2: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/10(金) 18:25:44.99 ID:7.2Lf8w0

《第三次世界大戦》終結―――




―――キィィィィ……ン





寒いロシアとは一転し、暖かく綺麗な夜景が映えた『学園都市』の上空を飛行する一機の小型旅客機。
機内の窓際では一人の少女がその風景を見下ろしていた……。



「……………」



少女の格好は全身真っ白に僅かな模様が入ったタイツのようなスーツ……。
何と言うか奇抜で、それこそアニメにでも出てきそうな戦闘服……そんな印象だった。




「久々の学園都市かぁ………夜だってのに相変わらず眩しいわね」




3: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/10(金) 18:26:35.26 ID:7.2Lf8w0

下の景色にそう呟く少女の名は『番外個体《ミサカワースト》』……。『妹達(シスターズ)』第三次製造計画(サードシーズン)
で作られた御坂美琴のクローンである。




「もうすぐ、か……」




窓淵で頬杖をつくその容姿は、御坂美琴(オリジナル)よりも随分と大人びていた……。




「…………」




ロシアから出発し、大した時間も掛からず目に映った故郷の光景に……番外個体はどこか感慨深い表情を作る。





??「―――気分はどうだ?」




ふと横から声を掛けられ、振り向いてみると……そこには白衣を着た中年の男性が立っていた。……風貌から察するに、
どうやら科学者のようだ。

4: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/10(金) 18:28:57.40 ID:7.2Lf8w0

「んー……悪くないかな」




適当にそう返し、再び窓から外を見つめる。
科学者の男は素っ気無い彼女の態度を気に止める事なく、また話し掛けてきた。





科学者「あと五分ほどで着陸だ。その時はさすがにベルトを装着しておいた方が良いぞ?」

番外個体「ハァ……あれ窮屈だからイヤなのよねー…」

科学者「なら着陸時の『G』に逆らわず宙を舞うか?」フフッ

番外個体「……わーったわよ。っていうかさ、『超音速旅客機』ってもっと『G』がキツイんじゃなかったっけ?」

科学者「この旅客機はその一歩先へ進んだ……言わば『最先端』だ。どうだ? 快適だろう? 普通なら飛行中に立つことなど
     不可能に近いからな」

番外個体「ふーん……だからこんな“小っちゃい”んだ…」

科学者「まぁな、……だがいずれは『大型』として一般的に運用される日も近いだろう。さすがに離着陸時に発生する『G』の
     看破とまではいかないがな……。それにまだコイツは『試験機(テストマシン)』のようなものだ。実用化は当分先
     になるかもしれんな」

番外個体「はぁ? そんなのにミサカを乗せたワケ? 墜落でもしたらどう落とし前つけてくれんのよ?」ジロッ




ただでさえキツイ目つきを更に鋭くさせる。

5: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/10(金) 18:31:36.02 ID:7.2Lf8w0

その視線に一瞬身を竦めた科学者の男は、少しだけ小さい声になる。




科学者「……俺は別に『アッチ』の方でも構わなかったんだが……お前はそれでも良かったのか?」

番外個体「はっ、イヤに決まってんでしょ! あんなのもう二度とゴメンだわ!」

科学者「やれやれ、わがままな………調整ミスったかな……」ハァ

番外個体「ああ? 何か言った?」ギロリ

科学者「いや、何も……それよりその目で睨むのはやめてくれないか? ……正直かなり怖いんだが」

番外個体「あんだけマイナスの感情が流れてくりゃこんな目つきにだってなるっつーの……だいたいそれ、自分で生んだ子供を
      批判してるのと変わんないし」

科学者「……まぁ色々と不満はあるだろうが、もう少しで第二十三学区内に入る。とりあえず着陸までは我慢してくれ」

番外個体「ふん……」プイ




興味なさそうに頬杖をつくが、他に会話をする相手がいないせいか……互いの口数は減らなかった。

しばらく続いた会話の後、科学者の男は番外個体にこう警告する。

6: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/10(金) 18:33:13.45 ID:7.2Lf8w0

科学者「念のためにもう一度言っておくが、次はないぞ? お前が作られた本当の『目的』を忘れるな。お前だってタダな訳じゃない
     が、“代わり”はいくらでも用意できるんだからな? 再度のチャンスがこうして与えられたことだけでも寛大だと思え」

番外個体「またそれ?……何度も何度もしつけーっての。いい加減ウンザリなんだけど?」

科学者「ふっ、そうか。まぁいいが……あまり『ハメ』を外しすぎるなよ?」

番外個体「…………分かってるわよ」

科学者「さて、じゃあ俺もそろそろ着陸に備えるとするか」スタスタ

番外個体「…………」




意味有り気な笑みを零してその場から去っていく科学者の背中を、番外個体は目を更にキツくして睨んでやった。




「……チッ」




忘れている訳がない……自分には妹達の『負の感情』が全てこもっていると言っても過言ではないからだ。





「一方通行(アクセラレータ)………」

7: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/10(金) 18:34:25.95 ID:7.2Lf8w0

しかし―――



「………………」




―――ジッと見つめるのは自身の左手。
    彼女の脳裏に甦る“あの時”の記憶……。




「………………」




少女は今、何を思う?


あの時、彼は言った……。



『学園都市に吠え面をかかせてやる』と……。


『そのために協力しろ』と……。


よりによっていつ背中を刺されても不思議ではない相手に、彼はその背中を預けたのだ。

9: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/10(金) 18:36:33.94 ID:7.2Lf8w0

己のリスクを、利害一致のために曝してまで。

彼らしくない方法を選んでまで………。




「だから……何なんだよ」




そう……だがあれは所詮一時的な共闘だ。交渉によって利害が一致したから仕方なく手を組んだようなものだ。

終わった後はまた『敵同士』に戻る……。これが当たり前……。



「……………」



なのに、何故か左手の感触は消えない……。
彼の手の感触が、あの時に彼の手から伝わってきた『強い意志』が……今もまだハッキリこの手に残っている。




「…………どうするかなんて、決まってんじゃん。今さら後になんて…」




………引ける筈もない。

10: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/10(金) 18:39:08.16 ID:7.2Lf8w0

「そうよ、ミサカに変更のオーダーはインプットされていない。……今度こそ―――」


「―――第一位を……一方通行を、殺す」グッ





調整も終え、憎しみ(負の感情)も再び組み上げた。身体の調整も終わった今、自分の仕事をする以外の道など彼女には
用意されていない。それ以外の『存在理由』が彼女には無いと言ってもいい。

どの道自分がやらなければ、また別の個体が作られて彼の元へと派遣されていくだけだ………。
番外個体は左手が覚えている感触を拭い去るかのように拳を握った。




「………そんなことになるくらいなら……」




いっそのこと……自分が終わらせてやる。
自分がこの手で終わりにさせてやる…ッ! と、番外個体はギプスのとれた右腕にも力を入れて気を引き締めた―――。




―――その時だった。




ドォォォン!!!

11: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/10(金) 18:40:49.85 ID:7.2Lf8w0

「ッッ!!?」グラッ




突然の砲撃音と共に激しく揺れる機内。
番外個体は急に訪れた衝撃のあまり、身体がシートからずり落ちかけた。




「―――な、何!? 何なの!?」




あまりにも唐突すぎる展開に思考が追いつかない。
咄嗟に移動しようと立ち上がるが、ひどい揺れに襲われて通路の床に身体が吸い込まれる形となった。




(ッ!……何が、どうなってんのよ……? まさか……マジで墜落!? ウソでしょ!?)




立ち上がるのはもはや不可能だった。


なおもグラグラと激しく揺れ続ける機内で、番外個体はそのまま通路を這いずって移動する。

12: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/10(金) 18:42:47.15 ID:7.2Lf8w0

「―――!?」



横の窓から一瞬見えた小型の戦闘機……。おそらくアレがこの旅客機に向けて砲撃したのだろう。
翼の方で被弾した機体が、下を向くのが分かった。
もはや安全な着陸ルートは絶たれたと言えるだろう……。彼女にとってこの後の展開を予測するのは容易かった。が、




「ッ……!!」グラリ




激しい揺れの中での移動は決して容易くはない。それでも何とか体を床につける形で番外個体は機体前方部を目指す。




「ハァ……ハァ……!」ズリ…ズリ…




途中、何度も傾く機体に身体が翻弄され、思いきり壁に叩きつけられながらも何とか必死の思いで緊急避難用ハッチへと
辿り着いた。




「ハァ……ッ!!」ビリビリッ




そのまま全力で電撃を放ち、ハッチをブチ破る……。態々ニ億Vの電流をぶつけるまでもないのだが、非常事態に面倒な
加減ができるような人間は少ないだろう。
空いたハッチから下を見るが、やはり機体は地面へと急下降しているようだ……。

13: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/10(金) 18:43:59.64 ID:7.2Lf8w0

「パ、パラシュート……!」




何故このような事態が起きたのかは理解できないが、このままでは旅客機と共にお陀仏だ。
一緒に乗っていた科学者やパイロットなどは見当たらないが、気にするほどの間柄でもなければ余裕もない。
いずれにせよ、ここに居ればあと数分であの世行きが確約されている以上ぐずぐずしてはいられなかった。




「クソッ! パラシュートは一体何処にあんのよ!? こんなことなら聞いとくんだった………ッ」




焦りを露呈しながら避難用具を目で探すが……明かりも切れた上に設置場所も分からないのでは探すだけ時間の無駄だった。
おまけにまともな探索ができる状態でもない。大地震が続いている中で物を探すようなものだ。




「あぁーもうっ!! 何が『最先端』よ馬鹿!! ホント使えねえっ……!!」




分かりやすい場所に置いとけよ……と愚痴りながら壁に背中をつけて座り込む。
が、そうしていても仕方がないので、とりあえず四つん這いでハッチまで近づき、もう一度下を眺めてみた。もの凄い速度
で見える景色が変わっていく……。だが、確実に地面が近づいているのが分かる。のんびりしている暇はなさそうだ……。




「……………」




街中では無いのがせめてもの救いか……。旅客機はすでに第二十三学区へ突入していたようだ。

14: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/10(金) 18:45:12.19 ID:7.2Lf8w0

「チィッ……」


(仕方ない……ッ!)




舌打ちをして覚悟を決める。避難用具がない以上、自力で脱出するしかない。




「…………」




まだ地面との距離は百メートル以上ある……。もっと、もっと地面に近づかなければ……。




(まだ……まだよ……………)




振動する空間の中、神経を集中させ、冷静にタイミングを見極める番外固体。早ければ転落死、遅ければ旅客機と仲良く爆死……。
生憎どっちも願い下げだ。




(駄目、まだ遠い………もっと…………もう少し……)




同じ地面(草の生えた平地)が延々と続く……。地面との距離は、もうあと僅かのところにまで迫っている。

15: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/10(金) 18:46:50.72 ID:7.2Lf8w0

「―――!!」



そして、ついに………その時が来た。



「…………今だ―――ッッッ!!!」


―――バッ……!!



旅客機が地面に墜落する直前、番外個体は勢いよく――――ハッチから飛び降りた。



「!!!!!」



体じゅうから夥しい程の電流を纏いながら、少女の肢体が地面へと落下していく。



「――――ッッッ!!!!」バチバチッ





今宵、学園都市に……こうして一人の少女が舞い降りた。


放電によって生まれた輝きのせいか、その姿は遠くから見たらまるで精霊または天使のようにも見える……。


終戦の直後に動き出したこの小さな物語は、今ここから始まろうとしていた。


小型旅客機が地面と接触した事によって生じた激しい爆発音と共に―――。

37: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 15:41:28.68 ID:L27.cK60

――とあるシティホテルの一室




広いリビングルームは明るい照明が点いてはいるが……そこには今、誰もいない。
代わりに浴室から鳴り響くシャワーの音……。広めの浴室にすっかり元気を取り戻した太陽のような幼い少女と
白髪細身の少年がいた。


「とりゃーっ! ってぇ、ミサカはミサカは勢いよくダーイブ!」ピョン


バシャーン! と湯船に少女の身体が吸い込まれた。いや、少女が淵を超えてそのまま湯船に飛び込んだのだ。


「おォ!? ッ……こ、このクソガキィ!! 何しやがンだァ!?」


すぐ近くで頭を洗っていた少年は、当然それによって生じた水しぶきをモロに浴びる結果となる。
防御のため、咄嗟に閉じた目を再び開いて鋭くさせた彼は、波のおさまらない湯船へ向かって怒鳴りかけた。
この少年こそ学園都市の頂点に立つ“最強”の超能力者、一方通行《アクセラレータ》だ。



打ち止め「あ~、極楽どすなぁ~♪ ってミサカはミサカはちょうどいい湯加減に感嘆してみたりぃ…」ポカポカ

一方通行「極楽じゃねェよ! 飛び込みはすンなって前も言ったよなァ? 忘れたとかほざきやがったらそのまま
      沈めンぞコラ?」

38: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 15:44:05.09 ID:L27.cK60
最強のガンをくれても打ち止めは臆すどころか笑顔のままだった……。


打ち止め「またまたぁ、照れちゃって~」

一方通行「……急に何を意味分かンねェ事言い出すンだァこのガキは?」

打ち止め「え? だってアナタはまたミサカのために命を張ってくれたんだよね? ってミサカはミサカはニヤニヤ
      しながら蒸し返してみたり」

一方通行「……………」

打ち止め「そんな素直じゃないけどミサカが好きで好きで仕方ないアナタと久しぶりに一緒のオフロに入れるのが
      嬉しくて……ついハシャイじゃった♪ ってミサカはミサカは言い訳してみたり///」ペロッ


最終信号、または打ち止めと書いて《ラストオーダー》と呼ばれる少女は照れ笑いを浮かべ、舌まで出して可愛く
誤魔化そうとしたが……一方通行は青筋に不敵な笑みを混ぜた表情を作った。



一方通行「……あっそォ、ンなら俺がハシャイだって何の不思議もねェワケだよなァ」

打ち止め「!?」


反撃の顔面シャワーが打ち止めを襲ったのはその直後だった。

39: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 15:45:56.62 ID:L27.cK60

~~~~~


時は一時間ほど前に遡る。



一方通行「…………」カツ カツ カツ

打ち止め「~~~♪」テク テク テク


日はすっかり落ち、辺りは暗く、街灯の光だけが二人を映していた。
一方通行は杖をついて先をさっさと歩き、打ち止めは彼の服の裾を掴んで楽しそうについて来ている。


一方通行「…………」

打ち止め「ねぇねぇ、何さっきからダンマリ決め込んじゃってるの? ってミサカはミサカは尋ねてみる」

一方通行「……なァ、ひとつ訊いてイイか?」

打ち止め「なになに~? ってミサカはミサカは何を訊かれるのかワクワクしてみたり」

一方通行「オマエさァ……」

打ち止め「うんうん?」


一方通行「いったい何処まで俺について来るつもりなンだよ?」

40: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 15:48:05.51 ID:L27.cK60

打ち止め「」


一方通行「? ……オイ、何フリーズしてンだ?」

打ち止め「はっ!? 予想外のスルーパスに一瞬思考が止まってしまった…ってミサカはミサカは不覚を負ってみたり」

一方通行「予想外でも何でもねェっつの……。ガキはもォ家に帰る時間だろォが」

打ち止め「んーとね……」モジモジ

一方通行「?」

打ち止め「今日は……アナタのおウチにお泊まりしたいな。ってミサカはミサカは頬を赤らめながらも希望してみるんだけど…」

一方通行「却下」

打ち止め「ガーン! ……な、なんでーっ!? ってミサカはミサカは即答で拒否られたことに憤慨してみるーっ!」

一方通行「うるせェ、却下っつったら却下だ。オラ、黄泉川ン家まで送ってやっからさっさと歩け」

打ち止め「冷たい! 冷たい冷たい冷たいぃぃ!! ってミサカはミサカは駄々こねてm」

一方通行「ダメだっつってンのが分かンねェのかァ!?」

打ち止め「わかんないっ! ってミサカはミサカは聞く耳持たず!」

一方通行「…………」

41: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 15:50:47.88 ID:L27.cK60

打ち止め「ミサカはミサカは帰らないっ! っていう固い意志を見せてみたり!」

一方通行「…………オマエなァ」

打ち止め「帰りたくないの! 今日はアナタと一緒のいたいのーっ! ってミサカはミサカは一歩も退かない姿勢で訴えてみる」

一方通行「ガキが定番の誘い文句をクチにしてンじゃねェ! あンまワガママ言ってっと送ってやンねェぞ?」

打ち止め「いいもん! アナタに勝手について行くから!」

一方通行「はァ? オイふざけンなよ?」

打ち止め「いいじゃん! 何? ミサカを部屋に入れたくない理由でもあるの!? ってミサカはミサカはイヤな予感を瞬時に
      感じとってみたり…」

一方通行「何を予感してンだァ? 少なくともオマエが考えてるよォな事はなンもねェよこのマセガキ!」


しばらく平行線を辿ったこの口論の果て……


打ち止め「むぅぅ……どーしても連れてってくれないんなら、ミサカにも考えがあるんだからね!」

一方通行「あァ?……ンだそりゃあ?」(まさかこのガキ、演算補助切る気じゃねェだろォなァ……)

打ち止め「ミサカはここからテコでも動かないっ! ってミサカはミサカは……えーっと……ストライキに突入してみる!」ズン

一方通行「…………」

42: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 15:52:26.14 ID:L27.cK60

一方通行(あァ……頭痛てェ…)


鼻息を荒くしてその場に座り込んでしまった打ち止めに、一方通行は本気で頭を抱えた。


一方通行「……立て」

打ち止め「やだ!」

一方通行「みっともねェ真似してねェで立てっつってンだよォ!」

打ち止め「い・や!! 今日は絶対アナタのおウチで過ごすってミサカはミサカはすでに決心してるの!!」

一方通行「だから勝手に決心してンじゃねェェ!!」

打ち止め「アナタのおウチに行くぅ!! 行くったら行くーーーーっっ!!!」バタバタ

一方通行「…………」


ついには駄々っ子のように(子供だが…)手足をバタつかせる打ち止めに一方通行は……


一方通行「はァー…もォ勝手にしろ」


………折れた。

43: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 15:53:58.63 ID:L27.cK60

打ち止め「!! うわーいっ♪ ってミサカはミサカは飛び跳ねて喜びを表現してみたりーっ♪」


一方通行「……はァ…」



力ずくで帰そうとも思ったが、誘拐と間違われて通報されるのがオチだ。
ピョンピョン跳ね回る打ち止めの横にいる最強の背中は、普段よりも三割増しの哀愁が漂っていた……。



~~~~~


んで、現在に至る…



打ち止め「もーう、顔謝はやめてって言ってるのにぃ…ってミサカはミサカはブーたれてみる」

一方通行「その言い回しはヒデェ勘違いが生まれそォだからやめろ」



やがて風呂から上がった二人はリビング(ベッド付)で寛ぐ。※打ち止めの現保護者である黄泉川にはこの時連絡済。



一方通行(クソ、あの緑ジャージが……何が『ヨロシク頼むじゃん』だっつーの……人の気も知らねェで…)イライラ

44: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 15:56:02.42 ID:L27.cK60


打ち止め「ねぇねぇ、アナタって家出てから学生寮に住んでたんじゃないの? ってミサカはミサカは訊いてみる」

一方通行「……まァな。今改装工事してンだ」

    (チッ、明日からまた別ンとこ探しか……面倒臭ェ)


打ち止め「そうなんだ…それならウチに帰って来ればいいのに……ってミサカはミサカは寂しげな顔で呟いてみたり…」

一方通行「ひとりの方が気楽なンだよ。言っとくが、外泊許可すンのは今日だけだかンなァ?」

打ち止め「えぇー………」ムスー

一方通行「……ホラ、いつまでもむくれてねェでオマエもとっとと寝ろ」



そう言いながらソファーにゴロンと横になった。



打ち止め「……そんなトコじゃ風邪引くよ。ベッドで一緒に寝よ?」

一方通行「ンなの気にしてンじゃねェよ」

打ち止め「どうしてアナタはいつも素直じゃないのかなぁ。ってミサカはミサカは溜息交じりに嘆いてみる」ハァ

一方通行「………Zzz」

46: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 15:59:16.82 ID:L27.cK60
 

打ち止め「そして相変わらず寝るの早いし!………おやすみ…」パサッ

つまらなそうな顔でベッドに潜った打ち止め。一方通行はもちろんウソ寝だが…。

「……………」

ロシアからコッチ(学園都市)へ戻って何日か過ぎ、打ち止めもすっかり元気を取り戻していた。
ここからまた、いつもの『日常』へと戻る。………のだが、

(……アイツは、今どォしてる……元気でやってンのか…?)

寝る前に必ずこう考えるようになってしまった。アイツとは……そう、番外個体のことだ。

ロシアで初めてその姿を見た直後、身体に戦慄が走ったのを今も忘れていない。自分の精神を壊すにはこの上ないほどに残忍な
策で来た学園都市……。自分を殺すために来たと言う少女……。恐怖のあまり、思わずその場から逃げ出したほどだ。

しかし、どういう訳か……その後少女と自分は同盟のようなものを結んだ。結束なんて言葉が、最も不相応な筈の相手と。
互いの目的のために。

そして、全てが終わった後……少女は自分の前から姿を消した。
何の言葉もないまま……黙っていなくなっていた。

「…………」

学園都市に戻るか、残って番外個体を探すか……本当は少し迷った。
研究者たちに引き取られたのなら場所が割れなくもないが、会ったところでどうする?

47: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 16:02:58.70 ID:L27.cK60

「一緒に学園都市へ帰ろう」とでも言えと?

番外個体の生産事情を知っている彼の口からそんなことが言えるのか……?

「やっぱ……ソイツは無理な話ってモンだろ…」

できれば会いたくない存在だし、もう互いが手を結ぶ理由はどこにもない。
一方通行は、諦めた。
別れの言葉もない内に、彼は学園都市へと帰ってきたのだ。
その後に残ったのは……病室で確かに掴んだ『手の感触』だけだった。

「…………」ジー

自身の手を見つめる……。
帰ってきてからというもの、ずっとこんな調子だ。
感傷に浸るガラでないことは充分に自覚しているのだが、どうにもならなかった。

打ち止め「Zzzzz」

一方通行「………」フッ

寝てしまった打ち止めを一瞬チラリと見て、自分もそろそろ意識を闇に落とそうかと思った時―――。


ドォォォン…


一方通行「あァン…?」

48: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 16:05:01.37 ID:L27.cK60

遠くで何かが爆発したかのような音が耳に入ってきた。


一方通行(ンだァ……今のは? どっかで花火でもやってンのか?)

一瞬、音のした方角に目を向けるが……

一方通行「…………ま、別にどォでもイイか…」

特に興味もなかったのでそのまま眠りについたのだが、この時彼はまだ知らなかった。
先ほどまで思考を塞いでいた少女本人が、来日していたことを―――。


―――


第二十三学区は空港設備が多いため、広い平地が延々と続いているような場所である。

そのど真ん中に墜落した小型旅客機の成れの果て……。

辺り一面に渦を巻いて燃えさかる炎……。


そこから、二百メートルほど離れた平地。

49: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 16:06:08.57 ID:L27.cK60

「……………ぅ」

フラフラと、おぼつかない足取りで歩く一人の少女……番外個体。

「………ぁ……ぁ…」

炎を背に歩く彼女の口から出る声は……か細く、今にも消え入りそうだった。

「…………うぅぅぅ!」

突然頭を両手で押さえ、うずくまる番外個体。出てくるのは苦しみに悶える呻き声。
まるで何かを“思い出そう”としているかのような……。

「!!!……ッッ…」

痛みに耐える彼女の表情から、やがてフッ…と力が抜けた。
その直後、番外個体は崩れるようにゆっくりとその場に倒れ伏し……完全に意識を失った―――。

56: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 20:26:43.56 ID:L27.cK60

―――


翌朝…


打ち止め「おっはよー! ってミサカはミサカは朝から元気にアナタへ向かってボディプレスしてみるっ♪」ピョン

一方通行「―――ブゲェ!?」ズン

潰れたカエルの声と同時に意識が覚醒する。

一方通行「ゲホ…ッ…このォ…クソ……ゴホッ……ガキがァァあああ!!」カチッ

打ち止め「わー! ってミサカはミサカは逃亡を計ってみたりー!」ドタドタ

一方通行「待てやゴルァァああ!!」バタバタ

今日も朝から賑やかな二人……。

打ち止め「―――ねーねー! 今日はどこ行こっか? ってミサカはミサカは期待のまなざしでアナタを見つめてみたり」キラキラ

一方通行「帰れ」

打ち止め「ブーブー! ひーどーいー! ってミサカはミサカは頬を膨らませて猛抗議してみる!」プクー

一方通行「俺は今日予定があンだよ」

打ち止め「……何の予定?」

57: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 20:27:45.45 ID:L27.cK60

一方通行「オマエにゃ関係ねェ」

打ち止め「ふーん……それでミサカが納得すると?」

一方通行「できなくてもしろ」

打ち止め「うん♪ って、できるかーっ! ってミサカはミサカは乗りツッコミの要領でアナタに向かって突撃ー!」ピョン

一方通行「………」ヒョイ

打ち止め「うぅー! どうして避けるのー!?」

一方通行「当たり前だろォ。……オラ、早く着替えて来いよ」

打ち止め「ミサカとお出かけする気になったの!?」パァァ

一方通行「送るから着替えろって意味だ。オマエは寝巻きのまンま外歩きてェのか?」

打ち止め「やだやだー! まだ帰りたくないー! ってミサカはミサカは食い下がってみる!」

一方通行「だァァ! 我が儘ばっか言ってンじゃねェよ!」

打ち止め「予定って何なのー? ミサカより大事な用なの?」

一方通行「アホか……だいたい昨日は遊園地からショッピングまで、オマエに散々付き合ったじゃねェか。これ以上俺に何を
      望ンでンだよ?」

打ち止め「場所とか時間とかの問題じゃないよー! ってミサカはミサカは憤慨してみる!」

58: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 20:29:25.65 ID:L27.cK60

一方通行「……っつーか、もォ充分遊ンだだろォがよ。今日は我慢しろ」

打ち止め「どうして!? アナタはミサカと一緒がイヤなの!? ミサカが嫌いになったの!?」

一方通行「……そォじゃねェ」

打ち止め「ミサカは、アナタと一緒にいたい……ずっと……」

一方通行「…………そォかよ」

打ち止め「今のアナタの顔は、何か考え込んでる顔だよ? 何かあったの? ってミサカはミサカは尋ねてみたり…」

一方通行「………別に何もねェよ」

打ち止め「ウソ!!」

一方通行「ウソじゃねェ……」

打ち止め「じゃあミサカの目を見てよ! ミサカの目を見て喋らなくなったの、自分で気づいてる!?」

一方通行「…………」

打ち止め「何を考えてるの……? ミサカには言えないこと? ってミサカはミサカは追求してみたり」

一方通行「…………」

打ち止め「ねぇ! 何とか言ってよ!! ってミサカはミサk」


一方通行「イイからさっさと着替えて来いってンだよクソガキがァァ!!」カッ

59: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 20:31:07.66 ID:L27.cK60

打ち止め「!!」ビクッ

一方通行「……ッ!」

打ち止め「…………」ジワァ

一方通行「………ァ」

打ち止め「アクセラレータのばか!! もう知らないっ!!」タタタタ バタン

目に涙を浮かべて出て行ってしまった打ち止め。はっと思った時にはもう遅かった……。

(……やっちまった………クソッ!)

