考えても答えは出ないので、情報収集を行うことにした。

 携帯のネット機能を使って、上条恭介が巻き込まれていた筈の事故について調べる。

 私の知る限りその事故は、前年度の夏休み明け、歩道を歩いていた上条恭介に、
 運悪く居眠り運転のトラックが突っ込んできた、というものの筈だった。


ほむら(……事故自体は起こってる、わね)


 だが、巻き込まれた被害者はゼロ。怪我をしたのは運転手だけだ。


ほむら(……どういうこと? 上条恭介の事故は、私が戻れるよりも以前に起こっている。
     なら、どんなことがあっても変わらない筈……)


 情報収集を続ける必要がある。

 今回のループは、まどかや美樹さやかと友好的な関係を築こう。

 そして、情報を聞き出さねば。



5: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:31:14.87 ID:0gckZWHD0

さやか「交通事故ぉ?」

ほむら「ええ。去年の夏休みの終わりに……この辺で合ったって聞いたから」

さやか「半年前のことなんて覚えてないに決まってるじゃん!
     さやかちゃんの脳細胞は、もっと有意義なことに使われるのだ!」

ほむら「例えば?」

さやか「……えーと……ロックマンのパスワードとか……」


 話にならない。

 諦めて、ファーストフード店の同席に座るまどかに視線を飛ばすと、彼女は「うーん」と考え込んで、


まどか「ほむらちゃんが言ってるのと同じのかは分からないけど、その辺りで起きた事故は覚えてるよ」

さやか「え、マジで? なんだよまどか、記憶術でも身に着けた?」

まどか「だってその日、さやかちゃんと上条君のデートだったんだもん!
     ニュースを見てちょっと心配したんだよ! ていうか、電話もかけたじゃない!」

さやか「あ、あー! あの日か! ……ってちょっと待てぃ! 別にあれはデートじゃねー!」

ほらむ(……それが、事故を回避した原因?)


 過去における、上条恭介の行動パターンが変わった……?

 それは、ありえない筈のことだった。

6: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:31:52.16 ID:0gckZWHD0

 私の魔法は時間操作。より正確に言うのなら、時間遡行と時間停止だ。

 この二つの内、時間遡行は読んで字の如く、世界の時間を巻き戻す魔法である。

 "基点"からワルプルギスの夜が襲来する日まで、きっかり一月分、私は何度でもやり直すことができる。

 ここで重要なのは、私の魔法は時間を"巻き戻す"という部分だ。

 それはつまり、常に"同じ基点"にまで戻るということ。

 そこからは無数の平行世界として分岐するが、この基点だけは常に不変だ。

 だから、基点より以前に確定している事象に対し、私は干渉をすることができない。

 佐倉杏子や巴マミの契約、上条恭介の入院などは、"基点"の時点で既に起こっていることなので、これを防ぐことは出来ないのだ。


ほむら(……なら、なぜ? 考えられるのは――)


 私の心の中で、ひとつの疑念が浮かび上がる。

 その疑念が確信に変わるのは、この街を縄張りにする、佐倉杏子に出会った時だった。

7: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:33:45.35 ID:0gckZWHD0
 CD店に寄った後、まどかがインキュベーターからのテレパシーを受け取り、魔女の結界に入りこんでしまう。

 ちなみに、このインキュベーターのテレパシーは、私が奴を襲撃しなくてもやってくるイベントだ。

 昔、そのことを疑問に思って『誰に襲われたわけでもないのに、なにが助けてだ』、と問うたことがある。

 奴らの返答はこうだった。


「だって、宇宙の熱的死を救うために、まどかに助けてて欲しいから」


 それからは、基本的にここで襲撃を行うようにしていた。

 出会う前に仕留められれば、まどかとの接触を遅らせることができるからだ。

 だが、今回は情報収集を優先させた。

 だから現在こうして、まどかと一緒に結界に入りこみ、使い魔に囲まれている状況にあるのだ。


さやか「な、なんだよ、これ! 気持ち悪い……」

まどか「これ、夢だよね? 本当じゃないよね……!?」

ほむら「……」


 一応、いつでも変身できるようにしておきながら、待つ。

 待っているのは巴マミだ。この街は彼女の縄張りであり、このパターンの場合、まず間違いなく彼女が助けに来る。

 だが、その予想もまた、裏切られた。


杏子「よう、危なかったな。平気か?」


 助けに来たのは佐倉杏子。本来、隣町を縄張りにしている筈の魔法少女だ。


まどか「杏子ちゃん!」

さやか「杏子!? あんた、その恰好は一体!?」

ほむら(……すでに三人は知り合いなの?)


 これは、これまでのループと余りにも違いすぎる。

8: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/04(木) 05:35:17.27 ID:0gckZWHD0

 極めつけは、これだった。 


Incubator「やあ、杏子。おかげで助かっ」

杏子「うっせ。死ね」


 杏子はまどかの抱えていたインキュベーターを無造作に取り上げると、躊躇なく槍で引き裂く。

 ぼとりと、両断された死体が地面に転がった。


まどか「杏子ちゃん? なにこれ、酷い……!」

杏子「大したことねーよ。だいたい、こいつらはあたしらを家畜としか思ってねえような宇宙人だ」

ほむら「……!」

さやか「ちょっと、それどーいう――」

Incubator「困ったなあ。無駄に数を減らされるのは困るんだけど」

まどか「……! もう一匹、同じ子が!?」

Incubator「さっきのとは別の個体だよ。それより酷いじゃないか、杏子。いきなり体を破壊するなんて」

杏子「はん! 悪いけどこいつらを守るよう、マミに頼まれてるもんでね。
    グリーフシードの回収以外であたしらの目の前に現れたら、容赦なくぶっ潰すから覚えときな」

まどか「マミさんが……?」

ほむら(巴マミは存在する……でも、この街にはいない?)


 あとで聞いた話によると、巴マミは魔法少女ではなく、イギリスの学校に留学しているらしい。

 ――これで、私の立てていた仮説はほぼ確定した。

 ループの基点より、以前の時間軸が改変されている。

 そんなことができるのは、つまり――



ほむら「……時を操る魔法少女が……私の他にもいる?」

46: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/14(日) 00:28:09.71 ID:1kgFhqTI0

見滝原市 巴マミ宅


まどか「願いと引き換えに、魂を石に……?」

さやか「しかも、力を使い果たすとさっきみたいな化け物になっちゃうなんて――」

まどか「さ、さやかちゃん!」

杏子「……」

さやか「あ、う……ごめん。あたし、無神経だった……」

杏子「謝らなくたっていいよ。まあ、こんな体になったのを気にしてない、っていったら嘘になるけど……後悔はしてないつもりだからさ」

さやか「杏子……」

杏子「……それに、さやかががさつで女らしくないのは、今に始まったことじゃないし」

さやか「な、なんだとー!? あんたこそ、その幼児体型でよくもそんな大口叩けるね!」

ほむら(……魔法少女の秘密も、すでに知っているのね)

 あの後、案内されたのは巴マミの家だった。

 佐倉杏子はここに住んでいるらしい。巴マミとは旧知の間柄のようだ。

ほむら(……確かに、二人は魔法少女の師弟関係にあったけど)

 だが私の知っている限り、それは"基点"の時点ですでに破棄されている関係の筈だ。

 おまけに、今の巴マミは魔法少女ですらないらしい。イギリスの学校に留学しているのだという。

ほむら(……やっぱり、私のような時間に干渉するタイプの魔法少女が……?)

 有り得ない話というわけではない。

 私の魔法少女としての才能は、あまり高くない。

 ある程度の才能を秘めた子が過去や未来を変えたいという願いで契約すれば、こういうことも起こり得るだろう。

ほむら(不味いわね。もしそうなら、これまで収集してきたデータは役に立たなくなる。
     これまでの、数えるのが馬鹿らしくなるほど繰り返して手に入れた情報が……)

 おまけに、今回のこれに限っては要因の排除が難しい。

 なぜなら、その魔法少女がどこにいるのか全くわからないからだ。

 都合よく見滝原在住である、ということはないだろう。むしろ、この国の人間であることすら疑わしい。

ほむら(その魔法少女を見つけて、契約前に排除する……それまでに、あと何回ループを……
     いえ、それ以前に、基点より前が改変されているのなら排除すること自体……)

47: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/14(日) 00:28:37.50 ID:1kgFhqTI0

まどか「――むらちゃん。ほむらちゃん?」

ほむら「……あ、と。なにかしら?」

まどか「ううん。なんだかぼーっとしてたみたいだったから……」

さやか「いやまあ、無理もないっしょ。あたしもまだびっくりしてるし……」

杏子「――まあ、なんにしろ話は分かっただろ?
    これからもあいつらは契約を迫ってくるだろうけど、まさか今のを聞いて契約したいだなんて言わないよね?」

さやか「そりゃあ……ねえ。願い事を叶えてくれるっていうのは魅力的だけどさ。
     魂と引き換えにー、なんて言われたらまんま悪魔との取引だし」

まどか「……うん。そこまでして叶えたいお願いっていうのも……」

ほむら(……これは、いい方向に進んでいるの?)

 二人は、あっさりと魔法少女の真実を受け入れている。

 おそらく、旧知の仲である佐倉杏子に諭されたことが大きいのだろう。転校したての私では、こうはいかない。

 上条恭介の怪我がない以上、美樹さやかが契約する可能性は低くなる。

 以前のループでは何回かそれ以外の理由で契約することもあったが、それは私が事前に排除できる程度の要因だ。

 重度の神経系断裂という、それこそ奇蹟でもない限り治らないようなものではない。

 問題はまどかだろう。彼女は優しい子だ。弱気で自信なさげに見えるが、実は芯も強い。

 魔法少女の真実を知ってもなお、他人を救うために契約する可能性は常にある……

杏子「……で、そっちのあんたはどうなんだ? えーと、確かほむらっつったか?」

ほむら「え……私?」

 声を掛けられて、考え事を中断する。

杏子「そうだよ。マミに頼まれてたのは、まどかとさやかのことだけだったけどさ。
    あんたもインキュベーターは見えてたみたいだし、才能があるんだろ?」

ほむら「……ああ、そういうこと」

 どうやら、彼女は私が魔法少女だということに気づいていないらしい。

ほむら「別に、隠していたわけではないけれど――」

杏子「?」

 秘密にする必要はないだろう。

 隠し通せるものでもないし、情報収集を重視した今回では、余計な疑念を持たれることは避けるべきだ。

 ポケットの中から、指輪の形態にしたソウルジェムを取り出す。

杏子「……! そいつは!」

まどか「色は違うけど、杏子ちゃんの指輪とおんなじ……」

さやか「転校生……もしかして、あんたも……?」

ほむら「そう。私も魔法少女よ……だから、既に契約するしないの問題じゃないの」

48: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/14(日) 00:29:09.28 ID:1kgFhqTI0

杏子「……なんで隠してた?」

 僅かに警戒の色を強めながら、佐倉杏子。

 私の知っている佐倉杏子よりも社交的ではあるが、それでも決して油断しないのは彼女生来の素質だろうか。

ほむら「さっきも言ったけど、隠すつもりはなかったの。ただ言うタイミングが無かっただけ」

杏子「そうかい。だけどそれならあたしが来る前に、使い魔くらい倒せてたんじゃないの?」

ほむら「……私も貴女の意見に賛成だからよ。魔法少女の仕組みについては以前から知っていたから。
     これ以上、私たちと同じ呪われた存在を増やしたくない。
     だから、どうにかして魔法少女のことを知られずにあの場を切り抜けたかったの」

まどか「ほむらちゃん……」

杏子「……」

ほむら「貴女の縄張りを荒らす気はないわ。グリーフシードも、ある程度のストックはあるから」

さやか「縄張りって……そんな犬か何かみたいな」

ほむら「グリーフシードの数は有限だから、基本的に魔法少女は地区ごとに住み分けしてるのよ。
     ここは、貴女の縄張りなのでしょう?」

杏子「そうだね。見滝原と風見野はあたしのテリトリーだ。だけど――」

ほむら「なら、私がこの街に滞在するのをしばらく見逃してほしい。期間は――そうね、一ヶ月弱もあればいいわ。
     それを過ぎれば、私は大人しくこの街から出ていく……」

杏子「待ってよ。別に追い出すなんて、あたしは一言も言ってないよ?」

ほむら「……あまり長く滞在するなら、私も魔女を狩らざるを得なくなるけれど?」

杏子「だから別にいいって。ただし、きちんと使い魔も倒してくれるんなら、だけど」

ほむら「……本気で言ってるの? 魔法少女が増えて損をするのは貴女なのに」

 佐倉杏子の縄張り意識は人一倍強かったはずだ。

 だからこそ、強かに魔法少女を続けることができていた。

ほむら(……彼女の性格も、改変の影響を受けているみたいね)

杏子「あー、でも、やっぱひとつだけ条件付け足させてくれ。一緒に魔女退治をするのは、悪いけど無理だ」

さやか「え、なんでよ。危ないんでしょう? なら、一緒にやればいいじゃん」

まどか「そ、そうだよ、杏子ちゃん。その方が怪我とかしないで済むだろうし……」

杏子「それはそうなんだけどさ……いや、絶対に協力しないって話じゃないんだ。
    ただ、この場で確約はできないってだけでさ」

ほむら「……? 貴女自身の問題でしょう? なぜそんな曖昧な……」

杏子「んじゃ、それを聞かないでくれるのも条件のひとつ、ってことで」

ほむら「……別に、言いたくないなら無理には聞き出さないわ」

さやか「わー、転校生、おっとなー。胸のサイズは杏子以下みたいだけど!」

ほむら「……」

さやか「……あ、あれ? 突っ込みは無し? なんでそんな冷ややかな視線を……」

まどか「もう、さやかちゃん! 二人は真面目なお話をしてるんだから――」

杏子(マミが魔法使いだってことは、さすがに秘密にしないと不味いだろうしなぁ……)

49: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/14(日) 00:29:42.94 ID:1kgFhqTI0

ほむら「……こほん」

 閑話休題。場を仕切り直すようにして咳払いをし、注目を集める。

ほむら「……ただ、交換条件、というわけではないけれど……一度だけ、共闘を頼めないかしら?」

杏子「一度だけ、か? まあ、それならいいけど……変な頼みだな」

 さて、問題はここからだ。

 さほど悩むことはしなかった。もとより役立たずになったデータを公開することに、躊躇う必要はないが。

ほむら(佐倉杏子は魔法少女の中では与し易い方に分類される……なら、事情を話してしまっても大丈夫な筈。
     まどかの同情を引かないように、ループ関連と私の願い事だけぼかして説明すれば……)

 それでも、やはり緊張する。

 ここ最近のループにおいて、私は他の魔法少女と協力関係を築こうとしていなかった。

 複数の魔法少女が集まれば、そこにはどうしても軋轢が生まれる。

 それでもなお、その関係を維持しなければならないというのが煩わしかったのだ。

ほむら(大丈夫……大丈夫……)

 先ほどの美樹さやかの冗談も、どう返せばいいのか分からなくて、ただ曖昧に微笑むことしかできなかった。

 しかも微笑みとも認識されなかったらしい。笑顔の作り方も、人を信頼する方法も、すでに私からは失われていた。

 ――それでも、まどかの為ならば。

ほむら「……もうすぐ、この街にワルプルギスの夜が現れる。私の目的は、奴の撃退。
     その為に、貴女の力を貸してほしいの」



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50: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/14(日) 00:30:11.73 ID:1kgFhqTI0

 ワルプルギスの夜。最悪の魔女。私のループの終点に在るもの。

 まどかが契約していない状態で、ワルプルギスの夜を撃退するのが私の目標だ。

 基点以前が改変されている今回に限っては、期日通りに来る保証はないが、対策をしておいて損はない。

杏子「ワルプルギスの夜ね……あれがこの街に来るのか」

さやか「そいつって、有名な魔女なの?」

杏子「魔法少女に伝わるお伽噺……ってとこかな。
    あたしも昔、遠くの街に居た時に、別の魔法少女から聞いただけだし」

ほむら「だけど、事実よ。奴はこの街にやってくる。
     もしかしたら、インキュベーターがそれをダシにして契約を迫ってくるかもしれないけど――」

さやか「あー、うん。分かってるって。契約はしないからさ。信用してよ」

まどか「……でも、二人だけで勝てるの? 他の魔法少女の人に助けてもらうとかは……」

杏子「ここらには、あたしら以外の魔法少女はいないんだ。
    さっきも言ったけど、基本的に魔法少女は縄張りを持ってるからね。
    協力するってこと自体が稀なんだよ」

ほむら「……それに、頑張れば勝てない相手じゃないわ。二人掛かりなら、確実に撃退できる」

まどか「本当に……?」

ほむら「ええ」

 本当はそこまで勝算があるわけでもないが、まどかを心配させないためにそう言った。

 実際、一週目では魔法少女になって一月も経たない新人だったまどかが、
 最後はほぼ単独でワルプルギスの夜を撃退――"撃破"ではない――している。

ほむら(だから、私にも同じことは出来る、筈――最悪、刺し違えてでも……)

51: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/14(日) 00:30:50.87 ID:1kgFhqTI0

さやか「……にしても、ほむらに――あ、もうほむらって呼ぶよ?――予知能力があるなんてね。
     杏子のは幻覚だっけ? それに比べるとずいぶん便利な魔法だよねぇ」

ほむら「……さっきも言ったけど、確実な予知ができるわけじゃないわ。
     的中率は……そうね、だいたい6割ってところかしら」

 ループ関連はぼかして話したので、私がワルプルギスの襲来を知っている理由は、そういうことになっていた。

 まあ、全て嘘というわけではない。この一ヶ月間に起こる、おおよその出来事は知り尽くしているのだから。

ほむら(それでも、契約した美国織莉子が得るような本物の"予知"には及ばないのだけど)

 情報のタイムスリップ。未来におこる出来事を、確実に先取りできる彼女の力は脅威だった。

 それに比べれば、結局、私のは統計に基づく予測でしかない。

 今回はそのデータも鵜呑みにはできないが、それでもCD店での出来事を見る限り、半分くらいは信用してもいいだろう。

さやか「6割でも凄いと思うけどなぁ。あっ、ねえねえ、宝くじとか当てられないの?」

ほむら「それは――」

まどか「さやかちゃん! ほむらちゃんが、そんなくだらないことに魔法を使うわけないでしょ!」

ほむら「……その、通りよ。そんな、私利私欲の為に魔法を使うなんてこと、有り得ないわ」

杏子(やったことあんな、こいつ……)

 なにやら佐倉杏子が疑いの目でこっちを見ている気がする。

 失礼な。私は一度も、この力を下卑た欲望を満たすために使ったことなどない。

 あくまで、実験として行っただけだ。

 おまけに数字選択式の宝くじでは、私が買うと番号がずれるため、結果的に当たらなくなってしまうということが判明している。

52: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/14(日) 00:31:18.51 ID:1kgFhqTI0

さやか「うーん、残念っ。大金持ちになれるかと思ったのに……
     でもそれなら、そのワルプルギスって奴が来ないってことも有り得るよね?」

ほむら「可能性としては、ゼロではないわね。私としてもそれを願いたいところではあるけれど」

 とはいえ、願うだけ無駄だろう。私も色々試してみたが、あれは毎回、ほぼ同じ時間にやってくる。

 多少の改変では、あれの襲来を防ぐほどの"うねり"を作り出すことは不可能だ。

 今回も、基点以前の改変があるとはいえ、来襲自体が起こらないというのは望み薄だろう

まどか「でも、本当に来ないといいよね……きっと建物も壊れちゃうし、人だって……」

ほむら「……そうね。完全に被害をゼロにすることは難しいかもしれないわ。申し訳ないけど」

まどか「あっ……そんな! ほむらちゃんが謝ることなんて!」

さやか「あー、やっぱり被害は出るよね。台風みたいな奴、って話らしいし……
     でもさ、それなら、事前に皆に説明して見滝原の外に逃げちゃうってのはどう?」

杏子「馬鹿かよ、お前。こんな話、誰が信じてくれるっていうのさ」

さやか「やっぱ駄目かなぁ……あと馬鹿ってなによ、馬鹿って」

杏子「さやかの代名詞だろ?」

さやか「むっきぃぃいいいいいいい! あ、あんたって奴は、あんたって奴はぁ~!」バッ

杏子「うわ! 何しやがる! お茶が跳ねただろうが!」

まどか「ちょっと二人とも、いい加減に――」

 なにやら取っ組み合いを始めた二人と、それをあわあわと仲裁するまどかを見ながら、私は呟く。

ほむら「……そうね。それも難しいと思う」

 この佐倉杏子がまだ幻惑の魔法を使えるというのなら、
 市議会や気象観測所を傀儡にして、市民を事前に避難させることは可能かもしれない。

 だが問題はワルプルギスの夜を放置した場合、その被害が果たして見滝原ひとつで収まるのか、という疑念が拭えないことだ。

ほむら(私が時間を戻せるのは、最後の日の、ある一定の時間内でだけ。
     それを過ぎれば、もう戻ることは出来なくなる……)

 だから"どこまで被害が広がるか"という事象だけは、私にも観測することができない。

 見滝原だけで済むのか、それともこの国が海の藻屑と変わるのか、果てまた人類の文明がすべて根こそぎにされてしまうのか。

 最悪のパターンを考えれば、きりがない。だからこそ、ワルプルギスは確実に撃退しなければ。

53: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/14(日) 00:31:53.40 ID:1kgFhqTI0

ほむら(……それにしても、この部屋に入るのも久しぶりね)

 周囲の空間を見渡して、ふと、感傷に浸る。

 巴マミの部屋。以前はここで、彼女と一緒にお茶を飲んだこともあった。

 部屋の間取やコーディネートは、記憶にあるものとほぼ変わらない。

 今回は掃除を行っているのが佐倉杏子のせいか、多少乱雑になった印象を受けるが、
 それでも慣れていないなりに一生懸命やっている感じは伝わってくる。

ほむら(巴マミ……ベテランの魔法少女である彼女が仲間になってくれたらもっと楽になるのだけど。
     でも、今回に限っては魔法少女じゃないらしいし――……?)

 ふと、胸中に疑問がわく。

ほむら「……そういえば、佐倉杏子。さっき貴女が話していた感じだと、その……
     ……マミさん、という人も、魔法少女のことを知っているようだけど?」

杏子「あ?」

 ぴたり、と取っ組み合いをやめて、佐倉杏子の瞳がこちらを捉え、そして離れる。

ほむら(……目を、逸らした)

 それは、なにか隠し事をしている目だ。

杏子「……えーと、そんなこと言ったっけか?」

まどか「そういえば、マミさんが私達を守る様に頼んでいった、って……」

さやか「言ってたよね、確かに」

杏子「……あー、まあ、な。そりゃ一緒に住んでる以上、秘密には出来ないし
     ……うん、マミも一応、魔法少女のことは知ってるよ。魔法少女じゃないけどね」

ほむら(……何かを隠そうと、取り繕っている?)

