1: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/14(日)23:57:32 ID:uNI
颯(サイキックや超能力といわれて何を思い浮かべる?)

颯(サイコキネシス、テレパシー、テレポート、他にもたくさん)

颯(どれも夢見たいな能力。でも空想上のもので実際に使える人はいない)

「ちょっと危ないよ~」

「大丈夫、俺木登り得意だから!」

颯(近所をお散歩中、公園で高い木を登っている子供たちの姿が見えた。木の枝に引っかかっているボールを取ろうとしているみたいだ)

颯(危なっかしいなあ……)

バキッ!

颯「あっ」

颯(手伝おうと思ったそのとき、体重に耐えきれなくなった枝が音を立てて折れ、女の子が真っ逆さまに落ちていった)

「きゃあああ!!!」

颯「ムムムーン!」

颯(はーが手を前に出し力を込めると、落下中の女の子がふわっと浮かび、ゆっくりと地面に着地した)

「え?」

颯(落ちた子は何が起きたか分からないという風に目をパチクリさせ、友達はわんわんと泣いてその子に抱きついていた)

颯「ふぅ……」

颯(少し頭がクラっとする。咄嗟に念動力、テレキネシスを使ったからだ)

颯(はーの名前は久川颯)

颯(サイキックが使える、徳島のかわいい女子中学生だ) 



2: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)00:02:52 ID:hiZ
颯「ただいま~」

凪「おかえりなさい」

颯(帰宅するとなーが出迎えてくれた)

颯(なーこと久川凪は少し言動がおかしな、はーの双子の姉だ)

颯「疲れた~。なー部屋まで連れてってー」

凪「しょうがないですね。ムムーン!」

颯(なーがそう唱えると、はーの身体は浮遊感に包まれ、そのまま部屋まで運ばれた) 

3: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)00:15:37 ID:hiZ
颯(はー達は生まれたときからサイキックを使える)

颯(子供を助けたテレキネシスの他にも、テレパシーや透視、身体強化などいろいろなことができる)

颯(おそらく遺伝的なもので、お母さんのゆーこちゃんもサイキッカーだったらしい)

颯(らしい、というのはゆーこちゃんについての記憶が抜け落ちているからだ)

颯(ゆーこちゃんは去年、はー達の前から姿を消した)

颯(ゆーこちゃんの存在が初めからなかったかのように幼い頃撮ったはずの写真や動画は消え、ゆーこちゃんとの記憶はもやがかかっているかのように曖昧になっていた)

颯(ゆーこちゃんに何かあったのは間違いない)

颯(ゆーこちゃんについて覚えていることは、はー達がゆーこちゃんと呼んでいたこと、サイキックの使い方を教えてくれたこと、そして……)



『サイキックはみんなを笑顔にする力だから』



颯(そう言ってゆーこちゃんは困っている人を助けていたということ)

颯「じゃあ今日の成果報告しよ」

凪「了解です」

颯(はー達はゆーこちゃんの言葉の通り毎日人助けをして、ゆーこちゃんとの繋がりを忘れないようにしている)

颯「という感じで木から落ちた子供を助けたよ」

凪「凪は迷子の子供を送り届けたり、あくびしているバスの運ちゃんに念打を決めました」

颯(運動やテストのとき、なーは本気を出さずいつもはーが勝ってしまう)

颯(でも人助けのときだけ、なーは手を抜かずにやっている。なーもゆーこちゃんのことを忘れたくないんだと思う)

颯「人助けしていればまたゆーこちゃんに会えるかな?」

凪「サイキックもどんどん上達しています。きっと会えますよ」

颯「うん、そうだよね。じゃあ寝よっか」

颯(規則正しい生活は豊かなサイキックパワーを育む)

颯(明日も多くの人を助けるため、はー達は早めの睡眠を取るのだった)

4: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)00:24:55 ID:hiZ
………
…………
………………

颯『ライブ楽しかった~!』


 意識がふわふわとしていた。不思議な感覚。この感覚は何度か経験したことある。これは夢だ。それもただの夢ではなく、予知夢だ。


凪『すごい盛り上がりでしたね。これが……アイドルなんですね』

 
 ライブ? アイドル? はー達アイドルやってるの……?


颯『あ、ゆーこちゃん! はー達のライブ見てくれた!』

 
 え……? ゆーこちゃん?


 キラキラな衣装に身を包んでいるはー達の元に『ゆーこちゃん』と呼ばれた女の人が近づいてきた。はー達は嬉しそうに女の人と会話をしている。

 
颯『いつか親子一緒でステージに立ちたいね!』

 
女の人の姿はノイズが入っていてよくわからない。それでも何故だか、その人は優しく微笑んでいるような気がした……。

……………………
………………
…………

5: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)00:33:41 ID:hiZ
颯(予知夢から醒めたとき、外は既に明るくなっていた)

颯(寝起きはあまり良くないはーだけど、今日はぱっちりと目が覚めた)

颯「むむむ……」

颯(予知夢のことを思い返す。はー達はアイドルになっていた。フリフリでキラキラな衣装を着て、楽しそうだった)

颯(はー達の行動一つ一つで未来は分岐する。そのうちの一つを夢で見せてくれるのが予知夢だ)

凪「はーちゃん起きてますか」

颯(2段ベッドの下からなーが声をかけてきた)

凪「見ましたか、予知夢?」

颯「見たよ。はー達アイドルやってたね」

凪「はい。それだけじゃなく……」

颯「ゆーこちゃんがいたね……」

颯(同じ名前の『ゆーこちゃん』さんがいるのだと思った。でもはーやなーの様子を見る限り、本当にお母さんの『ゆーこちゃん』であるようだった)

颯「アイドルになればゆーこちゃんに会えるってこと……?」

凪「おそらくは」

颯「じゃあ……決まりだね」

6: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)00:49:24 ID:hiZ
颯(ゆーこちゃんと会えるかもしれない。はー達はすぐに行動を始めた)

颯「お父さん!」

父「なんだ?」

颯「はー達アイドルになる!」

父「アイドル?」

凪「アイドルになる予知夢を見ました」

颯「お父さん芸能界でお仕事してたんでしょ? なんかコネでパパッとアイドルになる方法ない?」

父「……分かった。後輩のプロデューサーに連絡をとってみるよ」

颯「わーいありがとう!」

凪「恐ろしく話が早い」

父「予知夢でアイドルか……。血は争えないな……」

颯「ん? 何か言った?」

父「いや何でもない」

凪「鈍感系主人公はーちゃん。漫画で出せば売れそうですね」

颯(とりあえずお父さんは了承してくれたみたい。てっきり反対されるかと思ってたから拍子抜けだ)

7: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)01:23:03 ID:hiZ
颯(次の日。お父さんの後輩さんから連絡が来て、2週間後の東京で開催される新人発掘オーディションに参加することとなった)

颯「東京久々だね!」

凪「叔母の家に泊まりにいったとき以来でしょうか」

颯「また東京の夢と魔法の国に行きたいねー」

凪「凪は東京のドイツ村に行きたいです」

颯「行こ行こ! でもその前に……」

凪「アイドルになってゆーこちゃんを見つけ出す、ですね」

颯「そうだね。早くオーディションの日にならないかな~」

凪「アイドルになったら向こうで暮らすことになるんですし、今のうちにやれることやっておきましょう」

颯「うん。クラスの子と遊びまくっちゃおう!」

父「2人ともオーディションの準備はいいの?」 

颯「大丈夫だよ。ダンス動画見たからサイキックで再現できるし、魅了のサイキックをすれば楽勝楽勝っ」

凪「審査員の心を読めば理想のアイドルを演じられますしね」

父「むむむ……」

颯(はー達がそう言うとお父さんはなんだか複雑そうな顔をしていた。何か考えているようなので心を読むことにした)

颯(ムムムーン!)


父?3.14159265358979323846264338327950288419……?


颯(対策されてる!?)

