歩夢「パラレルワールド?」 前編

581: 1(茸) 2021/05/23(日) 13:32:41.89 ID:6yxsIxk2
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ザワザワザワザワ

エマ『へ?』


学生寮の前は人で賑わっていた。な、なんの騒ぎ?


愛『エマさん!』

エマ『え? え???』

愛『アタシ達、あなたについて行くことに決めました!』

エマ『???』


何も言えなかった。よく見ると皆、中々に制服を着崩している。


愛『上原の攻撃を防いだエマさんは……最高にクールでした』

愛『多くは語らないスタイルもかっこよかったです!』

エマ『ち……ちが──』

エマ(言いたい事は沢山あったけれど言えないだけだったの! 難しくて言葉にできなくて……!!)

愛『アタシ達の親玉になってください! エマさん! 愛トモの皆もついて行くって言ってます!』

『よろしくお願いします! エマさん!』

『昨日の上原との戦い、見てた子いたみたいだけどほんと凄かったみたいだよ』

『あの狂犬の攻撃防ぐなんて只者じゃないよな。アタシ前5秒でボコボコにされたよ』

『エマさんには私達の頭になる適性があるよ!』

ザワザワザワザワ!!

エマ『………………』

エマ(どうしてこうなったの!?)

582: 名無しで叶える物語(茸) 2021/05/23(日) 13:39:23.27 ID:6yxsIxk2




エマ(こうしてわたしの周りには人が増えた)

エマ(噂というものはすぐに広がるもので)

エマ(わたしは気が付けば不良の親玉と呼ばれるようになっていました)

エマ(上手く話せないわたしは流れるままに、そんな日常を過ごしてしまい)

エマ(気が付けば……3年生になっちゃってた……)


「エマさん!」

エマ「ん? どうしたの〜?」

「今度英語の補習があるんすけど……少し教えてほしい所がありまして」

エマ「うん。いいよ」

「ありがとうございます!」

「勉強も出来て、クールでかっこいい……エマさん本当に素晴らしい人だよな……」

「溢れ出る母性も推せるぜ……」

エマ「あ、あはは……」


ただ、幸いにもこの子達は悪い子ではなかった。友達のいないわたしを慕ってくれるし、ケンカは極力しないで! と頼んだら控えてくれるようになった。

同じ立場の子達とはケンカしてるみたいだけれど……一般の子達には絶対に手を出さないって言ってくれてる。

全てのケンカは抑制できないけれど、わたしがこうして親玉と呼ばれているのも意味はあるのかもしれない。

でも……わたしは──。


エマ(スクールアイドルに──なりたいよ)

583: 名無しで叶える物語(茸) 2021/05/23(日) 13:45:57.25 ID:6yxsIxk2
「そーいえば、愛さんスクールアイドルになるみたいですよ?」

エマ「へ?」

エマ「愛ちゃんが……?」

「はい」コクリ

「ちょっと前に連絡あったよねー」

「もう本格的に練習もしてるみたいっすよ」

「この前スクールアイドルのかすみんと一緒に練習してたの見たよ」

「か、かすみん? 誰?」

「だから最近こっち来てなかったのか愛さん」

エマ「…………」

エマ(愛ちゃんが……スクールアイドル!? あの愛ちゃんが!?)

584: 名無しで叶える物語(茸) 2021/05/23(日) 13:49:13.88 ID:6yxsIxk2
エマ「…………」

「? どーしたんすか? エマさん」

エマ「え!? いや……な、なんでもない」


「あいきゃんしーざすたーらい!♪」

ガラガラ!! ──バァン!!


エマ「!?」

「「「!?」」」

果林「みんなお待たせー! ミーティングってこの教──」

エマ「か、果林ちゃん?」

果林「あれ? エマ!?」

果林「ってみんなは!?」

果林「あれ? ここ……3301の教室じゃないの?」キョトン

エマ「えっと……ここは3201だよ?」

果林「ま、間違えた! また教室間違えちゃったよぉ!!」

果林「この学校広すぎ!!」

585: 名無しで叶える物語(茸) 2021/05/23(日) 13:53:09.48 ID:6yxsIxk2
「な、なんだアイツ……」

「エマさんに馴れ馴れし過ぎね?」

「つーか誰?」

果林「ん? わたしはスクールアイドルの朝香果林だよ!」

エマ「!?」

エマ「スクール……アイドル?」

果林「うん!」

果林「──あっ! そーだ!!」パァァァァ

果林「ねぇねぇ! エマ!」ギュッ

エマ「え!?」

果林「エマもスクールアイドルにならない!?」

エマ「──へ?」

588: 名無しで叶える物語(茸) 2021/05/23(日) 14:19:37.40 ID:6yxsIxk2
果林「わたし、今スクールアイドル同好会に入ってるの!」

果林「この前歩夢ちゃんのライブ一緒に見てたのも何かの縁だし、エマも一緒にやろーよ!」ニコッ

エマ「わ、わたしが……え?」

果林「ほら! エマ可愛いし、同じ3年生の彼方もいるよ!」

エマ「…………」

エマ(スクールアイドル……!?)

果林「しかも今度ね! 同好会の皆と講堂借りてライブもやるから! 今から練習すれば間に合うよっ」

エマ「…………」

果林「ね?」ニッコリ


息が詰まる。
自信がなくて、自分から歩み出せなかったスクールアイドルへの一歩。

589: 名無しで叶える物語(茸) 2021/05/23(日) 14:22:21.05 ID:6yxsIxk2
エマ「い、良いのかな……」

果林「え?」

エマ「わたし……スクールアイドルになって……」

「「「!?」」」

果林「当たり前じゃん!」ニコッ

エマ「!!」

果林「まぁまぁ、とりあえずさっ」

エマ「え?」

果林「これからミーティングがあるから、始めるか始めないかはその内容を見学してからでもいいし」

果林「教室まで一緒に行こーよ!」

果林「てか案内して!」ニッコリ

エマ「う、うん……わかった!」

「「「え、エマさん!?」」」

エマ「ご、ごめんねみんな! 少し席外すね?」

果林「えへへ〜! かんべんよ〜!」

タッタッタッタ!!

「「「……」」」

「「「え、エマさん取られたぁ!!」」」

596: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/23(日) 21:12:50.45 ID:uiSIl6MK
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


かすみ「…………」イライラ

歩夢「……(かすみちゃん、すごく機嫌悪そう)」

彼方「果林ちゃん遅いね」

しずく「何かあったんかなぁ?」

せつ菜「道に迷ってるのかもしれませんね」

璃奈「探しに行くかい?」

愛「確かに」


タッタッタッタッ!!


愛「おっ? 来たんじゃね?」


バァン!!


果林「お、お待たせしま──」

かすみ「遅いですッ!!」

果林「ひぃ!!」ビクッ!

かすみ「今……何時だと思ってます?」ニコニコ

果林「じゅ、16時半です」

かすみ「集合時間は?」ニコニコ

果林「じゅ、16時です」

かすみ「……」ニコニコ

果林「あ、あはは……か、かんべんよ?」

かすみ「……」

かすみ「遅刻するのは仕方ないですけど、せめて連絡はしなさいッ!!」

果林「ひ、ひぃぃぃぃ!! ごめんなさい〜!!」

かすみ「たくっ」プイッ

歩夢「あ、あはは……」

歩夢「果林さん。かすみちゃんはその、果林さんを心配しててですね? その……」

果林「わ、わかってる……本当にごめん……」

「ち、違うの! 果林ちゃんの事、あまり怒らないで!」

歩夢「え?」

598: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/23(日) 21:27:46.77 ID:uiSIl6MK
エマ「……」

愛「え、エマさん!?」

歩夢「!!」

歩夢(エマさん……)

かすみ「え?」

かすみ「……不良の親玉のエマ・ヴェルデさん?」

エマ「……うん」

エマ「──あっ! でも今はその事は触れないで!」

エマ「果林ちゃんは……わたしをここへ連れてきてくれる為に遅れちゃったの」

彼方「ど、どういうこと?」

果林「あっ! そうそう!」

果林「エマもスクールアイドルになろって、わたしが誘ったの!」

かすみ「は?」

しずく「まじ!?」

かすみ「……果林先輩、本気で言ってるんですか?」

果林「うん! まぁでも決めるのはエマだけどね!」

かすみ「いや、私が言いたいのはそういう事ではなくてですね……」

エマ「あ、あの!」

かすみ「?」

エマ「わたし……その、皆さんに伝えたいことがあるの」

せつ菜「伝えたいこと、ですか?」

エマ「う、うん!」

エマ「わたしね……本当はその……──」




601: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/23(日) 21:46:52.67 ID:uiSIl6MK
「「「……」」」

エマ「だから……そのね」

エマ「わたし、スクールアイドルになりたいの」

バンッ!!

愛「……」

エマ「あ、愛ちゃん!?」

璃奈「おそろしく早い土下座。私じゃなきゃ見逃しちゃうね」

愛「も、申し訳ございませんでした!!」

エマ「ど、どうしたの!? 制服汚れちゃうよ!?」

愛「いやだって……」

愛「エマさんに変な噂立ったの完全にアタシのせいじゃないですか!!」

愛「そ、それのせいで……! 本当に申し訳ございません!!」

エマ「だ、大丈夫だよ! ほら、わたしも愛トモのみんなと交流できたし、楽しかったし!」

愛「え、エマさん……」

せつ菜「確かにおかしな話だと思っていたんですよね。エマさんの悪い噂は全然聞きませんでしたし」

果林「てか、エマって不良って言われてたの? 周りの子達も友達だと思ってたよー」

しずく「まぁ友達なのは間違ってなかったっぽいけどね」

果林「ってことは! エマ!」

果林「スクールアイドルになろうよ! 思いっきり!」

エマ「…………」

果林「なりたかったんだよね? スクールアイドル!」

エマ「……うん……」

エマ「でも……わたし……不安で……」

603: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/23(日) 22:13:47.26 ID:uiSIl6MK
歩夢「エマさん」

歩夢「不安な気持ち、私もすごく分かりますよ」

歩夢「私もいまだに歌う前とかは不安になっちゃいます」

エマ「え? あんなに良いライブして……歌ってたのに?」

歩夢「見ていてくれたんですか? ありがとうございます」ニコッ

エマ「う、うん!」

エマ「ほ、本当に良いライブだったよ! 凄かった!」

歩夢「……そんな言葉が、私の不安な気持ちを飛ばしちゃってくれるんです」ニッコリ

エマ「え?」

歩夢「良かった、凄かった。聞いてくれた子達からそう言って頂けるの、本当に嬉しいの」

エマ「……」

歩夢「──スクールアイドルを始めるきっかけは、何でもいいんです」

エマ「……」

歩夢「エマさん。不安で一歩も進まないのは、絶対に後悔に繋がっちゃいます」

エマ「!!」

歩夢「一緒に始めましょう、エマさん!」

歩夢「私、あなたと一緒に歌いたい」

エマ「歩夢ちゃん……」

604: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/23(日) 22:19:58.30 ID:uiSIl6MK
歩夢(──エマさん、本当に良かったです)

歩夢(エマさんが不良の親玉と呼ばれていて、すごく不安だったけれど)

歩夢(でも、そう呼ばれていたのだって)

歩夢(エマさんが優しいからだ)

歩夢(この世界のエマさんも……私の知るエマさんと同じで、とっても優しい人)

歩夢(──ううん。エマさんだけじゃない)

歩夢(みんな、優しいんだ)

歩夢(みんな──本質は一緒で)

歩夢(私の大好きな子達だ)

歩夢「……一緒に始めましょう!」

歩夢「スクールアイドル!」

605: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/23(日) 22:26:32.57 ID:uiSIl6MK
彼方「私達、スクールアイドルはね」

彼方「皆ソロなんだよ」

エマ「ソロ?」

彼方「うん。他のスクールアイドルみたいにグループじゃないから、自分の好きなようなスクールアイドルを目指せるの」

彼方「あなたが目指すスクールアイドルに、自分のペースでね」

エマ「自分のペースで……」

彼方「うん」ニコッ

彼方「だから初心者にはオススメだよ? 一緒にスクールアイドル始めよーよ」

彼方「なんなら部長の私は幽霊部員だからね、なんでもありの良い部活だよ〜」ニコニコ

エマ「え!?」

かすみ「彼方先輩、最後の一言で台無しです」

607: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/23(日) 22:36:41.70 ID:uiSIl6MK
かすみ「まぁ、でも……彼方先輩の言う通りですね」

かすみ「どこかの誰かさんの影響を受けてか、最近スクールアイドル志望の子が多いんです」

歩夢「あはは……」

かすみ「部員も増えています。余計なの一人いますけどね」

璃奈「おいおい、誰の事だい?」

しずく「璃奈、今良いシーンだから静かに」シー

璃奈「ん」グッ

エマ「……」

かすみ「あなたのスクールアイドルの為に日本まで来た行動力、私は尊敬します」

かすみ「その熱意と行動力を活かさないのは、勿体ないです」

かすみ「だから……一緒に始めましょう。スクールアイドル」

歩夢「かすみちゃん……!」

かすみ「……ふんっ///」プイッ

608: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/23(日) 22:42:21.83 ID:uiSIl6MK
せつ菜「エマさん!」

せつ菜「私も、スクールアイドルになったばかりですが……本当に楽しいんですよ!」

せつ菜「一緒に始めましょう!」

しずく「あたしも大歓迎〜!」

しずく「人数が増えれば賑やかになるし!」

しずく「サボり魔のあたしですら在席を許されてる良い部活だよ?」ニコッ

しずく「一緒にやろーよ! スクールアイドル!」

璃奈「私も同じタイミングで始めてくれる人がいるのは助かる」

璃奈「それに、あなたはあの時一緒に歩夢さんを見ていたし。これも何かの縁だよ」

璃奈「端的に言うなら、一緒にやろう」

エマ「……!」

609: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/23(日) 22:53:09.42 ID:uiSIl6MK
愛「エマさん!」

エマ「愛ちゃん……」

愛「アタシ、あなたに謝りたい事ばかりです」

愛「スクールアイドルになったのも、本当はすぐに報告したかったんですけれど……自信をつけてからにしたかった……」

愛「その……えっと……言葉選びが下手でごめんなさい。──い、色々言いたい事ありますけど!」

愛「話したい事ばっかりあるので! 一緒に同じ部活で……スクールアイドル、始めましょう!」

愛「お願いします!」ペコリ

エマ「……!!」


果林「エマ」

果林「やりたいと思った時から」

果林「きっともう始まってるんだよ」

エマ「──」

610: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/23(日) 22:54:03.32 ID:uiSIl6MK
エマ「わ、わたし!!」

エマ「スクールアイドルに」

エマ「──なりたい!!」

612: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/23(日) 23:01:26.59 ID:uiSIl6MK
エマ「だからわたしを、スクールアイドル同好会に──」

歩夢「エマさん!」バッ

ギュッ!!

エマ「あ、歩夢ちゃん!?(こ、こんな子だったっけ!?)」

歩夢「エマさんがスクールアイドル同好会に入ってくれて……嬉しい……!」ギュュュュ

エマ「歩夢ちゃん……!」

果林「あ! ズルい! わたしも混ぜてよー!」ギュッ!!

エマ「か、果林ちゃん!?」

彼方「あー、私も混ざる!」

せつ菜「私もです!」

璃奈「私も便乗しよう」

しずく「あたしもー!」

かすみ「はぁ……全くみんな暑苦しいですよ?」

愛「あ、アタシも混ざる!!」

かすみ「──え?」


ワイワイガヤガヤ


かすみ「……」

かすみ「わ、私も混ぜてくださいよ!!」バッ

614: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/23(日) 23:22:47.47 ID:uiSIl6MK
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜講堂 控え室〜

せつ菜「っ〜〜〜〜〜!!」

せつ菜「ついに来ましたね! ライブの日が!」

せつ菜「お客さんもたっくさん来てました!」ペカー

歩夢「ふふっ、せつ菜ちゃん燃えてるね」ニッコリ

せつ菜「はい! こんな大勢の前でライブできるんですから、本当に楽しみです!」

歩夢「楽しみにしてるね!」

せつ菜「はい!」

せつ菜「──ただ、歩夢さんは出なくてよかったんですか?」

せつ菜「歩夢さんだけでなく、しずくさんも彼方さんも璃奈さんも……」

歩夢「私はほら……前ライブやらせてもらったし、今回は皆のサポートをしたかったから」

しずく「歩夢さんと同じで、あたしもサポートしたかったからね〜」

璃奈「私は単純にまだ曲が出来てない」

彼方「私はさすがに勉強優先だし、中途半端にライブするのは申し訳ないからね。サポートはいくらあっても困らないし、今日はフォローに回るよ」

しずく「……」

せつ菜「なるほどですね……いつか皆さんとライブしたいですね」ペカー

歩夢「うん!」

せつ菜(歩夢さんとライブ共演したかったなぁ……)

616: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/23(日) 23:36:30.96 ID:uiSIl6MK
愛「…………」ソワソワ

かすみ「愛先輩、今日の例の動きについてなんですが」

愛「!!」ビクッ!!

愛「な、なんだ!?」

かすみ「えぇ……そんなにビックリします?」

愛「う、うるせぇな! 集中してたんだよ!」

かすみ「あれぇ〜? もしかして、緊張してますか〜?」ニヤニヤ

愛「し、してねぇよ!!」

かすみ「……大丈夫ですよ、愛先輩」

かすみ「練習、してきたでしょ?」

愛「!!」

かすみ「努力は裏切りません」

かすみ「それに、あなたは運動神経も良ければ歌も上手い。非常に高いスペックの持ち主です」

かすみ「期待してますよ」ニコッ

愛「かすみ……」

かすみ「まっ、何かあったらフォローくらいはしてあげますよ! スクールアイドルとしては、かすみんの方が先輩ですからね!」エッヘン!

愛「……乗せるのが上手いな、かすみは」

かすみ「褒めても何もあげませんからね」

愛「ぷははっ、かすみんから切り替えるの早すぎだろ!」

かすみ(よし、良い感じに緊張解れたみたいだね)

617: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/23(日) 23:48:16.07 ID:uiSIl6MK
果林「はぁぁぁ……!」

果林「エマのライブ衣装、かえーしきゃー!」

エマ「そ、そうかな?」

果林「うん! 今日のライブ、楽しもーね!」ニッコリ

エマ「う、うん!」

エマ「………………」

果林「エマ? 大丈夫?」

エマ「う、うん! 大丈夫……!」

エマ(緊張で、胸が痛くなってきた……が、頑張らないと……)

エマ(頑張らないと……頑張らないと……!!)

果林「?」

果林(エマ……?)

619: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 00:12:19.78 ID:u5mHBfvt
かすみ「──では皆さん。今日のライブの流れを再確認します」

かすみ「歌うの順番としてはせつ菜先輩、愛先輩、私、エマ先輩、果林先輩の順番です」

かすみ「せつ菜先輩が最初に歌ったその後、愛先輩がせつ菜先輩のMCに合流します」

かすみ「せつ菜先輩バック後には、私と愛先輩が例の歌を披露。その後は愛先輩のソロと私のソロを披露します」

かすみ「そして、エマ先輩はステージ裏から歌いながらステージに入場。そのままソロ披露を続けます」

かすみ「トリは果林先輩です」

果林「あいさー!」

せつ菜「つ、遂に始まりますね!! 皆さん頑張りましょう!!」

愛「だな! 頼りにしてるからな。せつ菜っ」

せつ菜「私も同じ気持ちですよ! 愛さん!」ペカー

エマ「……」

かすみ「ん? エマ先輩?」

エマ「え!?」

かすみ「大丈夫ですか?」

エマ「あはは……ちょっと緊張しちゃって……」

かすみ「……あなたは練習通り、綺麗な歌声をそのまま披露すれば良いんですよ。リラックスです」

かすみ「マッサージでもしてあげましょーか?」

しずく「お? セクハラか〜? かすみ〜」

彼方「やらしいな〜かすみちゃん〜」

かすみ「うっさいよ! この能天気コンビ!」

エマ「あ、あはは……だ、大丈夫!」

エマ「わたし、頑張るね!」

かすみ「……何かあったらすぐに言ってくださいね?」

エマ「う、うん!!」

しずく「……」

彼方「……」

かなしずかす(大丈夫かなぁ……)

620: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 00:22:52.50 ID:u5mHBfvt
歩夢『──それでは! まもなく公演開始です! みなしゃ! ……み、皆さん! 楽しんでいきましょう!!』


パチパチパチパチ!! ──アユムチャンカワイイー!!


