1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 15:10:04.34 ID:/Kr5yyi+0
許婚「お帰りなさい」

男「おまわりさーん、泥棒が入ってまーす」

許婚「泥棒は三つ指ついてお出迎えしませんよ」

男「それもそうか」

許婚「紹介が遅れました、私は男さんの完璧な許婚です」

男「はあ完璧ですか」

許婚「料理、洗濯、家事はもとより全てにおいて完璧です」

男「俺許婚がいるなんて聞いてないんですけど」

許婚「はい、驚かせようと思ったので今まで情報統制をさせて貰っていました」

男「えらく手が込んでますね」

許婚「なぜなら私はパーフェクトですから(ビッ」

男「そのポーズなんですか」




5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 15:18:25.90 ID:/Kr5yyi+0
許婚「そろそろ敬語をやめて貰えませんか、将来の妻ですよ私は」

男「いやでもあなたも敬語ですから」

許婚「敬語属性はないのですか?」

男「特には」

許婚「男さんの趣味に合わないと言うのなら変えますよ」

男「あ、じゃあお願いします」

許婚「何がいいですか?ちょっと強気な幼馴染系とかがいいですか?」

男「う~ん・・・親しみやすい感じがいいな」

許婚「では『親しみやすい友達感覚の甘えんぼボクッ子』で」

男「なんか最後のほう変ですけどそれでお願いします」

許婚「うんオッケーだよ!男ちゃん!!」

男「変わるの速いね」

許婚「だってボクぱーふぇくとだからっ!!(ビッ」

男「あ、そのポーズは取るんだね」

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 15:26:28.79 ID:/Kr5yyi+0
許婚「はい、男ちゃんお弁当今日も学校がんばろうね!!」

男「おう」

友「おい・・・男、あの子は誰なんだ?」

男「なんか許婚らしいよ」

友「おまえんち普通の中流家庭だよな?」

男「そうだな」

友「なんでだよぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

男「知らないし、抱きつかんといて」

許婚「とーう」
べきっ
友「ひぎぃっ!!」

男「友が許婚の手刀を喰らって気絶した・・・」

許婚「男さん、あまり他の方とベタベタなさらないで下さい」

男「口調が戻ってる・・・」

許婚「ボクやきもち焼いちゃうよ!!」

男「そしてまた戻した・・・」

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 15:32:33.33 ID:/Kr5yyi+0
男「あのさ許婚さん」

許婚「ん?どーしたの男ちゃん」

男「やっぱ口調変更できる?ボクって一人称に違和感を感じるから」

許婚「別に構いませんが」

男「相変わらず変わり身速いね」

許婚「で、どのようなのをご所望ですか」

男「許婚が一番自然だと思う口調で」

許婚「わかりました、ではこのままで」

20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 15:39:20.83 ID:/Kr5yyi+0
許婚「男さん、お弁当を食べましょう」

男「そうするか」

友「あれ?許婚さんさっきと感じ違くね?」

男「うん変えてもらった」

友「変えて・・・もらう・・・?」

許婚「男さん、あ~んですよ」

男「許婚、無理矢理俺の口に物を詰め込もうとするのは良くないと思うな」

幼馴染「男ちゃ~ん、一緒にお昼ご飯食べよ・・・う?」

男「よう幼馴染」

幼馴染「・・・誰?・・・その娘」

男「許婚らしい」

許婚「よろしくです」

幼馴染「うん、よろしく・・・・・・・・このクソアマ」

友(今ボソッとクソアマって言った・・・!?)

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 15:44:26.67 ID:/Kr5yyi+0
許婚「男さん、今日の夕食は何がいいですか?」

男「う~んと」

許婚「オムライスですねわかりました」

男「何でわかったんだ、すごいな」

許婚「男さんのことなら何でもわかりますよ」

男「何でもはさすがに言いすぎだろ」

許婚「  本は主にタンスの後ろに隠す」

男「何故それを・・・・」

許婚「なぜなら私はパーフェクトですから(ビッ」

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 15:54:07.41 ID:/Kr5yyi+0
友「おい見ろよ男、あの女の子    でかいぞ!!」

男「何!?どこだ!?教えろ!!」

友「あそこだ!!」

男「おお!!アレは素晴らしいな・・・ごくり」

許婚「・・・ッ!!・・・ッ!!」

男「こら許婚、バレーボールなんか制服に入れたら制服破けるぞ」

許婚「私はパーフェクトでなければいけないのです!!止めないで下さい!!」

男「ほら、これから大きくなるかもしれないだろ!!」

許婚「・・・わかりました」
ぎゅっ
男「えっ何?なんで何で俺の手を掴むの?」

許婚「男さんが徐々に大きくしていくということで」

男「お前は廊下の真ん中で を  と申すか」

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 15:58:59.75 ID:/Kr5yyi+0
幼馴染「うわぁ~男ちゃん美味しそうなお弁当だね~?買ったの?」

男「いや、許婚g

幼馴染「えへへすっごく不味そう!!」

男「いや、これがけっこうおいs

幼馴染「男ちゃんそっちの生ゴミよりこっち食べて?」

許婚「男さん、男さんの好きな唐揚げですよ」

男「だからなんでお前らは俺の口に無理矢理食べ物詰めry」

友「お前って羨ましいやつだよな」

34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 16:12:11.16 ID:/Kr5yyi+0
許婚「夜ですね、男さん」

男「そうだな許婚よ」

許婚「男さんはご飯より先にお風呂に入る派でしたね」

男「何で知ってるんだ・・・」

許婚「なぜなら私はパーフェクトだからです(ビッ」

男「はいはい」

許婚「お背中をお流ししましょう」

男「いや、恥ずかしいからいい」

許婚「じゃあ目隠ししてやりましょう」

男「上手く洗えんだろそれじゃ」

許婚「しかし、お風呂場   を楽しむというパーフェクトな計算が・・・」

男「いやいいから」

許婚「成る程、男さんは『初めてはベッド』派・・・と」

男「何をメモしてるんだお前は」

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 16:21:07.43 ID:/Kr5yyi+0
男「ふわぁ~そろそろ眠くなってきたな」

許婚「もう寝ますか?」

男「ん、そうする」

許婚「今日は私のお膝で寝るというのはどうでしょう」

男「遠慮します」

許婚「・・・・(じっ」

男「・・・・・」

許婚「・・・・・(じっ」

男「・・・・わかりました」


男「・・・・・恥ずい」

許婚「ふふふ・・・なでなでしてあげますね」

男「いいよ眠れなくなる」

許婚「嘘つきですね、男さんは頭を撫でられるとすぐ眠ってしまいますよ」

男「・・・・・zzzz」

許婚「ふふふ・・・ほら、私はパーフェクトなんですから」

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 16:28:13.42 ID:/Kr5yyi+0
幼馴染「男ちゃん、これあげる~」

男「おお、弁当か」

幼馴染「一生懸命作ったんだよ~」

男「ありがたいけど許婚の弁当があるから」

幼馴染「え?生ゴミがどうかした?」

許婚「ほう、パーフェクトな私の料理を生ゴミと言うのですか」

幼馴染「うん、特にこのだし巻き玉子なんかほんとゴミ♪」

許婚「言ってくれますね」

男「お前らなんか知らんが仲悪いな」

友「うんお前一回死ねばいいと思うよ」

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 16:36:43.88 ID:/Kr5yyi+0
誰か他に書く人居ないかい

後輩(今日こそ男先輩に告白を・・・)

男「許婚のやつどこ行ったんだろ?」

後輩「(・・・・よし、今こそこの思いを伝えに!!)先輩!!」

許婚「せい!!」
びしっ
後輩「あう!!」

男「こ、後輩が許婚の一撃で気絶した・・・」

許婚「彼女が先程から男さんの様子を覗っていたのでてっきり刺客かと」

男「保健室に運ばないと」






許婚「取り残されてしまいました・・・・」

許婚「私のパーフェクトな護身術はあまり役に立たないようです」

47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 16:47:48.90 ID:/Kr5yyi+0
男「許婚、明日どうする?」

