3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 17:59:59.83 ID:rMnDulFoO
ダル「ついに…出来たお…」

紅莉栖「やった…わね」

岡部「ククク…この瞬間をどれだけ夢見たことか…」

――これで、世界のゲーム業界は間違いなく混沌の坩堝に飲み込まれる事だろう。
俺達の開発した、次世代体感型ゲームによってな!

岡部「未来ガジェット16号機、バーチャルガール…ここに完成を宣言するっ!」

引用元: 鈴羽「シュタインズクエスト?」 


4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:01:09.24 ID:rMnDulFoO
“牧瀬氏の発明した、未来ガジェット13号機(名称未決定)の技術を応用して
逆にユーザーがネットゲームの世界に入り込む事が出来るんじゃね?”

というダルの発言から、今回の壮大なプロジェクトは始まった。


そして、開発開始からはや4ヶ月。

とうとう俺たちは仮想現実…ファンタジーの世界を旅する事が出来る夢のマシン
未来ガジェット16号機「バーチャルガール」を発明するに至ったのであった。

ちなみにゴーグル型である。

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:02:49.10 ID:rMnDulFoO
岡部「してダルよ。このバーチャルガール、ちゃんと人数分あるのだろうな?」

ダル「抜かりはないお。ちゃんと8人分用意出来てる」

岡部「素晴らしい…よし、早速ラボメン全員に召集をかけろっ!」

ダル「オーキードーキー!」

しばらくして、ラボにはメンバー8人全員が揃った。

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:04:41.72 ID:rMnDulFoO
鈴羽「ねー、新しい未来ガジェットが完成したって聞いたけど、また前みたいな事にはならないよね?」

岡部「…この前は、本当にすまなかったな」

うむ…こいつには悪い事をした。

以前、俺とダルで発明した未来ガジェット15号機にして未来人撃退用兵器
“未来人《ジョン》・コナーズ”の実験中に起きた動作の不具合により
ジョン・タイターに仕掛けたはずの特殊パルス脳波攻撃が何故か元・バイト戦士に飛んでしまい
結果、元・バイト戦士は、人には言えないようなえらい目に遭ってしまったのだった。

TIPS※質量保存の法則を無視して現在の世界に飛来してきている物質――いわゆる未来人の位置を捕捉し
それに対し、電波を通じて特殊なパルス信号を脳に叩き込む対未来人兵器。
それにより、パルス攻撃を受けた未来人は、クソとションベンを同時に撒き散らしてイッてしまうのだ。――――ダル談

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:06:48.30 ID:rMnDulFoO
もちろんその後、未来ガジェット15号機は実験を凍結し、すぐさま封印した。

岡部「しかし、案ずる事はないぞ…今回の発明は、無闇やたらに悲しみを生み出すようなものではないのだ」

なにせ“ゲーム機”なのだからな。

鈴羽「もし、今度あんな事になったら、本当にタダじゃすまないからね」

岡部「わかっている…心配するな。元・バイト戦士よ」

鈴羽「…その、元・バイト戦士ってのはやめてくんないかなー?」

鈴羽「そもそも、岡部倫太郎のせいでバイトが続けられなくなったんだし…」

元・バイト戦士は、ばつの悪そうな顔をして頭を掻いた。

ふむ…やつの言う事にも一理あるな。
いずれ、新しい名称を考えてやろう。

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:08:59.80 ID:rMnDulFoO
岡部「さて、本題に入ろうではないか。…本日諸君に集まってもらったのは他でもない」

一同の顔に緊張の色が浮かぶ。

岡部「これより、この、未来ガジェット16号機・バーチャルガールの実験を執り行うにあたり、諸君には実験体となってもらう!」

一同から、ざわめきが起こる。
俺は、バーチャルガールの概要を説明した。

まゆり「つまり、まゆしぃ達がRPGゲームの中に入って遊べるって事なのかな?」

岡部「うんむ。そういう事だな」

今回はやけに物わかりがいいな、まゆり。

鈴羽「へぇー、それはすごいね。あたし、ゲームなんてやった事ないから楽しみだよ」

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:11:15.91 ID:rMnDulFoO
フェイリス「ニャフフー♪フェイリスは、ゲームをトコトン極めるタイプだからニャ~」