すぐに追おうとするが打ち止めの足は意外と速く、一方通行が急いで部屋を出た時には……少女の姿はすでに
何処にも見えなかった。

「何やってンだよ俺はァ……ッ!」

ガツガツと乱暴に杖をついて移動する一方通行。

(ガキに当たっちまうなンてよォ……最悪だクソッたれ!)

ロビーの受付に札束を投げてホテルから出たが、打ち止めはいない。

(どこだァ……? あのガキどこに行きやがったァ!?)

キョロキョロと周囲を見渡すが、見つからない……次第に苛々が積もってくる。
捜し始めてから数分ほどでその苛立ちは爆発した。

「クッソがァァああああ!!」ガンッ

60: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 20:32:28.64 ID:L27.cK60

「お!!? おォォォ………」ヒリヒリ

思いきりドラム缶を蹴り飛ばし、自爆して足を摩りながらうずくまる第一位がそこにいた。


―――


「…………」ポツーン

ホテルから少し離れた公園のベンチに一人座る打ち止め。その表情は暗い……。

「アクセラレータのばか……」

もう何回呟いたのか分からなかった。

「…………」

さすがに少し我が儘だったかな、と反省はしている。
けど今戻るのも若干気まずい……。
目が覚めてからの一方通行は優しかった。目は自分を見てくれてなかったが、自分の行きたい場所に連れて行ってくれたし、
渋々ながらも珍しく部屋に招き入れてくれた。ホテルだったが……。
いつの間にか「もっと」という気持ちが膨らんでしまうのも、無理のないことかもしれない。まだ『子供』なのだから……。

「……でも、ミサカも……ばか…」

決して一方通行を困らせたい訳ではないのだが、それでもやはり甘えたい……何というか、難しい年頃だ。


??「―――あれ? もしかして打ち止めか……?」

61: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 20:34:21.79 ID:L27.cK60

打ち止め「?」

声を掛けられて横を向くと、黒色にツンツン頭の少年がそこに立っていた。

打ち止め「あ…!」

学生服に気だるそうな物腰の少年の名は上条当麻。不幸体質で無能力者の高校生だが、右手にだけ“能力を無効化”させる
『幻想殺し』が備わっている。

上条「よう、しばらくぶりだなぁ。こんなトコにひとりで何やってんだ?」

通学途中なのは見れば分かるが、予想外な人物の登場に打ち止めは一瞬気後れする。

打ち止め「え……えーっと…」

上条「? どうした?」

打ち止め「…………」

上条「一方通行と喧嘩でもしたのか?」 ※知ってる設定

打ち止め「えっ!?」

上条「……まさか、図星?」

打ち止め「………」コクリ

62: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 20:36:40.71 ID:L27.cK60

上条「……あんま時間ねーけど、話くらいなら聞くぞ?」

打ち止め「……ホント?…ってミサカはミサカは確認してみる…」

上条「あぁ、遠慮すんなって」

打ち止め「実はね――」


―――


上条「――ふーん、なるほどなぁ……一方通行のヤツが…」

打ち止め「……悪いのは我が儘言ったミサカだよ。ってミサカはミサカは非を認めるんだけど……」

上条「戻りにくい、か…?」

打ち止め「……」コクリ

上条「そうか……」

打ち止め「ミサカは…ミサカは……怖いよ」

上条「あー……俺の予想だけどさ、一方通行は多分もう怒ってないと思うぞ」

打ち止め「どうして…? ってミサカはミサカは訊いてみる」

上条「だってよ、アイツ……お前のこと大好きだから、お前が戻れば“怒り”なんかより“安心”の方がデカイんじゃねえかな?」

63: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 20:39:07.80 ID:L27.cK60

打ち止め「ミサカが戻ればあの人は安心するの? ミサカを早く帰そうとしたのに? ってミサカはミサカは意味がよくわから
      ないんだけど……」

上条「それはアイツが打ち止めを想うからこそ……なのかな。これについては俺もよく分かんねえけど、少なくとも一方通行はお前
    を邪魔に思ったり嫌いになったりなんかしねえよ」

打ち止め「ホ、ホント…?」パァァ

上条「あぁ、そこは上条さんが保障する」

打ち止め「アナタは…あの人のことが分かるんだね。ってミサカはミサカはちょっぴり羨ましかったり」

上条「う~ん、何となく……」(ってか、ロシアで見てるしな……)

打ち止め「……ミサカ、あの人の所へ戻る!」スクッ

上条「はは、そっか……一方通行によろしくな」

打ち止め「うんっ!」

少女の顔に光が戻り、上条の表情も綻ぶ。

打ち止め「じゃあ、ミサカは行くね! ありがとー! ってミサカはミサカは手を振りながらアナタにお別れするの!」

上条「おーう、気をつけてなー!」

ヒラヒラと手を振って打ち止めを見送った。
……実に気分がいい。今日は何か良いことが起きそうだ! と上条が上を向いてベンチから立ち上がった瞬間…

64: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 20:40:49.57 ID:L27.cK60

キーン コーン カーン コーン♪

現実を呼ぶ鐘の音が遠くから聞こえてきた。

「あははっ、完全に遅刻………不幸だ」

十秒前に抱いた希望はそこで完全に潰えた。


―――


一方通行「…………」

打ち止め「あのー……我が儘言ってゴメンなさいっ! ってミサカはミサカは……頭を…」

一方通行「打ち止め」

打ち止め「は、はいっ!?」

一方通行「言っておくがよ、俺は別にオマエが邪魔だとか思ってる訳じゃねェンだぞ?」

打ち止め「え…?」

一方通行「俺だってオマエといて退屈とか思った事ァねェしな。ただよォ、何も今日一緒じゃなきゃいけねェって決まってる
      訳でもねェだろ?」

打ち止め「う…うん……」

一方通行「また会おうと思えばいつでも会えンだ。それで良いじゃねェか」

65: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 20:42:59.31 ID:L27.cK60

打ち止め「ホントに……また会える?」

一方通行「あァ、約束してやンよ。俺を誰だと思ってる? 約束も守れねェよォなクズにまで成り下がった覚えはねェぞ」

その言葉で打ち止めの表情が一層明るくなる。

一方通行「だから、また今度な」

打ち止め「うん! 今度は動物園行こうね! ってミサカはミサカは今から楽しみだったり!」

一方通行「そォかい、ならその楽しみをとっとけ。そン時まで笑ってろ」

打ち止め「わかった!」


一方通行「それとよォ……」

打ち止め「ん、何?」

一方通行「さっきは……ちっとキツく言った。悪かったなァ…」ポリポリ

打ち止め「…ううん、もういいの。ってミサカはミサカは笑って許してあげる」

一方通行「……オマエ、何かあったのか?」

打ち止め「ううんっ、なーんにもっ♪ ってミサカはミサカは駆け出してみるー!」

一方通行「オイ、あンま走ってコケても知らねェぞ?」

66: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 20:45:24.51 ID:L27.cK60

打ち止め「そしたらまた絆創膏よろしくね!」

一方通行「あァ!? 調子に乗ってンじゃねェよ!」ズビシ

イターイ! ナニスルンダヨー! ッテミサカハミサカハボウリョクハンタイヲウッタエテミタリー

ウルセェ! オレハオマエノホイクシジャネェンダゾォ!

こうして二人は、並んで歩き出した。その姿は端から見たらまるで実に仲が良い『兄妹』のようである。


――― 


一方、ここはとある病院の一室……。

「――ッ!」

ベッドで眠っていた少女の目がパチリと開いた。ゆっくりと起き上がろうとするが、身体にミシミシと痛みを感じて苦悶の
表情を浮かべる。

「うっ!…ん………ここ…どこ?」ムクリ

それでも何とか体を起こし、周りを見ながら呟く。病室なのはすぐに理解できた……。

67: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/11(土) 20:47:54.66 ID:L27.cK60

「ミサカは……生きてるの…?」

誰に対してでもなく、自分に問いかけるかのように声を漏らした。
腕には点滴の針が刺してあり、着せられた患者衣の隙間から見える痛々しい包帯……。手足や頭に巻かれた無数の包帯が、
重傷さを物語っている。


「あれぇ……?」

そんな中、“違和感”はすぐに彼女を襲った。

「ミサカは番外個体、第三次製造計画によって作られた御坂美琴のクローン…」

自己紹介とはまた違うニュアンスで語り始める番外個体……何やら様子がおかしい。

「わかる……それはわかるよ」

「じゃあ、ミサカは―――」


「―――いったい何のためにつくられたの?」


誰もいない空間に向かって、そう問いかけたが……

「いや、そもそも『第三次製造計画』って………何だっけ?」

……いくら問いかけても答えは返ってこなかった。

81: 酉つけてみた ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:11:54.64 ID:LqZsn3Q0

~黄泉川宅~

打ち止め「ただいまー!」

黄泉川「おーう、おかえり。ってか何で寝巻き…?」

一方通行(あ、着替えさせンの忘れてた……まァいいか)

黄泉川「お? お前も来たのか。久しぶりじゃん」

一方通行「……すぐ帰るけどなァ、ついでだから顔見に来てやったンだよ。にしても何だその隈は? 不眠症にでも
     なったってかァ?」

黄泉川「いや、昨夜に急な“仕事”が入ってな。あんま寝てないじゃんよ……ふぁぁ」

一方通行「ふゥン……」


芳川「あら、珍しい。どうしたの? ホームシックにでもかかった?」クスクス

一方通行「第一声からうぜェなオマエ……っつか、まだここ(黄泉川家)にいたのかよ?」

芳川「新しい住居探すとなったらそれなりにお金が要るのよ」

黄泉川「別にウチは構わないけどな。お前も、寂しかったらいつでも帰ってきて良いんだぞー?」

一方通行「間に合ってンだよォ。人をいつまでもガキみてェな目で見てンじゃねェっつの」

芳川「充分子供じゃないの」

82: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:13:35.66 ID:LqZsn3Q0

一方通行「あァ? なンか言ったかァ無職。余生送るにはちィとばかし早えェンじゃねェのォ?」

芳川「……“クソ生意気なガキ”に訂正するわ」

一方通行「そりゃドッチかっつったらコイツだろォが」ジー

打ち止め「そこでミサカを見るなー! ってミサカはミサカは不満を爆発させてみる!」

黄泉川「ま、ドッチも可愛い子供じゃん。打ち止め、あんたは手ぇ洗ってきな」

打ち止め「はーい♪」パタタタ

黄泉川「お前は朝メシ食ってくか?」

一方通行「イヤ、帰るわ」

黄泉川「……ちゃんと学校行ってんのかお前?」

一方通行「あいにく今日は“お休み”だ」

芳川「駄目よー? ちゃんと学校行かないと、将来ロクな大人になれないから」

一方通行「そォだな、ちょうどイイ見本が目の前にいるし」

芳川「……愛穂、ちょっと包丁をk」

黄泉川「駄目だ、落ち着け。あんたをしょっぴくのはさすがに心が痛いじゃん」

83: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:14:47.60 ID:LqZsn3Q0

一方通行「ンじゃあなァ、ガキの世話頼ンだぜェ」ヒラヒラ

チョット? ニゲルノ? マダハナシハオワッテナイケド?

ダカラオチツクジャンヨー! ッテカ アイツニカナウワケナイジャン!


バタン


「ふン、なンてェか……相変わらずだよなァ。アイツらもよォ」カツ カツ

甘さを感じられない顔で迫る芳川と背後からそれを押さえる黄泉川を背に、一方通行はその場を後にした。


―――


アナウンサー『えー、続きまして昨夜未明、第二十三学区敷地内で発生した小型旅客機の墜落事故について速報が入りました。
        乗員数は依然不明ですが、機内から発見された遺体は操縦士の○○ ○○さんである可能性が高いため、警備員
        では身元の確認を―――』

黄泉川「…………」

芳川「愛穂…? 昨日の仕事って、まさかこれのこと?」

黄泉川「ん、まあな」

芳川「小型と言っても結構な大きさのハズよ。なのに見つかった遺体が操縦士だけ……? 乗客がいないなんて少し妙じゃない?」

84: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:16:07.28 ID:LqZsn3Q0

黄泉川「それがな、何故か上から圧力が掛かって……結局捜査は途中で中止になっちまった。ほら、テレビも『遺体の身元確認を
     急ぐ』ってだけで捜査を続行させるとは言ってないじゃん」

芳川「そう言えば……そうね」

黄泉川「なーんか引っ掛かるな……」

芳川「上層部が何らかの圧力を掛けたってことは……誰か『機密』に絡む人間でも乗っていたのかしら……?」

黄泉川「それはさっぱり分からんが……上が決めた以上、私達もこれ以上の干渉はできないじゃんよ」

芳川「………ここは上に従っておいた方が無難ね…」

黄泉川「……だな」


打ち止め「……………」ゴクリ


―――


~移動中のキャンピングカー内~

一方通行「っつーかよォ……態々全員揃うまでもなかったンじゃねェのか?」

土御門「そうも言ってられないぜい。なんたって墜落した旅客機からは操縦士以外発見されてないことになってるからにゃー」

85: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:17:24.82 ID:LqZsn3Q0

結標「暗部が絡んでいるのかしら?」

土御門「さぁな……それは分からん」

海原「墜落の原因も分かってないんですか?」

土御門「衛星が捉えた映像だと、外国産戦闘機による砲撃だと確認されてる……」

結標「ふーん……で、私達は今回何をすればいいワケ?」

土御門「今から“ある少女”と接触する」

海原「全員で……ですか?」

結標「ってか、それって『グループ(ウチら)』がするような仕事じゃなくない? 何よ“ある少女”って?」

土御門「墜落した旅客機の生存者だそうだ」

海原「それ、確かニュースでは公表されてませんよね?」

結標「確かに……どういう事?」

土御門「……実はその少女が少し“特殊”らしいんだが、詳しい事は俺もよく分からんぜよ」

一方通行「ケ、くっだらねェ……女の扱いならオマエら二人で充分だろォがよ。なンで俺まで駆り出されなくちゃならねェンだ…」

結標「その言い分だと、私は要らないみたいね……帰っていいかしら?」

86: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:19:10.49 ID:LqZsn3Q0

土御門「駄目だ。大体、俺と海原だけじゃ幅が狭まっちゃうにゃー」

海原「勝手に人の幅まで設定しないでください。自分はこれでも一途なつもりですが?」

結標「もうやだ……ここの連中ときたら変 (  コン)ばっかり……」

一方通行「黙れよショタコン」

土御門「公園で男児に声掛けてんじゃねえよショタコン」

海原「さりげなく自分も一緒のカテゴリーに入れないでくれますかショタコン」

結標「あんたら最終的に地球の裏側まで飛ばすわよ!?」

ブロロロ…


―――


「ミサカはミサカなの。それはわかるの……けど、うぅぅ……やっぱ無理ぃ! それ以上考えようとすると頭痛くなるぅぅ!」

「……オーケー、もう結構だよ。負担をかけて悪かったね?」

87: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:21:43.88 ID:LqZsn3Q0

ベッドで頭を抱える番外個体と、ベッドの横でその様子を見つめる『冥土帰し《ヘブンキャンセラー》』。

番外個体「はぁー、なんか疲れちゃったぁ……」

冥土帰し「ふむ……やはりこれは……」

番外個体「ミサカは何処も悪くないよねぇ? だってほら、手足だって動くし自分の能力もわかるんだよぉ?
      何? 何か問題でもあるって言うのかにゃーん?」

冥土帰し「いや、大丈夫だ。君の身体は間違いなく“健康そのもの”だよ。怪我自体も大した事はない……。
      じゃあ僕はこれで失礼するね?」

番外個体「おーい、コラコラちょーっと待ってよ。ミサカはいつ退院できんのぉ? こんな薬臭い部屋もう
      ヤなんですけどぉー?」

冥土帰し「……自分の『帰る場所』は分かるのかね?」

番外個体「わっかんなーい☆ あひゃひゃ」

冥土帰し(重症っと……)カキカキ

番外個体「けど、ここよりマシなら正直何処でもいいかなぁ~」

冥土帰し「そうかい。……それじゃ、また後で来るよ」バタン

番外個体「あっ! おい待てこらカエル! ……チッ、逃げやがった…」

冥土帰しが出て行ったドアを見つめて不満の色を浮かべる番外個体。

88: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:24:06.84 ID:LqZsn3Q0

番外個体「……はーあ、いったいいつまでここにいりゃいいんだろ……この部屋何もないから飽きちゃった~」

退屈そうに手足をブラブラとベッドで動かすが…

番外個体「――痛っ! ……ッツ~、まだ無理はできないかぁ~」ズキズキ

怪我人であることも失念していた。

番外個体「………はぁ~…つまんねーのぉ……寝よ」


―――


ブロロロ……キキーッ

土御門「――お? 着いたみたいだな……」

海原「いや、ここって……」

結標「“いつもの”病院よね……」

一方通行「まァ、特殊な患者ならここで別に不思議はねェが……」

土御門「さ、行くぜい」

89: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:25:42.62 ID:LqZsn3Q0

バタン

冥土帰し「おやおや、お揃いで……」

一方通行「………」(やっぱコイツが絡ンでやがンのか…)

土御門「で、『例の少女』は?」

冥土帰し「ちょうど今眠りについた所だ。見ていくかい?」

土御門「当然♪」

冥土帰し「では案内しよう。ついてきなさい」

ゾロゾロ

海原「……素性については明かされないのでしょうか?」

土御門「『見れば分かる』らしいがな……」

結標「んで、それからどうするの?」

土御門「上層部の出した結論によると、少女は狙われているらしいからウチラの誰かが護衛して欲しいとのことにゃー」

結標「はぁ!? 何それ……私らはSPじゃないのよ?」

90: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:27:41.46 ID:LqZsn3Q0

一方通行「っつーか何に狙われてるってンだよ?」

土御門「さぁ……学園都市外の研究機関か……あるいは内部か…」

海原「つまりまだ不明ということですね?」

土御門「まぁ、そうなるにゃー」

一方通行「ソイツはよォ、墜落させた戦闘機ってのと何か関係あンのか?」

土御門「俺も事情を把握してる訳じゃないが、多分あるんだろうな……」

海原「その少女を狙って戦闘機は砲撃した。と考えるのが妥当ですね…」

結標「ふーん、大体読めてきた。その子がまだ生きてるから今後も狙われる可能性がある。そこで上層部は私達を派遣した……
    そんなトコでしょ?」

土御門「正解♪」

一方通行「ドッチにしろ、俺らがやるよォな仕事じゃねェのは確かだよなァ。上層部ってのはよっぽど人員が不足してンのかよ?」

土御門「何で『グループ』に召集が掛かるのか……そこは俺も疑問だにゃー」

結標「その子ってのはもしかしたらこの中の誰かの関係者だったりしてね」

「!?」

91: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:30:26.63 ID:LqZsn3Q0

海原「それは有り得ますね……我々全員『訳あり』みたいなものですし……」

土御門「あぁー! なるほどにゃー! その発想はなかったぜぃ」ポン

一方通行「アホか、だったら尚更全員で来る意味がねェだろォがよ。アレイスターは一体何考えてやがンだか……」

土御門「『面白いものが見れるから』としか言ってなかったな……」

一方通行「ンだよそれ……全員でガキに会ってどンな面白れェモンが待ち受けてンのか、是非知りてェなァ」

土御門「あ、あと『約一名の面白い顔が見れる」とも言ってたっけ」

一方通行「ケッ、やっぱオマエらの中の関係者なンじゃねェか。別にオマエらの馬鹿面なンて見慣れてンだからどォでも
      イイってのによォ……ンな理由で来させられたってンなら、今すぐ俺は帰ンぞ?」

海原「まぁまぁ、折角ここまで来たんですから見て行きましょうよ。案外あなたの知ってる顔かも知れませんよ?」

一方通行「あいにく俺はオマエらみてェな節操なしじゃねェンだよ。だいいち俺にそンな女なンて……?」

結標「あら? 心当たりでもあるの? 顔色変わってるけど……」

一方通行「イヤ、何でも………」(まさかなァ……そンな訳……)

海原(あー、これはおそらくヒットですね……自分じゃなくてよかった……)フー

土御門(面会時にはコイツの顔から目を離さないでおくか…)ニヤニヤ

結標(少年だったらよかったのに……あーあ)ハァ

92: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:32:27.26 ID:LqZsn3Q0

ゾロゾロ

冥土帰し「着いたね。この部屋だよ」

一同(ゴクリ……)

ガチャ

番外個体「Zzzzzz」


冥土帰し「おやおや、よく眠ってるね」

結標「」チラッ

海原「」チラッ

土御門「」チラッ


一方通行「」


土御門(やっぱお前か……プッ)

結標(無表情で固まってる……でも、これはこれで……プフッ)

海原(ププッ、何ですかこのマジ顔……ってあれ? この少女は……え!? まさか……)

93: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:34:02.69 ID:LqZsn3Q0

一方通行「な、ンで……」

土御門「一方通行、この女はお前の知り合いか……?」(←笑いを堪えている)

一方通行「あァ……ってか、どォいう事だよ……コイツは…」

結標(放心してるわね……けどこの女、誰かに似ている気が……)

番外個体「Zzzzz」

海原「……いや、似ていますが……別人……姉か何かか…? しかし…これは……」

冥土帰し「君たちの誰かが護衛に当たってくれると聞いているんだが……」

土御門「俺はパスだにゃー」

結標「私も遠慮しとくわ……」

海原「…………」

結標「あれ? 海原……?」

土御門(はっ!? ま、まさかコイツ……)


海原「その護衛、自分が引き受けましょう!」バン


一方通行「!!??」

94: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:36:26.27 ID:LqZsn3Q0

土御門(あぁー、やっぱりか……)

結標(あ、一方通行の顔が……面白い)

冥土帰し「ん? そうかね、ではそれでよr」


一方通行「オイちょっと待てよ」

海原「ム…?」

土御門(お?)

結標(来た来た♪)

一方通行「オマエじゃ信用できねェなァ。不純な動機が見え見えなンだが」

海原「あなたこそ彼女の何だと言うのですか? それにこれは仕事です。不純な気持ちなんてありませんが?」

一方通行「ウソ吐け。何が“一途”だよ。似てりゃあ誰でもイイってかァ?」

海原「だから仕事だと言ってるでしょう? それとも、あなたが引き受けるんですか?」

一方通行「そォは言ってねェが、何となくオマエに預けンのは気にいらねェ……」

海原「なら引っ込んでてください。護衛には自分が――」

一方通行「」カチッ

海原「―――!?」

ドムッ!

95: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:38:07.02 ID:LqZsn3Q0

一方通行「…………」

海原「かはぁ………ッ」ドサッ

土御門(あ、死んだ……)

結標(音速を超えたボディブローが見事に決まったわね……あれじゃひとたまりもないわ…)

一方通行「土御門ォ、結標ェ」カチッ

土御門「な、何だ……?」

一方通行「オマエらに仕事だ。コイツをどっか人目に付かない場所に埋めてこい」

結標「」

土御門「」

一方通行「可能ならさっきまでの記憶も消しといてくれると助かるンだがよォ」

土御門「わ、わかった……善処する。行くぞ結標」

結標「え? マジで……」

土御門「お前がいれば穴を掘る必要はなくなる」キリッ

結標「全然トキメかないんだけど……」

土御門「一方通行の目がマジだ……。ここは大人しく従っておいた方が無難だにゃー」ヒソヒソ

結標「そうね、いつになく怖い気がするし……面倒臭い口論になる前に実力行使する辺りが本気よね……」ヒソヒソ

96: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:39:37.28 ID:LqZsn3Q0

土御門「と、言う訳だ……悪いな海原よ。楯突いた相手が悪すぎたってことで諦めるにゃー」

結標「貴方のこと、いちおう忘れないでおくわね……」

海原「」チーン…

土御門「じゃ、俺らはこれで失礼するぜい。一方通行、あとは任せた」グイッ(←担がれる海原)

結標「じゃあね」

一方通行「……おォ、頼ンだ」

97: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/13(月) 19:41:10.69 ID:LqZsn3Q0

エッホ エッホ

バタン

一方通行「行ったか……」

冥土帰し「……いつもあんな感じなのかい?」

一方通行「いつもはもォ少しソフトだ」

冥土帰し「そう、仲が良さそうで何よりだね」

一方通行「別に俺達は仲良しグループとかじゃねェよ。それよりオマエと二人だけで話がしてェンだが……ちっと
      場所変えねェか?」

冥土帰し「実は僕も君に訊きたかったんだ。そうしてくれるとありがたいね」

一方通行「そォか……ならさっさと移動すンぞ」

冥土「分かったよ、ついてきなさい……」

――バタン

すやすやと寝息を立てる番外個体を残し、一方通行と冥土帰しは病室を出て行った。
あまりにも突然すぎる再会に冷静さを失いかけたのは事実だが、いつ目を覚ますかも分からない番外個体の前では
このまま落ち着いて話を聞く事などできる訳がない。
何の関係もない海原に任せるなど論外である事は言うまでもないが、かと言って自分が護衛につくともハッキリと
は言えない。
恐らく彼女は自分を抹消するために学園都市へやって来た。それは簡単に推測できるが、そんな立場の自分が護衛
任務に当たれるのか? 冥土帰しの話をまだ聞いていない一方通行はこの時そう思っていた。
移動中の渡り廊下に一方通行の複雑な感情が滲み出ている。これから更に複雑な事情が一方通行の身に降り注ぐ事
となるのだが、今の彼にそこまでの予測はできなかった。

117: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/14(火) 19:24:50.67 ID:dcvJxWQ0

―――


~番外個体のいる病室から離れた部屋~

冥土帰し「さて、まずは君の話を聞こうか」

一方通行「……まず、アイツは平気なのか? 容態は?」

冥土帰し「あぁ、怪我は大した事ないね。ニ~三日後には退院できるだろう」

一方通行(つまり退院までの間、アイツの面倒見ろってかァ……)

冥土帰し「で、護衛については結局君が適任という事でいいんだね?」

一方通行「…………」

冥土帰し「どうしたんだい?」

一方通行「……イヤ、それ以前に俺がアイツに何て思われてるか、オマエは知ってンのか?」

冥土帰し「?……言ってる意味がよく分からないんだが?」

一方通行(やっぱり『第三次製造計画』については知らねェらしいな……何て説明すりゃ良いンだ…?)

