春香「ガンプラマイスター?」 前編

201: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 10:54:51.50 ID:KrYJ+OCl0


第四部「プロモーション前夜祭編」



その日彼女は、一つの会場を目指していた。



 その光るようなオレンジ色の髪をポニーテールでまとめている。



 瞳は水色と紫のオッドアイで、見る者を魅了するような魅力を秘めている。



走らせる車で、ただ微笑みを浮かべながら鼻歌を歌う彼女――



 玲音。



最強のアイドル、ランクで計る事の出来ぬ存在、オーバーランクの称号を我が物とする、唯一の女性。



彼女がたどり着いた先は、ガンダム・ビルドバトラーの、プロモーションイベントを行っているメイン会場だった。






202: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 10:57:21.97 ID:KrYJ+OCl0


「アドバンスドMSジョイント――いわゆるフレーム部だけを別物にすることで、可動性と強度を上げてるシステムになる。

 RGのガンダムは記念すべきアドバンスドMSジョイント第一作目であるため、少し装甲保持性に難がある――が、まぁ許容範囲とも言える」



 組み立てながら、プロデューサーの言葉を聞き、説明書とにらめっこをする春香――その隣には、既に塗装を終えたエクシアリペアⅡを組み立てる美希。

二人の手の動きは明らかに違い、美希の器用さに春香も少しだけ驚いていた。



「このアドバンスドMSジョイントの効果で、部品の数こそ増えたが、組み立てやすさは非常に良いものになった。

Zガンダムの完全変形まで楽しめるなんて、俺にとっては夢のようなグレードなんだよ」



 確かに――と春香は納得しながら、ニッパーでパーツを切り離す。



部品こそ多いが、既にフレーム部分が完成している状態なので、そこにはめ込むだけのRGは、最初難しいと思われていた状態から、簡単に各部を組み立てる事が出来た。

これなら、素組みだけならこの一日だけで十分。後はスミ入れの手間だが――明日の前夜祭を寝不足覚悟で楽しめば良いだろう。



「美希はどんな感じ?」

「んー? 今半分って所かなぁ」



 ポリキャップの部分をフニフニと触りながら他の部品に触れ、スミ入れをしながら組み立てていくその動きに、自分より良い手際である事を実感させられる。



「春香。プラモデルは他人と競う為の物じゃないよ。お前たちが競うのは、バトルの時だけだ」

「……はいっ」



 プロデューサーの言葉にどこか救われた気がして、春香は慌てる事無く、組み立てに集中していた。



205: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:14:49.46 ID:KrYJ+OCl0


熊本弁と呼ばれる愛称がある。



「灼熱の業火が我らの身を蝕む……(訳:今日は暑いですね~)」



 黒のゴスロリ衣装を身にまとい、フリルの付いた日傘を差す少女――神崎蘭子が、少しだけ汗を流しながら、そう述べる。これが熊本弁らしい。



「蘭子……さすがにその恰好は暑いと思うよ。大丈夫?」

「蘭子さんはどこまで行ってもぶれませんね……まぁ、ボクの可愛さも、決して揺らぐ事はありませんが」

「盟友の言葉、心に留める事としよう(訳:大丈夫ですよー。心配してくれてありがとうございます!)」



 熊本弁について行ける少女が二人。



長い黒髪を下した、大人びた雰囲気の少女――渋谷凛。



 少しだけ垂れ気味の目と肩までいかない銀髪のショートヘアー、そしてどこか自信に溢れたその態度が印象強い――輿水幸子。



三人は、ガンプラ・ビルドバトラーのプロモーション会場を練り歩いていた。

理由としては――彼女たちがチームとして、このゲームのプロモーション予選に出場し、敗退した選手だからである。

予選敗退をした選手は、プロモーションバトルの合間にある二日間でコンサートやトークショーが出来る。

 既に三人のステージは終了し、こうして遊んでいるというわけだ。

 彼女たちの事務所――シンデレラガールズプロダクションのプロデューサーも同意している。



「だが我ら同盟、如何して協定を結ばれたのだ(訳:でもどうして、私たち三人のチームなのでしょう)」

「ガンダムを知ってたって言うのと、プラモデルの都合って、プロデューサーが言ってたよ」



 蘭子の問いに、彼らのプロデューサーが述べた言葉を返す凛。



206: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:19:21.69 ID:KrYJ+OCl0


「あ――ゲーム出来る会場、見えてきたよ。やってく?」



 凜が、学生カバンの中から一機のプラモデルを取り出した。

RX-178【ガンダムMk-Ⅱ】――Zガンダムの登場する、初期主人公機だ。

 初代ガンダムの流れを汲むシンプルなデザインだが、着色は黒色で、ティターンズカラーとなっている。



「ふ……戦いに身を委ねるか……それも良かろう(訳:ぜひやりたいです! 行きましょう!)」



 蘭子はスカートの部分からホルスターを取り出し、ホルスターの中からプラモデルを取り出した。

XXXG-00W0【ウイングガンダムゼロカスタム】――OVA及び劇場用アニメである新機動戦記ガンダムW Endless Waltzに登場した主人公機のリファインバージョン。

 その本物かと見紛うような翼が印象強い機体である。



「ボクの可愛さと、このエクストリームガンダムのカッコ良さに、見てる人を魅了してあげますよ!」



 凛と同じくカバンからプラモデルを取り出す幸子。

 彼女の機体は装甲の節々に青色のクリアパーツを使用したシンプルな機体。

 全体的に青色の塗装がなされたそれが、エクストリームガンダムと呼ばれる、アーケード用ゲーム、機動戦士ガンダムVSガンダム・エクストリームバーサスに登場する機体である。



「うん、じゃあ行こうか」



 凛が二人の言葉を聞いて、会場へと向かう。



会場には六つの筐体があり、自由に乗り込んで試し乗りをしていい事となっている。

またチーム登録や敵としての登録を行えば、勝負をすることが可能なので、ふと出会った人と戦っている人も、多くいた――筈だった。



なぜか、会場は大盛り上がり。

 普通は皆が楽しんでいる筈のゲーム状況を映すモニターに群がる人々が、まるで何かを崇めるかのような視線をモニターに向けていた。



207: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:21:02.95 ID:KrYJ+OCl0


モニターでは、一つのガンプラが三機を相手に戦っていた。

 それも奮戦では無い――まるで三機と戦ってなお退屈そうな動きで、立ち回っている。



トリコロールと、まるで泣いているような顔部分のスリットが印象強い、ガッチリとした機体だ。

 その手には巨大な対艦刀を持ち、肩部のビームブーメランを振るう。



近付いてきたガンダムサバーニャに向けて掌を押し出すと、掌から射出される高出力ビームが、サバーニャの腹部を貫いた。

近付くダブルオーライザーに向けてビームブーメランをビームサーベル代わりに振り込んで、ダブルオーライザーのGNブレイドを受け流した後に、左腕部で巨大なビーム砲を構えてそれを放つ。

短く、だが高出力で放たれたビームがダブルオーライザーを破壊し、残ったガンダムラファエルも、切り裂いて終わった。



その勝負、あくまで一瞬だった。



「――ふう、良く出来た物だね、このゲームは」



 筐体から身を出すのは、誰もが見慣れた女性――誰もが憧れとし、誰もが崇拝する、誰もが求める最高の女性。

トップアイドルの中のトップ、その超越した存在――



 オーバーランク・玲音。



彼女の手には、先ほどまで三機を相手に快勝したガンプラ――デスティニーガンダムが持たれていた。

機動戦士ガンダムSEED DESTINYに登場する、シン・アスカの搭乗機だ。



208: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:22:17.57 ID:KrYJ+OCl0


「なぜ彼の存在が此処に……(訳:な、何でこんな所に玲音さんがいるんですかー!?)」

「分からない……プロモーション予選にはいなかった筈。居たとしたら、彼女は問答無用で出演してただろうしね……」

「こ、こちらを見てますよ」



 幸子の言葉通り、玲音は少しだけ周りを見渡した後に、凛達に気付いた様子で「ねえそこの!」と声をかけてくる。



「君たち――シンデレラガールズプロダクションの子達、だよね?」

「……そうだよ」

「うん、良い目をしている。君は渋谷凛……で、良かったよね」



 凛が頷くと「よかった」と安堵したようにする玲音。



「君たちの事務所はアイドルが多いから、覚えるのがやっとでね。プロフィールとかは完全把握できていないんだ。ごめんね」

「オーバーランクの玲音さんが……?」

「そっちの二人も覚えてる。神崎蘭子と、輿水幸子、だよね」

「如何にも(訳:は、はい!)」

「ふ、ふふーんっ! このボクの名前を知ってる位で物知り博士気取りですかー?」

「そんなつもりは無い――いずれ戦う子達の情報を仕入れる事なんて、当たり前の事だよ」



 玲音は、その手に持つデスティニーガンダムを見せながら「やろうよ」と誘う。



「勝負だ。残念ながらここに居る観客では、私を満足させる勝負にはならなかった。君たちなら、私を満足させられるかもしれない」



「――オーバーランク。その翼をへし折るのも、また一興……かな」

「そうです! 私たちが勝ちます!(訳:ふん……我が翼の力にひれ伏すがよい)」

「蘭子さん、逆です!」



209: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:23:51.07 ID:KrYJ+OCl0


「愛先輩! 雪歩先輩! 今日も熱いですねーっ!」

「そうだね茜ちゃん! 私も雪歩さんも、すっごく熱いよ!」

「う……うん。暑いね。二人は熱いね」



「何か言いましたか、雪歩先輩!」

「ちょっと聞こえませんでした! ごめんなさい!」

「うう……何でもないよぉ」



 見る者が見れば、それは珍しい光景だった。



シンデレラガールズプロダクションのアイドル・日野茜は非常にパッション溢れる少女だ。

 女の子であるにも関わらず、その行動力と熱い心は、今の少年たちに負けぬ力を持っている。



別事務所の人間であるにも関わらず、親しく彼女と歩くのは、876プロの日高愛と、765プロの萩原雪歩だった。



「それにしても……愛ちゃんと茜ちゃんが仲良しとは知らなかったなぁ」

「はいっ! 私たちこの間のラジオ収録で知り合ったんですっ!」

「茜ちゃん最初はガチガチに緊張していましたけど、途中からこの調子になって、スタッフさんも燃え尽きてぐったりしてました!」



(二人の大声でラジオって、収録部屋は大丈夫だったのかな……)