歩夢「うぅ……大事な所で噛んだ……」

璃奈「歩夢さん可愛すぎなんだけど。一生推すよ。すき」

歩夢「あ、ありがとう」

璃奈「──よし。音響セッティングも問題なさそうだね。ここは任せてよ歩夢さん」

歩夢「うん! よろしくね璃奈ちゃん! 後でしずくちゃんがこっち来てサポートするからっ」

璃奈「うい」グッ

タッタッタッタッ!!


璃奈「……」

璃奈「皆、ファイトだ」グッ

璃奈「……それにしても……」

璃奈(ライブ前の、このワクワク感。いいね)

璃奈「私もいつかやってみたいもんだね。……ライブ」

621: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 00:30:53.26 ID:u5mHBfvt
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

せつ菜「みんなー? 元気ー?」

せつ菜「優木せつ菜です!」

せつ菜「わぁぁぁぁぁ!! 綺麗な景色ですね……!」

せつ菜「最高のパフォーマンスを見せるので、皆さん盛り上がる準備は出来ていますかー!?」


「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」


せつ菜「ッ!!」ゾワゾワ!!

せつ菜(き、気持ちいい……!)

せつ菜(最高っ!!)

せつ菜「では! 1曲目、いきましょう───!!」

622: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 00:36:26.61 ID:u5mHBfvt
せつ菜「ミュージック、スタート!!」


♪〜


せつ菜「ワン、ツー」

せつ菜「ワン、ツー」

せつ菜「ワンツースリフォー」

せつ菜「──ハイッ!!」


「「「──ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!」」」


せつ菜「好きなこと」

せつ菜「私だって ここに見つけたんだ」

せつ菜「力 いっぱい 頑張れるよ」

せつ菜「本当の自分だから────♪」

623: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 00:36:50.11 ID:u5mHBfvt
【MELODY】

624: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 00:48:29.96 ID:u5mHBfvt
愛「!! 始まったな、ライブ」

歩夢「うん!」

歩夢「わぁぁぁぁぁ……!!」

歩夢(せつ菜ちゃんのライブ、やっぱりすごい!!)

かすみ(初ライブであのパフォーマンス……凄すぎるでしょ)

歩夢「せつ菜ちゃん、かっこいいなぁ」ウットリ

かすみ「…………」プクー

かすみ「歩夢先輩。私の歌もちゃんと聞いてて下さいね?」

かすみ「この前のあなたのライブより凄いのやりますから!」

歩夢「うん! 楽しみにしてるね、かすみちゃん!」ニコッ

かすみ「!! ……ふんっ! 期待してて下さい////」プイッ

彼方(甘えベタなネコみたいだなぁかすみちゃん)

彼方(さて、と。私も自分の仕事しないとね)

彼方「──愛ちゃん。この後のMCの流れ、もう一回復習するよ? いい?」

愛「わかった!」




625: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 00:58:52.22 ID:u5mHBfvt
愛「そんじゃ──行ってくる!」

愛「歩夢! しっかり見とけよ!」

歩夢「うん! 頑張ってねっ! 愛ちゃん!」

愛「あぁ!」ニコッ


タッタッタッタッ!!


彼方「よーし。愛ちゃんがせつ菜ちゃんのMCに合流したね。かすみちゃん、準備できてる?」

かすみ「かすみんはいつでも大丈夫です!」

彼方「おっけ〜!」


エマ(わたしの出番が……近づいてくる)

エマ(大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫)

エマ「……はぁ……はぁ……!」

果林「……エマ?」

エマ(大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫)

エマ(成功、させなきゃ!)

エマ(スクールアイドルの初ライ──)

エマ(──あれ?)クラッ


バタンッ!!


果林「──え?」キョトン

彼方「エマちゃん……?」


エマ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!」


歩夢「え、エマさん!?」

627: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 01:07:59.36 ID:u5mHBfvt
かすみ「え、エマ先輩?」

彼方「エマちゃん! 大丈夫!?」

エマ「はぁ、はぁ……はぁっ……ッ……はぁ……!!」

彼方(か、過呼吸を起こしてる……!!)

彼方「エマちゃん! 大丈夫、大丈夫だよ」

彼方「息を吸って、ゆっくり……ゆっくりで大丈夫。ゆっくり息を吐き出して?」

エマ「ッ……!!」コクンコクン

果林「え、エマ……」

歩夢「……エマさん……」


エマ(な、なんで?)

エマ(なんでいま……)


『エマさん、その日本語変だよ〜』


エマ(あの時のこと……思い出すの……?)

628: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 01:22:50.27 ID:u5mHBfvt
かすみ「え、えっと……」

彼方「!!」

彼方(まずい、ライブはもう始まってるのに)

彼方(中止には、できない。少しでも時間を稼ぐしかない。エマちゃんが落ち着くまで)

彼方「歩夢ちゃん、エマちゃんの背中を優しくさすってあげて」

歩夢「は、はい!」

彼方「かすみちゃん」

かすみ「!!」

彼方「少し、MCの時間を伸ばしてほしい。愛ちゃんとの歌が終わった後のね」

かすみ「……分かりました」

彼方「大丈夫そうだったり、通常進行に戻して良いタイミングとかに関しては、しずくちゃんに連絡してかすみちゃんに連絡するようにする」

かすみ「分かりました! ──では、行ってきます!」

彼方「うん! よろしくね!」


プルルルル ピッ


しずく『かな姉、どうしたの?』

彼方「しずくちゃん、この後かすみちゃん達のMCなんだけど──」


エマ「わ、わたし……ごめ……なさ……!!」

歩夢「だ、大丈夫ですよエマさん!」

果林「……エマ……」

629: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 01:29:43.26 ID:u5mHBfvt
タッタッタッタ

かすみ「みなさーん!」

せつ菜「かすみさん!」

愛「おっ! 待ってたぞかすみーん!」

かすみ「お待たせしましたぁ〜!」キャピッ

かすみ「会場の皆さんも、今日は集まってくれてありがとうございます〜!!」

せつ菜「──ではでは! 後は任せましたよ、お二人共!」

かすみ「はーい! 先輩また後でね〜!」

愛「みんな! せつ菜にもう一度拍手を頼む!」


パチパチパチパチ!!


せつ菜「あははっ! みんな、またねー!」

せつ菜(ライブ……最高過ぎます!!)


タッタッタッタ


かすみ「ではでは、この後は皆さんに特別な歌をお届けしちゃいますよ〜?」

かすみ「愛先輩〜! 準備は良いですか〜?」

愛「まっかせて!」

630: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 01:40:59.33 ID:u5mHBfvt
愛(よし、この後はかすみとステージ真ん中に行って、背中を合わせる)

愛(そんで、照明が暗くなるから……タイミングを合わせて歌う!)

ササッ ピタッ

愛(よし、順調! 照明も暗くなったし、後は──)

かすみ「…………」

カチッ

愛(へ? かすみ、マイクの電源切った?)

かすみ「愛先輩。何も反応せずそのまま聞いてください」ボソッ

愛「!?」

かすみ「トラブルが起きました。なのでMCの時間を少し伸ばしますので、アドリブが入ります。合わせて下さい」ボソボソ

愛(え、えぇ!? そんなこと出来──)

かすみ「愛先輩なら出来ます」ボソッ

かすみ「あなたは天才ですから。頼りにしてます」ボソッ

愛「!!」

愛「……」コクン

かすみ「……」コクン

カチッ

かすみ「ではでは! ミュージックスタート〜!」

631: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 01:45:28.45 ID:u5mHBfvt
♪〜

かすみ「Hey!」

愛「Love!」

かすみ「Come on!」
愛「Come on!」

かすみ「かすみん!」
愛「愛さん!」

632: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 01:47:39.64 ID:u5mHBfvt
【ダイアモンド -デュエットver-】

634: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 02:00:56.82 ID:u5mHBfvt
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

彼方(まずい。もうすぐ2人の歌も終わっちゃう……! エマちゃんの呼吸は落ち着いてきたけれど……!)

エマ「……ご、ごめんなさい……みんな」

エマ「やっぱり……わたし……」

エマ「スクールアイドルに……なれないよ……!」

果林「ど、どうして?」

歩夢「沢山練習してきたじゃないですか……」

エマ「──いの」

果林「え?」

エマ「怖いの……!!」

エマ「わ、わたし……日本語変だし、自信がない……!!」

エマ「わたし……昔スイスで観た……スクールアイドルの子の様になれる……自信が、ない!」

果林「──エマ!!」

果林「あなたはスクールアイドルになりたいの!? その憧れた子になりたいの!?」

エマ「!!」

636: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 02:15:28.21 ID:u5mHBfvt
果林「……エマはエマでしょ? その子は憧れの子かもしれないけれど、エマじゃない!」

果林「エマは……エマ・ヴェルデっていうスクールアイドルになりたくて日本に来たんでしょ!?」

果林「違うの!?」

エマ「わ、わた……わたしは……!」

果林「それにね」

果林「エマは日本語、上手だよ」

果林「わたしなんかよりも──ずっと!」

エマ「!!」

果林「海外に来て、そこに住んで、そこの人達と意思疎通ができるんでしょ? すごいよ」

果林「わたしには同じ事、できないよ」

エマ「……」

果林「……怖い気持ちは分かる。わたしだって怖い!!」

エマ「かりん……ちゃん……」

果林「でも……ここで立ち止まっていても……何も生まれないよ」

果林「わたし達は、スクールアイドルになったんでしょ!?」

果林「だったら……だったら……一歩、踏み出さなきゃ……!!」

果林「こんなスタート地点で立ち止まってちゃ……ダメだよ!!」

果林「エマ!!」ポロ、ポロ

エマ「果林ちゃん……っ!!」ポロポロ

637: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 02:24:22.12 ID:u5mHBfvt
歩夢「……」

歩夢「──彼方さん。私、1曲歌ってきます」

彼方「え? で、でも歩夢ちゃんの音源の準備……今日は……」

歩夢「いりません。アカペラでそのまま歌います」

彼方「!?」

歩夢「──エマさん!」

スタスタ

エマ「あ、歩夢ちゃん……」

ギュッ

エマ「え?」

歩夢「私、エマさんの歌……大好きです」ギュュュュ

歩夢「今から歌ってくる歌は……お客さんにもですけれど、あなたにも届けたい歌です」

歩夢「この前考えた歌なんですけど、名前は──」

歩夢「─────」ヒソヒソ

エマ「!!」

歩夢「ふふっ」ニッコリ

スタッ

歩夢「じゃあ、行ってきます!」

果林「歩夢ちゃん……」

エマ「…………」

歩夢「……エマさん」

歩夢「私、あなたの歌──聞きたいな」ニコッ

エマ「!!」

タッタッタッタ

638: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 02:31:13.55 ID:u5mHBfvt
かすみ(ッ、彼方先輩まだですか!?)

かすみ(MCは適切な時間を超えると、会場の空気がダレる!)

愛「ッ……!!」

かすみ(愛先輩も限界にな──)

タッタッタッタ

歩夢「みんなー!」

愛「へ?」

かすみ「!!」

かすみ「あー! 歩夢先輩〜!」

歩夢「えへへっ、こんにちはかすみちゃん!」

かすみ「制服姿でどうしたんですかぁ〜?」

かすみ「あっ! もしかして衣装忘れちゃったんですね〜?」ニヤニヤ

歩夢「ち、違うもん! もー!」プクー

歩夢「──とまぁ、茶番はここまでです!」

歩夢「皆さんこんにちは! スクールアイドルの上原歩夢ですっ!」ニコッ

歩夢「実は今日のサプライズだったんですけれど、1曲聞いて欲しい歌があるの!」


「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

639: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 02:34:36.63 ID:u5mHBfvt
歩夢「えへへ、ありがとうございますっ!」

歩夢「まだ作ってる途中の歌だから、音はないけれど──聞いてくださいっ!」

歩夢「──」スゥゥゥゥ

642: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 02:39:21.11 ID:u5mHBfvt
エマ「……」

──────────

歩夢『今から歌ってくる歌は……お客さんにもですけれど、あなたにも届けたい歌です』

歩夢『この前考えた歌なんですけど、名前は──』

──────────

643: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 02:40:29.99 ID:u5mHBfvt
【夢への一歩】

644: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 02:55:38.75 ID:u5mHBfvt
エマ「夢への……一歩」


──果てしない 道でも一歩一歩──

──諦めなければ 夢は逃げない──


エマ「」


──隣に あなたがいてくれるから──

──逆境も不安も 乗り越えていけるよ──


エマ「」


──ありがとう──

645: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 02:59:08.47 ID:u5mHBfvt
エマ「っ!!」

エマ「みんな、ごめんなさい!」

エマ「わたし──スクールアイドルになってきます」

果林「エマ!!」パァァァァ

彼方「エマちゃん!」


スタスタ

かすみ「……なんとかなったみたいですね」

エマ「か、かすみちゃん……ごめ──」

かすみ「謝らなくて大丈夫です、エマ先輩」

エマ「……」

かすみ「ダメなところも武器に変えるのが、一人前のアイドルですよ」

エマ「!!」

かすみ「それに、あなたがするべきことは謝ることじゃないです」

かすみ「集まってるファンの子達に……最高の時間を届ける事だよ」

かすみ「……行ってらっしゃい、エマ先輩」ニコッ

エマ「──うん!!」

エマ「行ってきます」ニコッ

647: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 03:10:15.90 ID:u5mHBfvt
エマ「──」スゥゥゥゥ


歩夢ちゃんの、夢への一歩が歌い終わる。

会場は大歓声に包まれている。

わたしはこの後、歌いながら入場する。そして、そのまま歌う。

……緊張はする。迷惑だって、沢山かけちゃった。本当にごめんなさい。

──そして同時に、本当にありがとう。

みんな大好き。

そして、今からわたしがみんなに届ける歌も──わたしが大好きな歌。

スイスにいた時、何百回と聞いた歌。
今日はそれをお借りして、歌わせて貰うことにした。

その歌の名前は──

648: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 03:12:46.18 ID:u5mHBfvt
【哀温ノ詩】

649: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 03:35:36.15 ID:u5mHBfvt
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


──ライブが終わり数日後。

再び平和な時間が戻ってきた。

でも、少し前と変わったことがある。それは──


「エマさん! 今度のライブ、いつやるんですか!」

エマ「え? うーん。この前やったばかりだからなぁ」

「一週間後くらいにはやりますか!?」

エマ「さすがにそれはないよ〜」

「生き甲斐が……」

「週一くらいでやってほしいよね」

「スクールアイドルの方々の体力が持たないっしょそれ」

「ライブを企画する適正を持って、校内で企画する?」

「それあり!」

エマ「あはは……」


──わたしを慕ってくれる子達が、すっかりスクールアイドルにハマったみたい。同好会のライブに来てくれたみたい。

サイリウム振る手を怪我したくないからケンカも二度としないって言われました。

スクールアイドルの影響力って本当に強い……。

650: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 03:38:40.78 ID:u5mHBfvt
タッタッタッタッ!!

果林「あれ!? ここどこ!?」

エマ「あっ、果林ちゃん」

果林「!! エマー!!」

エマ「!? ど、どうしたの果林ちゃん?」

果林「科学室の行き方が分からないよー!!」

エマ「えー? また? もー、仕方ないなぁ〜」

エマ「案内してあげるね!」ニッコリ

果林「ほんと!? やったら〜!!」バンザーイ

エマ「えへへ!」ニッコリ

エマ「──あっ、みんなごめんね? ちょっと果林ちゃん送ってくるね?」

「「「あっ……はい」」」

果林「いやはや、かんべんよ〜」


タッタッタッタ!!


「「「…………」」」

「「「またエマさん取られた……」」」

651: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 03:40:52.32 ID:u5mHBfvt
果林「ねぇねぇ! エマ!」

エマ「ん? どーしたの?」

果林「えへへ!」

果林「なんかエマ、少し明るくなったよね」

エマ「え? そ、そーかなぁ?」

果林「うん!」

果林「前より笑うようになったし」

果林「あの時のライブのおかげ?」

エマ「ふふっ、そうだね」ニコッ

果林「立ち直った後のエマの歌……本当に良かったもん。わたし泣いちゃったよ〜」

エマ「それ何回も聞いたよ果林ちゃん〜」

果林「ほんと?」

果林「あー、でもエマの歌ばっかり目立ってたけど……ラストを締めたわたしの歌も評価してほしいんだよなぁ……」

エマ「それも何回も聞いたよ」

果林「え? そーだっけ?」

エマ「4回は聞いてるよ?」

果林「意外と少なかった!」

エマ「いや多いと思うよ?」

652: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 03:46:47.20 ID:u5mHBfvt
エマ「ちなみにわたし、果林ちゃんの『Starlight』大好きだよ? かっこいいし、普段可愛い果林ちゃんとのギャップがエモエモだよ〜!」

果林「え、えも?」

果林「まぁ、よく分からないけどありがとうね!」

エマ「うん!」

エマ「……ふふっ」ニコニコ

果林「? どーしたのエマ?」

エマ「んーん」

エマ「スクールアイドルになって良かったなって思ったのっ」ニコッ

果林「えへへ! 私もそう思う!」


──果林ちゃん。あの時わたしをスクールアイドルに誘ってくれて、ありがとうね。

654: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 03:48:04.39 ID:u5mHBfvt
エマ「果林ちゃん!」

果林「?」

エマ「これからも一緒に」

エマ「一歩一歩」

エマ「歩いていこうね!」ニコッ

果林「──うんっ!」ニッコリ

655: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 03:49:03.85 ID:u5mHBfvt
【Members walking together】

【NEXT】

【天王寺璃奈】

656: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/24(月) 03:49:13.24 ID:u5mHBfvt
つづく。

682: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/25(火) 23:16:27.04 ID:v+NaDEeT
『ねぇ! きみ、なんて名前なの!?』

『え?』


──これは、また夢だろうか?

教室? かな?
そこにはたくさんの子供達で賑わっていた。

でも、不思議な事に顔や声を認識できるのは2人だけだった。

教室の入口のすぐ近くの席に座る、2人の女の子。

私をその子達を第三者目線で見つめていた。


『あっ! ごめん。まずは自分から自己しょーかいだよね!?』

若葉『わたしは五十嵐若葉! よろしくねー!』


小さい頃の侑ちゃんと同じ見た目をしたその子は、私の知らない名前だった。
「ぱ」と1文字だけ書かれた不思議なTシャツを来ているその子は、ニカッと笑い──小さい頃の私に声をかけている。


歩夢『わ、わたしは……上原歩夢』

若葉『歩夢ちゃん!』パァァァァ

若葉『かわいい名前だね!』ニコッ

歩夢『か、かわ……!?////』

若葉「うん! 歩夢ちゃん、見た目もかわいいけど名前もかわいい!」

歩夢「え、えぇぇぇぇ!////」


顔を真っ赤にしている私。なんだか微笑ましいなぁ。

684: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/25(火) 23:31:47.07 ID:v+NaDEeT
若葉『ねぇねぇ! 歩夢ちゃんどこに住んでるの!?』

歩夢『え、えっとね。し、東雲』

若葉『ほんと!? 私も東雲だよー!』ニコニコ

歩夢『そ、そうなの?』

若葉『うんっ!』

若葉『東雲の団地に住んでてね! 場所は──』


グイグイと私に話をかける若葉……ちゃん?

──うん。若葉ちゃん。

彼女は、小さい私に話しかけ続ける。
中々のマシンガントークだけど、私と満更でもない表情をしている。

私は自分から話しかけるのがあまり得意ではないから、こうして率先して話し掛けてくれるのは非常に助かる。
それは昔から変わらないの。

685: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/25(火) 23:37:57.47 ID:v+NaDEeT
若葉『でも、良かったぁ〜』

歩夢『んー?』

若葉『歩夢ちゃんと席がとなりで! いがらしとうえはらで席があいうえお順だから良かったよぉ〜。私、今日の入学式……友達できるか不安だったんだ〜』

歩夢『わ、わたしも……』

若葉『そうなんだ! 一緒だっ』ニカッ

歩夢『ふふふっ。そうだねっ』ニコッ


そっか。これは入学式の日の映像なんだ。

という事は、やっぱり前見た夢もそうだけど……これは──この世界の上原歩夢の……記憶?

私と侑ちゃんは小さい頃からの幼馴染で、幼稚園も一緒だった。
でも、この子と若葉ちゃんは今日が初対面みたい。

ただ、若葉ちゃんがどうにも知らない子には思えない。話し方、笑顔、見た目。全て私の大好きな子と一緒だ。

……若葉ちゃん、あなたはもしかしてこの世界の──

──侑ちゃん?







