美琴黒子佐天初春「貴方たちを全力で倒す!」 vs 上条一方通行「……やってみろ」2 前編

634: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/06(火) 23:21:44.39 ID:HYcJdkc0
3日後・上条たちのアジト――。

上条「言った通り、黄泉川先生の部下の1個小隊が陽動で敵の主力を引き付けてくれる。その間に、俺たちは敵の一拠点を潰すぞ」

メインルームで作戦会議を行う上条と一方通行と御坂妹。
彼らは今、手元の資料に注目している。

上条「能力を持った科学者、魔術師、あるいは武装した兵士。何が出て来るか分からないが、十分気を付けてくれ」

一方通行「数あるうちの1つとは言え、敵の拠点に攻撃を仕掛けるンだ。こりゃァ、かなり危険な仕事かもなァ……」

頭をかきながら資料を眺めていた一方通行が一言呟いた。

御坂妹「表の陽動との連携が上手くいけば、我々もスムーズに行えるでしょう、とミサカは推測します」

一方通行「ま、やってみる価値はあるかもなァ」

上条「そういうことだ。御坂妹……」

御坂妹「はい?」

と、そこで上条が御坂妹に視線を向けた。

上条「さっきも言ったが、別に無理して付いて来る必要は無いんだぞ? 破壊工作ぐらいなら俺たち2人でも出来るんだから」

御坂妹「いえ。ただでさえ人数が不足しているのです。援護は多い方が合理的でしょう、とミサカは主張してみます」

上条「なら、無理して止めないがな……」

含みのあるようにそう言う上条。
御坂妹は何も返さず、ただ黙っていた。

御坂妹「…………………」 



638: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/06(火) 23:27:19.04 ID:HYcJdkc0
上条たちのアジト・御坂妹と打ち止めの寝室――。

御坂妹「やれやれ、とミサカは唐突に溜息を零してみます」

打ち止め「ムー…そんな言い方はないんじゃないかな10032号、ってミサカはミサカはブー垂れてみたり!」

御坂妹「チッ、わがままで生意気なガキめ、とミサカは密かに上位個体の陰口を叩きます」

打ち止め「陰口になってないよー、ってミサカはミサカは指摘してみる」

狭い寝室で繰り返される「ミサカ」という単語。
今、御坂妹と打ち止めは仲良く(?)一緒になって寝室のベッドに潜り込んでいた。

御坂妹「そもそも、どうしてミサカが毎晩こんなことをしなければならないのでしょう? とミサカは懲りずに文句を言ってみます」

こんなこと、とは今まさに御坂妹がしていることで、それは寝る前の打ち止めに絵本を読んで聞かせてあげることだった。端から見れば仲の良い姉妹である。

打ち止め「いいのいのーって、ミサカはミサカは10032号の身体にギューッとひっついてみる」

御坂妹「やれやれ……(本物の姉妹とはこの様なものなのでしょうか。なら、こうやって本当の姉みたいに妹を可愛がるのも悪くないのかもしれませんね、とミサカは内心微笑んでみます)」

打ち止め「じゃ、次これ読んでよー」

御坂妹「はいはい分かりました、とミサカは本を開いてみます」

打ち止め「ワクワク」

御坂妹「むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんが………」

数十分後、本を読み終え部屋の電気も落とし、御坂妹と打ち止めは天井を見上げていた。

打ち止め「ねぇ……10032号」

御坂妹「何でしょうか?」

打ち止め「上条さんに言われたこと気にしてるの? ってミサカはミサカは地雷を踏みそうな話題に少し触れてみたり」

御坂妹「…………………」

打ち止め「上条さんは、明日の敵拠点の1つの破壊工作について、10032号に『無理して付いて来なくていい』って言ったみたいだけど……。別にそれは10032号が役立たずだとか、弱いとかそんなことを言っているんじゃないと思うよ、ってミサカはミサカは擁護してみる」

御坂妹「………」

打ち止め「多分、単純に危ない目に遭わせたくないんじゃないかな? ってミサカはミサカは名推理」

640: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/06(火) 23:33:48.40 ID:HYcJdkc0
御坂妹「…………それは十分承知しています。ですが、ミサカはあの人に協力を申し出る時『最後の最後まで付き合う』と誓ったのです。今更、危険から逃げようだなんて考えてません、とミサカははっきりと言っておきます」

打ち止め「だから、その10032号の決心を気遣ってほしかったんでしょ?」

御坂妹「………」

打ち止め「でも明日の作戦は、上条さんと一方通行の2人だけでも出来ることだし、上条さんは無理してまで10032号が危ない目に遭ってほしくなかっただけだと思うよ。ミサカも、そういう場合なら、10032号が付いて行かなくてもいいと思うけど……」

御坂妹「別にそれだけが理由ではありません」

打ち止め「え?」

御坂妹「ミサカには、あの人の側についてあの人を守ってあげたい、という意志もあるのです、とミサカは言い切ってみます」

打ち止め「そっか……」

御坂妹「………………」

無言になる2人。
御坂妹は、上条の言葉を思い出す。

御坂妹「(ミサカの固い意志は何人にも止められません、とミサカは自分で確信します)」

1度、御坂妹は溜息を吐く。

御坂妹「下らないことを言ってないで早く寝なさい」

打ち止めに注意する御坂妹。それはまるで本当の姉のようだった。

御坂妹「?」

しかし、打ち止めからの返事がない。思わず、打ち止めの方を見てみると……

打ち止め「スー……スー……」

打ち止めが天使のような寝顔で可愛らしい寝息を立てていた。

御坂妹「まったく、おマセさんなんだから」

打ち止め「スー……スー……」

御坂妹「……………ハァ…」

再び溜息を吐く御坂妹

御坂妹「………………クスッ」

そして1度だけ口元を緩めると、御坂妹は打ち止めに優しく布団を掛けてやった。
規則的なリズムで打ち止めのお腹を軽く叩いてやりながら、御坂妹も深い眠りに就いた。

661: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 21:41:23.55 ID:xkIq9wM0
翌日、上条の言った通り、学園都市の全校に出されていた休校措置が久しぶりに解除された。
安心した学生たちは、溜まっていた不安を発散するように街へ飛び出し、久しぶりの学生生活に身を浸らせた。
街は活気を取り戻し、学生たちの元気な声が響き渡った。
彼らは、赴くままに青春を楽しむ。街の裏で何が起こっているのか知らないまま――。


放課後・とある喫茶店――。

美琴「さぁて♪ 久しぶりのパフェよ~♪」

初春「私もパフェが食べたくて食べたくて、この日が再び来るのをずっと待っていました!」キラキラ

窓際のテーブルに、いつもの4人…美琴、黒子、佐天、初春が座っていた。
彼女たちは今、4人分のパフェを前に女子中学生らしい歓喜の声を上げている。

佐天「うっひゃー…御坂さんも初春も、でっかいの頼んだねー」

黒子「お姉さま、太りますわよ」

美琴「1回食べただけで太ってたら、全人類メタボ化してるっつーの。しかも一昨日までホームレスみたいな生活してたんだから少しは痩せてるはず。なら今しかチャンスはないっしょ」

佐天「ま、確かにそうですね」

黒子「一理ありますわね」

美琴「じゃ、いっただきまーす!」

初春「いただきまーす!」

4人はムシャムシャとパフェを食べ始める。

黒子「お姉さま、一口だけ交換いたしません?」

美琴「いやいや、同じの食べてるのに交換とかないから」

663: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 21:46:23.14 ID:xkIq9wM0
黒子「そう仰らずに恥ずかしがらないで。はい、あ~ん♪」

美琴「やめんかぁ!」ビリビリッ

黒子「あぁぁぁあん♪ 久しぶりのお姉さまの愛の鞭、効きますわ~ん」ビクビクッ

佐天「あはは…相変わらずですねー……パクッ」
佐天「…うーん甘い! でもこの食感が最高なのよね♪」

初春「そうそう。この口の中に広がるトンローリとしたそれでいて何とも言い難い甘みの美味しいこと美味しいこと」モグモグ

佐天「あたしもっと食べてやろ」ムシャムシャ

黒子「あらあら。佐天さんも太ったらどうしますの?」パクパク

佐天「あはは。あたしは大丈夫です。何でか知らないけど、太っても胸の方に脂肪がいくみたいで」

美琴黒子初春「何ですと!!??」ガビーン

佐天「え? 何かあたし変なこと言いました?」

黒子「脂肪が胸にいくですって? 何ですかその反則的な体質は!」

初春「うわぁ羨ましいですぅ。だから佐天さん、中1なのにそんなにスタイル良いんですね!」

美琴「ね、ねぇ佐天さん、普段の食生活とか詳しくお、教えてくれないかな? え? いや、別に胸が小さいとか気にしてるわけじゃないのよ?」

佐天「何でみんなそんなに必死なんですか!?」

やいのやいのと騒ぎながら、とある女子中学生4人娘の時間は過ぎていく。

664: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 21:51:27.01 ID:xkIq9wM0
しばらくして………

美琴「…………………」

パフェを食べ終わり、美琴はスプーンの端を口に咥え頬杖をつきながら窓の外を眺めていた。
今も街は学生たちで溢れている。

黒子佐天初春「―――――――」ワイノワイノ

初春「!」

と、そんな美琴の様子に向かいの席が初春が気付き声を掛けた。

初春「街も元気が戻ってきましたよね」

美琴「ん? あ、そうね……」

佐天「何だか1週間前を思い出すと、信じられませんよね。あたしたちホームレスみたいな生活してたんですよ」

黒子「色々ありましたわね」

佐天と黒子も話に加わる。
彼女たちのテンションが少し下がった。

初春「でも平和に見えても、本当は破滅へのカウントダウンが始まってるんですよね……」

佐天「本当に内戦なんて始まっちゃうのかな?」

黒子「いずれにせよ、大事に備えておく必要があるかもしれませんわね」

美琴「…………………」

徐々に、彼女たちのテンションが落ちていく。

黒子「…………………」

佐天「…………………」

初春「…………………」

やがて全員、無言になったしまった。

美琴「…ハァ……止め止め!」

黒子佐天初春「?」

美琴「何よ貴女たち辛苦臭くしてさ。せっかくなんだから、今は楽しみなさいよ」

美琴が何とか場の雰囲気を元に戻そうと試みる。

665: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 21:57:24.64 ID:xkIq9wM0
黒子「しかし……」

美琴「それに、内戦だって回避されるかもしれないでしょ?」

確かに、その可能性も無きにしも非ずだ。だが、上条たちの様子を実際見ているだけに、それが難しいことであることは彼女たちも大体分かっていた。
しかし、美琴はそれでも続ける。

美琴「私たちがうじうじしたって何も変わらないでしょ? だから今はほら、スマイルスマイル」

ニコッと美琴が笑ってみせる。

黒子佐天初春「……………」

美琴「(駄目か?)」

黒子「そうですわね」

美琴「え?」

佐天「落ち込んでても何も変わらないですもんね」

初春「ごめんなさい。スマイルですよね」

ようやく彼女たちも、元気を取り戻したようだった。

美琴「出来るじゃないスマイル。みんな可愛い笑顔してるわよ」

佐天「これでもですかぁ?」

美琴「え? プッ…あはははははは」

初春「一体何ですか? って佐天さん、フフフフフ」

黒子「ちょっ…貴女、やめなさい…クスス」

佐天が作った変顔を見て、美琴たちが笑う。

美琴「やったわね…じゃあこれなんてどう?」

佐天に倣い、美琴も変顔を作る。

佐天「プッ…は、反則ですそれ! あはは」

初春「お…お嬢さまのイメージが崩れ……でも…フフフフフ…おかしい」

黒子「お、お姉さま……そんなはしたない顔……クスクス」

初春「じゃ、私も……どうですかこれ!」

667: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 22:03:37.80 ID:xkIq9wM0
佐天「あははははは、初春、そんな顔出来たんだ? 超受ける。フフッ」

黒子「う、初春…お、お止めなさい……クククク」

美琴「あははは。初春さん貴女、最高よ!」

初春「そうですかぁ? でも1人だけまだやってない人がいますよー」チラッ

黒子「えっ」ギクッ

佐天「あ、本当だー。不公平ですよねー」ニヤニヤ

黒子「わ、私は淑女としての嗜みがありますの。そんな変な顔だなんて」

美琴「えいっこれでもか!」ムニュゥ~

黒子「ぎゃっ! お、お姉さま! お止めになって下さいまし」

佐天「あはははは。すごい! 傑作です!」

初春「4人の中で最高の変顔してますよ白井さん。クスクス」

黒子「ぎゃー見ないで下さいのーでもお姉さまに触れてもらってるこの至福の瞬間から逃れたくないと言う二重苦やはりお姉さまは黒子のこと……」

美琴「ニコニコ」ビリビリッ

黒子「ぎゃぁぁぁぁん何と言う不意打ちですが最高に気持ちいいでも変顔はおやめになって~」

佐天「あはははははは」

初春「ふふふふふふ」

彼女たちに、笑顔が戻った。

668: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 22:09:35.07 ID:xkIq9wM0
その頃・第5学区――。

ズッオオオオオオン!!!!!

けたたましい爆音が、共同溝内に響き渡った。

上条「クソッ!!」

美琴たち4人が第7学区の喫茶店で食事をしていた頃、上条たちは第5学区の地下で多くの敵を相手に悪戦苦闘していた。

バギィィィン!!!

咄嗟に右手を突き出し、上条は飛んで来た炎を打ち消す。
彼は今、第5学区地下の共同溝を、一方通行と御坂妹共に逃走していた。

一方通行「武装兵に魔術師…追っ手は増えるばかりだ。俺の反射で全て防ぎきれるかもしれねェが、オマエらを完璧に守れる保障はねェ。悪いが自分の身は自分の身で守れ」

上条「ああ」

御坂妹「承知しています」

彼らは今、劣勢にあった。
計画通り、敵の拠点の1つを狙った上条たち。しかし、彼らの作戦はいきなり失敗を見た。
上条たちは当初、敵の主力が地上に展開していると予測していた。それを受けて黄泉川の部下の1個小隊を敵の陽動として地上に向かわせてたのだが、実際は逆だった。
上条たちが密かに破壊工作を行おうとしていたルート上に、主力は待っていたのだ。お陰で、彼らは本来の目的を果たすことが出来ず、ただ逃走するしかなかった。

御坂妹「10時方向に人影を確認」

物陰から周囲を窺った御坂妹は、ダットサイトを覗き込みライフルのトリガーガードに添えていた指を引き金に掛ける。

ダダダダダダダダダダダダ!!!!!!

鋭い音が轟き、敵が一瞬怯んだ。

パパパパパパパパン!!!!! パパパン!!! パパパン!!!

が、すぐに反撃が開始され向こうからもライフル弾が飛んで来た。
咄嗟に身を隠す上条と御坂妹。
そんな中、一方通行は今、別方向からやって来た研究者たちを相手にしていた。研究者、と言っても非正規の手段で能力を手に入れた手強い連中だった。

御坂妹「しぶといですね、とミサカは溜息を吐きます」

ダットサイトから目を離すと、御坂妹は暗視ゴーグルと赤外線レーザーサイトを使って、手に抱えていたFN F2000アサルトライフルを連射した。

ダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!!

その猛攻に敵の武装兵たちが後ずさる。

上条「ん!? あれは……!? 普通の兵士の姿をしてない……となると、また魔術師か! どんだけ魔術師を雇ってるんだ!?」

669: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 22:16:24.60 ID:xkIq9wM0
銃を持つ兵士たちの後ろから、1人の魔術師らしき男が現れた。

上条「援護頼む」

御坂妹「了解」

ヒュウウウウウウン!!!!!

魔術師がどこからか取り出したのか、半透明の槍を投げ付けてきた。

パパパパアン!!!! パパパパパパン!!!!!

と、同時に兵士たちが上条を狙おうと発砲を開始した。

御坂妹「そうはさせません」

ダダダダダダダダダダダ!!!!!!!

御坂妹の援護射撃で兵士たちの動きを牽制する。

バギィィィン!!!!

その隙を狙い、上条は飛んで来た槍を右手で打ち消す。
魔術師が怯んだ隙に、御坂妹は更に攻撃を加えた。

御坂妹「しつこいですね、とミサカは辟易します」

御坂妹は、銃口の下に装着されたグレネードランチャーの引き金を引いた。

ボッシュウウウウウウウ

空気が抜ける音と共に、御坂妹特製・対人近接信管が組み込まれた擲弾が飛来して行く。
やがてそれは、内部のセンサーで人体の温度と熱を感知すると兵士たちのすぐ頭上で爆発した。

ドォォォン!!!

魔術師「ぐあっ!!」

魔術師を含めた兵士たちが悲鳴を上げる。

上条「よくやった」

御坂妹「いえいえ」

上条「ん?」

御坂妹「新手ですね」

671: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 22:22:37.06 ID:xkIq9wM0
上条「きりが無いな。逃げるぞ」

御坂妹「了解!」

2人が立ち上がる。

上条「一方通行!」

振り返る上条。

一方通行「すまねェが、こっちもきりが無い。ちょっくら、あっちのルート攻め込ンで来るわ。オマエらは先に行ってろ」

上条「お、おい!」

上条が止めるより先に、一方通行は飛び出していた。

上条「ったく、反対方向からも新手が来てるんだぞ」

御坂妹「彼なら大丈夫でしょう。我々は一先ずここを退却しましょう」

上条「チッ、分かった」

2人は踵を返し、暗い地下を駆けて行く。

上条「ハッ……ハァ……ハァ…」

御坂妹「……ハァ……ハァ…」

御坂妹のF2000アサルトライフルに取り付けられたフラッシュライトの光を頼りに、2人は暗闇を疾走する。
息継ぎの声だけが不気味にエコーがかって響いていた。
と、その時だった。



ガサリ



上条御坂妹「!!!!!!」

前方の暗闇から物音がした。

673: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 22:27:57.13 ID:xkIq9wM0
足を止め、その場に固まる上条と御坂妹。
息をするのも躊躇われるような静寂の中、先頭に立つ御坂妹がライフルの銃口を四方に向ける。銃口と同期して、フラッシュライトの光が闇の一辺を流れるように照らしていく。

上条「………………」

御坂妹「………………」ザッ…

一歩、御坂妹は踏み出した。
フォアグリップを握る左手は既に汗ばんで今にも滑りそうになっており、トリガーガードに添えている右手の人差し指も感触がほぼ無くなっていた。

御坂妹「………………」

彼女は更に一歩、踏み出す。

上条「………………」

御坂妹「……………」

その瞬間――。



ヒュッ



という音と共に、フラッシュライトに照らされた何かが一瞬、不気味に煌いた。

御坂妹「!!!???」

その煌きに気付き、御坂妹がそちらに顔を向けると、暗闇から飛び出した1つのアーミーナイフが銀色の光を発しながら、彼女を今にも突き刺さんと迫っていた。

上条「危ない!!!!!」

674: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 22:33:24.17 ID:xkIq9wM0
紙一重でナイフをかわす御坂妹。
切られた前髪が空中を舞う。

「シッ!!!」

予断を与える間も無く、暗闇から飛び出してきた武装兵はナイフを更に薙ぐ。

パパパァン!!!

御坂妹はバックステップでそれを避けつつライフルを発砲したが、咄嗟のことだったためか銃弾はあらぬ方向に着弾した。そればかりか、汗で滑ったため同時に手元からライフルが離れてしまった。

御坂妹「くっ!」

3点スリングで肩に提げているため、ライフルが地面に落ちることはなかったが、武装兵は御坂妹が再びライフルを構えるための動作を許してくれるほど優しくはなかった。

上条「クソッ!」

迂闊に飛び込めば、御坂妹が無闇に傷ついてしまう可能性もある。したがって、上条は動こうと思っても動けない。

御坂妹「………っ」

英語らしき言語で「イッツ・オゥヴァ」と聞こえた気がした。と、同時に武装兵のナイフが御坂妹の胸へ一直線に振り降ろされた。
しかし………



バチバチッ!!!



「ぐふっ!!!」

刹那、暗闇が昼間のように明るくなったかと思うと、武装兵の手元からナイフが落ち、1テンポ遅れて武装兵が地面に崩れ落ちた。
ナイフが地面の上を回転する鋭い音が響いた。

上条「………大丈夫か!?」

倒れた武装兵を確認すると、上条は御坂妹に駆け寄った。

御坂妹「ミサカの得物がライフルだけだとタカを括ったのが貴方の敗因です、とミサカは冷めた目で倒れた武装兵を見つめます」

彼女の左手には、青白い電気がバチバチッと纏わりついていた。

上条「良かった……」

上条はホッと溜息を吐く。

675: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 22:40:01.41 ID:xkIq9wM0
御坂妹「安心している暇はありません。先を急がなければ」

上条「そうだな」

御坂妹「その前に、弾が切れたようです。マガジンを換えるので数秒ほど待って下さい」

そう言って御坂妹はスカートに取り付けていたマガジンポーチから弾倉を1つ取り出し、ライフルに装着しようとする。
その瞬間だった。

御坂妹「!?」

フラッシュライトが一瞬照らした先――そこに黒い覆面に覆われた男の姿が映った。
そして、その男の手にはライフルが抱えられてあり、銃口は上条の胸に注がれていて………

上条「?」

御坂妹「!」

時が止まる。
そして、御坂妹の脳裏に、ある人物の笑顔と言葉が共に蘇った――。






   ――「“あいつ”のことも守ってあげてね」――






叫ぶ間も無く、御坂妹は飛び出していた。

679: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 22:46:37.75 ID:xkIq9wM0





ダカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!!!!





