1: 忍法帖【Lv=28,xxxPT】 2012/03/30(金) 20:17:58.04 ID:bSYR3zf90

伊織「ん、春香。何か言った?」

春香「ううん、何でもないよ~」

伊織「そう。歩いてるんだから、ぼーっとしてるとこけるわよ」

そう言いながら伊織はわたしの手を取ってくれた。

伊織「…もしかして、アンタがいつもずっこけたりするのって、今みたいに上の空になるせい?」

春香「んー、そうかも…。えへへ、自分でも未だに何でかわかんないや~」

伊織「まあ別に良いわ。ただそうだとしたら一緒に居るのに心有らずってのは、ちょっとムカつくわね」

春香「そういう訳ではないんだけどね~。伊織の事好きだし、退屈ってわけでもないんだけどなぁ。」

伊織「ならそう思われないようにしなさいよ」

春香「はーい」

引用元: 春香「…わたしの好きな人は、伊織だよ?」 



2: PC調子悪いので、少しの間携帯で 2012/03/30(金) 20:25:14.08 ID:uJ2PHpfJO
伊織「とりあえず今日は生っすかなんだから、少しはシャキッとしなさいよね」

伊織「私たちの看板番組だし、生放送で編集が効かないんだから」

春香「うんうん。心配ありがと。んんー、伊織は優しいね~」

伊織「…アンタがMCなんだから、コケたら私たち全員が困るじゃない。当たり前よ」

春香「そうかもね~」

繋がれた手をひっぱって走り出す。信号を超えてたるき亭の前を走り抜け、765プロへと続く階段を一足飛びで駆け上がる。

伊織「ば、ばか。速いわよ」


肩で息をしている伊織を引っ張りながら、ドアを開ける。

春香「おはよー!」
伊織「お、おはよう」ゼーハー

千早「おはよう、春香、水瀬さん。水瀬さん…大丈夫?」

3: 忍法帖【Lv=28,xxxPT】 2012/03/30(金) 20:26:38.93 ID:bSYR3zf90
伊織「…なんとかね」

春香「二人で走って来ちゃった」

亜美「おー、いおりんとはるるん、朝からジョギングダイエットとはアイドルの鏡ですな→」

真美「体型維持は大丈夫だもんね。我々も見習わないとですな~、亜美隊員」

春香「亜美、真美、おはよう」

伊織「勝手に引っ張られて、走らされたのよ。春香みたいにこけちゃうところだったわ」

一同「あははっ」

春香「も~」

春香「えへへっ」

事務所中に笑いが響いた。

4: 忍法帖【Lv=28,xxxPT】 2012/03/30(金) 20:27:52.48 ID:bSYR3zf90
プロデューサーさんの運転で、赤坂のブーブーエスへと向かう。
マイクロバスの二人掛けに座る。隣の席は千早ちゃん。話の内容は仕事の話や他愛のない会話。
伊織はやよいの隣で仲良さそうに笑っている。

伊織「雪歩、これ」

と、不意に、伊織が斜め後ろの雪歩に掌を差し出した。
その上には一つの飴玉。

雪歩「あ、ありがとう伊織ちゃん…」

伊織「今度からは気分悪い時は、自分から言いなさいよ」

雪歩「うん、本当ありがとう…」

確かに雪歩、ちょっと青白い顔をしてる。でも飴を舐めはじめたら顔色が良くなったみたい。

真「ごめんね雪歩、横に座ってるのに気づけなくてさ」

雪歩「ううん…真ちゃんはいつも気にしてくれてる…ありがとう…」

真は申し訳無さそうにしてるけど、雪歩は真に顔を見せないよう手で顔を隠してたから、気付かないのは仕方ないよね。
雪歩、真に心配をかけないようにって思ったんだろうなぁ~…。

5: 忍法帖【Lv=28,xxxPT】 2012/03/30(金) 20:28:43.17 ID:bSYR3zf90


千早「春香?」

春香「は、はい!先生っ!」

千早「ここは学校じゃないわよ」

千早ちゃんはくすりと笑う。

千早「ぼーっとしてたから心配したわ」

千早「そういうのも春香らしくて嫌いじゃないけど」

春香「らしいってどういうこと、どういうこと千早ちゃん?!」

千早「ふふっ」

笑いながら千早ちゃんは窓の外をふっと見る。千早ちゃんは時々こうやって遠い目をするのだ。

P「そろそろ着くぞー、忘れ物の確認だけよろしくな!」

一同「はーい」

6: 忍法帖【Lv=28,xxxPT】 2012/03/30(金) 20:49:54.11 ID:5wWrKCAB0
地下の駐車場に車を停めて、ゾロゾロと降りはじめる。
最後に残ったのはわたしと伊織。
プロデューサーさんに言われたとおり、忘れ物の確認を一通りだけする。

