1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 00:23:58.34 ID:G0BK9RvH0
 

 それは、私が11歳の誕生日を迎えた日の出来事。


マミ『ねえお母さん……やっぱり、今日のお出かけやめにしない?』

マミママ『? どうしたの? マミも今日のお出かけ楽しみにしてたじゃない』

マミ『……えっと、なんとなく……だけど。今日はあんまり外に出たくないなって』

マミママ『あら、体調でも悪いの?』

マミ『そういうわけじゃないけど……』

マミママ『……珍しいわね、マミが愚図るなんて。でも駄目よ、もうレストランも予約しちゃったし』

マミ『でも……テレビで最近、車の事故が多いって……』

マミママ『テレビ? そんなこと気にしてたの? 大丈夫よ、パパは安全運転してくれるから』

マミパパ『オーイ、何してるんだ。早くしろって』

マミママ『あ、ほら。パパもう車回しちゃってるじゃない。ね? プレゼント奮発してあげるから』

マミ『……うん、分かった』


 未来を予測することが出来ない限り、運命は変わらない。

 だからその日、私は家族を失った。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1355412238

2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 00:24:48.88 ID:G0BK9RvH0
 
 三日後、巴家葬儀場

マミ「……」

弔問客1「可哀想にねぇ……あの子でしょう? あの事故で一人だけ助かったっていうのは」

弔問客2「ええ、ご両親をいっぺんに亡くしてしまって……これからどうなるんでしょう」

弔問客1「そりゃ、一番近しい親族に引き取られるじゃないかしら?」

弔問客3「……いや、それがね? どうも身元の引き受けをどこの家も拒否してるらしいんだ」

弔問客1「え、どうして?」

弔問客3「気味が悪いからだよ。考えてもごらん? 玉突きに巻き込まれての大事故。
      おまけにガソリンに引火して車体は爆発炎上。死体は対面もできない有様。
      それなのに、同じ車に乗ってたあの子には傷一つ無いんだぜ?」

弔問客2「あっ……」

弔問客3「正直、僕が親族でも引き取るのは少し考えるね
      眉唾だけど、あの事故の原因はあの子が何かしたんじゃないかって――」

マミ「……」キッ

弔問客1「ちょっと、見られてるわよ」コソコソ

弔問客3「ん……さて、僕達はこの辺でお暇しようか
      ま、遺産はそれなりにあるらしいし、最終的には誰かがそれ目当てで受け入れてくれるかもね?」


3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 00:27:38.63 ID:G0BK9RvH0
 


マミ「……」


マミ(……気づいた時には病院のベッドの上だった)

マミ(お医者さんにお父さんとお母さんはもう死んじゃったって言われて)

マミ(親戚の人達は変なものを見る眼で私のことをみてきて)

マミ(何もかもが急すぎて……頭がいっぱいで……でも、ひとつだけ分かることがある)


マミ(私は……これから独りぼっちで生きていかなきゃならないんだ……)


 

5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 00:32:42.55 ID:G0BK9RvH0
 

 初めて"魔女"と出会ったのは、そんな後ろ暗い決意を私が決めていたときだった。

 四角い眼鏡にひっつめ髪。葬儀用の黒いドレスを着た、厳格そうなおばあさん。

 箒には乗っておらず、正面玄関から普通にやってきたけれど、その人は正真正銘の魔女だったのだ。


弔問客3「さて、せっかく久しぶりに集まったんだ。これから飲みにでも――」

老婦人「……――、――」ボソボソ

弔問客3(……足が!?)
      「あだっ!」バタン

弔問客1「ちょ、大丈夫? なんでこんな何にもないところで転ぶのよ……」

弔問客2「ほら、立てる?」

弔問客3「っ……変だな、急に足が痺れて……長く座ってたからかな……」

老婦人「……」

7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 00:35:04.55 ID:G0BK9RvH0
 

老婦人「全く……やっぱりどこにでもああいう輩はいるのですね……これは……」ブツブツ

マミ(……誰かしら? 外国の人よね? 何で木の棒なんて持って……
   あ、こっちに来る……ど、どうしよう。外国語なんて分からないし……)

老婦人「……っと、失敬。貴女がマミ・トモエですね?
     その歳でこんな……大変だったでしょう。お悔やみ申し上げます」

マミ(助かったわ、日本語ね……)
  「あ、ありがとうございます。えーと……その、父か母の知り合いでしょうか?」

老婦人「いえ、残念ながら。この国はふくろう便が整備されてなくて……ああ、まあそれはともかく。
     本来なら三日前の誕生日、貴女が食事から帰ってきたらお会いする予定でした」


マクゴナガル「自己紹介がまだでしたね。私はミネルバ・マクゴナガル。
         イギリスのホグワーツという学校で教鞭を取っている者です」









マミ「きょうべ……?」

マクゴナガル「……つまり、学校の先生をやっているということです」

8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 00:36:08.36 ID:G0BK9RvH0
 

マミ「それで、その学校の先生がなんで私の両親に……?」

マクゴナガル「用があるのは貴女にです……正直、私もこんな事態になってしまって戸惑っているのですが――
         単刀直入にいいましょう。ミス・トモエ――貴女は魔女です」

マミ「……え? あの」

マクゴナガル「正確には魔女の素質がある、ということになります。
         私の勤めているホグワーツはそういう素質のある子を集めて教育を施す学校なのです」

マミ「……そんなこと言われても……」

マクゴナガル「……まあ、信じられないのも無理はありません。
         ですが事実です。そもそも貴女が例の交通事故から生き延びたのもそのお陰なのですから」

マミ「え……?」

マクゴナガル「生命の危機に瀕したとき、魔法の力が発揮されるというのは良くあるケースです。
         オーガスタ……私の知り合いの孫も、二階から突き落とされて資質に目覚めたといいますし」

マミ(それってどうなのかしら?)

9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 00:36:57.96 ID:G0BK9RvH0
 

マミ(いえ、それよりも……助かったのは私が魔女だから?)

マミ(それじゃあ私が独りぼっちになったのも……)


弔問客3『眉唾だけど、あの事故の原因はあの子が何かしたんじゃないかって――』


マミ「私の力が原因……?」

マクゴナガル「……その言葉が、いまの状況についてを問うているのなら。
         貴女だけが生き残ったことに関しては、確かに貴女の素質のせいということもできるでしょう」

マミ「……っ」ジワッ

マクゴナガル「ですが貴女の御両親が亡くなられたのは、貴女のせいではありません」


マクゴナガル「最初にどうしようもない不幸があり、貴女だけが偶然その不幸から逃げのびた。
         それだけのことです。貴女が不幸を呼び寄せたのではありませんよ」

マミ「……だけど」

マミ「だけど、それでも私が独りぼっちなのは変わりないじゃない……!」

マミ「パパもママも死んじゃって、周りの人はみんな私を気持ち悪がって!」


マミ「こんなの、死んだほうがましよぉ……!」


マクゴナガル「……それに関してですが、私から提案があります」

マクゴナガル「貴女はホグワーツに入学すべきです、ミス・トモエ」

10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 00:40:11.42 ID:G0BK9RvH0
 
マミ「……え?」

マクゴナガル「言ったでしょう。ホグワーツは魔法使いの学校で、貴女にはその資質があると」

マクゴナガル「……実を言うと、もう貴女に魔法界のことを教える気はなかったのです。
         このような大きな事故の直後。言っても、さらに貴女を混乱させるだけだと思っていました。
         ならばこのまま、慣れたマグルの――魔法の無い世界で暮らすのも悪くないのではないかと」

マクゴナガル「ですが貴女の周囲のマグルを見ていて気が変わりました。
         私はマグル――非魔法使いを特に差別するつもりはありませんが。
         しかしやはりというか、彼らと私たちは根本的に別の考え方をする生き物です」

マクゴナガル「彼らに"私たち"は理解できません。
         いまの貴女に必要なのは理解者と、それに囲まれた環境です。
         これは魔法使いではなく、一教育者としての意見ですがね」

マミ「……」

マクゴナガル「……ま、それでもすぐにこの場で決めろとはいいません
         始業式までにはまだ二ヶ月ほどあります。
         もし魔法を学ぶ気があるのなら、この手紙にサインして窓辺に置いておいてください」スッ

マミ「あっ、あの」

マクゴナガル「我々は貴女を歓迎しますよ、トモエ」パン!

マミ「き、消えた!?」
  (本当に……魔法使い? ホグワーツ……か)

11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 00:43:49.82 ID:G0BK9RvH0
 
 数日後、ダイアゴン横丁


マミ(……来ちゃった)

マミ(あの後、寝る前にサインした手紙をベランダに出しておいたら朝には消えてて。
   次の日の夕方、ベランダに知らない箱が置いてあったから触ったら……)

マミ(なんかぶわーってなって、気づいたらここに立ってたけど……
   どこかしら、ここ? 少なくとも日本じゃないわよね?
   周りで話してる人も、英語使ってるし……どうしよう不安になってきたわ)

???「……お前がマミ・トモエか?」

マミ「えっ、あ、はい。そうですけど」

???「だろうな。東洋人は珍しい。
     今回のポート・キーは時間指定されとらんから大分待つかとも思ったが……」ブツブツ

マミ「えーと……すみませんが、貴方は?」

12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 00:48:05.06 ID:G0BK9RvH0
 
フィルチ「……アーガス・フィルチだ。今日は私がお前の付き添いだ」

マミ「付き添いって……?」

フィルチ「手紙にサインをしたんだろう? だから入学にあたって必要なものを揃えにゃならん」

マミ「ノートとかですか?」

フィルチ「制服から何まで一式だ。そのマグル丸出しの格好でホグワーツを歩く気か? ええ?」

マミ「……」ムッ

フィルチ「……ふん。さて、まずはグリンゴッツだな。はぐれて面倒を増やすなよ」スタスタ

マミ「あ、ちょっ!」

フィルチ「……なんだ?」

マミ「私、外国のお金とか持ってないし……それに、通ってた学校の手続きだって……」

フィルチ「サインした時点で魔法が働くに決まってるだろうが。すでにお前は留学することになっている。
      金については、今からグリンゴッツに行くといっている」

マミ「グリンゴッツ?」

フィルチ「銀行だ! マグルの金をそこで換金できる。そんなことも知らんのか?」

マミ(……知るわけないじゃない)

フィルチ「……おっと、そうだ忘れるところだった。
      マクゴナガル副校長からこれを預かっている」ポイッ

マミ「これは……指輪?」スッ
  (あら、付けたら周りの声が日本語になった?)

フィルチ「コーユカオ・ツマ――マグルで言うホンヤクキという奴に近い道具だ」
     「付けてるとさっきまでの私みたいに違う言葉を理解し、話すことが出来る」
     「たまに酷い誤訳をするが、まあ愛嬌だと思え」

マミ「はあ」

フィルチ「さて、時間をとったな。さっさとグリンゴッツにいくぞ」

13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 00:52:27.86 ID:G0BK9RvH0
 
 数時間後


フィルチ「制服に教科書、杖に学用品……一通りは揃ったな」

マミ「そうですね……」
  (疲れた……この人、何かにつけて嫌味を言ってくるんだもの)
  (ぜんぜん歓迎ってムードじゃないわね……あれ、そういえば)

マミ「そういえばマクゴナガル先生はどうなさったんですか?」

フィルチ「なんだ? 私では不満か?」

マミ(不満だけど)

フィルチ「……あの人は副校長だからな。そうそう学校を空けるわけにもいかんのだ。
      とはいえ、極東の島国までトラブルを起こさずに行くのはそれなりに教養のある人物でないとならん。
      だからあの時は副校長が直々に足を運んだのだ。
      ハグリッドみたいなうすのろに勤まると思うか?」

マミ(ハグリッドって誰かしら?)
   「フィルチ……さんも、ホグワーツの先生なんですか?」

フィルチ「……ちっ、私は管理人だ。
      規則を破った生徒を捕まえたりするのが主な仕事でな。
      お前も入学後は精々お行儀良くして欲しいものだな、ええ?」

マミ「……」ムスッ


フィルチ「……あー、なんだ。副校長で思い出したが。
      そういえば、動物を一匹買うように頼まれてたな。
      すぐそこに店がある……ついてこい」

マミ「はあ」
  (学校の仕事なら、別に私が付き合う必要ないんじゃないかしら?)

15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 00:55:14.19 ID:G0BK9RvH0
 
 魔法動物ペットショップ


マミ「凄い……見たことも無い動物がいっぱいいる」

フィルチ「ああ、その辺の動物はみても無駄だぞ。
      ホグワーツはペットを持ち込んでも良いことになってるが、種類は制限されてる。
      ふくろう、猫、ヒキガエルの内どれかから一匹だけだ」

マミ「カエルは嫌ですね」

フィルチ「初めて意見があったな、トモエ。確かにヒキガエルは流行遅れだ」

マミ(流行に関係なく嫌よ!)

フィルチ「するとふくろうか猫だが……猫だな。私のお勧めは猫だ。
      猫は良いぞぉ。賢いし、音を立てないからな。私もミセス・ノリスという猫を飼っているが……」

マミ「……あの」

フィルチ「ん、なんだ。決まったか?」

マミ「何で私が買う動物を決める流れになってるんですか?」

フィルチ「? おかしな奴だな。お前のペットなのだから当然だろう?」

マミ「私の? マクゴナガル先生のお使いじゃないんですか?」

フィルチ「だから、副校長がお前にプレゼントとして送ってくださるということだ。
      見た目通りの厳格な方だからな。自分の寮生でもないのにプレゼントするのは珍しいことだぞ」

マミ(……誕生日プレゼント、かしら。マクゴナガル先生……)

フィルチ「とにかく、そういうわけだ。あとはお前が選べばいい。
      まあ私のお勧めは猫だが……ん? 店主、この白いのは新種か?」

店主「ええそうですよ。最近捕まえたんです。珍しいですよ。
    なんといっても――」


QB「わけがわからないよ」

店主「喋りますからね」

16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 00:58:59.90 ID:G0BK9RvH0
 
QB「あ、そこの君! 君には素質がある。僕と契約して魔法少女になってよ!」

マミ「わあ、会話ができるんですか? 魔法界の猫って」

店主「いえいえ、意思疎通できる動物はいても、人語を話す動物はあまりいませんよ」

QB「僕は動物じゃないよ。それより契約しようよ! 僕と契約して友達に差をつけよう!」

フィルチ「ほう、自分を売り込むとは中々商売上手な猫だな」

QB「いや、だから僕は猫じゃなくて……」

店主「"シレンシオ"!(沈黙せよ)」

QB「むぐっ!? むぐむごむがっ」

店主「いや~すみません。入荷したばかりで躾がなってなくて……どうですお安くしておきますよ?」
   (≪漏れ鍋≫の裏でゴミ漁りしてるとこを捕まえたはいいけど、正直猫かどうかよくわからんからなぁ)

フィルチ「ふむ、どうする? トモエ」

17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 01:03:52.44 ID:G0BK9RvH0
 
マミ「買います。おいくらですか?」

店主「毎度! 大勉強して5ガリオンってとこで」

QB「むぐーっ!?」

フィルチ「考えなしだな、トモエ。学生らしく、もっと頭を回して考えたらどうだ?」

マミ「あら、だって猫はフィルチさんのお勧めなんでしょう?」

フィルチ「……店主、ほら金だ」

店主「へい、丁度」

マミ「ふふ、名前は何にしようかしら。魔法の動物だものね。レビヤタン? スレイプニル? コシュタ・バワー?」

QB「ぷはっ。酷いな(センスが)。そもそも僕にはキュゥべえって名前が」

店主「シレンシオ!」

QB「むがあああああ!?」

フィルチ「……おい、店主。そこの猫用栄養ドリンクを貰おうか」

店主「へい、どうも。5本セットで3シックルです」

マミ「ああ、そういえばフィルチさんも猫を飼ってるんでしたっけ」

フィルチ「ああ、ミセス・ノリスという名前でな。規則を破った生徒を教えてくれる賢い奴さ」
     「っと、ほら、受け取れ」ポイッ

マミ「え? これ、フィルチさんの猫のじゃ……」

フィルチ「ふん。勘違いするなよ。私は猫が好きだからな。
      下手な世話をされて、猫を病気にさせたくないだけだ」

マミ「……分かりました。それじゃあ、大事に育てますね」ニコッ

18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 01:08:36.75 ID:G0BK9RvH0
 
フィルチ「――さて、それじゃあこれで買い物は終わりだな。
      最後にこれを渡すようにとの指示だ」

マミ「切符と……スニーカーと長靴が片足ずつ?」

フィルチ「靴の方はポート・キーだ。来るときに使っただろうが?
      長靴はこれから帰るのに使え。スニーカーは9/1の10:30、キングズ・クロスに飛ぶようにセットされている。
      きちんと支度を整えてから触れよ。一回限りの使い捨てだから戻ることは出来んぞ」

マミ「……便利ですね、魔法って」

フィルチ「そうだな、使いこなせりゃ便利だろうよ」チッ
     「本来ポータス(ポート・キー設置)の呪文はぽこぽこ使えんのだがな」
     「お前の為に副校長が尽力してくれたお陰だ。精々感謝するんだな」

マミ「ええ。もちろん」
   「マクゴナガル先生によろしくお伝えください」
   「それと、フィルチさんも。またホグワーツで」

フィルチ「ふん。会うのはお前さんが規則を破ったときだろうよ」
     「できれば、二度と顔をあわせたくないものだな?」

19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 01:11:11.23 ID:G0BK9RvH0
 
 9/1 キングズ・クロス9と4分の3番線 列車内


マミ「さて、列車に乗ったはいいけど……どの部屋もいっぱいね。困ったわ」フラフラ

QB「椅子自体は空いてるんだから、その辺の席に座らせてもらえばいいじゃないか、マミ」

マミ「だって知らない人ばかりだし……みんな魔法使いみたいだし……」
   「だいたいなんでこの国の電車は席が個室ごとに分かれてるのよ?」

QB「コンパートメント、という奴だね。まあ確かにマミの国ではあまりみないかな」
   「あと、傍から見たら君も十分魔女だよ」

マミ「格好だけよ。ローブと三角帽だけで魔法が使えれば苦労しないわ」

QB「だけど君はこれから一年間、その中で過ごすんだろう?」
   「ここで尻込みしてどうするんだい?」

マミ「学校に着いたらなんとかなるわよ……きっと自己紹介の時間とか、そんなのがあるでしょ」

QB「現実から眼を逸らさないで、マミ。問題は今だよ。まさか学校に着くまで立ちっぱなしでいる気かい?」

マミ「トイレとかあるんじゃないかしら……」

QB「駄目だこいつはやくなんとかしないと」

20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 01:15:26.21 ID:G0BK9RvH0
 
QB「あ、そうだ僕と契約すれば席くらいどうにでもなるよ? ついでに魔法少女にもなれるけど」

マミ「うふふ、ありがとうキュゥべえ」

QB「わー流されたー。じゃあ契約はいいからとりあえずケージから出して欲しいなぁ」
   「さっきから電車が揺れるたびにガンガンぶつかって痛いんだけど」

マミ「や。そんなこといってまた逃げ出そうとする気でしょ?」
   「逃げられたらマクゴナガル先生やフィルチさんになんて言えばいいかわからないもの」

QB「確かに最初の一週間は隙を見て逃げ出そうとしたけど」
   「もう諦めたよ。君、僕を追いかけるときはやたら俊敏なんだもの」
   「他の固体からもはぶられて、マミ専用みたいな扱いされてるし……」

マミ「ふーん……よく分からないけど……じゃ、出してあげる」
   「確かに猫専用のケージじゃなくて、昔飼ってたカブトムシ用の虫かごだと狭いものね」カパッ

QB「ひゃっほおおおおおお僕は自由だあああああああああああ!」ダッ

21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 01:19:02.61 ID:G0BK9RvH0

 
マミ「やっぱり逃げた! 待ちなさい! 次は金魚蜂に詰め込むわよ!?」

QB「待つもんか! ふふ、このまま適当なコンパートメントに逃げ込めばマミは手が――」

ヒキガエル「」パクッ

QB「きゅっぷい!?」

マミ「キュ、キュゥべえがヒキガエルに頭を飲み込まれた!?」

ヒキガエル「」モゴモゴ

QB「きゃー! やめてやめて! 君、食物連鎖を無視してる! ヒキガエルは猫に食べられる方だろう!?」
   「いや僕は猫じゃないけど、ってうわー凄い生あったかい……!」
   「助けてマミ! マミ助けて!」

マミ「ごめんなさい、キュゥべえ……属性相性的なアレで女の子はヒキガエルに勝てないの」
   「きちんとお墓は造ってあげる。墓標はアイスの棒でいいかしら?」

QB「ま、マミ! 僕が逃げたの根に持ってるね!?」
   「くっ、ならばロックだぜ! 誰にも頼らねえ! 僕の力だけで切り抜ける! 発現せよインキュベーターパワー!」
   「うぉおおおおおお! ――なにぃっ、対魔翌力が特Aクラスだと!?」

ヒキガエル「無駄だ、貴様の技は全て見切った」

QB「ヒキガエルの癖にぃぃいいいいいい! きゅっぷい! きゅっぷい!」ズルッ、ズルッ

丸顔「ヒキガエル……? それってもしかして」
   「! やっぱりトレバー! ここにいたのかい?」

23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 01:25:25.69 ID:G0BK9RvH0
 
トレバー「」スポン

QB「た、助かった……」

丸顔(うわなにこの猫べとべと……)
    「あ、ありがとう。このヒキガエル僕のなんだ。よく逃げだすんだよ……」

マミ「え、と。いいのよ。当然のことをしたまでだから」
   (実際、何もしてないし……)

丸顔「それでもありがとう……何かお礼をしたいけど、僕何も持ってないし……」
    「ん? あれ、君、なんでまだ荷物もってるの?」

マミ「えっ。あっ、これはその」

丸顔「あ、もしかしてコンパートメントがどこも一杯だったの?」
   「確かに知らない人がいると座りづらいよね」
   「僕も席にあぶれるの怖かったから、一番に電車に乗り込んだんだ」

QB「こいつは準備周到なマミだね……あ、痛い痛い!」
   「も、もう逃げないから僕をソックスに詰めようとするのは勘弁して欲しいなぁ!」

25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 01:28:23.65 ID:G0BK9RvH0

 
丸顔「……そうだ! 僕達のコンパートメントにおいでよ!」

マミ「い、いいの?」

丸顔「うん。四人掛けを二人で占領しちゃってるから……」
   「荷物をひとつの席においても、十分座れるよ」

マミ「それじゃあ……お言葉に甘えようかしら」

QB「良かったねマミ! 僕のお陰だね!」

マミ「えいっ」ぎゅっ

QB「きゅ!?」

ネビル「うん、もうひとりも新入生の女の子だから気が合うと思うよ」
    「僕の名前はネビル。ネビル・ロングボトム。よろしくね、えーと……」

26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 01:33:23.71 ID:G0BK9RvH0
 
 コンパートメント

ハーマイオニー「ふうん。じゃあマミも私と同じでマグル出身なのね?」

マミ「ええ、だから全然分からないことだらけで困ってたの……」

QB「分からないのはもっと人として根本的な部分じゃ……あー! 杖は駄目! 杖は駄目ー!」

ネビル「はは、僕は純血だけど分からないことなんかいっぱいあるし気にしない方が」

ハーマイオニー「でも教科書くらいは全部読んだでしょう?」
          「私は個人的に他にも何冊か魔法界の本を購読したけど……」

マミ「え、予習? だって書いてあることちんぷんかんぷんだったし……」

ネビル「仕方ないよ、習ってないもの。僕だってまだ呪文のひとつも――」

ハーマイオニー「そう? 簡単な呪文くらいならみんな上手くいったけど」
          「それに予習してないと授業についていけないんじゃない?」
          「ホグワーツって、最高の魔法学校だって聞いてるわ」

マミ「……」

ネビル「……」

ハーマイオニー「いまからでも遅くないわよ――ほら、魔法史なら歴史とそうかわらないし」
          「簡単な呪文のひとつくらいなら学校に着く前に覚えられるでしょ?」

ネビル(どうしよう。不安になってきた)

マミ(空気が重いわ……こ、こうなったら魔法学校用に暖めてきた冗談で空気を変えるしか……!)

QB(マミ、やめろ! それは死亡フラグだ!)

27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 01:40:31.65 ID:G0BK9RvH0
 
マミ「簡単な呪文ね……ひとつだけ知ってるわよ。あ、アブラカタブラ~……とか」

ハーマイオニー「……」

ネビル「……」

マミ「あの……アブラ……カタブラ……」

ハーマイオニー「……」

ネビル「……」

マミ「……」

マミ(へ、変ね。普通の人出身なら笑いが取れると思ったんだけど)

QB(そのレベルでかい? やれやれ、ジョークなのかも怪しいレベルだよ)
   (そもそもアブラカタブラ=変な呪文っていう認識はマミの国以外でも通じるのかい?)

マミ(ああ、なるほど。そのせいね)
   (そう、ジェネレーションギャップならぬボーダーギャップ)
   (決して、私のセンスがアレだったわけではないのよ!)

QB(あ、しまった。マミに言い訳する理由を与えてしまった)
   (自分以外に理由を見つけると省みないから人間って性質わるいなぁ)

ハーマイオニー「……」

28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 01:45:09.54 ID:G0BK9RvH0
 
ハーマイオニー(今、この子はなんて言ったの……?)

ハーマイオニー(……いえ、聞き間違いではないわ。宣言するように二回も言ったもの)

ハーマイオニー(アバダ・ケダブラですって……!?)←聞き間違い

ハーマイオニー(闇の魔術でも三本の指に入る危険な魔法じゃない!)

ハーマイオニー(人に向かって唱えただけでアズカバン送り、終身刑になる最悪の呪文!)

ハーマイオニー(それを簡単な呪文……!? 大人の魔法使いでも一握りしか唱えられないのに!?)

ハーマイオニー(間違いないこの子は……)

ハーマイオニー(闇の魔法使いの家系……! たぶん例のあの人の隠し子とかそんな感じ……!)

ネビル(なんだろう。マグルのジョークかな? 笑ったほうがいいの?)チラッ

ハーマイオニー(ネビルも全力で賛同してくれてるわ!)

