい」
男「……それは……」
妹「ねぇ、お兄ちゃん」
男「……ん?」
妹「最近、見るからにお兄ちゃん、疲れてますよ?」
男「俺が?」
妹「顔も窶れてるし、最近はふざけるのも少なくなりました」
394: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 22:56:20.52 ID:5XIqJLN+0
男「は、はは……それは、構って欲しいのか?」
妹「はぐらかさないで」
男「…………」
妹「一体、どうしたんですか?」
男「……別に、なんでもないよ」
妹「仕事のこと?」
男「…………」
妹「それとも、人間関係がうまくいってない?」
男「…………」
妹「或いは……」
妹「わたしのことで……」
妹「はぐらかさないで」
男「…………」
妹「一体、どうしたんですか?」
男「……別に、なんでもないよ」
妹「仕事のこと?」
男「…………」
妹「それとも、人間関係がうまくいってない?」
男「…………」
妹「或いは……」
妹「わたしのことで……」
395: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 22:56:56.25 ID:5XIqJLN+0
男「――違う」
妹「それは、本当に断言できますか……?」
男「違う、お前のことじゃない」
妹「……でも、なら」
男「…………」
男「あまり、人には話したくはないことだ」
妹「…………」
男「でも、強いて言うなら……」
男「自分自身の存在意義に、疑問を感じてる……ってとこだ」
……………。
………。
妹「それは、本当に断言できますか……?」
男「違う、お前のことじゃない」
妹「……でも、なら」
男「…………」
男「あまり、人には話したくはないことだ」
妹「…………」
男「でも、強いて言うなら……」
男「自分自身の存在意義に、疑問を感じてる……ってとこだ」
……………。
………。
399: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 23:24:25.59 ID:5XIqJLN+0
担任『よし、配り終わったな』
担任『では、志望先を記入しておいてくれよ』
担任『書き終わったら、委員長に渡すか』
担任『それが嫌なら、職員室の私のところまで自分で持ってくるように』
キーンコーンカーンコーン。
担任『……チャイムが鳴ったな』
担任『くれぐれも、適当に書くことはないように』
担任『分かったな?』
担任『では、また明日』
……………。
担任『では、志望先を記入しておいてくれよ』
担任『書き終わったら、委員長に渡すか』
担任『それが嫌なら、職員室の私のところまで自分で持ってくるように』
キーンコーンカーンコーン。
担任『……チャイムが鳴ったな』
担任『くれぐれも、適当に書くことはないように』
担任『分かったな?』
担任『では、また明日』
……………。
400: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 23:24:49.07 ID:5XIqJLN+0
男『んー』
親友『どうした? もう書けたか?』
男『今のところ、普通に進学するつもりなんだけど』
男『どこの高校にしようかなって思ってさ』
親友『何だよ、俺と一緒じゃないのか?』
男『だって、お前、頭いいだろ? 俺は入れそうもないよ』
親友『何言ってんだ。今まで通り二人三脚で助けるぞ?』
男『それはありがたいが……』
男『いつまでも、お前の足を引っ張ってばかりじゃなあ……』
親友『そんなこと言わず、これからも仲良くやろうぜ』
親友『俺はお前と同じ高校いけるなら、少しぐらい苦労構わないさ』
男『……本当か?』
親友『もちろん』
親友『どうした? もう書けたか?』
男『今のところ、普通に進学するつもりなんだけど』
男『どこの高校にしようかなって思ってさ』
親友『何だよ、俺と一緒じゃないのか?』
男『だって、お前、頭いいだろ? 俺は入れそうもないよ』
親友『何言ってんだ。今まで通り二人三脚で助けるぞ?』
男『それはありがたいが……』
男『いつまでも、お前の足を引っ張ってばかりじゃなあ……』
親友『そんなこと言わず、これからも仲良くやろうぜ』
親友『俺はお前と同じ高校いけるなら、少しぐらい苦労構わないさ』
男『……本当か?』
親友『もちろん』
401: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 23:25:16.30 ID:5XIqJLN+0
男『申し訳ないな……いつも、迷惑かけて』
親友『いいよ、気にすんな』
男『はは、持つべきものはやっぱり友だ』
親友『だなっ』
男『そうだ、この後どうする?』
親友『ん? どっか遊びにでも行くか?』
男『隣街のゲーセン行ってみないか? 新型色々入ってるらしいぞ』
親友『ただ、今月厳しいからなぁ』
男『それだと、無理そうだな……』
親友『……そうだ』
男『ん?』
親友『久しぶりに俺ん家来ないか?』
親友『いいよ、気にすんな』
男『はは、持つべきものはやっぱり友だ』
親友『だなっ』
男『そうだ、この後どうする?』
親友『ん? どっか遊びにでも行くか?』
男『隣街のゲーセン行ってみないか? 新型色々入ってるらしいぞ』
親友『ただ、今月厳しいからなぁ』
男『それだと、無理そうだな……』
親友『……そうだ』
男『ん?』
親友『久しぶりに俺ん家来ないか?』
402: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 23:25:36.70 ID:5XIqJLN+0
男『……お前ん家?』
親友『ああ、そこなら金もかからないし』
親友『古いゲームしかないけど、昔みたいに盛り上がろうぜ』
男『あ、うん……』
親友『それにさ……』
親友『妹のやつも、最近、お前と会ってないし』
親友『この前、『兄さんはもう家来ないの……?』って、半泣きだったぞ?』
男『……いや』
親友『どうしたんだ? 何が問題だ?』
男『別に、何かあるってわけじゃないんだが……』
親友『なら、いいだろ?』
男『……気乗りしない』
親友『…………』
男『やっぱり、今日はやめとこう』
親友『ああ、そこなら金もかからないし』
親友『古いゲームしかないけど、昔みたいに盛り上がろうぜ』
男『あ、うん……』
親友『それにさ……』
親友『妹のやつも、最近、お前と会ってないし』
親友『この前、『兄さんはもう家来ないの……?』って、半泣きだったぞ?』
男『……いや』
親友『どうしたんだ? 何が問題だ?』
男『別に、何かあるってわけじゃないんだが……』
親友『なら、いいだろ?』
男『……気乗りしない』
親友『…………』
男『やっぱり、今日はやめとこう』
403: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/09(木) 23:26:08.12 ID:5XIqJLN+0
男『俺も、家でやることあるしな』
親友『……なぁ』
男『ん?』
親友『お前、避けてるだろ?』
男『……何の話だ』
親友『しらばっくれるなよ。こっちは分かってんだぞ?』
男『聞きたくないな、その話は』
トコトコトコ……。
親友『お、おいっ』
男『じゃあな、また明日』
親友『…………』
親友『……何でなんだよ』
親友「何で……』
親友『…………』
親友『……なぁ』
男『ん?』
親友『お前、避けてるだろ?』
男『……何の話だ』
親友『しらばっくれるなよ。こっちは分かってんだぞ?』
男『聞きたくないな、その話は』
トコトコトコ……。
親友『お、おいっ』
男『じゃあな、また明日』
親友『…………』
親友『……何でなんだよ』
親友「何で……』
親友『…………』
412: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:38:27.35 ID:enymi4QR0
──リビング
男性「ふぅ、今日も疲れた」
女性「いつもご苦労様です。仕事の方は順調?」
男性「ああ、今のところはな」
女性「そう、それは良かったですね」
男性「ふむ。で、どうだ。最近、お前の方は」
男「…………」
男性「……ん?」
男「…………」
妹「……お兄ちゃん」
ゆさゆさ……。
男「あっ……な、なに?」
男性「ふぅ、今日も疲れた」
女性「いつもご苦労様です。仕事の方は順調?」
男性「ああ、今のところはな」
女性「そう、それは良かったですね」
