1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/24(月) 23:35:55.02 ID:uuu7lT1n0
ーーあのネルガルとの決戦から、既に19年の月日が流れた。

ネルガル。愛する妻の為に、誰よりも力を欲した男。
そして、その力への欲求に押し潰された男。

そんな彼の野望は、多くの者の死を代償にしか成し得ぬものだった。




3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/24(月) 23:41:50.22 ID:uuu7lT1n0
ヘクトルとその盟友エリウッドは、因縁あるネルガルを打倒するため各地を転戦した。

多くの犠牲と、それ以上の仲間の力を借り、ついに激闘を制したのは、やはりヘクトル達だった。

その間、実に一年の長きに渡る戦いであった。

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/24(月) 23:46:24.90 ID:uuu7lT1n0
そんなエリウッド、ヘクトル達の激闘は史実に残ることはなく、彼らの暮らすエレブ大陸は
、表向きには安定を保っていた。

しかし、歴史とは時に少数の人間の傲慢によって動く物である。

東の大国ベルンが、突如として近隣諸国を侵略し始めたのだ。

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/24(月) 23:50:53.17 ID:uuu7lT1n0
軍事大国でその名を轟かすベルン王国の強襲に、そのすぐ西に位置する、サカ、イリア両国は成す術なくその玉座をベルンに譲ってしまう。

そして、その魔の手はヘクトル、エリウッドの愛する祖国、リキア同盟にも伸びない筈はなかった。

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/24(月) 23:56:56.23 ID:uuu7lT1n0
ー我が力を使役したが最後、汝の運命は決まる。汝の死に場所は、戦場だ。

ーそれは血と鉄の中で、決して救われぬ不遇の最期となろう。

ーそれでも、我が力を求めるか?

ー構わねえ。俺は親友を助けたい。その力を求めにここに来た。

ーいまさら迷いなどあるものか。テュルバン!てめえの力、俺に貸しやがれ!

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 00:00:54.64 ID:5nu5LTwI0
ーオスティア城ー

ヘクトル「・・・」

ヘクトル(今朝は、ずいぶん懐かしい夢を見たな)

ヘクトル(テュルバン・・・あいつの斧は元の洞窟に戻したが、まだ呪いは続いてんだろうな)

ヘクトル(ま、くよくよすんのは俺の柄じゃねえ。今日も仕事すっか)

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 00:04:16.43 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「マシュー!おいマシュー!いないのか?」

マシュー「ここに」シュタッ

ヘクトル「・・・」

ヘクトル「お前・・・それがやりたかっただけだろ」

マシュー「ははは、バレました?」

ヘクトル「バレましたじゃねーよ!まったく、めんどくせー」

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 00:09:20.51 ID:5nu5LTwI0
マシュー「昔ハマってたの思い出して、急にやってみたくなったんですよ」

マシュー「確か、前にやった時はネルガルとの戦いへの旅立ちの日だったと記憶してます」

ヘクトル「憶えてねーよ、そんな昔の事」

マシュー「ありゃ、もう呆け始めちゃってます?」

ヘクトル「ああ、ったく!お前の減らず口を相手にしてたらいつまでも本題に入れねーじゃねえか」

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 00:13:19.09 ID:5nu5LTwI0
マシュー「すみません、ヘクトル様と2人っきりになると、つい調子に乗っちゃって」

ヘクトル「お前のすみませんは空気より軽いな」

ヘクトル「で、どーだった?」

マシュー「結論から言うと、まずいっすね」

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 00:19:36.20 ID:5nu5LTwI0
マシュー「ヘクトル様の指示で、リキア同盟の諸侯に、ベルンへの対応を検討する会合を開きたい。急遽精兵を率いてアラフェンに集え、との旨を伝えて来ましたが・・・」

ヘクトル「まさか、この期に及んでまだ応じないってのか!?」

マシュー「いえ、小国の領主たちが手を結んで他国に対抗しているのが俺たちのリキア同盟です」

マシュー「諸国が堅牢な一枚岩であるからこそ侵略の抑止になっているのに、この時期にその同盟の盟主たるヘクトル様の激に応じないのは自分の首を絞めるのと同じですよ」

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 00:25:39.58 ID:5nu5LTwI0
マシュー「皆、兵がまとまり次第アラフェンに来られるそうです」

ヘクトル「ったく、ようやくか。しかしまずいってのはどうしてだ?」

マシュー「諸侯は危機感がなさ過ぎます」

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 00:30:43.34 ID:5nu5LTwI0
マシュー「ベルンの現国王ゼフィールは、先王のデズモンドとは違いやり手です。元々ベルンは大国ですが、特にゼフィールの代になってからはその国力はいよいよ増すばかりだと言うのに」

マシュー「諸侯の反応は、まるで来るかも分からない台風に一応備えておこう、程度のものでした・・・」

マシュー「ラウス侯エリックにその行軍費はオスティアが持つのか、と聞かれた時は流石に閉口しましたよ」

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 00:36:06.45 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「まだ連中は解らねえのか」

ヘクトル「サカ・イリアをいとも容易く攻略したベルンだ」

ヘクトル「勢い付いた奴らがこのリキア同盟に攻め入るのに躊躇いなどあるものか」

マシュー「ゼフィールは必ず、遠くない未来にリキアとの国境を侵すでしょうね」

ヘクトル「ああ、いよいよ来るべき時が来たんだ」

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 00:41:19.69 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「が、この分じゃエリウッドのフェレ以外は頼れそうもねーな」

マシュー「ま、当然といえば当然ですね。ここ何代も大きな戦争は起っていない。諸侯は自分の仕事を、民から搾り取った税を使って贅沢する事だと勘違いしておられる」

ヘクトル「長過ぎる安寧と、暖衣飽食が連中を腐らせちまったな。俺はこれまで何度も、ベルンは力を蓄えている、リキアは一度対策を検討すべきだと連中に呼びかけてきた」

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 00:46:16.62 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「だが連中の答えは決まってこうだ。『我々とベルンの関係は良好だ。下手にそんな会合を開いてはかえって機嫌を損ねるであろう』」

