魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」 その1
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」 その2
63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 18:45:11.38 ID:I63MLpWkP
――冬の王宮
冬寂王「こ、こんなことになるとは」ぐったり
執事「若、大丈夫でございますか?」
冬寂王「強い氷酒をくれ。――いや、酒は自殺行為だな。
茶をくれ。うんと濃くしたヤツだ」
執事「ははっ」
将官「王よ、次の一団が控えの間に」
冬寂王「うう、判った。五分だけ、五分だけ休憩をくれ」
執事「若、お茶でございます」
冬寂王「とんでもないことになってしまった」
執事「さようですなぁ。これはまったく」
ごちゃらぁ
冬寂王「早まった決断だったのだろうか」
執事「いえいえ、決断自体は決して」
冬寂王「しかしこの惨状では……」
執事「はぁ、いかんともしがたいですな」
冬寂王「こ、こんなことになるとは」ぐったり
執事「若、大丈夫でございますか?」
冬寂王「強い氷酒をくれ。――いや、酒は自殺行為だな。
茶をくれ。うんと濃くしたヤツだ」
執事「ははっ」
将官「王よ、次の一団が控えの間に」
冬寂王「うう、判った。五分だけ、五分だけ休憩をくれ」
執事「若、お茶でございます」
冬寂王「とんでもないことになってしまった」
執事「さようですなぁ。これはまったく」
ごちゃらぁ
冬寂王「早まった決断だったのだろうか」
執事「いえいえ、決断自体は決して」
冬寂王「しかしこの惨状では……」
執事「はぁ、いかんともしがたいですな」
引用元: ・魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 18:53:04.67 ID:I63MLpWkP
冬寂王「まさか、あの協定でここまで書類や陳情、
嘆願に取引が増えるとは」
執事「予想外でしたな」
冬寂王「そもそも税などと云うのは、
春と秋の2回にわけて、地主が城の倉庫へ運んできて
終わりだったではないか」
執事「さようで」
冬寂王「内政など、堤が切れたら賦役の発布し、
軍を養い食わせる程度であったのに、
ここまで仕事が増えるのか!?」
執事「南氷海の西側を通るルートと、港の使用権。
それに商人から上がる税収に、移民の申請……。
王一人で捌くのは無理がありますな」
冬寂王「そうだ。我が国の文官はどうした?
税務官も居ただろうに」
執事「あまりの激務に一週間で倒れましたな。
そもそも税務官など親子二人でやっていた仕事です。
これは我が国も、中央の大国のように
専用の役人を雇用しなければなりませんかなぁ」
将官「あのー。王? そろそろ次の商人を通して
よろしいでしょうか?」
冬寂王「ええい、通せ!」
嘆願に取引が増えるとは」
執事「予想外でしたな」
冬寂王「そもそも税などと云うのは、
春と秋の2回にわけて、地主が城の倉庫へ運んできて
終わりだったではないか」
執事「さようで」
冬寂王「内政など、堤が切れたら賦役の発布し、
軍を養い食わせる程度であったのに、
ここまで仕事が増えるのか!?」
執事「南氷海の西側を通るルートと、港の使用権。
それに商人から上がる税収に、移民の申請……。
王一人で捌くのは無理がありますな」
冬寂王「そうだ。我が国の文官はどうした?
税務官も居ただろうに」
執事「あまりの激務に一週間で倒れましたな。
そもそも税務官など親子二人でやっていた仕事です。
これは我が国も、中央の大国のように
専用の役人を雇用しなければなりませんかなぁ」
将官「あのー。王? そろそろ次の商人を通して
よろしいでしょうか?」
冬寂王「ええい、通せ!」
73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 18:58:49.17 ID:I63MLpWkP
商人子弟「お初にお目にかかります、王よ!!」
ごちゃらぁ
冬寂王「おお、良く来たな、若き商人殿よ」
商人子弟「はぁ」
執事「こっちか?」
将官「その山は、探しました。こっちでは?」
冬寂王「それともこれか? 違うではないか!」
商人子弟「何を探しておられるのですか?」
冬寂王「ああ、すまんな。立て込んでいて。
商人殿はニシンの交易であったか?
商人殿があらかじめ出しておいた書状が届いていたはずなのだが
確かここらに置いたと……それから今月の税の
とりまとめも。すまぬ、取り紛れてしまって」
商人子弟「ああ、それなら」 すたすたすた
ひょい。
商人子弟「これですね。紹介状です。……税のとりまとめは」
ひょい 「おそらく、この帳簿でしょう」
ひょい 「嘆願書はこれ。今月分は、
紐でまとめてあるようですね。几帳面だけど乱暴だなぁ」
ごちゃらぁ
冬寂王「おお、良く来たな、若き商人殿よ」
商人子弟「はぁ」
執事「こっちか?」
将官「その山は、探しました。こっちでは?」
冬寂王「それともこれか? 違うではないか!」
商人子弟「何を探しておられるのですか?」
冬寂王「ああ、すまんな。立て込んでいて。
商人殿はニシンの交易であったか?
商人殿があらかじめ出しておいた書状が届いていたはずなのだが
確かここらに置いたと……それから今月の税の
とりまとめも。すまぬ、取り紛れてしまって」
商人子弟「ああ、それなら」 すたすたすた
ひょい。
商人子弟「これですね。紹介状です。……税のとりまとめは」
ひょい 「おそらく、この帳簿でしょう」
ひょい 「嘆願書はこれ。今月分は、
紐でまとめてあるようですね。几帳面だけど乱暴だなぁ」
78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 19:06:17.82 ID:I63MLpWkP
冬寂王「おお! 助かった。時間の節約になった」
執事「いやはや、毎日が戦争ですな」
将官「しかも乱戦気味です。消耗戦かも」
冬寂王「して、商人殿。ニシンであったかな?」
商人子弟「違います。僕は商人の家の三男坊でして
ニシンを含む交易は次男の兄さんが、
商会と金貸しは長男の兄さんが継いだせいで、
仕事がないんですよ」
冬寂王「ふむふむ。それは大変だな。して、我が宮殿に
どのような用件で参ったのだ?」
商人子弟「この紹介状を……」
「育てるのには飽きた。
あとは浴びるほど仕事を与えて
現場でこき使ってやってくれ。
――紅」
冬寂王「……」
商人子弟「この宮殿で小さな船でも貸してくれるなら
僕も商売やら情報集めやらでお役に立てると思うんですよ。
一応商人の家の子ですからね」 ほやん
冬寂王「ふむ。いや、良いところにきた。あははは」 がしっ
執事「この国は、有望な若者を歓迎しますぞ」 がしっ
執事「いやはや、毎日が戦争ですな」
将官「しかも乱戦気味です。消耗戦かも」
冬寂王「して、商人殿。ニシンであったかな?」
商人子弟「違います。僕は商人の家の三男坊でして
ニシンを含む交易は次男の兄さんが、
商会と金貸しは長男の兄さんが継いだせいで、
仕事がないんですよ」
冬寂王「ふむふむ。それは大変だな。して、我が宮殿に
どのような用件で参ったのだ?」
商人子弟「この紹介状を……」
「育てるのには飽きた。
あとは浴びるほど仕事を与えて
現場でこき使ってやってくれ。
――紅」
冬寂王「……」
商人子弟「この宮殿で小さな船でも貸してくれるなら
僕も商売やら情報集めやらでお役に立てると思うんですよ。
一応商人の家の子ですからね」 ほやん
冬寂王「ふむ。いや、良いところにきた。あははは」 がしっ
執事「この国は、有望な若者を歓迎しますぞ」 がしっ
82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 19:13:27.57 ID:I63MLpWkP
――開門都市、大通りの縁日
~♪ ~~♪
勇者「へぇ、随分賑やかだな」
東の砦将「ああ、思いつきの突貫企画にしちゃ、良い線行ってるな」
勇者「良い匂いだ」
東の砦将「こいつぁ、焼き豚だな?
おい懐かしいな! おい、黒騎士。一切れ買おうぜ」
勇者「おう、そうしよう、そうしよう!」
北の砦将「冷たいエールもなっ」
人間商人「らっしゃい!」
勇者「その良く味の染みてそうなところを4切れくれ!」
人間商人「ほいよ! 金貨2枚で良いよ!」
勇者「そんなに安くていいのかい?」
人間商人「この祭りの販売物の仕入れは、
半額は都市の委員会さんがもってくれるんだとさ。
それで今日は大盤振る舞いって訳だ!」
勇者「そうだったのか~。うっわぁ、良い匂いだなぁ!」
人間商人「そりゃそうだ。この焼き豚は、砂丘の国の
秘伝のスパイスで味付けしてあるんだから。
兄ちゃん、良い買い物をしたよ!」
~♪ ~~♪
勇者「へぇ、随分賑やかだな」
東の砦将「ああ、思いつきの突貫企画にしちゃ、良い線行ってるな」
勇者「良い匂いだ」
東の砦将「こいつぁ、焼き豚だな?
おい懐かしいな! おい、黒騎士。一切れ買おうぜ」
勇者「おう、そうしよう、そうしよう!」
北の砦将「冷たいエールもなっ」
人間商人「らっしゃい!」
勇者「その良く味の染みてそうなところを4切れくれ!」
人間商人「ほいよ! 金貨2枚で良いよ!」
勇者「そんなに安くていいのかい?」
人間商人「この祭りの販売物の仕入れは、
半額は都市の委員会さんがもってくれるんだとさ。
それで今日は大盤振る舞いって訳だ!」
勇者「そうだったのか~。うっわぁ、良い匂いだなぁ!」
人間商人「そりゃそうだ。この焼き豚は、砂丘の国の
秘伝のスパイスで味付けしてあるんだから。
兄ちゃん、良い買い物をしたよ!」
90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 19:22:34.47 ID:I63MLpWkP
東の砦将「エールをくれ、ジョッキで二杯だ!」
魔族商人「こりゃぁ、東の大将じゃねぇですか」
東の砦将「ああ、すまねぇな。邪魔をして」
魔族商人「いやいや、とんでもねぇ。二杯ですね?
きゅっと冷えた所を出しますから、待っててくだせえよ」
東の砦将「たのんだぜ。……どうだい? 案配は」
魔族商人「盛況ですねぇ。打ち壊し団も、今日ばっかりは
出ねぇと思いますよ。こんなに楽しい祭りなんだもの」
東の砦将「だといいがなぁ」
魔族商人「なんせ、戦いがないのが一番ですや。
もうね、戦争はまっぴらごめんですよ。焼け出されるのも
おわれるのも、そりゃぁ辛いもんでがしょう?」
東の砦将「ああ、誓ってそんなことには
成らないようにするととっつぁんに約束するよ」
魔族商人「はははは! 人間の約束かぁ……。
でも、将軍様のだもんな! この都市ならそれも
ありかもしれないなぁ。ほら、二杯だよ! 冷たいよ!」
東の砦将「おお、酒手はここに置くぜっ」
魔族商人「こりゃぁ、東の大将じゃねぇですか」
東の砦将「ああ、すまねぇな。邪魔をして」
魔族商人「いやいや、とんでもねぇ。二杯ですね?
きゅっと冷えた所を出しますから、待っててくだせえよ」
東の砦将「たのんだぜ。……どうだい? 案配は」
魔族商人「盛況ですねぇ。打ち壊し団も、今日ばっかりは
出ねぇと思いますよ。こんなに楽しい祭りなんだもの」
東の砦将「だといいがなぁ」
魔族商人「なんせ、戦いがないのが一番ですや。
もうね、戦争はまっぴらごめんですよ。焼け出されるのも
おわれるのも、そりゃぁ辛いもんでがしょう?」
東の砦将「ああ、誓ってそんなことには
成らないようにするととっつぁんに約束するよ」
魔族商人「はははは! 人間の約束かぁ……。
でも、将軍様のだもんな! この都市ならそれも
ありかもしれないなぁ。ほら、二杯だよ! 冷たいよ!」
東の砦将「おお、酒手はここに置くぜっ」
93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 19:26:36.58 ID:I63MLpWkP
~♪ ~~♪
勇者「おー。大将、買ってきたぜ?」
東の砦将「こっちもエール仕入れてきたぞ」
勇者「食おう、食おう」
東の砦将「よしきた。くっはぁ! んめぇなぁ!」
勇者「この火傷しそうな所を噛みちぎって、じゅわーってのがな!」
東の砦将「そいつを、この冷たいエールで流し込むと!
最高だな、おい。やっぱ食い物ってのはこうじゃなきゃ!」
~♪ ~~♪
火竜公女「ここにおったかや」
魔族娘「あ、あの……ここ、こ、こんばんわっ」
勇者「あ?」
東の砦将「出たよ」
火竜公女「出た、とはなんですか。
視察も公務だと再三言っておいたではないですか。
それをお二人でこっそりと」
勇者「べ、べつにこっそりって訳じゃないし」
東の砦将「なぁ? 部下にだって云ってきたし」
勇者「俺……部下居ない……」
勇者「おー。大将、買ってきたぜ?」
東の砦将「こっちもエール仕入れてきたぞ」
勇者「食おう、食おう」
東の砦将「よしきた。くっはぁ! んめぇなぁ!」
勇者「この火傷しそうな所を噛みちぎって、じゅわーってのがな!」
東の砦将「そいつを、この冷たいエールで流し込むと!
最高だな、おい。やっぱ食い物ってのはこうじゃなきゃ!」
~♪ ~~♪
火竜公女「ここにおったかや」
魔族娘「あ、あの……ここ、こ、こんばんわっ」
勇者「あ?」
東の砦将「出たよ」
火竜公女「出た、とはなんですか。
視察も公務だと再三言っておいたではないですか。
それをお二人でこっそりと」
勇者「べ、べつにこっそりって訳じゃないし」
東の砦将「なぁ? 部下にだって云ってきたし」
勇者「俺……部下居ない……」
98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 19:32:23.87 ID:I63MLpWkP
魔族娘「ご、ご、ご……あぅあぅ」
火竜公女「妾を振り切って出掛けるのがすでに
やましさの証です、黒騎士殿っ!」
勇者「は、はいぃ?」
火竜公女「妾は黒騎士殿の妻なのです。
なんて連れない態度なのですか?
火竜の一族でも涙が大河となってしまいましょう」
勇者「妻じゃないです」
火竜公女「そのような手練手管を用いずとも
妾の心も身体も、我が君の物」
勇者「俺のじゃないしっ。何の関係もしてませんしっ」
魔族娘「ご、ご、ご。ごめんなさいっ」
勇者「いや、魔族娘は悪くないから」
魔族娘「いえ、その……黒騎士様が、出掛けたの……
その……云ってしまった……ので、その
ご、ごめんなさい」
勇者「まぁ、どっちにしろ、すぐばれたよ。うん」 がくり
火竜公女「妾を振り切って出掛けるのがすでに
やましさの証です、黒騎士殿っ!」
勇者「は、はいぃ?」
火竜公女「妾は黒騎士殿の妻なのです。
なんて連れない態度なのですか?
火竜の一族でも涙が大河となってしまいましょう」
勇者「妻じゃないです」
火竜公女「そのような手練手管を用いずとも
妾の心も身体も、我が君の物」
勇者「俺のじゃないしっ。何の関係もしてませんしっ」
魔族娘「ご、ご、ご。ごめんなさいっ」
勇者「いや、魔族娘は悪くないから」
魔族娘「いえ、その……黒騎士様が、出掛けたの……
その……云ってしまった……ので、その
ご、ごめんなさい」
勇者「まぁ、どっちにしろ、すぐばれたよ。うん」 がくり
104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 19:39:47.33 ID:I63MLpWkP
~♪ ~~♪
東の砦将「それにしても、着飾ってるじゃないか?」
火竜公女「当然です。……だって東の砦将様が、
“縁日って云えば、庶民の娘も着飾ってくる”って
仰ったんじゃありませんか?」
勇者「でも、ちょっと布すくなくね?」
東の砦将「ははは! そうだそうだ、云ったんだっけ。
それになんだなぁ、見ようによっては、東の衣装に
似て無くもないような、奇天烈なような……」
火竜公女「急いでしらべさせたのですよ。
仕立てさせるのに手間がかかりましたが」
勇者「俺スルー……」
魔族娘「ううう、なんか、みなさんが……その……
み、見てるような……」
東の砦将「おお、魔族の嬢ちゃんも可愛い格好させてもらって」
火竜公女「この娘に着替えさせるのに手間取ったのですわ。
まったくとんだ愚図ですこと」
魔族娘「す、す、すみません……その、ごめんなさい」
東の砦将「それにしても、着飾ってるじゃないか?」
火竜公女「当然です。……だって東の砦将様が、
“縁日って云えば、庶民の娘も着飾ってくる”って
仰ったんじゃありませんか?」
勇者「でも、ちょっと布すくなくね?」
東の砦将「ははは! そうだそうだ、云ったんだっけ。
それになんだなぁ、見ようによっては、東の衣装に
似て無くもないような、奇天烈なような……」
火竜公女「急いでしらべさせたのですよ。
仕立てさせるのに手間がかかりましたが」
勇者「俺スルー……」
魔族娘「ううう、なんか、みなさんが……その……
み、見てるような……」
東の砦将「おお、魔族の嬢ちゃんも可愛い格好させてもらって」
火竜公女「この娘に着替えさせるのに手間取ったのですわ。
まったくとんだ愚図ですこと」
魔族娘「す、す、すみません……その、ごめんなさい」
106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 19:45:50.35 ID:I63MLpWkP
火竜公女「いいえ。良いんですっ」
魔族娘 びくっ
火竜公女「たかが下女とは云っても我が君に仕える以上
最低限この程度、と云うたしなみと
美麗さが必要なのです。
だいたい、魔族の未婚の女性が
肉体を誇示しなくてどうしますっ!」
魔族娘「それは竜族のことであって……ごにょごにょ……」
火竜公女「魔族の常識ですっ」
魔族娘「ひゃ、ひゃ……ひゃいっ!」
勇者「おー。焼き馬鈴薯だよ、こんなとこまで」
東の砦将「あれはこのあたりの食い物だぞ」
勇者「そういえば魔界原産だったっけ。食うか?」
東の砦将「食おう、食おう! 美味いぞ!」
火竜公女「我が君?」
勇者「美味いな、バターが最高だな!」
東の砦将「だろう? このまろやかな岩塩がな」
火竜公女「わ が き み っ!!」
勇者「はいっ!?」
魔族娘 びくっ
火竜公女「たかが下女とは云っても我が君に仕える以上
最低限この程度、と云うたしなみと
美麗さが必要なのです。
だいたい、魔族の未婚の女性が
肉体を誇示しなくてどうしますっ!」
魔族娘「それは竜族のことであって……ごにょごにょ……」
火竜公女「魔族の常識ですっ」
魔族娘「ひゃ、ひゃ……ひゃいっ!」
勇者「おー。焼き馬鈴薯だよ、こんなとこまで」
東の砦将「あれはこのあたりの食い物だぞ」
勇者「そういえば魔界原産だったっけ。食うか?」
東の砦将「食おう、食おう! 美味いぞ!」
火竜公女「我が君?」
勇者「美味いな、バターが最高だな!」
東の砦将「だろう? このまろやかな岩塩がな」
火竜公女「わ が き み っ!!」
勇者「はいっ!?」
109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 19:53:09.65 ID:I63MLpWkP
火竜公女「いかがです?」 くるんっ
勇者「いかがって? 良い縁日だな」
火竜公女「いかがでしょう?」 ふわり、くるんっ
魔族娘「ご、ご、ごめんなさい、黒騎士様」
勇者「美味いぞ、馬鈴薯食うか?」
火竜公女「い、い、いかがですか!?」 くるんっ
勇者「えーと」
東の砦将(小声)「おい、その、あんだろ、もうちょっとこう」
勇者(小声)「へ?」
東の砦将(小声)「服褒めるとかさ」
火竜公女 ゴゴゴゴゴ
勇者「あー、うん! よく似合ってるぞっ。
公女はスタイルが良いからどんな服でも似合うけれど、
今日のは異国情緒が合って素敵だな!
……その、ちょっと露出が多いような
気がしないでもないが、祭りだしな!」
東の砦将「あ、馬鹿。それは褒めすぎだ、知らんからなっ」
火竜公女「そ、そ、そうですかっ!? 我が君っ!
妾はっ。妾は三国一の果報者でございます!」
勇者「いかがって? 良い縁日だな」
火竜公女「いかがでしょう?」 ふわり、くるんっ
魔族娘「ご、ご、ごめんなさい、黒騎士様」
勇者「美味いぞ、馬鈴薯食うか?」
火竜公女「い、い、いかがですか!?」 くるんっ
勇者「えーと」
東の砦将(小声)「おい、その、あんだろ、もうちょっとこう」
勇者(小声)「へ?」
東の砦将(小声)「服褒めるとかさ」
火竜公女 ゴゴゴゴゴ
勇者「あー、うん! よく似合ってるぞっ。
公女はスタイルが良いからどんな服でも似合うけれど、
今日のは異国情緒が合って素敵だな!
……その、ちょっと露出が多いような
気がしないでもないが、祭りだしな!」
東の砦将「あ、馬鹿。それは褒めすぎだ、知らんからなっ」
火竜公女「そ、そ、そうですかっ!? 我が君っ!
