1: ◆svMdfnlanc 2013/02/14(木) 23:25:26.88 ID:iVdEAVpb
カラカラカラカラ プツンッ

スクリーンは真っ黒になって、劇場は明るくなった

「ほぇぇ…」

「ここまでが生前の私の時間軸」

「こうしてまどかは神様になったんだね」

「神様なんて、そんな」テレ

「まどかのお陰で私は魔女ならなくて済んだのかぁ」

「うん、それが私の願いだから…」

「うーん…他の時間軸のことがさっぱり思い出せない…」

「無理して思い出すことないよ、みんなちょっとづつ、あぁこんなこともあったっけ、って言う風に思い出していくから」

「そっか」
「大変、だったね」

「…うん」

「でも、さやかちゃんには、みんなにはまだもうちょっとだけ私と一緒に戦ってほしいんだ」

ほむらちゃんを助けるために…

引用元: まどか「新劇場版魔法少女まどか☆マギカ!」 



2: ◆svMdfnlanc 2013/02/14(木) 23:26:10.55 ID:iVdEAVpb
円環の理、そう呼ばれるこの世界を作って間もなくの頃

導かれてきた魔法少女が過ごしやすいように、と作った街並みをふらふらしていた

退屈

パチンッと指をならすと、そこはマミさんの部屋

もっとも再現したものだけれど居心地がいい

最後に二人と話した精神空間もここだったっけ

あーあ、杏子ちゃん、こんなに散らかして食べていって、ケーキがぼろぼろこぼれてるよぉ…

って、私が再現したんだけど…

3: ◆svMdfnlanc 2013/02/14(木) 23:26:55.85 ID:iVdEAVpb
んー、この部屋にこの格好は似つかわしくないなぁ…

くるんと回って制服姿になる

身長と髪の毛は…そのまま

腰を下ろして、頬ずえつきながら、テレビをつけて、紅茶をすする

…すっごく冷えてる

リモコンを手にとってくるくるくるくるチャンネルを回すけれど、どれもこれも救済情報…

こっちの私も、あっちの私も、しっかり頑張ってくれる

4: ◆svMdfnlanc 2013/02/14(木) 23:27:35.27 ID:iVdEAVpb
私は、私と言う存在を保った

まあ、システムと自我を切断したのではあるけれど

切断、というとちょっと違うかな

まあなんにせよ、無意識に私の分身が救済に向かってくれるわけで

うん、私の分身は、分身としてのシステムは正常なみたいだ

ケーキを口に頬張ると、むっつい

5: ◆svMdfnlanc 2013/02/14(木) 23:28:14.00 ID:iVdEAVpb
「おくつろぎのところ、悪いね神様」

そう言ってから、コンコンッと壁をノックされた

ちょっとびっくりして振り向くと肩くらいの黒い髪の女の子が立っていた

円環世界の出来事は先が見えないから、これは普通に予想外だった

「あなたは?」

「私は水無月、キュウべぇと契約した魔法少女」

「…あぁ、あなたが…会えるんだね、ここ」

ふいっと視線をテレビに戻す

「なぁに?興味なし?」

その子は私の隣に座ってケーキを口に運んだ

「ずっと待ってたんだよ?あなたのこと」

あははっ、と笑われた

何が可笑しいんだろ

6: ◆svMdfnlanc 2013/02/14(木) 23:28:46.83 ID:iVdEAVpb
「時間的な感覚はないのに?」

ちょっと意地悪な質問をしてみた

「なんだよ、割りと冷めてるじゃん…つまんないの」

彼女はふてくされたみたいだから

「でも、ちょっぴりわくわくしてるよ」

って返したら

「…そりゃどうも」

って微笑まれて

ちらと見た後、すぐに画面に視線を戻した

もぐもぐ…

7: ◆svMdfnlanc 2013/02/14(木) 23:29:23.34 ID:iVdEAVpb
退屈したらしい彼女は窓際にたってカーテンをあけた

夜?なのに明るいビル郡、そこにはたくさんの魔法少女が暮らしてるわけだ

マンションは少し、いや、めちゃくちゃ高い

水無月は「うわー、下、ちっちゃいなぁ…」とか呟きながら見下ろしてた

見下してたのかも

8: ◆svMdfnlanc 2013/02/14(木) 23:30:38.97 ID:iVdEAVpb
「どうしてあんな願いごとをしたんだ?」

「奇遇だね、私も聞きたかったんだ」

彼女が私に目を向けないで話しかけてきたから、私もテレビを見ながら受け答えた

「奇遇?全部見てたんでしょ?私もだけれど…」

「あなたから聞いてきたんでしょ?ゆりちゃん?」

「ほら、知ってるんじゃんか」

なんだ、嫌味か、って思った

この子の願いは私とは正反対だから…

テレビを見ながら、夜景を眺めながらのやり取りだったけど

部屋の空気はピリピリ揺れる

私たちは確かに睨み合っていた

9: ◆svMdfnlanc 2013/02/14(木) 23:31:15.67 ID:iVdEAVpb
「だからさ、もっとはっきり言ったらどうかな?」

焦れったいケーキを紅茶で流し込んだ

飲み干したカップをカチャンッて音を立てて置いた

テレビを消しながら、私は立ち上がって、ゆりちゃんが振り向く頃には魔装していた

生前の可愛らしさをそのままに、やっぱり身長と髪の毛はそのまんま

胸元のソウルジェムはただの飾りなんだけどね

「へぇ、意外と好戦的なんだな」

「うん…」

弓をキリキリ、音がやむまで強くひく

「あなたも救済することにしたから」

「そのシステムが、気に入らねえ!!」

放たれた矢が、この一室をぶっ飛ばすまでの刹那

私は魔装して、白目が黒く染まった彼女の姿を見た

10: ◆svMdfnlanc 2013/02/14(木) 23:31:52.39 ID:iVdEAVpb
ドゴォン!!

超高層マンションの一室が爆発した

魔法少女達がなんだなんだと見上げるなか、黒い少女は飛び出てきて

綺麗に着地した

日本刀を一本、しっかり握って笑みをこぼした

階上で見下ろす神様と、確かに睨みあって

11: ◆svMdfnlanc 2013/02/14(木) 23:32:23.47 ID:iVdEAVpb
希望、絶望はひしめき合って、

差し引きゼロで手を打って、上手に両立してきたが、

世界の一角、魔法少女の絶望を打ち消したのが鹿目まどかなら、その絶望を願ったのは、一体誰だったか

世界の理の、主導権をめぐる争いは

神々の戦争だった

12: ◆svMdfnlanc 2013/02/14(木) 23:33:03.23 ID:iVdEAVpb
ーーー

「はぁ…はぁ…」

「…げほっ」

最後に立っているのは私

「じゃあね、また会おうよ、ここで」

黒い少女は潔く、ソウルジェムをつき出した

「?それはただの飾りでしょ?」

「ん、あぁ…意味はないよ」
「精神依存さ」

…は?って感じ

いってる意味がよくわからなかった

13: ◆svMdfnlanc 2013/02/14(木) 23:33:42.52 ID:iVdEAVpb
「ひとつ、ここでの敗けは認めるよ…」ゲホッ

そういうことね

「じゃあ」

「でも」


「救いは拒絶する」

バキンッと飾りを握りつぶす

…やられた

14: ◆svMdfnlanc 2013/02/14(木) 23:34:21.88 ID:iVdEAVpb
黒い大きな魔方陣は彼女を飲み込んだ

「てめえには出来ねえだろうな!これ!!」
「あっははははは!!また会おうよ!ここで!今度は友人も連れてくるからさ、一緒に!」

「今度はその力を、貰いに」

すっぽり飲み込んだ魔方陣は収縮して消えた

消したのかな?

