1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:01:02.43 ID:1fq7WKdEO
男「猫になりたいなぁ。

  目がさめたらなってないかな」

後輩「まーたそんなワケわかんないことを言って。」

男「だっていいじゃないか……

  寝てるだけでまんまにありつけて」

後輩「飼い猫の話ですか?」

男「金持ちの飼い猫。」

後輩「自由じゃないですよー」

男「飯と引き換えなら、そこいらの背広さんと一緒だろ?」

後輩「じゃあセンパイ、働いてみてくださいよ」

男「やーだめんどくさい。俺は猫がいいのー」

後輩「もう。

   じゃ、バイト行って来ますからね。」

男「おー。」


引用元: 後輩「センパイ、今日なに食べたいですか?」 





3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:03:22.16 ID:1fq7WKdEO
男「おそーい」ガターン



男「……」ぐーきゅるるる



男「なにやってんだアイツ……

  今にも背と腹がくっついて肋骨と背骨の輪郭が真空パックしたみたいにくっきり」



ガチャ



後輩「ただいまかえりましたよー。

   ああ寒い寒い」

男「腹へったぞ」

後輩「はいはい。んーとですね、パスタでいいですかね?」

男「えー……」

後輩「ありゃ。じゃあ何かリクエストは?」

男「あー……んー……やっぱいいや」

後輩「さては考えるのが面倒になったんですね」

男「腹へって脳がまらわ……まわ……まらわならい」

後輩「食べ終わったら明日食べたいもの教えてくださいよ」

男「気分で変わるからなー味覚が」

後輩「明日になってお腹へったら、また何食べたいかわかんなくなりますよー」

男「そこはさ……察してくれ」

後輩「ものぐさですね、もう」


4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:05:45.86 ID:1fq7WKdEO
男「ごーち」

後輩「ごちそうさまでした。

   お味はいかがでしたか?」

男「まあまあだな」

後輩「そーですか。」

男「うむ。」

後輩「洗い物しときますから、先にお風呂入っちゃってください」

男「あいよ」ガタン

後輩「そうだ、シャンプーの詰め替えしないと。

   あー、ちょっとたんまですったら」

男「いーよ汗かいてないし、1日ぐらい」

後輩「だーめーでーすー。

   ほら、ちょっと空いたボトルよこしてくださいな」

男「んあー。ほい。」


6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:09:03.99 ID:1fq7WKdEO
後輩「んー……むむむ……」

男「難しい顔して、どした?」

後輩「いや、会計学のレポートがですね」

男「パース、パスパスパス」

後輩「ですよねー」

男「数字、式、レポート……俺の一番嫌いな言葉の葬列だ」

後輩「面白いですよ、会計。」

男「ややっこしいのは勘弁してくれ。

  うちの家計簿が安泰なのはわかったから。」

後輩「安泰って言ってもですね、結構厳しいんですよ?」

男「現実禁止だ、禁止。俺は夢に生きる」

後輩「もー。」


8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:13:29.49 ID:1fq7WKdEO
男「なぁ、あそこの信号おかしくね?」

後輩「と、言いますと」

男「いや、見てみ、ほらベランダから。」後輩「んん?」

男「あれあれ。今ちょーど青になっただろ?」

後輩「あぁ、はい。」

男「所がだ。……見ろ、もう点滅し始めたぞ。まだ先頭の人が渡り終わったばっかりだぜ」

後輩「もう赤になりましたね」

男「この赤がまた異様に長いわけだ。

  なぁ、おかしくね?」

後輩「うーん……確かに、ちょっと青が短すぎる気はしますね」

男「なー。

  あれを待たずに渡れたら、その日1日勝った気になれそうだ」

後輩「センパイ、身を乗り出して落ちないでくださいよ。

   あと、洗濯物が干せないのでできましたら一旦部屋に入ってください」

男「あーい。」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:21:02.51 ID:1fq7WKdEO
後輩「あれ?センパイ、何を読んでるんですか?」

男「歎異抄。」

後輩「たんにしょう! 親鸞さんですか」

男「まぁ読んでるんじゃなくて眺めてるだけだが」

後輩「なんか逆にかっこいいですね」

男「他力本願の教えを広げる、ってなんか矛盾してね?

  そこは仏さんやらに任せちゃダメなの?」

後輩「あれでしょ、他人を頼るって意味じゃあないんですよそれ。」

男「NIRVANAを聴きながら歎異抄、うーん、実にやっちゃった感がある」

後輩「やっちゃった感ですね。」

男「聖☆お兄さんでも読むかー」

後輩「じゃ、バイト行ってきまぁす」

男「いってらー」


11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:22:35.52 ID:1fq7WKdEO
男「ぐわぁああああ」

後輩「どうしたんですか今度は」

男「80階で盾はじかれて敵に当たって消えた……」

後輩「シレンですか?」

男「厳しいなぁ……」

後輩「現実はもっと厳しいですよー

   最初の階にアークドラゴンがいるぐらい」

男「俺は冒険はしないでおうちにいるよ」

後輩「掃除機かけるからちょっと立ってくださいな」

男「あい。」


12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:23:49.48 ID:1fq7WKdEO
男「よく毎日大学行くよなー」

後輩「楽しいですよ、大学」

男「こんなに寒いのに……」

後輩「別に青空教室じゃないんですから」

男「でも……寒いだろう」

後輩「そんなことありませんよー」

男「そうかなぁ……」

後輩「そうですよ。」

男「こたつよりあったかい?」

後輩「いい勝負ですね」

男「そうやって甘言を弄して、俺を寒いところに連れて行こうとする……」

後輩「大げさですねぇもう。

   じゃあ、行ってきますよ」ガチャ

男「風邪ひくなよー」


13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:25:07.68 ID:1fq7WKdEO
男「暇だなー

  雨降ってるし。」



ポツリ、ポツリ、ポツリ、



男「よーし、こうなったらアイツが帰って来るまでの間、

  ひさしから落ちる水滴を数える作業に勤しむとしよう。

  用意、どーん」





ポツリ、ポツリ、ポツリ、ポツリ、……





ガチャ





後輩「帰りましたよー」

男「雨が止んじまったからまた暇になるところだった」

後輩「センパイ、雨好きでしたっけ?」

男「いや、水滴をだな」

後輩「あ、虹出てますよ虹! でっかいなぁ」

男「おお」


16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:30:14.25 ID:1fq7WKdEO
男「なんだありゃあ。トキ?」

後輩「サギか何かですかね。」

男「よく飛ぶなぁ」

後輩「センパイ、鳥にはなりたくないんですか?」

男「飛ぶのは大変そうだ

  渡り鳥とかありえなくね?」

後輩「センパイには合わなさそうですねぇ」

男「だしょうよ。俺は猫がいい」

後輩「センパイには猫が似合ってますね」男「ところで、今晩はからあげがいい」

後輩「なんか話の流れ的に嫌ですが、冷蔵庫に鶏肉がありますね……」


17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:31:19.84 ID:1fq7WKdEO
男「みかんむいてくれー」

後輩「? もうむいてるじゃないですか」

男「この白いスジをだな」

後輩「あー、こだわりますねぇセンパイ」ちむちむ

男「細かい作業好きそうだな」

後輩「どちらかとゆーと」ちむちむ

男「……」

後輩「……できたー」

男「おお、実にうつくしい。いただきまーす」


18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:33:23.07 ID:1fq7WKdEO
男「ふーむ」

後輩「こんな寒いのに窓なんかあけてどうしたんですか?」

男「いや、今晩のご飯のメニューをだな。」

後輩「まだお昼ですよ」

男「そうなのだが、とりあえず今後の参考にするために

  『今まででうまかった後輩飯ランキング脳内編』を編纂してたわけだ」

後輩「あ、それはちょっと気になりますね」

男「だろう? じゃあ、後輩の

  『今までうまく作れたと思う料理ランキング』と対照してみよう」

後輩「えええっ

   なんか色々と怖いですねそれ……」

男「後で聞くから3位まで決めといて」

後輩「はーい。どうしよっかな……」

男「難しいだろ、なかなか」

後輩「うーん……」


19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:34:43.89 ID:1fq7WKdEO
男「さぁ時間だ」

後輩「ううう。わかりましたよう」

男「言っておくが、『うまく作れたと思う料理ランキング』だからな。

  俺のリアクションは関係無いぞ。

  自分自身のあまねく研ぎ澄ました味覚だけが指標だ」

後輩「そこが怖いんですよねぇ。」

男「では、第三位! デゥレレレレレ」

後輩「スネアのロールですかそれ」

男「デーレン!」

後輩「……」ごくり

男「あ、お前から発表な」

後輩「そんなっ」

男「第三位は?」

後輩「ぼ……ボンゴレロッソ」

男「……なんだっけそれ」

後輩「トマトソースで貝の入ってたパスタですよ、こないだ作った」

男「あ、あれか……あれかな?」

後輩「センパイの三位は?」

男「素麺。」

後輩「ええええ」

男「だってあれうまいんだもん。

  つゆの生姜風味と半熟の金糸卵がよかった」

後輩「あれ、存外まともな講評で困る」


20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:36:37.08 ID:1fq7WKdEO
男「さて、第二位の発表だ」

後輩「……」

男「? 早くしてよ」

後輩「あ、スネアないんだ。

   第二位はですね……野菜のかき揚げです」

男「おお。」

後輩「おお?」

男「あれかー」

後輩「あれです。

   センパイの二位は?」

男「高野豆腐」

後輩「あれお惣菜屋さんのですよ」

男「だってわかんないじゃんか、俺そんなの。」

後輩「うーん……なんか釈然としませんが、まぁ仕方無いでしょう」


21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:37:36.75 ID:1fq7WKdEO
男「うむ。」

後輩「じゃあ、一位は……?」

男「カレー。こないだの鶏肉のやつ。あれうまかった。

  っつーか順番入れ替わってんじゃねーか」

後輩「でもこっちも一位それですよ」

男「何、まことか」

後輩「まことにごさいまする」

男「そうかー。ここに来て生産者と消費者の目線が合ったな」

後輩「あーなんかよかったー。

   あのカレーはですね、なかなか頑張りましたよ」

男「なかなか頑張ってた味がしたぜ」

後輩「それで、今晩のご飯はどうしましょう?」

男「……もう考えるの疲れた」

後輩「ありゃりゃ」


27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:44:25.47 ID:1fq7WKdEO
後輩「センパーイ、朝ごはん机に出しとくから食べてくださいねー。」

男「……んんん……」ごろーん

後輩「あらら。風邪ひきますよ」ふわさぁ

男「……」

後輩「じゃ、いってきまーす」ガチャ

男「……」手をふりふり

後輩「さーて、今日も乾坤一擲生きるぞーっと」



……バタン。


28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:45:42.16 ID:1fq7WKdEO
男「ややっ、これ見よがしに冷蔵庫に書き置きが。なになに?」





『センパイへ



 今晩はいつもよりかなり遅くなりますから、

 お腹がすいたら何か買って食べちゃってください



 後輩より』


30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:46:38.39 ID:1fq7WKdEO
男「……どーしたもんかなぁ

  今晩何食べたいか考えて今晩までの時間を潰そうとした矢先にこれだもの。」





うろうろ

うろうろ





男「だいたいなんでこれ見よがしに諭吉さんも磔刑にされてるんだ。

  アイツ英世さんと諭吉さんを逆に覚えてるんじゃなかろうか。」





うろうろ

うろうろ





男「もしレジで元気に『1万円はいりまーす!』なんて言われたら、

  俺はいったいぜんたいどうしたらいいんだろう……」





うろうろ

うろうろ


35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:48:30.05 ID:1fq7WKdEO
男「……待てよ?

  そーいえばアイツ、こないだ遅くなった時に何か言ってたな。

  えーと、なんだったか……」ほわんほわんほわわーん





後輩『あー! センパイご飯まだなんですかっ?

   ちゃんと食べないとダメじゃないですか!

   もー、食べるのまで面倒くさがって!

