1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:05:24.53 ID:SV8FI+m30
探偵「今、ある事件の調査をしてましてね」

男「調査というと?」

探偵「殺しですよ。殺されたのはこいつです」

写真を見せる。

男「……」

探偵「失礼ですが、事件当日は何をされてましたか?」

男「アリバイ確認というわけですか?」

探偵「形式的なものです。何をなさってました?」

男「被害者をブン殴ってました」

探偵「ほう……」

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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:07:16.21 ID:SV8FI+m30
探偵「つまり、自分が犯人だと?」

男「そうなりますね」

探偵「ちなみに……ブン殴るというのは?」

男「棍棒で一発。ぐったりしてましたよ」

探偵「それはおかしいですねえ……」

男「え」

探偵「検死の結果、死因は……刺殺だったんですよ」

男「な、なんだって!?」

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:08:07.05 ID:SV8FI+m30
男「間違いないんですか!?」

探偵「ええ、心臓を一突きでした」

探偵「つまり、あなたは犯人ではありえない……」

男「バカな! そんなはずない! 俺はたしかに……!」

探偵「私はこれから現場に行きますが、一緒に行きますか?」

男「はいっ!」

男(信じないぞ! 絶対に俺が奴を殺ったはずなんだ……!)

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:09:51.22 ID:SV8FI+m30
探偵「ここが現場です」

探偵「ご覧下さい、大きな血痕が残ってるでしょう。撲殺でこれは……まぁ、まずありえない光景です」

男「くっ……!」

探偵「おっと今解剖の結果が届きました」

探偵「ええと、死因はやはり刺殺。刃渡り数十センチの刃物で刺されたようです」

男「あの……頭に……頭に殴られた跡は!?」

探偵「それは確認されていないようです」

男「そ、そんな……」

男(俺はたしかに殴った……のに!)

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:11:12.46 ID:SV8FI+m30
探偵「さっそく犯人がどんな人間か調べないと……」

探偵「お、それらしき足跡があった。これによると……靴のサイズは26.5ですね。やはり男性かな」

男「一目で分かるんですか!」

探偵「ええ、ですがこれは大した手掛かりにはなりません」

探偵「しかし、この踏み込み方によると……犯人は左利きのようだ」

男(左利き……)

探偵「これは大きな手掛かりになりそうだ。左利きの人間はそう多くないですからね」

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:11:55.31 ID:SV8FI+m30
探偵「さっそく犯人探しに行くとするか」

男「あ、あの……俺も手伝っていいですか?」

探偵「なぜです?」

男「いや、その……協力したいんです! 犯人を見つけたいんです!」

探偵「かまいませんよ。ぜひお願いしたい。これは非常に重要な事件ですから」

男「ありがとうございます!」

探偵「では被害者の写真をお渡ししておきますよ」

男(なんとしてもこいつよりも先に犯人を見つけないと……!)

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:14:18.68 ID:SV8FI+m30
男(犯人がいそうなのは、現場からも近いこの町……)

男「あのー、すみません」

町民「なんですか?」

男「ある事件の犯人を捜してまして……」

町民「特徴は?」

男「おそらく男で、左利きの刃物の達人なんですけど……」

町民「さぁ……」

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:15:32.75 ID:SV8FI+m30
男(しかし、こんな特徴の奴はそうはいない)

男(聞き込みに聞き込みを重ねれば――)



主婦「左利きで、刃物の扱いが上手?」

男「ええ、ご存じありませんか?」

主婦「ああ……あの家に住んでるお兄ちゃんがそうよ」

男「ホントですか!?」

主婦「ええ、一人暮らししてるの。今の時間は家にいるはずよ」

男「ありがとうございます!」

男(よし……見つけたぞ! 間違いなく一番乗りだ!)

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:16:15.61 ID:SV8FI+m30
男「……失礼」

青年「あなたは?」

男「ある事件の調査をしてまして」

青年「はぁ……うかがいましょうか」

男「先日、この男が殺されましてね。なにかご存じないですか?」

写真を見せる。

青年「ああ、僕が殺しましたけども」

男「……見つけた」ニヤッ

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:16:53.84 ID:SV8FI+m30
男は棍棒を取り出す。

男「死ねええっ!」

ブオンッ!

青年「わっ!」

男「ちっ!」

青年「何するんだ! いきなり!」

男「うるせえ! お前は死ななきゃならないんだ!」

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:17:37.21 ID:SV8FI+m30
男「うおおおおおおっ!」

ブオンッ! ブンッ!

青年「くっ……」

男「そこだっ!」

ドガッ!

青年「ぐあっ……!」ドサッ

男(よし、手応えあり!)

