1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:13:52.60 ID:Id/ENdNh0
妹「大喜びですね」

兄「だって美味そうだよっ。チーズとろけてるし」

妹「今ご飯をよそいます」

兄「いーやっほう! 日本人でよかった!!」

妹「どうぞ」

兄「いっただっきまー。うは、んまー」

妹「いただきます」

兄「うまい、うまい!」

妹「はい」

兄「はぐはぐ、ぐはっ。んまんまーっ」

妹「もぐ」

兄「んまんま、んまー。けふん、けふ」

妹「麦茶を飲みましょう」

兄「おー! のむぜー! ごきゅごきゅ」

妹「もぐ」

兄「美味かった! ハンバーグは神の食い物!」

妹「お粗末さまでした」

兄「とんでもない、妹料理最高だぜー」

妹(子供のようなひとだなぁ)


引用元: 兄「ハンバーグだよ! ハンバーグっ!」 


3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:14:37.06 ID:Id/ENdNh0
兄「帰ったぞ~。たっだいまぁ」

妹「おかえりなさい」

兄「今日も暑いな、汗だくだよ」

妹「シャワーでもどうですか」

兄「おう! でも喉渇いた。なんか飲むかな」



妹「動かないで」

兄「うお!?」

妹「麦茶を持ってきますので、脱衣所に向かってください」

兄「それくらい自分でやるよ。鬼兄貴じゃないぞ?」



妹「汗がたれてます。廊下に」

兄「おおー!? すまねぇ」



妹「……世話の焼ける兄です」


4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:16:55.09 ID:Id/ENdNh0
兄「妹ー。妹ー」

妹「なんです?」

兄「良い湯であった。麦茶も感謝だ」

妹「はい」



兄「よって今晩は何かおごるぞ? ピザとか、鰻とか」

妹「太刀魚の焼いたものと茄子の冷やし汁を

 考えていたのですが」

兄「それで決定」



妹「おごりになっていませんよ」

兄「だって妹のほうが美味そうだ」

妹「……むー」



兄「太刀魚かー。夏場は美味いよな!」

妹「仕方ありません。醤油を買ってきてください。

 あと、かぼすも」

兄「了解であります! 上官殿っ!」



妹「……なんだか兄の行く末が心配です」


6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:18:37.82 ID:Id/ENdNh0
兄「うっはぁ……」

妹「兄さん」

兄「やっぱ夏はいいなー。うっすらと透けた白が……」

妹「兄さん」

兄「健康的な小麦色の太ももがちらちらと……」

妹「兄さん」

兄「髪の毛を掻き上げたときにのぞく脇とかっ

 くっはー。サイコーっ」

妹「兄さんっ!!」

兄「おおう、妹っ! いつからそこにいたんだ!?」



妹「いいから兄さん、買い物籠を持ってください」

兄「お、おう?」

妹「ちゃんとついてくる!」

兄「う、怖いぞ。妹よ」



妹「ご飯抜きにしますよ」

兄「了解であります。上官殿っ」





9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:21:22.92 ID:Id/ENdNh0
妹「今日は夏野菜とチキンのカレーです」



兄「うっはー! カレーですよっ。

 匂いで判ってたけどねっ。数ある神々の料理の中でも

 カレーといえば黄金聖闘士ですよ!」

妹「……」



兄「ランクでいえば、蠍座のミロくらいかな。

 あ、あれ? 急に微妙な気分が……」



妹「いいからお皿出してください」

兄「あいあいさー」



妹「いただきまーっす」

兄「いったっだっきまーっぐはもぐもぐもぐ」

妹「そんなに急がなくても」

兄「おかわりっもぐもぐもぐもぐもぐ」

妹「喉詰まりますよ」

兄「おかわりっ」





12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:24:04.58 ID:Id/ENdNh0
妹「兄さん、兄さん」ゆさゆさ

兄「ん、むぅ……」

妹「起きてください」

兄「もうちょっと……」

妹「もうちょっとって」

兄「3600秒くらい……」

妹「それじゃ一時間じゃないですか!」



兄「むぅ……タオルケットは僕に

 優しくしてくれたんだ……」

妹「兄さん」ゆさゆさ

兄「むぅ……。俺とタオルケットは相思相愛なのだ……。

 生まれ変わっても一緒に寝ようねと誓い合った……。

 愛を邪魔するやつはびろんびろんなのだ」



妹「……ベーコンエッグからベーコンと卵を抜きますよ」

兄 がばっ!!

妹「そんなにおなか減ってるんですか」

兄「起きます! っていうかむしろ起きてました!」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:25:16.40 ID:Id/ENdNh0
再録だけど

一応最初から読み直して手直しした。

俺まじめ。

Vipper失格。

あばばばばば。

夏なのに。

兄ですら妹がいるのに。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:27:00.87 ID:Id/ENdNh0
妹「メールですね」



兄『今日の晩御飯は何だ? なんか買い物追加あるか?

 兄としては肉が食べたい気分だぞ。英語で言うと

 ミート』



妹「それはカタカナです」



兄『韓国語でいうとカルビとかでも良いぞ』



妹「ただの焼肉ですね」



兄『一人で持てるか? 一緒に買い物行くか?

 待ち合わせでも良いぞ』



妹「……ほんやpi本屋で、6時にpi……送信」



妹「何を作るか本屋で料理の本を見ないと

 何か美味しいものを。お肉で」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:29:25.01 ID:Id/ENdNh0
兄「妹よ。待ったか?」

妹「いいえ、待ってません」



兄「そうかそうか。それでは出発だ!」

妹「ご機嫌ですね」

兄「今日も妹ご飯だしなっ」

妹「……」



兄「今日のメニューは何だ?」

妹「鶏の南蛮揚げですよ。あと薩摩芋と林檎のサラダです」

兄「美味そう!」

妹「兄さんはなんでも美味しそうって言いますね。

 ちっとも参考になりません」



兄「そ、そうか。『美味そう』じゃ参考にならないか」

妹「ええ、なりません」

兄「判った。んじゃ美味いっ!」

妹「……」

兄「いつも美味いぞ。妹よ」

妹(お日様みたいにニコニコして、

 本当に馬鹿兄です)



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:30:24.85 ID:Id/ENdNh0
妹「ごちそうさまです」

兄「ごちそうさまー!」

妹「兄さん麦茶ですよ」

兄「あんがとなー」

妹「伸びてますね」

兄「のびー」

妹「だれてますね」

兄「だれー」



妹「兄さんリラックスしすぎです」

兄「いいんだよ。妹のご飯でおなかいっぱいでさ

 扇風機でひんやり涼しいしさ。

 幸せでだれだれもするっての」

妹「そうですか」

兄「そうなの。お前のご飯は、すごく美味しいけどさ

 なんかそれだけじゃなくて、幸せの味だよな。

 自宅だからかな。満足しちゃうっていうかさ」

妹「……」

兄「毎日食っても飽きないし、ずっとこのままが良いな」

妹(!? 不意打ちです、兄さんっ)



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:31:30.58 ID:Id/ENdNh0
兄「女とさー」

妹「えっ?」

兄「女とさー。飯くいにいくとさ」

妹「兄さん彼女いたんですか?」

兄「今はいないよ」

妹「いたことがあるんですか?」

兄「俺をどんな生き物だと思ってたんだ」

妹(おっきな小学生かと……)



兄「まぁ、行くとさ。いろいろ調べたりして

 それなりの場所に行くんだけどさ。」

妹「はい」



兄「やっぱ、そんなに美味しくない訳だ。

 自宅のが一番美味しい」

妹「そうですか?」

兄「麦茶も出てくるし! おかわりできるし!」

妹(こういう馬鹿でした)

兄「向かい側に妹座ってるし」

妹「!?」


18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:32:58.32 ID:Id/ENdNh0
兄「どした?」

妹「え、あ……な、何を云って」

兄「妹と一緒は美味しいよ?」

妹「ば、ば、ば(馬鹿なことを)」



兄「やっぱさ、食事の心配ってのは

 身内の感情なのかな。ちゃんと食べてるかな

 美味しいもの食べさせてあげたいなーとかさ」



妹「そ、それはっ」

兄「ん?」



妹「私の台詞です。いつも私が

 作っているではないですか」

兄「あー」

妹「『あー』ではありません」

兄「いつもあんがとな!」

妹(くっ、卑怯な笑顔をっ)


19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:34:16.52 ID:Id/ENdNh0
――市街中心部



女友「だからネストの範囲ももうちょっとね」

兄「係数二倍で? でもそれじゃ精度上げないと

 cnt振り切っちまうだろ」

女友「面倒だけど、全部型変更かなぁ」



妹「兄さん」



兄「お? 妹か。どした? 珍しいな

 この辺で会うなんて」

妹「ええ、スパイスを買いに」



女友「ねぇねぇ。この娘、男くんの妹さん?」

兄「うん、そう」

妹「こんにちは。妹です。

 兄がいつもお世話になっています」

女友「うわぁ、かわいいーっ。それに礼儀正しい!」

妹「いぇ、あのっ。そ、撫でないでっ」

兄「こらこら、妹困ってるだろ」

女友「うっわー。男くんがお兄さん風吹かしてる!」


20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:35:20.58 ID:Id/ENdNh0
兄「兄だからな」

女友「またまた~」

妹「な、撫でないでっ」

女友「ちいさくて可愛い~」



兄「ほら、女友。いくぞ」

女友「え~」

兄「帰ってソース叩くんだろう。早くしないと

 来週のパケに間に合わないぞ」

女友「はーい」



兄「妹、んじゃぁな。気をつけていけよ。

 今日も帰るの同じくらいだからな」

妹「はい」

女友「まったねー! 妹さん」

兄「うるさいなー。早く行くぞ」

女友「判ったわよぅ、まったくー」



妹「……」



妹(兄さん。なんだか普通の大学生みたい。

 外ではマトモな人間だったんだぁ)


21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:36:24.91 ID:Id/ENdNh0
妹 ペラペラ



妹「今週は、肉、魚、魚、野菜、肉……

 でしたから。魚でしょうか」



妹「八月ですから、いわしが美味しいですね。

 すると、ツクネか、シソ揚げか……」



妹「つけあわせは、トマトと大根の梅肉サラダ

 でどうでしょうか」



妹「ふふ。これで完璧ですね! 隙なしですね!

 『八月の献立第四週 バリエーションNo.18』完成です」



妹「さーってつぎは『バリエーションNo.19』ですね。

 イワシは中心にすえつつ、今度は椀物で……」


24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:37:59.53 ID:Id/ENdNh0
兄「だばだば、だばだば♪」

妹「兄さん」

兄「びろんびろ~ん♪」

妹「……」



兄「妹よ、ただいまだ!」

妹「おかえりなさい」

兄「いっやー今日も暑かったな」

妹(その奇妙な踊りに対するコメントはないんですか?)



兄「ふふん、妹よ、知っているぞ!」

妹「何をです?」

兄「今日のメニューはイワシだろー!!」

妹「ええ、そうです」



兄「イワシんマいよなーっ! で、なんだ? なんだ?

 イワシハンバーグか? 明太子イワシのはさみ焼きか?」



妹「今日はバジルフリッターです」



兄「いやっほー! 神様ありがとうっ。

 早速ご飯ー。ご飯~。いもうとごっはん~♪」



妹「手はちゃんと洗うんですよ、兄さん」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:39:52.90 ID:Id/ENdNh0
妹「ごちそうさまです」

兄「ごちそうさまー!」



妹 カチャカチャ

兄「俺も食器下げるぞ!」

妹「邪魔だからそっちで麦茶飲んでてください」

兄「ぶーぶー」

妹「静かにテレビでも見ていてくださいね」



兄「今日のフリッターとかいうのも、いいな。

 さくっとしてて」

妹「普通の揚げ物よりも軽い味わいですよね」

兄「うん。味付けも、塩のやつがよかったな」

妹「クレイジーソルトと云うんですよ」

兄「ほぉ」



妹「岩塩とハーブの調味料でアメリカでは

 揚げ物なんかには定番だそうですよ」



兄「いぇい! クレイジー!」

妹「……」

兄「クレイジーフォーユー!!」

妹(昼間見たのはやっぱり他人の空似じゃないのでしょうか)



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:41:18.63 ID:Id/ENdNh0
――学食



女友「いやー。それにしても」

兄「なに?」

女友「妹さん、かわいかったねー♪」

兄「そうか?」

女友「うん、ちっちゃくて、色白くて~。

 髪の毛さらさら濡れ羽色でさ。

 生真面目そうな表情がいいよね!」

兄「んー」



女友「可愛いと思わないの?」

兄「そりゃ家族だから可愛いとは思うけれど」

女友「けど?」

兄「容姿は意識したことが無いな。

 どうでも良いだろ、普通」

女友「そうかなぁ。うちは弟だけど、

 全然可愛くないよ」

兄「ふむ」

女友「あたしより大きいし」

兄「それは普通だろう」

女友「うん、そうだけどさっ。

 妹ちゃんは小さい! 可愛い!!」

兄「そんなもんかな」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:43:26.10 ID:Id/ENdNh0
女友「だから別れちゃったのかな、と」

兄「はぁー?」



女友「ほら、元カノとさ」

兄「お前、頭あったかくなったか?」

女友「あはー」



兄「まったく関係ないだろう」

女友「いや、ほら。あたしも紹介した手前さ」

兄「お前にも悪い事したな」

女友「いやいや。ほら、こういうのは、ね。

 相性って云うか、運っていうか。

 仕方ないよね、うん」



兄「そうな。仕方ない、な」

女友「あの娘も可愛いかったでしょ?」

兄「可愛いって言うか、美人だよな」

女友「うん、それにでかいよね」



兄「……あー」

女友「揉んだ?」

兄「うん」


28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:43:59.69 ID:Id/ENdNh0
女友「どうよ?」

兄「でかかった」



女友「だよね!!」

兄「何で嬉しそうなんだお前」

女友「いや、あはは。なんか、こう

 感動するじゃない。でかいと。おおーって!」

兄「否定はしない」

女友「やっぱね! マシュマロとか言うけどさ!

 手に乗っかるようなあの重さがたまらないよね!」

兄「お前本当に嬉しそうな」

女友「いやー。照れますな!」

兄「照れなくていいから」



女友「もしかして、でかいのがダメだった?」

兄「はぁー?」

女友「いや、青い蕾が趣味なのかな、と」

兄「あの」



女友「具体的に云うとロリなのかな、と」

兄「阿呆は黙れ」


29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:45:22.87 ID:Id/ENdNh0
女友「じゃ、なんで別れたのさー」

兄「――そういうのとは、関係ないよ。」

女友「ふむぅ」

兄「ただ、メシがさ」

女友「?」

兄「メシが、大変だなぁ。って。食事の場所考えたり

 なに食べようか悩んだりするのって、大変だよな」

女友「そんなもん?」

兄「うん、大変だって思った。楽しい食事って

 作ろうとすると思うと、難しいよな」

女友「そうかもね」



兄「だから、ってわけじゃないけど。

 俺には彼女とかまだ早いんだとおもうよ。

 修行足りてないんじゃねぇかな」

女友「あー」

兄「判った?」



女友「全然わかんない」

兄「そっか」



女友「チャンスがあるんだかないんだかも判らないや」


30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:46:40.71 ID:Id/ENdNh0
兄「いもうとー」

妹「何ですか?」

兄「デザートたべたい」

妹「んー、何かあったでしょうか」



 冷蔵庫ガチャガチャ



妹「すみません。適当なものを切らしているようです」

兄「いいよいいよ。そんなたいしたもんじゃなくてさ」

妹「何も無いんです。……手抜かりでした」

兄「そうじゃなくてさ。コンビニにいこうぜー」

妹「え?」

兄「アイス買いに行こうぜ!」

妹「あ、はい」

兄「そうと決まれば善は急げだハリアップジャスティス」



妹「……」



兄「コンビニはジャスティスっ! ワンモアセッ」

妹(ほんとうに小学生です)


33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:50:02.57 ID:Id/ENdNh0
ドーン!!! ぱらぱら……

  ドーン!! ドーン!!!



妹「あ……」

兄「花火綺麗だよな~」

妹「ええ、今日は」

兄「隅田川の日、だもんな。こればっかりは

 圧巻だよな~」

妹「すごいです……」

兄「腹に響くよな! 生花火はさぁ、これが風情だよ!」



妹「はい……」

兄「ほら、アイス」

妹「ありがとうございます」

兄「うっわ、ガリガリ君うめぇぇー。いかすーっ」

妹(兄さん、花火の事知ってて……?)



兄「うっは、ナにこれ、ソーダ味って神過ぎる。

 黒歴史を超える封印された必殺技並みに美味い。

 例えて云うならばディーヴァダッタが空中浮遊するくらい」

妹「兄さん、あの」(お礼を……)



兄「あ、ヤバイ。こめかみにキーンってきたぁ。

 Oh!! 頭痛いっ。マジでいたい。ギブギブっ」

妹「……」

兄「た、助けて妹~」

妹「とりあえず、ハンカチで涙拭いてください」





34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:51:36.24 ID:Id/ENdNh0
妹「兄さん、兄さん」ゆさゆさ

兄「ん、むぅ……」

妹「起きてください」

兄「もうちょっと……」

妹「もうちょっとって」

兄「ケマサクさん先に起こして……」

妹「ケマサクさんって誰ですか?」



兄「ケニア在住の気の良いヲタク……」

妹「兄さんっ! ふざけないでください」ゆさゆさ

兄「ケマサクさんが寝てるからもう少し寝る……」

妹「どんな関係があるんですかっ!」



兄「むぅ……。妹が俺を弾圧する。ケマサクさんは

 寝てるのに……。これが人種差別か……。

 弾圧には屈しないぞ……」

妹「……カボチャのクリームスープを抜きますよ」

兄 がばっ!!

妹「やっぱりメニューが減るのはいやそうですね」

兄「起きます! っていうかむしろ起きてました!」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:53:33.04 ID:Id/ENdNh0
とはいえ、この辺から再編集/新録だったりします。



――吹奏楽部部室



妹友「ぅぁー。疲れる~」

妹「お疲れさまです」

妹友「なにやってるの?」

妹「ん。メール。兄さん宛です」



妹友「お兄さんいるんだ。うちは弟だよ!

 仲、良いんだね~」

妹「そうでしょうか? 普通だと思います」



妹友「うちの弟とはめったにメールなんてしないよ?」

妹「わたしが夕食当番なんです。

 でも、今日は遅れちゃうから」

妹友「そか。連絡だ。そうしたらお兄さんが作ってくれるの?」

妹「いえ、兄は料理ダメなひとなので」



妹友「うちもだよー。男は馬鹿だよねー」

妹「馬鹿ですね」

妹友「声おおきいしねー」

妹「大きいですね」

妹友「そしてスペースをふさぐ」

妹「ええ。本当に。視界をさえぎります」


36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:54:16.64 ID:Id/ENdNh0
妹友「うちのも、もう中学生だけど子供でさぁ」

妹「兄さんは大学生ですけど」

妹友「日曜朝に特撮番組とか見ちゃってるわけよ」

妹(兄さんなんか大学生だけど見てます……)



妹友「お子ちゃま過ぎて見てらんないわけ」

妹「はい……。ほんと」



妹友「で、むたくた食うわけ」

妹「ええ、本当に。ぺろりですね」

妹友「だから大きくなるんだけどね。

 妹ちゃんが食事作ってるの?」

妹「ええ、大体そうです。朝ごはんと晩御飯は。

 お弁当はたまーに、です」



妹友「すごいね! 偉いね! お兄さんは食べるだけなんだ」

妹「ええ、そうなんですよ。

 何を作っても、むしゃむしゃーってすごい勢いで」

妹友「怪獣だね」

妹「怪獣っぽいです」



妹友「んー。ふふふ」

妹「なんでしょう?」

妹友「妹ちゃん、にこにこしてるねっ」

妹「そ、そんなことはありません。普通ですよ」

妹友「なんかあれだー。女の幸せ? みたいなっ」

妹「そんなんじゃありませんっ」



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:55:36.31 ID:Id/ENdNh0
――21:30



妹「うーん。やっぱり遅くなってしまいました。

 兄さんには言ってあるので

 夕ご飯は何か食べててくれるかと思いますが」



 がちゃり



妹「ただいまです」

兄「おお、お帰り妹よ! お疲れ様だ」

妹「兄さんもいつも元気で、はぁ」

兄「大変そうだな。コンクールの練習って。

 麦茶だぞ、妹よ」

妹「大丈夫ですよ、兄さん。晩御飯食べました?」

兄「おう、問題ないぞ」

妹「なに食べたのですか? ピザでもとりましたか?」



兄「いや、ご飯を炊いて」

妹「わ。ちゃんと作ったんですね」

兄「白米に鰹節とマヨネーズと醤油をかけて食べた」

妹「……兄さん」

兄「いや、 これはこれで美味いんだぞ。

 男料理の真髄なんだってば。いやまじで。Bグル板見ろ」

妹「兄さん」

兄「でも、やっぱ妹が作ったほうが美味しいぞ。

 それに、妹がいたほうが幸せだな」



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:56:43.56 ID:Id/ENdNh0
妹「仕方ないですね」

兄「気を使わなくて良いぞ」

妹「ニコニコしながら座ってて説得力がありません」

兄「いい匂いだし」

妹「晩御飯食べたんだから、軽いものですよ」



兄「何作ってくれるんだ?」

妹「トマトグラタンです」

兄「美味そうだっ!」



妹「はい、どうぞ」

兄「しかも早いっ!」

妹「重ねこんで焼くだけですからね」



兄「いっただっきまーっちチチチアチっ!!」

妹「当たり前でしょう、兄さん」

兄「あふ、これあふすぎですよ、じょうかんどの」

妹「はい麦茶です」

兄「あふ、さんきゅ、いもうと……きがきく」

妹「熱いなら時間をおいて食べれば良いですのに」

兄「だって熱い方が美味しいし」

妹(ほんと馬鹿な兄さんだなぁ)



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:57:50.61 ID:Id/ENdNh0
兄「いやー。食ったね!」

妹「お粗末様です」

兄「美味かったー。ホワイトソースとトマトの

 酸味がめたくたんマいですよ、あれは」



妹「兄さんは大げさです」

兄「そんなことは無いだろうー。食は人間の生活の

 基本だぞ。美味しいと感じるのは幸せの基本だ」

妹「それは、そういうところもありますけれど」



兄「村上春樹は云ってるぞ。

 男が機嫌が悪いときは八割がた腹が減ってるから

 食わせれば機嫌が直る、って」

妹「食糧補給係みたいで微妙な気分になる言葉ですね」

兄「そうかなぁ」

妹「そうですよ」



兄「食い物をくれる人になつくのは生物として自然だ」

妹「!?」

妹(え、っと。そ、それは兄さんが私に、

 その……懐い……て?)