莫大な光量と音が暗闇を充満する。

上条「あ……」

何が起こったのかすぐに理解も出来ない中、上条が見た光景はコマ送りのように流れていった。


自分をライフルで狙う男の影――。


目の前に飛び出す御坂妹の小さな背中――。


そして、オレンジ色の2つの発砲炎――。


御坂妹「………っ……!!」

2つ分の血が虚空に飛び散る。

「が……はっ!!」

断末魔を上げ、武装兵は倒れた。
しかし、上条はそっちに意識を向けていない。彼は、目の前を舞うように崩れていく御坂妹の姿に見入っていた。

上条「ミサカ!!!!!!」

血を身体から吹き出し、地面に倒れそうになる御坂妹を上条は寸でのところで抱き支えた。

上条「ミサカ!!!!!!!!!!!」

680: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 22:52:46.88 ID:xkIq9wM0
再び、上条が叫ぶ。
彼が抱える御坂妹の制服は、赤く染められており彼女の腕はダランと地面に接触していた。

御坂妹「……怪我は……ありませんか?……とミサカは……ゴボッ!!」

言葉を紡ごうとした御坂妹の口から赤色の液体が噴き出す。

上条「喋るな! 俺は大丈夫だから!! クソッ!! 何でこんなことに……ああ!!」

御坂妹「ご無事で……安心しました……」

上条「だから喋るな!!!」

暗闇に敵の姿を視認した御坂妹は、上条を守るために楯になる形で飛び出したのだったが、彼女はその瞬間に、マガジンを装着したばかりのF2000のボルトを引き、発砲するという二段階の動作を行っていたのだ。
庇うだけでなく、わざわざ反撃したのは自分が倒れた後に、物理攻撃への耐性を持たない上条が続けて撃たれるのを防ぐためだった。

上条「血が止まらない……チクショウ!!」

上条は御坂妹の傷口を必死に塞ごうとする。そんな上条の姿を、御坂妹は僅かに口元を緩めて見ていた。

一方通行「悪ィ、遅くなった……って…何!?」

そこへ一方通行が戻って来た。

一方通行「おい、何だよこれ……一体何があったンだ上条!?」

その凄惨な光景を見て、一方通行が驚きの声を上げた。

上条「敵が……潜んで……潜んでて…クソッ…庇おうとして撃たれたんだ!!!」

一方通行「!!」

気が動転しているのか、上条の言葉は半ば意味不明だった。
血まみれの御坂妹を一方通行は呆然と見る。彼女はヒューヒューと苦しそうに息をしていた。

一方通行「……………」
一方通行「……チッ、どけ」

上条「何する気だよ!?」

一方通行「黙ってろ」

御坂妹の前にしゃがむと、一方通行は御坂妹の肌に優しく手を触れた。内部の血液の流れや電気信号を読み取って、御坂妹の現在の状態を診断しているのだ。

一方通行「…………………」

上条「…………………」

御坂妹「……ハァ……ゼェ……ハッ……ゼェ……」

681: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 22:59:22.56 ID:xkIq9wM0
しばらくすると、一方通行は御坂妹から手を離した。

上条「どうなんだよおい!? 助かるのか御坂妹は!?」

御坂妹「………ハァ……ハァ…ん……ハァ…」

一方通行「…………………」

上条「お前、血流とかベクトル操作出来るんだろ? 早く治してやってくれよ!! 助けてくれよ!!」

上条が叫ぶ。
そして、一方通行は立ち上がると一言だけボソッと呟いた。

一方通行「やだね」

上条「!!!!????」
上条「………何だと?」

一方通行「聞こえなかったか? 嫌だ、って言ったンだよ」

上条「……お前、ふざけてんのか? こんな時に何寝ぼけたこと言ってんだよ!?」

一方通行「………………」

上条「黙ってないで何とかしろよ!!!!」ガッ

上条が一方通行の胸倉を右手で掴んだ。

一方通行「断る」

その言葉にぶち切れた上条が右手を振り上げた。

上条「てめぇ!!」

御坂妹「……待って!……」

上条「!?」

上条の拳が空中で静止する。

御坂妹「……一方通行に非は……ありません……ハァハァ…」

上条「なん……?」

一方通行は視線を御坂妹とは逆方向に向けたままただ黙っている。

御坂妹「………自分の身体のことぐらい、分かります………ミサカはもう……手遅れなんでしょう?」

上条「!!!!!!!!」

682: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 23:06:06.33 ID:xkIq9wM0
バッと上条が一方通行の方に振り返った。

一方通行「…………………」

御坂妹「だから……もう……」

上条「違う……」

御坂妹「……?」

上条「そんなことあっていいはずがない!! そんなの俺は納得出来ない!!」

再び、上条が一方通行に掴みかかる。

上条「お前、学園都市最高の頭脳を持ってんだろ!? 何で治せねぇんだよ!? 助けてやってくれよ!!」

上条の必死の叫びを一方通行はただ目を瞑って聞いていたが、耐え切れなくなったのか彼は上条の右手を振り払った。

一方通行「治せねェもンは治せねェンだよクソヤロウ!! ソイツは既に瀕死の状態なンだよ!!! 身体の中の内臓がボロボロに傷ついてどこをどうやろうが無駄骨なンだよ!!!!」

上条「………っ」

一方通行「いいぜェ? なら一箇所だけでも血流操作してやろうか? まァ、そンなことしてもソイツの寿命が僅かに延びるだけで、逆に苦しい思いを長引かせるだけだがなァ!! そンでもいいなら、治療してやろうか!? あァ!!??」 

上条「………………あ……あ…」

絶望の表情を浮かび上がらせ、上条は愕然とする。そして彼は信じられない、という目で御坂妹を見つめた。

上条「ミサカ………」

御坂妹「………そんな…顔を……なさらないで……下さい……」

上条「そうだ! カエル顔の先生の病院に連れて行こう! それならまだ……!!」

そう言って上条は御坂妹を抱え上げようとする。
しかし、御坂妹は上条の手を掴み、首を横に振った。

上条「!!!」

685: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 23:12:21.80 ID:xkIq9wM0
御坂妹「………ここから…アジトに戻って……救急車を呼んで……どれぐらい時間が掛かると思って……いるのですか? 恐らくミサカは……もう……アジトに戻るまでの体力も……ゲホッゲホッ」

再び御坂妹が血を噴き出した。

上条「ミサカ!!」

一方通行「上条」

上条「何だよ!!!」

一方通行「これ以上、ソイツに無理させンのは逆効果だ。もう、やめておけ………」

静かに、一方通行が後ろから声を掛けた。

上条「何でだよ!? 何でだよミサカ!! 何でお前がこんな目に遭わなきゃならないんだ!! 言ったじゃないか!! 俺と一緒に最後まで戦う、って!! こんなところで俺を置いていかないでくれ!!! ミサカ!!!」

御坂妹「ミサカはもう……十分です。貴方に……こんなに心配されて………」

そう言うと、上条に抱き支えられていた御坂は残った力を絞り出すようにググッと動かし、血にまみれた左手を上条の首に回した。

上条「ミサカ!?」

そのまま御坂妹は、上条の耳元に顔を寄せる。

御坂妹「ミサカは……貴方に会えて………幸せ…でした………」

上条「ミサカ……」

御坂妹「先に行って……待ってます」

静かに、御坂妹は一言一言を紡いでいく。

上条「そんな……やめてくれ………」

御坂妹「最後に………お姉さまのこと……宜しく頼みます………」

上条「お願いだミサカ……俺を…置いて行くなっ!!」

上条の懇願が空しく響き渡る。
そして御坂妹は最後に1つだけ呟いた。

686: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 23:18:25.14 ID:xkIq9wM0
御坂妹「“当麻”………」

上条「!!!???」

御坂妹「………ミサカは……貴方のことがずっと……好き……でした……とミサカは………」

上条「!!!」

ふと、御坂妹の力が抜け、上条の首に回されていた彼女の左手が上条の右頬を撫でるように離れていく。

上条「ミサカ………」

最後に上条の顔を見つめると、御坂妹は彼の腕の中、微笑みながらゆっくりと目を閉じていった。

上条「ミサカ……?」

ガクンと御坂妹の顔から、手足から、身体中から全ての力が抜け落ちた。

一方通行「……………………」

上条「ミサカ………」

御坂妹「……………」

しかし、もう御坂妹は何も発しない。いや、何も発せなかった。
そんな彼女を見て、上条はただ呆然とその名前を呟くことしか出来なかった。

上条「ミ……サ……カ………」





上条「ミサカあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」





胸の中で御坂妹を抱き締め、すがるように上条は泣き叫ぶ。

一方通行「………………」ギリッ…

その光景を一方通行もまた、黙って眺めていた。

上条「ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

上条の右頬に付着した御坂妹の血がゆっくりと固まり始める。
上条は御坂妹を抱き締め、いつまでも彼女の名前を呼び続けていた――。

688: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 23:24:23.50 ID:xkIq9wM0
打ち止め「!!!!!!!!」

上条たちのアジト。1人、私室のベッドで足をぶらつかせていた打ち止めが急に立ち上がった。

打ち止め「…………10032号……?」

呆然と立ち尽くす彼女は、とある下位個体の名を呟く。

打ち止め「………10032号からの反応が……消えた?」

打ち止めは目を瞑り、ミサカネットワークにログインする。

打ち止め「…………やっぱり、いない」

徐々に彼女の顔が蒼ざめていく。

打ち止め「……ただのログアウトの状態とはまた違う……まるで、1つの端末が突然ネットワーク上から切断されたような………」

腕を胸元に引き寄せる打ち止め。

打ち止め「10032号……何があったの……?」



美琴「!!!!????」

学園都市の第7学区・とある大通り。街が夕日に染められ始めた頃、美琴は急に立ち止まり後ろを振り返った。

美琴「…………………」

黒子「ん? どうしたんですのお姉さま?」

佐天「急に立ち止まって、何かあったんですか?」

初春「御坂さん?」

美琴の様子に気付いた黒子たちも数m手前で立ち止まった。

美琴「(……何だろ今の…。何か嫌な予感がしたんだけど………)」

胸中に呟き、彼女は大通りを見つめる。

689: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 23:29:36.21 ID:xkIq9wM0
黒子「お・ね・え・さ・ま・!」

美琴「ん?」

ふと気付くと、黒子が美琴に腕を絡ませてきていた。そちらに視線をやると、佐天と初春もそこにいた。

黒子「ボーッとなされてどうなされたのですか?」

美琴「……いや、別に何にも(ただの気のせいよね……)」

佐天「これからカラオケ行かないか、ってみんなで話してたんですけどどうです?」

美琴「…カラオケ?」

初春「そうです! 久しぶりに歌っちゃいましょうよ!」ワクワク

美琴「…………………」

黒子「もしかして何か用事でも?」

美琴「え? いえ、まさか」
御坂「そうね。久しぶりだし、最終下校時刻まで時間あるし遊んじゃおうか」

佐天「やりぃ! そう来なくっちゃ!!」

初春「早く行きましょうよ!」

佐天がはしゃぐように先に歩き、黒子と初春は美琴の両腕をそれぞれ掴んで早く歩くよう彼女に促す。
美琴はそんな彼女たちの楽しそうな顔を見ると、一瞬過ぎった嫌な予感を頭の中から取り払い、一緒に微笑みながら歩き始めた。

690: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 23:34:46.77 ID:xkIq9wM0
上条たちのアジト――。

ドバン!!

物凄い勢いで、ドアが開けられる音が聞こえた。メインルームにいた打ち止めは急いで入口の方に駆け寄った。

打ち止め「!!!!!!」

そこには、目元に陰をつくった上条が血まみれの御坂妹を抱え立っていた。

上条「…………………」

打ち止め「…………ウソ……だよね?」

上条は無言のまま、メインルームに足を踏み入れる。

打ち止め「………ウソって言ってよ……」

一方通行「ウソじゃねェ……」

打ち止め「!?」

振り向く打ち止め。
上条の後ろから無表情のまま一方通行が入ってきた。彼の後ろでは、驚いた表情を浮かべている門番の警備員2人がドアの外からこちらを窺う姿が見えた。

上条「…………………」

上条は、メインルームに着くと、冷たくなった御坂妹の遺体をソファの上に優しく置いた。
打ち止めが駆け寄って来る。

打ち止め「……そんな……10032号……何で………」

御坂妹の目は閉じられ、口からは赤い液体の筋が流れていた。
見るからに痛々しそうな姿だったが、彼女の顔はどこか幸せそうに見えた。

黄泉川「一体何事じゃん」
黄泉川「!!!???」

奥の部屋から、黄泉川が現れ、ソファの上の光景を見るなり言葉を詰まらせた。

691: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 23:40:13.18 ID:xkIq9wM0
黄泉川「……お前ら………」

打ち止め「……グスッ……たった今……一方通行たちが帰って……ヒグッ……来たら……10032号が……こんなことに………」

打ち止めはグーにした両手で涙が零れる目元を拭く。

一方通行「俺は……直接その場面を見たわけじゃねェ……。だが、どうも敵の武装兵に撃たれたのは確かなようだ」

黄泉川「そうなのか? ……上条?」

上条「……………違う……」

黄泉川「え?」

上条「御坂妹は………俺を庇うために…楯になったんだ……。俺が殺したようなものなんだ」

御坂妹の前で両膝をつき、上条は唇を噛みしめながら両拳をソファの上で握った。
彼の目の前にある御坂妹の肌は、死んだのが嘘であるかのように白く綺麗だった。

上条「俺を守るために……こいつは……っ!!」

上条は心底悔しそうに言葉を紡いだ。
一方通行は彼の後ろでただ黙ったまま目を瞑り、黄泉川は泣き続ける打ち止めに影響されたのか目頭を潤ませた。

打ち止め「やだよぉ10032号!! 起きてよ!! 昨日はあんなに元気だったのに!!」

打ち止めが上条の側に座り、御坂妹にすがるように叫ぶ。

打ち止め「また……寝る時に本を読んでよ………起きてよ10032号……って、ミサカは……グスッ…ミサカは………」

しばらくの間、上条と打ち止めの嗚咽が部屋の中に響いていた。

一方通行「で………」

静かに一方通行が口を開く。

一方通行「……超電磁砲にはこのこと伝えるのか?」

693: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/07(水) 23:45:35.22 ID:xkIq9wM0
上条「…………………いや」

一方通行「?」

上条「……………駄目だ。そんなことしたらあいつは、激昂してこいつの仇を討とうとする。そうなったら……あいつらを危険な目に遭わせちまう……」

寂しそうな背中を見せながら、上条はボソボソと喋る。

一方通行「…………」

打ち止め「グスッ……ヒグッ………」

上条「御坂妹は最期に言った……『お姉さまを頼む』って…。こいつの……想いを無駄には出来ない……。御坂には伝えるが、それはもっと、日数を開けてからだ……」

一方通行「そうかよ」

それだけ言うと、一方通行は黄泉川の横を通り過ぎ、奥にある私室に入っていった。

打ち止め「ヒグッ……10032号……」

しばらくして、奥の私室から何かが壊れる音が聞こえた。

打ち止め「………一方通行……」

何の反応も無いように見えて一方通行もまた仲間の死を悔やんでいたのだ。特に彼にとって妹達(シスターズ)は過去の辛い経緯から、何があろうと守ろうとしていた存在だった。一方通行の心情も揺れに揺れていた。

黄泉川「上条」

黄泉川が上条の肩に手を置く。

黄泉川「いつまでも、彼女をこのままにはしておけない。分かるな?」

打ち止め「……うえっぐ……ヒグッ……」

上条「………………はい」

絞り出すように、上条は答えた。
彼はその後しばらく、御坂妹の遺体から離れることはなかった。それを知ってか知らずか、御坂妹はどこか嬉しそうに微笑みながら、胸元のネックレスに指を添えていた。

722: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 21:45:56.71 ID:PAkIfiE0
学園都市――。


美琴、黒子、佐天、初春、学生たち、教師たち、研究者たち、打ち止め、黄泉川、鉄装、カエル顔の医者、木山、寮監、そして上条と一方通行。
様々な人間の感情や思惑が交叉する中、学園都市は密かに崩壊への道を辿る。
その先に待っているのは幸か不幸か。彼女たちは己の運命をまだ知らない――。

上条「一方通行……」

一方通行「ああ……」

物語の渦中にいる男たちは、平和な世界に生きる少女たちを守るため、命を賭けて今日も死線を掻い潜る。

上条「行くぞ」

一方通行「おう」

彼らの信念は決して揺るがない。何があっても――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

佐天「ねぇねぇプリクラ取ろうよ♪ 新しい筐体があるよ!」

初春「いいですねー撮りましょう撮りましょう」

黒子「さ、お姉さま早く早く!」

美琴「ちょっと待ってってば~」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

一方通行「どうしたそれで終わりかァ三下どもォ!!!!」

「ぎゃぁあぁあぁぁぁぁ!!!!!!!」

バギィィィン!!!!!

「馬鹿な!? 何故私の能力が効かない!?」

上条「教えて欲しいか三下?」
上条「(………俺は…………)」

「クソオオオオオオ!!!!!」

上条「無駄だって言ってるだろうが!!」
上条「(………絶対に立ち止まらない………)」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

723: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 21:51:30.49 ID:PAkIfiE0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

佐天「はい、チーズ♪」

美琴黒子佐天初春「チーズ♪」

パシャッ!!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

一方通行「今日は小粒揃いだったなァ。クズの癖に表の世界の住人に手ェ出してンじゃねェよ」

上条「…………………」
上条「(………インデックスが死んだ次の日…呆然と街を歩いていたら…俺は見たんだ……)」

一方通行「さァて、明日も虐殺三昧だな」

上条「お前が言うと洒落にならなぇなマジで」
上条「(………御坂たち4人が、喫茶店の中で、楽しく談笑しているのを……)」

一方通行「今更気付いたンかよ?」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

724: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 21:55:43.10 ID:PAkIfiE0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

佐天「う~~い~~は~~る~~!!」バサアッ

初春「きゃあああああ佐天さん!」

佐天「あ、今日はクマさんかぁー」

初春「公言しないで下さい!!!//////」

佐天「じゃ、代わりにあたしのパンツ見るぅ?」

初春「いいいいいいいりません!!!/////」

佐天「あはははははは。冗談冗談」

初春「もう、佐天さんたら」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

一方通行「上条! そっち行ったぞ! 気を付けろ!!」

上条「任せろ!!」
上条「(………恐らく、一時の休憩で訪れたんだろうな……喫茶店で御坂たちが談笑しているのを見て……あいつらの笑顔を見て……)」

「死ねええええええええええ!!!!!」

バギィィィン!!!!!!

「なあああにいいいいいいいいい!!!??」

上条「眠っとけ!」

上条「(………俺は…あいつらの世界だけは……御坂たちの笑顔だけは……)」

「ぐはっ!!」ドガッ!!

上条「(………守りたいと思ったんだ……っ!)」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

725: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 22:00:31.47 ID:PAkIfiE0

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黒子「お姉さまぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

美琴「またあんたは性懲りも無く取り敢えずこれ食らっとけやオラァ!!」ビリビリビリッ!!!!