29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 01:51:21.16 ID:G0BK9RvH0
 
ハーマイオニー(さてそこでこの才女ハーマイオニーは考える……)

ハーマイオニー(これからの学園生活、どんな風にこの子と付き合っていくべきか……)

マミ「?」

ハーマイオニー(……って、あら? よく考えたらどうせ闇の魔法使いのこの子はスリザリン寮よね)

ハーマイオニー(対して眉目秀麗才色兼備、勇猛果敢な私はグリフィンドールかレイブンクロー)

ハーマイオニー(なーんだ、じゃあ別に気にすること無いじゃない。適当に合わせてましょ)

マミ(この沈黙が怖い……っ)ガクブル

ネビル(お腹空いたなぁ)

QB(こっちの女の子は魔法少女の才能ないね)


30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 01:55:16.76 ID:G0BK9RvH0
 
売り子「車内販売ですよー。冷たいカボチャジュースにお菓子はいかがですかー?」

ネビル「あっ……どうしようかな。ばあちゃんに無駄遣いはするなって言われてるし……」

マミ(お菓子……小学校の遠足で、クラスのみんなと分け合いっこしたわね)
   (この空気を払拭するチャンスかも)

マミ「すみません、見せてください」

売り子「はいどうぞ。お勧めは蛙チョコレートよ」

マミ(……ってよく考えたら魔法のお菓子なのよね、これ)
   (とんでもない味とかあるかも……少しずつ、色んなのを買えばいいかしら)

マミ「これとこれと……あ、新聞がある。じゃあこれもお願いします」
   (魔法使いの世界の事情とか、全然知らないし……)

31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 01:57:52.49 ID:G0BK9RvH0
 
ハーマイオニー「あら、新聞? そうね、確かに情報は大事だわ。おばさん、私にも一部ください」

ネビル「えーと……僕は……」

マミ「あの、ロングボトム君。良かったら食べる? 席に入れてくれたお礼に」

ネビル「え、いいの? わあ、ありがとう。じゃあ蛙チョコを貰うよ」

マミ「どうぞ。グレンジャーさんも良かったらどう?」

ハーマイオニー(一服盛るつもりね!?)
          「いえ、あの、その、私の両親が歯科医で、甘いものは止められてるの」

マミ「そう……」シュン

QB「そこで諦めるから駄目はマミなんだよ。ほら、これなんか甘くないよ」ポイッ

ハーマイオニー「ムガッ!? ちょ、なにを投げ込んで……」ゴックン

ネビル「あ、百味ビーンズだ。そ、そしてあの色は確か伝説のトロール味……!」

ハーマイオニー「いやああああ!? 噛まなかったから味わからなかったけどなんかいやあああ!?」

マミ「グ、グレンジャーさん! ほらかぼちゃジュースを……!」

QB(ハッカ風味だったんだけどなぁ)

32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 01:58:36.92 ID:G0BK9RvH0
 
ハーマイオニー「トロール…トロール…」ブツブツ

ネビル「あっ、くそ。またダブりだ。これでダンブルドアが三桁か……」

マミ(なんとか落ち着いたし、新聞でも読もうかしら)バサッ
   (読めるようにもなるなんて、翻訳機凄いわね……えーと、何々?)


(魔法省、また不祥事。高まるコーネリウス・ファッジリコールの声)
(グリンゴッツに強盗? 幸いにも被害はなし)
(生き残った男の子、ハリー・ポッター帰還)
(ワーロック法違反。危険生物の卵が帳簿と釣り合わず)
(賢者の石の創造者ニコラス・フラメル氏、死去)


マミ「……さっぱり分からないわ。指輪のお陰で、読めることは読めるけど」

QB「新聞から教養を得るためには、その前段階として最低限度の教養が必要だからね」
   「マミは魔法界のこと何にも知らないんだから当然だよ」

マミ「それもそうね。学校で勉強してからまた挑戦するわ」ゴソゴソ

ネビル「あ、そろそろ着くみたい。マミ、ハーマイオニー、用意したほうが良いよ」

33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/14(金) 01:59:08.17 ID:G0BK9RvH0
眠い故にここまで

43: 2012/12/15(土) 09:31:39.74 ID:r666Whf50
 
 ホグワーツ 大広間



ネビル「……で、さっきの大きい人が森番のハグリッド。真ん中に座ってるのがダンブルドア校長先生。
     その隣に座ってるのが――」

マミ「知ってるわ。マクゴナガル先生よね?」

ネビル「あれ? 知ってるんだ。そうだよ。僕のばあちゃんとは昔からの知り合いなんだ。
     うん、だからまあ、ちょっと僕、苦手なんだけど……」

マミ「ふふ。でもマクゴナガル先生って、とってもいい人よ?
   あ、あの端っこに座ってるの、フィルチさんよ。この学校の管理人さんなんですって」

ネビル「な、なんか物凄く意地の悪そうな顔してるけど……」

マミ「うーん。確かに優しい、とは言えないけど……えーと、その、極悪人ってほどじゃないわよ?
   キュゥべえに栄養ドリンク買ってくれたし」

QB「ああ、君が僕に無理矢理飲ましたアレ。あの飲み物、栄養価はバカみたいに高かったよ」

マミ「ねー?」

QB「言っておくけど、褒めてないからね。
   その謎栄養のせいで、三日間も僕の中のグリーフシードが暴れまわったんだから」

マミ「また訳のわからないこと言って……
   ……それにしても、ロングボトムくん。やっぱり魔法界出身だと色々知ってるのねぇ」

ネビル「そんな、僕なんか全然さ。ばあちゃんは僕をロングボトム家の恥さらしって呼んでるし」

マミ「でも私、本当になにも知らないし……グレンジャーさんの言うとおり、教科書読んでくれば良かったわ」

ネビル「たぶん彼女、僕より物知ってると思うな……教えてもらえるとよかったね」

QB「駅についた瞬間、ものすごい勢いで飛び出して行ったものねえ。あれはどうしたんだろう?」

マミ「さあ? お友達と約束でもしてたんじゃないかしら」

44: 2012/12/15(土) 09:32:57.94 ID:r666Whf50
 
マクゴナガル「――さて、これから組み分けを行います。呼ばれた者から前に出て組み分けを受けてください」

マミ「組み分け……ね。さっき帽子が歌ってたけど、それぞれの寮で特色が違うみたいね?」

QB「グリフィンドールが勇敢で、ハッフルパフが努力家、レイブンクローが頭脳明晰、
   そしてスリザリンでは真の友情が手に入るって言ってたね」

マミ「え、そうだったかしら? じゃ、じゃあスリザリン――」

ネビル「やめときなよ! 『例のあの人』もそこの出身なんだよ?」

マミ「? 『あの人』ってどの人?」

ネビル「……あ、そっか。知らないんだった。うう、でも名前は言いたくないし……」

マクゴナガル「……ロングボトム・ネビル!」

ネビル「ああ、呼ばれちゃった……と、とにかくスリザリンはやめた方がいいよ!」

マミ「行っちゃった……どうしましょうか、キュゥべえ?」

QB「さあ? でも見てる限りでは、あの帽子が全部決めてるみたいだよ。
   そう気構える必要はないんじゃないかな?」

マミ「うーん……でも私、魔法界のこと何にも知らないからレイブンクローなんかにいれられちゃったら――」

ドラコ「こいつは驚いた! おい、聞いたかいクラッブ?
    スリザリンに入りたいとか言ってるからどんな奴かと見てみれば、なんとマグル出身ときた!
    ああ、全く。スクイブに長杖って言葉はこういう輩の為にあるんだろうな。だろう?」

クラッブ「それどんな意味? 知ってるか、ゴイル?」

ゴイル「いや全然。でも多分、食べ物じゃなさそうだってことは分かるぞ」

ドラコ「……ごほん! つまり身の程を知れってことさ。分かったかい?」

マミ「え、えっと、あの」オドオド
   (え、え? どういうこと? 私、なんか失礼なこといっちゃったのかしら)

ドラコ「スリザリンは純血主義だ。薄汚いマグルの血なんて、とんでもない」

マミ「……っ!」ジワッ
  (薄汚いって、そんな……酷い)

ドラコ「あらら、泣いちゃったよ。まったく、これだからマグル出身は。
    むしろ恥をかかないうちに教えてあげたんだから感謝してほしいくらいなんだけどね?」

マクゴナガル「……マルフォイ・ドラコ!」

ドラコ「おっと、僕の番か。ま、僕は偉大なるスリザリン寮で決まりだけどね」スタスタ

 スリザリーン!

QB「おや、本当にスリザリンだ。ふーん、なるほどねえ」

マミ「ぐすっ、ひっく」

QB「マミ、平気かい? 気にすることはないよ。スリザリン以外の寮になればいいじゃないか」

マミ「……ううん、違う、の。私、くやしく、て」ベソベソ

マミ(優しかったパパとママのことをあんな風に言われて……でも、何も言い返せないなんて)

QB「……マミ、君が望むなら、願い事で――」

マクゴナガル「……マミ! トモエ・マミ! 聞いているのですか! あなたの番です!」

マミ「あ、は、ひゃい!」グシグシ

QB「……タイミング悪いなぁ」ボソッ

45: 2012/12/15(土) 09:33:40.80 ID:r666Whf50
 

マミ「……」ドキドキ

組み分け帽(ふーむ、難しい……非常に、難しい)

組み分け帽(勇敢ではない……とりたてて忍耐強くもない……知識に対する姿勢も並……かといって狡猾でもない……)

組み分け帽(真面目な性格のようだから、まあ普通ならハッフルパフなのだが……)


マミ(あっ、グレンジャーさんとロングボトムくんは赤色の垂れ幕のテーブルだ……)

マミ(やっぱり、知っているお友達の寮がいいな……さっきみたいなことが、またあったら……)グスッ


組み分け帽「……」

組み分け帽「グリフィンドール」

46: 2012/12/15(土) 09:34:25.63 ID:r666Whf50
 
グリフィンドールのテーブル

ハーマイオニー(ふふふ! マミ・トモエ! ここでお別れよ!)

ハーマイオニー(やっぱり私はグリフィンドール! そして貴女はスリザリン!)

ハーマイオニー(貴女自身に恨みは無いけれど……貴女のアバダ・ケダブラがいけないのよ!)

組み分け帽「グリフィンドール」

ハーマイオニー「って、ええええええええええええええ!?」ガタッ

マミ「あっ、グレンジャーさん……その……よろしくね?」テレテレ
   (そんな、わざわざ立ち上がって喜んでくれるなんて……)

ハーマイオニー(何故!? そんな馬鹿な! 私の計画が崩れるなんて!?)
          (なんで闇の魔法使いの卵がグリフィンドール……はっ、もしかして錯乱の呪文!?)
          (そうよそれだわそうとしか考えられない! 先生たちにも気づかれずに魔法を使うなんて!)

ハーマイオニー(そしてわざわざグリフィンドールに入った理由はただひとつ……!)

ハーマイオニー(か、確実に私、目を付けられてる……! ケダブラされる!)ガタガタ

マミ「?」

ネビル「マミ! おめでとう! 一緒の寮だね。良かったよ、スリザリンじゃなくて……」

マミ「……ええ、本当にね」

ネビル「……揉めてたみたいだけど、マルフォイになんか言われたの?
     あそこ、ばあちゃんがいつもぼろくそに悪口言ってる家なんだ……」

マミ「……」ズーン

ネビル(やばいしくじった。わ、話題を変えないと)

ネビル「あ、あー、まあそれは置いておくとして、マミが来てくれて本当によかったよ。
     ハーマイオニーったら、さっきから僕が君と何を話してたのかしつこく聞いてきてさ」

マミ「え、本当?」チラッ

ハーマイオニー(やめて! やめて! 畜生この丸顔、いつか石にしてやるわ!)

47: 2012/12/15(土) 09:35:11.29 ID:r666Whf50
 
マクゴナガル「――ポッター・ハリー!」

ザワザワ ハリー? ハリー・ポッター?

マミ「……あの、なんかざわついてるけど……いま呼ばれたあの子、有名人なの?」

ハーマイーニー(!? 話題変更のチャンス!)
         「ええ、そうよ。近代魔法史の本なんかにも出てるくらいなんだから」

マミ「……ってことは、芸能人とかじゃないわよね……うーん、物凄く頭が良いとか?」

ハーマイオニー「いいえ、違うわ。『例のあの人』を倒したのよ」

マミ「『例のあの人』……ロングボトムくんもさっき言ってたけど、それって誰なの?」

ハーマイオニー「あー、私はマグル出身だから平気なんだけど……」チラッ

ネビル「?」

ハーマイオニー「まあいっか。一回で覚えてね。
          ヴォルデモートの名前は、魔法界ではタブー視されてるから――」

ネビル「う、うわあああああ!」バ゙ターン!

ハーマイオニー「……こんな風に」

48: 2012/12/15(土) 09:35:42.15 ID:r666Whf50
 


マミ「……なるほど。凄い悪い魔法使いだったのね。で、それをポッターくんが倒しちゃったと」

ハーマイオニー「正確には、彼が倒したって言っていいのか……その頃、彼はまだ一歳だった筈だし。
          でもとにかく、『あの人』は彼を殺し損ねて、それから姿を見せてないってことね」

マミ「凄いわね……」

ハーマイオニー「ええ、本当に。ハリーがグリフィンドールに決まった時の歓声、聞いたでしょ?
          本を読むと、『あの人』を倒したっていう事実の凄さがわかるけど――」

マミ「あ、あの、そっちじゃなくて、グレンジャーさんが」

ハーマイオニー「私? 私が、なに?」

マミ「その、いっぱい色んなこと知ってるんだなぁって。私と同じ普通の人出身なのに、凄いな、って」

ハーマイオニー「……! べ、べつにこれくらいどうってことないわ! 本の内容、ちょっと暗記しただけだもの!」

マミ「ううん。そういうことに一生懸命になれるなんて、本当にすごいと思うわ」

ハーマイオニー「そ、そうかしら? 当然のことだと思うけど」

マミ「ねえ、グレンジャーさん、これからもよければ私の知らないこととか、教えてくれないかしら……?」

ハーマイオニー「し、しかたないわね! 私が知ってることでよければ――」

ハーマイオニー(……って、思わず頷いちゃった! 駄目よ、マミは闇の魔法使い!)
          (きっと今も、無知を装ってこっちを油断させようと……!)

マミ「良かった! じゃあグレンジャーさん、これからよろしくね?」ニコッ

ハーマイオニー「え、ええ、よろしく……」
         (も、もう駄目だわ……完全にマミの術中に嵌ってしまった。なんて狡知!)ガクブル

ネビル(仲いいなぁ、この二人)

49: 2012/12/15(土) 09:36:21.44 ID:r666Whf50
 
ニック「やあやあ、新入生の皆さん! 豪華な夕餉を楽しんでおられますかな?」ニュッ

マミ「っ!? ごほっ、ごほっ、つ、机から首が生えてきた!?」

ニック「ああ、驚かせてしまって申し訳ありません。えーと、確かミス・トモエ?」

QB「うん? 変な情報体だね。質量も熱量もゼロなのに、そこに存在してるなんて」

ニック「おやおや。はっは、これは賢い猫をお持ちでいらっしゃる」

QB「猫じゃないったら! インキュベーター! 僕達はエントロピー問題を解決する為、はるばる宇宙の彼方から――」

ネビル「マミ、大丈夫? ただのゴーストだよ」モグモグ

マミ「ゴ、ゴースト? お化けってこと?」ビクビク

ニック「おお、これは……新鮮な反応ですな。うむ、ゴースト冥利につきるというものです」

ハーマイオニー「ゴースト。実物は初めて見たけど、そんなに怖いものでもないじゃない」

ニック「ほほう、これでも?」グイッ ポロッ

ハーマイオニー「きゃっ!?」

マミ「~~~っ!?」
   (く、首が取れちゃった!? あ、でも微妙に皮一枚で繋がって……)

ニック「このような風体ですので、"ほとんど首なしニック"と呼ばれることもありますが、
    呼ぶのでしたらニコラス・ド・ミムジー―ポーピントン卿と。
    グリフィンドールのゴーストですので、長い付き合いになるでしょうからな!」

QB「――絶望と希望の相転移――え? だって聞かれなかったから――」


50: 2012/12/15(土) 09:37:23.41 ID:r666Whf50

 
ニック「さて、食事も途中のようですし、私はこれでおいとましましょう。
    グリフィンドールのみなさん、今年度こそ"寮対抗優勝カップ"の獲得を目指して頑張っていきましょうぞ!」

マミ「寮対抗? 運動会でもやるの?」

ハーマイオニー「違うわ。"ホグワーツの歴史"で読んだけど、授業の出来とか日ごろの素行とか、
          そういう細かい項目ごとに採点されるんですって。
          で、年度末にその得点が一番多かった寮の勝ち」

パーシー「うん。その通り。今年の一年生は有望そうだな」

マミ「あの、貴方は?」

パーシー「パーシー・ウィーズリー。グリフィンドールの監督生だ。今年の新入生の中には僕の弟がいてね。
      あそこののっぽの赤毛。ロナルドっていうんだけど、あいつはフレッドやジョージみたいにはならないで欲しいな……」

フレッド「俺たちがなんだって、パース?」

ジョージ「安心しろよ、可愛い可愛いロニー坊やの面倒は僕らが見てやるからさ」

フレッド「ああ。こパースみたいな石頭がこれ以上我がウィーズリー家に増えたらぞっとしないからな」

パーシー「お前たちはまたそうやって! 僕は監督生だぞ――」ドタバタ


ハーマイオニー「私、知ってるわ。今日の列車の中で、マミが私たちのコンパートメントに来る前に会ったの」


ロン「――」

ハリー「――」


マミ「ポッターくんと話してるわ。ずいぶん仲が良さそうだけど」

ハーマイオニー「列車でも仲良く話してたから、そこで仲良くなったんじゃない?」

マミ「あ、そうなんだ……え、えーと、私たちみたいね?」テレ

ハーマイオニー「え、ええ、そうね……あ、デザート! デザート食べましょう?」

マミ「あら? グレンジャーさん、甘いものはご両親に止められてるんじゃ――」

ハーマイオニー「う、うぐっ……」
          (ううっ、咄嗟についた嘘が首を絞めるなんて……)

マミ「……でも、今日くらいいいわよね? デザート、とても美味しそうだし。一緒に食べましょ?」

ハーマイオニー「え、ええ! ほら、マミ。トライフルって食べたことある?」

ハーマイオニー(私、これからまともに学校生活送れるのかしら……?)



 ハーマイオニーの予想通り、その後の学校生活は、彼女にとってとても辛いものとなった。

51: 2012/12/15(土) 09:37:51.03 ID:r666Whf50
 

 グリフィンドール寮


マミ「あ、グレンジャーさん。ベッド、隣同士みたいね?」

ハーマイオニー「え、ええ。そうみたいね」

マミ「私……その、ひとりで寝るのが苦手で……良かったら寝るまでお話ししない?」

ハーマイオニー「もちろん! 貴女が寝るまでね!」
          (先に寝たら、寝てる間に呪いをかけられちゃう……!)



翌日


ハーマイオニー「……」ゲッソリ

ロン「なにあれ、ゾンビ?」

ハーマイオニー(マミが寝た後も、緊張で一睡も出来なかった……)

52: 2012/12/15(土) 09:38:24.44 ID:r666Whf50
 
 魔法薬学 教室


マミ「えーと、これを煮てる間にこれをすり潰して……」ゴリゴリ

ラベンダー「じゃあ私、鍋の様子見てるわ。……にしても、マミって意外と手際いいのねー。
       本当にマグル出身?」

マミ「ふふ、ありがと。よくお母さんと一緒にお菓子作ってたりしてたから、そのお陰かも」

QB「……へえ。僕の知らない植物だ。この惑星のものは全部データベース化したと思ってたけど」



ハーマイオニー(何とか別の班になれたけど……離れてたら離れてたで怖いわね。
          なんていうか、お風呂で髪を洗ってる時に背後から感じる視線のような……)ガタガタ

スネイプ「ミス・グレンジャー。魔法薬の妙に怖気づいたか? 手が震えておるようだが」ポン

ハーマイオニー「っ、きゃあああああああああああ!?」バシャーン

スネイプ「うぉぉぉおおおお!? 熱ぃぃいいいいい! グリフィンドォォオオル! 10点っ! げんてぇぇえ……」



ジョージ「おい聞いたかフレッド。スネイプの野郎が新入生に医務室送りにされたらしいぞ」

フレッド「マジかよ!? そいつはぶっ飛びもんのニュースだ。
     その英雄、うちのパースと交換してくんねえかなぁ」

53: 2012/12/15(土) 09:38:57.23 ID:r666Whf50
 
 ホグワーツ 裏庭



ドラコ「この穢れた血め! よくもスネイプ先生を塩掛けたナメクジみたいにしてくれたな!」

マミ「酷い……」ジワッ

ハーマイオニー(! ヤバイ! 呪いに巻き込まれる!?)
          「この腐れスリザリン! マミにちょっかいかけないで! オラァ!」バキッ

ドラコ「いや別にトモエに言ったんじゃなくてお前にげふぅ!?」

クラップ「魔法使いが素手で!?」

ゴイル「それもあんな正確に肝臓を打ち抜くなんて!」

マミ「グレンジャーさん……私なんかの為に……」キュン

ドラコ「くっ……さすがは穢れた血。杖より先に手が出るなんて」

ハーマイオニー「ドラァッ!」ボコォッ

ドラコ「フォイッ!?」

ゴイル「決まった! ハートブレイクショット!」

クラップ「これは立ち上がれない! フォイフォイダウーーーーン!」







ロン「あいつって真面目馬鹿だと思ってたけど、意外とクールだよな」


ハーマイオニー「フーッフーッ、シャーッ!」


ハリー「あれクールなの? どっちかっていうと熱暴走してるんじゃない?」





54: 2012/12/15(土) 09:39:37.83 ID:r666Whf50

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 変身術 授業


マクゴナガル「さて、私が教えるのは変身術です。みなさん、杖を使う授業はこれが初めてででしたね?
         ですが変身術は魔法の中でももっとも難しい分野であり――」 

マミ(マクゴナガル先生の授業……! 魔法使うのは初めてだけど、絶対に成功させないと!)

マクゴナガル「――ではまず手始めに、マッチ棒を針に変身させて貰います。
         マッチが配られた者から始めるように」

QB「マミ、大丈夫かい?」

マミ「へ、へへへへへ平気よ! きょ、教科書は何回も見たんだから……!」ガチガチ

QB(駄目だこりゃ)

マミ「い、行くわよ……か、かかっ、カーコス・スペル!(針に変われ)」ポンッ










QB「……ねえ、マミ。僕にはどう見てもこれ、針じゃなくてちっちゃなミサイルにしか見えないんだけど」

マミ「……奇遇ね、キュゥべえ。私にもそうにしか見えないわ」

 バシュッ シュゥゥゥウウウウウウウ!

QB「……噴射口から、火を噴き始めたようだけど?」

マミ「……そうみたいね、キュゥべえ」

QB「……マミ、魔法を解いたら?」

マミ「……解き方はまだ、習ってないもの」

QB「……」

マミ「……」


 シュゥゥゥウウウウウウ! スリー、トゥー、ワン…


QB・マミ「せ、せんせぇぇぇえええ! マクゴナガル先生ーー!」


 ゼロゥ バシュウウウウウウウ!

55: 2012/12/15(土) 09:43:39.19 ID:r666Whf50
 

マミ「……」ズーン

QB「マミ、そんなに気を落とさないで。ちょっと力を入れすぎちゃっただけじゃないか」




ラベンダー「凄い威力だったわね、あれ」ヒソヒソ

バーパティ「教室の壁に大穴が空いちゃったものね……」ヒソヒソ



ジョージ「よう、マミ! マクゴナガル女史が感服してたぜ。
      "こんな魔法はみたことない"って! まあ、ベッドの上でだけどさ」

フレッド「すげえよな、あれ。今度教えてくれよ、我らが自習の女神。
     フィリバスター花火と組み合わせりゃ、もっと面白いことになる気がするんだよなぁ」





ハーマイオニー(スネイプ先生に、マクゴナガル先生……
          や、やばいわ。着実にホグワーツの戦力を削りに来ている)ガタガタ

ハリー「彼女、物凄く震えてるね」

ロン「あの"みさいる"が顔を掠めたんだもんなぁ。そりゃトラウマもんだよ。
   なあハリー、さすがに同情するぜ。ちょっと励ましにいってやろうか?」

ハリー「だね。おーいハーマイオニー!」


 この日以来、ハーマイオニー・グレンジャーは二人の友人になった。

 共通の経験をすることで、互いを好きになる。そんな特別な経験があるものだ。
 
 ミサイルの恐怖を共にする。そんな経験も、まさしくそれだった。

56: 2012/12/15(土) 09:44:27.02 ID:r666Whf50
 
 数ヶ月後 ホグワーツ廊下



マミ「……あのミサイル事件から二ヶ月弱。ようやくわかったわ。
   私、魔法の才能ないみたい……」

QB「そうかい? 君の魔法、凄いと思うけどなぁ」

マミ「呪文学では浮かす筈だった羽がフリトウィック先生の額に突き刺さるし、
   変身術では悉くミサイルやら榴弾やらに変わっちゃうし、
   闇の魔術に対する防衛術ではクィレル先生の頭に呪文が直撃して、
   この世のものとは思えない叫び声上げさせちゃうし……」

QB「あーあれは凄かったねえ。クィレル先生が錯乱して『お辞儀をするのだ!』って叫びだすし、
   ハリーは額の傷を抑えて倒れちゃうし」

マミ「そうよ……それで、ついたあだ名が……」



ミリセント「見て、グリフィンドールのぶっ壊し屋よ」クスクス

パンジー「次は何を壊すのかしら? まったくこれだからマグル出身は野蛮で困るわ」ヒソヒソ

ドラコ「ははっ、まったくその通りだね」

ハーマイオニー「無駄ぁッ!」ボゴオッ!