   なにが「餓死するぅ」ですか、お金も置いといたのに……

   ……え? 書き置きに気付かなかった? ありゃりゃ……』


36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:50:08.28 ID:1fq7WKdEO
後輩『今回は書き置きちゃんと見たでしょ!

   じゃあなんで……って、やっぱり面倒くさがってるだけじゃないですか!

   もーおーっ!

   次はもう1日どこかで遊んで来てくださいったまには外でっ

   それで、そのついでに何か食べて来てくださいねっ!

   さすがに外に出たらいくらでも何かあるでしょ、センパイっ』



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:51:00.80 ID:1fq7WKdEO
ほわんほわんほわわーん





男「謎はすべからく解けたぜ。

  つまりこれは、軍資金だな。



  ……うーん……俺は黙っててもご飯が出て来るのがいいのになぁー

  外かぁ……悪いばい菌がそこかしこに……やれやれ」


38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:52:45.13 ID:1fq7WKdEO
ガチャリ



後輩「ただいまかえりましたー

   センパイ、ちゃんとご飯食べて……あー!」

男「おかー」

後輩「またご飯食べてないんでしょ!」

男「や、まて、誤解だ」

後輩「なにがですかっ」

男「お、怒らないでくれよぅ。

  今日はちゃんと出掛けて来たよぅ」

後輩「じゃあなんでお金がそのまま……」

男「そのままだったらまた怒られると思ったから……」

後輩「……あれれ?」


39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 17:53:45.78 ID:1fq7WKdEO
男「増やしたら怒られないかなー、と……ダメ?」

後輩「ど、どうやったら諭吉さんがいきなり6人に分裂するんですか?」

男「競馬でちょっと……」

後輩「はぁー、……センパイ強いですね……

   それで、晩ご飯は何を?」

男「あ、食べるの忘れてた。」

後輩「もう、バカっ!」

男「ああ、しまった、何食べたいか考えるのも忘れてた……」

後輩「今晩は生姜焼きにしますっ

   ほんとにもーっ」


43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 18:58:33.53 ID:1fq7WKdEO
後輩「あら、めずらしく早起きですね」

男「うー……」ぽやー

後輩「朝ご飯食べます?」

男「うーん」

後輩「じゃあ温めなおしますね」

男「あー……」

後輩「今晩は早めに帰ってきますよー」

男「おー」

後輩「顔洗ってきてくださいな」

男「あい」


44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 18:59:17.32 ID:1fq7WKdEO
男「ふー。ご飯できた?」

後輩「できましたよー。

   おっと、もう大学行かないと」

男「いってらー」

後輩「いってまいりまーす」



……バタン



男「……うーん。

  アイツもついに俺の寝起きの『うーん』を翻訳できるようになったか」もぐもぐ


45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:00:57.03 ID:1fq7WKdEO
後輩「おはよーう」

友「おはよ。今日はちょっと遅いね」

後輩「ちょっと朝ご飯に手間取っちゃって」

友「大変だね」

後輩「んー、そーでもないよー。」

友「そっか。」

後輩「楽しいしね、ご飯作るの」

友「いい嫁になるよ後輩は」

後輩「なははー」

友「ただねぇ」

後輩「ん?」


46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:01:59.70 ID:1fq7WKdEO
友「後輩は相手を甘やかしすぎる気がする」

後輩「ええー、そんなことないよう」

友「だって私がしばらく泊まり込んだ時だって、

  すごい甘やかしっぷりだったでしょ。

  おかげで私のダメ人間っぷりもあんな白日のもとに露呈しちゃって」

後輩「そうだったかなぁ。

   いやー、でも友はお客さんだったし」

友「ほらほら、それそれ。」

後輩「えー」

友「後輩はダメダメな男とくっつきそうだなぁ」

後輩「ないない」









男「くしゅんっ

  あー、ティッシュティッシュ……あー」


47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:03:00.11 ID:1fq7WKdEO
友「じゃあ後輩はどんな男がいいの?」

後輩「いきなりだねぇ」

友「いやー、後輩はもてるからね、ぽやぽやしてて」

後輩「ぽやぽやってなによう」

友「ぶっちゃけ、サークルの先輩に紹介しろって言われてたりするわけでして」

後輩「誰を? 私を? へんなのー」

友「へんとか言うんじゃないの。

  で、どんなのがいいのよ?」

後輩「そだねー。

   えっと、ちゃんとしっかりしてる人で……」

友「ほうほう」

後輩「気づかいのできる優しい人で……」

友「うんうん」

後輩「料理とか誉めてくれる人かなー」

友「なるほどなるほど」









男「っくしょんっ! へっくしゅ!

  か、風邪かぁ……」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:04:58.97 ID:1fq7WKdEO
友「しっかりしてる人がいいとは、ちょっと意外。」

後輩「引っ張ってってほしいからねぇ」

友「それはよくわかるけどね。

  優しい人ってのは具体的にどんな感じ?」

後輩「つらいときに支えてくれたりとか……

   簡単にゆーと、甘えさせてくれる人かな」

友「つまり、包容力がある人がいい、と」

後輩「うん、そだね。つまるところ。」

友「誉めてくれる、っていうのも、優しいってことかな」

後輩「かもねぇ。

   生活力のある人ならだいたい大丈夫っぽい」

友「うーん、よしよし、参考になったよ」

後輩「何の参考にするの?」

友「後輩攻略のために決まってるでしょ!」

後輩「でも今の全部嘘だよ?」

友「なん……たるっ……!」ガクッ

後輩「なっはっは」









男「ううう、薬ってどこにあったか……

  後輩ー早く帰って来てぇー……」


51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:09:58.53 ID:1fq7WKdEO
後輩「ただいまかえりましたよー」







しーん







後輩「あ、あれれ? センパイ?」

男「……」

後輩「うわっ

   机に突っ伏してどうしたんですか」

男「ひんやりしてきもちいい……」

後輩「ひんやりって」

男「っくしょん」

後輩「……まさか」

男「後輩……薬ってどこだっけ……」

後輩「ちょちょちょ、とりあえず布団にいきましょ、センパイ」

男「あい……」


52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:11:32.74 ID:1fq7WKdEO
男「うーん」ピピッピピッピピッ

後輩「どれどれ……37.8℃かぁ。風邪ですね」

男「あれ買ってきて……おでこに貼るやつ」

後輩「はいはい、あれですね」

男「杏仁豆腐も食べたい……」

後輩「すぐ買ってきますから、おとなしく休んでてくださいね?」

男「んぁー」ズズッ

後輩「ティッシュも買ってこないとですねぇ。

   他に何かほしいものあります?」

男「んー……わからん」

後輩「じゃあ、とりあえずいってきます」ガチャ

男「後輩ー……」

後輩「はーい?」

男「風邪ひくなよー……」

後輩「はぁい」


53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:12:30.04 ID:1fq7WKdEO
後輩「おかゆできましたよー」

男「おかゆかぁ……」

後輩「体、どんな感じです?」

男「なんかこう……嫌な感じにむずむずする」

後輩「あー、風邪のときの感じですね。」

男「いやだなぁこれ」

後輩「お薬服んだらきっとすぐ治りますよ」

男「うーん……」もぐもぐ

後輩「今日はバイト休みましたから、なにかあったら呼んでくださいね」

男「あ」

後輩「どうしました?」

男「かっ、喀血が……」ごほっごほっ

後輩「寝転んだまま食べるから変なところに入ったんでしょ」


55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:13:19.83 ID:1fq7WKdEO
男「後輩ー……後輩ー……」

後輩「はいはーい。なんですか?」

男「今そこをさ……黒いヤツが横切っていったよ……」

後輩「マジですか? だとしたらこの部屋に来て初ですよ」

男「寝てる間に俺の唾液で水分補給されたらどうしよう……」

後輩「それはなかなか困りますね。

   どこに逃げたんです?」

男「ちらっと見ただけだからわからん……」

後輩「うーん。じゃあ、とりあえずここで待機しますね。」

男「そうしてくれ……」

後輩「ちょっとだけ窓あけますよ。

   換気しないと」

男「うー……」

後輩「おでこのやつ、そろそろ代えます?」

男「寒いからあとでいい……」

後輩「はーい」


56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:16:04.32 ID:1fq7WKdEO
後輩「で、風邪引いちゃってたいへんなんだよー。

   明日大学行けないから、二限の資料お願いできるかな?」

友『それはいいけど、大丈夫? 熱とか』

後輩「ちょっとなかなか下がらないみたいなんだよね。

   そんなに高くはないんだけど」

友『そっかー。じゃあ、お大事にねー』

後輩「んー」ピッ





男「後輩ー……後輩ー……」





後輩「なんですかー」

男「やつが来た……」

後輩「えっ? うわっ! 予想を裏切るでっかさ!」


57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:17:31.05 ID:1fq7WKdEO
男「うう」ふらふら

後輩「おはようございます、センパイ」

男「んー……いま何時?」

後輩「おやつの時間ですよー」

男「あれ食べたい、杏仁豆腐」

後輩「その前に口洗ってきてくださいな」

男「あい」







男「ぬあっ、おでこのあれがぐちゃぐちゃに……」


58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:18:59.73 ID:1fq7WKdEO
後輩「調子はどうですか?」

男「だいぶ楽になったな」

後輩「よかったー」

男「うむ。」

後輩「あ、じゃあ買い物行ってきてだいじょうぶですか?」

男「おう。」

後輩「よーし、じゃあ留守番おねがいしますね」

男「いってらー」もぐもぐ

後輩「それ、おいしいですか?」

男「んん、まあまあだな」

後輩「また買ってきますね」ガチャ


59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:26:00.71 ID:1fq7WKdEO
ピンポーン、ピンポーン







男「む、来客か。

  えーと、どれを押したら……これか。」ぽちっ

友『後輩ー、お見舞い来たけど大丈夫?』

男「後輩はいまでかけておりますが。」

友『えっ?』

男「えっ?」

友『えっ?』

男「えっ?」


60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:27:06.88 ID:1fq7WKdEO
友『えーと……そこ404号室ですよね?』

男「えーと、はいそうです。多分。」

友『後輩さん……のお宅ですよね?』

男「えぇ、それはもう。」

友『……』

男「……」

友『えっ?』

男「えっ?」


62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:28:18.88 ID:1fq7WKdEO
後輩『ありゃー、友だー。どうしたの?』

友『後輩っ? えっ?』

後輩『えっ?』

男「えっ?」

友『えーと……部屋に……誰かいる?』

後輩『うん。』

友『だ……誰?』

後輩『センパイだよー』

友『ってかあんた風邪は?』

後輩『風邪ひいたのはセンパイだよ?』

友『ちょっとまって頭痛い』

後輩『友も風邪?』







男「なにやらどうにも非常に面倒くさい予感がする」


63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:40:33.63 ID:1fq7WKdEO
ガチャ





後輩「かえりましたー」

男「おかー」

友「お、お邪魔します」

男「い、いらっしゃいませ」

後輩「あれ? センパイ、着替えたんですか?」

男「なんかその方がいい気がしたので」

後輩「そうですか。

   あ、こちら大学の友達の友ですよー」

友「は、はじめまして……えっと」

男「男と申します」

友「男……さん」

男「はい。」

友「あ……えと、風邪は大丈夫です……か?」

男「はぁ。おかげさまでなんとか」

友「そうですか……それはよかったです」

男「はい。」

友「……」

男「……」


64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:42:22.47 ID:1fq7WKdEO
友「……あの」

男「はい?」

友「後輩とは、その……どういう間柄で?」

男「後輩は俺の後輩ですが」

友「後輩、ですか……」

男「はぁ。」

友「……」

男「……」







後輩「友ー、夕ご飯食べてく?」

友「ちょ、ちょ、ちょっと、後輩」ガタンガタン





後輩「なーに?」

友「……あの人、誰?」ひそひそ

後輩「だから、センパイだよ」ひそひそ

友「センパイって……」

後輩「うん。

   あ、センパイ、夕ご飯お鍋でいいですか?」

男「なに鍋?」

後輩「えーっと、お出汁とお味噌ができますね」

男「そうだなぁ……うーむ、じゃあ味噌で」

後輩「はぁーい」

友「……」


65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:43:32.32 ID:1fq7WKdEO
後輩「らーすくりすまーす、んんんんー♪

