1: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)22:18:14 ID:h1w
もし白菊ほたるちゃんが男の子だったらというお話
森久保乃々編
前作:結城晴「白菊ほたるは男の子」【モバマス】

引用元: 森久保乃々「白菊ほたるは男の子」【モバマス】 


2: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)22:22:54 ID:h1w
乃々(こんにちは、森久保乃々です……)

乃々(親戚の叔父さんに頼まれてモデルの代役を引き受けたら、いつのまにかアイドルになってしまいました……)

乃々(初めはこんな地味で、弱気で、ダメな私がアイドルなんてむーりぃと思っていましたが、優しい同僚の皆さんの助けもあってなんとかやっていけてます)

茄子「ほたるちゃん、テレビに泰葉ちゃんが映ってますよ」

ほたる「あ、本当ですね。よっこらせっと……」

乃々(例えば、今ソファに腰掛けている白菊ほたるちゃん)

乃々(私の一つ下ですが、以前からアイドルをやっていたため芸歴は長く、私と裕美さんとほたるちゃんで『ワンステップス』というユニットを組んでいます)

乃々(そしてこのほたるちゃんには秘密があります)

茄子「ほたるちゃん、その座り方だと   が見えちゃいますよ」

ほたる「え!?」

乃々(そう指摘されるとほたるちゃんは慌てて脚を閉じました)

乃々(ほたるちゃん……いえ、ほたるくんは、男の子らしいです)

3: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)22:27:31 ID:h1w
乃々(きっかけはある日の事務所、いつも通り私がプロデューサーさんのデスクの下にいたときでした)

晴「こんにちはー……ってあれ、誰もいないのか」

乃々(私がポエムを書いていると晴ちゃんが事務所にやってきました)

乃々(デスクから顔を出してみると、何故か晴ちゃんはソファの後ろに隠れてしまいました)

ほたる「どういうことですか!」ガチャ

乃々「ひっ!?」

乃々(晴ちゃんの様子を観察していると、ほたるちゃんが大声で怒りながら事務所に入ってきて、驚いた私はデスクの下に隠れました)

乃々(どうやらプロデューサーさんと電話をしているみたいです)

ほたる「なんでプロデューサーさんはいつもいつも!」

乃々(あの温厚なほたるちゃんがあんなに怒っているなんて、プロデューサーさんは何をしでかしたのやら……)

ほたる「いいですか! 僕は男ですよ!?」

乃々「……は?」

乃々(おとこ……? 今確かにほたるちゃんは自分のことを男だと言いました。えっと、つまりどういうことでしょう……?)

ほたる「えっ、晴ちゃん……?」

晴「よ、よぉ……」

乃々(混乱しているもりくぼをよそに、隠れていた晴ちゃんはほたるちゃんに見つかってしまい、変な空気が2人の間に流れています)

乃々(ほたるちゃんはドッキリとかなんとか言って晴ちゃんを言いくるめ、2人が笑い合っていたそのとき、なんと晴ちゃんがほたるちゃんの●●に手を伸ばしました)

晴「うわあああああああ!!!」

ほたる「ぐほっ!?」

乃々(●●を掴んだ晴ちゃんはほたるちゃんに蹴りを入れて事務所を飛び出し、ほたるちゃんはその場に倒れ込んでしまいました……)

乃々(一体ほたるちゃんの●●にナニがあったんでしょうか……)

4: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)22:31:41 ID:h1w
乃々(……そんなこと考えている場合ではなく。倒れたほたるちゃんをどうにかしなければなりません。でもここで私が出てきたら余計混乱するんじゃ……)

泰葉「おはようございます。ねえねえほたるちゃん、さっき晴ちゃんがすごい形相で走ってえええええ!?!?」

茄子「ほたるちゃん!? 大丈夫ですか!?!?」

乃々(助けに行こうか迷っていると、泰葉さんと茄子さんが事務所に入ってきました)

ほたる「た、たまが……」

泰葉「え、ほたるくんのサッカーボールが?」

ほたる「は、晴、ちゃん……」

茄子「え、晴ちゃんに男だってバレちゃったんですか!?」

乃々(お二人はほたるちゃんを介抱しながら事情を聞きます。どうやらほたるちゃんが男の子だということを知っていたようで、スムーズに話が進んでいます)

