1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 16:57:37.36 ID:lZeChTCy0
幼「来ちゃった」

男「………」カタカタ

幼「無視すんなよー寂しいじゃないかー」

男「もうちょっとで終わるから待ってなさいって」カタカタ

幼「ん?何やってんの?」

男「課題」カタカタ

幼「マジで?」

男「マジマジ」カタカタ

男「お前は終わったの?」カタカタ

幼「まぁよいではないかよいではないか」

男「俺は知らないかんね」

幼「まぁまぁまぁまぁ」

引用元: 幼馴染「おっす」 




3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 17:05:36.57 ID:lZeChTCy0
幼「まぁあと一日あるからだいじょぶ。たぶん」

男「またそんな事言って…」カタカタ

幼「そんな事より!!私お腹すいたかも」

男「それは確かに」カタカタ

幼「でもなんか作る気分じゃないの」

男「俺に作れと?」カタカタ

幼「どっか食べに行こう!!」

男「えぇー?」

幼「さぁさぁ」

男「食べにって具体的に何よ」カタタッ…タン

幼「とりあえず車出してよ。適当に探そうって」

男「しかも車かよ……」パタン

幼「文句言いながらも付き合ってくれる男ちゃんかっこいー!!」

男「男ちゃんってなんだよ」

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 17:15:00.31 ID:lZeChTCy0
男「車出したはいいけど何もあてないよ?」

幼「大通り走って目についたトコに入ろっか」

男「いつもそう言ってグダグダになってる気がするけど」

幼「まぁそこは流れに任せてね」

幼「あ、何か食べたいのある?」

男「うーん……ラーメンかな。家系の」

幼「うぇ……重いからパスで」

男「幼馴染は何かないの?」

幼「私はなんでもいいよー」

男「じゃあラーメ 幼「それ以外で!!」

男「……」イラッ

幼「そこらへんは男さんにお任せしますよ」

男「じゃあ俺は幼馴染が食いたいものがいいわ」

幼「うわ!それはズルいって!!」

男「出発早々グダグダじゃねーか」

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 17:20:44.36 ID:lZeChTCy0
幼「今回は男さんの食べたいもので」

男「いやいや幼馴染さんが決めてくださいって」

幼「いやいやいやここは……」
幼「………」

男「………」

男「………あ」

幼「?」

男「つけ麺は?」

幼「あー…つけ麺ならいいかも。っていうかつけ麺食べたいかも」

男「じゃあ決まりな」

幼「あ、それじゃあ私あそこがいい?」

男「どこ?」

幼「前言ったあそこだって」

男「あそこじゃわかんねーって」

幼「付き合い長いんだからなんとなく察しろよー」

男「無茶言わないでください」

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 17:25:57.87 ID:lZeChTCy0
幼「頭には浮かんでるんだって。名前が出て来ないの」

男「みんなそう言うよ」

幼「あー、あー、あれ!あれだって!」

男「ヒント。せめてヒント」

幼「クイズじゃないんだってばー」

男「いいから早く思いだせって」

幼「うーん……………………あ」

男「思いだしたか」

幼「なんか109みたいな名前だった気がする」

男「109?渋谷か?…………………って、あ」

幼「あ、わかった?」

男「わかったけどパスな」

幼「えぇー!?なんでー!?」

男「あそこ遠いんだよ。駐車場ないし……」

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 17:30:01.77 ID:lZeChTCy0
幼「………ぶー」

男「そう怒るなって。また今度な」

幼「つけ麺………」

男「以外にノリノリだったんだな」

幼「全乗せ!!」

男「いつも残すんだからやめなさい。俺の苦労を考えろ」

幼「スープ割り!!」

男「一口で満足するくせに…あ、注文決まった」ピンポーン

幼「決まってないよ!呼ばないでよバカー!!」

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 17:34:20.72 ID:lZeChTCy0
アリガトウゴザイマシター

