1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 18:03:13.53 ID:cHoAf6dmi
ワドルディ「もう仕事辞めたい」


傘を持つ手が震える。


毎回、カービィの邪魔をしてはボコボコにされる。

それが僕達の仕事だ。

他にも、デデデ城の掃除や洗濯などの凡ゆる雑用も、全て僕達の仕事だ。

毎日、馬車馬の如く働かされる。


それでも貰える賃金は雀の涙程度だ。

これが平凡キャラの定めか。


ワドルディ「こんな惨めな毎日……やってられない」


今日もまた、邪魔する仕事だ。

引用元: ワドルディ「もう仕事辞めたい」 



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 18:06:11.41 ID:cHoAf6dmi
「どうしたワド?元気ないぜ?」

ワドルディ「ああ、隊長……おはようございます」


不意に横から声を掛けてきたのは、ワドルドゥ隊長だった。


隊長「最近どうしたんだ?なんだか覇気がないぜ?」

ワド「はは、元からありませんよ。こんな仕事じゃ」


グリーングリーンズの太陽が僕らに燦々と降り注ぐ。
まるで笑っているみたいだ。

こっちの気も知らないで。


隊長「違いねぇ。俺たち下っ端はやられるのが定めだからな」

隊長「こんな仕事にハキハキと挑めるはずもないもんな」


嘆き暮れる大きな一つ目が空の雲を捉える。

ゆらゆらと自由に生きる雲は、僕達を見下ろし、青い空を揺蕩う。

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 18:10:08.76 ID:cHoAf6dmi
ワドルディ「すみません」


僕は訳も分からず、つい謝ってしまった。

すると、隊長は笑った。


隊長「なんで謝るんだ?」

ワドルディ「いえ……」

隊長「取り敢えず……頑張ろうぜ。終わったら飲みに行こう」

ワドルディ「あ……はい、分かりました」


こうしてまた僕の一日が始まる。

傘から漏れる淡い日光は僕の心をただ鈍くギラギラと照らしつけていた。

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 18:14:55.31 ID:cHoAf6dmi

隊長「このっ!」

グリーングリーンズの森で、果敢にカービィへ挑みゆく。


カービィ「ポヨポヨォォォォォ!!」


キュォォォォ


大きく口を開け、カービィは隊長を吸い込もうとする。


隊長「なっ!うわっ」


ワドルディ「隊長ォォォォォ!」


抵抗虚しく吸い込まれた彼は、力を奪われ、弱った身体は外へ投げ出された。

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 18:19:15.66 ID:cHoAf6dmi


カービィ「ポヨポヨォォォォォ!」


ジリリリリッ


焼け付くように熱い放物線ビームを浴びせられる。


ワドルディ「うっ……うおわぁぁぁぁ!」

隊長「馬鹿ッ!逃げろ!!」


ビームを受けながらも渾身のタックルを何とかお見舞いし、


傷だらけになった僕は、崩れるように地に伏した。


カービィ「ぽよ!うぅっぽうよっ!!クソッ」


カービィはトボトボと悪態をつきながら去って行った。


今日も結局駄目だ。

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 18:22:52.45 ID:cHoAf6dmi

隊長「ったく……無茶しやがって。立てるか?」

隊長はよろよろと立ち上がって手を差し出した。


ワドルディ「え……ええ、なんとか」


そこら中痛む身体を何とか起こして手を掴む。


隊長「でもまあ良くやったな!
カービィの奴に傷をつけるなんて!
特別手当出るんじゃないか?」


ワドルディ「だと良いですね」


隊長「俺たちは身体痛めてなんぼだもんな。
狂ってるよな、こんな仕事」


ワドルディ「そうですね……」


そっと風が吹いた。

傷だらけの身体にはその優しい風すらも堪える。

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 18:26:27.72 ID:cHoAf6dmi

隊長「結局俺達は使い捨ての駒なんだよ。
能力のないものは次々に切り捨てられる。
こんなご時世に渡る愛は、才能と金に溢れた賢者にしか与えられないんだ」

ワドルディ「隊長……」

隊長「だが俺達だって生きてる!
生きてる以上は必ずチャンスはある!
何としても掴んでやるんだ」


出世に燃える隊長の目には強い闘志が宿っていた。

その思いの強さは、決意を固めた武士の一分にも通づるものを感じる。


ワドルディ「応援してます」


僕はそんな隊長を応援せずにはいられなかった。

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 18:31:14.19 ID:cHoAf6dmi

隊長「バカヤロウ!お前も一緒に頑張るんだよ!
さあ、もう行くぞ」


隊長はニッと笑い掛け、僕の肩を持ち上げた。


ワドルディ「すみません……」

隊長「なあワド、俺達は何やってもだめかもしれん。
だが、夢は見る事が出来る。
だから……もう少し一緒に頑張ろう」


小鳥の囀りが降る中、草花を揺らして引き摺り歩く。


僕は、何も言えなかった。

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 18:33:15.76 ID:cHoAf6dmi

時は進み、黄色の太陽は赤く色を変え、青空を真っ赤に焼き尽くしていた。

傷付いた身体を手当てした僕達は、ププビレッジの外れにある居酒屋カワサキの暖簾をくぐる。

「いらっしゃーい!」

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 18:36:36.00 ID:cHoAf6dmi
快活な声と共に、店主カワサキは笑顔で僕達を迎え、カウンター席へ案内した。


カワサキ「あれれぇ、お客さんまた傷だらけだねぇ、大丈夫ぅ?」

隊長「ああ、今日もこっぴどくやられてな」

カワサキ「そうかぁ。じゃあ今日はゆっくりしてかないとねぇ」


カワサキは瓶ビールとグラス二つを目の前においた。


隊長「ありがとう。じゃあ今日もいつもの頼む」

カワサキ「あいよー」


隊長「相変わらず賑わってるな」

ワドルディ「そうですねぇ」

隊長「昔の定食屋はてんでダメだったのに、今ではすっかり繁盛しちまってよぉ」

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 18:41:26.62 ID:cHoAf6dmi
ワドルディ「こっちのが受けがよかったみたいですね」


僕達の他にも数人の客が、小さな店内を賑わせている。


隊長「不幸中の幸いだな。火事があってよかったな」

カワサキ「酷いよぉお客さん。あれから大変だったんだからねぇ」


僕達の話を聴いてか、カワサキはカウンターからつきだしを置きながら、不平を漏らした。

隊長は軽く笑って、ビールをグラスに注ぐ。


ワドルディ「ああ!すみません!」

隊長「良いって良いって!気にするな。
今日はゆっくり飲もうじゃないか」

隊長「それじゃ乾杯!」


隊長はグラスをこちらへ掲げ、僕の持っていたグラスに軽く当てた。

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 18:44:58.57 ID:cHoAf6dmi
高く透き通るような綺麗な音を立てて、グラスが揺れる。
隊長がグラスを呷るのを見てから、僕もグラスに口を付けた。


舌を踊る爽快な炭酸の後から、仄かな麦の苦味と、鼻へ突き抜ける麦芽の香りが、口いっぱいに広がる。


隊長「仕事の後のビールはうめぇな!
これだから辞められねぇ!」

ワドルディ「そうですね」


空きっ腹なのか、すぐに気分が高揚してきた。


隊長も同じだったみたいで、僕達はすぐに出来上がってしまった。



ある程度話した所で、串焼きをつまみながら隊長は真剣な顔をして言った。


隊長「なあ、ワド。お前……仕事辛いか?」

24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 18:48:54.73 ID:cHoAf6dmi
ワドルディ「……どうしたんですか?急に?」

隊長「最近よく思い詰めたような顔をしてたからな。
少し気になって」

ワドルディ「……まあ辛いと言えば辛いですけど……やり甲斐あります」


嘘だ。
やり甲斐なんてちっとも感じない。


隊長「そうか……ならいいや。にしても俺達は理不尽の名の元に生まれて来ちまったもんだなぁ」


僕には何も誇れるものがない。
能力も才能も名誉も容姿も財産も、全てない。


隊長「ボロ雑巾のように扱われて、使えなくなったら捨てられる。あーあー辛いねぇ」


他人の人生の踏み台なんだ。

僕には何もないから。

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 18:51:56.07 ID:cHoAf6dmi
ワドルディ「そう……ですね」


ぼうっとした頭の中で、漠然とした思いが酔いと一緒に回る。

理不尽が許される僕には、一体何が残るのだ?


隊長「あまり深く考えるなよ?
人生は考え方一つで色を変える。
マイナスに考えれば考える程、ダメになっていくぜ?」

ワドルディ「はい……分かりました」


何だか酒が不味くなった気がした。


隊長「すまねぇな、くだらん話をしてしまった。
今日はもうお開きにしよう」


隊長は僕の思いを察したのか、そう言ってくれた。

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 18:55:52.17 ID:cHoAf6dmi

ワドルディ「すみません」

隊長「良いんだ良いんだ。
すまないな、わざわざ付き合わせちまって……」

ワドルディ「いえ、楽しかったですよ」


酔いに揺さぶられる身体を持ち上げた。


隊長「今日は俺の奢りだ」

ワドルディ「そ、そんな」

隊長「良いから!遠慮すんなって」

ワドルディ「……ありがとうございます」


勘定を払い外へ出ると、辺りはすっかり夜になっていた。


夜のため息が火照った身体に打ち付ける。


隊長「じゃあな。気をつけて帰れよ」

ワドルディ「今日はありがとうございます!」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 18:58:48.07 ID:cHoAf6dmi
隊長は澄み切った一つ目で僕を見て、そして優しく笑った。


隊長「明日もまた頑張ろうぜ」


そう言って、隊長は夜の道に消えて行った。



真っ黒が埋め尽くす閑寂とした夜に、フクロウの鳴き声が人知れずひっそり鳴いている。

見上げると、淡く光る三日月の影に隠れるように、星は夜の空を小さく輝いていた。


星は何も考えず命を燃やしている。

大きく輝く事も出来ず、ただひっそりと小さくあり続ける。

抜きん出たものを持っている訳でもなく、輝くしか能がない。

まるで僕と同じだ。

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 19:02:11.02 ID:cHoAf6dmi
いや、僕には光る事すら出来ない。自己主張も出来ないのだ。
僕は星屑にもなれないのだ。


ワドルディ「ただ毎日を生きて、死ぬだけ」


僕は何も考えずに歩く事にした。

これ以上考えると、気が擦り減ってなくなってしまいそうだから。

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 19:05:01.19 ID:cHoAf6dmi
村の更なる外れの茂みの奥に、とても小さな小屋がある。

