1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 15:58:36.15 ID:fzRjxm/s0
シャル「日本の夏って暑いんだね」

一夏「今年は比較的暑いほうかもな。まあ暑いからこそ夏って感じするし」

シャル「一夏はやっぱり夏が好きなの?」

一夏「特別好きってわけでもないぞ。嫌いでもないけど」 



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 16:06:59.46 ID:fzRjxm/s0
一夏「フランスの夏はどうなんだ?」

シャル「日本よりは過ごしやすいと思うよ。梅雨もないし、気が付けば夏が来てたって感覚かな」

一夏「そうなのか。確かに過ごしやすそうだ」

シャル「長袖を用意しておいたほうがいいくらいだからね。日本では長袖なんてしばらく着る機会なさそうだよ」

一夏「暑いからなぁ」

シャル「うん」

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 16:15:35.04 ID:fzRjxm/s0
一夏「風鈴って知ってるか?」

シャル「風鈴?」

一夏「日本の夏の風物詩でさ、風が吹くと音が鳴るようになってるんだ。その音を聞くと涼しくなるような気がするんだよ」

シャル「そうなんだ。どんな音が鳴るの?」

一夏「チリーン、かな。言葉にするなら」

シャル「へー。いつかその音色を聴いてみたいなぁ」

一夏「そのうち聴けるさ。夏だからな」

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 16:25:56.63 ID:fzRjxm/s0
シャル「他に夏の風物詩ってある?」

一夏「んー、扇風機とか? フランスにもそれくらいあるだろ?」

シャル「あるにはあるけど、日本ほど冷房は必要ないから出番は少ないかな」

一夏「じゃあ丁度いいや。まず扇風機を用意します」

シャル「うん」

一夏「顔面に風を受けながら声を出すと……」

シャル「出すと?」

一夏「あ゛~~~~」

シャル「……」

一夏「やってみるか?」

シャル「……あ゛~~~~」

一夏「見かけるとついやっちゃうんだよ」

シャル「あ゛~~~~」

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 16:36:42.66 ID:fzRjxm/s0
シャル「今になって恥ずかしくなってきたよ……」

一夏「一人でこれやってるところ見られたらもっと恥ずかしいぞ」

シャル「あはは、そうかもね。他に日本で感じられる夏ってどんなのがある?」

一夏「そうだなぁ。いろいろあると思うけど」

シャル「たとえば食べ物とかはどう?」

一夏「食べ物か。なら素麺とか冷やし中華あたり夏っぽいかな」

シャル「麺類多いんだね」

一夏「冷たいから暑い夏にはぴったりなんだよ。それと、冷やし中華とは言うけどこれ日本の料理なんだぜ?」

シャル「そうなの?」

一夏「ああ。なんか騙されたって感じだよな。美味いから別にいいけど」

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 16:44:22.96 ID:fzRjxm/s0
一夏「せっかくだから素麺か冷やし中華でも食べるか?」

シャル「そうだね、そろそろお腹空いてきてたし食べてみたいな」

一夏「じゃあ作ってやるよ。手間もそんなに掛からないし」

シャル「いいの?」

一夏「任せとけ。それじゃさっさと作りますか」

シャル「僕も手伝うよ。何かあったら言ってね」

一夏「おう。ちなみに素麺と冷やし中華どっちがいい?」

シャル「うーん......じゃあ、まずは素麺でお願いします」

一夏「了解」

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 16:54:03.57 ID:fzRjxm/s0
一夏「素麺で思い出したんだけどさ」