幼「ふぅ……食べた食べた」

男「あんだけ文句言ってたのに…」

幼「やっぱチーズバーグディッシュが鉄板だね!!」

男「はいはい」

幼「これからどうしよっか」

男「いや、課題やれよ」

幼「それを言うなってばー」

男「…………はぁ」

幼「お?どうした?これみよがしな溜息ついて」

男「せっかくの休日に彼女も作らないで俺は何してんだろうなーと」

幼「ふふふ。泣くな●●」

男「うっさい●●が」

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 17:39:00.38 ID:lZeChTCy0
幼「お?男くん知らんのかね?一度も砦を攻略した事のない兵士より一度も攻略された事のない砦………」

男「はいはい孔子孔子」

幼「でも真面目な話彼女作んないの?」

男「んー」

幼「サークルでも男って結構人気あるの知ってた?女ちゃんとか後輩ちゃんとか怪しいと思うなー?」

男「そういうお前も先輩やチャラ男とかとはどうなのよ」

幼「あはは、ないない。それより今は男の話だってば」

男「えぇー」

幼「ほれほれ」

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 17:42:52.76 ID:lZeChTCy0
男「まぁ女ちゃんや後輩はいい娘だと思うよ」

幼「ふんふん」

男「俺も馬鹿じゃないから、二人からそれっぽいアピールされてるのくらいわかるし」

幼「アピールされてるんかい」

男「でも、二人には悪いけど正直ないかな」

幼「ほー?ほー?」

幼「あの二人を袖にするなんていいご身分ですなぁ」

男「まぁね」

幼「イケメンだー!ここにイケメンがいるぞー!!」

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 17:47:24.82 ID:lZeChTCy0
男「二人には悪いけどさ」

幼「うん?」

男「俺昔から心に決めた人がいるから。その人と結婚するつもりだからさ」

幼「おぉ、奇遇だぬ。実は私も子供の頃心に決めた人がいてね」

男「そうか、すごい偶然だな」

幼「ホントだねぇ」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 17:50:45.08 ID:lZeChTCy0
幼「その人ったら結婚の約束をしてくれてさ」

男「へぇ」

幼「だから私はその人が迎えに来てくれるまでに女を磨いておくのさ」

男「えぇ?磨けてるかー?」

幼「そこは『確かにいい女だな』とか褒めるところでしょー!?」

男「まぁ自分に嘘はつけませんので」

幼「おいぃー!!」

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 17:55:21.06 ID:lZeChTCy0
男「実は俺も結婚の約束しててさ」

幼「ほぉほぉ」

男「その人はズボラな癖に変に律儀なやっぱりでさ」

幼「ふんふん」

男「大人になって改めて俺がプロポーズしないとダメだって言われたんだ」

幼「『大人』ってえらい曖昧やね」

男「そうそう。あの娘馬鹿だったからなー」

男「ところでさ」

幼「ん?」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 17:57:52.00 ID:lZeChTCy0
男「俺もう大人じゃない?」

幼「何をもって大人と言うかはわかんないけど、法律上では成人になりましたよね」

男「だよねだよね」

男「って事で」

男「結婚を前提にお付き合いして下さい。幼馴染ちゃん」

幼「…………」

幼「…………」

男「おい」

幼「うわぁ!?」

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 18:01:40.55 ID:lZeChTCy0
男「話聞いてた」

幼「そりゃもちろん」

男「じゃあなんか言ってよ」

幼「へぇ」

男「ここは泣きながら『嬉しい……約束覚えてくれてたんだね?ずっとずっと一緒だよ?』って返すとこじゃん」

幼「いやたった今その約束の話してたよね?」

男「うっさいなぁもう!」

幼「珍しく男が動揺してる」

男「さっさと返事!はよ!」

幼「まぁー落ち着きなさいな。私だって心臓バクバク言ってるんだから」

男「……お、おぅ」

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 18:03:59.19 ID:lZeChTCy0
幼「えー………」コホン

男「…………」

幼「………………ぅ」

幼「嬉しい……約束覚えてくれてたんだね?ずっとずっと一緒だよ?」

男「…………」

男「…………」ゴチン!!