伊織「特に無いわ、降りましょう」

春香「こっちもだよ~」

P「大丈夫か?」

伊織「ええ、問題ないわ」

プロデューサーさんが車に鍵をかけて、三人で連れ立ってミーティングに向かう。

P「今日も伊織はやよいとスマイル体操だから、ミーティングが終わったらすぐ出発だ」

伊織「わかったわ」

P「春香はいつも通りMC、頑張ってくれよ」

春香「まっかせて下さい!」

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 20:51:49.77 ID:5wWrKCAB0

生っすか!サンデーは765プロ所属アイドルみんなが出演する番組だ。
朝にスタッフさんとアイドル全員でミーティング。それで流れを確認をして、そこからロケ地に向かう。
いくつか事前に撮影したものを交えるけれども、基本は生中継。
というわけで、伊織とわたしはほとんど生っすかで一緒になることは無かったりする。
それがちょっと寂しい。

春香「来週は、伊織もスタジオだったらいいねー」

伊織「そうね。そうだったら良いわ。ま、無いでしょうけど」

春香「どうして?」

伊織「事務所が今、売り出したいアイドルのアンタ達がMCなわけじゃない?」

伊織「竜宮小町として既に人気を確保した私が居ても、でしょ?」

春香「あー。なるほどね…」

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 20:52:35.38 ID:5wWrKCAB0

伊織「それにスタジオに居てもやること無いじゃない。アンタ達の邪魔になるだけよ」

春香「そうかなぁ~」

伊織「端から見て、アンタ達のMCぶりはなかなかのものよ」

まだ心配そうに見えたのか、伊織はそう言って優しく微笑んでくれた。

伊織「私が信頼してるんだから、きちんと応えてちょうだい」

春香「うんっ!」

春香「よーし今日もがんばるぞ~!」

伊織「ふふっ」

年下のはずの伊織は、お姉さんのように、大人に笑った。

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 20:53:30.87 ID:5wWrKCAB0
P「みんな、一週間お疲れ様ーっ!」

みんな「おつかれさまー!」

毎週、生っすかが終わった後はお疲れ様会がある。
ブーブーエス近くのホテルのパーティー会場を貸し切って、みんなでワイワイするのだ。
忙しくなった私達が全員で集まれるよう、というプロデューサーさんのアイディア。
パーティー会場といっても借りれる中ではかなり小さな方だし、メンバーも765プロの人間だけだけど。

亜美「ねーはるる~ん!今日のあみまみちゃん、ちょ→面白かったっしょ?!」

春香「うん!本番中なのに腹筋痛くなって困ったよ~」

真美「そっりゃ良かった!てかはるるん今日いつもより冴えてたよね~?」

千早「確かに今日の春香は一段と良かったと思うわ」

春香「そ、そっかなあ…?」

真美「うん、そだよー」

亜美「春香くんには今日の感覚を忘れずに、これからも頑張って頂きたいものですなー」

ええへ、褒めても何も出ないよーと言いながら、真と話している伊織の横顔をちらりと見る。
目線も声も届かないから、心の中でつぶやく。
今日はたぶん、伊織のお陰だよ。ありがとね

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 20:54:23.99 ID:5wWrKCAB0
春香「じゃあね!またあした~」

千早「また、明日」

響「春香、千早おやすみだぞー!」

信号がかわってみんなと反対の道に歩きだすわたしと千早ちゃん。
パーティーが終わった後、千早ちゃんに、「春香、今日はうちに泊まる?」
と聞かれたから、お邪魔することにしたのだ。

千早「今晩は何にする?」

春香「んー、寒いし、あったかい鍋とかどうかなぁ?」

千早「いいわね。もう結構な時間だから、遅くまで空いてるスーパーの方に行きましょう」

以前、千早ちゃんのお宅に泊めてもらって以来、時々お泊りさせてもらってる。

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 20:56:13.42 ID:5wWrKCAB0
千早「…さっきも言ったけれど、今日の生っすか、春香はほんとうに良かったわ」