何はともあれ、逃げられた

「…………………」
「マミさん、杏子ちゃん…ほむらちゃんを頼みます…」

しばらくして、さやかを迎え入れた

16: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 08:39:00.19 ID:BqeIFu//
「ふぁあ…」

「仁美、寝不足?」

「あら、やだ恥ずかしいですわ…」

「ふふ、大きなあくびだったわね」
「風邪が流行ってるから、体調管理には気を付けて?」

「ええ、気を付けます」
「それにしても…」

「ええ…」

杏子達、遅いな…

17: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 08:39:38.14 ID:BqeIFu//
まどかも、さやかもいなくなったのに、この世界はくるくる回ってる

どこをとっても変てつはない

私たちは毎朝、4人で登校しているのだけれど…

「悪い!遅れた!」

「ごめんないさい!寝坊しちゃって」

杏子とマミは遅れてかけてきた

「ほむら、仁美!走らないと遅れるぞ!」

「もう、誰のせいよ」

18: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 08:41:09.05 ID:BqeIFu//
ーー
キーンコーンカーンコーン

「では、私はお稽古がありますので」

「ええ、またね」

「まったなー」

「魔獣退治、お気をつけて」

さやかが消えてしまった時に、私たちは仁美に全てを話し、仁美は私たちの理解者になってくれた

あれからもう随分立つ

私たちは日常を取り戻し始めた

「んじゃ、マミと合流しようか」

「そうね」

この世界に蔓延する絶望は、魔獣となって現れるから、私たちはそれを駆逐する

時止めを無くした戦いにも、もう大分慣れてきた

19: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 08:42:03.87 ID:BqeIFu//
ーー

「あっちは私が片付けてくるわ」

「ええ、よろしく!」

「こっちのは多いから私はマミを手伝うよ!」

魔獣は群れるから、魔女との戦いとはまた少し違う

そもそも全員同じ容姿でワンパターン…

みんな、手からビーム

1、2、3、4…

すぐに片付きそうね

20: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 08:42:58.76 ID:BqeIFu//
白く輝く翼を広げる

これが私の一つ目の力

弓を構える

光の粒子が矢に変わる

これが私の二つ目の力

魔法少女にしてはあまり高くない身体能力を翼での機動でカバーする

そうして一体一体打ち倒していくのが今の戦闘スタイル

様になってきた

証拠に全部、片付いた

21: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 08:44:05.97 ID:BqeIFu//
「お疲れ様、今日はもう終わりにしましょう」

マミと杏子と別れて帰路に着く

帰ったらすぐ寝ようと思う

22: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 12:20:54.01 ID:BqeIFu//
「じゃあ、次の問題を志筑」

「…」

「志筑?」

「お、おい仁美、仁美!」

「は、はい!」

「なんだ居眠りか?駄目だぞ」

「すみません…」シュン

仁美が居眠りなんて珍しいわね

「じゃあ、変わりに佐倉、答えてみろ」

「まじかよ!」

『ほ、ほむらぁ~』

『答えは、…5番よ』

「ご、5番です!」

「4までしかないだろ!馬鹿者!」

クラスが沸く

「ほむらてめぇ!!!」

『うけたからいいじゃない』

声に出てるし

23: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 16:47:24.63 ID:Ci7SG3QK
ーー
「今日も張り切っていきましょう」

見つけては狩る、の単純作業

もちろん油断はしていないけれど

「やあ、グリーフシードは貯まっているかい?」

「どうぞ」

バンバラとばらまける

「君は乱暴だなあ…マミは優しく渡してくれるのに」

ぶつくさ言いながらグリーフシードを拾うこいつとは今は仲良くやっている

「最近は魔獣が多いね」

「そうね、少し多目かも…」

遅くまでかかることがしばしば

24: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 16:48:03.20 ID:Ci7SG3QK
「そっちはどうだった?」

「4、5匹かな、マミは?」

「私も似たようなものね」

「三人でやってもなかなか手が回らないわね…」

ポウッとソウルジェムが光る

「!魔獣ね」

「あっちだ!」

急いで駆けつける

けど、

ちょっと反応が魔獣とは違うような…?

25: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 16:49:17.85 ID:Ci7SG3QK
ぐにゃりと空間がネジ曲がったような世界

床一面に描かれる絵画は有名な画伯のもの

私はここを…知っている

でも

「これは…?」

「なんだよここ、魔獣…じゃねえのか?」

困惑する二人

私は別の理由で困惑している

だってこれは、どう見ても…

そんなわけはないのに…

魔女が姿を現した

どうして??

26: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 16:50:10.72 ID:Ci7SG3QK
チンッ

グリーフシードが床に立つ

「は?なんだこれ」

杏子が拾い上げてまじまじと観察する

「おかしな魔獣だったわね…手下を引き連れていたし」

「…」

魔女だった

おかしい

魔女はまどかが全て消し去ったはずなのに

「今のは魔獣とは違うようだね」

「キュウべぇ、何か分かる?」

「いや、さっぱりだ」
「でも、魔力形態は君たち魔法少女に酷似していたよ」

「私たちに?」

「はぁ、なんでもいいよ」
「それよりあんなワケわかんないのと戦ってもグリーフシードが手に入らなかったじゃんか…」

「それならあるじゃない」

「え?」

咄嗟に口を出してしまった

27: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 16:50:47.08 ID:Ci7SG3QK
「あ、いえ、それをグリーフシードのように使ってみて?」

「なんだよ…っ!おい!これめっちゃ吸うな!」

「ほんと…!魔獣のよりも断然効率がいい!」

「すっげえ!マミも使ってみなよ!」

「どういうことだいこりゃ、さっぱり訳がわからない」

私も訳がわからない



「暁美ほむら…思い出してくれたかな?魔女のこと」

28: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 16:51:39.85 ID:Ci7SG3QK
翌日、放課後

「ほんじゃあ、最近は魔獣が多いし、変なのはいたし、明日は休みだから遅くまで頑張るか」

「そうね、頑張りましょう」

まったく魔女については心配で仕方がない

何か嫌な予感がするけれど

気のせいだろうって思い捨てて二人と魔獣退治




日付をまたごうかってところで

「近くに魔法少女がいるよ!二人…いや、一人は…なんだろう…」

キュウべぇが私たちに連絡した

駆けつけた

29: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 16:52:36.25 ID:Ci7SG3QK
「ぅ…」

ぼろくそにされた魔法少女が倒れていた

「大変!ひどい怪我!」

マミが駆け寄る、のを杏子が押さえる

「佐倉さん?」

「悪い、マミ」
「でも基本的には疑ってかかるべきだろ、怪我に惑わされそうになるけどさ」

私もはじめは警戒された

「それにさぁ、いるんだろ?奥、隠れてないで出てこいよ!」

細い路地

かつてさやかが杏子と競り合った場所

暗がりから出てきたのは仁美だった

31: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 20:38:43.23 ID:Ci7SG3QK
「ひ、仁美?」

その格好…

「まさか契約を!?」

「なっ!キュウべぇてめえ!」ムンズ

「僕は契約した覚えはないよ」

「どういう…ことなの?志筑さん…?」
「そこの怪我してる魔法少女は、あなたがやったの?」

私たちは仁美の魔装を

切り傷だらけで横たわって動かない魔法少女を

仁美が握っている日本刀を交互に見た

「あっはは、この子は契約してないよ?」

仁美は言った

「この…子?」

「おっと」

コホンッと咳払いをして仁美が続ける

「せっかく会ったんだし、ちょうどいいや」
「直接見てくれるといいよ」

チャッ…と日本刀を構える

32: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 20:39:13.72 ID:Ci7SG3QK
「待って」

マミが仁美に言った

「あなたは、契約していないのよね?」

「そうだよ」

ちらりとキュウべぇを伺う

「僕も契約した覚えはないよ、ほんとだよ」

むむ、そうなの?っといった顔をする

「じゃあ、そこの子はあなたが傷付けたの?」

「そうだね」

剣先を揺らしながら歩きよって、動かない魔法少女の足に突き刺した

「!?」

そこに腕をつっかえる

「私がやったんだよ?」
「こんな風にね」ニコッ

バキンッと刀身が砕けて仁美はよろけた

マミが撃ち抜いたのだった

「おい、マミ!」

「怖いなぁ…」

仁美がヘラヘラ笑う

33: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 20:39:44.18 ID:Ci7SG3QK
「まあまあまあ、そんなに怒らないで?」
「さっきも言ったけど、ちょっと見せたいものがあるんだってば」

「見せたいもの?」

「そうさ」

倒れている魔法少女のソウルジェムを拾い上げる

私たちにつき出す

私たちは身構えた

「ここに、ソウルジェムが、ある」


34: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 20:40:27.59 ID:Ci7SG3QK
「暁美ほむら」
「あなたなら、知っているはず」

新しく具現した刀は黒い魔力を纏う

「この、感覚を!」

放ったソウルジェムをヒュンと一太刀かすめた

黒い魔力に触れたソウルジェムは最後の輝きを失い真っ黒に染まった

仁美は虚空を一度斬った

そして笑った

35: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 20:40:57.34 ID:Ci7SG3QK
「こいつは!」

