観測世界の艦娘達 前編

487: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/15(水) 22:48:35.09 ID:rYsQUIW4O
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男(首謀者の部屋と思われるここを念入りに調べたが……)

男(有用そうなものはなにもなかった)

男「……なにも残されてはいないのか」

武蔵「まだ部屋は残っている。次だ行くぞ」

日向「……そうだな。まだ諦めるには早い」

男「……」


男「ここは……?」

男(畳が敷かれ、居間の様な空間がそこにあった)

男(小さなテーブルには……ペン立てに書類か……)

男(少し大きめの本棚もある)

武蔵「……執務室のようだな」

日向「随分落ち着いた空間になっているな……」

引用元: 観測世界の艦娘達 



488: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/15(水) 23:05:19.09 ID:rYsQUIW4O
男「……」

男(本棚には艦娘について記述のある本や、深海棲艦の調査文献)

男(戦術の指南書に……薬物についての書物まで収められていた)

武蔵「この書類は……経費や武器、出撃翌予定のものらしい」

日向「それは役には立たなそうだな」

男(薬物についての書物……これだけ関連性が無い様に見えるが……)ペラペラ

男(特におかしな部分は見られない)


日向「……」ペラッ...ペラッ...

武蔵「……」

男「……」コンコン

武蔵「お前はさっきから壁を叩いているが……」

男「隠し通路、ありそうではないか」

武蔵「……自分達でこの場所を作ったのならあり得るかもしれんが」

男「……」

489: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/15(水) 23:10:42.26 ID:rYsQUIW4O
日向「……ん」

男「……どうした?」

日向「この紙……」

武蔵「どれ……メモの様だな」


『第一に幻聴、幻覚が襲う。第二に精神を蝕み、もう一人の自分に侵される』

『第三に、衰弱し自分を奪われ狂人と化す』

『又は抗い続け、死ぬ』


男「……これはどういう意味だ?」

男(幻聴や幻覚……精神が蝕まれる。なにかの病気の事だろうか)

武蔵「……わからん」

日向「……」

男(……薬物の書物)

男(薬……と関係がある?)

490: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/15(水) 23:21:13.32 ID:rYsQUIW4O
男「一応持っていこう。不可解だが……なにか意味がありそうではある」

男(その後も探してはみたものの、これと言って収穫がある訳でもなかった)


男「結局このメモ一つだけ……か」

男(それと、姉と父が人身売買まで行っていた事も)

男「……Aブロックへ向かおう」

日向「それなら私が誘導しよう」

武蔵「先ほどの……Fブロックを抜けて向かうのだな」

日向「あぁ……現状それしか方法はない」

493: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/17(金) 06:06:33.22 ID:NMc+Z+DCO
男(俺たちは再び惨劇の色を残す場所に足を踏み入れた)

男(先ほどとはまた違う場所を歩くからかそれとも見落としていたからかは分からないが)

男(床だけでなく壁にさえも血の跡がべっとりと残っていた)

男(それに加えテーブルなどでバリケードまで形成されている)

男(勿論銃弾で穴だらけな状態で)

男「……」

男(気味悪さと不快感を感じながらも先へと進んでいく)

494: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/17(金) 06:18:27.12 ID:NMc+Z+DCO
日向「ここだよ」

男(Aブロックまでの扉。これもまた破壊された状態になっていた)

武蔵「……」

日向「行こう」

男(日向に先導され、俺たちは姉のいた場所へ足を踏み入れる)

男(ずっと、この時を待っていた……)


(……)

(彼らは……)


日向「多分、元帥の部屋と。執務室を調べればそれで十分だと思う」

武蔵「そうだな。重要な場所を重点的に探せばいいだろう」

日向「でもその前に……」

男「なにか他に思い当たる場所が?」

日向「私の部屋に寄らせてもらいたい」

495: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/17(金) 06:23:07.66 ID:NMc+Z+DCO
男(変わらず埃の舞う廊下を日向は黙々と歩いていく)

男(慣れた様な足取りだが、どことなく誰かの墓標に向かっていくかの様に重い)

日向「……」

武蔵「……ここかい?」

日向「うん。ここが……私の昔住んでいた部屋」

男「……」

ガチャ...

496: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/17(金) 06:33:40.16 ID:NMc+Z+DCO
男(そこはまた落ち着いた様な雰囲気の部屋だった)

男(物も整頓され、綺麗に纏められている)

日向「あぁ……懐かしいな」

男(日向はゆっくりと足を進めると、机の上を指でなぞった)

男(分厚い埃の膜が剥がれ、本来の表面が見える)

日向「こんなにも……時間が経っていたのか……」

男(悲しみと懐かしみが混ざりあった表情)

男(ここに来て見た日向の表情はどれも今までに見た事の無い新鮮なものであった気がする)

497: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/17(金) 06:52:32.59 ID:Iafz+be8O
男「……」

日向「……」

武蔵「……」

日向「……行こう」

男「もう……いいのか?」

日向「あぁ……いいんだ」

武蔵「……」

503: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/18(土) 06:35:13.55 ID:4xs4l/ZYO
コツコツ

日向「ここが……君の姉の部屋だよ」

男「……」

武蔵「……開けるぞ」

男「あぁ……」

ガチャ...


男(そこには、本や書類が山の様に置かれていた)

男(本棚を埋め尽くし、テーブルも書類で埋まっている)

男(床にまでいろいろと散乱している始末だ)


504: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/18(土) 06:38:51.57 ID:4xs4l/ZYO
男「ここで……生活を……」

日向「……」

武蔵「なにか、手がかりになるものを探してみるか」

男「……」

日向「君は……」

男「こっちはこっちで調べさせてもらう。なにかあれば教えるさ」

日向「わかった」

武蔵「……」

505: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/18(土) 06:49:41.64 ID:4xs4l/ZYO
男(床の書類を踏みつけないように慎重に移動する)

男(まずはテーブルの上から探ってみる事にした)

ガサッ

男(物を少し動かすだけで埃が大量に舞う)

男(それに気をつけながら埃の塊を払い一つ一つ見る)

男(テーブルの上に置かれていた本のほとんどは深海棲艦について記述されたものだ)

506: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/18(土) 06:58:11.39 ID:4xs4l/ZYO
男(運営や業務内容についての書類は端の方に纏められていた)

男(まずは手がかり無し……か)

男「……む」

男(このテーブル。引き出しが付いているな)

スッ...

男(中には……鍵が入っていた)

男「……」

男(どこを開けるものかはわからないがもらっておこう)

509: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/18(土) 18:11:22.85 ID:4xs4l/ZYO
男「……まだなにか」

スッ

男「これは……古い……日記帳のようだな」

ペラッ...


『私は、妻と息子を残し……娘を連れてこの施設で暮らす事になった』

『妻に子ども二人をたった一人で育てさせるのは辛かろうと思いこうしたが、結果的に姉弟を引き裂く事になった』

『申し訳ない気持ちでいっぱいだが。もうここから出る事は出来ない』

『未知の敵に世界を破壊されるその前に、この研究を完成させねばならない』

『今後なにか進展があった時にこのノートに記しておこうと思う』

510: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/18(土) 18:16:10.34 ID:4xs4l/ZYO
男「……これ……は」

武蔵「なにか見つけたのか?」

日向「……」

男「……父の、日記……」

武蔵「……」

日向「……!」

男「……」ペラッ

511: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/18(土) 18:20:47.78 ID:4xs4l/ZYO
『娘とこの施設にやってきてから数ヶ月が過ぎた』

『時折家族が恋しくすすり泣くのを見る』

『父親としても辛いが、今はこの研究に意識を注がなければならない』

『ファイアウォールやウイルス対策ソフトでも歯の立たないコンピューターウイルス』

『これは最早ウイルスではない』

512: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/18(土) 18:29:25.76 ID:4xs4l/ZYO
『電子の世界が確立してからそう時間は経っていないだろう』

『だが彼らは……(黒い外見をしているので黒き者と仮称する)最初からあの姿で産まれた訳ではないはずだ』

『漂う情報を元に形成され、適応し、姿を変えてきたはずだ』

『インターネットが普及した時を電子の世界の産まれた時だとしても、かなりの早さで進化している事が分かる』

『我々が電子の世界を認識したのはほんの一、二年前の出来事だ』

『我々の知らないその時間の中で黒き者はどのような進化を遂げて来たのか、調べる必要がありそうだ』

515: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/19(日) 18:52:30.26 ID:RTfoDOAqO
『自動攻撃や外部からの攻撃では撃退、破壊するのは難しい』

『それならどうすればいいのか』

『私を含めた研究者達の出した結論は……"直接"黒き者を攻撃する事』

『だがまず自分達の姿形を電子の世界に投影しなければならない』

『そして彼らに対抗する為の兵器が必要である』

『研究は困難を極めそうだ』

516: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/19(日) 19:03:04.79 ID:RTfoDOAqO
『私と娘がここに来てから数年が経った。どうも研究に夢中で記録をつけるのを疎かにしてしまう』

『妻とは連絡が取れない状況にある。この研究は極秘のものであり、病院施設を偽装に地下部分に建造されている』

『国民や各国にはまだばれる訳にはいかないのだ』

『娘は順調に成長している。女の子であるのにも関わらず心は強く、私の研究を手伝おうとまでしている』

『正直な所、私はこの研究に娘を巻き込みたくはない』

『……ここに娘を連れてきてしまった私の自業自得なのだろうが』

519: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/21(火) 06:34:37.38 ID:SPjAKM1ZO
『既存のVRシステムを利用して電子の世界に身体を送れないか、改良を続けている』

『各地でハッカーによる攻撃のような症状が度々現れているが、それも日を追う毎に増えていく』

『私に時間は残されていない。一刻も早く黒き者を排除する方法を完成させなければ』

520: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/21(火) 06:39:44.15 ID:SPjAKM1ZO
『電子の世界を観測する事には成功している』

『そこはまるで……海の様な場所で……』

『そうだ、情報の海だ。0と1が無数に漂う情報の海』

『これを私たちが分かりやすく視認出来る様にし、その情報に逐次リンク出来る様なシステムにしなければ』

『それと……この"海に潜った時"に使う武装についても。考えなければなるまい』

521: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/21(火) 06:47:45.10 ID:SPjAKM1ZO
『……遂に完成した。自分の身体を電子の世界、電子の海に落とすシステム』

『簡単に書くなら……』

『自分の脳を電子の世界とを仲介するコンピューターに接続。身体を動かす際に発せられる電流を信号として認識させ』

『DNA情報を元に形成した電子の世界の身体を動かす』

『使用者からすれば身体が転送されそこに存在しているような感覚になる』

『情報の海に飛び込む、故にダイビングシステムと命名されたこれ』

『これで黒き者を排除出来るのか……いや、やらなければならないのだ』

522: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/21(火) 06:54:33.12 ID:SPjAKM1ZO
『膨大な情報を扱うのだからメモリの容量も問題になる』

『だがそれもなんとかなりそうだ』

『メモリの容量は現在開発中の物を使用すれば全く問題ない』

『……妻と息子はどうしているのだろうか』

『息子は相当……大きくなったはずだ』

『時たま、妻と息子とはもう一生会えないのではないかと思ってしまう』

『この研究が終わった帰ろう。今までを全て償う為に一生妻の側にいよう』

『だから早く……』

523: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/21(火) 07:04:11.18 ID:SPjAKM1ZO
『武装の研究も成功した』

『実在の武器をモチーフに、だが身体と一体になるような』

『私はこれを艤装と名付けた』

『艤装を纏い、電子の海を駆ける人間は艦兵』

『電子の海から湧いて来る黒き者は深海棲艦』

『これで……やっと……』

526: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/21(火) 21:48:35.48 ID://N/uCcRO
『どういう事だ……艦兵と艤装が上手くリンクしない』

『20代の青年兵士を数名、30代後半の指揮官を電子の世界に送ったが、艤装が上手く機能せず敗北した』

『何度か人間を変えて試してみたが結果は同じ。これは改良の必要があるか』

『だがもう時間は無い。奴ら深海棲艦は私たちの施設の攻撃を開始した』

『一体どうすればいいのだ……』

527: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/21(火) 21:52:44.91 ID://N/uCcRO
『艤装の改良を始めて数週間が経った。今日私は……愚かな事に娘を……戦場へと送った』

『だがなんという事だ。娘は艤装に適応し、驚異的な動きで深海棲艦を駆逐した』

『……もしや少女こそがこの艤装に馴染めるのではないか?』

『酷だが、数名の女性兵士にも電子の世界へと赴いてもらう事にした』

528: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/21(火) 21:57:55.41 ID://N/uCcRO
『実験の結果は、十代後半から二十代前半の女性に限り艤装に適応出来る事が分かった』

『艦兵改め、艦娘。少しでも戦場に出ているという事を楽に考えてもらう為に艦娘と命名した』

『娘によると一回でも相当の体力を消費するらしい』

『深海棲艦に攻撃を受けた時には痛みさえ感じるらしい』

『……もし、電子の世界で死んでしまえばどうなるのだろうか』

『この問題に関しては研究の余地は今の所無い』

『……娘だけは、死なせたくない』

529: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/21(火) 22:12:14.74 ID://N/uCcRO
『男性でも艤装を扱える様にする研究は全くと言っていいほど進まない』

『だが、その間にも艦娘達は徐々に増えていき、数個艦隊を擁するほどになった』

『もう……何年経ってしまったのかわからない』

『娘は艤装の適応が難しくなり、指揮官として艦隊を指揮している』

『それにこの艦娘や深海棲艦の研究にも没頭し、私と肩を並べて研究の一端を担うほどにだ』

『それがどことなく……父親として誇らしく感じてしまう事に嫌気が差した』

『娘をこの世界に連れ込んだのは私だ。娘から普通を奪ってしまったのも私だ』

『心のどこかで娘は私を恨んでいるだろう……妻と息子もきっと私を恨んでいるだろう』

『妻と息子の顔もはっきりと思い出せないほどに……私たちは離れてしまったのだ』

『捨てたも同然だ』

530: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/21(火) 22:19:45.08 ID://N/uCcRO
『今まで死者も無く、皆で戦って来た』

『だが、つい先日。大規模な戦闘が発生し……』

『娘の指揮する艦隊から死者が出た』

『コードネームは大和(艦娘が増えてからは識別の為に旧日本国軍の艦船の名前を付けている)』

『彼女は電子の世界で死に、現実でもまた死んでいた』

『心臓マヒの様な症状であったが、神経も所々焼き切れていた様だ』

『娘は彼女を手厚く葬ると言って、自ら彼女を運んで行った』

531: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/21(火) 22:29:19.16 ID://N/uCcRO
『私は罪人だ』

『少女らを戦場に連れ込む事はどこにも漏らす事は出来ない』

『地上階の偽装である病院に、孤児院まで隣接させた』

『そこからより適応性のある少女を選抜し、地下のこの場所へと連れて行く』

『勿論これは極秘である』

『国家的プロジェクトではあるが民間に知られる事があってはならない』

『それ故に……少女達は……』

532: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/21(火) 22:33:03.77 ID://N/uCcRO
『この研究、プロジェクトは《対情報生物用特殊攻撃部隊計画》と呼称され』

『アメリカや、ドイツ、ロシアなどの国々でも同様の研究が行われているらしい』

『無論、この事は関係者以外知る事はない』

『"私でさえも知らなかった"』

533: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/21(火) 22:35:42.85 ID://N/uCcRO
『この計画の……真の目的は……』

『艦娘の技術を現実世界に流用する事』

『深海棲艦との戦闘をシミュレーションとして記録し、艦娘の情報などとを合わせて計算』

『現代の最先端技術を用いて、次世代の戦争兵器を開発する……!!』

『私は愚かだ。この事に偶々気がつくまでになにも知らなかった』

『ただ、踊らされていただけだった』

534: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/21(火) 22:39:05.12 ID://N/uCcRO
『この事を日本国民に知らせるよう、止めるよう、考えもなしに訴えた』

『どうして、冷静になれなかったのだろう』

『娘を人質に取られた』

『これ以上騒ぎ立てれば娘がどうなっても知らないと』

『私は……この知ってしまった計画を手伝う以外に、選択は残されていなかった』

535: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/21(火) 22:45:14.52 ID://N/uCcRO
『男性を適応させる為にはどうしたらいいか』

『薬物を使用し、脳の活動を活性化させればいい』

『私はこの薬物の研究を進めた』

『脳内の使用されていない部分を活性化させ、脳の出力を最大限にまで上昇させる』

『これにより人間に元々備わっているリミッターを解除し、能力を高める』

『さらに、脳波を適性のある少女達に近いものにし、艤装に適応させる』

『だがこの薬物には大きな危険が付きまとっている』

『非認可の薬物を調合し、使用している』

『どのような副作用が起こるかわからない』

『だがこの研究は私の手を離れ、続けられる事になった』


『娘の手で、研究は続けられるのだ』

536: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/21(火) 22:47:47.72 ID://N/uCcRO
次のページからは血の様なものがべっとりとついていて読む事が出来ない

一枚一枚丁寧にくっついたページを剥がしてみたがそれでもダメだった

だが、最後のページだけは読めた。そこには血文字で……


『娘を……止めて……くれ……』


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539: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 06:30:36.65 ID:UIJoTlvuO
男「……」

武蔵「……」

日向「……」

男「……あの蜂起の、裏が見えて来そうだ」

武蔵「それほどまでに重要な事が?」

男「あぁ……」

男(それにあの血は……まさか父は殺された?)

男(日記がこの部屋に保管されているという事は……)

男「……」

540: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 06:36:59.24 ID:UIJoTlvuO
男(……いや。その考えに至るにはまだ早い)

男(しかし……これほどまでの事が秘密裏に行われていたと思うと)

男「……」

男「そういえば……」

日向「何か……思い当たる事が?」

男「二人も読んでくれ……」


武蔵「……」

日向「……こんな事があったなんて」

男「それで、この部分……」

男「薬物についての記述があるが……これは初めて聞いた」

541: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 06:40:33.76 ID:UIJoTlvuO
武蔵「……確かに。この薬物についてはニュースや……話題にも上がっていないな」

日向「……まだなにか隠されている?」

男「可能性は十分にある」

男「そして……首謀者の執務室にあった薬物関係の本」

男「全く無関係であるという事は無い気がする」

武蔵「その辺りも調べてみなければわからないな」

男「あぁ……」

542: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 06:49:59.58 ID:UIJoTlvuO
武蔵「それと……大丈夫か?」

男「……」

男「……いちいち気にしていてはキリがない」

男「確かに……やり場の無い気持ちはあるが……今は……」

男「時間がない。早く調べよう」

武蔵「……」

日向「……」


男(結局あの日記以外にめぼしい物は無かったが、あれだけでもあって良かった)

男(母と俺を置き去りにして出て行った理由が……ようやくはっきりとわかった気がする)

545: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 21:58:46.62 ID:b/XpN0X1O
男「次だ。執務室に向かおう」

日向「もうあまり時間も無いな」

男「……なるべく急ごう」


男(執務室はいたって一般的な)

男(机に深く座れそうな椅子。本棚に書類棚)

男(余計なものは一切置かれていない)

546: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 22:05:57.53 ID:b/XpN0X1O
男「各自またよろしく頼む」


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コンコン

男「……」

武蔵「また壁など叩いて……」

男「ここまでなにも無いのはおかしい。一番怪しい所になにもないとは……」

男「入念に調べて損はしないはずだ」

武蔵「夜明けまでに終わればいいがな」

547: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 22:11:35.53 ID:b/XpN0X1O
男(必ず……なにかあるはずだ……いや)

男(あってもらわなくては困る……!!)


日向「……特に怪しいものはない」

武蔵「艦隊の運用記録や支出管理表……」

武蔵「この部屋は他に怪しい所は……」

コンコン

男「……」

男(壁全体を叩いて回ったが音が変わるような事は無かった。おかしな穴も傷も)

武蔵「……提督、次を探しに……」

男(あとは本棚に机……)

男(本棚はいたって普通のものだ。落ち着いた茶色で棚部分には本がぴっちりと収納されている)

男(側面にも怪しい所は……)

548: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 22:13:38.97 ID:b/XpN0X1O
男「……あった」

日向「……なにか見つけたのか?」

男「これは……鍵穴か?」

ゴソゴソ

男(先ほど手に入れた鍵を……本棚の側面端にあった穴の様なものに差し込む)

ガチャ

武蔵「……」

日向「……」

男「……やはり間違っていなかった」

549: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 22:16:53.60 ID:b/XpN0X1O
男(軽く力を入れて横にずらそうとすると簡単に棚は動いた)

ゴゴゴゴ...ガコン

男(裏には地下に続く階段。こここそが本当に調べるべき場所……!!)