妾はっ。妾は三国一の果報者でございます!」
123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 20:04:29.19 ID:I63MLpWkP
――冬越しの村、魔王の屋敷、執務室
魔王「ふむ……」
メイド長「今月に入って、もう2度ですから」
魔王「間隔も短くなってきているな」
メイド長「ええ、限界かと……」
魔王「あと、どれくらい余裕がある?」
メイド長「早ければ、早いに越したことはありませんが。
そうですね……一週間程度なら」
魔王「よかろう。一週間後だ」
メイド長「……心中、お察しいたします」
魔王「いや、なに。二年近くだ。良くもったものさ。
いずれこの日が来るとは判っていた」
メイド長「はいっ」
魔王「冥府宮に我が寝台を運ばせておけ」
メイド長「承りました」
魔王「人間界の仕事の後始末を急がねばな」
メイド長「はい」
魔王「そのような顔をするな」
メイド長「……」
魔王「すぐに戻れる。すぐにまた会えるさ」
魔王「ふむ……」
メイド長「今月に入って、もう2度ですから」
魔王「間隔も短くなってきているな」
メイド長「ええ、限界かと……」
魔王「あと、どれくらい余裕がある?」
メイド長「早ければ、早いに越したことはありませんが。
そうですね……一週間程度なら」
魔王「よかろう。一週間後だ」
メイド長「……心中、お察しいたします」
魔王「いや、なに。二年近くだ。良くもったものさ。
いずれこの日が来るとは判っていた」
メイド長「はいっ」
魔王「冥府宮に我が寝台を運ばせておけ」
メイド長「承りました」
魔王「人間界の仕事の後始末を急がねばな」
メイド長「はい」
魔王「そのような顔をするな」
メイド長「……」
魔王「すぐに戻れる。すぐにまた会えるさ」
128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 20:12:48.73 ID:I63MLpWkP
――鉄の国、郊外の丘の上
しゅいんっ!
魔王「ふぅ、こちらはまだ空気が湿っているな」
メイド姉「頭の中がくわんくわんします……」
勇者「大丈夫か」
メイド姉「は、はい……」
魔王「無理はせず、大きく息を吸え」
勇者「考えてみたら転移呪文は初体験だったな」
メイド姉「はい。なんだか、目眩みたいで……。
ふぅ、もう大丈夫です」
魔王「転移酔いだな、仕方がない」
勇者「ゆっくり歩けば、回復するだろう」
ざっ、ざくっ、ざくっ
魔王「街までは、20分と云うところか」
勇者「そんなもんかな」
メイド姉「あれが鉄の国の都ですか! 大きいですねぇ!」
魔王「うむ、煙がたなびいているだろう?
数多くの工房が並んでおるのだ」
しゅいんっ!
魔王「ふぅ、こちらはまだ空気が湿っているな」
メイド姉「頭の中がくわんくわんします……」
勇者「大丈夫か」
メイド姉「は、はい……」
魔王「無理はせず、大きく息を吸え」
勇者「考えてみたら転移呪文は初体験だったな」
メイド姉「はい。なんだか、目眩みたいで……。
ふぅ、もう大丈夫です」
魔王「転移酔いだな、仕方がない」
勇者「ゆっくり歩けば、回復するだろう」
ざっ、ざくっ、ざくっ
魔王「街までは、20分と云うところか」
勇者「そんなもんかな」
メイド姉「あれが鉄の国の都ですか! 大きいですねぇ!」
魔王「うむ、煙がたなびいているだろう?
数多くの工房が並んでおるのだ」
132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 20:18:25.84 ID:I63MLpWkP
勇者「それにしても、今日は何の仕事なんだ?」
魔王「ああ、頼んでおいた機械の試作が出来たそうでな」
勇者「見に来たのか? メイド姉も?」
魔王「最近、わたしの仕事を色々教えておるのだ。
貴族よりも商人よりも筋が良いぞ」
メイド姉「そんなこと、ないです……」
魔王「ほれ、市街地に入るぞ」
門衛「止まれ!」
門衛「どこからやってきた、商人か?」
魔王「冬の国の学者だ。これが身分証明」
門衛「冬の国の国王印。そうでしたか! どうぞっ!」
魔王「身分も、役に立つものだな」
勇者「面倒がないのはありがたいよ、ほんと」
メイド姉「すごいですねぇ! 家がみんな石で出来てますよ?」
魔王「こらこら、上ばかり見ては危ないぞ」
魔王「ああ、頼んでおいた機械の試作が出来たそうでな」
勇者「見に来たのか? メイド姉も?」
魔王「最近、わたしの仕事を色々教えておるのだ。
貴族よりも商人よりも筋が良いぞ」
メイド姉「そんなこと、ないです……」
魔王「ほれ、市街地に入るぞ」
門衛「止まれ!」
門衛「どこからやってきた、商人か?」
魔王「冬の国の学者だ。これが身分証明」
門衛「冬の国の国王印。そうでしたか! どうぞっ!」
魔王「身分も、役に立つものだな」
勇者「面倒がないのはありがたいよ、ほんと」
メイド姉「すごいですねぇ! 家がみんな石で出来てますよ?」
魔王「こらこら、上ばかり見ては危ないぞ」
135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 20:23:40.86 ID:I63MLpWkP
勇者「で、どこへ行くんだ?」
メイド姉「どこでしょう?」
魔王「うむ、判らん」
勇者「なんだよ、頼りないな。手紙を見せろよ」
魔王「これだ」 ぺらっ
勇者「ああ、これは川沿いの職人街だな」
メイド姉「お詳しいのですね!」
勇者「勇者は風来坊だからな、色んな街でもめ事を
解決する旅だから地理だけは詳しくなるんだよ」
メイド姉「すごい特技ですよ」
魔王「わたしの物だからな。ふふんっ」
勇者「はいはい」
魔王「ほほう、あれは鉄か? こちらの工房では、銀細工か」
勇者「興味津々だな」
魔王「現場を見るのは初めてだからな」
勇者「今日は、何の工房にいくんだ? 武器か、農具か?」
魔王「工房自体は、銅の鋳造を行っている工房だ。
だが武器でも農具でもないな」
メイド姉「どこでしょう?」
魔王「うむ、判らん」
勇者「なんだよ、頼りないな。手紙を見せろよ」
魔王「これだ」 ぺらっ
勇者「ああ、これは川沿いの職人街だな」
メイド姉「お詳しいのですね!」
勇者「勇者は風来坊だからな、色んな街でもめ事を
解決する旅だから地理だけは詳しくなるんだよ」
メイド姉「すごい特技ですよ」
魔王「わたしの物だからな。ふふんっ」
勇者「はいはい」
魔王「ほほう、あれは鉄か? こちらの工房では、銀細工か」
勇者「興味津々だな」
魔王「現場を見るのは初めてだからな」
勇者「今日は、何の工房にいくんだ? 武器か、農具か?」
魔王「工房自体は、銅の鋳造を行っている工房だ。
だが武器でも農具でもないな」
141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 20:28:42.95 ID:I63MLpWkP
魔王「勇者とは以前、教育について話したことがあったな」
勇者「ああ、そうだな」
メイド姉「……」
魔王「わたしは、教育はこの世界においてもっともっと
大きな力を持っているのじゃないかと思う」
勇者「……ふむ」
魔王「本当の世界の広さは誰にも判らないほど広いのだ。
それを人間は……魂ある存在は、己の常識や、知識に
当てはめて知ったつもりになる」
勇者「それは、覚えがあるなぁ。
自分のやり方しかないと思い込んだり、
自分が正しいと思い込んだり」
メイド姉「はい……」
魔王「それらの闇を払うには、教育が必要だ。
しかも、教育がより重要である理由は
“教育が重要であるという事実”も教育がないと
理解されないという点にある」
勇者「ん? ちょっと難しいぞ」
勇者「ああ、そうだな」
メイド姉「……」
魔王「わたしは、教育はこの世界においてもっともっと
大きな力を持っているのじゃないかと思う」
勇者「……ふむ」
魔王「本当の世界の広さは誰にも判らないほど広いのだ。
それを人間は……魂ある存在は、己の常識や、知識に
当てはめて知ったつもりになる」
勇者「それは、覚えがあるなぁ。
自分のやり方しかないと思い込んだり、
自分が正しいと思い込んだり」
メイド姉「はい……」
魔王「それらの闇を払うには、教育が必要だ。
しかも、教育がより重要である理由は
“教育が重要であるという事実”も教育がないと
理解されないという点にある」
勇者「ん? ちょっと難しいぞ」
144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 20:39:19.79 ID:I63MLpWkP
メイド姉「それは、そうなんです」
勇者「判るのか? メイド姉は?」
メイド姉「はい。そのぅ……
たとえば、農奴は、教育が、つまり知識が少なくて
“もっと良い世界がある”事もよく判ってないんです。
だからずっと貧しいんです」
勇者「でも、地主だのなんだのは良い生活してるだろ?
そういうの見てるじゃないか」
メイド姉「でも、“そっちに行く方法”が判らないんです。
ううん、正確には“そっちに行けるかもしれない”って
事すらも判らないんです」
勇者「……」
魔王「……」
メイド姉「それは、とても不幸なことです。
だからわたしには当主様の話はよく判ります」
勇者「そっか……」
勇者「判るのか? メイド姉は?」
メイド姉「はい。そのぅ……
たとえば、農奴は、教育が、つまり知識が少なくて
“もっと良い世界がある”事もよく判ってないんです。
だからずっと貧しいんです」
勇者「でも、地主だのなんだのは良い生活してるだろ?
そういうの見てるじゃないか」
メイド姉「でも、“そっちに行く方法”が判らないんです。
ううん、正確には“そっちに行けるかもしれない”って
事すらも判らないんです」
勇者「……」
魔王「……」
メイド姉「それは、とても不幸なことです。
だからわたしには当主様の話はよく判ります」
勇者「そっか……」
145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 20:42:16.77 ID:I63MLpWkP
勇者……この話の主人公の一人。男、黒髪。
魔界の奥、魔王城へ一人と乗り込んだ戦闘能力の持ち主。
魔王を倒しても戦争は終わらずより酷い結果になると説得され
魔王の仲間となった。●●。
魔王……この話の主人公の一人。女性、むちむち体型。
(歴代の中では)戦闘能力が低い魔王。広範な知識を持ち
戦争を経済的観点から分析、戦後処理を含めて「まだ見ぬ
未来」を模索しようと勇者に持ちかける。お肉が気になるお年頃。
女騎士……この話の主人公の一人。女性 。
かつて勇者とパーティーを組んでいた3人のうち1人。
今は湖畔修道会という光の精霊をあがめる教会の位置派閥を
率いている。冬越し村修道院へと居を移し、魔王と勇者の
屋敷に足繁く通う。
冬寂王……この話の主人公の一人。男性。冬の国の王。
戦で戦死した父に代わり、冬の国を率いることになった若き英傑。
開明的な思想の持ち主で、鉄の国、氷の国との連合国家を目指す
ことを表明。魔王に興味を持つ。
メイド姉……この話の主人公の一人。女性。亜麻色の髪。
冬越し村へとやってきた魔王たちの屋敷へ逃げ込んだ農奴姉妹
のうち姉の方。思索的な性格で、書類の扱いに長ける。
当初はメイド長の下でメイドの仕事全般をおこなっていたが
その能力を見いだされて魔王の秘書のような仕事もすることに。
――書き始めたら切り無くなってきたな。
魔界の奥、魔王城へ一人と乗り込んだ戦闘能力の持ち主。
魔王を倒しても戦争は終わらずより酷い結果になると説得され
魔王の仲間となった。●●。
魔王……この話の主人公の一人。女性、むちむち体型。
(歴代の中では)戦闘能力が低い魔王。広範な知識を持ち
戦争を経済的観点から分析、戦後処理を含めて「まだ見ぬ
未来」を模索しようと勇者に持ちかける。お肉が気になるお年頃。
女騎士……この話の主人公の一人。女性 。
かつて勇者とパーティーを組んでいた3人のうち1人。
今は湖畔修道会という光の精霊をあがめる教会の位置派閥を
率いている。冬越し村修道院へと居を移し、魔王と勇者の
屋敷に足繁く通う。
冬寂王……この話の主人公の一人。男性。冬の国の王。
戦で戦死した父に代わり、冬の国を率いることになった若き英傑。
開明的な思想の持ち主で、鉄の国、氷の国との連合国家を目指す
ことを表明。魔王に興味を持つ。
メイド姉……この話の主人公の一人。女性。亜麻色の髪。
冬越し村へとやってきた魔王たちの屋敷へ逃げ込んだ農奴姉妹
のうち姉の方。思索的な性格で、書類の扱いに長ける。
当初はメイド長の下でメイドの仕事全般をおこなっていたが
その能力を見いだされて魔王の秘書のような仕事もすることに。
――書き始めたら切り無くなってきたな。
154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 20:49:05.09 ID:I63MLpWkP
魔王「さて、そんな風に重要な教育だが、
重大な欠点というか、弱点がある。判るか?」
勇者「なんだろう? なぁ?」
メイド姉「判りませんね……」
魔王「それは、速度が遅いと云うことだ。
一人の人間が持つ知識を他の一人に伝えるのには
莫大な時間がかかる。
しかも、同時に多数の人間に伝えるのには限界がある。
もし仮に、一人の教師が自分と同等の生徒一人を
育てるのに一生の時間がかかるならば、
知識を持っている人間は増えないことになるではないか」
勇者「あー。まぁ、云われてみればそうだなぁ」
メイド姉「でも、知識は尊い物ですからそれも仕方ないの
ではないでしょうか? 当主様を学べば学ぶほど、
追いつける気がしませんし……」
魔王「それもまた、勝手に思い込んだ限界だ」
勇者「そう、なのか?」
重大な欠点というか、弱点がある。判るか?」
勇者「なんだろう? なぁ?」
メイド姉「判りませんね……」
魔王「それは、速度が遅いと云うことだ。
一人の人間が持つ知識を他の一人に伝えるのには
莫大な時間がかかる。
しかも、同時に多数の人間に伝えるのには限界がある。
もし仮に、一人の教師が自分と同等の生徒一人を
育てるのに一生の時間がかかるならば、
知識を持っている人間は増えないことになるではないか」
勇者「あー。まぁ、云われてみればそうだなぁ」
メイド姉「でも、知識は尊い物ですからそれも仕方ないの
ではないでしょうか? 当主様を学べば学ぶほど、
追いつける気がしませんし……」
魔王「それもまた、勝手に思い込んだ限界だ」
勇者「そう、なのか?」
159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 20:53:49.16 ID:I63MLpWkP
――鉄の国、職人街、大型工房
がちゃり
職人長「やぁ。これは学士様! 長旅、お疲れになったでしょう!」
魔王「世話になっているな、職人長」
職人長「いやなんの! この年齢になって
まだこんなに面白い仕事をくださるなんて、
みなの意気も上がっておりますよ」
メイド姉「広い工房ですね!」
職人長「ああ、あまり歩き回ると危険ですよ、お嬢さん」
プシュー!!
職人長「熱い蒸気なども使っていますからね!」
メイド姉「はいっ」
職人長「さて、お疲れでしょう。お茶でも入れますので、
裏の屋敷の方にでも……」
魔王「いや、結構。何よりも、まずは試作品を見たい」
職人長「あははは。冬の国で話したときと
その性急さは変わりませんなぁ! さぁ、お連れ様も
こちらへどうぞ。専用の倉庫を設けたのですよ」
がちゃり
職人長「やぁ。これは学士様! 長旅、お疲れになったでしょう!」
魔王「世話になっているな、職人長」
職人長「いやなんの! この年齢になって
まだこんなに面白い仕事をくださるなんて、
みなの意気も上がっておりますよ」
メイド姉「広い工房ですね!」
職人長「ああ、あまり歩き回ると危険ですよ、お嬢さん」
プシュー!!
職人長「熱い蒸気なども使っていますからね!」
メイド姉「はいっ」
職人長「さて、お疲れでしょう。お茶でも入れますので、
裏の屋敷の方にでも……」
魔王「いや、結構。何よりも、まずは試作品を見たい」
職人長「あははは。冬の国で話したときと
その性急さは変わりませんなぁ! さぁ、お連れ様も
こちらへどうぞ。専用の倉庫を設けたのですよ」
162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 20:57:58.44 ID:I63MLpWkP
魔王「これか!」
勇者「でかいなぁ!」
メイド姉「これは、なんですか……?
脱穀機に似ているような、もっと大きなような……」
職人長「外側は仮組ですから、
どうしても大きくなってしまいました。
もっとも本体は小さい物です。巨大に見えるのは、
ある種の棚というか、倉庫ですね」
勇者「倉庫?」
職人長「いらっしゃい」
カツン、カツン、カツン
メイド姉「引き出しと、棚がすごい数ですね」
職人長「これが入っているんですよ」 コロンッ
勇者「これは、印章?」
メイド姉「ハンコですか?」
職人長「ええ、『活字』と呼んでいます」
魔王「これが、私たちの新しい武器さ」
職人長「活版印刷機と名付けました」
勇者「でかいなぁ!」
メイド姉「これは、なんですか……?
脱穀機に似ているような、もっと大きなような……」
職人長「外側は仮組ですから、
どうしても大きくなってしまいました。
もっとも本体は小さい物です。巨大に見えるのは、
ある種の棚というか、倉庫ですね」
勇者「倉庫?」
職人長「いらっしゃい」
カツン、カツン、カツン
メイド姉「引き出しと、棚がすごい数ですね」
職人長「これが入っているんですよ」 コロンッ
勇者「これは、印章?」
メイド姉「ハンコですか?」
職人長「ええ、『活字』と呼んでいます」
魔王「これが、私たちの新しい武器さ」
職人長「活版印刷機と名付けました」
169: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 21:03:57.87 ID:I63MLpWkP
――冬越しの村、魔王の屋敷、深夜の廊下
女騎士「……」じぃぃっ
魔王「……」じぃっ
女騎士「な、なんで、こ、こんなところにっ」
魔王「それはこちらの台詞だ」
女騎士「いや、その洗面所はどこかなぁと」
魔王「洗面所は廊下の反対だ」
女騎士「大体、魔王は何でこんな所に?」
魔王「そっ、それはだな」
女騎士「それは?」
魔王「ええい、なんだ!
女騎士のその白いふりふりの寝間着は!
これは、き、き、絹ではないかっ!!??」
女騎士「いいではないか、人が何を着ようとっ!」
魔王「良くはないぞっ。そんなもの」
女騎士「それを言うなら、魔王は何で枕を抱えているんだっ」
女騎士「……」じぃぃっ
魔王「……」じぃっ
女騎士「な、なんで、こ、こんなところにっ」
魔王「それはこちらの台詞だ」
女騎士「いや、その洗面所はどこかなぁと」
魔王「洗面所は廊下の反対だ」
女騎士「大体、魔王は何でこんな所に?」
魔王「そっ、それはだな」
女騎士「それは?」
魔王「ええい、なんだ!
女騎士のその白いふりふりの寝間着は!
これは、き、き、絹ではないかっ!!??」
女騎士「いいではないか、人が何を着ようとっ!」
魔王「良くはないぞっ。そんなもの」
女騎士「それを言うなら、魔王は何で枕を抱えているんだっ」
177: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 21:10:37.74 ID:I63MLpWkP
魔王「……それはその」じりじり
女騎士「そこ、ドアににじり寄るんじゃない」
魔王「べつにそんなことはしていない」
女騎士「勇者の部屋にこんな夜更けに行くつもりなのか?」
魔王「か、かまわないではないか。夜の茶会だ」
女騎士「それならこっちだって夜のお茶会決行だっ」
魔王「どこの世界に絹の寝間着で男の部屋に
尋ねるお茶会があるのだ! この馬鹿!」
女騎士「枕持参でお茶会と言い切る馬鹿よりは
まだましな馬鹿だ!」
魔王「うむ。あー、こほん。女騎士」
女騎士「なに?」
魔王「わたしは女騎士を人間界で
ほとんど唯一の友達だと思っている……」
女騎士「……うん、そうだね。魔王」
魔王「だから見逃してくれ」
女騎士「それはダメ」
女騎士「そこ、ドアににじり寄るんじゃない」
魔王「べつにそんなことはしていない」
女騎士「勇者の部屋にこんな夜更けに行くつもりなのか?」
魔王「か、かまわないではないか。夜の茶会だ」
女騎士「それならこっちだって夜のお茶会決行だっ」
魔王「どこの世界に絹の寝間着で男の部屋に
尋ねるお茶会があるのだ! この馬鹿!」
女騎士「枕持参でお茶会と言い切る馬鹿よりは
まだましな馬鹿だ!」
魔王「うむ。あー、こほん。女騎士」
女騎士「なに?」
魔王「わたしは女騎士を人間界で
ほとんど唯一の友達だと思っている……」
女騎士「……うん、そうだね。魔王」
魔王「だから見逃してくれ」
女騎士「それはダメ」
186: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 21:15:46.92 ID:I63MLpWkP
魔王「後生だ。事情があるのだ」
女騎士「こっちだって事情があるの」
魔王「どんな?」
女騎士「これだっ」 ばっ!
魔王「なになに? 『我が君への永久の忠誠を誓って』?
これは女物のハンカチではないか……。
え? ええっ!?」
女騎士「そうだ、あんの火竜公女だ。
こっちがなんやかやの仕事で忙殺されていると思って、
こんな粉かけるとは喧嘩を売るにもほどがある」ゴゴゴ
魔王「確かに……」ゴゴゴ
女騎士「そういう訳なので、今宵の私は退くに退けん。
愛剣・神性惨殺も血に飢えている」
魔王「どんな事情だ! こちらだって、残り数日のっ」
女騎士「?」
魔王「いや、なんでもない。とにかく、こちらも退けないっ」
メイド長「それでは私めが」
魔王・女騎士「え?」
女騎士「こっちだって事情があるの」
魔王「どんな?」
女騎士「これだっ」 ばっ!