男性「ふむ。で、どうだ。最近、お前の方は」
男「…………」
男性「……ん?」
男「…………」
妹「……お兄ちゃん」
ゆさゆさ……。
男「あっ……な、なに?」
413: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:40:47.16 ID:enymi4QR0
男性「いや、最近どうだと聞こうと思ったんだが……」
男性「どうした? 疲れてるのか?」
男「いや、大丈夫だよ。ちょっと……考え事を、ね」
女性「……ご飯もまだ全然食べてない」
女性「もしかして、口に合わなかったかしら?」
男「……違うんだ。いつも通り、おいしいから安心して」
妹「…………」
男「もぐもぐ……うん、やっぱり、母さんは料理上手だな」
男性「はは、そりゃそうだ」
男性「私が何度も何度も、アタックしたというのに」
男性「そうそう首を縦に振らなかったからなあ」
男性「どうした? 疲れてるのか?」
男「いや、大丈夫だよ。ちょっと……考え事を、ね」
女性「……ご飯もまだ全然食べてない」
女性「もしかして、口に合わなかったかしら?」
男「……違うんだ。いつも通り、おいしいから安心して」
妹「…………」
男「もぐもぐ……うん、やっぱり、母さんは料理上手だな」
男性「はは、そりゃそうだ」
男性「私が何度も何度も、アタックしたというのに」
男性「そうそう首を縦に振らなかったからなあ」
414: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:41:41.55 ID:enymi4QR0
女性「だって、あの頃のあなたは、今みたいにお金なかったじゃないですか」
女性「やはり、家庭を築くなら、少ないよりあったほうがいいですし」
男性「でも、結局は、貧乏な私と結婚してくれたんだぞ?」
女性「あまりにもしつこいから、仕方なしです」
男性「はは、そりゃ困ったなぁ」
妹「仲いいんですね」
男性「ん?」
妹「両親が二人とも仲いいって、見てて幸せになります」
女性「そ、そう?」
妹「はい。ねっ、お兄ちゃん」
男「…………」
女性「やはり、家庭を築くなら、少ないよりあったほうがいいですし」
男性「でも、結局は、貧乏な私と結婚してくれたんだぞ?」
女性「あまりにもしつこいから、仕方なしです」
男性「はは、そりゃ困ったなぁ」
妹「仲いいんですね」
男性「ん?」
妹「両親が二人とも仲いいって、見てて幸せになります」
女性「そ、そう?」
妹「はい。ねっ、お兄ちゃん」
男「…………」
415: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:43:00.76 ID:enymi4QR0
妹「……お兄ちゃん?」
男「……聞いてるよ。いいなぁ、仲良くて」
妹「う、うん……」
男「妹がそう言う訳も分かるよ」
男「家庭の幸せってこういうものなんだなって、つくづく実感する」
女性「あら、お父さん。息子が嬉しいこと言ってくれますね」
男性「……あ、ああ……」
男「もし仮に、ここに不幸な家庭しか見てこなかった子供がいたとしたら」
男「羨ましく……いや、妬ましく思う程、幸せな光景だよね」
女性「……え?」
男性「……ちょっと、席を外すぞ」
ガタン……。
男「……聞いてるよ。いいなぁ、仲良くて」
妹「う、うん……」
男「妹がそう言う訳も分かるよ」
男「家庭の幸せってこういうものなんだなって、つくづく実感する」
女性「あら、お父さん。息子が嬉しいこと言ってくれますね」
男性「……あ、ああ……」
男「もし仮に、ここに不幸な家庭しか見てこなかった子供がいたとしたら」
男「羨ましく……いや、妬ましく思う程、幸せな光景だよね」
女性「……え?」
男性「……ちょっと、席を外すぞ」
ガタン……。
416: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:43:28.54 ID:enymi4QR0
男「大丈夫だよ、お父さん。僕は、正気だから」
男性「本当か? やれるのか?」
男「心配しないで。これでも、人一倍の親思いなんですから」
男「今までの人生をかけてきた、実績もありますよ」
男性「…………」
妹「……え、ちょっと、どういう……」
男「いいから、お父さん、座って下さい」
女性「あ、ええと……」
男性「……駄目だな……こっちに来──」
男「どうしたんですか? 何か、問題でも?」
男性「自分でも分からないのか?」
男「何がです?」
男「……これはもう無理だな」
女性「…………」
男性「本当か? やれるのか?」
男「心配しないで。これでも、人一倍の親思いなんですから」
男「今までの人生をかけてきた、実績もありますよ」
男性「…………」
妹「……え、ちょっと、どういう……」
男「いいから、お父さん、座って下さい」
女性「あ、ええと……」
男性「……駄目だな……こっちに来──」
男「どうしたんですか? 何か、問題でも?」
男性「自分でも分からないのか?」
男「何がです?」
男「……これはもう無理だな」
女性「…………」
417: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:43:45.29 ID:enymi4QR0
男性「すまんな……気づけなかった私が悪い」
男「ちょっと待って下さい。みんなも、何か変だと思いますか?」
男性「……………」
女性「……え、えっと」
妹「お、お兄ちゃん……」
男「どうしたんだよ、妹」
男「そんな、異常者を見るような目つきで……もう困るなぁ」
妹「……うぅ」
男「お父さん、いい加減にして下さい」
男「冗談だと言っても、からかわれ続けるのはいい気分がしません」
男性「……………」
妹「……く、口調」
男「ちょっと待って下さい。みんなも、何か変だと思いますか?」
男性「……………」
女性「……え、えっと」
妹「お、お兄ちゃん……」
男「どうしたんだよ、妹」
男「そんな、異常者を見るような目つきで……もう困るなぁ」
妹「……うぅ」
男「お父さん、いい加減にして下さい」
男「冗談だと言っても、からかわれ続けるのはいい気分がしません」
男性「……………」
妹「……く、口調」
418: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:44:30.75 ID:enymi4QR0
男「ん?」
妹「お、お兄ちゃん……喋り方が……」
男「なに? 喋り方?」
妹「……お父さんに、敬語使ってますよ……?」
男「は、はは……そんなことない──」
男「です、よね……お父さん?」
妹「お、お兄ちゃん……喋り方が……」
男「なに? 喋り方?」
妹「……お父さんに、敬語使ってますよ……?」
男「は、はは……そんなことない──」
男「です、よね……お父さん?」
419: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:45:10.78 ID:enymi4QR0
男性「…………」
男「……っ」
男「ごめん、席を外す」
ガタン……。
男性「すまん、仕事で疲れていたみたいだ」
男性「会社での会話が、こっちまで入りこんでしまったんだろう」
男性「気にせず、食事を続けてくれ。なっ?」
女性「は、はい……」
妹「……お兄ちゃん……」
妹「……一体……」
男「……っ」
男「ごめん、席を外す」
ガタン……。
男性「すまん、仕事で疲れていたみたいだ」
男性「会社での会話が、こっちまで入りこんでしまったんだろう」
男性「気にせず、食事を続けてくれ。なっ?」
女性「は、はい……」
妹「……お兄ちゃん……」
妹「……一体……」
420: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:45:36.97 ID:enymi4QR0
──親友の部屋
男「……くそっ!」
男「なんて失態だっ! 何をやってるっ!」
男「馬鹿なことを一人で考えてるから……」
男「……こんな些細なミスを置かすんだっ!」
男「……くっ……」
バタッ!
男「……何が、何が不満なんだ……?」
男「いや……」
男「……俺は、一体、何を恐れてる?」
男「…………」
男「……あ……」
男「……くそっ!」
男「なんて失態だっ! 何をやってるっ!」
男「馬鹿なことを一人で考えてるから……」
男「……こんな些細なミスを置かすんだっ!」
男「……くっ……」
バタッ!