そこが僕達の家だ。

今にも崩れそうなぐらいボロボロな家だが、意外と頑丈なのだ。

もう何年も人生を共にしている。


ワドルディ「今帰ったよ」


八畳の小屋の戸を開けると、小さな蝋燭の光が僕を包んだ。


「あら、お帰りなさい」

ワドルディ「ただいま」


妻リボンは部屋の隅にある揺り椅子に座っていた。


リボン「今日は遅かったね」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 19:10:04.57 ID:cHoAf6dmi
ワドルディ「うん、ちょっと隊長と飲みに行ってて」

リボン「そう」

ワドルディ「すまないね」

リボン「全くよー。私はこの家でひとり待ってなきゃ行けないんだから」

ワドルディ「うん」

リボン「ご飯も用意したのに……」


妻は寂しそうな顔で、僕を見つめる。
でも、彼女のその瞳の奥は優しく笑っていた。

彼女はいつも僕に優しさをくれる。


ワドルディ「ごねんね」

リボン「ふふ、良いよー」


彼女の顔が一気に明るくなり、満遍の笑みを僕に向ける。

34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 19:15:27.14 ID:cHoAf6dmi
それが、


たまらなく嬉しい。


ワドルディ「さてと」


奥のベットの隣にある引き出しから、日記と万年筆を取り出した。


リボン「また日記?もー!」

ワドルディ「まあ日課だからね」


蝋燭が置かれた真ん中のテーブルに着き、日記を書く。

その様子を見て、むくれたリボンはオンボロベットに飛び込み、布団にくるまった。


ワドルディ「ははは、じゃあ……もうそろそろ寝ようか?」


リボン「うん!」


彼女はその言葉に反応し、布団を振り払って元気良く返事した。

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 19:18:40.86 ID:cHoAf6dmi
僕は、それを呆然と見ていた。


リボン「何してるの?寝ようよー」

ワドルディ「あ、うん」


彼女は僕の手を引いて、小さなベットへ導く。


リボン「じゃあ火、消すね。おやすみ」

ワドルディ「うん、おやすみ」

小さな部屋に広がる淡い火の光が消えた。


残ったのは八畳を満たす幸せだけ。

それは僕の心を締め付けて離さない。

この幸せは、絶対に手放したくない。

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 19:21:20.69 ID:cHoAf6dmi


鈍い頭痛と共に目を醒ました。

窓から覗く鋭い朝日が目を刺さる。



ワドルディ「飲みすぎたか……?」

リボン「あらら、二日酔い?大丈夫?」

ワドルディ「まあ何とかね」


先に起きていた妻は、玄関の脇にある台所で朝食と僕の弁当を作っていた。

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 19:25:21.75 ID:cHoAf6dmi
リボン「あまり無理しないでね?」

ワドルディ「ただの二日酔いだよ。気にしないで」


ふと時計を見ると、遅刻しそうな時間だった。

吐き気を抑え、重い身体でベットから慌てて這い出る。


リボン「どうしたの?」

ワドルディ「遅刻するっ!じゃあもう行くね!」

リボン「あ、朝ごはんは?」

ワドルディ「いや、いらない。弁当だけ貰って行くよ!」


僕は急いで身支度を整え、妻から弁当を受け取り、外へ飛び出した。

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 19:29:09.64 ID:cHoAf6dmi


また、苦しい一日が始まった。

今日から城の雑用だそうだ。

昨日、カービィにダメージを与えた事で、僕は昇格したらしい。

しかし、それでも現状は全く変わらない。

寧ろ、隊長に会えなった事で心の拠り所がなくなり、精神的に辛くなってしまった。



雑巾を持って、必死に掃除する。

みんなが汚した廊下を綺麗にするのだ。


僕達は所詮ゴミ屑、床に落ちた塵と変わらない。

僕は、床を磨いたり打ちのめされるために生まれて来たのか?


こんな人生、スカ同然だ。

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 19:34:01.98 ID:cHoAf6dmi

「おい!ワドルディ!!ちゃんと磨けよ!カスが!」

「何にもない上に仕事も出来ないとか生きてる意味あんの?」


廊下から二人の罵声が聴こえた。

ブレイドナイトとソードナイトだ。

二人は僕を嘲り笑っていた。


ワドルディ「申し訳ありません」


ソード「申し訳ありませんじゃねえよ……クソがっ!」


バキッ


左頬に物凄い痛みが走った。


ブレイド「おいソード、やり過ぎじゃないか?」

ソード「いいんだよこんなゴミ屑。
生きてる価値ないんだから消えたって誰も困らねえよ」

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 19:38:28.42 ID:cHoAf6dmi
ブレイド「そうだな」


そう言ってブレイドは僕のお腹を蹴った。

痛みのあまり息が詰まる。


ソード「おいなんか言う事ないのかよカス!昇格したからって調子乗ってんじゃねえぞ!!」

ブレイド「そうそう!」


次々に飛んで来る足に抵抗出来ず、ただ身を固め、蹲った。


ブレイド「ったく。目障りなんだよお前」

ソード「死ねよ給料泥棒」


そう言って彼らは僕に唾を吐きかけ、何処かへいった。

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 19:43:20.66 ID:cHoAf6dmi
ワドルディ「はは、やっぱりゴミなんだ……」


そう呟いた直後、急に胃の中のものがこみ上げてきて、吐いてしまった。

虚しさと悔しさが胸の中をグルグルと回る。

立ち込める酸っぱい匂いが、惨めな心をより鬱々とさせる。


もうこんな人生終わらせてしまいたい。

もういやだ。


「どうした、大丈夫かワドルディ?」


いきなり肩を揺さぶられた。

47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 19:47:21.99 ID:cHoAf6dmi
項垂れた顔をあげると、仮面を被ったマントの剣士メタナイトがいた。


ワドルディ「え、あ、はい」

メタナイト「その傷は……」

ワドルディ「あ、いえ!何もありません。ちょっと気分が悪くて転んだだけです」


僕は咄嗟に二人のことを隠した。


ワドルディ「じゃあ失礼します」


僕は、緊張して震える身体を押し殺し、メタナイトに背を向ける。

しかし、メタナイトの目は誤魔化せなかった。


メタナイト「隠さなくていい……あの二人がすまない事をしたな。私からキチンと言っておく」

ワドルディ「あ……いや!大丈夫ですから!!本当に!」


僕はメタナイトを必死に止めた。

そんな事を言ったら、二人は報復してくるに違いない。

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 19:50:36.53 ID:cHoAf6dmi
不安が一気に僕の身体に重くのし掛かる。
強い動悸が胸の中を締め付け、息苦しくなった。


メタナイト「大丈夫だ、心配するな。
それよりお前は医務室に行った方がいい」

ワドルディ「いや……本当に大丈夫です。慣れてますから」


僕は雑巾を手に取って、自分の吐瀉物を力強く拭き取る。

これ以上余計な事はしないでくれ……。


メタナイト「そうか……わかった」

ワドルディ「お心遣いありがとうございます」


嵐は去った。

54: 1 2011/11/09(水) 19:52:56.38 ID:cHoAf6dmi
しかし、僕の心は未だ大シケだ。
不安の波に呑まれ、心が転覆して溺れて行く。

恐怖で震える身体を抑え、ひたすら気持ちを誤魔化すように床を擦った。

55: 1 2011/11/09(水) 19:55:07.59 ID:cHoAf6dmi


旦那が仕事に出てから半日が立つ。
傾きかけた太陽は次第に赤みを帯びて、空に夕方の気配を忍ばせていた。


リボン「おじさーん!大根ちょうだい!」

おじさん「あいよー!相変わらず美人だねー!」

リボン「はいはい!ありがとう!」


八百屋のおじさんは揚々と大根を袋に入れた。


おじさん「奥さん可愛いからサービスね!」


そう言って、おじさんはリンゴを大根の入った袋に入れてくれた。


リボン「ありがとう!」


思わぬサービスに、踊り出しそうなくらい高揚した心持ちで、私は帰路に着く。

58: 1 2011/11/09(水) 19:57:34.32 ID:cHoAf6dmi
村から出て、ひと気に少ない草道に差し掛かる。

すると、何やら背後から物音がした。



何かと思い振り向くと、二人の剣士がいた。


リボン「あの……何かご用ですか?」


二人の不穏な空気に警戒ながら聞く。


「ご用って程でもないけどさぁ。
あんたの旦那には随分世話になってさぁ」

「そうそう!お陰で俺たち減給だよ。
どうしてくれんだ?」




険悪な気配を振りまく二人に危険を感じ、私は咄嗟に逃げた。

59: 1 2011/11/09(水) 19:59:16.70 ID:cHoAf6dmi

「おい!逃げるんじゃねえ!」


死に物狂いで草道を逃げる。



だが、すぐに追い付かれ、地面に押し倒された。


リボン「いやぁぁっ!!」

「お前の旦那がチクった所為で俺たちの評判もガタ落ちなんだよ!」

「あの野郎、カスの分際で女なんか垂らし込みてがって!マジ調子乗ってんじゃねえぞゴミが」

リボン「やめてぇぇ!」

「うるせえ!!黙ってろ!!」



殴られ、蹴られ、鈍い痛みが身体中に広がる。
そして、身包みを剥がれて行く。

 