兄「餌付けってそんなもんだろ」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:58:35.94 ID:Id/ENdNh0
妹「兄さん!」

兄「どうした?」

妹「餌付けって、そういう……。どーぶつのような」

兄「??」

妹「私はそういう意図で食事を作ってるのでは」

兄「気にするな!」



妹「?」

兄「こっちが勝手に懐いているのだ」

妹「っ!」

兄「懐くと進化するぞ!」

妹「ポケモンですか、兄さん」



兄「いつもありがとう、ってこと」

妹「別に。……たいしたことはしてません。

 これはデザートのコンポートです」



兄「ンマーい! ぐは、なんだこれ。

 ちょっと感動するぞ、林檎とシナモンがっ!」

妹(食べてるときは、卑怯にも可愛いんですよね

 兄さんはまったく困った人です)


42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 11:59:53.58 ID:Id/ENdNh0
――サンドイッチ専門店のカフェテラス



女友「悪かったねー。荷物持ちさせちゃってさ」

兄「いや気にするな」

女友「わたしもあんなにあるとは思わなくてさっ」

兄「俺だって思わなかった。

 教授の手伝いとかするもんじゃないな」



女友「うははは。ここは私の奢りだからさっ」

兄「ごちそうになるぞ。……でも良いのか?

 ここ、結構高そうだぞ」

女友「チケットもらったんだ。母さんから。

 んじゃ、サンドイッチもって来るねー」

兄「おう」



 わたわた

  わたわた、とってってっ



兄「あいつ、なんか動きがぎこちないな。

 危なっかしいことこの上ないぞ。

 ……脚に来るほど疲れてるのか?」



女友「お待ちどうさまっ!」

兄「なんか一杯だな」


 
45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:01:03.10 ID:Id/ENdNh0
女友「その通り。色々もらってきたのだ」

兄「バイキングになると目の色変わるな」

女友「任せてっ」

兄「んじゃ食べよう」

女友「頂きます」

兄「頂きます」



――もぐもぐ



女友「男くんはさ」

兄「?」

女友「『いただきます』とか『ごちそうさま』が

 キチンとしてる人だよね」

兄「そうかな」

女友「そうだよ。背筋も伸びているしさ」

兄「うーん。やっぱり、そのへんはさ。礼儀というか

 感謝の気持ちだろう」

女友「お祖母ちゃん子みたいな、男くん」

兄「妹がお祖母ちゃんみたいなんだよ」

女友「えー!? 可愛いのに」

兄「中身は厳しいんだ」

女友「そうなんだー」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:01:52.25 ID:Id/ENdNh0
兄「これ、うまいな」

女友「どれどれ?」

兄「これ。アボカドとシュリンプだな」

女友「へー。お洒落だね」

兄「定番の組み合わせだけど、

 ここのは味付けが重くなくていいな」

女友「重いって?」



兄「マヨネーズで和えるから、

 味付けが重くなることがあるんだよ」

女友「ほほう。詳しいね!」

兄「普通だよ」

女友「ぐっ。私は判らなかった」

兄「別にかまわないだろう。

 美味しく食べられればそれで十分だ」

女友「むー」



兄「重くなりすぎるのを避けるために柑橘類、

 例えばレモン汁なんかをたらすことも多いのだけど

 ここは隠し味で山葵を入れてあるんだな」

女友「あーっ。本当だ。云われてみれば判るっ!」


 

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:05:04.30 ID:Id/ENdNh0
兄「涼しい味な。腹が減る味っていうかさ」

女友「また判んなかった……。あたし、女失格」

兄「もぐもぐ」



女友「男くん、料理とか出来る人なんだね」

兄「普通だって」

女友「私、あんまり出来ないよ。へこんじゃうなぁ

 カレーとかお味噌汁とか食らいは作れるけど。

 こういう可愛い料理ってどうやって作るのかなぁ」

兄「良いんだって。美味しいのは判るんだろう?」

女友「うん……。そりゃね」



兄「目の前に出てきたものを、感謝しながら

 美味しいねって食べられればそれが一番いいんだよ」

女友「そういうもんかなぁ」

兄「そういうもんだよ」


 

56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:12:52.54 ID:Id/ENdNh0
女友「むー」

兄「しかめっつらすると、ご飯が美味しく無いぞ」

女友「え?」

兄「笑ってた方が良いぞ。そのほうが美味しいし、

 もてるようになるだろう」

女友「もて、る。かな……」

兄「ああ」

女友「う。うへへ……」にこっー

兄「それで良いと思うぞ。ん」

女友「あ。飲み物無いね。わたしもってくるよっ」



兄「俺が行く」

女友「どうしてー? 給仕くらいさせないさいよー」

兄「珍しくパンプスだろう? 足元、危ない。

 せっかく女らしい服着てるんだから

 ひっくり返して汚しちゃうリスクは避けておこうぜ」

女友「あっ。……うん。お願い、します」

兄「行って来る」



女友「――気がついてくれちゃうんだよね。

 そういうとこだけはさぁ」


57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:16:55.40 ID:Id/ENdNh0
妹「さて。今日の課題は

 『献立バリエーションNo.8』です」



妹「夏の食材といえば、キノコ、サツマイモですね。

 カボチャ、銀杏、桃、プラム。魚介で云えば、

 戻りカツオに、手長エビ、ムール貝」



妹「お兄ちゃん評価でいいますと。

 戻りカツオは☆5つですね。あと桃も大好き。

 きのことサツマイモも大好きで、カボチャは

 神の食い物、だそうです」



妹「……全部好きってことじゃないですか。

 ほんとうに役に立たない兄ですね」



妹「仕方ないから勝手に美味しいレシピを

 作るしかないですね。まずはカツオのバリエーション

 から考えますか。土佐造りは基本として……」



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:19:38.77 ID:Id/ENdNh0
兄「いぇあ! ぎゅいーん!!」

妹「兄さん」

兄「美味い。美味すぎる。夏の終わりの戻り鰹。

 帰ってきたスイートハーッツ! ニンニクの

 香りも鮮やかにっ」



妹「静かに食べなさい」

兄「あい」



妹「もぐもぐ」

兄「もぐもぐ、ぐはっ。んまー。うまうま」

妹「もぐもぐ」

兄「おかわりー!」

妹「はい、どうぞ」

兄「うーっまーっいーっ」

妹「……」

兄「ごちそうさまっ!!」

妹「おそまつさまです」



兄「麦茶でまったり。今日も最高の食事ですたい」

妹「左門豊作ですか」

兄「よかたい、よかたい。おいは満足たい」

妹「つかぬ事をお聞きするのですが」

兄「なんでも聞いてほしいたい!」

妹「付き合ってた彼女というのは」

兄「え」



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:21:25.29 ID:Id/ENdNh0
妹「どのようなお付き合いだったのでしょうか」

兄「あー」

妹「いわゆる彼女だったのですよね?」

兄「うん」



妹「兄さんは妹の私から見て、

 多少ですが子供っぽいように見受けられます」

兄「あー。うん」



妹「妹は、兄さんが世間にご迷惑をかけないか

 とても心配です。その方とはちゃんと

 お付き合いできてたんですか?」

兄「う。多分」



妹「多分、ですか。大学生ともなれば、

 小洒落たイタリアン等で食事をして、

 プールバーとやらにも行くと聞いています。

 うちは極端に外食が少ないですが、

 そのへんちゃんとエスコート出来てたんですか」

兄「う、うん」



妹「そこらの公園の芝生で一日日向ぼっことか、

 国会図書館で十五時間読書とか、

 そういうデートコースを立てたりはしていませんよね?」



兄「はい」がくぶる



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:23:16.11 ID:Id/ENdNh0
妹「本当ですか?」

兄「んー。妹よー」

妹「はい」

兄「信用なさ過ぎだな、俺。完璧だった、とは

 いわないけれど、何でそんなに信用が無いんだ、俺」

妹「だって振られたではないですか」

兄「は?」



妹「振られたのでしょう? 今は彼女がいないと

 云っていたではないですか。

 きっと兄さんがふがいないので振られたんだと

 思うのですが」

兄「……」



妹「兄さん。兄さんは確かに子供っぽくてお馬鹿で

 類例を見ないくらい食い意地がはっていますが

 優しいしまめだし良いところが沢山あると

 私は思っています」



兄「ぁー」

妹「振られてはしまいましたが、まだチャンスは

 何回もあります。ですから女心をおさえたエスコート

 位は身につけないとダメですよ」



兄「なんか涙出てきた」



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:24:10.00 ID:Id/ENdNh0
妹「もう……。兄さんも打たれ弱いですね」

兄「サンドバッグに浮かんで消える

 憎い力石あんちくしょうな気分だよ」

妹「ヤムチャ並みに弱いです」

兄「ぐさっ。余計に胸が痛む」



 かちゃり



兄「これは!?」

妹「新作『桃のシブースド 和風アレンジ』です」

兄「!?」

妹「自信作です」

兄「食べて良いのか? 妹よ!?」



妹「どうぞ」

兄「美味い! なんっていうか、涼しげで、

 きめが細かい絹みたいな甘さっ」にこーっ

 

妹(本当に単純ですね。兄さんは。

 もうあんなににこにこして)



兄「美味いな、これは殿堂入りだな」

妹「また作りますからね」

兄「嬉しいぞ、妹よ! 妹の彼氏も果報者だな」

妹「え?」





62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:26:53.00 ID:Id/ENdNh0
妹「何を云ってるんですか?」

兄「え? だって妹も高校に入ったわけだし。

 そろそろ彼氏とかそういう話が出てもおかしくないだろう?」

妹「あ、はい」

兄「別に今は彼氏がいなくても、そのうち出きるんだろうし」



妹「別に、そういうのはいいんです」

兄「そうか? 彼氏が出来たらいろいろ

 遊びに連れて行ってもらえたりするぞ?」

妹「別に遊び歩きには興味が無いですし。

 もしそんなことがあったら、何気ないお話をしたり

 それに料理を」



兄「料理?」

妹(料理を作って、食べさせて、あげたり……)

兄「どうした?」



妹(料理を作って、食べさせて、あげたり……)

兄「おーい」



妹(料理を作って、食べさせて、あげたり……)

兄「妹、どうしたんだー? 帰ってこーい」



妹「と、とにかく。私はそういうのは良いんですっ

 今は他にも大事なことがあるんですっ」

兄「そうなのか。変なやつだなぁ」

妹「ううう。兄さんにそんなことを言われるとは」



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:28:57.55 ID:Id/ENdNh0
――台所



妹「このタイミングで、ショウガの絞り汁を入れます」

妹友「ほむほむ。欠片も入れるの?」



妹「欠片は好みで。かじっちゃうと辛いので

 敬遠する人もいます。風情を楽しみたい人もいます」

妹友「ふーん。難しいね」



妹「そうでもないです。食べてほしい人に

 素直に聞けば良いです」

妹友「ふぅーん。妹ちゃんは本当に料理上手だね!」

妹「……ありがとうございます。でも普通ですよ」

妹友「誰に食べてもらってるの?」

妹「家族です。……兄さんとか」



妹友「お兄さんかぁ。云ってたもんね」

妹「ええ、馬鹿ですけど。大きな子供です」

妹友「妹ちゃんクールだなぁ」

妹「世話が焼けるんです」



ガチャ



兄「たっだいまぁ~」



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:31:20.48 ID:Id/ENdNh0
妹「!」

妹友「あ。お兄さんかな」

妹「あ、あの。友さん!」

妹友「なに? 妹ちゃん」



妹「うちの兄は相当に天然の馬鹿ですけど、

 別に悪気のある馬鹿じゃないんで出来れば

 嫌わないでやってください」



妹友「あはははは。大丈夫大丈夫!

 うちにも弟いるもん。同じだよね~。

 男子はがさつで馬鹿だもん。

 ゲームと●●●なことしか興味ないしねー♪」

妹(いや、この場合「嫌わないで」というよりは

 「引かないで」というような意味なんですが……)



トン、トン、トン カチャ



兄「ただいま。お客様?」

妹「兄さん」

妹友「はい。妹ちゃんの友達の妹友です!

 お邪魔しています、お兄さん」

妹「あの、料理の勉強を」

妹友「教わってましたぁ!」

兄「ゆっくりしていってね。俺は自室に戻ってるから

 妹、なにかあったら呼んでな」



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:37:03.36 ID:Id/ENdNh0
妹友「妹ちゃんっ!」

妹「何でしょう?」

妹友「お兄さん格好いいじゃないっ」

妹「へ?」



妹友「格好良いよ。白シャツきりっとしてて!

 理系っぽいし!」

妹「理系……ですか?」

妹友「頭よさそうだよぅ、大人っぽいよぅ」

妹「……」

妹友「うわぁ~ん。うちのアホ弟ととっかえたいよぅ」

妹「……」

妹友「全然馬鹿じゃないよぅ。優しくて紳士だよぅ」

妹「……」

妹友「『ゆっくりしていってね』ニコッ」

妹「……」



妹友「神様のえこひいきだよ。金メダルの数が

 不自然だよぅ!」

妹「……」



妹友「断然かっこう良いじゃん!

 妹ちゃんは予防線張ってましたね! ズバリ」



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:38:38.74 ID:Id/ENdNh0
妹「予防線?」

妹友「お兄ちゃんが取られないようにだよー」



妹「そんなことは無いです。兄はずぼらでいい加減で

 変な踊りを踊りながら食事の喜びを表すような

 お馬鹿ですよ。いつも欠食児童みたいに

 おなかをすかせてるし」

妹友「小食よりは良いじゃない」

妹「それは……。そうですが」



妹友「食事作っても好き嫌いばっかりの

 男っていやなものだよ」

妹「……」

妹友「いいなぁ、あんな優しそうなお兄さんなら

 勉強とか教わったり、買い物一緒に行ったり

 デートしちゃったりするんだけどなぁ」



妹(洗濯物の仕分けで叱ったり、醤油を買いに行かせたり

 犬まる先生の散歩当番をやってもらったり、

 一緒に時代劇を見たりはするんですが……)



妹友「一緒にプール行っちゃったりっ!」

妹(水風呂入りたいってごねて、

 後でお風呂掃除するのは私でした)



妹友「私はうらやましいっ!!」

妹「夢を見すぎです」



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:40:41.99 ID:Id/ENdNh0
兄「あれ、お客さん帰ったの?」

妹「はい。彼女も家でご飯を作るそうです」

兄「そっか。だばだばだば♪ だばだばだばだ~♪」

妹(また変な踊りを)



兄「ところで我が家のご飯は何なのだ?」

妹「今日はさきほどの都合もあって、サバの味噌煮です」

兄「サバの味噌煮!」

妹「それと大根のサラダとナスの味噌汁です」

兄「サラダ! 味噌汁!!」

妹「気分に合わないですか?」

兄「あいまくりっ。早く食べよう」

妹「おなかが減ってたのですね」



兄「うん、具体的な品名を聞くと余計に減ってきた」

妹「では用意しますから、テーブルで待っててください」

兄「いぇーいブラボー! セットアップハリー!」



妹(友さん。こんなのが良いんですか?

 本当にただの大きな子供だと思うんですが)



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:42:56.63 ID:Id/ENdNh0
――日曜日



妹「兄さん、出かけますよ」

兄「いってらっしゃーい、むにゃ」

妹「兄さんもですよ」

兄「なんでー。俺はパジャマ貴族ですよ。

 睡眠は無二の友達、安息の天使……」

妹「……」

兄「この布団はわが砦、難攻不落ですよ。

 もげははは……ZZzzzz」



妹「……カップラーメン」

兄「?」

妹「塩おにぎり、具なしサンドイッチ」

兄「??」

妹「三食そうめん。肉ぬき薄カレー」

兄「な、なに? その寂しい食生活」



妹「白米、ふりかけ、水」

兄「ううう。いやだー! そんな貧しい食体験は

 いーやーだー!!」



妹「では買出しです。兄さん」



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:44:14.85 ID:Id/ENdNh0
兄「で、こうなる、と?」

妹「そうです」

兄「ドコなんだ、ここは」

妹「ショッピングモールです」

兄「ずいぶん小洒落たところだなぁ」

妹「最近出来たらしいです。

 多目的ショッピングセンターですから、大きいですよ」



兄「おおっと。すいません。ごめんね。

 ――結構混んでるな」

妹「日曜ですからね」

兄「で、どこにいくんだ? マイシスター

 ここまできたら荷物持ちらしく荷物を運ぶぜ」

妹「私も初めてですからね。案内図を見ましょう」



兄「えらくでかいなぁ。

 プールやアスレチッククラブまであるのかよ」

妹「ええ。この区画はエンタメゾーンですね。

 映画館もあります。スクリーン二枚ですね」

兄「ふぅん。何やってるんだ?

 『大作戦姉3』か。相当に頭の悪いタイトルだな」

妹「では映画は避けましょう」

兄「?」

妹「雑貨屋に行きましょう、兄さん」

兄「あ、ああ」



80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:46:42.06 ID:Id/ENdNh0
妹(じー)

兄「なんだ、妹よ。にらんだりして」

妹「いえ」

兄「腹でも減ったのか? 空腹か?

 なんか奢ってやろうか?」

妹「兄さんが減ってるだけではないですか」

兄「!? お前、ココロを読んだなっ」

妹「そんな事すぐ判ります」

兄「むぅ」



妹「あそこにベーグル屋さんがあります」

兄「検索屋に用は無い」

妹「それはグーグルです。

 ベーグルはヨーロッパで食べられるパンの一種です。

 サンドイッチに使ったりします」

兄「ふむ。んで、美味いのか? それは」

妹「目がきらきらしてますね」

兄「美味いのか? 美味しいのか?」



妹「ええ、今日の目的の一つです。

 あそこでベーグルを買って研究したいのです。

 持ち帰りもしますが、イートインも出来るみたいですね」

兄「ほほう。んでは、試みに食べてみよう」


82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:48:33.55 ID:Id/ENdNh0
兄「もぐもぐもぐ」

妹「もきゅ」

兄「もぐもぐもぐ」

妹「もきゅ、もきゅ」



兄「……これは、なんというか、新食感。

 パンだと思っていると意表を突かれるな」

妹「ええ、面白いですね。中身のきめ細かさと表面の香ばしさが」



兄「セサミ入りの美味いぞぅ。そっちはほうれん草か?」

妹「緑の生地ですね」

兄「……(じー)」

妹「はい。ひとくちですよ?」

兄「もぐっ!」(にこーっ



妹「はぁ……。兄さんは食べてるときは幸せそうですね」

兄「そんなことは無いぞ。妹の作ったものが

 一番美味しくて幸せだ。何でも良いわけじゃない」



妹(……格好いい事いってるんだけど、

 やっぱり大きな小学生だなぁ。

 友さん、どこが大人っぽくて知的なんでしょうか?)


 

85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:52:38.39 ID:Id/ENdNh0
兄「で、雑貨屋か」

妹「ええ、しばらく検討します。申し訳ないですが」

兄「ああ、気にするな。ぶらぶらしてる」

妹「助かります」



……。

…………。



妹「ん。んぅ」

兄「どうした?」

妹「いえ、その」

兄「バレッタか?」

妹「ええ、髪も伸びてきましたし。髪留めを、と」

兄「何をうなってるんだ? おなか冷えたのか?」

妹「兄さんじゃありませんっ。ただ……。

 どちらにしようかと悩んでいただけです」



兄「ふーむ」

妹「男性には退屈だと思います」

兄「そうか。……でもさ」

妹「?」

兄「アクセサリ屋もたくさんあるだろう?