『ねぇ』

歩夢「──え?」


誰かから声をかけられる。

その瞬間──私が見ていた景色は消え去り、変わる。

686: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/25(火) 23:41:44.86 ID:v+NaDEeT
歩夢「え!?」


教室ではなくなる。周りには何も無い白の世界。

奥行きも分からない、空も地面も何も無い世界。

そこに私は立っていた。


『ねぇ』

歩夢「!?」ビクッ!!


──後ろから再び声をかけられる。

恐る恐る振り返る。


歩夢「え?」

歩夢『……』


──私が立っていた。

687: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 00:03:55.44 ID:/IyPZPaL
歩夢「え? わ、私……?」

歩夢『……』

歩夢「あ、あの──」

歩夢『人の身体で好き勝手するのは楽しい?』ニコッ

歩夢「──え?」キョトン

歩夢『ふふっ』クスクス

歩夢「す、好き勝手……?」

歩夢『あなたの行動、わたしはずっと見てるよ』

歩夢「え? ……え?」

歩夢『……まぁ、別にいいんだけどね。感謝してる事もあるし』

歩夢『だから何したって構わないよ。……別に、未練も何も……ないし』

歩夢「…………」

歩夢『でもね』

歩夢「!?」





歩夢『わたしと若葉ちゃんの思い出には関わらないで』

690: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 00:30:47.37 ID:/IyPZPaL
ガバッ!!

歩夢「はぁ……!! はぁ……っ……はぁ……!!」

歩夢「ゆ、夢? い、今の……私……?」

歩夢「ッッ!! ──あたま……いたい……ッ……!!」ズキズキ

歩夢「はぁ、はぁ、はぁ……!」

歩夢「…………」

歩夢「……」


歩夢「わたしと若葉ちゃんとの思い出に、関わらないで」


歩夢「──え?」

歩夢「私……今……勝手に……?」

歩夢「喋った……?」

696: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 11:55:25.56 ID:/IyPZPaL
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

私の朝はコーヒーを飲んでから始まる。もちろんブラック。
昔は嫌いだった苦いブラックコーヒー。今ではすきな味だ。

これを飲むようになったきっかけはお母さん。

お母さんが淹れてくれたコーヒーにミルクと砂糖を入れる? と聞かれた時。私は何も考えずに首を横に振ってしまったんだ。

──お母さんと話すのが久しぶりで、何話していいかちょっと分からなかったんだよね。

思いを伝えるのって難しい。


璃奈「……」ズズ

璃奈「うま」


学校に行く前の朝。

──家には私以外誰もいない。

697: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 12:02:55.97 ID:/IyPZPaL
『──つまり、魂というのは、肉体とは別のものなのです。精神的実体として存在する、想像上の概念なんですね』

『なるほどぉ〜』

璃奈「……」ズズッ


私の両親は仕事でとても忙しい。その為、ほとんど家に帰ってこない。
お父さんは海外で仕事をしているし、お母さんは日本にいるけれど、泊まり込みの仕事が多い。

だから、私はほとんど一人で過ごしている。もはや一人暮らしだ。

でも、静か過ぎるのも嫌なので適当に朝から興味もないニュース番組を垂れ流している。内容は頭に入らない。だって興味ないもん。

……なに? 寂しくないかって? ──寂しいに決まってる。そんなの当たり前だ。まだまだ甘えたい年頃だもん。

でも、わがままは言わない。お父さんもお母さんも、人を救う為の仕事をしている。

両親は私の誇りだ。そんな人達に心配かけるような事はしたくない。

だから──我慢出来る。

698: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 12:19:01.21 ID:/IyPZPaL
『そんな魂と呼ばれるものが肉体から離れそうになる瞬間。例えるなら大きな事故にあった時などですね。生きるか死ぬかの時。その時に私達人間は、不思議な体験をす──』

ピッ

璃奈「ご馳走様でした」


コーヒーと軽食を食べ終わる。そのタイミングでテレビも消す。

そろそろ身支度を整えなければいけない。


璃奈「今日はどんな一日になるかな」

璃奈「学校、楽しみだ」


前までちょっと退屈だった学校も、今では楽しみの一つだ。

早く同好会の皆と会いたい。あそこは心地良い。


璃奈「ふふふ……今日もしずくちゃんと一緒にかすみちゃんをからかってやろっと」


自然と笑みが零れてしまう。早く学校に行こう。

そう思い私は身支度を整えるのだった。

700: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 12:41:33.03 ID:/IyPZPaL
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜放課後 部室〜


朝の頭痛もまるでなかった事かのように治まり、いつもの日々が始まった。

私が今の上原歩夢になって、約1ヶ月。夏が近づいてきたと思えるように、少し気温は上がってきている。

時が動いているという事がよく分かる。──前の私は今どうなってるんだろうか。

疑問が尽きないまま、今日も一日が始まる。


彼方「はぁぁぁぁぁ……」

しずく「すー……すー……」zzz

彼方「寝てるしずくちゃん……可愛い……かえーしきゃー」ウットリ

果林「え!? 彼方もしかして私と一緒の八丈島出身!?」

エマ「いや、果林ちゃんの真似してるだけだと思うなぁ。八丈島出身なら同い年の果林ちゃんは昔から彼方ちゃんと会ってるでしょ?」

果林「あっ、そっかぁ〜!」

歩夢「ふふっ。私もしずくちゃん可愛いと思います。癒されますよね」ニコニコ

彼方「だよね!? 歩夢ちゃんは分かる子だね」

歩夢「でも、本当に彼方さんはしずくちゃんの事が好きですよね。二人共とっても仲良しですし」

彼方「うん。私にとってしずくちゃんはもう一人の妹みたいなもんだからね〜。──さて」

彼方「そろそろ私は帰るね」

かすみ「今日もアルバイトですか?」

彼方「うん。その前に寄りたい所もあるし、今日も皆気を付けて練習してね」

彼方「あんまり参加できなくてごめんね」

エマ「大丈夫だよ〜。彼方ちゃん、お仕事頑張ってね!」

彼方「うん! みんなまたねー」


眠っているしずくちゃんの頭をぽんぽんと優しく撫でて、そのまま彼方さんは部室を出ていく。

彼方さん、本当に忙しそう。ちゃんと休めてるのかな?

私の世界の彼方さんは、寝るのが大好きな人だった。

でも、この世界の彼方さんは全くと言っていいくらい寝てる姿を見ない。
いつもハキハキとしていて、少し緩い雰囲気はあるけれど頼りになる先輩って感じだ。

……無理してたりしないかなぁ?

701: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 13:09:08.76 ID:/IyPZPaL
璃奈「歩夢さん」クイクイ

歩夢「ん? 璃奈ちゃんどうしたの?」

璃奈「今日、ボーカル練習をしようと思っているんだ」

璃奈「良かったら色々と教えてほしい。端的に言うなら、一緒に練習して」

歩夢「え? 私が?」

璃奈「うん」

歩夢「うんっ、いいよ! あんまりお役に立てないかもだけど」

璃奈「それはないよ」

璃奈「歩夢さんから色々教わる事が出来る。それだけでバフが乗るってもんだよ」

歩夢「バフって……あはは……」

璃奈「やる気が絶好調になるよ」グッ

歩夢(面白い例え方だなぁ)

702: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 13:25:16.91 ID:/IyPZPaL
かすみ「すごいやる気じゃん。天王寺璃奈」

璃奈「かすみちゃんはいつになったら私の事を名前だけで呼んでくれるんだい?」

かすみ「お墓に入った後かな」

璃奈「死してなお私の名を呼ぶとは……さてはあなた私の事がすきだね?」

かすみ「本当にそのポジティブさだけは見習いたいよ。それだけはね」

璃奈「照れる」

かすみ「はぁ……」イライラ

歩夢「あはは……二人共仲良くね?」

璃奈「超絶仲良しだよ。私とかすみちゃんはなかよし同好会だもん」

かすみ「まって、なにそれ初耳なんだけど。今すぐ退部したいんだけどそのなかよし同好会」

璃奈「照れるなよかすみちゃん」

かすみ「あああああああ!! 私、本当にこの子苦手!! 私に近づくな!!」

璃奈「分かった」グイッ

かすみ「来るなっての!!」

歩夢(なんだかんだ仲良し……なのかな?)

703: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 13:36:24.56 ID:/IyPZPaL
璃奈「まぁ、イチャイチャするのはこれくらいにしておくね」

かすみ「イチャイチャじゃない!!」

せつ菜「かすみさん、しずくさんが起きちゃいますから……」

せつ菜「──あ! あと歩夢さんとのボーカル練習は私も混ざりますね!」ペカー

璃奈「うん。いいよ。一緒に練習しよう」

璃奈「今はすごく練習を頑張りたい気分なんだ」

愛「そうなのか?」

璃奈「うん」コクリ

璃奈「この前の皆のライブは本当に素晴らしかったよ」

璃奈「色々とトラブルはあったけれど、お客さんは皆満足していた。関係者にしかトラブルが起きた事が分からない。全てパフォーマンスとアドリブでカバー出来た。そんなライブだった」

璃奈「本当に、見ていて胸が熱くなったよ」

704: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 13:52:01.00 ID:/IyPZPaL
璃奈「初ライブとは思えないくらいの仕上がりだったし、かっこよかったせつ菜さん」

せつ菜「ほんとですか!? 嬉しいです!」

璃奈「一生懸命頑張っていた、めちゃめちゃ可愛かった愛さん」

愛「か、かわ!?////」

璃奈「そんな愛さんをフォローしつつ、自分の可愛さを全力でお客さんに見せて、かすみんワールドを作っていた凄いかすみちゃん」

かすみ「……ふん」プイッ

璃奈「アドリブだったのに完璧な歌をアカペラで歌った私の憧れの歩夢さん」

歩夢「璃奈ちゃん……」

璃奈「そして……あまりの歌唱力の高さで会場の全員を魅力させたエマさん」

璃奈「お客さん、サイリウム振る事を忘れさせた人もちらほらいたよ」

エマ「……皆のおかげだよ。皆がいたから出来たの」ニコッ

璃奈「そしてその静寂さを、楽しいライブへと切り替えさせた果林さん。最後の締めの『Starlight』は本当にかっこよかった」

果林「えへへ〜! どーもよい!」

璃奈「つまり、端的に言うならね」

璃奈「皆、本当にすごかったよ」

璃奈「私も皆みたいなライブがしたいと思った」

璃奈「だから練習、頑張りたいんだ」

705: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 14:04:38.95 ID:/IyPZPaL
璃奈「私に皆みたいなライブが出来るかは分からないけど」

かすみ「──それはあなたの頑張り次第でしょ」

璃奈「え?」

かすみ「努力は裏切らないよ」

かすみ「やるって言うなら全力でサポートしてあげるよ」

璃奈「かすみちゃん……」ポカーン

かすみ「私以外の皆がね」プイッ

せつ菜「かすみさんはツンデレなんですか?」キラキラ

かすみ「全く違います。期待の眼差しと変な例え方やめてください」

愛「そんなこと言ってて何かあったら璃奈の事助けるんだろ? かすみは本当に良い奴だよなぁ〜、うりうり〜」ナデナデ

かすみ「髪が乱れるのでなでなでしないで下さいっ!」

璃奈「……ふふ」

璃奈「そっかぁ〜。なら全力で助けてもらおうかなぁ〜。かすみちゃんに」ニヤニヤ

かすみ「絶対助けない。寄るな天王寺璃奈」

璃奈「あはは! ツンデレめ〜」ニコニコ

かすみ「ツンデレじゃない!!」

璃奈(──ほんと、スクールアイドル同好会はいい所だ)

璃奈(だいすき)

706: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 14:14:26.51 ID:/IyPZPaL
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

♪〜

璃奈「──ふぅ、どうだった? 歩夢さん」

歩夢「うん! すごく良かったよ璃奈ちゃん!」

歩夢「ほどよく緊張も抜けてて、とっても聞き取りやすい歌だった」ニコッ

璃奈「ほんとーかい? ありがとう」

せつ菜「私もそう思います!」

愛「独特な歌い方だけど、印象に残るよな。──あっ、勿論良い意味で独特って事だからな?」

璃奈「二人もありがとう」

璃奈「ふむふむ……なるほど」

璃奈「歌は問題ないとしたら、後はダンスを猛特訓しなきゃだね」

せつ菜「ダンスですか?」

璃奈「うん」コクリ

707: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 14:28:10.52 ID:/IyPZPaL
璃奈「お客さん目線でライブを楽しむとしたら、勿論歌はとても重要だけど、それ以外にダンスも大事だと思うんだ」

璃奈「例えば頭の上で指をクイッ、クイってさせる動きをする。お客さんも真似しやすいような振り付けにしたら、その動きに合わせてお客さんもサイリウムを動かせるかもしれない」ピョン、ピョン

璃奈「そんなお客さんも楽しめる、参加型のライブ。それが出来たら良いなと思ってるんだ」

璃奈「折角ライブに参加してもらうんだ。CD聞くだけでは味わえない事も体験してほしいんだよね」

愛「なるほどなぁ……」フムフム

愛「──それ、めっちゃいいな!」

愛「アタシもそんな、参加してくれる皆が楽しめるライブがやりたい!」

璃奈「だよね? 気が合うね愛さん」

愛「アタシは便乗した感じだけどな! 璃奈のおかげで目標が決まったんだよ」ニカッ

せつ菜「本当に良いですねそれ! 私も参考にしますっ!」

璃奈「でしょ? これからもこんな感じで切磋琢磨していこう。えいえいおー」グッ

愛「おー!」
せつ菜「おー!」

708: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/26(水) 14:38:54.80 ID:/IyPZPaL
歩夢「私も応援するから、頑張ってね! 璃奈ちゃん」ニコニコ ナデナデ

璃奈「!?////」ビクッ!!

せつ菜「!!」

歩夢「あっ、ごめんね? ついまた頭を撫でちゃった……髪乱れちゃうよね?」

璃奈「もっと撫でて! もっともっと!」グイ、グイッ

歩夢「え、えぇ!?」

せつ菜「あ、歩夢さん! 私も撫でてください!」

歩夢「なんで!?」

歩夢「せつ菜ちゃん撫でるのは……ちょっと恥ずかしいよ……」

せつ菜「!? ──な、なんでですか!」

歩夢「ほ、ほら! 同級生だし……」

せつ菜「璃奈さんの方が大事なんですか!?」

歩夢「違うよ!?」

愛(こいつら歩夢の事好き過ぎるだろ……)

718: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/27(木) 00:16:13.30 ID:1tUGM5w7
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

璃奈(お昼ご飯、どこで食べようかな)


お昼ご飯はいつも学食で済ませているんだけれど、本日はおサイフを家に忘れてしまった。

仕方なくコンビニでスマホの電子マネーでお弁当を買って、今はそれを食べるスポットを探している途中だった。


スタ、スタ、スタ ──ギュッ

しずく「りーな!」

璃奈「え? しずくちゃん?」

しずく「やっほ〜」ニコッ


後ろから同級生のしずくちゃんに抱きつかれる。すごくいい匂いがする。

719: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/27(木) 00:34:39.86 ID:1tUGM5w7
しずく「こんなとこで奇遇じゃん! どしたの?」

璃奈「お昼ご飯を食べるスポット探してるんだけど、どこにするか絶賛迷い中なんだ」

しずく「マジ?」

しずく「ならあたしのおすすめスポットで一緒にご飯食べる?」

璃奈「え? いいの?」

しずく「あったりまえじゃ〜ん! あたし達友達なんだし!」

璃奈「え……?」

しずく「ん? どしたん?」

璃奈「……う、ううん。なんでもないよ」ニコッ

しずく「そっか!」

璃奈「ならお言葉に甘えて、ご一緒させてもらおうかな」

しずく「いいねいいね! じゃあいこ!」

ギュッ

璃奈「あっ」

しずく「早く早く〜」ニコニコ

璃奈「……うん!」ニコッ

璃奈(友達……うん、友達!)

璃奈「ふふっ」ニコニコ




720: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/27(木) 01:29:32.97 ID:1tUGM5w7
かすみ「──で? 連れて来たと?」

しずく「うん! 連れて来ました!」ニコッ

璃奈「連れられて来ました!」ニコッ

かすみ「はぁ……」

しずく「そんな溜め息つかなくていいじゃ〜ん! 同じ部活の仲間だぞ〜?」

璃奈「そーだそーだ」

かすみ「ちっ」

しずく「舌打ちやめろって」

璃奈「まぁ、冗談はさておきご一緒させてもらっていいかな?」

かすみ「……しょーがないからいいよ」

璃奈「ありがとう」

しずく「大丈夫だよ璃奈。この子、本当に嫌いな人とは話さないし!」

かすみ「余計なこと言うなしずく」ムギュー

しずく「いひゃいいひゃい〜!」

しずく「──ほっぺたつまむな!」

かすみ「自分のせいでしょ!」

721: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/27(木) 02:09:03.74 ID:1tUGM5w7
璃奈「2人は本当に仲良しだね」

璃奈「私と出会った長さはあんまり変わらないのに、よくそこまで仲良くなったね」

しずく「ふふーん! 仲の良さに交流の長さは関係ないのだよ〜!」

かすみ「長さは関係ないって……しずくが色んな人と仲良くなるのが早すぎるだけでしょ」

しずく「そんな事ないって。ちゃんと相手選んでるよあたしは」

かすみ「はいはい。そーですねーそーですねー」

しずく「っておい! 聞き流すなっつの」

璃奈「ふふっ」ニッコリ

璃奈「いやぁ、誰かとこうやってご飯食べるのって楽しいもんなんだね」

璃奈「いつもは一人で食べてるし、心地良いよ」

しずく「え? お家で家族と一緒にご飯食べたりしないの?」

璃奈「私の家は両親が共働きですごく忙しいからね。ほとんど家に帰ってこないからさ。だから基本的にいつも一人で食べてるよ」

しずく「!! ごめん……」

璃奈「謝ることじゃないよ」

璃奈「お父さんもお母さんも、人を助ける仕事をしてるの。私の誇りだよ。だから、それでいいんだよ」

璃奈「──確かに寂しいけど、わがままは言えないよ」ニコッ

しずく「璃奈……」

かすみ「…………」

723: 1(茸) 2021/05/27(木) 09:03:40.46 ID:pvDk2ymb
璃奈「それに、家に誰もいないのも利点ではあるんだ。好きなタイミングで私のだいすきな開発ができる」

しずく「開発?」

璃奈「うん」

璃奈「小さい頃は今みたいに我慢出来るって素直に言えなかったからね。両親にあんまり構ってもらえないというフラストレーションを発散出来るものを探していた時期があるんだ」

璃奈「そして、たどり着いたのが色々な物を作るという開発」

璃奈「脳にある知識をフル活動させて、物を作る。くっふふふ……! サイコーだよ?」

かすみ「笑い方が怖い」ジトー

璃奈「あっ、ごめんごめん。開発の事になるとテンションが上がっちゃうんだ」

璃奈「──まぁ、つまりはそういう事。フラストレーションの吐き出し口はあるし、全然平気だよ」

璃奈「たまに開発して作ったものを見せると、お母さんも喜んでくれて、私の事褒めてくれるし」ニコッ

しずく「……」

かすみ「……」

724: 名無しで叶える物語(茸) 2021/05/27(木) 09:14:15.99 ID:pvDk2ymb
璃奈「とまぁ、自分語りはおしまいだ。折角の皆でランチなんだ。もっと色々な話をしよ──」

ギュッ!!

璃奈「!?」

しずく「璃奈」

しずく「良かったらこれから毎日、私達と一緒にお昼食べない?」

璃奈「──え?」

しずく「ね?」ニコッ

璃奈「しずくちゃん……」

しずく「ねぇ、いいでしょ? かすみ」

かすみ「……好きにすれば」

璃奈「かすみちゃん……」

璃奈「本当にいいの……?」

しずく「うん!」

しずく「友達と一緒に食べるご飯は格別だよ?」

璃奈「!!」

璃奈「……うん! 私も2人とご飯食べたい!」

しずく「うーん! よしよし〜素直で可愛いよ璃奈〜!」ギュウ~

璃奈「そんなに抱き締められると、照れちゃうよ?」

しずく「ほんと璃奈かわいいんだけど! 店長! テイクアウト出来ますか!?」

かすみ「どんなテンションなの?」

璃奈「ふふっ」ニコニコ

璃奈(……友達って)

璃奈(いいね)

725: 名無しで叶える物語(茸) 2021/05/27(木) 09:28:40.86 ID:pvDk2ymb
かすみ「…………」

かすみ(家でほとんど一人……かぁ)

かすみ(学校行って、部活やって、帰ってきても誰も家にいないんでしょ?)