フェイリス「もしかすると、みんなとはあっという間に差をつけちゃうかもしれないのニャ」
ふ…ククク…

岡部「ぬかせフェイリス。この狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真こそが!」

岡部「世界を混沌に至らしめる真の勇者である事を見せつけてやるわ!」

るか「ゆ、勇者ってのは、世界を救う存在じゃないんですか?」

萌郁「…」

指圧師も、携帯メールからツッコミを入れてくる。

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:12:58.63 ID:rMnDulFoO
岡部「フフフ……それは違うぞルカ子、そして指圧師よ…勇者というのはだな…」

岡部「他人の家に押しかけて、勝手にタンスを漁っても罪に問われ…!」

紅莉栖「御託はいいから、さっさとやりましょ。書くのめんどいから」

書くのがめんどい…?こいつ、何を言っているんだ?

ダル「うは、牧瀬氏大胆!さっさとやりましょ、頂きました!」

紅莉栖「うっさいわこのHE  !」

なるほど、これでは確かに話が進まんな…。

いい加減実験に行ってしまおう。

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:15:22.20 ID:rMnDulFoO
岡部「さて…準備は出来たか?ダルよ」

ダルは研究室にあるX68000から、バーチャルガールを操作している。
俺たちは、ゲーム内へのトリップに備え、各々が各所に腰を下ろした。

ダル「おk、いつでも行けるぜ」

岡部「よし…いいぞダル。やってくれ!」

ダル「アイアイサー!行くぜおまいら!」

ダルがそう言うと、キーボードを叩くカチカチターン!という軽快な音が聞こえ
それと同時に、上下感覚が無くなったかと思いきや、俺の意識は混沌に沈んでいった。

うむ、これはリーディングシュタイナーが発動した時の感覚によく似ているな。

さすがダル。すごいクォリティーだ。

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:17:53.04 ID:rMnDulFoO
ふと、潮の香りを含んだ、しっとりとした風が頬に当たる。

目を開けると、そこには海。

なん…だと…?

岡部「ここは…?」

海岸線に沿って、街が見える。
ファンタジーゲームの世界によくありがちな、中世を彷彿とさせるような港街だ。

岡部「フゥーッハッハッハ!なんたるリアリティ!まるで、本当に世界線を飛び越してきたようではないか!なぁみんな?」

俺の笑い声が、海を望む小高い丘に木霊した。
遠くから、海鳥の鳴き声が聞こえる。

あれ?

周りを見渡すが、誰もいない。

え?嘘だろ?みんなどこ行ったんだよ。

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:20:03.52 ID:rMnDulFoO
ダル「とりあえずインしたら、みんな同じ場所に出るはずだから、そこで合流しようず―――」

クッ…ダルめ、いきなり不具合発覚ではないか!

ってか、この状況は…どうすればいいんだ?

そうだ、とりあえずログアウトしてみよう。

えーと、ログアウト…ログアウト。

あれ?どうやるんだったっけ?

わからん…。

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:23:12.42 ID:rMnDulFoO
辺り一面、見渡す限りの海。

岡部「ホセ!そっちへ行ったぞ!」

ホセ「ああ!任せろ相棒!」

ホセと呼ばれた筋肉質な男は、船に備え付けられた銛を構えて縁から身を乗り出した。

岡部「気をつけろ…でかいぞ!」

ホセ「わかっている!ヘマはしないさ…」

ホセは構えた銛を、海中に見える巨大な影に突き立てた。

同時に、海面には獲物のものと思しき血が漂う。

俺は、船の縁で巨大な相手と格闘しているホセに駆け寄る。

岡部「やったか!?」

ホセ「ああ…こいつは久しぶりの大物だ…っ!」

ホセと協力して銛を引き上げると、そこにはグッタリとなった巨大なカジキマグロの姿があった。
ホセと俺は、その場でハイファイブを交わす。

岡部「やったな、相棒!」

そうだ、俺が求めていたのはこれだ。これなんだ―――

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:25:00.16 ID:rMnDulFoO
あれから、一体何日が経ったのだろうか。

のっけから皆とはぐれてしまった俺は今、とりあえず近くにあった港街の宿屋でお世話になっている。

宿を経営しているデビッドとキャサリンはとても気のいい夫婦だし
毎朝早くから、街の漁師連中と一緒に船に乗り込み、大海原で魚を水揚げしては心地よい疲れと共に宿に帰る、という
マッドサイエンティストとは全く無縁の健康的な生活も、何だか段々悪くないような気がしてきていた。

以前は忌々しかったはずの日差しが、今では心地よいな。

ああ、今日も大漁。いい汗をかいた。

…宿屋に帰ると、助手とダルが居た。

こいつら…こんな所で何をやっているんだ?

