1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:28:36.24 ID:F6/vGNm50
女「やあ」

男「おう」

女「久しぶりに、隣だね」

男「え? 高校入って初めての席替えだろ?」

女「そうだけれど、中学で隣になっただろう?」

男「そうだったか」

女「ひどいなあ。ボクがこっちに越してきた時、隣だったじゃないか」

男「……覚えてねえ」

女「まあ仕方ないよ。席替えは、小学生の時から何度もやっていることだからね」

男「悪いな」

女「悪くないよ。君がたくさんの女の子と隣になって、惑わしてきたのだから、僕を忘れるのも無理はない」

男「おい、聞き捨てならんぞ」 



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:29:09.87 ID:F6/vGNm50
女「ボクも君に惑わされた一人だったんだね」

男「勝手な話をでっちあげるな」

女「   してあげる? しかたないなぁ……」

男「でっちだ。肩を見せるな」

女「出尻……」

男「でっちりだ、それは」

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:29:40.22 ID:F6/vGNm50
男「残念ながら俺はこの人生の中で一度も彼女ができたことがない」

女「愛人は?」

男「そんなのもっといねーよ」

女「未亡人は?」

男「いるはずがない」

女「友人は?」

男「いな……い、いる!」

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:30:21.02 ID:F6/vGNm50
女「へえ、誰だい?」

男「それは……えっと」

女「ふふ、いつも休み時間に一緒にいる男の子達かい?」

男「あいつらは……どうなんだろ」

女「おや、どういうことだい?」

男「つるんでるんだけども、友人と呼べるかどうか……」

女「ふむ。じゃあ、君には友人がいるのかい?」

男「いるよ」

女「誰だい?」

男「お前、とか」

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:30:51.19 ID:F6/vGNm50
女「……ああ、ボクか」

男「なんだ今の間は」

女「ちょっと、ね」

男「おい、どさくさにまぎれて脚を広げるな」

女「この、脚の間っていやらしくないかい?」

男「なんだその間は」

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:31:54.71 ID:F6/vGNm50
女「それにしても、君は優しいね」

男「急に話を変えたな」

女「友人ならぬ優人だよ」

男「うまくねえ」

女「キスのことかい? どんな味がするのかな?」

男「キスの味なんて知らん。あと、話を変えるのが唐突すぎるぞ」

女「へえ……」

男「その目はなんだ……」

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:32:42.49 ID:F6/vGNm50
女「ああ、気にしないでくれ」

男「口を拭ってるのが気になったぞ」

女「ふふ、気にしてくれるのかい」

男「危険な気がした」

女「ボクから溢れ出る  にかい?」

男「なんだそれ気持ち悪い」

女「ん、  の方が良かったかな」

男「やめろ、それ以上言うな」

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:33:13.65 ID:F6/vGNm50
女「……」

男「お前さ、変なこと言うなよな」

女「……」

男「……おい」

女「……」

男「わかった、もう喋っていいぞ」

女「ワンワン!」

男「犬か」

女「君がペットプレイを所望したんだろう」

男「してない」

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:33:44.33 ID:F6/vGNm50
女「猫が良かったかな」

男「……ちなみにどんな感じだ」

女「ニャーン」

男「くっつくな」

女「君がやれと言ったんだろう?」

男「くっついてくるとは思ってなかった」

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:34:34.85 ID:F6/vGNm50
女「好奇心というのは、良いことだよ。ボクも君のキツネプレイを見てみたい」

男「したことねーよ、そんなの。しかもキツネプレイってどんなんだよ」

女「コーン」

男「やらんでいい」

女「ごんぎつね……」

男「やめろ、目頭が熱くなる」

女「黄金ぎつね」

男「一気に高貴になったな」

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:35:11.80 ID:F6/vGNm50
女「おや」

男「あん?」

女「なんだかんだ、ほら」

男「ん、うおっ、もう陽が……」

女「君と話をしているとついつい時間を忘れてしまうよ」

男「放課後に話をするのも、考えもんだな」

女「そうかな。ボクは良いけれど」

男「でも、帰りが遅くなるだろ」

女「大丈夫だよ」

男「なんで」

女「だって、ボク達家も隣なんだから」

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:36:21.63 ID:F6/vGNm50
男「そうだけど、家の人、心配しないのか」

女「ふふ、ボクのこと、心配してくれるのかい?」

男「まあ、少しはな」

女「安心してよ。君と一緒なら、親も何も言わないから」

男「そうなのか」

女「それくらい信頼されているんだよ、君は」

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:37:08.21 ID:F6/vGNm50
男「まあ、それでもそろそろ帰るか」

女「うん。あ、でもちょっと待って」

男「ん」

女「君に渡したいものがあってね」

男「なんだ」

女「はい。大切な友人に、プレゼント」

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:38:21.13 ID:F6/vGNm50
ヤツが差し出したのは、遊園地の招待チケットだった。

男「なんだそれ」

女「遊園地のチケットだよ」

ヤツが笑いながら、俺にチケットを手渡した。

男「おい、一人で行けってのか」

お前は鬼か。空しさで爆発するぞ。

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:38:52.31 ID:F6/vGNm50
女「そんなわけ、ないよ」

スカートのポケットから、もう一枚チケットを出して、

女「ボクと行くんだよ」

平らな胸に手をあてて、言った。

男「お前とぉ?」

いきなりだな、おい。

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:39:25.28 ID:F6/vGNm50
女「いいじゃないか、友人なんだし」

男「そうだけども、なんで急に」

女「誘いなんて、基本急なものだろう」

確かに一理あるが。

こいつの場合、予告なしの誘いが多すぎる。

家が隣だからって、早朝にインターホン押してきて、開口一番「●●●……いや、遊ぼう」と言ってきたり。

隣町に行きたいとかなんとか、夕方頃に言われて出発したから、帰りが遅くなったり。

女「なんだか、唸っているみたいだね」

20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:40:00.94 ID:F6/vGNm50
小さい体を屈めて、俺の顔を窺う。

いつもよりはしっかりとした誘いだな。

男「別にいいぞ。いつ行くんだ」

女「よかった。日曜日はどうかな」

男「今度のか?」

女「もちろん」

混みそうだな。

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:40:35.24 ID:F6/vGNm50
男「日曜って言うと、次の日は普通に学校あるだろ。土曜の方がいいんじゃないか」

女「ダメ」

キッパリと断られた。

いつものヤツとは違って、言い方が鋭い。

女「どうしても、日曜がいいんだ」

男「なんで?」

女「なんとなく、ね」

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:41:07.53 ID:F6/vGNm50
どうしても日曜がいい理由がなんとなくって……。

結局確固とした理由は教えてもらえずにヤツは踵を返して、

女「さあ、帰ろう?」

ミニスカがヒラリと揺れる。見えそうで、ヒヤヒヤする。

男「わーったよ」

そういえば、遊園地なんて、何年振りだろう。

よく考えると、小学校以来かもしれない。

女「どうしたんだい?」

既に教室を出て、ヤツは廊下で俺を見ていた。

男「ああ、今行く」

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:41:54.54 ID:F6/vGNm50
わりと有名な遊園地の、無料招待券。

何故こんなものを、コイツが持ってるんだ?

女「そんなに見つめられると、 ●に穴があいちゃうよ」

男「あくかよ、そんなことで」

女「なんの●かな?」

ちょっと見ただけでこれである。

女「激しい視 で体が敏感になっているよ」

わざと体をビクビクさせるな。

24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:42:32.37 ID:F6/vGNm50
男「なんか、お前と遊園地に行くの不安だな」

女「ボクもだよ」

なんだと。

女「君が変な気を起こさないか、ちょっとね」

男「それはないから安心しろ」

女「どうしてだい?」

男「お前に興味ないから」

女「……」

急に黙りこむ。どうしたんだ。

女「まさか、同性愛者かい?」

男「違う!」

断じて違う!

女「だから彼女なんているはずがない……彼氏が……」

男「やめろ! そういうことじゃない!」

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:43:05.28 ID:F6/vGNm50
ちゃんとハッキリさせておこう。

男「俺はな、お前みたいなやつには興味が無いって言ってんだ!」

女「おや、それはどういうことだい?」

男「胸に手を当ててみろ」

女「? 了解した」

言われた通り、ヤツは胸に手を当てた。

男「それだ」

女「え?」

男「その、貧相で残念な胸がだ!」

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:43:40.26 ID:F6/vGNm50
女「!」

巨 を愛する俺は、堂々とやつのまな板を指摘した。

ヤツは後退り、口をあんぐりと開けた。

女「胸……か」

おい、自分で自分の胸を  な。

男「やめい」

女「そんな……君は巨 が?」

男「そうだ。俺は巨 派だ」

女「ボクだっていつかは」

男「虚 はお断りだ」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:44:13.59 ID:F6/vGNm50
女「……やっぱり、巨 が好きか」

さっきまでの驚きの顔から一転、すぐに笑顔に戻った。

なんだよ、その言い方。

女「でも、胸は小さいほうがいいよ」

男「自分を肯定しようとするなよ」

見苦しいぜ。

女「自 だよ、自 」

勘違いされるぞ、その言葉の選択。

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:46:02.18 ID:F6/vGNm50
男「じゃあとりあえず聞くが、なんで小さいほうがいいんだよ?」

女「肩こりをしない!」

男「……」

胸のせいでこったこと無いくせに。

そしてヤケにドヤ顔である。

なんか可哀想だぞ。

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:46:41.38 ID:F6/vGNm50
女「あと、すぐに脱げることかな」

男「は?」

女「障害がないからね」

ほら、と。

ヤツはいきなり制服を脱いだ。

女「ほら、簡単だろう?」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:47:28.46 ID:F6/vGNm50
男「何やってんだ! 早く着ろ!」

まさかと思い、俺は目を伏せた。

夏服だぞ!?

こいつ、いきなり脱ぐか? しかも外だぞ!?

女「どうして目を伏せているんだい? 興味が無いんだろう?」

ニヤリと笑った気がした。こいつ、楽しんでやがるな。

女「安心してよ、本気で脱いでないからさ」

男「……本当か?」

こいつだと上半身裸とか、平気でしそうだ。

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:47:59.19 ID:F6/vGNm50
俺は恐る恐る、目を開けた。

下から上へ、視線を移していくと、ヤツは変わらない様子だった。

女「おおげさだなあ」

声をあげて笑ってやがる。

男「……ん」

女「どうしたんだい? そんなにジロジロ見たら……」

胸元を見てみると、ブラウスのボタンが大幅に外れていた。

どうやら気づいていないようなので、指をさして教えてやった。

女「え……? あっ……」

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:48:51.26 ID:F6/vGNm50
顔を赤くして、俺に背を向けた。

女「も、もう、ダメじゃないか。外でこんなことをするなんて」

なんで俺を見ながら言う。

俺のせいになってるのか? 勝手だな!