男「……何が、何が不満なんだ……?」
男「いや……」
男「……俺は、一体、何を恐れてる?」
男「…………」
男「……あ……」
421: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:45:53.14 ID:enymi4QR0
男「カメラ……」
男「……あいつの、大好きだった写真撮影」
男「でも……」
男「別に……好きじゃない……」
男「……親友……」
男「ああ……」
男「俺は……」
男「──一体、誰、なんだ……?」
男「…………」
男「……あいつの、大好きだった写真撮影」
男「でも……」
男「別に……好きじゃない……」
男「……親友……」
男「ああ……」
男「俺は……」
男「──一体、誰、なんだ……?」
男「…………」
423: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:46:14.26 ID:enymi4QR0
男「……は、はは……」
男「なんてことだ……」
男「……そんな、自分を見失うなんて……」
男「……親友を演じる事で……自分が分からなくなるなんて……」
男「……はは、はははっ」
男「……うぅ」
男「なんて……滑稽なんだ……」
男「……幸せな家庭」
男「違う、違うっ」
男「俺の家には……そんなものはなかった……」
男「……なら、今は?」
男「今は……」
男「…………」
男「なんてことだ……」
男「……そんな、自分を見失うなんて……」
男「……親友を演じる事で……自分が分からなくなるなんて……」
男「……はは、はははっ」
男「……うぅ」
男「なんて……滑稽なんだ……」
男「……幸せな家庭」
男「違う、違うっ」
男「俺の家には……そんなものはなかった……」
男「……なら、今は?」
男「今は……」
男「…………」
424: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:46:48.64 ID:enymi4QR0
男「分からない……」
男「駄目だ……自分が自分でないようで」
男「頭がおかしくなりそうだ……」
男「……助けてくれ」
男「おい、親友……」
男「……近くにいるなら、狂った俺を助けてくれよ」
男「もう、俺は……」
男「壊れかけているみたいんだ……」
男「…………」
男「…………」
男「……母さん」
男「駄目だ……自分が自分でないようで」
男「頭がおかしくなりそうだ……」
男「……助けてくれ」
男「おい、親友……」
男「……近くにいるなら、狂った俺を助けてくれよ」
男「もう、俺は……」
男「壊れかけているみたいんだ……」
男「…………」
男「…………」
男「……母さん」
425: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:47:18.44 ID:enymi4QR0
男「母さんしか、いない……」
男「今の俺を……正気に戻してくれるのは……」
男「……俺の、たった一人の母さんしかっ──」
……ピピピピピッ!
男「……へ?」
男「か、母さん……?」
……ガバッ!
男「…………」
男「……違う」
男「……何だ? 知らない番号?」
……………。
………。
男「今の俺を……正気に戻してくれるのは……」
男「……俺の、たった一人の母さんしかっ──」
……ピピピピピッ!
男「……へ?」
男「か、母さん……?」
……ガバッ!
男「…………」
男「……違う」
男「……何だ? 知らない番号?」
……………。
………。
426: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:47:45.70 ID:enymi4QR0
親友『少し話がある』
男『なんだよ、朝っぱらから』
親友『……重要な話だ。来てくれ』
男『ここじゃ、出来ない話なのか?』
親友『ああ……ここじゃ無理だ』
男『……分かったよ』
男『お前に付いて行けばいいんだろ?』
親友『助かるな……』
男『いいさ、まだ朝礼までには時間がある』
親友『ああ、それまでには終わらせるよ』
男『…………』
……………。
男『なんだよ、朝っぱらから』
親友『……重要な話だ。来てくれ』
男『ここじゃ、出来ない話なのか?』
親友『ああ……ここじゃ無理だ』
男『……分かったよ』
男『お前に付いて行けばいいんだろ?』
親友『助かるな……』
男『いいさ、まだ朝礼までには時間がある』
親友『ああ、それまでには終わらせるよ』
男『…………』
……………。
427: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:48:10.40 ID:enymi4QR0
男『……さて』
親友『…………』
男『まさか、屋上が開いてるなんてな』
男『確かに、内密な話をするには絶好の場所だが……』
男『お前、このためだけに錠を壊しただなんて言うなよ?』
親友『……だったらどうする?』
男『……え?』
親友『話をしよう』
男『ちょっと待てって』
男『本当にお前が……』
親友『今は、そんなことどうだっていいさ』
男『……でも』
親友『お前に、聞きたいことがあるんだ』
親友『…………』
男『まさか、屋上が開いてるなんてな』
男『確かに、内密な話をするには絶好の場所だが……』
男『お前、このためだけに錠を壊しただなんて言うなよ?』
親友『……だったらどうする?』
男『……え?』
親友『話をしよう』
男『ちょっと待てって』
男『本当にお前が……』
親友『今は、そんなことどうだっていいさ』
男『……でも』
親友『お前に、聞きたいことがあるんだ』
428: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:48:32.53 ID:enymi4QR0
男『……何だよ』
親友『俺の……妹のことだ』
男『…………』
親友『こないだは、うまく逃げられたからな』
男『今日だって、走って逃げるかもしれないぞ?』
親友『残念だったな。扉に近いのは俺の方だ』
親友『そこまで話したくないっていうなら』
親友『俺を殴り倒していけよ』
男『……そんなことするわけないじゃないか』
親友『そうか? よっぽど、話したくないことだと俺は考えてるけどな』
男『…………』
親友『どうして、あいつを避ける』
親友『俺の……妹のことだ』
男『…………』
親友『こないだは、うまく逃げられたからな』
男『今日だって、走って逃げるかもしれないぞ?』
親友『残念だったな。扉に近いのは俺の方だ』
親友『そこまで話したくないっていうなら』
親友『俺を殴り倒していけよ』
男『……そんなことするわけないじゃないか』
親友『そうか? よっぽど、話したくないことだと俺は考えてるけどな』
男『…………』
親友『どうして、あいつを避ける』
430: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:49:30.63 ID:enymi4QR0
男『……避けてないさ』
親友『分かりきった嘘をつくなよ』
男『嘘じゃない。ただ、巡り合わせが悪いだけだ』
親友『違うな。あまりにも、不自然さが臭う』
男『……お前がそう思ってるだけだろ?』
親友『待て。そう、過剰に反発しないでくれ』
親友『ただ、俺は理由を聞いてるだけだ』
男『別に……怒ってないさ……』
親友『そうか? 俺には凄く、感情的に見えるが』
男『いいから、早く聞けよ』
親友『だから、避けている理由を聞いてるんだ』
親友『はぐらかしたら、また同じ質問を繰り返すからな?』
男『……ちっ』
親友『分かりきった嘘をつくなよ』
男『嘘じゃない。ただ、巡り合わせが悪いだけだ』
親友『違うな。あまりにも、不自然さが臭う』
男『……お前がそう思ってるだけだろ?』
親友『待て。そう、過剰に反発しないでくれ』
親友『ただ、俺は理由を聞いてるだけだ』
男『別に……怒ってないさ……』
親友『そうか? 俺には凄く、感情的に見えるが』
男『いいから、早く聞けよ』
親友『だから、避けている理由を聞いてるんだ』
親友『はぐらかしたら、また同じ質問を繰り返すからな?』
男『……ちっ』
431: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:50:51.34 ID:enymi4QR0
男『……簡単だよ』
親友『ん?』
男『もう、幼い女の子と遊ぶ気になれないんだよ』
男『ああ……そういうことだ』
親友『……あんなにアイツに優しかったお前がか?』
男『人は変わるよ』
親友『……違うな』
男『違わない』
親友『いいか、小さい頃からの友達だった俺に嘘をつくな』
男『……別に嘘なんて……』
親友『なら、はっきりと言ってやろうか?』
男『……何を』
親友『ん?』
男『もう、幼い女の子と遊ぶ気になれないんだよ』
男『ああ……そういうことだ』
親友『……あんなにアイツに優しかったお前がか?』
男『人は変わるよ』
親友『……違うな』
男『違わない』
親友『いいか、小さい頃からの友達だった俺に嘘をつくな』
男『……別に嘘なんて……』
親友『なら、はっきりと言ってやろうか?』
男『……何を』
432: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:51:04.35 ID:enymi4QR0
親友『お前が、妹を避けるようになった理由だよ』
男『なっ……』
親友『俺が分からないとでも、思ったか?』
親友『そうだったとしたら、お前は、相当な大バカ者だ』
男『……くっ』
親友『いいか、お前は……』
男『や、やめろっ!』
親友『妹のことが好──』
男『……ッ』
男『なっ……』
親友『俺が分からないとでも、思ったか?』
親友『そうだったとしたら、お前は、相当な大バカ者だ』
男『……くっ』
親友『いいか、お前は……』
男『や、やめろっ!』
親友『妹のことが好──』
男『……ッ』
434: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 00:51:55.13 ID:enymi4QR0
バゴッ!!
親友『……くっ』
男『それ以上、言うなっ』
男『分かっていても、言うんじゃないっ!』
親友『……何でだよ……何が問題……なんだ?』
男『いいから、止めろ』
男『頼むから、やめてくれよ……』
親友『……お前……』
男『……っ』
たったったった……。
親友『…………』
親友『……くっ』
男『それ以上、言うなっ』
男『分かっていても、言うんじゃないっ!』
親友『……何でだよ……何が問題……なんだ?』
男『いいから、止めろ』
男『頼むから、やめてくれよ……』
親友『……お前……』
男『……っ』
たったったった……。
親友『…………』
441: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 01:25:07.82 ID:enymi4QR0
──書斎
ドンドンドンッ!!