 そんな印象を受ける。

 だが、何を隠そうとしているのだろうか。

ほむら(私の知っている佐倉杏子は、必要なら犯罪も辞さないような性格だったわね――)

 一瞬、巴マミを殺害し、どこかの雑木林に死体を埋めている彼女を想像してしまい、顔をしかめる。

ほむら(流石にそれは無いと思うけど……巴マミのことも調べた方がいいか。
     改変の影響がどこまで発生しているかの手がかりになるかもしれないし……)

 問題は、どう話を切り出すかだ。

 ループ関連の話をしなかったので、私は巴マミと面識がないことになっている。

 下手なことをすれば、まどかに私の願いごとがばれる可能性も……


54: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/14(日) 00:32:49.74 ID:1kgFhqTI0

 そうやって悩んでいると、都合よく美樹さやかが話を切り出してくれた。

さやか「そういえばさ、マミさんからはまだ連絡ないの?」

杏子「ん……ああ。さっぱりだよ。一応、手紙も出してるんだけどね」

ほむら「……連絡が、つかない?」

さやか「うん、そうなの。イギリスに留学してるってのは話したでしょ? でも、全然連絡が取れないらしくてさ」

ほむら「学校の方に直接連絡してみたら?」

さやか「あたしもそう言ったんだけど……」

杏子「……あー。だって、ほら、英語とか分からないしさ。
    携帯も海外だと繋がらないし、マミの寄宿舎宛に手紙を出すしかないんだよ」

まどか「厳しい学校みたいで、家族以外からのお手紙は届かないんだって。
     だから、杏子ちゃんに出してもらうしかなくて……」

ほむら「……」

 なにやら、先ほど想像した巴マミ殺害&死体遺棄事件が急に現実味を帯びてきた気がする。

 その恐ろしい想像を打ち消すために、ぷるぷると頭を振って否定するための材料を探した。

ほむら「勉強が忙しいんじゃないかしら? 文化も違うし、手紙を出す時間も惜しいんじゃ」

さやか「でもさ、もう四年目なんだよ? さすがに慣れてくるんじゃないかなぁ。
     向こうの学校生活の思い出とか、楽しげに話してくれてたし」

ほむら(4年……逆算すると、ちょうど私の知ってる巴マミが契約した年ね。これは何を意味して……)

 確か彼女は事故に遭って、その時、自分の命を繋ぐ為に契約する筈だ。

 この家に巴マミの両親の影が見えないことから考えると、事故そのものは起きていて、彼女だけ偶然助かったか――

ほむら(……あるいは、やはり巴マミは魔法少女なのか)

 だとすれば、一緒に生活しているらしい佐倉杏子がそれに気づいていない筈がない。

ほむら(佐倉杏子が隠そうとしているのはそのこと? でも隠す意味なんて――
     ……待って。佐倉杏子は、どうして魔法少女の真実を知っていたの?)

 その可能性は二つ。インキュベーターに直接聞いたか、あるいは。

ほむら(目の前で、誰かが魔女になったか……こっちの可能性の方が高いわね。
     インキュベーターが自発的に話すことはない。なら、その魔女になった魔法少女が……)

 巴マミ、なのではないか。

 それなら納得がいく。まどか達は巴マミと面識があり、なおかつ親しいようだ。

 ならば、佐倉杏子が巴マミの死を隠そうとしてもおかしくはない。

ほむら(もっとも、あくまで推測にすぎないけど……確かめた方がいいかしら?)

55: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/14(日) 00:33:25.02 ID:1kgFhqTI0

ほむら「……そもそも、どうして連絡しようということになったの?
     外国だし、手紙だってそう気軽には送れないでしょう」

まどか「あのね、マミさん、クリスマスに一度帰ってくる筈だったの。
     でも帰ってこなくて、それについての連絡もなくて……」

ほむら「そう……それは心配でしょうね」

杏子「は! べっつにぃ? 男でも作って遊んでるんじゃないの?」

 佐倉杏子が、拗ねたように明後日の方を向く。

 なぜそんな態度を取るのか私には分からなかったが、まどかとさやかは直ぐに理解したらしい。

 二人は呆れたような面持ちで、佐倉杏子を見ている。

さやか「まーたそんな風に強がっちゃって……ねえ、まどか。
     冬休みに『マ゛ミ゛が帰ってごな゛い゛~』ってあたしらに泣きついてきたのは誰だったっけ?」

杏子「……あたし、泣いてなんかなかったけど」

まどか「そうだよ、さやかちゃん。
     杏子ちゃんは、一生懸命作った御馳走の前で、ひたすら落ち込んでただけじゃない」

杏子「べ、別に一生懸命作ったわけじゃなかったよ、あんなの! 落ち込んでもない!」

まどか「ええー……」

さやか「さて、ここにその時の光景を携帯のムービー機能で記録したものがありまーす!
     マミさんが帰ってきたら見せる予定だったけど、まずほむらに見せてあげるね」

杏子「なっ……!? テメエ、いつの間に! やめろ、おい――そこをどけよ、まどかぁ!」

まどか「まあまあ、まあまあ」

 飛びかかってこようとする佐倉杏子を、やんわりと押しとどめるまどか。

 そんな光景を尻目に、私は再生され始めた映像を見つめた。

ほむら(……テーブル一杯の料理を前に、佐倉杏子がうなだれてる……
     生気がないわね。まるで魔女化する直前の美樹さやかのようだわ)

杏子『マミの奴、何で帰ってこないのかな……?』

杏子「うがああああああああ!」

 ムービーの中の彼女と、目の前で頬を紅潮させて暴れている彼女。同一人物とは思えない変わり様だ。

 だが、ふとそのムービーを見ていて気付いた。

ほむら「……あら? ということは、とも……マミさん、が帰ってこないということをあなた達に伝えたのは彼女なの?」

さやか「ん? そうだよ。だって一緒に暮らしてるのは杏子だし、当たり前じゃん」

ほむら「そう……」

ほむら(それなら……私の予想は間違っていた?
     巴マミが魔法少女で、佐倉杏子がそれを隠しているなら、誤魔化しようはもっとある筈……
     巴マミは魔法少女でも死んでもいなくて、ただ単に帰ってこないだけ……?)

 まあ、どちらにせよ今回のループに置いて、巴マミの助力には期待できそうにないということは分かった。

 とりあえず、こんなところでいいだろう。他にもやらなければならないことはたくさんある。

 巴マミのことだけに係っているわけにもいくまい。私が一番に優先するのはまどかのことだ。

ほむら(でも彼女、身内には甘いタイプだと思ってたけど……
     それが約束を破って、あまつさえ手紙も出さないなんて、何があったのかしらね)

86: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 14:07:12.66 ID:XOUQNMB+0

ホグワーツ 空き教室


『ハリー・ポッターの名前をゴブレットに入れたのは、死喰い人のバーテミウス・クラウチ・ジュニア』

『アズカバンから密かに脱獄し、いまはアラスター・ムーディに変装している』

『狙いは、ハリー・ポッターを闇の帝王の下へ送り届けること』



ダンブルドア「ふぅむ……なるほどの。送り主不明の情報か」

ハリー「はい、そうなんです、先生。以前ペティグリューをマミが捕まえたのも、これが……」

ダンブルドア「それについては、わしももう少し詳しく話を聞くべきじゃったのう。
         なにぶん、あの時は取り急ぎやらねばならんことがあった……」

シリウス「……例えば、誰かの冤罪を晴らす手続きを、不要に長引かせる準備をしたり?」

ハリー「え? シリウス、それってどういう……」

ダンブルドア「はて、なんのことやら……覚えがないのじゃが?」

シリウス「私もホグズミードでただバカンスを楽しんでいたわけじゃない。
      ダンブルドア、貴方はそんなにハリーをあのマグルの家から引き離すのに反対だと――」

ダンブルドア「シリウス。それはいま、この場で話すべきことかの?」

「……」

シリウス「……いずれ話は聞かせて貰う」

ダンブルドア「おお、良いとも。しかるべき時、しかるべき場所でな」


87: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 14:09:36.99 ID:XOUQNMB+0

ダンブルドア「さて、話を戻そう。以前にも、こういう情報が送られてきたという話じゃが?」

ハリー「はい、先生。一年生のクリスマスの時に、"石"を守る仕掛けが書かれたカードが。これです」スッ

ダンブルドア「……なるほど。確かに、全て先生方が施した関門じゃ。
        わしの考えた仕掛けが書いてないのは寂しいがの」

ロン「あと、三年生のホグワーツ特急の中で、蛙チョコの中からこのカードが――
   ペティグリューが自分の指を切り落としたことが書いてあるんです」

ハーマイオニー「こっちの本には、ペティグリューを捕まえる為にはどうしたらいいかというアドバイスが」

ダンブルドア「そして、今回のこれ……ふむ。その全てが彼女――」

マミ「は、はい。私のところに、全部届きました……たぶん、ですけど。
   ……あ、あと、すみません。実はこの前の夏休みにも……」

ハーマイオニー「この前の夏休み!? マミ、そんなの私達聞いてないわ!」

マミ「ご、ごめんなさい。つい、うっかり言い損ねちゃって……その、ホグワーツとは関係ないことだったから……」

ハーマイオニー「だからって、あなた! メッセージが来たら相談するって約束したじゃ――」

ロン「落ち着けって! いまどういう状況なのか考えろよ!」

ハーマイオニー「……っ、す、すみません。校長先生」

ダンブルドア「構わんよ。友達を心配するのは良いことじゃ……しかし、ミスター・ウィーズリーズ。そしてシリウスも。
        君たちは今回初めてこの件に関わったようじゃが、すぐにこのメッセージを信用したのかね?」

フレッド「先生、友達を信頼するって素晴らしいことだと思いません?」

ジョージ「まったくその通りだと思うね。可愛い後輩たちを信じて導いてやるのが、いい先輩の務めってもんさ」

ロン「いい先輩ね……こりゃいいや。まったく尊敬できる先輩だよな?」

シリウス「……私の冤罪を晴らしてくれた情報だというなら、その送り主が信用に値すると考えるのは自然では?」

ダンブルドア「そうか、そうか……ま、よかろう。
        "もしも"なにか別の証拠を持っているのなら、必要となれば提出してくれるとわしも"信じよう"」

双子「……」ニヤッ

シリウス「……そうして頂けるとありがたい」

88: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 14:12:12.19 ID:XOUQNMB+0

ダンブルドア「ふぅむ。しかし差出人不明の、時には未来を見通すことすらある情報か……
        通常なら、まず間違いなく闇の魔術だと疑うところじゃが」

ハリー「……脳みそがどこにあるか見えないのに、一人で勝手に考えることができるものを信用してはいけない?」

ダンブルドア「さよう。まっこと、至言じゃよ、ハリー。相手のことを知らんのに、その相手を信用するのは愚かじゃ。
         ああ、とはいえ、別に君らが愚かだと言っているわけではない。
         きっと君らは、もっと信用に足るものを心のどこかに持ち合わせているのじゃろうて」

シリウス「……」

ダンブルドア「わしが言いたいのは、じゃ。つまりは早急に、これの送り主を解明せねばならんということでの」

QB「何か考えがあるのかな?」

ダンブルドア「猫君、それはこれから考えようぞ。さて、ミス・トモエ。これらは全て、君に送られてきたものだという。
        そこで君にいくつか質問したいのじゃが、構わんかの?」

マミ「は、はい! ……その、私に応えられることなら」

ダンブルドア「分からぬことには、分からぬ、と答えてよい。
         さて、送られてきたものは、ここにある分だけで全てかね?
         ああ、無論、夏休みに送られてきたものはないのじゃろうが」

マミ「はい。ここにある分で全部です」

ダンブルドア「確かかの?」

QB「マミは嘘をついていないよ。僕はずっと一緒だったから分かるけど」

ダンブルドア「嘘だと疑っているわけではない。だが猫君、君は二年生の時、石にされていた時期がある。
        そしてこの蛙チョコのカードじゃが、最初はメッセージだと気づかなかったのじゃろう?」

ハーマイオニー「つまり――マミが気づいてないだけで、
          送り主が送ってきたメッセージは他にもあるってことでしょうか」

ダンブルドア「可能性の話じゃ。全ての可能性は考えておかねばならん……それで、どうかね?
        君は自信をもって、ここにある分だけだと断言できるかの?」

マミ「そう言われると……確かに、言い切ることはできないかもしれません。
   夏休みのメッセージなんかは、ティッシュの広告に紛れてたし――気づかなかったことがあるかも」

ダンブルドア「では次の質問に映ろう。その夏休みに送られてきたメッセージじゃが、
        それらも全てカードや本といった、紙に書かれた媒体で送られてきたのかね?」

マミ「ええ、そうで――」

QB「違うだろう、マミ。一回だけ、電車のアナウンスみたいな形で流れたって言ってたじゃないか」

マミ「あっ、そうね。そうだったわ……ありがとうキュゥべえ」

ダンブルドア「それは音声で、ということかの? しかし猫君は聞こえなかったというような口ぶりじゃが」

マミ「はい。私にしか聞こえない、奇妙な声で――」

ダンブルドア「――君にしか、聞こえなかった?」

ハリー(……? 目が、鋭く……)

マミ「たぶん。他に乗っている人は全く反応してませんでしたし……キュゥべえにも聞こえませんでしたから」

89: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 14:13:06.07 ID:XOUQNMB+0

ダンブルドア「……彼女にだけ、聞こえればよかった……いや、逆か……他人に見える形であることのほうが……」ブツブツ

マミ「……先生?」

ダンブルドア「おお、すまんの。では最後の質問じゃが、この"石"を守る仕掛けが掛かれたカード。
        裏側にも文字が書かれているが、これは君が?」


 "禁じられた森" "ハグリッドの小屋"


マミ「ああ、それは……ええと、何だったかかしら?」

QB「確か、後になって浮かんできたんだ。誤配かと思って、ルームメイトを訪ねて歩いてた時」

ダンブルドア「その時の詳しい状況は覚えておらんかの?」

マミ「……すみません。さすがに、何年も前のことですから……」

QB「僕は覚えてるよ。質問を代わるかい?」

ダンブルドア「いや――おそらくこれは、ミス・トモエが自分で自覚せねばならん問題じゃ」

マミ「私、自身が……?」

ハーマイオニー「先生。それって、どういう――」

ダンブルドア「ここで話すことは出来ん。確証もないしの。場所を移す必要がある……
         シリウス。すまんが、わしはここを離れねばならん。例の偽ムーディを見張る役を頼まれてくれんか?」

シリウス「先生方がいるでしょう。私は、ハリーと一緒に――」

ダンブルドア「そのハリーに危険が降りかからぬよう、今現在、このホグワーツでもっとも危険な者の監視を任せるのじゃ」

シリウス「……分かりました。引き受けましょう」

ダンブルドア「ジョージとフレッド、君らもシリウスと一緒に大広間に戻りなさい。
        わしがシリウスに偽のムーディを見張る様に命じたと、ミネルバや皆に証言しておくれ」

フレッド「……抗議しても無駄そうだな」

ジョージ「ああ。ここまで来て蚊帳の外ってのは気に食わないけどな。おい、ロニー。あとで何があったか聞かせろよ?」


 がちゃ ばたん


ダンブルドア「さて、他の皆はわしについてきて貰おうかの。なに、すぐそこじゃよ。校長室じゃ」

90: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 14:14:01.52 ID:XOUQNMB+0

ホグワーツ 校長室


マミ「ここが、校長室……初めて入ったけど、まるで理科室みたい。色んな道具があるのね……」

ハーマイオニー「ええ、確かに興味深いわ……あら、この鳥って、もしかして……不死鳥!?
          凄いわ! これを飼育できるのは本当に力のある一部の魔法使いだけなのよ!」

ロン「君、その一部にダンブルドアが入らないとでも思ってたわけ?」

ハリー「やあ、フォークス。元気かい?」

フォークス「――♪」

マミ「わあ、とっても綺麗な声……」

ロン「あれ、こいつの鳴き声、どっかで聞いたような……気のせいかな。僕、校長室に入ったの初めてだし」

QB「……? あの本……」

マミ「どうしたの、キュゥべえ……あら、これって」


日記「」


ロン「糞リドルの日記だ! 一昨年、マルフォイの親父が放り出したのを拾って、ダンブルドアに届けた……
   まだあったんだな。とっくに燃やしちまってたかと思ったよ」

ハーマイオニー「これが例の、ジニーを操ったっていう……大丈夫なの?」

ハリー「中の記憶は忘却術で消したらしいから、平気だと思うけど……」

QB「……」

マミ「キュゥべえ、どうかしたの?」

QB「いや……なんでもない」

91: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 14:14:48.44 ID:XOUQNMB+0

ダンブルドア「さて、さて。お待たせしたの。ちょいと中身を移し替えるのに手間が……ああ、これは失礼。
        お客様に椅子を出すのを忘れておった」ヒョイッ


 ぽふん!


マミ「わあ、ソファーが……」

ダンブルドア「さ、掛けなさい。実際に話すべきことは少ないじゃろうが、
         君らには少しばかりここで待って貰わなくてはならなくなると思うからのぅ」

ハリー「分かりました……でも、"実際に話すべきことは少ない"って――?」

ロン「うわー、ふかふかだよ、ハリー! これ、談話室にも置いてくれないかな」ポフッ

ハーマイオニー「ロン! 行儀が悪いわよ!」

ダンブルドア「一考しよう。勉強するには不向きじゃが、午睡するにはちょうどいいからの。
        かく言うわしも、魔法省のお偉いさん方が面倒なことを押し付けてきそうな時は――」

QB「……」

ダンブルドア「……ま、それはいま話すべきことでもないようじゃ。本題に入ろう。
        といっても、先ほども言ったが、言葉はあまり必要ではない。わしはマミにとある許可を貰うだけでいい」

マミ「許可、ですか?」

ダンブルドア「ああ。その前に、この道具について説明せねばならんが」コトッ

ハリー「……なんですか、これ? 石で出来た……水盆?」

ハーマイオニー「……もしかして、ペンシーブですか?」

ロン「何? ペンをレシーブが……なんだって?」

ハーマイオニー「ペンシーブ! 憂いの篩よ。とても貴重な道具で……確か、記憶を再現できるの」

ダンブルドア「素晴らしい。グリフィンドールに十点、というところかの。
         さて、いまの説明の通り、これには人の記憶を溜め、その記憶を体験できる力がある」

ハリー「つまり他人の記憶も見ることができる……?」

ダンブルドア「その通りじゃ。褪せることのない、その当時の記憶を完全に再現できる。
        わしが許して欲しいのは、マミの記憶を覗かせて貰うことなのじゃよ」

マミ「ああ、それなら……」

ダンブルドア「軽々しく了承してはならん。わしが見るのは、君の生涯の記憶、その全てじゃ」

マミ「ぜ、全部ですか!?」

ダンブルドア「その通り。もう分かっていると思うが、わしは君がメッセージを受け取った前後の状況を確かめたい。
        じゃが何処にそのメッセージが潜んでいるかわからん以上、有り得る可能性を全て潰さねばならん」

ハーマイオニー「でも、先生。それは……」

ダンブルドア「当然、他人には見られたくない記憶も含まれるじゃろう。
        ……酷いことを言っているのは自覚している。しかし、ことは一刻を争うかもしれんのじゃ」

ハリー「先生は、"送り主"が危険だと考えているのですか?」

ダンブルドア「ある意味、そうじゃ。もし、わしが考えていることが正しければ――
         早めに手を打たねば、手遅れになりかねん。少なからず傷つく者が出るじゃろう」

マミ「そんな……」

ロン「マミ、記憶を渡しちまったら? 大丈夫だよ、ダンブルドア先生が言いふらしたりするわけないし――」

ハーマイオニー「ロン、それとこれとは別よ。例えば、あなたは自分の全てを私やハリーに曝け出せる?
          嘘も誤魔化しもきかない、心の底まで。ちなみに私は嫌だけど」

ロン「あー……それは、まあ……友達にだって隠し事のひとつやふたつあるよね」

マミ「私……私……」

マミ(どうしよう……私の記憶を全部ってことは、当然、魔法少女関連の記憶も……
   もしもばれたりしたら、佐倉さんやキュゥべえは……でも、私の記憶がないと誰かが傷つく……?)