 雪歩の心配もそこそこに、愛と茜が目指し、それに付いていく雪歩が辿りついた先は、一つの会場――

 それはガンプラ・バトルビルダーの先行体験コーナーがある会場だった。



「私と茜ちゃんはゲーム出来るけど、雪歩さんは出来ないですもんね……」

「そうなんだ。本当は二人ともチームで一緒に戦いたいけど、ダメなんだよね」

「気にしないで下さいっ! プロモーションが終わって、一般公開されたら、また遊びましょう!」

「……うん」



 茜と愛の優しく、だが力強い言葉にどこか嬉しさを感じて、雪歩がにっこりと笑った瞬間、会場が沸いた。



「な、何でしょうっ!?」

「あーっ! 一対三って、凄く正々堂々としてない戦いが行われてますよ!!」

「ふ、二人とも声が大きいよぉ、周りの人たちが私たちに気づいちゃう……!」



 雪歩の心配は、意味を成さなかった。

なぜなら皆雪歩や愛、茜などよりも更に、崇拝する人間が、戦っている――



210: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:25:02.80 ID:KrYJ+OCl0


おかしい。

 おかしすぎる。



渋谷凛は、ビームサーベルを振りながら頭部バルカンを放ち、その機体を牽制しているが、その機体はまるで下がる事を知らない。



背部の翼から光る翼が、その機体を上下左右、あらゆる方向に移動させる。そのスピードも行動範囲も桁違い。



それにスピードでついていけるのは、蘭子のウイングゼロカスタムだけだが、そのゼロも、もうほとんどの武装を失っている。

 マシンキャノンとビームサーベルだけで戦っている状態だ。



エクストリームガンダムは――既に落とされている。

 幸子は「腹パン怖い……」と先ほどからインカムに声を入れているが、腹部に食らったのは幸子では無く、エクストリームガンダムだ。



「――ダメージが一つも入れれてない……!」



 唯一万全に行動できるのは凛のMk-Ⅱだけだというのに、デスティニーガンダムはかすり傷一つ負っていない。



『詰まらないな――君たちではまだ、この程度か』



 玲音の声が聞こえたが、凜はその内容を聞き入れる事が出来ず、ただビームサーベルを振り切った。



掌のゼロ距離ビーム砲でそれを受け流した後に、対艦刀【アロンダイト】を構えたデスティニー。

 その動きに、凜はついていく事が出来ず――



『終わりだね』



 玲音の声が聞こえた――次の瞬間だった。



211: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:27:30.14 ID:KrYJ+OCl0


目の前で、対艦刀に何かが刺さった。

巨大なビームライフルの砲身から、ビームサーベル状にビームが展開されて、それを投げ込まれたのだ。



「何……?」

『Zガンダム……?』



 玲音の言葉と共に、凜がそのビームライフルを投げた機体を見据えた。



途中から参戦したその機体は、凜の乗るMk-Ⅱの登場した機動戦士Zガンダム、その後期主人公機体であるMSZ-006【Zガンダム】だ。



ファーストやMk-Ⅱとは違い、その直線的なフォルムと、変形機構を盛り込んだ大人気機体だが――問題はそこじゃあない。



作り込みが違い過ぎる。

 ランナー処理やスミ入れ程度ならば凛達もやっているが、あれはそんなレベルでは無い。

見た限り、塗装は全て塗り直し、トップコート処理が前面に行われて艶の光が照らされる。

装甲の節目節目に銅色の塗装を行い、金属の質感を細かく出している。



「誰――誰が乗ってるの……!?」



 凜が堪らず声を上げると、その声に応える様に、Zガンダムが、動いた。





『オーバーランクだか何だか知らないけど――



 このアタシを差し置いて、最強のアイドルだなんて、少しうぬうぼれ過ぎじゃあ無いのかしら。玲音っ!』



『貴女は、最強の元トップアイドル――日高舞かっ!!』



 人物が分かると、玲音は既に、凜へ視線を寄越す事無く、Zガンダムへ動いた。



彼女――日高舞は、Zガンダムのビームサーベルを構えて、それを振り切る。

ビームブーメランを投げ放つことなく、それを構える事でサーベル代わりとした玲音のデスティニー。

サーベルとブーメランは鍔迫り合いを開始し、彼女たちの身に着けるマイクへその光刃が弾ける音が聞こえてくる。



『ははっ! まさかこんな所で貴女と戦えるとは、光栄だよ!』



『あらそう? 私はいつでも、相手になるのよ?』



『ありがたいお言葉だけど――今はこの勝負に集中する事にしよう!』



212: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:31:57.02 ID:KrYJ+OCl0


 ビームブーメランを二対に構え、それを振りながら、光の翼――ヴォワチュール・リュミエールを展開する。

 分身を生み出しながら高速で移動を開始し、Zガンダムの背後を取るが、その動きを見切っていたかのようにブーメランの光刃を、サーベルで受け切るZガンダム。



 その動きだけで、化け物のようだと、視界に捉えている凜は認識していた。



『そんな全部乗せラーメンみたいな機体で、そこまで動けるものね』



『デスティニーは良い機体だよ。何せこういう戦い方もできる!』



 サーベル代わりのブーメランを振るいながら、もう一つのブーメランを投げ放つと同時に加速を再開する。

 サーベルを受け切ると同時に距離を取るZガンダムだが、その行動を読まれながら放たれたビームブーメラン。



舞は舌打ちしながらビームサーベルを投げ捨て、ビームライフルを宇宙空間で回転し続けているサーベルの中心に当てる事でエネルギーを拡散させ、ブーメランの射線を変えた。



『本当に大したものだよ! 私の動きにここまでついて来れるなんて!』



『女・日高舞。トップアイドルはいつ何時、背中を見せない!』



『それでこそ私の憧れた姿だ!』



 デスティニーの加速は止まらない。

 ブーメランを構えて振り切るその機体から何とか離脱し、凛のMk-Ⅱへ近づく舞のZガンダム。



「え」

『借りるわね、渋谷』



 Mk-Ⅱのバックパックにマウントされていたビームサーベルを掴んでビームライフルを放つ。

 狙いは浅く、加速をする事無く射線から退いたデスティニーだが、その動きを予測する事は容易く、その頭部に向けてサーベルを突いた。



『おっとと!』



 急ぎ、光の翼で右側部に回り込んだデスティニーだが、そこでZガンダムの回し蹴りがデスティニーの腹部に直撃。

 衝撃と共に吹き飛ばされる感覚を、玲音は初めて味わった。



213: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:34:17.56 ID:KrYJ+OCl0


『はは、楽しい! 楽しいよ日高舞! こんな戦いは、ジュピターや765プロとの戦い以来だよ! いやそれ以上かも!』



『当然よ。私をそんじょそこらの子供と一緒にしないで』



『失礼したよ。貴女の力はそんな程度じゃあない。かつて孤高のトップとなった貴女は!』



『今は、貴女がその位置に居るみたいだけど』



『ああそうさ。何時だって私は孤高の存在さ。でも今は違う! 貴女という存在がいる!』



『嬉しいお言葉ありがとう。でも、私は孤高であったつもりは無いわ』



 Zガンダムが、ウェブライダー形態に変形しながら、デスティニーと距離を取る。

光の翼を展開して逃がすまいとする玲音だったが、舞の取った行動は――



『汝、その高潔なる力を用いてこの我に近付くか!?(訳:な、なんですか!? なんでこっちに来るんですか!?)』

『ガンダムWの自爆ってカッコいいわよね』

『……何?(訳:え?)』

『自らの命を一つの戦闘単位としか数えない生き方と、それを良しとする機体との信頼性って言うのかしら。私あれが大好きなの』

『……ふ、ふふ。それは我に対する宣戦布告、という事か?(訳:ようやく出会えた……自爆のカッコ良さを分かる人に!)』



 舞が通信を取っていたのは、神崎蘭子操る、ゼロカスタムだ。

 必然的にそちらに音声が聞こえ、蘭子は渇いた笑みを浮かべた。



『――良いだろう! 我が最後の火花を散らして魅せようぞ!(訳:よーしっ! そんな人の為に、私もちょっと自爆してきます!)』

『……何言ってんのこの子』



 熊本弁を解読できない舞だったが、ゼロカスタムが背部の翼を羽ばたかせ、デスティニーに接近する所を見ると、誘導はどうやら成功したらしい。



『本気かい!? 神崎蘭子!』



 接近して自爆させないように、適度な距離を取りながら、CIWSで攻撃を仕掛ける玲音だったが、蘭子は構わず突撃する。



『貴様に負ける事は構わぬが、屈したという現実が我を蝕む!(訳:このまま負ける位なら、ちょっと楽しんだ方がいいじゃないですか!)』

『ちょっと楽しむって! 君は日高舞に利用されて……!』



 会話が成立してる……凛と舞は同時に同じ感想を抱いていた。



214: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:36:25.41 ID:KrYJ+OCl0


『渋谷、ビームライフル貸して』

『え、あ、ハイ』



 ビームライフルを放棄し、Zガンダムの方面へ投げるMk-Ⅱ。

 それを受け取ったZガンダムは、そのままビームライフルを構えて、二射放った。



『うおっととっ!』



 玲音がそのビームライフルの動きを認識し、避けた瞬間が最悪だった。なぜなら避けた宙域には既に――



『捉えたぞ!(訳:捉えました!)』

『ちょっと、卑怯だ日高舞!』

『こんな言葉を知ってる?



 ――卑怯汚いは敗者の戯言』



『貴女はいずれステージで倒す! 貴女と同じステージに立てる事を心待ちにし』



 そこでウイングゼロカスタムが、自爆した。



宇宙空間とはいえ、接近しながら爆発したエンジン熱に焼かれ、デスティニーはそのトリコロールを灰色に変えていた。

 ディアクティブモード――SEED系列のガンダムタイプが落ちた事を知らせる合図のようなものだ。



『さて――やる? 渋谷』



 唯一残った生き残りである日高舞と、渋谷凛が相対すると、凜は今の武装を確認し、溜息をついた。



『……私の武装、ほとんど舞さんに行ってるじゃないですか』

『そうね』

『降参です』



 勝負はそこで終了した。



215: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:38:33.92 ID:KrYJ+OCl0


玲音は既に筐体から出ていて、その笑顔を蘭子と幸子に向けていた。



「いやでも、あの自爆は酷い、酷いよ神崎蘭子」

「ふ、それこそ弱者の戯言よ(訳:だって少しでも面白い方がいいじゃないですか!)」

「観客としては面白いかもしれないけどさぁ……あ、日高舞!」



 筐体から身を出した舞を出迎えたのは、やはり玲音だった。



「あら、貴女そういう外見してたのね」



「お初にお目にかかります。かつて貴女が居た地位に居させて頂いている」



「貴女のいる位置は、それほど価値有るものではないわよ」



「知っている。だから私は力ある者を求めるんだ」



「楽しそうじゃない。私も混ぜて頂きたいわ」



 短く会話を終わらせた二人が、その後言葉を交わす事は無かった。



舞はそのまま会場に居た愛と茜、雪歩と合流し、イベントを楽しんだ。



玲音は――次の仕事へ向かった。



『次に会う時は、輝きの向こう側で』



 先ほどの会話で、玲音と舞はその誓いをしたのだ。



216: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:39:51.33 ID:KrYJ+OCl0


『行くよ! 愛、茜!』



『はいっ! 流派・東方不敗は!』



『王者の風よ!』



『全新!!』



『系裂!!』



『天破狭乱!』



『見よ、東方は!』



『紅く燃えているぅっ!!』



 765プロダクションの熱血担当・菊地真。



876プロダクションの熱血担当・日高愛。



シンデレラガールズプロの熱血担当・日野茜。



三人は、それぞれのガンプラを駆使して、プロモーションゲームに参加していた。

 とても女の子とは思えないような行動でも、彼女たちがすれば魅力的に見えるのはなぜだろうか。



217: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:42:47.35 ID:KrYJ+OCl0
「いやー、茜ちゃんがまさかゴッドガンダムとはね」

「シャイニングガンダム、マスターガンダム、ゴッドガンダム……見事に大人気Gガンダム三機が勢ぞろいだったら、やりたくなる気持ちも、分かるよ→」

「はるるん達は、イベント参加出来なくて残念だったね→」



 前夜祭では、ゲーム体験イベントが開かれているが、プロモーション決勝に参加するメンバーは、そちらの参加が認められていない。

よって春香、千早、雪歩の三人と、プロジェクト・フェアリーの三人は参加が出来なかったのだ。



「それで春香……RGはどうだった?」

「物凄く苦労したけど……何とか完成出来たよ」

「そうでしょうね……」



 千早は軽く頷いて、自らも大変だった事を思い出す。



「雪歩の新しいユニコーンはどう?」

「あ、完成したよ。ちょっと自信あるんだぁ」

「良かった! 明日は皆が自信あるプラモで戦えるんだね!」

「ええ」

「楽しみだね」

「うんっ! ――あ。ごめん、私トイレ行ってくるね」

 皆と離れ、女子トイレへと向かった春香。



女子トイレから出て、少しだけ歩いていると、そこで出会うのは――



218: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:44:31.82 ID:KrYJ+OCl0


「……こんばんわ、冬馬君」



「天海か」



 ジュピターの、天ヶ瀬冬馬。

 彼はいつもの黒のステージ衣装ではなく、私服姿だった。



「今日は、オフだったの?」

「ああ。――ずっと、こうして居たいって思ってた所だ」



「ガンダム、好きなんだね」

「俺を育ててくれた、大好きなアニメなんだ」



 冬馬は、遠い目をしながら、その場から見える光景を瞳に焼き付けていた。

既に夕焼けも消え始め、夜の時間が近付いている。

 だが誰もが楽しそうに、ガンダムのアニメを、プラモを、声優のイベントを、ガンダム大好き芸人を、アイドルを見ながら、はしゃいでいる。



「ガンダムって、戦争を取り扱うアニメだけど……何でここまで人気があるか、わかるか?」

「面白いから、だよね」



「それだけじゃない。男の心を、女の心を掴む全てに優れてんだよ。



 考えた事無いか? そんな存在こそ、アイドルに相応しいって」



「そう……だね。人の心を掴む事が出来る存在――それは、すっごくアイドルみたいって思うな」



219: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:46:28.75 ID:KrYJ+OCl0


「俺はアイドルになる時、心のどこかでガンダムみたいになれるって、思ったのかもしれない。



 だから誰にも負けたくねぇって思う――お前にも」



 鋭く、だが決して恐ろしいわけではない、覚悟を決めた男の目が、そこにあった。



「天海、俺はガンダムが大好きだ。その大好きなガンダムで、誰にも負けたくはねぇ」



「私はまだガンダムに触れて間もないかもしれない。



 でも、アイドルとして輝きたいって気持ちは、誰にも負けない」



「なら明日は――俺が勝つ」



「私も――決して負けない」



 春香の想いは、決して冬馬に劣るものでは無かった。

 彼女と彼の勝負は、一先ずここでひと段落となった。



勝負は明日。春香と冬馬は、その後一言も話すことはしなかった。



220: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:50:33.27 ID:KrYJ+OCl0


彼女――星井美希は、事務所でただ一人、完成したプラモデルを手にして、屋上から星空を見上げていた。



まだ十五歳だというのに、憂いの似合うその表情――プロデューサーが、そんな彼女に声をかけた。



「黄昏て、どうした?」

「あ、ハニー」



 美希がプロデューサーの事を、ハニーと呼ぶようになったのは、何時からだっただろうか――そう考えながら、あの時の事を思い出した。



やる気の無かった彼女を、竜宮小町以上のアイドルにしてやると宣言し、指切りを交わし、初めてのライブで大成功を収めた時から――



 美希はプロデューサーを、ハニーと呼ぶようになった。



特別の男……そういえば聞こえは良いが、要するに子供が大人の男性に憧れているだけの事だ。

 彼の事を、本当に一人の男性として好いているわけでは無い――彼は美希の想いをその様に受け取っていた。



「……ねぇハニー。美希の事、好き?」

「もちろん好きさ」



 アイドルとしてな、と注釈する事も忘れずに、プロデューサーは美希の言葉に返し、美希も苦笑しながら「今はそれでいいの」と頷く。



「じゃあ――ガンダムは、好き?」

「ああ、大好きさ」



 今更だな、と言う気さえしている。美希の前でも春香の前でも、他の面々の前でも、彼はガンダムの事を語りつくしてきたのだ。今更感は否めない。



「じゃあもし……もしだよ?」

「ああ」



「ハニーがガンダムを捨てなきゃ、美希はアイドルやめるって言ったら、ハニーはどうする?」

「ガンダムを捨てるよ」



 彼は、溜めずに答えた。



221: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 18:52:06.69 ID:KrYJ+OCl0


美希も、本当にそれをするという意味で言ったわけでは無い、プロデューサーも、それは分かっている。



だが彼は、美希の想いを知っている。そして――自分の気持ちも、溜める事無く応えられる程、整理はついている。



「俺は美希を――皆をトップアイドルに、それ以上の存在にするって決めたんだ。



 もちろんガンダムだって大好きだし、俺を形付ける必要な物だとは分かってる――それでも」



 少しだけ、呼吸をして、だがハッキリとした声で、彼は美希へ良い放つ。



「俺は美希を取るよ。



 俺のガンダムへの想いが一流なら、お前たちを思う気持ちはもっと高い――超一流だって、俺自身信じてるから」



 一瞬だけ唖然とした美希が、彼の言葉を理解してか、微笑んだ。

その微笑みは、彼の心を鷲掴みするには十分な魅力を込めていた。



「ごめんねハニー。イジワルな質問して」

「いいさ――それより明日は」

「うん、本気だよ。



 ミキはガンダムを良く知らない――けど、これだけはハッキリ言える。



 ハニーが愛するミキとガンダムで、ハニーに最高のプレゼントを贈るって、今ここで決めたの」



第四部「プロモーション前夜祭編」完



 