69: 1 2011/11/09(水) 20:04:12.07 ID:cHoAf6dmi
心も、

身体も、

何もかも、全て壊された。

傷つけられた。


汚された。


泣いても、


泣いても、


落ちない心の穢れ、


それが私の心にこびり付き、腐食させ、そして錆びさせる。

70: 1 2011/11/09(水) 20:05:49.19 ID:cHoAf6dmi


どれだけ時間が経っただろう。



真っ赤に燃える空は、雲を飲み込み、やがて太陽に向かって溶けていく。

やがて色を変えた空は、終焉の時を迎え、紺碧へと塗り潰された。


止まった私の時間など気にも止めず、無情に現実は進む。


まるで死にゆくように、緩やかと静かに夜は訪れた。



そんな死んだ夜に響くのは、私の嗚咽のみだった。

71: 1 2011/11/09(水) 20:07:26.97 ID:cHoAf6dmi


漆黒に濡れた夜の中を頼りない三日月の光を頼りに、いつも通り家路に着く。


あそこだけが僕の心を癒すのだ。

彼女の優しさだけが、心許ない小さな僕を抱き締めてくれる。

そんな彼女だけが僕の救いなのだ。


僕が生きている意味でもあるだろう。

彼女の優しさが僕の存在を許してくれる。


早く、帰ろう。



次第に家が見えて来た。


逸る僕の気持ちとは裏腹に、疲れた足はなかなか前へ進んでくれない。

75: 1 2011/11/09(水) 20:09:27.67 ID:cHoAf6dmi

やっとの思いでようやく家に着いた。


ノブに手を掛け、ドアを開ける。

すると光が、


なかった。



ワドルディ「ただいま……リボン、いないの?」

真っ暗の部屋に声を掛けるが返事はない。

僕は手探りでテーブルのランタンを見つけ、マッチで火を灯した。


すると、部屋の隅の揺り椅子から妻の姿が浮き彫りになった。

77: 1 2011/11/09(水) 20:11:38.11 ID:cHoAf6dmi
ワドルディ「うわっ!いたなら返事してよ……」

リボン「ごめん」



ワドルディ「なっ……!何、これ……」


僕は妻の異変に、一瞬目を疑った。



光に当てられた彼女は、酷くボロボロで痛ましいものとなっていた。


ワドルディ「どうしたの……何かあったの?」


妻はその言葉を聞くと、身体をピクンと反応させる。

80: 1 2011/11/09(水) 20:12:52.01 ID:cHoAf6dmi


リボン「はは、なんでも……ないよ?」


無理して笑う彼女の頬には、涙に濡れた筋があった。


ワドルディ「なんでもない訳ないだろ!?
何があったの?」

リボン「何にもないってば!転んだだけだよ」


彼女はまた笑う。

しかし、その笑顔からは以前の面影はなく、深い悲しみにくれていた。

82: 1 2011/11/09(水) 20:14:21.42 ID:cHoAf6dmi

ワドルディ「嘘だ……!
ねえ教えて?何があったの!?」

リボン「……だから……何もないってぇっ!」


最後の方は声が裏返っていた。


リボン「何も……ないんだったら……」


上擦った声でそう言って、身体を丸めて小さく震える。


リボン「心配掛けてごめんなさい」


嗚咽を漏らす彼女の影は、淡い光の中、ただ、ゆらゆらと悲痛に揺れていた。


僕は、この時悟った。


彼女は、僕に負担を掛けさせたくないから嘘を吐いてるのだと。

83: 1 2011/11/09(水) 20:16:04.83 ID:cHoAf6dmi
彼女は、こんな目にあっても尚、僕に気を使っている。



僕は、気付かぬ内に妻を椅子から抱き寄せていた。

誰もいなくなった揺り椅子は
が、人知れず揺れている。


ワドルディ「ごめん、ごめんよ。
僕が不甲斐ないばかりに……君に……」

リボン「どうして?何故あなたが謝るの?
止めてよ……泣かないでよ」


リボンは、僕を抱き返し 涙に濡れた頬に、自分の頬を合わせた。


彼女の涙はとても冷たかった。


まるで、凍えた心から零れ落ちた冷たい感情が、瞳から滲み出したみたいだ。

84: 1 2011/11/09(水) 20:17:33.24 ID:cHoAf6dmi
リボン「ごめんなさい。
ごめんなさいごめんなさい」


蝋燭の火が揺れる部屋に、悲しく木霊する。


僕はただ、傷付いた彼女の身体を抱き締める事しか出来ない。

君を受け止める器もない小さな僕を許して欲しい。


何もない出来ない自分を呪った。

世界から必要とされてない僕を、唯一必要としてる人を僕は助けられない。


僕はどこまでクズなんだ……。



オレンジ色に染まる部屋の片隅では、揺り椅子が彼女の温もりを求めて、寂しく揺れていた。


いつまでも、

ゆらゆらと。

86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 20:20:54.86 ID:cHoAf6dmi


朝、ベットから起きると、彼女はいつも通り朝食と弁当と作っていた。


リボン「おはよう」

ワドルディ「おはよう、もう大丈夫なのかい?」

リボン「うん、ありがとう」


彼女は、少しぎこちない笑顔で言った。


リボン「さあ、早く食べよう!」

ワドルディ「あ、うん」

リボン「今日はサンドイッチにしてみたのです!」


無理に明るく振舞っているのだろう。
表情には少し翳りが見える。


心配掛けさせまいと健気に頑張ってるのだと思うと胸が痛んだ。

90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 20:23:11.59 ID:cHoAf6dmi
リボン「どうしたの?早く食べよう?」

ワドルディ「あ……うん」



ワドルディ「あの……ごめん。僕は……」

そう言うと、彼女はとても寂しそうな顔をした。


リボン「謝らないで。あなたは悪くないよ」


妻は静かにそう答える。


リボン「……あなたは気にせず精一杯仕事を頑張って!
私の事はいいから、ね?」


ワドルディ「で、でも……」


リボン「あなたにはやる事があるんでしょ?
私、ずっと応援してるんだよ?」

92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 20:25:02.94 ID:cHoAf6dmi
ふと頭に何かが過る。

でも、何かは分からない。


リボン「私は、あなたの重荷になりたくない」


彼女の真っ直ぐな視線が、僕の目を捉える。


リボン「だから……もう気にしないで!」


そう言って、彼女は精一杯の笑顔を見せた。


ワドルディ「……わかった」


強く真っ直ぐな目が、何も変わらない僕の現状に突き刺さる。

激しく揺れる想いが、胸の中を覆った。


僕は……、


昔から何も変わってない。

94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 20:26:25.78 ID:cHoAf6dmi
リボン「さて、食べよう!いただきます」

ワドルディ「いただきます……」


なのに、君の気持ちも昔から変わっていない。

どうして?



サンドイッチを食べながら、何故と言う考えが頭の中を何度も巡る。


しかし、結局答えは見つからず、僕は釈然としないまま、傷付いた妻に見送られ仕事に向かった。

95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 20:27:57.00 ID:cHoAf6dmi

重い足取りで、丘の上のデデデ城を目指す。

現地に着いた僕は、無意識の内に更衣室へ導かれ、労働を受け入れる。


今日もまた、城の雑用だ。

地べたを這って、必死に床を擦る。



ソード「なんで磨く事も出来ねぇの?きちっと磨けよ、無能なゴミ屑が」

ブレイド「てめーみたいなカスの代わりなんて腐る程いるんだぞ?」


毎日付いて回る罵声が僕を襲う。

しかし、それもいつもの事だ。

蹴られようが、踏まれようが、文句を言ってはいけない。


それが、僕の仕事。

97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 20:29:39.66 ID:cHoAf6dmi
存在意義だ。

「あのサルなんかキモくない?
根暗っていうか、オタクっていうかさぁ」

「ああ、分かる分かる!気味悪いよねぇ!
つかあいつ、先輩二人の事チクったらしいよ」

「えぇーウソー!マジ根暗ぁ!
男なら本人に直接言えっつうの」


すれ違う女の子達のヒソヒソ話が突き刺さる。


皆が僕を蔑ろにする。


でも、

もう慣れた。

僕は、ただのザコキャラだ。

100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 20:31:34.55 ID:cHoAf6dmi


ピィィィィィ


煩悩が占める頭に、突如けたたましい笛の音が突き抜けた。


ワドルディ「ああ、昼休みだ」


笛が鳴ってから二十分間だけ昼食の時間が設けられるのだ。


僕は急いで更衣室から弁当を持ち出し、食堂へ向かう。


「おーい!」


廊下を歩いていると、後ろから聞き慣れた声がした。


ワドルディ「あっ!」


振り返ると、そこには隊長がいた。

102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 20:33:12.63 ID:cHoAf6dmi
久しぶりの再会に、心が軽くなる思いだ。


隊長「久しぶりだな!元気でやってるか?」

ワドルディ「ええ、まあ何とかやってます」

隊長「そっか!良かった良かった!」


優しく微笑んだ一つ目が、僕の姿を映す。

澄み切った黒い瞳が、僕の不安を少しずつ取り除いてくれる。


僕はいつも、この人の底なしの優しさに救われているのだ。


でも、

103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 20:34:34.43 ID:cHoAf6dmi

ワドルディ「隊長がここにいるって事は……昇格したんですか?」

隊長「へへっまあな!」

ワドルディ「そうですか!なんか仲間が増えた気分です」


隊長「そうだな!でも昇格すれば周りにライバルも増えるし、敵視される事もあるだろうからなぁ。
お前も気を付けろよ?」


その言葉が、胸に刺さった。

心が痛い。



ワドルディ「はい……」


隊長「ん?」


突然、隊長の顔が険しくなった。

105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 20:36:25.55 ID:cHoAf6dmi
隊長「……上手く行ってないのか?」

ワドルディ「え?い、いえ!そんな事はないです!!」

隊長「じゃあ何でそんな顔をするんだ」


ワドルディ「……え?」


余程酷い顔をしていたのだろう。

隊長は悲しそうに瞳を濁らせ、僕を見た。



隊長「お前……まさか──」



ドンッ


その言葉を聞くや否や、

背中に強い衝撃を受け、僕は地面に叩き付けられた。

106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 20:38:11.47 ID:cHoAf6dmi
ソード「おいおい、まさか昼休憩に行くつもりかワドルディちゃん?」

ブレイド「ろくに働きもしないで飯だけ食うの?お前?」


後ろには、ケタケタと下品に笑う二人の上司がいた。

蹴飛ばされて四つん這いになっている僕を見下している。

こんな所を、


こんな所を、隊長には見られたくなかった。

最悪だ。



ブレイド「何だよ、上司に向かってその反抗的な目は」


鋭い眼光に圧される。

この場の重く苦しい空気と、見られたくないという思いに苛まれ、何も言えずにいた。

107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/09(水) 20:40:31.59 ID:cHoAf6dmi
ブレイド「何とか言えよ!クソが!」

ワドルディ「うっ……」


腹に激烈な蹴りを貰う。


ソード「折角昇格させてやったのに、んだよその態度!なんならクビにしてやっても良いんだぜ!」


腹を抱えて蹲っている所を、更に踏み付けられる。

歯を食い縛って、体を這いずり回る鈍い痛みを必死に耐えた。



隊長「……やめろ!」


隊長はいきなり大声を出した。


だが、その声は恐怖の所為か震えている。

108: 1 2011/11/09(水) 20:42:16.62 ID:cHoAf6dmi

ソード「あ?なんだてめえ」


僕から意識が逸れた二人は、隊長に詰め寄った。


隊長「そ、それ以上はやめろよ!」

ソード「……上司に向かってその口の利き方はなんだよ。
どうやらてめえ、出世したくねぇらしいな!ああ?」


ソードはそう言って、懐の剣を抜く。


ソード「それとも、ここで殺してやろうかぁ?」

隊長「う……」


握られた剣は、怯えの色が増す隊長の姿を吸い込み、卑しく光る。


ソード「死にたくなかったら黙ってろ!」

不敵に笑うソードはそう吐き捨てると、隊長は糸が切れたようにその場にへたれ込んだ。

110: 1 2011/11/09(水) 20:43:55.61 ID:cHoAf6dmi
ブレイド「お前にヒーローは来ないよ」


そしてまた、


いつも通り僕は虐げられた。


まるで僕の全てを否定し、拒否するように、完膚なきまで痛めつける。



その最中、僕は現実から引き剥がされた。


──何故、耐えている?