男「俺のせいじゃねえよ」

それにしても、あんなにはだけてもブラジャーが見えないってのは、どういうことだ。

別に見たくないけどな。

女「ああ、バレてしまったなぁ」

男「ん、何がだよ」

女「ボクがノー  だって、バレちゃったね」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:49:21.54 ID:F6/vGNm50
男「……は?」

女「だから、ノー……」

男「いや、言わんでいい」

いきなり何をカミングアウトしてんだ。

女「ふふ、ちょっとナンデモ発言だったかな」

トンデモ、だろ。

34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:50:04.90 ID:F6/vGNm50
俺は、どうやら半無意識に頷いていたようだ。

女「ふふ……いやらしいなぁ、君は」

こっちの台詞だ。

……ムッツリなのは認めてやろう。

女「そうだね、そんなに気にしなくてもいいと思うよ」

男「答えになってないぞ」

女「ボクだって、言うのは恥ずかしいよ」

顔を逸らして、黙った。

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:50:36.29 ID:F6/vGNm50
俺も、その後は何も言及しなかった。

今更だが、下校中である。

女「……遊園地、楽しみかい?」

不意に、ヤツが口を開けた。

男「……まあな」

女「そっか」

振り向いて、微笑んできた。

女「ふふ、また時間を忘れてしまった。もう家だね」

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:51:20.26 ID:F6/vGNm50
男「そうだな」

女「それじゃあ」

男「おう」

ヤツは手を振って、俺の家の隣へ駆けて行った。

男「遊園地……か」

本当、久しぶりだ。

ポケットから取り出して、チケット見てみる。

男「ん……?」

よく見てみると、日曜日にはナイトパレードがある、と書いてある。

男「ははーん、なるほどな」

俺は得意気な顔をして、家のドアを開けた。

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:52:41.57 ID:F6/vGNm50
妹「遅い」

男「は~疲れた」

妹「あのさあ、いっつも言ってるじゃん。遅くなるならちゃんと言ってって」

男「この匂いは肉じゃがかな」

妹「大体お兄ちゃんはさあ」

男「うおっ、思ったより汗かいてるなぁ」

妹「……」

ジトーッとした視線が俺に突き刺さっている。

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:53:40.69 ID:F6/vGNm50
男「いやぁ~、あはは」

笑ってごまかしてみる。

妹「笑ってごまかしてもダメだから」

失敗。

妹「せっかく待ってた妹にただいまもないわけ?」

男「おーう、ただいま~」

妹「……頭撫でないでくれる?」

撫でていた手をはたかれた。

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:54:29.76 ID:F6/vGNm50
妹「本当に信じらんない! お兄ちゃん自分勝手過ぎ」

男「悪かったって」

妹「私だって色々言いたくないのにさぁ」

じゃあ言わなきゃいいのに。

妹「『言わなきゃいいのに』って思わなかった?」

男「は、はい?」

なぜバレた。

40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:55:43.46 ID:F6/vGNm50
妹「……肉じゃが冷めちゃうから、早く食べてね」

男「母さんは?」

妹「泊まりで仕事だって」

今日もか。

いつものことながら、俺と妹の二人か。

父は単身赴任なので、家にはいない。

ということは、肉じゃがは妹作かー……。

妹「なんでため息ついてんの?」

男「いやあ、なんにも」

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:56:18.06 ID:F6/vGNm50
またもやジロリと見られたが、妹は居間に移動した。

まったく、どうしてあんなにしっかり者になったのか。

別に嫌ではない。むしろ助かってるし。

世間の妹よりも恵まれているとも思っている。

妹「来ないなら片付けちゃうよー」

男「行く行くー」

ちょっとせっかちなのが、玉に瑕だが。

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:57:10.57 ID:F6/vGNm50
男「いただきます」

肉じゃがは、ちょっとじゃがいもが多めだった。

ちょっとというか、ほぼじゃがいもだ。

女「美味しい?」

男「ん……美味いな」

妹「ホント?」

男「母さんのには勝てないけどな」

妹「同じレシピなのに」

男「あーなるほどな」

43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 15:58:54.95 ID:F6/vGNm50
妹「何が?」

男「お前には足りないものがある」

妹「な、なに?」

机の真向かいから、身を乗り出す妹。

男「それは、愛だ!」

妹「……」

キラキラしていた目は、一気に濁った瞳に変貌した。

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:00:18.94 ID:F6/vGNm50
妹「はぁ……」

何故ため息を吐く?

妹「そんなさぁ」

男「甘くみちゃいけないぞ。やはりお前の味はまだまだだ」

妹「なんでお兄ちゃんに、私が愛を注がないといけないのよ!」

男「いや、俺にじゃなく、料理にだぞ?」

妹「えっ……」

妹は決まりが悪そうにして、

妹「そんなの……わかってるよ」

机に突っ伏して「話しかけるな」オーラを出し始めた。

よくわからん妹である。

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:02:31.16 ID:F6/vGNm50
テレビつけて、バラエティー番組を観ながら肉じゃがを箸でつつく。

妹「テレビ観ながらはダメってルールでしょ」

男「母さんいないからいいだろ」

妹「ふんっ」

バラエティー番組の笑い声だけが空しく響いた。

妹の沈黙に耐えかねた俺は、テレビを消して、じゃがいもにかぶりついた。

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:04:04.29 ID:F6/vGNm50
妹「あのさ」

突っ伏したまま、妹は声を出した。

男「あんだ?」

妹「日曜って、空いてる?」

日曜日。

男「あー、空いてないな」

妹「え?」

俺がそう言うと、妹は勢い良く頭を上げた。

男「空いてない。土曜ならいいんだが」

妹「……じゃあいい」

男「ダメなのか?」

妹「……いい」

47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:07:58.19 ID:F6/vGNm50
低い声で答えて、妹は座り直した。

男「みんな日曜がいいんだな。絶対に土曜日の方が次の日休みでいいのに」

妹「バカだね」

いきなり暴言吐きやがった。

男「ひでぇなぁ。というか、何するつもりだったんだ?」

妹「……言いたくない」

どうせ無理だから、と。

沈んだ声で言った。

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:09:39.14 ID:F6/vGNm50
ふむ。

素っ気ないな。思春期だろうか。

俺も、こういう時があったのだろうか。

男「そうかい。ご馳走様」

妹「おそまつさま」

男「おそ松くん?」

妹「無視するね」

無視すると宣言するスルーの仕方も、珍しい。

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:10:46.09 ID:F6/vGNm50
俺は台所に皿を持っていった後、そのまま自分の部屋に直行した。

男「……」

そういえば最近、妹の相手をしてなかったな。

というより、今日は何だか様子が変だったな。

急に雰囲気が変わったっつーか、なんつーか。

一言でいうと、暗い。

何があったのだろうか。

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:16:38.70 ID:F6/vGNm50
ベッドに横になっていたのだが、どうしても気になって、妹のもとに向かった。

俺の食器を洗っているだろうから、まだ台所かな。

階段を降りる足は、音を立てないように慎重な歩調だった。

一階に行くと、水の流れる音がした。

やはり、妹は台所で食器を洗っていた。

男「なあ」

声をかけるが、返事はない。

男「えーっと……土曜日にしてもらえるか聞いてみる」

妹「いいよ、そんなことしなくて」

こちらを見ずに、妹は言った。

男「でも、久しぶりにお前とどこか行きたいし」

ピタリ、と手が止まった。

妹「それは、女さんもそうだと思うよ」

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:19:17.20 ID:F6/vGNm50
……え。

なんでこいつ、アイツと予定があるって知ってるんだ。

男「お、おい、なんで……」

妹「だって、お兄ちゃんと遊んでくれる心優しい人なんて、女さんくらいしかいないでしょう?」

なんだと。

妹「ほんと、女さんに感謝だね!」

ササッと食器洗いを終え、こちらを向いて無邪気に笑った。

妹「お風呂入れといたから、入っていいよ」

男「お、おう」

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:20:46.93 ID:F6/vGNm50
そう言って、妹は二階に上がっていった。

急に、いつも通りに戻った。

俺のことをイジるのが妹のクセだ。

中にはグサリと来るいじり方もあるが、気にしない。

そして、俺は言われるがまま、風呂に入ることにした。

オンナってのは、よくわからない。

53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:23:16.07 ID:F6/vGNm50
女「生理だね」

男「……」

朝っぱらから頭がいなくなりそうなジョークだった。

男「真面目に答えろ」

女「ボク、生理なんだ」

男「お前のことかよ!」

俺の質問に答える気無しか!

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:24:14.12 ID:F6/vGNm50
女「だから起きた時から憂鬱だよ」

男「聞きたくねえ」

女「ドバーッと、ね」

やめろ! マジで!

女「なんて、冗談だけどね」

冗談でもシャレにならん。

下品を通り越し過ぎて、聞きたくない話になってるぞ。

女「ふふ、耳を塞ぐほど、嫌だったかな?」

55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:29:59.23 ID:F6/vGNm50
手を口に当てて、上品な笑い方をしてやがる。

似合わねえよ。

男「……なあ」

女「ん?」

男「遊園地、土曜日にできないか?」

女「えっ……」

男「お前が日曜に行きたいのはわかるんだけど、さ」

女「……どうして?」

まあ、聞いてくるよな。

56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:31:30.49 ID:F6/vGNm50
ヤツの顔から、微笑みが消えた。

男「妹に誘われてさ」

女「……」

顎に手を当てて、不満そうな顔をしている。

女「悪いけれど、それは無理だね」

やはりキッパリと、拒否られた。

女「先に誘ったボクを優先するのが、筋じゃないかな?」

58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:36:05.60 ID:F6/vGNm50
鋭い目で、こちらを睨んでいる。

男「そ、そうだけど……」

女「そうだけど、なんだい?」

……答えられない。

というか、そんなにナイトパレードに行きたいのか、こいつは。

俺が思ってたよりも、そういうの好きなタイプなのか。

男「……わかった。もうこの話は終わりだ」

女「ふふ、そうだね。それじゃあ、遊園地のアトラクションについて話そうか」

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:37:21.61 ID:F6/vGNm50
男「そうだな。やっぱりジェットコースターには乗りたいぜ」

女「へえ、君は絶唱系大丈夫なのかい?」

絶叫系だろ、それを言うなら。

男「わりとな」

女「そうか。ボクはやっぱり、 覧車かな」

男「おい」

それが言いたくて話題振っただろ。

女「ふふふ、すっごくいやらしいアトラクションだろうね」

スルーだスルー。

男「観覧車か……確か凄く大きいんだっけ?」

女「うん。乗ってる時間が凄く長いって有名だね」

61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:41:30.99 ID:F6/vGNm50
男「じゃあ、お前はミニスカダメだな」

