忍者の里


ほむら「あぁ…落ち着く…いい所ね」


茅葺屋根の建物、農作物を育てる畑、小さな川も通っており近くに水車小屋もある。
昔の日本…一言で言えばそんな風景が広がっていた。


チェスター「他の町と全然違う雰囲気だな」

ミント「そうですね…でも、すごくのどかないい場所ですね」

すず「こちらへ…頭領の館へ案内します」




495: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:42:22.54 ID:4u4gBYpw0
一際大きな建物に案内されたクレス達。それを出迎えた一人の人物がいた。


「ようこそ、忍びの里へ。私はこの里の頭領、藤林乱蔵じゃ」


ほむら「藤林…?」

乱蔵「左様。そちらにいるすずは儂の孫じゃ」

クラース「つまり行く行くはすずもこの里の頭領という訳か」

すず「わたしは修行中の身、まだまだです」

乱蔵「立ち話もこれくらいにして、どうぞ奥へ。御客人」

496: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:42:59.73 ID:4u4gBYpw0
奥に通されたクレス達は畳が敷かれた床に座り込んだ。


ほむら「畳…懐かしいわ」

クレス「随分とこの里が居心地良さそうだね、ほむら」

ほむら「そうね。私の世界に似ている…というか昔の私達の世界って言っても過言じゃないわ」

クラース「そこまで似ているのか?」

ほむら「ええ。この畳も、周りの襖も、そして…このお茶も」


出された湯呑に入ったお茶を一口すする。ほんのりとした渋味、緑茶だ。


ほむら「…ふぅ。本当に落ち着くわ」

すず「気に入っていただけたようで何よりです」

ほむら「ありがとうね、すず。こんな良い所に招待してくれて」

すず「え…あ…はい。お礼…ですので…」

497: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:43:42.10 ID:4u4gBYpw0
チェスター「おい、どうした馬鹿女」

アーチェ「ううううう…」

ミント「先程の事、まだ気になさってるのですか?」

アーチェ「だってぇぇぇ…」

チェスター「元はと言えばお前が悪いんだろうが。っていつもそうか」

アーチェ「うえええん!ほむらちゃーん!」


ほむら「…」


ほむらはのんびりお茶を飲んでいる。

498: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:44:14.05 ID:4u4gBYpw0
クラース「ほむら…なんとかしてくれないか。五月蠅くてかなわん」

ほむら「放っておきましょう。たまにはいい薬よ」

クラース「はぁ…」

ほむら「すず、これ一枚頂いていい?」


ほむらは御茶請けに出された煎餅を一枚手に取る。


すず「はい、どうぞ召し上がってください」


膝にハンカチを広げ、一口サイズに割って口に運ぶ。
ポリポリと音を立てて噛み砕く。醤油の香ばしい味が口いっぱいに広がる。

ほむら「ああ…日本っていいわね」

アーチェ「ほむらちゃああああああん」

499: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:44:43.15 ID:4u4gBYpw0
食事まで暫く時間があるというので、ほむらは里を見て回ることにした。


ほむら(本当にのどかね…。時間がゆっくり進んでいるような感じ)


転校する前に住んでいた所も、見滝原も、風見野も…もっと都会だった。
しかしほむらはなぜか懐かしさを感じていた。


ほむら(日本で生まれ育った人はみんな同じような感想になるのかしら)


ほむらは畑の前で立ち止まる。色々な農作物が育てられていた。

500: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:45:12.81 ID:4u4gBYpw0
「おや、御客人…どうなさいましたか?」

ほむら「あ、いえ…何を育てているのかと思って」

「珍しいものじゃないですよ。大根とか…お芋とか。どこにでもある物です」

ほむら「でもこうやって育てている所を見るのは初めてで」

「確かに、売られている所か調理された後の姿だけ見たことがある人も多いですね」

ほむら(こうして、作物を育てている人も忍の人、なのよね…)


闘技場での出来事を思い出す。
倒れていた元々仲間だった忍に対して止めを刺した人達のことを。

501: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:45:54.47 ID:4u4gBYpw0
「どうかなさいました?」

ほむら「…一つ、聞きたいことがあるんだけれど」

「はい、なんでしょうか?」

ほむら「貴方も忍なのよね?」

「そうですね」

ほむら「今こうやって作物の手入れをしている貴方と、任務中の貴方はどちらが本当の
    貴方なのかしら?」

「…」

ほむら「…ごめんなさい。失礼な質問だったわ」

「いえ。…どちらも本当の私ですね」

ほむら「どちらも…?」

502: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:46:36.73 ID:4u4gBYpw0
「はい。確かに任務中は仮面を被っております。…ですが常に自分を殺す必要もないと思っています。
 次期頭領様はまだ幼く、常に自分を殺すよう努めておられるようですが…本当は純粋で優しい御方なのです」

ほむら「どうしてあの子はあんなに自分を抑えようとしているのかしら…」

「恐らくですが、次期頭領としての責任があると思っておられるのでしょう」

ほむら「責任…ね」

「皆の前に立つ為に、皆を引っ張る為になのでしょう。…我々も責任を感じています」

ほむら「…」

「御客人、このような頼みをしてはいけないのはわかっております。ですがお願いします。
 次期頭領様を…」

ほむら「大丈夫。私もあの子と仲良くしたいと思っているわ」

「…ありがとうございます」

503: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:47:08.81 ID:4u4gBYpw0
チェスター「お、こんなところにいたか」

ほむら「あら、チェスターさんどうしたの?」

チェスター「そろそろ飯だから呼びに来たんだよ」

ほむら「そう、わざわざごめんなさい」

チェスター「いいってことよ。じゃあ戻ろうぜ。腹ペコだ」

「この畑で穫れた野菜も食卓に並ぶはずです。ごゆるりとご賞味ください」

ほむら「ありがとう。楽しみにさせてもらうわ」

「…すずちゃんをよろしく頼みます」

ほむら「ええ。任されたわ」

504: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:47:42.61 ID:4u4gBYpw0
ほむら(和食…久しぶりね)


ほむらは食卓に並んだ料理を見渡す。
焼き魚、味噌汁、漬物、煮物、そして…茶碗に盛られたご飯。


すず「皆さんのお口に合うかはわかりませんが…どうぞ召し上がり下さい」

ほむら「…頂きます」


手を合わせ、食事前の挨拶。そしてお箸に手を付ける。
クレス達もほむらに合わせる様に同じ動作をする。


まずは味噌汁に口を付ける。ワカメと豆腐が入っていた。定番だがこれも懐かしい。

505: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:48:19.80 ID:4u4gBYpw0
ほむら「…落ちつく味ね。……この魚は鮎、かしら?」

すず「そうです。近くの川で穫れた魚です」


箸で身をほぐし口に運ぶ。鮎の香りと塩の味が広がる。

ほむらの箸は止まらなかった。次から次へと食卓に並んだ料理に箸を伸ばす。


クラース「箸…これは難しいな」

チェスター「あー!上手く掴めねぇ!」

アーチェ「食べたいのに…食べれない…こんなのひどいよ…あんまりだよ…」

すず「すいません…みなさんにフォークとスプーンを…」

506: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:49:02.12 ID:4u4gBYpw0
ほむら「もう駄目…動けないわ…」

クレス「普段の倍は食べてたんじゃないかい…?」

ほむら「懐かしい味で…つい…ね…」


ほむらは苦しそうにお腹を押さえ、縁側の柱にもたれかかっている。


すず「皆さん、お風呂の準備が整いました」

ほむら「…私はまだ動きたくないから皆先に入ってきて頂戴」

チェスター「じゃあ先にいってるぜー」

アーチェ「覗かないでよこのス  大魔王」

チェスター「へっ、誰がお前みたいな貧相な」

ほむら「…」

チェスター「いえ、なんでもないですすいません」

507: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:49:55.23 ID:4u4gBYpw0
ほむら「…ふう」

すず「ほむらさん、大丈夫ですか?」

ほむら「ええ…みっともないところを見せて申し訳ないわ」

すず「いえ、調理場の皆さんも喜んでいました。あれだけ美味しそうに食べて下さって」

ほむら「…恥ずかしいわね」

すず「お水と、こちらは漢方薬です」

ほむら「ありがとう。…すず、貴方はお風呂に行かなくてもいいの?」

すず「私は皆さんの後で構いません」

ほむら「そう…じゃああまりゆっくりしていては悪いわね」

すず「大丈夫です。楽になるまでゆっくりして下さい…少し皆さんの様子を見てまいります」

ほむら「わかったわ。私はもう少しここに居るわね」

すず「はい、ごゆるりと…では」

508: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:50:27.57 ID:4u4gBYpw0
すずが立ち去った後、誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。


乱蔵「調子はいかがですかな?」

ほむら「少しは楽になりました。ご迷惑をかけてしまい申し訳ありません」

乱蔵「いやいや、自分の家だと思って楽にしてくだされ」


乱蔵はそう言い、ほむらの隣に腰を下ろした。


乱蔵「…すずのことなんじゃが」

ほむら「なんでしょうか?」

乱蔵「この里で育ち、忍としてあの子は生きてきた」

ほむら「…」

509: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:51:07.41 ID:4u4gBYpw0
乱蔵「銅蔵とおきよがこの里を離れ、あの子は一層己を殺すようになってしまった。
   全て察しておったのじゃろう…」

乱蔵「そんなすずを我々は止めることができんかった…。そんな時に…先日の出来事が起きてしまった」

ほむら「すずのお父様と…お母様ですね」

乱蔵「如何にも…。すずの心は深く傷がついておる。…ほむら殿、恥を忍んでお願いがある」

乱蔵「すずを連れて行ってはもらえぬか?」

乱蔵「そしてすずの心を癒してやってほしい」

ほむら「…私の一存で決めるわけにはいきません」

乱蔵「そう…じゃな」

ほむら「ですが…皆が賛成して、すずも一緒に来たいというのなら私は構いません」

乱蔵「…引き受けてくれると申すか」

ほむら「はい。私とすずはもう…友達なので」

乱蔵「友達、か…」

ほむら「忍に友達なんて不要かもしれませんが…」

乱蔵「そんなことは有りませぬ。すずは自分に厳しくしておった。
   皆の手本になるように…厳しくな」

ほむら「…わかりました。皆には私から伝えておきます」

乱蔵「宜しく頼みましたぞ…ほむら殿」

510: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:51:39.05 ID:4u4gBYpw0
翌日


乱蔵「すずよ」

すず「なんでしょうか、お館様」

乱蔵「…今はそう堅くなくてもよいぞ」

すず「…分かりました。おじい様」

乱蔵「お前は一緒に行きたくはないか?」

すず「一緒に…?クレスさん達のことでしょうか?」

乱蔵「そうじゃ。お前自身で決めるがよい」

すず「…今この里を離れるわけには」

乱蔵「構わぬ。むしろダオスを早く倒さねば里の被害は増える一方じゃ」

すず「ですが…」

512: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:52:13.92 ID:4u4gBYpw0
乱蔵「すず、お前の本心を聞かせて欲しい」

すず「わたしの…」

すず「わたしは…あの方達と共に行きたいです」

乱蔵「そうか、分かった。…すずよ、世界は広い。お前の知らないものがまだまだ沢山ある。
   それを見て色々学んでくるがいい」

すず「その任務、しかと賜りました」

乱蔵「ファッファッ…。あまり友達を困らせるでないぞ。すずよ」

乱蔵「そして、困っていれば助けてやるのだぞ。皆もそう思っているはずだからの」

すず「…はい。ありがとうございます…おじい様」

513: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:53:17.63 ID:4u4gBYpw0
乱蔵「それではすずを頼みましたぞ」

クレス「はい。…すずちゃんよろしくね」

すず「はい。皆さん、よろしくお願いします」

ほむら「すず、よろしくね」

すず「こちらこそよろしくお願いします」

アーチェ「すずちゃん!」

すず「はい?」

アーチェ「ほむらちゃんは渡さないからね!」

すず「…はい?」

ほむら「…はぁ」

チェスター「なんだほむら、モテモテだな」

ほむら「…勘弁して頂戴」

アーチェ「ほむらちゃああん!そろそろ許してえええ!一日会話が無いだけであたし寂しくてえええ」

ほむら「ハイハイ…。もう怒ってないから」


抱きしめようと飛び込んできたアーチェをいつも通り片手で拒絶する。


アーチェ「むぐううううううううう」


514: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/20(水) 21:53:50.08 ID:4u4gBYpw0
すず「…賑やかですね」

クラース「すまないな…」

すず「いえ、これも勉強です」

クレス「すずちゃん…真面目だね」

ほむら(貴方がそれを言うのね)

クラース「では乱蔵殿。大切なお孫様、しかと御預かりします」

乱蔵「お気をつけて下され…英雄殿」

ほむら「すず、よろしくね」

すず「はい、ほむらさん。こちらこそよろしくお願いします」


すずを仲間に迎え入れたクレス達はアルヴァニスタへ向かった。

530: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:14:34.93 ID:B3xOgqEx0
アルヴァニスタ


クラース「さて…これからの事なんだが」


クラースが話を切り出す。


クラース「時間の剣を手に入れる為にはダイヤモンドの指輪、炎の剣、氷の剣が必要だ。
     ダイヤモンドは以前トールで手に入れてある」

クレス「残るは二種類の剣ですね」

クラース「そうだな。それで剣の在り処なんだが…」


クラースはチラリとほむらを見る。


ほむら「…」


明らかにほむらの顔が強張っている。その理由は明白だった。

531: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:16:26.40 ID:B3xOgqEx0
クラース「灼熱の大地と…極寒の大地。ほむら、大丈夫か?」

ほむら「心が折れそうね」

チェスター「なんだ?そんなにほむらは暑さと寒さに弱いのか?」

アーチェ「オリーブビレッジに行ったとき本当に大変だったんだよ…」

すず「あのー」

ミント「どうしたの?すずちゃん」

すず「別に全員で行く必要もないのではありませんか?」

クラース「…どういうことだ?すず」

すず「今七人いるわけですし、三人と四人に分かれて攻略すれば単純に
   かかる時間も半分になり効率的になるんではないかと」

クラース「確かにそうではあるが…さすがに危険ではないか?」

すず「確かに危険度は上がりますが皆さんの実力を考慮すれば大丈夫ではないかと」

クラース「ふむ…」


クラースは少し考え込む。確かに魅力的な案ではあるが…

532: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:17:07.71 ID:B3xOgqEx0
すず「因みにですが、三人で行く場合はわたしとアーチェさん、
   それにほむらさんが最適ではないかと」

ほむら「…私がなぜ少ない方に入っているの?すず」

すず「いえ、わたしが前線を担当してアーチェさんが後衛、
   ほむらさんには少し負担がかかるかもしれませんがフリーで動いて頂こうかと」

ほむら「でも…私は……」

すず「自信が無いのですか?」

ほむら「っ…」

すず「…すいません、言葉が過ぎました。三人側は一人少ない分どうしても
   一人一人の仕事量が増えてしまいます」

すず「ですので、ほむらさんのような冷静に全体を見回せて…更に複数の役割をこなせる
   ほむらさんは少ない側に必須なのです」

ほむら「…必須、ね」

533: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:17:44.41 ID:B3xOgqEx0
すず「はい。ですが…これはあくまでわたしの案です。参考程度にお願いします」

クラース「他に意見がある奴はいないか?」

チェスター「まずはほむらの意見を聞くべきだと思うぜ、旦那」

クラース「それもそうだな…すまない。ほむら、どうだ?」

ほむら「私は…」

クラース「先程すずも言った通りこの案はほむらへの負担が大きい。
     お前がいいというのならこの案を取り入れて他の案を募ろうと思うが」

ほむら「…この案でいいわ」

534: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:18:32.11 ID:B3xOgqEx0
クラース「大丈夫なのか?」

ほむら「ええ。無茶を恐れるなんて私らしくなかったわ」

ほむら「すず、アーチェさん。危険な攻略になるかもしれないけれど…宜しくね」

アーチェ「ほむらちゃんなら大丈夫だって!頼りにしてるよ」

すず「こちらこそよろしくお願いします」

クレス「じゃあ方針は決まったね。あとは…」

ほむら「あと一つ、お願いがあるわ」

ミント「お願いですか?」


ほむら「私は暑いのは嫌よ」

535: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:19:44.44 ID:B3xOgqEx0
フリーズキール


ほむら「誰よフリーズキールにしようなんて言ったのは」

アーチェ「ほむらちゃんだよ…さぶぶぶぶ」

すず「…」

ほむら「すず?どうしたの?」

アーチェ「ちょっ!?すずちゃん凍ってる!」

ほむら「は、早く街に運びましょう!」

536: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:20:23.53 ID:B3xOgqEx0
すず「すいません…死ぬかと思いました…」

ほむら「幸先不安ね…」

アーチェ「でもなんとかしないとねー」

ほむら「…」

すず「不安ですか?」

ほむら「…少し、ね」

すず「ほむらさんなら大丈夫です。ほむらさんの力は必ず必要になります。
   自信を持ってください」

ほむら「…ありがとう」

アーチェ「じゃあ行こっか!あの四人より早く手に入れて帰ろ!」

ほむら「そう簡単に行くとは思えないけど…まあ行きましょうか」

すず「そうですね。外よりはまだ洞窟内のほうが寒くはないでしょうし」

537: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:21:10.47 ID:B3xOgqEx0
氷の洞窟