──逃げ出せば良いじゃないか。

──もう、充分頑張ったろう。


心の中で、何かが囁く。


112: 1 2011/11/09(水) 20:45:53.19 ID:cHoAf6dmi
その通りだ。

辞めてしまえばいい。


楽になれる。


こんな生活が死ぬまで続くなら、


夢はない。


ならもうこのまま消えて辞めてしまおう。




でも、



辞めれば、何か大切なものを失ってしまう。

とても大切な心の芯が折れてしまう気がするのだ。

113: 1 2011/11/09(水) 20:47:20.13 ID:cHoAf6dmi
そうなってしまったら、本当に無価値な存在になってしまう。


でも、


ソード「お前になんの価値もない」

ブレイド「生きる資格も、家庭を持つ資格も、女を抱く資格もないんだよ」

ソード「死ねよ」

ブレイド「お前が死んでも誰も困らない。寧ろ、喜ぶさ」


懐から妻の手作り弁当が、二人の前に転がる。


僕の価値って何?

115: 1 2011/11/09(水) 20:48:59.02 ID:cHoAf6dmi
ソード「同情するぜ。こんなくだらない旦那を持った女がよぉ!」


グシャッ


彼女の優しさと笑顔が詰まった弁当が、勢いよく無慈悲に押し潰された。


ワドルディ「あ……」


愛情を踏み躙られた深い悲しみが、胸を深く抉る。


次第に心は絶望で満たされ、黒く重たい影が落ちて行く。


ソード「精々今の内に女を大切にするんだな!
まあ尤も、お前には無理だがなぁ!」



ごめんよ、許してくれ……。


僕はただ、心の中で彼女に謝る事しか出来なかった。

116: 1 2011/11/09(水) 20:50:42.31 ID:cHoAf6dmi

頂点を穿つ金色の太陽が、ジリジリと身を焦がして私を見下ろし、真っ白な雲は、澄み切った青天を漂う。

その様は、まるで揺り籠に揺られて眠る純真無垢な赤子だ。

スヤスヤと心地よい夢を漂い、煩悩を抱える事なく呑気に世界を巡っているのだろう。


羨ましい限りだ。


家の外で、洗濯物を干しながら、空を呆然と眺めていた。

118: 1 2011/11/09(水) 20:52:49.67 ID:cHoAf6dmi


あなたはあの日の事を覚えてる?


カービィ、デデデ、アドレーヌ、そしてあなた、四人で力を合わせて私の星と世界を救った。

みんなから祝福され、あなたはヒーローの一員となった。

その時、私も凄く嬉しかったのを今でも覚えている。

煌びやかに輝く星のように、とても活き活きしていて素敵だった。



私は前からずっとあなたに惹かれていたんだと思う。

何をするにも全力で、直向きで、決して諦める事のない真っ直ぐな心を持ったあなたに。

120: 1 2011/11/09(水) 20:54:11.71 ID:cHoAf6dmi
私は、そんなあなたを支えてあげたい一心で、あなたに添った。


いつまでも夢見る人であって欲しい。


そう願って。



しかし、現実は長く続かない。


ひと時の熱い栄光は、すぐに冷めてまた元通りになったのだ。


あなたは酷く落胆していた。

122: 1 2011/11/09(水) 20:55:22.34 ID:cHoAf6dmi

でもあなたは、


──いつかまた、大物になって君を幸せにするよ。
必ずなってみせるから、その時まで待ってて。


と、私に言った。


その言葉を胸に、私は生きてきた。

今もそうだ。


この言葉があるから、私は辛い事でも乗り越えられる。


必ず、彼が迎えに来る。


そう信じてる。

124: 1 2011/11/09(水) 20:56:47.64 ID:cHoAf6dmi

ふと空が暗くなった。


立ち込める仄暗い雲達が、暖かい光を覆う。

光を遮られた風景は活気を失くし、肌寒い風を纏ってざわめき震える。


その風景の向こう、奥の小道から二つの人影があった。


それはゆっくりとこちらに近付いてくる。



背筋が凍った。

127: 1 2011/11/09(水) 20:58:14.59 ID:cHoAf6dmi

「昨日は最高だったなぁ奥さん」

「今日もよろしく頼むわ」


悪夢が再び舞い降りたのだ。

私を震え上がらせて止まない現実がまた戻って来た。


身体が石のように重く、動かない。


「ククク、怖がる事ないだろぉ?」

リボン「いや……」


催す吐き気を飲み込み、頭を落として目を背けた。


「なんだ、その態度は?こっち見ろよ!」

「お前、立場分かってんのか?」


乱暴に顎を持ち上げられ、真っ黒な目が、ギョロギョロと私の目を覗き込む。

130: 1 2011/11/09(水) 20:59:35.22 ID:cHoAf6dmi
その目からは、傲慢且つ狡猾で下品な人間性が伺える。


リボン「離してっ!」


パシッ


汚らわしい手を払い除ける。


「てめえ……そんな態度取ってると旦那がどうなるか知らねえぞ?」

リボン「え……?」

「そうそう!クビにするのも出世させるのも俺たち次第なんだぜぇ?」

リボン「……そ、そんな」

「まあてめえがそんな態度じゃ仕方ねぇ。
あいつはクビだな」

リボン「ま、待って!!それだけは……」


それだけはあってはならない。

132: 1 2011/11/09(水) 21:00:50.97 ID:cHoAf6dmi
リボン「ま、待って!!それだけは……」


それだけはあってはならない。


「じゃあ大人しく脱げよ。
そうすりゃ帳消しにしてやるからよぉ」


嘲り笑う二人を見上げて懇願した。


リボン「そんな……お願い許して」

「じゃあ旦那は失業だな」

リボン「そ、それだけは!!」

「なら脱げよ。
どっちが大事か良く考えろよ。
路頭に迷うか、抱かれるか、どっちだ。
今なら旦那の出世も考えてやっても良いぜ」


これが現実か。

私が今まで感じて来たものは全て幻なのだろう。

脆い幻の中で、夢を見ていたんだ。

133: 1 2011/11/09(水) 21:02:34.55 ID:cHoAf6dmi
でも私が汚れれば、彼の夢は続く。

幻を生き続けられる。

私が現実の犠牲になれば、彼は救われる。


彼の幸せが守れるなら。



私は静かに服を脱いだ。

身を黒く染める覚悟と、押し潰されそうになる罪悪感を胸にしまって。



──ごめんね、あなた。

134: 1 2011/11/09(水) 21:04:07.89 ID:cHoAf6dmi


10月22日

妻の作った弁当が踏み躙られた。
周りからもヒソヒソと陰口を言っている。

辛い。


隊長はあの後、気を遣って弁当をくれたが、僕は悔しくて泣いた。

何も出来ない自分が非常に情けない。


妻は、昨日から更に窶れた。


どうかしたのか、と問うても何もないと言う。


心配でならない。

君の笑顔が次第に失われていく様が、とても恐ろしく思う。


僕はどうしたら良いんだ?

137: 1 2011/11/09(水) 21:05:58.48 ID:cHoAf6dmi

10月24日

妻がしきりに、仕事は大丈夫かと聞いてくる。

僕は大丈夫だ、と答えた。

すると妻は、安心したように笑った。

苦しいよ。


言えるはずない。

パワーハラスメントやいじめを受けているなんて。


今日もまた、あの二人にやられた。

あの二人やみんなはどこまで僕を貶めれな気が済むのだろう?

もう許して欲しい。


ごめん。

139: 1 2011/11/09(水) 21:07:33.46 ID:cHoAf6dmi
10月25日

今日は一週間ぶりの休みだ!