幼「い、いったぁーい!!」

男「一言一句反芻するとは何事か」

幼「て、照れ隠しだよ!!察しろよばかぁ!!」

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 18:07:50.52 ID:lZeChTCy0
男「なんか締まらないな」

幼「まぁ私たちらしくていいじゃない?男ちゃん?」ギュッ

男「かもな」ナデナデ

幼「まぁまさかこのタイミングで来るとは思ってなかったんだけど」

男「我慢できなくなったんだよ。許せって」ナデナデ

幼「えへへ」ギュー

店員「びっくりドン○キーの駐車場で何イチャついてんだよリア充どもが………」ギリギリ

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 18:10:25.18 ID:lZeChTCy0
終わり
脱字酷すぎわらた

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 18:12:33.94 ID:lZeChTCy0
続きまして健気系後輩ちゃんのお話です

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 18:32:57.71 ID:xDDo7PDb0
根暗で友達が少ない。

というのが私の自己分析。

クラスではいわゆる地味子。体育祭や文化祭といった催し物はとりあえず参加するだけのタイプ。

いじめられてるってわけではないけど、会話をするのはいつも決まった数人だけ。

くだらないお話をして騒いでいる男の子たちも、おしゃれをして楽しそうにしている女の子たちも私には関係ない。

そりゃあ人並みに恋なんかに憧れたりはするけども、そもそも私にはその素敵な人がいない。

告白された事も実はあるけど、一度も会話をしたことのない人とお付き合いをして何が楽しいのだろうか。

特に目立つような事もなく、淡々と授業を受ける毎日。

こんな感じの影の薄い三年間が続くものだと思っていた。あの人に会うまでは

55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 18:43:02.07 ID:xDDo7PDb0
部活動をしていない私、放課後は図書室に入り浸る。

文学少女といえば聞こえが良いが、その実読んでいるのはライトノベルばかり。

背伸びして立派な小説を読んでみたけど、子供の私には難しかったみたい。

後輩「返却お願いします」

※「はい」

なんとか読み終えたソレを、返却カウンターに持っていく

?「あ、あった!!」

?「すみません、これってすぐ借りる事できますか?」

私が適当に選んで借りた小説を待っている人がいたらしい。

私は『ただなんとなく』この本を選んだだけなので、そのせいでこの人を待たせてしまっていたのかと思うと申し訳なくなる。

申し訳なさから早々にその場を離れようとすると、私はその人に声をかけられた。

56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 18:51:08.79 ID:xDDo7PDb0
?「君も京極夏彦、好きなの?」

後輩「あ、いえ……その」

特別好きなわけではない。ある程度名の通った小説家だったので、小説へのとっかかりとして借りただけだ。

後輩「よく……知らないです」

後輩「有名な人だったので、ちょっと気になっただけなんです」

?「そっかそっか。京極夏彦は量が多くて大変だったでしょ?」

学ランにピンバッチの色から察するみたいに、先輩みたい。

私が警戒しているのをわかっているのか、とてもやわらかい物腰だ。

クラスの男の子とは違う、まさに『先輩』といった感じの人だ。

62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 19:09:43.65 ID:lZeChTCy0
正直に言えば私は話をするつもりなんてなかった。適当なところで話を切り上げて帰りたかった。

先輩の話も聞くだけで相槌は適当にうっているだけだった。

先輩「キミ、良く図書室に来ているよね?本が好きなの?」

そんな私を見て、先輩は気を遣ってか話を振ってきた。

気を遣ってもらえるのはありがたいが、もう少し別の方向に気を遣って欲しかった。

後輩「あ、その……」

後輩「本を読むのは好きですけど、小説はあまり読まない……です」

先輩「?? じゃあどういう本を読んでいるの?」

後輩「ら、ライトノベルとか……」

恥ずかしい。ライトノベルも立派な物語ではあるが、本物の小説と比べればやはり子供の読みものであるという感は否めないから。

63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 19:18:00.28 ID:lZeChTCy0
先輩「あぁライトノベルか。俺はあんまり読まないけどこういうのが好きなんだ?」