ほたる「ふぅ……泰葉ちゃんに茄子さんもありがとうございます。もう大丈夫です」

泰葉「いいのいいの。それよりも……」

茄子「晴ちゃんをどうにかしないといけませんね」

ほたる「はい……」

茄子「愛海ちゃんにも連絡しておきますね」

乃々(今度は愛海さん……。次から次へと入ってくる情報に私の頭はパンクしそうです)

乃々(そんな私をよそにほたるちゃん達は事務所を出て行ってしまいました……)

乃々(とりあえずわかったことは、ほたるちゃんが男の子だということです……)

乃々「うぅ……知ってはいけないことを知ってしまった気がするんですけど……」

5: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)22:33:33 ID:h1w
乃々(そんな私の元にある仕事が舞い込んできました)

乃々(凛さん亜季さんと歌う『さよならアンドロメダ』を題材とした演劇のお仕事です)

「渋谷さん、感情をもっと意識して!」

「大和さんはちょっと浮ついているわ!」

「森久保さん、ずっと顔が引きつったままよ!」

乃々(脇役以外を演じるのは初めてで、私は何度も演出家さんに注意されてしまいます)

「それでは今日はここまでにしておきましょう。みなさん、お疲れ様でした」

「「「お疲れ様でした」」」

乃々(演劇のお仕事だなんて……私にできるんでしょうか……)

凛「この舞台で私の役目……役はかなり重要だし。雰囲気を作るだけじゃダメ。飲み込んで、なりきらないとな……」

亜季「いやぁ、燃えてきました! 我々の歌が劇になるとは……。普段の私を脱ぎ去って、厳かに演じなければ。うむ!」

乃々(この演劇はみんなが主役。凛さんも亜季さんも自分の役のことで精一杯のようで、私のうじうじなんかに構う余裕はないみたいです)

亜季「おっと、私はここでお別れです。それでは、また!」

凛「……あ、私も。ふたりとも、また稽古でね」

乃々「あ、あの……。はい……」

6: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)22:38:02 ID:h1w
事務所

乃々(今日はオフの日でしたが、私は事務所に来て台本を読んでいました。家よりもプロデューサーさんのデスクの下にいた方が集中できるからです)

乃々「僕は、アルバ……。どうしてかな……気がついたら、ここにいたんだ」

乃々(私の演じる『アルバ』は内気な心優しい少年。どこか私と似通っているところがあります)

乃々(ただでさえ不慣れな演技なのに少年の役……。そして凛さんも亜季さんも忙しそうで頼れない)

乃々(本当にできるのかな。やらなきゃいけないのかな……ひとりぼっちで……)

ほたる「乃々さん、こんにちは」

乃々「どひゃああ!」

乃々(そう不安に思っていると、いつの間にか近くにいたほたるちゃんが顔を覗かせていました)

ほたる「す、すみません……驚かせてしまって……」

乃々「い、いえ……」

乃々(ふと、ここであることに気がつきました)

乃々(目の前のほたるちゃんはああ見えて男の子。であれば私の役の参考になるのではないでしょうか)

乃々「ほたるちゃん」

ほたる「はい、なんでしょう?」

乃々「もりくぼ、今度の演劇で男の子の役をやることになりまして……コツとかを教えていただければと……」

ほたる「私でよければもちろん」

乃々(優しく微笑むほたるちゃん。かわいいです)

ほたる「台本見てもいいですか?」

乃々「は、はい……」

ほたる「では失礼しますね……」

乃々(そういうとほたるちゃんはデスクの下に入って私の隣に座りました)

ほたる「『さよならアンドロメダ』の演劇ですかーなるほどなるほど……」

乃々(ほたるちゃんは私の持つ台本を覗き込んでふむふむと読み進めていきます)

乃々(そんなほたるちゃんのことをじっと観察します。睫毛が長く髪もサラサラ……ていうか近いんですけど……!)

乃々(そんなドキドキしている私に対してほたるちゃんは真剣な表情。私のことなんてちっとも意識していないようです……)

乃々(本当の本当に男の子なんでしょうか……? 実は私の勘違いだったり……)

まゆ「あらぁ? 今日は珍しいお客さんがいますね?」

乃々(今度はデスク下の隣人、まゆさんがやってきました)

ほたる「あ、すみません。今どきますね」

まゆ「いえ大丈夫ですよ。いつも3人で入っていますし。では失礼しますね……」

乃々(まゆさんはいそいそと机の下に潜り込もうとします)

ほたる「わ……」

乃々「ん……?」

乃々(何やら横にいるほたるちゃんの様子がおかしいです。ほたるちゃんはまゆさんをじっと見つめているかと思うと、ときどき目をそらし、顔を赤くしていました)

乃々「……はっ!」

乃々(もりくぼは気がついてしまいました。まゆさんはデスクの下に潜るために四つん這いになっており、ほたるちゃんの視線は無防備になっているまゆさんの胸元に注がれているということに……!)

