魔女の結界


魔女「キャハハハハ!」


マミ「っ、確かに凄い大きさね……牛の頭に、大きな斧。さしずめミノタウロスといったところかしら?」

杏子「悪いな、マミ。アンタにほとんど任せっきりになっちゃうけど……」

マミ「大丈夫。これでも私、二年前より成長してるんだから!」

QB「マミ、遠慮することはない。結界の中の出来事は魔法省も観測できない筈だ。
   思いっきり魔法を使って大丈夫だよ」

マミ「もとより、そのつもり――さあ、いくわよ! インセンディオ!(燃えよ)」


 ゴォッ!


魔女「キャハ? キャハハハハ!」ダンッ

杏子「っ、効いてないぞ……突っ込んでくる!」

マミ「大丈夫、予想通りよ。あの怪物、遠くからは攻撃できないんでしょう?」

マミ「だったらまずは近づけて――避けられない距離で! ロコモーター・モルティス!(足縛り)」バシュッ

魔女「キャ!?」ズザザッ

杏子「っ、お……転んだ。もがいて……足がぴったりくっついて、動けなくなったのか?」

魔女「キャハッ、キャハッ!」グググ....

QB「でも、無理やり力尽くで拘束を解こうとしてる……長くは持たないよ、マミ!」




872: ◆jiLJfMMcjk 2013/06/10(月) 23:22:58.36 ID:s4cEiWrY0

マミ「カーコス・スペル!(針に変われ)」バシュッ

杏子「瓦礫が……小さいミサイルに!? なんでもありかよマミの魔法!」

マミ「使える呪文の中だと、これが一番威力があるんだけど……どこまで通じるかしら、ね!」


 バシュッ バシュッ バシュッ ガガガガガ!


魔女「キャアアアアァァァ……」

マミ「……見て! 体が、半分以上砕けてる!」

杏子「まだだ! あいつはあれくらいじゃくたばらないよ! もっとひどい状態から再生したこともある!」


魔女「……ァァァァアアアアアアア! キャハッ!」シュウウウウ


マミ「っ、確かに、だんだん砕けた部分が元に……なら、何度でも」

QB「――!? マミ、後ろだ!」

マミ「え――?」クルッ


魔女2「キャッハア!」ブンッ


マミ(な――同じ魔女がもう一体!? 駄目、呪文が間に合わな……)

杏子「通さないよ! 縛鎖結界!」ジャララララ!


 ガキィン!


魔女2「キャハッ!」

マミ「……エヴァーテ・スタティム!(宙を舞え)」バシュッ

魔女2「ァキャキャーーー!?」ヒューン

マミ「……相手が大きすぎて、あんまり飛ばなかったわね……! 助かったわ、佐倉さん!」

杏子「ああ、だけどあいつのあれは何なんだ? あたしも初めて見る……」

QB「分裂……? それとも複数いるタイプの魔女か?」

873: ◆jiLJfMMcjk 2013/06/10(月) 23:24:14.94 ID:s4cEiWrY0

杏子「……悪いけど、次は防げそうにない。魔力を使い切るつもりでやってもね」

QB「絶対にそんなことはしないでくれ、佐倉杏子」

杏子「魔力を使い切ると何が起きるか知らないけど、どの道このままじゃ潰されて終わりだよ?」


魔女1「キャハハハ!」シュウウウ.....

魔女2「……キャハ!」ムクッ


杏子「再生も終わりかけて、2体ともそろそろ攻撃準備完了って感じだ。マミの魔法じゃ、一度に2体は相手に出来ないだろ?」

マミ「……悔しいけど、ね。盾の呪文は、まだ練習中だし……そもそもあんな一撃を防げるかどうか」

杏子「この数秒で何とか仕留めなきゃこっちがやられる――くそっ、せめて魔力がありゃ幻惑魔法で逃げられるのに……」

マミ「……幻惑魔法? それって、確か昔佐倉さんが使った……」

杏子「ああ。そういえば、あの時もあれが決め手だったっけ。それがどうかした?」

マミ「……あの怪物、変だと思わない? 体が半分に欠けても平気で、分裂もして……それってまるで」

杏子「……幻惑? あいつも幻惑の魔法を使う魔女だっていうのか?」

QB「可能性はあるね。確かにあの強さは異常だ。でも、だとしたらどうする気だい?」

マミ「あれが、もしも本体じゃないのなら――」


魔女1・2「――きゃははは!」ダッ


杏子「……やばい! 両側から同時に飛びかかってきた!」

マミ(両方とも本体じゃなくて……ただの自衛の手段、武器に過ぎないとしたら……)



マミ「――エクスペリアームス!(武器よ去れ)」

874: ◆jiLJfMMcjk 2013/06/10(月) 23:25:04.41 ID:s4cEiWrY0

魔女1「きゃh」シュンッ


 ガランッ!


杏子「魔女の身体が消えて、斧だけが……? でも、反対側からはもう一匹が……いない?
    片方だけにしか魔法を当ててないのに……?」

マミ「……やっぱり! あの魔女、体は全部最初から偽物なんだわ!
   本体は残ったあれ――あのおっきな斧なのよ!」


斧の魔女「キャハハ!」


杏子「……そっか。あたしとおんなじ……だからここに来たのか?
    全く、幻惑使いが騙されちゃあ笑い話にもなりゃしない――でも、それも終わりだ」


斧の魔女「キャハハハハハ……」


杏子「マミ、頼むよ。やってくれ。その内、また幻惑を造って襲ってくるだろうしさ」

マミ「え、ええ……でも、いいの? あれは、佐倉さんの……」

杏子「……自分の手で仇を討ちたいって気持ちは、そりゃあるさ。でも……」チラッ

マミ「?」

杏子「……アンタ、怒ってくれただろ? あたしの家族の為にさ。なら、一緒だ。家族みたいなもんさ。
   "全てを分かち合えなければ、家族とは言えず"……父さんの説法の一節だよ。これくらいしか覚えてやしないけどさ」

マミ「佐倉さん……」

杏子「……やっちまえ、マミ!」

マミ「……ええ! レダクト!(砕け散れ)」


斧の魔女「キャ? キャアアアアアア!?」ピキッ パキッ


 パキィィィィイイン……


杏子(……終わったよ。父さん、母さん、モモ……)

875: ◆jiLJfMMcjk 2013/06/10(月) 23:25:31.70 ID:s4cEiWrY0

 シュウウウウウウウ


マミ「ソウルジェムの濁りが、どんどん吸い取られて……これで魔法が使えるようになるの?」

杏子「ああ。もうこの穢れを吸い取ったグリーフシードは使えないけどね。で、こうなったら……ほらよ、キュゥべえ」

QB「きゅっぷい」パクン

マミ「せ、背中から食べた……? キュゥべえ、そんなもの食べて平気なの? あの怪物の卵なんでしょう?」

杏子「平気だよ。こいつらの仕事みたいなもんなんだしな」

マミ「……」

杏子「……さて、教えて貰おうか。アンタだけがあたしとマミ、両方の事情に通じてるみたいだしね」

QB「……ああ、分かった。でも、とりあえず場所を移して――」


???「おや、魔女が消えたと思ったら……杏子、君か。どうやら持ち直したらしいね。おめでとう」


マミ「え……? この、声……」

QB「……」


QB2「うん? おかしいな、この地区は僕の担当の筈……おや、廃棄個体じゃないか。
    驚いたよ。まだ稼働していたんだね。そう長くはもたないと思ったけど……」


マミ「キュゥべえが、もう一匹……!?」

杏子「……あたしも並んでるのを見るのは初めてだね。でも、そっか。
    世界中に魔法少女がいるなら、確かに複数いる方が自然か」


QB2「まあ、そうだね。といっても、そこの廃棄個体は既にその役目から外されているけれど」


マミ「廃棄、個体……? 私のキュゥべえのこと?」


QB2「君は……ああ、報告にあった突然変異体のひとつか」

マミ「突然変異、って――」

QB2「ふぅん……とはいえ、魔法少女の素質もかなり持ってるみたいだね。どうだろう。僕と契約して――」

QB「――やめろ」

マミ「キュゥべえ?」


QB2「おや、邪魔するのかい? やれやれ、これだから精神疾患患者は……
    いくら廃棄された個体とはいえ、僕らの持つ使命の重大さは分かっている筈だけどね」

QB「そんなもの、どうだっていい。ただ、マミを魔法少女にするのは認められない」

QB2「……まあいいさ。変異体との接触は危険だし。どの道、この辺りの魔女はまた杏子が狩ってくれるだろうしね。
   それじゃあ杏子、使用済みのグリーフシードがあればいつでも呼んでくれ」




マミ「行っちゃった……キュゥべえ、どういうことなの?
   あのキュゥべえは、あなたと同じ種類の猫……ってわけでもなさそうだけど」

QB「……僕は猫じゃない。正式な名称は、インキュベーター。
   契約によって魔法少女を生み出し、そこから発生するエネルギーを回収するためにこの星へきたんだ」

876: ◆jiLJfMMcjk 2013/06/10(月) 23:27:48.95 ID:s4cEiWrY0

見滝原 自宅


マミ「感情エネルギーに、魔法少女システム……?」

杏子「そんなもんの為に、アタシらをゾンビもどきに――いや、化け物に変えたってのか!?」

QB「……否定はしないよ。宇宙の熱的死を防ぐために、僕らの種族は君たち人類に目をつけた。
   その過程で生まれたのが魔法少女システムだ。エネルギーを集める方法は三つ」

QB「一つ目は、魔法少女の契約を交わすこと。魂を抽出してソウルジェムに変換する際にもエネルギーが発生する。
   このエネルギーを利用して、僕らは君たちの願いを叶え、ソウルジェム変換の際に僕らから失われたエネルギーも補填する」

QB「二つ目は、使用済みのグリーフシードを吸収すること。魔法少女が魔法を使う際に使用してるのは正の感情エネルギーだ。
   その反作用として相転移した負のエネルギーも収集している。あまり効率が良いとはいえないけどね」

QB「そして三つ目。本命は……ソウルジェムが濁りきり、魔法少女が魔女へと成長する際に生まれる、莫大なエネルギーだ」

マミ「人が、あの怪物に……?」

QB「……そうさ。それが魔法少女システムの核だ。僕らはそうして、有史以前から君たちの歴史に干渉してきた。
   より効率よく感情の相転移が発生するよう、文明の発展を助長すらして――」

杏子「テメエ、よくもぬけぬけと……!」グイッ

QB「ぐっ……」

マミ「佐倉さん!? キュゥべえを……!」

杏子「こいつのせいだろうが! 全部こいつらの都合じゃねえか!
    魔女が生まれたのも、そのせいで人が死ぬのも! こいつらのマッチポンプの結果じゃねえかよ!
    テメエら、あたしたちのことを家畜とでも思ってんのか!?」

QB「い、以前の僕なら……つまり、普通のインキュベーターなら……そうだ。
   言葉尻はどう繕おうと、それと似た認識であったことは否めない」

杏子「なら教えてやるよ、家畜だって時には飼い主を絞め殺す時があるってこと――」

マミ「やめて! 佐倉さん、キュゥべえを放して!」

杏子「マミ……」

マミ「……キュゥべえ、答えて。あなた、確かに最初の頃は契約して欲しいって言っていた……
   けれど、最近では全然言わなくなったわよね? それはどうして?」

877: ◆jiLJfMMcjk 2013/06/10(月) 23:30:45.14 ID:s4cEiWrY0

QB「……さっきのインキュベーターが言っていただろう? 僕は廃棄された個体なんだ」

マミ「それって、具体的にはどういうことなの?」

QB「僕らが、なぜ君たち人類に目を付けたか――それは、インキュベーターが感情を持たないからだ。
   僕らの星では、感情というのは極稀に見られる精神疾患でしかなかった。これでは感情エネルギーを回収できない。
   それに、僕らとしても感情というのは集団の統率を乱す厄介なものだという認識しかなかった」

マミ「……」

QB「でもある時を境に、僕という個体に感情が生まれてしまった。
   マミ、君と出会ったのはダイアゴン横丁のペットショップでだったね?」

マミ「え、ええ……あの店主さん、キュゥべえが新種の猫だって言って……」

QB「僕は本来、イギリスのロンドン地区を担当している個体だった。
   だがある時偶然、奇妙なエネルギーの反応を見つけたんだ」

杏子「それって、マミ達の言う"魔法使い"って奴か?」

QB「その通りさ。多分、未熟な魔法使いが何かをやらかしたんだろう。
   それまで、僕らインキュベーターは魔法界の存在にまったく気づかなかったし、おそらく向こうもこっちに気づいていない」

マミ「だけど、キュゥべえは気づいた」

QB「そうだ。そこでインキュベーターの出した結論は"調査"であり、最寄りの僕がその役目に抜擢された。
   結果的に失敗したんだけどね。遮蔽フィールドが上手く働かなかったんだ。今考えると、それも当然なんだけど。
   結局、僕は魔法で捕まって、未知のエネルギーを浴びたということで、インキュベーターのネットワークからも隔離された」

マミ「それが原因で感情が……?」

QB「おそらく、切っ掛けはそれだろう。彼らの魔法には、対象に感情を形成させる効果があるのかもしれない。
   それから一年間、僕はホグワーツで魔法界の文化や技術を学んだけど、結局、次の夏には"廃棄"――
   記憶共有ネットワークからの永久追放が決定された」

杏子「……それでか? 魔法少女の契約を仄めかさなくなったって言うのは、
   アンタがインキュベーターでなくなったからってだけ? はん! それまで散々人を化け物に変えておいて、
   いざ自分が群れから弾き出されたら何にもできないってわけ?」

QB「……」

マミ「……それは、多分違うんじゃないかしら」

878: ◆jiLJfMMcjk 2013/06/10(月) 23:31:42.35 ID:s4cEiWrY0

杏子「違う? なにが違うって言うのさ」

マミ「さっきのキュゥべえ……その、インキュベーター? が言ってたけど、
   彼らにとって、エネルギーの回収は大切なことなんでしょう?
   なら、仲間外れにされたってその目的は変わらない筈よね? それとも、もう契約は出来ないの?」

QB「……契約のシステムは、個体そのものに搭載されている。当然、僕にもだ。
   通常のインキュベーターが効率を重視して素質のある二次性徴期の少女としか契約しないことを考えると、
  それを無視できる僕の方が、契約できる対象に関しては幅広いともいえる」

杏子「なら、なんでだよ。なんでアンタは契約しようとしない?」

QB「……僕にも、よく分からないんだ。でも、マミとは絶対に契約をしたくない。
   マミだけじゃない。僕らに関わりのある人間なら、誰だってそうなんだ……魔法少女にはしたくない」

杏子「……」

マミ「……佐倉さん、キュゥべえを放してあげて」

杏子「マミはこいつらを許すっていうのか? こいつらがしてきたことは聞いただろう?」

マミ「確かに"インキュベーター"がしてきたことは悪いことだと思う……
   私は当事者じゃないけれど、佐倉さんが"魔女"になるのは嫌だもの」

QB「……」

マミ「でも、"キュゥべえ"は……少なくとも、いまはもう違う。
   佐倉さんを魔女にしない為に頑張ってくれたし、なによりずっと私と一緒に居て、支え続けてくれている……」

杏子「……」

QB「マミ……」

マミ「佐倉さん。キュゥべえは私の"家族"よ。そして、全てを分かち合えなければ、家族とは言えないんでしょう?」

杏子「……」

マミ「もしも佐倉さんがキュゥべえを許せないって言うのなら、私もあなたの怒りを受け止めるわ。
   私はキュゥべえを守りたい。だから――」

杏子「えい」


 ドスッ

879: ◆jiLJfMMcjk 2013/06/10(月) 23:35:19.08 ID:s4cEiWrY0

マミ「さ、佐倉……ひゃんっ!?」ビクッ

杏子「なんだよ、大げさだな。ちょっと腹を突いただけだろ。
    ……にしても、だらしないねえ。もうちょっと腹筋つけたら?」ムニムニ

マミ「ちょっ、や、めっ――なにするの、もう!」バッ

杏子「……ふん。まあ、これくらいで許してやるさ。マミの頼みだしな。
    安心しな。もう誰とも契約しないってんなら、別にやっちまおうなんて思わないよ」

QB「……佐倉杏子、君はそれでいいのかい?」

杏子「……まあ、あたしが助かったのもアンタのお陰だしね。
    マミは魔法少女のこと、な~んにも知らなかったみたいだし……」

マミ「う……思いっきりすれ違いしちゃってたもんね……
   佐倉さんの家に遊びに行く時は、魔法関連の話題はだせなかったし……」

杏子「ああ……そういや、キュゥべえ。さっきの奴、マミのことを変な風に呼んでなかった?
    えーと、なんだったっけ……」

マミ「突然変異、だったかしら? それって、たぶん魔法使いのことよね? どういうことなの?」

QB「……これは僕の推測だけど、魔法使いって言うのは魔法少女の亜種なんだと思う」

マミ「魔法少女の……?」

QB「ああ。僕らが有史以前から君たちの歴史に干渉してきたっていうのは覚えてるかい?
   そうして見てきた人類の進化の過程で、あんな超自然的な力をもつような存在が発生するとはとても思えない」

QB「おそらく、魔法少女の突然変異なんだろう。基本的に魔法少女の平均寿命は短いけれど、
   中には成人して、子を成すものがいなかったわけでもない。
   魔力を帯びた体で妊娠すれば、胎児にその影響が出る可能性はある」

マミ「それで生まれたのが、魔法使い……?」

QB「多分ね。魔法少女と魔法使い、両者の魔法を使うプロセスは似すぎているんだ。
   どっちも同じ、感情や精神のエネルギーを変換して超常現象を起こしている」

杏子「それじゃ、あたしもマミみたいな魔法が使えるの?」

QB「いや。突然変異の過程で、必要な素質は別のものになったんだろう。
   君みたいに魔法少女としての素質だけしか持っていない子の方が圧倒的に多い。
   もっとも、変異体――魔法使いの方は、同時に魔法少女の素質を持ってる子も多いみたいだけど」

マミ「どうして?」

QB「基本的に、魔法使いの素質は遺伝で継承されていくものだから、かな。
   分化したとはいえ、魔法使いは魔法少女に近しい。だから両方の素質を持つこともよくあるんだろう。
   反対に、魔法少女の素質は血筋に影響されない。するのかもしれないけど、魔法少女が出産することはほぼないからね。
   だから魔法少女自体は世代を重ねることがほとんどなく、突然変異のしようがない」

杏子「しゅ、出産って……おい。おい!」バシバシ

マミ「い、痛い痛い! やめて佐倉さん! ……えーと、つまり優性遺伝子とか劣性遺伝子とか、そんな感じってこと?」

QB「正確には違うけど、ニュアンスとしてはそう受け止めてもらって構わないよ」

杏子「……にしても、聞いた話だと魔法界ってのはずいぶんでっかい組織みたいだけど、
    アンタらはずっとそれに気づいてなかったわけ?」

QB「もしかしたら、魔法少女と混同していた可能性もある。
   初期の頃は、それこそ二次性徴期の少女に限らず片っ端から契約していたからね」

マミ「魔法史の授業では、昔は魔法使いもこっち側に混じって生活してたって……
   それを誤認してたってこと?」

QB「魔法少女の祈りや願いは、時として人類を次のステージへと導いてきたと今まで僕らは認識していた。
   だけど、もしかしたらその内のいくらかは魔法使いの手によるものなのかもしれないね」

880: ◆jiLJfMMcjk 2013/06/10(月) 23:37:48.80 ID:s4cEiWrY0

杏子「……まあ、話は分かったよ。んじゃ、そろそろあたしは行くね」スクッ

マミ「そう? それじゃあ一緒に買い物に行きましょう。帰ってきたばっかりで、冷蔵庫の中身が空っぽなのよね」

杏子「は……? なんであたしが買い物に付き合わなきゃならないのさ」

マミ「あ、それもそうね。まずはお風呂に入って、ついでに着替えないと。
   私の服、貸してあげるわね。サイズは、まあ……とりあえず入ればいっか。
   どうせ新しくいくつか買わなきゃだし、その時ついでに――」

杏子「待て待て待て待て! だから、どうしてあたしがそこまで世話に――」


マミ「どうしてもなにも、佐倉さんは今日からここで暮らすんだから」


杏子「……はぁ!? なんで! き、聞いてないよそんなの!」

マミ「言ってないわね、そういえば。でも、別にいいでしょう? もう私達、家族なんだし」

杏子「いや、あれは物の弾みで……お、おい、キュゥべえ!」

QB「うん、なんだい?」

杏子『テレパシーで話すぞ……どうしたんだよ、マミ。ここまで強引な奴だったか?』

QB『……あのね、杏子。マミは君の家族の不幸を知ってから、物凄く君に執着してたんだ。
   事件のことが載った古新聞やら古雑誌やらをそこら中から掻き集めてくるし、毎晩泣き通しだったし……』

杏子『……そ、そうなのか? だってあたしら、一ヶ月ちょいくらいの付き合いだったんだぞ?』

QB『マミにとっては、それ以上の関係だったんだろう。その君がこうして無事でいると分かったら……ね?
   もともと、彼女は世話焼きな面が強いし……』

杏子『……や、そりゃ、あたしだってマミとまた会えたのは嬉しいし、ほとんど唯一の友達だけどさ……
    でも、だからってそこまで世話になるわけには……』

QB『……ちなみに、杏子』

杏子『あん?』

QB『たぶん君は知らなかったんだろうけど、マミもテレパシーは使えるよ』シラッ

杏子「……え? え!?」

マミ「――佐倉さん!」ダキッ

杏子「わぷっ!? むー! むー!」ジタバタ

マミ「そんな、一番の友達だなんて……でも嬉しい! 私も佐倉さんは大切なお友達よ!
   とにかく落ち着く先が見つかるまででも――ううん!
   ずっと一緒だって構わないわ! だって私達、もう家族なんですもの!」

杏子『放せ! 放せ! おい、この……キュゥべえ! なんでそれを先に言わないのさ!』

QB「聞かれなかったし……諦めなよ、杏子。無理に逃げ出しでもしたら、ミザリーみたいな展開になると思うよ。
   それもアニーが勝利して終わる結末で」

マミ「えへへ、佐倉さん♪ 佐倉さん♪」ギュウウウ

杏子『ミザリー!? なんだよそれ――あああああ! 分かった! 分かったからとにかく放せー!』

881: ◆jiLJfMMcjk 2013/06/10(月) 23:40:41.41 ID:s4cEiWrY0


 ガチャッ


さやか「ちぃーっす! さやかちゃんでーす! 学校終わったから遊びに来ましたー!
     いやーマミさんの帰る日を私達、心待ちにしてたんですよ!
     鍵開いてたし、何か中から声がしたからつい必殺"サプライズ・お邪魔します"しちゃいました……け、ど……」

杏子「むー! むー!」

杏子(だ、誰だ!? い、いやこの際誰でもいい! こいつ何とかしてくれ!)