魔王「なになに? 『我が君への永久の忠誠を誓って』?
これは女物のハンカチではないか……。
え? ええっ!?」
女騎士「そうだ、あんの火竜公女だ。
こっちがなんやかやの仕事で忙殺されていると思って、
こんな粉かけるとは喧嘩を売るにもほどがある」ゴゴゴ
魔王「確かに……」ゴゴゴ
女騎士「そういう訳なので、今宵の私は退くに退けん。
愛剣・神性惨殺も血に飢えている」
魔王「どんな事情だ! こちらだって、残り数日のっ」
女騎士「?」
魔王「いや、なんでもない。とにかく、こちらも退けないっ」
メイド長「それでは私めが」
魔王・女騎士「え?」
193: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 21:24:27.59 ID:I63MLpWkP
魔王・女騎士「えぇっ!?」
メイド長「夜伽でしょう?
そんなことでもめるなんてはしたないですわ。
不肖、私がお務めさせて頂きます。
それで角が立たないでしょう?」
魔王「なんて事を云うんだメイド長!?」
女騎士「まったくだ、なんて横暴なんだ! 恥を知れっ!」
メイド長「だいたい未経験者の相手なのですから
そんなにぴりぴりした気持ちで居てどうします?
成功もおぼつきませんよ。
こんな時こそ包容力と寛容の精神が必要なのです。
閨房で殿方を甘えさせられなければ一人前とはいえますまい」
魔王「それは、そうかもしれんが……」
女騎士「たしかに婦女としてはずべきであった」
メイド長「ではちゃっちゃと済ませてきますので、
そこで待っててくださいますね」
魔王「それとこれとを一緒にするなぁ!」
女騎士「それは騎士として諾とは云えないぞ!!」
メイド長「では、廊下でなんか騒がないで
お二人で。いえ、三人で仲良くしてください」 にこりっ
がちゃ! ポポイッ!
メイド長「夜伽でしょう?
そんなことでもめるなんてはしたないですわ。
不肖、私がお務めさせて頂きます。
それで角が立たないでしょう?」
魔王「なんて事を云うんだメイド長!?」
女騎士「まったくだ、なんて横暴なんだ! 恥を知れっ!」
メイド長「だいたい未経験者の相手なのですから
そんなにぴりぴりした気持ちで居てどうします?
成功もおぼつきませんよ。
こんな時こそ包容力と寛容の精神が必要なのです。
閨房で殿方を甘えさせられなければ一人前とはいえますまい」
魔王「それは、そうかもしれんが……」
女騎士「たしかに婦女としてはずべきであった」
メイド長「ではちゃっちゃと済ませてきますので、
そこで待っててくださいますね」
魔王「それとこれとを一緒にするなぁ!」
女騎士「それは騎士として諾とは云えないぞ!!」
メイド長「では、廊下でなんか騒がないで
お二人で。いえ、三人で仲良くしてください」 にこりっ
がちゃ! ポポイッ!
199: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 21:29:42.50 ID:I63MLpWkP
――冬越しの村、魔王の屋敷、勇者の部屋
ごろごろごろ、ズテン!
魔王・女騎士「ふぎゃっ!!」
勇者「……なにやってるんだ? お前ら」
女騎士「いや、その。こ、これはな! 事情があるんだ」
魔王「うむ、話せば長い事ながら深くやむにやまれぬ事情が
あるのだ知っての通り世界情勢は混迷を極め我らが立場も
また深い迷夢の中と言って良いというこの時期にだな」
女騎士「他人の錯乱を目にするとちょっと落ち着くな」
魔王「つまり、今後の展望と展開を踏まえた思索の果てに
光明を見いだすべき勇者と我らが腹を割って話すことこ
そが今もっとも求められていることなのではないか?
たしかにぷにぷにと云われるリスクはあるのだが、
我らはそろそろ次のステップを踏むべきなのではないかと」
勇者「落ち着け」 スコン!
魔王「ぐっ!」
ごろごろごろ、ズテン!
魔王・女騎士「ふぎゃっ!!」
勇者「……なにやってるんだ? お前ら」
女騎士「いや、その。こ、これはな! 事情があるんだ」
魔王「うむ、話せば長い事ながら深くやむにやまれぬ事情が
あるのだ知っての通り世界情勢は混迷を極め我らが立場も
また深い迷夢の中と言って良いというこの時期にだな」
女騎士「他人の錯乱を目にするとちょっと落ち着くな」
魔王「つまり、今後の展望と展開を踏まえた思索の果てに
光明を見いだすべき勇者と我らが腹を割って話すことこ
そが今もっとも求められていることなのではないか?
たしかにぷにぷにと云われるリスクはあるのだが、
我らはそろそろ次のステップを踏むべきなのではないかと」
勇者「落ち着け」 スコン!
魔王「ぐっ!」
203: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 21:34:04.82 ID:I63MLpWkP
勇者「で、要約するとどういう事なんだ」
魔王「……」ちらっ
女騎士「……」ちらっ
勇者「アイコンタクトとってんじゃねぇよ」
魔王「ではタイムだ」
勇者「は?」
魔王「あちらで作戦会議をするから、聞くなよ?」
勇者「はぁぁー?」
こそこそっ
女騎士「作戦ってどんな作戦があるんだ」
魔王「これでも私は話し合いの魔王なのだ。
交渉は我が領域。話し合いで決着をつけよう」
女騎士「どんな?」
魔王「上は私で下が女騎士でどうだろう」
女騎士「どこの変 なのだっ。魔王はっ!?」
勇者「ひまだなぁ」
魔王「……」ちらっ
女騎士「……」ちらっ
勇者「アイコンタクトとってんじゃねぇよ」
魔王「ではタイムだ」
勇者「は?」
魔王「あちらで作戦会議をするから、聞くなよ?」
勇者「はぁぁー?」
こそこそっ
女騎士「作戦ってどんな作戦があるんだ」
魔王「これでも私は話し合いの魔王なのだ。
交渉は我が領域。話し合いで決着をつけよう」
女騎士「どんな?」
魔王「上は私で下が女騎士でどうだろう」
女騎士「どこの変 なのだっ。魔王はっ!?」
勇者「ひまだなぁ」
209: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 21:38:10.54 ID:I63MLpWkP
魔王「変 とは何だ? ベッドの上下だ」
女騎士「そ、そうか。済まない、誤解した」
魔王「それでいいか?」
女騎士「ちょっとまって、勇者は?」
魔王「ベッドの上に決まってる」
女騎士「私だけ下じゃないか、どこのいじめだ!」
魔王「だめか、ではタイムシェアリングはどうだ?」
女騎士「たいむしえあ? なにそれ?」
魔王「時間によって案件を共有するのだ」
女騎士「マシそうな提案ね」
魔王「生産性向上のための基礎知識だ」
女騎士「で、具体的には?」
魔王「勇者のベッドを陽のある間は女騎士が、
陽が落ちてからは私が使う」
女騎士「魔王だけ勇者つきではないかっ!?」
勇者「なんか小腹へってきたし」
女騎士「そ、そうか。済まない、誤解した」
魔王「それでいいか?」
女騎士「ちょっとまって、勇者は?」
魔王「ベッドの上に決まってる」
女騎士「私だけ下じゃないか、どこのいじめだ!」
魔王「だめか、ではタイムシェアリングはどうだ?」
女騎士「たいむしえあ? なにそれ?」
魔王「時間によって案件を共有するのだ」
女騎士「マシそうな提案ね」
魔王「生産性向上のための基礎知識だ」
女騎士「で、具体的には?」
魔王「勇者のベッドを陽のある間は女騎士が、
陽が落ちてからは私が使う」
女騎士「魔王だけ勇者つきではないかっ!?」
勇者「なんか小腹へってきたし」
216: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 21:46:44.50 ID:I63MLpWkP
――冬越しの村、魔王の屋敷、勇者の部屋
勇者「なんだこの状況は。何が起きてるんだ!?」
魔王「交渉とは妥協の婉曲な表現でもある。
その現実の哀しい写し絵だ」
女騎士「私だって不本意だ。しかし、しかたない。
“パンが一つ無いときは半分で感謝しなければならない”
そうお祖母ちゃんも云っていた」
勇者「すげぇ粗末な扱いだよなぁ、俺」
魔王「何を言うんだ! 両手に女を抱えて!!
まさか、勇者。……ふ、ふ、不満なのか」
女騎士「火竜のなんとかの方が良いって
云うんじゃないでしょうね!?」
勇者「いや、そうじゃなくてっ」
魔王「ぷ、ぷにぷにだからダメなのか!? 駄肉だからか!?
勇者は私の所有契約なのだぞ」むぎゅっむぎゅっ
女騎士「胸がないとだめなのかっ!?
そんな腐った肉がいいのか?
乙女の最上級は清らかさだぞっ。
神に捧げられた純潔の方がいいに決まってるっ」すりすり
勇者「ううう、なんでだよう。なんでこうなんだよ」
勇者「なんだこの状況は。何が起きてるんだ!?」
魔王「交渉とは妥協の婉曲な表現でもある。
その現実の哀しい写し絵だ」
女騎士「私だって不本意だ。しかし、しかたない。
“パンが一つ無いときは半分で感謝しなければならない”
そうお祖母ちゃんも云っていた」
勇者「すげぇ粗末な扱いだよなぁ、俺」
魔王「何を言うんだ! 両手に女を抱えて!!
まさか、勇者。……ふ、ふ、不満なのか」
女騎士「火竜のなんとかの方が良いって
云うんじゃないでしょうね!?」
勇者「いや、そうじゃなくてっ」
魔王「ぷ、ぷにぷにだからダメなのか!? 駄肉だからか!?
勇者は私の所有契約なのだぞ」むぎゅっむぎゅっ
女騎士「胸がないとだめなのかっ!?
そんな腐った肉がいいのか?
乙女の最上級は清らかさだぞっ。
神に捧げられた純潔の方がいいに決まってるっ」すりすり
勇者「ううう、なんでだよう。なんでこうなんだよ」
230: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 21:52:09.48 ID:I63MLpWkP
魔王「むぅ。このままではメイド長のいうとおりだ」
女騎士「……腹立たしいけど、そうだな」
魔王「一次休戦だ」
女騎士「心得た」
勇者「いつも俺の頭越しに会談がまとまるよ」
魔王「頭越しではないぞ? こうやって耳元で横になっている」
女騎士「うむ、肩に頭をもたせかけているだけだ」
勇者「……」びくびく
魔王「勇者は緊張しているのか?」
女騎士「自分の寝床なんだからそんなことはないだろう」
勇者(緊張してるよっ! しないわけないだろがっ!?)
魔王「まあ落ち着け」
女騎士「うん、戦場では冷静が生死を分けるぞ」
勇者(絶体絶命だ!)
魔王「暖かいなぁ! もふもふだ!」
女騎士「うむ、意外なほどに寝心地が良いな」
女騎士「……腹立たしいけど、そうだな」
魔王「一次休戦だ」
女騎士「心得た」
勇者「いつも俺の頭越しに会談がまとまるよ」
魔王「頭越しではないぞ? こうやって耳元で横になっている」
女騎士「うむ、肩に頭をもたせかけているだけだ」
勇者「……」びくびく
魔王「勇者は緊張しているのか?」
女騎士「自分の寝床なんだからそんなことはないだろう」
勇者(緊張してるよっ! しないわけないだろがっ!?)
魔王「まあ落ち着け」
女騎士「うん、戦場では冷静が生死を分けるぞ」
勇者(絶体絶命だ!)
魔王「暖かいなぁ! もふもふだ!」
女騎士「うむ、意外なほどに寝心地が良いな」
241: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 22:02:03.90 ID:I63MLpWkP
勇者「……すー……すー」
魔王「寝たのか? 勇者」
女騎士「かもしれないな。疲れているのだろうし」
勇者(寝れるかっ。この状況下で寝れる●●が居たら
俺が全部雷撃魔法で電気椅子にしてやるわっ!!)
魔王「勇者の髪は、もふもふだ」
女騎士「うん、大きな犬みたいだね」
魔王「この髪を触るのが好きなのだ。
勇者の髪を整えているのはわたしなのだぞ?」
女騎士「わたしの方が付き合いは長いから。そんなの知ってる」
勇者「……すー……すー」
勇者(だ、だめだ。寝たふりをするしかない。
精神を鎮めるんだ!! 高まれ俺の魂!)
魔王「……」
女騎士「……」なで、なで
魔王「なぁ、女騎士」
女騎士「なに?」
魔王「寝たのか? 勇者」
女騎士「かもしれないな。疲れているのだろうし」
勇者(寝れるかっ。この状況下で寝れる●●が居たら
俺が全部雷撃魔法で電気椅子にしてやるわっ!!)
魔王「勇者の髪は、もふもふだ」
女騎士「うん、大きな犬みたいだね」
魔王「この髪を触るのが好きなのだ。
勇者の髪を整えているのはわたしなのだぞ?」
女騎士「わたしの方が付き合いは長いから。そんなの知ってる」
勇者「……すー……すー」
勇者(だ、だめだ。寝たふりをするしかない。
精神を鎮めるんだ!! 高まれ俺の魂!)
魔王「……」
女騎士「……」なで、なで
魔王「なぁ、女騎士」
女騎士「なに?」
243: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 22:03:10.53 ID:I63MLpWkP
俺なんか主題歌が牧野アンナで聞こえちゃうぜ
まじ負け組(´∇`)
まじ負け組(´∇`)
249: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 22:08:26.33 ID:I63MLpWkP
魔王「わたしは、来週にでも魔界へ帰る」
女騎士「へ?」
勇者(え?)
魔王「いや、なに。魔王の免許更新のようなものでな」
女騎士「免許? 免状みたいなもの?」
魔王「そうだ」
女騎士「そっか……。すぐ帰ってくるの?」
魔王「いや、どうかな。早くて数ヶ月はかかると思う」
女騎士「何かあるの? 魔王……躊躇ってるよね?」
魔王「いや迷いはない。仕方ないことだ。
魔王というのは、何というか……。
魔王以外には上手く説明できないこともあってな。
代々の魔王の墓があるんだが、そこへ詣らないといけない」
女騎士「……」
魔王「それに、魔界にはたくさんの氏族があるが、
それらの多くは人間界侵攻に賛成なのだ。
今戦争が小康状態なのは、魔王であるわたしが
勇者と相打ちになり怪我の療養をしているという話に
なっている事が大きい。
そろそろ姿を見せて、魔族の心をまとめなければ、
かえって暴走した一部の氏族が勝手に戦争を再開する
かもしれない」
女騎士「へ?」
勇者(え?)
魔王「いや、なに。魔王の免許更新のようなものでな」
女騎士「免許? 免状みたいなもの?」
魔王「そうだ」
女騎士「そっか……。すぐ帰ってくるの?」
魔王「いや、どうかな。早くて数ヶ月はかかると思う」
女騎士「何かあるの? 魔王……躊躇ってるよね?」
魔王「いや迷いはない。仕方ないことだ。
魔王というのは、何というか……。
魔王以外には上手く説明できないこともあってな。
代々の魔王の墓があるんだが、そこへ詣らないといけない」
女騎士「……」
魔王「それに、魔界にはたくさんの氏族があるが、
それらの多くは人間界侵攻に賛成なのだ。
今戦争が小康状態なのは、魔王であるわたしが
勇者と相打ちになり怪我の療養をしているという話に
なっている事が大きい。
そろそろ姿を見せて、魔族の心をまとめなければ、
かえって暴走した一部の氏族が勝手に戦争を再開する
かもしれない」
251: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 22:21:00.90 ID:I63MLpWkP
女騎士「でも、それなら……」
勇者(……)
魔王「ん?」
女騎士「魔王は、魔界で戦争賛成派のまっただ中に
取り残されることになるんじゃないのか?
それはすごく危険なように聞こえる」
勇者(……)
魔王「わたしの専門は経済、すなわち交渉だ。
そこまで酷いことにはならないさ。だいたい金も
食料も無しで戦争を続けられる生き物なんて居ないよ」
女騎士「しかし誰か連れてった方が良いだろう?
その……。勇者とか。なんならわたしが行こうかっ」
魔王「いや……」なで……
女騎士「……」
魔王「いいんだ。魔王の墓は、冥府殿というのだが、
そこにはどうせわたし以外は誰も入れないのだ。
ついてきて貰うには及ばない。一人で行く」
勇者(……)
魔王「ん?」
女騎士「魔王は、魔界で戦争賛成派のまっただ中に
取り残されることになるんじゃないのか?
それはすごく危険なように聞こえる」
勇者(……)
魔王「わたしの専門は経済、すなわち交渉だ。
そこまで酷いことにはならないさ。だいたい金も
食料も無しで戦争を続けられる生き物なんて居ないよ」
女騎士「しかし誰か連れてった方が良いだろう?
その……。勇者とか。なんならわたしが行こうかっ」
魔王「いや……」なで……
女騎士「……」
魔王「いいんだ。魔王の墓は、冥府殿というのだが、
そこにはどうせわたし以外は誰も入れないのだ。
ついてきて貰うには及ばない。一人で行く」
253: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/08(火) 22:23:31.94 ID:I63MLpWkP
女騎士「そう……なのか……」
魔王「うん、だから、ちょっとだけ勇者の体温が欲しくてな」
勇者(……)
魔王「駄々をこねてしまった。許されよ」
女騎士「いや……」
魔王「もちろんメイド長はつれてゆく。身を守る程度なら
二人でどうとでもなる」
女騎士「そうか」 ほっ
魔王「こちらの世界のことは、書類を残してゆくし、
馬鈴薯や農業については女騎士も知っての通りだ」
女騎士「うん、修道会に任せて欲しい」
魔王「『同盟』に頼んだニシンも届こう。
そろそろ風車の代金や新型羅針盤の契約料も入ってくるはずだ。
これらの利益管理も『同盟』に依頼してある。
必要なときは相談してくれ」
女騎士「承知した」
魔王「細かいことはみな、メイド姉に教えてある。
そして……。
勇者のことを頼む」
女騎士「わかった。――その命、この剣に賭けて守ろう」
魔王「うん、だから、ちょっとだけ勇者の体温が欲しくてな」
勇者(……)
魔王「駄々をこねてしまった。許されよ」
女騎士「いや……」
魔王「もちろんメイド長はつれてゆく。身を守る程度なら
二人でどうとでもなる」
女騎士「そうか」 ほっ
魔王「こちらの世界のことは、書類を残してゆくし、
馬鈴薯や農業については女騎士も知っての通りだ」
女騎士「うん、修道会に任せて欲しい」
魔王「『同盟』に頼んだニシンも届こう。
そろそろ風車の代金や新型羅針盤の契約料も入ってくるはずだ。
これらの利益管理も『同盟』に依頼してある。
必要なときは相談してくれ」
女騎士「承知した」
魔王「細かいことはみな、メイド姉に教えてある。
そして……。
勇者のことを頼む」
女騎士「わかった。――その命、この剣に賭けて守ろう」
366: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 15:37:01.74 ID:CkBATQ0gP
――冬越し村、魔王の屋敷、執務室
魔王「さて」
メイド姉「はい」
メイド妹「はーい」
魔王「大体飲み込めたか?」
メイド姉「判りました」
メイド妹「よくわかんない」
メイド長「妹は、お姉さんの云うことをちゃんと聞いて
毎日のやることをこなしていくんですよ?」
メイド妹「はーい!」
メイド長「語尾を不必要に伸ばさない」
メイド妹「は、はいっ」
魔王「なに、気負うことはない」
勇者「やはり長引きそうか?」
魔王「メイド長の手の者に調べて貰っているが、
氏族の長の中には頑固者も居るからな。
人間世界が宝の山に見えている者も居るだろうし。
何を考えているやら……。
そんなものは、隣の芝生に過ぎないのだが」
魔王「さて」
メイド姉「はい」
メイド妹「はーい」
魔王「大体飲み込めたか?」
メイド姉「判りました」
メイド妹「よくわかんない」
メイド長「妹は、お姉さんの云うことをちゃんと聞いて
毎日のやることをこなしていくんですよ?」
メイド妹「はーい!」
メイド長「語尾を不必要に伸ばさない」
メイド妹「は、はいっ」
魔王「なに、気負うことはない」
勇者「やはり長引きそうか?」
魔王「メイド長の手の者に調べて貰っているが、
氏族の長の中には頑固者も居るからな。
人間世界が宝の山に見えている者も居るだろうし。
何を考えているやら……。
そんなものは、隣の芝生に過ぎないのだが」
370: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 15:42:05.60 ID:CkBATQ0gP
勇者「やっぱり俺も行くべきじゃないか?」
魔王「一人で行く」
勇者「……」
魔王「そのような顔をするな。
どちらにせよこれは魔王の仕事なんだ。
魔王でなければ出来ないこともする。
約束する、無理はしない」
メイド長「わたしがまおー様のことは守りますわ」
魔王「うん、メイド長が居るからな」
勇者「……」
魔王「それに、この世界のことだって心配だ。
南部諸王国は安定してきたし、農業改革も順調だとは云えるが
聞いた話だと、白夜王国は政情不安定になってきていると
云うじゃないか」
勇者「らしいな」
魔王「わたしがこの世で一番信頼しているのは、勇者だ。
何せわたしの持ち主だからな」
魔王「一人で行く」
勇者「……」
魔王「そのような顔をするな。
どちらにせよこれは魔王の仕事なんだ。
魔王でなければ出来ないこともする。
約束する、無理はしない」
メイド長「わたしがまおー様のことは守りますわ」
魔王「うん、メイド長が居るからな」
勇者「……」
魔王「それに、この世界のことだって心配だ。
南部諸王国は安定してきたし、農業改革も順調だとは云えるが
聞いた話だと、白夜王国は政情不安定になってきていると
云うじゃないか」
勇者「らしいな」
魔王「わたしがこの世で一番信頼しているのは、勇者だ。
何せわたしの持ち主だからな」
372: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 15:47:53.84 ID:CkBATQ0gP
魔王「だから、この場所に勇者を残していくのは、
心強いことなんだ。
前回は勇者が魔界に行って、わたしは残った。
農業改革や技術指導は、わたしにしか出来なかったからだ。
だが、今回は違う。
開門都市の件で勇者がもうただの戦士じゃないことは判っている。
もう一人のわたしだ。
だから、ここを任せる」
勇者「……判った」
魔王「それから、メイド姉」
メイド姉「はい」
魔王「これを預けよう」
メイド姉「指輪、ですか?」
魔王「ああ、知り合いの地妖精に作らせたんだ。
大したことはないが、姿変えの幻術が仕込んである。
幻術だから声や仕草はどうにもならないが、
わたしの姿になれるぞ」
メイド姉「どういうことでしょう?」
魔王「商人からの代金の受け取りや、尋ねてきた客人と
会わなければならないときもあろう?
