織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」 前編

316: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 14:31:46.52 ID:lH0vbrgD0

#7『猫は千歳ゆまが好き』



――風見野


「千歳ゆま」は、最近不思議に思っていることがある。

今、魔女を狩りに出かけている佐倉杏子の帰りを待っている。

疑問に思っていることとは、魔法少女のこと、魔女のこと。

何故か最近。他の地域から魔法少女がよく来るようになった。

ある人は杏子に決闘を挑み、ある人は杏子を挑発する。

ある人は有無を言わさず杏子を攻撃する。杏子はそれによりケガもする。

一方で杏子は争うことが嫌いらしく、いつも同じ対応をしている。

「あそこの廃教会にグリーフシードが置いてあるから持ってっていい。だから帰ってくれ」

現れた魔法少女の目的はグリーフシードだった。

 
317: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 14:33:13.87 ID:lH0vbrgD0

譲歩を受けた魔法少女は言われた通りに廃教会へ行くのだ。

杏子も少し遅れて後を追う。

不思議なことはその後に起こる。

魔法少女を追い返した十数分後、早くて数分後に必ず「魔女」が現れるのだ。

場所も同じ、かつて杏子が暮らしていたという廃教会。


魔法少女が現れ、廃教会へ行き、魔女が現れる。

同じ光景を、ゆまは何度も目撃した。

杏子に尋ねてみた。

「気にするな。あいつらを囮にして魔女を誘っているのさ」

「あそこは魔女スポットなんだ。だから気にするな」

と、返ってきた。ゆまは魔法少女でないため事情がわからない。

そのため二つ返事で納得した。

318: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 14:36:52.40 ID:lH0vbrgD0

キュゥべえという猫とも犬ともつかない生き物曰く。

「ゆま。君には魔法少女の素質がある。杏子と同じだ」

「何か、願いはあるかい?魔法少女になる代わりに、叶えてあげられる」

「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

杏子はすぐに追い返し「あいつの言うことは聞くな」と言った。


しかしゆまは、魔法少女になれるという事実が嬉しかった。

自分も、杏子と同じ存在になれる、と。

杏子みたいに、強くて格好いい魔法少女になれる、と。

その上、自分の願いまで叶うのだ。

良いことずくめとはこういうことを言うのだと思った。

319: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 14:37:48.02 ID:lH0vbrgD0

恩返しができる。役に立てる。

母親から「役立たず」と罵られてきたゆまにとって、そのことはどんなに嬉しいことか。

かつて「ゆまも魔法少女になってキョーコの役に立ちたい!」と言ったことがある。

すると、杏子は「ふざけたこと言ってんじゃねぇ!」と怒鳴る。

何回も同じことを言った。

「危ないからダメ」「なりたいなんて思うもんじゃねぇ」

「何を願うつもりだ?え、あたしを死なせないように?バーカ」

「痛くて怖いぞ。やめとけ」「絶対に泣くし後悔するぞ。やめろ」「しつこい」「いいから寝ろ」

止められた。

ゆまにしてみれば、その理由はよくわからなかった。

力にならなければと思う反面、杏子が言うのであればしかたがないという気持ちがあった。

もどかしい気持ちになった。どうすればいいのだろう。

320: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 14:40:43.06 ID:lH0vbrgD0

ゆま「はぁ……」

「……何を落ち込んでいるんだい?」

ゆま「あ、キュゥべぇだ。また来たの?」

QB「君と杏子のことが気になって、来てみたよ」

ゆま「そうなんだ」

QB「それで、何か悩んでいるようだけど?」

QB「溜息と吐くということは、悩みがあるということだ」

ゆま「うん……」

QB「契約のことかい?」

ゆま「うん……」

321: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 14:49:17.61 ID:lH0vbrgD0

ゆま「ゆま、魔法少女になって、キョーコの役に立ちたい」

ゆま「でも、キョーコはなっちゃダメって言う」

QB「杏子が何て言おうと、素質がある以上君には権利がある」

ゆま「でも……キョーコが……」

ゆま「キョーコはね……ゆまを心配してくれてるのよ」

QB「…………」

QB「いいのかい?君は甘く見られているんだと思うよ。この僕は」

ゆま「甘い?」

QB「うん」

322: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 14:52:10.32 ID:lH0vbrgD0

QB「君はまだ幼い」

QB「杏子は君が足手まといになると思っているんだ……と、僕は推測する」

ゆま「…………」

QB「しかしだね、ハッキリ言って、君の素質そのものはなかなかなものだよ」

QB「要するに、契約すればその時点で君は結構な強さの魔法少女になれるってことさ」

QB「少し訓練さえすれば、ついていけるはず」

ゆま「そ、そうかな?」

QB「僕個人の意見としては、二人で戦った方がその分、杏子が死ぬ確率が下がる」

QB「変わりに君が死ぬ確率が生まれてしまうけど……」

QB「確かに魔女狩りが辛いことであるのは事実ではある。無理強いはできない」

323: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 14:53:04.50 ID:lH0vbrgD0

ゆま「…………」

ゆま「キョーコ……死んじゃうの?」

QB「可能性だよ」

QB「何でも最近は縄張りを狙う魔法少女が現れるそうじゃあないか」

QB「しかも、スタンドという概念がこの世に生まれたらしい」

QB「その分、杏子は大変な思いをするだろうね」

ゆま「…………」

QB「尚更君の助けが必要になるかもしれないね」

ゆま「…………」

ゆま「ゆまが……ゆまが強くなったら……」

324: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 14:55:33.81 ID:lH0vbrgD0

ゆま「ゆまが魔女と戦うのに役立てれたら……」

ゆま「ゆまが魔法少女を追い払うの手伝えたら……」

ゆま「ゆまがキョーコを助けられたら……」

ゆま「キョーコもきっと、喜んでくれる……かな」

QB「そうかもしれないね」

ゆま「…………」

ゆま「それなら……」

ゆま「それなら、ゆま……!」

ゆま「ゆまは……!キュゥべえ……!」


初めてゆまは、約束よりも欲求を優先した。

魔女と戦うだけでなく、魔法少女とも「ケンカ」をする杏子。

ケガをする杏子。ゆまは見るに耐えなかったのだった。


――それだけではない。

325: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 14:57:25.07 ID:lH0vbrgD0

十分程前。ゆまの前を横切った二人組がいた。

銀色サイドテールの少女と黒色ボブカットの少女。

「佐倉杏子ってどんなヤツなんだろ」

「会ってみないとわからないわ」

と、いうような会話を二人はしていた。

魔法少女であることはすぐにわかった。

ゆまは、この二人から『嫌な予感』を感じ取ったのだった。

特に、背が高い方の少女から「それ」を感じた。

遠からず近からず、この二人が自分たちに害を与えるかもしれない。

そんな気がした。

何となくでしかないこの直感。

今でこそ、それもゆまの決断を後押しする要因となってしまった。

326: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 14:58:57.98 ID:lH0vbrgD0


ゆまを待機させている公園から少し離れた――廃教会。

その庭にあたる場所。

そこに杏子はいた。


杏子のスタンド能力『シビル・ウォー』

相手に罪悪感を逆撫でする幻覚を見せる能力。

幻覚を生み出す空間を支配する能力。

シビル・ウォーに捕らわれたら、魔法少女は自らの罪悪感に耐えきれずに絶望する。

魔法少女は――絶望すると魔女になる。

杏子は、その魔女を倒してグリーフシードを量産している。


一体の魔女を少し苦戦しつつも力ずくに倒した後――杏子は考える。

327: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:00:34.70 ID:lH0vbrgD0

この廃教会……。

『シビル・ウォー』を展開する舞台として利用しているが、あたしにとってはその程度でありそれ以上の場所。

ここが好きな場所なのか嫌いな場所なのか……シビル・ウォーを手に入れてからかな。悩むようになったのは。

ここは、貧しいながら幸せだと感じていた思い出の場所だ。だが、今は魔女を養殖する場所にしているわけだ。

何となく矛盾している気がする。


杏子「あたしにとって……ここは何なんだろうな」

杏子「……親はともかく……モモには申し訳ないと思う」

杏子「ともかくって……あたし、自分の父親のことをどう思っていたっけ」

杏子「見下していたか、恨んでいたか、なんやかんやでそれなりに慕っていたか……」

杏子「自分で言っててちゃんちゃらおかしいが、自分の気持ちが、わかんねぇんだよな……」

杏子「最近……何とも言えないモヤモヤした気分をよく味わう……後味の悪いことだ」

杏子「…………」

328: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:01:38.91 ID:lH0vbrgD0

杏子「何の用だ……?」

杏子「あたしの愚痴に付き合ってくれるってのはありがたいが……」

杏子「『無礼』という行為に相当するんだぞ?」

杏子「独り言を盗み聞きするってことはな……」

杏子「何者だ」


「…………」

「…………」

杏子「……何なんだ、あんたら」


「なぁんだ……バレてたんじゃん」

「流石……というべきね」

329: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:03:26.25 ID:lH0vbrgD0

「……私の名前は、美国織莉子。こちらは呉キリカ」

「よろしーく」

杏子「……何か用か?」

織莉子「私達は、ある目的を持ってしてあなたに会いに来ました」

杏子「何だ?あたしのグリーフシードでも欲しいのか?」

杏子「それともシンプルに殺し合いしに来たのか?」

キリカ「おぉ、怖い怖い」

織莉子「ご心配なく」

織莉子「私達は、そんなくだらない話をしにきたのではありません」

杏子「あん?」


330: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:04:31.87 ID:lH0vbrgD0

織莉子「単刀直入に言います」

織莉子「あなたに『協力を依頼』したい」

杏子「…………」

杏子「……は?」

キリカ「もう一度言う?協力してくれ、と言っているんだ」

杏子「話が読めないね」

杏子「何であたしが見ず知らずの他人に協力を願われなきゃいけないんだ?」

キリカ「黙って協力してくれりゃあ報酬だってくれてやるよ。グリーフシード何個欲しい?三つ?三つ……イヤしんぼめ!」

杏子「一人で何言ってんだこいつ」

織莉子「ごめんなさい。何だかさっきからテンション上がっててこの子」

キリカ(織莉子とお出かけ。それはとっても嬉しいなって)

331: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:05:32.49 ID:lH0vbrgD0

杏子「……何だか知らないが、今、あたしはグリーフシードに困っちゃいない」

杏子「かったるいことは嫌いなタチなんでな」

杏子「ってことでお引き取り願いたい」

キリカ「むぅ……ねぇ織莉子。ホントにこんなのが役に立つの?」

織莉子「巴マミを除くと、この辺りで名実ともに優れた魔法少女というは彼女くらいなのよ」

杏子「……!」

杏子「巴マミって、見滝原のか?」

織莉子「あら、知っているのですか」

杏子「あ、あぁ……ちょっとな……」

キリカ「それなら話しやすいね」

杏子「何なんだよ。あんたら。もしかして、マミの差し金か?」

織莉子「私達はむしろ、その逆ね」

杏子「逆?」

332: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:06:27.52 ID:lH0vbrgD0

織莉子「いきなりですが……あなたの未来をお話しします」

杏子「は?未来?いきなりなんだよ」

織莉子「私の固有魔法は予知」

杏子「生憎、あたしはそんなうさんくさい占いなんか興味ないんでね」

キリカ「失礼な。予知は占いなんかじゃないよ」

織莉子「あなたの未来を話す。と言ってるんです」

杏子「未来……」

織莉子「……『爆死』します、ね」

杏子「……は?」

織莉子「過程や方法は省かせていただいたけど、爆死するという未来が見えました。あなたの未来」


333: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:06:59.81 ID:lH0vbrgD0

織莉子「いきなりですが……あなたの未来をお話しします」

杏子「は?未来?いきなりなんだよ」

織莉子「私の固有魔法は予知」

杏子「生憎、あたしはそんなうさんくさい占いなんか興味ないんでね」

キリカ「失礼な。予知は占いなんかじゃないよ」

織莉子「あなたの未来を話す。と言ってるんです」

杏子「未来……」

織莉子「……『爆死』します、ね」

杏子「……は?」

織莉子「過程や方法は省かせていただいたけど、爆死するという未来が見えました。あなたの未来」


334: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:08:09.44 ID:lH0vbrgD0

キリカ「あぁ、あの魔女に殺される前に死ぬってことになるんだね」

杏子「何を言ってるんだよ?あたしが爆死ぃ?」

杏子「馬鹿言ってんじゃあねぇよ」

杏子「何か?爆弾を武器とする魔法少女の知り合いでもいるってのか?」

織莉子「細かいとこまでは読みませんが……」

織莉子「どういうことか、とにもかくにも、あなたは『爆発』で死ぬ」

杏子「…………」

織莉子「無論、私の予知する未来というのは私が『予知をしなかったらこうなるかもという可能性』に過ぎません」

織莉子「未来を知った上で行動すれば、私が干渉すれば、未来は変えられる。予知とは所詮、絶対的な物ではない」

杏子「何を言っているんだよ……怪しい壷は買わないぞ」

335: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:09:04.39 ID:lH0vbrgD0

織莉子「…………」

織莉子「元々、私はとある魔法少女が世界を滅ぼす魔女になるという予知を見ました」

杏子「は……?」

キリカ「聞こえなかった?どこぞの魔法少女が世界を……正確には全ての生き物をどうにかしちゃう魔女になる」

杏子「おい……それって……ど、どういう……」

キリカ「言葉通りさ。この際ハッキリ言わせていただく」

キリカ「ソウルジェムは穢れきるとグリーフシードとなり、魔法少女は魔女になる」

織莉子「要するに今まで倒した魔女は元魔法少女ということ」

織莉子「ショッキングな真実でしょうけど、落ち着いて聞いてください」

杏子「いや、それは知ってるよ」

キリカ「あ、あれー?」

杏子「あたしが気になったのは『世界を滅ぼす』って点だ」

336: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:10:38.24 ID:lH0vbrgD0

杏子「しかもワルプルギスの夜とかじゃあないんだよな。魔女に『なる』ってことは……」

織莉子「ワルプルギスの夜?」

杏子「何だ?知らないのか?」

キリカ「私達は結構ルーキーだからね。そういう情報には疎い」

杏子「それはいいとして、とにかく続きを聞かせろ」

織莉子「……失礼。話を戻しますと……予知で未来を知った上で行動すれば、未来は変えられると言いましたね?」

織莉子「私は暁美ほむらという魔法少女を、世界を滅ぼす魔女になる存在として抹殺するつもりでした」

織莉子「暗殺するのが一番手っ取り早く確実だと思っていました」

織莉子「……そして私達はある力に出会った。いつの間にか、です」

キリカ「スタンドって知ってる?」

杏子「ああ……あたしもいつの間にかに身に付いてたな。スタンド」

織莉子「そうですか。それなら話がもっと早くて助かります」

337: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:12:10.41 ID:lH0vbrgD0

織莉子「そして、その後私はもう一度予知をした。そしたら違う未来が見えました……」

織莉子「その予知は『暁美ほむらにスタンドが目覚めていて、魔女化に伴ってそのスタンドが進化し世界を滅ぼす』というものだった」

織莉子「スタンドはスタンド使いにしか見えない。だから、予知では見えなかった新事実」

織莉子「……いえ、スタンドではない。スタンドを超えた何か」

キリカ「私達は個人的にレクイエムと呼んでいる」

杏子「スタンドの先……レクイエム……」

織莉子「とにかく、彼女のレクイエムは世界を無にしてしまいます」

織莉子「レクイエムを発現させた以降の未来を予知できないのは多分、私が死ぬため……」

杏子「……何か?スタンド使いの魔法少女が魔女になると、レクイエムってのになるのか?」

キリカ「さぁ?」

杏子「さぁ?って……どういうことだ。何故わからない」

織莉子「私が見たのは、レクイエムが発現するという『結果』だけ」

338: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:15:24.15 ID:lH0vbrgD0

織莉子「あくまで『何らかの方法』で、暁美ほむらのスタンドはレクイエムになるということです」

織莉子「魂が魔女へと変貌する際に生じるエネルギーか何かを吸収する、というのが仮説」

織莉子「なら、私達も魔女になったらスタンドが進化するのか?それはわからない」

キリカ「適当にしょっ引いて魔女にしてみるテスト。だなんてわけにもいかないからね」

杏子(……ほむらってヤツが特別なんだろう……既にあたしはスタンド使いを魔女にしたことがあるからな)

杏子「……つまり、簡単に言うとあんたらはこう言いたいのか?」

杏子「世界を救う手助けをしてくれと」

キリカ「ざ、雑なまとめ方だなぁ」

織莉子「まぁ、そうですね。概ねその通りです」

織莉子「予知は、現段階で『予知をしていなかったら起こりうる未来』を見ることなんです。しつこいようですが」

キリカ「つまり、未来は変えられるというわけだ。見れるのは未確定の未来」

339: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:19:32.44 ID:lH0vbrgD0

織莉子「私達二人では、未来を変えるのは難しいのです」

織莉子「あなたは世界を滅ぼす魔女になるのでなんとかならないでください。スタンドを持たないでください……と言うわけにもいかない」

織莉子「……だから抹殺する」

織莉子「しかし、暁美ほむらを殺すとなれば必ず巴マミという魔法少女が立ちふさがる」

キリカ「既に暁美ほむらがクルクルボインな彼女と共闘関係を結んでいることがわかっているからね」

杏子「それでマミか……」

織莉子「……彼女達は現段階でスタンド使いかはどうかはわからない。しかし、魔法少女としてはベテランであることは真実」

織莉子「スタンド使いでないとしても、魔法少女としての経験の差は警戒に値する」

キリカ「仮に彼女達が既にスタンド使いであったら、何をしてくることやら……」

織莉子「だから、協力が必要なのです。風見野にベテランの魔法少女がいることは予知の力で『予習』済みでした」

杏子「…………あたしに何かメリットはあるのか?」


340: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:20:45.16 ID:lH0vbrgD0

織莉子「メリット……暁美ほむらを抹殺する過程で、巴マミも殺すとします」

織莉子「そうすると、見滝原のテリトリーは空きます。そこで、見滝原を得た暁には、その『テリトリーの一部』をあなたに提供します」

杏子「……ほう」

キリカ「一部っていうのは、私達の生活もあるから一部ねってことだよ」

織莉子「しかし一部というのも曖昧で、納得がいかないと思うので……」

織莉子「必要とあらば、キリカをお貸しします」

杏子「……こいつを貸すって?」

織莉子「キリカのスタンド能力は無敵の能力です。その能力を教えることはできませんが……」

織莉子「それで見滝原以外の……M市やT町等、他のテリトリーを支配したいと言うのであれば協力させます」

織莉子「私はキリカとここで、二人で、静かに暮らせればそれでいいと考えていますから」

キリカ「織莉子……私も、織莉子と二人なら……それはとっても嬉しいなって」

織莉子「キリカ……」

キリカ「織莉子……」

杏子「おい、戻ってこい」

341: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:22:20.88 ID:lH0vbrgD0

織莉子「コ、コホン……失礼」

キリカ「で、どうする?」

杏子「……」

キリカ「君は私達に協力する。私達は君の力になる」

キリカ「君は織莉子に選ばれたんだ。名誉なことだよそれは」

杏子「いや知らんけど……」

杏子「ふむ……だが、確かに見滝原は絶好の狩り場だ」

杏子「それに見滝原だけでなくても、テリトリーは広いに越したことはない」

杏子「協力をすれば……それをくれるってのか?」

キリカ「見滝原は一部だけだよ。私達の街だから一部」

織莉子「それで手を打っていただければ幸いなのですが……」

キリカ「ギブアンドテイクだ。win-winだと思うんだけどね?」

342: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:23:35.66 ID:lH0vbrgD0

杏子「けど断る」

織莉子「……」

キリカ「え~~~何で~~~?」

杏子「あたしが自分で強いと思っているヤツに『NO』と言って断ってやるその理由……」

杏子「あたしははっきり言ってあんたらが気に入らないし、あたしは今、ここを離れるわけにはいかなんでね」

キリカ「…………」

織莉子「…………」

杏子「……まぁどっち道、いきなり現れて世界が滅びるとか爆死するとか言われて『はい、ソーですか』って信用できるかってーの」

織莉子「魔法少女が魔女になるということは誰も知らないこと……」

杏子「あたしは自分で知って、理解したぞ?」

キリカ「……ちょ~っと待った!私はともかくとしてだよ!織莉子が気に入らないだなんて――」

織莉子「キリカ。ステイ」

キリカ「むぅ……」

343: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:25:14.99 ID:lH0vbrgD0

織莉子「……わかりました。今回は引きます」

杏子「そうしてくれると助かるね」

キリカ「むむむ……」

織莉子「ただ……せいぜい爆発物には注意してくださいね。あなたに死なれるとこっちが困るので」

杏子「……ふん」

織莉子「この地図を差し上げます」

杏子「ん?これは……見滝原か?」

キリカ「このタイミングで見滝原以外あり得ないだろう」

杏子「あ?」

織莉子「……もし気が変わったら、この赤丸の住所まで来てください」

織莉子「私達は、あなたの協力が必要なのです。なので……正しい選択を期待します

織莉子「では……。行くわよ。キリカ」

キリカ「はぁい」

344: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:26:55.13 ID:lH0vbrgD0

杏子「………………」

杏子「……世界を滅ぼす?レクイエムだって?」

杏子「スタンドのその先、か……」

杏子「シビル・ウォー・レクイエム?興味がないこともない」

杏子「……それにしても……あいつら」

杏子「あたしが爆死するだって?」

杏子「頼んでもいないのに人の死ぬ未来と死因を言ってくるなんて、性格の悪いヤツだ」

杏子「しかし、条件も悪くないし……背の高い方は身なりからして結構裕福そうだった」

杏子「ゆまを預けて養わす分には……上辺だけでも協力してもよかったか?」

杏子「いや……『罠』である可能性も否めねぇ、か」

杏子「まぁいいや。考えるのは後回し後回し!」

杏子「ゆまが腹空かせてるだろうな……戻るか」

345: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:28:36.07 ID:lH0vbrgD0

杏子「……と、言いたい所だが」


杏子が踵を返し、歩み始めようとしたが、留まった。

先程のやりとりを遠目で監視していた者がいる。


杏子「…………」

「おまえさん……魔法少女だね?ここの……」

杏子「……チッ」


そこには一人の少女がいた。

首に一文字の切り傷がある。


少女「さっきの二人は仲間とか先客なんじゃないかと思って隠れてたんだけど」

杏子「あぁ……くそ。今そんな気分じゃねーっての……」

346: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:30:48.89 ID:lH0vbrgD0

少女「風邪かい?」

杏子「そんなんじゃあねぇよ……。もういい。ぶっちゃけて聞くぞ」

杏子「あんたの目的は詰まるとこグリーフシードだろ?」

少女「否定はしないけど」

杏子「だったら……そこの廃教会にあたしのストックがある。好きなだけ持ってってかまわない」

杏子「大した量ではないが、それで勘弁してほしい。帰ってくれ」

杏子「今気分が悪いんだ。人も待たせてるし」

少女「差し出しちゃうのか……チキンなヤツだねおまえさんは」

杏子「……」


佐倉杏子の常套文句。「そこの廃教会にグリーフシードがあるから勝手に持っていけ」

一見、争いを好まない平和的性分、あるいは臆病者に捉えられる。

347: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:32:34.96 ID:lH0vbrgD0

杏子(さぁ、『罠』にかかれ……)

杏子(あたしの能力『シビル・ウォー』は既に廃教会に『結界』を作っている)

杏子(シビル・ウォーは人の心を抉る幻覚を支配する能力……)

杏子(グリーフシードは魔法少女なら誰もが生ツバゴクリもので欲しがるもの……)

杏子(それを「餌」に、シビル・ウォーの『結界』へと誘い込み、絶望させる)

杏子(この能力に目覚めてから……魔法少女の縄張り争いが激化してから……)

杏子(取りあえずテリトリーの防衛戦においては何も恐れることはない)

杏子(シビル・ウォーが発現した当初は「幻惑の能力かよ」ってげんなりしたもんだ……)

杏子(さらに幻覚を見せて絶望させて戦意を削ぐつもりが魔法少女が魔女になった時は、どうしたもんかと思ったが……)

杏子(慣れたもんだな)

348: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:34:08.22 ID:lH0vbrgD0

少女「ところで……ねぇ」

少女「顔、紅いけど……おまえさん。熱でもあるの?」

杏子「いいったら!帰れったら!」

杏子(とっとと罠にかかれよ。……ああ、イライラする)

杏子(こちとら変な奴に嫌なこと聞かされてムカッ腹がたっているんだ)

杏子(世界が滅ぶとか爆死するとか聞かされてよォ……精神衛生上魔女を思いっきりぶちのめしてスカッとしたいところだ)

少女「ねぇ、どうなの?魔法少女って風邪ひくの?僕アレルギー性の鼻炎持ちなんだけど、ブタクサの花粉って魔法で予防できる?」

杏子(ああ!目の前にいるこいつがウザい!)