「何なの!?」

「どういうことだよ!!」

昨日もあったこの感覚

空間が狂気に支配されていく

右も左もさっきとは違う場所

そう、魔女の結界

仁美が、魔女を、作っていた

36: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 20:41:28.49 ID:Ci7SG3QK
チンッ

グリーフシードが床に立つ

「くそっ!全く状況がわからねえ!」

仁美は魔女を残して立ち去った

「志筑さんが、魔法少女を魔獣にかえていたの?」

「…こいつは魔女」
「私の、前にいた世界での敵よ」

「魔女!」
「前に言っていた…」

「たしかにほむらの話した通りだ」
「あれはソウルジェムが変化したものから産まれてきた」

「ほんとだったんだな、お前のはなし」

「…」

「?暁美さんの話だと、魔女は…」

「…ええ」
「鹿目まどか…私たちの友達が完全に消し去ったはず…」

今はなにもわからない…

とにかく明日、仁美を問いたださなければ…

39: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 23:25:58.51 ID:Ci7SG3QK
ーー
「おはよう、仁美」

「おはようございます、ほむらさん」

いつもと変わらない仁美

「ねぇ昨日のーー」




「私が…魔法少女に…ですか?」

「なにも覚えてない?」

「…すみません、最近は寝不足で10時には寝てしまっていて…」

「そう…」

別人…なのかしら…

それとも嘘を言ってる?



ううん、ソウルジェムの反応はない

キュウべぇは嘘をつかないし…

いくら暗がりでも見間違える?

40: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 23:26:46.96 ID:Ci7SG3QK
「最近は、変わったことはない?」

「特にはなにも…」

本当に思い当たるところは何も無いみたい…

「あ」
「そう言えば、毎晩変な夢を見ますの」
「そのせいで寝不足なのかも…」

「変な…夢?」

「はい…寝ていると、私と同じくらいの女の子に起こされて…」
「それだけなんです」
「その子に会って、そこで夢の中の記憶は途絶えていて、目が覚めると朝…」

ふむ…

何か関係がある…?

そんなわけ無いかな…

「…ってごめんなさい、他人の夢の話なんてあまり面白くないですわ」

「…いえ、ありがとう」
「何かあったら教えてちょうだい、最近変なことが立て続けていて」

「…気を付けてくださいね」

心配そうな仁美

魔獣退治の実情を知る仁美は、私たちの身を案じてくれる

杏子とマミには後でゆっくり話そう

41: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 23:27:21.27 ID:Ci7SG3QK
「ここで三平方の定理より…」

『そう…何も分からないようなのね…』

『そもそも彼女は魔法少女じゃないからね』

『キュウべぇ…思い出してみて?ほんっ……とうに契約してないの?』

『疑っているのかい?』

『い、いえ、そういうわけじゃなくて…』
『ただ、でも暁美さんと契約したことは忘れていたでしょ?だからなんていうか…』

『だから、魔女の存在がほむらの話の信憑性をーー』

もう、話がそれてる…

『二人とも、聞いて』
『とにかくまず、仁美の』

『あれ、そう言えば佐倉さんは?』

『寝、て、る、!』

「zzz」

みんなのんきなんだから…

42: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 23:27:58.84 ID:Ci7SG3QK
放課後、私たちは喫茶店に寄った

「はあ?志筑仁美のナイトメア?」

「そうらしいの」

お手洗いから戻るとこ洒落た単語が飛び出した

「ナイト…メア?」

「ええ…志筑さんが悪夢を見る…」

「なんだよ、ほむらが話したんじゃないの?」

そんなへんてこな言い方してないわよ

43: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 23:28:30.85 ID:Ci7SG3QK
「…とここまでね」

「考えられるのは3つか…」
「仁美の姿をした全くの別人、変身している、もしくは分身」
「仁美を誰かが操っている」
「そして、仁美が嘘をついている…」

「三つ目は考えにくいわね」
「昨日、志筑さんは少し引っ掛かる言い回しをしたわ」
「まるで自分自身じゃないような」

「濃厚なのは二つ目か」

「そうね」
「私たちと親しい仁美を人質に、縄張りを奪おうとする魔法少女の仕業…」
「それなら昨日、どこぞの魔法少女を襲っていたのも頷ける」

「あいつは魔法少女を魔女にしたぞ?」

「そうね、そういう能力…なのでしょう」

そうなのだろう

その日の魔獣退治は、何も無く終わった

44: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 23:57:51.64 ID:Ci7SG3QK
ーー
「マミ、杏子、ほむら!魔法少女の反応が二つ!一つは…志筑仁美だ!」

「!」

「出たな!」

建設途中のビル高く

私たちは急いだ

45: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 23:58:25.33 ID:Ci7SG3QK
チンッ

グリーフシードが床に立つ

それを拾い上げながら、仁美は言った

「また会ったね」

やっぱり…

少なくとも精神は仁美ではない

仁美が私たちに「また会ったね」はおかしい

「身体は本物だよ?これ、志筑仁美」

「!」

考えを見透かしたようなフォローを入れられた

「てめえ、仁美を操ってんのか?許さねえぞ!!」

杏子は問い詰めた

高いところは、風が強い…

46: ◆svMdfnlanc 2013/02/15(金) 23:59:33.49 ID:Ci7SG3QK
「そんなに怒らないで?」
「ちょっと借りてるだけだよ」

つまり黒幕がいる

「本当は必要ないんだけどね?」
「はじめのうちあなたに会っておくには効果的かな、と思ってさ、ほむら」

「…」

「目的は何?縄張り?」

「あっはっは、そんなんじゃないよぉ…」

外人みたいな手振りでおどけて見せる

仁美は刀を出した

私たちも武器を構える

乗り気はしない

「この身体で用事足してるのはまあ、おまけかな」
「イたら、ヤっとかないとね」
「勿体ないし」



何を言ってるんだろうか

47: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 00:00:20.05 ID:Ci7SG3QK
「あなたの目的は何?」

ジャキッと銃口を向けるマミ

『おい、身体は仁美のだぞ?撃つのかよ』

『大丈夫、もしもの時は拘束だけさせてもらうけれど…』

はぁ…とため息を着く仁美

どうせ撃てっこないでしょ?脅しでしょ?っていう表情を浮かべている

「私の目的はぁ…」

「んー…」

「ちょっと言えないかなぁ…?」

ニヘラッとする

48: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 00:01:02.80 ID:Ci7SG3QK
「そのグリーフシードは?」

「気付いてんだろ?」

ひらひら~っとグリーフシードをちらつかせる

「出来立てほやほや、ついさっきまで魔法少女だった魔女の卵ですよ?」

「!こいつっ!」

マミが苛立つ

眼下の骨組み

組んだ足場に死体がある

「はぁ…らちが明かねえな…」

杏子が前に出る

49: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 00:01:45.38 ID:Ci7SG3QK
「仁美の身体を返してもらおうか」

杏子はやる気のようだ

「何なの?私と戦う気?」
「困ったなぁ…」

「杏子、どうするつもりなの?」

「髪止め…」

「え?」

「あいつの髪止め…ありゃグリーフシードだろ」

「あっ」

着物のような魔法少女衣装が仁美にばっちし似合っていたため、可愛いかんざしくらいにしか思ってなかった…

たしかに髪止めはグリーフシード…

つまりは

「あれを壊せば止まるんじゃねえか?」

なるほど、あり得る…

「やってみる価値はありそうね…」

「殺さず、怪我させずに制する…なかなか難しい戦いになりそうね…」

どうやらマミは、本気モード

50: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 00:02:30.00 ID:SDllcYAo
「ええ?おかしいってば」
「だって考えても見てよ!」

仁美が首筋に刃を沿わせた

「いつでもこの子のこと、殺せちゃうんだけど??」

「!!」

「てめえ!!」

しまった…

こちらは下手に出るしかない…

「なんて、そんなことをしても面白くないし…」

刀の鳴らす風切り音

「邪魔なお二人さんには魔女になってもらおうかな?」

切っ先を向けられると妙な感覚になる

魔獣と対峙したときとは別の緊張感

肌寒く抜ける風が、四人の熱を撫でる

月が近くて綺麗だった

静かな読み合いは始まっていた

51: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 01:02:31.33 ID:SDllcYAo
互いに様子を伺う

仁美の構えに隙はない

三人相手でも負ける気は無いようだ

「なんだ…吹っ掛けておいて、こないの?」

仁美が喋る

「いつでもどうぞ?かかっておいで?」
「それともまさか、怖じけ付いちゃった?」

刀の峰を肩にトントンっと当てて腰に腕をつく

マミも杏子も姿勢を崩さない

「ちぇっ…いいよ、私から行!!!!」

ガラガラガラガラ!!!