許婚「八時くらいに家を出ると丁度いい時間に着きますよ」

男「もう調べてあるのかすごいな」

許婚「なぜなら私はパーフェクトですから(ビッ」

幼馴染「二人とも何の話してるの?」

男「ん?いや明日休日だから天気がよければ二人で出かけようかと思ってな」

幼馴染「へぇ~そうなんだぁ~!!雨降ればいいのに♪」

許婚「男さん、私はピクニックというものが初めてなのでとても楽しみです」

男「そうか、俺も楽しみだな」

幼馴染「えへへ、もう台無しになればいいのに!!」

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 16:56:08.19 ID:/Kr5yyi+0
 

許婚「おはよう、お兄ちゃん」

男「いきなりどうしたんだ許婚よ」

許婚「もうっお兄ちゃん!!『妹』属性があるんなら言ってくれないとダメだよ!!」

男「何言ってるんですか?あと口調戻せ」

許婚「『週刊妹にゃんにゃん増刊号』という本が男さんの部屋にあったので」

男「ああ、それは友がくれたやつだよ」

許婚「そうですか、取り乱してしまってすいませんでした」

男「取り乱していたのか」

許婚「少し嫉妬していました」

男「お前可愛いやつだな」

許婚「私は嫉妬もパーフェクトなので」

男「顔真っ赤だぞ」

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 17:02:46.55 ID:/Kr5yyi+0
 
後輩(この間はダメだったけど・・・今日こそ男先輩にこの思いを!!)

男「おーい許婚~どこ行っちゃったんだ~」

後輩「・・・・せ、先輩!!」
つるっ
後輩「すき・・・みゃ!!」

男「こ、後輩!!大丈夫か!?」

後輩「う~ん・・・」

男「気絶してる」

友「ん?何だこれ?」

男「濡れぞうきんだ・・・これに滑ったのか」

友「一体誰が・・・」

幼馴染「えへへ、ほんと誰だろうね♪」

53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 17:07:32.09 ID:/Kr5yyi+0
許婚「待ちに待ったピクニックです」

男「・・・やけに荷物多くないか?」

許婚「いえ、これぐらいは必要です」

男「何もって来たんだお前は」

許婚「AEDや救急器具、その他携帯食料まであらゆる危険に備えてあります」

男「やりすぎだろ・・・AEDって」

許婚「このパーフェクトなサバイバル装備、必ず役に立ちます」

男「お前は近所の自然公園で遭難しに来たんか」

58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 17:22:21.93 ID:/Kr5yyi+0
丁度その頃
幼馴染「うわぁ~あのクソアマ大きい荷物持ってる~・・・潰れて死ね!!」

友「なぁなんで俺たちこんなところ来てるんだ?」

幼馴染「ふふふ監視だよ♪このド低能が」

後輩「男先輩・・・隣にいる人は誰なんですか・・・」

幼馴染「よーし!!みんなで男ちゃんをあのアマから護ろー!!」

友「いやあの二人なんかいい感じだし・・・」

幼馴染「うるせぇ黙れモブ」

60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 17:27:41.60 ID:/Kr5yyi+0
許婚「天気が良くて安心しました」

男「そうだな」

許婚「このあたりにシートを敷きましょう」

男「ナイスポジショニングだ許婚」

許婚「もちろん最初からこのパーフェクトなポジショニングを予定していましたから」

男「流石だ兄者」

許婚「?」

男「あ、いやなんでもないです・・・」

64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 17:34:00.04 ID:/Kr5yyi+0
幼馴染「じゃあ作戦会議ね」

後輩「は、はい・・・」

友「いや、だから可哀相なんじゃ・・・」

幼馴染「じゃあそこのモブが変装してあのクソアマをぶっ倒すということで」

友「えっ俺!?」

幼馴染「珠には役に立てよモブ♪」

67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 17:45:36.36 ID:/Kr5yyi+0
許婚「そろそろお弁当を食べましょう」

男「それもそうだな」

変装友「おいゴルァ!!」

男「友、どうしたんだこんなところで」

変装友「うるせぇぞコルァ!!やンのかコルァ!!」

許婚「男さんに触れるつもりならパーフェクトな必殺技を披露して差し上げましょう」
みぢみぢ
変装友「ひぎぃいいいいいいい!!」

男「ああっ!!友が形容しがたいオブジェに変えられていく!!」




幼馴染「やっぱ使えねぇわあのモブ」

72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 18:08:43.97 ID:/Kr5yyi+0
仔猫「みゃあ」

許婚「男さん、捨てにゃんこがこちらを見てきます」

男「ん?ほんとだ、可哀相だな」

許婚「捨てにゃんこはこのままでは死んでしまうかもしれません、早く救出しなくては!!」

男「ああ、飼いたいのか?」

許婚「いえ救出しなければなりません!!これは義務です!!」

男「飼いたいならそう言えばいいのに」

許婚「私のパーフェクトな飼育術で必ずやパーフェクトな大人にゃんこにしてみせます」

男「はいはいわかったよ」

許婚「よしよしにゃんこ、今日から私がお前の主人ですよ」

74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 18:12:40.96 ID:EQ+ZGW9UP
――家

男「ただいまー」
許嫁「お帰りなさい」ふかぶか

男「えっと。ただいま、あのね」
許嫁「はい?」

男「毎日さ、あの。玄関で三つ指ついてお出迎えとか
 しなくていいんだよ? その。大変だしさ」

許嫁「そんなこと云わないでください。
 これが嬉しいんですから」にこっ

男(うわぁ……許嫁さん、か、可愛いなぁ)

許嫁「今日のお弁当はいかがでしたか?」
男「美味しかったよ。きんぴらとか、西京焼きとか」

許嫁「よかった」
男「お店で出てくるのみたいだよね。ゼミの人もびっくりしてた」
許嫁「わたし、おばあちゃん料理しか作れませんから……
 気に入ってもらえて良かったです」

75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 18:17:02.24 ID:EQ+ZGW9UP
男「そんなこと無いよ、美味しかったです」
許嫁「よかった」ぱぁっ

男「……」
許嫁「……」

男「えっと」
許嫁「あっ。はい! お風呂沸いてますよ。
 疲れがとれます、食事の前にいかがですか?」

男「は、はいっ」
許嫁「では、行ってらっしゃってくださいね。
 お着替えをお持ちしますので」

男「あ、はい」
許嫁「では」

とことこ

男「……うわ、なんか。恥ずかしいなぁ」

男「着替え持ってきてもらうとか。お風呂勧められるとか。
 どこの妄想ワールドだよ。によによとまらねぇよ」

男「大学で虐待受けるのも納得だわ。うわぁ、まじかよ。
 許嫁来ちゃうとか。神展開過ぎだろ、俺の人生」

76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 18:21:05.75 ID:EQ+ZGW9UP
――食卓

許嫁「めしあがれ」にこっ
男「いただきます」

許嫁「どうぞ」

男「……ん。美味しいです」
許嫁「はい」にこにこ

男「許嫁……さんは、料理本当に上手ですね」
許嫁「ええ、田舎料理ですけれどね」

男「そんなことないですよ。鰆とか、和え物とか。
 いまは、こんなご飯出てくる家って少ないんじゃないかな。
 大変でしょ?」

許嫁「ええと……」こくん 「そんなことはありません。
 料理は準備と組み立てと、あとは気持ちですか」にこっ

男(き、気持ちって……)どきどきっ

許嫁「美味しいですか?」
男「はいっ」

80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 18:27:18.54 ID:EQ+ZGW9UP
許嫁「あ……」
男「もぐもぐ……はい?」

許嫁「ご飯、ついてますよ?」
男「へ?」

許嫁「ふふふ」ひょい、ぱくっ
男「あ……」かぁっ

許嫁「お味噌汁、お代わりしますね」
男「はい……」どきどき

許嫁「どうしました?」
男「なんでもないです」

許嫁「変な男さんです」くすくすっ
男「おひたしが美味しかったから……」

許嫁「沢山ありますからね」
男「はい」

81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 18:27:47.44 ID:/Kr5yyi+0
 

許婚「にゃんこ、今日は一緒に寝ましょうね」

仔猫「みゃん」

男「・・・・・」

許婚「ふふふ~なでなで」

仔猫「みゃ~ん」

男「・・・・・」

許婚「可愛いです(すりすり」

男「・・・・」

許婚「どうしたんですか男さん?」

男「別に・・・」

許婚「?」

男(畜生!!猫めぇ~!!)