杏子(それにしても……くそっ、何だか……)

杏子(何か……『蒸し暑い』……)

349: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:35:39.25 ID:lH0vbrgD0

少女「……いやぁ、蒸すねぇ」

少女「風見野では昨日雨が降ったらしいけど……あれ?違ったっけ?」

杏子(……くそ、さっきから……なんか、暑い……ジトジトする……)

少女「暑いからか、頭痛がするからか……イラついてる理由は、まぁいいとしよう」

少女「確かに、僕はグリーフシードが欲しい……だが」

杏子「……?」

少女「貰えるものは病気以外ならなんでもいただく」

少女「奪えるものは徹底的に奪っておく」

少女「我が目的はおまえさんのテリトリーッ!見滝原を得るための拠点ッ!」

少女「そのために!前もって貴様を殺すのだッ!」

杏子「なッ!?」

350: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:36:45.11 ID:lH0vbrgD0

少女「じわじわと暑くなってることに疑問に思わないとは油断したなァ!」

杏子「暑く……!?」

少女「地面に染みこんでいる水分の温度を『あげた』」

少女「地面からは生温かい水蒸気があがる」

杏子「……ッ!」

杏子「こ、こいつ……!?」


『地面から湯気が出ている』

その異常な光景に、杏子は今、初めて気付く。

杏子は目の前の少女を罠にはめることを考えていた。

しかし、罠にかかっていたのは自分自身だった。

それを理解するのに時間は要さない。罠をかけることに夢中になり過ぎた。

351: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:38:18.75 ID:lH0vbrgD0

杏子「スタンド使いッ!」

少女「汗をかいたな!」

少女「『水を熱湯に変える』ッ!これが能力!」

少女「慣用句じゃないが地面は焼き石に水ぶっかけたみたいになっているぞ!」

杏子「クッ……?!」

杏子「ッ!?」

杏子「う、うがああぁぁッ!?」


魔法少女に変身したが、その直後に杏子は額に激痛に近い熱さを感じた。

額に手をあてると、手に同じ痛みを感じた。


杏子「あ、『熱』ッ!?熱いッ!」

ガッシィッ!

杏子「ッ!?」

少女「よし掴んだ!おまえさんの『汗』を80℃ちょっとにしてあるぞ!」

352: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:39:52.02 ID:lH0vbrgD0

少女「スキを作って、頭を掴む!」

少女「生物に触れた状態でこの能力を発動すれば、生物の『水分』も『熱湯』にできる!」

少女「そのまま脳みそをグツグツ煮込んでやるよォッ!」

杏子「なっ……!こ、こいつッ!」

少女「僕のことをスタンド使いだと見破ったな?じゃあおまえさんもスタンド使い」

少女「見滝原に行った時にも会ったよ。その子は魔法少女ではなかったが……まぁいい」

少女「安心しろ……殺しはしない。ただ脳みそ茹だって廃人にでもなってもらおうかッ!」

少女「野望の果てを目指す者に、生け贄をッ!」

杏子「うおおおおォォォォォッ!」


「キョーコをイジめるなァ――――ッ!」

353: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:41:25.02 ID:lH0vbrgD0

少女「!?」

杏子「!?」

杏子「ゆ、ゆまッ!?」

少女「な、何だこのガキンチョ!やんのか!」

杏子「お、おまえ……その姿は……!」


杏子はゆまの姿を見て、動揺した。

ゆまは既に『魔法少女』になっていた。見てわかる。

魔法少女のゆまが、全力疾走で突っ込んでくる。


杏子「い、いつの間に……!な、何故ッ!?」

少女「知り合いか……!」

ゆま「倒して!『猫さん』ッ!」

ズギャンッ

少女「ッ!?」

354: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:42:06.04 ID:lH0vbrgD0

走り向かってくるゆまの背後から、質量感はないが圧倒的存在感を放つ人型の影。

エネルギーの像。『スタンド』が現れた。


杏子「な、何ッ!?こいつはッ!」

少女「ヤツもスタンドを――ッ!」

ゆま「いけぇ!」

ブンッ

少女「うおっ!」

バッ!

少女「あ、クソッ!離してしまった!だがッ!」


ゆまのスタンドが繰り出した拳を、少女は回避した。

その拍子に杏子の頭を掴んでいた手を離してしまう。

しかしすぐに、ゆまのスタンドの手を掴んだ。

355: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:43:46.29 ID:lH0vbrgD0

少女「よ、よし!」

少女「予想以上に早い攻撃なんでちょいとヒヤッとしたが、おまえさんのスタンドの動きは見切れた!」

ゆま「…………」

少女「何かわからんがくらえ!僕はスタンドに触れている!」

少女「そのまま右手の血液を沸騰してくれるゥゥ――ッ!」

杏子「ゆ、ゆまァッ!」

ゆま「……触れている」

ゆま「ゆまの猫さんに『触れた』……」

杏子「……ゆま?」

ゆま「ゆまの猫さんに……触られちゃった……」

少女「あん?」

ゆま「ゆまの猫さんの能力だよ。触って発動するの」

ゆま「ゆまの『スタンド能力』……それは……」

356: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:44:57.75 ID:lH0vbrgD0

ゆま「『触れた物を爆弾にする』……!」

少女「何……だと……?」

ゆま「守って!『キラークイーン』ッ!」


薄いピンク色の「猫っぽい頭をしている人型スタンド」は小柄なゆまと同じような体型をしている。

恐らくゆまが身体的に成長をすればそれ相当にそれの体格も代わるだろう。

予想外の突飛な能力に動揺した少女は、手を『キラークイーン』から放す。

そしてキラークイーンは短い左腕を一杯に伸ばして杏子の体を引き寄せた。


杏子「……ッ!」

少女「一体僕に何をし――」

ビシ、ビシビシッ!

357: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:47:15.47 ID:lH0vbrgD0

少女「ふぇ……?」


突如、少女の体に『亀裂』が生じる。

その亀裂から白い煙が噴出する。

自分の体の異変に気付く前に、少女の体は――

ドッグォォォォンッ!


少女「たバァッ!?」


肉体が『爆発』した。

首がもげ、腹は裂け、腕が千切れ、脚は砕け、眼が吹き飛んだ。

爆発音は周りの空気をビリビリと鳴らす。

そして少女の肉体は塵のようになり、消えた。

肉片一つ残らない。

ただソウルジェムの拉げた外枠を残して、その少女の全てが消滅した。

死んだ。

358: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:48:15.26 ID:lH0vbrgD0

杏子「う、うぅっ!?」


凄まじい爆風の勢いが杏子を包んだ。

キラークイーンの陰になっていたため、爆発に巻き込まれることはない。

ゆまは杏子の胴にしがみついていた。


杏子「あ……ああ……?!」

杏子(う、嘘……だろ……)

杏子(一瞬で……あんな……ふ、触れただけで……)

杏子(触れただけで……さっきのヤツが消えた)

杏子(骨一つ残ってねぇ……ぶ、ブッ飛んでやがる……!)

ゆま「キョーコ!大丈夫!?」

杏子(ゆま……)

359: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:49:12.74 ID:lH0vbrgD0

杏子(ゆまに……こんな、こんな恐ろしい能力が……)

杏子(いつの間に契約したのかというのもそうだが……)

杏子(いつ、どこで、ゆまはスタンドに目覚めたんだ……!?)

杏子(……いつの間に『契約』……?)

杏子(……ま、まさか!?)

ゆま「これで今夜も安心して眠れるね!」

杏子(ま、待てよ……ゆまのスタンド能力……)

杏子(……触れた物を……爆弾に……)

杏子(……『爆、発』?)

杏子「――ハッ!」


杏子「は、離せェッ!」

360: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:50:36.00 ID:lH0vbrgD0

バシッ

杏子はしがみつくゆまを振り払った。


ゆま「え……」

杏子「ハァ……ハァ……」

ゆま「な、なに?キョーコ……?どうしたの?」

杏子「……ふぅ」

杏子「……おい、ゆま」

ゆま「う、うん」

杏子「おまえ……何でだ?」

杏子「何で、契約したんだよ」

ゆま「う……」

杏子「魔法少女なんかになるなって……言っただろ?」


361: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:51:37.60 ID:lH0vbrgD0

ゆま「あ、あのね……」

ゆま「お、お留守番している間にキュゥべえが来てね?」

ゆま「魔法少女になれば、キョーコの助けになれるって言って……」

ゆま「それで……契約したの」

杏子(あいつ……いつの間に……!)

ゆま「それに!キョーコの帰りが遅くて!キョーコを狙う悪い人がいるから!」

ゆま「居ても立ってもいられなくなって!」

ゆま「ゆまは!ゆまはキョーコの役に立ちたいの!キョーコを助けたいの!」

ゆま「だから、スタンドを……!」

ゆま「『強いスタンドが欲しい』って契約したの!」

杏子「…………」

362: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:56:05.62 ID:lH0vbrgD0

ゆま「キョーコを守るゆまになりたいって!」

ゆま「キュゥべえはスタンドのことはよくわかってなかったけど、ゆまが知っていれば叶えられるって!」

ゆま「ゆま!魔法少女としてはキョーコの足を引っ張るかもしれない……でも!猫さんが……キラークイーンがいればッ!」

ゆま「キョーコの力になれる!キョーコの役に立てるッ!」

杏子「…………ふざけんなッ!」

ゆま「!?」

杏子「ふざけたこと言ってんじゃあねーぞッ!」

ゆま「ど、どうしたの……?」

杏子「あたしはテメーを魔法少女にしたくなかった!」

杏子「魔法少女なんかになったら……なっちまったら……!」

杏子「……魔法少女に、な、なったら……!」

杏子「……クソッ!……そ、それにグリーフシードの消費も増えちまう……」

363: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:56:45.41 ID:lH0vbrgD0

ゆまが自分のことを強く思ってくれていること。

それ自体は悪い気はしない。

むしろ、ゆまと過ごすことで棘が無くなってきている自身が存在している。

そんなはずがないと思う反面、そういう事実が心の中に、確かに存在している。


そもそも、ゆまを魔女の手から救ったのは、何となく妹の影と被ったからだ。

それ「だけ」のために契約――魔女との戦いに巻き込ませたくなかったと言ってもあながち過言ではない。

人間から魔法少女へ契約してしまった以上、人間へは不可逆。

杏子には、ゆまが魔女の卵となってしまったという……その悲しみがあった。

自分と関わってしまったことで、残酷な真実を抱えさせた……その自責があった。

いつかその最悪な事実を知ってしまった時。

ゆまに「あの時、助けてくれなきゃよかったのに」と言われるのではないか。その不安があった。


しかし、杏子に芽生えた『別の感情』が、それらの後悔を覚える前に全て塗りつぶしてしまった。

364: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:58:49.37 ID:lH0vbrgD0

ゆま「でも……ゆまは……」

杏子「あたしは……」

ゆま「キョーコ……?」

杏子「あたしは、おまえを『捨てる』ことにした」

ゆま「…………」

ゆま「……え?」

杏子「…………」

ゆま「う、嘘だよね?キョーコ……」

杏子「嘘じゃない。本気だ」

ゆま「……う、嘘!」

365: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:59:57.64 ID:lH0vbrgD0

ゆま「嘘だッ!嘘でしょ!?ねぇ!?」

杏子「そのスタンドで、自分の力で生きろ」

ゆま「い、嫌だッ!ゆま、キョーコと一緒にいたい!」

杏子「今、あたしはあんたが嫌いになったんだよ」

ゆま「……ッ!」

杏子「ったく……!中途半端な情を持ったのが間違いだった!」

ゆま「…………」

杏子「何言ってるのかわかんねーってのか?助けなきゃよかった、そのまま使い魔の餌にしとけばよかったって思ってるんだよ!」

ゆま「そ、そんな……そんなのってないよ……!」

ゆま「ゆまはキョーコを助けたのに!」

杏子「誰が契約しろと言ったんだ!」

366: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 16:01:37.46 ID:lH0vbrgD0

杏子「いいか、魔法少女ってのはな、ソウルジェムを汚しきっちまったら……」

杏子「…………いや、やっぱいい。何でもない!」

杏子「……消えな。好き勝手に行きやがれ。グリーフシードを一個……いや、二個餞別してやる。ほれ」

ゆま「や、ヤダッ!ゆ、ゆまを一人にしないでよォッ!」

杏子「おまえは一人じゃあねーよ。なんのためのスタンドだよ」

杏子「魔法少女になった以上、中途半端に力を得た以上……」

杏子「あたしの邪魔だ。わかれ」

ゆま「あ……あぁ……キョ、キョー……」

杏子「消えろっつってんだろうがッ!」

ゆま「……!」

ゆま「……う、うああ……ああ……」


ゆま「うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


367: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 16:03:50.09 ID:lH0vbrgD0

ゆまは大粒の涙を撒き散らしながら走り去っていった。

杏子は黙って、捨て子が小さくなっていく様を見つめた。


杏子「……絶望はしたって訳でもないのか。魔女にならねぇってことは」

杏子「…………」

杏子「はぁー……!」


ゆまが見えなくなったことを確認すると、杏子は深く溜息をついた。

全身の力が抜け、そのまま地べたに座り込む。

水を熱湯にするスタンド使いによって、昨夜の雨で湿っていた地面はカラカラに乾いている。

対象的に、杏子はドッと冷や汗を溢れ出した。


杏子「ハァ……ハァ……」

杏子「何とか……虚勢を張ったが……」

杏子「……『逆上』……されなくてよかった」

368: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 16:06:23.17 ID:lH0vbrgD0

杏子「逆上されて……スタンドを向けられなくてよかった……!」

杏子「ゆま……あんなヤツと……」

杏子「一緒にいられるわけがない……ッ!」

杏子「あ、足が震えてやがる……!クソ……ッ!」

杏子「……こ、『怖い』……ッ!」

杏子「このあたしが……い、今までで一番……きょ、恐怖を感じた……」

杏子「何なんだよ……キラークイーンとかいうスタンドの……プレッシャーは……!」

杏子「くそっ、寒ぃ……血液が冷たいところてんになったかのようだ……!」


杏子はキラークイーンの目を思い出す。背筋が凍るような眼だった。

化け物、怪物、殺人鬼。そういう言葉が真っ先に浮かんだ。

スタンド使いだからこそわかる、スタンドから放たれる圧力。

杏子は蛇に睨まれたカエルの気持ちを少しだけ理解した。

369: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 16:08:46.19 ID:lH0vbrgD0

杏子「しかもあいつ……!ゆまのヤツ……」

杏子「人を爆殺しといて『何とも』思ってやがらねぇ……!」

杏子「助けるために必死だったからだとか、もちろんそういう理由もあるが――」

杏子「残虐すぎる殺し方をしたのに『罪悪感』を全く覚えていない。さも当然のように爆殺した」

杏子「シビル・ウォーの性質上、罪悪感にはそこそこ敏感になったからわかる」

杏子「罪の意識を感じてたとしても……」

杏子「自転車で地べたを這うミミズをうっかり轢いてしまったくらいにしか思っていやがらねぇ……!」

杏子「……よくわからんがサイコパスってヤツなのか……?それとも、あれは元からのゆまの性質か?」

杏子「キラークイーン……直訳すると殺人の女王」

杏子「スタンドは精神力だ……だから、あのスタンドのせいだと思いたい」

杏子「あのスタンドが発現したからゆまの性格が少し改変されたのだと」

杏子「…………そう、思いたい。思わないと『恐ろし』すぎる」

370: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 16:10:30.93 ID:lH0vbrgD0

杏子の心を支配したのは単純な恐怖だった。

足の震えは、決して武者震いなどではなく戦慄そのもの。


目の前で人が爆発した。その事実もさることながら――

それが平然とやってのけたゆまに恐怖した。

子どもが、何の躊躇もなく人を惨殺した。その事実に怯えている。

まるで魔女のようだ、と杏子は思った。

こういうヤツが最悪な魔女、例えばワルプルギスの夜のようなのになるんじゃあないか、とも思った。


杏子「うぅ……寒気が治まんねぇ」

杏子「暑かったり寒かったり……今日は厄日だ……」

杏子「……美国織莉子」

杏子「あいつが妙なこと言わなければ……」

371: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 16:12:55.81 ID:lH0vbrgD0

杏子「『爆死する』だって……?」

杏子「キラークイーンに殺されると言ってるようなもんじゃあねぇか!」

杏子「それさえ無ければ、魔女狩りが捗るってんでゆまを割と普通に受け入れられていたかも……」

杏子「いや……いずれ誤爆か何かで爆発に巻き込まれてか……あるいは裏切られて殺されてただろう……どっち道な」

杏子「……あたしは、あいつに助けられたのかもしれない」

杏子「…………」

杏子「爆死……か」

杏子「予知通りじゃねぇか……くそっ」

杏子「と、いうことは……だ」

杏子「あいつの言っていたことが真実だとすれば……」

372: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 16:13:38.66 ID:lH0vbrgD0

杏子「暁美ほむら……世界を滅ぼす魔女……」

杏子「……世界がヤベェって、マジなのか?」

杏子「…………」

杏子「世界を救う……か」

杏子「近い内に行ってみるか……見滝原」

杏子「…………」

杏子「……ゆま」

杏子「『スタンド使いとスタンド使いは引かれ合う』……という格言がある」

杏子「……磁力とか引力とかみたいにな」

杏子「もしかしたら……また、会うかもしれないな」

373: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 16:18:37.87 ID:lH0vbrgD0

――見滝原


マミ「ちょっと食材買いすぎちゃったかしら……」

マミ「買いすぎたのは単純に安いのがいけないのよ……」

マミ「冷蔵庫に収まるかしら」

マミ「……あら?」

「えぐ……ぐすん……うぇぅ……」

マミ「女の子……泣いてる?」

マミ「あの……どうしたの?お嬢ちゃん」

「うぅ……うぇっ、ひぐっ……ううぅ……」

マミ「お名前は?いくつ?」

「うぅ……『ゆま』……」

マミ「よしよし。ゆまちゃん。泣かないで?どうしたの?迷子?」

374: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 16:19:56.37 ID:lH0vbrgD0

ゆま「ひぐっ……うえぅ……うぎゅうぅ」

マミ「落ち着いて……お父さんかお母さんは?はぐれちゃった?」

ゆま「……死んじゃった」

マミ「……ッ!」

マミ「……そ、そうなの。ごめんなさい」

マミ「あ……」

マミ「そ、その指輪……」

マミ「あなた……魔法少女ね」

ゆま「ぐしゅ……ぅん」

マミ「お姉ちゃんもそうなのよ」

ゆま「……ほんと?」

375: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 16:20:37.58 ID:lH0vbrgD0

マミ「えぇ……怪我とかしてない?」

ゆま「……うん」

マミ「ねぇ、何があったの?よかったら話してみてくれる?」

ゆま「グスッ……えぅ、キョーコに……ふぇっ、嫌われちゃったのぉ……」

ゆま「ゆまは邪魔だって……いらないってぇ……」

ゆま「ゆま……一人ぼっちになっちゃったぁ……」

ゆま「うえぇぇぇぅ……!あぅぅ……!」

マミ「……きょお、こ?」

マミ「それは……佐倉杏子?」

ゆま「うゅううぅぅ……ひぐっ、えぐっ」

マミ「…………」

376: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 16:21:10.87 ID:lH0vbrgD0

マミ「と言うことは……風見野から来たのね。あんな遠くから……たった一人で……」

マミ「ゆまちゃん……」

ギュッ

マミ「よしよし……辛かったのね。泣かなくていいのよ」

ゆま「ひっく……あったかい」

マミ「私の家においで?」

ゆま「クスン……いいの?」

マミ「もちろん。ひとりぼっちは寂しいものね……」

ゆま「……うん、一人はいやだよぉ……」

マミ「えぇ。そうね……嫌よね……」

377: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 16:22:05.96 ID:lH0vbrgD0


水を熱湯に変えるスタンド 本体:M市の魔法少女

破壊力 B スピード C  射程距離 B
持続力 D 精密動作性 C 成長性 D

水を『熱湯』に変えるスタンド。その性質は「傍流」
半径42m以内に存在する「水」の温度を最大99.974℃まで上昇させる。
また、物質を構成する「水分」の温度を上昇させることも可能。
ただしそれが生き物の場合、直に触れなければならない。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


387: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:21:53.00 ID:lH0vbrgD0

#8『佐倉杏子の新しい事情』


マミ宅。

テーブルを囲む五人。

五人はビスケットをつまみながら、いつものお茶会をしている。

本日お茶会が開かれたのは、マミの家に一緒に暮らすこととなった魔法少女を紹介するためである。


マミは昨夜、ゆまの話を聞いていた。

それをマミなりに話を整理して、再び来客に伝える。

ゆまは心地いい気分ではなかった。

杏子に捨てられたということを再びマミの言葉で聞かされたために。



マミ「――――と、いうことがあったの」

ゆま「…………」

388: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:23:24.46 ID:lH0vbrgD0

まどか「そうだったんだ……ゆまちゃん、だっけ……。大変だったんだ……」

さやか「……杏子とかいうヤツ!こんな可愛い子をほっぽり出すだなんて……!」

ゆま「……キョーコを悪く言わないで」

ほむら「…………」

ほむら(千歳ゆま、ちゃん……今までの時間軸では……初めて、お目にかかる)

ほむら(しかも、最近増えている魔法少女の縄張り争いに巻き込まれたとかじゃないらしい)

ほむら(そして佐倉さんと一緒に行動をしていたと言う……)

ほむら(イレギュラーな存在で、少し気がかりなところはある。でも……)

ほむら(この子は『スタンド使い』だと言う……それも、聞くところによると、ハッキリ言って恐ろしい能力だ)

ほむら(キラークイーン。触れた物を爆弾にする)

ほむら(でも……恐ろしい反面、頼もしい味方になれる)

389: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:24:34.00 ID:lH0vbrgD0

ほむら(そして気になるのは……佐倉さんが、ゆまちゃんを「追い出した」ということ)

ほむら(佐倉さんは、なんだかんだで面倒見のいい性格なのに……)

ゆま「……ゆまね、怖いスタンド持っちゃったの」

ゆま「だからキョーコに嫌われちゃったの……」

ほむら(果たして……それだけなのだろうか……?)

