1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:05:57.58 ID:MUPEd6Cl0
それは12月25日のこと。

男「……朝か」

女「あら、起きました?」

男「……誰?」

女「彼女です!」

女「クリスマスプレゼントの、彼女です!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420121157 




2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:10:54.00 ID:MUPEd6Cl0
男(……不審者、だよな)

男(通報する気にもならん)

男(寝ぼけてるのか)

男(目元にほくろ、整った顔立ち)

男(初恋の女の子によく似ている)

男「」目ごしごし

彼女「?」

男「あー、ガチか」

男「確か昨日」

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:15:22.49 ID:MUPEd6Cl0
12月24日

俺(サンタを信じなくなったのはいつからだろう)

俺(確か4歳のころ)

    俺「ねえマッマ、うちえんとつないけどサンタさんくるん?」

    母「サンタさんはね、うん。換気扇から来るのよ」

俺(……どんな妖怪だよ)

近所の家「メリークリスマース!」

俺「サンタさんなんていねえんだよくそがき」ぼそっ


4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:18:04.59 ID:MUPEd6Cl0
俺(自分に持っていないものを)

俺(持ってる人が妬ましい)

俺(そんな俺が一番心が貧しいんだろうな)

俺(サンタさんが胡散臭く思えてから)

俺(他人っていう存在もなんだか胡散臭く感じてきて)

俺(当然彼女なんてできるはずもなく)

俺(大学生になって独り暮らしをすれども)

俺(孤独は埋まらない)

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:23:55.47 ID:MUPEd6Cl0
アパート

俺「ああもう! 世の中糞だ!」

ドン!

俺「ひっ! リアル壁ドンきた!」

俺(あーもう、ふろでも入るか)

俺(いや、洗濯物を先に取り込むか)

がらっ

俺(雪か)

俺(サンタさん……もしいるんなら)

俺「サンタさん、彼女をください」

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:27:15.27 ID:MUPEd6Cl0
12月25日

俺「え、ガチで彼女!?」

彼女「はい! 彼女です!」

俺「彼女ってことは、つまり、恋人?」

彼女「はい、恋人です」にこっ
 
俺「……悪い冗談はよしてくれ」

俺「早く出て行って……」
 
俺(ん? なんだか懐かしい匂いが)

彼女「みそ汁はお嫌いですか?」

俺「……」

俺「嫌いじゃないです」


「味噌汁は、お嫌いですか?」

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:28:46.55 ID:MUPEd6Cl0
彼女「召し上がれ」
 
納豆を混ぜ、タレとカラシを投入し、ごはんにかける。

炊きたてのごはんと、懐かしい味の味噌汁が、胃袋を満たす。
 
十分も経たずに、茶碗とお椀は空になってしまった。

俺「ありがとう、うまかったよ」

彼女「いえいえ、彼女ですから」

俺(台所で食器を洗う音が聞こえるなんて)

俺(なんてすばらしい朝だ)

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:30:44.52 ID:MUPEd6Cl0
俺「いいのか? ここまでしてくれて」

彼女「彼女ですから」
 
彼女は明るい声でそれしか言わない。

「俺さん、今日のご予定はなにか?」
 
俺(さりげなく下の名前で)

俺(顔が熱い)

俺「いや、とくにないけど……えーっと」
 
俺(なんで俺、今の状況を異常に感じてないんだろう)

俺(いや、それよりも)

俺「君の、名前は?」

彼女「彼女です!」

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:32:48.44 ID:MUPEd6Cl0
俺「いや、それ名前じゃないし」

彼女「そう言われましても……」

俺「なにか、君に合う名前をつけよう」

彼女「そんな、かまいませんよ」
 
俺「そんなこと言ったってなあ」

俺(整った黒髪ロングヘアー)

俺(サンタのコスプレ)

俺(スラっとした足に、綺麗に切られた足の爪が左右五枚ずつ)

俺(美人だ)

俺(故に特徴がない)

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:34:30.55 ID:MUPEd6Cl0
俺「彼女、彼女なあ」

俺(彼女、英語では?)