あまりにも嬉しいので、朝から日記を書いてる。

でも妻が、呆れた顔でこっちを見てる。


可愛い。

彼女だけが僕の支えだ。


さて、どこへ行こうか。

妻も何だか嬉しそうだ。
久しぶりに笑っている姿を見た気がする。


こうしていると、何だか昔を思い出す。


今も昔も、君が好きだ。

だから僕は──

143: 1 2011/11/09(水) 21:10:11.38 ID:cHoAf6dmi


リボン「ねえ、あなた。
今日はどこ行くのー?」


リボンは、期待に胸踊らせた様子で椅子を大きく前後に動かしている。

窓から漏れる光が、彼女の笑顔を浮き彫りにさせる。


ここ最近笑顔が絶えていた彼女から、笑みが零れた事に嬉しく思った。


リボン「もう!何笑ってんの!?」


どうやら気付かぬ内に、僕も笑っていたようだ。


ワドルディ「いやいや、何でもないよ」


僕は筆を置き、開いていた日記を閉じて引き出しにしまった。

144: 1 2011/11/09(水) 21:12:29.15 ID:cHoAf6dmi
リボン「そっか」

ワドルディ「うん」


一瞬、彼女の顔に少しだけ影が差した。


リボン「それはそうと、楽しみだね!」


それでも尚、彼女は影を隠して明るく振舞う。


でも、僕にはそれが有難かった。


そうしてくれなければ、僕も押し潰されてしまうだろうから。


彼女はなんて強いんだ。

僕とは比較にならない。


リボン「さて、どこ行こう」

ワドルディ「……グリーングリーンズ」

145: 1 2011/11/09(水) 21:13:48.12 ID:cHoAf6dmi
僕は咄嗟にそう言った。

なんでそう言ったかは、良く分からない。

リボンはキョトンとした顔で、首を傾げた。


リボン「えっ?グリーングリーンズ?」

ワドルディ「え?あ、うん。
あそこでピクニックなんてどうかな?」

リボン「んー!良いね!」

ワドルディ「あそこは日当たりも良いし、ピクニックには最適さ」

リボン「うん!じゃあ今からお弁当作る!」


リボンは椅子から飛び上がると、キッチンに向かい料理を始めた。

料理を勤しむその光景が、なんだか暖かく感じる。

148: 1 2011/11/09(水) 21:15:27.14 ID:cHoAf6dmi

暫くして、彼女は僕の方へ向き直った。


リボン「さてと、出来た!!じゃあ行こう!」

ワドルディ「うん」

彼女はにこりと笑って手を差し出した。

その手に吸い寄せられるように、僕は手を重ね、光が溢れるドアをくぐる。


遠く澄んだ秋空に刺さる淡い日差しは、傷付いた僕らを包み込んでくれる。

穏やかにゆっくりと歩みを進める雲とそれに続く僕達。


その足はグリーングリーンズへ向かう。

150: 1 2011/11/09(水) 21:17:20.04 ID:cHoAf6dmi
村の外れから更に外れへ歩き、深い緑が埋め尽くす草原を抜ける。


すると、やがて大きな森が見えた。

壮大な生命が覆う自然に溢れた神秘的な森だ。


リボン「うわぁ、久し振りだね!ここでみんなとピクニックしたっけ」

ワドルディ「そうだったね、懐かしい!」


懐かしいあの頃の思い出が、秋の仄かな木漏れ日と共に降り注ぐ。


リボン「本当に、懐かしいね。あの頃に戻りたい」

ワドルディ「そうだね」


持って来たピクニックシートを敷いて、二人は昔を思い出す。

153: 規制食らった1 2011/11/09(水) 21:19:39.83 ID:HsQcaNAV0
カービィ「おーいみんなー!ここでご飯にしようよ!」

デデデ「さっき帰ったばっかなのになんでそんなに元気なんだ?」

カービィ「そこに食べ物があるから!
じゃあアドレーヌちゃんお願い!」

アドレーヌ「はいよー」


キャンバスから次々に食べ物が溢れ、いつのまにか敷かれたシートに並べられる。


カービィ「ポヨヨォォォォォ!」

デデデ「相変わらず美味そうだ!」

アドレーヌ「まあ私に掛かればこんなもんさ!」

カービィ「さあ食べよう!いただきまーす!」

156: 規制食らった1 2011/11/09(水) 21:21:10.51 ID:HsQcaNAV0
デデデ「うん、美味い!」

カービィ「最高だね、アドレーヌちゃんのご飯!」

アドレーヌ「ありがとうね!」

カービィ「あれ、どうしたのワドルディ?食べないの?」

あ、今行くよ。

アドレーヌ「またどうせリボンちゃんとイチャイチャしてたんでしょ?」

し、してないよ!

アドレーヌ「じゃあその手は何ぃ?」

あっ!いや、これは……。

カービィ「お熱いねー!」

デデデ「全くだ!」

158: 規制食らった1 2011/11/09(水) 21:22:22.19 ID:HsQcaNAV0
いや、ちょっ!違うって!


カービィ「末長くお幸せに!」

アドレーヌ「うん!」

デデデ「二人を祝して宴だ!」


和気あいあいのピクニックシート。


リボン「さあ、行こう?」


彼女の手に引かれて、みんなの輪の中に入る。

笑顔に埋め尽くされるピクニックシートに幸せが溢れかえる。

誰もが幸せだった。


誰もが明るい明日を予期し、みんなで喜び、分かち合った。


僕達もそう。


握られた手から光る指輪が、輝かしい未来を示していた。

161: 規制食らった1 2011/11/09(水) 21:23:51.08 ID:HsQcaNAV0


はずだった。



ワドルディ「どうしてこうなったのかなぁ」


世界を救った英雄として僕達四人は持て囃され、至る所から取材のオファーが殺到。


仕事にも生活にも不自由なかった。


ひと時の幸せ。


しかしそれも束の間、僕は世間から捨てられた。


僕は彼ら三人に比べて、地味であり、何より劣っている。

そんな僕に世界が切り捨てたのだ。

164: 規制食らった1 2011/11/09(水) 21:25:36.92 ID:HsQcaNAV0

リボン「酷いよね。散々私生活荒らして、用がなくなったら捨てるなんて」

ワドルディ「仕方ないさ。
僕には魅力がないんだから。
宇宙からやって来た星の戦士と、一国の大王、そして美人の絵描き、僕が入り込む隙はないよ」



仕事を失った僕は、見る見る落ちぶれていく。

新しい仕事も見つからず、いつしかみんなからも忘れ去られ、幻の思い出は陰惨な現実に塗り替えられた。




夢のような日々は、露と消える。



僕は、酷く塞ぎ込んだ。

165: 規制食らった1 2011/11/09(水) 21:26:52.79 ID:HsQcaNAV0
外の世界を恐れて現実に触れる事から逃げ、心の殻に篭った。

外にも出ず、ただ、家で腐っていく。


僕は殆んど死んでいたようなものだった。

彼女にも大いに迷惑を掛け、挙句に自殺もしようとした事がある。



──何してるのッ!


もう生きたくないんだ。
分かるでしょ?僕はもう用済みなんだ。

166: 規制食らった1 2011/11/09(水) 21:28:25.77 ID:HsQcaNAV0
──だからってなんで!?
なんで命を投げる必要があるの?


僕は誰からも必要とされてないからだよ。
僕が消えたって誰も困らない。
君だってそうだろ?
僕に付き合わされて迷惑してるんだろ?
僕なんていないh


パシンッ!


──何勝手な事言ってんの!?
ふざけないでよ。
あんた、約束したじゃん!
いつか大物になって幸せにするって!

そう言ったじゃんっ……!

迷惑してるかって?

してるよッ!

でも、そこまでしてでも一緒に居たいこの気持ちが分かる……?

誰も必要としてない……?

私には……あなたが必要だよ。

168: 規制食らった1 2011/11/09(水) 21:29:53.06 ID:HsQcaNAV0
いつだって、あなたは私の拠り所だった。

あなたが居たから、私は……。

お願いだから、死なないで。

生きて、私のためにも。

お願い……。


死んで凍て付いた心とは裏腹に、焼けるような熱い痛みが何度も脈打つ。

その痛みは今でも忘れていない。


次の日、リボンはデデデを連れてきた。

カービィは多忙で連絡がつかず、アドレーヌは絵描きの旅に出ていたため、頼みの綱はデデデのみだったのだ。


憔悴しきった元部下を見て、デデデは思う所があったのだろう。

彼はわざわざ、僕に職と資金を与えてくれた。

173: 規制食らった1 2011/11/09(水) 21:34:07.82 ID:HsQcaNAV0
──昔のよしみだからな。
これぐらいは訳ないさ。

ありがとうございます。

──気にするな。
早く良くなって、頑張って出世して、奥さんを幸せにするんだぞ?

うん……。


だが、仕事は過酷なものであった。

デデデはこの時、カービィと敵対していた。

僕に課せられた仕事は、カービィを傷付ける事だ。

カービィを足止めし、ダメージを与える。


昔の仲間を傷付ける仕事は、精神的に辛い。


更にカービィは大衆に人気があるため、その敵である僕は大層酷い扱いを受けた。


罪悪感に苛まれる毎日が続く。

175: 規制食らった1 2011/11/09(水) 21:38:27.29 ID:HsQcaNAV0
何故、こうなったんだろう。


あの日の幸せはどこへ行ったのだろう。


虚構の栄光は、セピア色をなって次第に褪せていく。


ワドルディ「君は……今、幸せかい?」


空には雲一つない青が広がっている。
寂しい秋の空が、僕達の褪せた思い出を飲み込む。


リボン「うん、幸せだよ。
だから笑っていれる」


彼女の真っ直ぐな声に、森がざわめいた。


リボン「たとえ、ありったけの不条理の中に置かれていても、そこに幸せが咲けば、それが人を笑顔にさせる。
どんなに小さなものでもね」


そう言って、笑った。

今までにないくらい優しい笑顔だ。

177: 規制食らった1 2011/11/09(水) 21:40:32.29 ID:HsQcaNAV0
 

リボン「あなたがいてくれて良かった」


そうか。

そうだったのか。


今日、僕は幸せだったんだ。

嬉しいと思ったのも、暖かく感じたのも、笑顔が零れたのも、全ては幸せだったからなんだ。

そして、それは君から齎されるものだったんだ。


ワドルディ「そっか」


気付けば、僕は笑っていた。


幸せが咲けば、笑顔が実る。

178: 規制食らった1 2011/11/09(水) 21:42:08.98 ID:HsQcaNAV0
たとえそれが、暗く閉ざした闇の中でも、幸福の曙光が差せば、希望を掴める。


ワドルディ「ありがとう」


なら、僕が君を守ろう。


君に巣食う闇を取り払う。



君の光になって、影を照らすんだ。


リボンの幸せは、僕が掴んでみせる。
涙なんて二度と流させやしない。

君の笑顔をもう、誰にも奪わせはしない。

180: 規制食らった1 2011/11/09(水) 21:43:50.63 ID:HsQcaNAV0
僕は、そう誓った。



その時、背後の草むらから何者かが出て来た。


思わぬ邂逅に、息を呑んだ。


ワドルディ「き、君は……」


それは、僕にとって転機となるのか否かは、まだ分からない。

182: 規制食らった1 2011/11/09(水) 21:45:13.51 ID:HsQcaNAV0


夫の後ろから現れたのは、ピンクボールだった。


ワドルディ「き、君は……」

リボン「カービィくん!?」


紛れもないこの星の主人公、カービィが立っていた。


カービィ「ぽよー?」


隣を見ると、夫はかなり狼狽して口をパクパクさせていた。


リボン「……久し振りだね」


私はあの旅以来あっていない。

物凄く懐かしい。


だが、険悪な雰囲気の所為で、懐古の念に浸る余裕はなかった。

187: また規制食らった1 2011/11/09(水) 21:49:19.21 ID:2Vraxkc6i
無理もない。

仕事ではいがみ合う仲なのだから。


長い沈黙が場を制する。


ピリピリと張り詰める空気が、次第に膨れ上がり、重くのし掛かる。

時間の針が進んでないのではないかと錯覚させる程に、沈黙が長く感じられた。



やがて、カービィが重い沈黙を破る。

191: また規制食らった1 2011/11/09(水) 21:51:03.96 ID:2Vraxkc6i
カービィ「…久し振りだね。
元気にしてた?」

リボン「う、うん。
カービィくんはどうなの?」

カービィ「僕もまあ上手くやってるよ」

リボン「そっか、良かった」

カービィ「うん、ありがとう。
それと……ワドルディの方はどう?」

ワドルディ「えっ?」

カービィは、静かに夫を見た。

その目からは敵意は感じられない。


ワドルディ「え?あ、いや……」

カービィ「仕事の事なら気にしないで?
あれはまた別さ。
僕であって僕でないようなものだし」

ワドルディ「う、うん……」

カービィ「今は、友人としての僕だから、君も僕の友人として接して欲しい」

193: また規制食らった1 2011/11/09(水) 21:52:15.42 ID:2Vraxkc6i
ワドルディ「……わかったよ」

カービィ「ありがとう」


カービィは嬉しそうに、柔らかい顔を綻ばせる。


カービィ「ごめんね、あんな真似をして。
許してくれとは言わない」


先程の表情から一変して、厳粛なものとなった。


カービィ「でも……ああしなければ僕はこの星から追放されてしまうんだ……」


ワドルディ「……えっ?」

リボン「どういう事?」

カービィ「僕は、今この国の政府に雇われてるんだ」


デデデ大王がこの国の統治者と言われているが、実際はただのお飾りらしい。
その裏で実権を握っているのが、政府なのだという。

この星には最近来たばかりなので、初耳だった。

196: また規制食らった1 2011/11/09(水) 21:53:40.81 ID:2Vraxkc6i
カービィ「全く勝手な話さ。
国民の印象を崩さない為、デデデと対立しろだなんて……。
この国の政府も狂ってるね。