黒子「ぎゃぁぁぁぁぁぁん!! 最高な快感ですわぁん」

美琴「何で今日は一撃で倒れないの!?」

黒子「ずばりお姉さまへの愛!!」
黒子「『お姉さま王』に私はなりますわ!!!」ドンッ!!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「お前が学園都市最強の一方通行か。我々の計画を邪魔立てするなら容赦はせんぞ」

一方通行「吼えとけ。オマエらがいる以上、無実の人間どもが迷惑蒙るンだよ」

「それがどうした?」

一方通行「そうはさせねェ。オマエらがアイツらの幸せを蹂躙するってンなら……」
一方通行「今ここで絶対にオマエらを食い止める!!! 俺の『悪党』としての誇りに賭けてもだ!!!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

初春「新しい都市伝説。その名も『人間を太らせる能力者』」ギュピーン

佐天「何でも女の子中心に狙われてるみたいですよー」

佐天初春「「ねー♪」」

黒子「そ、それはある意味で本当の恐怖ですの」

美琴「マ、マジで?」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

上条「お前ら、せっかく魔術世界が平定したってのに、今もこんなことやってて恥ずかしくないのかよ?」
上条「(………ただの会話や遊び……それですら、あいつらが幸せな日常を送れる証なんだ……)」

「俺は無国籍無所属の魔術師だぜぇ? そんな説教きかねぇよ、幻想殺し」

上条「だったら今すぐにでも目覚めさせてやるよ」
上条「(………なら俺は、その幸せを守りたい……)」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

726: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 22:05:26.51 ID:PAkIfiE0

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美琴「え? ゲコ太の着ぐるみって中に誰か入ってんの!?」

黒子佐天初春「えっ」

黒子「お姉さま、もしかしてあの着ぐるみが全て本物だと思ってます?」

佐天「つーか、着ぐるみの意味分かってます?」

美琴「私は信じないわ! ゲコ太は…ゲコ太は本物なの! 大体、着ぐるみの中に人間だなんてそんな馬鹿げた話なんて……ねぇ初春さん?」

初春「全くです。着ぐるみの中に人間が入ってるわけないじゃないですかぁ」

黒子佐天「えっ!?」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

一方通行「どうしたそれで終わりかァ三下ども!!!!!」

ダカカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!

一方通行「だからァ……きかねェって言ってンだろォがァ!!!!!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

一方通行「自分の欲望を満たすためだけに生きるヤツらが、光の世界の人間を巻き込もうとしてンじゃねェぞ!!!」

ゴガッ!!!!

「ぐあああああああ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

727: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 22:10:23.76 ID:PAkIfiE0

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美琴「じゃーん、私も花飾りー」

初春「おお、似合ってます似合ってます」

黒子「私も花飾りですわ」

佐天「あたしもー」

初春「わぁ♪ みなさん似合ってます。可愛いですよ」

美琴「ふふ。これで花飾り4人娘結成ね!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

上条「これで敵さんも諦めてくれりゃぁいいんだけどな」
上条「(………インデックス……お前は今の俺を見たら……また厄介事に首を突っ込んでるって怒るんだろうな……)」

一方通行「贅沢言うなよ。減るどころか増える一方だぜ。ったく、世知辛いねェ」

上条「右に同じだ。ま、だからってこんな中途半端なところで終われねぇよな」

一方通行「ン? 何見てンだよ? 何だその画像?」

上条「これは寮監さんがくれた御坂たち4人の写真だ。元気そうだろ? で、こっちの画像は4人のプリクラらしい」

一方通行「ほォ。ポーズなンかつけちゃってまァ」

上条「はは。何だかんだ言ってあいつらもまだ子供だよな。でもこれ見てると、何故だかあいつらのために一生懸命頑張りたくなるんだよなぁ……」
上条「(………だけど、もう少しだけでいいから……俺の無茶を見逃してくれねぇか……?)」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

728: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 22:15:55.91 ID:PAkIfiE0

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佐天「やっぱりお菓子食べながら徹夜でお泊り会。別名『パジャマパーティ』っていいですよね♪」

美琴「本当そうね。さ、次は佐天さん、貴女の番よ?」

初春「佐天さんの好きな男の人のタイプってどんな方なんですか?」ワクワクドキドキ

佐天「うーっとね……って言うか前にも言ったと思うけど」

初春「ほら白井さん、お菓子に集中してないで聞く聞く! このままだとずっと女性好きとか特殊な好みを持ったままになりますよ!」

黒子「貴女は一言多いですの黒春こうしてやりますですの」

初春「きゃぁぁ花だけは…花だけはやめてくださぁい」

美琴「ほら佐天さん早く早く!」

佐天「え? ああ…大人っぽくて一緒にいると楽しい人がいいかなぁ? で、もちろんプロポーズとかは夜景の綺麗なレストランです! そういや初春はどんなプロポーズの場所が良かったんだっけ?」

初春「海辺の綺麗なレストランです。御坂さんは何でしたっけ?」

美琴「私はもちろん、プロポーズの後は海から花火があがるのがいいの♪ そんでー彼氏にグイッって引き寄せられてぇ♪ ギュッって抱き締められてぇ♪ 花火を後ろにして2人は唇を近付け……ってキャーもう! 何言ってんのかしら私ったらえへへへへ/////」

黒子佐天初春「…………………」

美琴「はっ!」

佐天初春「………」ニヤニヤニヤ

黒子「まぁったくお姉さまったら」ハァ

美琴「ななななななな何よべべべべべべべべ別に今のは単なる仮定の話であって//////」ビリビリッ

黒子「お、お姉さま!」

佐天初春「ぎゃぁぁぁぁ漏電してます漏電~!!」

美琴「だからもうああそのいやだってまってうううう……」プシュウウ

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729: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 22:21:20.65 ID:PAkIfiE0

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一方通行「逃げろ上条! 爆発するぞ!!」

上条「分かった!!」
上条「(………インデックス、わがままに聞こえるかもしれない。……だけど、これは俺が決めたことなんだ……)」

ドオオオオオオオォォォ

一方通行「爆風が来るぞ! 速く走れ!!」

上条「クソオオオオオオオオ!!!!!!」
上条「(………もし、お前が良ければ、天国から……御坂たち4人のこと、見守っててやってくれないか……?)」

ゴオオオオオオオオオオオオオ

上条「ハッ……ハァ……ゼッ……ハァッ!」
上条「(………俺は、この世からあいつらの幸せを守るから……そのために全身全霊で戦うから……)」

一方通行「すぐ後ろまで来てやがる! 振り返ってンじゃねェ!! 俺があンなのでくたばるわけねェだろが!! 自分の心配してろ!!!」

上条「(………だから、御坂たちのこと見守っててくれ。俺も…あいつらを絶対に守ってみせるから!!!)」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

730: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 22:25:30.84 ID:PAkIfiE0

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美琴たちが普通の中学生生活に戻ってから3週間後――。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

731: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 22:31:01.11 ID:PAkIfiE0
第7学区・とある公園――。

美琴「ん? 来た来た」

自動販売機の側のベンチに腰掛けながら、美琴は近付いてきた人物に手を振った。

上条「悪い悪い遅くなったな」

相手は上条だった。

美琴「あんたねー、女の子を待たせるとかどういうつもり?」

上条「いやだから悪いって」

美琴「まあいいわ。で、大丈夫なの? こんな夕方に会っちゃって。敵に勘付かれたりしてない?」

上条「敵さんは今、来る総攻撃の準備で忙しいから動けないよ。それに監視カメラを管理するセンターも研究者勢力とテログループとの戦闘で破壊されてる。大丈夫さ」

美琴「ならいいんだけど……。それで、一体何なの? 寮監に言われてここまで来たんだけど」

上条「ん? おお、例の件だ」

上条が美琴の隣に座った。

美琴「例の件……か」

上条「恐らくは1週間後。研究者たちの敵対勢力への総攻撃が始まる。俺たちはその隙をついてお前らを学園都市の『外』まで逃がす」

そう言って上条はポケットから1つのUSBメモリを取り出し、美琴に渡した。

美琴「何これ?」

上条「そこに脱出の詳細が入ってるから4人で見ておいてくれ」

美琴「そう……分かったわ」

上条「悪いな。出来うるなら早くお前らを逃がしたかったんだけど、俺たちもなるべく今のうちに研究者勢力に打撃を与えておく必要があったから」

美琴「別にいいけど。で、その『打撃』とやらは上手くいってんの?」

上条「…………………」

急に上条が黙り、顔を正面に向けた。

美琴「?」

やがて上条は僅かに口元を緩めると一言だけ呟いた。

上条「まぁな……」

733: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 22:38:26.68 ID:PAkIfiE0
美琴「………………」

上条「ま、とにかく1週間後だ。『外』に逃げられるよう必要最低限の荷造りや後始末はやっとけ」

美琴「ねぇ、聞きたいんだけどさ」

上条「ん?」

少し真剣な表情を浮かべて美琴が訊ねる。

美琴「やっぱりもう、私たちは1度『外』へ脱走したら、2度と学園都市には戻って来れないの?」

上条「………そうだな。そのUSBメモリの資料でも詳しく説明してると思うけど、取り敢えずお前らは『外』へ出たら日本政府が支援してる連合NGO団体の巨大施設で保護されることになる。その後、学園都市のデータベース上からはお前ら4人は死亡扱いとなる」

美琴「………そうなんだ」

上条「もちろん騒ぎが治まれば学園都市に戻れる可能性も無くも無い。だが、恐らくは無理だろうな」

美琴「………………」

上条「研究者勢力も、敵対するテログループや秘密結社やらも膨大な人員や能力を抱えてる。恐らく内戦はそう簡単には終わらない。終わったとしても、学園都市はもうそれまでの学園都市とは違う、表の世界だの暗部だの関係ない、ただの世紀末のような世界になってるだろうな」

美琴「……じゃあ、学園都市の『外』に逃げれなかった学生はどうなるの?」

何か訴えかけるような目を向ける美琴。それに耐えられなくなり、上条は視線を逸らした。

上条「………内戦の中、自ら生き残るか脱走するかしかないだろうな。どの道、内戦が続いても終わっても学生たちは研究者たちの実験のために“狩られる”ことになる。よっぽどの高位能力者じゃない学生はきっと………」

美琴「…………………」

美琴は顔を俯かせた。
そんな彼女を見て上条はフォローの言葉を探そうとするが、こういう時に限ってなかなか思い浮かばないのだった。

美琴「……ねぇ」

と、突然美琴が口を開いた。

上条「……何だよ?」

美琴「ちょっと歩かない? ほら、街を一望出来る場所あるでしょ? そこまで行きましょう。それとも、忙しかったりする?」

上条「いや、それぐらいなら別にいいけど……」

同意し、2人はベンチから立ち上がると歩き始めた。

735: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 22:45:31.13 ID:PAkIfiE0
美琴「あんたたちはどうすんの?」

上条「ん? 何が?」

美琴「私たちを逃がすだけ逃がしておいて、あんたたちは学園都市の『中』に残るの?」

上条「何でそんなこと聞くんだよ?」

美琴「大事なことじゃない。内戦が始まったら、学園都市は世紀末みたいになっちゃうんでしょ? いくらあんたや一方通行とはいえ、危ないじゃない」

上条「何だよお前? まさか俺たちを引きずってでも一緒に『外』に連れ出すとか言うんじゃねぇだろうな?」

美琴「………………」

美琴が睨むように上条を見つめた。だが、その瞳は心配で満たされたものだった。

上条「………………」

一瞬、上条は表情に陰りを灯したが………

上条「まさか。そんなわけないだろ?」

美琴「え?」

上条「これ以上、学園都市に残ってても無駄に危険な目に遭うだけだ。そんなことになったら、助けられる人たちも助けられくなっちまう。だから、俺たちも1度『外』に出て、政府のお偉いさんやNGOの人たちと協力しながら、『外』から学生たちを助けるための活動を続けるつもりだ」

美琴「そうなの? 本当に?」

上条「ん? ああ。ちゃんと『外』とも話がついてるから、安心しろ」

それを聞いた途端、美琴の顔に明るさが戻った。

美琴「な、何だ。それなら良かった。そうよね、危ないもんね」

上条「………ああ……」

美琴「1週間後か~」

声にも元気が戻り、美琴は先に歩き始めた。

上条「…………………」

736: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 22:52:06.47 ID:PAkIfiE0
美琴「あ、ほらあそこよ!」

しばらく歩くと、高台に着いたのか、少し遠くに街並みが見て取れた。

美琴「早く行きましょ! 夕日が綺麗よ!」

上条「(何だかんだ言ってまだ子供だな)」



ギュッ



上条「ん?」

美琴「ほら早く!」

不意に、美琴が上条の手を掴んだ。その感触は優しく、細く、小さく、暖かかった。
美琴に引っ張られ、上条は走る。

美琴「まさか夕日がこんなに綺麗に映えるとはね。学園都市の街並みも捨てたもんじゃないわね」

柵に手をかけ、美琴は風景を眺める。

上条「まったく何なんですか御坂さん。子供みたいにはしゃいじゃってまあ」

美琴「だ、誰が子供か!」ビリッ

上条「うお!」

美琴「まあいいわ。それにしてもいい風ねぇ」

上条「そうだな………」

2人は、街の光景に魅入る。

737: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 22:58:21.01 ID:PAkIfiE0
美琴「…………………」

上条「…………………」

美琴がここへ来た理由は大体分かっていた。
恐らく、『外』に逃げる前に学園都市の街並みを見納めておきたかったのだろう。心底嫌っているとはいえ、自力でレベル5の地位まで登りつめた彼女にとって学園都市は第2の故郷のようなものなのだ。

上条「(もしかしたら、内心寂しいのかもしれないな……)」

そう思って上条が美琴に声を掛けようとしたが、彼は突然言葉を失くしてしまった。


美琴「…………………」


街を見つめる顔が夕日に照らされ、上手い具合に美琴の白い肌を際立たせている。
風によって揺れる髪を優しく押さえる彼女の物悲しそうな横顔は、いつもよりどこか美しく見えた。

上条「…………っ……」

思わず、見とれてしまう上条。

美琴「? 何よ?」

上条「え? いや、別になんでもねぇよ……////」

上条は目を逸らす。

美琴「変なの」

上条「う、うっせぇ」

美琴「?」

その後しばらく、上条と美琴は無言で街並みを眺めていた。

738: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 23:04:21.93 ID:PAkIfiE0
美琴上条「…………………」

美琴「(…この学園都市とも1週間後にはお別れ……。本当に、色々あったなあ……)」

上条「(やはり、いつまでも黙っているわけにはいかないな……。御坂妹のこと、ここで話しておくべきか。でも、もしそれを聞いたら御坂はどうする? いくら御坂妹の死から日数を開けたとして、こいつならまた無茶をやりかねない。そうなったら本末転倒だ……)」

それぞれ、2人は自分の世界の中で考えを巡らす。

美琴「(……こいつなら、あのことについて……何て答えてくれるのかな?)」

美琴は指先からチョロッと青白い光を発し、それを見つめる。

上条「(ええい、ままよ。黙っていても逆に御坂に悪いだけだ)」

美琴「(よし、ちょっとだけ聞いてみよう……)」

考え事に区切りをつけ、上条と美琴は切り出していた。




上条美琴「「あのさ!!」」




上条美琴「「!!!!????」」

一瞬、時間が止まった――。
と言うのも、彼女たちは、ほぼ同時に互いの方に振り向いたため、偶然にも鼻先数cmの距離で顔が接近していたのだ。

上条美琴「「………………っ」」

思わず、言葉を失くす2人。吐息が感じられる距離で美琴と上条は見つめ合う。
2人は、頬を紅潮させ瞳を揺らしている。その一瞬は、永遠にも感じられた。

バッ

しかしまだウブな2人は咄嗟に顔を離す。

美琴「……………あ…そのゴメン…/////」

上条「……………い、いや俺も…その…/////」

気まずい雰囲気が流れる。

美琴「………………/////////」

上条「………………/////////」

739: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 23:10:41.55 ID:PAkIfiE0
その空気を先に切り上げたのは美琴だった。

美琴「で、で、な、何よ? な、何か聞きたかったんじゃないの!?////」

上条「み、御坂も何か聞こうとしてたろ? そ、そっちから言えよ////」

美琴「わ、分かってるって………」
美琴「あーーーーーもう!!!!!」

美琴は、赤くなった顔から熱を振り払うように、クシャクシャと顔を洗う動作をした。

美琴「ふう…」

彼女の表情が、真剣なものになった。

上条「で、何なんだよ?」

美琴「いや、別に大したことじゃないんだけどね」

上条「ああ」

美琴「これ、あんたはどう思う?」

上条「ん?」

パリパリッ

上条「お、おい何だよ」

美琴は身体中から軽く、電気を発した。

美琴「だから、これどう思うかって」

上条「これって、その…能力のことか?」

美琴「そうよ、それ以外何かある? 私の能力をどう思うかって聞いてんの」

上条「へ? いや、そんな急に言われてもな……」

美琴は柵に背中をもたれかけると、右腕を上げてそこから電気を発した。

美琴「最近ずっと私、考えてたのよ。自分の能力について。『学園都市最高の電撃使い(エレクトロマスター)』だとか『超電磁砲(レールガン)』だとか言われてるけどさ……本当にこの能力は誰かの為になるものなのかしら、って……」

上条「………ん? 何でいきなりそんなこと考えるようになったんだ?」

美琴「だって………」

美琴は少し躊躇ったが、すぐに話を続けた。

740: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 23:16:23.90 ID:PAkIfiE0
美琴「私の能力は初め、筋ジストロフィーの患者を救うため、っていうお題目を建前に外道な研究者たちに悪用されたりもしたわ。思えば……満天の星空を見たい、ってところから始まって私は努力してレベル5にまで辿り着いたけど、今になって思うの。この能力は私にとって本当に意味があったものなのか、って」

上条「御坂……」

美琴「もちろん全部が全部否定してるわけじゃないのよ? この能力は私のアイデンティティーみたいなものなんだから。言うなれば五分五分、ってところかな? 肯定と否定が半分ずつ。……でもね、私にとったらその状態ですら普通なら考えられないのよ。自分の能力を少しでも疑うなんて、私にとっては有り得ないはずなのに………」

そこで美琴は視線を上条に向けた。

美琴「だから、あんたはどう思うかな、って聞いたわけ」

上条「そうだったのか」

美琴「別に無理に答えなくてもいいのよ?」

上条「いや……正直、俺も何と言ったらいいか分からない」

美琴「………………」

上条「最終的にはお前の考え方によるからな。でも、お前の電撃能力は確かにお前のアイデンティティーを示すものだ。そう簡単に否定するもんでもないと思う。俺としては、その能力が無ければ、御坂が御坂らしくないように思うんだけどな」

美琴「……………そう」

上条「悪いな、答えになってなくて。でも、最後に判断するのはお前自身だから」

美琴「……フフ、まあ、それでも為にはなったわ。ありがとう。実にあんたらしい答えだわ。まだまだ迷う余地がありそうねこれは」

上条「すまん」

美琴「だからあんたを責めてるわけじゃないって」

上条「…………………」

申し訳無さそうに黙ってしまった上条を見ると、美琴は肩をほぐすように首を一回巡らせた。

美琴「はぁ……ったく」
美琴「ねぇ……あんたさ」

上条「………?」

美琴「“天国”ってあると思う?」

上条「……天国? 天国って…あの?」

話が途中で切り替わったせいか、それとも突拍子も無いことをいきなり訊ねられたせいか上条は怪訝な顔をした。

美琴「そう。死んだ後に行くって世界」

上条「さぁ。どうだろうな………」

741: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 23:22:27.89 ID:PAkIfiE0
答えを濁したが、数多くの魔術師や魔術的事件に関わってきた上条にとって、『天国』といった世界の存在はそう簡単に否定出来るものでもなかった。
だが、科学一辺倒の街で育った美琴がそんな単語を発したことには少し違和感を覚えたのだった。

美琴「ま、私も科学科学の世界で生きてきたけどさ。実はぶっちゃけ信じてたりすんのよ」

上条「へーそうなんだ」

美琴「そ。本当は子供の時はもっと純粋に信じてたんだけど、さすがに学園都市の影響が強すぎたせいか今じゃ半信半疑ね」

上条「で、それがどうしたんだ?」

美琴「いえね、学園都市も天国ってほどじゃなくても、もっと“クリーン”な世界だったら、どうなってたのかなって……」

上条「“クリーン”な世界か。確かにこの街は、そう言った理想郷とはかけ離れたところにあるからな」

美琴「ええ。私も大して知ってるわけじゃないけど、きっとちょっと脇道に逸れればすぐに薄汚い路地裏に迷い込むようになっているんでしょうね。だから私もこの街が嫌いになったんだけど」

上条「……まあ、今更どうしようもないだろ」

美琴「そうね。だけど、この街は嫌いだけど、この街で出会った友達は好き。みんな、掛け替えのない一生ものの友達よ。……あ、心配しないで。一応あんたもその範疇に入ってると思うから」

上条「一応かい。そして断定じゃなくて推定ですか」

美琴「だからさ、余計思うのよ。友達は最高なのに街が最低って、もったいないと言うか悲しくなると言うか。ま、私が言ってることが贅沢だってのは分かるけどね。ただ、その『悲しくなる』ってレベルが、時にこの街に雷の雨を落として心中してしまいたい、って思うぐらいだから……。ま、心中したところで私みたいな人間が天国へ行けるかどうかは分からないけどね………」