俺「よし」

俺「君は今日からシーちゃんだ」

シーちゃん「はい!」


12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:36:37.58 ID:MUPEd6Cl0
一日目

シーちゃん「今日はクリスマスです」

俺「お、そうだな」

シーちゃん「デートをしましょう!」

シーちゃん「クリスマスと言えばデートです!」

俺「なるほど、いい案だけど」

俺「その格好は恥ずかしくないか?」


13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:42:08.44 ID:MUPEd6Cl0
シーちゃん「え? 似あってません?」

俺「いや、そういう問題じゃない」

俺「さすがにサンタコスでデートはちょっと」

シーちゃん「なるほど」

くるり

シーちゃん「どうでしょう」

俺「おお! ただの赤いダッフルコートと緑のスカートに!」

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:44:39.31 ID:MUPEd6Cl0
ショッピングモール

俺「とりあえずきたはいいけど」

シーちゃん「あ! 俺さん! このマフラー俺さんに似あうと思います!」

俺「あ、ほんとだ。いいね」

俺(女の子と歩くのは初めてだけど)

俺(なんとなく、リラックスできてるよな、俺)

俺(不思議だ)

俺「マフラー困ってたし、あー、でも、」

俺「いいわ、持ち合わせあんまりねえし」

シーちゃん「そうですか」

15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:46:42.69 ID:MUPEd6Cl0
俺「お昼はあのカフェにするか?」

シーちゃん「いいですね! あ! オムライスが一押しみたいですよ!」

店内

俺「美味しいな」

シーちゃん「はい! とても」もぐもぐ

俺(子供みたいに笑うし、食べるな)


16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:48:12.99 ID:MUPEd6Cl0
再びショッピングモール

俺「どしたの?」

シーちゃん「あ、このペンダント、かわいいなあって」

俺「ふーん」

俺(今日は、特別な日)

俺「買ってやるよ」

シーちゃん「え! いいんですか!」

俺「特別な日だしな」

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:50:34.36 ID:MUPEd6Cl0
シーちゃん「あの、実はこれ、サプライズのつもりだったんですけど」ごそごそ

俺「あ、それ」

シーちゃん「マフラー、買っておきました」

俺「ほんとに? いいの?」

シーちゃん「特別な日、ですから」にこ

俺(天使や)

俺(夢だとしたら、さめるまで、楽しんでやろう)

18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:52:16.71 ID:MUPEd6Cl0
二日目。十二月二六日。
 
彼女と手をつないでみた。

シーちゃん「冷たくないですか?」

俺「正直、冷たい」
 
俺(雪みたいに白い。そして冷たい。死んでるみたいだ)

俺「でも、気持ちいい」
 
彼女と手の指と指を絡めた。

俺(心の中のどんよりとした何かが)

俺(溶けていくみたいだ)

19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:54:12.65 ID:MUPEd6Cl0
三日目。十二月二十七日。
 
彼女と昔の話をした。
 

シーちゃん「俺さん」

俺「どうした?」
 
シーちゃんの作る朝食を食べることにもだんだん慣れてきた時だった

シーちゃん「あなたは、今までに恋人がいたことは、ないのですか?」
 
俺(嫌味のつもりか? 胃が痛い)

俺「……ないな」
 
シーちゃん「好きな人がいたことは?」

俺「……」

20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/01(木) 23:57:55.72 ID:MUPEd6Cl0
俺「気になるのか?」

シーちゃん「はい、とても」

俺「どうしてもか?」

シーちゃん「はい!」
 
俺(浮世離れしているところもあるけど、どこか子供だなあ)。

俺「……いつかな」

シーちゃん「えー、なんでですかー! 気になります!」
 
俺(最近打ち解けてきているのか、押しの性格が強くなってきてるぞ)

俺(サンタさんもなんてものを派遣してくれるんだ)

俺「今日はどこ行きたい?」

シーちゃん「誤魔化さないでください!」
 
そのまま俺は、彼女の尋問に丸一日耐えることとなった。


21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:00:53.25 ID:mTWD1rJD0
四日目。十二月二十七日。
 