男性「……な」
ガチャ……。
男「…………」
男性「……君か……」
男「…………」
男性「ど、どうした? まだ、気分が悪いのか?」
男性「もしそうなら、数日間、仕事を休んでも──」
男「……終わら、せましょう……」
男性「……は?」
男「……もう、こんな芝居」
男「……やめてしまいましょうよ……」
男性「ま、まて……」
ドンドンドンッ!!
男性「……な」
ガチャ……。
男「…………」
男性「……君か……」
男「…………」
男性「ど、どうした? まだ、気分が悪いのか?」
男性「もしそうなら、数日間、仕事を休んでも──」
男「……終わら、せましょう……」
男性「……は?」
男「……もう、こんな芝居」
男「……やめてしまいましょうよ……」
男性「ま、まて……」
442: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 01:26:04.29 ID:enymi4QR0
男性「……君には言ったはずだと思うが」
男性「今のあの子には、君という兄が必要で……」
男性「それに、途中でやめる事は……」
男「……昔」
男性「……ん?」
男「……酒を飲んでは溺れて」
男「暇さえあれば、煙草を吸っているような男がいましてね……」
男性「……な、何の話だ?」
男「ヘビースモーカーっていうんですか……?」
男「僕は煙草を吸わない事にしてるんで、よく分かりませんが」
男「そんな骨の髄まで腐り切った、駄目人間がいたわけですよ……」
男性「……男君」
男性「もしかしたら、私が思っている以上に、君は……」
男性「今のあの子には、君という兄が必要で……」
男性「それに、途中でやめる事は……」
男「……昔」
男性「……ん?」
男「……酒を飲んでは溺れて」
男「暇さえあれば、煙草を吸っているような男がいましてね……」
男性「……な、何の話だ?」
男「ヘビースモーカーっていうんですか……?」
男「僕は煙草を吸わない事にしてるんで、よく分かりませんが」
男「そんな骨の髄まで腐り切った、駄目人間がいたわけですよ……」
男性「……男君」
男性「もしかしたら、私が思っている以上に、君は……」
443: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 01:26:35.90 ID:enymi4QR0
男「でも、父親だったんです……」
男性「……え?」
男「そんな駄目人間でしたけど、間違いなく、僕の父でした」
男「……愛すべき、家族だったんです」
男性「…………」
男「でも、そんな男ですから、家庭に幸せは訪れなくて……」
男「気がついた時には、遅かったんです……」
男「……既に、何もかも歯車が狂い始めていて……」
男「不思議に思いませんでしたか……?」
男性「……何を?」
男「どうして、僕が……この街に再びやってきたのか……」
男性「それは、知らない……」
男「実はですね……」
男「……仕事のあてを探しにきたんです」
男性「……え?」
男「そんな駄目人間でしたけど、間違いなく、僕の父でした」
男「……愛すべき、家族だったんです」
男性「…………」
男「でも、そんな男ですから、家庭に幸せは訪れなくて……」
男「気がついた時には、遅かったんです……」
男「……既に、何もかも歯車が狂い始めていて……」
男「不思議に思いませんでしたか……?」
男性「……何を?」
男「どうして、僕が……この街に再びやってきたのか……」
男性「それは、知らない……」
男「実はですね……」
男「……仕事のあてを探しにきたんです」
444: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 01:27:02.32 ID:enymi4QR0
男「それも、ある程度、お金になる仕事をね……」
男性「……どういうことだ?」
男「最後に頼むのは、親友っていうでしょ?」
男「だから、何年も訪れていないこの街に……」
男「……かつての友人を頼ってきたわけです……」
男性「…………」
男「そしたらびっくり……まさか、ソイツが死んじまってて……」
男「……妹は、記憶喪失……」
男「……は、ははっ……」
男「笑っちゃいますよね……どんなタイミングだよって……」
男性「……っ」
男「でも、あなたは僕に提案した」
男性「……どういうことだ?」
男「最後に頼むのは、親友っていうでしょ?」
男「だから、何年も訪れていないこの街に……」
男「……かつての友人を頼ってきたわけです……」
男性「…………」
男「そしたらびっくり……まさか、ソイツが死んじまってて……」
男「……妹は、記憶喪失……」
男「……は、ははっ……」
男「笑っちゃいますよね……どんなタイミングだよって……」
男性「……っ」
男「でも、あなたは僕に提案した」
445: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 01:27:32.62 ID:enymi4QR0
男「……『息子の代わりをしてくれ』と」
男「『妹の兄になってくれ』と」
男「この際だから、はっきり言いますね……」
男「……そんな大役、僕に務まるわけないんです」
男「一人でさえ精一杯になのに……どうして、そんな余裕が?」
男性「……けれど、君は承諾したぞ」
男「……その通りです」
男「……だって、仕事が貰えたから」
男「かなりの金が入る仕事が、得られたから……」
男性「いったい……どういう……」
男「僕にはいるんですよ、お金が」
男「……それも少しじゃなくて、大量に」
男「『妹の兄になってくれ』と」
男「この際だから、はっきり言いますね……」
男「……そんな大役、僕に務まるわけないんです」
男「一人でさえ精一杯になのに……どうして、そんな余裕が?」
男性「……けれど、君は承諾したぞ」
男「……その通りです」
男「……だって、仕事が貰えたから」
男「かなりの金が入る仕事が、得られたから……」
男性「いったい……どういう……」
男「僕にはいるんですよ、お金が」
男「……それも少しじゃなくて、大量に」
446: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 01:28:13.03 ID:enymi4QR0
男性「……何のために?」
男「……手術費用です……」
男性「手術費用……?」
男「……父の話はしましたよね?」
男「ヘビースモーカーの、煙草吸ってばかりの父がいたって話」
男「それが、最悪なことに、母の病気を生みまして……」
男「医者の話によると、副流煙は非常に身体に悪いそうです……」
男「……で、それを大量に吸っていた母は……」
男「──肺ガンになった」
男性「……そうだった、のか……」
男「まあ、月々の医療費ぐらいならなんとかなったんですが」
男「……有名どころの先生に手術を頼むとなると、相当かかるらしくて……」
男「でも、母さんの残された命は僅かで……」
男「……手術費用です……」
男性「手術費用……?」
男「……父の話はしましたよね?」
男「ヘビースモーカーの、煙草吸ってばかりの父がいたって話」
男「それが、最悪なことに、母の病気を生みまして……」
男「医者の話によると、副流煙は非常に身体に悪いそうです……」
男「……で、それを大量に吸っていた母は……」
男「──肺ガンになった」
男性「……そうだった、のか……」
男「まあ、月々の医療費ぐらいならなんとかなったんですが」
男「……有名どころの先生に手術を頼むとなると、相当かかるらしくて……」
男「でも、母さんの残された命は僅かで……」
447: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 01:28:49.80 ID:enymi4QR0
男「……たった一人の守るべき家族なんです」
男「かつて、僕は誓いました……けど、その母を救うことができない……」
男「……そんな時に舞い込んできた、不幸の中の幸運だったからこそ」
男「かつての……友人、妹のためになるという頼みだったから」
男「今まで、精一杯、頑張れた……」
男「……自分には不可能だと思える事も、やり通せた」
男性「……なら、これからも……」
男「でも、もう意味ないんです……」
男性「……どうしてだ?」
男「……さきほど電話がかかってきました」
男「母が……」
男「──死んだそうです」
男「かつて、僕は誓いました……けど、その母を救うことができない……」
男「……そんな時に舞い込んできた、不幸の中の幸運だったからこそ」
男「かつての……友人、妹のためになるという頼みだったから」
男「今まで、精一杯、頑張れた……」
男「……自分には不可能だと思える事も、やり通せた」
男性「……なら、これからも……」
男「でも、もう意味ないんです……」
男性「……どうしてだ?」
男「……さきほど電話がかかってきました」
男「母が……」
男「──死んだそうです」
448: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 01:29:50.96 ID:enymi4QR0
男性「…………」
男性「……なっ……」
男「もう……僕には無理ですよ……」
男「こんな……自分の生きる方向性を見失った人間に……」
男「守ると約束した人を救えない、裏切り者に……」
男「……親友を演じて、その妹を救うなんて……」
男「そんな、大役……無理なんです……」
男性「…………」
男性「……なっ……」
男「もう……僕には無理ですよ……」
男「こんな……自分の生きる方向性を見失った人間に……」
男「守ると約束した人を救えない、裏切り者に……」