82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 18:30:19.81 ID:EQ+ZGW9UP
――男の自室

男「綺麗だし、料理も掃除も選択も得意だし……。
 ……あ、あれだよ。……ふとももとか、すごい●●●だしっ」

男「すごいよなぁ。理想のひとだよなぁ。
 なんかもう、なんかもうっ」

ごろごろっ

男「先月まで、学食で焼き蕎麦パン食ってたのにさ」

男「ん~……。良いな、許婚さん……」

ごろごろっ

男「いきなりでびっくりしたけどさ。だいたい爺ちゃんが
 決めたとか云っても、爺ちゃんなんて十年以上会ってないよ」

男「……こんなにラッキーで良いんだろうか。
 やばい。テンション上がってきたっ」

83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 18:35:44.66 ID:EQ+ZGW9UP
コンコンッ

男「あっ、はいっ」
許嫁「よろしいですか?」

男「どうぞっ」いそいそっ

許嫁「ほうじ茶入れてみたんです。いかがですか?」
男「ありがとうございます」

許嫁「はい」にこり
男「ど、どうぞ」

こぽこぽこぽ

許嫁「……はい」
男「こくん……ふぅ」

許嫁「……」こくん、こくん
男「いつもありがとうございます」

許嫁「はい?」
男「いえ。掃除とか、家事とか。家のことぜんぶ」

85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 18:42:15.99 ID:EQ+ZGW9UP
 
許嫁「いえいえ、良いんですよ。
 これこそ、私のお役目ですからね。
 腕のふるい甲斐があります」にこり

男「……あの」
許嫁「はい?」

男「明日は、休みですし。……その、どこかに」
許嫁「お休みですか?」

男「はい」
許嫁「では、一緒に」

男「はいっ!」(デートktkr!!)
許嫁「楽しみですね。何にしましょうか」

男「そ、そうですね。……多少遠くても」
許嫁「でも、お疲れでしょうし、近くが良いですよね?」

男「ど、どこでも」
許嫁「美味しいものとか」
男「何でも、はい」
 (しゃれた店の予約か!? 2,2chでスレ立てて聞かねば!?)

87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 18:47:57.35 ID:EQ+ZGW9UP
――翌日、築地市場

許嫁「助かります」にこっ

男「は、はい」
 (な、なんでこうなる……。っていうか、一緒にって。
 一緒に買い物で、デートじゃなかったのか……。
 だめじゃん俺、だめじゃん人生っ)

許嫁「すいません、そこのせり、包んでくれますか?」
市場の親父「ほいきたっ、120円だよっ」
許嫁「ありがとうございます」

男(つか、荷物持ちにも慣れてないじゃん。
 車出しただけの移動係りじゃん、俺。
 うっわ、ジャケット着て髪の毛整えて築地っ。
 おれ空気読めて無い、テラカコワロス……)

許嫁「男さん、男さんっ?」
男「はいっ?」

許嫁「ほらっ。大きなマッシュルームですよ♪
 今日はこれで煮込みハンバーグに挑戦しますよ?」にこっ

男(かっ、可愛いっ。なんだこの反則技わっ)

許嫁「ハンバーグ、ダメですか?」くてっ
男「大 好 物 で す っ」

89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 18:53:38.11 ID:EQ+ZGW9UP
許嫁「男さん、お肉はどんなのが好きですか?」

許嫁「タコですよ。大きいですよっ。怖いですよっ」おろおろ

許嫁「オマケしてもらいました。クレソン山盛りです」にこっ

許嫁「お疲れ様です、もたせてすみません……」

許嫁「あまいお茶にしますか? 男さんっ」

許嫁「なんだか嬉しいですね」ぴとっ

許嫁「おうちに帰ったら、すぐにお昼作りますからね。
 お蕎麦でいいですか?」

許嫁「夜は本気ですから。本気でハンバーグ作りますから。
 凄いですからねっ。覚悟しててくださいねっ」

男「……う、ううう」

男(デートとか、もうどうでも良いじゃんねっ。
 俺。どうする、俺っ。デートよりも良いじゃんっ!!
 ビバ市場! ビバ買い物! ビバ許婚さんっ!
 ハッピーディ俺の青春! だ、抱きしめたいっ!)

90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 18:57:56.82 ID:EQ+ZGW9UP
――夕食後

男「ご馳走様でした~! うぅーん」にへらっ
許嫁「そんなにニコニコして」くすっ

男「だって美味しかったですから」
許嫁「そんなに褒めても、何も出ませんよ?
 はい、ほうじ茶です」

ことん

男「別にお世辞じゃないですよっ」
許嫁「男さんは膨れてる顔も可愛いです」にこり

男「だいたい」
許嫁「はい?」

男「おばあちゃん料理とか云って、ちゃんとハンバーグも
 作れるじゃないですか。レストラン並みでしたよ」
許嫁「お世辞じゃないですか」くすくすっ

男「本当なのになぁ~」
許嫁「嬉しいですよ」にこっ

92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 19:05:23.74 ID:EQ+ZGW9UP
男「えっと、その」
許嫁「はい?」

男「こっちで、TVでも見ませんか?」
許嫁「はい」にこっ

男「えーっと」
許嫁「お茶のみ会議ですね」

男「そうですね」
許嫁「はい」にこにこっ

TV:わははははは

男「えっと、はい」
許嫁「今日は静かで暖かい夜ですね」

TV:わははははは

男「そ、そうですね」
 (ど、どうする俺。この流れで、流れで行けっ!)

95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 19:10:16.30 ID:EQ+ZGW9UP
許嫁「どうしました?」
男「えーっと」

許嫁「はい」きょとん
男「許嫁さんは、料理美味しいですし、家の事完璧ですし」
許嫁「またまた。お気遣いにならなくても」

TV:わははははは

男「綺麗ですし、優しいですし、可愛くて美人ですし」
許嫁「そんなこと言われると照れてしまいますよ?」

男「えっと、で、ですね」
許嫁「……?」

TV:わははははは。なんやねん、なんやねんでー

男「あの、ですね」
許嫁「はい?」

男「大好きです。俺と結婚してください」

許嫁「それは無理ですね」

98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 19:16:18.58 ID:/Kr5yyi+0
許婚「にゃんこったらお膝で寝てしまいました」

男「・・・そうかよ」

許婚「男さん、機嫌悪いんですか?」

男「べ、別に」

許婚「ふふふ・・・仕方ないですね」

男「こら、頭を撫でるな」

許婚「男さんは甘えんぼの淋しがりやさんです」

男「決め付けるな」

許婚「私のパーフェクトな撫で撫でで今日はお眠りになるといいです」

男「・・・ふん」

許婚「本当にやきもち焼きの旦那さまですね」

男「・・・・zzz」

許婚「私は完璧な許婚ですから安心しておやすみください」

99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 19:16:25.47 ID:EQ+ZGW9UP
男「え?」

許嫁「出来ません」にこり

男「えっ……?」

許嫁「わたしは『完璧な許婚』ですから」

男(な、なにを……?)