俺(夢を見ていた)
 
俺(昔の夢だ)

俺(初恋の女の子が出てきた)
 
俺(しばらく見ない間に、顔も髪型も声も随分忘れてたんだな)

俺(そうだ、こんな顔だったなと納得する)
 
俺(初恋の子は、いつものように道路の上で横たわっていたのだ)
 
俺(なぜ、彼女は横たわっていたんだっけ)

俺「そんな夢を見たんだ」

シーちゃん「不思議な夢ですね」

22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:04:13.37 ID:mTWD1rJD0
俺「まあ、その子が俺の初恋の子なんだけどな」

シーちゃん「なるほどですね、私なんか妬けちゃいます」
 
俺(本心から言っているのだろうか)

俺(そもそもこの子は人間なのか)

俺(もしかしたら、とんでもないオカルト展開に巻き込まれているんじゃ)

シーちゃん「あっ紅茶こぼしちゃいました!」
 
俺(……取り越し苦労か)

俺「はい、布巾」



23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:06:16.69 ID:mTWD1rJD0
五日目。十二月二十八日。

親戚の居酒屋の従業員がバックれ、手が足りなくなったと昼過ぎに連絡があった。

伯父「すまねえ、きてくれねえか」

俺「あー、はいはい、了解」

シーちゃん「お出かけですか?」
 
俺「ああ、ちょっとバイトすることになった」

シーちゃん「晩御飯はどうします?」

俺「ああ、そうだな作っといてくれ」



24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:07:49.45 ID:mTWD1rJD0
居酒屋

俺「ちーっす」
 
?「いらっしゃーい」
 
俺(どこかで聞いたような……)

女「あ、俺君?」
 
カウンターの内側にいたのは、大学の同じ学科の女の子だった。

25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:10:10.74 ID:mTWD1rJD0
女「へー、ここ親戚だったのね」
 
俺「そうだな、ばあちゃんの兄ちゃんがやってて」
 
俺(とりあえず九時までがんばってくれとのことだ)

俺「まあ、高校時代にも何度か手伝いには来ていたし、仕事自体は慣れてるよ」

女「私も今週から働き始めたの」
 
俺「なんでここ?」

女「雰囲気が好きなのよ」

26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:13:27.07 ID:mTWD1rJD0
俺「確かに落ち着きやすいな」

俺「居酒屋というより、料亭みたいだし」

女「熱帯魚が泳いでてさ、びっくりした」

女「絵とか壺も飾られててきれいだし」

女「それに、時給もよかったし」

俺「そこかよ」

女「ねえ、ところでさ」
 
女「今晩、一緒にご飯食べてから帰る?」

俺「……」

俺「行こうか」

27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:16:10.65 ID:mTWD1rJD0
バイト終了

俺「ここのラーメン?」

女「そう! ここすっごいおいしいの!」

俺(……なんか、忘れてるような)

女「食べ歩きとかたまに一人でしたりするんだあ」

俺「来たことないな、近かったのに」

女「五本の指が入るわ」

俺「五本の指に入るだろ」

28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:19:09.33 ID:mTWD1rJD0
女「あはは、なんか意外」

俺「何が?」

女「ツッコミとかいれてきたし」

俺「普通だよ」

女「だってさ、俺君、あんまり人とかかわろうとしないというか」

女「一匹オオカミというか」

俺「なにちょっといい言い方してるんだよ」
 
俺(でも確かに、自分の中の何かが明るく開けてきている気がする)

俺(なんでだろ)

29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:22:33.54 ID:mTWD1rJD0
五日目。十二月二十八日。

俺「……あれ、いつの間に寝てたんだろ」ごしごし

俺(? ソファ? しかも俺の部屋のじゃない)

俺(嗅いだ事のない部屋のにおい)

俺(白を基調とした小奇麗な家具)

