1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 00:16:19.51 ID:YYlkUWBW0
ζ*'ヮ')ζ<このお話は『やよい「デスノート?」 』『やよい「デスノートを拾ってから一ヶ月」 』の続きのお話になります



やよい(『デスノート』という不思議なノートを拾ってから二ヶ月が経ちました)

やよい(このノートは、そこに名前を書かれた人が死んでしまうという、とっても恐ろしい力を持ったノートなのですが)

やよい(幸いにも、私はまだ一度もこのノートを使うことなく日々を過ごせています)

やよい(今も私の傍にいる、このノートの元の持ち主である死神さんと一緒に……)

引用元: やよい「デスノートを拾ってから二ヶ月」 



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 00:20:17.28 ID:YYlkUWBW0
~765プロ事務所~

やよい「いーおりちゃん! 一緒に帰ろっ!」

伊織「あ、ごめんやよい。今日は私、ちょっと行くところがあるのよ」

やよい「えーそうなんだー、残念!」

伊織「ごめんね」

やよい「ううん、じゃあまた明日ね! 伊織ちゃん!」

伊織「ええ、また明日。やよい。それとリューク、やよいに変な事しないでね」

リューク「お前はいい加減俺を信用しろよ」

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 00:27:30.18 ID:YYlkUWBW0
~病院~

伊織「こんにちは、大叔母様」

大叔母「あら伊織ちゃん。今日も来てくれたの?」

伊織「ええ。今日は早く帰れたから」

大叔母「そうかいそうかい。いつもすまないねぇ」

伊織「いいのよ、そんな。謝らないでよ」

大叔母「ははは……あんたの笑顔を見ると、生きる気力が湧いてくるよ」

伊織「そんな、大袈裟な」

大叔母「大袈裟なんかじゃないよ。テレビでも、伊織ちゃんが元気に歌っているのを見るたびに、元気がもらえるからねぇ」

伊織「……そう言ってもらえるとアイドル冥利に尽きるわ。にひひっ♪」

大叔母「ふふふっ」

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 00:33:08.68 ID:YYlkUWBW0
大叔母「……まあでも、こうやって……心から私の事を想ってお見舞いに来てくれるのは、伊織ちゃんくらいのもんだよ」

伊織「……息子さん達……また?」

大叔母「……ああ。昨日も来たよ。もう来ないでくれって言ってるのに……」

伊織「…………」

大叔母「今はまだマシだけど、これからどんどんひどくなるだろうねぇ」

伊織「…………」

大叔母「まったく……どうしたものかしらね……」

伊織「…………」

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 00:43:14.10 ID:YYlkUWBW0
伊織「……ねぇ、大叔母様」

大叔母「ん?」

伊織「……やっぱり、ちゃんと息子さん達に言った方がいいんじゃない? ……『遺言状はもう書いてある』って……」

大叔母「…………」

伊織「……その遺言状には、『遺産は兄弟皆で相等しく分けるように』って書いてある……って」

大叔母「…………」

伊織「大叔母様の本当の気持ちを伝えれば、息子さん達だって、きっと……」

大叔母「……駄目なんだよ、伊織ちゃん」

伊織「……大叔母様……」

大叔母「……息子達は皆、自分にとって都合の良い遺言状を私に書かせることしか頭に無い」

伊織「…………」

大叔母「『兄弟皆で相等しく』なんて書いてある遺言状があると知れば……『今すぐ遺言状を書き直せ』と……今まで以上に、強く迫ってくるに決まっている」

伊織「…………」

大叔母「私はもう……疲れたよ」

伊織「…………」

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 00:49:50.09 ID:YYlkUWBW0
大叔母「……ああ、なんだか辛気臭くなってしまったね。……伊織ちゃん、気分を変えるためにも、また一曲歌ってくれないかい?」

伊織「え? ええ……いいわよ。何の曲が良い?」

大叔母「そうねぇ……じゃあ『DIAMOND』を頼むよ」

伊織「……にひひっ♪ 大叔母様ったら、本当にこの曲が好きなのね」

大叔母「ええ、なんだか聴いているだけで、キラキラした気持ちになれるからねぇ」

伊織「ふふっ、わかったわ。じゃあ歌うね? ……Shine 光り輝け光~♪」

大叔母「…………」ニコニコ

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 00:57:33.28 ID:YYlkUWBW0
伊織「……じゃあ、また来るわね」

大叔母「ええ。ありがとう、伊織ちゃん。アイドルのお仕事頑張って」

伊織「ええ。大叔母様も……身体に気をつけてね」


ギィ……バタン


伊織(…………)

伊織(……この前、お医者様に告げられた大叔母様の余命は……長くて、あと半年……)

伊織(……私にできることって、何があるんだろう……)

伊織(…………)

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 01:06:34.89 ID:YYlkUWBW0
~三日後・765プロ~

