――魔王城

人魚「――つまり、スパイがいたってこと?」

魔大臣「そう。人間側と、反魔王派のふたつだ」
ゴブリン「なんでスパイが今頃見つかったんだ?」

魔大臣「今頃、というより今まで泳がしていた」

側近「魔大臣と一応の検討はつけていたが、いかんせん証拠がなくてな」

魔大臣「証拠なしで疑惑なんかかけたら問題が起こる。だから手を出せなかったんだ」

トロール「証拠がつかめたト」

魔大臣「そういうこと」




665: 1 2012/08/14(火) 22:43:31.89 ID:DibcIHbAO
ミノタウロス「ってことは自分からゲロったと」

魔大臣「うーん…当たらずとも遠からず…だな」

側近「自分からゲロらせた、というべきかなんなのか…」

ミノタウロス「?」

側近「本人からのほうが話が早いだろうな。いつまでそこで盗み聞きしてるんだ」

サキュバス「えへへ☆入り時を見失っちゃってた☆」ガチャ

人魚「」イラッ

サキュバス「なんと、サキュバスちゃんのお手柄なんですっ!」バ-ン

ゴブリン「は?」

トロール「どういうこト?」

666: 1 2012/08/14(火) 22:48:14.23 ID:DibcIHbAO
魔大臣「サキュバスといったらアレしかないだろ…」

側近「ここまで自分を武器にするとは恐れ入った…」

ゴブリン「ま、まさか」

サキュバス「そっ☆スパイくんたちを片っ端からベッドに呼んで――」

サキュバス「情報と精、搾り取っちゃったよ☆」ツヤツヤ

ミノタウロス「スパイは…どうなったんです?」

ゴブリン「なぜ敬語」

サキュバス「あたし達が本気出したら死んじゃうからね☆一歩手前で止めたよ☆」

トロール「ご愁傷様だネ」

ゴブリン「まったくだ」

667: 1 2012/08/14(火) 22:55:54.99 ID:DibcIHbAO
サキュバス「ところで魔王さまは?」

側近「資料を見に行っている」

サキュバス「残念☆魔王さまと遊びたかったなぁ。 的な意味で」

側近「!?」

ゴブリン「ぶぅーっ!?」

人魚「あ、あんた、まさか魔王さまと寝る気!?許さんわ!」

サキュバス「あれれ~おばちゃん、嫉妬~?」

人魚「だ、れ、が、おばちゃんよ!!」バッシャーーン

ゴブリン「ぎゃああぁぁぁぁびっしょびっしょぉぉぉぉぉぉ!!」

魔大臣「真面目に会議できないのかな…」

側近「無理っぽいな」

668: 1 2012/08/14(火) 23:00:06.84 ID:DibcIHbAO
――資料室

魔王「」パラッ

司書「……魔王さまが、ここになんて珍しいですね……」

魔王「司書か。気になることがあってな」

司書「……お調べ物ならなんなりと……」

魔王「じゃあ聞くが、全く魔力のない人間に魔法を使わせる薬はあるのか?」

司書「……“人魚”の時の件ですか……」

魔王「よく知っているな」

司書「……情報を集めるのが我の仕事ですから……」

司書「……あるには、あります……」

魔王「どんな?」

669: 1 2012/08/14(火) 23:06:16.82 ID:DibcIHbAO
司書「……いくつか入手の難しい薬草を、ややこしい調合で混ぜ作るんです……」

魔王「ふむ。そう簡単にはできないってことか」

司書「……はい……」

魔王「副作用はないのか?」

司書「……すぐにはありません。しかし……」

司書「……服用すると短命に…飲んでから十年生きられるかどうか……」

魔王「…無理矢理に魔力をつくる代償が寿命か」

司書「……はい……」

魔王「なるほどな。礼を言う、参考になった」

司書「……勿体なきお言葉……」

670: 1 2012/08/14(火) 23:15:29.25 ID:DibcIHbAO
――街の近く

戦士「久しぶりだな、魔法使い」

魔法使い「何故ここに。牢に入れられたと聞いたが」

戦士「牢から出してもらったんだよ。お前を倒すためにな」

魔法使い「誰に!」

戦士「誰でもいいじゃないかよ……挨拶はここまでだ。行くぞ」ブォン

魔法使い「魔法――!?戦士、お前、薬を飲んだのか!」

戦士「じゃないと勝てないからな。なんにでもすがるさ」

魔法使い「戦士…自分の力で敵に勝つんじゃなかったのか」

戦士「……」

671: 1 2012/08/14(火) 23:21:31.83 ID:DibcIHbAO
魔法使い「鍛錬し、己を磨き、最強を目指すんじゃなかったのか」

戦士「……」

魔法使い「あれらはすべて嘘だったのか!」

戦士「もうあの頃のオレじゃないんだよッ!」

魔法使い「……っ」

戦士「勇者を殺し、盗賊を殺し、僧侶を傷つけ、剣士を騙したオレは――」

戦士「そんな、そんな夢なんて語れる身分じゃないんだよ」

魔法使い「……」

戦士「オレは目的を見失った。狂ったオレ残ったものは――お前への恐怖」

魔法使い「私への……」

672: 1 2012/08/14(火) 23:27:34.53 ID:DibcIHbAO
戦士「だから、殺り合おうぜ。魔法使い」

魔法使い「……」

戦士「オレはお前を殺して、恐怖を殺して、それから生きる目的を探す」

魔法使い「とんでもなく自己中心的だな」

戦士「なんとでも言え――なぁ、お前はオレを殺したらどうするんだ?」

魔法使い「殺さない。せまい牢に生きて、罪に苦しめ」

戦士「ははっ……相変わらずキツい奴だな」グッ

魔法使い「……」

戦士「覚悟しろ――混血っ!」

魔法使い「……っ、来いよ!我が侭に付き合ってやるよ、戦士!!」

681: 1 2012/08/16(木) 22:41:35.39 ID:AFiSOtZAO
 顔に打たれるギリギリでくるりと魔法使いは回避した。

魔法使い「っ!」

 逃げてもまた追ってきて今度は蹴りを食らいそうになる。
 体力は並みの人間より上とはいえ、早めに対処をとらなければいけない。

戦士「逃げてばっかりか!そんなに軟弱なのか!」

魔法使い「安い挑発だな」

 魔法陣を戦士の足元に展開させ、爆発させた。
 容赦はしない。
 そしてこの程度では死なないだろうとも思っている。

戦士「だぁっ!!」

魔法使い「…やっぱりな」

682: 1 2012/08/16(木) 22:51:15.51 ID:AFiSOtZAO
 ぴんぴんの姿で砂ぼこりの中から姿を現した。

 戦士は目の前に魔法陣を展開させ、それに向かって勢いよく拳を叩きつけた。
 それは空気を圧縮させた凶器となり魔法使いに迫る。

 が、手を払っただけであっさりと消え失せた。

 そもそも基礎が違う。
 強い魔力をもち十年も修行に明け暮れた魔法使いと、
 薬を飲んでわずかな期間で魔法を使う練習をした戦士。
 勝敗は明らかだった。

魔法使い(ま、それも魔力だけならな――)

魔法使い(あっちは身体が武器だから)

683: 1 2012/08/16(木) 23:01:01.19 ID:AFiSOtZAO
 一瞬でも油断すれば重い拳の犠牲になるだろう。
 よろめいたらそこで終わりだ。抵抗する間もなくひたすら殴られる。

魔法使い(それは、やだなぁ…)

魔法使い(魔物化をすれば一発で倒せるとは思うが)

 それは嫌だった。
 間違えて戦士を殺してしまう可能性もある。

魔法使い(あと、通行人も巻き添え、に、………ん?)

 違和感。
 戦士が動きをとめた魔法使いに今がチャンスと殴りかかってきたが撥ね飛ばした。

 周りを見回す。

684: 1 2012/08/16(木) 23:04:37.88 ID:AFiSOtZAO
 誰もいない。
 ―――誰も、いない。

魔法使い(戦士にばかり気を取られていたが――これは…)

魔法使い「おい、戦士」

戦士「あ?」

魔法使い「お前は人払いを出来るのか?」

戦士「んなもんするぐらいならもっと技磨いてらぁ」

魔法使い「だよな…そこまで頭が回るほど賢くないよな…」

戦士「なんだとコラ」

 うるさいので再び足元を爆発させる。三連発。
 魔法使いは熟考し、そして

魔法使い「逃げるぞ、戦士」

685: 1 2012/08/16(木) 23:09:20.77 ID:AFiSOtZAO
戦士「は?」

魔法使い「周りの気配を探ってみろ。武器を持った人間が二十名」

戦士「……マジか」

魔法使い「しかも人払いをかけられているのに、だ。嵌められたな」

戦士「嵌められた?つまり…」

魔法使い「どちらかが勝っても、結局は奴等に殺される」

戦士「待てよ、意味わかんねぇよ」

魔法使い「お前は誰から薬を貰ったんだ?正直に言ってくれ」

戦士「……大臣さまだ」

魔法使い「ふん。じゃあ確実に私を殺しにきたか」

戦士「オレは?特に殺される理由ねぇぞ」

686: 1 2012/08/16(木) 23:24:38.14 ID:AFiSOtZAO
魔法使い「なにいってんだ」

 切羽詰まってきてなんだか笑えてきた。
 ひきつった笑みに戦士が引いた。

魔法使い「捨てゴマに決まってんじゃないか」

戦士「………」

 怒るかな、と魔法使いは身構えたがそうでもない。
 ただ静かに立ち尽くしているだけだ。

戦士「じゃあ」

魔法使い「なんだ」

戦士「オレを捨てゴマ扱いしてる奴らをぶっ殺してから、お前も殺す」

魔法使い「勝手にしろ」

戦士「逃げるか」

魔法使い「そうだな」

 杖で上に向かって大きく弧を描く。
 周りが大爆発していくつかの悲鳴が生まれた。

687: 1 2012/08/16(木) 23:33:38.71 ID:AFiSOtZAO
――魔王城

魔王「あ」

司書「……魔王さま?……」

魔王「いや、ちょっと遠くで誰かが危険なことにあっている気がしてな」

司書(……電波?……)

側近「魔王さま!」バサッ

魔王「どうした」

側近「反魔王派が城内で暴動を起こしているそうです」

魔王「ふむ。分かった」

司書「……我も行きますか……」

魔王「いや。お前はここを守れ、いいな?」

司書「……はい……」ドキドキ

側近(天然タラシ…か…)

706: 1 2012/08/18(土) 20:39:24.96 ID:cBmhwRSAO
――魔王城通路

 魔王がついた時、すでに暴動は終わっていた。

魔王「ご苦労だったな」

ゴブリン「このぐらいなんでもありませんよ」

 ゴブリンの持つ棍棒とトロールの拳にはどろりとした液体が付着していた。
 壁や床がそこまで損傷していないところを見ると厳しい戦いではなかったようだ。
 メイド達は慣れた手つきで速やかに掃除、補修をしていく。

魔王「生存者は?」

ゴブリン「ふたりです。あ、あと人魚がそろそろ来ます」

魔王「上々だ。いい部下を持った」

ゴブリン「褒めても何も出ませんって」

707: 1 2012/08/18(土) 20:44:57.87 ID:cBmhwRSAO
 トロールに押さえられている魔物を魔王は目を細めて見やる。
 金色の目からは思考が伺えない。

ミノタウロス「魔王さま、来ていたんですね」

 ミノタウロスの肩に乗せられて人魚が来た。

ゴブリン「…陸上げ」ボソッ

人魚「鼓膜破るわよ」

ゴブリン「それはやめて!」

ミノタウロス「暴れるな、落ちるから」

 ゆっくりと人魚を暴動を起こした魔物の前に降ろす。
 尾ひれで床をぱしぱし叩きながら人魚は問う。

人魚「分かってるわよね?覚悟は当然、してきたでしょ?」

708: 1 2012/08/18(土) 20:51:30.46 ID:cBmhwRSAO
 ふたりの魔物はそれには答えず、ただ恨みのこもった目で見返すだけ。

魔物α「……」

魔物β「……」

 人魚はやれやれとため息をつき、こほんと咳払いをした。
 白魚のような細い指が魔物αの頬を優しく、強く包み込んだ。

人魚「あなたが首謀者?」

 鈴のような軽やかな声。
 “人魚”の声は相手を惑わす。つまり、使い方によっては尋問時の武器となる。
 それが彼女が魔王に直直に仕える理由だ。
 人間のような足が生やせない代わりに声と魔法はずば抜けいる。

709: 1 2012/08/18(土) 21:00:31.98 ID:cBmhwRSAO
魔物α「チガう」

人魚「じゃあ他にいるのね。誰かは分かる?」

魔物α「ダイジン」

人魚「それは誰?」

 それに答えたのは意外な人物だった。

魔王「……そいつは人間だ」

人魚「え?」

ゴブリン「ん?」

トロール「なんで魔王さまガ?」

魔王「細かい事情は後だ。今は聞き出せるだけ聞いてくれ」

人魚「は、はい」

 分かったことはふたつ。

 その『大臣』は魔物と人間、両方を引き連れていること。
 今、人間の国を掌握していること。

710: 1 2012/08/18(土) 21:06:59.04 ID:cBmhwRSAO
魔王「人間のところまでか。なんだか糸が見えんな」

人魚「それは後で考えるとして……もういいですか?」

魔王「ああ」

魔物β「な、なにをするつもりだ!殺すなら早く――」ガタガタ

魔王「焦るなよ。お望み通りにしてやるから」

 彼は暴君でもなければ慈悲深くもない。
 功績を残した部下にはそれ相応の褒美をやるし、
 逆に今回のようなことを起こした部下はしかるべき処置をする。

魔王「人魚」

人魚「はい」

 ふたりの魔物以外は耳が聞こえなくなった。魔王が魔法をかけたのだ。
 彼が頷くのを見て、人魚はすっと息を吸い、歌い出す。

 崩壊の歌を。


711: 1 2012/08/18(土) 21:17:52.20 ID:cBmhwRSAO
人魚「~~♪」

魔王「……」

人魚「~♪……」コク

 歌が終わった時、魔物αとβは口から泡を吹き、白目で死んでいた。
 魔法を解く。

魔王「相変わらず、気持ち良さそうに歌うな」

人魚「私たちにとって歌は命ですもの。例えどんな内容でも」

ミノタウロス「それにしても、魔王さまならすぐに終わらせられたんじゃないんですか?」

魔王「おれは基本的に散らかるからな。メイドに申し訳ない」

メイド達「」オロオロ

ゴブリン(変なところで気遣いするんだよなぁこの方…)

712: 1 2012/08/18(土) 21:32:39.20 ID:cBmhwRSAO
魔王「さてと。司書を呼んでくれるか」

ミノタウロス「了解っす……人魚?」

人魚「水、ミズをぉぉぉぉ……」ブルブル

ゴブリン「やばい禁断症状が!」

トロール「近くの水につけてこなくちャ」

バタバタ ワアワア

魔大臣「あれっ?」

側近「全部終わってた」

ゴブリン「今まで何してたん?」

魔大臣「警戒措置をとらせるために城内を手分けして走り回ってた」

ミノタウロス「うん、お疲れ」

713: 1 2012/08/18(土) 21:40:27.15 ID:cBmhwRSAO
――街を抜けて

戦士「人払いの結界は!?」ダッダッ

魔法使い「抜けた!」タタタ
戦士「だとするともう誰が敵か分かんなくなるな」

魔法使い「攻撃してきたら敵だ」

戦士「そんぐらい分かっとるわ馬鹿!もういっそ辺りを…」

魔法使い「いいか、みだりに周りへ攻撃するなよ」

戦士「なんでだよ、討たれる前に討たないと」

魔法使い「この脳筋が。仕方がないだろ、一般人なんか攻撃してみろ」

戦士「誰が脳筋だゴルァ」


714: 1 2012/08/18(土) 21:45:12.93 ID:cBmhwRSAO
魔法使い「大臣のやつ、嬉々として私たちを犯罪者に祭り上げるぞ」

戦士「ぐっ」

魔法使い「あまり敵は増やしたくないんだ」

戦士「……じゃあ翼生やせよ。強くなれんだろ」

魔法使い「あのな、混血狩りとかあるんだから。結果的には敵増やすだけだろ」

戦士「なんかお前本当にめんどくさいな!」

魔法使い「私がいいたいぐらいだ!」

戦士「ちくしょう、恨むぞ大臣の野郎!」

魔法使い「それには私も同意だちくしょうめ!」

715: 1 2012/08/18(土) 21:55:18.85 ID:cBmhwRSAO
――人間の城の近く、酒場にて

マスター「どうやら国王さまが捕まったらしい」

「なんで?」

「嘘だろ。平和じゃねーか」

マスター「いや…風の噂なんだがな。真実かは知りゃせん」

マスター「なんでもフードを被った女が『国王が危ない』と言いに来たそうだ」

「どこに?」

マスター「憲兵隊詰所」

「だから最近せわしないのか」

「季節外れのジョークだろ」

ガタ

マスター「帰るのかい」

剣士「なんか、そういう気分じゃなくてな」

716: 1 2012/08/18(土) 22:02:03.77 ID:cBmhwRSAO
カランカラン

剣士「いったい何が起きてるんだか…」

剣士(いやに静かすぎるのも不気味だが)

スタスタ

剣士「ん?」ピタ

フード「……」

剣士(女、か?)

剣士「ここは治安があまり良くないから出歩かない方がいいぞ」

フード「今はそういうことも言ってられない状況なのです」

剣士「え?」

フード「」パサッ

剣士「え、あ、あ、ああっ!?」

僧侶「お久しぶりです、剣士さん」

僧侶「さっそくで悪いのですが――どうか、助けてください」

722: 1 2012/08/19(日) 16:11:12.75 ID:og8I/D6AO
剣士「そ、僧侶……?」

僧侶「はい」

剣士「僧侶…」

僧侶「そ、そうですよ。剣士さん?」

剣士「」ポロッ

僧侶「ええっ!?な、なにか失礼なことをしましたか!?」

剣士「違うんだ…ただ、毎日しょうがないとはいえオッサンに囲まれてて…」ポロポロ

僧侶「は、はあ」

僧侶(確かどこかに所属しているんですよね、剣士さんは)

剣士「鍛錬で汗臭い男と剣を交える日々…花のような芳しい香りなどあるはずもなく」グッ

僧侶「」オロオロ

723: 1 2012/08/19(日) 16:17:14.35 ID:og8I/D6AO
剣士「そんなところに来たのが僧侶!女神か!天使か!」

僧侶(頭をやられてしまったのでしょうか)

剣士「あの日以来何度教会に行こうとしたか…しかし邪魔になると思い行けず…」

僧侶「き、基本的に来る人は拒みませんよ。お祈りの時以外は、いつでも」

剣士「優しい…やっぱり優しいよ僧侶…」

僧侶「…魔法使いさんには会わなかったんですか」

剣士「だってあいつ絶対『悪いが愚痴には付き合わない』で終わるぞ」

僧侶「…否定できません」

724: 1 2012/08/19(日) 16:21:09.21 ID:og8I/D6AO
剣士「で、どうしたんだ?」

僧侶「話が元に戻るまでずいぶんかかりましたね…」

僧侶「出来れば、人のよらないところで話をしたいのですが」

剣士「じゃあ、借りてる部屋があるからそこへ来るか?」

僧侶「」カアッ

剣士(しまった!男の部屋に女の子呼ぶとかどう考えてもアウトだろ!)

僧侶「……剣士さんならいいですよ」

剣士「」

僧侶「元パーティーでしたし、信頼していますし…剣士さん?」

剣士「」

僧侶「立ったまま気絶していますね…」パシパシ

726: 1 2012/08/19(日) 20:19:08.37 ID:og8I/D6AO
――剣士の部屋

剣士「今ランプに火をつけるから」シュボッ

僧侶「はい」

剣士「適当に座っていいよ。お茶持ってくる」

僧侶「そんな…悪いです」

剣士「いいからいいから」

僧侶(すっきりした部屋ですね)キョロキョロ

剣士「男の一人暮らしだからろくなもんねーけど」コト

僧侶「ありがとうございます」

剣士「で……なんだい?わざわざ遠くから来た理由は」

僧侶「その前にひとつ」

剣士「ん?」

僧侶「この話を全て信じてくれませんか」

727: 1 2012/08/19(日) 20:24:43.32 ID:og8I/D6AO
剣士「分かった。信じよう」

僧侶「助かります」

剣士「こっちからも一つ…憲兵隊のところに言ったのは、僧侶?」

僧侶「……はい。しかしなかなか動いてくれないので、もう剣士さんしかいないと」

剣士「そ、そんなにオレを頼られると困っちゃうなー」テレッ

僧侶「話に入りますね」

剣士「……ハイ」

僧侶「まず、国王さま一家が捕らえられました」

剣士「!」

僧侶「もうお聞きですか?」

剣士「ああ……でもなんで表向きはあんなに静かなんだ?」

剣士「普通は『この国はおいらのだー』とか言うと思うが」

728: 1 2012/08/19(日) 20:30:29.33 ID:og8I/D6AO
僧侶「ええ…普通は、その首謀者は大々的に公表するでしょうね」

剣士「時期を見計らっていたりするのか?」

僧侶「当たらずとも遠からず、です。まだ終わっていないのです」

剣士「というと?」

僧侶「この世界には大きく分けて王がふたりいるでしょう?『国王』と――」

剣士「――『魔王』!?次は魔王を捕まえるつもりなのか」

僧侶「単純な話、王をふたり倒せば人間と魔物、両方の王になれますからね」

剣士「バカげてる…国王はともかく、魔王は強いんじゃ」

729: 1 2012/08/19(日) 20:36:56.37 ID:og8I/D6AO
僧侶「現魔王は戦慣れをしていないと聞きます」

剣士「というと…」

僧侶「単体なら最強ですが、軍隊を組んで行動をしたことがないとか」

剣士「そう言われればそうだな。魔王直直の戦争は最近ない」

僧侶「不意打ちや罠には恐らく善処できないのではないか、と言われています」

剣士「じゃあ…うまく行けば魔王も…」

僧侶「…はい」

剣士「そいつは誰なんだ?思い上がりも甚だしいそいつの名前は?」

僧侶「…大臣さま、です」

剣士「なっ!?」

730: 1 2012/08/19(日) 20:43:13.26 ID:og8I/D6AO
僧侶「…わたしはあの人に近いため、このような話も多くされました」

僧侶「大臣さまは今、自らの望みのために堕ちています」

僧侶「もはやその姿は人間ではありません」

剣士「……」

僧侶「巻き込んでごめんなさい。でも、でも、この国は見えないところで危機に陥ってます」

剣士「危機…」

僧侶「わたしだけじゃもう……。どうか、国を…守ってください」

剣士「――分かっ」

バァン!

剣士「!」ジャキッ

大臣派兵「やっぱり裏切ったなぁ?この雌狐!」

731: 1 2012/08/19(日) 20:47:04.51 ID:og8I/D6AO
僧侶「つけられていた…!?」

大臣派兵「教会の人間のくせに尻が軽いな!…まあ」ジャキンッ

大臣派兵「大臣さまのそばにいたてめーは前から気に入らなかったんだよ。ここで死ね」

剣士「後ろに下がってくれ」

僧侶「で、でも……」

剣士(敵は五人、なかなかの強者に見える)

剣士(しかもこの狭さだ。不利すぎる。だが、やるっきゃ――ないだろ)

大臣派兵「行け!」

大臣派兵A「ウオォォォ!!」

剣士「くっ」ガキンッ

732: 1 2012/08/19(日) 20:51:17.76 ID:og8I/D6AO
ザシュッ

剣士「ひとり!」キィンキィン

大臣派兵B「ひでぶぅっ」ザシュッ

剣士「ふたり!っと――!?」

大臣派兵C「足元がお留守だ!」

剣士「うおっ」ドサッ

僧侶「剣士さんっ!!」

剣士「そ、僧侶!どけ、お前まで」

僧侶「嫌です!」

大臣派兵C「仲良く死―――あがっ」バタッ

剣士「……え?」

マスター「話は聞かせてもらった!!」

剣士「なんでマスター……」

733: 1 2012/08/19(日) 20:58:17.44 ID:og8I/D6AO
「おい剣士が羨ましいシチュエーションしてる」

「ケッ」

マスター「怪我はありませんか、お嬢さん」

僧侶「は、はい」

剣士「どうしてマスターがここに?」

マスター「なんか変な奴いたから追いかけたらここに来た」

剣士「運いいんだなオレ。ってか、マスター強かったんだ…」

マスター「昔は騎士だったからな!酒が好きだから酒場を開いたが」

剣士「っあー…なんかもう、ドッと疲れが」

マスター「まだまだ夜は始まったばかりだ。お嬢さん、最初から話をしてくれないかな?」

僧侶「え?」

マスター「元は国に仕えていた身だ。国がピンチなら助けにいかないと」

僧侶「マスターさん…」

剣士「あれっ、これオレ空気?」

734: 1 2012/08/19(日) 21:12:04.59 ID:og8I/D6AO
――魔王城、会議室

司書「……人間界の大臣ですか……」

魔王「ああ。そいつの情報はあるか?」

司書「……しばらくお待ちを……」フゥッ

ミノタウロス「魔王さま。なぜ大臣とかってやつをご存知だったんですか?」

魔王「…なんでだか大臣に嫌われてるやつがいてな。そいつから色々聞いたことがある」

側近(まだ混血の差別は色濃い…わざとはぐらかされましたか)

魔王「魔法を破る矢、魔法を使えるようになる薬。それらを開発したら張本人しい」

 

736: 1   2012/08/19(日) 21:29:55.26 ID:og8I/D6AO
魔大臣「人間の技術力は底無しですね」

人魚「なんで人間って魔法に憧れるのかしらね」

トロール「なかなか手に入れられないからじゃなイ?」

ゴブリン「憧れって怖い」

司書「……魔王さま……」フゥ

ゴブリン「で、でたァ――――!!」ダキッ

人魚「キャ―――――!!抱きつくな変 !!」

魔大臣「うるさい」

魔王「どうだった」

司書「……外からは人格者、生真面目、忠誠心のある有能な人材……」

ミノタウロス「そんな奴存在していたんだ…」

人魚「でも裏があったじゃない。そんなもんよ」

737: 1 2012/08/19(日) 21:40:05.81 ID:og8I/D6AO
司書「……ただ、親や生まれた場所、また城に勤めるまでどこにいたかは謎……」

魔王「ふむ」

司書「……なにか知られては都合が悪いらしく……」

魔王「都合の悪い過去か。助かった」

司書「……以上です。それでは……」フゥ

ゴブリン「びびったぁー」ドッキドッキ

人魚「びびりすぎ!しゃんとしなさいしゃんと!」

側近「ああもうお前らは…」

魔王(過去になにか罪を犯したのか?いや、ならとうに暴露されててもおかしくない)

魔王(親すらも隠しているとなれば、可能性のひとつに――)

738: 1 2012/08/19(日) 21:46:35.64 ID:og8I/D6AO
バッタァァン!!