女「おや、どうしてだい?」

男「せっかくの遊園地で、ハシャゲないじゃないか?」

女「うーん、見られたら興奮するから、息が荒くなっちゃうかも……ね」

よくねーよ。

男「そんなやつの隣にいたくねえよ」

まあ、こいつはいつもいつもミニスカートだし。

当日も、至極当然ミニスカだろう。

今の制服のスカートですら、短いんだから。

62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:44:33.95 ID:F6/vGNm50
女「遊園地って、ボクは家族としか行ったことがないから、とっても楽しみだよ」

男「そうなのか?」

女「それに、初めての相手が君だと思うと……うっ……ふぅ……」

男「その声はなんだ」

女「軽くイキかけたよ」

そういって、俺の耳に息を吹きかけた。

軽く息かけるな。

63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 16:57:47.83 ID:F6/vGNm50
男「ゾクッとしたぞ……」

やべ、鳥肌が凄い。

夏服だから、わかりやすいな。

女「あはは、耳、弱いんだね」

唇をなぞりながら、ニッコリと笑ってやがる。

女「ほら、こんなに」

鳥肌の立っているところに、サラッとまた触ってくる。

余計凄いことになった。

男「余計立つだろうが」

女「えっ……」

男「下を見るな」

そっちじゃねえよ。

66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 17:13:39.95 ID:F6/vGNm50
女「朝に立つのは自然のことなのだろう? おさめてあげよう」

男「そっちは立ってねーよ」

女「おや、何が立ってないのかな? 鳥肌は、立っているけれど」

「言ってないからボクは悪くない」とか思ってそうな顔だ。

そして、見方によってはしたり顔だ。

毎度毎度、変 である。

67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 17:17:24.36 ID:F6/vGNm50
男「そういうの、反応に困るからやめろ」

女「感じればいいんじゃないかな」

自分の無い をさすってやがる。

女「あっ……あっ……」

朝から全開だな。

アホか、こいつ。

68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 17:26:54.83 ID:F6/vGNm50
女「ふふ、朝からチャック全開だね」

男「えっ」

マジか。

女「……冗談だよ。開いてたらボクがしめてあげてるから」

大きなお世話だ。

女「案外、大げさなリアクションをするんだね」

口を両手で抑えて面白がっている。

腹立つ。

69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 17:33:59.98 ID:F6/vGNm50
こっちも、なんか言ってやる。

と言っても、オトコみたいに見てわかるような場所で、注意できるとこってないな。

夏服だってのに、色気がないやつだ。

あ、そうだ。

男「おい、ボタンが外れてるぞ」

と、冗談を言ってみた。

女「ん、おや本当だ」

男「はっ、冗談……っておい!?」

いきなりボタン外し始めたぞ!?

70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 17:41:08.26 ID:F6/vGNm50
女「あはは、よくわかったね。君がしめてくれないのか?」

男「なんで!?」

女「気づいた君にしめて欲しい……ほら」

不意に、ヤツは頬を染めた。

おそらく演技だろう。

朝の登校で、なんつー格好してんだ。

そしてなにより恐ろしいのは。

色気が……まったくない。

71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 17:46:10.23 ID:F6/vGNm50
男「やめろ、バカ」

女「残念」

頭をポンっと叩き、テヘリと舌を出した。

似合わねえ。

女「そういえば、今日は英語の小テストだね」

男「そうだったな」

……すっかり忘れてた。

女「ふふ、ちゃんと勉強したかい?」

男「やってねー」

女「じゃあ、一緒にヤろう。せっかく、早めに登校しているんだから」

字が気になったが、まあいいだろう。

早めに登校は、お前が早いせいだからな。

俺は遅刻ギリギリの登校でもいいと思ってんだから。

72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 17:49:41.97 ID:F6/vGNm50
変 でよくわからないやつだが、勉強はできる。

ああいうやつだからこそ、できるのかね。

一時限の英語まで、一時間ちょっとある。

本当に早いな……。

女「先生、今回は厳しくするって言っていたね。合格点は五十点中四十点だって」

男「高いな」

女「そうでもないよ。ヤッた内容なんだから」

……「ヤ」はデフォなのか。

73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 17:52:12.74 ID:F6/vGNm50
女「時間もないし、とりあえずは丸暗記がいいかもだね。ここからここまで」

男「多っ!」

女「口語表現だから、案外頭に入るさ」

そう言われてもなぁ……。

女「じゃあまず、これ。『Go ahead.』」

男「えーっと……」

見たことはあるんだけどな……。

女「許可を表す表現だね。『●●していいですか?』『Go ahead(どうぞ)』って感じかな」

例文がおかしいぞ。ダメだろ。断れ。そして捕まえろ。

女「これは? 『I miss you.』」

男「あー見たことあるけど……」

女「事後の    フレンドと仮定して、その関係が解消したとしよう」

は?

女「女性の方は、彼を忘れられない。そして、『I miss your peni』……」

男「やめろ、そこはもっと普通の例文でいいだろ」

76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 17:53:38.63 ID:F6/vGNm50
こんな感じで、俺はヤツを制止ばかりしていた。

全然頭に入ってない気がするんだが……。

そして、時間は英語のテストである。

男「……?」

Go ahead.

えーっと、『●●しても』……。

って、何言ってんだ俺は。

I miss you.

あなたのチン……馬鹿野郎。

77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 18:00:00.24 ID:F6/vGNm50
女「どうだった?」

男「良い感じだった」

驚いたことに、俺は全て確信を持って解くことが出来た。

女「良かった。ボクの   な教え方が功を奏したね」

下品な教え方だったと思うが。

中学生か、お前は。

それで覚える俺も俺だが。

82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 18:27:12.70 ID:F6/vGNm50
男「教えてくれたのは礼を言うが、あの教え方はやめろ」

女「遠回しに、また勉強しようっていってくれてるのかな?」

さあな。

女「うん、もちろん」

ヤツはニヤリとした。

女「英語だけじゃなく保健も教えてあげるよ」

男「それはノーサンキューだ」

84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 18:29:18.12 ID:F6/vGNm50
あっという間に学校は終わり、家までヤツとくだらない話をして帰った。

妹「あ、お兄ちゃん」

エプロン姿の妹が出てきた。

妹「今日は早いね」

男「お前に早く会いたかったから」

妹「はいはい」

簡単に流されちまった。むぅ。

85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 18:32:44.38 ID:F6/vGNm50
男「今日は何作ったんだ?」

妹「えっとね、餃子。お兄ちゃんも一緒にやってよ」

男「詰める作業?」

妹「うん。詰める作業」

メンドクセーッ。

妹「むぅ、そんな顔するならいいよーだ」

どうやら顔に出ていたようだ。

妹はベーッと下を出してそっぽを向いた。

86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 18:39:23.76 ID:F6/vGNm50
男「えーっと、日曜のことなんだけど」

俺は頭を掻きながら、妹の顔を見つめた。

妹「な、なに?」

そっぽを向いていた妹も、こちらを見つめた。

男「やっぱり、日曜じゃないといやらしい。ナイトパレードがよっぽど楽しみなんだろう」

妹「……ナイトパレードねぇ」

ハァ、と妹はため息を吐いた。

87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 18:41:45.98 ID:F6/vGNm50
男「それで、さ。土曜空いてるか?」

妹「なんで?」

男「一緒にどっかに行こうかなって」

妹「やだ。空いてるけど」

空いてるならいいじゃねえか。

男「お前がどうとかじゃなくさ、俺はお前と行きたいんだよ」

妹「なんでよ、気持ち悪いなぁ」

男「頼む、妹!」

どうして俺はこんなに一生懸命になってるんだろう。

88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 18:43:50.58 ID:F6/vGNm50
妹「……わかったから、土下座はやめて」

妹は困った顔をしている。

そして再びため息を吐いて、

妹「ただし、餃子を一緒に作ること」

俺に餃子の皮を差し出したのだった。

男「おう、任せろ」

89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 18:46:55.39 ID:F6/vGNm50
焼いてみると、恐ろしいくらい俺の妹の作った餃子の出来は一目瞭然だった。

妹「ぷぷ、汚い」

男「うるせー」

妹はニコニコしながら、俺が作った餃子を頬張った。

妹「形は違っても十分美味しいよ」

男「そいつはありがたい」

妹「やっぱり、愛が入ってるのかな」

90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 18:48:06.17 ID:F6/vGNm50
男「当たり前だ。うむ、美味い」

妹「じゃ、じゃあじゃあ」

ひょいっと、妹は自分の作った餃子を箸で掴み、

妹「私のは、美味しいかな?」

男「食べろと?」

妹「うん」

男「あーん」

妹「え?」

キョトンとした顔をして、首を傾げた。

91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 18:50:50.45 ID:F6/vGNm50
男「あーんしてくれなきゃ食べたくない」

妹「な、何言ってんの?!」

驚いた顔をして、まじまじと俺の顔を見た。

俺はその瞳に、精一杯熱い視線で答えた。

妹「そ、そんな顔しないでよぉ……」

俺の視線に弱ってしまい、少量のご飯をもくもくと咀嚼し始めた。

男「そうか、残念だ」

俺はわざと大げさに目を擦って、更に置かれた形の良い餃子を食べた。

男「うん、うん。ああー、うん」

とりあえず頷くだけ頷いて、大した感想を言わなかった。

大人げない? 知るか。

92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 18:53:51.73 ID:F6/vGNm50
食事を終えると、妹はすぐに食器を洗い始めた。

男「何急いでるんだ?」

いつもよりも、手の動きが早い気がした。

妹「明日の準備したいから、さ」

男「ふーん」

案外楽しみにしてくれてるようで、ホッとした。

でも、別に兄妹で出かけるだけなのに、マメなやつだ。

94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 19:06:57.10 ID:F6/vGNm50
ついには鼻歌まで始めやがった。

昨日の不機嫌な妹は、なんだったんだ。

まさか、本当に生……いや、なんでもない。

オトコの俺にはわからんことだ。

妹「~♪ ま、まだいたの?」

決まり悪そうにこちらを見ていた。

オトコ「悪かったな。部屋に行くよ」

妹「あっ……」

何やら声が聞こえたが、聞こえなかったフリをした。

95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 19:10:41.05 ID:F6/vGNm50
自分の部屋に入り、小さく伸びをする。

それと同時に欠伸が出て、ポロリと涙が落ちた。

男「さて」

明日は土曜日。妹と出かけるわけだが、どこに行こうか。

せっかくだし、何か買ってやりたい気もする。

可愛い妹のためなら、少しぐらい奮発しても構わない。

男「やっぱりショッピングモールかな」

昼も、更には晩も食べられるしな。

96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 19:17:08.66 ID:F6/vGNm50
とりあえず、明日着るものを決めよう。

あんまり服に気を遣わないので、私服は周期で同じ服を着ている。

しかしまあ、せっかく出かけるんだし。

なにかないかとクローゼットを開けてみた。

男「おお……結構あるな」

買った覚えのないジーンズやシャツなどが、どんどん出てきた。

99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 19:27:09.47 ID:F6/vGNm50
男「変に格好つけるのもなぁ」

無難な服を取り出して、クローゼットを閉めた。

妹と出かけるだけで、バカみたいに本気を出す必要もないだろう。

男「……」

無論、アイツの時もな。

妹「お兄ちゃーん、先にお風呂入ってねー」

100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 19:28:50.50 ID:F6/vGNm50
舌の階から、妹の声が聞こえた。

男「はいよー」

その前に、携帯を充電しておこう。

スクールバッグから携帯を取り出すと、ランプがチカチカと光っていた。

『着信一件あり』

男「……この番号は」

言わずもがな、アイツからだった。

言わずもがな、なのか?