美琴の表情が曇る。

上条「御坂……」

美琴「悪いわね。愚痴ばっか垂れる女で。私も本当素直じゃないわね、あはは」

美琴は本当に呆れたように自らを嘲笑する。

上条「………ちじゃねぇよ」

美琴「ん? 何か言った?」

上条「愚痴じゃない、って言ってんだ」

美琴「え?」

急に上条の雰囲気が変わった。

上条「お前は……十分苦しんできたんだ。だから……愚痴ぐらい唱えたってどうってことねぇよ」

美琴「あんた……」

上条「確かに、学園都市はクリーンな街じゃない。だけど、その学園都市も泣いたって笑ったってもうすぐ終わりを迎えるんだ。なら、御坂………」

742: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 23:28:22.17 ID:PAkIfiE0
キッと上条は美琴を見据える。

美琴「な、何よ?」

上条「なら、今度はお前の手で『外』の世界に天国を見つけたらいいだろ。『外』の世界にはお前らの友達もいるし、白井たちだってお前と一緒に脱出するんだ。学園都市と言う街は無くなるけど……その友達と『天国』みたいに幸せになれる、全く新しい学園都市の世界を作れるかもしれないだろ。それこそ、お前の求める学園都市じゃないのか?」

美琴「………………」

上条「暗部も闇も無い、みんなが心の底から笑って楽しめる。お前なら、そんな、擬似的だけど天国みたいな学園都市の世界を新たな形で作れるはずだ。だから、愚痴ってんじゃねぇよ……。それと、2度と『自分は天国に行けない』とか言うんじゃねぇ。『妹達』の件でそう思ってるなら、改心した一方通行にもそして死んでいった妹達にも失礼だ」

まるで自分の問題のように語った上条。
そんな彼を見て、美琴はしばし呆然としていたが、やがて口元に笑みを刻んだ。

美琴「フッ………」
美琴「ホント面白いわよねあんた。説教好きは伊達じゃないわね」

上条「俺は本気だぞ」

美琴「分かった分かりました。ありがとう。参考にさせてもらうわ」

フーと溜息を吐くと、美琴はよくも最後の最後まで説教を聞かせてくれたわねその仕返しよ、と言いたげに1つ冗談を言ってみた。

美琴「いいわ。じゃあその新しい学園都市では、あんたを恋人にしてあげてもいいわよ?」ニヤッ

至極、本当に冗談で言っ美琴だったが………

上条「そうか。それは楽しみだ」

美琴「へ?」




上条「お前みたいなやつが彼女だと、新しい学園都市の生活もさぞ明るくなるんだろうな」




美琴「!!??」

743: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 23:34:44.01 ID:PAkIfiE0
もちろん上条の言葉は美琴を励ますために言った、いつも通りの無意識のうちに紡がれたフラグメイキングワードだったが、先程、上条と気恥ずかしい展開になった今の彼女にしてみれば、本気ではないと分かっていても普通の対応が出来なかった。

美琴「…………っ///////」ボンッ

美琴の顔面が先程よりも更に真っ赤に染まる。今すぐにでもプシューと音を立てて頭から湯気が出てきそうなほどだった。
自分で言った冗談が原因で逆に自分が照れる羽目になるとはさすが美琴と言ったところか。

美琴「ババババババババババババカァ/////////// あんた何真顔で変なこと言ってんのよ///////////////」

上条「?」

上条に背中を向け、両腕を胸元に引き寄せ、美琴はいまだ熱気が抜けきれない自分の顔に四苦八苦する。

美琴「(ったく何でこいつはいつも本当に/////////////)」
美琴「(………………………でも………)」



美琴「(…………嬉しいかも………)」



上条を友達の仇と認識するため、長い間心の底に無理矢理仕舞われていた、ある感情が彼女の心の表面に洪水のように蘇ってくる。

美琴「……………………」

美琴は、嬉しそうに小さな笑みを浮かべた。

上条「どうした御坂?」

心配するように上条が後ろから覗き込もうとする。

美琴「さぁってぇ~」バッ

上条「うお!」

美琴「用も済んだしね。そろそろ帰ろっかな? それともまだいよっかな? あはははは」

上条「何なんだ一体?」

2人は、話を終えると再び公園のベンチまで戻って来た。

744: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 23:40:28.64 ID:PAkIfiE0
美琴「じゃ、また1週間後ね。それまでこのUSBメモリ、みんなで見ておくわ」

上条「ああ頼む」

美琴「さて、これからどうしようかしら?」チラッ

上条「ん?」 

美琴「って、忙しいのよねあんたは。じゃ、私は帰るわね。あんたも無理しないでね」

上条「おお」

何故か、名残惜しそうな顔で踵を返す美琴。

美琴「あ……」

しかし、彼女は何かを思い出したように、急に立ち止まった。

上条「どうした?」

美琴「いや、そういや妹のやつどうしてるかなって?」

上条「!!!!!!!!!」

美琴「あの子も平然としていて無茶しそうな気がするからね。で、どう? 元気にしてるのあの子?」

上条「…………っ」

無論、美琴の言う妹とは御坂妹のことだ。
上条は言葉に詰まる。

美琴「どうしたの?」

上条「…………………」

1度、御坂妹の顛末を美琴に伝えようと思っていたものの、いざ彼女の方から話を振られると言い辛いものがあった。だが、ここで隠していてもいずれは分かってしまうことだ。
上条は意を決し、全てを話すことにした。

上条「御坂………」

美琴「ん?」

上条「あいつは……御坂妹は………」

美琴「?」

上条「死んだんだ………」

美琴「……………え?」

745: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 23:46:26.41 ID:PAkIfiE0
上条は伏せていた目を美琴と合わせた。

上条「御坂妹は死んだ」

美琴「………は?」

上条「何度も言わせないでくれ。あいつは死んだんだよ! 俺を庇ってな!!」

美琴「………何言ってるの? あの子が……死んだ? 冗談だよね?」

辛い表情を浮かべ上条は言った。
それを見て美琴は信じられない、と言うように大きく目を開いた。

上条「冗談じゃない。3週間ぐらい前……あれは、俺と一方通行と御坂妹の3人で敵の拠点の1つに破壊工作を仕掛けた時だった。……だけど、その破壊工作は上手くいかなくて、俺たちは逃げる羽目になって……それで帰路の途中であいつは………」

美琴「そんな……そんなっ……そんなっ!! 嘘よ! 嘘って言ってよ!!」

上条「納得出来ないなら俺を殴ってくれ。あいつは銃撃から俺を守るために身を挺して死んだんだ!!」

美琴「ウソ………何で……何であの子が………」

ショックを受け、美琴はワナワナと全身を震わせながら後ずさりする。

美琴「何でそれを今まで話してくれなかったのよ!?」

上条「話したら、お前は妹の仇を討つとか言ってまた無茶し兼ねないと判断したからだ……」

美琴「そんな……私はそんなこと……するわけ………」

言い淀む美琴。
上条はそんな彼女を見て心苦しく思った。だが、彼女の反応を見る限り、恐らく美琴は3週間前に御坂妹の死を知っていれば、すぐさま「仇を討つ」だとか「やっぱり協力する」と言い出していたはずだ。
その自覚があったのか、美琴は話を変えた。

美琴「あの子の……遺体はどうしたの?」

上条「ある場所に埋めた。なるべくあいつを綺麗なまま葬ってやりたかったから、俺と一方通行であいつの遺体を地中深く埋めたんだ」

美琴「…………こんな……こんなのって…ないよ………」

上条「………………」

美琴「あの子はようやく個性が出て来たところだったのに……。普通の女の子として、生きていくはずだったのに………」

上条「あいつを仲間に入れた、俺を恨んでるのか?」

美琴「違う! そんなんじゃない! あの子があんたたちの仲間になったのは、あの子自身の意志。あの子が自分で決めたこと。でも……でも……それでもこの結末は納得出来ないよ! ………出来ないよ!!!」

美琴が上条に掴みかかる。彼女の双眸からは、一筋の涙が流れていた。

746: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/08(木) 23:52:21.62 ID:PAkIfiE0
美琴「出来ないよ……」

そのまま、美琴はうなだれる。

上条「御坂」

美琴「姉として……あの子の幸せを願ってた。妹達の幸せを願ってた……。だけどこんなのって……こんなのって…ないよ……。私、どうしたら………」

上条の胸板を軽く叩きながら、美琴の嗚咽が漏れる。

上条「あいつは、最期まで姉であるお前の幸せを願ってた……」

美琴「私より自分の幸せを優先しなさいよ!!」

ガッと上条は美琴の顔を上げるように、その両肩を掴んだ。

美琴「!?」

上条「こんなところでお前が泣いてどうするんだよ!?」

美琴「だって! だって!」

上条「あいつは最期までお前の幸せを願ってたんだ。なら、それに答えてやるのが姉としての役目だろ!!」

美琴「!!」

上条「あいつの死を後悔するなら……実験で死んだ10031人の妹の死を悔やむなら……お前があいつらの分も生きてみせろ!! あいつらの分も幸せになって、80年、90年、100年生きて皺くちゃの婆さんになって大往生してみろよ!! 姉としての威厳を見せつけてやるんだ!! お前らの姉は、こんなに立派だって!! 世界で一番の妹想いの姉だって、お前自身の人生をかけて証明してみせるんだよ!!!」

美琴「……うっ……ヒグッ……グスッ……」

上条「それが、あいつらの供養になる……」

美琴「ふっ……えぐっ……」
美琴「わあああああああああああああああん!!!!!!!!」

溜まっていたものが放出するように、美琴の涙腺が崩壊した。

上条「………………………」

美琴「あああああああああああああああああ!!!!!!!!」

上条は、自分の胸の中で泣く美琴の頭にそっと手を置くと、彼女を優しく抱き締めた。

上条「(御坂……お前の平和な日常を守るために死んだ、ある男との約束だ)」
上条「(……お前と、お前の周りの世界は絶対に守ってみせる………)」

上条より小さく細く華奢な身体が自分の胸の中で震るのを、上条はいつまでも感じていた。

749: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/09(金) 00:00:43.38 ID:R.Eb27I0
夕焼けに染められた空に、徐々に群青色が混ざりつつある頃、美琴と上条の2人はまだ公園にいた。彼女たちは寂しい表情を見せながら、寄り添うようにベンチに腰掛けている。

美琴上条「「……………………」」

今、美琴は空ろな目を虚空に向けながら上条の肩に頭を預けるよう身体を傾けていた。上条もまた、どこか元気の無い目を浮かべ、僅かに美琴の方に身体を傾けながら彼女の肩に手を回していた。

上条「……ちょっとは元気でたか?」

美琴「……うん」

彼女たちは交際しているから今のように身体を触れ合っているのではなかった。共通の大切な人間を失ったことで、誰かの人肌を感じ少しでも悲しみを和らげたかったのだ。だからこそ彼女たちはお互いを慰め合うように寄り添っていた。

美琴「ねぇ……」

上条「ん?」

美琴がボソッと呟いた。彼女のシャンパンゴールドの髪から甘い香りが上条をくすぐったが、それはどこか寂しい匂いに思えた。

美琴「私……幸せになりたい……。あの子のためにも……。これって、傲慢な考えかな?」

上条「………まさか。それこそ御坂妹が願ったことだ。お前が幸せになりたい、ってなら俺も及ばずながら協力するぜ?」

美琴「本当に?」

上条「ああ。嘘じゃない」

美琴「そう………じゃあ、1つお願いがあるんだけど……いいかな?」

上条「何だ? 言ってみろよ?」

美琴「……私ね」

上条「ああ」

美琴「………実は当麻のこと………」

上条「ん? 何だって?」

美琴「…………………」

上条「どうした?」

美琴「………やっぱりやめた。今はまだ、早い気がするから………」

上条「…………そうか」

美琴「…………うん」

2人はその後も、しばらくの間互いの身を寄せ合っていた。

824: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/10(土) 22:17:53.58 ID:1I8mRWA0
第7学区・セブンスミスト――。

上条からUSBメモリを渡されてから3日後、美琴は黒子たちと一緒にセブンスミストに来ていた。
4人で訪れた店の中で1番多く利用した場所だったので、最後に記念に1度だけ行っておこうとなったのだ。

佐天「ねぇ、初春。この服なんてどうかな?」

初春「あー可愛いですねー。佐天さんに似合いそうですよー」

佐天「じゃあこっちの 着は?」

初春「きゃっ! そそそそんな卑 なの履けるわけないじゃないですかぁ///」

佐天「えーウブだね初春は」

初春「じゃあ佐天さんが履いて下さいよ」

佐天「な、何であたしが履かないといけないのよこんな   なの」

初春「佐天さんだって履けないんじゃないんですか」

黒子「ふっ、やれやれですわ。2人もまだまだ甘いですわね。これぐらい淑女の嗜みとして当然ですのに」

佐天初春「当然じゃありません!」

やいのやいのと騒ぐ黒子たちを、美琴は少し離れた場所から淡い笑みを浮かべて見つめていた。

美琴「(こうしてみんなでここにショッピングに来れるのもこれで最後か……)」

上条から渡されたUSBメモリの資料は既に4人で閲覧し、確認している。もうみんな最低限の荷物もまとめてあり、あとは4日後の上条たちとの合流を待つだけだった。

佐天「みーさかさん♪」

美琴「ん? わ、何?」

佐天「ほら、この服可愛くありません? 御坂さんに似合いますよきっと」

美琴「あ、本当ね。いいわねこれ」

825: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/10(土) 22:23:34.62 ID:1I8mRWA0
初春「こっちなんてどうでしょう? 多少子供っぽいかもしれませんけど」

美琴「あ、それゲコ太じゃない!」

黒子「お姉さまは相変わらず子供っぽい趣味がおありのようで」

美琴「な、何よ。わ、悪い?」

黒子「あまり子供っぽ過ぎると、どこかの殿方に呆れられますわよ?」

美琴「ななななななななな別にあいつはそんなんじゃ……って、はっ!!」

佐天初春「ニヤニヤニヤニヤ」

美琴「な、何よ!?////」カァァ

佐天「いやぁ、良かったー。御坂さん元気になりましたね」

初春「寮出てからずっと元気ない顔してましたからねー」

黒子「やはりあの殿方の話題を出すと、ガラリと様子が変わりますわね」

美琴「……そ、そんなに私元気なかった?」

黒子「ええ、とても。これでセブンス・ミストに訪れるのも最後なんですから」

初春「最後ぐらい、後で思い返して良かった、って思えるぐらい元気にいきましょう」

佐天「もちろん今、あたしたちがそう気軽に笑える状況にあるわけじゃないですよ? でも、さ。やっぱり楽しまないと損じゃないですか? 暗い顔してると、幸せが飛んでっちゃいますよ」

美琴「貴女たち……」

美琴は3人の顔を交互に見る。
みんな、心の奥底に複雑な感情を抱えているものとは思えないぐらい、その表情は明るく、はつらつとして、女子中学生らしい笑顔だ。
で、あるのに自分だけ辛気臭い顔をしていても、年長としてどうか思い、美琴は気分を変えることにした。

826: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/10(土) 22:29:45.04 ID:1I8mRWA0
美琴「フッ、そうね……」
美琴「じゃあ、あんたたち。今日で4人で遊ぶのも最後よ。だから、今日は思いっきり発散しちゃうわよ!!」

佐天「そう来なくっちゃ!」

初春「ですよね!」

黒子「悩みを全て吹き飛ぶ勢いではしゃぎましょう!」

美琴「よし、まずはクレープ食べるわよクレープ! そんでその後はパフェ!!」

黒子「お姉さま、そんなに食べたら太りますわよ?」

美琴「今日ぐらいいいの! 女の子はスイーツ大好物なんだからさ!」
美琴「……だからさ!」

グイッ

黒子「お?」

佐天「ん?」

初春「ほえ?」

美琴は、両腕を広げると、左腕で黒子と初春を引き寄せその肩に手を回し、右腕で佐天の肩に手を回した。
接近した3人の顔を見、ウインクをすると美琴は言った。

美琴「さ、今日1日で思い出いっぱい作るわよー!」

黒子佐天初春「はい!!!」

4人の女子中学生の、明るくて元気な声が響いた。


そして、運命の日は訪れる――。

855: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 21:45:42.30 ID:3rIsNhg0

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そして、運命の日が訪れる――。




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856: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 21:49:36.50 ID:3rIsNhg0
3日後――。

本来ならあと1時間ほどで最終下校時刻を迎える頃、それは始まった。
1つの爆音を皮切りに、学園都市の至る場所から爆発や炎が舞い上がったのだ。
それは、学園都市の崩壊を報せる狼煙とも言えた。
地獄がまた始まったのだった――。


ジャッジメント第177支部――。

その日、美琴たち4人は予め早くから支部に集合していた。

美琴「始まった……っ!」

遠くで鳴り響いた爆音を聞き、美琴は立ち上がった。
内戦が始まったのだ。

黒子「電話が通じませんの。混線状況ですわ」

初春「ネットも使えなくなってます」

佐天「いよいよ終わりか……」

黒子「じき、インフラも麻痺するでしょう。本当の本当にこれで学園都市も終わりですわね」

美琴「さぁ、早く行くわよ!」

初春「待って下さい! 後ちょっとで機密書類の処分が終わりますから!」

黒子「こっちももうすぐですの!」

佐天「2人とも急いで!」

美琴「一刻の猶予も無いわ!」

パソコンを操作する黒子と初春を見、美琴と佐天は焦りを見せる。

黒子「終わりましたですの!」

3人は、ドアの付近に集まり初春を手招きする。

佐天「初春! 早く!」

初春「……よし終わった! 今行きます!!」

佐天は、手招きしていた腕を、走ってきた初春の肩に回すように急がせる。
最後の後始末も終え、美琴たち4人は支部を飛び出した。

857: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 21:54:35.55 ID:3rIsNhg0
美琴「こっちよ!! 合流地点までのルートは頭に入れてある」

4人は通りを駆け抜ける。この辺りはまだ、内戦勃発の煽りを受けていないのか、どこも被害は無く静かだった。

佐天「もっと早いうちに出てれば良かったんだけど……」

美琴「それじゃあ駄目なのよ。内戦開始の直前は、研究者側も敵対するテログループたちも神経をすり減らしてる。そんな最中に怪しい動きをすれば、どちらかの勢力に勘付かれる可能性もある」

黒子「逆に、内戦が始まったらみんな緊張も解けてカオスな状況になるので、隙が生まれやすいということですわね!?」

美琴「そういうこと! あいつが説明したまんまのことだけどね。それにわざわざあいつらはジャッジメント支部の近くに合流ポイントを設けてくれたわ。危険を冒してまでこんな近くまで迎えに来てくれるんだから贅沢は言えないでしょ!!」

佐天「なるほど確かにそれもそうですね!」

初春「なら早く行かないと」

美琴「ええ、寄り道は出来ないわ」

息を切らし彼女たちは走る。だが、それと同時に言い知れぬ緊張や不安も沸々と湧き上がってくる。
辺りはまだ静かとは言え、付近の建物が急に爆発したり、路地裏からテログループが顔を覗かせないか、と考えると余計に焦燥感が増してくるのだった。




ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!




突如、サイレンが鳴り出した。

858: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 21:59:38.68 ID:3rIsNhg0
恐らく、学園都市全域に緊急避難警報が出されたのだろう。

美琴「これは……サイレン!?」

本能をつつくような不気味な音を耳にし、美琴は僅かに顔を上げる。
と、その時だった。

黒子「お姉さま!!!!」

美琴「え……?」

先頭を走っていた美琴が、黒子の声に気付き正面に顔を戻した時だった。
突如、曲がり角の陰からごつい装甲を纏った腕が飛び出してきた。

美琴「!!!!!!!」

1秒後、美琴は後方に吹き飛ばされていた。

黒子「お姉さま!!!」

佐天初春「御坂さん!!!」

地面に転がった美琴に駆け寄る3人。彼女たちの絶望を更に肥やすように、ズゥンという地響きが後ろから轟いた。





「ぎゃぁっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!! いいザマだなぁ、レベル5のお嬢ちゃんよぉおおおおおおおおおお!!!!!!」






859: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 22:05:16.71 ID:3rIsNhg0
黒子たちが振り返る。
そこには、ピンク色のどぎつい模様で全身を埋められた、1台の駆動鎧(パワードスーツ)が3人を見下していた。

黒子「あ……貴女は……」

3人の顔に冷や汗が浮かぶ。



テレスティーナ「正解でぇぇぇぇっす!!!! ご無沙汰してましたかぁ、お嬢ちゃんたちぃぃぃい??? まあこっちはお前らガキのことなんて1㎜たりとも心配なんてしてなかったけどなぁ!!!! ぎゃははははははははははは!!!!!!!」



その駆動鎧に身を纏った人物――それはかつて『乱雑反応(ポルターガイスト)』の事件でさんざん美琴たちを苦しめた黒幕の女だった。

美琴「テ……テレスティーナ=木原=ライフライン………」

頭から一筋の血を流しながら、美琴が起き上がろうとする。

黒子「お姉さま!!」

佐天初春「御坂さん!!!」

テレスティーナ「あぁぁぁぁん? 何だ死んでなかったのかよこのクソガキは!!??」

限界まで顔を歪めに歪めまくり、テレスティーナは暴言を吐く。

美琴「……咄嗟に……回避しただけよ……もう少し反応が遅かったら、危なかったわね……」

テレスティーナ「ほざくなアバ  がぁ!!!」

黒子「くっ!」

美琴に注意を向けているテレスティーナの隙をつき、黒子が動きを見せる。

テレスティーナ「はいざんねぇぇぇぇぇぇぇぇぇんんん!!!!!!!」

ドゴッ!!!!