92: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 14:15:37.66 ID:XOUQNMB+0

ダンブルドア「……マミ。君は自分の記憶が暴かれるということより、
        それで他人に被害を及ぼす可能性があることの方が心配なのではないかね?」

マミ「……! もしかして、ムーディ先生に聞いて……」

ダンブルドア「いいや、あの偽物のアラスターとの間で君の話題が出たことはないよ。
        じゃが、これでもわしは長年教師をやっているのでな。
        生徒の悩みに関して、理解しようと努力はしているつもりじゃ」

マミ「……はい、その……別に、校長先生を信用していないというわけではないんですが……
   もしも何か手違いがあって、私の記憶が誰かに知られると……私の友達に迷惑がかかるかも……」

QB「……」

ダンブルドア「ふむ。しかし悩んでいるところをみると、やはりメッセージの送り主は気になる、というところかね」

マミ「はい。私が記憶の開示を拒むことで誰かが傷つくかもしれないというのは、ちょっと……」

ダンブルドア「なるほど、の……ならば都合のいいように計らおう。
         ハリー。少し手伝ってもらっていいかね?」

ハリー「手伝う? 手伝うって、何をです?」

ダンブルドア「なに、さほど難しいことではない……マミ、わしの右手を握っておくれ。
        大丈夫。きちんと洗ってあるから汚くはないよ」

マミ「は、はい。こうですか?」ギュッ

ダンブルドア「うむ。そしてハリーは杖の先を、わしらの手の上へ」

ハリー「はい……でも、一体なんなんですか?」

ロン「――あっ! これってもしかして、"破れぬ誓い"じゃ!?」

マミ「破れぬ誓い? ロンくん、これが何だか知ってるの?」

ロン「昔、僕が五歳かそこらの頃、フレッド達がふざけて誓いを結ぼうとしたんだ!
   絶対に破れない誓いで……その、破ると誓った側が死ぬって……」

マミ「死……っ!?」

ダンブルドア「その通りじゃ。子供でも結んでしまえるほど簡単じゃが、効果は絶大……その分、危険だともいえる。
        これをわしとマミとの間に結ぶ。"知り得た記憶を外に漏らさぬ"という条件でな」

QB「なるほど。そうすれば、絶対に秘密は漏れないというわけか」

マミ「そんな……そこまでする必要は……」

ダンブルドア「ある。望まぬ記憶を暴くのじゃ。わしも誠意を見せねばならん。さて、どうかな、マミ?
         全ての決定権は、君にある」

マミ「……私、私は……」

93: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 14:16:41.04 ID:XOUQNMB+0

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マミ「――"篩から得た私の記憶を決して漏らさぬと、誓っていただけますか?"」

ダンブルドア「"誓おう"」


 ヒュボッ


マミ「"知り得た記憶によって、私の友達を迫害しないと、誓っていただけますか?"」

ダンブルドア「"誓おう"」


 ヒュボッ


マミ「"閲覧後一時間以内に、憂いの篩に溜めた私の記憶を破棄することを、誓っていただけますか?"」

ダンブルドア「"誓おう"」


 ヒュボッ


ハリー「……」

ハーマイオニー「紐みたいな細い火がハリーの杖から飛び出て、二人の手に巻きついていく……」

ロン「成功するとこうなるんだ……僕の時は怒り狂ったパパが乱入して失敗したからなぁ。
   あんなに怒ったパパは初めて見たよ。フレッドの尻なんか倍にまで膨れ上がったし」


マミ「……終わりです。すみません、先生……」

ダンブルドア「謝ることなどない。当然のことじゃ……さ、それでは記憶を篩に移そう。
        マミ、目をお閉じ……少し額に触れるが驚かぬように……」スイッ

マミ「……」


 ス――……


ハリー「白銀色の糸みたいなものが、マミの額から……あれが記憶なんだ。
     憂いの篩に入って、水溜りにみたいになっていく……」

ダンブルドア「――さて、準備はこれでよし。しばらくわしは記憶を巡る。
        すまぬがその間、皆にはお茶でも飲みながら待っていて貰おうかの」スイッ


 カチャンッ カチャンッ


ダンブルドア「宴会も途中であったし、お腹も空いていることじゃろう。遠慮せずお上がり。
        それでは、行ってくるでな。さほど長くはかからんじゃろう。数分か、あるいは十数分という――」パタッ

ハリー「……憂いの篩に頭を近づけたら、そのまま意識を失っちゃった。何だか寝てるみたいだ」

ハーマイオニー「あくまで記憶を"覗く"だけだから……肉体ごと記憶の中に入るわけじゃないもの。
          まるで記憶の中に入ったみたいに錯覚するって、本には書いてあったけど。
          それより、マミ、平気? どこか痛くない?」

マミ「え、ええ。平気よ。記憶を抜かれる時、少しひんやりしたくらいで……」

ロン「まあ、とにかく食おうぜ。せっかく山盛りのお菓子が出てきたんだし
   僕らは何も食ってないから腹ペコだよ……キュゥべえ、君の分もあるぞ。ミルクみたいだけど」

QB「貰うよ。ありがとう」

94: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 14:17:16.50 ID:XOUQNMB+0

十数分後


マミ「――それでね、私、煤を思いっきり吸い込んじゃって。
  ダイアゴン横丁じゃなくて、変なとこに出ちゃったの。薄暗くて、不気味な物ばっかり売ってて……」

ハリー「僕も最初は失敗したなぁ。煙突飛行は慣れないと難しいよね」

ロン「っていうか、マミが行った其処ってノクターン横丁じゃないかい?
   闇の魔術に関する品物とか、違法なものが売買されてる……」

ハーマイオニー「ハリーも確か、煙突飛行に失敗してそこに落ちたのよね……
          あなた達、ほんとよく無事だったわね」

ハリー「僕の場合はハグリッドに偶然会えたからね」

マミ「……そんなに危ないところだったかしら? 特に危ない目にあった記憶はないけれど」

QB「よく言うよ……僕と杏子がどれだけ苦労したか……」ブツブツ

ハリー「? 何か言ったかい、キュゥべえ」

QB「いいや、別に何でも……そろそろダンブルドアも戻ってくるかな。20分近く経つし」

ロン「早く戻ってきて欲しいなぁ。意識がないとはいえ、目の前に先生がいるとなんか落ち着かないよ」モグモグ

ハーマイオニー「なら食べるのをよしたら? ……ちょっと、スコーンの欠片をこぼさないでよ」

ロン「おっと、やばいやばい……校長室に食べかすを落とすなんて恐れ多いや。
   ダンブルドアが起きてなくて良かった――」

ダンブルドア「いやぁ、実は五分ほど前には戻って来ておったのじゃよ」ムクッ

ロン「!? ごほっ、ごほっ!」

ハーマイオニー「ロン、大丈夫? はい、お茶……」

ダンブルドア「おお、すまんのう。休み中の学生がどんな風に過ごしているか聞ける機会はなかなかないのでな。
         つい意識の無い振りをしてしまった。マミ。君は素敵な友達を持っているようじゃのう」

マミ「え……? あ、そうか。先生、もう佐倉さんのことを……」

ダンブルドア「ああ。無論、この場に君以外の人間がいる限り、具体的なことは何も話せんが」

マミ「……本当に、すみません。あのぅ、今更ですけど、あれって解除する方法は……」

ダンブルドア「無いからこそ、"破れぬ誓い"なのじゃよ……それに、君に謝られる筋合いはない。
        おそらく君も、わしに謝罪の言葉を口にしたことを後悔するじゃろうし」

マミ「? 先生、仰る意味が――?」

ダンブルドア「わしの方こそ、先に謝っておかねばならぬかもしれん。非常に残念な話じゃが――」



ダンブルドア「わしは君たちを、即刻アズカバンに収監せねばならん」



マミ「……え?」

95: ごめんなさい。とんでた ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 15:02:38.97 ID:XOUQNMB+0

ロン「あ、アズカバンだって!? なんでさ、僕ら何にも悪いことしてないだろ!?」

ハーマイオニー「そんな――ハグリッドやシリウスでさえ、とても怖がってたあの場所に……?
          というか、私達、た、退学になるの!?」

ハリー「先生、一体どういうことなんですか!」

ダンブルドア「すまんが、話すことは出来んのじゃ。"誓い"を結んでおるからして」

マミ「そんな――私の、せい? 私の記憶の中に、何か不都合が……?」

ロン「そんなの、納得できるわけ――っ!? なんだこれ! 腰がソファから離れない!」グッ

ダンブルドア「すまんが、"永久粘着呪文"を仕掛けさせてもらった。君らが座る前にのう」

ハーマイオニー「最初から、そうする必要があるかもしれないと思っていたんですか……!?」

ダンブルドア「確証は無かった。だが、彼女の記憶を見てはっきりしたのじゃ。
        あのメッセージに関わった者は全員、すぐに隔離しなければならぬ」

QB「……」

ハリー「全員って……」

ダンブルドア「……おお、シリウスに、ジョージとフレッドもそうじゃな。非常に心苦しいが、仕方あるまい」

ハリー「そんな……! シリウスは、ようやく自由の身になれたのに……」

マミ「せ、先生……冗談、ですよね? だって、そんな……意味が分からない……」

ダンブルドア「冗談で口にするには、いささか以上に趣味が悪いと思うがのう?」

マミ「だって! だって――……もう、どうにもならないんですか……?」

96: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 15:03:57.37 ID:XOUQNMB+0

ダンブルドア「……そうじゃのう。ひとつだけ、方法がないこともない」

ハリー「……! それって一体――僕、なんでもやります!」

ダンブルドア「残念じゃが、これはマミにして貰わなければならぬことじゃ。他の誰もない、彼女にの」

マミ「私、に? それって、一体なにを……」

ダンブルドア「君はただひとつ、質問に答えてくれるだけでよい。
        それさえしてくれたら、この問題は解決するのでな」

ロン「頼むよ、マミ! 僕たちの命運は君に掛かってる――」

ハーマイオニー「ロンったら! なんであなたはそうやってプレッシャーを掛けるような……」

ロン「そうは言っても、アズカバンなんだぞ!? あそこに入るくらいなら死んだ方がましさ!
    君だってさっきは怖がってたじゃないか!」

ハーマイオニー「それは……」

ハリー「……マミ、大丈夫?」

マミ「……ええ。こうなったのも、私のせいみたいなものだし。
   わかりました、先生。それで、質問っていうのは、どんな……?」

ダンブルドア「ああ。それはの――」

マミ(絶対に、答えなきゃ……じゃないと、みんなが……)


ダンブルドア「――もしもヴォルデモート卿が、自分の魂と同じくらい価値のあるものを隠すとしたら、
        一体それは何処にあると思うかね?」


ハリー「……ヴォルデモート?」

ロン「な、なんで例のあの人が出てくるのさ……」

ハーマイオニー「……マミ、なにか心当たりは?」

マミ「し、知らないわ! 先生、なんでそんな質問を――」

ダンブルドア「理由は言えぬ。それで、答えて貰えるかの?
         答えられねば、申し訳ないがアズカバンに送らねばならぬ」

マミ「そんな……だって私……」

マミ(分からない……だって私、本当に何にも知らないし……でも)


ハリー「……シリウス」

ロン「……」ガタガタ

ハーマイオニー「……」ギュッ


マミ(私が答えられないと、皆が――答えなきゃ。何があっても、答えないと……
   "知りたい"。"ヴォルデモート卿の、魂と同じくらい大切な物の場所"は"どこ"に……)


 コ ト ン


ハリー「……? 本棚から、ひとりでに本が落ちた……?」

ダンブルドア「……ふむ」ヒョイッ

マミ「あの、先生」

ダンブルドア「ああ、済まぬがもう少し待っていておくれ……」ペラッ

ロン「……どういうことだい? 答えるのを待つどころか、本を読みだして……」

97: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 15:04:41.70 ID:XOUQNMB+0

ダンブルドア「……なるほど、なるほど……」チラッ


日記「」


ダンブルドア「確かなようじゃ……しかしそうすると……やはり、そういうことになってしまうの……
         鍵は"願う"ことか。ほぼ、意識的に力を発揮できる……」

マミ「あの、先生……」

ダンブルドア「ん? おお、すまんすまん。とりあえず、もうソファに尻を掴まれている必要はないの。
        ほいほい、ほいっと」スイッ

ロン「うわっ!」ガタッ

ハーマイオニー「粘着呪文が取れたみたいね……ロン、平気? どれだけ逃げ出そうとしてたのよ、あなた」

ロン「だ、だってアズカバンに送られるなんて言われたら、そりゃ逃げ出したくなるもなるよ!」

ハーマイオニー「それはまあ、そうだけど……でも、魔法を解いてくれたっていうことは、疑いは晴れたのかしら?」

ハリー「でも、質問に答えてないけど……」

ダンブルドア「ああ、さっきも言ったが、わしは謝らねばならんのう。
         アズカバンに送らねばならないというのは、真っ赤な嘘じゃ」

ロン「……はい?」

マミ「ええっ!? 嘘、嘘って……そりゃあ、嘘で良かったけど……」

98: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 15:05:07.64 ID:XOUQNMB+0

QB「やっぱり、ブラフか」

ダンブルドア「おやおや、君の猫君は非常に賢いのう」

マミ「……キュゥべえ。あなた、分かってたの?」

QB「うん。だってダンブルドアは誓いを結んだじゃないか」


"知り得た記憶によって、私の友達を迫害しないと、誓っていただけますか?"


QB「マミひとりを逮捕するっていうつもりなら、分からなかったけど……
   ここにいる全員を、って時点で、本気で収監するつもりはないって気づいたよ」

マミ「……あ。そっか。私、佐倉さんのことしか考えてなかったけど……友達には、皆も含まれるわよね」

ロン「お、驚いたなぁ……そうだよな。ダンブルドアがそんなとち狂った真似するわけないさ、ウン」

ハーマイオニー「全力で逃げようとしてた人の台詞とは思えないわね」

ハリー「でも、それなら何であんな嘘を?」

QB「……それに関しては僕も同意見だ。
   魔法については詳しくないけど、嘘をついて脅すことも、"迫害"の範疇に含まれる可能性はあった。
   そんな危険をおしてまで、どうして……?」

ダンブルドア「……確かに、わしは嘘をついた。君らをアズカバンに入れるなどという、荒唐無稽な嘘を。
         だが、必要ではあったのじゃよ。早い内に、自覚をさせねばならなかった――彼女に」


マミ「――え? わた、し?」

99: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 15:05:42.76 ID:XOUQNMB+0

ダンブルドア「その通り。何よりも君に、わしはこの辛い事実を突きつけねばならない。
         マミ・トモエ。君のことは知っている。努力家なことも、それに比例せずに実技がやや苦手であることも」

マミ「……」

ダンブルドア「君は、もしかしたら疑問に思っていたかもしれん。自分には、本当に魔法の才能があるだろうか、とな。
        しかし、君にはとてつもない才能があるのじゃ」

マミ「私の、才能――?」

ダンブルドア「わしは教師として失格かもしれん。君がこの事実に耐えきれるか――
         それももう、ほれ。一緒に座っている彼らを初めとした、君を取り巻く友人たちに託すしかなくなってしもうた」

ハーマイオニー「……私たちに、ですか?」

ハリー「どういうことなんだろう……?」

ロン「っていうか、マミの才能って? 教室をワイルドに模様替えする才能とか?」

ダンブルドア「ああ、それくらいであれば実に微笑ましかったのじゃが! しかし、事実はそうではない。
        才能……恐るべき、才能じゃ……」

マミ「あの……結局、どういうことなんです?」

ダンブルドア「……ミス・トモエ」

100: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 15:06:14.21 ID:XOUQNMB+0
 









ダンブルドア「君がトレローニー先生の授業を取らなかったのは不幸であり、同時に幸いでもあったのう」









.

101: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 15:08:38.28 ID:XOUQNMB+0


マミ「トレローニー、先生……? それって、えーっと、確か……」

ハリー「"占い学"の先生だよ。いつも自分の部屋に籠ってるし、マミは会ったことなかったっけ?」

マミ「……そういえば、去年のクリスマス休暇の時、大広間で一度だけ……お話ししたことはないけれど」

ロン「でも、それとマミの才能とどんな関係があるっていうのさ? あのインチキ婆さんが――あ、すみません……」

ダンブルドア「先生にそのような口を聞いてはいけないよ、ミスタ・ウィーズリー。
        まあ、わしも"占い学"という学問には、少々疑問を持っている一人なのじゃが……」

ハーマイオニー「……あっ! それじゃあ、もしかしてマミは……でも、そんなことって」

ハリー「……ハーマイオニー? 何かわかったの?」

ダンブルドア「……君らの考えは、ある意味初手から間違っておった。"時計"が手元にあったということもあるのじゃろうが。
         その者は、未来からメッセージを送っているのではない。
         未来そのものを無意識の内に悟り、周囲に無差別に放射しておるのじゃ」

ハーマイオニー「私……占い学は、嘘っぱちだって思ってた……でも、それが本当なら、マミは」

ダンブルドア「さよう――そうした特別な才能を持つ者のことを、我々は"予見者"と呼んでおる」

QB「……! それじゃあ、マミの才能っていうのは――」

ダンブルドア「その通り。マミ、君は強力な予見者としての才能を持っておるのじゃよ」

102: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/20(土) 15:10:12.33 ID:XOUQNMB+0

マミ「私が……予見者? つまり、未来のことを知ることができる?」

ダンブルドア「未来だけではないがの。本来なら知り得ぬこと全てが、君の手の内にある。
        いままで受け取ったメッセージも、全て君が無意識に予見していたものじゃ」

マミ「……そんな、急に言われても……」

ダンブルドア「予兆はあった筈じゃ。おそらく予見の条件は、君が強く"知りたい"と願うことだからのう。
        たったそれだけで、君はどんな知識も手に入れることができる」

ロン「ええええ!? 凄いじゃないか、マミ! 宝くじとか当て放題だ! テストも勉強しなくていいし!」

ハーマイオニー「ロン、あなたっていう人は、本当に……でも、先生。それは確かなのですか?
          "送り主"がマミだっていう証拠は……」

QB「確かに、送り主が別にいるという可能性はまだ潰えてない。
   だって、例えば賢者の石の仕掛けなんかは、知りたいなんて願わなかった筈だろう?」

ダンブルドア「……予見の力は、年を経るごとに強力になっていったと考えられる。
        最初の内は、偶発的に予見してしまうようなこともあったのじゃろう。
        逆に知りたいと思うたことが、予見されないことものう」

ダンブルドア「そして――彼女が予見者だという証拠じゃが――……」

ハーマイオニー「……先生?」

ハリー(……言おうかどうか、迷ってる?)

ダンブルドア「……隠しようもないことじゃ。ここで話さずにいても、いずれは本人が予見してしまうからかのう。
        だからわしは、ここで君に告げねばならない。マミ、心を強くしてお聞き」

マミ「……は、はい。大丈夫、です」

ダンブルドア「……君に魔法使いとしての才能がある、と分かったのは、入学式の直前じゃった。
        つまり、その時初めて、君は魔法使いとしての才能を開花させたということじゃ」

マミ「……覚えています。マクゴナガル先生が、直接伝えに来てくださって……」

ダンブルドア「そうじゃのう。ミタキハラにフクロウ便が整備されたのはごく最近の話じゃ。
         そして何分急な話じゃったから、こちらもきちんと人をたてた方が良い、ということになった」

マミ「はい。……でも、それが何か? 私に予見の才能があるということと、どういう繋がりが」

ダンブルドア「君の魔法使いの才能が発現したことに関して、マクゴナガル先生が何と言ったか、覚えておるかね?」

マミ「……自動車事故で、無傷だったからと……危機的状況で、魔法の力に目覚めるのはよくあることだって」

ダンブルドア「そうじゃのう。間違いではない。じゃが、今回に限っては間違いじゃった」

マミ「……どういうことですか?」

ダンブルドア「……マクゴナガル先生は、君に関しての報告を詳しくはせんかったのじゃよ。
        君の不幸を広めるというのが、彼女の良心を咎めたのじゃろう」

ダンブルドア「君についてわしが知っていたのは、君には確かに魔法の才能があるということ。
        ご両親は交通事故で亡くなり、その時、君は無傷で生き残ったとこと。この二つだけじゃった。
        だからこそ記憶を見るまで、時系列の矛盾に気づくことが出来なかったのじゃが」

マミ「時系列の、矛盾……」

ダンブルドア「君は覚えている筈じゃ。初めてマクゴナガル先生と出会った時のやり取りを。
        君の記憶の中でも、それはとりわけ鮮明で、暖かいものじゃったからのう」

マミ(マクゴナガル先生との、出会い……?)

121: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 14:46:17.78 ID:OQinmfPz0

◇◇◇


『……っと、失敬。貴女がマミ・トモエですね?
その歳でこんな……大変だったでしょう。お悔やみ申し上げます』


『いえ、残念ながら。この国はふくろう便が整備されてなくて……ああ、まあそれはともかく。
本来なら三日前の誕生日、貴女が食事から帰ってきたらお会いする予定でした」


『自己紹介がまだでしたね。私はミネルバ・マクゴナガル。
イギリスのホグワーツという学校で教鞭を取っている者です』


◇◇◇





ダンブルドア「そう。"本来なら三日前の誕生日に会う筈だった"。奇妙だとは思わんかね?
        君が事故にあうことなど、その時点では分からなかった。
        マクゴナガル先生が君の御両親にお会いしようとしていたのは、君が交通事故に遭う前なのじゃよ」

マミ「……あ!」

QB「……それよりも前に、マミは魔法の力に目覚めたていた、というわけか」

ダンブルドア「その通り。もっとも、マクゴナガル先生が気づかなかったのも無理はない。
        君が生き残ったのは確かに魔法の力によるものじゃろうし、なにより考える為の時間が少なかった」

ダンブルドア「君に魔法力が観測されて、その日の内にマクゴナガル先生は日本に"姿現し"したのじゃ。
        その時、既に君はご家族と……おっと、これは純粋に君の記憶から得た知識じゃから口に出来ん。
        マミ、辛いかもしれんが、代わりに頼めるかの?」

マミ「……両親と、誕生日のお祝いとして、街に車で……」

ダンブルドア「そうじゃ。マクゴナガル先生は、家族水入らずに割り込むのを控えた。
        結果として、マクゴナガル先生が君の両親と出会う前に、君は交通事故に巻き込まれることとなった。
        ……故に、彼女は勘違いしてしまったのじゃよ。君の魔法力が、初めて発現した時を」

マミ「……」

ダンブルドア「……もう、分かったのではないかね? いったい、それがいつだったのか。
        どういった形で、君の魔法使いとしての才能が目覚めていたのか」

マミ「……そんな……だって、それじゃあ……」ブルブル

QB「……マミ? どうしたんだい?」

ハーマイオニー「っ! 酷い顔色……先生、良くわかりませんけど、これ以上は……」

ダンブルドア「いいや。ここで受け止めねばならん……最悪なのは、誰も傍にいない時に予見してしまうことじゃ。
        いま、この時。彼女は全てを知らねばならん」

122: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 14:49:03.43 ID:OQinmfPz0

マミ「……あれは、私の気のせいで」

ダンブルドア「気のせいではなかった。おそらく、君がした最初の"予見"じゃった」

マミ「嘘、です……私に、そんな才能は」

ダンブルドア「心当たりはある筈じゃ。君はこれまでのメッセージに、奇妙なほど全幅の信頼を置いていた。
         何故なら、君は心のどこかでそれが紛れもない自分自身の"予見"だと知っていたのじゃ」

マミ「そんな……」


(なんていうのかしら。凄い馴染みのある気配、とでもいうのかしら。
 知らない筈なのに、長い間ずっと一緒にいたような……)


マミ「あ……」

ダンブルドア「……さよう。君が知りたいと願った時、実に都合よく、それは目の前に降ってきた――」

マミ「――都合なんて、よくなかった!」ガタッ

ハリー「マミ!?」

ハーマイオニー「ちょっと、落ち着いて――」

マミ「落ち着く!? 落ち着いてなんて、いられないわ! だって、私、私――」


マミ「私、パパとママを、殺して、なんか――」


ダンブルドア「……」

ハリー「……え?」

ハーマイオニー「どういう、こと……?」

ロン「君が、自分のパパとママを……その、」

マミ「……っ! そんなわけ! ない! 私、私は――」ガタッ

ハーマイオニー「マミ!? あなた、憂いの篩を――!?」

マミ「見れば、全部わかる! 私は、才能なんか、なくて。ただの、出来損ない、で……」


 そうであれば、どれほど良かったことか。

 憂いの篩に意識を落として、私はそう思い知ることになった。

123: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 14:49:45.77 ID:OQinmfPz0

◇◇◇



マミ(実際に見て、言葉だけじゃなく、本当に理解できた……この試合は、本当に危ないんだ。
   さっきロンくんが言った通り、誰かが、本当に、ハリーくんを殺そうとしてる……)

マミ(一体"誰"が? "どうやって"? "何の目的で"――?)