ゆま「…………」

さやか「……爆弾のスタンド……ねぇ」

マミ「ゆまちゃん……スタンドのことになると、すぐ落ち込んじゃうのよ」

マミ「そんなことない。大丈夫って言っても……」

マミ「その、佐倉さんに見捨てられて、よっぽどショックだったらしくて……」

ほむら「……それでも、悪く言わないでって言うくらいだから、好きなんですね」

390: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:25:24.76 ID:lH0vbrgD0

まどか「……大丈夫だよ。ゆまちゃん」

ゆま「……」

まどか「別に、触れた物全てが爆弾になるわけじゃないんでしょ?」

まどか「だったら、気にすることもないよ」

さやか「……そ、そうだよ!既に転校生という爆弾魔がいるんだから!」

ほむら「ば、爆弾魔ァッ!?」

ゆま「……お姉ちゃんも爆弾使うの?」

ほむら「あ、食いついてきた……え、えっと……」

ほむら「わ、私はスタンド使いじゃないけど……うん。爆弾使うよ」

ほむら「だから……その……ですよね?」

マミ「え?私に振るの?」

マミ「えと……そ、そう!」

391: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:26:37.18 ID:lH0vbrgD0

マミ「だから私達は爆弾なんか怖くないの!」

ゆま「……ほんと?」

マミ「ええ!」

まどか「ゆまちゃんは、その杏子って人を守るためにそのスタンドを得たんでしょう?」

ゆま「……うん」

まどか「ゆまちゃんが守るのは『女の子』だけじゃなきゃダメなのかな?」

まどか「『街』や『みんな』でもいいと思うな」

まどか「マミさんやほむらちゃんは、この街の人を守るために戦ってる……」

まどか「ゆまちゃんも、一人じゃなくてたくさんの人を守ってくれたらいいなって」

ゆま「…………」

まどか「どうかな?」

392: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:27:21.98 ID:lH0vbrgD0

さやか「流石スタンド使いは言うことが違いますなぁ」

マミ「そこに痺れる」

ほむら「憧れるぅ」

ゆま「……うん」

ゆま「……頑張ってみる」

まどか「うん!頑張って!」

ゆま「うん……!マミお姉ちゃん。ゆま、頑張る……!」

ゆま「ゆま、猫さんをみんなのために使う!」

ほむら「きゅ、急に元気に……!」

マミ「よく言ったわ。ゆまちゃん。偉いねぇ~」

ナデナデ

ゆま「えへへぇ」

393: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:31:37.81 ID:lH0vbrgD0

ゆま「ありがとう!お姉ちゃん!」

まどか「え、えへへ、どういたしまして」

さやか「何照れてんの」

まどか「お姉ちゃんって呼ばれちゃった……照れるぅ」

ほむら「現役のお姉さんなのに?」

まどか「だって、まだ言葉あんまり喋れないし……」

まどか「あ、あとわたしの名前はまどかだよ。ゆまちゃん」

ゆま「まどかお姉ちゃん!」

まどか「グッド」

さやか「何で英語?」

マミ「あ、そうだ。よく考えたらゆまちゃんはまだあなた達のこと知らないわよね」

394: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:33:10.63 ID:lH0vbrgD0

マミ「何で紹介してなかったのかしら……ゆまちゃん、こちらは美樹さん」

ゆま「…………」

さやか「やぁ!さやかちゃんだよ!」

ゆま「…………」

ゆま「さやか!」

さやか「うぉう!?何で呼び捨て!?」

ゆま「何となく、キョーコに雰囲気が似てる気がしたから」

マミ「そう?似てるかしら……?」

ほむら(……あの二人はなんやかんやで仲が良い時間軸が多い……どこか繋がるところがあるのかもしれない)

さやか「あたしはその杏子ってヤツを知らないんだけどね」

ゆま「じゃあ、さやかお姉ちゃん?」

さやか「……うッ」

395: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:33:57.20 ID:lH0vbrgD0

さやか「お、お姉ちゃん……か」

まどか「?どうしたの?」

さやか「うへぇ……あたし一人っ子だから、そう呼ばれるのは、う、嬉しいことではあるんだけど……」

さやか「何か気が抜けちゃうというか、背中がムズ痒いというか……やっぱさやかでいいよ。よろしくね。ゆまちゃん」

ゆま「さやか!」

さやか「ベネ」

マミ「何でイタリア語?」

ほむら「それで、私は……」

さやか「こいつはほむほむだ」

ほむら「ほ、ほむッ!?」

まどか「ほむ?」

マミ「ほむ……」

ゆま「……ほむほむ」

396: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:34:50.67 ID:lH0vbrgD0

ほむら「ゆ、ゆまちゃん。私はほむら。暁美ほむらだよ?」

ほむら「いい?ほ・む・ら。言ってごらん?」

ゆま「…………」

ゆま「ほむほむ!」

ほむら「え、えぇー……」

ゆま「ほむほむゥ!」

マミ「あらあら、その呼び方、気に入っちゃったようね」

さやか「ハハハ!ウケる!」

まどか「あ、あはは……」

ゆま「ほむほむ~」

ほむら「そ、そんなぁ……」

397: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:35:23.77 ID:lH0vbrgD0

ゆま「ほむ!」

ほむら「……まぁ、いいけど」

ゆま「ほむほむほむほむっ」

さやか「アハハハハハハ!」

まどか「さやかちゃん笑いすぎだよ」

さやか「ハハ……ごめんごめん……」

さやか「ハァー……」

さやか(――にしても……)

さやか(……こんな小さい子が魔法少女、かぁ……)

さやか(杏子ってヤツを助けたいって契約したのか……その結果は悲しいことになったけど)

さやか(……契約、か)

さやか「…………」

398: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:38:46.20 ID:lH0vbrgD0

――同時刻


「……ここ、か」


緑色のパーカーを着ているポニーテールの少女は見滝原にいた。

片手に持っていた、地図を乱雑に丸めてポケットの中へ押し込んだ。


「やぁ、待っていたよ。佐倉杏子」

杏子「……キリカ、つったか」

キリカ「名前、覚えてくれてたんだね。私は自己紹介した覚えないけどさ」


佐倉杏子は今、大きな洋館の前に立っている。

手入れをされず不格好に伸びたバラの木がそよ風に煽られ揺れていた。


キリカ「まぁ、入りなよ」

杏子「……ああ」

399: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:40:46.90 ID:lH0vbrgD0

キリカ「織莉子ぉ~。佐倉杏子が来ぃ~たよ~」

織莉子「いらっしゃい。佐倉さん。そしておかえり。キリカ」

織莉子「予知で来るタイミングはわかっていたわ」

織莉子「お茶の準備は既にできてるから手を洗ってうがいしてらっしゃい」

織莉子「佐倉さんを洗面所に案内してあげて」

キリカ「うん!」

キリカ「さぁ、こっちだよ」

杏子「……ん」

400: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:46:28.96 ID:lH0vbrgD0

杏子「…………」

キリカ「こんな大きな家だとは思わなかったでしょ」

杏子「……ぼんぼんなのか?」

キリカ「まぁ、お金はある。でも、その辺とこ、織莉子に話しちゃあいけないよ」

杏子「あ?」

キリカ「これは、織莉子の御尊父の遺したもの、とでも言えばいいかな」

キリカ「別に仲が悪かったわけじゃない。むしろ良い親子だったそうだ」

キリカ「まぁ……うん。色々あってね。織莉子のためにも、父親のことは話題に出さないでくれ」

杏子「…………あぁ、わかった」

杏子「あたしも……父親のことは話題に出されたくないからな」

キリカ「そっか……。私も家族と仲が良いとは言えないからね。お互い丁度良いって感じかな」

401: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:47:21.98 ID:lH0vbrgD0

キリカ「……ねぇねぇ」

キリカ「私、今朝からちょいと気になってることがあってね」

杏子「あん?」

キリカ「織莉子にも聞いたことなんだけどさ……」

キリカ「魔法少女と魔女ってどっちが先なんだろう」

杏子「はぁ?」

キリカ「ニワトリと卵どっちが先かっていう議論と似た話なんだけどさ……」

キリカ「グリーフシード、もとい魔女って元は魔法少女なわけじゃん」

キリカ「じゃあ最初の魔法少女ってのはどう生きていたんだ?ただ魂が濁りゆくのを黙って眺めていたのかな?」

キリカ「それとも魔女っていうのは魔法少女どうこう関係なしに既に存在させられていたのかな?」

キリカ「つまり……何が言いたいんだろうね?ゴメン」

杏子「うぜぇ」

キリカ「…………ゴメン」


402: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:49:36.80 ID:lH0vbrgD0


カチャ…


織莉子「どうぞ」

杏子「ああ」

杏子(……こういう紅茶を飲むってのも久しぶりだな)

織莉子「お砂糖はいくつ?ジャムは何杯?」

杏子「自分で勝手に入れる」

織莉子「そう?紅茶のおかわりは自由よ」

キリカ「…………あの」

織莉子「何?」

キリカ「……わ、私にもお砂糖を」

織莉子「そうね……いくつ?」

キリカ「……いくつくれるの?」

織莉子「ああ……そういえばキリカ。私が寝込んでいる間に家の角砂糖をたくさん食べちゃった罰で砂糖に触れることを禁止してたんだったわね」

403: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:50:52.70 ID:lH0vbrgD0

織莉子「勝手にもうヒョイパクヒョイパクと……」

織莉子「そう言えばジャム一瓶丸々ゼリー感覚で食べてたんだったっけ……うん……忘れてたわ」

杏子「……」

キリカ「うぅ……絶対嘘だ……まだ怒ってる?出来心なんです。悪気はないのぉん」

織莉子「別に。……それで?甘いのいくつ欲しいの?」

織莉子「二つ?」

キリカ「ええ~~ッ!やぁ~だぁ~~もォ~~ッと。も~、もォーッとォ~~」

織莉子「嘘よ。五つあげるわ。頑張ったもんね」

キリカ「やったッ!」

織莉子「ふふ、別に怒ってなんかないわよ。今日もお疲れさま。キリカ」

キリカ「えへへ」

杏子「何だあんたら……」

404: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:52:10.06 ID:lH0vbrgD0

キリカ「うん、うん……」

キリカ「やっぱり角砂糖五つ入れた織莉茶はとっても美味しい」

織莉子「お、織莉茶って……」

織莉子「でも、キリカに喜んでもらえて……私も淹れがいがあるというものよ」

キリカ「でへへ~」

キリカ「そういや杏子。さっきから静かだね。まるで何だかよそから借りてきた猫みたいだ。初対面の時の威勢はどこ行ったのさ」

杏子「……色々あんだよ」

織莉子「猫……そう言えば、世間にはネコミミというものがあるらしいわ」

織莉子「キリカ今度つけて」

キリカ「えぇっ!?」

杏子「置いてけぼりなんだが……あたし」


405: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:52:55.53 ID:lH0vbrgD0

織莉子「こ、コホン……失礼しました」

織莉子「……それで、佐倉さん。ここにいらした、ということは……」

杏子「……ああ」

杏子「あんたの予知、信じるよ」

キリカ「どういう心境の変化なんだい?」

杏子「爆死に心当たりができたからだ」

織莉子「心当たり?」

杏子「ああ……。予知でわかってなかったのか?」

織莉子「えぇ。見てませんから」

織莉子「それに見たとて、その予知がその通りにいくとは限りません故」

杏子「……ふぅん」

406: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:53:57.35 ID:lH0vbrgD0


キリカ「まぁ、これで心強い味方ができたってわけだね」

織莉子「えぇ。一緒に世界を救いましょう」

杏子「……そんな大げさな、とは思うんだが」

キリカ「やれやれ、やっぱりまだ実感できてないのかな」

織莉子「まぁまぁ、それは追々……私としては協力さえしてくれれば……」

織莉子「ところで佐倉さん。紅茶のおかわりはいかがですか?」

杏子「……」

杏子「その丁寧語はやめてくれないか」

杏子「ぶっちゃけ、逆に見下されてるみたいでムカつく」

キリカ「何だそれ?」

織莉子「……では、仲間ということで丁寧語を解除するわ」

407: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:55:37.55 ID:lH0vbrgD0

キリカ「んじゃ、そろそろ今後のことを話そうか」

織莉子「そうね」

キリカ「結論から言うとだね。杏子。体勢を整えたら、私の通う『学校を襲撃』するつもりでいる」

織莉子「具体的な日付はまだ決まっていないから、いつかは未定よ」

杏子「…………ふーん。学校に、ねぇ」

織莉子「生徒にとって授業中ほどある意味無防備な時間はない。奇襲をする上でこれほどいいチャンスはない」

織莉子「まさか一般人を大規模に巻き込むような、学校を襲撃するようなことはと思わないでしょう」

織莉子「キリカも生徒ならではの動きやすさというものもあるし……」

織莉子「何より、彼女達が他の生徒への心配、気を取られる可能性がある」

織莉子「障壁を乗り越えるには、世界を救世するにはあらゆる手段も惜しまない」

杏子「面倒なことをするねぇ」

キリカ「面倒かもしれない。でも、シンプルがいい」

408: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:56:53.00 ID:lH0vbrgD0

織莉子「レクイエムの発現条件がわからない以上、早い方がいいものね」

織莉子「何より……時間停止能力を持つ暁美ほむら、スタープラチナというスタンドを持つ鹿目まどか、ベテラン魔法少女の巴マミがいる」

キリカ「何さやか……だったっけかな?名字忘れた。とにかくそんな感じの名前な魔法少女候補もいたから、それもいるかもしれない」

杏子(……キラークイーンのゆまもいるかも知れないな)

杏子「…………」

杏子「……チト気になったんだが、スタンドを発現させる要素からほむらってヤツを守るっていう手もあるんじゃあないか?」

織莉子「私は確実な手を下す。スタンドを発現させる魔女、あるいは使い魔がいつどこにいたものか……安心できない」

織莉子「そもそも今、暁美ほむらがスタンド使いでないとは限らない。予知でも偵察でもわからない」

織莉子「魔女狩りで使わなかっただけかもしれないからよ。……どっち道何をしでかすかわからない、未知の危惧がある」

杏子「ふーん……まぁいいけどさ」

キリカ「何?ここにきて怖じ気づいた?」

杏子「そんなことはない」

409: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:58:25.28 ID:lH0vbrgD0

織莉子「なら、いいわ」

織莉子「それで、暁美ほむら抹殺計画についてなのだけど……」

杏子「…………」

織莉子「まだ何も決まっていないというには語弊はあるけれど……目的くらいは」

織莉子「まず今の現状を話して。キリカ。よろしく」

キリカ「オッケー」

キリカ「えっとだね、取りあえずって感じなんだけど」

キリカ「スタンドにおける魔法少女の縄張り争いの激化のてんやわんやで、幸いにもこの計画はしろまるには割れていない」

キリカ「もし知られることがあるとすればせいぜい私達と君が手を組んだってことくらいだ」

キリカ「ところで、杏子」

杏子「ん?」

410: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:59:07.04 ID:lH0vbrgD0

キリカ「レイミ……もとい、スタンドを発現させた魔女、使い魔の結界のことだけど……最近見た?」

杏子「いいや。見てない」

キリカ「実は、そこに迷い込んだことのある一般人がいるらしいんだ」

キリカ「それも、喰われたりとかせずに生きて帰ってきたパターンがある」

杏子「……口づけ喰らったんじゃねぇの?」

キリカ「その辺はわからない」

キリカ「でもね、生きているということは『スタンド使い』になっていると言ってもあながち過言じゃあない」

杏子「……マジか」

キリカ「『悪魔の手の平』という名前で都市伝説になっている」

411: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:59:57.75 ID:lH0vbrgD0

キリカ「まぁ、よくある変な世界に迷い込む系の、現実味ペラペラ都市伝説の一つになってるんだけどさ」

杏子「……なるほど」

織莉子「……魔法少女がスタンドを得て、縄張り争いが激化した」

織莉子「なら、もし一般人がスタンドを得たら……」

杏子「……どうなると思うんだ?」

織莉子「仮にスタンドという超能力をどこかのルール無用な人間の手に渡ってみなさい」

キリカ「自分の欲望でしか考えないゲスのことだ。この世界は世紀末状態になりかねない」

杏子「…………」

織莉子「それだけは阻止しなくてはならないッ!」

キリカ「ストップでハッピー」

杏子「は?」

412: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 22:00:51.46 ID:lH0vbrgD0

織莉子「救世の使命を持った者としての絶対的『使命』!」

キリカ「戦いの犠牲が出るからこそ『大切なもの』が手に入る」

織莉子「何が言いたいかというと、学校襲撃のターゲットは「暁美ほむら」だけでなく『スタンド使い』が追加された、ということよ」

杏子「回りくどいなオイ」

杏子「しかし、スタンド使いもターゲットとなると……あんたらもあたしもそうなるが」

キリカ「わかってないな。悪いヤツに力は与えるなってことだよ」

織莉子「あなたは利己的な人よ。どこぞの魔法少女のように、テリトリーを奪ってより多くのグリーフシードを採集せんとする魔法少女とは違う」

織莉子「この世に『奪う者』は必要なし。正義、正しい心を『受け継ぐ者』またそれを『与える者』がいればいい」

キリカ「スタンド使いが少なくなればスタンドを悪用する蓋然性が著しく低くなる」

キリカ「極論、スタンド使いが私達三人だけになれば、そんな心配もないだろうってね」

杏子「……そうかよ」

杏子「まぁ、ほむらだろうが一般人だろうが別にどうでもいいよ」

413: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 22:02:52.65 ID:lH0vbrgD0

杏子「で?あたしは、何をすればいいんだ?」

キリカ「お?仕事が欲しいのかい?やる気だねぇ」

杏子「そうでもない。やることもわからずに連れてこられてもあたしが困るからな」

織莉子「そうね……今は特にして欲しいことはないわ」

杏子「…………」

織莉子「せいぜいこれまで通り、風見野で魔女を狩って、というとこくらいかしら」

キリカ「グリーフシードはあって困ることはないからね」

杏子「そう、かよ」

織莉子「時期が来るまで、ここを拠点としてお使いなさい」

杏子「……ここに暮らせ、と?」

キリカ「織莉子と二人きりの時間が減るけど……仕方ない」

織莉子「空いてる部屋もあるから、問題ないわ」

414: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 22:03:20.84 ID:lH0vbrgD0

織莉子「ただし、暁美ほむら達に存在を知られてはいけない……」

織莉子「もとい、見滝原を不用意にうろつかない、余計なことをしないことを約束なさい」

杏子「わかったよ。……とは言え、暁美ほむらの顔を知らないからどうすりゃいいのかわからんが」

キリカ「その辺大丈夫。暁美ほむらや巴マミの通う学校の方向とここは結構違うからね」

キリカ「見滝原で魔女が出ても無視すりゃあいいんだよ」

織莉子「使用済みグリーフシードは風見野で回収してもらって」

杏子「……面倒だな。だが、寝床がもらえるって言うんだ。我慢する」

織莉子「理解が早くて助かるわ」

織莉子「……さて、取りあえず」

織莉子「こうして話している間にお風呂が沸いたようね」

杏子「風呂?」

415: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 22:04:13.21 ID:lH0vbrgD0

織莉子「入ってらっしゃい」

杏子「……ひょっとしてあたし、臭う?」

織莉子「そうは言わないけれど……」

織莉子「その、あなたの生活から考えると……」

キリカ「やっぱり気になるよ」

杏子「……そうか。まぁ、仕方ない」

杏子「着替えとかあるのか?」

織莉子「えぇ」

杏子「ん。じゃあ、入ってくる。場所はキリカについでで教えてもらった」

416: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 22:04:53.49 ID:lH0vbrgD0

ガチャ…

キリカ「……行ったね」

織莉子「……えぇ」

織莉子「……キリカ」

織莉子「うん?」

織莉子「彼女に心を許してはいけないわ」

キリカ「…………」

キリカ「言わずもがな。私が心を許しているのは織莉子だけだよ」

織莉子「彼女はただ、利用するだけよ」

織莉子「目的を果たして彼女が生き残っていたら……クリームで飲み込んでやりなさい」

キリカ「……え?」

417: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 22:05:35.95 ID:lH0vbrgD0

キリカ「い、いいの?マジィ?」

キリカ「まぁ織莉子がやれって言うならもちろんやるけど……」

キリカ「何て言うか……私はそういうの好まないかな。義理というか……いや、否定してるわけじゃないよ」

織莉子「義理?そんなもの必要ないわ」

織莉子「彼女は、最終的には私達を裏切る可能性を孕んでいる」

キリカ「そっ!それは本当!?」

織莉子「予知で見たわけではないけど、臭いでわかる。そういうことをしかねないって」

織莉子「私達が生きるために、後々邪魔になるのは間違いないわ」

織莉子「何と言っても、スタンド使いだし」

キリカ「ふぅ~ん……まぁ、いいけどね……。……ねぇ、織莉子」

織莉子「……何?」

キリカ「あ、いや……別に、やっぱいいや」

織莉子「?」

キリカ(織莉子……なんか、性格が変わった、というか……何というか……)

キリカ(……まぁ、いっか)

418: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 22:06:08.83 ID:lH0vbrgD0

杏子「…………」

杏子(スタンド使いがいなければスタンドを悪用される心配はない……か)

杏子(……確かに余計な力を持つ者は少ないに越したことないだろう。あいつらの言うことにも一理ある)

杏子(だが……あたしのスタンド……シビル・ウォーは魔法少女を魔女にするくらいにしか役に立たない)

杏子(故にもとよりあたしはまだしも……)

杏子(あいつらの能力を、あたしは知らない……心配がないとは言えねぇ)

杏子(そもそも、あたしは魔法もスタンドも悪用している。それはいいのか?って話になるじゃあねぇか)

杏子(そんなあたしをその正義のために味方につけるなんて……いや、事情を知らないんだろうけど)

杏子(何が正義かわかったもんじゃねぇな。正義なんてのは、こうあやふやなもんだ……)

杏子(ま、こんな豪勢なとこにしばらく住めるんだ。何も言うまい)

419: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 22:07:00.92 ID:lH0vbrgD0


キラークイーン 本体:千歳ゆま

破壊力 A スピード C  射程距離 E
持続力 D 精密動作性 D 成長性 C

触れた物を『爆弾』にする能力(一度に一つだけ)。その性質は「護身」
キラークイーンが触れた物はどんな物でも爆弾になる。
爆弾の大小問わず大爆発。強い力が欲しいと願ったことで発現。
体型はゆまと同じくらい。ゆまはキラークイーンを「猫さん」と呼ぶことがある。
左手の甲から、魔力を探知して自動追尾する爆弾戦車「猫車」を出すことができる。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


425: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:21:27.46 ID:w6fA4+mN0

#9『志筑仁美のナイトメア』


――病院

ここには、さやかの幼なじみである上条恭介が入院している。

事故に遭い、腕と脚を負傷したのだ。

幼なじみのよしみでか、別の感情があってか、頻繁に見舞っている。


さやか「元気ィ?」

恭介「さやか……」

さやか「お土産持ってきたよ。恭介」

さやか「はい。バイオリンのCD」

さやか「これ手に入れるのに結構手こずったよぉ~」

恭介「…………」

恭介「……さやか」

さやか「うん?」

426: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:24:02.80 ID:w6fA4+mN0

恭介「さやかは、僕をイジめて楽しいのかい?」

さやか「え……」

恭介「腕が動かないのに……そんな、CDを土産にするなんて……」

さやか「…………」

さやか「そ、それは……」

恭介「もう、医者に言われたんだ。もう、不可能だって……!」

恭介「もう、腕は動かないんだ」

恭介「もう、バイオリンは弾けないんだ……」

さやか「あ、諦めちゃダメだよ!」

さやか「そんな気持ちじゃ、心持ちじゃあ奇跡なんて起きやしないって!」

恭介「起きないさ!奇跡なんてものはッ!」

427: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:25:12.81 ID:w6fA4+mN0

さやか「奇跡はある!奇跡も、魔法もあるんだってば!」

さやか「気持ちの問題だよ!そんなんじゃ……」

恭介「弾けもしないバイオリンの音色なんてッ!」

ガシャンッ!

