1: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:08:15.58 ID:X1YeSjvQ0


沈んでる


足掻くことを諦めて、冷たい水の底に沈んでいる


水面から差し込む日の光は無くなっていって


怖くなって、私は目を閉じる


瞼の後ろは真っ暗で


光なんて無くって、もう一度目を開けてみる





………


……………


やっぱり、光何て見えなかった



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2: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:10:35.16 ID:X1YeSjvQ0


どうしてこうなったんだろう


考えてみる


夢?どっかで寝ちゃったかな


それとも……気が付かないうちに世界がこんなになんちゃった!


なんて訳ないやんね


もう一度、瞼を閉じる


もう一度、瞼を開く


……?


そこは薄暗い水の中じゃなくって、真昼の無人島だった


3: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:12:10.40 ID:X1YeSjvQ0


でも、何だかおかしいよ


空には雲がいっぱいで


お日様は見えなくって


木にも草にも、海にも砂にも、色が無くって、つまらない


それに、この無人島も沈んでる


4: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:13:58.24 ID:X1YeSjvQ0


気が付くと、ほとんど沈んでるみたいな無人島


ここは何処なんだろう


どうやって来たんだろう?


これは夢?


地球儀にのってない、名前もない


無人島


私はそこに一人でいる


ぽつん










寂しいな


5: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:16:11.62 ID:X1YeSjvQ0


一日…二日……三日………それより後は、もう覚えていない





………


……………


Pさん、何処にいるんだろう


皆、何処にいるんだろう


一人はヤだよ


6: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:17:58.33 ID:X1YeSjvQ0


もう、何日が経ったのだろうか


そういえば、昨日は近くまで希望の船が来たけど


僕らを迎えに来たんじゃない


船はその姿だけ見せて、ささっと帰っちゃった


………あれ?


『僕ら』って、誰だろう


私しか、いないはずなのになぁ


7: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:20:12.62 ID:X1YeSjvQ0


……あっ


雲が晴れる


うわっ……


眩しいな


久しぶりのお日様だ


凄い、輝いてるなぁ


それでも、お日様以外に色は無いんだ





むっ


太陽に見惚れて、少しこげちゃった


……日焼けしたら、Pさんに怒られるなぁ


8: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:22:22.53 ID:X1YeSjvQ0


プリズムをはさんで手を振ったけど


うーん


特に何も起こんないや


つまんないなぁ


レッスンでもしてた方がマシだよ


うん、レッスン


……前の私なら、こんな事思わなかったなぁ


9: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:24:23.51 ID:X1YeSjvQ0


また、目を開けたら場所が変わってないかな


何て思いながら、瞼を落としてみる





………


……………


出来たら、いつもの事務所がいいな


10: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:26:14.18 ID:X1YeSjvQ0


………?


あ、ホンマに変わってる


何だろう?これ


……飛行船?


ほとんどしぼんでる、僕らの飛行船


うーん……まただ


『僕ら』って、誰なんだろう


11: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:28:15.93 ID:X1YeSjvQ0


わっ


この飛行船


地面をスレスレに浮かんでる


危ないなぁ


ちゃんと操縦してほしいなぁ


でも、誰が操縦してるんだろう


12: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:30:12.38 ID:X1YeSjvQ0


ん?


何だろう、あれ


とても表現できないような


呼び方もとまどう色の姿


そんな『色』が、飛行船の周りを漂っている


綺麗

醜い

優しい

怖い

好き

嫌い


どれにも当てはまらない、そんな色


13: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:33:23.99 ID:X1YeSjvQ0


気が付くと、周りにはいろんな動物がいる


とても飛べそうにはない、緑のゾウ

長い首からみんなを見下ろす、黄色いキリン

鬣を奮わす、灰色のライオン

必死に走る紅い犬、それを追う蒼い猫

空を泳ぐ銀色の魚に、尻尾を振る金色の猿

その上を翔ける、虹色の鳥


皆、飛んでいる


………?