人魚「キャアアア―――!?」ダキッ

ゴブリン「ウワアアア――――!?」ダキッ

魔大臣「小心すぎるだろ」

側近「メイド長か。どうした」

メイド長「緊急。メイドが何人か突然倒れました。呪いの魔法かと」

ミノタウロス「なぜ呪いにかかった?」

メイド長「不明。今詳しいものに調査を以来しています」

魔王「……そのメイドたち、暴動起こしたやつらの死体や血に触れたか?」

メイド長「多分。――そこから呪いが?」

魔王「あらかじめ仕込ませていたかもしれんな」

739: 1 2012/08/19(日) 21:53:44.23 ID:og8I/D6AO
魔王「見に行く。案内を」

メイド長「御意」

魔王「お前たちはそれぞれすぐに動かせる兵の数を出しておいてくれ」

側近「!」

魔大臣「というと?」

魔王「その大臣とやらがいつ何をやりだすか分からない」

トロール「仲間呼ブ」

ミノタウロス「こっちも」

魔王「緊張はしておけ。最後まで何もなくてもだ」

魔大臣・人魚・トロール・ゴブリン・ミノタウロス「了解!」

740: 1 2012/08/19(日) 22:02:17.70 ID:og8I/D6AO
ゴブリン「あー!」

トロール「やばイ」

ゴブリン「棍棒でぶん殴っちゃったじゃん!」

トロール「殴っタ」

魔大臣「なんだって!?」

人魚「妙ね。見た感じ呪いにはかけられてないみたい」

側近「トロール族は昔から呪いには強いぞ。ゴブリン族は知らないが」

トロール「良かっタ」

ゴブリン「どうしようどうしよう」

魔王「なにか異変を感じたら早く言え。死なないようにはする」

ゴブリン「ぴぎゃー!」

741: 1 2012/08/19(日) 22:06:48.93 ID:og8I/D6AO
――魔王城通路

魔王「メイド長は血には触れなかったのか?」

メイド長「肯定。触れました」

魔王「何か体調の違和感は?」

メイド長「否定。ありません」

魔王「ふむ。では何故爪を伸ばす」

メイド長「不、明。あ、れ?からだ、の制御が、いきなり」カクカク

魔王「どこかで操られてるか」

メイド長「危険。魔王さま、逃げてくださいま――」ガク

魔王「…ほう。意識までもか」

メイド長「ハハ!はじめましてだな、魔王サマ」

魔王「誰だ」

742: 1 2012/08/19(日) 22:15:04.13 ID:og8I/D6AO
メイド長「そっちはもう首謀者が誰だか分かってるんじゃないか?」

魔王「大臣とか言ったな」

メイド長「大当たり。あいつらが吐いてるとは思っていたがね」

魔王「何が目的だ」

メイド長「そんなもの、あってないようなものだ。違うか」

魔王「知らんな。呪いの魔法をかけたのも貴様か」

メイド長「頼もしい私の部下だ。あれ、無理矢理解除すると死に至るからな」

魔王「なに?」

メイド長「人間界の城にご招待しよう。そしたら呪いも解こう」

魔王「ふん。もっと上手い招待をするべきだな」

743: 1 2012/08/19(日) 22:24:29.73 ID:og8I/D6AO
メイド長「いいのか?来なかったらお前の可愛い部下は酷い苦しみの中死ぬぞ」

魔王「はん。三流の脅し文句か」

メイド長「本気だ。お前みたいなたかだか百歳二百歳の若造にはまだ未経験だろうがね」

魔王「……」

メイド長「さぁ宣戦布告もすんだ。ああ、残念ながら私が呼んだのは魔王だけだから、」

魔王「一人で来いってことだろう?そのぐらい予想できるさ」

メイド長「なら話は早い。来いよ、じゃないと…」

魔王「チョップ」ビシ

メイド長「鈍痛。わたくしはいったいなにを?」

魔王「何も。早く行こう、時間がない」

744: 1 2012/08/19(日) 22:34:05.39 ID:og8I/D6AO
――魔王城医務室

医師「呪いです。無理矢理解除したら、命に関わるほど強力な」

魔王「嘘ではなかったか」

医師「はい?」

魔王「なんでもない。こちらの話だ」

医師「解決を急いでいますが……どうしたらいいものか」

魔王「なんとかする」

医師「魔王さま?」

魔王「なんとかしてくる」

745: 1 2012/08/19(日) 22:41:47.33 ID:og8I/D6AO
――会議室

側近「魔王さま!ゴブリンが!」

魔王「…どうした?」

トロール「いきなり倒れて…意識が戻らなイ」

人魚「突然、突然に魔法が…巧妙な時限制の魔法だったみたいで…」

魔王「昏倒の呪文か…おい、ゴブリン」

ゴブリン「」

魔王「起きろ。聞こえるか、起きろ」

人魚「……っ」

ミノタウロス「チクショウ…!」

側近「……」

魔王「…彼を医務室に。おれは出掛けてくる」

側近「魔王さま、お一人で、ですか?」

魔王「ああ」

746: 1 2012/08/19(日) 22:50:04.82 ID:og8I/D6AO
魔王「兵は側近、魔大臣で指揮をしろ」

側近「…は?」

魔大臣「えっ?」

魔王「もしも敵からおれの名前を出されても惑わされるな」

人魚「魔王さま!?いったい何を!」

魔王「なに、大切な部下たちに手を出されたお礼にいくんだよ」

ミノタウロス「大切な部下って、え、」

トロール「自分たチ?」

魔大臣(な、なんか嫌な前触れのデレかただな…)

魔王「ゴブリンの扱いは丁寧にな。お前らも無理をするな」

人魚「……ま、待って下さい!なんで今、そんなことを…」

魔王「なに、ちょっと遊びに行ってくるだけだ」バタン

側近「魔王、さま…」

747: 1 2012/08/19(日) 23:04:01.31 ID:og8I/D6AO
――魔王城通路

サキュバス「魔王さま!」

魔王「サキュバスか。非戦闘員は安全な場所へ行け」

サキュバス「どこにいくの!?どうして皆を頼らないの!」

魔王「危険だ」

サキュバス「あたしたちは喜んで危険に飛び込むわよ!」

魔王「おれが良くない」

サキュバス「あなたが優しいのよ!魔王はもっと残酷であるべきだから!」

魔王「ふん。30年前、敵味方諸とも吹き飛ばしたおれが優しいと?」

サキュバス「優しいわよ…優しくなかったら、孤児になったあたしを城にいれてくれなかった」

748: 1 2012/08/19(日) 23:09:05.52 ID:og8I/D6AO
魔王「……そんなこともあったな」

サキュバス「いかないで。事情はあるだろうけど――みんなを率いて戦って」

サキュバス「お願い、一人で戦わないで」

魔王「おれは一人じゃない。お前らがいるかぎりな」

サキュバス「またそんな…」

魔王「それに部下に手を出されたんだ。このまま黙っていられない」

サキュバス「あなたは…優しくて、脆くて、鈍感」

魔王「そうか」

サキュバス「でもそういうところも好きなのよ、魔王さま」

魔王「すまんな。他に、特別な相手がいるんだ」

サキュバス「なら仕方がないわ。●●りは嫌いなの」

749: 1 2012/08/19(日) 23:14:59.92 ID:og8I/D6AO
魔王「でも気持ちは嬉しい」

サキュバス「すっぱり断りなさいよ☆」

魔王「じゃあ行ってくる」

サキュバス「ええ。――ちゃんと帰ってきてね、お兄ちゃん」

魔王「懐かしいな」

サキュバス「あの頃は偉いひととは思わなかったからね~」

魔王「じゃ」

蝙蝠「トウッ」パタパタ

魔王「皆によろしく伝えてくれ」シュンッ

サキュバス「……」

サキュバス「えっ、今なんかいた?」

756: 1 2012/08/20(月) 21:39:18.80 ID:f/AiJ6RAO
――どこか

魔法使い「そうだ、城へ行こう」

戦士「軽いな」

魔法使い「状況が不明なところに乗り込むのは気乗りしないが仕方ない」

戦士「さすがに城はまだ大臣の手に落ちてないんじゃないか?」

魔法使い「どうなんだろうな。大臣はかなり汚い奴だから」

戦士「お前本当に嫌いなんだなあいつ」

魔法使い「戦士のほうがまだ二割はマシだ」

戦士「そうか、やっぱり予定を変更してここで殺るわ」ブォン


757: 1 2012/08/20(月) 21:43:44.04 ID:f/AiJ6RAO
魔法使い「仲間割れをしている場合じゃない。…仲間というものなのかは知らんが」

戦士「自分の発言を見直してから仲間割れ云々言えよな」

魔法使い「話を戻して、だ。下手すると城の人間達が私たちの敵になっている可能性もあるぞ」

戦士「…冗談でもそういうのはやめろよ。頼るところがねーじゃん」

魔法使い「そうだな。じゃあ城に行くか」

758: 1 2012/08/20(月) 21:46:29.70 ID:f/AiJ6RAO
戦士「待て。自分で話しときながらそれか。負ける。絶対負ける」

魔法使い「“戦士”だろ?負けるなんか思うな」

戦士「二対何百何千の兵で勝てると思ってんのかアホ!」

魔法使い「全てに立ち向かわなくてもいいじゃないか」

戦士「へ?」

魔法使い「なにをそんな几帳面に戦う必要がある?」

戦士「これだから魔王討伐の時からお前が苦手だったんだよ…」

魔法使い「なんだ、苦手だったのか」

戦士「お前の料理もろもろにな」

759: 1 2012/08/20(月) 21:51:31.35 ID:f/AiJ6RAO
戦士「あのな、“戦士”は戦うことが誇りなんだ。戦わない道を選択するなんて恥だ」

魔法使い「じゃあいますぐその誇り捨てろ。まあ戦士のばあい埃被ってるだろうが」

戦士「無茶ぶり言うな!あとそのうまいこと言ったって顔やめろ!むかつく!」

魔法使い「冗談はともあれ、誇りに縛られてたら死ぬぞ。特に今回は」

戦士「……」

魔法使い「何も考えず戦えないんだよ。殴りあうだけじゃ駄目だ」

魔法使い「それに大臣はさっきも言ったように汚い奴だ」

760: 1 2012/08/20(月) 22:02:27.25 ID:f/AiJ6RAO
戦士「……分かったよ!そんな説教しなくてもいいじゃねーか」

魔法使い「悪い」

戦士「しかし本当に二人だけで行くつもりか?」

魔法使い「……助っ人が欲しいところだがな」

戦士「ちょっと待ってみよう。この流れならもしかしたら助っ人が来るかもしれない」

魔法使い「そうだな」

 一分経過。

戦士「んなわけねーだろうが!!」

魔法使い「言い出しっぺのくせに何を言っているのやら」

戦士「都合良く助っ人なんか来るわけないよな!」

761: 1 2012/08/20(月) 22:09:55.37 ID:f/AiJ6RAO
魔法使い「追っ手は来たけどな」

戦士「無駄話しすぎた」

魔法使い「うまくひっかかるといいが」トントン

戦士「……杖、新しくしたのか?」

魔法使い「ないと色々困るし」

 前方を見やれば追っ手がかけてくる。

戦士「おい、やばいんじゃ…」

魔法使い「大丈夫。走っていれば弓矢は使えないし」

 距離、五十メートルになって。
 魔法使いが一段と強く杖で地面を叩いた。

 がばっと地面に穴が開く。
 追っ手は抵抗できずに飲み込まれて消えた。

762: 1 2012/08/20(月) 22:15:30.82 ID:f/AiJ6RAO
戦士「……死んだのか?」

魔法使い「いいや。数日後にここから吐き出されるよ」

戦士「お前、すげー魔法使うんだな」

魔法使い「そりゃどうも。じゃあ、城に行こうか?」

 そういってずりずりと地面に円を書き始めた。

戦士「なにしてんだ…?」

魔法使い「魔法との相性が悪くて思うままに使えないんだよ」ガリガリ

魔法使い「だからこうやってわざわざ陣を地面に書いているわけ」ガリガリ

魔法使い「最近魔法陣でも正確に転移できる魔法を教わったし」ガリガリ

戦士「…何か大変だな」

魔法使い「武器との相性みたいなもんさ」

763: 1 2012/08/20(月) 22:21:09.48 ID:f/AiJ6RAO
魔法使い「できた」

戦士「大丈夫なんだろうな」

魔法使い「いけるだろ、多分」

戦士「不安すぎる」

魔法使い「位置的には城のそばに転移するぞ。いいな」

戦士「その方がいいだろ。なあ、これって衝撃とかあ―――」

シュンッ

764: 1 2012/08/20(月) 22:49:00.16 ID:f/AiJ6RAO
――人間の城、門前

魔王「……」シュンッ

魔王「ここか」

 城門を一睨みして、魔王は歩き出した。
 よく“魔王”の外見を思い浮かべるとき、人間が考えがちなマントはない。
 そのため一見すると、真っ黒な出で立ちの青年が城へ歩いているように見えなくもない。

魔王「……」

 夜風が彼の髪を荒らす。
 もうじき月が真上にかかるだろう。

 胸元の真珠に気づいて魔王は苦笑をもらす。

魔王「まだ返してなかったな」

 それきり表情を消し去って、彼は闇へ消えた。

765: 1 2012/08/20(月) 22:58:01.05 ID:f/AiJ6RAO


 だが。


 彼は多くの騒ぎの中で失念していた。
 “魔王”は無敵だ。どんな傷もたちどころに治す。

 そんな治癒効果すら、もっといえば“魔王”そのものの力を
 封じ込めてしまう代物があることを頭の隅に置きっぱなしにしていた。

 それが今入った城にある。
 これから会うことにある大臣がそれを持っている。


 ――魔王が“勇者”と一度でも斬り結んでいれば。
 それ専用の対策をとっていただろう。
 だが彼は若すぎたのだ。“魔王”として。


 すなわち、その名は。

766: 1 2012/08/20(月) 22:58:49.51 ID:f/AiJ6RAO




―――『勇者の剣』





767: 1 2012/08/20(月) 23:01:10.51 ID:f/AiJ6RAO


蝙蝠「ハッ」パチ

蝙蝠「チョットショウゲキガ、ツヨカッタヨ」

蝙蝠「アレ。マオウサマ、イッチャッタノカナ?」

蝙蝠「オイカケナクチャ。ボク、コノアタリシラナイシ」

蝙蝠「スッカリヨルダネ。ヨルハ、スキ」パタパタ

蝙蝠「マオウサマー」パタパタ

775: 1 2012/08/21(火) 22:26:59.00 ID:H1rROV4AO
――酒場

僧侶「……と、いうわけなんです」

マスター「なるほど」

僧侶「信じていただけるのですか?」

マスター「先ほどの奴等を締め上げたら同じ事を言っていたからね」

僧侶「締め上げた?」

剣士「気にしなくていい。マスターと仲良くなりたいなら」

僧侶「は、はぁ」

剣士「にしても大臣はなにをしようとしているのやら」

僧侶「それはわかりません。力を…とにかく、強い力が欲しいようでした」

マスター「力ねぇ」

777: 1 2012/08/21(火) 22:40:00.03 ID:H1rROV4AO
「国王とかやばいやん」

「魔王も狙われてるんだろ?すげーな」

「早くなんとかしないと」

剣士「表だって何もされてないんじゃ手の出しようがない」

マスター「だな。しらばっくれられたらそこまでだ」

「目つけられるかもだしな」

「大人ってめんどくさい」

ザワザワ

剣士「あ、じゃあこうしよう」

僧侶「?」

剣士「魔物が城を襲おうとしているって偽の情報を言えばいい」

マスター「ほう」

剣士「そのために警備してるんです→内部探りという感じで」

778: 1 2012/08/21(火) 22:50:08.99 ID:H1rROV4AO
マスター「うまくできるかどうかは分からないが…やってみる価値はある」

「なんたって国王が危機だしな」

「王女さん大丈夫かな」

僧侶「で、でもそれだと魔物の怒りを…」

マスター「なんなら話せばいいさ、さっきの話を」

僧侶「聞いてくれるでしょうか…」

剣士「賭けだな。魔王も大臣に侮辱されたも当然だから攻撃ぐらいはするかも」

マスター「ついでにこちらの被害も未知数、と……」

僧侶「……」

剣士「とりあえず、ありったけの兵力を集めよう。明日の朝までにだ!いいな!」


779: 1 2012/08/21(火) 22:54:53.58 ID:H1rROV4AO
「おう!」

「連絡してくる」

「憲兵隊にも」

剣士「表向きは『魔物に攻められそうだから』な。誰が密告するか分からないから」

剣士「武器の手入れと食料もだ。いつ何がおこるか分からないぞ!」

「了解!」

「行くぞ!」

僧侶「…剣士さん、人望ありますね」

マスター「あれでも隊長候補だ。変に抜けているのが不安だがね」

僧侶「そうなんですか…」

僧侶(ちょっとかっこいいです、剣士さん)

僧侶(ところで魔法使いさんは今なにをしているのでしょうか…)

780: 1 2012/08/21(火) 23:01:17.42 ID:H1rROV4AO
――城のそばの森

シュンッ

魔法使い「少し遠すぎたか」

魔法使い「ふむ……移動にてこずりそうだな。城につくまで何があるか」

魔法使い「戦士はどう思う?」

魔法使い「戦士?」

戦士「オロロロロロロロ」

魔法使い「なに吐いているんだ。武者震いならぬ武者吐きか」

戦士「ちげぇ!衝撃がやばすぎて気持ちわオロロ」

魔法使い「あのぐらい耐えろよ」

戦士「逆によく耐えられるな!毎日やったら死ぬわ!」

魔法使い「そうか、初心者にはきつかったか。私は耐性があるんだろうな」

781: 1 2012/08/21(火) 23:07:30.79 ID:H1rROV4AO
戦士「移動は…確かにめんどいな。行くまでに襲撃されたら困る」

魔法使い「もう一度転移か」ガリガリ

戦士「待った、それで敵の中に放り込まれてもしばらく動けないぞ」

魔法使い「…そうか。無理矢理身体動かせと言っても、動かないもんは動かない」

戦士「地道に行くしかないな」

魔法使い「その前に」

戦士「ああ」

魔法使い「――周りを囲んでいる連中を始末しないとな」

戦士「そうだな」

782: 1 2012/08/21(火) 23:18:23.98 ID:H1rROV4AO
戦士「この森に元々住んでいる魔物じゃないんだな?」

魔法使い「違う。この森は小さい魔物がほとんどだから

 ボンッと。
 当たったら爆散しかねない攻撃が四方から二人に向かってくる。

魔法使い「触るなよ!」

 魔法使いも光の球をいくつか出現させ、当てさせた。
 強い風と砂ぼこりが舞う。

戦士「来る!」

 砂ぼこりを掻き分け、敵が踊りかかってくる。
 見る限り全員魔物だ。

魔法使い「了解!」

 背中あわせになり戦士は拳で、魔法使いは強化した杖で相手を砕いていく。

783: 1 2012/08/21(火) 23:23:13.57 ID:H1rROV4AO
 殴り、叩き、突き刺す。
 悲鳴と肉が潰れる音が断続的に響いていた。

魔法使い「ようやく半分だ」

戦士「気を抜くな」

 足下からきた魔物を蹴り飛ばす。
 魔法使いは魔法で石を浮かし、執拗に魔物へ当てていく。

 数は減ってきた。
 しかし疲労は重なっていく。

戦士「あっぐぅ!?」

魔法使い「戦士!?」

戦士「足をぶっ刺された…くそったれ!」

 何かを殴打する音が背中から聴こえる。
 しかし魔法使いも魔法使いで絶え間なくくる攻撃で振り向けない。

784: 1 2012/08/21(火) 23:28:23.64 ID:H1rROV4AO
戦士「くっそ…」

戦士(足の感覚がほとんど消えた。立つのでやっとだ)

魔法使い「悪い、あとで薬草を渡す、今は辛抱してくれ!」

戦士「……わぁったよ。っと」

 首筋に噛みついてくる魔物に容赦なく頭突きをした。
 足の血が止まらない。
 間隙を縫って布で止血を試みたが、深すぎるようだ。

戦士「……」

魔法使い「っ」

 魔法使いが息を飲む。

魔法使い「最後の切札か!」

 見れば、残った五体が突き出した手に魔力を込めていた。

785: 1 2012/08/21(火) 23:34:17.53 ID:H1rROV4AO
 邪魔をしようと杖を振り、

魔法使い「っぐ」

 五体のうちの一体が攻撃をしかけてきた。
 魔法使いの腕と手の甲が裂けた。

 直後に二体が崩れ落ちたが、残りの魔物たちは気にするようもない。
 いや、むしろ。
 今がチャンスとばかりに、飛びきり大きい攻撃の球を送り出す。

魔法使い「――させるか」

 応戦。
 二つの球はぶつかり合い牽制しあう。
 魔法使いがさらに力を放出すると魔物側の球は圧されていく。

 あともう一押し、というところで。

786: 1 2012/08/21(火) 23:39:04.14 ID:H1rROV4AO


魔物「魔王、捕ラエタ」


魔法使い「―――は?」

 瞬間、集中力が途絶える。
 それに気づいたころにはもう魔法使いの目前に死が迫っていた。

戦士「魔法使い!!」

 横から強い力で押された。
 堪らずに数メートル吹っ飛ぶ。

 振り向いて、彼の姿を認める。
 球に真正面から立ち向かう戦士を。

魔法使い「せん――」

 ゴウッという音がやけに耳に焼き付いた。

787: 1 2012/08/21(火) 23:44:18.51 ID:H1rROV4AO
 轟音。
 強い光があたりを照らす。

 一通り落ち着いたあと、魔法使いは唇を震わせながら呼ぶ。

魔法使い「戦士……?」

 砂ぼこりを手で払うように振ると、すぐさま視界が透明になる。
 人間が横たわっていた。

魔法使い「うそ」

 両腕の肘から下がない。
 あちこちが焼け焦げ、悲惨な有り様だった。

魔法使い「戦士!なんで!」

 胸元を叩いて呼びかける。
 薬草でどうにかなるレベルの損傷ではない。

戦士「………い…」

魔法使い「戦士!」

戦士「あ……オレ、原型残っ……さすが、強化……魔法…」

788: 1 2012/08/21(火) 23:47:54.24 ID:H1rROV4AO
魔法使い「なんで…なんで私を!」

戦士「女に……戦わせん……の、恥、だから」

魔法使い「誇りのためか!?でも、結果がこれだ馬鹿!」

戦士「……オレ、さぁ……勇者、になりたくて………」

戦士「でも、なれなくて……さ」

魔法使い「……」

戦士「あんな…こと、した……償い……」

魔法使い「私を殺さないのか。大臣を殺さないのか!?」

戦士「足……も、ダメだったから。動くの、無理……だった」

魔法使い「……」

戦士「足手、まとい、よりは、いいだろ?」

789: 1 2012/08/21(火) 23:50:57.05 ID:H1rROV4AO
魔法使い「馬鹿……お前なんか見とりたくなかった」

戦士「オレも……できれば、王女、さまが、良かった、なぁ……」

魔法使い「あはは…わがままなやつ」

戦士「なぁ……オレから、必要なの、持ってけ…」

魔法使い「ああ」

戦士「埋めなく……いいから…体力、使う」

魔法使い「ああ」

戦士「勝てよ」

魔法使い「必ずだ」

戦士「……僧侶と、剣士にも……よろしく」

魔法使い「分かった」

戦士「………」

魔法使い「………」

魔法使い「止まった」

790: 1 2012/08/21(火) 23:56:44.15 ID:H1rROV4AO
 見渡せば、魔物が増えていた。
 ちらほら人間も見える。
 騒ぎで集まってきたらしい。

魔法使い「……もっと早く魔物化していれば良かったな…」

魔法使い「でもなんでか……感情が高ぶらないとなれないんだよ、戦士」

魔法使い「ごめんな。都合が悪いやつで、ごめん」

 翼が少女の背から生える。
 鷲の大きく獰猛な翼が。

魔法使い「一人で逝くのは寂しいだろ?すぐ賑やかにしてやるから」


 一対数十。

 圧倒的な数の中、魔法使いは笑った。

791: 1 2012/08/22(水) 00:03:40.90 ID:aUuKbk4AO
――酒場

僧侶「あ」

剣士「どうした?」

僧侶「いえ…なにか、今、感じまして」

剣士「感じた?」

僧侶「…『戦いの中死ぬなら本望だ』」

剣士「……それ、戦士が昔言ってたやつ?」

僧侶「あれ、そうですね。なんで突然こんなことを…」

剣士「……」

僧侶「……」

剣士「…なんか、胸がざわめく夜だ」

僧侶「ええ…」

802: 1 2012/08/22(水) 22:59:19.66 ID:aUuKbk4AO
――城のそばの森

魔法使い「はぁ……はぁ……」

 血まみれだった。
 彼女自身の血と彼女のではない血で。

 まだ息のある人間を見つけ、胸ぐらをつかんで中吊りにした。

魔法使い「教えろ。魔王が捕まったとはどういうことだ」

生き残りの兵「ひっ…自分は何も知らねぇ!ただ、魔王を誘き寄せたとは聞いたが…」

魔法使い「誘き寄せた?一体どうやってだ」

生き残りの兵「わ、分かんねぇ……本当だよ、分かんねぇんだ…」

魔法使い「そうか」

 そのまま落とした。
 「ぐぇ」と足下から声がしたが気にしない。


803: 1 2012/08/22(水) 23:04:23.57 ID:aUuKbk4AO
生き残りの兵「頼むよ……見逃してくれないか」

 魔法使いの足首にすがって人間は言う。

魔法使い「……」

生き残りの兵「妻子がいるんだよ……」

魔法使い「勝手にしろ」

 足首に絡まる手を振り払い、完全に興味をなくして踵をかえした。

生き残りの兵「なぁんてな化物がァァァァァ!!」

 隠し持っていたナイフで人間が魔法使いの首筋を狙う。
 素早い動きで彼女は振りかえると、ナイフをかわしつつ右手を固めて顔面を殴った。
 湿った嫌な音がした。

804: 1 2012/08/22(水) 23:09:26.15 ID:aUuKbk4AO
魔法使い「これで終わりか」

魔法使い「みんな死んじゃった」

 感情もなく呟くとそのまま崩れ落ちた。

魔法使い(まおう……)

魔法使い(まおう、あぶないなら、たすけにいかなきゃ)

 しかし手はおろか身体に力が入らない。

魔法使い「バッカだなぁ――体力使い果たした…」

 夜風がふいて魔法使いの短い髪を優しく撫でた。
 静かだった。

??「うわ、すごいな」

 意識のどこかで声が響いた。

805: 1 2012/08/22(水) 23:16:44.73 ID:aUuKbk4AO
魔法使い「……あなた、は」

黒髪の男「よー」

魔法使い「こんばんは…」

黒髪の男「魔力使い果たしたな。頑張りすぎだろ」

魔法使い「はは…」

黒髪の男「力が欲しいか」

魔法使い「怪しい匂いしかしないのでいいです」

黒髪の男「単純に魔力だよ、魔力」

魔法使い「いいです」

黒髪の男「大丈夫大丈夫。――ちっと俺の魔力を渡してほしい奴もいるし」

魔法使い「話だけは聞きましょう」

黒髪の男「目が虚ろなんだが。生きてるか?おーい」

806: 1 2012/08/22(水) 23:22:38.33 ID:aUuKbk4AO
魔法使い「行かなきゃ…」ググ

黒髪の男「そんなボロボロでか?」

魔法使い「国が……魔王が……」グググ

黒髪の男「やめな姉ちゃん。死ぬぜ」

魔法使い「え……性別」

黒髪の男「俺にはお見通しだよ。なんでもな」

魔法使い「……」バタッ

黒髪の男「あ、死んだ」

黒髪の男「……生きてた生きてた、びっくりした」

黒髪の男「少し寝てろよ姉ちゃん。まだ始まってすらないぜ」

黒髪の男「っと、傷口失礼……」

 指で皮膚を噛みきり、魔法使いの傷口と接触させる。

魔法使い「ん……」

黒髪の男「いま渡した魔力の半分は魔王にやってくれ」

魔法使い「あなたは…誰なんですか?」

807: 1 2012/08/22(水) 23:29:05.57 ID:aUuKbk4AO
 質問しながら意識が沈んでいく。
 手足の隅々が暖まっていくのをぼんやり知覚する。
 本当に魔力を流し込んでいるのか。

黒髪の男「知りたいか。知りたいよな」

 なにか言っている。
 でももう眠気が限界だ。

 月を背にしたその姿がとても誰かにそっくりだった。
 その誰かの名前もモヤがかってきている。

 それでもその誰かの、あの金色の瞳が見たかった。

 黒髪の男が何やら言ったとき、魔法使いの意識は深く落ちた。


黒髪の男「俺はほんの少し前まで魔物の国を治めていた、王だよ」


808: 1 2012/08/22(水) 23:34:48.13 ID:aUuKbk4AO
――同時刻、魔王城で

魔大臣「魔王さまが……?それは本当か?」

鳩「クルッポー」

魔大臣「勇者の剣…!?そういやあんなもんあったか」

鳩「クルッポー」

側近「兵の収集を頼む。女子供はいいから」

鳩「クルッポー」バサッ

トロール「するト?」

人魚「…どうする?」

魔大臣「決まっているだろう」

側近「人間の城に行くぞ」

809: 1 2012/08/22(水) 23:44:44.41 ID:aUuKbk4AO
――人間の城、牢

国王「…………で」

魔王「なんだ」

国王「何やっとるんじゃお主は…」

魔王「捕まった」

国王「魔王はそんなにあっさり捕まるものか!?」

魔王「傷口に響く。もっと静かに話してくれ、人間の王よ」

国王「激戦と聞いたが……」

魔王「おれ対二百な。しかも対魔物用の矢」

国王「……」

魔王「不意討ちの不意討ちの不意討ちで脇腹にこれ――『勇者の剣』を刺されてな」

国王「……」

魔王「後は分かるだろ」

国王「いや、分からん」

810: 1 2012/08/22(水) 23:51:01.40 ID:aUuKbk4AO
魔王「理解力のないじいさんだな」

国王「どうして畏怖されてきた魔王が全身ボロボロなのか理解できんのじゃ…」

魔王「簡単だよ。刺されたとたん、力をほぼコイツが封印してただの人間当然となって」

魔王「残ってた十二人に殴る蹴るされていた。ざっと二時間」

国王「ということは最後の力を振り絞ったんじゃな…」

魔王「その頃には疲れていたしな」

国王「しかし、さっきお主を連行してきたのは大臣含め六名じゃったが」

魔王「四人死体にして三人足もいでおいたからな」

国王「うわぁ」

811: 1 2012/08/22(水) 23:54:58.09 ID:aUuKbk4AO
魔王「あー、でもしくったな。あいつら上手くやれてるかな」

国王(すごく人間味があるのう……)

魔王「じいさん、これ抜いてくれないか」

国王「互いに鎖に繋がれてるから無理じゃな」

魔王「おれとか身動ぎすらできない。待遇の改善を訴えるべきだな」

国王「……」

魔王「というよりこれ、後ろに突き刺してるのか?馬鹿か?抜けないだろ」

国王「しかし不思議じゃな……なぜ“勇者”でもないのに使えたのか」

812: 1 2012/08/23(木) 00:04:13.63 ID:q5pwSgPAO
魔王「触るだけならできるヤツもいるだろうさ。人間に関わらず魔物だって」