伊織「…………」

やよい「いーおりちゃん!」

伊織「…………」

やよい「……伊織ちゃん?」

伊織「えっ? あ、ああ、何? ……やよい」

やよい「……伊織ちゃん、何か考え事?」

伊織「え? い、いや、そういうんじゃないけど……」

やよい「そう? ならいいけど……」

伊織「……あ、そうだ。ねぇ、やよい」

やよい「?」

伊織「……もしも、自分があと半年しか生きられないとしたら……やよいは、何をして過ごしたい?」

やよい「うぇえっ!? あと半年ですか? うーん、何だろう……」

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 01:08:22.44 ID:YYlkUWBW0
伊織「…………」

やよい「……やっぱり、いつも通りに過ごしたいかな?」

伊織「……いつも、通り?」

やよい「うん! だって私は、今の生活がすーっごく、楽しいから!」

伊織「…………」

やよい「家族がいて、学校の友達がいて、765プロの皆がいて……そして、伊織ちゃんがいて」

伊織「……やよい……」

やよい「そうやって皆に囲まれてる今の生活が、とーっても楽しいから、だから……」

伊織「…………」

やよい「あと半年しか生きられないんだとしても、その半年は、今までと同じように……いつも通りに過ごしたいかなーって!」

伊織「…………」

リューク「……あの、やよい、俺は……?」

やよい「え、ああ、はい。死神さんも込みでいいです」

リューク「…………どうも」

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 01:18:30.97 ID:YYlkUWBW0
伊織「……そっか、いつも通り……か」

やよい「でも伊織ちゃん、何でこんなこと――」

伊織「やよい!」

やよい「うぇえっ!? な、何ですかー!?」

伊織「私、ちょっと今日行くところができたから、先に帰るわね!」

やよい「えーっ! ま、またですかぁ!? 折角今日は、伊織ちゃんと一緒に帰れると思ってたのにー!」

伊織「ごめんねやよい! また今度埋め合わせするから! それじゃ!」ダッ

やよい「あっ、伊織ちゃ……行っちゃった……」

リューク「……ククッ。あんなに慌ててどこへ行くんだか」

やよい「! ま、まさか伊織ちゃん……」

リューク「?」

やよい「彼氏が……!?」

リューク「…………。(それは絶対無いと思う)」

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 01:25:50.29 ID:YYlkUWBW0
~病院~

伊織(そっか……簡単な事だったんだ)

伊織(大叔母様の命が、あと半年だとしても)

伊織(何も、特別な事をする必要は無いんだ)

伊織(今まで通り……いつも通りに、私がしてきたことをしよう)

伊織(それはつまり……大叔母様に、少しでも元気を与えてあげること)

伊織(そんな……簡単な事だったんだ)

伊織(……にひひっ♪)

伊織(……っと、もう病室の前まで来ちゃったわね……ん? ドアが少し開いてる……誰か来てるのかしら?)

伊織「…………」ソーッ

伊織「! (あれは……大叔母様の息子さん……!)」

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 01:35:02.31 ID:YYlkUWBW0
息子「……なあ母さん。いい加減分かってくれよ」

大叔母「…………」

息子「誰に財産を分け与えるのが、一番水瀬財閥の為になるか……母さんだって、よく分かってるはずだろう?」

大叔母「…………」

息子「僕なら絶対に水瀬財閥をもっと大きくすることができる。天国の親父だって、それを一番望んでいるはずじゃないか」

大叔母「…………」

息子妻「お義母様……」

大叔母「……帰ってくれ」

息子「!」

息子妻「!」

大叔母「……私には、お前の言うような内容の遺言状は書けない。……同じことを何度も言わせんでくれ」

息子「…………」

息子妻「……お義母様……」

大叔母「……用件はそれだけかい?」

息子「……また来るよ」ザッ

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 01:44:46.27 ID:YYlkUWBW0
伊織(! やばっ! 廊下の角に隠れないと……)サッ


ギィ……バタン


息子「はぁ……」

息子妻「ちょっと……どうするのよ、これじゃまた……」

息子「……仕方ないだろ。無理やり書かすわけにもいかないし」

息子妻「でも、こうしているうちにまた義兄さんや義姉さんが……」

息子「分かってるよ。こうなりゃ根競べだ。幸い医者の言う余命にはまだ余裕がある。それまで根気強く説得を続けるしかない」

息子妻「そんな悠長なこと言ってていいの? 医者の言うことなんてアテにならないわよ」

息子「……今まで碌におふくろの世話もしてこなかったお前が偉そうに言うな」

息子妻「なっ……。私のせいだっていうの? あなただって、今まで碌に親孝行なんてしてこなかったくせに!」

息子「お、俺には会社があったんだから仕方ないだろう! ……お前がもっとおふくろに恩を売っておけば、こんな苦労をせずに済んだんだよ!」

息子妻「何よ! 自分の事を棚に上げて――……」

息子「だからお前がもっと――……」

伊織「…………」

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 01:49:09.48 ID:YYlkUWBW0
伊織(……行ったわね)

伊織(…………)

伊織(……気にしちゃダメよ、伊織)

伊織(……大叔母様の息子さん達があんな風だっていうのは、これまで何度も大叔母様から聞かされていたんだし)

伊織(……私は、私にできることをするだけよ)

