2: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/07/24(木) 21:39:02.60 ID:a/zaT20q0

妹「おにいちゃん、どうして…?」

妹「どうして死んじゃったの…」グスグス

肉塊「」

妹「私がプリン食べたいなんて言ったから…うぅ…」

母「妹のせいじゃないわよ…」

妹「もうおにいちゃんかどうかもわかんないよ、こんな顔じゃ…」

母「そう、ね……うう、……ぅ」

妹「お母さん、お水飲んできた方が良いよ…私、暫くおにいちゃんとお話してるから」

母「ごめんね……」


ぱたんっ


妹「………ぐすっ」


引用元: 妹「おにいちゃん、どうして…?」 


3: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/07/24(木) 21:42:10.88 ID:a/zaT20q0

妹「おにいちゃん、いつも言ってたよね。プリンは半分こが一番おいしいって」

妹「私もずっとそう思ってたんだよ。…半分こしたかったんだ」

肉塊「」

妹「一番好きだったのは多分味じゃなくて、おにいちゃんの笑顔だったんだと思う」

肉塊「」

妹「でももう、こんな姿じゃ笑ってくれてもわかんないよね……」グスッ

肉塊「」

妹「今頃、天国でお父さんと会えてるの…?」

肉塊「」

妹「……おにいちゃん、一緒に花火見たかったね」

肉塊「」

妹「バレンタイン、来年はケーキ作ってあげるって約束したよね」

肉塊「」

妹「なのに……ふぇえ…」

4: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/07/24(木) 21:45:45.39 ID:a/zaT20q0

妹「お兄ちゃん、明日は一緒にお出かけしようねって……」

肉塊「」

妹「私、一生懸命お洋服も選んだんだよ…?  
  なのに、どうして……どうしてトラックのタイヤに巻き込まれちゃったの…?」

肉塊「」

妹「私の為に、プリン急いで買ってきてあげようって思ってくれてたの…? ごめんなさい…」

肉塊「」

妹「……私ね、彼氏出来たんだ」

肉塊「は?」

妹「ふぇっ!?」

肉塊「」

妹(な、何だぁ、気のせいかぁ…)

妹「……お兄ちゃんに似てて、優しくてかっこいい人だよ。紹介したかったなぁ…」

肉塊「」

妹「……今夜は、帰るね。また、…後で会おうね」




ぱたんっ







肉塊「……は? 何? 彼氏って何の話?」

5: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/07/24(木) 21:48:26.11 ID:a/zaT20q0

妹(お兄ちゃんのお葬式が終わって、もう半年かぁ…)

妹「あっという間だったなぁ…」

ごそごそ

妹「そろそろ帰らなきゃ。……半年前までは、お兄ちゃんと一緒に帰ってたんだよね…」

妹「……」

妹「…も、もう泣かないって決めたもん! 私は一人でも大丈夫!!」





妹「ただいまー、…お母さんはまだお仕事かぁ」

遺影『』

妹「ただいま、お兄ちゃん」

遺影『』

妹「もうすっかり夏だねー、汗びっしょり。冷房つけるね」

遺影『』

妹「はふー、……シャワー浴びなきゃ…うー」

遺影『』

6: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/07/24(木) 21:51:48.76 ID:a/zaT20q0

妹「あ、まだスポドリ残ってたかな…」ガサゴソ

妹「あったあった」ゴクゴク

遺影『』

妹「…おにいちゃん、アイス食べよう?」

遺影『いいね。俺あれ、ミルク味のキャンディー』

妹「うん、今準備するねー。……!?」

遺影『』

妹「…幻聴だよね? 疲れてるのかな…」





妹「んぅ、やっぱり夏はアイスキャンディーだよね。林檎味だいすき」ムグムグ

遺影『』

妹「……」

遺影『』

妹「…写真の中ではおにいちゃん笑ってるのに、………私は笑えないよ」グス

遺影『』

妹「ひぅ……ふぇ…」ブワッ

遺影『』

妹「わ、わたしね、かれしと、わかっ、わかれてね、」

遺影『マジか。よっしゃ』

妹「!? えっ!?」

遺影『』

7: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/07/24(木) 21:54:43.88 ID:a/zaT20q0