許嫁「結婚したら、許嫁ではなくなってしまいますよね?」

男(えっと、なんなんだ?)」

許嫁「ですから、結婚は出来ないんです」にっこり

男(何を云ってるんだ……?)

許嫁「もちろん、友達にも恋人にもなれません」

男(何がおきてるん……だ……?)

101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 19:23:47.78 ID:EQ+ZGW9UP
男「え……あ……の……」
許嫁「はい?」

男「そ、それじゃ……その……
 き、気持ちち……とか……」

許嫁「気持ち?」

男「好き……とか……」

許嫁「好きとか愛情でなるのは、恋人ですよね?」
男「え……」

許嫁「わたしは『完璧な許婚』ですから」
男「――っ」

許嫁「気持ちじゃありません」
男「じゃ、なんでっ」

許嫁「お爺様に買われたんですよ?」にこり
男「あ、あ――」

許嫁「『完璧な許婚』ですから」
男「うっ。ううっ!!」

だんっ! ばたんっ! だだだだっ!

110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 19:47:28.84 ID:/Kr5yyi+0
許婚「男さん、今日はカレーが食べたいんですか?」

男「言うまえに先読みされていたとは」

許婚「なぜなら私はパーフェクトな幼馴染ですから(ビッ」

男「それ久し振りに出たな」

仔猫「みゃん」

許婚「仔猫は猫缶ですか」

男「猫語がわかるのかお前は」

許婚「なぜなら私はry」

男「もういいから」

113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 19:53:04.46 ID:/Kr5yyi+0
友「それにしてもお前は羨ましいよな」

男「そうか?」

友「羨ましいだろ!!お前俺の立場だったら絶対羨ましいって言われるからな!!」

男「まあたしかに許婚も家に馴染んでるし毎日楽しいかな」

友「ははっお前なんで生きてんの?」
 

119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 20:37:20.72 ID:EQ+ZGW9UP
――布団の中

男(こんなにラッキーで良いんだろうか。
 なんて、俺はバカか。池沼かよっ)

(タコですよ。大きいですよっ。怖いですよっ)

男(あんな可愛くて美人な人が、俺のトコくるなんてのが
 ネタだって気がつけよ、おせぇよ俺っ)

(沢山作りましたからね。召し上がれっ)

男(んな、あるわけねぇじゃんよ。おかしいじゃんよ。
 それを疑いもせずに……。だから俺はゆとりなんだよ)

(好きとか愛情でなるのは、恋人ですよね?)

男「――」

(気持ちじゃありません)

男「――ですよね」

男「ですよねっ」ぎゅっ

122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 20:42:12.38 ID:EQ+ZGW9UP
――朝

許嫁「……さん、……さん」ゆさゆさ

男「……ぅぅ? ……ん」

許嫁「男さん? 男さん」ゆさゆさ

男「んー。うん」ぼへぇ

許嫁「おはようございます、朝ですよ」にこっ
男「うん。許婚さん、ありが」ぴきっ

許嫁「?」
男「――」

許嫁「朝ごはんの支度出来ていますよ。
 顔を洗ったらいらっしゃってくださいね」

男「ん……」

許嫁「今朝はキッシュですよ」くすっ

男「ん……」

123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 20:47:25.77 ID:EQ+ZGW9UP
――朝食

許嫁「はい、めしあがれ」
男「頂きます」

許嫁「……」
男「……」もそもそ

許嫁「コンソメいかがですか?」
男「はい……」

許嫁「お代わりよそいますね」
男「はい」

許嫁「どうぞ」
男「あの」

許嫁「はい?」
男「……なんでもない、です」

許嫁「はい」くすっ


124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 20:51:31.31 ID:EQ+ZGW9UP
――学校

男友「うーぃっす」ぼかっ
男「何故叩く」
男友「お前の美人許婚がねたましいからだっ」
男「そか」

男友「……」
男「……」

男友「おい」
男「ん?」
男友「どうしたんだ? 反応薄いぞ」
男「そうかな」

男友「反応じゃなくてキャラが薄いのか」
男「うん」

男友「太陽拳っ!」
男「まぶしいよ。鏡しまえよ」
男友「おまえ、だって薄いんだもん」

125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 20:55:48.26 ID:EQ+ZGW9UP
男「――ってなわけ」
男友「はーん。で、ショック受けてるのか」

男「うん」
男友「●●くさっ」

男「うぐっ」
男友「だいたいなんだ、おまえちっとも損してねーじゃん」
男「好意は無いってはっきり云われたんだぞっ!?」

男友「それが普通なの。それが当たり前なのっ。
 お前、道あるいてたらいきなり告白されて
 そこからラブいちゃパラダイスか?
 いい加減にしろよ? お前」

男「――」
男友「だいたい、お前。あれだよ。彼女いない暦=年齢
 じゃんよ。許婚さんが来なかったら今でも記録続行じゃん。
 許婚さんの言葉を借りれば好意無いかもしれないけど
 おまえ、あんだけ美人と一つ屋根の下だぞ?
 それだけでも一億円規模のラッキーだって自覚持てよ」

男「……」

127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 21:00:01.03 ID:EQ+ZGW9UP
男友「大体よ」
男「……」

男友「お前、今日だって弁当持ってきてんだろ」
男「うん……」

男友「捨てちまえよ、気に入らないなら」
男「やだよっ。せっかく作ってくれたんだしっ」

男友「あー。なんか薄い上にむかつくな」
男「……」

男友「おまえな。自分のラッキーさを自覚しろ。
 あと、ヘタレさも。いいか、教えてやる。
 おまえはこれからは毎日ナンパ出来るんだ。
 許婚さんを。一つ屋根の下はチャンス満載だ」
男「……」

男友「阿呆っ」どかっ
男「痛っ」

男友「いまので判らなかったらお前は氏ね。
 氏ねじゃなく、死ねっ!!
 お前、『突然一つ屋根の下』っていう男の夢を
 安く見積もりすぎだっ。
 その状況になった主人公の責任ってのを果たしやがれっ!」

128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 21:08:22.18 ID:EQ+ZGW9UP
――駅前

許嫁「あ、男さん」
男「……あ」
許嫁「お帰りなさい」
男「どうしました?」

許嫁「雨、降りましたから」にこっ
男「はい」
許嫁「傘をお持ちしましたよ」
男「そんな……」

許嫁「お買い物もありましたから」
男「すみません」

許嫁「いえいえ、お気遣いなく」にこり

男「……」
許嫁「……」

男「そうじゃなくて」
許嫁「はい?」

男「ありがとうございます。嬉しかったです」
許嫁「はい」にこり

129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 21:13:54.96 ID:EQ+ZGW9UP
――帰宅

男「ただいま」
許嫁「おかえりなさい」

男「一緒じゃないですか」
許嫁「そういえば、そうですね。ふふふっ」

男「おかえりなさい」
許嫁「ただいまです」にこり

ごそごそ

許嫁「雨、当たってしまいましたか?」
男「いえ、そんなに」
許嫁「傘小さかったですね」
男「大丈夫ですよ。春の雨ですから」

許嫁「お風呂沸かしますから」
男「あ、自分でやります」
許嫁「……? そうですか?」
男「はい」

許嫁「では、ゆうごはんの支度をしますね。
 今日はクレソンとトマトのサラダですよ」にこり

136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 21:54:21.00 ID:EQ+ZGW9UP
――お風呂の中

ざざーっ

男「ま、ね」

男「別に俺が努力して手に入れたものじゃないし」

男「棚ぼただしね……」

男「友の云う通りなんだけどさ」

ぶくぶくぶくぶく

(もちろん、友達にも恋人にもなれません)