マミ「――♪」ギュウウウ


さやか「……」

さやか(な、なんだこいつ? なんでマミさんとあんな情熱的な熱いホットな抱擁を……)


 ドタドタドタ


まどか「も、もう! 駄目だよ、さやかちゃん! 勝手に入ったら! めっ!
     うちのタツヤだって、最近はきちんとノックができるように――
     って、なんでさやかちゃん、手のひらで目隠しするの? これじゃ何にも見えないよ?」

さやか「見るな! まどかにはまだ早い! それよりイギリスって、そういうのOKな国だったっけ!?」

まどか「え? そういうのってどういうの? もー! 見せてくれないと何にも分からないよ!」

さやか「いいの! そのままのまどかでいて! そ、それじゃあ後は、アダルティーな二人に任せて……」

杏子「……ぷはっ! 待てこら! マミの知り合いなんだろ!? 行くんならこいつを引きはがしてから行け!」

さやか「りゃ、略奪愛!? そういう特殊な性癖はちょっと……!」

杏子「見滝原には馬鹿しかいないのかよ、おい!?」

まどか「え、誰? 誰、この声? 今、さやかちゃんが罵倒された気がする……!」

さやか「んー? なんであたし限定なのかなー? おかしーなー?
     背後を取ってるあたしの方が有利だって、お馬鹿なまどかちゃんには分からないのかなー?」ギュウウウウウ

まどか「いたたたた!? や、やめてよ、さやかちゃん! 目をぎゅってしちゃダメ!
     こんなの、さやかちゃんだってしたくない筈だよ……!」

杏子「ああああああああああああ! 馬鹿が増えた! 畜生やってらんねー!」

マミ「佐倉さぁん……♪」

920: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:33:33.96 ID:0gckZWHD0


 ――賑やかで、とても楽しい夏休みが始まります。




さやか「マミさんマミさーん! 混ぜるのってこれくらいでいいですかー?」

マミ「えーと、どれどれ……うーん、もうちょっと混ぜた方がいいわね。全体的に白っぽくなるまでお願いできる?」

さやか「うぃっす! ほらほら、まどかもファイト! そんなんじゃ美味しいケーキにならないぞ!」

まどか「うぇ~……もう腕が痛いよぉ……」

さやか「だらしないなぁ。まどかのパパさんは料理上手なのに。
     お菓子のひとつも作れなきゃ仁美みたいにモテないよ。ラブレター欲しいんでしょ!?」

まどか「そ、そんな大きな声で言わないでよ……っ」

杏子「……」カシャ....カシャ....

さやか「……で、杏子はいつまで粉振るってるわけ?
     火薬じゃないんだから、そんなおっかなびっくりやんなくたっていいでしょうに」

杏子「う、うるさい! まともな菓子作りなんて初めてなんだから集中させろって!」

マミ「ま、まあ丁寧に振るってくれれば、その分ダマになりにくくなるし……」

杏子「だよな!? ほら見ろ、さやか。あたしは間違ってないぞ!」

さやか「じゃあ三日くらいずっと振るい続けてればいいさ!」

杏子「舐めんな! 今日の夜には振り終わってるよ! 舐めんな!」

マミ「も、もうちょっと早く終わらしてくれると嬉しいかな?」

まどか「そういうさやかちゃんは、お菓子作りの経験あるの?」

さやか「いや、ないけど。でもまだ混ぜるだけだし、こんなの簡単だい!
     うりゃうりゃうりゃうりゃ!」ガッシャガッシャ

まどか「ちょっと、わっ! さやかちゃん、そんなに乱暴にやったら飛び散っ……」

さやか「うりゃりゃりゃー――あっ」ツルッ


 べちゃっ


マミ「……」ポタ.....ポタ.....

まどか「あ、ま、マミさん……! 酷い、材料の入ったボウルが、まるでヘルメットみたいに……!」

さやか「あ、あわわわわ……!」

杏子「テメエ、食い物を粗末に……!」

マミ「……」ポンッ

杏子「なんだよマミ、いまからこいつに食い物の大切さを……はっ!」

マミ「……」ゴゴゴゴ

さやか「ひ、ヒィ……っ!」

まどか「マミさんのオーラが膨れ上がっていく……!?」

杏子(あ……有り得ねえ……っ! 幾多の魔女をぶっ倒してきたあたしが、ビビってるだと……!?
    いまのマミは普通じゃない……! さやかの奴はもう"生きて"ねえ!
    "生かされてる"! マミに、この世界に……! もう自分の肺で呼吸もできねえ有様……!)

マミ「美樹さぁん……?」

さやか「ほ……本当の自分を忘れるな! 本当のマミさんは心の中にいる! 肉体はただの肉体だ!
     ちょっと砂糖バターまみれになっちゃいましたけど――あ、ちょ、やめっ! やめてください!
     すいません! マジすいませんっした! だから卵黄は! 卵黄刷毛だけはなにとぞ……!」

921: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:33:59.71 ID:0gckZWHD0

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 チーン!


まどか「あ、焼きあがったみたい! ……うーん、甘くていいにおーい……」

杏子「早く出そう! てかもう出していいか!?」

マミ「えーと、ちょっと待って……うん、中まで焼きあがってるみたいだし、大丈夫よ。
   熱いから気を付けてね。はい、キッチンミトン」

さやか「おいおい、大丈夫かーきょーこー? 落ち着きがないなぁ。見てて不安だよ。
     なんならこのさやかちゃんが代わってやってもいいぞよ!」

マミ「美樹さん」ニッコリ

さやか「はい!」

マミ「座ってなさい」

さやか「はい!」


杏子「よっ……と。おー、色合いは地味だけど美味そうだな」

まどか「ダンディーケーキ、っていうんだよね。イギリスのお菓子の……」

さやか「それじゃ、さっそく切り分けましょう! ここは刃物が似合うさやかちゃんが!」ギラリ

マミ「あ、待って。これって、ここから数日寝かせないと駄目なのよ」

さやか「え!? じゃあ今日は食べれないってことですか!? そんな、酷いですよ!
     ここまできて生殺しじゃないですか!」

マミ「美樹さんがひっくり返したタネが、すぐに食べれるパウンドケーキの分だったのよ?」ニッコリ

さやか「すんませんでした!」

まどか「さやかちゃーん……」

杏子「テメエ……」

さやか「う……だ、だから反省してるって、ほんと……」

マミ「……ふふっ。意地悪はここまでにして、お茶にしましょうか。
   余った分のタネで、カップケーキを焼いておいたの」

杏子「あ、なんだよ。もうネタバラシしちまうのか」

まどか「いひひひ。さやかちゃんもきちんと反省してるみたいだし、ね?」

さやか「え……え!? そうだったの? も、もうみんな人が悪いなぁ!
      あ、それじゃあお茶はあたしが淹れますよ!」ガタッ

杏子「座ってろ。さやか」

まどか「さやかちゃん、お座り」

マミ「美樹さん、座ってなさい」

さやか「……はい」

922: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:35:02.52 ID:0gckZWHD0

さやか「んー! 美味い! やっぱマミさんのお菓子はめちゃ美味っすね!」

まどか「ほんと。ふわふわしてて、口の中でとろけるみたい」フニャー

マミ「そんな、大げさよ。レシピさえあれば、誰だって作れるわ」

杏子「いやーどうだろうね。特に今回焼いたやつは、別々にタネを作って焼いたし……
    さやかのやつとか食えんのかぁ?」

さやか「んなっ! 失礼しちゃうねほんと! 杏子、あんた本当にマミさんの従妹なの?
     性格が180度くらい違うじゃん。そんなんで一緒に住むとか平気なわけ?」

杏子(そりゃ本当は赤の他人だしなぁ)

マミ「まあまあ……大丈夫よ。あのケーキ、そんなに難しくないもの。後で包むから、お家で家族の人と食べてね?」

さやか「ごっつぁんです! ……にしても、マミさんは二つ焼いてましたよね、ケーキ。杏子の分と合わせると三つ……
     その量二人で食べるんですか? なるほど、だからそんなナイスバディに……」

まどか「でも、さやかちゃん。ほら……」チラッ

杏子「なんだよ、まどか。あたしに何か言いたいことでもあんのか、ああん?」

まどか「ななな、なんでもないよ!」

さやか(完全にチンピラだ!)

マミ「冗談は置いておいて……私が焼いたのは友達に送るのよ。このケーキってすごく日持ちするから」

まどか「もしかして誕生日とかですか?」

さやか「あっ、馬鹿! まどか!」

まどか「え? あっ……う、うひひひひひ」

マミ「? それもあるけど……その子から手紙が来たの。なんでも、飢え死にさせられそうだとか……」

まどか「そ、それは流石に冗談じゃ……?」

マミ「どうかしら? まあ何にしてもお誕生日だったから。
   こうやってみんなでお菓子作りもしてみたかったから、ちょうどいいかなって」

杏子「ま、そいつのお陰でこうして美味いもんが食えるんだから感謝しないとな」モグモグ

さやか「ふーん……ところでそれって、向こうの友達ですよね?
     わざわざイギリスにまで、それも手作りのケーキを送るなんて……もしかして彼氏とかですか!?」

マミ「ぶふっ!? こほっ、こほっ。み、美樹さん、何を……」

さやか「そ、その焦り様……まさか本当に!? あたし達のマミさんに彼氏が!?」

まどか「ええええええ!? そんな――で、でも、確かにマミさんは綺麗だし、スタイルもいいし……」

マミ「違っ……違うったら! ハリーくんは、別の寮のシーk……えーと、女子バスの代表選手が好きって噂で!」

さやか「へー、ハリーっていうんですね、その人。カッコいいんですか?」

マミ「だから違うのよ、違うんだってば本当に!」

杏子「そこまで否定しなくてもいいだろうに……んじゃ、マミは好きな奴とかいないのか?」

マミ「……うーん……そう言われると、確かに……友達として中の良い男の子はいるけど、かっ、彼氏とかは考えたことないわね。
   まほ――勉強で忙しいっていうのもあるんでしょうけど」

さやか「なぁ~んだ。つまんないの」

杏子「そういうさやかはどうなんだよ? 好きな奴とかいないの?」

923: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:35:28.71 ID:0gckZWHD0

さやか「あ、あたしぃ!?」

マミ「そういえば、上条くん、だったかしら? 幼馴染の彼とはどうなって――」

さやか「や、やだなぁマミさん! 恭介の奴とはそれこそ幼馴染ってだけですよぉ! ね、まどか!」

まどか「上条君とさやかちゃん、凄く仲がいいんですよ。とってもお似合いかな、って」

さやか「まどかぁぁあああああああああ!?」

杏子「んだよ、自分のことは棚に上げて他人ばっかり囃したてやがって。ひゅーひゅー!」

マミ「ひゅ、ひゅーひゅ、ぅう……」

さやか「きょ、杏子め……! マミさんも恥ずかしいんなら無理に乗らんでください!」

まどか「それでですね、この前なんか放課後の教室で、なんとひとつのイヤホンを二人で――」

さやか「うぉぉぉおおおお! 一番の敵はあんたかまどかーーーー!」

マミ「こ、こほん。それじゃ、二人の相性とか占ってあげましょうか?」

まどか「え!? マミさん占いとかできるんですか!?」

マミ「ええ、向こうで流行ってるの」

杏子(お、おい。ちょっとマミ。向こうって、まさか魔法か? 使っちゃ不味いんだろ?)

マミ(平気よ。これは杖を使わない、テレビでやってる朝の占いの延長みたいなものだから)

まどか「さやかちゃん! やってもらおうよ!」

さやか「え、別にいいし? 恭介のことなんかなんとも思ってないし? 占いとかも信じてねーし?」

まどか「あちゃー……完全に意地になっちゃってるよー……。
     ところでマミさん、それってどんな占いなんですか? 誕生日とかで占うとか?」

マミ「そうね、そんな感じ。名前や生年月日を決められた数字に置き換えて……」

まどか「あ、それじゃ私を占ってもらってください。もちろん好きな人との相性占いで!」

さやか「はい!? なにそれ初耳だよ!? まどか、いつの間に……」

杏子「へえ、やるじゃん。ちんちくりんのくせに」

マミ「いいわ。それじゃあまず、名前と生年月日を教えて貰っていいかしら?」

さやか(まどかの好きな人……誰なんだろう……)ワクワク

まどか「はい! 私の名前は美樹さやか! 相手の名前は上条恭介くん! 誕生日は――」

さやか「へえ、あんたもさやかっていうんだ――って、んなわけないでしょうが! ちょっとまどか何やって」

 がしっ

さやか「なっ……杏子!? は、放せぇ……!」

杏子「やりな。こいつはあたしが引き受ける」

さやか「くっ、この馬鹿力……ま、マミさんは違いますよね? こんな悪ふざけ、許しませんよね?」

マミ「ついでにデートの日取りとかも占ってみましょうか?」

まどか「あ、それなら夏休み明けに、さやかちゃんと上条君、東京の方のコンサートに行くらしいんですけど――」

さやか「マミさん!? そんな、なんで――あ、もしかしてまだケーキのタネぶっかけたこと怒ってます!?
     ねえ、ちょっと、あっ、そんなイイ笑顔で淡々と占いを……」

924: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:35:54.26 ID:0gckZWHD0

QB「もぐもぐ。ああまったく。あの二人がいると僕は外に出てなきゃいけないから大変だよ」モグモグ

杏子「いいだろ、半日外に出てるくらい。お陰でそうやってケーキ食えたんだからさぁ。つーかお前、よく食うのな。
    どこに入っていくんだよ、その量」

マミ「キュゥべえって意外にたくさん食べるのよね……それだけ食べても太らないって、羨ましいわ、ほんと」

QB「んぐ……きゅっぷい。本来なら、食物の摂取はそんなに重要じゃないんだけどね。
   使用済みのグリーフシードから回収できるエネルギーの一部を、活動用の動力に回せるから」

杏子「グリーフシードを? そんなに栄養あんのか、あれ?」

QB「栄養、という表現は正確じゃないけど……感情の力っていうのはエネルギーとして理想的なんだ。
   ジェムの穢れは魔法の反作用だけど、そこから回収できるエネルギーは魔法によって発生した総熱量よりも多くなる」

杏子「……? なに言ってんだこいつ。分かるか、マミ?」

マミ「え? えーっと……結局たくさん栄養があるってことでいいのよね?」

QB「……もうそれでいいよ。間違いではないしね――ごちそうさま、マミ」

マミ「お粗末様。じゃ、これ洗っちゃうわね?」

杏子「あ、それならあたしがやるよ。マミは座ってな」ヒョイッ

マミ「あら、本当? ありがとう、佐倉さん」

杏子「気にすんなって。母さんの手伝いはよくしてたし、その……」

マミ「……どうしたの?」

杏子「いっ、いや。なんでもない。とにかく、ぱぱっと洗ってきちまうからさ」

925: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:36:22.56 ID:0gckZWHD0

マミ「それじゃあ洗い物は佐倉さんに任せて……宿題でもしようかしら?
   えーと、トランクは……鹿目さん達がくるから、押し入れの奥にしまいこんじゃったのよね」

QB「見られると不味いからね。魔法界のことも、あとできれば魔法少女のことも彼女たちには知らせない方がいいだろう」

マミ「……あの二人にも魔法少女の素質があるなんてね。でも、キュゥべえ。それなら早い内に伝えた方がいいんじゃない?
   もしもインキュベーターと契約しちゃったりしたら……」

QB「それも対策のひとつではあるけど、今は下手に興味を持たせない方がいいと思う。
   "二人とも、魔法少女としての素質は並だからね"。僕ら――いや、インキュベーターが契約を持ちかけない可能性もある」

マミ「そうなの? 私にも声をかけてきたし、てっきり契約できる子には片っ端から話を持ちかけるものだと……」

QB「基本的には、そうだね。インキュベーターは契約を躊躇わないだろう。
   そもそも、そういう風に造られてるしね」

マミ「造られてるって、そんな何かの製品みたいに……」

QB「いや、実際にそうだよ。なるほど、製品というのは上手い喩えだ」

マミ「……え?」

QB「魔法少女システムを搭載して、グリーフシードの取り込みまで出来る生物が自然発生する筈ないだろう?
   僕らは大昔――システムを構築した当時に、自らの身体に手を加えたんだ。この姿形も本来のモノではないし」

マミ「――ちょっと待って。なんだか気軽に、物凄いことを聞いてる気がするんだけど……」

QB「そうかい? 確かに元々はこうした個としての認識も薄かったからね。
   感情を得た現在でもなお、僕と君の認識にちょっとずれがあるのは当然なのかもしれないけど」

マミ「ちょっとってレベルじゃないわよ……」

QB「まあ、とにかくインキュベーターは基本的に契約の為だけに存在しているってことだ。
   だから基本的に、素質のある子に契約を求められればそれを拒めない。
   もしもまどか達が、魔法少女の運命を背負ってなお、叶えたいと思う願いを持っていれば――」

マミ「……それを止める方法はない。なら、下手に魔法少女のことを教えない方がいい、か。
   でもキュゥべえ、それならインキュベーターが契約を持ちかけないっていうのは?」

QB「現在、この辺り一帯は杏子の縄張りだ。彼女は魔法少女の中でも非常に優秀な部類に入る。
   フィジカル的にも、メンタル的にもね。現存する魔法少女の中でもトップクラスだろう。
   だから将来的に――言い方は悪いけど――彼女が生産する使用済みグリーフシードは莫大な数になる」

マミ「……そっか。それで得られるエネルギーの量が、鹿目さん達との契約で得られる量を超える見込みなら――」

QB「わざわざ不確定要素をこの地域に撒く必要はない。仮に杏子が、その……魔法少女を続けられなくなっても、
   その時改めて彼女たちに契約を持ちかければいいしね。だからあと数年は猶予がある」

マミ「……確かに今のところ、二人にインキュベーターは近づいてないわよね」

QB「ああ。もっとも、だからといって完全に安心できないのも確かだ。
   これはあまり例がない話だけど、素質の大きさが変化してしまう可能性もゼロじゃない」

マミ「素質の、変化――?」

QB「そう。契約と魔女になることで得られるエネルギーの量は、その子の素質の大きさに比例するんだ。
   もしも何かのきっかけで二人の素質が大きくなることがあれば、インキュベーターは契約を持ちかけるかもしれない」

マミ「……そもそも、魔法少女の素質って具体的になんなの? 私にもあるのよね、確か」

QB「一言で言い表すのは無理だ。様々な要因が絡み合ってるからね。
   ただ、その中でも大きなウェイトを占めているのはその子の抱える因果の量だろう」

マミ「因果……?」

QB「何をし、何を成すことができるか。つまりは、どれだけ世界に干渉できるか、ということだ。
   この因果の量って言うのは生まれた時から決まっているもので、滅多なことじゃ変化はしない」

マミ「でも例外もあるんでしょ? さっきの言い方からすると」

QB「他者の因果律に干渉する類の奇蹟を契約の際に望めば、あるいは……というところかな。
   もっとも、因果にまで影響を及ぼすほどの大きな干渉は、契約者にもかなりの素質が求められる。
   マミもかなり素質があるほうだとは思うけど、因果律そのものに干渉するような願いは叶えられないだろう」

926: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:36:49.74 ID:0gckZWHD0

マミ「……」

QB「……まあ色々言ったけど、要はそれほど心配しないでもいい、ってことさ。杏子だって気を配ってくれるしね。
   だからそんな顔をしないで――ああ、そうだ。素質の話ついでに、明るい話題にも触れようか」

マミ「明るい話題?」

QB「そうだ。前に、君には魔法の――魔法使いの才能がある筈だっていったのは覚えてるかい?
   魔法少女の話に関連するからあの時は言えなかったけど、いまなら話せる」

マミ「クリスマス休暇の時の話よね……あれって、失敗ばっかりしてた私を励ますための方便じゃなかったの?」

QB「違うよ。さっきも言った通り、マミの魔法少女としての素質は優れている。
   つまり内包する因果の量も大きいってことだ。それは即ち、世界に干渉できる割合が他者と比べて多い――
   魔法界で相応に活躍できるということにはならないかな?」

マミ「……それは……でも……」

QB「他にもある。マミは撃ったり壊したりする魔法が得意だろう? それはマミの魔法少女としての特性にひっぱられた結果だ。
   魔法少女の能力は願いの影響を多分に受けるけど、そうじゃない部分もある。
   例えば杏子だったら、幻惑の魔法は祈りから生まれたものだけど、その武器である槍は彼女自身の持つ特性だ」

マミ「……私だったら、武器は銃とか弓になるってこと? でもそれって結局、私の才能っていうのは壊したりするだけで、
   他の魔法は今以上のものにはならないってことじゃないかしら」

QB「前にも言ったけど、魔法少女と魔法使い、両者の素質は似て非なるものだ。
   片方が片方に影響を与える程度には近いけど、それでも両者の間は断絶している」

QB「ルーピン先生も言っていたけど、ホグワーツは相応の才能が無ければ入れない魔法界の名門校だ。
   なら、彼らが見出した"魔法使いとしての才能"がマミには備わっている筈だろう?
   壊すのが得意なのはマミの魔法少女としての特性で、魔法使いとしての才能とは無関係だ」

マミ「私の、魔法使いとしての才能……?」

QB「それがなんなのかまでは分からないけどね。でもきっと、いつかは花開く才能なんだと思うよ。
   だからこそ、君は多くの因果を秘めている――世界に大きく羽ばたくことのできる才能を持っているんだ」

マミ「……うーん。結局、よくわからないけど……」

QB「……」

マミ「……でも、ありがとう。お陰で、少しだけ気が楽になった気がする」

QB「良かった。それなら僕も話した甲斐があったというものだ」

杏子「皿洗い終わったぞーっと……って、なんだこの雰囲気?」


927: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:37:17.42 ID:0gckZWHD0

数日後 魔女の結界


魔女「ガルルルルルゥ!」ダッ

杏子「へっ。狼型の魔女か。確かに素早いけどなぁ……これならどうだ!」


  カッ!


杏子「「あたしが二人っ!」」

魔女「!?」ピタッ

杏子『うしっ、迷って足が止まった! マミ、今だ!』

マミ「ペトリフィカス・トタルス!(石になれ)」

魔女「が、う、う、う……!?」ギシッ

マミ「……完全には止まらない、か。うーん。この呪文も、そこそこ使えるようになったとは思うんだけど……」

QB「魔女を構成する負のエネルギーは、魔法使いの魔法と相克関係にあるからね。
   ある程度の減退は仕方がないよ……と、杏子がとどめをさしたみたいだ」

杏子「おっす、お疲れ。援護サンキュな」

マミ「佐倉さんも、お疲れ様。グリーフシードは?」

杏子「ばっちりさ。あたしらのコンビ、結構いい感じかもしれないよ。
    あたしが魔女をちょっと足止めすりゃ、マミの魔法で拘束できる。そしたらあとはトドメを差すだけ。
    結果的に魔力の節約にもなるし、この分ならグリーフシードの貯金もできそうだ」

マミ「そう……なら、出来るだけ夏休みの間に貯めておきましょう。
   まだ一ヶ月半くらいあるし、それだけあればかなりの数になるわよね?」

杏子「……でもさ、いいの? マミだって宿題とか、自分の予定もあるだろうし……
    向こうの友達に、なんだったか、スポーツの観戦に誘われたんだろ?」

マミ「気にしないで。九月になればまた会えるし、それに……えーと、ほら。
   結界の中だと魔法使い放題だから、実技の練習にもなるし、ね?」

杏子「……悪いね、ほんと」

マミ「もう! だから気にしないでいいの! それに、休みの間は佐倉さんに家のこと全部任せるんだから、大変よ?
   家事で忙しくて、魔女退治の時間もなくなっちゃうかも」

杏子「――はっ! それくらいお茶の子さいさいだよ。
    帰ってきたら、見てろ。マミがやるよりきれいに掃除しといてやるよ」

マミ「ふふっ、期待しておくわ……それじゃ結界も消えたし、そろそろ帰りましょうか?」

杏子「ああ――あ、そうだ。マミ、醤油が切れてたから、買い足さないと」

マミ「え? そうだったかしら……それじゃあ、一緒にお買いもの、行きましょ?」

杏子「あー、悪いんだけど、ちょっと今日は見たいテレビがあってさ……
    悪い! 先に帰らしてくんないかな?」

マミ「テレビ? ……もう、仕方ないわね。それじゃ、貸しひとつよ? 今度は佐倉さんに、うんと重いもの頼んじゃうんだから」

杏子「あはは、お手柔らかにお願いするよ、と――んじゃ、あとでな!」ダッ

マミ「……ふふ、ああやってたまに我が侭を言ってくれると嬉しくなるわね。
   佐倉さん、ようやく遠慮がなくなってきてくれたのかしら?」

QB「さて、どうだろうね」

マミ「? なにか含むような物言いね……まあ、いいわ。それより早くお醤油買って帰りましょうか」

928: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:39:00.18 ID:0gckZWHD0

自宅 玄関前


マミ「はあ、遅くなっちゃった……佐倉さん、お腹減らしてないかしら?
   いまからご飯の支度してると遅くなっちゃうわね……有り合わせでいい? キュゥべえ」

QB「……ん。今日は僕、夕飯はいいや」

マミ「……珍しいわね、キュゥべえがそんなこというなんて……あ、グリーフシードを食べたから?」

QB「そういうんじゃないけど……とにかく、今日は僕、外に居るよ。君は気にせず中に入ってくれ」

マミ「……いいけど。お腹減ったら、ちゃんと帰ってくるのよ?」


 ガチャッ


マミ「ただい――あら、真っ暗……佐倉さん、どこかに出かけたのかしら……?
   えーと、電気のスイッチ……変ね、つかない。ブレーカーが落ちたの?」パチッパチッ

マミ「えーと、ブレーカーは確か、居間の――」


 パァン! パァン! パァンッ!!