紅莉栖「お前が何やっとんだ!」

ダル「さすがにボケが長いお」

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:28:04.01 ID:rMnDulFoO
岡部「な…なんだってー!」

どうやら、思いのほか大変な事が起こっているらしい。

岡部「つまり…この世界は仮想現実ではない…と?」

ダル「そ。僕たち、どうやら本当に肉体ごと別の世界に引きずり込まれたらしいお」

むむ…状況の割にはサラッと言ってのけるな…。

紅莉栖「…はぁ、何でこんな事に…家に帰りたい…」

そんな泣き事を言っている場合ではないだろう。

いつまでも嘆いていてもしょうがない。

岡部「どうだ、お前たち。宛がないのだろう?俺と一緒に漁師…」

紅莉栖「やらんわ!」

なん…だと…?

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:29:52.52 ID:rMnDulFoO
ダル「とりあえず、みんなを集めて元の世界に帰るための手立てを考えなきゃだろjk」

岡部「あ…ああ、そうだな」

そうだ。

いくら居心地がよいとはいえ、ここは俺達が居るべき世界ではない。

岡部「よし、明日から早速ラボメンの捜索を開始する!」

紅莉栖「でも…何か考えはあるの?」

俺には心当たりがあった。

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:32:44.27 ID:rMnDulFoO
岡部「こいつを見てくれ。一週間前に、街でこんなビラが配られていた」

紅莉栖とダルは、俺が差し出したビラに目をやる。

紅莉栖「なっ…なにこれ?」

ダル「魔王…フェイリス…現る!?…魔王城インフェルノ+ニャン2…」

岡部「どうやら奴は、この世界でも上手い生き方を見つけたようだ」

俺が、漁師として生きていこうと決心したのも、こいつがあったからだ。

紅莉栖「ば、バカ言わないで!なんかとんでもない事になってんじゃないのコレ?」

ダル「うはー、猫耳メイドから魔王へジョブチェンジ…フェイリスたん、どれだけ僕を萌えさせれば気が済むんだ」

紅莉栖「もうやだこのメンツ…」

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:35:38.72 ID:rMnDulFoO
岡部「…しかし、とりあえずこれで目的地は決まっただろう?」

紅莉栖「え?」

助手がキョトンとする。

魔王がいる場所といえば、あそこしかあるまい。

岡部「ずばり言おう。俺達が目指す先…それは魔王城だッ!!」

紅莉栖「え?」

俺の名推理に、言葉も出ないようだな。助手よ。

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:37:18.11 ID:rMnDulFoO
次の日の朝、俺は長らくお世話になった宿屋の夫婦と、漁師組合の連中に涙の別れを告げてきた。

岡部「…くっ」

紅莉栖「何あんた…まさか本気で漁師として生きていくつもりだったの?」

当たり前だ…俺はいつでも本気なのだ。

“ホセ、いずれまた会おう”

“運命石の扉が、再び俺達を出会わせるはずだ”

“エル・プサイ・コングルゥ”

そう言うと、さすがのホセも少し引いたような顔をしていた。


ダル「さて、そろそろ次の街に向けて出発したいわけだが」

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:39:03.89 ID:rMnDulFoO
助手に貰った地図に目をやる。

岡部「ふむ、マップによると、ここから北に12km行った先に街があるようだな」

紅莉栖「12kmか…道中の魔物が心配ね」

岡部「な…に…?」

魔物だと?

この世界には魔物が居ると言うのか!