大抵は勇者がうまくやってくれるだろうが、
どうしても必要なときは、この指輪でわたしの替え玉を
やってくれ」
心強いことなんだ。
前回は勇者が魔界に行って、わたしは残った。
農業改革や技術指導は、わたしにしか出来なかったからだ。
だが、今回は違う。
開門都市の件で勇者がもうただの戦士じゃないことは判っている。
もう一人のわたしだ。
だから、ここを任せる」
勇者「……判った」
魔王「それから、メイド姉」
メイド姉「はい」
魔王「これを預けよう」
メイド姉「指輪、ですか?」
魔王「ああ、知り合いの地妖精に作らせたんだ。
大したことはないが、姿変えの幻術が仕込んである。
幻術だから声や仕草はどうにもならないが、
わたしの姿になれるぞ」
メイド姉「どういうことでしょう?」
魔王「商人からの代金の受け取りや、尋ねてきた客人と
会わなければならないときもあろう?
大抵は勇者がうまくやってくれるだろうが、
どうしても必要なときは、この指輪でわたしの替え玉を
やってくれ」
373: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 15:53:26.57 ID:CkBATQ0gP
メイド姉「判りました」
メイド妹「当主のおねーちゃん!」
魔王「ん、なんだ?」
メイド妹「おみやげ。ね♪」にぱ
メイド長「これ!」
魔王「あははは。うん、何か見繕ってこよう」
勇者「……」
メイド姉「無事のお帰りを祈っております」
メイド妹「お祈りしてるー!」
魔王「うむ。早ければ三ヶ月、長くても半年といったところか」
メイド長「おなかを出して寝ちゃいけませんよ?」
メイド姉「いってらっしゃいませ」
メイド妹「いってらっしゃーい♪」
しゅいんっ!
メイド妹「当主のおねーちゃん!」
魔王「ん、なんだ?」
メイド妹「おみやげ。ね♪」にぱ
メイド長「これ!」
魔王「あははは。うん、何か見繕ってこよう」
勇者「……」
メイド姉「無事のお帰りを祈っております」
メイド妹「お祈りしてるー!」
魔王「うむ。早ければ三ヶ月、長くても半年といったところか」
メイド長「おなかを出して寝ちゃいけませんよ?」
メイド姉「いってらっしゃいませ」
メイド妹「いってらっしゃーい♪」
しゅいんっ!
376: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 15:57:38.85 ID:CkBATQ0gP
――開門都市、街外れ
ひゅわんっ!
魔王「やはり勇者の転移魔法は便利だな」
勇者「運び屋は任せてくれよ」
メイド長「まおー様のよりずっと転移酔いが少ないですね」
魔王「うん、久しぶりの魔界だ!」
メイド長「そうですね、緑色の太陽。懐かしいですわ」
魔王「ここは――うん。大体判った、都市の南の外れだな」
勇者「そうだ、丘を下れば開門都市の南門に出る」
魔王「よし、ではここでお別れだ」
勇者「いや、街までは送るよ」
魔王「いいや、ダメだ。勇者は街に近づくな」
勇者「へ?」
魔王「と、とにかく禁止だ。
……そんな、そのぅ。火竜の小娘に会いに行かなくても……」
勇者「?」
魔王「ええい。勇者!」
勇者「おう?」
魔王「もふもふさせろ!」 わしゃわしゃ!
ひゅわんっ!
魔王「やはり勇者の転移魔法は便利だな」
勇者「運び屋は任せてくれよ」
メイド長「まおー様のよりずっと転移酔いが少ないですね」
魔王「うん、久しぶりの魔界だ!」
メイド長「そうですね、緑色の太陽。懐かしいですわ」
魔王「ここは――うん。大体判った、都市の南の外れだな」
勇者「そうだ、丘を下れば開門都市の南門に出る」
魔王「よし、ではここでお別れだ」
勇者「いや、街までは送るよ」
魔王「いいや、ダメだ。勇者は街に近づくな」
勇者「へ?」
魔王「と、とにかく禁止だ。
……そんな、そのぅ。火竜の小娘に会いに行かなくても……」
勇者「?」
魔王「ええい。勇者!」
勇者「おう?」
魔王「もふもふさせろ!」 わしゃわしゃ!
378: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 16:03:27.05 ID:CkBATQ0gP
勇者「なっ、なんだよいきなり!」
メイド長「あらあら、まぁまぁ」
魔王「なぁに。ちょっとした燃料補給だ」
勇者「――大丈夫なのか?」
魔王「勇者は心配性だな。男が廃るぞ」
勇者「とは云ってもなぁ」
魔王「大丈夫だ。今エネルギーを貰ったからな。
先代たちが束になってかかってきたところで
負ける気はしない」
勇者「……」
魔王「それに、やっとここまで来た。
わたしにも開門都市の明るい空気が感じられるぞ。
人間と魔族が一緒に暮らしている街があるじゃないか。
もう、丘の頂上は見え始めているんだ」
勇者「ああ、そうだな」
魔王「だから行ってくるぞ――わたしの勇者」
勇者「おう、いってきやがれ。――俺の魔王」
魔王・勇者「「また会おう、すぐにでも」」
メイド長「あらあら、まぁまぁ」
魔王「なぁに。ちょっとした燃料補給だ」
勇者「――大丈夫なのか?」
魔王「勇者は心配性だな。男が廃るぞ」
勇者「とは云ってもなぁ」
魔王「大丈夫だ。今エネルギーを貰ったからな。
先代たちが束になってかかってきたところで
負ける気はしない」
勇者「……」
魔王「それに、やっとここまで来た。
わたしにも開門都市の明るい空気が感じられるぞ。
人間と魔族が一緒に暮らしている街があるじゃないか。
もう、丘の頂上は見え始めているんだ」
勇者「ああ、そうだな」
魔王「だから行ってくるぞ――わたしの勇者」
勇者「おう、いってきやがれ。――俺の魔王」
魔王・勇者「「また会おう、すぐにでも」」
383: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 16:07:45.08 ID:CkBATQ0gP
――冬越し村、実りの秋
小さな村人「ほーうぃ! ほーうぃ!」
中年の村人「おんや、こんにちはぁ」
羊毛職人「こんにちはぁ!」
小さな村人「きょうは一杯だぁね、どうするんだい?」
羊毛職人「ああ、もう秋だからねぇ。チーズの仕込みをしないと」
小さな村人「ああ、そうかぁ。今年はどんな案配だい?」
中年の村人「アーモンド入りのは作るだか?」
羊毛職人「良いよぉ、ミルクの出も良いし。
もちろんアーモンド入りのも作るだぁよ。
クローバーの葉をたっぷり食べてるせいかなぁ。
今年のミルクは、すごく甘いだよ」
小さな村人「そりゃぁ、良いことを聞いただよ」
中年の村人「小麦か馬鈴薯ととりかえてくれるだか?」
羊毛職人「もちろんだよ。銀貨でもかまわないよ?」
小さな村人「そういや、銀貨も使うようになっだぁね」
中年の村人「そうだなや。うちは埋めて貯めてるだよ」
羊毛職人「あんれまぁ。そうだね、用心せんとね」
小さな村人「ほーうぃ! ほーうぃ!」
中年の村人「おんや、こんにちはぁ」
羊毛職人「こんにちはぁ!」
小さな村人「きょうは一杯だぁね、どうするんだい?」
羊毛職人「ああ、もう秋だからねぇ。チーズの仕込みをしないと」
小さな村人「ああ、そうかぁ。今年はどんな案配だい?」
中年の村人「アーモンド入りのは作るだか?」
羊毛職人「良いよぉ、ミルクの出も良いし。
もちろんアーモンド入りのも作るだぁよ。
クローバーの葉をたっぷり食べてるせいかなぁ。
今年のミルクは、すごく甘いだよ」
小さな村人「そりゃぁ、良いことを聞いただよ」
中年の村人「小麦か馬鈴薯ととりかえてくれるだか?」
羊毛職人「もちろんだよ。銀貨でもかまわないよ?」
小さな村人「そういや、銀貨も使うようになっだぁね」
中年の村人「そうだなや。うちは埋めて貯めてるだよ」
羊毛職人「あんれまぁ。そうだね、用心せんとね」
386: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 16:11:55.63 ID:CkBATQ0gP
小さな村人「こっちは馬鈴薯の畑に、灰と魚カスを撒くだよ」
中年の村人「撒くのかい?」
羊毛職人「魚カスってなんだべ?」
小さな村人「教会で教えて貰った、肥料だなや。
大地の恵みが弱らないように撒くと良いらしいだよ」
中年の村人「でも、お金がかかるんがなぁ」
羊毛職人「そうなのかぁ」
小さな村人「まぁ、でも、たいした金額じゃねぇさ。
修道士様が教えてくれた馬鈴薯で作った金だ。
その修道院にお返ししたって罰は当たらないべ」
中年の村人「そりゃ、そうかもしれんなぁ」
小さな村人「それに、撒かないと馬鈴薯は病気に
なりやすいっていうべさ。うちんとこは小麦の畑は
減らしたから、馬鈴薯病気になったら困っちまう」
中年の村人「そうか、そうか。おらんとこも撒くかなぁ」
羊毛職人「おらは、自分の腹にニシン詰めてぇな」
小さな村人「あははは! 酒場でバター焼きを詰めるべ」
中年の村人「ああ、そりゃいいだなや!」
羊毛職人「チーズが一杯売れたら考えるだぁよ」
小さな村人「そうすべなぁ!」
中年の村人「撒くのかい?」
羊毛職人「魚カスってなんだべ?」
小さな村人「教会で教えて貰った、肥料だなや。
大地の恵みが弱らないように撒くと良いらしいだよ」
中年の村人「でも、お金がかかるんがなぁ」
羊毛職人「そうなのかぁ」
小さな村人「まぁ、でも、たいした金額じゃねぇさ。
修道士様が教えてくれた馬鈴薯で作った金だ。
その修道院にお返ししたって罰は当たらないべ」
中年の村人「そりゃ、そうかもしれんなぁ」
小さな村人「それに、撒かないと馬鈴薯は病気に
なりやすいっていうべさ。うちんとこは小麦の畑は
減らしたから、馬鈴薯病気になったら困っちまう」
中年の村人「そうか、そうか。おらんとこも撒くかなぁ」
羊毛職人「おらは、自分の腹にニシン詰めてぇな」
小さな村人「あははは! 酒場でバター焼きを詰めるべ」
中年の村人「ああ、そりゃいいだなや!」
羊毛職人「チーズが一杯売れたら考えるだぁよ」
小さな村人「そうすべなぁ!」
387: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 16:17:57.20 ID:CkBATQ0gP
――聖王都、貴族院
がやがやがや
軍閥貴族「――開門都市を放棄して――」
富裕貴族「おめおめと――退却――とは」
司教「精霊の――にも――処罰――」
軍閥貴族「さすがは――弱腰の貴族――」
富裕貴族「――妾腹――な」
司教「王国臣民――100万の――」
軍閥貴族「この罰――」
富裕貴族「極刑――磔刑――」
司教「塩――すりこみ――焼きごて――」
がやがやがや
軍閥貴族「判決を――」
富裕貴族「いや、いまこそ――軍事法廷――」
司教「しかるべき――宗教裁判――」
軍閥貴族「敵前逃亡――任務放棄――」
富裕貴族「王国に対する裏切り――利敵行為――」
司教「神聖冒涜――」
がやがやがや
軍閥貴族「――開門都市を放棄して――」
富裕貴族「おめおめと――退却――とは」
司教「精霊の――にも――処罰――」
軍閥貴族「さすがは――弱腰の貴族――」
富裕貴族「――妾腹――な」
司教「王国臣民――100万の――」
軍閥貴族「この罰――」
富裕貴族「極刑――磔刑――」
司教「塩――すりこみ――焼きごて――」
がやがやがや
軍閥貴族「判決を――」
富裕貴族「いや、いまこそ――軍事法廷――」
司教「しかるべき――宗教裁判――」
軍閥貴族「敵前逃亡――任務放棄――」
富裕貴族「王国に対する裏切り――利敵行為――」
司教「神聖冒涜――」
392: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 16:23:15.26 ID:CkBATQ0gP
司令官「ちがうのだ! 居並ぶ王国重鎮の方々!
聖なる光の精霊教会の方々! 我は決して決して
王国を裏切ったわけではないっ!」
軍閥貴族「何を言う! あの開門都市を落とすのにどれだけ
血が流れたか判っているのかっ!」
富裕貴族「二年ですぞ! 二年の準備期間と、多額の戦費。
それこそこの大陸を搾り取るように作った戦費を浪費した
あの第2回遠征の全てを、貴公は無にされた!」
司教「魔界を光の教えに導くのが精霊様のご意志だったのです。
あなたは教会信徒9500万人の願いと希望を侮辱なされた」
司令官「違うっ! そ、そ、そうだ!
わ、われは逃げたわけでは無い。
そっ、そうだ。援軍に向かったまで! 我は決して逃げてなど」
軍閥貴族「黙れ、怯懦の輩がっ!」
司令官「あのとき、開門都市は恐ろしい敵の攻撃に
晒されていたのだっ。戦略上の決断は司令官の権限だっ」
軍閥貴族「ふんっ」
司教「ではどのような敵だというのです」
聖なる光の精霊教会の方々! 我は決して決して
王国を裏切ったわけではないっ!」
軍閥貴族「何を言う! あの開門都市を落とすのにどれだけ
血が流れたか判っているのかっ!」
富裕貴族「二年ですぞ! 二年の準備期間と、多額の戦費。
それこそこの大陸を搾り取るように作った戦費を浪費した
あの第2回遠征の全てを、貴公は無にされた!」
司教「魔界を光の教えに導くのが精霊様のご意志だったのです。
あなたは教会信徒9500万人の願いと希望を侮辱なされた」
司令官「違うっ! そ、そ、そうだ!
わ、われは逃げたわけでは無い。
そっ、そうだ。援軍に向かったまで! 我は決して逃げてなど」
軍閥貴族「黙れ、怯懦の輩がっ!」
司令官「あのとき、開門都市は恐ろしい敵の攻撃に
晒されていたのだっ。戦略上の決断は司令官の権限だっ」
軍閥貴族「ふんっ」
司教「ではどのような敵だというのです」
396: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 16:29:51.24 ID:CkBATQ0gP
司令官「そ、それは……水と、炎と……影と、死の魔物……」
軍閥貴族「見たのか?」
司令官「姿を見ることが出来るような相手ではないのだっ。
夜陰の乗じた卑怯な奇襲が繰り返され、我が部下達は次々と
倒れていった! け、警備体制は崩壊し、士気は減衰。
と、とても統治を維持できるような状態ではなかったっ。
そ、そうだ!
反乱だ! 反乱も起きたっ!」
軍閥貴族「ほほう」
司令官「魔族どもが反乱を起こしたのだ。
我ら一万の将兵は死力を尽くして戦った。
戦って戦って戦い抜いた!
我が剣は血糊と刃こぼれで使い物にならなくなったのだ!
あれはまさに死線だった。我らは九死に一生を得て帰ったのだ。
我は、精霊より預かった、聖王国の宝とも云える
遠征軍を失わずに連れ帰ろうとしただけだっ!!」
軍閥貴族「あははは」
富裕貴族「くくく、はははは」
司令官「笑うなっ! な、何がおかしい!?」
軍閥貴族「開門都市に駐留していた軍は約東の砦将。
その九千が千も減らずに極光島沖に現れたという。
それだけの軍勢を温存しうる死線とはどのようなものか。
貴公は500の兵卒も失わないうちから撤退をしたのかっ」
軍閥貴族「見たのか?」
司令官「姿を見ることが出来るような相手ではないのだっ。
夜陰の乗じた卑怯な奇襲が繰り返され、我が部下達は次々と
倒れていった! け、警備体制は崩壊し、士気は減衰。
と、とても統治を維持できるような状態ではなかったっ。
そ、そうだ!
反乱だ! 反乱も起きたっ!」
軍閥貴族「ほほう」
司令官「魔族どもが反乱を起こしたのだ。
我ら一万の将兵は死力を尽くして戦った。
戦って戦って戦い抜いた!
我が剣は血糊と刃こぼれで使い物にならなくなったのだ!
あれはまさに死線だった。我らは九死に一生を得て帰ったのだ。
我は、精霊より預かった、聖王国の宝とも云える
遠征軍を失わずに連れ帰ろうとしただけだっ!!」
軍閥貴族「あははは」
富裕貴族「くくく、はははは」
司令官「笑うなっ! な、何がおかしい!?」
軍閥貴族「開門都市に駐留していた軍は約東の砦将。
その九千が千も減らずに極光島沖に現れたという。
それだけの軍勢を温存しうる死線とはどのようなものか。
貴公は500の兵卒も失わないうちから撤退をしたのかっ」
400: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 16:36:26.34 ID:CkBATQ0gP
司令官「~っ!!」
軍閥貴族「恥を知れっ!」
司令官「だがしかし!
我らが現れたおかげで極光島の戦役に終止符が打たれたのは
確かではないか! 我が増援で人類の版図であるあの島の
奪還は成ったのだ!
極光島攻略の第一の功は我にあるはずだっ!!」
富裕貴族「軍監および教会の情報によれば、
すでにあの時点で戦闘は一旦の終結を向かえ、
極光島城塞は南部諸王国軍に包囲された状態にあったと云います。
貴公の――あえて聖鍵軍とは云いますまい。
貴公の私軍はその戦いの最後に現われ、
しかも魔族の残存兵力を殲滅するでもなく、いたずらに兵を失い、
魔族の突破を許しただけではありませんか」
司教「8000の兵のうち2500も失い、申し開きのしようも
あるものか!!」
司令官「我らは広大なる魔界の辺境に荒野を彷徨い、
疲れ果てていたのだ。あのような突撃など、悪夢の突撃などっ
防ぎうるはずもない。あれは天与の災いだったのだっ!」
軍閥貴族「恥を知れっ!」
司令官「だがしかし!
我らが現れたおかげで極光島の戦役に終止符が打たれたのは
確かではないか! 我が増援で人類の版図であるあの島の
奪還は成ったのだ!
極光島攻略の第一の功は我にあるはずだっ!!」
富裕貴族「軍監および教会の情報によれば、
すでにあの時点で戦闘は一旦の終結を向かえ、
極光島城塞は南部諸王国軍に包囲された状態にあったと云います。
貴公の――あえて聖鍵軍とは云いますまい。
貴公の私軍はその戦いの最後に現われ、
しかも魔族の残存兵力を殲滅するでもなく、いたずらに兵を失い、
魔族の突破を許しただけではありませんか」
司教「8000の兵のうち2500も失い、申し開きのしようも
あるものか!!」
司令官「我らは広大なる魔界の辺境に荒野を彷徨い、
疲れ果てていたのだ。あのような突撃など、悪夢の突撃などっ
防ぎうるはずもない。あれは天与の災いだったのだっ!」
407: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 16:50:00.91 ID:CkBATQ0gP
軍閥貴族「いい加減聞き苦しいわっ」
富裕貴族「ふっ。吠える犬は溺れても治らぬようですな」
司令官「東の砦将だっ! ヤツがっ!
ヤツが魔族と謀り、我を陥れたのだ! 慈悲を!
どうかもう一度機会をっ! 我ほど魔界に詳しい
将はいないはず! 必ずやあの蛮族の土地を
聖王の膝下に捧げるっ! どうか、どうかっ!」
軍閥貴族「いかがいたす? 司教殿」
司教「ここで一つの罪を許すことは
聖なる教会の信徒9500万人にたいする罪を犯すこと。
わたしの心は悲しみで裂けそうですが。
くくくっ。
この病犬の罪は磔刑が相応しいものでしょう」
司令官「待ってくれ! 今少し、今少しの猶予を!」
軍閥貴族「軍律に照らしても貴公の極刑は避けられぬ」
司令官「東の砦将めぇ! 下賤の生まれの夷狄めっ!