ほむら「なんで洞窟内でも吹雪いているのかしら?」


半分怒った口調で質問を投げかける。だが答えれる者は勿論いない。


すず「すいません、安易な発言でした…」

アーチェ「いや、誰だってそう思うよすずちゃん…」

ほむら「とりあえず動きましょう。立ち止まっていたら体温を奪われるわ」

すず「そうですね」

アーチェ「あれ?ほむらちゃん意外と寒さは平気?」

ほむら「頭がちゃんと働いている内はね…。暑いと意識が朦朧として魔力を扱うのも大変なの」

アーチェ「じゃあ尚更早く進まないとね…こっちも凍っちゃうよ」

538: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:22:03.62 ID:B3xOgqEx0
そう言い、進もうとした矢先。
奥から大きな足音を立てて何かが近づいてくる。


ほむら「早速…ね」

すず「そのようですね。わたしが前に出ます」

アーチェ「頼んだよ!すずちゃん!ほむらちゃん!」


姿を現したのは、闘技場でクレスが相手をした石像…もとい氷像のモンスターだった。


ほむら「よりにもよって…って感じね。ここはアーチェさんに任せるわ」

アーチェ「了解!」


アーチェは詠唱に入る。ここからはほむら達の仕事だ。

539: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:22:36.48 ID:B3xOgqEx0
ほむら「私も前で牽制するわ。スピードで攪乱しましょう」

すず「賛成です。では…行きます」


飛ぶように地面を走る。足を活かしての戦いはすずの独壇場だろう。


ほむら(速いわね…。それも、ただ速い訳じゃない)


ゴーレムがすず目掛けて払うように腕を振る。
すずはゴーレムの間合いに入る直前で停止し、大きく右方向に跳んだ。


ほむら(じゃあ私は――)


ほむらも追うようにゴーレムに向かい、同じくゴーレムの間合いの手前で止まる。
そこからすずとは違い、左方向に跳ぶ。

素早い動きについていけないゴーレムは必死に抵抗するように腕を振るうが、
勿論すずとほむらを捉えることはできない。

540: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:23:24.38 ID:B3xOgqEx0
すず「忍法…曼珠沙華!」


取り出した手裏剣をゴーレムに投げつける。
手裏剣はゴーレムの右肩に当たった瞬間、爆発を起こした。


ほむら「…そこ!」


ダメージと若干のヒビが入ったゴーレムの右肩を狙いすまし、飛び蹴りを見舞う。
少しだけゴーレムの身体が欠ける。


ほむら「流石に頑丈ね…っと」


そのままゴーレムの身体を蹴り、逃げる様にして距離を取る。
距離を取るのを待っていたかのようにアーチェが呪文を唱えた。

541: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:24:25.86 ID:B3xOgqEx0
アーチェ「いくよ!ファイアストーム!」


巻き起こる炎の嵐。見る見るうちにゴーレムの身体にヒビが入っていく。


ほむら「今度こそっ…」


再びほむらの飛び蹴り。今度の狙いは首から上だった。
飛び蹴りが刺さった瞬間、ゴーレムの顔が音を立てて割れた。


ほむら「!?」


だが、ゴーレムはまだ動きを止めなかった。
最後の抵抗と言わんばかりに拳を振り上げ、ほむら目掛けて打ち下ろす。


すず「忍法…鎌鼬!」


作り出した真空の刃がゴーレムの腕と足を切り刻む。


ほむら「…助かったわ」

すず「いえ、御無事で何よりです」


足を切られたゴーレムは体の支えが無くなり、地面に倒れ込む。
自分の重さが災いし、倒れた込んだ瞬間に身体が砕け散った。

542: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:25:04.75 ID:B3xOgqEx0
アーチェ「おっつかれー」

すず「お疲れ様でした」

ほむら「ごめんなさい、少し攻撃的過ぎたわ」

すず「今のような魔物には生半可な攻撃は通用しませんからね。多少前のめりになるのも仕方有りません」

ほむら「仕方ない、ね。……それで済む間はいいんでしょうけど」

すず「焦らずいきましょう。わたし達がついていますので」

アーチェ「そうそう♪気楽にね」

ほむら「…ええ、ありがとう」

543: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:26:13.26 ID:B3xOgqEx0
結界内


ほむら「テント」


ドサッ


ほむら「食材」


ドサッ


ほむら「食器」


ガシャ


ほむら「料理道具」


ガシャ



すず「これは…忍法!?」

アーチェ「新鮮な反応ありがとすずちゃん」

544: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:27:28.10 ID:B3xOgqEx0
アーチェ「あー…スープが温かい…」

ほむら「身体が温まるように生姜とカレーを入れてみたわ」

すず「少し…辛いですね」

ほむら「すずには少し辛過ぎたかしら?ごめんね」

すず「いえ…頑張って飲み干します」

アーチェ「ほむらちゃん!お替りちょーだい!」

ほむら「はいはい、ちょっと待ってね」

アーチェ「ほむらちゃん料理上手いよねぇ…羨ましいなぁ」

545: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:28:03.65 ID:B3xOgqEx0
すず「クラースさんもミントさんもチェスターさんもお上手ですよね」

アーチェ「すずちゃんも上手じゃん!」

すず「そうですか?和食ぐらいしか作れませんが」

ほむら「作り方さえ覚えたらすぐ美味しいものになるわ、すずの腕前ならね…はい。アーチェさん」

アーチェ「ありがとー♪まああたしは食べる専門だから美味しいものが食べられて満足なのじゃ」

ほむら(また料理する、って言い出すんじゃないかと思って一瞬ヒヤッとしたわ)

546: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:28:45.43 ID:B3xOgqEx0
すず「ご馳走様でした」

ほむら「お粗末様でした。お茶にする?紅茶にする?」

すず「すいません、お茶をお願いします」

ほむら「わかったわ」

アーチェ「あー…お腹いっぱいで眠気が…」

ほむら「冗談抜きで寝たら死ぬわ。我慢して」

アーチェ「ほむらちゃんとすずちゃんが抱き付いてくれたら目が覚めるかもぉぉ」

ほむら「アーチェさん、水がいい?熱湯がいい?」

アーチェ「はい…起きます…」

すず「あー…お茶が美味しいです」

ほむら「すずって結構自由なときあるわよね」

547: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:29:29.69 ID:B3xOgqEx0
氷の洞窟 最深部


フェンビースト「我が名はフェンビースト」

アーチェ「うわっ、狼が喋った!」

ほむら「もう今更驚かないわ」

すず「…闘技場で見たタイプに似ていますね」

ほむら「そうね…ちょっと厄介そうな相手ね」

フェンビースト「我が護神刀にはフェンリル様の魂が封印されていのだ!」

フェンビースト「渡すわけにはいかぬ!」

ほむら(来るっ!)

すず「皆さん!来ます!」

すず「アーチェさん、普段よりも下がり気味でお願いします。隊列が間延びしてしまいますが」

アーチェ「りょうかい!」

548: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:30:38.13 ID:B3xOgqEx0
この魔物の攻撃パターンは、すずが以前闘技場で見ている。
速さを生かした突進、爪の殺傷能力の高さ、そして――


フェンビースト「グオオオオオ!」


地面を叩き付け、氷の槍が作り出される。

この攻撃を警戒し、すずは普段よりもアーチェを下がらせたのだった。


ほむら「すず、この魔物と貴方、どっちが速いかしら?」

すず「小回りではわたしが、直線的な速さでは向こうという感じです」

ほむら「…警戒が必要ね」


フェンビーストが氷の槍を投げつけてくる。


ほむら(撃ち落とせないこともない…けど)


すずとほむらは最小限の動きで、丁寧に氷の槍をかわしていく。

549: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:31:55.28 ID:B3xOgqEx0
フェンビースト「グオオ!」


猛々しい咆哮を上げ、フェンビーストが突進してくる。


ほむら(速い!)


ほむらは右に、すずは左に跳ぶ。
フェンビーストはほむらを追ってきた。


ほむら(やはり遅い方の私を追ってきたわね)


盾から拳銃を取り出しフェンビーストの足に狙いをつけ、引き金を引いた。


フェンビースト「鈍いな!動きも攻撃も!」


銃弾を手の甲で弾き、手を振り上げる。


ほむら「くっ!」


足に魔力を集中させ、大きく後ろに跳び攻撃を逃れようとする。
しかしフェンビーストはその行動を読んでいる。

550: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:32:46.04 ID:B3xOgqEx0
ほむら(振りきれ…ない!)

フェンビースト「まずは一人!」

すず「忍法!曼珠沙華!」


炎を纏った手裏剣がフェンビーストを襲う。
先程と同じようにフェンビーストは手の甲で手裏剣を弾こうとした。
しかし、触れた瞬間に爆発した手裏剣に、腕が弾かれ防御が崩れる。


フェンビースト「ぐっ!」

すず「隙ありです」


一気に詰め寄り、フェンビーストの懐に入り込む。
直線的な速さ以外で全てを上回っているその速さでフェンビーストを翻弄する。


フェンビースト「ちょこまかと!」

すず「…!」


苛立ち、攻撃が大振りになったところを冷静に咎めていく。
フェンビーストの身体に少しずつ傷が増える。


ほむら(流石にあの動きは真似できないわね)

551: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:33:42.97 ID:B3xOgqEx0
いつでもすずのフォローができる位置でほむらは待機する。
その時、突然すずが振り向きほむらと目を合わす。


ほむら(何か狙っている…?)


すずはそのままほむらの後方に視線を向け、更に自らの頭上に一度視線を向けた。


ほむら(あれは…なるほどね)


すずの思惑を察知したほむらはフェンビーストの意識を割かせるため距離を詰める。


フェンビースト「ぬううう!邪魔だ!」


フェンビーストは地面を叩き、氷の槍を再び生み出した。
その瞬間をアーチェが狙う。


アーチェ「流石にあたしを無視しすぎじゃない!?ファイアストーム!」


アーチェが生み出した炎の嵐が、フェンビーストが作り出した氷の槍を溶かす。


フェンビースト「がああ!だがっ!この程度の炎で!」


炎に身を焼かれながらもすずに向かって爪を振るう。
その爪はすずを捉え、すずの身体は引き裂かれる。

552: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:34:43.62 ID:B3xOgqEx0
すず「もちろん変わり身ですが…。忍法、飯綱落とし!」


いつの間に跳んだのか、上空から体重を乗せた一撃がフェンビーストの肩に食い込んだ。


すず「すいません少し外しました」

ほむら「いえ、お疲れ様だったわね。…これで終わりよ」


ほむらは時間を停める。そして狙いをつけ、弾を連射する。
フェンビーストの頭上にある氷柱目掛けて。


ほむら「さっきのアーチェさんの呪文でかなり脆くなってるでしょうね」

553: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:35:37.02 ID:B3xOgqEx0
時間を動かす。停まっていた弾が動き出し、氷柱の根元部分に命中する。

ほむらとすずが止めと言わんばかりにフェンビーストに突っ込む。
その動きに気を取られ、フェンビーストは頭上から降ってきた氷柱の雨に串刺しにされた。


フェンビースト「ガハッ…」

すず「後はわたしが…、忍法鎌鼬!」


真空の刃に切り刻まれ、断末魔もなくフェンビーストはその場に崩れ落ちた。

554: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:36:24.33 ID:B3xOgqEx0
ほむら「終わったわね」

アーチェ「二人ともお疲れー」

すず「お二人とも、お見事でした」

ほむら「戦闘中に目が合ったのは私とアーチェさんの動きを確認していたのね」

すず「はい。そろそろアーチェさんの炎系の呪文が飛んでくるのではないかと思いまして」

アーチェ「まあ炎系以外の選択肢は無いよねー」

ほむら「なんだかんだ言って結局すずが一番冷静だったってことね」

すず「目配せだけでわたしの意図を読み取ってくれたほむらさんのおかげです。
   それにフェンビーストに気が付かれないように氷柱を落とすのはほむらさんにしかできません」

ほむら「…時間停止が通用すれば、ね」

すず「時間停止が効いていなくても別の手も考えていたんですよね」

ほむら「…貴方も鋭すぎるわ、すず」

555: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:37:12.68 ID:B3xOgqEx0
すず「これが…氷の剣ですね」


すずが地面に突き刺さっている剣を引き抜く。


アーチェ「お目当てのものゲェット!早く帰ろ!寒い寒い!」

ほむら「温かい布団に包まれて眠りたいわ…」

アーチェ「もー、仕方無いなぁほむらちゃん…あたしはいつでもいいんだよ?」

ほむら「じゃあすず、帰りましょうか」

すず「はい。行きましょう」

アーチェ「寒い…寒いよ…」

556: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:38:12.16 ID:B3xOgqEx0
フリーズキール


氷の洞窟を脱出した頃には辺りはすでに薄暗くなっていた。


ほむら「流石にこのまま飛ぶ気にはならないわね」

すず「後ろに乗るわたしは問題ありませんが、操縦するほむらさんがそう言うのなら
   今夜は宿で一泊しましょうか」

アーチェ「賛成!大賛成!あったかい布団で寝よう!そうしよう!」

ほむら「そうね。じゃあ早速宿に向かいましょう」

557: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:38:43.43 ID:B3xOgqEx0
宿屋


主人「現在、空き部屋が一部屋のみとなっております。申し訳ございません」

ほむら「仕方ないわね…。その一部屋でいいわ」

主人「かしこまりました。こちらが部屋の鍵です。どうぞごゆるりと」

アーチェ「おっしゃー!あたしに続けー!」

ほむら「走らないで」

すず「はぁ…暖炉が暖かいです」

ほむら「一瞬で暖炉まで移動しないで」

アーチェ「ほらー!早くー!」

ほむら「大声出さないで」

すず「薪の爆ぜる音が心地いいです…ここで眠れそうです」

ほむら「眠らないで」

ほむら「なんで氷の剣を手に入れた後のほうが大変なのかしら」

558: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:39:56.44 ID:B3xOgqEx0
宿屋 客室


ほむら「さて、現状を把握しましょう」

すず「はい」

アーチェ「そうだね」

ほむら「私達は三人。それに対してベッドが二つ…ここまではいいわね?」

すず「はい」

アーチェ「うん」

ほむら「じゃあ私とすず、もう片方にアーチェさんで決定で」

アーチェ「異議あり!」

ほむら「すずは?」

すず「異論ありません」

559: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:40:55.29 ID:B3xOgqEx0
ほむら「二対一で可決、と」

アーチェ「あたし絶対勝ち目ないよねこれ!?」

ほむら「日頃の行いよ」

すず「申し訳ありません。別にアーチェさんと同じベッドが嫌という訳ではないのですが…。
   体格を考えるとこの組み合わせが最善策かと」

アーチェ「うう…寒いよ…心が寒いよ…」

ほむら「それじゃおやすみ、アーチェさん」

すず「すいません。アーチェさんおやすみなさい」

560: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:41:36.54 ID:B3xOgqEx0
部屋の灯りが消え少し経った頃だった。


アーチェ(ふっふーん。そんな簡単にこのアーチェさんは諦めませんよ)


音を殺し身を起こす。そのままほむらとすずが寝ているベッドに手をかけようとした、その時だった。


すず「…敵襲!」


目にも止まらぬ速さで身を起こし、アーチェが伸ばした手を握り
手首を返しただけでアーチェの身体が綺麗に宙を舞った。

561: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:42:17.99 ID:B3xOgqEx0
アーチェ「いだいいだいいだいいだいギブギブギブ!」

すず「ふぇ…?アーチェさん?何をなさっているんですか」

アーチェ「腕と手首が綺麗に決まってるの!痛い痛い!」

ほむら「…五月蠅いわね、何をしているのよ……」

アーチェ「ううう…酷いよあんまりだよ…」

すず「申し訳ありません…。つい身体が自然に」

アーチェ「うん。まず手を離してくれると嬉しいな、って思ってしまうのでした」

ほむら「はあ…このままだと寝れ無さそうね…」

アーチェ「お願いします!どうかあたしもそちらのベッドで!」

すず「…どうしましょうか」

ほむら「どうせ断ってもまた入り込もうとするわ。…三人は流石に狭いけど何とか寝れるでしょう」

アーチェ「わーい!ほむらちゃんすずちゃん大好き!あたし真ん中ね!」

ほむら「…寝ましょうか」

すず「そうですね…」

562: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:43:21.42 ID:B3xOgqEx0
アーチェ「いやあ、あたしは今とても幸せですよ」

ほむら「そう…」

すず「zzz」

アーチェ「すずちゃんもう寝ちゃったんだ」

ほむら「すずが一番動き回ってくれていたもの。疲れるもの無理ないわ」

アーチェ「そういう素振りは一切見せないよね、すずちゃん…ほむらちゃんも」

ほむら「…こっそり手を抜いて休みのが上手いのよ」

アーチェ「もう…。ホラッ、狭いでしょ?もっとこっちおいで」

ほむら「…誰のせいだと思っているのかしら?」

アーチェ「いいからいいから」

ほむら(結局、最後はアーチェさんに流されてしまうわね…)

ほむら「…私ももう寝るわ」

アーチェ「うん、おやすみ。ほむらちゃん」

ほむら「一つ忠告しておくわ」

アーチェ「え?」

ほむら「すずは意外と寝ぼけたら何をするかわからないわ。気を付けてね」

563: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/22(金) 23:44:02.15 ID:B3xOgqEx0
アーチェはついさっきの出来事を思い出した。完全に固まっている。


アーチェ「えっと…ほむらちゃん。…いえ、ほむら様もしよろしければ場所を変わって…」

ほむら「…zzz」

アーチェ「わーい寝るのはっやーい」

すず「…んんっ」

アーチェ「!?」

すず「zzz」

アーチェ(逆に考えよう、ずっと二人とくっついてる感触を味わえると)

ほむら(おやすみ、アーチェさん)