春香「またまたぁ。千早ちゃんも今日、良かったよ~」

千早「いつも通りミスもあったけど、それで笑いを取れていて、進行も遅れなかったし」

千早「リラックスしてたというのかしら。落ち着いていて、凄いわ」

春香「ありがとね、千早ちゃん」

にっこりと笑う。一緒にMCをしていた千早ちゃんにそう褒められると、ちょっと気恥ずかしくもある。

千早「何かあったのかしら?」

春香「んと、今日の朝に伊織に励まされてね。なんか頑張ろーって思えたんだ」

千早「そう、水瀬さんが…」

千早ちゃんは一瞬、朝のような遠い目ををした。

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:01:28.70 ID:5wWrKCAB0
千早ちゃんは一瞬、朝のような遠い目ををした。

春香「そういえば今日の響チャレンジ、面白かったねー」

千早「そうね、面白かったわ」

春香「まさか貴音さんのラーメン探訪とのコラボとはね~」

千早「大食い対決とは言うものの、四条さんが終始マイペースだったのが愉快だったわね」

春香「ね~っ。貴音さん『響、らぁめんとは、落ち着いて食すものなのです』とか言いながら…」

千早「響の三倍も食べてしまったものね、ふふっ」

千早ちゃんが普段の凛々しい相好を崩して、あどけない表情で笑った。

春香「あああー、食べ物の話をしたらお腹減って来ちゃったよー」

千早「スーパー、急ぎましょうか」

冬の寒空のもと、少女が二人、駆けていく。
ポケットに両手を入れて先を行くわたしのお腹から、ぐーっという音が鳴った。夜空にそびえるビルの群れだけがそれを聞いていた。
…なんて自分でナレーションしてみたけど、千早ちゃんには聞かれてしまってたかもしれない。

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:05:45.25 ID:5wWrKCAB0
千早「ねえ、春香」

電気を消した部屋の中で、千早ちゃんがつぶやく。
お鍋を一緒に食べて、シャワーを順番に浴びたらすぐに眠くなってしまった。
ベッドをわたしに押し付けて、下のお客用布団で寝る千早ちゃんの声は、角度のせいかとてもか細く聞こえた。

千早「私、春香に凄く感謝してるわ」

千早「あなたがいなければここまでやってこれなかった」

春香「…そうかなぁ?」

千早「もし春香がいなかったら、私アイドルをたぶんやめていたわ」

千早「事務所のみんなと仲良くなれたのも、春香がいたから。全部春香のおかげだわ」

それは過大評価なんじゃないかなあ、とわたしは思う。千早ちゃんが765プロのみんなと仲良くなったのは、みんなが遠慮はしないけどお互いに気を使えるいい人たちだから。もちろん千早ちゃんも、そのいい人の一員だ。

千早「だから感謝してるの、あなたにね」

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:07:52.01 ID:5wWrKCAB0
春香「ねえ、千早ちゃん」

春香「あのね、それはわたしだけの力じゃないと思う。もしかして私が千早ちゃんに感謝されるようなことをしたのかもしれない」

春香「でもそれは、私がそれができたのは、765プロって言う暖かい仲間がいたから。みんながいたから、私も勇気をもらえてできたと思うんだ~」

春香「だから私だけに感謝するってのはちょっと違うと思うんだ」

春香「あとね、私感謝されるようなことしてないよ。友達として当然のことをしただけだよ」

千早「…春香、ありがとう」

千早ちゃんはそう言って静かになった。ちょっとしてから、すうっという寝息が聞こえてきたことまでは記憶してる。
ほんのり暖かい気持ちで、わたしも千早ちゃんに続いて夢の世界に落ちていったのだった。

20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:09:24.32 ID:5wWrKCAB0
顔に熱を感じて目を覚ました。太陽の光が、窓からおもいっきり顔に降り注いでいる。
あれ、どこだろここ…。わたしの部屋じゃ…、そっか、千早ちゃんの家に泊めてもらったんだった。

下を見ると、昨日引っ張り出してきた布団に包まって千早ちゃんが寝ている。
起こさないように、気をつけてトイレを借りる。
今朝は何にしよう。昨日買った卵でオムレツなんかいいかもなぁ…って考えながら顔を洗っていたら、千早ちゃんが目を覚ました。

千早「おはよう、春香」

春香「おはよっ、千早ちゃん!」

千早ちゃんは起きてすぐ、伸びをからストレッチを始めだした。そして顔を洗って、普段着に。
やっぱりしっかり者だなと関心しながら卵の焼き加減をチェック。うん、良い感じの半熟。
オムレツをお皿に盛り付け、昨日買ってきた出来合いのサラダのパックと、今まさに焼けたパンと一緒にテーブルへ。
おはよう!朝ごはん!

