(まどマギ) ほむら「夢は終わらない」 (テイルズ) 前編

242: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/09(土) 23:59:26.92 ID:u0jnX22X0
前日 夜


クレスはアランにある頼み事をした。

稽古をつけてくれと。

そして…あの技を教えてくれと。


アラン「やだよめんどくせぇ」

クレス「お願いしますアランさん。僕にはあの力が必要なんです」

アラン「タダ働きはしねぇ主義なんだよ」

クレス「…」

ほむら「いいじゃない?減るもんじゃないし」

アラン「嬢ちゃんは黙っておきな」

ほむら「剣術道場を開きたいのでしょう?他人に教えることに慣れておいた方がいいと思うけど?」

アラン「チッ…」


酒場で酒をあおっているアランに、クレスとほむらが押しかけた。
だがアランは一向に首を縦に振ろうとしなかった。




243: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:00:33.66 ID:SwBKrRca0
アラン「…だめだだめだ。やっぱりお前にゃ無理だ」

クレス「どうしてそう言い切れるんですか…」

アラン「あの技はお前向きじゃない。それだけだ」

クレス「そんな…」

クラース「まぁそう言わずに試してやってもいいのではないか?アラン殿」

アラン「ハッ…旦那も登場か」


会話の途中でクラースが乱入してきた。どうやらクラースも酒を飲みにきたらしい。


クラース「酒呑み同士のお願いだ、聞いてやってはくれないだろうか」

アラン「ダメだね。それに旦那にゃまだあの時の金を払ってもらってねぇしな」

クラース「ああそうだったな。色々立て込んでいたものでつい、な…」

アラン「別に急ぎゃあしねぇからいいけどよ…。払ってもらえさえすりゃあ」

クラース「そうか、それは助かる。まあ契約はまだ満了していないわけだしな」

アラン「…はっ?」

244: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:01:16.90 ID:SwBKrRca0
酒を飲もうとしたアランの動きが止まる。
聞き間違いだったのか、確かめる様にクラースに訊ねる。


アラン「今…何て言ったよ?」

クラース「契約はまだ満了していないと言ったんだが?」

アラン「ふざけんなよ!?どう考えても終わってんだろうが!?踏み倒す気かよ!」


思わずアランが声を荒げ、クラースに詰め寄る。


クラース「だから金はちゃんと払うと言っただろう?落ち着け」

アラン「…満了してないってどういうことだよ?」

クラース「私はほむらの手助けをしてくれと頼んだ、そこまではいいか?」

アラン「ああ」

クラース「我々はまだ旅の途中でな…クレスのはまだまだ強くなってもらわないといかん。
     クレスが強くなれば、ほむらの負担も減る。彼女の手助けになるということだ」

アラン「屁理屈すぎて言葉もでねぇな」

クラース「そうか…だがこちらの意向を確認しなかったアラン殿にも不備があったと私は思うのだが」

アラン「…くそが」


アランは不機嫌そうにグラスの酒を一気に流し込んだ。

245: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:01:56.80 ID:SwBKrRca0
ほむら「アランさん、私を助けて、お願いよ」

アラン「無表情で棒読みで言うんじゃねぇよ」

クレス「アランさん…」

アラン「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ」


アランはとてつもなく長い溜息を吐いた。


クラース「クレスとの稽古に付き合ってくれたら金は支払う。約束しよう。
     それとここの飲み代も私がもとう」

アラン「わかったよやりゃあいいんだろやりゃあ」


アランが折れた。ボトルからグラスに酒を注ぐ。


アラン「徹底的にしごいてやるからな…覚悟しろよひよっこが」

クレス「はい!ありがとうございます!よろしくお願いしますアランさん!」

アラン「しごくって言ってるのに喜んでんじゃねぇよ馬鹿が」

ほむら「アランさん、助けてくれて、ありがとう」

アラン「嬢ちゃん…お前ももう黙れ」


今のやりとりで更にクレスをしごいてやろうと決意したアランだった。

246: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:02:44.98 ID:SwBKrRca0
アラン「おらよ!」

クレス「うわっ!」


アランの一撃に防御しきれず、クレスは倒れこむ。


クレス「はぁはぁ…!くそっ!」

アラン「今ので13回目のダウンだぜ。戦場なら13回死んでるってことになるな」

クレス「…」

アラン「まぁ安心しな。俺クラスに強いやつなんてなかなかいねえからな」

クレス「でも…」

アラン「はぁ…。大体ダオスも消えちまったんだし強くなってどうするんだよ?
    俺に比べたらまだまだだがお前もその辺のやつには負けねぇだろ?」

クレス「…」


クレスは答えない。答えれない。これからダオスを追って時間を超え、
再びダオスと戦うとは言えなかった。


アラン「チッ…お前ら都合の悪い話になるとすぐだんまりこきやがる」


アランは一旦休憩、と言わんばかりにその場に座り込み水筒を取り出し口を付けた。

247: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:03:20.24 ID:SwBKrRca0
アラン「お前は不安定すぎるんだよ」

クレス「…えっ?」

アラン「ダオスの攻撃を防いだときからの動きはまあよかったが他は全然だめだ。
    大体ピンチにならないと本来の力が出ないなんて後衛側にとっちゃ不安以外の何物でもねぇよ」

クレス「…っ!」


アランの厳しい指摘に言葉が出ない。
自分の実力の無さにではなく、後衛を危険に晒しているという言葉に
ショックを隠せなかった。


アラン「テメェは常に何の為に剣を握っているから頭の片隅に叩き込んでろ。
    絶対に忘れるんじゃねぇぞ」

クレス「…はい!」

アラン「…休憩は終わりだ。続きやんぞ」

クレス「わかりました!」


二人は立ち上がり、剣を握る。


248: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:03:56.94 ID:SwBKrRca0
白樺の森


ミント「それでは行ってまいります」

クラース「頼んだぞ」

ほむら「行ってらっしゃい。二人とも」

アーチェ「…」

ほむら「アーチェさん?」

アーチェ「え、ああ…うん!行ってくるね!」


ほむら(汚れない清らかな乙女…か)


自分には縁の無い話だな、とほむらは思っていた。
クラースに『ほむらはいかないのか?』と尋ねられたが『私が行ってもどうせ会えないわ』と即答した。


ほむらとクラースは地面に腰を下ろし、のんびり二人が帰ってくるのを待っていた。

249: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:04:35.77 ID:SwBKrRca0
ほむら「久しぶりに…のんびり過ごしている気がするわ」

クラース「ああ。ずっと過密なスケジュールだったからな」

ほむら「ユニコーンに会って、ユグドラシルの所までいって…トールへ向かう。この時代でやり残したことはそんな所かしら?」

クラース「そうだな。まぁ私はダオスを倒したらこの世界に戻ってきてからやることはたくさんあるがな」

ほむら「そうね…この時代はダオスの爪痕が深く残っているわ」

クラース「ダオスの臣下がダオスの腰の重さにしびれを切らし、
     人間と密約してダオスを無理矢理動かした。…どの組織も一枚岩ではいかないもんだな」

ほむら「ただ…、ダオスに対する信仰心は本物だったのでしょうね」

クラース「だな。城に潜り込んでいた魔物は全て自害…真偽は不明だがな」

ほむら「ライゼンはどうなると思う?」

クラース「判断が難しい所だな…。あいつの愛国心も本物だった」

ほむら「あの国は一体どうなるのかしら」

クラース「分からん。それよりも私はまず学会の連中の驚く顔が見たくて仕方がないさ」

ほむら「あら?そっちのほうが重要なの?」

クラース「当たり前だ。どう切り出してどの順番で精霊を見せびらかせてやろうかとすでに考えているくらいだ」

ほむら「困った人ね。…そういえば、アランさんとはどうやって知り合ったの?」

クラース「なに、出発前夜に一杯ひっかけようと酒場に向かったら酔っぱらって暴れている
     アラン殿を見つけてな。止めるついでに愚痴を聞いたらお前の話題が出てきた」

ほむら「…随分怒りを買ってしまっていたみたいね」

クラース「いや、少し上機嫌にも見えたぞ?『この俺を一杯食わせるなんてな』なんて言ってたからな。
     お前の事を認めていたようだ」

ほむら「…光栄な事だと思っておくわ」


久しぶりに他愛のない話を堪能したほむらの元に、アーチェが木々の間を縫うように飛んできた。


アーチェ「二人とも来て!魔物が!」

ほむら「やれやれ…のんびりさせてくれないわね」

クラース「ぼやくな。さっさと片付けるぞ」

250: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:06:13.28 ID:SwBKrRca0


クレス「はぁっ!」

アラン「おっと!」


クレスの攻撃が空を切る。


クレス「まだ!…飛燕連脚!」

アラン「おいおい…それはそんな技じゃ…ねえよ!」


クレスのコンビネーションの間にいとも簡単に割り込み、
見せつけるかのようにアランも同じ技を繰り出した。


クレス「がっ…!」

アラン「技を撃つなら決めきるつもりで出せ!技には隙が付き物だがそれ以上に見返りが
    あるから撃つんだろうが!」

クレス「!?」

アラン「そんな腑抜けた気持ちで俺の技を使うんじゃねぇよ!不愉快極まりないぜ!」


アランは一気にクレスとの距離を詰め、懐に飛び込んだ。


アラン「オレ流!獅子戦吼!」


闘気を押し出し、体当たりのような形でクレスにぶつかり、弾き飛ばす。


クレス「ぐぅぅ!」


これで何度目だろうか、クレスの足の裏が地面から離れた。


クレス「ハァ…ハァ…ハァ…!」

251: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:07:01.13 ID:SwBKrRca0
アラン「…駄目だな」

クレス「…えっ……」

アラン「やっぱりお前には駄目だ。これ以上は意味がねぇ」

クレス「そんな!?僕は…まだ…!」

アラン「お前は甘い。甘すぎる」

クレス「!?」

アラン「剣を扱う人間にしちゃあ優しすぎるんだよ」

クレス「…」

アラン「これ以上は伸びねぇよお前は。限界だ」


そんな厳しい言葉をぶつけられてもクレスは諦めない。
身体を起こし、剣を握る。


クレス「諦めません…!」

アラン「…」

クレス「僕は絶対に…諦めません!」

アラン「お前が諦めないのは勝手だけどよ、お前に付き合わされるあいつらが可哀想だぜ」

クレス「!」

252: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:07:36.73 ID:SwBKrRca0
クレスは少しの間、下を向き俯いていた。
そして…何かを決意したかのように顔を上げた。


クレス「アランさん」

アラン「何だよ」

クレス「あの技を僕に向かって撃ってください」

アラン「!?」


クレスの提案に驚くアラン。クレスは真っ直ぐにアランを見ていた。


アラン「死ぬぞ?」

クレス「…そうなるかもしれません。でもここで強くならないとみんなを死なせてしまうことになります」


次にダオスと戦うときはアランも、キャロルも、ウィノナもいない。
この時代で戦った時よりこちらの戦力は確実に落ちている。


クレス「僕はここで死ぬわけにはいかない!強くならないといけないんだ!
    だからアランさん!お願いします!」

アラン「…ったく」



アランが深く腰を落とす。あの技の構えだ。


アラン「死んでから文句言うんじゃねぇぞ」

253: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:09:11.72 ID:SwBKrRca0
白樺の森


ほむらが二体の魔物に対して突っ込む。狙うは右の魔物だ。
魔物が手に持った鞭をしなりをつけ、振り払う。
その攻撃をほむらはしゃがんで避ける。もう一体の魔物も近づいて来た。

同じく鞭でほむらを狙い、振り抜こうとしたその瞬間をほむらは狙った。
ハンドガンで鞭を握っていた手を撃ち抜く。痛みに顔を歪ませる。

動きを止めず最初に狙った魔物に接近する。魔物は腕を振り上げ
攻撃しようとしたがほむらとの距離が近すぎて攻撃できない。

ほむらは鞭を持っている手を掴み、身体を密着させる。
下あごにハンドガンを突きつけそのまま引き金を引く。

魔物の頭部から血の花が咲いた。

手を撃ち抜かれた魔物が反対の手に鞭を持ち直し再びほむらに
対して攻撃をしかけようとした。


クラース「マクスウェル!」


一足早く詠唱を終わらせ、召喚されたマクスウェルの生み出した
球体に押しつぶされもう一体の魔物も絶命した。


ほむら「お疲れ様」

クラース「お前もな。ほむら」

アーチェ「いやー助かったよ二人とも」

ミント「ありがとうございました」

ほむら「ユニコーンは?」

ミント「大丈夫です。…あちらに」


ミントが指差した先に、湖の中からこちらを見ているユニコーンがいた。

254: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:09:50.64 ID:SwBKrRca0
ほむら「よかった…会えたのね。じゃあ私は先に戻っているわ」


そういい、立ち去ろうとしたほむらをユニコーンが止めた。


ユニコーン「待ちなさい。少女よ」

ほむら「?」

ユニコーン「貴方は…自分が汚れきっていると思っているでしょう」

ほむら「…思っているんじゃないわ。事実よ」

ユニコーン「あなたは罪を犯した事に対し、後悔することを一度諦めた。
      ですが今貴方はそう思ってはいないでしょう」

ユニコーン「自分の罪と向き合い、貴方は変わろうとしている。
      全ての罪が消えるとは言い切れません…ですが、全ての罪が消えないと思わないでください。」

ユニコーン「私は貴方の全ての罪が消えることを願っています」

ほむら「…そんな日がくるのかしらね」

ユニコーン「貴方次第です。…許されないでいいという考えはお捨てなさい」

ほむら「…忠告ありがとう。でも、それは全てが終わってから考えるわ」

ユニコーン「心の片隅に留めておいてください。…決して忘れぬように」

ほむら「わかったわ。ユニコーン」

255: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:10:29.42 ID:SwBKrRca0



アラン「手加減しねえぞ」

クレス「望むところです」



腰を深く落としていたアランが更に少し、腰を落とす。

――来る


アランは地を蹴った。力を込めた剣の柄を握り直す。

全身の力を込めて振りかぶる。

その時、アランが見たクレスは、目を瞑っていた。



クレス(僕は――)

クレス(強くなる――!)

クレス(強くならないと―――!)


目を開く


クレス「いけないんだああああああああああああああああああああ!」

アラン「ひよっこがあああああああああああああああああああああ!」



二人の剣が、交差する

256: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:11:13.12 ID:SwBKrRca0


アラン「おい!起きろひよっこが!」


拳骨をクレスの頭に見舞う。


クレス「あ痛っ!……僕は…」

アラン「ちっ…気持ちよくのびやがって」

クレス「すいません…」


頭を押さえて、起き上がろうとした時だった。

クレスは自分の剣の根本付近から上が無くなっていることに気が付いた。


クレス「剣が…」

アラン「折れちまったみてぇだな。まあ俺の攻撃をまともに受け止めてそれだけで済んだんだ。
    ラッキーだったと思いな」

クレス「…はい。剣はまた新しいのを探せばいいですから」

アラン「まぁ授業料ってやつだ」


鼻で少し笑い悪びれも無く告げ、真剣な顔つきになりアランは続ける。

257: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:11:39.57 ID:SwBKrRca0
アラン「俺のあの技は誰かの為にじゃねぇ。自分の為の技だ」

アラン「自分が勝ちたいから、自分が負けたくねぇからそれだけに編み出した技だ」

アラン「だからお前には無理だと思ったんだよ」

アラン「お前は常に誰かの為に戦っていたようだしな」

クレス「自分の為…」

アラン「お前らの仲間も充分強ぇ。常に守られなくてもいいくらいにな。
    本当に危険な時だけ守ってやれ。
    自分を磨け。いつでもこれくらいの力を出せるようにな」

クレス「…アランさん」

アラン「なんだよ?」

クレス「ありがとうございました」

アラン「…仕事をこなしただけだ。礼はいらねぇよ」


258: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:12:25.36 ID:SwBKrRca0
ミッドガルズ城 夜


ミッドガルズ最後の夜だ。明日はここを経ってユグドラシルを目指す。

ほむらはあてがわれた個室のベッドに寝転びぼんやりと天井を眺めていた。


ほむら(色々あったわね…)


まだ旅の途中だが、そんなことを考えていた。

そんなとき、窓を叩く音が聞こえてきた。


ほむら「…はぁ、ちゃんと扉から入ってきなさい」


姿を見ずにそう告げる。窓が開き、ウィノナが入ってきた。


ほむら「かくまわないわ。出ていきなさい」

ウィノナ「別に逃げ込んできたわけじゃないわ」

ほむら「あらそう?…何か飲む?」

ウィノナ「いらない」

ほむら「じゃあ紅茶でも淹れるわね」

ウィノナ「人の話を聞きなさい」


ウィノナの話を完全に無視してほむらは盾からティーセットを取り出す。


ウィノナ「…手品か何か?」

ほむら「種も仕掛けもないけどね」


手慣れた手つきで二人分の紅茶を用意する。

259: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:13:05.94 ID:SwBKrRca0
ほむら「…随分ととげとげしさが消えたわね」


ほむらはウィノナの雰囲気が変わったことに気が付いた。


ウィノナ「私のやりたいことはもう終わったから」

ほむら「そう…。……私も貴方と同じことをしていたわ」

ウィノナ「?」

ほむら「気持ちを変えるために容姿を変えて、喋り方を変えて…そんな努力をしたわ」

ウィノナ「…そうか」


ウィノナはほむらから手渡された紅茶に口を付けた。


ウィノナ「…美味しい」

ほむら「そう?お口に合ってよかったわ」

260: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:13:35.89 ID:SwBKrRca0
ほむら「これからどうするの?」

ウィノナ「さぁね…とりあえず適当にフラフラしようと思うわ」

ほむら「相変わらず人間は嫌い?」

ウィノナ「…ええ。好きにはなれそうにないわね」

ほむら「別に好きになる必要はないんじゃないかしら?普通でいいんじゃない?」

ウィノナ「普通か…難しいね」

ほむら「アーチェさんとは話はしたの?」

ウィノナ「まぁ、少しは」

ほむら「何?あの子が苦手?」

ウィノナ「そうじゃないわ…ただあの子を見るとリアを思い出すから」

ほむら「…」

ウィノナ「こっちはまだまだ時間がかかりそうだわ。数少ない友人だったから」

ほむら「知人を失うのは悲しいものね…」

ウィノナ「…ほむらも?」

ほむら「ええ。…沢山ね」

ウィノナ「…」

261: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:14:15.68 ID:SwBKrRca0
ウィノナ「ねぇ、一つ聞いていい?」

ほむら「ええ、どうぞ」

ウィノナ「貴方は一体何者なの?」

ほむら「…」

ほむら「私はね、この世界じゃない別のところから来たの。人間のように見えるけど実際は違う。
    この肉体はただの器のようなものなの。それに私は時間を繰り返すことができて何度も何度も」

ウィノナ「…はぁ。わかったわ。もういいよ」

ほむら「あら?本当のことよ?」

ウィノナ「過去から来たとか未来から来たならまだわかるよ。ただ他の世界って…」

ほむら「じゃあ実は私は野良猫で…」

ウィノナ「それは私の話だろ。っていうか私は猫じゃない」


紅茶を飲み一息つくと、少し照れくさそうに会話を再開させる。

262: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:15:04.86 ID:SwBKrRca0
ウィノナ「…ありがとう」

ほむら「えっ?」

ウィノナ「ダオスのこと」

ほむら「…」

ウィノナ「止めてくれて感謝してる」

ほむら「本当に、これでよかったの?」

ウィノナ「多分…ね」

ウィノナ「ダオスは私を求めてくれなかった。私が求めても答えてくれなかった」

ウィノナ「だから…後悔はしないよ」

ほむら「そう…」

ウィノナ「…分かったこともあるしね」

ほむら「何の事?」

ウィノナ「やっぱり私はアイツのことが好きだったんだな、って」

ほむら「あらあら、ノロケ話かしら?」

ウィノナ「何とでも言いなさい。…好きだったからアイツが悪く言われるのが許せなかったし。
     まぁ仕方ないんだけどね。そう言われてもさ」

263: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:15:43.27 ID:SwBKrRca0
ウィノナ「そろそろ行くね」

ほむら「別にここで寝ていってもいいわよ。私の部屋じゃないけど」

ウィノナ「誰かさんみたいに抱き付いて寝る趣味なんてないんでね」

ほむら「迷惑してるわ」

ウィノナ「本当に?」

ほむら「…本当よ」

ウィノナ「フフッ…嘘が下手だね」

ほむら「…五月蠅いわね」

ウィノナ「そうだ…ほむらにこれあげる」

ほむら「これは?」


ほむらはウィノナから透明のカプセルのようなものを受け取る。
中を除くと液体が波を打っていた。


ウィノナ「マナを超圧縮して液体化させたものだよ。ダオスにとってた物だったんだけどさ…、
     結局渡せず仕舞いだったわ」

ほむら「…ありがとう。貰っておくわ」

ウィノナ「…何だろうな。やっぱり私はなぜだかほむらのこと嫌いになれなかったよ」

ほむら「言ったでしょう?私は人間じゃないって」

ウィノナ「人間だよ…私なんかよりよっぽどな。じゃあねほむら。
     なんかもう二度と会えない気がするから言っておくよ。さよなら。元気でね」

ほむら「…ええ。ありがとう。ウィノナさんも元気でね。…さようなら」


野良猫が野に帰っていく。
以前と同じく、ウィノナが出ていき開いたままになった窓をしばらくほむらは見つめていた。



264: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:16:28.62 ID:SwBKrRca0
ミッドガルズ城