男「いくぞ……」ダッ

武蔵「おい、そう慌てるな」

日向「……」


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550: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 22:25:24.40 ID:b/XpN0X1O
男(暗い階段をやや駆け足に降りる)

男(焦らすに焦らされようやく当たりを引いたのだ)

男(これで……全て……!)


男(階段を降りきるとそこには分厚い鉄製の両開きドアがあった)

男(側面には認証パネルの様なものがある)

男「……チッ」

男(電源が無い以上ここは通る事が出来ないではないか……!!)

武蔵「ふむ……」キョロキョロ

日向「重要そうな場所……だな」

551: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 22:30:24.97 ID:b/XpN0X1O
日向「ここに非常電源のボタンがある」

男(どうするか思考を巡らせ始めた時に日向がそう言った)

男(フラッシュライトで照らされたそこをみると確かに、文字が薄れてはいるが『非常用電源ボタン』と書かれた文字が)

男(その下には赤いボタンが設置されている)

男「……動くか?」

日向「押してみるよ」

武蔵「……」

カチッ

552: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 22:35:06.07 ID:b/XpN0X1O
ブォォォン......ゴォォォ......

男(けたたましい動作音と共に、正面がチカチカと点灯していく)

武蔵「まずい……この音は……」

日向「周りが静かな分地上に聞こえる可能性もある……?」

ピピッ

男(認証パネルに電源が入る)

『DNA認証を、開始します。血液を、認証板の上に付着させて下さい』

男「DNA認証……」

男(これが……姉や父の隠していたものなら)

シュッ

男(俺は先ほど拝借した軍刀を取り出すと指先を軽く滑らせた)

ポタッ...

553: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 22:37:47.10 ID:b/XpN0X1O
『分析中……しばらくお待ち下さい』

武蔵「もし気づかれているなら、すぐにでも脱出する必要がある」

日向「細かく調べている時間はない……か」

男「……」

『DNA認証完了。お入りください』

ブシュゥゥゥ......ガコン

男(重厚な扉が開いていく)

男「急ぐぞ」

554: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 22:43:51.24 ID:b/XpN0X1O
男「……な、なんだ……これ」

武蔵「……これは」

日向「……」

男(照らされた部屋は隅までよく見えた)

男(円柱状の水槽の様なものが数個並んだ部屋だった)

男(中には……全裸の女性が浮いている)

武蔵「……」

日向「……」

男「……」

男(なんと言っていいのかわからない。全員口を噤んだまましばらく硬直してしまった)

555: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 22:48:02.39 ID:b/XpN0X1O
男(入り口からまっすぐ道が伸びている。両脇に二つずつ計4基)

男(そして道の行き着く先に1基)

武蔵「……人体実験でもしていたのか」

日向「……腐乱していない……という事は保存液……?」

男(俺は吸い寄せられる様に中央の1基へと歩みを進める)

男(長い黒髪、美しい顔立ちに……女性らしさを強調された身体)

男(まるで眠っているかの様に、柱の中に佇んでいる)

男(柱の周囲を見渡すとネームプレートが付いている事に気がついた)

男「……」

男「大和」

556: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 23:00:16.87 ID:b/XpN0X1O
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男(ゆっくりと眺めている時間は無い。周囲にレポートの様なものを確認し、別の部屋へと歩みを進めた)

男(次の部屋は電算室のようだった)

男(沢山のデスクトップの様な機器が並び、パソコンが一台中央に鎮座している)

男(俺はすぐに電源を探し当て、起動する)

武蔵「レポートだ。回収しておくぞ」

日向「USBメモリもあるぞ」

ガコン

男(パソコンの起動を待ち、日向と武蔵が周囲を漁っていると遠くの方から物音が聞こえた)

武蔵「チッ……」チャキッ

男「拾えるものは拾ってすぐに退却するぞ」

男(まずい……ほぼ確実に何かがいる)

男(焦燥感に駆られながらもパソコンの画面を眺めていると、パスワードも無しにメインの画面が映る)

男(デスクトップ上には沢山のファイル)

男「……一体どれが」

男(ドライブを開こうとした時、画面の端に3つのファイルが置かれているのが目に入った)

557: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/22(水) 23:08:35.47 ID:b/XpN0X1O
男「器、昇華薬、解放旅団」

男(どれもパッと見ただけではなにかわからない)

ガコン...ゴトッ

男「日向!USBを!」

日向「あぁ!」

男(ハードディスクを慎重に抜いている時間はない。咄嗟に日向の持っていたUSBメモリを受け取りパソコンに差し込む)

男「中身は……空か」

男(2Gのメモリ。ファイルの容量を確認するとどれもギリギリのものだった)

男「どれか……一つだけか」

男(この選択で……全て決まる)

男(そう確信した。そして俺は……)

572: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/24(金) 06:30:59.06 ID:kl7uTfl1O
男「……ッ!」

カチッ

男(咄嗟に、解放旅団と名のついたファイルをUSBメモリにコピーした)

男「……」

武蔵「むぅ……しかしここは埃の密度が一層濃いな……」

日向「私たちが動き回ったせいで舞ってしまっている」

男(確かにここは執務室外と比べて密度が高い気がする)

男(いや、今までゆっくりと動いていたのが忙しなく動いたからか)

男(なんにせよあまり良い事ではない)

573: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/24(金) 06:37:35.74 ID:kl7uTfl1O
武蔵「おいまだか?もう……」

男「あと少しで終わる」

日向「とりあえず……めぼしい書類は纏めたぞ」

武蔵「……」

男「……」

日向「……」

ガコン...

武蔵「……」

日向「……」チャキッ

男「まだ……距離は遠いか」

574: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/24(金) 06:42:13.66 ID:kl7uTfl1O
男「……」

武蔵「……」

日向「……」

男「……!」

男(コピーが完了した。すぐにUSBメモリを抜くとパソコンをシャットダウンする)

男(焼け石に水だろうが少しでも痕跡は消しておいた方が良いに決まっている)

男「よし。すぐに戻ろう」

武蔵「だいぶ時間が経った……」

日向「……」


ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーー

575: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/24(金) 06:49:22.99 ID:kl7uTfl1O
タタタ...

男(先ほど来た道を小走りに戻る)

男(眠る女性達を見送り、認証扉の場所へ)

男「……パネルの血は拭いておくか」

サッ

男「……これで良し」

武蔵「急ぐぞ」

日向「また先導しよう」


ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーー

576: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/24(金) 06:53:39.96 ID:kl7uTfl1O
男(隠し通路の階段を抜け、執務室へ)

ゴゴゴ...

男(本棚を元あった場所に戻し、鍵をかける)

男「日向を前衛に、武蔵は後方を頼む」

男「落ち着いて、かつ素早く行動する」

武蔵「わかった」

日向「……いこう」

ガチャ...

577: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/24(金) 07:00:57.70 ID:kl7uTfl1O
日向「……廊下には誰もいないよ」

男「壁際に寄りながら進むぞ」

男(各々小銃を構え、前進していく)

男(先ほどの物音の様なものは聞こえないが……)

日向「あそこの壊れた扉を潜ったらFブロック」

日向「直線に進んで左手にある扉から中央に出よう」

男「あぁ……気を抜くな」

武蔵「……」

578: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/24(金) 07:24:48.48 ID:kl7uTfl1O
男(そして、AとFを繋ぐ扉へと向かう)

武蔵「誰もいないな……」

日向「他の場所を探しに行ったか……」

男「なんにせよ。用心するに越した事はない」

男(しかし……妙だな)

男(地上部隊の人間がここに踏み入れたならもう少し埃が舞っていてもおかしくはないのだが)

男(先ほどと大して変わらず。それでも視界は悪いが)

男「それと、あまりフラッシュライトをちらつかせるなよ」

武蔵「わかっている」

579: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/24(金) 07:28:37.26 ID:kl7uTfl1O
男(そして何事もなく壊れた扉へと着いた)

日向「ここを潜り抜け……て」

ピタッ

男「……どうした?」

男(日向が足を止めて扉の向こうを見つめている)

日向「……提督」

男「……」

男(険しい顔でこちらを見る日向。扉の向こうに何が……)

男(姿勢を低く、扉の向こうを覗き込む)

男「なっ……!?」

580: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/24(金) 07:34:47.85 ID:kl7uTfl1O
男(……待ち構えていた)

男(進もうとした道の先を塞ぐ様に、黒い影が佇む)

男(怪しく光る瞳、艶やかな装甲。巨大な口)

男「何故……ここに」

武蔵「一体どうしたと……」

武蔵「……深海、棲艦……!!」

586: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/25(土) 20:04:22.08 ID:m0wxQygQO
男「何故ここに深海棲艦がいる……」

武蔵「表の国防軍の陣を破ってきたのか……」

日向「という事は……相当酷い事になっていそうだな」

男「……」

武蔵「……とりあえず。奴をなんとかしなければな」

男(状況を把握しよう)

男(まず深海棲艦だが……)

男(我々が現在目指している脱出路を塞ぐ様に陣取っている)

男(見た目は駆逐艦級のようだが……)

587: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/25(土) 20:07:36.85 ID:m0wxQygQO
男(次に我々だが……)

男(まず深海棲艦に対抗出来る武器は装備していない)

男(小銃に自動拳銃、グレネードにコンバットナイフ。おまけで俺が軍刀を装備しているが)

男(まともに戦って勝ち目はまずない)

男(ならば……)

男「こちらに引き寄せて、背後を取るしかないか」

男「それと下策ではあるが……」

男「撃たれる前に接近して振り切る」

590: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/25(土) 20:18:52.10 ID:m0wxQygQO
 
男(深海棲艦に殺される訳にも、国防軍に見つかる訳にもいかない)

男(速攻でカタをつける必要がある)

武蔵「とりあえず、この距離では無理だ」

日向「なんにせよこちらに誘き寄せる必要がある」

男「……」

チャキッ

男(SCAR-Lを構え、壁際から覗き込む)

深海棲艦「……」

男(動く気配がない……)

589: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/25(土) 20:16:27.46 ID:m0wxQygQO
深海棲艦「……」ジャコンッ

男(まずいっ……!!)

バララララ!!!!

ドゴォォォンッ!!!!

男「!?」

男(発砲音と同時に爆音が響く。爆風に煽られたのか埃がこちらまで押し寄せた)

武蔵「なんだ!?」

男(深海棲艦の姿が掻き消された)

男「……粉塵爆発か?」

日向「粉塵爆発なんてこれくらいの埃で起こるものなのか」

男「可能性は低いがあり得ない事もない」

男(まぁ……だとしても奴は無傷だろう)

男(逆に俺たちが起こしてしまえば火傷の危険がある)

武蔵「……」

591: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/25(土) 20:29:17.37 ID:m0wxQygQO
ジャコンッジャコンッ

男「……来るか!」

ドッ!!

男(姿の消えた深海棲艦は轟音を上げ、埃の幕を突き破る!)

ガガガガガッ!!!

男(弾丸の様に突っ込んでくる深海棲艦。その身体から碇の様なものが落とされ、硬い地面を穿った)

男(勢いが減速され、俺たちの目の前で止まる)

武蔵「チッ!!」チャキッ

男「……まずいッ!!」

深海棲艦「グオオオオオ!!!」

日向「あ……」

男(一番深海棲艦の近くにいた日向に、狙いを定めた様に見えた)

ブンッ!!!!

男(真っ白な腕が日向を狙って振られる)

592: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/25(土) 20:34:31.77 ID:m0wxQygQO
チャキンッ

シュッ!!!!

男(だがその瞬間、俺は無意識に軍刀を抜き放っていた)

ドゴッ!!!

深海棲艦「グギャアアア!!!」ブシュゥゥゥ!!!

男「ぐぅぅッ!!!」

カランカランッ

男(居合いの型からの一瞬の一撃。放った瞬間に想像を絶する衝撃が軍刀を吹き飛ばした)

武蔵「提督!!」

男「ぐっ……」

男(まずい……腕をやられた)

男(まるで車にでも当てられたかの様な衝撃だった。一瞬で腕が悲鳴を上げ、手首に激痛が走る)

593: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/25(土) 20:39:30.23 ID:m0wxQygQO
武蔵「シッ!!」

ビュッ!!!

男(武蔵の鋭い蹴りが飛ぶ)

ゴッ

深海棲艦「ギャアアアアア!!!」

男(先ほどの軍刀で傷を負っていたのか、ドス黒い血が流れ出している)

男(そこに武蔵の蹴りが命中した)

日向「す、すまない……」

武蔵「怯んでいるうちに走るぞ!」

男「あぁ……」

男(ブラブラと揺れる右手の痛みを抑えながら、左手で落ちた軍刀を拾い上げる)

ダッ!!!

594: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/25(土) 20:45:32.28 ID:m0wxQygQO
タッタッタッ!!!

男(あとは全力で走るだけ)

男(怯んだ深海棲艦を尻目に出口を目指す)

日向「君……その手」

男「大丈夫だ……それよりも……!」

ジャコンッ

武蔵「伏せろ!!」

バララララ!!!!!

男(後方から弾丸の追撃が迫る。咄嗟にヘッドスライディングの様に伏せたお陰で掠めるだけに留まった)

男「止まるな!走り続けろ!」

タッタッタッ

597: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/26(日) 21:06:49.70 ID:nBywqzH2O
男(走る。走って走って……疾走する)

男(埃が舞い上がり視界を塞ぐ。だがそれでも止まる訳にはいかない)

日向「こっち!」

武蔵「後方、付いてきているぞ!」

男「なんとか巻くぞ!」


ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーー


男(残骸の様なFブロックを抜け中央へ出た)

男(広い廊下に開け放たれた店舗)

男(生活感を感じさせながら、人が消え埃を被った様はやはり異様だ)

「へぇ……しぶといんだね」

男「……」

キュッ

598: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/26(日) 21:12:23.60 ID:nBywqzH2O
男(廊下の前に誰か立っている。聞くに今のは女性の声だが)

日向「……誰?」

武蔵「……」チャキッ

パッ

男(フラッシュライトで照らされた人物は……)

男(黒のパーカーに身を包み、鼻から上を隠している)

男(両手をポケットに入れ、歯を見せて笑っていた)

男「一般人……ではないな」チャキッ

ジャコンッ...ジャコンッ...

武蔵「……」

男(チラリと俺の顔を見る武蔵)

男「……ふむ」

599: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/26(日) 21:18:43.23 ID:nBywqzH2O
男「それで……俺たちになんの様だ?」

「用があるのは君だけ」

男(ピッと俺に向けて指を指す)

男「悪いが今は忙しいんだが。用件だけ手短かに頼みたい」

男(嫌な予感がする……)

「今から私の血を飲ませてあげるよ」

男「……」

武蔵「深海棲艦に異常者か。好かれたものだなお前も」

日向「もしかして……深海棲艦?」

男「……アレはお前の犬か?」

「犬?違うよ。大切な同胞」

601: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/26(日) 21:24:45.04 ID:nBywqzH2O
男(今の言葉を聞いた瞬間。痛む右手に力を込めて……)

バッ!!!

男(身を低く相手の懐に飛び込む)

ゴッ!!!

男(勢いのまま顔面へハイキックを打ち込むが、片手で受け止められた)

「挨拶も無しなんて。そんな人じゃないと思ってたんだけどなぁ……」

男「名乗ってやる名前なぞ無い」

「それじゃあ……私の名前を教えてあげる」

「いや、君たちがそう呼んでるだけだけど」

日向「人型の深海棲艦……」

武蔵「ならば……戦艦空母級か!!」

バッ!!!


「私の名前は……戦艦レ級」ニィッ

602: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/26(日) 21:34:56.58 ID:nBywqzH2O
男(ふわりと風を孕み、動く!)

男(フードが浮き上がり……狂気を宿した少女の顔が現れた)

キュッ...ガッ!!!

男「……ッ」

男(取られた脚を降ろし右を打ち込む!)

男(だがそれも軽く受け止められる)

戦艦レ級「痛くないの?さっき……怪我したんじゃない?」

男(こいつ……相当に強い)

武蔵「シッ!!」シュッ!!

男(横から武蔵の中腰からの一撃)

戦艦レ級「君には用事はないよ」

男(ふわりと軽くかわすと……)

シュッ!!!

武蔵「がはっ……!!」

男(見えないほどのパンチが武蔵にヒットした)

ドサッ!!!


606: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/28(火) 06:35:56.24 ID:juMdjQOuO
男「ッ……!!」

シュッ!!

男(奴の注意が引いた今……!!)

男(腰の軍刀を抜き放ち、そのまま柄で打撃を加える!)

戦艦レ級「そう簡単にはもらわないよ?」

ヒュッ!!!

男(風を切る音。次の瞬間……)

ドゴォッ!!!

男「……!?」

男(脇腹に強烈な痛み。気がつけば身体が宙を舞っていた)

ドサッ!!!

男「がっ……!!げほっ……」

日向「……」チャキッ

ジャコンッ...ジャコンッ...

深海棲艦「……」

日向「挟まれた……」

607: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/28(火) 06:47:01.13 ID:juMdjQOuO
男(これは……危機的状況か……)

男(あの深海棲艦はともかく……)

男(戦艦レ級を抑え込められなければ……まずい)

武蔵「流石に人型でも深海棲艦か……ふざけた強さだ」チャキッ

タタタンッ!!!タタタンッ!!!

戦艦レ級「当たらない」フワッ

武蔵「銃弾を……回避するなど……!!」

タタタタタタタタタンッ!!!

戦艦レ級「銃弾をかわしてる訳じゃないよ」フッ

武蔵「消えた!?」

戦艦レ級「最初から射線にいないだけ」ボソッ

武蔵「……!!」

608: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/28(火) 07:32:03.08 ID:juMdjQOuO
深海棲艦「……」ジャコンッ

日向「やらせない……!!」

タタタンッ!!!

深海棲艦「……!」スッ

日向「っ……」ダッ!!

バララララ!!!

日向「……」タッタッタッ!!


男(なんとかこの状況を脱しなければ……)

男(……どうすれば)

612: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/28(火) 23:32:23.81 ID:juMdjQOuO
戦艦レ級「ふふ……これでやっと……」グイッ

男「がはっ……なんの……つもりだ……!!」

戦艦レ級「言ったでしょ?私の血を飲ませてあげる」

カリッ

男(右手で俺の首を締め上げながら、左手の人差し指を噛んだ)

男(口元から唾液の糸が引き、傷口から黒い血が溢れ出している)

戦艦レ級「これで私たちと一緒になれるよ」スッ

男(ニコリと微笑みながら吐息のぶつかる距離まで顔を近づける。視界の端からは黒い血を垂らす指が迫っていた)

男(ここで頭突きでもかましてやる所だが首を固定されていてはどうにもならなかった)

613: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/28(火) 23:36:04.89 ID:juMdjQOuO
男「一緒……だと……」

男(……そうだ。深海棲艦の体液を体内に取り込むと……)

男(細胞が変異して深海棲艦となる……!!)

戦艦レ級「ふふふ……」

武蔵「提……督……!!!」グッ

バララララ!!!

日向「はっ……はっ……!!」ダッ

深海棲艦「ギャアアアアア!!!!」

男(ここで……俺は……)

男(死ぬ。そう思ったが……)

614: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/28(火) 23:41:09.18 ID:juMdjQOuO
シュッ!!!!!

戦艦レ級「っ!?」バッ

男(突然俺の首を絞めていた手を放り出す)

キンッ!!!

男(再び宙を舞った俺が見たのは……)

男「弾……丸……」ドサッ!!!

男(キラリと光る何かが戦艦レ級目掛けて放たれている)

男「がっ……げほっ……はっ…はっ……」

シュッ!!!シュッ!!!

戦艦レ級「折角いい所だったのに……」

キンッキンッキンッ!!!

男(手刀でそれを次々とはたき落としていく戦艦レ級)

カランッ...


615: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/28(火) 23:45:42.81 ID:juMdjQOuO
男(跳ね飛ばされたそのうちの一つが俺の目の前に落ちた)

男「弾丸……じゃない……」

男(それは……柄の無いナイフの刃だった)

コツ...コツ...

戦艦レ級「出来れば邪魔しないで欲しいんだけどなぁ」

「断る。好きにはさせないよ」

男(舞い上がる埃の向こうから人影が現れる)

チャキッ

「ナイフならまだまだいくらでもある」

男(紺色のパーカーを着た……少女だった)

男(流れる様な銀髪。すっきりとした顔立ち)

男(すらりとしているが女性的な身体つき)

617: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/28(火) 23:53:12.62 ID:juMdjQOuO
「司令官、立って。ここは私に任せて」

男「……」

男(敵ではない事は確かか……)

男(だが見知らぬ人間でもある。それでも……)

男「武蔵!日向!」

戦艦レ級「逃げちゃうの?」

「貴方の相手は私」

シュッ!!!