男「なんだろ。そうじゃなくて……」

男「何でこんなに力入んないのかなぁ」

男「彼女いないのも、1人なのも、
 慣れてるじゃんなぁ、俺。何でこんなに悲しいのかなぁ」

137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 22:00:33.19 ID:EQ+ZGW9UP
コンコンっ

 許嫁「男さーん」

男「はーい」どきっ

 許嫁「着替えはこちらに置きますね」

男「ありがとうございますっ」

 許嫁「ごゆっくりー」

ぶくぶくぶくぶく

男「……」

男「いまのだって、友なら楽しめるんだろうなぁ」

男「ときめきイベントなんだろうな」

男「――なんか、辛いや」

138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 22:04:32.86 ID:EQ+ZGW9UP
――食卓

男「ご馳走様でした」
許嫁「お粗末さまでした」にこり

男「美味しかったですのに」

許嫁「はい、嬉しいです。でも、あれは挨拶ですからね」
男「はい……」

許嫁「?」

男「……部屋に戻っています」
許嫁「はい。――あ。男さん?」

男「はい?」
許嫁「ちょっとじっとしていてくださいね」

男「え?」

ふわり

許嫁「髪、まだ濡れていますよ」もふもふもふっ
男「あ、そんなの自分で」

許嫁「良いですから」もふもふもふもふっ

139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 22:07:52.31 ID:EQ+ZGW9UP
男「――」

許嫁「もうちょっと」もふもふ
男「――」

許嫁「はい、できましたよ」
男「あの……」かぁっ

許嫁「?」
男「ありがとう、ございます」

許嫁「はい」にこり「ああ、そうでした」
男「はい?」

許嫁「新しい綿棒を買ってきたんですよ。お耳の掃除を
 して差し上げます」
男「――」

許嫁「こちらですよ、どうぞ?」

ぽむぽむ

男「……それは」
許嫁「耳掃除、苦手ですか?」

140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 22:12:37.40 ID:EQ+ZGW9UP
――耳掃除中

許嫁「高さ、平気ですか? 首痛くないですか?」

男「いえ、平気です……」

許嫁「はい。では、少しだけ動かないで我慢してくださいね」

男(ふともも枕、柔らかいな。――それに、いい匂い。
 なのになんだろう。
 嬉しいのに、悔しくて
 どきどきしてるのに辛くて
 なんだろ、すごく惨めな気分だ)

許嫁「……痛いですか?」
男「大丈夫です」

許嫁「痛くしないように、気をつけますからね。
 ……ちょっとだけ我慢してくださいね」なでなで

男(許婚さん、なんでこんなに優しい声出せるんだ?
 ……全然判らないよ。おかしいだろう、そんなの)

許嫁「大丈夫ですよー」なでなで

141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 22:16:32.31 ID:EQ+ZGW9UP
男「――」
許嫁「はい、反対です」

男「はい……」もそもそ
許嫁「髪の毛を濡らしたままだと、風邪を引きますよ?」

男「子供じゃないですから」
許嫁「そうですね」にこり

男「――」
許嫁「はい、動かないで下さいね」むぎゅっ

男「あの……」
許嫁「?」

男「……なんでもないです」

許嫁「奥のほう、かりかりしますよ?」くすっ
男「はい……」

許嫁「大丈夫ですからね」なでなで

142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 22:23:02.93 ID:EQ+ZGW9UP
男「ありがと」
許嫁「はい? まだですよ」
男「いや。もう、いいや」

許嫁「そうですか?」
男「うん」

許嫁「何か不手際でも……」
男「違うけど」
許嫁「ああ」ぽむり
男「はい?」

許嫁「男さん、そろそろ夜伽をご所望ですか?」にこり
男「はぁっ?」

許嫁「大丈夫ですよ。――もちろん清い身体ですが、
 現代の風潮では結婚まで許さない。
 というのは少数派であると理解しています。
 男さんの気持ちも察せずに居心地の悪い
 思いをさせてしまっていたら、すみません。
 今晩にでもお伺いしますね」

男「――許婚さん」

144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 22:28:13.74 ID:EQ+ZGW9UP
許嫁「シャワーを浴びたらすぐに支度をして向かいますから」
男「許婚さんっ」

許嫁「お任せください」
男「そうじゃなくてっ」

許嫁「私ではお気に召しませんか?」
男「――っ」

許嫁「大丈夫ですよ」なでなで
男「どうして」

許嫁「『完璧な許婚』ですから」
男「――うう」

許嫁「男さんはただ抱いていただければ。
 その他の事は――私も未経験ですけれど、
 お任せくださって大丈夫ですよ」にこっ

男「――っ」
許嫁「男さん?」

男「一人で寝ますっ。いいですからっ」

145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/05(火) 22:32:25.78 ID:EQ+ZGW9UP
――布団の中

男「あははっ。あはははっ」ぽろぽろ

男「判った。判りました」

男「よーっく、判りました」ぽろっ

男「俺、好きなんだ。惚れちゃってるんだ。めろめろなんだ」

男「あんな見え透いた餌で、
 恋愛なんて微塵も関係ないって宣言されている釣り針で。
 そんなのが嬉しくて、
 引っかかりたくてたまらないほど好きなんだ」

男「膝枕だって、耳掃除だって、嬉しかったよ。
 あー。嬉しすぎですわ。女に免疫無いからな、俺っ。
 だから惨めな気分だよっ。最悪だよっ」

男「優しくされた経験ないから、どんな餌でも引っかかるよっ」

男「一つ屋根の下って、毎日チャンスかもしれないけど」

男「――それって毎日毎日失恋を続けて
 傷口から血が止まる暇がないって意味じゃんね」

男「それって地獄じゃんね……」

316: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 15:05:27.03 ID:bPwomnRWP
 
――学校

男友「おっす、相変わらず黄昏てんなー」
男「おー」

男友 さっ
男 びくっ

男友「あほー。ぶつか、こんなもん」こんこん
男「うー……」

男友「今のお前は突っ込みを入れる価値も無いわ」
男「……」

男友「相変わらず夢の同居ライフ絶賛放映中か?」
男「生き地獄だっつーの」

男友「あんなー」
男「……」

男友「……ま、いっか」
男「……」

男友「いい加減にしないと打ち切り食らうぞ」
男「……」

317: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 15:11:53.87 ID:bPwomnRWP
――帰宅路

(夢の同居ライフ絶賛放映中か?)

男「そんなんじゃ、ないのにな……」

男「……苦しいだけだ」

男「……」

男(自業自得だけどな。好きだから苦しいわけでさ)

男(俺、贅沢なんだろうな。友の言うとおり)

男「……ん。買って帰ろう」

おばちゃん「あいよぅ」

男「たこ焼き二船ね」

おばちゃん「お土産かい? マヨつけたげるよぅ」

320: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 15:19:28.39 ID:bPwomnRWP
――帰宅

許嫁「お帰りなさい」ふかぶか
男(ううっ。三つ指ついて、って云うの。
 慣れないな。ゾクゾクするっていうか。
 俺、変な趣味あるのか? イヤ、ないない、絶対ないっ)

許嫁「……?」
男「え、うん。ただいま。普通でいいから、
 そのぅ、……お帰りなさいはさ」

許嫁「そうは行きません。お帰りな際のお出迎えは
 許嫁の大事な勤めですから」

男(勤め、なんだもんな……)

許嫁「でも、お帰りなさい」にこり
男「……ぅ」

許嫁「今日は疲れましたか? どうしましょう」
男「あの、さ」

許嫁「はい?」

男「たこ焼き買って来たから食べようよ」

322: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 15:23:50.71 ID:bPwomnRWP
――居間

許嫁「美味しいですね」にっこり
男「うん、うまいね」

許嫁「お茶もどうぞ」

こぽこぽこぽ

男「ありがと……」
許嫁「熱いです」はふはふ

男「急いで帰ってきたから」
許嫁「はむっ。嬉しいですよ。お土産」にこっ

男「そう?」どきどき
許嫁「はいっ」

男(……可愛いな。美人だし。この程度で
 つられて嬉しくなってるなんて、俺格好悪い)

許嫁「美味しいですねー」にこぉ

324: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 15:30:58.68 ID:bPwomnRWP
――布団の中

男「ま、そうだよな……」

男(そもそも自分で手に入れたものじゃないんだし)

男(美人で可愛くて、お姉さんタイプでさ。
 料理も家事も完璧で、いつも笑顔で、
 三つ指ついてお出迎えでさ……)

男(そんな人と、同居して、たこ焼き食えるだけで
 十分ラッキーって云うか、奇跡だよな……)

(お爺様に買われたんですよ?)