8: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)01:25:24 ID:hiZ
颯「やっと着いた東京ー!」

凪「ビルがたくさん。毎日せっせと働いて大したものです」

颯(オーディションの前日、はー達は朝早くに出発し、岡山から新幹線で東京に来ていた)

颯「早く叔母さんの家行こっ」

父「その前に行くところがあるから着いてきて」

颯「えー疲れたー」

凪「休憩の魔力に吸い寄せられています。ここは凪を置いて先に……」

父「いいからほらっ」

颯「ぶーぶー」

凪「ぶーぶー」

9: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)01:39:35 ID:hiZ
颯(文句を言うはー達が引き連れられてやってきたのは小さなライブハウスだった)

颯「ライブ?」

父「ライブというよりもフェスかな。これから何人かのアイドルがステージを披露してくれるんだ」

颯「本当!? アイドルのステージを生で見るなんて初めて!」

凪「しかもこれ相当いい席じゃないですか」

父「うん。後輩の担当アイドルが出るから関係者席のチケットを貰ったんだ」

凪「職権濫用もいいとこですね」

颯(お父さんは挨拶をすると言ってスタッフルームの方へ行ってしまい、そのまま開演時間となった)



志希「みんな~、おっはよ~。いや、こんばんはかな? 一ノ瀬志希ちゃん登場~」

颯(ステージに姿を現したのは今話題の天才JKケミカルアイドル一ノ瀬志希ちゃんだった。思ってもみなかった大物の登場に、はーはめちゃくちゃ驚いた)


凪(( 有名な方ですか? 名前は聞いたことあるような気がします ))

颯(( え!? なー知らないの!? 普通に有名なアイドルだよ! ))

 
颯(開演中はお静かにということで、テレパシーでなーと会話する)

志希「じゃあ挨拶もこのくらいにして早速始めようか。ミュージックスタート!」

颯(志希ちゃんのセリフに合わせて照明がダークなピンクに代わり、ステージ全体が怪しい雰囲気に包まれた)

志希「~~~♪」

10: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)01:45:14 ID:hiZ
颯(すごい! すごい!!)

颯(聴いたことある曲なのに全然違う! 音が直に伝わって、響いて、ドキドキする! 楽しい!)

志希「~~~♪」

颯(志希ちゃんが歌い終わると歓声が響き、会場の人たちはペンライトを振っていた。ペンライトがないはー達は代わりに精一杯の拍手を送った)

志希「検証結果は~、おおむねgood! パチパチパチ~」

颯(一曲終わると再び志希ちゃんのMCパートに移った)

志希「くんくん……なんか今日は変わった匂いがするな~」

颯(あれ、今志希ちゃんはーの方を見た?)


凪(( 気のせいですよ。自分は特別だと勘違いする厄介ファンの物真似ですか? ))

颯(( そんなんじゃないし! ていうか勝手に心を読まないで! ))

凪(( ソーリーソーリー ))

颯(( 志希ちゃんの心を読んで確かめるもん! ))

凪(( 恐ろしく早い自己矛盾。凪でなかったら見逃してたな ))


颯(はーは志希ちゃんの方に向けてサイキックの力を入れる)

颯(ムムムーン!)


志希?前の方にいる双子ちゃんから変わった匂いがしたな~。あー近くでハスハスしたい~?


颯(えぇ……)

颯(本当にはー達のことを見ていたんだけど、考えてることがあれなので少し引いてしまった)

志希「志希ちゃんのターン終わり~。次の子にバトンタッチするね」

颯(志希ちゃんはステージ袖に去っていく。途中志希ちゃんと目が合いウィンクをしてくれたけど、はーは素直に喜べなかった……)

11: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)01:48:27 ID:hiZ
父「ステージはどうだった?」

颯「すっごく楽しかった!」

凪「凪ぺディアにアイドルという単語が追加されました」

父「それはよかった」

颯「どうしてはー達にステージを見せてくれたの?」

父「2人にはオーディションを受ける前にアイドルがどういうものなのかを知って欲しくて」

凪「どういうもの?」

父「アイドルっていうのは確かに歌って踊る。でもそれだけじゃなくて見る人を笑顔にするものなんだ」

颯「笑顔に……」

凪「思ってたよりもすごい人たちなんですね」

父「それで明日のことなんだけど」

颯「うん」

父「オーディションでサイキック使うの禁止ね」

凪「え」

颯「えー! なんで!?」

父「サイキックは2人の能力だしずるいとは思わないけど、オーディションでは素の2人を見せて欲しいんだ」

颯「それで合格できるの?」

父「大丈夫。なんたって母さんの子なんだから」

颯「ゆーこちゃん関係ないでしょ……」

12: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)01:54:48 ID:hiZ
颯(なんだかモヤモヤした気分のまま、はーは次の日のオーディションに臨んだ)

颯「久川颯、中学2年生です」

颯「トークなら自信あります! あと顔も、そこそこいいと思うし、スタイルも中2にしては悪くないと思うし……」

颯「歌とダンスは、えっと、練習中だけど、頑張るからすぐに上手くなると思うし、あと、ファッションとか結構好きで……えっと……」

颯「とにかく、アイドルになりにきました! 宜しくお願いします!」

プロデューサー達「「「……」」」

颯(うぅ、面接の人達の顔が険しい……)

P「君はどんなアイドルになりたい?」

颯(どんな……。そんなこと言われてもゆーこちゃんに会えるからアイドルになるわけだし、なりたいアイドル像なんて……)

颯(そんなことを考えていると、頭の中に志希ちゃんの姿が浮かんできた。サイキックを使えないのにみんなを笑顔にする志希ちゃんの姿が……)

颯「……志希ちゃんのような、見てくれる人を笑顔にするアイドルになりたいです」

颯(そんなふわふわした理由をはーは言った。でもそれが今のはーの本心だ)

颯(不安で受かる気はしなかったけど、オーディションの終わりに1人のプロデューサーさんが合格と言ってくれた)

13: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)01:59:00 ID:hiZ
颯「合格! 合格したよ!」

父「おめでとう」

凪「凪も無事合格をもらいました」

颯「本当? やった! これでアイドルできるね!」

凪「ブイ」

颯「もう絶対落ちたかと思ったよ~」

凪「お父さんは妙に落ち着いてましたね。凪たちが落ちないか不安じゃなかったんですか?」

父「全然。後輩に電話したときもう2人の合格は決まってたから」

颯「え?」

父「でもそれでいきなりアイドルになるのは不公平だから形式としてオーディションをやったんだよ」

颯「ええ!? それ早く言ってよー!」

颯(お父さんは愉快そうに笑う。納得いかなかったけど、こうしてはー達のアイドル人生が幕を開けたのだった)

14: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)02:07:57 ID:hiZ
颯「徳島県から来ました久川颯です! 今日からよろしくお願いします!」

凪「久川凪です。ネギではありませんよ」

颯(春休み。地元のみんなと涙のお別れをして、ついにアイドル初日を迎えた)

仁奈「双子初めて見ましたー! すげー!」

颯(まず初めにリアクションを取ってくれたのは小学生と思われる女の子。お仕事の衣装なのか着ぐるみを着ている)

仁奈「市原仁奈でごぜーます! 着ぐるみが大好きですよ!」

颯(仁奈ちゃんは元気に自己紹介をしてくれた。変わった言葉遣いをする子だなあ)

志希「一ノ瀬志希でーす。キミたちこの前のライブに来てくれてたよねー?」

颯「ほ、本物の志希ちゃんが目の前に……」

志希「ハスハスハスー♪」

颯「きゃあああ!」

颯(本物の志希ちゃんを目の前にして感動していると、はーは志希ちゃんに抱きつかれ目一杯息を吸われた。この前のステージで思われたことをまさに実行されてしまった)

凪「お二人だけですか?」

志希「今日はそうみたいだね」

仁奈「本当はまだまだたくさんいるでござーます!」

15: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)02:12:25 ID:hiZ
裕子「遅れてすみませーん!!」

颯(自己紹介を終えてどうしようかと考えていたところに事務所の扉が勢いよく開かれ、ポニーテールが特徴の女の子が入ってきた)

仁奈「ユッコおねーさん! 遅刻はしちゃダメでござーますよ!」

裕子「すみません……むむっ? こちらの可愛らしいおふたりはどちら様ですか?」

志希「今日からアイドルになった子達だよー」

颯「は、はい、久川颯です!」

凪「久川凪です」

裕子「ご丁寧にどうも。では私も……ごほんっ」

颯(ユッコおねーさんと呼ばれた子はわざとらしく咳払いをして変なポーズを決めた)

裕子「最強超能力美少女! サイキックアイドル堀裕子です! ユッコと呼んでください!」

凪「サイキック?」

裕子「はい! ここだけの話なんですが私、サイキックパワーを使えるんです!」

颯・凪「「!!」」

颯(自信満々なユッコちゃんの言葉を聞いてはー達はびっくりした)

颯(はー達以外にサイキックを使える人がいるなんて……)

裕子「ふっふっふっ、驚いて声も出せないようですね……」

颯「本当にユッコちゃんサイキック使えるの?」

裕子「もちろんです! ではお近づきの印に1つお見せしましょう」

仁奈「わーい、ユッコおねーさんのサイキックだー!」

颯(ユッコちゃんは腰のバッグから先割れスプーンを取り出して前に掲げた)

裕子「こちらはなんの変哲もないスプーン。仁奈ちゃん曲げてみてください」

仁奈「わかりました! ふん! ふん! 硬えです……」

颯(仁奈ちゃんは精一杯力を込めるけど曲がらない。結構硬そう)

裕子「ありがとうございます。では今からサイキックハンドパワーでスプーンを曲げて見せます!」

颯(ユッコちゃんは仁奈ちゃんからスプーンをもらう。おそらく手にサイキックを込めて強化するんだと思う。はー達もジャム瓶を開けるときによく使う)

裕子「ムムムーン、ムン!」

颯「……」

凪「……」

志希「……」

仁奈「……」

颯(曲がってない……)

16: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)02:13:14 ID:hiZ
裕子「ム゛ン゛!!!」

颯(あ、曲がった……)

仁奈「すげー!」

志希「にゃははーナイスサイキック~」

颯(いや完全に力任せだったじゃん!)