冥土帰し「?」

118: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/14(火) 19:25:59.86 ID:dcvJxWQ0

一方通行「………姿見た時点で気づいたと思うが、アイツは、『妹達』のひとりだ。俺への負の感情が目一杯詰め込まれた
     “復讐のクローン体”だと思えば良い」

冥土帰し「…………」

一方通行「アイツと俺はちっと『訳あり』でなァ。まず普通に挨拶が交わせンのかが問題だ。クチ開いた途端、喉元に
     ナイフ突きつけられてもおかしくねェ……」

冥土帰し「なるほど……大体察したよ。君が学園都市からいなくなってた時だね?」

一方通行「さすが、オマエとは話が早く済ンで助かるわ。まァそンなトコだ。護衛に付かせる役目をグループ(俺)に
      回した“アイツらの嫌がらせ”にはつくづく呆れたけどなァ」

冥土帰し「……それで、護衛の方はどうする?」

一方通行「やっても構わねェが、下手すりゃ退院が延びちまうぞ? 多分アイツは俺のツラを見た瞬間に豹変するだろォ
      からなァ。そン時はオマエ逃げてた方が良いぜェ」

冥土帰し「…………」

一方通行「……オイ、何そこで神妙なツラしてンだよ?」

冥土帰し「目が覚めたら、一度彼女に会ってみると良いね」

一方通行「あァン? オマエ今の話聞いてなかったのか? アイツは――」


冥土帰し「『会ってみれば分かる』とだけ言っておくね。多分今説明するよりは早く伝わるハズだ」

119: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/14(火) 19:27:20.12 ID:dcvJxWQ0

一方通行「なンだそりゃ……」

冥土帰し「…………」

一方通行「……アイツに何かあったンかよ?」

冥土帰し「説明するより見た方が良い。その後に補足した方がきっと分かりやすいだろう」

一方通行「…………」

冥土帰し「君と彼女の事情はおよそ見当がつくが、それについてはおそらく問題ないと思うよ」

一方通行「ずいぶン思わせぶりだなァ。……まァとりあえずそれで良いが、オマエが訊きたい事ってのは何だ?」

冥土帰し「いや、もう大丈夫。彼女の『容姿』から推測するに、君とは何らかの関わりがあるんじゃないかと少し気に
      なっただけだ」

一方通行「そンならもォ言う必要はねェな」


冥土帰し「まあね。しかし……幸か不幸か……何ていうか、これも巡り合わせなのかねぇ…」


一方通行「? オイ、今のはどォいう意味だ?」

冥土帰し「おっと失礼。さて、他の患者さんもいるから僕はもう行くよ? 彼女も直に目を覚ますだろうから、それまで
      ゆっくり寛いでいるといい。その時はまた呼びに来るから」バタン

そう言い残し、冥土帰しは部屋を出て行った。

120: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/14(火) 19:29:20.24 ID:dcvJxWQ0

一方通行「…………」

訳が分からないまま部屋に一人残された一方通行。

一方通行「何だっつーンだ……? 一体よォ」

扉に向かって吐かれた疑問は、鮮やかにスルーされる。
冥土帰しが再び部屋に来るまでの時間が妙に長く感じたのは言うまでもない事だった。


―――


~○○学区のある場所~

??「―――そうか、で? 死体は確認したのか?」

下っ端「そ、それが……すでに回収されてまして…」

研究施設のような場所で、怪しげな会話をする二人の男。
見るからに上の立場な白衣の男は顔じゅうに施された刺青が特徴的だった。

??「あぁそう、で?」

下っ端「は…?」

121: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/14(火) 19:30:23.88 ID:dcvJxWQ0

??「は? じゃねえよボケ。場所割り出して死んだのか確認したんだろうなって訊いてんだよ」

下っ端「あ……その…」

??「オイオイ、俺は『息の根止めてこい』っつったハズなんだが、耳に入ってなかったんか? あ?」

下っ端「う……あの……しかし、あれだけの惨状で生きているとは…」

??「だから確認したのかって訊いてんだろぉが! 何度も言わせんじゃねえぞコラ!?」ガンッ

下っ端「ひっ……も、申し訳ありま……」ガタガタ

??「あー、いい、もういいから喋んな。すげえ耳障りだからよ」チャキ

下っ端「ま、待―――ッ!?」

パァン! ……ドサッ

??「ったく、弾の無駄遣いさせてんじゃねえよカスが」フッ

銃口から出る煙を一息で飛ばした。

??「ま、ハナから期待なんてしてねえけどな……。オイ、片付けろ」

声の数秒後、数人の男達がやって来て“今できたばかりの死体”を回収していった。

??「…………へへ」

まるで社長専用に使われていそうな革製の椅子に腰を下ろし、不敵な笑みを浮かべる刺青の男。
そして、楽しみと憎しみが混ざったような声で囁いた。

「“敗者復活戦”までもうすぐだなぁ」と。

122: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/14(火) 19:32:29.90 ID:dcvJxWQ0

―――


コンコン…

一方通行「!」

…ガチャ

冥土帰し「―――待たせたね。それじゃ行こうか」

一方通行「……目ェ覚ましたのか?」

冥土帰し「うん」

一方通行「……」スクッ

立ち上がり、先を歩く冥土帰しの後に続いていく一方通行。どこか緊張の含まれた空気が周囲を漂う。

一方通行「……普通に入って平気なのかよ?」

冥土帰し「構わないよ」

一方通行「…………」

冥土帰し「……怖いかい?」

一方通行「そりゃあなァ……」

123: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/14(火) 19:33:56.81 ID:dcvJxWQ0

冥土帰し「まぁ、まずはその目でしっかり見ることだね」

一方通行「……この面倒臭がりが…」

冥土帰し「こういうのは実際確認するまで信憑性がない話だからね」

一方通行「チッ……」

カツン カツン カツン…


~部屋の前~

一方通行「……入らないのか?」

冥土帰し「お先にどうぞ」

一方通行「いつからオマエはイタズラ好きになったンだ?」

冥土帰し「そういう訳じゃないが、彼女はどうも僕の苦手なタイプでね…」

一方通行「医者のくせに患者差別してンじゃねェよ」

冥土帰し「誰にでも得手不得手はあるよ。君やよく運ばれてくる少年なんかは前者だがね」

一方通行「ふン……」

ドアに手を掛ける一方通行。一瞬ためらいも伺えるが、そのままゆっくりと病室のドアを―――開けた。

124: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/14(火) 19:35:29.21 ID:dcvJxWQ0

ガチャ ギィィ…


一方通行「………」

番外個体「………?」

上半身だけ起こし、ぼんやりと窓の外を見つめていた番外個体の顔が、コチラを向いた。

番外個体「………」

一方通行「よォ……」

番外個体「?」

キョトンとした目の番外個体に一方通行はタダならぬ予感を感じたが、極めて普通に話し掛けるよう努めた。

一方通行「また会ったなァ。ってかオマエ、何で俺に何も言わn」

番外個体「だれ?」

一方通行「!」

冥土帰し「………」


番外個体「ねぇカエル、そこの目つきが悪くてロシア人も真っ白なほど白くて何か変な模様の服着てるガリガリ君は何処の誰?
      研修医か何か?」


冥土帰し「いや、彼はね……」

一方通行「」

思考が停止した一方通行は、しばらく棒立ち状態のまま動かなかった。

142: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/16(木) 20:17:17.81 ID:cl.NZmM0
一方通行「…………」

番外個体「なに真顔で固まっちゃってんの? ……ぷっ……あれ…?」クスクス

冥土帰し「?」

何故か一方通行を見て急に笑いを堪えた表情になる番外個体。

番外個体「なんでだろ……フフッ、あなたのその顔……やけにツボなんだけどぉ……」プルプル

一方通行「!?」

番外個体「―――あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃひゃひゃ!!! ひぃひひひひひ!!」

ついに耐え切れなくなったのかベッドで腹を抱えて爆笑した。

一方通行「…………オイ」

冥土帰し「あー……いったん出ようか」グイッ

一方通行「!」

冥土帰しは一方通行の腕を掴んだまま病室から出てドアをパタンと閉めた。
番外個体の甲高い笑い声がドア越しからBGMを演出する。

一方通行「………」

冥土帰し「……まぁ、という訳だ」

143: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/16(木) 20:20:08.10 ID:cl.NZmM0

一方通行「何が『という訳』だよ? オイ、何だあれ?」

冥土帰し「さすがに最後のは想定していなかったね。じゃ、戻ろうか」

一方通行「そォだなァ……」

アッヒャッヒャッヒャッヒャ ヒーヒー クルシイ

一方通行(訳が分からねェにも程があンぞ……)

カツン カツン


~さっきの部屋~

冥土帰し「まぁ、見ての通りだ。彼女は記憶喪失……いや、“記憶障害”と言った方が正しいかね」

一方通行「ンなのは一発で分かったけどよォ………イヤ、おかしいだろ。アイツァ他の『妹達』と記憶やら感覚やらを共有
      できンじゃねェのかよ? 仮に脳が何らかのダメージを受けて記憶が飛ンだとしても、MNW《ミサカネットワーク》
      に接続する事で過去の情報は補えるハズだろォが。あのクソガキが確かそォだったぜ?」

冥土帰し「どうやらそのネットワークに接続できなくなっているみたいだね」

一方通行「何でだ?」

冥土帰し「おそらく、脳内の電気信号が正常に働いていない」

一方通行「何!?」

144: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/16(木) 20:22:53.99 ID:cl.NZmM0

冥土帰し「彼女は自分が何者なのか、妹達とは何なのかについては覚えている。ただ―――」

一方通行「……ただ?」


「―――“自分は何故作られたのか”が理解できていないらしい」


一方通行「!? なン……」

冥土帰し「自分は何のために生きているのか、何をさせるために製造されたのか、言ってみれば『存在理由』だね。そこが……どう
      いう訳かすっぽりと抜け落ちているようなんだ。MNWに接続もできない。つまり妹達と記憶も感覚も共有ができない彼女
      にはそれを知る術もない。単純な記憶喪失ならまだマシだったのかもね」

一方通行「原因は墜落の時に負った傷か……?」

冥土帰し「その可能性が最も高いね」

一方通行「……治らねェのか!? ここの『調整』で何とかならねェのかよ!?」

冥土帰し「それは無理だ。彼女は他の妹達とは違う。『第三次製造計画』と『量産型能力者計画(レディオノイズ)』や『絶対能力
      進化計画(シフトプラン)』で作られた妹達専用の設備しかここにはない」

一方通行「それでも同じ妹達だろォが! 何の問題があるってンだよ?」

冥土帰し「まず、同じ設計の培養器で作られたかが分からないんだ。それこそ“計画者”でも現れてくれれば手っ取り早いんだがね。
      もし仮にここで『調整』を試みたとしても、もしかしたら他の妹達の脳内信号に影響が出るかもしれない。更に下手を
      すると、身体と合わない調整の影響で彼女自身(番外個体)の脳が完全に停止してしまう恐れもある」

145: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/16(木) 20:26:17.62 ID:cl.NZmM0

一方通行「じゃあ……」


冥土帰し「少なくとも、今分かっているだけの段階では……ここでの調整は不可能だ」


一方通行「!!…………」

冥土帰し「ロシアの研究機関とコンタクトを取るしかないが、それには時間が掛かる。何しろ終戦後の両国同士、迂闊な接触は望め
      ないからね?」

一方通行「……このまま調整受けられなきゃ、アイツはどォなるンだ? まさかとは思うが……死ぬなンて事にはならねェよな?」

冥土帰し「あぁ、その心配は要らないよ。彼女は他の妹達と違うと話した意味はそこにもある」

一方通行「……!」

冥土帰し「普通なら定期的な調整を受けなければ生命を維持できないハズなんだが、『第三次製造計画』というのは知らないが、
      先の二つよりも更に発展した計画と言えるね。向こうでの調整は“生命維持”ではなく、あくまで“記憶操作”を目的に
      行われているらしい」

一方通行「って事は、アイツは『作られた時の記憶』を調整されて……また学園都市に送り込まれたってか?」

    (俺を、殺すために……)

冥土帰し「…………」

一方通行「ンで、どこの馬の骨とも知れねェクソ野郎に……その記憶まで奪われちまった……と」

146: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/16(木) 20:28:42.82 ID:cl.NZmM0

「…………」

一方通行の表情が、除々に険しくなる。
勝手に作られた記憶を勝手に奪われ、ついには己の存在理由も忘れてしまった。一方通行には理解ができない。
何故? いったい何故彼女がそんな目に合わなくてはならないのか。

「ざ………ンな……」

学園都市が、ロシアが、ひとりの“少女の運命”を弄んでいる。まるでゴミのように。
一方通行はもはや周囲には目もくれずに、腹の底から思いきり叫んだ。

「ふざっけンじゃねェぞォォクソったれがァァあああああ!!!!!」

ガン!! と蹴り飛ばされたゴミ箱が、中のゴミを散乱させながら宙を舞う。

「何でアイツがくっだらねェ連中のためにいちいち運命振り回されなくちゃいけねェンだよォォ!! アイツがいったい何を
 したってンだァ!? 何でオマエ達の都合でアイツの記憶が良い様に弄ばれなきゃなンねェンだよォォォ!!!」

許せなかった。
自分のために作られ、自分のために死んでいく少女達を救えなかった自分自身。
科学の発展を表向きにし、私利私欲に溺れて人を人とも思わない者達。
全てが許せない。

「…………」

ひとしきり叫んだ一方通行は、横で慈悲深い表情をしていた冥土帰しにこう告げた。

147: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/16(木) 20:30:12.52 ID:cl.NZmM0

「あの女は俺が守る」と。


(オマエ達の思い通りになンて……させっかよ)

(アイツが元気になるまでの間、少しでも近づいてみろ)

(地獄に落ちた方がマシな目に合わせてやる!!)


彼女も自分にとっては『守る対象』だ。その彼女に害を及ぼそうものなら、鬼でも悪魔でもなってやる。
一方通行は、怪しく輝いた紅い目でそう誓った。

148: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/16(木) 20:31:32.78 ID:cl.NZmM0

―――


「はぁ、不幸だ……」

トボトボと覇気のない顔で道を歩く上条。結局遅刻した後、幼い容姿の担任教師から「罰掃除でーす」と告げられ、終わる頃には
スーパーの特売サービスタイムも終了してしまっていた。
予算で買えたのはもやしと卵。今日は肉料理を予定していただけに、この結果は残念だった。

「また噛まれるよな~……」

同居人シスターはまだ上条宅にて居候中。噛み砕きを覚えてからはシャレ抜きで命を脅かす存在になりつつあるシスターに上条は
身体を震わせる。と、そこへ―――

「とうとう見つけたわよ!!」

「あん……?」

聞きなれた、と言う程でもない高く強気な声が身体の震えを止めた。
声のした方を見ると、そこにいたのは身体に電気を纏わりつかせたまま仁王立ちの少女だった。

「戻ってたんなら一言くらい連絡入れなさいよ!! おかげでロシア中探し回るハメになったんだからね!!」

何やら少女は怒っている。

「御坂か……お前も今帰りかよ?」

149: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/16(木) 20:32:41.32 ID:cl.NZmM0

御坂と呼ばれた少女はそのいつもと変わらない上条の態度に眉をピクつかせる。
その直後、身体を纏っていた電気の一部が―――

「うわっ!? ち、ちょっと!!」

―――上条に向かって伸びた。

「ッッ!!」

さっと右手を前方に翳す。放たれた電気は右手から先に進むことなく消滅する。

「うぅぅ……何か久々だなこの応酬」

改めて右手に感謝し、少女をキッと睨む。睨まれた少女、御坂美琴は喧嘩上等とばかりに睨み返す。

「イキナリ何すんだテメェ!! あっぶねぇーだろ!?」

「アンタがコッチに帰って来たのをあの子(妹達)から聞かなかったら、私は今頃ロシアで凍死してたかもしんないのよ!?
 そんな目に合わせといて、連絡のひとつもよこさないってどーいう事なのかって訊いてんの!!」

負けじと言い返されて「うっ…」となる上条。そもそも美琴が何故ロシアに来ていたのか。鈍感な上条は分からなかったが、
訊いた途端に返って来たのは言葉ではなく音速を超えた“コイン”だった。
異国の地で骨にはなりたくないので、必死にガードしたのを覚えている。ある意味フィアンマより恐ろしかった。

150: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/16(木) 20:33:49.78 ID:cl.NZmM0

上条「……悪かったよ。てっきりお前も一緒の旅客機で帰ったんだとばっかり思ってたんだ」

美琴「ふざけんじゃないわよ!! 先に帰っちゃうとか信じらんない! 折角人が……その、心配して来てやったってのに!」

上条「だからゴメンって……」

美琴「ゴメンで済んだら黒子は要らないのよ!」

上条「じゃあどうしろって言うんだ?」

美琴「え……そ、そうね……」ウーン

上条「確かに連絡しなかったのは悪かったと思ってるよ。埋め合わせについてはは今日あんま時間ないから、また今度にして
    くれると助かるんだが?」

美琴「! な、何でもしてくれるの?」

上条「俺でできる事ならな。いちおう言っておくけど、上条さんは年中無休で貧乏n」

美琴(どうしよ……てっきりいつもみたいに終わると思ったら、まさかの大収穫ってヤツ……!?)ボー

上条「おーい? 御坂さーん?」コンコン

美琴「!?」ビクッ

上条「何固まってんだよ?」

美琴「う、ううん! 何でもないっ! じゃ、じゃあまた連絡するから、ちゃんと埋め合わせなさいよね!」タッタッタ

上条「……何だ? ロシアで悪いモンでも食ったのかな?」

151: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/09/16(木) 20:35:28.39 ID:cl.NZmM0

―――


(どどどど、どうしよ!? 急展開ってか……とりあえず、こないだみたいにならないようにしないと!!)※十二巻参照

美琴は下を向いたまま街中を疾走していた。顔は勿論真っ赤なまま。
道行く人がその様子に目を向けるが、当の本人はそれどころではない。

(ま、まずは帰ってから入念にプランを立てないと! 邪魔が絶対入らない所で……そのまま……///)

そこまで考えてから頭の中はピンク一色なので、説明は要らない。
しばらくそのまま走っていた美琴は、人とぶつかりそうになり、足を止めた。

「―――ッッ!?」

慌てて足を止める。

「あぁ? ……チッ」

152: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/16(木) 20:37:03.49 ID:cl.NZmM0
―――


(どどどど、どうしよ!? 急展開ってか……とりあえず、こないだみたいにならないようにしないと!!)※十二巻参照

美琴は下を向いたまま街中を疾走していた。顔は勿論真っ赤なまま。
道行く人がその様子に目を向けるが、当の本人はそれどころではない。

(ま、まずは帰ってから入念にプランを立てないと! 邪魔が絶対入らない所で……そのまま……///)

そこまで考えてから頭の中はピンク一色なので、説明は要らない。
しばらくそのまま走っていた美琴は、人とぶつかりそうになり、足を止めた。

「―――ッッ!?」

慌てて足を止める。

「あぁ? ……チッ」

153: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/16(木) 20:37:55.72 ID:cl.NZmM0

横断した背丈のある男は走ってくる美琴に鋭い目を一瞬ギロリと向けて、また正面を向いた。舌打ちのオマケ付きだ。
あとは美琴など目もくれずにそのまま歩いていった。

「……何よアイツ…」

前を見ずに走っていた自分が悪いのだが、男のふてぶてしい態度も気に障る。

「顔に刺青で白衣とか……どんなファッションよ」

去っていく男の背中に皮肉を込めた視線をぶつけてやった。

「!?」

立ち止まった男は、何故か足を止めて美琴に振り返った。急に振り向かれてビクリとする美琴。
コチラに向けられた男の目からは驚きの様子が伺えたが、美琴の方は首を傾げるしかない。あんな男になど見覚えは
ないからだ。

「……え?」

男の表情が驚きから怪しい笑みに変わる。美琴が疑問を抱く間に、男は美琴へと再び歩み寄ってきていた。

159: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/17(金) 19:15:31.93 ID:NznIDfY0

美琴に向かって真っ直ぐ引き返してくる謎の男。

「な……?」

白衣を纏ったスキルアウトと言った表現が的確な長身の男は美琴のすぐ目の前で立ち止まった。
まるで品定めでもしているかのように上から下までジーッと眺めている男に、美琴は寒気を感じる。

「ふーん」

視線があまりに不気味なせいか、やや躊躇いが生まれたが、それでも美琴は声を出した。

「な、何よ……?」

思ったよりも弱気で小さな声だった。超能力者の上位に立つ彼女がそう簡単に物怖じなどしない筈なのだが、
何故か男のオーラというか雰囲気というか、よく分からないものがいつもの「強気」を削いでしまっている。
「この男は何かやばい」「下手に抗ってはいけない」
美琴の直感はそう警告していた。
思わず背中に冷たい汗が流れたと同時に男の声が返ってくる。

「あー、こりゃ失礼。知った顔に見えたんだがなぁ……残念。“人違い”だったわ」

たった一言。それだけ告げた男はまた背を向ける。
そして今度こそ振り返る事なく、男は美琴の視界から姿を消していった。

「…………」

何か不敵に見えた男の目が頭から離れず、美琴はしばらくその場に立ち尽くしていた。

160: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/17(金) 19:18:10.38 ID:NznIDfY0

―――


一方通行はドアの前に立っていた。
このドアの向こうにいるのは番外個体だが、記憶に障害を負っているのとMNW接続不可のため、自分の存在意義が欠落
してしまっている。つまり、一方通行の存在も忘れてしまっている事になるのだが。

「………ホッとしてる訳じゃねェが、護衛するには好都合かもな」

今の番外個体に起こっている状況は決して良いと思わない。むしろ元に戻したい気持ちの方が強い。
だが、敵意や殺意を向けられない今なら護衛しやすいのも事実。

(複雑な気分だぜ。ったくよォ)

彼女は今、相当不安定な状態らしい。記憶を刺激する過去の話や分からない事を無理に考えさせるのは危険だそうだ。
身体自身は軽傷で済んでいるとは言え、これでは重病人である。本当にニ~三日の入院で大丈夫なのか疑問だが、今は
あの医者の言う事を信じる他に術がない。
面会の許可は退院までの間常に許可されている。もっとも、そうでなければ護衛にならないのだが。

(……どンな話すりゃ良いンだ? 迂闊に表情作ったらまた馬鹿笑いされンだろ。人の気も知らずによォ……)

なかなかドアノブに掛けた手を回せない。最初の一歩を考えすぎているようだ。

(不安定で少しタブーに触れたら頭痛めちまうヤツ相手だ。慎重にいかなきゃならねェのは分かるが、どォもなァ……)

冥土帰しから注意事項の後「襲撃の心配はいらないと思うが、後は頼んだよ。異変が起きたらすぐに呼んでくれ」と部屋を
追い出されてからここまで来たものの、ドアの前から足が進まなかった。何となく顔が合わせ辛いのだ。

とは言え、室内に窓がある以上このまま外で護衛という訳にもいかない。

(だァァクソ! いつまでもここに居たって仕方ねェだろォが! しっかりしろってンだよ!)

161: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/17(金) 19:19:36.75 ID:NznIDfY0

一方通行は覚悟を決めて、ドアノブをガチャリと回した―――その時だった。

「ッ!?」

ゴンッ! と良い音が病院の廊下に響いた。

「☆~~~!!」

「あれぇ? ………ちょっとぉ、何やってんの?」

唸りながらを額を押さえてうずくまる一方通行に番外個体はおずおずと尋ねる。

「おォォォォ……」

突然開いたドアが一方通行の額に勢いよく命中したのだが、開けた本人の番外個体は顔に「?」を浮かべている。
その末に出た言葉が「うっわ~、間抜け……」だった。

その言葉が耳に入った瞬間、一方通行は「普通に入ってればよかった……」と後悔する。
出鼻は完全に挫かれた。先が思いやられるとは正にこの事だろうか。


―――

162: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/17(金) 19:20:38.23 ID:NznIDfY0

~気を取り直して二人は病室へ~

番外個体「そんで、何? 検温ならさっきやったけど、ってか男のあなたがやるワケ? ソイツはちーっと勘弁願いたいかな~」

一方通行「だから俺は研修医でも看護士でもねェっつの………オマエが退院までの間、ここで面倒見る事になった」

番外個体「やっぱ看護士じゃーん。ミサカの面倒って、えっ!? うわマジでそれちょっとヤバイっしょ!?」アタフタ

一方通行「看護は専属の看護士がいるから心配すンな」

番外個体「……は? じゃああなたは何でここにいんの?」

一方通行「オマエが逃げないか見張るためだ。“さっき”みてェになァ」

番外個体「だ、だからアレは逃げようとしたんじゃなくて暇だったからちょーっと探索に……じゃなくてお散歩に」アセッ

一方通行「駄目だ。許可が下りねェ内は勝手に出歩くンじゃねェ」

番外個体「え~、だってここって何もないからつまんねーんだも~ん」ブーブー

一方通行「我が儘たれてンじゃねェよ。しばらくしたら医者に訊いてやっから、それまで大人しく寝てろ」

番外個体「さっき寝たから~、眠くないっ☆」

一方通行「…………あァそォ」

163: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/17(金) 19:23:39.79 ID:NznIDfY0


番外個体「うんそーぉ、あひゃひゃ♪」

一方通行(なンか頭痛くなってきた。コイツ更に幼児化してねェかァ? ……まァ脳波が不安定ってンならそれも仕方ねェかも
      しンねェけどよォ……)

番外個体「んだよ~、露骨に頭抱えちゃってさぁ。ったくあのカエルめ。話相手ならもーちょいマシなのよこせっての」

一方通行「不足で悪かったなァ」

番外個体「うわぁ、つまんない返し。あなたってトークとか苦手な人? ……ゲ、最悪じゃん。暇つぶしにもなんね~」

一方通行「あァそォかい。ってか別に人と話すのが嫌いなワケじゃねェし」

番外個体「けどさぁ、その“他人を寄せ付けないオーラ”っての? それ消した方がいいよ?」

一方通行「そンなの分かンのかよ……?」

番外個体「だって友達いる顔には見えないもん♪」

一方通行(ショック与えりゃ記憶戻るンじゃねェかなコイツ……試したらダメかなァ)ピキピキ

番外個体「あ、怒ってる? こめかみヤバイよ? ピクピクしてるよ?」

一方通行「………は、べっつに気にしてねェし。ダチなンて要らねェし」プイ

番外個体「拗ねんなよ~。悪かったって」

一方通行「ケッ……」(何かやりにくいっつーか……何なンだよこのやりとりはァ……)

164: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/17(金) 19:25:34.67 ID:NznIDfY0

番外個体「あ! ねぇ、そう言えばあなたの名前は?」

一方通行「! ……別に名乗る必要なンざねェだろ」

番外個体「えー? じゃあ何て呼びゃあいいってのよぉ? お前とか貴様とか?」

一方通行「……好きに呼べば良いだろォが」

番外個体「ふーん、そう。ならぁ……う~ん、どーしよっかなぁ~」

一方通行「?」

番外個体「“ウサギさん“か“ガリ君”か“イモの根君”か“雪頭(ゆきあたま)さん”の中だったらどれが良い?」

一方通行「全部ボツ」

番外個体「はぁ!? なにコイツわがまま~! 好きに呼べっつったじゃん!」

一方通行「それ以前にオマエのネーミングセンスはどォなってンだよォ!? ちったァ他にマシなの思いつかねェのか!?」

番外個体「そんなのミサカのせいじゃないし!」 ※>>1のせい

一方通行「あァもォイイ! 俺の事は一方通行って呼べェ!」

番外個体「アクセラレータ……?」

一方通行「あ……!」(しまった!)

