1:   2011/12/10(土) 15:56:55.91 ID:J4d7RspS0
~~~~卒業旅行三日目・ロンドン最終日・飛行機内~~~~

律「はー、なんとか間に合ったなぁ」

紬「ふふ、一生分走ったような気がするわね」

澪「はぁ……にしても、ロンドンの街並みと別れを惜しむ間もなかったな…」

唯「えへへ、ごめんねぇみんな」

梓「まぁ……あれはあれで楽しかったからいいんですけど」

引用元: 唯「帰ろっか」 


3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 15:59:36.13 ID:J4d7RspS0
唯「あれ、そういえばさわちゃんせんせーは?」

澪「先生なら別の便だって、空港で別れただろ。ドタバタしてたからろくに挨拶もできなかったけど」

律「そこは帰ってから謝っとくか」

梓「そうですね」

紬「うん」

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 16:02:41.83 ID:J4d7RspS0
唯「いやー、ロンドン、ロンドンかぁ……」

律「はは、なんだそれ」

梓「言葉になってないじゃないですか」

唯「うん……なんか、色々あったなぁって」

紬「そうね。私、今までの海外旅行で一番楽しかったわ」

澪「慣れてるムギが言うんならそうなんだろうな……おかしなアクシデントも色々あったけど、それも含めていい思い出だ」

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 16:05:54.34 ID:J4d7RspS0
梓「……ぁ、す、すいませんでした、その」

澪「?」

律「だいじょーぶ、靴擦れのことならだーれも気にしてないから」

紬「うんうん。予定にはなかったけど、梓ちゃんの靴買ったお店も面白かったし」

梓「……ありがとうございます、先輩がた」

唯「あずにゃんよく似合ってるよー、その靴」

梓「……へへ」

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 16:12:53.43 ID:J4d7RspS0
律「しっかしウソみたいだな。これ乗って降りたら日本なんだよなー」

澪「律、それ行きの飛行機で私が同じこと言ったぞ」

律「んぇ?そうだっけ」

唯「あはは。……でもなんかわかるなぁ。不思議だよね、飛行機って」

梓「また未来に行くとか、そういう話ですか?」

唯「あ!そうだね!私たちこれから未来に行くんだねあずにゃん!!」

梓「えっと、いやだからですね……」

紬「はいみんな、アイマスク。今日はすぐ寝られそうね、いっぱい疲れたから」

澪「はは、そうだな……ありがとうムギ」

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 16:17:32.96 ID:J4d7RspS0
澪「うう……ごめん皆、私先に寝てるな」

律「ん、そか。シートベルトは閉めとけよ」

澪「ん……」かちゃ

紬「みんなは大丈夫?」

唯「私はまだ眠くないよ!」

梓「私もです。……ムギ先輩は?」

紬「私もそんなに眠くないわ」

律「んー、りっちゃんちょいねむ」

梓「寝ちゃってていいですよ、律先輩。あとで毛布もらっときますから」

律「お、そう……?悪いな梓」


10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 16:23:00.67 ID:J4d7RspS0
唯「はぁ……それにしても」

梓「?」

唯「短かったね、ロンドン。休みが五日もあるんだから五日間ずっとロンドンにいたかったよ」

梓「飛行機で行き帰り一日ずつかかっちゃいますからね」

唯「んー、それがなんだかなぁ。観光もしてないのに一日使っちゃうなんて」

紬「そういうのも旅行の醍醐味よ、唯ちゃん」

唯「うん、飛行機のなかも楽しいは楽しいんだけどね」

梓「わがままですねぇ、唯先輩は」

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 16:33:40.91 ID:J4d7RspS0
唯「だってだって、ロンドンだよ!日本とは全然違ってて……すごかったじゃん!」

梓「さっきと同じでよくわかんないですよ、唯先輩」

唯「ええぅ、えっとさ、なんか街もひとつひとつの建物がすごいカッコいいし、歩いてる人みーんな映画に出てくるみたいなオシャレでカッコいいひとばっかりだし、食べ物も食べたことない味の食べたことないものばっかりで……!」

梓「あー、はい……。なんとなく先輩が言いたいことはわかりました」

紬「……そうねぇ。ロンドンって、私たちの日常とはまったく違う場所よね。本当に何もかもが、日本とは違うんだもの」

唯「うんうん!すごいよね、まるで夢のなかにいるみたいで」

梓「あははそんな、ディズニーランドじゃないんですから」

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 16:38:58.36 ID:J4d7RspS0
唯「いやぁあずにゃん、一緒みたいなもんだよ。私、ロンドンにいる間はお話の主人公になった気分だったから」

紬「ふふ。なんだか唯ちゃんらしいわね」

唯「だから、たったの三日で終わっちゃうお話ってちょっと短すぎるよね。……だからもっとロンドン、いたかったなぁ」

梓「……帰りたくはないんですか?」