薄汚い傭兵めっ! 許さぬ、魔族と通じおって許さぬぅっ!」
富裕貴族「狂ったか」
司教「醜い狂いざまですな」
富裕貴族「ふっ。吠える犬は溺れても治らぬようですな」
司令官「東の砦将だっ! ヤツがっ!
ヤツが魔族と謀り、我を陥れたのだ! 慈悲を!
どうかもう一度機会をっ! 我ほど魔界に詳しい
将はいないはず! 必ずやあの蛮族の土地を
聖王の膝下に捧げるっ! どうか、どうかっ!」
軍閥貴族「いかがいたす? 司教殿」
司教「ここで一つの罪を許すことは
聖なる教会の信徒9500万人にたいする罪を犯すこと。
わたしの心は悲しみで裂けそうですが。
くくくっ。
この病犬の罪は磔刑が相応しいものでしょう」
司令官「待ってくれ! 今少し、今少しの猶予を!」
軍閥貴族「軍律に照らしても貴公の極刑は避けられぬ」
司令官「東の砦将めぇ! 下賤の生まれの夷狄めっ!
薄汚い傭兵めっ! 許さぬ、魔族と通じおって許さぬぅっ!」
富裕貴族「狂ったか」
司教「醜い狂いざまですな」
410: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 16:57:19.64 ID:CkBATQ0gP
――冬の国、王宮、予算編纂室
商人子弟「うわぁん、忙しいよ。どうなってんだよ」
将官「だ、大丈夫ですか?」
従僕「僕お茶を入れてきますっ」
商人子弟「お茶なんか良い! 逃げるな! 整理しろ!」
従僕「ふぇぇーん。もう目がしばしばしますぅ」
商人子弟「ちょっと泣きべその方がもてるんだ。
お前みたいなショタっ子は特になっ! 下兄貴が云ってたぞ」
従僕「ふぇぇぇーん。ふぇぇーん」
将官「容赦がありませんね」
商人子弟「冬寂王が僕に判らせてくれたんだ……。
容赦なんかしてると自分の方が酷い目に会うって」
将官「なるほど」
商人子弟「見ろ、この書類の山をっ!」
どでーん!!
将官「でも、商人子弟さんが来るまではこの六倍
あったんですよ。もはや残敵掃討戦ではないですか」
商人子弟「王国経営する気無かったとした思えない!」
商人子弟「うわぁん、忙しいよ。どうなってんだよ」
将官「だ、大丈夫ですか?」
従僕「僕お茶を入れてきますっ」
商人子弟「お茶なんか良い! 逃げるな! 整理しろ!」
従僕「ふぇぇーん。もう目がしばしばしますぅ」
商人子弟「ちょっと泣きべその方がもてるんだ。
お前みたいなショタっ子は特になっ! 下兄貴が云ってたぞ」
従僕「ふぇぇぇーん。ふぇぇーん」
将官「容赦がありませんね」
商人子弟「冬寂王が僕に判らせてくれたんだ……。
容赦なんかしてると自分の方が酷い目に会うって」
将官「なるほど」
商人子弟「見ろ、この書類の山をっ!」
どでーん!!
将官「でも、商人子弟さんが来るまではこの六倍
あったんですよ。もはや残敵掃討戦ではないですか」
商人子弟「王国経営する気無かったとした思えない!」
414: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 17:02:41.41 ID:CkBATQ0gP
将官「いや、冬寂王はあれでも名君って云われてるんですけどね」
商人子弟「そうなのか……。ノリで統治してるんじゃなかったのか」
従僕「そうですよ! 王様は格好良いですよ?」
商人子弟「とはいえなぁ、この惨状はなー」
将官「まぁ、三国通商協定や極光島奪還が成功するまでは
こうじゃなかったんですよ。その頃から書類仕事が
莫大に増えてしまったわけで」
商人子弟「ふむふむ。……その辺に解決のヒントがあるのかな?」
将官「そうなんですか?」
商人子弟「“問題を考えてはいけない。解決方法を考えよ”
これが先生の教えだ。ちょっと聞かせてくれないか?」
将官「もちろんかまいませんが」
商人子弟「おい、従僕くん。お茶を頼む」
従僕「ふぁい! あの、ぼ、僕の分も良いですか?」
商人子弟「ああ、いいぞ。将官さんの分もだ」
従僕「はいっ! すぐ入れてきます!!」
たたたっ
商人子弟「そうなのか……。ノリで統治してるんじゃなかったのか」
従僕「そうですよ! 王様は格好良いですよ?」
商人子弟「とはいえなぁ、この惨状はなー」
将官「まぁ、三国通商協定や極光島奪還が成功するまでは
こうじゃなかったんですよ。その頃から書類仕事が
莫大に増えてしまったわけで」
商人子弟「ふむふむ。……その辺に解決のヒントがあるのかな?」
将官「そうなんですか?」
商人子弟「“問題を考えてはいけない。解決方法を考えよ”
これが先生の教えだ。ちょっと聞かせてくれないか?」
将官「もちろんかまいませんが」
商人子弟「おい、従僕くん。お茶を頼む」
従僕「ふぁい! あの、ぼ、僕の分も良いですか?」
商人子弟「ああ、いいぞ。将官さんの分もだ」
従僕「はいっ! すぐ入れてきます!!」
たたたっ
416: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 17:07:33.57 ID:CkBATQ0gP
商人子弟「わんこみたいなヤツだな」
将官「可愛いですね」
商人子弟「しっかり仕込んでやらにゃぁ、僕が死んでしまう」
将官「そうですねぇ、これは流石に……」
ごちゃらぁ
商人子弟「で、話の続きなのだけど」
将官「そうですねぇ、どこから始めましょうかね……。
うーん、お役に立つかどうかは判りませんが。
例えば、南部諸王国には貴族領が無いんですよ」
商人子弟「そうなのか? でも、書類には、男爵だの侯爵だの
色々出てくるぞ?」
将官「うーん、その辺が難しいんですけれどね。
恩貸地ってわかりますか?」
商人子弟「授業で聞いてるから、だいたいは。
王が臣下に土地を与えるということだろう?
報酬として与える物だったと思うけれど」
将官「そうです。それが判ると早いですね。
南部諸王国は冬が長く貧しいわけです。基本的に貧乏国ですね。
本来は人が住むには適していなかったわけですよ。
昔は今よりももっとそうでした。暖房とかが不十分でしたし」
将官「可愛いですね」
商人子弟「しっかり仕込んでやらにゃぁ、僕が死んでしまう」
将官「そうですねぇ、これは流石に……」
ごちゃらぁ
商人子弟「で、話の続きなのだけど」
将官「そうですねぇ、どこから始めましょうかね……。
うーん、お役に立つかどうかは判りませんが。
例えば、南部諸王国には貴族領が無いんですよ」
商人子弟「そうなのか? でも、書類には、男爵だの侯爵だの
色々出てくるぞ?」
将官「うーん、その辺が難しいんですけれどね。
恩貸地ってわかりますか?」
商人子弟「授業で聞いてるから、だいたいは。
王が臣下に土地を与えるということだろう?
報酬として与える物だったと思うけれど」
将官「そうです。それが判ると早いですね。
南部諸王国は冬が長く貧しいわけです。基本的に貧乏国ですね。
本来は人が住むには適していなかったわけですよ。
昔は今よりももっとそうでした。暖房とかが不十分でしたし」
417: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 17:14:42.38 ID:CkBATQ0gP
商人子弟「ふむふむ」
将官「ですから、国なんて偉そうなことを云っても、
それほどたいした組織じゃないんですよ。人も少ないし。
王とは名ばかりの、領主の親玉みたいな存在が
一人で土地の隅々まで見てれば良かったわけです。
どうせ監視が必要な土地はちょっぴりで、ほとんどは
耕作に適さない深い森や荒れ地や山地なんですからね」
従僕「熱いお茶を入れてきましたぁ」
商人子弟「おお、ありがとう。……うん、続けて」
将官「ですから貴族という名前がついていても、
大陸中央部とは意味合いが違うんです。
大陸中央部では、貴族というのは王から恩貸地を授かった
多くの場合、武力を持った領主です」
商人子弟「ふむふむ」
将官「当然、授かった土地は自分の物ですから、
自分で――もちろん農奴にやらせるわけですが、
開拓したり耕作したりして、作物も自由に取り立てます。
通行税なども貴族が自由に設定して取り立てますね。
賦役といって、農奴を強制労働させるのも自由です。
ですから大河や港を領地にもつ貴族は金持ちになります」
将官「ですから、国なんて偉そうなことを云っても、
それほどたいした組織じゃないんですよ。人も少ないし。
王とは名ばかりの、領主の親玉みたいな存在が
一人で土地の隅々まで見てれば良かったわけです。
どうせ監視が必要な土地はちょっぴりで、ほとんどは
耕作に適さない深い森や荒れ地や山地なんですからね」
従僕「熱いお茶を入れてきましたぁ」
商人子弟「おお、ありがとう。……うん、続けて」
将官「ですから貴族という名前がついていても、
大陸中央部とは意味合いが違うんです。
大陸中央部では、貴族というのは王から恩貸地を授かった
多くの場合、武力を持った領主です」
商人子弟「ふむふむ」
将官「当然、授かった土地は自分の物ですから、
自分で――もちろん農奴にやらせるわけですが、
開拓したり耕作したりして、作物も自由に取り立てます。
通行税なども貴族が自由に設定して取り立てますね。
賦役といって、農奴を強制労働させるのも自由です。
ですから大河や港を領地にもつ貴族は金持ちになります」
418: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 17:21:17.88 ID:CkBATQ0gP
商人子弟「ふむふむ。ああ、それで同じ国の中でも
何回も通行税を取られたり、
場所によって税が違ったりするのか」
将官「そうですね」
将官「王の側から見ると、王の直轄地は、
つまり自分が貴族であるのと同様に経営を行います。
開墾や税の設定などは王自身が決めるわけですね。
それ以外に臣下の貴族からの上納金が入ってきます。
さらには商人や教会からの献金もありますね。
ですから収入が複数あって、普段から税の処理は複雑です。
そのため、税収人が沢山いるし、担当の文官も多い」
将官「そこへ行くと南部諸王国は土地も痩せているし
貴族に対して恩貸地を与えるほどの良い土地もない。
南部諸王国で云う貴族というのは、名誉職であるか
宮廷内での位を表すんですよ」
商人子弟「それで文官の数が足りないのか……」
将官「付け加えると、軍の招集にも大きな差があります」
商人子弟「へ? 税と何か関係があるのか?」
将官「ええ。中央部では、王はもちろん軍をもっていますが、
その数はけして多くないんですよ。
そうですね……霧の国のような大国でも700程度ではない
でしょうか?」
何回も通行税を取られたり、
場所によって税が違ったりするのか」
将官「そうですね」
将官「王の側から見ると、王の直轄地は、
つまり自分が貴族であるのと同様に経営を行います。
開墾や税の設定などは王自身が決めるわけですね。
それ以外に臣下の貴族からの上納金が入ってきます。
さらには商人や教会からの献金もありますね。
ですから収入が複数あって、普段から税の処理は複雑です。
そのため、税収人が沢山いるし、担当の文官も多い」
将官「そこへ行くと南部諸王国は土地も痩せているし
貴族に対して恩貸地を与えるほどの良い土地もない。
南部諸王国で云う貴族というのは、名誉職であるか
宮廷内での位を表すんですよ」
商人子弟「それで文官の数が足りないのか……」
将官「付け加えると、軍の招集にも大きな差があります」
商人子弟「へ? 税と何か関係があるのか?」
将官「ええ。中央部では、王はもちろん軍をもっていますが、
その数はけして多くないんですよ。
そうですね……霧の国のような大国でも700程度ではない
でしょうか?」
421: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 17:25:57.46 ID:CkBATQ0gP
将官「王は戦争を行う場合、貴族に召集令を発布するんです。
貴族は土地を与えて貰っている代償として、
この招集に応じる義務があります。
貴族はさらに臣下の騎士や戦士に招集を掛けます。
こうして軍が集まるんですよ。
軍の規模は、王の直属の配下の十数倍になることが殆どです。
こうした招集は、当たり前の話ですが
集合までに時間がかかります。
また、あまり長い間拘束は出来ません、
貴族の側に負担があつまりますからね。
でも、メリットとしてはお金が殆どかからないという点が
あります」
商人子弟「なぜだい? 戦争するには金が必要だろう?」
将官「自分の軍を食べさせるのは貴族が自腹でやるんですよ。
“自分の臣下の面倒は自分で見る”。そういう機構なんです。
王は王の直下の軍だけ用意して食べさせれば良いんですね」
商人子弟「なんだか貴族には損ばかりに聞こえるな」
将官「いや、そんなことはないですよ。
だって、戦争で勝てば、土地がもらえるんですからね」
商人子弟「ああ、そういうことか。
恩貸地はそう言う循環で機能する訳なんだね」
将官「そうですね。ですから魔界への侵攻は多くの貴族の
関心を集めないではおかないんです」
貴族は土地を与えて貰っている代償として、
この招集に応じる義務があります。
貴族はさらに臣下の騎士や戦士に招集を掛けます。
こうして軍が集まるんですよ。
軍の規模は、王の直属の配下の十数倍になることが殆どです。
こうした招集は、当たり前の話ですが
集合までに時間がかかります。
また、あまり長い間拘束は出来ません、
貴族の側に負担があつまりますからね。
でも、メリットとしてはお金が殆どかからないという点が
あります」
商人子弟「なぜだい? 戦争するには金が必要だろう?」
将官「自分の軍を食べさせるのは貴族が自腹でやるんですよ。
“自分の臣下の面倒は自分で見る”。そういう機構なんです。
王は王の直下の軍だけ用意して食べさせれば良いんですね」
商人子弟「なんだか貴族には損ばかりに聞こえるな」
将官「いや、そんなことはないですよ。
だって、戦争で勝てば、土地がもらえるんですからね」
商人子弟「ああ、そういうことか。
恩貸地はそう言う循環で機能する訳なんだね」
将官「そうですね。ですから魔界への侵攻は多くの貴族の
関心を集めないではおかないんです」
422: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 17:31:39.75 ID:CkBATQ0gP
商人子弟「つまり、貴族は賭けをしているわけだ。
自分の君主が勝てば、自分も儲かると」
将官「その通りです」
商人子弟「南部諸王国はどこが違うんだ?
というか、南部諸王国は貴族が居ないのだから
軍もすごく少ないんじゃないのか?」
将官「南部諸王国の軍は、中央と違って常備軍なんですよ」
商人子弟「ああ、それも授業で聞いたなぁ。
軍事のことだからあまり覚えてもいないけれど……」
将官「南部諸王国の軍の最大の目的は、魔族の侵攻を防ぐこと
ですよね。そのような目的では、召集令を出してから集合する
貴族の軍では動きが遅くて間に合わない」
商人子弟「当たり前だな」
将官「だから、常備軍。つまり“常に待機している軍”が
必要なんですよ。当然招集なんて無いから、貴族の下でも
ない。全員が王の直下にいるわけです。わたしもそうですよ」
商人子弟「だがしかし、先ほどとは逆のデメリットがあるだろう?
つまり、常駐故に集合はきわめて高速。長い間拘束しても
専用の軍なので不満は少ない。
しかし、多量の金を食うはずだ」
将官「そうですね」
自分の君主が勝てば、自分も儲かると」
将官「その通りです」
商人子弟「南部諸王国はどこが違うんだ?
というか、南部諸王国は貴族が居ないのだから
軍もすごく少ないんじゃないのか?」
将官「南部諸王国の軍は、中央と違って常備軍なんですよ」
商人子弟「ああ、それも授業で聞いたなぁ。
軍事のことだからあまり覚えてもいないけれど……」
将官「南部諸王国の軍の最大の目的は、魔族の侵攻を防ぐこと
ですよね。そのような目的では、召集令を出してから集合する
貴族の軍では動きが遅くて間に合わない」
商人子弟「当たり前だな」
将官「だから、常備軍。つまり“常に待機している軍”が
必要なんですよ。当然招集なんて無いから、貴族の下でも
ない。全員が王の直下にいるわけです。わたしもそうですよ」
商人子弟「だがしかし、先ほどとは逆のデメリットがあるだろう?
つまり、常駐故に集合はきわめて高速。長い間拘束しても
専用の軍なので不満は少ない。
しかし、多量の金を食うはずだ」
将官「そうですね」
425: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 17:36:43.83 ID:CkBATQ0gP
将官「その弱点を、中央からの支援金がまかなってるわけです」
商人子弟「ああ、勘定項目の中でとがっているあれだな」
将官「そうです」
商人子弟「……」
将官「判って頂けましたか?」
商人子弟「だいたいな」
従僕「僕も少し難しかったけど、わかりました!」にぱぁ
商人子弟(だが、それはつまり……)
商人子弟「つまり、僕たちの兵隊さんは、魔界に行っちゃったり
しないで、僕らを守ってくれるって事ですよね?」にこっ
将官「そうだよ、えらいね」なでなで
商人子弟(そういうことだ。……防衛目的の部隊。
それに金を出すと云うことは、もちろん魔族の侵略を
食い止めるという目的もあるだろうが……
“美味しい獲物、つまり魔界の領土”を南部諸王国には取らせない
そんな思惑もあるんじゃなかろうか……)
将官「どうしました?」
商人子弟「いや、ちょっと考え事を」
商人子弟「ああ、勘定項目の中でとがっているあれだな」
将官「そうです」
商人子弟「……」
将官「判って頂けましたか?」
商人子弟「だいたいな」
従僕「僕も少し難しかったけど、わかりました!」にぱぁ
商人子弟(だが、それはつまり……)
商人子弟「つまり、僕たちの兵隊さんは、魔界に行っちゃったり
しないで、僕らを守ってくれるって事ですよね?」にこっ
将官「そうだよ、えらいね」なでなで
商人子弟(そういうことだ。……防衛目的の部隊。
それに金を出すと云うことは、もちろん魔族の侵略を
食い止めるという目的もあるだろうが……
“美味しい獲物、つまり魔界の領土”を南部諸王国には取らせない
そんな思惑もあるんじゃなかろうか……)
将官「どうしました?」
商人子弟「いや、ちょっと考え事を」
430: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 17:42:01.79 ID:CkBATQ0gP
将官「こんな話で参考になれば幸いですけれど」
従僕「なりました?」
商人子弟「十分に」
将官「え? 本当ですか? あれだけでっ?」
商人子弟「ああ、先生に沢山教わったからね。
まず、話には出てこなかったけれど、中央の貴族制度には
問題が他にもあると思う」
将官「どんなでしょう?」
商人子弟「それは一部の貴族が、
――たとえば地主とか、商人とか、大工房、
あるいは傭兵部隊でもいい。そう言った勢力と癒着するのを
防げないって事じゃないかな。
だって貴族には税制の自由があるわけだろう?
だからその種の癒着がおこって、税が不公平になる。
実家は商人だからよくわかる。
毎年納める賄賂の額は、そりゃ相当なものだ。
もちろんその賄賂で港や運河の使用権を融通して貰ったり
するんだけどね。
時にはライバル商人の妨害を依頼することもある」
将官「ああ、そういうこともありますね。
わたしたち南の田舎者が都会に行くとすぐ
騙されて、ケツの毛まで抜かれるなんて聞きます」
従僕「なりました?」
商人子弟「十分に」
将官「え? 本当ですか? あれだけでっ?」
商人子弟「ああ、先生に沢山教わったからね。
まず、話には出てこなかったけれど、中央の貴族制度には
問題が他にもあると思う」
将官「どんなでしょう?」
商人子弟「それは一部の貴族が、
――たとえば地主とか、商人とか、大工房、
あるいは傭兵部隊でもいい。そう言った勢力と癒着するのを
防げないって事じゃないかな。
だって貴族には税制の自由があるわけだろう?