165: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/17(金) 19:28:13.14 ID:NznIDfY0

番外個体「……アクセラレータァ?」

一方通行(やべェ、マズったか……?)

番外個体「……それがあなたの名前なの? ずいぶん日本語上手いけど、ひょっとして外人さん?」

一方通行「ま、まァそンなトコだ」(セーフか……)ホッ

番外個体「ふーん、……まぁいっか。じゃあそれで♪ よろしく一方通行」

一方通行「おォ……」(自分で言っといて何だが、すげェ違和感。……コイツが無邪気なツラを俺に向けてっからか…?)

番外個体「ってかさぁ」

一方通行「ン…?」

番外個体「確かこの街で最強の超能力者がそんな風に呼ばれてた気がするんだけど、あなたじゃないよね?」

一方通行「!?………」

番外個体「……やっぱ違うか、悪いけどトップには全然見えないし。ミサカでも勝てそうだし」

一方通行(学園都市がどォいう所かは分かってンのか……まァそこから説明すンのはさすがに面倒だからありがてェが)

番外個体「おいコラー、皮肉もつけてやったのにひとりで瞑想してないで反応してよ~。ミサカが暇になっちゃうじゃーん」ブー

一方通行「ン、あァ……とりあえず、オマエが退院するまで俺はここに居る。だから安心して寝ろ」

166: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/17(金) 19:29:50.86 ID:NznIDfY0

番外個体「寝れるかーっ! 逆に無理だっつーの! ミサカが寝る時はあんた出てけよ!」

一方通行「そォはいかねェンだよ。………いちおう言っとくが別に寝顔見たり寝込み襲ったりしねェぞ」

番外個体「今日会ったばっかのあなたを信じろと? ははは、無理」

一方通行「じゃあ死ぬまで起きてろ」

番外個体「カッチーン。ムッカつく~、あなたそんな性格じゃホントに友達できないよ?」

一方通行「ほっとけ! 別にンなモン欲しいとも思わねェっつの」

番外個体「あっそ。………あーあ、まぁ何も無い部屋で独りよりはマシっちゃマシだけどさぁ……せめてもう少し良い相手
      いなかったのぉ?」

一方通行「せいぜい我慢すンだなァ。俺以外にも候補がいねェ訳じゃねェが、多分俺が一番マシだと思うだろォぜ」

番外個体「……いちおうチェンジしてみて良い? それで判断するから」

一方通行「ざァンねン、ソイツは今ごろ土ン中だ。来年の春にはまた会えンだろ」

番外個体「人間じゃねーのかよっ!? ミサカ爬虫類とか苦手なんだからね! カエルなら歓迎だけど」

一方通行「類が違うってだけでドッチも大して変わンねェじゃねェか!」

番外個体「はぁ!? テメちょっとそこに直れよ! カエルとヘビが一緒とか有り得ないし!」

一方通行「どォ違うってンだよ?」

番外個体「わかった、今説明してやるわ」

167: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/17(金) 19:31:48.50 ID:NznIDfY0

番外個体のカエル講座はその後二時間ほど続いた。完全にグッタリしながら一方通行は美琴の趣味を心の底から恨み、着替え
やらを取りに病室をいったん離れる。

「一方通行か……なーんか初めて会った気がしないなぁ。気のせいだろうけど」

一人になった病室で番外個体はそう呟く。
少し捻くれてるけど、悪い人ではなさそうね。と更にぼやいた後、喋り疲れたのか眠ってしまった。


「…………」

その頃、一方通行は杖を鳴らして歩きながらもの思いに耽っていた。
ロシアで行動を共にした番外個体と今さっきまで一緒に居た番外個体。正直な感想を言うと、まるで別人を相手にしている
かのようだった。

(ハァ、思ってた以上に骨が折れンなこりゃあ)

内心で呟き溜息を吐く。
彼女から“自分への憎しみ”が抜ければあんな風なのだろうか。自分を“敵”だと一切認識していない相手だとあんな顔を
するのか。自分がその対象になることを想定していない一方通行は順応する時の違和感がまだ消せずにいた。
『相手に合わせる』といった経験が不足しているせいでもあるだろう。
デリケート(?)な状態の番外個体への接し方は取り敢えずあれで良いとして、自分の精神があれに慣れてしまうのは拙い。
ふとした事で記憶が戻り、牙の緩んだ自分を容赦なく地獄に落とそうとする番外個体。考えるのも嫌な未来だ。
不安定な今の状態ならそれも有り得る。と、冥土帰しも言っていた。
私情を完全に捨てるのは無理だが、いざとなった時の心構えはしておく必要があるな。と、一方通行は心中で思いながら着
替え等入りのバッグを背負って病室へと戻る。

(どォいう訳か、あの部屋にはソファーがあるから寝るのには困らねェ。病室に洋製のソファーってのは不釣合いにも冗談
 が過ぎる気がしてならねェが、好都合には違いねェな)

どうやら彼女の退院までは本気であそこに居つくらしい。
バッグに詰め込まれた自分専用の枕がそれを物語っていた。

168: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/17(金) 19:32:46.43 ID:NznIDfY0

―――


~とある研究施設のような場所~

「どうしました? ずいぶんとご機嫌ですが……」

つい先ほど戻ってから笑みを崩さない男に若い男性の研究者が尋ねた。
外の空気を吸おうと散歩している間に何かあったのか気になっての質問である。

「なあに、面白れぇヤツとたまたま遭遇してよぉ」

尋ねられた男はやはり上機嫌な態度で答えた。

「はぁ……?」

「おい、お前は『オリジナル』を知ってるか?」

呆気に取られている若い研究者に男は尋ね返す。

「え? 例の少女のオリジナル、御坂美琴の事ですか……?」

「そう、それだよ」

ポンと手を叩く男に若い研究者の疑問は深まるばかりだった。

「あの……それが何か?」

169: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/17(金) 19:34:17.24 ID:NznIDfY0

「…………」

しばしの沈黙後、男は口を開く。

「おい、仕事増やすが構わねえな?」

「は?」

唐突にそんな事を言われてキョトンとなるが、男は構わずに指示をした。
『御坂美琴』について徹底的に調べろと。既存のデータだけではなく、彼女の“全て”を洗い出せと。

「わ、分かりました」と返事を残して若い研究者は席を外した。
残された男は不気味な笑みを一層歪ませる。

(良いこと思いついちまったぜ。あのガキは利用できそうだな……)

(同じ超能力者らしいが、所詮はあのクソガキ以下。まぁどうにでもなんだろ)

(クククク、待ってろよぉ……一方通行。もうすぐだからなぁ)

(テメェにゃ最高に苦しい地獄を味あわせてやらねぇと気が済まねえんだからよぉ……)

「そのためには手段なんざ選んでらんねえってなぁ! ククク」


「くひひひ……ひゃーっはははははははは!!!」


地の底から響いてきそうな男の高笑い。その笑いから伝わってくるのは、目的のためならどんな卑劣な手も厭わないという
男の断固たる意志だった。
この男がこれから後々引き起こす事件に対し、一方通行がどう動くのかが見ものだ。

177: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:16:21.95 ID:8RA6x1Q0

~病院内の売店を通りかかる二人~

番外個体が店の前で立ち止まる。

番外個体「ねぇ、ジュース飲みたいんだけど」

一方通行「あ? 好きにしろよ」

番外個体「ミサカ、お金持ってませーん♪」

一方通行「あっそォ」

番外個体「…………」スッ

一方通行「……何だその手は?」

番外個体「お金♪」

一方通行「……ったく、ほら」チャリン

番外個体「おぉ! 意外にもあっさりくれたね! “一方通行はケチキャラではない”……っと」メモメモ

一方通行「何メモってンだよ!? ジュース代ぐれェケチでも出すだろォが!」

番外個体「うわ~、まさかのブルジョア発言。あなたって金持ちなの? 貧乏人に聞かれたら殺されるよ?」

一方通行「ジュース如きでブルジョアまで繋げてンじゃねェよ! 買うンならさっさと買ってこい!」

178: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:17:23.01 ID:8RA6x1Q0

番外個体「おー怖い怖い、“朝はキレやすい”……っと」メモメモ

一方通行「だからメモンなァァ!!」

看護婦「病院内ではお静かに!!」(とミサカはまたあなたに会えた喜びを胸にしまいます。今度はどこに注射してやろうかな……)

一方通行(な、何だァこの寒気は…?)ゾクッ


番外個体「ぷぷーっ、怒られてやんの~」ニヤニヤ

一方通行(誰のせいだと思ってやがる……血ィ止めてやろォかこのアマァ…)ピクピク

番外個体「じゃあ買ってくるね~」

一方通行「オイ待て、俺のコーヒーも頼ンで良いか?」

番外個体「いいよ~」


―――


番外個体「あー、旨い♪」ゴクゴク(←トロピカルサイダー)

一方通行「…………」

179: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:18:25.24 ID:8RA6x1Q0

番外個体「あれ? 飲まないの? ……もしかして嫌いだった?」

一方通行「イヤ、そォじゃねェ………いただくわ」プシュ

番外個体「……?」

一方通行(コーヒーってだけで“ブラック”とは言ってねェのに、コイツはしっかりブラック買ってきやがった……)

     (確かに、ロシアでコイツといた時は無糖のコーヒーを飲ンで突っ込まれた事がある)

     (俺とロシアにいた事をコイツは覚えてねェハズ。なのに何故コイツは俺の好みを?………ただの偶然か?
       それとも、無意識の内に覚えてるってのか?) 


番外個体「………」ジーッ


一方通行(イヤ、さすがにソイツはちっと考え過ぎか……よくねェなこりゃ)

番外個体「なーにコーヒー見つめたまま固まってんの~?」ヌッ

一方通行「ッッ!?」ビクッ

番外個体「!? ち、ちょっと! 驚き過ぎ! あなたって痴呆症?」

一方通行「オ、オマエが急に顔近づけて来っからだァ!」

番外個体「あれ? 照れた?」

180: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:19:56.50 ID:8RA6x1Q0

一方通行「ンなワケねェだろォがァァ!!」

看護婦「」ギロリ

一方通行「!」ビクッ

番外個体(なにコイツ面白い……)

一方通行「……オイ、中庭行くぞ」(どォも落ち着かねェ……。あの看護婦、さっきから何で俺の事睨ンでンだ? 
      ってか、アイツどっかで見たよォな…)

番外個体「は~、久しぶりに外出られる~♪」

一方通行「怪我人なの忘れてハシャぎ過ぎンじゃねェぞ」

番外個体「わ~かってるってぇ」

一方通行(……すっかり面倒見が板に付いちまってる。不本意だクソ)


~中庭~

「きゃははははははは♪」

忠告を忘れてハシャギ回る番外個体を一方通行はベンチから見守った。

「あァあァ、ハシャギ過ぎだろアイツ……」

呆れ気味だが、それでいて穏やかな表情をした一方通行はそう漏らす。
芝生でゴロンと横になりながら蝶を眺めるその仕草は、どこから見ても普通の少女。自分を抹消するために製造
されたとは思えないほどだ。少なくとも彼女を眺めている間はその事を忘れていた。

181: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:22:44.69 ID:8RA6x1Q0

「…………」

あの純粋で無邪気な笑顔を脅かそうとする者がいる。その事実だけでも腸が煮えくり返りそうだ。

(ふざけンな。絶対にそンなマネはさせねェ)

(アイツの乗った旅客機を撃ち落としやがったクソ野郎を早く見つけて嬲り殺しにしてやりてェが、情報が少なすぎる)

(戦闘機の特定は出来ても、人物の特定までは出来ねェ。もし相手がつい最近“やり合った”ばかりのロシアだとした
 ら尚更だ)

(向こうから動き出すのを待つしかねェのか……)

(クソ……)


「おーい! あなたも来ればー!? 可愛いチョウチョさんいるよー!」


「!………チッ」

(コッチはオマエのために頭ァ働かせてるってのによォ、ノンキなモンだぜ全く)

更に呆れた表情になった一方通行は立ち上がって番外個体の方へと歩いた。
守りたい者を守るのはこれが初めてではない。壊す事しか出来なかった自分でも人のために命を張れるのは学習済みだ。

(オマエ達がどンな姑息な手ェ使って来るかは知らねェがなァ、コイツは―――)

(―――必ず俺が守り抜いてみせる)

今は何も出来ないが、自分がいる限りこの笑顔を絶対に奪わせはしないと改めて誓った。

182: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:24:45.88 ID:8RA6x1Q0

―――


そして三日後・番外個体退院


冥土帰し「―――退院おめでとう」

番外個体「お世話になりました~」

一方通行「………」


病院入り口で番外個体と一方通行は冥土帰しの送り出しを受けていた。
一方通行から言葉はない。この三日間、大した出来事も特になく、番外個体にとっては充実した入院生活だったと
言えるだろう。
一方通行は退院後の予定を土御門に確認しようと電話を何度か入れたのだが、未だに折り返しが掛かってこない。
飄々としている上に色々と多忙な土御門の事だからさして珍しいとも思わなかったが、今後の予定が聞けないのは
困る。冥土帰しと別れを済ませ、病院門から出た後も掛けたのだが、いっこうに繋がらない。

(ったく、何してやがンだァ? あのグラサン野郎……)

「ねぇ、ところでさ……」

心中で舌打ちをしている所で番外個体が不安そうに尋ねてきた。

「ミサカはこれからどうしたら良いのかな? 帰る場所とかミサカ分かんないし、何でここに来たのかも正直よく
 分かんないってか覚えてないんだよね……」

一方通行に縋るような、その目は「ミサカを捨てないで」と言っていた。

183: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:26:44.91 ID:8RA6x1Q0

「……心配すンな」

番外個体にアテがない事は百も承知だ。仮にもしアテがあったとしても、信用できない場所に彼女を預けるつもりも
なかった。
取り敢えず、『グループ』の所有する隠れ家に行くか。土御門がもしかしたら居るかもしれない。と考えた一方通行
は、番外個体を連れて歩き出した。

道中、「変なトコに連れ込んだらショック死させるよ!」とか言われたがアッサリ聞き流す。この三日間でソッチの
方の免疫もだいぶついていた。


~隠れ家~

「……ここがあなたの家?」

「ま、そンなトコだ」

幾つかある隠れ家の中で最も病院から近い場所を選んだ。
一般的なリビングにこれまた一般的な寝室やら浴室やら。特に目立つ箇所もない至って普通の住居だった。


番外個体「こう言っちゃなんだけどさ、すっげーつまんない部屋だね」

一方通行(やっぱ土御門はいねェか……あの野郎、一体どこで何してンだっつの)

番外個体「おいっ、聞いてる? 無視とか一番傷つくんだよ?」

一方通行「……あァ、聞いてンよ。別に住めりゃ問題ねェだろォが」

184: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:28:57.36 ID:8RA6x1Q0

番外個体「まぁそうだけどさ~、なんつーか……普通」

一方通行「普通のどこが悪いンだよ? 荒らされまくった部屋に住むよりはよっぽどマシじゃねェか」

番外個体「……荒らされまくった事あんの?」

一方通行「昔の話だ」

番外個体「ふ~ん……ま、いいけどね。それよりミサカ、洋服が欲しいんだけど」

一方通行「あン?」

番外個体「こんなアニメっぽいってか、エ○ァみたいな服、いつまでも着ていたくないワケよ。ここまで来るのも相当苦痛
      だった事に気づいてる? もうこの格好で出かけるのは正直ヤだな~」プクー

一方通行「……ンなむくれなくても、そンぐらい買ってやっから心配すンな」

番外個体「……ねぇ、ずっと気になってたんだけどさ、あなたって何でそんな金持ってんの? まさか怪しい商売とかして
      ないよね?」

一方通行「別にィ」プイ

番外個体「…………」ジー

一方通行「だァあああ!! そンな目で見つめてンじゃねェェ!! 怪しいモン売ったりとかしてねェよ!!」

番外個体「………ぷっ」

185: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:30:48.02 ID:8RA6x1Q0

一方通行「あァ?」

番外個体「あっひゃっひゃっひゃ! 冗談に決まってんじゃん! なぁに一人でムキになってんの~? あーおかし♪
      だいたい売るんなら自分の身体売りなよ。ソッチの方がイケルんじゃないの?」

一方通行「こ……このォォ」グッ

番外個体「お? 何? ミサカに手を出すって言うなら大声出して放電するよ?」

一方通行「大声は別に要らねェだろォがよ!!」


―――


~付近の洋服屋~

「ったく、何がどォしてこォなってンだよ。科学の摂理ってのはどォなってやがる……」

訳の分からない事をブツブツと呟きながら洋服屋の前までやって来た一方通行。
あの後結局、番外個体に「こんな格好で外なんか出たくないからミサカに合いそうな服買ってきて!」と命令された。
「はァ!? ふざけンな! 俺一人で女モンの店入れってかァ!? 冗談じゃねェ!」と一応は抵抗してみたのだが、
「これ着てけばいいじゃん。ミサカよりはきっと似合うよ?」と言われて差し出されたのは、さっきまで番外個体が
着ていた『あのスーツ(戦闘服)』だった。これにはさすがの一方通行も口調を変える。

「あンま良い気になってンじゃねェぞコラ? その素敵に巻かれたバスタオルひン剥かれてェのか? あァ?」

「えー? 絶対似合うよぉ。ためしに着てみなって♪」

普通の人間なら腰を抜かすほどの威圧感でも、番外個体にさほど効果はなかった。それどころかウキウキしている。
よっぽど戦闘服姿の一方通行を見たいのだろうが、そうは問屋が卸さない。

186: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:32:58.71 ID:8RA6x1Q0

「絶・対! 俺は着ねェぞ! 明日学園都市が滅ンだとしても絶対に着ねェ! 一生の汚点に自ら足突っ込む馬鹿が
 どこにいンだよ!? そンならこの格好のまま行った方がまだマシだ!」

「お? 言ったね? じゃあよろしく」

「………あァっ!?」

こうしてまんまとハメられて今に至ると言う訳だ。記憶に障害が出ても、決して馬鹿になった事にはならない。
それに気づくのがほんの少し遅かった。ただそれだけの事である。
服も髪も、オマケに肌まで完全真っ白状態での外出は何とか避けたが、レディースショップの前まで来て新たに生ま
れた抵抗と一方通行はまだ戦っていた。

(とは言ってもよォ……)

(やっぱ俺一人じゃ無理ってモンだろォ! 大体何で俺がこンな思いしなくちゃいけねェンだァ!?)

しかも負けそうだ。

(サイズはフリーで何とかならなくもねェが……ってそォじゃねェ! そォじゃねェだろォ!? 最初っから店員に
 事情を話すか? イヤそれでもドッチみち店には入らなきゃダメじゃねェか! あァどォする!? どォすりゃあ
 俺はこの窮地を乗り超えられるンだァ!? 誰か俺に教えてくれェェえええ!!)

ついに店の前で頭を抱え出す一方通行。自分でも段々訳が分からなくなってきているようだ。
そろそろ警備員でも来てしまいそうな所で、彼にやっと救いの手が伸びる。


「あなたは……こんな所で一体何をしているのですか? とミサカは呆れ顔で尋ねます」

187: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:34:54.84 ID:8RA6x1Q0

「あァ?……オマエは…」


御坂妹「お久しぶりですね。とミサカは敵意の篭もった目で睨みます」

一方通行「……オマエか」

御坂妹「本当は声など掛けたくはなかったのですが、あまりに滑稽な姿だったので思わず話し掛けずにはいられません
     でした。とミサカは今更ながら後悔します」

一方通行「……見てたのか?」

御坂妹「はい、ばっちり。とミサカは親指を立てます」

一方通行「…………」

御坂妹「別にミサカはあなたの間抜けな姿になど興味ありませんよ? とミサカは念のために伝えておきます」

一方通行「…………」

御坂妹「学園都市最強の無様な様子を見れた事に悪い気はしませんね。ではミサカはこれで。とミサカはそそくさとt」

ガシッ

御坂妹「……何故ミサカの腕を掴むのでしょうか? とミサカは早く放せと目で訴えます」

一方通行「………オマエに頼みがある」

御坂妹「は?」

188: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:36:57.84 ID:8RA6x1Q0

一方通行(このチャンスを逃す訳にはいかねェ。この際こだわってなンかいられねェンだ!)

御坂妹「ミサカに頼みごとですか? あなたが? とミサカは信じられない表情であなたを見ます」

一方通行「もォオマエしかいねェンだ。オマエにしか今の俺を救えねェンだよ」

御坂妹「……何でしょうか? とミサカは一応聞くだけ聞いてみます」


一方通行「俺の代わりに服を買ってきてくれ」


御坂妹「……………ハイ?」

一方通行「頼む。そこの店で、オマエが良いと思う服一式を俺の代わりに買ってきてくれ。金なら渡してやる。多めに
      渡すからソイツでオマエも好きなヤツ買ってくれて構わねェ」

御坂妹「………ミサカは」

一方通行「?」

御坂妹「ミサカは、自分の心理状態と、あなたの頼みの両方に疑問を抱きます。調整を終えたばかりだというのに……」

一方通行「オ、オイ……?」

御坂妹「どうやら、二時間前に行われた調整は失敗したようですね。やけに背が高くスタイルの良いミサカまで見える
     始末……とミサカはフラフラと旅に……」

189: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:38:13.09 ID:8RA6x1Q0

一方通行「行くな! 行くンじゃねェ! 今オマエに行かれたら俺が困ンだよ! 行くなら服買ってからにしろォ!」

ガシッ

御坂妹「……分かりました。分かりましたから、ひとまず腕を放して下さい。とミサカは懇願します」

一方通行「あ、あァ……悪りィ」


―――


それから十数分後、御坂妹が袋を持って店から出てきた。

御坂妹「これでよろしいでしょうか?」ドッサリ

一方通行「……ずいぶン買ったなァ」

御坂妹「ミサカの服も買いましたので。ありがとうございました。とミサカは一応あなたに頭を下げます」

一方通行「気にすンな、ソイツは当然の報酬だ」

御坂妹「……訳は敢えて訊きません。特に興味もありませんので、ミサカはこれで失礼しますがよろしいですか?」

一方通行「あァ、助かったぜェ」ヒラヒラ

御坂妹「では……」スタスタ

190: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:40:07.64 ID:8RA6x1Q0

「ふゥ、アイツがたまたま通ったおかげで何とかなったなァ。しっかし、やむを得なかったとは言っても、
 アイツにこの俺が頭下げて頼むなンてよォ……我ながら思い出したくねェ事しちまった」

自分の行動に軽く後悔するが今更である。

「さて、服も手に入った事だし……さっさと戻るか。隠れ家に居るとは言え、長い時間アイツから離れるってのは
 得策じゃねェ」

杖と荷物で両手が塞がった状態で一方通行は来た道を引き返していった。


―――


その頃

「~~♪」

帰宅路途中に設置されている自販機前で美琴は上機嫌な顔をしていた。
蹴りによるルーレットの結果から来た笑顔である。戦利品のヤシノミサイダーを片手に、美琴はベンチへと腰を下ろす。

「久々に当たったわね、ラッキー♪」

ささやかな勝利の味に酔いながらそう漏らす。

「…………」

当然、目的もないのに公園で一人ジュースを飲んでいる訳ではない。ここに居れば上条との遭遇率が高いのだ。
一昨日も昨日も結局こうして張っていたのだが、上条は現れなかった。今日こそは会えそうな気がする。特に根拠は無い。
なんとなくである。

191: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:41:35.39 ID:8RA6x1Q0

「早く来なさいよ。いつまで女の子待たせりゃ気がすむのかしらねー、あの馬鹿は」

待ち合わせをしている訳でもないのに勝手な事を呟いているが、これも乙女心だ。
連絡を取ってしまえば手っ取り早いのだが、それでは面白くない。これも乙女心か?
美琴は遭遇時の計画を脳内でイメージしながらその時を待っていた。その脳内を覗くまでもなく、表からでも分かりやすい
ほどに浮かれた表情の美琴。自分に向けられている怪しい視線にもこの時ばかりは気づかなかった。


「ん………?」

しばらくして美琴の前に現れたのは、上条ではなかった。
白衣姿の男が数人ほど、彼女に向かって歩み寄って来る。
怪しい空気を感じた美琴は脳内妄想を瞬時にストップし、白衣の男達へと目を向ける。
やがてベンチに座る美琴を囲むように男達は立ちふさがる。

「御坂美琴だな?」

男の一人が低い声で問い掛けてきた。

「そうですけど……何ですか?」

警戒心を込めて言葉を返す。
見た目では研究者や科学者だが、それにしては少々怪しい雰囲気だ。

「私達と一緒に来てもらいたい」

別の男がそう言った。当然「ハイ分かりました」と答える筈がない。

「何? 新手のナンパ? どう考えたって流行りそうにないからやめた方がいいわね。白衣着てれば偉く見せれるつもり?」

192: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:43:47.79 ID:8RA6x1Q0

微笑を浮かべる美琴の反応などお構いなしにまた別の男が口を開く。

「君に拒否権はない。大人しくついてきた方が身のためだぞ?」

言葉が終わると同時に一歩前へと足を出す男だが、美琴がそれに怯える筈もない。
こういうケースは流石に初めてだが、ナンパされるのには慣れている。上条と初めて出会った時も似たような状況だった。
あの時の連中との違いは、分かりやすく表れた欲望の有無と、ここにいる彼等はどこか得体が知れない事ぐらいだ。
いずれにせよ、美琴にとってはどうでもいい事に違いはない。
上条が来る前にさっさと終わらせようと、美琴は軽く首を捻って立ち上がる。

「ついて来る気になったか?」

「ハッ、んなワケないでしょ? お断りよ」


―――


「…………」

隠れ家に戻った一方通行は持っていた袋をドサッと床に落とした。

「……オイ、嘘だろォ…」

番外個体が、いない。

「まさか……」

来る時に履いていたブーツも、ない。それはつまりこの隠れ家にはもういない事を意味する。

「そンな……」

嫌な予感がこみ上げてくる。

193: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/19(日) 19:44:59.29 ID:8RA6x1Q0

「―――ちっくしょおおおォォォォ!!!」


ためらう事なく電極スイッチを『能力使用』状態にし、伸縮自在な杖を縮め、表へ弾丸の如く飛び出す一方通行。
考えが甘かった。やはり一人にするべきではなかった。一方通行は走りながら後悔の渦に呑まれていた。

(どこだ!? どこにいンだよォォ!!)

