1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/14(月) 22:33:00.74 ID:D74UtWsDO
不良「へへへ」

女「な、なんですか貴方……」

不良「姉ちゃん可愛いなあ。こんな治安悪い場所を通ってたら襲われちゃうぜ。へへへへ」

女「……何をするつもり?」

不良「↓1」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1607952780

引用元: 【安価】不良「おおっと、ここは通さねえぜ?」 



2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/14(月) 22:36:29.42 ID:+IGmoY7T0
危ないから人がいる通路まで戻りな。

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/14(月) 22:40:51.38 ID:D74UtWsDO
不良「何って、決まってんだろ。危ないから人がいる通路まで戻りな」

女「え」

不良「ほら早くしろよ。襲われちゃうぞ」

女(見かけによらず優しい人だ。タトゥーとか切り傷あるのに)

女「あ……ありがとう……でも、ここを通らないと目的地に着けないの」

不良「目的地だ? 何をしに行くんだよ」

女「↓1」

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/14(月) 22:41:04.84 ID:54Ae3YJJ0
やさしい

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/14(月) 22:49:20.90 ID:D74UtWsDO
女「やさしい」

不良「あ?」

女「やさしい世界よ。この荒んだ世の中から抜け出すの」

不良「……この先にあるってのか。やさしい世界が。闇を抱えた人間がいない世界が、あるってのか」

女「分からない。でも行ってみる価値はあるわ。険しい道だけど、覚悟を持ってここまで来たのよ」

不良「……」

女「それじゃ、もう行くわ。忠告ありがとう。貴方の持つやさしい心が、いずれ世界中に広まるといいんだけど」

不良「待てよ」

女「止めても無駄。覚悟を持ってるって言ったでしょ」

不良「俺も行くぜ」

女「!」

不良「やさしい世界……いい響きじゃねえかよ。本当にこの先にそれがあるんならよ、俺も見てみてえ。力にならせてくれねえか?」

女「もちろんよ。嬉しいわ」

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/14(月) 22:53:56.25 ID:D74UtWsDO

――――

女「よかったの? 何が待ち受けてるか分からないわよ」

不良「承知の上だぜ」

女「ふふっ、頼もしい」

???「おい待て」

女・不良「!!」

???「オレ様の許可なしにここを通ろうってのか、ええ?」

不良「て、てめえはッ……!?」

↓1 二人の行く手を阻む者とは

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/14(月) 22:54:34.71 ID:FVNTJmRX0
踏切

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/14(月) 23:08:30.89 ID:D74UtWsDO
踏切「悪いが行き止まりだ」カンカンカンカンカン

不良「くそっ……電車が来やがるのか!」

女「そうなの? じゃあ、過ぎるまで待ちましょうか」

不良「いや、この踏切は一度止まっちまうと30分以上も待たなきゃいけなくなるんだ」

女「30分!? 長すぎるわ!」

不良「今のうちに渡っちまおう!」

踏切「それは許さねえ。このけたたましく鳴り響く音が聞こえねえのか」カンカンカンカンカン

踏切「もうすぐヤツが来る。そこで指を加えて待ってな」カンカンカンカンカン

不良「まだ時間はある! 女、行こうぜ!」

女「……」


女「いいえ、待ちましょう」

不良「なっ!? 正気か!?」


女「貴方こそ正気? 踏切は下りて、電車が来る合図まで鳴っているのよ。もし渡ろうとして電車が来たらどうするの?」

不良「……危ねえな」

女「でしょう。ルールを破ってまで強行する必要はない。大人しく30分以上待ちましょう」

不良「そうだな、あんたの言う通りだ。すまねえ……30分待たなきゃいけねえって思ったら焦っちまって」

女「いいのよ。やっぱり貴方はやさしい心を持っているのね」

不良「あんたほどじゃねえや、へへ」

不良「ってことだからよぉ、踏切さん。あんたに従うぜ。電車が来るまで、のんびり話でもしてらあ」

踏切「そうか」カンカンカンカンカン

ファァァァァァァン ガタンゴトン ガタンゴトン

女(電車が過ぎていく。車両の多い、長い長い電車が私たちの目の前を)

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/14(月) 23:24:49.45 ID:SSMKwcyNO

ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン……

女(あら?)