だからその種の癒着がおこって、税が不公平になる。
実家は商人だからよくわかる。
毎年納める賄賂の額は、そりゃ相当なものだ。
もちろんその賄賂で港や運河の使用権を融通して貰ったり
するんだけどね。
時にはライバル商人の妨害を依頼することもある」
将官「ああ、そういうこともありますね。
わたしたち南の田舎者が都会に行くとすぐ
騙されて、ケツの毛まで抜かれるなんて聞きます」
432: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 17:47:05.86 ID:CkBATQ0gP
商人子弟「それにもう一つは、
賄賂に似ているけれどコネや袖の下だろうね」
将官「コネ、でありますか」
商人子弟「うん。そういう制度で動いているって事は
例えば役人や責任有る立場になるときに
誰かの血縁であったり、賄賂を納められるかどうかが
重要って事になってしまう。
役人になってしまえば甘い汁が吸えるわけだから
最初の段階で袖の下を使ったり、例えば血縁関係を
使って潜り込んだりするのは当たり前になる」
将官「そういえば、そんなのも聞き及びますねぇ。
都会の人の親戚自慢ってのはそう言うとこから来るんでしょうか」
商人子弟「これが答えだ」
将官「へ?」
商人子弟「判らないかな? つまり、大陸中央では
“能力ややる気があっても出世できない”傾向がある。
ならば、南部諸王国の答えは一つ」
将官「!」
商人子弟「広く一般から役人を募る。そしてその能力と
やる気に応じて給金を出す。――賄賂との、決別だ」
賄賂に似ているけれどコネや袖の下だろうね」
将官「コネ、でありますか」
商人子弟「うん。そういう制度で動いているって事は
例えば役人や責任有る立場になるときに
誰かの血縁であったり、賄賂を納められるかどうかが
重要って事になってしまう。
役人になってしまえば甘い汁が吸えるわけだから
最初の段階で袖の下を使ったり、例えば血縁関係を
使って潜り込んだりするのは当たり前になる」
将官「そういえば、そんなのも聞き及びますねぇ。
都会の人の親戚自慢ってのはそう言うとこから来るんでしょうか」
商人子弟「これが答えだ」
将官「へ?」
商人子弟「判らないかな? つまり、大陸中央では
“能力ややる気があっても出世できない”傾向がある。
ならば、南部諸王国の答えは一つ」
将官「!」
商人子弟「広く一般から役人を募る。そしてその能力と
やる気に応じて給金を出す。――賄賂との、決別だ」
436: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 17:56:45.07 ID:CkBATQ0gP
――冬越し村、冬の始まり、メイド妹の日記
「このお屋敷に着てから三度目の冬が始まりました。
今年最初の雪です。
空がどんどん低くなって、雲がぐるぐると動いていたので
雨が降るかな、と思ったら雪でした。
べしゃべしゃして重い雪です。こういう雪は嫌いです。
当主のおねーちゃんと眼鏡のおねーちゃんが居ないので
お屋敷は静かです。
ご飯は、おねーちゃんとわたしが交代で作ります。
掃除が楽になったので、美味しいご飯を沢山勉強できます。
今日は酒場で、お料理を習ってきました。
ニジマスの香草焼きです。
おねーちゃんが当主様の書斎から、料理の本を探してくれました。
汚したら二度と口を聞いてくれないというので、
いま、紙に写しています。
文字を覚えて初めて便利だって思いました!
パイっていうのが面白そうです。
何でも包んでパン釜で焼くみたい。
このパイっていうの、作ってみたいな。
おにーちゃんは、ぼけらっとしているので
パイを作るのを手伝わせようと思います」
「このお屋敷に着てから三度目の冬が始まりました。
今年最初の雪です。
空がどんどん低くなって、雲がぐるぐると動いていたので
雨が降るかな、と思ったら雪でした。
べしゃべしゃして重い雪です。こういう雪は嫌いです。
当主のおねーちゃんと眼鏡のおねーちゃんが居ないので
お屋敷は静かです。
ご飯は、おねーちゃんとわたしが交代で作ります。
掃除が楽になったので、美味しいご飯を沢山勉強できます。
今日は酒場で、お料理を習ってきました。
ニジマスの香草焼きです。
おねーちゃんが当主様の書斎から、料理の本を探してくれました。
汚したら二度と口を聞いてくれないというので、
いま、紙に写しています。
文字を覚えて初めて便利だって思いました!
パイっていうのが面白そうです。
何でも包んでパン釜で焼くみたい。
このパイっていうの、作ってみたいな。
おにーちゃんは、ぼけらっとしているので
パイを作るのを手伝わせようと思います」
439: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 18:12:20.27 ID:CkBATQ0gP
――白夜の国、白夜王の宮殿
片目司令官「ええい! 黙れッ! 黙れッ!」
びゅっ! びゅうんっ!
白夜王「ふん。荒れておるではないか」
片目司令官「ふっ。疼くのだ、この目がっ。
下郎っ! 酒だ! 酒を持てっ!!」
侍従「は、はひぃっ……」 ダダダダッ
白夜王「我が宮殿の者に乱暴を働くのはよしてもらいたい」
片目司令官「うるさいっ! この目が」ガリ、ガリ、ガリッ
白夜王「ふはは。憎いのか」
片目司令官「ああ、憎い。ニクイっ」
白夜王「だがその狂気、我には向けるな、判っているだろうな」
片目司令官「ああ。感謝はしているさ。死を待つだけの
あの地下牢から替え玉まで使って救ってくれたことはな」
片目司令官「ええい! 黙れッ! 黙れッ!」
びゅっ! びゅうんっ!
白夜王「ふん。荒れておるではないか」
片目司令官「ふっ。疼くのだ、この目がっ。
下郎っ! 酒だ! 酒を持てっ!!」
侍従「は、はひぃっ……」 ダダダダッ
白夜王「我が宮殿の者に乱暴を働くのはよしてもらいたい」
片目司令官「うるさいっ! この目が」ガリ、ガリ、ガリッ
白夜王「ふはは。憎いのか」
片目司令官「ああ、憎い。ニクイっ」
白夜王「だがその狂気、我には向けるな、判っているだろうな」
片目司令官「ああ。感謝はしているさ。死を待つだけの
あの地下牢から替え玉まで使って救ってくれたことはな」
443: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 18:18:34.37 ID:CkBATQ0gP
白夜王「ふふ、そうだ。あの不潔な汚泥の中からな……。
貴族院の地下の地下、拷問の塔の最下層、黄泉へと通じる
ほどの深淵からお前を救ってやったのはこの我だ」
片目司令官「……」ごくっ、ごくっ、ごくっ
白夜王「思い出せるか? あの闇が」
片目司令官「ネズミがっ。ネズミが這い回り、我の目をっ。
我の目を、我の光を……。
うううっ。疼くっ。瞳が。
見えるぞ、赤黒い闇がっ。
闇が我を蝕むっ。痛い、全身が痛むっ。
殺す、殺してやるっ。東の砦将めっ! くされ魔族めっ!
我を取り囲み、愚弄しやがって!」
白夜王「そうだ、あやつらは我らを愚弄したのだっ」めらっ
片目司令官「……っ」
白夜王「冬の国の青二才め、この我をっ。この我を侮辱しおって。
何が流氷だ。何が農業改革だ。なにが生産性だっ。
やつのような詭弁を用いて戦って何になる。
やつのようなやり方、精霊が認めるはずがないっ」
片目司令官「そうだ、奴らは裏切り者だ。この世界を
暗黒に売り渡す売国奴。腐臭を放つ半人間どもよっ」
貴族院の地下の地下、拷問の塔の最下層、黄泉へと通じる
ほどの深淵からお前を救ってやったのはこの我だ」
片目司令官「……」ごくっ、ごくっ、ごくっ
白夜王「思い出せるか? あの闇が」
片目司令官「ネズミがっ。ネズミが這い回り、我の目をっ。
我の目を、我の光を……。
うううっ。疼くっ。瞳が。
見えるぞ、赤黒い闇がっ。
闇が我を蝕むっ。痛い、全身が痛むっ。
殺す、殺してやるっ。東の砦将めっ! くされ魔族めっ!
我を取り囲み、愚弄しやがって!」
白夜王「そうだ、あやつらは我らを愚弄したのだっ」めらっ
片目司令官「……っ」
白夜王「冬の国の青二才め、この我をっ。この我を侮辱しおって。
何が流氷だ。何が農業改革だ。なにが生産性だっ。
やつのような詭弁を用いて戦って何になる。
やつのようなやり方、精霊が認めるはずがないっ」
片目司令官「そうだ、奴らは裏切り者だ。この世界を
暗黒に売り渡す売国奴。腐臭を放つ半人間どもよっ」
446: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 18:24:37.98 ID:CkBATQ0gP
白夜王「賢しい青二才が、西の交易を用いて
巨額の利益を上げているだと?
極光島は我ら南部諸王国共有の財産のはず。
いや、あの島にもっとも血を捧げたのは
我が白夜。
我らではないかっ!!
それをこともあろうに、なぜあの青二才が
勝利を吸い上げる。利益をむさぼるっ?」
片目司令官「ヒヒヒ、ヒヒィーッ」
白夜王「それをあの鉄腕王や、氷雪の女王までもが
英邁よ、豪傑よともてはやし、挙げ句の果ては
義勇軍として参加したものどもまでが冬の国に住み着くという。
わが白夜が凍えるような冬の厳しさに耐え
貧しい暮らしをつづけているというのに、
我を愚弄する小せがれは、我らが利益を盗んでいるのだ。
そのようなこと、精霊がお許しになるはずもないわっ」
片目司令官「アハハハハッ! 任せろ。この我にっ。
我にもはや失うべき命など無い。不死不滅の怨霊として
その青二才、我が切って捨ててくれるわ。
ははははっ。軍をよこせ! 我に手足を与えろっ!
斬って、斬って、斬り殺してやるっ!」
巨額の利益を上げているだと?
極光島は我ら南部諸王国共有の財産のはず。
いや、あの島にもっとも血を捧げたのは
我が白夜。
我らではないかっ!!
それをこともあろうに、なぜあの青二才が
勝利を吸い上げる。利益をむさぼるっ?」
片目司令官「ヒヒヒ、ヒヒィーッ」
白夜王「それをあの鉄腕王や、氷雪の女王までもが
英邁よ、豪傑よともてはやし、挙げ句の果ては
義勇軍として参加したものどもまでが冬の国に住み着くという。
わが白夜が凍えるような冬の厳しさに耐え
貧しい暮らしをつづけているというのに、
我を愚弄する小せがれは、我らが利益を盗んでいるのだ。
そのようなこと、精霊がお許しになるはずもないわっ」
片目司令官「アハハハハッ! 任せろ。この我にっ。
我にもはや失うべき命など無い。不死不滅の怨霊として
その青二才、我が切って捨ててくれるわ。
ははははっ。軍をよこせ! 我に手足を与えろっ!
斬って、斬って、斬り殺してやるっ!」
452: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 18:31:00.01 ID:CkBATQ0gP
白夜王「まぁ、まて。その狂気を解き放つのはな」
片目司令官「何故だ……」
白夜王「奴らを殺すのはいつでも出来る。杯に垂らす
一滴の毒、もしくは寝室に忍び込ませる短剣の一本でな」
片目司令官「ヒヒヒっ」 ごくっ、ごくっ
白夜王「あのヒヨッ子、そう容易くは殺しはしない。
やつには我が味わった、この高貴なる王者のあじわった
数千倍の恥辱を与えてやる。そうであろう?」
片目司令官「そうだっ! 屈辱の極みをっ。
裏切りの叛徒どものに、侮蔑の視線にさらされ
恥辱に灼かれる地獄を味あわせてやるっ!」
白夜王「ではまずはこの一手だ」にたり
片目司令官「……ふん? ははっ。
あははははははは!! これはいい!
そうか、そういうことかっ! あはははははは!!」
白夜王「ふふふ、そうだ。冬の王よ。お前の宝を
お前の国をばらばらにしてやろう。あははははは!」
片目司令官「あはははははははははは!!!!!」
片目司令官「何故だ……」
白夜王「奴らを殺すのはいつでも出来る。杯に垂らす
一滴の毒、もしくは寝室に忍び込ませる短剣の一本でな」
片目司令官「ヒヒヒっ」 ごくっ、ごくっ
白夜王「あのヒヨッ子、そう容易くは殺しはしない。
やつには我が味わった、この高貴なる王者のあじわった
数千倍の恥辱を与えてやる。そうであろう?」
片目司令官「そうだっ! 屈辱の極みをっ。
裏切りの叛徒どものに、侮蔑の視線にさらされ
恥辱に灼かれる地獄を味あわせてやるっ!」
白夜王「ではまずはこの一手だ」にたり
片目司令官「……ふん? ははっ。
あははははははは!! これはいい!
そうか、そういうことかっ! あはははははは!!」
白夜王「ふふふ、そうだ。冬の王よ。お前の宝を
お前の国をばらばらにしてやろう。あははははは!」
片目司令官「あはははははははははは!!!!!」
460: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 18:36:57.16 ID:CkBATQ0gP
――冬越し村、魔王の屋敷、客間
メイド妹「こ、こちらにどうぞー」
青年商人「おやおや。小さなお嬢ちゃん。そんなに緊張しないで」
メイド妹「き、緊張してないですでございます」
青年商人「右手と右足が一緒だよ?」
メイド妹「へ、平気だもんっ」
青年商人「あははっ。よろしくね」
がちゃ
メイド妹「こ、こ、ここにどうぞっ」
青年商人「はい、座ります」
メイド妹「では、おねーちゃ……じゃなかった、当主様を
呼んでまいります。しょーしょーおまちくださひ」
青年商人「さひ?」
メイド妹 じわぁ
青年商人「あ、泣かない、泣かない!」 おろおろっ
メイド妹「こ、こちらにどうぞー」
青年商人「おやおや。小さなお嬢ちゃん。そんなに緊張しないで」
メイド妹「き、緊張してないですでございます」
青年商人「右手と右足が一緒だよ?」
メイド妹「へ、平気だもんっ」
青年商人「あははっ。よろしくね」
がちゃ
メイド妹「こ、こ、ここにどうぞっ」
青年商人「はい、座ります」
メイド妹「では、おねーちゃ……じゃなかった、当主様を
呼んでまいります。しょーしょーおまちくださひ」
青年商人「さひ?」
メイド妹 じわぁ
青年商人「あ、泣かない、泣かない!」 おろおろっ
463: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 18:42:59.95 ID:CkBATQ0gP
メイド妹「お、おねーちゃん、どうしよー?」
メイド姉「仕方ないわ。当主様から貰った指輪を使うしか」
メイド妹「う、うん……」
メイド姉「お茶の準備をお願いね」
こんこん……
メイド姉「お待たせして、済まない」
青年商人「ご無沙汰しています、学士殿っ」
メイド姉「一別以来だな。どうかな、変わりないかな」
青年商人「ええ……。
無事に商売を続けさせて頂いております」
メイド姉「……」
青年商人「……」
メイド姉「その、本日は」
青年商人「今回も定例の報告書や、収支決算書、納品書に
領収書類などのお届けです。普段は船便ですが、流石に
わたしも紅の学士殿の艶姿が懐かしくなりまして。
今回はお目にかかるためにのこのこ参上してしまいました。
はははは、お恥ずかしい」
メイド姉「それは、その……。言葉に困るな」
青年商人「ええ。はい。そのようなわけで、学士様。
お色直しなど、いかがですか?」
メイド姉「仕方ないわ。当主様から貰った指輪を使うしか」
メイド妹「う、うん……」
メイド姉「お茶の準備をお願いね」
こんこん……
メイド姉「お待たせして、済まない」
青年商人「ご無沙汰しています、学士殿っ」
メイド姉「一別以来だな。どうかな、変わりないかな」
青年商人「ええ……。
無事に商売を続けさせて頂いております」
メイド姉「……」
青年商人「……」
メイド姉「その、本日は」
青年商人「今回も定例の報告書や、収支決算書、納品書に
領収書類などのお届けです。普段は船便ですが、流石に
わたしも紅の学士殿の艶姿が懐かしくなりまして。
今回はお目にかかるためにのこのこ参上してしまいました。
はははは、お恥ずかしい」
メイド姉「それは、その……。言葉に困るな」
青年商人「ええ。はい。そのようなわけで、学士様。
お色直しなど、いかがですか?」
466: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 18:49:25.89 ID:CkBATQ0gP
メイド姉「はい?」
青年商人「いえいえ。極光島奪還が成りましたからね。
南西交易路による流通が増えて、船の便も増えました。
この冬の国にも、様々な物資が入ってくるようになった
でしょう?」
メイド姉「う、うむ」
青年商人「となると、商人に取りまして目利きが大事でして。
麦などは水を含ませて取引の際に目方を増やそうとする
者も居る始末でしてね。傷みが早くなるうえ、粗悪品。
そのような物を掴むのは二流の商売人。
わたしも駆け出しの頃は、父から良く鉄拳制裁を受けた
物です。お恥ずかしい話ですが。あはははは」
メイド姉「……そ、それが」
青年商人「さぁて」
カチャ
勇者「メイド姉、もういいや」
メイド姉「は、はいっ。いえ、まだっ」
勇者「いや、下がって良い。この人はもう見抜いてる」
メイド姉「……そっ、そんな」
勇者「確かな目利きだ。話に聞いていたとおり凄腕だなー」
青年商人「いえいえ。極光島奪還が成りましたからね。
南西交易路による流通が増えて、船の便も増えました。
この冬の国にも、様々な物資が入ってくるようになった
でしょう?」
メイド姉「う、うむ」
青年商人「となると、商人に取りまして目利きが大事でして。
麦などは水を含ませて取引の際に目方を増やそうとする
者も居る始末でしてね。傷みが早くなるうえ、粗悪品。
そのような物を掴むのは二流の商売人。
わたしも駆け出しの頃は、父から良く鉄拳制裁を受けた
物です。お恥ずかしい話ですが。あはははは」
メイド姉「……そ、それが」
青年商人「さぁて」
カチャ
勇者「メイド姉、もういいや」
メイド姉「は、はいっ。いえ、まだっ」
勇者「いや、下がって良い。この人はもう見抜いてる」
メイド姉「……そっ、そんな」
勇者「確かな目利きだ。話に聞いていたとおり凄腕だなー」
471: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 18:55:02.08 ID:CkBATQ0gP
メイド姉「失礼します」
がちゃり。 とてて……
青年商人「や、すごい技ですね。幻術ですか?」
勇者「ああ、そうだ。一目で見抜かれるとは思わなかったよ」
青年商人「いえいえ逆です。こういう事は大抵直感が正しい。
考えた末に見破るというのは少ないのです」
勇者「恐れ入ったよ」
青年商人「あははは。大したことではありません。
それにしても……。お久しぶりですね、勇者殿」
勇者「ああ、久しぶり。三年、いや四年になるのか?」
青年商人「そうですね。懐かしいなぁ」
勇者「あー。腹立ってきた! そうだ、腹が立ってたんだ!
くっそ、広範囲殲滅雷撃系呪文が猛烈に恋しくなってきた」
青年商人「はい? どうしました?」
勇者「あのときは俺のこと騙したって云うじゃないか!」
青年商人「とんでもない。騙すだなんてこれっぽっちも」
勇者「金貨十五枚だぞ!? そっちは金貨数万枚は
少なくとも稼いだって云う話だぞっ!」
青年商人「ええ、あの演説は金になりました。
ありがとうございます」にこにこ
がちゃり。 とてて……
青年商人「や、すごい技ですね。幻術ですか?」
勇者「ああ、そうだ。一目で見抜かれるとは思わなかったよ」
青年商人「いえいえ逆です。こういう事は大抵直感が正しい。
考えた末に見破るというのは少ないのです」
勇者「恐れ入ったよ」
青年商人「あははは。大したことではありません。
それにしても……。お久しぶりですね、勇者殿」
勇者「ああ、久しぶり。三年、いや四年になるのか?」
青年商人「そうですね。懐かしいなぁ」
勇者「あー。腹立ってきた! そうだ、腹が立ってたんだ!
くっそ、広範囲殲滅雷撃系呪文が猛烈に恋しくなってきた」
青年商人「はい? どうしました?」
勇者「あのときは俺のこと騙したって云うじゃないか!」
青年商人「とんでもない。騙すだなんてこれっぽっちも」
勇者「金貨十五枚だぞ!? そっちは金貨数万枚は
少なくとも稼いだって云う話だぞっ!」
青年商人「ええ、あの演説は金になりました。
ありがとうございます」にこにこ
476: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 19:02:21.26 ID:CkBATQ0gP
勇者「うっわ、むかつく」
青年商人「ちゃんと契約どおりのお金をお払いしたじゃないですか」
勇者「それで納得してた俺の幼さが腹立たしいっ!」
青年商人「これもまた駆け引きの勝敗です」にこっ
勇者「まーそうだよな。はぁ……」
青年商人「生きてらっしゃったんですね」
勇者「ああ? おう。ぴんぴんしてるぞ」
青年商人「ふむ……」
勇者「何を考えている?」
青年商人「この後の話のもって行き方を」
勇者「あんたは……少し、変わったような気がするな」
青年商人「そうですか?」
勇者「四年前に会ったときは、もっと隙が無くて完璧で
どこをとってもとりつく島がないように見えた記憶がある」
青年商人「じゃぁ、四年で随分まるくなって温くなったんでしょう。
わたしもそろそろ後進に道を譲って隠居すべきでしょうか。
あはははっ」
青年商人「ちゃんと契約どおりのお金をお払いしたじゃないですか」
勇者「それで納得してた俺の幼さが腹立たしいっ!」
青年商人「これもまた駆け引きの勝敗です」にこっ
勇者「まーそうだよな。はぁ……」
青年商人「生きてらっしゃったんですね」
勇者「ああ? おう。ぴんぴんしてるぞ」
青年商人「ふむ……」
勇者「何を考えている?」
青年商人「この後の話のもって行き方を」
勇者「あんたは……少し、変わったような気がするな」
青年商人「そうですか?」
勇者「四年前に会ったときは、もっと隙が無くて完璧で
どこをとってもとりつく島がないように見えた記憶がある」
青年商人「じゃぁ、四年で随分まるくなって温くなったんでしょう。
わたしもそろそろ後進に道を譲って隠居すべきでしょうか。
あはははっ」
477: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 19:10:02.45 ID:CkBATQ0gP
勇者「でも、今の方がよほど敵にはしたくないな」
青年商人「おやおや、奇遇ですね。
わたしもそう思っていたところです」
勇者「……」
青年商人「変わったとすれば、
それはあの方のせいかもしれませんよ。
自分の常識や今までの経験では飲み込めないような
巨大な存在に出会ったとき、どうすればいいのか。
腹をくくるとはどういうことか、
それを教わったような気がします」
勇者「あいつなのか?」
青年商人「はい」
勇者「そうか……」
青年商人「“相容れない光と影を仲介し、妥協し、
取引する”と。あれでわたしの商人としての生は
一つの道しるべを得た。かけがえのない言葉です」
青年商人「おやおや、奇遇ですね。
わたしもそう思っていたところです」
勇者「……」
青年商人「変わったとすれば、
それはあの方のせいかもしれませんよ。
自分の常識や今までの経験では飲み込めないような
巨大な存在に出会ったとき、どうすればいいのか。
腹をくくるとはどういうことか、
それを教わったような気がします」
勇者「あいつなのか?」
青年商人「はい」
勇者「そうか……」
青年商人「“相容れない光と影を仲介し、妥協し、
取引する”と。あれでわたしの商人としての生は
一つの道しるべを得た。かけがえのない言葉です」
479: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 19:15:30.82 ID:CkBATQ0gP
勇者「あいつが?」
青年商人「はい、最初にあった時に。
そして勇者、あなたがここに現われたことで
確信が持てました」
勇者「……契約は守ったとか云ってたよな?」
青年商人「はい?」
勇者「四年前の演説だよ」
青年商人「ええ、云いましたが……」
勇者「それは嘘だろう?