マシュー「実父を暗殺したという噂まであるゼフィール王です。機嫌もくそもあるかって話ですよ」

ヘクトル「ま、機嫌もくそもねえ相手だが、いまは余裕もねえだろう」

マシュー「侵略戦争した直後っすからね。戦争するのにも金はかかる。態勢を整えるのに暫くかかると見て間違いないでしょう」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 00:51:34.30 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「後手に回っちまった感は否めないが、まだ手遅れじゃねえ。アラフェンにリキアの本隊を置いて前線基地とする」

ヘクトル「そんで、他の諸侯があてにならねえ以上、オスティアの戦力の大半をアラフェンに集めようと思う」

マシュー「マジすか、城の守備は誰に?」

ヘクトル「その辺の詳しい人事はこれから決めるが、大体の構想はあるな。レイガンスに任せようと思う」

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 00:54:15.85 ID:5nu5LTwI0
マシュー「なんでまたレイガンスに?この前、反逆ともとれる言動で処罰されたばっかりじゃなきですか」

ヘクトル「だからこそだ。闘いこそ騎士の名誉。それをあんな不忠の輩にはくれてやれねえ。まあ罰の一環だな」

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 00:57:56.64 ID:5nu5LTwI0
マシュー(・・・それを、罰ととれるほどレイガンスは大きな人物じゃない。ヘクトル様、みんなが貴方みたいに漢気が溢れてる訳じゃないんです・・・)

マシュー(ま、レイガンスは反逆なんて企てるほどな人物でもないから、問題ないとも思いますがね)

ーー後に、このレイガンス将軍がオスティアにて、ヘクトルの愛娘リリーナを人質に反乱を起こす事を、ふたりはまだ知らない・・・。

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 01:02:34.65 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「そんな訳だ、仕事続きですまねーが、今回の遠征にはお前も連れて行きたい。ちゃんとセーラに挨拶してけよ」

マシュー「そっすね・・・。あーあ、またイヤミ言われんだろうなあ」

ヘクトル「仲良さそうでなによりだぜ」

マシュー「どこがっすか!俺もフロリーナ様みたいな慎ましーい嫁さんが良かったですよ」

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 01:08:49.05 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「やらねーぞ」

マシュー「冗談ですよ!」

ヘクトル「・・・」

ヘクトル「あとな、マシュー。今回の遠征、ヤバそうだったらお前は逃げろ」

ヘクトル「セーラのやつ、2人目だったか?身籠ってんだろ」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 01:12:38.63 ID:5nu5LTwI0
マシュー「・・・嫌ですよ。ヘクトル様を見捨てて逃げて来たなんて言ったら、それこそあいつに殺されますよ」

ヘクトル「そうか・・・ありがとな、マシュー」

34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 01:17:26.07 ID:5nu5LTwI0
数日後

そこには、オスティア領内各地から集められた大軍が整列していた。

この日、オスティア本軍はアラフェンへと旅立つである。

連日続く小雨で行軍にはあまり都合は良くなかったが、事は急を要すということで出発する事となった。

ヘクトル達の目指すアラフェンの空は、暗かった。

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 01:21:59.62 ID:5nu5LTwI0
ーーマシュー?

ーーここに

ーーお前な、悪の親玉とその手下じゃねえんだから、もっと普通に出て来い!

ーーはは、ちょっとやってみたかったんすよ


ーーヘクトル様。助けて頂いてありがとうございました!

ーーやった!言えたわヒューイ!

ーーったく、俺はこういう女は好みじゃないはずだったんだがな・・・

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 01:26:38.59 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「・・・」

ヘクトル「また、夢か」

ヘクトル(最近多いな。俺も歳か?)

ヘクトル(・・・まあ、あの頃は大変だったが楽しかったからなあ)

ヘクトル(今は・・・)

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 01:31:00.42 ID:5nu5LTwI0
ーオスティア城前ー

ヘクトル「ケント。レイヴァン。いや今はレイモンドだったか。よく来てくれた」

この両名は、かつてネルガルとの戦いでヘクトル達と共闘した盟友である。

今はそれぞれ、オスティア領のキアラン城主、コンウォル城主としてヘクトルに仕えている。

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 01:36:07.79 ID:5nu5LTwI0
レイヴァン「・・・レイヴァンでいい。お前にその名で呼ばれたくない」

ケント「レイヴァン殿、主君に対してその口の利き方は・・・!」

ヘクトル「いいんだケント。オスティアはレイヴァンに、いやコンウォル家にそれだけの事をした」

レイヴァン「いや、冗談だ。すまない。今は俺は復讐など考えていないし、ヘクトルにも感謝している」

ヘクトル「無表情で冗談言うなよ、解りづれーな」

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 01:42:38.88 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「しかしお前らがいてくれて助かった。心強いぜ」

ケント「我が槍が錆びてなければ良いのですが」

レイヴァン「良く言う。キアランの兵は精強かつ勇猛だと評判じゃないか」

ケント「私の力などではありませんよ。ある方の兵士強化マニュアルを実践しているだけです」

ケント「コンウォルの兵こそ、少数ながら恐れ知らずの勇者たちが集っていると聞こえていますよ」

レイヴァン「傭兵時代の仲間や、かつての遺臣たちのおかげだ」

43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 01:47:02.07 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「しかし懐かしいな。お互い年こそ食ったが、中身は昔のままじゃねえか!」

レイヴァン「それはお前だけだろう」

ヘクトル「あん?」

ケント「まあまあ。懐かしいといえば先日、あのセインが訪ねてきましたよ。この軍に加えてほしいそうです」

ヘクトル「いま、いるのか?」

ケント「はい。セイン!ヘクトル様がお呼びだ!」

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 01:49:59.17 ID:5nu5LTwI0
セイン「待ちくたびれたぜ相棒。お久しぶりです、ヘクトル様」

ヘクトル「おう、自由騎士になったと聞いてたが元気か?」

セイン「それはもう!世の中にはまだ俺の知らない美女で溢れていました!」

セイン「実に有意義な旅でしたよ」

ヘクトル「それは、良かったな・・・」

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 01:51:13.10 ID:5nu5LTwI0
セイン「しかし!あの卑劣なるベルンめが!サカを侵略した際に!」

