1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 21:41:20.36 ID:YaZhk9xt0

>みんなで事件を解決したあの頃から十数年…もう俺も二十後半になった。

>ブラックとはいえなんとか事務員として生きながらえているが、やはり精神的にはギリギリだ…。

>…久々にみんなに会いたい。三か月ぶりにとれた今度の休みを使って、稲羽市を訪れてみよう。


某日 稲羽市

>…この町もだいぶ変わったな。

>まずはジュネスにでもいってみよう。


ジュネス八十稲羽店

>ジュネスにやってきた。ここは昔と変わらない…。

>陽介は元気でやっているだろうか。あそこのパートのおばさんに聞いてみよう。

おばさん「花村陽介…ああ、前の前くらいにここの店長だった人の息子さんかしら?」

番長「ま、前の前…?」

おばさん「そうよ、花村店長は転勤で違う場所に移ったみたいね。どこ行ったのかは知らないけど」




4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 21:46:52.83 ID:YaZhk9xt0

おばさん「しょうがないでしょ、雇われ店長なんて全国を転々とするのが宿命なんだから」

番長「……」


>…そうだ、他のみんなのところもあたってみよう。

>近場では…巽屋だな。


巽屋

>……。

>引き戸が閉まっている…それに張り紙もある。

『不況のため閉店』

>……。

>完二……。

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 21:48:47.79 ID:YaZhk9xt0

>…そ、そうだ。巽屋は天城屋に染物を卸していたはずだ。

>天城屋に行ってみよう…。


天城屋旅館

>……またしても張り紙だ。

『不況のため閉店』

>……。

>雪子……。

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 21:52:13.61 ID:YaZhk9xt0

>得意先の閉店に伴い、巽屋もやむなく店を閉じたのだろうか…。

>……。


>他には…そうだ、マル久に行ってみよう。

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 21:56:34.61 ID:YaZhk9xt0

マル久豆腐店

>…またしても閉まっている。

住民「あら、そんなとこ立ってやってるの」

番長「ここは…この豆腐屋は閉店したんですか?」

住民「そうよ。店番のお婆ちゃんが何年か前に亡くなられて…お孫さんがいるらしいけど、お葬式にも来なかったみたいね」


>りせ…。

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 22:01:33.87 ID:YaZhk9xt0

>くそ…!他には…。

>そうだ、千枝は警官志望だとか聞いたような気が…。

>稲羽署に行ってみよう。


稲羽署

番長「すみません、ここに里中千枝さんという方は勤務していらっしゃいますか」

受付「…!」

>な、なんだ…ものすごい形相で睨まれた…。

受付「…里中巡査は、数年前に自主退職なされました」

番長「えっ?」

受付「失礼ですが…里中巡査のお知り合いの方ですか?」

番長「は、はい…まあ昔の同級というか」



堂島「おい、お前…番長じゃないか。こっちに来てたのか」

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 22:04:27.73 ID:YaZhk9xt0

番長「叔父さん!」

堂島「ハハ、お前もいっちょ前にヒゲでおしゃれするようになったか」

番長「…叔父さん」

堂島「な、なんだ…急にあらたまって」

番長「千枝は…里中千枝は、ここに努めてるんですか?」

堂島「……!」

番長「…お願いです、教えてください」

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 22:10:31.28 ID:YaZhk9xt0

堂島「…里中は…」

>叔父さんはバツが悪そうに下を向いた…。

堂島「…里中は、数年前に自主退職したよ」

番長「それは受付の方に聞きました。…ハッキリ言います、何か俺に隠してませんか」

堂島「うっ…それは…」

堂島「…仕方ない。昔の友達だったお前には話さなければならんかな」