 彼女は願った。友人を殺そうとする犯人が知りたいと。



『ハリー・ポッターの名前をゴブレットに入れたのは、死喰い人のバーテミウス・クラウチ・ジュニア』

『アズカバンから密かに脱獄し、いまはアラスター・ムーディに変装している』

『狙いは、ハリー・ポッターを闇の帝王の下へ送り届けること』



◇◇◇

124: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 14:50:14.33 ID:OQinmfPz0

◇◇◇



マミ「そこよねえ……二人のわだかまりを解くのに、私ができることって何かしら?」


 彼女は願った。友人たちの諍いをおさめたい。その為に、成すべきことを知りたいと。


『スキャバーズは生きている。捕まえたいなら、この位置に罠を張り、さらにこの六つの位置で踊ること』



◇◇◇

125: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 14:50:41.95 ID:OQinmfPz0

◇◇◇



マミ「ふうん。これがロンくんのネズミね……」

ロン「あれ? 見せたことなかったっけ? スキャバーズさ。
   ほんとはもっとぷくぷくしてたんだけど、エジプトに行ってから弱っちゃってて」

マミ「本当、可哀想に……ああ、指も一本欠けちゃってる。どうしたの、これ?」


 彼女は願った。友人のペット。その怪我の理由を知りたいと。


ハリー「真っ白な背景に、字だけ書いてある……"逃げる時に自分で切り落とした"? どういうこと?」



◇◇◇

126: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 14:51:09.37 ID:OQinmfPz0
◇◇◇



QB「そうだね。あとはハーマイオニーだけど……今日もダメだったのかい?」

マミ「そうなのよ。帰ってきてから、あの三人でずっと何かやってるみたいで。
   今日も授業が終わってすぐ、教室から飛び出していっちゃったの」

QB「話す機会がなかなかないねぇ。まあでも、向こうが聞いてこないんなら、彼女のでもないんじゃないかい?」

マミ「そうかもしれないけど……でも聞く前に捨てるわけにもいかないし」

QB「せめてどこにいるか分かればねえ」


 彼女は願った。友人の居場所を知りたいと。


 "禁じられた森" "ハグリッドの小屋"



◇◇◇

127: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 14:51:41.17 ID:OQinmfPz0
◇◇◇



マミ「これとこれと……あ、新聞がある。じゃあこれもお願いします」
   (魔法使いの世界の事情とか、全然知らないし……)



 彼女は願った。魔法界のことが知りたいと。これから、自分の周りで起こることが知りたいと。



(生き残った男の子、ハリー・ポッター帰還)
(ワーロック法違反。危険生物の卵が帳簿と釣り合わず)
(賢者の石の創造者ニコラス・フラメル氏、死去)



『一つ目はケルベロス。音楽を聞かせること。
 二つ目は悪魔の罠。火をつけること。
 三つ目は空飛ぶ鍵。箒で飛んで掴むこと。
 四つ目はチェス。よく練習しておくこと。
 五つ目はトロール。対策を練っておくこと。
 六つ目は論理。前へ進みたいなら一番小さな瓶。戻りたいなら右端の瓶を』



◇◇◇

128: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 14:52:12.63 ID:OQinmfPz0
 


マミ『ねえお母さん……やっぱり、今日のお出かけやめにしない?』

マミママ『? どうしたの? マミも今日のお出かけ楽しみにしてたじゃない』



 彼女は願った。この幸せな日々が、ずっと続けばいいと。



マミ『……えっと、なんとなく……だけど。今日はあんまり外に出たくないなって』

マミママ『あら、体調でも悪いの?』

マミ『そういうわけじゃないけど……』



 彼女は思った。この幸せな日々は、いつまで続くのだろうと。




マミママ『……珍しいわね、マミが愚図るなんて。でも駄目よ、もうレストランも予約しちゃったし』

マミ『でも……テレビで最近――』



129: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 14:52:51.63 ID:OQinmfPz0


 






マミ『でも……テレビで最近、車の事故が多いって……』



 ――ふと、思って、しまった。





.

130: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 14:53:29.26 ID:OQinmfPz0
 

テレビ『ザ――ザザ、ザ――こんばんは、夜のニュースです。○月○日、見滝原市で大規模な玉突き事故が発生しました。
     死亡したのは、巴――ザ――さんと、その妻――ザ、ザ――で、ザ、ザザッ』


テレビ『ザ――お昼のニュースです。イギリスでフクロウが異常発生しているニュースの続報ですが――』


マミ『……』


マミママ『――マミ、マミ? あ、こんなところに居た。もうっ!
      まったく、テレビの前に座り込んじゃって……支度出来たの?』

マミ『ねえお母さん……やっぱり、今日のお出かけやめにしない?』

マミママ『? どうしたの? マミも今日のお出かけ楽しみにしてたじゃない』



131: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 14:53:57.24 ID:OQinmfPz0

 未来を予測することが出来ない限り、運命は変わらない。

 だからその日、私は家族を失った。


 ――なんて、欺瞞だろう。


マミ「嫌……」


 私は、未来を知っていた。それなのに、私は何もしなかった。


マミ「嫌ぁ……」


 それだけなら、まだしも。


マミ「嫌ぁ……!」


 ダメ。だめ。駄目。駄目駄目駄目駄目駄目。絶対、駄目。

 思い出せ思い出せ最低の記憶を思い出せお前、お前はお前はお前は、


マミ(あ――私、は……)


 ――私は、運命を変えるチャンスを、フイにしていた。

 思い出したくなくて、心の底に沈めていた、あの時の記憶が再生される。

132: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 14:54:59.73 ID:OQinmfPz0

巴マミ 11歳の誕生日 交通事故現場



マミ「……」


 気づけば、そこはあの日の、あの事故現場になっていた。

 ガソリンが燃え、周囲には火の粉が舞っている。小規模な爆発が起こり、私の横を鋭い鉄片が通りぬけていく。


マミ「げほっ、げほっ……ひどい、煙……」


 記憶でなかったら、窒息して死んでいただろう――そんな地獄の中で、昔の私は座り込んでいた。


幼マミ『……っ、ぁ』


 服は煤で汚れ、ところどころ擦り切れている――だが、目立った怪我はしていない。


マミ(無傷で助かったののよね……自分だけ)


 視線を移す。昔の自分の背後。

 ――そこには見るも耐えない状態になった、両親の姿が。


マミ「……!」


 こみ上げる吐き気に、思わず手を口に当てる。

 葬儀でも、遺体との対面は出来なかった――その意味を、理解する。

 それをもう、人だとは思えない。少し前までは動いていたなどと、信じられない。

 だから、幼い自分は目をそらしている。両親の"無い"前を向いている。


マミ(こんな時まで、私は弱虫で……そして、だからこの後も……)


『やあ、酷い事故だね』


 ――来た。

 道路に座り込んでいる昔の自分の前に、白い獣――インキュベーターが、浮かぶように現れる。

 私が、忘れていた記憶――忘れようとしていた記憶。

 すでにこの時、私はインキュベーターに出会っていた。


Incubato『君は奇跡的に無傷のようだけど……でも、後ろのふたりはもう駄目かな。
      既に死んでいる。明らかに致命傷だしね。この星の医療技術じゃどうにもならないだろう』

幼マミ『……』

Incubato『でも、君が望めば、この運命だって変えられる。
      君の素質なら、死後間もない人間をふたり、生き返らせることは可能だ』

幼マミ『……』

Incubato『だから僕と契約して、魔法少女になってよ!』

133: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 14:55:56.97 ID:OQinmfPz0


マミ「インキュベーター……」


 宇宙の為に、魂を弄ぶ異星の民。

 佐倉さんのことを思えば、彼らへ憎しみを抱いてもおかしくはないだろう。

 だけど、


マミ「……ねえ、お願い……パパとママを助けてって、言って?」

幼マミ『……』

マミ「お願いだから……ね? 私みたいな役立たずでも……その位はできるんだから」


 無駄だということは知っている。これは記憶。すでに過ぎ去った過去にすぎないのだから。

 それでも、懇願せずにはいられない。それはつまり、私はこの過去を受け入れられないということ。


幼マミ『……』

Incubato『……困ったな。意識はある筈なのに。契約は、合意がなければ結べない。
      はっきりと、意思表示をして貰わないと困るんだけど……』

幼マミ『……』


 昔の私は、喋らない。

 理由は知っている。覚えている。

 息が苦しかった。事故のショックがあった。相手の説明が良くわからなかった。

 兎に角、まともに会話ができる状況ではなかった。
 

Incubato『やれやれ、仕方ないな。契約出来ないのに、個体をひとつ潰すのも馬鹿らしいし。
      またね。君が望めば、いつでも契約するよ』

幼マミ『……』

マミ「あ、あ、あ……」


 インキュベーターの姿が、揺らめく様に消える。

 息が苦しかった。事故のショックがあった。相手の説明が良くわからなかった。

 ――たったそれだけの理由で、私は両親を見殺しにした。


マミ「……助けられる方法は、すぐそばにあったのに!
   その代償は、私の魂なんてちっぽけなもので良かったのに!
   私、私は――」


 これが、吸魂鬼に幸福な感情を吸い取られた後に残る、私の最悪の記憶。

 まね妖怪に呼び覚まされることを恐れた、私の最低の不義。

 私には、全てを見通す、素晴らしい才能があった。

 私には、全てを覆す、素晴らしい才能があった。

 ――そんな望外の力を持ちながら、私は大切な人達を見捨てたのだ。

134: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 14:56:39.21 ID:OQinmfPz0

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校長室


シリウス「やれやれ、ようやく尋問が終わった……まさかクラウチの息子がムーディに化けていたとはな。
      まあ、奴もめでたくアズカバンに逆戻りというわけだ。さて、ハリー達はまだ中にいるか……?」


 バタン!


マミ「……」

シリウス「っと! ああ、なんだ君か。話は終わったのかい? 
      ハリーは中かな? それとももう寮へ……?」

マミ「……っ!」ダッ

QB「……」トテテテ

シリウス「……行ってしまった。どうしたと言うんだ?
      どうも険しい表情をしていたが、もしや何かあったか……?」

ハリー「――シリウス!」

シリウス「ああ、ハリー! どうしたんだ? 中で一体、何が――」

ハリー「ごめん! でも急いでるから……マミはどっちに行ったか見た?」

シリウス「彼女なら、あっちの方に……というか、地図を使えばいいだろう」

ハリー「それもそうか。ありがとう、シリウス! "我、ここに誓う"――」

ロン「でもさ、追いついたところでなんて説得する?」

ハーマイオニー「そんなの追いついてから考えればいいのよ! 私達、詳しい事情も知らないし。
          もう、マミったら! 急に飛び出していくんだから――」


 タタタタ……


シリウス「……何やら、私ひとりだけ蚊帳の外だな――ダンブルドア! いったい何があった!?」

135: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 14:58:09.22 ID:OQinmfPz0
ダンブルドア「――それで、本物のムーディは?」

シリウス「トランクの中に監禁されていた。失神呪文やら服従の呪文やらを掛けられてな。
     それでもマダム・ポンフリーの見立てでは、クリスマス休暇明けには復帰できるそうだ」

ダンブルドア「なるほど……不幸中の幸いじゃの。
        問題はクラウチ・シニアに掛けられた服従の呪文をどうするかじゃが……」

シリウス「ヴォルデモートが直々に掛けたという話だ。下手に手を出すのは不味い。
      本人の抵抗に任せて、動向が向こうに伝わらぬよう校内に軟禁しようというのが、
      スネイプ……あー……"教授"のご意見だったが」

ダンブルドア「ならばそのように取り計らおう。魔法契約のせいで、T.W.Tは中止にも出来んしのう。
        さて、ヴォルデモート卿の復活を、ファッジが受け入れられるかどうか」

シリウス「まったく、奴らしい。実にいやなタイミングでことを運ぶ……」

ダンブルドア「であるからこそ、奴は強大な闇の魔法使いになった……しかし、そっちの方は一段落か。
        問題はミス・トモエの件じゃが……」

シリウス「事情は聞いたが、考えすぎでは? 確かに、急に予見者の才能に目覚めれば戸惑うだろうが……
      残酷な真実、というには大げさではないのか?」

ダンブルドア「……シリウス、君は予見者について、どの程度知っておる?」

シリウス「そこまで詳しいわけではないが……未来予知やら失せ物さがしやら、
      そういう"本来知り得ないこと"を口にする奴らだろう?」

ダンブルドア「まあ、そうじゃな。実を言うと、わしはあまり占い学という科目が好きではないのじゃが……」

シリウス「……貴方がそういうことを口にするとは、正直驚いた」

ダンブルドア「……そもそも、予見は勉強で身に付くものではない。純粋な才能じゃよ。
        占い学も、その才能の発芽を促す手助け程度にはなるじゃろうが――」

シリウス「つまり占い学は……多くの者にとっては役立たずだと?」

ダンブルドア「大きい声では言えぬがの。わし自身、あの科目を続けるのは意に反したところがある……
        しかし問題は、現実に本物の予見者がいるということでな」

シリウス「……それのどこに問題が?」

ダンブルドア「わし個人としては、予言や運命というものが全てを支配しているとは考えていない。
        しかし、そう考えたくなる者の気持ちも分からんではないのじゃ」

ダンブルドア「予見者! 未来を予測するという非常に難解な分野において、彼らは専門家じゃ。
         その点に関して、わしらは絶対的に及びはしない……誰も予見者としてのミス・トモエを理解はしてやれん。
         この学校の占い学の先生も、本物ではあるが相談役には適さんじゃろう」

ダンブルドア「つまりは、それ以外の点で――単なる一学生としてミス・トモエを見ることができて、
        なおかつ彼女を手助けしてやれる者が必要じゃ。わしはそれを、彼女の友人に託した」

シリウス「ハリーなら大丈夫でしょう。友達想いの良い子ですよ」

ダンブルドア「否定はせん。じゃが、すでにあの子は背負いすぎるほど背負い込んでおる」

シリウス「……」

ダンブルドア「なればこそ、保険はかけておくべきじゃろうな……エクスペクト・パトローナム(守護霊よ、来たれ)」

守護霊「……」

ダンブルドア「今宵、皆が寝静まった頃、ミス・トモエに伝言を。内容は――」

136: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 14:59:52.70 ID:OQinmfPz0

翌日 11/25 ホグワーツ 図書室



ハーマイオニー「私のミスよ! 送り主がマミだって、気づけてた筈なのに――ヒントはいっぱいあったもの!
          でも逆転時計を使ったばっかりだったし、占い学はインチキだと思ってたし――」

ハリー「それをいうなら僕もだ。去年の騒ぎで、すっかり忘れてた……トレローニー先生が、本物かもしれないって。
     本当の予言者がいるかもって知ってたんだ」

ロン「いや、絶対気づけないよ、そんなの……少なくとも僕はそう思うけど。
   それよりマミだ。昨日から全然捕まらないじゃないか。こっちは地図で先回りしてるのに」

ハーマイオニー「……たぶん、私たちが先回りするのを更に先回りしてるのよ。
          自覚したことで、もっと能動的に"予見"できるようになったんじゃないかしら」

ロン「……それってつまり、マミが捕まりたくないって思ってる限り、絶対に捕まらないってこと?」

ハーマイオニー「どの程度まで予見できるかにもよるでしょうけど……」

ハリー「昨日は寮に戻って来なかったし……朝食時にも現れなかった。
     地図は一つしかないから、三手に分かれて追いつめることも難しい……」

ロン「その内、お腹が減って倒れちゃうんじゃない? その時に捕まえる?」

ハーマイオニー「そんな悠長なこといってられないでしょ! ダンブルドアも言ってたじゃない。
          マミが自分の才能に耐えきれるかどうかは分からないって」

ロン「それなんだけど、いまいちよくわからないんだよね。だって未来が見えるんだろ?
   どう考えたって人生バラ色じゃないか!」

ハーマイオニー「……たとえば、自分がいつ、どんな風に死ぬか、分かってしまっても?」

ロン「……え?」

ハリー「それってどういう……?」

ハーマイオニー「いつだったか、あなたが馬鹿馬鹿しい死神犬のことで大騒ぎしてたけどね。
          予見者はそれ以上にはっきりと、死の前触れを見ることもできるの」

ロン「……それは、その……ぞっとしないね」

ハーマイオニー「"死の前兆"っていう占い学関係の本があるんだけど、
          それに書いてあること全部真に受けて人生に希望が持てなくなっちゃ人もいるのよ。
          マミはダンブルドアに太鼓判を押された本物なんだから、実際しゃれになってないわ」

ハリー「……なんとなく分かるよ。去年の僕もそんな感じだったし」

ハーマイオニー「そんなわけで――どうにかして早く捕まえる手立てを考えないと。
          すっごい昔の話だけど、予見者って迫害の対象だったりもしたらしいし……

ハリー「でも、結局どうすればいいんだろう……?
     マミが僕たちに会いたくないと思ってる限りは会えないんじゃ……」

137: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:00:27.51 ID:OQinmfPz0

ロン「そもそも、なんで僕らを――っていうか、他人を避けようとしてるんだろう?
   僕だったら誰かに相談するけどなぁ」

ハーマイオニー「分からないわ。マミが取り乱し始めたのは、自分の記憶を覗いてからだけど……」

ロン「でもあれ、自分の記憶だろ? なんであんな風に……ダンブルドアは話してくれなかったしさ。
   "誓い"のせいだとは分かってるけど……」

ハリー「……辛い記憶を、もう一度見たんだと思う。彼女、御両親を酷い事故で亡くしてるし……
     それに、変なことも言ってただろう。自分の両親を、その……」

ハーマイオニー「……とにかく、手遅れにならない内になんとかしないと。
          もう一度、居場所を確認して見ましょう? ハリー、地図を」

ハリー「うん……"我、ここに誓う。我、よからぬことを企む者なり"」トン



地図『ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングズ。
    我ら悪戯坊主の味方が送る最高の品、"忍びの地図"』スゥ....


ロン「僕、昨日の時点でちょっと思ってたんだけどさ。
   地図を使うたびにこの文句が出てくるのどうにかならないのかなぁ?」

ハリー「それは今度シリウスに相談してみよう……それより、マミは何処に……」

ハーマイオニー「彼女、いざとなれば抜け穴を"予見"してホグワーツから抜け出すかもしれないし……
          一応、昨日の内に外へ通じる隠し通路には呪いを掛けておいたけど」

ロン「ジョージとフレッドが引っかかったりして……うーん。それにしても、マミは何処に……」

ハリー「……いた! ここだ! でも、ここって……」

ハーマイオニー「……グリフィンドールの女子寮? 入れ違いだったの!?」

ロン「彼女、ようやく戻ってくる気になったのかな?」

ハリー「分からない――でも、急ごう!」

138: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:01:54.77 ID:OQinmfPz0

グリフィンドール談話室


ハリー「……」

ロン「……おったまげー。これ、どういう状況?」

ハリー「僕に聞かれても……でも、普通じゃないよね?」


 バサ バサ バサ


ネビル「わっぷ! わああああああ! もうやだ! 誰か助けて――ああ、ハリー!
     どこに行ってたんだい? 昨日は君らの話題で持ち切りだったのに……」

ハリー「ああ、ネビル。そんなことより、今のこの現状の方が深刻だと思うけど……なに、これ?」

ネビル「僕にだって分からないよ! さっきからずっと、どこからともなく本やら羊皮紙やらが降ったり湧いたりで……
     おまけに変なことばっかり書いてあるんだ!」

ロン「どれどれ……ははん? ネビル、君は近い将来、ハリーを助けるって書いてあるぞ?」

ネビル「そうなの? こっちには君の妹がレイブンクローの誰それと付き合うって書いてあるけど……」

ロン「はあああ!? おいちょっと、その紙を貸せ! 誰だ! 誰って書いてある!?」

ハーマイオニー「ああもう! ロン! そんなことやってる場合じゃないでしょう! インセンディオ!(燃えよ)」

ロン「あああああ! 君、何てことするんだ! 僕の妹が慰み者にされてもいいのか!?」

ハーマイオニー「そんな頭が軽い子じゃないわよ、彼女――それにしても、マミが人を避けてたのはこれが原因ね」

ハリー「……じゃあこれ、全部マミが?」

ハーマイオニー「ええ。能動的に予見ができる、どころじゃないわ。彼女、もう止められないのよ。
          多分、頭によぎったことに関するほとんど全てが予見として……」

ロン「おいおい、冗談じゃないぜ! もう足首のとこまで羊皮紙が積もってるんだぞ。談話室が紙で埋まっちまうよ!」

139: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:02:22.33 ID:OQinmfPz0

ハーマイオニー「この量だと燃やすのは危ないから、纏めて消しましょう。
          アクシオ! 予言よ、集まれ! エバネスコ!(消えよ)」


 ぽん!


「おおー」パチパチパチ


ハーマイオニー「ふふん。さて、これでようやくマミのところまで……」


 ドサササササ!


ハーマイオニー「」

ロン「消したのと同じくらいの量がいっぺんに降ってきたね」

ハリー「……えーと、何々……"ハーマイオニーが呪文で消した音"……
     なるほど。マミがちょっとでも疑問に思ったら全部こうやって答えが出るんだ」

ロン「彼女、さっきのを聞いてたってことかい? じゃあもう、ここから呼ぼうよ。
   おーい、マミ、降りてきなよ! お腹減ってるだろ! 生憎、いまここにはヤギの餌しかないけど!
   でもフレッドとジョージに頼めば、きっと食料を調達してきて――」

ネビル「あの二人なら医務室だよ。隻眼の魔女像の前で、誰かに呪いでやられてるのを発見されたって」

ハーマイオニー「……あー、そう、なの。それは心配ね?」

ロン「……ややっこしい呪いを掛けてやしないだろうね、その誰かさんは」

ハリー「マミ! 話があるんだ! とにかく一度おりてきてくれ!」


 がちゃっ ぎいぃ…


マミ「……」

ハーマイオニー「ああ、マミ! 良かった……もう! 本当に心配したんだから!
          ねえ、昨日はどうしたの? 私たちで力になれることなら、相談して……」

マミ「……ごめんなさい」

ハーマイオニー「謝ることなんか! まず、理由を教えてちょうだい?
          そりゃあ話したくないことは、無理に話さなくたっていいけど――」

マミ「……」ガチャッ

ロン「……おい、奴さんおかしいぜ。トランクなんか持ってやがる。あれじゃまるで……」

ハリー「……マミ? どこに行く気なんだ?」

マミ「ごめんなさい……」

ハリー「謝ってばっかりじゃ、何にも分からないよ――」

140: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:04:13.00 ID:OQinmfPz0


QB「悪いけど、止めないでくれ。マミが決めたことだし、僕もこうした方がいいと判断した」

ハリー「キュゥべえ! マミは一体……昨日、君はあれからずっと一緒だっただろう?
     何か知ってるんじゃ……」

QB「……僕の口からは言えない。校長室から飛び出した理由も、今からホグワーツを出る理由も」

ロン「ここから出るだって!? なんでそんな――」

ハーマイオニー「ねえ、マミ……あなたが悩んでいるのは分かるわ。それがとても難しいことだっていうのも。
          でも相談してくれれば、私達、絶対に力になれると思うの。今までだって……」

マミ「……ハーマイ、オ……」


 バサバサバサ!