シャル「うん」

一夏「流し素麺っていって、文字通り水に流した素麺を箸ですくって食べるってのがあるんだ。これも夏の風物詩だな」

シャル「……? どんな風に流すの?」

一夏「大抵は竹製の樋に水を流して、それから素麺を流すんだ。場所を取るから一般家庭ではあまりやらないけど」

シャル「あー、そうなんだ。一瞬蛇口から素麺が流れてくるのかと思っちゃったよ」

一夏「なんだそのホラーは......。麺じゃないけど、麺つゆが流れてくる水道がある県があるんだぜ」

シャル「え、それは本当なの?」

一夏「さあな。聞いた話だから俺もよく知らないけど、面白そうだよな」

17:  2012/08/05(日) 17:07:07.18 ID:fzRjxm/s0
一夏「できたぞ」

シャル「あんまり僕が手伝えることなかったね」

一夏「元々お手軽な料理だからな。麺とつゆと薬味くらいだし」

シャル「薬味? ……うう、これってわさび?」

一夏「そういや前にわさびそのものを摘んで食べたよな、シャル」

シャル「見るだけで鼻の奥がむずがゆくなってきたよ……。僕はわさびはいいや」

一夏「刻みネギとか海苔なら食べやすいんじゃないか?」

シャル「じゃあそれで食べてみようかな」

一夏「そろそろ食うか、口に合えばいいんだけど」

シャル(一夏が作ってくれたんだから、美味しくないわけないよ)

一夏「何か言ったか?」

シャル「う、ううん? い、いただきまーす」

一夏「? いただきます」

20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 17:15:45.93 ID:fzRjxm/s0
シャル「ごちそうさまでした」

一夏「お粗末さまでした。どうだ? 素麺は」

シャル「うん、美味しかったよ。夏に食べたくなるのがわかった気がする」

一夏「そっか。今度は冷やし中華食べような。まあこっちはIS学園の食堂にありそうだけど」

シャル「僕は一夏が作ってくれたものが食べてみたいなぁ」

一夏「そうか? じゃあまた作ってやるよ」

シャル「ごめんね、何か図々しいことお願いしちゃって」

一夏「いいってこれくらい。誰かに食べてもらえるのって作りがいあるしさ」

シャル「……一人で作って食べても味気ないもんね」

一夏「シャル?」

シャル「あ、ううん。食器の後片付けくらいは僕がやるね、一夏は座ってて」

一夏「そうか? じゃあ頼んだぜ」

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 17:25:56.18 ID:fzRjxm/s0
一夏「麦茶も夏の風物詩、かな」

シャル「麦茶?」

一夏「うん。夏になるとわざわざ用意して冷蔵庫に冷やしておくんだ」

シャル「これのこと?」

一夏「そう、ティーバッグ入れとくだけだから簡単だしな」

シャル「同じお茶なら緑茶とかあってもよさそうなのにね」

一夏「なんでだろう、夏は麦茶ってイメージが定着してるんだよ。冷たければ何でもいい気がするのにな」

シャル「麦茶は他の季節では飲まないの?」

一夏「あんまり飲まないかもな。熱い麦茶とか飲んだことない」

シャル「へー。夏限定の飲み物なんだね」

一夏「緑茶ならいつでも飲むんだけど、どこで差がでたんだろうな」

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 17:40:14.91 ID:fzRjxm/s0
一夏「フランスではスイカってよく食べるのか?」

シャル「あんまり食べたことないなぁ。ウォーターメロンだよね」

一夏「日本の夏ではよく食うんだよ。とあるゲームにも使ったりな」

シャル「スイカで遊ぶの?」

一夏「ああ。スイカ割りっていってな、文字通りスイカを割る遊びだ」

シャル「食べる前の儀式みたいなもの?」

一夏「いや、割るのが目的の遊びだな。海に遊びに行った時に浜辺でやるんだ」

シャル「割るだけなら誰でもできそうだけど、何かあるんだ」

一夏「まあな。割る人に目隠しをして棒を持たせて、周りのやつがスイカの場所まで声で誘導するんだよ」

シャル「難しそうだね、誰かが嘘をついたらそれだけで上手くいかないだろうし」

一夏「それもまた一興ってやつさ。上手く割れたらそのまま美味しく召し上がれたらいいんだけど」

シャル「?」

一夏「まあ、力任せにぶっ叩いたものが食べやすいわけがない。あれってどうやって処理してるんだろう」

シャル「……え、割った後に食べないの?」

一夏「普通は包丁で切り分けて食べるからなぁ。割れ方にもよるだろうけど食べにくそうだ」

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 17:57:59.10 ID:fzRjxm/s0
一夏「他に夏ってどんなのあるだろうな。海ならフランスにもあるだろうし」

シャル「あ、花火って夏の風物詩? 前にたくさん上がってたのを見たことあるよ。綺麗だったなぁ」

一夏(箒と見たあれのことか。シャルもどこかで見てたんだな)

