1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:19:51.54 ID:5QDjwuWC0
少年と少女が木漏れ日の中を走っている

少女「ねぇ、秒速5センチなんだって。」

少年「えっ、なに?」

少女「桜の花の落ちるスピード。秒速5センチメートル」

少年「アカリ、そういうことよく知ってるよね。」

桜吹雪の中で、傘をさし、おどけてみせる少女。

少女「ねぇ、なんだか・・・まるで雪みたいじゃない?」



少年「そうかなぁ?・・・」

ふたりは踏切まで来たが、少年は踏切を渡りきれず、

降りた遮断機の前で叫んだ。

少年「ねぇ、待ってよ アカリ!」

踏切を電車が通り過ぎる。

電車が通過し、その向こうから、少年に笑いかける少女。



少女「タカキくん、来年も一緒に桜、見れるといいね」


引用元: 貴樹「葉っぱ隊?」 



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:21:06.60 ID:5QDjwuWC0




貴樹「(また、あの夢を見ていたのか・・・)」

カーテンも開けていないアパートの一室には

麗らかな春の朝が訪れていた。

青年はPCデスクでうたた寝をしてしまったのだろう、

顔には何か跡がついていた。



貴樹「(こどもの頃の夢だ。僕が東京に越してきて

   数年過した小学校の、帰り道の思い出だ。)」



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:21:36.29 ID:5QDjwuWC0
青年は部屋のカーテンを開けた。

それからすっかり冷めたコーヒーを温め直し、

納期までまだ余裕のあるにも関わらず

慣れた手指で一心不乱にプログラムを打ち込み、

そして、午前中には完成させていた。





痩せ細ってはいるものの、まだ精悍さの残る顔が消えた画面に映る。


4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:23:09.82 ID:5QDjwuWC0
自分の顔を見つめると、いろいろな想いが心をめぐる。



貴樹「(この数年間、とにかく前に進みたくて、

   届かないものに手をふれたくて、

   それが具体的に何を指すのか、

   ほとんど脅迫的と言えるようなその思いが

   どこから湧いてくるのかも分からずに、

   僕はただ働き続け、気づけば

   日々弾力を失っていく心が、ひたすら辛かった。)」



彼は窓の外を見た。――― 一服するか・・・



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:24:33.52 ID:5QDjwuWC0


窓の外の空気は澄み渡っている。4月の青い空が、建物の向こうに見える。



貴樹「(そして、ある朝、かつて、あれほどまでに真剣で切実だった思いが

   きれいに失われていることに、僕は気づき、もう限界だとした時、

   会社を辞めた。)」



そう思っていたら、どこからだろう、桜の花びらが一枚降りてきた


6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:25:31.96 ID:5QDjwuWC0


貴樹「(それからというもの、独立して仕事を始めた。)」


7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:26:03.05 ID:5QDjwuWC0
手の中に納まった花びらは、溶けてしまいそうに淡いピンク色で、

再び少年時代の記憶が走馬灯のように思い出される





貴樹「(この桜を一緒に見るはずだった女の子がいたんだ。

   小さいときの話だ。彼女はそのあと引越してしまって、

   僕と違う中学へ通った。それでも僕らは運命に逆らった。

   10数年前、僕が彼女の元へ電車で行き、3月の雪の中で再会した。

   しかし、あの時ぼくは何もできなかった。。

   渡すはずのラブレターも失い、自信も失っていた。

   “好き”という思いが、口から零れることも無いまま彼女と別れ、

   あの夜の、たった一度の彼女の口づけだけが、僕に残った。)」


8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:26:46.86 ID:5QDjwuWC0
青年は部屋を出た。



貴樹「(午後からの予定は、少し変更する。)」

アパートの階段を降り、外へ出るのだ。







  ―――なんと気持ちが良いのだろう


9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:29:41.31 ID:5QDjwuWC0
春の雰囲気を漂わす小径、桜が落つコンクリートの坂を歩き、

小さな踏切を渡った。見慣れた風景だ。









だが、どこか違う気がする。桜の色の効果というより、

何かもっとやさしい何かが・・・


10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:33:07.73 ID:5QDjwuWC0








踏切では黄色と黒の斑の遮断機が、青空を隔てるように立つ。

レールの通る踏切のうえを歩くと、女性とすれ違った。

ピンク色のカーディガンを着た、たぶんそうだと思う。



すれ違う刹那、



どこからともなく、甘いにおいがした。

どこか懐かしく、どこまでもやさしい香り。



母親の胸に抱かれる子供時代に戻ったような・・・

そんな郷愁に、頭が真っ白になった。


11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:33:45.40 ID:5QDjwuWC0
通りすがる、その長い髪の女性を見ようとした。



貴樹「(だが、見ることのできない自分がいた。)」



とうとう顔を見ることはできなかった。

踏切を渡ると、振り返ってしまう。彼女もまた踏切の向こう側に着いた。



彼女は自分の知っている人かもしれない、青年にはそう思えた。

そう思いたかった。

あの少女によく似ていた。 横顔しか見えないが、確信した、

幼き日の友達で、そしてはじめての・・・


12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:37:18.34 ID:5QDjwuWC0
遮断機が下がると、青年は振り返って反対側を見た。