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:11:59.10 ID:5wWrKCAB0

春香と千早「いただきますっ」

千早「美味しいわ」

春香「よかった~」

卵料理は火加減が大事。ちょっと不安だったけど、千早ちゃんは美味しそうに食べてくれた。

千早「今日も仕事ね」

春香「せっかくの祝日だけど、アイドルだから仕方ないよね」

千早「そうね。春香は今日は午前から?」

春香「うん、伊織とテレビの収録があるよ~」

千早「そう、私は午後からだからちょっとゆっくりしてから行くわ」

春香「わかった~。ちょっとシャワー借りるねー」

昨日も鍋を食べたあとに浴びたけれど、今日もテレビのお仕事。身嗜みはきちんとしとかなきゃ。
髪を乾かし、リボンを締める。グロスを塗って、鏡に笑顔。よしっ。

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:13:46.67 ID:5wWrKCAB0
春香「千早ちゃん、ありがとう。お邪魔しましたー」

千早ちゃんはヘッドフォンを付けて目を閉じてる。どうやら歌の確認みたい。
声は届いたようで、ヘッドフォンのせいかいつもより大きな声で、いってらっしゃい、と言ってくれた。

春香「さあ、今日も一日、ファイトー!」
明日以降のスケジュール確認もあるため、765プロにまずは出社。電車を乗り継ぎさらりと到着。

小鳥「あら、おはよう春香ちゃん。今日は早いのね」

春香「昨日は千早ちゃんのお宅に泊まったんで、起きるのはいつもより遅いくらいでしたけどね~」

小鳥「いつもは遠くから通勤だものね」

春香「久しぶりに満員じゃない電車に乗れたんですよ!!」

小鳥「それは良かったわね」

小鳥さんがくすりと笑う。

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:17:46.62 ID:5wWrKCAB0
伊織「おはよう小鳥。あら、春香。早いじゃない」

伊織がドアを閉めながら、こちらを一瞥してくる。

小鳥「おはよう伊織ちゃん」
春香「伊織、おはよ~」

春香「今日は一緒に収録だね~」

伊織「そうだったわね。まだ時間あるから、ちょっとお茶でもしていく?」

春香「うん。駅前にプロデューサーさんが迎えに来てくれるらしいから、そこらへんの喫茶店にしよっか」

伊織「そうね。じゃ、小鳥、行ってくるわ」

ホワイトボードの日程と連絡メモを確認して、伊織とわたしは765プロを後にした。

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:18:43.74 ID:5wWrKCAB0
ピンクのかわいい手袋に包まれた伊織の手を、捕まえてぎゅっと握る。

春香「えへへ、こけないように」

伊織「昨日みたいにいきなり走らないでよ、アンタがいつこけるかってハラハラしたわ」

春香「それじゃ、ゆっくり歩きますかー」

伊織「これくらいの速度なら、春香がこけても止めてあげられるわね」

悪戯っぽく伊織が笑う。
わたしは繋いだ手を、握りしめてみた。顔は、ちょっとだけ赤くなっていたかもしれない。

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:21:39.33 ID:5wWrKCAB0
今日の収録はトーク番組。出演者は私と伊織と司会者さんの3人で、司会者さんの質問に私達が応えていく形式だ。
毎回、何人かのゲストを呼んで質問するのだけれど、今回は私と伊織が名指しで指名されたみたい。

司会者「どうも、司会者です。本日は、今をときめくアイドル、765プロの水瀬伊織さんと、天海春香さんにお越しいただきましたー」

春香「どうもこんばんは~」

伊織「こんばんは~。お呼び頂きどうもありがとうございますー」

司会者「いえいえ、こちらこそお越しくださいましてありがとうございます」

司会者「いきなり質問となりますが、お二人は同じ事務所の仲間でいらっしゃいますが、プライベートでも仲がよろしいんですか?」

春香「そうですねー、基本的に今は忙しいのでプライベートはほとんど無いんですが」

春香「以前はオフに765プロみんなで海に行ったり、今でも伊織に限らず時間が合えばご飯や買い物に行ったりしてますね~」

伊織「今日もここへ来る途中、春香と二人でショッピングとお茶を飲んできましたぁー」

司会者「ほー、お二人はプライベートでも仲が良いんですね」

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:25:55.55 ID:5wWrKCAB0
司会者「765プロは全体的に仲良しというイメージですが、特にお二人は仲が良かったり?」