いけね、気づかなかった。

急いでかけ直そうとしたが、よく見ると留守電が入っていた。

101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 19:32:21.58 ID:F6/vGNm50
女『やあ、ボクだ』

声しか聞こえないのに憎たらしい笑顔が想像できる。

女『君の声が聞きたかったのだけれど、なんだか恥ずかしくなったから、留守電にしたよ』

こいつはメールが苦手なので、基本的に電話が主流だ。

女『君の声がボクの  帯の耳に物凄く近い距離で話されたらと思うと……』

数秒息を荒くしたが、すぐに咳払いをして、

女『まあ、冗談は置いといて』

早くしろよ。

102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 19:39:08.92 ID:F6/vGNm50
女『明後日、ボクは一つの大きな決心をしようと思う』

いつもの声とは違い、真剣な声だ。

女『まあ、あんまり気にしなくてもいい。気にされると逆に困るしね』

じゃあなんで言ったんだよ。

女『ぶっちゃけるとここで出ておかないと、ここから遊園地までボクの出番がないかもだから』

男「ぶっちゃけるな!!」

ついつい、聞こえないのにツッコんでしまった。

メッタメタだ、こいつ。

103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 19:43:07.56 ID:F6/vGNm50
女『それじゃあ、遊園地楽しみにしてるよ』

そう言った瞬間、留守電は終了した。

これで三十秒? 嘘だろ……。

妹「お兄ちゃーん?」

返事をしたのに降りてこないことを心配したのか、もう一度妹が呼んだ。

男「悪い、今行く」

携帯を閉じて、俺は風呂に向かった。

107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 20:00:50.59 ID:F6/vGNm50
野郎の風呂に興味はないと思うので、描写は割愛する。

ぱんいちで居間に行くと、妹はいなかった。

男「あっちー……」

ソファに腰かけて、テレビをつける。

手を団扇代わりにしながら、チャンネルを変えまくった。

男「……おっ」

洋画だ。とりあえずこれを観とくか。

男「……ふわぁっ」

108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 20:02:15.52 ID:F6/vGNm50
俺は、いつ寝ていたのだろう。

男「ん……」

気づくと隣に妹が座っていた。顔が赤い。

首のタオルと湿った髪を見るに、風呂に上がったばかりのようだ。

服も薄着のキャミソールになっていた。

妹「お、おはよ」

男「あー……」

109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 20:08:38.90 ID:F6/vGNm50
俺は欠伸をして、首を回した。

いつの間にか、テレビが消えている。

妹「で、電気もったいないから、消した、よ」

男「そっか。ありがとう」

妹「う、うん……」

……ん?

なんだ? 妹の様子がおかしい。

110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 20:22:32.71 ID:F6/vGNm50
さっきから、やけに俺に近いし。

男「妹?」

妹「な、なに!?」

男「?」

なんだ、この反応。

風呂あがりだから、顔が紅潮している。

男「なんかあったか?」

妹「え、な、なにが?」

目がめちゃくちゃ泳いでる。謎だ。

111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 20:26:14.19 ID:F6/vGNm50
男「お前、様子が変だぞ。大丈夫か?」

妹「だ、だいじょうびだよ!」

噛んだぞ。

男「顔も赤いし、熱でもあるのか?」

額に手を当てると、目を見開いて俺から離れた。

妹「熱ないから! 大丈夫だから!」

そう言って立ち上がり、急いで居間を出ようとするが、足がもつれてコケた。

妹「へぶっ」

113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 20:30:22.56 ID:F6/vGNm50
男「おいおい……」

俺も立ち上がって、ゆっくりと妹の方に向かおうとした。

だが、寝起きのせいか上手く歩けず、俺もコケちまった。

男「うおっ!」

妹「きゃっ!?」

妹の上に乗っかる形になった。

すかさず手を床について、一応ぶつからずにすんだ。

114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 20:35:16.58 ID:F6/vGNm50
妹「ああああっ……!」

男「!?」

体を硬直させ、口をぽっかりと開けた妹が、俺の目の前にあった。

妹「は、はにゃれて……!」

噛みつつ、喉から絞るように声を出した。

男「ご、ごめんな」

俺は妹の上から退いた。

116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 20:41:46.89 ID:F6/vGNm50
妹はハァハァと荒げた息を整えて、

妹「バカァ!」

叫んで、猛ダッシュでドアに一度ぶつかりつつ、階段を上がっていった。

まあ、そう言いたくなるかもな。

男「……あっ」

今気づいたんだが。

俺、ぱんいちじゃん。

118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 20:49:20.08 ID:F6/vGNm50
土曜は、妹に起こされることなく、起きることができた。

アラームよりも五分早い起床。うん、いいね。

台所にいくと、まだキャミソール姿の妹は、既に食事の準備をしていた。

男「おはよう」

妹「……おはよ」

まあ、こんなもんだろう。

兄にぱんいちで乗っかかられたんだからな。

119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 21:09:10.91 ID:F6/vGNm50
男「昨日は、悪かったな」

妹「気にしてないから、大丈夫だよ」

と、口では言っていたが、朝食に影響が及んでいた。

卵焼きはいつもより焼きが甘かったり、味噌汁は濃かったり。

しかし、俺は全部たいらげた。

男「う、美味かっ……た。ごちそうさま」

味噌汁が濃すぎて、正直ヤバかったけど。

121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 21:22:17.98 ID:F6/vGNm50
吐き気を抑えつつ、台所に皿を運ぶ。

妹「そこに置いといて」

男「おう」

今日も両親は帰っていない。

いつものことだから、気にしないけど。

妹「お昼は外で食べる予定?」

男「うん。もちろん、俺の奢りだぞ?」

妹「当たり前じゃん」

にひひ、と笑っていやがる。

122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 21:23:41.44 ID:F6/vGNm50
妹「じゃあ、着替えてくれば? 私色々することがあるし」

男「おう」

妹「言っておくけど、いつもみたいに同じ服はやめてよね」

もちろん、わかっているさ。

その代わり、妹も可愛い服にしろよ?

妹「うん、わかってるよ」

!? 心を読まれた……?

妹「そんなわけないよ」

そ、そうか。それならいいんだが……。

124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 21:25:53.70 ID:F6/vGNm50
男「……こんな感じで」

うーむ、まあいいかな。

自分で自分を褒めることは流石にしないが、まあ普通だろう。

見られても多分おかしいとは思われない着こなしなはず。

男「よっし」

妹「お兄ちゃーん、あと洗濯物干したら出れるから、先に外出ててもいいよー」

男「おうー」

色々ってのは、家事のことか。

お言葉に甘えて、外に出ておこう。

125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 21:30:05.09 ID:F6/vGNm50
外はとにかく暑い。雲ひとつない快晴だった。

ある意味最高で、ある意味最悪の天候だ。

久しぶりに妹と出かけることも楽しみだが、妹の私服も楽しみだ。

ガチャっと、家のドアが開いた。

俺はドアに背を向けていたので、振り向くと、そこにはもじもじとしている妹がいた。

妹「お、おまたせ」

男「……そんな服持ってたのか」

妹「う、うん。変じゃない?」

妹はドアの鍵をしめながら、聞いてきた。

126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 21:32:22.98 ID:F6/vGNm50
男「可愛いよ。よく似合ってる」

こいつ、自分に合うものを熟知しているな。

自分の妹ながら、あっぱれだ。

妹「……」

ドアの方を向いて、少し沈黙があった後、こちらを振り向いた。

男「俺のはどうだ?」

妹「えっとね、地味」

地味にヘコむ。

127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 21:34:45.13 ID:F6/vGNm50
妹「でも、お兄ちゃんらしくて……その……」

男「ん?」

声が小さくて聞こえん。

妹「なんでもないっ、行こ行こっ」

男「おう」

今回がアイツメインの話だったか、妹メインの話だったか忘れ始めているが、なるようになるさ。

おっと……メタな話は控えないとな。

128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 21:39:13.97 ID:F6/vGNm50
ショッピングモールはたくさんの人だかりができていた。

土日限定のイベントだの、割引だので、人がいつもより多い。

まあ、休日ってのも大いに関係しているだろうけど。

男「まずはどこ行く?」

妹「んーっ……どうしようかな」

妹の視線は確実に洋服屋に釘付けだった。

でも、たびたび俺の方に視線をやって、うんうんと悩んでいる。

男「洋服屋なんてどうだ」

妹「え?」

男「もしかしたら、安くなってるかもしれないしさ」

妹「……うんっ!」

俺に気を遣うなよ、妹。

129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 21:42:32.08 ID:F6/vGNm50
だが、前言撤回したいレベルの店だった。

周りは女性ばかりで、経験したことのない、たくさんの視線を感じた。

「どうしてオトコが?」という無言の圧力を感じる俺とは裏腹に、妹は上機嫌だ。

妹「うわー! すっごいね!」

男「そ、そうだな」

確かに、凄い視線だ。

妹「たくさんあって、見応えありそう!」

男「う、うん」

見られ応えは、無いけどな。

131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 21:47:17.01 ID:F6/vGNm50
妹「あ、これ可愛い」

だんだんと慣れてきた俺は、妹と服を見られるくらいに成長した。

妹から離れたら、視線に耐えられずに即死しそうだ。

妹「ねえねえ、これなんかどう?」

男「どうって」

妹「私に似合うかなぁ?」

男「試着してみないとわからんな」

妹「じゃあ、してもいい?」

男「もちろんだ」

132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 21:51:42.75 ID:F6/vGNm50
と、快くOKしたが、これは間違いだった。

妹「じゃあ、待っててね!」

シャーっとカーテンをしめて、妹は試着室へ。

……あれ?

今、俺一人じゃん?

周りを見渡すと、女性、女性、女性……。

試着室前で待機している男性。

俺、怪しいだろうなぁ……。

133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 21:56:19.43 ID:F6/vGNm50
普通、カップルの一組二組いてもいいだろう!

妹「おまたせー。どう?」

男「お、おう……」

妹の再登場は、俺を救う女神のように思えた。

男「妹、最高だよ!」

再び降臨してくれて、ありがとう!