一夏「そうだな、花火も夏って感じがする。家庭用の小さいものから祭り用の大きいものまでいろいろあるぞ」

シャル「いきなり空から炸裂音がしたから、何かと思っちゃった」

一夏「花火って知ってないと物騒かもな。実際火薬使ってるし」

シャル「でも凄く綺麗だよね。あれが信号弾だったらちょっと和むかも」

一夏「……なんか間抜けな感じもするぞ、それ。1発あたりそう長持ちしないしな」

シャル「やっぱり金属の炎色反応で色をつけてるの?」

一夏「さすが優等生だな、そうだったはずだ。何が何色かまでは覚えてないけど」

シャル「花火かぁ、また見れるかな。今度はもっと近くで見てみたくてさ」

一夏(……近くで祭りなんてまだあったかな。花火大会とかないか調べておくか)

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 18:10:03.54 ID:fzRjxm/s0
一夏「そういや浴衣も夏っぽいな。花火で思い出したけど」

シャル「それって和服だよね? 夏だけ着るの?」

一夏「ああ、女の子が祭りの時によく着ていくんだよ。他ではあまり見ないかな」

シャル「そうなんだ。お祭り用のコスチュームなんだね」

一夏「あれって着るの大変らしいぜ、一人でちゃんと着られる子ってそんなにいないと思う」

シャル「ふーん? 箒なら着方を知ってるかな?」

一夏「ああ、あいつなら大丈夫だろうな。シャルも着たくなったら箒に助けてもらうといい」

シャル「そうしようかな。でも僕に浴衣なんて似合うのかな? 和服って言うくらいだし」

一夏「日本人だって洋服とかドレス着るし、大丈夫だろ。それにシャルならきっと似合うよ」

シャル「そ、そう? ふふっ、いつか一夏にお披露目できるといいなぁ」

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 18:23:14.48 ID:fzRjxm/s0
シャル「一夏、どうしたの?」

一夏「たしかこの辺に……あったあった」

シャル「探し物?」

一夏「風鈴だよ、せっかくだからシャルに聴いてもらおうと思って」

シャル「僕のためにわざわざ出してくれたの? ありがとう!」

一夏「家にいることが少なくなったから出さなくてもいいかと思ってたけど、せっかくだしな」

シャル「こんな形してるんだ。風鈴とはいっても鈴って感じじゃないんだね」

一夏「どっちかというと形は鐘っぽいかもな。早速吊るしてみようぜ」

シャル「うん!」



  チリーン......   チリーン......



シャル「いい音色だね……。聴くと涼しくなるってどういうことかわかった気がするよ」

一夏「今はエアコンとか冷房器具が発達して見かけなくなってきたけど、やっぱりいいもんだな」

シャル「うん……」

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 18:38:15.29 ID:fzRjxm/s0
シャル「……あれ、腕がかゆい?」

一夏「風鈴吊るした時に蚊が入ってきたんだな。ほらキンカンだ」

シャル「うー、こんな弊害があるなんて……」

一夏「フランスって蚊はいないのか?」

シャル「そんなことないよ。でもこうもあっさり血を吸われるとは思わなかったかな」

一夏「蚊はなー、寝る時にあの羽音聞くだけで寝てる場合じゃなくなるからな」

シャル「蚊取り線香ってあるよね。これも夏の風物詩?」

一夏「そうだろうな、蚊なんてみるの夏だけで十分だ」

シャル「学園の寮にいるとラウラが対策してくれるんだけどね」

一夏「ラウラが?」

シャル「どんな戦地に赴いても対処を忘れたことはないってさ」

一夏「……マラリアでも気にしてるのか?」

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 18:53:58.28 ID:fzRjxm/s0
一夏「そういえば、学生ならではの夏の風物詩もあったぞ」