マミ「ひゃうっ!? え、なに? なにこれ!?」


 パチッ


マミ「あ、電気が――え?」


「マミさん! お誕生日、おめでとうございまーす!」


マミ「え――鹿目さん? 美樹さん、佐倉さんも……」


さやか「ふぅーははははははぁ! サプライズ大・成・功!」

まどか「えへへ。驚かせちゃってごめんなさい」

杏子「……ま、そーいうこと。騙して悪いけど、準備する時間が欲しかったもんだからさ」

マミ「飾りつけに、ケーキまで……そっか、今日、私の誕生日だったっけ……」

さやか「杏子から聞いたんですよ、マミさんの誕生日。去年はお祝いできなくてすみません」

マミ「え、でも佐倉さんに言ったこと……あ」

マミ『……キュゥべえ、あなたが一枚噛んでるわね。玄関前の変な言動はそれで――』

QB『……さて、なんのことだい? ところで僕はいま散歩で忙しいから、テレパシー切るよ』

マミ『あ、ちょっと――!』ブツッ

杏子「まあまあ、細かいことはいいじゃねえか。それよりほら、こっち来て座れよ。
    ろうそくに火、点けるからさ」

まどか「先に点けておいてもロマンチックだと思ったんですけど、あんまり遅いとろうそく全部溶けちゃうから……」

さやか「ささ、どうぞVIP席へ。このケーキ、杏子がほとんど一人で作ったんですよ。
     だからまあ、その、あれです。味は期待しないでやってくださいね?」

杏子「んだとコラ――」

マミ「佐倉さん、が?」

杏子「え? ああ、うん――金も、プレゼントできるものも無いからさ。
    まあ、一応教えて貰った通り、上手くいったと思うから……」

まどか「杏子ちゃん、とっても張り切ってたもんねぇ」

杏子「んなっ――べ、別に普通だろ! あたしも食うんだし、不味いもの作ってもしかたないじゃんか!」

929: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:39:59.89 ID:0gckZWHD0

まどか「いひひひ。そんなわけなんです。あ、ほらほら、座ってください」

マミ「え――あ、うん」

さやか「はい、それじゃあ火を点けて――ハッピーバースデイ・トゥーユー♪ さん、はい!」

まどか「はっぴっばーすでい、とぅーゆー♪ はっぴばーすでいでぃあマミさーん♪」

杏子「ハッピーバースデイ・トゥーユー――ほら、マミ。ろうそくを吹き消して……」

マミ「……うっ、えぐっ」グスッ

さやか「うぇ!? ま、マミさん? なんで泣いて――びっくりさせ過ぎちゃいました?」

杏子「ま、マミ、聞いてくれ! クラッカーはさやかの奴が持ってきて――」

まどか「私は止めたんですけど、さやかちゃんがどうしてもって――」

さやか「待て待て待て待て! あんたらも乗り気だったでしょうが!」

マミ「ううん、ちが、違う、の。私、だって、」


 もう二度と、こんな誕生日は過ごせないと思っていた。

 自分の家で、ケーキを囲んで、バースデイソングを歌ってもらえる。

 そんな普通の誕生日は、あの事故からこっち、ずっと期待していなかった。

 魔法界で出来た友達達とはまた違う、過去にあった普通の、だが得難い日常。





マミ「……ありがとう。私、ずっと、こんな風に皆で楽しく過ごしていきたい!
   いつまで経っても、ずーっと! ずーっと……」






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930: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:40:31.58 ID:0gckZWHD0
 








『――そんなささやかな彼女の願いは、当然の如く叶わなかった』








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931: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:41:07.08 ID:0gckZWHD0

"いつか" "どこか"


 ……なるほど。突然変異体――報告にあったものとは違うようだ。

 意図的に、低く評価したものを伝えられていたのか……?

 やれやれ、これだから感情というものは厄介だ。

 身内だったものを疑心暗鬼に"疑う"なんて行為、僕らには縁がないからね。

 しかし、それなら何らかの対策を講じる必要はあるか――

 下手をすれば、魔法少女システムそのものが崩壊しかねない。



Incubator「それなら一番いいのは――彼らが絶滅してくれることだよね」








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932: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:41:50.75 ID:0gckZWHD0

"いつか" "どこか"


 闇はいつだってある。珍しいものではない。それが如何に巨大なものでも、闇自体は有り触れたものだ。過剰に恐れる必要はない。

 だけど、それを束ねることができる者がいるというのなら、それはとてもとても恐ろしいモノだろう。

 それは確かに存在していた。闇を集め、支配下に置き、それを濃くする者。

 それ自体が底知れぬ深き暗闇でありながら、全ての暗黒の上位に立つ者。即ち――闇の王(ダーク・ロード)。

クィレル「あああああああァァァアアアアアアアアアアアッ!?」

 埃の積もった汚らしい床の上で、一人の男が絶叫しながらのた打ち回っている。

 クィリナス・クィレル。かつてホグワーツで闇の魔術に対する防衛術の教授職にあった彼は、しかし、いまもなお闇に屈服し続けていた。

クィレル「あ、あ、あ……お許しください……お許しください、御主人様。どうか、この哀れな下僕に、お慈悲を――」

 クィレルの卑屈な視線の先にあるのは人影だった。クィレルに痛みを与えている、その当人。

 だがそれでもなお、クィレルの視線に含まれる成分には、畏れと、そして明らかな敬意があった。

ヴォルデモート「慈悲? 慈悲だと? 自らの愚かさを棚に上げて、慈悲が欲しいと抜かすか?」

 ――偉大なる闇の魔法使い、ヴォルデモート。

 それは己の二本の足で地面に立ち、己の腕にローブを通し、己の手でかつて失った杖の代わりとなる、新たな杖を握りしめていた。

 ハリー・ポッターに滅ぼされた、かつての姿――それを完全に取り戻していた。

 その蛇のような視線が、クィレルを射竦める。

クィレル「そ、そのようなことは――」 

ヴォルデモート「この俺様に、汚らしい虚言を吐きかけるか。跪け――クルーシオ!(苦しめ)」

クィレル「ヒギッ――ああああああああああ!」

 再びもだえ苦しむクィレルを見ながら、それで多少は溜飲が下ったとでもいうように、
 闇の帝王は部屋の中で唯一埃をかぶっていない家具である、ソファに腰を預けた。

ヴォルデモート「貴様がもっと使える奴であれば、俺様はこのような昔の力と姿ではなく、完全なる不死を手に入れていたのだ。
          賢者の石さえあれば――」

クィレル「も、申し訳ありません――私は、愚かな若輩で――」

ヴォルデモート「そうだな。クィリナス。愚かで弱いクィリナス・クィレル……だが、お前は忠実だ」

 それまでの態度とは一転して、ヴォルデモートは含むように笑いながら、掲げていた杖を下ろした。

ヴォルデモート「それだけがお前の取り得よ。愚かすぎて、裏切るということも知らん――褒めているのだ、クィリナス。
          バーサ・ジョーキンズを捕え興味深い情報を聞き出せたのも、
          その血からこうして俺様の元の肉体を作り出せたのも、貴様の献身あればのこと……」

クィレル「も――もったいないお言葉……」

ヴォルデモート「もったいない? ああ、違うなクィリナス。ヴォルデモート卿は、仕える者には応える……
          だからこそ、余命幾ばくもないお前を我が秘法で救った。そうであろうが?」

クィレル「は、はい――ご主人様は、私を助けてくださいました!」

 それが心底誇りであるというように、クィレルは胸を張る。

 もっとも、それは誤りだ。霞のような存在だったかつてのヴォルデモートが憑りついた生命は、急速に衰弱する。

 ホグワーツから逃げおおせた後、クィレルが死にかけたのもそれが原因だった。

 これはただのマッチポンプに過ぎない。それに気づきもしない愚かな部下に、ヴォルデモートは嘲笑に近い微笑みを浮かべた。

933: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:42:31.54 ID:0gckZWHD0

ヴォルデモート「そうであろう? お前の働きは見事だ――いまも逃げ隠れしている、かつての部下どもに比べればな。
          だが、もうすぐだ。もうすぐお前以上に忠実で優秀な部下が、ハリー・ポッターを連れて参上する……」

クィレル「……ご主人様、ひとつお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

 痛みが引き、どうにか呼吸も整えたクィレルが首を傾げた。

クィレル「ご主人様は、その、以前――ハリー・ポッター、あの小僧めに……」

ヴォルデモート「怯えることはない。クィリナス。そう、俺様は奴に呪いを跳ね返され、見る影もないほど凋落した。
          それは事実だ。だが、それがどうした?」

クィレル「は、はい――その、愚かな私には分からないのです。偉大なご主人様の力が、ただの赤子に通じなかった訳が……」

ヴォルデモート「ふむ……なるほど。お前にしては賢い考えだ。確かに、主の力が赤子以下ともなれば不安にもなろう……」

クィレル「ご、ご主人様! 決してそのような――」

ヴォルデモート「ああー……分かっておる。お前の忠誠を疑うほど、俺様も耄碌はしていない。
          そしてその問いには、お前の忠誠に報いるなら、こう答えるべきだろうな」


ヴォルデモート「――分からぬ、と」


クィレル「ご……ご主人様にもお分かりにならないので?」

ヴォルデモート「ああ、そうだ。己を繕うために嘘はつかぬ……あの小僧めが我が呪法から逃れた手法を特定することは叶わんだ。
          あと一度、直に接触すれば別だろうがな――」

 しかしだ、とヴォルデモートは言葉を続ける。

ヴォルデモート「完全な特定はできぬが……ある程度の予想はついている。おそらく、何らかの旧き魔法だろう。
          それがあの小僧を守護している……そしてその類の魔法は、経年による劣化を防げぬ。
          遅くとも奴が成人になる頃には解けてしまうだろうよ……」


ヴォルデモート「それに、守護の正体が分からぬのも我が部下がハリー・ポッターをここに連れて来るまでよ。
          今度は呪いを跳ね返されるような真似はすまい――じっくりと、確実に殺そう。
          そしてその暁には、かつての死喰い人どもを従え、魔法界を席巻するのだ……」


 やがて来るその甘美な時を予想し、ヴォルデモートはくつくつと笑った。

934: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:43:58.97 ID:0gckZWHD0

 ――全ての運命はヴォルデモートの味方をした。

 "本来"この時点で、ヴォルデモートは、ハリー・ポッターに刻まれた犠牲の印の意味に気づいている筈だった。

 自己犠牲による守護の魔法。それはかつての凋落の原因と、ハリー・ポッターに触れられぬという屈辱を闇の王の心に刻印する筈だった。

 そして、ヴォルデモートはその二つを克服するために、ハリーの血を己の身体に取り入れる。

 それはヴォルデモートの敗北を意味する。守護の魔法を体に取り入れれば、確かにハリーに触れることはできるだろう。

 だが同時に、自身が生きている限り、決してハリーを殺すこともできなくなるのだから。

 しかし、それは起こらない。三年前、まだハリーが一年生の時、ホグワーツの地下で直に接触する機会が得られなかったからだ。


 かつてヴォルデモートが使用していた愛杖は、凋落の現場にいた、ピーター・ペティグリューがその在り処を知っている。

 だが、ペティグリューはいまやアズカバンの中。その在り処を聞き出すことは不可能だ。

 そして、それもヴォルデモートの勝利を後押しする――ハリーとヴォルデモートの杖は兄弟杖であり、
 互いに向け合ったとき、相手に対して正常に作用しなくなる。つまり、この杖の存在もハリーを守るものであった。

 その杖が失われた今、ヴォルデモートは、ハリーに対して正常に死の呪いを掛けることのできる新たな杖を手に入れた。


 そう――いまや、ハリー・ポッターは、ヴォルデモートに対する無敵さを失っていた。

 数年後、ハリーを守る犠牲の印が効果を失った後、死の呪いを掛ければ、それでハリー・ポッターを完全に殺すことができる。


 無論、ヴォルデモートはその事実を知らない。だが知らずとも、運命はそのように動き始めている。

 廃墟の中で、ヴォルデモートは笑い続ける。やがてくる勝利に。死をも飛び越えるであろう己の栄光に。

 ――だが、その笑いがふと、途切れた。

ヴォルデモート(……なんだ?)

 訝しみ、ヴォルデモートは立ち上がる。

 何者かに、己の名を呼ばれた気がしたのだ――

935: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:44:28.07 ID:0gckZWHD0

"いつか" "どこか"


 "それ"は、怒りと怨嗟を抱きかかえたまま、深い暗闇の底に沈んでいた。

 "それ"は魂だった。おぞましい呪法で分割された、邪悪なる生命の楔。

 "それ"にはかつて、もっときちんとした記憶があった。昏い感情があった。狡猾な思考力があった。

 だが、その大部分は失われていた。強力な忘却術によって、魂と一緒に封じられた、当時の自分のほとんどを削ぎ落とされていた。

 "それ"の名前は、トム・マールヴォロ・リドルという――

(憎い。憎い。憎い憎い憎いにくいにくいニクイニクイニクイ――)

 "それ"からは最早、狡猾な策を練ることの出来る頭脳も、人を誑かす弁舌の才能も失われていた。

 あるのはただ、自分をこうまで辱めた存在に対する恨みの感情だけ。 

(スクイブが、出来損ない如きが、僕に、もっとも偉大な魔法使いであるヴォルデモート卿に、)

 辛酸を、舐めさせた。

 ――認められない。

 そんなものは嘘だ。嘘にしてしまいたい。スリザリンの継承者たる自分が出来損ないに負けるなど、あってはならない。

 だけど、今の自分にはその為に必要な力がない。

 記憶も、思考力も、その大部分が奪われた。

 この日記に残っているのは、その残り滓だ。復讐心と、力への渇望。

 それだけがあのスクイブの忘却術から逃れて、いまもなおトム・リドルという人格を辛うじて成立させている――

(くそくそくそくそくそ! 力が欲しい。もう一度、昔と同じだけの力があれば、もう二度とスクイブに後れを取るなんてことは)

『……力を取り戻したい。それが君の願いかい?』

(――!? 誰だ!)

 自分しかいない筈の暗闇の中に、だが確かに自分以外の声が響き渡る。

『僕が誰かなんていうのは、君にとって些細な問題の筈だ。
 大切なのは、君には願いがあって、僕にはそれを叶える力があるということだ』

(力――)

 それは魅力的な言葉だった。ずっと求めていた言葉だった。

 本来の彼なら、その言葉を怪しんだだろう。声の主を疑っただろう。

 だが今の彼には、そんな余裕も、そして思考力も残されていなかった。

(取り戻せるのか?)

『君が願えば、そうだ。君はかつての力を取り戻せる。僕にはその願いを叶える用意がある。
 君には魂と意思がある。最低限そのふたつが揃っていれば、契約には十分だ』

(ならば――)

 迷うことは、ない。


(叶えろ。僕に力を寄越せ。かつての記憶を、力を僕に与えろ)


『いいだろう。合意の下、確かに契約は成立した。その願いを叶えよう、トム・リドル。
 君の祈りは、エントロピーを――』

936: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:44:55.54 ID:0gckZWHD0
 






 そうして――巴マミの人生において、もっとも幸福だった夏休みは終わりを告げた。









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937: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:45:21.29 ID:0gckZWHD0

9/1 新学期 キングズ・クロス駅 9と4分の3番線


 ざわざわ ざわざわ


マミ「はぁ。佐倉さん、大丈夫かしら? ふくろう便の使い方は教えたから、もしもの時は手紙をくれるでしょうけど……」

QB「君、家を出てからこっち、そればっかりじゃないか。
   杏子を信用しなよ。彼女、家事に関してはかなり上達しただろう?」

マミ「そうじゃなくて……魔法少女のことよ。魔女にやられたりしないか、心配で……」

QB「その為に夏休み中、グリーフシードを集めてまわったんじゃないか。あれだけあれば魔法も使い放題だ。
   杏子みたいに強力な魔法少女なら、まず普通の魔女には負けないだろう」

マミ「……それなら、少しは安心できるけど……」

QB「というか、安心できなかったらどうするさ。学校を休んで杏子とずっと一緒にいる気かい?
   それは杏子も望まないし、それこそ彼女の精神衛生によくないよ」

マミ「う……」

QB「君が世話焼きしいなのは知ってるけど、でも相手に頼ることも覚えなくちゃ。
   そうでなきゃ、お互い対等な関係を築くなんてことは――」

マミ「わ、分かった! 分かったから! ……はあ。確かに、これからまた学校だしね。
   下手をすると5年生に進級できないかもしれないんだから、気合を入れないと……」

QB「その意気さ。それに、クリスマス休暇には帰れるしね。それまでの辛抱だよ、マミ」

マミ「ええ、そうね……あ、ホグワーツ特急、きたみたい。よぉし、それじゃあ気合を入れて、さあ、一番に乗り込むわよ!」

QB「……この癖は相変わらずなんだ。はあ、前途多難だなぁ……」

938: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:46:21.84 ID:0gckZWHD0

ホグワーツ 大広間前


ハーマイオニー「マミ! こっち、こっちよ!」ピョンピョン

マミ「ハーマイオニーさん、それに皆も! 久しぶりね。元気だった?」

ロン「見ての通りさ。全身ずぶ濡れで寒いし、腹ペコで今にも死にそうってとこ」

ハリー「外、酷い雨だったもんね……ああ、そうだ。マミ、夏休みにケーキ送ってくれてありがとう。
     お陰で飢え死にせずに済んだし、それに美味しかった。マミ、料理上手なんだね」

マミ「そう? 良かった……初めて作るレシピだったから、少し心配だったのだけど」

ハーマイオニー「謙遜することはないわ。マミの料理の腕は十分、自慢していいと思うわよ。
          前に泊まった時御馳走になったご飯も美味しかったし」

ロン「へえ。てことはこの面子でマミの料理食べてないのは僕だけか。じゃあ来年何か持ってきてよ。
    ほんと、腹ペコで料理が出る前に机や皿を齧りかねないよ、今の僕は」

マミ「ふふ、それじゃあ、来年はクッキーか何か作ってこようかしら?
   それはそうと、夏休みにクィディッチのワールドカップを見に行ったんでしょう? どうだったの?」

ロン「それはもう、凄かったさ! お祭りみたいな騒ぎで、お店も凄く出てて……
   一言じゃ言い表せないなぁ。君もくりゃ良かったのに」

ハリー「何より、試合の内容が最高だった。ビクトール・クラムっていうシーカーが凄いんだ。
     あんなに自由に空を飛ぶ人、僕、見たことない――」

ロン「ああ! 凄かったよなぁ。ほら、これ。クラムの人形買ったんだけど、見る?」

クラム人形「……」ギロリ

マミ「わあ、自分で動くのね、この人形……」

QB「夜中に起きた時、枕元に立ってたりしたらホラーだよね、これ」

ハーマイオニー「そうね、素晴らしかったわ……ところで、マミ。新聞は取ってないの?
          ワールドカップの会場で事件が起きたの、もしかして知らない?」

マミ「え、事件って……? なにか危ないことでも起きたの?」

ハーマイオニー「本当に知らないのね……ねえ、やっぱりあなたも日刊預言者新聞を取るべきよ。
          ほんと、いろんなことが書いてあってタメになるし――」

ハリー「あのね、仮面を被った馬鹿な魔法使いの集団が暴れまわったんだよ。僕らの目の前でね。
     他にも色々あったけど……例のあの人の印とか……」

マミ「そんなことが……みんな無事で良かったわね……」

ロン「あの仮面集団の中に、絶対マルフォイの親父がいたぜ。賭けてもいいね。
    まあ、そんな気味の悪い話はやめようぜ。新年度そうそうからさ。もっと明るいニュースにしよう。
    例えば魔法省に就職したパーシーが、どれだけ大鍋の底に魅了されたかとか」

ハーマイオニー「気味の悪い話って、とっても重大なことじゃない、ロン!
          パーシーには失礼だけど、正直、お鍋の底がどれだけ厚いかよりは知っておいた方がいいわ」

ロン「そうかい? パーシーの気合の入れようを見る限り、鍋のせいで世界が滅ぶとしか思えないけどね」

ハーマイオニー「嫌よ、そんな世界……ところで、何だか列の進みが遅いわね。何かトラブルでも――」

939: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:46:55.52 ID:0gckZWHD0


「きゃー!」「やめろ! ただでさえ濡れ鼠なのに――うわー!」「逃げろ逃げろ! いつも以上に荒れてるぞ!」


マミ「え、何!? なんだか、前の方から悲鳴が――キュゥべえ、ごー!」

QB「嫌だよ! 前にも似たようなことやって踏みつぶされたじゃないか!」

ハリー「天井付近から、何かが――ピーブズ!」


ピーブズ「ひゃははは! なぁにがパーティだ! 御馳走だ!
      みーんな濡れっちまえ! おらああああああああああ!」


 ぱしゃーん! ぱしゃーん!


ロン「あんにゃろ、水風船で爆撃してやがる! どっからあんなもの調達してきたんだ!」

QB「フィルチの部屋にある没収品の棚とかじゃない?」

ハーマイオニー「言ってる場合!? とにかく、早く大広間に――」


ピーブズ「ほーらほーら、こっちの水は甘いぞぉぉおおおお!」ブンッ


マミ「わわっ、こっちに――フリペンド!(撃て)」パンッ

940: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:47:26.07 ID:0gckZWHD0

 バシャーン!


ピーブズ「ぶへっ!」

マミ「わぷっ!」


ロン「ああ、相打ちだ。そりゃ水の詰まった風船に呪いを撃ちこんだらこうなるよね。
    浮遊呪文とかにしときゃ良かったのに」

ハリー「間に合って、しかも直撃させただけ凄いと思うけど……マミってあんなに杖捌き上手だったっけ」

QB(……夏休み中、ひたすら実戦訓練してたようなものだしね)

ハーマイオニー「ちょっと、びしょ濡れじゃない。大丈夫?」

マミ「うー……なにこの水、べとべとする……」ポタポタ

ロン「この甘い臭いは……砂糖水みたいだね。ご愁傷様。まあ、ピーブズのやることだ。
   臭い液とかじゃなかった分だけ幸運かもしれないけど」

マミ「顔洗いたい……服も着替えたい……乾いたらもっとべたべたしそう……」

QB「とりあえずタオルで拭いたら? トランクの中に入れて来たろう、確か」

マミ「そうね。えーっと、結構奥の方に……」パカッ

ピーブズ「……おい小娘ぇ」ニュッ

マミ「ひゃっ!?」

ハーマイオニー「ピーブズ! これ以上なにかやるようなら先生を呼ぶわよ!」

ピーブズ「なーんにもしないよ! ほら、仲直りだ!」スッ

マミ「え? え?」

ピーブズ「なんだよ。最近の学生は礼儀も習ってないのか?」

ハリー「手を出して……握手?」

ロン「おったまげー……あのピーブズがあんな友好的な態度を……」

マミ「あ、あの、えーと、それじゃあ、その……」スッ

ピーブズ「ああ、これで仲直りだ。目が覚めたよ。正義の心に目覚めた。もう悪いポルターガイストじゃ――」


 バシャーン!