 コンコン

伊織「大叔母様? 入るわよ?」

 ガチャッ

伊織「こんにちは、大叔母様!」

大叔母「……伊織ちゃん……」

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 01:56:00.17 ID:YYlkUWBW0
伊織「えへへ……また、来ちゃった♪」

大叔母「…………」

伊織「ええと……今日は、何の曲が良い? また『DIAMOND』かしら?」

大叔母「……ええ、そうだね。じゃあまた頼むよ……伊織ちゃん」

伊織「オッケー♪ じゃあ今日は特別にフルバージョンで歌うわね!」

大叔母「…………」

伊織「今~Imagine♪ 世界にある無限の石」

大叔母「…………」

伊織「人 ひとつ 色形違う Aura♪」

大叔母「…………」

24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 02:01:31.19 ID:YYlkUWBW0
伊織「……キラ キラ キラ キラ♪」

大叔母「…………」

伊織「もっと眩しくなれ DIAMOND~♪」

大叔母「…………」

伊織「……はい、おしまい!」

大叔母「……ありがとう、伊織ちゃん。とっても上手だったよ」

伊織「そ、そう? えへへ……」

大叔母「…………」

伊織「…………」

大叔母「…………」

伊織「……えっ、と」

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 02:08:17.00 ID:YYlkUWBW0
伊織「お、大叔母様! 他に何か、歌ってほしい曲はあるかしら?」

大叔母「他に、かい? うーん、そうだねぇ……」

伊織「何でも言って! 私、何曲でも歌うから!」

大叔母「……伊織ちゃん……?」

伊織「あ、えっとほら、その……大叔母様、言ってくれたでしょ? 私が歌っているのを見るたびに、元気がもらえる、って」

大叔母「…………」

伊織「だから、私……大叔母様に、もっと元気になってもらいたいから、だから……」

大叔母「…………」

伊織「……なんて、迷惑……かな?」

大叔母「…………」 フルフル

伊織「大叔母様……」

大叔母「迷惑なんて……そんなことあるはずないじゃないか」

伊織「…………」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 02:14:23.37 ID:YYlkUWBW0
大叔母「ただ……ただね、伊織ちゃん」

伊織「……何? 大叔母様」

大叔母「……私はもう……満足してるんだよ」

伊織「えっ……」

大叔母「これまで色んな事があったけど……なんだかんだで、幸せな人生だった」

伊織「…………」

大叔母「だからもう……いいんだよ」

伊織「…………」

大叔母「伊織ちゃんは、最期まで私に幸せに生きてほしいと、そう思ってくれてるんだろうけど……」

伊織「…………」

大叔母「私自身は、今の時点でもう十分過ぎるくらいに幸せなのさ」

伊織「…………」

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 02:23:48.25 ID:YYlkUWBW0
大叔母「その上、こうやって忙しい中、時間を見つけてはお見舞いに来てくれる、伊織ちゃんのような子までいて……私にはもうこれ以上、望むものなんてないんだよ」

伊織「……で、でも……」

大叔母「……ただ一つ」

伊織「え?」

大叔母「ただ一つだけ、望むものがあるとすれば……」

伊織「…………」

大叔母「私は今、ここで死にたい」

伊織「! …………」

大叔母「これから先、私の身体はどんどん弱っていくだろう」

伊織「…………」

大叔母「やがて身体の自由がきかなくなり、ついにはベッドに寝たきりとなって」

伊織「…………」

大叔母「しまいには、言葉を発することも困難になるかもしれない」

伊織「…………」

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 02:32:28.10 ID:YYlkUWBW0
大叔母「そして死期が近づけば近づくほど……息子たちは今まで以上に、遺言状を書けと私に強く迫ってくるだろう」

伊織「…………」

大叔母「そんな人生が、今より幸福なものになるとは……私にはとても思えないんだよ」

伊織「…………」

大叔母「だからね、伊織ちゃん。そんなに無理に、私に気を遣わなくてもいいんだよ」

伊織「! そんな……無理なんてしてないわ! 私は大叔母様に……」

大叔母「ああ、分かってる。あんたの気持ちは痛いほど分かっているとも」

伊織「……だったら……!」

大叔母「でも現実問題、私の身体の状態が今より良くなることはない。いや、日に日に悪くなる一方なんだ」

伊織「…………」

大叔母「そして私はそう遠くないうちに死ぬ。それが分かっているからこそ……」

伊織「…………」

大叔母「願わくば、今ここで死にたいと……幸せな現在のままで逝きたいと……そう、思うんだよ」

伊織「……大叔母様……」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 02:39:06.52 ID:YYlkUWBW0
伊織「……じゃあ……また、来るわね」

大叔母「……ええ、ありがとう。伊織ちゃん」


ギィ……バタン


伊織(…………)

伊織(……私は、たとえどんな状況であっても、少しでも長く生きられる方が幸せなんだと思っていた……)

伊織(……でも……)

伊織(…………)

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 02:49:34.67 ID:YYlkUWBW0
~翌日・765プロ~

