1: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)19:47:28 ID:NS4c
〇日曜の昼下がり/とある芸能事務所
P「いやあ突然呼び出しちゃってすまんねほたる君。さ、座って座って」
ほたる「はい、ありがとうございます(ちょこん)」
P「お茶でもいれようか?」
ほたる「あ、あの、お構いなく。さっきレッスン終わりにたくさん水分取りましたし」
P「そっかあ、レッスンがんばってるかあ」
ほたる「はい、レッスンがんばってます!」
P「そうかあ……」
ほたる「?」
P「いやあ突然呼び出しちゃってすまんねほたる君。さ、座って座って」
ほたる「はい、ありがとうございます(ちょこん)」
P「お茶でもいれようか?」
ほたる「あ、あの、お構いなく。さっきレッスン終わりにたくさん水分取りましたし」
P「そっかあ、レッスンがんばってるかあ」
ほたる「はい、レッスンがんばってます!」
P「そうかあ……」
ほたる「?」
2: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)19:48:49 ID:NS4c
P「さて、ほたる君。今日どうして自分が呼ばれたか、解ってるかい?」
ほたる「いえ、実はさっぱり」
P「ほたる君がうちの事務所に来てからどれぐらいになるっけか」
ほたる「はい、今日でちょうど、1週間になります」
P「調子はどうだい」
ほたる「はい、みなさんとても良くして下さって」
P「うちの子たちは皆いい子だからなあ」
ほたる「たくさんレッスンもさせていただいて」
P「だろうねえ」
ほたる「私、こんなにダンスレッスンできるの初めてで、もううれしくてうれしくて」
P(でっかいため息)
ほたる「あ、あの!?」
3: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)19:50:39 ID:NS4c
P「気にしないで。いや違う気にしてほしいんだけど」
ほたる「え、ええと……」
P「ところでさ、うちと契約したとき一度聞いたと思ったんだけど」
ほたる「は、はい」
P「もう一度聞かせてくれるかな。君の趣味って何だっけ」
ほたる「はい、私の趣味はアイドルレッスンと笑顔の練習です!」
P「禁止」
ほたる「えっ」
P「両方禁止」
ほたる「ええっ、どうして。あ、まさか」
P「そうそう、ほたる君にも思い当たることがあるだろう?」
ほたる「君はクビだからもう施設は使わせられない、さっさと荷物をまとめて出て行きなさいよね、と……!!」
P「違うからね!?」
4: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)19:51:25 ID:NS4c
ほたる「えっ、違うんですか」
P「何が悲しくて折角北海道まで出かけて見つけた金の卵をデビュー前に手離さにゃならんのよ」
ほたる「それじゃ私、クビにならないんですか」
P「クビにしません。3ヶ月後のデビュー目指して、これからいろいろ大変だからね。覚悟しといてね」
ほたる「は、はい。レッスンがんばります!」
P「だからレッスンは禁止」
ほたる「どうしてえ!」
P「マストレさんから報告があったんだよ」
ほたる「マストレさんから?」
P「何か身に覚えがあるんじゃないのかい」
ほたる「そういえば……(ほわんほわんほわん)」
5: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)19:51:47 ID:NS4c
【ここから回想】
自主レッスン中のほたる「1212、1212、1212……」
マストレ(じーっと見てる)
棟方愛海(じーっと見てる)
ほたる「はあ、はあ……やっぱりタイミング揃わない。難しいなあ……よしもう一回」
マストレ「どう思う?」
愛海「うん、マストレさんの見立て通りだと思う」
マストレ「よし棟方、確かめてこい」
愛海「はーい! うひひひ、えいっ」
ほたる「1212(ふにっ)ふあー!?」
愛海「うひひほたるちゃんお疲れさま!(ふにふにふにふに)」
ほたる「あ、愛海ちゃ……なに? 突然なにをあっそんな太股のそんなところをまってまって」
愛海(一心不乱にいろいろふにふに)