 なんで雑貨屋なんだ?」



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:54:09.31 ID:Id/ENdNh0
妹「こういう場所のアクセサリ屋さんは

 私にはちょっと華美過ぎます。

 輸入雑貨屋さんくらいのが地味な私には丁度いいんです」



兄「そういうものか?」

妹「です」

(それに、女の子風味が強すぎる店は兄さん本当に退屈でしょうし)

兄「そういうものなんだなぁ」



妹「あっ!」

兄「どうした?」

妹「髪に絡めてしまいました。

 あ、だめです。引っ張っちゃダメですよ」

兄「珍しいな、こんな不器用」

妹「不覚を取りました」



兄「じっとしててな。とってやるから」

妹「は、はい」

兄「……」

妹「……」

兄「……」

妹(兄さんの胸におでこをくっつけて)

兄「……」

妹(友さんに見られたら困る……のかな?)

兄「……」

妹(友さん以外にもそう見えるのでしょうか。

 ……そう見られちゃってますよね!?)

兄「……」

妹(顔、赤くなっていませんように)



89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:56:35.84 ID:Id/ENdNh0
兄「取れたぞ」

妹「ありがとうございます。

 じゃぁ、これを買ってしまいましょう。

 もうちょっと待っててください、会計をしてきます」

兄「ああ、ちょっと待て。ジャスタモーメント!」

妹「またいんちき外国語を」

兄「俺自身が討って出る」

妹「兄さんノリノリですね」



兄「これ。これも買おうぜ。これ似合うから」

妹「それは……。楓材ですよ。ちょっと高いです」

兄「似合うから良いのだ。おーい、店員さーん」

妹「ちょっ」

兄「ばっははーい」

妹「私を置いていってどうします」



兄「ほらよ」

妹「ありがとうございます」

兄「今晩はハンバーグが良い」

妹「なぜか屈辱的ですね」

兄「トマトソースのやつが良い。オリーブ乗ってるの」

妹「やけに具体的で高度な要求を」

兄「ふははは。贈賄の力、ここに極まれりっ」



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 12:58:28.24 ID:Id/ENdNh0
妹「仕方ないですね」

兄「おお! 要求が通ったぞ! 勝訴!!」

妹「くっ。今晩はハンバーグにします」



兄「ハンバーグだよ! ハンバーグっ!」

妹「うーん、玉ねぎとパンはあったので、

 ひき肉と、牛乳と……」

兄「これとこれだなっ!」



妹「ああ、違います。合びきで作るんですよ」

兄「逢引? デートか? らぶらぶか?」

妹「なっ。――馬鹿を言わないでください。

 混合ひき肉のことですっ」

兄「うう。ぶたなくても良いだろうに。

 へっへーん。横暴シスターめー。打撃系ストライカーめ」

妹「兄さんがふざけたことばかり言うからですっ」



兄「ベーコンで巻こうぜー」ひょいっ

妹「もう、勝手なことを。一応プランがあるのにっ」



どんっ



兄「おっとっと。兄妹かな、ちっさいなー」

妹「走っちゃ危ないですよー」


91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 13:00:31.72 ID:Id/ENdNh0
ちび男「これかってー!」

ちび女「これかってー♪」

ちび男「あんぱんまんはんばーぐ」

ちび女「どきんちゃんはんばーぐー♪」



ちび男「たべたい、たべたいー!」

ちび女「これがいー!」

母「こんなのがいいの? ちゃんと作るわよ?」

ちび男「おっきいの?」

ちび女「でみすらくそーすついてる?」



母「失礼ね。インスタントなんかより

 母のほうがずっと上手ですよ」

ちび男「なら、そっちー」にこーっ

ちび女「いっしょにつくるー♪」にこーっ



――。



兄「なんだ、にこにこして」

妹「兄さんみたいだなぁ、って」

兄「俺はあんな欠食児童じゃないぞ!?」

妹「兄さんは、それでいいんですよ。

 さ、帰りますよー」にこ

兄「急に機嫌直ったのか? 不可思議なやつだなぁ」



92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 13:04:38.81 ID:Id/ENdNh0
よし。

猿回避のためにご飯食べてくる。90分以内に帰る。

今回はちゃんと続けるぞ!

Dionが規制されなきゃだけど……。


119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 15:11:20.55 ID:Id/ENdNh0
 めるめるめる。めるめるめる。



兄「妹か」



妹『本日の夕食はキスと茄子の天ぷら、ほうれん草の

 おひたし、じゃこ豆腐サラダ、わかめのお味噌汁。

 以上の予定です』



兄「うっわ、美味そうだぞ、おいおい。

 JoJoに勝った時のDIOみたいな気分になってきたぞ」



妹『リクエストはありますか? 帰宅は何時ごろですか?』



兄「むぅ。……追加piは、特になしpi。帰宅は、すぐ帰る

 ハラヘッタ。課題は全・放・置☆」



妹『追伸。勉強と作業は全部終らせてこないと

 ご飯は一切作りません』



兄「くそっ。見透かしてやがる。あいつはエスパー伊藤かよ。

 ……ごめんなさいpi、いまのはpi、嘘だぴょん、っと」



兄「しゃぁねぇな。真面目にやって帰るか。

 どっかでプリンでもお土産に買っていくか」


123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 15:15:43.16 ID:Id/ENdNh0
――帰宅途中、スーパー



兄「土産を入手しなければ俺の夕飯が危ない。

 ここでのミッションは妹の機嫌を取るべく

 プリンを入手することにある。

 諸君らの健闘を期待する。らじゃー。隊長っ」



 ぶらぶら



兄「流石にこの時間は混んでるな」

妹友「あっ」

兄「……プリンは、あっちかな」

妹友「お兄さん、お兄さ~ん」

兄「ん? ああ。妹の」

妹友「はいっ。妹友ですっ」

兄「お買い物?」

妹友「そうですっつ。今日は私がご飯を作るんですよ」

兄「偉いね」

妹友「えへへへ~。あの、妹ちゃんは?」

兄「今は家だよ」

妹友「そっかぁ。今日もご飯作ってるのかな?」

兄「うん、そのはず」



125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 15:18:21.20 ID:Id/ENdNh0
妹友「すごいなぁ。妹ちゃんは。料理上手ですよね」

兄「いつも感謝だよ」

妹友「わたしも、今日のは妹ちゃんに教わりましたっ」

兄「んっと。さばの味噌煮だね。つけあわせは竹の子?」



妹友「うわ、すごい。すぐ判るんですね」

兄「妹が作ってくれるからね。でも渋い趣味だ」

妹友「笑わないで下さいよ~。もうっ」

兄「笑ってなんか無いよ?」

妹友「目が笑ってますっ。

 これは、父に作ってあげるからなんです」

兄「ああ、うん」

妹友「これなら父も喜んでくれるかなーって。

 妹ちゃんは『絶対です』っていってくれたけど」

兄「そっか」



妹友「喜んでくれるかなぁ」

兄「うん。お父さん、東北の方なんでしょ?」

妹友「うん、ですけど。なんで?」

兄「材料、レシピ通りでしょ?

 わざわざ辛口の赤味噌買ってるってことは

 そうなんだろうな、って」



妹友「あ、あーっ!」

兄「ね?」

妹友「そうだったんだぁ。気がつかなかったぁ」

兄「だから、きっと喜んでくれるよ」



127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 15:23:47.03 ID:Id/ENdNh0
妹友「ありがとうございますっ。

 材料選び付き合ってもらっちゃってっ!」

兄「こちらこそ。美味しいプリン教えてもらったからね」

妹友「妹ちゃんはそこのメーカー好きなんですよっ」

兄「ほう。覚えておくよ」



妹友「なんか、いいなっ」

兄「ん?」

妹友「お兄さんがいるのって、良いですよねっ。

 うちは弟なんですが、憧れますっ」

兄「うーん。そうかな」

妹友「そうですよ! 絶対お兄さんですよっ。

 そ、その

 格好いいしっ(赤面)」

兄「そんなこと無いよ?」



妹友「お兄さん、妹ちゃんと

 あの、その……。じゃなくて、いわゆる、ほら

 大学に……」

兄「?」



128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 15:24:44.49 ID:Id/ENdNh0
妹友「えっと、べつに。あれかなーって」



 わたわた



妹友「別に深い意味は無いんですけれど、

 なんとなく好奇心のアレの質問っていうか、

 お兄さんは、彼女さんとかそういう」



兄「はい。妹友ちゃん」

妹友「ひょぇ?」

兄「チョコミント。そこのアイス屋さんの」

妹友「あ、あの」

兄「ん?」

妹友「ありがとうございます」

兄「まだまだ暑いよね」



妹友(妹ちゃん。お兄さんぜんっぜん馬鹿じゃないよぅ。

 うちの弟ととっかえてよ、こんなのっ!!!)



兄「?」

妹友「え、いやっ! 美味しいです! これっ!!」

兄「う、うん。溶けてこぼれちゃうよ?」

妹友「速攻で食べますっ」



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 15:30:42.59 ID:Id/ENdNh0
――リビング



兄「だばだば、だばだば♪」

妹「お帰りなさい、兄さん」

兄「びろんびろ~ん♪」

妹「……」

兄「だばだば♪ バッシャー・アクアトルネードっ」

妹「……」



兄「ただいま帰宅~」

妹「おかえりなさい」

兄「今日も暑かったぞー。オナカスイタ マルカジリ」

妹(相変わらず兄さんは子供のようです)



妹「判ってますよ。お風呂でもどうですか?」

兄「でもハラヘッタ」

妹「いや先にお風呂でも」

兄「ハラヘッタ」

妹「それは判りましたが」

兄「ハラヘッタ。ヴー」

妹「子供を越えてドーブツですかっ!!」

兄「しかしー」



妹「本日は天ぷらです。揚げたてを供しますから

 兄さんはお風呂へどうぞ。タイミングを合わせて

 出せるように準備が要るのです」

兄「了解だ! エスパー伊藤っ!」

妹「だれがですっ!!」



132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 15:34:14.70 ID:Id/ENdNh0
兄「風呂から上がったどー!」

妹「おかえりなさい。さっぱりしたでしょ?」

兄「応。さっぱりだぜ。そのうえ食欲180%っ」

妹「いま出来ますよ」

兄「麦茶もらうぞ~。もっきゅもっきゅもっきゅ。うめぇ!」



妹「……♪」

兄「忙しそうだな」

妹「天ぷらは速度と手際です」

兄「そか」



妹「はい、そこの天つゆを作るっ!」

兄「あいあいさーっ」

妹「生姜を下ろしてください。用意してあります」

兄「忘れてたのか? らしくないな」

妹「直前におろすのが香りがよいのです」

兄「うう、厳しい」



妹「出来ました。運んでくださいっ」

兄「なんかスパルタ!?」

妹「ぐずぐずしないっ!」

兄「はい~っ」



133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 15:37:25.39 ID:Id/ENdNh0
兄「いただきますっ!」

妹「召し上がれ」



兄「もぐっ! うまっ! 熱っ! もぎゅもぎゅ」

妹「もぐ」

兄「美味い、美味いよこれっ!」

妹「いいから静かに食べてください」

兄「もぐっ、もぐっ。……んっく、うまうま」

妹「もく」

兄「うまうまうまうま!」

妹「もぐ」



兄「茄子が、中身、とろとろっす!」

妹「それが美味しいのです」

兄「まさに真実! ジャスティス! フリーダム!」

妹「よく判りません」

兄「美味すぎるって事! キス天ぷら幸せ!」

妹「はい」



兄「妹よっ」だむん

妹「なんですか。いきなり」

兄「感動した!」

妹「大げさな」

兄「天ぷらは手際が命だと悟った!」

妹「はいはい。兄さんは素直なところが良い子です」





145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 16:15:24.81 ID:Id/ENdNh0
書けるかな。

猿食らった! 初めて食らった!

美味しくなかった。

びっくりしたよ。

書けてたら、ゆっくり再開する。


146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 16:18:33.22 ID:Id/ENdNh0
兄「うむー。食った食ったー」

妹「おなか一杯ですか?」

兄「余は満足じゃ」

妹「ご馳走様でした」

兄「ご馳走様でした」



妹「では、流してきます」

兄「俺もやるぞー」

妹「ゆっくりしてて良いですよ」

兄「うんにゃ、やる」



妹「そうですか、じゃぁ、そっちをお願いします」

兄「ほいさー。今日の食事も美味しかったぞー」

妹「はい」

兄「ありがとうな、妹よっ」

妹「はい(じー)」



兄「ん? どうした? こないだもだけど」

妹「いえ。友人が兄さんを羨ましいと云っていて」

兄「なんだろな、それ」

妹「この間、ここで挨拶をした友ちゃんなのですが」



148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 16:22:00.06 ID:Id/ENdNh0
兄「ああ。そういえば、さっき会ったよ。

 プリン買いに行ったらスーパーで出会った。

 向うはサバを買ってたよ」

妹「そうでしたか」



兄「味噌煮つくるんだろう。なんか感謝してたぞ」

妹「たいしたことはして無いのですが。

 喜んでもらえてるなら嬉しいです」

兄「おー。食いもんは一番の功徳だぜ」



妹(じー)

兄「??」

妹「スーパーでも『だばだば~♪』とか云って

 踊ったりしてないでしょうね?」

兄「ぐっ。信用ないな」

妹「兄さん子供なんですもの」

兄「普通にしてたってのっ。っていうか

 俺はいつでもジェントル大人指定だってのっ」



妹「洗い物終ったら兄さんが買ってきた

 プリンが冷やしてありますよ」



兄「ひゃっほーぃ♪ プリンうまうま~」にこにこ

妹(ジェントル大人指定はどこにあるんでしょうか)



150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 16:27:46.87 ID:Id/ENdNh0
――兄の自室。起床。



妹「兄さん、兄さん」ゆさゆさ

兄「ん、むぅ……」

妹「起きてください」

兄「もうちょっと……」

妹「もうちょっとって」

兄「率直に言うと、もうちょっとじゃなくて、かなりだいぶ」

妹「『かなりだいぶ』とはどれくらいですか」



兄「……おおよそ8時間くらい」

妹「……」

兄「わかった、譲歩する。……7時間くらい?」

妹「……」

兄「お主もとんだ策士よのぅ。……6時間でどうじゃ」

妹「……」


151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 16:32:37.94 ID:Id/ENdNh0
かちゃり



兄「出て行ったぅ……。我が抵抗が勝利した。

 睡眠パルチザンの勝利……この運動を総括せよ……。

 むさぼれるのです、安眠を。あと5時間56分くらい……。

 むにゃむにゃ……。

 朝ご飯は何かな……。あ、寝てる間に……昼か。

 あれ。昼も過ぎて、夜? かな……

 朝、昼、抜きかな……」



兄 がばっ!!



兄「起きます! っていうかむしろ起きてました!」



154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 16:35:00.05 ID:Id/ENdNh0
兄「妹っ! 上官殿っ」

妹「おはようございます、兄さん」

兄「俺の朝食はどこだーっ!?」

妹「がっつかなくてもちゃんとありますよ」

兄「おおっ」

妹「はい。座ってくださいね」

兄「おうっ」

妹「今日の朝ごはんは丸干しとトマトのサラダと

 豆腐のお味噌汁とひじきですよ」

兄「和食だぁ。兄は和食が大好きであるぞ!」

妹「知ってます」



兄「いっただきます!」

妹「いただきます」

兄「はふはふはふはふ。ん、ま~いぃ」にこー

妹「もぐもぐ」

兄「妹、これんまいぞ!」

妹「ありがとうございます。お味噌汁お代わりしますか?」

兄「おう!」

妹「兄さん。よく食べますね」

兄「毎日おさんどんさせてすまないなっ」にこにこ

妹「いえ。かまいませんけど。料理はだめですか」

兄「うっ。不器用で

 トマトを切るのもおぼつかないぞ」

妹「世話の焼ける兄です」



158: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 16:46:48.51 ID:Id/ENdNh0
――女友の自宅。ワンルームマンション。



女友「ご、ごめんね。男くん」

兄「気にするな、寝てろ」



女友「今お茶入れますよ美味しい紅茶の粉、粉……

 あれ、粉はコーヒーだっけ? 粉体の流動性?

 コロイド破断? あれ、あれれれ」



兄「無理だ。斜めにぐらぐらしてるぞ」

女友「えへへー。やっぱり?

 私も地震すごいなーって思ってたんだ~」

兄「お前がぐらぐらしてるんだ」



女友「そんなに手抜き工事じゃないですよーだ」

兄「判ってる。風邪を引いてるんだ」

女友「けほんけほんっ。よく判ったわね」



兄「熱がある」

女友「生きている証拠なのっ」



162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 16:50:16.87 ID:Id/ENdNh0
兄「いいから布団に入れよ」

女友「はぁーい」ぷんぷん



兄「不服そうだ」

女友「楽しくないな。せっかく男くんが来てるのに」

兄「週に四日はゼミで顔あわせるだろ」

女友「家に来たのは初めてだよ」

兄「そうだっけ。そうだな」



女友「えへへへー」

兄「細い声で笑うなよ。痛々しい」



女友「いや、面目ない」

兄「素直に謝られても困る。

 これがお前のデスクから持ってきたMOで、

 こっちは資料。こっちは日程。まとめ作業は俺のほうで進める。

 説明は話しても朦朧としてそうだから、

 メールに放り込んでおく」



女友「ん。あんがと」

兄「首まで布団に入れ」

女友「はぁーい」むぅ



兄「膨れたってだめだ。

 医者は行ったのか? 薬は飲んでるのか?」

女友「お医者は面倒だよ。薬は薬局の飲んでる」


163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 16:53:41.89 ID:Id/ENdNh0
兄「これか」

女友「うん。明後日あたりまで熱が下がらなければ、

 どうにもならないから注射打ってもらいに行くよ」

兄「それがいいな」



女友「えへへー」

兄「どうした?」

女友「なんでもない」

兄「変なやつ」



女友「いやぁ。私、上京組だからさぁ」

兄「ん?」



女友「風邪引いて、ガッコ三日休むとさ、

 ほんとに丸三日誰とも話してないしさ」

兄「うん」



女友「男くんが来てくれて嬉しいわけよ」

兄「良いから寝ろよ」

女友「やだよ。やだやだ。もっと話す!」



178: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 18:01:29.48 ID:Id/ENdNh0
兄「馬鹿いうな。めまいしてるだろう、

 目が回ってる感じだ」



女友「回って無いもん。回ってるのは天井だもん」



兄「君は子供ですか」



女友「子供じゃないですよ。うら、でかいんだぞ。

 ほれほれ。ばよんばよんっ。

 あたしだって男くんの元カノに負けてないぞ~」



兄「いいから」

女友「あっ」

兄「こうして目閉じてろ」



女友「あ、ぅん。……手、おっきいねー」

兄「いいから」

女友「ん……」



兄「無理してはしゃぎすぎだよ」

女友「う……ん……」



兄「目、つむってると。眠れるからな」

兄「うん……。なんだか、あったかい……」


180: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 18:08:34.61 ID:Id/ENdNh0
――。

――――。



女友「けふんっ、けふんっ」

女友「うー。寝ちゃってたんだ。

 暑いよぅ、パジャマ気持ち悪い……。

 あれ? 男くん、いたよね? あれれ」



女友「おーい。おーぅい。

 男くーん。いませんかー? いーませんかー?」



女友「いない、か。寝ちゃったら、帰っちゃうよねぇ。

 いないっかー。うわ、いませんよ! いませんよっ」



 しーん



女友「誰か返事してもいいじゃん。

 なんだよ、寂しいなぁ。ずっこいよ、誰もいないんだもん」



 しーん



女友「くそう、そっちがそのつもりなら

 一人っきりで●●●●劇場してやるからねっ。

 ソロプレイヤーとしての技量を見せ付けてやるからねっ」



 がちゃり

兄「それはどうかと思うな」

女友「えひゃいっ!?」



181: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 18:11:11.51 ID:Id/ENdNh0
兄「おっす」

女友「お、男くん。なな、な、な、な」

兄「買いだし行ってきた」



女友「ど、ど、ど、ど」

兄「お前んち何もないんだもん」



女友「どこ、ど、どこ、こ、こ、こ」

兄「●●●●劇場から」



女友「あ、あわ、わ。あばばばばば」

兄「三日も風呂に入ってない●●●●なんか

 どうでもいいから気にするなよ」

女友「#&(”=лЩ☆!!!!」



兄「投げるなよっ。枕くらいなら、くぁ!?」

女友「ふーっふーっ」

兄「痛っ。おま、ディスクケースは反則だ」



女友「乙女の清らかな胸に何たる暴言!!」

兄「お前が云ったんじゃん」(ぼそり)