クラース「二人とも、協力してくれて感謝する」

アラン「はん…最後までコキ使いやがって」

キャロル「もう…アランさん」

クレス「アランさん、本当にありがとうございました」

アラン「そういうのはいらねぇって言っただろ」

アーチェ「まーまー、そう言わずにちゃんと受け取ってよ」

アラン「フン…」

ほむら「あら?照れているのかしら?」

アラン「照れてねぇよ!…全くよ」


キャロル「ミント、貴方は一体どこであれだけの法術を身に着けたの?」

ミント「…あ、えっと…その。……独学で、です」

キャロル「…凄いわね。一人でそこまで法術を扱えるようになるなんて」

ミント「いえ…私なんてまだまだです」

キャロル「そう言わないの。貴方の力でみんなは守られたのだから」

ミント「キャロルさんのお力もあったからです。ありがとうございました」

キャロル「いえいえ。これからも頑張ってねミント」

ミント「はい」

265: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:17:05.05 ID:SwBKrRca0
アラン「じゃあ行くわ」

クレス「はい。どうかお元気で」

アラン「ひよっこに心配されなくても元気にやるさ。まだやりたいことが
    残っているからな」

ほむら「あなたの門下生がちゃんとついていけるか心配だわ」

アラン「うっせーな。相手みて教え方変えるに決まってんだろ」

ほむら「そんなに器用な風に見えないけど」

アラン「…ホントにいっぺんぶっとばすぞ」

アーチェ「ちょっと!ほむらちゃんに手出したら怒るよ!」

アラン「はぁ…てめぇらといると調子狂うぜ…。じゃあな」


振り返って立ち去ろうとしたアランだったが、不意に立ち止まり振り返った。


アラン「おいひよっこ」

クレス「はい?……っと…。これは…!?」


アランが自分の持っていた剣をクレスに投げつけた。


アラン「やるよ。餞別だ」

クレス「でもアランさんは…」

アラン「俺はその辺の剣で十分やっていけるからな。お前と違って」

クレス「うっ…。…有り難く頂戴します」

アラン「じゃあな!…クレス!自分を磨くのを忘れるなよ!」

キャロル「あ、ちょ…ちょっと待ってください!では皆さん失礼します!お元気で!」

266: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:18:18.35 ID:SwBKrRca0
ミント「行ってしまいましたね…」

クラース「ああ。しかし、変な気分だっただろう?自分の先祖と顔を合わすのは」

クレス「そうですね。ですが、会えてよかったです」

ミント「私もです」

ほむら(これも…変わった歴史の一部なのかしら)

アーチェ「さぁ…って!あたしたちも行こっか!」

ほむら「そうね。やるべきことを済ましてしまいましょう」

クラース「その為にはまずフレイランドを越えないといけないんだが」

ほむら「…」

ミント「ほ、ほむらさん?」

ほむら「…大丈夫……心配いら…ない…わ…」

アーチェ「段々小声になるのやめよ?」

ほむら「……ぇぇ…」

アーチェ「最初から小声で話すのもやめよ?」

ほむら「…」

アーチェ「頑張ろ?」

ほむら「……うん」

267: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:19:14.49 ID:SwBKrRca0
精霊の森


ミント「ヒール!」


ユニコーンの角で強化されたミントの法術が、ユグドラシルを包み込む。
枯れようとしていたユグドラシルが見る見るうちに緑を取り戻していく。


クラース「成功か」

アーチェ「やったねミント!」

ほむら「すごい、力強い緑…それに…」

クレス「ほむら?どうかしたのかい?」

ほむら「私も…力が溢れてくる、は言いすぎだけど…マナに包み込まれている感じ」

アーチェ「あ、あたしもそんな感じ!」


マーテル「ありがとうございました…旅のお方」

クラース「!? 貴方は…精霊か?」

マーテル「そうです。私はこのユグドラシルに宿る精霊、マーテルと申します」

マーテル「私の命も尽きようとしていました。ですがあなたのお蔭で助かりました。
     ありがとうございます」

ミント「いえ、私達にもこの樹は必要でしたので」

ほむら「マーテル。あなたの命が尽きようとした原因はやはり魔科学なのかしら?」

マーテル「そうです。…あの力はこの星を滅ぼす可能性があります」

ほむら「強大な力に目が眩み、自分たちの住んでいる所を蝕む。…どこの世界も同じね」

クラース「君の世界にも同じような物があるのか?」

ほむら「似ているといえば似ているわ。環境を壊し、空気を汚す。豊かで便利な生活の代償ね」

クレス「…ダオスは僕たちのことを寄生虫だと言った。いつかはこの星を滅ぼすと」

ミント「私たちは…正しいことをしているのでしょうか」

クラース「少なくとも、人類を滅ぼそうとしているダオスのほうが正しいとは言えないさ」

アーチェ「そうだね。まずダオスを止めないと」

クラース「ああ…ではマーテル。我々はこれで失礼する」

マーテル「ありがとうございました…お気をつけて」

268: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:19:57.63 ID:SwBKrRca0
ヴェネツィア


「皆さん!お久しぶりです!」

ミント「貴方は…エルウィンさん!?お久しぶりです」

エルウィン「よかった!こんないいタイミングに再び会えて!」

ミント「いいタイミング…ですか?」

エルウィン「明日…僕とナンシーの式を挙げます。是非皆様にも参列していただきたくて」

クレス「それは…本当におめでとうございます。エルウィンさん」


ほむら「こちらの方は?」

クラース「ああ、ほむらは会ったことが無かったな。彼はエルウィン、この街の貿易会社の社長の息子だ。
     旅の途中に何度か顔を合わせて相談に応じてる内にゴールインしていた、という所だな」

ほむら「あら、なかなか素敵な話ね」

エルウィン「こちらの方は?」

ほむら「初めましてエルウィンさん。私は暁美ほむらといいます。この度はおめでとうございます」

エルウィン「これはご丁寧にどうもありがとうございます。貴方も是非参列していってください」

ほむら「あら、いいんですか?」

エルウィン「勿論です。恩人の仲間の方もまた恩人なのです」

ほむら「では喜んで参加させていただきます」

エルウィン「ありがとうございます。すぐ今晩の宿の手配をさせますでの、今晩はごゆるりとお休みください」

クラース「ではお言葉に甘えさせていただくとしよう」

269: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:21:10.82 ID:SwBKrRca0
ベネツィア 宿


ほむら「まさかこちらの世界で結婚式にまで参加することになるなんてね」

クラース「いい経験ができているじゃないか」

ほむら「そうね。喜ばしいことよね」

アーチェ「あたし結婚式とか初めてー」

クラース「お前たちにとってはこの時代最後のいい思い出になりそうだな」

ミント「そうですね。明日は盛大に祝福してあげましょう」

クレス「この時代ともお別れなんですね…」

ほむら「ウィノナさん、アランさん、キャロルさん、スリーソンさん…他にももっと沢山。
    …色んな人と出逢えたわ」

クラース「名残惜しいか?」

ほむら「まあね…。でも仕方ないわ。いずれは私は自分の世界に帰るつもりだし」

アーチェ「ふええええん…ほむらちゃーん行っちゃやだー」

クラース「やめろアーチェ。ほむらを困らせるんじゃない。それにまだ大仕事が残っているだろう」

ほむら「そうね。…でもまずは明日の式をお祝いしないとね」

クラース「ああ。寝坊して式の時間に遅れるんじゃないぞ」

270: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:21:52.68 ID:SwBKrRca0
神父「エルウィンさん、あなたはこの女性を
   健康な時も 病の時も 富める時も 貧しい時も 良い時も 悪い時も
   愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか」

エルウィン「誓います」

神父「ナンシーさん、あなたはこの男性を
   健康な時も 病の時も 富める時も 貧しい時も 良い時も 悪い時も
   愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか」

ナンシー「はい、誓います」

神父「あなた方は自分自身をお互いに捧げますか」

エルウィン ナンシー「はい、捧げます」

神父「それでは指輪の交換を」


エルウィンがナンシーに、ナンシーがエルウインに指輪を嵌める。


神父「では、誓いのキスを」


二人は幸せなキスをして終了。

271: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:22:29.80 ID:SwBKrRca0
ミント「エルウィンさん!ナンシーさん!おめでとうございます!」

クレス「二人とも!おめでとうございます!」

クラース「おめでとう」

アーチェ「へへっ、先を越されちゃったね、クラース?」

クラース「…五月蠅いぞアーチェ」

ほむら「おめでとうございます」


エルウィン「皆さん、本当にありがとうございました」

ナンシー「ありがとうございました。…ミントさん、これを」


ナンシーはミントに手に持っていたブーケを渡した。


ミント「私が受け取ってもいいのでしょうか?」

ナンシー「あなたに受け取ってもらいたいのよ」

ミント「…ありがとうございます」



ほむら(あの二人にも…こんな未来がある時間軸があったのかしらね…)


ほむらは思う。ダオスと、ウィノナの事を。

272: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:23:16.87 ID:SwBKrRca0
超古代都市トール



ほむら「水中に…こんな大きな街が沈んでいるなんて」

クラース「たまげたな。しかも空気もちゃんとあるときたもんだ」

ほむら「私たちの世界よりも文明が進んでいるみたい。…なぜこんな海底に
    沈んだのかしら」

クラース「わからんな。想像もつかん」

クレス「とりあえず進みましょうか」

ほむら「そうね」


しかし、クレス達はすぐに行き止まってしまう。扉が開かなかった。


クラース「さて…早速手詰まりな訳だが」

アーチェ「ねーねーコレなーにー?」


何かを見つけたアーチェはそれを手に取る。薄い札のようなものだ。


ほむら「これは…。もしかして…」


ほむらは何かに気が付いたように扉を調べる。


ほむら「やっぱり…、アーチェさん。噛んでないでちょっとそれ貸して頂戴」


ほむらはアーチェから札を受け取り、扉にある不自然な隙間に差し込む。
ピッ、というほむらには聞き覚えのある電子音が鳴り、扉が開いた。

273: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:23:56.48 ID:SwBKrRca0
ほむら「やっぱり、カードキーね」

クラース「カードキー?」

ほむら「私の世界にもあるものよ。このカードが鍵になっていて扉が開く仕組みよ」

クレス「へぇ…すごい技術だね」

クラース「しかし、こう聞いているとほむらの世界と我々の世界での共通点が意外と多いんだな」

ほむら「そうね…。食事に関してもそうだし」

クラース「意外とそう遠くないのかもしれないな。我々とほむらの世界は」

ほむら「…」

ほむら(それは無いわね…。インキュベーターが存在していない以上、気が遠くなるほどの距離か…あるいは…)

ミント「どうしました?」

ほむら「…いいえ。なんでもないわ。進みましょう」

274: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:25:13.32 ID:SwBKrRca0
「シンニュウシャハッケン シンニュウシャハッケン」


警報が鳴り響く。侵入者を撃退するための警備部隊が飛び出してくる。


アーチェ「ちょ、なにこれ!?」

ほむら「自律型の機械人形ってとこかしらね」


ほむらは拳銃を取り出し、空を飛んでいるロボットに対して発砲する。
しかしシールドのようなものによって阻まれる。


ほむら「…硬いわねやっぱり。クラースさん、アーチェさん。水か雷系統の攻撃を頼むわ」

クラース「了解だ」

アーチェ「ほいほーい」

ほむら「ミントさんも気を付けて。恐らく私と同じような武器を装備しているはずだから、
    普段より離れていて頂戴」

ミント「分かりました」

クレス「いくよ!」

ほむら「ええ。硬いから気を付けて」

275: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:25:56.39 ID:SwBKrRca0
クレスが先行する。地面を滑るように向かってきたロボットを叩き潰すように剣を振り迎撃した。


ほむら「…!」


発砲音。空中の小型ロボットがほむらに対し仕込まれた機銃を撃ちこんできた。
ほむらは時間を停止させ、その場に停止した弾丸の雨を簡単にかわし、飛んだ。
そのまま小型ロボットを掴み手にもったまま地面に叩き付け、時間停止を解除する。


ほむら「小型は素手でもなんとかなりそうね。問題は…」


ほむらは通路の先を見る。自分の身体の何倍もある大きさの巨大なロボットが迫ってきた。


ほむら(あれはさすがに二人に任せましょう…)


慌てて距離を取るように下がる。


ほむら「クラースさん!」

クラース「ああ!…ウンディーネ!」


呼び出されたウンディーネが巨大なロボットの足を切り刻む。
身体の支えがなくなったロボットはその場に倒れこんだ。


クラース「美味しいところは任せたぞアーチェ」

アーチェ「いっただきまーす♪サンダーブレード!」


雷の刃が周辺の敵全てを切り刻む。あちこちでロボットが爆発してく。

276: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:26:28.12 ID:SwBKrRca0
クレス「襲爪雷斬!」


アーチェの呪文を喰らってもなお、動こうとした巨大なロボットにクレスが雷を纏った剣を突き刺し、
爆発から逃れる為すぐ後ろに跳んだ。

鼓膜が破れるかと思うほどの巨大な爆発音が一面に響き渡る。
第一陣を退けた一行だったがまだ警報は鳴り響いている。


ほむら「まだまだ来そうね」

アーチェ「モテモテであたしは嬉しいですよ…はぁ」

クラース「しかし、一体くらいは持って帰りたいな。色々便利そうだ」

ほむら「子供たちの玩具になって壊されるのがオチよ」

クラース「…そうだな」

クレス「! また来た!」


視線の先には再び機械人形の群れ。


クラース「やれやれ。私にも手に余りそうな玩具だ」

ほむら「そうね。それに私は持ち帰るならブッシュベイビーがいいわ」

ミント「あのときのほむらさん、とても可愛らしかったですよ」

ほむら「…///」

アーチェ「えー!そのほむらちゃん見たかった!」

ほむら「…喋ってないでさっさと終わらせて進みましょう」


話を流すように切り上げて、ほむらは敵の群れに突っ込んでいった。

277: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:27:50.80 ID:SwBKrRca0
メディカルルーム


ほむら「シャワーまであるなんて…あぁ…気持ちいい」

アーチェ「あーサッパリするぅー」

ミント「ですね…疲れが吹き飛ぶようです…」


ほむら アーチェ(しかし…)


ほむらとアーチェはチラッっとミントを見る。


ほむら アーチェ(…)


ほむら「」ペターン

アーチェ「」ペターン

ミント「♪」ボイーン


ほむら「アーチェさん!」

アーチェ「ほむらちゃん!」


二人はお互いの傷をなめ合うように手を握る。


ミント「えっと…どうなされました…?」

アーチェ「この裏切り者!」

ほむら「貴方はいずれ私の敵になるかもしれないわね」

ミント「えぇ!?」

278: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:28:44.59 ID:SwBKrRca0
クラース「何を叫んでいるんだあの三人は…」

クレス「…ハハッ」


外で待たされている二人は呆れたように声を出す。
クラースは先程手に入れたダイヤモンドの指輪を指先で遊ぶようにつまんでいる。


クラース「クレス」

クレス「はい?」

クラース「勝てると思うか?」

クレス「…」

クラース「お前も分かっていると思うが、ダオスの城で戦ったときよりも我々の戦力は落ちている。
     プラス要素はお前の新たな力と、ユニコーンの角の力、ほむらがほぼ完調に近いということだな」

クレス「…かならず勝ちます。やっとチェスターを助けることができるんだ…」


言い聞かせるように呟く。


クラース「お前には期待している。だがあまり気負いすぎるなよ」

クレス「はい…ありがとうございます」


279: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 00:29:25.84 ID:SwBKrRca0
『わたしはオズ。この都市を管理している』


ほむら「自我を持ったコンピューター?…すごい技術ね」

クラース「オズ、我々は100年後の時代に行きたい。協力してもらえないか」


オズ『この都市の機能を復活させるためには海上に浮上させる必要があるが』

クレス「いいんですかね?」

クラース「そうしないと駄目なのならやるしかなかろう。オズ、頼んだ」

オズ『了解した』


何かに捕まっていないと倒れてしまうほどの揺れが起きる。
暫く揺れが続いた後、何事も無かったのように揺れが収まった。


ほむら「街一つを持ち上げるなんて…」

クラース「これがトールの文明か…」

オズ『システム、オールグリーン。時間跳躍、準備完了』

ミント「いよいよですね…」

クラース「ああ。全員準備はできているか?向こうに跳んだら即、戦闘だ」

アーチェ「大丈夫!いけるよ」

ほむら「問題無いわ」

クラース「クレス」

クレス「大丈夫です。落ち着いてます…みんな、絶対に勝とう」

クラース「よし行くぞ。オズ、頼む。アセリア暦4304年、5月21日…場所は地下墓地だ」

オズ『了解した』


クレス(チェスター。今行く…待っててくれ)

ほむら(負けられない。私の為にも、みんなの為にも、チェスターさんの為にも)



舞台は時を超えて、クレスとミント…そしてチェスターの時代へ切り替わる。

286: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:30:53.59 ID:SwBKrRca0
地下墓地


ダオス「あの二人をどこに飛ばした?」

モリスン「…」

ダオス「ふん、まあいい」

チェスター「待ち…やがれ!」

ダオス「まだ息があるのか、しぶといな」

チェスター「テメェを倒すまで死ぬ訳にはいかないんだよ!」

ダオス「貴様の願いは一生叶わぬ…今ここで…」



地下墓地に一つの光が舞い降りた。時空転移の光だ。



ダオス「こ、この光は!?まさか!?」

クレス「ダオス!」


光が消え切る前にクレスが飛び出す。更にほむらが後を追う。


チェスター「クレス!ミント!」

ダオス「貴様達…時間を…!」

クレス「ここで終わりだ!ダオス!」

クラース「アーチェ!いくぞ!ミントはモリスン殿とチェスターを!」

アーチェ「おっけー!」

ミント「はい!」

287: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:31:33.97 ID:SwBKrRca0
ほむら(クレスさん…大丈夫そうね。気合十分だけど気負いすぎてはなさそう)


ほむらは盾の中から自分の身の丈はあろう大きさのガトリングガンを取り出す。


ほむら(これでもダメージが通るとは思えないけど…)


大量の弾丸が一瞬で発射される。さすがのダオスも生身で受けるのは危険と察したのか手にバリアを張り、
弾丸を弾いていく。


ほむら(ある程度防御に意識を割かせることはできるようね)


さすがに出しっぱなしでは動きが制限される為、ほむらはガトリングガンを一度盾の中に仕舞う。
その隙をダオスは狙った。

288: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:32:15.67 ID:SwBKrRca0

ほむら「!?」


ダオスがクレスには一瞥もくれず、ほむらに向かってくる。


クレス「くそっ!…ほむら!」

ほむら「私は大丈夫!慌てないで!」


ほむらは落ち着いて考える――迎撃か、一度距離を取るか。
しかしダオスは自身の間合いの一歩外で突然急停止した。


ほむら(!? 何を…)


そしてダオスは超高速で詠唱を完了させ、火球を放った。
――膝をついているチェスターに向けて。


ほむら「しまっ…!?」

289: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:32:46.94 ID:SwBKrRca0
自分に攻撃が来るだろうと思い込んでいたほむらは一瞬反応が遅れる。
咄嗟に時間を止め、動けないチェスターを庇おうとした…その時



「やはり貴様の仕業か…娘」


ほむら「!?」


停止しているはずの時間の中で声が聞こえる。

ほむらは思わず身体が硬直し、完全に動きを止めてしまう。



ダオスが、動いている。



ダオス「死ね」



冷たい声と冷たい眼差しと、冷たい剣がほむらの身体を貫いた。

290: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:33:29.15 ID:SwBKrRca0
チェスター「がぁぁぁぁ!」


ダオスの火球がチェスターに直撃した。幸い、詠唱速度を重視した呪文であった為、即死は免れた。


チェスター「ゲホッ!ゲホッ!」

ミント「チェスターさん!?しっかりしてください!」

クラース(…あの程度ならほむらが防げたはず…ほむらは…!?)



最初に気が付いたのはクレスだった。


クレス「ほむら!?」


クレスの悲痛な叫びに全員の視線がほむらに向かう。
ダオスはほむらの腹部に突き刺した剣を引き抜き、血を振り払う。
ほむらは糸が切れた人形のようにその場に倒れこんだ。

291: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:34:03.69 ID:SwBKrRca0
クラース「そ、そんな…」

ミント「い、いやああああああああああああああ!」

アーチェ「ほむらちゃん!?ほむらちゃん!?」


倒れたほむらはピクリとも動かない。


クレス「うああああああああああああああああああ!」


込みあげた怒りがクレスの身体を突き動かした。ダオスに向かい全力で立ち向かう。


ダオス「ふん…」


292: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:34:52.99 ID:SwBKrRca0
クラース「ミント!」

ミント「そ…ん…な…!」

クラース「ミント!!」

ミント「!?」

チェスター「ミント!…あの子を頼む!俺はいい!」

ミント「で、ですが…」

チェスター「俺は悔しいが役に立たねぇ…あの子を助けてやってくれ…」

ミント「…はい!」

クラース「ミント!必ずほむらを助けろ!絶対殺すな!」

ミント「わかりました!」

クラース「アーチェ!」

アーチェ「分かってるよ!」


目に涙を溜めつつもアーチェが返事をし、更に呪文を放つ。


アーチェ「ファイアーボール!」


アーチェが選択したのは最初級の呪文。だが、その選択は正解だった。


アーチェ「手数でとりあえず押すんでしょ!ほむらちゃん…心配だけど…!
     絶対死なないって言ってくれたから!…だから!」

クラース「そうだ!ほむらとミントを信じろ!」


クラースはアーチェの成長ぶりに、驚き、そしてありがたいと感謝していた。

293: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:35:37.80 ID:SwBKrRca0
ほむら(……わ…私……は?)


自分の身に起きたことが把握できていない。
だが自由の利かない身体と腹部から込み上げてきた痛みが全てを物語っていた。


ミント「ほむらさん!」


ミントがほむらの元に駆け寄ってきたが、ミントはほむらの痛々しい姿と流れている血の量に言葉を失う。


ミント「くっ…!ほむらさん!今治療します!」


ほむら「ガハッ!…ゲホッ!」


更にほむらが吐血し、失った血の量が増える。


ミント「…!……ヒール!」


法術の光がほむらを癒していく。…だが


ミント(傷が深すぎる…!私一人じゃ…!)