やよい「うぇえっ!? で、デスノートを!?」

伊織「ちょっとやよい! 声が大きい!」バッ

やよい「む、むぐっ……」

P「? 今、誰か叫ばなかったか?」

伊織「ななっな、なんでもないわよ!?」

やよい「…………!」ムグムグ

P「そうか? それならいいんだが……」

伊織「……ふぅ……。まったくもう、やよいったら……」パッ

やよい「……ご、ごめん。伊織ちゃん……」

伊織「まあいいわ、確かにちょっと急だったもんね」

やよい「そ、そうだよ。いきなり、『デスノートを1ページ分欲しい』なんて……」

リューク「……ククッ。いよいよデスノートを使う気になったのか? 伊織」

伊織「違うわよ。その、ちょっと護身用にしようと思っただけ」

やよい「護身用?」

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 02:56:06.63 ID:YYlkUWBW0
伊織「そ。ほら、いつまた前みたいなことが起こるか分からないでしょ?」

やよい「! ああ、あの伊織ちゃん誘拐事件……」

伊織「そういうこと」

リューク「なるほどな。いざというときのための自己防衛用ってわけか」

やよい「まあそういうことなら……。死神さん、デスノートはノート本体から切り取っても効力は同じなんですよね?」

リューク「ああ。名前を書き込めるスペースさえあればな」

やよい「じゃあ、はい。伊織ちゃん」ビリッ

伊織「ありがとう、やよい」

やよい「えへへ……『備えあればうれしいな』だね! 伊織ちゃん!」

伊織「……それを言うなら『備えあれば憂いなし』よ……やよい」

やよい「あ、あれー?」

リューク「ククッ」

伊織「…………」

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 03:03:19.74 ID:YYlkUWBW0
~同日夕刻・事務所からの帰り道~

やよい「じゃあね伊織ちゃん! また明日!」

伊織「ええ、また明日ね、やよい。あとリューク、やよいに変な事したらダメよ」

リューク「……もう俺、ツッコまなくていいか?」

伊織「にひひっ♪」



伊織「…………」 テクテク



伊織「……さて、と……」ゴソゴソ

伊織「…………」

伊織「……ここに、大叔母様の名前を書けば……」

伊織「…………」

伊織「…………」

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 03:12:12.58 ID:YYlkUWBW0
~同日夜・水瀬宅~

伊織(……デスノートは、対象者の死因もある程度操ることができる……)

伊織(つまりそれは、『安楽死』のように、苦痛を伴わない死因の設定も可能であるということ)

伊織(もちろん、明らかに無理の生じるような設定であれば無効になってしまうけど……)

伊織(でも、単純な心臓麻痺から苦痛を取り除くだけの設定なら……まず可能と考えて間違いはないはず)

伊織(……でも……)

伊織(……私の手で、大叔母様の命を奪ってしまうことに変わりはない……)

伊織(……本当に良いの? それで……)

伊織(…………)

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 03:17:27.31 ID:YYlkUWBW0
伊織(確かに大叔母様の言うとおり、残りの人生で、今以上に大叔母様が幸福になれるとは考えにくい)

伊織(それどころかより一層、不幸……とまではいわないにしても、辛く、苦しい思いをする可能性の方がずっと高い)

伊織(身体的にも……精神的にも)

伊織(それならやはり、今ここで終わらせてあげた方が……)

伊織(…………)

伊織(……まあ、でも)

伊織(……今日は、息子さん夫婦が来て滅入っちゃってたのかもしれないし……)

伊織(…………)

伊織(……もう少しだけ、様子を見てみよう……)

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 03:22:12.58 ID:YYlkUWBW0
~一週間後・病院~

伊織(……結局あのまま、一週間が経ってしまった……)

伊織(まあでもやっぱり、デスノートを使うなんてやめた方がいいのかな……)

伊織(どんな形であれ、人殺しには違いないんだし……)

伊織(…………)

伊織(……いや……いいや)

伊織(とりあえず、大叔母様に会ってから考えよう)

 コンコン

伊織「大叔母様? 入るわよ?」

 ガチャッ

伊織「こんにちは、大叔母様!」

大叔母「……伊織ちゃん……」

伊織「! 大叔母様……」

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 03:34:31.51 ID:YYlkUWBW0
伊織「(見るからに、覇気が……)だ、大丈夫? 具合でも悪いの?」

大叔母「…………」

伊織「? 大叔母様?」

大叔母「……さっきまた、息子が来てね……」

伊織「! そ、それで……」

大叔母「例によって、『早く遺言状を書いてくれ』の一点張りだったから……つい、言っちまったんだ」

伊織「な……何て?」

大叔母「『この先死ぬまでこんな風に言い続けられるくらいなら、いっそ今死んだ方がマシだ』……ってね」

伊織「…………」

大叔母「そしたらあいつ……『だったら尚更早く遺言状を書いてくれ。そしたらいつ死んでくれてもいいんだから』だってさ」

伊織「! …………」

大叔母「まあ確かに、息子にとっちゃ、私が遺言状を書きさえすれば、すぐにでも死んでくれた方がいいだろうからね」

伊織「…………」

大叔母「生きている限り、遺言状はいくらでも書き直せてしまうからね」

伊織「……そんな……」

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 03:44:36.22 ID:YYlkUWBW0
大叔母「……伊織ちゃん」