女友「うわぁぁーっ。もう学校に行けないぃぃぃ」

兄「大丈夫だ。風邪で朦朧としているからすぐ忘れるよ」

女友「私の記憶が消えても問題が解決しないよっ」

兄「そうか? 概ね解決じゃないか?」



183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 18:14:22.98 ID:Id/ENdNh0
兄「まぁそんなことは瑣末なことだ」

女友「瑣末な胸って云われた」

兄「えーっと」



女友「取るに足りない胸って云われた」

兄「胸から離れろよ」



女友「自慢の逸品なのに……」

兄「ほら、こっち向けよ」

女友「へ?」



 ひやっ



女友「ひゃっこい!」

兄「タオル、冷水で固く絞ってあるから。

 汗が気持ち悪いだろ、拭くといいぞ」



女友「うわぁ~」

兄「どした」

女友「男くん、サービスが良い!」

兄「ちゃきちゃき協力しろよ病人」

女友「ん」



兄「洗濯も回してコインランドリーで乾かしておいたぞ」

女友「うっわ。なんか恥ずかしいな」

兄「恥ずかしいアイテムは除去してある」

女友「余計恥ずかしいよっ」





185: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 18:18:27.08 ID:Id/ENdNh0
兄「台所借りるぞ」

女友「どうぞぉー」(もそもそ

兄「いまのうち、身体もふいちゃえ。

 予備のタオルはここに置くからな」



女友「うん、あんがと」(もそもそ

兄「お前、パジャマとか予備ある?」

女友「奥にしまっちゃってあるかも」



兄「洗濯にTシャツ何枚か入ってたから、

 着替えるといいと思うぞ」

女友「うん、そうする」



兄「聞き分けいいな」

女友「流石に汗で湿ってて気持ち悪かった」

兄「そっか」

女友「男くーん」

兄「なんだ?」



女友「パ  も代えたー」

兄「はいはい」

女友「お土産に持ってかないでよね」

兄「黙れ」



188: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 18:22:27.72 ID:Id/ENdNh0
女友「ぶつこと無いじゃない。私と男くんの仲なのに」

兄「友情があるから真摯な忠告として体罰したんだ」

女友「むー」



兄「馬鹿やってないで布団は入れよ。

 タオルケットも変えたんだから」



女友「はーい」のそのそ

兄「不服そうだな」

女友「男くん、ノリ悪い」

兄「女がシモネタすぎなんだ。

 そういうのはステディなやつとやれ」

女友「へいへーい。いないってもんですよ」



兄「女、身体起こせるか?」

女友「なに?」

兄「おかゆ作ったぞ」

女友「わぁ!」



兄「背中、クッションあてとけよ。食えるか?」

女友「うん、食べる食べる! ずっと何にも食べてなかった!」

兄「駄目な病人だなぁ、お前」

女友「実家暮らしにはわかんないよ」



192: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 18:31:46.21 ID:Id/ENdNh0
女友「はふ、はふ、はうはうっ」

兄「落ち着け」

女友「はぅーはふはふ。美味しい、これ、何?」



兄「茶色いのは、牛そぼろの餡だ。おかゆの定番だな。

 白かゆには邪道なんだが、女くらいの体調だと

 ただのかゆは寂しいだろう。食欲はあるみたいだし」

女友「うんうんっ。――この赤いのは?」



兄「ゆかりだよ。赤しそだね」

女友「そっか、なんか美味しい♪」

兄「ゆっくり食え。気持ち悪くなるぞ」

女友「平気、美味しいー」

兄「そか」



女友「もうちょっとある?」

兄「ああ。よそってくる」

女友「ありがとう!」

兄「いえいえ」



女友「はふ、はふ、はうっ」

兄「……」

女友「今度はとき卵だよね。これも美味しいねー」

兄「めんつゆで延ばすのがコツだ」

女友「はぅーはふはふぅー」

兄「麦茶、ここに置くぞ」


193: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 18:35:27.35 ID:Id/ENdNh0
女友「ごちそーさまでしたっ!」

兄「お粗末さまでした」



女友「美味しかった♪」

兄「ああ。冷蔵庫に、桃ゼリーとか入ってる。

 おちついたら食え」

女友「うん、重ね重ね、ありがとう」



兄「食ったから体温上がるはずだ。冷えピタはって

 布団で汗かいて、一気に治せな」

女友「うん……」



兄「どした?」

女友「男くん、料理上手だね」

兄「そうかな。普通の域は出ないだろ」

女友「手際良いよー」

兄「まぁ」

女友「?」



兄「高校くらいまでは普通に毎日作ってたからな」

女友「妹さん、小さかったからかな」

兄「あー、うん。そんなところ」

女友「?」



兄「こっそり布団から脱出しようとするな」

女友「だって気になるー!」



199: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 18:57:34.92 ID:Id/ENdNh0
兄「食器洗って、台所片付けてるだけっ」

女友「つまんない」

兄「台所洗剤が固まるほど使ってないのかよ」

女友「~♪」



兄「ごまかすくらいなら布団で寝てろよ」

女友「はぁーい」(ぷんぷん

兄「不機嫌なのか。訳判らんぞ」

女友「そんなことないよー」



兄「さてと」

女友「ふぇ?」

兄「綺麗になった。帰る」

女友「えー。もうちょっと遊んでいこうよ」

兄「俺がいると女は寝れない」

女友「そんなことないってば。もう遅いよぅ。

 終電も無いかもしれないよっ? お話してようよ」

兄「病人でしょ、君は」

女友「そだけどさ」



兄「治れば、ゼミでいくらでも会える」

女友「うん」

兄「とっとと治して。論文、詰まってるよね?」

女友「う゛。判った」

兄「んじゃな。お大事にな」



女友「うん、ありがとうね! 今度恩返しします」

兄「気遣い無用。とりあえず、寝ろ」



201: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 19:03:04.86 ID:Id/ENdNh0
――自宅。リビング。



妹「これで洗濯は終了、ですっ」



妹「まったく兄さんは誰に似たのか大きいですからね。

 シャツなんか私が二人入ってしまいそうです。

 洗濯もこれだけ大きいと壮大な感じですね」

妹「夏場はあっという間に乾いて、ありがたいです」



妹「掃除も終了です。――次は」



めるるるる。めるるる。



妹「あれ。兄さんですね。えっと……。

 今日は遅くなる。場合によっては終電を逃がすかも。

 朝には帰るので、晩御飯は楽しみすぎるけれど、

 ごめんなさい。――ですか」



妹「兄さんもやっぱりお付き合いとか、

 色々あるんでしょうね」



妹「と、なると。ご飯も量はなくて良いですね。

 鮭は明日の朝食に回して、余ったトマトは茄子と

 グラタン皿で焼いちゃいますか。

 ちょっとアラビアータっぽくしましょう。

 うん。それは美味しそうです」



205: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 19:19:55.78 ID:Id/ENdNh0
妹「もぐもぐ」



妹「もぐもぐ。ん、やはり正解です。

 鷹の爪いれると美味しいです。

 これなら兄さんは大喜びです。ね?」



 しーん



妹「っと、いないのでした」



 しーん



妹「もぐもぐ」



 しーん



妹「だいたいっ」



妹「大体、兄さんがいつも食事を

 賑やか過ぎるほど賑やかに食べているから、

 こんなときの静けさが一掃引き立つんです。

 兄さんはお子様怪獣ですからね。

 グラタン皿一つに大騒ぎで大喜びです」



妹「……むぅ」



妹「――ご馳走様でした」



206: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 19:22:59.64 ID:Id/ENdNh0
妹 ペラペラ



妹「九月です。まだ暑いですけどね。

 えっと、食材としてはアスパラ、胡瓜、おくら、

 さといも、ミニトマト、秋茄子、松茸、しめじ。

 魚だと、秋刀魚、秋鮭、さばといわし。

 果物も美味しいですね。柿、無花果、梨、栗、と」



妹「松茸は、やっぱり高いですから……。でも、どこかで

 一回くらいは季節に食べておきたいです。

 美味しいのはしめじっていう気もしますけれど、

 季節のイベントですものね。兄さん喜びますしね」



妹「秋ですから、肉も味噌漬けなんか作ってみたいですね。

 となると、牛肉ですか。牛肉の味噌漬け焼き。

 つけあわせは胡瓜の酢の物と、ミニトマトのチーズサラダ。

 お味噌汁は、絹サヤと油揚げ、かな」



妹「とりあえず、これでファイルを。

 『九月の献立第1週 バリエーションNo.21』完成です」



妹「去年だけで7つも書いたんですね。

 そっか。もう、5年になるんだ。

 なんだかずーっと一緒みたいです」





209: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 19:25:29.85 ID:Id/ENdNh0
――お昼ご飯、教室。



妹「……と、いうわけで兄さんは

 朝ご飯もすっぽかしたのです」



妹友「外泊だー」

妹「ええ外泊です」



妹友「妹ちゃん。目がちょっと怖い」

妹「だって外泊ですよ?」



妹友「でも、無断じゃ無いんでしょ?

 お兄さん、21だっけ? それくらいなら、外泊くらい

 普通にするんだと思うよー」



妹「それは、そうですけど」

妹友「妹ちゃんブラコンだ」

妹「そんなんじゃありません」

妹友「そうかなぁ」

妹「当たり前じゃないですか」



210: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 19:29:33.77 ID:Id/ENdNh0
妹友「いや、あのさ。うーん。

 お兄さんのこと嫌いなの? 仲悪い?」



妹「そんなことは無いです。兄さんは馬鹿ですけれど……。

 世間の基準で言えば、多分、仲は良いほうだと思います」



妹友「休日にお兄さんと一緒に出かけたりする?」



妹「ええ。この間はショッピングモールに。

 映画とかプラネタリウムも行きますよ」



から揚げひょい、もぐもぐ



妹友「うーん。その辺だよね。うちは行かないよ?」

妹「え?」



妹友「多分、クラスの皆に聞いても同じだよ。

 中学高校ともなれば、兄妹なんて

 そんなに一緒に遊ぶものじゃないんだよー」

妹「そうなんですか?」



212: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 19:34:22.63 ID:Id/ENdNh0
妹友「お兄さんが子供かどうかは置いておいてさ、

 とりあえず背は高いじゃない」



妹「ええ、無駄に」



妹友「顔だってすっごい美形! って訳じゃないけど

 というか、むしろ凛々しいと思うよ」

妹「喋るとすべてが台無しになるんです」



妹友「お土産にプリン買ってた。荷物持ってくれたり」

妹「そういうことはマメなんです」



妹友「妹ちゃんは見る目、厳しいんだよ。

 お兄さんとずっと一緒にいるからハードル上がっちゃってるの。

 さっきも言ったけれど、普通の兄妹はそんなに

 行動一緒じゃないんだよ。

 お兄さんとデート一杯しているんだから」

妹「デートじゃないです。買い物ですってば」



妹友「デートだよ。ずっと一緒にいるんだから、

 とにかく、そんな風に仲良く出かけたりしてるなら

 意識するほうが『当たり前』なんだよ」

妹「……」


213: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 19:37:34.76 ID:Id/ENdNh0
妹友「私はお兄さん、その……格好良いと思うな。

 優しいし。ちゃんと……うーん。気持ちのある人だよ。

 話すときに、ちゃんと聞いていてもらえる感じがするもん」

妹「え?」



妹友「話す内容が、ちゃんと通じてる感じする」

妹「そんなの」



妹友「これは『当たり前』じゃないんだよ」

妹「そうでしょうか」



プチトマトをおすそ分け、ポテトサラダをもらう。



妹友「そうなの。うちの弟なんか、日本語でさえ

 通じて無いんだよ? 男子なんて結構そうじゃん」

妹「んぅ」



妹友「わたし、お兄さんの彼女に立候補して良いかな」

妹「え?」



妹友「恋人になってほしい、かも」

妹「ええーっ!?」



216: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 19:41:02.84 ID:Id/ENdNh0
妹友「変かな」

妹「変ですよ。兄さんは子供ですよ?

 おっきな小学生で、オマケに怪獣で、踊りますよ!?」



妹友「そのへんは全然平気だよ。だって妹ちゃんからして

 そういうの、そんなにイヤでもなさそうだもん」

妹「そうかもしれないですけど」



妹友「それとも、やっぱりブラコン?」

妹「違います。……多分」



妹友「妹ちゃんのお兄さん格好良いし優しいから

 恋人になってくれたらいいなぁ~って

 思うけど私のは軽症だもん。

 でも妹ちゃんのは自覚症状無しで重症っぽいよー?」

妹「そう、なんでしょうか」



妹友「兄離れしないとだよ」

妹「……」



妹友「無理にすることは無いと思うけどね」

妹「あの、友さん、私と兄さんは、本当は」



妹友「もぐもぐ。あ、そだ! そうそう」

妹「?」


219: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 19:46:58.81 ID:Id/ENdNh0
ごそごそ



妹友「じゃん!」

妹「雑誌、ですか?」

妹友「ここんとこにねー。こんなことが書いてあるのだ」

妹「?」



『彼の事を好きかどうか判らない?

 こっそり彼の寝顔を見てみよう

 ドキドキしたら恋の証拠。見飽きなければ愛の証拠』



妹友「簡単判別法だよっ」

妹「なんか信用度低いです」

妹友「とにかく、確かめてみたら?」



妹「友さんはなんでそんなに相談に乗ってくれるんですか?」

妹友「――悔しいから、かなぁ」

妹「え?」



妹友「じゃなくて。うん……。お兄さんは格好良いな、

 羨ましいな、あわよくば彼氏欲しいな、って思うけれど

 妹ちゃんは友達だしね。妹ちゃんが恋愛オンチだと

 心配ではらはらするよ」



妹「すみません……」

妹友「とにかくっ。そういうことっ」







262: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 22:50:36.37 ID:Id/ENdNh0
――自宅、台所



妹 混ぜ混ぜ



妹「我ながら、美味しそうに出来ました。栗ご飯です」

妹「あとは……。鮭とアスパラのサラダと香の物で

 良いですよね。寂しいかな? でも栗ご飯の

 見栄えがありますからね」



 かたかた。しゅんしゅん。じゅーじゅー。



妹「お味噌汁はお豆腐で……」



妹「それにしたって」



――意識するほうが『当たり前』なんだよ?



妹「そんな事。あるわけ無いのに。

 友さんも気の回しすぎです。

 兄さんなんて小学生で怪獣でびろんびろ~ん♪ ですよ」



妹「それは、美味しそうにご飯を食べてるときとか、

 買い物に飛んでいくときは

 おっきな犬っぽくて可愛いな、

 とかは無きにしも非ずですけど……」



妹「それ以外はあるわけ無いです。ほんとに」



271: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 23:03:24.10 ID:Id/ENdNh0
 がちゃり



兄「たっだいまぁ。お。食い物に香り発見っ!!」

妹「あ、兄さん」



兄「だばだば、だばだば♪ 感謝の踊りを捧げるのだ~」

妹(これだもんなぁ)



兄「だばだば、だばだば♪」

妹「お帰りなさい、兄さん」



兄「おう! ただいまだぞ、妹!! 今日も美味そうだな!」

妹「今日は栗ご飯です」

兄「!! でかしたぞ! ブラボーマイシスター」 くしゃ



妹「あ、あ。兄さん」

兄「ん?」

妹「頭、撫で……。そういうのは」

兄「だめか?」

妹「駄目じゃありませんが。子ども扱いは禁止です」



兄「そっか。まぁいいや。ご飯ごはーん!」

妹「ちゃんと手を洗ってください」

兄「はーい」



272: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 23:08:07.94 ID:Id/ENdNh0
兄「いっただきまーっす!!」

妹「召し上がれ」



兄「はぐはぐ。もぐっ。うまうま。うー。はぐっ」

妹「もぐもぐ」



兄「うまい、うまい!」

妹「はい」

兄「はぐはぐ。んまんまーっ。もっきゅもっきゅ」

妹「兄さんは口が大きいです」



兄「妹は小さいな」

妹「それはまぁ」



兄「その戦力格差が、こうなるっ!!」ひょいぱくっ!

妹「ああっ私のアスパラっ!」

兄「うまぁーいっ」にこっ



妹「兄さんっ」

兄「判ったよ。妹には、俺のプチトマやるから」

妹「もう」



274: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 23:12:58.85 ID:Id/ENdNh0
兄「栗、甘くて美味いなぁ!」

妹「千葉の叔父さんからです」



兄「あー。俺はあの人苦手だ」

妹「――食べ物には罪が有りません」



兄「ん。そだな。

 もっきゅもっきゅ、美味い! おいしいっ!

 妹ご飯は神の味っ! いつもあんがと!!」

妹「何もして無いです」



兄「そんなことないぞ。いまどき一体何割の家庭で

 ちゃんとした炊き込みの栗ご飯出てくるかって話だ」

妹「考えたことは無いですがレアですか?」

兄「土星の衛星くらいになっ。はぐはぐっ。

 鮭の脂の乗った部分と、栗ご飯の組み合わせが幸せだっ」



妹「がっつきすぎですよ、兄さん」

兄「おかわりっ!」

妹「もうっ」

兄「おかわり、ないのか?」しょぼん



妹「あります。よそいますから」

兄「わーい! 栗のとこねーっ」


276: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 23:19:25.17 ID:Id/ENdNh0
妹(じーっ)

兄「まふはぐっ。んっ。んまっ!」

妹(じーっ)

兄「美味いなぁ。栗ご飯は偉いなぁ~」

妹(じーっ)

兄「妹、どうした?」

妹「兄さんは本当に幸せそうに食べますね」



兄「幸せだぞ。栗ご飯なんだぞ?

 かのジュリアスシーザーもポンペイウスと結び

 栗ご飯の保護に努めたんだぞ。それとも……

 まさかっ!

 妹よ、駄目だ。

 いくら惜しくても一度俺の元に来たからには、

 これらの栗は俺の保護下にある。

 返せといわれても返せない。むしろ食う!!」



妹「古代ローマに栗ご飯は無いです」

兄「あぅっ」

妹「それに私は兄さんほど腹ペコ怪獣じゃ有りません」

兄「ちっ」



妹「もう、兄さん」

兄「うまうまっ! はぐはぐ。もっきゅ」



278: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 23:23:34.11 ID:Id/ENdNh0
妹「洗い物も、終りっと」

兄「妹ー」

妹「なんです、兄さん?」

兄「犬まる先生の散歩行ってくるけど、

 なんかお使いある?」



妹「えっと、牛乳、かな」

兄「了解」

妹「あ、兄さん」

兄「?」

妹「ちょっと待ってください。私も一緒に行きます」

兄「いいんだぞ。別に。お使いくらい」



妹「いえ、兄さんは目を離すと

 アイスを買い食いするような気がします」

兄「なぬっ!?」

妹「しないのですか?」

兄「良いアイデアだ。採用しよう」

妹「やぶへびでした……」がっくり



兄「犬まる先生と生協マートに出発だぜ~♪」

妹「犬まる先生もご苦労様です」

犬まる「わふぅー」



280: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 23:26:48.27 ID:Id/ENdNh0
妹「わぁ」

兄「川べりは、涼しいな」

妹「昨日からちょっと涼しくなりましたね」

兄「もう八月も終わりだからなぁ」

妹「気持ちよいです」

兄「うん」



犬まる「わふぅー!」



兄「犬まる先生、遊び行きたいか?」

妹「河川べりで走りたがるんです。

 最近暑くて散歩さぼってましたから」



兄「そか。行ってくる?」



犬まる「ばうっ!」



妹「いってらっしゃーい」

兄「いってこーい、ばか先生~」



 ごそごそ



兄「そしてじゃん!! 草餅~!」

妹「アイスじゃなかったんですか?」

兄「涼しかったからな」

妹「そういえば、そうですね」


281: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 23:30:39.33 ID:Id/ENdNh0
兄「まぁ、一個どうぞ。つか、まだあるぞ」

妹「いただきます。もきゅ」

兄「もぐもぐ」



 そよそよ



妹「涼しいですね」

兄「ああ、いい風なー。もぐり、もぐり」

妹「……」

兄「もぐもぐ」



妹「あの、兄さん?」

兄「なんだ、妹よ。もっきゅもきゅ」



妹「その、友さんが」

兄「もきゅ。友ちゃん? この間の?」



妹「ええ、その友さんが、あの。兄さんを、

 好きというか、あの、そういう意味合いではなく。

 ……彼氏? ですか。そういうものに。

 でも、その……。

 私の気持ちを考慮して

 その件は後日善処をするというような

 ……抜本的対策が必要とされるというような

 そもそも私の気持ちなどと言われてもこちらとしても……」



兄「ふぐぅーっ! ふぐぅーっ!」

妹「兄さんっ!? 何個草餅詰め込んでるんですかっ!」


282: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 23:34:33.43 ID:Id/ENdNh0
――。



兄「くはぁ。死ぬかと思った!」

妹「兄さんは本当の馬鹿です」

兄「酸素が無いのがこんなに苦しいとは」

妹「酸素欠乏症になってもそれ以上馬鹿にはなりません」

兄「妹がデビル妹にクラスチェンジだっ」



妹「馬鹿はいいから麦茶飲んでくださいっ」

兄「むきゅ、むきゅっ。ぷはぁ」



妹「心配かけすぎですよ」

兄「すまんのだ、妹よ。で。なんだっけ?」

妹「はい?」

兄「友ちゃんが、なんだかとか?」



妹「い、いえっ」ぶんぶん

兄「おろ?」



妹「よく考えたら取り立てて

 たいした話題でもありませんでした」



兄「そうなのか?」

妹「ええ、そうなんです」

兄「すっきりしないな」



妹「兄さんは明日の朝食のことでも考えていてください」

兄「クロワッサンかなぁ」にこーっ

妹(ごまかすのが簡単すぎる兄です)



283: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 23:43:04.78 ID:Id/ENdNh0
――兄の自室。起床。



妹「兄さん、兄さん」ゆさゆさ

兄「ん、むぅー……」

妹「起きてください」

兄「もうちょっと……」

妹「いつもいつも……。ん」



兄「睡眠らぶ。ストロベリータ布団」

妹「……」



かちゃり



兄「……むにゃ。出て行った。

 我が人民は帝国主義の弾圧には……

 屈しない惰眠むさぼりんぐ王国……ZZzzz」



じゅー。じゅー。



兄「……。……?」



じゅー。じゅー。



兄 がばっ!!