あっ、美味しそうなお弁当!
僕も貰って良い?」

リボン「あ、うん!どうぞー!」

カービィ「ポヨヨーイ!」


ピクニックシートに飛び込んで来たカービィは、お弁当のサンドイッチを遠慮なく頬張った。

今も、昔もカービィは変わってない。


カービィ「ったく僕達は道具じゃないのに!
おまけに、僕らで賭けまで始めて……趣味悪いよね」


夫が、一瞬苦しそうな顔をした。

その表情の真意を汲み取るのは、想像に難しくない。

198: また規制食らった1 2011/11/09(水) 21:55:37.98 ID:2Vraxkc6i

分かってる。

あなたが何に苦しんでるのか。


でも、私ではその苦悩には届かない。

取り除く事は出来ないのだ。

それも分かってる。


それが歯痒くて仕方ない。


カービィ「どっちが勝つか、お金を賭けるんだよ。
デデデか僕か、どちらかね。
僕達はその遊びの駒でしかないんだ。
命を天秤に掛けて遊んでるんだよ。
逆らえば島流しならぬ星流しさ。
酷い話だよね」

ワドルディ「カービィ……」

201: また規制食らった1 2011/11/09(水) 21:57:16.38 ID:2Vraxkc6i
カービィ「あの日から既に、僕達は傀儡だったんだ。
僕達に明るい未来なんてなかったんだよ」


カービィは眉を歪め、下唇を噛み締めた。


カービィも一緒なんだ。

みんな思い悩み、苦しんで生きてる。

逃れようにない切迫詰まる現状に、絡まって動けない。

あの日から、私達みんなはそうなったんだ。


カービィ「もう仕事辞めたい」


太陽と青空が笑い合うなか、ピクニックシートからは悲痛な言葉が聞こえる。


ワドルディ「あ……」


夫が、苦虫を噛み潰したような顔をした。

204: また規制食らった1 2011/11/09(水) 21:58:53.00 ID:2Vraxkc6i
カービィ「はは、ごめんね。
折角のピクニックを邪魔して」


項垂れたカービィの瞳は、青天とは正反対に濁っていた。


ワドルディ「良いよ、君が満足するまでここに居たら良いよ」

リボン「そうだよ。
カービィくんは私達の友達なんだから」


カービィ「……うん、ありがとう」


カービィは、暗い表情のまま小さく笑った。

その目には涙が滲んでいる。


カービィ「僕は……君達に恨まれてるかと思った。
あんな仕打ちをして、君達を傷付けていた。
こんな僕を……許して」

205: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:00:26.74 ID:2Vraxkc6i

ワドルディ「何言ってんだよ。
僕らは友人でしょ?
そんな事気にするなって。
仕事だったんだし、仕方ないよ」

カービィ「……君は優しいね。
相変わらずだ」

ワドルディ「みんな変わってないよ。あの日から、何もね」

カービィ「そうだね」


二人は顔を見合わせて、何かを分かつように頷く。

それがどんな意味かはよく分からないが、二人の間の軋轢は消え去ったのだろう。

いつのまにかピクニックシートからは重いものは消え、森と空が通わせる綺麗な空気が流れ込む。


今日は、凄く幸せだ。


明日なんて来なければ良いのに。

209: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:02:24.79 ID:2Vraxkc6i
ワドルディ「じゃあ仕切り直しだね」



それでも、時間は進む。


私の願いを無視するように、刻々と進んでいく。


風が吹き、

雲は流れ、

太陽は次第に傾き、

空が色を変え始める。


心の中でどれだけ懇願しても、その思いは届かない。



曇りのない笑顔が溢れ出すピクニックシート。


それに幸せと感じる度に、その時が光陰の矢の如く過ぎて行く。

213: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:04:06.53 ID:2Vraxkc6i
そして、

終わりを迎える。


ワドルディ「そろそろ暗くなるし、帰ろうか」

カービィ「そうだね……」


誰もが望まない現実。

その日々が戻ってくる。


嫌だ!もっといる!

咄嗟に出掛かったその言葉を飲み込んで、胸にしまう。


ゆっくりと立ち上がる三人。

寂しくひっそりと燃える赤い太陽を背に、カービィは言った。


カービィ「ワドルディ、その前に一つお願いがあるんだ」

ワドルディ「なに?」

214: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:05:37.40 ID:2Vraxkc6i
カービィ「また……一緒に冒険しない?」


ワドルディ「え?」


カービィ「実は今度、政府から冒険をしろって仕事を依頼されてね。
その時に、仲間を三人揃えろって言われてさ。
二人は見つかったんだけど、最後の一人が見つからなくて。
だから……どうかな?
君となら、また良い冒険が出来ると思うんだけど」



現実が大きく変わろうとしている。

それも良い方向へ。


私は凄く嬉しくなった。



でも何故だろう。


少し悲しくなったんだ。

218: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:07:19.39 ID:2Vraxkc6i
太陽は空を燃やす事を止め、月にバトンタッチし地平線へ消えていった。

青白い三日月の光に見守られる中、僕達は手を取り合って草原を歩いていた。


ワドルディ「今日は楽しかったね」

リボン「うん!カービィくんにも会えたしね」

ワドルディ「あれはびっくりだったね!いやぁ、楽しかったなぁ」


リボンは僕の顔を見上げ、嬉しそうに笑った。

でもその後、表情に翳りが出来る。

219: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:08:35.47 ID:2Vraxkc6i

今から、またつまらない明日へ戻る。

それが嫌なのだろう。

僕もそうだ。


でも、僕の日常は大きく変わろうとしている。



リボン「ねぇ、冒険行くの?」


その心中を悟ったのか、彼女はそう訪ねてきた。

不安に揺れる瞳が投げ掛けられる。


ワドルディ「……さあ、ねぇ」


曖昧に返す返事が、静寂の夜に消えていく。

220: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:09:50.56 ID:2Vraxkc6i
リボン「冒険、行ってよ。
やっと掴めたチャンスじゃん!」


この言葉をどんな気持ちで言っているのか、それは僕にも分かる。


リボン「私の事は良いから、行って?ね?」


冒険に出れば、君とは離ればなれだ。

それでも良いというのかい?


ワドルディ「……行かない」


草原を渡る足が止まった。


君を守ると誓ったんだ。

君の笑顔を守るために。

221: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:11:46.50 ID:2Vraxkc6i
でも、


リボン「なんで!?
なんで行かないの?
こんなチャンス、もうないかも知れないんだよっ!」

ワドルディ「……良いんだよ」

リボン「良くないよ!
あなたの夢でしょ!?」

ワドルディ「夢より大切なものがあるんだ」


こちらを見る彼女を真っ直ぐ見つめ返す。

君を置いては行けない。


リボン「なに、それ?
つまり私がいるから行かないの?」


彼女の目が、僕を睨め付ける。

223: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:13:26.87 ID:2Vraxkc6i
ワドルディ「君だって……行って欲しくないんでしょ?」


彼女は一層、目を細めた。


リボン「……何思い上がってんの?
いい加減にして!そんなくだらない理由で断るつもり?」


ワドルディ「僕にとってはくだらなくない」


リボン「私にとってはくだらない」


ワドルディ「君が苦しんでるのに、冒険なんて行けないよ」

224: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:14:51.74 ID:2Vraxkc6i
リボン「そっちのが苦しいよ!
私に所為であなたの夢が奪うなんて耐えられない!
前に言ったでしょ?あなたの重荷になりたくないって!
だから行ってよ!
そしたら私は」


ワドルディ「救われない。
君だけ救われない」


彼女は俯いて小さい身体を震わせた。


リボン「この分からず屋!!
朴念仁!!」


透き通る白い頬から涙の雫が伝う。
涙に濡れた雪のような肌は、淡い月明かりを吸い込み、冷たく輝いている。

226: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:17:15.35 ID:2Vraxkc6i
リボン「私は、自信に満ち溢れたあなたの笑顔が好きだった。
でも、今のあなたは自身も笑顔もない!
そんなあなた……見てられない。
私は、またあの時のあなたに戻って欲しい。
そのためなら、私はなんだってする。あなたの笑顔が見れるなら」


キッと顔をあげる。

涙に濡れたその目は、いつぞやに隊長が見せた決意の目のそれと同じものだった。


リボン「私が邪魔だって言うのなら……私は消える!」


雫に揺れ動く瞳の奥には、鋭い光を宿していた。

決して動く事のない揺るぎない決意が、僕を見据える。



でも、僕だって誓ったんだ。

君を守るって。

228: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:18:52.61 ID:ChzpH9eR0
決意は揺るがない。


ワドルディ「……それでも行かない」


リボン「バカッ!」


快活な音が静かな夜に響いた。


投げ出された頬に手を当て、唖然とする。

頬が焼けるように痛む。


いつの日かの痛みそのものだ。


リボン「もう……知らない!」


手を無理矢理振りほどかれ、彼女は一人草原を歩いて行った。

230: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:20:21.22 ID:ChzpH9eR0

やがて夜は深みを増し、黒が静かに忍び寄って辺りを飲み込んで行く。


夜に震える冷えた風が身を切り裂く。


これで、良かったんだ。


良い……はずなんだ。


僕は忍び寄る闇の足音から逃れるように、絡まった複雑な思いを振り切って歩き出す。

232: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:22:25.41 ID:ChzpH9eR0

家に着くと、僕は唖然とした。



彼女の荷物だけ、忽然と消えていたのだ。


──私は消える!