ほたる「あっそこはくすぐった、あっ、だめ、あーっ、あーっ」
6: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)19:52:51 ID:NS4c
(10分後)
愛海「はあ、まんぞく……」
ほたる(ぐったり)
マストレ「どうだった?」
愛海「うん、やっぱりマストレさんのいうとおりだった。特に腰のこことここと……」
マストレ「ご苦労。P君に報告してくるとしよう」
【回想ここまで】
7: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)19:53:54 ID:NS4c
ほたる「ということがつい昨日……どうしたんですかPさん、前屈みになられて」
P「気にしないで。頼むから気にしないで」
ほたる「は、はい」
P「ごほん……とにかく、マストレさんから報告があったんだ。ほたる君はしばらくレッスン禁止しなきゃダメだって」
ほたる「そ、そんな、どうして」
P「ほたる君。君はここに来るまでもずっと自主練習してきたんだよね」
ほたる「はい。なかなかひとつの事務所に落ち着くこともできなくて、正式なレッスンをする機会もなかったけど、自分で出来ることは続けていたくって」
P「それで、ここに来てからも正規のレッスンに加えて自主練を続けてると」
ほたる「はい。私は他のみなさんに比べて未熟で、ぜんぜんレッスンが足りません。がんばって早くみなさんに追いつきたくて」
P「立派な心がけだけど原因はそれだァ!(ビシーッ)」
ほたる「ええっ!?」
8: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)19:54:16 ID:NS4c
P「オーバーワークなんだよ。必要な練習量を越えちゃってるの」
ほたる「オーバーワーク……」
P「さらに誰に教わったわけでもない自己流のトレーニングを続けてっから、体のあちこちに変な負担が蓄積されてる。レッスンの後、いつも同じところが痛くなったりしてるだろ」
ほたる「そ、そこまで解るんですか」
P「棟方は触っただけでバランスの狂いや負担の蓄積が解るんだそうだ。女の子限定だけど」
ほたる「てっきり柔らかいところ好きが暴走したものとばかり」
P「その可能性は否定できないが正確、迅速、しかも全身にわたる的確な診断はマストレさんもまあ一目置いてるんだぞ」
ほたる「でも、私、レッスンを禁止だなんて」
P「ずっと禁止じゃない。2週間だけ休むんだ。決められた時間にマストレさん指定のストレッチをしてもらうけど、それもやりすぎないように。要するに」
ほたる「要するに」
P「2週間レッスンしちゃダメ!!」
ほたる「そんな、あんまりです!」
9: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)19:54:42 ID:NS4c
P「マストレさんはプロなんだよ。君たちが決して体を痛めたりしないように注意しつつ、きちんとしたレッスンを施して鍛えていくのが仕事なの。自己流で体を痛めるなんてマストレさん大激怒だぞ」
ほたる「ううっ、マストレさんに怒られるのは怖いです……!!」
P「だよなあ、俺でもあの人怖いもん」
ほたる「だけど、ただでさえ皆より遅れてるのに、私だけ何もしないなんて……」
P「いいかいほたる君。休むのも仕事と言ってだな」
ほたる「そうだ! アイドルレッスンはダメでも、ランニングならただの運動だし!!」
P「ダメです。いい笑顔で抜け道を探すんじゃありません。そういう笑顔はデビューまで取っときなさい」
ほたる「……」
P「見つからなきゃ大丈夫かなとか考えてない?」
ほたる「ぎくっ」
P「あのなあ」
ほたる「だってだってーっ!!」
ちひろ「まあまあPさん。ほたるちゃんの気持ちも解りますよ」
ほたる「ちひろさん!」
P「ちひろさん、何を言い出すんですかいきなり」
10: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)19:55:06 ID:NS4c
ちひろ「事務所に入れてアイドルへの道は開けたけど、自分は明らかに他の子より遅れてる」
ほたる「……はい。ぜんぜんついていけなくて」