俺「どこだここ」

女「うーん、おはよ」
 
 そうだ、女さんの家だ。

30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:25:34.23 ID:mTWD1rJD0
俺(机の上には、何本か空けたチューハイやビールの缶)

女「いやー、昨日は飲んだね~」
 
俺「あー、そっか」
 
俺(ラーメンを食べた後、コンビニで酒を買って)

俺(女さん家で宅飲みをして、そのまま寝たのか)

俺「やべ、連絡してね」

俺(心配してるかなあ、あいつ)

女「連絡? 男君ってさ」
 
連絡帳から自宅の家電に電話をかける。コール音が鳴り続けた。

女「一人暮らしじゃないの?」

32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:27:00.69 ID:mTWD1rJD0
俺「あ」

俺「……ん?」

俺「えーっと、あ」

俺「そういえば、そっか」

俺(俺、誰に電話してたんだろ)

33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:28:40.67 ID:mTWD1rJD0
 八日目 十二月三十一日

俺(何から八日目なんだろう)

俺(俺は何から日付を数えているんだ?)

テレビ「デデーン! 田中、アウト」
 
年末ということで、彼女と俺はガキ使をこたつで見ていた。

俺「年越しそば食いたいな」

「あー、そろそろ食べる?」
 
彼女は立ち上がり、鍋のお湯を沸かし始めた。

俺「ありがとう」
 
俺はお湯を沸かす彼女の後姿をニヤニヤしながら見た。

俺「女さん」

女「いえいえ」
 
そう、名前を呼んだ。
 
もう少しで今年も終わりだ。

35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:32:10.68 ID:mTWD1rJD0
 九日目 一月一日。

 女さんと近くの神社まで初詣に来た。

俺「よかったな、バイトなくて」

女「ほんと、年末年始は休みだよやっぱり」

女「俺くんそのマフラー似あってるね」

俺「そうか? ありがと」

俺(これ、いつ買ったんだっけ)

女「俺君は、今まで彼女がいたことはないの? こういうところに来るさ」

俺「いや、そんなことは」

俺(……なんだろ、この大事なことを忘れている感じは)

俺(彼女なんて、できたことないだろ)

俺「ないな」

女「ふーん」

36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:35:42.76 ID:mTWD1rJD0
 

俺「女さんは?」
 
女「えー……うーん、ないことも、なかったかな」

俺「ほう」
 
俺(まあ、女さん美人だし)

女「というかさ、俺君って女の子苦手じゃなかったっけ」

俺「あ、入学当時言ったな、そう言えば」

俺(あれ? なんで平気で話せるようになったんだろう)

俺「うーん、よくわからん」

37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:38:05.80 ID:mTWD1rJD0
 十一日目 一月三日。

目が覚める。

カーテンの隙間から光が漏れている。

いつもどおりみそ汁の香りが部屋に満ちている。

机の上に並ぶのは納豆のパックに、ご飯に、みそ汁だ。

うん、今日もいい朝だ。

俺「おはよう」
 
誰もいないのに、なんで毎日言っているんだろう
 
今日は女さんと映画に行く約束をしている。

急いで準備をしなくては。

38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:40:43.68 ID:mTWD1rJD0
 十四日目 一月六日。

俺(また今日から大学)

俺(憂鬱だ)

俺(休み明けってのはだいたい憂鬱なもんだけど)

女「おはよ! 俺くん!」

俺(そうだ、俺には)

俺(女さんがいるじゃねえか)

39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:44:14.86 ID:mTWD1rJD0
 

 十六日目 一月八日。

「つまりだよ」

「お前と女さんが釣り合わないってことを俺は言いたいわけさ」

「一応俺も女さんとは高校は同じで、彼女と同じ大学に入るために、必死で勉強もしたんだぜ」

「知ったこっちゃないだろうな」

「でもよ、高校時代女さんと一番仲が良かったのは俺なんだぜ?」

「なあわかるだろ?」

俺(昼休み、ずっとこんな話が続いてる)