奥に、人の影が見える





………


……………


あ、私だ


14: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:36:10.91 ID:X1YeSjvQ0


幼い頃の私


何も知らなかった頃の私


まぁ、今もそんなに変わらないのかもしれないけれど


今でも、何も知らないのかもしれないけれど


危ないよ


そんな所に居たら、鳥達に容赦なくつつかれる









あぁ、そういう事ね


15: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:38:04.98 ID:X1YeSjvQ0


あれは、私だ


そう


だって私の姿をしているんだもん


当たり前だよね


何も知らなかった頃


といっても、ほんの数年前の私だ


まだ、アイドルになる前の私


16: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:40:17.60 ID:X1YeSjvQ0


社会の事なんて知らなくて


高校卒業してどうするか、何て考えて無くて


親と喧嘩して家出して


道端で半べそになってて


Pさんにスカウトされた


あの日の私だ


17: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:42:05.46 ID:X1YeSjvQ0


あの鳥は、私自身だ


私の、私に対する、私のプレッシャーだ


高校を卒業したら実家を継げばいいかな


なんて、考えていて


進路の事なんて考えずに卒業して


いざやるぞ、となったら


私の両親は、想像には及ばない程の努力をしていて


必死に店を護っていたのを


初めて知って


18: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:44:14.31 ID:X1YeSjvQ0


私だって、実家の事について何にも勉強していなかった訳じゃないけど


それでも、二人の努力には到底及ばなくって


それで、悔しくって


何回も教えてもらったけど、何回も助けてもらったけど


それでも失敗ばっかりして


上手くいかなくって、喧嘩して


だけど、お父さんお母さんは私を心配して


探し出したと思ったら、知らない男の人と一緒にいて


いっぱい怒られたなぁ


Pさん、必死に説明してたなぁ


19: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:46:04.47 ID:X1YeSjvQ0


あの船を操縦していたのは、お父さんとお母さんだ


何も考えないで海から上がり


何にも無い無人島に、一人ぽつんと佇む私を


助けに来てくれた二人


それでも私は家出なんてして


20: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:47:59.20 ID:X1YeSjvQ0


『僕ら』は……私達、アイドルだ


そして、この飛行船を操縦しているのは……Pさんだ


アイドルの卵を引き連れて


飛行船を飛ばしている


船長のPさん


21: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:50:10.64 ID:X1YeSjvQ0


気が付くと


スレスレの地面は遥か下にある


操縦室へ行こう


―――――――――――――――
――――――――――
―――――


「ねぇ、Pさん」


―――――………


「これから、この船は何処にいくの?」


―――――――…………


「――向こう側?」


22: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:52:34.94 ID:X1YeSjvQ0


そうだ


この『色』は虹だ


努力をし、実る事への希望

失敗せず、成功する事への希望

後悔しないで、やり遂げる事への希望

私達の、意志が届くことへの希望

今までの私達の、色んな希望が混ざった虹


23: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:54:23.39 ID:X1YeSjvQ0


これから、私達はその向こう側に行くんだ


導いてくれるのは自分じゃない


周りの皆


親に助けられて

Pさんが引っ張ってくれて

仲間同士助け合って


でも、踏み出すのは自分だ


飛行船や船が連れてってくれるのはここまで


ここから飛んで、虹を超える




虹の向こうには、何があるのかな?


24: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:57:06.54 ID:X1YeSjvQ0


―――――――――――――――
――――――――――
―――――


「周子」


「……ん…」


「周子ー」


「………んー…」


「起きろ―」


「…………ん?」


25: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/11(木) 23:59:09.30 ID:X1YeSjvQ0


「………あれ」


「おはよう」


「……おはよう」


「よだれ垂れてる……ほら、拭け」


「ん……」


「どうした?」


「…何か、夢見てた気がするんだけど……思い出せない」


「よくある」


「うーん……」


「まぁ、思い出すのは後にして……もうこんな時間だ」


「え?あ、ほんまや」


「あと」


「んー?」


26: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/12(金) 00:00:10.31 ID:1jj9c1ga0


「誕生日、おめでとう」


「………ぁ」


「忘れてたのか?」


「…うん」


「はは、最近忙しかったからな」


「……うん」


「明日の準備で疲れてるだろう」


「………うん」


「今日も一日中レッスンだったし」


「…………うん」


「……何だ?言ってみろ」


「………………えへへ」


「ん」


「来るとこまで、来たんだなーって」


27: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/12(金) 00:01:44.99 ID:1jj9c1ga0


「はは……まぁ、まだまだこれからだけどな」


「そうだね」


「ほら、これ……プレゼントだ」


「わ」


「紗枝や奏と一緒に選んだからな、自信がある」


「そっか」


「他の皆からも楽しみにしとけよ」


「うん」


「皆、何で今日に限ってレッスン漬けなんだー!……って言ってたからな」


「ふふっ」


28: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/12(金) 00:02:45.45 ID:1jj9c1ga0


「よし、それじゃあ寮まで送るよ」


「うん……ぁ」


「ん?」


「……そういえば、私達が出会った記念日でもあるよね」


「はは、何だそれ」


「じゃあ、私からPさんにプレゼント」


「え?……おい――」


29: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/12(金) 00:04:05.67 ID:1jj9c1ga0


―――――――――――――――
――――――――――
―――――



「………えへへ」


「……周子」




「……今はまだ、ほっぺだけね」




「だから、待ってて?」




「始めては、その時までとっておくから!」




30: ◆5/VbB6KnKE 2014/12/12(金) 00:05:01.10 ID:1jj9c1ga0


どんな人にでも、明日は待ってるんだよね。


それがどんなに辛いものでも、嫌なものでも、逃げ出したくても。


きっとそれを乗り越えたら、素敵なものが待っているから。


失敗するのが怖くって、評価されないのが辛くって、努力するのが嫌になって、希望何て捨てちゃって。


希望何て持てなくて、光が見えない人にも。

光は見えたけど、その先には影しか無くっても。

影に隠れたくって、必死に逃げていても。

私みたいに、光に怯えて明日から逃げていた人も。

昨日まで、選ばれなかった僕らでも。




「明日を持ってる」




引用元: 【モバマス】塩見周子「色んな希望が混ざった虹」