1: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:06:48 ID:PSu
~12月24日早朝/某高級マンション・岡崎泰葉の部屋前~

???「メリークリスマース(ノックノクック)メリークリスマース(ノックノクック)」

岡崎泰葉「誰ですか朝っぱらから人の部屋の前でメリクリメリクリ言ってるのは(ガチャ)……あれっ」

イヴ・サンタクロース「おはようございます~。朝からほんとごめんなさい~」

泰葉「どうしたんですかイヴさん。確か今日は1日お忙しいって話だったような」

イヴ「はい。サンタ本番ですからね~。本番前にちょっと立て込みそうな泰葉ちゃんの所に先に来させていただいたんです」

泰葉「はあ……あの、あと」

イヴ「はい?」

泰葉「なんだか廊下が騒がしくないですか? ひょっとしてここに来るの見られたとか」

イヴ「ふふふ大丈夫ですよ~。ちゃんと変装して来ましたし、早い時間だから廊下には私しかいません~」

泰葉「えっ、だって人影がたくさん……わあっ!?」

イヴ・サンタクロース1「メリークリスマース!!」

イヴ・サンタクロース2「メリークリスマース!!」

イヴ・サンタクロース3「メリークリスマース!!」

イヴ・サンタクロース4「メリークリスマース!!」

イヴ・サンタクロース5「メリークリスマース!!」

イヴ・サンタクロース6「メリークリスマース!!」

イヴ・サンタクロース7「メリークリスマース!!」

イヴ・サンタクロース8「メリークリスマース!!」

イヴ・サンタクロース9「メリークリスマース!!」

イヴ・サンタクロース10「メリークリスマース!!」

イヴ・サンタクロース(代表)「ね~? 私だけでしょう~?」

泰葉「帰ってください」

引用元: 【モバマス】聖夜と泰葉と11人 




2: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:07:15 ID:PSu

イヴ(代表)「ええ~っ、なんでですかぁ~!!」

泰葉「イヴさんが11人居るように見えるからですよ!!」

イヴ「せっかく早起きして訪ねて来たんだから入れてくださ~い!」

泰葉「ドアにつま先入れて粘らないでください! 今夜は事務所のみんなと始めてのクリスマス会なんですから。凄い楽しみにしてたんですから!」

イヴ(代表)「泰葉ちゃんの口からそんな言葉が出るなんて嬉しい~!」

泰葉「なのにイヴさんが11人居るように見えるなんて言ったらクリスマス会参加させてもらえないじゃないですか! あああこういう時ってどういう薬飲めばいいんだろう(アワアワ)」

イヴ(代表)「大丈夫大丈夫。泰葉ちゃんは正常ですよ~。私、今ちゃんと11人居ますから~」

泰葉「余計問題がありますよ。なんで理由もなく11人に増えて訪ねて来たんですか!!」

イヴ(代表)「え~っ、理由なら今泰葉ちゃんが言ってたじゃないですか~」

泰葉「えっ」

イヴ(代表)「そのへんの事もちゃんと説明しますから、一度中に入れてください~。このまま人に見つかると、大騒ぎになってしまいますからね~」

泰葉「うう、確かに……で、ではどうぞ中に」

イヴ(代表)「おじゃましまーす」

イヴ達「「「「「「「「「「おじゃましまーす」」」」」」」」」」

泰葉「うわあん、頭がおかしくなりそう……!!」

3: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:08:33 ID:PSu

~15分後/泰葉のマンション・居間~

泰葉「はい、お茶をどうぞ」

イヴ(代表)「ありがとうございます、あったまります~」

泰葉「後ろのイヴさんたち? もどうぞ」

イヴ達「「「「「「「「「「助かります~」」」」」」」」」」

泰葉「うわあ一糸乱れぬタイミング……それで、あの。ちゃんと説明してくれるんでしょうね」

イヴ(代表)「はい~?」

泰葉「なんでイヴさんが11人に増えてるのかって話です」

イヴ(代表)「世界中にプレゼントを配るんですから、サンタがたくさん居たって分身したってぜんぜん不思議じゃないでしょう~?」

泰葉「……えっ、サンタって本当なんですか?」

イヴ(代表)「ずっとそう言ってたと思いましたが~」

泰葉「実は菜々さんの17歳みたく、そういうキャラ作りなんだとばかり」

イヴ(代表)「でももう信じてくれましたね~?」

泰葉「ええ、その、まあ」

イヴ(代表)「ブリッツェンも橇を引いてベランダで待機してますし~」

泰葉「うわあ本当だいつの間にって多いな!?」

イヴ「私が11人居ればブリッェンも11人居るのが道理じゃないですか~」

泰葉「道理ってこういう感じのものだったかなあ」

4: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:09:01 ID:PSu

イヴ(代表)「まあともかく改めて、私サンタのイヴ・サンタクロースなわけです(ペコリ)」

泰葉「ご、ご丁寧にどうも。それで、あの」

イヴ(代表)「はい~?」

泰葉「何故11人の増えてウチに? 確か、私が理由言ってたとかなんとか」

イヴ(代表)「はい。クリスマス会を楽しみにしてるって」

泰葉「まあ確かに言ったんですけど、でも」

イヴ(代表)「?」

泰葉「さっきのやりとりでも解ったと思うんですが、私サンタ信じていなかったわけなんですが」

イヴ(代表)「ふふふ、それは別にいいんですよ~♪」

泰葉「いいんですかサンタがそんなこと言って」

イヴ(代表)「いいんです。それより大事なのは、泰葉ちゃんがクリスマスを楽しみにしたり、夢を見たりする余裕が出来たってことのほうなんです」

泰葉「……サンタを信じていなくても?」

イヴ(代表)「サンタを知らなくても、信じていなくても、夢見るよい子はよい子ですから~」

泰葉「な、なるほど」

イヴ(代表)「サンタは基本的に毎年よい子のもとへプレゼントを届けようとします。でも、対象の子供に夢を見たりクリスマスを楽しみにする心の余裕がないと存在を否定されて近寄れなくなってしまうんです~」