   んらららっら、ららんんんんー♪」テキパキテキパキ





男「……」ぺら

友「……」

男「……」ぺら

友「……」

男「……あれ、おーい後輩ー」

後輩「どうしました?」とてとて

男「このレポート、征服が制服になってる」

後輩「ありゃ、ほんとですね。ありがとうございますー。

   とゆーか読んでたんですか?」

男「暇だったもんで。」

後輩「数字とか嫌いなんじゃなかったですっけ」

男「そうなんだけどもな、暇だと活字ならなんでもよくなるというか」

後輩「あー、そうですねぇ。

   もうあと10分ぐらいでできますから

男「なるべく早くな」

後輩「はーい」とてとて

友「……」

男「……」

友「……」

男「……」


66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:47:45.62 ID:1fq7WKdEO
後輩「できましたよー。よいしょっと」ぐつぐつ

男「おー、いい匂いだ」

友「だ、大丈夫? 持とうか?」

後輩「だいじょぶだいじょぶー

   あ、センパイ、鍋敷き出してもらえます?」

男「えーと、どこだっけ」

後輩「そっちの棚ですよー」

男「んー」ごそごそ

後輩「あれ、ありませんか? 困ったなぁ」

男「この棚にあるのかー?」ごそごそ

友「……それじゃないですか?」

男「お、これか?」

後輩「それですそれです。はぁよかった。

   よいしょ……っと」ゴトっ

男「うむ。」

友「……」

男「……」


67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:49:22.12 ID:1fq7WKdEO
男「ぬあっ」ぐちゃ

後輩「お豆腐ですか?」

男「後輩ー取ってくれー」

後輩「はい、どうぞー」

男「んー」

後輩「お豆腐こっち側にありますから、食べたかったら言ってくださいね」

男「あい」

後輩「友はどう? お豆腐。」

友「ん、自分で取れるからいいよ」

後輩「そっかー」

男「あつあつ」

後輩「やけどしますよセンパイ。

   お茶入れますか?」

男「んん」

後輩「コップコップ」

男「んぐーんんっ」ごっくん

後輩「だいじょうぶですか?」

男「喉元過ぎればなんとやら」

後輩「なはは。はい、お茶どうぞ」

男「うむ。」

友「……」



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 19:51:04.10 ID:1fq7WKdEO
男「ふー、食べた食べた」

友「ごちそうさま」

後輩「おそまつさまでしたー。

   おいしかったですか?」

友「肉も野菜もすっごくおいしかったよ」

後輩「よかったー。センパイは?」

男「まあまあだなぁ」

後輩「なはは。またお鍋やりましょうね」

男「んー。」

後輩「じゃあ、片付けときますから、くつろいでてくださいな。

   あ、友、お酒のむ?」

友「え……と、……うん。あとで一緒に買いに行こっか」

後輩「うん。」

友「洗いもの手伝うよ」

後輩「おかまいなくー」

友「……いいから手伝うってば」

後輩「そう? じゃあ、おねがいしようかな」

友「ん」





男「ふー。」だらーん





友「……」


69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:07:35.36 ID:1fq7WKdEO
後輩「じゃあ、センパイ、ちょっといってきますねー」

男「おー。」



バタン。





男「……ぶっはぁー……

  疲れた……なんか怒ってるのか?

  えれぇ睥睨されたもんだ」


71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:08:50.75 ID:1fq7WKdEO
友「……」

後輩「どこで買おっか?」

友「あの人はついて来ないの?」

後輩「センパイはお酒のまないし、病み上がりだしねー」

友「荷物ぐらい持ってくれるでしょうに」

後輩「んー。まぁ友の自転車あるし、大丈夫でしょ」

友「……」

後輩「どしたの?」

友「後輩、ほんとにあの人とどういう関係?」

後輩「え? センパイはセンパイだよー」

友「……はぁ」


72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:09:56.87 ID:1fq7WKdEO
後輩「んんん? 友、ひょっとして何か怒ってる?」

友「怒髪天を衝く勢いでね。」

後輩「えええっ」

友「あの人と同棲してるんでしょ?」

後輩「どーせー……まぁ一緒には住んでるけど」

友「あの様子だと、後輩が全部家事とかやってるんでしょ」

後輩「なはは。まぁねー。センパイには留守番してもらってるし」

友「……あの人バイトとかしてるの?」

後輩「んーん」

友「まさか生活費全部後輩が出してるんじゃないでしょうね」

後輩「全部じゃないよーそりゃ。」

友「……そう?

  でも、あんな家政婦の真似事みたいなことしてて――――」





後輩「家政婦じゃないよ。

   私はセンパイの後輩だよ。」





友「……っ」びくっ

後輩「あ、お酒あそこで買おっかー」

友「……うん」


73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:14:52.39 ID:1fq7WKdEO
後輩「えーっと、ビールどれがいい? 酎ハイ? おつまみ何がいいかなぁ」

友「適当になんでも……」

後輩「えー? わかんないよお酒は。友に任せた! おつまみは任せろーっ」

友「うん」

後輩「ポテチ、えびせん、チョコレート、……あ、杏仁豆腐も買わなきゃ」

友「杏仁豆腐? 合うのそれ?」

後輩「これはセンパイのリクエストだからねー。

   でも自分のも買っちゃおうかな」

友「あぁ、そう……なんだ。

  後輩の料理には……」

後輩「ん?」

友「後輩の料理には、……おいしいとか言わないのに……」

後輩「なはは。言ってくれるよーセンパイ。

   言わないけどね、あんまり。おいしいって」

友「え?」

後輩「よく『まあまあだな』とか言ってくれるのは、

   全部綺麗に食べておなかいっぱいになったときだからね。

   食べてるときもすっごいおいしそうに食べてくれるし、やりがいがあるよー。

   わかんないかなぁ」


74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:16:48.20 ID:1fq7WKdEO
後輩「それに、優しいよセンパイは。

   遅くまでレポート書いてて、そのまま寝ちゃったときとか、

   知らない間に布団まで連れってくれてたりするし。

   あと、センパイ朝弱いのに、私が寝坊しそうになってたら

   音楽とかテレビとかつけて起こしてくれるし。

   いざというときとか、どうしてもつらいときには頼らせてくれるんだよねー」

友「……」

後輩「普段はちょっと面倒くさがりだけどね。

   なっはっはー

   まぁよーするに、友が思ってるほど悪い人じゃあないんだよ、センパイは」


75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:17:38.19 ID:1fq7WKdEO
友「……そ、か。」

後輩「そうそう。あんまり睨んだら怖がっちゃう」

友「睨……ご、ごめん」

後輩「のんでたら楽しくなってくるよ、きっと。ね?」

友「うん……」

後輩「じゃあ、寒いし早く帰ろっか。」









男「うーん、面倒くさいぞ。逃げたいな……

  あー、でも杏仁豆腐があるしなー。

  うーむ、杏仁豆腐の口だぞ今夜は。弱ったなぁ」


76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:19:28.67 ID:1fq7WKdEO
友「……んん……」

男「ね、ねーむれぇーねーむれぇー」

友「……」

男「ダメかぁ」

友「……私、寝て……ました?」

男「よだれよだれ」

友「え? うわっ」ぐしぐし

後輩「うー、にゅ……」

男「全くこいつはまたこんな所で寝てやがる。」ばさっ

後輩「んん……ぬくい……」

男「アホめ。

  はい、友さんもどーぞ。」

友「あ、どうもです」

男「さて、杏仁豆腐杏仁豆腐」

友「……男さん」

男「ん?」

友「男さんは、……後輩のなんなんですか?」

男「俺か?

  俺は後輩のセンパイだが。

  あれ、なんかデジャヴだな」


77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:20:21.97 ID:1fq7WKdEO
友「……そうですか」

男「そうでございます。

  さすがに洗い物やら缶やらたまってるなー。まぁいいか」

友「あ、すいません今片付けを……」ふらふら

男「いいよほっといて。

  こいつ勝手に洗い物とかしたら怒るんだよ。

  自分の仕事ですからーっ、ってな。

  大層な頑固者だぜ」

友「それは……わかります」

男「だろ? やれやれってな具合だわな。」もぐもぐ

友「それ、おいしいですか?」

男「んん? まあまあだ。」もぐもぐもぐもぐ





友(おいしそう……)


78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:21:30.42 ID:1fq7WKdEO
男「ひとりになると家が広く感じるなぁ。

  あの子も帰り際になって普通に喋ってくれるようになったし。」



うろうろ

うろうろ



男「さっきまで賑やかだった分、閑暇さが際立つもんだ。」



うろうろ

うろうろ



男「部屋を歩き回ってみても、人口密度の低下を実感するばかり」





ちゅん、ちゅんちゅん

さぁああああ……さわさわさわ……





男「……いい天気だなぁ。寒いけど。」


 


84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:37:00.30 ID:1fq7WKdEO
ガチャ





後輩「ただいまかえりましたよーう」

男「おか。」

後輩「あれ? くんくん、焼き芋の匂いだ」

男「外からだな。」

後輩「なんで窓あけてるんです?」

男「朝、窓をちょっとあけていっただろ。

  そしたら、いつの間にかそこからすずめが入って来てだな……

  まぁ窓際でパン食べてたのが悪かったんだが、さっきやっと出てったところだ」

後輩「ええー。見たかったなぁー」

男「すずめぐらいどこにでもいるだろ。

  ときに、帰ってくるなりどこに赴くつもりだ?

後輩「焼き芋買いにいってきまーす」

男「おい、もう店じまいの準備してるぜ」

後輩「なにぃ! 急がないとっ」どたどたどた

男「こけるなよー」

後輩「はーいっ」バターン





男「いきなり二人分賑やかだなしかし。」


85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:38:15.97 ID:1fq7WKdEO
男「旅行の広告か。奈良に京都に北海道、台湾に上海」

後輩「旅行ですかー。センパイ、どこか行ってみたいところあります?」

男「温泉がいいな、温泉」

後輩「いいですねぇー温泉」

男「よーし、後輩よ。」

後輩「はいっ」

男「入浴剤買ってきてくれ」

後輩「そういうと思って、実はすでに買ってあるのでした」

男「やっぱり冬は入浴剤だなぁ」

後輩「ついでに茶碗蒸し食べて旅館気分になりましょー」

男「作るのか?

  銀杏はいいものだぜ」

後輩「実家から送られて来たやつがちょうどありますよん」

男「じゃあ俺は先に風呂に入って旅館気分を盛り上げてくる」

後輩「入浴剤、棚にありますからね」


86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:39:31.01 ID:1fq7WKdEO
後輩「あ……あ……『アンコールワット』」

男「『冬虫夏草』。」

後輩「う……またうですか……さっきもうだったのにぃ」

男「早く早く」

後輩「う……う……『ウロボロス』……じゃなくて……『ウィキペディア』!」

男「『蛙鳴蝉噪』。」

後輩「またうかぁああああ」

男「仕方無いだろ、うで終わるのが多いんだから」

後輩「わざとやってるでしょう……う……う……『ウランバートル』!」

男「地名は無しって言ってるだろ」

後輩「だってぇ!」

男「じゃあ地名・作品名解禁の代わりに制限時間20秒な。

  『類聚名物考』。」

後輩「う……うっ……ううっ、うわぁああああんっ」


88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:42:03.17 ID:1fq7WKdEO
男「はい、負けー」

後輩「センパイずるいですよぉ!