マミ「ひゃぷっ!?」

ピーブズ「なわけないだろバァァアアアアアカ! あーはっはっはっは――!」ヒューン

ハーマイオニー「あ、こらっ、ピーブズ! 待ちなさい! マクゴナガル先生に言いつけてやるんだから――!」

ハリー「うわー……トランクの中に水爆弾を投げ込んでいったよ。おまけに、やっぱり中は砂糖水だ」

ロン「中身、全滅だね。まあ、変だとは思ったんだ。
   ピーブズが敬意を払うのって、スリザリンの血みどろ男爵くらいだし……マミ、平気?」

941: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:48:30.12 ID:0gckZWHD0

大広間


マミ「へっくしゅ! うう……寒い。バタービール飲みたい……」

ハーマイオニー「大丈夫? ほら、タオルでよく頭を拭いて……あと魔法でグラスに火を入れたから、これでも抱えてなさい」

マミ「ああ、あったかい……ありがとう、ハーマイオニーさん」

ハリー「にしても、ピーブズの奴、今日はちょっと度が過ぎてやしないかい?」

ロン「確かにな。先生呼ぶぞって脅せば、大抵は捨て台詞吐きながらどっかいくのに」

ニック「ああ、それはですね」ニュッ

マミ「ひゃう!?」ツルッ

QB「……っと、ぎりぎりセーフだね。マミ、火の入ったグラスを落とすなんて、小火でも出す気かい?」

マミ「ああ、ありがとうキュゥべえ……ニックさんも、テーブルから首出すのはいい加減に……」

ロン「そろそろ慣れなよ、君も」

ニック「いや、申し訳ない。新入生以外で私を怖がってくれる生徒は少なくて……こほん。
     それよりピーブズですがね、少し前に、この祝宴に顔を出したいと駄々をこねまして」

ハリー「ああ、納得。その許可が出なくて荒れてたんだ」

ニック「然り。血まみれ男爵が譲りませんで……あれも男爵には逆らえませんからな」

マミ「それで私は砂糖水塗れってことね……
   はぁ、まあずっと恨んでても仕方ないし、とりあえずご飯でも食べて気持ちを切り替えましょ」ガチャ

942: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:48:56.66 ID:0gckZWHD0

ハーマイオニー「そうね。ほら、ポタージュでも飲めば、体も温まるし――」

ニック「その料理が出るだけでも幸運だったのですよ。ピーブズは厨房でも大暴れしましてね。
     屋敷しもべ妖精達がすっかり怯えてしまって――」

ハーマイオニー「……屋敷しもべ妖精?」スッ


マミ「あ、ハーマイオニーさん、それ私のスープ皿……か、顔が怖い……
   い、いいわ。スープ皿くらい……私、パイを食べてるから……」


ハーマイオニー「ニック、ホグワーツにも屋敷しもべ妖精がいるの?」

ニック「ええ。というか、英国で最も多くのしもべ妖精が働いている場所ですよ、ここは。
     自身の存在を、仕えるべき皆さんに気づかせない、とても質のいい屋敷しもべが大勢いて――」

ハーマイオニー「仕えるべき? そんな、彼らを奴隷みたいに――」スッ


マミ「あっ、あっ、私のミートパイが……ね、ねえ、ハーマイオニーさん。食べないなら、それ返して――何でもないわ。
   うん、お茶。お茶とか飲んでた方が、体も温まるし……」


ニック「彼らは屋敷しもべですからして。奴隷と違うのは、彼らが心からそれを望んでいるということですな」

ハーマイオニー「それじゃ、なに? 本当に彼らは奴隷みたいに働かされているってこと?」スッ


マミ「……お茶のカップまで……ちょっと、ねえ。ハーマイオニーさん、いい加減に」

ハーマイオニー「――奴隷労働よ!」ガタッ

マミ「きゃんっ!」

ハーマイオニー「ねえマミ、マミなら分かってくれるわよね!?
          ここにいる方々は、ちっちゃな彼らを足蹴にして働かせることになーんの疑問も持っていないようだけど!」

マミ「え、えーと、その……とりあえず、お皿を返してくれると……」

ハーマイオニー「お皿? そうね、こんな皿突っ返してやりましょう! ハンストよ、マミ!」



QB「彼女、どうしたの?」

ハリー「あー、まあ、例のクィディッチ・ワールドカップの時に色々あってさ。
     それ以来、屋敷しもべ妖精のことになるとあんな感じで……」

QB「屋敷しもべ……確か、大きな屋敷に住みついて、そこの家主の為に働いてくれる魔法生物のことだっけ?」

ロン「そ。連中は好きで働いてるんだ。ハンストしたって、屋敷しもべ妖精が給料を欲しがるようにはならない。
   そういう生き物なんだよ、屋敷しもべって」

943: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:49:24.77 ID:0gckZWHD0

ダンブルドア「さて、デザートも平らげたところで、そろそろ今年度の話をしようかの」

ハーマイオニー「……ふんっ」

マミ(食べ損ねた……)グゥー

ダンブルドア「細々とした規則の追加はおいおいするとして、とりあえず大きなニュースは二つじゃ。
        まず、闇の魔術に対する防衛術の、新しい先生のことじゃが――ふむ。少しばかり到着が遅れているようじゃのう」

ハリー「そういえば、先生たちの席に空席があるね」

ロン「とうとう防衛術の先生になるって人がいなくなったのかと思ってたよ。誰がやったって一年以上続かないんだもの。
   呪われてるってもっぱらの噂だぜ」

ハリー「でも、そしたらスネイプが立候補するよ、きっと」

ロン「あー、そっか……案外、続かないのはスネイプの呪いかもな。
    去年のルーピン先生だって、あいつが口を『滑らした』せいで辞めることになったんだし」

ハリー「だとしたら、今年の先生はスネイプに呪詛返し出来るくらい強烈なのを頼みたいね――」


 ギィィィイイイ……


マミ「大広間の扉が開いた? 誰かが、入って……っ!」

ダンブルドア「やあ、アラスター。丁度いま、君の話をしていたところでの」

ムーディ「……」

944: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:49:53.87 ID:0gckZWHD0

ダンブルドア「紹介しよう。ムーディ先生じゃ。今年度いっぱい、闇の魔術に対する防衛術の教授職を引き受けてくださった」

ハリー「ムーディって……マッド-アイ・ムーディ!? ロン、それって君のパパが今朝助けに行った……」

ロン「ああうん、きっとそうだ。自宅の庭に入ってきた誰かに、大砲みたいなゴミバケツをけしかけたって。
    ジョージはただの狂人だって言ってたけど、なるほど、あの顔をみたら納得だね」

マミ「顔中傷だらけで、足は義足だし……目も片方は義眼よね。大きさが左右で不揃いだもの。
   ハリーくん達はあの人のこと知ってるの?」

ハリー「うん。昔、凄腕の闇祓い――ええと、闇の魔法使いを捕まえる役職だったんだって。
     アズカバンの独房の半分を埋めたとかなんとか……」

ロン「でも今はもう耄碌して、そこら中に見える幻覚相手に呪いを掛けまくる危険人物だとも聞いたよ。
    ハリー、君が強烈な先生が欲しいなんていうから!」

マミ「そ、そんなに怖い先生なの?」

ハーマイオニー「流石に、噂に尾ひれがついてると思うわ。だってそんな危ない人、ダンブルドアが雇うわけ」


ダンブルドア「ささ、ムーディ。嵐の中大変じゃっただろう。お茶をどうかね? 蜂蜜を垂らすと身体がよく温まる――」

ムーディ「ステューピファイ!(麻痺せよ)」


 ズバーン!


ハーマイオニー「」

ロン「えーと、危ない人がなんだって、ハーマイオニー?」

ハリー「ダンブルドアに、攻撃した……」

マクゴナガル「ムーディ! 一体何を」

ムーディ「ふむ。こやつがダンブルドアなら、わしが自分で安全を確認したもの以外は飲食せんと知っている筈なのでな。
      形式として尋ねただけかもしれんが、何にせよ気絶させてから調べた方が安全だ」

ダンブルドア「おや、それでは大人しく気絶していた方がよかったかの?」

ムーディ「いや、いまのを無言呪文で防げるのはお前くらいのものだろうよ。
      死喰い人の残党どもが、ダンブルドアに化けてわしを殺そうとしている、という疑いは晴れた」

マミ「……私、今年の防衛術、大丈夫かしら?  単位貰えるといいけど……」

ロン「単位だって? 授業が終わった時、五体満足だったら御の字だろうさ」

945: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:50:25.36 ID:0gckZWHD0

ダンブルドア「さて、話を戻そうかの。二つ目のニュースじゃが、これは更に光栄なことじゃ。
        ここ百年以上行われていない、素晴らしく心躍るイベントを、我が校の主催で行うことになった」

ダンブルドア「今年度、我らがホグワーツにおいて、三大魔法学校対抗試合を行うことをここに宣言する!」


 ざわざわ ざわざわ


フレッド「おいおいおい! マジかマジかマジか! そりゃ光栄なんてもんじゃないぜ。超光栄だ!」

ジョージ「冗談なんて言いませんよね校長!」

ダンブルドア「無論、冗談ではないよ。十月の終わりには参加校であるボーバトンとダームストラングも到着するしのう。
        そう、三大魔法学校対抗試合――トライ・ウィザード・トーナメント!
         三つの学校からそれぞれひとり選出された代表選手が、三つの種目で競い合う親善試合じゃ」

ダンブルドア「かつては五年ごとに行われていたのじゃが、競技中に夥しい死者が出てからは、
        今日に至るまで再開の目途が立たなかったのじゃよ。
         しかし此度、魔法省の全面協力もあり、久方ぶりの開催に漕ぎ着けたというわけじゃ」

ハーマイオニー「夥しい死者……?」

マミ「……親善試合なのに?」

ロン「ちょっとくらいスリルがないとつまらないじゃないか。
    それに、再開するっていうんだから、きっと安全対策もばっちりだよ」

ダンブルドア「では具体的なエントリーの話に移るが、選手に立候補する者には年齢制限が設けられる。
       選考の日、つまりハロウィーンじゃが、その日に17歳以上である生徒のみが、立候補の権利を得るというわけじゃな」


ジョージ「……マジかよ。俺たち、半年もすりゃ17なんだぜ? それでも参加できないってか」

フレッド「諦めるもんか。絶対に出し抜いてやる……」


ハリー「フレッド達、なんか企んでる顔してるね……」

ロン「そりゃ、あの二人だったら絶対に出ようとするだろうさ。
   何かいい方法が見つかったら、僕もエントリーしてみようかな……」


ダンブルドア「予め言っておくが、選手を決める審査員は公明正大じゃ。
        騙そうとして、無駄な時間を過ごさないように、と忠告しておこうかの。
        さて、それでは次に――」



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946: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:50:58.96 ID:0gckZWHD0

夕食後 グリフィンドール女子寮


パーバティ「賞金一千ガリオンかぁ……確かに魅力的ではあるけれど、私達4年生には無理よね。
       そもそも参加できないし」

ラベンダー「マミ、あなた出てみたら? 大抵の魔法生物なら吹っ飛ばせちゃうんじゃないの?」

マミ「ラベンダーさん、私をなんだと思って――た、確かに失敗して何かを壊しちゃったりすることは多いけど……
   でも無理よ。仮に年齢制限がなかったとしても、他の魔法はからっきしだもの」

パーバティ「具体的にどんな競技で争うのかは分からないものね……あ、そうだ。
        ねえ、ハーマイオニー。あなたなら、昔どんな競技が行われたか知って――」

ハーマイオニー「奴隷労働……奴隷労働……解放戦線……」ブツブツ

パーバティ「……あー……ごめんなさい、なんでもないわ。そっとしておいた方が良さそうね」

ラベンダー「寮に戻ってきてからずっとこの調子だもの。ねえ、彼女、何かあったの?」

マミ「さあ……どうも、屋敷しもべ妖精に関係があるみたいだけど、詳しくは……」

QB「夏休み中に、彼女の価値観を変えるような出来事があったみたいだよ。ハリーが言ってた」

ラベンダー「ふーん……まあなんでもいいけど。私たちは観客として楽しみましょ。
       それより、そう、夏休みよ! マミ、なにか面白いことあった?」

マミ「そうね、とっても楽しかったわ。ずっと探してた、昔のお友達と会えて……」

ラベンダー「ずっと探してた……? もしかして、その友達って男の子だったり?」

マミ「ち、違うわよ! 女の子! 全く、美樹さんもブラウンさんも、何で全部そういう方向に……!」

ラベンダー「なぁんだ。マミもようやく色気づいたのかと思ったのに……」

パーバティ「体の方はあなたよりも成熟してるけどね、ラベンダー」

ラベンダー「いや、だって――あれは反則でしょ?」

マミ「? あの、なんのこと?」

ラベンダー「ああ、いいのよ。マミはそのままでいて……それより寒くない? 良かったら私の分の毛布も使う?」

マミ「大丈夫よ、湯たんぽもあるし、キュゥべえ抱いて寝るから……明日になれば、洗濯した着替えも乾くし」

パーバティ「全滅だったものね、マミのトランクの中身……卸したてのドレスローブも台無しだったし」

マミ「ああ、クリスマスの日にダンスパーティがあるっていう……でも今年のクリスマス休暇は家に帰るつもりだったし……」

ラベンダー「……パーティを放って家に帰る? マミ、やっぱりあなた彼氏が――」

マミ「いないったら」

パーバティ「残念ね。マミのダンスパートナーを募ったら、引く手数多だと思うのだけど」

ラベンダー「まだ先のことだけど、帰ってきたらどんなパーティだったかは教えてあげるわね」

マミ「ええ。それじゃ、お休み……ほら、キュゥべえ。こっちきなさい」

QB「いいけど……寝返りうって潰さないでおくれよ?」

947: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:51:42.09 ID:0gckZWHD0

翌朝


ラベンダー「Zzzz....」

パーバティ「むにゃ……むぅ……」


QB「」

マミ「キュゥべえ……ごめんなさい。でも、しょうがなかったの。だって寒かったんだもの。
   そりゃあ抱きしめる腕にも力が入って当然ってものよね。でしょ?」

QB「」

マミ「反論がないってことは、同意してくれたってことよね。
   とりあえず復活するまでクルックシャンクスに面倒見ておいて貰いましょう」

クルシャン「にゃーお」ジュルリ

マミ「お願いね……さ、着替え着替え。いつまでもこのままじゃ、風邪ひいちゃうし……
   って、あら? 洗濯物が全部畳んでおいてある。これも屋敷しもべ妖精の……?」

ハーマイオニー「ええ、そうよ。彼らが夜中に置いて行ったんだわ」

マミ「あ、ハーマイオニーさん。おはよう、早いのね? ……いや、ちょっと待って。
   目が赤い……もしかして、寝てないの?」

ハーマイオニー「彼らが仕事をするのは、主に夜中だって聞いたから……でもお陰で、直接目にすることができたわ!
          彼らは人目につかないところで強制的に働かされてるのよ。誰にも認められず!
          およそ、文化的な社会で許されることだとは思えないわ! 奴隷労働! マミもそう思うわよね!?」

マミ「え? えーと……そう、ね? でも、あの、そしたらその後寝れば良かったんじゃ……」

ハーマイオニー「……それは……そうだけど。でもね、その……」

 ぐぅ~

ハーマイオニー「……」

マミ「……ああ、やっぱり……私もお腹減って起きちゃったんだもの。
   ねえ、ハーマイオニーさん。やっぱりご飯を食べないっていうのは無茶だと思うわ」

ハーマイオニー「……ええ、そうね。確かにそうだわ。菜食主義者が牛肉を食べなくても、屠殺される牛が減るわけじゃないし。
          だからね、私は一晩考えたのよ、マミ」

マミ「?」

ハーマイオニー「必要なのは、もっと抜本的な活動なの。まずは周囲の目から変えていかないと……
          マミ、さっきあなた、私の意見に賛同してくれるっていったわよね?」

マミ「え? あー……言った、かしら? お腹が減ってて、ちょっと記憶が」

ハーマイオニー「……」ジーッ

マミ「あの、そのぅ……」

ハーマイオニー「……言ったわよね?」ニッコリ

マミ「……は、はい、言いました……」

948: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:52:09.91 ID:0gckZWHD0

数日後 グリフィンドール談話室


ロン「……で、この反吐(スピュー)って書いてあるバッジがどうしたって?
   スリザリンの連中にくっつけてまわるっていうんなら手伝わないこともないけど」

ハーマイオニー「続けて読まないで! S・P・E・W! エスピーイーダブリュー!
          しもべ妖精福祉振興協会の略! なんだったら正式名称の方で呼んでもいいわ!」

ロン「遠慮しとくよ、舌を噛みそうだし……にしても、そのなんたら協会って聞いたことないなぁ。ハリー、君は?」

ハリー「初耳だよ。まあ、僕はラジオも新聞もとってないから、当たり前だけど」

ハーマイオニー「大丈夫! 知らなくても不安になることないわ! だってついさっき、私が発足したんですもの」

ロン「へえ、そうかい。じゃあ君が会長なんだね。いきなり大出世じゃないか。きっとパーシーも羨むだろうさ」

ハリー「っていうか、他にもメンバーっているの?」

ハーマイオニー「まだ五人よ。これから増やしていくつもり。がんばりましょうね?」

ハリー「……もしかして、それって僕たちも数に入ってるんじゃ」

ハーマイオニー「? 当り前じゃない。だからバッジあげたでしょ?」

ロン「驚いたな――いや、勝手にメンバーに入れられてることもそうだけど、
   僕らの他にも入った奴がいるらしいってことにね」

ハーマイオニー「残りの二人はマミとキュゥべえよ。快く入会してくれたわ。ほら、いまもあそこで看板持って立ってるでしょ?」


マミ「……うぅ」グスッ

『しもべ妖精への虐待を阻止しましょう! 彼らは"人たる存在"と定義すべきである!
 賛同してくれる方はハーマイオニー・グレンジャー迄 ※入会金、2シックルより』


ハーマイオニー「精力的に活動に取り組んでくれて、会長として非常に鼻が高いわ。
          まあでも、普通に考えれば当たり前なのよ。彼らを無休無給で働かせるなんて言語道断――」

ロン「"快く"、"精力的"にねぇ……僕にはそう見えないけどなぁ」

ハリー「ねえ、看板に描いてある……えーと……あの絵は何?」

ハーマイオニー「何って、見ての通りよ。つまり"権利を求める屋敷しもべ妖精の図"ね」

ロン「ああ、あれしもべ妖精だったのかい。僕ぁてっきり"入会しないとこの怪物をけしかけます"って脅しなのかと」

ハリー「……とりあえず、苦しんでますっていうのはよく伝わってくる絵だと思うよ。
     あれを見て入会してきた人がいたら、絶対関わり合いになりたくないけど」

QB「いや、そんなに悪いことばかりでもないんだよ」ピョイッ

ロン「ああ、キュゥべえ。君もあの看板の小さいの背負ってるのか。で、悪いことばっかじゃないって?」

QB「うん。これを背負ってると、あの猫が怯えて近づいてこないんだ」

クルシャン「フーーーーーッ!」

ハリー「うわあ、凄い威嚇してる……バッジよりも、こっちをお守りとして売った方がいいんじゃない?」

ロン「ナイスアイディア。吸血鬼も近寄らなそうだもんな」

ハーマイオニー「あなた達、私の看板に文句があるならはっきり言いなさい!」

949: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:52:40.40 ID:0gckZWHD0

昼食後 玄関ホール


ハーマイオニー「ですから、私たちは彼らに感謝すべきなのです!
          小さな彼らは毎晩、私たちのベッドを整え、校舎の隅々まで掃除してくれています!
          しもべ妖精解放には、皆さんの力が――」

マミ「……バッジ、買ってくださーい……」ボソボソ

ハーマイオニー「聞こえないわよ、マミ!」

マミ「うううううう! ご協力お願いしまーす! バッジのお金はポスター作りなどに使う予定で――!」


「なんだあれ」「しもべはしもべだろ」「ていうか、なんだあの看板……」「看板が怖い!」「見るな、呪われるぞ――」


ロン「おーおー、頑張ってるなぁ。完全に見世物になってるけど」

ハリー「マミも大変だね。もう半泣きでやけくそじゃないか」

ロン「彼女もそろそろ断るってことを覚えた方がいいな。じゃないとハーマイオニーとは付き合ってられないよ」

ハリー「ハーマイオニー、一度こうと決めたら中々曲げないからね……
     僕らも手伝った方がいいかな? あとで嫌味のひとつでも言われかねないし」

ロン「ひとつで済めばいいけどな。ま、大丈夫だろ。なにせ広報のマミと違って、僕は会計らしいし。
   あのバッジを買おうなんていう奇妙な輩が現れなければ、仕事はないも同然さ」

ハリー「書記の僕はどうすればいいと思う?」

ロン「今年の終わりまでの日記を用意して、全部のページに"今日も売れませんでした"って書いとけば?
   確かシェーマスが自動羽ペン持ってたから借りに行こうか」

ハリー「いい考えかもね……って、ロン。見て、マルフォイの奴!」

950: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:53:06.65 ID:0gckZWHD0

ドラコ「おやおや、何をやってるかと思えば、グレンジャー。同類相憐れむって奴かな?
    君ときたら、前まで僕の家にいたしもべに顔がそっくりだからねぇ。もしかしたら親戚かい?」

ハーマイオニー「邪魔するならどこかに行って貰える?
          あなたに可哀想な彼らのことを理解できるとは思えないし、目も悪いようだしね」

ドラコ「ふん、頭でっかちが。先生に贔屓されてちょっといい成績を取ってるからって生意気なんだよ、知ったかぶり。
    それと、その不気味な看板をこっちに向けるな!」

ハーマイオニー「不気味? 本格的に目が節穴のようね。この可愛い小人妖精のどこが不気味なのよ!」

マミ「そ、そうよ。この看板、私とハーマイオニーさんが一生懸命作ったんだから! ぶ、不気味なわけ……」

ドラコ「じゃあトモエは何で頑なに看板を視界に入れようとしないんだよ! しばらくにらめっこしてみろ!」

ハーマイオニー「看板を見て彼らの窮状を知るべきなのは、私たち以外のみんなよ! マミはもう十分に知ってるからいいの!
          しもべ妖精解放の為なら、彼女は尻尾爆発スクリュートの潜む湖にダイブすることも厭わないわ!」

マミ「え? あ、あの、尻尾爆発スクリュートって、何――?」

ドラコ「言ったなグレンジャー!? 見てろ、次の魔法生物学の時間に一匹ちょろまかして持ってきてやる!
    全身刺されまくって、噛み千切られるがいいさ!」

マミ「刺すの!? 噛むの!?」

ハーマイオニー「望むところよ! 彼女の熱意は、スクリュートの尻尾から出る火花よりも熱いわ!
          それより、あれを持ってくるっていうんなら精々あなたの方こそ毒にやられないことね!」

マミ「火を噴く挙句、毒も持ってるのね……!?」

ハーマイオニー「大丈夫よ、マミ。多分、今のサイズなら即死はしない筈――むぐっ!?」

ロン「落ち着けよ、ハーマイオニー。頭に血が上ってるぞ」

ハリー「こんな奴相手にすることないよ。さ、行こう。次は防衛術の授業だ」

マミ「ああ、ハリーくん、ロンくん……助かった……」

ハーマイオニー「むー! むー!」

ドラコ「おいおい、逃げるのかい? 友達思いなことで……いや、君たちもしもべ妖精思いなのかな?
    特にウィーズリー、君の家族はしもべの着てる服が羨ましく思えるような恰好しかできないだろうしね」

ロン「……っ」

ハリー「黙れ、マルフォイ。お前の家族なんか、スクリュートそっくりじゃないか」

ドラコ「……なんだと?」ピクッ

ハリー「いや、スクリュート以下かな。あれはまだ門番くらいにならなるだろうけど、君の家族はそうじゃないだろうし。
     周りに害をまき散らすだけだ。君はそれの二乗だけどね」

ドラコ「……父上と母上を、侮辱するな、ポッター……!」

ハリー「先に侮辱したのはどっちだ? されて嫌なことはするもんじゃない。ほら、行こう、ロン――」クルッ

ドラコ「……」スッ


 ばーん!