泰葉「そういうものなんですか」

イヴ(代表)「そういうものなんです。近頃結構多いんですよね~、子供の頃からそういう余裕を持てなくて、サンタが近寄れないまま大人になってしまう人……」

5: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:10:16 ID:PSu


泰葉「なんだか寂しい話……あっ」

イヴ(代表)「はい?」

泰葉「心に余裕がないとサンタが近寄れないってことは、もしかしてほたるちゃんの所にも近寄れなかったとか?」

イヴ(代表)「はい。知っての通りほたるちゃんはよい子で今でもサンタを信じているんですが」

泰葉「ピュアな13歳……!!」

イヴ(代表)「本人の心に余裕が無かったのと、あとほたるちゃんにプレゼントを届けようとするサンタにはありとあらゆる不幸トラブル交通取り締まり植木鉢が襲いかかるので、いまだかつて無事プレゼントを届けられたサンタはいないんです~」

泰葉「ほたるちゃん不憫……!!」

イヴ(代表)「これまで数々のエースサンタがほたるちゃんシールドの前に力尽き、倒れて行ったものでした……」

泰葉「うわあ……ええと、つまり。私にはそういう心の余裕が出来たから、サンタが近寄れるようになってイヴさんが来たと?」

イヴ(代表)「あと、今年一年とってもよい子だったからです~」

泰葉「それはいいですから(///)」

イヴ(代表)「うふふ照れちゃって可愛いです~」

泰葉「もう、からかうのやめてください……とにかく理屈は解りましたが何故11人も一度に」

イヴ(代表)「それはもちろん再配達のためです~」

泰葉「再配達?」

6: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:11:09 ID:PSu

イヴ(代表)「はい~。近寄れはしませんでしたが、これまでの11年間サンタはちゃんと願いを受け取ってプレゼントを持って、泰葉ちゃんところに行こうとしていたんですよ~?」

泰葉「そ、そうだったんですか」

イヴ(代表)「せっかく届けられるようになったんだからこれまでの分を全部お届けしようと思ったんでけすど、それだと時間がかかるので朝におじゃましたってわけなんです~」

泰葉「11年……あー」

イヴ(代表)「はい。5歳から15歳までの分ですね~」

泰葉「子役時代は確かに余裕とは無縁だったなあ……ところで、サンタさんて、みんなイヴさんの姿なんですか?」

イヴ(代表)「いえ~、私は見習いですが、本来ちゃんとしたサンタに決まった姿はありません~」

泰葉「そういうものなんですか」

イヴ(代表)「はい~。オーストラリアのサンタはウエットスーツだったりサーフィンしてたりするでしょう~? 基本、サンタというのはその人の思う姿で見えるものなんですよ~」

泰葉「サンタと言えばイヴさん、というイメージが私にあるからみんなイヴさんに見えてる、って事ですか(チラッ)」

イヴ達「「「「「「「「「「御名答~♪」」」」」」」」」」

イヴ(代表)「そういうわけで泰葉ちゃん。11年分のクリスマスプレゼント、どうぞ受け取ってください~♪」

泰葉「えー、嫌ですよ帰ってください」

イヴ達「「「「「「「「「「なんでですか~!!」」」」」」」」」」」

泰葉「だって10年近く前のプレゼントなんて今更貰ってもだし、なんだか恥ずかしくて……」

イヴ(代表)「これは忠告ですが」

泰葉「な、なんですか急にまじめな顔で」

イヴ(代表)「サンタを無理に追い返すと、大変なことになりますよ~?」

泰葉「えっなに怖い」

7: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:12:06 ID:PSu

イヴ(代表)「ここで受け取っておかないと」

泰葉「おかないと?」

イヴ(代表)「来年は12人のサンタが泰葉ちゃんを訪ねて来ます~」

泰葉「増えるの!?」

イヴ(代表)「増えますよ~。だからあまり増えないうちに受け取っておいたほうがいいと思います~」

泰葉「まさかサンタに脅される日がくるなんて」

イヴ(代表)「未配達のプレゼントを溜めてると橇のスペースを圧迫するから私たちも困っちゃいますしね~」

泰葉「サンタが宅配業者みたいな事言ってる……」

イヴ(代表)「偉い人にも怒られちゃうんですよ~」

泰葉「どこの業界も世知辛いんですねえ……解りました。受け取りますよ」

イヴ(代表)「やった~!!」

イヴ達「「「「「「「「「「やった~!!」」」」」」」」」」

泰葉「うわあめっちゃうれしそう」

イヴ(代表)「サンタにとってプレゼントを渡せる事より嬉しい事なんてありませんよ~? はい、では再配達のサンタはプレゼントを持って一列に並んで~」

イヴ達((((((((((整列))))))))))

泰葉「順番に渡す感じなんですか? 別にそこにまとめて置いといてくれれば……」

イヴ1「だって何年も待ったんだからちゃんと渡したいんですもの~!」

イヴ4「そうそう、起きた子供に手渡せる機会なんて滅多にないし~!」

泰葉「あ、起きてるところに渡したいって気持ちはあるんだ」

イヴ2「無論。我らとて子供の喜ぶ顔を間近で見たいと思うことはあるからな」

泰葉「なんかお侍みたいな喋り方するイヴさんが居る!!」

8: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:12:58 ID:PSu


イヴ(代表)「まあ、外見が私なだけで、本来別々のサンタですしね~」

泰葉「……今更だけど、ずっと代表で喋ってるのが私の知ってる本物のイヴさんってことでいいんですか?」

イヴ(代表)「はい。知り合いのほうが事情説明するにも都合いいですからね~」

泰葉「確かに」

イヴ(代表)「ちなみに私は去年と今年のプレゼント担当だから、お渡しは最後です~」

泰葉「はあ……」

イヴ(代表)「これが渡す予定のプレゼントです~。楽しみにしててくださいね~?」

プレゼント(ジタバタ)