まゆ「よいしょっと……あら、ほたるちゃんどうかしましたか? 顔を真っ赤にして?」

ほたる「い、いえ……! なんでもないです……!」

まゆ「……?」

乃々(慌てて台本に目をそらして誤魔化すほたるちゃん、いえ、ほたるくん。その様子を私は冷めた目で見ていたのでした……)

7: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)22:40:48 ID:h1w
乃々(その後ほたるくんだけでなくまゆさんからもアドバイスをもらい、少年役のイメージをなんとなくですが掴むことはできました)

乃々(けれどもやっぱり、私なんかが演じてもいいのかと思い込んでしまいます。『アルバ』と私はどこか似ているところがあって、役に自分が混ざっちゃうような怖さを感じてしまいます)

乃々(その思いは演技に表れてしまい……)

「森久保さん、もっと自然体に! 感情の動きを意識して!」

乃々(演出家さんに何度も注意されてしまうのでした……)

「はい、今日はここまで!」

乃々(結局ほたるくん達のアドバイスを活かせないまま、読み合わせが終わってしまいました……)

「あ、森久保さんは少し残って。他のみなさんは、お疲れ様」

乃々「もっ!? りくぼだけ、ですか……?」

8: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)22:41:55 ID:h1w
乃々(帰りの電車の車内。少し混雑していて、私はドア近くで小さく佇んでいました)

乃々(窓の外は雨がしとしとと降っていて、私は演出家さんに言われたことを思い返します)

……


「森久保さん、アルバはあなたではない、『役』なのよ。自分を守ったままでいたら、芝居だなんてできないの」

「あなたはいつも怯えている。誰かに叱られるかもしれないと。それは、相手を満足させられないと思い込んでいるせいよ。そうしたい、こうでいい……そんな主体性がないからなの」

「……いい、森久保さん。私や誰かに答えるんじゃないの。誰かに頼るのでもない。あなたが満足できる芝居をしなさい」


……

乃々「自分を守ったままじゃだめ……」

乃々(演出家さんの言うことは私の弱い部分を的確に示していて、胸がきゅっとしました)

乃々「うっ……」

乃々(目の奥が少し熱くなってきました。涙が流れそうで私はぐっとこらえます。あれ、どうして私泣きそうになって……)

「ーー駅、ーー駅」

乃々(そんなときです。駅に到着して反対側のドアが開き、電車にたくさんの人が入ってきました)

「わわっ」


乃々(一気に密度が高くなり、目眩でくらっとしそうになった私のもとに来たのは……)

ほたる「うぅ、ついてない……」

乃々(雨で髪を濡らした、ほたるくんでした)

9: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)22:44:55 ID:h1w
ほたる「あれ、乃々さん? 奇遇ですね」

乃々「ほたるく……ちゃん、髪がびしょ濡れですよ」

ほたる「あはは、実は持ってきた傘が壊れちゃって……。タオルも風に飛ばされちゃったんです」

乃々「風邪ひいちゃいますよ。これ、使ってください……」

乃々(私は持ってるハンカチをほたるくんに差し出しました)

ほたる「ありがとうございます」

乃々(ほたるくんは受け取ったハンカチで髪をわしゃわしゃしてます。せっかくのきれいな髪がぐちゃぐちゃです。もう少し丁寧に扱えばいいのに……)

ほたる「……」

乃々「……」

乃々(髪を拭き終えたほたるくんと私の間に会話はありません。私が落ち込んでいることを察して気遣ってくれているのでしょうか)

10: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)22:46:33 ID:h1w
ほたる「んっ……」

乃々「……?」

乃々(私は少しの違和感を覚えました。暑くて苦しいはずの満員電車なのに今は窮屈さを感じません)

乃々「……あっ」

乃々(ほたるくんはときどき苦しそうに顔を歪めています。よく見るとほたるくんは私の前にスペースを空けて立ち、私が押しつぶされないようにかばってくれているのだと気がつきました)

乃々「ほたるちゃん、その、むりしないでください。もりくぼは大丈夫なので……」

ほたる「いえ、そんな、無理してないですよ。本当に全然……わっ」

乃々(ひそひそと会話をしていると、またしても乗客の波がほたるちゃんを襲い、ほたるちゃんはたまらず前に倒れ込んできました)

ほたる「とっとと……」

乃々(前につんのめったほたるちゃんは腕を伸ばし、私のいるドアに手をついてバランスをとります。いわゆる壁ドンのようになってしまいました)

乃々(近い! 近いんですけど……!)