唯「あ、そうじゃないよ。帰って憂とか和ちゃんとか、みんなの顔みたいなーとは思うけど」

梓「ほんと、わがままですねぇ唯先輩」

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 16:47:35.23 ID:J4d7RspS0
梓「でも、帰国したらなんだかんだで慣れた日本の風景に安心するものらしいですよ」

唯「まぁ、そりゃあ学校から家に帰ったときでもちょっとほっとするくらいだから安心はするんだろうけど……」

梓「もー、なにがそんなに不満なんですか唯先輩は。ムギ先輩も何か……」







梓「……ひょっとしてムギせんぱい、寝てる?」

唯「本当は疲れちゃってたのかな」

梓「旅慣れてるからみんなより先に休むのは気がひけたのかな……」

唯「起こさないであげようか」

梓「……そうですね」

20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 16:54:02.75 ID:J4d7RspS0
唯「あずにゃんは思わないの?もっといたかったーって」

梓「そりゃ、まだまだロンドンでみたいところは色々ありますし、ずっといても飽きない場所かもしれませんけど」

唯「だよねぇ。もう私ロンドン住みたいよー」

梓「憂とか、ご家族はどうするんですか。それに言葉だっておぼつかないのに」

唯「ぶー、あずにゃんのやぼてんさん。そこはほら、お話の主人公ですから、どうにでもなるんだよ!」ふんす

梓「いや、そりゃ物語のなかでならそういうのはご都合主義でどうにでもなりますけど」

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 17:02:14.08 ID:J4d7RspS0
唯「んー、じゃあこうしよう、もうあと一週間だけ、みんなでロンドンに残るの!」

梓「え?い、いやいや……」

唯「住むのは無理でもさ、それなら出来るよね。えへへ」

梓「いやいや、無理ですよそんなの」

唯「そうかなぁ?私たちはどうせあと卒業式くらいだし、なんとかならないことも……」

梓「私はまだ授業もありますから!っていうかだんだん本気っぽくなってますよ」

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 17:10:23.59 ID:J4d7RspS0
唯「楽しいと思うんだけどなー、このままロンドン残るの」

梓「仮に残れたとしても……そう楽しいことばかりじゃないですよ。さっき言ったみたいな言葉の壁もありますけど、他にも色々、大変なことは、普段みたいにたくさんあります」

唯「え?」

梓「例えばそうですね、朝寒くてなかなか起きられなかったり、急いでるのに寝坊してドタバタすることになったり」

唯「ええっ、そんなのいつも日本でやってるじゃん!ロンドンぽくない!」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 17:16:45.24 ID:J4d7RspS0
梓「他にもそうですね、治安も日本に比べると良くありませんから、パスポート盗まれちゃうかもしれませんし、寒さにやられて風邪ひいちゃうかもですし、お金がなくなってホテルに泊まれなくなるかもしれません」

唯「ゔっ……お話の主人公らしくない……」

梓「そうですよ。唯先輩はお話の主人公じゃありませんし、ロンドンはその舞台でもないんです」

唯「ええぅ……」

梓「ここだって日本と同じですよ。日本と変わらず、煩わしい出来事は起こりますし、日本と変わらず、面白いことが起きるんです」

唯「……」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 17:30:23.92 ID:J4d7RspS0
梓「唯先輩、見てください」

唯「?」

梓「外……ロンドンの夜景です」

唯「うん。すごい綺麗だね。すっごい、綺麗」

梓「いっぱい明かりが見えますよね……自動車のライトだったり、街灯だったり、家の窓からもれてる灯だったり」

唯「ロマンチックだよね、やっぱりロンドンって……」

梓「あの灯一つ一つに、ロンドンに住んでる人の生活があるんです。そこで生活している人たちの日常が、あの灯ですよ」

唯「日常の……あかり?」

梓「はい。ひとつひとつの灯に、まったく違った人生をおくっている人達が暮らしているんです。毎日悩んで生きている人もいれば、楽しい日々をおくっている人もいます。それは……日本でも同じなんですよ」

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 17:34:58.89 ID:J4d7RspS0
唯「じゃああずにゃん、ロンドンには……?」

梓「夢がない、とはとても言えませんけど……。でも少なくとも、無目的でロンドンに留まればお話の主人公になれる、なんて……そんな夢が叶う場所じゃないはずです」

唯「うん……」

梓「さ、そろそろ離陸しますよ。シートベルト閉めてください」

唯「あ、う、うん」

梓「日本に帰ったら、またいつもどおりの毎日です。いつもどおりの毎日ですけど、それは今の生活を捨ててロンドンでおくる日々よりずっといい日常ですよ」

唯「……うん」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 17:41:49.02 ID:J4d7RspS0
~~~~数時間後~~~~