泰葉「そのプレゼント動いてません!?」

イヴ(代表)「気にしないで~」

泰葉「いや気になりますよ! 何ですかそのちょうど人ひとり入る感じの袋!!」

イヴ(代表)「大丈夫~。張り切って出番が待ちきれないだけですから~」

泰葉「それ信じていいんですよね?」

イヴ(代表)「勿論です~」

泰葉「信じましたからね? お願いしますよ? 犯罪とかは勘弁ですよ?」

イヴ(代表)「サンタは子供を犯罪に巻き込みません~」

泰葉「サンタの良心を信じるしかないか……」

イヴ1「あの~。もうお渡ししちゃって大丈夫ですか~?」

泰葉「あ、すみませんお待たせして」

9: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:14:11 ID:PSu


イヴ1「それではまず私から。5歳時担当、便宜上イヴ1号と名乗らせていただきます~!」

泰葉「ちなみにうちの事務所のイヴさんは何号なんですか?」

イヴ1「プレゼント渡す順番が最後ですから11号ですね~」

泰葉「11号」

イヴ(代表)「違います~。本物には番号なんていらないですもの~……それよりほらプレゼント、プレゼント」

イヴ1「そうでした~。5歳の泰葉ちゃんに送るはずだったプレゼントは……じゃん!! これです~!(ドドンッ)」

泰葉「おっき! 包装大きい! 今それどこから出したんですか!?」

イヴ1「まあまあ細かい事は気にせずに、さあ開けてみてください~」

泰葉「動いてないだけ安心だけど(ガサガサ)……あっ、これ、白熊のぬいぐるみ……?」

イヴ1「はい~。5歳のプレゼントは、泰葉ちゃんが埋まるくらいおっきなしろくまさんのヌイグルミでした~」

泰葉「うわあ、本当に大きい……あれっ、でも、変じゃないですか」

イヴ1「何がですか~?」

泰葉「東京で仕事始めて初のクリスマスだから覚えてるんですよ。私が5歳のときサンタさんにお手紙でお願いしたのって、確かスケジュール帳だったはず」

イヴ1「はい。本当はおっきなぬいぐるみが欲しかったけど、子役の活動始めたばかりで交通費も掛かってたから、両親に高いものをねだるのが悪いような気がして、スケジュール帳にしたんですよね~」

泰葉「何故知ってるのぉ!?」

10: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:14:34 ID:PSu

イヴ1「それは勿論、子供の本当に欲しいものが解るのがサンタですもの。だからこれは、あの時泰葉ちゃんが本当に欲しかったものですよ~」

泰葉「えっ、あれっ、そういうの赤裸々にされちゃう感じ? どうしよう、こういう話になるなら断固帰ってもらえばよかった……!!」

イヴ1「そんなつれないこと言わないでください~……まあ、どうしても受け取りたくなければ、受け取り拒否もできますし」

泰葉「えっ、できるんですか」

イヴ1「プレゼントを確認してもらった後ならば、残念ですけど~。どうしますか?」

泰葉「……(モフモフ)受け取っておきます……」

イヴ1「ありがとうございます~! どうですか抱き心地~!」

泰葉「率直に言って最高です。フカフカで、暖かで、なんだか懐かしいにおいがするって言うか……」

イヴ1「や~ん、届けた甲斐がありました~! じゃ、私はこれで!!」

泰葉「あれっ、1号さんはもう行っちゃうんですか」

イヴ1「はい~。このあとみんなで世界中にプレゼント配らないといけませんから~! では!!(シュバッ)」

泰葉「うわー……一瞬で窓の外のブリッツェンに乗り込んで行っちゃった……」

11: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:14:55 ID:PSu

イヴ2「さあさあ、次はそれがしが配達する予定だった6歳のプレゼントを受け取られい」

泰葉「あ、これ、『パンダ侍』のシール帳だ」

イヴ2「これは確か、貰おうと思ったら貰えた奴でしたな」

泰葉「ほんとサンタって人のプライバシーを細かい所までよく知ってますね訴えようかな」

イヴ2「訴訟だけは平にご容赦願いたく……!!」

泰葉「でもまあそうだったんですよね。パンダ侍のお仕事させて貰ったときにノベルティで貰えてね」

イヴ2「ほほう」

泰葉「仕事で一緒になった子たちは素直に貰ってシールで遊んでたけど、子供っぽい気がしたし。お仕事の待ち時間に遊ぶなんてプロとしてどうかなと思って、欲しいって言えなかったんですよ」