224: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:00:57.52 ID:KrYJ+OCl0


 第五部「プロモーション決勝編」



彼女――秋月律子は、自らの担当アイドルである竜宮小町と共に、プロジェクト・フェアリー組をワンボックスカーで運んでいた。

 乗り心地は普段の社用車よりは悪いが、エコドライブに優れた彼女の運転に、乗り込んでいる全員も窮屈には感じて居なさそうだ。



「ねぇ律子――さんっ」

「ん、どうしたの美希?」



 後部座席に伊織と亜美に挟まれて座る美希を、バックミラーで確認する。

 普段なら眠っている筈の移動時間で、美希が起きているのは珍しい事だ。



「あとどれ位で会場?」

「後――十数分って所かしら」



 ナビと自らの経験則に基づいて返答を返すと、美希が「待ちきれないの……」とウズウズしているように見えた。



「アンタ……少しは落ち着きなさいよね」

「そうだよミキミキ→、少し頭冷やさないとフットーしちゃうのーってなっちゃうよ?」

「そんな事言っても――早く、春香と戦いたいんだもん」



 美希の視線は、律子が運転する車の、前を走る車に向いていた。

律子よりも少しだけ乱暴だが、だが確実に安全を考慮した、プロデューサーが運転するワンボックスカー。

 その助手席には春香が座り、自らのプラモデルを周りに見せて、盛り上がっている。



「自分も確かに早く戦いたいけど、そこまで焦っても良い事無いぞ」

「美希、戦いとは刹那の出来事――それを冷静に見据える事が重要なのですよ」

「……分かってるの」



 少しだけ膨れた頬を、亜美が指で押し込んで『ぷひゅ』と音を鳴らしたのがどこか面白くて、律子は周りに聞こえないよう、少しだけ笑った。



225: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:12:19.66 ID:KrYJ+OCl0


 イベント最終日――先日の流れから、メインステージで歴代ガンダムの声優がトークショーを繰り広げている裏で、春香達はスタンバイをしていた。

「表で見たかったな……」

 そう少しだけ残念そうなプロデューサーに少しだけ笑いながら、春香がRGのガンダムを、千早がRGのフリーダムを、雪歩が二体のユニコーンガンダムを取り出した。



 雪歩のユニコーンガンダムは、少しだけ風変りだった。

機動戦士ガンダムUCの最終エピソード『虹の彼方に』に登場した、シールドを三つ持った状態の、フルアーマーで無い状態のユニコーンガンダム。

 そのユニコーンモードと、虹色のサイコフレームを放つ、デストロイモード、その二つだ。



プロデューサーは少しだけ懸念していた――雪歩の事だ。



プロモーションバトル一回戦で、雪歩は『デストロイモード』のプラモデルが無くても、変形、いや変身を可能としていた。

 その時の衝撃は許容値の範囲内ではあったものの――もし同様の現象が確認された時、それが同じような状況であるとは、限らない。

いざとなれば、失格となっても止めるだけの勇気――それがプロデューサーにも必要だと、彼が認識したその時、トークショーが終わった。



「皆、集合」



 Aチームとフェアリーチームの計六人がプロデューサーの前に集まる。



「これから、お前たちは全ガンダムファンの注目を集める事になるだろう。

 生放送も入っているし、これを見てお前たちのファンになる人たちも、少なくは無いと思う」



226: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:16:04.71 ID:KrYJ+OCl0


 第一回戦から三回戦までの戦いが録画され、ネット上にアップされた際に、アイドルに興味の無いガンダムファンたちが注目したのは、その濃厚な戦闘描写だった。



まるでアニメさながらの戦闘を繰り広げるアイドルたちの姿に驚き、急きょ各テレビ局やネット動画サイトが緊急生放送企画を取り出してきたのだ。



「そんなお前たちにいえる事は一つだけ」



 ニッと笑みを浮かべて、一番先頭に居る春香の頭を、セットが崩れない程度に撫でる。



「全力で楽しんで来い。それがこれからファンになる人たちに送れる、唯一の魅力さ」



 その場にいる全員が微笑んで、ハイッと元気よく返事を返す裏で――黒井社長が、ジュピターの三人を集めていた。



「お前たちはこれまで、私の指示に背いてきた」

「背いてきたつもりはねぇよ」



 黒井の言葉に、冬馬が軽く反論する。



「俺は765プロを潰す為のプラモデルを全力で作っただけだ。北斗も翔太も、それに従っただけだぜ」

「だが現実、二回戦では翔太も北斗も無様な敗北をしている」



 その言葉に、冬馬がピクリと震え、そして黒井を睨んだ。



227: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:25:10.18 ID:KrYJ+OCl0


「無様――おいおっさん、もう一回言ってみろ!」

「何度でも言ってやる。無様な敗北だ、無様な姿を晒した、ファンはそんなものを望んでいない――望んでいるのは」

「――完全なる勝利のみ、って事か?」

「ウィ、分かっているではないか」



「俺は、菊地も双海も高槻も、それと戦った北斗も翔太も、みっともなくても堂々と戦っていたって、そうハッキリ感じている。

 例え765プロが相手でも、アイツらの事をバカにするんなら……!」



 そこで、冬馬の肩がポンと叩かれた。



「いいよ冬馬。俺たちが落とされた事が問題だ」

「冬馬君は悪くないよ、だから……」

「お前たちの事もそうだけど、そうだけど……!」

「俺たちが百パーセントの力で戦い、勝てばいい。それで彼女たちの名誉も守れるさ」

「僕達は僕達で頑張る。一人一人で頑張る。何時も通り――でしょ?」



 苦しそうな表情で、北斗と翔太の言葉に唇を噛み締める冬馬。だが黒井はそれすら嘲笑う。



「下らん。堂々と戦う? 当然の事だ。全ては勝利の為に戦っている。――冬馬、北斗、翔太、貴様らは一体誰だ?」

「……アイドル」



「違う、最強のアイドルだ。765プロなどどうでも良い、貴様らは孤高の存在――オーバーランクにそれぞれがならねばならん。



 仲間の想いや団結……? ハッ、それこそ下らん戯言だ。貴様らは765プロの戦い方に侵されてしまったようだな」



そう吐き捨て、少しだけ息継ぎをした黒井が、最後に〆る言葉は「勝て」だった。



「勝つ。圧倒的な勝利を手に入れろ。今日はその決意を手に入れる事を考えろ。

 ――お前たち一人一人が、誰にも頼る事無く、勝ち抜ける事を、一人ずつ証明して見せろ」



228: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:30:38.60 ID:KrYJ+OCl0


『ガンダム・ビルドバトラー、プロモーション大会の決勝戦は、ランダムエンカウントバトルと呼ばれる戦闘方式となります』

 解説がされるその戦闘方式は、以下の通りだ。



・三チームで行うバトルロワイヤルシステムで、各チームの一人でも多くのメンバーが最後に生き残っていれば勝利となる。



・決勝前はチームメンバーが同じ場所から出撃していたが、決勝ではそれぞれがランダムの場所からステージへ出される。



・センサーや通信も一定範囲内に敵や味方を補足しなければ使用できない。



このルールの中で行われる。

貴音のスターゲイザーのように、武装が少しヤワでも響や美希と合流出来れば勝算は上がるが、逆に敵に囲まれる危険性もある。

面白いルールであると同時に、非常にチーム戦に慣れた者達の脆さを叩くルールである事も、千早は理解していた。



『春香、萩原さん』



 勝負が始まる前に、千早が春香と雪歩に声をかける。



『この勝負、あまり一人一人で戦う事に意味は無いけど――致し方ない場合がままあると思うの』

『うん、ランダムでステージに出るんじゃ、しょうがないよね』

『だから、第一目標は合流を目指すけど、それが不可能だと判断した場合は、交戦もやむ得ないと、各々が理解しましょう』

『分かりました……!』



 ルール説明が終わり、来賓席の声優やゲーム開発関係者のインタビューが始まる。

 春香、千早、雪歩の三人は、緊張しながらも目を閉じて、その時を待った。

そして、その時は来る。



『では、ガンダム・ビルドバトラー、プロモーション大会決勝戦。



 ガンプラファイト――レディ、ゴーッ!』



その言葉と同時に、それぞれが動いた。



229: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:33:35.87 ID:KrYJ+OCl0


『如月千早、フリーダム――行きます!』



『我那覇響、ストライクノワール、出るぞーっ!』



『伊集院北斗、バスターガンダム・ネーロ、出るよ☆』 



『萩原雪歩、ユニコーンガンダム、行きますぅ!』



『四条貴音、すたぁげいざぁがんだむ、参ります!』



『御手洗翔太、ストライクフリーダム・ネーロ、突撃っ!』



『星井美希、ガンダムエクシア、出撃するのーっ!』



『天ヶ瀬冬馬、クロノス・エデン――出撃、だぜっ!』



『――天海春香、ガンダム……行きますっ!』



 それぞれが羽ばたいていく。戦場へと出向いていく。



観客一人一人が、彼ら彼女らをただのアイドルとしてでなく、戦士として認識し、それを見送った。



230: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:36:28.35 ID:KrYJ+OCl0


萩原雪歩の出撃場所として選ばれたのは、円筒型コロニーの外壁部である。

 無数の宇宙ゴミが散乱する中に出撃し、雪歩は武装を確認した。



両腕にビームガトリングの搭載されたシールドを二つ、背中に同様のシールドを一つ背負っている。

武装システムにNT-Dはあるものの、まだ動作出来ない状態となっている。

ビームマグナムはカートリッジ分を合わせて残弾が二十。これだけあれば十分だが、無駄使いは出来ない。

コロニーの拡張部分に入り込んで武装を確認している所で、その光景を見据えて一つの事を思い出す。



「――このコロニー、『インダストリアル7』だ」



 機動戦士ガンダムUCでバナージたちの通う高専や、最終決戦の舞台となった場所。だが周りを見渡すと、それだけでは無い。



機動戦士ガンダムSEEDの要塞コロニー、ヤキン・デューエや、ア・バオア・クーなど――

 その今回アイドルたちが駆る機体の舞台となるステージが、丸ごと用意されているらしい。



そう思考を巡らせた瞬間、センサが熱源を察知。まだこちらには気づかれていないのか、それとも――。



考えていたのもつかの間、漆黒のガンダムが姿を現して、その両手に持つハンドガンタイプのビームライフルを、ユニコーンに突き付けた。



「響ちゃん!」

『雪歩!』



 右腕のシールドを構えながら、左腕のビームガトリングを展開する。

 少しだけタイムラグが発生しながら、ガトリング砲をうねらせて放たれるビーム。

 それを彼女――我那覇響の駆るストライクノワールが避けながら、ビームブレイドに持ち替え、ユニコーンのシールドに思い切り剣劇を叩き込んだ。



『お試しプレイの時の、借りを返すさっ』

「負けない!」



 普段の雪歩らしからぬ、だが決して悪くない声色で叫んだ彼女は、ビームサーベルを両手に展開し、ノワールに劣らぬ剣劇で、応対した。



231: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:38:26.83 ID:KrYJ+OCl0


四条貴音は、武装を確認し終えて周りを見渡した。

 スターゲイザーは360度モニタを搭載していない為、全ての角度を閲覧する為にはメインカメラとサブカメラを動かすしかない。



「――いますね」



 静かに、そして覚悟を決めたようにビームライフルを掴んで、背部の円形装置――ヴォワチュール・リュミエールを展開する。

加速と共に生み出される円形のビーム刃を形成しながらとある機体に接近する――翼の生えたガンダムだ。



「如月千早の――ふりぃだむがんだむ、ですね」



 自由を意味するその機体を、貴音はどこか気に入っていたが、それが攻撃の手を緩めるわけでは無い。

 ビームライフルの銃口を突き付けて、引き金を引く。



『っ、四条さん!』



 シールドで応対し、翼部に隠れていた二門ビーム砲で撃ち返す、如月千早が操るフリーダムガンダム。

近接格闘は不利と言うより、スターゲイザーにはそれしか攻撃方法は無いに等しいのだ。

 フリーダムは背部の翼を羽ばたかせて距離を取ろうとするが、それを許さないのが、ヴォワチュール・リュミエールの加速だった。

ビーム刃がフリーダムに襲い掛かり、それを仕方なしにサーベルで対応する千早――その彼女が、何かを察する。



232: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:38:56.33 ID:KrYJ+OCl0


『四条さん、三秒後に』

「ええ。貴女は真、聡明ですね。千早」

『ありがとうございます。――今!』



 千早の合図で、互いに相手を弾き合って距離を取ると、先ほどまで居た場所に、高出力のビームがいくつも放たれていく光景が。

 後一秒遅れていれば、あのビームに焼かれて二人とも脱落だった。



『あー、二人とも避けちゃった』



 無邪気な男の子の声。千早と貴音はその声を認識した所で、少しだけ冷や汗をかく。



『御手洗君』

「御手洗翔太の――すとらいくふりぃだむがんだむ、ですね」



 黄金の関節を光らせながら、その漆黒の機体色が迫る。

 ストライクフリーダムガンダムは、その両手に持つビームライフルを放ちながら接近し、背部の遠隔操作ユニット『ドラグーン』を三基射出して、それを稼働させた。



一つが千早のフリーダムに、もう二つが貴音のスターゲイザーを追うようにしている光景を、彼――御手洗翔太は面白そうに見据えていた。



『悪いけど、勝たせてもらうよ。お姉さん達』



 千早と貴音は言葉を交わしたわけでは無い、無いが――同時に、翔太に背中を向けて、その場から逃げだした。



『逃がさないよっ』



協力しながら逃げる二人と、それを追う翔太。奇妙な光景がそこにはあった。



233: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:40:21.33 ID:KrYJ+OCl0


伊集院北斗は、バスターガンダムの巨体をコロニーの外壁部に隠しながら、スコープを覗き込んで、フッと息をついた。



「まさか俺が、エンジェルちゃんを狙い撃つ事になるとはね……」



 いや、いつもの事かな? そう笑いながら、二つの機体を網膜に焼き付けた。



響の機体、ストライクノワール。

雪歩の機体、ユニコーンガンダム。

二機は互いに動き回っていて、ここからでは狙い撃つ事は難しい。



「――仕方ない、か」



 幸い、近くの宙域で戦闘らしき光景が二つほど確認できる。冬馬や翔太と合流出来れば、彼自身の勝率も上がるだろう。



「なら今は、俺の生き方に正直に行こうか――!」



 機体を動かして、背部スラスターを点火させると同時に、サイドアーマーに取り付けられた、ビームサーベルを取り出した。

 本来バスターガンダムには接近戦武装は無いのだが、今回の試合では、接近戦に対応できなければやられるとして、冬馬と共に改造を施していた。

(改造とは言っても、ガンダムエクシアのサイドアーマーとニコイチしただけなのだが)