黒子「きゃん!!!!」

しかし、彼女は攻撃を仕掛ける間も無く、駆動鎧のごつい左腕に薙ぎ払われてしまった。

美琴「黒子!!!」

佐天初春「白井さん!!!」

テレスティーナ「テレポーターなんてほんの少し捻って精神状態を悪化させてやれば無力になるからなぁ!!!! 強力に見えても実は相手しやすいっていう」

860: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 22:11:37.19 ID:3rIsNhg0
佐天初春「……………っ」

佐天と初春が、倒れた美琴と黒子の前に立ちテレスティーナを睨む。

テレスティーナ「ぁぁぁああああ? 何だその目はぁ?? 生意気なガキどもが!!! いいぜぇ、いつぞやの借りここで返してやるぁぁぁぁぁ!!!!!」

美琴「そうは……させない……」

美琴が震える手でポケットからコインを取り出す。

テレスティーナ「遅すぎるぞブァァァァァァァカ!!!!!!」ガッ!!

美琴「きゃ……あっ!!!!」

駆動鎧の右腕が美琴を掴み上げた。

テレスティーナ「何がそうはさせないキリッだよ!!!!!」

佐天初春「御坂さん!!!」

テレスティーナ「お前らの戦闘パターンなんてお見通しなんだよ!!! 1度戦ってるからなぁ!!!! 所詮レベル5とレベル4でも精神が未熟なガキだしぃぃ!!!! ほんの少し隙をついて傷つけてやるだけで戦闘を有利に運べるんだから簡単だよなぁあああああ!!!!????」

美琴「くっ……うぅ……」

美琴は何とか電気を発しようと試みるが、駆動鎧の右腕が彼女の首を押さえるようにしめつけているため演算に集中出来ない。

テレスティーナ「なぁぁんか前にもこんな風景見たことあるよなぁぁぁぁ!!!! あんときゃお前の知り合いのせいでみすみすお前を取り逃がしたが、今度こそお前は終わりだぜぎゃははははははははは!!!!!!」

黒子「そうは……させませんの!!」

ヨロヨロと黒子が立ち上がる。

テレスティーナ「あ?」

黒子は太ももに巻いていた革ベルトに手を触れ、金属矢をテレポートさせる。
しかし、何故か金属矢は駆動鎧に当たる前に、地面に叩き落されてしまった。

黒子「なっ!?」

861: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 22:17:21.41 ID:3rIsNhg0
テレスティーナ「驚いたぁぁぁ? 驚きまちたかぁぁぁぁぁ???? こっちにはなぁ、魔術師なんて反則的なやつもいるんだよ、ブァァァァァカ!!!!!!」

見ると、その言葉に反応するように駆動鎧の後ろから1人の外国人らしき男が出て来た。恐らくはテレスティーナが言った魔術師だろう。
黒子たちは初めて目にする驚異の力と魔術師という存在に動揺する。

テレスティーナ「こっちはこの生意気なクソガキを圧殺しとくから、お前はそのテレポーターどもをぶち殺しとけ!!!!!」

言われた魔術師はニヤッと笑い、黒子と佐天と初春に近付き腕を伸ばす。

佐天「あ……あ……」

初春「来ないで……」

黒子「……………っ」

目の前の、魔術師と言う未知の相手にどう対処していいのか悩んでいるのか、それともテレポートを実行するほどの精神を保てるほど冷静ではなかったのか、黒子は攻撃の動作に移れなかった。
美琴は美琴で、テレスティーナの駆動鎧に首を掴まれ壁に押し付けられ手も足も出せない状態だった。

テレスティーナ「ヒャハハハははははははははははは!!!!!!! 死ね氏ね士ね詩ね師ね詞ねシネ市ねしねSINE歯ねSHINEしねシネ死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

美琴「がっ………はっ……」

美琴の意識が遠のいていく。
顔を歪みまくるテレスティーナを目の前にして、美琴は手を動かそうとするがまともに反応しない。
視界の端には、今にも魔術師らしき男に襲われそうな黒子と佐天と初春の絶望がかった顔がチラッと見えた。
美琴はテレスティーナを睨む。

テレスティーナ「なんだぁぁぁぁその反抗的な目はぁぁぁぁぁあああああ!!!!??? どうやらおしおきが必要なようだなぁぁぁぁあああああ???? いいぜぇぇぇぇえ、そのブッサイクな面、不快だから今すぐぶっ潰してやんよ!!!!!!」

862: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 22:23:11.42 ID:3rIsNhg0
駆動鎧の左腕が動く。

テレスティーナ「死ねええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」

佐天「御坂さん!!!」

初春「御坂さん!!!」

黒子「お姉さま!!!」

美琴「くっ……!!」

重く、無慈悲な駆動鎧の左腕が美琴の顔を粉砕しようと振るわれる。
が、しかし………




テレスティーナ「……………あ?」




美琴「!!??」

いつまで経っても、攻撃は来なかった。不審に思った美琴が目を開くと、そこには不自然な方向に折り曲げられた駆動鎧の左腕が見えた。

テレスティーナ「ぐぎゃああああああああああああああ!!!!!!」

エイリアンのような悲鳴を発し、テレスティーナは駆動鎧の左腕を見る。恐らくは内部で自身の左腕も同じように曲がっているのだろう。
テレスティーナは恨めしい顔で叫んだ。

テレスティーナ「なんだぁお前はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?????」

テレスティーナが睨んだ先には………






駆動鎧と美琴の間に、1人の白い悪魔が立っていた。







865: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 22:29:25.57 ID:3rIsNhg0
美琴「!!!!!!!!!」

黒子「あれは……」

驚き、黒子や魔術師もそっちの方に顔を向けた。
そしてその時、別方向からも1人の少年が現れ、声を上げた。





「悪い御坂。遅くなったな」





美琴「!!!!!!!!!!!」

美琴たちの窮地を救った2人の少年――それは、上条当麻と一方通行だった。

上条「今すぐ助けてやる」

一方通行「やれやれェ」

テレスティーナ「…………………」

その光景にしばし呆然としていたテレスティーナだったが、我に返るとすぐにまた顔を歪めた。

テレスティーナ「…………………ハッ!」
テレスティーナ「何が助けてやるだクソヤロウ!!! 遅れてきたヒーロー気取りか!!?? ああ!!?? お前らみたいなクソガキが2匹増えたところで何にもならんぇぇぇぇよぶぁぁあぁァぁか!!!!!!」

一方通行「っせェ………」

テレスティーナ「ああぁぁぁ?」

駆動鎧と美琴の間に立っていた一方通行が、テレスティーナに背中を向けながら呟いた。

一方通行「うるせェって言ってンだよ三下が」

僅かに振り返り、一方通行は深紅の目でテレスティーナを睨む。

866: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 22:35:49.24 ID:8ClKob20
テレスティーナ「生意気なガキだなぁぁぁぁてめぇぇぇも!!!!! 左腕折られただけで戦闘力が減るとでも思ったかぁぁぁぁああああ?????」

ブンッ

そう言うと、テレスティーナはゴミを捨てるような動作で美琴を放り投げた。

美琴「あっ!!」

上条「よっと」

しかし、それを上手く上条がキャッチする。
が、テレスティーナはもう美琴のことはどうでもいいのか、既に一方通行に注意を向けていた。

テレスティーナ「てめぇみたいな生意気なガキは虫っころみたいに死んどけやああああああああああ!!!!!!!」

駆動鎧の右腕が一方通行に向けて振るわれる。




一方通行「うぜェ」




ドッ!!


テレスティーナ「…………は?」

鈍い音が一瞬響いた。
何が起こったのか理解する間もないまま、テレスティーナが纏った駆動鎧はどこからか生じたベクトルによって操られ………



ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!



2秒後、100m先の建物の壁にめり込んでいた。

869: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 22:41:51.56 ID:8ClKob20
決着はすぐに着いた。

一方通行「ふン」

美琴「しゅ…瞬殺……」

それ以外に形容し難い、あっけない戦闘の終わり方だった。
上条に抱きかかえられた美琴は、遥か遠くで倒れたテレスティーナの駆動鎧を唖然と見ていた。

一方通行「俺を殺したいなら、木原くンの木原神拳なみの策ぐらい練ろよ。にしても、ホントあの一族にはろくなのがいないねェ」

つまらなさそうに一方通行は髪を掻いた。

上条「で、大丈夫か御坂?」

上条は、お姫様だっこのように抱えている美琴を見下ろす。
彼女は、子供のように片腕を上条の肩に伸ばし、身体も上条に寄せていた。

美琴「え? あ……うん……」

上条「良かった」

美琴の無事を確認すると、上条は安心したように微笑みを見せた。

魔術師「クソ! どういうことだこれは!?」

上条「ん?」

振り返ると、魔術師がうろたえていた。
恐らく、一方通行の実力の一端を垣間見て、慣れない超能力に今更ながら慌てふためいているようだった。

上条「悪い御坂、少し降ろすぞ」

美琴「うん……」

上条は、優しくそっと美琴を地面に降ろす。

魔術師「クソオオオオオオオオオ!!!!!!!」

黒子佐天初春「!!!!!!」

錯乱した魔術師が両手を黒子たちに向けた。
そして、そこから何らかの攻撃が放たれた。

バギィィィン!!!!

魔術師「なに!?」

871: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 22:47:26.53 ID:8ClKob20
上条「寝てろ三下」

ドゴッ!!

と言う鈍い音と共に発せられた殴打を受け、魔術師は壁に突っ込みそのまま崩れ落ちた。

上条「ふん」

一方通行「雑魚しかいねェのかよ……」

3分もしないうちに、2人の強敵は倒された。

美琴黒子佐天初春「…………………」

そんな2人を4人は唖然と見ていたが、我に返った黒子と佐天と初春が美琴に駆け寄っていった。

黒子「お姉さま!」

佐天初春「御坂さん!」

美琴「大丈夫よこれぐらい。あんたたちは何ともない?」

黒子「私たちは大丈夫ですわ」

美琴「良かった……あんたたちが来てくれなかったら危なかったわ。ありがとう」

そう言って美琴は上条と一方通行に視線を向けた。

黒子佐天初春「ありがとうございます!」

美琴に続き、黒子たち3人が礼をする。

一方通行「礼は後だ」

上条「この近くに黄泉川先生たちの車があるからそこまで移動するぞ」

美琴「分かったわ」

数分後、美琴たちは上条に連れられて通りの端に待機していたワゴンに乗り込んだ。

872: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 22:52:56.01 ID:8ClKob20
前後に1台ずつ、警備員が運転する自動車に護衛されてワゴンは出発する。

美琴「いっつ……」

カエル医者「よし、これで大丈夫だよ?」

カエル顔の医者から応急処置を受ける美琴。
ワゴン車は10人乗りで、運転席に鉄装、助手席に黄泉川が、前部座席に左から打ち止めと一方通行が、中央座席に左から黒子、佐天、初春が、後部座席に左から上条、美琴、カエル顔の医者が乗っていた。
因みに、木山と寮監はワゴン車の前を進む自動車の中だった。

上条「今から全員で脱出地点まで向かう。敵は双方共に街の中心部で衝突しつつある。この車列は郊外に離れていくから、騒ぎの中心からは遠のいていくことになる。敵の方も、何も事情を知らないはずの学生たちがこんな早くに逃げ出すとは思ってないからな」

カエル医者「逆に言えば今しかチャンスはないわけだね?」

美琴「そう言えば先生」

カエル医者「何だね?」

美琴「病院の患者さんたちはどうしたんですか?」

カエル医者「全くもってその通りだよね? 僕も我ながら情けないよ。患者さんたちを置いて『外』へ逃げることになるなんて。一応、病院内の患者さんたちには、医療施設が整ってある第7学区随一のシェルターに避難させたけどね?」

本当に物悲しそうにカエル顔の医者は語る。今この時も患者のことが気になって仕方がないのだろう。
それを汲んだのか、腕組みをして前を見ていた一方通行が言う。

一方通行「自虐することはねェだろ。あンたはよくやってるよ」

カエル医者「まさか君からそんな言葉が出るとはね?」

一方通行「けっ」

美琴はカエル医者の顔を一瞥する。
本当に彼は残念そうな顔をしている。だが、このまま学園都市の『中』に残っていても出来ることはほとんどない。ならば、学園都市の『外』から患者を救う手立てを考えるのが最良の策なのかもしれない。

打ち止め「もう、アナタってば素直じゃないのね、ってミサカはミサカは呆れてみたり」

一方通行「っせェ」

初春「にしても、ちゃんと最後まで脱出出来るんでしょうか?」

初春が窓の外を眺めながら呟く。

佐天「心配と言えば心配だよね」

黒子「杞憂であればいいんですけどね」

上条「敵に見つからない限り大丈夫だろう。まあ、後は車で向かうだけだ。脱出地点の近くまで来たら、徒歩に切り替えるけどな。その後は、闇夜に紛れて川からボートに乗って『外』と『中』の境界まで行くだけだ」

873: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 22:58:33.83 ID:8ClKob20
美琴「………………でも、私たちだけ逃げるのってやっぱり何だか気が進まないな」

ふと、美琴が呟いた。

黒子「確かに、学園都市にはまだ多くの学生が残っていますしね」

車内に沈黙が訪れる。

カエル医者「………ま、かと言って学生たちを放っておくわけでもないよ。『外』のNGO団体の施設では、どのようにより多くの学生たちを学園都市から助け出すか、という計画が今から始まってるらしいからね。君たちなら、学園都市の内部を知る貴重な人材として彼らに協力することだって出来るんだ。だから、元気を出しなさい。ね?」

美琴「ゲコ太……」

上条「………………」

美琴「……でも」

カエル医者「ん?」

美琴「でも、学生たちだけじゃない。今こうしてる間にも、黄泉川先生の部下の人たちや、妹達が陽動で動いてるんでしょ?」

更に不安材料を口にする美琴。彼女の声はどこか弱弱しい。

一方通行「アイツらが自分で決めたことなンだ。ここで愚痴ってみろ。オマエはアイツらの意志を踏みにじることになるンだぞ」

黄泉川「私の部下たちも、生徒たちを守るのが本来の任務。腐ったアンチスキル上層部に代わって己の職務を全う出来るんじゃん。だからこそあいつらは喜んで志願して陽動任務を引き受けてくれたじゃん」

美琴「でも……でも……」

一方通行「グダグダうっせェな。納得いってないヤツがオマエだけだと思うなよ」

美琴「え?」

一方通行「だが、納得出来ても止められねェもンがあるだろ。それを止めようとしたら、逆にアイツらを馬鹿にしてることになる」

黄泉川「そういうこと。ま、人情としては見過ごしたくないんだけどさ」

一方通行と黄泉川の言葉にはどこかやり切れなさが含まれていた。恐らく、彼ら自身も妹達や部下たちに思うところがあるのだろう。

打ち止め「ちなみに、今ミサカネットワークに入ってきた陽動に就いてる妹達からのメッセージだけど……『これはミサカたちが自らの意志で決めたことです。お姉さまがここでミサカたちを心配して引き返したり、脱出に失敗すればミサカたちの行動も無駄になります。今、お姉さまが一番にすべきことは学園都市から逃げることです。では、ご武運を祈ってます』って下位個体たちが言ってるよ、ってミサカはミサカは説明してみる」

美琴「………あの子たち……」

打ち止め「ミサカだって本当は悲しいんだよお姉さま。だけど、下位個体たちの想いを無駄にするのは一番駄目だと思う」

美琴「……………………」

確かに、その通りかもしれない。だが、どうあっても全てが全て納得出来るものでもなかった。

上条「……………………」

874: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 23:04:25.39 ID:8ClKob20
と、その時だった。黄泉川の無線に連絡が入った。後ろの車両からだ。

黄泉川「何? 車が急に止まった?」

無線を受けた黄泉川が後ろを振り返る。それにつられ、全員も後部ガラスから後ろを窺った。
見ると、確かに後方に付いていた車が停まっている。

佐天「何かあったのかな?」

初春「エンジントラブルでしょうか?」

美琴「どうするの?」

カエル医者「ちょっと待っててくれ。僕が1番彼らの車に近い座席に座ってるしね。様子を見てこよう」

美琴「あ……」

そう言うと、カエル顔の医者はドアを開き出て行った。

鉄装「い、いいんですか?」

黄泉川「まぁ、すぐ戻るだろ」

世話好きなカエル顔の医者らしい行動と言えたが、あまり無駄に時間を食うわけにもいかなかった。

カエル医者「どうかしたのかな?」

カエル顔の医者は停車した車のところまで近付くと、運転席を覗き込んだ。

警備員A「分かりません。エンジンに異常は無いはずなんですが」

警備員B「急に止まった感じで」

カエル顔の医者「ふむ、急に…ね」

カエル顔の医者は異常を調べるため、車の周りを回る。
ワゴン車からは美琴たちがその様子を不安げに見つめていた。

カエル医者「おや? これは?」

875: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 23:09:37.79 ID:8ClKob20
車の背後に回った時、何かに気付いたのかカエル顔の医者が腰を屈めた。

カエル医者「パンクしているね……。しかもこれはまるで撃たれたような……ん?」

不意に、カエル顔の医者は立ち上がる。

美琴「何があったの?」




ズドオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!




突如、ワゴン車の後部ガラスの視界がオレンジ色に染まった。
咄嗟に、上条は美琴を庇うように覆い被り、他のみんなも反射的に椅子に頭を引っ込めた。



カエル医者「…………………」

しばらくして、カエル顔の医者は目を見開いた。

ボオオオオ……

周囲は黒い煙に覆われ、すぐ側ではオレンジ色の炎を上げながら燃える車が目に入った。

カエル医者「一体何が起こったんだね?」

状況も理解出来ず、カエル医者は呟いていた。

カエル医者「ん?」

彼は自分の身体を見た。
そこに、あるべきはずの下半身が無かった。

カエル医者「おやおや……」

877: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 23:15:26.88 ID:8ClKob20
上条「クソ!」

頭を上げ、後部ガラスから後方を見る上条。
車が炎上していた。

美琴「何があったの?………何よあれ!?」

黒子「車が……燃えてますわ……」

佐天「何であんなことに!?」

初春「まだあの中には、先生と2人の警備員がいるんですよ!!」

上条「チクショウ!!」

一方通行「チッ!!」

ガラッ!