妹「クーラー壊れちゃった……」

遺影『』

妹「幸い今日は土曜日、お買い物行こう」ウン

遺影『いってら』

妹「うん、行ってくるね!」




妹「………うん?」








妹「ふぁー……やっぱり電気屋さん涼しー」

冷風機『』

妹「あ、今CMでよくやってるやつ。涼しいのかな?」

冷風機『』

妹「んー…悪くないかも……」ヒンヤリ

妹「あ、でも湿気が酷くなるんだっけ…?」

冷風機『』

妹「……除湿機と併用すれば大丈夫かな?」

冷風機『』

妹「…うん、決めた! すいませーん、これほしいんですけどー!」

8: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/07/24(木) 21:57:50.39 ID:a/zaT20q0

妹「あああーすずしいーー」

冷風機『そろそろ水補充してくれよ』

妹「うん、……しゃべる機能なんてついてたかな…?」

冷風機『いや、ついてない』

妹「確認して買ってきたもん、やっぱりそうだよね……そ!!?」

冷風機『っつーかアイス食わね? クリーム系。ハイパーカップあったっけ』

妹「一個残ってるよ」

冷風機『じゃあ半分こ。一番美味いから』

妹「………お…」

冷風機『なに?』

妹「おにいちゃん!!!??」

冷風機『お、おう』

15: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/07/25(金) 23:36:14.27 ID:D9fpbRMr0

妹「どうしてこんな姿に…」

冷風機『ちょいちょい喋ってたけどな』

妹「つらくないの?」

冷風機『ぶっちゃけ涼しいよね』

妹「うん、それはわかるけどね」

冷風機『学校でいじめられたりしてないか?』

妹「大丈夫だよ。えへへ」

冷風機『?』

妹「こんな姿になっちゃったけど、お兄ちゃんが帰ってきてくれて嬉しいなーって…」

冷風機『妹……』

妹「でも一言いいかなぁ」

冷風機『なに?』

妹「冷風機はアイス食べられないよ?」

冷風機『マジだわ』

16: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/07/25(金) 23:39:23.23 ID:D9fpbRMr0

妹「お兄ちゃんには悪いけど、いただきまーす…」モグモグ

冷風機『はー』

妹「それにしても、どうして冷風機なんだろ…」

冷風機『俺の死に方、身体メチャクチャだっただろ?』

妹「……う、ん」

冷風機『多分意識だけ分離しちゃったんじゃねえかなって。
    普通はさ、肉体と一緒に墓に埋葬されるはずなんだろうけど』

妹「そっかぁ…」

冷風機『でもまあ、妹とまた話せるし、何でもいいか……』

妹「うんっ! ……故障しちゃったらどうなるのかな」

冷風機『わかんねえ。なるべく壊れないようにいきたい』

妹「じゃあ、もう一台買ってきた方がいい?」

冷風機『もったいないから俺の方使っちゃっていいよ』

17: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/07/25(金) 23:42:11.26 ID:D9fpbRMr0

妹「もうすっかり秋だねー」

冷風機『そうだなー』

妹「お兄ちゃんって夏でも長袖着てたし、秋なんかばっちりだったよね」

冷風機『ああ、……まあ、そだな』

妹「暑くなかったの?」

冷風機『暑いに決まってんだろ』

妹「私がプレゼントした半袖シャツ、アームカバーと合わせてたのかっこよかったよ!」

冷風機『……そ?』テレ

妹「えへへ。…はあ、おなかすいた」

冷風機『冷凍庫に何か入ってんだろ』

妹「パンケーキ位あるかな、ちょっと見てくるね」ガサゴソ

18: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/07/25(金) 23:44:48.40 ID:D9fpbRMr0