颯(ユッコちゃんの様子を『視てた』けどサイキックパワーの流れは感じなかった)

颯(なーもユッコちゃんを疑いの眼差しで見ていた)

裕子「ぜえ……はあ……」

仁奈「ユッコちゃん大丈夫でごぜーますか?」

裕子「サイキックは、体力の消費が、大きいのです……」

志希「psychicというよりもphysicsだっ

颯(改めてユッコちゃんの方を『視る』)

颯(サイキックを使えない人にもサイキックパワーというものは少しだけど存在する)

颯(仁奈ちゃんはうっすらと、普通のよりちょっと少ない位のサイキック)

颯(志希ちゃんは普通よりも少し多い。でもサイキックを使うには全然足りない)

颯(ユッコちゃんは……空っぽ)

颯(驚いた。今まで色んな人のことを視てきたけどここまで少ない人は見たことがない。生まれたばかりの赤ちゃんよりも持ってない)

颯(自称サイキックアイドルのユッコちゃんは全然サイキックを持ってない。なんだか少しかわいそうに思えてきた)

17: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)02:25:32 ID:hiZ
颯(そんなこんなではー達のアイドル生活は始まった)

颯(はー達は女子寮に住むことになり、同じく女子寮に住んでいるユッコちゃんに寮生活のコツとかを教えてもらった)

颯(お仕事はないのではー達は毎日毎日レッスンを続けていた。身体強化のサイキックをすると体力も体幹も鍛えられないのでサイキックは封印している。サイキックを使えることはみんなにも内緒だ)

颯(事務所にいる時間が多いため、日課のサイキック人助けは事務所中心で行っていた)

颯(ある日のこと……)



志希「うーん……」

颯「どうしたの志希ちゃん?」

志希「あ、双子ちゃんレッスンお疲れ~。ちょっと探し物してて……」

凪「探し物?」

志希「えっとねー。ハンカチーフ!」

颯「ハンカチ? どんな柄?」

志希「パンダ柄ー」

颯(志希ちゃんは両手で眼鏡を作って答える。意外にもかわいい柄だ)

颯「大事なもの?」

志希「うーん、まあ、別に……」

颯(気まずそうな志希ちゃん。何かあると思って、はーは心を読むことにした)

颯(ムムムーン!)


志希?はぁ、ママから貰った大切なやつなのに……。こんなときに限って芳乃ちゃんはいないし……?

志希?あぁ、どうしよう……?


颯(全然大事じゃん……)

颯(なーも心を読んだようで、はーにテレパシーを送ってきた)


凪(( はーちゃん ))

颯(( わかってるよ。サイキックの出番だね! ))


颯「志希ちゃん、はー達が探してきてあげる」

志希「え、そんな悪いよ」

凪「遠慮しないでください。芳乃さんほどではありませんが探し物は得意なんです」

志希「そこまで言うならお手並み拝見といこうかな?」

颯「オッケー、じゃあ志希ちゃん目を瞑って」

志希「え、目?」

凪「おまじないみたいなものです。そのハンカチを思い浮かべてみてください」

志希「う、うん……」

颯(サイキックで探し物を探すには鉄板のやり方がある)

颯(それは相手の記憶を覗き、過去に遡ることだ)

颯(ただこの方法にはひとつだけ問題がある)

颯(過去を遡るなど時間に関与するサイキックは消費量が半端ないのだ。はーやなーのサイキック量では全然足りない)

颯(でもなーと力を合わせれば解決できる)

颯(はー達のサイキックには唯一無二の特性がある)

颯(なーに触れながらサイキックを使うと、普段の何倍ものパワーが出せるのだ)

颯(一本指が触れれば2倍、2本なら4倍、3本なら8倍というふうに、触れている面積が大きいほど爆発的に出力が上がる)

颯(これを使えばサイキックが足りなくても使えることができる)


颯(( なーやるよ ))

凪(( 了解です ))


颯(私はなーと手を繋ぎ、志希ちゃんに力を向ける)

颯・凪(ムムムーン!)

18: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)02:32:19 ID:hiZ
志希『レッスン疲れた~』

美嘉『おつかれー』


颯(志希ちゃんがプロジェクトルームの扉を開ける。部屋には美嘉ちゃんしかいなく、ソファで雑誌を読んでいた)


志希『あれ、美嘉ちゃんもう予定ないよね? 何か用事?』

美嘉『うん、ちょっとプロデューサーに聞きたいことがあって』

志希『へー……。くんくん』

美嘉『……なに?』

志希『これは……美嘉ちゃんウソついてるね』

美嘉『ぐっ、そんなことないし……』

志希『ただプロデューサーと話をしていたいだけでしょ』

美嘉『へっ!?』

志希『あ、また匂い変わった~。もっと嗅がせろ~』

美嘉『ちょ、やめ、くすぐったい!』


颯(美嘉ちゃんに覆い被さる志希ちゃん。なんだかいけない雰囲気だ)

颯(あっ……)

颯(じゃれている志希ちゃんの後ろポケットからハンカチがこぼれ落ち、美嘉ちゃんのポーチに入っていった)

~~~~~

19: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)02:33:49 ID:hiZ
颯「志希ちゃんさっきまで美嘉ちゃんと一緒だったでしょ」

志希「うん。よく知ってるね」

凪「もしかしたら間違えて美嘉さんがハンカチを持っていってしまったかもしれませんね」

志希「うーん……。美嘉ちゃんに聞いてみよー」

颯(志希ちゃんはスマホを操作して美嘉ちゃんにメッセージを送る)

颯(すぐに返信が返ってきたようで、志希ちゃんはホッとしたような表情を浮かべた)

志希「颯ちゃん達の言う通りだったー。 美嘉ちゃんのポーチに入ってたって」

凪「それはよかったです」

志希「本当にありがとうねー。このお礼はいずれ精神的に」

颯(志希ちゃんは笑顔でお礼を言う。サイキックは笑顔にする力、今日もゆーこちゃんの教えに沿うことができた)

20: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)02:36:08 ID:hiZ
颯「ただいま~」

裕子「おかえりなさいきっく」

颯(その日の夜、寮に帰宅するとユッコちゃんとゆかりちゃんがリビングでお話をしていた)

颯「何かあったの?」

ゆかり「実はペンを無くしてしまって、探して貰っていたんです」

裕子「探し物といえば芳乃ちゃんかエスパーユッコ! このサイキックアイテムを使ってバビッと解決しました!」

颯(ユッコちゃんが見せてきたのはL字のダウジングロッド。でも視たところサイキックは込められていない、ただのおもちゃだ)

ゆかり「すごかったんですよ。手の届かない棚の裏にあるものもバッチリ取ることができました」

颯(それもうただの棒じゃん……)

裕子「ゆかりちゃんのペンの他にもキノコのペン、ドクロのペン、ドーナツのペンを見つけました!」

ゆかり「みんな探していたようで喜んでいましたね」

裕子「ふっ、またしてもサイキックでみんなを笑顔にしてしまいました」

颯(ユッコちゃんのサイキックは偽物だけどみんなを笑顔にしている。そこははー達の目指すサイキッカーの姿そのものだ)

颯(ゆーこちゃんと同じ名前で自称サイキッカー。なにか引っかかるけど、単なる偶然だよね?)

21: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)02:42:34 ID:hiZ
仁奈「ふーんふーんふふーん♪」

颯(別の日。プロジェクトルームで仁奈ちゃんが暇そうにソファで座っていた)

颯「仁奈ちゃんどうしたの? 帰らないの?」

仁奈「家の鍵を無くして帰れねーんですよ!」

凪「それって大丈夫なんですか?」

颯(さらっと衝撃的なことを言う仁奈ちゃん。どうしてそんな余裕そうにしているんだろう?)

仁奈「ユッコおねーさんがさいきっくを使って探しにいってくれましたから大丈夫でごぜーます!」

颯(なーと目が合う。仁奈ちゃんは信じてるみたいだけどユッコちゃんはサイキックを使えない。ユッコちゃんが鍵を見つけられるか正直怪しい)


凪(( また過去を覗く必要がありますね ))

颯(( ユッコちゃんには悪いけどパパッと見つけちゃおう! ))


颯「仁奈ちゃん、目をつぶって」

仁奈「はい!」

颯(仁奈ちゃんが目を瞑ったのを確認したのち、なーと手を繋いで仁奈ちゃんに力を向けた)

颯(ムムムーン!)

22: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)02:46:30 ID:hiZ
~~~~~