イヴ2「斯様な事情があることまでは存じなんだ」

泰葉「でも皆でわいわい遊んでるのが楽しそうで。1人だけ輪からはずれてるのが寂しくて、けっこう後のほうまで引きずってたなあ」

イヴ2「欲しかったものでも、よい思い出があるとは限らないのは寂しい事だな……受け取り拒否しておくか?」

泰葉「うーん……貰っておきます。懐かしいし。莉嘉ちゃんや小さい子に分けてあげたら、楽しく遊ぶと思う」

イヴ2「それがいい思い出になると、よいな」

泰葉「本当にね……2号さん、ありがとうございました」

イヴ2「いや、こちらこそ受け取ってくれた事に感謝しておる。これで心おきなくアルジェリアに出発できると言うもの」

泰葉「行き先遠いですね!?」

イヴ2「サタンはワールドワイドなものだからな。ではさらばだ!!(シュバッ)」

12: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:15:22 ID:PSu

泰葉「……行っちゃった。イヴさんてちょっとおっとりしてるイメージあったのになあ」

イヴ(代表)「姿と声が私なだけで中身は百戦錬磨のサンタ精霊ですし、私だってプレゼント配るときはちょう機敏ですよ~?」

泰葉「想像できない……」

イヴ(代表)「さあどんどん行きましょう。次は7歳のプレゼントですよ~!!」

イヴ3「まあまあ泰葉ちゃん大きくなって~」

泰葉「いきなり親戚のおばちゃんみたいなノリになった」

イヴ3「私が知ってるのは配達予定だった7歳の泰葉ちゃんですからね~。ちゃんと健康に大きくなってて安心しました~」

泰葉「なんで私見ず知らずのサンタさんに健康を心配されているんだろう……」

イヴ3「それは簡単。7歳の泰葉ちゃんが心から欲しがったプレゼント、それは……」

泰葉「それは?」

イヴ3「じゃん! 『休暇』で~す!!」

泰葉「いきなり欲しいものが世知辛くなったなあ私!!」

イヴ3「7歳の子供が休暇を切望してるとか、そりゃ心配にもなるでしょう~?」

泰葉「いやまあ確かに……でも本当に欲しかったんですよ、言われて見れば」

イヴ3「ふむふむ」

泰葉「だんだん仕事が増えてきて長崎に帰るより東京で過ごす時間が増えてきて。両親に会える日も減ってきたし毎日忙しくなってきたしで、疲れてて。年末あたり本当にヘトヘトだったなあ……でも、あれっ」

イヴ3「どうしましたか~?」

13: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:15:47 ID:PSu

泰葉「他のものならとにかく、休暇なんてどうやってプレゼントしてくれるつもりだったんですか?」

イヴ3「はい~、泰葉ちゃんの会社の偉い人にサンタ光線を浴びせて、休暇をあげたくて仕方なくなるように」

泰葉「それ暗示とか洗脳とか言う奴では!?」

イヴ3「大丈夫です~。サンタ光線は無害ですから~……で、受け取ってくれますか?」

泰葉「いや、今のプロダクションではしっかり休暇貰っていますから」

イヴ3「あら~、そうなんですね~! よかったぁ」

泰葉「前撮りは大変だったけど、クリスマスも年末も余裕のあるスケジュールにしてもらってますし……あ。このプレゼントって、誰か別の人に渡してもらうことって出来ますか?」

イヴ3「今からのお届け変更ですと到着は25日以降になってしまいますがよろしいでしょうか~?」

泰葉「なんでちょくちょく宅配業者っぽいんですか」

イヴ3「細かいことは気にしないで~。それで、どなたにお届けすればよろしいですか?」

泰葉「私たちのプロデューサーさんに。私たちのためにいつも残業や休日出勤ばかりしてるんですから、あの人」

イヴ(代表)「そうそう~。プロデューサーさんたら、夜泰葉ちゃんたちがクリスマス会してるころも外回りの予定なんですよ~」

泰葉「というわけでサンタ光線で無理矢理休ませてあげてください。3日間ぐらい家で食っちゃ寝させる方向で」

イヴ3「了解しました~! サンタ光線の威力、期待しててくださいね~!(シュバッ)」

14: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:36:18 ID:PSu

泰葉「……あの人もこの後どこかに配りにいくだろうに、届け先変更とか悪い事しちゃったかなあ」

イヴ(代表)「サンタは子供のお願い聞くのが喜びなんですから、今頃は3号さんにこにこ顔ですよ~」

泰葉「……だといいなあ」

イヴ4「続けて8歳のプレゼント、『両親とおでかけ』~!!」

泰葉「危うくうちの両親にサンタ光線がお見舞いされるところだった!?」

イヴ4「はい~! 泰葉ちゃん8歳のお願いをかなえるべくサンタ光線砲に磨きをかけていたんたですよ~?」

泰葉「今『砲』って言いました?」

イヴ4「偉い人への休暇暗示、ご両親へのビーム、当日の交通機関の安全確保など広範囲に干渉が必要なお願いでしたからね~。個人レベルの光線じゃ間に合わなかったんですよ~」

泰葉「届いてたらすごい手間かけてたんですね……」

イヴ4「だって、一緒におでかけ、したかったんでしょう?」

泰葉「……したかったなあ」

イヴ4「……」

15: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:41:16 ID:PSu

泰葉「どんどん仕事が増えて、東京にいる事ばかりが増えて。両親には会えないし、たまに会えてもほんの短い時間だし……寂しさが頂点に達したころじゃなかったかなあ」

イヴ4「その寂しさストレスがこの後の惨劇プレゼントを産むんですね~」

泰葉「今惨劇って言いませんでした?」

イヴ4「お気になさらず~。それで、どうしますか? 受け取ってくれますか~?」

泰葉「……これは、受け取り拒否で」

イヴ4「そうですか~……」

泰葉「私ね、大きくなって、自分で両親に会いに行けるようになったんですよ」

イヴ4「……」

泰葉「年末も、会いに行ってくるんです。会おうと思ったら、自分でいつでもいけるようになったんです」

イヴ4「……泰葉ちゃんは自分の力でお願いをかなえられるようになったんですね。嬉しいです~」

泰葉「だから、このプレゼントはもう要らないんです」

イヴ4「そういうことなら喜んでプレゼントを引っ込めます。正直この後のプレゼントがプレゼントなので心配してたから~」

泰葉「ねえだからこの後のプレゼントの何がそんなにまずいんですか!?」

イヴ4「それは自分の目で確かめてください~!(シュバッ)」

イヴ5「(にゅっ)というわけで9歳のプレゼント、『現金』~!!」

泰葉「9歳にして心から現金を要求!!!」

16: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:41:36 ID:PSu


イヴ5「『よい子』属性のままでこれは結構珍しいから私たちの間でも話題になってものでした~」

泰葉「いや違うんですよこれは違うんです聞いてくださいイヴ5さん」

イヴ5「あらあら泰葉ちゃんそんなにあわてて~」

泰葉「9歳の頃って仕事が増えて」

イヴ(代表)「泰葉ちゃんさっきからずっと『仕事が増えて』ばっかり言ってますねえ」

泰葉「仕方ないじゃないですか本当に毎年毎年冗談みたいに仕事が増えて行ったんだもん!!」

イヴ(代表)「まあまあ、落ち着いて落ち着いて~」

泰葉「は、はい……それでですね。本格的に東京に住むことになったんです。両親は仕事の都合で長崎を離れられなかったから、私だけプロダクションの近くにマンション借りて。女性のマネさんが隣に住んで……」