伊織「な、何? 大叔母様……」

大叔母「前にも言ったけど……やっぱり、私はもうこのへんで終わりたいよ」

伊織「…………」

大叔母「日に日に弱っていく自分を実感するのも辛いし、それに伴って、日に日に必死になっていく息子たちの顔を見るのはもっと辛い」

伊織「…………」

大叔母「この先時間が経てば経つほど、私は死に近づいていくし、息子たちもより一層、私に対して醜い本音をぶつけてくるだろう」

伊織「…………」

47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 03:45:15.77 ID:YYlkUWBW0
大叔母「そんな余生しか、もう残されていないのなら……」

伊織「…………」

大叔母「いっそ今、ここで……」

伊織「…………」

大叔母「なんて……ごめんね、伊織ちゃん。折角来てくれたのに、こんな話ばかり……」

伊織「え、あ、いや……」

大叔母「……折角来てくれたんだ。また歌ってくれるかい? いつもの曲」

伊織「……ええ。歌うわ。大叔母様のためなら私、何度でも……」

大叔母「ありがとう……伊織ちゃん」

伊織「……じゃあ、歌うわね。……今~Imagine♪ 世界にある無限の石……」

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 03:47:41.68 ID:YYlkUWBW0
伊織「……じゃあ……またね。大叔母様」

大叔母「……ええ、ありがとう。伊織ちゃん」


ギィ……バタン


伊織(…………)

伊織(…………)

伊織(…………)

伊織(…………)

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 03:55:25.78 ID:YYlkUWBW0
~翌日・765プロ~

やよい「おはようございまーっす!」

伊織「…………」

やよい「? 伊織ちゃん?」

伊織「…………」

やよい「ねえ、伊織ちゃんってば!」

伊織「え? あ、ああやよい……お、おはよう」

やよい「…………」

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 03:56:12.64 ID:YYlkUWBW0
伊織「? な、何……?」

やよい「伊織ちゃん、昨日寝てないの……?」

伊織「えっ」

やよい「目のクマ、すごいよ」

伊織「! あ、えっと、これはその……昨日、学校の課題してたら、つい遅くなっちゃって、それで……」

やよい「…………」

伊織「やよい?」

やよい「……ちょっと来て!」グイッ

伊織「きゃっ!?」

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 04:02:41.10 ID:YYlkUWBW0
~屋上~

伊織「な、何なのよやよい……急にこんなとこまで連れてきて……」

やよい「それはこっちの台詞だよ」

伊織「……え?」

やよい「何でウソつくの?」

伊織「! ……う、ウソなんて、私……」

やよい「ウソだよ。だって伊織ちゃん、学校の課題なんて、いつももらってすぐに終わらせてるじゃない」

伊織「! …………」

やよい「……眠れなかったのは、別の理由なんでしょ?」

伊織「……それは……」

やよい「……もしかして、この前のノートの切り取りが関係してる?」

伊織「!」

やよい「……やっぱり」

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 04:11:53.84 ID:YYlkUWBW0
伊織「な、何を言って……」

やよい「……伊織ちゃん。あのとき切り取ったノート……あれ、『護身用』じゃないよね」

伊織「!? な、何言ってるのよやよい。言ったでしょ? またいつ前みたいなことが起こるか分からないから、って……」

やよい「うん。でもそうだとしても、デスノートはいざというときの護身用には不向きだよ。だってデスノートで殺すには、対象者の『顔』と『名前』が要るんだから」

伊織「! …………」

やよい「突然、見知らぬ誰かに襲われた場合……顔はともかく、名前なんて知りようがないよ。そんな犯罪を犯すような人が、みすみす身分を明かすなんてまず考えられないし」

伊織「……そ、それはだから、目の取引で……」

やよい「目の取引はノートの所有者じゃなきゃできないよ」

伊織「! …………」

55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 04:24:36.04 ID:YYlkUWBW0
やよい「伊織ちゃんが本当にそういう事態――見知らぬ何者かに襲われた場合――を想定していたのなら、ノートの所有権ごと、私から譲渡を受けるべきだった。この前一度、そうしたように」

伊織「…………」

やよい「でも伊織ちゃんはそうしなかった。それは何故か?」

伊織「…………」

やよい「答えは簡単。そこまでする必要が無かったから」

伊織「…………」

やよい「つまり、伊織ちゃんは目の取引を前提とせずにノートを使うつもりだった」

伊織「…………」

やよい「そして『目』が無くても殺せる相手とは……現時点で、顔も名前も分かっている相手……つまり、顔見知りしかありえない」

伊織「! …………」

58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 04:30:04.56 ID:YYlkUWBW0
やよい「だから伊織ちゃんは、『護身用』なんかじゃなく、最初から、顔見知りの誰かを殺すつもりでノートの1ページ分を切り取った……違う?」

伊織「…………」

やよい「…………」

伊織「…………」

やよい「…………」

伊織「……もう。何で普段はのんびりしてるくせに、こういうときだけ妙に聡くなるのよ、あんたは……」

やよい「……そりゃそうだよ。だって、伊織ちゃんのことだもん」

伊織「! …………」

やよい「私の一番の親友の……伊織ちゃんのことだもん。聡くも……なるよ」

伊織「……やよい……」

リューク(……こいつら、俺もいること忘れてないか……?)