明日は合流予定になっているアルヴァニスタへ飛ぶ。
睡眠不足が確定しているアーチェを連れての空の旅が待っていた。

570: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:03:29.46 ID:szsiafxq0
トレントの森


時間の剣を手に入れる為に、クレス達はトレントの森に訪れていた。


すず「…皆さん。少しお話があります」

チェスター「ん?どうしたんだすずちゃん」

すず「わたしは一度里に戻って、試練を受けたいと思っています」

ミント「試練…ですか?」

すず「はい。里にある、己を鍛える為の試練の洞窟と呼ばれる地があります」

クレス「じゃあ僕達も一緒に…」

すず「いえ、試練を受けれるのは里の忍のみ。それに一人で進まねばなりません」

571: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:04:22.45 ID:szsiafxq0
クラース「ふむ…。まあこちらは時間の剣を手に入れるだけだからな。すずが抜けても支障は無いだろう」

すず「ありがとうございます。それではわたしはここで一度失礼します」

ほむら「…」

クレス「ほむら、気になるかい?」

ほむら「そうね。でも…」

クラース「気になるのならついていってやればいい」

ほむら「…すずは一人で進まないといけないと言っていたわ」

クラース「なら待っていてやればいい」

ほむら「えっ…」

クラース「待っていてくれる者がいるだけでもすずの助けになるんじゃないか?」

572: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:05:03.31 ID:szsiafxq0
ほむら「…行ってもいいのかしら」

チェスター「友達だろ?行ってやりな」

ミント「こちらは大丈夫ですので。行ってあげてください」

ほむら「皆…ありがとう」


ほむらは礼を言い、すずに追いつく為に全速力で追いかけていった。


クラース「さあ、我々も時間の剣を手に入れてすずを迎えにいくぞ」

クレス「そうですねクラースさん。行きましょうか」

573: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:06:11.51 ID:szsiafxq0
ほむら「すず!」

すず「ほむらさん…?一体どうして…」

ほむら「ついていってやれって、待っていてやれって…皆が、ね」

すず「…そうですか」

ほむら「迷惑だったかしら?」

すず「いえ、……嬉しい、です」

ほむら「…よかった。じゃあ行きましょうか」

すず「はい」


二人はトレントの森を歩く。試練を控えているすずは若干緊張しているようにも見えた。

574: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:07:17.82 ID:szsiafxq0
ほむら「すず、緊張してる?」

すず「多少は…ですが大丈夫です。問題ありません」

ほむら「すずは強いわね」

すず「そんなことありません。わたしはまだまだ未熟です」


ほむらはすずの顔を見る。最初会った時よりも感情が表に出るようになった気がする。
だが、未来から来たすずはもっと感情豊かであった。


ほむら(流石にまだ時間はかかりそうね)

すず「? どうしました?」

ほむら「いえ、なんでもないわ」

すず「はあ…」


少し、沈黙が流れる。

575: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:07:59.62 ID:szsiafxq0
ほむら(どんな会話をすればいいのかしらね)


ほむら「…すずはどんな食べ物が好きなの?」

すず「好きな食べ物、ですか?わたしはお豆腐と…すきやき、ですね」

ほむら「すきやき?なんか意外ね」

すず「…思い出の料理なんです。……父上と、母上と」

ほむら(…やってしまったわね)


地雷を踏んでしまった気がする。とても大きな。


ほむら「…ごめんなさい」

すず「いえ、気になさらないでください。…ほむらさんのお好きな食べ物は?」

576: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:08:41.29 ID:szsiafxq0
ほむら「私は…」


何だろう?と考えた。
こっちの世界に来るまでは全てにおいて無頓着だった。

ほむら「…何かしらね。食事は栄養が摂れれば何でもいいと思っていたから」

すず「栄養が摂れれば、ですか」

ほむら「ええ。必要な栄養が摂れる栄養食品とかそんなものばかり食べていたわ」

すず「兵糧丸のようなものでしょうか?」

ほむら(確か…戦国時代の携帯食品の事よね)

ほむら「流石にそれよりは味はマトモだと思うわ。食べたことはないけどね」

すず「意外といけますよ?食べてみますか?」

ほむら「持っているのね…そういえば、ちょっと待って」


ほむらは思い出したかのように盾の中を探る。――あった。

577: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:09:26.56 ID:szsiafxq0
ほむら「じゃあ交換にしましょう?これが私の世界の携帯食品よ」


ほむらにとっては馴染みのある、しかし久しぶりに見た黄色いパッケージ。


すず「ありがとうございます。では一粒どうぞ」

ほむら「じゃあ頂くわね」


すずとほむらが同時に、自分の世界のものじゃない食品を口にした。


ほむら(ゴリゴリする…。美味しくない…。でも不味くもない。
    ……噛めば噛むほど甘味がでてきたような気がする)

すず「口の中の水分がなくなりますねこれ。パサパサします」

ほむら「…ご馳走様。なんか不思議な食べ物だったわ」

578: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:10:10.03 ID:szsiafxq0
すず「どうですか?美味しいと思うんですが」

ほむら「えっ?…これが?」

すず「はい。ほむらさんから頂いた食品も美味しいと思いましたが…、
   わたしはやはり兵糧丸の方が好みですね」

ほむら(忍者って…舌も鍛えられているのかしら?)

すず「そういえばアーチェさんの作った料理だけ食べたことないんですよね。今度食べt

ほむら「死にたくなければやめなさい。命を粗末にするのは許さないわ」

すず「そんな大袈裟な…」

ほむら「今度すずにも聞かせてあげるわ。クラースさんの悲劇を」

すず「は…はあ…」


悲劇は、繰り返してはいけない。

579: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:10:50.25 ID:szsiafxq0
試練の洞窟


ほむら「…じゃあ気を付けてね。いってらっしゃい」

すず「はい。では行ってきます」


ほむらを残し、すずは洞窟の奥へと消えていった。
静寂が辺りを包み込む。


ほむら(…)


ほむらは待つ。すずが無事に帰ってくるのを信じて。


ほむら(…!?)


刀と刀がぶつかり合う音が聞こえてくる。
硬いものが地面に落ちた音、爆発する音…人が倒れる音が聞こえた。

580: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:12:00.93 ID:szsiafxq0
ほむら(…すず!?)


再び静寂が辺りを包み込んだ。
暫くして先程より遠い場所から剣戟の音。


ほむら(無事に進めているのね…よかった)

ほむら(…待つだけしかできないことがこれほど辛いなんて)


それでもほむらは待った。待つしかできなかったから。


どれほどの時間が過ぎただろうか。ほむらはその場で立ったまま動かずにすずの帰りを待つ。


ほむら(…!? 足音が…)

ほむら(すず!)

581: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:12:59.01 ID:szsiafxq0
すずが帰ったきた。忍び装束のあちこちが破れ、出血もしている。


すず「…お待たせして……申し訳ございません…うっ」

ほむら「すず!」


倒れ込みそうになったすずをほむらが支える。


ほむら(深い傷は見当たらない…けれどあちこちから出血してるわ)


すず「…はぁ…はぁ」


すずの呼吸が荒い。ダメージと疲労がかなり溜まっているようだ。


ほむら(私も…すずを…皆を助けることが出来たら…!)


すずを支えている手に思わず力が入る。


すず「うっ…!……なんだか…温かい感じがします」

ほむら「これは…」

582: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:13:31.28 ID:szsiafxq0
すずの傷口が少しずつだが塞がっていく。間違いない、治癒の力だ。


ほむら(私が…やっているの?)


回復に特化した魔法少女のそれと比べたらとても小さな力だったが、
今のほむらにとってはとても大きな力に感じた。

そして、この発見がこれからの戦いへの希望となった。

583: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:14:06.79 ID:szsiafxq0
ほむら「…試練は、終わったの?」

すず「…はい。乗り越えることが出来ました…これがその証です」

ほむら「これは、刀と…手紙?」

すず「…父上からです」

ほむら「……もう読んだの?」

すず「読みました。お前には足りないものがある、と」

ほむら「足りないもの…」

すず「一体、何だと思いますか?」

ほむら「さあ…。それに、もし分かっていてもそれは教えてはいけないことだと思うわ」

584: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:14:43.28 ID:szsiafxq0
すず「おっしゃる通りですね。自分で見つけれる様、精進致します」

ほむら「頑張って。それと…おめでとう、すず」

すず「こちらこそ…ありがとうございます。待っていてくださって」

ほむら「待つだけしかできないのがこれ程辛いと思わなかったわ」

ほむら(アルテミスも…まどかも…こんな気持ちだったんでしょうね)

すず「わたしも…待っていてくれる方がいるのがこれ程心強いとは思いませんでした」

ほむら「…お互いに新しいことを発見できてよかったわね」

すず「そうですね。…治療、ありがとうございました。もう大丈夫です」

ほむら「じゃあ皆のところに戻りましょうか」

すず「はい」

585: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:15:57.70 ID:szsiafxq0
アーチェ「ほむらちゃーん!すずちゃーん!」


試練の洞窟を出るといつの間に合流したのか、アーチェを先頭にクレス達が迎えに来てくれていた。


ほむら「あら、迎えに来てくれたのね」

すず「わざわざ申し訳ございません」

クラース「いや、気にしないでいい。そっちも無事に終わったようだな」

すず「はい。おかげ様で試練を乗り越えることが出来ました」

チェスター「頑張ったなすずちゃん。まっ、こっちも試練を受けるハメになっちまったんだけどな」

ほむら「まさか…オリジンを?」

クラース「ああ。まさか向こうから言いだしてくれると思っていなかったがな」

ほむら「…みんなも無事でよかったわ」

クラース「自分だけ楽をしただなんて思わないでいいぞ?すずも心の支えになっただろうしな」

すず「はい。ほむらさん、本当にありがとうございました」

ほむら「クラースさん…すずちゃん……ありがとう」


586: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:16:57.05 ID:szsiafxq0
ミント「これからどうしましょうか?」

すず「今晩は是非ここで一泊していってください。皆さんお疲れでしょうし」

ほむら「あらいいの?またお呼ばれされて」

すず「はい。来ていただけると嬉しいです」

クラース「ではお言葉に甘えようか。すずもほむらも疲れているだろうしな」

チェスター「今日こそあの箸とかいうやつを使いこなしてやるぜ」

アーチェ「ほむらちゃん!今日こそ一緒に温泉入ろう!」

ほむら「今日で待つことにも少し慣れたし、貴方が温泉から出てくるまで待つことにするわ」

アーチェ「そーんーなー!」

クレス「…」

587: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:18:29.77 ID:szsiafxq0
クレスは会話に参加せず、腰に携えた時間の剣に視線を向けている。


ほむら「それが時間の剣ね」

クレス「…ああ。これがあれば今度こそダオスを逃がさずに倒せるはずだ」

ほむら「いよいよ終わりが近いわね」

クレス「そう…だね。」

ほむら「…みんなが待っているわ。行きましょう」

クレス「…ああ、そうだね。行こうか」


旅の終わりが近づいている。
別れの時が近づいている。

588: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:19:19.75 ID:szsiafxq0
アルヴァニスタ


情報収集の為、一度アルヴァニスタを訪れたクレス達だったが思わぬ足止めを受けていた。


クラース「この雨ではレアバードで飛びのは諦めた方がいいな」


窓の外を見つめ、クラースは今日の移動は諦めることを提案した。


チェスター「そうだな旦那。風邪でも引いちゃたまんねえからな」

クラース「我々の中で風邪を引くデリケートな奴は限られているがな」

チェスター「だってよ、アーチェ」

アーチェ「だってさ、チェスター」

チェスター「なんだと!?」

アーチェ「なによ!?」

589: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:20:11.86 ID:szsiafxq0
ほむら「一生二人でやってなさい…。じゃあ今日は一日フリーってことね」

クラース「そうだな。今日は各自自由に過ごしてくれ。…勿論迷惑はかけないようにな」

ミント「しかし…急に時間ができてもどう過ごすか悩んでしまいますね」

クレス「そうだね。何をしようかな…」

すず「皆さん、よかったら少し協力して頂きたいことがあるのですが」


そう言い、すずは全員に紙とペンを配り出した。

全員配られた紙に視線を向けた。何か書かれている。


[ほむらさんへ。皆さんの事をどう思っていますか?]

クレスさん

ミントさん

クラースさん

チェスターさん

アーチェさん

590: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:20:56.35 ID:szsiafxq0
ほむら(私に配られた紙には私の名前が無いのね。皆も同じかしら)

チェスター「なんだこりゃ」

すず「そのままの意味でとらえてもらって構わないです」

クラース「なぜこんなことを?」

すず「皆さんの仲の良さが気になっていまして…。何か理由があるのかと」

ほむら「なるほどね」

ミント「少し…恥ずかしいですね」

クレス「うーん…皆のことをどう思っているか、かぁ」

アーチェ「まー他に特にやることもないしあたしはいいよ!じゃあ書いてくるね」

クラース「そうだな。では私も失礼する」


流石に書いているところを見られるのは恥ずかしいようで、全員が誰もいない場所に向かう。


ほむら(どう思っているか、か…)

ほむら(そういえばこの紙…)

ほむら(…皆のこと、ですものね)


クスッ、っと少し笑みをこぼし、ほむらは自分の気持ちを綴りはじめた。

591: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:21:33.75 ID:szsiafxq0
すず「皆さん、ありがとうございました」


すずは全員から先程の紙を受け取り、大事そうに抱えている。


チェスター「見られるとなるとやっぱり恥ずかしいな」

クレス「そうだね…。すずちゃん、それは皆にも見せるのかい?」

すず「いえ、これはもうわたしの物です。見せません」

アーチェ「えー!ずるいよすずちゃん!」

クラース「見たところで恥ずかしがるだろうお前らは」

ミント「見たいような…見たくないような」

すず「では失礼します」


そう告げるとすずはその場から逃げる様に走っていった。


アーチェ「あ!ちょっと!」

ほむら「さて…、すずがいなくなったところで私からもお願いがあるのだけれど…」

592: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:22:37.79 ID:szsiafxq0
すずは誰も来なさそうな場所を選び、先ほど受け取った手紙に目を通し始めた。


[クレスさんへ。皆さんのことをどう思っていますか?]

ミントさん
とても優しくて、いつも護ってもらっている。
村の復興にも凄く協力的にしてくれて本当に感謝しているよ。

クラースさん
冷静で、いつも僕達に気を使ってくれて嫌われ役になったりしてくれて…尊敬できる人。
この人の言葉はとても重くて、とても心に響くんだよね。

チェスターさん
親友であり、相棒でもある。お互いの事を何でも知っている。
言葉に出さなくても何を考えているかわかっちゃうくらいにね。

アーチェさん
元気で明るくて、みんなが落ち込んだときにも明るく振舞ってくれる彼女に感謝した場面が沢山ある。
少し、五月蠅すぎるときもあるけれどそれが彼女の良いとこだと思う。

ほむらさん
彼女がいたおかげで僕はここまで強くなれた。彼女に励まされて、支えられて、助けられて。
だから最後まで一緒に旅をしたい。そして笑顔で送り出してあげたい。


すず(…)


無心で書かれている内容に目を通す。
クレスの手紙を読み終え、二枚目を取り出した。

593: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:23:20.68 ID:szsiafxq0
[ミントさんへ。皆さんのことをどう思っていますか?]

クレスさん
とても優しくて、いつも護ってもらっています。
真面目な方で…少し恥ずかしいですがそばにいて支えてあげたいと思っています。

クラースさん
時折、冷たく聞こえる言葉も私たちのことを考えて下さってのことで…とても優しい方です。
この人の知識、冷静さ、判断に何度も助けて頂きました。本当に感謝しています。

チェスターさん
私が今こうして生きているのも、全てはこの人が身を挺してダオスの攻撃から助けて下さったからです。
心の中にとても熱いものをもっておられる方です。
ただ…もう少しアーチェさんと仲良くしていただければ、と思います。

アーチェさん
明るく、元気でとても楽しい方です。他の人のことでもまるで自分のことのように泣いて、笑って。
この人がいるだけでその場の雰囲気が明るくなる、そんな不思議な人です。
ただ…もう少しチェスターさんと仲良くしていただければ…

ほむらさん
強くてたくましく見えるけれどとても繊細な心をもっている人。そしてとても優しい心を持っている人です。
私たちを守る為に自らの身体を盾にして、ボロボロの身体でもダオスに立ち向かったりと
少しヒヤヒヤすることもありましたが…勇気を与えて貰えた気がします。


すず(クレスさんとミントさん、お互いに同じようなことを書かれていますね)


二枚目を読み終え、三枚目を取り出す。

594: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:24:50.40 ID:szsiafxq0
[クラースさんへ。皆さんのことをどう思っていますか?]

クレスさん
最初は少し頼りなかったが、今では立派に成長してくれた、背中が大きく見えるようになったな。
ダオスに勝つにはクレスの力が必要だ。頼りにしている。

ミントさん
彼女の法術には何度も助けられた。優しく温厚で、私が少し面倒に思ったことでも率先して取り組んでくれる。
特にアーチェとチェスターの事に関しては全て任せてしまっている。申し訳ない。

チェスターさん
危なっかしい時もあったが、今ではある程度安心して援護を任せている。
クレスと揉めた時は少し心配したが、思っていた以上に早く関係を修復してくれた。感謝している。

アーチェさん
常にこのパーティの火力として引っ張ってくれている。精神面でも成長して、ダオスとの戦いでは本当に助かった。
ただ、これを本人に言うと調子に乗ってしまうのでこの紙は見せないようにして欲しい。

ほむらさん
彼女がこの旅の同行してくれたおかげで我々の旅は大きく変わった。
ダオスを倒してもほむらの旅が終わると決まった訳ではない。帰れたとしてもまだ厳しい戦いが待っている。
是非とも乗り越えて欲しい。ほむらなら大丈夫だと信じているがな。


すず(嬉しいとか、そういう言葉が目立ちますね)


四枚目。次はチェスターだ。

595: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:25:23.85 ID:szsiafxq0
[チェスターさんへ。皆さんのことをどう思っていますか?]