兄「これはソーセージの焼ける匂い!? 待て待て待て

 いま俺が食卓に着くぞーっ」



289: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/24(日) 23:59:05.63 ID:Id/ENdNh0
――研究棟、実験室。



女友「結果、出たー?」

兄「うん」

女友「こっちも」

兄「実験結果はcsvでいいんだっけ?」



女友「そのはず。うわぁーん。疲れた」ごき、ごきき

兄「すごい音だな」



女友「うん、背中凝ってる。肩も」

兄「座りっぱなしだったからな」



女友「コヒー。飲む?」

兄「うん」

女友「入れてくるね」

兄「悪いな」



女友「いやぁ、いつもお世話になってます」にぱ

兄「俺は何もして無いぞ」



こぽぽぽ。ぽぽぽぽ。



女友「……はい」

兄「ん。さんく」

女友「なに? メール?」

兄「おう。帰宅時間だけな」

女友「すごい律儀だね」

兄「妹がうるさいんだ」



290: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 00:05:37.18 ID:/hjDvU/40
女友「ありゃ。妹さんか。

 あんなに可愛い娘に懐かれて嬉しかろう。うりうり」

兄「可愛い、のか? あれ」



女友「あれ、って。まぁ、ほんとに。

 男くんはそういうの、ぜんっぜんダメだめだなぁ」

兄「よく判らないから仕方ない」



女友「妹ちゃんは逸材だよ。

 地味な格好してるけれど磨けば光るよ。

 ちょっとメイクしたら男がほうっておかないよ」

兄「妹はまだ高校だぞ」



女友「高校生になったらスキンケアだの

 軽いメイクだのはみんなやってるもんです」

兄「女だってして無いじゃん」



女友「む!」ぽかっ

兄「何をするんだー」

女友「私はちゃんとしてる。ナチュラルメイクというのっ」

兄「??」



女友「『メイクなんてして無いです、

 素でこういう顔なんですよ~』というメイクなのよ」

兄「偽装工作か」



女友「むーっ!」ぽかっ



292: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 00:11:29.98 ID:/hjDvU/40
女友「男くん」

兄「はい」



女友「男くんはすごく良い人だし

 頼りになるけど、ちょっと鈍感だし、

 妹さんに冷たい気がするよー。

 もう高校生でお洒落にも興味ある年頃なんだからっ」

兄「そういうものなのか、ふむ」



女友「そういうものなの。うんうん」

兄「ふむ……」

女友「女の娘のことは私に相談してよ」威張りっ

兄「ふむ、じゃあ」

女友「なになに?」



兄「来週の日曜、妹の服とかを買いに行くときに

 女友にも参加してもらおう」

女友「え」



兄「女友にも食事を奢る。一石二鳥だ」

女友「ええーっ」

兄「問題あるか?」



女友「いやそんな急に言われても着ていく服とか」

兄「そのジーンズでいいだろ」

女友「……ううう」

兄「決まりだ」



294: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 00:17:43.90 ID:/hjDvU/40
うっさ。程よく書き溜めにも追いついたし

ここで一旦休憩してくるよ。

残ってたら妹デート編に突入だなっ。

つか、もう70kも書いたよー。



359: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 07:17:29.66 ID:/hjDvU/40
妹「兄さん、兄さん」

兄「どした?」

妹「暴れん坊将軍が始まります」

兄「見るのか」

妹「見ます」

兄「チャンネル変えていいぞ」



カチャ。

ちゃりら~ん♪ ぱんぱんぱ、ぱゃ~~ん♪



妹「……」

兄「正座して見てるよ」

妹「……」じー



ぱからっぱからっぱからっ



妹「暴れん坊将軍のOPは完璧です」

兄「それは同意せざるを得ないな」



ほのぼの



妹「徳田さんは市井の住民に気を

 配っておられるのです」

兄「この定食屋のメザシも美味そうだな」



361: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 07:25:27.04 ID:/hjDvU/40
がやがや



妹「北島三郎は歌なんか歌わないで

 暴れん坊将軍専属になればいいと思うのです」

兄「それはどうかなぁ」

妹「め組でにこにこしているほうが

 芸能界の黒幕よりも格好いいですよ」

兄「妹が熱く語ってる」



ちゃきーん、ちゃきーん!!



妹「おお」

兄「定番の殺陣なんだけどこの音楽のせいで

 なんだかすごく血が騒いで悔しい」

妹「兄さん、静かに見てください」



終了



妹「ふぅ。堪能しました」

兄「……」

妹「満足しました」

兄「はい」



妹「暴れん坊将軍は素晴らしいです」にこっ

兄「俺もたいがいだけど妹だってやはり変だ」



362: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 07:38:27.59 ID:/hjDvU/40
妹「そんなことは無いですよ。

 暴れん坊将軍は皆が好きですよ」

兄「そうなのか?」

妹「シリーズ12作、放映回数は計831回ですよ?

 日本のTV史上そびえたつ金字塔です」

兄「う、うん」



妹「兄さんだって好きじゃないですか」

兄「う。ああ。チープだとは思いつつも、

 特撮に通じる盛り上げと、

 音楽の力で毎回みちゃうんだよなぁ」

妹「そういうものです」



兄「本当に好きなのな」

妹「ええ。それに、ドラマとかバラエティは

 騒がしくてよく判らないのです。

 時代劇はわかりやすいし面白いし最高の娯楽です

 日本の誇る伝統芸能です。

 松平健はサイボーグになって後百年吉宗を演れればいいのに」



兄「松平健すきなのか? マツケンサンバとか」



妹「あんなのは論外です」



兄(厳しいなぁ、妹)



366: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 08:17:54.71 ID:/hjDvU/40
――再びリビング



妹「レモネード作りましたよ」

兄「ああ。あんがとっ」にこー



妹「たまに飲むと美味しいんですよね」

兄「すっぱいんだけど、落ち着くんだよなぁ」

妹「落ち着きます」

兄「暴れん坊将軍でエキサイトしたからだ」

妹「そんなことはありません」

兄「ふぅむ。……ああ」

妹「はい?」



兄「そろそろ秋モノだろう?」

妹「ええ、先週箪笥から出しておきましたよ。

 虫干しも終って、順次整理して戻して行きます」

兄「それもだけど。秋モノ衣料を仕入れに行こうと思って」

妹「えっと。まだ早いですよ」

兄「箪笥から出したのなら早く無いだろ」

妹「はい……」



兄「んで、週末に出かけようかと。

 この間のショッピングセンターとかでいいかな

 俺は午前中は学校のほうの図書館に用事あるんで、

 合流してから移動とか、現地で集合とか」



370: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 08:35:56.07 ID:/hjDvU/40
妹「はい、かまいませんよ。

 特に予定は入っていないので」

兄「前から思ってたんだが」

妹「なんでしょう?」



兄「妹は週末の予定、がらがらだな」

妹「そんなことはありませんよ。コンクールがあります」

兄「吹奏楽だろ。予選勝てるのか?」

妹「勝てれば週末に大会です」

兄「やっぱり寂しい予定状況だなぁ」



妹「意地悪な事を言わないでください兄さん。

 冷奴から生姜とネギを抜きますよ」

兄「くっ。食料を軍事目的の恫喝に使うとは」

妹「外交です」



妹「それに、週末はゆっくりと時間をとって

 家事を行うのが私の主義なのです」

兄「そうなのか?」

妹「ガスコンロの油掃除をしたり、

 衣替えをしたり、家庭菜園の計画を練ったりします」

兄「あー」

妹「すごく心が休まります」

兄「そうなのか」





372: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 08:49:20.83 ID:/hjDvU/40
兄「それからさ」

妹「はい」



兄「いつも服の相談とかほうりっぱなしでごめんな」

妹「気にしないで下さい。

 男性には興味が無いことだと心得ています」

兄「むー。なんか針のむしろ?」

妹「針のむしろの痛みはこんなものではありません」



兄「そこで、今回は女友にも来てもらう事にした」



妹「え?」



兄「妹も服の相談が出来てばっちり。

 女友もお前に会いたがってたぞ。

 なんだかよく知らないがあいつはお前の事好きなんだ。

 小さくて可愛くてお持ち帰りとか、

 いつもそんな事を言ってる。

 まぁ、本人は決して悪い人間じゃないからな。

 それに洋服は任せてだとか云ってた」



妹「え?」



374: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 08:55:48.81 ID:/hjDvU/40
兄「あいつも午後になれば時間が空くそうだから

 適当なタイミングで拾い上げて、

 一緒に買い物してなんか飯をおごる予定だ。

 妹も食べたいものあったら考えておいてな~」

妹「あ、はい」



兄「おれはバッシャーマグナム買っちゃおうかな~。

 だばだば♪ だばだば♪」



妹「……あの」

兄「びろんびろ~ん♪」

妹「兄さん」

兄「なんだ、妹よ」



妹「えーっと。つまり、3人で遊びにいくと

 そういう認識でいいのでしょうか?」

兄「いえす、ナイス認識」

妹「……バッシャー禁止」ぼそり



兄「え?」

妹「兄さんは当分バッシャー禁止です」

兄「えーっ!? だばだばも!?」

妹(こくり)



兄「横暴だ。圧制シスターだーっ」

妹「これも兄さんの社会的信用のためなのですっ」





378: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 09:11:39.13 ID:/hjDvU/40
――深夜。兄の自室。



カチャ



妹「……兄さん、起きてますか?」

兄「ZZZzzz……」

妹「寝てますか?」

兄「ZZZzzz……」



ゴソゴソ、カチャ、ポム



妹「……寝てます」

兄「んぅ……。くふー」

妹「わんこみたいな寝姿ですね」

兄「ZZZzzz……」



妹「……」

兄「……」

妹「ジューシーハンバーグが攻めてきましたよ」(ぼそり

兄「……うま、はぐ……いっぱい」にこーっ



妹「まごうことなき小学生です」

兄「ZZZzzz……」



380: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 09:17:48.30 ID:/hjDvU/40
妹「で、なんでしたっけ。えーっと」



――こっそり彼の寝顔を見てみよう

  ドキドキしたら恋の証拠



兄「くふー……ZZzzz」

妹「寝顔を見てもドキドキなんかしませんよ」



すやすや



妹「なんだかお腹のほうがちょっと重くて、

 イライラするような優しいような甘えたいみたいな

 ほんの少しだけそんな気分がするだけです」



兄「ZZZzzz……」



妹「だいたい。

 ――そうですよ。ドキドキしたって当たり前ですよ。

 他人の寝室に夜中に忍び込むだけで十分ドキドキです。

 信用度に著しい欠乏がある判定方法です」



兄「むぅっ!」くてん

妹「!」



兄「サーモン……ZZZzzz……」

妹「……寝返りですか。

 ちょっぴりドキってしました。不覚です」



381: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 09:25:04.03 ID:/hjDvU/40
妹「冷房、弱いのかな。寝苦しいのでしょうか?」

兄「くふー……。くふー……」



妹「何かあるかな。

 ……この下敷きとかでいいでしょうか」

兄「くふー……」くてー



妹「扇いでみましょうか」ぱたぱた

兄「……んぅ」にこっ

妹「わんこです」

兄「……ZZZzzz」にぱ



妹「ふむふむ」ぱたぱた

兄「……ZZZzzz」



妹「扇ぐのをやめると」

兄「……むぅ」くてー

妹「楽しいです」



妹 ぱたぱた

兄「……ZZZzzz」にぱ



妹 ぴたり

兄「……んぅ」くてー



妹「楽しいです」



383: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 09:31:31.88 ID:/hjDvU/40
兄「……んぅ」



妹「前髪が伸びてきて寝苦しいのですよ。

 兄さんに散髪の指示を出さなければなりませんね」

兄「……ZZZzzz」にぱ



妹「お馬鹿ですねー」ぱたぱた

兄「……ZZZzzz」



妹「兄さんは本当にお馬鹿です」ぱたぱた

兄「……くふぅ」



妹「世話ばかりかけて。兄さんは。

 ほんとにもう。

 食いしん坊だし

 小学生だし

 お馬鹿だし」ぱた、ぱた



妹「ん」にこ



兄「……ZZZzzz」

妹「良い夢を。兄さん。

 ――明日の朝食も、美味しいですよ?」



カチャリ、トントントン……トントン





386: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 09:37:56.53 ID:/hjDvU/40
――大学構内



妹「お待たせしました」

兄「いや、全然待って無いぞ、妹」

妹「はい」



兄「なんだか改まった格好だな」

妹「外出着とはそういうものです」

兄「そうか」

妹「はい」



兄「大学はいるの初めてか?」

妹「ええ。予想より混沌としていますね」

兄「そうかな」

妹「変な人が沢山います」

兄「ふむ」

妹「あっちの木陰でかなり本気でビーチ装備の人がいました」

兄「焼くつもりなんじゃないかな」

妹「あっちには着ぐるみのひとがいました」

兄「趣味なんだろうな」

妹「ワンダーです」



兄「面白いか?」

妹「ええ、すごく。さっきまで図書館にいました。

 大学生かと聞かれるかと思ってのですが、

 別に何も聞かれませんでした。管理が甘いです」

兄「大学ってそんなもんだ」



392: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 09:46:25.45 ID:/hjDvU/40
兄「で。俺の提出も終ったし。

 移動して合流かな。

 ……いや、そのまえに何か食べるか。

 時間が時間だし、先に済ませるのが良いかなぁ」



妹 つんつん



兄「どうした?」

妹「ランチを持参しました」

兄「なぬ!? 本当かっ」

妹「はい。軽食ですが、問題ありません」

兄「妹ご飯~♪ 妹ご飯~♪ だば」

妹「だばだば禁止」

兄「……」



妹「どうしましょう」

兄「うう。だばだば禁止かぁ。案外痛いなぁ。

 翼をもがれたエンジェルってこんな気分なんだろうか」

妹「ランチを食べるような場所はあるでしょうか?」

兄「ううう。じゃぁ学食のほうにいこうか」



妹「ええ。飲み物だけどこかで調達したいです」

兄「トラットリアで何か買おう」

妹「はい」



394: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 09:54:24.05 ID:/hjDvU/40
妹 きょろきょろ



兄「どうしたー?」

妹「いえ、なんでも。ただ慣れない場所なので」

兄「面白いのか?」

妹「それもありますけれど、ちょっと緊張します」



兄「はぐれるなよ」くしゃ

妹「兄さんっ」

兄「ん?」

妹「あたま撫でたり。そういう子ども扱いは禁止です」

兄「むぅ。禁止多いなぁ」

妹「兄さんのためです」



ウィーン。ガチャ



兄「ついたぞ、ここと二階が学食だ」

妹「広いですっ。綺麗ですっ」

兄「一昨年だったかに建て直したからなぁ」

妹「高校の学食は教室三個分くらいです」

兄「そんなもんだよ」



妹「どこに行けばいいですか?」

兄「その辺ならどこでも良いよ。飲み物買ってくる」

妹「あ」

兄「どした?」

妹「一緒に行きます」

兄「座ってれば?」

妹「はぐれたらいやです」

 

399: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 10:13:12.50 ID:/hjDvU/40
――大学、学食カフェテリア2F



兄「おおーっ」

妹「研究発表『ベーグルサンド』です」

兄「すごいぞ! 妹よ」

妹「食べてください」



兄「もぐっ!!」

妹(じーっ)

兄「もぐり、もぐりっ! はぐはぐ、はぐっ」にこーっ

妹「はい」にこっ

兄「あむ、あむ。もっきゅ、もっきゅ」

妹「はい、飲み物です」

兄「おうっ♪ これ、んまいぞ! 妹よ」

妹「ありがとうございます」



兄「これは、クリームチーズとスモークサーモンだな」

妹「はい。今日は正統派な具材にしてみました」

兄「美味いなぁ。オリーブの塩味がいいな」

妹「美味しいですか」



兄「すごく美味いぞ! 妹も食べろ?」

妹「はい。もきゅ」

兄「うまいなぁ。もぐもぐ、もっきゅもっきゅ」にこーっ



403: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 10:19:29.32 ID:/hjDvU/40
妹「やはり人気店のものにくらべて皮の香ばしさが

 不足しているような気もするんですが」



兄「そんな事無いだろ。

 ゴマの感じがぷちっとしてて気持ちよいぞ。」

妹「そういってもらえると。

 ――そっちのものはどうですか?」



兄「こっ、これは!!」

妹「アボガドシュリンプです」

兄「これも定番だ、美味いなぁ! マヨ美味しい」

妹「マヨですか」

兄「マヨはジャスティス! 美味い~♪」

妹「涙ぐむほどですか」



兄「もっきゅもっきゅ」にこーっ

妹「お口に合いますか?」



兄「ん。美味いっ。山葵じゃないのな」

妹「えっ」



兄「もぐもぐ。はむはむ。……うまうま」



妹「――ホースラディッシュです。

 みじん切りにしてマヨネーズに混ぜてみました」

兄「もう一個たべていい?」



妹「もうっ。……いいですけど」



407: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 10:24:20.78 ID:/hjDvU/40
兄「いえす。分捕ったサンド! 俺のトレジャー」

妹「もう」

兄「うーん。ベーグルちゃん。

 君は食べてしまいたいほどに可愛いよ」

妹「静かに食べてください」

兄「はーい」



妹「もぐもぐ」

兄「もっきゅもっきゅ」にこーっ



妹「そんなに急いで食べなくても」

兄「美味しいものだと、自然に加速しちゃうんだよ」

妹「そうなんですか?」

兄「男って大抵そうだ」

妹「変な習慣ですね」

兄「本能的なものだ。もっきゅもっきゅ」



妹「最後はデザートベーグルです」

兄「おお。貫徹してるな」

妹「夏みかんのママレードです」



兄「生地にもみかんの皮入ってる」

妹「ええ、そこがポイントなのです」

兄「美味い~♪」



411: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 10:31:36.64 ID:/hjDvU/40
――女友のワンルーム。



女友「うわぁぁああああん!!」



がちゃ、がちゃ、ぽいっ、ぽいっ



女友「寝坊しちゃった。寝坊しちゃいましたよぅ」



女友「おふ、おふ。お風呂。いや、しゃわーっ。

 寝癖ーっ。うわーん、酷い顔~っ」



女友「ぐ。死ね、私。むしろ今すぐ涅槃へ旅立て。

 なんでこんな日に寝坊なんかするのよ。

 夜遅くまで製図なんてしてたからだぁ。

 適当云って午後からにしてもらってよかったよう。

 これ朝からだったら開戦前にポツダム宣言だよっ」



女友「えっと、で。なんだっけ。

 何をすればいいんだ、私。考えるんだ!

 最高率の行動をシミュレートするんだ。

 一片の時間の無駄も許されないんだっ。

 服っ。そだ、シャワーの前に服の準備を」



女友「ジーンズにTシャツっと……馬鹿か私はーっ。

 男くんに言われたそのまんまでどうするっ。

 変則だけどデートなのにっ。

 それに妹さんに足元見られるっー」



414: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 10:39:14.74 ID:/hjDvU/40
女友「じゃぁ、こっちか。リトルセクシーか。

 だめだぁ、けばいよぅ。合コンじゃないんだしっ」



がちゃ、がちゃ、ぽいっ、ぽいっ



女友「何でこういうときに限って

 みんなクリーニングに行っちゃってるのかなぁ。

 昨日、寝る前はなんだか平気な気がしてたんだけどなぁ」



女友「これだっ! 男くんにクリティカルヒット1万ダメージ!

 甘ロリで清純さと可愛らしさをアピールですよっ!

 ――それダメじゃんっ!!

 妹さんとキャラかぶりですじゃんっ」



女友「ちゃちゃちゃぁ。おいも泣きたくなってきたけん。

 このままじゃ時間だけが流れていくきに~。うわぁん」



ぽいっ、ぽいっ



女友「ううう゛~。結局、こんな感じ?