国王「そ……そうなのか」

魔王「ただ使えるかは別問題だ。今回は魔法を使って飛ばしてきやがった」

国王「とんでもない戦闘じゃったんだな……」

魔王「まあな。魔力封じられてるから傷も治らない。不便だ」

国王「…“勇者”はよくこんな奴と戦えるのう…」

魔王「だったら送り込むのやめろよ。前代国王は“勇者”を送り込まなかったぞ」

国王「新しい“魔王”になったって聞いたから早めに潰そうと…」

魔王「“勇者”のほうが先に潰されたが」

813: 1 2012/08/23(木) 00:14:46.36 ID:q5pwSgPAO
国王「あれ、一体何が問題だったんじゃろうな……」

魔王「人材」

国王「……」

魔王「さらに言うなら、国王の判断ミス」

国王「やめてくれ!こんなことになってるから凹んどるんじゃて!」

魔王「暇だから仕方ない」

国王「暇だから人の心を抉っとるのか!」

魔王「いいじゃねぇか。ボケ予防になるんじゃないか」

国王「逆にストレスばかりが溜まりそうで嫌なんじゃが」

魔王「王はそんなもんだろ」

国王「だれのせいじゃだれの」


見張り(仲良しだなー)

814: 1 2012/08/23(木) 00:20:02.17 ID:q5pwSgPAO
魔王「――お」

国王「?」

魔王「明るくなるにつれて、色んな気配がしてきたな」

国王「分かるのか…?魔力封じられているのに」

魔王「こんなもん魔力を使うまででもない。生まれつきだ」

国王「……」

魔王「ふん。さて、おれを助けにきてくれる者はいるのかどうか」

魔王「それに誰が勝者となるのか――楽しみだな」ニィ

国王「」ゾク

魔王「あ、いてっ。頬が腫れてるんだった」

国王「………………」

815: 1 2012/08/23(木) 00:25:31.83 ID:q5pwSgPAO
――城の前

僧侶「夜明けですね……」

剣士「長い戦いになるぞ」

偵察「たたたた、大変だーーっ!!」

剣士「なんだどうした」

偵察「あ、あああああっちの向こうから、向こうから!」

マスター「落ち着け。向こうからなんだって?」

偵察「魔物が!戦の恰好をした魔物達が近づいてくる!」

マスター「」

剣士「」

僧侶「」

816: 1 2012/08/23(木) 00:30:33.13 ID:q5pwSgPAO
――城の前付近、魔物側

ザッザッ

側近「?何故人間が」

ミノタウロス「あちらさんも同じ事情なんじゃ?」

魔大臣「なるほど。国王が云々とか言っていたな」

ミノタウロス「大臣ってやつは凄いなまったく。馬鹿か天才か」

側近「むぅ、上手く手を組めないものか。さすがに二つと争うのは厳しい」

魔大臣「それはあちらさんの出方によるだろうな」

トロール「脅しで攻撃すル?」

魔大臣「しない。静観だ」

ミノタウロス「果たして人間側に静観する余裕はあるかどうか…」

817: 1 2012/08/23(木) 00:33:57.40 ID:q5pwSgPAO
――城内、どこか

大臣「始まるぞ!私の記念すべき日が!」

大臣「魔物も人間も入り乱れて争うがいい!」

大臣「お前達の王は私だ!」

大臣「踊れ!歌え!そして手のひらで転がり続けていればいい!」

818: 1 2012/08/23(木) 00:34:34.07 ID:q5pwSgPAO



そして日が昇った。




824: 1 2012/08/23(木) 21:11:58.99 ID:q5pwSgPAO
――城門前

ヒュオオオオ…

側近(城の護りは固い。恐らく我々が飛んでも打ち落とされる)

側近(なんとかあの護りを破れば中へ入れるんだろうが)

側近(そこまでに被害は出したくないな)

側近(しかし、目下問題は)

側近(百、二百メートルそばに人間がいるってこれどんな状況だ)

トロール「近いなア」

ミノタウロス「おかげで硬直状態が続いているんだけどな」

魔大臣「これじゃ日が暮れてしまうぞ」

ミノタウロス「昇ったばかりなのに?」

825: 1 2012/08/23(木) 21:14:21.83 ID:q5pwSgPAO
ヒュオオオオ…

剣士(ある意味、今日一日が全てを決めるだろう)

剣士(ぐずぐずしてられない。ただ――警備が固すぎる)

剣士(ここで兵を減らすのは避けたいところだ)

剣士(しかし……)

僧侶「こ、こんな近くにたくさん魔物がいますよ…」

マスター「妙な緊張感があるな…」

剣士「ああもうどうすれば!!」

826: 1 2012/08/23(木) 21:18:12.72 ID:q5pwSgPAO
 人間と魔物は相容れない。

側近「……」

 だが、協力を申し出たいし、協力をしてほしい。

剣士「……」

 少なくとも自分たちだけで勝てるような相手ではない。

魔大臣「……」

 大臣派には人間と魔物が入り交じっていると聞く。

僧侶「……」

 共に戦った方がよいに決まっている。

ミノタウロス「……」

 だが、長年の確執が交渉を邪魔していた。

マスター「……」

827: 1 2012/08/23(木) 21:27:36.54 ID:q5pwSgPAO
 ふと、剣士と側近両者は後ろのほうが騒がしくなったことに気づいた。
 緊張感を持てと剣士が怒鳴る。後ろまで聞こるたかはともかく。
 同じように側近も怒鳴ろうとしたが、声が出なかった。

 おぞましいほどの魔力を感じたからだ。

魔大臣「な、なんだ――この魔力は」

ミノタウロス「でかすぎる!なにが来るんだよ!?」

トロール「……」

側近「……鳩、誰がいるか、分かるか」

鳩「クルッポー」バサッ

側近「そうか……来たのか」

828: 1 2012/08/23(木) 21:31:33.42 ID:q5pwSgPAO
 ざわざわとした声は前へと移動してくる。
 人間と魔物の間にできた道を歩いてきているようだ。

ミノタウロス「攻撃は?」

側近「やめろ。絶対にだ!」

ミノタウロス「あ、ああ……」

 人影が見える。
 端がボロボロになったローブ。
 短髪。
 そして、背には大きな翼。

魔大臣「……混血か?」

側近「鷲族唯一の生き残りだ」

魔大臣「なっ!?」

側近「安心しろ、あいつは我々の味方となってくれる」

側近(目的は――やはり魔王さまか?)

829: 1 2012/08/23(木) 21:34:23.45 ID:q5pwSgPAO
剣士「なんだあれ……混血か?」

マスター「みたいだな。しかし何故ここに…」

人間兵「攻撃体制は整っております!」

剣士「まだ攻撃をするな。このまま様子見だ」

人間兵「はっ」

僧侶「……」

剣士「僧侶?」

僧侶「あれ……もしかして!」ダッ

剣士「あっ、僧侶!?」ダッ

マスター「…知り合いか?いやまさかな…」

830: 1 2012/08/23(木) 21:54:24.36 ID:q5pwSgPAO
……

側近「やはり小娘か」バサッ

魔法使い「側近さん」

側近「なんだその有り様は…何があった?」

魔法使い「なんでもありません」

側近「…見たところ傷は治ってるようだから追求はしないが」

魔法使い「助かります。ところで魔王は、あの中ですか」

側近「そうだ」

ダダダダッ

側近「!?」

魔法使い「……僧侶」

僧侶「勇者パーティの時のか」

魔法使い「はい。……こんな姿をみせてしまうのか」

側近「……」

831: 1 2012/08/23(木) 21:59:48.14 ID:q5pwSgPAO
僧侶「はっ、はぁっ……きゃあっ!?」ガンッ

 魔法使いまであと僅か、というところで僧侶はつまずいた。
 そのまま重力に引っ張られ地面とご対面になるところで、ふわりと支えられる。

魔法使い「…こんなとこで怪我を作るなよ」

僧侶「す、すいません…じゃなくて!」

 黄色がかかった目、首や手首から生える羽毛、そして翼。
 それらを見て、最後に魔法使いの顔を見て僧侶は笑った。

僧侶「魔法使いさん!」ギュッ

魔法使い「私だと…分かるのか?」

僧侶「もちろんですよ!」

832: 1 2012/08/23(木) 22:05:19.38 ID:q5pwSgPAO
魔法使い「僧侶」

僧侶「はい」

魔法使い「私は、混血なんだ」

僧侶「そうみたいですね」

魔法使い「化物だぞ。それでも以前のように話してくれるのか」

僧侶「関係ありません。魔法使いさんは魔法使いさんですから」

魔法使い「…ありがとう」

僧侶「いいえ。――着ているものが汚れていますが、どうしたんですか?」

魔法使い「ちょっと色々ね。僧侶、傷の様子は?」

僧侶「片腕にもだいぶ慣れました。利き手じゃなくて良かったですよ」

魔法使い「そうか。強いな」

僧侶「えへへ」

833: 1 2012/08/23(木) 22:10:57.91 ID:q5pwSgPAO


剣士「……僧侶!」

 僧侶がこけ、混血に抱き止められた時に剣士は声を出していた。

剣士「僧侶から手をはな――」

側近「やめんか」

 いつのまにか側にきていた鷹の魔物に翼で叩かれた。

剣士「な、なんだ魔物!やるか!?」

側近「おちつけ餓鬼」

剣士「餓鬼…」

側近「よく顔を見ろ。見覚えがあるんじゃないのか?」

剣士「見覚えって――魔法使い!?」

側近「このアホタレ。仲間の顔すら忘れていたのか」

剣士(気づかなくて悪かったけど、なんで魔物に説教されてんだろ)

834: 1 2012/08/23(木) 22:15:23.93 ID:q5pwSgPAO
側近「それに、軽々しく小娘に混血というな。あいつ気にするから」

剣士「小娘?誰が?」

側近「魔法使いのことだが」

剣士「」

側近「そうか、ずっと男として通してきたんだったか」

側近「…本人の口からのほうが良かったか?」

剣士「う、嘘だ……」

側近「?」

剣士「あんなツルペタなやつが女なわけないじゃないかー!!」

 直後、剣士の足下が軽く爆発を起こした。

836: 1 2012/08/23(木) 22:42:27.32 ID:q5pwSgPAO
僧侶「ま、魔法使いさん!?」

魔法使い「悪い、つい反応してしまった」

僧侶「何にですか?」タユン

魔法使い「……なんでもないよ」

剣士「お、おらー!魔法使い!なにすんじゃ!」

魔法使い「すまない」

剣士「すまないですんだら憲兵隊いらぬわ!」

側近「そろそろ話を進めないか」

837: 1 2012/08/23(木) 22:54:51.94 ID:q5pwSgPAO
 魔物側からは側近、魔大臣。
 人間側からは剣士、僧侶。
 そして――どちらでもあって、どちらでもない側の魔法使い。

 五人が円となり座った。

側近「攻撃は?」

魔法使い「まだのようです。恐らく、兵全体が動いたら攻撃するかと」

剣士「で、どーすんだ?」

魔法使い「僧侶、城について説明してくれないか。魔物は知らないんだ」

僧侶「は、はい」

 僧侶が説明を始める。

838: 1 2012/08/23(木) 22:56:14.54 ID:q5pwSgPAO
 まず城門を入ると大きな出入り口が。そこをとおると中庭がある。
 右にいけば王室と謁見室、左にいけば客間。正面は次の中庭へと。
 階は不明だが、五、六階以上はあるはず。
 そして地下もある。

魔大臣「正直、人間と組ませた方が早いかもな」

僧侶「でしょうね。複雑ですから」

剣士「……それを連中が納得してくれるかどうか」

魔法使い「納得させるしか、ない」

剣士「……だな」

側近「今は、魔物だから人間だからと言っている場合じゃないからな」

839: 1 2012/08/23(木) 23:04:40.43 ID:q5pwSgPAO
魔法使い「じゃあ、頼んだ。側近さんと剣士が言ってくれ」

剣士「オレの声届くかな」

魔法使い「ん、ちょっと待て――よし。しばらくは大声になる」パァ

側近「こちらは大丈夫だ。じゃあまずは……」

 バサリ、と側近は飛び魔王軍を見下ろす。

側近「聞け!」

側近「今、我々は人間と手を組まなければ勝てない!」

 ざわざわ。

側近「我らだけでは不十分で――人間だけでも不十分だ!」

側近「一時、力を貸してやってくれ!しばらくは因縁なんかは無しだ!」

 ……。

側近「嫌なら帰れ。魔王さまに忠誠を誓いたいなら、残れ!!」

 ウオオッ――!と魔物が吠えた。
 去るものはいなかった。

840: 1 2012/08/23(木) 23:09:03.29 ID:q5pwSgPAO
剣士「さぁ国王軍ども!よく聞け!」

剣士「まず――わりぃ、魔物が攻めてるのは嘘な!」

 えええーっとブーイング。
 しかし誰かがばらしていたのかそこまで混乱はなかった。

剣士「今から向かうはなんか勘違いした大臣のところだ!」

剣士「そいつに国王さまは捕まった!」

剣士「しかもだ!やつは人間と魔物がごっちゃな軍を作ってるらしい!」

剣士「ならこちらも人間と魔物で行くぞ!」

剣士「倒せ!救え!」

剣士「少しだけでいい、魔物と手を組むんだ!そして、共に戦え!」

剣士「誰も死ぬなよ!以上!」

 割れるような歓声。


841: 1 2012/08/23(木) 23:12:53.07 ID:q5pwSgPAO
僧侶「……すごいですね」

魔法使い「ああ」

魔大臣「さすが側近といったところか」

魔法使い「すごくスムーズに行くってわけじゃないが…勝ち目はある」スッ

魔大臣「…どこにいく、混血」

魔法使い「混血は嫌いか?」

魔大臣「……」

魔法使い「殺したいなら全て終わってからにしてくれ」

僧侶「魔法使いさん、どこに!?」

魔法使い「お先にいかせてもらう。僧侶、あなたは危ないから援護に行ってくれ」

僧侶「魔法使いさんだって!」

 魔法使いは笑って僧侶の頭を撫でた。

842: 1 2012/08/23(木) 23:21:37.46 ID:q5pwSgPAO
魔法使い「行かなきゃ」

僧侶「……」

魔法使い「道を開ける。そしたらすぐに侵入を開始してくれ」

側近「…お前だけで大丈夫か」バサッ

魔法使い「今の私は、周りを巻き込みかねないから」

側近「……なら、行ってこい」

魔法使い「行ってきます」

魔大臣「混血」

魔法使い「?」

魔大臣「確かに、あまり混血は良く思っていないが――」

魔大臣「別に嫌いなわけじゃない。――それに、おまえのようなやつは好感が持てる」

魔法使い「…そう」

 歩き出す。
 城門と城壁が騒がしくなった。
 侵入者を排除するために。

剣士「魔法使い!」

魔法使い「?」

剣士「帰ったら色々聞かせてく」れ、で魔法が切れたらしい。

 一度だけ大きく手をふった。

844: 1 2012/08/23(木) 23:32:09.17 ID:q5pwSgPAO
魔法使い「さぁて」

 侵入を防ぐために仕舞われていた、堀の上にかかる橋を魔法で下ろした。
 その上を通りながら矢を風や小石で避けていく。

 固く閉じられた城門をやはり魔法でこじ開け、蹴り飛ばした。

 重い音をたてながら目に入るは数百の兵。

魔法使い「はは、一番乗りで良かった」

 目の前いっぱいに多数の魔法陣を展開する。
 有り余るほど魔力があるために今ならかなり無茶しても大丈夫そうだ。

魔法使い(魔王に渡さないといけない分もあるけど)

 あと数秒で幾百もの攻撃が魔法使いを仕留めんと向かっていくだろう
 彼女は口の端を歪めて呟いた。

845: 1 2012/08/23(木) 23:32:51.31 ID:q5pwSgPAO


魔法使い「―――しんじゃえ」


 攻撃は同時だった。

854: 1 2012/08/24(金) 21:45:54.22 ID:Uz+cm7QAO
――城門前

ドーン ドカン バン

僧侶「容赦が全然ありませんね、魔法使いさん…」

剣士「すっげぇ…もうあいつ一人でいいんじゃないか?」

側近「たわけ。あくまでもあいつは我々のために道を開けているだけだ」

側近「本番は我々が動いてからだ、違うか?」

剣士「う」

僧侶(どうしてこの鷹の魔物さんは剣士さんに厳しいのかな…)

魔大臣「して、どのタイミングで行く?」

側近「まだだな。あの破壊音が一通り落ち着いてきたら」

ドバーン

僧侶「火が一瞬見えましたよ!?」

側近「…はっちゃけているなぁ」

856: 1 2012/08/24(金) 22:17:56.80 ID:Uz+cm7QAO
魔大臣「解らんな…」

側近「なにがだ」

魔大臣「なぜここまで必死に我々に協力してくれるのか」

魔大臣「混血達は普通、迫害されてきたのもあってこちらを恨んでいるはずだ」

側近「…ああ」

魔大臣「なのに……こうも手を貸してくれている」

側近「そうだな」

魔大臣「あの混血はなんのために戦っているんだ?」

側近「決まっている」

魔大臣「?」

側近「大事なひとのためだ」

857: 1 2012/08/24(金) 22:24:24.17 ID:Uz+cm7QAO
――城内、中庭

魔法使い「だいたいやったか……」

魔法使い「そこ。死んだふりは見苦しいぞ」ゲシ

「~~!?」

魔法使い「魔王は?国王は?どこにいる?」

「だ、誰が教え……」

魔法使い「そういう台詞には飽きた。苦痛を味わいたいなら構わない」

「ど、どちらにしろ生きてないだろうよ!」

「国王は大臣さまに全てを明け渡し、魔王は魂を搾り取られて」

「もうじき生首が仲良く並ぶこ――びしっ」グシャッ

魔法使い「あ。靴が汚れてしまった」

 

858: 1 2012/08/24(金) 22:30:31.02 ID:Uz+cm7QAO
魔法使い「そっちも顔が汚れたな。まあお互いさまだ」スタスタ

魔法使い(こちらが騒いでいる間にあいつは着々と行動しているわけか)

魔法使い(ちんたらしてられないな。ついた時には手遅れとなりかねない)

魔法使い「……」スッ

魔法使い(得体の知れない魔力やらで正確にしぼりこむことは難しいが)

魔法使い(魔王を閉じ込めているならそれなりの魔力がかけられているはず)

魔法使い「ん?……これは……」

魔法使い(この穢れのない魔力は……『勇者の剣』?)

859: 1 2012/08/24(金) 22:38:23.85 ID:Uz+cm7QAO
魔法使い「……」

魔法使い「ひとまず、一切の疑問は置いておくとして」

魔法使い(場所はここから少し遠いようだな)

魔法使い(…『勇者の剣』は魔王の力を押さえつける力があったはず)

魔法使い(つまり――うん)

魔法使い「行ってみるしか、ないか」

ザザザザ

魔法使い「……その前に」

 どこかからわいてきた兵士達を一瞥する。

魔法使い「お相手しなきゃいけないか」

860: 1 2012/08/24(金) 22:51:40.96 ID:Uz+cm7QAO
――牢

キィ…

魔王「よぉ」

大臣「…拘束されているというのに余裕そうだな」

魔王「そうでもない。萎れている方が好みだったか?しないが」

大臣「ふっ、この状況でその返答か。さすが王だな」

魔王「で、なんの土産を持ってきた。それを見せるために来たんだろ」

大臣「目ざといな。だが、ただ見せるだけではない」パサッ

魔王「水晶?」

大臣「ただの水晶じゃあない」

大臣「対象の生命力を封印する代物だ」

魔王「ふむ。嫌な予感しかしない」

861: 1 2012/08/24(金) 23:01:12.55 ID:Uz+cm7QAO
 口元をひくつかせる魔王を横目に、大臣は魔法陣を書き、真ん中に水晶をのせる。

魔王「生命力を肉体から水晶に移すということか」

大臣「その通り」

魔王「すると、肉体のほうは?」

大臣「ただの肉と成り果てる。オイルのないランプのようなものだ」

魔王「…そして朽ちていくのか」

大臣「察しがいいな」

魔王「おれに死ねと」

大臣「そうだ」

魔王「面白いやつだな」

大臣「強情をはるのも今のうちだ。せいぜい苦しんで死ね」

魔王「死ぬのは貴様だ」

862: 1 2012/08/24(金) 23:08:46.96 ID:Uz+cm7QAO
大臣「私が?ひとをおちょくるのも程々にしておけよ、魔王」

魔王「なに偉ぶってんだよ大臣。滑稽極まりないぜ」

大臣「な――」

魔王「そもそも“魔王”を殺すのは“勇者”しかいないんだよ」

魔王「それとも“勇者”になりたかったのか――混血」

大臣「っ!」

魔王「おいおい、そんなに驚くなって」

大臣「なぜそれを……」

魔王「魔王に隠し事ができると?一目で分かったよ」

魔王「なんか分かるんだよ。独特のオーラというか」

863: 1 2012/08/24(金) 23:16:59.74 ID:Uz+cm7QAO
大臣「……」

魔王「そう考えると疑問に思っていたことも解決する」

大臣「わ、私が、汚らわしい混血?冗談もほどほどにしろ」

魔王「認めろよ」

大臣「黙れェ!!」ガッ

魔王「ぐふ」

大臣「どうやら、まだ、上下関係が、分からない、ようだな?」ガッガッガッガッ

魔王「って言ってもだ。このぐらいで逆転すると思うなよ?」

大臣「……っ。そこで戯言を言っていろ!」ツカツカ

魔王「……」

魔王「あー、いってぇ…」

864: 1 2012/08/24(金) 23:23:00.67 ID:Uz+cm7QAO
国王「」

魔王「おっさん。おっさん?」

国王「はっ!」

魔王「いや暴力シーンで固まるなよ。どれだけ平和に生きてきたんだ」

国王「昔から苦手での…」

魔王「ああそうかい」

魔王(少しずつだるくなってきた。こいつのせいか)

国王「水晶に光が…」

魔王「憎い演出だ。最後には煌々としているんだろきっと」

国王「だ、大丈夫なのか?」

魔王「今はな」

魔王(ここに誰がくるのが先か、おれがくたばるのが先か)

魔王「……」

魔王(何故魔法使いの顔が浮かぶ?)

865: 1 2012/08/24(金) 23:28:42.57 ID:Uz+cm7QAO
国王「これからどうなるんかの…」

国王「后と娘は無事なのかも気になるし…」

魔王「うるさいなおっさんは」

国王「おっさんでもなければじいさんでもない!あと統一しろ!」

魔王「細かいことはいいんだよじっさん」

国王「ま、混ぜおった」

魔王「独り言は自分の胸のなかでやってくれ。おれは寝る」

国王「お、おい」

魔王「」スー

国王「早っ」

国王(水晶の光がさらに強くなっている…)

866: 1 2012/08/24(金) 23:36:13.29 ID:Uz+cm7QAO
――城内、通路

魔法使い「……」スタスタ

??「おっとここから先は通さないぜっ!」バッ

魔法使い「邪魔」

??「大臣さまの右腕候補!その名前は――」

魔法使い「邪魔」ゴスッ

??「ぐぇ」バタ

???「兄者ー!!おのれ、よくも!」

魔法使い「邪魔」ガスッ

???「ぐわ」バタ

魔法使い「――はぁ」

魔法使い「魔王がピンチな気がしたんだが…大丈夫かな」スタスタ

877: 1 2012/08/25(土) 22:33:33.01 ID:XUBY+bAAO
――城門

マスター「頃合いだ。行くか」

剣士「そうだな」

僧侶「剣士さん――」

剣士「僧侶は危ないから、後ろで治療班にまわってくれ」

僧侶「わたし、大臣さまを……救いたいんです」

剣士「……」

僧侶「勝手なのは分かっています。わがままなのは知っています」

僧侶「でも……かつてあの人は、わたしの居場所を作ってくれたから…」

僧侶「お願いします!一緒に連れていってください!」

剣士「……」

マスター「行かせてやれよ」

剣士「そんな無責任な」

878: 1 2012/08/25(土) 22:37:46.98 ID:XUBY+bAAO
マスター「お嬢さん」

僧侶「は、はい!」

マスター「死ぬ覚悟はできてるかい?戦場は誰であろうと死ぬぜ」

僧侶「できてます!」

マスター「もし死んでも恨みっこなしだ。いいな?」

僧侶「はい!」

マスター「まぁ剣士が守ってくれると思うけど。な?」

剣士「え?」

マスター「なんだ、守れないのか」

剣士「ま、守れるぞ!僧侶はオレの命をかけても守るから!!」

僧侶「け、剣士さん」カァァ

剣士「あ、いやその…うん、頑張るから」カァ

僧侶「お、お願いします」

879: 1 2012/08/25(土) 22:45:32.32 ID:XUBY+bAAO
側近「……」

ミノタウロス「どうしたん?こっち準備できたが」

側近「いや……あの小僧、見てて不安だなと」

ミノタウロス「ああ…」

側近「軍、動かすか」

魔大臣「そうしよう」

魔大臣「トロール達が先に行ってくれ」

トロール「分かっタ」ノシノシ

魔大臣「隊列を組め!進むぞ!」

剣士「おっと――行くぜ!やる気を出せよ!」

ウオオオォォ!!