不良「どういうことだ。踏切が上がった? まだ1分も、それどころか30秒も経っちゃいねえぜ」

踏切「合格だ」

女「合格……」

踏切「ああ、お前たちを試させてもらったのさ。もしオレ様の言うことを聞かずに踏切を渡っていたら、電車が凄まじいスピードで体を押し潰しただろう」

踏切「しかし、お前たちは『待つ』という選択をとった。利口でいて、やさしい心を持つ者にしかできねえことだ。文句なんてあるはずがない。正真正銘、合格だぜ」

不良「マジか……そんな恐怖の踏切だったのかよ」

踏切「さあ通るといい。早くしないと電車が来ちまうぜ。今度はガチで30分待たなきゃいけねえ」

女「……行きましょうか」

不良「お、おう」

――――

不良「さっきはありがとよ」

女「何のこと?」

不良「俺を引き留めてくれただろ。あんたがいなきゃ、俺は今頃三途の川を渡ってた」

女「でも、私の言うことを聞いて一緒に待っててくれたでしょ」

不良「そりゃあ……ん?」

???「くくくく」

不良「どうやら、話をしている場合じゃねえみたいだな」

女「そのようね」


↓1 二人の行く手を阻む者

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/14(月) 23:26:43.02 ID:+IGmoY7T0
去年の都大会準決勝で不良にホームランを打たれた元ライバル校の卒業生で現暴走族の総長

15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/15(火) 00:21:56.91 ID:Ccm8b4TeO
総長「おやおや、これはこれは。不良さんじゃないですか」

女「知り合い?」

不良「ちょっとな」

総長「ちょっと? そんな生半可なものじゃないでしょう。忘れもしない、去年の都大会準決勝。ここを抑えれば勝つという展開で、私は渾身の一球を投じました。投げた瞬間『やった』と思ったんです。その日の中で一番良い感触の球でしたからねぇ」

女(この人、喋り方がフリーザみたい)

総長「でも結果はホームラン。代打で出てきたフォームめちゃくちゃの素人が、軽々と私の球を……名の知れたエースだった私の球をスタンドに運んだんです! そう、貴方ですよ!」

不良「マグレさ」

総長「はっ、マグレ! 試合終わり、記者に囲まれて同じ言葉を口にしましたね! 『マグレ』だと! その大物感のある言葉が貴方を押し上げました。一方で私はスランプに陥り、高校で野球は辞めることにした」

不良「やめる必要はなかっただろ。マグレで打った俺なんかを気にするなんて……」

総長「うるさい!! 貴方には分からないでしょう、私の気持ちが! 上手く投げられず周りから哀れみを向けられた私の気持ちが!」

女(そんな過去が……彼がこうして荒れるのも分かるわ)

総長「許しませんよ、絶対に! 皆さん、出てきなさい!」

女「!」

女(ウソ、こんなに仲間がいたの?)

不良「何をする気だ」

総長「くくくく、魅力的な女性を隣に置いてますねぇ。いたぶるのが楽しみです」

不良「ま、待ってくれ! それだけはやめろ、頼む!」

総長「やけに焦るじゃないですか」

不良「この人は関係ねえんだ! 他に何でもする! この通りだ!」

女(不良さん……この人、見た目は悪そうだけどやっぱり優しい人なんだ)

総長「何でもする、ねえ。貴方が何かしたところで、彼女に危害を加えないとは言い切れません」

総長「私の気分次第ですけど、そうですね。ひとつ教えてほしいことがあります」

不良「教えてほしいこと?」

16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/15(火) 00:56:31.63 ID:Ccm8b4TeO
総長「なぜ野球を続けなかったんですか」