   しかもなんか単語が一々偏差値高いし……」

男「まぁ6文字以上しりとりで俺に勝つには明後日早いな。

  自分の番が回ってきてから考えてるようじゃまだまだ」

後輩「えええっ

   そんな高度な戦い方してたんですかっ」

男「あらかじめインデックス化しておいてだな」

後輩「……センパイってやっぱり普通に賢いですよね」

男「気のせいだ。

  それより晩ご飯まだか?」

後輩「あ、そろそろいいですかね」

男「やっとかー。

  腹減ってる時にカレーの匂いだけかがされるって結構拷問ちっくなんだよ」

後輩「カレーの一番大事なスパイスですよー空腹は」

男「相違ない。」


89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:44:21.79 ID:1fq7WKdEO
男「何やら騒々しいなぁ……」

後輩「おはようございます、センパイ」

男「寝れやせんぜ……治安の前に俺の安眠を守ってほしいもんだ」

後輩「やっぱりサイレンで目が覚めちゃいましたか。

   まぁ普段安眠できるのはお巡りさんのおかげですからねー」

男「ふむ……それで、この普段は昼まで安眠できる閑静な住宅街で、

  いったいぜんたい何が起こったと言うんだねワトソン君」

後輩「それがですね、下の階の人の部屋に空き巣が入ったらしいんですよ」

男「何、空き巣とな? それは物騒だな」


90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:45:29.80 ID:1fq7WKdEO
後輩「うちはセンパイがいるから安心ぐっすりですけど……」

男「え?」

後輩「え?」

男「いや、隠れて逃げるよ俺は。」

後輩「そんなっ!

   センパイ運動神経いいじゃないですか! やっつけてくださいよ!」

男「だから、全力で逃げる。怖いもの。」

後輩「……まぁ、ずっと人がいる家にはわざわざ入らないでしょうよ」

男「もし来たら、杏仁豆腐ぐらいで堪忍してもらおうか」

後輩「堪忍してもらえますかねぇそれで……」


91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:47:56.55 ID:1fq7WKdEO
後輩「そんな感じで、トランプもオセロもしりとりも、

   ぜーんぜんセンパイに勝てないんだよねぇ」

友「後輩って、……男さんのこと尊敬してるの?」

後輩「そりゃしてるよ。センパイはすごいよー。

   なんでもできちゃう人だからね」

友「……普段、なんにもしないのに?」

後輩「留守番してくれてるってば」

友「いや、そうじゃなくて……」

後輩「なんでもできるから、なにもしないこともできるんだよきっと」

友「なんかどっかの哲学者みたいな話になって来たぞ……」

後輩「なはは。

   でも、ほんとに、ほんとは、なーんでもできる人なんだよ。センパイ。」

友「ふーん……」


92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:51:07.28 ID:1fq7WKdEO
男「俺、自転車に乗れないかもしれん」

後輩「ええええ」

男「もう何年乗ってないやら」

後輩「それは由々しき事態ですねぇ」

男「乗る用事もなかったしな」

後輩「うちには自転車そのものがないですしね。

   必要なときも、友から借りたりしてましたし」

男「まぁ別にいいんだが」

後輩「よーし、自転車買いましょう!」

男「なにゆえ」

後輩「買い物とかであると便利なんですよー。」

男「うーん、そりゃそうだが」

後輩「じゃあ、センパイも乗るかもしれないし、

   一緒に買いに行きましょうよ」

男「俺も? 面倒くさいなぁ」

後輩「ピンクのかわゆい自転車に乗りたくないでしょ?」

男「別にそれでも……」

後輩「もー。」


93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:52:45.58 ID:1fq7WKdEO
男「値段が上から下まであって、

  買い物に不慣れな俺にはどれがよいやらさっぱりわからん」

後輩「見た目で選んじゃっていいんじゃないですか?」

男「じゃあ、あれは? すっげぇ速そう」

後輩「ロードレーサーにはカゴがないですからねぇ」

男「じゃあ、それ」

後輩「前輪が後輪の五倍ぐらいある鉄製の自転車でどこに出掛けるつもりですか?

   それ展示品ですよ」

男「珍しいのに……じゃあこれはどうだ」

後輩「空気入れで空でも飛ぶんですか」

男「いや、ペットボトルロケットの方にだな」

後輩「夢はありますが、そうゆーのはテレビの企画に任せましょうね」


94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:53:50.45 ID:1fq7WKdEO
男「じゃあ、……こいつは?」

後輩「あら、なかなかかっこいいのを選びましたね。」

男「色がいいな色が。青色一号っぽい感じの」

後輩「公式には安全だけど、何となく危険っぽい感じですか。

   あ、でもちゃんと盗難保険とか付いてるみたいですね」

男「それにしてもなかなかよろしい色だ……」

後輩「乗り心地の方が重要なんですがね。

   まぁ人気製品っぽいしだいじょうぶでしょう。」


95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:54:47.38 ID:1fq7WKdEO
後輩「今日からお前はうちの子だぞー」

男「留守番役が増えるな。」

後輩「仲良くしてくださいね」

男「任せろ。」

後輩「じゃあ、早速試乗と洒落込みますか」

男「おうよ」

後輩「よーし、じゃあ振り落とされないでくださいよっ」

男「華麗に荷台を乗りこなしてやるぜ」

後輩「河原に向かってしゅっぱーつ!」

男「ハイヨーシルバー」


96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:57:21.73 ID:1fq7WKdEO
男「意外にワイルドな運転するのな……」ふらふら

後輩「ごめんなさいってばぁっ

   なかなか勘が戻らなかったんですよねー」

男「電柱やら対向車やらが、

  ジャケットの皮一枚分の所をびゅんびゅん透かしてくんだぜ……」

後輩「なはは……帰りは安全運転しますよ」

男「ルート上に長い下り坂があるのが……たまらなく不安だ」

後輩「ま、まぁちょっと休憩していきましょうよ。

   ピザまんと餡まん、どっちがいいですか?」

男「ふーむ……餡で。」

後輩「はい、どーぞ」

男「いただきます」

後輩「いただきまーす」


97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 20:59:02.43 ID:1fq7WKdEO
後輩「そういえばですね、センパイ」はむはむ

男「ん?」もぐもぐ

後輩「高校のときのこと、覚えてます?」ごっくん

男「高校のときねぇ。どうだろうな」ごっくん

後輩「こんど、私たちの代の同窓会やるんですよー」

男「ほほう。楽しそうだな」

後輩「みんなセンパイと会いたがってますよ」

男「さすがにみんなじゃなかろうよ」

後輩「いーえ、みんなです。

   なんとかして連絡がつかないかって、幹事さんが困ってましたしねぇ」

男「そりゃ、悪いことをしたな。

  気にしないでやってもらってくれ」

後輩「行ってみませんか?」

男「よせやい。迷惑だろ」

後輩「面倒、ではなくて迷惑と来ましたか」

男「それはもうな。」

後輩「うーん……」はむはむ

男「……」もぐもぐ


98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 21:01:33.90 ID:1fq7WKdEO
後輩「部活、楽しかったですか?」

男「あんさんはどうだったのよ」

後輩「楽しかったですよー。すっごく」

男「それは重畳だな。俺も後輩組が入ってからは楽しかった」

後輩「でも、実は心配してたんですよ。

   『男はソロを吹きたがらないし、アンサンブルにも出たがらない』って。

   部長さんが、一番気にかけてらっしゃってました。」

男「部長? あの部長がか?

  おかしなこともあるもんだな……」


99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 21:03:09.97 ID:1fq7WKdEO
後輩「実質的に副部長してたの、センパイですしね。会計も。

   感謝されてますよー」

男「そこら辺は、下の子らが協力的だったからだろう」

後輩「慕われてるんですよ、センパイ」

男「結局何もしてなかったはずだが」

後輩「センパイは下の子達の話をよく聞いてくれてたじゃないですか」

男「聞いてただけで、何もしなかっただろう」

後輩「聞いてくれてただけでよかったんですよ。あのときは。」

男「……そんなもんかね」

後輩「そんなもんです」


100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 21:05:40.66 ID:1fq7WKdEO
男「まぁともかく、大層なことじゃないわけだ」

後輩「大層なことを大層じゃないって言いながら軽くこなせるのが、

   センパイの凄さの秘訣なんでしょうねぇ」

男「なんかやけに今日は御輿を担ぐじゃないか?」

後輩「なはは。

   高校の思い出話はそのまんまセンパイ自慢の話になりますからねー」

男「調子のいいやつめ。」

後輩「本心本音ですったら」

男「それより、ちょっとそのピザまん味見させてくれ」

後輩「あ、じゃあ餡まんと交換しましょうよ」

男「うむ」

後輩「あんむ」はむはむ

男「がぶり」もぐもぐ

後輩「甘いなぁ」

男「うまい」

後輩「これ食べたら、体が冷えないうちに帰りましょうか」

男「そうだなー」


102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 21:09:58.94 ID:1fq7WKdEO
後輩「夕日が綺麗ですねー」

男「俺は夕日と反対側の空が好きだ」

後輩「なるほどー、それもいいなぁ」

男「うむ。」





カァ、カァカァ、カァ

さわさわ……さわ……





後輩「センパイはずっとセンパイでいてくださいね」

男「後輩が後輩でいるうちは、立場上俺はセンパイになるな。」

後輩「私はずっとセンパイの後輩ですよ」

男「なら俺には、しばらくセンパイを辞める予定は無いことになる」ばっさばっさ

後輩「……さっきから向かい風でマフラー顔に当たりまくってたりします?」

男「うむ。」

後輩「次止まったときになんとかしますねっ」

男「今すぐしろ今すぐ。なんか結構痛いぞこれ。」

後輩「無理ですよー今から長い坂道ですから、ねっ」

男「加速すん、なっ」


103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 21:11:54.38 ID:1fq7WKdEO
おわり。





色々裏設定はあったけど省きましたとさ。


124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 23:02:22.21 ID:1fq7WKdEO
男「後輩、後輩。

  ちょっと髪の毛くくってくれないか」

後輩「だいぶ伸びてきましたねぇ。

   散髪行ってきます?」

男「うーん……

  どうにも億劫なんだな」

後輩「じゃあ経費節減も兼ねて、この後輩めがバリバリと」

男「……」

後輩「……」

男「……任せようかな」

後輩「ごめんなさい、堪忍してください。

   自分には無理でした」

男「やれやれ。

  すると、やはりプロに任せるか……

  でもこの時期に切ると寒いしなぁ」

後輩「とりあえずのところ、

   軽く梳いてもらうだけにすればいいのでは?」

男「……そうするしかないのかぁ」

後輩「どうします? 予約とかできますけど」

男「……どうせ暇だし、ちゃきっとやってくるか……」

後輩「了解しました。

   じゃあちょっと電話してみますね」

男「ん。」


125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 23:03:36.11 ID:1fq7WKdEO
男「言われるがまま、髪の毛を切られ弄られ、

  挙げ句にワックスまで買わされてしまった。

  後輩に怒られるかしら……」





ガチャ





後輩「おかえりなさーいっ」どたどた

男「こけるぞ」

後輩「ええええっ」ずざざざ

男「な、なんだ。」

後輩「せ、センパイが外から帰ってきたみたいになってる!」

男「そらまぁ実際そうだしな。」

後輩「うわー、これは貴重だぁ」

男「確かに、よほど寝癖が綺麗に決まった

  とき以外ではこうはなるまい」

後輩「さすがプロですねぇ」

男「全くだ。」


126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 23:06:41.14 ID:1fq7WKdEO
後輩「うぅ」そわそわ

男「なんだなんだ、一体どうしたってんだ」

後輩「なんだか緊張します……」

男「みかん剥くのに緊張も何もないだろう」

後輩「家の中に知らない人がいるみたいで……」

男「……まぁ俺が風呂に入るまでの辛抱だ。」

後輩「ううぅ……」そわそわそわそわ

男「高校のときたまにこんなんだったろう」

後輩「そうですけど……

   とゆーか、だからなんですけど……」

男「なんじゃそら。

  じゃあもう風呂入ってくるぞ」

後輩「あ……はい」


127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 23:08:51.05 ID:1fq7WKdEO
友「おはよー」

