20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/11(土) 22:46:34.17 ID:wvop2LjU0
俺が中学生時代の友人に電話で呼び出されたのはもう夜が更け、家族が寝静まった時間帯だった。

大分焦った様子で呼び出す理由も言わずにただ「僕は君が来てくれないと今夜は寝れそうにない、お願いだ助けてくれ親友よ」と泣きそうな震えた声で話すあいつの雰囲気に、またハルヒ絡みなんだろうなとウンザリしながらも、親友の頼みとあっては仕方がない。

間違っても、夜遅くまで遊んでいるような不良でない俺は誤解を与えない為に、妹や親を起こしてしまわないようにコッソリと家を抜け出した。

引用元: 佐々木「キョン、こんなに拍動してるよ」 



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/11(土) 22:50:35.33 ID:wvop2LjU0
最期に佐々木の家に行ったのは数年前だが、こういうものは身体が覚えているようで自転車を立ち漕ぎで進める俺の脚に迷いはなかった。

佐々木の家はあの頃から変わらずにしっかり存在した。その当然のことにとりあえずひと安心すると、携帯を取り出し、到着の旨を伝えた。

やましいことが無かったとしても流石にこの時間に男が訪問するのを許す親はいないからな。

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/11(土) 22:55:07.00 ID:wvop2LjU0
「もしもし、キョンかい!?着いたのか!?早く入って来てくれ!!カギは開いてる早く僕の部屋に来てくれ!!」
カギを掛けてないとは田舎とはいえ、防犯意識が低くすぎるんじゃないか?それにこんな時間の訪問は親に隠れる必要があると思うのだが。

「それなら大丈夫さ、二人で仲良く旅行中さ。頼むから早く来てくれよ、キョン」
驚愕の事実を平然と言ってくれるやつだ。いくらなんでも危機感を感じなさすぎだ、さっきの鍵の件も含めて一言言わんと安心出来ん。

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/11(土) 23:00:46.04 ID:wvop2LjU0
ため息をつきながら俺は懐かしの親友の家に入り階段を昇った。
扉の前で立ち止まり、ノックをすると間を置かず「入ってくれ」と声がした。
「やあ、こんな遅くに呼び出してしまってすまない。だが、君以外に頼れる人がいなかったんだ」

そんなに信頼して貰えるのは嬉しいが、親がいない夜中に男を家にあげたり鍵を掛けてないのは不用心すぎるんじゃないか?
「……。そうかもしれない。だけど、僕にはそんな事を気にする心の余裕は無かったんだよ」
それにこんな時間に男を上げるんなら一応橘とかも呼んでおくべきだったんじゃないか?

「それは出来ない、彼女に頼れる内容じゃないんだ。いや、君以外では意味がないというのが正確だね。加えてそもそも君は僕をどうこうしようなんてこれっぽっちも考えてないんだろ?どうせ……」

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/11(土) 23:05:20.69 ID:wvop2LjU0
そうかい、俺でしか意味がないってのは大層な信用を貰ってる訳だ。最後の言葉が若干引っかかるがな。それで頼みってのはなんだ。宇宙人でも未来人でも未来人でもない俺に出来る事なんて、限られてるぞ。

「ああ、その、えぇと」

なんだ、歯切れが悪いな。言ってくれないと、どうしようもないぞ。俺には読心術なんてないからな。

27: 下げた方がいいのか? 2012/02/11(土) 23:09:45.08 ID:wvop2LjU0
「それは知ってるよ、というか散々実感してる。そうだね、言うしかないよね。うん。これを見てくれないか」

うん?なんだそれは?ずいぶんボロボロになっているが、大きいクッションか?

「そう。一般に抱き枕と呼ばれる類だよ。僕は小さい頃からこれを抱いて寝ていたのさ。子どもっぽいと僕を笑うかい?でも、抱き枕っているのは、しっかりと人間の心理に基づいている物なんだよ。いや、そんなことはどうでもいいんだ。ここを見てくれ」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/11(土) 23:19:18.83 ID:wvop2LjU0
穴があいてるな。しかも、大分大きいこれじゃあ使い物にならなそうだな。それがどうかしたか?

「もう、ダメになってしまったんだ。長く愛用してきたからね、いつか物は壊れるのだから仕方ないと言えばそうなんだけど、僕はさっき言ったとおりコレがないと寝れないんだよ」

まさか、それが困ったことなのか?
「失礼な、僕にとっては大問題だいなんだよ。そこで、君を頼ったって訳さ」

どうしろって言うんだ。俺の家庭科の評価は3だぞ。とてもじゃないが、裁縫は無理だ。

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/11(土) 23:24:08.63 ID:wvop2LjU0
「そんなことは、君に期待してないさ。僕は君に、その」


「一晩だけ、抱き枕の役をやって欲しいんだ」

……。すまんがもう一度言ってくれ。聞き間違いをしたようだ。

「キョン。抱き枕になってくれ」


聞き間違いじゃなかったーー!!