かすみ「…………」

かすみ(寂しい、よね?)

かすみ(そんなの絶対)

璃奈「ん? かすみちゃんどうしたの?」

かすみ「え?」

璃奈「さっきからすごい静かだよ? いつもの騒がしさはどこへ?」

しずく「確かに! いつもうるさいくらいなのにね〜」

かすみ「言っておくけど私をうるさくさせている原因は大体あなた達二人だからね?」

かすみ「……別に、考え事してただけ」

璃奈「そっか」

璃奈「なら今度私がやる事になったライブに向けてアドバイスしてほしいんだ。いいかな?」

かすみ「……仕方ないなぁ」

しずく「デレた?」

かすみ「…………」ギュュュュュ

しずく「いたたたたたたっ!! あたしの綺麗な二の腕がぁ!!」

かすみ「うっさい」プイッ

しずく「すぐそうやって暴力振ってきて! もーぷんぷんだよ! おこなんだけど!!」

かすみ「そんな強くやってないでしょ!?」

璃奈「まぁまぁ二人共。ここは私に免じて仲直りしてくれよ」

かすみ「あなたは何キャラなの!?」

726: 名無しで叶える物語(茸) 2021/05/27(木) 09:34:15.53 ID:pvDk2ymb




〜放課後 職員室前〜


かすみ「…………」

スタスタ

しずく「おまたせー。どしたん? こんな所に呼び出して」

かすみ「……その……手伝ってほしいことがあって」

しずく「ま?」

かすみ「ま」コクリ

しずく「かすみからお願い事なんて珍しいね〜」

かすみ「…………」

かすみ「こんなことするの、私らしくないってのは分かってるんだけどね……」

かすみ「その……えっと……」

しずく「いいんじゃない?」

かすみ「え?」

しずく「やりたいと思ったことがあるんでしょ?」

しずく「なら私に出来ることがあるなら、全力でサポートするよ」

しずく「友達じゃん?」ニコッ

かすみ「……うん!」

かすみ「実はね──」

731: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 00:03:24.39 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

朝起きて、学校へ行き、ライブに向けて練習をする毎日の繰り返し。

──とても有意義だった。


歩夢「璃奈ちゃん。ステップを踏む時のコツはね──」


──私達はソロアイドルの集まりなのに、みんな私の練習に付き合ってくれた。


彼方「お腹から声を出す技術も大事だけど、私達は踊りながら歌うからね。一番大事なのは体力なの。だからこれから──」


──最近スクールアイドルになったばかりの私が、お客さんが満足するライブの開催に向けて、日々練習に取り組む。生半可な気持ちではダメだ。毎日必死に練習した。





かすみ「ほら! あと2週! スピード遅れてきてるよ!」

璃奈「はぁ、はぁ……ッ、はぁ……!」


体力があまりない私にとっては中々辛い時もあった。


かすみ「ライブ中は体力が無くなっても誰も助けてくれない。ファンの皆は満足出来ない。自分は悔しい思いをする。何も良いことない。ただただ後悔するだけだよ!」

璃奈「はぁ、はぁ……」

かすみ「後悔を美談で終わらせるんじゃなく、成功を美談にさせるの!」

璃奈「!! ──うん!」コクリ


何でこんな事やってるんだろう?

辛い、辛い。こんなに汗を流して、果たして意味があるのだろうか?

そんな風に思う時だってある。けど、練習後のお水の美味しさは格別だし、やり切った時の達成感も凄い。


璃奈(身体動かすのって、楽しい……!)


開発くらいしか楽しいことが無かった私の日々が、変わり始めたんだ。

──これが青春、なのかなぁ?

733: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 00:47:35.92 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

──そして、ついに迎えたライブ当日。

いつもはギリギリに起きるのに、今日は目覚ましのアラームがなる前に目が覚めてしまった。


璃奈「う〜ん……清々しい朝だ」


適当に独り言を呟き、身支度を整える。

顔を洗おうと思い洗面所に向かう。途中、リビングを経由するんだけれど、テーブルに目が行く。


璃奈「え?」

璃奈「……おにぎり?」


サランラップに包まれた、おにぎりが置いてあった。


璃奈「お母さん?」


近くには「いつも寂しい思いをさせちゃってごめんね」とだけ書かれたメモが置いてあった。お母さんの字だ。


璃奈「……ふふ。別に気にしなくていいのに」クスクス

璃奈「はむ」パクッ

璃奈「……」モグモグ

璃奈「ん、美味しい」


普通のおにぎり。塩味でさっぱりとした味。──それだけなのに、すごく美味しく感じる。


璃奈(ありがとう、お母さん)

璃奈「今日のライブ……頑張るよ」

璃奈(──でも、欲を言えば)

璃奈「今日のライブ……見て欲しかったなぁ」

璃奈(今日、ライブがある事すら……教えてないけれどね)

734: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 00:59:52.14 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「ついにライブが始まるね、璃奈ちゃん」

璃奈「うん! 色々練習付き合ってくれてありがとうね。歩夢さん」

歩夢「ううん、全然平気だよ」ニコッ

愛「璃奈、すげぇ練習頑張ってたもんな。楽しみにしてるからな!」

せつ菜「全力で応援していますよ!」

エマ「リラックスして、楽しんできてねっ」

彼方「3年生のみんなで作った、璃奈ちゃんフラッグで応援するよ〜」

果林「今日の璃奈ちゃんのライブのために作ったの! 璃奈ちゃんがんば〜!」

璃奈「みんな……!」

璃奈「本当に、ありがとう。全力で頑張ってくるよ」ニッコリ

735: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:05:14.31 ID:uDM94UCa
しずく「璃奈!」

かすみ「…………」

璃奈「しずくちゃんとかすみちゃん!」

璃奈「二人も色々とライブの準備してくれたり、手伝ってくれてありがとうね」

しずく「良いってことよ〜!」

かすみ「…………」

かすみ「ねぇ」

璃奈「ん?」

かすみ「……私としずくは観客席で応援するよ」

璃奈「え? 観客席で?」

しずく「うん!」

かすみ「あんまり大きな会場じゃないから、私達の事……見れると思う」

かすみ「だから、あなたが歌う前。その時に全力であなたの名前を呼ぶから、その瞬間私としずくのいる所を見てほしい」

璃奈「う、うん。分かった」

かすみ「ん。よろしくね」

璃奈「……?」キョトン

736: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:15:32.82 ID:uDM94UCa
かすみ「……あのさ」

璃奈「んー?」

かすみ「………………」

かすみ「が」

璃奈「が?」

かすみ「……っ……」

かすみ「が……頑張ってね……////」フイッ

璃奈「!!」

しずく「デレた〜!」

かすみ「うっさい!」

せつ菜「やっぱりツンデレなんですね! かすみさん!」キラキラ

かすみ「違います! テンション上げないでください! ツンデレじゃないですから!」

かすみ「──たくっ。じゃあ移動するよしずく」

しずく「アイサー! 璃奈、頑張ってね!」ピシッ

かすみ「……中途半端なライブしたら、校庭のグラウンド50周だからね!」

スタスタ

璃奈「…………」

歩夢「璃奈ちゃん」

璃奈「ん?」

歩夢「いい笑顔だね。璃奈ちゃん」ニッコリ

璃奈「──うん!」

璃奈「絶好調だよっ」

璃奈「私、頑張ってくる!」ニッコリ

737: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:25:16.43 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ

璃奈「皆さん、こんにちは」

璃奈「新人スクールアイドルの天王寺璃奈です」

璃奈「今日は集まってくれて、本当にありがとう」

璃奈「出来ることを全力でやるから、みんなには楽しんでほしい!」

璃奈(はぁ、緊張する)

璃奈(でも、ドキドキもする)

璃奈(頑張ろう……!)

璃奈「それでは、一曲目の──」


「璃奈────────!!!!」


璃奈「!?」ビクッ!!

738: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:30:29.57 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ

璃奈「皆さん、こんにちは」

璃奈「新人スクールアイドルの天王寺璃奈です」

璃奈「今日は集まってくれて、本当にありがとう」

璃奈「出来ることを全力でやるから、楽しんでほしい!」

璃奈(はぁ、緊張する)

璃奈(でも、ドキドキもする)

璃奈(頑張ろう……!)

璃奈「それでは、一曲目を──」


「璃奈────────!!!!」


璃奈「!?」ビクッ!!


会場に響くしずくちゃんの声。


璃奈(あっ、そう言えばさっき、かすみちゃんが──名前を呼んだら私達を見てって言っていたっけ?)


急いでしずくちゃん達を探す。すぐに見つかった。

UOをグルグル回しているしずくちゃんはよく目立った。

おいおい、まだ曲は始まって──


璃奈(──え?)


一瞬、目を疑った。

739: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:31:46.60 ID:uDM94UCa
璃奈母「璃奈、がんばって!」




璃奈「」


そこにはお母さんがいた。

740: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:39:53.83 ID:uDM94UCa
璃奈「……っ!!」


サイリウムを慣れない手つきで振る準備をしているお母さん。

その横にUOをハイテンションでブンブンさせているしずくちゃん。すごく目立つようにしてくれている。

そして、その横にはかすみちゃんもいる。


かすみ「…………」


かすみちゃんは静かに私を見ている。

──彼女と目が合う。かすみちゃんはそのまま私に向けて拳を突き出す。

……人の心なんて、分からないものだけれど。

この時は、かすみちゃんの声が聞こえた気がした。


かすみ(──見せ付けてやれ)グッ

741: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:42:54.34 ID:uDM94UCa
♪〜

璃奈「はずむ ココロ」

璃奈「飛ぶような テンション!」

璃奈「さぁ コネクト」

璃奈「しよ!」

742: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:43:36.93 ID:uDM94UCa
【ツナガルコネクト】

743: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:50:46.96 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

正直、ライブの時の記憶はあんまりない。

やれる事を全力でやりきり、お客さん達の歓声を聞いて、私はライブが終わったことに気が付いた。

──そのまま流れるままにステージ裏へと戻り、皆からもみくちゃにされた。

沢山褒めてくれた。

……嬉しかったよ。

でも、私はすぐにかすみちゃんとしずくちゃんを探し、見つけ出し、声をかけた。


璃奈「なんで二人が……!?」


色々聞きたいことがあったけれど、上手く言葉に出来なかった。

744: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 01:57:55.58 ID:uDM94UCa
しずく「かすみがさ、色々動いてたんだよ」

璃奈「え?」

かすみ「…………」

かすみ「職員室に行って、あなたのクラスの担任にあなたのお母さんの連絡先を聞いたの」

しずく「いやぁ、中々教えてくれなかったんだよね。個人情報だしね」

かすみ「……数日間聞き続けて、何とか聞き出せたから……直接電話して、今日のライブのこと伝えたの」

璃奈「…………」

璃奈「ど、どうして?」

かすみ「……あなたとお昼ご飯に、色々聞いてさ」

かすみ「その……えっと……」

かすみ「や、やりたくなったの!」

かすみ「あなたとお母さんの……一緒にいられる時間を……作ってあげたかった」

璃奈「かすみちゃん……」

745: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 02:03:50.44 ID:uDM94UCa
かすみ「余計なことして、本当にごめん」

かすみ「他人の家庭の事情に首を突っ込むなんて、やってはいけないことだもん」

かすみ「……けど……ずっと一人だなんて」

かすみ「寂しいじゃん……」

璃奈「……っ……」

かすみ「か、勘違いしないでよ!」

かすみ「私はあなたの事、苦手だから!」

かすみ「何考えてるかわかんないし」

かすみ「無駄にテンション高いし」

かすみ「時々笑い方怖いし」

かすみ「私の事すぐにからかってくるし」

かすみ「本当に……苦手……だよ」

璃奈「……」

かすみ「──でも!」

かすみ「私は頑張ってる子が報われないのが、本当に嫌なの!」

璃奈「!!」

746: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 02:12:34.18 ID:uDM94UCa
かすみ「あなたは……頑張ってる」

かすみ「寂しい思いはあるって言いながらも、心配させないよう笑ってるし」

かすみ「練習だって! 私の想像以上に頑張ってくれた」

かすみ「……だからその……」

しずく「かすみなりに、璃奈の為に色々と考えてくれてたんだよ」

しずく「かすみからのサプライズ!」

かすみ「あなたのライブの話をした時、あなたのお母さん……すごく喜んでた」

璃奈「──え?」

かすみ「ライブ、絶対行くって言ってたよ」

かすみ「……あなたは、ちゃんと……愛されてるよ」

璃奈「……はは……あはは……!」ニッコリ

璃奈「……まったく……」

璃奈「泣いちゃうよ?」

かすみ「……対応がめんどくさいから泣かないで」

璃奈「あはは! 相変わらずツンツンデレデレだなぁ、かすみちゃんは」

かすみ「なんか多いしツンデレじゃないっての!!」

747: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 02:21:31.19 ID:uDM94UCa
璃奈「でも本当に、ありがとう」

バッ!! ──ギュッ!!

かすみ「!? ちょ、いきなり抱きつくな!」

璃奈「嫌だね。これから私の嫁って事をお母さんに紹介しに行くから」

かすみ「寒気すること言うなっての!」

しずく「えぇ〜? 私は?」

しずく「私も色々手伝ったんですけど〜!」

璃奈「多妻制だからカモンしずくちゃん!」

しずく「やった! ──あと、あたしも抱きつかせろ!」バッ!!

かすみ「だぁぁぁぁあああっ!! あっついよ! 離れろ!!」

璃奈「そんな事よりかすみちゃん」

かすみ「そんな事!?」

璃奈「私のライブ、どうだった?」

かすみ「……………………」

かすみ「ま、まぁまぁ良かったよ」

璃奈「間が長すぎるんだけど」

かすみ「うっさい!」

かすみ「まだまだ沢山教えることはあるから、真面目に練習してよね!」

かすみ「──璃奈!」

璃奈「!!」

しずく「……」ニヤニヤ

かすみ「ちっ……しずく。その無言のニヤニヤをやめ──」

璃奈「だいすき!!」ニコッ

ギュュュュュ!!

かすみ「!? ──は、離れろ!! 早くお母さんに会いに行ってあげなさいよ!!」

748: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 02:29:08.09 ID:uDM94UCa
ワイワイ、ギャーギャー


歩夢「ふふっ。璃奈ちゃん達、楽しそうで微笑ましいね」ニッコリ

愛「だなっ」ニカッ

歩夢(璃奈ちゃん、よかったね)

歩夢(最近、皆のキズナが深まってきてる)

歩夢(同好会の雰囲気もすごく良くなってると思う)

歩夢「……やっぱり、始めて良かったなぁ」ボソッ


せつ菜「歩夢さん」クイクイ

歩夢「ん? どうしたの? せつ菜ちゃん」

せつ菜「少し前になりますけど、覚えていますか?」

歩夢「え?」

せつ菜「他の学校の子達に聞いてみるって伝えていた」

せつ菜「高咲侑さんの件でお話があります」

歩夢「──え?」

749: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 02:37:44.15 ID:uDM94UCa
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

彼方「──そんなこんなあってね、本当に良いライブだったんだ〜」

彼方「凄かったんだよぉ、璃奈ちゃんのライブ」

彼方「きっと、遥ちゃんも仲良しになれると思うよ。同じ一年生だしっ」

彼方「私、最近ね。同好会の活動がすごく楽しいの」

彼方「皆良い子ばっかだし! 友達も沢山できた。歩夢ちゃんが同好会に入ってから、良いことばかりだよ」

彼方「でも……やっぱり勉強優先になっちゃうけどね……」

彼方「……だから、そろそろ……キリもいいし……」

彼方「……辞め時なのかもね」

彼方「スクールアイドル」

彼方「──な、なんてね! 冗談冗談! あははは〜……」

彼方「……さて。そろそろ家に帰って、夕ご飯の支度しなきゃ」

彼方「また来るね」


遥「………………………………」


彼方「遥ちゃん」

750: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/28(金) 02:38:46.79 ID:uDM94UCa
【Members walking together】

【NEXT】

【近江彼方】

771: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 00:12:59.27 ID:/Lc2DyOy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「…………」


夜、一人部屋の中で宿題を進める。

今日もお母さんは遅いみたいで、家の中はとても静かだ。

静か過ぎるのも中々落ち着かないなぁっと思ってしまう。
いつも侑ちゃんと通話しながら宿題していたから、余計かもしれない。


歩夢「…………」

歩夢「侑ちゃん……」


……侑ちゃんに会いたいなぁ。

772: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 00:21:56.54 ID:/Lc2DyOy
せつ菜『他の学校の方々にも聞いてみたのですが』

せつ菜『やはり高咲侑さんを知っている方はいませんでした』

歩夢『……そっか』

せつ菜『SNSを本名でやっていたりしないかな? って思って調べてみたりもしたのですが……見つかりませんでした』

せつ菜『お役に立てなくてごめんなさい……』シュン

歩夢『う、ううん! 大丈夫だよせつ菜ちゃん! ありがとうね』ニコッ

せつ菜『いえ! また何かあったらいつでも頼ってくださいっ』ペカー

歩夢(やっぱり侑ちゃん……いないのかな?)

歩夢(……もしかしたら……)

歩夢(五十嵐若葉ちゃんの事を聞いてみたら!)

歩夢(でも……)

歩夢(“この子”は『わたしと若葉ちゃんの思い出に関わらないで』って言ってたし……)

歩夢『…………』

せつ菜『歩夢さん?』

歩夢『──あっ、ごめんね。少しぼーっとしちゃってた』

歩夢『また何かあったらお願いするね』ニコッ

773: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 00:30:13.08 ID:/Lc2DyOy
歩夢「…………」


侑ちゃんと、五十嵐若葉ちゃん。

夢で見た若葉ちゃんは、侑ちゃんと同じ見かけをしていた。いや、声も笑顔も明るい性格も侑ちゃんと同じだった。

私を引っ張ってくれる、大切で大好きな子。


歩夢「……」

歩夢「また、夢の中でもいいから」

歩夢「この世界の歩夢と会話できないかな……」


夢の中で私に声を掛けてきた子は、恐らくこの世界の上原歩夢。

774: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 00:57:07.00 ID:/Lc2DyOy
──────────

歩夢『人の身体で好き勝手するのは楽しい?』ニコッ


歩夢『あなたの行動、わたしはずっと見てるよ』

──────────


歩夢(“この子”は、私の中にいるの……?)

歩夢(いや……“私”がこの子の中に入ってしまったの?)

歩夢(別世界の上原歩夢である私が……この子の中に?)

歩夢「そんな事……あるの?」

歩夢(いや……今私の身に起きている現象から考えると、全然ありえる話だよね)

歩夢(ありえないなんて事はありえないのかも)

歩夢(愛ちゃんから話を聞いた──パラレルワールドの話。その話から、私は別世界の上原歩夢だって考え付くことが出来た)

歩夢「…………」

歩夢(そう考えると……本当に、私がいた世界の私は……今どうなっているのかな?)

776: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 01:11:21.25 ID:/Lc2DyOy
歩夢「……そう言えば」

歩夢「私って」

歩夢「前の世界で」

歩夢「どんな状態だったんだっけ?」

歩夢「確か……スクールアイドル同好会のみんなと練習してて」

歩夢「……ランニング……してたよね?」

歩夢「それで──」

歩夢「──ッ!!」ズキッ!!

歩夢「ぁ……ッ……!!」ズキ、ズキ


頭が再び痛くなる。

最近、頭が痛くなる頻度が増えている気がする。

頭を鈍器で殴られたような感覚。頭が割れるんじゃないかってくらい……痛い。痛い、痛い!