そう言えば俺は、この港街から出たことが無かった。

岡部「ふ、フゥーッハッハッハ!この鳳凰院凶真、魔物に対して何を恐れる事がある!」

そう、忘れかけてはいたが、俺は正真正銘狂気のマッドサイエンティスト。
出会ったが最後…尻尾を巻いて逃げ出すのは、むしろ魔物の方なのだ。

紅莉栖「ば、馬鹿言わないで。あんたは、あいつらの恐ろしさを知らないから…」

ダル「牧瀬氏の言うとおりだお。傭兵も付けずに街の外を出歩くのは無謀」

岡部「なるほど…傭兵か…たしかこの街にもギルドがあったはずだ」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:43:00.22 ID:rMnDulFoO
鈴羽「あっれー!岡部倫太郎!橋田至!牧瀬紅莉栖まで!何でこんなとこにいんの?」

岡部「むうっ、お前は…元・バイト戦士!」

ダル「うは、阿万音氏!女剣士コスキタコレ!こんなとこでなにやってるん?」

鈴羽「それはこっちのセリフだよ!なに?どっか行くの?だったら安くしとくよ!」

紅莉栖「え?」

傭兵ギルドにやってきた俺たちは早速、元・バイト戦士に出会った。

どうやら奴は、傭兵として魔物と戦いながら路銀を稼ぎつつ、色々な街を転々としていたらしい。

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:46:33.21 ID:rMnDulFoO
岡部「これも…運命石の扉の選択か…」

鈴羽「え?なに?どゆこと?」

素で質問されるとつらい。反応がダルにそっくりだなコイツは…。

つまりは、元・バイト戦士が傭兵になったのも、この俺、鳳凰院凶真が
新たな土地に旅立つにあたり、その護衛を勤めるという重要な使命を負っての事だったのだろう。

岡部「フゥーッハッハッハ!どうやら、この世界の神々までもが俺達の事を気に入ったらしい」

紅莉栖「…はいはい、ワロスワロス」

鈴羽「えー?何の話かさっぱりわかんないんだけど…」

岡部「フハッ…ハハハ…!先は明るいぞ、諸君!」

紅莉栖「あーもう、付き合いきれんわ…」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:49:25.44 ID:rMnDulFoO
隣の街までの移動は、熾烈を極めたものとなった。

道中、幾度も魔物と出くわし、その都度、元・バイト戦士は華奢な身体に似つかぬ
身の丈程もある野太刀《魔剣レーヴァンテイン》を振り回し
バッサバッサと魔物を撃退していったのだった。

俺にも一応、護身用にと短剣を渡されはしたが、なんというか…無理だ。

あんなものに短剣で挑むぐらいならば、ペッパーでもかじっていたほうがいくらか経済的だ。

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:51:37.98 ID:rMnDulFoO
元・バイト戦士…物語序盤でお前に出逢えて、本当によかったと思うぞ。

鈴羽「え?そうかい?そう言ってもらえると傭兵冥利に尽きるよ」

傭兵冥利がどんなものかは解らないが、そう言うと元・バイト戦士は、戦いで泥にまみれた顔に屈託のない笑顔を浮かべた。

なるほど、これはかわいい。嫁にほしい。

岡部「う、うんむ…これからもよろしく頼むぞ」

俺が赤くなっていると、助手がムッとするのが見えた。

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:53:09.07 ID:rMnDulFoO
街に点在する教会から、正午を知らせる鐘の音が聞こえてくる。

岡部「ほう、何やら教会らしき建造物が多いと思ったら…」

バイト戦士の話によると、どうやらここは、この世界の神を信仰する者達の集まる街なようだ。

いわゆる聖地…ビッグサイトのようなものか。

ダル「うはー、リアルシスターキタコレ!萌えー!ちょっと見物してくる!」

鈴羽「あ、じゃああたしも。ちょっくら、この街の傭兵ギルドに顔出してくるよ」

街に入るや否や、二人はそう言い残して去ってしまい、仰々しい街の中には俺と助手がぽつんと残された。

道行く人々は、奇異の目で俺達を見てくる。

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:55:04.16 ID:rMnDulFoO
岡部「…さて、どうしたものかな」

一応、助手に意見を求めてみる。

紅莉栖「うーん、まあ…とりあえずは宿を探しましょ」

…名案だ。実を言うと、立っているのもやっとだったりする。

宿を探してしばらく進むと、一際大きな教会の前に出た。

教会の前では、シスター達が道行く人々に神の教えを説いて、募金を集めている。

岡部「どの世界でも、宗教屋ってのは儲かるものなのだな」

紅莉栖「そんな言い方失礼でしょ…って、あれ?」

紅莉栖の視線の先に目をやると、何やら可憐なお花のような姿…。

って、あれはルカ子ではないか!