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/11(土) 23:27:20.22 ID:wvop2LjU0
それは本気か!?正気か!?俺は男なんだぞ!!狼なんだぞ!!

「おやおや、キョン。君は親友の願いを断るどころか、裏切るような人間だったのか?僕を襲うつもりだとでも?」

そんな訳あるか!

「じゃあ!問題ないね!さぁ、布団に入ろう」

いやいやいやいや、問題ありまくりだろ。布団に入ろうにも私服だし。

「ここに男物の新品のパジャマが偶然ある」

なんであるんだよ!

「お父さんにプレゼントしようと買った物だがサイズを間違えてしまったんだ。これで問題ないだろ?」

34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/11(土) 23:29:53.82 ID:wvop2LjU0
しまった!俺は夕食後と寝る前に二回歯を磨く派なんだが、歯を磨いてくるのを忘れてしまった!残念だが、これでは寝れないな!残念だ!

「洗面所に新品の歯ブラシがあるはずだよ。僕がそろそろ替えようと思っていた物だ。使ってくれ」

そ、そうだ!ベッドのサイズが厳しいだろ!

「僕と寝るのはそんなに嫌かい?」

いやいやいやいや、そういう訳じゃない。決してそうではない。だが……

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/11(土) 23:32:18.92 ID:wvop2LjU0
「キョン!お願いだよ」

……腹を括ろう。今夜は寝れそうもない。明日が休みで良かった。

違うからな!寝れないってのはそういう意味じゃないからな!!勘違いするなよ!!

さて、俺はハルヒのお陰で他の人よりは経験値がそこそこ高いが、しかし俺のマニュアルに『抱き枕』の項はない。一体どうなることやら。

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/11(土) 23:56:37.72 ID:wvop2LjU0
歯磨きはしてしまった。パジャマにも着替えてしまった。もう時間稼ぎもムリだ。

「さあさあさぁ、ベッドに入ってくれ!」

あいつの目、輝いてないか?いや、気のせいだろう。
ドキドキしているのは事実だが、仕方ない。生理現象というやつだ。俺も男だ、行くしかない!

佐々木のベッドは俺のベッドと比べて長さは少し短いが横幅に関しては二人で寝ても十分な広さだった。これで、もう逃げ場はなくなってしまった。

46: 書き込めねー! 2012/02/12(日) 00:02:38.48 ID:Su4d8mWg0
「キョン、失礼するよ」

佐々木が抱きついてきた。分かっていたとはいえ身体がピクッとしてしまう。
佐々木はそれだけでなく、顔を埋めてきた。今、俺は一体どんな顔をしているのか自分でも分からない。

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/12(日) 00:07:24.69 ID:Su4d8mWg0
「キョン、君は優しいね。途中からおかしいとは思っていたんだろ?それなのに君は察して何も言わないでいてくれた」

いや、ただ親友の頼みを聞いたまでだ。それに実際、察したんじゃないさ。まだ、状況すら掴めてない。

「それでもだよ。君は優しすぎる。だから僕は……。いや、これはフェアじゃないね。ここまでだって今までのハンデを埋めると言ってもこれはギリギリなんだ。これ以上は反則かな」

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/12(日) 00:11:42.74 ID:Su4d8mWg0
何を言ってるんだ?はっきり言わんと分からんぞ。

「くっくっくっ、そうだね、君ははっきり言わないと分からないタイプだね。それどころか、言っても分からなそうだ」

いくら俺でも今のが馬鹿にされいるのくらいは分かる。

「いや、褒めてるんだよ。君の凄さをね」

まぁ、いいさ。事実みたいだからな。

「おや、気づいていたのかい?」

古泉にあれだけ言われてるんだ、事実なんだろう。

「くっくっくっ、SOS団かい?嫉妬してしまうね」

そんな羨ましがるようなもんではないさ。

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/12(日) 00:13:42.85 ID:Su4d8mWg0
「キョン、背中は抱き心地が悪いんだ。悪いけどこっちを向いてくれ」

勘弁してくれ、これでも限界なんだ。

「ダメだよ。許さない。僕の前でSOS団の話をした罰さ」

ええい!ままよ!
振り向いた目線のちょっと下に佐々木はいた。暗闇に慣れた目は真っ赤に染まっているあいつの顔を捉える程度には冴えていた。

55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/12(日) 00:17:20.03 ID:Su4d8mWg0
そこで、突如俺の胸に顔を埋めてきた。正直に言うと俺の愚息が元気になりそうでピンチだ。だが、親友の信用を裏切る事はできない。
一世一代の我慢だ。頑張れ、俺。
シャンプーのいい匂いがする。あぁ、やっぱり眠れなそうだな。仕方ない。
あいつの役にたてたんだ。これ以上は望まないさ。

「今日は本当にありがとうね。それじゃあお休みなさい」

おう、おやすみ。



「それにしてもキョン、今宵は月が綺麗だね」

ああ。そうだな

ーFIN ー