後輩「はよーう」

友「いきなりだけど、今日呑み会来てくれない?」

後輩「呑み会? 友のサークルの?」

友「まぁそんな感じなんだけど……

  ほら、例の先輩が、後輩を誘えってうるさくてさ」

後輩「あー……あぁー、そんな話してたね、確か。」

友「ま、最悪男さんと同棲してるって言えば、

  そんなにしつこくは言われないだろうけどね」

後輩「うーん、同棲……どーせーってどうなんだろ?」

友「だって、同棲でしょ?」

後輩「そうなんだけど……うーん……

   なんかそう言う恋人ちっくなアレじゃないよねぇ」


130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 23:11:19.11 ID:1fq7WKdEO
友「……普通にスルーしてた疑問なんだけどさ。

  後輩って、男さんのこと、好きじゃないの?」

後輩「嫌いでないのは確かだけどねぇ。

   多分センパイも……

   私のこといわゆる『好き』ではないと思うよ」

友「そうかなぁ」

後輩「そうだよー。

   多分、きっと。うん。

   一回振られてるしねー」

友「ええええ」


131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 23:13:36.80 ID:1fq7WKdEO
友「……わかんないもんだねぇ……」

後輩「ねー。」

友「……まぁそれで、呑み会はどうするの?」

後輩「うん、いーよ。行くよ。」

友「……誘っておいてあれだけど、……

  やめておいた方がいいような気がしてきた」

後輩「えー。なんでよう。」

友「結構がっつく先輩だからねぇ。

  男さんと違ってさ。」

後輩「んん……

   まぁ、友が近くにいればだいじょうぶでしょ」

友「せ、責任重大だなぁ」

後輩「好き、嫌い、好き、ねぇ」

友「ただがっついてるだけとかもあるんだから」

後輩「うーん。難しい。」


133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 23:15:46.48 ID:1fq7WKdEO
後輩「と言うわけで、もうちょっとしたら

   友と呑み会行ってきますねー」

男「おう。いってらー」

友「……」

後輩「いまお茶出すから、友は休んどいてね。

   センパイは金柑湯の方がいいですか?」

友「あ、うん、おかまいなく」

男「そうしてくれー」

後輩「はーい。ちょっと待っててくださいねー」とてとて


134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 23:21:47.37 ID:1fq7WKdEO
男「さすが後輩、相変わらずもてるなぁ」

友「相変わらず、ですか?」

男「相変わらず、だ。

  ああ言う面倒見のよさは、なかなか怖い」

友「……あー……」

男「勘違いしたアホから順に轟沈だな。」

友「……失礼を承知でいいですか?」

男「どーぞどーぞ」

友「男さんって、後輩のこと……

  その、どう思ってます?」

男「うーむ。

  まぁ嫌いではないのは確かだな。」

友「……」

男「だがまぁ、あれだ。

  後輩も俺のことをいわゆる『好き』ではないだろうな。」

友「!……それは、何でですか?」



男「一回振られてるからさ。」



友「……あれっ? ええっ?」

男「ん?」





後輩「あったかーいお茶と金柑湯ですよー」とてとて


135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 23:23:49.54 ID:1fq7WKdEO
男「お、きたきた。

  このすっぱ甘いのがいいんだよな」

後輩「甘ずっぱい、じゃないんですね」

男「先にすっぱさがくるだろ?」

後輩「ですねー。さすがセンパイ」

男「うー、すっぱ甘い」ずずずっ



友「……」



後輩「友? どしたの?」

友「あ、い、いや……

  ちょっとしたミステリーにぶち当たってね……

  もう何がなにやら……」

後輩「ふーん?」ずずっ

男「いやはや、あったまるなぁ」ずずずっ


138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/15(火) 23:49:35.70 ID:1fq7WKdEO
友「あ、あの……」

男「ん?」

後輩「なーに?」

友「非常に余計なお世話だと思うんですが……」

男「どーぞどーぞ」

後輩「どーぞどーぞ」

友「もし、後輩が誰かと付き合う……

  なんてことになったらですね、

  ……男さんは、どうするんですか?」

男「ん、そうだな。どうしようか」

後輩「どうしましょうか?」

男「とりあえず、友ちゃんの家に退避するとか」

友「なっ、なっ!」

男「いや、冗談だけどさ。

  まぁここにはいれないからなぁ」

友「……ですよね。」


142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 00:01:28.67 ID:/SG5130lO
男「後輩、どうしたもんかな?」

後輩「センパイがついに自炊するときがっ」

男「面倒だなぁ……面倒だけど、仕方無いなぁ」

後輩「頑張ってくださいね」

男「ま、なんとかな。」

後輩「ふぁい、おー」





友「……、……」


145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 00:04:39.36 ID:/SG5130lO
後輩「じゃあそろそろ行きますか」

友「う、うん。

  けどこのあのね、後輩、今からでもやめられるよ?」

後輩「だいじょうぶだいじょうぶ、遅刻したら悪いよ」

友「え、あ、うん……」ちらっ



男「いってらー。お土産よろしくー」ひらひら



後輩「なははー

   いってきまーす」

友「あっ……」





……バタン。







男「……さて。」


146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 00:06:47.66 ID:/SG5130lO
友「あ、あんなこと言っちゃってよかったの?」

後輩「ん? なにが?」

友「男さん、出て行くかも、みたいな……」

後輩「あぁー、平気平気。

   前にも言ったけど、ほら、

   センパイはひとりで何でもできちゃうからね。」

友「え、でも……」





後輩「言い方を換えるとねぇ、

   別にセンパイは私がいなくても全然平気なんだよ。

   ……ほんとはね。」





友「……」


147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 00:09:03.02 ID:/SG5130lO
男「後輩がいない毎日かぁ。

  滅入る気すらしないけど、

  今とどっちが堕落するか見物だな。」



うろうろ

うろうろ





男「……そうそう、ここは他人のうちだった。

  何という今更。すっかり忘れてた。」





うろうろ

うろうろ





男「よし、自転車乗ってみよう。

  寒いかなぁ……まぁいいか。

  鍵、鍵っと。」







……ガチャリ

バタン。


157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 00:28:03.71 ID:/SG5130lO
後輩「あ、もしかしてここ?」

友「う、うん」

後輩「居酒屋って久しぶりだなー。

   たのもーっ」

友「こんばんわー……」





「お、来た来た!」

「友ちゃん、こっちこっち」

「後輩ちゃんは主賓席へどうぞ!」

「かわいいねぇーその服」

「何かサークル入ってるの?」





友「……はぁ」


159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 00:30:32.86 ID:/SG5130lO
男「さーて、夜風がいよいよ冷たいな。

  どっちに行こうか?」





ザァアアアア……ザワザワ……





男「んん、よし、こっちだ。

  何を食べたいのか胃袋と相談しながらこいで行くかねー」


163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 00:42:06.72 ID:/SG5130lO
男「お、お、いい匂いがすると思ったら、ラーメンかぁ。

  最近食べて無かったから、これはありかもしれん。

  よーし、一つ頂くとするかね。たのもーっ」



ガラッ



「いらっしゃいませー」



男「んーと、ここはやはり即決で醤油だな。醤油ー」



「醤油いっぱーい」



男「元気な店だ」



「お冷やどうぞー」



男「あ、どうも。

  ……んん?」



「レジかわりまーす」



男「……」



「ありがとうございましたー」



男「……あ、なるほど。

  ちょいと店員さん」



「はーい」


164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 00:45:05.34 ID:/SG5130lO
男「……」

 「……?」



男「や、部長殿。ご機嫌うるわしゅう。」



女「……あ、男。」

男「うむ。」

女「まさかの邂逅だわ」

男「いやー、たまげた。」

女「これは参ったわね」

男「まぁ、とりあえず仕事してきなよ」

女「えぇ……そうね。じゃあそうする」

男「んー。」

女「またあとでね」

男「あい。」







男「あーびっくりした。

  しゃっくり出てきたわ。なぜか。」ひゃっく


167: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 00:53:35.74 ID:/SG5130lO
風呂入りつつ、書きためたりしてみます。


186: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 02:55:19.40 ID:/SG5130lO
女「いらっしゃいませー」スッ

男「ん?」ぺらっ





『あと30分ぐらいで上がるから、

 餃子でも追加注目してなさい』





男「し、したたかな人だな相変わらず……

  すいませーん、餃子1人前ー」

女「ありがとうございまーす

  餃子1皿ーっ」



男「腹いっぱいになりそうだ……

  それにしてもよく動くなぁ部長」







女「たんと召し上がれ」コトッ

男「謹んでいただきます。」


187: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 02:56:35.97 ID:/SG5130lO
女「お待たせ」

男「お疲れ様です」

女「高校以来?」

男「そうですな。」

女「もうそんなになるのね」

男「同窓会やらにも全然出てないもんで」

女「私もよ。」

男「ほほう?」

女「ずっと忙しかったの。

  忙しすぎて血反吐を吐いたわ」

男「部長が言うと、冗談に聞こえない」

女「あなた、さては働いてないわね」

男「唐突に千里眼発動するのやめてくださいませんか」

女「労働者の気概が絶無だわ。」

男「さすが、部長はなんでもお見通しだ」


188: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 02:58:14.37 ID:/SG5130lO
女「ふん。

  ほら、後ろ乗って。」ドゥルン、ドゥルルン、ドゥルルルル……

男「部長殿、そこにわたくしめの自転車がですね」

女「後で取りにくればいいでしょ。

  さっさとヘルメット被る。」

男「なんとまぁ、たくましくなられたもんだ」

女「せいぜいしがみついてなさい。」

男「へいへい」


189: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 02:59:46.98 ID:/SG5130lO
ドゥルルル、ルルルン、ブスン……





女「到着。」

男「途中で車体が45度まで傾いた時は死ぬかと」

女「あなたが後ろに乗ってたの忘れてたわ。」

男「だから自転車の方がいいんだ。

  人間の温かみがあって……」

女「ふーん。

  あなた女の子の家にいたわね。」

男「だからほんとそう言うのやめてくださいってば」

女「ま、いいわ。

  こっちよ」

男「やれやれ……」


191: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 03:01:15.68 ID:/SG5130lO
女「ただいま、っと」ガチャリ

男「うわっ、なんだこのカオスは」

女「散らかってるから気を付けてね」

男「見ればわかるっての。」

女「そこに座ってて」

男「よくこんな本やら服やらだらけの

  ベッドで安眠できるもんだ」

女「紅茶? コーヒー?」

男「金柑湯……と言いたいところだが、コーヒーで。」

女「わかったわ」

男「ふむ。

  部長殿、部長殿。」

女「なあに?」

男「さては失恋しましたな。」

女「……食えないやつね。」

男「食わせて貰う側ですから。」


193: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 03:02:59.33 ID:/SG5130lO
女「ご明察よ。

  ……あなたにはそんな話ばかりしてる気がするわ」

男「俺もそんな話ばっかりされてる気がしますな。」

女「コーヒーはやめてお酒にしましょうか」カチャ、

男「もう一回バイク運転してもらうんだから、

  アルコールは無しだ」

女「……嫌な人。」

男「お代官さまほどでは」

女「はぁ」こてん

男「……高校のときは、俺の肩に頭を預けるなんて

  死んでもしなかっただろ」

女「私のいい匂いをつけてあげるわ」

男「嫌な人だ。」


194: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 03:05:24.16 ID:/SG5130lO
女「何年か路頭に迷って途方に暮れて、

  結局ここに戻って来ちゃったって感じね……」

男「渡り鳥みたいだな」

女「渡り鳥……うまいこと言うわね」

男「タフなところも、自分で指針を持ってるところも、

  高校のときからそのまんまだ」

女「飛ぶのに疲れて陸に降りると、いつもそこにあなたがいるわ」

男「俺みたいな唐変木じゃなくても、

  もっと留まりやすい木は他にいくらでもあるだろうに」

女「……」


196: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 03:06:06.86 ID:/SG5130lO
男「まだ楽器吹いてるのか?」

女「ううん。もう触ってもない」

男「そうか。」なでなで

女「……温かい……」

男「生ぬるいの間違いだろう。

  このコーヒーみたいだな」

女「あなた猫舌なんだから、ちょうどいいぐらいでしょ。

  それ、おいしい?」





男「まあまあだ。」


197: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 03:07:27.96 ID:/SG5130lO
女「じゃあ、これでお別れね。」

男「大袈裟に言うもんだ。

  じゃあな。」

女「……待っ――――」

男「トロンボーン。また吹いて聴かせてくれよ」チリンチリーン







女「――――……聴きに来てよ。いつでも。」







チリン、チリーン……


198: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 03:08:26.03 ID:/SG5130lO
男「さーて、すっかり遅くなったわけだが……」





キキィーっ





男「部屋に明かりが点いてない。

  まだ帰って来てないのか。

  確か、もう言ってる間に終電だな。

  よいしょっと」ガチャッ、……







男「……まぁ、いいか。」


241: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 13:53:12.37 ID:/SG5130lO
男「うおっ! びっくりしたぁ」

友「お、男さん……っ」ガタッ

男「なんだなんだ。

  こんなところでしゃがみこんでたら風邪ひくぞ」

友「後輩が……っ……」

男「まぁ待て待て、とりあえず家に入ろう。

  寒くてかなわんぜ。」ガチャリ

友「……」

男「それで、どうしたって?」

友「……後輩が……」

男「そういえば後輩が居ないな。」

友「かなり酔ってて……お手洗いに行かせたら、

  いつの間にか先輩もいなくなってて……」

男「ほほう。」


244: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 13:54:40.87 ID:/SG5130lO
友「二人で抜けてたみたいで……

  ……連絡もつかなくて……っ!」

男「ありゃー」

友「それで、どうしたらいいかわかんなくて、

  ここに来たんですけど、男さんは居ないし、

  連絡先も知らないし……」

男「あー、俺携帯持ってないからなぁ。」

友「もう……どうしたらいいか……」ぐすっぐすっ

男「ふーむ。

  しかし……どうしようもないよなぁそれ」

友「……」

男「まぁ後輩もいい大人なんだし?