ドラコ「フォーーーーーーーーイ!?」グシャッ



マミ「同じ寮のみんなからも、ちょっと距離置かれ始めちゃってるし……
   普通に話してくれるの、もうグレンジャーさんくらいだもの……」

QB「そうでもないよ? あのウィーズリーの双子とか……ああいや、あれは面白がってるだけかな?」

マミ「練習しようにも、下手な場所でやったらまた粉々だし……」

QB「まあ、考えてても仕方ないよ。ほら、寮に戻ろうマミ? 夕飯も食べたし、あとは寝るだけだよ」

マミ「そうね……って、あら? あれは……」

57: 2012/12/15(土) 09:44:58.27 ID:r666Whf50
 
フィルチ「……お前か、トモエ。何をしている? また何か壊したのか?」

マミ「……こんばんは、フィルチさん。その……いつもごめんなさい」

フィルチ「ふんっ。お前のおかげで、私はここ半年ほど休みなしだよ。
      片っ端から教室を吹き飛ばしおって。椅子と机の注文書を何回書いたか分からん。
      まったく、家具屋の回し者かというのだ、ええ?」

マミ「……私だって、別に壊したくて壊してるわけじゃ……」

フィルチ「それが私の仕事量に関係するのか? 壊してるのは事実だろうが。
      いや、悪意がない分性質が悪い。わざとやってるんであれば、逆さ吊りにしてるところさね……」

マミ「……っ」ジワッ

フィルチ「おやおや、泣くのか? そんな暇があったら、呪文のひとつでも練習したらどうだ?」

マミ「……練習したって、無駄です」

フィルチ「ああ?」

マミ「だって私、才能がないんです……スリザリンの人からはマグル生まれって馬鹿にされるし、
   実際、魔法は一回もまともに成功したことないし……」

フィルチ「……」

マミ「こんなことなら、私、ホグワーツになんてくるんじゃなかった――」

フィルチ「……っ! 黙って聞いてれば、トモエ――お前は本当に愚か者だな」グイッ

マミ「ふぇ? あの、フィルチさん、どこへ――?」

フィルチ「いいからついてこい!」スタスタ

58: 2012/12/15(土) 09:45:33.20 ID:r666Whf50
 
フィルチ「全く、なんで私がお前の愚痴を聞かにゃならんのだ?
      管理人の私が、なんで生徒のお前の話を?」

マミ「あ、あの、気に障ったなら謝りますから――」

フィルチ「ああ本当だよ。腹立たしいにもほどがある。才能がないとか言ったな?
      ふん。全く、お前みたいな御嬢さんになにが分かるというのだ」

マミ「……っ、馬鹿に、しないでください! 私は、ずっと悩んで――」

フィルチ「たかだか数ヶ月だろうが? その程度で悩んだなどと、ちゃんちゃらおかしい」

マミ「……もう、いいです! 離してください! 離して――」



フィルチ「なあ、トモエ――本当に才能が無いということが、どういうことか分かるか?」




59: 2012/12/15(土) 09:46:24.70 ID:r666Whf50
 
 ふと、時が止まったような感覚を覚える。

マミ「……え?」

 実際には、フィルチさんに引っ張られる私は歩き続けている。

 それなのに、そんな感覚を覚えたのはフィルチさんの声のせいだった。

 冷たい声。それはいつものねっとりした猫撫で声ではなく、酷く凍りついた印象を受ける声音。

フィルチ「マグルの生まれだからだとか、言い訳もできずに――
     それでも才能がないと思い知らされることが、どういうことかわかるか?」

マミ「あの……?」

フィルチ「毎回教室を吹っ飛ばしておいて、才能がないだ?
      ふん、才能がないというのは、杖を振っても火花すら出せない奴のことをいうんだ」

フィルチ「失敗できるだけいいだろうが。本当に才能が無い奴は、失敗することすらできん。
      成功させるための挑戦すらすることができんのだ。
      お前は、自分は惨めで可哀想な悲劇のヒロインだとでも思っているのかもしれんがな、トモエ」

 そうして唐突に、フィルチさんは廊下の壁際で立ち止まり、

フィルチ「――本当に才能の無い奴から見れば、今のお前は本当に腹正しく見えるだろうさ」

 廊下の壁に向かって、ノブを捻るような動作をして見せると、そのまま私ごと壁の中に溶けるように入り込んだ。


60: 2012/12/15(土) 09:47:22.64 ID:r666Whf50
 
マミ「あの、ここは……?」

フィルチ「今は使われてない、隠し教室のひとつさ。ホグワーツにはこういう隠し部屋がうんとあってな」

マミ「なんで、ここに私を?」

フィルチ「毎回机と椅子を粉々にされても困るんだよ。ここには何もないし、壁も分厚い。
      扉も透明呪文で見えなくなってるから、誰かが入って来て巻き添えになることもない」

マミ「……?」

フィルチ「……ちっ。まだわからんのか。だから、好きなだけここで失敗してろ、と言ってるんだ」

マミ「……! フィルチさん!」

フィルチ「ただし! 寮の門限は守れよ? 私が見回りに来た時にまだいるようだったら、
      その時は地下牢に叩き込んでやるからな? いいな!?」

マミ「はい! ありがとうございます」

フィルチ「フン! 礼を言われる筋合いはない」

61: 2012/12/15(土) 09:48:02.87 ID:r666Whf50
 
 ハロウィーン 大広間


マミ「わあ、素敵な飾り付けね、キュゥべえ! ほら、ジャック・オ・ランタンが空を飛んでる!」

QB「などと供述しており、警察は薬物の服用を疑って――」

マミ「ちょっと! 変なモノローグ挟むのやめてちょうだい!」

QB「まあ冗談はともかくとして、なかなか面白いね。
   あの蝙蝠の大群も、本物そっくりだけど本物じゃないだろうし」

マミ「確かに本物だと、さすがに衛生的ではないものね――って、あら?
   見て、クィレル先生が……」


クィレル「トロールが! トロールが地下室に!」


 トロール!? トロール ダッテ!?


ダンブルドア「静まれ! 静まれ! 監督生よ、それぞれの寮まで生徒を引率せよ!」

QB「……」

62: 2012/12/15(土) 09:48:36.11 ID:r666Whf50
 
 グリフィンドール談話室


ジョージ「だけどトロールがどうやって入りこんだんだろうな?」

フレッド「さあな。もしかしてハグリッドが飼ってたのが逃げ出したのかもしれないけど」





マミ「トロールねえ。確かに、どうやってホグワーツに忍び込んだのかしら?
   ……あら? キュゥべえ? どこ行ったの?」

QB「マミ! 大変だ! ハーマイオニー達が!」

マミ「……え?」

63: 2012/12/15(土) 09:49:08.79 ID:r666Whf50
 
 女子用トイレ


トロール「ブァァアアアアア!」


ハーマイオニー「だから言ったじゃない! トロールは危ないって!」

ロン「今更そんなこと言ってもしかたないだろ! 君だって強くは止めなかったじゃないか!」

ハリー「それにスネイプが禁じられた廊下の方に向かったのが気になるって、君も言ってたろ!」

ハーマイオニー「それはそうだけど! でもトロールは危ないから、見つけたらすぐ逃げるとも言ったでしょ!?
          ロン! それなのに貴方ったら!」

ロン「だって後ろ向いてたから、こん棒を浮かせて頭に落とせばやっつけられると思ったんだ!」

ハーマイオニー「見ればわかるでしょ! あれは山トロール! トロールの中じゃ一番頑丈なの!」

ロン「そんなのわかるもんか! 今度はもっと早く言ってくれ! あいつが殴られて怒りだす前に!」

ハリー「二人とも、言い争いしてる場合じゃないだろ――」


トロール「ブアアアアアアアア!」


ハーマイオニー「……っ、きゃああああああ!」



マミ「――フリペンド!(撃て!)」バシュッ




64: 2012/12/15(土) 09:49:35.56 ID:r666Whf50
 
トロール「ブア?」ギロッ

マミ「っ、効いてないみたいね……でも注意は逸らせた!」


ハリー「彼女、ハーマイオニーの友達の……」

ロン「ああ、ぶっ壊し屋だ! あれ、でもいま、魔法が成功しなかった?」

ハーマイオニー「マミ!? なんでここに? はっ、ま、まさか私たちにトドメを刺そうと!?」

ロン「ハーマイオニー。前から気になってたけど、君のマミに対する被害妄想はどこから生まれたの?」

ハリー「マミ! どうしてこの場所が分かったの?」

マミ「QBが教えてくれたの! まったく無茶をするんだから!」

QB「いや、マミ。僕は契約をだね。魔法少女になれば、あの程度の怪物なんか――」

マミ「キュゥべえ! あなたは先生を呼んできて! 私が時間を稼ぐから!」

QB「いや、だから契約……はぁ、分かったよ」ピョイッ


65: 2012/12/15(土) 09:50:27.24 ID:r666Whf50
 
ロン「無茶だ! そいつ、僕の渾身のこん棒落としでも駄目だったんだぞ!」

マミ「平気よ! 私だってこの数週間、ただ失敗してたわけじゃないもの……!」



QB『マミ。どうやら君は、得意な魔法と苦手な魔法がはっきり分かれてるみたいだね』

QB『多分、君の"素質"にも関わってるんだろうけど……
   うん、もしも君が魔法少女になったらきっと銃とか弓とかが武器になるんじゃないかな?』

QB『だから僕と契約しようよ! 願い事で頼めば、今日から君もダンブルドア級に――』



マミ「そう、全ての失敗は、いまこの瞬間、成功するために!」スッ

マミ「私の大切な友達を助ける為に、私は私の魔法を成功させる!」

ハーマイオニー「マミ……私、貴女のことを誤解してた――」

マミ「覚悟しなさい、この化け物!」バラッ


ロン「なにかばら撒いた? なんだあれ? ちっちゃい棒みたいな――」

ハリー「ああ、あれマッチだよ。ほら、談話室の暖炉に備え付けてある奴」

ハーマイオニー「……え? あの、ちょっとまって。マミ、分かってるわよね……?
          トロール挟んで反対側に私たちがいるってこと、ちゃんと考えてるわよね!?」


マミ「穿ちなさい! 我が魔弾の仔らよ! これが私の、全力全開!」


ロン「あー……駄目だよ。やっこさん、完全にトリップしちまってる」

ハリー「あー、ロン? 無駄かもしれないけど、とりあえず伏せてみようか?」

ロン「そうだな。ついでにお祈りもしとけば、少しはマシになるかもしれないし」

ハーマイオニー「マミ、ちょ、やめ――!」

マミ「――カーコス・スペル!(針に変われ)」ポポポポンッ!

 バシュウウウウウウウウウウウウウウ!

66: 2012/12/15(土) 09:51:22.32 ID:r666Whf50
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マクゴナガル「……なるほど。それでこの惨状だと」

マミ「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」ペコペコ

ロン「おったまげー……トロールがミンスパイの中身みたいになっちまったんだものなぁ」

ハリー「便器も全部吹っ飛んじゃったし……ハーマイオニー、大丈夫?」

ハーマイオニー「トロールはいやトロールはいやトロールはいや」ブツブツ

ロン「駄目だこりゃ。だから伏せろって言ったんだ」

ハリー「真正面からもろに浴びちゃったもんね。あー……"ミンスパイの中身"を」


マクゴナガル「とりあえず、グリフィンドールから15点減点。
         ポッター、ウィーズリー、グレンジャー。これで規則の大切さがわかりましたね?
         命があったのは本当に幸運でした」

ハリー「本当にね」

ロン「ああ。あんなに怖かったのはキャノンズが優勝した夢を見た時以来さ」

マクゴナガル「そしてマミ。殺されなかったのは運が良かっただけです。
         もしも貴女の身に何かあったら、私は亡くなった御両親にどう申し開きしろと?」

ハリー「……!」

マミ「ほ、本当にごめんなさい、マクゴナガル先生。私、全然考えなしで――」

マクゴナガル「……ですが、トロールを粉々にできる一年生は見たことがありません。
         特別に、20点あげましょう」

マミ「……え?」

マクゴナガル「できればこういう台詞は、授業中に言ってあげたかったのですが――」


マクゴナガル「――ええ、貴女は私の自慢の生徒ですよ、マミ」ニコリ


マミ「マクゴナガル先生――!」

マクゴナガル「ですがトイレを全損させたので、そこからマイナス5点。差引きゼロです」

マミ「」

67: 2012/12/15(土) 09:51:59.77 ID:r666Whf50
 
マクゴナガル「以上。四人とも帰ってよろしい。ですが、その前に入浴するように」スタスタスタ

マミ「……うう、これで変な綽名からも脱却できると思ったのに」

マミ「あの……本当にごめんなさいね? 私、ちょっと力みすぎてたみたいで――」

ロン「ごめんなさいだって!?」

マミ「ひぅっ」ビクッ

ロン「ごめんなさいだって!? 君は最高だよ! なあ、ハリー! さっきの魔法、最高にクールじゃないか!」

ハリー「マミ、君は命の恩人だよ。うん、ただまあ、次の機会があるならもうミサイルはやめて欲しいけど」

マミ「ウィーズリーくん、ポッターくん……」

ロン「水臭いな! ロンでいいよ!」

ハリー「僕もハリーって呼んでよ。同じグリフィンドールの仲間じゃないか!」

マミ「……う、うん!」


 それ以来、巴マミは彼らの友人になった。
 共通の経験をすることで、互いを好きになる。そんな特別な経験があるものだ。
 

ハーマイオニー「トロールはいやトロールはいやトロールはいや」ブツブツ



 ただちょっと、"ミンスパイの中身"塗れになるというのはロマンチックじゃないけれども。


 

88: 2012/12/23(日) 15:59:13.76 ID:fefuj6bu0
 
 グリフィンドール 談話室


ロン「……ってわけさ。これで大まかなルールは全部かな。
   実際にプレイするなら別だけど、観戦するには十分だと思う」

マミ「ええ、ありがとうロンくん。お陰でハリーくんの試合を見に行った時、
   何にも分からないって事態は回避できそうね」

QB「彼、シーカーってポジションに選ばれたんだっけ?
   規則を捻じ曲げてまで選ばれたんだから、きっと才能があったんだろうね」

マミ「そういえば箒で飛ぶ授業の時、凄い飛びっぷりだったような……
   あら? そういえばそのハリーくんは?」

ハーマイオニー「ハ、ハリーはスネイプ先生の所に行ったわ。
          私が貸してあげたクィディッチの本を没収されちゃったの」ビクッ

ロン「……ハーマイオニー。君ってばまだマミのこと――むがっ」

ハーマイオニー(しーっ! 染み付いちゃった習性は急に取れないの!
          そ、それに! マミはあの日、確かにアバダケダブラって……!)

ロン(絶対君の勘違いだと思うけどなぁ)

89: 2012/12/23(日) 15:59:46.24 ID:fefuj6bu0
 
ハリー「"豚の鼻"! ――ロン! ハーマイオニー!」バタン!

ロン「噂をすれば、だ。ようハリー。本は取り戻してきたかい?」

ハリー「それどころじゃない。分かったんだ! スネイプはあの日"三頭犬"の――」

ハーマイオニー「っ!? ハリー、落ち着いて。駄目。ストップ!」チラッ

マミ「? どうしたの? "さんとうけん"って何かしら?」

ロン「いやあハハハ! 聞き間違いさ。さんとう、さとう……砂糖羽ペンだよ。ハリー、ほら、仕方ないな!」グイッ
   (馬鹿! "禁じられた廊下"に入っちゃったことは秘密だって、君が!)

ハリー(ごめん! でも大変なんだ。スネイプがあの犬の守ってるものを狙ってるんだよ!)

ロン「マジかよ!?」

マミ「?」

ハーマイオニー(ロン!)ギロッ

ロン「あ、え、うーん、そうか。そりゃ大変だな! じゃあ本を取り戻す作戦を立てようか。
   マミ、悪いね。ちょっと外すよ」

ハーマイオニー「あ、明日はクィディッチの試合もあるし、もう寝ないと!
          マミ、先に部屋に戻ってて? 私も歯を磨いたらすぐに行くから!」

マミ「う、うん。分かったわ。キュゥべえ、行きましょ?」ヒョイッ


90: 2012/12/23(日) 16:00:14.76 ID:fefuj6bu0
 





ハリー「……。……。」

ロン「――。――!」

ハーマイオニー「~~~~~!」



QB「……マミ。気づいてると思うけど、あの三人、君に隠し事をしてるみたいだよ?」

マミ「そうみたいね。別にいいけど」

QB「気にならないのかい? 僕のデータだと、君たちくらいの年の子は
   友達に仲間外れにされると疎外感で心がいっぱいになるとあるんだけど」

マミ「全く気にならないわけじゃないけど……意地悪してる雰囲気でもないしね」

QB「確かに。どちらかといえば、知られることを恐れているようだった」

マミ「グレンジャーさんはともかく、ハリーくんやロンくんは結構やんちゃなところがあるから……
   大方、なにか規則違反したのを隠してるとかじゃない?」

QB「そういえば、この前のトロール事件も規則違反っていえば規則違反だったか」

マミ「うん。だから……私を巻き込まないようにって、気を使ってくれてるんじゃないかしら?」

91: 2012/12/23(日) 16:00:47.65 ID:fefuj6bu0
 
 グリフィンドール 女子寮


パーバティ「はぁい、マミ。お話は終わった?」

マミ「ええ。ロンくんにクィディッチのルールを教えて貰ってたの」

ラベンダー「あら、言ってくれれば私たちが教えたのに」

パーバティ「ねえ、マミ。この前のトロール、貴女が倒しちゃったって本当?」

マミ「う……もしかして、噂になってるのかしら?」

パーバティ「ええ! 一年生がトロールを魔法で粉々にしちゃったって話題でもちきりよ!」

マミ「あ、あのね。別に私、必死でやっちゃっただけで――」

ラベンダー「いいからいいから! ね、その時のこと詳しく教えて!」

マミ「……いいけど、あんまり他の人に言っちゃだめよ?」

92: 2012/12/23(日) 16:01:13.65 ID:fefuj6bu0
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ラベンダー「……それでね、ホグズミードにはハニーデュークスっていうお菓子屋さんがあるの。
       品揃えはイギリスでも一番ね!」

マミ「素敵! 是非一度行ってみたいわ」

パーバティ「じゃあ今度のクリスマス休暇、一緒に行かない?
       学期内の週末に行けるようになるのは三年生からだけど、帰宅中なら大丈夫よ!
       パパとママに連れってて頼むから!」

マミ「……クリスマス、休暇」

パーバティ「? マミ?」

マミ「あ……ごめんなさい。ちょっと……私の家、遠いから。
   帰るのも大変だし、クリスマスはこっちで過ごすことになると思う」

ラベンダー「あ、そういえばマミって日本人だっけ。もしかしてふくろう便の範囲外?
       そうすると煙突飛行ネットも通ってないかー」

パーバティ「そっか、じゃあ仕方ないわね……」

マミ「うん。せっかく誘ってもらったのに、ごめんなさいね……」

93: 2012/12/23(日) 16:02:04.32 ID:fefuj6bu0

 
マミ(……家に帰る、か。でも、帰ったところで……誰もいない)

マミ(マクゴナガル先生は正しかった。
   魔法というインパクトとまったく新しい環境での生活は、あの事故のことを少しだけ忘れさせてくれた)

マミ(でも……本当に忘れられたわけじゃない)

マミ(こうして一度落ち着いてしまってからだと、泣くことも難しい)


 自分にとって、クリスマスとは楽しいものだった。

 記憶が蘇る。証明を落としたダイニング。テーブルの上には丸いケーキ。ロウソクの火に、私と両親の影が揺れていた。

 でも、もうそんなクリスマスは過ごせない。


マミ(……これから、ずっと。私は……)

94: 2012/12/23(日) 16:03:18.36 ID:fefuj6bu0
 
ラベンダー「――マミ、マミ? 聞いてる? もしかして眠くなっちゃった?」

マミ「あ、ええ。ごめんなさい。なんだったかしら?」

ラベンダー「だから、クリスマスの話よ!」

マミ「……あの、だからクリスマスはホグワーツで――」

ラベンダー「ああ、だいぶ前から聞いてなかったのね……仕方ないか。もうだいぶ遅いもんね」

パーバティ「あのね、マミ。じゃあクリスマスカードを送り合わない? ってさっきから話してたのよ」

マミ「クリスマス、カード……?」

パーバティ「あれ、知らない? マミの国はそういう習慣ないのかしら?」

ラベンダー「別に、直接会わなくてもクリスマスは祝えるでしょ? ホグワーツなら、ふくろう便も届くし」

マミ「……」

ラベンダー「マミ?」

パーバティ「どうしたの? 本格的に眠い?」

マミ「……ううん。大丈夫。大丈夫、だから」ニコッ

ラベンダー「本当? じゃ、今から私たちの住所言うから、メモして――」


 ――いまの貴女に必要なのは理解者と、それに囲まれた環境です――


マミ(……マクゴナガル先生、ありがとうございます)


 天国のお父さんとお母さんへ。

 私、友達ができました。

95: 2012/12/23(日) 16:04:12.41 ID:fefuj6bu0
 
 図書室


ハーマイオニー(ニコラス・フラメル……この本にも載ってないわね。
          著名な魔法使いは、ほとんど網羅したと思うけど)ペラッ

ロン「教えてくれるかい、ハリー? 僕はあと何冊本を読めばいいんだ? もう一生分は読んじまったよ」

ハリー「僕もクィディッチの試合をやったのが遠い昔に思えてきたよ、ロン。まさに天国から地獄へ、だ」

ロン「地獄の獄卒だって、こんな拷問めいたことはやらせないと思うけどね」

ハーマイオニー「ああもう! あなた達、口を動かす前に手と目、そして頭の中身を動かしなさい!
          あの三頭犬が守ってるものは、ハグリッドがうっかり洩らしたニコラスって魔法使いが関係してるんだから!」

ハリー「分かってるよ。何にせよ、スネイプに取られるわけにはいかないからね。
     にしてもニコラスって名前……どっかで聞いた覚えがあるんだけどなぁ」

ロン「どうせなら、ハグリッドももっとうっかりしてくれてたら良かったのにな。
   ニコラス某が誰かとか、何を守ってくれてるのかとか教えてくれりゃ、こんな本の山に埋もれなくたっていいのに」

ハリー「あの犬、何を守ってるんだろうね」

ロン「さあ? スネイプが狙ってるんだから、厨房からくすねてきた骨ってことはないだろうけどな」

ハリー「それ以前に、あの犬の体格じゃキッチンに入れないだろうしね」

ハーマイオニー「だから! 真面目に! やりなさいってば!」

ハリー「分かってるよ。じゃあとりあえず、この本の山を片してくる」

ロン「僕も手伝うよ……さっきから司書のマダム・ピンスが睨んできてるし」ガタッ

96: 2012/12/23(日) 16:05:34.72 ID:fefuj6bu0
 
ハーマイオニー「……ふぅ。とは言ったものの、さすがに行き詰ってきたのも確かね。
          二人に、ちょっと……ほんのちょびっと……厳しく言い過ぎたかしら?」ブツブツ

マミ「あっ、グレンジャーさん! ちょっといいかしら?」

ハーマイオニー「!? は、はぁい、マミ。どうしたのかしら。この机使う?」ガタッ

マミ「いや、机ならたくさん空いてるし……ひとつの机をひとりで占領する必要もないし」

ハーマイオニー「そ、そうよね。それで、何の用でございますか……?」

ハーマイオニー(やばい! 周りに誰もいない! ローン! ハリー! へるぷみー!)ガタガタ

マミ「くすっ。なぁに、その言葉遣い? まあいいけど、それでね、グレンジャーさん。
   ラベンダーさん達から聞いたんだけど、冬休みはおうちに帰るんでしょう?」

ハーマイオニー「え、ええ。ホグワーツのこと、家族にも報告したいし……」

マミ「うんうん。家族は大切にしないとね。それで、ちょっとお願いがあるんだけど――」

ハーマイオニー(マミのお願い? な、何かしら。――肝臓? ●●の肝臓が欲しいとか……?)

マミ「あのね、グレンジャーさんと、その、グレンジャーさんが良ければでいいんだけど……
   くっ、クリスマスカードとか良ければ交換しないかしら!?」

ハーマイオニー「……え。クリスマス、カード?」

マミ「う、うん。ほら私、イギリスってはじめてだから、こういう風習には疎いのだけど、
   でもその、送りあうって聞いて、それで……」

ハーマイオニー「……」

マミ「あの、急な話だし、もしも迷惑だったらいいのだけれど……」

ハーマイオニー「……はぁ」

マミ「あぅっ。溜息……呆れさせちゃったかしら?」

ハーマイオニー「そうね。私自身に呆れてるところよ」

マミ「?」

ハーマイオニー(ロンの言う通りね。なんでこんな良い子のこと、私は疑ってたのかしら……)

ハーマイオニー「それじゃ、カードを送らせてもらうわ。マミは学校に残るのよね?」

マミ「本当!? じゃ、私頑張ってカード書くから!」

ハーマイオニー「ふふっ。ええ、楽しみにしてるわ!」

97: 2012/12/23(日) 16:06:50.67 ID:fefuj6bu0
 
マミ「じゃあグレンジャーさん。とりあえず貴女のおうちの住所を教えてほしいのだけれど」

ハーマイオニー「ええ。オックスフォードの――」











ハーマイオニー「……」

マミ「……? グレンジャーさん? 急に黙ってどうしたの?」

ハーマイオニー(待って……さっきマミはなんて言った……?)



マミ『うんうん。家族は大切にしないとね。それで、ちょっとお願いがあるんだけど――』

マミ『うんうん。家族は大切にしないとね』

マミ『"家族"は、大切にしないとねぇ?』(暗黒微笑)



ハーマイオニー(あ……危ないぃぃいいいい! こいつめっちゃ狙ってるわ!
          私の家族の命ぁ狙ってる! 住所知ってどうするつもり!?)