仁美の足下、鉄骨が切り砕かれて、

バランスを崩しながら落下する

52: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 01:03:01.10 ID:SDllcYAo
「な!?」

リボンが蜘蛛の巣のように展開し、空中の仁美を捕縛した

「あらら、油断した…」

仁美は腕を巻かれてぐるぐる巻きだ

「「いっちょあがりだな」」

杏子が二人

ロッソファンタズマ、杏子の固有魔法

おそらくここに上ってくる途中、下の階に待機させていたのであろう分身が、ベストタイミングで仁美の足を奪った

一瞬でけりがついた

この二人は本当に強い

53: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 01:05:21.53 ID:SDllcYAo
ズブンッ

リボンの束を断絶する

仁美は咄嗟に刀の峰を背負っていたから、抜け出せた

「まだまだやられないよ、これくらいじゃあ!っ!?」

宙返りをして着地しようとした仁美はぐんっと引っ張られた

「足下まで目が回らなかった?宙吊りだったものね」

マミが仁美の足に結びつけられたリボンを強く引いた

「っぐ!!」

「おしまい!!」

杏子がマスケット銃を拾ってフルスイング

狙うは仁美の髪飾り、グリーフシード!

「なめんな!!」

仁美のカウンター

54: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 01:06:04.18 ID:SDllcYAo
寸で避けたが脇にかすった

「ちぃっ!」

杏子は傷口をかばわず多節棍を展開する

がんじがらめで自由を奪う

中段、水平

振り切った仁美は身のこなしに遅れてがんじがらめにされた

「よし!」

「やった!」

マミはさりげなく杏子の脇腹に手をあて治療する

55: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 12:32:28.82 ID:SDllcYAo
「はやいはやい…」
「この身体じゃとてもじゃないけれど反応しきれないね」

締め上げられて力が入らなくなった手からカランッと刀が落ちる

「残念だけれどここまでだな」

「うん、一個、せっかく作ったグリーフシードはもったいないけど仕方がないよ」
「それよりも…」

仁美が私を向く

「あなた、何もしてなかったね?」

ぐ…

「鹿目まどかの加護はその程度?」

加護?

いや、それより

「鹿目まどか?あなたは鹿目まどかを知っているの!?」

掴みかかってしまった

仁美の身体なのに乱暴にとっついた

「あっはは、痛いよ、離せよ」

…ちぃっ

「全部知っているよ、私は」
「その力が鹿目まどかから授かったものだってことも」

「会い方も」

!!!!

56: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 12:33:00.31 ID:SDllcYAo
「まどかに会えるの!?」

ぞわぞわする

「さあね」

プレゼントの包み紙を破いているときの

「あなた次第だよ」

期待が

「あなたにその気があるのなら、私は手伝える」

可能性が私を押し潰す

「あ、暁美さん?」

きっと今、私は満面の笑みだろう

とても

57: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 12:34:05.23 ID:SDllcYAo
「何か知っていることがあるんなら全部話せ」

「…」
「話はおしまい」

「じゃあな」

「待って!」

「無駄よ暁美さん、きっとこいつはもう口を割らない」

「大丈夫大丈夫」

「また会えるから」

そいつは最後、優しい顔をした

ぐったりした仁美をこっそり家に届けておいた
 

60: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 17:03:22.44 ID:SDllcYAo
「行ってきます」

誰かに言ったわけではない

独り言のつもりだったけれど

「いってらっしゃいほむら、今日も頑張ってね」

って心にもないことを返されるから

ちょっと嬉しい

仁美のこと

魔女のこと

そして、まどかのこと…

考えることは山積みになってきた

まずは目先の、仁美のことが一番

これ以上仁美に手出しはさせない

私も杏子と同様、友達にちょっかいを出されてイラついている

 
62: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 17:04:53.26 ID:SDllcYAo
「おはよう、早いんだね」

合流地点に早めに着くと、知らない誰かがそう言った

誰?

「誰?」

率直に聞く

「はじめましてじゃないよ?」

黒い髪の女の子

仁美の夢

なるほど、すべて理解した

「あなたね?仁美を操って魔法少女を魔女にしていたのは」

63: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 17:05:38.51 ID:SDllcYAo
「そうだよ」

まああの子を操ってたのは別の理由なんだけど、と付け足した

「いかにも私は魔法少女を絶望に導く存在」

「それで?何の用?」

「ほむら、あなたこそ私に聞きたいことがあるんじゃないかな?」

そうね、まどかについて知っていること

洗いざらい吐いて欲しいけど

魔装して弓矢をぶっぱなす

ひょいっと簡単にかわされた

「ストップストップ!話を聞いてよ!」

殺さない程度にボコさないと気がすまない

64: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 17:06:17.19 ID:SDllcYAo
「えぇ?本当にこんなもんなの?嘘じゃない?」

私は膝をついていた

「落ち着いてってば、私はあなたと戦いに来たわけじゃ無いんだってば」

あのさ、と始める

「鹿目まどかに会いに行こう、一緒に」

65: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 17:06:56.91 ID:SDllcYAo
「あなたは…何者なの?」

「!そう!いい忘れてたよ!あなたが襲いかかってくるから…」
「私は水無月」
「水無月ゆりです、よろしく」

私に手をさしのべる

「ずっと昔、そうでもないかな?」
「キュウべぇと契約した魔法少女」

ソウルジェムは今はないけどね、とくるりと回って見せる

「私の持ちかける話は、きっと悪い話じゃあないよ」
「本当は仁美ちゃんを人質にするまでもないかな、と思ったんだけど、そこは交渉材料だよね」

「あなたなら、きっと首を縦にふるよ」

水無月が魔装を解くから、私も解いた

66: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 17:07:30.54 ID:SDllcYAo
「どこから説明しようかな…っと…」

ポケットから取り出したメモを渡しながら言った

「悪い、続きはまた今度」
「決心がついたらここに来て?」

手書きの地図にばつ印

「じゃあ、きっとまたね」

立ち去ろうとした水無月の腕をとる

「?」

「…ちゃんと、ちゃんといい返事をするから、だから」
「もう仁美には手を出さないで?」

「…」

小指をたててくいくいっとして

「了解♪期待してるよ~」

ひとまず安心出来そうだ

67: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 17:08:02.05 ID:SDllcYAo
「おはようほむら」

杏子とマミが来た

その横を水無月が歩いて抜ける

「?暁美さん、知り合い?」

「…いえ、道を尋ねられて」

なあんだ、という杏子と反対にマミは怪しんでいる

とにかく彼女のことは二人には話したくない

きっと二人は、私を止めるから

68: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 23:19:28.91 ID:SDllcYAo
「ねえ、暁美さん今の人はもしかして」

「仁美、遅いわね」

露骨に言葉を遮られた

きっと暁美さんは何かを知っている

思えば、気になる点はいくつかある

大きなポイントは二つ

まずこの黒幕と暁美さんはどちらもイレギュラーであること

キュウべぇはこの二人の契約を認知していない

そして共通の情報

鹿目まどかさんについて、そして魔女について

これまで一緒にやってきた

これからも仲間としてやっていきたいのに

信じたいのに

「メールが来たわ、仁美は体調不良でおやすみね、行きましょう」

あなたは私たちを裏切るの?

69: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 23:20:01.05 ID:SDllcYAo
『今後も志筑さんが狙われる可能性は十分あるわ』

『夜中まで仁美んちの周囲を見張るか』

『それしかないわね』
『相手の目的がわからないわ』

『縄張りでもないみたいだしな…』
『でも昨日は…魔法少女をグリーフシードに変えて、集めているようなことを言ってたな』

『魔女の卵…』

『ほむらは何か知らねえか?』

きっと佐倉さんは純粋に質問しただけ

『…何も』
『ごめんなさい、授業に集中してもいいかしら』

放課後ゆっくり話し合わなきゃね

70: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 23:20:53.30 ID:SDllcYAo
「それで?」

「それで、じゃないでしょ?」

暁美さんは分かっているみたい

私が感づいているのに

「接触したのね?おそらく朝の…」

「…」

「は?おいまじかよほむら」
「なんかされなかったか?」

「ちょっと戦っただけ、怪我はない」

「何か情報は?」

「…」

だんまり

71: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 23:21:29.74 ID:SDllcYAo
「ねえ暁美さん、正直に話してくれないかしら」
「何を話したの?」

「…」

「ほむら…?」

凄んで見せたけど、効果はあるのかしら

「…仁美の警護はおそらくもういらない」
「もう手を出さないことを約束したから」

誤魔化しきれない、そう思って話してくれたけれど

約束?敵のそんな言葉を信じるの?

