1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/21(日) 23:17:42.46 ID:hSZ4V5On0
これは私と彼女のお話である。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419171452




2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/21(日) 23:23:25.06 ID:hSZ4V5On0
ミステリアスな女性は美しいというが、謎の多さで彼女に比肩できるのは世の中広しといえどせいぜいモナリザくらいであろう。

彼女の出生も、素性も、古風な言葉遣いの理由も、華奢な身体に膨大な量のラーメンを収められる原理も、全てが銀色のベールに包み隠されている。



私はプロデューサーとして、彼女の秘密を解き明かしたいと常日頃思っている。

しかしその一方で、それはまるで北国の真っ新な雪原を踏み荒らすかの如き野蛮な行為に思われ、どうしても一歩目が踏み出せずにいた。




兎にも角にも四条貴音は謎多き女性であり、それ故目が眩むほど美しい。





3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/21(日) 23:31:55.59 ID:hSZ4V5On0
私と貴音はとある大手企業のCM撮影のため、はるばる京都を訪れていた。

このような大口の仕事が舞い込むようになったのも、ひとえに彼女がトップアイドルとして認められた証であろう。



最近の貴音の活躍はまさに破竹の勢いで、竹より出でたかぐや姫の如く世の男性諸君を魅了している。

竹取の翁たる私からしたら喜ばしい限りだ。

彼女の美貌と妖艶な雰囲気をもってすれば、きっと帝の寵愛を賜ることも容易いに違いない。



5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/21(日) 23:43:39.33 ID:hSZ4V5On0
古の都が夕暮れに染まる頃、半日がかりの撮影がようやく終わった。



今から新幹線に飛び乗れば東京に戻れないこともないのだが、貴音のスケジュール帳は明日久々に空欄である。

ならば遠路はるばるやってきたのに日帰りする必要もあるまい。

 
というわけで、ここ最近の慰労も兼ねて、今夜は旅館で一泊することにした。

美味しい料理に舌鼓を打ち、温泉に浸かってゆっくりと羽を休めてもらおうという、せめてもの心遣いである。

そこそこ名の知れた旅館を予約したため、薄給の身には優しくない出費となったが、かぐや姫への贈り物と考えれば格段に安い。



幸い、彼女は宿をいたく気に入ってくれたようで、珍しく年相応の無邪気な笑顔を見せてくれた。

この笑顔のためなら、たとえ今回の旅費が経費で落ちずとも、甘んじて明日からカップラーメン漬けの毎日を送りたいと思った。






8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/21(日) 23:59:19.47 ID:hSZ4V5On0
「実は私、京都に訪れたからには絶対に行きたい場所があるのです」



夕食を終え、露天風呂を堪能した後、私の部屋を訪ねた貴音がそんなことを言い出した。





「ラーメン屋か」



「まあ、どうしてわかったのですか?」



「だてにプロデューサーをやってないからね。

貴音の考えることはお見通しさ」



目を丸くする貴音に胸を張ってみたが、常軌を逸したラーメンフリークである彼女。

その趣味嗜好からして、答えを導き出すのは容易かった。





京都は日本きってのラーメン激戦区である。

きっと貴音が夜食にラーメンを所望するであろうと予測し、予め有名どころはあらかた把握しておいた。

もちろん万が一の場合に備え、今月分の生活費も丸ごと持ってきている。





「まだ出歩いても問題ない時間だ。

さあ行きたい店を言いたまえ。

京都のラーメンを知り尽くした俺が連れて行ってあげよう」



私は封筒で少しだけ厚みを増した胸板を叩き、男らしく宣言した。









9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/22(月) 00:23:23.31 ID:gRIIEoeD0
「真ですか! では私、猫らぁめんが食してみたいです!」