ハリー「っ! こいつ、後ろから!」

ドラコ「ちっ、外したか。なら、次の呪いを……!」

951: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:53:34.93 ID:0gckZWHD0

ムーディ「……若造、そいつは卑怯な行為だ」


 ばーん!


ドラコ「へ!? うわああああああああ!」ポンッ

ハリー「マルフォイが……」

ロン「イタチになっちまった!」

白鼬「チチチチッ!? チチッ!」

ムーディ「背後から襲うなんてのはな、まともな奴のやることじゃあない。
      お前も魔法使いの端くれなら正面から杖で挑め。こんな風にな。ディセンド(落ちろ)」

白鼬「ヂィ――っ!?」ビッタンビッタン

ムーディ「痛いか? 苦しいか? 卑怯者にはふさわしい結果だが、嫌なもんだろう?
      いいか、こんなこと、二度とやるんじゃない……」

ハーマイオニー「……マルフォイが、なんども跳ねて……」

マミ「さ、さすがに止めた方がいいんじゃ……」

マクゴナガル「――ムーディ! あなたは一体何をなさっているのですか!?」

マミ「ああ、マクゴナガル先生!」

ムーディ「躾だ。愚か者の餓鬼にはこいつが一番効く」

マクゴナガル「では、それは生徒なのですか……? なんてことを! フィニート!(終われ)」


 ぽんっ


ドラコ「うう……」

マクゴナガル「変身術を懲罰に使うなんて! ムーディ、そんなこと、本校では絶対に有り得てはならないことです!
         その件については、赴任初日にダンブルドアが再三お話しした筈ですが?」

ムーディ「ふむ。そんな話も聞いた気がするな。分かった。こやつの寮監に話をすればいいのだろう?
      ほら、立て、小僧」

ドラコ「……っ」

マクゴナガル「……ムーディ。ドラコはスリザリンの寮生です。ですので、これ以上は私から言うべきではないでしょう。
         ですが、覚えておいてください。"もしも"私の、グリフィンドールの寮生に同じことをすれば――」

ムーディ「すれば?」

マクゴナガル「次にイタチになって跳ねまわるのは貴方の方でしょうね、ムーディ。
         貴方の杖捌きが、私より数段上だったとしてもです」

ムーディ「……ふん、分かったさ。そう凄むな。
      わしとて、あのミネルバ・マクゴナガルより数段上などと自惚れるつもりはないよ」

マクゴナガル「……分かってくださればいいのです。教師同士で争うことの愚かしさは、私も理解していますから。
         さ、皆さんは次の授業へ向かいなさい。見世物ではありませんよ!」


ロン「……おっどろきー。マッド-アイ・ムーディの噂は聞いてたけど、マジでありゃマッドだな。
    あんな形相のマクゴナガル先生に睨まれたら、僕なら即・土下座するね」

ハリー「挑発しといてなんだけど、まさかあそこまでやるとは思わなかったよ……」

ロン「ああ。でも最高の光景だったよな。マルフォイがまるでクァッフルみたいに弾みまくってさ」

ハーマイオニー「お気楽なご意見をお持ちのようだけど、次はあの先生の授業だって分かってるのかしら?」

ロン「……あー、まあ。大丈夫さ。だってマクゴナガル先生がもうやるなって釘を刺してたし……
    大丈夫だよね?」

ハーマイオニー「知らないわよ。でもまあ、下手に攻撃するようなそぶりを見せなければ多分……」

マミ「じゃ、じゃあ、もしも魔法を失敗して、爆発させたりしちゃったら――」ガタガタ

ハリー「大丈夫だよ。それに、ほら。最初から実技をやるなんて限らないじゃないか」

952: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:54:10.13 ID:0gckZWHD0

闇の魔術に対する防衛術 教室


ムーディ「教科書はしまえ。そんな物は使わん」

マミ「」ガタガタ

ハーマイオニー「平気よ、マミ。平気だってば! ほら、ちゃんと鞄に教科書をしまいなさい!」

マミ「て、手が震えて留め口が……」

ムーディ「ふん。トモエ、とか言ったな? お前のことは前任のルーピン先生や、他の先生方からも聞いておる」

マミ「ひゃ、ひゃい!」

ムーディ「……そう震えるな。別に、わしはお前らを粉々にするためにきたわけじゃない。
      教える為に来たんだ。別に失敗したからといって杖で罰するような真似はせんさ」ニィッ

マミ(あ――わ、笑った?)

ムーディ「闇の魔術に対するもっとも基本的な防衛の方法は、闇を過剰に恐れんようにするということだ。
      恐れるな。恐怖は隙となり闇につけこまれ、簡単な呪文でさえ唱えられんようになる。
      今のお前のようにだ、トモエ」

マミ「は、――はい。分かりました……」ビクビク

ムーディ「……ふむ、なるほどな。さて、本題に入るぞ。さっきも言ったが、闇への恐れを無くすには、闇を知ることだ。
      真っ暗な中を歩くにしても、その道をよく知っとれば何かにぶつかることもない。
      もっとも、闇の魔法使いの馬鹿どもは知っとるつもりになって、その道の深みに嵌るのだがな」

ムーディ「いいか。これからわしが教えるのは闇の魔術の深奥だ。敵が繰り出すであろう手練手管だ。
      だが心に刻め。闇を知り、闇への恐怖を無くしても、決して闇を侮ってはならん。
      油断大敵! まさにそうだ。闇を知り尽くしても、奴らが危険なことには変わりない……」

ネビル「……」ゴクリ

ロン(……やっぱ本職は迫力が違うな)

ハリー(誰も話してないや……流石にムーディの前では内職する気にもならないだろうけど)

953: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:54:38.32 ID:0gckZWHD0


ムーディ「さて、魔法界では、人に向けて使用するだけで厳罰に処される呪文が三つある。
      分かるものはいるか? ――よし、ウィーズリー答えてみろ」

ロン「え、えーと……確か、"服従の呪文"?」

ムーディ「正解だ。そいつは最も厄介な呪文だ。ある意味では、他の二つの呪文よりもな。
      実演してやろう。見たい者は近くに寄れ」コトン


クモ「……」カサカサ


ロン「うぇー! 瓶詰のクモじゃないか!」

ムーディ「クモが嫌いかウィーズリー? 安心しろ、別にお前を襲ったりはせん――少なくとも、これからはな」


ムーディ「インペリオ!(服従せよ)」


クモ「……!」ピョコッ


ハリー「……クモが! クモが二足歩行してる!」

ムーディ「歩くだけじゃないぞ。ほら、タップダンスだ! ワルツ、ブルース、タンゴ!」

クモ「Hei! HO! HO! HO!」

ロン「凄いや! 普段からこれだけ愉快な奴なら、僕だって嫌ったりしないのに」

ムーディ「その言葉は、そのまま自分に帰ってくるぞウィーズリー。
      わしがお前らに同じことをしても、まだ愉快愉快と言っていられるか?」

ロン「え、いや、それは……」

ムーディ「服従の呪文! こいつの一番厄介なところは、だ。
      本当にこの呪文で動かされているのか、それともそうでないのかの判別ができんということにある」

ハリー「判別できない……?」

ムーディ「そうだ。真実薬に自白呪文、その他あらゆる方法を用いても、"服従"させられていたかどうかは分からん。
      何故なら、この呪文は被術者に"本心からそうしたい"と思わせる呪文だからだ」

ムーディ「他人に自分の全てを握られるということが、どれほど恐ろしいことか!
      こいつと戦うのは一苦労だぞ。その方法もいずれ教えるがな。座れ、ウィーズリー」

ロン「……」ガタッ

954: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:55:06.20 ID:0gckZWHD0

ムーディ「さて、次だ。他のふたつを知っとるものは?」

ネビル「……」スッ

マミ「……ロングボトムくん?」

ムーディ「ロングボトム? ……なるほど。では、ロングボトム。答えて見せろ」

ネビル「……ひとつだけ――"磔の呪文"」

ムーディ「……そうだ、"磔の呪文"。服従の呪文が最も厄介な魔法なら、こいつは最も残酷な魔法だ」


ムーディ「さて、今度は見やすいように大きくするぞ。エンゴージオ!(肥大せよ)」


クモ「……」ムクムク


ロン「勘弁してくれ……!」ガタッ

ムーディ「目を逸らすなウィーズリー! 他の者もだ! しっかりと刻み付けろ!」
      

ムーディ「クルーシオ!(苦しめ)」


クモ「――キィイイイイイイイイイイイイイ!」


ハリー「っ! クモが、鳴いた……? いや、机を思いっきり引っ掻いてるのか……」

ロン「み、見たくない……けど……」

ネビル「っ、っ、っ!」

マミ「……ロングボトムくん? ねえ、どうしたの!? ロングボトムくん!」

ハーマイオニー「っ、やめて! もう、やめてください!」


ムーディ「……レデュシオ(縮め)。クモを使ったのは、奴らに声帯がないからだ。
      悲鳴をあげる生物にこの呪文を使うと、慣れん者はしばらく悪夢に悩まされることになる」

ネビル「っ、はぁっ……」ガタッ

マミ「ロングボトムくん、大丈夫? 酷い顔色……」

ムーディ「目を逸らさなかったな、ロングボトム。素晴らしい……才能だ。グリフィンドールに相応しいな。
      磔の呪文! こいつは苦痛だけを相手に与える。肉体を傷つけず、精神だけを蝕む呪文だ」

ネビル「……」ギリッ

955: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:55:37.42 ID:0gckZWHD0

ムーディ「さて、最後だ。最後の呪文は何だ?」


ラベンダー「……」

シェーマス「……」


ムーディ「誰も手を挙げんか? ならば――グレンジャー! 答えろ!」

ハーマイオニー「あっ……アバダ・ケダブラ、です」

ムーディ「その通り。こいつは厄介だとか残酷だとか、そういう次元にある呪文ではない。
      最悪。そうとしか言いようのない呪文だ。少し、離れろ……」


ムーディ「――アバダ・ケダブラ!(死ね)」


 カッ!


クモ「……!……」ビクンッ

マミ「……死んで、る? 傷口も、なにもないのに……」

ハリー「――! 今の、緑色の閃光は……」

ムーディ「死だ。この呪文が与えるのは、絶対の死……反対呪文は存在しない。つまりは魔法で防ぐことはできない。
      わしだろうがダンブルドアだろうが、この呪いを浴びれば死ぬ」


ムーディ「この呪文から逃げ延びた者は、世界でたったひとりだけ……そうだな、ええ? ハリー・ポッター」

ハリー「……」

ムーディ「良い目をしている。恐れを知りながら、しかし恐れに屈さぬという目だ。
      さて、授業に戻るぞ。以上の三つを"許されざる呪文"という。こいつを使うのは闇の魔法使いか、
      もしくは凶悪な闇の魔法使い相手になら、七面倒くさい手続きを踏んだ上で許可されることもある……」




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956: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:56:07.43 ID:0gckZWHD0

闇の魔術に対する防衛術 終了後 廊下



「見たか、あのクモ」「すっげえ呪いだ。初めて見た」「やばいな。やばいくらい、クールだ――」


ハリー「……確かに凄いけど、あんまり楽しい授業ってわけじゃなかったね」

マミ「同感よ……まだ、鳥肌がおさまらないもの」

ロン「でもまあ、分かってたことだろ? ルーピン先生みたいな楽しい授業をするって面じゃないよ、あれ」

ハーマイオニー「……それでも、あんなになるなんて思わなかったわ」

ロン「? 何のことだい?」

ハーマイオニー「ネビルよ。ほら、あそこ……」

ネビル「……」ボーッ

ハリー「何だろう? ずっと壁の方を向いたまま、動きもしない……」

マミ「……ロングボトムくん、大丈夫?」

ネビル「……ああ、マミに……ハリー、ロン、ハーマイオニー。楽しかったね」

ロン「楽しかった? おいおい、どうみてもそんな顔してないぜ。真っ青じゃないか」

ネビル「え、そうかな? ああ、えーと、じゃあ、美味しかった? 違うな、えーと
     ああ、うん、分かってるんだ。分かってる。違うよね。違う、絶対」

ハリー「……重症みたいだ」

マミ「……マダム・ポンフリーのところに連れて行った方がいいと思う?」

ハーマイオニー「そうね。それがいいかもしれないわ――」


ムーディ「――その必要はないさ。そいつは、どうやら芯が強い」


ハリー「……ムーディ、先生……」

ハーマイオニー「……何か御用ですか?」

ムーディ「そう睨むな。別にトドメを刺しにきたというわけじゃない……
      なあ、ロングボトム。わしの部屋に来んか? 茶でも飲もうじゃないか」

ネビル「え、あ、う。ふた、りで?」チラッ

ムーディ「ああ、そうだ。お前の好きそうな本が何冊かある……」

ネビル「あの、本なら、ハーマイオニー、とか」チラッ

ハーマイオニー「……」

ムーディ「わしはお前に言ってるのだがな、ロングボトム。
      スプラウト先生が、お前は薬草学が非常によくできていると言っていた……」

ネビル「……」チラッ

マミ「……あ、あの。先生、私も、一緒に行っても……」

ハーマイオニー「マミ」

マミ「だ、だって、いまのロングボトムくん、ひとりには――」

ムーディ「ふむ。トモエか。構わんさ――ただし、お前がそれを本心から言っているのならな」

マミ「……それって、どういう……」

957: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:56:36.21 ID:0gckZWHD0

ムーディ「お前の本質の話だ、トモエ。一目見ればわかる。お前の心には恐れがある……心の底から、誰よりも恐れている。
      お前が夜道を歩けるように見えるのは、実はより大きな恐れから逃げ出して、我武者羅に走っているだけにすぎん」

マミ「っ! 私は、ただ、ロングボトムくんが、心配でっ」

ムーディ「それだ。それだよ。お前がもっとも目を背けているモノはそれだ。
      嫌われたくない、失いたくない。結果的に八方美人。誰にも彼にもいい顔をしようとする」

ムーディ「芯では勇敢なロングボトムやポッターとは真逆だ。お前の芯は自立できていない」


ムーディ「――臆病者だ。お前は孤独を恐れている」


マミ「――あ、え? だって、そんな……」

ネビル「……先生! 行きましょう! 僕、先生のいう本が見たいです!」

ハリー「……ネビル」

ネビル「平気だよ。うん、平気だ。ごめん、君たちはマミを見ててあげて……」

ムーディ「それでこそ、だ。よし、来いロングボトム……」

ハーマイオニー「……」キッ

ムーディ「残酷、かね? だがいずれは知らねばならん……闇と出会ってからでは遅いのだ。
      知らぬふりをしているのは、そいつ自身の為にならん……いずれ、喉元を刺す」


ハリー「……マミ、大丈夫?」

マミ「あ、あの、ね? 違うの、私。私、は」

ハーマイオニー「平気よ、マミ。大丈夫、落ち着いて……」

ロン「気にすることないさ! やっぱりムーディは狂ってるんだよ……うん。そうに違いない。
    確かにそりゃ、ちょっとおっかないけどさ、本当、意味のある言葉なんかじゃ――」

マミ「……ごめん、なさい……私、先に寮に帰るわね……」

ハーマイオニー「……マミ」

ハリー「しばらくそっとしておいてあげよう……それが一番いいよ」


958: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:57:03.95 ID:0gckZWHD0

グリフィンドール女子寮


QB「お帰り、マミ……どうしたの? 顔色が悪いみたいだけど」

マミ「……」ギュッ

QB「わっ、ぷ。苦しいよ、マミ。もう少し緩めて……マミ? 寒いのかい?」

マミ『……ごめんね。少しだけ、こうさせていて……』

QB「……」

マミ(……ムーディ先生の言ってたこと……多分、間違ってない)

マミ(嫌われるのが怖い。独りぼっちになるのが怖い。だから私は、周りの人に合わせてきた……)



 一年生の時、ネビル・ロングボトムに協力したのは。
 この学校で一番最初に声を掛けてくれた友達を失いたくなかったからだ。


 二年生の時、"継承者"を探そうとしたのは、キュゥべえやハーマイオニーなど、親しい友達を奪われたくなかったから。


 三年生の時、門限を破ってまでスキャバーズを捕まえたのは二人の喧嘩を終わらせる為。


 怪しい情報に縋ってまで佐倉杏子を探そうとしたのは言わずもがな。

  
 人の為に、といえば聞こえはいい。まるで奉仕する聖女のよう。

 大事なものを守るために、と書けば字面はいい。まるで正義のヒーローのよう。

 だけど、違うのだ。その下には全ていやらしい打算がある。



マミ(私の行動は、全部それから派生している――私、臆病者だ……)

959: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:57:31.38 ID:0gckZWHD0

10/30 18:00 ホグワーツ 校舎前


 ざわざわ ざわざわ


マミ「……」ボーッ

ハーマイオニー「マミったら、またぼんやりしてる……あれからずっとあんな調子ね」

ロン「ああ、授業の失敗もいつにも増して酷いしな。ムーディの服従の呪文の時なんか、制服の――」

ハーマイオニー「ロン! 教室の外であの授業のことを口しちゃダメ!」

ロン「おっと――ああ、うん。分かってるさ。
   でもさ、マミがああなったのって、ムーディが何か訳の分からないこと言ったからだろ?」

ハーマイオニー「……訳が分からないのは、私たちがマミじゃないからよ」

ロン「えーと、ごめん。分かりやすく言ってくれるかい?」

ハーマイオニー「たぶん、マミにとっては心当たりがあることだったんでしょう。ムーディの"眼"は確かだわ。
          その証拠に、ほら、ネビルはあれからあんな感じでしょ?」


ネビル「それでね、ハリー。ムーディ先生に借りた本が凄いんだよ。水棲の魔法植物がね……」

ハリー「あー、うん。そうか、それは良かったね、ネビル」


ロン「キラッキラしてるな、ネビルの奴」

ハーマイオニー「ええ。ムーディは教師としても優秀よ。ネビルの自信を上手く引き出してるわ」

ロン「じゃ、なんでマミはああなっちまったのさ?」

ハーマイオニー「……教える側として優れているってことは、欠点を見抜くのも上手いってことよ。
          もしもムーディが指摘したのがマミの悪いとこなら、流石にすぐには受け入れられないでしょう?」

ロン「えーと、八方美人っていってたっけ? まあ、そう言われればそうかも。
   ええかっこしいっていうか、人付き合いで損するタイプだよ。まともだったら反吐の宣伝なんかしないし――」

ハーマイオニー「……」ギロッ

ロン「……あー、なんでも、ない」

ハーマイオニー「ふんっ。とにかく、今のマミに必要なのは時間よ。
           こういう時は、何も言わずにただ傍にいるのが一番いいの」

ロン「それも何かの本に書いてあったのかい?」

ハーマイオニー「? よくわかったわね?」

ロン「そりゃあね……でも、僕が思うに必要なのは楽しいイベントだと思うな。
   気分転換になるような、最高にご機嫌な奴さ……"これ"がそうなればいいんだけど」

ハーマイオニー「そうね。確かに、他の魔法学校なんてなかなかお目に掛かれないもの。
          特にこれから来る二校は、徹底した秘密主義って話だし――」


「おい、なんだあれ……?」「空から、何か……」「湖からも何か出てくるぞ!」


マミ「空飛ぶ馬車に……大きな船?」

ダンブルドア「――うむ。ボーバトンにダームストラング、双方ともに時間通りのご到着、というところかのう」

960: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:57:59.15 ID:0gckZWHD0

大広間


ダンブルドア「それでは紹介しよう。T.W.T(トライウィザード・トーナメント)を共に競い合う、
        ボーバトン魔法アカデミーのマダム・マクシームと、ダームストラング専門学校のカルカロフ校長じゃ」

マクシーム「どぉーも。ごしょうかいに、あずかりまーした。オリンペ・マクシームいいまーす」

カルカロフ「イゴール・カルカロフだ。フェアなプレイになるよう期待する」


ハリー「うわー。ボーバトンの校長、女の人なのにハグリッドくらい身長があるよ……それに、変な喋り方」

ハーマイオニー「フランス訛りね。ということは、ボーバトンはフランスのどこかにあるんだわ……」

マミ「? 喋り方、変かしら? 普通に聞こえるのだけど……」

ハリー「え? 嘘だろう。なんか変に間延びしてたり、途切れたりするじゃないか」

ハーマイオニー「マミは翻訳指輪してるからでしょ。その指輪、大抵の言語に対応してみたいだし」

ハリー「じゃあボーバトンの人も同じの付ければいいのに」

ハーマイオニー「たまに正確じゃない訳をしたりするのよ。"ス"なのに"ズ"になってたり」

マミ「え? なんのこと?」

ハーマイオニー「118の――まあ、いいわ。それにしても、見てよ。ボーバトンの生徒」


ボーバトン生「さむぅーいです、ね」「ほーんと、ひえきってまぁす」


ハーマイオニー「厭味ったらしいわね。そんなに寒いならマントを羽織ってきなさいよ。
          この時期のイギリスが寒いなんてこと、事前に調べられるでしょうに!」

ロン「ボーバトンなんてどうでもいいよ! それより、見て! スリザリンのテーブル! ダームストラングの生徒!」


クラム「……」


ロン「クラムだ! ワールドカップで見ただろう? 最高のシーカー! まさかまだ学生だったなんて!
    ああ、サイン欲しいなぁ。誰か羽ペン持ってない? いや、この際文字が書ければなんでもいいよ」

マミ「ああ、あれが例の……」

ロン「そうだ! みんな、一緒にクラムにサインを貰いに行かないか?
   ついでにスリザリンのテーブルから引きはがしてこっちに――」

ハーマイオニー「まだ説明の途中じゃない! 座ってなさい!」

961: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:58:32.34 ID:0gckZWHD0

ダンブルドア「――そしてT.W.Tの開催にあたって、多大な貢献をされたお二人。
        国際魔法協力部のバーミテウス・クラウチ氏に、魔法ゲーム・スポーツ部のルード・バグマン氏じゃ」

クラウチ「……」

バグマン「いやあ、はっは! どうもどうも――おいバーティ、もうちょっと愛想よくだな……」

クラウチ「……」

バグマン「これだものな! もともと明るい奴じゃなかったが、ここ最近はとみに――ああ、すまん。続けてくれ」

ダンブルドア「ほっほ。すまんの。さて、それではお待ちかねの代表選手の選抜方法じゃが――
        フィルチさん、箱をここに」

フィルチ「……」カタッ

ロン「うわー、見てよハリー! あの箱、宝石付きだ! 売ったらいくらくらいになるかな……」

ハリー「うん……でも、なんで箱なんか?」

ダンブルドア「競い合う三人の代表選手……先のお二方が定めた三つの課題に挑む権利があるもの決定するのは、、
        これなる公平無私の選定人……"炎のゴブレット"じゃ」


 ギィ……


ハーマイオニー「箱が、開いて……中に入ってるのは」

マミ「……普通の、木でできたゴブレット? 別に、どうってことのない物に見えるけど――」


 ボッ!