イヴ5「すごい待遇だったんですね」

泰葉「まあ、稼いでましたから……そうなると、とにかくいろいろなものが足りないんですよね。スタッフさんと相談して家具とかそろえたのにあれが足りない、これが足りない。とにかく次々お金が入り用で……」

イヴ5「大変だったんですねえ」

泰葉「そういうわけで時期的に本格的にお金が必要だったからこういう願いになったわけで、決してお金がすべてとかお金だけが信用できるとかそういうことを考えてこういう願いになったわけでは……!!」

イヴ5「解ってます解ってます」

泰葉「その曖昧な笑顔、本当に解ってるんですかー!!」

イヴ5「でもそういう弁解がパッと出てきちゃうということは、そういう考えもちょっとだけ脳裏にあったりしたのでは~?」

泰葉「うぐう、この人イヴさんの顔なのに鋭い……!!」

17: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:43:17 ID:PSu


イヴ(代表)「まるで私が鈍いみたいな言い方は心外です~」

イヴ5「まあそのあたりは置いといて、どうしますか~? 持ってて邪魔になるものでなし、受け取っておきますか~?」

泰葉「……要らないです。もう一生分稼いでるし」

イヴ5「ですよね~」

泰葉「それに、クリスマスプレゼントにお金を貰っちゃうのって、なんだかこう……」

イヴ5「こう?」

泰葉「夢がない。うん、そう。夢を壊しちゃう気がして、嫌なんです、このごろは」

イヴ5「それが聞けて、ホッとしました~♪」

泰葉「だからこのお金はサンタさんたちで持ち帰って、サンタ活動のあとでお鍋とか暖かいものでも食べるのに使ってくださいよ」

イヴ5「いいんですか? けっこうな額ですよ~?」

泰葉「いいんです」

イヴ5「ふふ、嬉しい。プレゼント配りに来てプレゼントもらっちゃった」

泰葉「……嬉しいものなんですか」

イヴ5「勿論それを求めてるわけじゃないですが、やっぱり喜びや感謝の気持ちをちゃんと伝えて貰えるの、嬉しいじゃないですか~」

泰葉「……ああ、それは解ります」

プレゼント(ジタバタ)

泰葉「何故今の流れで16歳用のプレゼントがもだもだ動き出すの!?」

イヴ(代表)「私もそう思うと言いたいらしいですね~」

泰葉「ホント誰が入ってるんですかそのプレゼント……」

18: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:45:11 ID:PSu

イヴ5「ふふふ……あ、そうそうなにも渡さないのも寂しいので、これをどうぞ」

泰葉「……ベットボトルのミネラルウォーター?」

イヴ5「はい~。次のプレゼントをみる前に飲んでおいたほうがいいですよ~(シュバッ)」

泰葉「ちょっと待って次のプレゼントのなにが……行っちゃった」

イヴ6(ワクワク)

泰葉「6番目のイヴさんがワクワク顔で待機してる……あれは『このプレゼントを見てどのぐらいびっくりするかな』って楽しみにしてる顔だ!!」

イヴ6「御名答でーす!!」

泰葉「なんか今までのイヴさんよりハキハキした感じなのも不安をあおるなあ……飲んでおこう……(ゴクゴク)」

イヴ6「準備いいですか? いいですね?」

泰葉「あっちょっと待って深呼吸させて(スーハー)……どうぞ」

イヴ6「では受け取ってください。これが泰葉ちゃん10歳へのプレゼント……」

泰葉(ドキドキ)

イヴ6「『無』です」

泰葉「無?」

泰葉「『無』!?!?!?」

19: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:45:56 ID:PSu


泰葉「えっちょっと待って無ってなに? どうして? そんなもの欲しがったっけ私? というかそれが無?」

泰葉「そのあるんだかないんだか明るいんだか暗いんだか暖かいんだか冷たいんだか柔らかいんだか堅いんだか生き物なんだか物なんだか動いてるんだか止まってるんだかよくわからないじっと見てるとなんか不安な気持ちになってくるそれが『無』?」

イヴ6「長台詞ご苦労様でした!」

20: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:46:55 ID:PSu



泰葉「水飲んでおいて本当によかったと思いました……というか、えっ、無って手渡しできるものなんですか」

イヴ6「『無』を取得できるかどうかは難しい問題ですねー」

泰葉「そんなTAS動画みたいなことを言って……」

イヴ6「あら、そういうの見るんですね」

泰葉「ええまあ。会話のネタになりますし、シュールなおもしろさがありますよね……ってそうでなくて!」

イヴ6「はいはい」

泰葉「プレゼントが『無』って何ですか。いや、悪い子だったからプレゼントが無いって言うのなら解るんですが『無』がプレゼントってどういう事なんですか。というか10歳の子供がそんな抽象的なものを欲しがるわけ……が……あ、あれっ?」

イヴ6「どうしたんですか?」

泰葉「すみませんちょっと待ってください考えさせて……あれっそんな馬鹿な……」

イヴ6「……」

泰葉「私、10歳ごろの自分がなに考えてたかぜんぜん覚えてない」

21: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:49:23 ID:PSu

イヴ6「忙しかったですからねー」

泰葉「10歳から13歳くらいまで。出演した作品とかどんな仕事したかは覚えるのに普段なに考えてたかとかぜんぜん思い出せない。うわあ、これどういう事」

イヴ6「忙しすぎると、そうなっちゃうみたいですよ、大人の人とか」

泰葉「……」

イヴ6「毎日をこなすことに精一杯で、心がついて行かなくなっちゃって。ひたすら忙しくて、息苦しいのに身動きもできない」

泰葉「……」

イヴ6「そういう子が無意識に『無』を欲しがる事は時々あるんです。現状をすべて『無』にして止まってしまいたいって心の叫びというわけですね」

泰葉「そんな物騒なもの、渡しちゃって大丈夫なんですか」

イヴ6「泰葉ちゃんと同じ事務所でお世話になってるイヴも言いましたけど、『無』が必要になってるような子にはサンタの存在が否定されちゃうので近寄れないことが多いですね」