「……猫ラーメン?」



はて。

そんな珍妙な名前の店、先日購入したガイドブックには載っていなかったはずだが。

ひょっとして知る人ぞ知る隠れ家的な名店なのであろうか。





「すまん貴音。

俺はその猫ラーメンとかいう店を知らないんだが、その店は有名なのか?」



「はい。

猫らぁめんはとある小説にも登場したほど有名なお店です」



貴音は白銀の髪を揺らして首肯する。





「私も響に奨められて読んでみたのですが、お話の素晴らしさもさることながら、最後の猫らぁめんを啜る場面には感動してしまいました。

それ以来、京都を訪れたあかつきには是非とも食してみたいと思っていたのです」







10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/22(月) 00:37:07.13 ID:gRIIEoeD0
興奮気味に猫ラーメンについて語る貴音の熱量は、もはや寸胴の中のスープの域に達している。

確かに、小説に登場する店というのは、テレビや雑誌で紹介されるよりも強く心惹かれるものだ。





かく言う私も、学生時代は文豪が愛したといわれる居酒屋や小料理屋を巡ったりした。

今や契約書や企画書にしか目を通さない生活を送っているが、かつては本の虫だったのだ。





まあ、隙あらば猥褻図書に熱中する害虫だったが。





「ちなみに店の場所はどこらへんなんだ?」



「それが……わからないのです」



「わからない?」



「はい。

何でも猫らぁめんは神出鬼没な屋台であるらしく、よほど巡り合せがよくないと遭遇できないらしいのです」



 どうやら猫ラーメンとやらはその名の如く野良猫のように自由気ままらしい。

そのくせこうも客を虜にしているのだから大したものだ。

私は、なんとなく同じ事務所の星井美希を想起した。





そういえば、彼女たちへのお土産も忘れずに買っておかなければいけない。





11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/22(月) 00:49:13.78 ID:gRIIEoeD0
「しかし、場所がわからないというのは少しきついな」



これが私と社長のように男同士ならば、いや百歩譲って私と小鳥さんのように大人同士であれば、ラーメン一杯のために夜が明けるまで駆けずり回ってもよい。





しかしいくら大人びているとはいえ貴音はアイドルであり、まだ十代のうら若き乙女。

深夜の街を歩き回るなどプロデューサーとして許すわけにはいかない。





「……駄目、でしょうか?」



 渋る私を見て、貴音が上目づかいで尋ねてくる。





 その瞳の輝きたるやまさに真円の月のよう。

満月は月の引力が最も強くなるらしいが、私もまた貴音の瞳に吸い込まれてしまいそうである。





 なるほど。

こうしてみると貴公子たちがかぐや姫の願いを叶えようと奔走したのも納得だ。

水商売のお姉さま方のおねだりとはわけが違う。

本物の月下美人と比べてしまえば、半年前に私から生活費を巻き上げた彼女たちのなんと幼稚なことか。









12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/22(月) 00:52:16.31 ID:gRIIEoeD0
「――しかたない。

行ってみるか!」



「真ですか!」



意を決して宣言すると、貴音は目を輝かせて喜ぶ。





「しかし大丈夫でしょうか。

手掛かりはほとんど皆無ですが」



「まあ任せておけ。

これでも嗅覚には自信があるんだ」



なに、気合があればラーメン屋くらいどうとでもなる。

そもそも私は貴音たちをアイドル界の頂点まで導かねばならないのだ。

たかだかラーメン屋にも連れて行けない男に、その重責が務まるはずがない。





「それでは頼りにしていますよ、あなた様」



「ああ。

それじゃあ早速向かうとしよう」



私と貴音は上着を羽織り、部屋を後にする。





13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/22(月) 00:53:01.85 ID:gRIIEoeD0
こうして、私と貴音の、夜の散歩が始まった。





15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/22(月) 00:58:32.03 ID:gRIIEoeD0
今日は以上とさせていただきます。





書きながらの投稿になってしまったため、ペースが遅くて申し訳ありません。





こうして物語を書くのは初めての経験なので、勝手がわからず見苦しい文章になってしまいましたが、もし次回があればもう少し工夫してみたいと思います。





それではお付き合いいただきありがとうございました。





引用元: P「夜は短し食せよ乙女」