34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:56:51.76 ID:rMnDulFoO
ルカ子は俺達を見つけると、すぐに目に涙をいっぱい浮かべて走り寄ってくる。

まるで子犬だな。それにしても、修道女の服が反則的なほど似合っている。

男だが。




るか「そう、だったんですか…」

ルカ子に、これまでの経緯を説明する。

るか「あの…ボクたち、帰れるんでしょうか?」

岡部「…今のところは、わからん」

るか「そう…ですか」

ん?いやに諦めが早いな。もっと食い下がってくると思っていたのだが。

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 18:58:30.49 ID:rMnDulFoO
岡部「…ときにルカ子よ。お前、修道女姿がなかなか様になっているぞ」

るか「わぁ、ありがとうございます!おか…じゃなかった」

るか「凶真さんにそう言っていただけると、すごく…嬉しいです!」

岡部「結構まんざらでもないんじゃないか?ここでの暮らしも」

るか「はい…そうですね。シスターの皆さんはとても優しいし、楽しいです」

やはり、こいつはこいつなりに、この世界を楽しんでいたようだ。

諦めが早かったのにも納得出来る。

その内、帰りたくない、とでも言い出すんじゃないか?

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 19:00:57.34 ID:rMnDulFoO
そうなると、こいつの父親が黙ってはいないだろう。

想像すると、ちょっとこわい。…今のうちに説得しておくか。

岡部「しかし…ルカ子よ。やはり俺達はこの世界の住民ではないのだ」

るか「!」

岡部「俺達がいつまでも居ていい世界ではないのかもしれん。それだけは解ってくれ」

るか「は、はい。そう…ですよね」

実に物分かりがいい。可憐だし。
もし女の子だったら絶対嫁にほしい。

るか「じゃあ、ボク萌郁さんを呼んできますね!」

なに?

岡部「指圧師もいるのか!」

るか「えっ?あ、はい。萌郁さんは、この街の靴屋さんで、靴職人さんの弟子として毎日働いてますが…」

なんだ、やけに渋いチョイスだな…。

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 19:03:38.92 ID:rMnDulFoO
どいつもこいつも…いや、人の事を言えた身ではないが、どいつもこいつもファンタジーの世界に来て、普通に働きすぎだろう。

ふむ…となると、まともに働かずに、世界をただフラフラとさ迷っていたのは助手とダルだけ…か。

岡部「ニート乙」

紅莉栖「えっ?なに?」

余談ではあるが、後から聞いた話によると、この世界の神は“ニート”という名で呼ばれているらしい。

さすがネトゲの世界。魔王が魔王なら、神も神である。

岡部「さて、全員揃ったようだな。早速円卓会議を始める」

紅莉栖「もう突っ込む気力もない」

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 19:05:08.45 ID:rMnDulFoO
俺達は、ルカ子、萌郁をパーティに加え、街のカフェで作戦会議を行っていた。

岡部「私語は慎んでもらおうか、助手よ。して…ダルよ、魔王の城まではどのくらいの距離がある?」

ダル「うーんと、東に2kmだお」

岡部「…ばかに近いな」

鈴羽「あー、ホントだ。あれじゃないかな?」

確かめてみると、なるほど確かに…東の方角には魔王城と思しき禍々しい姿の城が確認できる。

40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 19:06:55.24 ID:rMnDulFoO
目的地である魔王の居城は、目と鼻の先だ。
ならば話は早い。

岡部「よし、早速出発…」

紅莉栖「あ、でも」

岡部「なんだ助手よ?」

紅莉栖「だから、いい加減助手ってのをやめい!」

岡部「いいから、何か思いついたのなら挙手をして話すがいい」

紅莉栖「ぐっくく…上から目線がムカつくわ……」

助手はひとしきり身悶えると、話を切り出した。

紅莉栖「…あのさ、まゆりはどうすんの?あの子を先に見つけるべきでしょ」

紅莉栖「この世界は…あの子にとっては厳しすぎると思う」

――は?
思わず目が点になる。

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 19:10:00.07 ID:rMnDulFoO
岡部「何を言っているんだ?」