シャル「学生ならでは?」

一夏「夏休みの宿題だ。長い休みにつきものな学生の天敵ともいえる」

シャル「あー、なるほどね。計画的にやらないと休みの最終日が大変なことになるって噂の」

一夏「シャルはその辺しっかりしてそうだよな」

シャル「うーん……実は夏休みの宿題って今までしたことないんだよね」

一夏「なに? シャルって結構不良だったのか」

シャル「違うよ! そもそも宿題なんて出なかったんだ」

一夏「そうなのか……え? 夏休みに宿題出ないの?」

シャル「うん。その分ってわけじゃないけど僕はよくお母さんのお手伝いをしてたよ」

一夏「でもそれって遊び放題できるってことだよな。……いいな、フランス」

シャル「IS学園から夏期休暇中の課題が出たときはちょっと驚いたかな、こなせない量じゃないからよかったけど」

一夏「……シャル、いやデュノア先生。少しご教授願いたいことがあるのですが」

シャル「宿題は自分の力でやらないと身にならないよ? ふふっ」

一夏「ぐぬぬ……そこをなんとか」

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 19:08:07.80 ID:fzRjxm/s0
一夏「おっと、もうこんな時間か」

シャル「ほんとだ。日が伸びてるせいだね」

一夏「晩飯も食べていくか? 俺は別に構わないけど」

シャル「そこまでお邪魔しちゃってもいいのかな? お昼も素麺をごちそうになったし」

一夏「いいんだよ、一人よりも作りがいがあるって言ったろ? 誰かと食べたほうが美味いしさ、遠慮すんなって」

シャル「……じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」

一夏「気にすんなって。でも冷やし中華はまた今度な、2食続けて麺類じゃバランスも悪い」

シャル「あはは、そうだね」

一夏「うーん、となると何がいいかな。買い物しながら考えるとするか」

シャル「今度は僕もお手伝いできそうなのがいいな」

一夏「そうか? ならちょっとだけ豪華な食卓にしてみよう。それと夏っぽい夕飯って何だろうな――」

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 19:31:48.35 ID:fzRjxm/s0

シャル「ごちそうさまでした」

一夏「お粗末さまでした。シャルも普通に料理上手いよな」

シャル「お母さんのお手伝いしてたおかげかなぁ、一夏こそ独力でここまで出来るのって凄いよ」

一夏「人間必死になれば何でも身に付くもんだ。……なんてな、本当は千冬姉の負担を減らしたくて覚えたんだ」

シャル「織斑先生の?」

一夏「前にも言ったけど、俺ん家って親いないからさ。その分千冬姉が頑張ってくれたから、家事くらい俺がやらないとな」

シャル「……」

一夏「そのせいか千冬姉自身の家事スキルはてんで駄目になっちまったけどな、ははっ」

シャル「……それでも、一緒にいてくれる家族がいるっていいよね。食卓を囲んで、笑顔で一緒にご飯が食べられるって」

一夏「まあな。千冬姉も今となっては帰ってくる日の方が少ないけど、帰って来る日は飯の時までには帰ってきてくれるし」

シャル「僕にはもうそんな人――お母さんはいないからさ、一夏がちょっとだけ羨ましいな」

一夏「……」

シャル「……あ、ご、ごめんね? 変なこと言っちゃって……。後片付けはまた僕がやるね」

一夏「あ、ああ。頼んだ」

55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 19:48:55.13 ID:fzRjxm/s0
一夏(シャルの家の事情について知ってるの、今のところ俺だけだもんな)

一夏(父親がいるっつっても娘を道具のように扱う奴が家族なわけがない)

  カチャカチャ......  シャー.....

一夏(明るくて優しいから学園ではいつも人が周りにいるけど、家ではどうだったんだろう)

一夏(IS学園に来る前まで、居場所なんてなかったに違いない)

一夏(だからきっと、こういう家庭的な雰囲気に思うところがあったのかもな)

  チリーン......   チリーン......

一夏(風鈴が鳴ってる。フランスでは珍しいかもしれないけど、これも家庭的なものだ)

一夏(聴かせてやれてよかった。いや、これだけじゃまだ足りないな)

一夏「シャル、ちょっとコンビニまで買い物してくるけど留守番頼めるか?」

シャル「うん? いいけど、何を買いに行くの?」

一夏「あー……ちょっとジュースでも。すぐ帰ってくるよ」

シャル「わかった。いってらっしゃい、一夏」

一夏「おう、いってきます」

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 19:57:15.83 ID:fzRjxm/s0

一夏「ただいまー」

シャル「おかえり一夏。……ふふっ、おかえりなんて久し振りに言った気がするよ」

一夏「それよりちょっと庭に来てくれないか? 俺もすぐ行くからさ」

シャル「? うん、じゃあ先に行ってるね」

一夏「……さて、ろうそくはどこだったかな」



シャル(すっかり暗くなっちゃったなぁ。そろそろ学園の寮に戻らなきゃ)