堂島「里中は…上司からのセクハラでうつ病になってしまったんだ。それで退職して、精神科に通っているらしい」


15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 22:16:29.17 ID:YaZhk9xt0

番長「!!」

堂島「まあなんだ…言っておくがその上司ってのは俺じゃないぞ」

番長「それは分かってます」

堂島「…里中が入ってきてすぐに目をつけた先輩がいてな。俺も何度も怒鳴って聞かせたんだが…見えないところでセクハラされていたらしい」

堂島「一応だいぶ前に明るみに出て、そいつらは捕まったんだが…少し前にニュースでやってなかったか?カラオケ店で 着姿にさせたり、キスを強要したりだとか…」

番長「…そういえばそんなニュースもあったような」


17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 22:22:09.18 ID:YaZhk9xt0

堂島「ともかく…そういうわけだ。すまんな、こっち来てくれたのに早々にこんな話で…」

番長「いえ…」


>…そうだ、警察といえば…。


番長「叔父さん、直斗は…あの白鐘は今も探偵を続けてるんですか?」

堂島「白鐘は…」

>またしても叔父さんの表情が…。

堂島「白鐘は…お前らと一緒にいた頃を境に、自分が女であることを周りにカミングアウトしていった」

堂島「あいつ自身の服装も女のそれになって、むしろ今までより覇気に満ちていて頼もしかったんだが…」



堂島「なんというか…ご多聞に漏れず、白鐘の奴もセクハラ被害で精神を病んだらしい」

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 22:28:17.50 ID:YaZhk9xt0

番長「直斗も…ですか」

堂島「ああ。…こういう言い方はあんまり好きじゃないが、なんというか…」

堂島「白鐘の奴が女の服装をするようになってから、男どもの視線が白鐘の胸元に集中してしまってな…仕事もろくに進まなくなってしまった」

番長「……」

堂島「それでそのうち男どもがエスカレートしてしまって…」

番長「…その先は、もういいです」

堂島「…ああ…分かった」

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 22:30:24.56 ID:YaZhk9xt0


>…もうこの際だ。全員がどうなったのか聞いてみよう。


堂島「…いいのか、本当に話して。多分お前には…かなり辛い内容になると思うが」

番長「はい」

堂島「…分かった。それじゃ話そう…」

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 22:37:49.19 ID:YaZhk9xt0

堂島「まず天城雪子だが…お前も見てきたんなら分かると思うが、天城屋は閉店した」

堂島「あの2011年以降、日本経済も悪化の一途だからな…もう旅行すら満足にできない家庭が多く、天城屋はその煽りを食った」

堂島「そして巽完二…実家の染物屋を継いだはいいが、大得意先の天城屋が閉店したことで経営が回らなくなったようだ」

堂島「あとは…久慈川りせだな。あいつはまた芸能界に戻ったらしい。それで、これはあくまで噂なんだが…

堂島「久慈川は芸能界に戻ったあと、悪名高いプロデューサーに引っかかったらしい。そいつにシャブ中にされてしまって、今はもうひどい有様だとか…」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 22:47:16.22 ID:YaZhk9xt0

堂島「実家が潰れた天城と巽はどこぞでアルバイトをしているらしいが…特に巽なんかは厳しいだろうな、男があの歳で就職は…」


番長「……」


堂島「…本当にすまない。聞きたくなんかなかったよな…」

番長「いえ…叔父さんが謝ることじゃありません」


堂島「…そうだ、せっかくだから菜々子に会っていけ」

番長「菜々子!!!??」

堂島「…声がでかい」

番長「…すみません」

堂島「まあいい…菜々子ももう高校生だ。昔のお前と同じくらいだな」

番長「……」

堂島「そんな顔するな、菜々子は昔のままだから」

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 22:52:00.66 ID:YaZhk9xt0

番長「本当ですか!?」

堂島「ああ。菜々子とは未だにお前の話で盛り上がれるんだ、会ったらきっと喜ぶぞ」

>菜々子…菜々子…!