紅莉栖「え?」

俺は、件の魔王出現のビラを再び取り出した。

岡部「ほら、ここをよく見ろ」

ビラの一角をビシッと指差して見せる。

“ちなみに、魔王・フェイリス・ニャンニャンは、お姫様を人質にとったニャ!
返して欲しくば、白馬に乗った王子様が取り返しにくるといいニャ”

“あ~れぇ~、まゆしぃは、魔王に捕まってしまったのです。オカリン、早く来てね♪えっへへー”

側には、まゆりの下手ウマなイラストが描かれている。

紅莉栖「…あぁ」

43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 19:12:03.53 ID:rMnDulFoO
岡部「な?まゆりはフェイリスと一緒に居る。心配の必要はない」

紅莉栖「そのようね。一瞬でも心配した私が馬鹿だったわ…」

鈴羽「へー。でも、白馬に乗った王子様か。ちょっとかっこいいかもしんないね」

るか「女の子なら、誰でも一度は憧れますよね!」

萌郁「…そう?」

ルカ子ェ…指圧師ェ…。

全く、どいつもこいつも…だな。

ただ純粋に、皆がこの世界を楽しんでいるように見えた。

俺もまあ、まんざらではないのだが。

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 19:14:51.03 ID:rMnDulFoO
街を出ると、街道を真っ直ぐに徒歩で20分。

急な勾配もなく、なんとも清々しい平原を抜け、俺達は難なく魔王の城に到着した。

やたら刺々しいデザインのその城には、魔王喫茶インフェルノ+ニャン2の看板。

岡部「ダル、頼んだ」

ダル「がってん!フェイリスー!俺だー!結婚してくれー!」

くれー!くれー、くれー…。

ダルの声が城に反射して、こだまする。

しばらくして警備の魔物達がやってくると、俺達は事の経緯を話し、そのまま魔王の部屋へと通されたのであった。

フェイリス「ふみゅう。そうだったのかニャ。みんな大変だったニャ」

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 19:20:38.08 ID:rMnDulFoO
フェイリスも、実に物分かりがよかった。

フェイリスならではの悪ふざけを見せてくるかと思って、多少は覚悟していたものの
実際はそうでもなく、肩透かしを食らった気分だ。

まゆりもすぐに呼び出してくれた。

まゆり「も~、オカリン遅いよー」

岡部「…あ、ああ…悪い。待たせたな、まゆり」

これは何というか…お姫様の格好をしたまゆりは、本当にこの世界の住人ではないかと疑ってしまうほど型にはまっていた。

47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 19:23:04.55 ID:rMnDulFoO
まゆり「あ、オカリン…?あんまり見られるとね、まゆしぃはちょっと恥ずかしいかなー。えっへへー」

ダル「くっそう!ここにカメラが無いのが悔やまれるゥ!くっそう!」

ううむ、ダルの言うとおりだ。

やはりまゆりも捨てがたいな…。

フェイリス「それで、これからどうするのニャ?」

ダル「いや、どうやって帰るかは、まだわかってないお」

フェイリス「ああ、それなら大丈夫ニャ。この魔王城の宝物庫には、バーチャルガールが保管されてるんだニャン」

なんたるご都合主義。いや、かえってありがたい…のか?

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 19:26:32.41 ID:rMnDulFoO
岡部「皆、聞いた通りだ。どうやら、すぐに帰れるらしいが…」

…本当に、このまま帰ってしまってもいいのだろうか?

これまでの事を思い返し、そんな疑問が頭をよぎった。

まゆり「えぇー!まゆしぃは、もっともっとお姫様でいたいのです…やっとオカリンにも会えたのに…」

紅莉栖「えぇー!ちょっとまゆり、何いって…」

まゆり…。

鈴羽「あたしはどっちでもいいけど、まあ傭兵の仕事も悪くないなって思ってたんだよね」

紅莉栖「阿万音さんまで!?」

元・バイト戦士…。

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 19:28:06.15 ID:rMnDulFoO
るか「ぼ…ボクは…修道女の姿が似合ってるって、凶真さんに言ってもらえたから…」

紅莉栖「なっ…!」

ルカ子…。

萌郁「…靴…作る…」

指圧師…。
ってか、今まで気づかなかったが、こいつはもしや…おバカ可愛いキャラってやつか?