一夏「よっ、待たせたな」

シャル「ねぇ一夏、お庭で何かするの? 僕もそろそろ戻らないと」

一夏「少しだけでいいんだ。これ、やってかないか?」

シャル「……? それって何?」

一夏「花火だよ。家庭用のだからあんまり派手じゃないけどさ、どうだ?」

63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 20:11:15.31 ID:fzRjxm/s0

  パチパチパチ.......  バチバチバチバチッ  シュー......

シャル「綺麗だね……あ、途中から色が変わったりするんだ」

一夏「両手持ちでもっと彩り豊かにしたやるぜ!」

シャル「あはは、危ないよ一夏! ……こういう花火もあるんだね」

一夏「打ち上げ花火の方が迫力はあるけど、こっちも悪くないだろ?」

シャル「うん。夜空に咲く花をみんなで見上げるのが花火だと思ってたけど、こうやって二人きりで楽しめるものもあるんだ」

一夏「他にもこういうのがあるぞ。線香花火っていうんだけど」

シャル「他の花火と比べて細くて小さいね。これって大丈夫なの?」

一夏「まあ見てろって。こうやって先端をろうそくに近付けて……」

  パチ...... パチ...... パチパチ...... パチパチパチパチ......

シャル「わぁ……」

一夏「静かに持ってないと燃え尽きる前に落っこちちゃうからな、最後の最後までこうして見守るんだ」

シャル「僕もやってみていい?」

一夏「ああ。どちらが最後まで先っぽを残せるか競争しようぜ」

シャル「うん!」

67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 20:24:48.33 ID:fzRjxm/s0
シャル「……」 パチパチ......

一夏「……」 パチパチ......

シャル「一夏、今日はありがとう。この花火もさっき買ってきてくれたんだよね」

一夏「何のことだ? 俺はジュースを買いに行っただけだぜ」

シャル「ふふっ、そっか」

一夏「そうだよ。家にあったの忘れててさ、湿気っちまう前にやっておかないとって思ってな」

シャル(相変わらず嘘が下手だなぁ、一夏は。レジの袋、結露で全然濡れてなかったよ)

一夏「……あー。俺のほうが先に落ちちまったな」

シャル「僕の勝ち?」

一夏「シャルの勝ちだ。揺らさないようにしてたんだけどな」

シャル「僕の勝ち、かぁ。何だか全然実感わかないね」

一夏「哀愁っていうかさ、他の花火と違って切なくなるよな。線香花火は」

シャル「……うん」

72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 20:43:24.53 ID:fzRjxm/s0
シャル(僕のこと気にしてくれたんだろうな、夕飯の時に僕が変なこと言ったから)

一夏「この設置して離れて見るやつを最後に見ような。まだ時間あるか?」

シャル「うん。それに今日のうちにやっておかないと余計に湿気っちゃうもんね」

一夏「そ、そうだな。よし俺はこっちで遊んでくるか」

シャル(……花火、か。僕はフランスの代表候補生として国から注目を浴びてるけど、誰もが見上げてしまうような夜空に咲く綺麗な花なんかじゃなくて)

シャル(小さくても儚くてもいい、この線香花火のようにひっそりと咲いていられたらそれでよかったのに)

シャル(お母さんならどっちの花火が好きになっただろう。やっぱり僕と一緒で線香花火の方を気に入るんじゃないかな)

一夏「どうした、シャル。まだ花火は残ってるぞ」

シャル「あ、うん。じゃあ僕は今度はこれね」

シャル(……一夏は)

シャル(一夏はどんな花火が好きなんだろう。一夏も線香花火なのかな、それともーー)

75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 20:53:33.70 ID:fzRjxm/s0
シャル「一夏、一つ聞いてもいい?」