さやかの言葉は、恭介の衝動を抑えることはなかった。

さやかがベッドの上にポンと置いたCD。それを動く方の腕で掴み、床に投げ叩きつけた。

ケースは分解し、中のCDが飛び出した。


さやか「……ッ!」

さやか「あ、あんた何てこと……!」

さやか「折角買ってきたのに……恭介が頼んだのに……これは酷すぎ……」

恭介「いい加減にしてくれッ!」

さやか「ッ!」

428: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:26:09.22 ID:w6fA4+mN0

さやか「きょ、恭介……」

恭介「さやかには僕の感じてる恐怖がわかっていないんだ!」

さやか「そ、そんなことないよ!」

さやか「恭介が辛い思いをしてるって、重々わかっ――」

恭介「うるさいッ!知った風な口を言うんじゃあないッ!」

さやか「し、知った風なって……」

恭介「さやかは何もわかっちゃいない!」

恭介「さやかは見えていないんだよッ!」

さやか「きょ、きょうす……」

恭介「さやかだけじゃない!医者も看護師も!誰一人!」

429: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:27:31.16 ID:w6fA4+mN0

恭介「誰一人として僕の恐怖を認識できていないッ!」

恭介「勝手なことを……無責任な言葉を投げかけないでくれ……!」

さやか「…………」

恭介「お願いだ……さやか。もう、出てってくれ……」

さやか「で、でも……」

恭介「一人にしてくれ……!」

さやか「と、とにかく落ち着い……」

恭介「出てけと言ったのが聞こえないのかよッ!」

さやか「……!」

さやか「……わかった。今日は……帰る」

さやか「また、来るね……」

パタン…

430: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:28:25.76 ID:w6fA4+mN0

恭介「…………」

恭介「うぅ……くそ……っ!」

恭介(また来る、だって?……別にもう来なくてもいいのに)

恭介「誰も……誰も僕のことをわかっちゃあいない……!」

恭介「さやかも……誰も……!」

恭介「くそっ!この恐怖を誰かに話そうとしても……」

恭介「周囲の人間の『カワイソー』とか、『知らんぷりしてテキトーに相槌打っておこう』って態度が……」

恭介「ますます僕の恐怖を煽るッ!」

恭介「誰も、誰もわかっていないんだッ!」

恭介「どうしてだ……どうして、納得のいく答えを誰もくれないんだ……」

恭介「本当に……本当に何なんだ……!一体何なんだよ……!」


恭介「『こいつ』は……!」

431: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:30:14.51 ID:w6fA4+mN0

ベッド横にある机の上には、ケースにヒビの走ったCDが置かれている。

丁寧にもその欠けた数個の破片までもがその隣に並べられている。

床には何もない。正確には、何もなくなった。


コン、コン

ノックの音。

恭介は声を出す気にもならなかった。

来客は、その無言を「拒否はしていない」

イコール「入ってもいい」と判断した。


「……失礼します」

恭介「…………」

「……上条くん」

恭介「……志筑さん?」

仁美「今……さやかさんが走って出ていったのですが……」

432: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:31:28.96 ID:w6fA4+mN0

仁美「何か……あったんですか?さやかさん。私に気付かずにすごい勢いで……」

恭介「……君には、関係のないことだよ」

仁美「………」

仁美「あの、私……お尋ねしたいことがあるんです」

仁美「世間話というには少しズレてるかもしれませんが……大切なこと」

恭介「……悪いけど、一人にしてくれないかな」

仁美「お時間は取らせませんので」

恭介「……何、かな」

仁美「…………」


仁美「『悪魔の手の平』……という噂、知っていますか?」

433: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:33:11.34 ID:w6fA4+mN0

恭介「…………」

仁美「これは、あくまで都市伝説です」

仁美「いつもの通り、暗くなってきた道を歩いて……」

仁美「少し時間を節約しようと脇道や近道を通る……」

仁美「すると、突如として妙な空間に迷い込んでしまうことがあるそうです」

仁美「何でも、空がピンク色で、断層が隆起していて、家がズタボロらしいのです」

仁美「カフェと思しき建物の崩れたらせん階段。天使のイラストや何やら妙な落書きがあって……枯れた紫陽花もありま……あるそうです」

仁美「そして、そこに迷い込んだ人に、お化けが迫ってくるのです。それで何とか、その廃墟の街から逃げ切ると……その人は……」

仁美「生き延びた報酬なのか……不思議な『能力』を得るそうです」

恭介「……ッ!」

434: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:34:28.53 ID:w6fA4+mN0

仁美「風の噂では、血縁者が件の能力を得ると……」

仁美「その兄弟やご子息も、それに目覚めると言うのです」

恭介「…………」

仁美「まるで、共通の遺伝子と共鳴するかのように……」

仁美「外を出歩かずとも突如としてそれが目覚めるということもありうるという……」

恭介「志筑さん……き、君は……君は一体、何を言って……」

仁美「私が個人的に調べた結果です」

恭介「何が……君は何を言いたいんだい……?」

仁美「…………」

仁美「上条くん……あなたは……」


仁美「私と同じ『能力者』です」


435: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:35:36.67 ID:w6fA4+mN0

――翌日


ピンポーン

ガチャ


ゆま「ほむほむ!」

ほむら「こんにちは。ゆまちゃん」

ドタドタ

ゆま「マミお姉ちゃん!ほむほむ達来たー!」

ほむら「……ふふ、ゆまちゃん、楽しそうだね」

まどか「あ、うん。そうだね……」

さやか「お邪魔します……っと」

ほむら「…………?」

ほむら(何だろう……鹿目さんも美樹さんも、今朝から何か……)

ほむら(元気がない……何かあったのかな)

436: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:37:07.13 ID:w6fA4+mN0


QB「やぁ。三人とも」

マミ「いらっしゃい」

まどか「お邪魔します」

ゆま「お茶とケーキだよ!」

さやか「お、ありがとう」

マミ「ゆまちゃん、よく家事を手伝ってくれて私本当に助かっちゃうわ」

ゆま「えへへぇ……ゆま、マミお姉ちゃんのお手伝いするの楽しくって、大好き!」

マミ「あぁ……何ていい子なの……!」

マミ「よぉ~しよしよしよしよしよし」

ナデナデナデナデ

ゆま「あぅん、くすぐったいよぉ。えへへぇ」

437: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:38:44.64 ID:w6fA4+mN0

マミ「さぁさぁさぁさぁ、みんな。召し上がれ」

さやか「……いただきます」

まどか「わぁ、美味しそう」

ほむら「いつもすみません」

ゆま「ケーキ美味しい。むしゃむしゃ」

マミ「あらあら、クリーム付いてるわよ。拭いてあげる」

ゆま「んー」

まどか「何だか、本当の姉妹みたいだね」

ほむら「うん。微笑ましい」

さやか「……そうだね……本当に、幸せそう」

ほむら「……ね、ねぇ、鹿目さん。美樹さん、どうかしたの?」

まどか「……うん。昨日、ちょっと……」

ほむら「?」

438: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:40:00.65 ID:w6fA4+mN0

マミ「……それで、美樹さん」

さやか「はい」

マミ「『大事な話』って何?」

ほむら「え?」

まどか「…………」

ほむら「あの、大事な話って……」

マミ「暁美さんは聞かされてなかったようね」

ゆま「ゆまも聞いてないっ」

QB「何かあったのかい?」

439: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:40:44.81 ID:w6fA4+mN0

さやか「マミさん、転校生、ゆまちゃん、キュゥべえ」

ほむら(……もしかして)

ゆま「なぁに?」

QB「何かな」

まどか「…………」

さやか「……あたし」

さやか「……『契約』したい」

マミ「!」

ゆま「ふぇ……?」

ほむら「ッ!?」

440: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:42:17.58 ID:w6fA4+mN0

さやか「あたし……決心しました」

さやか「あたしは……知り合いを助けたい」

QB「……へぇ」

まどか(……今朝、さやかちゃんから上条くんと喧嘩した話を聞いた)

まどか(ずっと……思い悩んでいるって感じだった……)

さやか「あんな大人しいあいつが……取り乱して……」

さやか「これ以上辛そうなの見てられないんです」

さやか「あたしは、あいつを助けたい。契約したいんです」

ゆま「さやか……」

QB「それが、君の望みなんだね?」

さやか「うん。……でも、やっぱり、予め話しておきたくて」

441: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:43:18.13 ID:w6fA4+mN0

ほむら「……ダ」

マミ「……そうね。美樹さんがその気なら――」

ほむら「ダメッ!」

さやか「へ?」

まどか「ほ、ほむらちゃん?」

ほむら「……あっ」

ゆま「ほむほむ……?どうしたの?」

さやか「きゅ、急に大きな声で……ダメって……」

QB「さやかに契約させたくない理由でもあるのかい?」

さやか「…………」

さやか「どうなの?転校生」


442: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:44:34.23 ID:w6fA4+mN0

ほむら「え、えっと……その、あ、危ない目に、遭わせたくないですし……」

ほむら(ま、まずい……思わず大きな声を出して変な空気に……)

さやか「心配してくれてるのか……優しいね。転校生」

さやか「でもね、あたしは覚悟を決めたよ」

さやか「本気で叶えたい願い事ができたんだよね」

さやか「やっぱり、勝手に契約はできないからこうやって相談して……」

ほむら「い、いくら覚悟があるからって……契約したら……いつ死ぬかわからないし……」

さやか「大丈夫だよ!マミさんも転校生もいてくれるでしょ?それにゆまちゃんだっている」

さやか「ですよね?マミさん。ゆまちゃん」

マミ「えぇ。そうね。契約をするのなら、ちゃんと面倒を見るわ」

ゆま「ゆまはさやかのセンパイになるね?」

QB「マミはベテランだし、一度見習いの魔法少女を教育した経験がある。ゆまもスタンドという力がある」

QB「すぐに安定するようになるだろう」

443: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:45:35.97 ID:w6fA4+mN0

ほむら「で、でも……」

さやか「あたし、本気なんだ。わかってほしい」

ほむら「…………」

ほむら「……上条くんのことですよね」

さやか「え、な、何で知って……」

まどか「あれ?ほむらちゃん、上条くんのこと知ってたっけ?」

ほむら「え、あ、うん。一応……」

マミ「美樹さんの知り合い?」

ゆま「さやかのふぃあんせ?」

さやか「フィ、フィア……っ!ち、違うよぉ!た、ただの幼なじみスよぉ!」


444: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:48:08.09 ID:w6fA4+mN0

さやか「事故で腕が動かなくなって……治る見込みもないって言われて」

さやか「それで、あたし、恭介の腕を治したいんです」

マミ「そうなのね……」

ほむら(え、えっと……どうしよう。どうしよう……!)

さやか「いいよね?転校生。あたしの気持ち、わかってよ」

ほむら「…………」

ほむら「そ、それって……」

ほむら「えっと……その」

ほむら「……上条くんの望み、ですよね」

さやか「……は?」

さやか「い、いや……だから、恭介の望みじゃなくて、恭介の腕を治すのがあたしの望みだよ」

445: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:49:23.03 ID:w6fA4+mN0

ほむら「腕を治して……えっと、美樹さんはどう……したいんですか……?」

さやか「どうって……」

さやか「……転校生、あんたは何が言いたいの?」

まどか「ほ、ほむらちゃん……?」

ほむら「美樹さんは、上条君に……その、恩を売りたい、ということなんですか?」

さやか「……何、だって?」

ほむら「あ……不快に思ったらすみません。その、いい言葉が浮かばなくて……」

ほむら「多分、ですが……上条くんを哀れに思って、突発的に契約しようと思った」

ほむら「……そう、見受けられました」

ほむら「なので……もっと冷静になっていただきたいんです」

ほむら「後悔のない選択を……してほしいんです」

さやか「……あたしは、後悔なんかしないよ」

446: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:50:43.11 ID:w6fA4+mN0

ほむら「いや、あの、その……今後、美樹さんは……」

ほむら「上条くんの腕を治してあげたっていう……えっと……」

ほむら「何て言うか……普通の意識ができなくなると思うんです」

まどか「普通の……意識?」

ほむら「無意識的に見返りを求めるというか……」

ゆま「ほむほむー話が長いよー難しいよぉ」

マミ「えっと……大切な話をしているのよ」

さやか「つまり……転校生はこう言いたいんだな?」

さやか「あたしが『恭介の恩人になった自分に酔う未来が目に見えてる』と」

ほむら「そ、そこまでは……」

ほむら「そ、それに上条くんは、幼なじみの美樹さんに、魔法少女だなんて危険な身分になられてまで治っても嬉しくない……と思うんです」

447: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:51:33.90 ID:w6fA4+mN0

ほむら「もし、上条くんが魔法少女のことを知ったすると……美樹さんに罪悪感を覚えるかと……」

ほむら「そうなったら……二人の仲はギクシャクして……きっと、前と同じ仲にはなりにくいと思います」

ほむら「そうなったら……美樹さんは、その……後悔する……私は、普通の人生を送って欲しい」

ほむら「あの……えっと……それに……」

ほむら「み、美樹さんは……その、逃げてるんだと思います」

ほむら「腕が動かなくなった後のフォローを諦めて、一番簡単な自己犠牲の選択を……」

ダンッ!

さやか「いい加減にしろよッ!!」

ゆま「ひぃっ!?」


テーブルに手を叩き付け、さやかは大声で怒鳴った。

重苦しい空気に乱気流が発生した。

448: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:52:42.20 ID:w6fA4+mN0

ほむら、マミ、まどか、ゆまは体をビクリと強ばらせた。

キュゥべえは動じも口出しもせず、ただ黙って見ていた。


マミ「…………」

ゆま「さ、さやかぁ……」

まどか「…………」

ほむら「え、えと、その……」

さやか「何!?何なのさっきから!?」

さやか「あたしの願いを頭ごなしに否定してさぁ!何なのよ!?」

マミ「み、美樹さん。落ち着いて……」

ほむら「わ、私はただ、後悔してほしくなくて……」

さやか「後悔なんてあるわけない!さっきからそう言ってるだろッ!」

ほむら「で、でも、それは……」

さやか「だったら、さぞあんたは素晴らしいことを願ったんだろうね!」

ほむら「え……」

449: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 10:53:53.32 ID:w6fA4+mN0

さやか「マミさんは生きたい。ゆまは恩人の力になりたい……」

さやか「あんたの願いは何?あたしの願いを否定するってことは、それらに相当するものなんでしょ?!」

さやか「あんただけ、願いを聞いていない!」

まどか「さ、さや……」

さやか「まどかは黙ってて!」

さやか「ほら、転校生!言ってみろよッ!あたしの覚悟よりもずっと高尚な願いなんだろ!?」

ほむら「う……」

ほむら(……鹿目さんを救うために、魔女に、魔法少女にさせないために未来から来た)

ほむら(そんなこと、言えるわけがない……)

ほむら(救うためと言われても、どういうことなのか必ず食い下がって聞いてくる。それにも答えられないと真偽を疑われる)

450: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:04:37.11 ID:w6fA4+mN0

ほむら(かと言ってワルプルギスの夜に殺されるから契約をさせたくない、と言っても押しが弱い)

ほむら(例え、話したとしても美樹さんの性格から、戦力になりたいと意気込むだけ……)

ほむら(魔女化のことを、今、話すわけにはいかない……)

ほむら(うぅ……巴さんが自棄になって佐倉さんを殺した光景が脳に焼き付いてしまっている……浮かんでくる……)

ほむら(それに……それだけじゃない)

QB「他人のために契約することはそう珍しいことじゃないよ」

ゆま「ほ、ほむほむ……」

ほむら(……ゆまちゃんに、キュゥべえに知られるわけにはいかない)

ほむら(自分が魔女になるかもしれないと知ってしまったら……ゆまちゃんはどうなる?)

ほむら(ゆまちゃんは佐倉さんのために契約して、その佐倉さんに見捨てられた……)

ほむら(まだ、まだこんな幼いのに、これ以上、残酷なことは……!)

ほむら(キュゥべえに、私の目的を知られたら、何をするかわかったものじゃない)

ほむら(…………ダメだ)

451: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:07:04.97 ID:w6fA4+mN0

ほむら「……言えません」

ほむら(言えない……言えるわけがない……!)

さやか「!」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら(残酷な真実を教えない限り、美樹さんの契約を止めることができないだろう……でも……でも……!)

ゆま「だ、大丈夫?ほむほむ……お腹痛いの?」

ほむら「うぅ……」

マミ「……暁美さん。あなた……」

ほむら「…………」

さやか「……ふーん。言えないんだ」

さやか「ってことは……さ」

さやか「あんた、契約したことを後悔したんでしょ」

ほむら「こ、後悔……?」

さやか「だからあたしにも……契約したことを後悔させたくないと思っている」

ほむら「わ、私は後悔なんか……!」

452: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:10:18.94 ID:w6fA4+mN0

さやか「どうせ『しょうもない理由』で契約したんじゃないの?」

ほむら「……え」

さやか「いつだったか、キュゥべえは契約した覚えがないって言ってたっけ……キュゥべえが忘れちゃうようなしょうもない理由」

ほむら(しょうもない理由……)

QB(忘れるなんてことはないはずなんだけれどな……)

ほむら(『しょうもない理由』……!?)

マミ「美樹さん!それは言い過ぎよ!」

まどか「さ、さやかちゃん……」

さやか「だって!それしか考えられない!ここまで意地になって言えない理由なんてさッ!」

さやか「くだらないことを願っちまったから恥ずかしくて言えないんじゃあないのッ!?」

ほむら「しょうもない……理由……!」

ほむら「……ッ!」


まどか「ッ!」


453: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:11:48.19 ID:w6fA4+mN0

まどか「ほむらちゃんッ!やめてッ!」

ガシッ

マミ「二人とも落ち着いて!」

ゆま「ほ、ほむ、ほむが……『怒った』……」

さやか「へ、へぇ……あ、あんたでも怒って殴りかかる度胸は、あるんだ……」

ほむら「…………」

ほむら(――ッ!?)


気が付くとほむらは、身を乗り出し右腕を振り上げていた。

テーブルに足を乗せ、左手でさやかの胸ぐらを掴んでいた。

右腕に、まどかがしがみついている。ゆまは涙目になり、怯えた表情をしている。

マミは表情や態度に出さないように振る舞っているが、焦燥を隠し切れていない

さやかはゴクリと唾を飲み、動揺を押し殺している。

キュゥべえは物珍しそうにほむらの表情を見つめていた。

454: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:16:14.61 ID:w6fA4+mN0

ほむら(私……まさか)

ほむら(まさか『美樹さんを殴ろう』と……した?)


空気で張った風船が萎んでいくかのように、ほむらの体から力が抜けていく。

その脱力を感知したまどかは、ほむらの腕から手を放し、そのまま肩と背中に触れた。


ほむら(初めてだ……こんな感情)

ほむら(……私なんかでも……カッとなること……あったんだ)

ほむら(目の前が見えなくなって……体が何かに取り憑かれたかのような……)

ほむら「…………」

ほむら(……こればっかりは、私の言い方が悪かった。それは明らかだ)

ほむら(こんなの……こんなのただの逆ギレだよ……)

455: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:17:53.69 ID:w6fA4+mN0

まどか「ほ、ほら。ほむらちゃん。座って……落ち着いて……」

ほむら「……うぅ」

ゆま「あ、あうぅ……」

マミ「……美樹さん。暁美さんに謝りなさい」

さやか「…………」

さやか「マミさんはこいつの味方ってわけですか」

マミ「何もそうは言ってないわ」

マミ「私は美樹さんが覚悟を決めているというのなら別に反対はしない」

マミ「確かに暁美さんの言い方というか、態度にも問題はあると思うわ」

ほむら「…………」

マミ「でもね、美樹さん。あなたの言い方、いくらなんでも酷いわ」

456: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:18:49.33 ID:w6fA4+mN0

マミ「暁美さんが何を願ったのかは私も知らないけど……」

マミ「踏み込んではいけない領域という可能性もあるわ」

さやか「踏み込んではいけないって……例えばなんですか?いじめっこを殺してくださいとか?」

まどか「さやかちゃん!」

ゆま「はぅ!」


まどかの声にゆまは再び身構える。

さやかは既に落ち着いている。マミは真剣な表情でジッとさやかを見つめる。


さやか「まどか。これは可能性の一つだ。……恥ずかしい理由で契約して、言えないって可能性もあるっちゃあるさ」

さやか「でもねぇ、言えないってことは、そういう推測されるのも仕方ないってことなんだよ」

マミ「その可能性も……確かにあるかもしれないわね」

マミ「とは言え、あなたもカッとなって無神経な言い方をして……暁美さんを傷つけたことには変わらない」

457: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:22:36.69 ID:w6fA4+mN0

マミ「暁美さんの、魔法少女の戦いに巻き込みたくないという気持ち、あなたはどう思っているの」

マミ「ただ一言、暁美さんに謝りなさい。言い過ぎたって」

さやか「…………」

さやか「……いや、やっぱり納得できない」

さやか「あたしの覚悟を否定したことには変わらないもん」

さやか「あたし達は仲間だし友達だ」

さやか「……なのに、契約した理由は絶対に言わない」

さやか「秘密にするってことは信用されてないってことだとあたしは思うんですよ」

さやか「マミさんにはすいませんけど、あたし、謝りません」

マミ「美樹さん!」


458: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:23:25.75 ID:w6fA4+mN0

さやか「例えマミさんでも、こればっかりは譲れないんですよ……」

ゆま「さやか……」

さやか「……もう、帰ります。お邪魔しました……」

ほむら「…………」

まどか「…………」

ゆま「…………」

マミ「そう……。美樹さん。帰って落ち着いてから、もう一度考えて」

マミ「それは、命を賭けるに値する願いなのかどうか……」

マミ「……明日」

マミ「明日、その決意をもう一度聞かせて。その上で、契約すること。いいわね?」

さやか「…………はい」

459: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:24:03.71 ID:w6fA4+mN0

ガチャ…パタン

ドアの閉まる音。さやかは帰路に立った。

まどか、ほむら、マミ、ゆま、キュゥべえ。誰も何も言わない。

感情のないキュゥべえ以外全員が「重苦しい空気」を感じた。


QB「…………」

QB(ほむらのような性格でも、感情に流されて暴力に出ようとするものなのか)

QB(これは珍しいものを見させてもらった)

QB(しかしやはり感情は精神疾患だね。興味深いとは思うけれど)

QB(……さて、さやかは……)

QB(ちょっとでも促せば、すぐにでも契約できそうだ)

QB(……行ってくるかな)


460: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:24:51.50 ID:w6fA4+mN0

まどか「…………」

ほむら「…………」

マミ「…………」

ゆま「…………」

ほむら「……ごめんなさい」

ゆま「ほむほむ……」

ほむら「私……、どうしてあんなこと言っちゃったんだろう」

ほむら「もっと……もっと言い方があったのに……逆ギレだよ……あんなの……」

マミ「……いいのよ。暁美さん。気にしないで」

まどか「そうだよ。ほむらちゃん……。ほむらちゃんは、優しすぎたんだよ」

まどか「さやかちゃんも、上条くんのことで色々あったんだよ。だから、少し感情的になってるだけ……」

ゆま「えと……元気出して?」

ほむら「……ありがとう」

461: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:25:27.33 ID:w6fA4+mN0

マミ「…………」

マミ(暁美さんは……初めて会った時「友達を失った」と話していた……)

マミ(だからこそ、友達を魔法少女の戦いに巻き込みたくないんだ、私はそう認識している)

マミ(暁美さんには『そのこと』を黙っているように言われたけど……)