捜す。
とにかく捜す。
一方通行はバッテリーが続く限り捜す思いで街中を疾走した。


そして、そろそろ太陽が真上に昇る頃、もう一人の少女にゆっくりと魔の手が伸びようとしていた。
今、この段階でその事実を知る者は少ない。

だが近い未来、学園都市全域に衝撃が走る事となる。

『御坂美琴、謎の失踪』という大きく書かれた文字によって―――。

206: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/21(火) 19:16:31.87 ID:gBJAt5w0
 


―――


「あーあー……ったく、小娘一人になんてザマだよ」

身体を痙攣させて気絶した男数人を見下ろした刺青の男は冷たく切り捨てるように言った。
倒れた男達の中心に立っていた美琴は、いつの間にかすぐ正面にいた刺青男を見て表情を凍らせる。

「!? アンタ、あの時の……」

「よっ、強いね~お嬢ちゃん。けどちょーっとオイタが過ぎるかなぁ」

ヘラヘラと笑いながら子供を相手にしている調子で声を掛けてくる刺青男。

「こいつら、アンタの仲間? ずいぶん躾がなってないみたいだけど」

「さっきまでは一応部下だったんだが、やっぱ要らねえわ。テメェみてぇなガキにあっさり倒されてんじゃあ
 使い物にもならねぇ。ま、別に戦闘要員でもねえから仕方ねえんだけどよ」

「ガキ……ですって?」

刺青男の発言に口元が歪む。こめかみ辺りに血管が浮き出るが、冷静に訊き返した。

「……で、私に何の用よ?」

「いやなに、ちっとばかし協力して欲しくてさぁ。大丈夫、悪いようにはしないぜ」

207: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/21(火) 19:19:49.79 ID:gBJAt5w0

「大人しくついてきてくれればな」と追加したが、当然美琴はこれに拒否する。

「冗談じゃないわ。何で私がアンタなんかに付き合わなきゃなんないのよ? ってか、そもそもアンタ誰よ?」

「チッ……」

美琴の返答に刺青男の顔も歪む。一瞬だけ優しい表情を作ったものの、本性を隠すのはどうも慣れていないらしく、
すぐに邪悪な顔を覗かせた。

「大人しくついてくりゃあ少しは良い思いさせてやろうってのによぉ……つくづく超能力者ってのはムカつくわ」

「!」

刺青男の急変した態度に美琴は身構えた。

「もういい、やっぱ紳士なんてのはガラじゃねえから力づくで連れてく事にした」

「ふん、その方が手っ取り早くていいわね」

そこからは言葉なしに対峙し、睨み合う両者。すでにお互い戦闘態勢に入っていた。


「――っ!」


そんな中、先に仕掛けたのは美琴だった。

208: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/21(火) 19:23:30.51 ID:gBJAt5w0

前髪から先ほど数人を倒したのと同じ電圧を放電する。
気絶させる程度だが、まともにもらえば一撃で終わる攻撃だ。
青白い電流が描く曲線は刺青男に一瞬で突き刺さる―――

―――はずだった。

「えっ!?」

……外れた?

「どこ狙ってんだ? お嬢ちゃん」

平然とした顔で立っている刺青男。電撃は男のすぐ横を通り過ぎたかに見えた。

(そんな、確かに狙ったのに………もう一度っ!!)

しかし再度放たれた雷撃も、あっさり男の真横を走っただけに終わる。
一撃目と全く同じ結果だった。

「な、なんで!?」

刺青男目がけて真っ直ぐ撃ったはずなのに何故当たらないのか?
答えはすぐに返ってきた。

「一応言っとくけどよ、テメェは演算ミスもしてねえし、電撃も真っ直ぐ俺に向かってる。能力不調とかそういうん
 じゃねえから心配すんな」

「じゃあ……何で当たらないのよ!?」

急かす声で問う美琴に、刺青男は信じられない回答をした。

209: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/21(火) 19:26:45.49 ID:gBJAt5w0

「なぁに簡単だ。別に何てことはねえよ―――」


「―――ただ単純に俺が“避けてる”だけなんだから」


「!!??」

この発言に美琴は驚愕の表情を作る。平然と言ってのけるが、それが一体どれほどの事か分からない筈がなかった。

「う、嘘よ!! そんな……そんなことができる訳ないじゃない!!」

「信じられねえか? なら何度でも撃ってみろよ」

挑発するような刺青男の態度に美琴は迷いを見せた。その隙をつくように男は言葉を続ける。

「……と言いたい所だがな、生憎コッチはいつまでもテメェと遊んでやってる時間がねえんだ。っつーことで悪いが、
 しばらく寝てろやクソガキ」

瞬間、刺青男は一瞬で美琴の懐に潜り込んだ。

「―――ッッ!?」

咄嗟の事に反応する暇もなく、腹部の辺りにドスッ! と、重い衝撃が伝わる。

「ハイ、ゲームセット♪」

男の高らかな勝利宣言が頭上で聞こえた。

210: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/21(火) 19:31:48.74 ID:gBJAt5w0

気づいた時には刺青男の拳が、容赦なく美琴の腹にめり込んでいた。
正に抵抗もできない程の速さで。

「……ぁ…ぐ…」

その一発で意識を刈り取られ、なすすべなく地面に崩れ落ちる美琴。
文字通り瞬殺である。

「クク……残念だったな。俺はテメェよりも遥か上の能力に携わってきた男だぜ? なめんじゃねえよ」

男の発した声は、もう美琴の耳に届いていなかった。

「ケッ、本当に一発で沈みやがったか。所詮はただの中学生ってな。よっと――」

完全に気を失った美琴を担ぎ、すぐ近くに停めてあった車の後部座席へ放り込んだ。
そして自らは助手席に乗り、運転手に車を出すよう告げる。

大きなエンジン音を上げて動き出す。
後ろに『超電磁砲』の異名を持つ超能力者の少女を乗せたまま、車はゆっくり加速していった―――。

211: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/21(火) 19:33:59.45 ID:gBJAt5w0

―――


「…………」

一方通行は道のど真ん中で突然動きを止めた。
それに乗じて巻き起こっていた風も止む。

(……待て、待てよ。やっぱさっきっから何か引っ掛かってる……何だ?)

風となって駆け抜けていたのをピタリと止めたのは頭に何か気に掛かる事があったからなのだが、その正体が分からない。
一方通行はその場で立ち尽くしたまま頭を過去に遡らせた。

(番外個体の服買いに行って、けど店の雰囲気が見るからに女じみてるせいで入れなくてどォしよォか困ってる時に……)

(そォだ、妹達の誰かが現れて……ンでしばらく喋って…………!!)


~ここで先ほどの御坂妹との会話シーンへ戻る~


「………ミサカは」

「?」

「ミサカは、自分の心理状態と、あなたの頼みの両方に疑問を抱きます。調整を終えたばかりだというのに……」

「オ、オイ……?」

212: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/21(火) 19:35:46.35 ID:gBJAt5w0