妹「うえっ……あ、ありがと」

134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 22:09:01.86 ID:F6/vGNm50
男「気に入ったか?」

妹「あ、あのさ、ちょっと顔怖いよ?」

おいおい、こんな超絶スマイル見せたことないぞ。

妹「気に入ったけど、よく見ると値段が凄くて……」

ほら、と言って値札見せてきた。

確かに高い。

俺が買う服とは雲泥の差である。

男「そうだな、とりあえず着替えたらどうだ?」

妹「そうだね。ちょっと待ってて」

135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 22:16:01.36 ID:F6/vGNm50
妹は今日着てきた服に戻って、ため息をついた。

妹「次はちゃんと値段を見て買わないとね」

男「……」

俺はその場にあったカゴに妹の持っていた服をつっこんだ。

妹「え?」

男「これだけでいいのか?」

妹「え……お、お兄ちゃん買ってくれるの!?」

男「おう、もちろん」

136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 22:20:26.86 ID:F6/vGNm50
妹「だ、ダメだよ! コレ……」

男「でも、気に入ったんだろ?」

妹「そ、それは……」

顔を曇らせる妹。

男「大丈夫だって。日曜俺が付き合えないから、せめてもの埋め合わせさ」

妹「……わかったよ」

不満気な顔は変わらなかったがとりあえず了承してくれた。

139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 22:26:32.55 ID:F6/vGNm50
妹はなぜかご機嫌ナナメだ。

男「妹?」

妹「……」

返事はない。

男「嫌だったか?」

もしかして、他の服の方が良かったとか?

妹「……ぷふっ」

男「?」

妹「そんなに心配そうな顔しないでよ、みっともないなぁ」

小悪魔のような笑い方をして、腹を抱えていやがる・

こいつ、策士か。

141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 22:39:19.81 ID:F6/vGNm50
妹「もうこうなったらとことん甘えちゃうよ!」

男「ま、マジかよ!」

明日も使うからちょっとは我慢も必要だぞ!?

妹「もちろん! ほら、いこー!」

腕を抱かれて、グイグイと引っ張られる。

は、恥ずかしいぞ!

妹「次は、ここ!」

男「……へ、ここオトコ向けの洋服屋だぞ?」

妹「だからこそだよ」

妹は頬を膨らませて、言った。

妹「明日おでかけするんだから、しっかり決めなきゃダメでしょ!」

男「妹……」

なんて良いやつなんだ、お前は!

142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 22:45:22.68 ID:F6/vGNm50
というわけで、明日用の服を買った。

そして、今はファミレスで食事中である。

妹「お兄ちゃんお兄ちゃん」

男「ん?」

妹「あーん」

男「は?」

妹「して欲しいって、言ってたでしょ」

そうだけども……。

恥ずかしすぎるぞここでは。

146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 23:00:26.90 ID:F6/vGNm50
急に人懐っこくなりやがって。

可愛いなあ、こいつは!

男「それなら敢えて、俺にあーんさせろ」

妹「へ?」

男「俺はあーんされたいしあーんしたい。だからさせろ」

妹「ちょ!?」

あからさまに驚いている。

ふはは、こんな辱め、嫌だろ?

妹「しょ……しょうがないなぁ……」

へ!?

147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 23:04:16.38 ID:F6/vGNm50
うそ!? やらせてくれるのか!?

妹「は、恥ずかしいから……ささっと、口に入れてね?」

口を開ける。目を閉じる。

……いや、目を閉じる必要はないんだぞ、妹。

ハンバーグを一口サイズに切って、息を吹きかけて冷ます。

男「いくぞ……あーん」

妹「あ、あーん……」

ハンバーグが唇に触れると、一瞬ビクッとしたあと、口を大きく開けた。

妹「あむっ……」

149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 23:10:46.57 ID:F6/vGNm50
ゆっくりと噛んで、飲み込んだあと。

妹「美味しかった……よ」

照れた顔で、そう言った。

男「そ、そうか」

なぜか、俺まで照れちまった。

妹「え、えっと……た、食べよっか?」

男「そ、そうだな……」

な、なんつーか。

結局、めちゃくちゃ恥ずかしいんだな。

する側も、される側も。

150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 23:16:12.35 ID:F6/vGNm50
その後も、色々と付き合ってやった。

気づけばもう、夕方だった。

妹「夕日綺麗だねー」

空に手をかざして、妹はふふっと笑った。

男「ああ、そうだな」

今日は色々回って疲れたけど、楽しかったな。

妹と出かけるのも、悪くない。

妹「は~、もう終わりか~」

男「残念か?」

妹「うん、とっても」

151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 23:20:29.35 ID:F6/vGNm50
男「俺もだ」

妹とか、そんなこと考えずに彼女と付き合うのは楽しかった。

妹「そっか」

一歩ずつゆっくりと歩く妹に、後ろからゆっくりとついていく。

妹「ねえお兄ちゃん」

男「ん?」

妹「なんかさ、デート、みたいだったね」

男「……え」

154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 23:26:10.84 ID:F6/vGNm50
いきなり何を言い出すんだ、コイツは。

確かにそれっぽいかもだけども。

おい、ちょっと待て。

なんでこっちに寄ってくる!?

妹「デートの終わりってさ、その……」

瞳は潤み、唇が震えている。それがわかるくらいに、妹の顔は近づいてきた。

目を閉じて、唇をすぼめさせて、何かを待っている。

何かを――。

155: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 23:29:12.34 ID:F6/vGNm50
まったく。

何を考えてんだか。

今日だけだからな。

甘えるにしても、度を越すと酷いもんだな。

妹「……」

俺は唾を飲み込んだ。

妹の両肩を、ゆっくりと掴み、そして……、

妹「本気でするつもり?」

男「!」

156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 23:33:52.87 ID:F6/vGNm50
妹「お兄ちゃん、もしかして本気になっちゃった?」

くっ!?

こいつ、また俺を……!

妹「へへーん、また騙されたね!」

ニヤニヤとこちらを見ている。

男「お前なあ……!」

妹「すぐに騙されるのが悪いんだよーだ!」

こいつ、許せん。

158: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 23:39:04.83 ID:F6/vGNm50
男「おーい、妹?」

妹「なーにっ? おバカなお兄ちゃ……んむっ!?」

調子に乗った妹に。

振り向きざまキスをした。

さあ、殴るなり蹴るなりなんでもしろ。

その代わり、俺にキスされたことは変わらないからな!

妹「……」

ん、なんだ?

妹は、唇を指先で触って、

妹「……ばか」

小さく、呟いた。

159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 23:41:06.21 ID:F6/vGNm50
なんで俺は、ときめいているのだろう。

おいおい、妹だぞ?

妹「お兄ちゃんの……ばか!」

また言われた。

今度は強めに。

しかも最後に「ふんっ」とか言って。

妹よ、俺をどうするつもりだ。萌え殺す気か。

161: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 23:44:14.39 ID:F6/vGNm50
その後、早足で、俺と一緒に帰るのを拒んだ。

妹「……」

男「悪かったって」

妹「本当に思ってる?」

俺はすかさず頷く。

妹「じゃあ、ほら」

男「なんだ、その手は」

俺の方に、手を差し伸べてきた。

妹「手ぐらい、繋いでよ」

……ああ、もちろん。

162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 23:48:26.10 ID:F6/vGNm50
妹「家まで歩くと、もう真っ暗だね」

男「そうだな」

夜空にはキラキラと星が輝いている。

妹「キレーイ」

男「それに、月も綺麗だ」

妹「そーだねー」

妹が、更に強く手を握った気がした。

だから、握り返した。

妹「! ……えへへ」

歯をチラッと見せて、ハニカンだ。

星空と、妹の笑顔はそりゃもう合わせて素晴らしかった。

163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 23:54:11.60 ID:F6/vGNm50
と、ここでみんなにお知らせがある。

スレタイを確認して欲しい。

さっきまでは、ただ妹と戯れていただけに過ぎない。

本編とは、正直関係ない。

しかしまあ、ヒロインではなくてもサブヒロイン的な立ち位置なのだから。

優遇されるのは、仕方ないのかもしれない。

さて、それでは本編に戻ろう。

妹「お兄ちゃん、起きてー!」

164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/13(土) 23:57:53.53 ID:F6/vGNm50
次の日、である。

妹と仲良くなりすぎて方向性を見失った土曜の、次の日。

男「おい、なんで部屋に入ってるんだ」

妹「いいじゃ~ん♪」

調子がいいな、コイツ。

昨日のことを考えると、まあ、部屋に入るくらい別にいいか。

165: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 00:02:19.76 ID:07VMIq5N0
妹「早く起きて朝食食べなよっ」

男「わかったよ。まったく」

でも、悪くないな、こういうのも。

懐いてくれたのは、とても嬉しい。

言われるがまま、俺は階段を降りて居間に……。

女「やあ」

166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 00:02:50.13 ID:07VMIq5N0
男「え……」

女「おはよう」

なんでいる?

妹「ほら、早く起きてよかったでしょ?」

男「もっかい寝る!」

妹「え、ちょっと!?」

男「これは夢だ! 間違いない!」

女「夢じゃないよ、ほら」

おい、俺の手をおもむろに掴んで何する気だ。

女「ほら、感触があるだろう?」

そう言って、俺の手を頬に接触させた。

サラリとしていて、柔らかい感触。

男「……って、やめろ」

167: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 00:08:17.36 ID:07VMIq5N0
女「ふふっ、お目覚めかな?」

男「ああ、とっくに覚めてるぜ」

妹「え、えっと……パンでいい?」

あたふたした妹が、聞いてきた。

男「悪いんだけど、ご飯にしてくれ」

女「じゃあボクも」

はぁっ!?

なんでお前も食うんだ。

168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 00:13:41.50 ID:07VMIq5N0
女「そんな人を喰うような顔で見ないでくれよ」

見てねえよ。

妹「女さんもご飯ですね。わかりました」

男「おいおい、こんなやつに出すメシなんてないだろ」

しかもなんでこいつパジャマなんだよ。

起きてすぐにこっちに来たんじゃないだろうな。

女「正解」

なっ、心を読まれた!?