深海棲艦「グオオオオオ!!!」

男(戦艦レ級は彼女に任せるとしてこれはどうする?)

武蔵「放っておく訳にもいかないだろう」パンパン

キュッ

日向「倒せるのか!?」

男「……やるしかないだろう」

男「全員、戦闘開始!」

621: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/29(水) 06:32:02.09 ID:EkWofNhqO
武蔵「射撃は!?」

男「構わん!ありったけ喰らわせてやれ!」

日向「はぁ……はぁ……」チャキッ

男(日向の疲労が相当溜まっているな……)

男「今度は俺が相手をしてやる」チャキッ

タタタンッ!!!

深海棲艦「グォォォ……」クルッ

男「要は奴の生身の部分を狙えばいい」

男「俺は奴を陽動する。武蔵、日向。頼むぞ」

武蔵「フッ……なんとか、こいつを倒せそうな気がしてきたぞ」

日向「……」チャキッ

男「さぁ、こちらを向け!!」チャキッ

タタタンッ!!!タタタンッ!!!

622: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/29(水) 06:37:32.53 ID:EkWofNhqO
シュッ!!!

戦艦レ級「あと何本っ!」

キンッ!!!

カランッ...

戦艦レ級「飛んでくるのかな?」

「……」

「……弾道ナイフがダメなら。これで斬るだけ」チキッ

戦艦レ級「私、結構格闘も自信あるよ」スッ

バッ!!!


タタタンッ!!!タタタンッ!!!

深海棲艦「……」ジャコンッ

男「ッ……!!」ダッ

バララララ!!!

623: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/29(水) 06:43:53.78 ID:EkWofNhqO
男(深海棲艦の射撃で壁や床に穴が穿たれていく)

男(当たればひとたまりもない……か)

深海棲艦「グオオオオオ!!!」グバァッ

男(口を開けた!?)

日向「まずい!!奴の主砲だ!!」

男「主砲だと!」

バッ!!!

深海棲艦「ギャアアアアア!!!!!」

ドンッ!!!!!

男「ぐっ……!!!」

男(一瞬視界が暗転した。キィィンという音が俺から全ての音を奪う)

日向「み、耳が……」グッ

武蔵「くっ……こんな閉所で撃てば当たり前だ!!」

624: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/29(水) 06:49:31.31 ID:EkWofNhqO
キィィン...

男(まずい……聴力を奪われた)

深海棲艦「……」

男(奴は開けた口から煙を吐き出しながらこちらを向いている)

男(間一髪……ではないが。当たらずにすんで良かった)

男(そして……今が好機か)

男(小銃を構え直し、深海棲艦の口内目掛けて放つ!)

深海棲艦「ーーーーーッ!!!」

男(弾倉の弾丸を全て撃ち込むつもりで撃つ。撃つ)

男(苦悶の表情で叫んでいる様に見えるが……多分効いているだろう)

625: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/29(水) 06:55:54.66 ID:EkWofNhqO
男「……」

男(チラリ、と。一瞬だけ横を見る)

男(そこでは戦艦レ級が今まさに少女に手を掛けようと……)

男「……ッ!!」スッ


「くっ……これは……」

戦艦レ級「すごい音……だけど。これはチャンスだよね」

シュッ!!

ガッ

「……!」

戦艦レ級「今だ……!!」グッ

パンッ!!パンッ!!

戦艦レ級「うぐっ……!」チラッ

男「……」チャキッ

628: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/30(木) 00:16:42.57 ID:I3TshL0dO
「……!」

シュッ!!

ガッ!!!

戦艦レ級「やっぱり君は私と遊びたいんだ……」キュッ

男(少女の拳を受け止めてからの……)

ビュッ!!!

ゴッ...!!

「くっ……!!」

男(蹴りが襲うがそれを腕で受け止めた)

戦艦レ級「ふふ……」ダッ!!

男(まずい、俺の方へ向かってくる!)

シュッ!!!

男(見えない右拳。だが……)

男(例え音が聞こえなくとも!!)

ガシッ!!

戦艦レ級「……!?」

男「ふっ……!!」

グルンッ!!!

629: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/30(木) 00:20:16.33 ID:I3TshL0dO
男(相手の勢いを利用した背負い投げ。これならば……)

キュッ

戦艦レ級「楽しくなってきたよ」

男(片手で身体を受け止めた……!?)

シュッ!!!

男「ぐぅっ!!」

男(足払い!!)

ドサッ!!!

深海棲艦「グオオオオオ……!!」ジャコンッ

男(まずった……)

タタタンッタタタンッ!!!

深海棲艦「ギャアアアアア!!!」ブシュゥゥゥ!!!

男(深海棲艦の身体から黒い血がほとばしる)

武蔵「隙を見せたな」

630: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/30(木) 00:27:55.59 ID:I3TshL0dO
「今……!!」チャキッ

シュッ!!!!!

ドスッ!!!!!

深海棲艦「ガッ……!?」

男(さらに視界からナイフの刃が一直線に、深海棲艦の目に直撃した)

深海棲艦「グオオオオオ!?!?!?」ドゴッ!!!ガンッ!!!

日向「暴れ出したぞ!!」

武蔵「視界が塞がれた……?」

男(深海棲艦が暴れて壁や物に当たる音が聞こえる。聴力も回復してきた様だ)

武蔵「見えていないのなら……」チャキッ

武蔵「格好の的だな!!」

タタタンッタタタンッ!!!!

ブシャアアアアア!!!!

深海棲艦「ガ……グゴ……」

ズドォォォン...

633: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/30(木) 17:45:48.87 ID:e8Ft2PIyO
日向「倒した……」

武蔵「耳も元に戻って来たか……」コキッ

戦艦レ級「へぇ……」

「……」チャキッ

男「……」スクッ

戦艦レ級「4対1じゃ少し分が悪いかな?」クスクス

武蔵「あまり舐めてもらっては困るぞ……!」

日向「……」

男(静まり返ったこの場だが……)

ドンッ...タタタンッタタタンッ...

男(遠くから銃声や爆発音が聞こえる)

日向「地上でも戦闘が行われている?」

武蔵「早々に決着をつけたいものだが……」

「私に任せて司令官達は逃げて」

戦艦レ級「一人で私と戦うの?」

「私一人で十分」

634: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/30(木) 17:50:45.51 ID:e8Ft2PIyO
戦艦レ級「……大丈夫だよ。逃げても」

男「……」

戦艦レ級「すぐに殺して追いつくから」

男(笑みを浮かべる瞳には明らかに冷たい殺意が籠っている)

男(それはまるで狂人のそれだった)

武蔵「提督、任せるが……」

日向「……」

男(この場を少女に任せてしまえばここからの脱出は可能だろう)

男(表に出てしまえば逃走もなんとかなるかもしれない)

男(だが……)

男「……」チャキッ

「っ!司令官!ダメだ!」

戦艦レ級「そういう所……嫌いじゃないよ」ダッ

男(来るッ!)

タタタンッタタタンッ!!!

635: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/30(木) 17:55:59.02 ID:e8Ft2PIyO
男(戦艦レ級はまるでダンスでもするかの様に銃弾をかわしていく。いや……)

男(やはり射線に捉えられていないか……!!)

武蔵「ハッ!!」シュッ

ガッ!!!

戦艦レ級「……」

日向「私だって……!」チャキッ

タタタンッタタタンッ!!!

「……」グッ

シュッ!!!

戦艦レ級「あはははは!!」

男(全員の一斉攻撃。にも関わらず戦艦レ級はたじろぐ様子も無く、最小の動きでそれをかわしていなす)

636: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/30(木) 18:12:03.00 ID:e8Ft2PIyO
男「……」

男(しかし……ここでふと思った)

男(奴らがここまでする理由はなんだ?結局狙っているものとは……)

男(深海棲艦には狙いがあるとは判断したが、現状それだと思える様なものは見つけられていない)

男(……丁度話せる深海棲艦がここにいるが)

男「……貴様らの目的はなんだ」

戦艦レ級「ん?どうしたの急に」

男「ここまでする理由だ。ただ単に人間を殲滅しようとしているとは思えない」

男「何か狙いがあって動いている様に見えるが」

戦艦レ級「私達の目的が知りたいの?」

男「国防軍の戦線を出し抜いてまで狙うものはなんだ」

「深海棲艦の狙いはっ」

戦艦レ級「私達の狙いは……」




「君だよ?」

639: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/30(木) 23:47:27.34 ID:KGIL1sWsO
男「……」

男(目的が……俺だと?)

武蔵「返答がそれとは。まともに取り合うつもりも無いか」

「っ!」チャキッ

戦艦レ級「投げるナイフも無くなった?」

「一本あれば足りる」

日向「……!」チャキッ

タタタンッ!!!タタタンッ!!!

カチッ

日向「ッ……予備の弾倉も無い」

男(目的が俺とは……どういう事だ……)

男(もしかして……俺の持っているUSBが目的……?)

「司令官!早く逃げるんだ!」

男「……」チラッ

「私はいい、私も後で脱出する!」

640: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/30(木) 23:51:00.13 ID:KGIL1sWsO
武蔵「……」ピトッ

男「……武蔵」

武蔵「奴の目的は提督の持っているものかもしれない」ボソッ

男「……あぁ」

男「……撤退する」

戦艦レ級「行かせないよ」ダッ!!

ガキンッ!!!

「……」ググッ

男「武蔵、日向!走れ!」

日向「あぁ!」ダッ

男「くっ……!」ダッ

武蔵「……」ダッ

641: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/30(木) 23:54:20.93 ID:KGIL1sWsO
キンッキンッ!!ガンッ!!

男(走り出す俺たちの後ろでは人間離れした肉弾戦が行われていた)

男(俺の持っているものが目的なら……ここで捕まる訳にもいかない……か)


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ーーーーーー
ーーー

644: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/31(金) 06:34:32.20 ID:CN77PNVKO
男(来た道を戻り、階段を駆け上がる)

男(地上に近づくにつれ戦闘音は大きくなっていた)

男「地上階だ。扉を開けたら速やかに行動するぞ」

武蔵「敵にも味方にも発見されないようにしなければ」

日向「同じルートで移動して、林を逆方向に行こう。裏手から出た方が見つかりにくいと思う」

男「そうだな。とりあえずはそれでいいだろう」

男「では……いくぞ」

ガチャ...

645: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/31(金) 06:44:20.52 ID:CN77PNVKO
タタタンッタタタンッ...

男「……誰もいないな」

武蔵「籠城という所までは追い詰められていない様だが……」

日向「……」


男(俺たちが侵入した割れたガラスの場所にも国防軍に深海棲艦の姿は無い)

男(だが、入り口中央の陣地形成部には沢山の国防軍兵士がいた)

男「迫撃砲に……戦闘車両か」

武蔵「砲兵も多い。感染者だけならばあれだけの展開はしない」

日向「予想以上に芳しくはない様だな」

男「だが……手を貸す訳にもいかないからな。早々に離れるぞ」

646: ◆SOkleJ9WDA 2014/10/31(金) 07:00:01.50 ID:CN77PNVKO
男「砲声に合わせてあの草が生い茂っている場所へ移動する」

武蔵「私達が通ってきた場所か」

男「フェンスを抜ければなんとかなるな?」

日向「あぁ。大丈夫だ」

男「よし、では……」

ドォォォン...

男「走れ!」ダッ

パリンッパリンッ

男(砲声に紛れれば踏んだガラスの音も目立たないだろう)


男「身を低く。行こう……」

武蔵「……」

日向「……」

649: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/01(土) 00:13:45.34 ID:sUebSp+cO
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ーーー


男(国防軍の戦線を上手く抜け出し、俺たちは明け方にはかなみ市防衛機構にたどり着いた)

男(三人とも疲れ果て、足元すらふらつく始末だった)

男(極度の緊張の中、深海棲艦という脅威に立ち向かったのだ。当たり前といえば当たり前だ)

男(特に日向は酷く、最低限の会話すら億劫そうにしていた)

ガチャ...

日向「……」

男「……」

武蔵「……」

日向「……休んでもいいか」

男「あぁ……資料だけ渡してくれ。報告やその他は……明日でもいいだろう」


650: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/01(土) 00:21:40.01 ID:sUebSp+cO
日向「……」スッ

男「ん……ゆっくり休んでくれ」

日向「……」フラフラ...

ガチャ...バタン

武蔵「私達も……休もう」

男「そうだな……それでは」

武蔵「……ん」


ドンッ

男「……で」

男「なんで俺の部屋にいる?」

武蔵「なにか問題でも?」

男「いや……休まないのか」

武蔵「なにも睡眠を取る事だけが休養ではないさ」スッ

男「黒霧島……芋焼酎か」

武蔵「芋は嫌いか」

男「……もらおう」

651: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/01(土) 00:25:41.66 ID:sUebSp+cO
トクトク...

男「つまみになるような物はなにもないぞ」

武蔵「土産話と煙を肴にすればいい」

男「……土産話はともかく部屋は煙臭くしたくはないのだが」

武蔵「そう言いつつ煙草を取り出している辺りまんざらでもないのだな」

男「……」

カチンッ...ジジジ...

武蔵「ん」

男「……」スッ

パチン

武蔵「ふぅ……」

男「……」モクモク

657: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/02(日) 22:26:30.50 ID:VNysKpEfO
男「……」

ゴクッ

男「……」コト...

武蔵「……深海棲艦の狙いの話は後でいいだろう」

武蔵「お前の父と姉の話、聞かせてはもらえないだろうか」

男「……父の日記には。あの施設にやってきてからの研究の結果や進展が記されていた」

男「深海棲艦は以前黒き者と呼ばれていた」

男「艦娘計画は数多の失敗を重ねて完成した物でもあった」

男「……それはどうでもいいか」

658: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/02(日) 22:31:44.16 ID:VNysKpEfO
男「父と姉はあの施設にほぼ監禁状態で、母に連絡を取る事も叶わなかったそうだ」

男「姉は強い人間だった。苦悩を乗り越え、父の研究を手伝うまでになっていた」

男「だがそれでも、父はいつか母の元へ帰ろうとしていた……」

男「帰りたいと願いながら、父は人間の存亡の危機と戦っていた」

武蔵「……」

男「やがて艦娘の研究は成功し、姉は……初期の艦娘の実験体となり」

男「適齢期を過ぎると指揮官として深海棲艦と戦っていた」

659: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/02(日) 22:36:42.30 ID:VNysKpEfO
男「そして……その裏で、次世代兵器の開発が推し進められていて、父は利用されていた」

男「半端したがせいで姉を人質に取られ、その研究に引き続き加担する他無く……」

男「全ての人間を艤装に適応させるための薬を開発し……」

男「……あぁ」

男「どうしてこうも……上手く言葉にならないのだろうか……」

武蔵「混乱しているのはわかる。提督の家族が国家に利用されていた事もわかった」

パサッ

武蔵「……」

男「……読んでくれ」

660: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/02(日) 22:39:36.19 ID:VNysKpEfO
武蔵「……いいのかい?」

男「構わないさ。読んだ方がわかりやすい」

男「俺は……あぁ……」

武蔵「……」

ペラッ...


武蔵「……」

パタン

男「……」

武蔵「……最後のページ、というより後半部」

武蔵「血でくっついて剥がれなくなっているな」

武蔵「かろうじて開ける、実質最後のページには血文字で……」

武蔵「娘を止めてくれ……か」

661: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/02(日) 22:44:27.78 ID:VNysKpEfO
武蔵「……という事は、姉がなにかをしようとしていて」

武蔵「それを止める事を父は願っていた」

武蔵「そしてこの血の量では……恐らく重症」

武蔵「字がブレている所を見ると瀕死か」

男「……姉か、あるいはそれに近しい人間に……殺された事は容易に想像がつく」

男「……今まで俺は全ての真相を知るために生きてきたと言ったな」

武蔵「……あぁ」

男「こういう事態も想像しなかった訳ではない。それでもいいと思っていた」

男「なのに……」スッ

プルプル

男「こうも……先を知りたくないと思ってしまうものなのか……」

662: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/02(日) 22:49:16.88 ID:VNysKpEfO
男「俺は……俺は……!」

男「違う……俺の本質は……俺の願ったものは……」

男「それでも……父と姉は……幸せに過ごしたのだと……そう……」

男「そうであって……欲しかった」

武蔵「……」

男「……この先は、最悪の展開でしかないだろう」

男「それを全て知った時、俺はどうなる」

男「生きる目的を果たし、希望を失い、俺はどうなるのだ……」

男「……俺にはなにも……残らない」

武蔵「……提督」スッ

663: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/02(日) 22:54:53.73 ID:VNysKpEfO
ギュッ...

男「……」

男(柔らかな感触、女性特有の甘い香りが鼻腔を通り抜ける)

男(俯き、混沌としていた俺はそれで。武蔵に抱かれたのだとわかった)

武蔵「お前がこうも感情的になったのは初めて見た」ナデナデ

男(優しい手が俺の髪を、背中を撫でる)

武蔵「……きっと恐ろしいだろう。辛い現実が待ち受けているだろう」

武蔵「だがそれでも……提督は知るべきだ」

武蔵「お前の追い求めたものを、全てを」

武蔵「……それでもし生きる目的も希望も無くしたのなら」


武蔵「それでもいいじゃないか」

664: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/02(日) 23:06:30.95 ID:VNysKpEfO
男「……」

武蔵「それでお前の存在が消えて無くなる訳ではない。全て失ったのなら……また手に入れればいいだけの話だ」

武蔵「それに……まぁ……そうだな」

武蔵「例え最悪の展開だったとしても、お前は全てを失う訳ではないぞ?」

男「……」

武蔵「私だって、他の艦娘だっているだろう?」

武蔵「お前の中では、私達の存在は無価値か?記憶の欠片にすら残らないような存在か?」

男「……それは、違う」

武蔵「……お前の生きる目的をまた、今度は一緒に探してやる事も出来る」

武蔵「私達に出来るなら全力でお前をサポートしてやるし、それに……」

武蔵「私はお前の姉のような存在だろう?弟は黙って姉に甘えていればそれでいい」ニヤッ

武蔵「だからこそ……ここでお前が折れてしまえば中途半端で終わってしまうだけだ」

武蔵「男なら最後まで貫いてみせろ」

666: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/02(日) 23:10:23.12 ID:VNysKpEfO
男「……武蔵」

武蔵「……ん?」

男「……すまない」

武蔵「……ふっ」

武蔵「……たまにはこうして吐き出せ。お前はどうも溜め込む節がある」

武蔵「吐き出さなければいつか溢れかえって壊れるぞ」

男「……」

スッ

男「そうだな。次からは……そうさせてもらう」

武蔵「……ん。だいぶマシな顔になったぞ」

673: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/02(日) 23:36:41.74 ID:VNysKpEfO
 
武蔵「もしお前が望むなら本当の姉になってやってもいいぞ」ケラケラ

男「それは……検討しておく」

武蔵「さぁ飲め飲め!いくらでも瓶は用意してやる!」

男「……ほどほどに飲ませてもらうさ」


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ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー

668: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/02(日) 23:17:05.66 ID:VNysKpEfO
武蔵「……ぐご、すぴー……」

男「で、これか……」

男「寝るなら自分の部屋で寝てもらいたいものだが……まぁ今日くらいはいいだろう」グッ

男「っ……そこそこに、重いな……」

武蔵「すぴー……ふへっ……」

男「……相変わらずだらしのない寝顔だ」

男(……また探せばいい……か)

ボフッ

男「俺は……あぁ……床しか空いていない……」

ガシッ

男「……む?」

武蔵「……すぴぴ……」

男「……抱き枕にするなら他を当たれ」ググッ

ギリギリ


669: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/02(日) 23:21:30.17 ID:VNysKpEfO
男「くっ……何故こんなにも力が強いんだ」ググッ

ギリギリ...

男(男の腕に特にやらわらかな物が二つ。潰れんばかりにあてがわれている)

男(流石にこれは……交際などしてもいないのにこれは……)

男「起きろ!」ムニムニ

武蔵「はふぇ……ふぉ……」

男「……」

男「……解放されるまで抱き枕役をするほかないのか」

男「……はぁ」

674: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/04(火) 06:41:52.76 ID:O8d8EYZbO
男「……」スースー

男「……む」モゾッ

男「……眠ってしまったか」

武蔵「……」スースー

男「……」

男(相変わらず身体を密着、もとい抱き枕の様にされている)

男(首元に吐息が掛かるのがくすぐったく感じる)

男「今度は……」スッ

武蔵「……んむぅ……」

男「……やっと離れたか」

男「今は……17時。もう夕方か……」

675: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/04(火) 06:57:51.22 ID:O8d8EYZbO
男「まだ眠気は払いきれないが……」

男「……少し腹になにか入れておくか」


ガチャ

男「……」

北上「あれ?提督じゃん。いつ帰ってきたの?」

男(あぁ……そういえば母の元へ帰った事にするのだったか)

男「他の皆は?」

北上「みんな出掛けてるみたいだけど。私も今さっき帰ってきたし」ゴソゴソ

男「では丁度その時に帰ってきた様だな。誰もいなかった」

北上「ふーん……」パリパリ

男「……」

北上「……どしたの?」

676: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/04(火) 07:23:20.23 ID:O8d8EYZbO
男「煎餅か……久しく口にしていないな」

北上「食べる?」スッ

男「いただこう」

男「……」パリパリ

北上「……」パリパリ

男「……茶でも入れてこよう。飲むか?」

北上「もらうよー」


コトッ

北上「おぉ……ありがとね」

男「うむ。煎餅にはやはり茶だな」

ズズッ...