「とにかく、朝のが敵の本体で間違いないわね」

「は?朝のって…」
「ほむらに道を聞いていた?」

「…それは嘘」

ていうか、嘘はあなた

「なら、どうして私たちに隠していたのかしら?」

「…」

「鹿目まどか…」

「!」

やっぱりね

72: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 23:22:05.24 ID:SDllcYAo
「とにかく!」

ダンッと佐倉さんが立ち上がる

「私はそいつを許さない」
「ただ、倒すだけだ」

らちが明かないと思ったのだろう

話は終わりだな、と佐倉さんが出ていく

「待って!」

暁美さんが言葉を選ぶ

「…彼女とは、私が話をつける」

「話?」

「だから…任せてほしい…」

「…」

これは聞けない相談

73: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 23:22:38.97 ID:SDllcYAo
「駄目よ」

「!」

「あなたには任せられない…」
「今回の相手は私たちが片付ける」

正直…

「今のあなたは信用できない」

「!!」

私も帰ろう

はやくこの問題は処理したい

「…かもしれないの…」

「まどかに…会えるかもしれないから…!」

74: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 23:23:11.86 ID:SDllcYAo
「鹿目…まどかに…」

でもそれは…

「魔法少女の魔女化を止めた鹿目まどかさんに魔法少女を魔女化させるその人が会う目的は?」

「!」

これには言われて気づいた、といった反応

「私には魔女化システムの復活が目的にしか思えない」

おそらくこれが、答えなのだろう

75: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 23:33:56.40 ID:SDllcYAo
「私たちはこの世界のシステムの平穏のために戦うわ」

背を向ける

「まどかは友達だった!」
「私にとって!私たちにとって!!」
「ねえ!おかしいと思わない!?」

「誰かの犠牲の上に平和が成り立ってて!!」

「おかしい!!絶対におかしい!!」

「ねえ!もう一度会いたい、まどかに!」

「私たちは、魔法少女はもう十分救われた!!」

「今度はまどかが、この世界で!」

「両親と、友達と!幸せになる番じゃないの!?」

「それは鹿目まどかさんの覚悟を踏みにじることになる!」
「そのシステムを、私たちの友達が命を懸けて壊したのなら」
「私たちは守らなきゃいけないから」

「…から」

「…いから」

「あなたたちは何も覚えてないから!!!!!!!」

76: ◆svMdfnlanc 2013/02/16(土) 23:35:11.61 ID:SDllcYAo
「だから平気で!!」

「第三者の!!」

「関係ない誰かの!!」

「まどかの犠牲があたりまえで!!!!」

「この世界が当たり前だから!!!!!」



「だから!!!!!」



「自分達だけ幸せなら!それでいいんだ!!!!!」




止まない雨が降りだした

77: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 00:26:40.97 ID:m3w/SbPQ
どしゃ降りの中、私は走り出した

もう行こう

会いに行こう

きっと彼女は、私の味方

誰も彼も知らなかった

まどかを知っていた

まどかを知っていてくれている

まどかを知っていたから

だから私は信じるんだ

郊外の廃工場、その三階まで飛び上がった

78: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 00:27:20.26 ID:m3w/SbPQ
「来てくれたんだ、早かったね」

「…」

どっから出したのか、タオルで私の頭をふく水無月

抵抗しない

「全部聞かせて…」

「全部!!」

79: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 00:27:54.87 ID:m3w/SbPQ
かつて少女は願った

「希望の終着点を…」

「魔法少女の終わりを…絶望に…!」

受理されたそれは世界を作り替えた

彼女もまた、同じくして因果を束ねていた

80: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 00:28:26.77 ID:m3w/SbPQ
「私は魔女化のシステムを復活させたいんだ」

そのためには鹿目まどかに会う必要がある

円環世界に行く扉

それを開くのが神の力

つまりは加護

私の受け取ったまどかの力

私たちは加護の力で扉を開き、鹿目まどかの神の力を奪う

水無月は神に

まどかは人間に

私たちの利害は一致した

「受け取りなさい、私の力」

ソウルジェムをつき出す

すべてを委ねよう

次の瞬間、飛び出した影は水無月を階下に突き落とした

81: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 00:29:01.27 ID:m3w/SbPQ
「!!」

「そういうことね…ごめんなさい、立ち聞きして…」

マミ…

「でも、私たちは止めるわ」

「あなた達のことを」

マミ…!



「まだほむらの邪魔をするの?」
「懲りないんだね、二人とも」

「うるせえ!」
「私は仁美もほむらも、さやかのように失いたくない!!」

82: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 00:29:44.11 ID:m3w/SbPQ
「加勢するわ」

飛び降りようとするマミ

「待ちなさい」

私は弓を構えた

「…」

無視されて、くるりと背を向けられる

待って

待ってよ

「待ちなさい!!」

私はあなたたちとは戦いたくないよ

83: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 00:30:36.70 ID:m3w/SbPQ
振り向いたマミは避けなかった

お腹に突き刺さった矢は、そのままマミを吹き飛ばし、後方の壁に串刺しにする

「…!がはっ…」

マミが血を吐く

「…っマミ!!」

かわすと思った

威嚇のつもりだった!!

心配で駆け寄った

84: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 00:31:14.42 ID:m3w/SbPQ
「はぁ…はぁ…ぐぅっ…!!」

頭を押さえるマミ

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

涙腺が壊れる

ひどいことをしてしまった

仲間に手をあげた!

「…はぁ…はぁ…」

だらりとした後、マミはお腹に貫通している矢をへし折って抜けた

「…げほっ…やっと…」

「やっと全部思い出せた…!」

85: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 00:31:49.72 ID:m3w/SbPQ
「…全部…?」

「加護の力…お陰で全部思い出せたわ…ありがとう、暁美さん…」げほゲホッ

マミは話を聞いていて、思ったのだろう

加護の力に触れられれば、

強く感じ取れれば、

全てを…

「うまくいったわ…」

「なおさら引けないわね…」

たたらを踏んでも勇む、足

「私たちが送り出したのだから…!」

86: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 00:32:27.85 ID:m3w/SbPQ
「お願い…」

「私を行かせて…!」

ただ頼む

もう傷つけたくない

でも

だけれどあなたは

あなたたちは立ちふさがるから

「暁美さん…」
「それ以上止めるなら、私と戦うことになる…」

悲しくて、しかたがない

87: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 00:33:04.35 ID:m3w/SbPQ
こいつ、強い!

速くて重くて、仁美の時の非じゃねえ!

「どうしたの?まだ、トップギアじゃないんだけど、私」

「うぜぇ…っ」
「私もそうさ!」

多節棍を放つ

受け止めてもなお押し通す

「っ!」

足が浮き、ふっ飛び、壁に叩きつけられる

「がはっ…ゲホッ…強いね…」

背中をさすりながら立ち上がるこいつ

こいつはここで終わらせる

私がここでぶち殺す

「はああああああ!!!」

ドッゴ!!!