モリスン「私も…ぐっ…手伝おう」


傷だらけのモリスンが身体を引き摺り近寄ってきた。


モリスン「私も法術師の端くれ…微力だがいないよりはマシだろう」

ミント「お願いします!力を貸してください!」

モリスン「ああ…。……ヒール!」

294: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:36:09.10 ID:SwBKrRca0
二人がかりでほむらの傷を癒していく。だがモリスンの力はすでに尽きかけていた。


モリスン「さすがに…時空転移を唱えた後だと…この程度か」


モリスンは悔しそうに顔を顰める。


ほむら(ち…か……ら…)

ほむら(そ……うだ………)


ほむらは痛みを我慢し、盾に手を伸ばす。


ミント「ほむらさん!まだ動いては駄目です!」


ミントの制止を無視してほむらが盾から何かを取り出した。
それは小さな紙袋だった。


ミント「それは…!?」

ほむら「つ…かっ………て………」


震える手でほむらは紙袋をモリスンに手渡した。


モリスン「これは…!グミか!有り難い!」


モリスンに少し力が戻る。



295: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:36:42.51 ID:SwBKrRca0


『少年「まー大したもんじゃないけどさ」』



過去の時代で出会った少年の言葉をほむらは思い出していた。



ほむら(…そんなことは……無かった……わよ……)




296: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:37:22.79 ID:SwBKrRca0
クレス「うあああああああ!」


叫び声を上げ、ダオスに次々と攻撃を仕掛けていく。


ダオス「ふん…一人でどうにかなるとでも思ったか」

クレス「一人じゃない!」


クラース「シルフ!」


風の精霊が、触れたものを切り刻む竜巻を巻き起こす。


ダオス「…脆弱な精霊が!」


ダオスが剣を振り払い、起こした剣圧でシルフが起こした竜巻を掻き消した。


アーチェ「グレイブ!」


地表から岩の柱がせり上がる。

297: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:37:57.52 ID:SwBKrRca0
ダオス「小賢しい」


せり上がった岩の柱を拳で砕く。


クラース(くそっ!足止めにすらならんか!)

アーチェ(これ以上は時間が足りない…!)


ダオスが、クレス達を追い詰めはじめていた。


ダオス「どうした?これ以上下がるとあの二人を巻き込むぞ?」

クレス「くそっ!」


ダオスがクレスを押し込む。詠唱中のクラースとアーチェとの距離が縮まっていく。


クレス「ぐぁ!」


ダオスの一撃を受け、クレスが弾き飛ばされる。ダオスが両手に光を集め出した。


クレス「…この光は!?」


ダオス「終わりだ」


三人を巻き込むように、ダオスは光のレーザーを放った。



クレス「があああああ!」

クラース「ぐあああああ!」

アーチェ「きゃああああ!」

298: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:38:56.17 ID:SwBKrRca0
ほむら「…ありがとう二人とも。そろそろ行くわ」

ミント「そんな!?まだ傷が完全に塞がっていません!」

モリスン「そうだ!まだ危険だ!」

ほむら「ごめんなさい。もう行かないと…三人が殺される」


三人がダオスのレーザーの直撃を受けた光景をほむらは見ていた。

三人とも一命はとりとめたようだが、それでも危険な状態には変わりない。


ほむら(ここまで隊列が崩れてしまったのは私のせい…だから…)

ほむら「ミントさん、息をつき暇もないけれど、あの三人を頼むわ。…私が時間を稼ぐ」

ミント「その身体で一人でダオスと!?無茶です!」

ほむら「やるしかないわ。このまま誰かが殺されるところを指を咥えて見てるだけ
    だなんて…私は出来ない」

ミント「…っ!」

ほむら「大丈夫。私は死なない…死ぬわけにはいかないから。だから…あの三人を助けて。
    ミントさん…お願い」

ミント「絶対に…死なないでください」

ほむら「ええ。任されたわ」


ほむらは一人、ダオスの元へ駆け出す。

299: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:39:40.64 ID:SwBKrRca0
ダオス「貴様…まだ動けるか」

ほむら「そうみたいね…私を殺したいのなら首から上を刎ねることをオススメするわ」

ダオス「そうか…ならば望み通りにしてやろう」


口に残った血を吐きだし、ほむらはハンドガンを取り出した。


ダオス「玩具が通用せぬとまだわからぬか」


ダオスがほむらに目掛けて剣を振るう。

その剣をほむらは盾では無く、ハンドガンで受け止めた。


ダオス「!?」

ほむら「ぐっ…!…こいつにはこういう使い方もあるのよ」


剣を受け止めた衝撃が傷に響き、痛みを引き起こす。顔を顰めながらも受けた剣を振り払う。

300: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:40:19.55 ID:SwBKrRca0
ダオス「貴様!?どこにそんな力が!?」

ほむら「意外と貴方の力が弱いんじゃないかしら?」


ほむらはダオスを挑発する。だが、ダオスは挑発に乗ってこない。


ダオス「余裕が無いのはわかっているぞ」

ほむら(やっぱり通用するわけないわよね…)


ほむらを脳天から真っ二つにするような切り落とす攻撃。それをほむらは盾で受け止めようとする。
だが、その攻撃は途中で止まり、下からダオスの拳がほむらの腹部目掛けて迫ってくる。

しかしほむらはその拳を無視し、右手に握ったハンドガンをダオスの喉元に突きつけ引き金を
引いた。

反撃してくると想像すらしてなかったダオスは咄嗟に頭を振り、銃弾を避ける。
体勢が崩れるのを嫌がりバックステップで距離を取る。

その行動をほむらは予測し、地面を蹴って再びダオスとの接近戦に入る。

301: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:40:54.06 ID:SwBKrRca0
ダオス「何!?」

ほむら「そこっ…!」

ハンドガンを左手に持ち直し、空いた右の拳を強く握る。
魔力を込めてダオス目掛け撃ち抜く。

その拳をダオスは左腕でガードし、右手に握った剣を突き刺すようにほむらに
攻撃する。

ほむらは一度仕切り直しといわんばかりに大きく後ろに跳び、その攻撃をかわした。


ほむら「はぁ…はぁ…」

ダオス「無茶な攻撃だな」

ほむら「はぁ…ふぅ……自分でもそう思うわ」


呼吸を整え、流れ出した汗を拭う。


ダオス「どこまでもつか…」

ほむら「死ぬまでかしらね」



チェスター(あんな小さな子があんなすげえ戦いしているっていうのに…俺は…!)

302: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:41:55.37 ID:SwBKrRca0
ミント「ナース!」


クラース「ぐっ…すまない!助かったぞミント」

アーチェ「…ほむらちゃん!」

クレス「ハァハァ…!くそっ!」

クラース「ミント!クレスを頼んだ!」

ミント「クラースさんは!?」

クラース「私はいい!動けるだけで十分だ!」

アーチェ「あたしも大丈夫!」

クレス「すまない……」

クラース「ちゃんと後で働いてくれればそれでいい!」

クラース「私はルナを召喚する!アーチェはインディグネイションを!」

アーチェ「ほむらちゃんを助けないの!?」

クラース「ほむらが作ってくれているこの時間を無駄にするな!」

アーチェ「…っ!わかったよ!」

303: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:42:38.37 ID:SwBKrRca0
突然、終わりが来た。


ほむら「!?」


ダオスの攻撃をかわし、反撃に転じようとしたとき…ほむらの膝が崩れ落ちた。


ほむら「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…!」


ほむらが肩を激しく揺らす。魔力はまだ残っていた…が、身体が限界を迎えた。


ほむら「…こん…っなときに……!」

ダオス「思ったよりも早かったな」

ほむら「!?」


ダオスがほむらの首に剣を突きつける。


ダオス「首を刎ねられるのが望みであったな」

ほむら「…っ!」



ほむら(時間停止も駄目…詰みってやつかしら…)

304: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:43:12.59 ID:SwBKrRca0
そんな状況を打開したのは、横から飛んできた一本の矢だった。


ダオス「…」


その攻撃を簡単に叩き落としたダオスは攻撃してきた先を見た。
フラフラになりながらも立ちあがっているチェスターだった。


チェスター「…させねぇぞ!」

ダオス「鬱陶しい」

ほむら「チェスターさん!?駄目!逃げて!…っ!ゲホッ!」


ほむらの身体の傷が開き、再び血を吐く。


チェスター「こんな小さな子がボロボロになっても頑張ってるんだ!俺だって!」

ダオス「そうか…では先にお前からあの世に送ってやろう」

チェスター「!?」

305: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:43:54.12 ID:SwBKrRca0
クレス(守らないと…!守る為には…倒さないと…)

クレス(倒す…僕は…ダオスを!)

クレス「ダオス!」


治療を受けたクレスがダオス目掛けて突進する。


ダオス「ちぃ!」


クレスの一撃を受け止めたダオスの顔に動揺が走る。


ダオス「貴様…!この力は…!」

クレス「ほむらも…!チェスターも…!みんなも…!やらせない!」


クレスがダオスを弾き飛ばす。

306: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:44:25.03 ID:SwBKrRca0
ほむら「…ゲホッゲホッ!」

ミント「ほむらさん!」

ほむら「…私よりも…クレスさんを…!」

ミント「しかし…!」

ほむら「今クレスさんが倒れてしまったら…駄目…!私は大丈夫…。死なないって…約束した…でしょ」

ミント「っ…!」

モリスン「この子は私が看る!ミント君はクレス君を!」

ミント「…!……お願いします!」

307: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:45:13.65 ID:SwBKrRca0
クレス「うおおおおおおお!」

ダオス「ちぃ!」

ダオス(この気迫…!まるで…あの剣士)


過去でクレスの隣にいた剣士。ダオスはその姿をクレスに重ねる。


クラース「この指輪は御身の目。この指輪は御身の耳。この指輪は御身の口。
     我が名はクラース。指輪の契約に基づき、この儀式を司りし者。我伏して御身に乞い願う。
     我盟約を受け入れん・・・我に秘術を授けよ!
     我が手の内に御身と、力と、栄え有り!きたれ、月の精霊…ルナ!」


ダオスに光の柱が降り注ぐ。表情が苦痛に歪む。


ダオス「また…これか!!」

ダオス(奴らの狙いはあの魔術師の術!耐え切れば余の勝ちだ!)

308: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:45:52.97 ID:SwBKrRca0
アーチェ「天光満つるところにわれはあり

     黄泉の門開くところに汝あり

     運命の審判を告げる銅鑼にも似て

     衝撃をもって世界を揺るがすもの

     こなた天光満つるところより

     かなた黄泉の門開くところへ

     生じて滅ぼさん!」


ダオス(!? やはりな!)

アーチェ「インディグネイション!」


生み出されるは神の雷。地に降り注いだ雷は爆音を轟かせダオスを襲う。


ダオス「がああああ!」

ダオス(だが…!これで…!)

309: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:46:48.26 ID:SwBKrRca0
クレス「ダオス!」

ダオス「!?」


クレスが深く腰を落とし、力を溜める。


ダオス「この構え…!?あの男の!?」

クレス「うおおおおおおおおおおおお!」

ダオス「だが…!遅い!」


ダオスはアーチェの呪文に耐え切り、一直線に向かってくるクレスを見据える。


クラース「!? 駄目だ!クレス!止まれ!」


だがクレスは止まらない、止まれなかった。

310: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:47:46.54 ID:SwBKrRca0
『アラン「技を撃つなら決めきるつもりで出せ!技には隙が付き物だがそれ以上に見返りが
    あるから撃つんだろうが!」                        』
 
『アラン「そんな腑抜けた気持ちで俺の技を使うんじゃねぇよ!不愉快極まりないぜ!」 』



クレス(そうですよね…!アランさん!)


クレス「負けられ…ない!」

ダオス「死ね!人間!」


ダオスがクレスへ向け完璧なタイミングのカウンターで剣を振り下ろす。


そのダオスの剣は、誰もいない空間を虚しく斬り裂いた。


ダオス「馬鹿な…!止まれるはずが…!」


そしてダオスは気が付いた。止まったのはクレスでは無かったことに。





ほむら「私の能力を警戒してたのなら、能力自体制限しておくべきだったわね」





止まっていたのは時間だった。

311: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:48:30.48 ID:SwBKrRca0
ダオス「貴様ああああああああ!」


そして、時が動き出す。


クレス「負けられないんだああああああああああああ!」


無防備なダオスに、クレスの渾身の一撃が届いた。


ダオス「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


渾身の一撃を受けたダオスは壁まで吹き飛び、瓦礫に埋まっていった。




クレス「ハァ…ハァ…ハァ!」


全ての力を出し切ったクレスがその場に倒れこみかけた、それをチェスターが受け止めた。

312: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:49:04.21 ID:SwBKrRca0
チェスター「チッ…随分と差、つけられちまったな」

クレス「…チェスター」


そんな会話の中、なにかが崩れる音…そして揺れだす足元。


アーチェ「なにこれ!?地震!?」

クラース「違う…!これは…ここが崩れる!逃げるぞ!」

ほむら「墓地で生き埋めなんて笑えないわね…うっ…」


立ち上がろうとしたほむらだったが、立ち上がれない。力が入らない。


モリスン「立てるか?」

ほむら「…いえ」

モリスン「私が運ぼう…みんな!脱出するぞ!」


ほむら(今回もヒヤヒヤだったわね…流石に…疲れたわ…)


アーチェ「…ほむらちゃん……寝てる?」

クラース「この子の頑張りが無ければダオスに勝てなかった。…相当疲れているんだろう」

モリスン「この揺れの中眠れるとは…大した子だよ」


モリスンに抱えられたほむらは、地下墓地が激しい音を立てて崩壊していくのとは
対照的に静かに寝息を立てていた。


313: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:49:55.45 ID:SwBKrRca0
モリスンの家


モリスン「もう動いて大丈夫なのか?」

ほむら「ええ…私は他の人に比べて傷の治りが早いのよ」

モリスン「だが、無茶はするなよ」

ほむら「御忠告、どうも」

チェスター「ほむら…だったな?助けてくれてありがとな」

ほむら「貴方も私を助けてくれたじゃない。あの時攻撃してくれてなかったら
    私は確実にマミられていたわ」

チェスター「マミられ…?」

ほむら「…いえ、なんでもないわ。気にしないで頂戴」

314: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:50:37.90 ID:SwBKrRca0
ほむら「お早う、みんな」

ミント「お早うございます。もう動いてよろしいのですか?」

ほむら「ええ。寝るのはもう飽きたわ」

クラース「全く…」

アーチェ「おっはよーほむらちゃん!」

ほむら「うぐっ!…そんな急に飛びつかれると傷が…」

アーチェ「あ、ご、ごめん!ほむらちゃん!」

ほむら「嘘よ」

アーチェ「…っ!このー!」

ほむら「やだっ!ちょっと!離してよ!」

アーチェ「うりうり~!」

315: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:51:25.45 ID:SwBKrRca0
チェスター「はぁ…元気な連中だな」

クレス「いつもこんな感じなんだよ…」

アーチェ「で…ほむらちゃん…」

ほむら「…振り出しに戻るってやつね」

クレス「結局、元の世界には戻れなかった…か」

ほむら「まぁ気長に手段を探すわ。いずれ手がかりもでてくるでしょう」

クラース「すまないな…。君の力を利用した形になってしまって」

ほむら「構わないわよ。可能性があったから同じ道を進んだだけ」

ミント「これからどうなさるのですか?」

ほむら「そうね…まずはあちこち回って何か手がかりを見つけるしかないわね。
    トールもあるしなんとかなるでしょう」

クレス「僕たちも…」

ほむら「貴方は村の再建っていう大事な仕事が残っているでしょう?」

クレス「…」

ほむら「とりあえず一度私もクラースさん達と一緒に過去に行くわ。
    私が呼ばれた時代だし、可能性として一番なにかありそうだからね」



しかしその計画は、突然鳴り響いた音により崩れ去ることとなる。

316: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:51:57.80 ID:SwBKrRca0
クラース「!? 何の音だ!」

モリスン「わからん!だが外からだ!」

クレス「外に出ましょう!」



外に出たクレス達の視界に飛び込んできた光景は、こちらに向かってくる複数の隕石だった。


チェスター「っ!なんなんだよ一体!」

クラース「揺れるぞ!伏せろ!」






クレス「収まったか…」

ほむら「今の隕石は…偶然?」

クラース「…」


周囲が静けさを取り戻したその時、目の前に一筋の光が舞い降りた。


クラース「今度は何だ!?」

「ここは…」


光が消え、中から一人の男が姿を現す。

317: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:52:42.23 ID:SwBKrRca0
「おお…!クレス殿!ミント殿!チェスター殿にクラース殿にアーチェ殿…それにほむら殿まで!やったぞ!成功だ!」


突然自分たちの名前を呼ばれ、少し戸惑うクレス達。


クレス「あの…、あなたは?」

「し、失礼しました!自分はハリソンと申します!今より50年後の未来より参りました!」

クラース「50年後だと…?……まさか!?」

ハリソン「恐らくクラース殿が考えておられる通りのことです。我々の時代にダオスが現れたのです」

クレス「!?」

ほむら「なるほどね…じゃあ今の隕石もダオスの攻撃、ってとこかしら」

クラース「恐らくな」

クレス「過去、現代に続いて今度は未来か…」

ハリソン「時の英雄の皆様、どうか力をお貸し願えぬでしょうか」

クラース「断るわけにはいかんな。なぁほむら?」

ほむら「そうね。早速手がかりを見つけられて嬉しいわ」

アーチェ「しばらくまた一緒だね!みんなよろしくね!」

ミント「はい。こちらこそ、ですね」

318: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:53:23.31 ID:SwBKrRca0
チェスター「俺も行くぜ」

クレス「チェスター…」

チェスター「今はまだ足手まといだけど…絶対強くなって俺もダオスに
      一撃叩き込まないと気が済まないからな」

アーチェ「ふーん…」

チェスター「…なんだよ文句あるのかよ」

アーチェ「まあ確かに弱っちそうだけどさー」

チェスター「何だと!?」

アーチェ「でも危ない時にほむらちゃん助けてくれたしいいんじゃない?」

チェスター「…ふん」

クラース「よし、話は纏まったな」

ハリソン「それでは私は先にヴェネツィアに向かい、船の手配をしておきます」

クレス「はい、わかりましたハリソンさん」

モリスン「私はここでリタイアだ…すまないな」

クレス「いえ、それではモリスンさん。いってきます」

モリスン「ああ、気を付けてな」


319: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:54:32.60 ID:SwBKrRca0
トーティス~ユークリッド間 森



ほむら「テント~」

ドサッ

ほむら「食材~」

ドサッ

ほむら「食器~」

ガチャン

ほむら「料理道具~」

ドサッ


チェスター「…」

クレス「ああ、チェスターは初めて見るねあれ」

チェスター「…お前達スゲェ旅してきたんだな」

320: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:55:10.52 ID:SwBKrRca0




チェスター「いやー食った食った」

ほむら「お粗末様でした」

チェスター「いやいやそんなこと無いぜ。ミントの料理も美味かったがほむらの
      料理もめちゃくちゃ美味かったさ」

ほむら「ふふっ、それはどうも。でも、クラースさんもお料理上手よ」

チェスター「へぇ、旦那も?」

クレス「でもチェスターも料理結構できるじゃないか」

チェスター「いやー、そう思っていた時期も俺にはありましたよ。でも今の料理食べたらそうは言えねぇわ」

チェスター「でも、お前は料理できなさそうだな」

アーチェ「何よ急に」

321: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:55:49.66 ID:SwBKrRca0
チェスター「いや、ずっと黙ってるし」

アーチェ「…ふーんだ!どうせ料理できませんよーだ!まああたしはちゃんと戦力になるしー?誰かと違ってー?」

チェスター「おまっ!今それは関係ねぇだろ!」

アーチェ「あれれー?おかしいぞー?誰かって言ったのになんで反応するんですかー?」

チェスター「調子に乗ってんじゃねぇぞこのペチャ  が!」

ほむら「」ピクッ

アーチェ「うわ!なんてこというのよこのドス  !」

チェスター「はっ!頭も軽そうだけど胸も軽いときたもんだ!」

アーチェ「なによこの!」


突如響く銃声。ほむらが空に向かい綺麗に手を伸ばている。
その手には銃口から煙を燻らせた銃が握られていた。


ほむら「チェスターさん?」


久しぶりの、見たもの全てに恐怖という感情を植え付ける笑顔。


チェスター「な、なんでしょうかほむらさん」


ほむら「そういう悪口はやめておいたほうが身の為よ?」


チェスター「は、はい…すいませんでした…」

322: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:56:30.51 ID:SwBKrRca0
クレス「こうやって焚火を囲んでると昔を思い出すね、チェスター」

チェスター「ああ、そんなこともあったな」

ほむら「昔話かしら?」

クレス「そうだね。昔近くの森に狩りにでかけたら道に迷ってしまってね。
    仕方ないから焚火を起こして野宿したんだよ」

チェスター「結局寝れなかったけどな。後でクレスの親父さんにこっぴどく二人揃って叱られたし」

クレス「まあ今じゃもうどこにどんな木が生えてるか、っていうのもわかるくらい把握しちゃったけど」

チェスター「そうだな。暇があったら狩りばっかりしてたよな」

ミント「近くの森って…あのユグドラシルの森ですか?」

クレス「ああそうだよミント。…今思えば全てあの森から始まったのかもしれない」

クラース「なんだ?何かあったのか?」

クレス「はい。…村が襲われる直前に枯れているはずのユグドラシルからマーテルの声が聞こえたような気がして」

チェスター「…ちょっと待てクレス」


楽しく昔話していた会話のトーンはもう無かった。

323: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:57:12.90 ID:SwBKrRca0
クレス「…どうしたんだい?チェスター」