 カジュアル? ワンピの下に七分丈デニム?

 水色サンダルどこだっけぇ、なんか壊滅的だよぅ。

 女の子としての終着駅を感じさせる展開だよぅ。」



がちゃ、がちゃん。こけっ。



女友「痛っ。おでこぶつけたぁ!?

 ううう。だめだめですよ、エンディング流れそう。

 男くんと休日に会えるっていうきにー。うわぁん」



491: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 14:32:27.88 ID:ibBVSdbm0
――ショッピングモール、中央吹き抜け。



ズシャァ

女友「登場成功っ!!」



兄「いや、後ろにいるし」



ズシャァ

女友「登場成功っ!!」



兄「繰り返すなよ。滑ったことがばれるから」

女友「うう。冷たい。男くんは冷たいよ」

兄「いつにも増してハイテンションだな」



女友「いや、色々事情があって……」

兄「それは省略しよう」

女友「う。言い訳すら聴かない極寒の世界!?」



兄「長くなりそうだし。きっと寝坊とかの隠蔽だろうし」

女友「な、なーっ」わたわた



492: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 14:37:42.81 ID:ibBVSdbm0
女友「あの」

兄「ああ。改めて、女友。これがうちの妹な」



妹「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

女友「うわぁん。やっぱり、ちぃさくて可愛いっ。

 よろしくね、妹ちゃん。

 今日はお姉さんがエスコートしますよっ」



妹「はい、お願いします」

女友「うわぁ。聞いた? ね、聞いた?

 『はい、お願いします』だって! 可愛い」ぎゅむ



妹「あ、あの。そのっ」じたばた

女友「私妹以内からこういうのちょっと

 憧れあったわけですよ。んー、良いなぁ」くりくり



妹(兄さんっ。ヘルプですっ!)

女友「んーう。かわいいなぁ。

 愛いです。ういー♪」



497: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 14:43:52.82 ID:ibBVSdbm0
兄「そこら辺にしておけ。

 妹が視線で救援信号を出してる」

妹「ううう」



女友「む。そうか。

 妹ちゃんは段階をふんで欲しい娘か」

兄「意味不明の設定を加えるなよ」



妹「その、抱きつくとかは」

女友「膨らみ始めた肉体が敏感なのねっ」

兄「セクハラするな」ぽかっ

女友「うぅっ」



兄「女はゼミだともっとまともなのに

 何でプライベートだと急にテンション上がるんだ」

女友「それはそのぅ(男くんがいるからなんだけど)」

妹「兄さん。私別に平気ですし」



兄「いや、釘を刺しておくから」

妹「うううー。おでこ痛いぃ」

女友「兄さん。あの……。さっきから注目が」



 ざわざわ。くすくす



女友「若手芸人が受けるような視線をっ」

妹「とりあえず、移動しましょう。

 ――恥ずかしいです」



504: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 14:53:15.68 ID:ibBVSdbm0
――ショッピングモール、2F大回廊。



女友「とりあえず、この辺から攻めますか」

兄「何を攻めるんだ?」

女友「店よ。この大通路の両脇に、ずらっと並んでるでしょ」

兄「ふむ、並んでる」



女友「このフロアはレディスの服飾の店ばっかりだから

 とくにティーン用が多いでしょ。だから店に行くわけ」

兄「で、どの店に行くんだ?」



女友「どの店、って。

 こっちの端っこから順番に全部行くの」



兄「は?」



女友「だから。こっちの端っこから始まって、

 あっちの西側に向かって全部の店の

 全部のアイテムを見ていくわけよ」

 

兄「正気か? 何軒あると思ってるんだ!?」

女友「50やそこらでしょ。カルチャーショック受けてる

 みたいだから云って見るけれど、

 さほど変なことは云って無いよ。

 女の娘なら普通にやることだもん」



兄「そうなのか? 妹?」

妹「そうですね。珍しい話ではありません」

女友「ねー?」



506: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 15:02:15.68 ID:ibBVSdbm0
兄「そうだったのか……。

 それが本当なら確かに俺はいままで

 余りにも妹を放置しすぎてきたような気もするんだが。

 というか、本当にそんな事をするのか?

 俺はなんかの詐欺の渦中にいるのでは?」



妹「兄さん。あの、私、なるべく早く切り上げてきますから」



女友「ダメです。何いってるんですかっ。

 本日の目的は妹ちゃんの服を新調することもありますが

 男くんの再教育もかねているのです。

 余計な情けは為になりません」

兄「ううう。なんだか知らんがすごい挫折感だ」



妹「えっと、兄さんはどこかその辺でひゃぅ」

女友「ええい。拉致です♪ 略取です♪」むぎゅっ



妹「あ、あっ。連絡しますからっ」

女友「ばっははーいっ! その辺で遊んでてね~!!」



どたどたばたばた~。



兄「……」



兄「なんか今更ながらに微妙な気分だ。

 相性悪くないとは思うんだが、

 あの二人、どうなんだかなぁ……」



513: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 15:15:11.61 ID:ibBVSdbm0
――ショッピングモール。 着屋。



女友「じゃんっ。ぱ  屋にきました!」

妹「女友さん……」



女友「お姉さんです」

妹「……お姉さん。何で冒頭解説を?」



女友「定型のお約束です」

妹(押されてます。私、押されてます)



女友「まぁ時間がどれくらいあるか判らないし。

 男くんじゃ確実にフォローできて無いあたりから

 手を入れるほうが効率的だろうしね」

妹「はい。すいません」



女友「ん。じゃぁ失礼して」もみもみ

妹「――」ピシリ

女友「なかなか。良い弾力」もみもみ

妹「――」ギギギ



女友「大体判った。やっぱり新しいブラを買おう」

妹「な、な、なにを」あぅあぅ

女友「揉んだだけだから、スルーしてね」

妹「あ、あ、あ、あ」

女友「店員さん、このシリーズのサイズ出してもらえますかぁ?」



518: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 15:22:51.54 ID:ibBVSdbm0
女友「どう? サイズは」

妹「えっと、これはちょっと脇がきついです」

女友「こっちは?」

妹「ちょっと遊ぶ感じがするけど、大体良いです」



女友「じゃ、これだね。

 このサイズで、後はデザインで探そう」

妹「はい(じーっ)」



女友「ん? どしたの?」

妹「い、いえ。女……お姉さんは買わないんですか?」



女友「うん、あたしもパ  は買おうかなぁ。

 じゃなくて、男くんから予算預かってるのだ。

 だから今日は妹ちゃんをおめかしするのっ」

妹「そうですか」ちらっ



女友「揉みたいの?」

妹「!」(ぶんぶんぶん)



女友「可愛いっ♪」ぎゅむっ

妹「そ、そういうのは、過剰なスキンシップですっ」

女友「冗談はさておき」

妹「冗談なんですかっ」



女友「いや、じゃれるのは楽しいけど。

 他にもやらなきゃならないことが多いしね」

妹「は、はぁ……」

妹(この人が兄さんと仲が良いのもわかった気がします)



520: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 15:33:13.03 ID:ibBVSdbm0
女友「普段の 着はどんな感じ?」

妹「こういった感じです。グレイとか、チャコールとか。

 モカブラウンとか。白とか」

女友「ふむふむ」

妹「変ですか?」



女友「ううん。地味だけど良いと思うよ。

 妹ちゃんは清潔感あるから似合うよね」

妹「ありがとうございます」

女友「うーん。これ、買おう」

妹「えっと、ピンクですか」

女友「うんっ」



妹「……私には可愛すぎます。きっと」

女友「一着くらい、持っておきなさいって」

妹「え?」



女友「先輩からの忠告ですよー。

 一着くらい、持っておきなさいって。

 パニックになるときに、 着屋は開いてないものなのよ」

妹「……?」

女友「モノを揃えるってのはね、モノが大事じゃなくて

 モノをそろえることで、ココロの備えがされることが

 大事なんだよね。判るかな」

妹「判らないです……」



女友「そっか。いつか判るよ」にこっ

妹「……はい」こくり



527: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 15:49:18.03 ID:ibBVSdbm0
――ショッピングモール。ティーンズブティック。



女友「妹ちゃんは、普段はそんな感じかな」

妹「えっと。はい」



女友「モノトーンとか?」

妹「モノトーン多いです。シャツと、ブラウスと、

 巻きスカートとかかな。ミドル丈のとか。

 寒がりなので、冬はタイツとか多いです」



女友「なんか負けた気がする」

妹「?」

女友「いやいや、こっちの話」



妹「地味なので、華美な服は気持ちが負けちゃいます」

女友「そっか。じゃ、こことか好みかな」



妹「はい。ネットで見て、知ってました」

女友「よっし♪ 行こう! お姉さんも付き合っちゃうぞー!」

妹「はい」にこっ



532: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 15:54:58.31 ID:ibBVSdbm0
女友「どうー?」

妹「えーっと。これとか、こっちとか」

女友「お。いいね。可愛いね。

 ボタンダウンだ。渋いね」

妹「ネクタイもついてます」



女友「やっぱりおとなしいのが好みなんだ」

妹「はい。家で作業することが多いので、

 機能性とかを考えるとどうしてもそうなります」



女友「遊びに行ったりとかは?」

妹「あまり。……家にいるの好きなんです」



女友「……。そっか♪」なでなで

妹「あぅ。お姉さん」

女友「ん?」なで

妹「頭、撫で……。ダメです」

女友「ん。了解」にこっ



女友「こうゆうのは? サロペットだよ」

妹「可愛いです。けれど着れるでしょうか」

女友「似合うよ。だいじょぶ、可愛い」

妹「……う」

女友「尻込みしてちゃダメだよ。ほら、試着してくるっ!」

妹「えっと、なんで携帯を構えてますか?」

女友「てへ♪」

妹「もうっ。絶対ダメですからねっ」



535: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 16:02:51.37 ID:ibBVSdbm0
――ショッピングモール。玩具店。



 一方、その頃の兄は。



兄(だばだば♪ だばだば♪)

兄(びろんびろ~ん♪)



兄「お、あの子供だかりはまごうことなくムシキングだな」

兄「が、しかし」



 スッ



兄「ムシキングはすでに卒業したこの身体。

 アデュー。少年の日の輝かしき日々よ。

 君たちもいつか判るときがくるさ」



兄「俺の目的はバッシャーマグナムただひとつ。

 バッシャー禁止とはいわれたが、

 遊んだりばれたりしなければ購入は許されよう。

 これを励みにバイトをしてたようなものだしな。

 この辺の棚かな? いざパラダイスへっ」



兄(だばだば♪ だばだば♪)



540: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 16:10:34.38 ID:ibBVSdbm0
ジャキン、ガキン、ギュィィーン!!



兄「おお、店頭宣伝用ビデオかっ。

 回るッ! 光るッ! 音が出るッ!!

 いいね、いいね。特撮玩具はこうじゃなきゃいけないよね」



ジャン♪ がきょん! アクアトルネードっ!!



兄「ふむぅ。満喫した! 余は満足じゃ。

 で、肝心のバッシャーマグナムは……これか」



兄「あれ? なんか箱が軽いな。

 それに、なんか写真の造形が甘いような……。

 ありていに言うと、出来が悪いような……。」



――本玩具には電源は必要ありません。

 光る、音が出るなどのギミックはないので

 あらかじめご了承ください。



兄「なん、だと……?」



兄「うわぁん。モチベーションさがったぁ!?

 嵌められた、なんかの詐欺だぁ!? 政府の罠だぁ!!」



子供「あの兄ちゃん変な踊りで悶えてる」



543: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 16:19:52.86 ID:ibBVSdbm0
話の展開から概ね予想もついているだろうが

このへんから非ほのぼの、というか

重めの展開もあるんで、そういうの苦手な人は

さっくりスルーしてくり。



ほのぼのだけだと話が先へすすまねぇー。



546: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 16:27:40.44 ID:ibBVSdbm0
――ショッピングモール。2Fベンチ。



女友「ちょっと疲れさせちゃったかな」

妹「大丈夫です」

女友「まぁまぁ、座ろうよ」

妹「はい」



女友「結構買ったと思ったけれど、包んでみると全然だね」

妹「そうですか? こんなに一杯買ったのは初めてです」

女友「そっか。お買い物、しない人?」

妹「こういうものは、買うの苦手です」

女友「そっかー。年頃の女の子なんて、

 お金があれば服に突っ込んじゃうような娘一杯なのにね」

妹「私、下手なんですよ。きっと」



女友「若いのにねっ♪」

妹「女……お姉さんは」

女友「なにー?」



妹「兄さんの彼女さんなんですか?」

女友「うくっ」

妹「?」

女友「いや、なんだろ。直球だ。剛速球。

 この球は私の歳だと投げれないなぁ」



妹「考え無しに投げれる球じゃないですよ」

女友「あはははー。それはそうだよねー」



550: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 16:43:10.56 ID:ibBVSdbm0
女友「……」

妹「……」



女友「うーん。見栄はっても仕方ないからさ。

 違うよ、全然そんなんじゃないよ。

 妹ちゃんのお兄さんとはゼミが一緒なだけだよ。

 論文のジャンルとか実験が近いから、

 学校では一緒に過ごすことが多いけれど

 それだけだよ」



妹「……」



女友「まぁ、正直言うとさ。

 こっちは全然付き合いたいんだけどね。

 なかなか上手くいかないね。

 こういうのは巡り合わせもあるからね」にこっ



妹「あの……」

女友「ん?」

妹「昔、兄さんと付き合っていたのは、

 お姉さんじゃないんですか?」



女友「あははは。違うよ。全然別っ。

 あれも、なんだか今考えるとどうにかしてたんだけどさ。

 あたしが友達をお兄さんに紹介したんだよ。

 なんだかうじうじしてるのイヤになっちゃってさ。

 やけくそになってたのかな」



552: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 16:48:36.85 ID:ibBVSdbm0
女友「思わせぶりに女の子とか紹介すれば、

 私の気持ちに気がつくかも。とか。

 そんな夢みちゃってたのかなぁ。

 勇気もないのに、都合いいよね。

 あたし。あははっ」

妹「……」



女友「その子は……。

 胸の大きな美人の娘だったんだけどね。

 性格も素直で健気でという反則キャラだったんだけど。

 なんだかそれも上手くいかなくてさ」

妹「……」



女友「2週間くらいで別れちゃった。

 男くん、振っちゃったんだよ」

妹「え?」



女友「やっぱり自分で好きになった人じゃないと

 ダメなんだって。それはそうだよね。判る気がする。

 自分でスタートしないと、気持ちがついていかないからって」

妹「兄さんが?」



女友「うん」

妹「そうだったんですか」



555: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 16:53:08.43 ID:ibBVSdbm0
女友「……」

妹「……」



女友「あははは。ごめんね。

 なんか急に愚痴になってしまった。申し訳ないっ」

妹「いえ、これくらいなんでも」



女友「うん、妹ちゃんは可愛いぞーっ」ぎゅむっ

妹「……」

女友「うらー。ぎゅむぎゅむだーっ!」ぎゅー

妹「……」

女友「あ、あれ?」

妹「……」

女友「抵抗しないの?」



妹「はい。

 ――こういう時には肩を貸すものと理解しています」



女友「そか……。うっわぁ。

 お姉さん驚きました。

 やっぱり、男くんの妹なんだなぁー」にこっ

妹「え?」



女友「偉いぞ。かっこいいぞ!」

妹「そんな……」



女友「よし。次っ! 次はコスメだよっ

 高校には一旦だから、スキンケアの基本と

 ナチュラルメイクの土台くらいは覚えないとねっ!!」



 
562: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 17:08:15.02 ID:ibBVSdbm0
――ショッピングモール。コンコース。19:00



妹「兄さんっ」

女友「男くんっ」

兄「……」



妹「兄さん」ゆさゆさ

女友「どうしちゃったのさ?」



兄「……日本経済は大いなる矛盾を

 その内側に抱えてしまったのではないだろうか?」

女友「はぁ?」



兄「マスメディアという巨大資本は自らの権力におごり

 一般消費者の姿を見失っているのではないか。

 それはとりもなおさず、

 この消費型社会が余りに肥大化した自重に耐えかねてあげる

 末期の悲鳴のようなものではないのか?」



女友「おーい」



570: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 17:14:34.69 ID:ibBVSdbm0
兄「我々はこの消費機構の歯車となった挙句

 野辺に咲く可憐な花のような思い出の一片を

 醜い消費単位として忘却への島流しにしていないだろうか。

 それが少年や少女の無垢なる心を

 どれだけ傷つけているかを知りもせずに。

 しかし彼らのその失望が、いずれ彼らが成人した時に

 社会に対する失望へと焼け付を起こし、

 精神世界をより荒廃させることにより

 我々の消費社会は一層の絶望に支配されていく」



女友「男くーん、もどってきてよー。ねーってばー」



妹「お姉さん。こうするんですよ」

女友「ほえ?」



妹 べきっ!!

兄「なっ!?」



妹「兄さん、おはようございます」

兄「おう。妹よ、おはようだぞ」

女友「う、わ。男くん」

兄「へ? なんか頭ががずきずきする」



妹「早速ですが、兄さん。ご飯ですよ」

兄「おう。終ったのか? 二人とも」

妹「ええ。こんばんは外食ですよね? 珍しく。

 お姉さんとも相談しましたが焼き鳥を食べに行きましょう」

兄「おー♪ 焼き鳥か。あれは外で食べたほうが美味いなっ」

女友(こんなんで良かったんだぁ……)



573: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 17:23:21.35 ID:ibBVSdbm0
――夜の電車。23:15



妹「ZZZzzz……」

兄「ん、しょっと」

女友「寝ちゃってるねー。妹さん」

兄「ああ。今日は結構話してたからなぁ」

女友「そうなの?」



兄「ああ。女と随分打ち解けてたよな。

 こいつ、人見知りするからこんなにはしゃぐのは珍しいよ」



女友「私のハイテンションにひきずられちゃったかな」

兄「かもな。未成年のクセして飲んじゃったしなぁ」

女友「ごめんごめん。味見させてあげようと思ってさ」



兄「ん。いいよ」

女友「うん」





578: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 17:29:38.00 ID:ibBVSdbm0
妹「ZZZzzz……」



女友「可愛いね。妹ちゃん」

兄「あー。うん」

女友「男くんも、ほんとうに見る目ないんだから」

兄「だってさ」



女友「妹ちゃん、店員さんに薄くメイクしてもらって

 すっごい美人だったのに。

 『どっかで風呂でも入ったのか? 小奇麗だけど』

 ってそりゃないよー」

兄「そういうのは本当に判らないんだよ」



女友「まぁ、きょうは色々買い物したからさ。

 今度可愛い格好してたら褒めてあげるんだよ?」

兄「善処します」



女友「それは『いただきます』とか

 『ごちそうさま』と一緒なんだからねっ」

兄「なぜか説教されてるし」



580: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 17:36:37.00 ID:ibBVSdbm0
女友「いやー。今日は飲んだし、食べたなっ♪」

兄「あったりまえだ。奢りだと思って」



女友「男くんだってむしゃむしゃ一杯食べたじゃない」

兄「俺は男だから基本搭載量がちがう」

女友「むー。美味しいものを独り占めは良くないよ」



妹「すぅ……すぅ……」にぱ



女友「あ、微笑ったよ?」

兄「?」



女友「眠りながら、にこってした。

 うわぁ、妹ちゃんはやっぱり可愛いなぁ」

兄「くねくねするなよ」



女友「するよぉ。すごいらぶらぶりぃだよぉ。

 そんな眠る美妹に肩を貸してる男くんの感想は?」

兄「重みがなくて実感がない」



女友「うっわ。云われたい。

 そんなの絶対云われたいっ。

 『おまえ意外に軽いんだな』だとかっ!」



兄「女はそういうの気にしすぎだ」



585: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 17:42:43.01 ID:ibBVSdbm0
女友「ほんとさ」

兄「ん?」

女友「良い娘だよね」

兄「うん」



女友「ちょっと不思議なところあるし。

 難しい娘なのかなぁ、とも思うけれど」

兄「だな」



妹「すぅ……すぅ……」



女友「それにさ。訂正するよっ」

兄「何を?」



女友「妹ちゃんに冷たいって。あれ、違ったね。

 ぶっきらぼうなだけでさ。冷たくないよ。

 目が優しいもんね。妹ちゃんといるときは」



兄「そうかな」

女友「そうだよ。ちゃんと『お兄さん』してるよね」

兄「俺、出来てるかな」

女友「ん?」

兄「兄、出来てるかな」

女友「うんっ。そう思うよ」



589: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 17:49:37.73 ID:ibBVSdbm0
兄「……」

女友「……」



かたたん、かたたん



女友「今日は楽しかった! 呼んでくれてありがとうね」

兄「いや、こっちこそ助かった。

 妹の買い物の相手、俺じゃしてやれてないのも判ったしな」

女友「あはははは。そんなの当たり前だよ。

 男の兄弟なんて、頼るようなところじゃないもん」

兄「そうか」



かたたん、かたたん



女友「ん。……うん。私、この駅」

兄「おう。また今週な。火曜かな」

女友「そうだね。火曜だね。――またねっ!」



592: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 17:52:54.98 ID:ibBVSdbm0
ぷしゅー。しゃきん。がたん、がたたん!