男「……」

北上「……」パリパリ

677: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/04(火) 07:30:33.71 ID:O8d8EYZbO
北上「……」

男「……どうした?」

北上「提督が自分からお菓子を食べる所って見た事ないかも」

男「間食はあまり取らないし、皆からくれればそれで十分だからな」

北上「そんなもんなの?」

男「そんなものだ」

プルルルル...

男「内線か」スタスタ

男「こちら中尉」

少佐『いたか。すぐにこちらに来てもらいたいのだが』

男「わかりました」

ピッ

男「少し出てくる。煎餅、美味かったぞ」

北上「いってらー」

679: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/04(火) 07:54:59.30 ID:O8d8EYZbO
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーー


少佐「すまないな、折角の休暇中に」

男「いえ、それで……」

少佐「あぁ……今日の未明の事だが……」

少佐「都内の研究所跡地で中規模の戦闘が起こった」

男「戦闘……ですか」

少佐「感染者に駆逐艦級の深海棲艦の襲撃があってな。国防軍に多少の犠牲者が出たようだ」

男「……」

少佐「こうも内部から敵が湧いてくるとは……」

男「やはり深海棲艦の拠点がどこかに?」

少佐「その可能性は極めて高いだろうな」

少佐「休暇の剥奪はしないが、備えはしておいてもらいたい」

男「わかりました」

682: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/05(水) 07:25:19.65 ID:gmIywuOKO
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーー


男「……」

男(深海棲艦の内部からの襲撃。戦闘レ級は俺を狙っていると言った)

男(あのUSBに入っている『解放旅団』と名のついたファイル)

男(やはりあれが……)

男(今夜からでも……調べる必要がありそうだ)


古鷹「提督!おかえりなさい!」

龍鳳「今晩御飯を作っているのでもう少し待ってて下さいね」

神通「私は……今のうちにお掃除をしておきますね……」

男「皆帰っていたか」

北上「ついさっきねー」ゴロゴロ

683: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/05(水) 07:30:58.06 ID:gmIywuOKO
男(武蔵と日向の姿が見えないな……まだ寝ているのか)

男(……無理に起こすのは気が引けるが)

男(一応声は掛けておくか)


コンコン

男「日向。起きているか?」

男「……」

ガチャ

日向「……」

男(まだ眠そうな顔をしているが、とりあえずは大丈夫そうだな)

男「夕食はどうする?」

日向「……もらうよ」ゴシゴシ

684: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/05(水) 07:40:03.17 ID:gmIywuOKO
男「さて……ふむ」

男(そういえば武蔵は俺の部屋で寝ているのだったな……)スタスタ

古鷹「提督?武蔵さんを起こしに行くんじゃないんですか?」

男「う、うむ……まぁ、そうなんだが……」

古鷹「……?」

ガチャ...バタン

男「……」

武蔵「……すぴぴ」

男(またいつもの酷い寝相で俺のベッドをシワだらけにしていた)

男「武蔵、夕食はどうする?」

武蔵「……」

男「……」

685: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/05(水) 07:57:52.44 ID:gmIywuOKO
男「……寝ているのなら起こす必要はないか」

武蔵「……」

男「……」

男(大の字になって気持ち良さそうに寝ているのは構わないが……)

男(へそを出しながら寝ていたら風邪を引くぞ……とは何回か言ったか)

男「……仕方ないな」

スッ...

ガシッ!!

男「……」

武蔵「……」ニィッ

グイッ

686: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/05(水) 08:04:06.59 ID:gmIywuOKO
ボフッ

男「……」

武蔵「ようこそ提督、私の身体の上へ」

男「……酔っているのか?」

武蔵「なぁに……提督が出て行った後に少しだけ飲んだだけさ、少しだけ……」

武蔵「……へへっ」ギュッ!!

男「ぐっ!?」

男(締め付けられるというか押し付けられている!)

男(それに酒臭い。こいつあの短時間でどれだけ飲んだんだ……)

男「早くしないと夕食を食べ損ねるぞ」

695: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/07(金) 06:35:09.72 ID:pYn2DTdCO
武蔵「別にいいだろう?」

男「俺は腹が減った」

武蔵「まぁそう急くな……」

男「急いてる訳でもないんだが。ほら行くぞ」グッ

武蔵「……」ギュッ

男「……」

武蔵「……」

男「ええい離せ!!」ググッ

武蔵「離してみろ」ニヤッ

コンコン

古鷹「提督ー?どうしたんですかー?」ガチャ

男「あ……」

古鷹「……」

696: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/07(金) 06:47:26.51 ID:pYn2DTdCO
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーー


男「……」モグモグ

古鷹「……」

武蔵「……」モグモグ

北上「……なにこれ?」

神通「さ、さぁ……」

龍鳳「……?」

日向「……」モグ...モグ...

男「……」

武蔵「……」ニマニマ

古鷹「ぅ……」カァァ

日向「……」ウツラウツラ

697: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/07(金) 07:30:57.86 ID:pYn2DTdCO
男「……ごちそうさま。今日も美味かったぞ」

龍鳳「はい!ありがとうございます!」

男「日向、武蔵。後で話があるから俺の部屋に来い」

男「眠いのなら無理する事はないがな」

日向「わかった」

武蔵「あぁ……」

古鷹「今度は三人ですか!?」

男「先ほどのは事故だ!古鷹が思っている様なそんな事では断じてない」

北上「なにかあったの?」

男「少し酔っ払いに絡まれただけだ……」

701: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/07(金) 19:46:59.03 ID:6nDVCGsaO
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー


男「……」カタカタ

男「一応……ウイルスが入っていないか確認するか」

ガチャ

武蔵「失礼するぞ」

日向「……」

男「二人共、大丈夫か?」

武蔵「あぁ……酔いも覚めた」

日向「私も大丈夫……多分」

男「……缶コーヒーが丁度あったな」スッ

ポイッ

日向「ん……」パシッ

男「……さて」

702: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/07(金) 19:54:48.47 ID:6nDVCGsaO
男「事を急くのは良くないとは思うが、そうゆっくりしている訳にもいかない様だ」

男「深海棲艦が、このデータを狙っている」

男「深海棲艦共に俺たちの顔がばれたとなれば……」

男「……必ずここに奴らは現れる」

武蔵「だろうな……」

日向「……」

男「奴らに対抗する為には、奴らの狙いを理解し。その上で対策を講じる必要がある」

男「今からあの施設で手に入れた『解放旅団』と名のついたファイルを開き、捜索する」

男「他にも持ち帰った資料から……」

703: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/07(金) 20:14:21.96 ID:6nDVCGsaO
日向「……君はさ、なんの為にここまでするんだ?」

男「……」

日向「父と、姉の暮らした痕跡を。生きた痕跡を調べたかったんだろう?」

日向「その為に今まで……戦って、ここまで来たんだろう」

男「……あぁ、そうだな」

日向「今君はその全てを知る目前にいる。じゃあ全てを知った後は?」

日向「何故ここまでリスクを犯して深海棲艦の目的を暴こうとするんだ?」

武蔵「……」

男「……さてな。それは俺にもわからん」

男「かなみ市防衛機構の一員としてかなみ市を、お前たちを守りたいのか」

男「ただ惰性でこの様な事をしているのか」

男「家族を失う原因にもなった深海棲艦が憎いからか」

704: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/07(金) 20:18:20.34 ID:6nDVCGsaO
男「……俺にはわからない」

男「だが、この資料の山をなんとかすればまた違うかもしれないな」

日向「……」

武蔵「……やるなら早くするぞ」

男「そうだな。今ファイルを開く」

カチカチッ

男「……」

男(ファイルを開いて見てみると壊れたデータが多い。まともに見れるのは数個程度だろうか)

男「上から順に生きているものを調べる」

男「まずはこの文章ファイルだな……」

708: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/08(土) 22:07:52.05 ID:z7ePu7NEO
『数年前から、解放旅団と名乗る武装集団が戦地に現れるらしい』

『内戦地域においては反政府派を支援し』

『時に軍施設周辺でゲリラ的な攻撃を行う危険な集団である』

『またある時は国家機密にハッキングし、厳重に保管されている情報をばら撒こうとする』

『彼らは愚かなテロリスト集団に過ぎないが、だからと言ってそれを野放しにする訳にもいかないだろう』

『我々の研究や実験にも干渉してこないとは言いきれない。注意するに越した事はないと言う事だ』

709: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/08(土) 22:13:32.46 ID:z7ePu7NEO
『彼らは民衆の戦争からの解放を謳っているらしい』

『そのような事を言いながらテロ紛いの行動をしているのだから笑いものだ』

『絶対的な力による平和維持を否定する訳ではないが、彼らのやり方では不可能だろう』

『それにしても、彼らが扱う武装はアメリカ軍やロシア軍等の正規装備らしい』

『いずれかの国家が裏で手を引いている可能性も視野に入れなければならない』

『解放旅団を利用し、我々の成果を強奪しようとする可能性も十分にある』

710: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/08(土) 22:22:45.67 ID:z7ePu7NEO
『……噂に過ぎないが、解放旅団は独自に戦闘兵器を開発しようとしているらしい』

『各国から新型兵器の情報を盗み出していると。その様な噂が広まりつつある』

『もしそれが本当なら、我々は十分に狙われている』

『次世代戦車、艦娘技術の情報を漏らす訳にはいかない』

『我々の施設にも、スパイが紛れ込んでいるかもしれないな』

『炙り出して、居るなら色々と吐いてもらわねば』

717: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/11(火) 06:50:00.51 ID:S1K27a6kO
『解放旅団のスパイと思われる人間を発見。拷問を加えたが情報を得る事が出来なかった』

『だがそれでもいい。その人間が本命ではないからな』

『それに指示を与えていた人間がいる。少なくとも近くに』

『それを浮き足立たせる事が出来たのならそれでいい』

『あとはなにか行動を起こしてくれれば……』

718: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/11(火) 07:03:13.91 ID:S1K27a6kO
『深海棲艦の大規模掃討作戦。部隊の指揮を高める為にも必要だと思ったが、第一にスパイの炙り出しに十分たり得るものだと思い行う事とした』

『スパイの存在は前々から気がついていたが、どうにも施設所属の艦娘が怪しい』

『司令である男はまだここに来て浅いが、中々に面白い人物だ』

『……是非、アレの被験体にしてみたい』

719: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/11(火) 07:28:14.86 ID:S1K27a6kO
『まさか向こうから仕掛けて来るとは思いもしなかった』

『大規模掃討作戦が大規模防衛作戦になってしまった』

『それでも構わないが』

『結果として言うとデータ最深部への進入は認められず』

『だが……面白い物を見つけた』

『恐らくダシに使われたか囮にされたか……』

『なんにせよこれは楽しめそうだ』

720: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/11(火) 07:33:10.79 ID:S1K27a6kO
『正直な所を話すと、解放旅団の事は最早眼中にない』

『脅威である事は間違い無いのだが、何故だろうか』

『私自身の心境の変化に多少困惑はしたが』

『楽しめればなんでもいいじゃないか』

『次世代戦車が完成すればいつかその情報は自然に広まる。艦娘技術もいつまでも守り通せるものではない』

『それに……混沌とした日本を見るのも面白そうではないか』

『さて、いつ仕掛けてくるか。楽しみで仕方がない』

724: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/11(火) 23:13:42.47 ID:S1K27a6kO
男「……」

武蔵「……」

日向「……」

男(ほんのわずかな記録ではあったが……)

男「……解放旅団と言う名のテロリスト集団があの施設で暗躍していた。という事か」

武蔵「……蜂起が起こったのは解放旅団の手引きがあったから?」

男「……首謀者がその解放旅団の一員だった可能性も十分にあるな」

日向「……」

男「日向、どう見る?」

725: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/11(火) 23:22:33.50 ID:S1K27a6kO
日向「……私が当時いた時には既に解放旅団の手が回っていた、のか」

日向「だが元帥は……外国の手をのこのこと許すほど馬鹿ではなかった」

男「姉が施設を……掌握する前。父の時既に手が回っていた可能性は?」

日向「……」

男「……これは考察しても仕方ないか」

男「ともかく、なんらかの形で解放旅団という勢力が施設での出来事に関わっている可能性が出てきた」

男「……深海棲艦が狙うもの。施設で起きた事の真相」

男「……混沌として来たな」

726: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/11(火) 23:25:43.02 ID:S1K27a6kO
武蔵「提督よ」

男「どうした、武蔵」

武蔵「私が気になるのは最後の記述だ」

男「……」

武蔵「心境の変化。これほどの一大事をどうでもいいと。楽しめればなんでもいいと投げ捨てられる状況」

武蔵「それがわからん」

男「……精神に異常をきたした人物だったか、あるいは」

男「それに繋がる出来事があった」

武蔵「……全く、とんでもない場所だな」

日向「……」

730: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/12(水) 06:38:06.48 ID:7pKlAvBtO
男「……さて、次も調べるとしよう」カタカタ

男「……これは」


『解放旅団の存在について』


男「……」カチッ

731: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/12(水) 06:41:30.93 ID:7pKlAvBtO
『解放旅団の噂はやはり戦場では絶えない』

『灰色の迷彩服を来た、アメリカ軍装備の……』

『突然現れ、軍事施設などを襲撃し……』

『私は少しずつ調べて疑いを持った事がある』

『それは……解放旅団の存在についてだ』

『解放旅団の噂は絶えないが……』

『噂でしか情報が回って来ないのだ』

732: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/12(水) 06:49:05.70 ID:7pKlAvBtO
『アメリカ軍装備やロシア軍装備。はたまたドイツや日本などと言った国の装備をしていたと』

『いくらなんでも情報が曖昧すぎる』

『それに、解放旅団を捉えた写真も、彼らの犯行声明などと言った直接彼らと繋がる情報が無いのだ』

『解放旅団による軍事施設の襲撃などと言った事件も聞くが、果たしてそれは"本当に解放旅団なのか?"」

『……私の考えでは、まず解放旅団という存在は』

733: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/12(水) 06:55:15.62 ID:7pKlAvBtO
『UMAや都市伝説の様な捏造された存在であると言う事』

『もう一つは、解放旅団などと言う"テロリストや集団"は存在しない』

『……恐らく、後者であるだろう』

『解放旅団とは元から戦闘集団では無いのだ』

『世論や情報の操作に長けた者、ハッキングに長けた者』

『そんな者達の集団なのではないだろうか』

736: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/12(水) 22:37:41.03 ID:7pKlAvBtO
『ならば尚更次世代兵器の情報も艦娘の情報も渡す訳にはいかない。解放旅団に渡れば恐らく……』


男「これは解放旅団についての考察か」

武蔵「確かに、このような考え方もある」

日向「……」

男「……」

武蔵「……次のファイルを」

男「あぁ……」

737: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/12(水) 22:41:03.03 ID:7pKlAvBtO
男「……なに」

武蔵「どうした?」

男「……これ以外全てのファイルが壊れている」

日向「それでは手がかりは……」

武蔵「……まだだ。持ってきた資料の中にもなにかあるはずだ」

男「そうだな。一枚ずつ調べていこう」

738: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/12(水) 22:44:38.54 ID:7pKlAvBtO
男(俺はとりあえず薄汚れたノートと留められた資料の束に手をつけた)

男(ノートの1ページ目から、見落としの無い様に、頭に叩き込む様に文字を眺める)

武蔵「私はここから見ていこう」

日向「それじゃあ……これから」

男(これも……誰かの日記の様だ)

739: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/12(水) 22:52:36.67 ID:7pKlAvBtO
『私がこの施設に幽閉されてからどれだけ時間が経ったか分からない』

『文字、国語、数学を学び、パパの研究を側から見続け。私の人生の殆どをここで過ごしている』

『いつしかパパの研究に興味を持ち、その分野の勉強を必死にした』

『ここは牢獄だ。ママや……弟の顔も私の記憶から薄れていく』

『同年代の人間も殆どおらず、私は一人取り残されていく。そう感じて、怖くなったのだろう』

『そしてパパの研究の手伝いをするようになる。世界を救う為に皆必死に戦っていた』

『私も戦わなければならない。皆の為に、パパや顔も忘れてしまった家族の為に』

740: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/12(水) 22:58:13.64 ID:7pKlAvBtO
男「……」

男(自然と手が震えていた。様々な負の感情が混ざり合い、泥水に押し流される様な気分だった)

男(次のページに手を掛けるのが怖い。自ら終焉に歩み寄っているような感覚)

武蔵「……どうした、提督」

日向「……!」

男「……」

男(武蔵は不安気な表情で、日向は衝撃を受けた様な表情で、俺を見ていた)

日向「……尋常ではない表情をしているぞ。手も震えている……」

日向「……こんな君は初めて見た。一体なにが」

武蔵「……提督、そのノートは」

男「……これは……」

741: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/12(水) 23:02:28.92 ID:7pKlAvBtO
男「……恐らく、いやきっと」

男「姉の……手記」

日向「……元帥の……!?」

武蔵「……」

男「……」

男(ごくりと唾を飲む音が、じっとりと伝い始める汗が、俺の緊張感を物語っている)

男「……は、ははは。どうしてこうも俺は……運が良いのだろう」

男「俺の知りたかった事の全てを、やっと知る事が出来る」

男(……読まなければ)

男(読まなければ……いけないのだ)

男「……」

746: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/14(金) 20:50:04.50 ID:fffpMHKNO
『艦娘の技術が完成したのはそれから数年後の事だ』

『長く、過酷な研究の日々だったがやっと。深海棲艦に報復出来ると。そう思った』

『私は艤装と呼ばれる装備を身に纏い、電子の海に降り立った』

『異形の者、黒き者、深海棲艦。人間を苦しめていた存在、私達の敵を砲弾で穿つ事を私は快感に思っていた事を覚えている』

『それから私は、存在しない嘘の戦艦』

『コードネームを、虚構型戦艦一番艦、虚構として戦いの日々に身を投じた』

747: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/14(金) 21:04:03.77 ID:fffpMHKNO
武蔵「……提督よ。そこまで不安なら……私達にも見せてくれ」

日向「あぁ、そうだな。一緒に見れば随分負担も違うと思う」

男「……そうだな。頼む」

武蔵「……これは」

日向「……」

男「虚構型戦艦一番艦……」

武蔵「完成しなかった"虚構"の戦艦……か」

男「それもそうだが……姉は、艦娘だった……のか」

日向「元帥が艦娘だったとは……知らなかった」

男「……」

武蔵「提督の姉の艤装が、現実世界での戦車のモデルになっている?」

男「……」

748: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/14(金) 21:15:08.92 ID:fffpMHKNO
『パパの指揮下で私は戦い続けた。いつしか艦娘の仲間も増え気がつけば、大部隊になっていた』

『そこで知り合ったのが大和。私の一番の友人となる人物だった』

『同じ艦娘同士、多少年齢は違えども私達は一緒に戦って心を通わせた』

『ここで初めて私は、友人というものを手に入れたのだ』

749: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/14(金) 21:23:38.75 ID:fffpMHKNO
『やがて艤装の適齢を過ぎた私は、今度は司令官として電子の海に飛び込む』

『私自身が戦えなくともやるべき事は一つ。深海棲艦を一隻残らず駆逐する事』

『寝る間も惜しんで指揮の勉強をし、少しでも艦娘達を最適に動かせる様努力した』

『対深海棲艦や艦娘技術向上の為に独自に研究も重ねた』

『結果は……そう上手くはいかなかったが』

『そんな日々を過ごしているうちに私は……そう。私を変える事件に巻き込まれる事になる』

『いや、あの結果を招いたのは私のせいか』

751: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/14(金) 21:28:23.51 ID:fffpMHKNO
『大規模な深海棲艦の襲撃があった』

『もちろん私に指揮下の艦娘も出撃し対処に当たった』

『そこはまさに地獄だった』

『海面を踊る炎、焼けて沈んでいく深海棲艦』

『炎の間から瞳を光らせて、我々を喰らおうと襲い来る奴ら』

『無数の深海棲艦を相手に、私達は奮戦した』

『だがそれも、一時的なものだった』

『私の指揮が、私の指示が、相手に隙を与えたのだ』

『何人もの艦娘が傷ついた。何人もの艦娘が苦しんだ』

『そして、私の大切な友人は……』

『深海棲艦から私を守り、一人殿を務め、燃える海に沈んだのだ』

755: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/15(土) 21:29:23.08 ID:mZcz/9anO
『孤独な生活の中で手に入れた大切な友人を殺したのだ』

『空虚な心を押し込めて私は、大和の遺体を引き取った』

『この施設に幽閉されれば、外界とは通じる事は出来ない』

『大和の両親は彼女が死んだ事さえ知らないのだ』

『だから私は彼女を手厚く葬ると言って傷一つ無い彼女を……私が密かに使っていた隠し部屋へと連れ込んだ』

『彼女を殺した責任は私が取る』

756: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/15(土) 21:32:46.96 ID:mZcz/9anO
『彼女の身体を腐らせないように、培養液と保存液を兼ね備えた液体の中へと保存した』

『どんな手を使ってでも彼女を……大和を……』

『蘇らせる』

『今思えばここから、私はおかしくなり始めていたのかもしれない』

『今、まだ私の意識が残っているうちに。これを記して置かなければならないだろう』

『私は……人ならざる者になろうとしている』

757: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/15(土) 21:39:34.22 ID:mZcz/9anO
男「……死者を、蘇らせる」

日向「……狂っている」

男「……あぁ」

日向「ッ……!!済まない……」

男「いや……いいさ」

武蔵「という事はあの隠し部屋でみたケースに入っていた女……」

男「……!」

男「……確かに、ネームプレートに……大和と記されていた」

武蔵「しかし、いくら技術を結集した所で死者を蘇らせるのは……」

758: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/15(土) 21:42:30.60 ID:mZcz/9anO
日向「それと、人ならざる者とは……」

男「……」

武蔵「……」

男(深海棲艦、人ならざる者と聞いてそれしか思いつかなかった)

男(だが深海棲艦になる……とは。姉は感染者だった?)