男「なあ、冬休みになにがあったか知らねえけどよ、女とあんまべたべたすんなよ」

40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:47:27.23 ID:mTWD1rJD0
俺「別に付き合ってるわけじゃないんだろ」

男「昔付き合ってたさ」

俺「昔の話だろ?」

男「いや、あれは受験に集中するから別れたんだ」
 
俺(まあ、よくある理由だけど)

俺(どっちにしろ、かなり気持ち悪いなこいつ)

俺(それに、俺には彼女がいるry)
 
俺(あれ……いや、いないだろ、できたことすら)

41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:49:14.84 ID:mTWD1rJD0
男「どうしたんだよ、ボーっとしてよ」

俺「いや、別に」

男「とにかくだ、俺は今日彼女に告白する」

男「彼女の返事は決まっているだろう」

男「だからお前は金輪際、あいつにかかわるな」
 


42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:50:15.11 ID:mTWD1rJD0
俺は、何も考えることもなく、無感情に口を開いた。

俺「ああ、わかったよ」

俺(気持ち悪いやつだ)

43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:52:54.97 ID:mTWD1rJD0
俺(今日の晩飯はさんまの塩焼きだ)

俺(こんがりときれいな焼き色がついたさんまの横に、大根おろしが盛られている)
 
俺(ご飯もみそ汁もばっちりだ)

俺「俺は、別に女さんと付き合っているわけじゃない」
 
誰にいうわけでもなく、口を動かす。

俺「別にあいつと女さんが付き合おうと、俺にとってはどうでもいい」
 
さんまに箸で亀裂を入れ、身をつまみ口に運ぶ。うまい。

俺「そうだろ?」

シーちゃん「さあ、どうなんでしょう」


44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:54:18.03 ID:mTWD1rJD0
声が聞こえた。

どこからだ? 

目の前だ。

目の前の椅子を凝視する。
 

そこには、彼女が、シーちゃんがいた。

最初から、ずっとそこにいた。

消えていたものが出現したようでもなく、当たり前のようにそこにいた。

45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:56:58.32 ID:mTWD1rJD0
俺「シーちゃん」

シーちゃん「はい」

俺「君は、なんなの」

シーちゃん「彼女です」

俺「君さ、確かにずっといたんだよ」

シーちゃん「はい、ずっといましたよ」

俺「俺は、俺は」
 
自分の状況が分からない。

46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 00:58:59.51 ID:mTWD1rJD0
この間まで、ずっと料理が机の上に並べられていた。

それを彼女が作っている姿もきちんと見ていた。

だけど、それを認めていなかった。

時計の秒針のように、当たり前のものとして見ていた。

シーちゃん「そんな顔しないで下さいよ」

俺「ごめん」

シーちゃん「悲しいじゃないですか」
 
彼女は椅子から立ち上がり、俺の頭をそっとなでた。

氷の塊が、頭の上を滑っているようだった。

47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 01:00:28.48 ID:mTWD1rJD0
俺「昔、好きな子がいたんだ」

シーちゃん「はい」

俺「その子は放課後毎日、道路に寝そべっていたんだ」

シーちゃん「変わった子ですね」

俺「そうだ、変わった子だったんだ」

48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 01:03:29.96 ID:mTWD1rJD0
俺「暑い日も、寒い日も、その子は寝転がり続けたんだ」

俺「なんでってある日聞いたんだ」

俺「そいつさ、自分が車に轢かれるの待ってるって言うんだぜ?」

俺「おかしいだろ?」

女「おかしいですね」
 
シーちゃんは相槌を打つだけだ。俺は続ける。

50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 01:05:44.50 ID:mTWD1rJD0
俺「あの時、俺は何も言えなかった。何もしなかった」

シーちゃん「はい」

俺「その子は、それからどうなったのかは知らない。転校したとしか聞いてないんだ」

シーちゃん「はい」

俺「俺が何かしたら、変わったか?」

シーちゃん「そんなこと、私にきかれても困りますよ」
 
彼女の声色はあくまで明るい。

だけれど、その言葉はあまりに冷たく、重たく俺にのしかかる。

51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 01:08:53.05 ID:mTWD1rJD0
シーちゃん「忘れられたんですか?」