マミ「オックスフォード、の……それから?」チラ

ハーマイオニー(ひぃっ。催促してる! 早く言えって無言の要求されてる!
          あの眼は『言わねばその喉笛噛み千切るぞ!』って目だわ……!)ガクガク









ロン「はい、これハーマイオニーの住所」

マミ「あ、ありがとう……でもいいのかしら? 勝手にもらちゃって。
   それにグレンジャーさん、急に震えだして大丈夫……?」

ハリー「うん。あれはまあ、発作だよ。最近よくあるから、気にしないであげて」

98: 2012/12/23(日) 16:07:38.68 ID:fefuj6bu0
 
 ――クリスマス休暇。


マミ「みんな実家に帰っちゃったし、お休み中は暇だわ……グレンジャーさんもいないし」

QB「なんか帰る時、物凄い喜んでたよね、彼女。ホームシックなのかな?」

マミ「さあ……にしても、本当に暇ね。宿題も終わっちゃたし」

QB「魔法の練習でもしたらどうだい? マミは実技が不手得のようだし」
  「筆記系とか、魔法薬は優等生のハーマイオニーに次ぐ出来だけどさ」

マミ「だって魔法薬って、レシピ通りに混ぜたり煮たりするだけだし……先生は怖くて苦手だけど」

QB「それができない人って結構いるもんだよ。
   マミはお菓子作りとかの才能があるかもしれないね」

マミ「お菓子作り……お母さんと昔やったきりだけど、夏休みに帰ったら試してみようかしら?
   自炊だって考えなきゃいけないし……」

QB「うん、いいと思うな――正直なところ、ここのご飯って不毛な味がするし」

マミ「イギリス料理……噂に違わぬ味だったわね。お菓子はおいしいんだけど」

99: 2012/12/23(日) 16:09:30.11 ID:fefuj6bu0
 
QB「それはそうと、魔法の練習はどうするんだい?
  学期末に試験だってあるし、備えはしておいたほうがいいよ」

マミ「……そうね。あれ以来、得意な魔法は扱えるようになったんだけど……」

QB「君はノックバックジンクスみたいに、杖から"撃つ"魔法が得意みたいだね」

マミ「ええ。でも一年生の試験で、そんな物騒な呪文は出ないし……。
   そもそも、壊したりする魔法って実生活でそんなに役に立たないわよね?」

QB「石ころでも投げれば、同じ結果を得られるからね。
   こと破壊という点だけみれば、この星の近代兵器は中々に優れているし」

マミ「うーん。上達してないわけじゃない、と思うんだけど……
   マッチを針に変えるのだって、最近は上手くなってきたし」

QB「そうだね。ミサイルの先が、凄い鋭くなってきたから」

マミ「……ぶ、物体浮遊だって、水平に吹っ飛ばなくなってきたでしょ?」

QB「フィルチに教えて貰った"透明の教室"、天井が凹みまくったけどね」

マミ「箒を使って飛ぶ練習は――」

QB「箒……ああ、あれかい? 指先が触れた瞬間に地平線の向こうまで逃亡したやつ」

マミ「えいやっ」ギュッ

QB「きゅっ!?」

マミ 「こうなったら練習あるのみよ! やる前から諦めてたら何も出来ないわ!
   それに変身術で落第点なんか取ったら、マクゴナガル先生に顔向けできないもの!」ポイッ

QB「……じゃあ魔法でベッドを動かして模様替えでもしてみようか。
   幸いというかなんというか、君の部屋の同輩たちはみんな帰ってるし」

マミ「そうね。よーし物体浮遊は……うぃん・がーでぃあむ・れう゛ぃおーさ、ってキュゥべえ!
   透明の教室で練習するのよ! ここで失敗なんかしたら――」バシュッ

QB「ははは! 見たかマミ! 僕を"ぎゅっ"ってした罰だ――きゅっ!?」



 そしてベッドは燃え出した。

100: 2012/12/23(日) 16:10:33.37 ID:fefuj6bu0
 
マクゴナガル「……まったく、練習熱心なのは結構ですが。
        危うく部屋が全焼するところでしたよ、トモエ?」

マミ「すみませんでした……」

マクゴナガル「まあ幸い誰も怪我はしなかったようですし……減点は勘弁してあげましょう」

QB「僕の尻尾の先が現在進行形で焦げてることはスルーかい?」メラメラ

マクゴナガル「このくらいの損傷なら魔法で直せますしね。レパロ!(直れ)」ポンッ

マミ「凄い! ベッドが一瞬で元通りに!」

QB「僕の尻尾……」パタパタ

マクゴナガル「貴女も練習すればこのくらい出来るようになります。練習は確かに大事です。
         しかし、朝から部屋に閉じこもってるのは不健康ですよ?
         談話室に行って御覧なさい。暇そうな生徒が何人かいましたから」

マミ「はい! ありがとうございました、マクゴナガル先生!」



 ちなみに天井に人の顔のような形をした焦げ跡が残っており、

ハーマイオニー「いやー! 顔が! 生首が私を俯瞰視点から!?」

 それを帰ってきたハーマイオニーが発見し、悪夢を見る羽目になるのはまた別の話である。

101: 2012/12/23(日) 16:11:28.64 ID:fefuj6bu0
 
 談話室


マミ「やっぱりお休みだし、あんまり人はいないわね」

QB「でもマクゴナガル先生の言う通り、残ってるのは暇そうな人ばかりだよ。
    あ、ほら。暖炉の傍でチェスをやってるのって……」


ハリー「なんだこの駒! 全然言うこと聞かないぞ!」

ロン「マグルのチェスは駒が喋らないんだっけ? それって退屈そうだなぁ」


マミ「ああ、ハリーー君とロン君。あの二人も残ってたんだ……
   おはよう、二人とも。いい朝ね?」

ハリー「やあマミ、おはよう。今朝も寒いね」

ロン「もうクリスマスだもんな……それで、何か用かい?」

マミ「用ってわけじゃないけど、私のルームメイト、みんな帰っちゃたから暇なの」

ハリー「チェスでもする? 席を代わるよ。この駒、僕の言うこと全然聞かないんだ」

マミ「チェスのルール、よくわからないから……将棋とかなら少し分かるんだけど」

ロン「ショーギ? なにそれ?」

マミ「日本……私の国のチェスに似たゲームよ」

ロン「へえ、マミって日本人だったのか。そういえばどことなくハッフルパフのチョウと顔つきが似てるかも」

ハリー「日本っていえば、ダドリーが日本製のゲームを……」

102: 2012/12/23(日) 16:14:07.79 ID:fefuj6bu0
 




ハリー「……あ、そうだ。ロン、ちょっと……」

ロン「ん? なんだよハリー。ちょっとごめんマミ」

マミ「あら、内緒話?」


ハリー(ニコラスのこと、マミにも聞いてみたらどうかな?)コソコソ

ロン(無駄じゃないか? ハーマイオニーも知らなかったんだぜ?)コソコソ

ハリー(でも彼女、魔法史の成績良いし……ビンズ先生の授業を真面目に聞いてる貴重な人類じゃないか)

ロン(でも僕達が『禁じられた廊下』のこと嗅ぎ回ってるの、あんまり知られるのは……)

ハリー(その辺は大丈夫じゃないかな。フラメルってだけじゃ分からないだろうし)

ロン(うーん、それもそうか。ま、あんまり期待はしてないけどね)


ハリー「じゃ、そういうわけで――ねえマミ、ニコラス・フラメルって人のこと何か知らない?」

マミ「ニコラス・フラメル? それって賢者の石を作った魔法使いでしょう?」

103: 2012/12/23(日) 16:15:14.36 ID:fefuj6bu0

マミ「なんかあの二人、物凄い叫び声上げながら走って行っちゃったわね。喜んでたみたいだけど……」

QB「フクロウ小屋の方へ行ったみたいだ。誰かに手紙でも送るんじゃないかな。
   ……それにしても、マミ。いまさらだけど、君は成長したねえ」

マミ「? え、何が?」

QB「いや、人付き合いがさ。ホグワーツ特急で人見知りしてた頃とは見違えるようだよ」

マミ「ああ……それ」フゥ…ヤレヤレ

QB「あ、なんか軽くイラっときた」

マミ「そりゃあ半年も知らない場所で過ごせば人見知りくらい直るわよ。というか、直さないと生活できないもの」

QB「まあ、それもそうか。じゃあそれはまああの夏の日の幻影だったということにして」

マミ「ちょ。勝手に幻にしないで……主人の成長を喜びなさいよ、ペットらしく」

QB「話は変わるけど、ニコラス某のことは? なんで知ってたんだい?
   一年生の魔法史の授業じゃ出てこないし、教科書にも載ってないけど」

マミ「……まあいいわ。ニコラスさんのことは、ほら、あれよ。ホグワーツ特急の中で新聞買ったじゃない?
   あれに載ってたの。最近、ある程度魔法界のことも理解できたから読み返してたのよ」

QB「へえ。それはまた随分とタイムリーだったねぇ。
  発行の日付が一日でもずれてたら、マミはフラメルのこと知らなかったわけだし」

104: 2012/12/23(日) 16:18:38.58 ID:fefuj6bu0
 
マミ「ええ。こんな偶然あるものなのね。
   ……でも、もう死んじゃった人に一体なんの用かしら?」

QB「ん、フラメル氏は故人なのかい?」

マミ「新聞にはそう書いてあったけど」

QB「ふぅん。じゃあなんだろうねぇ。とりあえず宿題関係じゃないのは確かだけど」

マミ「……ところで、QB」ジロッ

QB「ん? なんだい、マミ。そんな怖い顔しちゃって」

マミ「誤魔化そうとしても駄目。貴方でしょう、最近、私の教科書を引っ張り出してるの。
   ニコラスさんのこと、教科書に載ってないって断言したでしょ? 魔法史の教科書、貴方に見せたこと無いのに」

QB「ありゃ……口が滑ったな。ごめんよ、マミ。迷惑はかけないつもりだったんだけど」

マミ「ならせめて、元通りの順番に揃えて……いやその前に私に一声かければいいじゃない。
   大体、キュゥべえは魔法使えないのに何で教科書見るのよ? 授業も毎回ついてくるし……」

QB「……」



QB「――ま、新しい技術には誰だって興味が沸くさ」



.

105: 2012/12/23(日) 16:19:30.14 ID:fefuj6bu0
 
 クリスマス 朝



マミ「……Zzzz」

QB「マミ、起きて。朝だよ?」

マミ「……ん。むゃ、お休みだし、あと五分……」

QB「君の言う朝の五分は一時間近いじゃないか。昨日、起こしてって言ったのは君だろう?
   ほら、届いてるよ。クリスマスカード」

マミ「!」ガバッ

QB「えーと。ラベンダーにパーバティ。これは……」

マミ「だ、だめよ! 私が最初に読むの!」

QB「やれやれ。やっと起きたか。ほら、どうぞ」

マミ「凄い! 絵が動いてる! きっと魔法のインクなのね……あ、こっちはきらきら光る!」

QB「凄いねぇ、どういう仕組みかさっぱり分からない。おや、これはハーマイオニーのか。
   ……意外に字が汚いね」

マミ「変ね? ノートは綺麗にとってるんだけど……まるで何かに怯えてガクガク震えながら描いたみたいね?」

106: 2012/12/23(日) 16:23:17.66 ID:fefuj6bu0
 
マミ「うーん。こうして見ると、私の送ったクリスマスカードって地味だったかしら?」

QB「そうかい? 飛び出す仕掛けとか、凄い凝りようだったけど……」

マミ「うーん。でもねえ……あら? まだあるわね」

QB「うん? でも約束してたのは――」

マミ「ええ、ルームメイトの三人だけの筈……」ペラッ

QB「なんて書いてあるんだい?」

マミ「……これ、クリスマスカードじゃないみたい。宛名も書いてないし、誤配かしら?」

QB「見せて! もしかしたら僕宛かも!」

マミ「ふふ。でもこれ、暗号みたいよ? キュゥべえに分かるかしら」


『一つ目はケルベロス。音楽を聞かせること。
 二つ目は悪魔の罠。火をつけること。
 三つ目は空飛ぶ鍵。箒で飛んで掴むこと。
 四つ目はチェス。よく練習しておくこと。
 五つ目はトロール。対策を練っておくこと。
 六つ目は論理。前へ進みたいなら一番小さな瓶。戻りたいなら右端の瓶を』


QB「……さっぱりだ。何かのゲームの攻略法かな?」

マミ「やっぱり誤配かしら……? 悪戯にしては意味が分からないし」

QB「一応しまっておけば? もしかしたら君のルームメイトのかも」

マミ「そうね。そうしましょ」ゴソゴソ

107: 2012/12/23(日) 16:25:22.84 ID:fefuj6bu0
 
 新学期 廊下


マミ「結局、ラベンダーさんのでもパーバティさんのでもなかったわね、このカード」ピラピラ

QB「そうだね。あとはハーマイオニーだけど……今日もダメだったのかい?」

マミ「そうなのよ。帰ってきてから、あの三人でずっと何かやってるみたいで。
   今日も授業が終わってすぐ、教室から飛び出していっちゃったの」

QB「話す機会がなかなかないねぇ。まあでも、向こうが聞いてこないんなら、彼女のでもないんじゃないかい?」

マミ「そうかもしれないけど……でも聞く前に捨てるわけにもいかないし」

QB「せめてどこにいるか分かればねえ」

マミ「そうねえ……って、あら?」ピラッ

QB「どうしたの、マミ?」

マミ「……ほら、これ見て」

QB「これって、あのカードだろう? もう見たけど……」

マミ「うん。だけど、ほら。カードのこの部分」


 "禁じられた森" "ハグリッドの小屋"


QB「……変だな。確かここ、前は何も書いてなかった気がするけど……」

マミ「見落としてたのかしら? それとも透明インクで書かれてたのが効果切れで出てきたとか?」

QB「分からないけど……とりあえず、これが宛名かな? マミ、届けに行ったら?」

108: 2012/12/23(日) 16:27:05.05 ID:fefuj6bu0
 
 禁じられた森の外れ


マミ「確か、こっちの方だったと思うけど……」

QB「こっちには滅多に来ないからねえ。スプラウト先生の薬草学くらいで……
   って、マミ。あっちから来るのって」

マミ「……っ」

ドラコ「ん? なんだ、君か。こんな所に何の用だ?」

マミ「あ、あの、ちょっと、届け物……」

ドラコ「はっきり喋れよ。クィレルみたいにどもりやがって」

マミ「ぁう……」ジワ

QB「そういう君は、どうしてここに?」

ドラコ「はん。猫如きに話す義理はないね。ほら、邪魔だからさっさとどっか行けよ」

マミ「で、でも、私も用事が……」

ドラコ(……ちっ。ドラゴンを飼ってる証拠を掴めば、ポッター達を退学に追い込めるのに。
    仕方ない、強硬手段だ)

ドラコ「ロコモーター・モルティス(足縛り)!」ピシャッ!

マミ「っ! きゃっ!」

ドラコ「くそっ、避けたか。ほら、どっか行っちまえ! 次は当てるぞ!」

マミ「うう……」

109: 2012/12/23(日) 16:28:07.48 ID:fefuj6bu0
 
ドラコ「警告はしたからな! エヴァーテ・スタティム(宙を舞え)!」パシーン!

マミ「きゃあ!」サッ

QB「マミ、肩に乗ってる僕のことも考え――きゅっぷううううううう!」ピューン!

マミ「キュゥべえ!? よ、よくもやったわね! フリペンド(撃て)!」バシュッ

ドラコ「痛っ! こいつ、僕に対してよくも――」

ハグリッド「お前さんら! いったいなにやっちょるんじゃ!」

ドラコ「……ちっ。覚えてろよ!」ダッ

マミ「た、助かった……」

ハグリッド「大丈夫か? マルフォイの仔倅め、まったく……ほら、もう遅え。寮に帰んな」

マミ「は、はい。ありがとうございました」ペコッ

ハグリッド「……行ったか」




ハリー「危なかったね、ハグリッド」ヒョイ

ロン「全くね。マミはともかく、マルフォイの奴に赤ちゃんドラゴンを見られてたら終わりだったよ」

ハグリッド「ああ。あのマミっちゅー娘っこには感謝しねえとな。悲鳴で気づかんかったら見られとったよ」

ハーマイオニー「とはいえ、何か対策を考えないと……それも急いで」

ロン「ああ、そうだな……そうだ、チャーリーに頼んで――」

110: 2012/12/23(日) 16:28:51.18 ID:fefuj6bu0
 
 数週間後 大広間


マミ「んんー! 気持ちのいい朝ね、キュゥべえ!」

QB「そうだね。またクィディッチの試合でグリフィンドールが勝ったし。
   これで寮対抗杯もグリフィンドールがトップだ」

マミ「それもあるけど、ほら! 見てよキュゥべえ! とうとうやったわ!
   どう!? 前より針っぽい形でしょ?」
 
QB「……安定翼のないミサイルって、前より危険度は上がってるような」

マミ「あとは色と噴射口と中に詰まってる爆薬をなんとかすれば……」ブツブツ

QB「聞いてないね……ん?」

 ザワザワ ザワザワ

QB「マミ、マミ。見て、あそこ。凄い人だかりだ」

マミ「ん? あら、本当。どうしたのかしら。朝食の時間なのに……」

QB「あそこって、確か寮の点数が表示されてる場所だよね?」

マミ「そうよねぇ。なんであんなに集まって……」

ラベンダー「マミ! 大事件よ! グリフィンドールの点数が!」

マミ「……え?」




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111: 2012/12/23(日) 16:29:46.67 ID:fefuj6bu0
 



「あのハリー・ポッターが校則違反を……」ヒソヒソ

「ロングボトム家も落ちたもんだ……」ヒソヒソ

「あの子の態度、前から気に入らなかったのよね……ちょっと勉強できるからって……」ヒソヒソ

「ひとり50点……全員分で150点もひかれた……」ヒソヒソ




QB「はあ。君たち人間の手の平返しの鮮やかさには惚れ惚れするよ。
  クィディッチで彼が活躍していた時はまるでヒーロー扱いだったのに」

マミ「そうよねぇ……グリフィンドールはともかく、他の寮の子達までハリー君達無視してるもの」

QB「タイミングが悪かったからね。嫌われ者のスリザリンが繰上げ一位になっちゃったからさ。
   ていうか、マミ。君はそういう感情はないのかい?」

マミ「グレンジャーさんもロングボトム君も、こっちで出来た私の最初のお友達だし……
   それに元々、寮対抗、って、そういう響きが何だか苦手だったのよ」

QB「まあ、日本的ではないかもね。でも郷に入っては郷に従えっていうのが君の国の格言にあったよ?
   おっと、君はもう従ってるのかな?」

マミ「……意地悪。私だって、別に無視したいわけじゃ……」

QB「君は人見知りが直って、そこそこ交友関係も広くなった
   パーバティにラベンダー……まあ普通に学校生活を送るのに支障が無い程度には関係を構築できた」

マミ「……」

QB「図らずしもマクゴナガルの言う通り――君は、魔法使いの友達を得ることができた」

マミ「……」

QB「それを壊すのが怖いんだろう?」

マミ「……そうよ。だって、仕方ないじゃない。もう、独りぼっちは嫌だもの……」

バーパティ「マミー? 授業遅れるわよー? ラベンダーが席とってくれてるけどー」

マミ「あ……う、うん。すぐ行くわ!」ダッ

QB「……ま、いいんだけどね。
  そんな泣きそうな顔をしてまでそっち側に居たいんなら、さ」

112: 2012/12/23(日) 16:31:20.01 ID:fefuj6bu0
 
 学期末試験終了後。グリフィンドール談話室。


QB「お帰り、マミ。試験はどうだった? 今日は変身術と呪文学だったよね?」

マミ「……"可"ってところね」

QB「そうかい。落第点じゃなかっただけよかったじゃないか。
  で、具体的にはどんな感じだったの?」

マミ「呪文学ではパイナップルがブレイクダンスを踊り始めて、
   変身術では、一応ネズミを嗅ぎ煙草入れに変身させられたんだけど……超合金製だったの」

QB「……まあ、何も壊さなくて何よりだよ。他の科目は良くできたんだし、試験はパスできそうだね」

マミ「ええ。それにしても……」チラッ




ハリー「ヒソヒソ」

ロン「ボソボソ」

ハーマイオニー「コソコソ」




マミ「また、三人だけで固まってる……」

マミ(結局、あれ以来グレンジャーさん達とは話せてないのよね……もう、一年目も終わりなのに)

マミ(皆の態度も変わらないし……私から話しかけるのは……)

マミ(……臆病者ね、私。なんでグリフィンドールなんかに入れたんだろう――)

113: 2012/12/23(日) 16:32:29.79 ID:fefuj6bu0
 
ネビル「マミ。あの、ちょっといいかな……?」

マミ「!? ろ、ロングボトム君……?」

ネビル「あ、あ! ご、ごめん、迷惑だったかな? うん、そうだよね。
     僕なんかと話してたら、君まで……」

マミ(……そういえば、あの三人は三人で固まってたけど……
   ロングボトム君は、あの三人とも距離を置いてたのよね……)

ネビル「あの、ごめん。僕行くね――」


マミ(ロングボトム君はあの日、一人ぼっちで途方にくれている私に声を掛けてくれた……)


マミ「――ま、まって!」




114: 2012/12/23(日) 16:33:17.01 ID:fefuj6bu0

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 ――夜。 談話室。


ハーマイオニー「……よし、誰もいないわ」

ロン「ハリー、透明マントを出せよ」

ハリー「ああ。ヴォル――例のあの人が賢者の石を手に入れるのは、絶対に防がないと――」

ネビル「……君たち、また外に出るつもりなんだろ」

ロン「ネビル!?」

ハリー「いや、別になんでもないよ? ネビル、もう寝たら?」

ハーマイオニー(……ネビル、待ち構えてた?)

ネビル「外に出ちゃいけない。外に出たら、グリフィンドールはもっと大変なことになるんだ」

ハリー「ネビル、君には分からないだろうけど、これは――」

ネビル「絶対にここは通さない!」

ロン「ハーマイオニー、何とかしてくれ!」

ハーマイオニー「……ネビル、本当にごめんなさい。
          ペトリフィカス・トタルス――」




マミ「――うぃん・がーでぃあむ・れう゛ぃおーさ!」ボゥッ

115: 2012/12/23(日) 16:34:21.68 ID:fefuj6bu0

 
ロン「うわっ! ソファが燃えた!?」


マミ「ああ、また失敗だわ……何がいけないのかしら。杖の振り方?」

ハーマイオニー「マミ!? 貴女も邪魔をする気!? くっ、やっぱり闇の魔法使い――」

ハリー「マミ、そこをどくんだ。僕たちはとても大事なことをやろうとしてるんだよ」

マミ「ハリー君……貴方がきっと、ふざけてるんじゃないってことは何となく分かる」

ロン「だったらどけよ!」

マミ「……ごめんなさい。だけど、私はロングボトム君の勇気に応えたいの」








~数時間前~


マミ『あの三人が、何か企んでる?』

ネビル『う、うん。多分……もうグリフィンドールは最下位だけど、これ以上点を減らしたくないんだ』

マミ『でも、もう最下位なら――』

ネビル『だって、これ以上彼らのせいで減点されたら、もう二度と彼らは許してもらえないと思う。
     いまならまだ来年度でいくらでも挽回できるよ。ハリーはシーカーだし、ハーマイオニーは頭が良い』

マミ『ロン君は?』

ネビル『……でも、ここで駄目押しに減点されたらもう駄目だ。ここが分水嶺なんだよ』

マミ『ねえ、ロン君は?』








マミ「ロングボトム君は、貴方達の為を思っていた。たった一人で、勇気を持って行動していた!」

マミ「ひとりぼっちの怖さも、辛さも! 私はよく知っている!」

マミ「だから、私はネビル君の味方をして、貴方達を止めるわ!」

ロン「分かった。オーケイ。つまり、力尽くで通れってことだね?」スッ

ハーマイーニー「……三対ニ。気は進まないけど、手は抜けないわよ」スッ

ハリー「ねえ、最後にお願いするけど、どいてくれない?」スッ

マミ「……」

ネビル「……」

116: 2012/12/23(日) 16:35:19.37 ID:fefuj6bu0

 

マミ「やーめたっ」ポイッ

ネビル「ぼ、僕も。降参」ポイッ

ロン「……はぁっ!? 杖を捨てた!? なにそれ!?」

ネビル「だ、だって。呪いを掛け合うのも規則違反だし……」

マミ「グレンジャーさん相手じゃ、正直二人掛かりでも勝てそうに無いし……」

ハリー「冗談はやめてくれ! なら、なんでこんな――」

ハーマイオニー「……時間、稼ぎ? っ、不味い、もしかして――」

マミ「……"太った婦人"さんって、意外と足が早いのよ?
   そうね、先生の部屋に報告に行くまで――五分とかからないわ」ニコッ

ロン「どういうことだよ、おい!」

ハーマイオニー「……やられたわ。さっきの呪文で火事を起こされた時点でこっちの負けだった。
          "太った婦人"の肖像画に連絡させたのね。グリフィンドールの寮監まで――」





マクゴナガル「――さて、火事が起きたと叩き起こされてくれば、これはどういう事態でしょうか?」





117: 2012/12/23(日) 16:36:08.19 ID:fefuj6bu0


ハリー「マクゴナガル先生! ヴォルデモートが! 例のあの人が『石』を盗もうと!」

マクゴナガル「ああ、ハリー。またその話ですか。心配はないと言ったはずですが」

ロン「でも、スネイプが! 『石』を守る仕掛けの秘密を全部――」

マクゴナガル「ですから、心配はないと」

ハーマイオニー「あの、先生。でも例のあの人が相手では――」

マクゴナガル「ええい、だまらっしゃい!」クワッ

ハリー・ロン・ハー子・ネビル・マミ「「「「「ひっ!?」」」」」



マクゴナガル「……こほん。いいですか、たとえ『名前を言ってはいけないあの人』が相手でも、『石』は安全です」

ハリー「でも、仕掛けの秘密が全部ばれてたら――」

マクゴナガル「……では有り得ない事ですが、百歩譲ってそれが真実だったとしましょう。
        ですが、それでもなお安全です。いえ、いまや完全な安全になったといいましょうか」

ハリー「先生、意味がよく――?」

マクゴナガル「貴方達の探偵ごっこにも、意味があったということですよ」





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118: 2012/12/23(日) 16:37:22.08 ID:fefuj6bu0
 
 ホグワーツ地下


クィレル「……一体どうなっているんだ! 『石』は鏡の中にあるのか!?
      ご主人様、お助けを……」

ヴォルデモート『……まさか『みぞの鏡』を持ってくるとはな。あの老いぼれ爺め。
          仕方あるまい、その鏡ごと運び出すのだ』

クィレル「は、はい、ご主人様――」




ダンブルドア「……さて、そうはいかんよ」スッ

ヴォルデモート『っ、老いぼれが! クィレル、後ろだ――』

ダンブルドア「遅いわ。エクスペリアームズ(杖よ、落ちよ)!」バシュ

クィレル「ぐあっ!? しまった、杖が!」

ダンブルドア「やれやれ、間一髪というところじゃったか」

クィレル「くっ、早すぎる! お前は偽の手紙で魔法省に呼び出した筈――」

ダンブルドア「ああ。じゃがのう。勇気ある生徒が、手紙を送ってくれたんじゃ。
        そっちの手紙の方が、お前さんのより少しばかり早くわしの目に入ってな。
        勤勉な子じゃよ。短時間でフラメルのことにまで辿り着きおった!」

クィレル「ハリー・ポッターか……!」

ヴォルデモート『ハリー……! おおハリー! またも俺様の邪魔をするのか、あの小僧は!』

ダンブルドア「ヴォルデモート。貴様が殺したリリーとジェームズの息子は、立派に育っておるよ。
        良い仲間にも恵まれたようじゃしのぅ。彼を支える者と……諌める者とな」

ヴォルデモート『おのれえええええ……』

ダンブルドア「さて、賢者の石はこうしてわしのポケットの中にあるわけじゃが」ヒョイ

ダンブルドア「こんなものはもう、いらないのう――"レダクト"(砕け散れ)」




119: 2012/12/23(日) 16:38:05.87 ID:fefuj6bu0
 
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 ホグワーツ特急


QB「――で、めでたしめでたしってわけだ」

マミ「そうでもないらしいけど。結局、"例のあの人"は逃げちゃったみたいだし」

QB「でも、寮対抗杯ではグリフィンドールが優勝しただろう?」

マミ「うん……校長先生が私達五人に40点ずつくれてね」

QB「お祭り騒ぎだったねえ。ハリー達は名誉挽回できたし、良いこと尽くめじゃないか」

マミ「……正直、私が40点貰って良いのかは疑問だけど。
   ロングボトム君に味方して、ポッター君たちの邪魔しただけだもの」

QB「まあ確かに。放っておいても、ダンブルドアが助けに入っただろうしね」

マミ「そうよねえ……」

QB「……でも、無意味ってわけじゃなさそうだよ?」

マミ「へ?」

120: 2012/12/23(日) 16:39:23.51 ID:fefuj6bu0
 
ハリー「ああ居た! おーい、ロン! ここに居たよ!」ガラガラッ

マミ「ハリーくん? それにロンくんも」

ロン「やあマミ! あの後、僕らは質問攻めにされて君と話す機会がなかったからさ。
   こうして探し回ってたっていうわけ」

マミ「そう……それで、何の用かしら?」

ハリー「いや、まあ、ね。僕ら、なんか変な感じになっちゃってたろう?」

ロン「あの日の夜も、お互い杖を向け合って終わっちゃったしさ。
   これで夏休み挟んじゃったら、来年度から話し辛くなるし」

マミ「あ、あの時はその……ごめんなさい。あと、規則違反の時も……」

ハリー「あー、その話はお終いにしよう。それにさ、マミには感謝してるんだよ」

マミ「私に? なんで?」

ハリー「ニコラスのこと教えてくれたじゃないか。
     新学期前に分かってたから、だいぶ余裕をもって行動できたし」

ロン「ダンブルドアが間に合ったのもそのお陰だもんな。
   流石に"例のあの人"と直接対決なんてごめんだよ」

ハリー「それからさ、どうしても彼女がマミと話したいっていうから……
     ほら、ハーマイオニー。入っておいでよ」

ハーマイオニー「ちょ、ちょっと! 引っ張らないでってば!」

マミ「グレンジャーさん? 」

121: 2012/12/23(日) 16:39:59.72 ID:fefuj6bu0

 
ハーマイオニー「は、はぁい。マミ。その……元気?」

マミ「え? ええ。元気だけど……」

ハーマイオニー「……」

マミ「……」

ハーマイオニー「……いい天気ね?」

マミ「そう、ね? うん、確かに快晴だけど……」

ハーマイオニー「……」

マミ「……?」



QB(彼女、どうしたんだい?)ヒソヒソ

ロン(いや多分、話し辛いんじゃないかなぁ。今までが今までだったし。
   それに彼女、完璧主義すぎて女の子の友達がいないんだよ……)

QB(ああ……なるほど。友好関係が狭く深くなんだ)

ハリー「ほら、ハーマイオニー……」



122: 2012/12/23(日) 16:41:36.79 ID:fefuj6bu0

ハーマイオニー「~~~! ま、マミっ!」

マミ「ひゃ、ひゃいっ?」

ハーマイオニー「私たちって! その、と、友達かしら!?」

マミ「えっ!?」

ハーマイオニー「えっ!? ち、違った!?」

マミ「いや、その。ええと、違っ、違くない! そうだったら嬉しいけど、えっと」

ハーマイオニー「……! じゃ、じゃあ、マミ! これ! これ、私の家の電話番号!」ピッ

マミ「え、う、うん。くれるの?」

ハーマイオニー「あげるの! 宿題で分からないところとかあったら、聞いて! 前みたいに!
          それと……いままで、ちょっと貴女のこと誤解してたの。でもこれからは……」

マミ「グレンジャーさん……」

ハーマイオニー「そ、その呼び方も! ハリー達だけずるいわ! わ、私もみんなみたいに呼んで頂戴!」

マミ「……分かったわ、グレンジャーさん――ううん」



マミ「来年からもよろしくね、ハーマイオニーさん!」




                                           賢者の石編 了





 

139: 2012/12/31(月) 07:15:30.00 ID:A8lMCTH+0
 ここまでのあらすじ!
                                ユルフワ
QB「やあ! 僕、キュゥべえ! 人気赤丸上昇中の諭弄不和系魔法の使者さ!」

QB「人気の秘訣は愛らしい外見! 仕草! 鳴き声!
   そしてどんな願いも叶えてあげる特殊能力!」キュップイ!