「俺も混ぜてよ、子猫ちゃんたち!」



234: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:43:11.25 ID:KrYJ+OCl0


 とても中・遠距離向きの機体とは思えぬ機動を見せながら、ノワールとユニコーンに接近するバスター。



 それを補足すると即座に――ビームマグナムとビームライフルの銃口をそちらに向ける。阿吽の呼吸にも見える。



「あらら――仕組まれちゃったかな?」



 引き金が同時に引かれ、まずはノワールのビームが無数に降り注ぐ。

 それを回避しながらユニコーンに接近し、マグナムの銃口から逸れるために足元を潜り抜けた。



『仕組んでなんかないです!』

『ただ厄介な変 から倒そうって、意見が一致しただけだぞ!』

「厄介な変 とは……子猫ちゃんの反逆も、燃えるね☆」



 だが今の状況はマズイ。そう北斗が呟くと、二人に背を向けて、背部スラスターを稼働させた。



『あ、逃がすか変 !』

『ひ、響ちゃん! 深追いは危ないよ!』



 それを追う二人の機体。奇妙なかけっこ。

それはとある合流を意味していた。



235: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:46:03.71 ID:KrYJ+OCl0


天海春香は緊張でカラカラになった口の中をツバで潤して、フッと息を吐いた。

 同時に、操縦桿をグッと押し出し、フットペダルを踏み込む。



春香の駆る機体――ガンダムが背部のスラスターを吹かしながら、先ほどまで身を隠していたデブリから姿を現す。

熱紋を探知したのか、距離五百程離れた場所に居た、黄色の彩色が成された【ガンダムエクシア】が、その右腕にマウントされていたGNソードを展開しながら距離を詰めてきて、それを横薙ぎに振り込んだ。



ビームサーベルでいなし、左腕に持っていたシールドを叩きつけて距離を取る。ビームライフルを掴み、引き金を引く。

コンマ秒差で銃口から放たれたビームをシールドで受けたエクシアからの通信が入る。



『春香、なかなか強いの!』

「美希もね!」



 エクシアに乗る少女――星井美希と短く意思疎通を終わらせると、春香は操縦桿のスイッチで武装を切り替え、背部にマウントされていたバズーカを展開し、放った。

ビームよりは明らかに遅い速度、だがしかし当たれば確かな破壊力を持つそれを、美希はかわしながら接近する。



バズーカがデブリ郡に着弾。無重力の海を漂う破片の嵐が、美希のエクシアを襲うが、美希はかまわずガンダムに進む。

GNビームライフルが三連射される。それぞれ、頭部、脚部、コックピットを正確に狙っている。



「甘いよ美希!」



 すぐさま機体を動かし、頭部と脚部を避け切り、コックピット部分はシールドで防ぐと同時に、そのシールドを放棄する。

 デブリ郡のどこかにぶつかって、その場に留まり続けるだろうから、後で回収すればいい。今は――と春香は判断する。



 スラスターを吹かしながら美希のエクシアに接近する。

 接近戦特化のエクシアに、距離を縮める事がどれほど愚かな事か――だが、美希を相手に、距離を取って撃ってるだけでは、絶対に勝てはしない。



――なら、少しでも勝てる要素がある方を選ぶ!



236: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:47:28.57 ID:KrYJ+OCl0


ビームサーベルを抜き放ち、美希のエクシアに切り込むと同時に、頭部バルカンを撃ち放っていく。

 それを体に受けながらも特に気にした様子の無いエクシアがビームサーベルの光刃をGNブレイドで受け切り、零距離でGNビームライフルを放ってくる。

即座に脚部スラスタを吹かして体を浮かして、ライフルを押し付けられた場所から退避する。

 ついでにもうひと吹かしをして回し蹴りをすると、エクシアの巨体が無重力に流された。



『春香、気づいてる?』

「うん、とっくに」

『――あまとう、どうしてそんな所で見てるの?』



 美希が、エクシアのメインカメラを上方へ向けると、そこに一つの機影が。



『真剣勝負に、首突っ込むわけにはいかないだろ』



 天ヶ瀬冬馬が駆るクロノスだ。その化け物のような外見と漆黒の機体色が、宇宙空間では不気味に見える。

 その機体が、デブリ群に身を隠していたが、美希の言葉に堂々と姿を現した。



『春香』

「うん」

『来いよ』



 三人の意思疎通はそれだけだった。

 美希がGNブレイドを構えてクロノスへと前進すると同時に、春香もロックオンを美希から解き、クロノスへとセット。

先ほど背部にマウントし直したバズーカ砲を持ち直し、三発、無造作に放つと、その弾道コースに注意をしながらエクシアとの応酬を開始するクロノス。

 掌のビームブレイドとGNブレイドの応酬が、見ている観客を魅了するが、そこで冬馬が、動いた。

肩部の二門ビーム砲を稼働させて、春香のガンダムを狙うクロノスの攻撃を、避けながら先ほどのデブリ群で、放棄したシールドを回収する。

 エクシアとの応酬を繰り返しながら、ガンダムを正確に狙うクロノスが、二人には脅威だった。



237: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:48:34.38 ID:KrYJ+OCl0


一対一では、冬馬のクロノスに敵う事はない。

春香と美希はそう考えていて、春香が援護、美希が前面で戦う事を先ほど決定した。

 だが冬馬はそんな事は関係なく、落とす事が容易い者から倒すことを決定したという事だ。



「こん――のぉ!」



 春香の雄叫びと共に、美希も同じく動いた。

ガンダムのビームライフルの銃口が火を噴くと同時にGNビームライフルを三連射。

 計四つのビームを、その時に出来る最少の動きで全てを避ける事に成功したクロノスに向けて、GNビームサーベルとGNブレイドで切りかかる美希。

 だが、その動きは見切られていたかのように、その刃から逃れて、エクシアの背後を取るクロノス。



『甘い!』



 クロノスの二門ビーム砲が稼働し、一つがエクシアの背部を、一つがガンダムの腹部を貫いた。

 美希のエクシアが漂っていく。デブリの海に漂っていく彼女の姿を見て、春香が息を呑んだ。



『後はお前だけだな、天海』



 春香のガンダムは、まだ動けない。

 ダメージが一定以上に達したので、操縦系統がマヒしているのだ。回復には一定の時間が必要になる。その間は無防備になるのだが――



「……なんで、攻撃しないの、冬馬君」

『そんなお前を倒したって、面白くもねぇだろうが』



 冬馬は、春香の前でただ待っていた。



彼が全力で、彼女を叩き潰せる、その瞬間を。



238: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:50:56.19 ID:KrYJ+OCl0


伊集院北斗と御手洗翔太は、共に二機ずつの敵機を追いかけ、追いかけられていたが、そこで更に二機ずつの機影を確認。

 共に相手にしている機体だと認識すると共に、厄介な、とも思っていた。



四条貴音と我那覇響は別だった。

 互いに通信を取り合って視線を巡らすと同時に、それぞれがすれ違う機体に――

 つまり、我那覇響はストライクフリーダムに、四条貴音はバスターガンダムに、それぞれその光刃を振り切った。



『うおっと!』

『やるね!』



 互いにビームサーベルでそれをいなすと共に、交戦を開始する。その光景を見据えながら、千早と雪歩の機体も動く。

 ユニコーンはストライクフリーダに、フリーダムはバスターガンダムに向けて駆けると、響も総攻撃を開始していた。



 ストライクフリーダムから放たれるドラグーンユニットの攻撃を避けながら、ビームの雨をストライクフリーダムに見舞うが、それを全てビームシールドで受け切ってしまう。

 それがどこか面白くなくて『雪歩!』と叫ぶと、雪歩もそれを応じるように、ビームマグナムの引き金を引いた。



 一秒弱の、エネルギーの収束を行い、放たれたビームが、ビームシールドに直撃する。



衝撃で吹き飛ばされたストライクフリーダムを追いかけるノワールはその銃口を構えたが、再びビームシールドを構えたストライクフリーダム。



239: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:51:35.20 ID:KrYJ+OCl0


『それなら!』



 スラスターを急速に吹かして、ビームシールドの眼前まで迫り、ビームライフルと二門レールガンを構えて、引き金を引いた。



『零距離なら!』



 ありったけのビームと、放てるだけ放たれるレールガンの連弾に、ストライクフリーダムは耐えていた。

 ライフルのエネルギーが一時エネルギー補充を行っているタイミングと、レールガンの銃身冷却が始まると同時に、翔太が破損したビームシールドを解いた。



『やるね――響さん!』



 ドラグーンユニットが二基稼働すると同時にビームライフルを二門持って、それを放っていく。

 狙いが浅いそのビームを避ける事は、今の響にとっては容易い。



『まだ冷却が間に合わないなら――!』



 ビームライフルを放棄して、ビームブレイドを構えて接近する。ビームライフルを構えている状態で、近接格闘は出来ないと踏んで――





240: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:52:01.01 ID:KrYJ+OCl0


だがその判断は軽率だったろう。



 ドラグーンユニットがさらに四基稼働する。

 その銃身と動きから射線を予測する事は容易く、それを回避し、かつ翔太に接近できるルートを選択した響だったが、そこで目の前が光った。



響が操縦桿を急いで動かした時には、既にもう遅かった。



ストライクフリーダムの腹部ビーム砲が、反射神経だけで回避運動に入ったストライクノワールの右脚部とスラスターモジュールを誘爆させていき、ストライクノワールは動けなくなった。



『響ちゃん!』

『響!』



 雪歩の声と共に、貴音の声も聞こえた。雪歩はビームサーベルを構えながらビームマグナムを構えた。



『後は雪歩さんだけ! 北斗君、貴音さんと千早さんは頼んだよ!』



 ドラグーンがストライクフリーダムからのエネルギー供給を終わらせ、再び六基の稼働が開始する。

 響が撃墜したかを確認する暇もない。

 雪歩がドラグーン回避を行いながらストライクフリーダムと距離を取っている間、貴音と千早も戦っていた――。



241: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:53:16.18 ID:KrYJ+OCl0


伊集院北斗は、先ほどの翔太と合流をするタイミングで、デブリ群に身を隠して、スコープを覗いていた。



フリーダムとスターゲイザーが、共に自分のバスターガンダムを捜索しているが、漆黒のバスターガンダムは、さぞ宇宙空間を模したこのステージでは発見し辛いだろう。



北斗は、ビームライフルの砲塔と散弾砲の砲塔、その二つをドッキングさせ、それを構えた。



スコープモードをオンにして、精密射撃を開始する。

 デブリ群に体を預けて、ついでに脚部に仕掛けたアンカーを、少しだけ離れたデブリに当てて、その身を固定させる。



『ファイア』



 独り言として呟いて、引き金を引いた。



コンマ秒のラグを発生させながら放たれた高出力のビームが、無重力の海を流れ、そのスターゲイザーの左脚部を貫いた。



距離があればそれだけ誤差が生まれやすい。

 北斗は愚痴る事も、残念に思う事も無く、誤差を修正しながら、アンカーで移動を開始する。



242: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/22(月) 23:57:26.88 ID:KrYJ+OCl0