泰葉「ああ、クリスマスを楽しむ余裕や夢見る心ががないと無理、なんでしたっけ」

イヴ6「だけど、もし届けられたのなら、それでもいいと私は思いますよ。私たちのプレゼントを受け取れるようないい子が悲鳴も上げられないような現状は、吹き飛ばして些かの差し支えもないですもの」

泰葉「……怖いこと言いますね」

イヴ6「で、どうしますかこれ。思い切って受け取って使ってみます?」

泰葉「嫌ですよ」

イヴ6「きっぱり言えるんですね」

泰葉「当たり前です。私、今、幸せなんですから。これから、幸せになって行くんですから」

イヴ6「泰葉ちゃん大好き(ギュー)」

泰葉「なんで抱きつくんですか!?」

イヴ6「4号も5号も嬉しそうだったでしょう? 子供が幸せで嬉しくないサンタはいません!」

泰葉「もう16歳なんだけどなあ……」

22: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:51:13 ID:PSu

イヴ6「じゃあ『無』は回収しちゃいますね。どこかの誰かが『無』を獲得しないことを、泰葉ちゃんも祈っててください(シュバッ)」

泰葉「……なんだか変な気分……」

イヴ(代表)「どうしたんですか~?」

泰葉「なんだか居心地悪いですよ。いろいろ、昔のこと……思い出したくない事もなにもかも掘り返されてるような、変な気持ち」

イヴ(代表)「世の中には、サンタが居ないって思ってる子もいっぱい居るんでしょうね~」

泰葉「……唐突だなあ。さっきも言ったけど、それサンタが言っちゃっていいんですか?」

イヴ(代表)「さっきも答えましたがいいんですよ~……だからね、サンタを信じてない『いい子』がサンタに願うものは、実現可能か不可能かとか、値段とかに左右されない、本当の願いであることが多いんです」

泰葉「居ないものに願うんだから……って事ですか」

イヴ(代表)「願いを見つめるって言うことは、自分を見つめることかもしれない。私今、ちょっとそんなふうに思いました~」

泰葉「……今ちょっと、イヴさんが本物のサンタさんに見えた気がします」

イヴ7「(にゅっ)そんな風にしんみりしてる泰葉ちゃんに11歳の時のプレゼント。じゃ~ん『札束』~!!」

泰葉「11歳の私ィ!!!!!」

23: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:51:46 ID:PSu


イヴ7「しかもこれ、ただの札束じゃないんですよ?」

泰葉「あれっ、これ、刷ってあるの表だけだ。裏は真っ白で、本物のお金じゃない」

イヴ7「大人にお金がすべてだって言われて必死でお金を求めてるけど、本心ではお金が欲しいわけじゃない。別にそれでしたい事もない欲しい物もない、だんだんお金がただの紙切れに見えてくる……そんな11歳のせつない心理が見てとれますね」