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:19:03.26 ID:SV8FI+m30
青年「……」ダッ

男(剣を取る気か! 取られたら形勢不利になる!)

男「させるかぁっ!」ダッ

男「せいっ!」

ドゴッ!

男(しまった! 殴ったらふっ飛ばしちまった!)

青年「……」チャキッ

剣を構える。

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:21:03.70 ID:SV8FI+m30
青年「事情はさっぱり分からないけど……そっちがその気なら容赦しない!」

男「ちっ……!」

両者、睨み合う。

シーン…

男「うおおおおおっ!」ダッ

青年「てやあああああっ!」バッ

同時に飛び出す。

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:22:40.60 ID:SV8FI+m30
ザンッ!

ボトッ…

男「ぐっ……!」

棍棒は切断され、半分の長さになっていた。

青年「あんたに勝ち目はない。これ以上は――」

男「う、うるせえ! これぐらいで諦められるか!」

男「うおおおおおおっ!!!」

15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:24:09.86 ID:SV8FI+m30
探偵「そこまでです」ザッ

男「! ……お前!」

青年「あなたは……?」

探偵「私は探偵をしております」

青年「探偵……?」

探偵「今は国王陛下直々の命令で、ある事件の調査をしておりましてね」

青年「事件というのはひょっとして……」

探偵「ええ、王国に害をもたらしていた魔王が殺害された事件です」

16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:25:15.54 ID:SV8FI+m30
探偵「ふむふむ……左利きで剣の達人。足のサイズも間違いない」

探偵「魔王を殺害した犯人は……あなたですね」

青年「はい、そうですけど。それが何か?」

男「くっ……!」

探偵「実は陛下は『魔王を倒した人間には“勇者”という称号を与え、厚遇する』と」

探偵「≪お触れ≫を出したばかりだったのですよ」

青年「え、そうなんですか! 知らなかった……」

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:27:37.63 ID:SV8FI+m30
男「……」

青年「じゃあ、この人はなんで僕を襲ってきたんですか? 魔王の部下だったとか?」

探偵「いえ、そうではありません」

探偵「おそらく、この男は≪お触れ≫を見て、“勇者”の称号を獲得せんと」

探偵「魔王の城に忍び込み、あの棍棒で実際に魔王をブン殴ったんでしょう」



男『くたばれ!』ゴンッ!

魔王『ぐはぁっ!』ドサッ

男『やったぞ! あとは国が誰が犯人か探してる時に名乗り出れば……俺が勇者だ!』



探偵「しかし……魔王は死んでいなかった」

18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:28:51.91 ID:SV8FI+m30
探偵「息を吹き返した魔王は、魔法で自分の体を全回復させた」

探偵「しかし、今度は青年さん、あなたが来てしまう」



青年『覚悟しろ、魔王!』チャキッ

魔王『な……!』

ドシュッ……!



探偵「あなたは鋭い踏み込みからの一撃で、魔王を殺害――」

探偵「みごと王国に平和をもたらしたというわけです」

19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:30:20.04 ID:SV8FI+m30
探偵「ようするに、この男は魔王殺害に失敗し」

探偵「しかも、“勇者”称号欲しさに、魔王を殺したあなたを狙った……ということになります」

男「何もかもバレちまったか……」

男「俺だ! 俺が“勇者”のはずなんだ! こんな若造じゃねえ!」

男「こうなったら、この青年も、探偵(おまえ)も、口封じでブッ殺してやる!」

男「その後、王様に直談判すればきっと……」

探偵「残念ながらそうはいきません」

男「なにい……?」

20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:31:48.38 ID:SV8FI+m30
探偵「すでに全て報告し、念のため兵士も連れてきていますからね」

ズラッ…

男「あっ!」

兵士A「さぁ、来い」ガシッ

兵士B「連行する」ガシッ

男「は、はなせ! はなしやがれぇ!」

探偵「陛下はおっしゃってましたよ」

探偵「たとえ、魔王を倒せなくとも、挑んだ者にはそれなりの恩賞を与えるつもりだった、と」

男「え……!」

探偵「しかし、こんな愚かなことをしでかしては……もう無理でしょうね」

男「ぐぅぅぅぅ……」ガクッ

21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/05/14(金) 20:32:55.10 ID:SV8FI+m30
探偵「“勇者”を目指した男が、その欲望のために“愚者”になってしまう。悲しい事件でした」

青年「そうですね……」

探偵「おっとしめっぽい話はやめましょう。これからあなたを待っているのは栄光なのですから」

探偵「さ、お城へ参りましょう。魔王殺害事件の犯人……いえ、勇者様」






終わり

引用元: 探偵「事件当日のアリバイを教えて下さい」男「被害者をブン殴ってました」