女「読んでないよ」

なんだ、気のせいか。

169: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 00:17:59.55 ID:07VMIq5N0
妹「お兄ちゃん、そんな言い方はないでしょ。女さんはもうほぼ家族みたいなもんなんだから」

隣の家ってだけじゃねーか。

男「それは言い過ぎだろ」

妹「今の高校に入れたのは誰のおかげ?」

男「……」

確かに、こいつの助けがあったからだ。

170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 00:23:49.34 ID:07VMIq5N0
女「はは、それは彼自身の頑張りだよ」

ヤツは苦笑いをして、

女「ボクは手取り足取り教えてあげただけさ」

ね、と言いながら俺に微笑みかけた。

お前は先生か。

妹「あはは、お兄ちゃん生徒みたい」

ほっとけ。

171: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 00:30:47.91 ID:07VMIq5N0
妹は昨日余分に作っていた味噌汁を温めている間、女に質問責めしている。

妹「お兄ちゃんをぎゃふんと言わせる方法ってありますか?」

おい、何を聞いているんで妹よ。

女「簡単だよ。●●●をガッと掴めばいい」

男「俺の前でそんな質問をするな。答えるな!」

しかも●●●をガッとって、悶絶するぞ。

172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 00:32:03.89 ID:07VMIq5N0
妹「あ、あの、女さん」

女「なんだい?」

妹「お兄ちゃんの●●●って、何処ですか?」

男「」

女「」

まさか、コイツも絶句とはな。

女「あはは、ちょっと、いいかな?」

俺に手招きをして、外に出るよう促している。

応じて、ヤツと一緒に居間を出た。

173: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 00:37:21.85 ID:07VMIq5N0
女「彼女には、こういう言葉はわからないのかな?」

男「いや、伏せたからわからないだけだと思う」

実はムッツリで、無知のフリをしている可能性もある。

女「そうか……伏せずにちゃんと教えたほうがいいかな?」

男「言わんでいい」

女「ふふっ、妹くんにも優しいんだね」

174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 00:41:56.58 ID:07VMIq5N0
男「あん?」

お前に優しくしてるつもりはねえけど。

女「いや、なんでもないよ。これからは、彼女の前では控えるよ」

男「いつも控えろよ……」

女「なんだか、こんなところに二人だと、ナニか起きそうだね」

起きねえよ。

175: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 00:47:28.51 ID:07VMIq5N0
女「妹くんが近くにいるのに、こんなところで……」

男「居間に戻るぞ」

女「うん、いいよ」

ニッコリと笑って、俺の後をついてきた。

そ妹して、居間に戻ると、妹がそわそわしながら、

妹「なにを話してたの?」

男「いや、別に」

女「秘密さ」

ややこしくなるからやめろ

妹「えー! 気になる!」

ほら、喰いついてきたじゃねーか。

176: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 00:52:05.08 ID:07VMIq5N0
結局、本当にヤツはメシを食い、「またあとで」と、準備をするために家に戻っていった。

男「……さて」

俺もそろそろ、準備するか。

もちろん、着るのは昨日妹と買った服だ。

男「……うん、まあ」

妹に誉められたのもあって、なんだか似合っている気がする。

自意識過剰だな、バカみてー。

178: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 00:56:09.72 ID:07VMIq5N0
男「じゃあ、行ってきまーす」

妹は今日、家にいるらしい。

そりゃそうだな。予定空けてたんだし。

妹よ、思う存分遊んでくるぜ。

男「それにしても」

遅いな、アイツ。

いつもなら、絶対に先に来ているはずなのに。

179: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:07:05.08 ID:07VMIq5N0
女「……えっと、来たよ」

男「……」

まだかあいつは。

女「あ、あの?」

男「遅いなぁ……」

女「な、なんで無視するんだい?」

男「……お前は誰だ!」

180: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:10:09.90 ID:07VMIq5N0
女「ぼ、ボクはボクだよ?」

男「そんなはずねーだろ!」

アイツがアイツが……

短いスカートじゃなく、長いスカートを穿いているなんて!

長いスカートというか、ワンピース!

こいつは、偽者だ!!

女「……」

しかもなんだその表情は!?

なんでしおらしくなってんだ!!

181: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:12:01.63 ID:07VMIq5N0
女「えっと……?」

男「おい、そんないきなり変わられてもこっちは反応に困るぞ」

女「え、ご、ごめんね」

なんなんだよぉ!?

調子狂うなぁ!

男「……とりあえず、行くぞ」

182: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:14:33.74 ID:07VMIq5N0
一昨日の留守電で言っていた「決心」って、まさかこのワンピースのことか?

それにしたって、他にも変化がありすぎる。

いつも笑っている顔はおどおどとして。

饒舌な口は、噤んでいる。

まるで、別人だ。

女「さっきから気になっていたんだけれど」

男「な、なんだよ」

ゆっくりと近づいてきた。なんだ、いつもみたいにボケるのか?

女「寝癖、ついてるよ」

そういって、背伸びして直そうとしている。

もう一度言う。

まるで、別人だ。

183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:16:07.30 ID:07VMIq5N0
女「ふふっ、直った」

男「……」

女「勝手に直して、嫌だった?」

男「いや……」

直したことに関しては、特に何も思っていないけれど。

本当にどうしちまったんだ、コイツ。

184: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:16:53.47 ID:07VMIq5N0
男「い、行こう」

女「うんっ」

しかし、俺が歩き出しても動く気配がない。

男「どうした?」

女「ううん、気にしないで。ちゃんとついていくから」

まあ、そういうなら、と思い、俺は再び歩き始めると、その数歩後に歩き始めた。

185: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:18:36.04 ID:07VMIq5N0
男「おい、なんのつもりだ」

女「え……?」

どうしてそんなに怯えてんだよ。

キャラチェンジにしたって、ほどがあるぞ。

男「そんなに離れたら、遊園地ではぐれちまうだろ」

女「そ、そうだね」

ごめんなさい、と。

深く頭を下げた。

186: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:19:18.45 ID:07VMIq5N0
女「ど、どこにいればいいかな?」

なんでいちいち聞く。

男「隣に来いよ」

女「うん」

やっと、ヤツは俺の隣に来た。

一人分の距離を置いてだが。

なんなんだ、本当に……。

187: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:20:15.05 ID:07VMIq5N0
男「……楽しみだな、遊園地」

奴がまったく話さないから、しかたなく俺から声をかける。

女「うん」

反応が薄い。

男「あのなあ、もうやめろよ」

女「えっ?」

なんで本当にわからないみたいな顔してんだよ。

188: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:25:54.22 ID:07VMIq5N0
女「ボク、変かな?」

……ああ、変だよ。

いつも変だが、今はもっと変だ。

男「……なんでも、ない!」

俺は、自然とため息を吐いた。

気にしないことにする。

遊園地を、純粋に楽しんでやる。

189: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:26:23.82 ID:07VMIq5N0
遊園地は、やはり人がたくさんいた。

子どもから大人まで、みんなワクワクしている。

俺もワクワクだ。

この気持ち、久しぶりだ。

女「……」

しかし、ヤツはまったくワクワクしていないみたいだった。

男「何に乗る?」

女「ま、まかせるよ」

男「……わかった」

190: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:28:02.58 ID:07VMIq5N0
とりあえず、ジェットコースターの列に並ぶ。

男「結構並んでるな」

女「……」

黙って頷いた。

下を向きながら、何も言わない。

男「……えーっと、今日はロングスカートなんだな」

女「そ、そうだね」

男「珍しいな」

女「そうかな」

俺は、お前のミニスカ以外の私服を見るのは、おそらく初めてだぞ。

191: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:33:10.75 ID:07VMIq5N0
いつもは近すぎるといってもよい俺とヤツとの距離は、まだすこし離れている。

男「列、動いたぞ」

女「うん」

なんだってんだよ、本当に。

笑いもしねえ。ずっと、不安そうな顔だ。

なんか、ギコちねえ。

192: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:33:41.14 ID:07VMIq5N0
ゴオッと、ジェットコースターは滑っていく。

男「うおおおお!」

この感じ、たまらん!

そして、ヤツは。

女「~!」

声はあげていなかったが、ビックリはしているようだった。

193: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:34:54.39 ID:07VMIq5N0
ゆっくりと減速していくジェットコースター。

女『ふふ、興奮して  てしまったよ』

いつもなら、こんなことを言うはずなのに。

女「ビックリ、したね~」

なんの変哲もない、感想だった。

しかも、なんか語尾を伸ばしていやがる。

……はは、何考えてんだ俺は。

これで、いいじゃないか。

今の方が、普通でさ。

194: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:36:47.72 ID:07VMIq5N0
次のアトラクションを探すために、歩いている。

男「遊園地のアイス、美味しいらしいぞ」

女「へえ」

男「買ってきてやるよ。ベンチに座って待ってろ」

女「うん」

アイスなんて、食いたいと思ってなかった。

ただ――。

ただ、アイツから少し離れたかった。

195: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:37:48.57 ID:07VMIq5N0
勝手だな、俺は。

いつものヤツを否定していたのに。

今のヤツも、否定している。

だったら、いちいち誘いに乗らなきゃいいのに。

男「……」

アイス、買わねーと。

196: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:38:53.11 ID:07VMIq5N0
人気のあるらしいアイスは、やはり列も往々にして長かった。

気温が暑いのも、行列の理由なのかもしれない。

しかし、俺はこの列ができるだけ、長く続けばいいと、思った。

出来る限り、長い間……。

でも、そう考えると早く過ぎていく。

光陰矢の如しってのは、こういうことを言うのだろう。

197: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:41:32.11 ID:07VMIq5N0
一番人気のバニラを二つ買い、ヤツの座るベンチに向かった。

俺は、できるだけゆっくりと歩くようにした。

だが、アイスには時間制限がある。今日は暑いから、早くいかないと。

ベンチにちょこんと、ヤツは座っていた。

さらに――。

見知らぬオトコが、数人。

198: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:42:02.49 ID:07VMIq5N0
男「誰だ……?」

遠目からじゃ、良くわからない。

女「……!」

だんだん近づいていくと、よくわかった。

あれは、荒手のナンパだ。

アイツは凄く抵抗していた。それは、俺じゃなくても、誰でもわかるだろう。

199: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:45:05.07 ID:07VMIq5N0
おいおい、やめとけよお兄さん達。

そんなやつナンパするなら、もっといい女の子は、いるはずだぜ。

遊園地になら、女の子だけで来てるグループもいるはずだし。

そんな下ネタバンザイなやつ、あんた達、引いちまうぜ。

胸も小さいし、一人称も変で、人のことをいつもおちょくってるようなやつだ。

何一ついいところなんてないんだぜ。

だから言ってやる、あんた達のためにも。

男「俺の彼女が、何かしましたか?」

200: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:46:20.51 ID:07VMIq5N0
アイスクリームを二つ、片手に持ちながら、俺はオトコ達に声をかけた。

女「!」

俺の登場で、オトコ達は何も言わず退散していった。

男「うおっ」

その時、一人が俺の肩にぶつかって、アイスクリームを一つ落としちまった。

男「だーっ!? さ、最悪だっ!」

結構高かったんだぞ!

……って、それよりも、アイツは無事か?