堂島宅

堂島「おーい菜々子ー、帰ったぞー」

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 22:57:56.54 ID:YaZhk9xt0

菜々子「あっ、おとうさん! お帰りなさーい!」

堂島(おい番長、俺の後ろに隠れてろ)

番長(…?は、はい)

堂島「菜々子、今日はすごいお客さんを連れてきたぞ」

菜々子「すごいお客さん?」

堂島「ああそうだ。そのすごいお客さんとは…」

バッ

堂島「なんと……番長だっ!どうだ菜々子、驚いただろう!」




菜々子「…………」

40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 23:00:45.16 ID:YaZhk9xt0

菜々子「……おにい……ちゃん……?」

菜々子「お兄ちゃん……お兄ちゃんだよね!?」

番長「菜々子……」



番長「ただいま」



菜々子「うん……お帰り、お兄ちゃん……!」

>菜々子が……抱きついてきた。

>そっと抱きしめ返す……。


46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 23:06:29.13 ID:YaZhk9xt0

番長「大きくなったな、菜々子。昔とは見違えるようだ」

菜々子「うん、だって約束したから…お兄ちゃんのおよめさんになるって…///」

番長「……」ナデナデ


>菜々子だけは……菜々子だけは……。

>菜々子だけは……やはり……正義だった……。


堂島「どうだ、言った通りだろう」

番長「はい。昔とほとんど変わらない…雰囲気だけが大人びましたね」

堂島「俺の自慢の娘だ、当然さ」

番長「…よかったです。こうしてまた昔の面影がある人と会えて…」

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 23:11:50.38 ID:YaZhk9xt0

堂島「そんな湿っぽい顔をするな。…さ、今日は久々にすき焼きにでもするか、菜々子」

菜々子「うん!」

堂島「よし、それじゃ久々に三人でジュネスに買い出しに行くか!」

番長「はい!」


ジュネスに向かう車の中

菜々子「ねえお兄ちゃん…お兄ちゃんは今日泊まっていくの?」

番長「…そうだな」

菜々子「お兄ちゃん…また菜々子と一緒に寝てくれる…?」

番長「いいぞ、いつまでだって一緒にいてやる」

菜々子「えへへ……///」

堂島「こらこら、父親がすぐ前にいるんだ。そういう話は避けてくれ」

>……そう言いつつ、叔父さんの口調は明るい。

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 23:19:53.04 ID:YaZhk9xt0

>ジュネスですき焼きの材料を買って、家に戻った…。

菜々子「すき焼きできたよー!」

堂島「お、やっとできたか」

>三人でコタツを囲んだ…。


>…なんだか涙が…。

>そうだ…みんなで食べるご飯は…こんなにも美味しかったんだ…。


菜々子「ごちそう様でした!それじゃお兄ちゃん、お風呂入ったらお兄ちゃんの部屋に行くね!」

番長「ちょ、その言い方は…!」

堂島「…ったく菜々子のやつ、いちいち俺の心臓に負担をかけやがる。お前も…手ぇ出したら許さんぞ」

番長「はい…」


>みんなの行方は分からないが…こうして菜々子が昔のままでいてくれたのが何よりの救いだ。

>久々の休日…無駄ではなかったようだ…。


終?

64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 23:30:07.00 ID:YaZhk9xt0
その同じ頃…


陽介「ハァ…なんでこんなことやってんだろーな俺…」

陽介「シフト表の作成、見切り品の整理、商品の発注、レジの清算…もう飽きてきたな、この仕事も…」

陽介「番長…久々に会いてーな、あいつに…それでまたバカ言い合って、メシでも買い食いして…」

陽介「ハハ…なんで泣いてんだろーな、俺…」



千枝「それじゃお母さん、おやすみ」

バタン

千枝「さてと…カッターカッター」

シュパッ シュパッ シュパッ シュパッ

千枝「…………いつからだっけ…リスカしないと平常心が保てなくなったの…」

千枝「…なんかもう、それすらどうでもいいや…とにかく血を…」

シュパッ シュパッ シュパッ シュパッ

千枝「番長くん…こんなときに番長くんがいてくれたら…」

千枝「はは…なんで泣いてんだろ、あたし…」

67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 23:35:45.99 ID:YaZhk9xt0

雪子「178円…298円…398円…以上合計874円になります…」

客「…あぁ!?おい姉ちゃん、このパン半額って書いてあんだろーがよ!」

雪子「あっ…す、すみません!」

客「ったくよぉ、しっかりしてくれよ!」

雪子「すみません、すみません!」

客「…ちっ、頭きたからもういらねーよこんな商品!」

バタン!