セイン「我がかつての主リンディス様まで手にかけたという噂を耳にして居ても立ってもいられず・・・!」

セイン「どうか!俺に弔い合戦のチャンスを!」

ヘクトル「それは心強いから大歓迎なんだが・・・」

ヘクトル「リンがやられたってのは本当なのか!?」

47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 01:57:36.79 ID:5nu5LTwI0
セイン「・・・噂では、サカのクトラ族は滅亡したそうです」

ヘクトル「そうか・・・気になってはいたんだが」

セイン「俺は・・・あいつらを許しません。向こうから吹っかけてきてくれるならむしろ好都合。この身が砕けるまで戦ってやりますよ!」

ケント「それは私とて同じ。かつての主、リンディス様の仇を撃つまでは例え鬼と蔑まれようとも戦い続けます」

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 02:01:07.04 ID:5nu5LTwI0
レイヴァン「落ち着け、ふたりとも。気持ちは解るが、そう気が昂ぶっていては周りが見えずに自滅するぞ」

ヘクトル「そーだぜ。それに考えてもみろ。あいつがベルンなんかに遅れを取るタマかよ。そのうちひょっこり出てくるさ」

ヘクトル「そう信じて、いまは目の前の戦いに集中するんだ」

ヘクトル(・・・あのリンがやられた?そんな筈はねえ、ねーと信じたいが)

ヘクトル(もし事実なら・・・ベルンめ。ただじゃおかねーぞ)

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 02:05:22.94 ID:5nu5LTwI0
さらに数日後

アラフェンには、リキア同盟に参加している各国の軍が続々と到着していた。

勇者ローランを始祖とするリキア同盟の本隊は、隅々まで調練が行き届いており(それでもヘクトルによれば「たるんでる」らしいのだが)、その士気もみなぎるものがあった。

ここに、対ベルンの前線基地は完成を見ようとしていた。

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 02:08:19.46 ID:5nu5LTwI0
ーーおおそうだ、ヘクトル。お前の兄は亡くなったそうだな?

ーー兄を作ってやろうか?感情を持たない人形相手に、せいぜい傷を舐め合って・・・

ーー黙れ。

ーー感情を持たない・・・人形だ?てめえのことだろうが。

ーー・・・なに?

ーー他人の痛みも、悲しみも理解できねえ・・・人形はてめえ自身だ!ネルガル!!

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 02:13:25.50 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「・・・」

ヘクトル「よりによってネルガルの夢かよ」

ヘクトル「最悪の目覚めだな」

ヘクトル「・・・」

ヘクトル(なんだ、この後ろ暗い気持ちは)

ヘクトル(まさか俺は、恐れているのか?ベルンを)

56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 02:18:56.52 ID:5nu5LTwI0
ヘクトルが視線を落とした先に、自分の双掌がある。

かつて分厚い戦斧を振り回して出来たタコはすっかり影を潜め、代わりに彼の掌にあったのはペンだこだった。

ヘクトル(俺は、弱くなった)

ヘクトル(護りきれるのか?リキアを。オスティアを)

ヘクトル(・・・リリーナを)

かつて戦いの前は闘争心で燃え上がっていた彼の心はいま、「死にたくない」という酷く逃げ腰なものだった。

かつて蛮勇であった男を、ひとりの男にしてしまったのは、あるいは護るべき愛娘だったのかも知れない。

57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 02:21:58.28 ID:5nu5LTwI0
ーアラフェン郊外ー

レイヴァン「久しぶりだな、ルセア」

ルセア「はい。レイモンド様がコンウォル城主になられて以来でしょうか」

レイヴァン「そうだな。それ以降は俺も忙しくてな。なかなか身体が空かなかった」

58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 02:25:10.96 ID:5nu5LTwI0
ルセア「でも元気そうで安心しました。あのヘクトル様に士官すると聞いた時は、まだ復讐でもするおつもりなのかと・・・」

レイヴァン「俺もいつまでも子供じゃない。コンウォル家が取り潰しになったのは、両親の借金が原因だ」

レイヴァン「なのにあいつは、ヘクトルは俺をコンウォル領の領主に取り立ててくれた」

レイヴァン「俺の他にも、あいつは能力次第では平民にも官位を与えている」

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 02:30:14.32 ID:5nu5LTwI0
レイヴァン「そんなあいつには味方も多いが、当然敵視する輩もいる・・・」

レイヴァン「その大半が、能力もないクセに家柄だけで禄を食んでいる俗物だ」

レイヴァン「しかしその俗物どもが強力な発言権を持つのも事実。ヘクトルの立場は決して良くない」

レイヴァン「だから、俺はヘクトルを助けたい。それが今の俺の素直な気持ちだ。復讐などとんでもない」

60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 02:34:05.53 ID:5nu5LTwI0
ルセア「そうですか。レイモンド様は成長なされましたね」

レイヴァン「フン、上から言ってくれるな。しかしお前は良かったのか?再びコンウォル家に仕えられるチャンスだったのに」

ルセア「・・・」

ルセア「聖女様の教えにはこうあります。人には必ず天より賜いし天命があり、一人ひとりがその天命を全うする事こそが世界の幸せに繋がるのだと」

ルセア「この修道院にいて、私は日々が満たされています。そして私は気付いたのです。これこそが私の天命だと」

61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 02:35:26.24 ID:5nu5LTwI0
ルセア「私は、この修道院の院長が合っていますよ。子供は国の宝です。そんな彼らを育み、慈しみ、見守る事が私の天命なのです」

レイヴァン「フッ、お前らしいな」

ルセア「はい。レイモンド様も天命を見つけられたようで何よりです」

レイヴァン「そんな綺麗なもんじゃない。俺のは、ただの奇縁だ」

レイヴァン「ただ・・・」

レイヴァン「そう想うのも、悪くないかもな」

63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 02:40:14.25 ID:5nu5LTwI0
ー夜更けー

一般に、敵拠点への攻撃は夜襲が定石である。

しかし、この時のベルン軍は違った。

夜更けー日の出と共にアラフェン城を襲撃してきたのである。

64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 02:46:50.86 ID:5nu5LTwI0
人間は、明るい部分と暗い部分があれば、自然と明るい部分に注意がそれる。