冷風機『どうだった?』

妹「無かったから焼くつもり」

冷風機『ジャムある?』

妹「マーマレードある! ……お兄ちゃん」

冷風機『おう』

妹「その、生き物になることって出来ないの…?」

冷風機『多分無理だな…自分の意思でこれになった訳じゃねえし』

妹「そっかぁ……」

冷風機『良いんだよ。妹が美味そうに食っててくれれば俺は何にもいらないからさ』

妹「おにいちゃん……」

冷風機『だからさ、プロペラに料理ぶち込もうとしないでいいからな?』

妹「この間は麻婆豆腐入れちゃってごめんね」

19: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/07/25(金) 23:48:35.97 ID:D9fpbRMr0

妹「感覚はあるんだよね?」

冷風機『ある。ぶつかられると痛いし』

妹「気をつけなきゃね…」

冷風機『ほら、そろそろ作り始めないと昼飯間に合わないぞ』

妹「作ってくるね!」





冷風機『妹は学校、お袋は仕事か…』

冷風機『何で俺、妹にプリン買ってやるまで我慢出来なかったんだろ』

冷風機『自殺』




ガチャッ ゴン



冷風機『!?』

空き巣「誰も…いねえな……」ニヤニヤ

冷風機(っ、)

空き巣「金目のモンは…おお」

冷風機『テメ、それは妹の貯金箱だ! 離せよ!!』

空き巣「まあまあ重いしいただいとくか…へへへ…」ゴソゴソ

冷風機『くっそ、動く事も出来ねえのかよ…』

空き巣「…ん? これ」

20: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/07/25(金) 23:50:58.20 ID:D9fpbRMr0

空き巣「少し前に売れたやつか。売っちまうか」ヨイショ

冷風機『待っ』





妹「うう、寒い…ただいまー」

妹「…あれ?」キョロキョロ

妹「おにいちゃーん?」

妹「おにい……!」

妹「私の貯金箱無くなって…」

妹「これ、お兄ちゃんの電源コード……」

妹「お兄ちゃんは自分で動けないって言ってた…も、もしかして泥棒!?」

妹「どうしよう、どうしよう! お兄ちゃんが誘拐されちゃった!」

妹「け…警察に電話しなきゃ!!」

21: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/07/25(金) 23:55:02.70 ID:D9fpbRMr0

妹「……帰ってきたら貯金箱とネックレスと、…お兄ちゃんが」

警官「お兄さん? 誘拐か…」

妹「私が、学校から早く帰ってこなかったから…ひっく…」

警官「大丈夫だ、お兄さんは全力で捜すし、盗られたものも取り返そうね」

警官(…待てよ? この子のお兄さんは既に……)





空き巣「あー、電源コード忘れちまった。不揃いジャンクで売れるか?」

冷風機『駄目だ、ダンボールから出れねえ…』

空き巣「参ったな…バラして売り飛ばすか?」

冷風機『ひっ』

空き巣「金属類はそこそこ売れるだろうし…」

冷風機『ま、待て早まるな!』

空き巣「しかしなあ、勢いで持ってきたしアシついちまう…」

冷風機『……』ホッ



<こちら、廃品回収車でーす



空き巣「お」

冷風機『!!!!!』

26: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/08/13(水) 13:37:38.22 ID:LoTCLQAZ0

空き巣「………」

冷風機『やめろやめろやめろ』

空き巣「よいせ。すいませーん」

冷風機『あああああああ』

お兄さん「あ、こちら廃品回収車ですー」

空き巣「これお願い出来ますかね」

お兄さん「へ? これ、売ったら高くつくんじゃ…まあいっか。お預かりしますー」

冷風機『』





妹「おにいちゃん、どこにいるんだろ」タッタッ

妹「私のせいだ、緊急ブザーみたいなの置いておけば…」

妹(あ、でもお兄ちゃん手がないから押せないよね)

27: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/08/13(水) 13:44:36.64 ID:LoTCLQAZ0