気を失いそう。──でも、気を失ったら……戻って来れない気がする。

そんな気がしてしまった。

781: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 17:06:20.15 ID:/Lc2DyOy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

歩夢「行ってきます」

ガチャ

スタスタ

歩夢(うぅ……まだ少し頭がズキズキする……)

歩夢(こんなに長引く事、なかったんだけどなぁ)

歩夢(頭痛薬とか、効くかな? あんまり身体に良くないから薬には頼りたくないんだけど……)

タッタッタッタ

愛「──歩夢っ」

歩夢「あっ、愛ちゃん。おはよう!」ニッコリ

愛「ちーっす! おはよ歩夢!」

歩夢「どうしたの? こんな朝から」

愛「学校行く前に軽くランニングしてたら歩夢んちの近くに来たからさ」

愛「寄ってみた」

歩夢「そうなんだ。朝から偉いね、愛ちゃん」ニコッ

愛「もっと体力付けないとだからな」ニカッ

歩夢「今でも充分体力すごいあると思うけどなぁ」

歩夢「かすみちゃんも前、愛ちゃんの体力の多さ褒めてたよ?」

愛「マジ? 直接褒めてくれねぇかなぁ……」

歩夢「かすみちゃん、ちょっと照れ屋さんな所あるもんね。だからこそ褒めて貰えると嬉しいよね〜」

愛「わかるわかる」

782: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 17:39:00.08 ID:/Lc2DyOy
愛「このまま一緒に学校行こうぜ」

歩夢「うん、いいよ」

スタスタ

歩夢「愛ちゃん、勉強の方はどう?」

愛「勉強は問題ないけど……授業サボりまくってたからグループ学習が辛いかな」

歩夢「あー……もうグループ出来てるもんね」

愛「そーなんだよなぁ……まぁこればっかりは今までの自分の行動が悪いから仕方ないさ」

愛「──てかさ歩夢」

歩夢「どうしたの?」

愛「ここでの生活にも大分慣れてきた?」

歩夢「あー、うん。もうこの子としての生活も1ヶ月くらい経つからね」

愛「そっか」

愛「……まだ皆には話さねぇの?」

歩夢「え?」

愛「今の上原歩夢は、別世界の上原歩夢の人格だってこと」

歩夢「…………」


私が“この子”とは別世界の上原歩夢である事は……愛ちゃん以外誰も知らない。

783: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 17:48:25.13 ID:/Lc2DyOy
歩夢「正直、非現実的すぎるよ。話しても……信じられないだろうし……余計な心配させちゃうかもしれないもん……」

歩夢「…………」

愛「…………」

愛「ま、まぁでも……あれだよな! 中々話にくい内容でもあるからそう思うのも仕方ねぇよ」

愛「アタシは上原と結構長い関わりがあったし、歩夢から上原として過ごした日々は全部知らないって話を聞いてたから、すっと頭に入ってきたけどさ。記憶喪失って感じでもなかったし」

愛「そ、その! 少し暗い雰囲気にさせちゃってごめんな歩夢」

歩夢「う、ううん! 私こそ暗くなっちゃってごめん」

愛「──あっ! そーだ。今オリジナル曲作ってる途中なんだけどアドバイスしてくれないか? この前のライブはかすみの曲を一緒に歌わせてもらったから、そろそろ自分の曲が欲しくってさ!」

歩夢「うん。私で良ければ全然いいよっ」

愛「サンキュ!」




784: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 18:00:33.41 ID:/Lc2DyOy
愛「──でさぁ」

歩夢「うんうん」

スタスタ

愛「ん?」

歩夢「? どうしたの愛ちゃん」

愛「あれ、しずくと彼方さんじゃね?」ジー

歩夢「え?」ジー



しずく「──」

彼方「──」



歩夢「あっ、ほんとだね。お話しながら歩いてるね」

愛「二人で登校中っぽいなぁ」

愛「へへーん……ここで会ったのも何かの縁だ。後ろから急に大きな声をかけて、驚かしてやろーっと」ニヤニヤ

歩夢「えぇ!? 朝からそんな子供っぽい事……ダメだよ」

愛「しー! 声がでけぇよ歩夢。バレちゃうだろ?」

歩夢「もー……怒られても知らないよ?」

愛「大丈夫大丈夫〜」ニヤニヤ

愛「んじゃ、ちょっと行ってくるわっ」

歩夢「私は止めたからね?」

愛「わーってるよ」

785: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 18:11:32.94 ID:/Lc2DyOy
愛(よーし……ゆっくり、ゆっくり近づいて……)スタ、スタ

愛(……よしよし、バレてないバレてない)スタ、スタ

愛(よし! そろそろ──)


しずく「かな姉、今日も帰りに病院よるの?」

彼方「うん。そうしようかなって思ってる」


愛(──え?)ピタッ


しずく「あんまり無理しないでね? ──あっ、私も一緒に行こうか?」

彼方「大丈夫だよ。しずくちゃん、同好会の練習あるでしょ? まだまだ1年生なんだから楽しんだ方がいいよ」

しずく「…………」

彼方「あっ、でも今度の日曜日は付き添いしてほしいかなぁ」

しずく「──うん! わかった!」ニッコリ

彼方「よろしくね〜」ナデナデ

しずく「うん!」

スタスタスタスタ


愛「………………」

786: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 18:21:14.58 ID:/Lc2DyOy
スタスタ

歩夢「愛ちゃん? どうしたの?」

愛「…………」

愛「あ、歩夢」

歩夢「うん?」

愛「彼方さん……どこか体調悪いのかな?」

歩夢「え?」

愛「……今日も病院によるの? ってしずくが彼方さんに聞いてて……そうするって彼方さんが言ってた」

歩夢「え!?」

愛「……な、何かあったのかな?」

歩夢「…………」

歩夢「……彼方さん、アルバイトや勉強、最近は同好会の活動も参加してくれることが増えてきたよね」

愛「確かに毎日忙しそうだよな……」

歩夢「前から結構思ってた事があるの」

歩夢「彼方さん、ちゃんと休めているのかな? って……」シュン

愛「!!」

愛「……何かあってからじゃ遅い」

歩夢「え?」

愛「……おばーちゃんの時みたいに……なったら……アタシ……」プルプル

歩夢「愛ちゃん……」

787: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 18:23:27.81 ID:/Lc2DyOy
愛「…………」ピッ

prrrrrr!!

愛「あっ、もしもし? エマさん?」

愛「朝からごめんなさい」

愛「少し相談したいことがあって……」

愛「彼方さんの事で」




788: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 18:36:11.39 ID:/Lc2DyOy
〜放課後〜

彼方「ふわぁぁぁああ……」

彼方(ねっむ)

彼方「!! だめだめ! あくびなんてみっともない……私は眠くないぞー」

彼方(眠気に負けてちゃダメ!)

彼方(今日の授業の内容復習も、明日の予習も休み時間中に終わらせたし、少し同好会に顔を出してから病院に行こう)

彼方(そんで帰ったら勉強だ。あと料理も作らなきゃ。お母さん、今日も遅いだろうからお夜食作っておこうかな)

スタスタ

ガラガラ

彼方「皆、おはよ〜」


「「「!!」」」ビクッ!!


彼方「──え? 皆にどうしたの? そんなに集まって……」

タッタッタッタ!! バッ──ギュッ!!

果林「彼方ッ!!」

彼方「え、えぇ!?」

789: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 18:44:59.43 ID:/Lc2DyOy
果林「あだんして!?」

彼方「あ、あだ!?」

果林「何かあったなら……相談してよぉ……!」グスグス

彼方「相談?」

エマ「か、果林ちゃん! 落ち着いて?」

彼方「あっ、エマちゃん……この状況は何なの?」

エマ「……彼方ちゃん」ギュッ

彼方「!?」

エマ「わたしに力になれることあったら……なんでも言って?」

エマ「ね?」ウルウル

彼方「???」

タッタッ

かすみ「か、彼方先輩! これ、私が作った特製コッペパンです! すごく美味しいので……食べて下さい!」

かすみ「あと、私に何か出来ることありませんか?」

彼方「なんでみんな今日異常に優しいの!? あいや、いつも皆優しいけど!」

791: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 19:04:59.79 ID:/Lc2DyOy
璃奈「彼方さん。これ、私が今日作った栄養ドリンクなんだけどあげる」

彼方「あ、ありがとう……」

璃奈「炭酸を抜いたコーラを原料として扱ってるんだ」

せつ菜「炭酸抜きコーラ!?」

せつ菜「……」メガネスチャ

せつ菜「ほう、炭酸抜きコーラですか…」

かすみ「真面目にやれ!」

793: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 20:15:40.45 ID:/Lc2DyOy
彼方「……」ポカーン

せつ菜「あぁ! ごめんなさい!」スッ

せつ菜「彼方さん! これ私が作ったクッキーですっ」

せつ菜「これを食べて、元気出して下さいっ!」スッ

彼方「……せ、せつ菜ちゃん?」

彼方「なんでクッキーが紫色なの?」

せつ菜「色々と英気を養える材料を混ぜて作ってみたらこうなりました」

彼方「あ、ありがとう……」

彼方(今度せつ菜ちゃんにお料理教えてあげよ……)

彼方「──というか! 皆どうしたの!?」

彼方「なんか変だよ!?」

スタスタ

愛「彼方さん……」

歩夢「その……」

彼方「あっ! 愛ちゃんと歩夢ちゃん。ねー、これどういう──」

歩夢「病院に行くって……本当ですか?」

彼方「え?」

愛「その……ごめん。朝、聞いちゃったんだ」

愛「しずくと彼方さんの会話を」

彼方「え? あぁ、そうなんだ」

彼方「うん、病院には行くつもりだよ?」

795: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 20:34:28.92 ID:/Lc2DyOy
愛「!!」

愛「彼方さん! アタシに何か出来ることないか!?」

歩夢「さ、最近あんまり休めてないですよね?」

歩夢「病院に行くくらい疲労が溜まっているんじゃ……あまりにも……」

彼方「ん?」

彼方「あの……みんな?」

彼方「勘違いしてない?」

彼方「別に私に何かあって通院してるわけじゃないよ?」

「「「え?」」」

ガラガラ

しずく「ごめんごめーん! ちょっと日直で遅れちゃったよ〜」

「「「……」」」

しずく「ん? あれあれ? なんか皆静かじゃん? どしたん?」

彼方「あっ、しずくちゃん! やっほー」

しずく「あっ! かな姉やっほほ〜!」

彼方「ごめん、少し脱線しちゃったけど」

彼方「私、定期的に病院へ行ってるの」

彼方「その理由はね、お見舞いの為なの」

彼方「入院してる、私の妹の遥ちゃんの」

歩夢「──え?」

796: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 20:46:51.50 ID:/Lc2DyOy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ガラガラ

彼方「さっ、歩夢ちゃんここの病室だよ? 入って入って〜」

歩夢「し、失礼します」

彼方「そんなに畏まらなくて大丈夫だよ〜」

彼方「個室だし」

歩夢「……はい」コクリ

彼方「遥ちゃーん。お客様だよ〜?」

彼方「私の自慢の後輩で、お友達の歩夢ちゃんだよ〜」ニコニコ


遥「…………………………」


歩夢「遥……ちゃん……」


とある病院の、病室のベッドの上。

そこには──静かに眠っている遥ちゃんがいた。

802: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 21:45:16.58 ID:/Lc2DyOy
 
彼方『こちらが彼方ちゃんの自慢の妹の遥ちゃんで〜す!』

遥『よ、よろしくお願いします!』ペコリ


遥ちゃんがスクールアイドル同好会の練習の見学に来た時の事を思い出す。

なんだか懐かしいなぁ。


彼方「綺麗な顔してるでしょ?」

歩夢「はい……綺麗だし、とっても可愛いです……」

彼方「おぉ〜、歩夢ちゃんは分かってるなぁ。しずくちゃんの時もそうだったし、私達は可愛いと思うモノの対象が似てますな」

歩夢「ふふ……そうですね」

彼方「遥ちゃんが起きたら、存分に可愛がってあげようね」ニコッ

歩夢「……」

歩夢(遥ちゃん)

歩夢(この子は、生きている)

歩夢(けど──目を覚まさないらしい)


798: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 21:15:20.76 ID:/Lc2DyOy
彼方「さっきも皆に話したから重複した内容になっちゃうけど」

彼方「遥ちゃんは昔から身体が少し弱い子だったの。心臓が少し、他の子よりも悪くてね」

彼方「それが原因で、学校もおやすみする事が多かった」ナデナデ

歩夢「…………」

彼方「それで、私が3年生になってすぐ、かな? 遥ちゃんの手術をしたの」

彼方「身体が前よりも元気になる為の、大事な手術をね」

彼方「手術は無事に成功したの。心の底から喜んだよ」

彼方「……でも」

彼方「遥ちゃんはまだ目を覚まさないんだ」

799: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 21:28:38.69 ID:/Lc2DyOy
彼方「身体は元気になったし、ちゃんと生きてるのに」

彼方「目を覚まさないの……」

彼方「どの医者も原因不明だって言ってて……匙を投げた」

彼方「まるで……“魂だけ離れちゃってる”みたいだって、お医者様は皆言ってたね」

歩夢「彼方さん……」


あの後彼方さんは、妹の遥ちゃんの状態について同好会の皆に話した。


歩夢(よかったら一緒にお見舞いに来ない? って誘われたから来たけれど)

歩夢(自分が知っている子が……入院している姿を見るのは……辛い……)

歩夢「…………」

彼方「歩夢ちゃん、ごめんね」

歩夢「へ?」


803: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 21:54:27.96 ID:/Lc2DyOy
彼方「突然家庭の事情を話されて、こんな状態見せられても困っちゃうよね」

歩夢「そ、そんなことないです!」

歩夢「その、話してくれてありがとうございます」

歩夢「それと……気の利いたことが言えなくて……ごめんなさい」

彼方「歩夢ちゃん……」

彼方「君は本当に良い子だねぇ〜」

彼方「狂犬って呼ばれていたのが本当に嘘みたいだよ」

歩夢「あはは……」

彼方「本当に遥ちゃん、いつ起きるんだろうね」

彼方「まるで眠り姫だよ」

彼方「キスでもしたら起きるかな?」

歩夢「…………」

彼方「じょ、冗談だよ?」

歩夢「あっ! いえ、ごめんなさい。……考え事しちゃってて」

彼方「考え事?」

歩夢「何かできる事ないかなって……」

彼方「……本当に優しいね、歩夢ちゃん」

歩夢「…………」

805: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 22:06:40.69 ID:/Lc2DyOy
彼方「その気持ちだけでも、嬉しいよね」

彼方「ありがとうね」ニッコリ

歩夢「いえ……」

彼方「それにね、歩夢ちゃん」

歩夢「?」

彼方「遥ちゃんは……私がなんとかする」

彼方「その為に……沢山勉強しなきゃいけないの」

彼方「今よりも、もっと」

彼方「もっともっともっと、勉強しなきゃいけないの」

歩夢「!!」

彼方「遥ちゃんの為に、ね」

歩夢「…………」

808: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 22:23:47.49 ID:/Lc2DyOy
───────────

彼方『んー、アルバイトまで勉強したいしなぁ……』

しずく『……かな姉、最近頑張りすぎだよ! 気持ちは分かるけど……』

しずく『ちゃ、ちゃんと寝てるの!?』

彼方『寝てるよ? 4時間くらいは毎日寝てる』

しずく『ぜ、全然足りないよ! 15分くらい仮眠取りなって! ほら、私……ひざ枕するから!』

彼方『大丈夫だって』

彼方『しずくちゃん。私が勉強頑張る理由、知ってるでしょ?』

───────────


歩夢(そういう事……だったんだ……)

彼方「歩夢ちゃんが良かったらさ」

彼方「またお見舞いに来てほしいな」

彼方「この病院、個人経営なのに入院設備もあってね。先生はフランクで良い人だから気軽にお見舞い来やすいし」ニコッ

歩夢「……はい」コクリ

歩夢「絶対にまた来ます」

彼方「ありがとね」

811: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 22:33:46.86 ID:/Lc2DyOy
彼方「──さて、そろそろ帰ろっか」

彼方「歩夢ちゃんは1回ニジガクに戻るの?」

歩夢「そう……ですね。みんな練習してると思いますので」

彼方「そっか」

彼方「いつもごめんね。部長なのにあんまり出れなくて」

歩夢「いえいえ! 彼方さんのタイミング会う時に顔出してくれたら嬉しいので」

彼方「そう? ありがと〜」ナデナデ

歩夢「……」

歩夢(優しい撫で方……安心する)

歩夢「彼方さん」

彼方「ん?」

歩夢「何かあったら、いつでも頼って下さい」

歩夢「力になりたいから……」

彼方「……ふふっ」ニコニコ

彼方「歩夢ちゃんの事はいつだって頼りにしてるよ」

彼方「君のおかげで同好会は活発になったし、かすみちゃんやしずくちゃんも、前より明るくなった気がするもん」

彼方「私も同好会の活動楽しいから、本当はもっと沢山出たいし」

812: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 22:46:53.60 ID:/Lc2DyOy
彼方「同好会の練習、土日もたまにやってるでしょ?」

歩夢「はい。まぁ、結構自由参加な所ありますけれど」

彼方「あはは、ゆるーい感じが私達らしくっていいよねぇ」

彼方「平日は練習出れること多いけど、土日の練習は全く参加できてないからね。今度タイミング見て参加するよー」

歩夢「え? ほんとですか?」

彼方「うん!」

彼方「歌うの好きだからね、私」

歩夢「……」

歩夢(!! ──そうだ)

歩夢「彼方さん」

彼方「ん?」

歩夢「来週の日曜日、予定空けてくれませんか?」

彼方「来週の日曜日?」

歩夢「はい」

歩夢「詳細は追って連絡しますので」

彼方「うん! 分かった。予定空けておくね」ニッコリ

歩夢「はいっ」ニコッ

歩夢(少しでも……彼方さんの為に、遥ちゃんの為に。出来ることをやろう)

歩夢(みんなにも、協力してもらおう)

813: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 23:06:55.95 ID:/Lc2DyOy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

私、近江彼方はいつも全力です。

全てのことに、全力で取り組んできた。

お料理も、勉強も、運動も、大好きなお料理も。

そして──


遥『うぅ……うぅ……』グスグス

しずく『は、はるかぁ……な、泣きやんでよぉ……』オドオド

彼方『ありゃ? お二人ともどーしたの?』ヒョコ

しずく『あっ、かなたおねーちゃん……』

しずく『えっとね、はるかが大事に育ててたお花がかれちゃったの……』

遥『うぅ……おねぇちゃ〜ん……!』グスグス

彼方『そっか……』

しずく『それで……はるかが悲しそうで……上手く励ますことができなくて……わたしも悲しくなっちゃって……うぅ……!』グスグス

彼方『あはは……優しいお姫様達だなぁ』

彼方『でも……悲しいよね。──よし! 二人とも〜!』

彼方『彼方ちゃんのお歌を聴いて!』

しずはる『え?』


──大好きな歌も、全力だった。

814: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 23:24:52.29 ID:/Lc2DyOy
彼方『♪〜』

遥『わぁ……!!』

しずく『……』ドキドキ


遥ちゃんも、しずくちゃんも私の歌が大好きだったみたい。

私も歌う事が大好きだから、こうやって二人が泣いてる時は、よく歌を歌って励ましていた。

遥ちゃんなんかは特に、私の歌を気に入ってくれて……怖い夢を見た時や不安な時は自分から私の歌をせがむくらいだった。

なんだか、懐かしい。

遥『お姉ちゃん!』

遥『もっとうたって〜!』


ピピピピピピッ!!

彼方「ん〜……」

彼方「……」ポー

彼方「ふわぁぁぁぁああ……」

彼方「あさか……」

彼方「なんか懐かしい夢を見てた気がする〜」

彼方「……」ポケー

彼方「んっ」パチンッ

彼方「よし、眠くない眠くない」

彼方「彼方ちゃんは起きとりますよ〜」

彼方「……あ、違う違う」

彼方「私だ、私」

彼方(立派な大人にならないと……)

彼方(──今日は日曜日で、歩夢ちゃんと約束した日だ)

彼方「部室に集合だったよね?」

彼方「……よし、がんばろー」




816: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/30(日) 23:53:45.29 ID:/Lc2DyOy
彼方「うーん、良い天気だ」ノビー

彼方(良い練習が出来そうだね)

スタスタ

彼方(よし、そろそろ部室だ)

彼方(みんな私が日曜日の練習に参加したら驚くだろうなぁ)

彼方「えへへ」ニコニコ

彼方(みんなに会えるの楽しみ〜)

ガラガラ

彼方「みんな、おっはよー!」


いつもよりテンションが高くなってしまったのか、自分が思ったよりも大きな声が出てしまった。

落ち着け落ち着け〜?