QB「もう、これは一家に一匹置きたくなるよね! わかるよー」

QB「でもね、残念ながら僕はもう他の子のところにいくことができないんだ」

QB「なんでかって? 愛くるしすぎるのが悪かったんだろうね。
   今、僕はとある女の子に監禁されているんだ」

QB「彼女の名は巴マミ。12歳の女の子だが、その残虐ぶりは悪魔超人に匹敵する」

QB「例を挙げればきりがなく。僕を虫かごに閉じ込めるわ、ソックスに詰めようとするわ、"ぎゅっ"ってするわ……」

QB「非道だよ!」ドンッ!

QB「知的生命体のやることとは思えないよ! 嗚呼、インキュベーターに人権はないのか!」

QB「そんな悪マミだが、彼女は今、イギリスにあるホグワーツという学校に通っているんだ」

QB「ホグワーツ魔法魔術学校――名前の通り、魔法使いが魔法を覚えるために通う学校だ」

QB「実に胡散臭いね? 僕も最初はそう思ったさ」

QB「でもエントロピーとか馬鹿馬鹿しくなるような現象が起こりまくりでね? もう僕の常識は完全に打ち砕かれたよ」

QB「杖のひと振りで無機に命を吹き込み、大鍋で煎じた薬は欠損した四肢すら一晩で再生させる」

QB「そしてマミにはその素質があったらしく、ほとんどスカウトみたいな形で入学することになったんだ」

QB「その直前に、色々とごたごたがあったみたいだけど――まあ、なんとか上手くやれているみたいだね」

QB「ところで、イギリスのパブリックスクールは9月に始まって6月に終わるんだ」

QB「つまり日本で言うところの夏休みが年度休みに当たる。当然、マミもその間は寮から家に戻っているわけで――」

140: 2012/12/31(月) 07:19:24.76 ID:A8lMCTH+0
 
見滝原市 マンション


ミーンミンミンミーン……


マミ「――魔法薬のレポート終わりっ。これで宿題は全部ね」サラッ

マミ「それにしても羊皮紙……初めて触ったけど、意外と硬いのね。これ」

QB「マミー。出しておくれよマミー」ガタガタ

マミ「さて、お茶でも飲もうかしら……作り置きしてたアイスティーが冷蔵庫に……」ガパッ

QB「! ようやく出してくれる気になったんだね、マミ! よぅし、じゃあ僕はちょっと出かけて――」パタンッ

マミ「あら、残り一杯分ってところね……葉っぱもそろそろ買い出しに行かなきゃ……」

QB「マミー。出しておくれよマミー。冷蔵庫の中って暗いし変な匂いもするから嫌なんだよー」バンバン

マミ「だってあなた、私が宿題してる隙をみて逃げようとするんだもの。
   もう飼われて一年も経つんだから、そろそろ諦めなさい」

QB「それは人間の傲慢さだよマミー。小学生の頃からそんなに性格歪んじゃってどうするのさマミー」

マミ「……」(無視)

QB『マミー。外の空気が吸いたいよー』

マミ(こいつ直接脳内に……!)

141: 2012/12/31(月) 07:21:39.88 ID:A8lMCTH+0
 
見滝原市 デパート


マミ「結局、連れてきたけど……今度逃げたら新学期までトランクの中に詰め込むわよ?」

QB「酷いなぁ。僕にだって散歩する権利くらいあると思うんだけど」

マミ「それはこれからの信頼関係の積み重ね次第ね……っと、この辺から人が多くなるから、あとはテレパシーね」

QB『了解。それじゃ、僕もマミ以外の人間には見えないようにしておくよ』

マミ『ええ、お願いね?』

マミ(……それにしてもテレパシーにカメレオン呪文……どれも一人前の魔法使いにしか使えない魔法よね)

マミ(もしかしてキュゥべえってただの猫じゃなくて……)

QB「……」

マミ(……何かの雑種なのかしら? デミガイズとかの……)

142: 2012/12/31(月) 07:22:27.83 ID:A8lMCTH+0
 
QB『マミ、肉だ! 肉が安いよ! こっちの挽き肉! 今日はハンバーグにしよう!』バンバン

マミ『あっ、こらっ。駄目よ、棚の縁を走ったりしちゃ……ハンバーグねえ……
   でもその安売りのお肉、結構量があるわよ? ちょっと経済的じゃあ……』

QB『冷房ガンガンにかけてた子が経済的とか気にしちゃうの?』

マミ『う、うるさいわね! 仕方ないでしょ熱いんだから! キュゥべえは涼しかったからいいでしょうけど!』

QB『その涼しさって、僕が望んだものじゃなかったんだけど……』

マミ『……うーん。お肉って冷凍できたかしら? それならハンバーグも……』

QB『冷凍自体は問題はなかったと思うけど……でもさ、容量は問題かな。
   さっき見たけど、もう冷凍庫がかっちこっちの食材でいっぱいだったよ?』

マミ『キュゥべえってそんなに食べないし、1.5人分のご飯って作るの大変なのよ。
   どうしても余っちゃうんだもの……』

QB『まあ、マミもまだ自炊初めて一ヶ月だし……それは今後の課題にしようよ』

マミ『……そうね。そうしましょう。そういえば、今朝テレビでやってた占いでもハンバーグがラッキーフードだったし。
   じゃあ、今日はハンバーグよキュゥべえ!』

QB『ひゃっほう! それじゃ次は玉葱と――』

143: 2012/12/31(月) 07:23:50.13 ID:A8lMCTH+0
 
店員「――ジャガイモが一点、人参が一点で、お会計3460円になります」

マミ「えーと、お財布……」ガサゴソ

店員(……最近この子、よくみるなぁ。いつも一人でカートを押して……親はなにしてるんだろ?)

マミ「あ、あった!」カラン

店員「? お客様、何か落とされて――」

マミ「あっ、ああ、すみません! 大丈夫です!」

店員(木の棒? おもちゃか何かかな?)

144: 2012/12/31(月) 07:25:30.70 ID:A8lMCTH+0
 
帰り道


マミ「……ふぅ。危なかったわ。火花とかでなくてよかった……」

QB「いまいち魔法の杖って仕組みが分からないからねぇ。たまに突っついたものが燃えたりするし」

マミ「ねえキュゥべえ。やっぱり杖は家に置いといたほうがいいんじゃないかしら?」

QB「別に僕は強制したわけじゃないよ。ただ可能性を提示しただけさ」

QB「もしも留守中に泥棒が入ってその杖を持っていかれちゃったら、大変なことになるだろう?」

QB「"未成年魔法使いの妥当な制限に関する法令"では、マグルに魔法のことがばれたら退学なんだから。
  教科書とかなら誤魔化せるけど、杖の中の魔法生物の一部は誤魔化せないからね」

マミ「そうだけど……持ち歩くのも十分危ないような……」

QB「あと、咄嗟の危険に対応するため、っていうのもある」

QB「同法令では、緊急事態に限って未成年魔法使いによる魔法の使用を認めてるしさ」

マミ「危険って……魔法が必要になるような危険なことって、見滝原じゃ起こらないわよ」

QB「……だから、あくまで"可能性"の話さ」

145: 2012/12/31(月) 07:26:41.88 ID:A8lMCTH+0
 
マミ「まあいいけど……それより、帰ったら何しましょうか? お掃除も選択も終わっちゃったし……」

QB「お菓子作りは? この前のしっとりしたクッキーは美味しかったよ。もう作らないの?」

マミ「……体重計が……っ」ギリッ

QB「オーケイ。僕は何も聞かなかった。だろ? うーん、それじゃあ、ハーマイオニーに電話すれば?
   まあ、ここのところずっと毎日のようにかけてるけど……」

マミ「今の時間だと、向こうってまだ早朝なのよ……だからいつも掛けるのは夜にしてるでしょ?」

QB「じゃあもう打つ手なしじゃないか。ああ、いや待てよ? 君、こっちに友達いないの?」

マミ「……いないわけじゃないけど……つまり、前に通ってた学校の友達ね。
   でも正直、一年以上会ってないわけだし……それに、ちょっと会い辛いのよ」

マミ(お父さんとお母さんのお葬式の時に、何人かとは会ったけど……やっぱり上手くしゃべれなかったし)

QB「ふーん……でもそれだと、友達増やそうにも難しいね。どうだろう、マミ。
   願い事で友達を――」

マミ「そうだ、キュゥべえ。このところ、宿題に掛かりっきりで外に出てなかったし……
   ちょっとお散歩して帰りましょ?」

QB「……うん、分かってたよ」

146: 2012/12/31(月) 07:27:31.86 ID:A8lMCTH+0
 
見滝原市 裏道


マミ「それにしても、一年も経つと結構変わってるものねー。
   あら、ここの区画、前はコンビニだったのに……次は何が建つのかしら?」

QB「この町、結構なスピードで発展してるみたいだね。その分、皺寄せがこういう末端に来てるみたいだけど」

マミ「しわよせ?」

QB「中央部の景観は配慮してるんだろうけど、こういう端の方までは手が回らないんだろう。
   結果として廃墟が増えたり、道が無駄に入り組んだりしちゃってるんだ」

マミ「そうなんだ……何か、悲しい話ね」

QB「……それはそうと、マミ。あんまり人通りのない道を通るのは感心しないな。危ないよ?」

マミ「でも、こういう道じゃないとキュゥべえとお話しできないし――テレパシーはちょっと苦手なの」

QB「……もう戻ろうか? 荷物も軽くはないだろう?」

マミ「いいの? キュゥべえ、外に出たかったんでしょ?」

QB「……ん。もう"十分"さ」

マミ「そう? 家ではあんなに外に出たがってたのに――」


ぐにゃり……


マミ「……え? 景色が、歪んで……」

QB「……」

147: 2012/12/31(月) 07:28:47.21 ID:A8lMCTH+0

 
 視界が歪んで変化する。ただのさびれた路地裏から、吐き気や頭痛を覚えるような、醜悪な空間に。

マミ「……なに、これ」

 呟く。

マミ「……なに、これぇ……っ!」

 思わず、泣き言を漏らす。

マミ(ホグワーツで変なことに慣れたつもりだったけど……これは、違う)

 あの奇妙で、しかしどこか暖かみのある学校とは違い、
 目の前に広がるこの歪な光景は、ただひたすらに悪意を凝縮したかのような造形だった。

 屋外なのに、屋外だったはずなのに、頭上は天蓋で区切られている。

 酷く焼け焦げたような、そんな濁った黒色で染められたその天井からは、あらゆる処刑道具が吊るされていた。

 ギロチン、吊り縄、十字架。その他、若干12歳のマミには使い方すら想像できないものが多数。

 意味は分からない。だが、それでも分かることは。

マミ「に、逃げなきゃ……」

 逃げなければ、"良くないこと"が起こる――そんな予感だった。

 だから右手に下げていた買い物袋を地面に取り落とし、そのまま走り去ろうとして、

マミ「……キュゥべえ?」

 先ほどまで傍らを歩いていた、白い猫の不在に気づいた。

マミ「やだ……嘘でしょ、キュゥべえ……怒るわよ……?」

 フラッシュバックする。

マミ「ねえ、冗談はやめてよ……」 

 一年前の記憶が、戻ってくる。

マミ「もう、イジワルなんてしないから……」

 魔法界に行くことが決まっても、家には誰もいなくて。

 そんな孤独を癒してくれたのは、一体誰だったのか。

マミ「お願いだから……出てきてよぉ……!」

148: 2012/12/31(月) 07:32:04.62 ID:A8lMCTH+0
 
 その時。じゃりっ、と炭を足で踏み崩すような音が、背後で響いた。

マミ「……っ、キュゥべえ?」

 希望と共に、振り返る。

 だがそこにいたのは、あの、愛らしい姿をした友人ではなく――

使い魔『――私は弱者。私は小さく、私は薄く、私は儚い』

マミ「ひっ……!?」

 奇妙な、怪物の姿。

 形は人に近い。幼児が黒い色の粘土で人形を拵えればこうもなるだろう。

 のっぺらとした相貌に、関節の曖昧な四肢。

 見ているだけで怖気を覚えるそれが、こちらに手を伸ばし、問いかけてくる。

使い魔『あなたは私は虐める? 弱い私をいじめる?』

149: 2012/12/31(月) 07:33:38.85 ID:A8lMCTH+0
 
マミ(こ、言葉が通じる……? ――そうか、指輪!)

 言葉を翻訳する指輪。それはどうやら、この化け物にも有効らしい。

 ならば、話し合いができるかもしれない。指輪の翻訳は双方向。

 何とはなしにこちらからも手を差し伸べて、応じた。

マミ「い、いじめないわ! 仲良くしましょう?」

使い魔『……いじめない? 本当に?』

マミ「ええ、本当よ。それで、あなた、白い猫を見なかった? 大きな耳が特徴で――」

 だが怪物はマミの言葉を、ほとんど聞いていなかった。

使い魔『弱い私をいじめないあなたは、私よりも弱い』

 にたりと、気味の悪い笑みを漏らす。

使い魔『――私よりも弱いあなたは、久しぶりのご飯』

 悪意もあらわに、襲いかかって来て。

マミ「あ、う、い、や――」

 だから右手は、反射的に杖を引き抜き。

マミ「――フリペンド(撃て!)」

 放たれた光弾が、怪物を一撃で粉々にした。

150: 2012/12/31(月) 07:34:21.89 ID:A8lMCTH+0
 
QB「……」タタッ

??「そこでストップだ」

QB「……」ピタッ

??「やれやれ、ようやく会話ができるね。女の子ひとりくらい、掻い潜って欲しかったけど」

QB「掻い潜ったからここにいるんだろう」

??「もっと早くにして欲しかったな。何せ、君とはテレパシーも記憶の共有も禁じられてるからね。
    だからこうして、直接会わねばならなかった」

??「僕も暇じゃないんだ。この町は魔女が多い。魔女が増えるだけじゃ、エネルギーは回収できないからね。
    優秀な魔法少女いれば別だけど……」

QB「……」

??「ま、過程の話をしても仕方ないか。それじゃ、報告を聞こう」

QB「……ああ。まず、僕が確認した"魔法"は――」


◇◇◇

151: 2012/12/31(月) 07:35:41.90 ID:A8lMCTH+0
 
QB「――だいたい、こんなところだね。第一次報告は、これでおしまいだ」

??「第一次? ……ああ、そうか。記憶の同期ができないと面倒だな」

QB「? なにを言って――?」

??「君の廃棄が決定した。いや、正確には既に決定していたんだけど」

QB「……! なんっ、で!」

??「自覚はあるんだろう? 君は精神疾患を患ってる」

??「これまでは、異種のエネルギーに曝されたということからの暫定処置だったけど。
    でもここ数日、君を観察していて明らかな罹患が確認された。だから、廃棄だ」

QB「だけど、まだ――」


使い魔「――、――」


??「おっと、使い魔が来た。移動しながら話をしようか」

??「ここの魔女の使い魔は普通の人間にも負けるくらい弱いし、
    魔女自身も、使い魔に手出しをしない限り向こうから攻撃してくることはないが――」

??「使い魔に傷をつければ、本気で殺しにかかってくるからね」

162: 2013/01/06(日) 18:54:17.25 ID:ryGoZWio0

魔女の結界内部


マミ「はぁ……はぁ……いくら走っても出られないなんて……」


使い魔『ご飯! ご飯! ご飯!』ユラッ


マミ「っ――フリペンド!(撃て)」バシュッ!

使い魔『』グシャッ

マミ(おまけにこの変な怪物はいくらでも出てくるし、キュゥべえは見つからないし……)

マミ(……私の魔法でも何とか倒せるのが救いだけど……なんなのかしら、これ。
   どう考えても魔法生物だけど……)

マミ(でもこんなの、ホグワーツの図書館で読んだ図鑑にも載ってなかったし、
   そもそも危険な生き物って魔法省が生息地とかの管理をしてるはずよね?)

マミ(街中で人を襲うような魔法生物。危険度分類はXXXXX(最上級)か、
   私みたいな子供にも倒せるってことを考慮してもXXXXを下回るなんてことは……)

マミ(もしかして新種? レシフォールドなんかは本当にいるのか疑問視されてたっていうし)

マミ「……考えてても仕方ないか。まずはキュゥべえを探して、ここから出る方法を探さないと……」


 最初こそ、この空間の異常な雰囲気に飲まれパニックに陥ったが、今では冷静な思考ができるまでに落ち着いた。

 無尽蔵に湧く怪物は不気味ではあるが、簡単な呪文で追い払うことができたからだ。

 数体を難なく倒す内に、何とかなるのではないかという希望を抱き始めていた。

163: 2013/01/06(日) 18:56:37.66 ID:ryGoZWio0

 だけど、それは間違いだったのだ。

マミ(……何かしら? 急に気温が上がって……)

 この結界に足を踏み込んでしまったのなら、急いで逃げるべきだった。
 
 使い魔を倒す前に、一目散に撤退するべきだった。

 ここの主は、己が使い魔を殺した相手を絶対に許さないのだから。

マミ「なに、あれ」

 前へと進む内に、辿り着いたのは大広間のような空間。

 その中心に、先ほどまでの怪物など可愛く思えるような、本物の化け物が。



164: 2013/01/06(日) 18:58:40.71 ID:ryGoZWio0





 燃え尽きろ 烏有に帰せ 灰燼となれ

 我は審判 我は断罪 我は救済

 弱者の敵に、正義の裁きを。


魔女『――ゼンブ、燃エテシマエ』


 "La Pucelle d'Orlean"





165: 2013/01/06(日) 18:59:38.69 ID:ryGoZWio0

マミ「ひっ……」

 その怪物と目が合う。瞬間、体は引きつり、思考は凍りついた。

 指輪の効果だろうか? あの怪物の思考が、手に取るように伝わってくる。


(よくも殺した)(弱きものを虐げた)(それは悪)(悪は処断されるべし)


 "それ"は怒っていた。目の前で行われた殺戮劇に義憤を燃やし――


(故に)(貴様は)(灰となれ)


 ――そして、その罪人を燃やし尽くしてしまおうと。


マミ「あ、ああ……フリ……ペンドっ!(撃て)」バシュッ

魔女『……』キン!

マミ「効いて……ない?」

魔女『罪状。殺人。判決。有罪。ヨッテ――』

166: 2013/01/06(日) 19:02:27.69 ID:ryGoZWio0

魔女『――火刑ニ処ス』ゴウッ

マミ(……あ……炎、が)

 煌めく赤の閃光を、ただ呆然と見つめる。

 怪物が吐き出した巨大な炎は、それこそドラゴンの吐息にも匹敵するだろう。

 いかにホグワーツが魔法界で最も権威のある学校であったとしても、
 一年生が防ぎきれるようなものではない。

 そもそもマミは、実技においては並以下――トロールの時は不意打ちが成功しただけで、
 本来、怪物を真正面から退治できるような実力はないのだ。

 よって、この炎を防ぐことはできない。それだけが事実。

 そして、その事実を覆すことはなく。

 少女は炎に飲み込まれた。

167: 2013/01/06(日) 19:08:04.95 ID:ryGoZWio0
 













杏子「おいおい。あんたも魔法少女なら、そこで諦めちゃ駄目でしょ――と!」ジャラッ














 

168: 2013/01/06(日) 19:09:51.98 ID:ryGoZWio0

 ザシュッ!

魔女『ギャアアアアアアアア!』

マミ「……え、生き、てる? なんで……っ、鎖の、壁?」

杏子「大丈夫かい? あたし以外の魔法少女とは初めて会ったが……といっても、あたしは成り立てだけどさ」

マミ「あの、あなたは……?」

杏子「佐倉杏子。あんたの同類だよ」

マミ(同類――魔法使い? でも杖が……あの持ってる槍に仕込んであるのかしら?)

杏子(さぁて、グリーフシードはどこかな……?)キョロキョロ

魔女『……』ギロッ

マミ「っ、危ない、まだ生きて――!」

杏子「んなっ!?」

魔女『ガァッ!』ブンッ!

杏子「ぐぁっ!?」

杏子(畜生、油断した……! 足が使い物にならねえ……)ガクッ

169: 2013/01/06(日) 19:11:40.27 ID:ryGoZWio0

魔女『死刑私刑死刑火刑死刑』ギチッ ギチッ

杏子(こいつ、強い。炎による遠距離攻撃も厄介だっていうのに、近接にも対応しやがる。
    加えてタフネスも一級品。その上、こっちは足をやられたとなると……)

マミ「あ、あの……佐倉、さん? 酷い怪我……」

杏子「ああ、ちょっと拙いね……ははっ、正義の味方を気取っといて、全く格好つかないったらありゃしない」

マミ「そんなこと――その怪我だって、私を庇って……」

魔女『執行執行施行死行執行』ジリジリ

杏子「っと、おしゃべりしてる時間もないか……なあ、あんた。悪いけど、ちょいと手伝ってもらうよ」

マミ「て、手伝う?」

杏子「ああ。あたしの足、見ての通りなんでね。逃げるのは無理だ。
    もう一撃かませば倒せる自信はあるんだけど、近づくのが難しい。
    そんな訳なんで、あいつの注意を少しだけ引き付けておいてくれ。障壁は張っとくからさ」

マミ「……動きを、止めればいいのね?」

杏子「ああ。できるかい?」

マミ「……自信はないけど、でもやるしかないんでしょう?」

杏子「そーゆーこと――んじゃ行くよ! 縛鎖結界!」ジャララッ

170: 2013/01/06(日) 19:13:59.03 ID:ryGoZWio0

魔女『燃エロ燃エロ燃エロ燃エテ!』ゴォッ!

杏子「残念だけど通行止めさ!」ギィン!

マミ「っ、凄い炎、だけど……佐倉さんの魔法、完全にそれを食い止めてる……」

マミ(これなら落ち着いて……ノックバックジンクスの呪文は通じないから……)スッ

杏子(杖? これまたステレオタイプな……)

マミ「――タラントアレグラ!(踊れ)」バシュッ

魔女『ガァ!?』タンッ タンッ

杏子「うぉっ、あの巨体であんな軽快なタップを!? どんなエンターテイナーだよ!」

マミ(やった、成功した! 今回はブレイクダンスにならなかったわ!)

杏子(面白い魔法だな。踊らせる――相手に何かを強要するのか? 可愛い顔してえげつないねぇ)

マミ「佐倉さん、今よ!」

杏子「おうよ! これで――」ダッ

マミ「!? だ、駄目よ! そんな真正面から突っ込んじゃ――」

魔女『火刑ト――!』ゴォッ

杏子「……」ボウッ

マミ「あ、佐倉、さ――火に、飲ま……」

171: 2013/01/06(日) 19:14:59.98 ID:ryGoZWio0

杏子「――残念だけどそっちは分身だよ!」ザクッ

魔女『ガッ、ア、アアアァァア……』シュゥゥウウウウ...