男「……親友を演じて、その妹を救うなんて……」
男「そんな、大役……無理なんです……」
男性「…………」
449: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 01:30:36.37 ID:enymi4QR0
男「そもそも、これからの人生……」
男「一体、どうしていいのか……」
男「……でも、まずは」
男性「帰るのか?」
男性「母親のいる故郷の病院に帰るんだな?」
男「…………」
男「……はいっ」
男「……ごめん……なさい……」
男性「…………」
男「一体、どうしていいのか……」
男「……でも、まずは」
男性「帰るのか?」
男性「母親のいる故郷の病院に帰るんだな?」
男「…………」
男「……はいっ」
男「……ごめん……なさい……」
男性「…………」
453: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 01:50:52.70 ID:enymi4QR0
──路上
ザーザーザーッ……。
男「……雨、か……」
男「日中はあんなに晴れてたのになぁ……」
男「……ここから、何時間かかるんだっけ……」
男「ええと……」
男「まあいいや……」
男「とりあえず、車に乗らないと……」
男「…………」
男「『時間がかかってもいいから、落ち着いたら戻ってきて欲しい』か……」
男「は、はは……」
男「こんな自分を、まだ必要としてくれてるんだな……」
男「…………」
男「母さんに会いに……行こう」
男「…………」
ザーザーザーッ……。
男「……雨、か……」
男「日中はあんなに晴れてたのになぁ……」
男「……ここから、何時間かかるんだっけ……」
男「ええと……」
男「まあいいや……」
男「とりあえず、車に乗らないと……」
男「…………」
男「『時間がかかってもいいから、落ち着いたら戻ってきて欲しい』か……」
男「は、はは……」
男「こんな自分を、まだ必要としてくれてるんだな……」
男「…………」
男「母さんに会いに……行こう」
男「…………」
454: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 01:52:00.98 ID:enymi4QR0
──『お兄ちゃんっ……』
男「……え?」
男「嘘だろ……だって……」
455: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 01:52:33.32 ID:enymi4QR0
妹「!!」
男「……あっ……」
男「あいつの部屋は……そうか、道路沿いか……」
男「……やっぱり、一言ぐらいかけたほうが……」
男「…………」
男「……おーい、聞こえるかっ!」
ザーザーザーッ……。
ザーザーザーッ……。
妹「?」
男「……だめ、か……」
男「そうだよな……」
男「雨降ってるもんな……これじゃあ、向こうに届かない……」
妹「…………」
男「…………」
男「……あっ……」
男「あいつの部屋は……そうか、道路沿いか……」
男「……やっぱり、一言ぐらいかけたほうが……」
男「…………」
男「……おーい、聞こえるかっ!」
ザーザーザーッ……。
ザーザーザーッ……。
妹「?」
男「……だめ、か……」
男「そうだよな……」
男「雨降ってるもんな……これじゃあ、向こうに届かない……」
妹「…………」
男「…………」
456: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 01:53:13.18 ID:enymi4QR0
男「……なぁ」
男「本当のことを言うとな」
男「実は、俺……」
男「……お前の兄じゃないんだよ……」
ザーザーザーッ……。
ザーザーザーッ……。
男「昔、別れも言わずに消えた……ただの知り合いなんだ」
男「お前にとってみれば、冷たくされた相手かもしれないな……」
男「この前に、約束したよな」
ザーザーザーッ……。
ザーザーザーッ……。
男「……そばにいるって」
男「助けてやるって」
男「でも……ごめん」
男「本当のことを言うとな」
男「実は、俺……」
男「……お前の兄じゃないんだよ……」
ザーザーザーッ……。
ザーザーザーッ……。
男「昔、別れも言わずに消えた……ただの知り合いなんだ」
男「お前にとってみれば、冷たくされた相手かもしれないな……」
男「この前に、約束したよな」
ザーザーザーッ……。
ザーザーザーッ……。
男「……そばにいるって」
男「助けてやるって」
男「でも……ごめん」
458: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 01:53:54.23 ID:enymi4QR0
男「……もう、俺には出来そうもないんだ……」
男「今のおれじゃ……お前に勘づかれちまう……」
男「足引っ張っちゃうだけ……になるんだ……」
ザーザーザーッ……。
ザーザーザーッ……。
男「だから……」
男「また、別れを言わなかった俺を」
男「……恨まないでくれよ……」
男「…………」
男「じゃあな……」
男「──さよなら……」
ガチャ……。
……………。
………。
男「今のおれじゃ……お前に勘づかれちまう……」
男「足引っ張っちゃうだけ……になるんだ……」
ザーザーザーッ……。
ザーザーザーッ……。
男「だから……」
男「また、別れを言わなかった俺を」
男「……恨まないでくれよ……」
男「…………」
男「じゃあな……」
男「──さよなら……」
ガチャ……。
……………。
………。
466: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 02:16:36.23 ID:enymi4QR0
男『…………』
男『……朝か……』
ガバッ……。
男『昨日は、母さんと父さん、喧嘩してたけど』
男『……でも、大丈夫だろ』
男『一日経てば、二人とも冷静になれると思うし』
男『……最後、父さん……自分のやったこと、後悔してるもんな』
男『うん……きっと大丈夫』
男『何事もなく、うまくいくはずだ』
男『……やっぱり、家族は仲良しが一番だ』
男『これを機に、父さん、変わってくれないかなぁ……』
トコトコトコ……。
男『でも、会社をクビか……』
男『……朝か……』
ガバッ……。
男『昨日は、母さんと父さん、喧嘩してたけど』
男『……でも、大丈夫だろ』
男『一日経てば、二人とも冷静になれると思うし』
男『……最後、父さん……自分のやったこと、後悔してるもんな』
男『うん……きっと大丈夫』
男『何事もなく、うまくいくはずだ』
男『……やっぱり、家族は仲良しが一番だ』
男『これを機に、父さん、変わってくれないかなぁ……』
トコトコトコ……。
男『でも、会社をクビか……』
467: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 02:17:01.11 ID:enymi4QR0
男『……厳しいんだな、大人の世界は』
男『腹が立っても、殴れない、か……』
男『そんなこと言ったら、こないだ、親友を殴った俺は』
男『学校をやめなきゃいけなくなるな……』
トコトコトコ……。
男『うん……今日、謝ろう』
男『やっぱり、殴った俺が悪い』
男『それに……このままだと変な空気がずっと続きそうだからな』
男『大切な友達を、そんなことで失ったらもったいない』
男『……それに妹のことだって……』
トコトコトコ……。
男『でも……どうしような……』
男『もし仮に、あいつがあの子に言ったりしたら……』
男『腹が立っても、殴れない、か……』
男『そんなこと言ったら、こないだ、親友を殴った俺は』
男『学校をやめなきゃいけなくなるな……』
トコトコトコ……。
男『うん……今日、謝ろう』
男『やっぱり、殴った俺が悪い』
男『それに……このままだと変な空気がずっと続きそうだからな』
男『大切な友達を、そんなことで失ったらもったいない』
男『……それに妹のことだって……』
トコトコトコ……。
男『でも……どうしような……』
男『もし仮に、あいつがあの子に言ったりしたら……』
468: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 02:17:19.91 ID:enymi4QR0
男『……気持ち悪がらないかな? 今までみたいに遊んでくれるかな?』
男『あーわかんねぇっ、恋人いたことねぇからなー』
男『それに……あの三人の関係を壊していいのか……』
男『『兄さん』が『妹』を好きになったなんて……』
トコトコトコ……。
男『……ふぅー』
男『とりあえず、その件はひとまず置こう』
男『まずは、親友と……』
男『………ん?』
男『なんだろ、この臭い……』
トコトコトコ……。
男『リビングからかな? もしかして、誰か起きてる?』
男『あーわかんねぇっ、恋人いたことねぇからなー』
男『それに……あの三人の関係を壊していいのか……』
男『『兄さん』が『妹』を好きになったなんて……』
トコトコトコ……。
男『……ふぅー』
男『とりあえず、その件はひとまず置こう』
男『まずは、親友と……』
男『………ん?』
男『なんだろ、この臭い……』
トコトコトコ……。
男『リビングからかな? もしかして、誰か起きてる?』
469: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 02:17:48.35 ID:enymi4QR0
ガチャ……。
男『…………』
男『……え』
父親『…………』
男『……首を……』
男『…………』
男『……うっ!』
……ぐええええぇぇっ!!