大人はいつも冷静でないといけないもんね。

そんな事を思っていると、皆から挨拶が返ってくる。

817: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 00:07:26.17 ID:YL2vnRYy
果林「彼方おっはよー!」

エマ「おはよう彼方ちゃんっ」

しずく「かな姉おっはー!」

かすみ「おはようございます。彼方先輩」

璃奈「おはよ、彼方さん」

せつ菜「おはようございますっ!! 彼方さん!」

愛「おはよーございます! 彼方さんっ」

歩夢「彼方さん、おはようございますっ」

彼方「!!」

彼方(……いつの間にか、こんなに賑やかで)

彼方(明るい同好会になってたんだよね)

彼方(なんとなく作った同好会が、皆と集まれる大好きな場所になって)

彼方(嬉しいな)

彼方「──うん! 皆おはようっ!」ニッコリ

818: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 00:19:15.70 ID:YL2vnRYy
彼方「ねぇ、歩夢ちゃん。今日は何の練習をするの?」

彼方「集合場所しか連絡なかったし、気になってるんだ〜」

歩夢「あっ、えっとですね。正確には今日は練習の日ではないんです」

彼方「え?」

歩夢「とりあえず、皆で移動します」ニコッ

果林「彼方〜、道に迷わないようにエス……んーと……えっと、エスパーダ……? ん?」

エマ「エスコート?」

果林「そうそれ! エスコートしてあげるね!」

彼方「いや、果林ちゃんの方が道に迷う気が……」

果林「なっ!?」

エマ「あはは、言えてるかも〜」

果林「エマ!?」

彼方「てかてか、移動? 学校外に?」

しずく「まぁまぁ、細かい事はいいじゃんいいじゃん〜」

しずく「着いてからのお楽しみだよ、かな姉!」

彼方「え、えぇ? 気になるよ……」

しずく「ふふっ、歩夢さん」

歩夢「うん?」

しずく「ありがとうね」ニコッ

歩夢「いーえ」ニッコリ

彼方「???」

せつ菜「まぁまぁ、とりあえず早く行きましょ皆さん!」

璃奈「だね」

愛「おっし、皆ちゃんと荷物持ってな?」

かすみ「分かってますよ愛先輩」

彼方「……」ポカーン

彼方(な、何が始まるの!?)

819: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 00:47:44.23 ID:YL2vnRYy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「わー!」

「にげろにげろー!」

果林「ちょ、ちょっとぉ! わたしのポーチは大事に扱ってよー!」


愛「ほら、ばーちゃん? 大丈夫か? アタシに捕まって」

「おぉ、お嬢ちゃんありがとうねぇ〜」


璃奈「つまり、積み木はこの角度で重ねる事によってバランスを保つ事が出来てだね」ブツブツ

「そ、そーなんだ」

かすみ「はいはいー、この難しい話をしてるお姉さんは無視して私と遊ぼうね皆〜」


せつ菜「本日は本当に私達のお願いを聞いて頂き、本当にありがとうございます」

「いえいえ! この病院、入院している子供やお年寄りが少し多いからこうやってボランティアしてくれるの本当に助かりますよ」


ワイワイガヤガヤ


彼方「………………」ポカーン

彼方(ここ、遥ちゃんが入院している病院だ……)

彼方「な、何が起きてるの?」

820: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 00:56:30.15 ID:YL2vnRYy
歩夢「驚いちゃいますよね? ごめんなさい」

彼方「う、ううん。大丈夫なんだけど……」

歩夢「私、結構ボランティア活動に色々参加してるんです」

歩夢「その伝手もあって、ここの病院でもボランティア活動できないかなって色々考えたんです」

歩夢「せつ菜ちゃんや皆にも協力してもらって、学園からの活動としてこの病院の先生に話を通してもらったりもしたんです」

彼方「……」

歩夢「遥ちゃんがお世話になっているこの病院に、何かできることないかなって思って」

歩夢「色々企画しちゃいました」

彼方「!!」

歩夢「勝手なことして、ごめんなさい」ペコリ

彼方「あ、謝らないで? 嬉しいよ歩夢ちゃん! ありがとうねっ」

彼方「でも、ちょっとサプライズ過ぎで驚いちゃったよ」

歩夢「ふふっ。少し驚かせたかった気持ちもあるので」ニコッ

821: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 01:09:53.95 ID:YL2vnRYy
エマ「皆ー! あつまって〜」

エマ「わたしと一緒に歌って、踊ろう〜?」

「わーい!」

「おどるおどる!」

エマ「無理しないでね〜? かる〜く身体をうごかそうね〜!」

エマ「ララ〜ララ〜ラ ラ〜♪」

「わぁぁぁぁ……!!」


愛「おぉ……やっぱエマさんの歌声ってめちゃめちゃ綺麗だよなぁ」

果林「うんうん。癒されるよね〜」

璃奈「うん。歌には癒し効果があるって聞くけど、エマさんの歌声はとてつもないヒーリング効果がある気がするね」

愛「ははっ、なんか前にもその歌のくだり聞いたな〜」

璃奈「そーだっけ?」


彼方「…………」

彼方(皆、楽しそう)

彼方(歌……かぁ……)

歩夢「彼方さん」

歩夢「一緒に来てほしい所があるんです」

彼方「──え?」

823: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 01:21:11.17 ID:YL2vnRYy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

しずく「──よし! 色々と準備は終わった」


遥「……………………」


しずく「相変わらず可愛い寝顔ですなぁ遥さんや〜」

しずく「早く起きてよ〜。チューしちゃうぞ?」

しずく「遥が起きたら、遊びに行きたいとこも沢山あるし、紹介したい友達もいるからさ」

しずく「……アタシもバイトして遥や、かな姉の助けになりたいなぁ」


遥「……………………」


しずく「あはは……じょーだんだよ? バイトはダメってかな姉から止められそうだよね〜」

スタスタスタスタ

しずく「お? 来たかな?」

ガラガラ

歩夢「彼方さん、ここです」

彼方「ちょ、ちょっと歩夢ちゃん? ここの病室って……」

しずく「歩夢さん、待ってたよ。ありがとね。準備は整ってますよ〜」

歩夢「うん。ありがとうしずくちゃん」

彼方「ん? んん?」

862: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 22:51:58.59 ID:YL2vnRYy
 

歩夢「彼方さん」

歩夢「今日のスクールアイドル同好会の活動は、この病院のボランティア活動です」

歩夢「そして、彼方さんにしてほしいことは」

彼方「う、うん」

歩夢「なんでもいいです」

彼方「え!?」

歩夢「この遥ちゃんの病室で、ボランティア活動が終了するまでの間──何をしても構いません」

歩夢「勉強を進めても大丈夫ですし、ゆっくり休んでもいいです。本当は大好きなお昼寝をしたって大丈夫です」

彼方「!!(な、なんで私が本当はお昼寝好きって知ってるの……?)」

彼方「ど、どうして?」

歩夢「彼方さん、本当に色々忙しいですから」

歩夢「お見舞いだって間の時間を見つけて来てるから、あんまりゆっくり出来てないですよね?」

彼方「それは……まぁ……」

歩夢「だからです」

歩夢「今日は予定、空けてくれたんですよね? 同好会の活動として、今日は自由に……なんでもしていいです」ニコッ

彼方「歩夢ちゃん……」

しずく「簡易的だけど、勉強机もお昼寝スペースも用意したよ。もちろん先生には許可取得済!」

彼方「しずくちゃんも……」

825: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 01:42:42.38 ID:YL2vnRYy
歩夢「……彼方さん」

歩夢「たまには自分へのご褒美も……用意してあげてください」

彼方「自分への……ご褒美」

歩夢「彼方さんは……本当に凄い人だと思います」

歩夢「遥ちゃんの為に勉強も頑張って、アルバイトもして……同好会にも出てくれて……みんなのライブや練習の手伝いもしてくれる」

歩夢「いつも……本当にありがとうございます」

彼方「っっ」


ふと、涙が出そうになる。

だめだめ、後輩の前で、妹の前で泣いちゃダメだ。


歩夢「……彼方さん」

歩夢「私、願いを口に出して言い続ければ」

歩夢「その願いはいつか叶うと思っているんです」

歩夢「ゆっくりかもしれないけれど、少しずつ」

歩夢「一歩ずつ進んで」

歩夢「いつか願いは叶うと思う」

彼方「……」

歩夢「私は、遥ちゃんが目覚める事を願っています」

歩夢「そして──彼方さんの夢が叶う事も願っています」ニッコリ




826: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 01:51:20.27 ID:YL2vnRYy
彼方「…………」

遥「……………………」

彼方「いやぁ、平和だね〜」

彼方(こんなにゆっくり出来たの、いつぶりだろ?)

彼方(遥ちゃんの目が覚めなくなってからは……出来てないかなぁ)

遥「……………………」

彼方「……」ナデナデ

彼方「はぁ……可愛いなぁ……」

彼方(ふふっ、こんな日があっても……良いかも)

彼方「……」ボー

彼方(……なんか眠くなってき──)

彼方「!! ──だ、ダメ!」

彼方「私、勉強しなきゃ……」

彼方「遥ちゃんの為に……たくさん……勉強して」

彼方「遥ちゃんが目を覚ます為に」

彼方「医者になるために……!」

彼方「それが私の!」

彼方「──彼方ちゃんのッ!!」



歩夢『私、願いを口に出して言い続ければ』

歩夢『その願いはいつか叶うと思ってるんです』



彼方「!!」

彼方「医者になることが……彼方ちゃんの……願い? 夢……?」

827: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 01:56:12.30 ID:YL2vnRYy
彼方「……」


──違う。


彼方「……彼方ちゃんの願いは……」

彼方「遥ちゃんが……目を覚ましてくれる事……」

彼方「……」

遥「……………………」

彼方「……遥ちゃん」

彼方「目を覚ましてよ」

彼方「……彼方ちゃんは、遥ちゃんと一緒に歳を取りたいよ……」

彼方「……だから……目を覚まして?」

遥「……………………」


──違う。覚まして? じゃない。


彼方「…………」

彼方「──遥ちゃん」

彼方「目を覚ますって──信じてるから」

828: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:02:26.22 ID:YL2vnRYy
──今は何をしたって、構わないかぁ。

彼方「……歌」

彼方「歌いたい」


今は思い切り、大好きな歌を──全力で歌いたかった。

そう、彼方ちゃんはいつも全力なのです。


彼方(昔、遥ちゃんは彼方ちゃんの歌が大好きだった)

彼方「全力で、たくさん歌うね」

彼方「聴いてて。遥ちゃん」

彼方「──」スゥゥゥゥ


昔、遥ちゃんが好きだった曲や、最近流行りの曲。同好会の皆の歌も、覚えている範囲で沢山歌った。

──時間は少しずつ経ち、気が付けば夕暮れ時になっていた。

829: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:07:41.35 ID:YL2vnRYy
彼方(もうすぐ、ボランティア活動も終了かな)

彼方「はは……ずっと歌ってた気がする」

彼方「こんなに歌ったのいつぶりだろう?」

彼方「今日は久しぶりの事が多いや」

遥「………………」

彼方(次が──最後の曲)

彼方「遥ちゃん」

彼方「今から歌うのはね、最近作った曲なんだ〜」

彼方「遥ちゃんにだけ、初披露しちゃうね?」

彼方「えへっ」ニコッ

彼方「──」スゥゥゥゥ

830: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:10:39.79 ID:YL2vnRYy
【Butterfly】

831: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:19:48.46 ID:YL2vnRYy
♪〜

──ねぇ、遥ちゃん。


彼方「一人きりじゃ もう」

彼方「両手いっぱい」

彼方「広げても」

彼方「まだ」


──彼方ちゃんは、遥ちゃんがいないとダメなの。


彼方「足りないほどに」

彼方「大きな Dreams」

彼方「いま」

彼方「一緒に」

彼方「抱きしめよう」


──遥ちゃん。


彼方「Butterfly」

彼方「羽を 広げたら」

彼方「ハルカカナタ」

彼方「勇気の向こうに 美しい空」


──いつか目を覚ますって、信じてるから。


彼方「待ってるの──」

832: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:23:47.42 ID:YL2vnRYy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

彼方「……いやぁ……」

彼方「歌い過ぎて……喉痛い」

彼方「全力で歌い過ぎちゃったよ……あはは」

遥「……………………」

彼方「さて、と」

彼方「そろそろみんなの所に戻るよ」

彼方「また来るね、遥ちゃん」

遥「……………………」


立ち上がり、身支度を整える。

遥ちゃんに背を向けて、扉に向かって歩く。






──後ろから声が聞こえた気がした。

833: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:27:10.14 ID:YL2vnRYy
「──ぃ──ん……?」



彼方「……へ?」


聞き覚えのある声だった。

──大好きな子の声。

私は、振り返り──声の主を見つめた。

834: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:29:03.74 ID:YL2vnRYy
彼方「──────」

彼方「うそ」



遥「おねぇ……ちゃん?」



彼方「遥……ちゃん……?」

838: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:38:39.95 ID:YL2vnRYy
彼方「うそ……うそ……」

遥「あれ……な、んで私……あれ?」

遥「それ、に……声、出し……辛い」

彼方「──は、遥ちゃん!?」

彼方「遥ちゃんッ!!」

バッ!!

──ギュッ!!

遥「!?」

彼方「よかった……よかった……!!」

彼方「遥ちゃん……良かったよぉ……!!」ポロ、ポロ

遥「お、おねぇ、ちゃん?」

彼方「ひっぐ……!! は、遥ちゃん……っ……遥ちゃん!!」ギュュュュ

遥「???」

839: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 02:45:47.74 ID:YL2vnRYy
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

遥「──って事がこの前お見舞いに来てくれた時にあってね?」

遥「お姉ちゃんったら、私の事全然離してくれないんだよ? もうベッタリなの……」

しずく「えー、いいなぁ。羨ましい」

遥「嬉しいけど! やっぱ少し過保護過ぎるよ……」

しずく「あはは! まぁかな姉らしいじゃん」

遥「そうなんだけどさぁ……」

しずく「ところでさ遥」

遥「ん? しーちゃんどうしたの?」

しずく「もーすぐ退院だけど、目を覚まさなかった時の事とかってやっぱり覚えてないの?」

しずく「ずっと寝てたんだし、なんか夢とか見てないのかなぁって」

遥「夢……かぁ……」

遥「うーん……あんまり覚えてないなぁ」

しずく「ですよねー」

841: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 03:01:23.79 ID:YL2vnRYy
遥「……」

しずく「どしたの遥? ぼーっとして」

遥「あっ、ごめん」

遥「……少しだけ、なんだけどね」

遥「ぼんやりとなんだけど、何かを体験してた気がするの」

しずく「へ?」

遥「夢……なのかな?」

遥「なんだろ……あんま覚えてないんだけど……なんかね」

遥「その夢? その中ではね、自分の周りの環境が全然違うの」

遥「私の知り合いや友人もいたんだけど……私の知る人とは少し別人みたいになっててね?」

しずく「別人みたいになってる……?」

遥「私の生まれた環境も違くて……」

しずく「う、うん」

遥「……なんか」

遥「自分なんだけど、自分じゃない。別の自分の人生を」

遥「──体験してきた気がするの」

842: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 03:02:20.70 ID:YL2vnRYy
【Members walking together】

【NEXT】

【桜坂しずく】

843: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/05/31(月) 03:02:40.53 ID:YL2vnRYy
つづく。

872: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/02(水) 19:41:02.21 ID:DNtg6GcO
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

──何事も適度に、ゆるく楽しむ。

それが私の生き方だ。

しずく「……」ポケー

しずく(今日もいい天気だなぁ)

しずく(お昼寝したら気持ちいいだろうなぁ)


そうすることによって、今日も平和に生きられる。
そう考えると自然と心も穏やかになってくる。


「桜坂さん?」


──そんな事をぼけーっと考えていたら、先生から声をかけられる。

そりゃそうか。授業中によそ見してたんだし。


「授業中によそ見なんて、ずいぶん余裕ですね?」

「この問題解けますか?」

しずく「……」ジー

しずく(X=4)


問題を見てすぐに正解の答えが分かった。

でも、ここで正解を答えてはいけない。


しずく「あ、あはは……ごめんなさい! わかりません!」

「……まったく。よそ見はせず授業は聞くこと! 罰として課題を──」

しずく「あー! せんせーごめんなさい! よそ見してたあたしが悪かったです! この通り反省してますので、どうかご勘弁をー!!」


少しオーバーリアクション気味に動き、全力で謝る。それを見たクラスメイトが皆楽しそうに笑う。

授業の雰囲気が明るくなったからか、先生もそんなに不満そうではない。

──そう。これでいいんだ。

下手に正解を答えて、授業なんか聞かなくても出来るアピールか? なんて思われて角が立つのはごめんだ。


しずく(これでいいんだ)

しずく(私は、これでいい)


今日もゆるく、平和に生きよう。

874: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/02(水) 19:59:43.85 ID:DNtg6GcO
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

かすみ「しずく」

かすみ「そろそろあなたもライブやろうよ」

しずく「へ?」


放課後、スクールアイドル同好会にて練習中。私の大切な友人である中須かすみから唐突にそう言われる。


しずく「いや、私はいいよ」

かすみ「…………」ジトー

しずく(すっごい不満そう……)


ここ最近、スクールアイドル同好会の動きが活発化している。

上原歩夢さんが同好会にやってきて、その影響で部員も増えて、皆一生懸命頑張っている。

本当にすごいと思う。

何かに全力で取り組める人を私は尊敬するし、一生懸命応援したいと思う。

──でも、私には何かに対して一生懸命になる事は出来ない。

875: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/02(水) 20:07:48.81 ID:DNtg6GcO
しずく「ほ、ほら! あたし達スクールアイドル同好会はソロ活動メインだから、その辺自由にやれるのが良い所じゃん?」

かすみ「それ前も聞いたよ」

しずく「あ、あはは……」

かすみ「璃奈だってライブやったんだよ?」

しずく「まぁ、そうなんだけどね」

しずく「あたしは皆のサポートをしたいからさ〜」

かすみ「……それでいいの?」

しずく「うん!」

しずく「あたしは、一生懸命頑張る人は応援したいし、何かを始めようって思ってる人をサポートしたいと思ってる」

しずく「主役じゃなくて脇役に徹する。それでいいんですよ、あたしは」

かすみ「……勿体ない……」

しずく「え?」

かすみ「なんでもない」フイッ

しずく「いやはや、せっかく誘ってくれたのにごめんね?」

かすみ「んーん。別にしずくがそう言ってるんだから大丈夫だよ。無理強いするもんじゃないし」

かすみ「──ただ、ね?」

しずく「?」

かすみ「主役になるのも、いいもんだよ?」

しずく「…………」


──無理だよ、かすみ。

私は主役になれない。

何かに対して、一生懸命になるのは──怖いもん。

876: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/02(水) 20:18:38.57 ID:DNtg6GcO
彼方「ほらほら2人とも〜? そろそろ練習再開するよ?」

かすみ「あっ、はい。わかりました」コクリ

彼方「たっくさん練習メニュー考えてきたからね! 今日も頑張るよ〜」

エマ「ふふ、彼方ちゃん気合い入ってるね〜」ニコニコ

彼方「あたぼうよ!」

彼方「遥ちゃんもそろそろ退院するし、テストの結果も良かった……私は今ノリに乗っているんだぜ〜!」

せつ菜「すっごいテンションですね! 私も負けてられません!」

愛「アタシも負けてらんねぇな!」

しずく「……」

しずく(みんな……楽しそうだなぁ)

歩夢「あっ、練習再開前にみんなごめんね? 私、少しお手洗い行ってくるね」スタスタ

璃奈「うん。歩夢さん行ってらっしゃい〜」

877: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/02(水) 20:38:46.14 ID:DNtg6GcO
彼方「しーずくちゃん!」ギュッ!!

しずく「わっとと! か、かな姉どうしたの?」

彼方「なんか静かだったからね?」

彼方「疲れてない? 大丈夫?」ナデナデ

しずく「うん。大丈夫だよ?」

彼方「何かあったらすぐ彼方ちゃんに言うんだぞ〜?」ギュュュュ ナデナデ

しずく「あはは……うん!」ニッコリ

エマ「二人ともとっても仲良しさんだよね〜」

エマ「ほほえまだよ〜」ニコッ

愛「エマさんだけに?」

エマ「!! ──愛ちゃん、お上手だね!」キラキラ

愛「え!? そんな絶賛されます!?」

果林「中々早い返しだったよ!」

果林「あっ! ダジャレ系スクールアイドルってのもありじゃない!?」

愛「いやいや……そんなの──」

かすみ「斬新でありかもしれませんね」

愛「嘘だろありなの!? 意外なとこから反応きたんだけど!」

果林「ふふっ、セクシー系スクールアイドルのわたしとコンビでも組んでみるかしら?」

愛「セクシー系とダジャレ系ってアンバランス過ぎっしょ。というかほんと、カリンさんと言いかすみと言い……スクールアイドルの時とキャラが違いすぎます」

璃奈「わかる。演技みたいだよね」

しずく「!!」

しずく「………………」

彼方「ん? しずくちゃん?」

しずく「……ごめん、かな姉」

しずく「私、少しお手洗い行ってくるね」


──演技、か。

出来ればあんまり聞きたくない言葉だ。

私はそこから逃げるように、部室をあとにした。

878: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/02(水) 22:47:46.28 ID:DNtg6GcO
しずく「……」

スタスタ

しずく(逃げちゃった)

しずく(……演技、かぁ)

しずく「…………」


かすみ『主役になるのも、いいもんだよ?』


しずく「…………」

しずく「……私には無理だよ……」

しずく「……一生懸命やったら……何かに、のめり込んじゃったら……」

しずく「……あ、あの時みたいに……!」


「……! ──!」


しずく「ん?」

しずく(何の音? それに、なんか……声がする?)