「どうやら、二時間前に行われた調整は失敗したようですね。やけに背が高くスタイルの良いミサカまで見える
 始末……とミサカはフラフラと旅に……」


『“やけに背が高くスタイルの良いミサカ”まで見える』


~~~


(―――それだ!!)

(アイツはあそこにいる! 少なくとも俺と妹達が一緒にいた時、間違いなくアイツも近くにいた!!)

(何でそン時すぐに気づかなかったンだクソったれがァァァ!!)

嘆きながら方向転換し、一方通行は再び疾風の如く駆け出す。
あの店付近を重点的に捜せば必ずいるはずだ。間に合え。妙な輩がヤツに接触する前に見つかれ。
一方通行はそれだけを願いながら全力で走った。


「わぁー、これも良いな~♪」

……目的はあっさりと達成された。
なんとさっき御坂妹が代わりに入ってくれた店に番外個体はいたのだ。しかも瞳を輝かせて衣類を物色している。
一方通行は拍子抜けのあまり思わず引っくり返りそうになった。躍起になって走った自分が馬鹿みたいだ

213: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/21(火) 19:40:56.27 ID:gBJAt5w0

「オ・マ・エ・はァァああああ!!!」

ズシズシと足を踏み鳴らす勢いで入店する一方通行。さっきは入るのをあれだけ躊躇していたのに、どうやら今は
その事もすっかり忘れているようだ。
鬼のような表情の一方通行が接近してくる事に番外個体は気づく。


番外個体「―――あれ? あなたこんなトコで何やってんの?」

一方通行「そりゃあコッチのセリフだァ!! オマエ何勝手に出歩いてンだよ!? ……ってオイ、オマエその服…」

番外個体「あぁこれ? 何か別の部屋にあったから借りてきちゃった♪」

一方通行(あァァ……ソイツは訊くまでもなく結標の……俺知らねェぞ)

番外個体「ねぇ、この服ってあなたの趣味? あの格好よりはマシだから着ちゃったけど、これ結構露出激しいから
      ちょっとだけ恥ずかしいかな……」

一方通行「……俺の趣味じゃねェ。っつーか勝手に着て勝手に外出てンじゃねェよ。無駄にバッテリー使っちまった
      だろォが」

番外個体「あっれぇ~、ミサカの事心配してくれたのぉ?」ニヤァ

一方通行「るっせェ。オラとっとと帰ンぞ」

番外個体「えー、ヤダ! だってまだ服……」

一方通行「もォ買ったから安心しろ」

番外個体「え! ウソ!? あなた一人で?」

214: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/21(火) 19:43:53.80 ID:gBJAt5w0

一方通行「ンだよ? 悪りィかァ?」

番外個体「……よく入れたね」

一方通行「ま、まあなァ」

(本当はオマエの姉みてェなヤツのおかげなンだがな……まァアイツにも服買ってやったし、チャラってことでイイか)

番外個体「ん~、ならついでにこれも買って♪」(←チューブトップ)

一方通行「今着てンのより露出度高けェだろォがァァ!! 恥ずかしいとか言ってたよなァ!?」


―――


帰り途中

一方通行「ったくよォ、そンだけ買っちまったら俺の買ったヤツが無駄になンじゃねェか」カツカツ

番外個体「いいじゃ~ん。たくさんあって損はないんだし」テクテク

一方通行「理解できねェ……」

番外個体「とか言っても、結局買ってくれるんだよね。あなたって結構良い人?」

一方通行「ンな訳ねェだろォが。ただの気まぐれだっつの」

215: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/21(火) 19:46:57.32 ID:gBJAt5w0

番外個体「ツンツンしちゃって♪ 可愛いヤツ」

一方通行「……殴ンぞ?」

番外個体「ハハッ、怒った~♪」タタタタ

逃げるように先を走る番外個体。追いかけるのも面倒な一方通行は溜息を吐く。

一方通行「あのクソガキと一緒にいるのと同じぐらい疲れるわ……ハァ」

打ち止め「誰と一緒だって? ってミサカはミサカは横から口を出してみたり」ヌッ

オワァァァァァ!!!

番外個体「ん? 何叫んでんのアイツ……?」


一方通行「こ、このクソガキがァ!! 最高のタイミングでいきなり現れてンじゃねェよ!!」

打ち止め「へへへ♪ さっき見かけたからつい後尾けちゃった。ってミサカはミサカはペロッと舌を出してみる。
      驚かしちゃってゴメンねっ」

一方通行「………心臓止まりかけたじゃねェか」

打ち止め「ねぇねぇ、ところで―――」

一方通行「あン?」

216: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/21(火) 19:52:04.49 ID:gBJAt5w0

打ち止め「―――あの人、妹達だよね? どういう事? ってミサカはミサカはいきなり確信に迫ってみる」

一方通行「……?」

打ち止め「あのミサカ、他の妹達とは違うよね。けど流れている電磁波は妹達やミサカ以上お姉様未満ってトコかな。
      姿もお姉様より成長しているし……あのミサカは何なの? ってミサカはミサカは後を尾けた本当の理由
      を告げてみる」

一方通行「オマエは知らないのか?」

打ち止め「へ?」

一方通行「第三次製造計画についてだ」

打ち止め「…………知ってるよ」

一方通行「なら、アイツの事も分かンだろ?」

打ち止め「まさか、あのミサカは番外個体……なの?」

一方通行「あァ、そォだ」

打ち止め「!……何で? おかしいなぁ。あのミサカはネットワークからの信号が届いてないよ? ってミサカはミサカは
      当然の疑問をぶつけてみる!」

一方通行「…………」

打ち止め「それに、番外個体にはアナタを………するようインプットされているハズなのに、どうしてアナタと仲良さそうに
      歩いてるの? ってミサカはミサカは更に問い詰めてみる!」

217: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/21(火) 19:55:14.89 ID:gBJAt5w0

一方通行「オイ、打ち止め……」

打ち止め「どういう事なの!? 説明して!」

一方通行「…………」

(言うべきか? ……イヤ、駄目だ。本当の事言っちまったらコイツも関わってくるに決まってる。俺らと一緒の所を
 見られでもしたら拙い。連中の手がもしコイツにも伸びちまったら、正直守りきれる保障がねェ。ここは何とか納得
 させて無理にでも帰さねェと……)

打ち止め「まさかアナタ、また危険な場所に飛び込んでいくんじゃないよね? 違うよね? もう危ない事はしないって
      ミサカと約束したよね? ねぇ答えて!! ってミサカはミサカは―――」

一方通行「落ち着け打ち止めァ!」

打ち止め「っ!」ビクッ

一方通行「……大丈夫だ。危ねェ事はしねェ」

打ち止め「………嘘じゃない?」

一方通行「あァ、別に危険に巻き込まれてる訳でもねェよ。ただアイツとの事情は……今オマエに言えねェンだ」

打ち止め「どうして……?」

一方通行「近い内話してやっから、今は納得しろ」

(可哀相かもしンねェが、コイツまで巻き込ンじまう訳にはいかねェ。念のため、事が済むまでは打ち止めともしばらく
 会わねェ方が良いな)

打ち止め「…………」

218: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/21(火) 19:57:00.95 ID:gBJAt5w0

一方通行「オマエは何も心配しなくて良いンだよ。俺を信じろ」

打ち止め「…………」

一方通行(駄目か……)

打ち止め「………わかった。ってミサカはミサカはアナタを信じてみる」

一方通行「!……おォ、良い子だァ」ナデナデ

(すまねェ……)

打ち止め「……♪」(←撫でられて嬉しそうに目を細める)


一方通行「ところで、オマエ一人か? 黄泉川や芳川と一緒じゃねェのか?」

打ち止め「うん、ここからちょっと戻った店にいるよ。ってミサカはミサカは抜け出してきた事実を白状したり」

一方通行「なら早く戻ってやれ。アイツら心配すンだろォが」

打ち止め「うん………」

一方通行「ン? どォした?」

219: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/21(火) 19:58:10.05 ID:gBJAt5w0

打ち止め「……次はいつ会える? ってミサカはミサカは確認の意味を込めて訊いてみる」

一方通行「………その内またな」

打ち止め「……本当?」

一方通行「あァ本当だ。近い内電話するから、ンな薄暗れェツラしてンじゃねェよ」

打ち止め「うんっ! 待ってるね! ってミサカはミサカはアナタから離れてみたりするけど……やっぱり名残惜しい…」

一方通行「ハイハイ、また今度な」

打ち止め「………じゃあね。ってミサカはミサカはサヨナラしてみる」

一方通行「おォ、気ィつけて行け」

パタパタと打ち止めは来た道を走っていった。時折一方通行に振り返っては手を振ってくる。
一方通行はそれに対し、杖を軽く持ち上げてやる事で答えた。
必ずまた会いにいくと言う想いを胸に秘めて。


番外個体「ちょっとぉー、ミサカの存在忘れないでくんな~い?」


○○学区のある研究施設に御坂美琴を抱えた刺青男が何人かの部下による出迎えを受けていたのはそれから
間もなくの事だった―――。

234: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 00:46:55.01 ID:PQcFI4c0

―――


土御門元春はとある場所の資料室らしき部屋にいた。
目的は当然、今回の件での調べ物だ。上からの圧力により捜査不能となった警備員や風紀委員。
更にアレイスター直属の“自分達”が被害者との極秘接触。
被害者は一方通行と何らかの関係があるらしいが、一方通行本人はこれについて言葉を濁すばかり。『妹達』と
被害者の少女が類似している点も気に掛かるが、襲撃犯の全貌も気掛かりである。要するに色々と調べたいネタ
が豊富という事だ。大体そんな時に彼が情報を集めるのはこの書物や機械が豊富に備えてある資料室が主だった。
当然、一般人なら普段は立ち入る事のない場所にある。携帯電話の着信音にも気づかないほど彼は調べ事に熱中
していた。

「………なるほど」

その成果により今しがた把握した『第三次製造計画』の全貌に土御門の口角が上がる。
これで一方通行から直接伺う必要もなくなった。アレイスターの言葉の謎もようやく解けた。

「確かに、アイツが適任なハズだにゃー」

そう呟きながらウーン、と背伸びをする。

「さて、そうなると今回旅客機を襲撃した犯人の形もうっすらと見えてくるぜい」

もうひと調べ、と土御門は再び情報の詰まったデータバンクを探し始めた。
今回の事件については公けにされている情報が限られている。その裏を漁るのは彼が最も得意とすることだった。

「…………あった」

235: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 00:51:07.62 ID:PQcFI4c0

関係していそうな組織、機関を洗い出した。
どれが一番匂うか……。
土御門はスパイとしてこれまで培った勘と神経を研ぎ澄ませる。

「………こいつは違う。こいつも……違うな」

それぞれの組織の代表者の顔とデータをアップしては次の画面へ行く作業を繰り返す。
なかなか怪しい人物が出てこないが、土御門は焦らず坦々とリストを絞っていく。

「…………やはり、この時に動けそうな連中は“第三次製造計画”の連中……しかし、ヤツらに番外個体を襲撃する
 意味は……」

状況から言えば第三次製造計画について関わりを持つ組織が怪しいのだが、データにはまだ表示がない。
つまり計画者が怪しい事も考えられるのだが、旅客機には当然計画に携わった研究者も同乗していた筈。

「……やっぱりそれはないな。メリットゼロというか、無駄にも程があるだろ。………仕方ない」

もう一度バンク内のデータを調べる。しかし、同じやり方だと結果は変わらない。
土御門は少しだけ悩む仕草を見せた。

「………うーん、やっぱ自動規制を解除するしかないか」

ブラックアウトを覚悟の上で土御門はセキュリティレベルをMAXにした。要するに、機密とされいる極秘データの観覧
も可能になるという意味だ。当然これは危ない橋を渡るようなものだが……

「やっぱり上層部に一目置かれている連中なら、これくらいのリスクは冒さないとにゃー♪」

何故か土御門は楽しそうだ。彼は意外とスリル好きというか、神経が並の人間よりも図太いのだろう。
一緒にフランス上空でポイ捨てされた時、上条もそれを嫌というほど思い知っている。

236: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 00:53:35.96 ID:PQcFI4c0

やがて――

「お? 出てきた出てきた。うわぁ、セキュリティレベルMAXの組織がこんなに……つくづく歪んでるな。この街は」

まぁけど今更か。と言葉を付け加えながら組織リストを纏めていく。学園都市の闇が全て詰まったデータが今、土御門の
目の前に映る。

「………ん?」

しばらく無言で調べている内に、ひとつの組織名が目に止まった。


「『地獄の猟犬《ケルベロス》』……? なんだこりゃ?」


最新のデータにあったその名前。つい最近設立された組織らしいが、どこか気になった土御門は詳細をアップしてみた。

そして表示された代表者の顔写真と名前に、土御門は驚愕の表情を浮かべた。

「―――な!!?」

サングラスの奥の目を見開く。

「……馬鹿な………いや、そんなハズは……」

設立された日付は何度見ても同じだった。

237: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 00:56:16.10 ID:PQcFI4c0

「………ありえん……こんなの俺は聞いてないぞ……」

「どういう事だ。アレイスター……」

震える指で事件発生時刻と照らし合わせてみる。他にも何やら色々と探るように指を動かしていく。


結果は―――


―――ビンゴだ。


「間違いなさそうだな……このデータに間違いが無いとしたら、こいつが今回の首謀者……しかし何故こいつ……」

「ッ! 待てよ……という事は……ヤツらの狙いは―――!!」

リストに映る首謀者の顔写真を残した土御門は、珍しく取り乱した様子で資料室から飛び出していった。
無人となった資料室で、顔に刺青を彫った男の写真が怪しく笑っている。


顔写真と、その上に表示された『木原 数多(きはら あまた)』という名前は、いつも飄々としている土御門の背筋を
一瞬凍りつかせるのに充分だった。


―――


刺青男こと木原数多は研究施設の自室にいた。御坂美琴を拉致監禁までした以上、後になどはもう引けないのだが、彼には
引く気などさらさら無かった。むしろ木原の狙いはここからスタートを切ったと言っても過言ではない。

238: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 00:58:21.52 ID:PQcFI4c0

「………さて、後はもう一人の方だな。……ククク、このまま上手くいきゃあニ~三日ってトコか」

ソファーに行儀悪く座りながらワインを飲む木原の自室の扉がコンコン、と音を立てる。

「おう、入れ」

「……失礼します」

ノックの後にドアが開かれ、遠慮がちに入室したのは部下の研究員の一人だった。


木原「―――で、どうだ? “アレ”は動きそうか?」

部下「えぇ、問題なさそうですね。さすがは学園都市でトップの発電能力を持つだけあります。あれほどの電力があれば充分
    すぎるかと……」

木原「ははは! 当たり前だろぉ? そのために捕らえたんだからなぁ。当初の片っ端から『妹達』集めるなんてクソだりぃ
    計画よりはよっぽどお手軽だったろ? 他の国にいるヤツらまで捜す手間もこれで大幅に削減できたって訳だ」

部下「しかし……大丈夫なんですか? いくら超能力者とは言え『闇』との関わりが少ない……言わば『表の住人』ですよ?
    この事がもし上層部に知れたら……」

木原「ハッ、心配すんな。お偉いさんにはすでに“手回し済み”だ。三日もすりゃ報道もされるだろうが、それも計算の内よ」

部下「えぇ!?」

木原「……なに驚いてんだよ? 俺には“ソッチ”のコネがねぇとでも思ったか? まぁ、さすがに上の連中が全員味方って
    訳じゃねえけどな。そこんトコはどうにでもなるんだよ。偉いヤツが一人でも味方にいるだけでもだいぶ違ってくん
    だぜ?」

239: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 00:59:32.49 ID:PQcFI4c0

部下「はぁ……なるほど……しかし統括理事長は?」

木原「あぁん? あーダメダメ、アレイスターの馬鹿はどうせ聞かねえだろうから、今回は出し抜き決定だ。余計なトコに
    まで漏らしたら、せっかく高い金出して購入した“道具”が全部無駄んなっちまう」

部下「………しかし、いくら何でも一般人を巻き込むのは…」

木原「あ? なんだテメェ、俺に説教たれようってか?」

部下「い、いえ! 決してそのような意味では…」

木原「言っただろぉが? コッチは手段なんて選んでる余裕が無えんだよ! 借金も大量に背負っちまってんだからなぁ!」

部下「も、申し訳ありません…」

木原「チッ……もぉいいから行けぇ。酒が不味くなる」

部下「あ、あの…」

木原「あぁ? まだ何かあんのかよ?」

部下「いえ……ただ…」

木原「何だ?」

部下「ずっとお伺いしたかったのですが……木原さんは、その……何故そこまで…」

木原「んだよ、何を言うかと思ったら……それかよ。お前『地獄の猟犬』にいるクセしてそんな事も知らなかったのか?」

部下「す、すみません…」

240: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 01:02:08.20 ID:PQcFI4c0

木原「………いいぜ、なら教えてやるよ」

部下「はい…」


木原「そこまでしてでも“ブチ殺してやりてぇ男”がいるからだ。どんなド汚ねぇ手ぇ使ってでもなぁ……。そのために
    俺はこうしてこの世に舞い戻ってきたんだ。わかるか? だから俺は『地獄の猟犬』なんだよ」ニヤァ


木原の表情は、その言葉と共に表情を歪めた。
かつてないほど、不気味に。
部下はその表情に恐怖を抱いたせいか完全に言葉を失っている。
今の答えを聞く限りでは完全に木原の私情だが、そこに指摘など入れられるはずがなかった。

「たったそれだけのために」など、今の彼に一体誰が言えようものか。


―――


「………ん…」

御坂美琴は薄暗い牢のような部屋で目を覚ました。

「――はっ!? どこ……ここ…?」

キョロキョロと見回すが、見覚えなどあるはずもない場所だった。例えるなら犯罪者でも収容されていそうなイメージの個室。
何故自分は今ここにいるのか一瞬呆けたが、すぐに自分に起こった状況を思い返す。

241: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 01:06:00.00 ID:PQcFI4c0

「そ…そうだ、私……アイツに……!」

目にも止まらぬスピードで急接近され、男の身体がすぐ目の前に来たと認識する前に意識を奪われてしまった。
美琴にとっては屈辱以外の何物でもない。

「私とした事が……完全に油断したわ」

無論、あっさりと拉致されてしまったのは美琴の過信も原因の一つだ。だが、それ以前に……

(けど、何者よアイツ……動きが全然見えなかった。まさか、黒子と同じ『空間移動系』の能力でも使えるっての? だとしたら
 ちょっと厄介ね…)

「とりあえず、ここから出るか……」

と…

「―――ッ!?」

立ち上がろうとした美琴の腕が、何かに引っ張られた。というより引っ掛かった。

「………ま、そりゃそーよね」

壁と美琴の両手は手錠よりも太めの鎖で繋がっていた。
幸い足は自由なままだが、鎖を外さなければ移動ができない。
さらに、目の前に見えるのは鉄格子張りに見える通路。これではまるで囚人だ。
冗談じゃないわ! と美琴は啖呵する。

「いつまでもこんな所にいれるかっつーの!」

能力を行使しようとするが―――

242: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 01:07:51.80 ID:PQcFI4c0

「痛ッ!!?」

―――その瞬間、頭に激痛が走った。

「………うぅ」

突然の頭痛にその場でうずくまる美琴だが、演算を止めた途端痛みはすぐに消えた。
ギュッと閉じた目を薄っすらと開けた美琴は今起きたばかりの現象に不可解な表情をする。

「何?……今の」

今はもう頭痛など起こっていない。どうやら能力を使用するために脳が演算を行おうとしたのがキッカケのようだ。
試しにもう一度だけ軽くやってみるが、やはり演算処理と同時に軽い痛みが脳を襲った。どうもこの痛みは能力の
強弱に比例しているらしい。

「これは………」

実は前にこれと似たような経験がある美琴は、この現象の正体をすぐに見抜いた。


(―――まさか、キャパシティダウン……!?)


と、その時―――


「お目覚めかい? お嬢ちゃん」

243: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 01:10:08.55 ID:PQcFI4c0

「ッ!!」

突然の声に驚く。

声の直後、美琴の前に姿を現したのは木原数多だった。

「へへへ…」

鉄格子越しに怪しく薄ら笑いを浮かべている木原に美琴は目を鋭くさせる。

「アンタは……ッ!」

喰って掛かろうと身体を前に動かすも、左右の手に繋がれた二本の鎖が邪魔をする。

「ぐぅ…ッ!!」

「おーおー、獰猛だねぇ。お嬢様は実はジャジャ馬娘でしたってかぁ?」

ぎゃはは! と笑う木原に美琴は唇を噛みしめる。

「アンタ、こんな事してタダで済むと思ってんの!? 早くこれ外しなさいよ! 今ならまだ許してあげなくもないわよ!?」

「あん? テメェまだ己の立場が分かってねーのか? おっかしいなぁ、常盤台は頭良い連中の集まりって聞いたんだが……」

「うっさい黙れ!! さっさとこっから出しなさいよぉっ!!」

ガシャンガシャン! と鎖を鳴らして暴れる美琴にすっかり呆れ顔の木原。

「……あー、ピーピーうるせえなぁ。ったく、だからガキは嫌いなんだよ」

「ガキって言うなっ!!」

244: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 01:13:28.92 ID:PQcFI4c0

「どう見てもガキだろーが。ったく……クソ生意気なトコだけはあの野郎にソックリだな」

「……あんま私を嘗めない方がいいわよ? いざとなったらこの建物ごとぶっ飛ばせるんだからね」

勿論脅しのつもりで美琴は警告するが、木原は表情を変えない。
それどころか、「できるもんならやってみろよ」とばかりに挑発的な態度で美琴を見下していた。

「…………ッ」

木原の表情で脅しが効かない事を悟った美琴は、核心に迫る。

「……何が目的よ? 私を一体どうしようっての?」

「なあに、ちょっとした『実験』に協力してもらうだけだ。別にどっかに売り飛ばしたりする訳じゃねえから安心しろよ」

「実験……?」

「まぁテストってヤツだ。とにかく、あんま反抗すんのは後々よくないぜ? 更に苦しい結末を迎えるだけだからな」

「…………」

「さぁて、じゃあ早速付き合ってもらうとすっか」

木原はそう言って鉄格子を開けた。
そのまま美琴の側まで近づき、両手の鎖を外していく。脱出するには絶好のチャンスともとれるが……

「一応言っておくが、逃げようだなんて馬鹿な考えは捨てろ。無駄以外の何モンでもねぇし、余計な仕事が増えんのは嫌い
 でねぇ」

「…………」

245: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 01:15:43.18 ID:PQcFI4c0

鎖を外しながら忠告する木原に美琴は何も答えなかった。

やがて鎖が外され、両手が自由になる。

「コッチだ。ついて来い」

拘束具一切無しの美琴に余裕の振る舞いで木原は前を歩き出す。
何とか隙を伺って逃げた方がよさそうだと判断した美琴はひとまず従う事にし、木原の後ろを無言で歩いた。


木原「もう気づいてるとは思うが、この建物内じゃ“一部の場所を除いて”能力は一切使えねぇ。何でか知りてぇか?」

美琴「……キャパシティ…ダウン」

木原「お? 知ってたか。なら話は早えぇな。まあ正確には演算妨害してんだが…」

美琴「それも知ってる。前に嫌ってほど体験してるわ…」

木原「ここに設置されてんのは多分お前が知ってるヤツよりも強力だぜ。何せ超能力者と言えど“完全無効化”だからな。
    前のヤツはお前でも何とか使えるか使えないかのレベルだったんだが、コイツは最新作よ。まぁ言っちまえばアレは
    未完成品っつーか、試作品みてぇなモンだったからなぁ」

美琴「!? ………あれが、試作品……?」ゾクッ

木原「驚いたか? 高かったぜぇ。おかげで俺は一気に借金まみれよ」

美琴「そんな……あれって確か……」

246: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 01:19:44.61 ID:PQcFI4c0

木原「あぁ、普通じゃまず手に入る代物じゃねぇ。けどたまたま身内で持ってるヤツがいたんだよ。ソイツからサンプルデータ
    さえもらえりゃあ後はどうにでもなる。こう見えて俺も一応科学者だからな。費用はかなり掛かっちまったが、結果は今
    お前が体感してる通りだ」

美琴「………ッ!」

木原「な、すげえだろ? ここは俺らがアジトにしてる研究施設なんだが、一部を除いた施設内には常にコイツを流している。
    俺達の耳じゃ到底聞き取れねえが、生憎コイツは耳からじゃなくて脳に直接伝えるタイプだ。分かりやすく言やぁ、そぉ
    だな……低周波ってヤツか。そういうこったから、いくら耳を塞いでも無駄だぜ?」」

美琴「……何で……そこまでしてアンタは一体何をやろうとしてんのよ!?」

木原「カカカ、その内イヤでも分かるからそう急くなって♪ とにかく、今は黙って俺に協力しといた方が無難だぜぇ?」

美琴(……冗談じゃないわよ! 誰が…ッ! 早く隙を作ってここから逃げないと……!)


木原「あ。そうだ、身内ってので思い出したんだがよ」ポン

美琴「えっ?」

木原「“姉貴”が以前お世話になったらしいな。『超電磁砲』」

美琴「は? 姉貴……? 何のことよ?」

木原「っと、いけねぇ。そう言やぁ自己紹介もまだだったか」ポリポリ

美琴「………」

木原「はじめまして、超電磁砲。元『猟犬部隊《ハウンドドッグ》』、現『地獄の猟犬《ケルベロス》』のボス―――」

247: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 01:21:34.06 ID:PQcFI4c0

木原「―――木原数多だ。以後よろしく……ってかぁ」ニヤリ


美琴「ッッ!!? ……き、木原…って、まさか…」

木原「お前の事はテレスのクソビ  から聞いてたぜ? 第三位は反吐が出るぐれぇに生意気な小娘だってなぁ。ぎゃははは!」

美琴「!……って事は……アンタも木原幻生の…」

木原「あぁ? なんだ、お前俺の“じいちゃん”も知ってんのか……。ま、繋がってんのは血縁だけだから別にどうでもいいけどよ」

美琴「!!……」

さらっと告げられた衝撃の新事実に流石の美琴も驚きを隠せなかった。


―――


その頃

隠れ家に戻ってきた番外個体と一方通行

番外個体「―――ねぇ、ところでささっきの子……」

一方通行「ン?」

番外個体「ミサカに似てたけど、もしかしてあの子が最終信号《ラストオーダー》?」

248: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 01:23:14.09 ID:PQcFI4c0

一方通行「は……?」

番外個体「あれ? 違った?」

一方通行(!……そォか。ネットワークに接続できねェって事は妹達の存在は知ってても人物、つまり検体番号の特定までは
      できねェのか……つってもあのガキならそンな区別の意味はねェが…)

番外個体「おーい、聞いてる?」

一方通行「あ、あァ……まァな」

番外個体「やっぱり……ってことはあの子がミサカ達の上位個体なんだね」

一方通行「まァそォなンのか……」

番外個体「あなたとずいぶん仲良さそうだったけど、何で?」

一方通行「そ、そりゃあ…」

番外個体「まさか、あなた……」

一方通行「………!!」


番外個体「…………  コン?」


一方通行「なワケあるかァァあああああ!!!」クワッ

249: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 01:24:56.27 ID:PQcFI4c0

番外個体「どうどう。まぁコーヒーでも飲んで落ち着けよ」コトン

一方通行「フー……フー……」

番外個体「鼻息荒いって」

一方通行「…………」ゴクゴク

番外個体「うわ……ホントにあなたってブラック好きなんだね~」

一方通行「……文句あンのかァ?」ギロリ

番外個体「  コン呼ばわりしたのは謝るからそんな睨まないでよ。目が怖いんですけど~?」

一方通行(目つきの事をオマエだけには言われたくねェよ)


番外個体「さてと、んじゃミサカ着替えてくるね。あなたが買ってきた服は?」

一方通行「そこに置いてあンだろ」

番外個体「あ、これね。……ってか、ずいぶん買ったんだ~。まぁあって困ることはないけどさぁ」

一方通行「それで文句はねェだろォ。着替えンなら早く行け」

(いつまでもそのまンまの格好だと目のやり場に困ンだよォ…)

250: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/23(木) 01:25:35.47 ID:PQcFI4c0

番外個体「はーい。隣の部屋借りるね♪」

一方通行「お好きにどォぞォ」

番外個体「………」ジーッ

一方通行「……ンだよ?」

番外個体「覗くなよ?」

一方通行「誰が覗くかァァ!!」

お決まりのやりとりを済ませ、番外個体は服の詰まった袋を抱えて別室へと向かう。
この馬鹿みたいな会話の応酬をもう三日も続けている自分の現状に、一方通行は大きな溜息をひとつ盛大に吐いた。

間もなく訪れる猟犬の牙によって、この何気ない二人の空間が呆気なく破壊されてしまう事になるのをこの時の彼は
まだ知らなかった―――。

261: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/24(金) 19:25:30.80 ID:P33.Exo0

―――


通路を歩く木原と、その後ろをついて歩く美琴。どこに向かってるのか美琴は気に掛かるが…

美琴「ねぇ。アンタに訊きたいんだけど……」テクテク

木原「あ? 何だよ?」テクテク

美琴「どうやって私の電撃を避けたのよ? ……どう考えてもやっぱ普通じゃないわ」

木原「ハッ、そんな事か…」

美琴「そんな事!? ふざけないで! 人間が雷の速度より速く動ける訳がない事ぐらい、子供でも分かんのよ!」

木原「そんなショックだったのか? テメェも案外プライド高けぇんだなぁ」

美琴「ッ……別に、今なら教えてくれたっていいじゃない……」

木原「まぁそれもそっか……いいぜ、教えてやる。つっても簡単なんだけどな」

美琴(簡単……!?)ピクッ

さりげなく自分の能力を見下されている気がした美琴は目を細めてムッとした。

262: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/24(金) 19:28:05.58 ID:P33.Exo0

そんな彼女の心境などお構いなしで木原は答える。

木原「確か三日ぐれぇ前か? お前と最初に遭遇してから、お前のありとあらゆる情報を部下に探らせた」

美琴「なん……ですって!?」

木原「俺の方も監獄でテレスからお前の能力や勝気な性格について聞けるだけ聞いた。まぁアイツも性格腐ってやがるから
    面会の終わりにゃ高笑いで締めてたけどな。ククク」

美琴「………!!」

木原「ウチの部下共は皆優秀でねぇ。つっても、使えねえヤツを切り捨ててる内に使えるヤツだけが残っただけなんだが……
    二日ほどでお前の能力は底まで調べがついた」

美琴「な……!」

木原「攻撃パターンは勿論、演算開始から放電までのロスや、能力の正確な範囲まで……。今じゃお前が持ってる下着の趣味
    まで調べがついてんだぜ? ぎゃはは! そんなにカエルちゃんが好きー♪ ってかぁ!」

美琴「~~ッッ!!?」

木原「そういう訳で、テメェの攻撃を予測して放電の瞬間に身体を移動させるくらいは造作もなかったんだよ。どうだぁ? 
    これで満足したかぁ?」

美琴「…………勝手にっ! なぁぁにしてくれてんのよおおっ!!!」シュッ

プライバシーの侵害によって怒りを爆発させた美琴だが…

263: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/24(金) 19:30:50.54 ID:P33.Exo0

木原「――おっと!」ガシッ

美琴「くぅ……ッ!!」ギリッ

木原「おいおい……なんだそりゃあ。色気ねぇにも程ってモンがあるだろぉ。これはデマだと思ったが……マジだったんか」

美琴「~~~~~~~~ッッ!!!」

怒りが爆発し、血のジュースを吐かせんとばかりに木原のわき腹へ繰り出された美琴の蹴りはあっさりと足を掴まれる結果に
終わる。
返ってきたのはスカートの中から晒された短パンに対する木原の冷めたコメントである。
これにより、美琴の顔は今にも噴火しそうなほど歪むのだが、木原が涼しい表情を崩す事はなかった。


その後も移動を続けるが、美琴の頬はむくれたままだった。

テクテクテク

美琴「………」ムッスー

木原「まぁ心中は察するが、これも計画のためなんだ。悪く思わないでくれや」

美琴「……勝手にストーカーされて悪く思うなってのが無理よ…」

木原「その代わりと言っちゃあ何だが、これから更に珍しいモン見せてやるよ。この学園都市でここにしかない、“とっておき
    の技術”ってヤツをな」

美琴「…………?」

木原「お、着いたぜ。ここだ」

264: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/24(金) 19:33:23.94 ID:P33.Exo0

ドアの前で立ち止まる木原。美琴も恨めしい顔から緊張の顔に戻る。

木原「先に伝えておくが、ここから先はキャパシティダウンの効果範囲外だ」

美琴「え!?」

木原「さっき“一部の場所を除いて”っつったろぉ? 実はこの部屋がそうなんだよ。お前の能力が働かなきゃ話になんねえんだ
    から当然の処置なんだがな」

美琴「いったい……何されるってのよ……?」

木原「ははっ、そぉビビんなよ。気楽にいけ」

美琴(気楽ぅ!? そんなの無理に決まってんでしょ!? もう怪しいなんてレベルじゃ……)

木原「しつけぇとは思うが、もう一回だけ忠告しとくぜ? 能力使えるようになったからって逃げようとか考えるな。今度は一発
    で気持ちよくさせねえぞ?」

美琴「わ……分かってるわよ」

(チャンス! 能力が使えるんなら、何とかこの部屋で……)キラーン


木原「じゃ、行くぜ」

ギィィ……バタン


美琴「!………な、何これ……?」

265: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/24(金) 19:37:06.53 ID:P33.Exo0

木原「な、どうだよ? すげえと思わねえか?」


目の前に映ったオペレーター室のような空間。前方の巨大モニターに見た事もない複雑な機械。科学の中でも最先端と呼ばれる