不良「……!」

総長「貴方は間違いなく素人でしたけど、並外れた才能があった。でなければ私の球をスタンドインさせることなど不可能です」

総長「それだけの才能がありながら、なぜ続けなかったんです。もし続けていれば私はこんなに……いえ、何でもありません」

不良「……俺が野球をやらなかった理由、か……」

不良「あんただよ」

総長「?」

不良「あんたがいたから俺は野球をやらなかったんだ」

総長「どういうことですか」

総長「まさか、私が野球を辞める原因を作った素人の自分が許せず、野球は続けなかったと言いたいんですか?」

不良「それもある。俺が不貞腐れちまった理由だからな」

総長「き、貴様ああああ!! 貴様も哀れみを向けるのかああああ!!」


不良「凄かったよ、あんたの球」

総長「!!」


不良「こんな格好になった経緯はさて置き、野球を続けなかった一番の理由は、あんたの投げる球が凄かったからだ」

総長「な、何を言って……」

不良「当時、俺は野球の面白さにドハマりしてよ。プロを目指そうかと思ってたくらいだった。何とか野球部に入らせてもらって、公式戦にも出させてもらって」

不良「打つ以外は試合にならないレベルだったから、代打しかやらせてもらえなかったけど、すげえ楽しかった」

総長「……」

不良「このままいけばマジでプロになれるんじゃねえかって考えてた。どんな投手の球も楽勝で打てたから、ホント調子乗ってたぜ」

不良「でも、都大会準決勝であんたと出会って、鼻っ柱を折られた。『こんなエグイ球を投げる奴がいるなんて』って鳥肌が立った」

不良「代打を送られて、打席に立って。なおさら『こりゃ無理だ』って思ったね。『こんなの打てるわけねえ』って」

不良「まあ、それでも何とか喰らいついて、悔いが無いように思いきり振ったバットがマグレで当たってよ。結果はホームラン、こっちの勝ちになったけど、二度とバットを握らねえことにした。こんな奴と何回も対戦しなきゃならねえ、プロのレベルの高さを思い知ったから」

女「そ、それじゃあ本当にマグレだったってこと?」

不良「ああ」

総長「う……嘘だ……そんなこと……」

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/15(火) 01:22:10.32 ID:Ccm8b4TeO
不良「嘘じゃねえよ。あんたの球が俺に野球を辞めさせたんだぜ。調子乗ってた俺をぶっ飛ばしたんだ」

総長「……」

不良「なあ、あんたまだ高校卒業したばっかだろ。やり直せるだろ。プロ目指せよ」

総長「そんな簡単にいくわけないでしょう……!」

不良「スランプってやつはそんなに厄介なのかよ。もったいねえ、あんたほどの才能が……」

総長「わ、私は……もう私は野球を辞めたんだ……! やらないと、誓って……!」

下っ端A「総長、話はそのへんでいいじゃないっすか」

女「きゃあっ!?」

下っ端B「すげえ良い女っすよ、やっちゃいましょうよ」

下っ端A「むちむちの太ももしてんねえ、この奥はどうなってんのかなぁ」

不良「て、てめえらッ!!」

不良(油断した隙に! この距離じゃ間に合わねえ!)

総長「きええええええいッ!!」

下っ端A「うぐうッ!? い、痛えッ!!」

女(これは……野球のボール? 彼が投げたの? あの距離から、私に当てずにこいつの腕に……!)

不良「す、すげえコントロールだ! 復活してたのか!?」

総長「フン、手を狙ったはずなんですがね。これじゃ打たれますよ」

下っ端B「何するんすか総長ぉ!」

総長「黙りなさい!! 誰がその女性に手を出していいと言いましたか!!」

下っ端A「す、すみませんっ」

不良「はは、ボールを肌身離さず持ち歩いてるなんて、とんだ野球小僧だな。あんたやっぱりプロになるべきだぜ。独立リーグに行って目指せよ、上を」

総長「うるさいですね。これからどうするかは私が決めることです。まあ、ひとつの選択肢として無くもないですけど」

総長「貴方たち、撤収しますよ」

下っ端A「へっ? 女はどうするんすか!」

下っ端B「総長、待ってくださいよ! 総長!」

女・不良「……」

女「心なしかすっきり晴れたような表情をしてたわ」

不良「だったら嬉しいけどよ。俺はあいつのファンだからな」

 

35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/15(火) 19:27:17.26 ID:Ccm8b4TeO

――――

不良「しまった、サインもらっておけばよかった」

女「また会った時でいいんじゃない?」

不良「そうだな。もしプロになったら球場に行くぜ。色紙とペンを忘れずにな」

ゴゴゴゴゴゴ

女・不良「!!」

女「な、なにこの重い空気……! 息苦しい……!!」

不良「こいつは……この先、とんでもない奴が待ち構えてやがるぜ……!!」

女「屈しないわ。やさしい世界に行き着くために乗り越える!」

???「……」ゴゴゴゴゴゴ

不良「で、出やがった!!」

女「そんな……まさか……!!」


↓1 二人の行く手を阻む者

36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/15(火) 19:29:27.71 ID:ryVpMa5l0
女のお兄ちゃん(シスコン)

42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/15(火) 23:22:13.73 ID:CwhnXLXkO
兄「ここにいたのか」