  少なくとも友ちゃんが責任を感じるところじゃないさ」

友「で、でも……」

男「明日になったら帰ってくるだろうし、

  それまでに向こうから連絡があるかもだし、

  今日のところは……ここに泊まる?

  うちに帰る?」

友「……ここにいても、いいですか?」

男「俺は家主じゃないけど、

  家主たる後輩なら『いいですよー』って言うだろうなぁ」

友「ありがとう……ございます……」

男「とりあえず、落ち着くまで休みなよ。

  コーヒー……いや、あえての金柑湯だ。」


247: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 13:56:31.73 ID:/SG5130lO
男「うーん、すっぱ甘い」ずずっ

友「……」

男「紅茶は難しいな」

友「後輩に、」

男「ん?」

友「後輩に、言っておいたんです。

  いざとなったら、男さんと同棲してるって言え、って」

男「ふむ。」

友「そしたら、

  さすがにしつこくは言ってこないだろう、って……」

男「なるほど。」

友「でも、後輩は、何も言わなかったんです。

  私と呑んでて機嫌がよくなると、

  よく高校のときの話……男さんの話をしてくれるのに」

男「だいぶ美化されてるだろうなぁ」

友「……全然、そんな話もせずに、ただ頷いてばっかり……」

男「結構おしゃべりなあいつにしては珍しい」


249: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 13:58:14.97 ID:/SG5130lO
友「私がっ!

  私が悪いんです……後輩を誘ったから……っ」

男「呑み会に?

  いや、そこまで言い出したらなぁ」

友「……後輩……」

男「よし、とりあえず友ちゃんは

  横になっといた方がいいな。

  顔、青いぜ?」

友「……うっ……」ガタッ

男「おっとっとっと、トイレはあっちだ」

友「……っ」ドタドタドタ







男「大変だなぁ、学生さんは。」


256: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 14:25:34.24 ID:/SG5130lO
友「うぅ……すみません……」ドロドロ

男「へーきへーき。

  口洗って、横になってらそのうち楽になるさ」

友「……」

男「連絡来たら俺が取るから、ちょっと寝た方がいい」

友「わ、私もっ」

男「何かあったらちゃんと起こすから、

  とりあえず今は寝てなさいな。」

友「……はい」

男「うむ。

  毛布だけで寒くない?」

友「だいじょうぶ、です……」

男「じゃ、おやすみなさい」

友「おやすみ、なさい……」









男「こういうのの扱いは、俺より部長の方がうまいからなぁ。

  部長殿ならどうするのやら。」


257: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 14:26:49.40 ID:/SG5130lO
友「……すぅ……すぅ……」

男「三時半」





ヒュウウウゥ

ガタッ……ガタッ……





男「杏仁豆腐……はもうないのか」

友「……すぅ……ん……」



男「風、強いな」


258: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 14:28:21.63 ID:/SG5130lO






~♪

   ~♪

 ~♪



男「うわっびっくりしたっ

  友ちゃんの携帯か」

友「う……ん……こっ後輩っ」ガバッ

男「ほい、パス」ひょい

友「もしもし、もしもしっ?

  後輩? 今どこっ?





  ……うん、うん、





  わかった、うん、だいじょうぶ





  うん、いいから、それはあとで、





  ……うん、じゃあ切るね、うん」ピッ



男「ふむ、五時過ぎが。」

友「後輩が、迎えに来てほしいって……!」


260: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 14:29:44.69 ID:/SG5130lO
男「どこらへん?」

友「私の下宿からもうちょっと行ったところです!」

男「んじゃ、自転車でいくか。

  よーし、ナビよろしく」

友「はいっ」

男「それにしても寒い」

友「後輩、多分外で待ってる……」

男「ありそうな話だ。飛ばそうか。」

友「後輩……っ」

男「運転下手だから、先に謝っておこう」





チリンチリーン、……


265: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 14:48:07.01 ID:/SG5130lO
友「あ、ここでちょっと止まってください!」

男「ん」

友「自分の自転車取ってきますっ」

男「お、了解した」

友「すぐ来ますからっ」ダッ



男「ふー、ちょっと汗かいたな。

  風が涼しい」


266: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 14:49:12.57 ID:/SG5130lO
友「そこ左です!」

男「あいよ」

友「あとはまっすぐ……あっ」

男「ん……あれかな」

友「後輩ーっ」

男「やほー」





キキィーッ









後輩「おはようございます、センパイ。

   おはよ、友。



   心配かけてごめんなさい。」


269: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 14:50:15.42 ID:/SG5130lO
友「い、いいよ、今はそんなのっ」

男「うむ。

  とにかく家に帰ろう。」

友「それか、私の家でとりあえず――――」

後輩「友、ごめんね。

   ちょっとセンパイとおはなししたいの。

   あとで絶対ちゃんと説明するから……

   一回、ふたりで家に帰らせて?」

友「……うん、わかった。」

後輩「ありがと、友」

友「男さん、……後輩をよろしくおねがいします」

男「承った。

  じゃあ後輩、後ろ乗ってくれ」

後輩「はい、センパイ」



友「……風邪、気をつけて。ふたりとも……」

男「うむ。」

後輩「はーい。



   また、あとでね」







チリンチリーン……


271: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 14:51:32.76 ID:/SG5130lO








男「……」

後輩「……」

男「……」

後輩「……」

男「……」

後輩「センパイ」

男「ん?」

後輩「……センパイ。」

男「おう」

後輩「……」

男「……」

後輩「……呼んでみただけです」

男「そうかい。

  振り落とされるなよ」

後輩「……はい。」ギュッ


280: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 15:33:32.27 ID:/SG5130lO
ガチャッ





男「ただいまー」

後輩「ただいま、です」

男「ふー。意外とふたり乗りでもなんとかなるもんだ」

後輩「ですね。

   センパイの運転、優しかったです」

男「そりゃどうも」

後輩「じゃあ……とりあえず、朝ご飯にしましょうか」

男「うむ。

  考えてみれば腹が減っていた。」

後輩「すぐ準備しますから、ちょっと待っててくださいね」

男「手伝おう」

後輩「……おねがいします」


281: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 15:34:33.80 ID:/SG5130lO
後輩「やっぱり、ふたりでやると早いですね」

男「って言っても、

  俺は目玉焼きとソーセージ焼いただけだけどな」

後輩「センパイの料理って、食べるのはじめてですね」

男「大袈裟だな。」

後輩「……おいしそう。」

男「そうか? ちょっと焼きすぎたが」

後輩「食器、出しますね」

男「おう。」

後輩「ちょうどパンもできたみたいですよ」

男「実に手際のよい朝ご飯だ。」

後輩「ですね。」


282: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 15:35:35.75 ID:/SG5130lO
男「いただきます」

後輩「いただきまーす」

男「……やはり、いまいちだな」もぐもぐ

後輩「いえいえ、おいしいですよ」はむはむ

男「そう言えばさ」

後輩「はい」

男「昔、部室にコーヒーメーカーあったよな」

後輩「あぁ、ありましたね。

   部長さんとセンパイがよく

   『どっちがうまく淹れられるか』

   なんて、顧問の先生に味利きしてもらってました」

男「懐かしいなぁ」

後輩「私も部長さんに淹れ方教えてもらったんですよ」

男「……どうりで、部長殿と同じ味なわけだ」

後輩「そうなんですか?」

男「うむ。」


283: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 15:36:18.95 ID:/SG5130lO
後輩「もう、すっかり楽器にも触ってませんね」

男「そうだな。」

後輩「また、あの頃に戻ってみたいです」

男「……そうだな。」

後輩「やっぱり、同窓会、来ませんか?」

男「……考えておこう」

後輩「楽しみにしてますね。」


284: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 15:37:02.13 ID:/SG5130lO
男「ごーち」

後輩「ごちそうさまでした。」

男「洗い物は俺に任せろ」

後輩「……じゃあ、今日は、おねがいしますね」

男「おう。

  泥船に乗ったつもりでくつろいでろ」

後輩「なはは」


285: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 15:37:59.37 ID:/SG5130lO
男「後輩、ちょっと手見せてくれ」

後輩「はい」スッ

男「……あんまり荒れてないな」

後輩「昔から、水には強いんですよ」

男「そりゃよかった。」

後輩「センパイの手、きれいですよね」

男「よく言われる。」

後輩「うらやましいなぁ」

男「働いてないからだろう」


287: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 15:39:52.51 ID:/SG5130lO
後輩「ね、センパイ」

男「ん?」

後輩「頭、なでてもらっていいですか」

男「そこに座れ」

後輩「はい」

男「ん」なでなで

後輩「……」

男「やわらかいな」なでなで

後輩「……抱きしめてもらっても」

男「うむ」ギュッ

後輩「……」

男「あったかいな」ギュウ……

後輩「……」

男「ちょっとは落ち着いたか?」

後輩「……センパイは、なんでもできますね。

   魔法みたいです」

男「やりたいことしかやらんけどな。」


290: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 15:45:24.20 ID:/SG5130lO
後輩「じゃあ、友のところ行ってきますね」

男「おう。」

後輩「……なにも聞かないんですか?」

男「聞いてほしいのか?」

後輩「……センパイ、」

男「なんだ」

後輩「ありがとうございました」ぺこり

男「どういたしまして」ひらひら

後輩「行って来ます」

男「いってらー。」







……バタン。







男「……さてと。

  片付けるか」


305: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 16:14:23.01 ID:/SG5130lO
女「……! 男じゃない」

男「今晩和、部長殿」

女「……振られた、ってわけじゃなさそうね」

男「どっちかっていうと、娘を嫁に送り出した気分だ。

  どこの馬の骨だか知らんが。」

女「そう。難儀なものね」

男「うむ。難儀なものだ」

女「難儀なもの同士、くっついてみるのもいいんじゃない?」

男「一方的な寄生だろう?」

女「いいえ、共生よ。」

男「やどかりとイソギンチャクか」

女「やどかり……ふふ、うまいこと言うわね」

男「まぁな。」

女「飽きるまで、あなたの好きにさせてあげるわ」

男「毒針仕込みのイソギンチャクさんは

  さすが言うことが違う」


306: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 16:15:44.29 ID:/SG5130lO
ガチャリ