同時に、上条と一方通行が扉を開けて飛び出していた。

美琴「あっ!」

打ち止め「アナタ!!」

鉄装「黄泉川先生、あの2人が!」

黄泉川「クソ! 急に爆発したと思ったら……。いつでも出発出来るようしとくじゃん!」

美琴「………………っ」バッ

黒子「お姉さま!?」

佐天初春「御坂さん!!!」

黄泉川「何!?」

止める間も無く、美琴も車から飛び出していた。

879: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 23:20:38.61 ID:8ClKob20
燃え盛る炎の熱にも負けず、上条と一方通行が車に近付いて来た。

一方通行「駄目だな。警備員の2人は即死だ。恐らくRPGの直撃でも受けたンだな。どこから撃ったのかは分からねェが、止まってると良い的だ。早く逃げるぞ」

上条「待て! 先生だ!!」

車から少し離れた所に、カエル顔の医者が仰向けに転がっていた。
ただし、  上  半  身  の  み  だ  が  。  

上条「先生!」

慌てて上条が駆け寄る。

カエル医者「おお君か。いやいや参ったね?」

上条「先生………」

その姿を見た上条が絶句する。

美琴「ゲコ太!!」

カエル医者「おや君まで。外に出たら危ないよ?」

上条「御坂!?」

美琴「あああ……何て……酷い……ゲコ太!!」

口元を両手で覆うように驚き、美琴はカエル顔の医者に駆け寄った。
一方通行は2人の様子を横目で窺いながらも周囲に警戒を向けている。恐らく、敵からの攻撃に備えているのだろう。だが、例え彼であっても音速で飛来する物体からワゴン車を守りきれるかは分からなかった。

880: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 23:25:32.23 ID:8ClKob20
木山「何かあったのかな?」

寮監「一番後ろの車が爆発したようですが、あの先生が巻き込まれたようですね」

先頭の車内でも、後ろで起こりつつある惨状に気付いたのか、後部座席に座っていた木山と寮監が後ろを振り返っていた。

木山「………本当に? 無事ならいいんだが……」



美琴「やだ! やだよゲコ太!! 死なないで!!!」

上条「御坂、残念だが先生はもう無理だ。可哀想だけど、早く行かないと」

美琴「放っておけって言うの!?」

涙で顔をクシャクシャにし、美琴はカエル顔の医者にすがる。

一方通行「敵が来るぞ。いつまでも余裕こいてる暇ねェぞ!」

上条「御坂、もう無理だ」

美琴「でも……!」

カエル医者「泣くのは止めて早く車に戻りなさい」

美琴を諭すように言うが、カエル顔の医者の腰から下は千切れており、そこからは大量の血が流れている。

カエル医者「その代わり、これを持ってってくれ」

美琴「?」

カエル顔の医者は懐からケースに入れられた1枚のCD-ROMを取り出した。

カエル医者「ふふ、さすが僕自慢の耐火耐衝撃ケースだ。少しヒビが入ってるだけで中身は何とも無さそうだね?」

美琴「……これは?」





カエル医者「能力者から能力を消すための音声データだよ」





美琴「……………え?」

881: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 23:31:29.99 ID:8ClKob20
カエル顔の医者の言葉に、美琴の思考が一瞬停止した。

カエル医者「能力者から能力を消し去るためのものだ」

美琴「…………な……何を? ……能力を消す?」

カエル医者「……そうだ。これは僕が長年の研究を費やした結果、極秘に作ったものでね。この中の音声データをある種のカリキュラムに沿って聞き続けると『自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)』を消失させる効果が出るんだ。実際、先に学園都市の『外』に逃げた学生に協力してもらって成果も出てる」

美琴「どうして……こんなものを……?」

カエル医者「たとえ『外』に逃げられたとしても、学園都市で能力開発を受けた学生たちが満足で暮らせる生活環境は少ない。そればかりか、能力を使っただけでどこか怪しい外国の機関に目を付けられたり、あるいは過激派団体に攻撃の対象にされることも考えられる。だから、そういった危険な目に遭わないために、このデータを作り出したんだ」

美琴「そんな……でも……能力を消すだなんて……」

カエル医者「無論、最終判断は本人に任せるけどね? とにかく君は、これをNGO団体の施設にいる僕の友人の研究者たちに渡してほしい。以前、上条くんが君にあげたUSBメモリに入ってるはずだよ。持ってるね?」

美琴「持ってるけど……私は…私は能力を消すって……そんなの…どうしたら……」

カエル医者「だから言っただろう? それは本人の最終判断だと」

そう言うと、カエル顔の医者は美琴の手をギュッと包み込むようにCD-ROMを渡した。

カエル医者「『外』に脱出した学生たちが、少しでも平和に……そう、今までみたいに“あの男”のモルモットとして生きるのではない、1人の真っ当な人間として幸せな人生を送るために………」

カエル顔の医者は魂が篭った目で美琴を見据える。




カエル医者「頼んだよ」





882: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 23:36:43.38 ID:8ClKob20
美琴「うっ……ヒグッ……ゲコ太ぁ……」

目元を拭う美琴。

一方通行「もう待てねェぞ!!」

上条「行くぞ御坂」

上条と一方通行が美琴を促す。

美琴「………うん」

胸にCD-ROMを抱き、上条に急かされるように美琴はワゴン車へ戻っていく。
1度だけ彼女はカエル顔の医者の方を振り向いたが、すぐにワゴン車に飛び乗った。

一方通行「悪い遅くなった」

黄泉川「私の部下たちは?」

一方通行「死ンでたよ。あの医者ももう虫の息だった」

黒子佐天初春「そんな……!!」

黄泉川「……そうか」

打ち止め「あの先生が……」

美琴「…………………」

上条「黄泉川先生、早く出発して下さい」

黄泉川「よし、行くぞ!! 出せ!!」

鉄装「はい!!」

再び、車は発進する。仲間だった1人の犠牲者を残して――。

美琴「…………………」

美琴は後部ガラスから、小さくなっていくカエル顔の医者の姿をずっと眺めていた。

883: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 23:41:11.53 ID:8ClKob20
カエル医者「……さぁて、未来の芽は咲いたばかりだアレイスター。君が生きていようが死んでいようが知ったことじゃないが、もうこれ以上、無垢な子供たちを利用なんて出来ないからね?」

フウ、と息を吐きカエル顔の医者は虚空を見上げる。

カエル医者「おでましか……」

カエル顔の医者が顔を巡らすと、通りの向こうから武装した兵士たちが近付いて来るのが見えた。
警戒しながらも、周囲に危険が無いと判断した兵士たちはカエル顔の医者の前で立ち止まり銃口を向けた。
下半身が千切れ、もう虫の息であるにも関わらず、だ。

カエル医者「悪いがね、君たちにつける薬はこれしかないんだ」

武装兵たちが怪訝な顔をする。

カエル医者「本当は患者を救うのが僕の信条なんだけどね? あの子たちのことを考えると、そうも言ってられないからね? でも、安楽死だって1つの治療手段だろう?」

武装兵たちの顔が強張った。

カエル医者「共に人生の最果ての地まで赴こうじゃないか。僕と君たちは医者と患者の中なんだし」

突如、武装兵たちが喉を押さえて苦しみ始めた。
カエル顔の医者は笑う。
彼の手元には2つのビンが転がっており、そこから漏れ出した2つの液体が混じり空気と合わさり、1つの化学ガスを生み出していた。

カエル医者「安心しなさい。主治医は患者を最後まで1人ぼっちにはしないよ? それが死ぬ時でもね………」

武装兵がバタバタと倒れていく中、カエル顔の医者は微笑み呟いた。





カエル医者「それこそが、医者としての本懐なのさ……」






885: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/11(日) 23:47:32.79 ID:8ClKob20
1人分の座席が空いたワゴン車は、ひたすら目的地に向けて進む。
車内は、静寂に包まれていた。そんな中、美琴がポツリと口を開いた。

美琴「……………ねぇ……」

上条「ん?」

美琴「……あんたはどう思うの? ゲコ太が言ったこと……」

そう言って美琴はチラッとCD-ROMを覗かせた。

上条「俺には何とも言えない……。だけど、お前の能力に限っては、この間言った通りだ」

美琴「…………………」

2人が何やら大事な話をしているのは他のみんなも分かっていたが、どうもそれが2人だけの間に通じる話題であると悟ったのか、誰も何も口を開こうとは思わなかった。

上条「だけど、本音を言うとさ」

美琴「?」

上条「お前の電撃には何度も追い掛け回されたからなぁ。言わばそれはお前との思い出の日々みたいなもんだ。だから俺としては、お前には今のままでずっといてもらいたい」

ハッキリと上条は言い切った。

美琴「…………そう」

美琴は顔を手元に向ける。

上条「まあ、最後は自分で決めろ」

それだけ言うと、2人の会話はそこで終わった。


美琴たちを乗せたワゴン車は徐々に街から離れていく。このまま行けばスムーズに脱出地点辿り着けそうだった。
が、しかし、その時だった。


キキィィィーーーーー!!!!!!



ドォォォン!!!!!



けたたましい音が鳴り響いたかと思うと、次の瞬間には鈍い衝突音が全員の鼓膜を貫いた。
何かが起こった。分かったのはそれだけだった。

917: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/12(月) 22:32:33.56 ID:VpgIO4I0




キキィィィーーーーー!!!!!!



ドォォォン!!!!!



耳をつんざくような嫌な音が聞こえたかと思うと、その次の瞬間には何かが衝突するような音が轟いた。

佐天「わっ何々!?」

初春「何かあったんですか!?」

一方通行「敵襲か!?」

黄泉川「落ち着くじゃんみんな!!」

車内がざわめく。

黄泉川「前方の車両が事故ったぞ!」

その言葉に反応し、全員がフロントガラスから外を覗き見る。
確かに、前を走っていた自動車が壁に衝突している。だが、被害がどれほどかはここからは分からなかった。

黄泉川「鉄装、ここで待ってろ」

鉄装「え? あ、はい!」

黄泉川「上条、一方通行、手伝え!!」

黄泉川は助手席の扉を開け外に飛び出し、上条と一方通行もそれに続いた。

美琴「寮監が………っ!!」

初春「木山先生も……っ!」

事故を起こした車内には、寮監と木山が乗車している。そのことを思い出したのか、美琴たちは顔を蒼くし車外へ飛び出していた。

鉄装「あ、コラ! 待ちなさいみんな!!」

打ち止め「お姉さま!?」

美琴たち4人は鉄装の注意も聞かず、既に走り出していた。

918: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/12(月) 22:38:57.95 ID:VpgIO4I0
一方通行「どうだ?」

黄泉川「……駄目じゃん」

壁にめり込んだ自動車の開いたドアに手を掛け、運転席と助手席を覗き込んだ黄泉川は首を横に振った。

黄泉川「潰れてる」

余りにも急スピードで衝突したため、運転席と助手席に座っていた黄泉川の部下の身体は悲惨な状況と化していた。

上条「大丈夫ですか!?」コンコンコン

上条が後部座席の窓を叩き、中にいる木山と寮監に声を掛ける。

上条「このっ!!」

上条は多少変形したドアを開けると、上半身を潜り込ませた。

美琴黒子「寮監!!」

初春佐天「木山先生!!」

一方通行「なっ!? オマエら!? 危ねェから来てンじゃねェよ!!」

美琴たち4人が寮監と木山を助けようと、駆け寄ってきた。

美琴「だからって、ただ黙って見てられないわ!」

黄泉川「……ハァ。ま、いいじゃん」

美琴と黒子は後部座席の左側に周り、初春と佐天は右側に周った。

初春佐天「木山先生!!」

木山「君たちか……くっ」

上条が支える木山の身体を、初春と佐天も一緒になって引っ張り出そうとする。
衝突で脳が揺さぶられたのか、木山の意識は弱々しそうだった。

美琴黒子「寮監!!」

黄泉川と一緒に、美琴と黒子も寮監を引っ張り出そうとする。

黄泉川「前部座席は見るなよ」

美琴黒子「え?」

しかし、思わず見てしまった2人はすぐに顔を背けた。

919: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/12(月) 22:45:17.54 ID:VpgIO4I0
黄泉川「だから見るなって言ったじゃん」

寮監「………おいおい、私の顔の上に……吐き出さないでくれよ」

寮監から反応があった。

美琴「寮監!!」

黒子「ご無事ですか!?」

寮監「当たり前だろ。私を誰だと思っている。だが、まさかお前らが助けに来てくれるとはな……。いつもはお転婆で生意気なお前らが今日は……天使に見えるよ」

美琴黒子「………っ」

寮監の身体を支える美琴と黒子の手に力が篭る。
黄泉川の助けもあって、何とか彼女たちは寮監を車外に引っ張り出せた。

初春「木山先生!!」

佐天「大丈夫ですか!?」

木山「まぁ何とかね……。多少、歩くのには難儀だが」

一方通行「よし2人とも救出した。戻るぞ!」

上条「俺が背負いましょうか?」

木山に話しかける上条の後ろで、初春と佐天が心配そうに眺めている。





木山「いや、その必要は無い。私はここに残るよ」





上条「!!??」

初春佐天「えっ!!??」

920: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/12(月) 22:51:33.01 ID:VpgIO4I0
美琴「ちょっ、何言ってんのよ!?」

黒子「全員でワゴン車に戻るんですの!!」

黄泉川に寮監を預け、美琴と黒子は木山に詰め寄った。
車体にもたれ、木山は前方に顎をしゃくった。

一方通行「あァ? どうやらおでましのようだな」

木山「その通り。恐らくこの車が衝突したのもあいつらが原因……」

木山が見つめた先、随分向こうだが、そこには複数の白衣を纏った研究者らしき男たちと、数名の武装兵がいた。

美琴「敵!? ならここで私が」

木山「駄目だ。忘れたか? あいつらはただの研究者じゃない。非正規の手段で能力を手に入れた連中だ。どんな力を有しているのかは未知の領域だぞ」

初春「でも、木山先生を置いて行くなんて……!」

佐天「そうですよ! そんなの出来ません!」

木山「お前らが今優先すべき目的は脱出地点へ向かうこと。時間を潰せば潰すだけ状況は悪化するぞ。あいつらの相手をしている間に敵が後から増えることもあるだろうしな」

上条「…よし、分かりました。御坂たちは任せて下さい」

美琴黒子「えっ!?」

一方通行「黄泉川! 打ち止めが心配だ。早くワゴン車へ戻れ!」

黄泉川「分かったじゃん」

寮監を肩で支えながら、黄泉川はワゴン車に戻っていく。

一方通行「オマエらもだ。早くしろ! 時間が惜しい!」

一方通行が美琴と黒子を急がせる。

美琴「ま……待ってよ!」

黒子「こんな所に木山先生を1人で置いて行くなど……」

上条「さぁ、早く来るんだ!!」

初春「木山先生!!」

佐天「先生!!」

美琴たち4人は小さな身体を必死に動かして、彼女たちを押さえる上条と一方通行に抵抗しようとする。彼らが少しでも手を離せば、すぐにでも木山の下に駆け戻りそうだった。

922: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/12(月) 22:57:26.09 ID:VpgIO4I0
木山「フゥ……」

上条と一方通行に連れられその場を離れていく4人の少女たちの悲痛の声を聞き、木山は1つ溜息を吐くと静かに言った。

木山「枝先や春上たちと仲良くしてやってくれ」

初春「!!!!!!!」
初春「木山先生!!!!」

佐天「嫌だ! 木山先生も一緒に!!」

黒子「離して下さいですの!! 木山先生!!」

美琴「木山先生!!!」

上条と一方通行に引っ張られるように美琴たちは連れ戻されていく。
車体に背中を預け、白衣のポケットに両手を突っ込んだまま木山は呟いた。

木山「まったく……聞き分けのない子らだ。だから私は子供が嫌いなんだ……」

だが、彼女はどこか嬉しそうだった。


ドォォゥ!!!!


次の瞬間、目には見えない、何らかの衝撃波のようなものを受けたのか、木山は地面にうつ伏せに倒れ崩れた。

美琴黒子佐天初春「木山先生!!!!!!」

上条と一方通行は強引に4人をワゴン車に乗せた。

上条「出発して下さい! 敵がすぐそこまで来てる!!」

黄泉川「だが、ルート上には敵がいるんだぞ!!」

本来のルートならば、丁字路を右に曲がるはずだったのだ。だが今そっちの道には倒れた木山と、そして研究者たちがいる。

上条「左に迂回して下さい! 多少、遠回りになりますがそっちからでも行けます!」

黄泉川「了解。鉄装、左だ!」

鉄装「はい!!」

言うやいなや、ワゴン車は出発する。美琴たち4人は、右側の窓に集まり、倒れた木山が景色と共に後方に流れていくのを見つめていた。

美琴「木山先生……」

一方通行「座ってろオマエら! 舌噛むぞ!!」

923: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/12(月) 23:03:37.79 ID:VpgIO4I0
木山「………行ったか……」

ググッと全身に力を込め、木山は前方を見据える。彼女はまだ、死んでいなかった。
こっちへ向かって歩いてくる研究者たちは、木山ではなくもっと後ろを見つめている。恐らく、走り去るワゴン車を視界に据えているのだろう。

木山「……そうはさせんよ」

痛む身体に鞭打ちながらも、木山はヨロヨロと立ち上がった。
それを、驚いた目で研究者たちは見つめる。

木山「……驚いているな。何故、私が最初の攻撃で死ななかったのか……」
木山「簡単なことだよ。私にはもしもの時に残していた“秘策”があるんだよ。そう、あの子たちを逃がすために取っておいた飛びっきりのがね」

木山は研究者たちを睨む。そして、その目に変化が訪れた。

木山「『幻想猛獣(AIMバースト)』を知ってるかな? ……そうだ。私が開発した『幻想御手(レベルアッパー)』を元に、1つの巨大な脳波ネットワークを構築する演算装置……」

研究者たちの顔に動揺が現れる。無理も無い。木山の頭上に、世にも怖ろしい不気味で異形な胎児が姿を現したのだから。

木山「確かに、1度ネットワークは解体されたが、その時に残ったバックアップデータがあるんだ。再び同様の事件が起きた時にすぐさま解決出来るようにと備えていたものなんだよ。だが、残念ながらこれは本来の力を発揮出来ない、出来損ないでもあるんだ」

木山の頭上のAIMバーストがギョロリと目を剥く。

木山「実際に1万人の脳波も使っていない、ただの劣化した擬似AIMバーストだが、足止めぐらいにはなるだろう?」

木山が、不適に笑う。既に、ワゴン車は通りの視界から消えていた。


ダラララララララララララララララ!!!!!!!!


恐れをなした武装兵たちがAIMバーストに向かって一斉に発砲した。

924: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/12(月) 23:08:29.04 ID:VpgIO4I0
続き、研究者たちも能力を発動させる。

木山「さぁて、廊下に立たされる悪い生徒たちにお仕置きをしなければね」

AIMバーストが武装兵たちを薙ぎ払う。しかし、研究者たちの反撃も同時に開始された。


ドオン!!! ドオオン!!!!


木山「ぐふっ!!」 
木山「なかなかやるじゃないか……」

様々な能力の直撃を受け、ボロボロだった木山の身体がずきずきと痛みを発する。
彼女の頭上のAIMバーストもまた、強力な攻撃によって半分ほど形が崩れていた。

木山「もう……時間も無いか……」

そして木山は静かに呟いた。

木山「枝先……春上……みんな……幸せになるんだぞ……」

研究者たちは止めを刺すべく、己の強大な能力を発動させる。
木山は変色した目で研究者たちを睨んだ。それと呼応し、AIMバーストも雄たけびを上げた。





木山「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」





凄まじい爆風が起こり、辺りは崩壊が始まった。

925: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/12(月) 23:14:45.64 ID:VpgIO4I0
美琴「木山先生……」

黒子「まさか私たちを守るために、残るだなんて……」

佐天「ずるいよ…。最後にカッコいいところ見せちゃってさ……」

ワゴン車の車内で、美琴たちは顔を暗くしながら木山の最期の姿を思い出していた。

初春「……木山先生」

初春はグッと手に力を込めた。

初春「春上さんたちは、私たちに任せて下さい……」

そんな美琴たちの悲痛が混じった表情を横目に、上条は座席から身を乗り出して黄泉川たちと話していた。

上条「とにかく、一刻の猶予もありません。出来るだけ飛ばして下さい」

一方通行「一度、脱出ルートを考え直した方がいいンじゃねェのか? 敵に気付かれてンだろ」

上条「駄目だ。遅くなればなるほど、脱出失敗の確率が上がっちまう」

一方通行「どの道同じだろ。アイツらすぐまた追っ手を寄越してきやがるぞ。それだけでなく、テログループどもともバッタリ鉢合わせしちまったらどうすンだ!? それこそ八方塞りになるぞ!」

上条「だから急ぐべきだって言ってんだ!! これぐらいの遅延なら想定の範囲内だ!!」

一方通行「敵がそれ以上にこっちの情報を掴ンでたらどうすンだ!!?? 全員一緒にお陀仏でもすっかァ!!??」

車内に、上条と一方通行の怒鳴り声が響き渡る。
脱出作戦の予定に狂いが生じ始めているためか、2人は苛立っているようだった。

打ち止め「お、怒っちゃダメだよ2人とも! ってミサカはミサカはなだめてみる」

一方通行「俺は現実的なこと言ってるだけだろうが!!」

上条「ならお前は、失敗した時の責任取れるのかよ!?」

美琴黒子佐天初春「……………………」

今にも殴り合いを始めそうな険悪な2人を前に、美琴たちは不安げな表情でその様子を見つめている。

926: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/12(月) 23:20:51.40 ID:VpgIO4I0
黄泉川「いいからお前ら黙れ!! ちょっとは冷静になれないのか!?」

一方通行「俺ァ、時間掛けてでも安全な道で行くべきだって言ってるだけだ。それに何の問題があるンだ!?」

上条「時間を掛ければ掛けるほど、敵に追いつかれちまうんだぞ!! それぐらい分からないのかお前は!?」

一方通行「あァ!? 舐めた口きいてくれンじゃないの三下ァ!?」

美琴「も、もうやめてよ2人とも!!!!」

その時だった。



ヒュゥゥゥゥ……



ズォオオオオオオオン!!!!!!



足元から這い上がるような地響きが唐突に轟いた。

美琴「な、何!?」

黄泉川「鉄装右だ!! 右にハンドルを切れ!!!!」

鉄装「はい!!」

キキィーという音を立て、ワゴン車が右に急カーブする。
揺れる車内。
直後、ワゴン車が通った後を瓦礫らしきものが上からいくつも降ってきた。

上条「何が起こった!?」

全員が窓から外を覗く。見ると、たった今通り過ぎた横の建物が音を立てて盛大に崩れるところだった。
続き、


ドゴオオオオオオン!!!!!!