現代でも、夜更けに交通事故が多いのはこのためである。

まだ暗い道路に比べて、つい明るい空に注意がそれてしまい結果、事故に繋がるのだ。

65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 02:48:31.77 ID:5nu5LTwI0
ベルン軍は夜の内に山の中腹に兵を伏せておき、日の出と共に侵略行動を起こした。

アラフェン城の見張りが日の出を確かめ、今夜も異常なしと断じている頃、そのアラフェンの大地には地を這う百足の様な影があった。

ベルン兵である。

見張りは明るい空に注意がそれて、暗い大地を見落としていたのである。

これは人間の性質であり、彼らを責める事は出来ないだろう。

66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 02:52:58.27 ID:5nu5LTwI0
ーー余談だが、ベルン軍が夜更けを選んだのは、彼らの軍の中心戦力たる竜騎士団の騎竜が鳥目であった、という事にも原因している。

ともあれ、ここに半日でリキア同盟本軍が撃滅せしめられる悪夢の戦い、「アラフェン攻防戦」が始まったのである。

67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 02:59:01.93 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「オズイン!状況はどうなってる!?」

オズインは、前オスティア侯ウーゼルの代から仕えている重臣である。

オズイン「かなり不味いですね。すでにベルン軍は城壁を越え、このアラフェン城は完全に包囲されています」

ヘクトル「なめたマネしやがるぜ。まさか朝から仕掛けて来やがるとは」

68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 03:03:36.56 ID:5nu5LTwI0
オズイン「いかがしますか。このままではアラフェンは陥ちるでしょう」

ヘクトル「いや、焦っては敵の思うつぼだ。先ずは冷静に敵戦力を図る。斥候が戻るのを待つんだ」

マシュー「その斥候、舞い戻って来ましたよ!」

ヘクトル「マシュー!早えな」

マシュー「俺、優秀ですから」

ヘクトル「うるせーよ、どうだったんだ?」

69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 03:06:13.45 ID:5nu5LTwI0
マシュー「敵の大半は竜騎士で構成されてました」

ヘクトル「って事は、こいつらは先遣隊で、あとから本軍がやってくるって事か?」

マシュー「いえ、敵の指揮官はあのベルン最高戦力『三竜将』の一角、ナーシェン将軍です」

マシュー「あのおびただしい数の竜騎士と、他の『三竜将』ブルーニャとマードックが多地方の制圧に遠征してる事も考えると、援軍は考えられません」

70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 03:09:57.43 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「つまり、いきなり全戦力を持って叩きに来たって事か。面白え!」

ヘクトル「よし!方針を決めるぞてめーら!」

その海賊の様な号令と共に、一旦は取り乱していたリキア同盟軍は、再びまとまりを取り戻したのだった。

71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 03:12:41.36 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「まず、大方針だ。アラフェンは棄てる。戦さには呼吸ってもんがある。奇襲をかまされたこの地に留まるのは愚策だ」

ヘクトル「よって、これからの俺たちの戦いは撤退戦だ。いかに損害を出さずに逃げる事ができるかの戦いだ」

ヘクトル「ベルンは俺たちに、サカ・イリアの様に正面からぶつからずに奇襲を仕掛けてきた。なぜか?」

ヘクトル「俺たちを恐れてるからだ!正面から戦えば俺たちはベルンにだって負けねえ!」

72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 03:15:18.52 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「まずはどっか他の場所に拠点を移して仕切り直す。これが肝要だ。」

ヘクトル「いいか、背中を見せるのなんて恥じゃねえ。真に恥ずべきは愛する祖国を守れない事だ!」

ヘクトル「だから、今は全力で逃げる!」

オズイン「ゴホン、どちらに、ですかな?」

ヘクトル「うるせーな、これから言う所だったんだ!とりあえずオスティアを目指そう」

73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 03:21:20.84 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「そのためにはオスティアへの街道のあるラウス方面に逃げたいが、敵もそれを読んで伏兵があるかも知れん」

ヘクトル「だからトリアから迂回して行くこととする。要するに北だ!北へ進軍する!」

ヘクトル「それに当たっての作戦だが、まず敵の大半が機動力に優れる竜騎士だ」

ヘクトル「奴らの恐ろしさは包囲力だ。空からの攻撃だけでも厄介なのに、それを全方位からやってくる」

ヘクトル「こうなっては、どんなに屈強な軍隊でも殲滅は免れないだろう」

76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 03:29:18.21 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「だから最初から全軍で撤退はしない」

ヘクトル「最初は俺が全軍を率いて南門で応戦する。頃合いを見計らって、偽って敗戦し、城に戻って籠城の構えを取る」

ヘクトル「そうすりゃ籠城させじと奴らは城に突入してくるだろう。特に敵将のナーシェンは野心家と聞く」

ヘクトル「俺という最高の首級を前に迷わず奴も城に入るだろう」

ヘクトル「そうしたら、レイヴァン、セイン、ケントとラウス騎兵で北門から進軍して退路を確保してくれ」

77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 03:32:48.11 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「敵にももちろん遊撃隊はいるだろうが、主力は城責めに忙しいはずだ。お前らなら苦もなく蹴散らせる」

ヘクトル「退路が確保できたら、全軍で撤退だ。敵は一度城を通って追ってくるから、包囲の心配はなく、一方向を守るだけで良い」

無論、これらの献策は文官たちや、オズイン将軍などに依るものである。

78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 03:36:37.02 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「各々、奮起してくれ。そうすりゃ俺たちにも明日はある!」

ヘクトル「俺たちの始祖は勇者ローランだ!苦境にこそ俺たちは強い!いくぞてめーら!ベルンに吠え面かかせてやろうぜ!!」

かくて、作戦は決行された。

79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 03:43:12.58 ID:5nu5LTwI0
ベルン兵「ナーシェン閣下!南門からリキア同盟軍が出て来ました!ヘクトルが直々に率いている様です!」