後輩「……はい」

ライトノベルが恥ずかしいと思っているのは私だけなのか。先輩の言葉の調子に侮蔑や嘲笑の意図は込められていない…………気がする。

先輩「京極夏彦はどうだった?小説の中じゃ結構読みやすいと思うけど?」

………あれで読みやすい部類なのか。自分の学の無さに嫌気がさす。

後輩「はい。た、楽しかった……です」

先輩「そっか。良かった」

………はらなくていい見栄をはってしまった。

先輩の顔を見ていると否定的な事を言える気になれなかったのだ。

好きな小説が読まれて嬉しい。そう言わんばかりの無邪気な(年上の人に対しては失礼な表現だろうか)笑顔。

この後私にしては珍しく、初対面の先輩と下校時刻になるまで話しこんでしまった。

これが、私と男先輩の出会い。

64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 19:22:36.79 ID:lZeChTCy0
ピンポーン

男「はーい」ガチャ

後輩「今晩は、先輩。もうご飯食べちゃいましたか?」

男「いや、まだだよ」

後輩「よかった。ご飯、作らせてもらってもいいですか?」

男「いつも悪いね、後輩」

後輩「いえ、私が好きでやっている事ですから」

67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 19:26:59.22 ID:lZeChTCy0
男の人に態勢のない私だ。

当然のように私は先輩に恋をした。

第一印象の通りに、男先輩はとても優しい、包容力のある人だった。

常に私の事を気遣ってくれて、私の相談にも親身になって対応してくれる。

何をするにしても一歩先の事を見据えてリードしてくれる、素敵な男の人だった。

必然、私は先輩にズブズブとのめり込んでいった。

そして、初恋の終わり―失恋はあまりにも早くやってきた。

69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 19:32:44.08 ID:lZeChTCy0
私が先輩と出会って三ヶ月がたったある日。

この頃になると、週に平均二回は先輩と図書室で話をするようになっていた。

いつものように先輩との夢のような時間を過ごしていると、先輩の口から思いも寄らぬ言葉が飛び出た。

男「後輩ちゃんは、好きな人や付き合っている人はいないかな?」

晴天の霹靂とはまさにこの事か。私の身体に一筋の電撃が走る。

まさかそうなのだろうか?私が先輩を想うように、先輩も又私の事を想ってくれているのだろうか。

71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 19:36:53.07 ID:lZeChTCy0
勝手に勘違いをし舞い上がっている私を見て、先輩は私が恥ずかしがっていると思ったのだろうか。続けて先輩が口を開く。

男「実はさ、俺はいるんだよ」

男「付き合っている、っていう訳じゃないんだけど、ずっとずっと昔から好きな人が」

―――え?

72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 19:44:17.51 ID:lZeChTCy0
先輩は言った。『ずっとずっと好きな人』と。

私以外の別の女性を先輩は好きなのだと言った。

絶望の濁流が私を襲う。図書室の床は底無しの泥沼になり、私の身体を飲み込んでいるような錯覚を覚える。

そんな私を知ってか知らずか、先輩は話を続けている。

先輩の様子を見るに一大決心の上の告白、或は相談のようだ。

―ならば私は聞かなければならない。

そう思った。私の幼い恋心など知った事ではない。先輩が私を信頼し、何かを打ちあけてくれているのだ。

絶望から目を背けるように、私は先輩の言葉に耳を傾けた。

73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 19:51:14.92 ID:lZeChTCy0
先輩には、お互い心が通じあっている人がいた。

それは、先輩の従姉さん。先輩より三つ年上の、私には想像もできない大人の女性。

従姉さんは酷い喘息持ちらしく、幼い頃から入退院を繰り返していたらしい。

一時は症状が落ち着いたらしいが、最近になってまた悪化したらしい。

近年、日本での喘息死亡者は年間3000~4000人程度。1億を超える人口から見ればごくわずか。

それでも、先輩は怯えていた。愛する女性が、病魔に負けてしまう事を。それ程までに彼女の病状は芳しくないらしい。

75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 19:57:56.03 ID:lZeChTCy0
先輩の優しさの理由がわかった気がした。