クレスさん
親友、相棒、そんな感じだな。すげえ差つけられちまったけど絶対追いついてみせる。
アイツの足を引っ張る真似はしたくねえからな。ライバルって言葉も当てはまるかもな

ミントさん
クレスが旅の途中で折れなかったのもミントがいてくれたからなんだろうな。
村の復興にも手伝ってくれるって言ってくれている。感謝してる。

クラースさん
こういう大人になりたいって感じだな。理想っていうか…、まあそんなとこだ。
クレスとほむらの戦いのときも旦那だけが一人動こうとしてなかった。
あれが本当の信頼ってやつなのかな。

アーチェ
バカ

ほむら
ダオスから俺を守ってくれた。ボロボロの身体で一人で立ち向かってすげえ格好良かった。
俺は何もできなくて悔しかった。だから絶対強くなってほむらに借りを返したい。
ほむらはどう思っているかわかんないけどよ。
クレスの事もよくわかってくれている。優しいやつだよ、こいつは


すず(…クレスさんがよく絡んできますね)


五枚目。少し雑なアーチェの字。

596: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:25:57.74 ID:szsiafxq0
[アーチェさんへ。皆さんのことをどう思っていますか?]

クレスさん
頼りにしてるよー。クレスがいないとあたしもクラースもミントも詠唱できないからね!

ミントさん
大人な女性、ってやつ?うらやましい!

クラースさん
本で頭殴るのやめてほしい!ムッツリス  

チェスターさん
バカ

ほむらさん
クールで、かっこよくて、かわいくて、少しあぶなっかしい大切な友達!


すず(短いけど…なんだかわかるような気がします)


六枚目。うってかわってとても丁寧な字。ほむらだ。

597: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:26:43.62 ID:szsiafxq0
[ほむらさんへ。皆さんのことをどう思っていますか?]

クレスさん
一緒に旅をして一番成長した、って言えば偉そうに聞こえるわね…とにかく、強くなった。
優しいからこそ悩み、優しいからここまで強くなった。そう思うわ。

ミントさん
この人がいなければ私はミッドガルズで命を落としていたでしょう。守ってくれて、本当にありがとう。
こんな女性になりたい、そう思える人。羨ましいわ。

クラースさん
無茶な注文でも最後には折れて聞いてくれる。そう思えば申し訳ないことをしてきたわね。
でも、この人には全て見抜かれているような気がするわ。今までもそうだったし、…これからも。
だからこそ無茶な注文をしていたのかもしれないわね。
わかってくれてるって心のどこかで思っていたのかもしれないわ。

チェスターさん
ダオスから守ってくれてありがとう、と言われたけれど私の方こそそう言いたいわね。
それに凄いスピードで強くなっている。
私が今まで戦闘でやっていたことをチェスターさんが代わりに請け負ってくれている。
感謝しているわ。

アーチェさん
会ってすぐの私を友達と呼んでくれた。…すごく嬉しかった。
もう少し落ち着いて欲しい時もあるけど、私の心の支えになってくれた。ありがとう。
この人の素直な言葉は、心に響く。恥ずかしい時もあるけど…やっぱり嬉しい。


すず(あれ?続きがある…?)

598: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:27:15.20 ID:szsiafxq0
みんなへ
仲間と言ってくれてありがとう。
皆との距離感がわからなかった私に近づいてくれて、手を差し伸べてくれて本当にありがとう。
私を助けてくれて、本当にありがとう。


すず(…みんなへ、ですか)

599: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:27:47.79 ID:szsiafxq0
ほむら「読み終わった?」

すず「!?」


いきなり後ろから声をかけられ、慌てて振り向き手紙を背中に隠す。


ほむら「ごめんね。驚かせて」

すず「い、いえ…どうしてここに?」

ほむら「人がいなさそうな所にいるかも、って思ってね…はいこれ」


ほむらがそう言って手渡してきたのは、一枚の手紙だった。


すず「これは…」

ほむら「まあ見て頂戴」

600: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:28:43.93 ID:szsiafxq0
[皆へ。すずのことをどう思っている?]

クレス
お父さんとお母さんに手をかけるようなことをさせてしまって彼女には申し訳ないと思っている。
だからせめて、罪滅ぼしという訳じゃないけどあの子の助けになってあげたい。
苦しんでいる時や悲しんでいる時に力になってあげたい。

ミント
私も、すずちゃんの力になってあげたいと思います。
疲れたときや、傷ついたときは側にいてあげたいです。
身体の傷だけじゃなくて、あの子の心も癒してあげたいです。

クラース
ほむらとすずを見習えと他の連中に言いたいくらいいい子だな。
無理はしなくていい。疲れたら素直に疲れたと言えばいい。
困ったらすぐに困ったと言えばいい。それが仲間だ。

チェスター
すずちゃんには失礼だとは思うけどどうしてもアミィ…妹と重ねちまうんだよな。
だから、無理はしてほしくない。俺たちがすずちゃんを守る。
まあ…今はまだまだ守られてる側なんだけどな。恥ずかしいけど。

アーチェ
可愛い!でも、もっと笑ってほしいな!絶対可愛いから!

ほむら
大切な、大切な友達よ。短くなってしまうけど…ごめんなさい。他に言葉が思い浮かばないの。

601: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:29:09.77 ID:szsiafxq0
すず「これは…」

ほむら「仲間の皆の気持ち、だからね…。……隙ありよ」


手紙を見つめ、少し茫然としているすずからほむらは先程みんなが書いた手紙を奪い取った。


すず「あっ…!」

ほむら「恥ずかしいけど、私たちの気持ちも見せたことだしこれも皆に見せちゃうわね」

すず「えっ…でも」

ほむら「すずは後で書いて皆に見せてね?」


そう伝え、ほむらは立ち去った。今から皆に手紙を見せるつもりだろう。

602: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/23(土) 22:29:45.75 ID:szsiafxq0
すず(わたしの…気持ち…)

すず(気持ちか…)


すずは近くにあったペンと紙を手に取った。


[皆さんに思っていること―――




雨があがった。
明日、クレス達は常闇の町アーリィへ向けて飛び立つ。


617: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:21:56.13 ID:O3G7Sidf0
常闇の町アーリィ


クラース「今日はここで一泊する。そして明日、ダオスとの最終決戦に挑む」

クラース「こんなことを言うべきではないと思うが…今日が最後の夜になるかもしれん。
     各自、好きに過ごしてくれて構わん」

ほむら(いよいよね…)


これで本当に最後だ。時空転移は時間の剣で使わせない。
勝つか負けるか、それだけだ。


ほむら(勿論時間遡行もできない。勝っても、負けてもそれで終わり)

ほむら(でも、私は希望を見つけた。だから…きっと…)

618: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:22:43.67 ID:O3G7Sidf0

宿屋


使用できる数少ない武器を入念に手入れする。


ほむら(最後の最後で誤作動だなんて笑えないわね)


今手入れをしているのはこの世界でも自分の世界でも最も愛用している拳銃。
だが弾数はもうほとんどない。
拳銃を置く。次に手をつけたのは回転式拳銃――所謂リボルバーと呼ばれるものだ。


ほむら(…これも、切り札ってやつになるのかしらね)


リボルバーを手にとり、見つめていると隣の部屋から会話する声が聞こえた。


ほむら(クラースさんと…誰かしら)

619: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:23:29.01 ID:O3G7Sidf0
男性のようだが聞き覚えが無い。駐在している兵士だろうか?
気になり、ほむらはクラースの部屋に向かった。


コンコン、と軽く扉を叩く。


クラース「誰だ?」

ほむら「私よ。入ってもいいかしら」

クラース「…いいぞ」


返事が一瞬遅れたのが少し気になったが、ほむらは構わず扉を開けた。
そこにはクラースとオリジンがいた。

620: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:24:44.95 ID:O3G7Sidf0
ほむら「オリジン…?クラースさん、貴方何をしていたのかしら?」

オリジン「女々しい男の頼まれ事だ」

クラース「…うるさい。……過去を、少し見ていた」

ほむら「過去を…?」

クラース「ああ。…ミラルドの事をな」

ほむら(…成程。なんだかんだ言ってやはり気になるのね)

クラース「なんだかんだ言ってやっぱり気になるのか、って思っているだろう?」

ほむら「貴方は人の気持ちが透けて見えるのかしら?少し怖くなる時があるわ」

クラース「お前は無表情を装っているつもりかもしれんが意外とわかりやすいぞ?」

ほむら「…今度から気を付けるわ」

クラース「今度、か…」

ほむら「…」

621: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:25:25.79 ID:O3G7Sidf0
オリジン「娘よ」

ほむら「何かしら?」

オリジン「ついでだ。こっちに来い」

ほむら「えっ…」


時間の剣が眩い光を放ち、目の前の空間に何かが浮かび上がる。
それはほむらには見覚えのある、懐かしい風景。


ほむら「ま…ど……か…?」

622: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:25:54.88 ID:O3G7Sidf0
いつの時間軸かはわからない、制服を着た鹿目まどかが空間に浮かび上がる。
どうやら学校内にいるときの姿らしい。周りにも見知った顔がいくつかあった。


クラース(この子が鹿目まどか…、ほむらにとっては何よりも大切な人、か)

ほむら「まどか…、まどか…っ」


目の前に映し出されたまどかの名前を必死に呼ぶ。だが、反応は無い。
ほむらの呼びかけは一切届かず、周囲の友達と楽しそうに会話を交わしている。

623: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:26:46.50 ID:O3G7Sidf0
ほむら「…もういいわオリジン。ありがとう」

オリジン「もういいのか」

ほむら「ええ」

オリジン「逆に気分を損ねてしまったか」

ほむら「…いえ、そうじゃないわ。
    ただ…私は絶対に帰ってみせる。だから…今はもういいの」

オリジン「そうか。宿主よりしっかりしている娘だ」

クラース「五月蠅いぞオリジン。そろそろ戻れ」


ほむら「まどか、もうすぐ帰るから…待ってて」


オリジンが映し出した映像が消えゆく中、ほむらは見た。
席に座ろうとしたまどかが一瞬止まり、振り返る。
ほんの刹那、目があった…そんな気がした。

624: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:27:35.45 ID:O3G7Sidf0
ほむら「…少し風に当たってくるわ」

クラース「そうか。外は寒い…あまりうろつくんじゃないぞ」

ほむら「ええ。ご忠告どうも」


そう言い残して、ほむらはクラースの部屋を出て行った。


クラース「確かに、女々しいのは私の方かもな」


クラースはほむらが出て行った扉を見つめ、ポツリと呟いた。

625: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:28:30.15 ID:O3G7Sidf0
ほむらは宿屋が出ると、先ほどまで止んでいた雪がまた降り始めていた。


ほむら「雪…ね」


自分の世界ではずっと同じ季節を繰り返していた。
こちらの世界で生まれて初めて船の旅を経験し、灼熱の大地を踏破し、極寒の大地にも訪れた。
結婚式にも出席した。
戦争にも参加した。
英雄と称えられた。
空を自由に飛び回った。

仲間が、友達ができた。


ほむら(本当に…色々なことがあったわね)

ほむら(でも…もうすぐ終わるのね)

ほむら(終わって…しまうのね)

626: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:29:22.61 ID:O3G7Sidf0
アーチェ「おっ!ほむらちゃーん!」

ほむら「…! アーチェさん、にチェスターさん?何してるの?」

チェスター「いきなりコイツが雪だるま作ろうなんて言い出しやがってよ」

アーチェ「うっさいなー。チェスターだって途中からノリノリだったじゃん」

チェスター「ふん…うっせーな」


アーチェとチェスターが作った雪だるまは中々お目にかかれない大きさだった。

627: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:30:23.54 ID:O3G7Sidf0
ほむら「随分力作ね」

チェスター「アーチェがバカみてえに考えないで雪玉をでっかくしやがるからな」

アーチェ「なによ、どっちが上か下かも決めずに作り始めたクセに」

チェスター「普通俺が上だろーが。雪玉持ち上げないといけないんだからな」

アーチェ「大きい方作った後に上に乗せるくらいしてくれてもいいでしょーが。
     そんな気も利かないとか結婚できないよー?」

チェスター「こんなことで怒りだすような女なんてこっちからゴメンだぜ」

アーチェ「なんだとー!」

チェスター「なんだよ!?」

ほむら「イチャイチャしている所少し悪いんだけれど、手を加えさせてもらっていいかしら?」

アーチェスター「イチャイチャなんてしてない!」

628: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:31:26.79 ID:O3G7Sidf0
二人の息が合った反論を無視してほむらは雪だるまに少し細工をしていく。

前髪を雪で作り前に垂らし、残りは後ろで束ねているように見えるよう線を入れていく。
束ねた髪も雪で作り取り付け、最後に先端を尖らせた耳も取り付けた。


ほむら(少しはファルケンさんに見えるかしら…)

629: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:32:12.38 ID:O3G7Sidf0
アーチェ「器用だねほむらちゃん。…ってこれチェスター?」

チェスター「俺は前髪もほとんど後ろにもっていってるぜ。別人だろ?耳も尖ってるし」

ほむら「そうね、チェスターさんじゃないわ…まあいずれわかるわよ」

アーチェ「えー!気ーにーなーるー!」

ほむら「ふふっ、内緒よ。…いつか必ず分かるわ。必ず、ね」

アーチェ「ほむらちゃんの意地悪…!」

ほむら「お褒めの言葉どうも。…私は少し街を散歩してくるわ」

チェスター「おー。足元滑るから気を付けてなー」

ほむら「ええ。じゃあまた後でね」

630: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:32:59.06 ID:O3G7Sidf0

ほむら「そうそう、あまり外でイチャイチャしたら駄目よ。
    せっかく作った雪だるまが融けてしまうわ」



アーチェスター「だからイチャイチャなんかしてないって!」

631: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:34:03.64 ID:O3G7Sidf0
二人の邪魔にならないように側を離れたほむらはぶらぶらと町を散歩していた。
すると、建物の軒下に座り込むクレスとミントを発見した。


ほむら(クレスさんとミントさん…。邪魔したら悪いわね)


気付かれないようにそっとその場を離れようとした――その時だった。


クレス「あ、ほむらじゃないか」

ほむら(…もう)


気を使ったのが台無しになった。無視するわけにもいかず渋々二人の元へ歩み寄る。

632: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:34:43.80 ID:O3G7Sidf0
ほむら「…どうも、クレスさんミントさん」

クレス「何をしてたんだい?」

ほむら「まあ、色々とね」

クレス「そう。まあこんな所だけど座りなよ。ミントもいいよね?」

ミント「え、ええ。ほむらさんどうぞ」

ほむら「はあ…じゃあ少し失礼するわ」


ほんの少しだけ邪魔をしてさっさと立ち去ろう、そう決心してその場に腰を下ろす。

633: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:35:40.67 ID:O3G7Sidf0
ほむら「貴方達こそこんな所で何をしていたの?肩に雪が積もっているわよ?」



クレス「い、いやあ…こ、こんな雪の日に出歩くのは勇気がいるからね!座って話をしようかと思って!」



ほむら「…」

ミント「…」


突如強い風が吹いてきた。その風に雪が乗りほむらの身体を襲う。

634: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:36:40.08 ID:O3G7Sidf0
クレス「あ、あははは…」

ほむら「少し冷えてきたわね…そろそろ…」

クレス「ちょ、ちょっと待って!」

ほむら(はぁ…)

ほむら(拷問ね…これは…)


体感的な寒さ、そしてこの空気。ほむらは今すぐにでも立ち去りたかった。

635: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:37:21.35 ID:O3G7Sidf0
ほむら(というかなぜ私はここに呼ばれたのよ…)


ほむらはクレスとミントの顔を交互に見やる。
二人は俯き、視線だけを動かしお互いの様子を窺うような気配だった。


ほむら(二人の様子がおかしすぎよ…)

ほむら(…とりあえず何か話すしかないわね。沈黙はつらいわ)


そう決心しほむらはつい先ほど出くわした出来事を話し出した。

636: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:38:40.52 ID:O3G7Sidf0
ほむら「さっき宿屋の前でチェスターさんとアーチェさんが雪だるまを作っていたわ」

クレス「へ、へえ!あの二人が協力して何か作るなんてね」

ミント「そ、そういえば…珍しいことですね」

ほむら「確かにそうね。…傍から見ればイチャイチャしてるようにしか見えなかったわ」

クレス「イチャイチャ…あの二人が?」

ほむら「ええ…。……なにかおかしいかしら?」

クレス「いや、あの二人をそういう風に見たことがなかったから…」

ほむら「喧嘩するほど仲がいい、ってやつだと思うけど」

クレス「アーチェとチェスターが、かぁ…」

ほむら「チェスターさんは親友なんでしょう?協力してあげたら?」

クレス「そう言われても…僕は…」


クレスはそう言いチラッとミントを見た。ミントもクレスを見ていた。
視線が交差する。

そして、二人は慌てて下を向いた。

637: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:40:05.80 ID:O3G7Sidf0
ほむら「…そういえば、元の時代に帰って貴方達は村を再建するのよね」