俺「何をだ?」

シーちゃん「あなたの願いですよ」
 
俺「彼女をください、か?」

シーちゃん「そういうことですね」
 
シーちゃん「では、あなたがほしかったものはなんですか?」

52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 01:10:42.81 ID:mTWD1rJD0
俺「だから、彼女だって」
シーちゃん「そういうことですね

シーちゃん「では、クリスマスプレゼントといえども、あなたはもう大人です」

俺「そうなのかな」

シーちゃん「ええ、ですから」
 
シーちゃんは、頭から帽子をとり、机の上に置いた。

シーちゃん「クリスマスプレゼントくらい、自分で取りに行ってください」
 
その言葉を最後にシーちゃんの姿は見えなくなった。

53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 01:15:15.90 ID:mTWD1rJD0
俺(プレゼントを、自分で?)

俺(シーちゃんは、クリスマスプレゼントではなかった)

俺(でも、シーちゃんは俺の彼女だった)
 
俺(シーちゃんと過ごして、俺は変わった)

俺(誰かといることの楽しさを覚えた)

俺(人と話すことの喜びを覚えた)

俺(人とふれあうことの幸福を知った)
 
俺(それがなかったら、俺は女さんと、ラーメンに行くという選択肢は)

俺(出なかったんじゃないのか?)
 
俺(そのまま女さんと同じ部屋で寝るということも)

俺(なかったんじゃないか?

俺「なるほど」

俺「そういうことね」

54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 01:18:30.09 ID:mTWD1rJD0
俺はソファに放りこんだコートを羽織り、マフラーを巻いた。

俺(やっぱりかっこいいじゃん)

俺「行ってきます」
 
誰もいない部屋に、そう告げた。
 
サンタさんは、いい子のところにしか来ないらしい。
 
ならば、俺は今からいい子になろう。
 
自分に正直な、いい子になろう。
 
昔と今は、違うんだ。
 
俺は靴をはき、扉を開けた。

外には雪が降っている。

こんなものに負けてはいられない。

いこう。

サンタさんの贈り物がなんなのか、わかったから

55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 01:20:55.65 ID:mTWD1rJD0
 三百六十四日目

その日も雪が降っていた。

空気は張り詰めていて、皮膚がむき出しになっている顔は、ただれてしまいそうなほど冷たかった。

後輩「先輩寒いっすねー」
 
俺「そうだな」

後輩「先輩はいいっすねー、クリスマスにいちゃいちゃできる彼女がいて」

56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 01:23:42.55 ID:mTWD1rJD0
後輩「俺も彼女ほしいですね」

俺「あ、別れたのか」

後輩「はい、ちょっといろいろあって」

俺「好きだったのか?」

後輩「うーん、どうでしょう」

俺「好きな人がいなくなってつらいのか」

俺「恋人がいなくなったことが空しいのか、どっちかだな」

後輩「うーん」

後輩「後者、ですかね」

俺「そうかい」

57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 01:26:36.92 ID:mTWD1rJD0
俺「サンタさんにでもお願いしとけ」

後輩「先輩でも冗談言うんですね」

俺「冗談じゃねえよ、本気だ」
 
俺(名前も忘れてしまったけれど)

俺(確かにサンタさんは、俺に贈り物をしてくれた)
 
俺(たしか、目元には小さなほくろがあったな)
 

58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/02(金) 01:29:51.87 ID:mTWD1rJD0
俺(昔俺が好きだった女の子にもたしか)

俺(目元にほくろがあった)

俺(ま、たまたまか)
 
俺(あの子は、今元気なのだろうか)

俺「いい子にしてたら、サンタさんは来てくれるさ」
 
俺は、首に巻いた青色のマフラーにかかった白い雪を、そっと払った。

後輩「先輩」

俺「ん?」

後輩「そのマフラー、似あってますね」

俺「ありがとよ」

おわり

引用元: 俺「サンタが彼女連れてきた」