春香「うーん、どうでしょう。普通じゃないですかね~」

伊織「特に仲良しと意識したことは無いかしら。もちろん春香とは仲が良いのは間違いないですけど」

司会者「そうなんですか。てっきりお二人の雰囲気から一番の仲良しかと思いました」

司会者「となると他に仲が良い方がいると」

伊織「仲はみんなと良いですけど、よく一緒にいるのはやよいかしら…」

伊織がよどみなく答える。もちろん分かっていた答えだけど、ほんのちょっと、ほんのちょっとだけ寂しかった。

春香「私は…千早ちゃんが一緒の時間が一番長いですかね。昨日は千早ちゃんのうちに泊めて貰いましたし」

司会者「ほー」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:28:47.69 ID:5wWrKCAB0
・・・・・

司会者「さて時間も僅かとなってまいりました、名残惜しいですが、本日最後の質問をさせて頂きます」

春香と伊織「はーい!」

司会者「最後まで元気にありがとうございます。ええと、アイドルの方に聞くのは少し申し訳ない質問かもしれませんが…」

司会者「お二人は今、恋をなさっていらっしゃるでしょうか?」

伊織「私はしてませんね」

司会者「おお、即答ではっきりと!」

伊織「今はアイドルが忙しいし楽しいので、他のことに力を向ける必要が無いという感じでしょうか」

伊織「それと…伊織ちゃんはファンみんなのものだから、一人に恋なんて出来ないもの!にひひっ」

客席「「ワーー!!」」

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:33:21.00 ID:5wWrKCAB0
司会者「客席のファンのみなさん、大喜びですね。素晴らしいお答えでした。では天海さんは?」

心臓がびくんと跳ねた。
答えに窮して、私はちらりと伊織の方を向いてしまう。

伊織「どうしたのよ春香?」

春香「いやぁ…恋ってなんだろうって思って~…」

半分くらいは本音だ。

伊織「そこからスタート?!」

司会者「おお、春香さんは思ったより純情なのか、それとも上手くはぐらかしてらっしゃるのか」

34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:34:40.22 ID:5wWrKCAB0

春香「いやー恋なんて考えたことが無くて…、ずっとアイドルになりたいって、それだけを考えていたのでいきなり聞かれるとちょっと考えちゃいました」

司会者「なるほど。アイドル一筋で恋なんか考えたことが無かった、これもまた素晴らしいお答えでした」

司会者「さてエンディングの時間となって参りましたが、今日お二人いかがでしたか?」

春香「自分でもわかってないことに気付けたり、伊織の秘密が知れて良かったです」

伊織「テレビの前のみんなに私達の隠れた魅力が伝わったなら、良かったなと思いました。お招きありがとうございました~」

司会者「本日のゲストは、765プロの水瀬伊織さんと、天海春香さんでした。ありがとうございました」

司会者「来週もまた素晴らしいゲストをお呼びしています、ご期待下さい」

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:37:19.43 ID:5wWrKCAB0
春香と伊織「お疲れ様でしたー」

司会者「お疲れ様でした。いやあ今日はいつもより質問してて楽しかったですよ」

司会者「また御一緒できたら嬉しいです、それではっ」

春香と伊織「どうもでしたー」

春香「噂通り丁寧な人だったね~」

伊織「収録後も敬語なんて驚いたわ」

伊織「そうそう、そういえば春香は千早のところから事務所に来てたから、今日はあんなに早かったのね」

春香「そうだよ~。そのおかげで伊織と遊べて良かったー」

伊織「千早に感謝ね」

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:42:34.05 ID:5wWrKCAB0
春香「ねぇ、伊織」