颯(事務所に来る少し前、仁奈ちゃんは近くの公園で薫ちゃんと遊んでいた)


仁奈『木登り! コアラのきもちになるですよ!』

薫『仁奈ちゃん危ないよー』

仁奈『大丈夫で……うひゃあ!』

薫『仁奈ちゃん!?』


颯(木登りをして遊んでいた仁奈ちゃんが手を滑らせ、地面に落下してしまった)


仁奈『いてて……』

薫『大丈夫!?』

仁奈『着ぐるみのおかげで何とか無事です……』

薫『よかったー……』

仁奈『あ! もうレッスン時間でごぜーます!』

薫『本当だ! 急ごう!』


颯(仁奈ちゃん達は走って公園を出る。落ちた木の下には仁奈ちゃんのものであろう可愛いキーホルダーのついた鍵が落ちていた)

~~~~~

23: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)02:52:53 ID:hiZ
凪「見つけました」

颯「うん、公園に……」

裕子「エスパーユッコ、ただいま戻りましたー!」

颯(鍵の場所を教えようとしたとき、ユッコちゃんが事務所に戻ってきた。なぜか服はいたるところがボロボロで汚れている)

裕子「はい仁奈ちゃん。これをどうぞ」

仁奈「うわー、鍵だー! ユッコおねーさんありがとう!」

凪「どうやって見つけたのですか?」

裕子「それはこのサイキックダウジングマシンを使ってですね……」

颯(ユッコちゃんは分かりやすい嘘をつく。でも仁奈ちゃんは完全に信じているようで目を輝かせていた)

颯(実際のところどうやって見つけたんだろう?)

颯(ムムムーン)


裕子?公園までの道をひたすら探したおかげで何とか見つけました! 茂みの中も探したので服が汚れちゃいましたが……?


颯(だからあんなボロボロなんだ……)

仁奈「やっぱりユッコおねーさんのさいきっくはすげーですよ!」

裕子「いやぁそれほどでもありますよー」

颯(仁奈ちゃんはとびきりの笑顔をユッコちゃんに向ける)

颯(本当に見つかるか分からないのに、ユッコちゃんは運がいいなあ……)

24: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:00:38 ID:hiZ
颯(その日の寮、まゆちゃんが救急箱を持ってユッコちゃんの前に座っていた)

裕子「あ痛たた……」

まゆ「処置はしましたけど明日病院に行ってくださいね」

凪「裕子さんどうしたのですか?」

裕子「足を捻ってしまいまして……」

まゆ「公園の木を登って足を捻っちゃたんですよね」

颯「木登り?」

凪「それって仁奈ちゃんの鍵を探しているときですか?」

裕子「まあ、そうですね」

颯「サイキックでパパッと見つけたんじゃないの?」

裕子「サイキックで公園に鍵があることはわかったのですが具体的な場所までは分からなかったんです!」

颯「ふーん」

裕子「木から落ちたときお尻の下に鍵がありました。まさにサイキックです」

凪「どんなサイキックですか」

颯「どうしてユッコちゃんはそこまでするの?」

裕子「え?」

颯「怪我までして……。普通ここまでやんないよ」

颯(不思議に思った。どうして自分が怪我をしてまで一生懸命になれるんだろう)

裕子「……困っている人を放っておかないんです」

颯「それでも……」

裕子「私にはサイキックという特別な力があります」

颯(ないよ……)

裕子「特別なことができるなら……やるのが使命だと思うんです」



裕子「サイキックはみんなを笑顔にする力だから」

25: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:04:53 ID:hiZ
颯「え……」

凪「え……」

颯(ユッコちゃんの言葉にはー達は思わず固まってしまった)



『サイキックはみんなを笑顔にする力だから』



颯(だってそれは、はー達が覚えているゆーこちゃんの言葉と全く同じだったから) 

裕子「だから私は人助けをするんです。たとえ怪我をしても私がやらなきゃ笑顔にできないから」

颯「そうなんだ……」

裕子「今日はもう寝ますね。安静にしなくちゃいけませんし」

まゆ「部屋まで送りますよ」

颯「はー達が送るよ!」

まゆ「え、そんなまゆの方がお姉さんだし……」

颯「『送らせて』!」

まゆ「……! ……わかりました。お願いしますね」

颯「ありがとうまゆちゃん! じゃあユッコちゃん行こ!」

裕子「ご迷惑をかけます……」


凪(( 今まゆさんに言霊を使いましたね? ))

颯(( だってしょうがないじゃん。なーだってユッコちゃんのこと気になるでしょ ))

凪(( まあそうですけど ))


颯(はー達が喉にサイキックを込めて言葉を出せば、その言葉通りに相手を操ることができる。さっきはまゆちゃんに使ってユッコちゃんを運ぶのを変わってもらった)

颯(ユッコちゃんには聞きたいことがある。はー達は身体強化をして楽にユッコちゃんを部屋まで運んだ)

裕子「ありがとうございます」

凪「お安い御用です」

颯「それよりユッコちゃんに聞きたいことがあるの」

裕子「なんですか?」

颯「ユッコちゃんってどうしてサイキックを使えるの? 誰か師匠とかいたの?」

颯(さっきのユッコちゃんの言葉。もしかしたらユッコはゆーこちゃんに会ったことがあるのかもしれない。だからサイキッカーに拘っているのかもしれない)

裕子「そうですね、特別にお話しましょう。あれは小学校の給食のとき、手に持っていたスプーンがなんと……」

颯(ユッコちゃんはサイキックに目覚めた話をするがゆーこちゃんとは全く関係がなかった。こうなったら心を読むしかない)

颯(ムムムーン!)


裕子?お二人ともサイキックに興味があるようですね……私も弟子を取ろうとしていたところですし丁度良いかもしれません?


颯(ならないよ……)

颯(ダメだ。必要な情報も手に入らないし、もう直接記憶を覗くしかない)

颯「ユッコちゃん」

裕子「はい?」

颯「『眠って』」

裕子「すやあ……zzz」

凪「……はーちゃん。あまり言霊を乱用しないでください。笑顔のために使うのがサイキックですよ」

颯「わかってるよ。でもゆーこちゃんの手がかりを探すためだもん」

凪「まあ害のない使い方ですし多目に見ましょう」

颯「パパッと記憶を覗いちゃおう」

凪「はーちゃんが人道から外れようとしている……」

颯(手を繋いでサイキックを練り、ユッコちゃんに向ける)

颯・凪「「ムムム……ムーン!」」

26: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:07:04 ID:hiZ
~~~~~

裕子『福井県から来ました! 堀裕子です!』

裕子『アイドルを目指したのはある日、予知夢を見たからです!』


颯(予知夢……)

颯(今のところ手がかりは見つからない。もう少し遡ってみよう……)






裕子『』

裕子『』

裕子『』
 

 

 

颯(え?)