後輩「ただいまかえりましたー」









……バタン。









後輩「……」ぺらっ


307: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 16:16:45.96 ID:/SG5130lO
『後輩へ







 長い間お世話になりました。

 誠に勝手ながら、センパイは引退します。

 後輩がいてのセンパイなので。

 では、友ちゃんにもよろしくです。







 男より』



313: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 16:21:01.88 ID:/SG5130lO
後輩「……センパイは、ずっとずっと、

   センパイですよ。」







クシャ







後輩「……私は……センパイの、後輩ですから……っ……」













男「なぁ部長殿」

女「なあに?」





男「できのいい後輩を持つと、センパイの面目が立たんな」


315: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 16:21:58.48 ID:/SG5130lO
おわり。





やっぱり鬱になった。

うわああん


 


437: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:05:08.67 ID:/SG5130lO
ピンポーン

ピンポーン





友「入って入ってー」



ガチャリ



後輩「おじゃましまーす」

友「いらっしゃいませ」

後輩「はふぅ……ちょっと疲れちゃった。

   前はこんなことなかったのになぁ」

友「……ゆっくりしてていいよ。

  今日は後輩がお客さんなんだから」

後輩「ありがとー、友」

友「でも、ほんとにやつれてる。後輩……」

後輩「うん……自分でもわかる。

   なかなか疲れがとれなくて、

   なんだか自分が自分じゃないみたい」

友「……」


439: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:06:18.80 ID:/SG5130lO
後輩「わーいお鍋だー」

友「うどんすき。

  たくさん食べてね。」

後輩「んんーいい匂いっ

   いただきまぁす」

友「召し上がれ。」





ぐつぐつぐつ……







後輩「ねぇ、友」

友「ん?」

後輩「私、ちゃんと彼女できてると思う?」


440: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:06:59.24 ID:/SG5130lO
友「……文句つけたらバチがあたるぐらい」

後輩「そっか。そうなのかなぁ。

   わかんないや」

友「うまくいってないの……?」

後輩「ううん、順調。たぶんね。

   ただ……」

友「ただ?」

後輩「結局、『好き』ってわからないままだからさ」

友「『嫌いではない』ってやつ?」

後輩「『嫌いが何かわからない』かな」

友「それは……」

後輩「自分で自分のことを好きか嫌いかもわからないし、

   自分が自分じゃないみたいって、

   こういうことなんだねぇ」


441: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:07:48.91 ID:/SG5130lO
友「後輩、ひとつ聞いていい?」

後輩「ひとつと言わず、いくつでも」

友「……前に言ってた、一度男さんに振られてる、

  って話なんだけど……」

後輩「あぁ、うん」

友「あれって、結局どう言うことなのかな、って」

後輩「えーっとね、……何から話そうかな」

友「……」


446: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:11:34.85 ID:/SG5130lO
後輩「高校の時にね、私と……センパイはおんなじ部活だったの」

友「うん」

後輩「それで、センパイが後輩のお世話役みたいになってて、

   いろんな話を聞いてもらってるうちに、

   ……この人はすごい人だな、って。

   そう思うようになったの。」

友「うん、うん。

  それで?」

後輩「私が入部した時から、

   センパイは部長さんと付き合ってたんだよね」

友「……」


449: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:13:45.47 ID:/SG5130lO
後輩「で、部長さんはめちゃくちゃ楽器がうまくて、

   なんていうのかな……すごいカリスマがある人だったね。

   リーダーシップも責任感も強くて、

   仕事のできる女の人!って感じかな。」

友「……なるほど」

後輩「センパイは、

   その部長さんの取りこぼした仕事を

   全部拾っていく感じだった。

   楽器の苦手な子のフォローとか、

   ちょっとしたいざこざの仲裁とかね。

   ふたり合わせて完璧って、私にはそう見えたなぁ」

友「すごいね……」


450: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:15:31.52 ID:/SG5130lO
後輩「うん。

   私もかなりセンパイにくっついて

   いってた時期があったんだけど、

   部長さんはむしろ私を可愛がってくれて……

   あぁ、この人にはかなわないなぁ、って。」

友「振られた、っていうのは……?」

後輩「まぁそれはおまけみたいなもんでね。

   悪ふざけ半分で『彼女として私はどうですか?』

   って聞いたら、『後輩は後輩だな』って。

   なはは、それだけの話だよ、うん。」

友「それだけ……」

後輩「そう、それだけ。

   別に深い意味はないよ。」

友「……」









友(きっとそのときも、

  こんな泣きそうな笑顔だったんだろうな……)


456: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:21:59.06 ID:/SG5130lO
後輩「いやー懐かしいねぇ。

   この辺りの話はまだあんまりしてなかったっけ」

友「……男さんも、

  『一度後輩には振られてる』

  って言ってたんだけど……」

後輩「んん?

   それは……あぁ、あのときのことかな」

友「聞かせてくれる?」

後輩「もちろん。

   えっと……うん、そうそう、思い出した。

   そのちょっと後に、……大きなトラブルがあってね」


460: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:23:07.27 ID:/SG5130lO
友「トラブル?」

後輩「コンクールに向けての部の方針で

   かなりもめちゃって……

   それで、部長さんがその責任を全部

   負わされた形になったの」

友「……」

後輩「センパイの同期の人も、私の同期も、

   みんな部長さんを悪く言って……

   『それでも部をまとめる人が必要だから』って、

   全部悪いのは自分のせいにして、

   ……部長さん、センパイと別れたの。

   『自分は邪魔になるから』って」

友「うわっ……」


461: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:25:22.75 ID:/SG5130lO
後輩「部長さん、ほんとに部活が大好きだったから……

   そうしてでも、部活を続けたかったんだよ」

友「そ、それで……どうなったの?」

後輩「うん、それから……

   センパイに、頼まれたの。

   『俺は上をまとめるので手一杯だから、

    下は後輩が皆の意見を聞いてくれ』

   、って。



   私、センパイと一緒になってよく

   幹事の仕事もやってたから、そのまま

   次のまとめ役みたいになっててね。」

友「……」


462: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:26:22.63 ID:/SG5130lO
後輩「頑張ったなー、あのときは。

   私が部長さんの代わりになるんだー、って。

   みんなもすごく協力してくれたし、

   なんとか話を落ち着けられたわけ」

友「すごいじゃん、後輩」

後輩「一番応援してくれたのは部長さんだったんだよ。

   部長さんがいつも頑張れって言ってくれたの。



   ……でも……」

友「……?」


463: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:28:08.96 ID:/SG5130lO
後輩「私とセンパイが一緒に頑張ってるのを見てて……

   ……すごく、つらそうだった。

   私にはずっと笑顔だったけど、……

   きっと、死ぬほどつらかったと思う。

   それでも、やっぱり笑顔だったの。」

友「……」

後輩「それでね……私、なんだか怖くなって……

   ……センパイと距離を取るようになったの。

   部長さんのつらい顔が、それ以上見てられなくて」

友「後輩……」

後輩「なはは、最低だよね私。

   センパイが私を信用して頼ってくれてるのに、

   ……逃げちゃった。

   センパイもつらいんだ、ってこと、忘れてたの。

   私が支えなくちゃダメだったのにね。」


466: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:31:19.63 ID:/SG5130lO
友「それは……仕方、ないよ」

後輩「結局、部活はなんとか持ち直して、

   部長さんも元の感じに戻れたんだけど……

   センパイとは別れたままだった。」

友「……」

後輩「たぶん、センパイは、そのときのことを

   『振られた』って言ってるんじゃないかな。」

友「……なんか、悲しすぎて喉の奥が痛くなってきた」

後輩「なはは。

   ……私も。」


476: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:43:14.31 ID:/SG5130lO
友「ねぇ、やっぱり後輩は男さんと――――」

後輩「いいの。これでいいんだよ。

   私はセンパイをすっごく尊敬してる。

   ……これだけでいいの。」

友「……」


478: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:44:24.97 ID:/SG5130lO
後輩「それに、……今の彼氏さんにも悪いしね」

友「後輩……」

後輩「いい人だよー?

   ちゃんとしてるし、優しいし、料理誉めてくれるし。



   ……センパイと一緒に住んでて、

   ほんとは今のままじゃダメなんだ、

   また自分は逃げてるんだ、って、

   心の底ではそう思ってたの。

   後輩っていうすごく居心地のいいところにずっといて、

   ……センパイは自分でどこにでも行けるけど、

   私はセンパイがいないと何もできなくなっちゃう。

   だから、きっとこれが、いい機会だったんだよ。

   あの時のやり直しをさせてもらえるんだ、って、

   勝手にそう思ってる。

   今はまだ……何もできないけど。」

友「……初めは絶対にあの先輩警察に

  突き出してやろうと思ってたのになぁ。

  急に真剣になる上、私にまで謝ってくるし……」

後輩「なはは、堪忍してあげてね。」



友「……何かあったら、すぐ相談してよ?」

後輩「うん、ありがと」


479: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:45:44.08 ID:/SG5130lO
友「……でもさ」

後輩「ん?」

友「男さんは、ほんとのところ、

  どう思ってるんだろうね……」

後輩「それは……」

友「飄々としてるけど、

  後輩のことをすごく大切に思ってたわけでしょ?」

後輩「……」

友「……多分ね、男さん……

  『俺に相談してくれたらよかったのに』

  ……って思ってるんじゃないかな……」


481: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:47:32.49 ID:/SG5130lO
後輩「……うん」

友「後輩には自立してほしいけど、

  男さんだってずっと後輩のセンパイでいたかった。

  そんな気がするよ、私は」

後輩「……」

友「ほんとは、真正面から向き合わなきゃ……

  解決しないんだろうね。

  でも、それを選んだのが後輩だから、

  男さんは出て行ったんだよ、きっと」

後輩「……センパイ……」

友「まぁでも、

  後輩もちゃんと素面になってからよく考えたことだし、

  それでもまだ納得いかないけど……



  私は後輩の味方だよ。

  男さんも、ね。」

後輩「……うん」ぐすっ


487: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 20:52:29.75 ID:/SG5130lO
と言うわけで、後輩サイドでした。

ハッピーエンドから一番遠いハッピーエンド……ダメか。


637: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 23:03:56.72 ID:/SG5130lO
女「外はすっかりクリスマスムードね」

男「なぁ、『クリスマスキャロル』ってあるだろ」

女「映画でやってる?」

男「あれのアニメーション版をさ、昔観たんだ。

  あんなトラウマ他にないぜ。」

女「ふぅん。」

男「過去、現在、未来を見せる精霊か……」

女「来てほしいの?」

男「……どうだろう」

女「人間には過ぎた視力よ。きっとね。」

男「千里眼持ちの部長殿さすがです」


639: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 23:05:08.95 ID:/SG5130lO
女「ねぇ、買い物に出掛けましょうよ」

男「何を買いに?」

女「服とか、色々よ」

男「寒いからやだ」

女「私にどんなのが似合うか、選んでほしいの」

男「どうせ俺の意見なんか聞きやしないだろ」

女「あら、そんなことないわよ?