チェスター「お前今何て言った?」

クレス「えっ…枯れたユグドラシルからマーテルの」

チェスター「俺は枯れたユグドラシルなんて知らねぇぞ」

クレス「!?」

ほむら(まさか…)

チェスター「俺はトーティスに越してからずっとユグドラシルを見てきたが枯れた姿なんて一度も無かった。
      お前も見てきたはずだ。クレス」

クレス「そんなっ!?馬鹿な!」

アーチェ「ちょっとちょっと…どういうことなの!?」

チェスター「…クレス、お前が過去に行った目的はなんだ?」

クレス「…何を急に」

チェスター「答えろ。…答えてくれ」

クレス「僕たちは…過去の世界でダオスと倒す方法を探しに……」

チェスター「やっぱりそうか…」


チェスターは何かを確信したようだった。

324: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:57:49.89 ID:SwBKrRca0
チェスター「クレス」

ほむら「やめなさい」

チェスター「ほむら…黙っていてくれ」

ほむら「それを伝えてしまっていいの?」

チェスター「…ハッキリさせてほうがいい」

ほむら「でもっ!」

クラース「ほむら」

ほむら「っ!」

チェスター「旦那…すまねぇな」

クラース「構わん。これはお前たちの問題だ」

クレス「…」

チェスター「クレス」

ほむら(やめて)

チェスター「俺は」

ほむら(やめて…)






チェスター「お前とずっと過ごしてきたチェスターじゃない」

337: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:16:02.00 ID:mP1e1oar0
ユークリッドの都


ほむら(…)


ほむらは、クラースが気を使って与えてくれた宿の個室にいた。


ほむら(これも…私のせい……なのよね)


昨晩の会話を思い出す。

338: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:16:44.59 ID:mP1e1oar0
=======================================================================

クレス「僕の知っている…チェスターじゃない…?」

ミント「一体…どういうことなのですか?」

チェスター「モリスンさんはクレスとミントを過去に送る時にこう言った。
      『強力な魔術の使い手を連れてきてくれ』ってな」

クレス「そんなっ!?」


チェスターとクレスの話が食い違う。


チェスター「この時間軸にはマナはあった。だが魔術を使えるやつがいなかった。
      だから過去に救いを求めた」

クレス「じゃあ…僕を助けてくれたチェスターは…」

チェスター「…」

クレス「そんな…」

ほむら「私の…」

クラース「ほむら、ちょっとついてこい」

ほむら「でも…」

クラース「いいから来い」

339: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:17:53.62 ID:mP1e1oar0




ほむら「…」

クラース「ほむら、原因が自分にあると思って責めているんだろう?」

ほむら「…」

クラース「お前がしたくてこうなったわけじゃないんだ。自分を責めすぎるな」

ほむら「でも…!…クレスさんを助けたチェスターさんは一体どうなって…」

クラース「マクスウェルは言った、枝が一本になったと。つまり…」

ほむら「…消えてしまった、ってことよね……」

クラース「…」

ほむら「こんなっ…こんなことになるなんて…」

クラース「だから自分を責めるなと言っただろう」

ほむら「…」

クラース「そもそも、お前がいなければ我々はダオスに殺されていたかもしれない。
     ダオスに辿り着くことすらできなかったかもしれない」

クラース「全ての行動に求めた結果がついてくるわけではない。…悲しいことだがな」

ほむら「なぜ…」

クラース「ん?」

ほむら「なぜ…分かっていてチェスターさんの話を止めなかったの?」

クラース「…恐らくいつかは気が付くはずだ。今黙っていてもな。早い方がいい」

ほむら「…」

クラース「この件については本人同士に任せる。ほむら、あの二人を信じてやれ」


==============================================================================

340: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:18:47.16 ID:mP1e1oar0
ほむら(クラースさんはああ言っていたけど…)


昨晩以降、パーティの雰囲気が重い。
アーチェが気にして明るく振舞ってはいるが、そう長くは続かない。


ほむら(クレスさんとチェスターさんもほとんど会話していない…)

ほむら(クレスさんは今どんな気持ちなのかしら…。チェスターさんも…)

ほむら(…まどか達も似たような気持ちだったのかしら)



転校してきて、初めてあったはずなのに自分のことを知ってる。


ほむら(やっぱり気味が悪いって思われていたんでしょうね…)


そんな考えがグルグル回っている時に、部屋の扉がノックされた。


ほむら「…はい」

クラース「ほむら、ちょっと出てきてくれないか?」


何やら用があるらしく、クラースが部屋の外からほむらを呼んでいる。
ほむらはその呼びかけに応じ、扉を開く。

ほむら「…何かしら」

クラース「ちょっと来てくれ」

ほむら「?」

341: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:19:45.13 ID:mP1e1oar0
クレス「だから!あの時は僕の剣で仕留めたじゃないか!」

チェスター「いーや!あの時は俺の矢で仕留めた!」

ほむら「…なにこれ?」

ミント「思い出話をしていて、お互いの話の内容がほぼ一致していたんですが…」

アーチェ「狩りの話になった途端、コレ。はあ…めんどくさ…男の子って」


困ったようにしているミントと、
疲れ果てたようにテーブルに突っ伏しているアーチェが答えた。


クレス「チェスターが矢を外したから僕が止めを刺したんだろ!」

チェスター「ハッ!何いってやがる!俺が猪相手に外すかよ!」

ミント「さっきから…ずっとこんな感じなんです」


あはは…、と乾いた笑い方をするミント。

342: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:20:27.00 ID:mP1e1oar0
ほむら「私は…一体…何の為に…」

クラース「だから言っただろう?二人に任せておけと」

ほむら「こうなることが分かっていたの?」

クラース「たった一日でこうなるとは流石に思っていなかったがな」

ほむら「はぁ…なんだか私も疲れてきたわ」

クラース「せっかくの個室も無駄になってしまったな」

ほむら「本当よ…安全に快適に寝れる環境の素晴らしさをを噛みしめて眠ることにするわ…」



クレス「何だと!?」

チェスター「何だよ!?」


ほむら「もう勝手にやってて頂戴……」

343: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:21:13.60 ID:mP1e1oar0



隣の部屋から誰かが出てくる音が聞こえた。
ほむらは目を覚ます。


ほむら(…誰かしら)


静かに扉を開けて確認する。


ほむら「…チェスターさん?」

ほむら(こんな時間に…どこへ…?)


音を立てないように部屋を出た。


ほむら(弓を持っていたわね…もしかして…)

344: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:21:51.49 ID:mP1e1oar0
近くの森


ほむら「精が出るわね」

チェスター「!? ほむらか。…悪い、起こしちまったか?」

ほむら「構わないわ。…深夜の特訓ってとこかしら」

チェスター「…クレスと随分差つけられちまったからな。少しでもこういうことしねぇとよ」

ほむら「…暫くご一緒してもいいかしら?」

チェスター「…別にいいぜ」



焚火が爆ぜる音と、チェスターの撃った矢が木に刺さる音が深夜の森に響く。


345: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:22:29.67 ID:mP1e1oar0
ほむら「クレスさんとの口論の結果はどうなったの?」

チェスター「結局どちらも引かずに痛み分け、ってとこだな」

ほむら「クレスさんにしては珍しいわね。引かないなんて」

チェスター「俺の前じゃ絶対意地を張りやがる。やっぱりあいつはクレスだったよ」

ほむら「…」

チェスター「旦那から聞いたよ。ほむらがなぜこの旅についてきているかをよ」

ほむら「…そう」

チェスター「ほむらのせいじゃねぇよ」

ほむら「えっ…」

チェスター「クレスもそう思ってる。絶対にな」

ほむら「なんで…そう言い切れるの?」

チェスター「あいつはそういうやつだ。いつでもどこでもな」

ほむら「そう言ってもらえると…少し気持ちが楽になるわ」

チェスター「正直…俺もクレスも受け止めきれたとは言えない。
      でも、今はダオスを倒すことだけ考える…アミィの為にもな」

346: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:23:19.85 ID:mP1e1oar0
ほむら「罪滅ぼしという訳じゃないけど、私も手伝うわ。
    ダオスに一撃ブチ込みたいのでしょう?」

チェスター「へっ、女の子がブチ込むなんて下品なこと言うんじゃねえよ」

ほむら「アーチェさんにとっては耳が痛くなる言葉ね」

チェスター「アイツはもう手遅れだ。遅すぎたんだ、脳が腐ってやがる」

ほむら「ひどい事言うわね」

チェスター「…アイツの事なんかよりさ、早速手伝ってもらいたいことがあるんだよ」

ほむら「えっ?」

チェスター「何か俺も新技とか考えてるんだけどよ!いいアイディアないか!」

ほむら「新技…ね」


ほむらは思い出す。遠い昔の時間軸で共に戦った魔法少女の姿を。


ほむら「そうね…こういうのはどうかしら?」






347: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:24:15.65 ID:mP1e1oar0
ヴェネツィア周辺



チェスター「喰らえ!震天!」


上空に向かい大量の矢を放つ。重力に逆らい上昇を続けた矢は、重力に従うように
加速をつけて魔物に降り注いだ。


クレス「随分派手な技だな!チェスター!」

チェスター「ほむらとの共同開発だ!なかなかいい感じだぜ!」

ほむら(マジカルスコールって名前はさすがに却下されたわ)

チェスター「この調子でガンガン強くなってやるからな!」

クレス「期待してるよ!チェスター」

アーチェ「足引っ張らないでよねー」

チェスター「んだと!この…」

ほむら「 チ ェ ス タ ー さ ん 」

チェスター「はい!すいませんした!」

クラース「チェスター…同情するぞ…」


チェスターも 尻にしかれマンの称号を手に入れた。

348: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:25:11.70 ID:mP1e1oar0
ヴェネツィア港

ハリソン「長旅お疲れ様でした」

クラース「お待たせして申し訳ない」

ハリソン「いえ、こちらがお願いしている側なので」




「あ、ごめんね。この船は今日なんか貸切みたいなんだ」


ほむらが船に乗り込もうとした時、同い年か少し上くらいの少年が話かけてきた。


ほむら「そうね。私たちの貸切みたいね」

「あ、あの人たちのお連れさんでしたか。これは失礼しました」

ほむら「貴方はこの船の従業員の人?」

「一応、って感じですね。親父がこの船を仕切っているんで」

ほむら「なるほどね。…将来はこの船を継ぐの?」

「うーん…どうなんだろう…。親父は継いで欲しそうな感じだけど」

ほむら「まだ迷っているのね」

「そう…ですね。あんまり親父の姿を見ていると格好良く見えないし」

ほむら「そうかしら?意外と見えていないところで頑張っているかもしれないわよ」

「うーん…そうかなぁ…」

ほむら「まあ貴方が自分で決めた道なんだったらお父様も納得するんじゃないかしら?
    どんな道でもね」

「自分で…」

船長「おい!何やってる!サボるんじゃない!」

「あーはいはい!今行くよー!…では失礼します!快適な船の旅を!」

ほむら「…」

アーチェ「ほむらちゃーん!」

ほむら「あ、はいはい。どうしたの?」

アーチェ「もうすぐ出航だってさー!」

ほむら「ええ分かったわ」

349: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:26:02.68 ID:mP1e1oar0
超古代都市トール



クラース「ではオズ、頼むぞ」

オズ『了解した』

ほむら「鬼ごっこもこれで終わりにしたいわね」

クレス「そうだね」

チェスター「逃がさねぇぜダオス」

アーチェ「未来かーどんなとこなんだろ!ちょっと楽しみ!」

チェスター「なんだよ遠足気分か?」

アーチェ「ちょっと!どっかの騎士みたいなこと言わないでよ!」

チェスター「誰だよ!?」

アーチェ「へっへーん♪内緒だよー」

ミント「まぁまぁ…二人とも」

ハリソン「…」

クラース「賑やかで済まないな…」

ハリソン「い、いえ!大丈夫です!」

クラース(大変だな…ハリソン殿も…)

オズ『では、転送を開始する』


ほむら(二回目の時空転移…この世界に来た時を含めると三回目かしら)

ほむら(三度目の正直にしたいわね…)


ほむらはまだ、気が付いていない。

自分が傷を負っていることに。

その傷の深さに。


そして、舞台は未来へと切り替わる。







350: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:27:00.15 ID:mP1e1oar0
ミゲールの町



クレス「これがトーティスが復興した姿か…」

チェスター「俺たちも頑張らねえといけないな、これは」

クレス「ああ…そうだねチェスター」



クレスとチェスターの間で起きた軋轢はもう収まっていた。


ほむら(もうただの仲のいい親友にしか見えないわね)


悩んだ時間を返してほしい、と少し心の中で思ったほむらだった。



ハリソン「現在、ダオスの魔の手がこの大陸まで伸びようとしています」

クラース「我々の時代ではミッドガルズまでしか攻撃していなかったのだがな」

ハリソン「本腰を入れてきたということでしょう。…そのせいで現在、海の移動は危険だと判断し、
     港は閉鎖状態なのです」

ミント「船での移動はできないということですね…」

ハリソン「はい…ですが、他の移動手段があります。
     私は先にユークリッドへ行って話をつけておきますので。…失礼します」

351: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:27:40.50 ID:mP1e1oar0
クラース「今日はここで一泊してください、ということかな?」

クレス「僕たちだけ…いいんでしょうか?」

クラース「むしろお前とチェスターに気を使ってくれたんだぞ?
     居心地が悪いというなら野宿でも構わんが」

チェスター「お言葉に甘えようぜ、クレス。少し町を見てみたいしな」

クレス「うん…そうだね。行こうか」

ミント「私もご一緒してよろしいでしょうか?」

チェスター「構わねえぜ。でもこうなったら俺が邪魔ものになっちまうな」

クレス「な、何を言うのさ!?チェスター!」

チェスター「さーてね」


チェスターは二人を置いていくかのようにさっさと歩きだす。


クレス「待てよチェスター!…ミント、行こうか」

ミント「はい、クレスさん」


352: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:28:17.03 ID:mP1e1oar0
アーチェ「あたし達はどうしよっか」

クラース「とりあえず一度宿に行こう。恐らくハリソン殿が気を利かして手配
     してくれているはずだ」

アーチェ「はーい。ほむらちゃん行こー?」

ほむら「…」

アーチェ「ほむらちゃん?」

ほむら「え、…ああごめんなさい。宿ね。行くわ」

アーチェ「何かあったの?考え事?」

ほむら「いえ…大丈夫よ。行きましょう」

クラース「…」

353: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:28:50.89 ID:mP1e1oar0
宿



宿に着くと、やはりハリソンが部屋を手配していてくれたらしくすんなりと部屋に通された。


アーチェ「あー…あたしも付いていけばよかったかなー。暇だー」

ほむら「…」

クラース「ほむら」

ほむら「…何かしら?」

クラース「今度は何を考えているんだ?」

アーチェ「やっぱりなんか考え込んでるんだね」

ほむら「そう、ね」


ほむらは重い口調で話し出す。

354: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:29:38.29 ID:mP1e1oar0
ほむら「この時代はちゃんと過去と繋がっているのかしら」

アーチェ「過去と…?」

クラース「我々の時代、クレスの時代、…そしてこの時代が一直線に並んでいるのか、ということだな」

ほむら「ええ」

クラース「どうだろうな。我々の時代とクレス達の時代が繋がっているかどうかも
     わからないからな」

ほむら「そうよね…。限りなく似ているけど別の時間軸、という可能性も捨てきれないわ」

クラース「だが、それを気にしても仕方が無いだろう?」

アーチェ「そうだよねー。今この話題を出したからまた時間が枝分かれしちゃった、って可能性もあるし」

クレース「正論だな。アーチェにしては鋭い」

アーチェ「うっせっ」

ほむら「…私は何を気にしているのかしらね」

クラース「この世界にお前が存在した、という証拠を欲しがっているのかもな」

ほむら「えっ…」

355: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:30:18.60 ID:mP1e1oar0
クラース「知らず知らずの内にな。人間は欲深い生き物だ。
     知らない間にそう思っていても仕方ないさ」

ほむら「証拠…そうなのかもしれないわね」

アーチェ「大丈夫だよほむらちゃん」

アーチェ「あたし達は友達だし、ほむらちゃんが帰っちゃっても絶対忘れないから」

クラース「そうだな。我々が証拠…というより証人か」

ほむら「…ありがとう、二人とも」

アーチェ「そうだ!今ここでほむらちゃんがお菓子を出してくれたら
     新しい証拠になるかもしれない!」

ほむら「消化されちゃうじゃない…」

クラース「お前は少し欲が深すぎる。自重しろ」

アーチェ「えー…食ーべーたーいー!」

クラース「もうすぐ夕食だ。我慢しろ」



ほむら(最近悩んでばかりね…私って…)


356: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:31:13.83 ID:mP1e1oar0
ミゲールの町 夜


ほむらが眠りに着こうとした時、隣の部屋から誰か出てきた音がした。


ほむら(恐らくチェスターさんね。今日も特訓かしら)


ほむらは一瞬どうしようか、と迷った。邪魔になっては申し訳ないんじゃないか。
そんな考えが浮かんだからだ。

答えを決めかねているとアーチェのベッドから音がした。彼女もどうやら起きていたようだ。
アーチェはコッソリと部屋の外に出ていった。


ほむら(…付いていかないといけない気がする)


ほむらはアーチェが出て行って少し間を置き、
ミントを起こさないように同じように音を立てずに外へ出た。

357: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:32:02.99 ID:mP1e1oar0
アーチェ「…よぅ」

チェスター「なんだよ」

アーチェ「アンタのせいで目が覚めた」

チェスター「ああそうかい」

アーチェ「ちょっと!悪かったな、ぐらい言いなさいよ」

チェスター「ワルカッタナ」

アーチェ「あー!ムカツク!」

チェスター「特訓の邪魔だ。さっさと帰って寝ろ」

アーチェ「意地でも邪魔したくなってきたもんねー」

チェスター「…」

アーチェ「おいコラ無視すんな!」



ほむら(何やってるの…?)


二人のやり取りをこっそりと物陰で見ていたほむらは完全に出ていくタイミングを見失った。


ほむら(むしろこれは出ていかない方が正解なのかしら…)


決めた。あまりにもひどい口喧嘩になったら止めよう。


ほむら(…別にあの二人の二人っきりの時の会話の内容が気になるわけじゃないわ。
    うん、そうよ。そうなのよ)

358: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:32:39.05 ID:mP1e1oar0
チェスター「…」

アーチェ「…」

チェスター「…」

アーチェ「…」

ほむら(…何か喋って欲しいわ)

アーチェ「…アンタさ」

ほむら(いいわよアーチェさん)

チェスター「んだよ」

アーチェ「…やっぱいい」

ほむら(馬鹿)

チェスター「…気になるだろ、言えよ」

アーチェ「いいって言ってんでしょ」

チェスター「中途半端に言うお前が悪い」

アーチェ「何よ」

チェスター「何だよ」

ほむら(…これって終わるのかしら)

359: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:33:48.44 ID:mP1e1oar0
アーチェ「…なんでそんなに頑張ってんのよ」

チェスター「…お前らに追いつくためだよ」

アーチェ「動かない木を撃ってあたし達に追いつけるって思ってるわけ?」

チェスター「何もしないよりマシだろ」

アーチェ「…ごめん」

チェスター「…なんだよ急に」

アーチェ「…言い過ぎた」

チェスター「…気にしてねぇよ。事実だしな」


チェスター「…ほむらがな」

ほむら(えっ…?)