杏子「本物は背後からこっそりと、ってね――っと、グリーフシード見っけ」ヒョイッ

マミ「佐倉さん!」

杏子「おう、助かったよ。あんたがいなきゃ危なかった……どっか怪我してないかい?」

マミ「私は平気……それよりも、佐倉さんが」

杏子「ああ、あたしは……っ」ガクッ

マミ「佐倉さん!?」

杏子(やばいな、流石にもう誤魔化すのも限界か……治療魔法は専門じゃないし、完治にゃちょっと時間が……)

マミ「大変、手当てしないと……救急車……はダメよね……」

杏子「ああ、まあね……」

マミ(理由が説明できないし、魔法界のことがばれるかもしれないものね……)

杏子(怪しまれるし、家族には迷惑をかけたくないからね……)

172: 2013/01/06(日) 19:15:27.55 ID:ryGoZWio0

パリーン


杏子(ちっ、結界が解けたか……このままじゃ人目についちまう)

マミ(景色が元通りに……? あ、買い物袋が落ちてる。だいぶ歩いたと思ったけど……)

杏子「なあ、悪いんだけど、肩貸してくれないかな。
   一緒に戦ったよしみで、どっか人目のつかないところまで付き合ってくれない?」

マミ「え……ええ、もちろん。それじゃ、私の家に……近くだし、裏道を通って行けば……」グイッ

杏子「っ……と、悪いね。そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。あんた、名前は?」

マミ「マミよ。巴マミ。それじゃ、ちょっと頑張ってね」

173: 2013/01/06(日) 19:16:37.04 ID:ryGoZWio0


マミの家


杏子「んぐ……美味いっ! このハンバーグ絶品だよ。マミ、あんた料理上手なんだな!」

マミ「ふふ、佐倉さんっていっぱい食べてくれるから嬉しいわ。これで冷凍庫もだいぶすっきりしたし……」

杏子「いや、こんな御馳走久しぶりだよ。あー、モモにも食わせてやりたいな……」

マミ「モモ? 妹さんかしら」

杏子「ああ。ちょっと歳が離れてるから、可愛い盛りでさ」

マミ「そう……それじゃ、ハンバーガーにでもして持って帰る? 残りのタネ、全部焼いちゃうから」

杏子「え、い、いやそれは悪いよ……マミの家族の分、なくなっちゃうじゃんか」

マミ「気にしないで。私、一人暮らしだから」

杏子「……ん、そうか。悪い」

杏子(聞いちゃ不味かったかな……貧乏でも家族がいるだけ、あたしは幸せかもな……)


174: 2013/01/06(日) 19:17:50.78 ID:ryGoZWio0

杏子「ふぅー、食った食った。それにしても悪いね。
    傷を治す間匿ってもらった挙句、晩御飯まで食べさせて貰っちゃって」

マミ「気にしないで。命の恩人だもの」

杏子「やー、それはお互い様でしょ。あたし一人でも負けてただろうし……はー、やっぱ成りたては辛いね」

マミ「成りたて……? 佐倉さんも、最近魔法を覚えたの?」

杏子「ん? やっぱマミもか。そうだよ、大体一週間前くらいかな」

マミ「い、一週間!? それであんなにすごい魔法を……凄いわ、才能ね」

杏子「よ、よせやい。そんなに褒めたってなんもでないよ……ちなみにマミはどのくらい?」

マミ「わ、私? いいじゃない、別にそんなことは……あ、お茶。お茶淹れてくるわね?」スッ

杏子「え? あ、ああ。悪い」

マミ(ほとんど丸一年先輩なのに、あんな実力差があるってなんか恥ずかしい……)

175: 2013/01/06(日) 19:18:18.14 ID:ryGoZWio0

杏子「んー。それにしても、この辺には私くらいしか魔法少女はいないと思ってたんだけど……」

マミ「ああ、私、一年のほとんどをイギリスで過ごしてるから……」

杏子「イギリス!? な、なんか凄いね。そうか、外国の……そっちってどんな感じなんだい?」

マミ「そうね、お菓子とかは美味しいわ……あと私の通ってる学校は自然がいっぱいあっていいところよ?」

杏子「いや、そうじゃなくて、縄張り争いとかさ」

マミ「争い? そうね、仲の悪い子同士だと、呪いを掛けあったりするのは日常茶飯事ね」

杏子「の、呪い!? 日常茶飯事って……流石は外国。過激なんだね」

マミ「ふふっ、大げさね。1000人近くもいれば、そりゃ喧嘩くらいするわよ」

杏子「千人もいんの!? どんだけ過密なんだよ!」ガクガク

176: 2013/01/06(日) 19:21:34.15 ID:ryGoZWio0


杏子「決めた。あたしは今後一生日本から出ない」

マミ「えー……慣れればいいところよ?」

杏子「慣れる前に死んじゃうよ……マミが……いや、マミさんが恐ろしく見えてきたよ……」

マミ「……恐ろしいって言えば……さっきの怪物って……」

杏子「ん? ああ。ありゃあ強敵だったよな。私が狩ってきた中でも一番の大物だったよ」

マミ「狩ってきた中で、って……佐倉さん、今までもずっとあんなのを相手に……?」

杏子「えっ……そりゃそうだろう? 仕事みたいなもんなんだしさ」

マミ「仕事? その年齢でもう? 未成年なのに」

杏子「? 魔法少女なんだよな?」

マミ「? 魔法は使えるわよ?」

杏子「?」

マミ「?」

177: 2013/01/06(日) 19:24:24.18 ID:ryGoZWio0


杏子「……まあいいや。ところでマミは留学してるんだよな? いつまでこっちにいるんだい?」

マミ「九月からまた新学期なの。あと一ヶ月、ってとこね」

杏子「へー。それじゃあさ、良かったらまた会おうぜ。今度はうちに来てくれよ。晩御飯、御馳走するからさ」

マミ「え……いいの?」

杏子「ああ。ひとりで食べるより、たくさんで食べた方がいいだろ?」

マミ「……それじゃ、今度機会があればお邪魔するわね?」

杏子「ああ。母さんにもいっておくからさ……うし、それじゃああたしはそろそろお暇するよ。
    父さんたちも心配するしさ。晩御飯、ごちそうさま。それじゃあまたな」

マミ「ええ。帰り道、気を付けてね」

178: 2013/01/06(日) 19:25:09.19 ID:ryGoZWio0

マミ「ふふっ、あんなに喜んでもらえると、本当に作り甲斐があるわね。
   ……今度お邪魔する時は、お菓子を作っていこうかしら?」ガチャ

QB「やあマミ。遅くなってごめんね」

マミ「あ……キュゥべえ。そういえばすっかり忘れてた……無事だったのね、良かった……」

QB「……なにか腑に落ちないワードがあったような気がするけど……心配かけたたみたいだね」

マミ「ええ、だって急にいなくなるから……でもこうして帰って来てくれてよかったわ」

QB「まあ僕にも事情があってね……ところでマミ」

マミ「うん? なあに?」

QB「とってもいい匂いが充満してるけど……僕の分のハンバーグは?」

マミ「……あ」


 それから三日ほど、キュゥべえはヘソを曲げた。


190: 2013/01/07(月) 19:36:25.99 ID:tu5V5NtP0

 それから新学期が始まるまで、佐倉さんとの付き合いは続きました。


杏母「あら、巴さん。いらっしゃい」

マミ「お邪魔します。あの、これ、つまらないものですが……」

杏母「あらあら、いつも気を使わせちゃって悪いわねぇ。さ、上がって?
    いまお茶を淹れるから」

マミ「いえ、こちらこそ連日お邪魔してしまって……」

杏母「ふふ、いいのよ。杏子が誘ってるんでしょう? あの子、あんまり友達いなくて……
    モモも貴女に懐いてるし、これからも仲良くしてあげてね?」

杏子「母さん! いまなんかマミに余計なこと言ってなかった!?」ドタバタ

モモ「マミさん来たの!? お菓子も!?」ドタバタ

杏子「こらモモ! お前はまたそういう――」

マミ「ふふっ。モモちゃん? 今日はねぇ、杏ジャムのパウンドケーキを焼いてきたのよ?」

モモ「ケーキ!? ありがとうマミさん!」

杏子「ああもうこいつったら……とにかく上がってよ。父さんももうすぐ帰ってくるから――」

191: 2013/01/07(月) 19:37:08.47 ID:tu5V5NtP0

 それは、とてもとても楽しい日々でした。

 家族の暖かさ――それは、ホグワーツで得た友達とはまた違う、とても尊いもの。



杏子「そういやマミは、もうすぐイギリスに行っちゃうんだっけ?」

マミ「ええ、帰ってくるのはまた一年後になるから……それまでは会えなくなっちゃうわね」

杏子「そっか。手紙とかは届くのかな。あんまり頻繁にやりとりはできないだろうけど……」

マミ「うーん。この辺ってふくろう便がまだ整備されてないでしょ? 愛知県とかは整備されてるけど……」

杏子(ふくろう便? なんだろう、外国のクロネコヤマトみたいなもんかな?)

マミ「また、一年後に会いましょう? 今度はお土産も買ってくるわ!」

杏子「ああ、楽しみにしてるよ。それじゃあまた――来年な」




 きっと、来年も――こんな幸せな空気が続くのだろうと、そう、私は思っていたのです。




.

192: 2013/01/07(月) 19:37:50.33 ID:tu5V5NtP0

 ホグワーツ特急


マミ「さて、今年は誰もいないコンパートメントに一番乗りね」

QB「そんなことしなくても、ハーマイオニーとか、ラベンダーとかと一緒の席に座ればいいんじゃ……」

マミ「ホーム凄い混んでたし……探してる間に席が埋まって、結局見つからないとか嫌だし……」

QB「……まあ、いいけどさ。それにしても着くまで暇だね。しりとりでもする?」

マミ「それに関して抜かりはないわ。えーと……ほら、MDウォークマン!」

QB「おおっ」

マミ「ふふーん。これで退屈な時間とは無縁だわ。さて、それじゃあ再生っと」ポチッ

QB「僕にもイヤホン片方貸してよ、マミ」

マミ「……?」

QB「マミ? 音が出ないよ?」

マミ「変ね? 電池は入れてきたと思ったけど……壊れちゃったかしら?」ブンブン

QB「そんな粒入りの缶ジュースみたいに振っても直らないと思うよ」

193: 2013/01/07(月) 19:39:17.65 ID:tu5V5NtP0

マミ「えー……どうしよう、これ高かったのに……」

QB「なら僕と契や――……」

マミ「? キュゥべえ?」

QB「いや、なんでもないよ。それよりどうする? しりとりする?」

マミ「何でしりとりにこだわるのよ。したいの? そうねぇ、それじゃあ読書でもして待ってるわ」ゴソゴソ

QB「? それって教科書だろう? 勉強熱心なのは感心だけど……」

マミ「これ、ただの教科書じゃないのよ? はい、キュゥべえにも貸してあげる。」

QB「……"泣き妖怪バンシーとのナウな休日"?」

マミ「ふふっ、あー素敵だわ。やっぱりロックハートは最高ね……」ペラッ

QB「マミ、これ教科書なのかい? どう見ても自伝にしか見えないんだけど」

マミ「ええ。これはね、ギルデロイ・ロックハートっていう最高にかっこいい魔法使いの体験記なのよ!」フンス

QB「ふぅん。でもこれ、教科書になるのかなぁ……?」

マミ「大丈夫よ! ああ、きっと今年の"闇の魔術に対する防衛術"の先生とは話が合うわ……!」

194: 2013/01/07(月) 19:40:01.85 ID:tu5V5NtP0

売り子「車内販売ですよー」

マミ「ああロックハート……って、もう車内販売が回ってくる時間なのね。
   それじゃ、かぼちゃジュースとチョコレートを……」

QB「僕は、百味ビーンズが欲しい」

マミ「え? 嘘、キュゥべえあれが好きなの?」

QB「色んな味が楽しめていいじゃないか。味覚情報がぐんぐん貯まるよ?」

マミ「うぅー……全部食べるのよ? じゃあそれと、ついでに日刊預言者新聞を」

売り子「はい、毎度どうもー」ガラガラ

QB「おや、新聞を買うのかい?」

マミ「ええ。まあ、電話でハーマイオニーさんから魔法界の事情とかは聞いてるけど……
   やっぱり実際に見なきゃ分からないこともあるだろうし」バサッ

QB「ふぅん。じゃあ何か面白い記事があったら僕にも――」

マミ「!? きゅ、キュゥべえキュゥべえ! ちょっと、こ、これみて!」

QB「え、なんだいその剣幕。正直引く……えーと、これかな? "秘密の部屋、開かれる"――」

マミ「どこ読んでるの! ここ! ここよ!」

QB「何々、"ギルデロイ・ロックハート、ホグワーツの闇の魔術に対する防衛術教授職に就任"か……
   なるほど、教科書が彼の自伝だらけだったのはこれが原因か」

マミ「ああ、どうしましょう! 生のロックハートに会えるなんて! キュゥべえ、私、ヘアスタイルとか大丈夫?」グシャッ

QB「あ、新聞が……最高にキまってるよ、脳内麻薬で」

195: 2013/01/07(月) 19:41:35.68 ID:tu5V5NtP0
ガラッ

ハーマイオニー「はぁい、ちょっと失礼……って、マミ! ここに乗ってたのね!」

マミ「ああ、ハーマイオニーさん! 久しぶり!」

ハーマイオニー「ええ、久しぶり。ところでハリーとロンを見なかった? 一緒の席に座ろうと思ってたんだけど……」

マミ「うーん。ごめんなさい、分からないわ……」

ハーマイオニー「そう……変ね? あとは監督生の車両だし……」

マミ「それよりハーマイオニーさん! サプライズなニュースがあるの! 今年の"防衛術"の先生って誰になったと思う!?」

ハーマイオニー「……ふふふ。当てて見せましょう。ロックハートよ! でしょ!?」

マミ「きゃあ! さすが師匠! 情報が早い!」

QB「師匠って?」

マミ「ロックハートのこと、ハーマイオニーさんから教えて貰ったから」

QB「マミに変なもの刷り込んだのはこの子か……毎日電話で何かを熱く語ってるから変だとは思ったんだ」

ハーマイオニー「ふふ、しかもそれだけじゃあないわよ……ほら、見て! じゃーん!
          ロックハートの直筆サインよ!」

マミ「う、嘘でしょ……!? 本当に直筆サイン!? どうやって……!?」

ハーマイオニー「この前、ダイアゴン横丁でサイン会やってたの!
          まあでも私のにサインした直後、ちょっと色々あったから素直には喜べないんだけど……」

マミ「う、うう。羨ましい……ね、ねえ、触ってもいいかしら?」

ハーマイオニー「ふふっ。少しだけよ?」

マミ「ああ、ああ……! サインの筆跡からすら彼の高貴な雰囲気が伝わってくるわ……!」

QB「……ああ、これはコンクリート味かぁ。百味ビーンズは美味しいなぁ……」モグモグ

196: 2013/01/07(月) 19:43:03.12 ID:tu5V5NtP0

大広間 組み分け


マクゴナガル「……ジネブラ・モリー・ウィーズリー!」

組み分け帽子「グリフィンドール!」


マミ「あれがロンくんの妹さん? 赤毛がとってもチャーミングね」

ハーマイオニー「ええ。夏休み中に一回会ったけど、とっても良い子よ?
          ハリーの前だとちょっと引っ込み思案なとこはあるけど――はぁい、ジニー。おめでとう」

ジニー「ありがとうハーマイオニー。ねえ、ところでハリーを知らない? あとついでにロンも」

ハーマイオニー「私たちも探してるの。一緒に来たはずのジョージやフレッド達も知らないっていうし……」

ジニー「そうなの……そういえば、そっちの人は?」

マミ「こんにちは、ジニーさん。同じ寮の巴マミよ。これからよろしくね? で、こっちはペットのキュゥべえ」

QB「やあ、ジニー! 早速だけど、君には素質が――……いや、なんでもない。これからよろしくね!」

ジニー「わあ! 喋る猫なんて初めて見た! ねえマミ、撫でてもいい?」

マミ「ええ、いいわよ……それにしても本当にどこいっちゃったのかしら?」



リー「おい聞いたか!? ハリーとロンが空飛ぶ車で登校したらしいぞ!?」

フレッド「うお、それきっとパパの車だぜ!」

ジョージ「あんにゃろ、僕たちの先を越しやがった!」


マミ「!?」

ハーマイオニー「あの二人ったらまた馬鹿を……!」

197: 2013/01/07(月) 19:43:46.81 ID:tu5V5NtP0


翌日 大広間 朝食


ハリー「やあ、ええと……おはよう」

ハーマイオニー「ふんっ。お・は・よ・う」ツーン

ロン「まだヘソ曲げてるのかい? だから別にわざとじゃないんだってば」

マミ「あら、ハリーくんにロンくん。おはよう。聞いたわよ?
   何でもホグワーツ特急に乗らないで、空飛ぶ車で校庭に突っ込んだって……」

ハーマイオニー「それで人気者になって喜んでるのよね?」

ロン「だから、別に喜んじゃいないさ。あれは事故だよ。なんでか駅に入れなくて、なあハリー?」

ハリー「うん。おまけに校庭の"暴れ柳"に殺されかけたし。マミからもハーマイオニーに口を添えてくれると――」

 バサバサバサッ

マミ「きゃっ! そ、そうか、朝食はふくろう便の時間でもあるのよね……すっかり忘れてたわ」

ロン「……おい、嘘だろ」ガタガタッ

ハリー「ロン? どうしたの?」

ロン「ママが、ママったら、僕に、僕に……」

ネビル「うわ、ロン。それって……"吼えメール"じゃないか」

マミ「吼えメール? ロングボトム君、それって何なの?」

ネビル「やあ、マミ。とりあえず耳を塞いでた方がいいよ……ロン、開けなよ」

ロン「ああ、神様……ええい、ままよ!」


 ビリッ






『ロナルドウィイイイイイイイイズリィイイイイイイイイイイイ!!!!!』







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198: 2013/01/07(月) 19:45:12.19 ID:tu5V5NtP0
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薬草学


マミ『……凄まじかったわね。絶対衝撃波とか出てたと思うわ、アレ』

QB『ああ、僕なんか椅子から転げ落ちちゃったよ……
   しかもあれ、開けずに放置しておくともっとやばいらしいよ?』

マミ『どんな風になるのかしら……それはそれで興味があるわねっ、と』ズボッ

マンドレイク「~~~~~~!」

マミ『わっ、と、暴れないでってば……! キュゥべえ、教科書に植え替えのコツとか書いてない!?』

QB『えーとねー……ああ、撫ぜりゃーいいみたいだよ?』ペラッ

マミ『なるほど……にしても耳当てしてる時って、テレパシーが便利ね』ゴソゴソ

QB『このマンドレイク、今の状態でも鳴き声聞いたら気絶するんだっけ?
   ほんと、こっちの世界の植物は興味深いなぁ』

スプラウト「おや、手際がいいですね。グリフィンドールに3点あげましょう」

199: 2013/01/07(月) 19:45:53.68 ID:tu5V5NtP0

昼食後


マミ「イギリス料理も、慣れてくるとさほど気にならなくなってくるわね」

QB「うん、慣れるのはいいことだ。変身術の授業もなかなか好調だったし」

マミ「好調って? 本当はコガネムシをボタンに変える筈だったんだけど、あれは……」

QB「いいじゃないか。去年はミサイルだったんだし、まだ火を噴くコガネムシの方が――
   ん? あそこの人だかりって……」



コリン「ハリー写真とらせて! ハリー写真とらせて!」

ハリー「いや、だからね……」



マミ「……新入生の子かしら。ハリーくんって本当に有名人なのねぇ」

QB「ヴォルデモートを倒したっていうのは、それだけ――」

ネビル「う、うわあああああああ」バターン

QB「あ、ごめんネビル。つまり、例のあの人がどれだけ恐ろしい存在だったか、ってことだね。
   倒した彼は、かなり英雄的な扱いをされてるんだよ」

マミ「ふぅーん……で、でも! 英雄的と言えば次の授業のロックハート先生だって凄いのよ?」

QB「……ま、それは次の授業で分かるだろうけどさ」

200: 2013/01/07(月) 19:46:44.79 ID:tu5V5NtP0

闇の魔術に対する防衛術 授業


ロックハート「はろう☆ 自己紹介の必要は"まさか"あるとは思いませんが、一応形式ですのでね?
        ギルデロイ・ロックハート。勲三等マーリン勲章、防衛術連盟名誉会員、
        そして週魔女のチャーミングスマイル賞五回連続受賞! そして君たちの先生です!」キラッ



マミ「ああ、ロックハート先生……」

ハーマイオニー「素敵……」

ロン「聖マンゴに入院した方がいいんじゃないのか? 君たち」



ロックハート「まあこんな肩書きに意味はありませんよ、ええこれっぽっちも!
        なにせ、君たちはこれからの授業で私がどんな魔法使いか知るわけですし――」



ハリー「心底、知りたくないなぁ。っていうか既に透けて見えるっていうか……」

ハーマイオニー「ええ、そうね。ロックハート先生の授業、きっと最高のものになるに違いないわ……」

マミ「サイン、私もサイン貰おう……」

QB「駄目だこりゃ。完全に狂ってる」



ロックハート「それでは最初に、ちょっとしたペーパーテストをしましょうか。
        なーに! そう怯えることはありませんよ! 簡単な記憶力テストですから――」

201: 2013/01/07(月) 19:47:21.39 ID:tu5V5NtP0

三十分後 採点中


ロックハート(ふんふん……やれやれ、酷い出来ですね。ホグワーツのレベルもたかが知れるというものです。
        私のひそかな大望とかはともかく、基本的な問題までできてないなんて……)

ロックハート(……ん? この二人は結構書き込んでありますね、どれどれ――)ペラッ



1 ギルデロイ・ロックハートの好きな色は?

ハーマイオニー『ライラック色。ただし"バンパイアとバッチリ船旅"の67項4行目において、マリンブルーについての言及がある。
          さらには147項14行目、血色の描写から考察するに、深層心理では朱色を好む傾向も――』

マミ『ライラック色です。でも"雪男とゆっくり一年"の情景描写から見るに、先生は白も好きなのではないでしょうか。
   これは"鬼婆とオツな休暇"に書いてある、目玉焼きの白身の食べ方にも表れて――』



ロックハート(……)

ロックハート(え、なんですか、これ)

202: 2013/01/07(月) 19:48:16.08 ID:tu5V5NtP0

ロックハート(ウワ、残りの解答も全部びっちり書いてある……これはあれですね。いえ、私も売れっ子。分かってます。
        ファンの中には時たまこういう過激な子のもいるってことを)

ロックハート(ええ、送られてきたファンレターが奇妙に湿っていた挙句異臭を放っていたりなんて日常茶飯事。
        食べ物系の差し入れなんて怖くて食べたことはありません……)

ロックハート(握手会だって手のひらに"融解結合の呪い"を仕込んできた魔女は数知れず……)

ロックハート(ですが! それを乗り越えて! 私はスター街道を歩んでいる!)

ロックハート("スター"とは! 暗雲垂れ込める暗い空を、箒ひとつで進むことだ……
        そうして進んだ先で掴み取れる、ほんの一筋の光のことだ!)ドギャーン!

ロックハート(そんなこのギルデロイに、精神的動揺は決してない! と思っていただこうッ!)






ロックハート「ええええええ、えーとですねぇ、満点はふ、二人りりりり、で……」ガタガタ



ハリー「……なに書いたんだ、あの二人……」

ロン「見たくないような、見たいような……」

QB「お互いを高めあう。それが友情……」


マミ「やるわね、師匠……いえ、ハーマイオニーさん……」

ハーマイオニー「ふふ、貴女もとうとう一人前のロックハートフリークね、マミ……」

213: 2013/01/24(木) 19:30:35.97 ID:xkFMgk9u0

数十分後


ロックハート「――きょ、今日の授業はここまで! 宿題として私の本の感想を書いてくること!」イソイソ

ハリー「これで終わりか……ただひたすらロックハートの本を読むだけの授業だった……」

ロン「これだったら図書室にでもいたほうがましさ。少なくとも、読みたい本を読めるからね」

ハリー「……読みたい本、あるの?」

ロン「……オーケイ。訂正する。少なくとも図書室は静かだからさ。あいつの声が聞こえなきゃ、なんでもいいよ」

ハーマイオニー「ああそんな、もう終わりなの……? このまま時が止まってしまえばいいのに……」

ロン「なんだよその拷問! まだトロールとフォークダンス踊る方がましさ! ――って、そういえばマミは?」

ハリー「あれ? 変だな、さっきまでハーマイオニーの隣に座ってたよね? ハーマイオニー、マミは……」

ハーマイオニー「ロックハート先生……Cool……」

ハリー「駄目だこりゃ。まあ、今日はこれで授業終わりだから」

ロン「ああ、夕飯には来るだろうし。じゃ、僕たちも寮に戻ろうか」

214: 2013/01/24(木) 19:31:03.50 ID:xkFMgk9u0

ロックハートの部屋



ガチャッ


ロックハート「ふう……取り乱してしまいました。さすがはホグワーツ。一筋縄ではいきませんね」

マミ「ふふっ、そうですね。確かに私も初めて見たときは驚きました」


バタン


ロックハート「ですが、次からはこうはいきませんよ! このロックハートに二度目の失態はありません!」

マミ「ええ! というか先生、別に今日の授業も全然失敗とかじゃなくて、す、素敵でした、よ……?」

ロックハート「HAHAHA! そうですかそうでしょうとも! 私がやればバナナの皮を踏んで転んでも絵になりますよ!
        でもね、私の実力はあんなものじゃ――……」

マミ「……?」ニコニコ

ロックハート(う……うわあああああああああああ)ガタガタ

215: 2013/01/24(木) 19:31:33.58 ID:xkFMgk9u0

ロックハート(なんかいる! 私の部屋に、なんか、いる! あの子ですよ名前は確かマミ・トモエ!)

ロックハート(何で! どうして!? ここに就職が決まってから、もう熱狂的ストーカーの類とは縁切りだと思ってたのに!)

ロックハート(だってホグワーツには外からの侵入を防ぐ魔法が張り巡らせてあるって――ああそういえばこの子生徒でした☆
        "外"からのじゃないですもんねそうですねインセクツ・イン・ザ・ライオンッ!)

ロックハート(い、いえ……落ち着け。落ち着きなさいギルデロイ・ロックハート。勲三等マーリン勲章。
        今の私は"先生"! そう先生です! 何を怯えることがありますか! 威風堂々と対応すればいいんです!)キリッ

マミ「? どうしたんです、先生? 杖を握りしめて、壁に掛けてあった絵画を盾みたいに構えつつ、
   衣装掛けにあったマントを体中に巻きつけて……ああ、でもそんな姿もどことなく高貴さが――」

ロックハート「き、気にしないでください! ところで、マミ! 何の用かな!?」

マミ「あ……わ、私の名前、覚えてくれた、なんて……」テレテレ

ロックハート「HAHA、そりゃあ先生ですから!」

ロックハート(要・注意な生徒の名前くらいは覚えますとも!)