伊織「ん、どうしたの?」

春香「今度伊織の家にお泊りしに行っていい?」

伊織「構わないわよ?何なら明日にしましょうか。明日はお互い事務所で雑誌インタビューよね」

春香「伊織と千早ちゃんと美希と私でインタビューだね」

伊織「それが終わったら家に来る、でいいかしら?明後日は仕事で二人とも学校欠席の予定だったでしょ」

春香「うん!だからお昼前まではゆっくりできるよ~」

伊織「楽しみね」

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:43:24.21 ID:5wWrKCAB0

ぼふんっ
自室でクッションに頭を埋めてわたしは一人つぶやく。

春香「伊織の家かぁ~」

春香「楽しみだけど、不安でもあるなぁ」

春香「ふぅ……」

溜息を吐いて天井を見上げる。

春香「いつからだろう、伊織といると変な気持ちになってしまうの」

春香「今日の収録も、なんだか緊張しちゃったしなぁ~」

春香「……好きなのかな、私。伊織のこと。恋の相手として」

春香「恋って何だろうねぇ」

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:44:33.63 ID:5wWrKCAB0
わたしは昔読んだ小説の一節を思い出した。たしか、『少年期の友情は、どこか恋愛めいたものがある』みたいな文章。

恋なのか、それとも恋のような友情なのか。それが私にはわからない。

春香「……どっちなんだろう」

春香「なーやんでも仕方ない」

春香「まあそんな時もあるさ」

春香「んー」

春香「行けばわかるのかなぁ…」

どちらにせよ、伊織に対して尋常ではない想いを持っているんだなと、改めてわたしは自覚したのだった。

40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:48:56.14 ID:5wWrKCAB0

春香「おはようございまーすっ」

美希「おはようなの」

千早「おはよう春香」

伊織「おはよう。そういえば春香が最後って珍しいわね」

春香「なんか昨日は寝付けなくて…てへへ…」

伊織「ウチに来るのに、着いたら寝不足ですぐオヤスミ、みたいにならないでよね」

千早「今日は水瀬さんちにお泊り?」

千早ちゃんが、勢いよく首を曲げて聞いてきた。

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:50:35.88 ID:5wWrKCAB0
伊織「今日は一人だけって言ってきちゃったけど、アンタ達も今度泊まりに来る?」

美希「行ってみたいな、面白そうなの!」

千早「……そうね、お邪魔してみたいわ」

伊織「さすがに事務所の全員は無理でしょうけど、今度出来るだけ大人数でお泊りパーティーしたいわね。来れる人間で」

伊織が頬っぺたに指を当てながら思案顔で言った。

春香「そうだね~面白そうー」

P「そろそろ記者さんが来るから、机、片付けとけよー」

全員「はーい(なのっ)」

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:52:45.39 ID:5wWrKCAB0
記者「どうもありがとうございました。噂通り、仲の良い事務所ということがはっきりとわかりましたよ」

春香「こちらこそインタビューありがとうございました!」

P「俺は記者さんとインタビューについてのお話があるから残るけど、お前たちはもう帰っていいぞー」

美希「なら美希はハ…、プロデューサーを待つの!」

千早「私は帰るわ、お先に」

伊織「早いわよ千早!すぐ行くから待ちなさいっ。春香も早く」

千早「あ、えっと」

伊織「用意出来たわ、春香は?」

春香「ごめーん、千早ちゃんお待たせ~っ」

43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:54:53.84 ID:5wWrKCAB0
伊織「千早は駅まで一緒よね?」

千早「…ええ、そうね」

伊織「じゃあ駅に近くに最近おいしいクレープ屋台ができたから、そこ行きましょ。千早甘いもの苦手じゃないわよね?」

伊織「あ、いけない。ホワイトボード確認して無かったわ。見てくるわね」ドタドタ

千早「ねえ、春香」

春香「うん?」

千早「水瀬さんは良い人ね」

千早「やっと、わかったわ」

と、千早ちゃんはまた遠い目をして言ったのだった。

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 21:59:31.10 ID:5wWrKCAB0

伊織の家にお邪魔すると、すでにわたしのぶんも豪華な料理が用意されてたのにビックリしたり、お風呂の造りに驚いたりして、夜になった。
伊織の服を見たり、一緒に雑誌を読みながらお話をしていたら、いつのまにか寝るのにちょうど良い時間に。
シャワーを軽く浴びた伊織のあとに、お風呂をいただいて出てきた時、気づいた。

春香「あれ、私のぶんのお布団は?」

伊織「無いわよ。一緒に寝れば良いじゃない」

春香「確かにじゅうぶん広いベッドだけど、…伊織は良いの?」

伊織と一緒のベッド。想像すると、顔がほてって赤くなる。伊織が早めに電気を薄暗くしてくれてて良かったなー、なんて思った。

伊織「嫌じゃないから言ってるのよ。早く来なさいよ、湯冷めするわ」

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 22:03:27.94 ID:5wWrKCAB0
春香「んじゃあ失礼します」