乃々(足やら腕やらが密着し、なにより顔が近いです。ほたるちゃんもさすがに気まずいのか、私から顔をそらしています)

乃々(それでもやっぱり思ったほどの窮屈さは感じません。ほたるちゃんはバランスをくずしてもなお私をかばってくれていました)

乃々(ほたるくんはやさしいな……)

乃々(劇のジーリオもアルバに対して優しかったな……。アルバももしかしたら……いえ、これは私の気持ちです)

ほたる「乃々さん? どうかしたんですか?」

乃々「い、いえ、なんでもないです……」

乃々(今日の練習のことを思い出してしまいました。またしても胸がモヤモヤして、ブルーな気持ちになります)

ほたる「……なにかあったんですか? その、劇の練習で」

乃々「本当に、なんでもありません。ただ、もりくぼがうじうじして怒られただけです。駅に着いたので降りましょう」

乃々(ちょうどいいタイミングで電車が駅に到着したので、私は早々に話を切り上げて電車を降りました)

11: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)22:51:08 ID:h1w
ほたる「乃々さん。傘、入ってもいいですか……?」

乃々「……はい」

乃々(外は未だに雨が降り続けており、私は傘の壊れたほたるちゃんと相合い傘をして雨道を歩きます)

乃々(一見少女漫画のワンシーンのようですが、私の気持ちは沈んだままでちっともドキドキしません)

ほたる「私も演劇のお仕事したことあるんですよ」

乃々「知ってます。闇に堕ちた光騎士役、でしたよね……」

乃々(確か剣と魔法のファンタジー世界で、世を乱す黒薔薇の呪いを追って旅をする物語。私の好きな幻想的なお話ですごく感激したのを覚えています)

ほたる「はい。不幸な私にぴったりな役だと思いました」

乃々(ほたるちゃんは自嘲気味に儚く笑います。役と似ている……でもほたるちゃんはその後の光の聖騎士まで堂々と演じていました)

乃々「役を演じることに不安はなかったんですか?」

ほたる「不安はありましたよ。私なんかが演劇をやって、不幸でみんなを巻き込むんじゃないかって」

乃々「じゃあなんであんなに堂々と……」

ほたる「それは……後悔すると思ったからです」

乃々「後悔……?」

ほたる「はい。初めての大きなお仕事、不幸な私から逃げて本気でやらなかったら、いつまでも前に進めないと思ったんです」

ほたる「だから後悔しないように、自分の全力を劇にぶつけたんです」

ほたる「そしたらいつのまにか役だと割り切れるようになりました」

12: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)22:52:49 ID:h1w
乃々「劇に……全力……」

ほたる「って、なんかこの言い方だと乃々さんが全力じゃなかったみたいですよね。すみません」

乃々「そんな、もりくぼが全力だなんて……」

ほたる「だって乃々さん、電車であったとき悔しそうにしてましたよ」

乃々「え?」

ほたる「乃々さんのあんな姿を見たの初めてで、最初乃々さんだと気づきませんでしたよ」

乃々「そう……でしたか」

乃々(あのときは胸がモヤモヤして……。自分が歌う楽曲をモチーフにした演劇だから、必死になって頑張って、それでもダメで……。私、悔しかったんだ……)

乃々(ほたるちゃんと違うのは、逃げていたこと。どう演じるか自分で決めるのが不安で、ただただ与えられたものをこなそうとやけになっていた)

乃々「やっぱり全力じゃありませんでした……」

ほたる「え……?」

乃々(自分を守ったまま頑張るのは、本気でも全力でもない。きっとこのままやったら私は後悔する)