男『…………』
男『……え』
父親『…………』
男『……首を……』
男『…………』
男『……うっ!』
……ぐええええぇぇっ!!
470: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 02:18:10.26 ID:enymi4QR0
男『はぁ……はぁ……はぁ……』
男『いいか、落ち着け、落ち着くんだ……』
男『……今、この家に男は俺しかいない』
男『だから、俺がしっかりしないと……』
男『そうだっ、まずは母さんをここに入れちゃいけないっ』
男『こんな父さんの姿は……見せちゃいけない……っ』
男『ことがすむまでは……絶対に……』
男『…………』
男『……父さん』
男『今、降ろして上げるからね』
男『ちょっと待っててよ……今、椅子と鋏を』
ががっ……。
男『……よし』
男『いいか、落ち着け、落ち着くんだ……』
男『……今、この家に男は俺しかいない』
男『だから、俺がしっかりしないと……』
男『そうだっ、まずは母さんをここに入れちゃいけないっ』
男『こんな父さんの姿は……見せちゃいけない……っ』
男『ことがすむまでは……絶対に……』
男『…………』
男『……父さん』
男『今、降ろして上げるからね』
男『ちょっと待っててよ……今、椅子と鋏を』
ががっ……。
男『……よし』
471: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 02:18:42.72 ID:enymi4QR0
父親『…………』
男『…………』
男『……うぅ……くっ……』
男『駄目だっ……泣くな……男は泣くなっ!』
男『全てが終わったら……一人で泣くんだっ』
男『……父さん』
男『約束する……』
男『俺……絶対に強い男になるから』
男『母さんを守るから』
男『俺が……必ず……』
男『…………』
男『……うぅ……くっ……』
男『駄目だっ……泣くな……男は泣くなっ!』
男『全てが終わったら……一人で泣くんだっ』
男『……父さん』
男『約束する……』
男『俺……絶対に強い男になるから』
男『母さんを守るから』
男『俺が……必ず……』
472: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 02:19:15.72 ID:enymi4QR0
男『……ん』
男『……今、降ろすね』
男『少し乱暴になるかもしれないけど、許して』
男『父さんの身体を支えられるだけの力はないんだ』
男『……だから、地面に落ちる時、少し痛いかもしれない』
父親『…………』
男『うん、じゃあ切るよ』
男『……よし』
男『せいのっ……』
……バタンッ!
男『……今、降ろすね』
男『少し乱暴になるかもしれないけど、許して』
男『父さんの身体を支えられるだけの力はないんだ』
男『……だから、地面に落ちる時、少し痛いかもしれない』
父親『…………』
男『うん、じゃあ切るよ』
男『……よし』
男『せいのっ……』
……バタンッ!
475: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 02:39:31.57 ID:enymi4QR0
──病院 霊安室
看護婦「……お母様のご遺体はこちらに」
男「…………」
看護婦「……その」
男「……はい」
看護婦「お母様、癌の病にしては、とても安らかに亡くなられました」
男「…………」
看護婦「それに……」
看護婦「いつも、自慢の息子がいるのだと、誇らしげに言っておられまして」
看護婦「亡くなられる直前も、あなたの自慢話を聞かせて頂きました」
男「……そうですか」
看護婦「……はい」
看護婦「……お母様のご遺体はこちらに」
男「…………」
看護婦「……その」
男「……はい」
看護婦「お母様、癌の病にしては、とても安らかに亡くなられました」
男「…………」
看護婦「それに……」
看護婦「いつも、自慢の息子がいるのだと、誇らしげに言っておられまして」
看護婦「亡くなられる直前も、あなたの自慢話を聞かせて頂きました」
男「……そうですか」
看護婦「……はい」
476: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 02:40:33.88 ID:enymi4QR0
男「すみません……」
男「少しの間だけ……母と二人だけにして頂けますか?」
看護婦「……もちろんです、失礼します」
男「……本当に申し訳ないです」
ガチャン……。
男「…………」
男「……やあ、母さん」
男「半年ぶりかな? それとも、それ以上、経ったっけ?」
男「ここ最近忙しくてさ、あんまり時間の感覚が分からないんだ」
男「……うん」
男「そうか、死んじゃったんだね」
男「せっかく、この業界で有名なお医者さんに手術を頼もうと思ったんだけど」
男「間に合わなかったみたいだ」
男「少しの間だけ……母と二人だけにして頂けますか?」
看護婦「……もちろんです、失礼します」
男「……本当に申し訳ないです」
ガチャン……。
男「…………」
男「……やあ、母さん」
男「半年ぶりかな? それとも、それ以上、経ったっけ?」
男「ここ最近忙しくてさ、あんまり時間の感覚が分からないんだ」
男「……うん」
男「そうか、死んじゃったんだね」
男「せっかく、この業界で有名なお医者さんに手術を頼もうと思ったんだけど」
男「間に合わなかったみたいだ」
477: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 02:40:57.44 ID:enymi4QR0
男「……結局、俺、何も出来なかった」
男「こんなことになるならさ……」
男「前の街になんか戻らずに、母さんの側にいれば良かった」
男「前の仕事だと給料は安かったけど、結構、時間は取れたからね」
男「もっと病院へ通って、母さんと話が出来たはずだ」
男「……ごめん……本当にごめん……」
男「電話も何度もしてくれたのに、それも出なくて……」
男「……本当に、俺は親不孝者だよ」
男「役立たずにも程があるよ……」
男「……父さんが死んだ前の夜、結局、俺は止められなかった」
男「いつもと様子が違ったのに……気づけなかったんだ」
男「……あの時から、何も変わってない」
男「こんなことになるならさ……」
男「前の街になんか戻らずに、母さんの側にいれば良かった」
男「前の仕事だと給料は安かったけど、結構、時間は取れたからね」
男「もっと病院へ通って、母さんと話が出来たはずだ」
男「……ごめん……本当にごめん……」
男「電話も何度もしてくれたのに、それも出なくて……」
男「……本当に、俺は親不孝者だよ」
男「役立たずにも程があるよ……」
男「……父さんが死んだ前の夜、結局、俺は止められなかった」
男「いつもと様子が違ったのに……気づけなかったんだ」
男「……あの時から、何も変わってない」
478: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 02:41:17.03 ID:enymi4QR0
男「身体は大きくなったけど、中身は成長できていないんだ」
男「いつもそうなんだよな……」
男「俺って不器用だからさ、どうあがいても器用にはいかない」
男「大事なところで、肝心な場面で」
男「……ミスをおかす」
男「ただただ、運命に翻弄され続けてる」
男「…………」
男「ごめん……母さん……」
男「……本当に……」
男「……父さんと約束したはずのに……」
男「守るって……言ったのに……」
男「……うぅ……くっ……」
男「……で、でもっ」
男「いつもそうなんだよな……」
男「俺って不器用だからさ、どうあがいても器用にはいかない」
男「大事なところで、肝心な場面で」
男「……ミスをおかす」
男「ただただ、運命に翻弄され続けてる」
男「…………」
男「ごめん……母さん……」
男「……本当に……」
男「……父さんと約束したはずのに……」
男「守るって……言ったのに……」
男「……うぅ……くっ……」
男「……で、でもっ」
479: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 02:41:34.26 ID:enymi4QR0
男「今は、涙をこらえるよ……」
男「母親の前で、大きなった息子が泣くなんて」
男「あまりにも、みっともなさすぎるからね……」
男「……だけどね、母さん」
男「……俺さ」
男「正直、これからどうしたらいいか、分からないんだ」
男「……もう、何もかも、失った気がするんだ……」
男「……俺は……」
男「一体……どうすればいいんだろう……?」
男「…………」
……………。
………。
男「母親の前で、大きなった息子が泣くなんて」
男「あまりにも、みっともなさすぎるからね……」
男「……だけどね、母さん」
男「……俺さ」
男「正直、これからどうしたらいいか、分からないんだ」
男「……もう、何もかも、失った気がするんだ……」
男「……俺は……」
男「一体……どうすればいいんだろう……?」
男「…………」
……………。
………。
486: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:09:47.46 ID:enymi4QR0