泰葉「11歳の私救い無さ過ぎない!?」

イヴ7「さっき泰葉ちゃん自身も言ってましたが、忙しすぎる時期でしたからね~」

泰葉「ということは13歳までこの調子が続くんですか……」

イヴ7「いえ、12歳でちょっとホッとする展開が挟まってますが」

泰葉「12歳が気になるけどその後が更に気になりすぎる……あ、さすがにこれは受け取り拒否で……」

イヴ7「貰っても困りますよね~。了解です~(シュバッ)」

泰葉「あんなもの届けさせてなんか恐縮だなあ……」

イヴ(代表)「平気ですよ~」

泰葉「そういう物ですか?」

イヴ(代表)「他のイヴも言ってました。自分がプレゼントを渡すはずだった子供が幸せである。これを見られることほど嬉しい事って、なかなか無いと思いません?」

泰葉「……ちょっと解る気がします」

24: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:53:29 ID:PSu


イヴ8「では次は私。12歳のプレゼントは実用品ですよ?」

泰葉「……これは、化粧品のセット?」

イヴ8「はい。あと、ヒールつきの靴もどうぞ」

泰葉「……あー。あーあーあー。12歳って、私がジュニアモデル始めた歳ですね」

イヴ8「はい。知り合いのプロデューサーさんに勧められて、子役と平行してジュニアモデルを始めたんですよね」

泰葉「仕事の事だからかな、覚えてます。役者とは勝手が違うし、モデルの子って長身の子が多かったから、焦ったんですよねえ」

イヴ8「それで背伸びしたくてヒールにお化粧、ですか。ふふふ」

泰葉「……なんで笑うんですかー」

イヴ8「だって無とか白い札束の後だと化粧品がメッチャほほえましく見えません?」

泰葉「否定できないけど、ほほえましいとも言ってられなかったですよ。必死でした」

イヴ8「うん」

泰葉「子役だと小柄な体格は利点だけど、モデルは必ずしもそうじゃないですからね。どうしたら求められる事に応じられるんだろうって、必死に考えて」

イヴ8「泰葉ちゃんは、本当にいい子ですね~♪」

泰葉「茶化さないでくださいよ」

25: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:55:15 ID:PSu

イヴ8「本音ですよ。泰葉ちゃんはずっと、誰かの期待に、誰かの求めに、答え続けようとしてきた。すごい事です。素敵な事です」

泰葉「そのせいで、苦しみましたけどね」

イヴ8「後悔してますか?」

泰葉「……それは、してないです」

イヴ8「うん」

泰葉「以前はいろいろ思うこともあったけど。今は、あのころの私も今につながってるんだって。意味があったんだって、そう思っていますから」

イヴ8「……」

泰葉「本当に嫌だったら、辞めることだって出来たと思う。だけど、私はまだここに居たいって思えたから……」

イヴ8「……」

泰葉「あの頃もきっと、私の中で大事なものだったんですよ」

イヴ8「……これから、頑張ってくださいね」

泰葉「はい」

イヴ8「応援してますね」

泰葉「はい……サンタさんに応援されるのって、なんだか不思議な気持ちだなあ」

イヴ8「サンタは皆子供を応援してるに決まってるじゃないですか~。いつかチケット取ってライブも見に行きますね!!(シュバッ)」

26: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:55:57 ID:PSu
泰葉「その時はイブさん以外の姿で来てくださいねー! ……行っちゃった。みんな本当にあっという間に出て行っちゃうんだなあ」

イヴ(代表)「サンタは忙しいものですから~」

泰葉「それなのに、わざわざ来てくれたんですね」

イヴ(代表)「勿論」

泰葉「……知らなかったけど。私を応援してくれてたんだなって。心配してくれてた人が居たんだなって。なんだか嬉しくて」

イヴ9「あの~、しんみりしてる所すみません~」

泰葉「あ、13歳のプレゼントですよね、ごめんなさい」

イヴ9「いえいえ恐縮です」

泰葉「なんだか腰の低いイヴさんですね」

イヴ9「いい感じにまとまりそうなとこだったのに、悪いなぁって」

泰葉「気にしないでください。どんなプレゼントなんですか」

イヴ9「『無』です~」

泰葉「また『無』!!!!!!」

イヴ9「2年ぶり2回目~」

泰葉「甲子園じゃないんだから!!」

27: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:58:25 ID:PSu
イヴ9「今回はデラックス版でのお届けです~」

泰葉「うわあ更に大きい」

イヴ9「受け取りませんよね?」

泰葉「ええもう当然……ため込んでたんだなあ13歳の私……」

イヴ9「実際、もうこれは来年から難しいんじゃないかって話だったんですよね~」

泰葉「難しい?」

イヴ9「泰葉ちゃんはずっととってもよい子だったけど、なんども『無』を欲しがるような状況がいい影響を与えてるはずがないでいすら~」

泰葉「……私、そんないい子じゃなかったと思いますよ」

イヴ9「いい子でしたよ~」

泰葉「……」

イヴ9「いい子でした~」

泰葉「……ただ、人形みたいに言うとおりにしてただけですよ」

イヴ9「泰葉ちゃんは、それでも誰かを喜ばせたかったんじゃないですか?」

泰葉「……」

イヴ9「だから、それでも、続けていた。責任を果たそうとしていた。8号は、泰葉ちゃんはとてもいい子だと言ってました。私もそう思います。サンタはみんな、あのころの泰葉ちゃんも本当に素敵な子だったって知っていますよ~」

泰葉「……」

イヴ9「『もう子供じゃないんですから』とか言いながらピンクの小物をあしらったり、近所のポメラニアンを見るのを楽しみにしてたり、ヌイグルミを『ぬいぐるみさん』って呼んでるような可愛いところだってありましたし~」

泰葉「当時かたくなに秘密にしてた事が今赤裸々に!?」

イヴ9「でも、今はそれを隠す必要もないんですよね?」

泰葉「……ええ、まあ」

イヴ9「じゃあ、14歳のプレゼントも受け取り拒否でしょうね~」

泰葉「えっ」

28: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)17:58:49 ID:PSu


イヴ9「10号サンタはきっとそれを喜ぶと思います。それでは~(シュバッ)」

泰葉「行っちゃった……14歳の私が欲しがったもの、って?」

イヴ10「それは、これです~」

プレゼント「こんにちは、16歳の泰葉ちゃん」

泰葉「これは……あなたは」

イヴ10「……」

泰葉「……」

プレゼント(にこっ)

29: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)18:01:00 ID:PSu


泰葉「……これは、私、ですね」

イヴ10「はい~」

泰葉「身長が伸びて、成長して、大人びた私」

大人泰葉「はい。そうです」

泰葉「……子役で居る間は、小さい体、童顔。私の個性は長所でした」

イヴ10「はい」

泰葉「何色にでもなれる、尖ったところのないルックスもね。でも、私は成長して、だんだん求められるものが変わって来ました」

イヴ10「……」

泰葉「身長がほとんど伸びなくなったのを自覚したのは、14歳のころだったと思います」

イヴ10「身長がどのぐらいまで伸びるか。どんな大人になっていくか。それは、人それぞれです~」

泰葉「でも、それじゃいつか飽きられる。子供のまま成長しない人形は、いつか飽きられて居場所を失う定めだと思ってた」

イヴ10「……」

泰葉「だから、焦ったなあ。どうしたらいいのか、どんな道があるのか。自分はそもそも何がしたいのか……いろいろ考えた気がします」

イヴ10「苦しい時期だったんですね~」

泰葉「ねえ、聞いていいですか?」

イヴ10「はい~?」

30: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)18:02:23 ID:PSu



泰葉「もし私がこのプレゼントを受け取っていたら、どうなっていたんですか?」

大人泰葉「本来の貴方がなるはずだったものじゃない、あのころの貴方がイメージした、理想の大人の私に成長する方向に変化するはずでした」

泰葉「じゃあ貴方が、あの頃の私の『理想の私』なんですね。背が高くて、大人っぽい顔立ちで」

大人泰葉「スラッとしたプロポーションで、頭がよくて、大人に負けない強い女性で」

泰葉「あのころの私、趣味がいいなあ。かっこいい。うん、かっこいい」

イヴ10「受け取りますか? 今からでも、有効ですよ?」

泰葉「ううん、要りません」

イヴ10「そう言うと、思いました」

泰葉「私でいいって、このままの私でいいって言ってくれる人が、今はたくさん居るんです。だから」

大人泰葉「……」

泰葉「私は、私のままで大人になって行きます。無理に背伸びした自分になる必要は、ないんです」

大人泰葉「それじゃあ、さようなら、16歳の私。貴方が素敵な大人になることを、祈ってます」

イヴ10「勿論私もですよ~」

泰葉「あはは。素敵かはとにかく、私らしい大人になりますよ」

イヴ10「ふふふ(シュバッ)」

大人泰葉(シュバッ)