床ごと砕き、上から殴り、地下一階へとステージを移した

88: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 00:33:47.41 ID:m3w/SbPQ
「佐倉さん!これを」

「マミ!ほむらは?」

「ちょっとおとなしくしてもらったわ!それより、はやく、腕にさして」

「は?これ、ほむらの矢?」

「いいから!あいつは私が止めておく」

「どういう…!!!」

大きな情報が、頭に入ってくる

89: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 00:34:22.60 ID:m3w/SbPQ
鹿目まどか

さやかの魔女化

私の死

ワルプルギスの夜

繰り返す

鹿目まどか

さやかの魔女化



まどかを、送り出した

あいつの覚悟を、私は守りたい

90: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 00:34:51.92 ID:m3w/SbPQ
「ありがとう、マミ」

「とっとと片付けるわよ、こいつは危険すぎる」

「…はぁ…」

空気が変わる

どす黒い魔力

魔法少女のもの、っていうより魔獣の

希望ではない、絶望のエネルギー

「邪魔だてめえら!今すぐ殺す!!」

白目が黒い

それだけが印象的で

91: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 00:35:40.84 ID:m3w/SbPQ
マミと杏子は、ここで死んだ

92: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 12:05:51.47 ID:m3w/SbPQ
「よっと…」

瞬殺して、カッコよく登場

なんてことにはならなかった

「いつつ…強いなぁ、あの二人は」

口元の血を拭った

「二人は…マミと杏子を、殺したの!?」

リボンがほどけて、自由になったほむらが私の肩を掴む

どうすれば嘘をつかないで済むか考えたけど

「魔女にはしてない」
「眠ってもらっただけだよ」

ほっとするほむら

永遠に、なんだけどね、ごめんね

魔女にしてないのは本当

なんだろう、敬意?ほむらの友達だからかな

もっと計画性

ループの中で、ほむらは二人の魔女姿を見ているから、後で使うときに見られると面倒だから、かな

それがいい

「さあ行こう」
「きっと見てるよ」
「そうして待ってる」

今度こそほむらのソウルジェムを受け取ったよ

93: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 12:06:26.05 ID:m3w/SbPQ
ぐっと力を込めて魔方陣を展開した

「飛び込め」

「信じていいのね?」

「もちろん」

さあ始めよう

神への反逆者になろう

視界は真っ白になって、一度途絶えた

94: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 12:06:56.54 ID:m3w/SbPQ
「…来た」

「じゃあ、手はず通り」

「うん…」
「ごめんね?損な役回りをさせちゃって」

「大丈夫大丈夫」
「うまくやってよね」

「…分かってる」

二人、迎え入れた

95: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 12:07:40.50 ID:m3w/SbPQ
気が付くと長い廊下に立っていた

「ぼーっとしてないで、行くよ」

ぽんぽんっと肩を叩かれた

そうだ

私は説得しなきゃ

まどかを

まどかに

帰ろうって

開けたホールに出た

96: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 12:08:24.57 ID:m3w/SbPQ
「待ってたよ」

青い魔装

「さやか…」

やっぱりいるのね

「ほむら…」
「あんたは…」

さやかはフルフルと首をふって言葉を飲んだ

「なんでもない…」
「ここから先はほむら一人で行ってもらうよ」

「は?」

水無月が反応する

「どうして?」

「まどかのご要望」
「力尽くでも、あんたは止めるよ」

剣を構える

「…私は一人でも平気」

「駄目だ」

食いぎみに水無月が止める

「こいつを倒して、二人で行くぞ」

97: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 12:09:04.32 ID:m3w/SbPQ
「はぁ…」

さやかは溜め息

「ほむらはさ、まどかに会いたくない?」

水無月は魔装している

「あんたの開いた扉は加護のもの」
「そんなに長くはもたないよ」
「まどかはその間逃げ続けることもできる」
「でも、あんたと会うことを選んだんだ」

「私は反対したけどね」

さやかは続ける

「私はさ…私は…」

きっとそれは始めに言おうとした言葉なのだろう

すぐに取り消した

「だから、言うこと聞きなよ」

「…」

「行ってくるわ…」

ゆっくりと扉を開ける

先が見えない長い廊下

「いってらっしゃい、ほむら」

さやかは水無月を向いたまま手をふった

98: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 12:09:45.91 ID:m3w/SbPQ
「なんなの?あなた」
「鹿目まどかの何?」

「んー、ナイト様かな」

おどけて笑って歯を見せた

「あんたのことはさ、どうしろって…言われてないんだよね」

「じゃあ、遊んでくれるかな?」
「私もまだ、準備が必要だから」

バラバラとグリーフシードをまく水無月

数えきれないほどのグリーフシードが一気に孵化して、円環世界に散っていく

「この世界は空間ごと食い潰すことにした」

「希望は絶望の、餌だろ、そうだろ」

白目が黒く染まった

「おっけー、かかってきなよ」

両手の剣をくるくる回す

円環の理、その一角で二人はやいばを交えた

99: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 12:44:47.65 ID:m3w/SbPQ
長い長い廊下

一本道の廊下を私は歩く

どんな話をしよう

杏子が駅のホームで迷子になった話

マミと料理の練習をした話

仁美のお弁当が豪華な話

朝、ごみを捨てに行くときに出会ったおばちゃんと仲良くなった話

商店街に顔見知りが多くなった話

馴染みのクレープ屋さんができた話

近所のコンビニがつぶれた話

それから

それから…

100: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 12:45:28.06 ID:m3w/SbPQ
扉を開けた

私の部屋だった

魔法で細工をした、おしゃれな部屋

壁のワルプルギスの資料

そのパネルにはさまざまな私たちが映る

「久しぶりだねほむらちゃん…」

円形に並べられたソファには白いウェディングドレスのような姿の

まどか

「何百年ぶりかな?」

いやいやそんなに、経っていないわ

101: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 12:45:58.48 ID:m3w/SbPQ
「うぇへへ、冗談だよぉ」

後ろ頭をポリポリかきながら指をパチンッとならした
そうしてテーブルには二つのティーカップが湯気をあげた

「どうぞ、座って?」

まどかは自分の隣をぽんぽんっと叩いた

「ほむらちゃん、さっきから無言だけれど、どうかした?」

え、いや、

「リラックスできるようにほむらちゃんのおうちを再現したんだけれどなぁ…」

きっとまどかは全部知っているのね

本当は四畳半の畳の部屋を、私が魔法でこうしていたこと

ゴゥン…ゴゥン…とギロチン時計が右往左往

嬉しくて嬉しくて

あなたに会えたのが嬉しくて

テンションが一周してしまった

とても緊張する

「何からはなそうかな…」

カチャカチャと優しく私のティーカップにミルクを、砂糖を混ぜていく

ゴゥン…ゴゥン…と私の心が右往左往

103: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 14:21:53.33 ID:m3w/SbPQ
隣に腰を下ろして

温かい紅茶を一口含んで

落ち着いて

そうすると話したかったことがたくさん溢れて

もう振り子の音も気にならない

「あのね…」

目的も忘れて

私はお喋りを楽しんだ

104: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 14:22:29.83 ID:m3w/SbPQ
「へぇ…いろんなことがあったんだね」

にっこり、まどかの笑顔が懐かしい

お茶菓子は何がいいかなぁ?とまどかは色とりどりのバスケットを出す

「駅前のケーキ屋さん」
「ここ、マミさんと一緒によく行ったなぁ」

ぱくっとケーキを頬張るまどか

「美味しいよ?」

フォークですくった一口

私に向けられているそれは

「あーん」

「あ、あーん」

ち、ちょっと恥ずかしい

「うん、美味しい」

105: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 14:23:25.08 ID:m3w/SbPQ
「ここはね、たっくさん魔法少女がいるんだよ」

パチンッとならすとそこはマミの部屋

高層マンションの窓からの夜景

「やっぱりビル郡は夜景だよねぇ」

勝手に夜にすると、ぶーぶー言われるんだけど、と言いながら

「ほら、見て?たくさんいるでしょ」

本当だ

あ、交差点で信号を待ってる

駅に二人で歩いていってる

おー、あのビルのエレベーターはすけすけで丸見えだぁ

都会っぽい

「この子達はね、みんな、私が導いたんだよ」

優しくまどかは誇らしく

私も勝手に誇らしい

106: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 14:25:20.27 ID:m3w/SbPQ
「だから、ごめんね?」

分かってる

「私、ほむらちゃんを傷つけた」

え?