クレス「そうだね。ミントも手伝ってくれるって言ってる」

ミント「はい、微力ですがお力になれればと」

ほむら「じゃあ貴方達は一緒に住むのかしら?」

クレス「えっ!?」

ミント「あっ…えっと…その…」

ほむら「そこまでは考えていなかったのね」

クレス「そ、そうだね」

ほむら「…じゃあこれから頑張って。私はもう行くわ」

638: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:40:51.33 ID:O3G7Sidf0
意味ありげな言葉を残しほむらは立ち去ろうとする。


クレス「も、もう行くのかい!?もう少しゆっくりしていっても…」

ほむら「…ミントさん後はお願いね」

ミント「…はい。ほむらさん、ありがとうございます」


ミントはほむらの去っていく背中を見送りながらポケットの中のイヤリングを取り出した。

639: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:41:33.27 ID:O3G7Sidf0
逃げる様にクレスとミントの側を離れたほむらは町の広場にいた。


ほむら(なんだか疲れてしまったわ…。決戦は明日っていうのに)

すず「ほむらさん?どうかなさいましたか?」

ほむら「すず…。いえ、ちょっとね」

すず「はあ…。ほむらさん、少しお時間よろしいですか?」

ほむら「ええいいわよ。どうせやることもないもの」

すず「では、お隣失礼します」


眼下に広がる町の景色を一望できる広場の柵に並んで立つほむらとすず。

640: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:42:23.11 ID:O3G7Sidf0
すず「いよいよですね」

ほむら「ええ…。すず、緊張はしてない?」

すず「わたしは大丈夫です。ほむらさんは…大丈夫ですか?」

ほむら「…不安ね」

すず「不安、ですか」

ほむら「私は今までずっと時間停止の力に頼ってきた。でも、
    この力が通用しなかった敵がすぐそこにいる」

すず「頼りにしていたものが使えなくなる…、不安になるのも仕方がありません」

すず「でも、ほむらさんの時間停止が使えないから役に立たないなんてことは絶対にありません。」

ほむら「はぁ…ごめんねすず。気を遣わせてしまって」

すず「いえ…。と、友達が…困っているときは助けてやれとおじい様が……」

ほむら「…すずから友達って言ってくれたの初めてね」

すず「…まだ少し恥ずかしいです」

ほむら「ふふっ…ありがとうね」

641: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:43:01.89 ID:O3G7Sidf0
柵の上に積もった雪を少しだけ手に取る。…冷たい。
手の中でみるみる内に融けていく。


ほむら(…もう少しすずと早く出会えていれば)

ほむら(未来から来たすずのように喋ってくれたのかしら…)

ほむら(って言ってても仕方が無いわね)

ほむら(雪とは違ってそう簡単に融けてくれるものじゃないしね…)


ほむら「そろそろ帰りましょう。身体の芯から冷えてしまいそうだわ」

すず「そうですね…」


柵から離れ、階段を降り宿屋へ向かおうとした時だった。


すず「ほむらさん」


すずに呼び止められた。

642: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:43:44.18 ID:O3G7Sidf0
ほむら「? どうしたの?」

すず「あ…いえ…、…すいません何でもありません」

ほむら「ふふっ…変なすずね」

すず「…少し…寒いので…手を繋いでもらってよろしいですか?」

ほむら「…いいわよ。はい」


恐る恐る手を伸ばすすずの手を優しく握る。…温かい。


ほむら「行きましょうか」

すず「…はい。ありがとうございます」


二人で並んで歩く。並んだ二人分の足跡が雪の絨毯に刻まれた。

643: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:44:44.19 ID:O3G7Sidf0
アーチェ「あっ!帰ってきたよ…って手繋いでる!ずるい!」

ミント「あっという間に仲良くなりましたね。ほむらさんとすずちゃん」


宿屋の前で皆が出迎える様に待っていた。


ほむら「皆どうしたの?こんな所で」

チェスター「そろそろ飯にしようぜ、ってことで探しに行こうかって話をしててな」

ほむら「あら、お待たせして申し訳ないわね」

すず「申し訳ございません」

クレス「大丈夫だよ。今外に出たばっかりだしね」

644: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:45:36.48 ID:O3G7Sidf0
クラース「よし、じゃあ行こうか。アーチェ…今日は少しなら酒を呑んでもいいぞ」

アーチェ「えっマジ!?やったね!」

チェスター「旦那…許可なんて出しちまっていいのかよ」

クラース「勿論呑んだ後はチェスター、お前に任せる」

チェスター「はぁ!?嫌だぜ!」

クレス「すまないチェスター…頑張ってくれ」

ミント「お願いしますね、チェスターさん」

ほむら「すず、呑んだアーチェさんに近づいたら駄目よ」

すず「はい、わかりました」

チェスター「お前らなぁ!」

アーチェ「よっしゃー!皆の衆いくぞー!呑むぞー!」

チェスター「なんでそんなガッツリ呑む気満々なんだよ!?待てよ!人の話聞け!」

645: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:46:59.67 ID:O3G7Sidf0
ウッシャッシャ!とアーチェ特有の笑い声を上げ、
一人でさっさと酒場に向かうアーチェを慌てて追うチェスター。


クラース「任せて大丈夫そうだな。さあ、我々も行こう」

ミント「はい。皆さん、足元にお気を付け下さい」

ほむら(こんな光景ももうすぐ…)

クラース「…ほむら、行くぞ」

ほむら「…ええ。今行くわ」

646: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:48:02.28 ID:O3G7Sidf0
宿屋


深夜、アーリィの町にいる大半の住人が寝静まった頃に宿屋の扉が開いた。


ほむら「…夜は一層冷え込んでいるわね」


戸外の冷気に少し身を震わせたながらほむらは外に出る。
この町に到着した時よりは収まっていたが雪が止みそうな気配は無かった。
踏み荒らされていない足元の雪に足跡が刻まれていく。


ほむら(…これがこの世界最後の夜、のはずよね)

ほむら(少なくとも、皆揃っての夜は今日が最後…)


空を見上げる。生憎と空は分厚い雲に覆われ星を見ることは叶わなかった。


ほむら(こちらの世界に来て…空を眺めることが増えたわね)


初めてこの世界の星空を眺めたのは過去、クラースとアーチェの時代で船に乗った時だった。

647: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:48:46.15 ID:O3G7Sidf0
ほむら(あの時…甲板に出て一人でこうやって星空を眺めていると後ろから…)



アーチェ「星が出てないのに空を見上げてるほむらちゃんを後ろからドーン!」



ほむら(っていう風に押し飛ばされたのよね)


アーチェのタックルを振り向きもせずにほむらは躱した。
避けられると思っていなかったアーチェは勢い余って、
雪かきした後と思われる積まれた雪山にそのまま頭から突っ込んだ。

648: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:50:06.96 ID:O3G7Sidf0
アーチェ「ペッ!ペッ!…もー、ひどいよほむらちゃん」

ほむら「流石に同じ手に二度も引っかかるわけにはいかないわ」

アーチェ「ぶぅー…。……空、見てたんだ?」

ほむら「少しでも星空を見たかったのだけど…まぁ無理よね。こんな空模様じゃ」

アーチェ「…あの時は雲一つ無かったから綺麗に見えたよね」


ほむらはアーチェの言ったあの時がどの時を指したものなのかすぐに理解した。

649: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:50:52.31 ID:O3G7Sidf0
ほむら「ええ。初めて見たこの世界の夜空は今でも鮮明に憶えているわ」

アーチェ「あたしもだよ。…あれから随分と長く旅をしてきたよね」

ほむら「そうね。何せ150年よ」

アーチェ「150年かぁ…。この世界のあたしって何をしているんだろ」

ほむら「相変わらず元気にやっているイメージしか無いわね」

アーチェ「まぁそうなんだろうけどさー」


アーチェは足元の雪を踏みならす。ほむらにはその姿が寂しさを紛らわしているように見えた。


ほむら(150年…。その間に沢山の出会いと別れを繰り返すのよね……)

650: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:51:39.06 ID:O3G7Sidf0
この旅を終えればクラースはもう二度とクレス達には会えないだろう。
クレス、ミント、チェスターもこの時代まで生きていられる保障はない。
アーチェはその全ての別れに立ち会わなければならないのだ。


アーチェ「あたしは大丈夫だよ!別れは辛いと思うけど…」

アーチェ「それでもみんなと出会えた喜びの方が大きいに決まってるから!」


アーチェはいつもと同じ笑顔をほむらに向ける。
強がってなどいない、アーチェは思ったことを口に出しただけだった。

ほむらは時々、天真爛漫なアーチェを直視することが出来ないときがあった。
自分とは正反対だと思っていた。
眩しすぎると感じていた。
それでも…口には出さないが近くにアーチェがいないと寂しく思う時もあった。


ほむら(本当に、不思議な人ね)

651: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:52:31.24 ID:O3G7Sidf0
アーチェ「んん?どったの?」

ほむら「いいえ、何でもないわ」

アーチェ「変なほむらちゃん……ぶえっくしょい!」

ほむら「もう…はしたないわね」


上品さの欠片もないくしゃみにほむらは少し眉を顰めた。
アーチェはおかまいなしにズズッと鼻をすする。


アーチェ「いやー、流石に身体が冷えてきちゃってね」

ほむら「そろそろ戻る?風邪を引いたら大変よ」

アーチェ「…もうちょっとだけ」

ほむら「…本当に少しだけよ」


少し勇気を出してほむらは顔をそむけながらもアーチェに手を差し出した。

652: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:53:16.59 ID:O3G7Sidf0
アーチェ「えっ?」

ほむら「……さっきすずと手を繋いでいたのを羨ましがっていたから…」

アーチェ「…ほむらちゃん」

ほむら「…何?」

アーチェ「ありがとっ」

ほむら「………礼には及ばないわ」


アーチェが手を伸ばしほむらの手を握る。アーチェの手はとても暖かかった。

653: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:54:03.12 ID:O3G7Sidf0
それから暫く、寒さに身を震わせながらも旅の思い出話をした。
最後の夜の会話を惜しむように。

小一時間ほど二人で語り合った頃だった。

ついにアーチェが折れた。


アーチェ「…もう駄目…限界です」


身体の芯から冷えてしまったようで震えが止まらなくなっていた。


ほむら「喋り過ぎたわね、ごめんなさいアーチェさん」

アーチェ「い、いいのいいの。あとちょっと、って言ったのあたしなんだし」

ほむら「急いで部屋に戻りましょう。本当に風邪を引いてしまうわ」

アーチェ「う、うん…」


ほむらは、身体が震えているアーチェに寄り添いそのまま二人で宿屋の中に入っていった。

654: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:54:41.31 ID:O3G7Sidf0
宿屋


ほむら「はい、アーチェさん」


宿屋のフロント近くにある暖炉の側に座っているアーチェにほむらは
湯気が立ち込めるマグカップを差し出した。

中で揺れていた液体はほむらがこの世界の初めての夜に飲んだもの…ホットミルクだった。


アーチェ「うう…あったかいよぉ…」


両手で大事そうに抱え一口、また一口と飲み進めていく。

自分の分も用意していたほむらもマグカップに口を付けた。


ほむら「…やっぱりどこで飲んでも優しい味ね」

655: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:55:28.37 ID:O3G7Sidf0
客室


すでに眠っているミントと、特にすずを起こさないように静かに扉を開く。


ほむら「じゃあ…アーチェさんおやすみなさい」


小声で囁くように告げ、自分に割り当てられたベッドに向かおうとした時だった。

アーチェが手を握ってきた。


ほむら「…アーチェさん?」

アーチェ「…」


アーチェは何も言わずにただほむらの手を握っている。

656: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:56:07.50 ID:O3G7Sidf0
ほむら「もう…いつもみたいに遠慮なく言えばいいのに」

アーチェ「だって…いつもほむらちゃん嫌がってたし」

ほむら「嫌がっている私を無理矢理ベッドに引きずりこんでいたのは誰なのかしら?」

アーチェ「ほむらちゃん…その言い方ちょっと●●●だよ…」

ほむら「…貴方のせいよ」


言ってから気が付き、少しほむらは顔を赤らめた。
幸いにも部屋が暗かったおかげでアーチェには見られてはいないようだった。

657: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:56:45.15 ID:O3G7Sidf0
ほむら「…夕食の時お酒を控えめにしていたのもこの為なんでしょ?」

アーチェ「えへへ…バレてた?」

ほむら「もう…、ほら、こっちに来なさい」


握った手はそのままにほむらは自分のベッドに向かい、一人分のスペースを空け布団に潜り込んだ。


ほむら「…どうしたの?早くして頂戴…寒いわ」

アーチェ「お、お邪魔します」


恐る恐るといった感じでアーチェも布団に入り込む。

658: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:57:27.54 ID:O3G7Sidf0
アーチェ「あったかい…」


背中の方からアーチェの声が聞こえてくる。


ほむら「…そうね」


素っ気なくほむらは言葉を返す。


アーチェ「…」


アーチェは少し居心地が悪いのか、小刻みにもぞもぞ動いている。


ほむら「…この世界で初めて過ごした夜も同じベッドで寝たわね」

アーチェ「そうだね…」

ほむら「あの時は本当に無理矢理引きずり込まれたんだけど」

アーチェ「そ、そうだったね」

ほむら「…」

アーチェ「…」

659: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:58:34.36 ID:O3G7Sidf0
声を潜めているせいか、それとも別の理由なのか…先ほどよりもぎこちない会話。

ほむら(このままじゃ眠れないわね)

ほむら(いえ…)

ほむら(このまま寝たくない…)


ほむらは不意に寝転んだまま向きを変える。
ずっとほむらの背中を見ていたアーチェのビックリした顔が見えた。


アーチェ「ほ、ほむらちゃん…?」

ほむら「…今までずっと甘えさせてきたわ」



ほむら「……だから今は…少し甘えさせてもらうわよ」

660: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/26(火) 23:59:14.71 ID:O3G7Sidf0
アーチェの返事を待たずにほむらは、アーチェの胸に顔をうずめるように飛び込む。


アーチェ「ちょ、ちょっと…」

ほむら「…五月蠅いわ。少し黙っていて頂戴」


無茶苦茶な注文をしているのは自分でも分かっている。
それでも今はこうしていたかった。

661: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/27(水) 00:00:59.55 ID:0Juy4m4t0
こんな私を簡単に受け入れてくれた。

こんな私の為に本気で怒ってくれた。

こんな私の為に涙を流してくれた。

こんな私を友達と呼んでくれた。

色々迷惑をかけたりかけられたりしたけれど、それでもアーチェが隣にいると楽しかった。

受け入れてくれたのが、怒ってくれたのが、涙を流してくれたのが、友達と呼んでくれたのが


とても嬉しかった。


そんな、この世界で初めてできた友達と別れの時が近づいている。

今までに味わったことのない、永遠に会えないという怖さ。

ほむらはその恐怖に我慢が出来なくなった。

662: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/27(水) 00:01:33.00 ID:0Juy4m4t0
ほむら「ごめん…なさい……」

アーチェ「…うん。大丈夫」


アーチェはほむらを優しく抱き寄せ、優しい手つきで頭を撫でる。


ほむら「…ありがとう、アーチェさん」

アーチェ「こっちこそありがとう、ほむらちゃん」


それ以上二人に会話は無かったが先ほどまであった居心地の悪さは全く無かった。

アーチェはほむらが眠りにつくまで優しく撫で続けていた。

ほむらのこの世界での最後の夜はこうして過ぎていった。

そして、この世界での最後の朝を迎えた。

663: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/27(水) 00:02:08.10 ID:0Juy4m4t0
目を覚ましたほむらはアーチェに抱き付かれ身動きが取れない状況にいた。


ほむら「…アーチェさんそろそろ起きないと」

アーチェ「んんっ…。………ほむらちゃんおはよぉ…」

ほむら「おはようアーチェさん。もう皆起きているみたいよ」

アーチェ「…あと五分」

ほむら「ほら、起きるわよ」

アーチェ「あーぬくもりがー…」


ほむらはアーチェを引き摺りそのまま部屋を出た。

664: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/27(水) 00:03:09.13 ID:0Juy4m4t0
ほむら「おはよう」

クレス「おはようほむら。最後に起きてくるなんて珍しいね」

ほむら「ええ、ちょっと夜更かしをしてしまってね」

チェスター「どうせそこの馬鹿にお喋りでも付き合わされたんじゃねえのか?」

アーチェ「へっへーん!秘密だよー!…隙ありっ!」

チェスター「コラてめぇ!朝飯は取らないルールを自分で破ってんじゃねえよ!」

アーチェ「あたし馬鹿だからよく覚えてないの!ゴメンね!」

クラース「…いつでもどこでもこいつ達は変わらないな」

ミント「そうですね…。ほむらさん、こっちが空いています」

ほむら「ありがとうミントさん。失礼するわ」

665: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/27(水) 00:03:38.32 ID:0Juy4m4t0
すず「…」


すずが隣に座ったほむらを無言で見つめている。


ほむら「…?どうしたのすず?顔に何か付いてる?」


その視線に気が付いたほむらは、ミントが用意してくれたコーヒーを啜りながら訊ねた。



すず「昨晩はお楽しみでしたね」

ほむら「ごふっ」

666: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/27(水) 00:04:26.20 ID:0Juy4m4t0
クレス「何の話だい?」

ほむら「げほっ…き、気にしないほうがいいわ」

クレス「いやでも…」

ほむら「言い方を訂正するわ」

ほむら「気にしない方が身の為よ?クレスさん」

クレス「わ、わかったよほむら…」

ほむら「あとすず、そういう誤解を招くような発言は控えなさい」

すず「いえ、お二人で楽しそうにお喋りした後美味しそうにホットミルクを飲んでおられたので」

667: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/27(水) 00:05:04.44 ID:0Juy4m4t0
ほむら「…起きていたの?」