男「――ッ」ズキッ

男(……惨め、だけどさ)

男(時間を、かければ)

男(きっと)

326: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 15:37:22.66 ID:bPwomnRWP
――食卓

許嫁「本日は寄せ豆腐とアスパラガスのサラダ、
 鮭のマヨネーズ焼きですよ」
男「美味しそうです」

許嫁「召し上がれ」にこっ

男「いただきます」
許嫁「いただきます」

男「……美味しいです」
許嫁「はい」にこにこ

男「……アスパラガスは、これは、何の塩味?」
許嫁「ベーコンをカリカリにして砕いてあるんですよ」

男「初めて食べた。美味しいなぁ」
許嫁「そうですか?」

男「おばあちゃん料理だなんて、嘘じゃないですか」

許嫁「そんな事はありませんよ」にこにこ

329: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 15:42:46.01 ID:bPwomnRWP
許嫁「お代わりしましょうか?」
男「いえ、満腹です」
許嫁「そうですか」にこり

男「ご馳走様でしたっ」
許嫁「お粗末さまでした」

男「美味しかったですー」

許嫁「ふふふ。しばらく寛いでいてください。
 玄米茶なんかありますよ。お出ししましょうね。
 では失礼して……」

男「あ……。俺も食器下げます」
許嫁「これは私の仕事ですよ?」むぅっ

男「やります」
許嫁「でも……」

男「勝手にやります」かちゃかちゃ
許嫁「……もう」

331: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 15:49:33.43 ID:bPwomnRWP
――深夜

男(なんて……ま。他愛ないことだけどさ。
 悪くないよな。ああいうの繰り返すのも……。
 そりゃ恋愛は無いけどさ……)

男(そんなの、今までだってなかったわけだし?)

とっとっとっ

男「えーっと。許嫁さん? 起きてるかな。
 夏物の長Tさ、どっかに……」

とっとっとっ

許嫁「――」

男「いいなず……」

許嫁「――」

男(……? 真っ暗な居間で、何してるんだ?)

332: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 15:54:42.74 ID:bPwomnRWP
許嫁「――」
男(なにも……してない?)

許嫁「――」
男(壁を見てる? 何を見てるんだ?)

許嫁「――」
男(あんな顔、みたことないぞ?
 なんなんだ? 何がおきてるんだ?)

許嫁「――ち、ろ」ぶつぶつ

男(どろりとした、ぐったりとした、死んでるみたいな。
 生きていないみたいな、何も見ていないみたいな瞳だぞ)

男(真っ黒い穴を開けたみたいな、
 どこにも通じてない洞窟みたいな、
 腐った沼地みたいな……
 ハエのたかる死んだ魚の内臓みたいな)

許嫁「――」ぶつぶつ
男「……」

許嫁「――ちろ」ぶつぶつ

男(何を囁いてるんだ……)

344: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 16:32:24.33 ID:bPwomnRWP
――朝

許嫁「……さん、……さん」ゆさゆさ

男「……ん」

許嫁「男さんっ。男さんっ」ゆさゆさ

男「んー。……うん。おきたデす」ぼへぇ

許嫁「おはようございます、朝ですよ」にこっ

男「うん。――あの」

許嫁「はい?」
男「……なんでもないです」

許嫁「変な男さんですね」にっこり

男「……(昨日みたのって、夢だったのか?)」

許嫁「今日はトーストとベーコンエッグですよ?」くすくすっ

347: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 16:36:49.24 ID:bPwomnRWP
――昼間

許嫁「……♪ ……♪」
男(おかしなところ、無いよな。にこにこしてるし
 掃除てきぱきしてるし)

許嫁「……♪ んっと」
男「はい?」

許嫁「次は男さんの部屋です」
男「へ?」

許嫁「お掃除ですよ?」

男「あ。そのっ。俺の部屋はいいですから」
許嫁「そんないまさら。毎日していましたよ、知ってますよね」

男「それは……えっと」
許嫁「さ、掃除してきますね♪」

男「ちょ、ちょっとタイム」

ずざざざっ

許嫁「もう、男さんってば」

348: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 16:41:54.15 ID:bPwomnRWP
男(ま、まずいっ!? 今までなんとなく整理されてたり
 綺麗になったりしてたけれど、全く意識した事はなかったぞ)

男(アイテムの配置と関わってなかったし、
 でも云われてみればそうだ。埃とか綺麗になってたし、
 机周りとかどんどん整理されて足し、掃除してくれてたのに
 決まってるじゃないか、俺のバカバカバカっ!!)

男「自体は一分一秒を争うっ」

男(まずは箪笥一番下の引き出しのコレクションっ。
 セフセフっ! 問題なし、全部綺麗に揃ってるっ。
 アンソロ、いけださくら、井ノ本リカ子、ヤスイ……。
 ――。
 綺麗に?)

許嫁「はい。ちゃんとジャンルごとに仕分けして
 ほこりも払って、掃除しておきましたよ?」にこり

男「ノオーーーゥッ!!」

許嫁「作者さんごとでよろしいですよね? 
 レーベルごとのほうがよかったですか?」

男「……うううっ」

許嫁「そんなにショックを受けないで下さい」

350: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 16:49:03.00 ID:bPwomnRWP
掃除機:がーがおーががおー

男「うー……」
許嫁「お掃除してますから、お茶でも飲んでいて
 くださっていいんですよ?」

男「いえ、ここにいます……」

許嫁「もう、男さんってば。判りました、
 そんなにショックなら、ああいうのにはもう触りませんから」

男 ズキッ「も、云われるだけで辛い」

許嫁「もうっ……」

掃除機:がーがおーががおー

許嫁「でも、ほっともしました」
男「……はい?」

許嫁「男さんは、お姉さんタイプが好みなんですね」にこっ
男「……ぅ」かぁっ

許嫁「わたしは2つ年上ですから
 ハンデがきついと思っていました」

351: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 16:52:11.77 ID:bPwomnRWP
男「えっと……」
許嫁「ハンデ、無いのですよね?」にこっ

男「あ、あう……」
許嫁「ダメですか?」

すっ

男(近い、近いよっ。許嫁さん。
 ううう、じっと見られると、顔燃える。
 判ってるのにどきどきする。うぐうう)

許嫁「……ね?」にこっ
男「ハンデないです……」

許嫁「年上でも、良いですか?」
男「うう……」こくり

許嫁「よかったぁ」ぱぁっ
男(なんかいいように操られてる気がする……)

許嫁「これで『完璧な許嫁』でいられます」

353: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 16:56:43.10 ID:bPwomnRWP
男「あの……」
許嫁「はい?」

男「完璧な許嫁って、そんなに大事なんですか?」

許嫁「ふふふっ」ぴとっ
男「……っ!?」(柔っ、ふにってっ!?)