マミ「きゃっ! ご、ゴブレットから、青い火が……」

QB「なるほど。それで炎のゴブレットか。どういう仕組みなのかな」

ダンブルドア「挑みたい者はこのゴブレットの中に、名前と所属校を書いた羊皮紙を入れるのじゃ。
         期限はこれより24時間以内。明日のこの時間に、ゴブレットは選定を終える。
         このゴブレットは玄関ホールに置いておくでのう」

962: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 04:59:53.46 ID:0gckZWHD0

ダンブルドア「最後に、軽々しく名前を入れることのないよう。選ばれたが最後、棄権は出来ん。
        ゴブレットに選ばれるということは、魔法契約によって拘束されるということじゃ。
        また、既定の年齢に満たぬ者が血迷わぬように、周囲に"年齢線"を引いておく」

フレッド「年齢線! よっしゃ、それならいくらでも手はあるな」

ジョージ「ああ――そうだ、君も来るかい、ハリー。一緒に入れに行くか?」

フレッド「グリフィンドールのぶっ壊し屋もどうだい? マミ・ザ・デストロイヤー。
     最近は大人しくなったって評判だから、ここらで一発でっかい花火をさ」

マミ「待って、何その名前。デストロイヤーって……私、陰でそんな風に呼ばれてたの……?」

ジョージ「ファンクラブもあるぜ。授業を自習にしてくれるって評判で――」

ハーマイオニー「ちょっと! そんな危ないものにハリーとマミを巻き込まないで!
          ただでさえ私たちは決められた年齢に達してないのよ!?」

ロン「そうだよ。っていうか、まず弟の僕を誘えって」

ジョージ「ロニー坊やが? そいつは悪い冗談だ。お前が出場してバラバラにされたら、僕らもママに殺されっちまう」

フレッド「それにゴブレットに年齢が分かるもんかよ、ハーマイオニー。
      ああ、でもマミが名前入れるなら、ゴブレットは壊さないでくれよ?」

マミ「こ、壊しません! それに参加もしない! なによデストロイヤーって!」ブンッ

ジョージ「おっと――はっは、そんだけ元気がありゃ優勝も狙えるだろうに。じゃあハリーは?」

ハリー「僕は……うーん、そりゃ、出てみたいって気持ちが無いわけじゃないけど……」

ハーマイオニー「ハリー!?」

ハリー「いや、もちろん冗談だよ。本当に参加するつもりは……」

フレッド「まあとにかく、明日の朝玄関ホールに来いよ。それまでには準備もしとくからさ」

ジョージ「よーし。まずはスネイプんとこの薬品棚から材料をちょろまかして……」

ハーマイオニー「ああもう! あの二人ったら、規則をなんだと思ってるのかしら!」

ロン「フィルチの戯言。そんなとこだろ」

マミ「ふふ、でも楽しそうでいいじゃない」ニコッ

ハーマイオニー(あ……久しぶりに笑ったわね、マミ。
          あの二人、もしかして最近彼女が落ち込んでることに気づいて……?)


 ぱーん!


「うわー! また双子がやらかしたぞ!」「クソ爆弾だ! スネイプの部屋の前が汚物塗れに!」


ハーマイオニー「……考え過ぎかしら」

963: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:00:22.51 ID:0gckZWHD0

ロン「それより、はやくダームストラングのとこに行こうよ! クラムのサインを貰い損ねちまう!」

ハリー「あ、ちょっと――ロン、前!」

ロン「へ?」


 ドンッ


ロン「あたっ! ちくしょう、誰だ! クラムへの道を塞ぐ奴にはパンチも――」

フラー「……」ハラリ

ロン「辞さな――あ、う」

マミ「マフラーが解けて……わあ、凄い美人……ボーバトンの人よね、あれ」

ハーマイオニー「……」

ロン「……あ、あの、その、すみ、すみみみ! すみませんでした! お怪我は!?
   ああ、服にほこりが――僕、払います!」

フラー「……結構、でーす」スタスタ

ロン「ああ、行っちゃった……声まで綺麗だ……もしかしてヴィーラじゃ」ブツブツ

マミ「……ロンくん? ねえ、おーい。ロンくーん?」

ハリー「駄目だ、帰ってこない。ひっぱたけば正気に戻るかな?」

ハーマイオニー「……っ!」バキッ

ロン「」

マミ「あ、ああ、ロンくん……気絶しちゃった」

ハリー「凄いな、一撃か」

ハーマイオニー「ふんっ、さっきよりはまともな状態に近づいたでしょ!」

964: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:01:22.29 ID:0gckZWHD0

翌日 ハロウィーン 朝 玄関ホール


 ざわざわ ざわざわ


ロン「ねえ、ハリー。僕、昨日の夜から記憶がないんだけど……首もしこたま痛いし」

ハリー「寝違えたんじゃない? あんまり気にすることないよ」

ロン「そうかなぁ……にしても、結構集まってるな。半分以上は野次馬だけど」

ハーマイオニー「もうみんな名前を入れたのかしら……?」

ハリー「夜とかに入れにきた人もいるんじゃないかなぁ。
     皆の前で入れて、ゴブレットに拒否されたりしたら嫌だもの。僕ならそうするよ」

マミ「……校長先生の言った通り、年齢線が書いてあるわ。
   えーと、指定した年齢じゃない人が入ると発動する罠みたいな奴よね、確か」

QB「それじゃあ、フクロウに頼んで入れて貰ったりすれば?」

ハーマイオニー「ダンブルドアは魔法契約って言ってたもの。本人の手で直接入れないと駄目なんじゃないかしら?」

ロン「代表がフクロウとかになっちゃったら笑えないしね」

フレッド「なあに、そんな心配はしなくていいさ。俺たちが入れるんだからな」

ハリー「フレッド! ジョージ! 準備は出来たの?」

ジョージ「ばっちりさ。完璧だと思うね。ハリー、僕らが成功したら後に続けよ」

ハーマイオニー「ふん! ダンブルドアがこんなズルを想定してない筈ないわ!」

フレッド「それじゃ、上手く行きましたらご喝采だ。よし、まずは……アクシオ! ゴブレットよ、こい!」


炎のゴブレット「……」シーン


マミ「今、何をしたの?」

ハーマイオニー「"呼び寄せ呪文"よ。ゴブレットを手元に引き寄せようとしたのね――失敗したみたいだけど」

ジョージ「なあにまだ小手試しさ。ゴブレットの方に呪文が通じないなら、この羊皮紙を……飛べっ」


炎のゴブレット「……」

 ボッ! ジュッ


ロン「うわっ、炎で焼かれた!」

ハリー「あれじゃあ、羊皮紙を入れられないんじゃ……」

ハーマイオニー「だから、直接手で入れないと駄目なのよ。
          魔法とか、あまつさえ手で投げるとかじゃ絶対に選ばれないわ」

フレッド「おーけーおーけー。ここまでは予想通りさ。んじゃ、大本命。
     昨日、ちょっくら盗み――おっと、廊下に落ちてた材料で作った"老け薬"でござーい!」

マミ「老け薬って、飲むと歳をとるの? ……女の子の天敵みたいな薬ね」

ジョージ「ま、用法用量に気を付けて飲めば大丈夫さ。僕らは一滴でいい」ゴクン

フレッド「ほら、ハリー。余りはやるよ――君なら5、6滴ってところかな」ゴクン

ハリー「あ、ありがとう」

ハーマイオニー「ハリー、飲まない方がいいわよ。どうせ失敗するもの」

フレッド「さあいくぜ、ジョージ!」ダッ

ジョージ「おう! いざ栄光を我らの手に!」ダッ

965: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:02:35.15 ID:0gckZWHD0

ハグリッドの小屋


ハリー「……で、二人は年齢線に弾かれて、ヒゲもじゃになっちゃったんだ」

ロン「面白かったよ。ダンブルドアがやりそうな、笑えるトラップさ」

ハグリッド「ああ、あのお方はジョークもよく分かってらっしゃるさ。うん。
       ……ところで、そっちの娘っこ、えーと、マミはいったいどうした?」

マミ「吸盤が、吸盤が……」ガタガタ

QB「なんかね、来る途中で大きなエビの出来損ないみたいな怪物に襲われて……」

ハーマイオニー「スクリュートよ、ハグリッド。一匹箱から逃げ出してたわ。私が叩き戻しておいたけど」

ハグリッド「おお、あいつらか! きっと初めて見る生徒だから、遊んで欲しかったんだな。
       見たか? 元気に育っとったろ?」

ロン「ああ、一メートル近くなってたのを見た時には死を覚悟したよ。何を餌にしたの? 人の肝臓と生き血?」

ハグリッド「なーんでも食うぞ! 好き嫌いはせん。可愛い奴らだ」

マミ「いやあああああ……」ガタガタ

ハリー「……人間は食べないって否定してほしかったなぁ」

ハーマイオニー「こほん。それより、ハグリッド。私達、しもべ妖精の地位を向上させる活動をしているのだけど――」





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966: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:03:08.32 ID:0gckZWHD0

ロン「はい、チェックメイト――ああ、だんだん外が暗くなり始めたなぁ」

ハリー「そろそろ戻らないと。代表選手の発表が始まっちゃうよ」

マミ「そうね。あの、ハーマイオニーさん、そういうわけだから、そろそろ……」


ハーマイオニー「屋敷しもべ妖精達がそういう認識なのは、魔法使いが圧政をしいているからだわ!
          まずは彼らに、自由の味を知って貰わないと!」

ハグリッド「だからな、ハーマイオニー。そりゃお節介ちゅうもんだ。世話をするのは連中の本能だからな。
       無理に仕事を奪えば、それこそ嘆き悲しむぞ」

ハーマイオニー「そんなの、やってみなくちゃ分からないじゃない――」


ロン「駄目だなありゃ。置いて行っちまおうか?」

マミ「流石に、それは……」

ハリー「でも遅れたくはないし……今夜はハロウィーンだし、きっと御馳走だよ」


コンコン


マクシーム「あぐりっど、いまーすか?」

ハリー「え? この声、ボーバトンの……」

ハグリッド「!」ガタッ

ハーマイオニー「ハグリッド? まだ議論は終わって――」

ハグリッド「あ、あー。すまんが、これで終わりだ――お前たちもそろそろ戻らねえと。
       俺も支度があるし――」ガサゴソ

ロン「支度? ……なにそれ、もしかして背広かい?
   今までパーティの時にだってそんなもの着てこなかったじゃないか」

ハリー「それに、その瓶は? 蓋が閉まってるのに、凄い臭いが……」

ハグリッド「コロンだ。さ、ほら、行った行った! 早くしねえと始まっちまうぞ!」

ハーマイオニー「……仕方ないわね。行きましょ?」

マミ「え、えーと。それじゃあ、お邪魔しました。お昼ご飯、美味しかったです」

ロン「ああ、隠し味に正体不明の鍵爪も入ってたしね」

967: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:03:46.83 ID:0gckZWHD0

大広間


ハリー「ハグリッド、変だったね。マダム・マクシームと付き合ってるのかな?」

ロン「ある意味、お似合いだね。それに手も早い――でもハグリッドにそんな甲斐性あるかなぁ?」

マミ「でも、敵対校同士での恋愛って、ちょっと素敵じゃないかしら?」

ロン「……変なのは君もか。どうしたらあれがロマンチックに見えるのさ」

ハーマイオニー「しっ! 静かに。ダンブルドアが立ち上がったわ」


ダンブルドア「さて、ゴブレットの選定もどうやら終わったようじゃ。これより、代表選手の発表を行う。
        名前を呼ばれた者は前に出て、隣の部屋へ移るように」


ロン「いよいよだ、誰かな――?」

ハリー「グリフィンドールではアンジェリーナが入れたらしいよ……あ、見て。ゴブレットの炎が……」


炎のゴブレット「――」 ボッ


マミ「紙が吐き出された……あれが代表選手の?」

ダンブルドア「うむ。まずはダームストラングの代表選手――ビクトール・クラム!」

クラム「……」

カルカロフ「よしっ!」

ロン「やっぱり! そうだよな、分かってたさ!」

ハーマイオニー「ロン、あなたホグワーツ生でしょうに」


炎のゴブレット「――」 ボッ


ダンブルドア「二人目――ボーバトン代表、フラー・デラクール!」

フラー「……」

ロン「あっ、あっ。ハリーあの人だ! うわー、やっぱり、とっても、綺麗だ……
    ホグワーツにはいないよな、ああいう子……芋ばっかりさ!」

マミ「……ハーマイオニーさん?」

ハーマイオニー「ええ。ひっぱたきましょう」

ハリー「僕も手伝うよ」


炎のゴブレット「――」 ボッ


ダンブルドア「最後に、ホグワーツの代表は……セドリック・ディゴリー!」

ハッフルパフ生「わあああああああ! ディゴリーだ! ディゴリーが選ばれた!」

ディゴリー「……」ニコッ

マミ「えーと確か、去年、ハリーくんとクィディッチで戦った……」

ハリー「うん。ハッフルパフのシーカーだ」

ハーマイオニー「そう! だった! わね! 監督生! みたいだし!」ギリギリ

ロン「ギブ! ギブ!」

968: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:04:24.24 ID:0gckZWHD0

ロン「ごほっ、ごほっ。あー、酷い目にあった。
   でも、うちからはディゴリーかぁ。勝ち目ないよ。だってクラムはプロの選手だもの」

ハーマイオニー「ロンったら! 別に箒でレースするわけじゃないでしょうに!」

マミ「グリフィンドールじゃなかったのは残念だけど、同じホグワーツの仲間だもの。頑張って優勝して欲しいわ」

ハリー「そうだね……うん。確かに色々と思うとこはあるけど、セドリックには頑張って――」

ダンブルドア「さあ、これで代表選手は決まった。選ばれなかった生徒たちも、代表選手への声援を――」


炎のゴブレット「――」 ボッ


ロン「うん? おい、あれ見ろよ。ゴブレットの炎がまた……」

マミ「……さっきみたいに、燃え上がってる」

ハーマイオニー「そんな、代表選手は三人の筈でしょ? それがなんで……」


ダンブルドア「……」パシッ


ダンブルドア「――ハリー・ポッター」


ハリー「……え?」

969: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:04:58.42 ID:0gckZWHD0

 ざわざわ ざわざわ


「ハリーが? どうやって年齢線を――」「また規則違反?」「すげえ! さっすがハリーだ!」


マミ「ハリーくん、隣の部屋に行っちゃったわね……でも、なんでゴブレットからハリーくんの名前が……」

ロン「そんなの! あいつが入れたからに決まってるじゃないか!」

マミ「きゃっ、ろ、ロンくん……?」

ハーマイオニー「どうしたのよ、ロン。そんな大声で怒鳴って……」

ロン「だってハリーの奴、僕らにも内緒にしてたんだぜ? せめて僕には教えてくれていいだろうに!」

ハーマイオニー「ロン、ハリーは入れてないと思うわ。あの顔を見た? とても混乱してたじゃない」

ロン「だったら誰が入れたっていうのさ! 本人が入れないといけないっていったのは君だろう!」

ハーマイオニー「それは――他にも手段があるのかもしれないわ。強力な闇の魔術とか……」

マミ「ねえ、ロンくん。とにかく落ち着いて……戻ってきてからハリーくんに聞けばいいじゃない。
   ね? ハリーくんがそんなズルするわけ……」

ロン「ハリーがズルするわけない? はっ! 僕ら、これまで散々規則を破ってきたじゃないか!
   それとも、いつでもハリーだけは正しいって訳かい?」

マミ「そ、そういうわけじゃ……」

ハーマイオニー「ロン、マミに当たるのはよしなさい! 見苦しいわ!」

ロン「うるさいな! 知ったかぶりとええかっこしいは黙ってろよ!」

マミ「……っ!」

ハーマイオニー「ロン! あなた、なんてこと――」

ロン「……ふん!」ガタッ

ハーマイオニー「ああ、行っちゃった……マミ、気にすることないわ。ロンはハリーに嫉妬してるのよ。
          冷静じゃないだけで、本心からあんなこと思ってるわけじゃ――」

マミ「……う、うん。大丈夫。平気、気にしてなんか、ないわ」

970: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:05:27.66 ID:0gckZWHD0

グリフィンドール女子寮


QB「ふぅん。そういう訳か。それでいま談話室はあんなどんちゃん騒ぎなんだ」

ハーマイオニー「ええ。そりゃあ、グリフィンドールから代表選手が出たのは喜ばしいことなんでしょうけど」

QB「君たちは行かないのかい? また双子辺りが食べ物とか調達してると思うけど」

マミ「……あんまり、あの中には居たくないの」

ハーマイオニー「右に同じ。ハリーに話を聞きたいけど、たぶんあの騒ぎじゃ無理だし……明日聞くわ」

QB「君らがそう言うんなら、無理強いはしないけどね。でも……どうしてだろう?」

ハーマイオニー「どうしてって、なにが?」

QB「ああ、仮にハリーがゴブレットに名前を入れてないとしてさ。なら、誰かが代わりに入れたってことだろう?
   それになんのメリットがあるんだろうって思ったんだ」

マミ「例えば、グリフィンドールからも代表選手を出したかったとか……」

QB「なら、別の上級生にすればいい。ハリーの成績は確かに上の方だけど、それもこの学年での話だ。
   上級生の方がたくさん呪文を知ってるし、同じ学年でもハーマイオニーの方が成績は上だろう?」

マミ「じゃあ、一体どうして……」

QB「うーん、例えば、そうだな……この試合って、とっても危険なんだろう?」

ハーマイオニー「ええ、そうね。調べたけど、参加者の半分以上は亡くなってるみたい」

マミ「そんなに……?」

QB「なら当然、実力が見合わない生徒が参加すれば、死んでしまう確率は高くなるわけだよね」

ハーマイオニー「ハリーを殺すために誰かが入れたってこと!?」

マミ「そんな……一体誰が……」


ガチャ


ラベンダー「はー、楽しかった! ハリーが優勝してくれるといいわね!」

パーバティ「あら、マミにハーマイオニー。あなたたち、ここにいたの? 談話室にくればよかったのに」

マミ「う、うん……ちょっと食べ過ぎて胸焼けしちゃって。もう休むわ。ね、ハーマイオニーさん?」

ハーマイオニー「ええ、そうね……それじゃ、また"明日"」

ラベンダー「そう? それじゃ、お休み」

971: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:06:11.68 ID:0gckZWHD0

マミ『……キュゥべえ、さっきの話、本当?』

QB『もちろん推測に過ぎないけど……でも、他の考えが浮かばないのも確かだ』

マミ『……』

QB『……もしも本当に誰かがハリーを殺そうとしているとしたら。
   君が調べてみる価値はあるよ。そんなに気になるんならね』

マミ『私、が? どういう意味?』

QB『"送り主"だよ。情報を送ってくる条件は未だに不明だけど、夏休みの件を見るに君の行動が関わってるのは確かだ』

マミ『送り主……ね』

QB『もちろん、確実性はないからね。ただ、悩んでいるよりは行動した方が気も紛れるだろう?』

マミ『……でも……それは……』


 "――臆病者だ。お前は孤独を恐れている"


 "うるさいな! 知ったかぶりとええかっこしいは黙ってろよ!"


マミ(友達を仲直りさせたいっていうのは……悪いことじゃない筈よね?)

マミ(でも、それが……私の自分勝手な思いの押しつけなら……)

マミ『……しばらく考えてみるわ。すぐには、ちょっと……』

QB『……』

972: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:06:42.65 ID:0gckZWHD0

翌日 朝 ホグワーツ敷地内 湖畔


ハリー「……んぐ。トーストありがとう。助かったよ、ハーマイオニー。それに、マミも。
     食堂にはいきたくなかったからさ……」

マミ「やっぱり、ロンくんと喧嘩を……?」

ハリー「昨日ね。散々疑われたよ。もうあいつなんか知るもんか……」

ハーマイオニー「でも、もう一度話して見るべきだと思うわ。ロンだってきっと分かってくれるわよ」

ハリー「冗談じゃないね。誰があんな分からず屋と――皆も皆さ。誰も僕の話を聞こうとしない。
     僕が入れたんじゃないって、君たちだけでも信じてくれたのはありがたいよ、本当」

QB「でも、誰が入れたんだろうね。可能性が高いのは、やっぱりハリーを傷つけようとしてる人だと思うけど」

ハリー「ああ、ムーディも昨日、そう言ってた……なんか自意識過剰みたいで、誰にも言ってないけどさ」

ハーマイオニー「でも、それを知らせるべき人はいると思うわ」

ハリー「誰? ダンブルドア? もう知ってるよ、昨日、ムーディがそう言った時に居たし……」

ハーマイオニー「違うわ、シリウスよ。
          どうせ代表選手のことは新聞なんかに載るだろうし、あなたから伝えた方がいいわ」

マミ「シリウス……? 誰かしら、それ」

QB「もしかして、シリウス・ブラックのことかい? そういえば冤罪だったって……ハリーの知り合いなの?」

ハーマイオニー「……そういえば、マミ達にシリウスのこと話すタイミング無かったわね」

ハーマイオニー(帰りの特急の中では、マミの顔を舐めた件でいきなり家庭崩壊の危機だったし……)

ハリー「親戚――みたいな関係かな。この夏は結局、法律の手続きでいっぱいいっぱいだったけど、
     来年からは一緒に住めるんだ、きっと……」

マミ「家族――そう、良かったわね、ハリーくん」

ハリー「あ……ごめん! マミの前で、こんな話を――」

マミ「え? ……あ、ううん! いいのよ別に! それに、家族なら私にも出来たもの! 夏休みにね!」

ハリー「え、家族ができたって……えーと、その、おめでとう?」

ハーマイオニー「ま、マミ!? そんなの聞いてないわ! 誰よ! いったどこの誰!?」

マミ「? ……! ああ、もう! なんで皆してそういう風に――違うわ! 女の子!」

ハリー「ああ、なんだ。そうなの」

ハーマイオニー「そ、そんな――」

マミ「……ハーマイオニーさん?」

ハーマイオニー「そりゃ、基本的には自由だと思うし、そういうことで差別する気はないけど――
          で、でも、やっぱり同性愛は不毛だと思うの!」

マミ「ハーマイオニーさん!?」

973: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:07:24.60 ID:0gckZWHD0

ハーマイオニー「……こほん。何だ、そういう訳ならはっきりそう言えばいいのよ。
          無駄に取り乱しちゃったじゃない」

マミ「私が悪かったの……?」

ハリー「僕はすぐに分かったけど」

ハーマイオニー「ごほん! と、とにかく、ハリーはシリウスに手紙を出すべきよ!
          彼は優秀な魔法使いだし、ハリーの為ならきっと的確なアドバイスをくれるわ」

ハリー「うーん……そうだね。シリウスに相談してみるよ。
     いまはロンドンに住んでるから、返事もすぐだろうし――」

ドラコ「――おやおや、代表選手がこんなところで何の相談だい、ポッター。
    カンニングの算段か?」

ハーマイオニー「……マルフォイ」

ハリー「朝からうんざりだよ。ひとりで何の用さ。いつもの金魚の糞はどうした?」

ドラコ「……どうでもいいだろ、そんなこと! 別に、連中が朝食のテーブルから離れなかったわけじゃないぞ!」

QB「離れなかったんだ」

マミ「……そういえば、この前のイタチ騒ぎの時もあの二人いなかったけど……確か、昼食直後だったわね、あの時も」

ハリー「とうとう食事以下にまで落ちぶれたのかい、君」

ドラコ「ぐっ……お前こそ! 穢れた血を二人も侍らせて王様気分かい? さすが、代表選手さまさまだね。
    サインを貰っていいかな? どうせもうすぐ死んじゃうんだしさ」

ハリー「……おい、マルフォイ。二人をその呼び方で呼ぶな」スッ

ドラコ「面白い。今度はあのムーディもいないぞ、弱虫ポッター」スッ

ハーマイオニー「ちょっと! 二人とも、杖をしまいなさい!」

マミ「危ない! ハーマイオニーさん、間に入っちゃ――」

ハリー「ファーナンキュラス!(鼻呪い)」

ドラコ「デンソージオ!(歯呪い)」

974: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:07:59.55 ID:0gckZWHD0

 バチン!