泰葉「消えた……」

イヴ・サンタクロース「はい~。これでみんな心置きなく出発したでしょう~」

31: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)18:03:59 ID:PSu

泰葉「残りはイヴさんだけ……なんだか、がらんとしちゃいましたね」

イヴ「ふふふ、ちょっと寂しいですか~?」

泰葉「いやまあそれは確かにあるんですが」

プレゼント(ジタバタ)

泰葉「ずっとイヴさんの隣でもだもだしてるプレゼントさんが気になって、余韻とか寂しいとかとても言っていられる状況では……!!」

イヴ「うふふ、プレゼントが気になって仕方ないんですよね~?」

泰葉「いやまあ、そうとも言えますけど」

イヴ「あまりじらしても可愛そうだから、パッとお出しします。ちなみに受け取り拒否は不可ですよ~」

泰葉「えっ」

イヴ「だってこれ一度袋から出したらもうひっこめられませんから~」

泰葉「なにそれこわいちょっと待って」

イヴ「いきま~す、レッツ・クリスマース!!(カパッ)」

泰葉「待ってって言ったのにぃ!!」

32: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)18:04:31 ID:PSu

???『頑張れ、泰葉ちゃーん!!』

泰葉「えっ」

???(間近に聞こえる拍手)

泰葉「これって……」

???(観客席の笑顔)

泰葉「……観客席で誰かが手を振ってるのまで見える……これは幻とか映像とか?」

イヴ「いいえ~」

泰葉「じゃあ、これは?」

イヴ「『声援』」

泰葉「……」

イヴ「15歳の泰葉ちゃんが欲しがったもの。それは」

泰葉「……ああ、うん、解ります。解りました」

イヴ「ふふふ~」

33: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)18:05:06 ID:PSu


泰葉「私があのころ欲しかったのは、自分のパフォーマンスを見て喜んでくれる誰かの顔、でした」

イヴ「そうでしたね~」

泰葉「と、いうか。きっとずっと欲しかったんですよね。それがないから、ずっと苦しかったのかもしれない」

イヴ「……」

泰葉「役者としてステップアップするたびに、舞台が大きくなるたびに、私はそういうものと引き離されて。だんだん、いったい誰が、どんな顔で私を見てるのか、わからなくなってきて……」

イヴ「……」

泰葉「だからイヴさん。もう、このプレゼントは要らないです」

イヴ「どうしてですか?」

泰葉「私は自分の欲しいものが解ったから、今ここに居るんですもの」

イヴ「はい」

泰葉「そのプレゼントは今、自分で掴んでいるところなんです。だから、サンタさんに貰わなくて、いい」

イヴ「そう言うと思いました~」

泰葉「……なんだか、嬉しそう」

イヴ「はい~。嬉しいですよ~。泰葉ちゃんが、ずっとずっと『誰かを喜ばせたい』って願いを持っててくれて。それを叶えてくれて。それはとってもサンタな事ですから~」

泰葉「よく意味が解らないけど、誉めてくれてるんですよね」

イヴ「勿論です~。だから、はい。これが16歳の泰葉ちゃんへ、私からのクリスマスプレゼント」

泰葉「……これは……チケット? 『サンタの橇一晩同乗券』……」

イヴ「笑顔を届けたい、笑顔をみたい。喜びを作りたい。それはきっとサンタと同じです。だから、今夜一緒に橇に乗ってみませんか?」

泰葉「……」

イヴ「事務所のクリスマスパーティーが終わったら、そっとそっと抜け出して。暖かいコートとブーツを履いて、子供たちに笑顔を届けに行きませんか?」

泰葉「……あの」

イヴ「はい~?」

34: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)18:05:22 ID:PSu


泰葉「ブリッツェンの橇って、ちょっとよけいに荷物を積む余裕がありますか?」

イヴ「はい、若干の余裕がございます~」

泰葉「じゃあ、さっき1号さんから貰った、このヌイグルを積んでください」

イヴ「それはまた、どうしてですか~?」

泰葉「ほたるちゃんの所には、まだ一度もサンタさんが到達してないんですよね」

イヴ「はい」

泰葉「じゃあ、届けに行きたいなって。今夜絶対ぜったい、このぬいぐるみを届けてあげたいなって。一緒に挑戦、しませんか?」

イヴ「……泰葉ちゃんはきっと、素敵なサンタになりますね。本気で目指してはどうでしょう~」

泰葉「さっき、私はサンタと同じだって言ったじゃないですか。ならわざわざサンタにならなくても、アイドルのままでいいのでは?」

イヴ「これは一本取られました~……では、夜に。くれぐれも防寒を忘れずに」

泰葉「では、夜に。イヴさんの分のココアも用意します」

35: ◆cgcCmk1QIM 20/12/21(月)18:06:36 ID:PSu


 ……そして、25日の朝。

 白菊ほたるは驚きとともに目を覚ました。

 枕元には、寝るときは確かになかったはずの大きな白い、ぬいぐるみ。

 そして寝室の床には、サンタコスのまま力尽きて眠っている、イヴと泰葉。
 
 そんな状況に驚いて……だけどほたるは、口を閉じて、決して声を上げなかった。

 だって、2人がとてもとても満足そうな顔で眠っていたから。

 それがとても、嬉しかったから。

 なんだかとても、嬉しかったから……。


(おしまい)