学園都市内で、更にここはその最先端な場所だ。と木原は言う。
確かにこれだけの設備を揃えるのなら借金地獄に陥っても無理はないが、木原自身はネタぐらいにしか以外に思っていなさそう
な様子である。
底が知れない男だ。と美琴は身体を震わせた。


美琴「…………」

(一体ここで……何をしようっての……?)

木原「今日は見学に連れてきただけだ。実際お前の出番は今から三日後になる訳だが……」

美琴「ッ!?」

木原「あん? どうした?」

美琴「ちょっと待ってよ! み、三日って……嘘でしょ!?」

木原「嘘なワケねーだろ。これはもう決定事項なんだよ」

美琴「何が決定よ!! ふざけんな!!」

木原「ふざけてねえよ。こいつは大マジだ」

美琴「じ……冗談も大概にしなさいよアンタッ!! 私は帰らなきゃいけないのよ!!」

木原「んん? 学校行きたいってか? 残念だが諦めな。それに“そんなつまんねえトコ”より、コッチの方がまだ意味あると
    思うぜ?」

266: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/24(金) 19:39:38.13 ID:P33.Exo0

木原の発言に美琴の頭は完全に沸騰したようだ。

美琴「はぁ!? 何それ!? 何でアンタにそんな事決めらんなきゃいけないの!?」

木原「どーせ学校じゃ浮いて退屈してんだろ? 超能力者の宿命ってヤツだ。よく分かるぜぇ」

美琴「アンタに何が分かるってのよ!? 私にだってちゃんと『居場所』ってモンがあるんだからっ!」

木原「あぁそう。まぁそんなのどうでもいいけどな。とにかくもう決まってんだ。我が儘ばっかたれてんじゃねえよ」

美琴「だから勝手に決めんなっての!!」 

木原「…………」

美琴「私がどうするかは私が決める! アンタの敷いたレールの上なんかを歩くつもりはないわ!」

木原「…………」

美琴「私は絶対帰る……帰らなきゃいけないのよ! ここで協力するか帰るかなんて、選ぶまでもない!」

木原「今のお前に選択権なんてご大層なモンが用意してあるとでも思ってんのか?」

美琴「………もういいわ。アンタにこれ以上言ったってどうせ無駄よね」

木原「あぁ、無駄だな。……で、どうすんだ?」


美琴「決まってんでしょ!? アンタをぶっ飛ばしてでもここから逃げてやる!!」

267: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/24(金) 19:42:20.88 ID:P33.Exo0

木原「いや、だから無理だって。っつか人の話全然聞いてねえなこいつ……」ハァ

美琴「うっさい! ちゃんと聞いてるわよ!………確かここじゃ能力使えるんだったわね?」ニヤッ

木原「あぁ、だったらどうした?」


美琴(だったら、超電磁砲で部屋ごと―――)チャリン


木原「チッ……!」ヒュッ

ドスッ

美琴「―――ぐっ!!?」ドサッ


木原「……ったくよぉ、これじゃせっかく忠告してやった意味がまるでねえだろぉが。あんまし世話を焼かすんじゃねえっつの。
    学習能力ゼロの小娘が」


美琴「……ううぅ…」


木原「まだ良く理解できてねえ様だから教えてやる。いいか? もう元の暮らしになんて帰れると思うな。テメェにゃ俺の計画の
    終わりまで付き合ってもらう事決定なんだよ。一度“コッチ”側の世界に入った以上、光を浴びる生活になんざ戻れやしねぇ」


美琴「…………ッッ」

268: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/24(金) 19:44:06.11 ID:P33.Exo0

木原「あと勘違いしねぇ様に言っておくが、俺はテメェを優しく扱うつもりは毛頭ねぇ。テメェは『お客さま』なんかじゃなく、
    ただの『実験動物(モルモット)』だ。ソイツを忘れんな。本来“科学者”と“能力者”ってのはそういう関係であるべき
    なんだよ。テメェが役目を終えたその後の末路は……もう言わなくても分かんだろ?」


美琴「…………」ギリッ


木原「これが最終通告だ。今度くだらねえ真似しやがったら……二度と人前に見せれねえ身体になると思え。テメェはせいぜい俺が
    機嫌を損ねないように身の振り方でも覚えてりゃ良いんだよ」


美琴「……ちく…しょう……ッ」

木原「でなきゃ、次は本当にこんなモンじゃあ済まさねえぜ!」ズドッ

美琴「が!!……は………ッ」ガクッ

地面にひれ伏した美琴の腹に強烈な蹴りを突き刺したのは、言葉とほぼ同時だった。
その一撃で再び呆気なく気絶した美琴に向かって唾でも吐きかけるかのように、木原はこう言った。

「恨むんなら、一方通行を恨むんだな」と。

美琴の監禁生活はこうして始まりを迎える。


―――

269: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/24(金) 19:45:34.55 ID:P33.Exo0

―――


その日の夜

一方通行「…………遅せェ」

番外個体「何さっきからケータイ睨んでんの? 誰かからの連絡待ち?」

一方通行「あァ、気にすンな」カパ

(何で誰も折り返して来ねェンだ……? 土御門はともかく、結標からも海原からもサッパリ応答がねェのは……)

番外個体「ね~、ところでミサカお腹空いたんだけど?」

一方通行(俺が病院でコイツといた三日の間に『グループ』内で何かあったのか? イヤ、だとしたら俺に何の音沙汰
      もねェのはおかしいよなァ……)

番外個体「おーなーかーすーいーたーっ!」

一方通行「ッ! ……あァ?」

番外個体「あァ? じゃなくて! お腹空いたから何か食べたいっつってんのーっ! ってかあなたさっきからミサカを
      放置しすぎじゃね? ミサカ別にそういうxxxは好きじゃないよ?」

一方通行「……もォ夜か」

番外個体「あなた大丈夫? その見た目で頭の中はお年寄りとかシャレになってないよ?」

270: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/24(金) 19:46:25.37 ID:P33.Exo0

一方通行「………仕方ねェな。何か食いに行くか?」

番外個体「え? あなたって料理……しないよねーやっぱ。うん、しないねこりゃ」

一方通行「オイ、勝手に質問を自分で解決してンじゃねェよ。……まァその通りだが」

番外個体「しょーがない。そんじゃあミサカが作ってあげよっかな♪」

一方通行「は?……オマエ作れンのか?」

番外個体「あ! バカにした目で見てる! 任せといてよ。これでも結構得意なんだから!」

一方通行「ホントかよ……」

番外個体「ムッ……よーしわかった。意地でも美味しいって言わせてやるんだからそこで大人しくしてて!」 

一方通行「不安要素しかねェぞ」

番外個体「……えーっと、冷蔵庫は…」スタスタ

一方通行「聞いてねェし………」

番外個体「お、結構材料あるじゃん♪ スーパー行く必要ないね」ガラッ

一方通行「…………」

この先は言わなくても分かる結果だった。
ただ、この日の二人の夕食は結局出前で済ませる事になったとだけ言っておこう。

その後も同僚から連絡が来る事はなかったが、一方通行は自ら動く訳にもいかずにただ待つしかなかった。

271: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/24(金) 19:50:08.70 ID:P33.Exo0

―――


それから更に三日後の朝……学園都市で報道された大事件


御 坂 美 琴  謎 の 失 踪


『常盤台中学在学、御坂美琴さん(14)の行方が三日前の正午すぎから完全に途絶えていることが分かり、警備員は―――』

『最後に目撃されたのは、寮の付近に位置する公園とされており―――』

『何らかの事件に巻き込まれたのではないかと見て、捜査を―――』

『同室で生活されている学生からは、未だ詳しい話が聞けていない現状で―――』


どのチャンネルでニュースをつけても同じ内容だった。新聞の一面にも大きく載っている。
“常盤台のエース”を襲った突然の報道に学園都市の学生達は衝撃を受けた。
ほとんどの学生達が彼女の無事を願っている。
当然だが、事件の影響によりマスコミが殺到しているせいでこの日の常盤台中学は休校となった。


―――


正午・第七学区

「おいおい、今朝のニュース見たか?」

「あぁ、見た見た。常盤台の『超電磁砲』が失踪したんだろ?」

272: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/24(金) 19:53:23.19 ID:P33.Exo0

「急に姿消すとか、変じゃね?」

「超能力者が行方不明って、どーなんだろうな?」

「山奥とかで死体になってたら笑えなくね?」

路上でたむろしながら口々に今朝の話題で盛り上がるスキルアウト達。

「けどよ、誰かが攫ったとか有り得るぜ。超電磁砲って相当生意気らしいし、恨み買ったりとかもしてんだろ」

「えっ? そうなのか?」

「あぁ、実は俺の友達が一回声掛けた事あるらしくて……」


??「ちょっと、そこのあなた方」


「!」


突然掛けられた女の声にスキルアウト達は顔を上げる。
そこにいたのは『風紀委員《ジャッジメント》』の腕章を腕につけた一人の少女だった。

「あぁ?……何だお前?」

「風紀委員が俺達に何か用かよ?」

273: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/24(金) 19:55:29.20 ID:P33.Exo0

スキルアウト達は「早くどっか行けよ」と目で伝えるが、少女は立ち去るどころか更に歩み寄ってくる。

??「あなた方にお尋ねしたいのですが、『御坂美琴』について何かお心当たりはございませんか?」

目の前で立ち止まった少女は丁寧すぎて逆に怖い口調でそう尋ねてきた。

「何? 聞き込み捜査?」

「風紀委員も大変だね~」

??「知らないのでしたらもう結構ですの」

素っ気無く言って立ち去ろうと背を向ける少女の腕をいちばん近くの一人が掴んで止める。

「もう帰っちゃうの~? もう少しゆっくりしてきなって♪」

「つーか“んなダルい仕事”放っといてさ、俺らと遊ばない?」

「何だよ。よく見たら結構可愛いじゃん♪」

「っつかその制服常盤台? ってこたぁ今日休みだから問題なしだな」

「どっか楽しいトコ行こうぜ~」

止められて振り返った矢先に次々と返ってくる余計な返答。少女は呆れたのか俯いてしまった。

274: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/24(金) 19:57:04.93 ID:P33.Exo0

「あれ? 怖くなっちゃった?」

「バーカ♪ お前の顔のせいだよ」

「「「ぎゃははははは♪」」」


??「…………」


「お? 大丈夫~?」

顔を上げて再び座ったままの彼等を見下ろす少女。
表情は俯く前と変わっていないように見えるが、彼等は気づかなかった。

少女の目の色が恐ろしいほど黒く変化していたことに―――。

287: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/26(日) 19:58:35.01 ID:1sXLRjQ0

―――


少女の目に闇が現れてから数分後。
そこに映っていたの狂ったように暴れまわる少女と、完全に戦意を喪失した若いスキルアウトの面々だった。


「ひぃぃ……っ!!」

「も、もうやめてくれぇ!」

「あ……あんた風紀委員だろ!? お、俺達が一体何し――」


「やかましいっっ!!!」ドゴッ


「――グハッッ!!」

地面にひざまずき許しを請うような目で見上げるスキルアウトのわき腹を容赦なく蹴り飛ばす少女。
その後も少女は完全に我を忘れた形相で恐怖に怯えたスキルアウト達を一人、また一人と徹底的に叩きのめしていく。

「ハァ…ハァ……ふぅぅ………思い知りましたか? この下衆ども…」

数分間、休むことなく一方的な暴行を働き続けた少女は肩で荒く息をしながらボロ雑巾となった男達を見下す。
その中の一人がボロボロの身体を起こして少女に抗議する。

288: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/26(日) 20:00:04.93 ID:1sXLRjQ0

「ぐ……テメェ……正気かよ…? 風紀委員が…一般人にこんな事して………ただで済むと?」

もはや立つ力も無い男に少女は氷のような冷たい視線で答えた。

「あなた達がどうなろうが、わたくしの知った事ではありません」

「ッ!」

風紀委員とは思えない言葉に背筋が凍る男。
だが、すぐに強がりともとれる姿勢で少女に向かって言う。

「ふ…ふざけんな! これは立派な傷害罪だ! テメェの特徴は覚えたからな……今すぐ支部へ駆け込んで、訴えてやる!!」

「ふん、好きにすればよろしいですわ」

「!?」

少女のまるで何も感じていないような声に言葉を失うスキルアウトの男。
何だこの女? 普通じゃない……!! と、歯をガタガタ言わせて恐怖した。

「……仰りたい事はそれだけですの? ではそろそろ眠って下さいな。とても目障りですので―――ッ!!」

「―――ぐふっ!!?」

言い終わると同時に少女は蹴りを入れて最後の一人を完全に沈黙させた。


「…………」


静まり返った溜まり場で倒れたままのスキルアウト達に少女は背を向ける。

289: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/26(日) 20:01:37.61 ID:1sXLRjQ0

「お姉様……」

聞きとれないほどの小さな声でたった一言呟いた少女は、ゆっくりとその場から姿を消した。
無残なまでにボロボロにされたスキルアウト達を、放置したまま。


―――


「……………」

鬱憤を晴らすように暴れ、路地から出てきた少女はとぼとぼと大通りを歩く。
その様子は、先ほどスキルアウト達の前で見せた表情とはうって変わって悲しみと疲労により憔悴した後のようだった。
足元も若干フラついているが、これは急激に高まった感情によって体力を一気に使った影響か。

「お姉様ぁ………どこにいらっしゃいますのぉ……?」

この言葉をここ三日で何度使ったか、もう少女は覚えていなかった。


そうしてしばらく歩き続けている内に、彼女の後ろから怒ったような口調の声が掛けられる。


「―――白井さん!」


「……?」

290: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/26(日) 20:03:31.13 ID:1sXLRjQ0

名前を呼ばれて振り向いた少女、白井黒子の目に映ったのはまず頭頂部に咲いた色鮮やかな無数の花。
これに該当する人物は一人しか知らない。


「初春……」


頭の花の華やかさから一転した表情の初春飾利は、振り向いた顔を戻して歩こうとする黒子の前に立ち塞がった。
まるで「行くな」とでも言うように。


黒子「……どいてくださいまし」

初春「どきません!」

黒子「………」

初春「どこに行くつもりですか?」

黒子「言わなくても分かるでしょう? お姉様を捜すんですのよ」

初春「……また、“あんなやり方”でですか?」

黒子「……!」

初春「……いくら何でもやり過ぎです! あれじゃ裁判になっても文句言えませんよ!?」

黒子「………見てましたの?」

291: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/26(日) 20:05:29.18 ID:1sXLRjQ0

初春「当たり前です! 固法先輩からも『なるべく一緒にいてあげて』って言われてるんですから……」

黒子「あの方々なら自業自得ですわ。お姉様の悪口などを好き勝手に叩くから、鉄槌を下してあげたまでですの」

初春「それでもあれはやり過ぎですよっ! あの人達が無抵抗になった後も一方的に殴るなんて……」

黒子「…………」

初春「止めなきゃ。って思ったんですが………怖くて、足が動かせませんでした。あんなの白井さんじゃない………
    白井さんらしくないですよ!」

黒子「………余計なお世話ですの。放っておいてくださいまし。風紀委員も警備員も、どういう訳か発令された上層部
    からの『捜査禁止命令』を受けている以上、もうアテにはなりませんし期待もできません。表面だけは『捜査』を
    続行している事にするなんて、馬鹿げているにも限度がありますわ……」

初春「……だからって単独で、それも腕章を付けて動くのはさすがにマズイです! もしこの事がバレたら……クビどころか、
    下手したら逮捕だって有り得ますよ!?」

黒子「覚悟の上ですの。風紀委員として動けない以上、わたくしだけでも何とかしてみせます」

初春「そんな……」

黒子「それにわたくしは今日非番ですの。腕章は聞き込みをする上で都合が良いから付けているだけですわ。やり過ぎて
    しまった事については反省していますの。次からはなるべく抑えるように努めますわね……。ところで、初春は今日
    出勤でしょう? わたくしはもう大丈夫ですので、あなたは早くお行きなさいな。わたくしについていると、あなた
    にまで火が飛ぶかもしれませんわよ?」


これ以上関わるな。と言いたげに初春を突き放そうとするが…

292: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/26(日) 20:06:55.45 ID:1sXLRjQ0


初春「そうはいきませんっ!」


黒子「!」

初春「今の白井さんを放っておくなんて、私には無理です! 先輩に言われなくても、私は白井さんを放ってなんて行けません!
    私達、パートナーじゃないんですか!?」

黒子「……っ!」

初春「ひとりで危ない橋なんか渡らせませんからね?」

黒子「別にそんなつもりはありませんわ。お姉様を捜すのはあくまで勤務外ですから、心配など不要ですの」

初春「それだけじゃありません!」

黒子「?」

初春「白井さん……御坂さんが行方不明になってから、いったい何時間寝ましたか?」

黒子「!…………」

初春「心配なのは分かります。けど……私だって心配なんです! 佐天さんも心配で眠れないって………それに固法先輩だって」

黒子「……何が仰りたいんですの?」

初春「自分だけだなんて思わないで欲しいんです! 御坂さんが心配なのは皆一緒なんですよ!? なのに……自分だけ食事も
    とらないで、アテもなく一人で捜し続けて……手掛かりすら掴めない苛立ちを一般人にまでぶつけて……」

293: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/26(日) 20:08:14.17 ID:1sXLRjQ0

黒子「…………」

初春「白井さん……ここニ~三日、まともに寝てないんでしょう?」   
   
黒子「………ふ…」

初春「…………」

黒子「何を言い出すかと思えば、そんな当たり前の事を……。お姉様が見つかるまではのんびり休んでなどいられないに決まって
    ますわ。初春も重々承知だとは思いますが、わたくしはお姉様のためならどんな事でもしてみせますのよ?」

初春「けど……白井さんがこのまま無理して倒れでもしたら……何にもならないじゃないですか!」

黒子「わたくしなら平気ですわ。この程度で音なんて……」


初春「嘘ですっ!!」


黒子「!?」

初春「自分の姿を鏡でよく見てください! 目に隈をつくって、肌はカサカサで、髪は傷んで、頬はすっかり痩せこけて……
    痛々しくて……もう見てられません…っ……今の白井さんを御坂さんが見たら……きっと、怒りますよ……」グスッ

黒子「…………」

初春「私…っ……もう、そんな白井さんを……見たく……ない…」ポロッ

黒子「……初春…」

294: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/26(日) 20:09:11.63 ID:1sXLRjQ0

初春「だから……もうっ……ッッ……やめて、くだ……さいっ………御坂さんを早く見つけたいのは……私だって同じ……
    なんですからぁ………ッ」グスッ

黒子「…………」

初春「……もう………やめて……っっ」グスグス

黒子「ですが……わたくしは………ルームメイトでありながら、お姉様の異変に全く気づけなかったっ!!」

初春「白井さんが悪いんじゃありませんっ! 自分を責めないでください………」

黒子「でも……お姉様が、わたくしに何も言わずにもう三日も……携帯も全く繋がらず、送り続けたメールも全てエラー……
    これをただ事とは思えません……っ。お姉様の身に何かあったのではないかと考えると……わたくしは……もう……」

初春「………白井さん…っ!」

黒子「わたくしは……わたくしは一体どうしたらいいんですのぉぉ……っ!!」ポロポロ


精神を繋ぎ止めるために装着していた心の仮面を外し、二人の少女はそのまま路上で抱き合い泣いた。
心から慕う先輩の身を案じる黒子と、憧れのお嬢様として友人として、ただただ無事を祈る初春。
精神的に相当参っていたのは二人とも同じだった。

その後、初春と共に風紀委員支部へ向かった黒子は備え付けられている宿直用のシャワーと仮眠室で、これまで殆ど不眠不休で
動き続け酷使した身体の疲れをひとまず癒す事にした。
「こんなひどい姿でお姉様に会う訳にはいかない」と自分に言い聞かせ、今は少しでも休む。
歯痒い思いを抑え、焦る気持ちを押し隠し、黒子は眠る。
愛するお姉様の無事を、ただ信じて。

295: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/26(日) 20:10:12.79 ID:1sXLRjQ0

―――


~『グループ』が所有する隠れ家~

オーイ オーキーロー 

一方通行「……zzzzz」

チョットー モウアサダヨー

一方通行「……ンゥ……うるせェぞ。クソガキィ……むにゃ」

クソガキ? ナンノユメミテンノー? 

一方通行「………ンン…」ノソノソ

番外個体「―――おーい! コラー! ア・ク・セ・ラ・レーターーー! 起きろーーー!!」

一方通行「!……ンあ……?」パチッ

番外個体「あ? 生きてた」

一方通行「おォ、オマエか…………っつか、今のはどォいう意味だァ?」

296: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/26(日) 20:12:00.63 ID:1sXLRjQ0

番外個体「いや~、あなたって肌白いからさ。一歩間違うと死体にも見えるってか…」

一方通行「久しぶりの不愉快な目覚めを提供してくれてアリガトウよ。オマエも白くなりてェンならお礼に協力して
      やってもイイぜ?」ギロッ

番外個体「おーっと、やっぱ寝起きのあなたってちょっと怖いね♪」

一方通行「……怖がってるよォには見えねェが?」

番外個体「気のせい気のせい☆」

一方通行「ったく…………!…」

番外個体「……どうしたの? 急に固まったりして…」

一方通行「…………………オイ、ちょっと待て」

番外個体「ん?」

一方通行「なンで当然みてェにオマエが俺の隣りに居ンだよォ!?」

番外個体「? だってあなたが『隣りで寝ていい』って言ったから…」

一方通行「そりゃ『隣りの部屋で』って意味だァ! っつーか一昨日までは普通にソッチで寝てただろォが!」

番外個体「え……そうだっけ?」

一方通行「あァ? 何だオマエ、まだ寝ぼけてンのか?」

297: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/26(日) 20:13:28.63 ID:1sXLRjQ0

番外個体「うーん……あれ? なんでかなぁ……一昨日ミサカどこで寝てたっけ……?」

一方通行「ッ!?」

(しまった……! そォ言やコイツは記憶障害で脳が不安定なンだった……ややっこしいなクソ)

番外個体「……ん~」

一方通行「オイ、もォイイからいつまでも気にしてンな。それより腹減ってンならメシ食いに行くぞ」

番外個体「お! いいね~♪ ミサカ腹ぺこ~。それじゃーまたミサカが作っt」

一方通行「ファミレスで良いよな? よし決定。ンじゃ早い内に行くとすっかァ」

番外個体「………」ビリッ


ウォオ!? アブネエナ! アサッパラカラナニシテクレテンダァ!

ウルセー!! コノデリカシーゼロノガリガリヤロウ!! サワヤカナアサトトモニシンジャエ!!

アァ!? イミワカンネェーンダヨォォォ!!


こうして、終始ドタバタしながらも二人は外へ。


―――

299: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/26(日) 20:18:47.17 ID:1sXLRjQ0

(隠れ家に身を潜めてからもう三日……土御門も結標も海原も音信不通のまま。一体どォなってやがンだ?)

(明日は番外個体を検診に連れてく事になってっから、そン時に医者から何か聞けりゃあ良いが…)

(どォも妙な胸騒ぎがすンだよなァ……)


―――


~ファミレス~

番外個体「あなたってさ、寝てる時の顔と起きてる時の顔のギャップが激しいよね」

一方通行「あ? 急に何言い出すンだァ?」

ファミレスでモーニングセットを平らげて食後のコーヒーを啜る一方通行に唐突な事を言う番外個体。


番外個体「前々から思ってたんだけど、言ったらあなた怒るかなぁって………怒った?」

一方通行「……自分の寝顔がどォかなンて知る術もねェから分かンねェし、別に怒りゃしねェよ」

番外個体「お? 寛大だね~。コーヒー飲んでる時なら機嫌良さそうだから言ってもいいかなって思ったらその通りでした~♪」

一方通行(クソガキにも言われたなァ……っつか、人の寝顔を覗く趣味とか……超電磁砲のDNAはどォなってンだよ…)

番外個体「ねぇ、この後どうしよっか?」

一方通行「どォするって……」

番外個体「たまにはさ、どっか出かけない? ミサカはまだこの街の事あんま知らないし」

300: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/26(日) 20:20:34.51 ID:1sXLRjQ0

一方通行「……構わねェが、人の多いトコは行かねェぞ?」

番外個体「そうだね。ミサカも人混みはドッチかっていうと苦手かも」

一方通行「………あと十分ぐらいしたら出るかァ?」

番外個体「そうだね。………」ジーッ

一方通行「……何でそこで見つめてくンだよ?」

番外個体「い~やぁ、ちょっと意外だっただけ~」

一方通行「何が?」

番外個体「あなたって遊びに行くの嫌いそうじゃん。超インドア派です、みたいな?」

一方通行「俺だって暇な日ぐれェ外出るっつゥの」

番外個体「えー!? 日の光浴びててそれ!? ウッソだぁ~!」

一方通行「………紫外線に強ェンだよ。多分生まれつきに…」

番外個体「はぁぁ!? 何その超羨ましすぎる体質!? ちょっとぉ! ミサカと身体交換してよ!」

一方通行「女に羨ましがられたってちっとも嬉しくねェぞ……」

番外個体「いいな~。あなたって北欧とかソッチの方の人なの? 何かそんな気がする…」

一方通行「あ、あァ。まァあンまし覚えてねェけどなァ」

301: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/26(日) 20:21:46.24 ID:1sXLRjQ0

(そォ言やそンな設定にしたンだったな……チッ、自分で言っといて何だが、イイ加減まどろっこしくなってきやがったぜ。
 どォも俺に演技は向いてねェらしい……)


番外個体「さて、じゃあそろそろ行きましょっか!」

一方通行「どこに行きてェンだ?」

番外個体「今日天気良いから景色の綺麗な海沿いの公園とかが良いなぁ~」

一方通行「ンじゃそこにすっか。こっからなら遠くねェし」

番外個体「あなたはどこか行きたいトコはないの?」

一方通行「ン……特にねェ」

番外個体「寂しいヤツ……」ジトー

一方通行「うるせェ! オマエが行きてェ場所で良いっつってンだ! 行くンならさっさと行くぞ!」カツ カツ

番外個体「あぁ!? ちょっ、待ってってば~!」

これは、まさかデート? 慌てて追いかける番外個体はふとそんな事を思ったが、杖を鳴らして先を歩く一方通行の方はどう思って
いるのか。

(ま、たまには外の空気を吸わせンのも悪くねェだろォ)

こうしてほのぼのと過ごしていられる時間もあと僅か。
それを未だ知らない一方通行と番外個体は、明るい太陽の光を浴びながら移動を続けた。

彼等の平和を脅かす足音は、もうすぐそこまで迫ってきていた―――。

310: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:08:25.33 ID:05Wgzhk0

―――


~海浜公園~

番外個体「うわぁ~……海キレイだねぇ」

一方通行「あァ」

(考えてみりゃあのガキともここには来たことなかったな……)

番外個体「な~に感慨に耽っちゃってんのかにゃ~ん? 似合わないよ?」ニヤニヤ

一方通行「う、うるせェよ」

番外個体「あ! あっちから砂浜行けるみたいだね。行こ行こ♪」グイッ

一方通行「わかったから引っ張ンな」


~砂浜~

ザブーン…

番外個体「ひゃっ、冷たっ! あ~あ、夏だったら良かったのにぃ…」

一方通行「もォすぐ冬だぞ?」

番外個体「もっと早くここ来たかったな~。ロシアの海なんて凍ってるから……」

311: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:10:16.77 ID:05Wgzhk0

一方通行「見たことあンのか?」

番外個体「うんにゃ。イメージ的に」

一方通行「………」(だよなァ…)

番外個体「さっきから渋く決めてどしたの? あ、さてはミサカの水着姿でも想像してたとか?」

一方通行「は? 何言ってンだァ?」

番外個体「照れんなって♪」

一方通行「照れてねェし」

番外個体「きゃわいい~♪」

一方通行「……沈めンぞ」

番外個体「あははは♪ 怒った~」ザザザザ

一方通行「あ! オイ走ンな! ックソ! 砂浜じゃ杖が上手く……」

番外個体「あっひゃっひゃ! 動物の赤ちゃんみたい! ウケル~♪」

一方通行「ちっくしょ。歩きにきィ…」ザッ ザッ

番外個体「ミサカがおぶってやろっか~?」

一方通行「馬鹿にしてンじゃねェぞ!」ザッ ザッ

312: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:12:52.36 ID:05Wgzhk0

番外個体「えい♪」グイッ

一方通行「うォ! 馬鹿オマ――ッ!?」フラッ

番外個体「え?―――キャッ!?」

ドサッ

一方通行「…………」(←番外個体に馬乗り)

番外個体「…………」(←真下)

一方通行「あ……」

番外個体「………///」

一方通行「わ、わざとじゃ……!」

番外個体「変 ……///」

一方通行「っつか、オマエが急に引っ張るからだろォが!」

番外個体「あはは、ゴメンゴメン……」

一方通行(あァ…? てっきりまた電気が来ると思ったら、何だこの反応……?)

番外個体「……ねぇ」

313: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:14:15.28 ID:05Wgzhk0

一方通行「な……何だよ?」

番外個体「そろそろ、どいてくれたりすると……その……」モジモジ

一方通行「!? わ、悪い!」ムクッ

番外個体「………」

一方通行「ほら……」(←手を差し伸べる)

番外個体「うん……」ギュッ

スクッ


番外個体「…………」

一方通行(何黙り込ンでンだァ……? 普段うるせェコイツがダンマリとか違和感しかねェ……っつかこの雰囲気がまずおかしくねェか?)

番外個体「………なんかさぁ」

一方通行「ン?」

番外個体「さっきあなたの手を掴んだ時……なんか、懐かしいってか……よく思い出せないけど、そんな気分になったんだよね」

一方通行「……そォ…か」


番外個体「やっぱり、あなたとミサカって……どこかで逢ってる気がする」

314: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:16:17.75 ID:05Wgzhk0

一方通行「!?」

番外個体「やっぱり、ミサカの勘違いなのかな……」

一方通行「…………」


(少しずつだが……コイツは安定してきている。まだボケた所はあるが、確実に元の番外個体に戻りつつある)

(ネットワークへの接続が再び繋がるのも……もう時間の問題かもしれねェ…)

(そしたらまた……負の感情を拾い集めて、コイツは俺を――)


番外個体「ご、ごめん。 変なこと言っちゃったね。忘れていいよ」

一方通行「……あァ、気にすンな」

番外個体「っくしゅん! ……海沿いって、やっぱ冷えるね~。公園の方に戻ろ?」

一方通行「そォだな」


(死ぬのは……別に怖くねェ)

(前は自分の命が一番だったが、今はそれ以上に大事なものがある)

(怖いのは……コイツが、今目の前で俺に微笑ンでるコイツが俺の命を奪うために生産された事)

(なンだかンだ言って、コイツと再会して一緒に過ごすハメになっちまってからもう一週間……)

315: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:18:06.39 ID:05Wgzhk0

(負の感情がねェコイツの……言わば『表』を見てきた……)

(無理だ……)

(コイツを傷つけるのは……今の俺じゃ絶対にできねェ)

(けど、俺は死ねない……クソガキもコイツも妹達も、全員イカレた呪縛から解き放たれて自由に生きられる。その時まで、
 俺はアイツらを守り続けると決めた)

(……考えたくもねェが、コイツが俺にまた牙を剥いた時……その時が来ちまったら俺は―――)


(―――どォすれば…良い……?)


ザッ ザッ ザッ



番外個体「あ! ネコみーっけ♪」

ネコ「ニャ~」サササッ

番外個体「あ……」

一方通行「どォした?」

番外個体「逃げられちゃった……」

一方通行「ネコか……」

316: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:20:10.03 ID:05Wgzhk0

番外個体「好きなのになぁ~。こういう時ってこの能力恨めしいよね。あはは……」

一方通行「………」

番外個体「………」ショボーン

一方通行「………」カチッ


ポン…ッ


番外個体「ん?……何?」

一方通行「ネコに触りてェンだろ? まだあそこにいるじゃねェか」

番外個体「いや……だから逃げられるって。ミサカの身体は常に電磁波が発生してるから動物には…」

一方通行「ンな事ァ知ってンだよ。イイから行くぞ」

番外個体「……ちょっ」

カツ カツ

ネコ「ニャ~♪」ゴロゴロ

番外個体「!……うそ……逃げない…」

一方通行「………」

番外個体「なんで……?」

317: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:21:40.58 ID:05Wgzhk0

一方通行「さァな、鈍感なネコなンじゃねェのか?」

番外個体「あはっ♪」ナデナデ

ネコ「ニャ~」

番外個体「か~わいい~♪ ネコに触れる日が来るなんて思わなかったよぉ」

一方通行「……ソイツは良かったなァ」

番外個体「うん♪ ……ねぇ、いつまでミサカの肩に手ぇ置いてるの?」

一方通行「歩き疲れちまったからなァ。このまましばらく貸せ」

番外個体「はは、貧弱ぅ~」ニタァ

一方通行「っせェよ」

(触れてねェと生体電気のベクトルが操れねェだろォが)

番外個体「まぁいいか。考えたらあなた杖つきだもんね」

一方通行「そンなのひと目見りゃ分かンだろォ」

番外個体「ありがと……」ボソッ

一方通行「あン?」