ちひろ「デビューの予定日はどんどん迫ってきてるけど自信がなくて不安ばかり。本番で失敗したら自分を拾ってくれたPさんに迷惑をかけちゃうし、がむしゃらに体を動かしていないと不安を忘れられない……」
P「そうだったのかほたる君」
ほたる「はい……」
ちひろ「だから、うん。こっそりレッスンしちゃえばいいですよ。それで心が落ち着くなら、ほたるちゃんには必要なことかも」
P「うわあ何勝手なこと言ってんだいあんた。マストレさんに怒られるの僕なんだよ?」
ちひろ「まあまあPさんここは私にまかせて……そして、ほたるちゃん」
ほたる「は、はい」
ちひろ「もしほたるちゃんがこの2週間の間にレッスンしたら、ちひろお姉さんがご褒美に手品を披露してあげましょう」
ほたる「えっ、私、手品大好きです! どんな手品ですか」
ちひろ「ほたるちゃんがこっそりレッスンするとあら不思議」
ほたる(ワクワク)
ちひろ「Pさんがようやくこの月末まとめて消化できる予定だった有給が、何故か書類上はすでにすっかり消化されていたことになって消滅してしまうのです!」
ほたる「!?」
P「!?」
11: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)19:55:28 ID:NS4c
ちひろ「ほほほ見てくださいあのPさんの絶望した顔。疲れた大人にとって、お休みの消滅はあれほど堪えるものなんですねえ」
P「ちひろさん俺になんか恨みでもあったぁ!?」
ほたる「ううう、さすがに恩人であるPさんにそんなご迷惑をおかけするわけには行きませんね……わ、解りました。休みます」
P「あれっ、素直」
ちひろ「ほたるちゃんは人の迷惑になるのを嫌う子ですから。Pさんの公休を人質にすればこんなものです(ひそひそ)」
P「言いたいことは解るけどもうちょっと心臓に悪くない人質はなかったの?(ひそひそ)」
ちひろ「えー、こういうのは心臓に悪いほど効きがいいんですよ」
P「いつか地獄に落ちるよォ貴女」
ほたる「あ、あの?」
12: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)19:55:46 ID:NS4c
P「ああゴホンゴホンすまん……ではとにかく、明日から2週間はレッスン禁止。ただし毎日学校が引けたらマストレさんとこに顔だしてストレッチの指導を受けること。いいね?」
ほたる「はい!」
P「いい返事だねえこれなら俺の公休も安泰だなハハハ」
ほたる「あ、はい……(サッ)」
P「そこで後ろめたげに視線逸らすのやめてよね? 不安になるじゃないよ!?」
ほたる「休みますから! ちゃんと休みますからー!!」
13: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:08:24 ID:NS4c
○翌日午後5時/女子寮リビング
ほたる「……」
ほたる「……」
ほたる「……だれもいないです(ぽつーん)」
ほたる「みんなレッスンやお仕事の時間で、この時間に寮にいるのって、きっと私だけ……」
ほたる「……」
ほたる「たいくつだよう……!!(じたばた)」
ほたる「ストレッチだけしてあとなにもしたら駄目なんて殺生です……(じたばた)」
ほたる「あっ、誰もいないということは今ならこっそりレッスンしても誰にもバレないのでは」
工藤忍「お疲れさまー(ドアガチャー)」
ほたる「うそですレッスンなんてしませんちゃんとやすみます!! ……って、あれっ、工藤忍さん???」
14: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:10:07 ID:NS4c
忍「うん。こうして会うのは初めてだね」
ほたる「は、初めまして! 私は、あの」
忍「えーと、確か白菊ほたるちゃんだっけ。練習熱心で有名な」
ほたる「し、知っててくださったんですか」
忍「そりゃあね。いつ見てもこう、難しい顔でレッスンしてるって、皆が教えてくれるから。あははは」
ほたる「どうしてそこで困ったような顔で笑うんですか」
忍「いやあ我が身を思い出すというか、なんというか」
ほたる「?」
忍「ま、そこは置いといて。練習熱心で有名なほたるちゃんが、こんな所でどうしたの。いつもならまだ熱心にレッスンしてる時間じゃない」