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 04:34:43.78 ID:YYlkUWBW0
伊織「……そうよ。あんたの言う通りよ、やよい。私が殺そうと……いえ、『殺してあげようと』していたのは……確かに私の、顔見知りの人だわ」

やよい「? 殺して……『あげようと』?」

伊織「…………」コクリ

やよい「……どういうこと? 伊織ちゃん……」

伊織「……これは、私の大叔母様、つまり、私の御祖母様の妹さんの話なんだけど――……」

61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 04:43:55.80 ID:YYlkUWBW0
伊織「……と、いうわけなのよ」

やよい「…………」

リューク「……なるほどな。それでデスノートが必要だったってわけか」

伊織「そういうこと。まあ、まだ使ってはいないけど……」

やよい「…………」

伊織「……でも、もうそろそろ、覚悟を決めた方がいいかなって……」

やよい「…………」

伊織「やっぱり、どう考えても……これ以上生きていたところで、大叔母様は辛い思いをするだけだと思うし……」

やよい「…………」

伊織「そんな思いをしながら、長くてあと半年の人生を生き続けるくらいなら……」

やよい「…………」

伊織「それに、突然容体が悪化して、お医者様が言っていた時期より早く、死んでしまう可能性だってあるの」

やよい「…………」

伊織「……そのときは当然、苦しい思いをしながら死ぬんだと思うし……」

やよい「…………」

62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 04:53:02.09 ID:YYlkUWBW0
伊織「それならいっそ、今、楽に……」

やよい「…………」

伊織「…………」

やよい「…………」

伊織「……なんて……やっぱりおかしいわよね? こんな考え……」

やよい「…………」

伊織「どんな理由であれ、殺人は殺人だもの……」

やよい「…………」

伊織「神様でもないのに、他人様の命を操作するなんて……許されることじゃないものね」

やよい「…………」

63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 04:53:55.37 ID:YYlkUWBW0
伊織「多分、私が今日まで、このことをやよいに話せなかった理由も……ここにあるんだと思う」

やよい「…………」

伊織「私は……怖かったんだと思う。やよいに、自分の考えを否定されるのが。……間違ってる、って言われるのが」

やよい「…………」

伊織「……でも、もう覚悟は決まったわ」

やよい「…………」

伊織「だからやよい……はっきり言って? 私は……間違ってる、って」

やよい「…………」

64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 05:03:06.27 ID:YYlkUWBW0
やよい「確かに、私は……伊織ちゃんの言うようにすることが、絶対的に正しいことだとは思えない」

伊織「! …………」

やよい「でも……間違ってもいないと思う」

伊織「! やよい……」

やよい「だって……人を殺すのは悪い事だけど……でも、人を幸せにすることは、悪い事じゃないから」

伊織「…………」

やよい「伊織ちゃんは、大叔母様を、少しでも幸せな状態のまま死なせてあげたくて……その方法を考えついたんだよね?」

伊織「…………」コクリ

やよい「だったらやっぱり伊織ちゃんは……間違ってないと思う」

伊織「……やよい……」

やよい「人の幸せを願うことが、間違いのはず……ないもの」

伊織「! …………」

やよい「だから……伊織ちゃんが、本当にそうすることが一番、大叔母様の幸せのためになると思えるのなら……私に、それを止める理由は無いよ」

伊織「……やよい……」

65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 05:10:41.84 ID:YYlkUWBW0
伊織「……ありがとう。私、今日もう一度、大叔母様の病室に行くわ」

やよい「うん」

伊織「そしてそこで、こうすることが一番大叔母様の幸せになると確信できたら、そのときは……」

やよい「うん」

伊織「ありがとう……やよい」

やよい「ううん……私は何も」

伊織「あんたのおかげで、踏ん切りがついたわ。だから……ありがとう。やよい」

やよい「……ん」

リューク「…………。(だから俺もいるんだけどな一応……まあ、いいけど) 」

66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 05:16:21.19 ID:YYlkUWBW0
~同日夕刻・病院~

伊織(……いいのよね……これで……)

伊織(やよいの言う通り、確かに人の命を奪うのは悪い事だけど、でも……)

伊織(たとえ悪人になってでも、私は……)

伊織(大叔母様に……幸せに逝ってほしい)

伊織(だから……!)