……俺が帰ったら宴を奢るとって云ってたじゃないか」
青年商人「おお。そうでした! 良く覚えていましたね。
それはまさしくその通りです。よろしいでしょう。
契約は果たさねば。いつでも良いですよ」
勇者「よし、その言葉、二言はないな」
青年商人「ええ、もちろん」
勇者「じゃぁ、今だ」
しゅいんっ!!
青年商人「はい、最初にあった時に。
そして勇者、あなたがここに現われたことで
確信が持てました」
勇者「……契約は守ったとか云ってたよな?」
青年商人「はい?」
勇者「四年前の演説だよ」
青年商人「ええ、云いましたが……」
勇者「それは嘘だろう?
……俺が帰ったら宴を奢るとって云ってたじゃないか」
青年商人「おお。そうでした! 良く覚えていましたね。
それはまさしくその通りです。よろしいでしょう。
契約は果たさねば。いつでも良いですよ」
勇者「よし、その言葉、二言はないな」
青年商人「ええ、もちろん」
勇者「じゃぁ、今だ」
しゅいんっ!!
482: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 19:21:57.89 ID:CkBATQ0gP
――魔界、開門都市、郊外の虹降りしきる丘
しゅわんっ!
青年商人「こ、ここは……。くっ」
勇者「転移酔いだ。深呼吸すれば治るさ」
青年商人「これは……移動の呪文ですか?」
勇者「そうだ」
青年商人「ここは……。なんて場所だろう!!」
勇者「このあたりでは、夜になるとなぜか虹が降るんだ
磁気がどうとか説明されたけれど、俺にはちょっと
難しくて判らなかったな」
青年商人「すごい……」
勇者「夢魔鶫っ」
夢魔鶫「御身の側に」
勇者「公女に云って酒の用意を頼んでくれないか。
場所はここで良いだろう」
夢魔鶫「仰せのままに」
青年商人「魔族……?」
勇者「使い魔っていうんだ。伝言に便利だよ」
しゅわんっ!
青年商人「こ、ここは……。くっ」
勇者「転移酔いだ。深呼吸すれば治るさ」
青年商人「これは……移動の呪文ですか?」
勇者「そうだ」
青年商人「ここは……。なんて場所だろう!!」
勇者「このあたりでは、夜になるとなぜか虹が降るんだ
磁気がどうとか説明されたけれど、俺にはちょっと
難しくて判らなかったな」
青年商人「すごい……」
勇者「夢魔鶫っ」
夢魔鶫「御身の側に」
勇者「公女に云って酒の用意を頼んでくれないか。
場所はここで良いだろう」
夢魔鶫「仰せのままに」
青年商人「魔族……?」
勇者「使い魔っていうんだ。伝言に便利だよ」
483: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 19:26:20.97 ID:CkBATQ0gP
青年商人「ここはまさか」
勇者「うん、魔界だ」
青年商人「……」
勇者「さっきの言葉で判ったよ。だから連れてきた」
青年商人「あの人は」
勇者「魔族だ」
青年商人「やはり……」
勇者「……」
青年商人「空気の香りも、違うのですね」
勇者「ん。そうかもな。でも、港町には港町の、
都市には都市の匂いがあるだろう? そういうものだ」
青年商人「あの外壁は?」
勇者「あれが『開門都市』。……この間まで人間が占拠
していた街さ」
青年商人「ああ。司令官が逃げ帰って魔族に再統治されたという」
勇者「うん、魔界だ」
青年商人「……」
勇者「さっきの言葉で判ったよ。だから連れてきた」
青年商人「あの人は」
勇者「魔族だ」
青年商人「やはり……」
勇者「……」
青年商人「空気の香りも、違うのですね」
勇者「ん。そうかもな。でも、港町には港町の、
都市には都市の匂いがあるだろう? そういうものだ」
青年商人「あの外壁は?」
勇者「あれが『開門都市』。……この間まで人間が占拠
していた街さ」
青年商人「ああ。司令官が逃げ帰って魔族に再統治されたという」
488: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 19:32:50.23 ID:CkBATQ0gP
勇者「そりゃ嘘だな。だいたいその話が本当なら
開門都市にいた人間の商人数千人は殺されたことになる」
青年商人「違うのですか?」
勇者「あの都市で今でも商売をしているよ」
青年商人「は?」
勇者「ゲート周辺の治安や周囲の荒野の関係で、
いまはちょっと人間界と連絡を取りずらいかもしれないが
『同盟』の商人だって、残ってる」
青年商人「本当ですかっ!?」
勇者「嘘は言わない」
青年商人「そんな……」
勇者「おいおい。あいつと話したんだろう?」
青年商人「あ……。ええ……」
勇者「じゃあ判ってたはずだ。あいつが何を夢見ていたか」
青年商人「勇者……」
勇者「あいつは、お前のこと買ってたぞ?」
青年商人「……っ」
勇者「人間界にも好敵手は居る、ってな」
開門都市にいた人間の商人数千人は殺されたことになる」
青年商人「違うのですか?」
勇者「あの都市で今でも商売をしているよ」
青年商人「は?」
勇者「ゲート周辺の治安や周囲の荒野の関係で、
いまはちょっと人間界と連絡を取りずらいかもしれないが
『同盟』の商人だって、残ってる」
青年商人「本当ですかっ!?」
勇者「嘘は言わない」
青年商人「そんな……」
勇者「おいおい。あいつと話したんだろう?」
青年商人「あ……。ええ……」
勇者「じゃあ判ってたはずだ。あいつが何を夢見ていたか」
青年商人「勇者……」
勇者「あいつは、お前のこと買ってたぞ?」
青年商人「……っ」
勇者「人間界にも好敵手は居る、ってな」
491: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 19:41:56.11 ID:CkBATQ0gP
勇者「俺はあいつじゃないから、あいつのように
計画も語れないし損得勘定であんたを説得できそうもない。
でも、やっぱり、今あんたに降りられると困るし。
あー。なんだろうな。
こび感じは……。
うん……寂しい。
ただの勇者に戻るのは――寂しいんだな」
青年商人「……」
勇者「だから、見せる。これが開門都市だ。
今この世界にある唯一の魔族と人間が共存する交流都市だ。
この都市の人口は約三万二千。湖の国の首都より大きい。
この都市は中立地帯として魔王にも承認されている。
自治都市として、都市議会が統治を行っているんだ。
議会のメンバーの1/3は人間だよ。
議長は人間の元軍人が務めている。議員には魔界の
有力氏族の子女も……」
火竜公女「わが君~ぃぃ」
勇者「入ってもらう形で……」
火竜公女「わが君、ご下命に応じましてただいま参上
いたしました。宴席であるとか。わが火竜一族の誇りに
賭けてお客人のおもてなしに無礼があっては成りませぬ故、
ただいま設営をっ!」
勇者「あー、んー。そのー。お手柔らかに」
計画も語れないし損得勘定であんたを説得できそうもない。
でも、やっぱり、今あんたに降りられると困るし。
あー。なんだろうな。
こび感じは……。
うん……寂しい。
ただの勇者に戻るのは――寂しいんだな」
青年商人「……」
勇者「だから、見せる。これが開門都市だ。
今この世界にある唯一の魔族と人間が共存する交流都市だ。
この都市の人口は約三万二千。湖の国の首都より大きい。
この都市は中立地帯として魔王にも承認されている。
自治都市として、都市議会が統治を行っているんだ。
議会のメンバーの1/3は人間だよ。
議長は人間の元軍人が務めている。議員には魔界の
有力氏族の子女も……」
火竜公女「わが君~ぃぃ」
勇者「入ってもらう形で……」
火竜公女「わが君、ご下命に応じましてただいま参上
いたしました。宴席であるとか。わが火竜一族の誇りに
賭けてお客人のおもてなしに無礼があっては成りませぬ故、
ただいま設営をっ!」
勇者「あー、んー。そのー。お手柔らかに」
494: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 19:46:46.44 ID:CkBATQ0gP
――魔界、開門都市、虹降りしきる丘、宴席
火竜公女「酌をしましょう、お客人」
青年商人「いえ、随分飲んだので」
火竜公女「なりませぬ」ぷいっ
勇者「ああ。飲んだ方がいいぞ。
火竜の酌を拒むと耳がかじられる。片耳だと不便だぞ」
青年商人「ええっ!? そんな無法なっ!!」
勇者「魔界だから仕方ない」
魔族娘「そ、その……黒騎士さまも、どうぞ……」
ぽたぽたぽた
青年商人「そ、そのくらいで。止めてくださいっ」
火竜公女「一人前の男子たるもの、杯の縁より酒が
こぼれるくらいでないと“注いだ”とは申しませぬ」
青年商人「なんて所なんだ!?」
勇者「おい、商人」
青年商人「なんですか、勇者」
火竜公女「酌をしましょう、お客人」
青年商人「いえ、随分飲んだので」
火竜公女「なりませぬ」ぷいっ
勇者「ああ。飲んだ方がいいぞ。
火竜の酌を拒むと耳がかじられる。片耳だと不便だぞ」
青年商人「ええっ!? そんな無法なっ!!」
勇者「魔界だから仕方ない」
魔族娘「そ、その……黒騎士さまも、どうぞ……」
ぽたぽたぽた
青年商人「そ、そのくらいで。止めてくださいっ」
火竜公女「一人前の男子たるもの、杯の縁より酒が
こぼれるくらいでないと“注いだ”とは申しませぬ」
青年商人「なんて所なんだ!?」
勇者「おい、商人」
青年商人「なんですか、勇者」
496: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 19:50:55.47 ID:CkBATQ0gP
勇者「どーだ」
青年商人「なにがどーだですか」
勇者(小声)「●●●●だよ、●●●●っ!」
青年商人「はぁぁ!?」
勇者「お前が●●●●いっぱいの打ち上げパーティーを
企画しておくから、民衆に手を振ってばきゅーん☆って
しろって俺を魔界に送り出したんだろ!」
青年商人「あ。あははは! そうでしたっ。
あははっ。ひどいなぁ、わたしそんなこと
云ってましたよね。若気の至りとは言え
我ながら呆れる悪辣さだっ」
勇者「どうよ、これ」ちらっ
青年商人「ええ、結構なお点前です」こくり
勇者「……あははっ」
青年商人「あはははっ。
ああ、おかしい。こんなに笑ったのは久しぶりです」
勇者「酒も旨いか」
青年商人「ええ。わたしは商人ですからね。
色んな国の酒を飲む。酒にはその国がでるような気がしますね」
勇者「おい、商人」
青年商人「なんですか、勇者」
青年商人「なにがどーだですか」
勇者(小声)「●●●●だよ、●●●●っ!」
青年商人「はぁぁ!?」
勇者「お前が●●●●いっぱいの打ち上げパーティーを
企画しておくから、民衆に手を振ってばきゅーん☆って
しろって俺を魔界に送り出したんだろ!」
青年商人「あ。あははは! そうでしたっ。
あははっ。ひどいなぁ、わたしそんなこと
云ってましたよね。若気の至りとは言え
我ながら呆れる悪辣さだっ」
勇者「どうよ、これ」ちらっ
青年商人「ええ、結構なお点前です」こくり
勇者「……あははっ」
青年商人「あはははっ。
ああ、おかしい。こんなに笑ったのは久しぶりです」
勇者「酒も旨いか」
青年商人「ええ。わたしは商人ですからね。
色んな国の酒を飲む。酒にはその国がでるような気がしますね」
勇者「おい、商人」
青年商人「なんですか、勇者」
499: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 19:54:50.66 ID:CkBATQ0gP
勇者「虹が、すごいなぁ!」 ごろん
青年商人「確かに」 ごろんっ
火竜公女「まぁ、殿方は子供ですね」
魔族娘「でも、ほんとうに……風が気持ちいいです」
青年商人「虹はすごいですが、それで交渉の妥協は
しませんよ? 勇者殿」にこっ
勇者「あいつが云ってたぞ。
“商人たちはその『許可』を求める”ってな。
使用許可、通行許可。新しい土地は新しい市場でもあり
新しい物産の供給源でもある。そう言った場所と
取引をする」
青年商人「ええ」
勇者「あの都市のそれはどうだ?」
青年商人「それは、そうですね。まさに……
“中央大陸の都市の金全て。
いや、既知世界の全てよりも金になる”」
勇者「売ろう」
青年商人「良いのですか?」
青年商人「確かに」 ごろんっ
火竜公女「まぁ、殿方は子供ですね」
魔族娘「でも、ほんとうに……風が気持ちいいです」
青年商人「虹はすごいですが、それで交渉の妥協は
しませんよ? 勇者殿」にこっ
勇者「あいつが云ってたぞ。
“商人たちはその『許可』を求める”ってな。
使用許可、通行許可。新しい土地は新しい市場でもあり
新しい物産の供給源でもある。そう言った場所と
取引をする」
青年商人「ええ」
勇者「あの都市のそれはどうだ?」
青年商人「それは、そうですね。まさに……
“中央大陸の都市の金全て。
いや、既知世界の全てよりも金になる”」
勇者「売ろう」
青年商人「良いのですか?」
500: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 20:00:45.18 ID:CkBATQ0gP
勇者「かまわない」
青年商人「対価は何を求めるんです?」
勇者「俺はあいつじゃないから、何が適当な対価なんて
判らないんだよな。何が釣り合って、
何が釣り合わないかなんて、今までろくに考えないで生きてきた」
青年商人「……」
勇者「だから、対価なんて困っちまうんだけど。
それでも、となるとさ。
……商人は、何でも損と特に切り分けて
考えるのだろう?」
青年商人「ええ」
勇者「なんて云うのかな。
みんなは、そんな商人を強突張りだとか
利益にしか関心のない化け物のように云うけれど、
あいつを見ていると、
そんなことはないのじゃないかと、俺は思うんだ」
青年商人「……」
勇者「誰よりも利に聡く、誰よりも真剣に損得勘定で
生きている商人は、もしかしたら世界で一番最初に
損得では割り切れないものを見つけるかもしれない」
青年商人「対価は何を求めるんです?」
勇者「俺はあいつじゃないから、何が適当な対価なんて
判らないんだよな。何が釣り合って、
何が釣り合わないかなんて、今までろくに考えないで生きてきた」
青年商人「……」
勇者「だから、対価なんて困っちまうんだけど。
それでも、となるとさ。
……商人は、何でも損と特に切り分けて
考えるのだろう?」
青年商人「ええ」
勇者「なんて云うのかな。
みんなは、そんな商人を強突張りだとか
利益にしか関心のない化け物のように云うけれど、
あいつを見ていると、
そんなことはないのじゃないかと、俺は思うんだ」
青年商人「……」
勇者「誰よりも利に聡く、誰よりも真剣に損得勘定で
生きている商人は、もしかしたら世界で一番最初に
損得では割り切れないものを見つけるかもしれない」
502: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 20:04:08.42 ID:CkBATQ0gP
青年商人「勇者……」
勇者「もしかしたらもっとちゃんとした
対価を求めるべきかもしれない。
あとであいつに殺されるかもなぁ。
でも、俺に『それ』を見せてくれ。それが対価だ」
青年商人「はははっ。なんでしょうね、この」
勇者「あいつと俺には、あんたの見つけるそれが必要だと思うんだ」
青年商人「うん、そうだ。このばかばかしい気持ちはっ!
ああ、愉快だ。わたしはどうやらとっても愉快ですよ」
勇者「……」
青年商人「良いでしょう、確かにその契約をお受けしました。
わたし自らが陣頭に立ち『同盟』を率いて
必ずや『それ』を仕入れてご覧に入れましょうっ」
勇者「頼む」
青年商人「その暁には」
勇者「?」
青年商人「あなたとあの方の関係を聞いても、
きっと退かずにに済むでしょう。なぁに、不利な時期に
戦いを挑むほど、この商人は愚かではありません」
勇者「もしかしたらもっとちゃんとした
対価を求めるべきかもしれない。
あとであいつに殺されるかもなぁ。
でも、俺に『それ』を見せてくれ。それが対価だ」
青年商人「はははっ。なんでしょうね、この」
勇者「あいつと俺には、あんたの見つけるそれが必要だと思うんだ」
青年商人「うん、そうだ。このばかばかしい気持ちはっ!
ああ、愉快だ。わたしはどうやらとっても愉快ですよ」
勇者「……」
青年商人「良いでしょう、確かにその契約をお受けしました。
わたし自らが陣頭に立ち『同盟』を率いて
必ずや『それ』を仕入れてご覧に入れましょうっ」
勇者「頼む」
青年商人「その暁には」
勇者「?」
青年商人「あなたとあの方の関係を聞いても、
きっと退かずにに済むでしょう。なぁに、不利な時期に
戦いを挑むほど、この商人は愚かではありません」
537: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 22:06:26.36 ID:CkBATQ0gP
――冬越し村、屋敷の馬小屋
馬 ぶるるるんっ!
女騎士「よしよし、いいこだぞ。今拭いてやるからな」
勇者「やっぱり騎士だけあって、馬の扱いは上手いなぁ」
女騎士「何云ってるんだ。勇者だって乗れないと困るぞ」
勇者「自分で走った方が早いし……」
女騎士「見栄えの問題だ」
勇者「わかっけど。よし、林檎やる」
馬 がぶっ!
勇者「な、なにをするおんどれー!?」
女騎士「おい、大人げないな」
勇者「こいつがぶってやったんだぞ!?」
女騎士「お前、怒らせたんだろ?」
勇者「ちっげーよ。林檎食べる? ヘイ君可愛いねって」
馬 がぶっ!
勇者「ちょ、まてやこら。しまいにゃ卸すぞっ!」
馬 ぶるるるんっ!
女騎士「よしよし、いいこだぞ。今拭いてやるからな」
勇者「やっぱり騎士だけあって、馬の扱いは上手いなぁ」
女騎士「何云ってるんだ。勇者だって乗れないと困るぞ」
勇者「自分で走った方が早いし……」
女騎士「見栄えの問題だ」
勇者「わかっけど。よし、林檎やる」
馬 がぶっ!
勇者「な、なにをするおんどれー!?」
女騎士「おい、大人げないな」
勇者「こいつがぶってやったんだぞ!?」
女騎士「お前、怒らせたんだろ?」
勇者「ちっげーよ。林檎食べる? ヘイ君可愛いねって」
馬 がぶっ!
勇者「ちょ、まてやこら。しまいにゃ卸すぞっ!」
543: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 22:13:32.13 ID:CkBATQ0gP
――。
――――。
女騎士「ったく、馬と喧嘩するやつがあるか」
勇者「だって……」
女騎士「おまけに駆けっこで負かすやつがあるか。
ほれみろ、お前の馬だって自信喪失だぞ」
勇者「面目ない」
馬 しょんぼり。
女騎士「まぁ、いい。馬の世話はやってやる」
勇者「む……」
女騎士「いくら勇者でも、馬で旅することもあるだろう?
何かのパレードに参加する事にでもなったら、
馬に乗れないじゃ格好はつかないぞ」
勇者「それはそうだけどさ」
ごっしごっし、ごしごし
女騎士「~♪」
勇者「やっぱ、戦いよりも平和のが良いよな」
女騎士「それは当たり前だ」
勇者「当たり前なのに、そうならんのは何故かなぁ」
女騎士「それは判らない。わたしは馬鹿だからなっ」ふふん
――――。
女騎士「ったく、馬と喧嘩するやつがあるか」
勇者「だって……」
女騎士「おまけに駆けっこで負かすやつがあるか。
ほれみろ、お前の馬だって自信喪失だぞ」
勇者「面目ない」
馬 しょんぼり。
女騎士「まぁ、いい。馬の世話はやってやる」
勇者「む……」
女騎士「いくら勇者でも、馬で旅することもあるだろう?