伊織「春香って、意外にあったかいのね」

春香「多分お風呂上がりだからじゃないかな?」

それだけじゃないのはもちろん自分でわかっている。

伊織「確かにそうね」

伊織「ねえ、今日のインタビューね」

春香「うん」

伊織「765プロは皆さん仲良しですねって言われたけど、本当にそうね」

伊織「良かったわ、765プロダクションに居れて。いい仲間に囲まれて」

春香「ふふっ」

わたしは 昨日の千早ちゃんとのやり取りを思い出す。

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 22:06:52.84 ID:5wWrKCAB0
春香「…わたしもそう思うよ」

春香「わたしも765プロに居れてよかった」

この瞬間、インタビューの話つながりで聞いてしまおう、とと思いつくと、わたしの中のせっかちな思いが口を開かせた。

春香「昨日のインタビュー、伊織は本当に好きな人いないの?恋、してないの?」

伊織「してないわね、何で?」

その言葉を聞いて自分の心の中で、ちょっとの落胆と、大きめの安心があったのをわたしは感じた。

春香「何となく、かな~」

伊織「じゃあ、春香はどうなのよ」

伊織「春香は、好きな人いるの?」

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 22:07:27.38 ID:5wWrKCAB0
春香「……いるよ」

伊織「ほんとに? 春香、アンタ意外と隅に置けないわね」

伊織「で、どこの誰なの?」

春香「……」

伊織「言いたくないなら、良いわ」

春香「…わたしの好きな人は、伊織だよ」

伊織「へ?冗談よね?」

春香「冗談じゃなくて、ほんとう」

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 22:15:18.02 ID:5wWrKCAB0
春香「どういう好きか自分でもわからないけどね、私伊織のことが好き」

伊織「そうなの」

春香「友情か愛情なのか何なのかわからないけどね、伊織のことを考えると胸がどきどきするんだ」

春香「おかしいのかなあ」

自分で言っていて不安になってきた。
伊織は身を動かさずに、押し黙っている。私も無言になる。
ちょっとして伊織からすうっと息を呑む音が何度か、吸った息をふーっと吐き出してまた吸う。
4度目に息を吸ったあと、伊織がささやくように話しだした。

伊織「私ね、春香に今好きだって言われても、気持ち悪いなんて思わなかった」

伊織「普通は同性にそんな愛の告白をされたら、少しは変な気持ちになると思うのよね」

伊織「でも私は純粋に、純粋に嬉しかったわ」

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 22:17:25.14 ID:5wWrKCAB0
伊織「ねえ春香、これを聞いてアンタは嬉しいかしら?」

春香「…嬉しいよ、嬉しいよ!」

春香「嫌われてないんだなって思って、…嬉しい」

伊織「私ももしかしたら、春香のこと一番好きかも知れないわ」

伊織「アンタと一緒でまだわからないけど。もしかしたら恋なのかもね」

春香「……伊織はみんなに優しいから、そう言ってるってわけじゃないよね?」

伊織「私が親切なのとは別よ。自分の気持ちを偽ってまでしないわ」

春香「そっかぁ…、良かった…」

目から自然に涙が零れ落ちた。

54: 忍法帖【Lv=28,xxxPT】 2012/03/30(金) 22:22:17.52 ID:lupKF3tJ0
春香「あれ、あれ」

伊織「私のベッドなんだから濡らさないでよね」
そういって、伊織はわたしぎゅっと胸に抱きしめて、頭をやさしく撫でてくれた。
伊織の心臓の音が聞こえる。ドクドクドクと、ハイテンポに刻む。わたしの心臓と競うくらい、早い鼓動。

春香「…伊織、ドキドキしてる?」

伊織「…そうね」

恥ずかしそうに言ったその声が、本音であることは容易にわかった。

春香「伊織、大好きっ」

伊織「……」

胸から聞こえてくる心臓の音がさらにペースを上げた。

56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/30(金) 22:32:08.55 ID:lupKF3tJ0
広い部屋の、狭いベッドの上、聞こえてくるのは二人の心臓の早鐘だけ。

その胸の音を聞いていると、どういう形での好きであれ、わたしと伊織がお互いに同じ思いを持っているんだーってわかった。

恋かどうかなんて関係なかった。
大好だってことに、違いはないのだから。
わたしと伊織にとってはそれだけで十分だった。



the end