ほたる「実はその、疲労がたまってるからってレッスン禁止を言い渡されてしまって」
忍「そうかあ、レッスン禁止かあ」
ほたる「禁止を破ってレッスンするとプロデューサーさんの有給が消滅することになっていて」
忍「プロデューサーさんも災難だなあ……」
ほたる「プロデューサーさんにご迷惑はかけられませんから、もちろん約束は守ります」
忍「さっきこっそりレッスンしようとかしてなかったっけ」
ほたる「うわあん、だってレッスンしてないと不安で!!」
忍「あー……(トオイメ)」
15: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:11:05 ID:NS4c
ほたる「あの、工藤さん……?」
忍「忍でいいよ。あと気にしないで。似たような人っているもんだなあと思ってただけだから」
ほたる「は、はあ」
忍「……でもちょっと解るよ、その気持ち」
ほたる「えっ」
忍「どれだけレッスンしても足りない気がするんだよね。目標に手が届く気がしないって言うか、やってないとどんどん目標が遠ざかってる気がしてたまんない、って言うかさ」
ほたる「忍さん……!!(ギュウ)」
忍「熱烈な握手だ!?」
ほたる「そうなんです。やっていないと、どんどん不安が増していくって言うか。私、怖くて……」
忍「……うん。解るよ」
ほたる「……忍さんもそうなんですか? やってないと不安で、ひたすらレッスンして……」
忍「ウウン、ソンナコトシナイヨ?」
ほたる「あれー!?」
16: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:12:52 ID:NS4c
忍「レッスンは達成すべき目標を立てて、それを目指して行うべきもの。やってないと不安なんて理由で只がむしゃらにやっても、結果はついてこないよ」
ほたる「うわあん反論の余地もない正論! だけど忍さんの目がなんだか微妙に泳いでる気がするのは何故!?」
忍「気にしないで! お願いだから! ……それに、目標設定があるからこそ、達成度や問題点が計れるんじゃない」
ほたる「それは……確かに」
忍「それ無しでただレッスンしても、自己満足にしかならないよ」
ほたる「うううほんとごめんなさい」
忍「自己満足ならともかく、やればやるほど自分がよりダメに思えてきたり、自分でも何が正解なんだかよく解らなくなってきたり、ね」
ほたる「忍さん……!!(ギュウ)」
忍「熱烈な握手再び!?」
ほたる「忍さんは私の心の友です……!」
17: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:15:31 ID:NS4c
忍「落ち着いて、おちついて……ね、ほたるちゃんて13歳だっけ」
ほたる「は、はい」
忍「アイドルになりたいと思ったのはいつごろ?」
ほたる「つい去年、中学にあがる前です。テレビでアイドルを見て、ああ、これだって」
忍「それまでなにか、スポーツの経験ある?」
ほたる「いえ、ぜんぜん。体を動かすのは好きだったんですけど、不幸体質のこともあって家に閉じこもるみたいにして過ごしていましたから」
忍「不幸体質?」
ほたる「はい」
忍「気になる単語だけど今は突っ込まないでおこう……ね、ほたるちゃんはこのあと予定ないわけだよね」
ほたる「は、はい」
忍「じゃあアタシが、特別レッスンに連れて行ってあげるよ!!」
ほたる「ええっ、でもレッスンしたら、プロデューサーさんの有給が消滅しちゃう!!」
忍「大丈夫! これからやるのはバレてもプロデューサーさんに迷惑をかけない合法レッスンだから!!」
ほたる「何故でしょう、合法ってついた途端に危険なにおいを感じます」
忍「なんで? 合法で、安全で、セーフティなんだよ?」
ほたる「より怪しさが増した気がします」
ほたる「は、はい」
忍「アイドルになりたいと思ったのはいつごろ?」
ほたる「つい去年、中学にあがる前です。テレビでアイドルを見て、ああ、これだって」
忍「それまでなにか、スポーツの経験ある?」
ほたる「いえ、ぜんぜん。体を動かすのは好きだったんですけど、不幸体質のこともあって家に閉じこもるみたいにして過ごしていましたから」