颯(真っ暗……。何もない……)

颯(ユッコちゃんの記憶は事務所のオーディションを受ける日で途切れ、それより前の記憶は抜け落ちていた)

颯(これって……)

~~~~~

27: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:11:08 ID:hiZ
颯「記憶喪失……?」

凪「そう、みたいですね」

颯「全然そんなふうに見えないのに。さっきも小学生のことを喋ろうとしてたし……」

凪「今日はもう戻りましょう。凪もこう見えて混乱しています。部屋で整理させてください」

颯「うん……」

颯(部屋に戻りユッコちゃんのことを考える)

颯(ユッコちゃんは記憶喪失だった)

颯(このことPちゃんは知ってるのかな? そもそも何でアイドルに?)

颯(ユッコちゃんの記憶は新人発掘オーディション付近で途切れていた。Pちゃんに聞けば何か分かるかもしれない)

28: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:16:05 ID:hiZ
颯「Pちゃーん」

P「どうかした?」

颯「ユッコちゃんってどうやってアイドルになったの?」

颯(翌日。はー達はPちゃんにユッコちゃんのことを聞くことにした)

P「ユッコ? ユッコは去年先輩……颯たちのお父さんが連れて来たんだよ」

颯「え?」

凪「お父さんが?」

P「うん。アイドルの卵を見つけたって先輩から連絡が来て。それで颯たちみたいに形式だけのオーディションをしたあと採用したんだ」

凪「随分と父を信頼しているみたいですね」

P「まあ先輩は俺が新米のとき凄腕プロデューサーでプロデュースのノウハウをみっちり教えてくれた人だからね。特に発掘能力がすごくて拾ってくるアイドルはみんな売れっ子になったんだ。何故か先輩自身は1人しかプロデュースしてなかったけど」

颯「ふーん、お父さんがねー」

凪「そもそも何で父はプロデューサーを辞めたのですか? まだ若かったでしょうに」

P「それはね……ってあれ、なんでだっけ……」

颯「ちょっとー、そこ大事なとこ!」

凪「年は取りたくないものですね、おじいちゃん」

P「誰がおじいちゃんだ。えっと確か先輩の担当アイドルが……え、先輩の担当アイドルって誰だっけ?」

颯「Pちゃん……」

凪「すみません。冗談のつもりでしたがまさか本当に物忘れが……」

P「やめて、可哀想な人を見る目で見ないで!」

颯(結局Pちゃんはそんな役に立たなかった)

颯(お父さんは芸能界を離れた今でも趣味としてスカウトを続けていて、出張先でスカウトをしては警察のお世話になっている。芸能界に復業するつもりはないらしい)

颯(ユッコちゃんもそのときにスカウトされたんだと思う)

29: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:23:52 ID:hiZ
…………
………………
……………………

はやて『なーまってよ~』

なぎ『あはは』


 夢を見た。小さい頃のはーとなーの夢。はーとなーは無邪気に遊んでいるようだった。


『颯ー、凪ー。ママから離れないでー』


 えっ……?


はやて・なぎ『『はーい』』


 幼いはー達の元に女の人が近づく。予知夢と違ってその姿はもやがかかっておらず、くっきりと顔まで見えた。

 多分、ゆーこちゃんだ。


はやて『ゆーこちゃん、さいきっくおしえて!』

なぎ『おしえろー』

ゆーこ『そうだね……じゃあ今日は相手を思い通りに行動させるサイキックを教えるね』

はやて『なにそれすごそう!』

ゆーこ『向こうのわんちゃんを見て』

はやて『あ! こどもをいじめてる!』

なぎ『たすけないと!』


 はー達が言うように、大きな犬が吠えて子供を怯えさせていた。


ゆーこ『『静かに』!』


 ゆーこちゃんがそう言うと犬は吠えるのをピタッとやめた。


はやて『わーすごーい!』

なぎ『しずかになったけどまたおそわれるんじゃないでしょうか?』

ゆーこ『大丈夫。見てて』


 犬と少女の様子を観察していると、犬は少女の方に擦り寄って、少女はビクビクしながらも犬を撫でていた。


ゆーこ『あの犬はね。女の子と仲良くなりたくて吠えてたの。でも逆にそれが女の子を怖がらせていたんだ』

はやて『へー』

なぎ『どうしてわんわんのきもちがわかったのですか?』

ゆーこ『わんわんの心を読んだから』

はやて『こころをよめるの!?』

ゆーこ『うん♪』

はやて『おしえてー!』

ゆーこ『また今度ね。今は言霊を教えてあげる』

なぎ『ことだま?』

ゆーこ『さっきやったやつね。まずは相手にして欲しいことを頭に思い浮かべて喉にサイキックを集めるの』

はやて『うんうん!』

ゆーこ『そして相手に向かって、集めたサイキックを声に出して吐き出す。じゃあお互いにやってみようか』

はやて『うん! あーあー。なー、『すわって』』

なぎ『……』

はやて『あれー?』

ゆーこ『ドンマイドンマイ。コツを掴むまで特訓あるのみ!』

なぎ『つぎはなぎのばんですね。あー、はーちゃん、『おすわり』』

はやて『わわっ』

ゆーこ『おー、凪やるね~』

はやて『くやしいー!』

なぎ『3回まわってワンとないてください』

はやて『いやだ~! くるくるくる……わん!』

なぎ『スカートを……』

ゆーこ『こらっ』

なぎ『あいたっ!』

はやて『うわーん、ゆーこちゃーん!』

ゆーこ『よしよし。こら、ダメでしょ凪』

なぎ『ごめんなさいきっく』

ゆーこ『2人ともこれだけは覚えていてね。サイキックは悪いことに使ったらダメ』

ゆーこ『サイキックはみんなを笑顔にする力だから』

……………………
………………
…………

30: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:25:41 ID:hiZ
颯「ん……」

颯(起きてすぐ、さっきまで見ていた夢について考える)

颯(おそらくあれはただの夢ではなく、予知夢とは反対の過去の夢だ)

颯(ゆーこちゃんの顔を初めて見た……はずなのに、その顔は不思議なくらいしっくりと受け入れられた)

颯(はー達のお母さんなだけあって整った顔、大きな丸い目。髪ははー達と違って茶色で、真っ直ぐに下ろしていた)

颯(誰かに似ているような……)

颯(変な引っ掛かりを覚えながら、はーは部屋を出て朝ごはんを食べることにした)

31: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:27:32 ID:hiZ
凪「ゆーこちゃんの顔が初公開となったわけですが、何か引っかかるんですよね」

颯「やっぱりなーもそう思う?」

颯(寮のダイニングルーム、はー達は朝ごはんを食べながら今日の夢について話していた)

颯「なんなんだろうね?」

裕子「おーい、颯ちゃん凪ちゃーん」

颯「あ、ユッコちゃんおは……よ……」

裕子「サイキックおはようございます。昨日はありがとうございました」

凪「裕子さん、その髪……」

裕子「あ、これですか? 今朝の占いで髪型を変えると良いと言われましたので下ろして見ました! どうですか?」

颯(ユッコちゃんはいつものポニーテールではなく、シュシュを外し長い髪を下ろしていた)

颯(いつもの元気な雰囲気が薄れ、黙っているとお淑やかそうに見えるその姿はまるで……)

颯「ゆーこちゃん……?」

裕子「……? はい、エスパー美少女堀裕子です!」

颯(夢の中で見た、ゆーこちゃんと瓜二つだった)

32: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:30:21 ID:hiZ
颯(その後適当にユッコちゃんと話をして別れたはー達は、なーの部屋で情報を整理することにした)

颯「むむ……」

凪「むむむ……」

颯「なーはどう思う」

凪「……おそらく、はーちゃんと同じことを考えていると思います」

颯「ユッコちゃんがゆーこちゃん、はー達のお母さんなのかな……」

凪「理由は置いといて、その可能性は十分あると思います」

颯(正直なところひどく混乱している。混乱しているからこそ、ユッコちゃんがゆーこちゃんだという突拍子もないことを真っ先に考えられたんだと思う)

颯「どうやって確かめよう……」

颯(サイキックに不可能はない。でも親子かどうか確かめるサイキックなんて、使っても信じないと思う)

凪「それは簡単なことですよ」

颯「え?」

凪「サイキックではなく、サイエンスに頼るのです」

33: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:32:08 ID:hiZ
颯「志希ちゃーん」

志希「ん? どしたのー?」

颯(その日の事務所、はー達は志希ちゃんの元へやってきた)

凪「えっと、志希さんに頼みたいことがありまして……」

志希「んーなにー?」

颯「DNA鑑定ってして欲しいの!」

志希「ふーん……え、DNA鑑定?」

凪「はい」

志希「あ、あははー……。予想とは斜め上ベクトルの頼み事で柄にもなく驚いちゃった~」

颯「まあそうだよね」

志希「DNA鑑定なんかしなくても2人は間違いなく血の繋がった姉妹だよー?」

颯「なーとじゃなくて……ゆーこちゃんと!」

志希「ゆーこちゃん?」