  あなたの意見が間違ってたことなんて、

  いままで一度もなかったもの。」

男「んなわけねぇー」

女「私の知る限りでは、ね」

男「買い被り過ぎだ」

女「高校の頃の私はまだ幼稚だったわ。

  今になってあなたの意見の正しさがよくわかったのよ」

男「……最近さ、こういう持ち上げられかたすると、

  そこから先ろくなことにならないんだよな。」

女「あら、そう。

  それは災難ね」

男「全くだ。」


640: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 23:06:11.92 ID:/SG5130lO
女「じゃ、服はまた今度でもいいわ。

  ちょっとそこまでアルコールを買いに行きましょう」

男「俺は呑めないぞ」

女「嘘ばっかり。

  あなた何でも呑めるでしょ」

男「……改宗した宗教上の理由で」

女「一緒に住んでた人の負担にならないようにしてたのね」

男「ねぇほんとになんなのその能力」

女「私は大丈夫よ。

  ちゃんと考えた上で買い物するんだから。

  遠慮は要らないわ」

男「……はぁ。

  じゃあ部長殿の善意に甘えるとするか」

女「最初からそうすればいいのよ」


641: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 23:07:09.45 ID:/SG5130lO
男「えらく羽振りがいいな、しかし」

女「過保護な仕送りがあるからね」

男「さすがお嬢様」

女「あなたひとり養っても、毛ほどの負担にもならないわ」

男「その割には、バイト一生懸命やってるよな」

女「生活できるのと働かないのは違うのよ」

男「こころがいたい」

女「あら、今のは無神経だったわ。ごめんなさい」

男「まぁ別にいいんだけどさ。

  袋を持とう」

女「相変わらず優しいのね。」

男「どうだかな。」

女「むしろ甘いわ。」

男「それが近いかもしれん」


642: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 23:08:03.08 ID:/SG5130lO






とくとくとくとく



男「入れすぎっ、入れすぎだっ」

女「気のせいよ」

男「油断も隙も無いな……」

女「あなたの堅い口を割らせるためならね」

男「別に聞かれたら答えるさ」

女「前の女はどんな人だったの?」

男「……」

女「ほぅら、呑め呑め」

男「なんてやつだ。」

女「ま、もう知ってるんだけどね」

男「なんだと」

女「それを呑んだら答え合わせよ」くいっ

男「……もうどうにでもなれ」くいっ


643: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 23:09:24.70 ID:/SG5130lO
男「さぁ呑んだぞ。

  潰れる前に言えこのやろう」

女「あらあら……仕方ないわねぇ」

男「もう二瓶空けちまったぜ……」

女「後輩でしょ?」

男「……正解だ。」

女「だって、今でもたまにメールとかしてるもの。」

男「あぁ、なるほど……

  げに恐ろしきおなごネットワーク……」

女「ふふん。

  部活を引退してから、またちゃんと話したのよ。

  いい子ねー、信じられないぐらいいい子だわ。

  涙が零れるぐらいいい子ね、ほんとにもう」

男「ずいぶん可愛がってたもんな」

女「あの子にだったらあなたを取られても……

  なんて、思ってたぐらいにはね。」

男「……」


644: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 23:10:22.83 ID:/SG5130lO
女「あの子、あなたの話をするときは

  メール越しなのにすごく嬉しそうだったわよ」

男「……そうかい」

女「さて、私の可愛い可愛い後輩を泣かせるに

  足る理由をお聞かせ願えるかしら?」



男「えらいことになった」


648: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 23:19:34.65 ID:/SG5130lO








女「……なるほどね。

  ほんとに結局付き合わなかったんだ。」

男「うむ。」

女「あの子はずっとあなたの『後輩』のままだったのね」

男「有り体に言えば、な。」

女「残酷ねぇ」

男「そうだな。」

女「でも、やっぱり優しいわ」

男「そうかな。」

女「……まぁ、話はわかったわ。

  それで、あなたはそれでいいと思ってるの?」

男「ここは部長殿の意見を伺いたいな」

女「後輩はあなたに相談すべきだったわね。

  あなたもそうであってほしかった。

  違う?」

男「相違ありませんです、はい。」


649: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 23:20:35.33 ID:/SG5130lO
女「臆病なのよ。全員クリスマスの七面鳥よ。

  あなたも後輩も、私もね。

  みんなはっきりさせるのが怖いの」

男「部長殿も?」

女「『私のこと好き?』なんてあなたには聞けないわ。

  仮に聞けても、絶対に答えから逃げちゃう」

男「……」

女「後輩は、長い長い猶予期間の中にいたのよ。

  ちょっとずつちょっとずつ気持ちを温めて、

  蒸留して、濾過して、見えないくらい透明なそれを、

  純粋な気持ちを、一生懸命見つめてたの。」

男「実に詩的な表現だ」


650: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 23:21:34.09 ID:/SG5130lO
女「ありがとう。

  でも、そのどこぞの馬の骨のせいで何もかもぶち壊し。」

男「ふむ」

女「昔の私なら、

  その友って子に怒鳴り込んでるところだけどね」

男「いまは違うのか?」

女「付き合い、ってものがあるのよ。

  これはどうしても避けられないわ」

男「なるほど」

女「あなたならそう考えるでしょ?」

男「……まぁな」


659: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 23:33:32.04 ID:/SG5130lO
女「それで、あなたはどうしたいの?

  このままでいいの?」

男「……後輩が決めたことなら」

女「ほんとにそれは後輩がひとりで考えて決めたこと?

  『周りの環境がそうさざるをえなくさせた』んじゃなくて?」

男「ここでまさかの親鸞か」

女「どう?」

男「……『後輩の意見』を聞くべき、か」

女「素晴らしい。

  やっぱりあなたならそう言うと思ったわ」

男「お見通しか……」

女「あなたは正しい意見しか言わないもの。」


663: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 23:34:51.78 ID:/SG5130lO
男「俺のことをそこまでストレートに誉めるのは、

  部長殿と後輩ぐらいのもんだ」

女「慕われてるのよ。」

男「ありがたい話だ……」くいっ

女「私はね」

男「ん?」

女「あなたが最後に逃げ込む場所。

  みんながあなたを追い立てても、

  私だけはあなたを守ってあげる」

男「家賃は?」

女「たまに腕枕してくれたら、それでいいわ」

男「破格だな。」

女「特別料金よ。」くいっ


670: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/16(水) 23:38:05.79 ID:/SG5130lO
センパイサイド、おわり。

勝手にキャラが喋ってるので、どうなるやらさっぱりわかりません。



風呂入って脳内相談してきます。


731: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/17(木) 01:49:02.57 ID:1GfF9hnZO








ガチャ





後輩「ただいまぁ、っと」

男「おかー」

後輩「うわぁあああああっ!」

男「なんだ、幽霊を見たみたいに」

後輩「なっ……なっ……なんでここにいるんですかっ?」

男「いやー、ちょっと忘れ物を取りにな。

  この枕がないとどうにも具合が悪い。」ぽんぽん

後輩「はぁー……そうでしたか……

   びっくりしたぁ……」

男「驚かせてすまんね。

  あ、あとこれ、合い鍵。返すな。」チャリン

後輩「いえ、その……あのですね、」

男「じゃあ、俺はそろそろ行くわ」

後輩「えっ」

男「長居しても悪いしな。」ガタン

後輩「ちょっ、せ、センパイっ!」

男「ん?」



後輩「……お話、しませんか?」

男「後輩さえよければ。」


733: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/17(木) 01:50:07.92 ID:1GfF9hnZO
後輩「とは言ったものの……なはは……ううぅ……

   話題が見つかりませんね、困っちゃったな……」

男「最近どうだ?」

後輩「ど、どう、ですか?」

男「大学、健康、バイト、……」

後輩「えっと、えっと……えっとですね」

男「俺がいなくても、全部ちゃんと成り立つだろ?」

後輩「えっと……」

男「ん?」

後輩「……はい、ちゃんと私はひとりで生活できてます」

男「そりゃそうだ。

  ずっと俺の世話を焼いてたぐらいだからな。

  ずいぶん身軽になったろう。」

後輩「……」


734: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/17(木) 01:51:10.22 ID:1GfF9hnZO
男「ところで後輩……痩せたな。

  いや、やつれたな。」

後輩「そう見えますか?」

男「こんな疲れた後輩、初めて見た。」

後輩「……何ででしょうね。

   家から出るのも、バイトに行くのも、お料理するのも、

   ……こんなに疲れることだったかな、って」


735: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/17(木) 01:52:22.16 ID:1GfF9hnZO
男「そりゃ難儀な話だ。」

後輩「ですね。

   体が重いんです。

   なんだか眠れないんです。

   ……怖いんです。」

男「部長も言ってたぜ。

  みんな怖がりだ、って。

  あぁ、そうそう。部長にたまたま会ったんだがな」

後輩「部長さん、変わってなかったでしょう?」

男「大人になってたよ。

  素直だが、とんだ曲者になってた。

  あと、千里眼も持ってたな」

後輩「なはは……すごいですね」

男「根掘り葉掘り話を聞かれたもんだ」

後輩「なんてコメントされてました?」



男「『どこの馬の骨だか知らないけど、

   見付けたら磔にしてもいでやるわ』



  ってな感じだ。」

後輩「怖っ!」

男「全くだ。

  ぞっとするね」


736: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/17(木) 01:54:28.85 ID:1GfF9hnZO
後輩「……それで、部長さんに言われてここに来たんですか?」

男「半分正解だが、半分不正解だ。

  ここには俺の意思で来た。

  部長殿は俺の意思を引き出しただけだな。」

後輩「……」

男「もう一回、聞こう。

  最近どんな感じだ?」

後輩「つらくて、苦しくて、体が石になりそうです。」

男「それはまた、どうして」

後輩「冷たいんです。この部屋が。

   すごく寒くて、怖いんです。」

男「困ったな。どうしたもんか。」

後輩「……」

男「風水とかでなんとかなるかも」

後輩「……」

男「観葉植物を置いてみるとか」

後輩「センパイ」

男「ん?」

後輩「……私、迷惑じゃないですか?」

男「誰に対して?」

後輩「センパイと、部長さんに対して……です」


738: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/17(木) 01:57:19.39 ID:1GfF9hnZO
男「どうしてそう思う?」

後輩「だって……だって、

   センパイと部長さんはすごくいいカップルで……」

男「ほう」

後輩「……私なんかが……邪魔しちゃ……

   ……好きになっちゃ、いけないん、です」

男「……」


739: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/17(木) 01:58:08.92 ID:1GfF9hnZO
後輩「……部長さんは、誰よりセンパイのことを好きで、

   誰よりセンパイのことを理解してるんです。

   私が間を割って入るなんて、絶対、

   しちゃダメなんです。

   私は、部長さんと、センパイに、

   幸せになってほしくて……

   ……なのに、センパイをひとり占めしようとした、

   悪いやつなんです。

   だから……だから、バチが当たったんです。

   つらくて、苦しくて、当然なんです……」

男「ふむ」


744: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/17(木) 02:01:04.46 ID:1GfF9hnZO
男「なるほど、言いたいことはわかった。

  ときに、後輩よ」

後輩「……はい。」

男「ちょっとこっちに来てくれ」

後輩「……」

男「いいから、ほら。」

後輩「……」

男「後輩。」

後輩「……」とてとて

男「よーしよし、いい子だ。

  なぁ、後輩。」

後輩「はい……?」

男「俺はまだ、『後輩の意見』を聞いてないぜ」

後輩「……!」


747: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/17(木) 02:01:54.85 ID:1GfF9hnZO
男「さっきからずっと

  『後輩が考えた周りの意見』ばっかりだ。」

後輩「……そう……です、ね」

男「怖いか?」

後輩「……」コクン

男「俺もだ。

  俺は、後輩の意見を聞くのが怖い。」

後輩「……」

男「言ったら、聞いたら、もうそれまでだ。

  そこでゲームオーバーだ。」

後輩「……はい」

男「でもな、そこが次のスタートラインだ。



  って部長殿が言ってた。」

後輩「受け売りですか」

男「うむ。男前だろう?」

後輩「はい。とても。」


751: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/17(木) 02:03:26.39 ID:1GfF9hnZO
男「まぁそう言うわけだ。」



後輩「……私は、」

男「うん」

後輩「……私は、やっぱり、ダメな後輩です。

   怖がりで、臆病で……ずるいです。

   部長さんには、全然、かないません。」

男「部長殿さすがだな。」


752: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/17(木) 02:05:48.41 ID:1GfF9hnZO
後輩「でも、



   ……センパイに抱きしめられたら、

   きっと、すごく暖かいと思います」



男「さて、どうだろうな。」

後輩「センパイ、センパイはどう思いますか?」

男「俺か。

  俺はなぁ、後輩の作るご飯が一番うまいと思います」

後輩「私を抱きしめてください」

男「ん。」ギュッ

後輩「……あの、」

男「ん?」


755: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/12/17(木) 02:06:52.27 ID:1GfF9hnZO
ギュウ……っ





後輩「センパイ、今日なに食べたいですか?」













おわり。