女友「ふぁー。手振ってくれてる。まったねー

 また遊ぼうねーっ。って聞こえないか」



女友「行っちゃったぁ。

 行ってしまいましたぁー。

 あー。あぁ。

 楽しかったな。妹ちゃんは可愛かったし。

 男くんはにこにこしてたしっ。

 優しくしてくれたしなっ」



くるくる、しゅたんっ。



女友「今日はいい日だったな。

 出掛けのトラブルを取り戻して大幅貿易黒字だなっ。

 うん、すばらしい。よくやったぞ、私っ」



女友「はぁ。んー。楽しかった分。

 ……家に帰るとき、寂しいな」



ぽとっ



女友「あれ……。ノート? これ、なんだろ」



660: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 21:02:04.50 ID:ibBVSdbm0
――朝。兄の自室。



妹「兄さん、兄さん」ゆさゆさ

兄「ん、むぅ……」

妹「起きてください」

兄「もうちょっと……。暖かい布団の中で

 惰眠のエレクトリカルパレードなのだぁ……」



妹「お願いします」



兄「…………。ん。起きた」

妹「ごめんなさい。無理やり起こして」



兄「どした?」

妹「兄さん、私の緑のノート知りませんか?」

兄「ん?」

妹「A5版で、ちょっと厚手のものです。

 昨日は持ち歩いていたんですが……」



兄「いや、見てないな」

妹「そうですか……」

兄「大事なものか?」

妹「いえ、その。大丈夫です」

兄「……」



妹「さ。起きたんだから起きましょう。兄さん。

 今日の朝ごはんは、トマトオムレツとかき菜のお味噌汁ですよ」



666: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 21:11:30.41 ID:ibBVSdbm0
――放課後。ファーストフード。



妹「というわけで、焼き鳥屋さんなるものに

 初めて行くことになったのです」

妹友「そっかぁ。お兄さんもお茶目だねぇ」



妹「なんだかわかりませんけれど、相当に凹んでました」

妹友「妹ちゃんはお兄さんにだけは点数辛いから」



妹「そうでしょうか」

妹友「そうだよっ」



妹「むぅ」

妹友「買ってきた服、今度見せてね」

妹「ええ。良いですよ。

 今度の全体練習の日に着て行きますよ」

妹友「よし、約束だー」

妹「お兄ちゃんの友達のお姉さんも、楽しくてよい人でした」



妹友「彼女さんだったの?」

妹「うーん。違う感じでした。

 でも、彼女さんになるかもしれません」



妹友「微妙な関係なんだ」

妹「微妙な関係そうでした」



妹友「妹としては許可?」

妹「許可するも何も……。

 兄さんの気持ちじゃないですか」



676: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 21:25:03.46 ID:ibBVSdbm0
妹友「あれれ。ブラコン治ったの?」

妹「最初から発病してませんっ」



妹友「そうなのかなぁ。妹ちゃんはさ」ポテトぱくっ

妹「はい?」



妹友「自分で気がついてないと思うけれど、

 お兄さんの話してるときが一番表情が優しいよ」

妹「それは……。家族ですし」



妹友「そかー」ぱくっ

妹「そうですよ」



妹友「アレ、やってみた?」

妹「なんですか?」

妹友「寝顔を見る、っての」

妹「ああ。はい」



妹友「やったんだ! どうだった?

 ときめいたりした? 効果あった?

 私もやってみたいけれどさすがに不法侵入は

 躊躇われちゃうし」

妹「あれ、全然ダメですよ?」



妹友「ダメって?」きょとん



678: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 21:32:49.82 ID:ibBVSdbm0
妹「まず、寝顔を見るために、

 異性の部屋に深夜忍び込むわけですが」

妹友「うんうんっ」



妹「友さん、なぜかすごく嬉しそうです」

妹友「続けて続けて♪」



妹「忍び込むわけですが、

 兄とはいえこの時点でかなり緊張しますよ。

 つまりドキドキしてるわけで、まったく判定方法になりません」

妹友「えーっ」

妹「つまらないオチですけれど、そうなんです」



妹友「うわぁ、盲点だぁ」

妹「妥当な結果です」



妹友「寝顔見てもなんにも感じなかった?」



妹「強いて言えば、なんだかちょっと

 イライラするような気分でした」

妹友「イライラ?」



681: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 21:38:17.44 ID:ibBVSdbm0
妹「焦るような、急ぎたくなるような。

 何かしなきゃいけないような。

 でも別にいやな気分じゃないんです。

 優しくしたいような八つ当たりしたいような気分です」



妹友「……」



妹「とても表現しずらい感じです。

 懐かしいというか、軋むというか、

 憧れるような、辛いような。

 うーん。

 近いのはやっぱり八つ当たりしたい気持ちみたいです」



妹友「……えっと」



妹「だいたい兄さんが太平楽な寝顔で

 ぐぅぐぅ寝てるから微妙な気分になるんですよ。

 寝てるときも困った兄さんです」


693: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 21:49:50.19 ID:ibBVSdbm0
妹友「ふむふむ」にやにや



妹「おおきな犬みたいにぐてーってして

 たいそうだらしなかったですよ、兄さんは。

 ちょっと扇いであげたら、にぱーっとか笑うので

 扇いだり止めたりしてみました。

 それはちょっと楽しかったですね。

 ふだん振り回されている分の復讐です」



妹友「ほほう」にやにや

妹「もう、友さん。なんでニヤニヤしてるんですかっ」



妹友「いやいやいや」

妹「?」

妹友「おめでとう。妹ちゃん」

妹「え? え?」



妹友「妹ちゃんは、ばっちりふぉーりんらぶです」

妹「そんなことは無いですよ」



妹友「でもいまのを聞いたらどう聞いてもそうだよ?」

妹「そんな事無いですよ。

 全然恋愛感情とは関係ないじゃないですか」

妹友「そうかなぁ」



697: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 21:55:45.33 ID:ibBVSdbm0
妹「兄さんは大きな小学生で怪獣でお馬鹿なんです。

 それに――兄さんなんですから。

 そういう対象とは違いますよ」



妹友「ん~」



ぱくり、むしゃ。



妹友「でもさ。そしたら

 例えば、さっき話に出てきた女の人と、

 お兄さんとお付き合いしちゃったりすることもあるわけだよね」

妹「ええ。それは。そういうこともあると思います」

妹友「それは妹ちゃんは良いの?」



妹「だから許可するとかしないとか」

妹友「そうじゃなくてさ。気持ちは?

 気持ちのほうはOKなの?」



700: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 21:59:21.33 ID:ibBVSdbm0
妹「……」

妹友「お兄さんとその人が一緒にいてもちくちくしない?」



妹「それは」

妹友「うん」

妹「します」



妹「……けど、それは家族でもするじゃないですかっ」

妹友「妹ちゃん?」



妹「今までいた人がいなくなっちゃったり

 今まであったものが壊れちゃったり

 今まで頼ってたのに離れちゃったりしたら

 ちくちくは、やっぱりするじゃないですか」



妹友「だから、だったら。

 それはやっぱり好きなんじゃないかな」



妹「……でも、兄さんは。

 兄さんはやっぱり兄さんで」



かちゃん。



女子A「あっ!! 妹? 妹だよね?」



708: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 22:05:51.17 ID:ibBVSdbm0
妹「あっ」



女子A「うっわー。懐かしい! 覚えてるかな!!」

女子B「妹だ、懐かしいっ。びっくりしたよーっ」



妹「ご無沙汰してますっ。覚えてますよ。

 女子AさんとBさんでしょ。みんなは……元気ですか」



女子A「うん、みんな元気。びっくりしたよ。

 うちエスカレーターだから、みんな一緒かと思ってたのに

 急に妹ちゃんはいなくなっちゃうしさ!

 この辺に越してたんだっ」



妹「ええ。色々ご心配をおかけしました」

女子A「ううん。元気なら良いんだ!

 我らが委員長が困ったことになってるんじゃ無いかって

 皆とも昔は良く話してたんだよっ」



709: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 22:07:05.81 ID:ibBVSdbm0
妹「ごめんなさい」



女子B「違うんだって。みんな妹ちゃんのこと

 思い出したりしてタだけ。

 こっちはみんな持ち上がりで高校生になって。

 相変わらず女の花園なんだよっ。

 妹ちゃんは、そのぅ……。ご家庭の事情とか、聞いたけど」



妹「ええ。お世話になっている家の方が、

 良くしてくれてるんです。高校も公立に通っています」



女子A「そっかぁ。あ、お話の途中だったよね。

 そだ、これ。携帯の番号だよ。……よし、っと。

 今度電話してね! 絶対だよっ」



妹「はい。皆さんにも、よろしく伝えて下さい」



女子B「邪魔してゴメンね。またね! 妹ちゃん」

女子A「電話待ってるからね♪」


716: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 22:15:08.19 ID:ibBVSdbm0
妹友「……」

妹「……」



妹友「……」

妹「……」



妹友「えーっと」

妹「……はい」



妹友「じゃ、お兄さんとは」

妹「私、養子なんです」



妹友「だって、それじゃ」

妹「血は繋がってません」



妹友「それじゃさ、いつも妹ちゃんがご飯作ってるのとか

 家事を全部やってるのとか、図書室で勉強してるのとか

 週末の遊びも断ったりしがちなのとか、

 それってなんだか絶対」

妹「違います」



妹友「でも、それっておかしいよ。変だよっ」

妹「でも違うんです」



721: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 22:19:37.14 ID:ibBVSdbm0
妹「私は……」

妹友「……」



妹「自分の部屋に帰るとすごくほっとするんです。

 家に帰ると幸せな気分になります。

 聞いて楽しい話だとは思いませんけれど……」



妹「自分の居場所があるってすごく幸せなことです。

 誰にも邪魔されたりしないで、自分でいられる。

 そんな場所があるってすごく幸せです」



妹友「……」



妹「私そういうのは、憧れてましたから……。

 いつかもし、そういう場所が出来たら

 すごく大事にしようって決めてました。

 綺麗に掃除して、大事にして。

 布団もタオルケットも洗濯をして

 シーツなんて毎日干しちゃって。

 お台所なんかピカピカにしようって思ってました。

 フォークもお皿も一個ずつ磨いて、

 棚に並べてあるって素敵です」



728: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 22:28:02.69 ID:ibBVSdbm0
妹友「……」



妹「それから、ご飯です。

 もし、なにかのすごい偶然で

 私がご飯を作らせてもらえたら……。

 きっと、精一杯がんばって美味しく作ろうって

 いつも、毎日寝る前に思ってました。

 ううん、美味しいとか美味しくないとかじゃなくて、

 たぶん……。

 『どうぞ食べてください』っていう気持ちで作りたいな。

 そういうのって、すごく良いなって思っていました」



妹友「うん……」



妹「なにぶん当時は……。まだ子供だったので

 今でも全然子供なんですけれど。

 でも、レパートリーもがんばって増やして、

 作れるものが一個ずつ増えて、

 新しいレシピが作れるたびに、

 ちょっとずつ居て良い場所が増えていくような気がして」



妹「だから、家事をしてるのとか、料理をしてるのは

 全部私の我がままなんですよ。

 友さんのそれは、間違ってるんです」



妹友「うん。……判った」



730: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 22:34:39.88 ID:ibBVSdbm0
妹「それにほら!」にこっ



妹友「?」



妹「兄さんは、家事も料理も全然ダメな人ですからっ。

 何度も言いますが、ほんとうに大きな小学生な人なんです。

 この間はトマトもろくに切れないって豪語していました」



妹友「あははっ」



妹「だから一家の主婦としては家族に美味しい

 ご飯を作るのは当然なんですよ。

 そういう風に云えるのが、わたしは嬉しいんです」



妹友「……うん」

妹「はい」



妹友「――ごめんね」

妹「どうしてです?」

妹友「喋りたくないこと、話させた」







735: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 22:41:50.72 ID:ibBVSdbm0
妹「良いんです。今までだって何度も言いかけたんです。

 でも、タイミングが合わなくて」

妹友「でも」



妹「友さんには言いたかったんです。

 友達ですもん。ちゃんとしたかったんです」



妹友「妹ちゃん……」

妹 にこっ



妹友「でも、でもさ」

妹「はい?」

女友「お兄さんのことは?

 お兄さんのことは良いの?」



妹「兄さんは……。美味しいって云ってくれました。

 いまでもです」



妹友「――っ」



妹「だから、兄さんの話は終わりです」



妹友「……」





740: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 22:46:07.86 ID:ibBVSdbm0
――駅ビル



妹「メールですね。誰かな。兄さんだ。

 こんな時間にどうしたんでしょう」



兄『title:キミは知っているかな? 至高のプリンを』



妹「相変わらずお馬鹿なタイトルですね」



兄『そこに行けばどんなプリンも

 有ると言うよ。

 誰も皆、行きたがるが、はるかな世界

 その店の名はモロゾフ

 どこかにあるユートピア

 どうしたら行けるのだろう? 教えて欲しい』



妹「私のほうが教えて欲しいです」



兄『やってきましたモロゾフ! 

 待っているんだ。兄ちゃんがレアチーズケーキを

 買っていってやるさかい!』



妹「大阪人になってしまいましたか、兄さんは。

 ……きょうはPi、ちょっとpiきたく、帰宅pi

 遅れますpi……送信」


749: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 22:55:28.73 ID:ibBVSdbm0
――ショッピングモール。総合案内所。



妹「すみません、有りませんでしたか?」



案内嬢「申し訳有りません。ノート類の落し物

 お届けは、過去一週間ございません」

妹「そうですか……」



案内嬢「もしご連絡先を頂戴できましたら、

 届出をもう一度調べて、または届出があった時点で

 ご連絡できますが」



妹「お願いします。携帯のなんですが」



案内嬢「はい。番号お預かりします」

妹「よろしくお願いします」



妹「困りましたね」



妹「あれがないと……。

 それは……。絶対にダメってわけじゃないですが

 やっぱり、大事です。ずっとつけてたんですから」



妹「別に。こだわるようなものじゃないです。

 こだわるようなものじゃ、無いんですけれど……」



758: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 23:01:43.62 ID:ibBVSdbm0
とぼとぼ、とぼとぼ……



妹「兄さん、かぁ……」



トスン



(――だばだば♪ だばだば♪)



妹「云ってはなんですが。お子様です。

 大学で、もう院にもというのに、スーパーヒーロータイムとか。

 変な踊りをしますし。もう」



(――あむ、あむ。もっきゅ、もっきゅ)



妹「それに大食いです。口も大きいですし。

 その辺もやっぱり子供な部分が出ているんです。

 マナーの問題でもあります。きっと会食とかでは

 困ったことになるはずです。教育が必要です」



(――いっただきまーっす!!)



妹「元気が良いのは◎です。

 そういえば、食事の挨拶だけはすごくきちんとしてます。

 いつからなんでしょうか」



763: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 23:07:34.56 ID:ibBVSdbm0
(――犬まる先生と生協マートに出発だぜ~♪)



妹「なんだかんだ云って、協力はしてくれるんですよね。

 買出しだって、大掃除だって、洗濯だって。

 いつもご飯作らせてるからって、

 犬まる先生の散歩はずっと兄さんの仕事です。

 どっちも犬みたいですから、

 どっちが散歩させてもらってるか判りませんけど」



(――う、怖いぞ。妹よ)



妹「当たり前です。怒らせるような事をしてるんです。

 兄さんはまったく怪獣というかお馬鹿というか……」



(――もうちょっと眠らせてくれぇ)



妹「毎朝の儀式もそうです。

 どこの世界に毎朝あんなに抵抗を続ける兄が居るんでしょうか。

 一人暮らしをすることになったら兄さんはどうするんでしょうか。

 こっちが5分起こすのを早めると5分長くごろごろするという

 悪質なまでの周到さを見せます。

 きっと兄さんの怠惰さは神様も見ているはずです」



(――おかわり、ないのか?)



妹「そんな訳ないじゃないですか。

 ずーっと兄さんのご飯を作ってきたんです。

 どれくらい用意すればいいかなんて判ってます。

 いい加減信用してもらっても罰は当たらないはずです」



764: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/25(月) 23:09:41.25 ID:ibBVSdbm0
(――こっちが勝手に懐いているのだ)



妹「兄さんはそういうところが勝手なんです。

 いつも最後の最後に『にこっ』とか。

 怪獣の癖に、お馬鹿の癖に。それで全部帳消しです」



(――美味いなぁ! マヨ美味しい)



妹「食いしん坊です。嫌いなものなんか無いんです」



(――コンビニにいこうぜー。アイス食おうぜ!)



妹「いっつもにこにこして」



(――ご馳走様っ! 余は満足じゃ!)



妹「美味しい、美味しいって」



(――ご馳走様っ。今日も最高に美味しかったぜ)



妹「私の作ったもの、美味しいって」



(――いつもあんがとな! 妹よ!)



妹「私の作ったものなんか、美味しいってっ」



ぎゅぅっ。



814: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 00:17:03.91 ID:uLDYCQIR0
――自宅近くの河川敷、21:00



兄「結構高かったなぁ。モロゾフ」



兄「でもこれで多少元気が出ればな」

犬まる「わふぅん♪」



兄「あいつ、なんか元気、無いよな。

 週明けからかな。――あの買い物の後か。

 別に女ともめたわけじゃないよな。

 焼き鳥屋ではそこそこ機嫌よかったんだし」



兄「何かあったんかなぁ……。

 でかいことじゃなきゃ良いけど。

 もう、でかいことは、十分なんだから……」



犬まる「わふっわふぅ♪」



兄「犬まる先生、走りたいのか?」



犬まる「わっふぅ♪」



兄「おし、行ってこい。ほらっ」



ダカダカダカダカダカッ



妹友「お兄さん」

兄「あれ、妹友ちゃん」



821: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 00:25:26.75 ID:uLDYCQIR0
妹友「こんばんわ」

兄「こんばんわ。こんな時間に。偶然だね」

妹友「えっと。あんまり偶然じゃ有りません」

兄「え?」



妹友「……」

兄「えっと、まじめな話?」

妹友「はい」



兄「場所、移す?」

妹友「いいです」



兄「判った、聞くよ」

妹友「……」

兄「……」



妹友「お兄さんは、妹ちゃんの事を、どう思いますか」

兄「うん」

妹友「……」

兄「――俺には、過ぎた妹だよ。

 よく気がつくし、掃除も、洗濯も、料理も。

 家事は全部やってもらっちゃってる。

 申し訳ないし、いつもありがとうって思ってる。

 本当はもっと『外』を知って、出て行けるといいんだけど

 あいつは引っ込み思案だし、まだちょっとの間、

 『殻』が必要なのかな、とも思う」



824: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 00:30:13.81 ID:uLDYCQIR0
妹友「……」

兄「……」



妹友「それじゃない方を」

兄「……うーん」

妹友「聞いてる意味はわかりますよね?」

兄「うん」

妹友「お願いします」



兄「歩こうか」

妹友「……はい」



兄「……」

妹友「……」



兄「友人にも、云われる。

 あんな可愛い妹、とか。シスコンじゃない? とか」

妹友「はい」



兄「ごまかすつもりもまったく無いんだけれど

 俺には本当にそれってよく判らないんだ。

 質問の意味がわからないわけじゃないけれど、

 質問の正しさがよく判らない」



829: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 00:36:24.17 ID:uLDYCQIR0
妹友「質問の正しさ?」



兄「例えば――『火星はなぜ夜空のあちこちを

 気ままに動きますか』とか。

 この質問は古代の科学者を悩ませてきたよね」

妹友「はい」



兄「別に火星は意思を持ってるわけじゃない。

 だから勝手にあちこちに行くわけじゃない。

 ただ古代の科学者は天動説を知らなかった。

 公転どころか自転も把握してなかった。

 だから複合運動する火星の動きを説明できなかった」



妹友「……」

兄「妹は、やっぱり妹だよ」



妹友「――っ」

兄「でもその答は、答える前から、なんだか間違ってるよね。

 でもそれは。本当は、答えが間違ってるんじゃなくて、

 質問が間違ってるんだよ」



妹友「……」

兄「だから、『妹の事を女性として好きかどうか』

 っていう問いには答えない」



833: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 00:43:50.79 ID:uLDYCQIR0
妹友「だって、そんなのっ」

兄「妹友ちゃんが、どっちを望んでいるかは

 判らないけれど」

妹友「え」

兄「でもね」にこ



妹友「――」

兄「どっち、って答えても。妹は半分は幸せになって

 半分は不幸になっちゃうと思うんだよ。

 いつ気持ちがすれ違っちゃうか判らないような

 不確かな『恋人』になんかなってもさ。

 『家』は妹が手に入れた、たった一つの居場所なんだし」



妹友「……」

兄「だから、そんなどちらを選んでも

 半分しか正解じゃないような質問は、

 質問そのものが間違ってるんだよ」



妹友「だって、だって」

兄「大丈夫だよ」くしゃ

妹友「だっでっ」



兄「だいじょぶ。俺は妹の料理を、食べてるから。

 世界中で一番沢山、妹の料理を食べたから」

妹友「え?」



839: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 00:49:42.05 ID:uLDYCQIR0
兄「『言葉にしなくても伝わる』なんてさ