ロン「うわっ! またか――なにこれ。ハーマイオニーのO.W.L試験の成績!?
   僕ら、これを受けるのは来年の筈だろ? こんなもんまで……」

ハーマイオニー「み、見せないで! やめて、あっちにやって!」ブンブン

ハリー「……そうか。本当に、どんな些細なことでも……」

QB「……そうさ。下手に相談しても、その間、その人の未来を無差別に予見してしまう……
   いまのところまだ、そういうことは無いけど……」

QB(分かるだろ? それで、もしも誰かの"死の予言"をしてしまったら――)コソッ

ハリー(……! そうか、それを口にしたら――少しでも意識してしまったら――)

マミ「……」

QB「マミは昨日から、必死に関係ないことを考えて誤魔化してる状態だ。でも、長くはもたないだろう。
   予見についての知識も十分だとは言えない。非常に危険な状態なんだ」

ハーマイオニー「じゃあ一体、どうするつもりなの?」

QB「それは……」


 ガチャッ バタン


ロン「うん? 誰だろう。悪いけど、見ての通り取り込み中だから――」

???「……」スッ

ロン「へ? 大人……? でも、ホグワーツの先生でも」

ハリー「ロン、危ない! そいつ、杖を!」

???「ドルミーテ!(眠れ)」

ハーマイオニー「っ! プロテゴ!(守れ)」

141: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:05:41.89 ID:OQinmfPz0

ネビル「うわっ……むにゃむにゃ……」Zzzz

ロン「……談話室にいる連中、僕ら以外みんな眠っちまった」

ハリー「誰だ!? どうやってホグワーツに……エクスペリアームス!(武器よ去れ)」

???「っ!?」カランッ

ロン「よっしゃ! よくやったハリー! あとは縛り上げて、先生のところに……」

???「待て待て待て! 別に私は君たちに危害を加えようとしたわけじゃ」


 ガチャッ


マクゴナガル「……」

ハリー「先生! ちょうどいいところに! 見てください、変な奴が寮に――」

マクゴナガル「ポッター。その人は……」

???「全く! 君たちのことを思って私は呪文を――おっと、不味い。早くしないと――」スッ

マミ「……」

ハリー「……! マミ、危な……!」

???「ステューピファイ(麻痺せよ)」

マクゴナガル「フィニート!(終われ)」


 バシッ


???「だから何で邪魔をするというのか! 私はダンブルドアの許可を貰っているんだぞ!」

ハリー「ダンブルドアの……?」

マクゴナガル「……確かに、この件に関しては貴方達が専門家でしょう。
         ですが、もっと安全な呪文にしていただけませんか?」

???「意識を飛ばすのが一番安全なんだが――仕方ない。耳と目、口を塞ぐ方法で……」ブツブツ

ハリー「先生、この人は……」

マクゴナガル「……魔法省の無言者です。トモエが望んだので、校長がお呼びになりました」

ハリー「無言者って……?」

ロン「確か、魔法省の神秘部で働いてる人のことだよ。昔、パパに聞いたことがある。
   何やってるのか誰も知らない謎の部署だって言ってた」

ハリー「全然、無言じゃないけど……」

無言者「何やら酷い言われようだがね。我々が秘するものは世界の深奥だ。
     時間や精神、運命に予言といったものの仕組みを解明するべく――」

ハーマイオニー「予言……それで。でも、マミをどうするつもりなんですか?」

無言者「神秘部に連れて行くのさ……あー、そう睨まんでくれ。別に解剖するわけじゃない。
     本人の安全は保障する。というより、その為に我々が連れて行くんだ」

142: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:07:08.64 ID:OQinmfPz0

ハリー「……マミを監禁するっていうんですか?」

無言者「だから人聞きが悪い……彼女が望んだことだと聞いただろうに!
     そりゃまあ、好き勝手に歩けはしないが……」

ハーマイオニー「……先生、何とかならないんですか……?」

マクゴナガル「……トモエが望んだことです。こればりは、どうしようも」

ハーマイオニー「そんな……」

QB「……僕が付いていくよ。僕はマミのペットだし……だから、心配しないで。
   だいたい、ハリーには第二の課題もあるんだし」

ハリー「キュゥべえ……」

無言者「さて、そろそろ私も仕事をしていいでしょうかね?」

マクゴナガル「……そうですね。お待たせしました。ですが、最後にひとつだけ」

マミ「……」

マクゴナガル「――マミ。ホグワーツの学生である限り、私は絶対に貴女を見捨てはしません。
         そのことは、胸に刻んでおいてください」

マミ「……せん、せ」


 どさどさどさ!


無言者「おおおお! 素晴らしい! 予言の源泉だ! あとでこれ全部送って――こほん。失礼。
     これ以上、本人への接触は危険ですので……フェルーラ!(巻け)」

マミ「……んっ」キュッ

無言者「これで外界からの情報はシャットアウト……他には、えーと、荷物一式にペットが一匹。
     はい、確かに。それでは行きましょう。ホグズミードに移動キーが……」

マミ「……」

QB「……」


 ガチャッ バタン


ハリー「マミ……」

ハーマイオニー「そんな……私達、なにも……」

ロン「……仕方ないよ。僕ら、予見については何にも知らないし……あんなのどうしろっていうのさ?」

マクゴナガル「……悩んでいてもしかたありません! ポッター! 次の課題の準備を怠ってはいけませんよ!
         ウィーズリーとグレンジャーは、ここにある紙の束を集めるのを手伝ってください――」

143: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:11:18.82 ID:OQinmfPz0

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一ヶ月 魔法省 神秘部 保護部屋


マミ「……」


パサッ ドサッ ヒラッ 


無言者「うーむ。凄まじいペースで予見を生み出してるな。
     流石に周りに人がいなくなってからはペースも安定したが……それでもとてつもない才能だ。
     カッサンドラと同等か、少し劣るというところだろうか。また棚を増やさんと……」

QB「……それより、マミはここから出られないのかい? 一応、食べ物やシャワーはあるけど……
   もう一ヶ月もこの部屋に籠りっぱなしじゃないか。外に散歩に行くくらい……」

無言者「もう何回も説明したと思ったがね、猫君――我々は別に彼女を監禁しているわけじゃない。
     そりゃあここに居てくれた方が、神秘部としての研究が捗るのは確かだが……」

QB「……」ジッ

無言者「……オーケイ。なら何度でも説明しよう。いいかね? あの部屋の扉には魔法が掛かっている。
     "彼女が信頼している者以外は入れない"っていうね。だから彼女は安全だ。
     おまけに鍵はないから彼女はいつでも外に出れるし、必要ならベルを鳴らして誰かを呼ぶこともできる」

QB「面会用の窓もあるしね……そこからそうして中の様子も覗けるわけだ」

無言者「――さらに、ここはイギリス魔法省の中だ。世界で最も安全な場所だよ。
     仮に彼女を殺そうとする輩がいても、指一本触れられない」

QB「マミを殺そうとする人物なんて……」

無言者「彼女自身に恨みは無くても、予見者ならとりあえず小さく刻んで塩漬けにしたいって奴はいるんだよ。
     予見者は迫害されてきた……まあ大昔のことだが、現在それが絶無になったとは言えない」

QB「……未来を見通せるからかい」

無言者「まあ、そういうことだ。自作のポエムをいつ引っ張り出されるかと思うと連中は眠れんのだろう。
     とにかく、予見者を保護するためにこの部屋は作られたんだ。飼い殺しにするためじゃない」

QB「安全……絶対に?」

144: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:12:12.42 ID:OQinmfPz0

無言者「ああ。あの部屋の中にいる限りはね。
     保護呪文が掛けられていて、自殺も出来ないようになっている」

QB「……自殺、か」

無言者「……あー、まあ。彼女みたいなタイプ――つまり予見を抑制できず、
     なおかつ予見が残リ易かったり、自分の予見を自覚できる予見者は自殺率が高いんでね」

QB「どうして?」

無言者「予見者を殺そうとする連中と同じさ。予見者自身が、自分の予見に耐えられなくなる。
     パンドラの箱って知ってるかい? マグルの神話で、なかなか興味深い話なんだが」

QB「……絶対に開けてはいけない箱を、ある少女が開けてしまった。
  その中からは災いが飛び出したけど、最後にひとつだけ希望が残った。そんな話だろう?」

無言者「ああ、まあ、それでも間違いではないんだけど……実は、箱に残ったのは最悪の厄災だったのさ」

QB「それは?」

無言者「"未来"。箱の中に残ってたのは、これから起こる全ての出来事。即ち予見。
     それを人は手にしなかったからこそ、希望を抱いて生きていけるっていうお話なんだ」

QB「……予見者は最悪の災厄ということか。全てを見通してしまっては、生きてはいけない……」

無言者「そりゃあね。本だって、結末が分かってれば誰も読みゃしないだろう?
     予見も同じさ。本当に強力な予見者は、希望を持つことができない。全部、予め分かってるからね」

QB「……分かったよ。マミはこの部屋からはいつでも出られる。
  でも、実質的には出られないというのも確かだ。どうすれば出られるようになる?」

無言者「まあ、兎にも角にも力の制御が先だろうなぁ。今のところ、寝てる間さえ予見してる状態だ。
     とはいえ、その制御の方法は我々では教えることもできないんだけど……」

QB「……今までの予見者で、健常に生活できてた者はいるのかい?」

無言者「ああ、大勢いたよ。もっとも、その中に本物がどれだけ居たかは分からんが。
     まあ、見習うならカッサンドラがお勧めだ。彼女は強力で、しかも上手い予見者だった……
     書いた本が焚書されるどころか教科書になってて、蛙チョコのカードにも載ってるし」

145: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:13:19.35 ID:OQinmfPz0

QB「……まだ聞きたいことがあるんだけど」

無言者「構わないよ。話が通じる部外者って珍しいんだ。他の部署の連中は我々を奇人扱いしてくるし」

QB「そうかい。なら、遠慮はしないけど……予見の的中率が知りたい」

無言者「的中率?」

QB「つまり、どのくらい当たって、どのくらい外れるか……」

無言者「――あははははは! は、外れる? 外れるだって? はははははっ!」

QB「……おかしなことを言ったかな?」

無言者「は、はは……はぁ。ああ、ごめん。別に馬鹿にするわけじゃないんだが。
     いいよ、答えよう。予言の的中率。そいつはずばり――」


無言者「――100%。予見されてしまったら、どう足掻こうが絶対に的中する」


QB「……確かかい?」

無言者「ああ。まあ、色々と異を唱える人はいるけどね。僕個人の意見としてはそうだ。
     何しろ、今まで外れた"予見"なんて見たことないからね。
     逆に言うと、外れてしまえばそれは予見ではなく、ただの戯言にしか過ぎないんだけど」

QB「……どうにも、言葉遊びのように聞こえるね」

無言者「うーん。そういうつもりじゃなかったんだが……逆に聞こう。
     報告では、彼女の予見は以前から確認されてたらしいけど、ひとつでも外れていたのがあったかい?」

QB「……それは……でも、抗うことは出来たかもしれないじゃないか。
   例えばネズミを捕まえる方法を予見したことがあったけど、僕らがそれを実行しなければ――」

無言者「ネズミは捕まらなかっただろうね。でも、それとこれとは話が別だ。
     だってそれは"ネズミの捕まえ方"であって"ネズミが捕まる"という予見ではないのだから」

QB「……適切な方法を予見するのと、結果そのものを予見する違いか」

無言者「おお、その通りだ。いやあ、君は実に物わかりが良い。
     上で働いてる奴らより、猫を雇った方がいいな。連中は我々の仕事にほんと無関心で……」

QB「でも、まだ分からない。本当に予見は絶対なのかい? 抗う方法はない?」

146: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:16:23.72 ID:OQinmfPz0

無言者「ないよ。例えば、こんな話がある。ある男に死の予見がされた。内容はこうだ」


 『汝、明日、昼食のリンゴに当たって死ぬであろう』


無言者「その男は用心した。何にリンゴが入ってるか分からなからその日は絶食したし、
     フルーツパーラーの類にも近づかなかった。唇に粘着呪文すら掛けて、ずっと家の中に閉じこもってたんだ」

QB「それで、結果は?」

無言者「隣家から音速で飛んできたリンゴの破片が頭に直撃して死んだよ。
     隣の奥さんが昼食にアップルパイを焼こうとして、カマドを爆発させたらしい」

QB「……」

無言者「予見に関しては色んな考え方があるよ。それは否定しない。
     運命なんて存在しないって考えもあるし、人の行動こそがそれを作るって考える人もいる」

無言者「でも実際問題、外れた予言、というのは存在しないんだ。
     そもそも外すことのできる予見になんの価値がある? 変えられる予知なんて予知じゃない」

QB「彼らの予見は絶対……外れることはない……」

無言者「あるいは、こう言うこともできる。
     仮に変えられぬ運命というものがあるなら、それを作っているのは彼ら予見者だ、ってね」

QB「……じゃあ、もしも予見されたら、どんな努力をしても無駄ということか」

無言者「……うーん、それはまた話が違うと思うけど」

QB「え?」

無言者「さっきのリンゴ男の話で言うとさ、その男、家族がいたらしいんだよ。
     で、巻き込まれるといけないからって、その日は外に逃がしていたんだ」

QB「家族の死は予見されてなかったんじゃ……」

無言者「そうだけど『男一人"だけ"が死ぬ』って予見でもなかったからね。用心を重ねたんだ。
     実際、隣の家のカマドは物凄い勢いで炸裂してて、男の家の中も滅茶苦茶だった。
     中に居れば、まず間違いなく男の家族は死ぬか、でなくても大怪我はしていただろう」

QB「男の行動が……家族を救った?」

無言者「そうだ。予見されていた男自身の死は防げないけど、そこからの二次災害は防ぐことができた。
     だから予見があるから何もしなくていい、というのは違うと思うな。
     確かに予見は抗い難い運命を作り出すけど、その周りの状況は変えることができるかもしれない」

QB「……」

無言者「……っと、あー、もうこんな時間だ。昼食だけど、猫君はどうする?
     いつもみたいにそっちで、ご主人様と食べるかい?」

QB「……そうさせてもらうよ。今日は一言くらい話せるといいんだけど」スタッ

無言者「甲斐甲斐しいな。良いペットだ。
     ……さて、こっちも飯にするか。煙突飛行デリバリーでも頼むかな……」スタッ


 ガチャ バタン


紙飛行「……」フワッ

147: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:18:41.94 ID:OQinmfPz0
 きょうのおひるごはんは、ピーマンでした。

 まいにち、ごはんは3かい。てーぶるのうえに、じどうででてきます。

 きっと、やしきしもべよーせいがやってくれているんだとおもいます。

 やしきしもべよーせいといえば、えす・ぴい・いー・だぶ








 ピーマンはとってもみどりいろです。みどりいろといえばカエルですけど、カエルはごはんではありません。

 ピーマンをフォークでさして、くちにはこびます。かみます。にがい。

 となりにいる、しろいねこもおなじものをたべています。にがくないのかな?


QB「……」
 

 ねこはしゃべりかけてきません。ただ、だまってそばにいてくれます。それはとってもうれしいです。

 だって、おはなしすると、どうしてもいやなことがあたまにうかんでしま








 ここは、とてもいいところです。

 「おかしがほしい!」

 そうおねがいすると、てーぶるにすきなだけでてきます。

 きょうはクッキーがおいしい。ねこにもあげました。がんばってピーマンをたべていたので。

 でも、ちょっとたいくつになってきました。

 おはなしもできないし、ほんもよめません。

 かよっていたがっこうには、ともだちがいっぱいいて、









 もう嫌! 耐えられない! 助けてキュゥべえ!

 こうやって思考を鈍化させて、大切なものを連想しないようにするなんて、本当に最あ











 おちゃをのみましょう。かっぷはわれてしまったけど、へいきです。

 ようせいさんがあたらしいのをくれるし、このへやではけがもしません。すごいでしょ?

 ここはとてもいいばしょです。ここにいれば、もうなにもこわくない。

 もうどのくらいここにいるでしょうか。

 あとどのくらい、ここにいるのでしょうか。

148: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:19:52.30 ID:OQinmfPz0

マミ「……」モグモグ

QB「……」


 マミは果たして生きているといえるのだろうか。

 身体的には確かに問題ない。体重やその他の数値も適正値を保っている。

 だが、その顔に何の表情も浮かべず、次々と生まれる予言に半ば埋もれるようにして、

 黙々と食物を咀嚼しているその姿からは、かつての快活だった姿は想像できない。

 この一ヶ月、マミは一言も喋らなかった。

 テレパシーにも反応しない。おそらく、彼女なりの防衛方法なのだろう。

 目の前の状況を膨らませて、無理やり頭の中をいっぱいにする。そんなところか。

 事実、いま降ってきた予言には今日の昼食に使われている野菜の、来年の取れ高のことについてしか書かれていない。

 だが、この方法も長くは持たない。むしろ、一ヶ月も続けられているのが異常だ。

 マミの精神は限界だろう。誰か、彼女を助けてあげて欲しい。

 ハリー達からは幾度も手紙が来たが、彼らの死を予見しない為にと、全て受付でストップしている。

 誰とも話せない。外からの情報を取り込むこともできない。

 それは人間にとって、耐えがたい苦痛の筈だ。

 僕が傍にいるのをマミが許容しているのは、きっとそのせいだろう。

 独りぼっちの寂しさと、僕にとって悪い予言をしてしまうかもという気持ちがせめぎ合っているのだ。

 僕も、悪い予言をされてしまう可能性があるのだから、こうしているのは危険だ、ということは承知している。

 でも、構うものか。死の予言がされたっていい。彼女をひとりにはできない。

 もしも僕の死が予言されたら、マミが見る前に回収するように、あの無言者の男にお願いしてある。

 双子の呪文を使って、僕そっくりの偽物も用意した。緊急時は、これに魔法を掛けて身代わりをさせるつもりだ。

 無論、根本的な解決にはならないけど――それでも、彼女には少しでも救いをあげたい。

 だって、あの時、彼女は僕を救ってくれた――……

 ……うん? どうしたんだろう。

 部屋の外、面会窓口の前で、例の無言者が僕を呼んでいるようだ。

 この部屋には防音呪文が掛けてあるから、こちらから許可を出さない限り外の音声は拾えないのに。

 ……仕方ない。僕が外に出るしかないだろう。

 ほんの少しだけだ。マミも、きっと大丈夫な筈……


マミ「……」



マミ「……?」

紙飛行「……」フワフワ

149: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:21:59.02 ID:OQinmfPz0

無言者「あ、ああ。猫君。大変だ。少しばかり不味い事態になった」

QB「落ち着いて。どうしたというんだい?」

無言者「受付――つまり外からの郵便物を各部署に分配して届ける連中だが、そいつらがミスをしたんだ!
     ミス・トモエへの郵便物は全面差し押さえになっているというのに!」

QB「……通してしまった、ということかい? なんで今日に限って……」

無言者「今日だからだよ! いいか、彼女を私がホグワーツに迎えに行ったのは11月25日!
     そのちょうど一か月後が今日だ! つまり、今日は――」

QB「――クリスマスか。ということは、その郵便物っていうのは……」

無言者「クリスマスカードだ! 無論、ホグワーツには連絡が行っている……彼女の同級生は遠慮してくれるだろう。
     だから油断していた! 天涯孤独と聞いていたから、まさかそれ以外のところからカードがくるなんて――」

QB(……ホグワーツの生徒以外で、ふくろう便を送れる……それって、もしかして)

無言者「とにかく、不味いぞ。危険物ではないから、部屋の保護呪文はカードの侵入を拒まない。
     おまけに受付から送られた郵便物には宛先まで確実に届く魔法が掛けられている。
     いいか、私はここで全力でカードを撃墜するから、猫君は――」



マミ『……ぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!』



QB「マミ!?」タッ

無言者「……遅かったか!」

151: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:25:05.78 ID:OQinmfPz0

 ほんのちょっと、魔が差した。それだけだった。

 もう、一ヶ月も誰とも話していない……もとから独りになるのを恐れていた私は、限界だった。

 そんな私の目の前に、誰かからの手紙を、人参よろしくぶらさげられてしまえば――

 気づいた時には、私はむしゃぶりつく様にその手紙に飛びついて、開封してしまっていた。




『マミへ。言っていた日に帰ってこなかったけど、どうかしましたか。
 雪で、電車が止まってたりするんでしょうか。少し、心配です。さやかが泣いていました。
 いつ帰れるか分かったら、お手紙ください。ケーキを作って待ってます
                                             佐倉杏子』




マミ(……くすっ。佐倉さんったら……意外と可愛い字を書くのね)

マミ(そうか、もう、クリスマス……佐倉さん達と会ったのも半年近く前か)

マミ(……佐倉さん、"大丈夫かしら?" "魔女にやられたりなんかしてないと……)






マミ「……あ」







 パ サ ッ

152: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:26:00.37 ID:OQinmfPz0

マミ「あっ、あっ、あっ……」




『○月×日、見滝原市にぃ――』





マミ「い、いや……違う! 違う! 今のは違うの! インセンディオ!(燃えよ)」


 ゴォッ! メラメラメラ……



 パ サ ッ




『最悪の魔女、ワルプルギスの夜が現れてぇ――』




マミ「違うの! 違うんだったら! やめて! 見せないで!
   インセンディオ! インセンディオ! インセンディオ!」




 ゴオオオオオオオオオ!



マミ「はぁ……はぁ……へ、部屋の中を、全部火の海にしちゃえば……」






『その日、巴マミの大切な友達が――』







マミ「あ……そんな、紙じゃなくて、声で、なんて……やだ。やだやだやだやだ!
   やめて! 聞きたくない、聞きたくない! ねえ、何でもするから!
   何でも、します。だから、お願いですから、聞かせない、で――」

153: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:26:52.17 ID:OQinmfPz0
 










『――死、ヌ』












マミ「あ、ああ……あああああああああああああああっ!」





 涙が枯れるほどに泣きわめき、喉が裂けるほどに懇願しても。

 ――予言は、覆らない。

 時が募る約束の地に、ワルプルギスの夜が来る。

154: ◆jiLJfMMcjk 2013/07/21(日) 15:28:49.97 ID:OQinmfPz0

○月×日 見滝原市



ほむら(ついに、この時が来た)



ワルプルギスの夜「キャハハハハ――!」



杏子「ひゅー……さすがに伝説の魔女ってだけはあるね。
    戦闘態勢にも入ってないのに、この重圧は……」

ほむら(おそらく、今までのループの中でも屈指の有利な状況で、この日を迎えられた)

ほむら(美樹さやかは契約せず、そのお陰でまどかに悪影響がでることもなかった)

ほむら(佐倉杏子あ、豊富にGSの予備を持っていて……おまけに幻惑の魔法まで使える)

ほむら(思えば、今回は都合が良すぎるほど、私にとって上手くことが運んだ。
     そう、まるで――運命が、私の味方をしてくれたとでもいうように)

杏子「……おい、ほむら。なにぼーっとしてんのさ。頼むよ、アンタの時間停止、頼りにしてるんだから」

ほむら「……そうね。奴はここで撃退する。これ以上、あいつには何もさせない」

杏子「ああ。手紙のひとつも寄越さない、薄情な奴が帰ってくる場所なんだ……
    帰ってきてからひとこと文句を言うまで、この街は壊させないよ!」

ほむら「ええ。 ……? 何かしら、ワルプルギスの、夜、が……」





ワルプルギスの夜「――キ ャ ハ ハ ハ ハ !」グリン




 そうして、演劇の〆に舞台装置は反転した。

 全ての役者を場外へ。物語を台無しにせんと、真なる魔女が咆哮する。




.

197: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:15:03.33 ID:3nBXR/2z0

○月×日 見滝原市 避難所


ガタガタガタガタ!