あれは、本当だったのか。

なんだよ、これ。


結局、僕は夢より大切なものまで失ってしまったじゃないか。

守る事も出来てない。

彼女の笑顔を殺していたのは、紛れもない僕自身だった。


ワドルディ「うぅっ……クソッ……僕は、大変な思い違いを……」


真っ暗な孤独にすすり泣く音がこぼれる。

236: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:24:05.01 ID:ChzpH9eR0
その涙を拭いてくれる人は、もういないんだ。


堰を切ったように溢れる涙が、一人だけの部屋を満たしていく。


悲しみに溺れる僕の心は、先程の幸せを反芻し、現実逃避を始める。

でもその度に、失われた者の大きさを痛感し、悲しみは肥大していく。


やがてそれに押し潰され、僕は床に崩れ落ちた。

冷んやりとした床だけが、僕を包んでくれる。


そんな気がした。

243: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:26:10.31 ID:ChzpH9eR0

気付けば、もう朝になっていた。


知らぬ間に寝ていたのだろう。

僕はゆっくりと起き上がった。


すると、するりと布団が落ちた。


おかしい。
確か昨日は何も掛けずに寝てたはず……。


テーブルに目をやると、そこには弁当といつもの朝食が置かれていた。


ワドルディ「こ、これってリボンの……」


弁当の横には、置き手紙が置いてあった。


──お仕事、頑張って。


僕は、また泣いた。

247: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:27:15.48 ID:ChzpH9eR0
この期に及んで情けない。

結局僕にはリボンがいなきゃダメなんじゃないか。


ワドルディ「ごめん、ごめんよ……リボン」


僕は、ゆっくりとテーブルについて、彼女の手料理に手を付けた。


これからもう食べられないであろう味を噛みしめる。


ワドルディ「僕は……一体……」


誓ったはずの相手はもういない。


一体どうしたらいいんだ。

250: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:29:36.16 ID:ChzpH9eR0

リボン「……ごめんね」

仕事で出て行く夫を、私は遠くの草陰から見送っていた。


あの晩、家を出た。

全ては夫の夢のため。


私は彼の前から姿を消したのだ。



だが、放って置けなかった。


こうなったのも、全て私のエゴの所為だ。

彼が私の身を案じてくれていたのに、私はそれを踏みにじった挙句、彼を孤独へ追いやった。


理想を押し付け、彼を苦しめたのは私だ。

252: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:30:36.68 ID:ChzpH9eR0
でも、後悔はしてない。


それで、彼の夢が近付くなら。


もうあんな彼は見ていたくないんだ。

以前溢れていた活力は、どこかに消え失せ、痛々しいまでに無気力が彼の心を大きく蝕んでいた。


どうにかしてでも、彼には昔のように戻って欲しかった。
それが、たとえエゴであっても構わない。

彼が夢を手に取り、希望を掲げ挙げる事が出来るなら。


そして……。


待ってるから。


あの約束が、果たされるのを。


いつか、迎えに来てね。

256: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:31:57.38 ID:ChzpH9eR0
こんな、身勝手な女を許して。


もしかしたら、私の存在は幸せに埋れていくかもしれない。

私はそれでも構わない。


でも、


信じたい。


迎えに来てくれる事を。


リボン「それまで……さよならね」


私は踵を返し、家を後にした。

259: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:33:44.53 ID:ChzpH9eR0

──明後日の明朝、夢の泉に集合だよ。必ず来てね、ワドルディ。


カービィはそう言った。


人生の転機というものがあるなら、それは今だろう。

僕にそれが訪れようとしている。


でも、それと同時にリボンを見捨てる事になるのだ。


いや、もう見捨てられたのか。


目の前に転がる大きな夢に手を伸ばそうとしない僕に呆れたのだ。



僕はとうとう何もなくなった。

どうしたら元の生活を取り戻せる?

もう、何もいらないから元の生活を返してくれ。

262: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:35:04.38 ID:ChzpH9eR0
昨日、あんな所にさえ行かなければ、こんな事にはならなかったんだ。

あんな所に……。


流れる地面を見ながら呆然とする僕の頭には、幾重の後悔が反芻する。


気が付けば、地面は土から石造りへと変わっていた。


「よう、ワド。相変わらず元気ねぇな」


地を這う視線の先に、見覚えのある人物が現れた。


隊長「下ばっかり見てると幸せが逃げっぞ?」

隊長は僕にそう言って笑い掛ける。

幸せならとうに逃げている。

265: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:36:44.66 ID:ChzpH9eR0
ワドルディ「そう……ですね。すみません」

僕には既に、愛想笑いをする気力もなかった。

隊長「……何かあったのか?」

ワドルディ「……何故です?」

隊長「何故って……お前」

ワドルディ「何もありませんよ。今日も頑張りましょう」

隊長「あ……ああ」


沈痛な雰囲気が流れる。

痛々しく刺さる空気が、僕の胸を更に抉る。


早く、一人にさせてくれ。


沈黙を抱えたまま、僕達は歩く。

266: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:39:24.29 ID:ChzpH9eR0
次第に二手に別れる道が見えてきた。


隊長「……なぁワド?」


隊長は急に立ち止まり、今まで続いた重い沈黙を破った。


ワド「はい?」

隊長「あまり無理するなよ?」

ワドルディ「ありがとうございます」

何とか笑って返す。

しかし、隊長の面持ちはそれに反してとても重たく暗いものとなっていた。


隊長「……じゃあな」

ワドルディ「はい」


心配そうに伺う隊長はそう言って、僕に背を向け歩き出した。


君は、何をしたら許してくれる?

268: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:41:20.29 ID:ChzpH9eR0
ブレイド「おい、ちょっとこっちこいよ」


窓拭きをしている僕は手を止めた。

窓を突き抜ける鋭い日光が僕の身をジリジリと焼く。

ワドルディ「な、何でしょうか?」


ブレイド「良いから来いよっ!」


無理矢理手を掴まれ、物凄い力で引きずられたかと思うと、何やら倉庫みたいな所へ押し込まれた。


それに続いてブレイドも入り込み、そして扉を閉めた。

ワドルディ「な、何するn」


バキっ!


ワドルディ「……うっ」

ブレイド「何でお前なんだよ!」

270: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:43:16.18 ID:ChzpH9eR0
いきなり鋭い蹴りが飛んできた。


ブレイド「お前なんかただのクズはねえか!」


何度も、何度も、蹴られる。


だが今回は、いつもの罵る感じではなく、どこか恨みが込められている感じだ。


ブレイド「俺の方が色々持ってる。
武器だって、容姿だって、力だって、お前より上回ってる。
お前より俺の方が上なんだ!
なのになんでだよ!!
一体どんな手を使ったっ!ああっ!?」

ワドルディ「一体何を……」

ドカッ

無慈悲な拳が、身体にめり込む。

273: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:44:58.77 ID:ChzpH9eR0
ブレイド「しらばっくれるなよ。お前が選ばれた事も知ってるんだ。
……どうせ汚ねぇ手使ったんだろ!?
ははっ、粛清してやる」


そう言って、ブレイドは懐の剣を抜いた。


薄暗い倉庫の中でも、一際鋭く光る剣を突き付けられる。

切っ先から漏れる殺意に満ちた輝きが僕の恐怖を煽る。


ワドルディ「う……あ……」

ブレイド「お前が消えれば役は空く。
そうすりゃ俺が……ひひっ。
お前が消えたって誰も困らねんだんだよ!」


徐々にこちらへ近付いてくる切っ先から逃れるように後退りする。

276: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:46:51.34 ID:ChzpH9eR0
ワドルディ「い、一体何を」


僕の言葉を切り裂くように、素早く振り上げられた剣は、ブレイドの頭上で止まった。


ブレイド「死ねよ、お前。
心配するな、あの女も後で送ってやる。
たっぷり●してからな」


ブレイドは、まるで狂った人形みたいにカタカタと動いて笑った。


ブレイド「冥土土産に良い事教えてやる。
あの女はよォ、毎日お前が働いてる間、俺達に●されてたんだぜ?」


ワドルディ「なっ……うそ?」


ブレイドから言い放たれた言葉が僕の心に突き刺さる。

280: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:48:44.35 ID:ChzpH9eR0
ブレイド「最高だったぜ?マジで 乱な身体だったよ。
それにあの嫌がる仕草がまたそそるんだよぉ。
でもまあ、お前のためになると言えばすんなり応じたがな」


多大なショックが大きな喪失感となって僕を襲う。


ブレイド「お前には勿体ねぇなぁ。ひっひ!!」


僕の所為で、リボンは苦しんでいたのか。

僕の所為で、リボンは汚れたのか。


僕の、


全部僕の所為か。

だから……何も言わなかったの?


何故、リボンはそこまでしてくれるんだ?
こんな僕のために。

282: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:51:01.47 ID:ChzpH9eR0
ブレイド「じゃあな」


──あなたがいてくれてよかったよ。

どうして?


僕に目掛けて、剣が振り下ろされる。


その直後、


「そこまでだ!」


倉庫の扉が破られ、抑止の声が掛かる。
蹴破られた扉の先には、後光を受けたメタナイトが立っていた。


ブレイド「なっ!?」


ブレイドの剣が止まった。

290: また規制食らった1 2011/11/09(水) 22:54:34.22 ID:ChzpH9eR0
メタナイト「話は全部聞いた。
ブレイドナイトを拘束せよ」

兵士「はっ!」


メタナイトの背後からゾロゾロと現れ、ブレイドを縄で縛った。


ブレイド「き、卿!ちがうんです!これは……」

メタナイト「お前たちの言い分なら牢獄で聞く。
連れていけ!」


兵士に引かれ、頭が垂れたブレイドはそのまま扉の光に消えて行った。


メタナイト「大丈夫だったか?」

ワドルディ「ええ……大丈夫です」

メタナイト「すまないな。
奴らを炙り出すにはこうするしかなかったんだ。
だが、まさか一般市民にまで手を出していたとは……大変遺憾だ」


悲願にくれるメタナイトは拳を強く握り締め、身体を震わせていた。

そしてメタナイトは深々と頭を下げる。

304: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:00:12.60 ID:ChzpH9eR0
メタナイト「……すまない」

ワドルディ「え……はい」

メタナイト「この度の部下の不祥事は……私が責任を取る」


頭を下げたメタナイトの影が、薄暗い殺伐とした倉庫に差し込む。


ワドルディ「いえ、いいんです。
そんな事をしたって何も変わりません」


僕はただ、己の無力を本気で呪った。

誰の所為でもない。


ワドルディ「失礼します」


僕はメタナイトに一瞥をくれ、倉庫を出た。

306: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:01:57.14 ID:ChzpH9eR0
彼女は、僕のために身を切ったのだ。

僕に何が出来る?