「ごめん、本当にごめんね」

ギュッと抱かれる

いつ越されたのかな、まどかのほうが背が高いや

「私は、ほむらちゃんを頑張らせて…頑張らせて…」
「最後にあそこにおいてけぼりにした」

やめてよ

「ほむらちゃんをひとりぼっちにしたのは私」

違うよ

ひとりぼっちにしたのは私、まどかしか見ていなかったのは私だから

「だからもういい、もういいよ、今まで私の作った世界を守ってくれていてありがとう」
「これからは、ずっと一緒だよ」

107: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 14:25:49.82 ID:m3w/SbPQ
「まど…か…」

「ずっとここにいようよ」
「私と、私たちと一緒に」

それは

だけど

「駄目」

絞り出す

「みんな、もう十分に幸せだった」
「まどかのお陰で、みんな救われた」

「…」

「だからもう帰ろう?私と一緒に」
「帰ろうよ…誰もまどかのことを……」

まどかに後悔がないこと

これが彼女の望んだすべてだってこと

全部わかっていた

ひとりぼっちは寂しいもんな

かつて誰かが言った一言

もう何度も聞いた気がしたけれど、今なら身に染みる

私は、私がもう、ひとりぼっちは嫌なんだ

108: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 14:28:28.47 ID:m3w/SbPQ
「力尽くであなたを連れ戻す」

魔装する

もう手段は選ばない

「ごめんね、まどか」

それでも

それでも私は

リボンを外して、力を貰う

亡くした加護を取り戻す

弓に、翼に、リボンは形を変えて

まどかと戦うための力を、まどかから受けとる

「ほむらちゃん…」

そんな顔しないで…

私はあなたを壊すけど

今度はちゃんと

守るから

今、容赦なく放った一矢はまどかの頭をぶち抜く予定

109: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 14:43:19.24 ID:m3w/SbPQ
大広間

シャンデリアが揺れる

「っ」

「ぐっ…」

ギン ガキンッと火花を散らす

「やるじゃん、でも」

「早くしないと、でしょ!?分かってるわよ!」

魔女がこの世界を侵食していく

分かる

この感覚はまずいから

早くこいつを倒さなきゃ

それがナイトの役目だから

110: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 14:43:49.44 ID:m3w/SbPQ
「さやかって言ったっけ」

返し刃をかわしながらこいつは

「私の速度についてくるなんて、大したもんだよ」

軽口を

こうなったら強行手段だ

ビュッと直線

こいつの放った突きを私は腹で受け止める

ズブッブツツツッ

貫通してから、肉と擦れる

ガッチリと刀身を握りしめる

血がボタボタ垂れる

「…捕まえた!」

「っ!」

間合いが狭いよ

私は思いっきりぶん殴った

111: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 14:44:38.28 ID:m3w/SbPQ
ゴッシャ!!!!

人が人を殴る音

ゴッ ゴロ ガンッ ガンッ

バウンドしながら吹っ飛んでいく

ガッシャンッ

向こうに頭を叩きつけて

「うぐっ…げほっ」

血を吐きながら這いつくばる

もう一度

死ぬまで殴ろう、こいつを

足に力が入らなくて私は前屈みに倒れた

お腹の刀、抜いといてよかった

回復を始める

112: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 14:45:57.27 ID:m3w/SbPQ
「はぁっゲホゲホッんぐっ…」

上半身を支える腕ががくがくいってる

「てめぇっ…!」

黒い白目で私を睨む

そんなに怖い顔しないでよ、あんただって、私を刺した

よろよろっ…とお互い立ち上がる

新しい刀を作り出して走り出す

ラウンドは2

はじめの攻防は、相討ちかな

私寄りの

113: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 15:21:08.39 ID:m3w/SbPQ
ガンッ!

と刃を合わせる

力を入れたまま、名一杯お腹を蹴りあげる

「はああああああ!!!」

ドッ!!!

「っぷ!!!」

一瞬止まってから

ボゴォッ!!と天井まで弾け飛ぶ

「ゲホゲホッうおぇっ…!!」

ボタボタと吐血

殺す気で蹴った

まだか

私はまだこいつをボコボコにしなきゃ

114: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 15:21:53.47 ID:m3w/SbPQ
懐からグリーフシードを取り出した

「どうしたの?ソウルジェムが濁っちゃった?」

私は余裕を見せた

「ばーか…」

ぽいっと放ったそれは魔女を産んだ

お菓子の魔女は最初からクライマックス

口から黒いの吐き出した

「全ての魔女は…私の使い魔だ」

ゴキンゴキンと首をならして

きっとここから本番なんだ

115: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 15:22:39.88 ID:m3w/SbPQ
「行くぞ!」

魔女は右からあいつは左から

私を挟むように連携する

前に出て、振りかえって、二つを正面にとらえる

この魔女には本体がいるから

まずはそれを壊さなきゃ?

いや、あいつを倒さなきゃ魔女は無限に作れるのかも

考えながら戦うのは得意じゃない

無鉄砲と無計画

マミさんも、杏子も、ほむらも私を叱るんだ

116: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 15:23:43.12 ID:m3w/SbPQ
「あんたはさ」

刀をいなして、牙を折る

二人?相手で忙しい私に話しかけてくる

「本当に鹿目まどかを正義だと思ってる?」

防戦一方、劣勢は私

「全ての魔法少女を幸せに」

いなしきれずに数太刀受ける

「でも、ほむらをああしたのは鹿目まどかだ」

かわしきれない傷が増える

「ほむらをひとりぼっちにして」

回復量を上回る

「ほむらを追い詰めて」

右手の剣がへし折れる

「鹿目まどかは一番大切な一人さえを幸せに出来ていないよ」

いけない、刀を噛まれた

空中で一度静止した

「感謝してるよ」

二度目の突きは黒い魔力を纏っていて

きっと絶望にうちひがれてしまうだろう

117: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 18:43:03.84 ID:VgbWxM17
水無月の刀が頭上をかすめる

「あ…え…」

「遅れたわ」

「待たせたな、さやか」

「杏子!マミさん!」

助けてくれたのは頼もしい先輩たち

「なんだよてめえら、一回私に負けてるだろ」

見逃してやったのにこんなところまで追ってきやがったのか、と

「今度こそ」

「負けねえ!」

十数人の杏子と数百発の弾丸

張り巡らされた細い糸に身動きを封じられる

「今よ美樹さん!!」

「はい!!!」

渾身の一撃

肩から脇腹にかけて一刀両断

水無月を切断した

118: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 18:43:42.01 ID:VgbWxM17
「…っ!!」

ドサッ

「…はぁ…はぁ…」

「暁美さんは…鹿目さんと…?」

「はい…今ごろきっと」

まどかはほむらを、どうするんだろう

ここに招き入れるのかな…それとも…

ほむらはまどかを説得できるの?

「ま、あとはまどかにまかせるしかねえだろ」
「それよりも、魔女をはやく止めないとな」

この戦いは、どう終わるんだろう

とにかく飛散した魔女を倒さなきゃ

三人ともそう思ったとき

黒く染まった希望が水無月を飲み込んだ

119: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 20:33:32.77 ID:VgbWxM17
暗い

真っ黒な中に立ってた

自分の姿はよく見える

ぐっ…

ぱっ…

自分の手

おかしい、さっきまでまどかと戦っていたはずで

私はその末に貫かれて…

死んだ…?

魔法少女として導かれたわけではない私は

神に歯向かった私は

地獄に落ちたの?

120: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 20:34:10.95 ID:VgbWxM17
「ほむらちゃん…」

まどかだ

まどかがいる

真っ暗な空間に二人きり

制服姿で、あの頃の姿

「まどか…」

私は

「あなたに…幸せになってほしいだけなの」

ふるふると首をふる

「私はもう、十分に幸せだよ」

そんなわけない!!

そんなわけないよ…

それは

それは私の望んだあなたじゃないよ

121: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 20:34:49.73 ID:VgbWxM17
「私は普通に幸せになってほしかった」

そこに私がいなくてもいい

と言うと嘘になるか

例えそうであっても私が願ったのは

日常だった

まどかには、人間として、生きて

幸せになってほしかった

「誰の役にも」

「なんの取り柄もなかった私が」

「たくさんの、全ての魔法少女を幸せにできる」

「それだけで」

「誰かに必要とされていることは、こんなに温かいんだよ」

だから違うんだ

122: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 20:35:20.64 ID:VgbWxM17
「誰の役にも」

一人の、ただ一人誰かのお母さんでも良かった

「なんの取り柄もなかった私が」

パン屋さんでも

「たくさんの、全ての魔法少女を幸せにできる」

看護婦さんでも

「それだけで」

保育士さんでも

「誰かに必要とされていることは、こんなに温かいんだよ」

私の友達でも良かったのに

あなたはそれを、選ぶんだね

124: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 20:36:30.88 ID:VgbWxM17
「私は」
「まどかにとってはどんな存在…?」

ずるい質問

チャパッ

足元は水浸し

どんどん水位は増して腰まで到達する

どうして?

どうして答えてくれないの?

私は、まどかにとって、どんな存在?

だったの?