 コンコン

伊織「大叔母様? 入るわよ?」

 ガチャッ

伊織「こんにちは、大叔母様!」

大叔母「……はぁ……はぁ……!」

伊織「……大叔母様!?」

67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 05:24:20.25 ID:YYlkUWBW0
伊織「ちょ、ちょっと大叔母様!? どうしたの?」

大叔母「はぁ……はぁ……い、おりちゃ……」

伊織「呼吸が……!? す、すぐにナースコールを!」バッ

 ガシッ

伊織「!?」

大叔母「…………」フルフル

伊織「な……!?」

大叔母「……いい……いいんだよ……」

伊織「な、何言ってるのよ! このままじゃ……」

大叔母「このままで………いいんだ……伊織ちゃん……」

伊織「で、でも……」

大叔母「このまま……逝かせておくれ……!」

伊織「! …………」

大叔母「もう………十分だ、から……」

伊織「大叔母様……!」

68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 05:26:35.23 ID:YYlkUWBW0
大叔母「ああ……最後に……はぁ……会えて……はぁ……よかった……」

伊織「大叔母様! もう喋らないで!」

大叔母「……いお、り、ちゃん……」

伊織「…………!」

大叔母「……だい、やもんど……歌ってくれて……」

伊織「いやぁ……!」







大叔母「……ありが、とう……」

70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 05:34:44.96 ID:YYlkUWBW0
~三日後・765プロ事務所の屋上~

伊織「…………」

やよい「伊織ちゃん」

伊織「……やよい」

やよい「…………」

伊織「…………」

やよい「……えっと、その……」

伊織「……やっぱり私、間違ってたのかな」

やよい「……え?」

伊織「……私には、選択肢があったのよ」

やよい「…………」

伊織「……もっと早くに、もっと楽に……大叔母様を死なせてあげられる、選択肢が」

やよい「…………」

71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 05:40:22.43 ID:YYlkUWBW0
伊織「でも、結局私がその選択肢を選ぶ前に……大叔母様は逝ってしまった」

やよい「…………」

伊織「とても苦しそうに、呼吸を大きく乱しながら……ね」

やよい「……伊織ちゃん……」

伊織「もし私が、もっと早く、デスノートを使っていれば……大叔母様は、あんなに苦しまずに済んだのよ」

やよい「…………」

伊織「もっと楽に、心安らかに……逝くことができた」

やよい「…………」

伊織「だから、やっぱり私は――……」

やよい「……伊織ちゃんは間違ってないよ」

伊織「……やよい」

やよい「……確かに、最後は苦しかったかもしれないけど……大叔母さん、きっと幸せだったと思うよ」

伊織「……えっ?」

やよい「だって最後に……伊織ちゃんに『ありがとう』って言えたんだもん」

伊織「! …………」

72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 05:47:48.83 ID:YYlkUWBW0
やよい「大叔母さん自身、『もうこれで死ぬんだ』って分かったからこそ、伊織ちゃんに『ありがとう』って言えたんだよ」

伊織「…………」

やよい「もしデスノートの力で安楽死してたら、多分、『死ぬ』っていう自覚も無いまま死んじゃってただろうから……最後に、伊織ちゃんに『ありがとう』って言うことも、できなかったんじゃないかな」

伊織「…………」

やよい「苦しくて、苦しくて……『死』がもうすぐそこまで迫ってるって分かったからこそ、伊織ちゃんに、『これだけは伝えなきゃ』って思って、伝えたんだよ。きっと……」

伊織「…………」

やよい「だから……これでよかった。うん。これで……よかったんだよ」

伊織「…………」

73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 05:51:58.51 ID:YYlkUWBW0
伊織「……やよい」

やよい「? 何? 伊織ちゃん」

伊織「……今ここで、デスノートの所有権を私に譲渡してくれる?」

やよい「えっ!?」

リューク「ウホッ!?」

やよい「……えっと、伊織ちゃ……」

伊織「理由は聞かないで。お願い……」

やよい「……分かった」スッ

75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 05:57:08.03 ID:YYlkUWBW0
伊織「……これで、デスノートの所有者は私になった。と同時に、やよいにはリュークの姿が見えなくなったはず」

やよい「うん。確かに見えなくなったよ。伊織ちゃん」

リューク「…………」

伊織「そして私も、このノートの所有権を放棄するわ」ポイッ

やよい「えっ!」

リューク「!?」

伊織「……よし。これで私にも、リュークの姿は見えなくなった」

やよい「……あの、伊織ちゃん、一体……」

リューク「…………」

伊織「…………うっ……」

やよい「えっ」

伊織「う……う……うぇええええええん」ガシッ

やよい「きゃあ! い、いおりちゃ……」

伊織「うぇええええええ」

やよい「…………」

77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 06:00:22.05 ID:YYlkUWBW0
伊織「お、大叔母様……うぐっ、ぐすっ……うぇえええええええ」

やよい「……伊織ちゃん……」

リューク「…………」

伊織「うぅぅう……うわあああああああん」

やよい「伊織ちゃん……」

伊織「うぐっ、ひぐっ、ぐすっ……」

やよい「……やっと、泣くことができたんだね……」

伊織「うぅう……うぇええええええええええ」

やよい「よしよし」

伊織「うぇえええええええん」

リューク「…………」

78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 06:09:42.98 ID:YYlkUWBW0
~十分後~