360: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:34:44.14 ID:mP1e1oar0
アーチェ「ほむらちゃんがどうしたのよ」

チェスター「地下墓地で初めて会って、あんだけ血まみれになって…それでもダオスに一人で立ち向かってよ。
      …何もできなかったのがスゲェ悔しかった」

アーチェ「…何もしてなくなかったじゃん」

チェスター「してねぇよ」

アーチェ「してたよ。アンタの攻撃がなかったらほむらちゃん今頃…」

チェスター「…ほむらがすぐに『逃げて!』って言ったんだよ。自分の方が死にそうだったのに」

チェスター「だから俺その時思ったんだよ。ダオスに一撃ブチ込むっていうのと、
      あの子をもうあんな目に遭わせないってな」

アーチェ「ほむらちゃん…すぐに無茶するから。
     …無茶するクセにちゃんとやりこなしちゃうから何も言えないんだよね」




ほむら(…帰りましょう)


音を殺し、その場を立ち去る。
少し申し訳ない気持ちになった。


ほむら(アーチェさん…いつも心配かけてごめんなさい)

361: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:35:30.19 ID:mP1e1oar0
翌朝



チェスター「そのウインナーもーらい!」

アーチェ「ちょっと!人の取らないでよ!」

チェスター「昨日の晩飯で俺の肉取ったやつが言うな!」

アーチェ「晩御飯はいいの!朝御飯は駄目!」

チェスター「そんな自分ルール知らねぇよ!」


クレス「朝から元気だね…二人とも」

ミント「そうですね。仲が良さそうで何よりです」

チェスター アーチェ「良くない!」

ミント「あらあら…」

クレス「ミント、パン一つ取ってくれないかい?」

ミント「はいどうぞ。クレスさん」

クレス「ありがとう」

ミント「クレスさん、ソースが飛んでますよ」

クレス「え、どこに?」

ミント「ちょっと…動かないでくださいね」






クラース「ほむら…」

ほむら「何も言わなくてもいいわ…コーヒー、お代わりいるかしら?」

クラース「有り難く頂こう…」

362: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:36:09.75 ID:mP1e1oar0
ミゲール~ユークリッド間  山道


アーチェ「そういえばさ」

クレス「どうした?アーチェ」

アーチェ「クラースってなんで荷物持ってるの?ほむらちゃんの盾に仕舞って
     もらえばいいじゃん」

クラース「すぐ使うものもあるだろう。全部ほむらに任せたらほむらも大変だ」

ほむら「あら、私は別に構わないのよ?すぐ取り出せるようになってるし」

クラース「いや、大丈夫だ。問題無い」

チェスター「旦那」


チェスターが小声でクラースに声をかける。

363: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:36:47.87 ID:mP1e1oar0
チェスター「もしかして…」ヒソヒソ

クラース「言うな」ヒソヒソ

チェスター「旦那の気持ち、分かるぜ」ヒソヒソ

クラース「…分かってくれるか」ヒソヒソ

チェスター「…アレ、だろ?」ヒソヒソ

クラース「…」

チェスター「男同士だろ?恥ずかしがんなって」ヒソヒソ

クラース「…そうだ」ヒソヒソ

チェスター「頼みがある」ヒソヒソ

クラース「絶対に見つからないと約束できるか?」ヒソヒソ

チェスター「誓うぜ。この弓に誓って」ヒソヒソ

クラース「…分かった」

ほむら「アレって何なのかしらね」

364: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:37:31.98 ID:mP1e1oar0
チェスター「!?」
クラース「!?」


最後尾で小声で話していたチェスターとクラースに大きな、とても大きな
声でほむらは話しかける。


チェスター「な、なんのことかなー?なあ旦那?」

クラース「どうしたほむら?幻聴でも聞こえたか?」

ほむら「二人には悪いけど…私ね」



ほむら「聴力も強化できるのよ?」


一点の曇りもない美しい笑顔だった。

365: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:38:07.36 ID:mP1e1oar0
ほむら「仲間同士で隠し事はちょっと…ね?」

チェスター「仲間同士でも言えないことはある」

クラース「そうだ。知られたくないこともあるんだぞ。ほむら」

ほむら「私は別にいいんだけど…これから旅の間、
    回復無しと誤射の魔術を避けるのはとても大変だと思うわ。頑張ってね」

チェスター「う、嘘だろおい!?」

アーチェ「嫌ー!触らないで子供が出来ちゃうー!」

ミント「…」

クラース「お、おい!クレス!お前も男なら…」

クレス「ほむらちゃん、この道はね。僕が初めてユークリッドに行ったときに通った道なんだ」

ほむら「あら、そうなの?大変だったんじゃない?」

クレス「そうだね。あの時は一人だったし…でも今は一人じゃない。
    四人で頑張ろう」

ほむら「そうね、四人で頑張りましょう」

366: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:38:41.47 ID:mP1e1oar0
チェスター「だぁー!分かったよ!旦那の荷物の中には…!」

クラース「おい!チェスター!男の誓いはどうした!」

チェスター「すまねぇ…旦那!俺はこいつらと行くぜ!」

クラース「おい!チェスター!おーい!」

ほむら「クラースさん」

クラース「な、なんだ」



ほむら「一人ぼっちは寂しいでしょう?」

クラース「…はい」


今夜の野宿の際の焚火の燃料が決まった瞬間であった。

367: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:39:51.63 ID:mP1e1oar0





――魔物が迫ってくる。
ほむらは慌てず盾から銃を取り出し、狙いを付けトリガーを引いた。

……弾が出ない。


ほむら(そんな…!なんで!?弾はまだ…)


「うわあああああ!」


少し離れた所から悲鳴が聞こえた。慌ててほむらはそちらに視線を向ける。

チェスターが魔物に襲われている、時間を停めないと間に合わない。


ほむら(間に合って…!)


時間を停める。


だが魔物は止まらない。


ほむら(なぜ!?止まって!…止まって!!)


チェスターが魔物の剣に串刺しにされる。
刺された箇所から、口から血が溢れだす。

368: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:40:28.21 ID:mP1e1oar0
ほむら(嫌…!なんでっ…!)


そんなほむらにも魔物が襲い掛かる。


ほむら(なんでなのっ…!時間は停まってるのに!)


「それはもう余には効かぬぞ、娘」

ほむら「…嫌っ……来ないで……」


目の前にいた魔物が言葉を発する。ダオスのように。


「死ね」


ほむら「嫌あああああああああああああああ!」




ほむら「…はっ!」


飛び上がるように起き上がる。いつものテントの中だ。
周りを見回すとアーチェとミントが気持ちよさそうに眠っていた。

369: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:41:24.87 ID:mP1e1oar0
ほむら「はぁ…はぁ……、夢…?」


身体中から汗が噴き出す。額に浮かんだ汗だけ拭い、顔を手で覆った。


ほむら「なんて…夢を…」


少し腹部が傷んだ気がする…ダオスに刺された箇所だ。

今更ながら気が付いてしまった。

ワルプルギスの夜には、攻撃こそ通用しなかったが時間停止は効いていた。

だが、ダオスは違った。

時間が停まった中で動いていた。

そして――


ほむら「…うっ!」


吐き気が押し寄せてくる。ほむらは慌ててテントを飛び出した。


ほむら「…はぁっ…はぁっ……」

ほむら「…私…は…」


恐れていた。ずっと頼っていた力が破られたという事実に。

その敵ともう一度戦わなくてはならないという現実に。

そして…ダオス以外にも時間停止に対抗する力を持っている敵がいるかもしれないことに。


ほむら「この力が無ければ…私は…」


恐れていた。先程見た夢のように仲間に危害が及ぶのを。

370: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:42:08.64 ID:mP1e1oar0
ユークリッドの都



クラース「しかし…クレス達の時代でも訪れたがあの村がこれほど発展するとは」

アーチェ「だよねー。下手したら一番大きな国になってるんじゃない?」

クレス「僕たちの時代よりも、もっと活気がある都に見えますね」

チェスター「で、俺たちはこれからどこに行けばいいんだ?」

ハリソン「皆さんお待たせいたしました」


チェスターの言葉を待っていたかのように、タイミングよくハリソンが六人の前に姿を現した。


ハリソン「こちらに研究所があります。お話はそこで」


371: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:42:41.19 ID:mP1e1oar0
国営科学アカデミー


ミント「海が駄目なら空、ということですか」

ハリソン「そうです。そしてその空を飛ぶための翼、これがレアバードです」

クラース「しかし…凄い技術だな」

ハリソン「レアバードには魔科学の技術を応用しております」

クラース「魔科学だと!?」

ほむら「…」


少し、ほむらの顔が強張った。


ハリソン「ご安心ください。かつての兵器のような、全てのマナを吸い尽くすような
     ものではございません。」

クラース「だが、微量ながらにでもマナは消費されるのだろう?」

ハリソン「極々微量に…ですが。魔術の覚えがあるエルフの方々にも協力をお願いしましたが、
     人体に影響はございませんでした」

372: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:43:14.93 ID:mP1e1oar0
ほむら「なら大丈夫ね」

クレス「ほむら…」

ミント「ほむらさん…よろしいのですか?」

ほむら「…ここで止まっていても仕方がないわ。
    どの道レアバード以外にアルヴァニスタへ向かう手段は無いんでしょう?」

ハリソン「はい…残念ながら…」

クラース「ほむら、本当にいいんだな」

ほむら「ええ、心配かけてすまないわね」

チェスター「じゃあ早速…」

ハリソン「申し訳ございません…、実はまだ未完成で」

チェスター「なんだよそれ…」

ハリソン「そこで皆さんにお願いがあるのですが…」

373: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:44:17.09 ID:mP1e1oar0
クラース「――レアバードの為にヴォルトと契約してこい、か」


クラースはハリソンから手渡されたサードニクスの指輪をつまむように
もち、そう言い嘆息を吐く。


アーチェ「でもまあいいじゃん?精霊と契約できたら戦力アップだし」

クラース「そうだな。前向きに捉えるか」


気持ちを切り替えてヴォルトと契約を済ませよう、と思ったその時だった。



見慣れない恰好をした二人組と、同じような恰好をした少女が睨み合っていた。
しかし、ほむらだけはその恰好に該当する言葉を知っている。


ほむら(忍…者…?)


教科書や時代劇などで目にした忍者、そのままの姿だった。


少女「どうしても里に戻ってはいだたけませんか」

忍者「愚問!我らの力はダオス様の為!」

少女「…分かりました。ご覚悟を」


一瞬だった。少女が二人の忍の間を通り過ぎたと思ったその刹那。
二人の忍が声も無く膝を崩して倒れこみ、そのまま動かなかった。


少女「…申し訳ございません」

374: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:45:18.48 ID:mP1e1oar0
クレス「君」

少女「!?」


いきなり声をかけられて驚く様子を見せる少女。


少女「あなた達は…」

クレス「いや、僕たちは別に怪しい者じゃなくてね…」

チェスター「どう考えてもその言葉は怪しいぞ、クレス」

少女「クレス…?もしや貴方達は時の英雄の…」

クラース「恥ずかしいがそう呼ばれているな」


そのクラースの言葉に反応し、少女は跪き首を垂れる。


少女「失礼しました。わたしは伊賀栗の里の忍、藤林すずと申します」

アーチェ「しのび?」

ほむら「…表舞台には出ずにその裏で暗躍する諜報や破壊活動を行う集団、
    ってところかしら」

すず「…暁美ほむら様ですね。よくご存じで」

ほむら「…少し、知識があってね」

アーチェ「なんかほむらちゃん最近元気無いね…大丈夫?」

ほむら「…大丈夫。気にしないで」

すず「申し訳ありませんがわたしは任務がある故、ここで失礼させて頂きます。
   …いずれまたお会いする機会もあるでしょう。では」


すずはそう言い、懐から小さな爆弾のようなものを取り出し地面に叩き付ける。
その瞬間辺り一面に煙が広がり、煙が引いた時にはもうすずの姿はなかった。

375: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:46:10.27 ID:mP1e1oar0
チェスター「あっという間だったな」

ミント「あのような小さな子が…」

クラース「まあ、あの子はまた会う機会があると言っていた。
     その時に色々話を聞けばいいさ」

クレス「そうですね。じゃあヴォルトの元へ向かいましょうか」

クラース「そうだな、久々の試練だ。気を抜くなよ」





ほむら(試練…、そうだ。…戦うのよね)







ヴォルト「☆※△×○◇!」


自分以外の誰もが理解できない言語で叫び、周囲に雷を落とす。

376: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:47:21.61 ID:mP1e1oar0
クレス「うわっ…っと!」

クラース「意思の疎通すらできんとはな…」

ほむら「こういう精霊は初めてなの?」

クラース「そうだな。少なくとも会話は出来ていた…今までの精霊はな」

ほむら「…じゃあ力づくで大人しくさせるしかないわね」

この世界で最も使用しているハンドガンを取り出し、トリガーを引こうとしたその時だ。



ほむら(ちゃんと作動するの…?)


脳裏に夢で見た光景が広がる。


ほむら(…今は戦闘に集中しなさい!)


自分にそう言い聞かせ、トリガーを引く。

発砲音が辺りに響き、反動が手に伝わる。

しかし、ヴォルト目掛けて撃った弾は簡単に弾かれた。

377: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:48:11.96 ID:mP1e1oar0
ほむら(…)


ハンドガンは通用しない。ならばと爆弾を取り出そうとする。
しかし今戦っている場所は切り立った崖だ。爆発物で足場を崩すのは避けたい。


ほむら「…私は詠唱の時間稼ぎと援護に回るわ。クレスさん、チェスターさん前線お願いね」

クレス「わかった!」

チェスター「了解だぜ!…凍牙!」


チェスターの放った矢は、ヴォルトの回転に負けずに突き刺さる。


クレス「真空破斬!」


周囲の電撃を警戒しクレスは電撃の外から剣を真一文字に振り、真空波を
ヴォルトに直撃させる。


クラース「…頼りがいがある二人になってきたな!…マクスウェル!」

アーチェ「いやー?片方はさすがに?…ファイアストーム!」


炎の嵐とマクスウェルの球体を正面から喰らい恐らく苦しんでいるであろう、そんな声を上げる。

378: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:49:12.36 ID:mP1e1oar0
ヴォルト「!!!!!!!!!!!!!」

チェスター「このまま一気に…!」

アーチェ「ちょい待ち馬鹿ちん!すっごい魔力を感じる!」

チェスター「何だと!?」



ヴォルトから魔力が放出される。放出された魔力は上空でマナと
結合し、チェスター以外には見覚えのある雷の球体が生まれた。


アーチェ「インディグネイション!?ここじゃあれはやばいって!」

クラース「足場ごと吹き飛ばす気か!?」

ミント「一旦下がりましょう!」

ほむら「…仕方ないわね。…クレスさん!?」


一旦退く姿勢を見せた四人だったが、クレスは迷いなくヴォルトに突撃する。

379: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:50:08.50 ID:mP1e1oar0
クレス「詠唱さえ止めれば!…鳳凰天駆!」


突撃したスピードを殺さずに飛び上がり、更に落下速度を味方につけたクレスは
炎を纏った突きを繰り出す。


チェスター「クレス!?ちっ!…紅蓮!」


炎の連続攻撃。先に着弾したチェスターの矢が爆発を上げ、更に追い打ちをかけるように
クレスの突きがヴォルトを捉えた。


ヴォルト「!?!?!?!?!?」


ヴォルトが練り上げた魔力が空中で四散する。
もがくように無数の電撃をクレスとチェスターに落とす。


クレス「ぐぅ!」


なんとかクレスは身を引き、直撃を避ける。だが


チェスター(やべぇ!避けらんねぇ!)


電撃がチェスターを取り囲むように落ちてくる。


ほむら「危ない!」

380: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:50:58.21 ID:mP1e1oar0
チェスターを救うため、時間を停めようとする。


ほむら(…停めるのよ。なんで私は躊躇っているの)

ほむら(停めなさい…停めなさい…停めなさい!)

ほむら(お願い…止まって……)


時間を停める。チェスターに襲い掛かった雷も、ヴォルトも、クレス達も止まっている。


ほむら「ハァッ…!ハァッ…!ハァッ…!」

ほむら「…何てザマなの…私は……」


時間を停めるのが怖い。いや、時間停止を破られるのが怖い。


ほむら(時間停止が通用しなかったら…私は…)

ほむら(…駄目。そんなこと考えている場合じゃない。今はチェスターさんを救わないと)


急いでチェスターの元へ駆け寄り、触れる。

381: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:52:25.96 ID:mP1e1oar0
チェスター「! っと…ほむら!助かったぜ!」

ほむら「…逃げ道くらいは確保してから攻撃して頂戴。ヒヤヒヤしたわ」


ほむらは余裕があるように振舞う。心配されたくない…、心配させたくない。


時間を停止してチェスターを安全に救いだし、時を動かす。
ヴォルトが放った電撃は一瞬前までチェスターがいたはずの地面に落ちた。


チェスター「クレス!締めは任せたぜ!」

クレス「ああ!閃空裂破!」


回転斬りでヴォルトを切り上げ、更に落ちてきた所に突き刺す。


クレス「魔神!双破斬!」


それだけでは終わらず、剣を振り衝撃波を生み出す。
その衝撃波に追いつくように飛び、
斬り上げから斬り下げるコンビネーションでヴォルトを地面に叩き付けた。


ヴォルト「!!!!!!!!!!!!!!!」


ヴォルトはそれ以上電撃を放たず、静かに地面に転がっていた。

382: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:53:06.49 ID:mP1e1oar0
クレス「ふぅ」

クラース「全く、無茶するようになったな」

アーチェ「ホントだよー!みんな下がる気満々だったのに!」

クレス「ごめんごめん、ヴォルトが無防備だったからいけると思ったんだ」

ほむら「…お疲れ様。二人とも」

チェスター「サンキューほむら、助かったぜ」

ほむら「いえ、私も助けることができて安心しているわ」



ほむら(…本当に、よかった)



383: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:54:14.94 ID:mP1e1oar0
クラース「よし、契約完了だ」

ミント「言葉が通じなくてもどうにかなるものですね」

チェスター「しかし何て喋ってたんだろうな、こいつ」

アーチェ「馬鹿そうな青髪のお前!黒こげにしてやるー!とかじゃない?」

チェスター「何言ってんだ?青とピンクの見分けくらい付くだろ流石に」

アーチェ「なにー!けーっきょく最後はほむらちゃんに助けてもらったくせに!」

チェスター「はっ!ほむらならあの状況でも助けてくれるって信じてたしな」

アーチェ「ほむらちゃん!この馬鹿一回ほっといていいよ!痛い目見ないと
     わからないみたいだし!」

ほむら「…」

アーチェ「ほむらちゃん?」

ほむら「…あ、ごめんなさい…何かしら?」

384: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/13(水) 21:54:57.44 ID:mP1e1oar0
アーチェ「ほむらちゃん本当に大丈夫?また無理してない?」

ほむら「ええ、大丈夫よ。貴方達がバチバチやり合ってるときはヴォルトより
    面倒だから触れないようにしているの」

クラース「間違いないな。毎回止めに入るミントの身にもなってみろ」

ミント「あの…えっと…その…、仲良くしましょう?」

アーチェ「こいつがそうしたいって言うんならね!」

チェスター「コイツがそうしたいって言うんならな!」

アーチェ「何真似してんのよ!」

チェスター「お前が俺の言おうとしたこと先に言っただけだろ!この脳味噌スポンジ女!」

アーチェ「ス、スポンジぃぃぃぃ!?もー今日という今日は許さないんだからね!」


クラース「さあ、二人は置いて帰ろうか」

クレス「そうですね。早くレアバードに乗ってみたいですし」

ミント「空を飛べるなんて夢のようです」

ほむら(夢、ね…。私の夢は…)

ほむら(私は…)



もはや恒例行事となりつつある夫婦漫才を見物するのを切り上げ、クレス達はユークリッドの都へ戻る。

この時、ほむらはある決断をしていた。

389: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:44:50.87 ID:mirkYMyU0
ユークリッドの都 夜


ほむらは一人、早々に食事を切り上げて武器の手入れをしていた。


ほむら(使えそうな武器は…かなり減ったわね)


ため込んだ弾薬も、時空を越える旅の中で随分と消費してしまった。
拳銃とハンドガンの弾は多少残っているが、この先使えるかどうかは怪しかった。


ほむら(火力が足りない…それに…)

ほむら(時間停止…これも…)

ほむら(近接攻撃も相手によるわね…。…じゃあ私には何ができるの?)

ほむら(…頼り過ぎたツケが回ってきただけよ)

ほむら(…動くなら早い方がいいわ)


ほむらは手入れの終わった武器を盾に仕舞い、部屋を出ていった。

390: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:45:50.84 ID:mirkYMyU0
チェスター「なんか雪が年中降ってる大陸に山一つ軽くを吹き飛ばす化物がいるらしいぜ」

アーチェ「なにそれ?まーたそんな変な情報持ってきたの?」

チェスター「あー?ダオスの手下かもしれねぇだろーが」

アーチェ「胡散臭すぎるよー。はぁ…」

チェスター「分かりやすい溜息つきやがって」

クラース「変な情報といえば、なにやら最近誕生した闘技場のチャンピオンがやたら強いらしい。
     …しかもかなりの美女だとさ」

クレス「女性のチャンピオンですか…凄いですね」

クラース「まあ自分の目で確かめてないからな。気になったら行ってみたらどうだ?」

クレス「いやぁ…僕なんて。それに周りからジロジロ見られながら戦うのって
    なんかやりにくそうですし」

ほむら「クレスさん」


会話の流れをほむらが断ち切った。

391: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:46:35.94 ID:mirkYMyU0
クレス「どうしたんだい?」

ほむら「私と手合せ願えないかしら?」

クレス「…ほむらからとは珍しいね」

ほむら「そう…ね。受けてもらえる?」

クレス「分かった。いいよ」

ほむら「ありがとう。じゃあ町の外で待っているわ。あと…よかったら
    他のみんなも来て頂戴」

チェスター「おいおい、クレスがいじめられる姿をさらし上げるってのか?」


ニヤニヤしながらチェスターはおちょくる様子で言った。


ほむら「…先に行ってるわね」


ほむらはチェスターの言葉を無視して立ち去る。
様子がおかしい、五人はすぐにそう思った。

392: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:47:22.01 ID:mirkYMyU0
ミント「何か…あったのでしょうか?」

アーチェ「うーん…なんか最近色々悩んでる感じはあったけど」

クラース「…」

チェスター「どうするんだ?クレス」

クレス「どうするも何も、行くよ。ほむらが待ってる」

アーチェ「そうだね、っと」


アーチェが立ち上がったのを見て、つられるように4人も立ち上がる。


クラース「クレス」

クレス「はい?どうしました?」

クラース「本気でやってやれ」

クレス「僕はいつも本気です。でも…」


いつもは手も足も出ない、そう言葉を続けようとしたところをクラースが割り込む。


クラース「いいから。…本気でやってやるんだ」

クレス「…?はぁ…?」

393: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:48:15.18 ID:mirkYMyU0
町の外


クレス「ほむら、お待たせ」

ほむら「…急にこんなお願いしてごめんなさい」


背を向けていたほむらは振り返る。クレスを先頭にみんな来てくれたようだ。


クレス「構わないよ。いつもは僕からお願いしているからね」

ほむら「…クレスさん」

クレス「なんだい?」

ほむら「本気で、お願いね」


クラースと同じお願いをされたクレスは少し戸惑う。


クレス「…僕はいつも本気だったよ」

ほむら「…そう」


ほむらが一歩前に出る。気配が変わった。


ほむら「じゃあ貴方はその程度だったってことね」


冷たい声でほむらが告げる。
自分の声でほむらは思い出す、かつて自分一人で全て終わらせようとしていた姿を。

394: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:49:04.68 ID:mirkYMyU0
クレス「!?」


ほむらの豹変にクレスは慌てて剣を握る。いつもと空気が違う。


クレス「ほむら!君は…」

ほむら「行くわよ」


クレスの言葉を無視してほむらはクレスに向かって飛び出す。
右手に拳銃を握る。ほむらの手持ちの武器で一番殺傷能力が低い拳銃だった。

――それを躊躇なくクレスに向かい、発砲した。


クレス「!? ほむら!?」


ほむらの武器の特性を知っているクレスはなんとか剣で弾を弾き飛ばす。

だがクレスは動揺していた。ほむらは今まで訓練で一度も発砲したことが無かったからだ。


ほむら「魔力でブレーキをかけてるわ。当たっても死なないから安心して」

395: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:49:46.83 ID:mirkYMyU0
そういいほむらは更に二発撃ちこむ。クレスは慌てて剣で受け止めようとした。
――そこをほむらが狙う。