踏み切りの向こうに行ってしまった、女の後ろ姿がはっきり見える

心なしか、こちらに振り返るように見えたのは、希望的観測だろうか。



貴樹「(今振り返れば、きっとあの人も振り返ると、強く感じた)」


13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:40:10.80 ID:5QDjwuWC0
しかし電車が来て。通り過ぎる。彼女の姿を見えなくした。



急行ゆえにすぐ通り過ぎると思っていたが、

反対方面からも電車が来てしまい、遮断機が上がるのは時間がかかった。





14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:40:37.00 ID:5QDjwuWC0
電車は無慈悲にも通り過ぎる。

この時間は、永遠に続くとも思えたが、

向こうであの人が待っているのだと、心が叫んでいた。





カン、カン、カン。

音が止む。それと反比例して心臓は高鳴っていった。


15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:41:13.58 ID:5QDjwuWC0


遮断機があがる、そこにいたのは、











・・・ほぼ裸の男だった。


16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:41:52.10 ID:5QDjwuWC0
女がいた場所には、●●に葉っぱ一枚貼り付いているだけの裸の男が、

腰に両手を挙げて空を眺めているだけ。



貴樹「(――踏切の向こうに、あの人はいない・・・ 代わりに、どこか誇らしげなはっぱ一枚の男がいた。)」





彼は大声で嬉しそうに叫んだ。

???「ヤッタァーw!!!  昔の彼女と再会して、結婚したぞー!!!」


17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:42:53.94 ID:5QDjwuWC0
その横から、もう一人葉っぱ一枚の男が登場した。

???「え、マジで、マジで!?w」 



貴樹「(――彼らはその場で飛び上がり、一斉に喜びはじめた)」

???「ぁい♪YATTA! YATTA! YATTA!~」


18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:43:35.12 ID:5QDjwuWC0
背後から喜びの声が聞こえる。

???「ヤッタァw! 希望の会社に就職できたw!春から僕も社会人だ!!!」



貴樹が振り返ると、今度は後ろにもに、また違う葉っぱの男がいた。



???「本当に!?ww」 

???「お祝いしよーう!w」

???「ぁーい♪YATTA! YATTA! YATTA!~」


20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:44:13.19 ID:5QDjwuWC0
間髪いれずに声がした。

???「ヤッターww!! ずっと夢だった、宇宙飛行士になったぞ!!」



どうやって入ったのか、線路の中に、またもや葉っぱの男の仲間が。

???「本当にー!!?ww」

その男の肩を叩いて喜ぶ葉っぱの男たち。

???「スゲーじゃんwww」

???「まじかよ、俺も夢が叶ったぞーw!」

全員が集い、貴樹の前で飛び上がって喜んでいた。

???「ぁーい♪、YATTA! YATTA! YATTA!~」


21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:45:33.25 ID:5QDjwuWC0
貴樹「あの、どういった方たちなんですか? 一体どういう?・・」



彼が言い終わるのを待たず、リーダーと思しき男が進み出た。

南原「僕ら、はっぱ隊という者です!」

貴樹「ですから、なぜこんな所で、葉っぱ一枚で?」



南原「なら、キミも、なぜ服を着ているんだぃ!?」


22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:46:54.16 ID:5QDjwuWC0
貴樹「そ、それは・・・・・」



言葉に困った貴樹を見てリーダーの男が言う



南原「葉っぱ一枚になることを、恐れていてはナンセンス!」

はっぱ隊一同「うん、そうそう! うんうん!~ 」

はっぱ隊全員が腕を組んで納得している


24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:48:33.56 ID:5QDjwuWC0
貴樹「(―まさか、こっちが間違ってるとでもいいたいのか?・・・)」

貴樹は混乱してきた。しかし、彼らの言うことも一理あるなと思い始めた



原田「そうだ!ボクら葉っぱ一枚だから、何も失うものはない!」

堀内「葉っぱ一枚の僕らにできて、君にできないことはない!」

大木「嘘だと思って、やってみなって!」





貴樹「(・・・新手の新興宗教か? それにしても、



   この人たち、何でこんなに嬉しそうなんだろう?・・)」


25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:51:43.98 ID:5QDjwuWC0
 








南原「なんか落ち込むことでもあったのかい!?」



貴樹「はい・・・」



貴樹「なにかの幻影を追い続け、大人になるのを焦り、

   今まで、心の隙間を埋める為に女性と付き合っては別れ、

   そして仕事にも限界を感じて会社を辞めてしまって、

   これから人生やり直せるか不安で・・・」


26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:53:20.11 ID:5QDjwuWC0
名倉「それこそチャンス! なぜなら、今キミは自由!」

はっぱ隊一同「そうだそうだ!ww」



南原「まだ若いんだし、やりたいことやれる、好きなだけ、時間があるじゃない!?」

大内「葉っぱ一枚になれば、時間なんて関係ないって。」

堀内「脱いじゃえ脱いじゃえ!」


27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:55:44.15 ID:5QDjwuWC0
貴樹「(――この人たち、おかしいけど、言ってることは的を得ている・・・)」