颯「あ、ゆーこちゃんっていうのはお母さんのこと」

凪「色々あって本当に親子なのか気になり、こうして志希さんに頼んでいるのです」

志希「ふーん。なんだか複雑な事情があるんだね」

颯「どうにかならない? なるべく早く知りたいんだけど……」

志希「まあ2人にはハンカチを探してくれた恩があるし、黙って協力してあげよーう」

颯「本当!」

志希「うん」

凪「何か必要なものはありますか?」

志希「えっとねー。本当はサンプルを採取するキットがあるんだけど内緒でやるんだよね?」

颯「うん……」

志希「だったら対象者の爪や髪の毛があればいいかなー。髪の毛の場合、毛根がついてるのを5本以上ね」

颯「わかった。ありがとう志希ちゃん!」

志希「ママとは仲良くしときなよ~」

34: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:33:20 ID:hiZ
颯「どうやって髪の毛とる?」

凪「昨日みたいに眠らせて取りますか?」

颯「あまり強制的に眠らせたくはないよね。悪いことしてるみたいだし……」

凪「では深夜に裕子さんの部屋に侵入して採取しましょう」

颯「そっちの方がよっぽど悪いよ!?」

凪「髪の毛は直接取っていいんですかね?」

颯「あ、確かに。手袋用意しておく?」

颯(作戦を立てる。なんにしても同じ女子寮に住んでいるから楽に採取することができるだろう)

35: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:35:18 ID:hiZ
颯(女子寮、消灯時間を大きく過ぎた深夜2時。はーとなーはユッコちゃんの部屋の前に来ていた)


颯(( ユッコちゃん寝てるかな? ))

凪(( どうでしょう。念のため透明化して入りましょう ))

颯(( そうだね ))


颯(透明化した後なーと手を繋ぎ、テレポートでユッコちゃんの部屋の中に侵入した)



颯(部屋の中は暗く、ユッコちゃんは寝ているようだった)

颯(はーは手袋を装着し、暗視のサイキックを使ってユッコちゃんの方に近づいた)

颯(夢の中のゆーこちゃんと同じ見た目のユッコの髪に手を置き、ゆっくり深呼吸をする)

颯「てやっ」

裕子「いてっ……zzz」

颯(毛根まで取れるよう慎重に、なんとか5本採取することができた。ユッコちゃんは痛そうなリアクションをとるのでなんだかすごく申し訳なくなった)

颯(採取した髪を志希ちゃんから貰った入れ物に保管し、テレポートでユッコちゃんの部屋から離脱した)

36: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:36:28 ID:hiZ
颯「志希ちゃんこれ、サンプル」

志希「オッケーちょっと確認するね~」

颯(志希ちゃんは袋を開けて中の物を確かめる)

志希「クンクン……これは颯ちゃん」

颯「え、わかるの?」

志希「こっちは……クンクン。……ん?」

颯(ユッコちゃんの髪が入った袋の匂いを嗅ぐと、志希ちゃんの表情が一瞬だけ変わった……ような気がした)

志希「……にゃははー。さっきの質問だけどね、勘で適当に言っただけだよ」

颯「なーんだ、残念」

志希「本当は2週間くらいかかるけど、優先的にやるよう頼むから3日待てば結果が届くと思うよ」

颯「ありがとう」

志希「いいっていいって、あたしも結果を早く知りたいし」

颯(3日……早く経たないかな)

37: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:42:17 ID:hiZ
…………
………………
……………………

裕子『プロデューサー!』


 この夢は予知夢? いや、この感覚は……過去視だ。前にゆーこちゃんとの記憶を見たときと同じ感覚だ。

 あれ? ユッコちゃんが話しかけている人って……


裕子『き、今日は、プロデューサーに伝えたいことがあるんです』

父『どうした?』


 お父さん!?

 間違いない。ユッコちゃんの目の前にいる人は、はー達のお父さんだ。

 これは……お父さんがプロデューサーをやっていたときの記憶? 20年前くらいの出来事? でもなんでユッコちゃんが?


裕子『私、プロデューサーのことが好きです!』


 ええええええええ!!?!? こ、告白!?


父『あのな、前も言ったけど俺とお前はプロデューサーとアイドルで……』

裕子『今日はそんな言い訳で引き下がりませんよ! プロデューサーの心を読みます! ムムムーン!』


父 ?3.1415…… 3.1415…… 3.1415……?


裕子『ちょっと! 円周率を唱えないでください! あと全然言えてないじゃないですか!』

父『20歳になったらな』

裕子『え、それって……』

父『ほら、もうレッスンだろ。トレーナーさんに怒られないようにもう行った行った』

裕子『もおおお! 20歳ですね! 絶対ですよ、絶対待っていてくださいね!』

父『……地元で転職先探すか』

……………………
………………
…………

38: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:43:44 ID:hiZ
…………
………………
……………………

父『ユッコ、お疲れ様』

裕子『プロデューサー、ありがとうございます……すごい盛り上がりでしたね』

父『そりゃあの人気サイキックアイドルの引退ライブなんだからな……』

裕子『そうですね。5年間……長いようであっという間でした……』

父『やり残したことはないか?』

裕子『ない……と言ったら嘘になるかもしれません。ただこのタイミングで引退するのが一番何だと思います。予知夢でもそう出ています』

父『これからはどうするんだ?』

裕子『サイキックでみんなの元へ笑顔を届けに行きます。アイドルを辞めてもそれは変わりません』

父『そうか……』

裕子『その……ですね。予知夢では私の隣にもう1人いたんです……』

父『……』

裕子『プロデューサー、私……』

……………………
………………
…………

39: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:44:49 ID:hiZ
…………
………………
……………………

裕子『良かったんですか? プロデューサーを辞めちゃって』

父『いいんだ。引退してすぐプロデューサーと付き合ったなんてバレたらユッコにも事務所にも泥を塗ることになるだろ』

裕子『そんなときはサイキックを使って忘れさせますから大丈夫ですよ』

父『俺なりのけじめなんだよ。まあ大丈夫、前々から考えていたことだから転職先ももう決まっているんだ。プロデューサーとしてのノウハウはこの間入った新人に全部叩き込んだし、スカウトだけで担当はユッコしかいなかったから』

裕子『前から考えていたってことは……プロデューサーってば告白されたときからユッコのこと好きだったんですね!』

父『うるさいうるさい。それに俺はもうプロデューサーじゃない』

裕子『そうですね、あなた♪』

……………………
………………
…………

40: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:45:36 ID:hiZ
…………
………………
……………………

裕子『うーん、うーん……』

父『頑張れユッコ! 頑張れ!』

裕子『お腹が……! 痛み止めのサイキックを……ムムムーン!』

父『お、おい。そんなサイキックを使ったら子供に影響が出ちゃうんじゃ……』

赤ちゃん×2『『おんぎゃあ! おんぎゃあ!』』

裕子『産まれました!』

父『やった! って浮いてるううう!!!』

……………………
………………
…………

41: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:46:19 ID:hiZ
颯(DNA鑑定の結果を待つ間、毎日夢を見た。ユッコちゃんとお父さんの夢)

颯(多分これは過去の出来事を見せる夢で、全部本当のことなんだと思う)

颯(やっぱりユッコちゃんがゆーこちゃんなんだ。でもなんで……なんではー達の記憶から無くなっているの?)

颯(考えても分からない。だって記憶から無くなってるんだもん)

颯(とりあえず今日鑑定の結果が届くはずだし、一応結果を見てからどうするか決めよう)

42: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:48:03 ID:hiZ
志希「はいこれ結果~」

颯「志希ちゃんありがとう!」

颯(志希ちゃんから結果が届いたとの連絡を受け、はー達は真っ先に志希ちゃんのところへ足を運んだ)

颯(渡された書類を見る。難しいことがいっぱい書いてあるけど、要約すると……)

颯「ちゃんと親子ってことだよね」

志希「そう。ママのDNAを半分受け継いだ正真正銘の親子だね」

颯「やっぱりそうなんだ……」

凪「そうなんだろうとは思いましたが、いざ証明されると不思議な気持ちですね……」

颯(これでユッコちゃんがゆーこちゃんだと証明された)

颯(でもこれからどうしよう? はー達が娘ですって直接言っても信じてもらえないだろうし、ユッコちゃんは記憶喪失だし……)