忍「不幸体質?」
ほたる「はい」
忍「気になる単語だけど今は突っ込まないでおこう……ね、ほたるちゃんはこのあと予定ないわけだよね」
ほたる「は、はい」
忍「じゃあアタシが、特別レッスンに連れて行ってあげるよ!!」
ほたる「ええっ、でもレッスンしたら、プロデューサーさんの有給が消滅しちゃう!!」
忍「大丈夫! これからやるのはバレてもプロデューサーさんに迷惑をかけない合法レッスンだから!!」
ほたる「何故でしょう、合法ってついた途端に危険なにおいを感じます」
忍「なんで? 合法で、安全で、セーフティなんだよ?」
ほたる「より怪しさが増した気がします」
18: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:15:51 ID:NS4c
忍「まあまあ。細かいこと言わずについておいでよ。絶対損はさせないからさー(グイグイ)」
ほたる「あっちょっと待ってうわあん力つよいー!!(ズルズル)」
忍「大丈夫だいじょうぶ、アタシに任せて!!」
(ドアバターン)
???「……」
???「……」
???「……」
???「……行ってしまいましたね」
???「行っちゃったネ」
???「これは尾行大作戦だね!!」
19: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:19:07 ID:NS4c
○同日午後6時/某図書館閲覧室
ほたる(ソワソワ)
忍「お待たせー! よかったよかった、借りられてなかったよ」
ほたる「あ、いいえ。あの」
忍「はいこれ(本ドサー)」
ほたる「これは……」
忍「ダンスの教本とか、ダンサーの体の本とか、そういうのだよ」
ほたる「体の本?」
忍「そう。この姿勢のとき、自分の体にどんな力がかかってるのか。そもそもダンスに使ってる体のパーツはどんな風になっててどういう仕組みで動いてるのか……」
ほたる「……(パラパラ)」
忍「……読んだことある? こういう本」
ほたる「……いいえ、実はぜんぜん(集中)」
忍「だよねえ。だよねえ」
20: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:19:23 ID:NS4c
ほたる「こういう本があるんだろうとは思っていたんですが、どうやって探したらいいのかも解らなくて。レッスンを受けられれば色々解ると思ったんですがこの事務所に来るまではまともにレッスンも受けられないままで、自己流で」
忍「そうなるよねえ。ダンスの動画見ながら、とにかく真似してみたりしてね」
ほたる「ふふ、それ、私もやりました……わ、すごい。そうか。だからこの時、体が後ろに……」
忍「高校生が読む本だけど、平気?」
ほたる「難しいけど、ちょっと見ただけでも私が詰まってた事のヒントになりそうなこと、いっぱいだから。調べながらでも読みたいです」
忍「よかった……この本はね」
ほたる「はい」
忍「アタシの、目標にしてる子が教えてくれたんだけどさ」
ほたる「目標……」
忍「うん。目標で、友達。その子、アタシの前にドサッと本を積み上げて、言ったんだよ」
ほたる「なんて、ですか」
忍「知識は大事ですよって」
ほたる「……」
21: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:21:25 ID:NS4c
忍「当たり前じゃんと思うよね」
ほたる「あ、その」
忍「でも、そうじゃなかったんだな」
ほたる「?」
忍「勉強できるようになれって意味じゃなかったんだ。自分に必要なものを探すために、知識がいる。自分が表現したいものを、的確に相手に伝えるために知識がいる」
ほたる「……」
忍「ほら、自分一人で悩んでさ。頑張っても頑張っても、答えが出ない時、あるじゃない」
ほたる「……はい」
忍「何が悪いのか。なんで手本の通りにならないのか。それすら解らなくて、何度もやって見るんだけど焦るばっかり。そりゃそうだよね。だって自分にも何が悪いか、解っていないんだもん」
ほたる「耳が痛いです……!」
22: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:21:40 ID:NS4c