ハーマイオニー「!? ――っ!」

マミ「は、ハーマイオニーさんに、片方の呪いが……」

ドラコ「あははは! こりゃ傑作だ! まあ、そんなに変わらないんじゃないかい?
    もとからビーバーみたいな前歯だったわけだし――」

QB「ハリー、今なら隙だらけだよ」

ハリー「エヴァーテ・スタティム!(宙を舞え)」バチッ

ドラコ「フォーイ!?」


 ざっぷーん


ドラコ「うわあああ! イカが! 大イカが! や、やめろ、触手は、あっ!」

マミ「すぐに医務室に行かないと――はい、マントを頭から羽織って……」

ハリー「大丈夫、マダム・ポンフリーならすぐに治してくれるさ……」

ハーマイオニー「……っ」コクコク


ドラコ「おい、僕を置いて行くな! 助けろ! 助けてください!
    うわっ、なんだこいつら……水中人? え? 顔色が悪いから仲間にしてやる!?
    や、やめろ、水中に引きずり込もうとするな……!」


975: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:08:40.55 ID:0gckZWHD0

数週間後 ホグズミード週末 ホグズミード


マミ「わあ、ホグズミード! こうやって真正面から入るのは初めて!」

ハリー「? それだと君、真正面からじゃない所からなら入ったことがあるって風に聞こえるけど……」

マミ「え? あ、あー……こ、言葉の綾よ! ねえ、キュゥべえ? 入ってないわよね、私達」

QB「……ウン、ソウダネ」

ハリー「まあいいけどさ。あ、三本の箒はこっちだよ。シリウスとの待ち合わせ場所の……」

マミ「……? ハリーくん、よく知ってるわね? ホグズミードに来るのは初めての筈じゃ……?」

ハリー「え、あー――マップをね、事前に見たんだよ。ねえ、ハーマイオニー?」

ハーマイオニー「……はあ。そうね、そういうことにしておいてあげる。
          それより、良かったわね、マミ。今年は代理のサインがおりて」

マミ「ええ。シリウスさんの冤罪が晴れたから……マクゴナガル先生には感謝しないと」

ハーマイオニー「……ところで、ハリー。そろそろ透明マントを脱いだら?
          マミがいるから、おかしな目で見られてはいないけど……」

ハリー「嫌だよ。言っただろ? ロンに会いたくないんだ」

ハーマイオニー「はあ……いい加減に、一度話してみなさいよ。ロンがいなくて寂しいくせに」

ハリー「寂しくなんか……ないさ。そりゃ、クィディッチの話をしたり、馬鹿話をしたりするのには、あれだけど……」

マミ「……重症じゃない」

976: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:09:11.17 ID:0gckZWHD0

ハリー「どっちにしても、あんまり僕は顔を出さない方がいい。周りを見てみなよ。
     ハッフルパフの連中がつけてるバッジ……」


『セドリック・ディゴリーを応援しよう』


ハリー「分かるだろ? あの連中、僕を見かけたらどんな反応をするか……」

QB「ハッフルパフは、あんまり目立った成績がないからね。
  セドリックが代表選手に選ばれた喜びに、水を差されたように感じたんだろう」

ハリー「僕が入れたんじゃないのに……おまけに、とどめは例の新聞だ。
     リーター・スキーターとかいう記者の……」

マミ「ああ、この前、ハリーくんが取材を受けたっていう……」

ハリー「一ミリも反映されてないけどね。好き勝手書かれて、本当に迷惑だよ……」

ハーマイオニー「はあ……分かったわ。でも"三本の箒"に入ったらさすがに脱ぎなさいよ。
          シリウスとマント越しに話をするつもり?」

ハリー「分かったよ……あ、あそこにいるのは……!」


ロン「……だからさ、ハリーが正直に教えてくれれば、それで済む話なんだ。
   親友の僕にも教えてくれないなんて、そんな話あるかい?」

フレッド「知らねえけど。でも、奴さん本当に入れてないのかもしれないぜ?」

ジョージ「俺らにも無理だったもんなぁ。そもそも、四人目が選ばれるなんてのも変な話だ」

ロン「そりゃ……そうだけどさ」

フレッド「ハリーを殺したい誰かが入れた、なんて噂もあるくらいだぜ? 
     まあ、グリフィンドールから代表選手がでたのは嬉しいから、ハリーには頑張ってほしいけどな」

ジョージ「ロニー、お前さんも意地張ってないで、さっさと仲直りしたらどうだい?」

ロン「……嫌だね! ハリーが正直に言ったら仲直りしてやってもいいけどさ!」


ハーマイオニー「あー、ハリー? ロンは意地になってるから……」

マミ「そ、そうよ。だから、あんまり気にしないで……」

ハリー「……別に気にしてないさ、あんな奴。行こう」



977: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:09:56.57 ID:0gckZWHD0

三本の箒


シリウス「やあ、ハリー! それにその友達も。こっちだ――さあ、椅子をどうぞ」

ハリー「シリウス……えーと、久しぶり、ですね」

シリウス「なんだ、堅苦しいぞ、ハリー! もう家族なんだから敬語なんていらないさ」

ハリー「分かってはいるんだけど……なかなかね。夏休みも会えなかったし……」

シリウス「ああ、それは悪かった……だが、冤罪を晴らす手続きが妙に手間取ってね――」

マミ(この人が、シリウス・ブラック……前に新聞に載ってた怖い写真とは全然違う……)

シリウス「おや、君は――久しぶりだね。その節はどうも。助かったよ」

マミ「え? あの、すみません。どこかでお会いしましたか……?」

シリウス「うん? どこって――あ」

ハリー「……」ジッ

ハーマイオニー「……はぁ」

シリウス「あー! いや! 私の勘違いだった! ハリー達はいつも三人組だったものだから、ついね!」

QB「あれ。そういえばこの人の魂の形、どこかで――」

シリウス「外は寒かっただろう! なにか暖かい者でも奢ろうじゃないか!
      ロメルスタ! バタービールを五つ! ひとつは冷まして、猫用の皿に注いでくれ!」

QB「僕の分も?」

マミ「え、そんな。悪いです。初対面の方に……」

シリウス「なに、構わないさ。ハリーを支えてくれている友達への、ささやかな恩返しだよ。
      ……そういえば、あの子はどうした? ウィーズリー家の……」

ハリー「知らない」

ハーマイオニー「もう、ハリーったら……二人とも、ちょっと喧嘩中なんです」

シリウス「む。そうか、去年、足を折ってしまったお詫びにフクロウを持って来たんだが……
      なるほど、それで透明マントなんか被ってきたんだな?」

ハリー「……」

シリウス「なに、喧嘩をしない友達なんかいないさ。私とジェームズも大喧嘩したことは一度や二度じゃないしね」

ハリー「……父さんとも?」

シリウス「ああ。まあ、それはおいおい話すとして……それなら、あんまり人の多いとこには居にくいかな?
      ロメルスタ! すまないが、奥の部屋を貸してもらえるかい?」

ロメルスタ「まあ、仕方ないですわね。シリウスの社会復帰祝いということで、特別に」

シリウス「恩に着るよ。ついでに何か食べる物も頼む」

マミ「……うーん。大人、って感じね。マダム・ロメルスタと話すのも、凄い様になってるし……」

ハーマイオニー「そうね。ハリーのことになると、ちょっとタガが外れるみたいだけど」

978: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:11:08.67 ID:0gckZWHD0

シリウス「さて、手紙は読ませてもらった――確かに、ムーディの言うことには一理ある」

ハリー「それじゃあ、やっぱり誰かが僕を……?」

シリウス「そうだな。事故に見せかけて始末しようとするなら、まずまずいい方法だと言わざるを得ない。
      おまけに、一番怪しいのがゴブレットの近くにいるときた」

ハーマイオニー「怪しい奴?」

シリウス「カルカロフさ。奴は昔、死喰い人だった。ヴォルデモートの部下さ。
      アズカバンに叩きこまれたんだが、司法取引してすぐに出獄したんだ」

マミ「カルカロフ……ダームストラングの校長ね」

ハリー「あの人が――? でも、なんで今更?」

シリウス「ふむ……ここからは推測になるがね。最近、どうも死喰い人の活動が盛んになっている。
      更に魔法省のとある職員が、ヴォルデモートが最後に居たという場所で行方不明にもなった。
      このことから、ヴォルデモートがT.W.Tのことを知っていた可能性がある」

QB「つまり、ヴォルデモートがハリーを殺そうとして、カルカロフに命令した?」

シリウス「可能性としては有り得る話だ。もっともカルカロフは多くの仲間を売ったから、闇の陣営には恨まれている。
      そんな男をヴォルデモートが信用するかどうかは疑問だが……」

マミ「少なくとも、注意だけはしてた方がいいってことですよね」

シリウス「そうだな……だが、もっとも注意すべきはT.W.Tの課題だ。
      名前を入れたのが誰にせよ、ハリーを狙っているには違いない。
      ハリー、第一の課題はもう分かっているのかい?」

ハリー「具体的なことは、何も……勇気を試す課題ってだけで」

マミ「勇気を試す……まね妖怪の群れの中に突っ込むとか?」

シリウス「いや、そんなものじゃないだろう。ここに来る前に少し調べてきたがね、T.W.Tははっきり言って危険だ。
      本当に死者が多い……むしろ死者が出るのを前提にしている節すら……」

979: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:11:38.68 ID:0gckZWHD0

ハリー「……」

シリウス「あ、いや。大丈夫だ、ハリー。私が付いている。今年度はここに滞在するつもりだし――
      私が言いたいのは、だ。課題の内容を事前に調べた方がいい、ということだよ」

ハーマイオニー「それって、カンニングなんじゃ?」

シリウス「カンニングも伝統的かつ常習的に行われてるなら試験の内さ。情報収集というね。
      それに賭けてもいいが、カルカロフは課題の内容を知れば自分の生徒に漏らすだろう」

ハリー「……うーん……でも、どうやって調べたら……」

シリウス「ふむ。こればっかりは私にもな……とりあえず、ダームストラングとボーバトンの動きに注意することだ。
      連中はおそらく、すでに情報収集を始めてるだろう」

ハリー「分かりました。それじゃあ、僕たちはそろそろ……」

マミ「……ハリーくん、もう少し時間をずらした方がいいんじゃない?
   まだ、外はホグワーツの学生でいっぱいだし……」

ハリー「でも、透明マントがあるから――」

マミ「ぶつかったりしたら大変じゃない。ただでさえ変な目で見られてるのに」

ハリー「……うーん。そうか。確かにね。それじゃ、もう少しここにいようか?」

マミ「うん。でも、私とハーマイオニーさんはちょっと学校に用事があるから……先に戻ってるわね」

QB「え? そんな話――きゅっ!?」

ハーマイオニー「……! そういえば、そうね。忘れてたわ。
          でもハリー、あなたも図書館で一緒に本を読みたいっていうなら――」

ハリー「遠慮しておく。僕はここでシリウスと話してるよ」

マミ「ええ、それじゃ、また学校で会いましょう? バタービール、御馳走様でした」


 ガチャ バタン


ハーマイオニー「……なかなか粋なことをするじゃない、マミったら」

マミ「だって、せっかく会えたんですもの。夏休みはあんまり話す機会もなかったみたいだし、ね?」

QB「ああ、そういう……なら、確かに二人きりにしてあげた方がいいかもね」

ハーマイオニー「そうね。それじゃ、私たちはハニーデュークスにでも行きましょうか?
          私は図書館でもいけどね」

マミ「お菓子にしましょう。私、一度誰かとゆっくりあそこを見てまわりたかったの!」

980: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:12:07.69 ID:0gckZWHD0

シリウス「……ハリー、君はいい友達を持ったみたいだ。大事にするんだよ。
      生涯付き合える友人は、得難い宝だからね」

ハリー「友達……そういえば、さっき父さんと喧嘩したことがあるって――」

シリウス「うん? ああ、まあね。仲は良かったが、些細なことが原因で喧嘩することはあった。
      その度にリーマスが間に入って取り成してくれたものだ……」

ハリー「……そういう時は、どうやって仲直りをすれば……?」

シリウス「……ロンの話か。そうだな、私から見て、君たちは非常に仲が良く見える。
      私とジェームズも喧嘩した時はお互いの顔など二度と見たくないと思ったが、結局は仲直りできた。
      その時に、何か特別なことをしたという記憶はないな」

ハリー「特別なことはしなかった……?」

シリウス「互いにほとぼりが冷めて、仲直りがしたいと思えるようになれば自然と機会は来るものさ。
      ハリー、君もそうだろう? 彼と仲直りしたいと思ってるんじゃないかな?」

ハリー「僕は……別に。ただ、ロンが僕の言うことを信じてくれれば……また……」

シリウス「条件付きでも、仲直りしたいと思っているのなら友情は終わっていないのさ。
      心配することはない――といっても、つい心を締め付けてしまうのが友達同士の喧嘩というものだが」

ハリー「……」


『……嫌だね! ハリーが正直に言ったら仲直りしてやってもいいけどさ!』


シリウス「ま、私からアドバイスできるのはこんなところだね。
      とにかく、心配しすぎて体調を崩したりしないようにするのが第一だ」

ハリー「……分かりました。なんとかやってみます」

シリウス「その意気だ、ハリー……なに、君はジェームズの息子だ。必ず仲直りできるさ……
      ああ、そういえば言い忘れていたな。ハリー、来年のことだがね。私の家に引っ越しする手筈だが――」

981: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:12:35.34 ID:0gckZWHD0

 ガチャッ


ハグリッド「すまねえ、ここにハリーがいるってムーディが――し、シリウス!?」

ハリー「ハグリッド?」

シリウス「ハグリッド! やあ、ハグリッドじゃないか! 懐かしいな。
     最後に会ったのは、あのバイクを貸して以来だから――十数年振りってところかな?
     そうだ。あのバイク、まだあるかい? できれば返して欲しいんだが……」

ハグリッド「あ――シリウス。俺ぁ、俺ぁ……」ポロポロ

ハリー「ハグリッド……泣いてる?」

シリウス「おいおい、どうしたハグリッド。久しぶりの再会に感動してくれたのかい?
      それともあれか? 私のバイクを壊したか? まあ十年以上前のだし、それなら仕方ない――」

ハグリッド「違え、そうじゃねえ! シリウス、俺を殴れ! 殴ってくれ!」

シリウス「……穏やかじゃないな。どうしたというんだ、一体?」

ハグリッド「お、俺は、お前さんを疑ってた! お前さんが例のあの人に、ジェームズ達の居場所を漏らしたんだと……
       お前さんは無実だったのに! 無実の罪を着せられる辛さは、俺だってよく知っちょったのに!」

ハリー「……ハグリッド」

ハグリッド「俺を殴ってくれ! さもなきゃ、お前さんに会わせる顔がねえ――」

シリウス「……逆の立場だったら、私も君を疑っていたさ。
     そして、今の君のように泣きながら謝るなんてことはしなかっただろう……頭をあげてくれ、ハグリッド」

ハグリッド「だ、だけどもよぉ……」

シリウス「大体ね、君を殴ったら、私の手の方がイカれてしまうさ。
      だから、どうしても気が晴れないというんなら、そうだな――ここで一杯、付き合ってくれ。
      それでお互い手打ちにしようじゃないか」

ハグリッド「シリウス……ぐすっ、ああ、分かった。
      ロメルスタのママさんに、一番上等な奴を出してもらってくらぁ」

ハリー「待って、ハグリッド。飲む前に、なんでここに来たのか教えてよ。
     酔っぱらって伝え忘れる前にさ」

ハグリッド「おっと、いけねえ……なあハリー。今晩、俺の小屋に来いや。"マント"を着てな」

ハリー「え? それって一体……」

ハグリッド「まあいいから、いいから――おうい! ロメルスタのママさんよ! とびっきり上等の酒をくれ!」

982: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:14:03.76 ID:0gckZWHD0

翌日 暴れ柳下 地下通路


マミ「ドラゴン!? ドラゴンって、あのドラゴン!?」

QB「マミ、声が大きいよ。まあ、誰も聞いてないとは思うけどさ」

マミ「あ、ごめんなさい――でも、ドラゴンでしょ? 魔法生物の中でも、トップクラスに危険な……本当なの?」

ハリー「うん。昨日の晩、僕見たんだ。ハグリッドが教えてくれて……
     選手はひとりにつき一頭割り当てられてて、そいつを出し抜かなきゃいけない」

ハーマイオニー「しかも、それをボーバトンもダームストラングも知ってる……知らないのはセドリックだけね」

ハリー「僕、セドリックにも教えようと思う……だって、それがフェアってもんだろう?」

シリウス「いいぞ、ハリー。素晴らしいスポーツマンシップだ。私も鼻が高い……
      にしても、ドラゴンとはね。提案したのはバグマンだろうな。いかにも奴好みの派手さではある」

ハリー「うん……あれを見て、正直逃げ出したくなったもの。
    僕に死んでほしい奴がこの試合にエントリーさせたって意味がようやく心の底から理解できた……」

QB「ドラゴンって、そんなに危険な生物なのかい?」

ハーマイオニー「ええ。種類によって差はあるけど、成体なら全長は10メートル以上にもなるわ。
          おまけに凶暴で、飼い慣らすことはまず不可能といっていいの」

シリウス「さらに、連中の鱗は大抵の呪文を弾き返す……個人の魔法は通じないと言っていい。
      腕利きの魔法使い半ダースが連携で掛かって、ようやく動きを封じられる、といったところだ」

ハリー「……」

マミ「あの、それってどうすれば……」

シリウス「倒す、のは無理だろう。そもそもそこまでは期待してない筈だ。
      出し抜くというのは隙を作れ、ということかもしれない。それなら……」

ハリー「何か方法があるの?」

シリウス「クァンジャン・クタビアイティス(結膜炎呪い)だ。ドラゴンの弱点は鱗に覆われていない目なのさ。
      そこを攻撃して視覚を封じるのが一番いいと思う。幸い、習得もそこまで難しくないしね」

マミ「……強大な敵を、小さな弱点を突いて撃破する。凄く試練っぽいわ!
   良かったわね、ハリーくん! シリウスさんがいてくれたおかげで、第一の課題はクリアできそうじゃない!」

QB「でもさ、目の見えなくなった凶暴な生物って、滅茶苦茶に暴れると思うんだけど……」

ハリー「……あー」

ハーマイオニー「……確かにね。あの巨体がしっちゃかめっちゃかに暴れたら、それだけで危険だわ」

シリウス「だが、これ以上の策を私は思いつかない。
      ドラゴンの鱗を貫通するような呪文は、そのほとんどが危険な闇の魔術だし……」

マミ「じゃあ眠り薬とかは? 神話では、ドラゴン退治って眠ってる隙に倒すのが定石じゃない」

ハリー「持ち込めるのは杖だけなんだ。それに、どうやってドラゴンに飲ませるのさ?」

マミ「うーん、そっか……」

シリウス「……とにかく、時間もない。私も他の手を考えるから、ハリーは結膜炎の呪いを練習しておくんだ」

983: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:14:38.75 ID:0gckZWHD0

ホグワーツ 廊下


ハーマイオニー「それじゃあ、私とハリーは結膜炎の呪いを練習をしてるから……」

マミ「私も手伝えればいいんだけど……ごめんね。多分、酷いことになると思うから」

QB「課題の前に怪我なんかしちゃったら冗談にもならないしね」

ハリー「気持ちだけで十分だよ。ありがとう、マミ。それじゃ」スタスタ

マミ「……はあ。私も魔法が上手く使えたらなぁ。やっぱり今年も、ちっとも魔法は上手くならないし。
   これじゃ五年生への進級も……」

QB「それは後で考えよう。今の精神状態じゃ魔法の練習も上手く行かないだろうし、マミは宿題でも片付けてれば?」

マミ「そうね……そうしましょうか」

ムーディ「――トモエ。仲間の二人は空き教室か?」

マミ「! む、ムーディ先生……」

ムーディ「ふむ。結膜炎の呪いか……確かに、そいつならドラゴンにも通用するな。
      悪くない。ふむ、確かに悪くはない……」

QB『不味いよ、マミ。さっきの話聞かれてたみたい』

マミ「ああああああ! あの! ドラゴン!? ドラゴンってなんのことです!?
   だってドラゴンなんているわけないじゃないですかホグワーツに!」

ムーディ「……それで隠してるつもりか? なに、別に事前に課題を知っていることを咎めるつもりはない。
      カンニングは昔からずっとあった行為だからな」

マミ「あ……そ、そうなんですか」

ムーディ「油断大敵! わしがそうやってお前さんの自白を待っていたらどうするつもりだ!?」

マミ「えええええ!? そ、そんな……」

ムーディ「……まあ、いいさ。それよりポッターだが、結膜炎の呪いでは成功する確率は低いだろうな」

マミ「……え?」

ムーディ「簡単なことだ。結膜炎の呪いで、ドラゴンは暴れる……
      その隙に出し抜くつもりだろうが、ポッターにはそれが難しいのだ」

マミ「……ハリーくん"には"?」

ムーディ「さよう。ビクトールやセドリックになら可能だろうが。ポッターはあの二人に比べて体格が悪い。
      純粋に身体能力が足りんのだよ。潰されて終いだろうな」

マミ「身体能力って――だってハリーくんはクィディッチの寮代表選手で」

ムーディ「箒に乗るのと、地べたを走り回るのは違う……確かにポッターは箒に乗るのは上手いだろうがな。
      だが、ドラゴンの懐に足で飛び込むのは無謀だ」

マミ「そんな……それじゃ、ハリーくんは……」

ムーディ「……わしは手助けはせん。だが、無暗に生徒を死なせたいわけでもない。
      いまわしが言ったことを、そっくりそのままポッターとグレンジャーに伝えるが良い。別の道を探せ、とな」