やよい「……落ち着いた? 伊織ちゃん……」

伊織「……うん。ありがとね……やよい……ぐすっ」

やよい「……伊織ちゃんにとって、本当に大切な人だったんだね……大叔母さんって」

伊織「……うん。私が小さい頃から、忙しい両親の代わりに、よく私の面倒をみててくれて……私の、親代わりみたいな人だったの」

やよい「……そっか」

伊織「……ありがとね、やよい。あんたのおかげで、私……やっと素直に、悲しむことができた」

やよい「そんな、私は別に、何も……」

伊織「……ふふっ。今回は、やよいに助けられてばっかりだったわね」

やよい「そんなことないよ……って、あ」

伊織「?」

79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 06:14:01.48 ID:YYlkUWBW0
やよい「いや、えっと……伊織ちゃん」

伊織「? 何?」

やよい「伊織ちゃん、死神さんに泣いてるとこ見られたくないから……わざわざノートの所有権放棄したんだよね?」

伊織「……まあね」

やよい「……でも多分、今も死神さんここにいるんじゃないかな……私達からは見えないってだけで」

伊織「ああ、それは別にいいのよ」

やよい「いいの!?」

伊織「だって見えないものはいないのと同じじゃない。私は目に見えないものは信じない主義だから。幽霊とかと同じでね♪」

やよい「あ、ああ、そうなんだ……」

伊織「そうよ! にひひっ♪」

リューク「…………」

80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 06:21:02.21 ID:YYlkUWBW0
伊織「ただまあそうは言っても、このままこのノートをここに放っておくわけにはいかないわね」

やよい「そうだね。ここだとまた他の誰かが拾っちゃいそうだし」

伊織「もうこれ以上、こんなのに関わる人間を増やすべきじゃないものね」

リューク「…………」

やよい「よーし、じゃあノートに触れてまた所有権を……」

伊織「あ、待ってやよい」

やよい「? 何? 伊織ちゃん」

伊織「今度は私が所有権を持つわ。最初からずっと所有者のままじゃ、色々と疲れるでしょ?」

やよい「……んー、いや、いいよ。伊織ちゃん」

伊織「え?」

やよい「元々、このノートを最初に拾ったのは私だし、それに……」

伊織「? それに?」

やよい「私……死神さんがずっと傍にいる生活に慣れちゃったから、今更離れられちゃうと、ちょっと寂しいかなーって!」

リューク「!」

伊織「やよい……」

82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 06:29:42.59 ID:YYlkUWBW0
やよい「だから……いつか死神さんが、私達に飽きて死神界に帰っちゃうそのときまでは、私が所有者でいたいかなーって!」

伊織「……わかったわ、やよい。それならもう何も言わないわ」

やよい「えへへ……」

伊織「じゃあまず、先にやよいがノートに触って……」

やよい「はい」スッ

伊織「次に私が……」スッ

やよい・伊織「……あっ?」

リューク「…………」

伊織「ちょ……あ、あんた……何で泣いてんの!?」

リューク「……いや、ちょっと目にゴミが入って……」

伊織「……死神なのに?」

リューク「……死神なのに」

伊織「……ま、まあ、別にいいけど……。(私も散々泣いたしね)」

やよい「えへへ……じゃあ改めて、これからもまたよろしくお願いしますね! 死神さん! はいたーっち!」

リューク「…………」パチン

84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 06:33:24.08 ID:YYlkUWBW0
伊織「あれ? あんたの身体って触れたの?」

リューク「……俺は自分の意思で身体を自由に実体化できる」

伊織「……なんで今になってそれを……」

リューク「いや、別に……」

伊織「…………」

リューク「…………」

やよい「よーし! じゃあ皆元に戻ったところで、事務所に戻りましょー!」

伊織「……そうね」

リューク「……ああ」

85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 06:43:20.90 ID:YYlkUWBW0
リューク(……やれやれ)

リューク(……ノートを再び拾われた以上、また暫くはやよいにつくしかなさそうだな)

リューク(……面倒だが、それが死神界の掟だからな)

リューク(……ククッ)



伊織「……ちょっとあんた、何一人でニヤニヤしてるのよ」

リューク「何言ってるんだ。俺は元々こういう顔だ」

伊織「……ふん。いい? またやよいにつくことになったからって、やよいに変な事したら承知しないんだからね!」

リューク「だからしないって。いい加減俺を信用しろよお前」

伊織「あのねぇ。死神なんて得体の知れない存在をそう簡単に信用できるわけ――」

やよい「こらー! 伊織ちゃんも死神さんも、けんかしちゃめっ! ですよー!」

伊織・リューク「はーい」

86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/10(日) 06:44:39.10 ID:YYlkUWBW0
やよい「あ、そうだ! 死神さんは、今日のお夕飯何がいいですかー?」

リューク「俺? りんご」

やよい「じゃあもやし祭りにしますね!」

リューク「…………」



リューク(……まったく、またこんな調子の生活が続くのか……)

リューク(…………)

リューク(……ククッ)