マスター「雑魚はこちらで潰す。お前たちは国王の救出を」

剣士「――、了解した」

880: 1 2012/08/25(土) 22:54:55.68 ID:XUBY+bAAO
マスター「多分、大臣も王達の近くにいると思う。予想だけど」

マスター「もともとふたりが狙いだったわけだしな」

僧侶「はい」

剣士「じゃ、また後で。気をつけてくれよ、マスター」

マスター「剣士に言われたくない。お前こそ油断するなよ」

剣士「大丈夫だよ。故郷の姉貴が作ってくれた御守りつけてるし」チャラッ

マスター「…ペンダントか」

剣士「これのおかげで今まで生き残ってるんだからさ」ニカッ

僧侶「……」

マスター「……お嬢さん、こいつの周りを見ててくれ。絶対不意打ちで攻撃がくるから」

僧侶「…分かりました。気をつけます」

剣士「?」

881: 1 2012/08/25(土) 23:03:53.08 ID:XUBY+bAAO
マスター「お前たちは少し後ろからこい。ある程度は片付いてるはずだ」

剣士「あんがと」

側近「……」ヌッ

剣士「うお!?」ビク

側近「これを」

僧侶「は、羽?わたしにですか?」

側近「魔法の攻撃を一回やり過ごせるはずだ。持っておけ」

僧侶「」ポカン

側近「二人だけでいかせるのか?」

マスター「いいや。何人かで行動させる」

側近「だよな。二人だけだったらどうしようかと」

僧侶「…あ、えっと、ありがとう、ございます」

側近「礼はいらない」

側近「死ぬなよ。小娘が悲しむのは見たくないからな」ボソ

僧侶「今、なんと?」

側近「なんでもない」

882: 1 2012/08/25(土) 23:10:44.43 ID:XUBY+bAAO
――中庭

ザワッ…

マスター「こいつはひどい……死体だらけだ」

魔大臣「魔法使い、と言ったか…敵には絶対まわしたくないな」

側近「……」

側近(だいぶキレているな)

側近(普段は冷静なのに。何があったのやら)

マスター「おっと……奥からまだまだ出てくるぜ」

側近「ゴーレムか。単体は弱いが――術師を殺らないと消えないぞ」

ミノタウロス「こっちで足止め食らわす。早いとこ探してくれ」

魔大臣「悪い」

ミノタウロス「お互い様だろ?」ニヤ

魔大臣「だな。給料あげてやる」ニヤ

ミノタウロス「そうこなくっちゃ」

887: 1 2012/08/25(土) 23:55:03.89 ID:XUBY+bAAO
――とある部屋

キィッ

魔法使い「ここじゃないか」

魔法使い「でも近いな。別のところをあたろう」

魔術師「いいや、ここがキサマの最後の部屋だ」ドン

魔法使い「…話なら早くしてくれ。急いでいるんだ」

魔術師「まあ焦るな」

魔術師2「ゆっくりと」

魔術師3「あの世へいけ」

魔法使い「誰?」

魔術師「我ら三つ子の魔術師」

魔法使い「ああ……“魔法使い”が偉くなるとそういう名前になるんだっけ」

魔術師「だが」

魔術師2「我らは」

魔術師3「貴様を同類だとは思わぬ」

888: 1 2012/08/26(日) 00:03:17.05 ID:2ahOSzHAO
魔法使い「ふん。混血だからか?」

魔術師「左様」

魔術師2「理に反したものは」

魔術師3「“魔法使い”ではない」

魔法使い「じゃあ私は“魔法使い”ではなければなんなんだ?」

魔術師「半端者」

魔術師2「人間にもなれない魔物にもなれない」

魔術師3「半端な化物」

魔法使い「……みんな語彙力ないのか?化物は聞きあきた」

魔術師「ではなんだ?」ブォン

魔術師2「大恋愛の末の結晶とでもいうか?」ブォン

魔術師3「聞こえはいいが、所詮は愚かな両親よ」ブォン

889: 1 2012/08/26(日) 00:12:21.01 ID:2ahOSzHAO
魔法使い「……」

魔術師「子のことを考えず」

魔術師2「間違いを犯し」

魔術師3「結果がそれだ。誠に愚かしい」

 部屋を埋めるように魔法陣が展開された。
 それを黙って魔法使いは見ている。
 隙は馬鹿みたいにあったのに。
 その中央から巨大な蛇が這い出て、魔法使いを丸飲みした。

 そして、弾けた。


890: 1 2012/08/26(日) 00:14:33.31 ID:2ahOSzHAO
魔術師「ふむ」

魔術師2「強いな」

魔術師3「ならもっと――!?」

魔術師「どうした?」

 魔術師3の喉にぐるりと赤い線か引かれた。
 それにそってぽろりと頭が取れた。一拍遅れて血が吹き出す。

魔術師「弟!?」

魔法使い「ごめん。まとめてやろうとしたんだけど――」

 先ほどと変わらぬ位置で、困ったように笑いながら魔法使いは言った。

魔法使い「両親を最初に侮辱したから。ついやってしまった」

魔術師「ぁ…ぁ…」

魔法使い「確かに力は強いけど、個人戦向きじゃない。力を一つにするまで時間かかりすぎ」

891: 1 2012/08/26(日) 00:20:59.57 ID:2ahOSzHAO
魔法使い「見た感じ、薬の調合とか研究で“魔術師”になったんじゃないか?」

 魔術師二人に向かい歩いていく。
 魔術師たちは兄弟を殺した相手に恐怖を感じ、とにかく攻撃をしかける。
 標準の合っていないそれを軽く魔法使いはいなしていく。

魔法使い「だとしたら悪い。こちらは最近ずっと戦いっぱなしで――」

 バサリと翼を広げてみせた。

魔法使い「正直、ぬるいよ」

 魔法使いが片手の指を曲げた。
 それだけで、ふたりの人間の頭と四肢が胴体から離れ落ちた。

892: 1 2012/08/26(日) 00:30:16.57 ID:2ahOSzHAO
魔法使い「駄目だよ。両親は悪くいっちゃあ」

魔法使い「これでも誇りに思ってるんだ」

魔法使い「嫌だろ?尊敬してる人を馬鹿にされたら」

魔法使い「それを戦場で言ったら――敵が怒るのも無理はないよ」

魔法使い「今更だけどね」

魔法使い「時間食った。魔王は何処だろう」

 彼女が気づかぬ内に――爪は、厚く固く、伸びていた。
 鳥の爪のように。
 魔物化が進んでいることに。

893: 1 2012/08/26(日) 00:34:00.08 ID:2ahOSzHAO
――魔王城、医務室

ゴブリン「はっ!?」

サキュバス「チッ」

ゴブリン「待て、今どうして掛布団に潜っていた。何をした貴様」

サキュバス「今からするトコだったのに~」

ゴブリン「おい」

サキュバス「気分はどう?」

ゴブリン「気分?そういや、いきなり意識が――」ハッ

ゴブリン「みんなは!?」

サキュバス「魔王さま奪還の戦いに出ちゃった☆」

ゴブリン「魔王さまが!?なんで……」

サキュバス「……さぁね。ほら、まだうごかなーい」

894: 1 2012/08/26(日) 00:37:07.69 ID:2ahOSzHAO
ゴブリン「こうやって寝てる場合じゃないんだ!行かないと!」

サキュバス「ま、そうだけどね」

人魚「ゴブリン!起きたの!?」ガラガラ

ゴブリン「なんか水槽ごと運ばれてきたよ…」

人魚「呪いが解けたの…?」

サキュバス「みたい☆メイド達も起きてきてるし」

ゴブリン「人魚は残ったのか」

人魚「ええ。陸じゃ戦えないから、代理で城内指示」

ゴブリン「そうか…」

895: 1 2012/08/26(日) 00:40:01.41 ID:2ahOSzHAO
サキュバス「あれあれ~、お礼言わなくていいの?」

ゴブリン「お礼?」

人魚「ちょっ」

サキュバス「人魚さんったら、ずっとあなたを見守ってたのよ~」

ゴブリン「えっ」

人魚「な、何言ってるのよ!」

ゴブリン「本当…みたいだな」

人魚「べ、別にあんたが昏睡してて不安で仕方なくて見ていたわけじゃないし」

人魚「ただ死なれたら困るなーって思っていただけよ!文句ある!?」

ゴブリン「ないです」

サキュバス「素直じゃないね☆」

896: 1 2012/08/26(日) 00:43:22.60 ID:2ahOSzHAO
ゴブリン「うん、体は大丈夫そうだ」

人魚「病み上がりで戦いに行く気?」

ゴブリン「呪い上がりだけどな。戦いに行く気だ」

人魚「体調は?」

ゴブリン「バッチリ。一切問題ない」

人魚「…城内を一緒に見てよ。パニックが起こると大変なの」

ゴブリン「人魚ならいけるだろ」

人魚「無責任すぎるわ」

ゴブリン「ほら、でもさ。自分だけ暢気に寝てるのも悪いし」

人魚「……分かったわよこの戦闘馬鹿」

人魚「そうね、元々戦いが生き甲斐だものね」

897: 1 2012/08/26(日) 00:46:44.26 ID:2ahOSzHAO
ゴブリン「そこまで戦闘狂ではないが……」

人魚「転移してあげる。用意してきて」

ゴブリン「どうも。ちょっと待っててくれ」タッ

人魚「ハァ……」

サキュバス「え~、気になっちゃった感じ?」

人魚「ばっ、そんなんじゃないわよ!」

サキュバス「へぇ~」ニヨニヨ

人魚「い、嫌な子ね」

サキュバス「ひとの恋愛は見てるだけで面白いからね~」ニヨニヨ

人魚「だからっ、恋でも愛でもないわよ!」キー

898: 1 2012/08/26(日) 00:53:16.97 ID:2ahOSzHAO
ゴブリン「用意してきた。飛ばしてくれ」タタッ

人魚「ええ。みんなによろしく」

ゴブリン「分かった」

人魚「じゃね」

ゴブリン「頑張れよ」

人魚「そっちこそ」

シュンッ

サキュバス「うひひっ☆」

人魚「…何?」

サキュバス「戦場に行くオトコに惚れちゃった?」

人魚「うずまき管壊すわよ」

サキュバス「ごめんね」

899: 1 2012/08/26(日) 00:58:53.45 ID:2ahOSzHAO
――人間の城、中庭付近

側近「待て!」バサバサ

術師「はーっはっはっ!待つ馬鹿がどこにいる!」

魔大臣「うるせぇ!大人しく捕まれ!」ダダダ

側近「口調が乱れているぞ」バサバサ

術師「はっはっは!」

魔大臣「ちぃ、ゴーレムにお姫様抱っこで運ばれてるくせに」

側近「しかしアレ防御強いな。すぐ再生するし」

魔大臣「早くしないとミノタウロス達の体力が――」

ゴブリン「ギャ――――!!!あいつどこに落としてんだ――!!」ドサッ

全員「!?」

900: 1 2012/08/26(日) 01:03:04.40 ID:2ahOSzHAO
ゴブリン「あいたた……うわ、なんで土に埋もれてるんだ」

側近「ご、ゴブリン……?目覚めたのか」

ゴブリン「お陰様で」

魔大臣「なんで空から……」

ゴブリン「人魚がちょっと間違えたみたいで…あれ、誰かの上に座ってるぞ」

術師「きゅう」

ゴブリン「うわっ、なんだ平気かこいつ」

魔大臣「……」

側近「……」

魔大臣「給料上げよう。人魚もな」

ゴブリン「え?」

側近「次に行こう」

魔大臣「そうしよう」

ゴブリン「え?え?」

901: 1 2012/08/26(日) 01:10:02.15 ID:2ahOSzHAO
――別のとある部屋の前

兵士「なんだ貴様――ぐぁ」バキ

兵士2「大臣さまに歯向か――べぁ」バキ

魔法使い「なんだ、ここは異様に見張りが多いな――ん?」

魔法使い(微弱に魔力がある――なんだろう)

魔法使い「あれ?」ガチャガチャ

魔法使い「開いてない」ガチャガチャ

魔法使い(普通の錠と魔力で鍵がかかっている)

魔法使い(魔王の気配じゃないし――)

魔法使い(見張りの多さといい、これといい、まさか国王がこの部屋にいるんじゃ)

902: 1 2012/08/26(日) 01:14:30.58 ID:2ahOSzHAO
魔法使い「……」

魔法使い(この姿じゃ、ちょっとな)

??『もし?誰かいますの?』トントン

魔法使い「! はい」

??『あなたは誰?』

魔法使い「…大臣の敵とだけ。あなたはどうしたのですか?」

??『大臣にこの部屋に監禁されていますの。助けて下さらない?』

魔法使い「……ひとつ、条件が」

??『はい』

魔法使い「絶対に目をお開けにならないようお願いします――王女さま」

王女『あら――知ってましたの?』

魔法使い「ええ。では、開けますよ」

王女『分かりました』

903: 1 2012/08/26(日) 01:19:24.16 ID:2ahOSzHAO
パキン

魔法使い「……」ギィィ

 そこに立っていたのは上等なドレスを着た金髪の少女。
 年は十代中ごろほどか。
 瞳は瞼に遮られ見えない。

魔法使い「お妃さまは?」

王女「分かりません。どうしているのでしょう」

魔法使い「心配ですね――ちょっと目隠しをさせてもらいます」シュルッ

 懐に包帯があったのでそれで緩く目を覆う。

王女「そんなに容姿が気になるの?」

魔法使い「はい。怖がらせてしまいますから」

王女「優しいのね」

904: 1 2012/08/26(日) 01:29:12.15 ID:2ahOSzHAO
魔法使い「いいえ。私は優しくなどありません」

王女「そうかしら。――何も見えないから、腕を掴んでいい?」

魔法使い「どうぞ、お気になさらず」

王女「細いわ。声は低いけど高い感じがするし……」ギュ

王女「不思議。あなたは男なの?女なの?」

魔法使い「お好きなほうで」

王女「意地悪ね。じゃあ、男の人。こういうのは王子さまが助けにくるものだから」

魔法使い「…そうですね」

魔法使い(戦士に呪われそうだ)

916: 1 2012/08/26(日) 21:22:52.18 ID:2ahOSzHAO
魔法使い「王女さま、大臣には会いましたか?」

王女「…ええ、会いました」

魔法使い「何か言われましたか?」

王女「あの男、『お前たちの時代は終りだ』って」

魔法使い「困った人です。しっかり叱っておきましょう」

王女「会いにいくつもり?」

魔法使い「はい、大臣が全ての元凶ですからね。灸をすえにいきます」

王女「嘘」

魔法使い「え?」

王女「そんな大人しい言い方しなくてもいいのに。殺しにいくのでしょう?」

917: 1 2012/08/26(日) 21:31:41.64 ID:2ahOSzHAO
魔法使い「……まあ、はい」

王女「別に、殺しちゃ駄目なんて子供じみたことは言わない」

王女「大臣は説得で投降するほど軟弱な人間ではないだろうし――意志も弱くないでしょう」

魔法使い(僧侶に聞かせたら泣きそうだな…)

王女「でも、気をつけて。もう――あの男は止まれない」

魔法使い「……」

王女「自分が死ぬなら周りももろとも、というやり方しかねないわよ」

魔法使い「ああ…なんかありそうですね」

王女「ところで」

魔法使い「はい」

王女「本当に大臣倒しにいくだけ?」

918: 1 2012/08/26(日) 21:41:37.69 ID:2ahOSzHAO
魔法使い「はい」

王女「嘘」

魔法使い「……読心が得意なんですね」

王女「いいえ。読心なんて技術持ち合わせていないわ」

王女「ただ、聞いているかぎり、何かの『ついで』みたいだから」

魔法使い「『ついで』……ですか」

王女「そう。わたくしがたまたまそこに居たから助けた感じでしょう?」クスクス

魔法使い「えっ、いや、そんな」

王女「いいのよ。ああ、お父様が目的じゃないのは分かるけど」クスクス

魔法使い「えっとですね……」

王女「大事なひとでも捕まっているのかしら?」

919: 1 2012/08/26(日) 22:57:26.72 ID:2ahOSzHAO
魔法使い「だ、大事なひと……なのかな」

王女「今ので全部分かっちゃった♪」

魔法使い「え、いや、そういう関係じゃないですし…」

王女「体温上がってるわよ?」

魔法使い「うぐ」

王女「……大臣も酷いことをするわね」

魔法使い「……」

王女「わたくしは何も出来ないけど…応援はするから」

魔法使い「…ありがとうございます」

王女「生きてね」

魔法使い「はい、必ず。この戦い、勝ちます」

王女「フフッ、頼もしいわ」

バタバタ

兵「あ!王女さま!」

兵2「ご無事ですか王女さま!」

920: 1 2012/08/26(日) 23:02:14.68 ID:2ahOSzHAO
王女「ええ」

兵「その…お疲れさまです」

魔法使い(血まみれでこの姿だもんな。怖がられても仕方ない)

魔法使い「いえ……彼女を頼みます。私は、まだやらないといけないことが」

兵2「しかし…」

王女「いいわ。足手まといでしょうし」

魔法使い「すみません。私がいなくなったら包帯をはずして下さい」

兵「あ、ああ」

魔法使い「では」タッ

兵2「お気をつけて!」

王女「」シュル

兵「あ、王女さま――」

王女「あら」

 わずかに見えた魔法使いの背を見て王女は口に手を当てる。

王女「天使に恋してしまったみたい」

921: 1 2012/08/26(日) 23:14:36.55 ID:2ahOSzHAO
――とある部屋

剣士「お邪魔します」キィ…

剣士「」

剣士「お邪魔しました」バタン

僧侶「どうしたんですか?」

剣士「何にもなかったよ。何にも」

僧侶「は、はぁ」

剣士(バラバラ死体があった…)

老兵「まだ階段登るのかい、僧侶さん」

僧侶「すいません…まだもう少し」

老兵2「どこに行くんだっけ?」

老兵3「ちゃんと聞いとけよボケジジイ」

老兵2「あぁん?」


922: 1 2012/08/26(日) 23:17:18.34 ID:2ahOSzHAO
剣士「争ってる場合じゃないだろじいさん達」

僧侶「上に、脱出不可と言われる凶悪犯罪者用の牢があるんです」

剣士「何故そんな物騒なものを城に…」

僧侶「国王さまを守るために選りすぐりの人がいつも待機していますから」

僧侶「仮に逃げられてもその人たちが早期に押さえつけることができるから、だそうです」

剣士「へぇ」

僧侶「それに窓から脱出は飛び降りと同意義ですから」

老兵「もちここから国王さまの部屋までは容易にいけない造りになってるそうだ」

老兵2「人質になったら大変だからな」


923: 1 2012/08/26(日) 23:28:06.45 ID:2ahOSzHAO
僧侶「わたしの予想ではそこにいるんじゃないかと…間違えたらごめんなさい」

剣士「そんな消極的になるなよ。オレらじゃそもそも検討もつかないし」

老兵「慰め下手だな」ヒソヒソ

老兵2「な」ヒソヒソ

老兵3「ありゃだめだ」ヒソヒソ

剣士「おい」

僧侶「ここから階段が狭くなります。足元に気をつけて」

老兵「じゃ、儂が前に出る。一応な」

老兵2「後ろから敵は?」

老兵3「いない。静かすぎて不気味だが…」

剣士(この辺りはほとんど魔法使いがやったみたいだからな)

924: 1 2012/08/26(日) 23:32:22.07 ID:2ahOSzHAO
老兵「ぐずぐずしてないで行こうや」

剣士「ごめん」

僧侶「……」

僧侶(今なら、これを……)

僧侶「」スッ

剣士「僧侶?オレの服になにかついてたか?」

僧侶「い、いえ!なんにも付いてませんでしたよ」

剣士「?」

僧侶「行きましょう行きましょう」グイグイ

剣士「お、おお」

925: 1 2012/08/26(日) 23:43:27.10 ID:2ahOSzHAO
――城近くの森

黒髪の男「やっぱ、アレですね父さん」

師匠「なんだ馬鹿息子」

黒髪の男「遠くから見てるだけじゃつまらないですね」

師匠「何を言っとるんだ。ここで見守ろうと言い出したのはおまえだろ」

黒髪の男「確かにそうですけど」

黒髪の男「――あのぐらいのピンチ、乗り越えなきゃ“魔王”じゃないですし」

師匠「あのぐらい、ねぇ…一回『勇者の剣』で刺されてみろ」

黒髪の男「ヤですよ」

師匠「というか刺されろ」

黒髪の男「なんでそんなに厳しいんですか!」

926: 1 2012/08/26(日) 23:52:07.44 ID:2ahOSzHAO
師匠「当たり前だろうが!幼い息子に仕事押し付けおって馬鹿!」

黒髪の男「だってあいつ、情報処理とか自分よりうまいんだもん…」

師匠「補佐としてしばらく手伝って貰っていれば良かったのに」

黒髪の男「……駄目だったんです」

師匠「何がだ」

黒髪の男「あいつが、我を忘れて辺りを血の海にした時。とても恐かったんです」

師匠「……」

黒髪の男「愛情より畏怖のほうが強くなってしまった。…父親失格です」

師匠「もう30年なのか…」

927: 1 2012/08/26(日) 23:58:09.70 ID:2ahOSzHAO
黒髪の男「結局逃げたんですよ。もう自分はあいつに顔向け出来ない」

師匠「出来るだろう」

黒髪の男「……出来ますかね。まだ、もうちょっと時間が欲しいです」

師匠「おまえが間接的とはいえ魔力をやったことを知っている」

師匠「完全に見放されてないって分かれば孫も一安心するだろう」

黒髪の男「見てたんですか」

師匠「見てた」

黒髪の男「あの混血の姉ちゃんは…父さんの弟子ですか」

師匠「そうだ」

黒髪の男「でも30年前、人間に育てさせたほうがいいと言ってませんでした?」

928: 1 2012/08/27(月) 00:08:16.81 ID:IbCiM00AO
師匠「その時はまだ普通の人間とばかり思っていた。暴走しなければ大丈夫だと」

黒髪の男「でもそうじゃなかった?」

師匠「ああ。魔法が使える、成長が遅い」

黒髪の男「魔物の血の効果ですね」

師匠「そう、だから引き取った。あのままじゃ火炙りだった」

黒髪の男「それに、忘れ形見ですからね。父さんの友人の」

師匠「まあな…見過ごせなかったのもある。しかし気になるの」

黒髪の男「この戦いの行方がですか?」

師匠「それもだが――魔法使いは、どのような生き方を選ぶのか」

929: 1 2012/08/27(月) 00:27:00.30 ID:IbCiM00AO
――城内、通路

魔法使い「は―――はぁ、はぁ」

 窓を見れば太陽が真上に浮いていた。
 もう昼間らしい。

魔法使い「疲れるはずだよ」

 壁に背を預け、ぺたりと座り込む。
 周りは死体が囲んでいた。

 ふと思い、そばに落ちていた剣を手にとった。
 刃の部分に魔法使いの顔が写り込む。

魔法使い「なんで……」

 羽毛が彼女の頬にまで広がっていた。
 背の翼も一段と大きくなっている。

 人間から遠のいていく。
 かといって完全に魔物にもなれない。

930: 1 2012/08/27(月) 00:36:32.77 ID:IbCiM00AO
魔法使い「……」

 頬から首元までなぞっていく。
 ふわふわとした柔らかい感触。

魔法使い「中途半端…か…」

 もし元から人間だったなら、と想像してみる。
 少なくとも、ここにはいないだろう。
 今までにあった人と会うことはきっとなかった。

 師匠とも。
 勇者たちとも。

 魔王とも。

魔法使い「私は……私だったから――」

 

935: 1 2012/08/27(月) 23:35:05.87 ID:IbCiM00AO
――どこかの天井

蝙蝠「ウーン」

 蝙蝠は天井からぶら下がり、目の下で起こる様々なことを見ていた。

 兵のぶつかりあいだとか。
 逃げる兵や、それを追う兵。
 あとは豪奢なドレスを着た女性が助けられてたり。

 小さな蝙蝠に気づくものはいなかったし、蝙蝠自身も気をつけていた。
 人目がないのを確認すると、蝙蝠は飛び出す。

蝙蝠「マオウサマ、ドコカナ」

 蝙蝠は何も知らない。
 魔王がここに来た意味も、兵達が争う意味も、なにもかも知らない。

936: 1 2012/08/27(月) 23:41:29.47 ID:IbCiM00AO
 そんなことはどうだって良かった。
 ただ、何処かに行ってしまった魔王を探しているだけだ。

 ひとりで旅立とうとする魔王の転移魔法に割り込んだのに深い理由はない。
 なんとなくその背中が寂しそうだったから。
 それだけの理由で共に転移した。
 魔王が蝙蝠に気づかなかったのは魔力が微弱なことと他のことを考えていたからかもしれない。

蝙蝠「サビシイト、ツライヨネェ」

 時折休みながらあちこちを飛んでいく。

蝙蝠「ボクモヒトリハ、サビシイモン」

937: 1 2012/08/27(月) 23:47:08.69 ID:IbCiM00AO
蝙蝠「モシカシタラ、ナイテタリシテ」

 金色の瞳から流れる涙は何色だろうかと考える。

蝙蝠「キンイロカナ。ギンイロダッタリシテ」

蝙蝠「ア、デモ」

蝙蝠「タカサンニ、ナカシタッテマチガエラレタラ、タイヘンダ」

蝙蝠「……ソウイエバ、タカサントカ、ココニイナイノカナァ」

 魔王の側には必ずいるのだから多分いるだろう。
 安直に考えて飛び続ける。

 そして、曲がり角から現れた人物にぶつかった。

蝙蝠「アイタ」

魔法使い「ごめ……え、蝙蝠?」

938: 1 2012/08/27(月) 23:52:28.61 ID:IbCiM00AO
蝙蝠「コンケツ!」

魔法使い「なんでこんなところに」

蝙蝠「エットネ――」

 説明中。
 説明後。

魔法使い「…じゃあ、蝙蝠も魔王を探しているのか」

蝙蝠「ウン!イッショニサガソ!」

魔法使い「一緒に探そったって…危ないぞ?」

蝙蝠「ナンデ?」

魔法使い「いつ誰に攻撃されるか分からないんだから」

蝙蝠「ダカラ、コンケツモボロボロナノ?」

 蝙蝠は魔法使いの平らな胸へ飛び込む。抱き止められた。

魔法使い「ああ。攻撃したりされたりで」

939: 1 2012/08/27(月) 23:55:35.59 ID:IbCiM00AO
蝙蝠「コンケツ、トリニナッテキテルネ!」

魔法使い「やっぱりそうか…」

蝙蝠「カッコイイヨ!」

魔法使い「はは、ありがとう」

蝙蝠「ボクネ、ソレナリニツヨインダヨ!」

魔法使い「そうなのか…?お前が強い、ねぇ」

蝙蝠「ナメチャコマルゼ。ダカライッショニイコ!」

魔法使い「……」

蝙蝠「イイデショ?」

魔法使い「…仕方ないなぁ。文句は受け付けないからな」

蝙蝠「ワァイ、アリガトウ!」

940: 1 2012/08/28(火) 00:01:58.17 ID:Kid2apjAO
 魔法使いの腕のなかに収まっていると眠気が襲ってくる。
 言葉すくなになると「マイペースすぎるだろ」と苦笑する声が上から降ってくる。

蝙蝠「……コンケツノツバサハ」

魔法使い「うん」

蝙蝠「オオキイネ。トバナイノ?」

魔法使い「飛べる…のかな」

蝙蝠「トベルヨ。ソンナオオキイツバサナラ、ドコダッテ」

魔法使い「飛んだことないから。どうなんだろうね?」

蝙蝠「コンケツナライケルヨ」

魔法使い「はは、ありがとう」

946: 1 2012/08/28(火) 22:16:30.81 ID:Kid2apjAO
――通路

「衛生兵!早く!」

「負傷者が出たぞ!」

側近「強いというより……しぶといな」ハァハァ

マスター「さっさと降伏すればいいものを」ハァハァ

側近「どうやら自らの意思で退却はできないらしいぞ?」

マスター「なに?」

側近「あの魔物みてみろ。両足なくしてショック状態だ」

マスター「…よく冷静でいえるんだな……」

側近「生きてきた時間が違う。ほら、身体が痙攣しているくせにまだこちらへ来るぞ?」

マスター「………っ、なぜ……」

947: 1 2012/08/28(火) 22:22:54.55 ID:Kid2apjAO
側近「やつらから魔術を感じる」

マスター「魔術?なんの?」

側近「自分は魔王さまではないから詳しくは分からないが…操りの魔術だ」

マスター「……なんだそれ」

側近「文字通り人を操るんだよ。催眠みたいなもんだ」

側近「『ひたすら前進せよ』とか言われたんじゃないか?」

マスター「そんな――操るなんて出来るものか」

側近「ちょっとの心の緩みさえあればコロリと従うさ」

側近「元からある忠誠心に上乗せした、というのも考えられる」

948: 1 2012/08/28(火) 22:27:44.50 ID:Kid2apjAO
マスター「……」

側近「これだけ大人数の術を解除するのは難しい」

マスター「そうか」

側近「解除している間に攻撃されたら一溜まりもないだろう?」

マスター「そうだな」

側近「だから…やつらには敵になったことを悔やんでもらうしかない」

マスター「……」

側近「躊躇いが出たか」

マスター「いいや。みんな戦っているんだ」

マスター「個人の感情で仲間を殺したくはない」

側近「流石だな。見直した」

マスター「はははっ、魔物に言われるなんてな」

949: 1 2012/08/28(火) 22:33:13.93 ID:Kid2apjAO
魔大臣「側近!」

側近「どうした!」

魔大臣「兵にも疲れが見えている。どうする」

側近「二陣と入れ換えだ。一陣はしばらく休ませる」

魔大臣「了解!」

側近「トロールたち、疲労は?」

トロール「ないけどそろそろ血止めがほしイ」

トロール2「矢の盾はいいけド、矢じりを抜いてくレ」

側近「衛生兵、トロール達にも処置を!」

魔大臣「…しっかし、いつ終わるんだろうなこれ」

側近「終わるさ。――大臣は敵に回しちゃいけないのを敵に回したからな」

950: 1 2012/08/28(火) 22:43:26.21 ID:Kid2apjAO
――どこかの階段

 後ろから追いかけられていた。

剣士「ちくしょう!よりによってここでか!」

老兵2「走れ!槍を持ってるぞ」

僧侶「容赦がないですね!」

剣士「僧侶、悪いがしばらく全力ダッシュだ!」

僧侶「はい!」

剣士「じいさん達も―――なにやってるんだ?」

 剣士が振り返ったとき、老兵二人は立ち止まり後ろ――下を見据えていた。

剣士「馬鹿、早く逃げないと。せっかく引き離したんだから…」

老兵2「アホウ、こっちで足止めするからさっさと行け」

僧侶「そんな!」

951: 1 2012/08/28(火) 22:48:13.52 ID:Kid2apjAO
老兵3「どうせ老い先短いんだ。なら戦って死んだ方が名誉だ」

僧侶「名誉って―――」

老兵2「行け。どちらにしろ足がもう使い物にならん」

老兵3「こういうときに体調悪くなるんだとはなぁ」ヒッヒッヒ

僧侶「駄目です!みんなで生き残って、それで」

剣士「行こう僧侶。じいさん達に失礼だ」

僧侶「でも!」

老兵「……すぐ行く」

老兵2「おう、そしたら酒を飲もうや」

老兵3「あっちに酒はあるんだろうかな」

剣士「…ありがとうな!でも生きれたら生きろよ!」グイ

僧侶「そんな、駄目ですって、どうか――」

952: 1 2012/08/28(火) 22:53:16.27 ID:Kid2apjAO
 剣士に引っ張られ、僧侶たちが上へと登っていくのを見届けた。

老兵2「優しいな」

老兵3「不安になるほどにな」

老兵2「……しかしどうする?」

老兵3「本当だな。敵が数人ならこんなことしないが」

老兵2「何て言ったって足音だけで二十三十だもんなぁ」

老兵3「こうなるとこの先に国王さまがいるのは確かみたいだな」

老兵2「だな」

老兵3「全員死ぬより…ここで二人、食い止めて死んだ方が良いな」

老兵2「全くだ」

953: 1 2012/08/28(火) 22:56:17.32 ID:Kid2apjAO
老兵3「やっと妻のところにいける」

老兵2「やっと娘に会える」

ワーワー

老兵3「お出ましだ。覚悟はいいか」

老兵2「もちろんだ」

老兵3「じゃ、若い世代に後は託して、何も考えずに戦うか」

老兵2「そうしよう。最後だ、楽しもうぜ」

 そして、激突した。

954: 1 2012/08/28(火) 23:02:16.12 ID:Kid2apjAO
……

魔法使い「――激闘だったんだな」ピチャピチャ

 階段に広がる血と、転がる肉片をできるだけ踏まないようにしながら階段を登っていく。

蝙蝠「スゴイチノニオイ」

魔法使い「ああ」

蝙蝠「アトカタヅケ、タイヘンソウダネ」

魔法使い「それは勝者になってからの悩みだな」

蝙蝠「コンケツ、マケルノ?」

魔法使い「まさか、負けないさ。負けないけど油断はしてはいけない」

蝙蝠「ユダンタイテキ!」

魔法使い「その通り」

蝙蝠「ヒノヨウジン!」

955: 1 2012/08/28(火) 23:06:26.41 ID:Kid2apjAO
魔法使い「マッチ一本?」

蝙蝠「アバンチュールノモト!」

魔法使い「ごめん、何言ってるかよく分からない」

蝙蝠「コンケツ、コイハネ、チョットノキッカケデモエアガルンダヨ」

魔法使い「へ、へぇ……」

蝙蝠「コイヲシタラ、テニオエナインダッテ!」

魔法使い「誰から聞いたんだそんなこと…」

蝙蝠「マオウジョウデ、タクサンキイタ!」

魔法使い「変なこと吹き込むなよ魔王城の面々…」

蝙蝠「スキナヒトノタメニハ、ナンデモヤルンダヨ!」

956: 1 2012/08/28(火) 23:10:36.85 ID:Kid2apjAO
魔法使い「駄目だ暴走してるわこの子」

蝙蝠「コンケツモ、モエガッテルデショ?」

魔法使い「なんで私が人体発火現象を巻き起こしているんだ?」

蝙蝠「チガウヨ、ハナシノナガレニノロウヨ」

魔法使い「はぁ…。恋に燃え上がってるか?私」

蝙蝠「バッチリダヨ!」

魔法使い「うーん……誰に?」

蝙蝠「……」

魔法使い「えっ、なんでそこで黙るんだ」

蝙蝠「タカサン、クロウシテルンダネ」

魔法使い「そんなしみじみと言われても」

957: 1 2012/08/28(火) 23:13:50.70 ID:Kid2apjAO
蝙蝠「コノボクネンジン!」

魔法使い「う、うん」

蝙蝠「コタエハジブンデミツケナサイ!」

魔法使い「意地悪だな」

蝙蝠「コウイウノハネ、ジブンデキヅクノガ、イチバンナンダヨ」

魔法使い「ちなみに、蝙蝠は?」

蝙蝠「ボクニモプライバシーハアルンダヨ!」

魔法使い「はいはい」

蝙蝠「アレレ、ネエネエコンケツ、シタミテ」

魔法使い「下?――ああ」

蝙蝠「オジイサンタチ、マンゾクソウニネテルヨ」

魔法使い「いや……死んでるんだよ」

958: 1 2012/08/28(火) 23:18:53.05 ID:Kid2apjAO
 身体のあちこちが裂け、刺された姿で老人二人は座って壁にもたれていた。
 微かな笑みを浮かべ、二度と上がることのない目蓋を閉じていた。