125: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 20:37:34.63 ID:VgbWxM17
「私は…」

あのとき、思った

ほむらちゃんに全てを託したとき

重荷を背負わせたあのとき

二人で

守っていきたいって

この世界の

私の日常の

126: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 20:38:11.68 ID:VgbWxM17
私はこのシステムになって、後悔はない



一つだけ後悔がある

それは、ほむらちゃんを蔑ろにしてしまったこと

言葉が足りなかったこと

伝えられていなかったこと

平和を守る魔法少女の行き着く先が魔女なんて

そんなのはひどいって

おかしいよって、変えたとき

きっと私は

正義と悪の完全分離

これを成し遂げただけだったんだと思う

127: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 20:38:53.39 ID:VgbWxM17
漠然とした「みんな」に含まれるのは

マミさん?

さやかちゃん?

杏子ちゃん?

ママ、パパ、たっくん?

仁美ちゃん?

ほむらちゃん?

私、なのかな

128: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 20:39:41.15 ID:VgbWxM17
世界中の

過去と未来の

全ての

とか

そんな大雑把で大胆な

大きなくくりの願い事は叶えられたけれど

本当に思っていたのは家族や友達

かけがえのない私の親しい人達

結果、大きなそのサイクルは

足元を脆くして、見えずらくして

ほむらちゃんを置き去りにした

130: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 21:18:28.47 ID:VgbWxM17
だから伝えれば良かった

話せば良かったんだ

私たちは

私は必要としていたって

あなたのことが必要だったって

131: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 21:23:44.86 ID:VgbWxM17
「守る、とか守られる」

「そういう枠組みの関係は、私たちには似つかわしくないよ」

持ちつ持たれつ

下を向いて

私を向かないほむらちゃんに話す

「私はこの世界のルールとして」
「魔法少女を、絶望の終わりからすくいとった」

「でも、平和を脅かすのは人の心に巣食う絶望で」

「それらは私の手の届かない、消えることのない真実で」

「私の、ほむらちゃんの願った希望を侵すから」

「だからほむらちゃんには、あの世界を守ってほしかった」

「私と、一緒に」

解決になってないなって、今気づいた

132: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 21:24:22.31 ID:VgbWxM17
私は救えたの?って

何度も問えば答えは同じで

まどかの願いを否定しまう

まどかが犠牲になってまで、

そんなにこの世界って大切なのって

私が思うのは自己中心的?

133: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 21:28:37.67 ID:VgbWxM17
もういいよって

一緒に帰ろうって

そう伝えに来たのに

134: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 21:29:07.83 ID:VgbWxM17
「ありがとう、ほむらちゃん」

「あなたは私のことを」

「私の幸せをこんなにも願ってくれる」

「今度は私が、ほむらちゃんを幸せにするよ」

「一緒にいよう?」

「ここで」

微笑んだまどかは、両手を広げて私を待つ

135: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 21:29:40.78 ID:VgbWxM17
どうやら、私は負けたみたいだ

まどかに日常の

女の子としての幸せを手にいれてほしいと

そう願った自分

ここにきた自分を間違っていたとは思わない

でも、今は少し違う

守りたいと思う

まどかと一緒に

私たちの大好きな世界を

136: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 22:14:26.64 ID:VgbWxM17
バキンッと音をたてて崩れた暗闇

目を開けるとまどかが

「おかえり」

って心を込めて返してくれる

私にはもったいないくらいの幸せ

いいんだ

私はこれから守っていこう

そして、全部終わったら

また一緒に笑おう

この世界で

抱きしめあって涙がこぼれる

やっぱり雨は止まなかった

ずいぶんと意味合いは変わってしまった

あったかくて、嬉しくて

虹を作れる、そんな雨

137: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 22:15:17.67 ID:VgbWxM17
「さぁ、行こう」

決着をつけに

ソファ一つの狭い部屋

扉を蹴破って廊下を急ぐ

行きと違って短く早い

これが心の距離なら頷ける

もうひとつ、広間への扉を開くと

138: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 22:16:13.08 ID:VgbWxM17
「うわっ!」

「美樹さん危ない!」

「っのやろ!!」

マミ、杏子!?

それに、こいつは…!

「「おや?鹿目まどか」」

「「のこのこやって来やがったなああああ!!!!!」」

「アハハハハハ」「キャハハハハハ」「ヒヒヒヒヒヒヒ」

無数の絶望を取り込んで

魔女の集合体となった水無月がいた

「これは…」

空間の侵食

もう向こう側は真っ黒な絶望が満ちていた

「なんとかここで押さえつけてたんだけど」
「ごめんまどか!止めきれないよ!」

三人は水無月の進撃に押され気味だった

139: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 22:16:45.86 ID:VgbWxM17
「「どうやらほむらは寝返ったみたいだね」」

「「でも大丈夫!」」

「「私にはこんなに素敵な友達がたくさんいるから!!」」

「「さあ!鹿目まどか!その力を渡して貰うよ!」」

ズンッ!と降りおろした腕で床に、壁に亀裂が入る

「くっ!」

「マミ!」

任せて、とマミがリボンで足場を作る

「「喰らえ!!」」

その姿はワルプルギス

脳が瓦解して、心を失い機械作り

頭部を上に袖の長い腕をまどかに伸ばす

「まどか!!」

ガンッ!!

杏子とさやかが前に出て、まどかを守る

「「無駄だよ!!」」

140: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 22:17:16.91 ID:VgbWxM17
「まどか…!」

「うん…分かってる」

キィィィィィィィィィィ…!!!

金属と金属が擦れるような音

空気を震わせる高音をともなって私は弓をひく

ちからいっぱい

まどかに支えられて

「もういいの」

「もう、いいんだよ」

「もう誰も恨まなくていいの」

「誰も、呪わなくていいんだよ」

二人で放った矢は絶望を打ち消した

141: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 22:18:24.54 ID:VgbWxM17
やっぱり駄目だった

あのときもあいつは最後の最後に掌を返した

無償の自己犠牲で、他人の幸せを願うやつもいれば

無償の自己犠牲で、他人の不幸を願うやつもいる

互いの存在が、互いの存在の否定であって、それはそのまま肯定になる

ただ

それだけ



これが、水無月の最後

次に目が覚めたときは「お、新入り?」とどこかの誰か、円環の理の先輩に声をかけられているだろう

142: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 22:33:07.45 ID:VgbWxM17
ー終わりの章ー

「マミさん紅茶おかわり!」

「はいはい」

「まどかー、ケーキの箱、開けてもいいか?」

「いいよー」

マミの部屋…の再現

ここで私たちはお茶会をしていた

「それにしても、鹿目さん…神様なのね」

「うぇひひ」テレッ

「うんうん」
「まどかはまどか様になっても、私の嫁なのだぁ!」ダキッ

「わ、わ」

懐かしい風景

自然と頬がつり上がる

「それにしてもつまんねえテレビだなぁ…」

杏子がリモコンをいじる

ずっと続けばいいな、とこの五人の集まりを幸せに思う

143: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 22:33:43.05 ID:VgbWxM17
「ほむらちゃん、そろそろ」

「…ええ」

扉が閉じてしまう

もう、行かなくては

「マミ、杏子行きましょう」

こんなところまで、助けに来てくれてありがとう

「…」

「あーっ…はは…」

「暁美さん、ごめんなさい」
「私たちは、導かれてここにきたの…」

…え?

144: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 22:34:28.41 ID:VgbWxM17
「実はあいつに負けてさ…魔力を使いきってだな…」

そっか

そうだったんだ…

まどかが心配そうに私の表情をうかがう

「大丈夫」

「私は大丈夫よ」

ニコッと笑ってみせた

出来るだけ

明るく

何でもなさそうに

「私は一人じゃないから」

145: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 22:36:34.11 ID:VgbWxM17
「ほむらちゃん」

まどかが駆け寄ってきて

私の弓に手をかけて

それをリボンに戻した

そうして背中に手を回して

背伸びして私のおでこにちゅーをするから

私は何にも負けない、加護を受け取った

飛び込んだ世界は、こんなにもまだ希望に満ち溢れている

雨は上がって、虹が出ていた

長いこと、迷路をさ迷った

146: ◆svMdfnlanc 2013/02/17(日) 23:03:34.46 ID:VgbWxM17
物語は最終局面

原作最終話、最後のシーン

あの、場面へと繋がる

足元の悪い砂の上を私はゆっくり歩く

翼を広げて空を舞う

さあ、終わろう、これで最後だ



綺麗な穢れを背負っていた



おわり