紅莉栖「…」

ダル「ま、僕もまんざらでも無いわけで。まだまだシスターっ娘達と絡みたいっていうか」

ダル…。

フェイリス「フミュ~、全会一致のようだニャ」

紅莉栖「わ、私は…賛成してない」

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 19:30:45.96 ID:rMnDulFoO
やれやれ、ここまで来てまだ意地を張るとは…。

岡部「…なら助手よ、先に帰っているがいい」

紅莉栖「なん…だと?」

ダル「そうそう。よかったら先に帰って、  ゲ買っといてよ  ゲ」

ダル「待ってて、今ラインナップを書き出すから…」

ダルは紙とペンを取り出し、  ゲらしきタイトルをスラスラと書き込んでいく。

紅莉栖「ちょ…」

鈴羽「もー、橋田至は節操がないなぁ」

青ざめた紅莉栖を除き、魔物も含めたその場の全員からドッと笑いが起こった。

岡部「俺達は、もう少しこの世界を楽しんでから帰る事にする」

まだ、世界を混沌へと陥れる真の勇者になった訳ではないからな。

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 19:34:06.38 ID:rMnDulFoO
岡部「どれ、みんな。まずは俺が世話になっていた街を紹介しよう。翡翠色の綺麗な海に面していてな―――」

紅莉栖「あ…」

助手が、何か言いたそうにしている。
そろそろ助け舟を出してやるか。

岡部「どうした、助手よ?帰るんじゃないのか?一人で」

紅莉栖「じ、助手じゃない!わ…私もまだ帰るって言っとらんわ!」

フゥーッハハハ!それでいい。お前が居ないと、物語が面白くないからな。

紅莉栖「だから…私も着いていくからな!」

岡部「うむ、よろしい」

紅莉栖「ぐ…ぬぬ…」

俺は、助手の頭にポンと手を乗せる。

こいつめ、耳まで真っ赤にして…ツンデレもなかなかいいものだ。

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 19:36:12.40 ID:rMnDulFoO
とりあえず俺達には、もう少しこの世界を楽しむ程の余裕があるようだ。

感謝するぞ、神・ニートよ。

ラボメンのみんなは、再会の喜びから、子供のように目を輝かせてはしゃぎ合っている。

鈴羽「うわー、椎名まゆりのお姫様姿、すっごくいいなあ。あたしも着てみたいよ」

まゆり「スズさんの剣士姿もかっこいいよ?うらやましいなー」

るか「フェイリスさんの魔王の衣装、とっても格好いい…です」

フェイリス「ルカニャンも修道女姿が可愛いニャ。どうかなー?うちで働く気はないかニャ?」

萌郁「みんな…靴…買い換えるなら…相談に乗るよ…?」

56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 19:37:50.05 ID:rMnDulFoO
そんな風景を見ていて、俺はふと思った。

――ああ…そうか、この世界はジュブナイル…。
俺達が、少年・少女だった頃の夢や思い出。

それが形となって現れた世界、なのかもしれんな。

ククク…甘ったるい。実に甘ったるい世界だな!

岡部「…フフフ…フゥーッハッハッハ!!」

一同が驚いて“どうしたのか”と言うような視線を俺に向ける。

どうしたもこうしたもない。

こういう甘ったるさを久しく味わっていなかったのだ。

ならば、やる事は一つ。

57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/10/31(月) 19:40:14.33 ID:rMnDulFoO
岡部「さあ、みんな!グズグズしている暇は無いぞ!ドラゴンに乗って誰が一番早いか競争だ!」

フェイリス「さすがにドラゴンはないニャ!」

岡部「なにぃ!?」



この、果てしなく馬鹿で――美しい世界に。

少年の日の思い出に―――。

エル・プサイ・コングルゥ。

世界線変動率【255.057682%】



おわり