すず「アーチェさんが外に出た音で目が覚めてしまったので。
   ですがわたしも眠くなったのでお二人が部屋にお戻りになる前に眠ってしまいましたが」

ほむら「そ、そう。よかったわ」

すず「? 何がよかったのですか?」

ほむら「い、いえ!もう忘れて頂戴」


気を落ち着かせようと再びコーヒーを啜る。
その時、隣に座っていたミントがほむらの耳元で囁いた。


ミント「…昨晩の事は皆さんには内緒にしておきますね」

ほむら「ごふっ」

668: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/27(水) 00:05:51.37 ID:0Juy4m4t0
クレス「ど、どうしたんだいさっきから」

ほむら「げほっげほっ…な、なんでもないわ。本当に気にしないで大丈夫よ」


クレスにそう告げ、ミントに近寄り声を潜め喋りかける。


ほむら「…起きていたの?」

ミント「すいません。お二人がお部屋に戻られた際に目が覚めてしまいまして」

ほむら「…ごめんなさい。起こしてしまって」

ミント「いえ、…こちらこそ盗み聞きをしてしまって」

ほむら「…仕方ないわ。同じ部屋にいる以上聞かれても文句は言えないもの」

ミント「本当に皆さんには内緒にしておきますので…」

ほむら「ありがとう、ミントさん」

669: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/27(水) 00:06:30.91 ID:0Juy4m4t0
クラース「仲間内で隠し事はしないんじゃなかったのか?」

ほむら「…貴方も言ったでしょう?知られたくないこともあるって」

クラース「ふっ…まあいいさ」


少しニヤリとしたクラースの笑いが少し癇に触ったのか、ほむらは釘を刺すように告げた。


ほむら「詮索はよしましょう?女々しく見えてしまうわよ」

クラース「ほ、ほむら、お前!?」


女々しいという単語に過剰に反応したクラースを見て満足したのか、
ほむらはようやく落ち着けた様子でコーヒーを飲み始めた。

最後の朝とは思えぬ程、いつも通りの朝の風景だった。

670: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/27(水) 00:07:39.76 ID:0Juy4m4t0
クラース「さぁ、出発するぞ。準備と覚悟はできているか?」

すず「無論です。いつでも大丈夫です」


相変わらず空は分厚い雲に覆われている。だが、雪は止んでいた。


クレス「止んでくれてよかった…」

チェスター「そうだな。雪が降る中飛ぶのは気が滅入るぜ」

アーチェ「たかが雨や風でグダグダ言うなんてまだまだ甘ちゃんだね」

チェスター「雨降っても飛ばないといけないくらい切羽詰ったスケジュールは普段なら組まないからな」

アーチェ「…」

チェスター「…」

671: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/27(水) 00:08:30.78 ID:0Juy4m4t0
ほむら「はいストップ。もう漫才は朝に見たから結構よ」

ミント「そ、そうですね。それよりもまた降りだしてしまう前に出発しませんか?」

クラース「優等生のミントの言う通りだな」

クレス「よし、行こうみんな!今度こそ終わりにしよう!」



町の外に向かって歩き出す。

大小様々な大きさの足跡が雪と歴史に刻まれていく。

その足跡は迷いのない足取りで、真っ直ぐに旅の終着点を目指していた。

680: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/08/30(土) 22:09:39.34 ID:bhBFa+9l0
ダオス城


クラース「どうだ、ほむら」

ほむら「…駄目ね。やはり対策されているわ」


ダオス城に到着したほむらは早速時間停止を発動してみたが時が停まらない。


ほむら「私のアドバイス通りちゃんと能力自体に制限をかけてきたみたいね」

クラース「…どうする?」

ほむら「どうするも何も、行くわ。借金もあるしね」


強気に、いつもらしく振舞え――ほむらはそう決めていた。

681: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:10:20.52 ID:bhBFa+9l0
アーチェ「全く…」


アーチェがほむらの頭にポン、と手を乗せた。


アーチェ「いつもみたいに無茶しないでよね?」

ほむら「さあ?約束は出来ないわ」

チェスター「へっ、いつも通り強気だな」

ほむら「弱気な所を見せるとピンタが飛んでくるもの。痛いのは嫌よ」

アーチェ「もー…ゴメンってばぁ…」

ほむら「冗談よ。…私は大丈夫。絶対死なない」

クレス「絶対に死なせない。ほむらだけじゃない…皆を」

ミント「私も絶対に皆さんの事を護ってみせます。それが私の務めです」

クラース「全員に言えることだが自分の役割、目的を忘れるんじゃないぞ。
     まあ、言わずとも理解しているとは思うがな」

チェスター「へへっ、今更過ぎるぜ旦那」

クレス「役割…、こいつは何の役に立つんだろうか」

682: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:11:04.78 ID:bhBFa+9l0
そういいクレスは出発前にアーリィに駐在している兵士から受け取った物を取り出した。


クラース「デリスエンブレム、か。何の役に立つかわからんがとりあえず身に着けておけ」

アーチェ「呪いのアイテムだったりして」

チェスター「この馬鹿がまず身に着けて実証してくれるってさ」

アーチェ「自分を犠牲にして親友を守る…かっこいいねー。頑張ってね馬鹿」

すず「今日も早速始まりましたね」

ほむら「そうね。絶対に真似をしては駄目よ」

クラース「最終決戦前だというのに…」

ミント「では、行きましょうか」

クラース「珍しいなミント。お前があの二人を止めないなんて」

ミント「少しでも体力を温存しておこうかと思いまして」

ほむら「とてもいい判断だと思うわ」

クラース「では、そろそろ行くぞ。二人とも先に行ってるからな」


いつも通りのやり取りを済ませたクレス達。
いよいよ最後の戦いが始まる。

683: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:11:41.09 ID:bhBFa+9l0
城内


クレス「次元斬!」


距離を無視した斬撃が敵の魔術師をまとめて切り刻む。
攻撃したクレスの隙を狙い、上空から槍を手にしたデーモンが襲い掛かる。


チェスター「甘いぜ!轟天!」


雷を纏った矢がデーモンに突き刺さり、地面に落下する。
隙を狙われたクレスがお返しと言わんばかりにその隙を付く。


クレス「紅蓮剣!」


炎の付加した時間の剣を投げつける。デーモンの身体が真っ二つに切断された。

684: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:12:43.05 ID:bhBFa+9l0
クラース「ヴォルト!」


続いて襲ってきた忍の集団に向け、雷の精霊を呼び出す。
ヴォルトは雷を振り撒きながら敵集団に突撃していく。


「はあっ!」


全身に漆黒の鎧を身に纏った魔物がほむら目掛けて剣を振り下ろす。
ほむらはその攻撃を盾で受けながら、盾からアサルトライフルを取り出した。


ほむら「これでこいつも弾切れね」


兜で覆われていない顔部分に銃口を向けて差し込み、躊躇せず一気にトリガーを引く。
血をまき散らし、後ろに吹っ飛び倒れ込んだ魔物はもう動かなかった。

685: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:13:24.89 ID:bhBFa+9l0
アーチェ「ゴッドブレス!」


神の息吹を敵集団に向けて撃ち落とし、風圧で敵をまとめて潰していく。

先程クラースが攻撃した忍の集団が立ち上がる。痺れが抜けてきたようだ。
その集団に一人、すずが向かう。


すず「せめてわたしの手で…」


集団の間をすり抜け、次々と止めを刺していく。


クラース「ちぃ!次から次へと湧いてくるな!」

ミント「…ナース!」


法術の温かい光が全員を包み込む。


アーチェ「おっしゃー!元気百倍!」

チェスター「お前はダメージ受けてないだろ!」

ほむら「…こんなときでも漫才を忘れないなんて尊敬するわ」

クラース「ほむらも冷静なツッコミご苦労。さあ来るぞ」


次から次へと襲い掛かってくる魔物を蹴散らしていく。
少しずつではあるが確実にダオスに近づいていた。

686: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:13:57.39 ID:bhBFa+9l0
ダオス城 ???


ほむら「敵の増援が途切れたわ」

すず「今の内に距離を稼ぎましょう」

クラース「そうだな…進むぞ!」


そんな七人を待ち構えるように設置された罠が作動する。
足元の魔法陣が突如眩い光を生み出した。


アーチェ「ちょっと何!?罠ってやつ!?」

クラース「くそっ!迂闊だったか!」

チェスター「駄目だ!逃げらんね…」


更に魔法陣が一段と激しい光を放つ。そして光が引いたときには六人の姿は無かった。


クレス「そんな…っ!みんな!?」

687: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:14:32.59 ID:bhBFa+9l0
ダオス城


ほむら「…ここは?」


魔法陣に飛ばされた先は鉄格子の中だった。周りには誰もいない。


ほむら「面倒な罠を仕掛けてくれた…わねっ!」


鉄格子を力任せに蹴るがビクともしない。内側から開けるのは諦めたほうが良さそうだった。


ほむら「…こんな簡単に開いたら罠の意味が無いわよね」


観念しその場に座り込む。誰かが外から開けてくれるのを待つしかなかった。



遠くからこちらに向かってくる足音が聞こえた。
その足音に反応したほむらは立ち上がる。

688: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:15:08.63 ID:bhBFa+9l0
ほむら「…誰?」

クレス「ほむらか。ちょっと待ってて、すぐ開けるから」


クレスが外から鉄格子の扉に手をかけると扉は簡単に開いた。


ほむら「外からはそんな簡単に開くのね。どういう原理なのかしら」

クレス「さあ…。とりあえず無事でよかったよ」

ほむら「クレスさんこそ。他の人は?」

クレス「いや、僕だけがあの魔法陣の上に取り残されてね」

ほむら「クレスさんだけが…?」

クレス「そっちの原因もわからないけど…とりあえずみんなと合流するのが先だね」

ほむら「そうね。じゃあ行きましょうか」

689: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:16:35.01 ID:bhBFa+9l0
二人で仲間が捕えられている牢屋を探す。
しかし、二人が牢屋を見つけるよりも先に魔物に見つかってしまった。

片方は忍、そしてもう片方は両手でメイスを握った魔物だった。


ほむら「私が先行して注意を引き付けるわ。後はお願いね」

クレス「分かった。無理はしないで」

ほむら「ええ、分かっているわ」


ほむらは魔物が動くよりも早く地を蹴り飛び出した。
その動きに追従しクレスも駆けだした。

虚を突かれ驚いた様子を見せた魔物だったが迎撃する姿勢を見せる。
ほむらは魔物の動きに構わずメイスを握った魔物に向かう。
魔物がメイスを握り直し横に振り払うように構える。
敵の間合いに入る直前でほむらは地面を蹴り方向を変え、忍者に向かい再び飛び出す。

メイスを握った魔物はほむらの動きに視線が釣られた。
しかし釣り目的の行動だと判断した魔物はクレスに視線を向け直した。

だがクレスはすでにそこにいない。忽然と姿を消していた。
何が起きたのか理解できす混乱した隙を狙い、クレスが頭上から姿を現した。


クレス「空間翔転移!」


上空からの突き下ろしを咄嗟にメイスでガードするが、時間の剣はメイスと魔物の身体をまとめて簡単に貫いた

690: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:17:22.77 ID:bhBFa+9l0
ほむら「流石ね」


クレスと時間の剣に称賛の言葉を贈りつつ、忍の攻撃を避け続ける。

忍が忍者刀を薙ぎ払う。その攻撃を盾で受け隙だらけの忍に向け発砲する。
撃った弾は忍の胸元に命中した。が、それは身代わりだった。


ほむら「ごめんなさい、それは知っているわ」


慌てずに銃口を上に向け発砲する。
空中で身動きが取れない忍は咄嗟に刀で銃弾を受け止める。


クレス「紅蓮剣!」


クレスが炎を纏った剣を投げつけ追撃する。
防ぐ術がない忍に突き刺さり、炎がその身を焦がしていく。
炎に包まれた忍は苦しむようにもがき、そのまま地面に倒れ込んだ。

691: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:18:05.99 ID:bhBFa+9l0
クレス「よし、また見つかってしまう前に行こう」

ほむら「そうね。…ちょっと待って」


先ほど倒した忍が何かを落としていた。ほむらはそれを拾い上げる。


クレス「これは…デリスエンブレムか!」

ほむら「なぜ敵がこれを所持していたの…?」

「先にここから出してくれると有り難いんだが」


魔物がいた先の曲がり角の方から聞き覚えのある声が聞こえた。

692: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:18:43.98 ID:bhBFa+9l0
クレス「クラースさん、御無事でしたか」

クラース「ああ、牢屋の中は安全そのものだったぞ」


外から扉を開けクラースを解放した。
寝転んでいた為か、クラースは一度大きく伸びをする。


クラース「んー、…さて、デリスエンブレムが落ちていたということだったが」

ほむら「ええ。これよ」


先ほど手に入れたデリスエンブレムをクラースに手渡す。


クラース「ふむ…。クレス、お前のデリスエンブレムも見せてくれ」

クレス「あ、はい。どうぞ」


今度はクレスからデリスエンブレムを受け取り、二つを見比べる。
特に違う点は見当たらない。

693: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:19:14.51 ID:bhBFa+9l0
クラース「全く同じかどうかわからんが見た目はほぼ変わらんな…」

ほむら「同じアイテムが複数…、そしてクレスさんだけがあの罠で飛ばされなかった」

クラース「そうだな。まあ二人とももう察しがついているとは思うが、
     これが罠を回避するためのキーアイテムという訳だな」

クレス「つまりこれを人数分集めないといけないという訳ですね」

クラース「そうだが…まずは他の連中を解放しよう。その方が安全さと効率が段違いだ」

ほむら「異論は無いわ。それに早くしないと騒ぎ出しそうな人物に心当たりがあるわ」

クラース「奇遇だな。私も同じ危険性を危惧していた所だ」


アーチェ「ぶえっくしょい!」

アーチェ「うーん…誰かが噂をしているのかな?…それにしても…ひーまーだー!」


ほむら達の心配をよそに、アーチェはすでに騒ぎ出していた。

694: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:19:52.49 ID:bhBFa+9l0
クレス「はっ!」


クレスの斬撃が魔物に止めを刺す。その場に落としたデリスエンブレムを拾い上げる。


クレス「これでようやく全員分か」

チェスター「なんだかんだで先にこっちが集まっちまったな」

ミント「そうですね…。アーチェさん、御無事でしょうか」

ほむら「大丈夫でしょう…ほら」


ほむらがとある方向を指差す。その先からかすかにアーチェの声が聞こえた。

695: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:20:26.27 ID:bhBFa+9l0
すず「御無事で何よりです。アーチェさん」

アーチェ「暇過ぎて死んじゃうところだったよー」

クラース「そういうな。こちらも遊んでいた訳ではない…これはお前の分だ。ちゃんと装備しておけ」

アーチェ「これクレスが着けてたやつ?みんなも着けてんの?」

ほむら「恐らくそれがあの罠を回避するために必要なのよ」

クレス「それを手に入れつつ皆と合流してたんだけど敵の攻撃が激しくてね…」

アーチェ「なーるほどね。じゃあこれで先に進めるってワケだね」

チェスター「ちゃんと装備しろよ?」

アーチェ「うっさいなーいちいち。大丈夫だって」

クラース「よし、じゃあ今度こそ先に進むぞ。思わぬ時間を食ってしまったからな」


696: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:21:01.22 ID:bhBFa+9l0
クレス「ここがさっき飛ばされた場所ですね」

ほむら「ええ。でも次は大丈夫なはずよ」

チェスター「おっしゃ!じゃあ行くぜ!」


カラン、と何かが落ちる音がした。


ほむら(…何の音?)


しかし振り向く前に罠が作動する。


クラース「馬鹿なっ…!」

ミント「そんな…また…!?」

697: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:21:46.78 ID:bhBFa+9l0
再び光に包まれた七人だったが、光が収まった時は先程と違い、クレス以外もその場に残っていた。


アーチェを除いて。


すず「アーチェさんは?」

ほむら「…はぁ」


ほむらが最初に気が付いた。そして大きなため息を吐いた。


ミント「どうなされました?ほむらさん」

ほむら「…アレを見て」


ほむらがとある方向を指差す。その先にあったのはデリスエンブレムだった。


チェスター「罠を回避するアイテムを罠の直前で落とすか普通…」

ほむら「いいえ、あの人は普通じゃないわ。そこを計算に入れておくべきだった…」

クラース「…仕方が無い。もう一度迎えに行くぞ。それから暫く説教する時間をくれ」

ほむら「奇遇ね。私も同じ提案をしようと思っていたわ」

クレス「ははっ…じゃあ…行きましょうか…」


少し疲れた様子の六人による二週目の救出活動が始まった。

698: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:22:44.13 ID:bhBFa+9l0
ダオス城 小部屋


クラース「ここに結界を張る。少し休むぞ」

クレス「ふぅ…やっと一息つけますね」

チェスター「流石敵の本拠地…って感じだな」

ミント「お茶を淹れます。皆さんは休んでいてください」

ほむら「ありがとうミントさん」

すず「ほむらさん大丈夫ですか?」

ほむら「ええ…弾が尽きていくのは少し心臓に悪いけどね」

クラース「身体をしっかり休めておけ。まだまだ先は長そうだからな」

アーチェ「はい!小腹が空きました!」

チェスター「頭はスッカスカだけどな」

アーチェ「何よ煩悩の塊のくせに」

チェスター「うっせーよ欲望の塊が」

クラース「お前ら人の話を聞け」

ほむら「…はいアーチェさん。これが最後のお菓子よ」


ほむらが取り出したのは、初めてみんなの前で振舞ったお菓子と同じものだった。

699: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:23:24.85 ID:bhBFa+9l0
アーチェ「あ!これまだ残ってたんだ!ありがとー!」

ほむら「ちゃんと皆で分けるのよ?」

アーチェ「はーい!いっただっきまー!」

チェスター「俺も一本くれ!」

クレス「なんだかんだ言ってもチェスターもやっぱり食べるんだね…」

ほむら「アーチェさん、すずにも」

アーチェ「そうだね。はいすずちゃん!美味しいよ」

すず「ありがとうございます。頂きます」


すずは受け取ったお菓子を小動物のように少しずつ口に運んでいく。

700: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:24:09.47 ID:bhBFa+9l0
すず「甘くて美味しいですね。ちょこれいと、ってやつですか」

ほむら「正解。私の世界のお菓子よ」

すず「すいません…もう一本いただけませんか」

アーチェ「あーい!…ほむらちゃんも…はい、あーん」

ほむら「…また?」

アーチェ「いいからー!はい!あーん」

ほむら「はあ…。……あーん」

アーチェ「ウッシャッシャ♪」

ほむら「…なんで貴方が嬉しそうなのよ」

クラース「ふっ…」

クレス「? どうしたんですか?なんだか嬉しそうですね」

クラース「いや、なんでもない。…もう少し休んだら出発するぞ」


最後の束の間の休息をクレス達は満喫していた。

701: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:24:49.10 ID:bhBFa+9l0
最深部付近


ほむら(一面ガラス張り?…まあガラスじゃないんでしょうけど…。
   それに…宇宙?)