男(だがこの当時深海棲艦は現実には……)

男「……続きを、読もう」

760: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/15(土) 21:45:23.65 ID:mZcz/9anO
『私はいかにしてして彼女の身体を元に戻すかを考えた』

『神経は所々焼き切れていたがそれだけだ。なんとかなる』

『生きた人間の神経細胞を培養し、大和に移植する』

『培養液の中であれば、それも可能かもしれない』

『上手く上層部を騙し、神経細胞を手に入れた私はそれを培養し彼女の身体に移植した』

『友人の身体を切開するのは、心が痛んだ』

『それでも彼女が蘇るなら……私は。狂人にでさえなろう』

『そう心に決めたのだ』

765: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/16(日) 19:40:35.60 ID:k39ue+NXO
 
『父が知らぬ間に国に利用されている事は知っていた』 

『父の研究、艦娘の技術が現実世界での兵器運用に流用されようとしている事も』 

『大和を取り戻す為に奔走する最中、元々は人間を守る為に開発されていた艦娘の技術が人間を殺す為に使われるのはやはり許せなかった』 

『ならば、それを止めてみせよう。私が止めるべきなのだ』 

『大和の身体を生き返らせる研究と並行して私は』 

『父を利用していた研究者の弱みを徹底的に。調べ上げた』

764: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/16(日) 19:39:59.17 ID:k39ue+NXO
『どいつもこいつも欲にまみれている。弱みはいくらでも私の手元に集まってきた』

『それを利用し、私は研究者達を脅した』

『ばらされたくなければ私に従え』

『……私はこれでも、貧弱な大人に負ける程弱くはない』

『艦娘として戦う為、精神を鍛える事と肉体の鍛錬も欠かさなかった』

『CQBや射撃。戦闘に使えるものならなんでも覚え訓練していた』

『最早執念に近かったと思う』


766: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/16(日) 19:45:28.32 ID:k39ue+NXO
『研究者達が父の研究を利用して開発していた兵器の事や私達に隠していた事も洗いざらい吐かせた』

『私の艤装。コードネームでもあった戦艦虚構を現実の兵器に利用しようとしている事』

『そして、適性の無い人間でも艤装に適応させる為の薬物を開発していた事も』

『その研究の為に、沢山の孤児や病気の人間を実験体に利用していた事も』

767: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/16(日) 19:57:10.88 ID:k39ue+NXO
『私がそこで知った薬物の効果や副作用についても記しておこうと思う』

『人間の脳には使われていない部分がある。まずはその部分を活性化させ、通常の人間よりもさらに神経レベルでの反応速度を高め、演算能力や思考性を向上させる効果がある』

『そして、艤装が適応するために必要とされている。適齢期の少女だけが発する脳波を人工的に起こさせる』

『こうする事で適性の無い人間でも艤装を扱えるようになり、より強く、強力な艦娘として機能させる。というものだ』

『副作用としては、脳の活動が異常に活発になる為』

『幻聴や幻覚などが現れる。性格までも変化させてしまうという』

『研究者達はこれを≪昇華薬≫と呼んでいた』

768: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/16(日) 20:04:37.23 ID:k39ue+NXO
男(昇華薬……というとあの時のフォルダにもあった名前か)

男(……薬)

武蔵「提督。薬と言えば……」

男「あぁ……」

男(俺は首謀者が居たブロックの執務室で手に入れたメモを取り出した)


『第一に幻聴、幻覚が襲う。第二に精神を蝕み、もう一人の自分に侵される』

『第三に、衰弱し自分を奪われ狂人と化す』

『又は抗い続け、死ぬ』


男「……」

日向「これは。この昇華薬の事だったのか?」

男「……恐らく、そうだろうな」

武蔵「……首謀者はこの薬の存在を知っていた。という事か……」

男「……」

771: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 06:34:05.47 ID:IWbwItvhO
『この薬さえ無ければ……あぁ』

『私はまだ……』

『私がこの薬の話を聞いた時に、なにか強い衝動に駆られた様な気がした』

『副作用の事など。頭に無かった』

『彼女を殺したのは誰だ』

『彼女の命を奪ったのは』

『彼女との絆を裏切ったのは』

『……私だ』

772: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 06:38:38.43 ID:IWbwItvhO
『私が指揮官としてでは無く、艦娘としてあの戦場に立っていたのなら違ったのではないだろうか』

『私に力があれば救えたのではないだろうか』

『なにもせず立ち尽くして、ただ命令だけを下して』

『痛みを伴いながら必死に戦う艦娘達を』

『見殺しにするのは……』

『嫌だ』

773: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 06:44:16.48 ID:IWbwItvhO
『気が付いた時には、私は薄桃色の錠剤が入った小さなビンを握りしめていた』

『蓋を開ける事になんの躊躇いも感じなかった』

『乱暴に錠剤を私の手のひらに取り出し』

『音を立てて飲み干した』

774: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 06:47:32.10 ID:IWbwItvhO
『私が最初に見たものは、悪夢だった』

『私でない私が人を殺している』

『見知った顔ばかりが赤く濡れ、地面を這っていた』

『私の大切な指揮下の艦娘達』

『パパ』

『大和も』

775: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 07:00:46.86 ID:IWbwItvhO
『それから。私は……おかしくなった』

『電子の世界では艦娘と同等の力を発揮し』

『幻覚や幻聴が常につきまとう』

『そして……躊躇いや悲しみという感情を無くした』

『私はこの施設を完全に掌握し、全ての研究を引き継いだ』

『私が飲んだ薬物を、副作用無く効果を発揮させる研究』

『電子の世界だけで強くともだめだ』

『現実においても強くなければならない』

『次世代兵器の研究も私が引き継いだ』

『さらに強力な艤装の研究に』

『……深海棲艦の研究も』

779: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 21:56:48.75 ID:IWbwItvhO
『私がある日、電子の海に降り立った時の事だ』

『いつもの様に私の指揮の元、深海棲艦を撃滅する』

『ただ一つだけいつもと違う事があった』

『それは……私が昇華薬を服用した後だと言う事だ』

『まるで黒に飲み込まれる様だった』

『深海棲艦に私が近づいた時、落ちる様な感覚に襲われた』

『それと同時に"なにか"が私の中に入り込む』

『……後から知った事だが。昇華薬にはさらにもう一つの副作用がある』

780: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 22:00:04.19 ID:IWbwItvhO
『活性化した脳は情報を吸収する』

『私は、深海棲艦の情報を。頭の中に取り込んでしまったのだ』

『脳が侵されていく。幻聴や幻覚に飲み込まれる』

『泥の海で溺れる様に、足掻けば足掻く程に沈んでいく』

『今私がこうして記している間にも私の中の深海棲艦は根を強く張り、私の身体中にまとわりつこうとしてきている』

『私はもう……』

781: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 22:06:17.93 ID:IWbwItvhO
『それからというもの。私の意識は時に深海棲艦に奪われる様になっていた』

『私の意識はここにあるのに、口からは思いもしない言葉が走り、身体は勝手に動き出す』

『それでも、私は……やり遂げなければいけない事があった』

『……大和の蘇生』

『神経を繋げる事にはほぼ成功していた。時折微弱な電流を流し更に再生を促す』

『だがそれでも、大和が蘇る事はない』

『脳が動かない。心臓が動かない』

『どうして、どうして、どうして……!!』

『……』

782: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 22:11:16.73 ID:IWbwItvhO
『……きっと。大和の魂はもう、そこにはないからだろう』

『大和はとうに、ここにはいないのだ』

『私は、気力を失った』

『大和を、友を救えない』

『その事実が深々と私の胸に突き刺さった』

『そこから溢れてきたのは、黒い、黒い血だった気がする』

『もうどうでもいい。救えない、廃棄すべき存在ならば』

『研究の糧にしてしまおう』

783: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 22:14:26.23 ID:IWbwItvhO
『私の狂気は……もう誰にも止められない』

『大切な親友を私は深海棲艦の研究の材料にしてしまった』

『大和の身体を利用して、深海棲艦をこの現実世界。いや』

『電子の世界を観測する世界。観測世界とでも言おうか』

『観測世界に呼び出す為の器にするために』

『大和の魂がもしあったとしても、もう大和の魂が入る余地はとうに無くなっていた』

784: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 22:18:37.53 ID:IWbwItvhO
『邪魔する者は私の手で殺した』

『弱みを握られた研究者が不意を突いて私に襲いかかった事もあった』

『それを私は、苦痛を与えた上で殺した』

『それは……パパも同じだ』

『私はこの手でパパをも殺してしまった』

『正気が戻っている今でこそ後悔している。肉親を殺したという事実が私に苦痛を与えている』

『だがパパの身体を軍刀で斬りつける瞬間。私の頬は微かに上に上がっていたと思う』

785: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 22:23:44.94 ID:IWbwItvhO
『私が私で無くなっていく。私という存在が消えていく』


『最後に……大和。君に……会いたかった』

786: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 22:27:30.44 ID:IWbwItvhO
男「……」

武蔵「……」

日向「……元帥。あの人は……」

男「……」ギュッ

男(やり場の無い怒りと、悲しみが、俺の中で渦を巻いていた)

男(姉もまた……)

武蔵「……まだ。少し続きがあるようだぞ」

男「あぁ……」

ギリッ

男(歯噛みしたところで、なにも変わる事はない)

男(それでも俺は、そうせざるを得なかった)

787: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 22:36:09.32 ID:IWbwItvhO
『大和の身体を弄っているうちに、深海棲艦のDNAを利用すれば死んだ身体さえ再生させられるのではないかという結論に至った』

『まぁ、電子の世界からDNAを取り出すというのは今の技術では相当に困難であるだろうし』

『大和の魂が、大和の情報が抜けたこの死骸では完全な蘇生など無理だろうが』

『そう思っていた矢先の事だ』

『私は直属の艦娘部隊を率いて深海棲艦を狩っていると。海に佇む一人の少女を見つけた』

『私はすぐに気が付いた。あれは……大和だ』

『後々分かった事だが、電子の世界で死ぬという事は両方の世界で死ぬ訳ではない』

『電子の世界で死ぬと観測世界との繋がりが絶たれる』

『魂は電子の世界に残る。一方観測世界では魂の抜けた殻だけが残る』

788: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 22:41:43.08 ID:IWbwItvhO
『つまり、電子の世界では生きているのだ』

『涙を溜め、私の元に駆け寄る大和を……』

『私は拘束した』

『とうの昔に大和の身体は魂の器として機能しなくなっていた』

『観測世界で私と肩を並べる事は出来ない』

『だから、電子の世界で私は大和を拘束し、研究の材料にする事にした』

『大和が電子の世界で沈んだ後の事を正確に、ゆっくりと聴かせてやりながら』

『私は大和の魂を弄った。深海棲艦の情報を掛け合わせ、新たなものを作り出そうとした』

『苦痛を感じて涙を流す姿は中々に楽しいものだった』

789: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 22:45:29.60 ID:IWbwItvhO
『パパの"元帥"という号を引き継いでこの施設を掌握してどれくらい経ったか』

『昇華薬の研究に勤しんでいるが耐えきれずに死ぬ者が後を絶たない』

『そこで私は関係者を利用して外部から一人の男をこの施設に入れた』

『事前の検査では十分な適性があったが果たしてどうなるのか』

『楽しみで仕方がない』

790: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 22:48:35.80 ID:IWbwItvhO
『記録をつけるというのは中々面倒な事だが、今日は記念に記しておこうと思う』

『この前招いた男、少佐の事だが』

『昇華薬の幻覚や幻聴の症状に苦しみながらも適応し始めていた』

『私の研究を始めてから初めての症例だ』

『面白くなってきた……!』

791: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 22:50:48.87 ID:IWbwItvhO
『だんだんと細かい事に気を使う事が面倒でたまらなくなってきた。この記録をつけるのもあと何回か……』

『楽しければなんでもいい。細かい事など気にする必要はないのではないか』

『明らかに理性が蒸発してきていると自分でも分かったが』

『まぁ……それでもいいだろう』

792: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/18(火) 22:53:29.04 ID:IWbwItvhO
『少佐はどんどん強くなる。昇華薬によって彼は電子の世界で艦娘すら凌駕する力を手に入れた』

『私など簡単にひねりつぶせるほどに』

『そろそろ……私も考えなければならないか』

『どうすれば私は彼よりも強くなれる?』

『……いっそ深海棲艦にでもなってしまおうか』

797: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/19(水) 06:31:04.14 ID:DvdBG8upO
『もしかすると。私がこれを書くのは最後になるかもしれない』

『少佐が艦娘を連れ施設を脱出した。そして他の指揮官と艦娘、施設関係者が暴動を起こし始めた』

『まるで内戦だ。戦争が私の目の前で起こっている』

『まぁ……前々から怪しい動きがあったのは知っていたが』

『……少佐は必ず戻ってくる』

『私を殺しにな』

798: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/19(水) 06:38:56.81 ID:DvdBG8upO
男「……」

パタン

男(つまり。まとめると、父と姉は国の施設に幽閉され)

男(国の陰謀に利用され、姉は友人を失って狂い)

男(父は姉に殺された)

男(姉は狂人となり、非道な研究を続け……恐らく)

男(蜂起の首謀者。少佐と呼ばれていた男に殺された)

武蔵「……」

日向「……」

男「……これが。俺の知りたかった真実」

バサッ

武蔵「提督……本を……ん?」

武蔵「なにか。挟まっているぞ?」

男「……」

799: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/19(水) 06:48:08.64 ID:DvdBG8upO
男(俺が本を落とした衝撃で間に挟まっていたなにかが飛び出した様だ)

男(二枚の写真……の様だが)

ペラ...

男(一枚目には白髪混じりの白衣を着た男と、長い黒髪でほっそりとした、同じく白衣の女性が並んで写っていた)

男(お互いになんとも言えない様な、むず痒そうな笑顔をしている)

男(二枚目は……今写っていた白衣の女性と、制服の様なものを着た美しい女性が写っている)

男(こちらでは二人共、はにかむ様な笑顔で写っていた)

男「……」

ドクン

男「……これは」

日向「……元帥だ」

武蔵「……」

800: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/19(水) 06:55:53.31 ID:DvdBG8upO
日向「白衣の男は……君の父で制服の女性は多分……大和」

日向「……こんな普通の笑顔の君の姉は初めて見た気がするよ」

男「……」

男「……あぁ」

男「……二人共、仲良さそうではないか」

男「……」

男(歯がカチカチと音を立てるのを強く食いしばって抑える)

男(目頭が、鼻先が、熱くなった)

男「……全部読み終わった瞬間。絶望しかなかったのだと思った。父と姉は本当の地獄で生きてきたのだと」

男「救われる要素など何一つなかったのだと」

男「けれど……この写真……」

男「……ぐっ……!!」

801: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/19(水) 07:13:48.23 ID:DvdBG8upO
ギュッ

武蔵「……絶望だけではなかったな」

男「あぁ……!そうだ……絶望だけでは……なかった……!!」

日向「……」

男(暗闇の中に少しだけ光が射した様な気がした)


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804: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/19(水) 22:55:21.38 ID:DvdBG8upO
日向「……そうか。元帥は……なるべくしてああなった訳ではなかった」

日向「……」

男「ぐ……うぅ……!!」

男(嗚咽を押し殺し、息を止めても涙が伝うのは止められなかった)

男(やりきれない思いと、家族をここまで堕とした当時の政府への怒りと)

男(少しでも、ほんの少しでも救いがあったのだという安堵と)

男(最早この感情を抑え続けるのは……不可能だった)

武蔵「……」

男(暖かな胸が俺を優しく包み込む)

男(しばらくの間俺は、武蔵の胸の中で震え続けていた)

805: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/19(水) 23:03:07.31 ID:DvdBG8upO
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男「……すまない。取り乱した」

武蔵「構わない。お前の可愛い所も見れたからな」

男「……」

武蔵「そんな目で見るな、誰にも言わんさ」

日向「……」

男「……日向」

日向「ん……」

男(俺は俯いたままの日向に話しかけた)

男「姉は。日向が一番初めに姉を見たときには……」

日向「……私があの施設にやってきた時には大和は伝説の艦娘と呼ばれていた」

日向「その時最初期の艦娘があまり残っていなかったのもそうだが……」

日向「不敗の戦艦。その名に相応しい実力」

日向「彼女が死んだその時まで一度の敗北もなかったそうだ」

日向「……まぁ、その大和が死んだ時から狂ったのなら」

日向「私が見た時既に……」

男「……そうか」

806: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/19(水) 23:06:10.47 ID:DvdBG8upO
日向「……すまない」

男「日向。お前が謝る必要など無い」

男「お前も巻き込まれた人間の一人だ。落ち度はなにひとつ無い」

日向「……すまない……!!」

男「……」

武蔵「それで提督。ほぼ全てをこれで知り得たのではないか?」

武蔵「父と姉がどの様に過ごしていたかを知ること。その為にここまで来たのだな」

男「……あぁ」

武蔵「今のお前は……どうだ。空虚か?全て終わったか」

男「……」

807: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/19(水) 23:11:18.18 ID:DvdBG8upO
男「……いや。まだだ」

武蔵「……」

日向「……」

男「深海棲艦の狙うものについては未だ不明」

男「解放旅団に昇華薬」

男「……蜂起の首謀者の事も」

男「なに一つ正確に把握出来ていない」

男「まだすべき事は山のようにある」

武蔵「……なにか。失ったか?提督の中には……」

男「……確かに。最悪の結末だった。俺の希望は……消えた」

男「だが……それでも俺には」

808: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/19(水) 23:14:38.13 ID:DvdBG8upO
男「武蔵」

武蔵「……」

男「日向」

日向「……」

男「龍鳳、神通、北上、古鷹」

男「……俺の元には、まだ友が残っている」

男「断じて、空虚などではない」

男「……そうだな、武蔵?」

武蔵「……そうだ。お前の言う通り、お前の元には私達がいる」

男「日向も、そうだな?」

日向「……勿論だ」

男「ならば……大丈夫だ」

809: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/19(水) 23:22:57.75 ID:DvdBG8upO
男「急いで残りの資料を確認する。少なくとも俺たちは答えに近づいているはずだからな」

武蔵「わかった。日向、こちらを頼む」

日向「あぁ」

男「……」

男(そうだ。俺はまだ全てを失ってなどいない)

男(ここに来て彼女たちと会ったその時から)

男(全てを失う事などなかったのだ)

812: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/21(金) 06:46:53.49 ID:QrABYdA5O
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男(その後も資料を漁ったがこれと言って有力な情報はなかった)