冷風機『嫌だああああああ売られるううううううううう』

お兄さん「積み込み完了、と。行きますか」ブロロロ




妹「家電ってそんな簡単に落ちてないよね…」タッタッ

妹「あ、あれって…家電引取りの車かな?」

妹「すいませーん! とまってー!!!」

お兄さん「? 廃品回収車ですー」ピタ

妹「あ、あの! 最新式の冷風機って受け取ってませんか?」

お兄さん「あー…すいません、ウチ販売はしてなくて…」

冷風機『誰かー!』

妹「お兄ちゃん!!」

お兄さん「!?」

妹「う、…お、お願いします! お金なら幾らでも支払います!」

お兄さん「そうは言っても…」

妹「あの冷風機…お兄ちゃんの生き形見なんです…」

お兄さん(普通の形見じゃなくて…?)

妹「お願いします!」

お兄さん「…わかったわかった。ちょっと荷台開けるから待っててね」

28: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/08/13(水) 13:46:40.25 ID:LoTCLQAZ0

冷風機『妹…たす、』キュル

お兄さん「はい、開けたよ。この冷風機で合ってる?」

妹「そうです! お兄ちゃん!」

冷風機『』

妹「おに…い、ちゃん…?」

お兄さん「どうかしたの?」

妹「あ、いえ…えっと、………ん。おうちに帰ろう、お兄ちゃん」

お兄さん「タダでいいよ、持って行って」

妹「ありがとう、ございます…」

妹(どうして返事しないの、お兄ちゃん…)

29: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/08/13(水) 13:48:45.79 ID:LoTCLQAZ0

妹「ただいまー」

冷風機『』

妹「警察の方にも挨拶済んだし、お金は…戻ってこないけど、諦めよう」

冷風機『』

妹「今後犯人が見つかったら戻ってくるかもしれないし、…バイト頑張ればいいや」

冷風機『』

妹「…ねえ、お兄ちゃん?」

冷風機『』

妹「どうして返事してくれないの? ねえ、…あ、電池ないや」

冷風機『』

妹「ちょっと待っててね、すぐ充電するからね!」カチカチ

冷風機『』

30: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/08/13(水) 13:52:22.00 ID:LoTCLQAZ0

そして、私は電源コードをはめた。
やがて赤いランプがついて、ちかちかとして。
それから緑になって、充電完了を私に告げた。

でも。

お兄ちゃんの声が聞こえるなんてことはなかった。
いっぱい話しかけて、いっぱい揺さぶった。
安全装置が『これ以上揺らさないでください』と言っても。

冷風機自体は動いても、お兄ちゃんの応答はなかった。

お兄ちゃんが中に入ったまま電池が切れてしまったからなのか。
廃品回収車の中で壊れてしまっていたのか、それはわからない。
空き巣が何かしたのかと考えて、部品チェックなども行った。
不安を抱えながらも電気屋さん、メーカーなんかにも修理をお願いした。

だけれど。

31: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/08/13(水) 13:57:28.12 ID:LoTCLQAZ0

幾ら万全な状態の冷風機にしても、もうそれはお兄ちゃんではなかった。
私を慰めてくれたお兄ちゃんは、もうどこにもいなかった。
あの日、私に『助けて』と言った優しいお兄ちゃんは、もうどこにも。

「……お兄ちゃん」

仕方がなく、私はお墓へとやってきた。
そっと花束を置き、静かに手を合わせる。
やっぱりお兄ちゃんは返事をしてくれなかったけど、本来はこれで正しいんだ。
だってもう、お兄ちゃんは死んでしまっているのだから。

「プリン半分、置いておくね」

またいつか、生まれ変わってまた兄妹になったら、プリン半分こしようね。
一緒にアイス食べたり、何でもないことで笑い合ったりしようね。

そっと囁いて、立ち上がる。
制服のスカートが、吹き抜ける風で揺れていた。












――――私は、在りし日のトラック運転手を殺すことにした。

32: ◆2/3UkhVg4u1D 2014/08/13(水) 13:58:09.95 ID:LoTCLQAZ0

おわり。