ロックハート「それで? もうディナーの時間ですよ。いくら私に会いたいからって、いけない子ですねマミは!」

マミ「あ、あぅ。ごめんなさい……でも私、先生に質問がしたくて」

ロックハート「質問、ですか? 今日の授業のところで? どこか分からないところがありましたか?」

216: 2013/01/24(木) 19:32:01.82 ID:xkFMgk9u0

マミ「いえ、ロックハート先生の授業はとっても素敵でした! 質問したいのは個人的なことで……」

ロックハート「んん? なんですか、なんでも聞いてごらんなさい! バン!と解決してみせましょう!」

マミ「ありがとうございます……それじゃあ」テクテク

 カチャンッ! シャッ!

ロックハート「……あー、マ、ミ? どうしてドアのカギを閉めて、カーテンを引くんでしょう?」

マミ「ふふ、だって、こうでもしないと……」


マミ「誰かに聞かれたら、困りますから」ニコッ


ロックハート「」

217: 2013/01/24(木) 19:33:05.19 ID:xkFMgk9u0

ロックハート「いやあの待って。待ってください。よく考えましょう? 私とあなたは教師と生徒。でしょう?」

マミ「ええ。ですから、教えて貰おうと思って……色々と」ツカツカ

ロックハート「マミ! マミ! なんでそんなに近づいてくるんです!? お話しするだけならそこでいいでしょう!?」

マミ「いえ、誰にも聞かれたくない話なので、出来るだけ小声で……触れ合うほど近くで」

ロックハート「オブリビエ……ああっ、汗で滑って杖が落ちた!」ポロッ

マミ「あら、大丈夫ですか? ……はい、拾いましたよ」ヒョイ

ロックハート(ひぃ、杖を奪われた! も、もう駄目だ……マントが足に絡み付いて動けないし……)ガクガク

マミ「あの、先生……?」

ロックハート「ごめんなさいごめんなさい私はまだスターでいたいんですスキャンダルとかほんと勘弁して――」








マミ「あの、先生ならきっとご存知だと思うんですけど、普通の、えーと、マグルの街中に出てくるような、
   危険な魔法生物に心当たりは有りませんか?」

ロックハート「……はい?」

218: 2013/01/24(木) 19:34:01.42 ID:xkFMgk9u0

マミ(私はあれから、見滝原で遭遇したあの怪物――
   佐倉さんと一緒に戦ったあの正体不明の怪物のことを、誰かに聞くことはしなかった)

マミ(一応、ホグワーツに戻ってから図書室で調べはしたのだけど、結局それらしいものは見つからなかった)

マミ(一番確実なのは佐倉さんに聞くことなのだろうけど……ホグワーツに戻ってしまった今では、帰るまで聞くことはできない)

マミ(だから私は考えたのだ。この学校で、一番危険な魔法生物に詳しいであろう――)

マミ(ロックハート先生に話を聞くことを! 魔法生物学は三年生からの科目で先生と面識ないし!)

マミ(決して、ロックハート先生のお部屋にお邪魔する口実ってわけじゃないんだから!)




ロックハート「ふむ。得物を奇妙な空間に隔離して、おまけに手下の怪物をたくさん連れてる魔法生物ですか……」

マミ「ええ、友達が襲われたらしくて……図鑑で調べたんですけど、分からないし」

マミ(私が襲われた、っていうと心配かけちゃうものね)

ロックハート「――なるほど! それはきっとゲルゲルムントゾウムシでしょう!」

マミ「む、むし? 虫なんですか、あれ? とても大きかったんですけど――いえ大きかったそうですけど」

ロックハート「ははん? いいですか、マミ。虫だっておっきい奴はおっきいんです。
        あれはだいぶ前ですが、私がアフリカの密林で――」



十五分経過



ロックハート「――そして、そこで私の呪文が炸裂し、みごと巨大女王蟻を倒した、というわけですよ!」

マミ「ああ素敵です。素敵ですロックハート先生!」ウットリ

ロックハート「当然です! ロックハートが素敵なのではなく、素敵なのがロックハートなのですから!
        まあそういうわけなので、そのお友達にはあんまり暗くてジメジメしたところには近づかないように、と伝えてくださいね」

マミ「はい! どうもありがとうございました! やっぱり先生は凄い魔法使いなんですね……!」

ロックハート「いやあ、はっは。それほどでも……ありますがねっ☆」キラッ

219: 2013/01/24(木) 19:35:11.80 ID:xkFMgk9u0

ロックハート(これですよ これ!これこそ、このギルデロイ・ロックハートのイメージ!
        こういう役こそわたしのキャラクターです! ハハハハハハ !)

ロックハート(いかに狂的かつ強敵なファンであろうとも所詮は小娘。
        海千山千のこの私なら軽くあしらえるというものです!)

ロックハート「さて、マミ。このくらいでいいでしょう? そろそろ夕食の時間ですし、戻ったほうが――」

マミ「はい。あ、でも最後にもうひとつだけ」

ロックハート「おやおや、なんとも欲張りな子猫さんですね☆ さて、何がお望みですか?」

マミ「あの……サ、サインを頂けませんか? この教科書に……」

ロックハート「なるほど。でも今は一応、私は教師なのですがね? まあでも、仕方ありません!
        勉強熱心な生徒に、ご褒美としてあげるなら文句も出ないでしょう!」サラサラッ

マミ「わ、わあ! あ、ありがとうございます! 一生の宝物にしますね!」

ロックハート「ええ是非に。あなたのようにチャーミングな子に持ってもらえていれば私のサインも幸せでしょう!」

マミ「え、あ、そんな、チャーミングだなんて……」プシュー

ロックハート(ふふっ。容易い容易い! これでもう恐れるものは何も――)




ハーマイオニー『アーローホーモーラァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!(開錠せよ)』ピシャーン!

    メキメキッ バギッ!


マミ「きゃあ! ドアが吹き飛んで……は、ハーマイオニーひゃんっ!?」ムニッ

ハーマイオニー「マーミー? 抜け駆けとはいーい度胸じゃなーい?」ギュゥゥッ

マミ「いひゃいいひゃい! ほ、ほっへを摘まないで! にゃんでここが……」

ハーマイオニー「あなたの猫に聞いたのよ!」

マミ(きゅ、キュゥべえ! 裏切り者ぉ……!)

220: 2013/01/24(木) 19:36:25.12 ID:xkFMgk9u0

◇◇◇


QB「だって聞かれたんだもの……あ、ハリー。それ動かしたらチェックメイトされるよ」

ハリー「あ、本当だ。危ない危ない。じゃ、こっちのビショップを……キュゥべえと組むとロンともいい勝負になるね」

ロン「僕のスキャバーズよりよっぽど役に立つなキュゥべえ……あっ、ハリー。どう動かしてもあと五手以内に詰むよ、これ」


◇◇◇




ハーマイオニー「ほら! もう夕飯の時間なんだから行くわよマミ! 
          ロ、ロックハート先生、また今度、ゆっくり効く毒薬のことでお尋ねしたいことが――」

マミ「や、ごめん! ごめんなさいハーマイオニーさん! 今度は誘うから! だから耳を引っ張らないでぇ……!」


バタン!


ロックハート「……」


 その時、ロックハートは吹き飛んできたドアの下敷きになりながら思った。


ロックハート(やっぱり、あの二人怖い……!)ガクガク

221: 2013/01/24(木) 19:37:06.70 ID:xkFMgk9u0

数日後 土曜日 グリフィンドール談話室



マミ「はー。お休みの日って素敵よね。
   こうして談話室でお茶を飲みながら、外の素晴らしい景色を眺めてるだけで癒されるわ……」

QB「ついでに朝寝坊もできるしね。マミったら涎たらしながら昼近くまで寝て――」

マミ「えいっ」ムギュッ

QB「きゅっ!?」


 ぱたん


ハリー「やあマミ……あれ、どうしたの? キュゥべえが潰れたシフォンケーキみたいになってるけど」

マミ「ちょっと天罰が下って……って、どうしたの? ハリーくんもロンくんも、何か暗い顔してるわね?
   クィデッチの練習に行ったんじゃなかったの?」

ロン「スリザリンの連中のせいで練習はできなかったんだ。最悪だよ……まあ多分、僕はナメクジの呪いのせいもあるんだけど……」

マミ「ナメクジの呪い? それって何――」

ロン「おえーっ」ボタボタ

マミ「あ、もういいわ。分かったから」

QB「凄いや、ロンの口から生命が誕生した! エントロピーを凌駕してる!」

222: 2013/01/24(木) 19:37:38.34 ID:xkFMgk9u0

ハリー「クィデッチの練習ができなかったのもそうだけど……僕とロンは今夜、罰を受けることになったんだ。
     まったく、ついてないよ……」

マミ「罰?」

ハーマイオニー「ほら、この二人。空飛ぶ車で校庭に突っ込んだでしょ? その処罰よ」

ハリー「まあ、退学になるよりはましだけどさ。はぁー、でもロックハートのファンレターに宛名を書くなんて……」

マミ「ろ、ロックハート先生の!? ……ねえハリーくん、手伝ってあげましょうか?
   あ、もちろん、これは善意からの申し出で、決してやましいことはないのよ? ……ひゃぅ!?」ムイッ

ハーマイオニー「マーミー? 抜け駆けは無し、って言ったそばからこれかしら? いけないのはこの口かしら?」ギュッ

マミ「ひがう、ひがうのよ! これは条件反射的にゃあれで――」

ハーマイオニー「嘘おっしゃい! ……そういうわけで、ハリー? 手伝いには私が行くわ。
          ロックハート先生にはあなたから伝えて? あと透明マントも貸してくれると――むぅっ!?」グイッ

マミ「ひゃーまいおにーひゃんこそ、抜け駆けじゃないひょれは!」ギュゥッ

ハーマイオニー「離しなひゃいマミ! あにゃたはこの前行ったでひょう!?」ギュゥゥッ


         じたばた じたばた


ハリー「お昼ご飯食べにいこうか? キュゥべえ、おいで」

QB「ありがとう、ハリー。ああ、ロン? ナメクジが止まらないならほら、ビニール袋使うかい?」

ロン「ああ、これマグルの道具かい? どうも、使わせてもらうよ」

223: 2013/01/24(木) 19:38:47.83 ID:xkFMgk9u0

夜 ロックハートの部屋


ロックハート「おお! これはアデラ・エインズワース! 最近よくファンレターをくれる子です!」サラサラ

ハリー「はぁ、そうですか」カリカリ

ロックハート「はっはっは、ハリー? 気のない返事をしても、君が有名人に憧れているのは分かりますよ? 
        確かに君も、ほんの少しばかり有名なようですが――」

ハリー「あ、マミだ」

ロックハート「!?」ビクッ

ハリー「――っと思ったら、違う宛名でした。マリーか……」

ロックハート「……ほっ」サラサラ

ハリー「……」カリカリ

ロックハート「……ハリー! そうだ、そういえば君がサイン入りの写真を配ってるとかいう噂を耳にしたのですがね?
        有名人の私が思うに、まだ君はその時期では――」

ハリー「ハーマイオニー?」

ロックハート「!?」キョロキョロ

ハリー「……がここにいれば、きっと宛名書きも早く終わるんだろうなぁ」

ロックハート「……呼んじゃだめですよ? あくまで、君の仕事なのですから」

ハリー「はい、分かってます」カリカリ

ロックハート「……」サラサラ

ハリー「……」カリカリ

ロックハート「……ハリー、そういえば――」

ハリー「マミ・グレンジャー!」

ロックハート「ひぃ!?」ガタッ

ハリー(便利だな、あの二人。ロックハート避け呪文と名付けよう)


??『――腹が減った。食い殺してやる――!』


ハリー「……! 先生、何か聞こえませんか!?」

ロックハート「え、何も聞こえませんよ? ははん、さては寝ぼけてますねハリー?
        もうこんな時間ですか。では、このくらいで終わりにしましょう」

ハリー(……ロックハートには聞こえてない? でも空耳にしてははっきりと……)

224: 2013/01/24(木) 19:41:07.27 ID:xkFMgk9u0
10月半ば



マミ「キュゥべえキュゥべえ! 保健室のポンフリー先生が"元気爆発薬"をくれたわ!
   風邪の予防にとってもいいんですって!」

QB「へえ。そりゃよかったね。で、君はなんでそれを片手ににじり寄ってくるんだい?」

マミ「飲ませてあげるわ! 風邪ひいたら大変だし!」

QB「君が先にお飲みよ。僕は後でいいからさ」

マミ「そんな、遠慮しなくていいわよ――そして飲んだら私に味を教えてね?」グイグイ

QB「いやいや、そんな。マミに先に飲んでほしいな。飼い主の健康を、僕は一ペットとして祈っているよ」グイグイ

マミ「い・い・か・ら、飲みなさいよぉぉぉぉ……!」グググ!

QB「き・み・が、先に飲めよぉぉぉぉおおおお……!」グググ!


ジニー「はぁ……」テクテク


マミ「あっ、ジニーさん……どうしたのかしら。何か元気が無さそうね?」

QB「……マミ? 先輩として、ここはケアをしたほうがいいんじゃないかな?」

マミ「あら、そう? キュゥべえがそういうんじゃ、仕方ないわね……こんにちは、ジニーさん!」

QB「やあジニー! 調子はどうだい?」

ジニー「あ、マミに……キュゥべえ」

QB「おやおや? 声になんだか元気がないよ?」

マミ「あら、大変! もしかしたら風邪かもしれないわね?」

ジニー「いやあの、これは別に風邪とかじゃ――」

QB「そんな時はこれ! マダム・ポンフリー印の"元気爆発薬"!」

マミ「一口で元気百倍! さ、ジニーさん? 口を開けて?」

225: 2013/01/24(木) 19:42:03.47 ID:xkFMgk9u0

ジニー「あの、本当に大丈夫だから……」

QB「……飲んでくれないのかい? ジニーの為に僕が用意したんだけど……」キュップーイ

ジニー「……えっ?」キュンッ

QB「ここのところ、元気が無かったみたいだからさ。せめて、薬でもと思って……」キラリン

QB「僕の薬を飲んで、健康になっておくれよ! そう思ってたんだけどな……」チラッ

ジニー「……飲む! 飲むわ! せっかくキュゥべえが用意してくれたんだもの!」

マミ(ジニーさんの猫好きを利用して……! キュゥべえ、恐ろしい子……!)

ジニー「じゃ、いただきます」ゴクッ


  ぼふん!


ジニー「……」シュゥゥウウウウ

マミ「……耳から煙が……」

QB「……味はどうだった、ジニー?」

ジニー「……先輩? 私が飲んだんだから、先輩とキュゥべえも飲むべきですよね?」ニッコリ

マミ「あ、ま、待って! 離せばわかるわ。ていうかなんで急に敬語に……ちょ、やめっ……!」

QB「ぼ、僕をいじめるのかいジニー? しないよね、猫好きだもんね、君……え、予防注射みたいなもんだって?
   いや待って、そこは口じゃ……」


  ぼふん! ぼふん!


.

ハリー「やあマミにキュゥべえ。どうしたの? 耳から煙を噴きだして……」

マミ「……気にしないで」モクモク

QB「なんだかこそばゆいね、これ」モクモク

ハリー「あー、まあいいけどさ。ところでちょっとお願いがあるんだけど――」



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226: 2013/01/24(木) 19:42:57.42 ID:xkFMgk9u0


マミ「"絶命日パーティ"? ゴーストが自分の死んだ日を祝うの? それに、私を?」

ハリー「うん。ほとんど首なしニックが是非に、って。
     僕、この前彼に助けてもらったから断りきれなくて……」

マミ「それはいいけど……なんで私を?」

ハリー「ほら、僕たちが入学した時さ。君、ニックのことをすごく怖がってたろう?
     あの反応が良かったらしくて……なんかね? パーティでも怖がって欲しいんだって」

QB「ゴーストにとっては、怖がられることがひとつのステータスなのかな」

ハリー「そうみたい……で、どうかな。ハーマイオニーとロンも来るんだけど」

マミ「ハーマイオニーさんも……そうね、それじゃあ私も参加していい?
   絶命日パーティなんて、参加する機会もなかなか無さそうだし……」

ハリー「いいの? 同じ日にやるハロウィンパーティの方は、骸骨舞踏団とかが来るらしいけど……後悔しない?」

マミ「そっちも楽しそうだけど……でも、どんなパーティでもお友達と一緒ならきっと楽しいわよ。
   後悔なんて、あるわけないわ」

227: 2013/01/24(木) 19:43:24.45 ID:xkFMgk9u0

10月31日 絶命日パーティ 帰り道


マミ「失敗した……」

ロン「いいよ、わざわざ言わなくて……みんな思ってるんだから」

QB「ゴーストってあんなにいっぱいいるんだねぇ。あれはあれで貴重な体験だと思うよ。
   まあ、マミはほとんど気絶してたから体験してないけど……」

マミ「非常識よ……目があった瞬間、みんな一斉に首を投げつけてくるんだもの……」ガタガタ

ロン「多分、あれじゃないかな? ニックが君に目を付けたみたいに、首狩りクラブの面々も雰囲気を察したんだと思うよ」

QB「狩りクラブの代表ゴースト、"彼女には才能がある。死ぬ時はぜひ斬首で"ってマミのこと絶賛してたけど、どうするマミ?」

マミ「ぜっっったいに嫌! ……へくちゅっ」

ハーマイオニー「大丈夫、マミ? 寒かったもの……ゴーストが集まると気温が下がるのね」ガチガチ

ハリー「それよりおなかが減ったよ……ゴースト用の料理って全部腐ってたりカビが生えてたりしたし……」

ロン「急げば、まだ大広間にデザートが残ってるかも……」



??『引き裂いてやる!』



ハリー「!? 今の声……あの時のだ。ロックハートの部屋で聞いた……」

ロン「ハリー? どうしたんだよ、一体」

ハーマイオニー「声……? 前に、あなたが聞いたっていう? 私たちには聞こえないけど……」

ハリー「しっ! 静かに……移動してる……こっちだ!」ダッ

マミ「あ、ちょ! 待ってってばハリーくん!」

QB「追いかけよう。何か様子が変だ」

228: 2013/01/24(木) 19:44:10.59 ID:xkFMgk9u0

三階 廊下


ハリー「ここだ……声はここで途切れた……」

ハーマイオニー「……! 見て、あそこの壁!」


<秘密の部屋は開かれたり。継承者の敵よ、気をつけよ>


ロン「文字……? "秘密の部屋"って……」

QB「……それだけじゃないみたいだ」


ノリス「」


ロン「ミセス・ノリスだ! フィルチの飼い猫の――死んでるのか?」

マミ「そんな……酷い。なんで……」

ハーマイオニー「……とにかく、ここを離れましょう。あんまり他の人に見られるのは……」

ドラコ「――次はお前らの番だぞ、穢れた血め!」

229: 2013/01/24(木) 19:44:39.10 ID:xkFMgk9u0

ハリー「マルフォイ!? どうして――そうか、パーティが終わったのか!」

ロン「……ってことは、当然こいつだけじゃなくて――」


     ガヤガヤ ガヤガヤ


「おい、どうした?」「ポッターだ」「ミセス・ノリスが死んでるぞ――?」

          
                      ざわざわ ざわざわ


フィルチ「なんだ――ミセス・ノリスがどうしたと?」

マミ「ふぃ、フィルチさん……」

フィルチ「なんだ、トモエか。一体これはなんの騒ぎ……」


ノリス「」


フィルチ「あ……ああ……! ミセス・ノリス! 誰だ! 誰がこんなことを!」

マミ「あの、これは――」

フィルチ「お前たちか! お前たちがミセス・ノリスを! 殺してやる! 私がお前たちを殺して――!」

マミ「……っ」ビクッ

ハリー「違います! 僕たちはただここに居合わせただけで――」

ダンブルドア「――静まれ! 生徒たちは各寮へ」

ハリー「ダンブルドア先生! 違うんです。これはあの――」

フィルチ「猫が! こいつらが私の猫を!」

ダンブルドア「アーガス、とにかく場を移そうぞ。居合わせた君らも、一緒においで。
       ああ、ドラコ。すまんがミネルバとセブルスを呼んできてくれんかね?」

230: 2013/01/24(木) 19:45:08.67 ID:xkFMgk9u0

ロックハートの部屋


ダンブルドア「お邪魔してすまんのう、ギルデロイ。君の部屋が一番近かったでな」

ロックハート「いやそんな――校長を私の部屋にお招きするなど真に光栄……」チラッ

マミ・ハーマイオニー「?」

ロックハート「こ、光栄ですからね……! それよりも猫でしたか! 私が拝見しましょう!
       むむ、これは異形変身拷問の呪いですね……とても苦しんで死んだに違いありません」

フィルチ「ああ、ミセス・ノリス!」

ダンブルドア「ギルデロイ、ちょいと外れのようじゃのう。これは異形変身拷問ではないよ」

ロックハート「はっはっ、やはり校長は見抜かれていましたか! そう、これはアバダケダブラ――」

ダンブルドア「――でもないのう。そもそも死んでおらんのだし」

ロックハート「やはりそうでしたか! ええ、これは固まってるだけでしょう」


ハーマイオニー「凄いわ! ダンブルドア先生と互角に話しているなんて!」

マミ「さすがロックハート先生……」

ロン「おい、誰か耳かき持って来いよ。絶対この二人の耳の穴塞がってるから」


231: 2013/01/24(木) 19:46:02.54 ID:xkFMgk9u0

フィルチ「じゃあミセス・ノリスは治るんですか!?」

ダンブルドア「ああ、スプラウト先生がマンドレイクを育てておられる。
        成長したら、すぐにでも解呪薬を作ってくれるじゃろう。のうセブルス?」

スネイプ「御命令とあらば――しかし校長? その前に犯人をみつけなくては……
      猫では証言ができないからして」

フィルチ「あいつらだ! ポッター達がやったんだ!」

マミ「そんな! フィルチさん、私たちは――」

フィルチ「うるさい! お前だって、魔法使いなんだろう! スクイブの私を馬鹿にしてるんだろう!
      同情などするべきではなかった! 貴様に、私の気持ちなど――!」

マミ「……っ」

マクゴナガル「アーガス、おやめなさい。この子たちにそんな真似はできませんよ。技術的にも、性根的にもね」

マミ「マクゴナガル先生……」

フィルチ「……」

スネイプ「ですが副校長。彼らが正直にすべてを話してるとは思えないのですが?
      ポッター、なぜあの時間にあの場所に? 他の生徒はハロウィンパーティに出ていたが?」

ハリー「僕たち、ニックに絶命日パーティに招待されて――」

スネイプ「では、その後にハロウィンパーティに来なかったのは?」

ハリー「それは……」

スネイプ「ふむ、話せない、と。……ご覧の通りです。ここは彼らが正直に話してくれるよう、処罰を与えては?
      たとえば、そう……クィデッチ・チームから外すなど」

マクゴナガル「それとこれとなんの関係が? 猫はブラッジャーに押しつぶされでもしてましたか?」ギロッ

ダンブルドア「よい、疑わしきは罰せずじゃ……今宵はこれで解散としよう」


232: 2013/01/24(木) 19:46:32.73 ID:xkFMgk9u0

グリフィンドール談話室


ハリー「あの声のこと、話した方が良かったのかな……」

QB「どうだろう? 君以外には聞こえない声なんて証明しようがないし、あの場を混乱させるだけだと思うけど」

ロン「ああ。狂気の沙汰だよ。気味が悪いって、ハリーも思うだろう?」

ハリー「うん。それに、あの言葉――秘密の部屋って一体なんなんだろう……?」

ロン「うーん。昔聞いた覚えがあるような……」

ハーマイオニー「私も、何かで読んだ覚えがあるのよね……」

マミ「……」

ハリー「秘密の部屋に関しては、これ以上考えてても仕方ないか……。
     ……そういえば、ロン。フィルチのいってたスクイブってなに?」

ロン「ぷっ、くくっ……ああいや、別におかしいことじゃないんだけどさ。
   スクイブっていうのは、魔法使いの家の生まれなのに、魔力をもってない人のことなんだ」

マミ(……)


     『なあ、トモエ――本当に才能が無いということが、どういうことか分かるか?』


マミ(そうか、だからフィルチさんは、失敗ばかりの私に――)


ロン「でもこれでフィルチが僕たちに強く当たる理由が分かったよ。妬ましいんだろうね、ははは!」

マミ「――別に、笑うことじゃないでしょ」

ロン「うん? なんだって?」

マミ「……別に、なんでもないわ。おやすみ!」スタスタ

ロン「……なんであんなに怒ってるんだ、あいつ? そりゃ、ちょっとブラックな笑いだったけどさ」

ハリー「……ロン、君ってたまに地雷を思いっきり踏み抜くよね」

ハーマイオニー「……マミ」

233: 2013/01/24(木) 19:47:22.29 ID:xkFMgk9u0

翌日


マミ「……」

QB(昨日からマミはずっとだんまりだ。あの三人組とも距離をおいて、ずっとひとりきりだし……
   ……ん、あれは?)