姿勢を低くして更に距離を縮め、クレスが得意とする間合いまで詰め寄る。


ほむら「ここは貴方の間合いよ?反撃しなさい」

クレス「…っ!ほむら!」


二発の弾丸を剣で弾き、返す剣を水平に薙ぎ払う。


ほむら「…」


ほむらは更に姿勢を低くし、薙ぎ払った剣の下を通過する。
クレスは完全に無防備だ。


ほむら「ガラ空きよ」


魔力を込めた拳をクレスの鳩尾にめり込ませる。


クレス「…!ガッ、ハ…!」


膝が一瞬落ち、クレスの顔が落ちてくる。そこを狙いほむらのハイキックが
クレスの顔面を蹴り飛ばした。


クレス「がっ…!」


クレスは衝撃に耐えられず、背中から地面に倒れこんだ。

396: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:50:36.50 ID:mirkYMyU0
アーチェ「ちょ、ちょっと!やり過ぎじゃない!?」

チェスター「訓練って雰囲気じゃねーだろこれ!」

ミント「と、止めましょう!」

クラース「止めるな!」

チェスター「だ、旦那!何言ってんだよ!このままじゃ…」

クラース「いいから見守ってやるんだ」

それ以上の発言を許さないような圧力を込め、クラースは三人を制止した。

397: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:51:21.05 ID:mirkYMyU0
クレス「…まだ!」

ほむら「いい加減にして」

クレス「!?」

ほむら「私は本気で来てってお願いしたはずよ」

クレス「僕は…!」

ほむら「っ…!」


クレスが立ち上がろうとするのを妨害するかのように、ほむらは距離を詰める。
それを見たクレスは咄嗟に剣を身体の前に構え、次の攻撃に備えようとした。

剣を振れば当たる距離でほむらは右手を伸ばし、拳銃をクレスに向ける。
射線を切るようにクレスは剣を向ける。だが、拳銃から弾は込んでこない。
フェイントだと気が付いたクレスだったが時すでに遅かった。

ほむらの左手が伸びてきていた。クレスの右腕を掴み、自由を奪う。
振り払おうとしたクレスの腰が浮いたのを視界の端に捉えたほむらは
自身の足をクレスの足にかけ、地面に叩き付けるように投げ飛ばした。


クレス「あ…!がっ…!」


苦しそうに顔を歪めるクレスの顔を見たほむらの顔もまた、歪んでいた。

398: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:52:20.98 ID:mirkYMyU0
ほむら「いい加減にして!」

クレス「…!?」

ほむら「本気で来てって言ってるでしょう!」


ほむらが、何かに耐えるかのように顔を歪めて叫んだ。


ほむら「何で貴方はいつもそうなの!何で追い込まれないと力が出せないの!
    何で…貴方はそんなに甘いの…」

ほむら「過去のダオスと戦った時貴方は三人がかりで防げなかった攻撃を一人で防いだ!
    貴方たちの時代で一人でダオスを押し返すことができた!それ程の力があるのに!なんで!…なんで……」


ほむらは俯き、言葉を吐きだしていく。


クレス「ほ…むら…?」

ほむら「…分かった、もういいわ」


そう吐き捨て素早く盾に拳銃を仕舞い、代わりにハンドガンを取り出す。
そのままなんの躊躇もなくクレスの顔のすぐ側に狙いを付け、引き金を引いた。


クレス「…!」


撃った弾はクレスの頬を掠め、血が流れ出す。


ほむら「追い込まれないと本気を出せないのなら…もう容赦しないわ。
    もう魔力で制御もしない。…殺すつもりでやるから」

399: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:52:54.02 ID:mirkYMyU0
チェスター「流石にもう止めなきゃ駄目じゃねぇのか?旦那?」

クラース「…」


しかしクラースは腕を組み、一向に動こうとしない。


チェスター「…くそっ!」

アーチェ「ほむらちゃん…なんで…そんなに…」

400: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:53:33.75 ID:mirkYMyU0
クレス「ほむら…ごめん」

クレス(僕は君と、アランさんを裏切るところだった…。もう迷わない…だから)

クレス(そんな辛そうな顔やめてくれ)



クレス「全て出し切るよ。君をダオスと思って」

ほむら「!?」


気配が、変わった。


ほむら「…っ!」


ほむらが再びクレスに向かって地を蹴り、ハンドガンを向ける。


クレス「うおおおおおおおおおお!」

ほむら「!?」


クレスは今度は受けようとしなかった。ほむらに向かって弾丸のように飛び出す。
ほむらは慌ててその場で踏み留まり、引き金を引いた。

クレス「…!」


クレスが顔を少しだけ傾ける。頬に新たな傷が出来たが前に出るのを止めない。

401: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:54:51.38 ID:mirkYMyU0
クレス「はぁっ!」


剣を振り下ろす。ほむらはそれを避けるため後ろに跳んだ。先程までほむらがいた
地面に剣が刺さり、地を抉った。


クレス「はあああ!」


返す剣で切り上げる。作り出した衝撃波がほむらへ向け地を這い追いかける。
着地を狙った衝撃波をほむらは慌てて盾で防ぐ。動きが止まったほむらを狙いクレスが追撃する。


ほむら(この気迫…!アレンさん、いやそれ以上…!)

クレス「これでっ!」


肩口からの切り下す斬撃。かわせないと判断したほむらは盾を構えた。
金属と金属がぶつかり合う音が響く。衝撃が地面にまで伝わりほむらの足元が割れる。

402: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:55:34.43 ID:mirkYMyU0
ほむら「くっ!」

受けた盾でクレスの剣を滑らせるように受け流す。すかさず隙だらけのクレスに
向かい銃口を向けた。


クレス「まだだ!」


肩からほむらの身体にぶつかる。だが、それだけではまだ終わらない。


ほむら「くっ…!」

クレス「獅子戦吼!」


獅子の咆哮が如き衝撃波を発し、ほむらを吹き飛ばした。


ほむら「きゃあっ!」


背中から地面に落ち、更に何かに引きずられるように地面を転がる。


ほむら「ハァ…!ハァ…!…まだ!」


慌てて起き上がろうとしたほむらだったが、クレスが空中から剣を振りかざし
振り下ろそうとする姿を見て思わず身を硬直させてしまう。

403: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:56:09.29 ID:mirkYMyU0
ほむら「っ…!」


左手が上がらない。盾で受けたときの衝撃で言うことを利かない。
咄嗟に右手のハンドガンで受ける、が――


クレス「そんなもので!」


クレスの一撃が、ダオスの攻撃に耐え抜いたハンドガンを切り裂いた。


ほむら(駄目…っ)


急いで次の銃を取り出そうとしたほむらの動きをクレスの剣が止めた。
剣の切っ先がほむらの顔の手前に突きつけられていた。


ほむら「ハァッ…!ハァッ…!ハァッ…!…っ!」

クレス「…まだ続けるかい?」



ほむら「…いいえ」


ほむら「…私の負け…よ…」


404: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:56:49.43 ID:mirkYMyU0
戦いを見届けた四人が慌てて駆け寄ってきた。


チェスター「…無茶しやがって――お前ら」

ミント「お二人とも、大丈夫ですか?」

ほむら「…大丈夫よ。クレスさんごめんなさい」

クレス「いや、僕の方こそ…」

ほむら「いいの…私が本気でやってって頼んだのだから」

クレス「違う、そっちじゃなくて」

ほむら「えっ?」

クレス「辛そうな顔をさせてしまって…」

ほむら「っ…!」

アーチェ「やっぱり、辛かったんだね。ほむらちゃん」

ほむら「…」

クラース「さて、説明してもらおうか?ほむらの口からな」

ほむら「…クレスさんと戦ったのはクレスさんの本気にどれだけ喰らいつけるか試したかったから。
    皆を呼んだのは本気のクレスさんの力を見てもらいたかったから」

ほむら「その結果が…これね」

ほむら「…私は」



ほむら「…私はここでリタイアよ」

405: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:57:57.67 ID:mirkYMyU0
チェスター「…どういうことだよ?」

ほむら「…そのままの意味よ」

チェスター「なんでだよ!?お前も…」

クラース「チェスター待て、最後まで言わせてやれ」

チェスター「…チッ」

ほむら「…」

ほむら「私はこれから先足手まといになるわ」

ミント「そんなっ!?今の戦いだって…」

ほむら「最初はクレスさんが本気を出していなかったからよ」

クレス「そんなことはない!ほむらは仲間になったときからずっと凄くて!強くて…!」

ほむら「…一緒に旅をするようになって、クレスさんも…みんな凄く強くなったわ。私以外は、ね」

アーチェ「ほむらちゃん…以外、って…」

ほむら「私は…最初から何一つ変わっていないのよ。…ユグドラシルが蘇ってマナが増えて、
    ソウルジェムの自然回復の速度が上がった以外はね」

406: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 22:58:56.82 ID:mirkYMyU0
チェスター「なんでだ!?同じように戦って、同じだけ戦ったら一緒に強くなっているはずだろ!?」

ほむら「魔法少女の魔力の総量は不変なのよ。契約の時に全てが決まる」

ほむら「時間停止と武器があったからこれまでやってこれた。だけど…」

クラース「手持ちの武器も心許なくなってきて、更にダオスには時間停止が通用しない」

ほむら「御名答ね。…元々私は身体が弱く、
    魔力で肉体を強化しても魔力が尽きる前に身体が悲鳴をあげるの」

ほむら「それに…夢を見た。…時間を停めても敵が動いてるの。
    その敵が仲間を串刺しにしたわ…。怖かった…」

ほむら「今後、その夢が現実にならないとは限らない。…私はずっとこの力に頼ってきた。
    この力が通用しないのが…怖くて…堪らないの…」


ほむらの手が震えている。先程のクレスの攻撃を受け止めた衝撃がまだ手に残っているのか、
それとは別の理由なのかはほむらにしかわからない。

407: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:00:00.10 ID:mirkYMyU0
クラース(以前、力に頼り過ぎるなという話をしたが…まさかこんな形で起きるとは)


過去、初めてほむらの戦闘能力を目の当たりにしたクラースはクレスの前でそう話した。
しかし、まさかほむらがこのような事態に陥るとは想像すらしていなかった。


アーチェ「…逃げちゃだめだよ」

ほむら「…」

アーチェ「そんな…弱気なほむらちゃん嫌だよ…いつもみたいにクールでかっこいい
     ほむらちゃんに戻ってよ…」

ほむら「…私は……元々こういう性格なのよ。…弱くて、一人じゃなにも出来なくて…。
    無理矢理それを変えようとして…演じて…私は…」

アーチェ「――っ!」


パチッ!という乾いた音が辺りに響いた。頬がジンジン痛む。
ほむらは自分の頬がはたかれたのを理解した。


アーチェ「…今のほむらちゃんは……嫌いだよ…」

408: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:00:51.79 ID:mirkYMyU0
ほむら「…っ」

ほむら「私はっ…!」

ほむら「自分のせいで貴方達に迷惑をかけるのが怖いのよっ…!傷つけるのが怖いのっ!」

クレス「…僕もそうだったよ。でも、そんなときに背中を押してくれたのは
    ほむらだったじゃないか」

ほむら「…」

クレス「僕がグングニルを使うのを恐れていた時、背中を押してくれたのは君だった。
    だから今度は僕が君の背中を押す。僕がほむらのフォローをする」

クラース「だから僕、じゃなくて我々だろう?」

ほむら「私はクレスさんとは違うっ!クレスさんはまだまだ強くなれると思ったから!
    でも…私は…!」

ほむら「これ以上は…もう…」

アーチェ「だからっ!」

アーチェ「なんでそこで助けてって言わないのよ!力を貸してって言えないのよ!」

ほむら「アーチェ…さん?」

アーチェ「あたしの事友達だって思うんなら頼ってよ!あたしたちのこと仲間だって
     思ってるんならもっと頼ってよ!」

アーチェ「なんで…そうやって一人で抱え込もうとしちゃうのよ…」


アーチェが泣いている。自分のことのようにポロポロ涙を流している。


ほむら「私…」


ほむら「みんなに…迷惑がかかると…思っ…て」

409: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:01:33.32 ID:mirkYMyU0
ほむらの瞳から一筋の涙が流れる。一度流れ出したらもう、止まらなかった。


クラース「馬鹿言え。お前がいないと誰がアーチェの世話をするんだ。私は御免だ」

チェスター「俺はまだまだほむらに助けてもらってばっかりだしな。
      新技開発もお前がいないと進まないんだよ」

ミント「私もほむらさんから学ばないといけないことがまだ沢山あります」

クレス「僕はほむらに負け越しているからね。負けたまま引かせないよ」

チェスター「なんだクレス、ムキになってないか?」

クレス「あ、えっと…負けたままじゃ悔しいだろ?」

チェスター「ははっ確かにな」


ほむらはただただ涙を流し、茫然として四人のやりとりを見ている。


ほむら「なんで…貴方達はこんなに…こんなに…」

ほむら「こんなにも…優しいの……」


アーチェ「ほ゛む゛ら゛ち゛ゃ ん゛!」


アーチェが勢いよくほむらに抱き付く。

410: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:02:43.11 ID:mirkYMyU0
アーチェ「ごめんね!叩いてごめんね!痛かった!?ごめんね!どこにも行かないで!」

ほむら「もう…貴方は……ほん…と…に……」


ほむらは最後まで言い切ることができず、止まりかけた涙が再び溢れ出した。


クラース「ほむら…君の問題は解決していないが一緒に来い。旅をしていく内に何か解決策が
     思い浮かぶかもしれない」


気休めの言葉ということはほむらも分かっていた。ただ、一緒に来い――この一言が
たまらなく嬉しかった。


ほむら「は…い……」




クラース「それに、お前には3万ガルドの貸しがあるしな。抜けてもらっては困る」




ほむら「は…い…」

ほむら「はい?」


ほむらの涙が止まった。

411: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:03:37.53 ID:mirkYMyU0
クラース「何を言っている?アラン殿に支払った3万ガルド、忘れたとは言わせないぞ?」

ほむら「えっと…あれは…」

クラース「まさか有耶無耶になって無かったことにしてた、なんてことはないだろうな?
     報奨金の5万ガルドからお前が『勝手に』支払ったんだろう?」

ほむら「それは…」

クラース「そうだな…アラン殿は3万ガルドでダオスの所までついていく契約内容だったな。
     ではほむら、君も必死に我々についてきてダオスに辿りつくんだ。それでチャラだ」

ほむら「あの…」

クレス「ほむら、大変だろうけど頑張ろう」

ミント「頑張りましょう、ほむらさん」

チェスター「その年で借金なんて大変だけどよ…」

ほむら「…あのー、ですね」

412: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:04:30.79 ID:mirkYMyU0
アーチェ「ほむらちゃん」

アーチェ「あたし達と旅続けるの…嫌…?」

ほむら「…ずるいわ……そんな質問……」

ほむら「嫌な訳……無いじゃない……」

アーチェ「ごめんね…あたし達も嫌じゃない。っていうか一緒に来てくれないとヤダ」


あやすようにほむらの頭を撫で、アーチェは気持ちを伝えた。


ほむら「…皆がアーチェさんに困るって言うから仕方無しについていってあげるわ」

アーチェ「ほー、そんなこと言っちゃうかねー」


アーチェは少し乱暴な手つきで更にほむらの頭をぐしゃぐしゃするように撫でる。
しかしほむらからの反応は無い。


アーチェ「…あれ?『髪が乱れるでしょ!』とか言ってくるのかなぁ…と思ったんだけど」

ほむら「…今だけは……好きにしていいわ」

アーチェ「…えへへっ」


優しく微笑み、アーチェはほむらの頭を暫く優しく撫で続けていた。

413: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:06:05.97 ID:mirkYMyU0
ユークリッドの都


ほむらは悩んでいた。今後の戦いについてだ。


ほむら(やると決めたからには何か見つけないとね…私の役割を)


以前から何も考えていない訳ではなかった。だが、そう簡単に思いつくものでもない。


ほむら(だめね、じっとしてても考えがまとまらないわ。…少し外を散歩しましょう)


ほむらは暇を持て余していた。本来ならアルヴァニスタに向かっているはずだったが
クラースとアーチェは研究所に呼び出されていた。
魔術と召喚術を何かに応用できないか意見を聞きたいらしい。
クレス、ミント、チェスターはミゲールの町に向かった。
少しでも復興の参考にできる情報が欲しいらしい。


ほむら(私もどちらかについていけばよかったわね…。
    まあついていってても役には立てないでしょうけど)


そんな自虐的なことを思いながら、ほむらは町に繰り出していった。

414: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:06:42.03 ID:mirkYMyU0
ユークリッド城付近


ほむら(凄い人だかりね…。何かあるのかしら)


ブラブラと歩いている内に城門に辿り着いたほむらは人の多さに驚いていた。


「さあ!誰かいないか!?女王の名にふさわしい実力と美貌を兼ね備えたチャンピオン!
 その名もクイーン!挑戦するものはいないのか!」


ほむら(闘技場の女性のチャンピオンの話は本当だった、ってわけね)

ほむら(まあ私には関係無いわ。誰かが挑戦するなら見てみたいけど)


興味無さげにその場を通り過ぎようとすると見覚えのある人影を見つけた。


ほむら(あれは…すず?…よね?)


以前ヴォルトの洞窟で会ったときとは違う忍び装束、それに覆面をしていたが特徴的な後ろ髪と前髪。
それにあの小柄さ。


ほむら(どう考えてもそうよね。任務中かしら?)

ほむら(…ちょっと声をかけてみよう)


すずらしき人物が人混みを離れるように裏道に入っていく。
慌てて追いかけてほむらは声をかけた。

415: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:07:23.07 ID:mirkYMyU0
ほむら「すず?」

覆面すず「!? ほ、ほむら…さん!?」

ほむら「ごめんなさい驚かせてしまって。また任務中かしら?」

覆面すず「えーっと、あ、はい…そんなところです」


少し様子がおかしい。慌て方が大きすぎる、ような気がする。


ほむら「どうしたのそんなに慌てて?」

覆面すず「あの…そのですね」


そんな時、ほむらの背中の方から声が聞こえてきた。


「暁美さん、離れて下さい」


ほむら「えっ…?」


ほむらは振り向く前にその声に驚いた。
自分の目の前にいる少女と全く同じ声が後ろから聞こえたからだ。
慌ててほむらは振り向いた。――視線の先にはヴォルトの洞窟で会った姿のすずがいた。


すず「そちらの忍の方、一体どこの里の者ですか?」


感情を押し殺した、冷たい声だった。

416: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:08:02.46 ID:mirkYMyU0
ほむら(どういう…こと…?)


自分の目の前にすずが二人いる。
覆面をしたすずも自分と同じように驚きを隠せない様子でいる。


覆面すず「…」


覆面をしたすずは質問に答えず押し黙っている。


ほむら『貴方、すずなのよね?』


ほむらは覆面をしたすずにテレパシーを送った。


覆面すず『…はい、そうですほむらさん』

ほむら『これは一体どういうことなの?貴方は…』

覆面すず『わたしは未来から来ました。後で事情を説明します。
     …話を合わせて下さい。お願いします』


この状況でもはや誤魔化しきれないと悟ったのか、手短に覆面をしたすずが説明する。

417: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:08:58.60 ID:mirkYMyU0
ほむら『…分かったわ。でも合わせるって――』


すず「お答え頂けないようですね。…申し訳ありませんが――」


すずが忍者刀に手をかける。その動きを見た覆面をしたすずが言葉を発した。


覆面すず「わたしはニンジャリア星からこの星に極秘任務のためにやってきた者です。
     名をウッディベルと申します。この星の忍の方」

ほむら(…はい?)


ほむらは再び混乱する。ニンジャリア星?ウッディベル?
そんな下手な言い訳が通用するわけ…


すず「…本物、なのですか!?」


あった。すずは年相応な子供のように目をキラキラ輝かせている。


ウッディベル「そうです。極秘任務故、事情は話せませんが…」


ウッディベルは先程ほむらにこう言った。『話を合わせて下さい』と。


ほむら(無茶言わないで)


全くその通りである。

418: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:09:35.14 ID:mirkYMyU0
ほむら(笑いを堪えるのに必死よ。顔が攣りそうだわ)

すず「わ、わたしも何か是非お手伝いを!」

ウッディベル「いえ、あなたにも任務はあるでしょう。わざわざ手伝っていただくわけにはいきません」

すず「…ですが――」

ウッディベル「それに、すでにこちらの方に手伝って頂くことになっております故…」

ほむら(やめて、こっちに振らないで)

すず「ほ、本当ですか!?暁美さん!?」

ほむら「…事実よ。先程こちらの…ウッディベルから要請を受けたわ。どうやらウッディベルは
    こちらに来て間もないから土地勘がないらしくて案内をしていたの。
    ウッディベルの任務は話に聞いた限りじゃ少数のほうがいいみたいだし…。
    ここはウッディベルの言う通りすずは手を引いた方が賢明だと思うわ。
    ねぇ?ウッディベル?」

わざとらしくウッディベルを連呼するほむら。自分でいいながら少し吹き出しそうになる。


ほむら(いざとなれば時間を停めて笑ってしまいましょう…耐え続ける自信が無いわ…)


すず「…そう、ですか。残念です」

ほむら「…ごめんなさいね。じゃあ行きましょうか、ウッディベル」

ウッディベル「そうですね。では…失礼します」

すず「あの!」


立ち去ろうとした二人をすずが引き留める。

419: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:10:12.11 ID:mirkYMyU0
すず「またどこかで…会えるでしょうか!?」

ほむら(…)


やっと終わった、と思い一瞬気を抜いたところにすずが懇願するかのように声を上げた。


ウッディベル「…申し訳ございません。わたしはこの任務を遂行次第、星に帰ります。
       …ニンジャリア星に」

ほむら(っ…なんで言い直すのかしら?)