 スラスターを使わずにアンカーで無重力の海を行動する事で、二人に見つかる事無く、行動する事が出来る。



事実、二人はどこから狙い撃たれたか分からない状態で周りを見渡し、デブリ群に逃げ込もうと相談をしていそうだ。



ならば今度は――と、アンカーをデブリ群の奥底にセットし、行動する。

機体を固定。誤差修正を完了させながら、今度はフリーダムにロックを合わせた。



『じゃあね、千早ちゃん』



 君の歌は大好きだよ――そう呟き、引き金を引く、その瞬間。



スターゲイザーがフリーダムの体を突き飛ばし、ビームはスターゲイザーの右腕部だけを薙いだ。

 スターゲイザーは左脚部と右腕部を無くし、操縦系統をマヒさせた。千早の、貴音を呼ぶ声が、北斗の耳にも届く。



 貴音は何も言わない。まだ落とされたわけでは無い、北斗に情報が知られるわけにはと思っているのだろう。

砲身の冷却が始まる。フリーダムの退却も始まる。



北斗は、ただ冷静に次の狙撃ポイントを制定していた。



243: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:00:15.38 ID:6Lq7jEBO0


御手洗翔太は、何時もなら雪歩とまずは遊ぶ事を考えていただろうと、自分でも思っていた。

 事実先ほど響と戦っている最中は、遊べると思ったからこそ、遊んでいたのだ。



 だがこのユニコーンは違う。デストロイモードになれば、それだけ難易度が上がる。

 それまでに出来るだけ機体にダメージを与えなければならない。



――ならない? なんでそう思うのだろう。



遊びのつもりだ。例え黒井に確実に勝てと言われても、屁でもない。



翔太は別にアイドルという活動に固執はしていないのだ。

なのになぜ自分は、黒井の言う命令に従っているのだろう。



そう考えていると、翔太は攻撃の手が緩んでいる事に気付いた。

 ビームライフルの引き金を引き続け、雪歩を落とす事に全力を注がなければ――



『ねぇ、翔太君』



 雪歩から、通信が入った。



『何かな、雪歩さん』



 応じる。その程度は構わない筈だ。



244: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:00:58.53 ID:6Lq7jEBO0


『翔太君は、ガンダム、好き?』



 翔太は、聞かれると思ってもいなかった事を聞かれ、少しだけ雪歩の真意を探ろうと考えたが、あまり頭も回らなかったので、素直に答えた。



『SEEDは見たけど、好きって程ではないかな』



 そのSEEDも、冬馬に勧められて見た物だ。

 確かに面白いとは思うし、新作などが放送されれば、見たいとも思うが、彼のように、冬馬のように好きだと言える程、まだ自分はガンダムに触れてすらいないのだ。



『そう――じゃあ、何で、アイドルになったのかな』



 攻撃をされながら、良く世間話をするつもりになる。

 翔太はドラグーンのエネルギー補給を終わらせると同時に、まずは三基のドラグーンを射出し、腹部ビーム砲も同時に放つ。

 腹部ビーム砲をシールドで防ぎ、ドラグーンのビームは避け切った雪歩に、翔太も正直に返す。



『お姉ちゃんが、北斗君のファンでね。961プロのオーディションに、勝手にボクを応募したんだよ』

『そう……私と、同じだね』

『同じ?』

『うん。私もね、友達がオーディションに応募して、765プロに入ったんだよ』

『後悔、してるの?』

『翔太君はしてる?』

『してないよ』



245: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:02:42.02 ID:6Lq7jEBO0


 思わず出た言葉に、翔太がハッと視線を上げた。



ユニコーンの装甲、その隙間から、虹色の光があふれ出している事が見て分かった。

視線を釘付けにされるほどの光に、思わず『わぁ』と歓喜の声を上げた事を、翔太は後悔していない。



『私も、後悔していない。



 自分に自信が無いからこそ、新しい自分に生まれ変わりたいから――だからこそ、私はここまで来た。



 仲間と、共に!』



装甲が稼働し、そのフレームを露出させる。認識できない光はゲーム上で虹色の発色を見せ、見る者全てを魅了させる。



装甲が稼働する事により、スマートな印象からパッシブな印象へと変わるが、それをマイナスと捉えられる事が無い、そのデザイン。



最後に、一角獣の名の元に与えられた一本角が裂け――ガンダムタイプ特有の、V字アンテナに変わった事で、観客が当たり前の事を口にした。



――ガンダム。



『私と仲間に、力を貸して――ガンダムっ!』



 彼女が、ユニコーンガンダムが――雪歩が駆けた。



金色の光を放つストライクフリーダムガンダム。



希望の光を放つユニコーンガンダム・デストロイモード。



最強の機体同士が、今ここで激突する。



246: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:04:56.44 ID:6Lq7jEBO0


我那覇響は、幼いころは何時も兄の元から離れなかった。



兄が好きだった。誰よりも憧れていた。その強い姿に。



その兄は、ガンダムというアニメが好きだった。まだ幼かった響を抱きしめながら、共にファーストガンダムを見た事は、今も覚えている。



思春期に入って少ししてから、彼女は兄から離れていった。



友達が出来た事もそうだが、やりたい事が見つかったという事でもあった。



兄と響には、父親が居なかった。



母は一人で兄と響を育ててくれて、兄はそれをサポートしていた。



彼女はそれに耐えていたが、彼女は何より、他人を思いやる心を持っていた。



だからこそ、独り立ちをして、負担をかけまいとしていた面もあるだろう。



――自分、アイドルになる。



響がそう言った時、兄は何と言って反対しただろう。

 母は何と言って応援してくれただろう。



 あまり覚えてはいない。



兄の言葉が嫌に思えて、飛び出すように家を出て、そして765プロにたどり着いた。



247: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:06:34.71 ID:6Lq7jEBO0


そこで出会ったのが、765プロの仲間であり、どこか兄に似た一人の男性だった。



彼は響のプロデューサーだった。



響は、プロデューサーがガンダムを好きであったことは、今回の仕事の前から知っていた。



ファーストやZガンダムの事で、語り合った事もある。なんなら喧嘩した事もある。



それらが全て、今は隣に居ない兄との語らいに似ている事を、響は理解していた。



この時から響は、兄が何と言って自分を引き留めようとしていたか、思い出していた。



『一人で何が出来る』



親元を、兄の元を離れれば、響は一人になる。兄はそれが堪らなく怖かったのだ。

愛しい妹が、一人泣く事を、恐れていたのだ。



――でもにぃに、それは違ったよ。



『響、響』

『貴音か。ちょっと待って、後五秒』

『ええ――酷い有様ですね。お互い』



 スターゲイザーは腕部と脚部を片方ずつ無くし、ノワールも右脚部とスラスターを破損させていた。



宇宙空間を漂い、どの敵とも離れてしまった。

 一番近いのは――春香と冬馬の戦いだ。それももうほとんど決着はついていて、春香が負けるのを待っているような状態だ。



248: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:08:08.28 ID:6Lq7jEBO0


『貴音、自分はあっちに行くぞ』

『では、私は如月千早を援護に向かいます。萩原雪歩は?』

『雪歩は――もう一人でも、十分戦える』

『貴女は、一人では戦えないと?』



『そう、だな。自分、一人は嫌だぞ。だから』



 機体が、動く。



 操縦系統の麻痺は完全に解け、ノワールが宇宙空間で、体を慣らすようにギギッと音を立てた。



――にぃに、自分、一人じゃないぞ。



『――行こう、相棒』

『ええ』



 響の言葉に、貴音が応え――ノワールのツインアイが発光する。



スターゲイザーの背部円形装置が稼働し、光を放ち始める。



スターゲイザーの手を掴んだノワールを見ながら、貴音が響に視線をやると、彼女も頷いて返す。



『ぷろばるじょんびぃむ――照射』



 スターゲイザーに向けて放たれる、プロヴァルジョン・ビーム――



 それは、人工的に太陽風に似た性質のビームを照射する事で、スターゲイザーのヴォワチュール・リュミエールを稼働させる装置だった。



最初は一秒で数メートルしか進まなかったスターゲイザーが――数秒後には、高速で移動を始めた姿を、観客は見逃していた。



249: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:18:39.79 ID:6Lq7jEBO0


 萩原雪歩の駆るユニコーンガンダムの動きを、翔太は捉え切れずにいた。

腹部ビーム砲と二つのビームライフルから放つビームは――そのシールドによって防がれる。



 手に持つ事無く、稼働する謎のシールドによって。



『何で――推進力の無いシールドが、ドラグーンみたいに!?』



 ユニコーンが駆ける。



 それと同時にシールドも三方向に駆け、その内蔵されたガトリング砲から同時に火花を噴かした。



少量を甘んじて受けながら、多量を避けていると、今度は上部からユニコーンの本体が、サーベルを構えて突撃してくる。

ビームサーベルで受けながら、ドラグーンを六基稼働させると、ユニコーンが距離を取って、その右掌を広げ――そして、握った。



瞬間、ドラグーンの操作系が全て、翔太から離れ――反対に、ストライクフリーダムを狙い始めた。



『何で――何でボクが分からないのさ、ドラグーンっ!』



 そう言いながらも避け切っている姿は、さすが彼だと言いたい所ではあるが、それを観客が感じる前に、ユニコーンも再び動いていた。



六基のドラグーンと、三基のシールドファンネル、そしてユニコーン本体から繰り出される攻撃に、翔太は防戦一方――当然と言えた。



250: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:21:10.26 ID:6Lq7jEBO0


――負ける? ボクが?



観客の誰もがそう考えていた。慢心をするなと心得ていた、765プロのプロデューサーですら、この時は雪歩の勝ちを確信していた。



――嫌だ。嫌だよ。ボク一人が負けるのは良いけど、でも、でも。



翔太の脳裏に浮かぶのは、一人の男の姿。



何時もはむっつりとした表情をしているが、ステージに立つ姿やガンダムの、好きな事に対して真っ直ぐなその瞳を見せる、その男。



――おい翔太、真面目に作れよ。このままじゃ俺のガンプラになっちまうだろ?



――あぁ!? 金色の関節無くしちまったらストフリじゃなくなるだろ!?



――と言うかお前ガンダム見たことあんのか?



――無い? バカ、そんなんじゃ客に怒られるぞ。ただでさえファンが多いんだから。



――ほら、種と種死だけでも見ろよ。貸してやるから。



――面白かったろ?



――俺たちなら、絶対アイツらには負けねぇ。楽勝、だぜ!



251: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:23:22.77 ID:6Lq7jEBO0


『――パージ』



 操作系を乗っ取られたドラグーンを廃棄すると、ストライクフリーダムは、ドラグーンを無くした翼から、光を発しながら、駆ける。



その動き、まるでデストロイモードのように、早い。



雪歩の反応も少し遅れ、ユニコーンの右腕部が切り落とされる。

 ストライクフリーダムの二門ビームライフルから放たれるビームをシールドファンネルが三つ重なって防ぐが、その上にさらに腹部ビーム砲を浴びせ、シールドに一瞬の隙を作る。



その隙に再び、ユニコーンの本体に迫り、ビームサーベルを振るうストライクフリーダムの腕部を、今度はユニコーンの左手が持つビームサーベルが切り落とした。



『負けるわけには、いかない!』



 ――ボクが負けるのは良い。でも、冬馬君をこの戦いで、負けさせるわけにはいかない!



翔太は、何時もの子供らしい雰囲気を忘れ、ただ勝利の為に、操縦桿を握っていた。



その力が、雪歩の闘争心にも火をつけたのだろう。



雪歩はビームサーベルと背部にマウントしていたビームマグナムを放棄し、その鋼鉄の手を、ストライクフリーダムの胸部に突き刺した。



それと同時に、ストライクフリーダムの腹部ビーム砲が放たれる。



252: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:28:04.37 ID:6Lq7jEBO0


 ユニコーンの腹部を貫く腹部ビーム砲。



 だがその一瞬早く、ユニコーンが操ったドラグーンが全基、先端にビーム刃を形成し、ストライクフリーダムの腹部を貫いた。



ユニコーンの、虹色の光が、段々と弱まっていく。



ストライクフリーダムの、全身に彩色された黒色も、段々と灰色へと染まっていく。



弾けるように、各部で火花を散らす二機。その散り様に魅せられ、歓声を上げる事すら忘れる観客。



二人同時に、戦闘不能のSEが流れ出す。





翔太は少しだけ疲れたような面持ちで、フッと息をついて、呟いた。



――冬馬君、勝ってね。





萩原雪歩は、墜ちていくカメラ映像を捉えながら、一つの機体を見据えていた。



その機体に向けて、一つの物体が漂っていく光景を見据えて、彼女もまた、息をついた。



 ――春香ちゃん、千早ちゃん。後はお願い。





萩原雪歩、ユニコーンガンダム。撃墜を確認。



御手洗翔太、ストライクフリーダムガンダム・ネーロ。撃墜を確認。



253: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:46:23.45 ID:6Lq7jEBO0


天海春香は、ダメージによる機体のコントロールが、少しずつ戻っている事を悟ると、冬馬のクロノスへの対策を練っている。



だが思い浮かばない。

 冬馬に対抗しうる、いかなる武器も、攻撃も、思い浮かばない。

 今こうして自分が、撃墜されていないだけでも不思議であった。



『そろそろか?』



 機体の状態を察しながら、段々と近づくクロノス――復帰した瞬間、やられる。

 春香は相手の最初繰り出す攻撃は何かを想定していると――叫び声が、聞こえた。



『うりぁああああ――っ!』



 響の声だと分かった瞬間には、冬馬が驚きの表情を浮かべ、叫んでいた。



『我那覇!?』



 響の駆る、ストライクノワールは、既に右脚部を無くしているにも関わらず、おおよそモビルスーツが出せるはずもない速度で冬馬のクロノスに接近し、その右腕部を、ビームブレイドで切り落とした。