フレアー「ようやく敵が反撃に転じましたな」

ナーシェン「このままだと鹿狩りと変わらないからねえ。クックックッ!やっと面白くなって来たよ」

ナーシェン「おいフレアー!私は一軍を率いてヘクトルを叩くから、お前は遊撃隊をもって敗残兵を掃討しろ!」

フレアー「はっ!」

82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 06:18:07.61 ID:5nu5LTwI0
しまった寝てた

ナーシェン「それなりに戦果をあげてくれよ?私もお前にお仕置きしたくはない」

フレアー「お、お戯れを・・・」

ナーシェン「フン、まあ頑張っておくれよ」

ナーシェン「・・・」

ナーシェン「オスティアの勇将だか何だか知らないが、所詮は田舎貴族。私の敵じゃない」

ナーシェン「哀れオスティア侯。私に武功をくれる為に生きていてくれたんだね。クックックッ!」

83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 06:21:28.18 ID:5nu5LTwI0
一方、ヘクトル率いるリキア同盟本軍は、南門にて三重の重厚な陣構えをとっていた。

オズイン「ヘクトル様、敵軍が此方に軍を整えてやってきます!」

ヘクトル「来やがったな!お前ら!俺が合図したら一斉に城内へ撤退するんだ!」

ヘクトル「出来るだけみっともなくな!俺たちの本当の戦いはそれからだ!」

85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 06:25:13.57 ID:5nu5LTwI0
 

リキア同盟軍の正面に、ベルン竜騎士団が対陣している。

その威圧感は、紛れもない強国の物だ。

両者は陣を整えながらしばらく睨み合っていたが、敵陣より大胆にも一騎で寄せて来る者がいた。

他ならぬ、ナーシェン将軍その人である。

86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 06:29:11.62 ID:5nu5LTwI0
ナーシェン「お前かい、オスティア侯ヘクトルっていうのは」

ヘクトル「敵将の顔も把握してねえとはな。勉強不足だぜ、三竜将!」

ナーシェン「なに、余りにみすぼらしくてね、私の美しい頭脳に入って来ないのだよ」

ヘクトル「フン、何が美しいだ。猿みてえな顔しやがって」

ナーシェン「悲しいねえ。すぐにそんな口は利けなくなるというのに」

ナーシェン「今から泣いて謝るなら許してあげよう。私の奴隷として可愛いがってやらない事もないよ?」

87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 06:36:19.12 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「ほざけ、ゼフィールのペットが。お前こそそんな将器には見えねえが、どんか小賢しい手を使ってその椅子に座ってんだ?」

ナーシェン「私の大器を見抜けないとは。やはりお前は凡将だよヘクトル」

ヘクトル「自画自賛はみっともねえぞ。男なら腕で語り合おうぜ!」

ナーシェン「いいだろう。後悔するなよオスティア侯!行けっ!お前たち!リキア同盟軍を叩き潰せ!」

ヘクトル「今の内にゼフィールへの言い訳を考えておくんだなナーシェン!来るぞお前ら!とんぼ狩りの時間だ!ベルン竜騎士団を返り討ちにしろ!」

かくて、戦いの火蓋は切って落とされた。

88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 06:40:18.89 ID:5nu5LTwI0
竜騎士団の真の恐ろしさとは、ヘクトルが先に述べたようにその包囲力にある。

リキア同盟軍は城を背に戦っているとはいえ、すぐに三方からの波状攻撃に耐えきれず潰走し始めた。

ヘクトル「退けっ!城に入れ!籠城するぞ!」

ヘクトルの大号令が飛ぶ。

ナーシェン「追撃だ!奴らに籠城の隙を与えるな!」

89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 06:45:41.74 ID:5nu5LTwI0
ベルン兵「ナーシェン様!敵はまだ大した損害もなしに退き始めました。謀られているのでは?」

ナーシェン「うるさいよ!お前たちは私に従っておけばいいんだ!!」

ベルン兵「はっ!失礼いたしました」

ナーシェン「口ほどにもない連中だねえ、クックックッ!」

90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 06:49:14.54 ID:5nu5LTwI0
しかし城内戦となると、一転ベルンは苦戦を強いられる事となる。

狭い城内では竜騎士はその長所である高い機動力を活かせず、また追撃を焦り過ぎたため、陣形も乱れ切っていた。

またリキア同盟軍もその潰走はかねての計画通りなので、ここからが本番とかえって士気も高いほどである。

そしてなにより、城外では戦闘に参加せず、指揮に徹していたヘクトルが前線に出てきたのだ。

91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 06:53:34.91 ID:5nu5LTwI0
これによりいよいよリキア同盟軍の士気は奮い、ベルンも容易ならざる相手と引け腰になってきた。

そんな部下を叱咤するためナーシェン自らが城内に入り指揮を取り始め、またムキになった彼は城外に待機させていた味方も次々と戦線に投入している。

ヘクトル達の望む通りの形である。

ヘクトル「マシューいまだ!レイヴァン達の別働隊に出撃を命じてこい!」

マシュー「りょーかいです!」

92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 06:56:50.03 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「さて・・・」

ヘクトル(ここからだ)

いつかの不安はどこへやら、ヘクトルは実に生き生きとしている。

長い戦場のブランクも血と鉄の匂いを嗅いだとたん消し飛んだ。

ヘクトル(やはり、俺の生きる場所はここだ)

戦っていると、ヘクトルは思うのである。

互いのすべてをぶつけ合い、存在をかけた殺し合いをしている時ほど自分の生を実感する時はない。

93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 07:02:16.05 ID:5nu5LTwI0
全身の血が沸騰している。

愛斧は身体の一部のようだ。

笑みが零れる。

「俺が!!」

「俺が、最強だ!!!」

吠えるヘクトルの周囲は、常に血煙が舞っていた。

97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 07:51:38.07 ID:5nu5LTwI0
一方。

レイヴァン・セイン・ケントの別働隊は北門から出撃して、フレアー率いる遊撃部隊と戦闘を繰り広げていた。

レイヴァン率いる歩兵隊が中軍となり、セイン・ケントの騎馬隊が左右の翼を担っている。

当初、レイヴァンの中軍が先行する魚鱗の形を取って、小高い丘で戦闘していたが、やはり竜騎士の波状攻撃に堪らず兵を退き始めた。

98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 07:55:06.39 ID:5nu5LTwI0
ーリキア、弱兵なり!