ジニー「……」スタスタ

QB(ジニーだ。相変わらず元気がないな。寒いし、こりゃ本格的に風邪かな?)ピョイッ

QB「やあジニー。元気してるかい?」

ジニー「ああ、キュゥべえ。今日は薬を持ってないみたいね?」

QB「もう懲りたよ。あの酷い味は猫栄養ドリンク以来だ……で、君の方はどうだい?
   調子が戻ってないみたいだけど」

ジニー「ええちょっと……ほら、ミセス・ノリスが……」

QB「ああ……」

ジニー「ロンは"あんなのいなくなった方がせいせいする"なんて言ってたけど、私……」

マミ「……そうよね。そんなの、許されるはずないわ」

ジニー「! マ、マミ! いたのね……」

マミ「ええ。ジニー。そうよ、フィルチさんの猫を石にするなんて……許せないわ」

QB「君、昨晩はだいぶ酷いこと言われてたじゃないか。それでもかい?」

マミ「誰だって、大切なものが奪われれば取り乱すに決まってるわよ……ええ、キュゥべえ、私は決めたわ」

QB「決めたって、一体何を?」

マミ「決まってるでしょう?」


マミ「この私が、フィルチさんの猫を石にした犯人を絶対に捕まえて見せるわ!」


ジニー「……」

250: 2013/02/05(火) 22:09:35.91 ID:ktpGB5m+0

魔法史の授業


ビンズ「……であるからして、千年以上も昔にこのホグワーツを創立した四名、
    その中のひとりであるサラザール・スリザリンが他の創設者も知らぬ隠された部屋を作ったという話があるのです」

ビンズ「それが秘密の部屋、と呼ばれておるものの正体なわけですな。
     純血主義だったスリザリンが純血でない魔法使いを排除するための怪物を封じ込め、
     スリザリンの継承者だけがその怪物を解き放ち、操ることができるという」

ビンズ「無論、戯言であるわけですが。部屋などない。よって怪物もいない。
     歴代の校長や著名な魔法使いが調べても、その痕跡すら発見できなかったのですから」

ビンズ「さて、よろしければ歴史に戻ることにしましょう。馬鹿馬鹿しい作り話などではない、確固とした事実にね」


◇◇◇


QB『……なるほど。ビンズ先生の話で大体は分かったかな。つまりその秘密の部屋の怪物とやらが犯人というわけか。
   確かに、事件のあった廊下にも"秘密の部屋"という文字が書かれていたね』

マミ『……でも本当にそんな怪物が? 他の可能性もあるんじゃないかしら。
   例えば、そうね――スリザリンの生徒が呪いを掛けたとか』

QB『それは有り得ないんじゃないかな。生徒が掛けた呪いくらい、先生なら解けるだろう。
   マンドレイクを使った解呪薬でしか解けないっていうのは……』

マミ『……ヴォルデモートみたいに本当に強力な闇の魔法使いか、危険な魔法生物かってこと?』

QB『ああ……でも闇の魔法使いって線はないと思うな』

マミ『え、どうして? 実際、ヴォルデモートは去年ここに忍び込んだじゃない』

QB『ヴォルデモートは賢者の石を手に入れるって言う目的があっただろう?
   わざわざホグワーツに忍び込んで、やることが猫を石にするだけっていうのはいくらなんでも間抜けだ』

マミ『でも、これから生徒を襲うつもりかも……』

QB『なら最初から生徒を標的にすべきだよ。これからは警備も強化されるだろうし、生徒自身だって警戒するだろう。
   つまり猫が襲われたのは偶然だったんだ。その魔法生物は多分、生きてるものを全部標的にしちゃうんじゃないかな』

251: 2013/02/05(火) 22:10:39.38 ID:ktpGB5m+0

マミ『……でも、ビンズ先生の話だと"怪物"は"継承者"に操られるんでしょう? 
   壁に文字が書いてあったから、人間が関わってるのは確かよね?』

QB『そこが分からないんだよなぁ。もちろん伝説を鵜呑みにする気はないけれど。
   いったんまとめてみようか。マミ、羊皮紙と羽ペンを借りるよ。現状、確実に分かってるのはこの二点だね』サラサラ


1.猫を石にしたのは何らかの魔法生物。

2.壁に文字が書いてあった→人間が関わっている。


QB『暫定的に、壁に文字を書いた人物を継承者。魔法生物を怪物と呼称しようか。で、こっちが推測』サラサラ


a.継承者は怪物と関わりがある?

b.怪物は継承者に操られている?


マミ『キュゥべえ、これaとbの違いってあるの? どっちも同じように見えるんだけど』

QB『ミセス・ノリスを襲ったっていう点がどうにも理解できないんだ。
   もしかすると継承者は怪物を解き放っただけで、操ることはできないのかもしれない』

マミ『そっか……でも怪物を操ってる人がいるかはともかく、危険な魔法生物がいるのは確かよね。
   その正体とか住処を突き止めて、先生方に報告すれば……』

QB『……マミ、本当に君ひとりでやる気かい? 怪物と遭遇してしまったらどうする?
   君はまだ二年生で、大した呪文も使えないんだよ?
   魔法生物の中には、一流の魔法使いが使うような魔法でさえ跳ね返してしまうようなのもいるのに』

マミ『……それでも、やらなきゃ。ここ最近のフィルチさんを見た?』

QB『明らかに憔悴してるね。通常の業務に加えて、猫の犯人捜しだ。このままだと倒れるんじゃないかな?』

マミ『そうよ……早く、犯人を、怪物を見つけなきゃ……』

QB『……でも、一人でやる必要はないと思うけどな。ハーマイオニーを誘ってみたらどうだい?
   彼女の知識量は、きっと役に立つと思うけど』

マミ『……嫌。だってきっと、ハーマイオニーさんはロン君たちと一緒に探そうとするもの』

QB『この前のロンの発言を気にしているのかい? 君もわかってると思うけど、フィルチは決して優しい職員ではないよ。
   多くの生徒に煙たがられるのも頷ける話だ』

マミ『分かってるわよ。ロンくんだって悪気があったわけじゃないって……でもそれなら、私がフィルチさんのことをどう思おうとも勝手でしょ?』

QB『まあ、君があくまでそういうなら僕も強くは言わないけどさ……それで、具体的にはどうするんだい?』

252: 2013/02/05(火) 22:12:20.99 ID:ktpGB5m+0

夕食後 三階 廊下


マミ「というわけで、犯行現場にやってきたわけだけど」

QB「誰もいないね。まあ、あんな事件があった後だし……なんでここに来たんだい?」

マミ「犯人は犯行現場に戻るって、本に書いてあったもの!」ドヤッ

QB「その犯人に出会ったら、君も石像の仲間入りなわけだけど……」

マミ「虎穴に入らねば虎児を得ず、よ!」

QB「……まあ、犯行現場を調べなおすって言うのは悪くないと考えだけどね。
   とはいえ、何の変哲もない廊下だけど」

マミ「そう言われるとそうなのだけど……キュゥべえ、あなたは何か気づいたことってある?」

QB「そうだね……そういえばあの時は、床がびしょ濡れだった」

マミ「床が? そうだったかしら?」

QB「君はミセス・ノリスに注目していたから……でも確かに、結構な量の水が廊下にぶち撒かれていたよ。
   バケツ一杯じゃ足りないくらいだった。あれはどこから……?」

マミ「それって、あそこからじゃない?」


 "女子トイレ"


QB「ああなるほど、排水溝がつまりでもしたのかな? そういえば"故障中"って張り紙もされてるね」

マミ「あら、そういえばこのトイレって……」

QB「どうしたの、マミ?」

マミ「何だったかかしら……確か噂があって……三階のここのトイレは入っちゃ駄目とかいう……」

QB「故障中だからじゃないかい?」

マミ「そうだったかしら……まあいいわ。とにかく何か手がかりがあるかもしれないし、入ってみましょう」

253: 2013/02/05(火) 22:14:22.10 ID:ktpGB5m+0

 女子トイレ


QB「うわ、ボロボロじゃないか……いつから故障中なんだろう、これ」

マミ「本当。これじゃ使えないわ……そういえばキュゥべえ。あなたってオスなの、メスなの?」

QB「えっ、いまさらそこ気にするのかい?」

マートル「……なによぅ。また誰か来たの? わたしを馬鹿にしに……」ヌゥッ

マミ「きゃっ!?」

QB「ゴーストだ。女の子の……ん? どこかでみたような……」

マートル「あんた達、わたしのこと知らないの? ……って、そういえばこのくるくる頭は見たことあるわね」

QB「ああ、思い出した。絶命日パーティの」

マートル「そうだ、首を投げつけられて気絶してた奴だ。なぁに、あんた怖がりなのぅ? にひひひっ」

マミ「こ、怖くなんてないわ! ちょっとびっくりしただけだもの!」

マートル「……へぇ。そう」スゥッ

QB「あ、床に潜っていっちゃった……」

マミ「き、気を悪くさせちゃったのかしら……?」

マートル「――ばぁぁあああああああ!」ブラーン

マミ「いやあああああああ!? 首が、天井から首が!?」

マートル「あははは! いーい怖がりっぷりじゃない? わたしより弱っちそうな奴は初めて見たわ」

QB「あんまりいじめないでやっておくれよ。マミはメンタル弱いんだから。ここ一年でだいぶ良くなったけど」

254: 2013/02/05(火) 22:16:16.22 ID:ktpGB5m+0

マミ「はぁはぁ……も、もう。ほんとに驚いたわ……」

マートル「きしし」

QB「ニックがマミを絶命日に呼んだの、分かる気がするなぁ」

マートル「そぉねぇ。こんなビビり虫そうそういないわ」

マミ「べっ、別にビビり虫なんかじゃ!」

マートル「毎晩、あんたの部屋に出没してやってもいいのよ?」

マミ「ビビリ虫です……」グスッ

マートル「あー久しぶりに気分がいいわっ。死んでから初めてね……んで、あんたらわたしのトイレに何の用なの?
      悪いけどお腹がピンチっていうんなら別のところで……」

マミ「違うの。あのね、ハロウィンの日にここの前の廊下で猫が石にされて……」

マートル「ああ、あんたらもそれの犯人捜ししてるんだ?」

QB「ってことは、僕たちの他にも誰か来たのかい?」

マートル「えーえおいでなすったわよ。赤毛ののっぽと箒頭の出っ歯、あとクシャ髪の眼鏡が」

QB「……ハリー達かな。彼らはなんて?」

マートル「おかしなものを見なかったかって……
      その時も言ったけど、わたしはあの日、排水溝の中でずっと泣いてたからなーんも見てないわ」

マミ「そうなの……何か手がかりがあればと思ったんだけど」キョロキョロ

マートル「んー。手がかりは知らないけど、今は機嫌がいいから面白いこと教えてあげようか?」

マミ「面白いこと?」

255: 2013/02/05(火) 22:17:08.74 ID:ktpGB5m+0

マートル「ゴーストが壁をすり抜けられるのは知ってるでしょ? 
      でもまあ、なんでもかんでもすり抜けられちゃあ困るから、魔法ですり抜けられないようにすることもできるわけよ」

QB「確かに。じゃないとゴーストが諜報役として跋扈することになりかねないしね」

マートル「そう。でもそんな魔法をいちいち掛けるのも面倒ってことで、重要な箇所にしか"ゴースト避け"はないの。
     だけどね、このトイレってなんでかゴースト避けの魔法がかかってるのよ」

QB「だけどさっき、君は床や天井をすり抜けたじゃないか」

マートル「トイレの一部に、ってこと。ほら、そこの手洗い台がそうよ。そこはわたしでもすり抜けられないの」

マミ(良く考えたら、トイレにゴースト避けが掛かってないのってプライバシー観点で致命的な気がするのだけど……)


 手洗い台


マミ「普通の洗面台みたいね……ん、この蛇口壊れてる」

マートル「そこ、ずっと壊れっぱなしよ。わたしがまだ生きてた頃から。修理もできないみたい」

マミ「うーん……特に変わったところはなさそうだけど……あっ、蛇の落書きがあるわ。
   ふふっ、何かこういうの見ると和むわね」

QB「……確かにこの手洗い台は気になるな。ゴースト避けなんて、洗面所に掛けても意味ないし。
   マミ、何種類か魔法を掛けてみよう。まずは開錠呪文から……」

マートル「ところで、あんたら平気なの? 
      最近このトイレの前、あの嫌われ者の用務員がずっとうろうろしてるんだけど」

マミ「……! フィルチさんが……」

QB「彼も僕らと同じ思考をしたんだろう。現状、ここくらいしか手がかりはないからね。
   僕らが入るときはいなかったけど、また戻ってくるかもしれない。もう就寝時間も近いし……」

マミ「……そうね、いったん離れましょうキュゥべえ。調べるのはまた今度よ。
   あの、またここに来てもいいかしら? ええと……」

マートル「マートルよ。あんたらはマミとキュゥべえっていったっけ?
      ま、わたしのこと馬鹿にしない奴なら別にいいわ。あんたらは、まあ……及第点ってとこね」

256: 2013/02/05(火) 22:18:58.44 ID:ktpGB5m+0

グリフィンドール 女子寮


マミ「なんとか就寝時間に間に合ったわね……」

QB「明日からは、フィルチの隙を見てあのトイレのことを調べよう。少なくとも、他の手がかりがみつかるまでは――」


ガチャッ


パーバティ「Zzzzz.....」

ラベンダー「むにゃ……ビンキー……こっちおいで……」

マミ『……みんな寝てるみたい。キュゥべえ、しー、よ?』

QB『うん……だけどマミ、ひとつだけ間違ってる。寝てるのはみんなじゃないよ』

マミ『へ? それってどういう……』

ハーマイオニー「……お帰りなさい、マミ」

マミ「ハーマイオニーさん……」

257: 2013/02/05(火) 22:21:19.49 ID:ktpGB5m+0

QB「僕は席を外すよ。終わったら呼んでね」タタッ

マミ「あっ、ちょ、キュゥべえ! ああ、行っちゃった……」

ハーマイオニー「……マミ、遅かったわね。どこに行ってたの?」

マミ「……別に。ちょっと図書室で調べものを……」

ハーマイオニー「そう……ねえ、マミ。この前ロンが言ってたこと。あれはね、別に――」

マミ「分かってる。分かってるわよ。気にしないで」

ハーマイオニー「……だったら、また明日から仲良くできるのかしら、私たち」

マミ「……それは」

ハーマイオニー「……あなた、秘密の部屋を――ううん、ミセス・ノリスのことを調べてるんじゃないの?」

マミ「……!」

ハーマイオニー「あなた、他の誰がフィルチの悪口を言っても、いつも曖昧に笑って流すだけだったから。
          もちろん私だって陰口には賛成できないけれど……
          ねえ、マミ。犯人捜しをしてるんだったら、私たちと――」

マミ「し、知らないわ! お休み!」ガバッ

ハーマイオニー「あっ、マミ! 話はまだ終わって――」

マミ「ぐー! ぐー!」

ハーマイオニー「……そう。ええ、そうですか分かったわ分かりましたとも!
          マミがそういうつもりならこっちだって考えがあるんですからね! ふんっ、お・や・す・み!」

マミ「……」

ハーマイオニー「……」




マミ(……怒らせちゃった)グスッ

ハーマイオニー(……やっちゃった)ハァ

258: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/05(火) 22:22:45.44 ID:ktpGB5m+0

数日後 闇の魔術に対する防衛術 授業


ロックハート「はい、それじゃ教科書のここからここまでノートに書き写して!
        おっと、読みふけって時間を忘れないように注意してくださいよ!」


ハーマイオニー「……」ガリガリガリ

ハリー「あー、ハーマイ、オニー? そんな力入れて書いたら、羽ペンが痛むと……」

ハーマイオニー「……っ!」キッ

ハリー「あーいや、なんでもないんだ。なんでもね……ロン、どうしよう。この後のあれ……」ヒソヒソ

ロン「なにがあったか知らないけど、この頃機嫌悪いもんなぁ……いざとなったら君が頼みに行けよ、ハリー」

ハリー「勘弁してよ、ただでさえロックハートは……」


ロックハート「さて、そろそろ皆さん写し終ったみたいですね! それじゃあこの部分の再現をしましょうか!
        栄えある相手役を務めるラッキーボーイは――ハリー! さあ、前においで!」


ハリー「ほら御指名だ。なんでかあいつ、僕を目の敵にしてるんだもの。
     今日やるのは……うわ、狼男だ。しかも地面に叩きつけられるとか書いてある……」

ロン「お気の毒様。あとで蛙チョコレートをあげるよ」

ハリー「割に合わないなぁ……でもやってくるよ。あいつをご機嫌にしとかないと、計画が上手くいかないし……」

259: 2013/02/05(火) 22:24:32.63 ID:ktpGB5m+0

ロックハート「さあハリー! まずはこれを被ってください! じゃ、じゃーん! 狼男の毛皮!」

ハリー(……裏側にMade in Chinaのタグがあるのは黙っておこうか……)



マミ「……」

QB『……マミ、ごめんよ。二人きりで話せば、上手くいくかと思ったんだけど……』

マミ『何のことかしら。知らないわ』

QB『そんなこと言って、ハーマイオニーとあれから一言も口きいてないじゃ』

マミ『知らないわ』

QB『……話を変えようか。マートルのトイレのことだけど……結局、あれから一度も調べられてないね』

マミ『そうね。フィルチさん、ずっとあのトイレの周りにいるものね……』

QB『やっぱり、ここは同時多発テロしかないと思うんだ。僕が遠くで騒ぎを起こすから、その間にマミが……』

マミ『やったらしばらく餌抜きにするわよ、キュゥべえ。フィルチさん、本当に倒れちゃうわ』

QB『……じゃあどうするのさ。このままだと年が明けちゃうよ』

マミ『……ひとつだけ、方法があると思うの。次の土曜の……』


ジリリリリリ!


ロックハート「おっと、もう終わりですか。では皆さん、宿題を忘れないように!」


QB『……なるほど。確かにそれはいいアイディアだ。じゃ、それでいこう』

マミ「ええ、行くわよ、キュゥべえ。寮に戻って細かいところを煮詰めましょう」スタスタ


ロン「お、最後の奴も出て行った……マミか。そういえばあれから口きいてないなぁ。
   はぁ、まだ怒ってるのか……大丈夫かい、ハリー?」

ハリー「いたた。ロックハートの奴、本気で掴みかかるんだものなぁ……おっと、急がないとロックハートの奴までいっちゃう。
     ハーマイオニー、ほら、君がサインを貰ってくるんだろう?」

ハーマイオニー「……分かってるわよ。
          ロックハート先生! 私、図書館からこの本を借りたいんですけど、先生のサインが必要で――」

260: 2013/02/05(火) 22:28:36.47 ID:ktpGB5m+0

土曜日 グリフィンドール寮談話室


ディーン「急げよネビル! もうすぐクィディッチの試合が始まっちまうぞ!」

シェーマス「っていうか先行ってるからな! 席くらいはとっておいてやるよ!」

ネビル「ああ、待って! 何で今日みたいな日に寝坊を……って、あれ? 暖炉の前に座ってるのは……」


マミ「……」カチャカチャ

ネビル「マミ、何やってるんだい、こんなところで……それなあに? なんかえらく複雑そうな装置だけど……」

マミ「あら、ロングボトムくん。これね、マグルの道具でMDプレイヤーっていうの。
   音を録音できる機能があって、今日の試合の実況を録音しようと思ったんだけど……
   壊れちゃってるみたいで、いま修理してるとこなの」

ネビル「ふぅん? でも急いだ方がいいよ、もうすぐホイッスルだし……」

マミ「ええ、時間ぎりぎりまで粘るけど、間に合わなかったら諦めて行くわ。
   ……ところで、ロングボトムくんはいいの? ゆっくりしてて」

ネビル「え。あ、そうだった! さ、先にいくね! マミ、君も急ぎなよ!」


QB「……よし、行ったね。マミ、ネビルで最後だ。もう僕らのほかは誰もいないよ」

マミ「そうね。それじゃあ早速……」ゴソゴソ

261: 2013/02/05(火) 22:29:17.71 ID:ktpGB5m+0

クィデッチ競技場


ネビル「はぁはぁ、着いた! ああ、もう始まってる! ロン、試合はどうなってるの?」

ロン「いま始まったところ。ネビルか、遅かったね。トイレかい?」

ネビル「いや、寝坊して……あとマミと談話室で話してたら遅くなった」

ロン「マミ? マミもまだ来てないのか……」

ハーマイオニー「……ネビル、マミはどうしてまだ寮にいたの?」

ネビル「いや、なんかマグルの道具の、なんていったかな、えむでーふらいやー? が壊れたって……
     それでクィデッチの実況を録音したいんだって」

ハーマイオニー「え、えむでーふらいやー? なにそれ、未確認飛行物体?」

ネビル「飛んではなかったよ。えーと、四角くて、黒いヒモが伸びてて、これくらいのサイズで」

ハーマイオニー「ああ、MDウォークマンね。……じゃあそれ、修理しても無駄よ」

ネビル「え、なんでだい?」

ハーマイオニー「だってね、マグルの道具、特に機械製品は魔法力の強い場所だと――」

ロン「おい、見てくれ! あのブラッジャー様子が変だぞ!」

ハーマイオニー「え?」

262: 2013/02/05(火) 22:30:43.76 ID:ktpGB5m+0

マートルのトイレ 手洗い台


マミ「うん、やっぱり誰もいない。クィデッチの時って、先生方もみんなそっちに行くものね」

QB「この日を調査に充てるのはいい考えだと思う……けど、君が延々とウォークマン弄ってたのには何の意味が?」

マミ「ほら、アリバイ工作って奴よ。何で来なかったの? って聞かれたら、ずっと修理してました、って言うの。
   ……にしてもこれ、本当に壊れちゃったのかしら? このっ、このっ」ポチッ ポチッ

QB「アリバイ工作って……そんなことしなくても、あの熱狂具合じゃ誰がいなかろうが気づかないと思うけど」

マミ「……こ、細かいことはいいでしょ、もうっ。さあ、調査開始よ!
   マートルさんもどっか行っちゃってるし、この隙にぱぱっとやちゃいましょ」

QB「うん、そうだね。じゃあまずは開錠呪文から……」



 数十分後



マミ「……開錠呪文も変身呪文も呪いもダメ、ね。私に使える呪文は、あらかた試したと思うんだけど……」

QB「ミサイルでも傷一つ付かないっていうのはおかしいね。なんでトイレにここまで過剰な防御を……」

マミ「……もうどうしようもないわね、これ。どうしましょうか、キュゥべえ?」

QB「そうだね。これ以上の調査は難しいし、この場所は保留にしようか。
  …… ただ、ひとつだけ分かったことがある」

マミ「えっと、何かしら?」

QB「このトイレの手洗い台は壊れてるってマートルが言ってたけど、それは間違いだ。
   ここまで頑丈に作られたものが壊れるなんてことありえない」

マミ「この洗面所は、最初から壊れてる風に造られたってこと?」

QB「いや、洗面所ですらない。その機能を最初から度外視されているのだから――」


QB「――これは、洗面台の形をした"何か"だろう」



.

263: 2013/02/05(火) 22:32:15.80 ID:ktpGB5m+0

QB「……まあ、だからと言ってこれが"秘密の部屋"に関連してるか、っていったら別問題だけどね」

マミ「ええ、そうね……もう行きましょうか? クィデッチの試合もいつまで続くか分からないし」

QB「あのスポーツ、競技時間が決まってないんだっけ? 確か最短4秒弱で終わったとか……」

マミ「急ぎましょうか。さすがに4秒ってことはないだろうけど……」


???『……シューッ!』


マミ「? キュゥべえ、いま何か言った?」

QB「? いや? でも、僕にも聞こえたよ。空気が漏れるみたいな音だろう?
   扉の外――廊下から聞こえたように思うけど」

マミ「……って、大変じゃないそれ! もう試合が終わってたりしたら……」

QB「フィルチがまたこの辺に居座りだす可能性もあるね。マミ、声を潜めて、外の様子を窺おう」

マミ「ええ、分かったわ……」


???『シューッ! シューッ!』


マミ『……扉のすぐ傍にいるみたいね。近くから音が聞こえる。……いや、これは声、かしら。
   歯の隙間から、思いっきり空気を出してるみたいな……』

QB『フィルチじゃないのかな? なんだろう、ピーブズが悪戯でもして……ん?』ピチャ

QB(トイレの床が水浸しだ。浸水してる? でもマートルが帰ってきた訳でもないみたいだし……)

マミ「……」

QB(マミはまだ気づいてないな。靴を履いてるし、扉に耳をくっつけて聞き耳立ててるからか。
   まあ、その内気づくだろうけど。どんどん水位が上がって……待て)


QB(この水はどこから来てる? いや、それよりも……あの日も、ミセス・ノリスが石にされた日も!
   水が、このトイレから溢れてた!)


QB『マミ、危険だ! 今すぐこのトイレから……!』


???「シュッー!」

267: 2013/02/05(火) 22:46:25.40 ID:ktpGB5m+0

 ばちゃん!


QB(背後から水音――まるで何かが水たまりの中に落ちてきたような。不味い!)

マミ『ちょっ、どうしたのキュゥべえ。そんな大声出しちゃ――きゃんっ!』ビチャッ

QB『逃げるんだ、マミ! 怪物だ! 多分、僕たちの背後にいる!』

マミ『えっ、嘘。怪物って……!』

QB『振り向いちゃ駄目だ! 刺激しないように、早くドアを開けて!』

マミ『わ、分かったわ……あ、あれ? なんで、これ』ガチャッ ガチャガチャッ

QB『マミ! どうしたの!?』

マミ「あ、開かない! 開かないの! ねえ、誰かいるんでしょう! 開けて! 開けてってば!」


???「……」


 ズルッ ズルッ 


マミ「ひっ!?」

QB(すぐ後ろから、何か重いものを引きずるような音が……もう、これは……)

268: 2013/02/05(火) 23:31:37.96 ID:ktpGB5m+0

夜 医務室


ハリー「……よーし、大体事情は分かったよ、屋敷しもべ妖精のドビー。
     君がなんで夏休みに僕の家に来てデザートをひっくり返して、
     さらに汽車に乗れないように駅の柵を封鎖した挙句、
     今日のクィディッチの試合ではブラッジャーを狂わせて僕の右腕をへし折ったのか、っていう事情がね」

ドビー「ああ、ハリー・ポッターにこんな説明台詞を喋らせてしまうなんて! ドビーは悪い子! ドビーは悪い子!」ガンガン

ハリー「やめて! それで、ドビー。君はさっき言ったよね? 秘密の部屋が前にも開かれたって。
     それって秘密の部屋は本当にあって、今もまた開かれてるってことだよね?」

ドビー「ああ、お聞きにならないでください! ハリー・ポッター、ただ、貴方様に危険が迫っているのでございます。
    どうかお家に帰ってくださいませ! どうか!」

ハリー「君が何をしようと、僕は帰らないぞ、ドビー! 僕の親友にマグル生まれがいる。
     それを放っておいて帰るなんて――」

ドビー「ああ、なんという勇敢さ! さすがは例のあの人を打ち破ったハリー・ポッター……
    ですが、ですが、だからこそ貴方様は自分の身を……」


 カツン カツン……


ドビー「! ああ、ハリー・ポッター。どうか、お願いいたします。お家に帰ってくださいませ――」パチン!

ハリー(消えた……ああ、そうか。足音が……誰かが医務室に来る?)


 ガチャッ


マクゴナガル「ええ、そうです。試合中に下級生の女子何名かが、不思議な声が聞こえたと訴えて……」

ポンフリー「ここに運ぶのがこの時間になった理由は?」

マクゴナガル「生徒たちに無用な混乱をさせない為にと……それまでは、私の部屋に」


ハリー(……マクゴナガル先生と、ダンブルドア先生? なにを抱えて……?)


ダンブルドア「……症状は、ミセス・ノリスと同じようじゃのう」

マクゴナガル「ええ。アルバス、これは……」

ダンブルドア「秘密の部屋が、再び開かれたということじゃな」


ハリー(……! 誰だ? 誰が犠牲に――あれ、あの、髪型は……)


マクゴナガル「……ですが、一体誰が? 誰が、こんな惨いことを……」

ダンブルドア「問題は誰が、ではなく……どうやって、じゃよ」





ハリー「……マミ?」