速過ぎて、クロノスの腕部を切り落とすと同時に二機が追突すると、そのまま残った左脚部でクロノスを蹴り飛ばし、掌に搭載されたアンカーケーブルを射出。

 クロノスの腹部に刺さって、それが引き寄せられる。



『これで――終わりだぞぉ!』



『調子乗ってんじゃ――ねぇぜっ!』



254: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:47:28.92 ID:6Lq7jEBO0


 アンカーケーブルを掌のビーム刃で切り裂くと同時に、二門ビーム砲でストライクノワールを狙い撃つ。

 スラスターを破損したノワールに避ける手立ては無く、胸部と腹部を貫かれ、ノワールは、宇宙の藻屑となり、散った。



『これで、終わりか――任せたぞ!』



 響の声を、微かに冬馬は聞いていた。

 最後に、彼女は一人の少女の名前を叫び、そして、その声が聞こえなくなる。





我那覇響、ストライクノワールガンダム。撃墜を確認。





『天海は――』



 冬馬が急ぎ、春香のガンダムへとメインカメラを寄越そうとした瞬間――カメラが、一瞬だけ荒れた。



一瞬の事だった。収束したビームが、クロノスの既に無くなっている右腕部すれすれを横切り、その余熱が右脚部まで焼き飛ばした。



――ガンダムがその手に持っていた筈の武装は、ユニコーンガンダムの、ビームマグナム。



宇宙空間を漂い、ガンダムの元へと来たのだ。



――雪歩の想いを乗せて。



「冬馬君――行くよ!」



 既に、ビームマグナムを掴んでいた左腕部は、そのマグナムの威力に耐えきれず、吹き飛んでいた。

 右手にはビームサーベルを構え、殺気を放っているガンダムを見て、冬馬が冷や汗を流す。



『――上等だ、来い! 天海!』



 ガンダムもクロノスも、既にダメージは危険域。

だがそれでも、二人は競り合った。



最強のアイドルを決めるための戦いで。



255: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:49:58.27 ID:6Lq7jEBO0


伊集院北斗は、デブリ群の真ん中で、如月千早をずっと観察していた。



千早はデブリ群に身を隠しながら行動をしており、中々隙を見せない。

だが、そこも許容の範囲内。北斗はアンカーケーブルで機体を固定させている事を確認しながら、その収束ビーム砲の引き金を引いた。



着弾。千早が隠れていデブリがビームでかき消され、すぐにフリーダムが姿を現した。

千早が慌てているような動きが、フリーダムを見るだけで手に取るようにわかる。

 そこで、ライフルの銃口をドッキングさせ、高出力ビームを収束、放とうと引き金に指をかけた、その瞬間だった。



『――見つけました、北斗殿』



 ビーム刃を整形しながら、スターゲイザーが迫る。

 驚きと反射の影響で引き金を誤って引いてしまい、ビームはフリーダムに命中することなく、宇宙空間に伸びた。



『貴音ちゃん……!』



 急ぎアンカーケーブルを用いて退避しようとするがそれも敵わず、小型のビームライフルから放たれた熱線が、収束ライフルを焼いた。



『くぅ……っ』



 散弾砲を放ちながら、収束ライフルを放棄して、放棄した手にサーベルを構える。

 既にスターゲイザーはエネルギーというエネルギーを失い、背部の装置から太陽風を受け取って稼働しているだけだ。倒すのは――容易い。



散弾砲を放ち、接近しながらスターゲイザーの腹部にビームサーベルを突き刺すと、スターゲイザーが爆ぜていく。



 その際に小さく『任せましたよ』と少女の名が呟かれたが、その名を確認する暇も無い。





四条貴音、スターゲイザーガンダム。撃墜を確認。



256: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:51:00.08 ID:6Lq7jEBO0


急ぎ退避を行おうと操縦桿を握る手の汗を拭おうとした瞬間――目の前に、翼が羽ばたいた。



『捉えた――!』



 千早のフリーダムガンダムだ。フリーダムはその両手にビームサーベルを構えながら、それを振り下ろした。



散弾砲を放ち、サーベルを振りぬき、フリーダムの光刃を受け切る。

 多少なりともダメージはあるように見える物の、威力の弱まってしまった散弾砲の攻撃に、まだびくともしない装甲は、さすがと言うべきだったが――北斗は今まで感じた事の無い恐怖心に襲われた。



それは自分が負ける事に対しての、恐怖心では無い。



――この恐怖に近い感覚を、俺は知っている。



頭の中で誰かが叫んだ。



その叫び声は――自分自身の声であると認識するのに、それほど時間は要しなかった。



 ――また、無くすんだね。自分の居場所を。



――ピアノが弾けなくなって、自分の居場所を無くして、女性へと走って。



――そうして見つけた新しい居場所を、また無くすんだね。



黙れ、黙れ!



 ――そう頭の声に反論をしながら、フリーダムの猛攻を避け続け、それでもなお襲い掛かるフリーダムと恐怖心に、北斗は一瞬、目をつむった。



257: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:52:29.15 ID:6Lq7jEBO0


その一瞬。別にゲームであって死ぬわけでも、居場所が無くなるわけでもないこの状態で、走馬灯に近い情景を、北斗は思い浮かべていた。



――行くぜ! 翔太、北斗!



――やる気見せろよ、相棒!



――なぁ北斗。お前は後悔してないか?



――アイドルになった事。



――ピアニスト、目指してたっていうお前がさ、こうしてチャラチャラ踊るようになったのが、不思議に思ってるんじゃないかって。



――俺が、俺と翔太が一緒に、お前をトップアイドルに導いてやるよ。だから。



――ついて来い北斗。三人一緒なら。



――三百倍の重力で、観客を魅了してやれるさ。



『無くさせや、しないさ……!』



 呟きと共に、雑念が消えた。



北斗はフリーダムの猛攻から逃げる事を止めて、彼女の機体に向き合うと同時に、脚部アンカーを二本同時に射出する。

 フリーダムの背後にある二つのデブリに命中し、命中地点へ――バスターガンダムが引っ張られる。



引っ張られるバスターに追突され、密着するバスターとフリーダム。

 強度が良いアンカーケーブルはそれでも二機の巨体を引っ張り、フリーダムとバスターを、硬いデブリに衝突させた。



258: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:54:00.20 ID:6Lq7jEBO0


『が――っ』

『ぐぅ――っ』



 衝撃で、千早と北斗の呻き声が聞こえる。だが北斗はそれでも止めない。

 掌からアンカーケーブルを射出して、自らとフリーダムを、追突したデブリに巻き付けた。これでは、二機とも身動きできない。



『まさか、北斗さん……!』

『そのまさかだよ、千早ちゃん』



 今の俺じゃあ、君には勝てない。

そう呟いて、北斗はコックピットにある自爆コマンドを、簡単に入力した。



『ねぇ千早ちゃん。君はなぜ、こうして戦うんだい?』

『春香や萩原さんと共に、勝利をこの手に掴むためです』

『俺も同じ気持ちさ。だから、俺はこうするんだよ』

『初めて知りました』

『うん?』



『伊集院さんは、とても心の温かい人なんだと』

『俺は、女性にはいつも温かいよ。



 ――今回は、男の二人にも、出血大サービスだ』



 自爆コマンドを受け付けて、数十秒の猶予の間に、北斗がした事は、世間話。

千早が行った事は、かろうじて動く機体の右腕と左腕を操作しながら、とある武装を放棄――

 それも角度と速度を計算しながらであったので、余裕は無かったが――それでも、行う事が出来た。





――冬馬。お前に任せたよ。





自爆するバスターガンダムの熱に焼かれ、フリーダムも落ちていく。その際に小さく呟かれた一言は、誰にも聞こえる事は無かった。



――春香。貴方に力を与えられたら、幸いだわ。





伊集院北斗、バスターガンダム・ネーロ。撃墜を確認。



如月千早、フリーダムガンダム。撃墜を確認。



259: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:56:52.90 ID:6Lq7jEBO0


ビーム刃とビームサーベルの斬り合いは、既に五分近く続けられている。

 クロノスの左腕から繰り出されるビーム刃をビームサーベルで捌きながら、頭部のバルカンで牽制を行う。

 だがそれをも避け続ける冬馬のクロノスに、春香は如何にして攻撃を与えるかを焦っていた。



だがそれは冬馬とて同じこと。



春香は、今この時、パイロットとしての能力が著しく上がっている事に、彼は気づいていた。



何が彼女をここまで突き動かすのか。



彼女はガンダムに触れてまだ時間も少ない。

 時間が全てであるとは思わないが、少なからずの影響はあると冬馬は考えていた。



だが春香は戦う。無我夢中でサーベルを振るう。



その姿は、何に支えられているんだ?



「仲間だよ……!」



 ガンダムのビームサーベルが、クロノスの左腕部を切り落とすが、同時に放たれた二門ビーム砲の一射が、ビームサーベルを叩き落す。



260: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 00:58:18.49 ID:6Lq7jEBO0


『仲間……くだらねぇ!! 俺には翔太と北斗っていうやつ等がいる! 共に戦っている!



 だがいつだって人は一人なんだよ! 一人で戦わなきゃいけないんだよ!!



 お前だって今はそうだ! 一人の力で、戦ってるじゃねぇか!』



「違うよ!! 一人なんかじゃあないっ! 一緒にいる、いつも、いつでも!」



クロノスの腹部に蹴りを食らわしたガンダムの前に漂ってきた二つのユニット。

 その一つを掴むと同時に、柄と柄を組み合わせ、エネルギーを送る。



ビーム刃が繋ぎ合わせたユニットから出力される。



フリーダムガンダムの【アンビデクスストラス・ハルバート】と呼ばれる、双刃の薙刀のような状態にした、ビームサーベルだった。



これも、持ち主を離れ、春香の元へとたどり着いたのだ。



――千早の想いが、力として放たれ、宇宙を漂ったのだ。



リーチの長い柄を掴みながら、それを横薙ぎに振り切ると、それを避けようとしたクロノスの二門ビーム砲が切り裂かれ、その爆風でクロノスも一瞬動きを止めた。



――その隙を、今の春香は見逃さなかった。



春香は、ただトリガーを引くという動きと共に、叫んで、操縦桿を押し出した。



スラスターが吹かれ、勢いをつけて突撃する。クロノスに向けてサーベルを突き付けると……。



 クロノスの腹部に刺さり、それが致命傷となった。



261: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 01:00:31.89 ID:6Lq7jEBO0


『……これが、団結の力って、奴なのかよ』



「そうだと思いたい。偶然かもしれない。でも雪歩と千早ちゃんの力が、私を助けた。



 一人だったら絶対に、冬馬君には、勝てなかったから」



『……俺も、早く気付けばよかったんだ』



 ――俺も仲間に支えられていたのに。



クロノスが各部から、火花を散らしながら壊れていく。

 その散り様を見据えながら、春香が「また、戦いたい」と言う。



まだ声が聞こえる。春香の言葉を聞いて、冬馬は『当然だ』と言った。



『勝ち逃げなんて許さねぇ。次戦う時は、俺たち三人の団結って奴、見せてやるぜ!』



 その言葉が最後だった。



 散っていくクロノス、その姿を見据えて、観客が沸いた。



皆、春香の名を叫んでいた。



だが。



春香は、まだ、静かに、ただ、その光を待っていた。



262: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 01:02:24.56 ID:6Lq7jEBO0


一筋の光が、宇宙の彼方で光った。



光を放ちながら、高速で近づく、その機体。



既にその姿はボロボロだ。背部は回路まで丸見えの状態。デブリにぶつけでもしたのか、頭部も少し破損している。



だがその機体は美しく光り輝いていた。黄色と黄緑の彩色が宇宙空間に煌めいて見えて、春香は思わず叫んだ。





「来たね――美希!!」



『遅れてごめんなの――春香!!』





 美希の声が、聞こえた。

まだ距離はある。

 春香は千早の残したビームサーベルを無理矢理肩部にマウントして、その場に漂い続けていたガンダムのビームライフルを掴んだ。



「戦おう、美希! これが、私と美希の、真剣勝負!」

『うん! 星井美希、ガンダムエクシア――未来を斬り開くの!!』



 二人がこの勝負で交わした言葉は、これが最後だ。



263: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 01:05:35.40 ID:6Lq7jEBO0


ガンダムがライフルの銃口から光が放たれる。連続して引き金を引いて二連射。

 それを全て避け切ると同時にガンダムエクシアのGNビームライフルも火を噴いた。



GNビームライフルの火線が、ガンダムのビームライフルを焼くと、それを放棄して再び千早の残したサーベルを二本接続し、それを振るった。



エクシアはそれに相対するように、折りたたまれたGNソードを展開して、接近戦に持ち込む。



光刃と、ビームコーティングのされた実体剣の鍔迫り合いが二、三撃行われると、ガンダムがその場から退避を始める。



スラスターを吹かしながら移動をするのは、近くの小惑星――ア・バオア・クーの内部。



既に落とされた後を想定された設計されたそのステージに入り込むと、ガンダムが脚部スラスターを吹かしながらビームサーベルを、追いかけてくるエクシアに振るった。



エクシアはGNロングブレイドでそれを受け止めると、両手首に搭載されたGNバルカンで牽制を行う。

その攻撃を装甲で受け止めながら、今度はガンダムの頭部バルカンがエクシアを襲う。



二機ともに脚部に異常が出る。

 だがそれで止まる二人では無い。



ア・バオア・クー内部の壁にぶつかりながら、狭い通路で行われる鍔迫り合い。

 そのビームサーベル同士の熱が二機の装甲を少しずつ焼いていく。



壊れていく二機の姿を、観客は何も言えずに見据えていた。



――二人はどうしてこうまで醜くも戦うのだろうか?



――二人は同じ事務所の、仲間の筈だろう。



観客は総じてそう考えていたが――



264: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 01:08:34.48 ID:6Lq7jEBO0


同じアイドルの皆には、もう分かっていた。



二人は今アイドルとして、高みに立っている。



仲間の想いを受け継いで、その高みにたどり着いた。



そして、さらに先にある筈の――『輝きの向こう側』を見るために、二人は戦わなければならない。



――自分をここまで引っ張ってくれた、仲間の、そして仲間たちの作った、ガンプラに報いる為に。





広い通路に出た。

 大きな獲物を持つエクシアに押されるように、通路の奥で双刃のサーベルを振り切ったガンダム。

 だが、エクシアはその光刃を恐れる事無く、GNソードを突き刺した。



ガンダムとエクシアの頭部が共に斬り飛ばされる。



 だが二機のサブカメラは生きている。

 まだ二人は、戦える。



エクシアが、GNソードを構え直し、背部のGNドライブをフル稼働させる。

 発光が強まり、それが出力として還元させる瞬間、エクシアは高速でガンダムに向けて突進した。



その突進に向けて、春香は逃げなかった。

 双刃のサーベルを構えながらエクシアを待ち――そして。



265: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 01:10:23.45 ID:6Lq7jEBO0


決着は一瞬だった。



ガンダムエクシアのGNソードが、ガンダムの腹部を貫いていた。



ガンダムが持つ、フリーダムのサーベルが、エクシアのGNドライブを貫いていた。



 ――どちらが先に落ちた?