「おい、本当にここは安全なのか!?」「さっきから揺れが酷く――」「お前らは何をやってるんだ!」


市職員「落ち着いてください! 大丈夫です。この避難所は、えー、さいしんのせっけいりろんを元に……?
     ……とにかく安全なので!」


まどか「……杏子ちゃん達、大丈夫かな?」

さやか「平気平気! ほむらは時間が止められるし、杏子はそのほむらが一目置くくらい強いんだよ?
     ワルプルギスの夜がいくらやばい魔女だからって、負けようがないって」

まどか「そうだといいけど……」

さやか「そうだって。時止めコンボは最強なのだ! ……それより、まどか。あんたこそ気を付けなきゃ。
     ほむらも言ってたっしょ? あいつら、まだまどかを諦めちゃ……」

Incubator「――僕のことを呼んだかい、さやか?」

まどか「ひっ……!」

さやか「で、出た! あっち行けよ! あたしもまどかも契約しないって言ってるでしょ!」

Incubator「やれやれ、ずいぶんと嫌われたものだ。
       前にも言ったけど、この宇宙の寿命を延ばすのは君たちの為でもあるんだよ?」

さやか「だからって、魂を石にするなんて了承できるわけないでしょうが!」

Incubator「その点に関して、僕たちの意見は平行線だね。ま、いいさ。今回は問答が目的じゃないし。
       君たちに伝えたいことがあってきたんだ」

まどか「伝えたいこと……?」

Incubator「うん。君たちは魔法少女候補だからね。できれば生き延びて欲しいというのが正直なところだ」

さやか「……なによ、どういう意味?」

Incubator「ワルプルギスの夜が本気になった。
       仮に今、この星に存在する全ての魔法少女が集結したところで、最早あれを滅ぼすことは出来ない」

198: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:15:40.60 ID:3nBXR/2z0

さやか「……は?」

Incubator「もう誰もあれに勝つことは出来ない、と言ったんだ」

まどか「そ、そんな……」

さやか「は、はんっ! 嘘に決まってる! どうせそうやって、私たちに契約させようって魂胆なんでしょ!?」

Incubator「僕らが嘘をつかない、ということは君たちも知っている筈だけど」

まどか「でも、ほむらちゃん達、ふたり掛かりなら絶対に勝てるって……」

Incubator「うん。確かにベテランの魔法少女が二人もいれば、ワルプルギスの夜を撃退することは可能だ」

さやか「ほ、ほら!」

Incubator「続きがある。正確には"本気でないワルプルギスの夜相手なら可能だった"ということだ。
       魔女はそれぞれ固有の性質を持っている。
       あるものは生前の嗜好を模倣し、あるものは破れた祈りを継ぎ接ぎに再現しようとする」

Incubator「ワルプルギスの夜は舞台装置の魔女だ。彼女は意図的に破壊行為をしているわけじゃない。
       ただ、『演劇をしていたら、いつの間にか街ひとつが滅んでいた』というだけに過ぎないのさ。
       だから観客が舞台を荒らし続けるようなら、大人しく退散していた。これまではね」

さやか「な、なら、今回は何だっていうのよ!?」

Incubator「さっきも言った通り、もはやワルプルギスの夜は演じることをやめた。
       本格的な"破壊"を始めるだろう。この星の地表全てを、比喩抜きにひっくり返すまで」

さかや「ち、地表全部って……滅茶苦茶じゃない! そんなのあるわけ――」

Incubator「前例があるんだ。有史以前に一度、あれはそれまであった文明をひっくり返している。
       その後、ここまで君たちの文明を復興させるのに、僕らがどれだけ苦心したか……」

まどか「そんな……なんで!? なんでよりによって、いまこの時に――」

Incubator「……実を言うと、僕もそれは疑問に思っているんだ」

まどか「え?」

Incubator「あれが良質な魔法少女候補を潰してしまわないよう、僕らは以前から観測を続けていた。
       その結果、次に"ひっくり返す"のはまだ当分先だと出ていたんだけど……
      まったく、飛びっきりのイレギュラーだよ、暁美ほむらは」

まどか「……ほむら、ちゃん?」

さやか「ほむら? あいつがどうしたっていうのさ?」

Incubator「暁美ほむらの魔法は、本人の申告によると未来予知と時間停止らしいね?
       なるほど、理にかなっていないこともない。両方とも時間に関連する祈りから生まれる力だろう。
       ただ、今回の状況と併せて考えてみると……」

さやか「な、なんだよ……はっきり言いなよ!」


199: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:16:08.84 ID:3nBXR/2z0

Incubator「――彼女の本当の力は"時間操作"なんだと思う」

まどか「時間を……操る? でも、それって結局、時間を止められるってことじゃ」

Incubator「それに加えて、おそらく世界の時間を巻き戻している。それも数えきれないほどに。
       未来予知というのは、そこから得たデータを用いた統計なんだろう」

まどか「ほむらちゃんが……未来から来た?」

さやか「……なんであんたに、そんなことが分かるのさ?」

Incubator「理由はいくつかあるよ。
       彼女の予知が願いによって獲得した力なら、的中率があんなに低いのは奇妙だ。
       僕は彼女と契約した覚えがない。彼女が未来から来たというのなら納得できる」

Incubator「そして、ワルプルギスの行動を変える程の因果干渉を行える魔法少女は、僕の知る限り現存しない。
       ならば僕の記憶にない彼女がそうだと考えるのが一番妥当だ。
       時間の巻き戻しを繰り返したことで、因果律に影響が出たんだろう」

さやか「……全部、ほむらのせいだって言いたいの?
     でも、ほむらの奴は何で自分の魔法が未来予知だなんて嘘を……」

Incubator「さあ? 僕らは嘘をつかないからね。その理由までは想像できない。
      ただ、時を幾重にも巻き戻してまで達成したい目的があるのなら、その為じゃないのかい?」

まどか「そ――そんな筈ないよ! だって、だって……そう!
     もしかしたら、他にも未来からきた魔法少女がいるかもしれないじゃない! 
     キュゥべえ、そういう魔法少女がいても分からないんでしょ……?」

Incubator「その可能性はすでに検討したけど……
       今現在、イレギュラーで、なおかつワルプルギスの夜に接触しているのはほむらだけだ。
       因果に影響を与えるのなら、ある程度は近い位置にいなければ駄目だろう」

まどか「でも……だけど……!」

さやか「……それで、あんたは結局何を言いたいの? もう助からないよー、って言いに来た?」

Incubator「いや、そんな無駄なことはしないよ。僕が来たのは、助かる方法を伝える為さ」

まどか「……私が、魔法少女になれば……」

さやか「まどか! 絶対に、駄目!」

まどか「でも! それでみんなが助かるなら――私、魔法少女に」

Incubator「ああ、そのことで言いたいことがあるんだ。
       鹿目まどか。この状況を打破するには、君が契約するしかない。
       だけど、君がただ魔法少女になればどうにかなる、という状況はすでに終わってしまった」

まどか「……え?」

200: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:16:36.33 ID:3nBXR/2z0

Incubator「君は素晴らしい素質を秘めている。最強の魔法少女になれるだろう。
       本気でないワルプルギスの夜なら、一撃で倒せるほどに」

さやか「本気でないワルプルギスの夜なら、って……」

Incubator「そうだ。もうワルプルギスの夜は遊ぶことをやめた。
       先ほど言った、この星に存在する全ての魔法少女というのには君も含まれているのさ」

まどか「それじゃあ、もう、私が契約しても……?」

Incubator「足止めくらいは出来るだろうけど、それで終わりだ。結局、この星の文明は一時の終焉を迎えるだろう」

まどか「嘘……私、私が、もっと早く契約していれば……?」

さやか「でもさっきあんた、助かる方法はあるって!」

Incubator「うん。確かに、ただ魔法少女になるだけじゃ、ワルプルギスの夜は倒せない。
       今のワルプルギスの夜には、奇妙なほど多くの因果が集中している。
       下手な願いでは、願うだけ無駄になってしまうだろう」

Incubator「だけど、鹿目まどか。君の持つ素質を全て注ぎ込み、切に祈ればそれも可能だ。
       "ワルプルギスの夜を倒したい"。それだけを願えば――」

まどか「……そうやって願えば……私、皆を助けれられるの……?」

さやか「まどか!」

まどか「だって! それしか方法がないなら……それに、魔法少女になったって、絶対に死んじゃうってわけじゃない。
     杏子ちゃんみたいに、何年も生きていられることだって……」

Incubator「ああ――ひとつだけ言っておくけど、その願いで契約した場合、君はすぐ魔女になるよ」

まどか「……え?」

Incubator「当然だろう? "本気になったワルプルギスの夜を倒す"という願いに全ての因果を注ぎ込んでしまえば。
       その祈りで誕生した魔法少女は、ワルプルギスの夜を倒す為だけの存在になる。
       それだとワルプルギスの夜がいなくなったら、その魔法少女に存在している価値はないよね」

Incubator「肉体を維持するだけで莫大な魔力を消費し、魔法は使えず、武装は何一つ残らない。
       そんな、SGを保有する以外、ただの人間と変わらない存在になってしまうだろうね」

さやか「あんた、なんてこと……!」

Incubator「僕達が事前に全てを説明せず契約を勧めることに関して、
       君らが反感を持っていたようだから、こうして説明しているんじゃないか」

まどか「私、魔女になるの……?」

Incubator「うん。それも、ワルプルギスの夜すら超える最悪の魔女にね。
       本気になったワルプルギスの夜でも地球を根こそぎにするのに一月はかかるだろうけど、
       君なら十日かそこらで出来ると思うよ」

さやか「そんな――そんなの、意味ないじゃない!」

Incubator「どうしても魔女になりたくないなら……そうだな。僕としては止めて欲しいんだけど、
       ワルプルギスの夜を倒してすぐ、ほむらか杏子にSGを砕いてもらえばいい。
       その場合は仕方ないから、契約した際に得られるエネルギーだけで我慢するとしよう」

さやか「言うに事欠いて、用済みになったら死ねって……!? まどか、こんな奴の言うことなんて聞くことない!
     皆を助ける為にあんたが犠牲になるなんて、間違ってる!」

まどか「……でも……そうしないと……」


市職員「落ち着いてください! 助かります! 必ず助かりますから――!」


まどか「私……私は……」

201: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:18:05.77 ID:3nBXR/2z0

見滝原市 スーパーセル中心部




ほむら「はぁ……はぁ……」


 息を切らせながら、時の止まった空間を走る。

 予め設置しておいた榴弾砲や対使い魔用の機銃陣地、
 ミサイルやロケットの発射機構を積んだ装甲車両の類は、開幕の一撃で蹴散らされた。

 鋭く、的確で、時を止める暇も与えてくれないような攻撃だった。


ほむら(――さっきのは……偶然? それとも……)


 私の知っているワルプルギスの夜の攻撃は、どことなく散発的な印象を受けるものだった筈だ。

 強大な力を四方八方、気の向くままに放射しているという感じで、
 相応の準備さえしておけば、ありったけの兵器を一方的に叩き込むことも可能なレベルだった。

 そのワルプルギスの夜が、こちらの攻撃を明確に阻止しようとした――?


ほむら(分からない……でも、試すわけにもいかない。もともと強力だった攻撃が、更に桁違いになってる。
     さっきは佐倉杏子が分身を盾にしてくれたから、なんとか助かったけど)


 咄嗟に時の止まった世界に引きずり込んだ佐倉杏子の感触を左手に感じながら、さらに加速する。


ほむら「回り込むわよ。一度安全地帯まで退いて、SGの穢れを浄化してから最大火力を叩き込む。
     貴女はそのサポートを……佐倉杏子?」

202: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:18:41.07 ID:3nBXR/2z0

 そういえば、なぜ先ほどから彼女は一言もしゃべらないのだろうか。

 私の魔法少女としての素質は低い。肉体の強化効率もそれは同じ。

 その私が、どうして人ひとりを掴んでなお、加速できた?

 疑問の答えを得るために、振り返る。私が、掴んでいたものがなんだったのか、確認する。


ほむら「……そんな」


 私が掴んでいたのは、佐倉杏子ではなかった。もう、佐倉杏子ではなくなってしまっていた。

 それは体の半分が爆圧で千切れて飛んだ、彼女の死体に過ぎなく――


ワルプルギス「キャハハハハ――!」

ほむら「――あ」


 気を抜いたせいか、時間停止もいつの間にか解除され。

 再び動き始めた世界に、最悪の魔女の嘲笑が響く。

 周囲には数えきれないほどの使い魔が現れ、その空虚な目玉で、私を値踏みするように見つめていた。


ほむら「あああああああああああああああああああああああああああっ!」


 咄嗟に盾から軽機関銃を引っ張り出し、制圧射撃を敢行。

 毎分千発もの勢いで吐き出される鉛の瀑布が、使い魔たちを穿ち――

 ――それ以上の勢いで押し寄せた使い魔の群れに、私はあっけなく拘束された。


ほむら「っ、放、して!」


 ワルプルギスの夜の使い魔。その役割は"束縛"。

 触れた相手を極端に重くし、観客として無理やり釘付けにする。

 時を止めたところでもう無駄だ。この重量は、私の貧弱な筋力では押し返せない。

 そして再びワルプルギスの夜が、あの禍々しい色の魔力を収束させる。

 久しく感じていなかった死の恐怖が、私のすぐ背後にまで迫っていた。

203: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:19:07.56 ID:3nBXR/2z0

死の予見より数週間後 魔法省 神秘部




マミ『……』


無言者「……あれ以来、予見の発現する速度が劇的に落ちたな。一日に数回がいいところだ。
     猫君、君はこれをどう考える?」

QB「……届いた手紙の件からして、マミは地元の友達のことを考えてしまったんだろう。
   予見の発動条件は願い、思うこと。だからこんな、君が燃えカスから復元した予見を……」


『○月×日、見滝原市に、最悪の魔女、ワルプルギスの夜が現れて、
 その日、巴マミの大切な友達が死ぬ』


QB「……ほとんど自分が殺したようなものだと思っているんじゃないかな。
   その衝撃が大きくて、鬱病患者のように一時的に思考が麻痺しているんだと思う」

無言者「私も同意見だ。魔法は精神状態の影響を大きく受ける。予見もそれは同じだ。
     もっとも、少々……いや、少々以上にダメージが深いようにも見えるが」

QB(……憂いの篩を使った直後の反応を見るに、過去に類似するトラウマがあるのかもしれない。
   マミやダンブルドアの言動から推測するに、多分……両親の死を予見して……)

無言者「しかし、ワルプルギスの夜ね……そんな闇の魔法使い、聞いたことないなぁ。
     執行部に問い合わせたけど、どの記録にも載ってないっていうし……」

QB「……もしも闇の魔法使いが、その予言どおりに見滝原に現れるとしたら。
   魔法省は、何か対策を取ってくれるかい?」

無言者「うーん……難しい、と言わざるを得ないだろうな。
     予言の内容は、基本的に部外秘だからね。神秘部は予言を使ってトラブルを減らす部署じゃない。
     あくまでその保管と研究が目的なんだ。私もそれを口外しないという"誓い"を結んでいるしね」

QB「僕やマミが証人になっても? 予言された日まで、あと数ヶ月ある。
   その間に、なにか対策をとれないだろうか?」

無言者「当人が話すのなら、まあ……しかしそれでも、イギリス魔法省は何もできないよ。
     他国での活動には制限があるし……それに、その友達というのはマグルなんだろう?」

無言者「そうなると、仮に魔法省が動いても、大したことはしないだろうな。
     日本の魔法省を通して、その国のマグルの首相に警戒を呼び掛けるくらいだと思う。
     大臣が強権を振るえば別かもしれないが……ファッジだしなぁ……純血派もいい顔をしないだろうし」

QB「……となると、とってつけたような避難勧告が流れるのが関の山か」

QB(それじゃあ無駄だ。一般人の被害は減るかもしれないけど……ワルプルギスの夜は、強大な魔女。
   杏子の性格を考えれば、おそらく残って戦おうとする……それに――)

205: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:20:26.10 ID:3nBXR/2z0

無言者「……それに、その。気の毒だが、もう"予見"されてしまったことだ。
     つまり、それは既に起こったことと同義なんだよ。前にも言ったけど、防ぎようはない」

QB「……絶対に、死ぬ、か……」

無言者「……こんなことになってしまったのは残念だよ。とはいえ、予想できなかったといえば嘘になるが。
     正直、彼女ほどアンバランスな力の持ち主は初めて見る。
     大体の魔法使いは――特別な事情が無ければ――自分の魔法力を制御できるものだ」

QB「マミは普通の魔法も制御できていなかったけど……」

無言者「子供だし、ある程度は仕方ないさ。でも、ここまで致命的になるのは……
     確かに完全な制御ができる予見者は多くはないが、それでも彼女は異常すぎる。
     まるで……そう、他人から与えられた、借り物の才能を使っているような……」

QB「原因はどうでもいいんだ。それより予見の対策が取れないなら、別の方法でマミを助けないと……。
   あの状態のまま放っておくことは出来ない」

無言者「……とはいっても、どうしたものか……」

QB「魔法で精神治療は出来ないのかい?」

無言者「無理やり心を癒そうとするのは、本人にとってもよくない影響を与える。
     まあ彼女の場合は呪文による損傷ではないから、手がないこともないだろうが……」

QB「例えば?」

無言者「具体的な手法は癒者に聞かないと――でも、そうだな。
     いっそのこと、忘却術で記憶を修正するのも手だろうね」

QB「死の予見のことを忘れさせる?」

無言者「加えて、予見の力があることもだ。彼女の予見が酷くなったのは、力を自覚してからだったね?
     それなら、その記憶さえ無くしてしまえば、以前のように普通の学校生活を送れるだろう」

QB「そんなに上手くいくものなのかい?」

無言者「……まあ、これも諸刃の剣ではある。予見の力が消えるわけではないからね。
     ダンブルドアが彼女にことを告げたのも、誰もいない場で、不意に予見してしまうのを防ぐ為だろう」

無言者「それに、忘却術も完璧ではない。切っ掛けがあれば思い出してしまう。
     よほど強力なオブリビエイターなら別だろうが……そもそも許可なくやるのは犯罪だしなぁ。
     私も忘却術士本部にはコネがないし」

QB「……リスクが大きいか」

無言者「現実的なのは、聖マンゴに入院させることだろうが……落ち着いたとはいえ、予見は続いている。
     下手に外部に出すと危険もあるだろう。周囲にも、それに彼女自身にもね。
     結局、身体的な安全を確保するにはここが一番というわけだ」

QB「それは分かっている。いま問題にしているのはマミの精神的な治療についてだろう――」

無言者「こう言っちゃなんだが、今の時点で精神的なケアをしても無駄かもしれない。
     予見の頻度が落ちたのは、その精神的な傷が原因だからね。
     それを癒せば、また頻度は戻って元の木阿弥。同じことの繰り返しさ」

QB「でも……」

206: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:20:55.16 ID:3nBXR/2z0

無言者「……はあ。私が提示できる案は二つだな。
     ひとつは、時に任せる。さっきも言ったが、ここなら身体の安全は保障される。
     彼女が予見の制御法を身に着けるまで待ち、それから聖マンゴに移送しよう」

QB「どれくらい時間が掛かる?」

無言者「さて、明日か、一週間後か、一年後か、果また一生涯かかっても無理か……
     断言はできない。彼女自身に全て託すわけだからね」

QB「論外だ。いますぐ助けが欲しい」

無言者「……二つ目は、あまりお勧め出来ないんだが。
     予見の暴走は、現在小康状態にある。前よりは安全だろう。
     そこで外部から人を招き、ここで彼女のケアを試みる」

QB「それは……」

無言者「ああ。確実な効果は期待できないし、対話する人間にも危険がある。
     なにより、ミス・トモエが拒む可能性も高い。彼女が許可しないと、窓越しの面会もできないし。
     そうすると、直接部屋に入らなきゃ駄目なわけだが――」

QB「保護呪文の効果で、部屋に入れる人間は限定されている……マミが信頼している人間だけだ」

無言者「その通り。私も入れない。心当たりのある人間はいるかい?
     それとも君がやってみる? 君もあの部屋に入れる内のひとりだしね」

QB「……僕じゃ、無理だ……」

無言者「まあ、それもそうか。しかしそうすると、適任者は……」

QB(……感情に訴える説得は、僕にはできない。
   感情を手に入れたとはいえ、それを完璧に理解したわけではないからだ)

QB(そうなると外部から人を呼ぶしかないけど……
   予見の対象である杏子は論外として、まどか達も魔法省には入れない。
   ハリー達はT.W.Tがある……何より、未成年だ。説得の術に長けているわけじゃない)

QB(一番の適任者はマクゴナガルだろう。マミからの信頼も厚いし、教師としても優れている。
   問題は気軽にホグワーツを離れられる立場じゃないことだけど……)


 ボゥッ


QB「? 暖炉に火が点いた……」

無言者「うん? おや、本当だ。珍しいな、ここの連絡用暖炉って、滅多に火が入らないんだが。
     ――はい、神秘部ですが……ホグワーツから来客? ミス・トモエに?」

207: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:32:01.33 ID:3nBXR/2z0

神秘部 保護部屋



マミ「……アクシオ、水差し」


 呪文に応えて飛んできた水差しは、すっぽりと手の中に納まった。


マミ「……」


 ホグワーツでは何度やっても成功しなかった呼び寄せ呪文は、あっさりと成功した。

 呼び寄せ呪文だけではない。肥大呪文に元気呪文。いままで練習してきた呪文は、全て習得できていた。

 魔法は、精神の影響を受ける――つまりはこれも予見という才能を自覚した結果らしい。


マミ(くだらない)


 苛立ち紛れに、掴んだ水差しを床に叩きつけた。

 けたたましい音とともに、硝子製の器が砕ける。鋭い破片が広範囲に飛び散り、そして消えた。

 この部屋の保護呪文は、中にいる人間に対する、あらゆる危害を取り除いてしまう。

 例外は、保護呪文を打ち破るほど強力な呪いくらいだろう。そんなものは、今の自分には使えない。


マミ「くだらない……くだらない! 魔法なんて、使えても意味ないじゃない!」


 あれほど欲しかった力が、今となっては路傍の石のように色あせて見える。

 死の予言。あれを覆す方法は、無い。

 直感で分かってしまうのだ。もう何をしても、絶対にそれは起こる。

 千の呪文を唱え、万の奇跡を起こそうが――もはや、未来は確定した。


マミ「……こんなことになるなら、私、魔法なんて要らなかったのに……」


 いっそのこと、あの事故で死んでいればよかったのだ。

 ずるずると床にへたり込み、膝を抱えた。


「――以前にも同じような泣き言を口にしていたな、トモエ」


マミ「……?」


 声が響く。知っている声だった。

 膝に埋めていた首をあげる。

 いつの間にか部屋の扉は開き、そこには猫背気味の、意地の悪い顔をした男が立っていた。


フィルチ「まったく、本当に進歩の無い……」

マミ「フィルチ……さん?」

208: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:32:40.84 ID:3nBXR/2z0

フィルチ「中々いい部屋だな? 私の座る椅子があれば、だが」

マミ「……」

フィルチ「ふん。まあいい……椅子があったところで、どうせお前がそこに這いつくばってる限り、視線も合わんしな。
      リュウマチ持ちには辛いが、ガキにそこまでの気遣いは求めんさ」

マミ「……何しに、来たんですか……」

フィルチ「私が個人的に見舞いなどすると思うか? 仕事でなければ、こんなところには来やせんよ。
      お前に渡すものがある」

マミ「……! 手紙、とかなら――」

フィルチ「手紙か。確かにお前の学友から預かったがな。全く、私はフクロウかと……どの道、受付で没収されたさ。
      まあ、それはいい。私がいま持っているのは、副校長から頼まれた物だけだ」

マミ「マクゴナガル先生の――要りません! 帰ってください……帰って!」


 パサッ


フィルチ「ふん? これが例の予見というやつか。……ほう、確かに私の持って来たものが何か当てているな。
      何にせよ、私がお前さんの言うことを聞く理由もないがねぇ」

マミ「……フィルチさんは……怖くないんですか? ……死を、予見されるかも……」

フィルチ「私はガキを特別扱いはせん。生き残った男の子だろうが予言者だろうが、どいつもこいつも糞餓鬼だ。
      思慮がなく、遠慮がなく、規律のない――そんな馬鹿どもがお前らだろうが? ええ?」