しずく(水道の方から?)

スタスタ


しずく「──え?」


歩夢「はぁ……はぁ、はぁ、はぁ……ッ!!」


そこには、頭を手で抑えながら座り込んでいる──歩夢さんがいた。

879: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/02(水) 23:01:32.84 ID:DNtg6GcO
しずく「あ、歩夢さん!?」タッタ

しずく「だ、大丈夫!?」

歩夢「……しずく、ちゃん?」

歩夢「あ、あはは……ご、ごめん……大丈夫だよ?」

しずく「ぜ、全然大丈夫そうじゃないよ!? あ、頭が痛いの!?」

歩夢「へ、平気……──ッ!!」ビクッ!!

歩夢「ッ、ぁ……いっ……!!」

しずく「あ、歩夢さん……」

しずく(ど、どうしよう)

しずく「とりあえず皆に──」

歩夢「だ、大丈夫!」

しずく「そんな風に見えないよ!」

歩夢「心配かけたく、ないの」

歩夢「し、しばらくすれば……なお、る……から……」

しずく「…………」

歩夢「ご、ごめんね……あはは……」

しずく「……」

歩夢「最近、ね。……頭痛がひどいんだ」

歩夢「市販の薬も全然効かなくて、ね」

歩夢「……さっきも、急に頭が痛くなっちゃって……部室から逃げちゃったの」

しずく「な、なんでよ……言ってくれれば」

歩夢「……しんぱい、かけちゃうから……」

しずく「…………」

しずく(さっきも聞いたよ……)

880: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/02(水) 23:27:26.70 ID:DNtg6GcO
しずく「……」スッ

歩夢「え?」

しずく「……」フキフキ

しずく「汗、とりあえず拭くね? 私のハンカチだけど、ごめん」

歩夢「ううん。……ありがとう」

しずく「いーえ」スッ、スッ

しずく「──よし。これでおーけ」

歩夢「ありがとう、しずくちゃん」

歩夢「頭痛も……少し治まってきたよ」

しずく「なら良かった」

歩夢「本当に、ありがとう」ニコッ

しずく「……」

しずく「何かあったら、言ってね?」

歩夢「……うん」

しずく「それにさ。私は心配かけたいよ」

歩夢「え?」

しずく「一人で抱え込むのって辛いじゃん?」

しずく「その辛さは……知ってるから……」

しずく「だから、私に出来ることがあるなら……何でもしたい」

歩夢「しずくちゃん……」

881: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/02(水) 23:34:42.99 ID:DNtg6GcO
歩夢「しずくちゃんってさ、優しいよね」

しずく「え?」

歩夢「私ね」

歩夢「しずくちゃんに……すごく感謝してるの」

しずく「え? わ、私に?」

歩夢「うん!」ニコッ

歩夢「……初めて……だね。うん。──同好会の部室に来た時」

歩夢「しずくちゃんは私を迎え入れてくれた。何か用事があったんでしょ? って言ってくれて、それ以上は何も聞かないで、優しく迎え入れてくれた」

しずく「あー、なんか懐かしいね」

歩夢「……本当に……あの時、私は救われたの」

しずく(そんな大したことしてないと思うけどなぁ)

歩夢「あ、あとね! かすみちゃんから色々言われちゃった時も──」

しずく「ちょ、ちょいちょい! なんか恥ずかしくなってくるからやめてやめて〜!」

しずく「そんな大したことしてないってば!」

歩夢「そんなことないのに……」

882: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/02(水) 23:49:59.74 ID:DNtg6GcO
しずく「てかさ、なにげこんな感じで二人きりで話すのほんと久しぶりだよね」

歩夢「あっ、確かにそうかも」

しずく「今の同好会はにぎやかですからなぁ〜。楽しくていいけど」

歩夢「ふふ、そうだね。最近みんな本当に楽しそうだもんね」

しずく「……歩夢さんも楽しい?」

歩夢「私? それはもちろん楽しいよ?」

歩夢「“今の”スクールアイドル同好会も、私はすごく楽しいよ……」

しずく「……そっかぁ」

歩夢「しずくちゃんは?」

しずく「え? 私は……」

しずく「うーん。皆でわちゃわちゃするのは楽しいけど……どうだろ」

しずく「ゆるーくやってるから、よくわかんないや……」

しずく「──って、一生懸命スクールアイドルやってる人に対して、私はゆるくやってるなんて言うの失礼だよね!? ごめん」

歩夢「え? 全然大丈夫だよ?」

しずく「あー、ならよかった……」

しずく(失言したと思った。あぶないあぶない)

歩夢「ふふっ、しずくちゃんってさ。一つ一つの会話にすごく気遣いしてるよね」

しずく「──え?」

883: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/03(木) 00:06:43.80 ID:XMwhArLc
歩夢「よく冗談とか言って場を和ましてくれるし、聞き上手だし、本当にすごいと思う」

歩夢「いつもありがとうね」

しずく「…………」

歩夢「あれ? しずくちゃん?」

歩夢「え?」

しずく「……あたしは……私は……!」

歩夢「し、しずくちゃん?」

しずく「っ!!」バッ!!

タッタッタッタ!!

歩夢「し、しずくちゃん!?」


──気付かれてた? いつから? 最初から?

……私が気を使って会話をしている事。気付かれてたの?

歩夢さんだけ? それとも、皆に?


しずく(まずい、まずいまずい)

しずく(気を使って会話しているなんてバレたら)


──嫌われる。あの時みたいに。

884: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/03(木) 00:25:01.07 ID:XMwhArLc
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

しずく『わぁ……!!』

しずく『おもしろい……!!』ドキドキ


──私は小さい頃から昔の映画とか小説が好きだった。というか、創作された物語が大好きだった。

主人公を中心に動く物語のシーンの一つ一つに心が躍って、物語にずっと浸っていたくなる感覚が、大好きだった。

そして何時しか、“もし私があの世界の登場人物だったら?”と思うようになり、あれこれ妄想や空想ばかりしていた。

そんな私は小さい頃、仲良しの友達に沢山そんな話をした。


しずく『あのねあのね! そこで運転手であるわたしがね──』


何の疑問もなく、皆、私と同じだと思っていたから。

でも、違った。

885: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/03(木) 00:35:40.14 ID:XMwhArLc
『うーん……』

『しずくちゃんのはなし、よくわかんない』

しずく『え?』

『あっちいこー』

『うん』

しずく『……』


空想の話をすればするほど、周りの子から変な顔をされる事が増えた。

話を聞くのは面白くなかったのかな? ──なら話をするのではなく、実際に皆で遊べばいいんだ。

お馬鹿な私はそんな事を考えていた。


しずく(この前見た、お母さんにつれていってもらった演劇! あれほんとーに楽しかったなぁ!)

しずく『あんなかんじのおままごとを、皆をさそってやればいいんだ!』

しずく『そーしたら皆楽しんでくれるよね!?』


この時の私は──皆から変な顔をされるという意味を、理解出来ていなかったんだ。

886: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/03(木) 00:44:00.78 ID:XMwhArLc
しずく『ねぇねぇみんな!』

しずく「おままごとしよ?」

『おままごと!?』

『いいねー!』

しずく『!!』パァァァァ

しずく『うん!』

しずく『えっとね! おままごとの設定なんだけど〜』

『せ、せってい?』

『へー、なんかおもしろそー』

しずく『えへへ!』


設定をしっかりと練った、物語のようなおままごと。

皆、楽しそうにしてくれていた。

──最初のうちは。





しずく(えへへ! 今日もおままごと楽しみー!)

しずく『あっ!』

しずく『みんなー!』

『あっ、しずくちゃん』

『……』

しずく『ねぇねぇ、みんな!』

しずく『おままごとしよー?』

887: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/03(木) 00:50:33.48 ID:XMwhArLc
『やだ』

しずく『──え?』

『しずくちゃんとやるおままごと、よくわかんないんだもん』

『え? えっと……』

『最初のうちはたのしかったけど……やりたくない。つまんないもん』

しずく『え? ……え?』


ひどく困惑したのを覚えている。


『あっちいこ』

『う、うん』

スタスタ

しずく『……』ポツーン


この辺りから、私は自分の行動を後悔し始める。



『……あの子ってさ、へんな子だよね』

『……そ、そうかも』

『いつもよくわからない話するもんね』

『おかーさんからへんな子とはかかわるなって言われてる〜』


しずく『…………』


思い出したくない記憶。

──でも、心に残ってしまっている。

888: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/03(木) 01:06:55.29 ID:XMwhArLc
『ねぇねぇ、あの子って変な子なんでしょ?』ヒソヒソ

『いっつもよくわからない話してるよね〜』ヒソヒソ


しずく『…………』


最初は噂話されるくらいだった。

でも、小学校低学年くらいの時かな?

変な子だって噂話される程度の話ではすまなくなった。


『しずくちゃんってさ、嘘つきなんでしょ?』

しずく『へ?』

しずく『ち、違うよ! 私は嘘なんて……』

『え? だって皆しずくちゃんが変な事ばかり言ってたって言ってるよ?』

『物語の主人公の私が〜とか話してたんでしょ?』

しずく『そ、それは空想の話で……』

『空想〜? えー、こわいんだけど』

『お母さんから空想する子やもーそーへき? みたいな子は変な子だって言ってたよ!』

しずく『わ、私は変な子じゃ……!』

『いやいや』

しずく『えっと……わ、私は──』

『しずくちゃんは変な子だよ』

しずく『』


少しずつ、私は省かれ始めた。

889: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/03(木) 01:20:12.87 ID:XMwhArLc
皆、あまり私と会話してくれなくなった。


しずく(……なんでだろう?)

しずく(私が……悪いのかな?)

しずく(そうだよね……そうだ)

しずく『私が変な事言ったから……いけないんだ』


そう思い、私は普通の子になろうとした。努力をした。

周りの子に気を遣い、上手くやろうと立ち回った。

──でも、結果は失敗に終わった。


『しずくちゃんってさ、私達と会話してて楽しいの?』

しずく『え?』

『なんかいっつも作り笑顔な気がするし』

『すごい気を使ってる感じがするよね』

しずく『そ、そんなことないよ?』

しずく『ご、ごめんね!』

『そうやってすぐに謝るのもさ、なんか気遣いしてる感じがする』

しずく『え?』

『なんか……』

『演技してるみたい』

しずく『──────』


私は──他人とどうやって関わればいいのか、分からなくなってしまった。

890: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/03(木) 01:26:45.39 ID:XMwhArLc
皆から省かれていても、全員が全員そうではなくて、話してくれる子も数人はいた。

だから、失敗しないように、上手く立ち回ろうとした。

でも、失敗した。

私は失敗したんだ。


しずく『………………』

しずく『おかーさん』

しずく『私』

しずく『学校に行きたくない』

893: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/03(木) 01:42:29.57 ID:XMwhArLc
『しずくちゃん。ここが新しい私達のお家よ?』

しずく『…………』


お母さんに連れられて、私は知らない家の前に立っていた。

学校に行きたくない。その悩みをお母さん達に話してからの事は、あんまり覚えていない。

色々と理由を聞かれたと思うけど、詳しい理由は言えなかった。

でも、とにかく学校に行きたくない事と、どこか遠くへ行きたいというわがままを言い続けた。

──本当に、迷惑をかけてしまった。


『ここはね、お母さんの地元なの。いい所だから、ゆっくり休もう?』

しずく『うん……』

『ここならしずくちゃんを知ってる子もいないから、のんびりできるよ』

しずく『……』


お父さんは鎌倉のお屋敷に残って、私とお母さんだけは東雲に引っ越して来た。

離婚はしていない。私の実家は古くから続くお屋敷だから、誰かが残らなきゃいけなかったみたい。

鎌倉と東雲の雰囲気はだいぶ違くて、私は異世界に来たような感覚だった。

894: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/03(木) 01:53:48.83 ID:XMwhArLc
しずく『……』ポケー

しずく(でっかい建物が隣に立ってる。団地かな?)


ベランダに腰掛けながら、私は家の隣に建っている団地を見つめていた。


しずく『でっかいなぁ……』

ササッ

しずく『ん?』

しずく(物音……?)

ヒョコッ

遥『……』ジー

しずく『……』


外から私の家のべランドを覗き込む、小さな女の子が柵越しに顔を出した。


遥『……』ジー

しずく(す、すごく見られてる……)

しずく『……えっと……』

遥『!!』ビクッ!!

ヒョコッ!

しずく『え、えぇ……』


何事だと思った。声をかけた瞬間、顔を引っ込め逃げられた。

猫かな?

895: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/03(木) 02:03:46.54 ID:XMwhArLc
しずく『……』


スタスタ

『はやく! はやくー!』

『ちょ、は、遥ちゃん!? そんなに引っ張らないで〜?』

しずく『!!』

しずく(また来た!?)

ヒョコッ

遥『……』ジー

しずく(また来た……)

遥『……』ジー

しずく『こ、こんにちは』

遥『!!』ビクッ!!

ヒョコッ!

しずく『えぇ……』

しずく(なにこれ?)

ヒョコッ

しずく『!!』ビクッ!!

遥『ほらお姉ちゃん! みて!』

彼方『は、遥ちゃん……そこ登っちゃダメだってば……も〜』

彼方『んで、なになに? お人形さんが喋ったって?』

遥『うん! あそこにいる!』ピシッ

しずく(お人形さん!?)

彼方『えー?』ジー

しずく『……』ジー

彼方『あれま、ほんとだ。綺麗なお人形さんだね〜』

遥『だよね!? でもあれ喋るんだよ!?』

しずく『』

しずく『あの、私! 人間なんですけど!?』

遥『え?』

彼方『お?』


──これが私と、近江姉妹の出会いだった。

896: 1(茸) 2021/06/03(木) 08:47:31.75 ID:duzyFc9s
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

『じゃあ、ゆっくりしてね? 私は2階にいるから何かあったら呼んでね』

彼方『なにからなにまで申し訳ないです……お家にまであげて頂いて』ペコリペコリ

『ふふ、礼儀正しい子だね? いいのよ。しずくちゃんと仲良くしてあげてね?』

彼方『はい!』


遥『……』ジー

しずく『……』


あの後お母さんがベランダに来て、流れのままに家の中に招待された女の子二人。


遥『……』ジー

しずく(めっちゃ見られてる……)


警戒してる猫みたいだなって思っていたのを覚えている。


遥『……ねぇ!』

しずく『!!』ビクッ!!

しずく『な、なに?』

遥『いくつ!?』

しずく『へ?』

897: 名無しで叶える物語(茸) 2021/06/03(木) 08:58:40.80 ID:duzyFc9s
彼方『こーら、遥ちゃん? まずはご挨拶でしょ?』

遥『あっ……ごめんなさい』

遥『近江遥。小学二年生〜』

彼方『ん〜、遥ちゃんいい子いい子』ナデナデ

遥『えへへ〜』ニコニコ

彼方『彼方ちゃんはこの子のお姉ちゃん。小学四年生だよ〜』

しずく『……お、桜坂しずくです。小学二年生……です』ペコリ

遥『うそ!? はるかと一緒だ〜!』

遥『よろしくねー!』

しずく『う、うん』

しずく(元気な子だなぁ……)

898: 名無しで叶える物語(茸) 2021/06/03(木) 09:03:53.39 ID:duzyFc9s
彼方『しずくちゃんかぁ。さっきはごめんね? お人形さんだと思っちゃって』

しずく『い、いえ……』

遥『え〜? だってこんなに可愛くて、高そうなドレス着てるんだもん。お人形さんだと思うじゃん? ネズミさんの国でしか見たことないよ、こんなドレス』

彼方『まぁ、確かに。すっごい可愛いもんね、しずくちゃん』

遥『うん!』

しずく『か、可愛くなんて……』

しずく『……っ……////』カァァァァ

遥『かおまっか!』

彼方『可愛いね〜』

しずく『か、からかわないでくださいよ!』

彼方『からかってないよ〜』ニコニコ

遥『そーだよ!』

しずく『もう……』

899: 名無しで叶える物語(茸) 2021/06/03(木) 09:11:52.46 ID:duzyFc9s
遥『!!』

遥『こほ、こほ!』

彼方『!! 遥ちゃん? 大丈夫?』

遥『……う、うん……だいじょぶ……』

しずく『え?』

しずく『体調、悪いの?』

遥『う、ううん。違うの。……えへへ、はるか……生まれつき、身体が弱くてね……』

彼方『……』

遥『たまーにこうなっちゃうんだけど……なかよくしてね?』

遥『しーちゃん!』

しずく『え? しーちゃん?』

遥『うん! しずくちゃんだから、しーちゃん!』

遥『あだ名だよ〜!』

しずく『…………』

しずく(あだ名なんて……初めて付けてもらったなぁ)

しずく『……気持ちは嬉しいけど』

しずく『私とは……仲良くしない方がいいよ』

遥『え?』

しずく『……私……変な子だから……』

900: 名無しで叶える物語(茸) 2021/06/03(木) 09:20:14.18 ID:duzyFc9s
彼方『変な子?』

しずく『はい』

しずく『私は、変な子なんです』

しずく『……だから……私とは……一緒にいない方がいいです』

遥『え? え?』オドオド

彼方『……しずくちゃん』

しずく『は、はい』

彼方『えい!』

ギュッ!!

しずく『え?』ポカーン

彼方『なでなで〜』ナデナデ

しずく『え? ──え?』ポカーン

彼方『何か……あったんだね』

彼方『でもね、大事なのは──しずくちゃんの気持ちだよ?』

しずく『……私の……気持ち?』

彼方『うん』

彼方『しずくちゃんは、遥ちゃんと仲良くしたくないの?』

しずく『──そ、そんなこと!』

彼方『ほんと? なら思うがままにすればいいじゃ〜ん』

彼方『大事なのは、自分の気持ちだよ?』

しずく『……』

902: 名無しで叶える物語(茸) 2021/06/03(木) 09:46:31.98 ID:duzyFc9s
彼方『それにさ、変な子って決めるのはしずくちゃんじゃないよ』

しずく『……』

彼方『こうやって話してるけど、彼方ちゃんはしずくちゃんを変な子だと全然思わないし』

彼方『それに、変な子代表の彼方ちゃんがいるからね!』

彼方『安心したまえよ!』

しずく『』ポカーン

しずく『ふふっ』クスクス

しずく『なんですか、それ』ニコニコ

彼方『おっ、笑ってくれた! 可愛いね〜!』ナデナデ

しずく『……////』

遥『……』ムスー

遥『ずるい!』

遥『はるかの方が先にしーちゃんと会ったのに! はるかも仲良くしたいよ〜!』

彼方『順番だよ〜?』

遥『わりこませていただく!』

彼方『こらこら、ダメだぞ〜?』

遥『フリーパスもってるもん!』

しずく『あっはは! 何のフリーパスですか』ニコッ


──この二人のおかげで、楽しい日々を過ごす事が出来たんだ。

ゆるーく、いつもぽわぽわしてる優しい、学校で人気者の彼方お姉ちゃん。

そして、身体が弱いのに明るくて、少し変わった子だけれど可愛い学校で人気者の遥。

二人とも──私の親友になった。

……そして──


しずく(私も、この2人みたいになったら)

しずく(もう、省かれたりしないかな?)

しずく(平和に生きることが、できるかな?)