南原「嘘だと思うなら、キミも葉っぱ一枚に、なればいーじゃない!?」



南原は貴樹を指差した。

はっぱ隊一同「い~じゃない、いーじゃない!ww」

ユニゾンで自分の処遇をきめられている・・・





貴樹「(いや、まてよ?・・・・)」

貴樹は葛藤した。


28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:57:49.60 ID:5QDjwuWC0
貴樹「(――若干この人たちの言うことを、少し信じてしまう自分が恐かった)」







はっぱ隊一同「脱~げ!w脱~げ!w脱~げ!w脱~げ!w」


29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 00:58:19.27 ID:5QDjwuWC0
同時に彼は、今のなかば強制的な状況が、自分を変えるきっかけになると、

強く願ってもいた。



貴樹「(でも、彼らの明朗な声が響き渡ると、なんかどうでもよくなった・・・

    僕も葉っぱ一枚になれば、この人たちみたいになれるだろうか?)」













気付いた時、貴樹も裸になっていた。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 01:03:48.67 ID:5QDjwuWC0
正確にははっぱの男たちと同様、葉っぱ1枚になったわけだが、



他のはっぱ隊と違い、ただの葉っぱではなく、

桜の花びらを模した5弁の花が急所を覆っている。





名倉「イケてんじゃーん!www ひゅーひゅーww」

堀内「グレートブロッサム!!w」

大木「すごいぞ、キミの人生も、これで、桜色だー!w」


31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 01:04:41.59 ID:5QDjwuWC0
まだ4月なので、やや肌寒いものの、やわらかな日差しと風が心地よい。

生まれたままの姿で、大気を感じる。









貴樹「(なんだろう・・・

   葉っぱ一枚になった瞬間、永遠とか、心とか、

   魂がどこにあるか、思い出した気がした。)」





南原「ミュージック! スタァァァッツ!!」


32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 01:06:01.02 ID:5QDjwuWC0
葉っぱ隊「♪YATTA! YATTA!~   」



踊りはじめるはっぱ隊。

踊りについていく貴樹。



「♪二度と会えなくたっていい、君がいたからラッキーだ!!」



そのフレーズを聞くと、思い出が脳内を駆け巡る・・・


33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 01:06:36.07 ID:5QDjwuWC0
「♪YATTA! YATTA!」



恥ずかしさよりも、とても言い表せないような

清清しさが体中に満ちる。



細胞が入れ替わり、蘇るような感覚・・・



葉っぱの男たちと歌い、踊っているだけなのに・・・


34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 01:07:50.68 ID:5QDjwuWC0
はっぱ隊「♪バイQ~!」



音楽が終わった時、そこには、以前よりも、

生命力に溢れた貴樹がいた。



貴樹「ありがとう、なんだか、前へ進めるような気がしてきました」



南原「そうか、前へ進んでいきたまえ! 」


35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 01:09:30.16 ID:5QDjwuWC0
貴樹「はい。」 貴樹は久しぶりに微笑んだ。

南原「そんなアナタが!」

はっぱ隊一同「うーまーらやしー!!www」


36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 01:10:11.52 ID:5QDjwuWC0
はっぱ隊「よーし、みんな胴上げだーー!!ww」

生まれ変わった貴樹を胴上げしはじめるはっぱ隊たち。





はっぱ隊「わーっしょいw!わーっしょいw!わーっしょいw!わーっしょいw!」



バンザイをし、穏やかな表情で空へと何度も飛ばされる貴樹。



そして、あの日聞いた言葉が脳裏に蘇る・・・



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 01:12:36.55 ID:5QDjwuWC0


  アカリ「秒速5センチメートルなんだって!」



桜の花びらを●●につけた貴樹。

何度も投げ飛ばされてはキャッチされる。





貴樹「(大丈夫だ。アカリ、僕はきっと、大丈夫だ。)」











          

          完


39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 01:14:57.10 ID:5QDjwuWC0
          ・

          ・

          ・

          ・

          ・



おまけ



花苗「遠野くん、この辺に住んでるんだ・・・」



高校時代、貴樹に片思いしていた花苗も、

ちょうどこの時に上京し、この街に住む貴樹を探していた。





ビルに囲まれた新宿を抜け、代々木の傍を歩いている


40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 01:17:05.57 ID:5QDjwuWC0
踏切の近くを通り過ぎた花苗。黄色い声が聞こえた。

――――お祭りでもやってるのかな?



好奇心にかられ、その声に引かれて線路脇へ出た。



祭りなどなかった。





ほぼ裸の男たちが、同じような男を胴上げしている光景。



それを尻目に彼女の背筋は凍った。

花苗「(東京、やっぱり恐いとこだ・・・)」


41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/17(木) 01:18:04.46 ID:5QDjwuWC0






しかし、よく見ると、胴上げしている男が、

一瞬、知っている顔に見えたような気がした。



花苗「(え!?でも、まさか・・・アレ違うよね?・・・人違いだよね?)」





          ――― 終 ―――













どうもお粗末さまでしたwww 

最後まで読んでくれてありがとうございました。 またいつか。