親友『……大変なことになったな』
男『ああ……』
親友『明日、引っ越すんだろ?』
男『うん』
親友『……遠いな、自転車じゃ行けないぐらい、遠いよ』
男『……ああ』
親友『高校はどうするつもりだ?』
男『向こうで、働く予定』
親友『……そう、か』
男『それよりさ……』
親友『ん?』
男『悪いな、妹に黙っててもらって』
男『ああ……』
親友『明日、引っ越すんだろ?』
男『うん』
親友『……遠いな、自転車じゃ行けないぐらい、遠いよ』
男『……ああ』
親友『高校はどうするつもりだ?』
男『向こうで、働く予定』
親友『……そう、か』
男『それよりさ……』
親友『ん?』
男『悪いな、妹に黙っててもらって』
487: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:10:42.43 ID:enymi4QR0
親友『ああ、気にすんな……こうなったら、仕方ない』
男『うん……』
親友『……でもさ』
親友『ほんと、こういう時って、何て言っていいのか、分かんないな』
親友『何言っても、下手な同情みたいだし』
親友『俺たちの間に、そんな感情があったら駄目だし』
男『……ありがとうな』
親友『……なあ、男』
男『ん?』
親友『「頑張れ」なんて有り触れた言葉は言わない。てか、言えない』
親友『でもな、これだけは分かってて欲しいんだ』
男『……何だ?』
男『うん……』
親友『……でもさ』
親友『ほんと、こういう時って、何て言っていいのか、分かんないな』
親友『何言っても、下手な同情みたいだし』
親友『俺たちの間に、そんな感情があったら駄目だし』
男『……ありがとうな』
親友『……なあ、男』
男『ん?』
親友『「頑張れ」なんて有り触れた言葉は言わない。てか、言えない』
親友『でもな、これだけは分かってて欲しいんだ』
男『……何だ?』
488: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:11:18.03 ID:enymi4QR0
親友『どこに行ったとしても、お前には、俺がついてるから』
親友『どんなに辛くても、苦しくても……』
親友『悲しい時は、一緒に悲しんでやる』
親友『泣きたい時は、一緒に泣いてやる』
親友『それで……時間が経ってな』
親友『大丈夫って、胸を張って言えるようになったらさ』
男『…………』
親友『そん時は……』
親友『一緒になって、笑ってやろうぜ』
……………。
………。
親友『どんなに辛くても、苦しくても……』
親友『悲しい時は、一緒に悲しんでやる』
親友『泣きたい時は、一緒に泣いてやる』
親友『それで……時間が経ってな』
親友『大丈夫って、胸を張って言えるようになったらさ』
男『…………』
親友『そん時は……』
親友『一緒になって、笑ってやろうぜ』
……………。
………。
494: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:45:50.63 ID:enymi4QR0
男「……ああ……」
男「……一緒になって……か……」
男「はは……」
男「……懐かしい、な……」
男「……でもよ……」
男「お前も……もう、死んじまったじゃないか……」
男「……何で……」
男「何で、俺の大事な人たちはみんな……」
男「……俺だけを残して、死んじまうんだ……」
男「……うぅ……」
男「くっ……うっ……うぁっ……」
男「……何でだっ」
男「どうして、こんなにうまくいかないっ……」
男「……一緒になって……か……」
男「はは……」
男「……懐かしい、な……」
男「……でもよ……」
男「お前も……もう、死んじまったじゃないか……」
男「……何で……」
男「何で、俺の大事な人たちはみんな……」
男「……俺だけを残して、死んじまうんだ……」
男「……うぅ……」
男「くっ……うっ……うぁっ……」
男「……何でだっ」
男「どうして、こんなにうまくいかないっ……」
495: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:46:19.97 ID:enymi4QR0
男「これ以上、俺に……」
男「俺に……どうしろって言うんだ……よ……」
──『先に、■きになったのは■■じゃないから』
男「……あ」
男「違う……」
男「まだだ……」
男「……まだ、俺には……」
男「……そうだよ」
男「俺に……どうしろって言うんだ……よ……」
──『先に、■きになったのは■■じゃないから』
男「……あ」
男「違う……」
男「まだだ……」
男「……まだ、俺には……」
男「……そうだよ」
496: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:46:43.81 ID:enymi4QR0
男「……アイツがいるんだ……」
男「俺のことを必要としてくれる……あの子が……」
男「俺はっ!」
──……さんっ……さんっ
男「……ん?」
男「あっ……もしかして……」
男「……これは夢だったのか……?」
……………。
………。
男「俺のことを必要としてくれる……あの子が……」
男「俺はっ!」
──……さんっ……さんっ
男「……ん?」
男「あっ……もしかして……」
男「……これは夢だったのか……?」
……………。
………。
497: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:47:23.99 ID:enymi4QR0
──待合室
ゆさゆさっ!
看護婦「男さん、男さんっ!」
男「……えっ?」
……ピピピピピッ!
男「電話……?」
看護婦「さっきから、男さんの携帯が鳴ってますよ?」
男「ええと、う、うん……」
看護婦「大丈夫ですか? 目覚めてますか?」
男「あ、うん。もう、大丈夫」
ピピピピピッ……。
看護婦「なら、そろそろ電話出てあげたほうがいいですよ」
看護婦「この時間です。きっと緊急の用のはずですから」
男「ありがとう……出るよ」
看護婦「はい」
ゆさゆさっ!
看護婦「男さん、男さんっ!」
男「……えっ?」
……ピピピピピッ!
男「電話……?」
看護婦「さっきから、男さんの携帯が鳴ってますよ?」
男「ええと、う、うん……」
看護婦「大丈夫ですか? 目覚めてますか?」
男「あ、うん。もう、大丈夫」
ピピピピピッ……。
看護婦「なら、そろそろ電話出てあげたほうがいいですよ」
看護婦「この時間です。きっと緊急の用のはずですから」
男「ありがとう……出るよ」
看護婦「はい」
498: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:48:18.96 ID:enymi4QR0
ピッ。
男「もしもし……」
父親『男君かっ……!?』
男「は、はい……一体どうしたんですか?」
父親『今、君は母親の元に行ってるんだよなっ?』
男「そうですが……その」
男「多分、今週中には戻れると思います」
父親『……そ、そうなのか?』
男「……はい」
男「恥ずかしいことですけど」
男「一度回りきって……やっと大事なことに気づけたみたいです」
父親『そ、そうか……それは良かった』
男「で……あの、どうかしたんですか?」
男「もしもし……」
父親『男君かっ……!?』
男「は、はい……一体どうしたんですか?」
父親『今、君は母親の元に行ってるんだよなっ?』
男「そうですが……その」
男「多分、今週中には戻れると思います」
父親『……そ、そうなのか?』
男「……はい」
男「恥ずかしいことですけど」
男「一度回りきって……やっと大事なことに気づけたみたいです」
父親『そ、そうか……それは良かった』
男「で……あの、どうかしたんですか?」
499: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:48:46.63 ID:enymi4QR0
父親『いや、そのだな……実に言いにくいことなんだが』
男「はい?」
父親『……今の君に聞かせるのは、正直、心許ない……』
父親『だが、覚悟を決めてくれたのなら』
父親『今はもう、家族の一員である君に伝えるほかない』
男「……ええと」
父親『……実はだな』
父親『君がいなくなった後……妹が────────」
男「…………」
男「はい?」
父親『……今の君に聞かせるのは、正直、心許ない……』
父親『だが、覚悟を決めてくれたのなら』
父親『今はもう、家族の一員である君に伝えるほかない』
男「……ええと」
父親『……実はだな』
父親『君がいなくなった後……妹が────────」
男「…………」
501: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:50:11.29 ID:enymi4QR0
ぽとっ……。
『男君……? 聞いてるのか、男君っ……!?』
看護婦「あ、あの……」
男「……ん?」
看護婦「その……ええと、携帯」
男「ああ」
看護婦「いいんですか? 床に落ちちゃって……」
看護婦「……その、相手先の方はまだ、お話が」
男「気にしなくていいよ」
看護婦「で、でも」
男「いいんだ。もう終わったからさ」
看護婦「……それなら、私は別にいいですけど」
男「それより、少し話を聞いてくれないか?」
『男君……? 聞いてるのか、男君っ……!?』