雪子「なんで…私ばっかりこんな目に…」

雪子「…番長くん…久しぶりに番長くんに会いたいな…それでまた、励ましてもらいたい…」

雪子「ふふ…なんで泣いてるんだろ、私…」

69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 23:40:21.40 ID:YaZhk9xt0

完二「へいこちら、特盛牛丼になりやす…」

客「…おい兄ちゃん、店員が客にガンくれるってなぁどういう了見だ?」

完二「いえ…そんなつもりは…」

客「そんなつもりはだと…?その人相でよく言えたもんだな、あぁ!?」

完二「……」ブチッ

客「おい店員さんよぉ、なんとか言ったらどうなんだ!?え!?」

完二「…うるせえんだよクソがああああああああああァァァァァァァァ!!」

ボコッ ドカッ バキッ

72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 23:43:13.93 ID:YaZhk9xt0

数時間後

店長「巽くん、今日限りでクビね」

完二「…はい」



完二「はぁ…またバイトクビになっちまった…」

完二「ハロワ行っても俺が入れそうな求人ねえし…どうすっかな…マジで…」

完二「こんな時こそ番長先輩に相談できたらなぁ…どれだけ頼もしいことか…」

完二「…チッ、なんで泣いてんだよ俺は…!」

77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 23:50:04.09 ID:YaZhk9xt0

りせ「  おおおおおおおおおおおおおお!!xxxxxxxいいいいいいいいいいいいっ!!」

スタッフ「りせちゃんいいよー、その  顔最高!もうワンシーンお願いね!」

ディレクター「元トップアイドルの  デビュー…こりゃいい作品が仕上がりそうだ、グヘヘ…」


りせ(ああ……頭の中だけは妙に意識がはっきりする……)

りせ(先輩……ごめんね……りせ、汚れちゃったみたい……)

りせ(会いたいよ……先輩……)

りせ(あはは……なんだかもう……泣きたいな……)

86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/03(水) 23:56:47.53 ID:YaZhk9xt0

コンコン

直斗祖父「直斗や…いい加減に出てきてくれんか…」

直斗「…………」

直斗祖父「わしは男だからお前の苦しみを理解してやれんが…お前が心配なのは本当じゃ」

直斗祖父「……とりあえず、今日の夕飯は扉の前に置いておくよ……」



直斗「…………もう……嫌だ……」

直斗「男なんてみんな同じ…僕を気持ち悪い目でばっかり見やがって…!」

直斗「でも…番長先輩だけは違う…よね…」

直斗「優しくて…なんでも相談に乗ってくれた先輩…また会いたい…会って話を聞いてもらいたい…」

直斗「ふっ…なんで泣いているんだろう、僕…」

90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/04(木) 00:02:21.53 ID:j5WhuJJe0

テレビの中

クマ「…もう何時間…何日…何年経ったクマかねえ…」

クマ「みんなに会いたいクマ…」

クマ「ヨースケのパパさんが日に日に機嫌が悪くなってたのは…クマでも分かってた」

クマ「多分…世に言うフキョウってやつクマね…」

クマ「…無駄飯食らいがいなくなって、きっとヨースケもせいせいしてるクマ!クマは良いことしたんだクマ!」



クマ「……でも……ほんとは……会いたいクマ……みんな……」

96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/04(木) 00:08:35.21 ID:j5WhuJJe0

番長「……うわあああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」

菜々子「ど、どうしたのお兄ちゃん!?」


>なんだ今のは……!

>妙にリアルな……夢、なのか……これは……。

>……まあ、心配しても仕方がない……。

>きっと夢だ……夢なんだ……!




引用元: 番長「現実は甘くなかった」