男「おい、大丈――」

その刹那。

アイツは俺に抱きついてきた。

201: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:47:56.44 ID:07VMIq5N0
女「怖かった……怖かった!」

男「そ、そうか」

少しの間、ずっとそうしていた。

やがて離れて、彼女は笑った。

遊園地で初めて、だ。

男「えっと、アイスなんだがな……」

202: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:49:12.08 ID:07VMIq5N0
女「あ」

男「……ん、残ってるのはお前にやる」

持っているアイスクリームを差し出す。

女「いいの?」

男「構わん」

落としたのは、俺の失敗なんだから。

女「……」

手渡すと、ヤツはまたベンチに座って、

女「一緒に食べよう?」

そう、提案した。

203: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:49:42.75 ID:07VMIq5N0
ヤツは、ペロリとアイスクリームを舐めた。

女「んーっ、甘い」

幸せそうな顔をして、満喫している。

女「ほら、どうぞ」

男「おう」

そして、俺にアイスクリームを渡した。

女「あ、溶けてきてる」

そう言って、すかさずヤツはコーンの周りを舐め始めた。

204: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:50:34.01 ID:07VMIq5N0
しかし、その時、俺の指まで舐めやがった。

男「おい」

女「ご、ごめん」

……やっぱり、いつもの反応と違う。

女「……しょっぱい」

何を言ってやがる。まったく。

205: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:52:03.64 ID:07VMIq5N0
アイスクリームを一つ食べるのに、結構な時間をかけちまったな。

女「さっき、助けてくれたじゃない」

男「ああ」

やっとコーンまで到達。こっからは早いはず。

女「なんて言ったの?」

男「……」

女「しっかり、聞こえなくてさ」

照れくさそうに笑ってやがる。

男「あー……あっちにもっと可愛い子いますよって」

女「えー、酷いなぁ」

本当に不満そうな顔をした。

それも、いつものこいつでは出さない表情だった。

206: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:53:11.61 ID:07VMIq5N0
ソフトクリームを食べ終えて、俺達はまた遊園地を練り歩いた。

面白そうなアトラクションを見つけては、乗ったりした。

絶叫系でスカっとしたり、お化け屋敷で怖がったり。

さっきと違って、表情豊かだった。

でも。

でもな。

こんな素直に喜ぶのは、ヤツじゃないんだ。

207: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:53:54.52 ID:07VMIq5N0
女「そろそろナイトパレードだね」

男「ああ」

気づけばもう、そんな時間だ。

女「……あっ」

男「……なんだ」

女「まだ、乗ってないアトラクションがあったよ」

なんだ。

女「観覧車!」

…… 覧車じゃ、ないんだな。

208: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:54:25.98 ID:07VMIq5N0
ヤツの指は、とても大きな観覧車を示していた。

男「ナイトパレードがあるんだぞ。乗ったら見れないじゃないか」

女「どうしても、乗りたいんだ」

真剣な顔で、お願いをしてくる。

男「わーったよ」

まあ、上からパレードが見れるかもだしな。

209: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:55:32.23 ID:07VMIq5N0
観覧車はこんな時間にも関わらず、案外人がいた。

女「ん……なんとかいけそうだね」

男「ああ……」

女「どうしたんだい?」

男「いや」

もう、どうでもいいさ。

こいつがどうであれ、なんであれ。

210: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:58:24.28 ID:07VMIq5N0
大きな音を立てながら、観覧車はゆっくりと動き出した。

男「……」

女「……」

ヤツはワクワクしながら、外を眺めている。

女「聞いていいかな」

男「なんだよ」

女「今日、楽しかった?」

211: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 01:59:37.82 ID:07VMIq5N0
体をもじもじさせながら、聞いてきた。

女「今日、ずっと変な顔してたから、気になってて」

変な顔言うな。

女「だからこの際、聞こうかなって」

男「なるほどな。そりゃもちろん」

目を合わせたヤツに俺を言い放った。

男「つまんなかった。最悪だよ、本当」

212: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:00:28.74 ID:07VMIq5N0
女「えっ……」

目を見開いて、ヤツは驚いた。

女「ど、どうして?」

ヤツは、すがるような顔で問うた。

男「言った通りだ。面白くなかった。つまり、つまんなかったって言ってんだ」

女「……そうか」

そう呟いて、視線を落とした。

214: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:03:25.52 ID:07VMIq5N0
俺は悪くない。

正直に行った方が良いと思ったから。

コイツ相手に、気を遣う必要だってないから。

女「……」

男「!」

ヤツの瞳から、一滴涙が流れた。

215: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:03:56.09 ID:07VMIq5N0
男「おい、どうした!?」

女「だって……」

更に、涙は溢れ出す。

女「ボクと一緒だから……だよね」

手で目をこすり、涙を拭き取るが、どんどん流れ出し、止まらない。

女「せっかくの遊園地……台無しにしてごめん」

216: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:05:29.65 ID:07VMIq5N0
男「……」

違う。

俺は、お前を。

そんな気持ちにさせるつもりじゃ、なかったんだ。

男「女!」

女「!」

俺は、ヤツの――

――女の両肩を掴んで、

男「俺は……俺は……」

声が、出ない。

喉が渇いたような、頭の中で考えが色々とグルグルとかき混ざって。

男「いつものお前が、好きなんだ!」

217: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:07:48.15 ID:07VMIq5N0
言った瞬間。

俺の顔は一気に熱くなった。

恥ずかしさのあまりに、肩を掴んでいる手が震えて、

男「え、えと……えっと……」

口も、上手く動かない。

女「……そうだったの?」

話せないので、変な頷き方で答える。

女「……そっか」

彼女は涙で指を拭き取り、大きく笑って、

女「いつも通りで、良かったんだ」

218: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:08:33.35 ID:07VMIq5N0
男「……え?」

女「ボク、いつものボクが、嫌われてるんじゃないかと思ってた」

スカートの端を少しつまんで、

女「ミニスカートをやめてみたり」

口を手で軽く噤んで、

女「お喋りをやめてみたり」

俺の掴んだ手をさすって、

女「スキンシップを、やめてみたりしたのだけれど」

いつも通りの微笑みで、

女「全部、裏目に出てたんだね」

220: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:09:39.15 ID:07VMIq5N0
俺は恥ずかしくなって、肩から手を離す。

男「なんで、そこまで」

女「だって、今日は」

ヤツは持ってきた小さなバッグから小さな箱を取り出した。

それを俺に差し出して、照れくさそうにして、

女「君の、誕生日なんだから」

222: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:11:11.82 ID:07VMIq5N0
男「……え?」

慌てて、俺は携帯を見る。

自分の誕生日である月日が表示されている。

やべえ、忘れてた。

俺の、誕生日じゃねえか。

女「箱、開けてみてよ」

気に入るかどうかは、わからないけど。

と、すこし声のトーンを抑えながら言った。

箱を開けてみると、古くさい時計が入っていた。

女「いつも時計を持っていなかったから、買ってみたんだ」

223: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:12:42.61 ID:07VMIq5N0
これ、高かったんじゃないだろうか。

男「ありがとう。凄く嬉しいぞ」

女「な、なんだか恥ずかしいな、君に感謝されるのって」

顔を掻きながら、ヤツは頬を赤く染めた。

男「明日から、つけてやるよ」

女「うん、そうしてくれると嬉しいな」

224: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:14:51.78 ID:07VMIq5N0
えへへ、と笑った。

いつもと、同じ女に戻った。

あと、もう一つプレゼントがあるんだ。

まだあるのか。

今考えてみると、この遊園地も誕生日プレゼントじゃねえか。

既に二つももらって、しかもこれよりも後に出すプレゼントって……。

男「な、なんだ?」

女「それはね」

狭い観覧車を立ち上がって、俺の隣に座った。

女「ボクのこと、好きにしてもいいよ」

225: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:16:44.14 ID:07VMIq5N0
男「は?」

女「だから」

俺の手を掴んで、ヤツの胸まで持っていかれる。

女「好きにして、いいよ?」

こいつ。

何を言い出すかと思ったら。

女「君になら、どんなことをされてもいいから」

226: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:18:56.75 ID:07VMIq5N0
顔は火照ったような感じで、こちらを見ている。

プレゼントに自分を渡す、か。

男「……いいんだな」

女「うん」

その言葉にも、顔つきにも。

嘘の文字は、無かった。

228: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:20:24.61 ID:07VMIq5N0
それじゃあ、好きにしてやる。

俺はヤツにどんなことをさせようか考える。

女「……」

真剣な眼差し。

いつも下品なことを言っているクセに。

瞳は純粋で、純潔で、純愛に満ちている。

俺はゆっくりと、女を抱きしめた。

男「お前が大好きだ。付き合ってくれ」

そう、耳元で呟いた。

229: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:21:15.39 ID:07VMIq5N0
女「え……」

好きにしようなんて、思ってない。

好きになってるんだ、俺は。

こいつのことがすっごく、大好きなんだ。

女「……先に、言われちゃったな」

彼女は俺を抱き返して、

女「ボクも、君のことが大好きだよ」

と、耳元でくすぐったく言った。

230: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:21:47.23 ID:07VMIq5N0
女「あっ」

男「ん?」

どうしたんだ。

女「見て、ほら」

彼女の指差した方を見ると、群衆ができていた。

ナイトパレードだ。

232: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:24:43.89 ID:07VMIq5N0
観覧車は、ゆっくりゆっくりと回る。

それにしても、ヤケに遅いような……。

急に、アナウンスが流れた。

「乗車中のみなさん。ナイトパレードが始まりました」

見ればわかる。

「際して、観覧車を一時停止し、ナイトパレードをお楽しみください」

233: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:25:16.38 ID:07VMIq5N0
ま、マジか。

しかもちょうど俺達は真上の位置だ。

女「あはは、粋な計らいだね」

そう言って、俺の腕に抱きついた。

女「男の子の、腕だね」

ペタペタと、触ってくる。

男「やめろ、ちょっとそれ、ヤバい」

女「ふふ、どういうことかな?」

わかってるくせに。

234: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:32:19.90 ID:07VMIq5N0
観覧車から見るナイトパレードはそりゃもう言葉にならんくらい、良かった。

真上だったから良かったけど、下半分の人は見えているんだろうか。

そんなことを気にしていたが。

男「俺の隣だと、見づらくないか?」

しかし、女は首を横に振って、

女「ここから見える景色がとても素敵だから」

ニコッと、笑った。

その笑顔で、俺の心配は吹き飛んだ。

最後の最後に、最高になったぜ。

236: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:34:22.87 ID:07VMIq5N0
女「ああ、素敵だったね」

男「おう」

女「ボクは君が素敵だった、と言ってるんだよ? ナルシストかな?」

とんでもないフェイントだ。

女「それじゃあ、帰ろうか」

男「そうだな」

女「……うわわっ!」

いきなり、転びやがった。

237: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:36:47.39 ID:07VMIq5N0
女「ロングスカートは、やっぱり慣れないなぁ」

苦笑して、立ち上がろうとするが、

女「痛っ」

男「大丈夫か?」

女「ヒネってしまったみたいだ。大丈夫なんとかなる……よ」

だが、立ち上がることはできない。

239: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:37:18.12 ID:07VMIq5N0
男「ほら、おぶってやるよ」

女「えっ、い、いいよそんなこと」

男「痛がりながら歩いてるお前なんて、見たくねえよ。ほら」

女「……う、うん」

めちゃくちゃ不満そうな顔だ。

そんなに俺の手を借りたくないのか。

240: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:37:51.69 ID:07VMIq5N0
バス停に着くと、ちょうどバスがやってきた。

言うのを忘れていたが、行きもバスに乗っていた。

人はまばらで、行きとは違い、座ることができた。

男「よっと、座れるか?」

女「うん……」

男「なんだよ、その顔」

女「いや、ボクはバカだなって」

いきなりなんだよ。

女「手を繋いで、帰りたかったのに、さ」

242: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:40:57.63 ID:07VMIq5N0
ああ、なるほど。

だから、あからさまに嫌がったのか。

女「本当に残念……おや?」

さりげなく、手を繋いでやる。

男「バスの中だけでも、な。

女「……そうだね」

緩ませた顔は、それはそれは、天使みたいだった。

……悪かったな、気持ち悪くて。

243: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:41:41.16 ID:07VMIq5N0
バスを降りると、あたりはもう真っ暗だった。

歩いて数分が経つと、女は俺の背中で寝息を立て始めた。

無理してたんだろうな、あのキャラ。

そんな帰り道、俺は今日のことを振り返った。

最初は違和感ばかりだったが、それは全部俺に嫌われたくなかったからしたことだったんだな。

観覧車の中は、今考えると、むず痒い。

男「……ん?」

女が『好きにしていい』と言った時に、ヤツは俺の手を胸に当てた。

あの時なにか手のひらに感じた違和感は……。

男「……!」

まさか、こいつ……!