看護婦「あ、あの……」
男「……ん?」
看護婦「その……ええと、携帯」
男「ああ」
看護婦「いいんですか? 床に落ちちゃって……」
看護婦「……その、相手先の方はまだ、お話が」
男「気にしなくていいよ」
看護婦「で、でも」
男「いいんだ。もう終わったからさ」
看護婦「……それなら、私は別にいいですけど」
男「それより、少し話を聞いてくれないか?」
503: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:51:33.98 ID:enymi4QR0
看護婦「は、はい」
男「雨だったんだ」
看護婦「え?」
男「もっと早くに気づくべきだったよ」
男「俺とした事が、やっぱり、ミスをしてた」
看護婦「そ、その……一体……」
男「彼女の俺を呼ぶ声が聞こえた」
男「つまりいえば、彼女の声は俺に届いてた」
男「雨だったけどね」
看護婦「…………」
男「雨だったんだ」
看護婦「え?」
男「もっと早くに気づくべきだったよ」
男「俺とした事が、やっぱり、ミスをしてた」
看護婦「そ、その……一体……」
男「彼女の俺を呼ぶ声が聞こえた」
男「つまりいえば、彼女の声は俺に届いてた」
男「雨だったけどね」
看護婦「…………」
504: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:52:09.42 ID:enymi4QR0
男「ってことはだよ? 逆もしかりと言える」
男「俺の言葉は……その実、全部向こうに伝わってた」
看護婦「……あの」
男「やっちまったなぁ」
男「せっかく、思い出せたっていうのにさ」
男「本当に自分がやらなきゃいけないこと」
男「大切にしなければいけなかったこと」
男「それが全部、さっき、分かったはずだったんだ」
看護婦「…………」
男「でも、また、駄目だった」
男「失敗した。間に合わなかった」
男「また失った。無くした」
看護婦「……男さん?」
男「俺の言葉は……その実、全部向こうに伝わってた」
看護婦「……あの」
男「やっちまったなぁ」
男「せっかく、思い出せたっていうのにさ」
男「本当に自分がやらなきゃいけないこと」
男「大切にしなければいけなかったこと」
男「それが全部、さっき、分かったはずだったんだ」
看護婦「…………」
男「でも、また、駄目だった」
男「失敗した。間に合わなかった」
男「また失った。無くした」
看護婦「……男さん?」
505: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:52:25.77 ID:enymi4QR0
男「今度こそ、綺麗さっぱり、俺は失った」
男「俺の生きる意味はもう……」
男「──ない」
看護婦「…………」
男「……はは、はは」
男「笑える。最高に笑えるよっ!」
男「なんて滑稽なんだっ!」
看護婦「これは……もしかして……」
男「く、くははっ」
男「くはは、ははははっ!」
男「ははははははははははははっ!」
看護婦「……だ、誰かっ!」
看護婦「誰か来てっ! こちらの方が──」
……………。
男「俺の生きる意味はもう……」
男「──ない」
看護婦「…………」
男「……はは、はは」
男「笑える。最高に笑えるよっ!」
男「なんて滑稽なんだっ!」
看護婦「これは……もしかして……」
男「く、くははっ」
男「くはは、ははははっ!」
男「ははははははははははははっ!」
看護婦「……だ、誰かっ!」
看護婦「誰か来てっ! こちらの方が──」
……………。
506: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:54:00.89 ID:enymi4QR0
──ふあふあする
──全ての枷が取り除かれたように……
あたかも、風船のように空に飛んで行けるような、
そんな気持ち
──世界は歪んでいき、滲んでいき……
滲む? もしかして、俺は泣いてるのかな?
──でも、いいんだ
──だって、もう、終わりだから
──これで終わり
──何も出来ずにおしまい
──…………
──……なあ、親友
──また、俺たち二人が笑え合える日って、くるのかなぁ……
……………。
………。
──全ての枷が取り除かれたように……
あたかも、風船のように空に飛んで行けるような、
そんな気持ち
──世界は歪んでいき、滲んでいき……
滲む? もしかして、俺は泣いてるのかな?
──でも、いいんだ
──だって、もう、終わりだから
──これで終わり
──何も出来ずにおしまい
──…………
──……なあ、親友
──また、俺たち二人が笑え合える日って、くるのかなぁ……
……………。
………。
508: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:54:57.63 ID:enymi4QR0
親友『そん時は……』
親友『一緒になって、笑ってやろうぜ』
男『……お前』
親友『俺だけじゃない。俺の妹も……』
男『…………』
親友『癪だから、お前には絶対言いたくなかったけどさ』
男『……ん?』
親友『先に、好きになったのはお前じゃないから』
男『……は?』
親友『一緒になって、笑ってやろうぜ』
男『……お前』
親友『俺だけじゃない。俺の妹も……』
男『…………』
親友『癪だから、お前には絶対言いたくなかったけどさ』
男『……ん?』
親友『先に、好きになったのはお前じゃないから』
男『……は?』
509: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:55:52.84 ID:enymi4QR0
親友『お前と初めて出会った時』
親友『悔しいけど、その時から、アイツはお前に惚れてんだよ』
男『そ、そんな……』
親友『…………』
男『……嘘だろ……』
親友『……本気で言ってんのか?』
男『…………』
親友『妹と仲良しの『お兄ちゃん』が言ってるんだぞ?』
親友『いいか、どうせ、お前はさ……』
親友『別れるって分かってるなら──』
親友『アイツに会っても意味はないって、思ってるんだろ?』
男『…………』
親友『でも、忘れないでくよ』
親友『悔しいけど、その時から、アイツはお前に惚れてんだよ』
男『そ、そんな……』
親友『…………』
男『……嘘だろ……』
親友『……本気で言ってんのか?』
男『…………』
親友『妹と仲良しの『お兄ちゃん』が言ってるんだぞ?』
親友『いいか、どうせ、お前はさ……』
親友『別れるって分かってるなら──』
親友『アイツに会っても意味はないって、思ってるんだろ?』
男『…………』
親友『でも、忘れないでくよ』
511: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:56:35.36 ID:enymi4QR0
親友『アイツは……今も昔も……』
親友『──『兄さん』のことが、大好きなんだから』
男『……っ』
親友『そう遠くない未来、戻ってこい』
親友『そして、想いをアイツにぶつけてやれ……』
男『……ああ』
男『……約束する……』
親友『よし、なら、もう俺から言う事はない』
親友『でも、早くしないと、他の誰かに奪われちまうかも知れんぞ?』
男『はは……よく言うよ』
親友『どうしてだ?』
男『お前なら、きっと覚えてるはずだ』
親友『……ん?』
親友『──『兄さん』のことが、大好きなんだから』
男『……っ』
親友『そう遠くない未来、戻ってこい』
親友『そして、想いをアイツにぶつけてやれ……』
男『……ああ』
男『……約束する……』
親友『よし、なら、もう俺から言う事はない』
親友『でも、早くしないと、他の誰かに奪われちまうかも知れんぞ?』
男『はは……よく言うよ』
親友『どうしてだ?』
男『お前なら、きっと覚えてるはずだ』
親友『……ん?』
512: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:56:59.96 ID:enymi4QR0
男『「どうすんだよ、逆に好きで意地悪するみたいな男子がいたら」』
親友『……あ』
男「頼むぜ、俺は信じてるからな?』
親友『……ふん……』
男『……言うぞ……』
男『……ふぅー……』
男『どうするんだよ、俺のいない間にアイツに寄ってくる男がいたら』
親友『…………』
親友『大丈夫。もし、そんなことがあったら』
男『どうする?』
親友『妹が必ず、俺に相談してくるはずだから』
親友『……あ』
男「頼むぜ、俺は信じてるからな?』
親友『……ふん……』
男『……言うぞ……』
男『……ふぅー……』
男『どうするんだよ、俺のいない間にアイツに寄ってくる男がいたら』
親友『…………』
親友『大丈夫。もし、そんなことがあったら』
男『どうする?』
親友『妹が必ず、俺に相談してくるはずだから』
513: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/06/10(金) 03:57:33.21 ID:enymi4QR0
男『つまり、その時に──』
──そいつをボッコボッコにしてやろうっ!
──そいつをボッコボッコにしてやろうっ!
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