マミ「……美樹さんには、後でちゃんと話しておくわ」

マミ「暁美さん……色々あって疲れたでしょう?帰ってゆっくり休むといいわ。今日のパトロールは私とゆまちゃんがやるから」

ほむら「……すいません。お邪魔、しました……」

まどか「それじゃあ、わたしも……失礼します。ゆまちゃん、またね」

ゆま「うん……」

マミ「えぇ……」

462: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:26:38.94 ID:w6fA4+mN0

ほむら「…………」

まどか「…………」

まどか「え、えっと……」

まどか「ほむらちゃん……元気、出して」

ほむら「……うん」

まどか「さやかちゃんは、少し意地っ張りなところがあるから……」

まどか「あと思い込みも激しいんだ。一度そうだと思っちゃうと……誤解すると、なかなか改めないの」

ほむら「……そう……なんだ」

まどか「少し前、三年生の人がさやかちゃんにやったロッキー占い。的を射てると思う」

まどか「……すぐに、と言うには難しいかもだけど、ちゃんとわかってくれるよ」

ほむら「うん……そうだね。……ありがとう」

まどか「ううん。わたし……少しでも、みんなの役に立ちたいから」

463: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:27:52.82 ID:w6fA4+mN0

ほむら「……ねぇ、鹿目さん」

まどか「なぁに?」

ほむら「よかったら、なんだけど……」

ほむら「その……門限とかもあるだろうから、無理にとは言わないけど」

まどか「えっと……うん。大丈夫だよ。寄り道?」

ほむら「うん。お買い物に付き合って欲しいなって思って」

ほむら「食材を買って帰りたいんだけど……」

まどか「もちろん大丈夫だよっ!」

ほむら「本当?ありがとう。鹿目さん……」

まどか「ううん。気にしないでっ」

まどか「じゃあ行こっ」

ほむら「うん」


464: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:31:11.87 ID:w6fA4+mN0

――
――――

日は暮れかけ、電灯の点いていない部屋が薄暗くなってきた頃。

さやかはベッドの上で膝の臭いを嗅ぎながらブツブツと独り言を呟いていた。

マミからは落ち着いて考え直すよう言われたが、それは無理だと思った。


さやか「…………」

さやか「何なんだよ……何なんだっていうんだよ……」

さやか「あたしの願いなんだから……」

さやか「あたしの素質なんだからどう願おうがいいじゃないか」

さやか「……あたし、言い過ぎたのかな」

さやか「いや……何を願ったのか隠す理由って何なの?」

さやか「やましいことがあるに違いない……」

465: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:32:43.12 ID:w6fA4+mN0

さやか「……ああ、ムカつく」

さやか「転校生のヤツ……」

さやか「人の気も知らないで、知った風なことを言いやがって」

さやか「結局、見舞う側の気持ちなんかわかっちゃいないんだ」

さやか「転校生も……恭介も……」

さやか「…………」


「やぁ、さやか」


さやか「…………キュゥべえ」


見慣れた白い体が、逆行で黒く見えた。

466: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:33:26.92 ID:w6fA4+mN0


――同時刻


ほむら「ご、ごめんね。鹿目さん」

まどか「え?」

ほむら「結構暗くなるまで付き合わせちゃって」

まどか「ううん。大丈夫だよ」

まどか「だからって早歩きにならなくていいんだよ」

ほむら「あ、そ、そう?」

ほむら「でも、ご両親に心配かけちゃうだろうから、帰ろう」

まどか「うん」

467: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:35:30.42 ID:w6fA4+mN0


仁美「あら……鹿目さん、暁美さん……ご機嫌よう」

まどか「あ、仁美ちゃん」

仁美「お買い物ですか?」

ほむら「はい。鹿目さんに付き合ってもらって。今はその帰りです」

仁美「仲がよろしそうで何よりですわ」

まどか「……あれ?」

まどか「仁美ちゃん、今日お稽古じゃなかったっけ?」

仁美「そうですねぇ。大丈夫ですわ」

仁美「……お二人とも、これから良いとこに行きませんか?」

ほむら「良いとこ?」

468: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:36:32.31 ID:w6fA4+mN0

仁美「一緒に行きましょう?」

まどか「帰るのが遅くなっちゃうよ」

仁美「大丈夫ですよぉ。楽しいですよぉ」

ほむら(……?何か、志筑さん……違和感、というか……)

ほむら「――ッ!」

ほむら「か、鹿目さん……!」

まどか「?」

ほむら「し、志筑さんの首……」

まどか「へ?……あッ!?」

まどか「魔女の口づけ……ッ!」


469: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:39:06.67 ID:w6fA4+mN0

まどか「ど、どうしよう!」

ほむら「魔女の口づけは、その魔女を倒さないといけない……」

仁美「行きましょうよぉ」

まどか「うぅっ……こ、この力……!?」

ガシッ

仁美は二人の手首を掴んだ。

その力は女子中学生の握力ではない。


まどか「ほ、ほむらちゃん、どうしよう……」

ほむら「…………」

ほむら「と、取りあえず、志筑さんについていこう」

仁美「まぁ、流石暁美さん。聡明なご判断ですわ」

470: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:41:27.43 ID:w6fA4+mN0

まどか「……大丈夫なの?」

ほむら「魔女の口づけが付いているということは、その良いとこってのは魔女のとこかも……」

ほむら「蓋然性は高いよ……それに……」

ほむら「魔女の口づけは魔女を倒さないと決して消えない。早くしないと手遅れになっちゃう」

ほむら「だから、魔女が現れたら私が相手をする」

まどか「う、うん」

ほむら「一応、巴さんにも電話で助けを呼ぼうと思ったんだけど、ケータイ繋がらなくて……」

まどか「繋がらないの?っていうかいつの間に?」

ほむら「うん。巴さんの家の番号は覚えてないから……テレパシーもここまで離れると……」

ほむら「後でまたかけてみるけど魔女が現れたらきっと来てくれるから、厳しそうなら時間を稼ぐ」

ほむら「私のことは心配いらないから……鹿目さんは先に……」

471: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:45:35.87 ID:w6fA4+mN0

仁美「鹿目さんは、用事でもあるのですか?」

ほむら「そうみたいなので、私が……」

まどか「……ううん。大丈夫だよ」

ほむら「か、鹿目さん!?」

仁美「多い方が楽しいですわ」

まどか「ほむらちゃんにばっかり……大変な思いさせたくない」

ほむら「危険すぎるよ!ダメだよ!」

まどか「わたしには……いざって時にはスタープラチナがあるよ」

まどか「仁美ちゃんを助けなくちゃ……!」

ほむら「でも…………」

まどか「ほむらちゃんにもしものことがあったら……わたし……!」

ほむら「鹿目さん……」

ほむら「…………うん。一緒に行こう」

まどか「ほむらちゃん……!」

ほむら(……確かにスタープラチナは強い。それに、いざって時には時間を止めれば何てこともない……!)

472: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:47:17.59 ID:w6fA4+mN0


仁美は、そのまま二人を、町外れの廃工場へ招いた。

西日が入ってきていないため、内部は薄暗い。

三人の足音がコツン、コツンと響く。

荷物はほむらの盾に入れた。


仁美「あら?暁美さん。いつの間に着替えたんですか?」

まどか「ねぇ、仁美ちゃん……ここって」

仁美「え、あぁ……ここに、皆さんと待ちあわせをしておりますの」

ほむら「皆さんって?誰もいませんけど……」

仁美「もうすぐ来ますわ……私は、このパーティのリーダーですわ」

ほむら(リーダー?)

仁美「さぁ、どうぞ……座ってください」

まどか「じ、地べたに直接……?」

ほむら(魔女は……どこから現れるんだろうか)

473: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:48:24.88 ID:w6fA4+mN0


まどか「……?」

まどか「何、これ……?」

ほむら「どうしたの?鹿目さん」

まどか「これ、落ちてた」

ほむら「……何かの容器?」

ほむら「ラベルが汚れてて……読みづらい」


まどかが拾った容器のような物は、廃工場内そこら中に落ちていた。

大きめの容器、その口部分は何やら濡れていて、ヌルヌルしている。


ほむら「……業務用洗剤?」

474: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:49:28.20 ID:w6fA4+mN0

まどか「洗剤?」

仁美「あぁ……それですか」

まどか「仁美ちゃん」

仁美「これは重要アイテムみたいなものですわ~」

ほむら「何に……使うの?」

仁美「皆さんが来てからの、お・た・の・し・み。ですわ」

仁美「パーティグッズのようなものです」

ほむら「……?」

まどか「…………」

まどか「……あ!」

ほむら「え、ど、どうしたの?」

475: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:51:05.56 ID:w6fA4+mN0

まどか「ほむらちゃん……あれ……!」

ほむら「あれ?」

まどか「そこのバケツの隣にある……」

ほむら「……容器?」

まどか「ウチでも同じの使ってる……」

ほむら「使ってるって……」

まどか「確か、塩素系だった……」

ほむら「……もしかして!」

ほむら「あのバケツの中は……洗剤?!」

まどか「も、もしかしたら……混ぜたら危険……!」

ほむら「……!」

476: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:52:22.73 ID:w6fA4+mN0

ほむら「鹿目さん!手を!」

まどか「えっ!?」

ほむら「手を握って!」

まどか「う、うん……!」

カチッ

ほむら「時間を止めた……」

まどか「え?え?」

ほむら「私に触れることで、時の止まった世界に入れる」

まどか「何か……すごい。本当に仁美ちゃんが止まってる……」

ほむら「……この洗剤とバケツの洗剤」

ほむら「……やっぱり酸性だね。混ぜると塩素ガスが出る……」

まどか「……!」

477: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:54:41.79 ID:w6fA4+mN0

ほむら「つまり、魔女がこれで集団自殺をさせようとしてる」

ほむら「だから……鹿目さん」

まどか「……うん!」

まどか「スタープラチナッ!」


「ウオオオオォォォォォ!!」

まどかの背後に現れたスタープラチナは大きな声を発しながら、洗剤の入ったバケツを一滴も零さないように投げた。

窓から飛び出し、どこへ飛んでいくかはわからないが、少なくとも塩素ガスの発生を防いだ。


まどか「洗剤を放り投げた……これで大丈夫だね」

ほむら「うん……時は動き出す」


仁美「…………」

仁美「……あら?」

仁美「いつの間に、二人とも……」

478: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:56:32.56 ID:w6fA4+mN0

仁美「……?」

仁美「……あの、さっきまでそこにあったバケツ、知りません?」

仁美「…………知りません?」

まどか「あのバケツなら、わたしが遠くへやったよ」

仁美「……何故?」

まどか「何故って!危ないから……」

仁美「人が死ぬ程度に危なくないといけないんですが」

ほむら「やっぱり、魔女に操られて……」

仁美「…………」

仁美「どうして……ですの?」

仁美「よくわからないのですが……質問をします」

479: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 11:58:58.06 ID:w6fA4+mN0

仁美「何故、邪魔をするのですか?」

まどか「じゃ、邪魔って……」

仁美「あなた達英雄になろうとしているのかしら?」

仁美「それとも命を大事にとでも言うつもり?」

仁美「やめてください……あなた達なんかの薄っぺらな『倫理』などどうでもいいことです」

まどか「仁美ちゃんッ!目を醒ましてッ!」

ほむら「鹿目さん……今の志筑さんには何を言っても無駄だよ……!」

仁美「あなた達は私達の『幸せ』を邪魔している。今……『女神』が迎えにくるの……」

仁美「この人間世界の『平和』と『幸福』は、くだらない人間同士の手と手を取り合った偽善なんかで成り立たない」

仁美「『女神』が魂を救うことで始まる……それをあなた達は邪魔している」

仁美「女神は、何の苦痛もなく幸せの世界へつれてってくれるそうですわ……」

480: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:02:34.81 ID:w6fA4+mN0

仁美「女神は、私の持つ『能力』を見込み……私は選ばれました」

まどか「え……?」

仁美「天国は目の前にあるのですわ。あなたも、行きましょうよ……」

仁美「イヤだと言うのなら、集合時間までにあなたを『説得』するまでですわッ!」

まどか「のう……なんだって?」

ほむら「ま、まさか!志筑さっ……!」


ズォォォォォッ!


まどか「うあッ!?ま、眩し……ッ!?」

まどか「な、何……?今、何かされた……?」

まどか「…………え?」

まどか「う……そ……!?」


薄暗い廃工場は、突如として明るくなった。

まどかは目を瞑った。

そして目が慣れてきて、理解した。

481: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:05:16.43 ID:w6fA4+mN0

明るくなったのではない。

正確には、廃工場という空間が別の空間に置き換わっていた。

壊れた階段。錆びたポスト。イチジクの実のようなダークピンク色をした空。

枯れた紫陽花。二次関数グラフの落書き。デフォルメされた天使のイラスト。

廃墟の街並み。隆起した穴のあいた断層。


まどか「この結界は……!ええと……なんだっけ……」

まどか「そう!引力の魔女レイミの……!ま、まさか……あの魔女だったの!?」

まどか「ほ、ほむらちゃんッ!」

まどか「……ほむらちゃん?」

まどか「ほむらちゃん!」

まどか「どこ!?どこに行ったの!?」

まどか「ひ、一人にしないでッ!」

「Oyuriinokok」

まどか「ッ!」

482: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:05:58.47 ID:w6fA4+mN0

壊れたラジオの音声を逆再生したかのような不快な音。

黒いマントを羽織ったマネキン。

いつの間にか、まどかのすぐ側に使い魔がいた。


まどか「ひ、ヒィッ!」

まどか(つ、使い魔……!)

まどか(いつの間に……!いつの間にこんな近くにッ!)

まどか(どうしよう……!)

まどか(ほ、ほむらちゃんはいないし……!)

まどか(わ、わたし一人じゃ……)

使い魔「Onatiihsuod――nasemanak」

まどか(……いや、違う。わたしは、一人じゃない!)

まどか(わたしは、怯えに来たんじゃないッ!)

483: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:08:51.18 ID:w6fA4+mN0

使い魔「Akotukakneg――akasam」

まどか「スタープラチナ!」

「オラァッ!」

ドガァァッ

使い魔「――!」

ドサッ!

まどかのスタンド。スタープラチナが使い魔の顔面を殴った。

まどかは水を熱湯に変えるスタンド使いが来た時以降、スタンドをあまり使っていなかった。

その有り余る程強いパワーを使う機会が、日常生活の上で全くないためである。

最後に使ったのが二日程前。その器用さと速さを活かし、ゆまのためにぬいぐるみを自作して以来。

殴られた使い魔は十メートル程吹き飛んだ。

484: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:10:55.41 ID:w6fA4+mN0

まどか「よ、よしっ!わたしでも戦えるっ!」

まどか「使い慣れてないからか……全力って訳でもないけど……!」


仁美「乱暴なことをなさるんですね……」

まどか「ひ、仁美ちゃん!」

まどか「仁美ちゃん!目を醒ましてッ!」

まどか「この結界から逃げてッ!……あ、いや、一人にするのも危険かな……やっぱわたしの側を離れないで!」

仁美「まさか……鹿目さんまで私と『同じような能力』を……!」

まどか「え?仁美ちゃん、今……何て……」

仁美「大丈夫ですか?暁美さん」

まどか「ほ、ほむらちゃん!?どこ!?どこにいるの!?ま、まさかケガを……!?」

まどか「ほむらちゃん!どこに――」

まどか「……え?」

まどか「あ……ああ……!そ……そ、そんなッ!そんなッ!」

486: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:15:34.61 ID:w6fA4+mN0

一瞬目を離した隙に、吹き飛ばされた使い魔の黒いマントの形が変わったように見えた。

白と黒の二色でしか構成されていなかった、人型の使い魔の姿が、実際に変わっていた。

肌色が見える。紫のスカートとリボンが見える。赤い眼鏡と黒い銃。灰色の盾が見える。

まどかは殴り飛ばした対象が何か理解した。ほむらだった。まどかは全力で走り寄った。


まどか「『ほむらちゃん』ッ!」

まどか「ほむらちゃん!目を開けて!」

まどか「うぅ……き、気を失ってる……!脳震盪か何かを起こしたからだ……!」

まどか「ど、どうして……!?ほむらちゃん!」

まどか「……か、考えたくもないことだけど」

まどか「この真っ赤な顔……まさか……いや、やっぱり……」

まどか「わたしが……『殴った』?」

まどか「嘘……そ、そんな……確かに、確かにスタープラチナは使い魔を……!」

まどか「あの声はあの使い魔の声だったし……ぎこちない動きもそうだった……」

まどか「そんな……そんな!」

487: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:18:38.69 ID:w6fA4+mN0


仁美「これが私の……悪魔の手の平で手に入れた……」

まどか「ッ!」

仁美「生き延びた報酬……!」

仁美「名を冠するなら『ティナー・サックス』ッ!」

まどか「ティナー……」

まどか「まさか……」

まどか「仁美ちゃん……『スタンド』をッ!」

仁美「あなたが見たのは『幻覚』……五感に語りかける擬似リアリティ」

仁美「幻覚を暁美さんの上に『被せ』た……」

仁美「だから、鹿目さん。あなたは暁美さんが『それ』に見えたのです」

まどか「……!」

仁美「暁美さんも同じ景色を見ていました。ですが、彼女にはあなたが急にイカれて殴ったように見えたはずですわ」

まどか「う、うぅ……!」

488: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:19:27.01 ID:w6fA4+mN0

仁美「女神のおかげで……パワーアップしたというところでしょうか」

仁美「この空間は、私の支配下……」

仁美「私が望めば、私の知る範囲で、想像ができる範囲で全てを疑似体験ができますわ……」

仁美「そして、あなたのように……『敵』とする方がおられるのなら……」

仁美「見せましょう!志筑仁美のナイトメアッ!」

まどか「す、スタープラチナ!警戒してッ!」

仁美「これは私が見た景色の再現ッ!」

仁美「使い魔と仰いましたね?使い魔と一括りするのも味気ない……名前をつけましょう」

仁美「キャメロン!マーチン!バージニア!ドルチ!マイク!鹿目さんを捕獲なさい!」

489: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:23:05.52 ID:w6fA4+mN0

仁美の背後の建物から、五体、黒マントのマネキンが現れた。

一直線にまどかに向けて歩いてくる。


まどか「スタープラチナ!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

ほむらを庇いながら、スタープラチナは拳のラッシュを放つ。

仁美の作り出した幻覚の使い魔は五体とも難なく突き飛ばされた。


仁美「……!」

仁美「強い……そして速い……!」

仁美「まさか……優しい鹿目さんがこんなパワー型のスタンド……ですか?能力を……!」

仁美「……ああ、もう。鹿目さん」

490: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:24:46.61 ID:w6fA4+mN0

仁美「あなた達が台無しにしてくれたものだから……」

仁美「女神が痺れを切らしてしまったようですわ……」

まどか「……え?」

仁美「ああ……不甲斐なくて申し訳、ない、です……」

まどか「仁美ちゃん!?」


仁美はそう呟いて、ドサリと倒れた。

その瞬間、ティナー・サックスの幻覚の世界は解除される。

ダークピンクの世界は、廃工場の薄暗い灰色――ではなく、水の中のような明るい青い世界に染まった。


まどか「えっ……!?」

まどか「こ、これは……!」

まどか「『別』の結界ッ!?」

まどか「こ、これが……本物。仁美ちゃんを操っていた……」

491: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:26:34.90 ID:w6fA4+mN0

そこにいたのは、パーソナルコンピューターのような姿をした魔女。

液晶にはツインテールの少女のシルエットが映っている。


まどか「ま、魔女……!」

まどか「どうしよう……」

まどか「ほむらちゃんは、気絶させちゃったし……」

まどか「や……やるしかないッ!やらなきゃやられるッ!」

まどか「ス、スタープラチ……」

魔女「――――」

まどか「…………うっ」

まどか「うぐっ……くっ……!」

まどか「あ、頭が……胸が苦し……い……?」

まどか「う、うぅぅ……!」

まどか「そ、そんな……そんなこと……」

まどか「あああ……ああ!」

492: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:30:24.92 ID:w6fA4+mN0

モニターに、ある映像が映し出された。

その映像の一場面一場面が、まどかの心を抉り傷つける。

大人に叱られたこと。友人に嘘をつかれたこと。他人に嫌がらせをされたこと。

人を憎らしく感じたこと。友を妬んだこと。己が悲しんだこと。


公園で遊んでいると大きな昆虫を踏みつぶした時の景色。

固い甲殻を砕く感触と柔らかい内臓を押し出していく光景。

寝ている野良猫にこっそり近づいて驚かせてしまい、道路に飛び出した猫が少し離れた場所で車に轢かれた映像。

薄汚れた体をブチ破り飛び出された内臓。吹き飛んだ眼球を対向車線の軽自動車が踏みつぶした瞬間。


そしてたった今、意図しなかったとは言え、ほむらを攻撃してしまった罪悪感。

スタープラチナの拳が、ほむらの頬を殴った瞬間を、コマ送りで見せつけられた。

みるみると力が込められ忍苦に歪んでいく友人の表情。

頬骨が割れる音、もの凄く軽い感覚、滲む涙、鼓膜を揺さぶる悲鳴。

ティナー・サックスで目視できなかったことを、改めて見せつけられる。

493: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:32:45.45 ID:w6fA4+mN0


その他、多くの嫌な記憶を、トラウマを脳内に直接見せられる『追体験』をさせられた。

脳が内側から頭蓋骨を押し破ろうとしているような、圧迫感のある頭痛。

それが、この魔女の力。トラウマを呼び起こし人の精神を蝕む。

仁美のスタンド、ティナー・サックスと性質が近い。

映像を見せられているだけでこのリアリティー。

むしろティナー・サックスの力が合わさっていると考えた方が自然だった。


まどか「あ……ああ……い、い、や……!」


その場で腰を落としてしまったまどかは、隣で倒れているほむらを揺さぶる。

ほむらは反応しない。悪夢を見ているかのように、その寝顔は曇っている。

脳震盪を起こしたからか、魔女の力なのか、最早まどかには、気絶の理由を判別できない。

494: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:33:51.40 ID:w6fA4+mN0

まどか「起きて……ほ、ほむらちゃん……」

まどか「痛いよ……頭が……割れそうに痛いの……お願い……」

まどか「ほむらちゃん……!」


スタンドは精神力。自身の魂で動かしているようなもの。

魔女の魔力を浴びて精神が一時的に衰弱したまどかにスタープラチナを操る力はない。

例え、操れたとしても、再び騙されてほむらを殴るのではないかという畏怖が戦意を沸かせない。


まどか「だ、誰……か……助……け……!」

まどか「う……ぅ……」


ザシュッ!