彼女にしてあげられる事はなんだ?

仕事が終わり更衣室を出ると、隊長が廊下の壁にもたれ掛かって立っていた。


隊長「よう」

ワドルディ「あ……今日はありがとうございました」


僕がそう言うと、隊長はすまなさそうな顔をした。


隊長「俺は何もしてないよ。
それより、おめでとう!
お前、旅のお供に選ばれたんだってな!」


隊長は心底喜んだ様子で、大きな一つ目を煌めかせる。

308: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:03:40.39 ID:ChzpH9eR0
ワドルディ「いや、でもまだ行くと決まった訳は……」

隊長「何言ってんだよ!
千載一遇のチャンスだぞ?
行かなきゃダメだろ!」


僕は言葉が詰まり、何も言えず頭を垂れた。


隊長「……ここじゃなんだし、久々に飲みに行こうぜ。
今日は奢りだ」


隊長は僕の手を引くと、ズイズイと歩き出した。


城の外へ出ると、周りはすっかり暗くなっていた。

309: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:04:45.08 ID:ChzpH9eR0
陽は完全に消え、空に敷かれる黒い絨毯には無数の星の宝石が散りばめられている。


もうじき冬だ。


草花を撫でる薄ら寒い秋の風からは冬の気配を感じる。

夜の静けさにひっそりと木枯らしに巻かれる乾いた枯葉が音を立てる。



暫く歩いて着いた先は、居酒屋カワサキだった。


以前と変わらぬ暖簾を潜って店に入る。


カワサキ「いらっしゃーい!
ってあら久しぶりぃー!」

隊長「おう」

カワサキ「じゃあこちらへどーぞー」


カワサキは嬉々とした声に迎えられ、店内を案内される。

313: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:06:10.17 ID:ChzpH9eR0
前と同じカウンター席だ。

隊長はそこで、いつものを頼むと言った。


隊長「すまねぇな。
いきなり誘ったりして」

ワドルディ「いえ、構いませんよ」


今日の酒の席は、何だか重い。


隊長「……お前、奥さんと喧嘩したんだろ?」

ワドルディ「……へ?」

隊長「今回の旅の件で、揉めたんだろ?」

張り詰めた僕らの席に沈黙が走る。

まるでこの場所だけ、周りの喧騒からくり抜かれ、時間が止まっているかのようだ。


カワサキ「はーい、突き出しとビールだよー」


空気が読めない亭主の快活な声とジョッキの置かれる音だけが、僕達の沈黙した席に広がる。

314: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:07:28.41 ID:ChzpH9eR0
淡い橙色の光が、重く滞った空気に仄かな影を残す。
それに耐えられないのか、ビールから冷や汗が滴っている。


とても長い沈黙からは永遠を感じる。


隊長「……なんで断ろうとしたんだ?」


どれだけ時間が経ったのだろうか。

隊長が重い口を開く。


隊長「折角のチャンスじゃないか!
なんでだよ!」


珍しく語気を荒くして僕に言い放つ。

隊長の目の奥底では、小さな怒りで燃えていた。

318: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:08:39.73 ID:ChzpH9eR0
ワドルディ「た、隊長?」

隊長「俺はなぁ、悔しいよ。
いつも先を越されてばかりでよ。
出世するし、旅のお供にも選ばれるしな。
なんでお前なんだよ、って思う」


そこまで言って、隊長はジョッキを手に取ってビールを一気に煽った。


隊長「でもな、その半分嬉しいんだ。
お供に選ばれた部下を持って上司として鼻が高い。
それに希望が持てるんだ」


ぼんやりと前を見つめる大きな瞳から憂いが漏れた。


隊長「ただの雑魚も、ヒーローになれるってな。
お前は、俺の希望なんだよ」

ワドルディ「希望……?」

隊長「そうだ」


徐にこちらへ振り向いて、小さく笑った。

涙に濡れた大きな瞳は、橙色の光が浮かび上がり、ゆらゆらと揺れている。

322: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:11:14.01 ID:ChzpH9eR0
隊長「なぜ、行かないんだ」


隊長は静かにそう問うた。


ワドルディ「妻のためです」

僕も静かに答えた。


隊長「奥さんの?」


ワドルディ「そうなんです。
そのつもりでした。
でも、違ったんです」


そう、僕は怯えていた。


ワドルディ「また、同じ事が繰り返されるんじゃないか。
また捨てられるんじゃないか。
そんな思いが、僕を踏み止まらせたんです。
そして、何より妻と離れたくなかった」

326: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:12:47.32 ID:ChzpH9eR0
そう、君と別れたくなかったんだ。

僕は、ずっと君といたかった。


ワドルディ「僕は妻のためだと言ったけど、本当は自分のためだったんです。
僕はただ、怖かっただけなんです」


僕は、全てを隊長に話した。

今までの事や最近の事を。


隊長は、ただ黙って聞いてくれたた。


ワドルディ「僕は、彼女に押し付けていただけなんです。
だから彼女は愛想をつかせて出てったんです」


そうだ、僕にような愚鈍なヤツはいらないんだ。

僕の所為で傷ついたんだ。
尚も居続けるなんて無理だ。

328: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:14:19.25 ID:ChzpH9eR0
僕は、


ワドルディ「僕は最低だ……」


悲しく響く声が、切り抜かれたカウンター席に響く。


僕は……どうしたら。


隊長「行けよ」


隊長はそう言った。


隊長「行ってやれよ」


力強く放たれる言葉が、僕の胸に強く打ち付けられる。

329: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:15:52.63 ID:ChzpH9eR0
でも、僕には……。

ワドルディ「今更僕にそんな資格──」

隊長「良いから行ってやれって!
そんなになるまでどうしてお前と居続けたか考えてみろ。
どうしてそれでもお前を支え続けたか考えてみろ!
分かるだろ……?」


──あなたがいてくれてよかったよ。

──私はなんだってする。あなたの笑顔が取り戻せるなら。


──待ってるよ、いつまでも。


隊長「早く行け!
全てが手遅れになる前に。
お前の愛はきっと彼女を救うだろう」


僕は気付けば外へ走り出していた。

331: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:17:36.01 ID:ChzpH9eR0
何を伝えたらいいのかは分からない。

でも、会わなくてはいけない。
そんな気がする。


三日月が照らす闇夜の中、冷たく乾いた風を切り裂いて、ひたすらある場所に向かって走る。


僕と彼女の馴れ初めの場所。

彼女はそこにいる。

僕の直感がそう言った。



草原を掻き分け、向かった先はグリーングリーンズだ。


息急切って草花を揺らし、ひたすら走る。

グリーングリーンズ丘の上に、星空に向かってそびえ立つ一本の大きな木がある。


そこに彼女はいた。

332: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:18:44.95 ID:ChzpH9eR0
彼女は木にもたれ掛かって座り、空を見上げていた。

透き通るような澄んだ目は、星々の輝きを吸い込み、宝石のように輝いている。


リボン「こうしてると初めてあった時を思い出すね、あなた」


ゆっくりと僕の方を見て笑った。

今までにないくらい、安らかで優しい笑顔だ。


僕は、リボンの隣に座った。


リボン「覚えてる?あの日の時の事」


そっと彼女のしなやかで綺麗に伸びる指が触れる。

夜の寂しい寒さで冷たくなっていた。

333: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:20:47.36 ID:ChzpH9eR0
ワドルディ「勿論さ」


僕は小さく頷いて、彼女の冷たい手を握った。


リボン「いつか大物になって迎えに行くから。
そう言ってくれたね」


リボン「待ってるよ」


夜空が僕達の間を見下ろし、皓々とした三日月が祝福するようによりいっそう輝くが増す。



ワドルディ「僕は君に謝らなきゃいけない事がある」


リボン「分かってる。
私もだよ」


大きな木や草花ははそよ風に揺られて、緩やかに音を立て、幸福の音楽を奏でる。

335: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:23:51.99 ID:ChzpH9eR0
風になびく彼女の髪は、まるで夜に見る幻のように切なく儚い。

その髪を手で抑え、彼女は立ち上がった。


リボン「でも、それはまた今度」

ワドルディ「うん」


夜空の彼方から薄っすら差し込む茜色が、僕達の再会に終わりを告げる。


リボン「私は、いつまでもここで待ってるから」

ワドルディ「必ず……迎えにくるよ!」

リボン「うん!」

ワドルディ「じゃあ行くね」


リボン「あっ!ちょっと待って!
これ、持ってって」

差し出された彼女の手に握られていたのは、青いバンダナであった。

いつぞやの時に、カービィと戦う時にくれた彼女の贈り物だ。

337: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:25:58.75 ID:ChzpH9eR0
リボン「いくらなんでもそのまんまじゃマズイでしょ?」

リボン首を傾げて笑った。

ワドルディ「ありがとう」


僕は貰ったバンダナを身につけた。


リボン「うん!良いね!バッチリだよ!
じゃあ頑張って!」


夜空から零れる眩い朝日を背に、大きな笑顔で送り出す。

僕はその笑顔を目に焼き付け、やがて歩き出した。



僕は必ず、君を迎えに行くよ。

だからその時まで待ってて。


338: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:27:28.35 ID:d80LjU/q0


グリーングリーンの丘の上、大きな一本の木の下で私は座っていた。


緑を揺らす清廉な風が、辺りを巻き上げ、心地よい音を奏でる。

冬の気配に押され気味の頼りない日差しが、仄かに身を温める。
思わず眠ってしまいそうなぐらい気持ちがいい。


思えば、ここが夫との馴れ初めの場所だった。

初めて会った時は、まさかあんな事になるとは思っても見なかっただろう。

339: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:28:16.81 ID:d80LjU/q0
思わず笑ってしまった。



この場所には、深い思い入れがある。


でもそれは、また別のお話。


頑張ってね、あなた。


想いを風に乗せて、どこまでも青い空へ飛んで行く。


あなたもこの空をどこかで眺めているなら、私達は繋がってるよ。

いつだって待ってるから。

340: また規制食らった1 2011/11/09(水) 23:28:45.84 ID:d80LjU/q0
私は、夫が残した日記を開いた。


10月27日


カービィwii絶賛発売中!!!



私は、日記を閉じゆっくりと目を閉じた。


頑張れ、ワドルディ!