と、また別の轟音が響いた。更には、遠くて近くではない距離から銃声音まで聞こえてきた。
車内がどよめく。

黄泉川「今のはRPGが誤爆したんだろう。恐らくあいつら、この付近でドンパチ始めやがったじゃん」

美琴黒子佐天初春「ええええええ!!!??」

927: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/12(月) 23:26:20.99 ID:VpgIO4I0



ズオオオオオオン!!!!!

ダカカカカカカカカカカカカ!!!!!



轟音と銃声音が響く。それに呼応するかのように、あちこちから連続して崩落音や爆発音が聞こえ、立ち並ぶ建物の向こうからいくつも煙が上がってくるのが見えた。

佐天「見てあれ!!」

初春「わぁっ!!」

全員が窓から外を覗いた。
群青色になりかけていた空を、飛行機雲のようなバックブラストを吐き出しながら、3本のミサイルが通り過ぎていった。


ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!


数秒後、轟音が響き、車内が僅かに揺れた。恐らくはミサイルが着弾した余波によるものだろう。

黄泉川「研究者勢力も敵対グループもメチャクチャやってやがるじゃん」

一方通行「RPGもまともに狙わずにバカスカ撃ってンぞありゃァ」

黄泉川「どうするじゃん? 絶対に安全なルートなんてもうこの辺りには無さそうだが?」

上条「くっ……」

上条は振り返り美琴たちを見る。彼女たちの顔は不安で満たされ、その目は上条に向けられていた。

928: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/12(月) 23:31:21.73 ID:VpgIO4I0
上条の第一の使命は、美琴たち4人を無事に脱出地点まで連れて行くこと。だが、周囲で大規模な戦闘が始まった今、最も安全な策など無きに等しいものになっていた。

上条「とにかく、俺と一方通行で対策を考えますから、このまま行って……」

美琴「でも、敵が双方共に戦闘に意識を向けてる今なら、その隙をついて上手く逃げられるんじゃ……?」

そこまで言って、会話が途切れた。



ズッ!!



という音と共に再び足元が揺らされた。
しかし、今度は先程のとは比にならない、まるで直下型大地震を震源地で食らったような衝撃だった。



ドゴオオオオオオオオオン!!!!!!



車内の景色が回転する。
悲鳴が轟き、誰かと誰かがぶつかり合う鈍い音が聞こえ、いまだ止まらない衝撃は車内に乗っていた全員の脳を容赦なく揺さぶった。
非現実的なことが起きた。分かったのはそれだけだった。

美琴「あ……う……」

霞んだ目にゴチャゴチャになった車内が映ったと思うと、そこで視界がブラックアウトした。

929: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/12(月) 23:36:29.48 ID:VpgIO4I0
ピピピピピピという何かの警告音が耳を打ち、美琴は目を覚ました。

美琴「う……」

上条「おい! 御坂! 大丈夫か!?」

美琴「………あれ? 何……?」

上条「お前らも、みんな、しっかりしろ!!」

視界が晴れていく。どうやら1分ほど気絶していたようだった。
そしてすぐに現在発生している異常に気が付いた。

美琴「何これ!!??」

起き上がる美琴。頭上に窓ガラスとドアが見え、目の前には前の座席の背もたれが横向きになっている。

美琴「横転してる………」

上条「良かった。無事だったか」

安心するように上条は溜息を吐く。どうやら彼は衝撃がきた時、咄嗟に美琴を庇い、回転する車内で彼女がなるべく怪我をしないよう、その身体を必死に抱き締めていたらしい。

美琴「あ…あんたが庇ってくれたの?」

上条「ああ」

美琴「……そう……あ、ありがと……」

黄泉川「無事か……お前ら? クッ……」

運転席の方に視線を向けると、横倒しになった座席から黄泉川が頭から一筋の血を垂らして顔を覗かせた。

上条「俺は大丈夫です」

打ち止め「ミサカも大丈夫だよ。咄嗟に一方通行が守ってくれたからね、ってミサカはミサカは一方通行にお礼をしてみる」

一方通行「一瞬の出来事だったからなァ。危なかったな……」

寮監「くっ……何が起こった?」

美琴「寮監! 無事だったのね!」

鉄装「う、うーん……」

車内に乗っていた人間が次々と目を覚ます。

黄泉川「お、鉄装も大丈夫そうじゃん。で、その子らは?」

930: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/12(月) 23:42:31.24 ID:VpgIO4I0
黒子「私も何とか無事ですの……」

頭を押さえながら、黒子がヨロヨロと起き上がる。

佐天「あ……あ……」

上条「どうした?」

佐天が絶句したように驚きの顔を見せた。

佐天「初春が!! 初春が!!!」

美琴黒子「!!!???」

自分の身体の上に重なるように乗っていた初春を見て、佐天は悲鳴にも似た声を上げた。

佐天「初春が反応ないんです!! どうしよう!!??」

黒子「そんなっ……初春!!」

美琴「初春さん!!」

一瞬、車内に緊張が走る。

初春「う……ん…佐天さん?」

佐天「初春!!!」

初春「……あれ? 何が……あったんですか?」

ボーッとした顔を向け、初春が辺りを見回した。どうやら初春は無事のようだった。

佐天「初春……」

黒子「良かったですの……」

美琴「もう、心配させないでよ……」

涙を浮かべる3人を見て、初春はキョトンした顔を見せた。

上条「とにかく全員が無事だったのは奇跡だな。後はどう脱出するかだが……」

上条は頭上を見る。横倒しになっているため、窓ガラスとドアが上に付いているのだ。現状としては、そこから1人か2人ずつ抜け出すしかない。

一方通行「ンな面倒くせェことやってられっか」

上条の意図を汲み取ったのか、一方通行が背中を屈めて移動し、今は左側面に位置している天井部分に近付いた。

上条「どうするんだ?」

931: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/12(月) 23:48:32.53 ID:VpgIO4I0
一方通行「こうする」


ドガッ!!!!


一方通行が思いっきり蹴ると、天井部分が綺麗に外れそのまま道りの向こうまで飛んで行った。
大きな脱出口が出来あがった。

上条「なるほど。よし、みんな急いでここから出るぞ」

出口に近い者から外に出、中にいる者を引っ張り出すように力を貸す。そうして何とか全員、無事に車外に出ることに成功した。

上条「原因はこれだな」

上条と一方通行が横転したワゴン車の後ろへ回ると、そこには巨大なクレーターが出来ており煙が一筋上がっていた。

一方通行「RPGでも着弾したか。直撃しなかっただけでも幸いかもなァ」

上条「だがどうする? 移動手段を失ったぞ」

一方通行「歩いて行く以外にねェだろ」

2人は空を仰ぐ。どうやらいつの間にか夜になっていたようだ。

一方通行「徒歩で密かに行くにはおあつらえ向きの暗闇だが……」

上条「危険が無いとも言えないな……」

2人が打開策を考えようとした時だった。

黄泉川「敵じゃん!!!」

出し抜けに、黄泉川の声が響いた。
咄嗟に振り向く2人。

黄泉川「12時の方向!! とんでもない数がいるぞ!!」

急いで、黄泉川の元に駆け寄る上条と一方通行。
見ると、長い大通りの向こうから、白衣を纏った研究者や武装兵たちが歩いてくるのが見えた。私服の格好をしているのは恐らく雇われ魔術師だろう。見た限り、30人はいる。

一方通行「アイツらがRPGで車を横転させやがったな……。敵との戦闘中にここまで出向いて来るとは、よっぽど余裕があンのか」

黄泉川「どうするじゃん?」

黄泉川と鉄装は車体を陰に、ライフルを構えている。

一方通行「どうするもこうするも………ん?」

932: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/12(月) 23:54:26.51 ID:VpgIO4I0


ダララララララララララララララララ!!!!!!


金切り音が鳴り響く。武装兵が発砲し始めたのだ。
全員が息を呑んだ。

一方通行「どこ狙ってンだ三下がァ!!!!」

しかし、銃弾は一方通行の身体にぶつかると、そのまま元の持ち主のところまで帰っていった。
反射された銃弾を受けて何名かの武装兵が倒れるのが見えた。

一方通行「敵30名を相手しながら逃げるのは少し無理があるな……」
一方通行「オマエら先行ってろ」

それだけ言い残すと、一方通行は足元でベクトルの向きを操りミサイルのように敵陣の真っ只中へ飛んで行った。

打ち止め「一方通行!!」

黄泉川「先に行っとけ、と言われてもな」

困ったように黄泉川が呟く。

黒子「黄泉川先生!」

黄泉川「ん?」

美琴「私たちも戦います!」

黄泉川が振り返ると、そこには身体中から電気を発している美琴と金属矢を手にした黒子が立っていた。
その後ろでは寮監と佐天と初春が心配そうに様子を見つめている。

上条「駄目だ! お前らがここに残っても意味が無い! 先行ってろ!!」

美琴「え?」

美琴に怒鳴った後、上条が黄泉川に言う。

上条「俺たちもすぐに行きますから、御坂たちを連れてって下さい」

933: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/12(月) 23:59:24.72 ID:VpgIO4I0
黄泉川「……分かったじゃん」

黒子「何ですって?」

美琴「ちょ、ちょっと! 勝手なこと言わないでよ!!」

上条「じゃ、また後でな」

美琴が声を掛ける間も無く、上条は一方通行に1歩遅れて走り出していた。

黄泉川「……ったく、あんのガキどもめ。ま、そういうことじゃん。あいつらなら大丈夫だろう。行くじゃん」

美琴「えっ……そんな!? でも!」

黒子「私たちも加勢しますわ!!」

美琴と黒子はそれでも引き下がろうとしない。

黄泉川「あいつらの実力忘れたのか? 簡単に死にはしないじゃん」

美琴「あっ…ちょ……」

黄泉川と鉄装が美琴と黒子を押し戻す。

佐天「御坂さん、白井さん!」

初春「今は先を急ぎましょう」

美琴「う……でも」

美琴はチラと後ろを振り返る。確かに、今も上条と一方通行は30名の敵を相手に奮闘している。

打ち止め「お姉さま! 一方通行もいるし大丈夫だよ! ってミサカはミサカは急かしてみる」

寮監「あまりわがままばっかり言ってると殴ってでも連れて行くぞ」

美琴と黒子は顔を見合わせる。
これ以上無理を言っても、逆に佐天や初春たちを危険な目に遭わしてしまうと考えたのか、2人は素直に応じた。

美琴「(でも……大丈夫かな? 本当に……)」

935: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/13(火) 00:04:42.77 ID:FBch8UM0
その頃、自ら囮役を買って出た上条と一方通行は30名もの敵を相手に奮戦していた。

一方通行「シッ!!」

ドガッ!!

飛び散る破片を受けて武装兵たちが投げ飛ばされる。

ドン!!

キィィン!!

「ぐわっ!!!」

一方通行「学習しろよ。俺に能力ぶつけても跳ね返るだけだぜェ?」

「らぁ!!」

一方通行「チッ! キリがねェなァ!!」

バギィィィン!!!!

「ぎゃあ!」

上条「これで……8人目……ゼェ……ハァ……だが、どういうことだ?」

息を切らし、上条は襲い来る魔術師たちを1人ずつ殴り倒していた。

「死ねやオラぁぁぁ!!!」

上条「クソ!!」

バギィィン!!!

上条「倒しても、倒しても、敵の数が減らない。…寧ろ、徐々に増えてるような……」

「これで終わりだ!!」

上条「今度は能力者か!?」

バギィィィン!!!!

上条「連携取れてないから……ゼッ……1人ずつぶっ倒せるけど…ハッ……まるでキリが無い……」
上条「永遠に……増え続ける……ハァ……ゴキブリを1匹ずつ……相手してるみたいだ」

と、そこで上条は気付く。いつの間にか自分が10名近い敵に囲まれていることに。
能力を持った研究者と雇われ魔術師が混じった集団に追い詰められ、上条は口中に舌打ちする。

上条「万事……休すか?」

936: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/13(火) 00:10:42.34 ID:FBch8UM0
皮肉げに笑ってみたものの、打開策は思い浮かばない。
一方通行は少し離れた所で研究者や武装兵たちを相手にしており、こちらに気付く気配は無い。
そうこうしている内に、研究者や魔術師たちが上条に狙いを定めて攻撃の構えに入った。

上条「…………ここで、終わりかよ…情けねぇな……」

上条はボソリと呟く。

上条「……これじゃあ、御坂たちを守れねぇじゃねぇか………」

最後に上条が笑う。
そして、研究者と魔術師たちの攻撃が始まった。


ズドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!


上条「…………っ」

目を閉じる上条。
しかし………

上条「あれ……?」

攻撃が来ない。
目を開くと、そこには上条を中心にして、円状に倒れている研究者や魔術師たちの姿があった。
全員、身体中に青白い電気を纏ってヒクヒクと痙攣している。

上条「これは………」





美琴「やっぱりピンチになってるじゃない」






937: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/13(火) 00:16:18.28 ID:FBch8UM0
声がした方を振り向くと、全身から紫電を纏った美琴の姿がそこにあった。

上条「御坂………!?」

美琴「何よ? 私はね、守られてるだけは性分に合わないの。たまには私に守らせてくれない?」

呆然と美琴を見る上条。そんな彼を武装兵たちが物陰から狙おうとしていた。

黄泉川「撃ち方始め!!!!」


ダカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!


上条「!!??」

突然の銃撃を受け、倒れていく武装兵たち。
発砲音がした方に顔を向けると、黄泉川と鉄装が構えるSIG 550アサルトライフルの銃口から硝煙が上がるのが見えた。

黄泉川「しぶといな」

黄泉川は愚痴を吐く。更に武装兵たちが増えたようだった。
武装兵たちが黄泉川たちに銃口を向ける。

ヒュヒュヒュヒュン!!!!!

しかし、武装兵たちは発砲することが出来なかった。何故なら、手にしたライフルの銃身に複数の金属矢が刺さったからだ。

上条「白井!?」

黄泉川の側に、手に金属矢を持った黒子がテレポートで現れる。

黒子「やはり、劣勢になっているじゃありませんの」

よく見ると、黒子の後ろには佐天と初春と寮監がいた。結局全員、上条と一方通行が心配で戻って来たのだ。

一方通行「馬鹿が…。わざわざ引き返しやがって」

美琴「うっさいわよ。私は私がやりたいようにやるの」

美琴と一方通行が背中を預け合う形で通りの中央に立つ。
臨時的に組まれたレベル5のタッグはその存在を知る研究者たちを戦慄させた。

938: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/13(火) 00:23:01.87 ID:FBch8UM0

ドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!

恐れをなした武装兵が、20mm機関砲を持ち出し一方通行に向けて撃ち始めた。

一方通行「きかねェって何度言やァ分かるンだ!!」

当然、それらの銃弾は反射され、武装兵に戻っていく。トドメと言わんばかりに一方通行は戦闘で削り取られたコンクリート片の雨をベクトルを操り蹴り放った。
直撃を受けた研究者たちが倒れていく。

美琴「ちょろっとー我慢してよね!!」

チャリン

手元にコインを投げる美琴。


ズオオオオオオオオオオオオオン!!!!!


美琴から放たれた超電磁砲が建物の壁を突き破り、それによって巻き起こった小さな崩落が武装兵たちの動きをかき乱す。
レベル5の超能力者2人によって作られた全周360度が射程圏内の強大な攻撃は見るものを圧巻させた。

「クソッ!!」

そんな2人を見て、雇われ魔術師が水で出来たボールのようなものを投げ付けてきた。一方通行に効かないとしても、美琴は直撃を受ける可能性がある。
だが、そうはならなかった。



バギィィィィン!!!!!



「なにっ!?」

上条「そうさせると思うか?」

上条が右手を突き出し、魔術師の攻撃を打ち消していた。

美琴「何よ? 格好つけちゃって。あれぐらい私でも何とかなったっての」

上条「相手、魔術師だぞ。これは俺の本分だ」

一方通行「どうでもいいが、敵は増えるばかりだぜェ?」

939: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/13(火) 00:29:39.94 ID:FBch8UM0
上条と美琴と一方通行。
彼らは3者3様、互いの主張を唱える。
今現在、通りの中央には上条と美琴と一方通行の3人が互いに至近距離で背中を預け合い、最強のトリプルタッグが形成されていた。
彼らは、それぞれ正面の敵を見据える。





美琴「さぁ、おねんねの時間よ!!!」


一方通行「掛かってきな三下どもォ!!!」


上条「お前らの幻想、まとめてぶち殺してやるよ!!!」





『超電磁砲(レールガン)』、『一方通行(アクセラレータ)』、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』――。
最強の実力を擁する3人が強敵を前にして共に立ち上がる。

966: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 22:18:20.57 ID:FjTKXhU0
美琴「らぁっ!!」

バチバチバチッ!!!!

一方通行「どうしたそれで終わりか三下ども!!」

ドゴッ!!!

上条「お前らの下らない幻想なんて俺にはきかねぇよ!!」

バギィィィン!!!!

『超電磁砲(レールガン)』、『一方通行(アクセラレータ)』、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』――。
最強の実力を持つ3人は互いの背中を預け合い、攻撃・反撃し、時には見事な連携を取りながら研究者たちを、武装兵たちを、魔術師たちを倒していく。

黄泉川「ったく、あの3人が組んだら誰だって逃げ出すじゃん。私らも負けてられんぞ」

鉄装「はい!!!」

ダカカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!

上条たちの戦う姿を見て奮起した黄泉川と鉄装が彼らを援護射撃する。

黒子「これでも食らいやがれなさいですの!!」

ヒュヒュヒュン!!!!

その合間に黒子もテレポートによる近接格闘と金属矢を組み合わせて敵を薙ぎ倒していく。

佐天「うっひゃぁ……すごいなこれ。御坂さんと上条さんと一方通行さんが組んだらあんなに強力になるんだねー」

初春「白井さんや黄泉川先生、鉄装先生もすごいです! 正直、観戦に回っている自分が情けなく思います」

打ち止め「みんなとってもすごいね! ってミサカはミサカは超感心!!」

少し離れた所で、佐天と初春と打ち止めは、プロレスの試合を観戦するように目の前で繰り広げられる戦闘をリアルタイムで眺めていた。
しかし、彼女たちは気付いていなかった。背後からナイフを持った敵兵が3名、彼女たちに近付いて来ているのを。
何も知らない無垢で小さな3つの背中にナイフが振り下ろされる。



ドッ!!!!!




967: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 22:24:15.38 ID:FjTKXhU0
佐天初春打ち止め「!!!!????」

が、彼女たちの背中から血が噴き出すことはなかった。

「グぎゃああああああああ!!!!!!」

武装兵が悲鳴を上げる。




寮監「お前ら、この子らに何の用だ?」




佐天初春「りょ、寮監さん!?」

見ると、寮監が武装兵の1人をヘッドロックしていた。

打ち止め「うわぁ、何か衝撃的な場面を見ちゃった気分、ってミサカはミサカは寮監さんの意外な面に感心してみたり」

他の武装兵たちも寮監の勇ま恐ろしい姿を見て呆気に取られていた。技を掛けられた武装兵が抵抗しようとする。

寮監「フン!!」

ボキッ!!

武装兵「がはっ!!」

躊躇無く、寮監が武装兵を落とした。クタクタと地面に倒れる武装兵。その姿を眺めていた他の武装兵たちが一斉に寮監に飛び掛かる。

「このやろおおおおおおおお!!!!!」

「死ね怪物女がああああああああああ!!!!!」

寮監「……………」キラーン

寮監の眼鏡が光る。

寮監「せい!!」ドスッ

「ぐげぇ!!」

寮監「ハッ!!」バキッ

「がはっ!!」

次々と寮監は体術を駆使して武装兵を倒していく。

968: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 22:30:40.61 ID:FjTKXhU0
打ち止め「いいね、いいねェ、最高だねェ!! ってミサカはミサカはワクテカしながら応援してみる!」ヤレヤレー!!

佐天「あわわわわわわわわわ」

初春「す、すごい……」

寮監「生徒たちを守るのが寮監の務めだ」キリッ

「うおおおおおお!!!!」

「くらえやあああああああ!!!!」

どこに隠れていたのか、物陰から更に4名の武装兵たちが寮監に向かって飛び出してきた。

寮監「ありゃぁ!!!」ドガッ

「ぶぼっ!?」

寮監「えいやっ!!」ズガッ

「ぎゃあ!?」

寮監「ふんっ!!!」バシッ

「ぐえええ!!」

寮監「チェストー!!」ゴスッ

「ひでぶっ!!」

次々と繰り出される多彩な技に、屈強な武装兵たちが崩れ落ちていく。
気付くと、寮監は全滅した武装兵たちの中心に、怪しげなオーラを発しながら君臨していた。

寮監「かはぁぁぁ~~~」

再び、寮監の眼鏡が光った。

佐天初春「お、お見事」

打ち止め「やぁりぃ! ってミサカはミサカは指パッチン!」パチン!!

寮監「生徒に攻撃(めんかい)するにはまずは寮監を通してから」キリッ

969: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 22:36:17.50 ID:FjTKXhU0
キィィィィン!!!!!