女「お兄ちゃん!!」

不良「なんだって? このイケメン、あんたの兄ちゃんなのか」

女「そうよ。紛れもなく兄であり、私がやさしい世界を目指すきっかけを作った人」

不良「きっかけを……?」

兄「妹……どこにいるかと思えば、やっと見つけたよ。今日は兄ちゃんと買い物デートする予定だったろ?」

兄「事前にサーチしてお前に似合う服を3種類ほど選んだんだ。全部買ってあげるよ。その後は一緒にアイスを食べよう。食べあいっこしよう」

女「……」

不良「良い兄貴じゃねえか。ちょっと行き過ぎてる感はあるが、オーラほど闇を抱えてるようには見えねえ」

女「騙されないで。こいつは私の家に盗撮カメラを仕掛けた前科があるのよ。リビングやダイニングはもちろん、お風呂やトイレ、隅々まで私を観察するためにね」

女「それだけじゃないわ。私の写真を常に持ち歩いてて30分ごとに取り出してはキスをするの。その上、私の薄い本や抱き枕、目覚まし時計なんかのグッズまで作って同人誌即売会に売り出して完売させたりしてるのよ」

不良「や、ヤバすぎんだろ……!! 放つオーラにふさわしい、おぞましい奴だぜ……!!」ゾクッ

兄「おいお前、なぜ僕の可愛い妹と一緒に歩いているんだ」

女「貴方こそ何で私がここにいることを知ってるの」

兄「イヤリングに発信機を取り付けたからね」

女「なっ……!? 気が付かなかった! こんなもの!」ポイッ

不良「マジで気持ち悪ぃな」

兄「気持ち悪いのはお前だ!! 僕の愛しい妹に近づくな! どうせ体目的だろう! 僕の妹は女神すらも嫉妬する美貌だからね!」

兄「さあ妹、一緒に帰ろう! その足でデパートに行くんだ。服以外にも下着や小物を買ってあげるよ」

女「嫌っ! もううんざり! 私はもう貴方の妹じゃない、赤の他人よ! どこかに消えて変 !」

兄「どうしたんだ妹、いつもの君らしくない。そんなに怒って……僕が何をしたっていうんだ」

不良「しまくってるだろ! あんた異常だよ、盗撮だの写真にキスだの実の妹にすることじゃねえ! 妹の気持ち考えたことあんのか!」

43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/16(水) 00:44:31.31 ID:69A+5HqQO
兄「当たり前だろ。妹は嫌だ嫌だと言いつつ、心では喜んでるんだ。僕という最愛の兄を慕ってくれている」

女「違うって何度も言ってるじゃない!」

不良「らしいが」

兄「いいんだよ妹、嘘をつかなくても。人前だから素直になれないだけなんだよね」

女「いい加減にして!! バカ!! シスコン!!」

兄「そうそう、そうやって愛情を向けてくれればいいんだ」

不良「こいつ、頭がどうかしてるぜ。あんたがやさしい世界を目指す理由、身に染みて分かった」

女「もう嫌……もうやめて……」

不良「ん? おい、どうした?」

女「死んでやる……」

不良「!?」

兄「死ぬだって?」

女「死んでやる……死ねばもうくっつかれれなくなる……死にさえすれば……」

不良「な、ナイフ! なんでそんなもの隠し持ってんだよ!」

女「余裕がなかったのよ。執拗に付きまとわれて、精神的に疲れ果てて、いざとなったらって……」

女「やさしい世界を目指す覚悟を持った時、使わないって決めたんだけど……無理だったみたい」

不良「待てよ!! この先に待ってるかもしれねえんだぜ、やさしい世界が!! あんたが求めてる世界が!!」

兄「じ、冗談だろう妹。そんな危ないもの地面に置いてくれ。辛いならお兄ちゃんが慰めて、」

不良「まだそんなこと言ってんのか!!」

兄「ぐはっ!?」

不良「目を覚ましやがれ!! こいつはてめえのせいでこんなに追い込まれてんだ!! 死にたくなるくらい辛い目に遭ってんだよ!!」

兄「そ、そんなバカな……」

不良「てめえは妹の本当の気持ちを理解できてねえんだ。理解したつもりになってるだけに過ぎねえ。頭冷やして自分がしたことを振り返ってみろ」

兄「……妹……」

女「ぐすっ……死んでやる……!」

兄「ぼ……僕は……僕は、とんでもないことをしてたのか……? 独りよがりなことを……」

女「死んでやる!」

兄「ま、待ってくれ!!」

44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/16(水) 01:05:48.42 ID:69A+5HqQO

ギュッ

不良(は、速ぇ! 俺が反応するよりも先に、一瞬で……ゴキブリかよ!)