495: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:36:39.32 ID:w6fA4+mN0

魔女「――!」

まどか「て……?」

「うああああありゃあああああッ!」

ズバッ

まどか「な、何……?」

まどか「こ、この声……」

まどか「さやかちゃんッ!」


白いマントを揺らし、剣で魔女を斬る魔法少女。

まどかはその顔を知っている。

さやかはその剣で魔女を真っ二つに断ち割った。

――戦いは一瞬だった。

魔女の結界は解除された。

496: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:40:15.07 ID:w6fA4+mN0

さやか「ふぅ……」

まどか「さ、さやかちゃん……」

さやか「何だい。転校生。気を失ってら……ハハ、情けないなぁ」

さやか「仁美までいる……何があったんだ?」

さやか「まどか。どうなったのか説明してくれる?」

まどか「そ、その格好……!」

さやか「あはは……うん。そうだね」

さやか「契約、しちゃったよ」

まどか「…………」

さやか「それで?転校生は何だってまどかと仁美ほったらかしで倒れてんのさ」

まどか「……そ、それは」

まどか「仁美ちゃんがナイトメアで魔女の口づけはスタープラチナと引力の魔女をスタンドのティナー・サックスで……」

まどか「わたしのせいなの……わたしのせいでほむらちゃんが……」

さやか「……ごめん。あたしにもわかるよう、もうちょっとわかりやすく……」

497: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:42:23.17 ID:w6fA4+mN0



「まどかお姉ちゃん!ほむほむ!」


さやか「ん?」

まどか「あ!ゆまちゃん!」

ゆま「ハァ……ハァ……だ、大丈夫だった!?」

まどか「う、うん……でも、ほむらちゃんが気を失っちゃって」

ゆま「ほむほむ……!」

さやか「何だか、タイミングがアレだったねぇ」

ゆま「ッ!」

498: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:43:21.00 ID:w6fA4+mN0

ゆま「さ、さやか……!」

さやか「…………」

ゆま「契約……しちゃったの……?!」

さやか「……うん」

ゆま「ど、どうして……マミお姉ちゃんが、よく考えてって言ったのに……」

さやか「いやぁ……へへ、どうにも、抑えきれなくて」

ゆま「どうして……さやか……!」

ゆま「…………」

ゆま「さやかの馬鹿ッ!」

さやか「えっ」

まどか「ゆ、ゆまちゃん……」

499: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:44:14.26 ID:w6fA4+mN0

ゆま「どうしてマミお姉ちゃんの電話を無視したのッ!」

ゆま「どうしてほむほむの話も!マミお姉ちゃんの話すらも!無視しちゃうの!」

まどか「電話?」

まどか(マミさん、さやかちゃんと電話してたんだ……だから電話が繋がんなかったんだ)

さやか「で、電話……」

さやか(……その時は、その時はどうせマミさんは転校生の肩を持つに決まってるって……そう思ったからだ)

さやか(マミさんに、怒られる気がしたからだ。そして……怖かったからだ)

さやか(キュゥべえに、契約をチラつかせられて……その気になってたのにマミさんに何か言われて……)

さやか(色々言われて恭介の腕を治す決意が揺らいでしまいそうで怖かったからだ……)

さやか「……ごめん」

ゆま「……あのね、マミお姉ちゃんが言ってたの」

500: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:44:58.01 ID:w6fA4+mN0

ゆま「ほむほむはね……マミお姉ちゃんと出会う前に、お友達がいたの」

ゆま「魔法少女のお友達……」

ゆま「だけど……死んじゃったんだって……」

まどか「……!」

さやか「え……」

ゆま「ほむほむはね、自分が弱いからって、一人で頑張ろうとしてたの」

ゆま「もう、友達が戦いで死んじゃうの嫌だから……」

ゆま「それでマミお姉ちゃんと出会って……今のほむほむがいるの」

ゆま「ほむほむは……ほむほむは、苦しみたくないから……!」

ゆま「巻き込みたくないから……!お友達を失いたくないから……!」

ゆま「だから、さやかを契約させたくなかったんだって……!」

まどか「……そ、そんなことが……ほむらちゃん……」

501: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:46:25.64 ID:w6fA4+mN0

まどか「……辛かったんだね……そんな様子、全然見せなかったのに……」

まどか「隠してたんだね……わたし達に気を使わせちゃうって……」

まどか「きっと……いや、絶対に気を使っちゃうよ……うぅ、ほむらちゃん……!」

ゆま「それなのに……さやか……!」

さやか「…………」

さやか「……そっか」

さやか「転校生、そんなことがあったんだ……」

さやか「だから、あんな風に、あたしを巻き込みたくなくて……」

さやか「願いを秘密にしてた理由は……きっとその死んだ友達に関係してたんだ」

さやか「だから言いたくなかったんだ……」

さやか「あんたは多分、その人が死んでるってことを隠すだろうね」

さやか「そしたらあたし、きっとその友達のことを無神経に聞くわ……。どんな子だった?今どこに居る?って」

さやか「転校生に、悲しい思いをさせかねなかったんだ……」

さやか「……正直、この話を聞かされて今後どう接してやればいいのかわからない部分もある」

502: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:47:47.04 ID:w6fA4+mN0

さやか「あたし……」

さやか「……ほむらのこと、誤解してたかも」

さやか「あたしって、ほんと馬鹿」

ゆま「……もう、遅いもん」

さやか「うん。そうだね……」

さやか「でもね……ほむら。あたし、今、すっごい心が安らいでる」

さやか「あたしでも、人を助けることができた。とっても嬉しいの」

さやか「特に、親友のまどかと仁美……そして、あんたを救えることができた」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「ほむら……」

503: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:48:27.18 ID:w6fA4+mN0

さやかはほむらの頭に優しく手を置いた。

先程まで辛苦を浮かべていた表情は解消され、平穏な寝顔になっている。


さやか「あんたもあたしの嫁だ……!」

ゆま「さやか何言ってるの?女の子同士はケッコンできないよ」

さやか「ぐっ、ま、真面目に返された……!」

さやか「と、とにかくっ!」

さやか「後悔なんて、あるわけない……!」

504: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:49:01.88 ID:w6fA4+mN0

さやか「……さて!と」

さやか「あたしはそこでぶっ倒れてる仁美を送ってくよ」

さやか「これから、ほむらとどう接してやろうか考えないといけないからね」

さやか「ゆまちゃん、マミさんにゴメンなさいって言っておいて!」

ゆま「……直接言ってよ」

さやか「わ、わかったって……でも、反省してるってだけは伝えて?お願い」

まどか「……あれ?」

まどか「そういえばゆまちゃん」

ゆま「なぁに?」

まどか「マミさんは?一人で来たの?」

ゆま「途中まで一緒だったよ」

さやか「別の結界が出来たとか?」

ゆま「ううん、何だか『キャー空から洗剤が降ってきた』とか言ってどっか行っちゃった」

さやか「は?洗剤?」

まどか「…………」

505: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 12:52:52.31 ID:w6fA4+mN0


ティナー・サックス 本体:志筑仁美

破壊力 ― スピード ―  射程距離 B
持続力 B 精密動作性 E 成長性 C

『幻覚』を見せるスタンド能力。その性質は「逡巡」
実際に見た光景を再現、現実にあり得ないような光景を作り出す。
幻覚に捕らわれた相手は五感の全てで錯覚に陥る。
幻覚は「空間」に作用するため精密動作性は低い。
しかし、魔女の力と共鳴し一度だけ「個人」を対象にした幻覚を作れた。
仁美が抱いている心の迷いが反映されて発現したと思われる。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

509: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 19:49:06.21 ID:w6fA4+mN0

#10『大丈夫、私達が支えるから』


――翌日


さやかは、病院に来た。

自分の願いの結果を確かめるために。


さやか「喧嘩別れは気まずいけど……」

さやか「大丈夫……落ち着け」

さやか「恭介だって、そういうナーバスな時もあるさ」

さやか「今は、腕だって奇跡的に治って落ち着いてるはず……」

さやか「…………」

さやか「ほむら……恭介と普通に接することができなくなるみたいなこと言ってたけど……」

さやか「意識してみれば……そうかもしれない。何か、恩着せがましい気分というか……」

さやか「……何を言ってるんだろうね。あたしは……実際、恩人なんだから、それがなんだって言うのさ」

さやか「……今日は……顔を見るだけだよ」

510: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 19:49:45.94 ID:w6fA4+mN0

さやか「可愛い女の子だと思った?」

さやか「残念!さやかちゃんでした!」

さやか「やぁ、恭介。元気?」

恭介「あ……さやか。どうしたんだい?」

さやか「ど、どうしたも何も……う、腕……」

恭介「あぁ……うん。実は、そうなんだ」

恭介「腕が治ったんだ」

さやか「も、もう。どうして真っ先に連絡くれなかったのさっ」

恭介「あ、いや……ごめん。なんだか、実感が湧かなくて」

さやか(まぁ、無理もないよね)

511: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 19:54:51.78 ID:w6fA4+mN0

恭介「それに……何というか、気まずくてね」

恭介「さやか……その、ゴメン」

さやか「え?」

恭介「こないだ……さやかにきついこと言って追い出しただろう……?」

恭介「反省してる……」

さやか「あ、あぁ……うん。そのことね……」

さやか「気にしないで!あたしも無神経だったわけだし……」

さやか「いやぁ、本当に奇跡ってあるもんだね!」

恭介「はは……そうだね。絶望的だって言われたのに……」

さやか「ははは、よかったよかった」

恭介「もしかして、なんだけどさ……」

さやか「へ?」

514: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 19:56:28.85 ID:w6fA4+mN0

恭介「こういうことを言うのも、憚れるというか……何だけど」

さやか「…………」

恭介「もしかして……さやか」

さやか「う、うん……?」

恭介「僕の腕が治ったのって……」

さやか「な、何……?」

恭介「僕の『精神が成長』したからそれに呼応したのかも」

さやか「…………」

さやか「……は?」

恭介「そりゃそう反応するよね……自分で精神が成長しただなんて……」

恭介「ねぇ、さやか。ほら『これ』……」

515: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 19:57:52.00 ID:w6fA4+mN0

恭介は動けるようになった腕を、さやかの方へ差し出した。

手の平を見せている。


さやか「これ、って……?」

恭介「……『見える』のかい?」

恭介「見えていないようだね。さやか。手の上に『いる』んだけど」

さやか「…………」

恭介「僕はちょっとした『超能力』のようなものを持っているんだ」

さやか「え……!?」

恭介「いきなり何を言っているんだって思うだろうけど……これは、フィクションの話とかじゃなく、本当なんだ」

恭介「ほら、さやか、これなら見えるかい?」

さやか「へ……!?う、嘘……?!」

516: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 19:58:28.43 ID:w6fA4+mN0

さやかは自分の目を疑った。

ベッド横の机の上に置かれているCDが『浮いて滑って』いる。

その下には何もないが、CDが何かに運ばれているかのようだった。

そしてCDは恭介の体を伝い、腕を通り、手の平に収まった。

CDケースにはセロハンテープが張られている。


恭介「この前は、さやか。折角買ってきてくれたCDを投げつけてごめんよ」

恭介「ケースはこの通り割れちゃったけど、中身は無事だったんだ。いい曲だったよ」

さやか「……スタンドッ!?」

恭介「スタンド?まさか、『これ』を知っているのかい?」

517: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:00:43.21 ID:w6fA4+mN0

さやか「あ、う、うん……」

恭介「でも見えていないということは、知ってるだけ、かな」

恭介「ねぇさやか。『悪魔の手の平』という噂を知っているかい?」

恭介「悪魔の手の平……気が付くと、空がピンク色の不思議な住宅地に迷い込んでしまっている……」

恭介「そこではマネキンに襲われそうになるらしいが、無事帰ることができると……不思議な力に目覚めるらしい」

恭介「その力に目覚めると、血縁者も同じような力に目覚めることがあるらしいんだ」

恭介「実は……後からわかったことなんだが、父さんがその中に入ったらしいんだ」

恭介「父さんはその時疲れ気味で……少しぼうっとしていたらしくあまり記憶にないそうだが……」

恭介「父さんはまだその噂と能力を持っていることは知らないが……僕は、目覚めてしまったようだ」

さやか「……スタンドに」

恭介「そう……」

518: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:01:22.22 ID:w6fA4+mN0

恭介「気が付けば僕も、スタンド?それを使えるようになっていた」

恭介「僕は個人的に『ハーヴェスト』と呼んでいるよ」

恭介「小さい虫みたいなのがたくさんいて一つなんだ。一匹一匹の力は弱い。何に使えばいいのか今のところ不明」

さやか「…………」

恭介「スタンド。それは……精神と深い繋がりがあるらしくてね」

恭介「それを使いこなせるようになって、僕の精神は成長したんだと思う」

恭介「スタンドが傷つけば使い手も傷がつく。使い手のダメージはスタンドにも反映される」

恭介「だから、スタンドが成長して……腕の断裂した筋がそれに応じて回復した」

恭介「都合の良い考え方だけど……それ意外に考えられない。奇跡でもない限り……」

さやか「…………じゃあ、つ、つまり」

さやか「……恭介は……こう思ってるの?」

519: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:02:07.09 ID:w6fA4+mN0

さやか「腕が治ったのは、自分のスタンドのおかげって」

恭介「確証はないよ。ただ、本当にそれしか心当たりがないんだ」

さやか「そ、そんな……」

さやか「納得いかない……!」

恭介「はは、まぁ、そりゃそうだよね……」

さやか(……あれ?)

さやか(あたしは今……何で、納得いかないなんて言ったんだ?)

さやか(あたしの納得できないと恭介の解釈で差があったけど……)

さやか(自分で言って……何を……?)

さやか「…………」

さやか「う、腕……」

恭介「うん?」

520: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:03:03.17 ID:w6fA4+mN0

さやか「腕が治って……よかった、ね。うん。何だとしてもさ……ハハ」

恭介「……?」

恭介「まぁ、確かに。日常生活に支障はあっただろうけど……」

さやか「あった『だろう』?」

恭介「失って初めて気付く大切さもあるけど、取り戻して気付く『さも当然』もある」

恭介「今にして思えば『ハーヴェスト』がいれば特に困らなかったかな」

恭介「こうやってハーヴェストがいれば何でもできそうな気がするし」

恭介「もうハーヴェストで文字が書けるようにも箸を持つこともできるようになったんだ」

恭介「……なんて、ちょっと思っちゃったりしてる僕がいるよ」

さやか「……な、何よ、それ……」

恭介「あ……折角お見舞いにきてくれていたさやかに今の表現は過剰が過ぎたね……ごめん」

恭介「さやかには本当に迷惑をかけたよね。CDのプレゼントを拒絶したり、面会を拒否したり……」

恭介「本当にごめん。そして、今までありがとう。さやか」

521: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:04:37.16 ID:w6fA4+mN0

さやか「…………」

さやか「ば、バイオリン……」

恭介「ん?」

さやか「そう!バイオリン!あたしは、恭介のバイオリンがまた聴きたくてさぁ!」

恭介「バイオリンを?」

さやか「う、うん。子どもの頃に聴いたコンクール。あの時の音色が忘れられなくてっ!う、嬉しいなぁ~アハハ」

恭介「うーん……」

さやか「……ど、どうしたの?バイオリン」

恭介「今は、バイオリンって気分じゃないかな」

さやか「……は?」

恭介「あ、いや。バイオリンも大事だよ」

522: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:06:17.28 ID:w6fA4+mN0

恭介「僕の生き甲斐だからね。ただ今はスタンドの訓練をしたいというか……脚のリハビリもあるからね」

恭介「知ってるかい?学校には既に何人かスタンド使いがいるらしいんだ」

恭介「これからスタンド使いはもっと増えると僕は思うんだ」

恭介「今後を考えるとスタンドは上手く扱えるようにならないとね。今はバイオリンよりもそっちに夢中って感じかな」

恭介「あ、ハーヴェストを使ってバイオリンを弾くっていうのも面白そうだなぁ」

さやか「…………」

恭介「もちろんバイオリンは続けるつもりではあるよ」

さやか「そ、そう……まぁ、うん……なら……いいんだけど……」

恭介「……どうかしたのかい?何だか顔色が悪そうに見えるけど……」

さやか「い、いやいやっ!何でもないよ。あはは……」

恭介「……」

523: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:07:16.72 ID:w6fA4+mN0

恭介「あの、さ。さやか……」

さやか「……?」

恭介「その……ちょっと、聞いてほしいことがあるんだけどさ……」

さやか「聞いて欲しいこと?」

恭介「あのさ、折角来てもらったのに、そういうこと聞くのも何だけどさ」

さやか「き、気にしないで。それで……えっと、なに?」

恭介「さやかは……志筑さんと仲が良いだろう」

さやか「……仁美?」

恭介「さやかを追い出したあの日の後……志筑さんが来てくれたんだ」

さやか「…………」

恭介「彼女は……僕の全てを理解してくれたんだ」

恭介「突然現れた群体型スタンド、ハーヴェスト……」

524: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:08:32.66 ID:w6fA4+mN0

恭介「自分で言うのもアレだけど、小さい虫みたいなものがわさわさと現れて気持ち悪いだろう?」

恭介「しかし誰にも見えない。僕は怖かったんだ。幻覚が見えるようになったのかって」

恭介「そんな中、志筑さんは僕のことを理解してくれた。彼女もスタンド使いだった」

恭介「僕のハーヴェストが見えていたんだ……能力名はティナー・サックス」

さやか「あぁ……うん」

恭介「彼女は言ってくれたよ……」

恭介「認識することが大事なんだって」

恭介「空気を吸って吐くことのように、鉛筆をベキッとへし折ることと同じように、扱えて当然と思うこと。大切なのは『認識』すること……ってね」

恭介「人間は誰しも不安や恐怖を克服して安心を欲する……」

恭介「不安に押しつぶされそうだった僕の心に……手を差し伸べてくれたんだ」

恭介「安心したんだ……それで、その安心は……その……」

525: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:09:06.59 ID:w6fA4+mN0

恭介「照れくさいけど……恋愛感情に置き換わっていたんだ」

さやか「え……れ、恋愛!?」

恭介「もう、さ……正直に言うとだね……」

恭介「僕、志筑さんのことが好きなんだ」

さやか「…………」

恭介「恋愛なんて、今まで考えたことなかったのに……志筑さんのことばかり思い浮かぶ……」

さやか「…………」

恭介「こ、こんな恥ずかしいことを相談できるのはさやかくらいしかいないんだ」

恭介「ああ、精神の成長、スタンド、恋、退院、それと再び弾けるようになったバイオリン」

恭介「清々しい気分だよ……今、僕は青春を感じている」

さやか「…………」

恭介「それで……なんだけどさ、さやか」

526: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:09:49.01 ID:w6fA4+mN0

恭介「志筑さんは、誰かと付き合ってたりしていないかな……?」

恭介「好きな人いたりするのか、とか……その、異性のタイプとか……さ、その、それとなく聞いてくれると嬉しいんだけど……」

さやか「…………」

さやか「……そ、そうなんだ」

さやか「あ、あははは……ひ、仁美に目を付けるとはなかなか見る目あるよ。恭介……」

さやか「はは……お、応援、するよ……うん」

さやか「お似合いだと……思う……よ」

恭介「そうかい?ありがとう……と言えばいいのかな。それって……」

さやか「…………」

さやか「恭介……今日は、もう帰るね」

恭介「そうかい?今日はありがとう。わざわざ来てくれて」

さやか「う、ううん……それじゃあ……」

恭介「うん」

さやか「…………」

527: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:10:31.86 ID:w6fA4+mN0

――
――――

――喫茶店


仁美「それじゃあ、ミルクセーキを下さい」

仁美「ダブルで」

さやか「…………」

さやか「いやぁびっくりしたよ。仁美がスタンド使いだったなんて」

仁美「えぇ……私も鹿目さんがスタンド使いだっただなんて……」

さやか「そりゃぁ、ねぇ」

さやか「……それで」

さやか「話ってスタンドのこと?」

仁美「…………」

仁美「美樹さん。私は……」

仁美「上条くんのこと、お慕いしておりました」

さやか「え……」


――――
――

528: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:11:31.80 ID:w6fA4+mN0

さやか「…………」

さやか「何だよ……」

さやか「何なんだよ……!」

さやか「両思いじゃあねーかよ……ッ!」

さやか「あたしが入る場所なんて……ないじゃん……!」

さやか「もう、『既に』……!」

さやか「…………」

さやか「うぅ……」

さやか「あたし……あたしってヤツは……!」

さやか「あたし……何を考えて……!」

さやか「くそぅ……!」

529: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:12:28.66 ID:w6fA4+mN0




――次の日



まどか「あ、おはよう。仁美ちゃん」

仁美「あっ……お、おはようございます」

まどか「いつもの待ち合わせに来なかったけど……委員会のお仕事?」

仁美「え、ああ……はい。まぁ、そんな感じです。すみません」

まどか「?謝ることなんて……」

仁美「それで、その……美樹さんは?」

ほむら「い、いえ……来てませんでしたけど」

仁美「……そうですか」

530: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:12:57.17 ID:w6fA4+mN0
ほむら「……何か、あったんですか?」

まどか「?」

仁美「…………」

仁美「実は……その……」

仁美「美樹さんと……ちょっと、その……」

まどか「さやかちゃん、と?」

仁美「ちょっと……言い争ったというか、気まずいというか……」

まどか「さやかちゃんと……」

ほむら「…………」

531: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:13:47.98 ID:w6fA4+mN0


ほむら「……ッ!」


瞬間、ほむらの脳に走る電気的衝撃。

ほむらは「嫌な予感」を感じ取った。


ほむら「……鹿目さん」

仁美「暁美さん?」

まどか「どうしたの?ほむらちゃん」

ほむら「ほ、保健室……連れてって、もらえる……?」

まどか「えぇ!?」

仁美「だ、大丈夫ですか?もしかして心臓が……」

ほむら「えっと……さ、さっきから……お、お腹が……」

仁美「さ、さっきからって……どうして言わなかったんですの?」

ほむら「その……言い出しにくくて……」

532: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:14:52.43 ID:w6fA4+mN0

ほむら「ほ、保健室……」

まどか「わ、わかった!」

仁美「無理しないで遠慮なく言ってくださればいいのに……」

まどか「えっと、言ってくるね。仁美ちゃん」

仁美「は、はい。先生には言っておきますわ」


まどか「大丈夫?ほむらちゃん……」

ほむら「……ごめんね」

まどか「ん?どうしたの?」

ほむら「ごめんね」

533: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:15:27.33 ID:w6fA4+mN0

まどか「ほ、ほむらちゃん?」

ほむら「鹿目さん。私、早退する」

まどか「そんなに痛いの?本当に大丈夫?」

ほむら「……ずる休みしちゃうの」

まどか「えぇッ!?」

ほむら「心臓病のフリをするのも卑怯かなって思って」

まどか「…………」

ほむら「ずる休みは二回目になっちゃう」

まどか「……うん。わかった」

ほむら「保健室の先生いるかな?」

534: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:16:16.14 ID:w6fA4+mN0

――教室


女子生徒A「マミりぃん。見て見てぇ」

マミ「何かしら?あとマミりんって何かしら?」

女子生徒A「お祖父ちゃんが再婚することになるんだけどね」

マミ「そうなの?おめで……え?お祖父ちゃん?」

女子生徒A「うんうん。日はまだ決まってないけど、慶事で公欠するつもり」

マミ「そ、そう……」

女子生徒A「でねでね、これ。その人の連れ子の写メェ。きゃわわ」

マミ「……と、いうことは」

女子生徒A「そう。奇妙なことだけど……戸籍上私は叔母ってことになるよ」

女子生徒A「中学生で叔母さんって、何か切ないよ。オバサンだからね」

マミ「そ、そうなの……何だか、大変ね」

女子生徒A「でもでも、私の姪っ子、可愛い」

マミ「そ、そうね……」

マミ(見たところゆまちゃんと同じくらいだけど……再婚相手はいくつなのかしら……)

535: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:17:34.34 ID:w6fA4+mN0

『巴さん!巴さん!』

マミ(テレパシー?)

マミ『どうしたの?暁美さん』

ほむら『巴さん!いきなりですみません!』

マミ『あの、暁美さん?何をそんなに焦って……』

ほむら『ゆまちゃんをお借ります!』

マミ『……へ?』

マミ『あの、ゴメン。何を言ってるのかわからないんだけど……』

ほむら『美樹さんを探します!』

マミ『余計に拗れてきたんだけど!?美樹さん何かあったの!?』

536: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:18:20.40 ID:w6fA4+mN0

マミ『うーん……』

マミ『……な、なんかわからないけど、わかったわ』

マミ『鹿目さんの時みたいに早退する気ね?』 

ほむら『は、はい!』

マミ『ゆまちゃんに合い鍵の場所を教えてあるから……、ちゃんと戸締まりして、鍵絶対に無くさないようにしてね』

ほむら『わかりました!』

女子生徒A「ねぇねぇ、マミりんってば。聞いてるの?」

マミ「え?あ、ごめんなさい」

女子生徒A「いつになるかわからないけど、公欠した日の授業分ノート見せてね」

マミ「ええ、いいけど……」

女子生徒A「巴さん頭いいからねぇ」

マミ(……暁美さん。何をするつもりなのかしら)

537: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:18:55.61 ID:w6fA4+mN0


――廃墟の街。


支柱の折れたらせん階段。甲虫色の錆びたポスト。

イチジクのタルトのような空色。紫陽花畑をぶち破った断層。

地面に二次関数グラフと特異点の数学的な落書き。塀に簡易的な天使のイラスト。

最も大きな家の窓から有名な画家をオマージュしたかのようなが絵画が見える。

その家までの道のりは荒廃が特に著しい苦難への道。

断層にあいた穴。顔も服もない輪郭だけの秘密の少女。


黒いマントをつけた人型の使い魔と対峙する少女がそこにいる。

白いマントをつけた青い魔法少女が剣を構えて敵を睨みつける。

538: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:19:34.95 ID:w6fA4+mN0

さやか「はぁ……はぁ……」

さやか「その気になれば……『痛み』なんて消せる……!」

さやか「くっ……しかし……」

使い魔「Ura――Agihcimonustatufikebuakum――Awineamo」

さやか「うぉらァッ!」

ザシュッ!