「ぐえっ!!」

一方通行「そっち行ったぞ!!!!」

美琴「了解!!」

バチバチバチッ!!!

「ぎゃあああああ」

美琴「最後、頼んだわよ!!」

上条「任せとけ!!!」

バギィィィン!!!!

上条美琴一方通行「「「っしゃぁっ!!!」」」

互いの隙を補いながら、または攻撃に威力をプラスしながら3人は見事な連携プレーをもってして敵を次々と倒していく。

黒子「いい加減に観念しなさい!!」ヒュンヒュヒュン

バキッ!!

「ぷおっ!!」

黄泉川「往生際が悪いじゃん!!」

鉄装「右に同意です!!」

ダララララララララララララララララ!!!!!!

黒子や黄泉川、鉄装もまた敵兵たち相手に奮戦していた。

美琴「ったく、キリがないわねこいつら。明らかに後から後から増えてるじゃない」ビリビリッ

一方通行「このまンまじゃ埒があかねェぞ」ドゴオッ

上条「クソッ、仕方ない。撤退しよう」バギィィン

通りの中央で共闘していた上条たち3人。しかし、増え続ける敵たちを前に、彼らは撤退の断を下した。

黒子「撤退ですのね!?」

黄泉川「この状況じゃ仕方ないじゃん」

上条「2人とも、目くらまし頼む」

970: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 22:42:21.47 ID:FjTKXhU0
上条が1歩下がる。代わりに、美琴と一方通行が前に進み出る。

美琴「せいやっ!!」

一方通行「らぁっ!!」

美琴が地面に向かって放電し、一方通行が思いっきり地面を踏ん付けた。


ドオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!


同時に、電気を纏ったコンクリート片の雨が2人を境にして垂直何mにも亘って巻き上がった。それはまるで、滝が逆流するかのような光景だった。

上条「今だ、逃げるぞ!!」

踵を返し、上条と美琴と一方通行は走り出す。続けて、黄泉川と鉄装、黒子も戦闘を止めて引き返した。

上条「こっちだ!!」

佐天、初春、打ち止め、寮監も合流し、彼らは敵の視界を塞いでいる間に全速力でその場を離れる。

寮監「白井、早くしろ!」

黒子「今行きますの!」

寮監「……ん?」

そこで、寮監は気付いた。

寮監「!!!!!!!!」

先程倒したはずの武装兵の1人が、黒子の背中に銃口を向けているのを。
もちろん、当の黒子は自分が狙われていることに気付いていない。

寮監「くっ!! うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

寮監が、みんなとは別の方向に走り出す。
黒子に声を掛けるよりも、距離的に考えて直接取り押さえた方が早いと思ったのか、寮監は武装兵に飛びついた。

黒子「寮監!!!!????」

971: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 22:48:52.65 ID:FjTKXhU0
「ぶごっ!!」

寮監に殴られた武装兵が倒れる。

美琴「寮監!!!!」

美琴と黒子の声に反応し、すぐに戻ろうとした寮監だったが、また別の武装兵が彼女の背後から羽交い絞めにした。

寮監「チッ!!」ドゴッ

「ぐはっ!!」

そのまま肘鉄を食らわす。

ガシッ!!

再び立ち上がろうとする寮監だったが、今度は足を掴まれた。

寮監「!!??」

また別の武装兵だった。
そして、それを始めとして倒れていた武装兵たちが次々と起き上がり寮監を抑えようと数人掛かりで襲い掛かってきた。

寮監「くっ!!」

寮監は、必死に武装兵たちに反撃を行うが、どうあっても数の上で不利だった。




パンパンパパン!!!!




寮監「!!!!!?????」

その時、寮監の腹部を衝撃が貫いた。

寮監「ぐっ……ふ……」

972: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 22:54:09.32 ID:FjTKXhU0
1人の武装兵が寮監の腹部に向かって拳銃を発砲したのだ。

美琴黒子「寮監!!!!!!」

それを見た美琴と黒子が悲鳴にも似た叫び声を上げる。

上条「御坂! 白井!」



寮監「来るなああああああああああ!!!!!!! 行けえええええええええええ!!!!!!!!」



美琴黒子「!!!???」

助けようとした美琴と黒子の動きを察知したのか、寮監は叫んでいた。

ドゴッ!!!

叫びながら彼女は、発砲した武装兵を殴り倒す。

パンパンパン!!!!

寮監「ご……ほっ…」

寮監が振り返る。今度は後ろから発砲音が轟いた。

美琴黒子「寮監!!!!!」

寮監「早く行けええええええええええええええ!!!!!!!!」

血を吐きながら叫ぶ寮監。
美琴と一方通行が作った一時的な目くらましは既に効果が無くなりつつあり、研究者や魔術師たちはその隙をつき、上条たちを追ってきている。
もしここで寮監を助けに戻っていれば、また敵に囲まれてしまうだろう。

上条「来い!!!」

上条が苦い顔を浮かべ、美琴と黒子の片腕をそれぞれ掴んで走り出す。

973: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 22:59:44.10 ID:FjTKXhU0
美琴「あっ!!」

黒子「待って!!」

上条「駄目だ!!」

美琴「でも……寮監が…寮監がっ!!」

黒子「寮監を助けないと……!!」

上条「もう寮監さんは間に合わない!!」

前を見ながら上条は叫ぶ。

美琴黒子「!!!???」

上条「ここで戻ってたら寮監さんの想いをフイにするんだぞ!!」

美琴黒子「……………っ」

美琴と黒子は涙目で振り返る。徐々に寮監の姿が遠くなっていく。

美琴「やだぁ!! 寮監!!」

黒子「寮監!! 離して下さい!! 寮監が…寮監が……」

寮監は、腹から血を流しながらも武装兵たちと格闘を続けている。

寮監「行けええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」

いつまでも美琴と黒子の身を案じ、寮監は己も省みず叫び続ける。
彼女の想いを無駄にしないためには、今ここで逃げるしかなかった。

美琴「りょうかああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!」

後ろへ流れていく涙を気に留めることなく、美琴と黒子は小さくなっていく寮監の姿をずっと見ていた。

974: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 23:05:49.67 ID:FjTKXhU0
追っ手から逃れるため、9人まで減った一行は細い路地を曲がり、曲がり、走り抜ける。10分経ったのか、1時間経ったのかは定かではなかったが、上条たちは今、とある裏路地のスペースで小休止していた。

上条「ハァ……ゼェ……多分……これで…撒いただろう……」

黄泉川「……ゼェ……ならいいが……ハァ……いつまでもゆっくりしてられないじゃん……」

全員、息を切らしている。もたれるように壁に手を着くと、上条は黒子が自分を睨んでいるのに気付いた。

上条「…何だ?」

黒子「どうして……どうして寮監を助けさせてくれなかったのですか!?」

涙を浮かべて黒子が上条に掴みかかる。

佐天初春「白井さん!」

上条「………………あそこで助けに戻ってたら、全員また敵に囲まれてるところだった。寮監さんは身を挺して俺たちを逃がしてくれたんだ」

黒子の目がキッと鋭くなる。

美琴「やめなさい!」

黒子「!」

突然、美琴が黒子を一喝した。

黒子「お姉さま……」

美琴「そいつの言う通りよ……。どの道、寮監は助からなかった…。悔しいけど、あれが最善の策だったのよ」

黒子「ですが……」

美琴「黒子!」

黒子「!」

美琴が怒鳴る。だが、その目にはやり切れなさが垣間見えた。

美琴「…………………」

黒子「………………ごめんなさいですの」

美琴の顔を見ると、黒子は上条から手を離した。

上条「……………」

黒子「グス……」

美琴「黒子」

976: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 23:11:27.38 ID:FjTKXhU0
泣きそうになる黒子を引き寄せ、美琴は彼女の髪を優しくポンポンと叩く。
それを見て上条は1つ、溜息を吐いた。

一方通行「状況は悪化するばかりだな」

一方通行が呟く。
今も、爆発音や連続した銃声音が耳の中を僅かに振動させている。恐らく研究者勢力とテログループなどが戦闘を行っているのだろう。

黄泉川「しかし、いつまでも裏路地にいてたら脱出地点には辿り着けないじゃん」

鉄装「どうします?」

黄泉川と鉄装は、裏路地の陰からローレディーの態勢でライフルを構え表の通りを窺っている。

佐天「あの……」

黄泉川「ん?」

初春「その脱出地点、ってまだなんですか?」

佐天と初春が恐る恐る訊ねた。

黄泉川「どうだ?」

黄泉川が上条と一方通行に顔を向ける。

一方通行「恐らくもう4分の3は来たはずだ」

上条「後は街を抜けて、しばらく郊外を走れば目的地の川に着くはず」

佐天「そ、そうなんですか?」

佐天と初春の顔に僅かに希望の色が浮かび出た。

一方通行「どの道、今すぐにでも動いたほうが良さそうだぜ」

黄泉川「しかし、表に出たところで待ち伏せとかされてないか心配じゃん」

一方通行「ンなこと言ってたら状況は進まねェだろ」

上条「確かに。もう悠長なことは言ってられない。そろそろ行こう。いいな?」

上条は美琴たちを見る。彼女たちの表情からは疲労が窺えたが、反対している余裕も無かったのか何も答えなかった。

黄泉川「じゃ、出発じゃん」

一方通行「動けるか?」

打ち止め「うん、まだ大丈夫そう、ってミサカはミサカは元気をアピール」

978: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 23:17:45.25 ID:FjTKXhU0
一方通行「無理すンなよ。疲れたら言え」

打ち止め「分かってる分かってる、ってミサカはミサカは優しいアナタに笑顔」

上条「じゃあ行くぞみんな」

上条の声に、美琴たち4人はしんどそうに頷く。
それを合図に、黄泉川と鉄装が壁に沿ってゆっくりと歩みを進める。
2人は物陰から少し顔を覗かせ、表通りに人の気配が無いのを察知するとそのまま静かに裏路地から出、四方にライフルの銃口を向けた。

黄泉川「………………」

黄泉川が手招きする。それを見て上条たちも表通りに出た。
歩道に沿って、9人は辺りに注意を向けながら小走りで移動する。

美琴「…………………」

黒子「…………………」

佐天「…………………」

徐々に、走る速度が増していく。

初春「…………………」

鉄装「…………………」

黄泉川「…………………」

躊躇をしなくなった9人分の足が更に速くなる。

一方通行「……………………」

遂に全速に近い速度で9人は歩道を駆け抜ける。

上条「……………………」

その時だった。

打ち止め「待って」

静かに呟いた打ち止めの一言によって、一行はブレーキを掛けるように唐突に立ち止まった。

打ち止め「…………………」

一方通行「何だ? どうした打ち止め?」

心配するように一方通行が訊ねる。全員が打ち止めに注視する。

979: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 23:23:09.99 ID:FjTKXhU0
打ち止め「…………………戦況が届いたみたい」

一方通行「戦況?」

上条と一方通行が怪訝な顔をする。

打ち止め「陽動に出てる妹達(シスターズ)から」

上条一方通行「!!!」

全員が、息を呑む音が聞こえた。

上条「何て言ってるんだ?」

打ち止め「…………………」

目を閉じ、打ち止めが急に静かになった。
ミサカネットワークから情報を受け取っている最中なのか、それとも既に受け取ってはいるが、伝えにくい情報ゆえ言うのに逡巡しているのかは分からなかった。

一方通行「打ち止め?」

一方通行の問い掛けに答えるように、目を見開いた打ち止めはゆっくりと言葉を紡いだ。




打ち止め「陽動に出てた妹達(シスターズ)が全滅したみたい」




上条一方通行「!!!!!?????」

美琴「……………っ」

黒子「な、何ですって!?」

佐天「そ、それって……」

初春「どういう意味なんですか!?」

黄泉川「ちょっと待つじゃん、あいつらがやられたということは……」

鉄装「もしかして、私たちの仲間の警備員たちも……?」

現在、学園都市にいる20人の妹達(シスターズ)と黄泉川の部下の警備員たちは、美琴たちの脱出作戦から敵の意識を逸らすため、街の中心部で陽動作戦に出ているはずだった。
しかし、その結果はたった今、打ち止めの口から語られた通りだった。彼女たちは、全滅した――。

980: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 23:29:49.05 ID:FjTKXhU0
打ち止め「陽動に出てた全小隊が敵の攻撃を受けて全滅、これで黄泉川中隊の生き残りはヨミカワたちだけ……」

黄泉川鉄装「………………」ゴクリ

打ち止め「そして、妹達もまた、同じく全滅……」

一方通行「………………そうか」

一方通行の言葉はそれだけだった。と言うよりも、それ以上語りたくない感じだった。
一気に、その場に悲壮な空気が漂う。

打ち止め「どうやら、妹達が引き付けてた敵の主力が今、こっちに向かいつつあるみたい」

上条「………………」

打ち止め「あ」

一方通行「どうした?」

打ち止め「報告してくれてた10039号からの通信が途絶えた……」

それの意味するところは、陽動についていた妹達(シスターズ)が1人残らず全滅したということだ。

一方通行「分かった。もういい」

そう言うと一方通行は打ち止めの頭をクシャと優しく掴む。
無表情でいるが本当は打ち止めも泣きたいほど辛いはずだ。自らミサカネットワークに繋がることで彼女たちの死を実感したのだから。

上条「…………とにかく、そういうことだ。残ってるのは俺たちだけ。そして、敵もこっちに向かっている最中」

上条は暗くなっていたムードを止めさせるため、話を変える。
しかし………

美琴「……………きない」ボソッ

ふと、一団の後方で美琴が呟いた。

981: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 23:34:53.93 ID:FjTKXhU0
全員が振り返る。

黒子「お姉さま?」

佐天初春「御坂さん?」

美琴「………出来ないよこんなの」

一方通行「………………」

打ち止め「………………グスッ…ううう」

美琴「納得出来ないわよ!!!」

美琴が叫んだ。

美琴「どうしてあの子たちが死ななきゃいけないのよ!?」

上条「御坂……」

美琴「これじゃあまるであの子たちは私たちの身代わりじゃない!? そんなのって……」

そこで美琴の怒号は掻き消された。




ドッ!!!……オオオオオオオオオオン!!!!!!




かなりの至近距離で轟音が発生した。
唐突に生じた衝撃波を受けてその場にいた全員の身体が軽く飛ばされた。

982: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 23:39:32.36 ID:FjTKXhU0

オオオオオオ………

美琴「うっ………ぐぐっ…」

何が起きたのか理解しようともせず、地面に這いつくばる形で倒れていた美琴は手を握り締め、唇を噛み叫んでいた。

美琴「何で……どうして、こんなことになるのよ………もうやだぁ……」

上条「御坂!! 無事か!?」

そこへ上条が駆け寄って来た。

美琴「………うっ……ヒグッ……」

ショックで泣いているのか、美琴は何も答えない。

上条「………………」

そんな美琴を見て、上条は無言で彼女を起こしその肩を支えてあげた。

美琴「………やめてよ……」

上条「やめない」

美琴「もうやなの……。何で……私たちが逃げるだけで犠牲が出なきゃいけないのよ………」

弱音を吐く美琴を、上条は横目で窺う。そこには学園都市第3位の超能力者『超電磁砲(レールガン)』ではなく、ただ現実に打ちのめされ悲しみに涙を浮かべる1人の少女がいただけだった。

美琴「………グスッ…」

上条「…………………」

美琴「黒子たちはともかく、私にはそこまでして助ける価値があるの……?」

美琴は自暴自棄になったように話す。
彼女の言葉を聞き、上条は即答していた。

上条「あるさ」

美琴「………………」

上条「ある」

美琴「…………私みたいなわがままで世間知らずな子供が世の役に立つとでも言うの?」

上条「当たり前だ」

美琴「!」

983: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 23:45:43.54 ID:FjTKXhU0
上条「今までお前、白井たちと色んな事件解決してきたんだろ? さんざん言ってたじゃねぇか。グラビトン事件、レベルアッパー、スキルアウト、ポルターガイスト……。お前らが動いたことで助かった人がたくさんいるんだ。そこら辺の偽善者より何百倍もお前は世の役に立つことしてる……」

美琴「………でもそれでも私はあんたには遠く及ばない……」

上条「数は関係ないさ。お前に感謝してる助かった人はたくさんいるのは事実なんだ……」

上条は美琴の小さな肩を支えながら、なるべく早く道を歩く。

上条「な?」

美琴「………………」

上条「御坂妹も、カエル顔の先生も、木山先生も、寮監さんも、全滅した20人の妹達や黄泉川先生の部下の警備員たちも、みんなお前らが無事に『外』に脱出出来るのを願ってた。だから、その想いをフイにしちゃ駄目だ……」

美琴「…………あんたは?」

上条「ん?」

美琴「…………あんたもそうなの?」

上条「当たり前だろ。今更何言ってんだ」

上条は微笑みを作る。

上条「それに……」

美琴「?」

上条「お前は、俺にとって大事な人間だから………」

美琴「!」

上条「だから美琴………お前だけは絶対に俺が守ってやる……」

美琴「………っ」

上条「安心しろ。命に代えても、お前は俺が守る」

上条は美琴の目を見据え断言した。

美琴「………………当麻」

上条「……………………」

歩きながらも、美琴と上条は至近距離で数秒ほど見つめ合っていた。

一方通行「おい! こっちだ!!」

と、その時、一方通行の声が聞こえた。

984: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 23:51:51.96 ID:FjTKXhU0
裏路地の陰から一方通行が手を振っているのが見えた。
上条は急いで美琴を連れてそっちに走って行った。

黒子「お姉さま! 大丈夫ですか!?」

佐天「怪我はないですか!?」

初春「御坂さん! しっかり!!」

他のみんなは無事だったのか、うなだれた美琴を見て心配するように声を掛けてきた。

美琴「私は……大丈夫。何があったの…?」

一方通行「あそこにミサイルが直撃したンだよ」

美琴は振り返る。
先程まで立っていた場所の200mぐらい後ろの建物から煙が上がっているのが見えた。

黄泉川「グズグズしてる暇はない。みんな走るじゃん!!」

黄泉川がライフルを後方に向けて全員を促す。

上条「目的地はもうすぐだ! みんな頑張れ!!」

上条が気合を入れるように叫ぶ。

985: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/14(水) 23:57:06.63 ID:FjTKXhU0
9人は走る。ただひたすら走る。
脱出地点までの距離はもう残り少ない。

上条「走れ!!!」

一方通行「後ろを振り向くな!! そのまま前だけ向いて走れ!!」

黄泉川「立ち止まるなよ!!!」

上条たちの声に押されるように、美琴たち4人はは息を切らしながら通りを駆け抜ける。



ダカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!!!



突如、銃声音が鳴り響いた。耳の側を何かの物体がヒュッと通過する風切り音が聞こえた。
思わず美琴たちは振り返る。

一方通行「振り返ってンじゃねェよ!! 前向いて走れ!!!」

走り疲れた打ち止めを胸に抱えながら、一方通行は叫ぶ。

上条「クソ、追い着かれたか?」

発砲音と銃弾が耳元を通り過ぎた風切り音までのタイムラグが極端に短い。恐らく、敵はすぐ後ろにまで迫っている。

上条「あと少しなのに……っ」ギリッ

黄泉川「…………………」

鉄装「…………………」

全員を護衛するように最後尾を走る黄泉川と鉄装が急に黙りこくる。
彼女たちは前方を走る美琴たちを見やると、顔を合わせて大きく頷いた。

986: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/15(木) 00:02:26.26 ID:nRM8KM20
黄泉川「ここは私らが食い止めるじゃん!!」

鉄装「君たちは先に行きなさい!!」

突然、黄泉川と鉄装が走るスピードを減じたかと思うと、踵を返し来た道を戻っていった。

打ち止め「ウソ……ヨミカワたちが!!」

一方通行「アイツら……!!」

上条「黄泉川先生……鉄装先生……」

上条たちの返事も聞かぬまま、黄泉川と鉄装は既に走り去っていた。

美琴「えっ!? 何でちょっと待ってよ!!!」

黒子「そんなっ……無茶過ぎますわ!!!」

後ろを振り返った美琴と黒子が叫ぶ。
反対方向に駆けて行く黄泉川と鉄装の背中が遠くに見えた。

佐天「黄泉川先生が!?」

初春「鉄装先生まで!?」

上条「もう振り向くな!! 全速力で走れ!!」

これ以上、後ろに構ってる余裕なんて無い。上条は前方を走る少女たちに叫ぶ。

美琴「くっ……どうして……」

悔しそうな表情を浮かべ、美琴は振り切るように正面を向いた。
目的地はもうすぐ目の前に迫っている。彼女たちの旅路の終わりは近かった――。

引用元: 美琴黒子佐天初春「貴方たちを全力で倒す!」 vs 上条一方通行「……やってみろ」2