志希「あたしは部外者だからよく分からないし何か言うべきでもないんだろうけどさ」

颯「え?」

志希「ちゃんとママに甘えないときっと後悔するよ」

颯(いつもとは少し真剣な声で志希ちゃんは言う。その言葉には少しの後悔の言霊が含まれているような気がした)

颯「……分かった。ありがとう志希ちゃん!」

志希「今度颯ちゃん達のママ紹介してね~」

颯(志希ちゃんのおかげでやることが決まった)

颯(サイキックでユッコちゃんをゆーこちゃんに戻す! そして全力で甘える!)

43: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)03:57:18 ID:hiZ
…………
………………
……………………

 夢の中。はーとなーは家のリビングでサイキックトレーニングをしていた。これは……去年辺りの記憶?


颯『だいぶ手を繋いだときのサイキックも慣れてきたね』

凪『そうですね。探し物を見つけるのもだいぶ早くなりました』

颯『そろそろ何か別のことやってみない? 記憶を遡る以外で』

凪『そうですね……サイキックが多く必要な奴ですとテレポートとか』

颯『えー、この間失敗して壁にめり込んだじゃん。はーやりたくない』

凪『あのときのゆーこちゃんの悲鳴はすごかった』


 テレポートに失敗したときのことはよく覚えている。手を繋いだサイキックを練習中、テレポートに失敗して壁にめり込んでしまったのだ。今でもはー達の実家の壁には二つの穴がある。


颯『じゃあさ、時間移動はどう? 過去に行って、アイドルをやってるゆーこちゃんに会いに行くの!』

凪『いいですね。透視を使ってお宝写真を撮れば、大儲けできますよ』

颯『なー、サイキックは笑顔にする力だよ。悪いことに使っちゃダメ!』

凪『当時のファンは笑顔になるのでいいのでは?』

颯『……確かに』


 いや駄目だよ……。そんなはーの思いは夢の中のはー達には伝わらず、はー達は手を繋いだ。


颯・凪『『ムムムーン!』』

凪『……』

颯『……』

凪『何も起きませんね』

颯『サイキックが足りないのかな?』

凪『時間を遡るだけでなくそこに移動するわけですからね。これまで以上のサイキックが必要となるのでしょう』

颯『……なー、もう片方の手出して』

凪『両方の手を繋ぐのはゆーこちゃんに禁止されてますよ』

颯『大丈夫だって。片手も慣れてきたんだし、ちょっとくらい大丈夫だって』

凪『それもそうですね』


 はー達はサイキックを使った状態で両手を重ねようとする。はーにはこのときの記憶はない。両手を合わせたサイキックがどうなるのか非常に気になった。


颯『うわっ!』

凪『うっ……』


 重なった瞬間。サイキックは大きく膨れ上がった。あまりのサイキックの多さに身体が悲鳴をあげているのか、はー達は苦しそうにしていた。


颯『む、無理……。手放すね……』

凪『そうですね……あっ』


 お互いがまずいことを悟って手を離そうとしたが、立つことさえままならないほど消耗していたようで、その場に倒れ込んでしまった。


颯『う、うわああ!!!!』

凪『ああ……!!』


 はーの上になーが倒れ込む。両手だけでなくお腹や足までも重なってしまった結果、2人のサイキックは爆発した。両手を重ねたときを軽く超えるほどのサイキック。許容量を遥かに上回るそれに耐えきれずはー達は悲鳴をあげた。

44: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)04:01:30 ID:hiZ
裕子「2人とも、どうしたの!?」

凪「ゆーこ……ちゃん……」

颯「サイキックが、止まらないの……」


 はー達は既に離れてどこも触れ合っていなかった。しかしサイキックの暴走は止まらず、引っ込めることも出来ていない。


凪『あ、あつい……』

颯『苦、しい……』

裕子『2人とも、ママの手を握って!』


 はー達は言われるがままにゆーこちゃんの手を掴む。すると暴走したサイキックがゆーこちゃんに流れ出した。


裕子『くっ……。ムムム、ムーン!!!』


 ゆーこちゃんは流れ込むサイキックに苦しそうな表情を浮かべながら、自身もサイキックを使う。


颯『何……を、してるの?』

裕子『ママのサイキックで暴走したサイキックを打ち消してるの』

凪『でもゆーこちゃんのサイキック量では……』


 なーの言う通りだ。ゆーこちゃんのサイキック量は多いけど、今はー達から溢れ出ているそれに比べたら雀の涙だ。すぐにゆーこちゃんのサイキックは尽きてしまった。


裕子『ぐっ……』


 そんなとき、ゆーこちゃんの身体にある変化が生じた。


颯『ゆーこちゃん、背縮んでる……?』

凪『どうして……』

裕子『凪達のサイキックを使って、私の時間を巻き戻しているの。このサイキックは時間を遡ろうとしていたんでしょ?』


 サイキックが暴走したならその分使えばいい。ゆーこちゃんはそういう理屈で自分にサイキックを使っていた。ゆーこちゃんの時間はどんどん巻き戻り、その分サイキックの暴走が小さくなっていく。

 でも……


裕子『時間を巻き戻したら、あなた達との思い出もなくなっちゃうと思う』 


 時間を戻す。それは成長だけでなく記憶も戻る。ゆーこちゃんが紡いできたアイドルやはー達との思い出がなくなってしまう。


凪『そんな……』 

颯『やだ! 忘れたくない!』

裕子『……ごめんね』


 はー達は泣いて叫ぶけど、ゆーこちゃんはサイキックを使い続ける。ゆーこちゃんがユッコちゃんの姿まで小さくなったとき、はー達の暴走は収まった。


父『裕子!』

凪『お父さん!』

颯『助けて、ゆーこちゃんが!』

裕子『ごめんなさいプロデューサー、サイキックを使い過ぎちゃいました』

父『裕子……』

裕子『今は……そうです。アイドルになる予知夢を見て、東京に向かおうとしているところでした……』

裕子『起きたら、みんなのことを忘れて、みんなも、ユッコに関することだけを忘れちゃうと思います……』

颯『やだやだ!』

裕子『プロデューサーさん……私を東京に連れてってください……そしたらまたアイドルに……』

父『……わかった。なんとかする』

裕子『凪……颯……』

颯『ごめんねゆーこちゃん、はーのせいでこんな……』

裕子『そんな顔、しないでください……当然なことをしたまでです』

裕子『サイキックはみんなを笑顔にする力なんだから』

裕子『私のことを忘れても、2人で困ってる人を助けて、笑顔を届けてくださいね……』

颯『ゆーこちゃん!』

凪『うっ……!』

父『颯! 凪!』


 限界を迎えたのか、はーとなー、ゆーこちゃんが倒れる。お父さんは悔しそうに俯き、携帯電話でどこかに電話をかけはじめた。

……………………
………………
…………

45: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)04:03:04 ID:hiZ
颯「ゆーこちゃん!」

颯(はーは叫びながら跳ね起きた。汗がすごい。最悪な目覚めだった)


颯(( なー起きて ))

凪((  起きてますよ……。最悪な目覚めです ))

颯(( あの夢……事実なんだよね? ))

凪(( そうですね。色々と辻褄が合います ))

颯(( Pちゃんがお父さんの記憶を忘れていたのもユッコちゃんが関係していたからなんだね ))

凪(( 裕子さんの記憶が途中途切れていたのも頷けます ))

颯(( ユッコちゃんのサイキックが空っぽなのは、あのときのサイキックで使い果たしたから? ))

凪(( おそらくは ))

颯(( ……どうする? ))

凪(( 決まっているでしょう。理由が分かったのなら、なおさら凪たちのサイキックでゆーこちゃんを元に戻します ))

颯(( だよね! ))

46: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)04:06:57 ID:hiZ
颯(はー達はそのままゆーこちゃんの部屋へテレポートした)

颯(ゆーこちゃんはまだ夢の中で、ぐーすか寝息をたてている)

颯(ゆーこちゃんを元に戻す。やり方は単純で夢と逆のことをすればいい)

颯「やるよ、なー」

凪「いつでもオーケーです」

颯(手を繋いで未来へ進むイメージをサイキックに乗せる)

颯・凪「「ムムムーン!」」

裕子「すやあ……zzz」

颯(制御できる範囲で最大まで増幅したサイキックがゆーこちゃんに流れ込む)

颯(でも……)

颯「なんで……なんで何も起きないの!」

凪「消滅した時間……約20年分を取り戻すんです。この程度のサイキックでは足りないということでしょう」

颯「そんな、じゃあどうすれば……」

凪「サイキックが足りないとき、凪たちがやることはひとつです」

颯「……もっと触れ合うってこと?」

凪「はい。事故で押し倒してしまった結果ああなったので……」

颯「あのときと同じくらい身体を重ねれば必要な分のサイキックを補える」

凪「そういうことです」

颯(一旦ゆーこちゃんにサイキックを使うのをやめ、なーと向き合う)

凪「まずは両手を合わせましょう。修行した今の凪たちなら、きっと大丈夫です」

颯(両手を合わせてサイキックを使うとどうなるか、夢でしっかりと見てきた。はー達は慎重にゆっくりと両手を重ねていく)

颯「うぅ……!」