本当に、ノー  なのか!?

というか、こいつ  ノーガードなのか!?

244: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:44:12.52 ID:07VMIq5N0
それなら、今の状況って。

男「……」

背中に当たってないか!?

いや、そんな、ほら……。

服と服で当たってるから、感じないぜ?

本当だぜ?

それにほら、あの時は興奮してただろうから。

……興奮?

興奮→タッチ→感触

……立ってたのか?

246: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:47:10.63 ID:07VMIq5N0
女「ん……?」

男「! お、おう、起きたか?」

女「ふぁ……ごめん、寝ちゃったね」

気にするな……というか今起きられるとちょっと困るんだが。

女「……ふふっ」

!? こいつっ?!

なんで体を押しつける!?

247: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:48:56.13 ID:07VMIq5N0
女「ふふ、勘違いしないでくれよ」

顔と顔は更に急接近している。

女「こうしないと、落ちちゃいそうだから、さ」

俺の神経は、顔の近さと背中のことでパンクしかけていた。

男「ああ、そうかよ」

とか言いつつ、正直気が気がじゃない。

249: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:51:27.01 ID:07VMIq5N0
女「そういえば、ボクはまだお付き合いをOKしていないけれど」

男「は?」

今更そんなこと……。

女「君のことを大好きとは言ったけれど、ね」

小さく笑っている。顔は近すぎてよく見えない。

男「答えは?」

女「ここで言わなきゃダメかい?」

じゃあなんで話を振った。

250: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:52:34.31 ID:07VMIq5N0
男「言ってくれよ」

女「ボクとしては」

彼女はふわりと抱きしめるように、体を密着させて、

女「面と向かって言いたいから」

男「……そうか」

馬鹿野郎。

可愛いこと、言いやがって。

俺の背中の神経は、さらに敏感になってるぞ。

251: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:54:02.99 ID:07VMIq5N0
そして、家の前に着いた。

女「ここでいいよ」

男「大丈夫か、別に玄関までは行っても」

女「いや、ここですませたいこともあるから」

男「?」

彼女は俺の背中を降りると、フラリと壁に寄りかかった。

女「……ふぅ」

深呼吸をして、息を整えた。

女「……一度しか、言わないからね」

と、横に目を逸らして、赤面した。

252: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:54:42.59 ID:07VMIq5N0
男「ああ、わかった」

女「……」

もう一度、息を整えて。

女「ボク達は、家も隣だし、今は席も隣だ。だけど……」

ゴクリと、唾を飲み込んで、

女「ボクは、君の隣にいたい。だから……」

深く頭を下げて、

女「これからも、よろしくお願いします」

253: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 02:57:04.68 ID:07VMIq5N0
なんていうか、格式張った告白だな。

でもまあ、こいつらしい。

男「おう、もちろんだ」

女「突き合ってくれるのかい?」

漢字が違う。

女「違うね、ボクが一方的に突かれるんだ」

やめろ、そんな話は。

女「今日……家に親がいるんだ」

いない時に言うんだ、それは。

254: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 03:00:08.09 ID:07VMIq5N0
女はきっと恥ずかしさをジョークで紛らわせようよしているのだろう。

男「よろしくな、女」

そう言って、俺は手を差し伸べた。

女「……うん」

彼女も答えるように手を出した瞬間。

俺はそのままヤツを抱きしめた。

女「っ! ……大胆だなぁ、君は」

男「そうか?」

女「自宅の前で、よくやるよ」

忘れてた。

255: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 03:04:53.22 ID:07VMIq5N0
俺はすぐに離れて、頭を掻いた。

男「いやぁ、その……な」

女「ふふっ、嬉しかったからいいよ」

ああ。

こんな顔をするから、つい抱きしめたくなっちまうんだ。

女「じゃあ、そろそろ」

男「おう」

女「また明日」

足を引きずりながら、彼女は玄関前の扉をあけて、中に入った。

女を心配しながら、俺も自宅に足を向けようとした。

女「男っ」

男「ん?」

女「ちょっと、来て」

256: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 03:08:22.77 ID:07VMIq5N0
さっきの扉の前で、彼女が手招きをしている。

男「なんだ?」

女「ちょっと、耳を貸してくれ」

どうやら、耳打ちをしたいらしい。なんだ。

女「……」

声が小さくてよく聞き取れない。

男「な、なんだ?」

もっと近づいた、その時。

俺の頬に軽く唇が触れた。

男「なっ!?」

女「ふふっ、さっきのお返しさ」

257: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 03:08:59.97 ID:07VMIq5N0
そう言って、玄関扉に走っていった。

男「おい、脚は?」

ひねったんじゃ……。

女「彼女の嘘を見破れなきゃ、ダメだろ」

意地悪に笑って、彼女は家に入っていった。

……まったく。

本当に可愛いことをしやがる。

258: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 03:10:37.97 ID:07VMIq5N0
そして俺も家帰ろうと、自宅のドアを開ける。

が、開かない。

男「えっ……」

まさか、時間が遅かったから、妹が怒って……?

でも、今日くらい大目に見てくれたって……。

まあ、しかたない。

今日はどんなお叱りでも受けよう。

そう思い、インターホンをプッシュした。

259: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 03:12:37.22 ID:07VMIq5N0
家の方から、急いだ足音が聞こえ、ドアのロックの解除する音がした。

俺はドアを開けてすかさず、

男「ごめん、遅くなった」

と、言い終わる前に、パンっと破裂音のようなものが聞こえた。

男「うおっ!?」

そこには、クラッカーを持った妹がいた。

妹「は、ハッピーバースデー!」

妹は、赤いペンキを塗りたくったような顔をしていた。

260: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 03:13:56.71 ID:07VMIq5N0
妹「今日、誕生日でしょ? だから……」

もじもじとして、俺に上目遣いをして、

妹「ケーキ、作ったの」

ポツリと、そう言った。

男「……」

俺は、感動した。

男「うおおお、妹ぉぉぉぉ!」

妹「うぇ!?」

ギューっと、ぎゅううううっと、強くハグしてやった。

261: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 03:16:35.02 ID:07VMIq5N0
妹「ちょ、お兄ちゃん、ダメ!」

男「知るかー! 大好きだ妹!」

こいつは本当に、兄想いの、最高の妹だ!

それに、この服、昨日買った服じゃねえか! 可愛い!

妹「と、とりあえずケーキ、食べて?」

男「おう! もちろんだ!」

どんなのか、楽しみだ!

262: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 03:19:26.42 ID:07VMIq5N0
男「……あのー、妹さん?」

妹「なぁに?」

男「これですかね?」

妹「? うん、そうだよ」

いやあ、まさか……ホールケーキとは。

妹「全部、お兄ちゃんが食べてね」

すっごく嬉しそうな顔してる。

あはは……全部俺のかー。

男「ありがとう、妹」

お前の愛が、このケーキにたっぷりはいってるぞ。

264: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 03:21:27.16 ID:07VMIq5N0
男「うぷっ……」

「ダメになる前に食べて」と言われたので、全部食べた。

胃のもたれるような妹の愛情が、口から溢れてきそうだ。

男「寝よ……」

既に、風呂を済ました俺は、後は寝るだけだった。

明日からまた学校かと思うと、少し気怠い。

268: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 03:24:48.60 ID:07VMIq5N0
俺の部屋は、窓からさす月の光で、とても明るかった。

こんなんじゃ寝れないな。

というわけで、カーテンを閉めようとした。その瞬間である。

男「ん?」

目の前に、女がいた。

正確に言うと、真向かいの窓に、だが。

269: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 03:25:26.33 ID:07VMIq5N0
女もこちらに気づいたらしく、窓を開けて、手を振っている。

俺も、窓を開けた。

女「やあ、また会ったね」

ヤツは小声で言った。

女「ボク達、通じ合ってるのかも」

恥ずかしいことを、恥ずかしげもなく言いやがる。

男「かもな、で、脚は本当に大丈夫だったのか?」

女「うん、この通り」

と、足を見せた。

って、包帯でグルグル巻きじゃねーか!

270: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 03:26:28.39 ID:07VMIq5N0
どこが大丈夫だよ!

男「お前なあ!」

女「心配されたくなかったから、ね」

男「おいおい」

女「でも、明日はたくさん心配して欲しいな」

? どういうことだ。

女「明日は、君におぶってもらうから」

男「……」

そんな恥ずかしいことを、俺が?

男「……ああ、もちろんだ」

やってやるよ、お前のためならな。

271: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 03:26:59.93 ID:07VMIq5N0
女「ふふ、快諾してくれて、ありがとう」

男「大好きな人からの頼みだ、断れねーよ」

女「……もう」

耳まで赤くして、微笑んだ。

男「じゃあ、おやすみ」

女「うん、おやすみ」

272: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/14(日) 03:27:34.96 ID:07VMIq5N0
窓も閉めて、カーテンも閉めて、俺は大きな欠伸をした。

そして、ベッドに寝そべった。

明日は女を背負って登校、か。

行きは早いから、あんまり恥ずかしくない。

……あ、帰りも放課後話をして帰るからそんなでもないか。

でも、まあ。

そんなこと、どうでもいいことだ。

男「全然、恥ずかしくないさ」

俺は、明日じゃなく、次は二人でどこに行くかを考えながら、眠りに落ちた。


っと、言いたかったが、俺は腹の痛みで何度か起こされた。

……確実に妹のケーキのせいだ。

恐るべし、妹の愛。

END

引用元: 女「ここから見える景色がとても素敵だから」