マミ「……」

フィルチ「話が逸れたな。さっさと仕事を済まそう――副校長から預かったのはこの二枚だ」パサッ

マミ「書類……ですか?」

フィルチ「そうさ。何を期待していたかは知らんがな。休学届と、退学届だ」

マミ「……退、学」

フィルチ「上手い具合にクリスマス休暇を挟んだが、それでももう一月になるからな。
      私がここに来たのは、これからどうするのかの意思確認と……お前さんのサインを貰う為さ」

マミ「……」

フィルチ「説明が必要か? 読んで字の如くだがな。休学なら単位を保留にして一定期間を休む。
      退学なら、これまでの単位を破棄して学校をやめる。杖も没収だな。
      以後は魔法を使わぬ職に就くか、マグルとして生きるか……」

マミ「……これを、マクゴナガル先生が……?」

フィルチ「おかしいか? あの人はお前の寮監だろうが。ならば学籍を管理するのは当然だろう。
      それとも、慰めのメッセージでも欲しかったか?」

209: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:33:08.46 ID:3nBXR/2z0

マミ「だって……」


 図星だった。

 私は、誰かに助けて欲しかった。

 予見でその為の方法を見ることは出来ない。それは、私が心の底で、もっとも忌避している行為だ。

 救いようがないと確定してしまうのが、どうしようもなく恐ろしい。

 だから私は、誰かに道を示してほしかった。

 それなのに。


マミ「……だって……私、どうしていいのか……何も、できなくて……」

フィルチ「……その話はいつ終わるんだ? さっさとどっちかの書類にサインをしてくれんかね?
      考える時間がほしいというのなら、今年度いっぱいまで待ってやれるが」

マミ「……フィルチ、さん……」

フィルチ「何だ、その目は? 言っておくが、私はお優しい先生様じゃないんだ。
      ここには仕事で来ただけ。お前さんにアドバイスなんかせんよ」

マミ「だって……透明の教室のことを、教えてくれました」

フィルチ「ああ。仕事をあれ以上増やされたくなかったからな」

マミ「私がホグワーツに入学する前、ダイアゴン横丁を案内してくれて」

フィルチ「それも、仕事だったからだ」

マミ「フィルチさんは」


 目の前の少しも優しくない、だけど、いざという時にはきっと助けてくれるだろうと、勝手に期待していた大人の人は。

 床に座り込んでいる私を、ひたすらに冷たい目で見つめている――


マミ「……私のことが、嫌い、ですか?」


 人に嫌われるのは、どうしようもなく苦手で、怖い。

 それでも、訊ねてしまった。訊ねずにはいられなかった。


フィルチ「……言っただろう。私は生徒を特別扱いせん。お前も、ポッターも、マルフォイも。
      私にしてみれば、同じ餓鬼にすぎんよ」

210: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:33:40.72 ID:3nBXR/2z0

 ガチャ バタン


フィルチ「いや、どうも。手間を掛けましたな。ですが、これで終わりです――サインも貰えましたからな」


退学届 マミ・トモエ


無言者「……」

フィルチ「彼女の扱いに関しては、追って正式な通知が校長の方からあるでしょう。
      それまでは、いままで通りということで――」

無言者「……君は」

フィルチ「? なにか?」

無言者「君は、なにも感じないのか? あの子がどれだけ苦しんでいるのか分からないのか?
     あの部屋に入れるのは、ミス・トモエに信用されている者だけだと言った筈だ!
     あの子は誰かに助けて欲しかったんだ! 少なくとも、君はその内のひとりだったんだぞ!」

フィルチ「……」

無言者「実際にどんな言葉のやり取りがあったのかは知らない。僕には知る権利すらない。
     だけど、あの子は泣いていたじゃないか。泣きながらそれにサインして、叩きつけるように渡して……
     あとはそこの窓から見えるように、ずっと塞ぎ込むようにしている」

マミ『……』


無言者「君はそれを前にして、何とも思わなかったのか?」

フィルチ「……私は校長から命じられた仕事を果たしただけですので。
      何かご意見があるのなら、お伝えしましょうか?」

無言者「……っ」

フィルチ「……それでは、失礼します」

無言者「……くそっ」

211: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:34:13.49 ID:3nBXR/2z0

魔法省 廊下


フィルチ「……」

QB「やあ、アーガス・フィルチ」

フィルチ「……トモエの猫か。そういえば、お前もここにいたんだったな。
      どうだ? 餌は貰ってるか?」

QB「食べてはいるよ。それより、君に聞きたいことがあるんだけど」

フィルチ「ふん。廊下の真ん中で待ち構えてるから何かと思えば……お断りだ。
      これからホグワーツの廊下をピカピカに磨き上げなけりゃならん」

QB「さほど時間はとらせないよ。
   それとも、僕と会話しちゃいけないっていうのもダンブルドアからの命令かい?」

フィルチ「……さっきの話を聞いていたのか? 姿は見えなかったが」

QB「猫は姿を隠すものさ」

フィルチ「ふん、猫自身がそれを言っていれば世話はない……いいだろう。
      さあ、さっさとしてくれ。何が聞きたいんだ?」

QB「……マミにあんな態度を取ったのは、ダンブルドアから頼まれた仕事に含まれていたからかい?」

フィルチ「主思いなことだな――答えはNOだ。校長は、私に書類を届けてサインを貰ってこいとしかいっとらん。
      もっとも、私が生徒にどんな態度で接するかということは、あの方はよくご存じだろうがね」

QB「なら、やっぱりそれが狙いか……マクゴナガルは来れなかったの?」

フィルチ「はっ、お前も私では不満だったか?」

QB「いや、単に不思議だっただけさ。だって君も言っていただろう。マミの学籍を管理しているのはマクゴナガルだって。
   確かに彼女は職務で多忙だろうが、公務の一環としてならここに来る時間くらいは作れるはずだ」

フィルチ「……確かに最初はあの方が来ようとしていたさ。だがそれを校長が止めて、私を御指名なさったんだ」

QB「理由は?」

フィルチ「さてな。校長のお考えは、私如きには理解できんよ。
      だが先ほどの口ぶりだと、お前さんにはある程度予想がついているようだが?」

QB「……まあね。つまり、ダンブルドアはマミを見捨てたのさ。
   PTSDの治療ではなく、単純な事務処理を優先したということだろう――」

フィルチ「それは半分当たりで、半分外れというところだな」

QB「? どういうことだい?」

フィルチ「お前さんは、少しばかりご主人様の側に立ちすぎているよ。無論、ペットとしてはそれで正解なのだが。
      確かに、私が寄越されたのはこれにサインをさせる為だろうさ。
      実際見て分かったが、あの状態じゃ副校長がここに来ても、トモエはサインをしなかっただろうからな」

QB(……確かに、マミのことを真摯に心配してくれる人が相手じゃ、マミはその人を拒絶するかもしれない。
   心の底で助けを求めていても、それが相手を危険に晒すということを理屈で理解しているからだ)

212: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:34:41.96 ID:3nBXR/2z0

QB「でも――それなら、やっぱり、ダンブルドアはマミを見捨てたんじゃないのかい?」

フィルチ「……まあ、先ほども言った通り、私にダンブルドアのお考えは分からん。
      だが副校長のお考えは、校長のよりは分かりやすい。この書類は副校長が用意したものだが――」


退学届 マミ・トモエ


フィルチ「――これがただの退学届けに見えるなら、お前さんもただの猫だということだ。
      そしてこんな小細工を校長が見逃すはずがない。なら、あの方もトモエのことは真剣に考えているさ」

QB「……その書類に、何か細工がしてある? どういったものなんだい?」

フィルチ「さてな。所詮……あー、魔法が得意ではない私には、よくわからんよ」

QB「その発言は矛盾しているよ。それなら、その書類に魔法的な細工がしてあるなんてどうして言えるのさ?」

フィルチ「分かるさ。副校長は一見厳格だが、生徒のことを一番に考えるお方だ。私に言わせれば激甘さね。
      まともな思考ができる人間なら、誰にだって分かるさ。副校長が生徒を救おうとするなんていうことは――」

QB「――君がその"まともな思考ができる人間"なら、マミに励ましの言葉くらい掛けて欲しいものだけど」

フィルチ「私が、か?」

QB「特定の障害が無ければ、人間というのは他者に対する共感性を持つ筈だ。
   その点で言えば、僕よりも君らの方がマミの気持ちは理解できるだろう」

フィルチ「共感……ねぇ。さっきも言ったが、私はお優しい先生じゃないんだ。
      アドバイスを与えるのは仕事じゃない。罰則ならいくらでもくれてやるがな」

QB「……先生じゃないのが理由だというのなら、なおさら、君は言葉を掛けるべきじゃないかな」

フィルチ「……何だと? 何を言っている」

QB「以前から考えていたことがある。君は魔法が使えず、魔法を使える生徒たちを憎らしいと言っていた。
   過剰な罰則はそのせいだというのが、事情を知っている者達の一般見解だろう」

フィルチ「ふん! そうさな。間違っているのは、"過剰な"罰則というところだけだ。
      私は鞭打ちくらいでちょうどいいと思っている……それで?」

QB「だけどそれだと、どうしても奇妙に思える点があるんだ。
   そもそも、なんで君はホグワーツで働こうなんて思ったんだい?」

フィルチ「ガキどもに罰を与える為、とは思わんのか?」

QB「ホグワーツは、魔法界でも最高レベルの教育機関だ。
   教師でないとはいえ、職員にも相応のものが求められるだろう」

QB「君の持つ事情を鑑みれば、就労に必要な労力は並大抵のものではなかった筈だ。
   魔法使いが杖の一振りで済ます仕事を、君はその何倍もの労力と時間を掛けて達成しなければならない。
   だから、わざわざ虐待をしたいが為だけにこの職に就いた、というのは考え辛い」

QB「そして規律を好む言動に、口調こそ粗雑だが、良好な職務態度……
   これらを総合すると、ひとつの仮説が浮かび上がってくる」

フィルチ「……」

QB「――もしかして君は、教師になりたかったんじゃないのかい、アーガス・フィルチ?」

213: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:35:17.45 ID:3nBXR/2z0

フィルチ「教師に? スクイブの私が? はっ! 全く、おかしなことを――」

QB「……」

フィルチ「……はあ。そうだな。お前の考えは的外れだが、少しだけ、私の知り合いの話をしてやろうか。
      立ち話は辛いし、座れ。そこにベンチがある……」

QB「……」ピョイッ

フィルチ「さて……昔、あるところに馬鹿な男がいたんだ。そいつは私と同じ出来損ないだった。
      今でこそ多少マシになったが、魔法界でスクイブというのは……
      まあ、なんというか、どうしても色眼鏡で見られるわな」

QB「虐げられていた?」

フィルチ「不当に冷遇されている、と言っているわけではないぞ。
      ただ、公に区別されれば、そこには公然とした差別も付き纏うという話だ。
      それこそ大昔には、生涯家の中に幽閉されたり、マグルとして育てられた奴もいる」

フィルチ「そいつは学校に行かず、家で教育を受けた。
      まあ、それ自体は大したことじゃない。少数だが、普通の魔法使いにも自宅で教育を受けた奴はいる」

QB「でもそれは……目立つだろうね」

フィルチ「ああ。そいつは近所に住む"普通の連中"、特に同い年の餓鬼どもから愚図無能と蔑まれていたよ。
      幸い、両親は愛情を注いでくれたから……変に歪むこともなかったようだが」

QB「……愛情を? でも、さっきは学校に行かせず、家で教育を、って」

フィルチ「そいつの両親は魔法使いだった。自分の子供に、魔法界のことを知ってほしかったんだろう。
      その上でスクイブがいい職に就けるようにするには、マグルの学校に通わせている暇などなかった」

QB「なるほど……」

フィルチ「だからそいつの敵は目下、自分をからかってくる悪ガキどもだった。
      思慮はなく、遠慮もなく、規律のない連中。そいつはそんな連中が大嫌いだった」

フィルチ「馬鹿だった。青二才だったんだ。そういう連中に、規律を叩き込みたいと思ってしまった。
      それで、多少努力して……運も良かったんだろうな。そいつはとある魔法学校の管理人になった」

QB「ホグワーツみたいな?」

フィルチ「……ああ、そうさ。無数のガキどもが蠢く無秩序な空間。そいつの言うことを聞くやつなど、誰もいない。
      どれだけ正しいことを言われようが、他人からそれを指摘されればイライラする。
      強い口調で言われれば反発する。ガキには大人しく服従することが正しいなどと、言葉では理解できん」

QB「そうだね。感情とは理不尽なものだ。それに関しては僕もよく知っている……」

フィルチ「その理不尽さを前にしてしまえば、馬鹿な夢想が破れるのにさほど時間はかからなかったさ。
      もとより、人を諭す才能などなかったのだろう。だから結局、そいつはもっとも簡単な結論に達したよ」

フィルチ「口で言っても分からないなら、体に覚え込ませるしかない。罰を、もっと厳しい罰を――とな」

QB「……」

214: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:35:46.87 ID:3nBXR/2z0

フィルチ「――さて、これで分かっただろう? 説教など無駄。少なくとも、私はそいつと同意見だね。
      適当な言葉一つ投げかけてやっただけで考え方や生き方が変わるほど、人間という奴はよく出来ていない。
      そいつにとって都合の良い言葉を取捨選択しているだけさ」

QB「……それならマミの為に、都合の良い言葉を吐いてはくれないかい?」

フィルチ「……はあ。まだ言うのか……」

QB「だって、君は教える側になりたかったんだろう? それなら、いまがチャンスじゃないか。
   君のことをマミは信用しているよ。彼女なら君の言葉を真摯に受け取るだろう。だから、」

フィルチ「……何か勘違いしているようだが、"そいつ"は別に、後悔しているわけじゃないんだがね」

QB「後悔していない? 願いが叶わなかったのにかい」

フィルチ「ああ。確かにガキどもやお温い処罰に不満はあるさ。魔法を使えたら、なんて思うこともある。
      だがな、それでもいいのさ。しょぼくれた人生だったが、それでも得たものはある。
      そいつは言葉よりも体罰の方が効果的だと確信してるし、その信念に誇りを持っている」

QB「その信念は間違っているといわれても?」

フィルチ「誇りとはそういうものだ。他人からは埃に見えるようなものでも、当人にとっては大切なもの。
      規則を破った生徒を見つけてくれる可愛い子ちゃんも、使う機会のない手錠も。
      そいつが長年を掛けて手に入れたものだ。いまさら捨てることは出来んさ」

QB「……君は、絶対にマミを助けようとはしてくれないんだね」

フィルチ「ああ。首輪をつけて引きずり出せ、というなら喜んでやってやるがね。
      さ、これで話はお終いだ。お前が満足していようと、満足してなかろうとな」スッ

QB「っ、待って――待ってくれ!」

フィルチ「……」

QB「あ、いや――君の理屈は理解したよ。でも……マミを助けられるのは……」

フィルチ「……不思議に思っていたんだが、お前さんは何故、そこまでして他人に助けを請うんだ?
      そんなに助けたいなら、お前が助けてやればいいだろうに」

QB「僕が、かい?」

フィルチ「ああ。私なんかに頼むより、いくらかは建設的だと思うがね。
      優しい言葉なんて、いくらでもかけてやれるだろう」

QB「僕は――僕じゃ、無理だ。君に言わせれば、僕はただの猫だろう?
   人間の感情を完全に理解することは出来ないよ。ましてや、心のケアなんて……」

フィルチ「……お前さんが思っとるほど感情は崇高なものじゃないし、人がそれを理解してるとも思えんね。
      ホグワーツを思い出してみろ。何となく楽しいからとかいうどうしようもない理由で
      廊下を糞塗れにする馬鹿どもだらけだったろうが」

QB「だけど……」

フィルチ「思うにお前さんは、人間なんぞに期待し過ぎているんじゃないか。
      そもそも、私とて奴にどんな言葉をかければいいのかなど分からんしな。
      ……あー、つまり、私が教師だったら、ということだが」

QB「……僕に、できるだろうか」

フィルチ「さあな。知らんよ。だから何ができるかではなく、何がしたいかを考えてみるといい。
      したいことだけしていれば、少なくとも後悔は少なくなるだろうさ」

QB「君は、欲望赴くままに行動した連中に、後悔をさせる側の人間だろう」

フィルチ「ああ。だからこそ分かるのさ。
      連中はいくら私に処罰を食らわされようが、糞爆弾をばら撒くのが止められないんだからな。
      ガキなんて、所詮はそんなものさ。やりたいことだけやっていれば満足できるんだ」

QB「……アドバイスはしないんじゃなかったのかい?」

フィルチ「何のことだ? 私は他人の猫と話しているだけだ。
      その猫が誰に何を喋るかなど、私の知るところではないしな」

QB「……」

フィルチ「ふん! 話は終わりだ。私はもう行くぞ。尻がすっかり冷えちまった」

215: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:36:26.34 ID:3nBXR/2z0

神秘部 保護部屋


 バサッ


『アーガス・フィルチはこれからも変わることはない。
 生徒から人気がでることもなく、一生煙たがられて過ごすだろう』


マミ(だけど――フィルチさんは、それが嫌じゃないんだ)


 キュゥべえとフィルチさんの会話は、テレパシーで中継されていた。


マミ(後悔のない生き方……か)


 後悔のない人生。それは、とても素敵な響きに聞こえる。

 私の人生は後悔の連続だ。両親の死を予見してしまったことも、両親の死を覆せなかったことも。

 佐倉さん達の死を予見してしまったことも、それがもう、どう足掻いても覆せないということも。

 無力な私には、なにもできない――そう、思っていた。


マミ(できないかもしれない……けれど……私は何がしたいの?)


 答えはすぐにはでない。それでも、出そうと思える。答えを探すために考えている。

 少しずつ、私の中の歯車が動き出した。

216: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:36:52.96 ID:3nBXR/2z0

数日後 神秘部 保護部屋



 ――ふと、真夜中に目が覚めた。

 照明を消してあるこの部屋は薄暗かった。完全な暗闇でないのは、天候呪文によって天井に星々が輝いているからだ。

 僅かな星明りが、部屋の中を薄く照らしている。その中で。

 テーブルの上に、一匹の白い猫を見た。


マミ「……キュゥべえ?」

QB「やあ、マミ。眠れないのかい?」

マミ「ううん。ちょっと起きちゃっただけ」


 最後にキュゥべえと言葉を交わしたのは一月以上も前だっただろうか。

 だけど不思議と、長い間会っていなかった者同士の間に生まれる、あの蜘蛛の巣のような隔たりは感じられなかった。


マミ(ああ――それじゃあ、きっと。これは夢なのかしら)


 夢ならば、予見を恐れる心配もないだろう。

 私はベッドに腰掛けて、キュゥべえと正面から向かい合った。


マミ「フィルチさんとの話、聞いたわ。ありがとう、キュゥべえ。私のこと、とても心配してくれて」

QB「ああ――飼い主が駄目駄目だと、僕も苦労するよ」

マミ「むぅ……そこまで言うことないじゃない」

QB「愚痴のひとつでも言いたくなるさ。君、ホグワーツを退学してどうする気だい?
   これからの人生設計に関して、何か考えはあるの?」

マミ「あー……だってあの時は、頭に血が上っちゃって……悔し紛れに書き殴って、叩きつけちゃったから」

QB「はあ。先が思いやられるよ。僕が居なかったら、君はどうなっていたんだろう?
   そして、これからどうなってしまうんだろうね?」

マミ「……さあ? 思い浮かばないわね。ずっと傍に居てくれたし……これからも、傍に居てくれるでしょう?」

QB「……」


 キュゥべえは、無言でこちらを見つめてくる。

 ……なんだか嫌な気分になってきたので、話題を変えた。

217: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:37:56.44 ID:3nBXR/2z0

マミ「それにしても、私のやりたいこと、って……いざ考えると、なかなか思い浮かばないのよね。
   特に、後悔しないように、なんて考えると」

QB「うん? ああ、フィルチの言葉か。それは、君にとって都合の良い言葉だったのかい?」

マミ「……そうね。少なくとも、歩き出す切っ掛けにはなったと思う。
   それだけで、何もかも変われるわけではないけれど……」

QB「それはそうだろう。君ら人間の歩みは遅々としたものだ。
   それでも歩むことを止めなかったから、君たちはようやく宇宙に進出するまでになれたんだろう。
   言葉一つで成長できるのなら、そもそも教育機関なんていらないしね」

マミ「……そうやって、難しい話にするのはあなたの悪い癖よね、キュゥべえ」

QB「それじゃあ、もっと簡単な話にしようか。
   君が今、一番やりたいことはなんだい?」

マミ「……もちろん一番の心配事はあの死の予見だけど……覆したくても、覆せない。
   なら、具体的にどう行動すればいいのかな、って……」

QB「心配することはないよ」


 不思議な力強さで、キュゥべえはそう断言した。


QB「君の思う通りにやればいい。失敗しても、フォローは僕がしてあげる。安心して、全力でぶつかって大丈夫さ」

マミ「――そ、それは、あの、その、嬉しいけど……んっ、んん。
   ……ねえ、あなたってそういうこと言うタイプだったかしら?」

QB「いいや。君以外には言わないし、たぶん、これが最後だろう」

マミ「……最後?」

QB「ああ。さすがに何度もフォローしてはあげられないよ。君ももう自分で考えて動ける年齢だろうしね」

マミ「自分で考えて……か。ねえ、キュゥべえ? やりたいことの参考に、ひとつ質問していいかしら?」

QB「構わないよ。なんだい?」

マミ「どうしてキュゥべえは……インキュベーターは、自分達の体を改造してまで宇宙の為に働こうと思ったの?」


 ふと、胸中に浮かんだ疑問だった。

 私は何がしたいのか。それについて考えていた時、少しだけ、彼らのことが気になったのだ。

 インキュベーター。かつて、キュゥべえもそれに属していた。

 彼らは非常に高度な文明を築いた種族だ。星の海を自由に旅できるというだけで、その力の度合いは伺える。

 そんな彼らが何故、侵略戦争を仕掛ける等ではなく、熱的死を回避するという途方もない命題の為に動いたのか。

 私の質問に、キュゥべえは俯く様に黙考し、やがて答えた。

218: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:38:46.23 ID:3nBXR/2z0

QB「――それしかすることがなかったから、かな」

マミ「することがなかったって……」

QB「前に言ったと思うけど、僕らには感情が無かった。それなのに、科学技術はアンバランスなまでに発展してしまった。
   今現在、この星で問題になっているような問題は、全て解決してしまえるほどにね」

QB「いくつもの星を開拓し、銀河を丸ごと消せるような武器を生み出し、確認されている他の知的生命を悉く凌駕して――
   インキュベーターは、これ以上ないほどに力を高めた」

QB「……でもね、僕らには感情がなかったし、個という概念も薄かった。
   つまり、欲がなかった。個体数を必要以上に増やそうとも思わなかったし、娯楽文化が発展する余地もなかった。
   他の種族を技術的に圧倒していても、彼らを駆逐して僕らが宇宙の覇者になる、というような野望もなかった」

QB「人間からは奇妙に見えるだろう。僕らはただ"出来るから"という理由でストイックに技術を高め続けたのさ」


 それは例えるなら、野球部でも何でもない少女が、ひたすら素振りを続けるようなものなのだろう。

 意味のない技術を高める。そんな行為は無駄もいいところだ。

 だけどインキュベーターには、そうせざるを得ない理由があった。


QB「そんな、生きるには欠陥だらけの僕らも生物だ。生物である以上、停滞していることは出来ない。
   技術に発展の余地がある内は良かった。ただひたすらそれを追い求めていればよかったから。
   でもその力が頂点にまで達した時。もうこれ以上発展のしようがなくなってしまった時、僕らはやるべきことを失った」