凪「ぐっ……分かってるつもりでしたが、思った以上にキツいですね……」

颯(両手が触れ合った瞬間、サイキックが膨れ上がると同時に頭が割れそうなほどの頭痛がはー達を襲った)

凪「向かい合わせ手組みなんて、一部の人が、喜びそうですね……。写真を投稿したら、バズりますよ……」

颯「冗談はいいから……。こんな、お互い辛そうな顔しちゃ、喜ぶ人なんていないよ……」

凪「じゃあやめますか……?」

颯「それこそ冗談。なーだってやめるつもりないでしょ……!」

颯(とてつもないサイキックが出ているが、夢の中のあれに比べたらまだ少ない。これではゆーこちゃんを元に戻せないだろう)

颯(痛みに慣れたところで、はー達は手のひらから肘までをくっつける)

颯「うっ……あ、ああああああ!!」

凪「ああっ……!!」

颯(身体が熱い……! 暴走を抑えるだけで精一杯……!)

47: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)04:08:59 ID:hiZ
裕子「むにゃ……はっ! え、え!? 颯ちゃん!? 凪ちゃん!?」

颯(あまりの異常事態に流石のゆーこちゃんも目を覚ました)

裕子「大丈夫で……うっ!」

颯(ゆーこちゃんがはー達の腕を掴んだ瞬間、サイキックがゆーこちゃんに流れ込み、ゆーこちゃんは苦しそうな表情を浮かべる)

颯「ゆーこちゃん……腕離して……」

凪「危ない、ですよ……」

颯(今のはー達にサイキックをコントロールするだけの余裕は残っていない)

颯(ゆーこちゃんを元に戻すどころか存在そのものを消しちゃうかもしれない)

裕子「嫌っ! 颯と凪が苦しんでるのに見過ごせるわけないじゃない!」

颯「え……?」

裕子「ムムムム、ムーン!!!」

颯(そう力を込めて叫ぶと、ゆーこちゃんの体が光を放った)

颯「ゆーこちゃん! うっ……」

颯(光に包まれたはー達に再び頭痛が襲い、はー達は意識を手放した)

48: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)04:13:51 ID:hiZ
颯「う、うう……」

颯(気を失って、目が覚めた時にはもうお昼になっていた)

颯(ここは……ゆーこちゃんの部屋)

颯(目が覚めたはいいけど力が入らない。サイキックを使って身体を無理矢理起こした。さっきまであれだけ消費したというのに、すっかり元のサイキック量に戻っている)

凪「おはようございます」

颯「おはよう、もうお昼だけど。ゆーこちゃんは?」

凪「後ろです。ベッドに寝かせました」

裕子「すやあ……zzz」

颯(ゆーこちゃんは気持ち良さそうに寝息を立てていた。ちゃんと生きているようでひとまず安心だ)

颯「ゆーこちゃん変わってないね」

凪「はい。身長、体重、どれも変わっていません」

颯「そうじゃなくてさ。ユッコちゃんになっても、ゆーこちゃんはゆーこちゃんなんだよ。困ってる人がいたら助ける優しいお母さん」

凪「……そうですね」

颯「はー達は急ぎ過ぎていたんだと思う。ゆーこちゃんを1日でも早く元に戻そうと焦って、結局あのときと同じ失敗をしちゃった」

颯「ゆーこちゃんに会えたんだから、少し時間がかかってでも元に戻せる方法を探していこっ」

凪「はい。まずはサイキックを鍛えないといけませんね」

颯「うん!」

49: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)04:15:39 ID:hiZ
裕子「ん、うーん……」

颯・凪「「!!」」

颯(決意を新たにしていたところ、ゆーこちゃんが目を覚ました)

裕子「ふあーあ。よく寝た~……」

颯「ゆ、ゆーこちゃん!」

裕子「んー?」

颯「大丈夫? どこか痛いところはない? あと勝手に部屋入ってごめんね」

裕子「どうしたの颯、そんな興奮して」

颯「だって、またゆーこちゃんを巻き込んで……」

裕子「そんな顔しないの。当然なことをしただけ」



裕子「娘が苦しんでいるんだから、ママとして見過ごすわけないでしょう?」

50: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)04:17:14 ID:hiZ
颯「え……?」

凪「ゆーこちゃん……?」

裕子「どうしたの? 2人ともそんな固まっちゃって……」

凪「今娘って……、ママって……」

颯「思い……出したの? はー達のこと」

裕子「ええ。全部思い出したの」

裕子「2人のサイキックが流れ込んだとき、2人の記憶も流れてきて……」

裕子「その小さな種がサイキックで成長して、元の記憶を取り戻したの」

颯「そう、なんだ……」

裕子「凪、颯、ただいま。2人ともよく頑張ったね」

51: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)04:17:31 ID:hiZ
颯「う……うわーん! ゆーこちゃん!!」

裕子「もー、颯ったら相変わらず泣き虫だね」

凪「ゆーこちゃん……!」

裕子「凪まで? おーよしよし……」

颯(ゆーこちゃんが記憶を取り戻して、はー達のことを思い出してくれた。はー達は我慢できず、ゆーこちゃんに飛びついた)

颯(しばらくゆーこちゃんに抱きついたまま、はー達は気が済むまで泣き続けたのだった)

52: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)04:20:26 ID:hiZ
颯「ゆーこちゃんの身体は元に戻らなかったね」

凪「記憶を取り戻したのもゆーこちゃんだけで、世間の人はアイドルとして活躍していたゆーこちゃんを覚えていません」

裕子「昔のライブ映像とかドラマが残ってないのは寂しいなあ。ウサミンも私のこと忘れているし……」

凪「ゆーこちゃん……」

裕子「まあ20年前のアイドルが急にまた登場しても混乱するだけだしね。しばらくはこのままでいいのかも」

颯「記憶しか取り戻せなかったのはサイキックが足りなかったからなんだよね?」

凪「そうでしょうね」

颯「あれだけ苦労したのに、割りに合わないなー」

凪「まだまだ修行が足りませんね」

裕子「2人ともお願いだからもう危ないことはやめてね?」

颯「分かってるって!」

颯(ひとまずは安心だけどまだまだ残っている問題は多い。はー達のサイキック修行はまだまだ続きそうだ)

53: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)04:22:02 ID:hiZ
裕子「そういえば2人はなんでアイドルをやってるの?」

颯「予知夢を見たから!」

凪「アイドルになってゆーこちゃんと再開する夢を見たのです」

裕子「なるほど~。ということは夢が叶ったってことだ」

颯「うん!」

裕子「それじゃあこれからどうするの?」

颯「え?」

裕子「アイドル続けるの? 私は続けるけど」

颯「それは……」

颯(ゆーこちゃんに会えたから当初の目的は完了した。これ以上アイドルを続ける理由は……なんだろう)

…………
………
……

54: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)04:24:46 ID:hiZ
颯「うぅ、緊張してきた……手にサイキック文字を書いて飲み込めば……」

凪「……」

颯(1ヶ月後、ついにはー達の初ステージの日がやってきた。キラキラでフリフリの衣装を着て見た目はアイドルっぽいけど、中身はガチガチ。なーも柄にもなく緊張しているみたい)

裕子「颯、凪、手出して」

颯「う、うん……」

凪「はい」

裕子「ムムムーン!」

颯(ゆーこちゃんはそんなはー達の手を取り優しく握ると、ギュッと力を込めた)

裕子「今ね、勇気のサイキックを送ったの。届いた?」

颯(ゆーこちゃんは優しく微笑む。ゆーこちゃんはサイキックを使えないはずなのに、はーの心はポカポカして身体の震えがおさまっていくのを感じた)

颯「ゆーこちゃんって本当すごい。不安なんて消したんじゃった」

凪「はい。本当ゆーこちゃんは偉大です」

颯「はーもゆーこちゃんみたいなサイキッカーになれるかな」

裕子「もちろん、アイドルを頑張ればいつかね。そのためにもまずは初ステージ頑張って!」

颯・凪「「うん、行ってきます!」」

55: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)04:25:51 ID:hiZ
颯「こんにちは! 久川颯です!」

凪「久川凪です。2人合わせて……」

颯・凪「「miroirです!!」」



颯(結局はー達はアイドルを続けることにした)


颯(志希ちゃんのステージで感じたワクワクとドキドキ。はーもそんなパフォーマンスをしたいと思ったから)


颯(それにアイドルを続ければサイキックも上達すると思った)


颯(どうしてかって?)


颯(だってアイドルもサイキックも、人を笑顔にするものだから!)

56: ◆r5XXOuQGNQ 21/03/15(月)04:35:08 ID:hiZ
終わりです。ありがとうございました。
ユッコ誕生日おめでとう! 遅れてごめんなサイキック
はーちゃん達のママがゆーこちゃんだから堀裕子かもしれないというよくあるお話。多分違う 

引用元: 【デレマス】久川姉妹はサイキッカー