さやか「……くそッ!や、やはり……!」

使い魔「Ihcimoneh"onomurerabarae"etiki――Awustotih」

さやか「数が……多すぎるッ!」


断層に背をつける。背水の陣。

さやかは今、追い込まれている。

539: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:20:35.40 ID:w6fA4+mN0

さやかを逃さないかのように黒い影が取り囲む。

少し離れた位置で、引力の魔女――レイミが様子を窺っている。


さやか「ハァ……ハァ……」

さやか「引力の魔女、レイミ……」

さやか「こいつが、スタンドの元凶」

さやか「……許さない」

さやか「やっと……やっと見つけたんだ……」

さやか「必ず……ブチ殺してやる……!」

さやか「おまえさえ……貴様さえいなければ……!」

さやか「あたしは……あたしは……!」

さやか(だが……どうするか)

540: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:22:04.23 ID:w6fA4+mN0

さやか(背中は断層。これ以上引き下がれない)

さやか(使い魔の握力は結構強い。数も多い。押さえつけられたら……かなりマズイ)

さやか(だが、動きはそれ程早くない)

さやか(一気に突っ込めばいいだろう)

さやか(問題は魔女だ……)

さやか(あのシルエットみたいな体。何をしてくるかわからないし読めない)

さやか(……だが、とにもかくにも、斬るしかない!)

さやか(あの魔女……見た目は人間っぽいから……胸か、頭を斬る!)


クラウチングスタートの姿勢になったさやかは、剣先を魔女に向けた。

走りだそうとしたその途端。


ズルッ

541: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:23:17.68 ID:w6fA4+mN0

さやか「うっ!?」

ドサァッ

明日が滑り、転倒した。

頬を地べたに打ち付けてしまった。


さやか「な……ッ!?」

さやか「な、何……?!」

さやか「足……が……!」

さやか「足から……血!?」


いつの間にか、足から、脹ら脛から血が流れ出ていた。

痛みは無いが出血が激しい。

地面に垂れた血で足が滑ったらしい。


「咬み傷」ができている。

542: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:24:46.86 ID:w6fA4+mN0

さやか「どうして……?!い、いつの間に?!」

さやか「……ッ!」

さやか「だ、断層に……血がついてる……?」

さやか「断層の……穴に、血……?」

さやか「ま、まさぁ……この穴か……!?」

さやか「この断層の『穴』があたしを噛んだのかッ!?」

使い魔「Aterabare――Awiihsamatonok」

さやか「く、くそ……ッ!使い魔が……!」


完全に包囲された。

口から流れるように血が垂れる断層の穴。

黒い影で魔女が見えなくなる。

543: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:25:16.73 ID:w6fA4+mN0

さやか「もう……ダメだ」

さやか「……『死ぬ』」

さやか「…………」

さやか(……死、か)

さやか(そうか。あたし、死ぬんだ……)

さやか(使い魔に体を押さえつけられて……何をされる?)

さやか「何で……何であたしはここに来ちゃったんだろう」

さやか「どうしてあたし……一人で乗り込もうなんて思っちゃったんだろう」

さやか「意味が分からない……パソコンの魔女倒して、調子に乗っていたのかな……」

さやか「……あたしって……ほんと馬鹿……」

さやか「…………」

さやか「いや、違う……」

544: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:26:28.83 ID:w6fA4+mN0


さやか「あたしは馬鹿じゃない」


さやか「あたしは何も悪くない……むしろ、悪いのはスタンドの方だよ……」

さやか「あたしは、恭介のために魔法少女になったのに……戦いの運命に飛び込んだのに……」

さやか「恭介と仁美にスタンドが発現しないで……」

さやか「バイオリンよりも夢中になれることを見つけなければ……」

さやか「それがわかっていれば……あたしは契約しなかったのに!」

さやか「後悔なんてあるはずなかったのに……!」

さやか「パソコンの魔女の時、仁美を助けなきゃよかっただなんてほんの一瞬でも思ってしまったのも……」

さやか「ほむらがもっとちゃんと止めてくれればよかったのになんて思ってしまったのも……」

さやか「スタンドのせいッ!あたしは悪くない!」

さやか「だから……あたしは、あたしは馬鹿じゃない……!」

さやか「あたしは何も悪くない……あたしは何も悪くないッ!」

さやか「あたしは……」

545: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:27:33.25 ID:w6fA4+mN0

魔女「――――」

魔女は言葉にもならない声を発した。

それに呼応するように、使い魔はその身を引いた。

さやかと魔女が向かい合う形となる。


使い魔「Aragannennaz――Iihsaratiusagakano」

使い魔「Uranotaseonijuraagaw――Awiihsamatonok」

魔女は腕を伸ばし、さやかに攻撃を仕掛けた。

さやか「あたしは――」


美樹さやかが最期に思うこと……それは仕事中の両親のことではなかった。

両親のことを深く思ってはいた。

しかし最後に浮かんだ本当の気持ちの前に、走馬燈のような形で向き合った。

546: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:28:44.56 ID:w6fA4+mN0

さやか(マミさん……勝手なことしてごめんなさい)

さやか(ゆま……あたしが死んでも悲しまないで)

さやか(まどか……ありがとう。今まで楽しかったよ)

さやか(ほむら……幸せになってほしい。あたしの願いはそれだけだ……)

さやか「……はは、は」

さやか(シケた人生、だった、なぁ……)


ザシュッ!

547: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:29:22.85 ID:w6fA4+mN0

「KYAAAAAAAAAAAAAAA!」

ボゴンッ!


さやか「グフッ!?」

さやか「ゲホ、ゲホッ……ゲホ!」

さやか「な、何……?」


少女の影の胸の部分に、『穴』があいた。

向こう側の景色が見える。


さやか「何が起こった……!?何が……!」


さやかの頭は軽いパニック状態に陥った。

魔女は叫び声をあげた。ダメージを受けている。

魔女の攻撃を喰らった。それは事実。胸に痛みがある。

しかし今、目に見えて、自分よりも魔女の方にダメージがある。


使い魔「Atekutuzikowijura――Awiihsamatonok!」


使い魔は魔女を守るかのように、再びさやかを囲んだ。

両腕をつきだし、迫り来る。

548: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:31:11.56 ID:w6fA4+mN0

さやか「何が起こったんだ……?」

さやか「胸貫かれたと思ったら……魔女が……?」

さやか「な、何が……何が……一体……?」

さやか「……ま、まさか」

さやか「まさか……あたし……」

さやか「……クッ!」

使い魔「Ihcimonehihs――Abukanomas!」

さやか「く、来るか……!?」

さやか「な、何が起こっているのかわかんないままだけど……」



キュルキュルキュルキュル……

さやか「……ん?」

「ェ~」

さやか「……何じゃこりゃ?」

549: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:32:04.16 ID:w6fA4+mN0

「コッチヲミテェ~」


さやか「……戦車?」


鉄塊のような、キャラピラが付いた物体。

錆びかけた鉄が擦れ合うような音と、機会音声のような音声。

戦車のようなそれは、使い魔の群れに向かって速度を微妙にあげ、走り突っ込んでいく。

その速度は親についてくる健康な仔猫のよたよたした走り程度。


「コッチヲミテェ~」


戦車はそのまま使い魔の足にぶつかった。

カチリ

550: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:36:59.57 ID:w6fA4+mN0


――轟音をたて、戦車と使い魔群は炎に包まれた。

それは「爆発」した。


さやか「う、うおおおあッ!?」

さやか「な、何ィッ!?」

さやか「どうしたことが……何が起こった!?」

さやか「ば、爆発したッ!」

さやか「使い魔が……ドガーン!って爆発し……」

さやか「……『爆発』だってッ!?」


「魔力を探知して走る『じどーそーじゅー』スタンド!」

551: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:38:07.74 ID:w6fA4+mN0

さやか「!」

「キラークイーン第二の爆弾。爆弾戦車『猫車』……さやかを探知した」

「最初は普通に分担して探そうとしたけど、そういうのが使えるって言うもので、使わせていただきました」

さやか「そ、そんな、あんたらは……!」

さやか「ゆま!?ほむら!?」


さやかは、爆弾戦車が走ってきた方向を見た。

細い体と小さい体が、そこにはいた。


ゆま「猫さんッ!」

ズギャンッ!


ゆまの体から飛び出した、精神のエネルギー。

キラークイーンは地面に落ちていた小石を広い、投げた。

552: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:39:39.02 ID:w6fA4+mN0

投げ飛ばされた小石は、他の使い魔と衝突する。

瞬間、その使い魔群は爆発した。


ゆま「石ころを爆弾にした!」

ゆま「頑張れ猫さん!」


バンッバンッ!

ほむら「ハンドガンッ!」


盾から取り出した黒光りする拳銃。

小さな爆発――発砲音が響く。

使い魔の頭部を的確に撃つ。

急所を撃ち抜かれた使い魔は強い衝撃を受けてす故障る寸前のラジオのような音をたてる。

マネキンの体と黒いマントは煙のようになって消えていく。

553: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:41:03.45 ID:w6fA4+mN0

さやか「……!」

ゆま「大丈夫!?さやか」

さやか「ゆまちゃん……」

ほむら「足、ケガしてる……立てますか?」

さやか「ほむら……」

さやか「ど、どうしてここに……」

ほむら「…………」

ほむら「……サボってきちゃいました」

さやか「ッ!」

ほむら「それで、巴さんからゆまちゃんを借りて探しに来ました」

ゆま「大変だったよ!何度注意してもほむほむの魔力を探知しちゃうんだもん!」

ゆま「ごめんねほむほむ」

ほむら「ううん。これがなかったら美樹さん見つけられなかったよ」

ほむら「いいこいいこ」

ゆま「えへぇ」

554: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:42:24.52 ID:w6fA4+mN0

ピンクの空は、水色の空へ。

廃墟の街は、廃ビルのフロアへ。

魔女の結界はその世界を消し去った。


ほむら「……あ」

ゆま「結界が解けちゃったね」

ほむら「おかしいね……魔女もいたはずなんだけど……」

ほむら「私達が来た時には既に逃げちゃってたのかな」

さやか「…………」

さやか「……ねぇ、ほむら」

ほむら「はい?」

さやか「その……ごめん」

555: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:43:25.41 ID:w6fA4+mN0

ほむら「へ?」

さやか「あたし……その……」

さやか「契約したこと後悔しちゃった……」

ほむら「……」

さやか「恭介の腕を治すなんてしなきゃよかった……しなくてもよかったって思っちゃった……ぐすっ」

さやか「許せないよ……恭介も、治さなきゃよかったって思ってるあたし自身がさぁ……」

さやか「こんな辛い目に遭うなら……契約なんてしなきゃよかった……!」

さやか「……うぅ……ごめんね……ほむら……ごめん……!」

さやか「折角止めてくれたのに……契約しないでって言ってくれたのに……!」

さやか「結局あたしは、恭介の腕を治した見返りが欲しかっただけだったんだ……」

さやか「あたしは……恭介が好きだった……でも、でも……恭介は仁美が好きだってぇ……」

さやか「う、うあああぁぁぅ……」

556: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:44:55.37 ID:w6fA4+mN0

さやか「後悔しちゃったよぉ……魔法少女になっちゃったよぉ……あうぅ……ぐすっエグッ」

さやか「失恋だよォォ~~……!」

ゆま「しつれん……」

ほむら「…………」

ほむら「いえ……美樹さん」

ほむら「結局、私は契約を止められなかったという結果しかありません」

ほむら「私の方こそ、しっかりしていれば……」

さやか「うぅ……ほむら……」

ほむら「巴さんなら、こう言うと思います」

ほむら「『大丈夫、私達が支えるから』……私も、同意見です」

ほむら「だって……その……」

ほむら「と、友達だから……」

さやか「……ほむら」

557: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:46:05.90 ID:w6fA4+mN0

さやか「あたし……あたし……!」

ゆま「ねぇ、さやか……」

ゆま「ゆまもね?実は、契約しなきゃよかったって、思ったことあるの」

ゆま「キョーコの役に立ちたいから、スタンドが欲しいって願って、猫さんを発現した……」

ゆま「でも、スタンドを持っちゃったから、ゆまはキョーコに嫌われた……」

ゆま「だから、後悔しちゃった」

ゆま「でもね?ゆま、契約してよかったって今は思ってるよ」

ゆま「こうして、さやかを助けることができたし……」

ゆま「さやか、お姉ちゃん、ほむほむ、まどかお姉ちゃんに出会えたし……」

ゆま「ゆま、今幸せなの。キョーコの嫌いな力を持ったゆまを、受け入れてもらえて……」

ゆま「ゆまは、もう一人ぼっちじゃないの。ひとりぼっちは寂しいもんね」

さやか「ゆまっち……」

ゆま「ゆまっち?」

558: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:47:21.90 ID:w6fA4+mN0

さやか「…………」

さやか「……あはは」

ほむら「……な、何かおかしいこと言いましたか?私」

さやか「いやさ……だって、あんたが友達だから、だなんて……」

さやか「えへへ……何だか、おかしくって……あんたの方から、手を差し伸べてくれるだなんて……」

さやか「あたしはあんたを否定して……あんたはあたしに手をあげようとしたのに」

ほむら「……ほむぅ」

さやか「ありがとう。ほむら、ゆま……」

さやか「それと……猫さん?」

ほむら「え……?」

559: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:49:03.82 ID:w6fA4+mN0

ゆま「えッ!?」

さやか「こんな顔だったんだね……猫さんって言うからもっとキュートなもんかと思ったけど」

ゆま「み……『見えてる』!さやか……猫さんと目を合わせてる……!」

ほむら「……!」

さやか「うん……」

さやか「あたしも……なの」

さやか「あたしもスタンドが……身に付いたみたい」

さやか「あの壁みたいな断層にさ……穴、あったじゃん」

ほむら「……はい」

さやか「あの穴に噛まれてさ……その直後に、何か変なことが起こったんだ」

ほむら「噛まれた?」

ゆま「変なこと?」

560: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:50:30.08 ID:w6fA4+mN0

さやか「あたしにもよくわからないんだ……」

さやか「魔女から攻撃を喰らったと思ったんだ」

さやか「でも、魔女の方が突然苦しんだ」

さやか「何を言ってるのかわからないと思うけど……」

ほむら「……えっと?」

さやか「ダメージが『反射』されたって言えばいいのかな……」

ゆま「反射……?え……?」

ゆま「でもさやかケガして……ん?」

さやか「だからわからなんだよね……実際に攻撃を受けたのに反射した……」

さやか「その辺、研究する必要があるね」

561: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:52:17.06 ID:w6fA4+mN0

さやか「とにかく……その時だと思う。スタンドに目覚めたのって」

ほむら「スタンド……」

ゆま「穴『そのもの』が使い魔だったんだね……」

さやか「スタンドの名前……何にしよう」

さやか「恭介じゃないけど……」

さやか「あたしもスタンドを認識して訓練をしなくちゃいけないなぁ……」

さやか「ほむら……」

さやか「『あんたの友達』に負けないくらいにさ……強くなるね」

ほむら「……え」

さやか「ほむらには……もう、辛い思いをさせない」

ほむら「……はい」

562: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:55:12.81 ID:w6fA4+mN0

――数日後


杏子が美国邸に世話になり始め、幾日が経過した。

毎日風呂とベッドと美味い飯にありつけるのはとても幸せなことだと、杏子はつくづく思った。


しかし同居人とは特別仲がよくなったということはない。

織莉子とは軽い世間話をする程の関係にはなった。事務的にしている感は否めない。

借りをあまり作りたくないという理由で食器を片付けのを手伝おうにも、食器に触らせてもらえない。

キリカとはいまいち反りが合わない。「折角の二人の世界」に割り込んでしまった感が否めない。

「織莉子の言うことだから仕方ない」という余所余所しい態度が見え隠れして明らかに気を使われている。


暮らしやすいが居辛い。総合的に言えば「少し良い」程度の生活をしている。

564: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:55:53.99 ID:w6fA4+mN0

織莉子「ねぇ、佐倉さん。夕食も終えたことで、少しお話があるの」

杏子「……何だ?」

織莉子「共闘するということで、改めて自己紹介をしてみない?」

杏子「あ?なんだよいきなり」

織莉子「いいじゃない。この機会、お互いにとって実に重要な世界よ」

キリカ「流石は織莉子。名案だ」

杏子「……まぁ、構わんが」

織莉子「既に知っていることとは言え念のためおさらいとしてフルネーム」

織莉子「そして『得意な魔法』と『魔法武器』……『スタンドの能力』を言うのよ」

杏子「…………」

杏子「あたしとしては自分の手の内を晒すのは好きでないんだがな」

織莉子「そう。能力を教えるということはスタンドの弱点を教えることにつながる」

織莉子「だから、時期を見たかった」

キリカ「杏子。私と織莉子は互いに能力を知っている。知らないのは君のだけなんだ」

565: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:57:26.31 ID:w6fA4+mN0


キリカ「まぁ、私達も具体的に自分の手札を見せてたわけじゃないからね」

杏子「……それも、そうかもしれないが」

杏子(……こいつらの能力。知っておいて損はないだろう)

織莉子「まず私から……」

織莉子「名前は美国織莉子。これは知ってると思うけど、未来予知の固有魔法を有しているわ。魔法武器は水晶玉」

織莉子「スタンドの名前はリトル・フィート」

織莉子「能力は、相手を小さくする能力」

織莉子「自分も小さくなれるわよ」

杏子「なんだそれ。くだらない能力だな」

キリカ「そんなことない!」

杏子「何怒ってんだよ」


566: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:59:41.61 ID:w6fA4+mN0

織莉子「まぁまぁ。……これまで試した限りでは人間程度の大きさなら最小で十二分の一くらいのサイズにできるわ」

杏子「それって、つまり……どれくらいだよ」

織莉子「そうね……。その気になれば人間を消しゴムくらいの大きさにできるということよ」

キリカ「小さくなればクッキー一枚でもお腹一杯になれるファンタスティックな能力さ」

杏子「なるほど……スゲー羨ましいな」

織莉子「やってみる?」

杏子「今度な」

キリカ「あ、食べるんだ」

キリカ「そんじゃあ、次は私」

キリカ「私の名前は呉キリカ。相手の動きを遅めるようなことが得意だね。魔法武器は爪」

キリカ「スタンドの名前はクリーム」

567: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:00:20.69 ID:w6fA4+mN0

杏子「クリームゥ……へっ、何だか弱そうな名前だな」

織莉子「敵じゃなくてよかったと思うわよ。あなたでは勝てない」

杏子「あ?何だとコノヤローっ。言葉に気をつけろ」

織莉子「本当のことよ」

キリカ「おい。杏子。織莉子にヤローとは何だ。クリームで消し去るよ?」

杏子「消し去る?」

キリカ「それがクリームの能力だ」

キリカ「相手は死ぬ」

杏子「は?」

織莉子「ざっくばらんに言えば、透明になって移動して、その際に触れたものを粉微塵にする」

杏子「何それ怖い」

568: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:01:43.25 ID:w6fA4+mN0

キリカ「まぁそれなりに弱点はあるけどね」

杏子「弱点?」

織莉子「さて、最後はあなたよ。佐倉さん」

杏子「…………」

キリカ「おっと、私達のことを知っといて自分はやっぱいい、だなんてフェアじゃないこと言わないよね?」

杏子「あんたらが勝手に話し出したんだろうが」

織莉子「過程はどうあれ、あなたが協力をすると言った、という真実を忘れてはいけない」

杏子「わぁーったよ……ったく」

杏子「あたしは佐倉杏子。……幻惑の固有魔法だ。魔法武器は槍」

杏子「スタンドの名前はシビル・ウォー」

杏子「シビル・ウォーは特定の結界を作り、その中で幻覚を見せる能力だ」

キリカ「魔法とスタンド被ってんじゃん」

杏子「うるせぇ」

569: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:03:13.44 ID:w6fA4+mN0

杏子「で、幻覚の内容は、『相手が捨てたもの』だ。ポイ捨て見捨てる切り捨てる……人は捨てることに罪悪感を覚える」

杏子「……ま、簡単に言ってしまえば罪悪感で心身を押しつぶす能力だ」

織莉子「捨てたもの……ね」

キリカ「わぁお、陰湿~」

杏子「何だとこら」

織莉子(捨てたもの……私はむしろ捨てられた方だと自分では思っているけれども……どうなるかしら)

杏子「まぁ何だ。魔法少女を魔女にするのにうってつけの能力だ」

杏子「実を言うとテリトリーを侵略しに来た魔法少女は全員魔女にしてグリーフシードにしてきた。そういう実績がある」

キリカ「うわぁ……」

織莉子「あら、それはちょっとだけ頼もしい」

キリカ「え?暁美ほむらを魔女にしたらマズイんじゃ……」

織莉子「スタンドを発現される前に魔女にしてしまえばそれはそれで救世の形なのよ」

570: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:04:46.48 ID:w6fA4+mN0

キリカ「……さて、これでお互いスッキリしたかな?」

織莉子「そうね。これでいざというとき混乱せずに済むわ」

杏子「…………」

杏子(シビル・ウォーには『二つの弱点』と『隠された能力』があるのだが……)

キリカ「織莉子。紅茶のおかわりちょーだい」

織莉子「お砂糖いくつ?ジャム何杯?」

キリカ「スプーン三杯ずつ」

杏子(この二人には『言わない』)

杏子(あたしが……)

杏子(いつかこの二人を『裏切る』時……あるいはその『逆』の時に見せることになるだろう)

571: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:05:23.55 ID:w6fA4+mN0

杏子(あたしの切り札だ)

杏子(最も、弱点の一つは克服したと言っても過言ではないがね)

織莉子「佐倉さんはいるかしら?おかわり」

杏子「いや、あたしはいい」

杏子(……まぁ、お互い様だよな)

杏子(あいつらもあいつらで、あたしに隠している事柄がある)

杏子(こういう場面で言わないということは、あたしを信頼していないことを証明している)

杏子(その辺り、食い下がって聞かなかったのは敢えてだ)

杏子(聞くということは『あんたらを疑ってる』と自分からバラしてるようなもんだからな……)

572: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:07:44.60 ID:w6fA4+mN0

織莉子「さて……」

織莉子「見滝原中学校襲撃計画の決行まで、後三日よ」

杏子「それまで結局ろくなことしてねぇけどな」

キリカ「まぁね」

織莉子「……そこで、明日と明後日、二日間かけて、事前準備に取りかかるわ」

織莉子「二日目に事前準備を踏まえて簡単な作戦……私のプランを伝える」

杏子「事前準備……随分とギリギリじゃあないか?」

織莉子「そうね……使いたい道具が道具だからよ」

杏子「使いたい道具?」

織莉子「まぁそれは追々……まず、キリカ」

キリカ「私は何をすればいい?」

573: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:09:09.49 ID:w6fA4+mN0

織莉子「学校の見取り図を用意してちょうだい」

キリカ「見取り図?学校の地図ってこと?」

織莉子「えぇ。私と佐倉さんは見滝原中学校のことを知らない」

織莉子「魔法少女とスタンド使い……ターゲットがどの教室にいるのかを把握する必要がある」

キリカ「ふぅーん。オッケー」

織莉子「佐倉さんは何か追加注文とかある?」

キリカ「帰りにお菓子買ってきてとかパシリ的な内容以外なら融通効かすよ」

杏子「……できれば写真とかもあるといい」

キリカ「写真?」

杏子「シビル・ウォーが扱うに丁度良い室内でもあればと思ってな」

キリカ「図書室とか音楽室とか?」

574: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:10:33.69 ID:w6fA4+mN0

杏子「シビル・ウォーの特性上、相手を誘い込むことが重要だ。標的のいる教室との位置関係による」

杏子「三階なら三階にあるそういう部屋。四階なら四階だ」

キリカ「うん。わかったよ」

杏子「……で、あたしは何をすればいい」

織莉子「そうね……佐倉さんさえよければ、なのだけど」

織莉子「少しばかり、顔を出してやってほしいのよ」

杏子「……いいのか?わざわざそんなこと」

織莉子「えぇ。どうせ顔知らないでしょ?そんな大したことしなくていいわ」

杏子「何か意味あるのか?それ。顔ぐらい、写真なりなんなりで何とでもなるだろ」

織莉子「注意を惹かせる、ということよ」

杏子「注意?」

575: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:11:51.29 ID:w6fA4+mN0


織莉子「明日、予知によると暁美ほむら、鹿目まどか、美樹さやか、三人仲良く帰路に立っている……」

織莉子「そこで三人の前に現れて、力試しだ何だ言って時間を稼いでほしい。人通りは少ないからその辺り気にしなくていい」

織莉子「するとたまたま半径約二、三百メートル内にある書店で参考書を探しにきていた巴マミ、付き添いの千歳ゆまがテレパシーで助けを呼び出され現れる」

織莉子「……魔法少女が集まるということね」

織莉子「その間に、私が行動をする」

杏子(ゆま……か……)

杏子「……ダリィな」

キリカ「別にそこで殺してもいいだろう何て思わないことだ」

織莉子「暁美ほむらが既にスタンド使いである可能性がゼロではない以上、余計なことはしないに限る」

織莉子「あなたが負けたら元も子もない」

杏子「つまりあたしに逃げろと。で、逃げれるのか?あたしは」

織莉子「五人と顔を合わせたら……これを」

コン

576: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:12:35.64 ID:w6fA4+mN0

杏子「……グリーフシード?」

織莉子「穢れを計画的に溜め込ませ、孵化するタイミングを予知して調節させた……」

織莉子「言うなれば時限魔女発生装置よ。これをキリカに仕掛けさせておく」

織莉子「魔女の結界に閉じこめて退散なさい。結界に誘い込むのは得意でしょう?」

杏子「……なるほどな」

織莉子「場所は後で地図を用意するとして……明日の予定をまとめると……」

キリカ「私は学校の見取り図と杏子にとっていい感じの部屋を探して、帰り道地図の場所にグリーフシードを仕組むこと」

杏子「……あたしはほむら達を地図の場所で待ち伏せして、マミとゆま、魔女の孵化を待ち、時間を稼ぐ」

織莉子「その通り。二人とも、明日はよろしくお願いね。明日の朝もう一度おさらいするから。佐倉さん。腕時計忘れずにね」

杏子「……なぁ、織莉子」

織莉子「何か質問でも?」

杏子「内容は今のと関係はないんだが……一つ、聞いてみたいことがある。ちょっとした好奇心だ」

577: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:14:01.11 ID:w6fA4+mN0

織莉子「何かしら?」

杏子「あんたは……キリカが怖いと感じたことないのか?」

キリカ「へ?」

杏子「キリカのスタンドを聞く限り、使われたらもう手出しができない」

織莉子「……」

杏子「もし裏切ろうと思えば、何もできずに殺されちまうぞ」

キリカ「ッ!」

キリカ「おいッ!杏子ォ!」

杏子「うおッ!?」


キリカはテーブルに膝をつき杏子の胸ぐらを掴んだ。

先程までヘラヘラしていた表情は一変した。

その場の勢いで人を殺してしまいそうな、そういう目だった。

杏子はそれと似たような目を、一度見たことがある。

578: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:16:19.05 ID:w6fA4+mN0

キリカ「この私が織莉子を裏切るだとッ!?」

キリカ「どの口が抜かしているんだッ!この小汚いホームレスのクサレ脳みそがッ!」

杏子(こ、こいつ……!)