ベルンのこの一兵卒は思った。

やはり我らベルンに敵などない!

丘を低空飛行で下り、追撃を加えようとする。

周囲の同僚も同様に自分と駒を競って進撃している。

手柄を渡すものか!

99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 07:58:45.78 ID:5nu5LTwI0
ここで武功をたてれば、故郷の家族に楽をさせてやれる!

既に手柄を立てた気になり、我が子の笑顔を想うと、自然笑みが止まらない。

さあ行こう!金のなる木はすぐそこだ!

丘のすぐ下は死角になっている。

さながら下る直前のジェットコースターだ。

本来なら警戒すべきだが、この男を始めベルン兵は完全に油断しきっていた。

100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 08:03:29.63 ID:5nu5LTwI0
ーー男の視界が開けた。

が、そこにあるべき筈の「弱兵」はいない。

狼狽えた彼が周囲を見渡すと、そこには。

おびただしい数の矢と手槍がまさに彼らに襲い掛からんとしているところだった。

屍山血河とは、このような様相を言うのであろう。

欲を出してリキアを追撃したベルン兵はことごとく矢の餌食となり、一人として立ち上がる者はいなかった。

101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 08:08:10.24 ID:5nu5LTwI0
これは、左右に展開したセイン・ケント隊の仕業である。

レイヴァンが偽って退却すると同時に、左右の部隊は追撃するベルン兵を包むように鶴翼に展開・一斉攻撃を加えたのだった。

焦ったのは、ベルンの将フレアーである。

フレアー(まずいっ!このままでは)

フレアー「くっ、ベルンを舐めるなよ!いくぞ貴様ら!正面からリキアなぞに負けるものか!突撃だ!」

102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 08:13:22.27 ID:5nu5LTwI0
フレアーは一旦退くべきであった。

体制を立て直せば、まだ善戦できたはずだった。

が、彼から冷静な判断を奪ったのは先程の上官の言葉である。

フレアー(ただでさえ損害は大きい。ここで巻き返さなければ・・・!)

良き上官とは、部下の資質を最大限引き出せる者をいう。

所詮、恐怖でしか部下を縛れないナーシェンの下では、フレアーも実力を出し切れないというものだ。

103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 08:19:23.71 ID:5nu5LTwI0
リキア同盟の別働隊に、フレアーの軍はいい様ににかき乱されていた。

セイン「よし!良い調子だな相棒!」

ケント「お前こそ腕がなまっていないようで安心したぞ!」

セイン「しかし、存外ベルンもちょろいな!」

ケント「まったく、その楽観癖も相変わらずだな」

セイン「お前のその小言もな!」

セイン「よし、俺はあそこに見える敵将らしきやつを狙う!サポートしてくれケント!」

ケント「承知した!」

104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 08:25:00.28 ID:5nu5LTwI0
だが、今度はリキアが敵を侮ってしまった番だ。

手柄を挙げんと一騎抜けたセインを

無常な一条の雷の矢が貫いた。

セイン「がっは…」

間髪入れずに二発目の雷がセインに襲い掛かる。

辛うじてそれを避けたセインに、詰めの三発目が降った。

105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 08:34:43.50 ID:5nu5LTwI0
ケント「セイン!!」

ケントはセインに駆け寄ったが、すでに それ はセインの形をしていなかった。

ケント「おのれ・・・!サンダーストームか!」

サンダーストーム。高名な賢者だけが扱うことのできる、上位の理魔法である。

106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 08:39:09.57 ID:5nu5LTwI0
ケント(馬鹿な・・・!敵は竜騎士が中心で、魔導士などいなかったはず!)

ケントが敵方を睨むと、果たしてフレアー隊よりも奥にベルンの旗を振りかざす大軍があった。

ケント「レイヴァン殿!」

レイヴァン「何事だ、なぜ兵をさげる」

ケント「ベルンの援軍です!それもあの『三竜将』の一人、ブルーニャ率いる大軍が!」

レイヴァン「馬鹿な!あいつはサカを攻略していると聞いた!ベルンには現状これ以上は兵力を割けないはずだ!」

107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 08:47:36.16 ID:5nu5LTwI0
ケント「しかし現実にブルーニャの軍の魔法で、セ、セインが討たれました…!」

レイヴァン「・・・!!」

ケント「ここに、戦況は一変したと言っていいでしょう」

レイヴァン「・・・厳しいな」

ケント「とりあえずマシュー殿に伝令に出てもらい、我らは極力戦線を維持しましょう」

108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 08:53:16.03 ID:5nu5LTwI0
アラフェン城で戦うヘクトル達にもたらされた情報は、まさに青天の霹靂と言うべき内容だった。

ーーブルーニャ来たる。

これにより、一気に戦況は苦しくなってしまった。

ナーシェン相手に撤退しようとしていたのに、その退路を、あるいはナーシェン以上の力を持つブルーニャ軍に塞がれてしまった。

決断が求められる。

109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 09:00:20.16 ID:5nu5LTwI0
オズイン「ヘクトル様」

ヘクトル「ああ、これはマズイな」

オズイン「兵力を分散しているままでは勝ち目はありません」

オズイン「全軍で、ブルーニャ軍を倒しつつ退却しましょう」

オズイン「ナーシェン軍への殿は私が務めます」

110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 09:05:32.31 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「それしかねーか・・・!」

ヘクトル「すまないオズイン、頼んだぜ」

オズイン「はっ!お任せを」

マシュー「待ってください、お二人とも!」

マシュー「いま、新しい情報が入りました」

マシュー「敵の指揮官はブルーニャじゃありません。・・・ゼフィール王自らが、とっているそうです」

111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 09:10:17.64 ID:5nu5LTwI0
レイヴァンはケントの馬に担がれながら、敵陣に突撃していた。

いまや、戦況は絶望的だ。

敵は国中の全戦力を持ってリキア同盟を潰しに来ている。

リキア同盟軍がこの局面を切り抜ける手段は残念ながらもう残されてはいないだろう。

112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 09:14:56.45 ID:5nu5LTwI0
だが、まだやれる事はある。