魔法使い「あなたたちが…この上を守ったのですか」

 数秒の黙祷。
 それから頭を深くさげて階段を登る。

蝙蝠「コンケツ」

魔法使い「どうした?」

蝙蝠「ダレカシヌト、カナシイ?」

魔法使い「悲しいよ。取り残されてしまうことが、悲しい」

蝙蝠「ソッカァ」

魔法使い「あなたは?」

蝙蝠「マダダレモイナクナッテナイカラ、ワカンナイ」

959: 1 2012/08/28(火) 23:22:36.76 ID:Kid2apjAO
魔法使い「そうなんだ」

蝙蝠「デモ、ソッカ、サミシイノカ」

魔法使い「うん」

蝙蝠「コンケツ、シナナイデネ。ボク、サミシイノキライ」

魔法使い「…ああ。そっちも死ぬんじゃないぞ?」

蝙蝠「モチロン!」

魔法使い「私の名前は魔法使いだ」

蝙蝠「ウン?」

魔法使い「混血は名前じゃないんだ。魔法使いが名前」

蝙蝠「マホウツカイ」

魔法使い「そう」

蝙蝠「マホウツカイッテヨンダホウガイイ?」

魔法使い「そのほうが、仲良しって感じでいいじゃないか」

960: 1 2012/08/28(火) 23:27:27.72 ID:Kid2apjAO
蝙蝠「ナカヨシ!」

魔法使い「そう、仲良し。私は、仲良しの子には寂しくさせないよ」

蝙蝠「ジャ、マホウツカイトマオウサマ、ナカヨシ?」

魔法使い「え……どうだろ」

蝙蝠「ア、デモ、マオウサマナキソウナカオ、シテタトキアルヨ!」

魔法使い「あいつが?」

蝙蝠「マホウツカイノネ、アノシンジュノヤツヲワタシタトキ」

魔法使い「ああ、あの“人魚”ときの」

蝙蝠「ナンカ、モッテイタノガイガイダッタミタイ」

魔法使い「そうなんだ…」

961: 1 2012/08/28(火) 23:38:52.49 ID:Kid2apjAO
蝙蝠「ナンデモッテタノ?」

魔法使い「なんとなく、かなぁ。なんでだろ」

蝙蝠「アトネアノトキ、マオウサマ、マホウツカイイナクテ」

蝙蝠「チョットサミシカッタンダヨ。ボクガオモウニ」

魔法使い「そんなことはないんじゃないか?いじる相手がいなかったからとか」ハハハ

蝙蝠「………」

魔法使い「……あ」

蝙蝠「ドウカシタ?」

魔法使い「あの真珠の、魔王が持ちっぱなしみたいだ」

蝙蝠「カエシテモラワナイトネ」

魔法使い「ふふ、そうだな。早く返してもらわないと」

962: 1 2012/08/28(火) 23:52:52.06 ID:Kid2apjAO
蝙蝠「モウチョットデカイダンオワルネ」

魔法使い「長かったな」

蝙蝠「ツカレタ?」

魔法使い「ううん。今この状態なら、全然」

蝙蝠「ボクハマホウツカイにシガミツイテルシネ」

魔法使い「そうだな」

蝙蝠「ダケドサ、イマツカレスギタラ、カエリタイヘンダヨネ」

魔法使い「少し休んで帰るよ。どんな戦闘になるかは分からないけど」

蝙蝠「ソダネ」

魔法使い「ああ」

蝙蝠「マホウツカイ」

魔法使い「うん?」


963: 1 2012/08/28(火) 23:56:54.85 ID:Kid2apjAO
蝙蝠「マホウツカイハ、マオウジョウスムノ?」

魔法使い「いやぁ…難しいだろうな…」

蝙蝠「ムズカシイカナ?」

魔法使い「私のことを嫌がる人がいるかもしれないし…」

蝙蝠「マオウサマサエイレバ、ラクショーダヨ!」

魔法使い「はは、そうかもな」

蝙蝠「コンド、マホウオシエテネ!マホウツカイミタイニツヨクナル!」

魔法使い「あれれ、強いんじゃなかったのか?」

蝙蝠「マホウハマダマダナノ!アトハツヨイノ!」

魔法使い「はいはい分かった分かった――さぁ、どの部屋に行けばいいのかな」

973: 1 2012/08/29(水) 21:15:39.47 ID:TQPwLVvAO
――牢の近く

剣士「はぁっ!」バキッ

老兵「とうっ!」バコ

剣士「ここの見張りはこいつらだけか」

老兵「だな」

僧侶(神に仕えるものとしてこれは辛いですね…)

僧侶(口出しなんかして皆さんで死ぬのは目に見えてますからいいませんが)

剣士「鍵はっと……一個あった」ゴソゴソ

老兵「こっちは一個だけだ」

剣士「あ、こいつも一個」

僧侶「この人も一個ですね…」

剣士「……あと七人、地道に調べろと……?」

老兵「時間食うなこれ…」

974: 1 2012/08/29(水) 21:19:58.70 ID:TQPwLVvAO
剣士「」ゴソゴソ

老兵「」ゴソゴソ

僧侶「失礼します…」ゴソゴソ

剣士「これいちいち差し込まないといけないのか」ゴソゴソ

老兵「面倒くさいが、良く考えたものだな」ゴソゴソ

僧侶「すみませんすみません」ゴソゴソ

剣士「よしっ、これで最後だな」

老兵「じゃあ奥へ進もう」

剣士(……なんか“勇者”になった気分だな…)

剣士(あいつがいたらどんなことをしただろうか)

僧侶「剣士さん?」

剣士「あっ、い、いやなんでもないぞ」

僧侶「?」

975: 1 2012/08/29(水) 21:24:57.19 ID:TQPwLVvAO
コツコツ

剣士「灯りがろうそくだけっていうのも不気味だな」

僧侶「なにか出てきそうです…」

老兵「……」キョロキョロ

剣士「トラップの類いはなさそうだな」キョロ

老兵「逆に気味が悪い」

剣士「ああ…まるで来ることを望まれているようだな」

老兵「何故だ?」

剣士「オレも知りたい」

僧侶「わたしも、どうしてこんなことをしているか不明です…」

剣士「一番奥に部屋が――」

老兵「用心しろ」

剣士「忠告ありがとう」ゴクリ

976: 1 2012/08/29(水) 21:29:11.24 ID:TQPwLVvAO
僧侶「……」

剣士「僧侶は、どうやって大臣と知り合ったんだ?」

僧侶「い、今それいいますか?」

剣士「緊張しすぎで気をそらしたいんだよ現実から」

僧侶「それもそれでどうなんでしょうね…」

僧侶「わたしは元々孤児でした。それで、戦争が終わる前に大臣さんにあったんです」

僧侶「『願いはあるか』と聞かれて――わたしは、『みんなの怪我を治したい』といいました」

僧侶「その時、小瓶にいれられた液体を飲むようにいわれて――」

剣士「飲んだのか」

978: 1 ミス 2012/08/29(水) 21:34:51.50 ID:TQPwLVvAO
僧侶「いいえ。その時は飲みませんでした」

剣士「え?」

僧侶「というより、引っ込められたんです」

老兵「引っ込められた?」

僧侶「それからわたしに、『“僧侶”になりたいか』と言いまして。頷きました」

剣士「そしたら?」

僧侶「引き取られました。それで、いくつか治癒魔法を習ったり」

老兵「大臣から?」

僧侶「いえ、専門の人からです。確か三つ子でした」

剣士「三つ子ってすごいな」

僧侶「ええ。ちょっとうざったい人たちでした」

979: 1 2012/08/29(水) 21:38:48.31 ID:TQPwLVvAO
老兵「それで“僧侶”として?」

僧侶「まだです。…女ですから魔力はありませんし、かすり傷を治すのでやっとでした」

剣士「……」

僧侶「それで、大臣さまからとある液体をもらったんです。なんでも、魔力を出すものとか」

老兵「へぇ」

僧侶「それを飲んだら今みたいな治癒魔法を使えるようになったんです」

剣士「……僧侶にとって」

僧侶「はい」

剣士「大臣は、どんな存在だ?」

僧侶「――お父さん、みたいな存在でしょうか」

剣士「……そうか」

980: 1 2012/08/29(水) 21:41:16.13 ID:TQPwLVvAO
剣士「先に謝っとく。ごめん」

僧侶「え?」

老兵「……」

剣士(大臣を切ったら僧侶に嫌われるだろう)

剣士(でも――“剣士”は情に流されてはいけないんだ)

剣士「」ピタ

僧侶「ここですね…ここしかありませんが」

老兵「鍵は?」

剣士「開いているみたいだ。――離れててくれ」

――キィ

981: 1 2012/08/29(水) 21:47:05.52 ID:TQPwLVvAO
見張り「来たか。やれ!」

見張りB~G「オオ!!」バッ

剣士「っちくしょ!」シャキン

老兵「懲りずに続々と!」シャキン

 ふと僧侶は左側の壁が気になった。
 何故だろう。とても嫌な予感がする。
 交戦する剣士たちの背中を眺め、決心したようにふたりの襟首を背伸びしてつかむ。
 そのまま後ろに倒れ込んだ。

老兵「な―――」

剣士「そうり―――」

 文句が最後まで出るのも待たずに、鼓膜を震わす破壊音が牢に響いた。

 さっきまで剣士と老兵がいた場所が瓦礫で埋もれていた。

982: 1 2012/08/29(水) 21:55:33.57 ID:TQPwLVvAO
剣士「」

老兵「」

僧侶「だ、誰が……!?」

 僅かにかぶった砂や小石を払いながら立ち上がる。
 ここだけは丈夫なランプだったようで、辺りが無事に明るくまず安心する。
 奥の鉄格子の向こうにはポカンとする国王と動かない青年がいたが今は後回しにする。
 この惨事を起こした主が敵かもしれないのだ。

 ぽっかりと空いた穴の向こう、異形のシルエットが浮かび上がった。

 人の形と、そこから生える翼。

「ムチャクチャダヨ!トイウカ、キシカンアルヨ!」

「気のせいじゃないか?」

 そして、異形のものは僧侶を見て軽く手をあげる。
 どこか鳥の手に見えるのは気のせいだろか。


魔法使い「やあ、僧侶。ごめん、平気だった?」

 いっそ、その姿は恐ろしさを通り越して美しかった。

988: 1 埋めネタ 2012/08/29(水) 22:15:59.46 ID:TQPwLVvAO
【蝙蝠一族ノオキテ!】

蝙蝠父「イイカ、我ガ子ヨ」

蝙蝠「ウン、ナァニオトウサン」

蝙蝠父「明日カラ、オ前ハ、シバラクヒトリデクラス」

蝙蝠「ソウダネ!ソウイウキマリダカラネ!」

蝙蝠父「泣クンジャナイゾ?」

蝙蝠「ナカナイヨ!」

蝙蝠父「危ナイコトスルンジャナイゾ」

蝙蝠「シナイヨ!ダブン」

989: 1 埋めネタ 2012/08/29(水) 22:16:25.88 ID:TQPwLVvAO
蝙蝠父「体調ハ万全ダロウナ?」

蝙蝠「モチロン!」

蝙蝠父「モシ本当ニ困ッタ事ガアッタラ、パパヲ呼ンデイインダゾ」

蝙蝠「大丈夫ダヨ」

蝙蝠父「一時間二、五回グライ様子ヲ見二行クカラナ」

蝙蝠「ソレハウザイヨ、オトウサン」

蝙蝠父「ダッテダッテ、オマエガイナクナッタラパパハ死ンデシマウヨ」

蝙蝠「タイヘンダネ」

990: 1 埋めネタ 2012/08/29(水) 22:17:07.76 ID:TQPwLVvAO
蝙蝠父「本当ハオマエヲ旅タタセタクナインダァァァァ」オイオイ

蝙蝠母「今ノウチ二、イッチャイナサイ」

蝙蝠「ウン。オカアサン、ゲンキデネ」

蝙蝠母「アナタモネ。元気二帰ッテ来テチョウダイ」

蝙蝠「イッテキマス」

蝙蝠父「ウワァァァァァンイカナイデ――プギャッ」

蝙蝠母「サァ今ヨ!オ父サンハ押サエテルカラ!」

蝙蝠「ナカヨクネー」パタパタ

 その数ヶ月後、魔法使いと会うことになる。

992: 1 埋めネタ 2012/08/29(水) 22:23:21.01 ID:TQPwLVvAO
【魔王の一日スケジュール】

魔大臣「……」

側近「どうしたんだ?」

魔大臣「いや…魔王さまの一日を記してみているだが…」

起床

緊急書類チェック

朝食(抜きの場合も)

会議

書類チェック、作成

会議

昼食、散歩(30分)

会議


側近「あれ、おかしいな。前が滲んで見えない」

魔大臣「もはやこれ以上書けない」

993: 1 埋めネタ 2012/08/29(水) 22:23:47.70 ID:TQPwLVvAO
【先代魔王の一日のスケジュール】

魔大臣「こんなの出てきた」

側近「先代さまの?」

魔大臣「勤めたての時に書いたようだ」

側近「どれどれ――」

起床

脱走

説教

夕食

側近「………」

魔大臣「………」

魔王「そろそろ会議が始ま――なんだこの微妙な空気」

4: 1 2012/08/29(水) 22:31:10.28 ID:TQPwLVvAO
僧侶「魔法使い…さん


魔法使い「うん」

僧侶「どうしたんですか…先ほどより、外見が…」

魔法使い「なんだかこんな姿になってた」

 瓦礫を踏み越え、鉄格子に近寄る。
 国王は顔面蒼白でパクパクと口だけ動かすのみ。

魔法使い「魔王」

魔王「……」

魔法使い「どうした?」

国王「ま、魔王は……」

 震えながら国王は声を絞り出した。

国王「その水晶玉に、生命力を吸いとられておる」


5: 1 2012/08/29(水) 22:34:19.01 ID:TQPwLVvAO
魔法使い「…あれですか?」

 光る透明な球を尖った爪先で指差す。

国王「そ、そうじゃ」

魔法使い「生命力をとられたら、死ぬのですか?」

国王「ああ。助けるなら早く助けないと、危険な状態じゃぞ」

剣士「ま、魔法使い!鍵ならこれらのうち一つにあるぞ!」

魔法使い「ありがとう。でもいらない」

 言った瞬間、ぐにゃりと鉄格子を曲げた。
 その場の全員が黙った。

 そのまま牢の中へ入り、魔王の前に片膝をつく。

6: 1 2012/08/29(水) 22:40:33.52 ID:TQPwLVvAO
魔法使い「…生きてる」

 彼の口元に手をあて呼吸を確認すると安心したように息を吐く。

魔法使い「『勇者の剣』に串刺されたりして災難だな、あなたは」

 そして足元の水晶に視線を落とした。
 そっと指先で触れると軽く電気が流れた。防御魔法は弱いみたいだ。

魔法使い「蝙蝠」

蝙蝠「ドシタノ?」

魔法使い「ちょっと離れていてくれ。危険だから」

蝙蝠「ウン」パタパタ

剣士「……魔法で砕くのか?」

魔法使い「ううん。魔法を跳ね返す術があるみたいだ」

剣士「じゃあどうやって」

魔法使い「こうやって」

7: 1 2012/08/29(水) 22:44:44.31 ID:TQPwLVvAO
魔法使い「ふっ!」

 渾身の力をこめて水晶玉を殴った。ヒビが入った。殴った。砕いた。
 破片が手に突き刺さるのも構わずに、何回も何回も拳を降り下ろす。
 粉々になって、ようやく手を止めた。

 光は既に消え失せていた。

魔法使い「魔王」

魔王「……」

魔法使い「魔王!」

 のろのろと魔王が顔をあげる。
 金色の瞳に混血の少女が写る。

魔王「……魔法使い、か?」

魔法使い「…良かった…間に合ったか」

 脱力したように魔法使いはへたりこんだ。

18: 1 2012/08/30(木) 20:35:00.04 ID:XKrELNSAO
魔王「ずいぶんと激戦を潜り抜けてきたみたいじゃないか」

魔法使い「踏み越えてきた、と言った方が正しいかもな」

 一度振り返って剣士たちが国王の元に走り寄るのを見たあとにまた魔王へと視線を合わせる。

魔法使い「顔、腫れてるぞ」

魔王「やっぱりか。そっちもしばらく見ないうちに変わったな」

魔法使い「ああ、正直自分でも驚いている」

 魔法使いは立ち上がり、魔王の脇腹に突き刺さる剣の柄に手をかけた。

魔法使い「抜くけど覚悟は出来てる?」

魔王「一思いにやってくれ」

19: 1 2012/08/30(木) 20:39:43.88 ID:XKrELNSAO
魔法使い「――やるぞ」

 腕に意識を集中させ、なるべくまっすぐに抜けるように調整する。
 そして思い切って引っ張った。

魔王「っ」

魔法使い「わぁっ」

 勢いで後ろに倒れた。

僧侶「魔法使いさん!?」

魔法使い「あいたた…尻餅ついただけだから…」

 不思議と剣が手に馴染むが、今はそんなことよりも魔王の傷だ。
 鎖で押さえつけられてるために傷口に手を添えることもできない。

魔法使い「なんで…あなたは傷がすぐ治るんじゃないのか」

20: 1 2012/08/30(木) 20:44:45.83 ID:XKrELNSAO
魔王「それがあの剣だよ。おれの力なんて通用しない」

 パァンッと鎖が弾けた。ついでに国王のも。

魔王「あー……まだ魔力戻りきってねぇな…」

魔法使い「…今ので十分魔力がある方だと思うが…」

僧侶「あ、あの、大丈夫ですか?」

 恐る恐るといった風に僧侶が近寄る。

僧侶「わたしの魔法が効くか分からないですが…その、見てられませんし」

 今もなお流れ続ける傷を指差す。
 魔法使いはどうしたものかと両者を見比べた。

魔王「…やってくれるならやってくれないか。割りと死にそうだから」

21: 1 2012/08/30(木) 20:51:49.50 ID:XKrELNSAO
魔法使い「えっ、死にそうなのか!?」

僧侶「ちょっとじっとしていて下さい」パァ…

魔王「……」

 血がとまり、神経が繋がり、筋肉が修復し、皮膚がそれらを隠した。
 数分も経たず、完全にそれは治る。

魔法使い「…すごい、こんなに」

魔王「治癒されるのは初めてだな。ありがとう」

僧侶「ひぅ!?ど、どういたしまして」

蝙蝠「テンパッテルネ!」

国王「魔王も礼を言うのか…」

魔王「失礼だな。傷つくぞ」

 彼は壁に身体を預けつつ立ち上がった。
 足取りは不安定だ。

22: 1 2012/08/30(木) 20:58:56.71 ID:XKrELNSAO
魔法使い「魔王、まだ無理をしないほうがいいと思う」

魔王「あいつが何かしでかす前に止めないといけない」

魔法使い「でも、まだ体力も魔力も回復してないんだろ?」

魔王「待ってくれるほど世界は優しく……っ」

 よろめいて魔法使いに倒れ込む。彼女はなんとか彼を支えた。
 僧侶は口出ししないほうがいいなぁと下がっていた。

魔法使い「そんなんじゃ倒す前に倒され……あ、そうだ」

魔王「なんだ?」

魔法使い「お使い頼まれていたんだよ。忘れかけていた」

魔王「お使い?また手紙か?」

魔法使い「そうじゃない。ちょっと屈め」

魔王「分かった」

23: 1 2012/08/30(木) 21:03:29.45 ID:XKrELNSAO
 魔法使いは彼の肩を掴み、少しばかり背伸びをする
 そうして顔と顔の距離を近づけて。


 唇を合わせた。



30: 1 2012/08/30(木) 22:55:06.45 ID:XKrELNSAO
老兵「」

国王「」

僧侶「!?」

剣士「ぶっ」ブシャアッ

 大人二人は口をあんぐりと開け、僧侶は顔を赤くし、盛大に剣士の鼻から血が流れた。

 構わずに魔法使いは魔王の口内に舌を入れてそこから魔力を送る。
 魔王はと言えば突然のことに目を見開いたまま固まっていた。

魔法使い「んっ……」

 口を離し、こぼれた唾液を手の甲で拭う。

魔法使い「一気に入れたが大丈夫か?」

魔王「…ちょっと待て」

魔法使い「どうした」

魔王「何故口移しなんだ」

31: 1 2012/08/30(木) 23:02:41.96 ID:XKrELNSAO
魔法使い「なんでって…傷をいちいち作るのも面倒だったし」

 真面目な顔だった。

魔法使い「厳密には唾液は体液じゃないけど口腔からならいけるかなって」

魔王「ああ、うん、いけた。おかげで復活した」

魔法使い「良かった、駄目だったらどうしようかと」

魔王「なんか挫けそうだ」

蝙蝠「マオウサマ…」

剣士「僧侶、大怪我だ。オレの心が大怪我した」

僧侶「今から鼻血止めますね」

老兵「お、男同士か…」

国王「ま、まあ人それぞれだがいきなりすぎてもう」

剣士「いや、あいつ女なんだって」

僧侶「ええ!?」

32: 1 2012/08/30(木) 23:09:13.97 ID:XKrELNSAO
剣士「僧侶、手元が狂ったのか知らないが鼻血がスピードアップした」ダクダク

老兵「間抜けな光景だ……」

僧侶「し、知りませんでした!魔法使いさん女の人だったんですか!」

魔法使い「う、うん。バレると火炙りだから隠してきたけど」

老兵「“魔女”か…最近は見ないがあったな、そんなものが」

国王「…そうじゃったな」

剣士「ごめん、しんみりしたところ悪いけど誰か鼻血なんとかして」ダクダク

蝙蝠「マオウサマ、ダイジョブ?」

魔王「変なところで世間知らずでびっくりした」

33: 1 2012/08/30(木) 23:16:54.69 ID:XKrELNSAO
魔法使い「なんか不味いことしたか?私も初めてだったから勝手が」

魔王「した。今の行為はなんという」

魔法使い「接吻というものらしいが」

魔王「そうだな。その接吻は一体誰とやればいいかは分かるか?」

魔法使い「? 親しい同士じゃないのか」

魔王「……」

国王(すごく頭が痛そうじゃな…)

老兵(戦闘は半端ないのにこういうのは駄目か)

僧侶(どこか母親らしい優しさがあると思ったらそうだったんですね)

剣士「」ボタボタ

34: 1 2012/08/30(木) 23:24:42.58 ID:XKrELNSAO
蝙蝠「マホウツカイ…ジョウダンハヨシンコチャン」

魔法使い「冗談って」

魔王「魔法使い」

魔法使い「うん」

魔王「良く聞け」

魔法使い「う、うん」

魔王「唇同士の接吻――キスは、互いを好きあっている者同士がするものだ」

魔法使い「は?」

魔王「深いキスは非常に愛し合ってる者たちがする」

魔王(と、サキュバスとか他が言っていた)

魔法使い「つまり……」

魔法使い「」カァァ

魔王「やっとわかったか…」

蝙蝠「マホウツカイ、カオガマッカッカ」

35: 1 2012/08/30(木) 23:30:36.30 ID:XKrELNSAO
僧侶「それはそうですよねぇ…」

剣士「純粋って恐ろしいな」

国王「昔の妻もあんな感じじゃったな。可愛いんじゃぞ、照れたときの」

老兵「ここでノロケないで下さい」

魔法使い「……」

 耳まで赤くなりながら俯いた。
 同時に頬の羽毛がはらはらと取れていく。魔力を渡したからなのか。

魔法使い「その…ごめん」

魔王「何故謝る?」

魔法使い「だって、仕方ないとはいえ嫌だったろ。私となんか」

魔王「バーカ」

 魔法使いの顎を持ち上げると自動的に顔があがる。
 数秒見つめあったのちに今度は魔王から軽くキスをした。

36: 1 2012/08/30(木) 23:38:17.02 ID:XKrELNSAO
剣士「ぞうりょ…」ダバダバ

僧侶「剣士さーん!!」パァァ

老兵「」

国王「」

蝙蝠「ダイタンダネ!」

魔法使い「……、何してる!?」

魔王「別に。お前の疑問に答えただけだ」

魔法使い「はい!?」

魔王「おっと、気を引き締めろ。ラスボスが登場だぜ」

魔法使い「ああもうタイミング悪いなおい!」

 更に上へ繋がる階段に人が立っていた。
 全員に緊張が走る。


39: 1 2012/08/30(木) 23:42:44.00 ID:XKrELNSAO
魔王「よう。どうやらおれを倒すにはお前の実力で勝負しないといけないみたいだぜ」

大臣「楽をしたかったが…うまくはいかないか」

 そして魔法使いの姿に顔をしかめる。

大臣「忌々しい…。魔法使い、またお前が邪魔をするのか」

魔法使い「…何故私をそこまで憎む」

 質問には答えずに、大臣は床にワイン瓶を二つ投げ捨てた。
 甲高い音が響く。

僧侶「大臣さま、まさかその分の薬をお飲みに…!?」

大臣「そうだ」

魔王「ふん。そこまでして頂点に上りたいかよ」

大臣「そうだ。…話をする時間すらおしい」

40: 1 2012/08/30(木) 23:46:53.31 ID:XKrELNSAO

大臣「負けた姿が楽しみで仕方ないよ」

魔王「それはこっちの台詞だ。早く見たいもんだな」


 ――時刻は夕方。
 城にいた者たち全員が、城が大きく揺れるのを感じた。

48: 1 2012/08/31(金) 20:47:20.45 ID:XcSJkxKAO
――階下、通路

側近「」ハッ

魔大臣「何だったんださっきの揺れ…側近?どうした?」

側近「魔王さまが本気を出されたようだ」

魔大臣「本当か!?」

トロール「魔王さま、復活なされたカ」

側近「ついでに二人に進展があった気がする!」

魔大臣「…はい?」

側近「なんだろう、苦労が報われた気分だ…」グス

ミノタウロス「精神攻撃でも食らったんじゃないか!?」

ゴブリン「衛生兵ー!!」

49: 1 2012/08/31(金) 20:52:16.08 ID:XcSJkxKAO
――牢、だったところ

 天井の一部から茜に染まった空が見えた。

僧侶(すぐ上は外だったんですね)

僧侶(ああ……公開処刑所でしたっけ)

 何が起きたか、良く覚えていない。
 魔王と大臣が動くのが同時で、魔法使いが自分たちの前に立って、爆発が――

僧侶「みなさん!?」ガバッ

剣士「いちち…みんな生きてるか?」

老兵「なんとか」

国王「死ぬかと思った死ぬかと思った死ぬかと思った」ブツブツ

 辺りは先ほどよりも更に酷い有り様だった。

50: 1 2012/08/31(金) 20:58:26.56 ID:XcSJkxKAO
 大きい瓦礫や細かな瓦礫、それらが床を覆いつくしている。
 壁はひび割れ、無事なところを見つけるのが困難だ。

魔法使い「怪我はないか?」

僧侶「魔法使いさん!魔法使いさんが守ってくれたんですね」

魔法使い「僧侶、いや全員」

僧侶「はい」

魔法使い「逃げろ。退避を伝えながら城から出ろ」

僧侶「え?」

魔法使い「巻き込まれて死ぬぞ。脅しじゃなく」

剣士「今ので決着はついたんじゃ…」

魔法使い「そう簡単につくと思うか。見ろよ」

 指差した向こう、暗がりの中に立ち尽くすシルエットが二つ。

51: 1 2012/08/31(金) 21:03:44.37 ID:XcSJkxKAO
魔法使い「大臣が耐えた」

剣士「嘘だろ……」

魔法使い「本当だ」

僧侶「だ、大臣さんっ!!」バッ

魔法使い「あ、僧侶!」

 静止を聞かず、僧侶が飛び出した。

僧侶「止めてください!これ以上はもう駄目です!」

大臣「……」

僧侶「もうこんなことやめましょう!…いっしょに、静かに生きていきましょうよ…」

 無駄な事とは分かっていた。
 都合の良いことだと自覚していた。
 しかし、大切な人がこれ以上壊れるのはみていられなかった。

52: 1 2012/08/31(金) 21:11:29.55 ID:XcSJkxKAO
大臣「……」

魔王「なんとか言ったらどうだよ」

大臣「……僧侶」

僧侶「大臣さん…」

大臣「もう…立ち止まれないんだ。そして誰にも止めらない」

僧侶「そんな…」

大臣「僧侶、お前は大切な“娘”だった。それでも――これは邪魔させぬ」

 大臣の目が不気味に光り、とっさに魔法使いは僧侶を地に伏せさせた。
 直後に大臣の本当の狙いに気づく。

魔法使い(違う、狙いは僧侶じゃない!)