男「……知り得た情報をまとめると」

男「姉や首謀者は昇華薬の被験体であり、死亡していない辺り成功であると見ていい」

男「服用、もしくは実験の成功には適性が必要らしいな」

男「神経回路の強化により電子の世界での能力を飛躍的に向上させる。姉に至っては現実の世界でも強くなっていたようだが……」

男「さらに、昇華薬を服用する事で深海棲艦の情報が脳内に進入し、精神を犯される」

男「解放旅団についてはUSBの中身以外になんの収穫もなかったな」

男「結局未知の存在であるままだ」

813: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/21(金) 07:32:03.72 ID:QrABYdA5O
武蔵「人間と深海棲艦の情報を利用して行う研究」

武蔵「……もしかすると人間を深海棲艦化させる実験だったのでは?」

男「……ならばやはりそういった研究が行われていて、その影響で今現実の世界に深海棲艦が現れている可能性はかなり大きいな」

男「姉の研究は成功したのかどうかわからんが……」

816: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/21(金) 19:15:50.84 ID:9+hZuzQMO
男「……」

日向「まとめる内容はこれくらいか」

武蔵「この中で一番深海棲艦が喰いつきそうなものは」

男「やはり、昇華薬か」

日向「同族を増やす為に……?」

男「昇華薬を使う事によって深海棲艦化する」

男「だが内容を見る限り俺たちが見てきた感染者とは違う」

男「奴らは屍人の様だが姉と首謀者は自分の意識を持っていた」

男「……性格の変貌などはあるが」

817: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/21(金) 19:19:38.19 ID:9+hZuzQMO
男「現実での能力も向上する。これは……」

武蔵「深海棲艦の上位個体」

日向「あのレ級のような?」

男「だろうな……確かに感染者を増やすよりも上位個体を増やす方が格段に戦力になる」

武蔵「だが適性も必要なのだろう?適性の無い者は次々死んでいた様だ」

男「……適性、か」

武蔵「……」

日向「……」

818: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/21(金) 19:22:43.24 ID:9+hZuzQMO
武蔵「……提督」

男「武蔵。言わんとしている事は分かる」

日向「……」

男「……あり得ない。とは言い切れない」

日向「……君」

男「これを踏まえての結論を出すと」

男「深海棲艦化させるには昇華薬と適性のある人間の二つが必要になる」

男「これが目的なら……」

男「俺たちが持っているもの。これが重要になる」

819: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/21(金) 19:33:01.69 ID:9+hZuzQMO
男「昇華薬……は当然手にしていない。が、情報は手にしている」

男「あの施設で襲撃を受けたのも頷ける。昇華薬の在りどころを知っていた可能性があるからな」

男「だがよく考えてみろ。俺たちが深海棲艦の異常な襲撃に会ったのはアレだけか」

日向「……かなみ神社での襲撃に」

武蔵「……提督の巡回区域内でも」

男「……俺の知る限り、国防軍の防衛線内部での深海棲艦の大襲撃といえば……」

男「この三つだけだ」

男「この三点に共通する重要なポイントは……」

男「俺と、武蔵が居る」

武蔵「……」

日向「……」

820: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/21(金) 19:38:56.92 ID:9+hZuzQMO
男「巡回時の襲撃の時とかなみ神社での襲撃の時には当然昇華薬の存在は知らなかった」

男「だが奴らは明確に、俺たちを狙っていたとする」

男「……と、するとその時既に奴らが狙うに値するものを持っていた事になる」

男「昇華薬と……適性のある人間」

男「共通するのは、俺と武蔵がいた事。つまり」

男「俺と武蔵のどちらかが昇華薬の適性を持っていた事になる」

男「そして。一番適性を持っている可能性があるのは……」

男「当然俺だ」

825: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/22(土) 20:14:53.70 ID:Pfe92KS4O
男「……それに加えあの施設でレ級と戦闘した時にも……」


戦艦レ級『ふふ……これでやっと……』

男『がはっ……なんの……つもりだ……!!』

戦艦レ級『言ったでしょ?私の血を飲ませてあげる』

戦艦レ級『これで私たちと一緒になれるよ』


男『……貴様らの目的はなんだ』

戦艦レ級『ん?どうしたの急に』

男『ここまでする理由だ。ただ単に人間を殲滅しようとしているとは思えない』

男『何か狙いがあって動いている様に見えるが』

戦艦レ級『私達の目的が知りたいの?』

男『国防軍の戦線を出し抜いてまで狙うものはなんだ』

『深海棲艦の狙いはっ』

戦艦レ級『私達の狙いは……』




『君だよ?』

826: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/22(土) 20:23:12.46 ID:Pfe92KS4O
男「アレは妄言でも冗談でも無かった」

男「奴らは本気で俺を狙っている。深海棲艦に変える為に」

武蔵「……」

日向「……」

男「奴らは、また襲撃を掛けてくるだろうな」

男「撃退したとしても……何回でも襲撃を掛けてくる可能性は十分にある」

武蔵「……それで。対策はどうする」

男「……対策、か」

日向「警備を厳重にするか。一刻も早く潜伏場所を見つけて攻撃するしか……」

武蔵「……そうだな。奴らに交渉を持ちかけた所で聞くはずもない」

武蔵「先手を打ち、叩きのめすまでだ」グッ

827: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/22(土) 20:29:26.11 ID:Pfe92KS4O
男「……この話は次にしよう。ここで話を煮詰めるのも悪くはないが……」

男「少し休んでから、改めて考えた方がいい案も浮かぶだろう」

日向「……この話、上層部に持ちかけたら……」

男「……確実に、どこかに拘束されるだろうな」

男「まず三人共無事で済むはずはない」

男「よってこれは却下だ。俺たちだけでなんとかする他ない」

日向「……そう、だな。なんとかしよう」

武蔵「では……この場はお開きでいいのだな?」

男「そうしてくれ。二人共、ありがとう」


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828: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/22(土) 20:41:00.30 ID:Pfe92KS4O
男「……だいぶ、外も寒くなってきた」

男(息を吐くと煙草の煙の様に白く目の前を曇らせる)

男(外套を羽織らなければかなり肌寒いだろう)

男(俺はいつもの位置に腰掛けると、胸ポケットから残り少なくなった煙草を取り出し、加える)

男(カチリと音を鳴らしオイルの香りがふわりと漂う。これが心地よかった)

男(先ほどよりも深く息を吸い込み、先ほどよりも濃く目の前を曇らせた)

男「……」

男(星空は無いが月だけは何時も通りに宙に佇んでいる)

男(俺は……思考を巡らせながらじっと……月を眺めていた)

829: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/22(土) 20:47:07.36 ID:Pfe92KS4O
男(深海棲艦の狙いは俺……か)

男(思えば、深海棲艦という存在がいたからこそ。父も、母も、姉も、人生を狂わされ、破壊されたのかもしれない)

男(そして俺も……人生を狂わされようとしている)

男(……奴らがいなければ、このような事にはならなかったのだろうか)

男(父と母と姉と。全員揃って暮らせていたのだろうか)

男(……そう考えていると、鬱で、空虚で仕方がなかった)

男(……今更こんな事を考えてもどうしようもない……か)

男(今考えるべきなのは明日の事だ)

830: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/22(土) 20:54:36.92 ID:Pfe92KS4O
男(俺が狙いであると言う事は、俺がいる場所に奴らは現れる)

男(出現位置がわかっているという事はある意味こちらにとって有利である)

男(だが……どうやって奴らの潜伏先を特定すればいい?)

男(まさか街中を徘徊させて後を尾ける訳にもいくまい)

男(それに……殲滅しなければ被害が出る。関係の無い人間の被害は極力避けたい)

男(……深海棲艦の出現する位置には必ず電波障害が起こる)

男(……ならばどこか電波障害が発生している場所を見つけて……)

男(……ダメだ。どうやって上層部にばれずにそのような大掛かりな事が出来る)

男(シラミつぶしに探す時間は恐らく残されていないだろう。それに危険すぎる)

831: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/22(土) 20:58:47.52 ID:Pfe92KS4O
男(その後も何個かは案が思い浮かんだが全て実行は無理なものだった)

男(俺たちには、時間も力も無い)

男「……すぅ……」

男「ふー……」

男「……」

男(いや。一番楽ですぐにでも効果を発揮する案なら、最初に思いついていた)

男(俺を狙って奴らが現れるなら……)

男(当然俺が消えればいい)

832: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/22(土) 21:06:08.93 ID:Pfe92KS4O
男(俺が……俺がここで頭を撃ち抜いてしまえばそれで終わりなのだ)

男(奴らの目的は果たせず。終わり)

男(……)

男(死ぬ以外には俺がここを抜け出し行方を晦ませる事)

男(……だがそれではいつか見つかりそこでまた襲撃が起こる)

男(……)

836: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/23(日) 19:14:35.29 ID:61vDUtnQO
男「……ふー」

男(まぁ、これは最後の手段だ)

男(俺も一晩で自分の命を投げ出してやる程お人好しではないし馬鹿でもない)

男(それに俺が死んだ所で他に事情を知っている人間を生かしておく理由もないだろう)

男(まだ……奴らに対する手段はあるはずだ)

837: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/23(日) 19:21:36.08 ID:61vDUtnQO
男(時間も力も無いのなら、その上で行動に移せる戦略を立てるまで)

男(誰も失わずに全て終わらせる事が最善だが……)

男(果たしてそう上手くいくものなのか……)

コツコツ

武蔵「一本貰うが?」

男「……」スッ

武蔵「ん……」シュボッ...

パチン

男「……」

武蔵「……」

839: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/23(日) 19:32:02.71 ID:61vDUtnQO
 

武蔵「なにをそう真剣に考えていたんだ?」

男「今後の戦略を……な」

武蔵「それで、なにかいい案は」

男「いや。上策とも言える下策の下策なら」

武蔵「すー……ふぅ」

武蔵「どうせお前の事だ。俺が死ねば全て終わる、なんて考えていたんじゃないのか?」

男「……」

武蔵「……図星か」

男「……最後の手段だ。今の所使うつもりも無い」

840: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/23(日) 19:41:02.67 ID:61vDUtnQO
武蔵「ふん……ハッキリ言わせて貰うがそれは策にすらなっていないぞ」

男「……」

武蔵「守らなければいけないものを自ら放り出のは根本から間違っている」

武蔵「深海棲艦の狙いは提督。ならば私たちが守るべきは提督」

武蔵「お前は何を守ろうとしている」

男「……」

武蔵「……なぁ、言っただろう?」スッ

パチン

男「……」

841: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/23(日) 20:04:24.48 ID:61vDUtnQO
ギュッ...

武蔵「お前はすぐに溜め込もうとする。自分一人で抱えようとする」

武蔵「私たちを気にかけているなら余計なお世話だぞ」ナデナデ

男「……」

武蔵「私たちはお前の事が迷惑だとも思っていなければ嫌いな訳でもない」

武蔵「私たちの好きでお前を守ろうとしているんだ。私たちの好きで……お前に手を貸そうとしているんだ」

武蔵「それでも気にするならそれは失礼だし……」

武蔵「それが嫌なら自分の身と私たちを守る方法を考えてみせろ」

男「……」

846: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/25(火) 10:12:37.15 ID:P7Gx/AHRO
男「……俺は皆に甘えてばかりだ」

男「本来ならば皆を支え、導いてやらねばならんのに……」

男「いつも……先に導かれているのは俺だ」

男「特に……武蔵にはな」

武蔵「ふふ……気にする事はないぞ提督」

武蔵「私は……お前の姉のような存在だからな」ニッ

男「……あぁ。そうだな」

男「武蔵は……俺の姉のような存在だ」

男「だから……」

847: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/25(火) 10:15:08.47 ID:P7Gx/AHRO
男「もうしばらく、俺を導いてくれ。道のわからない弟の為に」

武蔵「任せておけ。かわいい弟よ」

男「……もう一本吸うか?」

武蔵「もらおうか」


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848: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/25(火) 10:29:13.06 ID:P7Gx/AHRO
少佐「何度も呼び出して申し訳ないな」

男「はい」

少佐「先日の襲撃を受け。国防軍は本格的に深海棲艦の潜伏先の特定と殲滅に乗り出した」

少佐「前線からも兵を割いて、だ。最早なりふり構っている場合ではないしな」

少佐「我々にも支援要請が入った。いずれ君の部隊にも動いてもらう」

男「わかりました」

少佐「……しかし。本当にどこから奴らは内部に……」

男「国防軍の前線が強固になる以前から潜伏していたか。何者かが手引きしていたか」

少佐「……深海棲艦の上位個体であれば侵入も可能か」

少佐「深海棲艦に加担する頭のおかしな連中がいるのか……」

男「どちらにせよ我々の本部がいつ深海棲艦の攻撃に晒されてもおかしくはない状況です」

少佐「そうだな……これは既に……戦争だ」

849: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/25(火) 10:37:57.72 ID:P7Gx/AHRO
男「防備の強化は必須として……一刻も早く深海棲艦を見つけ出さなければまた市民にも被害が……」

少佐「これ以上好きにはさせん。我々かなみ市防衛機構が存在するうちはな」

少佐「……」

男「……」

少佐「……それとだな。中尉」

男「はい」

少佐「オーストラリアが攻撃に晒されているのは知っているだろう」

男「状況は芳しくないそうですね」

少佐「そうだ。戦況は悪化し続けている」

少佐「だが最近妙な事が起こっているらしくてな」

男「妙な事……?」

少佐「深海棲艦の艦隊を発見して急行した所、その艦隊は全滅していたそうだ」

男「……」

850: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/25(火) 10:43:05.18 ID:P7Gx/AHRO
少佐「破片や死骸を残して動くものは無し」

少佐「他にも深海棲艦の死骸が浜に流れ着くなど……」

男「……誰かが深海棲艦を攻撃している?」

少佐「いや、それはないだろう。重度の電波障害の嵐の中、敵の集団の中だ」

少佐「どう考えてもあり得ない。国防軍が一個師団を送ったとしても不可能だ」

少佐「良くて大損害を受け周辺国へ逃げ延びるのがオチだ」

男「……敵の同士討ちですか」

少佐「そう都合よくは考えたくはないが、そう考えた方が話も早い」

少佐「深海棲艦にも派閥があり争っている……」

少佐「なんにせよ。奴らの数が一体でも減るなら我々にとっても好都合ではある」

851: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/25(火) 10:49:54.69 ID:P7Gx/AHRO
少佐「だが……それが我々にとって都合の悪い事態の予兆であれば……」

男「このような出来事は初めてですか?」

少佐「いや。実を言うと前々からそう言った事はあったらしい。だがここ最近その頻度が高くなっているそうだ」

少佐「……どこぞのホラー映画のように深海棲艦を喰らって上位個体が強くなっている。なんて事態になっていなければいいがな」

男「……それは。危機的状況に陥りそうですね」

少佐「要塞の様な深海棲艦が現れたりしてな。なんて冗談でも言わなければ正直やっていられん」

男「……ところで、どこからその情報を?」

少佐「上層部に国防軍の人間と親交のある者がいてな。そこからだ」

少佐「その繋がりにはいろいろ助けてもらっているんだぞ」

男「それは……知りませんでした」

少佐「あまり他の者に言いふらさないで欲しい。広まっていい内容ではないからな」

男「……わかりました」

855: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/26(水) 23:06:14.13 ID:XVSnFljHO
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『聞こえるか』

『うん。大丈夫だよ』

『そっちの状況は?』

『私なら順調。戦況なら……芳しくないね』

『……いよいよか』

『そうだね』

『あまり人を巻き込む事はしたくない。発見次第一気に叩くつもりだけど……』

『一瞬のタイミングを見極める必要がある』

『私は私に出来る事をする』

『頼むよ』

856: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/26(水) 23:12:30.28 ID:XVSnFljHO
『アレさえなんとか出来れば……』

『私たちにとっても、有利になる』

『あぁ……アレなら必ず現れる。あそこには虚構型の兄弟艦があるからな』

『確認したよ。オリジナルには程遠いけど』

『そりゃあ原型なんてわからないさ。外装も内装も』

『それで、簡単そうか?』

『うん。少しいじるだけで終わりそうだよ』

『わかった。引き続き頼む』

857: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/26(水) 23:18:11.99 ID:XVSnFljHO
男「……」

バタン

男(深海棲艦の死骸……か)

男(本当になにかの予兆か……それとも)

男(……俺が知っている情報に合わせる事は出来ないな。まるで関連性がない)

コツコツ

男「……む?」

男(少佐の部屋を出て思考に耽っていたが目の前で立ち止まった足音にそれを遮られる)

「……」

男「……君は」

「また会ったね、司令官」

男(目の前に佇んでいたのは……あの時の銀髪の少女だった)

「私の名前は響。今日から司令官の元でお世話になるよ」

861: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/27(木) 15:30:13.94 ID:MbJK1oqfO
男(会った時はほぼ暗闇の中で姿はよく確認出来なかったが……)

男(腰まで伸びた淀みのない銀髪)

男(肌は白く、吸い込まれそうな程の青い瞳)

男(まるで人形のように整った顔立ちはキャリアウーマンの様なきっちりとした印象を強く与えていた)

男(初めてその姿を見た時とは違い、白のジャケットの上から外套を羽織っていた)

男(黒のスカートの下には同じく黒のタイツ。そして、頑丈に作られているであろうブーツ)

男(そして、顔立ちに反せず身体つきも衣服越しでもはっきりと分かる程に女性らしく……)

響「司令官。怪我は無かったかい?」

男「ん、あぁ……怪我なら大したものは……」

男(確かめるように身体を少し動かしてみるが……)

男「ぐっ……」

男(そういえば……右手首をやられたのだったか……)

響「……」


862: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/27(木) 15:41:08.95 ID:MbJK1oqfO
男「……生活する分にはあまり支障は無いが、戦闘では十分障害になりうるな」

響「しばらくは安静にしておいた方がいい」

男「そうせざるを得ないな……それよりも」

男「俺の元で世話になるとはつまりどういう事だ」

男(まぁ……以前からそのような話は聞いていたが)

響「新たに防衛機構の艦娘として配属される」

男「……ふむ。そうか」

男「上層部からはなんの連絡も無かったが……」

ガチャ

少佐「中尉、談話も構わんがせめて……ん、君は……」

ビシッ

響「予定よりも早まりましたが、響、着任しました」

少佐「おお、そうか。それでたまたまここでという訳だな」

響「お騒がせしたのなら大変失礼を」

少佐「いや、構わない。中尉、本日付けで君の部隊に所属する事となった響だ」

863: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/27(木) 15:46:46.58 ID:MbJK1oqfO
男「少佐、こちらには何も連絡が入ってきていないのですが」

少佐「すまんすまん。彼女が来る事は知っていたが決定事項ではなくてな」

少佐「彼女がここに正式に着任する事となったのは"今"知った所だ」

少佐「彼女はロシアからの帰国子女で、現実での戦闘も電子世界での戦闘もこなせるそうだ」

少佐「人出不足もやっと解消されるか?」

男「はい。ありがたい限りです」

少佐「それなら良かった。まずは彼女にいろいろと施設を見せてやってほしい」

少佐「かなみ市防衛機構がどういうものかというのは……」

響「事前に情報を手に入れているから問題ないです」

少佐「そうか……中尉。よろしく頼むぞ」

男「はい」

869: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/28(金) 20:21:36.21 ID:3ZoQpwXJO
男「では。施設を案内しよう」

響「……」

男「後に付いてくるといい」コツコツ


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男「で。ここが最後だ」

男「俺たちは共同で暮らしている。言うなればそうだ……シェアハウス、とでも言えば分かるか?」

響「自分の部屋以外は共同って事かい?」

男「そうだ。炊事や洗濯、掃除も当番制で行っている」

男「響の部屋は丁度空き部屋がある。そこを使ってもらおうか」

870: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/28(金) 20:26:14.66 ID:3ZoQpwXJO
ガチャ

古鷹「おかえりなさい提督!」

龍鳳「丁度晩御飯が出来た所なんですよ」

北上「なに?提督帰ってきたの?」

武蔵「では早く食事の支度を……」

神通「あ……それなら私が……」

日向「……」ペラッ...