リキア同盟の盟主たるヘクトルさえ生きていれば、またいつかリキアはひとつとなって戦えるだろう。

ヘクトルが落ち延びる時間を稼ぐ。

それが、二人の導き出した最善手だった。

113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 09:24:27.18 ID:5nu5LTwI0
サンダーストームとは良く言ったものである。

近くの木も仲間も、全てを貪欲に穿たんと雷の嵐が荒れ狂う。

ケント達は敵の魔導士達が放つその雷の矢を器用に避けながら進んでいた。

ケント「不思議と穏やかな気分です」

ケント「死とは、もっと苛烈なものだと思っていましたが」

レイヴァン「そうだな。俺も、心残りがないと言えば嘘になるが、落ち着いた心持ちだ」

116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 09:35:35.33 ID:5nu5LTwI0
ケント「貴方とは、奇妙な縁でしたね」

レイヴァン「どういう意味だ」

ケント「私は貴方とお会いした当時、貴方の事が嫌いでした」

ケント「卓越した戦闘技術はお持ちだが、協調性がなく、いつも孤高を保っていた貴方を軍の腫れ物とエリウッド様に相談したほどです」

レイヴァン「フッ、言ってくれる。俺とて最初はお前の事を、なんと世界の小さい堅物だと見下していたぞ」

117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 09:42:18.05 ID:5nu5LTwI0
ケント「そうでしたか。ですが私は、徐々に貴方を認め始めましたよ」

ケント「かなり不器用ですが他人を思いやる事のできる、優しい方だと」

レイヴァン「ああ、俺もだ。」

レイヴァン「お前のその堅物さは、主君を思いやる忠義の賜物だと気づいた」

レイヴァン「お前のその愚直さは、俺がかつて憧れた騎士そのものだったよ」

ケント「ははは、なにやら恥ずかしいですね」

レイヴァン「そうだな」

118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 09:47:09.93 ID:5nu5LTwI0
見渡せば、周囲に味方はもはや数騎しかない。

敵陣はすぐそこだった。

ケント「・・・私は、そんな貴方と共に戦えた事を、誇りに思います」

レイヴァン「ああ、俺もだ」

119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 09:52:38.34 ID:5nu5LTwI0
ケントはおもむろにレイヴァンの腰に手を回すと、

「ご武運を」

微笑むなり、レイヴァンを敵陣の中へ放り込んだ。

直後。レイヴァンの背後に、雷が何度も降り注いだ。

断末魔は聞こえない。

ケントなりの、レイヴァンへの最後のエールだったのだろう。

121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 09:54:50.07 ID:5nu5LTwI0
レイヴァンは振り向かずに敵陣へ突っ込んだ。

振るう。凪ぐ。払う。

レイヴァンがその大剣を操る度、鮮血が降り注ぐ。

122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 09:58:13.06 ID:5nu5LTwI0
ーーレイヴァン、俺に仕えねーか?コンウォル地方を、お前に任せたいんだ。

ーー同情か?ふざけるな。俺はそこまで落ちぶれていない。

ーーちげーよ!俺は、お前の実力を買ってんだ。

ーー俺は、例えお前がコンウォル家の嫡子じゃなくても、同じ言葉をかけるだろう。

レイヴァン(馬鹿な男だ。その態度は、弱き立場の強者には好まれたが逆の立場の者には疎まれた)

レイヴァン(・・・だがまあ、そんなお前だから、俺は)

123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 10:01:12.56 ID:5nu5LTwI0
目の前の敵を袈裟切りにする。

もう敵将は目の前だ。

レイヴァン(ありがとう)

レイヴァン(復讐という目標を失った俺に、第二の人生をくれて)

レイヴァン(その復讐しようとした相手がくれた、というのがなんとも皮肉だがな)

124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 10:05:04.85 ID:5nu5LTwI0
ついに、レイヴァンはブルーニャ将軍と対峙した。

ブルーニャ「単騎でここまで来られた蛮勇は評価します」

ブルーニャ「ですが、それもここまで」

ブルーニャ「魔導士に包囲され、何より私を目の前にしては貴方の勝ちはありません」

レイヴァン「だろうな」

126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 10:10:07.81 ID:5nu5LTwI0
ブルーニャ「何か、言い残す事は?」

レイヴァン「あいつに、ヘクトルに会う事があったら伝えてくれ。今度はしがらみのない世界で会おうと」

ブルーニャ「確かに。では、参ります!」

レイヴァンの立つ大地が焦げる瞬間、彼は大剣と共に空中に跳躍した。

そのまま全体重をかけて相手を砕く、レイヴァンの必殺技だ。

127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 10:13:16.81 ID:5nu5LTwI0
だが。

ーーお前のせいだぞ、ヘクトル。

ーー敵が滲んで見えないじゃないか。

そして、彼の剣がブルーニャに届くより早く、無数の雷と氷柱が彼を砕いた。

128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 10:18:49.64 ID:5nu5LTwI0
全軍退却。

そのはずだったが、思わぬ敵がヘクトル達を阻んでいた。

フレアー将軍である。

彼はベルンの援軍が到着すると、レイヴァン達を避けるように迂回してアラフェン城に迫った。

レイヴァン、ケントを始め別働隊の主力は援軍の方に向かったので、アラフェン城を責めるのは容易だった。

130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 10:32:54.50 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「くそっ!正々堂々戦いやがれっ!」

フレアー(誰が当たるものか。時間さえ稼げば、本軍がやってくる。私はヘクトルを足止めするだけで良いのだ)

フレアー隊は徹底したヒットアンドアウェイ戦法で、ヘクトルの足止めに徹していた。

131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 10:37:53.76 ID:5nu5LTwI0
ヘクトルは包囲から脱出を試みるも、やはり野外の竜騎士は強かった。

そして、レイヴァン達の奮闘虚しく、一番恐れていたヘクトルとベルン本軍との邂逅が現実となってしまった。

ヘクトル「今あいつらとやり合うのはやべえ!お前ら!一旦城に引き上げだ!」

号令と共に城門が閉まる。

まずはオズインと力を合わせて、城内のナーシェンを倒す算段である。

133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 10:45:13.49 ID:5nu5LTwI0
だが、ベルンがそれを許すはずもない。

城門は呆気なく破壊され、城内はたちまち敵味方入り乱れる乱戦状態になってしまった。

ヘクトル(これは、負け戦さだな)

さしものヘクトルも、思わざるを得ない。

勝機も、逃げ場もない。

完全な、詰みである。

134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 10:49:44.88 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル(昔、アトスのじーさんは言った。ベルンより出ずる凶星は、リキアより出でし希望に討たれる)

ヘクトル(そいつは、俺じゃないのか)

ヘクトル(これが天命ってやつなのかもな)

135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 10:52:56.58 ID:5nu5LTwI0
ーー人形は、てめえ自身だ!ネルガル!