 視線の先には、

魔法使い「国王!!」

53: 1 2012/08/31(金) 21:16:00.91 ID:XcSJkxKAO
国王「わし!?」

大臣「弱いところから攻撃をするのは基本だよな!」

 どす黒い矢が空中から現れ、国王へと真っ直ぐ突き進んで行く。
 とっさに剣士が身体を被せるようにして国王を庇う。
 しかし、このままでは剣士に刺さってしまう。

魔法使い「くっ――!」

 魔法使いの魔法は遅すぎた。


54: 1 2012/08/31(金) 21:22:28.71 ID:XcSJkxKAO
――階下、通路

魔大臣「上でかなりすごい魔力がぶつかり合ってるぞ?」

側近「多分、首突っ込んだら死ぬ」

魔大臣「だな」

ゴブリン「退却?それとも部屋をひとつひとつ捜索していく?」

魔大臣「だな…まだ隠れている輩がいるかもしれんし」

ミノタウロス「しかしまぁ、ぼっろぼろだぁな。この城も」

魔大臣「元は綺麗だったんだろうな。もったいない」

トロール「でモ、赤も綺麗じゃないカ?」

ゴブリン「時間の経過でどんどん黒くなってくよ」

側近(む?この感覚は…)

55: 1 2012/08/31(金) 21:30:18.99 ID:XcSJkxKAO
――牢だったところ

剣士「オレ死んだか…あれ?」

老兵「あんなこと言ってるからやはり…あれ?」

国王「わしのせいで若い命が…あれ?」

僧侶「剣士さん…あれ?」

魔法使い「馬鹿だけど良いやつだった…あれ?」

大臣「ど、どうしてだ!?そいつらに魔力など感じなかったのに!」

魔法使い「これは…羽?」

 焼け焦げた羽を拾い上げた。

剣士「それ、僧侶が貰ったやつじゃないか?」

僧侶「ええと…すみません、剣士さんにこっそり忍ばせてました」

56: 1 2012/08/31(金) 21:43:36.59 ID:XcSJkxKAO
剣士「馬鹿、なんで」

僧侶「ごめんなさい…なんだか、あっさり死にそうで……」

老兵(分かる)

国王(気持ちは分かる)

魔法使い(痛いほど分かる)

魔王「まったく――おれはメインディッシュかよ?」

 大きい瓦礫が持ち上がった。
 上から、右から、斜めから、法則性などなく大臣にぶつけていく。

 ちらりと魔王が目配せして魔法使いが頷いた。

魔法使い「そんなわけだ。その人連れて行ってくれ」

剣士「魔法使いは?」

魔法使い「私は魔王と戦う。手助けぐらいはできるだろうから」

58: 1 2012/08/31(金) 21:57:54.90 ID:XcSJkxKAO
剣士「じゃあ、オレも」

魔法使い「駄目だ」

剣士「…確かに魔法使えないし、弱いけどよ」

魔法使い「次元が違う。私だって今この状況で一対一なら負けている」

剣士「……」

魔法使い「僧侶と国王を守ってくれ。それとも逃げが恥ずかしいか」


剣士「…逃げる勇気ってな。足手まといにはなりたくないから行くよ」

僧侶「剣士さん…」


魔法使い「早く行け。魔王の時間稼ぎもいつまで持つか」

剣士「わぁったよ、後でな!」

僧侶「ご武運を…」

老兵「立てますか国王さま」

国王「うむ…悪いな、頼んだぞ!」

 

60:  2012/08/31(金) 22:16:07.76 ID:XcSJkxKAO
バタバタバタ

魔王「行ったか」

魔法使い「ああ」

蝙蝠「ボクハドウシヨ?」

魔法使い「お前もいっしょに行った方がいいんじゃないか?」

蝙蝠「ウーン。ココニイルヨ」

魔法使い「…私は私のことで精一杯だぞ」

蝙蝠「イイヨ」

魔王「ふん。魔法使い、どうやらあちらさんはキレたようだ」

 同時に爆風が起こる。

大臣「……私は」

魔王「なんだ」

大臣「私は、王となるのだ」

魔王「ほう」

61: 1 ごめん、つまったから差し替え 2012/08/31(金) 22:30:33.22 ID:XcSJkxKAO
魔法使い「まあ…王をふたり捕らえた辺りから予想はしていたが」

魔王「で?貴様は何故王になりたいのだ」

魔法使い(あ、口調変わった)

大臣「魔物と人間が共存する国の、だ」

魔法使い「……」

魔王「共存ねぇ。ふん、この件は後回しだ。本当にそれだけか?」

大臣「ない」

魔王「どうせ誰もいないんだ。喋っちまえよ」

大臣「……仕返しだ」

魔法使い「仕返し」

大臣「私を笑ったものへの仕返しだッ!」

大臣「魔法の使えない混血だからと嘲った奴等への!」

62: 1 ここの欄消し忘れた 2012/08/31(金) 22:39:32.04 ID:XcSJkxKAO
魔法使い「驚いた。大臣も混血だったのか」

大臣「狼と人間のだ。だが、私は…私は魔力もわずかしか持っていなかった」

魔王「ふむ」

大臣「ただの人間も当然だ……弱いだけの人間に!」

魔法使い「……」

大臣「だから魔物と対等となるべく努力を重ねた」

魔王「変なところにエネルギーを使ったな」

大臣「今の私には両方を従えることができる。もう二人の王なぞいらない」

大臣「そもそも、人間と魔物を分けるから混血が疎まれるんだ。なぁ魔法使い、そう思うだろ?」

63: 1 ここの欄消し忘れた 2012/08/31(金) 22:45:20.63 ID:XcSJkxKAO
魔法使い「そうだな」

魔王「……」

魔法使い「だが混ぜるな危険とは良く言うじゃないか」

魔法使い「魔物と人間は習慣から違うぞ?それを一つに?馬鹿か」

魔法使い「別けなければいけなかったから別けた。それだけの理由だろ」

魔王「だな」

大臣「混血として苦しんでおきながら……それはこれから生まれる混血を不幸にする気か」

魔王「根本的に駄目だってことだ。人間が圧倒的に不利になるだろ」

魔王「魔法を使えないからって魔法を使える同類に八つ当たりか?」

64: 1 2012/08/31(金) 22:58:59.87 ID:XcSJkxKAO
魔法使い「ほぼそれだろ」

魔王「そうだな」

魔法使い「何故私の事情を知っているのかは謎だが」

大臣「簡単だ。お前の母親と知り合いだったから」

魔法使い「……何?」

大臣「たまたま事故にあったところを助けてくれたんだよ、お前のお節介な母親は」

魔法使い「おかあさんと…話したことがあるのか」

大臣「それどころか初恋の相手だ」

魔法使い「え」

大臣「そして――彼女を殺したのも私だ」


70: 1 2012/09/01(土) 20:41:50.09 ID:KKdpnHEAO
魔法使い「…なんで?」

大臣「お前を庇ったからだよ」

魔王「……」

大臣「お前が死ねばそれで終わったんだ」

魔法使い「私がどうして殺されなければいけない」

大臣「目を覚ませてあげたかったんだよ。自分がどんな化物を生んだのかってな」

大臣「魔物である父親を凌駕する魔力を持つ子供なぞ――危険な爆薬だ」

大臣「彼女が不幸せになるのは目に見えて分かっていた」

魔王「ふん。貴様、こいつの母親に恋したのか」


71: 1 2012/09/01(土) 20:50:15.75 ID:KKdpnHEAO
大臣「……」

魔王「なんだかんだ理由をつけておいて――」

魔王「自分の出来損ないさを他人のせいにしているわけか」

魔王「そして人妻に恋狂い、こいつに嫉妬しただけか」

魔法使い「……」

魔王「なるほどなるほど、じゃあ鷲一族を殺すように言ったのは?」

大臣「…魔力を無効にする矢を試したかった。まあ、結果は可の下だったが」

魔王「あいつらが住んでる森を焼いて、逃げ出したところを集中攻撃か。いい的だったろ」

72: 1 2012/09/01(土) 21:03:39.40 ID:KKdpnHEAO
大臣「そうだったな。悶えながら死んだよ。愉快極まりない」

魔法使い「っ」

魔王「それで?鷲族を全滅させて、何を得られた?」

魔王「可哀想な混血たちは救えたか?貴様の焦がれた女は助けられたか?」

魔法使い「…魔王」

 横に並ぶ魔法使いの肩を魔王が掴む。
 とちらかの身体が小刻みに震えていた。

大臣「…彼女と父親に拒まれ、それからそいつの爆発に巻き込まれてすべてはおじゃんだ」

大臣「魔物の血のせいか死だけは免れたが……数年は修復にあてなければいけなかった」

73: 1 2012/09/01(土) 21:16:10.12 ID:KKdpnHEAO
魔王「なんにもできてねぇじゃねえかよ」

大臣「なに?」

魔王「なんにも達成できてないだろ。なんにも」

大臣「……」

魔王「自分が弱いから強いやつに八つ当たりか」

魔法使い「…魔王討伐に行かせたのも…そういう理由だったか」

魔王「死ぬ可能性があるからな。帰ってきたら適当に理由つけて殺すもよし、襲わせるもよし」

魔法使い「……」

大臣「私は、失敗したが正しいんだよ!混血の格差をなくせれば――」

魔王「でめその前に他の混血殺すんだよな。あと王がなんだとか止めろ。笑うから」

大臣「なっ……」

魔王「貴様が思うほど王ってのは楽じゃないんだよ」

74: 1 2012/09/01(土) 21:22:32.76 ID:KKdpnHEAO
魔王「自分のために国をまわすんじゃない。国民のために国をまわすんだ」

魔王「確かに混血の地位上昇はいいがな――今の貴様じゃ、魔法使いみたく強い混血は処分するだろ」

大臣「……危険因子となりかねないから」

魔王「なら人間にも魔物にも危険因子はたくさんいるだろ」

魔王「結論を言わせてもらうと、貴様は強いやつが羨ましいだけなんだ」

大臣「ふ――ふざけたことをォォォォォォォ!!」

 目が潰れるほどに強い光が大臣を中心に弾けた。
 様々な種類の攻撃が魔王たちを襲う。魔王は攻撃そのものを消し、魔法使いは弾いていく。

75: 1 2012/09/01(土) 21:29:52.22 ID:KKdpnHEAO
魔王「図星か」

 魔王が呟いたのは攻撃がやみ、静けさが空間を占領した頃だった。
 頬に切傷ができていたが、流れた血の跡を残して瞬く間に消えてしまう。

魔王「すまないな、魔法使い」

魔法使い「……」

魔王「挑発とは言え、お前にはかなり辛いことだったな」

魔法使い「鷲一族は」

魔王「ああ」

魔法使い「どこに住んでいたんだ?」

魔王「村民がほぼ全滅し、兵の虐殺が起こった村のすぐ近くの森だ」

魔法使い「それって、私の村だよな」

魔王「知らん。…ただ、人間に化けた魔物が居たとは聞いた」

76: 1 2012/09/01(土) 21:36:37.91 ID:KKdpnHEAO
魔法使い「人口とかは、分かるか?」

魔王「八十人程度の規模だと聞いた」

魔法使い「じゃあ、私の…村か」

魔王「今まで調べなかったのか」

魔法使い「思い出したくなかったから」

魔王「ふん、そうか」

魔法使い「私は…鷲一族に認められていたのかな?」

魔王「そんなに近くに住むってことはそうだろ。記憶は?」

魔法使い「昔過ぎて覚えてないよ。ああ、でもそうだったんだ」

 大臣はいない。
 新たに天井に穴が空いているのを見つけ、上に行ったのだろうと魔王は考える。

77: 1 2012/09/01(土) 21:42:05.32 ID:KKdpnHEAO
魔王「魔法使い、泣いたり動揺するなら今のうちだ」

魔法使い「泣いてないし動揺してない」グッ

魔王「目拭いたじゃないか」

魔法使い「目にゴミが入っただけだ」

魔王「そういうことにしとくか」

魔法使い「うるさい」

 彼女は袖でごしごしと目元を擦る。

魔法使い「…おかあさんは、筋金入りのお人好しだったからなぁ」

魔王「そうか」

魔法使い「あはは、大臣、追わないと」

魔王「……」

 手近にあった剣を拾い上げる。

魔法使い「何もないより…マシかな」

78: 1 2012/09/01(土) 21:46:45.31 ID:KKdpnHEAO
魔王「触れるのか」

魔法使い「え?うん」

魔王「…とんでもないやつだな」

魔法使い「何が?」

魔王「なんでもない」

魔法使い「……?」

魔王「さてと…決戦は上ってことか。見ろよ、もう夜だぜ」

魔法使い「見えるかな」

魔王「あちこち燃えてるから大丈夫だろ。――……」

魔法使い「魔王?」

魔王「いや……きっと、死ぬか生きるかの戦闘になるかと思う」

魔法使い「そうだな」

魔王「生きられたとしても、今のこの状態とは限らない」

魔法使い「うん」

魔王「だから、問うが――」

79: 1 2012/09/01(土) 21:47:13.77 ID:KKdpnHEAO
魔王「おれと来てくれるか、魔法使い」

魔法使い「…ああ」

80: 1 2012/09/01(土) 21:48:05.22 ID:KKdpnHEAO
ぎゃあああ痛恨のミス!

81: 1 2012/09/01(土) 21:48:31.32 ID:KKdpnHEAO
魔王「おれと来てくれないか、魔法使い」

魔法使い「…ああ」

82: 1 2012/09/01(土) 21:57:31.96 ID:KKdpnHEAO
魔王「今度は断るじゃないんだな」

魔法使い「断れるか。一緒に戦おう」

蝙蝠「ボクモ!」

魔王「いたのか」

蝙蝠「シリアスダッタカラネ。サスガニデレナイヨ」

魔法使い「はは、そうだったのか」

 上へ繋がる階段は、あちこち崩れていたが使えないこともない。

 魔王は魔法使いに向けて片手を差し伸べた。
 魔法使いは魔王の手に自分の手を置いて、握った。

魔法使い「戦場までエスコートしてくれますか、王子?」

魔王「もちろんですよ。どこまでも連れていきましょう、我が姫」

 二人は顔を合わせて笑った。

96: 1 2012/09/02(日) 20:21:44.99 ID:lIr8fK+AO
――通路

人間兵「あっ、国王さま!」

マスター「国王さま!」

国王「どうも国王です…」ゼヒュゼヒュ

剣士「ちょっと走ったぐらいで息切れないでください…」

老兵「運動不足ですよ」

国王「言いたいこと言い過ぎじゃろ!」ゼヒュゼヒュ

側近「となると、魔王さまも――」

僧侶「あ、そのことなのですが!」

側近「どうした」

僧侶「今すぐ城から出ろと、言付けを受けました!」

魔大臣「何?」

僧侶「魔王さんが大臣さんと――交戦をしているんです」

97: 1 2012/09/02(日) 20:28:53.69 ID:lIr8fK+AO
ゴブリン「何としてでも仕留めるつもりか…」

側近「小娘は?」

僧侶「小娘?」

側近「魔法使いのことだ」

僧侶「…あの方は、魔王さまと残りました」

側近「そうか……」

ミノタウロス「退却させちまうなら退却させるぜ」

側近「頼む」

ミノタウロス「全軍退却!怪我人を忘れるなよ!」

剣士「あれ?」

マスター「どうした」

剣士「なんだろうな……あのでかいの」


98: 1 2012/09/02(日) 20:35:32.17 ID:lIr8fK+AO
ゴブリン「あの外にいるやつか。あの大きさでどこに隠れていたんだろ」

トロール「巨人族だナ。その中でもさらにでかいほうダ」

剣士「へー」

側近「なあ魔大臣」

魔大臣「なにかな側近」

側近「どうみてもこっち来てないか、あの巨人」

魔大臣「やっぱり?」

巨人「グオオオォォォォォォォォ!!」ドシドシ

側近「こっちに走ってきたぁぁぁぁ!!」

魔大臣「とにかく逃げろ!!」

ゴブリン「振動やべぇ!!」

国王「ぎえええ!!」

マスター「あ、早い」

老兵「この城は年寄りに優しくないな」

99: 1 2012/09/02(日) 20:39:34.51 ID:lIr8fK+AO
――中庭

ギャーギャー

王女「賑やかだわ」

后「すごく嫌な予感がするけど…」ガタガタ

王女「あら、お父様が来たわ」

后「良かっ……」

従者「」

王女「なにかしら。大きいのも後ろから付いてきたわよ、お母様」

従者「に、逃げましょう」

后「そうね」

王女「お父様は?」

后「あの人、殺しても死にはしないから大丈夫よ」

従者「……」

王女「あーあ。天使さんにまた会えるかしらね?」

100: 1 2012/09/02(日) 20:49:08.95 ID:lIr8fK+AO
ドタバタ

魔大臣「魔法は!駄目か!?」

側近「皮膚が分厚いのか深刻なダメージは無理だ!」

ミノタウロス「とにかく足止めはしないと!」

国王「はひゅ、はひゅ、」

ミノタウロス「……」ヒョイ

老兵「か、軽々と」

側近「だめ押しでもう一発だ――『破裂せよ』!」

巨人「」ボリボリ

側近「これで切傷かよちくしょう!!」

魔大臣「落ち着け」

剣士「僧侶!大丈夫か?」

僧侶「ま、まあまあ……あっ」ステン

101: 1 2012/09/02(日) 20:56:47.90 ID:lIr8fK+AO
剣士「僧侶!」

 逃げ惑う兵をかき分けながら僧侶を助け起こす。足を捻ったようだ。
 後ろを見上げれば巨人はあと二三歩の位置に迫っていた。

僧侶「剣士さん、なにやってるんですか!早く逃げてください!」

剣士「一日に何度も見殺しにしてたまっか!」

 僧侶を抱えあげて走る。
 だが、もう足掻きにしかならない。

 巨人が二人に狙いを定め、意思を持って踏み潰そうと足を上げた。

僧侶「ごめんなさい…!」ギュッ

剣士「まだ諦めんなァァァァァァ!!」ダダダ

102: 1 2012/09/02(日) 21:05:09.99 ID:lIr8fK+AO

 背後に突如気配を感じた。
 振り向える余裕なぞなく、走り続ける剣士の耳に入った言葉。

師匠「一番弟子を泣かせたくはないのう」

 直後、巨人が後ろ向きに倒れた。

103: 1 2012/09/02(日) 21:12:48.25 ID:lIr8fK+AO
剣士「し、死ぬかと……」

僧侶「ありがとう…ございます…」ギュウ

マスター「ヒヤヒヤしたぞ…」

僧侶「それにしても、あの方は…?」

剣士「そ、僧侶。まず降りてくれないか?」カァァ

僧侶「す、すいません」カァァ

側近「本物か?」

魔大臣「本物だな」

ゴブリン「本物だ」

ミノタウロス「本物だろ」

トロール「本物だネ」

剣士「本物って――あの人は誰なんだ?」

一同「「「 前々代魔王さま 」」」

104: 1 2012/09/02(日) 21:19:00.98 ID:lIr8fK+AO
マスター「前々代!?」

国王「なんてことじゃ」

黒髪の男「魔物は長生きだかぁな。二百年前の魔王がいてもおかしくねーさ」

僧侶「そうなんですか…二百年、てすごい年数ですね」

黒髪の男「人間にとっちゃそーだろうな」

僧侶「……」

剣士「……あの、誰ですか?」

黒髪の男「前代魔王」サラリ

僧侶「」

剣士「」

黒髪の男「お、いいねぇそのリアクション」

僧侶「え、えええっ!?」

剣士「なんで魔王が!?」


105: 1 2012/09/02(日) 21:29:23.17 ID:lIr8fK+AO
黒髪の男「息子の様子を見に来たんだよ、僧侶の姉ちゃん」

僧侶「じゃ、じゃあ早く魔王さんのところへ行ってあげないと!」

黒髪の男「いいや?あいつの戦いはあいつ自身が終わらすべきなんだよ」

僧侶「ではなんのために…」

黒髪の男「今みたいなあいつの手が届かないところをサポートしに来たわけ。ちなみにあれは俺の父親」

オマエモ タタカエ!バカムスコ!

黒髪の男「へいへい」

僧侶「息子さんが、心配じゃないんですか?」

黒髪の男「それなりに心配さ。でも大丈夫だろ」

黒髪の男「あいつは今、一人じゃないから」

106: 1 2012/09/02(日) 21:30:08.29 ID:lIr8fK+AO
休憩

108: 1 2012/09/02(日) 23:49:01.73 ID:lIr8fK+AO
――階段

 手を繋ぎながら二人は階段を登る。
 魔法使いの左手には魔王の手、右手には剣を携えていた。

蝙蝠「マオウサマ、カツホウホウ、カンガエタ?」パタパタ

魔王「最終手段はな」

魔法使い「どんな?」

魔王「言わない。まだお披露目じゃないからな」

蝙蝠「イジワル!」

魔法使い「…よろしくない魔法なんだな?」

魔王「ふん。まあ使いたくはないものだ」

魔法使い「…そうか」

魔王「……」

魔法使い「……」

魔王「魔法使い、怖くないか」

魔法使い「うん。あなたがいるから」

109: 1 2012/09/03(月) 00:06:44.33 ID:Zlp56LcAO
――屋外、公開処刑場

コツコツ

魔王「見晴らしがいいな」

魔法使い「下からも見えるようにしてあるからだと思う」

魔王「ここはなんだ?」

魔法使い「公開処刑場だと聞く」

魔王「ふん。なかなか洒落た場所で決戦か」

魔法使い「洒落てるか…?」

蝙蝠「キニシタラマケ」

 剣を一度地面に下ろす。

魔王「そういえば、お前、杖どうした」

魔法使い「あっ」

魔王「会ったときには持っていなかったな」

魔法使い「あちゃー…森に忘れたかもしれない」

魔王「無くてもいけるだろ?」

110: 1 2012/09/03(月) 00:13:27.34 ID:Zlp56LcAO
魔法使い「私の数少ないアイデンティティーが…」

魔王「むしろありすぎだろ」

蝙蝠「ウン」

魔法使い「外見的な意味でだよ」

蝙蝠「ツバサハエテルジャン」

魔法使い「…普段人間の姿の私がってやつ」

魔王「まあ確かに普段の姿はパッと見、どこでもいそうだが」

魔法使い「だろ?」

魔王「アイデンティティがないというかまず胸からしてないからな」

魔法使い「うぬぉっ!」ブン

魔王「暴れるなよ」パシッ

蝙蝠「パンチ、アッサリウケトメタネ!」

111: 1 2012/09/03(月) 00:21:26.84 ID:Zlp56LcAO
魔法使い「やめろ。その話題はやめろ」

魔王「減るものでもあるまい。これ以上」

魔法使い「ぐぬぬぬ」

蝙蝠「オフタリサン、イイトコロワルイケド、ホラアレ」

 五メートルほど先にワイン瓶が七、八本転がっていた。
 そばには踞る人間の姿。

魔王「ありったけをのんだって感じか」

魔法使い「…副作用を無視してこんなに…頭おかしいな」

魔王「副作用が無くても無理矢理魔法を持たされた身体はボロボロだろうさ。寿命も縮むらしい」

魔法使い「え?」

112: 1 2012/09/03(月) 00:33:34.98 ID:Zlp56LcAO
魔法使い(寿命縮むんだ…)

 ゆらりと大臣が立ち上がる。
 先ほどより身長が高く、ゆうに二メートルを越していた。
 眼球はすべて黒くなっている。

魔王「この中で一番人間らしいの、もしかしたらおれかもな」

魔法使い「角が生えてる以外はそうだよな」

蝙蝠「マオウサマノ、アイデンティティ、チッチャイネ!」

魔王「ふん、王はシンプルでいいんだよ。飾り立ててたら戦い難いだろ」

蝙蝠「カッコイイ!」

魔法使い「ちっちゃいと言われても起こらないとか心広いなあなたは…」

113: 1 2012/09/03(月) 00:41:15.64 ID:Zlp56LcAO
魔王「…む」

 魔王は会話をしながらも一切大臣から視線を逸らさずに見ていた。

大臣「……」ユラリ

 動き始めからを捉えられたために、防御にするか攻撃にするかと考える余裕がある。
 大臣が片手を前に出すと、紫色の光がそこに集まり大きくなっていった。

魔王「お喋りはここまで――みたいだな」

魔法使い「うん」

 痛いほどに緊張した空気が針つめた。

魔王「最初は慎重に行くぞ。集中砲火からだ」

魔法使い「どこらへんが慎重なのか是非教えてくれ」


114: 1 2012/09/03(月) 00:41:43.44 ID:Zlp56LcAO
続く
あれ…今回はギャグ?

