2: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:08:05.34 ID:sxzhAsQM0
「……はぁ」

――こんなにいい日和なのに、溜息か?

「何だ……起きてたの」

――つい今しがたな。何を見ていたんだ。

「別に……海を、見ていました」

――海、か。

引用元: 山城「貴方には……地獄がお似合いだわ」 


3: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:09:17.74 ID:sxzhAsQM0
「ええ……。小さな女の子と母親らしい女性が、波打ち際を歩いていました」

――そうか……。

「静かな海……あの頃は、想像したこともなかったわ」

――そうだな。……あれから、何年になるか。

「…………」

――…………。

4: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:10:08.34 ID:sxzhAsQM0
――なあ、山城。

「……何ですか」

――ひとつ聞いておきたいんだが。

「はい……」

――お前は今……幸せか?

「…………」

5: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:10:58.83 ID:sxzhAsQM0
「……ふふ……今更そんなことを聞くのね」

「決まりきってるじゃない。とっても……」

「とてもとても…………」

――…………。

「――不幸だわ」

6: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:11:54.44 ID:sxzhAsQM0
「貴方の嘘に騙されて、一緒になったばっかりに……」

――騙したなんて、人聞きの悪い。

「だって、その通りでしょう」

「自分の求婚の言葉、覚えていますか?」

――……必ずお前を幸せにする。絶対に後悔させない。

「そう……貴方は事あるごとに言ってくれましたよね。私を幸せにするんだ、って」

7: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:13:03.27 ID:sxzhAsQM0
「確かに、貴方と過ごした時間は――幸せ、だった。……それは認めます」

「でも……でもっ!!」

「散々幸せを与えておいて……最後の最後で不幸のどん底に突き落とすなんて」

――…………ごほ、げほっ。

「――私を独り遺して、逝ってしまうなんて!!」

「……そんなの、あんまりだわ……っ」

――……山城。

8: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:14:31.60 ID:sxzhAsQM0
「……本当は、知っていたのに。いつかこんな日が訪れるって、解っていたのに……!」

「艤装を解体しても……あなた達とわたし達の間に……」

「貴方と私の間に流れる時間が違うことに、気づいていたのに……」

「貴方がこの手を掴んで、離そうとしないから。貴方が与えてくれるものが、余りにこころよかったから」

「今日まで目を逸らして来た。貴方から離れられなかった……離れたくなかった!」

「……今だってそうよ……ねぇ……貴方と離れるのはいや……」

9: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:15:20.43 ID:sxzhAsQM0
――……ごめん。

「謝るくらいならっ! どうにかして! ……もっと……側に居て頂戴よ……」

「一年でも……半年でも……みつき、ふたつき……ううん、ひとつきだけでもいいから」

「……お願い……」

――…………本当に、ごめん。

「っ! 謝らないでって、言ってるでしょう!?」

10: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:16:10.31 ID:sxzhAsQM0
――…………。

「謝らないでよ……。貴方が胸を張っていてくれないと……私、後悔してしまいそうになるから……」

――……そうだよな。ごめ……じゃなくって……。

――……俺は、後悔してないよ。

「…………」

11: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:17:07.74 ID:sxzhAsQM0
――今こうして、お前に悲しみを背負わせてしまっているけど……。

――最後にこうなると解っていても、俺はお前に構って、惹かれて……やっぱり一緒になっていたはずだ。

――例えお前に百の不幸を与えることになっても……その間に九十九の幸せを与えてやりたい、そう思っていた。

――俺はそれを……やり遂げたと思うし、俺以外の奴にそれができたとは思わない。

――だから、後悔はないよ。

12: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:17:55.65 ID:sxzhAsQM0
「勝手なことばかり……貴方のそういう所」

――が、好きなんだろ?

「……本当に、勝手な男」

――後悔はないが……心残りは、最後に見るお前の顔が、笑顔ではないことかな。

「……当然の報いだわ」

――解ってるよ。

「いいえ、解ってない」

13: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:18:52.81 ID:sxzhAsQM0
「自分勝手で大嘘吐き。私を騙して……私の、何もかもを奪ったくせに」

「それなのに笑顔で看取られようなんて……傲慢よ」

――流石。俺以上に、俺のことを解ってくれてる。

「貴方のような罪深い人には――地獄がお似合いだわ」

――覚悟はしてたさ。

14: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:19:45.82 ID:sxzhAsQM0
「苦しんで、苦しんで……待っていなさい」

――……?

「いつになるか解らないけど……私は必ず、貴方を追っていく」

――何を言っているんだ。あの世でも、不幸に浸りたいのか。

「貴方こそ、何を言っているのよ」

――?

15: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:20:43.30 ID:sxzhAsQM0
「私を幸せにできるのは、貴方だけなのでしょう」

「だったら、貴方の隣以外のどこへ行ったって、私に待つのは不幸だけよ」

「天国なんて願い下げだわ……。貴方がいないのが解っているのに」

――…………。

「それにね」

16: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:21:38.94 ID:sxzhAsQM0
「私は――鬼の山城よ。鬼には地獄が似合いでしょう」

――…………ははっ。

――これは……恐い鬼に睨まれてしまったな。

「そうよ……逃げるなんて許さない。地獄までも、来世までも、追い続けてやる」

「貴方の我儘に長々と付き合ったんだもの……私も、我儘を通させてもらうから」

17: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:22:27.54 ID:sxzhAsQM0
――望む所だ。……山城。

「何?」

――やはりお前は、笑顔が一番綺麗だよ。

「……結局、笑顔で送るなんて。癪だけど、仕方ないわね」

「だって、こんなにも……満ち足りて……」

18: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:23:19.68 ID:sxzhAsQM0
――その程度で満足するなよ。今度逢う時は……もっと……。

「……当然よ」

――楽しみにしてろ。……じゃ、一足先に行ってるぞ。

「ええ」

19: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:24:06.30 ID:sxzhAsQM0


「――さようなら」



またな――



20: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:24:48.27 ID:sxzhAsQM0

「また逢う日まで――」





 ―艦―

21: ◆GFAFNejGqE 2020/07/11(土) 00:25:42.63 ID:sxzhAsQM0
終わります。ありがとうございました