従姉さんはそれはもう先輩の事を愛していたのだろう。

お互いに愛し愛され想いあってきたからこそ、先輩の心はあのように美しいものになったに違いない。

愛しあう事で自身の内面を磨きあい、己を高めていった二人。

愛ゆえに美しくなった先輩を見て、私は恋をした気になっていたのではないだろうか。

自分の幼さ、浅ましさが恥ずかしくなる。

77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 20:05:13.75 ID:lZeChTCy0
この人を支えたい。

心の底からそう思えた。

私の幼稚な恋心は先輩の告白を受け粉々に砕けちったが、私は新たに先輩を愛する気持ちを知ってしまった。

―先輩は従姉さんを心から愛している。先輩の心が私に向く事はない。

わかっている。関係ないのだ。瑣末な事なのだ。

彼の隣にいるのは私ではない。それでもいい。

仕方ないのだ、どうしようもないのだ。私は、それ程まで彼に魅せられてしまったのだ。

彼の笑顔を。彼の幸せな顔だけが、私を幸せにしてくれるのだ。

79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 20:08:39.36 ID:lZeChTCy0
後輩「最近寒いですからね。今日は胡麻坦々鍋にしようかと思います」

男「おぉ、おいしそうだね。何か手伝おうか」

後輩「いいからいいから。先輩はテレビでも見ていてください」

男「そう言われてもなぁ……」

そうして、現在に至る。


82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 20:17:35.92 ID:lZeChTCy0
先輩と出会ってから八ヶ月。

先輩が大学に合格し、卒業を控えた二月。従姉さんは入院先の病院で息を引き取った。

愛する女性を亡くした先輩はまさに抜け殻だった。

傍目はなんら変わりなく、先輩の友人方も変化には気付いていないようだった。

だが、私からすればあの時の先輩はとても正視できるものではなかった。

『何が』と聞かれても具体的に答える事はできない。

一言で言えば、先輩は死に魅入られてしまっているようだった。

私と話をしている時の笑顔も、私の話を聞いている時の真剣な眼差しも。

先輩の一挙手一投足全てから『何か』が抜け落ちてしまっていたのだ。

84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 20:23:58.86 ID:lZeChTCy0
先輩が卒業し、私が三年生に進級したある日。

先輩の友人から先輩が一人暮らしを始めたと聞いた私は、先輩の部屋を訪問する事にした。

男「あぁ、後輩ちゃんか。びっくりしたなぁ」

ここでも私は見たくない現実を見せられる。

先輩の部屋は見るも無残なゴミ屋敷に

………なっていたらまだマシであった。

その部屋は、先輩という住人がいるにも関わらず生活感というものが皆無であった。

―このままでは本当に先輩が連れていかれてしまう。

理屈ではなく、直感でそう思ってしまった。

95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 20:57:38.15 ID:lZeChTCy0
―先輩をこの世に繋ぎとめていたい

その一心だった。

それから、私は学校が終わると『受験勉強』の名目で先輩の部屋に通うようになった。

しばらくしてわかったが、先輩は自炊をしていないらしかった。

普通の人ならば気にする事ではないのだろうが、先輩の場合、それもまた生活への接点がない事の証となり恐ろしくなる。

少しでも彼を死から遠ざけるために、少しでも彼に生活の匂いを染み込ませるために、私は彼の晩御飯を作るようになった。

数少ない私の友人からは『通い妻のようだ』と笑われた。

そんな下らないものなんかじゃない。私はただ先輩をこの世に繋ぎとめておきたいだけなのだ。

96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 21:02:59.27 ID:lZeChTCy0
私の努力も一応の成果はあったのだろうか。

そんな生活を一年と続けると、先輩からは死の匂いが目に見えてなくなってきた。

先輩の指導のおかげか、私は先輩と同じ大学に無事合格する事ができた。

顔を真っ赤にして否定していた友人の冷やかしも受け流せるようになった。

先輩の中でも、従姉さんの死は一応整理がついたらしい。もう先輩は大丈夫だろう。根拠は無いが、確信はある。

にも関わらず、私は先輩の部屋に通う事をやめなかった。

98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 21:08:38.25 ID:lZeChTCy0
―なぜ?