何かのパレードに参加する事にでもなったら、
馬に乗れないじゃ格好はつかないぞ」
勇者「それはそうだけどさ」
ごっしごっし、ごしごし
女騎士「~♪」
勇者「やっぱ、戦いよりも平和のが良いよな」
女騎士「それは当たり前だ」
勇者「当たり前なのに、そうならんのは何故かなぁ」
女騎士「それは判らない。わたしは馬鹿だからなっ」ふふん
548: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 22:19:28.53 ID:CkBATQ0gP
勇者「魔王と一緒にいると傷つくものが
女騎士と一緒だと癒されるよ」
女騎士「どういう意味だ?」
勇者「そのまま馬鹿でいて欲しい」
女騎士「喧嘩を売ってるのか?」
勇者「ちげー、ちげーですよ」
女騎士「まったく、勇者と居るとふざけてばっかりだ」
勇者「それがいいんじゃないか」
女騎士「へ?」
勇者「そういうのが良いんじゃないか。判って無いな」
女騎士「……」
勇者「俺はそうやって女騎士とふざけてるの好きだぞ?」
女騎士「え、あ……その」
勇者「?」
女騎士「……ありがとう」
勇者「……うわ、むず痒っ。普通に返すなよ」ぼりぼり
女騎士と一緒だと癒されるよ」
女騎士「どういう意味だ?」
勇者「そのまま馬鹿でいて欲しい」
女騎士「喧嘩を売ってるのか?」
勇者「ちげー、ちげーですよ」
女騎士「まったく、勇者と居るとふざけてばっかりだ」
勇者「それがいいんじゃないか」
女騎士「へ?」
勇者「そういうのが良いんじゃないか。判って無いな」
女騎士「……」
勇者「俺はそうやって女騎士とふざけてるの好きだぞ?」
女騎士「え、あ……その」
勇者「?」
女騎士「……ありがとう」
勇者「……うわ、むず痒っ。普通に返すなよ」ぼりぼり
551: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 22:24:54.29 ID:CkBATQ0gP
女騎士「どうしたんだ?」
勇者「いや、髪が。ちょっと目に刺さって」
女騎士「ああ、長くなってきたもんな」
勇者「ちょっと切ってくれないか?」
女騎士「えっ。いいのかっ?」
勇者「うん。なんで?」
女騎士「あ。いや……。なんでもない。
何でもないけれど、切るのはやめておこう」
勇者「なんでだよ」
女騎士「なんでもない。……そうだ。
額環を作ってやるよ。それで髪をまとめれば、伸びても
目に刺さらないぞ」
勇者「面倒くさそうだぞ」
女騎士「いいや、似合うよ。ちょっと都会風になって
もてるかもしれないぞ? 勇者」
勇者「お! そうか? 格好良くなるのかっ」
女騎士「うむ、似合うものを作ってやろう!」
勇者「いや、髪が。ちょっと目に刺さって」
女騎士「ああ、長くなってきたもんな」
勇者「ちょっと切ってくれないか?」
女騎士「えっ。いいのかっ?」
勇者「うん。なんで?」
女騎士「あ。いや……。なんでもない。
何でもないけれど、切るのはやめておこう」
勇者「なんでだよ」
女騎士「なんでもない。……そうだ。
額環を作ってやるよ。それで髪をまとめれば、伸びても
目に刺さらないぞ」
勇者「面倒くさそうだぞ」
女騎士「いいや、似合うよ。ちょっと都会風になって
もてるかもしれないぞ? 勇者」
勇者「お! そうか? 格好良くなるのかっ」
女騎士「うむ、似合うものを作ってやろう!」
554: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 22:33:13.07 ID:CkBATQ0gP
女騎士 すっ
勇者「な、なんだよっ」
女騎士「いや、髪の毛を確かめているだけだ。
額環は、碧色が良いな。きっと似合う」
勇者「そかな」
女騎士「うん。わたしは切らないが、
それくらいなら許してくれるだろう?」
勇者「うーん。切った方が絶対早いんだけどな」
勇者「……」
女騎士「……」
女騎士「なぁ、勇者」
勇者「ん?」
女騎士「勇者は、魔王の物なんだろう?」
勇者「え。あ。……うん。そうだ。所有契約だ」
女騎士「そうか……」
勇者「まぁ、いろいろあったんだよ。そこに至るには」
勇者「な、なんだよっ」
女騎士「いや、髪の毛を確かめているだけだ。
額環は、碧色が良いな。きっと似合う」
勇者「そかな」
女騎士「うん。わたしは切らないが、
それくらいなら許してくれるだろう?」
勇者「うーん。切った方が絶対早いんだけどな」
勇者「……」
女騎士「……」
女騎士「なぁ、勇者」
勇者「ん?」
女騎士「勇者は、魔王の物なんだろう?」
勇者「え。あ。……うん。そうだ。所有契約だ」
女騎士「そうか……」
勇者「まぁ、いろいろあったんだよ。そこに至るには」
557: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 22:38:06.50 ID:CkBATQ0gP
女騎士「魔王は勇者の物なのか?」
勇者「うん、まぁ。成り行き上、一応」
女騎士「じゃ、魔王がもし酷いことになったら保護しないとな」
勇者「どりゃするよ。でも俺は勇者だろう?
たいていのやつが困ってたら保護するんだぜ?」
女騎士「ああ、それはよく判ってるよ」
勇者「なんだかなぁ、心臓にストレスがキリキリと」
女騎士「そうなのか?」
勇者「そうなんだ。俺の勘は根拠はないけど良く当たる」
女騎士「勘じゃなくて、もうちょっと空気を
読む能力を身につけてくれると周囲が助かるんだがな」
勇者「なんだ、それは?」
女騎士「いや、気にしないでくれ。こっちの愚痴だ」
勇者「うん、まぁ。成り行き上、一応」
女騎士「じゃ、魔王がもし酷いことになったら保護しないとな」
勇者「どりゃするよ。でも俺は勇者だろう?
たいていのやつが困ってたら保護するんだぜ?」
女騎士「ああ、それはよく判ってるよ」
勇者「なんだかなぁ、心臓にストレスがキリキリと」
女騎士「そうなのか?」
勇者「そうなんだ。俺の勘は根拠はないけど良く当たる」
女騎士「勘じゃなくて、もうちょっと空気を
読む能力を身につけてくれると周囲が助かるんだがな」
勇者「なんだ、それは?」
女騎士「いや、気にしないでくれ。こっちの愚痴だ」
559: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 22:43:34.04 ID:CkBATQ0gP
女騎士「でも、やっぱり一方的なのは悔しいな」
勇者「?」
女騎士「わたしも勇者に何かあげたいのだ」
勇者「額環くれるんだろう? もてもての」
女騎士「うん、貰ってくれるか?」
勇者「もちもち。もてもてアイテムか~。
女騎士に貰えるものなら何でも貰うぜ?」
女騎士「そうか。……そう言ってくれると嬉しい」にこり
勇者「大げさだな-。女騎士らしくもない」
女騎士「勇者」
ザッ
勇者「なんだよ、女騎士っ」
女騎士「黙って立ってろ」
勇者「何でいきなり跪くんだ?」
勇者「?」
女騎士「わたしも勇者に何かあげたいのだ」
勇者「額環くれるんだろう? もてもての」
女騎士「うん、貰ってくれるか?」
勇者「もちもち。もてもてアイテムか~。
女騎士に貰えるものなら何でも貰うぜ?」
女騎士「そうか。……そう言ってくれると嬉しい」にこり
勇者「大げさだな-。女騎士らしくもない」
女騎士「勇者」
ザッ
勇者「なんだよ、女騎士っ」
女騎士「黙って立ってろ」
勇者「何でいきなり跪くんだ?」
562: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 22:51:36.08 ID:CkBATQ0gP
女騎士「我は……
湖畔の国に精霊の恩寵を受け、生を賜りし光のしもべ。
勇者と共に旅をした長きにわたるこの剣を
女騎士の全てと共に勇者に捧げる」
勇者「……」
女騎士「我が剣、我が力、我が身体。
我が魂からの忠節と純潔は、勇者のもの。
勇者こそ我が魂の主人にして、我が希望の宿り主」
勇者「まてよ、女騎士っ」
女騎士「またない。勇者、この剣は勇者のもの」
勇者「立てって」
女騎士「立たない。勇者が貰ってくれるまで、動かない」
勇者「なに子供みたいな事言ってるんだよ」
女騎士「子供になって勇者に貰って貰えるならかまわない」
湖畔の国に精霊の恩寵を受け、生を賜りし光のしもべ。
勇者と共に旅をした長きにわたるこの剣を
女騎士の全てと共に勇者に捧げる」
勇者「……」
女騎士「我が剣、我が力、我が身体。
我が魂からの忠節と純潔は、勇者のもの。
勇者こそ我が魂の主人にして、我が希望の宿り主」
勇者「まてよ、女騎士っ」
女騎士「またない。勇者、この剣は勇者のもの」
勇者「立てって」
女騎士「立たない。勇者が貰ってくれるまで、動かない」
勇者「なに子供みたいな事言ってるんだよ」
女騎士「子供になって勇者に貰って貰えるならかまわない」
570: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 22:58:46.33 ID:CkBATQ0gP
女騎士「勇者が魔王の持ち物なのは、判った。
仕方ない。……わたしが、遅かった」
勇者「……」
女騎士「魔王はすごい。魔王は賢くて、懐が広くて
夢があって、ずぅっと遠くを見てる」
勇者「……」
女騎士「だから、わたしは勇者のことを欲しがったりはしない。
それは魔王のものだから、仕方ないと云えば、仕方ない。
もちろんその……魔王がいらなかったり隙があれば
遠慮なんかするつもりはないけれど」
女騎士「でも、だからといって、わたしはわたしのものだ。
せめて、わたしを勇者にあげたいんだ。
騎士に生まれて、今まで剣を捧げてこなかったわたしは、
騎士にしたって半端者だった。
剣を捧げるなら、勇者が良い。
始めに勇者に剣を捧げて、以後、主を変えない。
わたしは、そんな騎士でいたい」
勇者「……良いのかよ、こんなので。
こんな思いつきみたいな場所で。
そ、それってすげー大事な事じゃないのかよ」
仕方ない。……わたしが、遅かった」
勇者「……」
女騎士「魔王はすごい。魔王は賢くて、懐が広くて
夢があって、ずぅっと遠くを見てる」
勇者「……」
女騎士「だから、わたしは勇者のことを欲しがったりはしない。
それは魔王のものだから、仕方ないと云えば、仕方ない。
もちろんその……魔王がいらなかったり隙があれば
遠慮なんかするつもりはないけれど」
女騎士「でも、だからといって、わたしはわたしのものだ。
せめて、わたしを勇者にあげたいんだ。
騎士に生まれて、今まで剣を捧げてこなかったわたしは、
騎士にしたって半端者だった。
剣を捧げるなら、勇者が良い。
始めに勇者に剣を捧げて、以後、主を変えない。
わたしは、そんな騎士でいたい」
勇者「……良いのかよ、こんなので。
こんな思いつきみたいな場所で。
そ、それってすげー大事な事じゃないのかよ」
574: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 23:03:59.22 ID:CkBATQ0gP
女騎士「どこだって、何時だって同じ事だ。
わたしだって何かがしたいんだ。
勇者たちが未来へ出掛けるなら、
わたしの居場所だってその近くに欲しい。
もう……
もう、おいて行かれるのはいやだ」
勇者「……悪かった」
女騎士「剣を取って、我が主。大丈夫、わたしはあなたに叛かない」
勇者「……」こくり
すっ
女騎士「よし。……反対にして、返して」
勇者「うん」
びゅんっ! びゅんびゅんびゅっ!! しゃきんっ!
女騎士「これで、わたしの剣は勇者のものだ。
わたしの身も心も、勇者に捧げたって訳だ。
うん、なんだかそこはかとなく充実感があるなっ!」
わたしだって何かがしたいんだ。
勇者たちが未来へ出掛けるなら、
わたしの居場所だってその近くに欲しい。
もう……
もう、おいて行かれるのはいやだ」
勇者「……悪かった」
女騎士「剣を取って、我が主。大丈夫、わたしはあなたに叛かない」
勇者「……」こくり
すっ
女騎士「よし。……反対にして、返して」
勇者「うん」
びゅんっ! びゅんびゅんびゅっ!! しゃきんっ!
女騎士「これで、わたしの剣は勇者のものだ。
わたしの身も心も、勇者に捧げたって訳だ。
うん、なんだかそこはかとなく充実感があるなっ!」
579: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 23:11:22.35 ID:CkBATQ0gP
勇者 ぞくっ
女騎士「どうした? 勇者」
勇者「いや、なんか寒気がした。あのさ、あのさ。女騎士」
女騎士「ん?」
勇者「その、返品とかって出来るのか? 契約解除とか」
女騎士「出来ると思うのか」にこり
勇者「……」
女騎士「大丈夫だ。その悪寒の件はわたしが対処する。
わたしたちは親友になったんだ」
勇者(親友~!?)
女騎士「ちゃんと正面から話せば判ってくれるはずだ」
勇者(ちょ、なんでそう力勝負ばっかりっ!)
女騎士「勇者のことは、わたしが守るッ」
勇者「いや、まじほんと」
女騎士「ん?」
勇者「俺から云いますんで、一つ勘弁して」
女騎士「どうした? 勇者」
勇者「いや、なんか寒気がした。あのさ、あのさ。女騎士」
女騎士「ん?」
勇者「その、返品とかって出来るのか? 契約解除とか」
女騎士「出来ると思うのか」にこり
勇者「……」
女騎士「大丈夫だ。その悪寒の件はわたしが対処する。
わたしたちは親友になったんだ」
勇者(親友~!?)
女騎士「ちゃんと正面から話せば判ってくれるはずだ」
勇者(ちょ、なんでそう力勝負ばっかりっ!)
女騎士「勇者のことは、わたしが守るッ」
勇者「いや、まじほんと」
女騎士「ん?」
勇者「俺から云いますんで、一つ勘弁して」
593: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 23:20:30.64 ID:CkBATQ0gP
――冬越しの村、湖畔修道院
修道士「たっ! 大変だ!」
修道士「どうしたっていうんだっ!?」
修道士「大変だ、恐ろしいことが起きたっ。
も、もうだめかもしれないっ!!」
修道士「水を飲め、説明するんだ」
修道士「それどころじゃないっ。修道院長は?
女騎士様を呼べ、いや、探せっ! 一刻を争う!
早く女騎士様を捜すんだ!!」
――湾岸都市、商業区、大きな商業会館執務室
辣腕会計士「急報です、委員っ!」
青年商人「何ですか、慌ただしい」
辣腕会計士「一大事です。こ、これを……っ
とにかく、この報告書を……」
ガサリ
青年商人「……まっ、まさかっ!? 選挙の影響なのか。
迂闊、迂闊だった。この展開を見落とすとはってて。
――確認を、至急確認の船を出してくださいっ!!」
修道士「たっ! 大変だ!」
修道士「どうしたっていうんだっ!?」
修道士「大変だ、恐ろしいことが起きたっ。
も、もうだめかもしれないっ!!」
修道士「水を飲め、説明するんだ」
修道士「それどころじゃないっ。修道院長は?
女騎士様を呼べ、いや、探せっ! 一刻を争う!
早く女騎士様を捜すんだ!!」
――湾岸都市、商業区、大きな商業会館執務室
辣腕会計士「急報です、委員っ!」
青年商人「何ですか、慌ただしい」
辣腕会計士「一大事です。こ、これを……っ
とにかく、この報告書を……」
ガサリ
青年商人「……まっ、まさかっ!? 選挙の影響なのか。
迂闊、迂闊だった。この展開を見落とすとはってて。
――確認を、至急確認の船を出してくださいっ!!」
598: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 23:25:50.51 ID:CkBATQ0gP
――冬の国、冬の宮殿、謁見の間
ガタンッ!
冬寂王「なんだとっ!?」
使者「お聞こえになりませんでしたかな?
ではもう一度繰り返させて頂きます」
冬寂王「……」ぎりぎり
使者「冬の国にて学者を開きし『紅の学士』を名乗りしもの
彼のものについては、以下のような疑惑有り。
ひとつ。彼のものが湖畔修道会を利用して、罪なき
農民に広めている馬鈴薯なる作物は、魔族によって
栽培される悪魔の実である。
ひとつ。彼のものが進める農法、指導および肥料の
方法は精霊の教えたもうたものにあらず。そこには
邪なる異界の関与が認めらるる。
ひとつ。彼のものがその学校で教えている学問の数々。
これらは教会の権威をないがしろにし、侮蔑するものである。
ひとつ。聖王都の神学院は、彼のものが名乗るような
『紅の学士』なるものを輩出した記録はない。
告発と以上のような疑惑に基づき、
『紅の学士』なるものは異端であると疑いが十分である。
即刻身柄を引き渡すべし。
中央聖光教会 異端審問司教。
――この通り、署名もそろっております」
ガタンッ!
冬寂王「なんだとっ!?」
使者「お聞こえになりませんでしたかな?
ではもう一度繰り返させて頂きます」
冬寂王「……」ぎりぎり
使者「冬の国にて学者を開きし『紅の学士』を名乗りしもの
彼のものについては、以下のような疑惑有り。
ひとつ。彼のものが湖畔修道会を利用して、罪なき
農民に広めている馬鈴薯なる作物は、魔族によって
栽培される悪魔の実である。
ひとつ。彼のものが進める農法、指導および肥料の
方法は精霊の教えたもうたものにあらず。そこには
邪なる異界の関与が認めらるる。
ひとつ。彼のものがその学校で教えている学問の数々。
これらは教会の権威をないがしろにし、侮蔑するものである。
ひとつ。聖王都の神学院は、彼のものが名乗るような
『紅の学士』なるものを輩出した記録はない。
告発と以上のような疑惑に基づき、
『紅の学士』なるものは異端であると疑いが十分である。
即刻身柄を引き渡すべし。
中央聖光教会 異端審問司教。
――この通り、署名もそろっております」
604: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 23:30:02.52 ID:CkBATQ0gP
冬寂王「そ、それは……間違いないのか、使者殿」
使者「言葉を控えた方がよろしかろう! 冬寂王どの。
それが真実かどうかは、異端審問の場で審議が為されること。
もっとも光の精霊の教えを受けたる司教どのが
千に一つ、万に一つも過つことがないことなど
敬虔なる信徒である冬寂王ももちろんお解りだろうが」
冬寂王「……」
執事「こ、このような……」
使者「もちろん聡明なる司教殿は、こうも仰せられた。
おそらく冬の国、および湖畔修道会は、この異端の学士の
奸計に巻き込まれた、いわば被害者であろうと」
冬寂王「っ!」 ぎりっ
執事「……」
冬寂王(……中央の妬心か。それほどまでにっ。
それほどまでに南部諸王国が首輪から外れるのを
嫌われるのかっ。聖王国よっ、聖教会よっ!
南部諸王国が貧しさを脱し、自らの意志を持つことを
そこまで憎まれるかっ。このような手まで使って
足止めを狙うほどにっ)
使者「言葉を控えた方がよろしかろう! 冬寂王どの。
それが真実かどうかは、異端審問の場で審議が為されること。
もっとも光の精霊の教えを受けたる司教どのが
千に一つ、万に一つも過つことがないことなど
敬虔なる信徒である冬寂王ももちろんお解りだろうが」
冬寂王「……」
執事「こ、このような……」
使者「もちろん聡明なる司教殿は、こうも仰せられた。
おそらく冬の国、および湖畔修道会は、この異端の学士の
奸計に巻き込まれた、いわば被害者であろうと」
冬寂王「っ!」 ぎりっ
執事「……」
冬寂王(……中央の妬心か。それほどまでにっ。
それほどまでに南部諸王国が首輪から外れるのを
嫌われるのかっ。聖王国よっ、聖教会よっ!
南部諸王国が貧しさを脱し、自らの意志を持つことを
そこまで憎まれるかっ。このような手まで使って
足止めを狙うほどにっ)
606: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/09/09(水) 23:33:46.85 ID:CkBATQ0gP
使者「ご返答は如何に、冬寂王」
冬寂王「……」
執事「……」
使者「この世界において、教会に逆らうと云うことの意味は
わかっているでしょうな? 若き王よ。
信仰は光、教会は世界。それに背くと云うことは、
背教の輩、すなわち人類全てを敵に回すと云うことですぞ」
冬寂王「……く」
使者「大主教は、『破門』と云う言葉は口に出されませんでした。
ただ、“同じ信徒として異端に与するものが居たことは
非常に悲しい”とだけおっしゃった。
そのご厚情を無にするおつもりか、冬寂王っ」
冬寂王「そ、それは……」
執事「若……」
冬寂王「使者殿の、お言葉……痛み……いる……」
使者「では?」
冬寂王「軍を……出そう。しかし、冬越し村は、遠い。
時間を頂くことに……なる」
使者「よいでしょう。ただしお気をつけて、冬寂王。
もし、紅の学士を取り逃がすことなどあらば
あなたもこの国も湖畔教会も、背教のそしりを
免れないでしょうからなっ!」
冬寂王「……」
執事「……」
使者「この世界において、教会に逆らうと云うことの意味は
わかっているでしょうな? 若き王よ。
信仰は光、教会は世界。それに背くと云うことは、
背教の輩、すなわち人類全てを敵に回すと云うことですぞ」
冬寂王「……く」
使者「大主教は、『破門』と云う言葉は口に出されませんでした。
ただ、“同じ信徒として異端に与するものが居たことは
非常に悲しい”とだけおっしゃった。
そのご厚情を無にするおつもりか、冬寂王っ」
冬寂王「そ、それは……」
執事「若……」
冬寂王「使者殿の、お言葉……痛み……いる……」
使者「では?」
冬寂王「軍を……出そう。しかし、冬越し村は、遠い。
時間を頂くことに……なる」
使者「よいでしょう。ただしお気をつけて、冬寂王。
もし、紅の学士を取り逃がすことなどあらば
あなたもこの国も湖畔教会も、背教のそしりを
免れないでしょうからなっ!」
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