男「丁度全員揃っているか……」

男「皆。食事の前に重要な話がある。卓に付いてくれ」

871: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/28(金) 20:34:09.96 ID:3ZoQpwXJO
男「……こほん」

男「突然だが、今日から俺たちの艦隊に新たな戦力が加わる」

武蔵「む……突然だな」

北上「新入りかー」

古鷹「仲良く出来るといいな……」

男「では入ってくれ」

スッ

響「特型駆逐艦22番、暁型2番艦、響だよ。よろしく」

日向「……ッ!?」

響「……」

龍鳳「日向さん……?」

日向「……なんでもない」

873: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/28(金) 20:41:40.59 ID:3ZoQpwXJO
 
神通「綺麗な方ですね……」

北上「駆逐艦……」

武蔵「……」

男「皆。よろしく頼むぞ」

男「とりあえず……食事でもしようか?」

響「Спасибо」

古鷹「す、すぱ……?」

男「彼女はロシアからの帰国子女だ。敵対国とは言え形だけだ。ありえない話ではない」

男「それより、食事は足りそうか?」

龍鳳「いつもと同じくらいはありますよ」

男「なら武蔵がお代わりを控えればなんの問題も無いな」

武蔵「なっ……提督!私を殺す気か!?」

男「……少しは我慢というものを覚えた方がいいのではないか」

876: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/29(土) 20:52:10.06 ID:KOJJCtfqO
男「食事を終えたらまずは響の部屋をどうにかしなければなるまい」

武蔵「ベッドやマットレスは本部の倉庫を探せばあるかもな」

男「そうだな。机や椅子も欲しいか……」

響「そこまで気を使ってもらわなくても……」

男「構わんさ。それに部隊員の部屋が無いのは重要な問題だと俺は思うが」

古鷹「私たちも手伝います!」

神通「全員で動けば……早く終わりますね」

日向「……」

877: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/29(土) 20:55:29.09 ID:KOJJCtfqO
男「……もし、響の部屋の設営が間に合わなければ俺の部屋で眠るといい」

龍鳳「!?」

北上「ぶっ……!!」

響「……」

男「……なんだ。なにかおかしな事を言っただろうか……?」

古鷹「て、提督の部屋で……」カァァ

武蔵「……ほう。そうかそうか」ニヤニヤ

男「なんなんだ一体……」

男「……はっ!?」

878: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/29(土) 21:00:35.08 ID:KOJJCtfqO
男「ち、違……そういう意味ではなくてだな!その……他意は無いというか……」

武蔵「やってきた初日に自分の部屋に連れ込もうとするとは……いやいや」

古鷹「……」プシュー

龍鳳「はわわ……」

男「そうではない!!その、俺はリビングで眠ればいいが他の皆にそれを押し付けるのは良くないと……」ブツブツ

北上「とか言ってぇ。本当はどうなのさー?」

神通「あの……!提督が困って……」

日向「……ふふ」

879: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/29(土) 21:05:22.95 ID:KOJJCtfqO
男「と、とにかく!響の部屋を最低限使えるようにするぞ!」

男「……ごちそうさま」ガタッ

武蔵「どこへいく?」

男「食後の一服だ。そうただ一服にいくだけだ……」コツコツ

北上「あっははは!提督はさーああ見えてほんっとウブだよねー」

龍鳳「……こほん。普段は固く見えると思いますけど、提督はとても人思いのいい人なんです」

響「今のでよく分かったよ。彼は純粋なんだね」

882: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/30(日) 19:10:41.63 ID:vFLUTSOPO
男(食後の一服を終えた後。響の部屋を全員で最低限使えるようにしようと、本部の倉庫や使われていない部屋を漁り家具を運び出していった)

男(予想以上に時間を使う事も無く、作業を終わらせた後)

男(俺は響、武蔵、日向を部屋に呼び出した)

男「……」

武蔵「……」

日向「……」ソワソワ

響「……」

883: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/30(日) 19:14:45.27 ID:vFLUTSOPO
男「……さて、響。俺たちの部隊に来てくれた事は歓迎しよう」

響「……」

男「……知っている事を教えてくれ」

響「……どこからどこまで?」

男「深海棲艦、昇華薬、戦艦虚構」

響「……」

男「……解放旅団」

響「……!」

男(一瞬だが……表情が変わったな)

武蔵「……これではまるで尋問だな」

日向「……」ソワソワ

 
885: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/30(日) 19:19:56.20 ID:vFLUTSOPO
 
男「……日向」

日向「ん……!?どうした……」

男「先ほどから落ち着かないが……」

日向「……」チラッ

響「……」

武蔵「……」

男「……」

響「……」

響「久しぶりだね。日向さん」

日向「……やはり」

886: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/30(日) 19:30:17.72 ID:vFLUTSOPO
男「……知り合いなのか?」

日向「僅かだが見覚えがあると……どこかで会った事があるような気がしてた」

日向「彼女は……私と同じ施設にいた」

男「……!」

武蔵「……」

響「所属は違ったけどね。何回か一緒に戦った事もある」

日向「あの後ロシアへ行っていたのか……」

響「私に帰る場所は無かった。だから国外へ出たんだ」

日向「確か……姉妹がいたはずじゃ」

響「暁に雷、電。みんなそれぞれ別の場所にいるはず」

響「きっとどこかで……幸せに暮らしてるはずさ」

887: ◆SOkleJ9WDA 2014/11/30(日) 19:56:51.11 ID:vFLUTSOPO
男「……」

響「話がそれてしまったね。教えるよ、司令官」

響「まず、司令官はどこまでしっているのか。教えて欲しい」

男「分かった。少し長くなるが、いいか」

響「うん」


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890: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/02(火) 06:28:15.79 ID:yHCtpZbIO
男「……」

響「……司令官の姉はあの元帥だった」

響「それは……知らなかった」

武蔵「……」

響「司令官が深海棲艦に狙われる理由はやっぱりそれが一番近いと思うよ」

日向「……」

男「……」

響「それじゃあ、私が知っている事。話すよ」

891: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/02(火) 06:35:55.51 ID:yHCtpZbIO
響「まず……深海棲艦について」

響「多分、深海棲艦がここまでして攻撃してくる理由は司令官に適性があるからで間違いない」

響「適性のある人間は……少ないからね」

男「という事はやはり、俺を深海棲艦にしようと?」

響「……そう。だけど少し違う」

響「司令官が考えているような戦艦、空母のような深海棲艦じゃない」

響「深海棲艦達に足りないものを、調達しようとしているんだ」

男「……奴らに足りない物」

892: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/02(火) 06:49:03.80 ID:yHCtpZbIO
響「深海棲艦の行動は上位個体が存在しないと纏まりがなく、バラバラに行動してしまう」

響「例えヲ級、ル級、レ級などの上位個体が存在したとしても、深海棲艦が纏まって行動出来る数は限られている」

響「現状現実の世界で深海棲艦の上位個体を撃破してしまえば下位の深海棲艦の統率が取れずに指揮系統に混乱をきたしてしまう、という事になる」

男「奴らには指揮能力が足りないのか」

響「九十九里沖海戦に勝利出来たのはそこも大きいと思う」

男「……」

響「だから、深海棲艦には強大な軍団の指揮を取れる存在が必要なんだ」

893: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/02(火) 06:54:11.94 ID:yHCtpZbIO
響「適性のある人間に昇華薬を打つ。打った後に深海棲艦の血を分け与える事で深海棲艦と同じ存在にする」

響「それで深海棲艦となった人間は……」

男「強力な力を得る」

響「戦闘能力、演算能力、指揮能力」


896: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/03(水) 00:03:44.95 ID:c+iT55AQO
響「深海棲艦が一番欲しがっているのは……深海棲艦達を指揮する者」

日向「……深海棲艦の提督、という事になるか」

響「そう。膨大な量の深海棲艦を指揮出来る提督が欲しいんだ」

武蔵「それが……適性のある人間」

響「逸脱した指揮能力、上位個体さえもねじ伏せる身体能力、状況や戦況を把握し次に繋げる思考能力」

響「昇華薬はつまり、人間を強化する薬でも艤装適性を与える薬でもない」

響「深海棲艦の指導者を作り上げる薬なんだ」

897: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/03(水) 00:08:47.13 ID:c+iT55AQO
響「司令官のお姉ちゃん。元帥はその適性があって、しかもそれが他の適性者よりも抜きん出ていたんだ」

響「司令官。貴方もそうだ」

男「……」

響「絶対に司令官を深海棲艦の元に渡す訳にはいかない」

武蔵「……これで。私たちが守るべきものは再認識出来たな」

日向「……」

男「……俺が、深海棲艦の指導者の器」

響「未完成の器を昇華薬で完成させ、そこへ……」

響「深海棲艦の血、DNAという液体で満たす。それが目的」

898: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/03(水) 00:15:16.28 ID:c+iT55AQO
響「そして……戦艦虚構だったね」

響「司令官の知っている通り、戦艦虚構は存在し得ない架空の艤装」

響「情報がほぼ抹殺されてしまった事で完成しなかった嘘の兵器」

響「一番最初の単純な艤装としての使用者は元帥」

響「そして……兵器の姿として完成した艤装を纏って……」

響「元帥を殺したのは、少佐。蜂起の首謀者である人間」

男「……やはり姉を殺したのは」

響「……恨んでいるの?」

899: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/03(水) 00:19:21.40 ID:c+iT55AQO
男「……いや。狂っていた姉を止めたのは首謀者だ」

男「肉親を……家族を殺されたのは……あぁ……許せないかもしれない」

男「けれど、恨む事など……出来んさ」

響「……」

903: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/03(水) 22:14:29.25 ID:c+iT55AQO
響「……戦艦虚構は。電子の世界で完成していた」

響「そして今、戦艦虚構は……」

響「現実でも完成してる」

男「なっ……」

武蔵「……」

日向「……」

響「存在し得ない架空の戦艦は存在するんだ」

響「電子の世界での能力と比較すると性能は落ちるけど……」

響「今現在存在する新型兵器の中では一番強い」

男「……どこにある」

響「それは……分からない」

武蔵「存在を知っているが場所は分からないのか」

響「移動し続けてるから、今どこにいるかは分からない」

日向「移動している?」

904: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/03(水) 22:18:50.32 ID:c+iT55AQO
響「今もどこかで深海棲艦と戦っているよ」

男「……!!」


少佐『だが最近妙な事が起こっているらしくてな』

少佐『深海棲艦の艦隊を発見して急行した所、その艦隊は全滅していたそうだ』

少佐『破片や死骸を残して動くものは無し』

少佐『他にも深海棲艦の死骸が浜に流れ着くなど……』

少佐『どう考えてもあり得ない。国防軍が一個師団を送ったとしても不可能だ』


男「……深海棲艦の群れに飛び込み殲滅を繰り返している」

男「つい最近は特に……頻度も多く……か?」

響「……そう。だね」


905: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/03(水) 22:40:43.43 ID:c+iT55AQO
武蔵「む?何故提督がそれを知っている?」

男「先ほど少佐から話を聞いた」

男「オーストラリア近海で深海棲艦の死骸が見つかっていると」

男「……だが。単独で出来るものではないはずだ」

男「いくら最強の兵器だとしても、現実のものである限りは……」

響「……」

響「解放旅団」

日向「!!」

男「解放旅団……!!」

武蔵「……」

906: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/03(水) 22:45:53.92 ID:c+iT55AQO
響「……解放旅団だよ」

響「解放旅団が、戦艦虚構を保有してる」

響「圧倒的な軍事力で敵の中枢を叩いているんだ」

男「首謀者の……やはり首謀者である"少佐"が解放旅団を率いているのか」

響「……」

武蔵「……」

響「わからない」

男「……」

響「わからないんだ。解放旅団の事はどうしても」

日向「それだけ情報の隠蔽もしっかり行っているという事なのか?」

907: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/03(水) 22:54:25.38 ID:c+iT55AQO
響「そうだと思う。解放旅団について知ってるのはこれだけ」

男「……」

響「……」

日向「君、何者?」

響「私は……知りたいから。解放旅団の事」

響「一人で調べていたんだ。そして……司令官が狙われている事を知った」

響「気をつけて司令官。必ずまた深海棲艦は来るよ」

男「……」

武蔵「私も聞きたい事があるのだが」

響「なに?武蔵さん」

武蔵「深海棲艦の提督はもう……何人か存在するのか?」

908: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/03(水) 22:56:22.51 ID:c+iT55AQO
武蔵「それがいるだけで奴らは大規模な作戦を行える」

武蔵「九十九里沖海戦は……深海棲艦の提督がいたんじゃないのかい」

響「……」

響「いるはずだよ」

日向「……」

男「……」

武蔵「……」


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911: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/04(木) 11:09:46.53 ID:jNoHZn8FO
(白い壁に黒のソファー。テーブルの上には吸い殻の山と無造作に転がっている拳銃)

(ヤニの臭いが染み付いたこの場所が私の帰る場所)

(扉を開けると、ソファーにもたれかかる金髪で顔にまで刺青を入れた男と)

(腕を組み静かに佇むくたびれたサラリーマンの様な男が私の帰りを待っていた)

「やぁっと帰ってきたか……待ちくたびれたぜ……」

(酷く臭う煙草を口に咥えながら鋭い目で私を見る)

「それで、どうだった」

「邪魔が入ってね。ダメだった」

「まぁーた"アイツら"かよ……邪魔臭え事この上ねぇ」

「でも、かっこいい人だったよ。真面目そうで」

「真面目ちゃんは一人で十分だよ……」

「しかし、強力な戦力を取り逃がしたのは痛手だな」

912: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/04(木) 11:19:18.29 ID:jNoHZn8FO
「けっ!!ただでさえクソッタレビ  の肉親だってんだから俺ぁ清々したぜ」

「そう言うな。その女がやった事で男は関係ない」

「チッ……」

「どうするの?」

「我々にも時間は無い。ならば打って出ると同時に対象を捕獲するのが上策となりうる」

(男はスーツのポケットから赤い液体の入ったアンプルを取り出す)

「薬も、お前の血もある。すぐに済ませてしまえばいいだけの話だ」

「なぁ!もういいじゃねぇか!」

(テーブルを激しく叩き立ち上がる。吸い殻の山がポロポロと崩れ落ちた)

「俺達の作戦は失敗でした。なら俺達だけでアイツらもあのうす汚ねぇ国もぶっ潰してやりゃいいんだよ!!」

913: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/04(木) 11:31:51.73 ID:jNoHZn8FO
ガシッ

「それとも、俺達だけじゃ不満かよ」

(ヤニの臭いが鼻に刺さる。だけど不快ではなかった)

「不満……じゃないよ。ただ戦力が増えるに越した事は無いと思う」

「その通りだ。お前の嫌う国をより安全に潰す為には、あって困る事はない」

「ったく……どいつもこいつも……」

「君の事を嫌いになった訳じゃないから。安心してっ……」

(台詞を全て言い切る直前に、開く口を塞がれてしまった)

「んっ……んん……っ!」

(ねっとりと唾液が混ざり合い絡みつく。蛇の様に長い舌が私の口内を蹂躙していく)

914: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/04(木) 11:39:36.16 ID:jNoHZn8FO
「……目の前でそういう行為をされる方の身にもなってもらいたいんだが」

(だけどそんな言葉も御構い無しに彼は私の舌を撫で回し、唾液を吸い上げてくる)

(いやらしい水音が部屋に響いていた)

「はむっ……じゅるっ……ちゅるっ……」

(強張る身体を彼は強く抱き締め、硬い身体に押し付けられている)

(それだけの行為が私の体温を上げ、脳漿まで蕩け出しそうな程の威力を持っていた)

「んぅ……っ!ちゅるっ……」

「っ……はぁ……はぁ……」

(ようやく塞がれた口が解放されたかと思うと、篭っていた熱と共に妖しく光る糸が彼の口元までぶら下がっている)

(きっと今の私は誰が見てもだらしないと思うような表情をしているに違いない)

915: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/04(木) 11:43:07.64 ID:jNoHZn8FO
「とりあえず……話は後だ。今は俺の熱を少し冷ましてやらねぇとな」

「……早めに済ませてもらえると助かるが」

「どうだかな。いくぞレ級」

(ぐいっと手を引かれて私はまたシワだらけのベッドへ連れて行かれる)

(それも……悪い気分ではない)


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919: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/05(金) 21:50:46.69 ID:RUgHgXXwO
男(俺は最後の休日を使い、昼間のかなみ市を歩いていた)

男「……」

男(必ず深海棲艦は現れる……か)

男「……」

男(今のまままたあのレ級と対峙したらどうなる?)


男『チィッ!!』チャキッ

レ級『遅いよ……?』

ゴキュッ

男『ガッ……ゴボッ……』


レ級『遊んであげるよ』ブンッ

男『ハッ!!』シュッ

ガキンッ!!!

男『ぐっ……腕が……!』

カランカランッ...

レ級『残念』シュッ

ドスッ!!!

男『あ……ぐぁぁぁあああ!!!』

920: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/05(金) 21:55:47.61 ID:RUgHgXXwO
男(なにをどう考えても勝てる見込みが無い……)

男(射撃も格闘も未熟だ)

男(電子世界に降り立てば……より無力にもなる)

男(せめて、深海棲艦から護身程度は出来る様にしなければ……)

コツコツ...

男(かなみ神社の近くまで来た)

男(周囲は封鎖されており、壊れた家屋や穴の空いたコンクリートが目に入る)

男(警備をしているのは……防衛機構ではなく国防軍か……)

男(PMCとしての力不足と捉えられてしまったか。なんにせよ、あれは異常な事態だ)

男(原因が俺にあると思うと……胸が痛む)

921: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/05(金) 22:02:00.42 ID:RUgHgXXwO
男「……」

コツコツ

男(俺は尚も街並みの中を練り歩いていく。地理を把握するのも大切だが……)

男(この景色を自分の中に留めておきたかった)

男「……好きにはさせんぞ」


男「……少し休憩でもするとしようか」

男(自動販売機でコーヒーを買うと、目に付いた公園へ足を運ばせた)

カシュッカチ...

男「ん……」

カチンッチッチッ...シュボッ...

男「……ふー」

パチン

922: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/05(金) 22:16:05.47 ID:RUgHgXXwO
男「たまには……一人で穏やかな時間を過ごすのも悪くはない……」

男(身体の力を抜き、ベンチに体重を預けながら煙を吐くのは心地よかった)

ワーワー...

男「……ん」

男(近くに保育所でもあるのだろうか。子供の声が聞こえる)

男「……」

男(ならば特に、深海棲艦の襲撃には晒せないな)

男「……もう少し休んでから見てみるか」

男「すー……はぁ……」

923: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/05(金) 22:21:39.53 ID:RUgHgXXwO
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コツコツ

男「……」

男(サッカーコート程の広さの庭に小さな建物)

男(子供達が元気に走り回っている)

男(また小さな正門には……)

男「……天河龍子養護院」

男(どうやら保育所ではなく養護施設らしい)

男(近くにこのようなものがあったのは知らなかった)

924: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/05(金) 22:31:33.30 ID:RUgHgXXwO
男「……」

ワーワー

男(……俺の子供時代は、こんなに楽しそうなものだったのだろうか)

男「……」

男(まぁ……今更だな)

コツコツ

「おい!」

男「……」

男(歩き出そうとした瞬間。女性の声に呼び止められる)

男「……なにか?」

「アンタ、ここに用でもあるのか?」

男(キリリと整った顔立ち、ショートカットからは勝気なイメージが与えられた)

男(だが身体付きは女性らしく、青のジャージの上からでもよくわかる程だった)

男(そしてなにより目についたのは……左目の眼帯だった)

男「いや……ただ通りすがっただけだ」

「ふぅん……」

男(まじまじと俺の事を観察する女性)

「……その物腰、一般人には見えねぇな」

929: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/06(土) 06:32:26.50 ID:HQblyzIPO
 

「歩き方、姿勢。お前軍人だろ」

男「ただのサラリーマンだ」

「国防軍じゃなくて防衛機構か……どっちも同じだな」

男「……そうだな。同じかもしれん」

「……どこかで会った事あるか?」

男「……初対面だな」

男「かなみ市防衛機構。中尉だ」

「俺はここの院長の天河龍子。看板見りゃわかるだろ?」

男(天河龍子と名乗った女性はニヤリと笑いながら俺に近づいてくる)

龍子「視察なら視察と言えばいいじゃねえか。別にやましいものなんかねぇ」

龍子「付いて来いよ、中も見せてやる」

930: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/06(土) 06:44:03.16 ID:HQblyzIPO
「龍子先生!その人誰ー?」

龍子「見学に来たんだとよ。俺は案内するからお前らまだ遊んでていいぞー」

男(子供達の視線がこちらに向けられるがそれも一瞬の事だった)

男「……小さな子が多いんだな」

龍子「それもそうだけど大きいのはこの時間は学校だ」

男「……成る程」


男(建物の入り口から中へ入る。入り口は一般の家とあまり変わらない様な作りだ)

龍子「ほとんど一軒家を改造したようなもんだから変わったもんはねーと思うけどな」

男(案内されるがままに中を見ていく)

男(リビングと直結したキッチン。畳の居間)

男(二階には部屋が多めに配置されていたが、何人かに分けて共同で子供部屋にしているそうだ)

931: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/06(土) 06:52:32.12 ID:HQblyzIPO
男(二階を見終わった後一階の奥に通される)

龍子「普通の家と大きく違うのはここかな」

ガララ...