誰もがその答えを待ち望み、瞬きすら忘れていた。



その答えは、あまりにも呆気ない物だった。





『ガンダム、ガンダムエクシア、両機同時に撃墜を確認。よって――この勝負、引き分け』





 ボーっと、その結末を受け取った観客。



その観客と同じく、アイドルたちも呆気にとられていたが――男が一人、拍手を始めた。



彼女たちの、プロデューサーだ。



彼がバックステージで拍手をすると、それが観客席まで伝わったか、一人の観客がそれに続いた。



次第に皆が連られて拍手をして行き――その拍手は、会場全体を覆い包んだ。





星井美希、ガンダムエクシア。撃墜を確認。



天海春香、ガンダム。撃墜を確認。



266: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 01:56:18.32 ID:6Lq7jEBO0


会場のボルテージは最高潮。アイドルたちの状態も最高潮だった。



 皆騒ぎながらバックステージで「最高の戦いだった」「これをアニメで見たい」と語り合っている。



――そんな中



三人の少年たちが、ただ立ち尽くしていた。



「ごめんね、冬馬君。ボク、冬馬君を勝たせる事が、出来なかった」

「俺もそうだよ。冬馬と翔太に、みっともない所を見せちゃったな」

「バカ野郎。お前たちの力を借りねぇって、一人で突っ走った、俺のミスだ」



 三人がそれぞれの反省を述べていると、そこに一人の男性が近づいた。



「無様だな」



 黒井嵩男だ。彼はフッと息を付きながら三人に近付き、そして一言呟いた。



「だが三人とも。



 良くやった」



 彼の言葉はそれだけだった。

 それだけ呟いて、バックステージから姿を消した彼に、三人は唖然としていた。



無様と言われたが――それでも彼は、冬馬たちに「良くやった」と言ったのだ。



認めてもらえた。



三人は熱くなる目頭を堪えながら、肩を抱き合って笑い合った。



267: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 01:58:29.30 ID:6Lq7jEBO0


ステージの中心には、春香と美希、貴音と千早、響と雪歩が隣り合って立っている。

その隣にはジュピターと、決勝まで行けなかった765プロの皆とディアリースターズも立っている。



「今回の勝負は、何よりも天海さんと星井さんのバトルが、見物だったと思いますが、いかがでしょうか?」



 司会進行をする男の言葉に、春香はハニカミながら「あれは、そんな大それた戦いじゃあないです」と謙遜をした。



「そうなの。ただ二人で、全力で戦っただけだもん」



 二人の言葉に、周りが「最高だった」と言葉を揃えた。



「でも本当なんです。あの戦いは、私たちの戦いの一つでしか無くて、この歴史の長いガンダム作品の中では、ほんの一瞬の事でしかないんです」

「ミキはそれでも全力で戦うだけ。見物とかは、お客さんが勝手に決めればいいと思うな」



 その言葉が締めの言葉だった。

引き分けになった事により、CMスポンサーユニットを誰にするか、そこで少しだけ議論がスタッフ側で持たれたが――そこで、春香が一言言い放つ。



「なら――皆で、CMに出させてくれませんか?」



 皆の視線が春香に向けられた。



268: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 01:59:22.03 ID:6Lq7jEBO0


「皆で全力で戦って、作り上げて、そうして出来上がったこのゲームプロモーション。せっかくだから、皆の思い出として、歴史に名を刻みたいんです」



 ガンダムの長い歴史の中で、一瞬でも良い。少しでも良い。



皆とここに立ったという証が欲しいと、春香が言った。



「もちろんジュピターも、愛ちゃんたちも……ううん、プロモーション本戦に来れなかった皆も、一緒に!」

『ギャラは大変な事になりそうですな→』



 亜美と真美の茶化しにも、春香は動じない。

 その真っ直ぐな瞳でスタッフ全員を見据え――スタッフが、苦笑しながら首を縦に振った。



「やりましょう」



 その言葉に、観客が再び沸いた。



「じゃあ――皆で一緒に出る事が、決定した所で」

「本日のメインステージその2、いくの!」

 

メロディが流れる。

軽やかな音と手拍子が観客に届き、観客も手拍子を鳴らす。



269: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 02:00:20.26 ID:6Lq7jEBO0


「愛ちゃんたちも、ジュピターの皆も!」



「はいっ!!」



「ありがとうございます!」



「……頑張るっ」



「お、俺達も歌うのかよ!?」



「当然なの!」



「皆と歌えるなんて、凄いですぅ!」



「真、人々との繋がりを感じる事の出来るイベントですね」



「そうね……でもそれが、ガンダムの魅力だから」



「さぁ行くぞ皆! 自分たちに付いてくるんだ!」



「うんっ! やよい、翔太、行くよ!」



「はーいっ、頑張りますっ」



「ボク、この歌大好きなんだっ」



「ほくほく歌うよ→!」



「真美たちの歌にメロメロにならないでよ→」



「俺は既に、この世のエンジェルちゃんにメロメロさ☆」



「まったく……春香の仲間バカには困ったものね」



「その割には伊織ちゃん、困ってなさそうねぇ」



「律子さんも、プロデューサーさんも!」



「私も!?」



「律子はともかく、俺もか!?」



「はいっ! みーんなで――」



『歌いましょう! 【MUSIC♪】』



270: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 02:01:40.46 ID:6Lq7jEBO0


 春香が歌う。



美希が歌う。



千早が歌う。



響が歌う。



雪歩が歌う。



貴音が歌う。



真が歌う。



やよいが歌う。



愛が歌う。



真美が歌う。



翔太が歌う。



涼が歌う。



北斗が歌う。



亜美が歌う。



絵理が歌う。



伊織が歌う。



あずさが歌う。



律子が歌う。



プロデューサーが歌う。



冬馬が歌う。



全員で踊る。



 愛たちとジュピター達は見様見真似だが、どこか楽しそう。



 プロデューサーは律子に手を引かれて、ぎこちなく踊っている。



271: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 02:02:36.80 ID:6Lq7jEBO0


春香はその光景を楽しそうに見据えながら、観客席に目を向けた。



「一番後ろの人も、ちゃーんと見えてるからねっ!」



観客席を超えた先にある――会場の煌めき。



お客さんの熱狂と共に醸し出される光が、春香の視線に映った。



いや春香だけでは無い。



ここに居る皆の目に、それは映った事だろう。



 春香達はこの時、辿り着いたのだろう。



 そう。ガンダムが連れて来てくれた、この景色こそ――



【輝きの向こう側】であった。



272: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 02:04:30.03 ID:6Lq7jEBO0


 エピローグ「輝きの向こう側」



 あれから半年の月日が流れた。



音無小鳥はこの日早めに仕事を上がった。

アイドルたちの管理を行うプロデューサーと律子が全ての仕事を終わらせており、アイドル達も皆直帰で、これ以上事務所に居てもやる事が無いと判断された為だ。



少しばかり空いた時間を、音無小鳥は模型店に寄る事で潰そうとした。

その模型店には、例の機材がある。



【ガンダム・ビルドバトラー】だ。



 小鳥は百円玉と自らのガンプラを用意し、パイロットスーツ貸出サービスにお願いをした。



そこで子供が、声をかけてきた。

女の子三人組だ。

周りは男の子ばかりで、馴染めずにいるようだが、三人しかいないのであと一人、二対二で戦う為の人数を欲していた。



「ふふ、良いわよ」



 女の子達は皆、ガンダムビルドファイターズのガンプラを作って遊んでいたようだ。

 スタービルドストライクとガンダムX魔王、そしてウイングガンダムフェニーチェが、幼い手から作り出される様子を思い浮かべると、微笑ましくも思える。



小鳥は、カバンの中から一つのHG――G-セルフを取り出して、皆に見せた。



273: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 02:06:04.30 ID:6Lq7jEBO0


765プロの皆は、既にトップアイドルとして認知されており、既に玲音の居る【オーバーランク】に匹敵する名声を手にしていた。

そんな彼女たちは――



 煌めきの向こう。そこには光り輝くガンダムの姿があった。



改造も何も施されていないガンダム――だがその姿は、半年前とは何もかも違った。

 そのパーツ処理の仕方も塗装も、プラモデルを作り始めた時より明らかに進化している。



「いくよ美希!」



 バズーカを放ちながら、接近するガンダムエクシアMk-2に向けて、ビームサーベルを引き抜いた。



「望むところなの!」



 その二人の戦いに割り込んだのは――一機のモビルスーツ。



「春香さん、美希さん! お手合わせ願います!」



 二機の切り込みを拳で受け切ったマスターガンダムが、その二機を吹き飛ばしてその両腕にエネルギーを込める。



「ダークネス、フィンガーっ!」



 その少し離れた宙域で、三機のモビルスーツが背中を合わせて戦っている。



やよいのガンダムXディバイダーと、響のストライクノワールガンダム、冬馬のクロノス・エデンだ。



「冬馬さんっ、響さんっ、後ろから真美が来てます!」

「了解、冬馬の方は!?」

「こっちには亜美の方が来てる! 真美は任せたぜ、高槻! 我那覇は援護っ!」

「はいです!」

「了解!」



 やよいのガンダムXディバイダーのハモニカ砲が稼働すると同時に、クロノスの二門ビーム砲も火を噴いた。

その二機を支援するように、両手に持ったハンドガンタイプのビームライフルも同様だった。



274: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 02:07:40.14 ID:6Lq7jEBO0


その三つの攻撃を回避しつつ、攻撃を仕掛ける【パーフェクトストライクガンダム】と【デスティニーインパルスガンダム】の二機。



パーフェクトストライクを駆る真美が「亜美!」と叫んだ瞬間、デスティニーインパルスを駆る亜美が「合点!」と意思疎通を済ませると同時に、大型ビーム砲から火を吹かした。



 乱戦。真美とやよい、亜美と冬馬、そしてやよいと冬馬を援護するように動き回る響。

五人の奮戦を橋目に、戦う機体はまだ他にもあった。





千早のフリーダムガンダムと共に弾幕の海を渡る漆黒と黄金のモビルスーツが、ストライクフリーダムガンダム・ネーロだった。

ドラグーンを射出すると同時に二門のビームライフルからビームを放つと、その前面にフリーダムが出て、羽部の二門ビーム砲を放った。

それを避けるのは、絵理が駆るストライダー形態のガンダムAGE-2と、それを下駄替わりとする伊織のガンダムスローネドライだった。



「絵理、行くわよ!」

「……はい!」



 絵理の返事と共に、スローネからGNステルスフィールドが散布される。

 上手くロックオンが出来なくなったコックピットの中で、翔太が「卑怯だ!」と声を上げる。だがその声はどこか嬉し気だ。



「千早さーんっ!」

「任せて、御手洗君っ」



 フリーダムが、最後に得られた視覚情報を元にサーベルを振るうと、それを受け止めるのはやはり、スローネドライだった。

弱まるステルスフィールド。その瞬間に全てのドラグーンを射出しながら光の翼を放ち、高速移動を開始するストライクフリーダム。



二機のフリーダムがスローネ・ドライに向けてサーベルを振るうが――それを受けたのは、ドライでは無く、AGE-2の装備――

 ダブルバレットの肩部ビーム砲から形成された大型サーベルだった。



「ムザムザ、やられない……!」

「良く言ったわ絵理!」



275: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 02:08:36.70 ID:6Lq7jEBO0


デブリ群の近くで、トールギスⅢが、ヒートロッドを振るうと同時に、光り輝く拳でそれを受け止める、シャイニングガンダム。



「真さんに、今日こそ勝つ!」

「それでこそ男だよ、涼!」



 爆発と共に、二機が距離を取る。

 バルカンをばら撒きながらデブリを蹴り、離れた距離を再び縮めようとするシャイニング――その後ろから、一つのビームが飛来した。



「子猫ちゃんと、子犬ちゃん。俺も混ぜてよ☆」

「北斗さんっ!」

「今日こそ、プロモーションでの借りを返しますよ!」



 メガキャノンを放ち、バスターを近づけさせないようにするが、その射線を既に見切っているかのように避けながら、収束ライフルと散弾砲の砲身を繋げ、大型ビーム砲としてそれを放つ。

 メガキャノンの砲身に着弾。それを放棄して、再びヒートロッドを構えて突撃する。



 そしてさらに飛来する、高熱源反応。

 大型のビームがデブリ群一帯を消し飛ばすが――それを予見していた三機は、そのビームを辛うじて避けており、息を呑んだ。



「あずささん――!」

「女性の過激なアタックは、時に男性を恐怖させるね!」

「最近、めっぽう一対多が手馴れて来たね、あずささん……!」



 少しだけ離れた場所で――フルアーマーZZガンダムが、その頭部に装備されたハイメガキャノンの放熱をしていた。



「お姉さんだって、まだまだ現役なんだから!」



276: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 02:09:53.99 ID:6Lq7jEBO0


皆、楽しそうに戦っている。

 これは仕事であったが、それ以上に彼女たちが――戦いを通じて、語り合える時間だった。



どんな機体が好きだ。



どんな戦い方が好きだ。



それを、人々に伝えていく。



アイドルとしての生き方。



ガンダムを愛する者としての生き方。



【輝きの向こう側】へと辿り付いた彼女たちは、その場所で戦い、人々を魅了し続ける。



 ――これからも、ガンダムと、ガンプラと、共に。





エピローグ「輝きの向こう側」



春香「ガンプラマイスター?」





278: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 02:17:56.09 ID:6Lq7jEBO0


RX-78-02【ガンダム】

パイロット・天海春香



言わずと知れたファーストガンダム。

当初こそHGUCを作り上げた春香であったが、後にRGのガンダムとなる。



彼女の製造技術は、作中では本当に下の下であり、プラモデルとしてのレベルは非常に低い。

スミ入れと簡単なゲート処理しか行われておらず、塗装もほとんどシール処理しか行われていない。



春香のガンプラへの思いと、仲間への絆が春香を強くしたが、それこそ無ければ、早々に敗北していたのはAチームかもしれない。



279: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 02:24:12.54 ID:6Lq7jEBO0