まだ先輩の事が心配だから。

―嘘ばっかり。

うるさい。

―認めてしまえ。

だまれ。

―彼の笑顔だけではなく、彼自身も欲しくなってしまったのだ。

やめろ。

―従姉の場所であった彼の隣を、お前が成り代わろうとしているのだろう?

違う!!!!

男「………後輩?」

後輩「っ!?あ、あぁ。そろそろ大丈夫ですかね?」

99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 21:17:03.89 ID:lZeChTCy0
先輩の言葉で我にかえる。

いつだってそうだ。この人の優しい声、慈しむような笑顔は私に絶対の平静と安息を与えてくれる。

もう…ダメだ。ごめんなさい。本当にごめんなさい……。

なんて私は卑しい女なのだろうか。なんて私は汚い女なのだろうか。



―認めるのか?自分の本心を?
あぁ認めるさ、認めてやる。私はこの人が好きだ、愛している。この人だけが私を幸せにしてくれる。私だけがこの人を幸せにしてみせる。

もう自分の心を偽ったりなど絶対にしない。

―そう。よかったわ。

………………え?

103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 21:22:34.56 ID:lZeChTCy0
パキリ、と。

先輩の取り皿が真っ二つに割れる。

男「あれ?一体どうしたんだ?」

一体何が起こったのか。今の声は私の自問自答ではなかったのか。

男「後輩、悪いけど別の皿を取ってくれないかな?」

後輩「あ、はい……」

声を掛けられふと先輩に視線を移す。

そこで、私は先輩の後ろに佇む影を目にする。

先輩を愛おしそうに見つめる、一人の女性の影を。

106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 21:30:07.11 ID:lZeChTCy0
黒い長髪、痩せこけてはいるが端正な顔つき。

私は従姉さんに会った事はない。葬儀にも出席しなかったので、従姉さんの顔も知らない。

それでもわかる。『アレ』は従姉さんなのだ。

―ありがとう。今まで男を支えてくれて。

―ありがとう。男の事を好きでいてくれて。

―二人とも、当分こっちに来ちゃダメよ?

―男の事、よろしくね?

呆然とする私を尻目に、影は消えてしまった。

勝手な話かもしれないが、影は笑っていた気がする。

108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 21:36:48.74 ID:lZeChTCy0
いいのだろうか。

最愛の人を失って絶望にうちひしがれている彼に取り入った汚い女なのに。

従姉さんがいるべき場所を奪ってのうのうと幸せを貪っている私なのに。

彼女は私に彼を託すというのだろうか。

……いや、そもそもあれは本当に従姉さんだったのだろうか。

醜い私の心が生み出した、自己弁護のための妄想の塊ではないのだろうか。

そんな事を考えていると、ポカリ、と何かに頭を殴られた。

―もう、格好くらいつけさせてくれたっていいじゃない。

………と、今度は確かに声が聞こえた。

109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 21:43:34.28 ID:lZeChTCy0
男「……後輩?」

後輩「……あ、すみません。と、取り皿ですよね?」

こんなにも卑しくて浅ましい私だけど、従姉さんたっての頼みであれば仕方がない。

後輩「……ところで、先輩?」

先輩の事は絶対幸せにしてみせます。

……だから、その過程で私が幸せになっちゃうくらいは見逃してくれますよね?

後輩「私、家を出ようかと思うんですけど……」

だから、これはそのための第一歩。仕方ない。仕方ないなぁもう。

後輩「この部屋に…先輩と一緒にすんでもいいですか?」

―素直じゃないなぁ。

先輩と二人っきりの部屋に、そんな声が聞こえた気がした。

110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/10(火) 21:44:22.20 ID:lZeChTCy0
終わり
地の文面倒くさすぎワラタ
地の文なんて二度と書かない