キリカ「例え仮定の話でもッ!言っていいことッ!と悪いことがあるッ!」

キリカ「二度とそんな口聞けないように声帯ブチ斬ってやろうかッ!ああ!?」

杏子(い、いきなりプッツンしやがった……暗黒空間だって?)

杏子(こいつの心の中の方がバリバリ裂けるドス黒いクレバスだッ!)

キリカ「私と織莉子の愛と絆を侮辱しやがっ――」

織莉子「キリカ!」

キリカ「ッ!」

579: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:18:03.00 ID:w6fA4+mN0

キリカ「お、織莉子……」

織莉子「淑女失格だわ。直りなさい」

キリカ「ご、ごめんなさい……」

織莉子「佐倉さんに謝りなさい」

織莉子「……と、言いたいところだけど、佐倉さん。あなたの質問は私に対しても無礼に値するわ」

織莉子「敬意を払いなさい。キリカは、もしこの計画が失敗してレクイエムが生まれてしまった際……最後の希望なのだから」

杏子「…………」

織莉子「しかし、その質問……ごもっともというヤツでもあるわね。やっかいなことに」

キリカ「私が織莉子を裏切るなんてありえないよ!」

織莉子「えぇ。わかっているわ」

織莉子「でも、もしも裏切られるなんてことになれば……」

織莉子「……キリカに裏切られるということは、キリカに嫌われたということ」

580: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:18:49.49 ID:w6fA4+mN0

織莉子「……私はキリカを愛している」

キリカ「!」

織莉子「嫌われるくらいならいっそ、キリカに殺されるのも悪くないと思っている……。それが答えよ」

杏子「マジかよ……こいつ……」

キリカ「お、織莉子……!君ってヤツは……!君ってヤツはぁ……!」

キリカ「私も織莉子を愛してるよッ!嫌いになるわけないじゃあないかァ――ッ!」

織莉子「キリカ……!」

キリカ「織莉子……!」

織莉子「キリカァー!」

キリカ「織莉子ォー!」

杏子(……あたしって本当に必要なのか?)


紅茶とクッキーが散乱したテーブル。

目の前で抱擁し合う二人。

疎外感を強く覚えた杏子は、ハァと一息。溜息をついた。

581: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:19:26.12 ID:w6fA4+mN0


ドリー・ダガー 本体:美樹さやか

破壊力 A スピード A  射程距離 C
持続力 A 精密動作性 C 成長性 D

魔法武器の剣に取り憑いているスタンド。その性質は「転嫁」
自身へのダメージの「七割」を刀身に映りこんだ相手に『押しつける』能力。
さやかの特化された治癒能力とあらゆるダメージに対する半自動カウンターとの相性は抜群。
悪い結果が訪れても自分に落ち度はないはずだ。という責任転嫁願望から発現。
魔法武器に憑いているため、このスタンドは変身しないと扱えない。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


591: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 09:56:02.93 ID:JeiFXyZo0

#11『インタールード(間奏曲)』


――翌日

日が傾きかけ景色が橙色に染まる頃。

杏子は屋台で買った人形焼きを食べながら、壁にもたれかかって、待っていた。


緊張がないこともない。

シビル・ウォーという能力を得てから、杏子は「捨てる」という行為と言葉にも敏感になっている。

自分が「捨てた」存在……ゆまと会うことになるためである。


杏子「……来たか」


杏子は人形焼きを一気に詰め込み、半ば強引に飲み込むことにした。

592: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 09:57:45.87 ID:JeiFXyZo0

まどか「何かお腹空いちゃったなぁ」

さやか「どっかで食べてく?」

まどか「うーん。いいや。今晩はクリームシチューだから」

ほむら「鹿目さんクリームシチュー好きだものね」

まどか「うんっ。だからパパ、いつもたくさん作ってくれてるの」

まどか「……あれ?わたし、ほむらちゃんにクリームシチューが好きってこと話したことあったっけ?」

ほむら「あ」

ほむら「え、えっと……あ、あるよ!前に!わ、忘れちゃったの?」

さやか「何を慌ててるんだ?」

まどか「?」

まどか「……あっ、ほむらちゃん。肩……」

ほむら「え?」

593: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:03:05.19 ID:JeiFXyZo0

ほむら「……あ、これは……」

さやか「毛?……ってまたエイミ~の毛かい?ほむら」

ほむら「気付かなかった……じゃあ今日一日中ついてたことに……」

まどか「エイミーにモテモテだね」

ほむら「モ、モテモテって……」

さやか「一体何をどうしたらそこまで懐かれる訳?あたし何て思い切り避けられる」

まどか「さやかちゃんは嫌がってるのに尻尾摘んだりしてちょっかいだすからだよ」

さやか「うっ……だ、だって尻尾可愛いし気持ちいいんだもん」

さやか「あ、猫と言えばゆまちゃんって変身するとネコミミつけるけど……何で?」

ほむら「何でと聞かれても……」

まどか「あれネコミミなのかな?」

さやか「いやぁ、あれはどう見てもネコミ……」

594: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:04:54.10 ID:JeiFXyZo0

さやか「……ん?」

まどか「どうしたの?」

さやか「いや、ほら、あそこ……」

ほむら「?」


さやかが指さした先には、人がいた。

赤銅色のポニーテール。緑のパーカー。ホットパンツ。

壁と口に手を当て、床を睨んでいる。


さやか「泣いてんのかな?」

ほむら「……ッ!」

ほむら「あ、あれは……!」

まどか「知ってる人?」

595: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:06:00.02 ID:JeiFXyZo0

ほむら「佐倉さん……!?」

さやか「佐倉って……佐倉杏子?」

まどか「そ、その人って……!」

ほむら「いつか見滝原に来るとは思ってたけど……」

さやか「あいつ……か」

まどか「さ、さやかちゃん?」

さやか「あいつが……あいつがゆまちゃんを……!」

さやか「ゆまちゃんを見捨てたヤツッ!」

ダッ

ほむら「美樹さんッ!」


杏子はゆまのスタンド、キラークイーンに恐怖を覚え、突き放した。

それは杏子がスタンド使いであることを示している。

596: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:07:45.99 ID:JeiFXyZo0

魔法少女の姿でないとは言え、突っ込むのはあまりにも愚直。

しかし突沸した感情を抑えきれず、さやかは走り出してしまった。


杏子「も、もがが……もごふ……!」

さやか「おい!そこのあんたッ!」

杏子「もが!?」

さやか「佐倉杏子でしょ!あんたは!」

杏子「もむむー!もぐぐ!」

さやか「何を言って……」

さやか「食っとる場合かァ――ッ!」

杏子「…………プハッ!」

597: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:08:51.10 ID:JeiFXyZo0

杏子「あ゙ー……やっと飲み込めた」

杏子「いやぁー……やれやれ」

杏子「予想以上に人形焼きのアンコが熱くてよォ……」

杏子「いや、熱いのを知らずに丸飲みするようなアホなことをしたんじゃあない」

杏子「頭の方をチビチビ食べてたからさぁ……」

杏子「腹の方のアンコもいい加減冷めただろうと思ったんだよ……ところがどっこい熱々でさ」

杏子「全く……何が食っとる場合かー、だよ。あんたの都合なんか知るか」

さやか「何をしに見滝原に来たんだ!」

杏子「あぁ、そうだった。気になったんだがよ」

杏子「何であたしの名前がわかった?」

さやか「……ゆまちゃんを迎えに来たのか……?捨てたくせに」

598: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:10:52.20 ID:JeiFXyZo0


杏子「……そうか。ゆまか」

杏子「だが百歩譲って名前は知ってても顔は知らないだろ」

杏子「マミにあたしの写真でも見せてもらったのか?」

ほむら「美樹さん!」

杏子「お……」

まどか「さやかちゃん!急に走って……!」

さやか「で、でもまどか……こいつ……!」

ほむら「…………」

ほむら「佐倉さん……」

杏子(こいつがさやか……そっちはまどか……)

杏子(消去法で考えると、こいつが暁美ほむらか?)

599: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:13:46.51 ID:JeiFXyZo0

ほむら「……まさか、見滝原を狙って?」

まどか「……ッ!」

杏子「質問を質問で返すな……まぁいい」

杏子「……別に、だぜ」

杏子「強いて言うなら、見滝原の魔法少女ってのはどんな面してんのか見に来たってくらいさ」

さやか「…………」

さやか「何でだよ……」

杏子「ん?」

さやか「何でゆまちゃんを見捨てたんだよ!あんなに優しくていい子なのにッ!」

杏子「ゆまから聞かされてないのか?」

杏子「キラークイーンは危険すぎる。爆発に巻き込まれかねんからだ」

杏子「……だから、あたしは捨てた」

600: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:14:46.31 ID:JeiFXyZo0

さやか「だ、だからって……!ゆまちゃんの気持ちを考えたことあんのかッ!」

杏子「他人の気持ちより自分の命のが大切って考えがあるからだ」

杏子「今気付いたけど……あんた、魔法少女」

杏子「そうか……契約したのか」

さやか「…………」

杏子「あんたは……違うようだな」

まどか「…………」

さやか「ぶっ飛ばすッ!」

ほむら「み、美樹さんッ!」


さやかは変身し、剣を構えた。

一方で杏子はうんざりとした顔をしている。

601: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:16:08.55 ID:JeiFXyZo0

杏子「あのなぁ……あたしは戦いに来たんじゃあないぜ」

杏子「落ち着けよ」

さやか「ほむら!あんたは下がっていて……」

さやか「あたしはゆまちゃんのことが好きだ。とってもいい子だし、可愛いからな……」

さやか「ゆまちゃんに悲しい思いをさせたヤツがいるというなら、怒りがフツフツわき上がる!」

さやか「その怒り!あたしが先に晴らす権利がある!」

さやか「杏子とやら!このあたしが、あんたを!ゆまちゃんに土下座させてやる!」

杏子「うわ、うぜー……」

まどか「お、落ち着いてさやかちゃん!」

ほむら「美樹さん!あなたも下がって!」

602: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:18:02.99 ID:JeiFXyZo0

ほむら「彼女にはあなたの知らない能力がある!経験もある!」

杏子「ふーん。あたしのことをよくご存じって感じだな」

まどか「さ、さやかちゃん……!」

さやか(……確かに、そうさ)

さやか(確かにあたしは魔法少女としてはペーペーさ……)

さやか(だが、あたしには……)

さやか(あたしには無敵の『スタンド』があるッ!)

さやか(あたしの魔法とこの能力さえあれば誰にだって負けるはずがないッ!)

さやか(あたしとこのスタンドのタッグは無敵だッ!)

603: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:19:35.36 ID:JeiFXyZo0

さやか「行くぞオイ!」

杏子「…………」

杏子「おいほむら」

さやか「無視すんな!コラァ!」

ほむら「…………」

杏子「こんなのが側にいて喧しいと思わないのか?」

杏子「まぁいい……」

杏子「あんたは次にマミに『助けに来てもらおう』と思う」

ほむら「……!」

「それは……遅かったわね」

杏子「あ?」

604: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:21:44.21 ID:JeiFXyZo0

ほむら「巴さん!」

杏子「…………既に、かよ。既に呼んでたのか。くそっ、カッコワリィ……」

まどか「マミさん!それにゆまちゃん!」

さやか「ど、どうしてここに……!?買い物の途中ですか?」

マミ「えぇ。たまたまね……」

ゆま「キョーコ……!」

杏子「……チッ」

杏子(こんなに早いなんて聞いてないぞ……)

マミ「……佐倉さん」

マミ「あなたって人は……あなたは……!」

杏子(だが、まぁいい。これで全員揃った)

605: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:22:59.66 ID:JeiFXyZo0

マミ「何をしに、ここに……」

杏子「だから、別に何も……だよ。強いて言えば見滝原の魔法少女の顔を見に来たってところだ」

杏子「…………」

杏子(シビル・ウォーは、屋内に罪悪感を支配する空間を創る能力だ)

杏子(故に、屋外では全くもって役に立たない)

杏子(屋内限定というのが弱点の一つだ)

杏子(……ただし、人は成長する。成長は、弱さを受け入れること、あるいは克服すること)

杏子(封印されていた幻惑の魔法が使えるようになったからな)

杏子(幻惑の魔法で『擬似的な屋内』を創造すれば、それで結界を張ることが可能である)

杏子(弱点の一つは既に克服している!あたしとシビル・ウォーのコンビの方が無敵だ)

606: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:26:21.33 ID:JeiFXyZo0

杏子(さらにこの能力には切り札があるからな……)

杏子(まぁ、魔女に対してはクソの役にも立たねぇ切り札だが……)

杏子(マミだろうが織莉キリコンビだろうが、魔法少女相手には必ず勝てる!)

杏子(ここで全員まとめて魔女にしてやろうか)

杏子(あいつらは相手するなと言った)

杏子(余計なことをせずに退散しろと言った……)

杏子(だが、あたしがその気になればやれないこともない……)

杏子(だがしかし……)

607: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:27:31.36 ID:JeiFXyZo0

ゆま「キョーコ……!」

杏子「……ゆま」

ゆま「キョーコ……!会いたかったよォ……!」

ゆま「ゆま、信じてたよ……キョーコ、絶対に、絶対に迎え来てくれるって……」

ゆま「キョーコ……色々あったけど、ゆま……今でもキョーコのことが大好きだよ」

ゆま「ゆまね……勉強したの。虎か何かは自分の子を崖から敢えて突き落とすんだって」

ゆま「試練が必要なんだって」

ゆま「キョーコは、敢えてゆまを、突き落としてくれたんでしょ?」

ゆま「ゆまね……キラークイーンの使い方、ちゃんとわかったの。マスターしたの!」

ゆま「ほむほむに、爆発の『のーはう』を教えてもらったの!」

ゆま「だから、もう大丈夫だよ」

608: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:30:12.89 ID:JeiFXyZo0

ゆま「キョーコを爆発に巻き込むなんてこと、絶対にないよ!怖くないよ!」

ゆま「キョーコ、お姉ちゃんと一緒に暮らしてたことあるんだよね?!」

ゆま「だ、だったら……ゆま達と三人で……ダメ?お姉ちゃん」

マミ「…………」

ほむら「笑顔で泣いてる……」

まどか「よっぽど……だったんだね」

ゆま「だから……だから……!」

ゆま「ゆま……ゆまは……」

ゆま「キョーコとも一緒にいたい!」

ゆま「一緒に暮らしたいよぉ!キョーコ!」

さやか「……くっ!」

609: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:30:52.10 ID:JeiFXyZo0

さやか「こんなに……」

さやか「こんなにゆまちゃんが……あんたに再会できて喜んでいるのに!」

さやか「あんなにゆまちゃんを悲しませたというのに……ッ!」

さやか「あんたは何とも思わないのかッ!」

杏子「…………」

杏子(うぜぇ……)

ゆま「キョーコ……」

マミ「…………」

マミ『佐倉さん。聞こえる?』

杏子(テレパシー……)

610: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:32:25.98 ID:JeiFXyZo0

マミ『佐倉さん……あなたはゆまちゃんの額を見たことある?』

マミ『私は一緒にお風呂に入って見たわ』

マミ『ゆまちゃんの額……前髪で見えないけれど、火傷痕があるのよ』

杏子「…………」

マミ『ゆまちゃんは虐待を受けていたのよ』

マミ『美樹さんの怒鳴り声や暁美さんがキレかけた時、必要以上に怯えていた……』

マミ『……今の私は、例え佐倉さんだろうと、ゆまちゃんの恩人であろうと……』

マミ『怒りに身を任してとんでもないことをしでかしかねない』

マミ『だからゆまちゃんには……そんな私を見せられない』

マミ『両親に見捨てられたトラウマをさらに抉ったあなたに対して、冷静でいられる自信がない』

杏子『つまり、帰ってくれってことか』

マミ『飲み込みが早くて助かるわ』

611: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:33:21.80 ID:JeiFXyZo0

杏子「……安心しろ。あんたら」

杏子「本当にやりあおうってわけじゃあないんだ」

杏子「強いて言えば、あんたらの顔を見に来たとでも言おうか。ゆまも元気そうで何よりだ」

ゆま「じゃ、じゃあ……」

杏子「何がじゃあなのかはわからんが、あたしはもう帰るつもりだ」

ゆま「そ、そんなぁ……」

杏子「……一つだけ、聞きたい。マミ」

杏子「今も使い魔を全員潰してるのか?」

さやか(……あいつは、使い魔をわざと逃して魔女を増やそうとしているって……言ってたっけ)

マミ「えぇ……全て倒しているわ」

杏子「……そうか。いや、別にどうとも言わないけどさ。今はあんたのテリトリーだからな」

杏子「それじゃあな――」

612: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:34:31.55 ID:JeiFXyZo0

ピキンッ

マミ「――ハッ!」

ほむら「こ、この反応は……!」

さやか「『結界』ッ!?」

まどか「えぇ!?こ、ここで!?」

杏子(案外遅かったな)

ほむら「魔女……!」

杏子「この魔女はあんたらの獲物だ……横取りしようなんざガッつきはしない」

杏子「先に帰らせてもらう」

ゆま「あっ、キョーコ……」

ゆま「い、行っちゃやだぁ……!」

杏子「…………」

613: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:35:35.43 ID:JeiFXyZo0

杏子「別れの言葉として……あんたらに言っておくことがある」

杏子「聞いたことはあるか?『スタンド使いとスタンド使いは引かれ合う』という格言があるんだ」

杏子「もしかしたら、あたし達とあんたらが出会うのは必然だったのかもしれねぇな……じゃあな」

ほむら「……『達』?」

マミ「さ、佐倉さん!話はまだ半分も……」

さやか「マミさん!……行きましょう」

マミ「くっ……。……暁美さん。鹿目さんと一緒にいて。ほら、行くわよ。ゆまちゃん……」

ほむら「……はい」

ゆま「うぅ……キョーコォ……」

ゆま「むぅ……魔女が出てこなかったらもっとお話できたのに……!」

ゆま「ゆま怒った!『猫さん』ッ!」

さやか「わーっ!やめろ!キラークイーンはまだおさえろ!」

614: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:37:12.86 ID:JeiFXyZo0

杏子「…………」

杏子「騒がしいなぁ……」

杏子「だが、余所余所しい同居人と豪邸で暮らすよりも……」

杏子「こう……あぁいう騒がしい方があたしの性に合ってそうではあるかもな」

杏子「……ふむ」

杏子「例の格言の理論で言えば、ゆまとマミが出会っているって時点でマミはスタンド使いだったりすっかもしんねぇ」

杏子「確証はないが……どうせその辺見極めろとは言われなかったからな」

杏子「いつ目覚めたのか?あるいは目覚めるのか?」

杏子「まぁいいさ」


「お疲れさま」

杏子「ん?」

615: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:38:39.63 ID:JeiFXyZo0

杏子「織莉子じゃねぇか……何でここに?」

織莉子「下準備よ」

杏子「下準備ィ?」

織莉子「えぇ……『これ』よ」

杏子「ん……?」

杏子「な……こ、これって……!」

織莉子「数日後が楽しみね」

杏子「いや、楽しみでは……」

織莉子「一緒に帰る?」

杏子「適当にブラついて一人で帰る」

織莉子「あら、寄り道はダメよ」

杏子「あんたと一緒に帰ったらキリカが何を言うか」

織莉子「……ごめんなさいね。あの子ヤキモチやきだから」

616: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 10:39:52.76 ID:JeiFXyZo0


Raymea(レイミ)

引力の魔女。その性質は「伝承」
『スタンド』という異世界、別次元の概念この世界に引き入れた。
あるいは創造した、または魂の持つ未知の力を覚醒させたとされる。
その力は必ずや平和と誇りに繋がるものだと信じている。
しかし魔女自身はそのスタンドを持っていない。


Cavenome(カヴェノメ)

引力の魔女の手下。その役割は「発現」
結界内の断層にある穴そのものが使い魔である。
近づいてきた者に、こっそりと歯形を残す。
歯形をつけられた者はスタンドという能力を発現する。
人によっては高熱を伴い、そのまま死んでしまうこともあるらしい。


Sabbath(サバス)

引力の魔女の手下。その役割は「選別」
結界内を住民のように彷徨う、黒いマントを羽織ったマネキンのような姿。
「スタンド」の素質を見出し、カヴェノメへ誘導する。
レイミに敵意を向ける者、既にスタンドを持つ者は排除する。
則ちスタンドの素質のない者には、さもなくば死への道。