忍「教えてもらうにしたって、自分が気付くにしたって、自分が詰まってる『何か』を形に出来なきゃ、答えまでの道は遠回り……だから、アタシたちは、レッスンするのと同じぐらい、歌うこと、踊ることについて勉強しなきゃなんだろうね」
ほたる「……忍さん、すごいです」
忍「受け売り。受け売りだからね?」
ほたる「それでも、です」
忍「ううう……じゃ、貸し出しカード作ってその本借りたら、次のレッスンに行こうか」
ほたる「次のレッスン、ですか」
忍「そ。これこそ本番。今日のメインレッスンだよ」
23: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:24:07 ID:NS4c
○午後7時15分/レッスンスタジオ
P「ギャーアほたるが俺の有給を破壊しに来たーァ!!」
忍「開口一番それ?」
ほたる「だ、大丈夫ですプロデューサーさん! 忍さんのレッスンは合法で、安全で、セーフティなんです!!」
P「それ後半ふたつ同じ意味だからね?」
忍「落ち着いて、プロデューサーさん。後ろで見学するだけ。アタシがついてるから。ね?」
P「忍がァ?」
忍「何よその不信の表情」
P「だってお前上京当時はさんざん」
忍「しーっ! しーっ!!」
ほたる「?」
24: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:24:31 ID:NS4c
忍「と、とにかく、今日はほたるちゃんにレッスンを見てもらう事が目的なんだよ。それだけ。絶対プロデューサーさんの有給は確保するから」
P「本当だな? 俺の月末3泊4日温泉旅行山海の珍味と美人な芸者さんとのウハウハ付きは守られるんだな?」
忍「なんだか無性に守りたくなくなって来た」
P「ギャー!?」
ほたる「あ、あのあの」
忍「ハッ……とにかく。見てるだけだから安心して。ほらほら忙しいんでしょ」
P「頼んだからね。ホント頼むからね?」
ほたる「……行っちゃいました」
忍「マストレさんと打ち合わせだったのかな。いつも忙しい人だよね」
ほたる「本当に。有給はしっかり満喫してほしいです」
忍「美人芸者はちよっと気に入らないケド」
ほたる「?」
25: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:25:41 ID:NS4c
忍「ああなんでもない……ほら座って座って。見学見学」
ほたる「は、はい」
忍「……」
ほたる「……(ウズウズ)」
忍「自分も体動かしたい?」
ほたる「ハッ!? いえ、そんなことは!?」
忍「いいよ。気持ちは解るから。だけど、今日は見るだけね」
ほたる「はい……みんなの動きを、参考にするため、ですか?」
忍「おっ、鋭い」
ほたる「学ぶ、という話をしたばかりですから。自分を見て繰り返すだけじゃなくて、周りの人がどうしてるかを見るのも大事、って事ですよね」
忍「ほたるちゃんは鋭いなあ……でも、それだと正解の半分かな」
ほたる「えっ」
忍「ダンスだけじゃなくて、もっと広く見て」
ほたる「はあ……あれっ」
関裕美(チラッチラッ)
26: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:26:57 ID:NS4c
ほたる「あの子、私のこと気にしてるみたい……?」
忍「裕美ちゃんだね。ほたるちゃんより2ヶ月早い入所で、デビューが近い子。プロデューサーさん、たぶんあの子の事で来てたんじゃないかな」
ほたる「そう、なんですか。でも、どうして」
忍「知らない? 裕美ちゃんてさ、ほたるちゃんが来てからずっとほたるちゃんの事気にしてたんだよ」
ほたる「ええっ!?」
忍「しーっ、声が大きい」
ほたる「す、すみません……でも、えっ、ぜんぜん気がつかなかった……!」
忍「だよね。ずっと一心不乱にレッスンしてて、鏡とマストレさんしか見てなくて他ともほとんど話しないし」
ほたる「うわあん確かにそうなんですが言わないでくださいぃ」
忍「そういうほたるちゃんを見て、ちゃんと休んでるか、食べてるかって、色々心配してたみたいだよ」
ほたる「……気付かなかったです」
忍「……悩んでる時ってさ、周りが見えなくなるじゃない」
ほたる「……はい」