122: 1 2012/09/03(月) 22:09:12.32 ID:Zlp56LcAO
 大臣が紫色の光を放つと同時に魔王も真っ黒な光を放った。
 二つの力はぶつかり合い、激しい火花を生む。

魔王「本体に攻撃をしてくれ」

魔法使い「了解」

 魔法使いは見えないものを持ち上げるように、手を上にあげた。

大臣「!?」

 ザクザクと先が鋭く尖った杭が地面から生えてきた。

大臣「ぐぅっ……!」

 どれかが刺さったらしい。
 紫色の光が弱まり、それを弾くと共に魔王は大臣へ黒い光を打ち込む。

蝙蝠「ヤッタ?」

魔法使い「…まだだな」

魔王「このぐらいで終わるようならこんな苦労してないさ」

123: 1 2012/09/03(月) 22:18:02.25 ID:Zlp56LcAO
 魔王が言い終わる前に杭が凄まじいスピードで飛んできた。
 魔法使いは自分たちの目の前に新たな杭を隙間なく並べる。
 それらに飛んできた杭がぶつかってきた。
 攻撃が止んでしまうと魔王が即座にすべて燃やしてしまった。

魔王「視界を悪くしてどうする」

魔法使い「そこまで考えてなかった」

 思いついたものがそれしかなかったのもある。
 視界を防いでしまうのは隙となりかねない。

蝙蝠「ダイジン、アシ、サンボン」

魔王「三本?」

蝙蝠「アレ、ミテミテ」

124: 1 2012/09/03(月) 22:23:58.87 ID:Zlp56LcAO
魔法使い「…違う。足が裂けているんだ」

 杭によってなのか、右足がえぐいことになっている。
 戦場とはいえ、そうした張本人とはいえ気分の良いものではない。

魔王「ほう」

 魔王が感嘆の声をあげた。

魔王「自己再生までするのか、あの薬は」

 妙に軋んだ音をたてながら足が元通りに戻っていく。

魔法使い「あの薬…今まで見た薬と同じなのかな」

 今まで、というのは人を操るだとか読心のことだ。
 あそこまで強力だとは思わなかったが。


125: 1 2012/09/03(月) 22:28:05.74 ID:Zlp56LcAO
魔王「さあな」

 空中から火の玉を取り出し、そのまま大臣に投げつけた。

 回復を待つこともせず。
 容赦なく、思いっきり。

大臣「があぁぁぁぁ!?」

魔法使い「うわ」

蝙蝠「オニダ」

 悲鳴が聞こえた。
 少しだけ同情するが、すぐに気持ちを入れ替えることにした。

蝙蝠「マオウサマ、ソコハマッテアゲヨウヨ」

魔王「いちいち相手に花を持たせなくてもいいだろ」

魔法使い「絶対にあなた、勇者が回復魔法かけてもらっている最中に攻撃するよな」

126: 1 2012/09/03(月) 22:36:32.91 ID:Zlp56LcAO
魔王「悠長に待ってられないだろ」

魔法使い「そうなんだけどな、なんか正しいというか間違えているというか」

蝙蝠「キニシタラ、マケ」

魔法使い「便利な言葉だよな」

大臣「……」ヨロ

魔王「さてさて。大臣が焼け死んでいないんだがどうしようか?」

魔法使い「…しぶといな」

蝙蝠「ドコカニジャクテンガアルハズ!」

 魔法使いは顎に手をやりながら風を作り出し、カマイタチにして大臣に浴びせた。
 大臣の身体がところどころ裂けるのが見えた。

127: 1 2012/09/03(月) 22:41:39.41 ID:Zlp56LcAO
魔法使い「…直ぐに傷を修復してしまう…」

魔王「お前もひとの事言えないだろ」

魔法使い「これでも足りないぐらいだ。親も殺されてるんだから」

魔王「そうか」

魔法使い「ああ」

 魔王と魔法使いはお互いから半歩離れる。
 その間を攻撃魔法が通り抜けていった。

魔法使い「危なかった」

魔王「まったくだ」

 あらかた身体を治した大臣は、足元に爆発を起こし真っ直ぐに魔法使いへと向かっていく。

魔法使い「直接殺りあおうってか!」

128: 1 2012/09/03(月) 22:51:30.87 ID:Zlp56LcAO
 頬に向かってくる手のひらをはね除ける。これはフェイクだ。
 本命であろう大臣の魔力を込めた拳を、こちらも魔力を込めた手刀で叩き切る。

大臣「ぐっ!」

魔法使い「だぁッ!」

 力を入れた蹴りで数メートル飛ばす。
 何度かバウンドした後に、大臣は地面にごろりと転がる。

魔王「まだ死なないか…」

魔法使い「怖くなってきたな、なんか」

蝙蝠「フジミダッタラドウシヨ」

魔王「それは困る」

魔法使い「だったらどこかに沈めてしまおうよ」

魔王「それいいな」

129: 1 2012/09/03(月) 22:58:20.69 ID:Zlp56LcAO
蝙蝠「アブナイケイカクダヨ!」

 空気が動く。
 また大臣が立ち上がっていた。

大臣「ククク……」

魔王「何がおかしい」

大臣「薬について、教えてやろうか」

魔法使い「……」

大臣「あの薬にはただ飲んだだけじゃ魔法は使えない」

魔法使い「というと…」

大臣「飲んだ人間の強い望みによって変化するってことだよ…」

魔王「興味深いな」

大臣「そこまで思い悩んでいないような望みなら持続性はない。深い望みなら長い間持つ」

大臣「大量に飲むと、自分でも扱い難いほどの魔力を得られることが分かったがな――」

130: 1 2012/09/03(月) 23:05:05.52 ID:Zlp56LcAO
魔王「…ずいぶん便利なものを考えつくんだな」

大臣「お褒めいただき光栄だよ魔王――」

魔王「今日いっぱいでその技術も無くなると思うと残念だな」

大臣「軽口を叩けるのも今のうちだ!」

蝙蝠「マホウツカイ!」

魔法使い「!」

 大臣から切り離した手首が突然動いて魔法使いへ飛び、その細い首を絞め始めた。

魔法使い「取れなっ……!?」

魔王「魔法使い!」

大臣「そっちの心配ばかりでいいのかァな!?」

 気づくといつのまにか接近していた大臣の腕が魔王の体内に潜り込んでいた。

131: 1 2012/09/03(月) 23:11:04.45 ID:Zlp56LcAO
魔王「やりやがったな」

大臣「これでも平然としてられるのか化物め」

魔王「魔法使いからさっさとあれを外っ……!」

 魔王の口から大量の血が溢れた。
 体内で小規模ながら爆発を起こされたのだ。

蝙蝠「マオウサマ!」

魔法使い(くそっ、どんな魔法使ってるんだ!全然取れない!)ギリギリ

魔法使い(見えないから、指ごと消去しようとしても下手をすると私の首も…)ギリギリ

魔法使い「が、は」

魔王「っんの…」

 魔王が爪を大臣の眼球に突っ込むよりも早く、蝙蝠が躍り出た。

132: 1 2012/09/03(月) 23:19:24.39 ID:Zlp56LcAO
 それから顔面に張り付く。

蝙蝠「コノコノコノ!」バタバタバタ

大臣「な、なんだ!退け!」

蝙蝠「ヤダ!」バタバタバタ

 散々大臣の顔面で暴れた挙げ句に、小さな口で噛んだ。

大臣「いたっ!」

 集中力が乱れたその隙に魔王は体内から大臣の手を引きずり出し、
 魔法使いは絞めが弱まりかけた手を無理矢理剥がした。

魔法使い「けほっ……蝙蝠!」

大臣「こんの――!!私に何をする!!」

 蝙蝠をわしづかみにすると、そのまま地面へと叩きつけた。

134: 1 2012/09/03(月) 23:25:15.70 ID:Zlp56LcAO
蝙蝠「ギッ」

大臣「この、下等なくせに、よくも――!」

 まさに蝙蝠を踏み潰そうとした大臣を魔王が殴り付ける。
 そのまま少し離れた地面へと飛ばされ石畳へと若干めり込んだ。

魔法使い「蝙蝠!」

魔王「蝙蝠!」

蝙蝠「」ピクピク

 魔王は塞ぎかけた傷から血を掬いとり蝙蝠の口へ含ませた。

魔法使い「なぁ、大丈夫なのか?生きてるよな?」

魔王「生きてる。それに魔王(おれ)の血も飲んだんだ、すぐ治る」

 そういえばいつか魔法使いも魔王の血を注がれ治ったことがある。

135: 1 2012/09/03(月) 23:36:05.71 ID:Zlp56LcAO
魔法使い「助かるんだよね?平気だよね?」

魔王「そう言ってるだろう」

魔法使い「はぁぁぁ…」ヘタリ

魔王(出来ればこっちの心配もしてほしいんだけどな)

 体内の修復過程で要らなくなった肉片を吐き出しながら思った。

蝙蝠「ムー?」パチ

魔王「まだ動くな」

蝙蝠「ナンカ、カラダカライヤナオトシタヨ…」

魔王「夢だろ」

蝙蝠「ユメカナァ?」

魔法使い「ちょっとうたた寝してたんだよ」

蝙蝠「ソウナノカナ?」
魔法使い「ちょっとここにいな」

蝙蝠「マホウツカイタチハ?」

魔法使い・魔王「ちょっと本気出してくる」

148: 1 2012/09/05(水) 23:26:00.31 ID:j1ZinjLAO
――城門

ドドーン…

師匠「やれやれ。年老いた身にはキツいわい」

黒髪の男「そう言いながらわずか数分で沈めましたか」

師匠「あちらも戦局は変わってなさそうじゃな」

黒髪の男「そうですね。かろうじて人影が見えるぐらいですが、まだ両者立ってますし」

剣士「いやいや…見えやすい工夫をしてるとは言え、オレには何も見えませんぜ」

僧侶「剣士さん、お二人は元魔王ですから…」

剣士「魔王ってすげぇな…さすが王だぜ」

師匠「褒めてるのかが良く分からん」

149: 1 2012/09/05(水) 23:32:08.35 ID:j1ZinjLAO
国王「どちらが『勇者の剣』を持っているかでかなり戦局は変わるがのう…」

剣士「そんなにすごいものなのですか?」

国王「ある意味無敵な剣じゃ。使用者さえ合っていればの」

側近「使用者…」

国王「……剣の力を最大限に発揮できる“勇者”が死んだ今――」

国王「誰かにあの剣を扱う資格が移っていると思うのじゃが」

剣士「でも、勇者は血筋で選ばれましたよね?確かにあれを扱えましたが…」

国王「不思議なことにの、勇者の一族も選ばれたものと同様に使えるんじゃ」

150: 1 2012/09/05(水) 23:36:49.14 ID:j1ZinjLAO
剣士「へぇ……」

側近「しかし」

国王「」ビク

側近「“勇者”の資格を持つものが百年に一度しか現れない、というのがあるが。あれは?」

国王「資格を持つものが現れるのは不定期でのぉ…」

剣士(そのぐらいハンデないと魔王もたまったもんじゃないだろうなぁ)

僧侶「適切のある人が触ったら、光るんでしたよね?」

国王「おお、そうじゃ。祝福の光があたりに満ちる」

魔大臣(人間ばっかり有利じゃないか?)

側近(魔王さまが強すぎるだけなんだよ)

151: 1 2012/09/05(水) 23:47:53.80 ID:j1ZinjLAO
僧侶「そういえば…魔法使いさんは剣に触っていましたよね?」

国王「たまにいるそうじゃ。剣に触れるだけならできる者が」

剣士「?なら、選ばれたものは…持つとすごいんですか?」

国王「悪を滅ぼす力を纏い、聖なる光で刃を輝かせ、敵に立ち向かう勇気を与えてくれるだとか」

僧侶「すごいですね」

側近(…下手すればチートじゃないか)

魔大臣(魔王さま自体がチートだからな…トントンってとこだろ)

152: 1 2012/09/05(水) 23:55:49.30 ID:j1ZinjLAO
――公開処刑場

魔王「心臓らしいな」

魔法使い「心臓?」

魔王「あの男、攻撃を受ける度にまず胸を庇う」

魔法使い「そこらへんにダメージが行くのが不味いという意味か?」

魔王「そう、だから――弱点は恐らく心臓だ」

魔王「普通の生き物でも貫かれたら死ぬ、非常に重要な器官だからな」

魔法使い「なるほど…で、私はどうすればいい?」

魔王「その剣で大臣の心臓を突け」

魔法使い「……確かに効果はありそうだけど」

魔王「何が心配だ?」

魔法使い「逃げられるだろ、流石に」

153: 1 2012/09/06(木) 00:02:23.61 ID:jQFuqzIAO
魔王「ふん、馬鹿か。そのぐらい考えている」

魔法使い(馬鹿って…)

 大臣に一度強い攻撃を浴びせてから魔王は続ける。

魔王「おれがあいつを止める」

魔法使い「どうやって?」

魔王「魔法陣を展開して、その中に閉じ込めるさ」

魔王「ただ、今あいつは半分暴走状態だ――いつまで閉じ込められるかは疑問だが」

魔法使い「じゃあ早いうちに刺せばいいんだな?」

魔王「ああ。いざとなったら強化も行う」

魔法使い「強化?」

154: 1 2012/09/06(木) 00:08:51.02 ID:jQFuqzIAO
魔王「ちょいと力を借りるんだよ」

魔法使い「……?へぇ…、元気玉みたいな?」

魔王「なんだそれ」

魔王(力は力でも生命力…それを強力な魔力に変換させる禁忌魔法)

魔王(魔法を破られたら最悪死だ。…魔法使いが反対するだろうから言わないけど)

魔法使い「私はこれで攻撃をしかければいいんだな」

魔王「そうだ。…重くないのかその剣」

魔法使い「あんまり。むしろしっくりくるよ」

魔王(案外いるんだな、適正持つやつ)

155: 1 2012/09/06(木) 00:15:35.64 ID:jQFuqzIAO
魔法使い「じゃあ、魔王、あとはたの――」

ゴゴゴゴゴ

魔王「!?」

魔法使い「なんだこの揺れ!」

 ピシ、と何かが割れる音がした。
 そしてその音は近づくにつれ早くなってゆく。

魔王「魔法使い!地面だ!」

魔法使い「えっ!」

蝙蝠「キャア!」

 魔王と魔法使いの間にヒビが入った。
 そして、一段と大きい音がした直後に魔法使い側の地面が崩れた。

魔法使い「っ!」

 ここはかなり高い。
 魔物化してるとはいえ、落ちたら死ぬだろう。

魔王「魔法使い!」

 伸ばされた手はギリギリで届かなかった。


164: 1 2012/09/06(木) 23:04:15.46 ID:jQFuqzIAO
魔王「くそ!」

 魔王が飛び降りようとした時、彼の首すれすれに魔法で作られた刃が舞った。

大臣「ここでの勝負を投げ出すつもりか?」

大臣「たった一人のために部下の戦いを無駄にするつもりか?」

魔王「……っ」

 挑発だ。挑発だが、確かにその通りなのだ。
 ここで決着をつけなければこれから先、また犠牲を増やさなければいけない。

魔王「……」

 魔法使いがいた部分を一瞥して、魔王は大臣に向き直る。

魔王「…あいつが飛ぶ、とは思わなかったのか?」

165: 1 2012/09/06(木) 23:10:51.33 ID:jQFuqzIAO
大臣「思わなかったさ、思わなかったよ!」

大臣「なんせあれは人間として生きたいだなんて馬鹿なことを考えていたんだからな!」

 障害物である魔法使いを始末できたことで興奮しているらしかった。
 顔を赤くし、おおげさに腕を広げてみせる。

大臣「アッハッハッハ!まったく愉快だよ!」

魔王「……」

大臣「私の理想の世界にはあれはいない!消えてくれて清々した!」

魔王「そうか」

大臣「あとはお前だけだ!この世界の王は私だけなんだ!」

魔王(遠い所にも一応国はいくつかあるが、まあそれは範囲外なんだろう)

166: 1 2012/09/06(木) 23:16:29.06 ID:jQFuqzIAO
大臣「どうした?まさかあの女に惚れていたのか?」

魔王「ああ」

大臣「それは失礼なことをした!仲良く殺せば良かったかな!」

魔王「問題ない」

 金色の目が大臣を睨んだ。
 大臣は一瞬息を飲む。

魔王「仲良く貴様を殺すさ」

大臣「アハハハ、どうやって?死人に手でも貸してもらうか?」

魔王「その前に、現実を突きつけてやろう」

大臣「は」

魔王「貴様は負ける。多分でも恐らくでもなく絶対にして確定だ」

大臣「…あれが死んで頭がおかしくなったか?今の私にはお前を殺害するほどの」

167: 1 2012/09/06(木) 23:22:59.48 ID:jQFuqzIAO
魔王「それだよ。おれに勝つ?一昨日きやがれ」

大臣「は――はぁ?」

魔王「一度おれは貴様の策略に負けた。だがな、二度も負けるつもりは、ない」

大臣「……」

魔王「それに貴様はおれを随分と怒らせてくれるからな。それ相応の覚悟は出来てるだろ?」

大臣「…ま、負け犬の遠吠えか。そんなことで寿命延ばして楽しいか?」

魔王「もうひとつ」

魔王「貴様、いつから魔法使いが死んでいると勘違いしていた?」

大臣「……は?」

魔王「あいつがただで落ちるわけねぇよ」

168: 1 2012/09/06(木) 23:28:35.66 ID:jQFuqzIAO
魔王「ならとっくに死んでいるはずだ。おれに会う前にな」

大臣「魔法使いが――生きてる?」

魔王「おれの妄言でもなんでもないぜ。――貴様、人の魔力が分からないか?」

大臣「な……なんのことだ」

 分かってはいる。
 だが、魔王が復活したあたりから魔王が魔法使いの魔力を隠してしまっていたのだ。
 強力ゆえに。覆い被せるように。

魔王「焦らされるのは嫌いみたいだな。じゃあ、もうネタバレするか」

 魔王が横にすっと手を伸ばした。
 バサリ、と音がして剣を片手に掴んだ魔法使いが姿を表した。
 魔王の手を取り、無事に着陸する。

169: 1 2012/09/06(木) 23:33:21.43 ID:jQFuqzIAO
魔法使い「盛り上がりにかけるんじゃないか?」

魔王「いいんだよ、盛り上がりなんて」

魔法使い「そうか」

魔王「ああ」

大臣「な、な、なんで飛べたんだ!?」

魔法使い「見よう見まねだよ。蝙蝠に教えて貰ったんだ」

蝙蝠「エヘへ」

魔王「いつ?」

魔法使い「さっき。剣がたまたま城壁に刺さってぶら下がってたとき」


魔王「ふぅん。お疲れだな」

魔法使い「見えてたくせに……」

魔王「覗いたらあいつに殺されかけるもんよ」


170: 1 2012/09/06(木) 23:38:38.61 ID:jQFuqzIAO
魔法使い「なら仕方ないな」

魔王「だろ?」

大臣「う、嘘だ…どうして翼が使える?普通は弱るはずなのに!」

魔法使い「それはただの鳥の場合。私は魔物の子だぜ」

魔法使い「まあ…すごく疲れたけど」ハァ

蝙蝠「マホウツカイ、カナリヒッシニバタバタシテタ!」

魔法使い「しっ」

魔王「明日は筋肉痛だな」

魔法使い「やめてくれ。考えたくもない」

大臣「……もう一度…今度は翼をもいで…」ブツブツ

魔王「物騒だな」

魔法使い「物騒だ。私が生きててそんなショックか」

171: 1 2012/09/06(木) 23:42:55.03 ID:jQFuqzIAO
魔王「おれはお前が生きてて嬉しい」

魔法使い「ありがと」

蝙蝠(ココハ…カオヲアカラメルトコナノニ…)

魔王「それじゃ、魔法使い」

魔法使い「うん」

魔王「まずおれが近寄ってあいつの動きを封じる。至近距離じゃないとうまくいかないんだ」

魔法使い「分かった」

魔王「そしたら、すぐに攻撃に入ってくれ」

魔法使い「うん」

魔法使い「おれに剣が当たりそうでも構わずに行け」

魔法使い「え?うん」

魔王「実行だ、魔法使い」

魔法使い「分かった、魔王」

177: 1 2012/09/07(金) 21:22:19.10 ID:t4MUEh0AO
 魔王がたったの一歩で高く跳躍し、回転しつつ大臣の視界を遮るような爆発を起こした。

大臣「まだ何かをするつもりか……!!」

魔王「そろそろクライマックスだからな」

 魔王が大臣の真上に落ちる。直前の爆発のせいで大臣の対応がわずかに遅れる。
 それを狙って大臣の身体を後ろに踏み倒した。

 即座に魔法陣を展開させて大臣をその場に縛り付ける。
 この術を実践したことは片手に数えるほどしかない。
 その為、どの程度暴れたら術が破れてしまうのかはまるで検討がつかない。

178: 1 2012/09/07(金) 21:31:48.56 ID:t4MUEh0AO
魔王(やはり禁忌魔法を使うか――)

 『勇者の剣』で術を破られようなら死は確定できだ。
 いや、むしろ魔法陣に侵入された時点で生命が果てるだろう。
 強化の代償は大きい。

魔王「――いや」

 魔法陣を二重三重に展開し、変わらずあの位置に立つ魔法使いを見て考える。

大臣「離せ!くそったれ、私ならこのぐらいはずせるぞ!」

 ミシミシと魔法陣にヒビが入る。
 さすがに驚嘆した。ここまで力を引っ張り出せるのかと。

 だが、例え彼が勝ったところで身体は限界を迎えているだろう。


179: 1 2012/09/07(金) 21:40:00.93 ID:t4MUEh0AO
魔王「後先考えないとろくな目にあわない、か」

 上半身を起こした大臣の首根っこを掴み、無理矢理立たせる。
 それから脇の下に手を入れ羽交い締めにした。

魔王「禁忌魔法に拘らなくても、こういう方法があるんだよな」

大臣「な…!お前も死ぬぞ!私を離さなければ死ぬぞ!」

 大臣の頭越しに真正面からこちらへ向かってくる魔法使いが見えた。

魔王「分かってる、そんなの」

 魔王の行動に、顔をしかめ歯を食い縛っていた。
 だが彼女は止まらない。

魔王「もし死んだとしても、それはそれで本望だ」

180: 1 2012/09/07(金) 21:47:19.87 ID:t4MUEh0AO
 魔法使いは、魔王が大臣へと躍りかかったのを見届けるとゆっくりと瞼を閉じた。

 今が決着の時だ。
 大臣とも。
 自分の存在とも。

 ずっと逃げてきた。
 今戦わなければこの先はずっと逃げ続けるだろう。
 そんなのは嫌だった。

 人間として生きたかった。
 しかし、それは人間の世界しか見ていないからではないか?
 魔物の世界で生きていたなら、魔物として生きたいと言っていたかもしれない。

 心のどこかで人間になれないと分かっていた。

181: 1 2012/09/07(金) 21:54:57.14 ID:t4MUEh0AO
 魔法使いと人間は決定的に何かが違う。
 人間としていくなら様々な制限や我慢をしなくてはいけないだろう。

魔法使い(それでもいいと思っていた。けど)

 魔王と会って、色んなことに遭遇して、次第にそれでは駄目だと思い始めていた。

 出した答えはシンプルだった。
 無理して人間として生きるよりもありのままの自分で生きればいい。

魔法使い「蝙蝠」

蝙蝠「ナァニ?」

魔法使い「お前の考える王とは、なんだ?」

蝙蝠「エットネ…ミンナヲナカヨクサセルノ!ケンカシナイヨウニスル!」

魔法使い「そっか」

182: 1 2012/09/07(金) 21:58:48.31 ID:t4MUEh0AO
蝙蝠「マホウツカイハ?」

魔法使い「私もそう思うよ。国民を守るのが、王なんだろうな」

蝙蝠「ダカラ、マオウサマハツヨインダネ!」

蝙蝠「コクオウハソウデモナイケド!」

魔法使い「それは言っちゃ駄目だよ。でも、彼には彼を手助けする部下がいる」

 その一人があれだったんだけど、と魔法使いは苦笑いする。

魔法使い「蝙蝠」

蝙蝠「ン?」

魔法使い「私が何者になっても――仲良しでいてくれるか?」

蝙蝠「モチロンダヨ!マオウサマモ、タカサンモ、ミンナナカヨシ!」

魔法使い「ありがとう」

183: 1 2012/09/07(金) 22:00:42.58 ID:t4MUEh0AO
蝙蝠「マホウツカイ、ソロソロジャナイ?」

魔法使い「うん」


 ――幼い頃、魔法使いは訪ねたことがある。

魔法使い『わたしは魔物なの?人間なの?』

 父親は困った顔で、柔らかく魔法使いの髪を撫でた。

父『どちらでもあって、どちらでもないよ』

 母親は穏やかな笑顔で抱き締めた。

母『それはあなたが決めることよ。――あなたの選択は、きっと正しいわ』



 魔法使いは目を開けて、剣を構えて呟く。

魔法使い「私がなんなのか、何をすべきか、分かったよ」


184: 1 2012/09/07(金) 22:03:33.13 ID:t4MUEh0AO
 魔法使いは走り出す。

 魔王が大臣を羽交い締めにしていた。
 下手すれば魔王も死んでしまうだろう。
 だが、彼女は止まらなかった。


魔法使い「魔王!!」

魔王「魔法使い!!」

 喉が潰れるほどの大音量で叫ぶ。

魔法使い「行くぞ!」

魔王「来い!」

 奇しくもその姿は

大臣「やっ、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 “魔王”を倒さんとする、“勇者”のようだった。


185: 1 2012/09/07(金) 22:12:53.14 ID:t4MUEh0AO

 魔王はギリギリで大臣を突き飛ばした。
 魔法使いは心臓に剣を突き刺した。

 大臣の最後の足掻きによって魔法使いの脇腹がえぐれた。
 また、大臣の背から飛び出した剣が魔王の肺を突き刺した。

魔法使い「大臣――あなたが二つの国を一つにして、王になると言うのなら」

 魔法使いは口から血を流しながら、死に行く大臣に囁く。


魔法使い「私は三つ目の国を――混血の国を作る」


大臣「ば……か…め…」

魔王「ふん――お前、らしい」

 魔法使いと魔王は顔を見合せ、そして笑った。

186: 1 2012/09/07(金) 22:13:39.67 ID:t4MUEh0AO



「「チェックメイトだ、大臣」」



187: 1 2012/09/07(金) 22:18:46.82 ID:t4MUEh0AO
 大臣が息を引き取ると同時に処刑場が音を立てて崩壊する。
 激しい戦闘のせいで限界を迎えていたのだ。


魔王「あー…、もう、動けねぇ」

魔法使い「私も…」

 並んで横たわりながらぼそぼそと会話をする。

魔王「傷、酷いな。平気か」

魔法使い「そっちこそ、ひゅうひゅういってるじゃないか」

魔王「はは」

魔法使い「あはは」

蝙蝠「マオウサマ!マホウツカイ!」

魔王「おう、蝙蝠、か。逃げた方がいいぞ」

蝙蝠「オイテニゲラレナイヨ!ボク、バリアハレル!」ポワン

188: 1 2012/09/07(金) 22:23:03.56 ID:t4MUEh0AO
魔法使い「魔法…使えたんだ」

蝙蝠「イッタジャナイ!ボク、ツヨインダヨ!」

魔法使い「うん、強いよ」

 魔王がずるずると魔法使いに手を伸ばす。

魔王「悪いな…おれの血をお前にやれればいいんだが、動けなくて」

魔法使い「いいよ。私だけ治っても、さ」

 魔法使いからも手を伸ばし、それから固く繋いだ。

蝙蝠「ズットイッショダネ!」

魔王「ああ」

魔法使い「うん」


 そして、瓦礫に沈んだ。


189: 1 2012/09/07(金) 22:29:58.91 ID:t4MUEh0AO
――城門

僧侶「あ…処刑場が…」

剣士「崩れていく…」

僧侶「あ!魔法使いさんは!?」

側近「……」

魔大臣「転移、してこないな……」

側近「…そうだな」

ゴブリン「嘘だろ…」

国王「……奇跡が起こると思ったが、のう」

マスター「…どうしました?」

国王「奇跡が起きて…あの子らが『勇者』と認められるかと思ったが」

国王「無事にあそこから帰ることができると思ったが…」

側近「勝手に魔王さまを殺すな。それに――」

側近「『勇者の剣』が使えないのは、あの人たちらしいじゃないか」

190: 1 2012/09/07(金) 22:32:21.24 ID:t4MUEh0AO
――どこかの宿場街

女将「……ん?」パチ

女将「嫌だね…こんな時間に起きちゃうなんて」ゴシゴシ

女将「……」

スタスタ ガラッ

女将「城でなにかあったのかな……?」

191: 1 2012/09/07(金) 22:35:24.62 ID:t4MUEh0AO
――どこかの街

少女「おかーさん…」

少女母「あら…どうしたの?」

少女「怖い夢、みたの」

少女母「どんな?ほら、こっちにおいで」

少女「あたしを助けてくれた天使さんがね…地面に飲み込まれちゃうの」

少女母「まあ…」

少女「天使さん、大丈夫かなぁ」

少女母「大丈夫。きっとどこかで元気でいるわ」

192: 1 2012/09/07(金) 22:38:14.93 ID:t4MUEh0AO
――魔王城

人魚「?」

サキュバス「どうしたの~?トイレ近いの?」

人魚「うっさいわ!…こう、なんか胸騒ぎが…」

サキュバス「……」

人魚「きっと、大丈夫だと思うんだけど…心配だわ」

サキュバス「いいこと教えてあげる」

人魚「なによ?」

サキュバス「動悸がするなら多分それ更年期障 バシャッ!