すず「…そうですか。残念です……本当に」

ウッディベル「…強く生きてください。この星の忍よ。では忍者姫ウッディベル、
       これにて失礼s

ほむら(あ、駄目だ)


ほむらは咄嗟に時間を停めた。


※しばらくお待ちください※

420: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:10:56.37 ID:mirkYMyU0
ほむら「…ふー、………よし」

ほむら「ヴォルト戦であれだけ時間停止を使うのを躊躇ったのに、
    …まあいいわ。恐れては駄目、よね」


時が動き出す。


ウッディベル「――します。では、行きましょうか」

ほむら「ええ、じゃあね。すず」


すずから逃げるように二人は路地裏に逃げ込んだ。


ウッディベル「…申し訳ございませんでした。話を合わせてもらっ」

ほむら「わざとなの?」

ウッディベル「えっ?」

ほむら「わざとなのかしら?」

ウッディベル「…一体なぜそんな怒ってらっしゃるのでしょうか」

421: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:11:42.74 ID:mirkYMyU0
すず「…という訳なのです」

ほむら「連合軍に追われてアーチェさんが時空転移で貴方達三人を逃がした。
    それに巻き込まれる形で、今この国でチャンピオンになっているクイーンって人も
    付いてきた、と」

すず「そうです。本来ならこの時間軸にいらっしゃる皆様には接触するべきでは無かったのですが…」

ほむら「仕方ないわウッディベル。それよりもこれからどうするの?」

すず「…できればすずと呼んでもらいたいのですが」

ほむら「わかったわウッディベル」

すず「…」

ほむら「…わかったわ。すず」

すず「あ、ありがとうございます。わたしはこれよりクイーンに挑戦します。あの人の狙いは
   恐らく…今この時間にいるクレスさんでしょう。戦わせるわけにはいきません」

ほむら「あのクイーンって人、そんなに強いの?」

すず「強いです。クレスさんなら負けはしないでしょうが、無傷で…とはいきません。
   旅に支障が出るようなことは避けておきたいです」

ほむら「…分かったわ。すずはあの人に勝てるの?」

すず「何度か手を合わせています。クイーンの手はわかっているので勝てるはずです」

ほむら「私が時間を停めている間に…」

すず「…ほむらさんの手を汚させるようなことはしたくありません。
   わたし一人で勝ちます。」

ほむら「はぁ…。……わかったわ。すずを信用するわね」

すず「ありがとうございます。では先に他の二人を紹介しておきますね。…こちらです」

422: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:12:25.80 ID:mirkYMyU0
すず「アーレスさん、ファルケンさん。紹介します…暁美ほむらさんです」

アーレス「暁美ほむら…って、時の英雄のか?」

すず「そうです。訳合って巻き込んでしまいました…」

ファルケン「この子が…ほむら…」


ほむらは紹介された二人を見た。

アーレスと呼ばれた男は、2メートルを超える巨体の持ち主だった。
隣に立てかけた剣も普通の人間には到底扱えない大きさである。

次に、ファルケンと呼ばれた男。蒼銀の髪を後ろで縛り、優しそうな風貌をしている。
耳が尖っているので恐らくエルフか混血なのだろう。


ほむら「ファルケン、さん…ですか」


今、初めて顔を合わせた。それは間違いない。
しかしほむらはなぜかこの男に見覚えがあるような感覚があった。

423: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:13:13.66 ID:mirkYMyU0
すず「ファルケンさん」

ファルケン「…そうだね、言っても大丈夫か。」

ファルケン「俺の名前はファルケン・バークライト。
      親はチェスター・バークライトとアーチェ・クラインだ」

ほむら「!?」

ファルケン「まぁ、驚くよね」

ほむら「あ、いえ…すいません」

ファルケン「いいさ。どうせこの時間でも喧嘩ばっかりしてるんだろ?親父とお袋」

ほむら「…そうね。日常茶飯事ってところかしら」

ファルケン「そんなことだろうと思ってたけど…。はぁ…」

すず「…すいません。話を進めさせてもらって宜しいでしょうか?」

ファルケン「ああ、ごめんねすずちゃん」


ファルケンが話をやめ、すずが今後の計画を話し出した。

424: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:14:06.53 ID:mirkYMyU0
すず「この時間でやり残したことはクイーンを倒すだけです。
   その後なんとかしてトールまで行かないといけないのですが…」

アーレス「穴掘って噂流して…その後すぐに動いて正解だったぜ」

ほむら「アーレスさん、貴方はどこにいたの?」

アーレス「フリーズキールっていう雪に囲まれた大陸だな。そこでコイツラにだけ分かる
     噂を流して待とうと思ってたんだが、クイーンの噂を聞いてな。そっちに行った方が
     早いと思って船で渡ってきた。こっち来た途端出航停止になっちまったけどよ」

ほむら「雪国の噂…、あの山を吹き飛ばす化物とかいうやつかしら?」

アーレス「ああそれだ。まあそれは姐さんのことなんだがな」

ほむら「姐さん?誰のこと?」

ファルケン「…お袋だよ」

ほむら「…そう。大変ね、貴方も」


ほむら「とりあえずトールに行く手段を見つけないとね」

すず「そうですね…。期待薄ですがヴェネツィアに向かおうと思っています」

ほむら「でも、船は出ていないんでしょう?」

すず「最悪…、船を奪います」

ほむら「…過激ね」

425: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:15:05.19 ID:mirkYMyU0
すず「そうでもして帰らないといけないんです。アーチェさんが危機に瀕していますから」

ほむら「…私もついていくわ」

すず「いえ、ほむらさんはまだ旅の途中なのでしょう」

ほむら「私がいれば船を奪うのも楽になると思うけど?」

すず「ですが…」

ほむら「私はアーチェさんに助けてもらってばっかりだから…昨日も助けてもらったばっかりなの」

ほむら「それに、今はクレスさんとミントさんとチェスターさんが
    別行動をとっているからどの道暫く動けないわ」

すず「…」

ほむら「それとも…私じゃ力になれない…?」

すず「!? そんなことはありません!…ただ――」

アーレス「いいじゃねえか、力を貸して貰おうぜ」

すず「アーレスさん…」

アーレス「なんとしてでも戻らなきゃならないんだ。手は少しでも多い方がいい」

ファルケン「ほむらちゃん、本当についてきて貰って大丈夫なのかい?」

ほむら「内容は伏せて暫く単独行動を取るってクラースさんに伝えてくるわ。
    …恐らく了承してもらえるはずよ」

すず「では、ほむらさんは了承が得られたらご同行をお願いします」

ほむら「ええ、わかったわ。では少し行ってくるわね」


ほむらは、仲間の役に立ちたいと思っていた。
一緒に来いと言ってくれた仲間の為に――少しでも

426: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:15:48.01 ID:mirkYMyU0
クラース「…理由は?」

ほむら「…言えないわ?」

クラース「理由が言えないのに単独行動だと?流石にそれはな…」

ほむら(…甘く考え過ぎてたわね。でも、なんとかしないと)

ほむら「とても困っている人達がいるの。どうしても力になってあげたいわ」

クラース「…誰なんだ?」

ほむら「…言えないわ。……言わないじゃなくて言えない。これで察して欲しい」

クラース「…全く、お前がそこまで必死になって協力を願い出て、更に理由は言えないだなんて
     答えを言っているようなものだぞ?」

427: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:16:15.59 ID:mirkYMyU0
ほむら「…」

クラース「何日かかる?」

ほむら「3日から…長くても1週間以内にはなんとかするわ」

クラース「はぁ…、……こいつを持っていけ」


クラースがそう言いながらほむらに投げ渡したものは、ウイングパックだった。


ほむら「…これは」

クラース「私のレアバードだ。必要になるかもしれんだろう?一応持っていけ」

ほむら「…ありがとう、クラースさん」

クラース「1週間以内に戻ってこなかったら借金を上乗せするからな」

ほむら「…わ、わかったわ。絶対に戻ってくるから」



428: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:16:55.74 ID:mirkYMyU0
ほむら「――というわけで許可を得てきたわ」

すず「なにか…疲れているように見えますが」

ほむら「…大丈夫よ。それより今度はすずの番ね」

すず「はい。それでは行ってきます。皆さんは脱出の準備を整えておいて下さい」

ファルケン「わかった。すずちゃん、気を付けてね」

アーレス「負けるとは思ってねぇが、まあ気をつけな」

ほむら「すず、いってらっしゃい」

すず「はい!」


元気よく返事をし、すずは覆面をつける。ウッディベル、出陣である。

429: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:17:40.06 ID:mirkYMyU0
ほむら達は闘技場の客席にいた。闘技場では今、すずとクイーンが闘っている。

クイーンが剣を横に振る度に、闘技場の壁が抉れていく。
斬撃を飛ばしているらしい。しかし、凄まじい破壊力である。まずガードはできないだろう。


ほむら「凄い攻撃ね…」

ファルケン「俺の住んでたログハウスが真っ二つにされたよ。あの技で」

アーレス「あれはめんどくせえな。剣なのに間合いがあれだけあるとよ」

ほむら「でも、弱点もあるわね」

アーレス「いや、恐らくほむらが考えている手は駄目だ。あれは上にも出せる」

ほむら「あら、そうなの?」


ほむらは考えてることを見透かされても全く残念がる様子がない。


ほむら「じゃあ、下ね」

430: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:18:31.89 ID:mirkYMyU0
クイーンが剣を横に振る。更に腰を落として次の攻撃溜めを作っている。
恐らく上を飛ぶ瞬間を狙っているのだろう。

だが、すずは伏せた。地面に身体を密着させるように。
予想外の姿勢に驚き、反応が遅れたクイーンに対してすずはどうしたらそんな動きが出来るのか、
そう聞きたくなるくらいの身体のバネで一気にその姿勢から飛び、クイーンの懐に入り込んだ。


ほむら「終わったみたいね。行きましょう」

アーレス「ああ」

ファルケン「先に行ってるね」


ほむらは時間を停止させ、闘技場に飛び降りすずに触れた。


ほむら「お疲れ様」

すず「! ありがとうございます。では行きましょうか」

ほむら「ええ」


脱出し、時間を動かす。
闘技場に残ったのはクイーンの死体だけだった。


431: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:19:08.75 ID:mirkYMyU0
ユークリッド~ヴェネツィア 夜


ファルケン「お待たせ」

ほむら「ごめんなさい、作ってもらって」

ファルケン「いいさ。助けてもらってる側なんだし。それに料理は嫌いじゃないから」


ファルケンの作った料理はキノコと野菜を炒めただけ、のように見えた。だが


ほむら「なんでこんなに美味しいのかしら?」

ファルケン「びっくりした?」

ほむら「ええ…料理をしたことがある人はビックリすると思うわ」

すず「ファルケンさんの魔法の調味料ですね」

ほむら「魔法の?」

ファルケン「魔法、は言い過ぎだけどね。…お袋が料理が壊滅的に駄目なのは知ってるよね」

ほむら「そうね。言っては申し訳ないと思うけど」

ファルケン「そんなお袋の料理の為に作ったのがこの調味料なんだ」

ほむら「それがあれば…アーチェさんの料理が食べられるレベルになるっていうの!?」

432: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:19:46.18 ID:mirkYMyU0
にわかには信じられない話である。
以前、アーチェが作った料理を食べたクラースはこう語る。

「まさか料理を食べただけでポイズンチェックとパラライチェックが割れるとはな…舐めていたよ。
 もう二度とアーチェの料理に口をつけるなんて言わないさ」

そんな料理が食べられるレベルになるとは――


ほむら「信じられないわ」

アーレス「どんな料理なんだよ…」

ほむら「あれは割れたなんてレベルじゃなかったわ。両方瞬時に、粉々を通り越して粉になったのよ」

ファルケン「ごめんね…お袋のせいで…本当にごめん」

すず(そんなに酷くなかったと思うんだけどなー)モグモグ

433: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:20:28.64 ID:mirkYMyU0
ほむら「ファルケンさんは法術も魔術も両方使えるのね」

ファルケン「そうだね。でも両方中途半端だけど」

すず「それでも…やはり凄いと思います。あの時ファルケンさんに助けて貰えていなかったら…。
   その節は本当にありがとうございました」

ファルケン「そのお礼なら何度も頂いたよ。血が固まって服が肌に張り付いて、脱がすのは
      ちょっとてこずっちゃったけど」

ほむら「えっ」

アーレス「えっ」

ファルケン「えっ」

すず「///」

ほむら「すず、大丈夫だった?」

アーレス「ファルケン…お前…」

ファルケン「ほむらちゃん、なんでそんな目で僕を見てるの?
      アーレスさんもなんで今少し離れたの?」

すず「いえ…その…あの時は優しくしていただきました…///」

ほむら「チェスターさんも少し好色な人だとは思っていたけど…」

アーレス「俺の仕事知ってるか?罪人の首を刎ねることなんだぜ?」

ファルケン「ほむらちゃんなんでそんないきなり離れたのかな?アーレスさんは剣を仕舞って。
      すずちゃん、少し静かにしてくれるかい?」



434: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:21:18.43 ID:mirkYMyU0
ヴァネツィア



ほむら「さて、一応着いたけれど」

すず「やはり、船は停泊していますが出航する気配は無さそうですね」

アーレス「どうする?本気で船を奪うか?」

ファルケン「できれば穏便に済ませたいけど…」


そんな誰かに聞かれたらいけないような内容の話をしていると、
ほむらに話しかけてきた男性がいた。


「君は…」

ほむら「…どちら様かしら?」

「50年前、君はこの町にきただろう?」

ほむら「50年前…?…貴方、まさか?」

「あの時は儂も君くらいの年だったな。まさか君が英雄様だとは…」

435: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:21:56.44 ID:mirkYMyU0
ほむら「トールに向かうときに乗った船の…」

船長「ああ、今じゃもうあの船の船長になってしまったよ」

ほむら「そう…、継いだのね」

船長「ちゃんと自分で選んだよ。あの時はありがとう」

ほむら「いいのよ。最後に決めたのは貴方なんですし」

船長「そうだね…もしかして船を探しているのかな?」

ほむら「…流石にこのご時世だとどの船も動いてなくてね」

船長「わかった。儂の船に乗りなさい」

ほむら「…いいのかしら?今の海は危険なのでしょう?」

船長「英雄様が乗ってるんだ。世界中で一番安全な航海になるだろうて」

ほむら「…ありがとう。お言葉に甘えさせて頂くわ」

船長「行先は?」

ほむら「トールよ。…50年前と同じね」

船長「これも因果というやつなのかもな…お前ら!出航の準備だ!」

436: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:24:44.95 ID:mirkYMyU0
船員から驚きの声が起きる。そのざわつきを一蹴するように船長は叫ぶ。


船長「この船は儂の船だ!逆らうやつはさっさと降りろ!分かったらさっさと準備しやがれ!」


ほむら「あらあら、随分荒々しくなったわね」

船長「こうでもしないと息子に舐められてしまうからな」

ほむら「息子?」

船長「おい!こっちに来い!」


そう言われて急いでこちらに走ってきたのは三十歳前後に見える男性だった。

437: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:25:37.37 ID:mirkYMyU0
息子「この人達を乗せるのか?親父」

船長「客人の前では船長と呼べと言ってるだろ」

息子「はいはい。…どうも初めまして。一応この船を継ぐことになってます」

ほむら「もう決めているのね」

息子「ええ。親父は何も言ってこなかったけどずっと受け継いできたこの船を自分の代
   で終わらせたくはないので」

船長「ふん、まだ半人前のくせに」

息子「親父もさっさと俺に任せて引退すりゃあいいんだよ。…ではお客様、失礼します。
   快適な船の旅を!」


ほむら「嬉しそうね」

船長「…嬉しくなくはないな」

ほむら「ふふっ…それじゃあ、船長さん。申し訳ないけれどお願いね」

船長「任されました。快適な船の旅を!」

438: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:26:05.40 ID:mirkYMyU0
船上、甲板


すず「ほむらさん、本当に助かりました」

ほむら「あ、…いえ」

すず「? どうかなさいましたか?」

ほむら「…少し、嬉しくてね」

すず「嬉しい…ですか?」

ほむら「ええ…歴史が繋がっている証拠が一つ、見つかったから」



439: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:27:00.47 ID:mirkYMyU0
トール


アーレス「ほむら、助かったぜ」

ファルケン「ほむらちゃん、本当にありがとう」

ほむら「いえ…、……やっぱり私も」

すず「いえ、ほむらさんは残ってください。帰りの船を守ってあげてください」

ほむら「…」

すず「わたし達はほむらさんに充分助けていただきました。ほむらさんがいないと
   ここまで来ることができませんでしたから」

ほむら「…分かったわ。気を付けてね…アーチェさんを助けてあげて」

ファルケン「うん、絶対に助ける。約束するよ」

アーレス「それじゃあ戻るか!俺たちの時代によ」

すず「…」

ほむら「…すず?」

すず「…やっぱり、我慢できないや」




すず「ほむら、本当にありがとう」

440: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:27:41.55 ID:mirkYMyU0
ほむら「!? すず…貴方…」

すず「ほむらはわたしの事を友達って言ってくれた。…まだこの時代じゃ先の話だけどね。
   だからわたしも…ほむらにはこういう風に喋りたいってずっと思ってて…」

ほむら「そう…なの…」

すず「ゴメンね。…未来の事は話しちゃだめって分かってるのに…」

すず「また会えて…嬉しくて…っ」


最初は笑っていたすずだったが、今は涙を流していた。
この時代のすずからは想像できない表情豊かな、未来のすずの姿だった。


ほむら「――すず…っ」


ほむらは思わずすずを抱きしめた。とても小さい、年相応のすずの身体を。


ほむら「ありがとう、すず。嬉しいって言ってくれて私も…嬉しいわ」

すず「うん…それじゃあ、そろそろ行くね」

ほむら「…分かったわ」

441: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/16(土) 23:28:37.36 ID:mirkYMyU0
すず「お願いがあるんだけど」

ほむら「…何かしら?」

すず「この時代のわたしと、仲良くしてあげて。わたしもとても嬉しかったから」

ほむら「…っ!分かった…わ」

すず「それじゃあね、ほむら。本当はまだ泣きたいけど…ほむらとは笑ってお別れしたいから」

ほむら(…すずも我慢してるんだ。だから…私も泣いちゃ…駄目)

ほむら「すず、頑張ってね」

すず「うん。ほむらも…まだまだ大変だろうけど頑張って…さようなら!」



ほむらは三人の背中を見送った。
見えなくなるまでなんとか耐えた。
もう、我慢しなくてよかった。




ひとしきり泣いた後、ほむらは早くみんなに無性に会いたくなっていた。

ほむら(私も帰りましょう――仲間の元へ)

456: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:16:17.53 ID:4u4gBYpw0
ユークリッドの都


クレス「闘技場…ですか」

支配人「はい。是非ともクレス殿の力を国民の前で披露して頂きたいのです」

クレス「いやあ…僕なんてまだまだで」

クラース「そう謙遜するな。ほむらがまた悲しむぞ?」

ほむら「悲しいかどうかは別として…もっとクレスさんは堂々としていいと思うわ」

クレス「でも…」

支配人「お願いします。…先日まで王座に君臨しておられたクイーンという方が闘いの最中、
    命を落としてしまいまして、現在空席のままなのです」

ほむら(クレスさん、ごめんなさいね)

457: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:17:01.35 ID:4u4gBYpw0
圧倒的な強さで一気に王座にのし上がったクイーンが殺され、その対戦相手も忽然と姿を消してしまった。
一部では魔物だったのではないのか、なんていう噂まで流れる始末であった。


チェスター「やってやれよクレス。お前の力を見せてやれ」

アーチェ「そうだよー。ばったばったなぎ倒しちゃいなよ」

クレス「はぁ…。……分かりました。参加しましょう」

支配人「! ありがとうございます!では、準備が出来次第で構いません。いつでもいらしてください」


458: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:17:48.76 ID:4u4gBYpw0
闘技場



ミント「クレスさん、頑張ってください」

チェスター「負けんじゃねえぞ?」

アーチェ「かっこいいとこ見せてね!」

クラース「まあ気楽にやってこい。お前なら大丈夫だろう」

ほむら「応援してるわ」

クレス「やると決めたからには頑張ってくるよ。じゃあ、行ってくる」

459: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:18:24.75 ID:4u4gBYpw0
『闘いの最中、命を落としてしまった前チャンピオン!しかし!
 その空席に座るに相応しい挑戦者が現れた!その名も!時の英雄!クレス・アルベインだー!』


場内のアナウンスで観客席のボルテージがいきなり最高潮に達した。


ミント「凄い声援ですね…」

チェスター「アイツ緊張してねぇだろうな…」

ほむら「この声援も…期待の表れっていうやつなのよね」

クラース「期待というか希望だな。ヴァルハラの時と同じさ」

アーチェ「クレスー!全て片づけてしまっても構わんのだぞー!」


クレス(や、やりにくい!)

460: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:19:01.09 ID:4u4gBYpw0
想像していた以上の観客の数、それにこの声援。
今まで味わったことが無い形での緊張に、クレスは少し戸惑っていた。


クレス(でも――)


クレスは自らを落ち着かせるように静かに目を瞑り、脱力する。


『それでは!まずは小手調べのコイツだ!』


目の前のゲートが開く音が聞こえた。クレスは目を開く。


クレス(――やるぞ!)