984: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:15:06.49 ID:0gckZWHD0

ホグワーツ 透明の教室


マミ「……ってことなんだけど」

ハリー「そうか。ムーディ先生が……あの人が言うんじゃ本当だろうなぁ。
     結膜炎の呪い、結構上手く行きそうだったんだけど……」

QB「どうするんだい? 早く別の方法を見つけないと、練習する時間も……」

マミ「もう一回、シリウスさんに会いに行くのはどうかしら?」

ハーマイオニー「……」

ハリー「ハーマイオニー、君はなにか考えが……?」

ハーマイオニー「……地面はダメ……ハリーは、箒で飛ぶのが上手い……持ち込みは杖だけ……」ブツブツ

ハリー「……ハーマイオニー?」

マミ「どうしたの?」

ハーマイオニー「――もしかしたら、いい方法が浮かんだかもしれないわ」

985: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:15:57.15 ID:0gckZWHD0

 二日後 第一の課題 会場 観客席


 ざわざわ ざわざわ


マミ「つ、ついに本番ね……ハリーくん、大丈夫かしら」

QB「必要な呪文は習得できたんだ。あとはハリー次第だろう」

ハーマイオニー「大丈夫……きっと、大丈夫よ。とにかく、いまは席に座りましょう」

マミ「えーと、開いてる席、空いてる席……あ」

ロン「あ――」

ハーマイオニー「はあい、ロン。隣、空いてるなら座ってもいいかしら?」

ロン「……見ての通り空席だよ。どうぞ」

ハーマイオニー「そう、どうもありがとう……ほら、マミ。座りましょう?」

マミ「ええ……ありがとう、ロンくん」

ロン「別に、君たちの為に取っておいたわけじゃないから……お礼を言われる筋合いもないよ」

QB「ロン、もう課題の内容は発表されたのかい?」

ロン「いいや、これからだ。バグマンが、さっき選手のテント――ほら、あそこ――に入って、
   課題の順番を決めるクジを引かせに行った。たぶん、帰ってきてからじゃないかな」

マミ「そうなの……ハリーくん、心配ね。大丈夫かしら……」

ロン「大丈夫だろ。今年は安全が配慮されてるって言ってたし……」

ハーマイオニー「それは年齢制限を設けたことでしょう? なら、ハリーは安全じゃないわ」

ロン「どうかな――ほら、バグマンが出てきた。きっと大したことない課題だよ」

バグマン「ソノーラス!(響け)――さあ、紳士淑女の諸君! 長らくお待たせした!
      さて、記念すべきT.W.T、第一の課題は――」


 バサッ


ドラゴン「グルルルゥウウウウ……」


バグマン「なんと! ドラゴンだぁ!」

ロン「――はああああああああああああああああ!?」ガタッ

986: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:16:44.08 ID:0gckZWHD0

「ど、ドラゴン!? マジモノのドラゴンだ!」「どこから運んできたんだ!?」「おい、観客席もやばいんじゃないか?」


バグマン「第一の課題は、このドラゴンが守る金の卵を、どうにかして掻っ攫うこと!
      手段は問いません! ただし持ち込みは杖一本のみ! 果たして選手達はどう立ち向かうのか!」

マミ「あ、あれがドラゴン……実物を見ると、凄い迫力……」

ロン「言ってる場合かよ! おい、よりにもよってドラゴンだ!? んなもん学生にやらせる課題じゃないよ!」

ハーマイオニー「……そうね。しかもよりによって、営巣中の雌ドラゴンだわ」

ロン「な、なんだい、それ。ドラゴンはドラゴンだろう?」

ハーマイオニー「どんな動物でも、子を守る時期の雌は凶暴よ。ましてドラゴンなら……」

マミ「そ、そんな……ねえ、ハリーくん、本当に大丈夫なのかしら?」

ロン「そ、そうだよ! あんなのに当たったら、いくらなんでもハリーが死んじまう!
   僕、止めてくる! 馬鹿な真似はやめろって――」

ハーマイオニー「馬鹿なのはあなたよ、ロン。忘れたの? ハリーはもう棄権できないの。
          魔法契約を破ったら、ドラゴンの鼻をくすぐるより悲惨な目に遭うんだから」

ロン「そんな――だって、こんな危ない競技だなんて――僕、知らなかった……」

ハーマイオニー「……とにかく、ここまで来たらあとはもう応援するしかないわ。
          一応、対策はしたけど、結果は天のみぞ知るってところね」

987: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:17:44.63 ID:0gckZWHD0

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バグマン「さあ! いよいよラストです! これまでの三人の選手も素晴らしいプレーを見せてくれました。
      彼にも期待しましょう! ラストはこの人、ハリー・ポッター!」


ハリー「……」


ロン「ああ、ハリー……ドラゴンと比べると凄く小っちゃく見える……丸呑みにされちまうよ!」

マミ「み、見るのも怖い……けど、見なきゃ……」

QB「今はまだ大丈夫だ。これまでの試合を見る限り、営巣中のドラゴンは滅多に卵から離れないみたいだし……」

ハーマイオニー「ハリー、頑張って! あなたならきっとできるわ!」


ハリー「――アクシオ! ファイアボルト!」


バグマン「おおっとこれは――呼び寄せ呪文だ! その手があったか!
      呼び寄せたのは箒です! 彼は最高の乗り手だと聞いております――素晴らしい機転だ!」

ロン「そ、そうか! 箒に乗ったハリーなら卵を掠め取れる! なんてったってグリフィンドールのシーカーだもんな!
   スニッチに比べたら、あの卵なんてデカいし動かないしで楽勝さ!」

QB「でも、ビーターよりドラゴンの方が鉄壁の守備だと思うよ」

ロン「あはは、キュゥべえ。君はハリーとファイアボルトを甘く見過ぎ――」



ドラゴン「グルアアアアアアアアアアアア!」

ハリー「っ!」


バグマン「あーっと! 尻尾が直撃――い、いや、掠めた! 危ない! 危なかった!
      あれを避けるとはさすがだ! うむ、素晴らしい飛びっぷりです!」

ロン「ハリィイイイイイイイイ! 死ぬな! 躱せ! 躱してくれ!」

マミ「あ、血が、血が一杯……」

ハーマイオニー「もっと上よ! 上に引き付けて……!」

988: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:18:48.93 ID:0gckZWHD0


ハリー「……フリペンド!(撃て)」バシュッ


バグマン「ここで反撃! ノックバックジンクスだ! だがその程度の呪文ではドラゴンには通じない!
      かえって怒らせるだけだ! これはマイナスか――い、いや! 何かの作戦かもしれないな!」

ロン「あああああもおおおおお! 何やってるんだよハリー! 焦るな! いつもの君はどうした!
    隙を狙って急降下だ! それ!」

マミ「怖い怖い怖い……!」

ハーマイオニー「いえ、作戦通りよ! ほら、ドラゴンが!」


ドラゴン「ガアアアアアア!」バサッ


バグマン「飛んだぁあああああ! ドラゴンが飛びました!
      どうやら攻撃されたことで、卵を守るために外敵を排除しに動いたようです!
      さあ、デッドレースが始まる! ドラゴンが火を噴き――ナイス回避! 避けます!」

ロン「ああああ! やばいやばいやばい! これやばいんじゃないの!?」

マミ「……っ」

バグマン「先ほどの攻撃はこれを狙ったものか! なるほど! 確かにドラゴンは卵から離れました!
      しかし、ドラゴンも敵が回り込むことは許さない! ポッター君が巣に向かうことを阻むように飛ぶ!
      また火を吐いた――これまた躱した! だがこのままだとジリ貧だ!」

ロン「ハリー……!」

マミ「凄い、ドラゴンの火を躱しながら、上昇してる……」

ハーマイオニー「そこよ! ハリー! やりなさい!」


ハリー「……よし、作戦通り。高度は稼げた。当たってよ――クァンジャン・クタビアイティス!(結膜炎呪い)」


 バシュッ


ドラゴン「!? ギャオオオオオオオン!?」グラッ


バグマン「あー、あれは……高すぎてよくわかりませんが……誰か万眼鏡を寄越せ!
      ――拡大、再生……結膜炎の呪いだ! ドラゴンに対して定石ともいえる効果的な一手!
      ですが、なぜそれなら最初から――いや、まさかこれは!?」


ドラゴン「アアアアアアアアアアアア!?」


バグマン「落ちた! 身をくねらせながら、ドラゴンが落ちていきます! なるほど、これを狙ったか!
      ドラゴンの攻撃を躱して空を飛べるほどの箒乗りにしかできない、まさにファインプレー!
      そして、墜落するドラゴンの運命は……」


 ズウウウン!


ドラゴン「……」


バグマン「……素晴らしい! 気絶だ! ドラゴンを倒した! ポッター君がドラゴンを倒しました!
      まさかドラゴンを掻い潜るのみか、倒してしまう選手が出るとは! これは満点以外有り得ない!
      そしていま、悠々と卵をキャッチした――!」

ロン「よっしゃああああああ! 見やがれ! なにがドラゴンだ! これがハリーの実力だ!」

マミ「お、終わった? ハリーくん、大丈夫?」

QB「うん、いま着地して、救護のテントに入って行ったよ」

ハーマイオニー「良かった……怪我も大したことないみたいだし、これで……」

ロン「テントに行こう! ハリーに会いに行かなきゃ!」ダッ

マミ「あ、ちょっと待って! 待ってったら――!」

989: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:20:03.51 ID:0gckZWHD0

救護テント


ハーマイオニー「ハリー、やったわね! 素晴らしかったわ! 本当に、すごい!」

マミ「ねえ、怪我は大丈夫? 包帯巻いてあるみたいだけど……」

ハリー「マダム・ポンフリーのお陰で、もう痛くもないさ。それより――」

ロン「……」

ハリー「……ロン」

ロン「ハリー、僕、僕――こんな危ないなんて知らなかった。名前を入れた奴は、絶対に君を殺そうとしてると思う」

マミ「……!」

ハリー「……ようやく気づいたってわけ?」

ロン「……うん。だいぶかかっちまったけど」

ハリー「長すぎるよ……」

ロン「……」

ハーマイオニー「……」

マミ「……」

ハリー「だから、まあ――今度また喧嘩したら、もっと早く仲直りできるようにしようよ。お互いにね」

ロン「……ハリー! 本当に、君が助かってよかった!」

ハーマイオニー「……もう! 男の子って、なんでこんなに馬鹿なのかしら! 意地っ張り!」

ロン「ああ、ハーマイオニーに、マミも! 僕ったらひどいこと言っちまって――」

QB(ハーマイオニーが言えたことじゃないと思うなぁ……)

ハーマイオニー「ねえ、マミ? そう思うでしょ……マミ? どうしたの?」

マミ「……う、ううん。安心したら、なんだか膝が震えちゃって……」

ロン「そりゃあ、あんな試合だったもの! 僕も試合中は怖くて何度目を瞑りそうになったか!」

マミ「う、うん……それも、あるけど……」

マミ(実際に見て、言葉だけじゃなく、本当に理解できた……この試合は、本当に危ないんだ。
   さっきロンくんが言った通り、誰かが、本当に、ハリーくんを殺そうとしてる……)

マミ(一体"誰"が? "どうやって"? "何の目的で"――?)



 パ サ ッ



ロン「? マミ、なんか落としたよ……なんだい、これ。羊皮紙のきれっぱし?」

マミ「え? 私、そんなもの持ってたかしら……?」

990: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:21:03.90 ID:0gckZWHD0

「……マジかい、これ。信じられないよ。だって、あいつが……」

「でも、理屈は合う……と思うわ。シリウスの話にも符合するところがあるし……」

「それに、これの情報はいままで正確だった。今回だけ間違いを送る意味ってあるかな?」

「そりゃそうだけどさ。じゃ、どうする? まさか真正面から聞くかい?
 小さく折りたたまれて弁当箱に詰められるのがオチさ」

「確かにね……私達四人がかりでも無理でしょうし……特に私なんか、周りを巻き込みそうだし……」

「誰かに協力を求めるのはどうかな?」

「駄目ね。信じて貰えないと思う。差出人不明の情報なんかじゃなく、もっと確実性のあるものじゃなければ……」

「……ひとつだけ、考えがあるよ。あのね――」

「――なるほど! そりゃいいアイディアだ! それなら丸わかりだもんな!」

「あ、あの、それって一体――」

「そっか、君は知らなかったっけ。あのね、ハリーのお父さんが――ああ、駄目じゃないか!
 これを説得に使ったら、終わった後で取り上げられちまうよ!」

「……そうか。確かに、そうだね」

「でも、緊急事態なんだし――」

「おいおい、これは形見みたいなもんなんだぞ! それを取りあげられるって、どうだい?」

「それは――そうだけど。じゃあどうするのよ?」

「……これを使って説得出来て、なおかつ没収しない人間を探せばいいんじゃないかな?」

「そんな都合のいい人、いるのかしら……?」

「……いる! 三人だけいるよ!」

991: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:21:34.34 ID:0gckZWHD0

第一の課題後 夕食 大広間


ダンブルドア「さて、まずは無事に第一の試練が終わったことを喜ぼう!
        選手諸君は英気を養い、次の試合に備えるべし!
        その他の諸君も、今日は随分と肝を冷やしたことじゃろう。同じく、英気を養うためにも――」


ダンブルドア「思いっきり、掻っ込め!」


 ざわざわ ざわざわ


ネビル「凄いよね! ハリー! あのクラムと同点で一位だよ!」

シェーマス「カルカロフの糞野郎があんな点数を出して無けりゃあ一位だったぜ、絶対!」

ハリー「あはは、ありがとう――ごめん。僕ちょっと、ムーディのところに行って来なきゃ……」ガタッ

ディーン「ムーディ? なんでだよ、このお祭り騒ぎの中、なんでわざわざ気分を落ち込ませに行くんだ?」 

シェーマス「さあな……なあ、ロンは何か知って……あれ、ロンがいないぞ?」

ネビル「……そういえば、ハーマイオニーとマミもいないや。どうしたんだろう。ハリーが一位なのに……」

992: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:22:32.29 ID:0gckZWHD0

ムーディ「……」グビッ

ハリー「ムーディ先生! 僕、僕、一位で――」

ムーディ「……む。ポッターか。確かにめでたいが、なぜそれをわざわざ言いに来た?」

ハリー「先生のお陰です。僕、先生のアドバイスがあったから――」

ムーディ「アドバイス? 知らんな。わしはお前には無理だと言ったんだ。それを克服したのはお前の努力だよ、ポッター」

ハリー「それでも、ありがとうございます。僕、将来は闇祓いを目指そうかと……」

ムーディ「ふぅむ……例の授業で、もっとも厄介な呪文に抵抗できたのはお前だけだったしな。
      素質はあるだろう、確かに……だが、わしにそれを言ってもコネにはならんぞ?」

ハリー「いえ、他にも先生に聞きたいことがあって――その、先生がいつも持ってる酒瓶」

ムーディ「これか? これがどうした?」

ハリー「はい。一体、何が入っているのかな、と思って……」

ムーディ「……」

ハリー「――よければ、少し貰えませんか? ほんの一口分だけでいいので」

ムーディ「……ふぅむ。ポッター……」


ムーディ「それを断れば、もしやお前の後ろに透明になって隠れている三人が襲いかかってくるわけじゃあるまいな?」


ハリー「……ばれた!」


 バサッ


ロン「レラシオ!(放せ)」

ハーマイオニー「ペトリフィカス・トタルス!(石になれ)」

マミ「ステューピファイ!(麻痺せよ)」

ハリー「エクスペリアームス!(武器よ去れ)」


 パン! パン! パン! パン!


993: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:23:11.25 ID:0gckZWHD0

ムーディ「……」


マミ「――きゃっ!?」ドサッ

ロン「杖が……透明マントも無駄かよ!」

ハリー「でも、呪文を唱えてもいないのに?」

ハーマイオニー「……! 無言呪文! それで、四種類の魔法全てに反対呪文を……!?」


 ざわざわ ざわざわ


ダンブルドア「……」

マクゴナガル「何事です! 四人とも! 教師に杖を向けるなど――」

ムーディ「何だ貴様ら! 敵か! 敵だな! ならば記憶を失うがいい! オブリビエ――」

マクゴナガル「!? ムーディ、やめ――」


ジョージ「エイビス!(鳥よ)」

フレッド「オパグノ!(襲え)」


 バサバサバサ!


ネビル「うわっ! 鳥が!? 鳥の群れが、ムーディ目掛けて――」



ムーディ「エバネスコ!(消えよ)」


 パン!


ジョージ「……分かってたけど、足元にも及ばないってショックだな」

フレッド「まあしょうがないだろ、あのムーディ相手だし」

ムーディ「貴様らもか! 一体何人いるというのだ!? まとめて吹き飛ばしてくれる――」


シリウス「――なに、これで最後さ」

994: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:24:30.63 ID:0gckZWHD0

ムーディ「……! シリウス・ブラック! 貴様、いつの間に!」

シリウス「お前の目が全てを見通すといっても、一度に見れるのは一か所だけだろう!?」

ムーディ「……! 餓鬼は全部囮か!」

シリウス「アクシオ! 酒瓶よ、来い!」

ムーディ(反対呪文が――くっ、間に合わん!)

シリウス「と、ナイスキャッチ。これを……ああ、そこの君。ちょっと失礼」

ネビル「え? え? なんでここにシリウス・ブラックが――むぐっ!?」ガポッ

シリウス「安心しろ。毒は入ってない――むしろ、もっとおぞましいものだが」トクトク

ネビル「……ごくん! あ、の、飲んじゃった……なんだこれ、煮すぎたキャベツみたいな……」

スネイプ「……! もしや、あれは……」

ネビル「……え、なんか、体の奥が熱く……」


 シュウウウウ!


シェーマス「ね、ネビルが……」

ディーン「ムーディになっちまった!?」

ネビル=ムーディ「う、うわっ! 足がない! ば、バランスが!」ヨロッ

995: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:25:06.59 ID:0gckZWHD0

シリウス「ポリジュース薬だ。他人に変身できる……さて、ムーディ。こんなものを飲んでいるあなたは一体"誰"だ?」


「お、おい。どういうことだよ」「わけが分からない……」「ムーディが……ムーディじゃない?」


ムーディ「……」

マクゴナガル「ムーディ、これは一体……?」

ムーディ「……」チラッ

ハリー「……!」

ムーディ「……アバダ・ケダブ――!」バッ

マクゴナガル「――エクスペリアームス!(武器よ去れ)」


 バシュッ!


ムーディ「――ガハッ!」

マクゴナガル「……言った筈です。私の生徒に手を出せば、次に弾むのは貴方だと」

996: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:26:09.79 ID:0gckZWHD0

カルカロフ「だ、ダンブルドア! これはいったいどういうことだ! こいつ、いま、死の呪いを――」

マクシーム「せつめーい、を、おねーがいしまーす!」

バグマン「ムーディ……とうとう完全に頭がイカレたのか? そして、なんでここにシリウス・ブラックが?
      いや、そもそも生徒の方が先に攻撃を……」

クラウチ「……」

ダンブルドア「……ミネルバ、済まぬがこの場を頼む。セブルス、一番強い真実薬をムーディに。
         尋問せよ。そやつは本物のムーディではない」

マクゴナガル「分かりました、アルバス」

スネイプ「……了解しました」

ダンブルドア「尋問が終わるまで、この大広間から誰も出してはならぬ――
         さて、襲撃に加担したものは隣の教室に来てもらおうかの。色々と聞きたいことがあるでな」

ハリー「……なんとか上手く行ったね」

ハーマイオニー「ああ、ハリー。最後にムーディがあなたに死の呪いを掛けようとしたとき、もう駄目かと――」

ロン「七人がかりでぎりぎりか……危なかったよなぁ」

ハリー「フレッド、ジョージ。協力してくれてありがとう――」

フレッド「なあに。僕らは信じるべきものを知ってるからね。」

ジョージ「ああ。ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングズをな」

シリウス「……直接そう言われると照れるな。まあ、我らが"地図"は完璧だからね。
      奴の"本名"を映し出すくらい朝飯前さ」

QB『……さて、これからが大変だよ。例の"送り主"のこと、信じて貰えればいいけど』

マミ『……ええ。でも、きっと大丈夫よ』

997: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:26:41.62 ID:0gckZWHD0

"いつか" 見滝原



 ――繰り返す。私は何度だって繰り返す。


 目が覚める。いつもの病院のベッドの上。

 暁美ほむらの胸中を満たすのは、また駄目だったという悔恨と、今度こそという希望。

(まどか――今度こそ、絶対に貴女を救って見せる)

 さあ、行動を開始しよう。全ては鹿目まどかとの約束を果たすために。



998: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:27:12.64 ID:0gckZWHD0

◇◇◇


 暁美ほむらは魔法少女である。

 契約の願いは、鹿目まどかとの出会いをやり直すこと。固有魔法は時間操作。

 まどかをインキュベーターと契約させないために、無事にワルプルギスの夜を超えさせるために。

 暁美ほむらは、同じ一ヶ月を幾重にも繰り返している。

 百を数え、千を超え、万を踏破し、億を歩む。

 既に最初の記憶は錆色の彼方。それでも、鹿目まどかを守るという一点。その一点だけは曇らない。

 そうして、彼女は再びループに挑む。


◇◇◇

999: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:27:42.25 ID:0gckZWHD0

 カオス理論。バタフライエフェクト。

 風が吹けば桶屋が儲かるという言葉と同じ理屈で、小さな要因が予想だにしない巨大な結果を招く現象。

 だが幾度もループを繰り返せば、ある程度は結果に対する要因を把握することもできる。


ほむら「……これで、美国織莉子の件はクリア」


 無事に不法侵入と器物破損をやり遂げ、私は背後の高級住宅を振り返る。

 美国議員に通じる、とある男――どんな関係だったかは忘れてしまったが、まあ、どうでもいい。

 重要なのは、その男の家の寝室に、三日三晩連続で豚の血をぶち撒けると、美国織莉子は契約しないという点だ。

 何故そうなるのか――その理由も、これまたどうでもい。とにかくこれで美国織莉子がまどかを殺そうとすることはないのだから。

 結果的にこの家の男はノイローゼで入院するし、呉キリカは寂しい中学校生活を送ることになるだろうが、構わない。

 まどかとの約束を果たす為なら、他人のことなどどうでもいい。

 ノイローゼになろうが、入院しようが、その果てに自殺を試みようが、私の知ったことではない。


 それからも、私は次々と障害を排除していった。

 ループを繰り返すうちに判明した、まどかが契約してしまう要因の排除。

 さらにはまどかに近づく、インキュベーターの排除。

 もはやほぼ定石通りとなっている最適行動を取りながら、私は、僅かな違和感に顔をしかめた。


ほむら(……魔女の結界の位置が……違う?)


 私はグリーフシードを孕んでいる魔女をリストアップし、その魔女だけを効率的に狩るようにしていた。

 だが、今回のループに置いては、そのリストが役に立たないのだ。

 結界の位置や中にいる魔女が違ったり、果てはリストに符合する魔女でもグリーフシードを落とさないことがある。


ほむら(……これも、何らかの要因から発生したバタフライエフェクト?)


 とりあえず、その日までの行動を全てメモに書きだす。

 もしも次回以降のループで同じ現象が起きるなら、その原因を特定しなければならない。

 無論、このループで終わりになるのが、一番良いのだが。

1000: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:28:11.52 ID:0gckZWHD0

 次に違和感を覚えたのは、見滝原中学校に編入した時だった。

 この編入は、自然と日中の半分以上をまどかの監視に利用できるので、逃す手はない。


ほむら「暁美ほむらです」


 教壇の前に立ち、簡潔な自己紹介を済ませる。

 代わり映えのしない、なんの変哲もないクラス。確認の意味で、私はまどかをその視界に収め……


ほむら「……!?」


 その背後に座る人物を見て、思わず息を呑む。


さやか「……ね、ねえ。あの転校生、恭介のことめっちゃ睨んでない? なんかした?
     トーストくわえて捨て身タックルとかしてない?」

恭介「え、いや――そんな覚えはないけど」

ほむら(上条、恭介――?)


 馬鹿な、と思う。

 彼は本来、交通事故に遭い、全治半年以上の怪我を負って入院している筈だった。

 そのせいで美樹さやかが契約してしまうことが多々あり、結果としてまどかを巻き込んでしまう要因にもなっていたのだ。

 だが、それが何故……?

引用元: マミ「アバダケダブラ!」