女「は、離して変 !! 触らないでよ!!」

女「離せバカ!!」

兄「ごめん」

女「……!」

兄「ごめん、ごめんよ妹……もう何もしないから。だから死ぬのはやめてくれ」

女「……」

兄「過ちだと認めよう。僕は君に酷いことをしたんだね。てっきり、君が嫌がるのは照れ隠しだとばかり思ってた」

兄「違ったんだね。君はずっと本心をぶつけていたんだね。心から僕をキモイと思って、本気で嫌がってたんだ」

女「やっと気づいたの」

兄「ああ、今更さ。君をここまで追い込まなきゃ気づない、最低なお兄ちゃんさ。いや、もう兄だと言う資格はないか」

兄「離れるけど、その前にナイフを置いてくれるかい」

女「死なないから貴方が先に離れてよ」

兄「……そうだね。僕が怖い君からしたら、今ここでナイフを手放したら、何をされるか分からないよね」

兄「はは……そこまで信頼を失ってるわけだ」

女「……」

不良「おい、離れたぞ。ナイフを置けよ」

女「ええ……」

兄「……」

女「どこかへ行ってくれる? 視界に入れたくないの」

兄「分かったよ。その前にもう一度……」

女「謝罪なんていらない。今すぐ消えて」

兄「……」

不良「あっさり行っちまったな。ありゃマジで目が覚めたな」

女「どうだか」

不良「立てよ。この先にあるやさしい世界、目指すんだろ」

女「そうね。でも、分からなくなってきたわ」

不良「何がだ?」

女「そもそも、やさしい世界って何なの? 人間誰でも闇を抱えてるものでしょう。私にだって貴方にだって」

女「やさしい世界って、人間がいない世界なの?」

不良「さあな」

女「だとしたら、私たちがそこへ到達したら、やさしい世界じゃなくなってしまうんじゃない?」

不良「知らねえよ。やさしい世界ってのがどんなもんか、行って確かめるしかねえ」

女「……」

不良「もとはと言えばあんたが言い出したことだぜ。覚悟があるんだろ」

女「もちろんよ……。さあ、行きましょうか」

45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/16(水) 03:47:36.27 ID:69A+5HqQO
寝落ち
明日に持ち越し

46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/16(水) 23:51:55.54 ID:SnYRZ/x4O

――――

不良「こいつはどういうことだ? 見た感じ、ただの大通りだぜ」

女「そうね」

女・不良「……」

不良「言いにくいんだがよ。あんた……」

女「偽の情報を掴まされた、って言いたいんでしょ。そうみたい。私たちはただ、人気のない道を通り抜けただけ。やさしい世界なんてどこにもなかったのよ」

女「ふふっ、見事にネットのデマに踊らされたわ。バカみたいよね。ごめんなさい、信じてついて来てくれたのにこんな結末になっちゃった」

女「私はもう行くわ。またどこかで会ったら美味しいコーヒーでも飲みましょう」

不良「デマとは言い切れねえんじゃねえかな」

女「えっ」

不良「俺はそうは思わねえ、つーか思えねえんだよ。ここに来るまでいくつもの出会いがあっただろ? 偶然にしちゃ出来すぎてる」

女「偶然よ」

不良「そうか? 俺が思うに、なんていうか……上手く言えねえけどよ。俺たちが通った道は、やさしい世界へ行くための道じゃなくて」

不良「やさしい世界へのきっかけを作ってくれる道なんじゃねえかって。そんな感じがするんだよ」

女「やさしい世界への……きっかけ……」

不良「踏切から始まって、俺は不貞腐れた原因の相手と打ち解けることができた。あんたは兄貴が目を覚まして、兄妹の関係を見つめ直す機会ができた」

不良「この後どうなるかは分かんねえけど、上手くいけばきっと……」

女「……なるほど」

不良「はは、妄想だけどな」

女「あながち、妄想じゃないかもしれないわよ。後ろを見て」

不良「!」

不良「どうなってんだ。俺たちは大通りに出てから一歩も動いてねえのに」

女「道が消えてただの壁になってる」

女・不良「…………」

47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/12/17(木) 00:00:12.25 ID:pZBMVlwkO
女「お兄ちゃんと、一度話し合ってみることにする。まだ怖いけど、向こうが本当に正気に戻ってくれたなら、普通の家族になってみたい」

不良「頑張れよ。俺も今日で不良は卒業だ。あいつが独立リーグに行くってんなら、俺もそこに乗り込んでみようかな」

女「お互い、前に進めるかもね」ニコッ

不良「おう」ニカッ

不良「っていうか、踏切が喋る時点でおかしいよな、あの道」

女「冷静に考えたらそうね。あの道は、私たちみたいな心のわだかまりを抱えた人間のために」

女「神様がこっそり用意してくれたものなのかもしれないわね」フフッ


おわり