『それでは第一回戦!レディィィィィィ!』


剣を握る手に力を込める。


『ゴォォォォォ!』


クレスの挑戦が始まった。

461: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:19:48.77 ID:4u4gBYpw0
次々と用意された魔物を打ち倒していくクレスだったが、強敵が現れた。


巨躯の石像が力任せに拳を振るう。クレスは落ち着いてその攻撃を見て、かわしていく。


クレス「ハッ!」


石像が豪快に空ぶった隙に、クレスは斬撃を差し込む。


クレス「!? 硬い!」


剣が弾かれた。見た目以上の硬さにクレスは少し辟易する。

そんなクレスの様子を無視して石像――クレイゴーレムはクレス目掛けて最短距離を打ちぬく
ストレートパンチを放った。


クレス「ぐぅ!」


咄嗟に剣で受けるが、耐え切れずに吹き飛ばされる。


クレス(…どうする?)


一旦距離を取り、ゴーレムの出方を窺う。
ゴーレムはのそのそと遅い動きながら一歩ずつクレスに近寄ってくる。

462: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:20:27.87 ID:4u4gBYpw0
ミント「苦戦していますね、クレスさん」

チェスター「あれは骨が折れそうだ…。物理攻撃じゃキツいんじゃねえか」

クラース「だが、クレスもああいう相手に対して有効な攻撃が無いわけじゃない」

ほむら「問題は間合いね…相手の方がリーチが長いわ」

クラース「敵の攻撃をかいくぐり溜めを継続させれるか…そこが問われるな」

アーチェ(よくわかんないけどピンチってことよね)


アーチェはのんきに近くの売店で買ってきたホットドックを頬張っていた。
完全に観戦を楽しむ方向でいくようだ。


チェスター「お前何食ってんだよ。応援してやれよ」

アーチェ「んー、大丈夫じゃない?クレスだし。…あーん――うん!美味しい!」

クラース「信頼しているからなのか…ただの見世物感覚なのか…全く」

463: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:20:58.50 ID:4u4gBYpw0
クレスが腰を深く落とし、溜めを作り始める。
そろそろゴーレムの間合いに入る…だがクレスは動かない。

――相手の間合いに入った。ゴーレムが腕を振りかぶり、先程のストレートを構えを見せる。

クレスは…まだ動かない。

クレス目掛けて渾身の一撃が繰り出される。そこをクレスは狙っていた。


クレス「真空…破斬!」


狙った先は、ゴーレムの伸びてきた腕だった。
硬いはずのゴーレムの腕を簡単に切り落とす。
自らの腕の肘から先が無くなった事実に驚き、ゴーレムは一歩後退する。
クレスは動かずに再び溜めを作る体勢に入った。

464: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:22:22.51 ID:4u4gBYpw0
ほむら「なるほどね」

クラース「これで相手は迂闊に攻撃できなくなったな」

チェスター「でも相手が攻撃してこなくなったらどうするんだこれ」

クラース「その辺はクレスも考えているだろう…ほらな」


クレスが飛び出した、切り落とした腕の方から回り込むように。
スピードではクレスが圧倒的に上回っている。慌てて攻撃しようと残った腕を振りかぶろうとする。

その動きを見逃さずクレスは再び溜めの姿勢。ゴーレムの動きが止まる。
無防備なはずの溜めの姿勢を牽制として使う。今度のクレスの狙いは腕では無かった。


クレス「真空破斬!」


とても綺麗な切り口を残して、ゴーレムの身体が上半身と下半身で綺麗に分かれた。


『勝者!クレス・アルベイン!』


勝利を称えるアナウンスに反応するように、剣を高々と空へ向かって伸ばす。
クレスに歓声のシャワーが降り注いだ。

465: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:22:56.55 ID:4u4gBYpw0
チェスター「素晴らしい闘いでしたね。解説のクラースさん」

クラース「そうだな。本来、溜めを作るという行為は非常に危険なのだが腕を切り落とすことで
     相手に恐怖心を植え付けた。溜め=危険、という意識が相手の頭に浮かんだはずだ」

チェスター「そして次は堂々と溜めを作り、攻撃を躊躇した隙に攻撃を叩き込んだ、と」

クラース「ああ。あの距離であのゴーレムの速度だとかわせない。
     手を出しても切り落とされるかもしれない。チェックメイトだ」

チェスター「なるほど。クラースさん、ありがとうございました」

アーチェ「ほむらちゃん、一口いる?」

ほむら「要らないわ」

ミント(皆さん…自由過ぎませんか…?)


466: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:23:38.07 ID:4u4gBYpw0
クレス「襲爪!雷斬破!」


雷を纏った剣を突き刺し、更に二連撃。まともに喰らったバジリスクキングはそのまま動かなくなった。


『勝者!クレス・アルベイン!』


再び大歓声が巻き起こる。いよいよ次が最後だ。


『いよいよ次が最後だ!クレス・アルベイン、挑戦するか!?』

クレス「勿論。最後も僕が勝つ!」


地鳴りのような声援が飛んでくる。

467: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:24:17.22 ID:4u4gBYpw0
チェスター「アイツ、なんだかんだ言ってノリノリじゃねえか」

ほむら「でも、気持ちが乗る乗らないは重要よ。特にクレスさんの場合はね」

クラース「そうだな。…あれが最後の敵か」


ゲートが開く。

二足歩行の獣。指から伸びた爪は簡単に人を貫けるであろう。
長い鬣を揺らし、咆哮を上げクレスを睨み続けている。


アーチェ「うわ、ヤバそうあれ」

クラース「あんなものまで管理しているのか、この闘技場は」

チェスター「クレス!油断すんじゃねえ…


チェスターの応援を遮るかのように突如、観客席が煙に包まれる。

468: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:24:45.81 ID:4u4gBYpw0
アーチェ「!? な、なにこれ!?演出!?」

クラース「わからん!?一体どうなっている!?」


「ダオス様に仇なす者よ!死ぬがいい!」

469: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:25:30.66 ID:4u4gBYpw0
クレス「!? 何だ!?」


クレスも観客席の異変に気が付いた。しかし、異変はそれだけでは終わらなかった。
突如二つの人影が場内に飛び込んできた。


おきよ「ダオス様の怨敵、クレス・アルベイン」

銅蔵「貴様はここで死ね!」


二人の忍、銅蔵とおきよがクレス目掛けて地を駆ける。


クレス(…速い!)


なんとか二人の攻撃をかわし、剣を振り二人を払いのける。
二人は大きく距離を取るように後方に跳んだ。
そんな二人にガルフビーストが爪を振り下ろす。
その攻撃も身軽な動きでかわす二人。場は三竦みの状態となった。

470: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:26:28.42 ID:4u4gBYpw0
クレス「数で有利な状況を作ったつもりだろうが、一対一対二だ!」

銅蔵「…それはどうかな?」


銅蔵がクレスに向け突撃する。おきよはガルフビーストと対峙していた。


クレス「一対一なら…!」


迎撃する構えを見せたクレスに銅蔵は、懐から何かを取り出しクレスに投げつけた。

クレスはそれを剣で切り落とす。

切り落としたものは液体の入った瓶だった。


クレス「…!これは!?ダークボトル!?」


ガルフビーストが突如クレスに狙いを定め向かってくる。状況は変わり一対三となった。


銅蔵「終わりだな、英雄よ」

おきよ「覚悟!」

471: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:27:07.89 ID:4u4gBYpw0
完全に煙で包まれてしまった観客席はパニックに陥っていた。
あちこちで悲鳴が起きている。


クラース「とりあえず他の観客の避難が優先だ!」


クラースがそう判断し他の四人に指示を出そうとした、その時だった。


ほむら「! 危ない!」


煙に紛れ、刀がクラース目掛けて振り下ろされる。
割り込むようにほむらが庇い、盾で受け止める。


忍「ちぃ!」

ほむら「くっ!…敵が紛れ込んでいるわ!警戒して!」

アーチェ「もー!こんなときに!こうなったら…」

チェスター「お前呪文なんか使うんじゃねえぞ!観客を巻き込むだろうが!」


そう注意したチェスターにも刀の斬撃が飛び込んできた。チェスターは咄嗟に弓で受ける。

472: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:27:40.76 ID:4u4gBYpw0
クラース「固まれ!死角を作るな!どれだけ紛れているかわからんぞ!」

ほむら(クレスさんの様子も気になるけど…こっちもそのままにしておけないわね)

ミント(クレスさん…無事でいてください…!)

473: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:28:18.07 ID:4u4gBYpw0
クレス「ぐあっ!」


クレスはなんとか三人の猛攻に耐えていた。しかしそれも時間の問題である。


銅蔵「しぶといな。さすがはダオス様が危険と判断した者」

おきよ「だが…これで!」


二人は、クレスがガルフビーストの攻撃によって作った隙を着々と狙っていた。

クレスの体勢が崩された。そこを見逃さず、銅蔵とおきよは手裏剣を構え投げつけた。


クレス(かわせ…ない…!)


だがその手裏剣はクレスには命中せず、別方向から飛んできた手裏剣に落とされた。


銅蔵「!? 何者!」


再び場内に飛び降りてきた一つの影。伊賀栗流の忍――すずだった。


すず(父上、母上……)

474: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:29:07.29 ID:4u4gBYpw0
クラース、アーチェ、ミントを守る為ほむらは激しく動き回っていた。


ほむら(相手は忍者…すずの里の人なの?)


すずは洗脳は死ぬまで解けないといった。この場を収めるには殺すしかない。


ほむら(…っ!本当に…殺すしかないの…?)


そんな考えが頭に浮かぶ。そのせいで仕掛けられた攻撃に対し反応が一瞬遅れた。


忍「死ねぃ!」

ほむら「…くっ!」


かわしきれず、頬に一筋の刀傷が出来る。
煙に紛れていても攻撃の瞬間は丸見えだった。

475: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:29:46.69 ID:4u4gBYpw0
ほむら(…恐れちゃ、駄目)


ほむらは時を停め、盾から拳銃を取り出した。


ほむら(殺すのは…怖くない。でも…あの子は本当に大丈夫なの…?)


以前見たヴォルトの洞窟でのすず。トールで別れた未来のすず。
別人と思えるほど、感情豊かなすずがほむらの脳裏から離れない。


ほむら(っ…!)


ほむらは撃った。――忍の両足を。時間を動かす。


忍「ぐああああああ!」


両足をいきなり襲った痛みに倒れこみ、うめき声を上げる。


ほむら(これで…戦闘不能のはず。…今はこれで)


一人ずつ、ほむらは確実に相手の戦力を削っていった。

476: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:30:14.95 ID:4u4gBYpw0
クレス「…!君は!?」

すず「遅れて申し訳ございません。あの忍はわたしに任せてください」

クレス「そんなっ!君一人で相手をするなんて…!」

すず「大丈夫です。…それに我が里の不始末、他の方の手を煩われる訳にはいきません」

クレス「でも…!…!?」


こちらの事情はお構いなしにガルフビーストが突っ込んでくる。
やはりクレスだけが攻撃対象になっていた。


クレス「くそっ!」


何とかしてすずの援護に回りたいクレスだったが、ガルフビーストもそう簡単にいく敵ではない。
スピードを生かし爪を振るい、更に地面から岩の槍を生み出し襲い掛かってくる。
一撃一撃が致命傷になりえる攻撃がクレスを苦しめていた。

477: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:30:52.96 ID:4u4gBYpw0
すず「父上、母上…お覚悟を…」

銅蔵「すず…か」

おきよ「…」

クレス(父上!?母上!?この二人…すずちゃんの…!?)


クレス「…させない!」

クレス「親子で殺し合いなんて!」


爪をクレスの身体目掛け、突き刺すように繰り出したガルフビースト。
だが、クレスはその攻撃をかいくぐるように姿勢を低くし、懐に潜り込む。


クレス「邪魔だあああああああああ!」


剣をガルフビーストの胸に突き刺す。更にそのまま力を込め、
ガルフビーストの体内を走らせるように剣で切り上げた。

ガルフビーストが事切れたのを確認せず、クレスはすずの援護に向かう…が、遅かった。

478: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:31:21.46 ID:4u4gBYpw0
すず「…行きます」

銅蔵「来い!」

おきよ「…いくわよ、すず」


クレス「駄目だ!親子で殺し合うなんて!そんなの間違っている!」


そのクレスの声は三人に向けられたものだったが、
その声に反応したのは観客席にいたクラース達だった。

479: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:32:00.16 ID:4u4gBYpw0
ほむら(かなり数は減らしたはず…)


ほむらは時間を停止させ、アーチェに近づいた。


ほむら「アーチェさん、上空に向けてストームを頼むわ。
    もう観客も粗方退避が完了したみたいだし」

アーチェ「おっけー。煙たくて仕方なかったよ…」


時間停止を解除する。それとほぼ同時にアーチェがストームを唱えた。

アーチェの起こした風が観客席を包み込んでいた煙を上空に運んでいく。
その時だった。クレスの叫びが聞こえてきたのは。


クレス「駄目だ!親子で殺し合うなんて!そんなの間違っている!」


いち早く反応したのはほむらだった。慌てて闘技場に目を向ける。

すずが二人の忍に向かい、飛び出していた。
ヴォルトの洞窟での光景がフラッシュバックする。


ほむら(すず…!?それに親子で…?まさか…)

ほむら「すず!駄目!止まって!」


咄嗟に時間を停めようとした時だった。観客席に倒れ込んでいた忍が動く。

480: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:32:41.93 ID:4u4gBYpw0
忍「ここまでか…だが!わが身果てても!」


手に持っていたのは、爆弾だった。


ほむら(自爆!?)


どれほどの規模で爆発するかわからない、クラース達の身が安全だと保障はできない。

ほむらは二択を迫られた。

クラース達か、すずか


ほむら(…っ!すず…)


ほむら(…ごめんなさい)


ほむらはクラース達を守るように前に立ち、盾を構えた。

爆発が起こる。観客席の一部が吹き飛んだ。

481: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:33:15.44 ID:4u4gBYpw0
ほむら「ハァ…ハァ…」

クラース「すまないほむら、助かったぞ」

ほむら「…いえ、……構わないわ」


爆発からクラース達を守り切ったほむらは闘技場に目を向ける。
そこには、倒れた二人の忍と、それを見下ろすすずの姿があった。

482: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:33:55.84 ID:4u4gBYpw0
銅蔵「…すず」

すず「はい…」

銅蔵「強く、なったな…」

すず「…ありがとう、ございます」

おきよ「…すず」

すず「はい…」

おきよ「ありがとう…」

すず「…」

銅蔵「こんな事をさせて、すまないな…すず」

すず「…いえ、これも忍の定めですから」

銅蔵「…そうか」

おきよ「すず…」

すず「はい…」

おきよ「…」

すず「っ…」

すず「母上…」

銅蔵「…」

すず「父上…」


二人から返事はもう、返ってこなかった。

483: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:34:27.31 ID:4u4gBYpw0
その場から立ち去ろうとしたすずをクレスが止める。


クレス「すずちゃん!君は…!」

すず「わたしは大丈夫です。忍者は…非情でなければ務まらないのです」


クレスはすずにどう言葉をかけていいかわからなかった。ただ、
自分がもっと強ければこんな結末にならなかったのではないか、そう考えていた。


すず「クレスさんのせいではありません。これは里の問題…巻き込んでしまい申し訳ございません」

484: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:35:16.29 ID:4u4gBYpw0
観客席から飛び降りようとしたほむらだったが、新たに現れた忍の集団が入り込んできた。


チェスター「くそっ!まだいやがんのかよ!」


慌てて弓を構えようとしたチェスターを見て、忍の一人が弁解するように口を開いた。


「お待ちください。我々は伊賀栗の里の者。
 …我が里の問題に巻き込んでしまい、真に申し訳ございませんでした」

「我が里の不始末、我らで片付けます。…やれ!」


その言葉に従うように、まだ息があり倒れ込んでいる洗脳された忍に止めをさしていく。


クラース「!? 何をしている!」

ほむら「…っ!」

「一度洗脳されてしまったら最後、二度と元には戻れません。よって処分しました」

ミント「でも…こんな…っ!」


「暁美殿が配慮してくださり、全ての者が一命を取りとめていた様子でしたが…仕方ありませぬ」

「忍者は…非情でなければ務まらないのです」

ほむら「……。すず!?」


ほむらが気が付いたときには、闘技場にすずの姿はもう無かった。

485: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:35:46.44 ID:4u4gBYpw0
ほむら「待って!」


ほむらは一人、闘技場から外に出ようとしたすずを発見し、声をかける。


すず「暁美さん…」


その声に反応し、すずは立ち止まり振り向いた。


ほむら「…ごめんなさい、すず」

すず「なぜ暁美さんが謝るのですか?謝罪しないといけないのはこちらの方です」

ほむら「私は…貴方を守れなかった」

すず「? どういうことですか?わたしはこの通り無事に…」

ほむら「…貴方の心を…守れなかった……」

すず「…!」


すずの仮面が少しだけ剥がれた気がした。

486: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:36:22.82 ID:4u4gBYpw0
ほむら「私も…すずと同じように心に蓋をしたわ。一緒に戦った人達と争い、命を奪った」

ほむら「大切な人との約束を守る為に、私はそれが正しいことだと思っていた。
    思い込んでいたわ。」

ほむら「でも、それは違うってクレスさん達が教えてくれたわ」

すず「…」

ほむら「確かに…忍なんて過酷な生き方には、感情は邪魔になるかもしれない」

ほむら「でもね、すず」

ほむら「こんな時くらいは泣いても…いえ、泣いてあげるべきだと思うわ」

すず「…忍に感情は不要だと教わりました。今までも…これからも」

ほむら「それは本心なの?それとも仮面を被った貴方の言葉?」

すず「…」

ほむら「…私は」

ほむら「私は一度、この旅についていくのを諦めようとしたわ。この先ついていけなくなって、
    みんなに迷惑を…かけてしまうと思って」

ほむら「でもみんなは一緒に来いって言ってくれたの。――嬉しかったわ。
    もっと仲間を、友達を頼っていいんだ、って教えてくれた」

487: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:37:01.88 ID:4u4gBYpw0
ほむら「すず」

ほむら「友達になりましょう」

すず「…!?」

すず「し、忍に友達など…不要……なのです」

ほむら「それも貴方の本心?それともまだ仮面を被っているの?」

すず「…なんで……そんなにわたしの事を気にかけてくれるのですか?」

ほむら「それはね…」


未来の貴方に頼まれたから――いいえ、違うわ。


ほむら「私が友達になりたいって思ったからよ」

488: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:37:42.63 ID:4u4gBYpw0
すず「それだけ…で…ですか?」

ほむら「そうよ。変な話でしょう?でもね、私も同じこと言われて嬉しいって思ったの」

ほむら「すずは…嬉しくなかった?」

ほむら「貴方の心の底からの声を聞かせて」

すず「わた…し…は…」


すず「嬉しい…です……」


すずは涙を流した。そんなすずをほむらはトールの時と同じように優しく抱きしめた。

489: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:38:16.14 ID:4u4gBYpw0
ほむら「…これからよろしくね、すず」

すず「…は……い。……暁美…さん」

ほむら「ほむらでいいわ」

すず「はい……ほむら、さん…」

ほむら「このままお父様とお母様の為に泣いてあげて…。収まるまで一緒にいるわ」

すず「ううう…父上…!…母上…!」


仮面が剥がれたすずの顔は、涙が溢れくしゃくしゃになっていた。
ほむらは出来るだけその姿を見ないようにし、優しく抱きしめ続けていた。

490: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:39:26.22 ID:4u4gBYpw0
トレントの森


今回の騒ぎに巻き込んでしまった謝罪、お礼を込めてすずはクレス達を忍者の里に招待した。


クレス「ここでいいって言ってたけど…」


説明された場所に辿り着いたクレス達だったが、周りは岩と木に囲まれた空間だった。


アーチェ「本当にここで合ってるの?」


上空からコッソリ忍び込んだアーチェも周囲を見渡している。


チェスター「お前この近くに住むエルフと問題起こしたんだろ?よく来たよな」

アーチェ「皆さんで来て、ってすずちゃんが言ってたんだもーん!べーっだ!」

ミント「お二人とも…お静かに」


ミントが二人を大人しくさせようとする。
エルフに見つかってしまってはまずい、それとは別に理由があった。

491: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:39:55.62 ID:4u4gBYpw0
ほむら「……」


ほむらがブッシュベイビーと戯れていた。


チェスター(…可愛いな)

クレス(…可愛い)

ミント(可愛い)

クラース(…可愛いな)

アーチェ(…)

アーチェ「ダメだー!可愛すぎて我慢できない!
     ほむらちゃんほむらちゃん!ほーむーらーちゃーん!」

ほむら「きゃっ!ちょっと…静かにして頂戴!」


その声に驚いたのかブッシュベイビーは慌ててほむらの手から離れて逃げていった。

492: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:40:32.89 ID:4u4gBYpw0
アーチェ「あっ…」

ほむら「…アーチェ・クライン。貴方は本当に本当に本当に愚かね」


ほむらは盾から拳銃を取り出す。


クラース「待て!アーチェ!早く謝れ!」

アーチェ「ごめんごめんごめん!ほむらちゃん!だから銃仕舞って!」

ほむら「一体何度忠告させるの。貴方はどこまで愚かなの」

ミント「ほむらさん!落ち着いてください!」

すず「皆さんお待たせいたし…。…どうかなされましたか?」

クレス「すずちゃん!いいところに!」

すず「はぁ…。ほむらさん?どうかなさいましたか?」

ほむら「…あら、すずじゃない。待ってたわ」

493: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:41:00.06 ID:4u4gBYpw0
どうやらほむらの今の一番のお気に入りはすずらしい。
あっさりと機嫌を直したほむらは銃を仕舞う。


ほむら「じゃあ連れて行ってもらえる?アーチェさんは面倒ばっかり起こすから、
    最悪置いて行ってもいいわよ」

アーチェ「ふえええええええん…ほむらちゃんに嫌われたよおおおおおおおおお」


実際、ほむらは里に招待されたのを喜んでいた。
自分の世界に近い風景があるかもしれない。それに、

友達の家に招待されたからだった。