唯(……眠れないや)

唯(あずにゃんの話は……しょうじきに言うとよくわからない)

唯(そりゃ、私も本気でロンドンに残ろうなんて言ったわけじゃないよ)

唯(……でも、残れるものなら残りたいっていうのは、素直な本音。憂もお父さんもお母さんも、和ちゃんもクラスのみんなもさわちゃんも純ちゃんも……みんなでロンドンで暮らせるなら、それはとっても楽しいと思う)

唯(まぁ、現実じゃそうはいかないんだっていうこともわかってるんだけど)


唯(……あずにゃんの話はなんだか難しかったけど、でも最後の言葉にはなんていうか……ハッとした)

唯(私も、いつも通りの日常は嫌いじゃない)

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 17:51:54.67 ID:J4d7RspS0
唯(……窓、開けてみよう)

ぎっ

唯「わ……あんがい地上が近い」

唯「どこなのかな、これ。……うわー、街があるのが見える」

唯「……」

唯「……あ」

唯(こんな、どこの国かもわからない小さな街でも、灯がついていて、っていうことは人が暮らしていて)

唯「ここの人達も、当たり前に悩んだり、嫌なことがあったり、嬉しかったり楽しかったり、笑ったり泣いたり……してるんだ」

唯「……そっか、ロンドンって、お話の舞台じゃない……」

唯「……私、ロンドンにいるだけで人生がいくらでも楽しくなるって……思ってたんだ」

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 17:59:19.41 ID:J4d7RspS0
唯「……うい」ぽつり

唯(……会いたいなぁ)

唯「ええぅ、なんか街の灯みてたら帰りたくなってきた」




唯(……そうだ、私が楽しくなれる場所は、ロンドン以外にもある。いつでも、ずーっと、暖かくて、幸せで)

唯「……ふふ、あずにゃん、日常は楽しいことばかりじゃないなんて言ったけど……なあんだ、楽しいことばっかりじゃん」




唯「うん、帰ろう。私の日常に」

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 18:04:05.95 ID:J4d7RspS0
~~~~数時間後~~~~

唯「おーい、あずにゃんあずにゃん」ゆさゆさ

梓「ん……うにゃ」

唯「見て見て、これ、もう日本だよね?」

梓「あぁ……そうですね、ほら、地図のうえでももう日本の上空ですよ」

唯「へへ……帰ってきたんだ」

梓「……そうですね」にこ



唯「ただいま、あずにゃん!」



梓「おかえりなさい、唯先輩」

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 18:10:56.79 ID:J4d7RspS0
~~~~空港~~~~

律「ふぁーっ、寝た寝た」ぽきぽき

澪「確かに寝入っちゃったな……機内の記憶ほとんど無いや。……体いたい」

紬「ごめんなさい私、途中で寝ちゃってたみたいで」

梓「いえ、いいんですよ。それよりアイマスクとかありがとうございました」

唯「そうそう!それよりみんな、見てよ!日本だよ!!帰ってきたんだよ!!」

律「あははー……なんだあのテンション……」

澪「ロンドン着いたときと一緒くらい元気じゃないか。そんなに日本が恋しかったのか、唯?」

唯「えへへ。飛行機のなかで色々考えてたらなんかすっごい日本が懐かしくなっちゃって」

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 18:18:35.94 ID:J4d7RspS0
律「楽しかったな、ロンドン」

澪「ああ」

紬「ええ」

梓「はい」

唯「……うん!楽しかったよ!」




律「さて、そんじゃ名残惜しいけど帰りますか!」

唯「家に帰るまでがロンドンだよ、りっちゃん!」

澪「はは、なんだそれ」

紬「唯ちゃんたいへん!ロンドンなのにそこらじゅう日本語だらけだわ!」

唯「なんですとぉっ?!」

梓「……元気ですね、みなさん」


43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 18:25:37.20 ID:J4d7RspS0
~~~~駅~~~~

紬「じゃあねみんな、また学校で」


~~~~交差点~~~~

律「じゃ私ら、こっちだから」

澪「じゃあな、唯、梓」


~~~~踏み切り前~~~~

唯「……えへへ、ありがとうね、あずにゃん」

梓「別に……お礼を言われるようなことは、なにも」

唯「ううん。ついてきてくれて、本当にありがとう。あずにゃんのおかげで、すっごく楽しい卒業旅行になったよ」

梓「唯先輩……」

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 18:30:04.02 ID:J4d7RspS0
梓「私こそ、みなさんのおかげでとっても楽しかったです。ありがとうございました」

唯「……うん」にこ

唯「あーずにゃん」きゅ

梓「……ん」

唯「ありがとうね。大好きだよ」

梓「……ぅ//」きゅ

唯「はぁ。あったか、あったか」

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/12/10(土) 18:33:36.34 ID:J4d7RspS0
唯「じゃあね、あずにゃん」

梓「はい。お気をつけて」

唯「また、学校でね!」

梓「……はい!」


~~~~平沢家・玄関~~~~

ドア「ガチャ」



唯「……ただいま!」




おわり