201: 1 2012/09/08(土) 22:22:27.08 ID:NmHZusgAO
――瓦礫周辺

剣士「城が全壊しなくて良かった、というべきか…」

僧侶「その可能性もあったと思うと寒気がしますね…」

側近「む…」

 側近は空が明るいことに気づく。
 夜明けだった。

側近「あ、一睡もしてない」

魔大臣「寝るなんてこと忘れていたよ」

トロール「数日は眠らなくても大丈夫ダ」

ミノタウロス「なんだか気が緩んだ瞬間にどばっと眠気くるわな」

ゴブリン「なんかすいやせん……」

師匠「そんなことより早くあの二人を見つけんと」

202: 1 2012/09/08(土) 22:27:08.07 ID:NmHZusgAO
剣士「そうだった!おーい魔法使ーい!」

マスター「魔力とかで辿れないのか」

側近「魔王さまたちはかなり弱っているらしく、魔力が拾えない状態だ」

僧侶「そんな…!早くしないと!」パタパタ

剣士「ちょ、僧侶、お前ただでさえバランス取りにくいんだから」バタバタ

黒髪の男「……」

側近「先代魔王さま、分かりますか?」

黒髪の男「あっちらへんかな」ビシ

側近「そんな大雑把な!?」

ミノタウロス「魔王さまー!」

ワアワア

師匠「……おい、馬鹿息子」

203: 1 2012/09/08(土) 22:32:45.93 ID:NmHZusgAO
黒髪の男「なんでしょうか」

師匠「正確な位置も分かっとるだろ」

黒髪の男「そういうあなたも」

師匠「……」

黒髪の男「……」

師匠「人間と魔物が共に協力して探しあっているからの」

師匠「争いもせずひとつのことだけを必死にやっておる」

黒髪の男「これが、お互いの大きな一歩となればいいのですが」

師匠「仲良しこよしになれとはいわんが、必要な時に手を組める仲になれればいいな」

黒髪の男「まったくです」

師匠「……」

黒髪の男「……」

師匠「…孫がそんな悠長なこと言ってられない状態だったらどうしよう…」

黒髪の男「……あいつの悪運に祈ります」

204: 1 2012/09/08(土) 22:38:15.00 ID:NmHZusgAO
オーイオーイ

ドコダー

側近「魔王さまー!小娘ー!」

僧侶「魔法使いさぁーん!」

剣士「魔法使い!いたら三秒以内に返事しろ!さん、に、いち」

側近「アホやっとる場合かーー!!」ザク

剣士「ぎゃあああああ」

キラリ

僧侶「あれ?」

剣士「どうした?」ズキズキ

僧侶「あそこで何か光ったような…」

剣士「?」

側近「?」

スタスタ


205: 1 2012/09/08(土) 22:41:37.95 ID:NmHZusgAO
僧侶「紐の切れた…真珠のペンダントですかね」

側近「なに!?」

剣士「知っているのか鷹さん!」

側近「これは……もしかしたら近くにいるかもしれない!」

ミノタウロス「本当か!」

魔大臣「ではここら辺を慎重に探さないと…」

僧侶「!」ピキン

側近「!」ピキン

剣士「な、なんだ。なにを受信モガモゴ」

僧侶「しっ……何か聞こえませんか?」

剣士「え?」

…-ン ココダ… キヅ…テ

側近「……そこか?」

ゴブリン「この大きな瓦礫の下に?」

206: 1 2012/09/08(土) 22:46:58.48 ID:NmHZusgAO
側近「トロール!」

トロール「はいヨ。よっこいしョ!」ゴゴゴ

全員「!」

蝙蝠「シヌカトオモッタヨ…ヨクマリョクモッタヨネ…」

側近「蝙蝠!」

魔大臣「魔王さま!」

剣士「まほ」

僧侶「魔法使いさんっ!」

剣士「……」

 服は裂け、血が滲み、怪我は酷い有り様だった。

 しかし二人は穏やかに眠っていた。
 魔王は腕で魔法使いの頭を守るように、魔法使いは翼で魔王を守るようにして。


207: 1 2012/09/08(土) 22:51:22.41 ID:NmHZusgAO
魔大臣「……『気に入らないなら、すべて終わってから殺せ』と言われたが…」

側近「……」

魔大臣「殺せるか。こんなに、身をすり減らしてまで戦った彼女を」

ミノタウロス「そうだな…」

トロール「うン」

ゴブリン「ああ…えっ、女なの?」

僧侶「ち、治療!治療しないと!」

 まずは血だらけの魔王から癒していく。

僧侶「肺を貫かれてますが…生きて、ますよね?」

黒髪の男「肺が一個潰れたぐらいで死にゃせんよ」ザッ

剣士「さ、さすが“魔王”…チートだ…」

208: 1 2012/09/08(土) 22:55:48.44 ID:NmHZusgAO
 肺から血を抜いた後に組織を繋いでいく。
 僧侶の額には汗が浮いていた。

側近「手伝いの衛生兵を呼ぶか?」

僧侶「いいえ…怪我人の方を治療するのでいっぱいいっぱいでしょうから」

 次は魔法使いを。
 彼女は少しずつ自己再生をしていたおかげで早く終わった。

僧侶「ふぅ…」フラッ

剣士「僧侶!」ガシ

僧侶「えへへ…すみません、剣士さん」ニコ

剣士「!」カァア

ゴブリン「甘酸っぱいな…」

魔大臣「時場合場所を考えろやおまえら」

209: 1 2012/09/08(土) 23:04:17.17 ID:NmHZusgAO
魔王「……う」

側近「魔王さま!」

魔大臣「魔王さま!」

魔王「なんだ…生きているのか?おれ」

ゴブリン「生きてますよ!」

魔王「なぜだか知らんが……死んだはずの父上が…」

黒髪の男「ちょっと待てお父ちゃんは死んでないぞ」

魔王「あ、祖父上。お久しぶりです」

師匠「おう」

黒髪の男「むきぃー!」
魔王「?傷が治ってる」

僧侶「わたしが治癒をかけさせて貰いました。違和感はありますか?」

魔王「いや、ない。また助けられたな」

僧侶「」パクパク

魔王「……だから礼を言ったぐらいで驚くなよ」

210: 1 2012/09/08(土) 23:09:58.30 ID:NmHZusgAO
蝙蝠「ネー、マホウツカイハー?マホウツカイ、オキナイヨ?」

魔大臣「確かに…起きる素振りもない」

僧侶「わたし、何か至らないことが…」

師匠「いや」

 魔法使いの傍に立ち、屈んでそっと髪を梳く。

師匠「まだ――もう少し眠りたいのだろう」

魔王「……」

師匠「お前もだが、この子も頑張った。少し休ませてやれ」

魔王「はい」

側近「あの、前々代魔王さまは小む…魔法使いと会ったことが?」

師匠「弟子じゃ」

全員「弟子!?」

黒髪の男「とんでもない師匠をもったもんだな…」

僧侶(そういえば弟子とかなんとか言ってましたね)

211: 1 2012/09/08(土) 23:15:14.48 ID:NmHZusgAO
魔王「じゃ、一旦帰る」

剣士「そんな軽く!?」

魔王「安心しろ、ちゃんと直しにくる。今は体力が限界だ」

マスター「そうだな。こちらも少し休もう」

国王「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

剣士「国王さま!?こんな危ないところを!」

国王「こ、今回は助かった。礼を言う」

魔王「まあボロボロだけどな、あんたの城」

国王「それは…うん、まあ、仕方ないんじゃ、うん」

僧侶「国王さま…目が泳いでいますよ」

黒髪の男「直すってば」

212: 1 2012/09/08(土) 23:19:50.71 ID:NmHZusgAO
魔王「側近、魔大臣。兵の撤退を」

側近「はっ」

魔大臣「畏まりました」

魔王「またな」ヒョイ

側近(小娘を姫抱っこした)

剣士「…ああ。魔法使いを頼む」

僧侶「起きたら顔を見せにきて欲しいと伝えて下さい」

魔王「どっちにしろこいつも駆り出すから顔は見せられるだろう」

側近(駆り出すんだ!?)

魔大臣(鬼だ!?)

魔王「緊張緩んで怪我とかすんなよ。魔法使いが悲しむから」

シュンッ

僧侶「一気に消えた…」

剣士「夢みたいだったな…」

マスター「この惨状も夢にしたいな」

剣士「寝るか」

マスター「寝よ寝よ」

213: 1 2012/09/08(土) 23:30:13.20 ID:NmHZusgAO









214: 1 2012/09/08(土) 23:31:18.18 ID:NmHZusgAO
――魔法使い家

母「ほら、起きて」ユサユサ

魔法使い「ふに?」

母「寝るならベッドで寝なさいな」

魔法使い「んー…このソファ寝やすいんだもん」

母「もう。風邪引くわよ?」

魔法使い「うっ…それは嫌だ。起きる」

母「紅茶入れるけど、飲む?」

魔法使い「うん」

母「何か夢でも見ていたの?けっこううなされていたけど」

魔法使い「あ、やっぱりうなされていたんだ」

母「お父さんが聞いていたら医者を呼ぶぐらいにね」

215: 1 2012/09/08(土) 23:37:45.58 ID:NmHZusgAO
魔法使い「そんな大げさな――とは言いたいけど、あり得るね…」

母「あの人の親ばかには呆れるわ」コポコポ

魔法使い「まったくだよ。女らしいカッコしろとか、なんとか」

母「わたしは似合ってると思うけどね、そのままでも」コト

魔法使い「ありがとう」ズズッ

母「それで、魔法使い」

魔法使い「うん?」

母「どんな夢見ていたの?」

魔法使い「ああ…聞いてよ。すごく変な夢だったんだ」

魔法使い「まずね、勇者が死んで魔王と出会うんだ――」

216: 1 2012/09/08(土) 23:42:18.59 ID:NmHZusgAO
母「波乱の幕開けね」

魔法使い「でしょ?それでね――」


母「人魚かぁ、会ってみたいわね」

魔法使い「私も会わなかったけど。夢なのに」


母「なに?わたしたち死んじゃってるの?」

魔法使い「う、うーん、そうみたい」


魔法使い「で――」

母「へぇ――」


魔法使い「大臣が――」

母「あらま、黒幕だったの――」


母「あなたバッタバッタ殺りすぎよ」

魔法使い「なんかすごい人数たおしてるよね……」

217: 1 2012/09/08(土) 23:45:52.62 ID:NmHZusgAO
魔法使い「ってところで、おしまい!」

母「うたた寝なのに随分と長い夢だったのね」

魔法使い「不思議だね」

父「ただいま」ガチャ

魔法使い「お帰りなさい、おとうさん」

父「外はまだ冷える。母さん、温かいのくれ」

母「ちょっと待ってて」

魔法使い「おとうさん羽毛あるのに」

父「抜け毛の時期間違えたんだ…今抜けている…」

魔法使い「暖炉の前にずっといるからだよ…」

母「もしかしたら抜ける歳かもね」

父「!?」

魔法使い「おとうさんが幽体離脱を起こしたんだけど、おかあさん」

218: 1 2012/09/08(土) 23:49:15.65 ID:NmHZusgAO
父「まだ禿げないからな!」

魔法使い「そんなムキにならなくでも。そもそも人間じゃないんだから」

母「皮膚病かもね」

父「!?」

魔法使い「ちょっと止めてあげてよおかあさん」

母「ほらあなた、お茶を入れたわよ。手作りクッキーもあるわ」

魔法使い「すごい顔で固まったままのおとうさんを無視したね」

母「冷めてしまうわ」

父「ありがとう母さん」ズズ

魔法使い「おとうさんは立ち直り早いなぁ…」

223: 1 2012/09/09(日) 20:21:04.47 ID:xRvxQtXAO
父「しかし魔法使いもいつの間にか大きくなったな」

母「そうねぇ。ちょっと前は泣き虫だったのに」

魔法使い「いつまでも泣き虫じゃないよ」

母「そう?」ウフフ

魔法使い「……で、さ」

魔法使い「私、死んだの?」

父「ん?」

母「あらあら」

魔法使い「ここは、現実…じゃないよね」

魔法使い「私がこの十代後半の姿になる頃はおかあさんはもうお婆さんのはずだよね」

母「人間だからね」

魔法使い「でも若いよね」

母「あらあら、何も出てこないわよ」

224: 1 2012/09/09(日) 20:26:31.44 ID:xRvxQtXAO
魔法使い「あの日のまま、止まってる。何もかもが」

父「……」

母「……」

魔法使い「私だけが進んでいる」

父「うん、さすが僕らの娘だ。気づいてしまったか」

母「気づかなかったら気づかないままで良かったんだけど」

魔法使い「ここはどこなの?私はもう『いない』の?」

父「まあ落ち着きなさい。これが恐らく最初で最後だ」

魔法使い「……」

父「都合の良い夢か、はたまたあの世に君がいるのか。どっちがいい?」

魔法使い「どっちも良くない。夢ならすべてが自作自演だから」

225: 1 2012/09/09(日) 20:35:54.33 ID:xRvxQtXAO
母「なら、ここは生死にさ迷うあなたがちょっとだけこちらに来てるってことにしましょう」

魔法使い「いいのか。それでいいのか」

父「魔法使い」

魔法使い「なに?」

父「よく頑張ったよ」

魔法使い「……たくさん殺したけど、ね」

父「ああ、大団円にしては君は殺しすぎた」

父「だから、彼らの死を無駄にさせてはいけない」

魔法使い「分かってる」

母「あと好きな人の前ではあんな顔晒さないようにね?フラれちゃうわよ」クスクス

魔法使い「な、なんの話!?」

226: 1 2012/09/09(日) 20:40:04.57 ID:xRvxQtXAO
コン

魔法使い「!誰かドアを…」

コンコン

父「……」

母「……」

魔法使い「ちょっと待って、開けてくる」

母「いいの?」

魔法使い「え?」

母「そのドアの向こうには、苦しみや壁が立ちはだかっているわ」

母「ここにいてずっと穏やかにいたほうが幸せじゃないかしら」

父「母さん」

母「あなたが混血として生きることを決めた次に…もしかしたらそれ以上に大きな選択よ」


227: 1 2012/09/09(日) 20:44:45.53 ID:xRvxQtXAO
コンコン

魔法使い「私は……」

父「時間はないだろうが、悩みなさい。君だけが決められる選択だ」

魔法使い「私だけの」

父「そう。魔法使い自身はどうしたい?」

コンコン

魔法使い「……」

魔法使い(ここにいれば、もう痛い思いをせずに済む)

魔法使い(おかあさんもおとうさんもいる)

魔法使い「……」

魔法使い「おかあさん、おとうさん」

母「どうしたの?」

父「なんだい?」

魔法使い「私のこと、どう思ってる?」

母「そりゃあ」

父「もちろん」

両親「愛してる」

母「……どこにいたってね?」

228: 1 2012/09/09(日) 20:48:48.93 ID:xRvxQtXAO
魔法使い「ありがとう」ニコ

魔法使い「やっぱり私はいかなくちゃいけない」

魔法使い「やらないといけないこともあるし、なにより」

魔法使い「傍にいたい人がいるから」

父「そうか」

魔法使い「全部全部終わったら、また会いに来るね」

母「お土産話期待してるわ」

魔法使い「それじゃあ――いってきます」


ガチャ



229: 1 2012/09/09(日) 20:52:46.18 ID:xRvxQtXAO
――魔王城、一室

魔法使い「!」ハッ

魔王「っ」サッ

魔法使い「ま、魔王?今何をしていた?」

魔王「……なんでもない」

サキュバス「なにって、そりゃ眠り姫を起こすためにはモゴモゴ」

側近「空気読め!!」

魔法使い「というか、ここは一体……?」

魔王「城だ」

魔法使い「誰の?」

魔王「おれの」

魔法使い「嘘っ!?」

人魚「魔王さまは嘘なんかつかないわよこの泥棒猫!」

ゴブリン「こっちにかけるなぁぁぁぁ!!」

魔法使い(に、賑やかだ)

230: 1 2012/09/09(日) 20:58:05.28 ID:xRvxQtXAO
魔法使い「ちょっと待て、なんで私が魔王城にいるんだ!?」

魔王「成り行きで」

魔大臣「気づいたらお持ち帰りを」

魔法使い「お持ち帰りって……」

ミノタウロス「一応恩人ですし?」

蝙蝠「チューシタナカジャナイ」

人魚「なんですってぇぇぇぇ!?一回以上キスしてたんですか!?」

魔王「……」テレッ

人魚「無理してでも加わるべきだったわー!」バシャッ

ゴブリン「」グッショリ

魔法使い「え?一回以上ってことは、やっぱりさっきのは…」

魔王「言うな」

魔法使い「……」

231: 1 2012/09/09(日) 21:13:36.51 ID:xRvxQtXAO
魔法使い「え、ええとこの方たちは?」

魔王「おれの部下。非戦闘員だ」

サキュバス「奮闘したんでしょ?お疲れ☆」

人魚「ふ、ふん。べ、別によく頑張ったなぁとか思ってないんだから」

サキュバス「おばさんのツンデレは痛い…」ボソ

人魚「あ?」

魔法使い「どうも……」ペコ

側近「小娘、身体の具合はどうだ」

魔法使い「背中がひきつってますが、その他は特に。どのぐらい眠って…?」

魔王「丸三日寝ていた」

魔法使い「わお」

232: 1 2012/09/09(日) 21:18:36.92 ID:xRvxQtXAO
魔王「あと人間の城はまだ直ってない。からお前も手伝いにいけ」

魔法使い「ああ」

側近「本当にいかせるんだ……」

ミノタウロス「容赦ない…」

魔法使い「…ん?どうしてまだ直らないんだ?魔物さえいれば」

サキュバス「人間のものだからできるだけ人間で直したいんだって☆」

魔王「だから重いものを持ち上げるなどの手伝いをしてる」

魔法使い「魔王がか?」

魔王「空いた時間にな」

魔法使い「律儀だな」フフ

側近(あ、これ二人の世界に入ったや)

233: 1 2012/09/09(日) 21:25:00.70 ID:xRvxQtXAO
側近「じゃあこちらは仕事してくるんで、では」グイグイ

ゴブリン「えっえっ」

ミノタウロス「なんだなんだ」

蝙蝠「ボクマデ?」

サキュバス「バイ☆」

人魚「ちょ」ガラガラ

ワアワア

ガチャ

魔王「なんだいきなり…」

魔法使い「」ポカーン

魔王「…大勢の前じゃいえない話でもするか」

魔法使い「そうだな。あ、翼しまってくれたんだ」

魔王「寝る時邪魔だろうと思ってな」

魔法使い「ありがとう」

魔王「どうも」

234: 1 2012/09/09(日) 21:39:18.30 ID:xRvxQtXAO
魔王「それで?お前は本当に混血の王となるのか」

魔法使い「ああ」

魔王「王というだけで首の価値があがる。ましてや混血だ」

魔王「おれ以上に変なやつが命を狙いに来るぞ」

魔法使い「…狙われてるんだ」

魔王「週一で」

魔法使い「!?」

魔王「生半可な気持ちならやめておけ」

魔法使い「生半可ではない。私はもう決めたんだ」

魔法使い「混血の迫害を無くす。不当な扱いを受けさせないようにする」

魔王「ほう」

魔法使い「すぐには不可能だろうが…まずは始めなければ」

235: 1 2012/09/09(日) 21:51:16.43 ID:xRvxQtXAO
魔王「忙しくなるな。まずは混血の現状を知らなくてはいけない」

魔法使い「だとすると、また旅だな」

魔王「そうだな」

魔法使い「魔王は?」

魔王「なんだ?」

魔法使い「魔王は、その…旅に、こないのか?」

魔王「そんなに城を空けるわけにもいかないからな」

魔法使い「…そうか」

魔王「なんだ?いっしょに来て欲しいのか?」ニヤニヤ

魔法使い「ば、ばか!別にそんなんじゃないから!」

魔王「ま、安心しろ。おれはここにいる。お前の知らないところには行かない」ポンポン

魔法使い「……ん」

236: 1 2012/09/09(日) 22:21:35.84 ID:xRvxQtXAO
――魔王城、食堂

側近「甘!?」

人魚「コーヒーに砂糖入れた?」

側近「わ、分からない…ただいきなり甘くなって…」

ミノタウロス「はい?」

237: 1 2012/09/09(日) 22:29:43.62 ID:xRvxQtXAO
――人間の城

キュウケイニスルベー

オー

僧侶「あ」ピキン

剣士「どうした?」

僧侶「なんだか、魔法使いさんが目覚めた気が」

剣士「なんなんだその能力は…ところでさ、僧侶」

僧侶「はい」

剣士「昨日、魔王と何か話していたじゃないか。なんだったんだあれ?」

僧侶「ああ……。この話、内緒ですよ?」

剣士「え、うん」

僧侶「わたし、もしかしたらあと五年も生きられないかもしれないんです」

剣士「はぁ!?」

僧侶「しぃ」

剣士「ご、ごめん」

238: 1 2012/09/09(日) 22:34:44.95 ID:xRvxQtXAO
僧侶「あの薬の副作用、だそうです。本来なら十年だとか言われてますが――」

僧侶「…治癒魔法はかなり身体に負担をかけます。そのことから考えるに、五年かと」

剣士「う――嘘だろ……」

僧侶「いえ…確かに、身体は弱くなってきているんです」

剣士「……」

僧侶「だから、魔王さんからあるものを渡されたんです」

剣士「あるもの?」

僧侶「魔法使いさんの血です」

剣士「ええ!?」

僧侶「こっそり抜いてきたとか言っていました」

僧侶「あ、魔法使いさんに言わないでくださいね。なんとなく顔が合わせづらくなるので…」

剣士「わ、分かったよ」

239: 1 2012/09/09(日) 22:39:46.02 ID:xRvxQtXAO
僧侶「あるんだそうです。混血の血には、寿命を伸ばすモノが」

剣士「……噂とかではなかったのか」

僧侶「今回飲んだ血でいうなら、あと七、八年は生きられます。二年延長ですね」

僧侶「もしお婆さんになるまで生きたいというなら――それこそ、人一人分飲まなくてはいけません」

剣士「結果的に魔法使いの血をすべて…」

僧侶「はい。…でもいいんです。短い時間でも、充実していれば」

剣士「僧侶……」

僧侶「剣士さん」

剣士「な、なにかな」

僧侶「わたしとあなたは結ばれることができません。神に仕える身ですから」

240: 1 2012/09/09(日) 22:42:34.30 ID:xRvxQtXAO
剣士「うん?……うん?」

僧侶「だけど――いっしょにいることはできます」

剣士「それってつまり…」

僧侶「はい……剣士さんの傍で、生きていていいですか?」

剣士「……」

剣士「もちろんだ!」




マスター「よくやったな…」グスッ

老兵「あいつらも空で喜んでるだろうな…」グスッ

241: 1 2012/09/09(日) 22:54:51.56 ID:xRvxQtXAO
――魔王城、一室

魔王「……まだ、この城には混血を忌むものがいる」

魔法使い「……」

魔王「無理矢理強制して考えを変えさせるつもりはない。逆効果だからだ」

魔法使い「そうだな」

魔王「だが、諦めなければ少しずつ混血に対する認識も変わるだろう」

魔法使い「……」

魔王「お前がここで認められるまで時間はかからないと思うが――その時は」

魔王「おれもお前もやるべきことが一段落したら」

魔法使い「…うん」


242: 1 2012/09/09(日) 23:05:07.33 ID:xRvxQtXAO
魔王「……おれと、結婚してくれないか」

魔法使い「うん…喜んで」

243: 1 2012/09/09(日) 23:11:42.65 ID:xRvxQtXAO

 かくして、少女と青年は結ばれた。

 そこに行くまで血に濡れた道ではあったけれど。

 その後をここで足早に語るのは彼らに失礼というもの。

 またいずれか、出会う機会があったときに話そう。







246: 1 2012/09/09(日) 23:21:18.15 ID:xRvxQtXAO
【ない】

魔法使い「」

サキュバス「二日も起きないね~」

人魚「…なんでわたし達が看病しないといけないのよ」

サキュバス「だって手が空いてるから☆」

人魚「恋敵の看病なんかできるかー!」ウガー

サキュバス「……本当に恋敵かな」

人魚「え?」

サキュバス「なんか…男の子っぽいんだよね」タユン

人魚「まあ確かに」タユン

魔法使い「」ゲソッ

サキュバス「調べてみるね☆」ゴソゴソ

人魚「ちょっ」

サキュバス「……」

人魚「さ、サキュバス?」

サキュバス「………上の膨らみも下のあれも、両方ない」

人魚「えっ」

247: 1 2012/09/09(日) 23:24:17.08 ID:xRvxQtXAO
【魔法使いが起きる前】

魔王「起きないな」

側近「一体なにが原因で…」

魔大臣「……す」ボソ

側近「ん?」

魔大臣「ほら、あるじゃないかおとぎ話で……目を覚まさせるために、キスを…」

ミノタウロス「!」

ゴブリン「!」

蝙蝠「チュー!」

人魚「なんですってぇ!?」

サキュバス「やってみなよ魔王さま☆」

魔王「……本当に起きるんだろうか」スッ

 起きた。

248: 1 2012/09/09(日) 23:26:06.99 ID:xRvxQtXAO
【NG】

「「チェックメイト(アウト)だ」」

魔法使い「……」

魔王「……」

大臣「……」

魔王「テイクツーで」


249: 1 2012/09/09(日) 23:27:49.59 ID:xRvxQtXAO
【ピーヒョロロ】

魔法使い「側近さん、序盤ではよくピーヒョロロって言っていたけど最近言いませんね」

側近「……あれな。鳶の鳴き声だったんだよ」

魔法使い「……」

250: 1 2012/09/09(日) 23:30:48.41 ID:xRvxQtXAO
【泥棒猫】

人魚「あれから考えたんだけど」

魔法使い「はい」

人魚「泥棒猫より泥棒鷲よね」

魔法使い「そんなこと言われましても」

251: 1 2012/09/09(日) 23:31:14.20 ID:xRvxQtXAO
以上です。では

280: 1 2012/09/12(水) 23:43:23.59 ID:ETZ/leJAO
【捕獲】

魔法使い「くっ」ダダダ

メイド「お待ちなさい!」ザッ

魔法使い「!」

メイド2「うしろにもちゃっかりいるんですよねぇ」ザッ

魔法使い「……どいてくれ。危害は与えたくない」

メイド「それはできません」

メイド2「大人しくすればすぐ終わるよ」

メイド長「肯定。わかりましたら早く自室へお戻り下さい」ザッ

魔法使い「…断る」

メイド「抵抗はさせませんよ?」

メイド2「今日という今日こそ―――」

メイド長「願望。ドレスを着てもらいます!」

魔法使い「やだー!!そんなフリフリやだー!!」ズルズル



蝙蝠「ナニアレ」

側近「…男服になれてしまったんだな…」


281: 1 2012/09/12(水) 23:48:17.36 ID:ETZ/leJAO
【サイズ】

※魔法使いが目覚めてない時の会話

メイド「魔法使いさまは胸当てにサラシ使っていましたね」

メイド長「熟考。……ブラを作るべきですね」

メイド2「じゃあまだ目覚めないと思いますし、測ってきましょう」

メイド長「了解。お願いします」

……

メイド2「……」

メイド「どうだった?」

メイド2「トリプルエー………でした」

メイド長「えっ」

282: 1 2012/09/12(水) 23:52:19.80 ID:ETZ/leJAO
【側近】

側近「これを――ああして――」テキパキ

側近「ここはこうして――こうなれば――」テキパキ

蝙蝠「ホワァー」

側近「なんだ」

蝙蝠「タカサン、オオイソガシダネェ」

側近「魔王さまの次には忙しいだろうな」

蝙蝠「ツカレナイ?」

側近「正直、魔王さまと小娘のなかなか縮まらない距離を見る方が疲れる」

蝙蝠「タシカニ」

283: 1 2012/09/12(水) 23:55:41.30 ID:ETZ/leJAO
【キャベツ畑で】

魔法使い「そろそろ春か」

魔王「そうだな」

魔法使い「赤ちゃんがキャベツ畑から生まれる時期だな」

人魚「」

側近「」

サキュバス「」

魔王「馬鹿だな。コウノトリが運んでくるんだろう?」

魔法使い「あ、そうか」

ゴブリン「」

ミノタウロス「」

トロール「」

魔大臣「」

284: 1 2012/09/12(水) 23:59:51.15 ID:ETZ/leJAO
【健全】

サキュバス「魔王さまと魔法使いちゃんが同じベッドで寝た!?」

ゴースト「どうやら寝ぼけて魔法使いさまが魔王さまのお部屋に入られたそうで」

人魚「きぃぃぃぃ!!」

ゴブリン「落ち着け!」

ミノタウロス「見に行こうぜ!」ガッターン

側近「座れ馬鹿!!」

サキュバス「どうなの?どうなってるの?」ワクワク

ゴースト「なんというか……」


魔王「……」スー

魔法使い「……」スー


ゴースト「――と、すごく健全に寝ていました」

魔大臣(魔王さまにマムシ仕込んでおくか……?)

286: 1 2012/09/13(木) 00:03:33.36 ID:UCaGdUeAO
【帰還】

蝙蝠「タダイマ!」

蝙蝠父「我ガ子ヨォォォォォォォォ!!」バッ

蝙蝠「」サッ

ドンガラガッシャーン

蝙蝠母「強クナッタワネ」

蝙蝠「ソウカナ?」

蝙蝠母「エエ。オトウサン、抱キツキ技ヲ磨イテイタノニ」

蝙蝠「ボク、オトウサンノショウライガシンパイ」

蝙蝠母「怪シスギテ、アヤウク警察呼ビカケタワ」

287: 1 2012/09/13(木) 00:06:49.35 ID:UCaGdUeAO
【新事実】

蝙蝠「タカサン、ケッコンシナイノー?」

側近「妻子持ちだが」

蝙蝠「エッ」

側近「それがなにか」

蝙蝠「ドクシンダトバカリオモッテタノニ…」

側近「おい」

蝙蝠「コンキ、シショサンミタイニ、ノガシテソウダッタノニ…」

側近「ヤバイ!司書がものすごい顔で走ってきてるから逃げろ!!」

288: 1 2012/09/13(木) 00:09:42.39 ID:UCaGdUeAO
【勇者】

魔王「他の国から“勇者”が来てるらしい」

魔法使い「ええっ!?」

魔王「くくく、どうする?おれがやられてしまったら」

魔法使い「この世界を滅ぼす」

魔王「愛されてて光栄だよおれ」

 勇者は途中でホームシックにかかり帰った。

289: 1 2012/09/13(木) 00:12:20.38 ID:UCaGdUeAO
【】

人魚「その胸の乏しさどうにかならない?」

魔法使い「……」

サキュバス「殺意抑えて」

人魚「マッサージしてみたら?大きくなるらしいわよ」

魔法使い「こうですか?」ゴリゴリ

人魚「ええ」

魔法使い「痛いんですけど」ゴリゴリ

サキュバス(揉んでる、というか撫でてるようにしか)

290: 1 2012/09/13(木) 00:18:06.02 ID:UCaGdUeAO
【甘い】

魔法使い「しばらく、混血の王として活動してくる」

蝙蝠「ボクモイク!」

魔王「……そうか。部屋をしばらく空けるのか?」

魔法使い「うん。生まれ育った場所も行ってみたいし」

魔王「ほう」

魔法使い「あと、呼ばれればすぐ帰るから」

魔王「それでも寂しくなるな」ワシャワシャ

魔法使い「別に永遠に置いていくわけじゃないし」ワシャワシャ



側近「甘いな」

魔大臣「甘いな」

蝙蝠「マタクウキヨンジャッタヨ」