乃々「もりくぼの全力はこんなもんじゃありません。今から私は、やけくぼでもやるくぼでもなく、ぜんりょくぼです……!」

ほたる「ふふっ、なんですかそれ」

乃々「早速事務所に戻ったらレッスン室で自主練をします。ほたるちゃんも良かったら……」

ほたる「いえ、私はいいです」

乃々「ぼっ……」

乃々(やる気を出したというのに振られてしまいました……。ふられくぼ……)

ほたる「乃々さんがどんな演技をするのか。観客として楽しみにしていたいですから」

乃々(微笑むほたるちゃん。思わずどきっとしてしまいました。ずるいです。そんなこと言われたら頑張るしかないじゃないですか)

13: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)22:54:56 ID:h1w
乃々(そんなこんなで私は出せるもの全部出して、全力でお芝居に取りかかりました)

乃々(そして、演劇の初日を迎えました)

「森久保さん」

乃々(本番前の控室、緊張して待機していると演出家さんに声をかけられました)

乃々「は、はい……」

「おつかれさま。そんな緊張しなくてもあなたなら大丈夫よ」

乃々「あ、ありがとうございます……」

「あなたがアルバ役で本当に良かったわ。壁に当たっても挫けず、全力でアルバと向き合ってくれてありがとう」

乃々「そ、そんなやめてください。もりくぼは自分がやりたいようにやっただけですし、そんなことを言われたら、本番前なのに泣いてしまいます……」

「ごめんなさい、本当は演劇が終わってから伝えようと思ったのだけど、どうしても今伝えたくなってしまって……」

「そろそろスタンバイの時間ね。……今日はすてきな星めぐりの旅に、案内してくださいね」

乃々「はいっ!」

乃々(演出家さんと別れ最後の確認をしたのち、私は所定の位置につきました)

乃々(幕が上がる。いつかの私を脱ぎ去って、『僕』を始めます。その間は、もりくぼとは少しさよならですけど)

 

「ーー本日は、銀河を渡る『アンドロメダ』にご乗車いただき、誠にありがとうございます」



ーーー

14: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)22:56:34 ID:h1w
ほたる「乃々さん、演劇すごく感動しました!」

乃々(全ての公演が終わったある日のこと。事務所でほたるくん達が演劇の感想を語ってくれました)

泰葉「本当に。最後の涙と笑顔、私もグッときちゃったよ」

茄子「乃々ちゃんの少年姿も素敵でしたよ~」

愛海「あたしもあんなクールに演技してみたいなあ」

乃々「い、いえそんな、褒めすぎないでください……」

乃々(ほたるくん達に次々と褒められ、劇場での拍手を思い出した私は顔のにやけを抑えられませんでした)

泰葉「乃々ちゃん少し雰囲気変わった?」

乃々「はい、ちょっとだけ……目線が、上に……なったような気が、します。自分に自信がついたかも、しれません」

茄子「大きくなりましたね~」

15: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)22:57:04 ID:h1w



乃々「これも全部、ほたるくんのおかげです」


16: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)22:59:01 ID:h1w
乃々(そう私が言った瞬間。ピシッと空気が固まったような気がしました)

茄子「ほたる……くん?」

乃々「え……あっ」

泰葉「乃々ちゃん、もしかして……」

乃々「あ、あの、違いまして……! 決してほたるちゃんが男の子だなんてこれっぽっちも思ってませんし……!」

愛海「やっぱり乃々ちゃん……」

ほたる「そんな、いつのまに……」

乃々(ほたるくんを除いたみなさんの私を見る目ががらりと変わったような気がします。まるで行き止まりまで小動物を追い詰めた狩人のような……)

乃々「もりくぼ、用事を思い出してしまいましたのでこれにて……」

乃々(私が逃げようとすると泰葉さんにガシッと肩を掴まれ、その隙に茄子さんと愛海さんに取り囲まれてしまいました)

泰葉「乃々ちゃん。ちょっとお話してもいいかな?」

茄子「大丈夫。悪いようにはしませんよ」

愛海「天井のシミの数を数えてる間に終わるから」

乃々「む、むーりぃ……!」

乃々(こうして平穏な普通の生活を望んでいたはずの私は生活は、普通とは程遠い、ほたるくんの変わったアイドル生活に巻き込まれてしまうのでした……)

17: ◆r5XXOuQGNQ 20/12/15(火)23:00:59 ID:h1w
終わりです。ありがとうございました。
実際どのような演劇だったか、デレステ内のイベント「さよならアンドロメダ」のコミュをぜひご覧になってください。