27: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:29:28 ID:NS4c
忍「前を見ても後ろを見ても、自分と悩みしか見えなくて。他は目に入らなくて、道は無いみたいに見えて……」
ほたる「……(チラチラ)」
忍「でも、それで、自分を見てくれてる人を見落としちゃうのは、よくないことだよね」
ほたる「はい……(チラチラ)」
忍「だから、そういう時こそ自分の周りの人をちゃんと見ないと」
ほたる「……(チラチラ)」
忍「……なにほたるちゃん。人が話してるときに余所見とかよくないよ?」
ほたる「ご、ごめんなさい。忍さんのおっしゃること、凄く大事だと思うんですが、その、先ほどから」
忍「先ほどから?」
ほたる「そこのドアの隙間から、フリスクのお3人が忍さんを見守ってニコニコしてるのが気になって……」
忍「ギャー!?」
28: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:29:50 ID:NS4c
喜多見柚「エヘヘお構いなく。柚たちのことは気にせず続けて続けてー!」
忍「構うよ! とても続けられないよ! というかどうして? 3人ともいつからそこに!?」
桃井あずき「『レッスンは達成すべき目標を立てて、それを目指して行うべきもの。やってないと不安なんて理由で只がむしゃらにやっても、結果はついてこないよ』のあたりから隠れて忍ちゃんを見守ろう大作戦してたんだよ!」
忍「がっつり最初からだね? なんでふつうに合流してこなかったの!?」
あずき「だってあの忍ちゃんが穂乃香ちゃんみたいな事言ってるし、邪魔しちゃ悪いかなあって」
忍「お気遣いどうも! でもそういうお気遣いはいらなかった……」
あずき「それに穂乃香ちゃんがもうちょっと見ていようって言うから」
綾瀬穂乃香「忍ちゃん、立派になって……(グスン)」
忍「穂乃香ちゃんまでぇ!!」
29: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:31:14 ID:NS4c
穂乃香「だってあんなに無茶ばかりしてた忍ちゃんが後輩にきちんとアドバイスを」
忍「……まあ、穂乃香ちゃんの受け売りだったけどさ。本とか、がむしゃらじゃダメだとかさ」
穂乃香「悩んでる時こそ周りの人をちゃんと見ないとは忍ちゃんでしょう。素敵なアドバイスだと思います」
忍「まあ、アタシやらかしてたからね。というか続きもあったんだけどみんなが出てきて不発に終わっちゃったけど」
穂乃香「あっ、ごめんなさい……続きをどうぞ!!」
柚「どうぞどうぞ」
あずき「ぱちぱちぱちー!」
忍「続けられるかァ!!!」
30: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:31:29 ID:NS4c
マストレ「こら、綾瀬、工藤、喜多見、桃井!! お前たちレッスン上がったはずだろう。何大騒ぎしているんだ!!(ズンズン)」
柚「まずい、これは逃げなくちゃだよ忍チャン!」
忍「なんでアタシまでぇ!」
あずき「しょうがないよ忍ちゃんの声が一番大きかったもん!!」
穂乃香「そういうわけで白菊さん、失礼しますね(ペコリ)」
ほたる「あ、あのあの」
忍「まだいろいろ言いたいことあったのに!……でも、ほたるちゃん最後に一言だけ!!」
ほたる「?」
忍「友達は、大事にね」
ほたる「えっ」
マストレ「こら、待てー!!」
フリスク「「「「逃げろー!!」」」」」
ほたる(ポカーン)
31: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:31:44 ID:NS4c
裕美「(ヒョコッ)あ、あの、大丈夫?」
ほたる「あ……」
裕美「あ、突然ごめんね? 私は」
ほたる「関裕美、さん、ですよね」
裕美「あっ、知ってたんだ」
ほたる「はい。さっき、忍さんから聞いて」
裕美「そうなんだ。なんて?」
ほたる「……ずっと、私を心配してくれてた、って」
裕美「えっ? 柚ちゃんからかな……」
ほたる「……あの」
裕美「うん?」
ほたる「その、本当に?」
裕美「うん。いろいろ気になるって言うか、他人のような気がしないって言うか……あ、それより、ねえ」