GN-001M【ガンダムエクシア‐ミキ専用機‐】

パイロット・星井美希



ガンダムOOに登場する、初期主人公機。

美希が自身のイメージカラーへと塗り替えをしており、元々青色の部分は黄色に、赤色の部分は黄緑色となっている。



美希は作中・また作後も一切ガンダム作品に触れていません。

その理由としては「見たら余計エクシアに感情移入しちゃうの」という物。



厚く塗られたエアブラシ塗装により、その装甲強度は上がっている。

冬馬のクロノスに直撃を食らっても、操縦系統の麻痺のみで済んだのはこれが要因。



280: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 02:27:51.17 ID:6Lq7jEBO0


ZGMF-X10A【フリーダムガンダム】

パイロット・如月千早



機動戦士ガンダムSEEDの後期主人公機。

RGフリーダムガンダムを素組みし、スミ入れを行っただけの簡易的なものだが、

シンプルイズベストを地で行く千早が組み立てたからか、非常に高レベルとなっている。



どちらかと言うと、フリーダムの高性能さに加えて千早のパイロット能力が高かった為、

他の高レベル機体とも互角に渡り合っていた。



ちなみに千早にフリーダムを当てた理由としては、そのまま「青い鳥」をイメージした為。



281: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 02:34:15.41 ID:6Lq7jEBO0


RX-0【ユニコーンガンダム・ユニコーンモード】

RX-0【ユニコーンガンダム・デストロイモード】

RX-0【ユニコーンガンダム・デストロイモード‐覚醒Ver‐】

パイロット・萩原雪歩



作中でもっとも多くのプラモデルを作っている雪歩。

>>1も何度かユニコーンは組み立てているが、HGでもまぁ面倒くさいのによくやる子だと思う。



機動戦士ガンダムUCの著者である福井晴敏先生の大ファンと言う設定だが、あくまでこれは「>>1の好み」



作中のバナージ並にチートを繰り広げる雪歩だが、その創作レベルも実は意外と高く、

千早のフリーダムと同様、高レベルを叩き出している。





284: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 02:42:34.32 ID:6Lq7jEBO0


GF13-017NJ【シャイニングガンダム】

パイロット・菊池真



ゴッドガンダムではなく、シャイニングガンダム。

その理由は作中でも触れている通り「シャイニングからゴッドへの乗り換えるシーンが、涙無しでは見られなかったから」



真は創作技術という面では非常に不器用で、素組みとスミ入れを行っただけの簡易的なものではあるが、

シャイニングガンダムのプラモデル自体が非常に良いキットであることも幸いし、春香のHGガンダムよりは高レベル。



後に創作技術を底上げし、エピローグ「輝きの向こう側」では、涼のトールギスⅢに匹敵する出来まで成長している。



285: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 02:46:41.57 ID:6Lq7jEBO0


GX-9900【ガンダムエックス】

パイロット・高槻やよい



そのほとんどを、高槻家の長男である高槻長介が作っている。

作中でも述べたように、理由としては「男の子らしい娯楽を与えてあげたかったから」



やよいのお姉さんらしさを前面に出したい一心でしたが、あまり活躍の場をあげられなかった事が>>1の後悔している点。



長介は非常に工作に優れており、そのプラモデルとしての出来も合わせて、やよい自身、覚醒をするとパイロットスキルが冬馬並になる事から

本作では雪歩以上に力を持っているキャラクターかもしれない。



286: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 02:51:58.95 ID:6Lq7jEBO0


GNW-003【ガンダムスローネドライ】

パイロット・水瀬伊織



くぎゅネタがやりたかったという事もあるが、伊織がネーナを如何に思っているかを考え、描写せずにはいられなかった。

その為、戦闘シーンより、伊織がいかにネーナを想っているかを焦点を置いてしまった事がもう一つの後悔している点。

だけど書きたい事を書ききって、意外と満足。



伊織自身の創作技術は高くは無いが、その機体への、作品への愛情が、美希と張り合える程の力量となっている。



287: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 02:57:43.66 ID:6Lq7jEBO0


MSZ-010【ZZガンダム】

パイロット・三浦あずさ



「ハイメガキャノン級かなーって」←マジでこれが理由。

途中で「あずささんはF91かと思った」という意見も頂いたのだが、

>>1が本作品の構想をしている時、まだF91のプラモデルは旧プラしか無かった為、思考にすら入れていなかったです。ハイ。

まさかHGでF91が出るとは……。



あずささんの創作技術自体は765プロの中でも中間くらいにはなるのだが、その実

「ガンダム作品への愛情は作中誰よりも強い」事が、彼女の強みとなっている。





288: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 03:04:43.32 ID:6Lq7jEBO0


ZGMF-X56S【インパルスガンダム】

ZGMF-X56S/α【フォースインパルスガンダム】

ZGMF-X56S/β【ソードインパルスガンダム】

ZGMF-X56S/γ【ブラストインパルスガンダム】

パイロット・双海亜美



シルエットだけではあるが、この名列だけ見ればかなり組み立てを行っている妹の方。

ちなみに作中に「HGでは出ていないブラストシルエット」とあるが、これは別に簡単な話「種コレ」のブラストシルエットの流用。



亜美と真美を二人で並べた時に、二人がどういう風に機体をチョイスするか、真剣に最後まで悩んだ一人。

結局子供でSEEDは触れていると思われる、という考察の元、ストライクと似たインパルスとなった。



289: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 03:11:51.98 ID:6Lq7jEBO0


GAT-X105【ストライクガンダム】

AQM/E-YM-1【マルチプルアサルトストライカー】

パイロット・双海真美



知らない方もいるとは思うが、マルチプルアサルトストライカーとは【パーフェクトストライクガンダム】のストライカーパックの名称。

SEEDを見直した真美が一目惚れし、作り上げたという設定ではあるが、本作でその描写を出来なかったことも後悔の一つ。



実は真美も、響と同様に【I.W.S.P.】を作り上げていたのだが、描写の都合上出すことが出来なかった。これも後悔の一つ。



亜美と真美に「SEEDとはどういう作品だったのか」を考えてもらう為とはいえ、戦闘シーンがあまり描写出来なかった事は本当に後悔。



真美は>>1の後悔の塊でもある。



290: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 03:19:25.68 ID:6Lq7jEBO0


GAT-X105E【ストライクE】

AQM/E-X09S【ノワールストライカー】

P202QX【I.W.S.P.】

パイロット・我那覇響



設定が二転三転している為、>>1もストライクノワールの機体名称をハッキリとはいえないが、

それでも>>1が二番大好きな機体で、かつ一番大好きな女の子のコンビ。



作中で何気に響の活躍が多いのは、>>1が響好きである事が要因。全く罪な女の子である。その活躍を少しは真美に分けてあげたかった。





291: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 03:25:09.40 ID:6Lq7jEBO0


GSX-401FW【スターゲイザーガンダム】

パイロット・四条貴音



最初は∀ガンダムにするかと考えてはいたが、

こちらも原案作成時にはHGが販売されておらず、旧プラのみであった為、スターゲイザーとなった。



だが実際にプロットを書き上げていくと「∀ガンダムだったら貴音無双じゃん……」となる可能性が出てきた為、

最終的にこの位置に落ち着いてよかったのかなとは思っている。





後ごめんなさい、素でエピローグ「輝きの向こう側」に貴音入れ忘れた。



292: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 03:31:29.35 ID:6Lq7jEBO0


 追加エピソード「それはまた別のお話」



 四条貴音は、ただ一人でその光景を見据えていた。

 その手に持つのは、貴音が作ったガンプラ――スターゲイザーガンダム。



 彼女はこの機体で、戦うことをどこか恐れていた。

 それは、この機体が「非戦闘用の機体である」という事が理由であった。



「せれーね嬢と、そる殿の想い――そしてすたぁげいざぁ殿の生み出された、その意義を。私は見失う所でしたね」

 

 フッと微笑んで、貴音はその機体を、ガラスケースの向こう側へと置いた。



 ――そこで見守っていて下さいね。

 

 貴音は新たな自分の機体……



 HG・∀ガンダムを手に取って、筐体へ身を預けた。



「四条貴音――お髭の機械人形、出撃いたしますっ!」



 END


301: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 22:33:03.74 ID:6Lq7jEBO0


 追加エピソード「これもまた別のお話」



 萩原雪歩はその日オフであった。少しだけ化粧と変装をしながら、駅前からとある店へと歩いていた。



「今頃皆はお仕事かぁ……私も行きたかったなぁ」



 労働基準法についてプロデューサーと律子が少しだけ社長に愚痴を言われていた事が要因で、週間でアイドル達もきちんとした休暇が与えられるようになっていた。

 本日は彼女、雪歩と貴音の休日となっていた。



(でも四条さんって、休日はどうやって過ごしてるんだろうなぁ)

 気になりはするが、彼女に聞いたところでこう返されるのがオチだろう。

(とっぷしぃくれっとですよ、雪歩)

 頭の中の貴音がフフッと微笑んだ。

 そんな事を考えていると――



「萩原雪歩」

「ふぇ!? 四条さん!? 本物!?」

「どうしたのですか。鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしておりますよ」



 本物の四条貴音が、背後から声をかけてきて、雪歩は驚きのあまり数メートル後ろに飛びずさった。



「い、いえ……四条さんは、どんな風に休日を過ごすのかなぁ、と考えていて……」

「ふふ、とっぷしぃくれっと――と言いたい所ですが、行き先はどうやら一緒のようですね」



 たどり着いた場所――そこは、765プロが贔屓にしている、寂れた模型店だった。



302: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 22:51:50.41 ID:6Lq7jEBO0


 模型店に入り、新作のプラモデルを確認しようとした所で。



「あ――四条さん。このプラモデル四条さんのスターゲイザーですよね?」

「ふふ。ええ、少しこの子は、お休みをさせようかと思いまして」



 ショーケースの中には、一体のスターゲイザーガンダムが飾ってあった。

 貴音の塗装した、薄い銀色を発する装甲と、まるでサイコフレームのように光を放つスターゲイザー。

 その出来に雪歩が見蕩れていると、貴音が「こうしていた方が、すたぁげいざぁ殿も喜ぶでしょう」と笑みを浮かべた。



「ところで雪歩。貴女も新しくプラモデルを作ったと聞きましたが」

 

 あの戦いから半年。765プロの各々は各自で創作技術を向上させていた。



「あ――これですね」

 雪歩が取り出したプラモデルは、それはそれは異様な姿をしたガンダムだった。



 決勝戦で装備していた三つのシールドとは別に、

 ハイパーバズーカを二門とグレネードランチャーとミサイルランチャー、ハンド・グレネード、脚部グレネード――

 終いには背面には大型ブースターを装備した状態の、通称【フルアーマーユニコーンガンダム】だ。



「何とも……まるで全部のせらぁめんのようでは無いですか」

「言い得て妙ですね……一応寄せ集め装備の結晶なんです」

 

 姿こそ綺麗にまとまってはいるが、そのままでは自立すらままならない。専用スタンドを取り付けながら、それを棚に置いた。



「今日は、勝負を行わないのですか? 雪歩」

「うーん……したいのは山々なんですが」



 模型店の奥では、一人の女性が少女達に作り方を指南していた。

 音無小鳥。765プロの事務員である。



303: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 23:12:29.35 ID:6Lq7jEBO0


「あら。雪歩ちゃんに、貴音ちゃん?」

「小鳥嬢。おはようございます」

「うふふ。貴音ちゃん、今日はオフだからその挨拶はしなくていいわよ。こんにちわ」

 

 小鳥は、子供達に雪歩と貴音がいると教えて、子供達がそれに瞳を輝かせる。



「本物だーっ!」



 子供達が騒がしくなる。だがそれも無理はない。既に二人は、トップアイドルとして芸能界にいる存在なのだから。



「そういう事じゃあないのよ、二人とも」



 小鳥の言葉と共に、少女達が自分達の作ったガンプラを見せてくる。

 まだまだ技術の無い手から生み出される、よく出来たプラモデルを見ながら、雪歩と貴音は微笑を見せた。



「上手に出来てるね」

「ええ、真に。心を込めて作られた物は、美しい」

「ここにいる皆ね。あのプロモーションを見て、プラモデルを作り始めた子供たちなのよ」



 その言葉を聞いて、雪歩と貴音は目を合わせ、そして嬉しそうに微笑んだ。



 彼女達の戦いが、人々を動かし。

 彼女達の思いが、次世代に繋いでいく。



 その光明が見えたようで、二人はどこか、嬉しかった。



304: ◆bA3jMfAQJs 2014/09/23(火) 23:20:21.41 ID:6Lq7jEBO0


「――やっぱり四条さん。戦いましょう」

「ええ。ここまでその気にさせられたのでは、引き下がれません」



 貴音は自らのカバンの中から、一つのプラモデルを取り出した。

 ∀ガンダム。HGサイズで作られたそれを持って【ガンダム・ビルドバトラー】の筐体へと向かう。

 サイフから百円玉の用意。それと同時に慣れた動きでパイロットスーツを着込んだ。



 雪歩も同様だった。

 まずは百円玉の用意をすると同時に、預けてあった彼女専用のパイロットスーツを着込みながら、

棚に飾った先ほどの【フルアーマーユニコーン】を取り出した。



「では、勝負です」

「望む所です」



 筐体のドアを開けて、しっかりとロックする。

 百円玉を筐体に入れて、非接触型IC端末にカードを押し当てる。

 それでパイロットデータを読み取った筐体が、二人の戦績を映し出す。



 萩原雪歩。戦績:53.7%

 四条貴音。戦績:46.3%



 若干雪歩の方が、勝利している回数は多いが、それも微々たる差だ。



『今日こそ、この戦績を塗り替えますよ、雪歩』

『受けて立ちます!』



 二人は共に操縦桿を握り締め、そして同時に叫ぶのだ。



『萩原雪歩。フルアーマーユニコーンガンダム――いきますぅ!』

『四条貴音。お髭の機械人形――参ります!』



 二人の戦いを見据える子供達。

 その子供達を見守る小鳥。

 見守られ、戦う二人の姿。



 ガンダムは紡いで行く。



 次世代へと――その力と、思いを乗せて。



 END