一夏「ん? どうした」

シャル「一夏はどの花火が好き?」

一夏「花火、か。難しいな」

シャル「うん。でも聞いてみたいんだ」

一夏「そうか。ちょっと考えさせてくれ」

シャル(……変な質問しちゃったかな。そうだよね、どれもみんな綺麗だし、簡単に優劣をつけられるものじゃない)

シャル「答えなくてもいいよ。自分で言っておいてなんだけど、どれも綺麗だし難しいよね」

一夏「まあな。でももう少し考えるよ。何となく、ちゃんと答えてやりたいからさ」

シャル「そっか。じゃあ待ってるね」

一夏「ああ」

80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 21:08:25.51 ID:fzRjxm/s0
一夏「いよいよ最後の花火か」

シャル「これってどれくらい離れたほうがいいの?」

一夏「爆発するわけじゃないし、数メートルで大丈夫だよ。……点火するぞ」

シャル「うん、お願い」

一夏「よっ……と。ほら、もうちょっと下がったほうがいいぞ」ギュッ

シャル「っ、う、うん」

シャル(手を引いてくれるのは嬉しいけど突然過ぎるよ……びっくりしちゃった)

  ...........シャーーーーーーーー!!!!

シャル「……綺麗」

シャル(噴水から水が湧き上がってくるみたい。こんな花火もあるんだ)

一夏「なあ、シャル」

シャル「なあに、一夏」

一夏「さっきの答えだけどさ、やっぱりどの花火も好きだな。俺は」

シャル「……うん」

一夏「でもな、どれも綺麗だから決められないんじゃないんだ。もっと他に、大事なことがあるからさ」

83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 21:25:36.53 ID:fzRjxm/s0
シャル「どういうこと?」

一夏「花火ってたしかに綺麗だけど、ものの数秒、長くても数分しかもたないだろ?」

シャル「うん……そうだね」

一夏「だから俺は、花火が散るまでのその瞬間を誰と過ごしたか、が大事だと思うんだ」

シャル「……」

一夏「一人で花火をしたってつまらない。だけど、二人で、三人で、みんなでやれば楽しい。何かに似てると思わないか?」

シャル(……ご飯を食べるのと、同じ。一人で作って食べるよりも……)

一夏「今日シャルと一緒にやった花火はどれも全部、楽しかったぞ。シャルはどうだった」

シャル「僕も、楽しかったよ。どれも、綺麗だったし……一夏と一緒だったから」

一夏「そっか、そりゃよかった。……花火っていいよな」

シャル「……うん。線香花火みたいにずっと儚いものもあれば、この花火のように力強いものもあって」

一夏「お祭りの時に打ち上げ花火が上がったら、みんな空を見上げるんだ。笑顔で、楽しそうにさ」

シャル(……誰と花火をして過ごすか、か。全然考えもしなかったな)

シャル(お母さん。僕はお母さんといろんな花火を一緒に見たかった。そんな幸せな時間をもう過ごせないんじゃないかと思ってた)

シャル(でもね、もう大丈夫だよ。僕は今、好きな人と一緒に花火を見ることができたから――)

89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 21:37:47.34 ID:fzRjxm/s0
一夏「……終わっちゃったな」

シャル「最後に取っといただけあって凄かったね。見惚れちゃったよ」

一夏「寂寥感っていうのか? センチメンタルな気分になるぜ……」

シャル「ふふっ、一夏には似合わないよそういうの」

一夏「ははっ、俺もそう思う。火の始末をして――っと、それじゃあ送るよ」

シャル「ありがとう。……ちょっと夜遊びしちゃったね。初めてだよ、僕」

一夏「更ける前に帰らないとな。ラウラがきっと待ってるぞ」

シャル「……そうだね、帰らなきゃ。ラウラにただいまって言ってあげないと」

一夏「まあ、その、こんな休みの日でよければ、また俺ん家にいつでも来いよ。まだ冷やし中華食べさせてやれてないしな」

シャル「そうだったね。楽しみにしてるよ、一夏」


シャル(――いつか、一夏にいってきますやいってらっしゃい、ただいまやおかえりを毎日言ってもらえるように)

シャル(明日からも頑張ろう。待っててね、一夏!)

91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/05(日) 21:38:33.98 ID:fzRjxm/s0
終わり。気付けば湿っぽくなってたなんだこれ

引用元: シャル「暑いねぇ」一夏「暑いな」