クレス「景色が変わりましたね…。そして、雰囲気も」

クラース「ダオスが近いんだろう…。いよいよだな」

ミント「ついにここまで来ましたね」

チェスター「どでかい一発ブチ込んでやるぜ…!」


全員が進もうとした時、後方から迫ってくる二体の魔物が現れる。


SEALEYE?「ダオス様の元へは行かせんせんせん」

クレス「!? 後ろから!?」

クラース「ちっ!こんな時に!」

ほむら(七人で戦うには狭すぎるわね…ここは…)

ほむら「皆、先に行って頂戴」

アーチェ「みんな!先に行ってて!」

すず「皆さん、先に進んでください」


三人が同時に、同じようなセリフを口にした。

702: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:25:19.00 ID:bhBFa+9l0
ほむら「考えることは同じ、ってわけね」

アーチェ「そうみたいだねっ」

ミント「三人を置いていくわけには…!」

すず「ここで全員で戦うには狭すぎます。無視しても挟撃されてしまいますし。
   …すぐに追いつきます」

クラース「仕方ないな…。すぐに追ってくるんだぞ!」

チェスター「…死ぬんじゃねえぞバカ女」

アーチェ「…うっせ。アンタも死ぬんじゃないわよ」

クレス「…ほむら、アーチェ、すずちゃん。…先に行って待ってる!」

ほむら「別に先にダオスを倒してくれていても構わないわよ?」

クラース「無茶言うな…。……行くぞ!」

703: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:25:55.83 ID:bhBFa+9l0
SEALEYE?「お前たちにはにはには」

SEALEYE?「世界で最も美しい光景景景」

SEALEYE?「血みどろの死を与えようようよう」

アーチェ「気持ち悪い喋り方!」

すず「その素直な感想は相手を傷つけます。もっとお願いします」

ほむら「すず、私が左を引き付けるわ。右をアーチェさんとお願い」

すず「いえ、わたしが一人でひきつけた方が」

ほむら「貴方の方が火力がでるわ。二人で一気にケリをつけて頂戴」

すず「…分かりました」

ほむら「…来るわ!」


ほむらが左の、すずとアーチェが右の魔物に立ち向かう。

704: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:26:36.45 ID:bhBFa+9l0
ほむらが拳銃を手に取り、発射する。
単眼の魔物はその場で回転し弾を弾く。


ほむら(あの回転には近づかない方がよさそうね)


回転が止まるまで様子見に回ったほむらだったが、それは失敗だった。
魔物が魔力を練っている。


ほむら(…しまった!)


慌てて中断させようとするが、止める方法がない。

頭上に雷の刃が生み出され、ほむら目掛けて降り注ぐ。


ほむら「ぐっ!」

705: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:27:42.91 ID:bhBFa+9l0
アーチェ「ほむらちゃん!」

すず「くっ!」


魔物が回転したまま突撃してくる。
すずは受け止められないと判断し、横に跳びかわす。


すず「…回転が厄介ですね」


魔物はその場で回転し続けている。
まずはあの回転を止めないと攻撃は届かないだろう。


すず「アーチェさん、お願いします」

アーチェ「っ…!」


ほむらのことが気になりあまり集中できていないアーチェに声をかける。


すず「まずこいつを倒すのが最優先です。それがほむらさんの指示ですから」

アーチェ「…そうだね!」

706: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:28:40.81 ID:bhBFa+9l0
ほむら「げほっ…」


身体が痺れる。直撃こそ免れたがダメージも貰ってしまった。


ほむら「愚策だった…わね」


再び魔物が回転し、体当たりを仕掛けてきた。


ほむら「…! 受けるしかっ…!」


身体が痺れ、まだ自由に動けない。
腕だけ上げて、盾で凌ぐしかなかった。


ほむら「くぅっ!」


衝撃がほむらの身体を襲う。金属を削るような耳障りな甲高い音が鳴り響く。

今はまだ、耐えるしかなかった。

707: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:29:26.80 ID:bhBFa+9l0
すず「忍法、飯綱落とし!」


魔物の回転は横回転、ならばと上から攻めるすずだったがその攻撃も弾かれる。

魔物はすずが着地する前に狙いを定め、回転をとめて目からレーザーを発射した。


すず「っ!」


咄嗟に空中で身をよじり、直撃は避けたが左肩をレーザーが貫く。
血が飛び散り、指先にまで血が垂れ落ちてくる。


アーチェ「すずちゃん!?」

すず「っ…大丈夫です。気にしないでください」

アーチェ「…好き放題やって!インディグネイション!」


上空から神の雷が降り注ぐ。地面に着弾した雷が爆発を起こし魔物を宙に打ち上げた。

708: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:30:11.20 ID:bhBFa+9l0
すず「…好機!」


回転が止まったまま浮き上がった魔物よりすずは更に高く跳ぶ。
全体重を乗せ、刀を突き刺すように下に向けて魔物を貫く。


すず「今度は届きましたね…雷電!」


突き刺した刀を避雷針代わりにし、雷を撃ち落とす。


アーチェ「オマケだよ!…レイ!」


魔物の身体を貫くように光の雨が落ちてくる。
崩れるように魔物の身体が消えていく。
その場に残ったのは突き刺したすずの刀だけだった。


すず「ほむらさん!今行きます!」


片手で刀を拾い上げ、すずはほむらの元へ急ぐ。

709: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:30:46.58 ID:bhBFa+9l0
ほむら「しつこい…わね!」


魔物の回転が止まらない。
盾を包み込むように魔力を消費していたが限界が近づいてくる。


すず「助太刀します…忍法、曼珠沙華!」


炎を纏った手裏剣が魔物の身体に着弾し、爆発する。
その一瞬を見逃さずほむらは魔物から距離を取る。


ほむら「ハァ…ハァ…助かったわ、すず」

すず「いえ…全てはほむらさんの指示通りです」


肩を抑えながらすずは答えた。
表情は崩していないが、額には肩に負った傷のせいか汗が滲んでいる。

710: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:31:16.32 ID:bhBFa+9l0
アーチェ「あとはこいつだけね!さっさと倒して追いつこ!」

ほむら「あいつの回転を止めてくれるだけでいいわ。後は私がなんとかする」

すず「策があるのですか?」

ほむら「ええ。その為にはあの回転が邪魔なのよ」

アーチェ「おっけー!任せて!」

すず「わかりました。アーチェさん、援護します」


すずが先行し、その後をほむらが追いかける。
アーチェは呪文の詠唱に入った。

魔物が再び突撃してくる。だが、ほむらもすずも無理はせず距離を取り時間を稼ぐ。

711: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:32:00.12 ID:bhBFa+9l0
アーチェ「さよーならー。アースクェイク!」


地面を盛り上げ、魔物を空中に打ち上げる。回転が止まった。


ほむら「ありがとうアーチェさん。これで終わりよ」


ほむらが盾からリボルバーを取り出し、魔物の目を狙い撃ちこむ。
狙い通りに当たった弾の先端から液体が飛び散った。


SEALEYE?「っがががががががががが!?!??」


魔物が溶けていく。

712: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:32:38.15 ID:bhBFa+9l0
アーチェ「…うわ…ちょっとぐろいかも」

すず「今のは?」

ほむら「マナを超圧縮させて液体化させたもの、らしいわ。弾丸に仕込んでおいたの」

すず「ここで使ってしまってよかったのですか?」

ほむら「ダオスに効くかわからないからね。それに早くすずの止血をしないと」

アーチェ「ほむらちゃん、どこでこんなもの見つけてきたの?」

ほむら「ウィノナさんからよ」

アーチェ「…なるほどね」

ほむら「すず、肩を見せて」

すず「っ…申し訳ありません」


ほむらはすずの肩の治療を始める。


アーチェ「みんな、大丈夫かな」

ほむら「大丈夫よ…きっと。アーチェさんも少し休憩しておいて。集中して疲れたでしょ」

アーチェ「じゃあお言葉に甘えて…よっこいしょ」


箒から降り、アーチェはその場に座り込んだ。


ほむら(いよいよ最後ね…。私ができることは…)

713: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:33:22.72 ID:bhBFa+9l0
ダオス城 最深部



クレス「次元斬!」

ダオス「がああ!」


クレスの次元斬がダオスの身体に深々と突き刺さった。


チェスター「やったか!?」


攻撃を受け倒れたダオスだったが、ゆっくりと立ち上がる。

714: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:34:11.06 ID:bhBFa+9l0
ダオス「ふ、ふははは…」

クレス「!?」

チェスター「何笑っていやがる!?」

ダオス「下等な生命体がここまでやるとは思わなんだぞ」

ダオス「我も全身全霊を賭して戦おうではないか!」

クラース「まだ力を隠していたというのか!?」

ダオス「我が力を遮る邪魔な障壁は消させてもらおう!」


ダオスの身体が見る見るうちに形を変えていく。


ダオス「私の邪魔はさせぬ…」

ダオス「私を待ち望んでいる民の為にも…」

ダオス「絶対に邪魔はさせぬぞ!」

ダオス「我が星!母なる星デリスカーラーンよ!」

ダオス「我の力を解放したまえ!」

715: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:34:47.83 ID:bhBFa+9l0
ミント「なんて大きさ…!」

チェスター「はっ、でかけりゃいいってもんじゃねえぜ!いい的だ!」

クラース「…っ!気を付けろ!何かしかけてくるぞ!」


巨大化したダオスが魔力を込めた様々な大きさの弾を次々と撃ちだす。


クレス「ぐっ!進めない!」

チェスター「ちっ!邪魔ってえな!鷲羽!」


ダオスの攻撃を避けるように飛び、そのまま空より地上を薙ぐように弧を描く矢を放つ。


クラース「こう攻撃が激しくては詠唱に入れんな…!」

ミント「クレスさん…バリアー!」


攻撃を受けていたクレスの周囲に光の障壁を作り出す。


クレス「ミント!助かった!」


防御に回っていたクレスだったが、ミントの援護を受け攻撃に回る。
しかしダオスはそれ以上の手数で攻撃を仕掛けてくる。

716: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:35:24.26 ID:bhBFa+9l0
クラース「くそっ!まだ手数が足りんか!」

ほむら「お困りのようね。手を貸すわ」


クラースを護るようにほむらが壁となり、ダオスの攻撃を防ぐ。


クラース「いいタイミングで来てくれたな!」

ほむら「実はいいタイミングを見計らって外でずっと待ってたのよ」

クラース「良い演出だ。ご褒美としてこれで借金は無しだ」

ほむら「あら、嬉しいわ。じゃあ後はダオスをやっつけるだけね」

クラース「そうだな。では詠唱の間すまないが頼んだぞ」

ほむら「ええ、任されたわ」

717: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:35:59.42 ID:bhBFa+9l0
アーチェ「ダオス!ここでアンタも…ってダオスどこよ!?」

チェスター「目の前にいるだろうが!」

アーチェ「随分でっかくなっちゃったねー…成長期?」

チェスター「いいからさっさと攻撃してくれ。手数が足りねえ」

アーチェ「フッフーン!まあ任せなさい!」

718: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:36:55.10 ID:bhBFa+9l0
すず「クレスさん、援護します」

クレス「すずちゃん!助かったよ!」

すず「この巨体です。私が機動力で攪乱します」

クレス「頼んだよ!」


ミント「リザレクション!」


足元に六芒星の方陣が浮かび上がる。力強い光が全員の傷を癒していく。

719: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:37:48.32 ID:bhBFa+9l0
クラース「…出でよ!オリジン!」


根源の精霊が姿を現す。手に持った槍の先端から雷のような光を発し攻撃する。


アーチェ「エクスプロード!」


灼熱の火球が地面に落ち、大爆発を起こしダオスの身体を飲み込む。


すず「忍法…、五月雨!」


身にもとまらぬ連続攻撃で攪乱しながらもダメージを与えてく。


ほむら「このまま押し切って…」


だが、突如ダオスの身体から凄まじい魔力が放出され、爆発を起こす。


クレス「がああ!」

すず「ああっ!」

720: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:38:31.94 ID:bhBFa+9l0
ミント「クレスさん!すずちゃん!」


ダオス「諦めぬ!諦めることなどできぬ!」


ダオスの身体が縮み、元の大きさへと戻っていく。


ダオス「大いなる実りを手に入れるまでは!」

ダオス「デリスカーラーンの母なる神よ!」

ダオス「我に力を!」

ダオス「我に力を!!」


アーチェ「何この魔力!?ありえないよ!」

ダオス「私の願い…」

ダオス「民の祈り…」

ダオス「私はまだ戦える!」


再びダオスが姿を変えた。白く、美しい羽をもったそれはまるで――


チェスター「魔王が天使みたいな恰好しやがって…!」

ほむら(願い、祈りを力に…?)

ほむら(まるで…私達みたいね…)

721: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:39:25.74 ID:bhBFa+9l0
クラース「ミント!クレスとすずを頼む!」

ミント「はい!」

ほむら「…やるしかないわね」


ほむらが宙を浮かぶダオス目掛けて距離を詰める。


ダオス「今のお前になにが出来る?」


ダオスはほむらを無視し、後衛三人に狙いを定め羽のような形をした魔力を放出させた。


ほむら「駄目!避けて!」


だがその願いは届かず、避けきれなかった三人の身体をダオスの攻撃が貫く。


クラース「ガハッ!」

アーチェ「あっ…ぐぅ!」

ミント「きゃああ!」

722: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:40:08.26 ID:bhBFa+9l0
ほむら「…よくも!」

チェスター「ほむら!」

すず「…ほむらさん!待って!」


ダオスの攻撃を受けて倒れた三人を見て激昂したほむらだったが、
魔力の爆発の直撃を受けたすずが苦しみながらも声をかける。


ほむら「…くっ!」

すず「…今感情に流されてしまっては駄目です」

ほむら「…ごめんなさい」

すず「わたしとチェスターさんで時間を稼ぎます。ミントさんをお願いします」

ほむら「お願いだから…死なないで」

すず「はい。死にません…絶対に」

すず「チェスターさん、お願いします」

チェスター「やるっきゃねえな…!震天!」

723: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:40:45.20 ID:bhBFa+9l0
ほむら「ミントさん!」

ミント「ほむら…さん……申し訳…ございません…」

ほむら「少しジッとしてて…」

ほむら(皆を信じるのよ。…そして、できることをやるのよ…)


少しずつだが、ミントが負った傷が塞がっていく。


ミント「この力…」

ほむら「…私のやれることが見つかったわ」

ミント「ほむらさん?」

ほむら「ミントさん、皆の回復…頼んだわ」

ミント「は、はい!」

724: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:41:33.86 ID:bhBFa+9l0
ダオス「ちょこまかと!」


ダオスが手刀を振り下ろす。
すずはそれを刀で受け、その瞬間後ろに跳び威力を軽減させようとした。


すず「がっ…は」


威力を軽減したはずの攻撃の衝撃に、すずは口から血を吐きだす。


チェスター「すずちゃん!…疾風!」


援護の為に矢を構え、連続で撃ちだす。


ダオス「遅い」


だが、ダオスはいとも簡単にかわす。


チェスター「ちくしょう!」

チェスター(ダオスに一撃ブチ込むためにここまで来たんだろう!俺は!)