マミ(……そうか、感情がない、ってことは……人生を楽しもうとしない、ってことだ……)


 インキュベーターたちには感情がない。

 苦しみや怒りに支配されることはないが、自分たちが幸福になるという想像もできないのだ。


QB「僕らには感情が無かった。欲望が無かった。やりたいと思えることは何も無かった――
   だから僕たちは、"やりたいこと"ではなく、"やるべきこと"を模索し始めた」

マミ「……魔法少女システム?」

QB「……そうだ。僕らが出した結論は最大の奉仕活動だった。
  それも特定の種に肩入れするのではなく、この宇宙にある全ての存在の利となるような。
  少数の犠牲は出るけど、僕らは圧倒的に多くを救える――そう思っていた。いや、」


 そこで、キュゥべえは話を切った。

 迷うように揺れる赤い瞳が、私を見据えている。


マミ「いまは……どう思ってる?」

QB「……少なくとも、僕が一番にやりたいことじゃない。それだけは確かだ」

マミ「そっか……それじゃあ、一番にやりたいことって――?」

QB「マミを守ることさ」

マミ「ふぇ?」


 あ、変な声が出た。

 停止した頭の片隅で、他人事のようにそんなことを思った。


QB「何をしてでも。嘘をついて、人を騙して、傷つけてでも――僕は、君を一番に守るよ」

マミ「……キュゥべえ? あ、あなた、変なものでも食べたんじゃ――」

QB「だから、マミは自分がしたいことをするといい」

マミ「キュゥべえ――」


 届かないと分かっていながら、私は彼に手を伸ばす。

 ――そこで、私の夢は終わった。

219: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:39:49.97 ID:3nBXR/2z0

ガチャッ


マミ「……」キョロキョロ

無言者「うん……? おお! ミス・トモエじゃないか! 部屋から出てきたのかい?
     やあ、こうして言葉を交わすのはほとんど初めてだが、私は君の担当官で――」

マミ「あの、すみません。キュゥべえを知りませんか?」

無言者「キュゥべえ? ああ、猫君か。彼なら最近、魔法省の中を散歩するのが趣味みたいでね。
     いまもどこかに――」


パサッ


『キュゥべえは今、イギリス魔法省の地下一階にいる』


無言者「――ご覧の通りさ。なんなら受付に言って探させようか?」

マミ「あ、いいえ――いるんなら、いいんです。きっとまた、帰ってくるでしょうから」

無言者「ああ、そうだろうとも。それより、紅茶はどうかな?
     ちょうどティータイムだったんだが、知り合いが新作の百味ビーンズを送って寄越してきて――」

マミ「キュゥべえにあげてください。あの子、それが好きだったから。それじゃあ」


バタン


無言者「……ふぅ。とりあえず、第一段階はクリアかな……?」

220: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:40:39.92 ID:3nBXR/2z0


○月×日 見滝原市 廃ビル 地下部



杏子「ったく、ちっとは落ち着きなよ」


 そう言いながら、佐倉杏子は変身を解き、すっかり黒く染まりかけていたSGの穢れを祓い始めた。

 ここは事前に用意してあった緊急避難所のひとつだ。

 ワルプルギスの夜が襲来する前に、ある程度強度がありそうな建物や地下室を見繕っておいたのである。

 見滝原は無理な開発が祟ってそこら中廃墟だらけなので、簡単な防御改修を施すのもそう難しいことではなかった。


杏子「あんたが分身と本物を見間違えてどうするのさ。そりゃあいきなりだったし、あたしもちょっとビビったけど。
    砕けた分身の方を持って時間停止しやがって。間に合ったからいいものの……下手したら死んでたよ」


 ――使い魔の群れに拘束された後、ワルプルギスの夜の一撃が着弾する前に、何とか彼女の援護が間に合った。

 拘束する使い魔を蹴散らし、再び私が時を止めることで、逃げ延びることができた。

 だから、こうして私は生きている。だけど――


ほむら「……」ガチガチ

杏子「……お、おい。大丈夫? そりゃ、確かに危なかったけど……落ち着きなって、ほら。水でも飲んで」


 そういって差し出されたペットボトルを、私は大人しく受け取った。だが、蓋を捻る気力はない。

 力が入らなかった。私の指はぶるぶると小刻みに震えている――それは紛れもない、死の恐怖から来るものだ。


ほむら(……死ねば……まどかとの約束を、守れない……)


 今回のワルプルギスの夜は、明らかに異常だ。

 それ自体の攻撃力が増していることに加え、使い魔を戦術的に配置、運用し、確実にこちらを殺しに来ている。

 魔法少女は常に死と隣り合わせの存在だ。だがこの一ヶ月に限って、私はその例外である筈だった。

 未来の情報を先取りし、魔女の弱点を知り、戦闘においては時を止めるという強力な手段を持つ。

 ループの最後に起こるワルプルギスの夜との戦闘においても、最悪、逃げ回って時間を稼ぎ、時を巻き戻すことができた。

 代償としてループが無事に終幕を迎えれば私は魔法を失い、遠からず死ぬだろうが、それは構わない。

 願いを叶えられれば、私はどうなってもいい。だけど――


ほむら(だけど、もう――逃げることもできない、なんて)


 遡行可能になるまで、あと一時間弱。

 たった一度の接触で死にかけたのだ。それだけの時間が経過するまで逃げ延びるのは不可能と言っていい。

 広範囲に使い魔が配置され、ワルプルギスとの連携を取っている以上、見滝原から逃げ出すことも難しいだろう。

 避けられぬ死の恐怖に、思わず弱音がこぼれた。


ほむら「嫌……死にたく、ない」

杏子「……誰だってそうでしょ?」

ほむら「違う……違うの! わたしは、約束を守らなきゃ――その為だけに、生きてきたのに」

221: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:41:27.01 ID:3nBXR/2z0

 あの日、私は魔女になって死ぬはずだった。

 それを救ってくれたのはまどかだ。そしてそのまどかと、私は絶対の約束を交わした。

『キュゥべえに騙される前の馬鹿な私を、助けてあげて』

 それを果たす為だけに、私は永遠の迷路を彷徨ってきたのだ。


ほむら「約束を果たせずに死ねば……あの時のまどかの覚悟を、無駄にしてしまう……」

杏子「……あんたが何を言ってるのかは分からないけどさ」


 ほとんど半狂乱の私に、だが佐倉杏子は取り乱しもせず、落ち着いた様子で声を掛けてきた。


杏子「ワルプルギスの夜が、聞いてたよりもかなり強いってのは私も感じた。
    たぶん、完勝は難しいだろうってことも、なんとなく分かるよ」

ほむら「――きょう、こ」

杏子「だけどさ、あたしにも守りたいものはあるんだ」


 穢れを移し終えたGSを投げ捨てて、彼女はSGを掲げた。


杏子「――なにもかも失くしちまった馬鹿なあたしだけどさ。守りたいものがまた出来たんだ。
    あたしは、そいつを守りたい。それが、あたしが魔法少女を続ける意味だ」


 一瞬の閃光。佐倉杏子が、再び魔法少女に変身する。


杏子「ほむら。あんたが魔法少女をやってるのも、守りたいもんがあるからだろう?
    立て、なんて言わないよ。手も差し伸べない。問題は、あんたに立つ気があるかどうかだ」

ほむら「……私、は――でも、あいつに勝つことなんて」

杏子「後ろに守りたいものがあるんなら、逃げることもできないでしょ?
    ……まあ、ここまできちゃったら、あとは足掻くか、足掻かないかのどっちかだよねぇ」

ほむら(……そう、ね。もう、時間遡行まで漕ぎ着けられる望みはほとんどない……)


 逃げ場はない。前に進むか、それともこのまま絶望の海に没するかの二つしか、選択肢はない。

 ――それなら、私が選ぶべき道は――


ほむら「……ええ、そうね。分かったわ」


 ソウルジェムを握りしめながら、立ち上がった。

 震える膝を誤魔化して、無理やり笑う。


ほむら「どうせ最後なんだし、派手にやってやろうじゃない」

222: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:42:54.71 ID:3nBXR/2z0

◇◇◇


 時の止まった世界で、私は最後の準備を開始した。

 盾を装着した左腕を振るう。瞬間、私の所持する最強の武装が現れた。

 鋼鉄で成形された兵器の群れ。その一台の上に、私たちは立つ。


杏子「――これ、戦車?」

ほむら「正確には自走榴弾砲らしいわ。どうせ似たようなものだし、分類なんてどうでもいいけれど。
     重要なのは、これに積んである砲弾」


 苦い記憶だ。僅かに顔をしかめる。

 情報の不足していた最初の頃は、早期にまどかが契約してしまったり、魔女に殺されてしまうことがあった。

 そうした遡行できるようになるまで間が開いてしまったループにおいて、私が行っていたのが戦力の強化。

 つまりは、大火力の兵器を収集することだった。


ほむら「昔――ずっと昔、某国の退役兵器を管理してる場所から失敬したの。
     まだ解体されていないものが多くあって助かったわ」


 とはいえ使い道も思い浮かばず、私単独での運用も難しかったため、盾の中で埃を被っていたのだが。

 しかし――およそ対魔女戦闘において、これ以上の武装は存在しないだろう。


ほむら「W79.mod0。中性子弾頭」

杏子「ちゅーせいし?」

ほむら「簡単にいうと核兵器よ。あなたには、これによる街への被害を防いでほしい。
     安心して。これはあくまで中性子放射線による殺傷が目的で、爆発力はさほどでもないから――」

杏子「……いま"核"って言った?」

ほむら「と言っても、十年以上も前の物だし……素人知識で補修はしたけど、起爆するかは疑問だわ。
     全体の1割も作動すればいいほうね。まあ、それでも数発は起爆する計算だし、よしとしましょう」

杏子「ねえ、核って言った? おい、無視してんじゃねえよそんなもん防ぎきれるか!」

ほむら「爆発力はさほどでもないと言ったでしょう。一発たったの0.1キロトンよ」

杏子「それ、具体的にどれだけの威力なのさ?」

ほむら「TNT爆薬換算で100キロ。広島原爆の150分の1。
     それより防いでもらいたいのは中性子の方よ。物理的な防御は難しいけど……魔法でなら」

杏子「……防げるの?」

ほむら「信じなさい。私達の魔法って、そういうものでしょう?」

223: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:44:03.71 ID:3nBXR/2z0


 正直、実験無しでやるのは狂気の沙汰で、半ばやけっぱちになった子供が癇癪を起しているようなものだが、
 実際問題、もうこれ以外に奴を倒す手は思い浮かばない。


杏子「ああくそ……まさか核爆弾ぶっ放す羽目になるとはね……
    ねえ、これってミスったら避難所の連中、不味いんじゃない?」

ほむら「離れてるし、分厚いコンクリートの外壁で囲まれてるから、中性子線も致死量は届かないと思う。
     ……それに、どのみちこのままじゃ全滅よ」

杏子「……やるっきゃないってことか」


 杏子が渾身の結界を張るために集中し始めたのを横目で確認して、私は足元の車両に魔力を通した。

 機械類の操作は、私が使える数少ない汎用的な魔法のひとつだ。

 擬似的なネットワークで繋がった無数の自走砲台が、宙に制止しているワルプルギスの夜に照準を向ける。


ほむら「――やるわよ。弾丸が停止した後に結界を張って」

杏子「ああ、全部受け止めてやるよ――」


 佐倉杏子の返答を合図に、私は斉射を命じた。

 吐き出された数十発の戦術級核砲弾が、奴の巨体の寸前で停止する。

 さらにその上から、杏子の赤い結界が球状に展開。舞台装置の魔女を、完全に覆い切る。


ほむら(準備は――出来た)

224: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:46:06.83 ID:3nBXR/2z0
 
 ワルプルギスの夜。

 お前がいくら台風として観測されるような強大なエネルギーの塊でも、そこには生物的な側面がある。

 実際、以前のループでまどかに倒された時には、体に傷を負えば悲鳴を上げたし、動きも鈍った。

 それは、体の構造が崩れればダメージになるということ。

 中性子線は生物の細胞構造を破壊する不可視の死神だ。

 その全身を、穴あきチーズのようにぐちゃぐちゃにしてやる。


ほむら「死になさい――!」


 時間停止解除。

 弾丸が着弾するまでに半秒も掛からない。もっとも、幾重にも展開された結界の向こう側を見ることは出来ないが。

 僅かに、待つ。着弾に十分な時間が過ぎても、音も、光も、衝撃も起こらなかった。


ほむら(中性子線は――?)


 ちら、と設置していた計測装置を見るが、正常に動いている。示す値は適正値だ。

 驚くべきことに、どうやら杏子の結界は、核兵器の影響を完全に遮断したらしい――


杏子「……ねえ、変だよ。手応えがない」

ほむら「え?」

225: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:46:47.15 ID:3nBXR/2z0

 額に脂汗を浮かべた彼女がそう呟いた次の瞬間、結界が消滅する。

 その結界の内側で、絶望は未だ、大笑を続けていた。


ワルプルギス「アハハハハハ――!」

杏子「……無……傷……?」

ほむら「――そんな、嘘でしょう?」


 あの密閉空間内では爆発力も中性子線も凄まじいことになっていたはずだ。
 
 信じられず、目に魔力を通し、視力を限界まで引き上げる。

 ――そこで、私はあまりの恐ろしさに身を竦ませた。


ほむら「使い魔が……砲弾を、防いでる」

杏子「……なんだって?」


 ワルプルギスの夜から生まれた無数の使い魔が、飛来する全ての榴弾の底面に触れていた。

 "束縛"の能力で、砲弾の運動エネルギーが完全に殺されている。

 私は榴弾を補修する際、構造を極力単純化していた。その為、あれの信管は着弾の衝撃で作動するタイプに換装されている。

 あれでは、核反応が起きない。

 完全に動きの止まった砲弾を使い魔たちが一呑みにしていくのを見て、私は背筋が泡立つ感触を覚えた。 


ほむら(ワルプルギスの夜が――能動的に防御行動をとった!?)

杏子「ほむら、危ない!」


 隣にいた杏子が、私を抱えて横っ飛びに自走砲の上から飛び降りる。

 次の瞬間、頭上から降ってきた使い魔たちが自走砲をまるでウェハースのように踏みつぶした。


ほむら「そんな、使い魔の力も上がってるなんて――」

杏子「よそ見するな! 次が来るよ!」

ワルプルギス「キャハハハハ!」


 上空を見れば、ワルプルギスの夜が再び攻撃態勢に移っていた。


杏子「防ぎきれない! ほむら、時間を――」

ほむら「っ――駄目、魔力が……」


 私の魔法は燃費が悪い。

 さきほどの一斉射撃の準備と自走砲に対する操作で、私のSGは濁りきっていた。

 即座にこちらの状態を理解した杏子がなけなしの魔力で結界を造り上げ、私もせめてもの抵抗に盾を構える。

 ――そしてワルプルギスの夜は、そんな、私たちのちっぽけな努力を訳なく無為にした。

226: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:47:45.18 ID:3nBXR/2z0

見滝原市 半壊したマンションの一室




 ――瓦礫の中で、目を覚ます。


ほむら「っ……ここ、は……?」

杏子「……最後の退避所だよ。他はもう、全部やられた」


 上体を起こしながら、周囲を確認する。

 そこは巴マミの自宅だった。ただし、もうかつての暖かみは残っていない。

 外に面する壁はえぐり取られ、そこから荒れに荒れる見滝原が一望できた。

 半ばからへし折れた高層ビルや、無理やり剥がされたアスファルトが宙を舞い、さらに破壊が拡大している。

 幸い、まどか達の避難所の辺りはまだ比較的無事なようだが、他の避難所には被害も出始めているだろう。


杏子「あたし達は一撃で吹っ飛ばされた。その後は気絶したあんたを背負いながら、何とかここまで逃げ延びたよ」

ほむら「そう……っ! あなた、その怪我!」

杏子「……あー、さすがに、ねえ? 今度は分身ってわけにもいかなくてさ……」


 見れば、杏子の脇腹にはソフトボールほどの大穴があいていた。

 脂汗を浮かべながら、彼女はその辺の布で作った即席包帯で、止血を試みている。


ほむら「私を庇って……いえ、それよりも、魔法で治療を」

杏子「魔力が限界なんだよ。さっきの結界と、ここまで逃げてくるだけで空欠だ」

ほむら「なら、グリーフシードを使えば――」

杏子「このマンションの周りは使い魔だらけだ。魔法を使ったら、その刺激で感知されるよ」

ほむら「そんな……」


 SGの穢れを祓うには、一度、変身を解かなければならない。

 そんな時に襲われれば、今度こそ抵抗するまもなく殺されてしまう。

227: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:48:49.80 ID:3nBXR/2z0

杏子「あたしは平気だ。痛みは切ったし、体は動く……だけど、さっきの一体どういうことだ?
    なんでこっちの攻撃が通用しなかった?」

ほむら「……奴は、全力でこっちを潰す気ってことよ」

杏子「そりゃあ、魔女はみんなそうだろ?」

ほむら「……魔女の中でも、積極的にこっちを攻撃してこない奴を見たことはない?
     本来、ワルプルギスの夜はその類の魔女だった」

杏子「……そういや、ちょっと前に箱みたいな魔女を倒したことがあったな。変な映像みせてくるだけの……」

ほむら「ええ、それと同じ。ただ、奴の場合は持っている力が比べ物にならない。
     だからただ存在するだけで、その被害は甚大なものになった。
     理由は分からないけど、奴はいまその力を全て破壊と外敵の排除に注ぎ込んでいる」

ほむら「榴弾が作動しなかったのは奴が防御したからよ。奴には、もう隙がない――
     時間を止めたところで、着弾寸前の状態からでも防がれてしまう……」

杏子「……勝つ方法は? あんた、あれの情報を大量に持ってただろう」

ほむら「……これまで一度だって、こんな状況になることはなかった。
     それでも勝つ方法……いえ、少なくてもダメージを与えるには……」


 大抵の攻撃では使い魔に防がれて終わりだろう。ならば、相手に確実に当てる方法を――


ほむら「……時を止める余力はない。回復の為に変身を解いたら、その時点で襲われる。
     もう使い魔の群れを避けながら、爆弾を抱えて特攻するくらいしか……」

杏子「……なるほどね」


 私の返答に、佐倉杏子は深いため息をついて。

228: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:49:17.73 ID:3nBXR/2z0

杏子「――なら、そうしよっか。それが一番、可能性があるっていうんならさ」

ほむら「……正気?」

杏子「言ったろ? 守りたいものがあるんだ……」


 囁くように言って、彼女はふらふらと、壊れた壁に向かって歩きだした。

 その右手が、髪を括っていたリボンを抜き取る。彼女の長い髪が、強風に煽られてなびいた。


杏子「諦めきれないよ。どんなに絶望的な状況になってもさ。あたしは、この街を守らないと」

ほむら「杏子……あなた、なんでそこまで」


 この世界での彼女の生い立ちを私は詳しく知らない。

 私の知っている佐倉杏子は、表面的には利己的な面が強く、だからこそ強かに魔法少女を続けることのできる人物だった。

 それが、まるで――


ほむら(まるで、正義のヒーローみたいに――)

杏子「言ったよね? あたしはさ、大切なものを一度、ぜーんぶ失くしちゃったんだ。
    でもここで、この街で、あたしはまたそれを手に入れられた。
    だから、守らないと。じゃないと――あいつが、帰ってこられない」


 胸元のソウルジェムを引き千切り、彼女はそれを掲げるようにして宣言した。


杏子「ここは、見滝原はあたしの大好きな街だ! それをむざむざ、無くさせるもんかよ――!」


 ぼう、と杏子の全身から、冷たい青色の炎が噴出し始める。

 ソウルジェムを砕いて行う自爆攻撃。文字通り、最後の手段だ。

 その炎の中で、彼女は誇らしげに笑っていた。


ほむら(ああ――まったく)

ほむら「そこまで啖呵を切られたら――負けてはいられないわね。
     私だって、守らなきゃいけない約束がある」


 まどかを救う。その為になら、永遠にループを繰り返そうが、死ぬことになろうが構わない。


ほむら「限界を超えて時間を止めるわ。多分、ワルプルギスの夜に辿り着いた瞬間、私は魔女になると思う。
     いい? 遠慮せず、私ごと消し飛ばしなさい」

杏子「……悪いね、付き合せちまって」

ほむら「お互い様、よ。せめてこれで、ワルプルギスの夜を退かせるくらいのダメージになればいいけど」


 同じような笑みを浮かべながら、私達は壁の穴からワルプルギスの夜を睨みつけた。


ほむら「――行くわよ」

杏子「ああ、行こう」


 そうして、私達は未来を繋ぐための一歩を踏み出す。

229: ◆jiLJfMMcjk 2013/08/14(水) 12:51:13.27 ID:3nBXR/2z0

 ――そしてその瞬間、視界が黒く覆われた。


ほむら「……え?」

杏子「なっ!?」


 天井、壁の穴、部屋の物陰。

 ありとあらゆるところからなだれ込んできた使い魔の群れが、私達を再び束縛した。


杏子「くっ、そ……! こいつら、いつの間に!」


 ……自爆の予兆を感知してから動いたにしては、早すぎる。


ほむら(……全部、知っていた? 私たちがここに隠れてることも、魔力が切れかけていることも……
     最初から知っていて、こうなる状況を待っていた?)


 体へかかる負荷が一瞬で増幅される。私達は床に押し倒され、身動きが取れなくなった。

 このタイミングでの襲撃は最悪だ

 素質の低い私はもとより、杏子もほぼ全ての魔力をソウルジェムに籠めている為、身体能力へのブーストが薄い。

 そしていったん拘束されてしまえば、時を止めることもできない。


ほむら(罠を張られていた……これじゃあまるで……)


 ……まるでベテランの魔法少女を複数相手にしているような違和感を覚える。

 ワルプルギスの夜の狡猾さは、衝動に任せて攻撃してくる魔女のものではない。

 そこには明らかになんらかの知性が感じられた。

 相手にとって、もっとも絶望的な行動を的確にとってくる――今の私たちが置かれている状況のように。


ほむら(爆弾、拳銃、ナイフでもいい――なにか、なにか武器を……!)

杏子「くそっ、くそぉ! 離れろ、離れろよぉっ!」

ほむら「杏子!」


 佐倉杏子は私よりも多くの使い魔に拘束されていた。

 あれでは、再び身体能力を増幅させたところで振り払えるとは思えない。

 腕が動かない以上、槍を生成しても有効な攻撃は出来ないだろう。

 私も、人の心配をしているどころではない。使い魔の群れは私の全身を覆いつくし、完全に視界を奪った。

 もはや、外の様子を見ることはできない。


杏子「くっ、そ……がぁぁぁああああああああ!」


 ただ、隣から杏子の絶叫が聞こえ、炎の温度を肌に感じた。


ほむら(自爆――する気?)


 苦し紛れか、それとも一矢報いる気か。

 どちらにせよ、炎の規模はさらに拡大し、使い魔の身体を透過して、私の網膜に緑色の残響を残した。