男(木製の戸を開けるとそこは……)

男「……道場?」

男(磨き上げられた床に木製の壁。ロッカーの様なものまで置いてある)

「お掃除終わりましたよー」

龍子「おう!ありがとな」

(目の前に現れたのはエプロン姿の少女)

(龍子と似た髪型ではあるが、何処と無く茶色に見えるのは差し込む光に当てられてか)

(柔和そうな顔。龍子が格好いいと言われるならこの少女はまさに可愛い、だろう)

(身体付きは龍子と比べるとまだ小さめに見えるが、女性としては十分だと思う)

932: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/06(土) 06:57:56.37 ID:HQblyzIPO
「お客様ですか?」

龍子「あぁ、ここの見学だそうだよ」

「そうなのですね。私は天河稲(あまかわ いな)です」

「……中尉。とでも呼んでくれ」

稲「中尉さん?変わったお名前なのですね……」

龍子「……まぁ、こんなかんじの子だ」

稲「なにか馬鹿にされた様な気がするのですが!?」

龍子「気のせいだろ?」

男「気のせいだな」

稲「……なんだか釈然としないのです」

933: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/06(土) 07:02:01.76 ID:HQblyzIPO
男「ところで。同じ名字な所を聞くと二人は姉妹なのか?」

龍子「あぁ……そうだな」

男「こう言うのは失礼な気もするが……あまり似ていない様な……」

龍子「血は繋がってねーから当然だな。こいつは義妹だ」

龍子「理由を聞くなんて野暮な事は……無いだろうな?」

男「勿論だ」

男(恐らく養護施設だからこその理由があるのだろう。無闇に聞いてやる必要も無い)

934: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/06(土) 07:06:24.48 ID:HQblyzIPO
龍子「建物の中はこんなもんだ。外には見る様なもんもねぇ」

男「そうか。ではこれで全部だな」

龍子「……お前、剣は使えるか?」

男「……」

男(唐突な振りである。が、横目に見えた竹刀が目に入ったのでなんとなく察した)

男「チャンバラ程度ならな」

龍子「なら十分だ。少し相手してけよ」

稲「すぐに準備してきますね」

トテテ...

男(……まだやるとは言っていないんだがな)

939: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/06(土) 21:20:05.77 ID:HQblyzIPO
稲「これと……これと……これがあります」

男(稲が持ってきたのは竹刀だった)

男(恐らく普通の長さのもの。それよりも柄の長さを足した様な長いもの)

男(児童用か短めのものの三種類)

男(どれも刀身に布が巻きつけてある)

龍子「万が一防具が無い時に当たってもいいように布は巻いてあるぜ」

龍子「アンタに合う防具は無さそうなんだ。悪りぃけどそのままで相手してくれねーか?」

男「俺は構わない。そちらは付けなくてもいいのか?」

龍子「そうしたらフェアじゃなくなる」

940: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/06(土) 21:27:30.13 ID:HQblyzIPO
稲「万が一怪我をされたら私が救護するので安心して下さい」

龍子「……久々に思いっきりやりたかったんだ」

龍子「やっぱりその身のこなしを見ると……剣も素人じゃねえな」

龍子「好きなのを選んでくれ。俺は余りでいい」

男(悪いが俺には相手が素人か玄人かを明確に見分けられる程の眼力は持ち合わせていないが……)

男(一般人相手なら……手加減はしないとな)

男「俺は短いものを使わせてもらおう」

龍子「へぇ……長物で来ると思ったんだけどな。それじゃ俺は普通のでいくか」

男(お互いに竹刀を取ると、床に引かれていた白い線の前に立つ)

龍子「一撃重いのが入ったら終わりだ。"サラリーマン"がどれだけ鍛えられてるのか見せてくれよ」

スッ

941: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/06(土) 21:36:58.47 ID:HQblyzIPO
男(彼女が取ったのは剣道で言う所の正眼の構えだった)

男(鋒を俺の鼻先に向けて、俺を待っている)

男「……」

スッ

男(対する俺は、右手で竹刀を持ちサーベルの様に扱う)

龍子「フェンシング……じゃねぇよなぁ……」

龍子「片手軍刀術ってやつか?」

男「さぁな」

龍子「ま、んなこたどーでもいい」

龍子「行くぜ!!」ダッ

942: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/06(土) 21:42:32.36 ID:HQblyzIPO
男(瞬間。俺は驚愕した)

男(女性のものとは思えない一瞬の踏み込み。一気に懐へ迫られる)

スパァンッ!!

男「……ッ!」

男(鋭い突き上げを間一髪で左へ払いのける)

男(……手加減などと考えたのが間違いだった)

男(相当に強い……!)

943: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/06(土) 21:59:21.46 ID:HQblyzIPO
男(彼女の剣も剣道などというものでは無かった)

男(時に片手に切り替え、無茶な体勢からでも鋭い一撃を加えてくる)

男(まさにチャンバラだ)

パンッ!!パンッパンッパンッパンッ!!!!

スパァンッ!!!

男「……」

龍子「結構やるじゃねぇか……!」

ググッ

男(鍔迫り合いに持ち込むと、拮抗した押し合いとなる)

男「……君も、只者ではないな」

男(状況に応じた型にとらわれない攻撃。側から見れば遊びに見えるかもしれないがこれは……)

男(本当の戦いを見ている者の戦闘方法だ)

946: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/07(日) 19:49:01.47 ID:3CDpT0vCO
「あれ?龍子先生剣道やってるの?」

「すげー!りゅーこと同じくらい強いぞ!」

稲「みんな危ないから離れてみましょうねー」

男(小さな外野も増えて来たか……)

龍子「ガキ共の前とあっちゃ負ける訳にはいかねーよな!」

スパァンッ!!!

男「くっ……」

男(右から、左から縦横無尽に打ち放ってくる)

男(俺は攻撃の隙を作れずに防戦一方になっていた)

947: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/07(日) 19:53:31.31 ID:3CDpT0vCO
男(もう……何合打ち合ったかわからないが……)

男(相手の体力が切れる兆しが全く見えない)

男(このまま徐々に押されていては……)

グッ

男「はぁッ!!」

スパァンッ!!!

男(左脚の踏み込みから一気に相手の側へ潜り込む!)

スパァンッ!!!スパァンッ!!!

龍子「やっとやる気になったか?」ギュッ

パンッパンッパンッパンッパンッ!!!!

男(今度は俺が相手に竹刀を連続で打ち込む)

男(相手の隙が見える部分へ、絶え間なく竹刀を振るい続ければ……!)

948: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/07(日) 20:13:01.04 ID:3CDpT0vCO
男(どれだけの時間が経ったかはわからない)

男(額から汗が落ち、酸素不足が心臓を痛めつける)

男(手の痺れと痛みが増していく)

男(一進一退の攻防)

男「ふんッ!!!」

スパァンッ!!!!!

龍子「まだまだァッ!!」

キュッ

スパァンッ!!!

男「……!」ガッ

カランカランッ

男(しまった……!!)


951: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/08(月) 12:33:12.16 ID:UDD8GcuHO
龍子「そこだッ!!」

ブンッ

男「ぐっ……!」グッ

男(風を切る音が鼻先を掠める)

キュッ

ダッ!!!

男(右脚に力を込めて龍子から離れる)

龍子「拾わせねぇぜ?」

ビュッ!!!

男(さらに追撃。だがこれも間一髪でかわすとはたき落とされた竹刀を再び拾い上げた)

男「ふっ……!」

男(体勢を切り替え、反動を利用して竹刀を打ち込む)

スパァンッ!!!

龍子「おもしれぇ……!」

スパァンッ!!!パンッパンッパンッパンッ!!!

男(尚も打ち合いは続く。拮抗した戦いはまだまだ長引くと思ったが……)

ピキンッ

男「ッ!?」

952: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/08(月) 12:39:09.31 ID:UDD8GcuHO
男(手首が……!!)

男(右手首に強烈な痛み。負傷の治っていない場所に負担を掛けたのだから当たり前ではある)

男(焼け付く様な痛みが断続的に襲う。先ほどまでは意識の外にあったからか、気がつかなかったのかもしれない)

男(だが、意識し始めた途端に痛みの度合いは大きくなり、竹刀を満足に握る事さえ許さない)

龍子「……お前。手首をやったのか!?」

稲「や、やめ!」

男(稲が救急箱を持ってこちらへ駆け寄ってくる)

男「いや……元から痛めていた。今しがたまで忘れていたが」

953: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/08(月) 12:43:35.55 ID:UDD8GcuHO
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稲「これで大丈夫なのですよ。あとは安静に、動かさないで下さいね」

男「あぁ……済まない」

龍子「悪かったな。怪我してんのに無理に付き合わせてよ」

男「いや、構わない。俺も楽しめた」

龍子「しっかし怪我しててそれとは……結構やるな」

男「並の人間を相手にしている訳ではないからな」

男(俺の脳裏に黒い鋼鉄の塊と褐色の女の姿がよぎった)

男(うむ。全く嘘は言っていないな)

954: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/08(月) 12:50:26.76 ID:UDD8GcuHO
龍子「オレの本気もまだまだこんなもんじゃないぜ?」

男「本気を出さずにこの実力とは、俺ではなかわないか」

龍子「教えてる人間が筋がいいのか悪くねぇが……」

龍子「基本がなってねぇ。基礎がしっかりしてりゃまだまだ伸びはある」

稲「お姉ちゃんが言える事ではないと思います」

龍子「ぐ……ここまで崩してるけどこれでも剣術はかじってただろ!」

男「そうか……最初の構えは確かにらしかったが」

955: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/08(月) 13:01:05.86 ID:UDD8GcuHO
龍子「切り落としに始まり切り落としに終わる。小野忠明が基礎を作って小野忠常が開祖の小野派一刀流」

龍子「聞いた事はあるだろ?」

男「あぁ……」

男(確か柳生新陰流の柳生宗矩と一緒に徳川の指南役になったのが小野忠明だったか)

958: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/08(月) 23:28:53.21 ID:UDD8GcuHO
龍子「まぁ……それを何年か前までな」

男「剣の道でも目指していたのか」

龍子「いや……自分を鍛える為、だな」

龍子「剣の腕も、内面も」

龍子「誰かを守る為には強くなきゃいけねぇ。なにかを成し遂げる為には絶対の覚悟が必要だ。だろ?」

男「……全くその通りだ」

龍子「……あの頃は、守られてばっかだった」ボソッ

稲「……」

959: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/08(月) 23:32:32.93 ID:UDD8GcuHO
「龍子先生はやっぱり強いなー!」

「でもでもあの人だってすげー強かったぜ!」

「僕も龍子先生みたいに強くなりたいなぁ」

龍子「大丈夫だ、絶対に強くなれる」

龍子「だから目一杯遊んで、勉強して、練習するんだぜ!」

「「「はーい!」」」

稲「みんなー、そろそろおやつにしますよー」

「わーい!」ドタドタ!!

「早く手洗おうぜー!」

龍子「ちゃんと綺麗にしてくるんだぞ!」

男「……ふ」

960: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/08(月) 23:36:22.87 ID:UDD8GcuHO
龍子「お前はなんでそこまで鍛えてるんだ」

男「俺か……」

龍子「やっぱ、仕事の為か」

男「いや、俺が強くなりたい理由は自分の為だった」

男「だが今は……少し違うかもしれん」

男「誰かを守る為……誰かが死ぬ場所がみたくないから」

男「……やはり自分の為だな。これでは」

龍子「いや、いいんじゃねーか?それも立派な理由だと思うぜ」

男「そう言われると少しは気分も楽になる」

稲「あの……お水良かったら……」スッ

男「ん……済まないな」

男「ごくっ……ごくっ……ふぅ……」

961: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/08(月) 23:40:24.02 ID:UDD8GcuHO
龍子「……」

稲「それじゃあ私はみんなのおやつを用意してきますね」

龍子「おう、頼むぜ」

男「……さて、そろそろお暇させていただくとするか」

龍子「ちょっと待ってくれ」

男「む……」

龍子「良かったらなんだけどよ……」

龍子「しばらくここで稽古つけてかねーか?」

男「……それは嬉しいが毎回来ては迷惑に……」

龍子「オレの練習にもなるしお前に基礎を教える事も出来る。迷惑どころか大歓迎なんだけどよ」

男「……」

962: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/08(月) 23:41:46.11 ID:UDD8GcuHO
男「……では、休みの日に顔を出させてもらっても?」

龍子「あぁ!暇になったらこいよ」

男「そうさせてもらう。今日は楽しかったぞ」

龍子「こっちこそ」


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965: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/09(火) 23:44:48.65 ID:7/VbmgXKO
男(その後も街を歩いて回ったがすぐに日が落ち始めた)

男(あの養護施設を見つけられたのは良かったかもしれない)

男「……さらに己を磨かなければ」

男(決意を胸に俺は防衛機構の寮へと戻っていった)


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972: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/12(金) 20:25:03.75 ID:wSoxWnWiO
男「ただいま」

武蔵「帰ったか」

男「少し街を見て回っていた」

北上「お土産はー?」

男「土産……」

龍鳳「お土産ですか!」

男「済まん。失念していた」

古鷹「ま……まぁ、いいじゃない。それより提督!今日は私が晩御飯担当ですよ!」

男「ん、そうか……楽しみだな」

神通「準備、お手伝いしますね」

日向「……」

響「……」


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973: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/12(金) 20:31:03.32 ID:wSoxWnWiO
武蔵「ごちそうさま」

日向「提督、少しいいかな」

男「む、どうした日向」

武蔵「それは私から説明しよう」

武蔵「ここ数日……休暇をすごしてきて思ったのだが」

武蔵「今まで皆と一日どこかで過ごしたりはした事がないな」

男「……確かに。休日は全員が被っても各自自由に過ごしていたな」

龍鳳「それで、みんなで考えたんですけど……」

北上「全員でどこかに遊びにいかないかってさー」

神通「響ちゃんも新しく加わりましたし……ね?」

男「むぅ……それは、思いつかなかった」

男「響はどう思う?」

響「私は……それは嬉しい限りだよ」

974: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/12(金) 20:46:03.02 ID:wSoxWnWiO
男「ならば構わんか。それで……」

男「休みを合わせるのは容易だが……果たして遠出は出来るものなのか……」

日向「確かに、襲撃があったばかりで緊張もあるだろうしな」

武蔵「ならば遠出出来た時のプランとそうでない時のプランを考えればいいではないか」

男「では、そうしようか。異論はないか?」

北上「いいんじゃない?」

古鷹「賛成!」

龍鳳「私もいいと思います!」

響「私も賛成だよ」

神通「私も……賛成です」

男「うむ。ならばまずは遠出出来た時のプランを考えよう」

975: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/12(金) 20:50:49.80 ID:wSoxWnWiO
男「冬のレジャーがいいか。山の方へ行けば雪も降っている事だろう」

武蔵「雪見酒に牡丹鍋などあれば最高だな」

男「まず食い物から思いつくのでは無くてメインの観光から考えて欲しいんだが」

武蔵「だが食いたいだろう、牡丹鍋」

男「……あぁ」

神通「それなら……やっぱりスキーでしょうか」

北上「おっ、意外にアクティブだねぇ」

古鷹「私スキーってやった事無いんですけど……誰か経験者っているんですか?」

男「……」

神通「……」

日向「……」

龍鳳「……」

北上「……」

武蔵「……むぅ」

響「……あるよ」

976: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/12(金) 20:59:57.67 ID:wSoxWnWiO
男「流石は帰国子女と言った所か。スキーに行くのならば響に指導願えばいいな」

男「他に提案はないか?」

北上「私は温泉がいいなぁ……」

龍鳳「冬と言ったら確かに温泉ですね!」

男「温泉か……日頃の疲れもこれで落としたい所だ」

武蔵「湯船の中で一杯雪見酒。うむ、これがいい。これにしよう」

男「酒ならばいつでも飲めるだろう……」

武蔵「雰囲気というものが大事なのだ雰囲気というものが」

響「武蔵さんはお酒が好きなのかい?」

武蔵「そうだな。酒と飯があれば大抵なんとかなる」

古鷹「あははは……」

響「なら今度一緒にウォッカを飲もう。あれは最高にХорошоだよ」

武蔵「はらしょう?」

響「最高に美味しいって事さ」

977: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/12(金) 21:09:12.77 ID:wSoxWnWiO
男「他にはテーマパークなどもあると思うが、どうせなら冬らしい事がしたい」

男「スキーをした後に温泉でいいのではないだろうか」

龍鳳「そうですね」

日向「それが一番無難だな」

男「では異論が無ければ今度は遠出出来なかった時の事を考えよう」

龍鳳「基本的には室内で過ごす事になりそうですね」

男「そうだな。外出しても特に面白い場所は無い」

北上「ウノとかババ抜きとか?」

日向「テーブルゲームなら将棋や囲碁、モロッコでもいいな」

男「将棋など差せるのか?」

日向「嗜み程度だ」

古鷹「映画鑑賞もいいですよ!」

武蔵「映画も十八番ではあるな」

龍鳳「テレビゲームはどうですか?」

北上「あぁ……スマ◯ラならあるよ」

978: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/12(金) 21:10:55.23 ID:wSoxWnWiO
男「室内ですることならいくらでも思いつきそうだな」

男「とりあえずこのくらいにしておくか。取らぬ狸のなんとやらだ」

男「少佐に話を持ちかけてみる。少し待っていてくれ……」


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985: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/14(日) 21:02:53.77 ID:KP11TB2bO
少佐「……」

男「……」

少佐「いくらなんでも少し我儘が過ぎんかね中尉」

少佐「あまり君達ばかり贔屓にする訳にはいかん。他の者に面目立たなくなる」

男「はい」

少佐「休暇は与えん。その代わりに任務を君達にこなしてもらう」

986: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/14(日) 21:08:23.75 ID:KP11TB2bO
少佐「長野県の国防軍駐屯地に赴き、資料を届けてもらいたい」

少佐「これは深海棲艦に関わる案件であり、悪いが資料の中身を教える事は出来ない」

少佐「到着後長野駐屯地へ宿泊。訓練の様子なども視察してから翌日に帰ってくる事」

男「……少佐」

少佐「なにか、質問は?」

男「いえ。わかりました」

少佐「うむ。今回は一般の人間を装い向こうに向かって欲しい」

少佐「一種のカモフラージュというやつだ」

少佐「交通費や宿泊費はこちらで捻出する。任務の空き時間に多少の観光は許すがその金は自分で出してくれよ」

987: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/14(日) 21:12:08.81 ID:KP11TB2bO
少佐「……今回だけだぞ、中尉」

男「……計らい、ありがとうございます」

少佐「言っとくが資料の輸送自体はれっきとした任務だ」

少佐「国防軍の人間では目立つという事で我々に白羽の矢が立った」

少佐「国防軍は……深海棲艦が意志を持ち、計画的な犯行に及んでいると見解を出した」

少佐「ここしばらくでのここまでの攻撃は明らかに異常だ。奴らの行動の予兆かもしれん」

少佐「気を引き締めてかかれ」

男「はい」

988: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/14(日) 21:15:39.26 ID:KP11TB2bO
少佐「それと……もう一つ重要な任務を与える」

男「……」

少佐「絶対に忘れるなよ」

男「はい」

少佐「で、その任務の内容なんだが……」

男「……」

少佐「なんでも信州豚というブランド豚がいるそうじゃないか。ワインと合いそうな信州豚の加工食品を買ってきてくれ」

男「……はい。必ず」

少佐「うむ。出来ればソーセージやハムがいい」

少佐「他にもめぼしいものがあれば買ってくるように」

男「わかりました。その任務必ず達成してみせます」

998: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/22(月) 17:01:19.63 ID:NZ0AzH3jO
少佐「行ったか」

少佐「ふむ……しかし信州といえば葡萄」

少佐「今の時期はりんごか。それも頼んでおけば良かったな」

少佐「シナノスイートも好きだが個人的にはふじが一番だな……パリッとした食感で甘みも抜群……」

少佐「まぁ、信州豚が食べられるだけでも良しとしよう」

少佐「まさか他の部隊の人間に頼む訳もいかんし……」

少佐「彼もああ言っていた事だし丁度良かった。うむ」

999: ◆SOkleJ9WDA 2014/12/22(月) 17:04:50.19 ID:NZ0AzH3jO
少佐「この防衛機構には冗談の通じる人間が多くなくて困る……その点彼は真面目に見えて意外と話は分かるからな」

少佐「うむ……次は……北海道辺りがいいか」

少佐「……そういえば私の紹介した宿」

少佐「いい宿にはいい宿なんだが……」

少佐「ぷっ……くくく……真面目な彼が部下と一泊して……どんな反応をするのか……」

少佐「少し見れないのが残念だな……くくっ」

少佐「はぁ……さて。次の書類は……」


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