 そんなの99%は嘘だよね。

 そんな風に伝わる気持ちなんて本当は無いよ。

 なんでも精一杯話さないとね。

 ギリギリまでがんばって、

 ギリギリまで誠意を尽くして、

 それでも伝わるかどうか判らないのが

 気持ちなんだと思うから。

 ――でもさ」



兄「でも『残り1%』があるのなら

 きっとそれは、妹のご飯の中にあると思うんだよ」



妹友「……」



兄「だから、大丈夫。

 きっと『正しい質問』は見つかるよ。

 ううん、見つけるから」



妹友「お兄さん」



兄「ごめんね。ありがとうね」にこっ



妹友「絶対、絶対の、絶対に」

兄「うん。――約束する」



846: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 00:53:42.41 ID:uLDYCQIR0
――自宅の食卓



兄「今日も美味そうだなっ。妹よっ」

妹「ありがとうございます」



兄「はやくはやくっ」

妹「ちゃんとよそいますから」

兄「うーん。白米つやつやだっ。美人米っ」

妹「米どころは美人が多いといいますからね」

兄「おうっ。食欲が唸るぜ!」

妹「聞いてませんね」



兄「上官殿っ」

妹「なんでしょう?」

兄「本日の献立詳説をお願いします」



妹「今日はごく普通の晩御飯です。

 まずは秋刀魚。大根おろしと酢だちが添えてあります」

兄「旬だもんな」

妹「旬というのは、本来月を三つに分けたものです。

 上旬、中旬、下旬というものですね。

 それはつまり、十日という事を意味します」

兄「ほうほう」



妹「旬の食べ物、というのは、ですから

 『365日のうちのもっとも美味しい十日間』という

 意味でもあるわけです」

兄「ほほう!!」





856: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 00:58:41.32 ID:uLDYCQIR0
妹「因みに秋刀魚は一尾120円でした」

兄「ナイスプライスっ!」

妹「安いのは正しいです。旬は美しいです」

兄「まったく同意っ!」



妹「次はイカとサトイモの煮物です。

 イカのワタの味が少しだけ出て、

 煮汁にコクが出るのが特徴です」

兄「大好物!!」



妹「茄子のしぎ焼きは、タレにほんの少しカキ油を

 まぜてみました。変わった風味があると思います。

 あとで感想を聞かせてください」

兄「了解であります」



妹「残りは香の物とお味噌汁です。お味噌汁は

 お揚げとえのきになります」



兄「美味しそうです!」

妹「召し上がれです」



兄「いっただっきまーっす♪」

妹「いただきます」



870: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 01:04:28.03 ID:uLDYCQIR0
兄「まぐまぐっ。もきゅ、もきゅっ」

妹「もぐもぐ」



兄「はぐっ。もきゅ。もきゅ」

妹「もぐもぐ」



兄「もっきゅ、もっきゅ。醤油お願い」

妹「はい」



兄「美味しいぞ、秋刀魚は脂がのってるぞ!」

妹「はい」にこ



兄「はぐはぐはぐっ。もぐ、ごくん」

妹「もぐもぐ」



兄「カキ油は、コクが出るというか、こってりした

 ちょっと中華風のテイストになるな」

妹「ええ、ですよね」



兄「他のメニューとの兼ね合いで、野菜の炒め物に

 ちょっと重さが欲しいときは良いと思う。

 個人的には好きだな。香りとか」

妹「ふむふむ」



兄「?」

妹「もぐ……」



882: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 01:11:10.50 ID:uLDYCQIR0
兄「もぐもぐ、はぐ」

妹「もぐ……」



兄「もっきゅ、ごくん」

妹「もぐ……」



兄「あむ、んまい♪」

妹「もぐ……」



兄「妹よ」

妹「お代わりですか? 兄さん?」



兄「いや。……なんかあったのか?」

妹「いえっ。べつに。取り立てて何も」



兄「元気がないぞ」

妹「そうですか? そんなことは有りません」



兄「うん」

妹「そうだ、兄さん。食後にプリン残ってますよ。

 モロゾフで買ってきてくれたやつ」

兄「おう! 食うか」

妹「はい、食べましょう」にこっ

兄「やったーい。プリンプリン~♪ ん」



890: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 01:15:56.09 ID:uLDYCQIR0
――研究練、屋上



兄「うっわあ。こりゃ良い風だなぁ」

女友「でしょでしょ。結構眺めもいいしね」

兄「どうしたんだよ、鍵」



女友「いや。サークルの先輩にもらった」

兄「もらった、って」



女友「まぁ、悪用しなければいいんだよ」

兄「ずぼらな管理だなぁ」



女友「そのおかげで、この風と景色が手に入るんだよ」

兄「まぁな」

女友「あははは。髪の毛、はたはたしてるよ」

兄「お前もだ」

女友「うっわ、舞っちゃってる。あはっ」



兄「ん」にこ



女友(ああ。私は、やっぱりこの人が好きだ)





899: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 01:21:00.03 ID:uLDYCQIR0
兄「どうしたんだ。ぼーっとして」

女友「いや、してませんよ?」

兄「してたよ」



女友「またまたご冗談を。

 私は精神集中にかけてはヨガの導師クラスですよ」



兄「歯に青海苔ついてるよ」



女友「うそッ!?」



兄「あははははは」

女友「く、くっそー。今日はそんなもん食べて無いもん」

兄「精神集中が脆いぜー」

女友「ううう。苛められてるなっ」



兄「またまたご冗談を。

 俺は自愛の精神においてはマザーテレサクラスですよ



女友「だばだばのくせに」(ぼそっ



兄「なっ!?」

女友「へへーん。妹ちゃんから聞きだしてあるのだっ!!」

兄「き、貴様。見たな」

女友「おうともさっ!」



902: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 01:26:55.05 ID:uLDYCQIR0
女友「あははははっ」

兄「あはははっ」

女友「おかしーっ。男くんも、結構笑うんだ」



兄「ったく。どう思われてたんだ」

女友「結構クールかと」



兄「そんな事無い。生きてれば普通に笑うさ」

女友「あははっ。そうだよねっ。あったりまえだー」

兄「そうだよ」



女友「うっわぁ。なんか笑ったら、気持ちいいな」

兄「うん」



女友「……」

兄「……」



女友「云っていいかな」

兄「……」

女友「云うぞ? こんちきしょー」



兄「えっと、さ」

女友「何さ」



兄「俺、お前の評価高いぞ」

女友「うん」



908: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 01:30:32.27 ID:uLDYCQIR0
兄「真面目だし」

女友「いぇい♪」



兄「まめに働くし。お人よしだけど誠実だし」

女友「なんかトホホだね」



兄「かなり可愛いと思うしさ」

女友「なぬっ。初耳だぞ」



兄「さりげなく胸がでかいし」

女友「自慢なのだ」



兄「シモネタ好きだけどな」

女友「うう」



兄「女の皮をかぶったオヤジかなとか思うけど」

女友「ううう~」



兄「でも、友情は感じてる」

女友「うん」



兄「……」

女友「知ってた」



兄「……」

女友「でもさ」



914: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 01:35:52.11 ID:uLDYCQIR0
びゅうううーっ。びゅううーっ



女友「でもさ、私にも、妹分が出来たからさっ」

兄「……」



女友「そういうチンケなリスクにびびってられない訳よ。

 女としての……。先輩? としてさっ。

 ガツンっとかまさなければならん訳よっ。

 立ち止まってちゃ居られないの。

 そうじゃないと説教できないわけすよ。

 『結果どうあれ先輩は戦いましたよ』ってね」



兄「……」



女友「本当は、こんなのはもっと先手必勝だったわけですよ

 理解した次の瞬間に突撃しておけば良かったんです。

 そうすれば、きっと、もっと――違う場所にさっ。

 それを変に知恵つけちゃって、保身しちゃって。

 でも、あたしが……。卑怯ッ

 だったからっ

 ずーっと、ずーっと、ずーーっと続けちゃっただけでさ」



兄「……」



女友「云うぞ、こんちきしょー」



921: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 01:39:05.01 ID:uLDYCQIR0
女友「彼女にっ。してくださいっ」

兄「……」



女友「いろいろ不足部分があるポンコツなんだけど、

 あたしこれでも体育会系なのだっ。

 鍛えれば良い戦力になる。割とお買い得っ」



兄「……」



女友「自分で云うのもなんだけど、サービス精神はあるよっ。

 各種ご奉仕プレイにだって興味津々だぞっ」



兄「……」



女友「経験不足を補う脅威の成長度Sランクユニットなんだぞぅ」



兄「……」



女友「――だめか?」

兄「うん」



女友「――絶対にデスか?」

兄「ごめんな」



932: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 01:42:39.58 ID:uLDYCQIR0
女友「うん。――判った」

兄「……」



女友「先に行って」

兄「――おう」



ざっざっざっ



女友「男っ」



ぴたっ



女友「あたし、格好よかっだがっ?」ずっ

兄「おう」



女友「良い女だっだがっ?」ずずっ

兄「おう」



女友「こんなチャンスは二度とないんだぞっ」

兄「おう」



女友「妹分に伝えて。覚悟決められたなら

 ――ノート、取りに来て良いって」

兄「……判った」



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 02:39:23.43 ID:uLDYCQIR0
――夕刻、駅前



妹「ふぅ……」



とぼとぼ



妹「なんか兄さんの視線が。ちょっと怖いです。

 こんなこと、無かったのにな。

 隠し事してるせいかな。

 私が気持ちごまかしてるせいなのかな」



妹「だから、消えちゃうのかな。

 ――それは、いやです。

 それは本当にいやですね……」



妹「なんででしょうか。

 美味しいもの一杯作って、美味しい美味しいって

 兄さんに食べてもらいたかったのに。

 兄さんが美味しい美味しいって食べてくれる度に

 もっとくっつきたくなって……。

 くっつきたい気持ちなんて、

 隠したって出したって兄さんに心配かけるだけなのに。

 美味しいものを食べて欲しいだけなのに

 食べて欲しいだけなのに

 喜んでくれたのに

 それだけのことが、なんで出来ないんですか」



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 02:46:24.17 ID:uLDYCQIR0
妹「兄さんが美味しいっていってくれて嬉しかったのに

 ここにいて良いよって云ってくれて嬉しかったのに

 いつからこんなに贅沢になっちゃったんだろう」



妹「贅沢だから。

 多くを望むから。

 ここにも居場所がなくなるのですか。

 また当ても無く歩き回って

 毎日逃げて暮らすような時が来るのですか」



妹「それはやだな。

 ――兄さんと一緒じゃないのは

 いやだな……」



兄 ぽかりっ



妹「兄さんっ?」



兄「何を泣きそうな顔をしてるんだ」

妹「……むぅ。そんな顔してませんよ」

兄「そうなのかぁー」むにっ



妹「ほっぺた、ひっぱら……。もう、子ども扱いしてっ」

兄「乗れ」

妹「自転車で、何でです?」



兄「なんとなく」

妹「ずっと待ってたんですか?」

兄「なんとなく」



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 02:52:12.53 ID:uLDYCQIR0
――河川敷、サイクリングロード



びゅうううー。びゅうううー。



妹「兄さんっ」

兄「なんだ、妹よっ」



妹「うち、通り過ぎちゃいましたよ」

兄「いいんだ。散歩替わりだよ」

妹「自転車で?」

兄「そう」



びゅうううー。びゅうううー。



妹(夕日、真っ赤です)

兄「真っ赤だな」

妹「え?」

兄「夕日が」

妹「――はい」



びゅうううー。びゅうううー。



兄「寒いか?」

妹「ちょっと」

兄「くっついてもいいぞ」

妹「もうっ。そんなことばっかり」



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 02:55:39.05 ID:uLDYCQIR0
ききぃ。



兄「よいせっと」

妹「んっ」

兄「ここ、初めて?」

妹「はい」



兄「まぁ、寂れた神社山だからなぁ。

 子供の頃はよく遊びに来たりしたんだけどさ」

妹「こんなところがあるんですね」

兄「うん。ほら、この角度」

妹「?」



兄「この角度だと、駅前からうちのあたりまで

 商店街が全部見えるんだよ」

妹「ほんとです」

兄「真っ赤だろ?」

妹「ええ」



ひゅるるるー。



妹「本当に、夕日で。茜から藍色に……」

兄「あの辺が、肉屋と、総菜屋でさ」

妹「ええ、あっちが八百屋さんですね」

兄「そっちへいくと、酒屋があってさ」



93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 02:59:39.55 ID:uLDYCQIR0
妹「団地も……」

兄「ああ。明かりが灯ったな。マンションも、ほら」

妹「チカチカして。お仕事から帰ってきたんでしょうか?」

兄「学校かもな」

妹「そうですね」



兄「ああいうのさ」

妹「?」



兄「うーん。上手く云えないな」

妹「??」



兄「ああいうのがさ、全部晩御飯なんだぜ?」

妹「え?」



兄「ああいうのが、一個一個さ。

 全部全部、晩御飯なんだぜ?」

妹「ああ!」



兄「なんか、すごいな」

妹「はいっ。すごいです」



兄「あんなに沢山晩御飯があるんだぜー

 何百種類のメニューがあるんだろう。

 きっとすごく美味しいものもあるんだぜ」じゅるり

妹「兄さん、だらしない顔してますっ」



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 03:02:22.54 ID:uLDYCQIR0
兄「女から伝言」

妹「?」



兄「『覚悟決められたならノート、取りに来て良い』って」



妹「っ!

 じゃぁ、じゃ。ノートは、お姉さんが持ってたんですか?」



兄「事情は知らない。その伝言を預かっただけ」

妹(じゃぁっ。じゃぁっ!)



ぎゅっ



妹「あのっ」

兄「?」

妹「兄さん、お姉さんは?」



兄「格好よかったよ」

妹「……っ」

兄「あいつは、格好いいやつだよ」

妹「……っ」



ぎゅぅっ



妹「私は。だって、私はっ

 私のほうが、卑怯なのにっ」



兄「……だいじょうぶ。ちゃんと覚えてるから」



105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 03:05:08.63 ID:uLDYCQIR0
――同刻、風の屋上



びゅぅぅぅ~っ。ぴゅぅぅー。



女友「……きっついな。

 さすがに今回は、ダメージでっかいなっ。

 死ぬかと思ったなっ。てか、死んでるのかも。あたし」



女友「でも……」



女友「でも。ちゃんとやったもん。

 がつんって云ってやったもんっ。

 ――逃げなかった。

 ちゃんと戦ったもん



女友「だいたい、きついのはさっ。

 くっ。いい男が相手だったからだもん。

 きつくないなら、戦るだけ無駄だもんっ。

 だから、きつくても、ほんの、

 ほんのちょっと……」



女友「ずっこいなぁ。あはっ。

 これはぁ……。

 お姉さん、負けるな。

 気合、入ってるもんなぁ」





114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 03:07:58.01 ID:uLDYCQIR0
 手元のノート。

 風がページを繰る。

 波のように。うねりのように。



『バリエーションno18!

 兄さん専用チキンカレー

 ジャワカレーの一番辛いやつ1/3

 バーモンドの中辛2/3。兄さんは案外お子様舌です!

 じゃがいもたくさん。ニンニクは摩り下ろして入れること。

 鶏はカレー粉(SB限定)をまぶして30分おく』



 ページに

 花びらのように

 風に舞うページに





『バリエーションno21!

 兄さん専用桃のコンポート

 鍋に水はひたひた。砂糖、レモン汁。

 白ワイン半分。ナイショで日本酒(純米)。

 キッチンペーパーはおとすこと。

 皮は綺麗に剥いてから冷蔵庫の一番下で二時間冷やす』



 たくさんの

 たくさんの



118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 03:08:52.41 ID:uLDYCQIR0
『バリエーションno34!

 兄さん専用バジルフリッター

 鶏、もしくはイワシで。塩を振っておく。

 卵黄に小麦粉、ベーキングパウダー、牛乳。

 バジルは乾燥でもいいけど、なるべく生のもの。

 生の場合は冷凍しておくと砕けやすい。

 メレンゲを作って生地と混ぜる。

 (メレンゲはつぶさないようにてばやくさっくりと)

 170度でキツネ色まで揚げる。

 揚げてる間、兄さんは待たせること。

 クレージーソルトか花山椒を添えて供する。

 レモン果汁は必須(ないなら作っちゃダメ!!)』



 兄さん専用すき焼き

 兄さん専用ベーグル改造案

 兄さん専用鮭雑炊(二人前)



 兄さん専用、兄さん専用。etc,etc。



女友「妹ちゃん、すっごいなぁ。

 ――これで勝たなかったら

 お姉さんは神様をぐーでぶつな。

 ずっ。

 すんっ。

 絶対。勝たなきゃ」



129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 03:11:55.51 ID:uLDYCQIR0
――同刻、風の屋上



兄「ちゃんと覚えてるから」

妹「え?」



兄「妹が作ったもの、ちゃんと覚えてるから。

 春のカレイの煮付け、竹の子の煮物、わらびあえ、

 たらの芽の天ぷらも」



兄「夏の鮎もクルマエビも。タコのパスタも。

 トマトのバケットも。胡瓜の酢の物も。

 カボチャの煮物に、辛くしたアラビアータも」



兄「秋の鯛のソテーも。しめじの炊き込みご飯も。

 秋刀魚に、かつおに、お芋も。じゃがバターも」



兄「冬は寒くなって、カニすきも。

 ブリの照り焼きも作ってくれた。ふろふき大根も。

 カキフライに、白菜のクリーム煮。クラムチャウダー!」



妹「……うぅ」

兄「俺、全部覚えてる。食いしん坊だからなっ」

妹「そんなのっ。覚えて。覚えてたって」ぐずっ



兄「ずっと作ってもらえるんだろう?」

妹「へ」



138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 03:14:27.51 ID:uLDYCQIR0
びゅぅぅぅ~っ。ぴゅぅぅー。



兄「あんないんちき問題やることない」

妹「え? え?」

兄「どっちか選ぶとかさ。馬鹿らしいぞ」

妹「……」



兄「覚悟は決まったかっ!!」

妹「え? ええ!?」

兄「覚悟は決まったかっ! と聞いてるんだ」

妹「え。はっ、はいっ」

兄「よしっ」にこっ

妹「?」



兄「じゃ、うちで一緒に暮らすんだ」

妹「え? え?」

兄「ずっと一緒に暮らすんだ」

妹「……」

兄「家族とか、その……アレで、その……好きとかさ」

妹「――!」

兄「そんなの関係ないぞ。どっちか片方なんて損だ」

妹「兄さん」



147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 03:18:37.42 ID:uLDYCQIR0
兄「一緒に暮らして、一緒にご飯食べて

 一緒に暴れん坊将軍を見るんだっ」

妹「兄さんっ」



兄「だいたい、あれだよっ。――恋人とか?

 そういうのが苦しいなら。

 家族でいいんだよっ。

 真ん中すっ飛ばしてお嫁に来れば解決だよっ!」



妹「兄さん、それじゃ解法じゃなくて、

 ただのトンチじゃないですかっ!」



兄「いいの、これでっ。

 アクアバッシャーもそう云ってる」

妹「お馬鹿ですっ」ぐすっ

兄「徳田新之助だって賛成する」

妹「兄さんの馬鹿、馬鹿、馬鹿、お馬鹿っ」



兄「なんだ妹っ。覚悟決まったんじゃないかよっ!!」

妹「そんなものは5年前から決まってますっ!!」



兄「お前ががたがたいったって、絶対説得するからなっ

 そんだけの気合を女から注入されてきてるんだちくしょー」

妹「ずっと、決まってますっ」



兄「……ばか」

妹「兄さんほどじゃ、ないですっ」



163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2008/08/26(火) 03:23:16.73 ID:uLDYCQIR0
ごーん。ごーん。



妹「鐘の音です」

兄「うん」

妹「この鐘のおと、昔はすごく嫌いでした」

兄「……」

妹「皆は帰るところがあるのに、

 私は帰りたくなくって。いつまでもずるずると公園に居て。

 色んなおうちから、晩御飯の良い匂いがして。それがすごく悲しくて」



兄「……」

妹「兄さん」きゅ

兄「おう」きゅ

妹「良いのですか?」

兄「うん。……帰るぞ」



妹「晩御飯の買い物を、していかなきゃなりません」

兄「おー!! 商店街回っていこうぜ。まだ閉まってなんかいないさ」

妹「はいっ」



兄「あれだ。今日のメニューは俺に決定権がある」

妹「はいはい。兄さん。判ってます何を作るのかも」



兄「おお。決定済みだ。

 妹の作るのが世界で一番美味しい、決まってる。

 ハンバーグだよ! ハンバーグっ!」



おわりっ。