許嫁「大事ですよ?」
男「あ、あの。ち、近っ」

許嫁「それが全部ですから」
男「そんなっ」

許嫁「年上さんでも良いんですよね? 男さんは」にこり
男「――っ」

許嫁「いい子いい子しましょうか?」にこにこ
男「うー。結構ですっ」ぷいっ

だだだだっ。

356: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 17:10:38.82 ID:bPwomnRWP
――お風呂

男「うわぁぁぁ」がしゅがしゅ

男「なんかもうっ。何を考えてるのか全く判らんっ!!」

男「理解不能っ。判断停止っ。手に負えませんっ。
 そもそも俺には経験が足りないっての。
 なんダヨそれ、なんでここで一緒に暮らせるか
 全く訳がわからねーっよっ!」

男「ううう」ぶくぶくっ

(いい子いい子しましょうか?)

男「いい匂いしたなぁ。ぴとってされて……。
 見かけより、ずっと胸大きいのな……」

(それが全部ですから)

男「……なんであんな事云うんだよ」ぶくぶく

男「わかんね」ぶくぶく

357: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 17:23:59.82 ID:bPwomnRWP
――夕刻

ざあああぁぁあぁ――

男「急に来ましたね」
許嫁「ええ、助かりました」ふかぶか

男「洗濯物の取り込みくらいでおおげさですよ」
許嫁「でも、一人だったら間に合わなかったと思いますもの」

男「僕の布団とかもありますからね」
許嫁「今晩は気持ちよく寝れますよ?」

男「はい?」
許嫁「柔軟材を変えて干しましたからね。ふわふわです」にこっ

ふわり

男「あ、ほんとだ。良い匂い」
許嫁「お揃いです」
男「そうなんです?」

許嫁「ニットとかと同じ柔軟材ですからね。
 私とおそろいの香りですよ」にこっ

男「……」かぁっ

360: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 17:28:27.43 ID:bPwomnRWP
許嫁「では、男さんにもう1つお願いしましょうか」
男「は、はいっ?」

許嫁「お布団はこびますから」
男「なんでもします」

許嫁「そんなにかしこまらないで下さい。
 なんだか私が苛めているみたいではありませんか」ぷぅっ

男「えっと、そんなことはないです。
 いつもお世話になってるから……」

許嫁「はい」にこり 「では、お布団とシーツを持って、
 ついてきてくださいね」
男「はーい」

とてとて
 とてとて

許嫁「こちらですよー」
男「すごくすっきりした部屋ですね」

許嫁「そうですか?」
男「そういえば、初めて入りました」

許嫁「何にも無いだけですよ」にこにこ

362: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 17:32:35.81 ID:bPwomnRWP
許嫁「こちらへ入れますから」
男「はい」
許嫁「降ろしていただければ良いですよ」
男「はい。んしょっと……」

ぽろっ

許嫁「あらあら」
男「え、あ。わわっ」(ぱ、ぱんつっ)

許嫁「そんなに慌てないでも」にこり
男「いえ、その。俺じゃないですっ」

許嫁「判ってます。男さんはそんなことしません。
 洗濯物が布団にまぎれちゃっただけですよね」

男「は、はいっ」

許嫁「うろたえすぎですよ」くすっ
男「そんな事は無いですけど」

許嫁「こんなもの、男さんが望めば幾らでも差し上げますのに」
男「っ」

許嫁「はい?」にこっ

363: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 17:37:04.78 ID:bPwomnRWP
――学校

男友「おーい、どうだ。リア充」
男「リア充はそっちだろ。彼女いるんだから」

男友「美人許嫁のほうが彼女より上だ」きっぱり
友女「あたしに、なんかっ。文句でもっ。あるのっ!」

男友「ぎぶっ。すまっ。ごめんなさいっ」
友女「うそ臭い」ぎりぎりぎり

男「あはははは」

男友「まじで、友女さん最高に可愛いです。俺幸せ者なり」
友女「……ふんっ。ま、許す」

男「仲いいなぁ」

男友「ふざけんな。こんな暴力女」
友女「なんかいった?」ぎろっ

男友「何でもございません」
友女「ふふんっ」

366: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 17:40:57.54 ID:bPwomnRWP
男友「で、どうなんだ。そっちは。上手く行ってるのか?」
友女「どうなの? 許嫁なんてロマンチックよねー」
男「んー」
男友「歯切れ悪いな」

男「ぼちぼち。べつに……仲は悪くないと思う」
男友「ふむ」

男「普通だよ。すごく尽くしてくれる同居人……」

男友「尽くす。いいね! ロマンだね!
 大和撫子は男の憧れだねっ」

友女「あんたそんなに頭蓋骨の強度実験したいわけ?」
男友「水平荷重 390N/m(40kgf/m)は勘弁してくださいっ」
友女「建築学部舐めんな」

男「でも、なんかさ……」
男友「ぎぶっ。やめっ。まて、まって。男が話してる。なに?」

男「不自然だよね」
男友「そうなん?」

367: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 17:49:40.70 ID:bPwomnRWP
男「俺らと同じ年代って云えば、遊びたい盛りじゃない」
男友「ふむ」

男「なのに毎日家にいて、掃除して、洗濯して
 家事万端整えて、料理して……ずーっとそれってのもさ」

友女「遊びに行ったりしないの?」
男「しないね」

男友「そういや、いくつだっけ?」
男「2つ、上だと思う」

男友「学校とかは? 高校出てそのままなのかな?」
男「そういえば知らないや」

男友「ふぅん」

友女「立ち入ったこと聞くようだけど、電話は?」
男「女友は、俺の家の電話も携帯の番号も知ってるじゃない」

友女「そうじゃなくて、許嫁さんの携帯は?」
男「……へ?」

男友「まさか持ってないのか?」
男「……知らないや」

368: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 17:52:49.17 ID:bPwomnRWP
男友「うーん。まぁ、持ってない人も、いなくは無いか」
友女「でも云われてみるとちょっと不自然かなぁ」
男「……」

男友「ま、そんな気にするものでもないんじゃね?」
友女「そかな」

男友「気になるなら聞けば良いじゃん。
 考え込むような事じゃない」
友女「男友は、ほーんとお気楽だなぁ」

男「ん、そだね」
男友「お気楽バカっていうなっ!」
友女「云って無い云って無い。
 いまのは『聞けばいい』に『そうだね』だよ。
 男友のお気楽さは、人を責めないからね」

男「うん、感謝」

男友「いいや、ちがうね。俺は責めるねっ。
 弱みをえぐるねっ。男がピントずれた弱みをはけば
 すかさず傷口に塩を塗りこむねっ!!」
友女「わ! それ面白そう! わたしもやるっ!」

男「いや、そうゆうのは勘弁して欲しいんすけど」

371: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 17:55:59.04 ID:bPwomnRWP
男友「なんにせよ、あんまり考える事は無いだろ。
 お前も俺も頭悪いんだから」

友女「はい、はいはいっ! 私も悪いですっ!」

男友「よし、合格っ! 俺らは三人で頭悪いっ!」

友女「やったね!」ぱちっ! バチンッ!

男「何でそこでハイタッチ?」

男友「細かい事は良いんだよ。悩むより前に聞け。
 聞くより前に め。  より前に脱がせ」
友女「それは違う。えいっ」げしっ

男友「痛っ。……ま、それはともかくよ。毎日弁当
 作ってもらってる相手を、話もしないで疑ってたら
 疲れるだろうってことだ」
友女「うんうん」

男「そうだよな」

男友「おう。男は勢いが肝心だ!」

男「とりあえず、お礼をいわないとなー」

友女「プレゼント選びなら時給600円で引き受けるよっ!」

388: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 19:26:50.89 ID:bPwomnRWP
――夕刻、帰宅

ざああああぁあぁあぁぁ――。

男「うー。すげぇ降り。きちーっ」

男「家、真っ暗じゃん。許嫁さん、出かけてるのかな」

からり、とてて

男「うー、寒っ。許嫁さんいないのかな」

とてて

許嫁「――」
男「なんだ、いるじゃ……」

許嫁「――」
男(――この感じ)

395: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 19:34:10.83 ID:bPwomnRWP
許嫁「――」
男(料理……煮てる? でも、それにしては)

からり、からり

許嫁「――ちろ、――ちろ」ぶつぶつ
男(なんだ、かき混ぜてるのか? 見えないけど)

許嫁「――れて――がい」
男(あの顔……。あの、死んでいる瞳。
 ――。え? ……あれ?
 入ってないっ。あの鍋、何も入ってないっ!!)