──私は、“あたし”を作った。

923: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/04(金) 21:31:55.64 ID:J3Hop33v
二人は私の親友だけど、同時に憧れの人でもあった。

そんな2人をモデルにした、“あたし”。

あたしは、明るいけどすこしのほほんとしているのんびり屋さん。ちょっと変わった子だけど、どこか憎めない子。それが“あたし”だ。

私はあたしになっている時は、楽だった。

楽なだけじゃなく、楽しかった。
あたしはみんなと楽しく過ごしたかったんだ。

皆とワイワイする日々は、本当に楽しくて大好き。友達もできた。

──大事なのは、自分の気持ち。

かな姉に言ってもらった言葉は、私を救ってくれた。

──でも、気を遣いながら会話をする癖だけは、治らなかった。

あたしになっても、それは変わらなかった。



しずく「はぁ、はぁ、はぁ」タッタッタッタ


歩夢『ふふっ、しずくちゃんってさ。一つ一つの会話にすごく“気遣い”してるよね』


しずく「やだ……嫌だ……」スタスタ

しずく「嫌だ嫌だ嫌だ」スタ、スタ


『演技してるみたい』


しずく「───────」

しずく「嫌だ……!!」


嫌われたくない。

924: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/04(金) 21:42:26.73 ID:J3Hop33v
上手く立ち回れていたと思っていた。

あたしとして、私は上手くできていると思っていた。

──でも、気遣いしていると気付かれていた。歩夢さんに。

もしかしたら、みんなに気付かれているのかもしれない。そう思ってしまうと、またあの時みたいに嫌われるんじゃないかと思って、怖くなった。

完全なトラウマスイッチ? なのかな?

怖くて震えが止まらない。


しずく「嫌われたくない……もう……」

しずく「あたしは」

しずく「私は」

しずく「……嫌われたくない」

しずく「……平和に生きたい……」


誰もいない空き教室に入り、私は端っこで座り込む。


しずく「………………」


大事なのは、自分の気持ち。そんな事はわかっている。
何事も適度に、ゆるく楽しむ。私は平和に生きたい。それが私の気持ち。

──でも、それって本当の私の気持ち? あたしの気持ち?


しずく「………………」


──今の私は誰?

──何を想うの?

嫌われるのが怖くて震えている私。

平和に生きたい私。

みんなと楽しく過ごしたいあたし。


しずく「………………」


私は──誰?

925: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/04(金) 21:47:39.51 ID:J3Hop33v
しずく「……」

ブー、ブー

しずく「……」

ブー、ブー

しずく(スマホの通知……すごいや……)

しずく「……」

しずく(そろそろ部室戻らなきゃ)

しずく(……でも……)

しずく(立ち上がれない)

タッタッタッタ!! ──ガラガラ

歩夢「はぁ、はぁ……──しずくちゃん!」

しずく「!!」

しずく「歩夢……さん……」

歩夢「……やっと見つかった……」

926: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/04(金) 21:53:02.38 ID:J3Hop33v
しずく「………………」

歩夢「しずくちゃん、ごめんね?」スタスタ

しずく「え?」

歩夢「私……何かしずくちゃんの気に触ること言っちゃったんだよね……?」

しずく「……」

歩夢「本当にごめん。で、でもねしずくちゃん! 私──」

しずく「歩夢さん」

しずく「大丈夫だよ!」ニコッ

歩夢「え?」

しずく「いやはや〜、心配かけてごめんね〜?」ニコニコ

しずく「ほんと、全然大丈夫だからさ! そろそろ同好会にもど──」

歩夢「大丈夫じゃない」

しずく「!?」

歩夢「全然大丈夫じゃないよ」

歩夢「しずくちゃん。身体、震えてるよ?」

しずく「………………」

歩夢「何かあったの?」


心配そうに、私を見つめる歩夢さん。

……これは、もう……逃げることができない。


しずく「……歩夢さん……」

しずく「私」

しずく「嫌われたくない」

927: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/04(金) 22:00:21.98 ID:J3Hop33v
歩夢「え?」

しずく「もう……私……」

しずく「嫌われたく……ない……」

歩夢「しずくちゃん?」

しずく「皆に……嫌われたくないよ……!」

歩夢「嫌わないよ」

しずく「!?」

歩夢「誰もしずくちゃんの事、嫌わない」

しずく「…………」

しずく「……なんでそんなこと言えるの……?」

しずく(本当の私を知ったら)

歩夢「嫌うわけないよ」

歩夢「だって私」

歩夢「しずくちゃんの事、大好きだもん」

しずく「!!」

歩夢「それは私だけじゃないよ」


タッタッタッタ!! ガラガラ!! ──バンッ!!

果林「あー!!」

しずく「!?」ビクッ!!

果林「みんな! こっちこっち! しずくちゃんいたよ!!」

しずく「か、果林さん!?」

ダッダッダッダ!!

彼方「し、しずくちゃん!? よ、よかった……こんなとこにいたんだね?」

しずく「!! かな姉……」

エマ「果林ちゃんナイスだよ〜」

せつ菜「よく見つけられましたね」

璃奈「果林さん、方向音痴なのにお手柄だね」

愛「だな!」

果林「むぅ〜……余計な一言が多いよ〜!」

かすみ「……」

928: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/04(金) 22:16:13.61 ID:J3Hop33v
しずく「み、みんな……なんで?」

彼方「なんでじゃないよ!」

彼方「しずくちゃん、全然部室に戻って来ないし……連絡も取れないし、心配になっちゃったから……」

彼方「だから皆でしずくちゃんを探してたの」

しずく「……」

かすみ「し〜ず〜く〜?」

しずく「!?」ビクッ

かすみ「マイペースに練習するのは構わないけどさ……おサボりはよくないよね〜?」ニコニコニコニコ

しずく「!? ──ちょ、ちょいかすみ! 違うから! あいや、違くないけど……えっと……そのぉ……!」

歩夢「ね?」

歩夢「みんなしずくちゃんの事、大好きなんだよ?」

しずく「──!!」

しずく「…………」

歩夢「何かあったのなら……なんでも話、聞くよ? ゆっくりでも大丈夫だから……話してほしいな」

歩夢「私達は、同じ同好会の仲間だけど」

歩夢「その前に、友達だもん」

しずく「!!」

しずく「………………」

しずく「皆さんに……」

しずく「聞いてもらいたい事があるの」


私は、今までの事を全部話した。

ぽつり、ぽつりと。雨粒のよう。

私は全ての事を話した。

──あたしと、私の過去の事を。





932: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 03:51:27.51 ID:hQAG6YlX
しずく「──以上が、私の今まで……全てです」


みんな、私の話を真剣な表情で聞いてくれた。


しずく(どう思われたんだろう)

しずく「……」

しずく(自分の過去をさらけ出したのは初めてだから……怖いや)


歩夢「しずくちゃん」


話し終えた後の第一声の主は歩夢さん。その反応は──


歩夢「話してくれて、ありがとうね」ニコッ

しずく「え?」


──意外なものだった。

933: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 03:58:15.45 ID:hQAG6YlX
しずく「ありがとうって……なんで?」

歩夢「だって、自分の事を話してくれたじゃない?」

歩夢「辛かったと……思う。私がしずくちゃんの立場だったら、すごく辛いと思うから……」

歩夢「だから、話してくれてありがとう」

しずく「……」

歩夢「あと、ごめんね」

歩夢「さっき、不用意に気遣いしてるなんて言っちゃって」

しずく「う、ううん! 大丈夫だよ……私が勝手に……こうなっただけだから」

歩夢「でもね、しずくちゃん」

歩夢「私は一つ一つの会話に気遣いできるしずくちゃんを、尊敬してる」

歩夢「本当に、優しい子だと思う」

しずく「!!」

しずく「優しくもないし、尊敬できる事じゃないよ……!」

しずく「それに、私は嫌われたくないからそうしてるだけで!」

歩夢「嫌われたくないのは、当たり前だよ」

歩夢「私だって一緒」

しずく「……」

歩夢「しずくちゃん。人ってのは誰もが怖がりなんだよ」

歩夢「嫌われたくないって気持ちがあるのは、しずくちゃんだけじゃないの」

しずく「私だけじゃ……ない……?」

歩夢「うん」

歩夢「だからね、しずくちゃん」


歩夢「しずくちゃんは変な子なんかじゃないよ」

934: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 04:12:26.83 ID:hQAG6YlX
しずく「で、でも! 私は……あたしは……」

しずく「別の自分を作り出して!」

しずく「──演技してただけで!!」

かすみ「だぁぁぁぁああああ!!」

しずく「!?」ビクッ!!

しずく「か、かすみ……?」

かすみ「さっきからうじうじうじうじと!」

かすみ「しずくらしくない!!」

しずく「えぇ!?」

かすみ「いつものあなたはどこへいったの!?」

しずく「!! そのいつもの私は……あたしで……」

かすみ「そんなの関係ない!」

かすみ「あなたは桜坂しずくでしょ!?」

かすみ「私とか、あたしとか、演技してたとか! 関係ない! しずくはしずくで、私の知る桜坂しずくと何も違いはないよ!」

しずく「かすみ……」

935: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 04:25:52.18 ID:hQAG6YlX
かすみ「私の知る桜坂しずくは!」

かすみ「明るくて、のんびり屋さんでマイペースで変わった子だけど……どこか憎めない」

かすみ「私とは真逆の子」

かすみ「だけど、私とは真逆だからこそ、一緒にいて楽しいの!」

しずく「……」

かすみ「嫌われたくないから演技してた? だからどうしたの?」

かすみ「嫌われたくないって思っちゃうしずくも、桜坂しずくの一面でしょ?」

しずく「そ、それは……」

かすみ「それに、誰が嫌ってやるもんか!」

かすみ「出会ったばっかの私だけど……しずくとはずっと友達でいたい! 離れてなんかやらない!!」

しずく「……っ……」

かすみ「私は!!」

かすみ「──桜坂しずくの事、大好きだからっ!!」

しずく「!!」

かすみ「それに、今更なにさ……よく私とケンカするくせにさ」

かすみ「なのに、今更こんな事で不安になってないで……いつもみたいにゆるく、楽しくやろうよ」

かすみ「ね?」ニコッ

936: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 04:35:05.62 ID:hQAG6YlX
璃奈「かすみちゃんの言う通りだよ」

しずく「璃奈……」

璃奈「私、しずくちゃんからお昼ご飯誘った貰った時……本当に嬉しかった」

璃奈「友達でしょ? って言ってくれて、本当に嬉しかった」

璃奈「……その気持ちも、演技してたしずくちゃんの想いなの?」

しずく「!!」

しずく「ち、ちがう……私は……!」

璃奈「ふふっ、だよね?」ニコッ

璃奈「つまり、かすみちゃんの言う通りだよ。しずくちゃんは、しずくちゃんだ」

璃奈「私はしずくちゃんの事、大好き」

璃奈「あなたは私の友達で、大切で大好きな子」

璃奈「尚且つ、しずくちゃんは私の嫁の一人だ。そんな子を私達が嫌うはずないよ」

璃奈「分かった? しずくちゃんっ」ニッコリ

937: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 04:49:08.72 ID:hQAG6YlX
彼方「しずくちゃん」

スタスタ ──ギュッ

しずく「かな……姉……」

彼方「ごめんね」

しずく「え?」

彼方「彼方ちゃんが……しずくちゃんに重荷を与えちゃってたのかもしれない」

しずく「!! そ、そんなことないよ!!」

しずく「私は、あなたがいなかったら……ううん! かな姉がいたから、救われたんだよ!」

彼方「……しずくちゃん……」

彼方「彼方ちゃんもね、しずくちゃんに救われたんだよ?」

しずく「え?」

彼方「遥ちゃんが目を覚まさなかった時、しずくちゃんがずっと私を励ましてくれた。しずくちゃんだって辛かったはずなのに……」

彼方「それに、勉強の事にしか目を向けられなくなっちゃった私を……何回も心配してくれて……」

彼方「本当に……ありがとう」

しずく「かな姉……」

彼方「っ……だめだ。ごめん……私、お姉ちゃんなのに……皆みたいに上手く……良い言葉を、かけられないや……」ポロポロ

彼方「だから、代わりに……沢山なでなでするね?」

彼方「今まで……すごく、……っ……頑張ったんだね、しずくちゃん……!」ポロポロ

彼方「いい子、いい子」ナデナデ

しずく「っ……!!」ポロポロ


我慢が出来なくなって、涙が溢れ出てしまう。

938: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 04:59:16.51 ID:hQAG6YlX
せつ菜「私達の想いも、みんなが口に出しちゃいましたね」

愛「全くだよ。──てかカリンさん」

果林「うぅ……しずくちゃ〜ん……!」グスグス

愛「そろそろ泣き止んで下さいよ」

果林「だ、だっでぇ……しずくちゃんの事を考えると……がなじくなっちゃっで……」ポロポロ

愛「!! や、やめてくださいよ……」

愛「──アタシまで泣いちゃうかもしれないだろ!?」ブワッ

せつ菜「いや、もう泣いてますよ!?」

せつ菜「ほらお二人共? ハンカチです」スッ

果林「……うぅ……」グスグス
愛「……うぅ……」グスグス

しずく「みんな……」

939: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 05:07:26.68 ID:hQAG6YlX
エマ「しずくちゃん」

エマ「みんな、想いは一つだよ」

しずく「エマさん……」

エマ「誰も、しずくちゃんを嫌ったりしないよ」

エマ「むしろ、みんなあなたが大好きなの」

エマ「当然、わたしもしずくちゃん大好きだよ」

エマ「お茶目でキュートで、甘えん坊なしずくちゃんが、大好き」

しずく「……」

エマ「──ただ、ね」

しずく「?」

エマ「……その昔しずくちゃんを省いた子達は許せないね」

愛「……え、エマさん……?」ガクブルガクブル

果林「天使のような声を持つエマからとんでもないほど恐ろしい声がぁ……」ガクブルガクブル

璃奈「優しい人程怒ると怖いからね」

璃奈「でも怖いエマさんもギャップがあって、すき」

940: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 05:18:37.15 ID:hQAG6YlX
歩夢「しずくちゃん」

歩夢「分かったでしょ?」

歩夢「みんな、あなたの事が……大好きなの」

しずく「……」

歩夢「しずくちゃんは、どうなの?」


──本当に、怖かった。嫌われるのが、怖かった。

あんな思いは、二度としたくないと思っていたから。

……でも、私が間違っていた。


しずく「みんな」

しずく「ごめん」


みんなのおかげで、気が付けた。

私は全部、“私”なんだ。

嫌われるのが怖いのも私。

平和に生きたいのも私。

皆と楽しく過ごしたいのも私で──


しずく「ありがとう」

しずく「私、皆の事」

しずく「大好きっ!!」


──皆が大好きなのも、私なんだ!

全部、桜坂しずくの気持ちだったんだ。


しずく「だからみんな」

しずく「これからも──よろしくね!」ニコッ


心の底から、笑顔になれた瞬間だった。

941: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 05:26:19.96 ID:hQAG6YlX
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜後日 講堂〜

スタスタ

璃奈「音響セット、完了したよ」

彼方「璃奈ちゃんありがとうね〜」ナデナデ

璃奈「照れるぜ」グッ

彼方「お手柄なんだぜ」グッ

しずく「璃奈、ありがとうね!」ニコッ

璃奈「ううん。嫁の為ならお安い御用さ」

しずく「いやはや、頼りになる夫ですなぁ〜」

かすみ「しずく……ライブ前だよ? おふざけ禁止」

せつ菜「リラックス出来てる証拠ですよ!」ペカー

かすみ「まぁ……物は言いようですね」

果林「しずくちゃんらしくていいよね〜」ニコニコ

エマ「ね〜」ニコニコ

しずく「あはは、ゆる〜くやっていきますよ」

942: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 05:38:28.02 ID:hQAG6YlX
愛「それにしても、しずくから急にライブやりたいって言葉が飛び出した時はビックリしたな」

かすみ「急にスクールアイドル紹介動画も撮りたいって言いましたもんね」

しずく「ふっふ〜。あたしは欲張りですからね〜」

しずく「本気でやるって決めたら、全力で取り組むんですよ」

かすみ「完全燃焼しないようにね?」

しずく「わかってますよ〜」

しずく「……スクールアイドルとしての私は、ここから始まるんだもん」

しずく「これからどんどん燃えてやるんだから」

かすみ「……ふふっ」

かすみ「期待してる」

愛「頑張れよ、しずく!」

しずく「おうともさ!」

彼方「しずくちゃ〜んっ! 自家製ラブリーしずくフラッグで全力応援するからね〜!! 遥ちゃんも配信で観るって言ってたよ!」

しずく「あはは! 今朝めちゃくちゃ連絡来たし、電話も掛かってきたよ〜」

しずく「現地で見れないのほんと辛いよー! 退院したら絶対に生しーちゃんライブを見せてもらうからねっ!」

しずく「──って嘆いてたよ」

彼方「今の遥ちゃんの真似!? すっごい似てた……」

しずく「ふっふっふ……演技は得意だからね〜!」ニコッ

943: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 05:47:14.84 ID:hQAG6YlX
歩夢「しずくちゃん!」タッタッ

歩夢「マイクアナウンスも終わったから、全部準備完了だよっ」

しずく「歩夢さん! ありがとう!」


ライブ前。ドキドキと心臓が鼓動する。

でも、不思議と怖くなかった。


しずく「みんな、改めまして……本当にありがとうございます」

しずく「私が立ち上がれたのは、本当にみんなのおかげ」

しずく「ありがとう」ニコッ

しずく「──歩夢さん!」

歩夢「?」

しずく「私、もう逃げないから」

しずく「これが私の1stライブ! ──伝説を作る気持ちで歌ってくるから!」

しずく「見ててね!」

歩夢「──うん!」ニコッ

しずく「今から私は、主役になってくる」

かすみ「……」コクリ

しずく「もう、脇役人生はおしまいにする」

しずく「これが私の」

しずく「夢への一歩!」




944: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 06:01:31.50 ID:hQAG6YlX
しずく「……」

ステージは現在真っ暗。全ての証明を落としてもらっている。

歌い出しの位置に立って、タイミングを測る。

私は、失敗してばかりの人生を歩んできた。

結果、私は臆病になってしまい、なにかに本気になるのを恐れていた。

嫌われるのが怖くて、自分を見失っていた。


しずく(でも、怖がるのはもうおしまい)

しずく(おしまいじゃなくて……怖がる私も、あたしを演じてしまう私も……全て桜坂しずくだから)

しずく(ここから始めるんだ)


桜坂しずくの人生は、まだ始まったばかりだから。


──どのように言えばいいのでしょう。とにかく私の人生はとても幸せでした。

……私の大好きな、憧れの大女優の言葉。


しずく(私も、そう思える人生を歩むんだ)

しずく(いこう、桜坂しずく)

しずく(私と想いを詰め込んだ! 今から歌う、この歌の名は──)

945: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 06:01:51.49 ID:hQAG6YlX
【オードリー】

946: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 06:12:48.08 ID:hQAG6YlX
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

しずく「……」

しずく(や、やばい……めちゃくちゃ緊張する)

しずく「い、今からじゃ遅い……よね……?」

しずく「いや、待て待て! ここまで来たんだぞ〜……桜坂しずく……」

しずく(勇気を出せ。何事も全力で取り組むって決めたじゃないか)

しずく「と、とりあえず深呼吸を──」

「あなた、演劇部の部室の前でどうしたの?」

しずく「!?」ビクッ!!

しずく「あ、えっと! その……」

「?」

しずく(──いこう、桜坂しずく!)

しずく「私は、桜坂しずくです。スクールアイドル同好会に所属してるのですが」

しずく「演劇が大好きなので」

しずく「──演劇部にも入部したいです!!」

947: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 06:30:40.11 ID:hQAG6YlX
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

最初は、わけが分からなくて……怖くて震えていた。


歩夢「……」スタスタ


でも少しずつ、“今”の上原歩夢の生活にも慣れてきた。


歩夢「みんなー、おはようっ」


放課後、スクールアイドル同好会の部室へと私は入室する。


せつ菜「あっ! 歩夢さん!」パァァァァ

しずく「歩夢さん! おはよう〜!」


8人全員、一斉に私に目を向け挨拶をしてくれる。

この子の生活も、今はとっても楽しい。


璃奈「……でね、話の続きなんだけど……」

彼方「うーむ、なるほどねぇ」

しずく「なんとか解決させたいよね」

愛「皆で協力して、問題解決しよーぜ」

果林「だねー!」

エマ「じゃあまずは──」


スクールアイドル同好会のキズナもとっても深まっている。

……私がいない間も、皆がそれぞれ関わりを持って──問題があっても解決する。

本当に──良い場所だ。

──大好き。


愛「歩夢! 一緒に少し璃奈の悩みを聞いてほしいんだけど」

歩夢「うん! 今い──」

歩夢(あれ?)クラッ


バタンッ


せつ菜「──え?」

愛「歩夢……?」


歩夢「…………」


かすみ「──歩夢先輩!?」


後ほど皆から聞いて分かった。この時、私は気を失ってしまったみたい。

そして、私は同時に悟ってしまった。

──もう終わりは近いんだと言う事に。

948: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/06/05(土) 06:32:32.29 ID:hQAG6YlX
【Members walking together】

【Next last member】

【上原歩夢】

引用元: 歩夢「パラレルワールド?」