ほたる「は、はい」
裕美「ほたるちゃんも、寮暮らしだよね。遊びに行っていい?」
ほたる「あ、あのあのあの」
32: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:35:19 ID:NS4c
○20分後/寮屋上
柚「あー怒られた怒られたー♪」
忍「なんで柚ちゃんは楽しげなの?」
あずき「あずきは、しばらくお説教はいいです……」
穂乃香「でも、みんなで怒られるのって初めてで、なんだか楽しかったです」
忍「もう、穂乃香ちゃんまで……でも、よかったの?」
あずき「何が?」
忍「裕美ちゃんから相談うけたの、柚ちゃんだったじゃない。1人だと思ってたからアタシが1人で話しちゃったけど、来てたんなら本当は柚ちゃんが一緒に話した方が」
あずき「そうしようかなあとも思ったんだけど、忍ちゃんすごい親身になってたから」
忍「だって、なんだか他人とは思えなかったんだもーん!!」
柚「数々の忍チャン暴走伝説を引き継ぐ資質が、実はほたるチャンにも……?」
忍「ちゃかさないでよ、もう」
33: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:35:37 ID:NS4c
穂乃香「最初は合流しようと思ったんです」
忍「そうしてくれればよかったじゃない」
柚「でも、2人の話を聞いてて、これは忍チャンが適任なんじゃないかって穂乃香チャンが」
忍「穂乃香ちゃんが?」
穂乃香「他人とは思えないって、言ってたでしょう? 一番親身に相談に乗ってあげられるのは、忍ちゃんだと思ったんです。話の持って行きようによっては、追いつめちゃうかもしれないし」
あずき「自分の心境解ってもらえて、うれしそうだったもんね」
忍「まあ、覚えがある事だから……でも、よかったのかな。初対面だったのに」
柚「いいんじゃナイ?」
忍「柚ちゃん」
34: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:35:53 ID:NS4c
柚「大事なのは誰が言ったかってことじゃなくてさ、ほたるチャンがレッスン禁止の2週間を、裕美チャンと楽しく過ごせるだろうってことだよ、きっと」
忍「それもそうか」
あずき「裕美ちゃん、ぐいぐい行く方だもんね。きっとこれからもいい友達になれるよ」
忍「……うん」
あずき「じゃあ一件落着ってことで、4人でちょっと遊びにでかけようよ。怒られた分、楽しいこと補充しなきゃ」
穂乃香「賛成です。門限までもうちょっとありますしね」
柚「よし、しゅっぱーつ♪」
忍「……うん。やっぱり。友達は大事に、ね」
穂乃香「忍ちゃん?」
忍「何でもない。今行きまーす!!」
35: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:36:25 ID:NS4c
○同時刻/白菊ほたる私室前
裕美「ここがほたるちゃんのお部屋かあ」
ほたる「う、うん」
裕美「私の部屋のすぐ傍だね」
ほたる「本当?」
裕美「うん。だから、今度は私の部屋にも遊びに来てね」
ほたる「いいの?」
裕美「もちろん。でも、今日は」
ほたる「うん(ガチャ)……ど、どうぞお入りください」
裕美「おじゃまします」
36: ◆cgcCmk1QIM 21/05/20(木)20:36:41 ID:NS4c
ほたる(そうして私は、裕美ちゃんをお部屋に招き入れました)
ほたる(誰かをお部屋に招き入れることは、本当に、本当に久しぶりのことで。もう、2度とないだろうと思っていたことで)
ほたる(もしかしたら、今回もそうかと思っていました。不幸やいろいろなことがあって、結局また、誰も招かないほうがいいと思うようになるのかも)
ほたる(でも、友達を大事にって言われて、勇気を出して裕美ちゃんをお部屋に招き入れて本当によかったと、私は後になって、そう思いました)
ほたる(だってこれは、そのあとずっと続く、私と裕美ちゃんのつながりの、最初の一歩目になったんですから……)
(おしまい)
引用元: ・【モバマス】アイドルレッスン禁止令
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