725: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:42:35.09 ID:bhBFa+9l0
ダオス「死ね!」

ほむら「させない!」


チェスターへ放たれた手刀をほむらが寸前でかばう。
盾で受けきれず、地面に叩き付けられる。


ほむら「げほっ!」

ほむら(意識だけは…途切れさせては…)


ミント「リザレクション!」


全てを癒す六芒星の方陣から生み出される光。


ほむら(大丈夫…いける…)


クレス「ダオス!」


回復を受けたクレスがダオスに立ち向かう。
だが、クレスの攻撃をあざ笑うかのように上空へダオスは逃げる。

726: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:43:14.15 ID:bhBFa+9l0
クレス「上に逃げても無駄だ!次元斬!」

ダオス「その技は先程見せてもらったぞ!人間!」


距離を無視した斬撃をダオスは避ける。

クレスがダオスを自由にさせまいと次々と斬撃を繰り出す。

攻撃を避けるのに集中したせいか、練られた魔力に反応するのが遅れた。


ダオス「…魔術師!?貴様!」

アーチェ「ほむらちゃん直伝…忍法やられたフリ、なのだ」

アーチェ「メテオスォーム!」


地面に倒れ込んだまま詠唱を完了させたアーチェの魔術。
呼び寄せられた隕石はダオス目掛けて落ちていく。


ダオス「ぐうう!」


ダオスは隕石の衝撃によるダメージを受け、一瞬体勢が崩れた。

727: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:43:43.63 ID:bhBFa+9l0
すず「隙ありです」

ダオス「…何!?」


隕石に紛れ、ダオスの隙を伺っていたすずが攻撃に転じる。


すず「忍法…鎌鼬!」


狙いはダオス本体ではない。ダオスから生えた翼だった。

真空の刃がダオスの片翼が切り落とした。


ダオス「!?まだだ!」


しかしダオスは落ちない。片翼を失ってもなお、空に浮いている。

728: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:44:46.37 ID:bhBFa+9l0
チェスター「ちっ!まだ落ちねえか!俺が…」

ほむら「チェスターさん、力を貸すわ」

チェスター「ほむら!?一体…」


ほむらは弓を構え矢を放とうとしたチェスターに近づき、弓に触れる。


ほむら(今の私なら…できるはずよ)

ほむら(皆を信じているから…)


ほむらの魔力がチェスターの弓を、矢を包み込む。


チェスター「これは!?」

ほむら「私には他人の武器の強化ができないものだと思ってた…。いえ、できなかったわ」

ほむら「それもそうよね…だって」


ほむら「信用してない人に力を貸すなんてできないもの」

729: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:45:59.70 ID:bhBFa+9l0
ほむら「でも今は違う…!チェスターさん、私の魔力を貴方に預けるわ」

ほむら「一発ブチ込んでやりたいのでしょう?協力するわ」


どこかでしたやり取りだ。チェスターは思い出し、その顔に笑みが浮かぶ。


チェスター「はっ…ハハハッ!…女の子がブチ込むなんて言うんじゃねえよ!」

チェスター「見てなほむら!決めてやるぜ!」


クレス「あの二人…!……なら、僕は!」


クレスは構える。あの技を撃つために――


クラース「来たれ!月の精霊…ルナ!」


ほむらとチェスター、そしてクレスの動きを確認しクラースはルナを召喚した。
召喚までに必要な時間、そしてダメージ狙いではなく目眩ましを目的とした選択だった。


ダオス「私は…まだ!」

ダオス「負けるわけには…!」

730: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:46:36.97 ID:bhBFa+9l0
光の柱がダオスの動きと視界を遮る。その瞬間を二人は見逃さなかった。


ほむら「…頼んだわチェスターさん」

チェスター「ああ!…俺たちも負けらんねえんだよ!」


チェスター「屠龍!」


ほむらの魔力を纏った矢が撃ちだされる。

731: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:47:22.49 ID:bhBFa+9l0
ダオス「これは…!」


片翼を落とされ、思うように動けないダオスは放たれた矢を叩き落とす。

叩き落とされた矢からほむらの魔力が放出される。

それは形を変え、それは新たな矢となりダオスの身体を、翼を貫いた。


ダオス「ガハッ…!こんな…馬鹿な…!」


ついに両翼を失いダオスは空を飛ぶ術を失った。地に向かって堕ちていく。

そこに、クレスが待ち受けていた。

732: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:48:03.92 ID:bhBFa+9l0
クレス「ダオス!これで最後だ!」

ダオス「にん…げん…が…!」

ダオス(すまぬ…)




クレス「冥空!」

ダオス(我が星よ…)



クレス「斬翔剣!」

ダオス(我が民よ……)


クレスの放った技が、握った剣がダオスとの因縁に終止符を打った。
時空を超えた旅が終わりを迎える。


733: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/08/30(土) 22:56:18.54 ID:bhBFa+9l0
ユグドラシル


クレス「ダオスは自分の星を救う為に戦っていた…、これじゃあ…僕たちの方が…」

クラース「では、あのままダオスを放っておいてもよかったと思うか?」

クレス「それは…」

クラース「我々にも譲れないものがあったんだ。お前にもあったはずだろう」

クレス「…はい」

クラース「気にするなとは言わん。だが、胸を張れ。我々はこの星を救ったんだ」

クレス「…はい!」

734: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:57:08.87 ID:bhBFa+9l0
ミント「今からユグドラシルにバリアーを張ります。これでマナの流出を防げるはずです」

アーチェ「実証済み、だもんね!」

ほむら「…そうね」

クラース「大いなる実り…届いて欲しいものだな」

クレス「そうですね…。ダオスの為にも」

ミント「では…バリアー!」


ミントの作り出した光の障壁がユグドラシルを包み込む。

735: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:58:44.74 ID:bhBFa+9l0
チェスター「これで…よかったんだよな」

すず「少なくとも、わたし達にとっては…ですね」


突如、何かが砕け散った音がした。…ほむらの盾からだ。


ほむら「どうやら…時間遡行の封印も解けたみたいね」


時を刻む仕事を放棄していた砂時計が、本来の役割を思い出したかのように時を刻み始めた。


クラース「やはり、原因はダオスだったということか」

ほむら「恐らく、だけど。…クラースさん指輪が」


突如、クラースの指輪が光を発し精霊が姿を現す。

736: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 22:59:47.93 ID:bhBFa+9l0
クラース「全く、どいつもこいつも勝手に…」

オリジン「…そう言うな。お前たちに伝えておかねばならぬことがある」

クレス「僕達に…?」

オリジン「正確に言えば、暁美ほむら。お前にだ」

ほむら「私に…?」

オリジン「時間遡行の力の封印を解いた精霊がいる。
     名を、ゼクンドゥス。時を司る精霊だ」

クラース「時を…だと?」

オリジン「…以前マクスウェルが歴史を樹で例えていたが、あながち間違いではない」

オリジン「未来には無数の可能性がある。そして可能性が広がるにつれ、枝が増えていく」

オリジン「この星には限界が来ていた。…魔科学以外にも枝が増えすぎたのが原因だ」

737: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:01:14.62 ID:bhBFa+9l0
チェスター「枝が増えすぎて…この星が…?」

クラース「実物の木で例えれば、栄養が行き届かなくなるということか」

オリジン「その通りだ。そして…枝が増えた最大の要因が…時空転移だ」

クラース「我々と、ダオスのせい…と言いたいのか」

オリジン「…全くの無関係ではない、とだけ言っておこう」

ミント「私たちがしていたことは…この星の寿命を縮めていたということですか!?」

クレス「ダオスの目的はこの星を滅ぼすことじゃなかった…。これじゃ…僕達が…」

オリジン「そこで動いたのがゼクンドゥスだ。そして…この星を救うために呼ばれたのが」

オリジン「暁美ほむら、お前だ」

738: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:02:35.33 ID:bhBFa+9l0
ほむら「私…が?この星を…?」

オリジン「お前の時間遡行の力、それに賭けたのだ」

ほむら「…詳しく、説明してくれるのよね?」

オリジン「ああ。…時空転移と時間遡行、似た力だが決定的に違う点がある」

クラース「時間遡行は過去に戻る力、時空転移は過去にも未来にも行き来ができる」

オリジン「そうだ、そしてもう一つ。これが暁美ほむらが呼ばれた最大の理由だ」

オリジン「時間遡行はそれ以前の過去を固定する。…副作用のようなものだがな」

ほむら「そんな…事…」


無い。と言おうとしたが心当たりはあった。

時間遡行した際、目が覚める場所、時間、状況は常に同じだった。

739: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:03:34.43 ID:bhBFa+9l0
オリジン「そこに目を付けたゼクンドゥスはお前をこの世界に呼び込んだ」

ほむら「…強制的に、ね」

クラース「…一ついいか」

オリジン「なんだ、我が主よ」

クラース「お前の口振りだとゼクンドゥスはほむらの存在を知っていたことになるが…」

オリジン「奴は全ての世界に当てはまらず、全ての世界を見通せる場所に常にいる。
     時に干渉する能力には多感に反応したのだろう」

オリジン(…それだけでは無いのだが、言う必要はあるまい)

アーチェ「うーん…、要するに広がり過ぎたこの世界の歴史を一度纏めるために
     ほむらちゃんが呼ばれた、ってこと?」

オリジン「ある程度、だがな。一時しのぎには充分だろう。
     後はゼクンドゥスが制御するはずだ」

740: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:04:41.49 ID:bhBFa+9l0
すず「つまりほむらさんは二度この世界を救ったことになるのですね」

ほむら「…大袈裟ね。呼ばれただけで世界を救ったことになるなんて」

オリジン「…」

オリジン「いずれ奴から礼の一つでもあるだろう」

ほむら「まあ、期待しないで待ってるわ」

オリジン「フッ…、ではさらばだ。英雄よ」


オリジンは言いたいことを全て言い終わったのか、あっさりとその場から姿を消した。

741: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:05:54.99 ID:bhBFa+9l0
クラース「全く、精霊達はなぜこうも勝手に…」

チェスター「旦那の監督不行き届きじゃねえのか?」

クラース「無茶言わんでくれ。お前達の面倒をどれだけ見てきたと思っているんだ」

ほむら「そう、ね。…見てきた……よね」


終わってしまったのだ、時空を超えた旅が。

来てしまったのだ。


ほむら「お別れね…」


別れの時が。

742: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:07:24.96 ID:bhBFa+9l0
アーチェ「ほむら、ちゃん……」

ほむら「そんな顔しないで。…湿っぽいのは苦手なの」

ほむら「それじゃあ行くわ」


ほむらはそういい振り向き、盾に手をかけた。

後は反転させるだけでいい。


ほむら(反転させるだけで…)


手が動かない。


ほむら(駄目よ…)


すず「ほむらさん」


すずが声をかけてきた。足音が近づいてくる。


ほむら(駄目…)


すずが後ろから腕を回し、ほむらを抱きしめた。


ほむら(泣いちゃ…)


すず「ほむらさん…」


ほむらの名前を呼んだあと、一度深呼吸をしてすずは続けた。


すず「ほむら、本当にありがとう」


ほむら「…!」

743: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:08:36.70 ID:bhBFa+9l0
すず「ほむらはわたしの事を友達って言ってくれた。
   だからわたしも…ほむらにはこういう風に喋りたいってずっと思ってて…」


ほむら「ずる…いわよ…」


もう我慢できなかった。ほむらの瞳から大粒の涙が零れる。

すずに抱き付かれたままほむらは振り向き、すずの背中に手を回した。


ほむら「最後の…最後に……こん…なの……」


すず「ごめん…ほむら……」


身体を通してすずの身体が震えているのが伝わってくる。

すずも泣いてくれているようだ。


ほむら「…やっぱり…ちゃんとお別れをしないと駄目よね…」

744: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:10:53.70 ID:bhBFa+9l0
すずから身体を離し、仲間達の前に立つ。

流れた涙を拭い、落ち着かせるように一度深呼吸をする。

目にはまだ少しだけ涙が溜まっている。

745: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:12:07.26 ID:bhBFa+9l0
ほむら「クレスさん、貴方の誰かを護る力と、護る為に倒す力は本当に凄かった。
    貴方がここまで強かったから、私達はこうして旅の終わりを迎えることができたのだと思うわ」

クレス「結局、ほむらには勝ち越せずだったけれどね」

ほむら「もう何度やっても貴方から勝ちを拾えないわ。勝ち逃げさせてもらうわよ」

クレス「…いいさ。負けを知ったからここまでこれたんだ。ほむら、本当にありがとう」

746: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:12:53.37 ID:bhBFa+9l0
ほむら「ミントさん、貴方には何度も守ってもらったわ。それに…無茶する私を助けてくれた。
    …本当に迷惑をかけてごめんなさい。そして、ありがとう」

ミント「私こそ何度も助けて頂きました。ほむらさん、貴方も優しい心をもっています。
    ただ、その優しさを出すのを恐れては駄目ですよ。きっと分かってもらえる筈です」

ほむら「…お互い納得するまで話合って、かしら?」

ミント「そうです。一度は分かり合えたのなら…必ず」

ほむら「…ありがとう、ミントさん」

747: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:13:29.60 ID:bhBFa+9l0
ほむら「クラースさん、貴方にも色々迷惑かけてしまったわね。でも、どんな無茶なお願いも
    最後は必ず聞き入れてくれた。本当に感謝しているわ」

クラース「お前なら大丈夫だと判断したからだ。それに、こちらもほむらには無理な注文を
     色々してしまったからな。お互いこれでチャラということで手を打とうじゃないか」

ほむら「…そうね。貸し借り無しの綺麗な身体でお別れしたいわ」

クラース「心の方はどうだ?」

ほむら「正直、まだよくわからないわ。ただ…貴方達に背中を押された以上、頑張らないといけないわね」

クラース「気負いすぎるなよ。お前は真面目過ぎる」

ほむら「そういう貴方も鋭すぎるわ」

クラース「ふっ…これもお互い様ということだな」

ほむら「ええ…そうね」

748: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:14:17.22 ID:bhBFa+9l0
ほむら「チェスターさん、最後の一撃見事に決まったわね」

チェスター「ああ、ほむらのおかげだ。本当に色々世話になっちまったな」

ほむら「私も貴方の『一度決めたことを最後まで貫く』大切さを見習わないといけないわ」

チェスター「…ただの意地だよ。そんなかっこいいもんじゃねえ」

ほむら「本人がそう思っていても、周りも同じように思っているとは限らないわよ?」

チェスター「…へっ、最後までほむらには敵わねぇな。ほむら、負けんじゃねえぞ」

ほむら「ありがとう。貴方達も村の再建、頑張ってね」

749: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:14:51.69 ID:bhBFa+9l0
ほむら「アーチェさん、すずちゃん」

ほむら「友達になってくれて、ありがとう…」

ほむら「…っ…ごめんなさい……」


少しでも気を抜いてしまうと再び涙が零れそうになる。


アーチェ「ほむらちゃん」


アーチェがほむらの元へ近づいてくる。

トレードマークであるポニーテールを解き、赤いリボンを握っている。

750: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:15:37.94 ID:bhBFa+9l0
アーチェ「これあげる。…御守り代わりにもっていって」

ほむら「…いいの?」

アーチェ「ほむらちゃんに持ってて欲しいの」


そういいアーチェはほむらの頭のカチューシャを外し、手際よくリボンを結ぶ。


アーチェ「…似合ってるよほむらちゃん」

ほむら「…アーチェさんごめんなさい。…ずっとアーチェさんは私に歩み寄ってくれていたのに…」

アーチェ「…大丈夫。ほむらちゃんは照れ屋さんってわかってるから」


優しくほむらの頭に手を乗せて優しく撫でる。


アーチェ「ほむらちゃん…頑張ってね」

ほむら「ありがとう…アーチェさん」


アーチェの目にも涙が溜まっていた。だが、アーチェは必死に堪えて笑顔を作る。

751: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:16:23.04 ID:bhBFa+9l0
すず「ほむら、わたしも頑張る。だから…」

ほむら「ええ…。すず、足りないものは見つかった?」

すず「うん、でももういいの。足りないものはもうクレスさん達が…ほむらがくれたから」

ほむら「そう。おめでとう…すず」

すず「ありがとう、ほむら」


ほむら(泣いちゃ駄目。みんな、笑ってくれているのだから…)

752: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:17:06.32 ID:bhBFa+9l0
ほむらは再び盾に手をかけた。今度こそ…本当のお別れだ。


クレス「負けちゃダメだよ、ほむら」

ミント「最後まであきらめないでください、ほむらさん」

クラース「ほむら…険しい道かもしれないが、お前なら切り拓けるだろう」

チェスター「一人になるんじゃねえぞ、ほむら!」

すず「頑張ってね、ほむら」

アーチェ「バイバイ、ほむらちゃん…元気でね」

753: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:18:16.88 ID:bhBFa+9l0
ほむら「みんな…」



ほむら「仲間と呼んでくれて…本当にありがとう」



ほむら「さようなら…私の…最高の仲間達」



砂時計を反転させた。



ほむらにとっては聞き馴染みのある音が辺りに響いた。

754: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:19:23.13 ID:bhBFa+9l0
病室


ほむら「…んっ……」


ほむらが目を覚まして最初に見た光景は、見覚えのある天井だった。


ほむら(…何か、とても長い夢を見ていた気がするわ)


いつものようにソウルジェムを手に取り、視力を回復させる。

眼鏡を外し、三つ編みを結んでいるリボンを解いた。


ほむら(? 視力を回復させたのになんで視界がボヤけて…)


少し目を擦り、擦った手を見る。水滴が付着していた。


ほむら(私…泣いてる?)

755: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:20:22.22 ID:bhBFa+9l0
異変はそれだけではなかった。手に握っていたリボンがいつもと違う。


ほむら(赤い…リボン…?)


ほむら(…そうよね……)


ほむら(夢な訳、無いわよね……)


部屋には今一人しかいない。気が済むまで泣こう、ほむらはそう決めた。

756: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/30(土) 23:21:10.79 ID:bhBFa+9l0
ほむら(今度こそ…終わらせよう。こちらの旅を)


ほむら(皆も見てくれているはず)


ほむら(あれは夢なんかじゃない。夢だなんて言わせない)


あの夜を越える為に再びほむらは歩き出した。

今度こそ進んだ道の先に迷路の出口があると信じて。


ほむら(まどか…今度こそ貴方を――)

757: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/08/30(土) 23:26:59.77 ID:bhBFa+9l0
ほむら「夢は終わらない」
以上で終わらせていただきます。

序盤の投下の仕方がとてもひどく、今見返すと恥ずかしい限りです。

最後まで読んでくださった方々本当にありがとうございました。