ヘクトル「人形はてめえだ、か」

ヘクトル(俺も天とやらの人形なのかもな)

ヘクトル(ムカつくぜ・・・)

137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 11:12:28.24 ID:5nu5LTwI0
猿さんくらった…

オズイン「ヘクトル様!」

ヘクトル「オズインか」

オズイン「どうされたのです、らしくもなく元気がないではないですか」

ヘクトル「お前・・・それこの状況で言うセリフかよ」

オズイン「ええ。もうヘクトル様の見納めかも知れないのです。いつものヘクトル様でいていただかないと」

ヘクトル「なんだよそれ!」

140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 11:31:32.87 ID:5nu5LTwI0
オズイン「ヘクトル様。男子の一生は、一編の詩の様なものです」

オズイン「男はその一生を賭けて、一つの芸術を作るのです」

オズイン「ヘクトル様。貴方はこれまで、素晴らしい詩を書いて来られた」

オズイン「常に傍らにいた私は、誰よりもそのことを知っております」

オズイン「その詩の最期を竜頭蛇尾で終わらせて欲しくないのです」

141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 11:46:36.33 ID:5nu5LTwI0
オズイン「このオズインの我が儘、聞いてはもらえませんか」

ヘクトル「・・・オズイン。」

ヘクトル「すまなかったな、オズイン。もう大丈夫だ。俺はヘクトル。例え勝てずとも、連中にひと泡吹かせてやる」

オズイン「それでこそ、です」

オズイン「私は貴方の詩の最期を見届けられれば、それで満足です」

ヘクトル「ああ。行こうぜオズイン」

オズイン「はっ!」

142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 11:58:04.39 ID:5nu5LTwI0
まさにその直後だった。

とてつもない轟音と共にヘクトルの視界が赤く染まった。

その光が収まるとつい先程までヘクトルの隣にいたはずのオズインは、床の焦げの上の人型でしかなくなってしまった。

ヘクトルの目でも追い切れない、灼熱の光線がオズインを襲ったためだった。

144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 12:14:32.76 ID:5nu5LTwI0
ヘクトルが目線を上げると、そこにはブルーニャ将軍と、三人の不気味な男達がいた。

ヘクトル「てめえらか。オズインをやったのは」

ブルーニャ「正確には、この者達が、ですわ」

ブルーニャは傍らの三人を見る

ヘクトル「そんな蝋人形みてえな連中にうちのオズインがやられる訳ねえだろう」

145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 12:21:54.76 ID:5nu5LTwI0
ヘクトルが蝋人形と言うのもムリはない。

痩せこけた身体に、蝋の様に白い肌。

顔はフードを目深に被っていて伺えないが、ピクリとも身動きしないその様はやはり不気味だ。

ブルーニャ「戦ってみれば解ります。お前たち!」

ブルーニャの命令で三人の蝋人形がフードを取るやいなや、三人の身体は激しい炎に包まれた。

147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 12:29:53.31 ID:5nu5LTwI0
そして姿を表したのは…

ヘクトル「竜・・・だと!?」

紛うことなき三頭の火竜がヘクトルの前にいた。

ヘクトルは竜と会うのは初めてではない。

かつての旅の最中に、竜人族ーマムクートの姉弟を助けたことがある

またその旅の最後に、火竜とも死闘を繰り広げたのだ。

148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 12:34:14.88 ID:5nu5LTwI0
ただ当時は、神将器という強力な武器と、頼れる仲間がいた。

それでも、仲間と力を合わせてやっと一頭の火竜を倒したのだった。

それが、三頭。

ヘクトル「冗談キツイぜ。ったく」

149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 12:40:17.11 ID:5nu5LTwI0
ヘクトル「おい、ブルーニャ。」

ヘクトル「こいつら、どこから連れて来た」

ブルーニャ「答えるとでも?」

ヘクトル「だろうな」

ブルーニャ「驚かないのですね」

ヘクトル「俺が驚くのは、娘が男を連れて来た時だけなんだぜ?」

ブルーニャ「なら安心なさい、オスティア侯。あなたが驚く機会は永久に訪れません。ゆけっお前たち!」

152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 12:52:18.92 ID:5nu5LTwI0
ヘクトルに三対の凶刃が迫る。

ヘクトル(見てるか、オズイン。俺の最期の戦いを)

ヘクトル(結果だけ見れば、俺は単なる天の人形だったかもしれねえ)

ヘクトル(だが、俺は、俺の生き様で、俺が俺であることを語った)

ヘクトル(それを理解してくれている人がいる。それで充分だ)

ヘクトル(充分なはずなのに・・・)


リリーナ・・・せめてもう一目。



そして、ヘクトルは炎に包まれた。

153: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/25(火) 13:00:04.54 ID:5nu5LTwI0
こうして、ひとつの時代が終わった。

ヘクトルは捕らえられ、ゼフィール王に晒された後に投獄された。

ベルン本軍がアラフェン城を去った後、エリウッドの代理でフェレ騎士団を率いるロイがベルンの駐屯兵からアラフェンを奪還。

その際、ヘクトルも救出されたが、傷は深く、ベルンが竜を復活させた事、その竜に対抗する武器がオスティアにある事。
そして最後に愛娘のリリーナの事をロイに託すと、息を引き取った。

その後ロイは一度は瓦解したリキア同盟を立て直し、後にベルン動乱と呼ばれるこの戦争に立ち向かうこととなる・・・。

引用元: テュルバン「汝の死に場所は戦場だ」ヘクトル「構わねえ