318: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:23:26.98 ID:05Wgzhk0

番外個体「なんでもなーい」

一方通行「…………」

番外個体「おー、よしよし」ナデナデ

ネコ「ニャー♪」ゴロゴロ

一方通行「………」


(考えたら、今のコイツと俺って……脳に障害負ってるって意味じゃ同じなンだよなァ…)

(……イヤ、同じじゃねェな。コイツら妹達がいなきゃ俺はこンな風に考える事も立って歩く事もできねェンだし…)

(コイツを重病人みてェに最初は見ちまったが、俺に比べりゃまだ救いようがあるンじゃねェのか)

(ンな事に今気づいたからどォって訳でもねェけどよ……)

(っつーか変だよなァ。さっきからどォしてこンな事ばっか考えてンだ俺は…?)

(ガラでもねェ……)


番外個体「ばいばーい。元気でね~」ヒラヒラ

一方通行「………」

319: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:25:24.35 ID:05Wgzhk0

番外個体「さて……もうネコ行っちゃったし、そろそろ行こ?」クルッ

一方通行「ン? ……あァ」


番外個体「~~♪」

一方通行「ずいぶン機嫌良いなァ」

番外個体「そりゃあね。夢の一つが叶ったんだもん」

一方通行「あァーそォかい。良かったじゃねェか」

番外個体「うん♪ 来て良かったな~。……また来ようね」

一方通行「機会があったらなァ」

番外個体「ううん、絶対行くの! ………あ」ピタッ

クレープ屋の前で番外個体が足を止めた。

一方通行「……オイ」

番外個体「………」ジーッ

一方通行「……食いてェのか?」

番外個体「」コクリ

320: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:26:41.49 ID:05Wgzhk0

一方通行「ったく、仕方ねェな」


アリガトウゴザイマシター


番外個体「♪」パクッ

一方通行「………」

番外個体「おいしー!」

一方通行(つくづく甘いよなァ俺ってヤツァ。一体いつからこォなったンだか……)

番外個体「あなたは食べないの?」

一方通行「俺はイイ。甘いのは好きじゃねェンだ」

番外個体「ひとくちだけ食べてみなよ。絶対おいしいから」

一方通行「イヤ、だから要らねェって」

番外個体「はい、あーん」

一方通行「オイ、人の話聞いてンのかァ?」

番外個体「あーん」ジリッ

一方通行「ってかオマエ…」

321: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:27:44.30 ID:05Wgzhk0

番外個体「あーん」ジリジリッ

一方通行「…………」パクッ

番外個体「ふふっ♪」

一方通行「………」ムシャ ムシャ

番外個体「どう? おいしい?」

一方通行「…甘ェ」

番外個体「やっぱりヤだった……?」シュン

一方通行「けどまァ、たまには甘いモノも悪くねェ」

番外個体「ホント?」パァァ

一方通行「おォ、あンがとな」(あからさまっつーか、分かりやす過ぎンだろコイツ…)

番外個体「半分あげる♪」ニンマリ

一方通行「ひとくちだけっつっただろォが!」

番外個体「いいから食えよー」ズイッ

一方通行「だァ! バ――!?」ベチャ

322: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:29:30.28 ID:05Wgzhk0

番外個体「あ……」

一方通行「……こ、この野郎ォ」(←口の周りクリームだらけ)

番外個体「……ぷっ! あっひゃっひゃっひゃ!! なにそのツラ面白れぇ~!! ばっかみてぇ~!!」パン パン パン

一方通行「………あー、こりゃちっとばかしお仕置きが必要だなァァ」スクッ

番外個体「おっと、ここは戦略的撤退っ♪」ピュー

マチヤガレコノクソアマァァァァ!!

アハハハ マテッテイワレテマツバカハイナイデショバーカ


二人の時間はこうしてマッタリと過ぎていく。
その後も他愛無いコミュニケーションはしばらく続き、一方通行も護衛という義務感を段々と忘れつつあった。
それほどに楽しく、平和なひとときだったから。

「そろそろ帰ろっか」

「そォだな」


~帰り道の途中~

「えいっ」ギュッ

「!?」

323: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:31:14.19 ID:05Wgzhk0

どういう心境なのか、番外個体が杖をついていない方の腕にいきなり自らの腕を絡めてきた。

「~~~♪」

「………」

咄嗟に抵抗しようとも思ったが、番外個体のどこか幸せそうな表情に免じて諦める事にした。

(ったくよォ……歩きにくいっつの)

文句を心中で漏らす。が、

(チッ、今回だけだかンなァ)

まんざらでもなさそうな顔をしている事に当の本人は気づかず、二人はそのまま家路に着いた。


―――


○○学区内、研究施設(『地獄の猟犬』アジト)

「……ハァー…」

施設内の地下。牢屋の一歩手前とも言える部屋の中心で大きな溜息を吐くのは御坂美琴。

彼女がこの独房で監禁生活を強いられてから早くも三日が過ぎた。
窓もなく、電球一個分の明るさしかない室内は美琴の鬱な気分を更に促進させている。

「…………」

324: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:33:00.12 ID:05Wgzhk0

言葉もなくただ俯き、膝を抱えて時を過ごす。動こうにも左右から伸びた鎖が両手に繋がれているため不可。
用足しや食事、シャワーの時は木原の部下である女性研究員が付き添い、鎖も外されるが不自由に変わりはない。
最初は勿論脱走を目論んでいた。
しかし、能力が使えない以上できる事などたかが知れている。そして木原によって徹底された監視体制の中では、
隙など簡単に見つかるはずもなかった。
独房内や通路に仕掛けられた監視カメラや盗聴器。
外へ通じる全ての扉はカード式のロックシステム。
この上、交代制で見張りの警備員も各持ち場に配置されていては、能力を封じられてただの女子中学生と化した
美琴の希望など、打ち破るのにそう時間は掛からない。

もはや逃げられる可能性は絶望的皆無だった。

こうなっては大人しく助けを待つしかない。自分が帰らない事によって動いてくれる人間はきっといるはずだ。
自力で脱出できる希望は捨てつつあるが、助かる希望までは捨てていない。いや、捨てきれない。

(……みんな、今頃どうしてるんだろ……)

(黒子、無茶してないかな……)

(初春さんや佐天さんも……)

(心配かけて……ごめんね)

(それに―――)

そこで頭に浮かぶのは、彼だ。
ツンツン頭の黒髪に「不幸」が口癖の少年。
自分の築き上げた『自分だけの現実《パーソナルリアリティ》』を崩壊させるほどに大きくなってしまった存在―――。

(アイツは……どうしてるかな…)

325: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:34:41.81 ID:05Wgzhk0

(逢いたいなぁ)

(逢いたい……)

今では美琴の希望を繋ぎ止めてくれている大切な存在でもある。
もしかしたら、彼がまたあの時のように助けに来てくれるんじゃないか……。
そんな淡い夢も抱いてしまうほど、美琴の精神は追い詰められていた。
いくら努力して超能力者の第三位に上り詰めたとて、実際の中身は普通の女の子だ。
こんな生活にいつまでも耐えられるものでもない。

これが更に一週間、一ヶ月と続いてしまえばどうなるのか……。

美琴はそれ以上考えるのを放棄していた。正確には「考えたくない」と言った方が正しいか。

「もう、いや………。いつまでこんなトコにいなきゃいけないの……」

「帰りたい……早く帰りたいよ……」

果たして彼女はあと何日持つのか? これではやがて精神そのものが崩壊してしまうのも時間の問題である。

と、その時……


「―――よう、気分は……良いワケねえか」


「…………」


皮肉そうな笑みを浮かべて登場した木原数多。自分を拉致監禁した張本人が目の前に立っているにも関わらず、
美琴は顔を上げて睨む事しかできない。無力な自分に舌を噛み切りたくなる思いだ。

326: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:36:07.49 ID:05Wgzhk0

「お? だいぶお嬢様らしくなってきたじゃねえか。そんくらい大人しい方が良いセンいってるぜぇ。目つきだけは
 相変わらず気にくわねえがなぁ。ククク…」

うすら笑いと共に掛けられる声が屈辱と恐怖心を刺激する。

「ここに来てから三日経ったワケだが、どうだ? 少しは協力的になったかぁ?」

遠まわしに「もう諦めがついたろ?」と投げ掛けてくるが、

「…………」

何も答えない。答えたくない。それだけが唯一の抵抗とでも言うように、美琴は無言を貫いた。

「ケッ、つまんねえの……。まあいい」

木原の方も会話にならないと察したのか……早々に切り上げて独房に入り、美琴を拘束している鎖を手早く外す。

「いよいよお前が役に立つ時が来たぜ。さぁ、ついてきな」

「…………」

逆らおうとも逃げようともせず黙って立ち上がり、木原の後について歩きだす美琴。
無表情で生気を感じさせない様子だが、木原は気にせず前を歩く。

「三日前に言ったことは覚えてるか?」

「………えぇ」

唐突に尋ねられて迷うが、ずっと無言という訳にもいかないと悟った末に美琴は声を返した。

327: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:37:43.98 ID:05Wgzhk0

「なら、もう一から教えてやる必要はねえな」

フッ、と鼻で笑いながら漏らす木原。
忘れるどころか、美琴の頭には今日する事への不安がずっとこびりついていて離れなかった。
木原の目的や計画の詳細は依然知らされていないのだから当然である。これから自分は一体何をされるのか……。
どうしても悪い方向へ想像してしまう。何も分からない事が余計に不安を誘っている。

(私、どうなっちゃうの……何されるの?)

(怖い。怖いよ……)

通路を進むにつれて恐怖が増してくる。
目の前を歩く男がまともでないのが分かっている以上、何をされてもおかしくない。
何かの実験体になるのか、はたまた三日前に聞いた“とっておきの技術”とやらの生贄になるのか。
いずれにせよ、楽に終わるとは思えなかった。
緊張のあまりの身体が僅かに震えだす。

(誰か、助けて……助けてよ)

間もなく三日前訪れたっきりの部屋へ繋がる扉が見えてくる。
まるで処刑台に向かうような気分だ。

そして、遂に扉の前に到着する。木原は美琴のそんな心境から目を逸らし、ためらいを見せずに扉を開けた。

「………」

そこに映ったのは三日前に見た光景とほぼ同じ。
建物全域に鳴らされているキャパシティダウンもここだけは例外である。つまり、ここなら美琴本来の力が存分に
発揮できるのだが…

328: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/28(火) 19:38:30.95 ID:05Wgzhk0

「…………」

結果は三日前に証明されてしまった。
今、木原は美琴に背を向けて何やらよく分からない機械をいじっているが、彼の背中には隙がまるで感じられない。
背中に監視されている気分である。コインを取ろうとポケットに手を突っ込もうにも手が動かない。
仮に実行に移したとしても、それより早く木原の拳が届く。
何故かは分からないが木原の体術はまるで“軍用”としか思えないほどの動きだった。
不良の放つ拳とはケタ違いな命中率とスピードを持つこの男が、やすやすと隙など見せるはずがない。
これは『余裕』というやつなのだろう。

隙があるようで実は全く隙がない。木原数多とはそういう男なのだ……。と、美琴はこの三日間で完全に理解した。

「―――さて…」

「!」

機械から手を放して唐突に振り向いた木原にビクリとする美琴。
いよいよだ……。いよいよ始まる。

「………」ゴクリ

美琴の顔に緊張が走った―――。

341: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 19:35:09.24 ID:jQ78ni.0
↑すんません、ミスリました。『一方』っての抜かしてください




「―――さて、じゃあ早速この装置から説明してやるか」

「……!」

そう言いながら木原が指をさしたのは目の前の巨大モニターである。
モニター正面には回路線が複雑に入り組んでおり、幾つかの正体不明な装置と接続されている。
軍の管制室などにありそうなイメージだ。
木原はいつの間にかモニターのリモコンらしきものを手に持っていた。


木原「まず、こいつは最新の対人探索装置だと思えばいい。今は範囲を学園都市全域に設定しているが、設定変更すりゃ世界
    じゅう全域の探索も可能になる優れモンだ。つけてみるとこんな感じだな」ピッ

美琴「っ…!」

木原「どうだ? 学区ごとにキチンと区分けもされてんだろ? 要するに世界のどこまで逃げてもこの装置は“対象”の位置を
    常にリアルタイムで把握し、正確な位置を示す信号をこのモニターに表すってワケだ」

美琴「……そんなものを、いったい何に?」

木原「まあ焦んなよ。説明は最後まで聞いとけや」

美琴「………」ゴク…

木原「んで、こいつだが……このままじゃただの『デジタル世界地図』だ。対人探索として使うには条件みてぇなモンがある」

342: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 19:37:17.33 ID:jQ78ni.0

美琴「条件って……?」

木原「本人、またはソイツのDNAをそこのタンクに数滴分注入しなきゃならねぇ」

美琴「――!?」

木原「だがソイツは三日前にお前を眠らせた時回収した」

美琴「………」ギュッ

木原「だがなぁ、それだけじゃまだこいつは実用できねえんだよ」

美琴「えっ……?」

木原「対象の信号を受信するのに電力が足りねえんだ。なんたって電力消費の激しいモンばっかここにはあるからよ。こいつは
    そん中で最も電力を使う。今無理に使用しても三秒で停電よ」

美琴「……」

木原「家電で言うなら“電子レンジ”と“ドライヤー”を合わせてるようなモンだ。……そこで、お前が活躍ってなぁ! 期待
    してるぜ? 『電撃使い《エレクトロマスター》』」

美琴「!」

木原「ホントはよ。当初はテメェじゃなくて『妹達』を引き入れる予定だったんだ。規定値を超えるまで生き残ってるヤツらを
    片っ端から集めるっていう気の長げぇ話よ」

美琴「あの子達を……!?」

木原「けどよ、“お前一人”いれば規定値なんて軽くオーバーで釣りまで来る。だがお前は『表』の人間。簡単に上から許可は
    降りそうにねぇ。さて、どうする?」

343: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 19:39:36.24 ID:jQ78ni.0

美琴「知らないわよ…」

木原「んな難しい事じゃねえよ。上のお偉いさん連中を賄賂で釣った、ただそんだけだ」

美琴「!!」

木原「お嬢さんにはちっと生々しかったか? けどまぁ大人の世界なんてこんなモンよ。いち早く社会の勉強ができて良かったなぁ」

美琴「ッ……」

木原「グダグダうるせぇ上層部対策もできたところで、コッチもやっとお前に手が出せたってワケだ。ククク…」

美琴「……何でよ」

木原「あん?」


美琴「アンタは一体何のためにそこまでしてんのかって訊いてんのよ!」


木原「……知りてぇか?」

美琴「当たり前でしょうが! 私のDNAを使って、一体どうしようってのよ!? 妹の誰かでも捜すっての!? サッパリ話が見えて
    こないんだけど!?」

木原「…………」

美琴「いい加減に教えなさいよ! でないと、とても協力的になんて……」

木原「話したら多分もっと協力したくなくなるぜ。それでもいいってか?」

344: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 19:42:49.90 ID:jQ78ni.0

美琴「え…?」

木原「テメェの大嫌いな学園都市の闇が絡んでんだぜ?」

美琴「………いいわ、聞かせてみなさいよ」

木原「…………ふ」

木原「ま、言ったところで何かが変わるワケでもねえな……いいぜ、教えてやるよ」

美琴「………」


木原「お前は知らねえと思うが、『絶対能力進化実験』の後にこんな計画ができたんだ」

美琴「“あの実験”の後……?」


木原「『第三次製造計画』」


美琴「サード……シーズン…? 何それ……」

木原「名前の通り、クローン個体製造企画の三代目…ってことになんのかねぇ」

美琴「……何のため…?」

木原「簡単に説明すっと、学園都市統括理事会がアレイスターの計画(プラン)から離れていく一方通行と最終信号に打った対策案
    ってトコか」

美琴「アクセラレータ……? ラストオーダー……??」

345: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 19:44:11.76 ID:jQ78ni.0

木原「あぁ? 何だよ、最終信号も知らなかったのか? チッ、面倒臭ぇ…」

美琴「訳が分からないんだけど……ちょっと待って。一方通行とそのラストオーダーっていうのは……」

木原「最終信号は第三次製造計画前に作り出された最後の妹達だ。調整不十分で放り出されたために、姿形はチンマリしてるがなぁ。
    その最終信号は偶然か必然かは知らねえが、一方通行と出会った。思えば、この時すでに統括理事会の誤算は始まっていたの
    かもな」

美琴「最終……信号……最後の妹……それが何で一方通行と……?」

木原「お前からすりゃ理解できねえだろうなぁ。“最強”から“無敵”の称号を得る、ただそれだけのために一万体以上の妹達をブチ
    殺したあの一方通行がだぜ? たかだかガキ一人の命と引き換えに“最強の力”すら制限されるハメになっちまったとはよぉ……
    ククッ、笑い話にもならねえったらありゃしねぇぜ」

美琴「ッ!? ちょっと……それ、どういう事? ……一方通行が妹を救ったって……」

木原「お前は確か“あの実験”で一方通行を憎んでたんだよなぁ? だったら信じられなくても無理はねぇ。俺だって最初聞いた時は
    嘘だと思ったぐれぇだからな」

美琴「……そんな……まさか…」

木原「だがこれは紛れもない事実だ。どういう風が吹きまわされたんだが分からねえが、一方通行と最終信号はその後もしばしば行動
    を共にしていた。まぁいわゆる『子守り』ってヤツか」

美琴「一方通行…が…?」

木原「それが続いてる内に一方通行にとって全ての妹達は『守るべき存在』となったらしい。そのためならどんな敵にも立ち向かうし、
    命だって惜しみなく張るだろうな」

美琴「……!!」

346: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 19:45:31.14 ID:jQ78ni.0

木原「そんな一方通行の決意を打ち砕くために発案されたのが『第三次製造計画』だ。要は、思い通りに動かねえ一方通行の希望を
    粉々にしてやろうっていう、言っちまえば八つ当たりみてぇな計画だな」

美琴「な……」

木原「目的はそれだけじゃねぇ。……その前に訊くが、お前は『ドラゴン』について何か知ってるか?」

美琴「ドラゴン……???」

木原「やっぱ知らねえよな。実はその正体について俺もよく分かってねえんだが、妹達にとって共有手段でもある“ミサカネットワーク”
    がどうも出現の鍵みてぇなんだ。なんでもアレイスターが言うには、『AIM拡散力場の結晶』らしい」

美琴「???」

木原「……ちゃんと理解できてんのか?」

美琴「だって、急にそんな意味不明な存在を理解しろだなんて…」

木原「……まぁ、それはいい。とにかくソイツがここ最近姿を現したんだよ。で、ヤツの出現は全世界に散らばる妹達及び最終信号に
    多大な影響を与えた」

美琴「え!?」

木原「その影響で使えなくなった妹達の『代わり』を製造するのも第三次製造計画の一環だ」

美琴「代わりって……」

木原「その先行、つまり“切り込み隊長”として製造されたのが、番外個体《ミサカワースト》。姿はそうだな……お前の約二年後って
    ところかぁ」

347: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 19:46:32.60 ID:jQ78ni.0

美琴「ミサカワースト……?」

木原「ロシアの研究機関と学園都市の開発部門が協定を結んだ時に輸入された特殊な『学習装置《テスタメント》』を用いて作られた、
    言わば最新作よ。これまでの欠陥電気とは格が違う。能力もレベルで言うなら大能力者クラスってトコだな」

美琴「……!!」

木原「さっそく計画実行(スタートプラン)によって差し向けられた番外個体だが、結果は散々だった。それどころか番外個体は標的と
    一時的な同盟まで結んじまう始末……これには上層部もカンカンだ」

美琴「………」

木原「そこで番外個体はロシアの研究施設に再調整され、計画は再スタートを迎えたように見えだが―――」

木原「―――その時点じゃウチらにとって番外個体はもうただのお邪魔虫でしかなかった」

美琴「!?」

木原「どうもロシアの連中は勘違いしてたらしくてなぁ……。『代わりの刺客なんざいくらでも作れるんだから、わざわざ失敗作を返品
    してくんな』って言っておかなかったコッチの落ち度もあるが」

木原「だから鬱陶しい存在になる前に消しておこうと思ったワケよ。また“同盟”でも組まれたら面倒臭ぇことこの上ねえからなぁ」ニヤリ

美琴「ロシアから……って事はまさかあの二十三学区の『墜落事故』って!?」

木原「あぁ、実行させたヤツは“不手際”が目立つから殺しちまったが、その後更に面白れぇこと思いついてよぉ…」ニヤァ

美琴「……ッ…」ブルッ

348: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 19:47:47.67 ID:jQ78ni.0

木原「もし、同盟で一方通行と番外個体の間に絆が生まれていたとしたら……?」

木原「『守るべき存在』として認めていたら、これを利用しない手はねえと思わねえか?」

美琴「どういう……事よ?」


木原「簡単だ。一方通行をより一層苦しめて殺すために、番外個体を奪う。俺の予測じゃあ十中八九、ヤツは一方通行と共に行動している
    ハズだ。まだ学園都市内で生きているとしたらの話だがなぁ」

美琴「なっ!? 何よそれ!! そんな……そんな事して一体アンタに何の得があるっての!?」

木原「そこまでお前に話す意味はねぇ。……話が長くなっちまったな。さっさと始めんぞ」

美琴「待ってよ! アンタはこれから、番外個体ってのを探すんでしょ!? まさか、そのために……」

木原「まぁな、さすがに一方通行も馬鹿じゃねえから今ごろ相当気ぃ張り巡らせてんだろ。そうなると捜すのは手間が掛かる。だが地道に
    捜すってのはどうも俺の性分に合わねぇ。そこでこの装置の出番ってワケよ。お前のDNAと発生されるAIM拡散力場の違いが色に出て
    表れるコイツなら、正確な居場所もすぐに把握できる。俺の目的は番外個体を誘拐して一方通行のボケに間抜けな泡ぁブクブク吹かす
    ことなんだよ! もちろん最終的には無残な肉の塊にしてやるつもりだぁ! ただで死なすには惜しすぎる野郎だぜぇぇアイツはよぉ! 
    それを果たすためなら借金抱えようがどこで誰がどうなろうが知ったこっちゃねぇ! そして、そのためにお前はこれから協力すんだよ!」


美琴「―――ッッ!!?」


木原「これで理解したかぁあ!? ぎゃははははは!!」


美琴「…………」

349: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 19:49:32.10 ID:jQ78ni.0

美琴「……ん……でよ」

木原「あぁん?」

美琴「なんで!? なんでそれだけのために……っ!!」

木原「キヒッ」

美琴「番外個体は見た事ないから知らないけど……その子も私の妹なんでしょ!?」

木原「見た目は逆だが、正確にはそうだなぁ」

美琴「アンタ……一方通行に何か恨みでもあるの?」

木原「あぁ、少なくともテメェよりは深いつもりだぜぇぇ」

美琴「…でも、それでも……っっ」

木原「ん?」

美琴「それでもその子には関係ないじゃない!! 結局はアンタが一方通行に恨みを晴らしたいっていう個人的な理由じゃないの!!」

木原「……ま、否定はしねえな。確かにウチらは第三次製造計画に携わった人間とも関わりはあるが、コイツは確かに俺の独断だよ。
    別に上からこうしろと指図された訳じゃねぇ。全部俺が決めて仕組んだ事だ」

美琴「番外個体が、その子がアンタに何したのよ……」

木原「………」

350: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 19:52:07.25 ID:jQ78ni.0

美琴「“そんなくだらない理由”のために生み出されて、好き勝手に利用されるなんて……そんなの、あんまりじゃない。妹だって、
    最終信号だって、番外個体だって、……みんな生きてるんでしょ!?」

木原「学園都市に生かされてるって言った方が正しいけどなぁ」

(俺も、お前も……)

美琴「アンタには、情ってモンが欠片もないの!?」

木原「この街で研究に携わる以上、そんなモンは邪魔でしかねぇ。何も俺だけがイカレてる訳じゃねえんだぜ?」

美琴「………ひどいよ……そんなのひどすぎる」ギリッ

木原「どう思おうが勝手だが、どの道テメェに拒否権はねえんだ。大人しく俺に協力してもらうぜ?」

美琴「……いやよ」

木原「あぁ?」


美琴「誰がそんな事に協力なんてするかって言ってんのよっ!! それならいっそのこと死んだ方がマシだわ!!」


木原「ほう」


美琴「アンタの思い通りになんか、絶対させない!!!」

351: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 19:54:10.16 ID:jQ78ni.0

木原「……やれやれ、懲りねえな。テメェも」

「こうなるのが目に見えてっからなるべく話したくはなかったんだがな」

「仕方ねぇ。また少し痛めつけてやっか…」グッ


美琴「!!…………」サッ


木原「と、言いたいところだが―――」シュン


美琴「―――ッ!?」


ガチャリ……!!


美琴の背後に一瞬で回り込んだ木原はいつの間にか手にしていた謎の腕輪を彼女の右腕に装着した。(この間僅か二秒)

「!?」

「はっはぁ、良かったなぁぁ。これで痛い目見ずに済むぜ? 俺の優しさに心から感謝しやがれ! ぎゃははは!」

「え………」

目にも止まらぬスピードでまた正面に戻った木原の高笑いに美琴は唖然とした。
右腕に付けられた正体不明の腕輪に困惑するが、これが何なのか訊かずにはいられない。

352: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 19:57:46.67 ID:jQ78ni.0

「何よこれ……?」

「ソイツは『自分だけの現実』へ進入し、能力者の発するAIM拡散力場を自動放出させる機能を持った特注品だ」

「んなっ!?」

木原の言葉に驚愕する美琴。つまり、この腕輪を付けている限り、脳が自動的に演算をして超能力を放出させているような
ものだ。そして、

「お前から発生された電力は、全て自動的にその腕輪に集められてそこの探索装置へ転送される」

「ッッッ!!??」

勝ち誇った笑みを見せながら木原はそう告げた。意味を理解した美琴は腕輪を外そうと試行錯誤するが、

「無駄だ。これがなきゃソイツは絶対に外せねえよ」

意地悪く鍵を見せびらかす。美琴はそれを見るや否や木原に飛び掛かった。

「よこせぇぇええ!!」

「ひゃっはっはっはぁ!! ほ~らコッチコッチィ~♪」

手が鍵に届く寸でのところでサッと避けられる場面が何度も繰り返される。
完全に遊ばれていた。

「くっ! こんのぉぉっ!!」

「よっ。おっと。ほらほらぁ、どーしたぁ~? ヒヒヒッ!」

353: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 20:00:10.96 ID:jQ78ni.0

その後も必死に鍵を奪おうと美琴は奮闘するが、木原の余裕を消すには至らなかった。

「あー愉快愉快♪ 娘と遊んでるみたいで楽しいねぇ」

「ハァ…ハァ」

「ったく、何だよもう終いかぁ? 若ぇのに体力ねぇなオイ」

輪っか状のホルダーを指で回しながら平然とする木原に対し、美琴は肩で息をしていた。
単純な身体能力では、差があり過ぎる。

「………!」

この腕輪を付けている以上、能力は腕輪にしか集まらない。

(なら、フル放電してこんな腕輪ぶっ壊してやるっ!)

最大の十億ボルトを一気に爆発させようとするが…

「あ、あれ?」

電流が流れることはなかった。

「あー、言い忘れたがソイツは定められた出力以上は受け付けねえように設定されてっから、いくら壊そうとしても無駄だぞ。
 ついでに言うと、規定値以上の電圧は全部お前の体内へ戻り、消滅する造りにもなってる。『キャパシティダウン』の制限機能
 付きっつった方が分かりやすいか? 要は外にも体内にも放電できねぇってこった」

「!!?」

ご丁寧に返ってきた思いもよらない種明かしに美琴は唇を噛む。

354: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 20:02:32.37 ID:jQ78ni.0

「……外してよ」

最後は今にも消え入りそうな声で懇願するが、木原はそれに応じることなく話を進めた。

「よし、これで準備が整ったな。―――おい!」

木原の合図の直後に入室してきた数人の部下が美琴を取り押さえた。

「い、いやっ! やめて! 離してっ!!」

抵抗も虚しくあっさりと捕まる美琴を木原は舌なめずりしながら見つめる。

「んじゃあ早速やってもらうか。つってもだいぶ時間喰っちまったが……」

そう言いながら、機械のリモコンをいじる木原。すると、

「な、何……?」

突如、人ひとり入れる程度の大きさをしたドーム状の物体が床から現れる。中はコックピットのような造りになっていた。
美琴は押さえられながらもその物体を見て呟く。

「こん中に入れ」

木原の言葉に美琴の身体が反応する。

「い……いや……」

お化け屋敷の苦手な人間が入り口で見せるような仕草で抵抗するが、木原には所詮無意味な足掻きだった。

355: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 20:05:29.34 ID:jQ78ni.0

「おい、早く入れろ」

「っ!?」

容赦なく告げられた木原の命令で、美琴を押さえている部下が彼女をドーム内のコックピットに押し込んだ。

「いやぁ!! いやぁああああ!!!」

悲痛な叫びと共にドーム内へ姿を消した美琴。

この機械と美琴に取り付けた腕輪で初めてモニターが検索し、DNA信号をキャッチするという事らしい。

「お? 早くも出たか……さすが超能力者だな。欠陥品たぁ格が違うぜ」

嫌味ともとれる口調でモニターを見上げる木原。
モニターには学園都市全学区が表示されており、青マークは無能力者~強能力者。赤マークは大能力者。そして、超能力者
である美琴は黄色マークで表される。つまり黄色いマークの場所が現在地だ。
見た限りでは、青マークが目立っていた。これは学園都市に在住する妹達を表している。数は十程度だが、木原が注目して
いるのはもはやそこではなかった。

「クククク、見つけたぜぇぇぇ」

第七学区に一つだけ表示されている赤マークを見つけた途端、木原の顔が悪魔のように歪む。この街で赤マークが表示される
という事は、御坂美琴のDNAを持つ大能力者がいる事に繋がる。そして、これに該当する人物はひとりしかいなかった。


「ついに見つけたぁぁああああ!!! 番外個体ぉぉおおおおお!!!!! ぎゃーはははははははぁ!!!!」

356: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 20:06:35.80 ID:jQ78ni.0

管制室のような部屋に木原の笑い声が響く。

「…………グスッ」

小型ドーム内の座席から見える邪悪な喜びに満ち溢れた木原の姿に、美琴はただ涙を飲むしかなかった。
ドームには鍵が掛けられ脱出不能な上に能力も使えない。自分にはもうどうする事もできない。
逃げる事も、木原を止める事も。

「クックック……。さあ、地獄に落ちる時間がやって来たぜぇ。一方通行ぁぁ」

「待ってろよ。今行くからなぁ!」

こうしてひとしきり笑い終えた木原は美琴を見張るための部下を二人残し、残りの部下を引き連れて部屋を出ていった。
どこへ行くのかはもう分かりきっている。


ついに復讐の斧を振り下ろす時が来た。


―――


「…………」

白井黒子は風紀委員支部から寮までの帰路を俯きながらトボトボと歩いていた。
目を覚まし、ある程度回復した彼女に突きつけられた現実はしばらくの謹慎処分である。
先ほど暴行した連中の一人が宣言通り被害届けを出したのもそうだが、この三日の間に同じような事を幾度となくしていたために
本部も決断を下したのだ。
風紀委員が一般人に暴行などあるまじき行為なのはもはや承知。黒子も覚悟の上で美琴の捜索に身を削った。焦る心が生んだ暴走
だと、先輩風紀委員の固法美偉が必死に弁護してくれたおかげで解雇は免れた。

357: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 20:08:17.26 ID:jQ78ni.0

謹慎処分程度で済んだだけマシなのかもしれない。下手をすれば初春の言ったように傷害罪で告訴されてもおかしくはなかったのだ。
被害者への謝罪のために各寮をまわった黒子は、すっかり疲れきった表情で寮へと足を運ぶ。
当分は勤務時間中の外出を禁止すると寮にも連絡がいった以上、寮監の目が今後更に光を増してくるだろう。

(先輩にはお世話になりっぱなしですの……。初春にもしばらく頭が上がりませんわね…)

(ですが、学校以外の外出はしばらく禁止……)

(これでは、一体いつお姉様を捜せばいいんですの……)

(いっそ、夜中にこっそり抜け出して……)

表情とは違い、頭の中は忙しい。

(それしか手段がなさそうですわね)

(またご迷惑を掛けてしまうかもしれませんが、やはりわたくしはお姉様を放っておけませんの)

(たとえ塀にぶち込まれたとしても、これだけは決して譲れませんの!)

(どうか、許してください。先輩、初春……)

今夜からまた捜索を再開しよう。せめて美琴が無事なのかだけでも確認できない事には、このまま泣き寝入りなど到底できそうにない。
自分の能力さえあれば、寮監の目を盗む事も容易い。


決まりだ。

358: ◆8NBuQ4l6uQ 2010/09/30(木) 20:08:59.45 ID:jQ78ni.0

(帰ったら、夜に備えて少し寝ておかなければ……)

一人息巻く黒子。反省はしているが、諦めるつもりはないらしい。
やがてしばらく歩いている内に常盤台女子寮が見えてきた。

「………!」

寮の入り口が視界に見えた時点で彼女の足が止まった。

寮の入り口正面に、誰か立っている。

「あ……!!」

人物を確認できる距離まで近づいたところで黒子は驚きの声を上げる。
その人物には見覚えがあった。忘れようにも、あの後ろ姿は印象が強すぎて忘れられるはずがない。今回の美琴失踪事件にもしかしたら
何らかの関わりがあるかもしれない、と実は黒子が密かに捜していた人物でもあったからだ。

「―――ッ!」ダッ

常盤台寮正面に佇んでいるツンツンと無造作に跳ねた黒髪の少年に向かって、黒子は迷う事なく一気に駆け出した。