からり、からり

許嫁「――がい――ちて――がいします」ぶつぶつ

男(どろりとして、ぐったりとした。
 なんであんな浮浪者みたいな、
 死んじゃった人みたいな表情してるんだよっ)

許嫁「――ちろ――ちちゃえ――」

からり、からり

399: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 19:40:33.90 ID:bPwomnRWP
(料理は準備と組み立てと、あとは気持ちですから)

男(そう云ってたじゃん。許嫁さんっ。
 ……その『気持ち』って、なんなんだよッ)

からり、からり

許嫁「――れて――がい」

男(洞窟の入り口みたいな瞳)

からり、からり

許嫁「――くすっ。くすくすくすっ」

男(世界の終わりみたいな笑い声)

許嫁「――堕ちて」
男「っ!」

許嫁「……男さん堕ちちゃえ」ぼそりっ

男「――っ!」がくがくがくっ

403: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 19:50:11.31 ID:bPwomnRWP
――風呂場

ざばーっ

(――くすっ。くすくすくすっ)

男「な、なんなんだ、あれ。何であんな風になるんだ」

男「……許嫁さん、だったよな。偽者じゃないよな」

男「もしかして、いつも……」

男「いつも、ああなのか?」

男「……俺が学校に言ってる間とか」

男「……」

男「なんでだよ。……おかしいだろ、そんなの」

  コンコンッ

男 ビクッ

404: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 19:54:27.50 ID:bPwomnRWP
  許嫁「男さーん。お帰りだったんですかー?」

男「あ、はい。雨に降られちゃって、
 お風呂いただいてますっ」(怖い。今話すの怖いよっ)

  許嫁「はーい、あの」

男(覗いてたの、気づかれたっ!?)

  許嫁「お出迎え出来なくてごめんなさい」しょぼん

男「そんなことっ。気にするようなことじゃないですからっ」

  許嫁「はい。あの、その代わりといってはなんですが
   美味しいご飯にしますね。今日はあさりの酒蒸しですよー」

男「はいっ」(こ、声が震える)「もうちょっとであがりますっ」

  許嫁「新しいタオル、ここに出しておきますねー」

かちゃん

男「うう……」ぶくぶくぶくっ

男「どうすればいいんだよ」

406: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 19:58:38.56 ID:bPwomnRWP
――食卓

許嫁「いかがですか? あさり」
男「美味しいですよ。はい」びくっ

許嫁「良かった」にこっ
男(ううう……)

許嫁「……こくん」
男「あの……」

許嫁「はい?」
男「許嫁さんは、普段何してるんですか?」

許嫁「はい?」
男「いえ、普通の日は、俺学校じゃないですか。
 その間、何して過ごしてるのかなーって」

許嫁「そうですねー」
男「はい……もぐ、もぐ」

許嫁「お掃除したり、お洗濯したり」
男「……」

407: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 20:04:19.45 ID:bPwomnRWP
許嫁「料理をしたり、お庭のお手入れしたり」
男「……」

許嫁「あとはごろごろしてますね。ネコと昼寝とか。
 許嫁って楽ちんなお仕事ですから、昼間は結構暇なんですよ」

男「そうですか」

許嫁「男さんは、学校とアルバイトで大変ですね」
男「いえ、そんなの自分のワガママですし」

許嫁「ふふふっ」ゆらっ
男(あれ、なんか一瞬……)

許嫁「いえ、偉いですよ。毎日お疲れ様です」にこりっ
男「……いえ」(あれ? 気のせい?)

許嫁「ご馳走様にしましょうか」
男「はい」

男「ご馳走様でした」
許嫁「お粗末さまでした。お茶を入れますね」にこっ


409: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 20:07:30.74 ID:bPwomnRWP
――学食、昼食時

男「……」

(からり、からり……)

男「なんなんだよ……」

男友「おーい、男っ。どうしたっ? あいてるのか? ここ」
男「あー、うん」

男友「よっし、席もーらいっと」がたん
男「……」

男友「食わないの? それ許嫁さんの弁当だろ?」
男「うん……」

男友「なんだ、どうした。またチキンになってるのか?」

男「そうじゃない、と思う。いや、チキンってか
 びびってるんだけど、そうじゃなくてっ」

男友「混乱してるのか?」

410: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 20:10:47.70 ID:bPwomnRWP
男「よく判らない」
男友「そっか。……きつねうどん美味っ」
男「いいな」

男友「お前のほうが良いだろう。女友なんて
 弁当作ってくれたこと、一度も無いんだぞっ」

男「食べる?」
男友「お前、食べないのか?」
男「うん……」

男友「ふーん」かぱっ
男「いいよ、食べて。もったいないし」

男友「あー。やめとくわ」
男「どうして?」

男友「わかんないのか。頭悪い以前だな、お前」
男「……?」

男友「おまえさー」
男「?」

男友「まだなんだろ? やっとけ。キスでも●●●でも」

412: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 20:15:24.56 ID:bPwomnRWP
男「そういう状況じゃないんだよ」
男友「状況待ってるからいつまでも●●なんだよ」

男「●●っていうな、●●って!」
男友「やれやれ。食堂で連呼するなよ」

男「そうじゃなくて、許嫁さんが台所で空鍋で」
男友「空鍋?」

女友「男友っ! あんたこんなとこでなにやってんの」
男友「え? うどん食ってる」

女友「今日の3時までにレポートだっていってたでしょっ。
 わたし、あんたのことずっと待ってたんだけど?」

男友「あ! そうだった! ヤバいっ!!」
女友「ほんとボケてる。男友ったら」

男友「やべっ! すぐいく。んじゃな、男っ!」
男「お、おう」

女友「ごめんね。このバカ連れてくね。またねっ!
男友「まったなー。こんど飲みいくからなーっ!」

男「がんばれよーっ」

433: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 21:21:42.01 ID:bPwomnRWP
――朝

許嫁「……さん、……さん」ゆさゆさ

男「……ぅぅ? ……ん」

許嫁「男さん? 男さん」ゆさゆさ

男「んー。……うん」

許嫁「おはようございます、朝です……けど」
男「うん。……起きる、おきます」くらっ

許嫁「やっぱり」
男「――うう」

許嫁「すごく熱いですよ。熱があるみたいです」
男「大丈夫……」

許嫁「大丈夫じゃありません。今日はお休みです。
 このまま寝ててくださいっ」

男「平気だってば……」
許嫁「だ・め・ですっ」

435: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 21:24:59.14 ID:bPwomnRWP
許嫁「おかゆを作ってきますから、動いてはダメですよ?」
男「……うん」

かたり、とてて

男(頭痛い……。こりゃ、本格的に熱でてるな……)

男(こんなに熱でたのなんて、いつぶりだろ?)

男(身体も痛いし……)

(からり、からり……)

男(何でこんな時にそんなもん思い出すんだよっ!)

男(ただの風邪だろっ。縁起でもないこと考えるなよ、俺っ)

男(だって俺には……)

男(俺には……)

437: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 21:28:33.05 ID:bPwomnRWP
男(……)

男(…………)

男「んぅ……」

許嫁「目が、覚めましたか?」

男「……ん。いま、何時?」
許嫁「まだお昼前ですよ」にこっ

男「……ごめん。寝ちゃった」
許嫁「いいんですよ。寝れば、それだけ早く治ります」

男「……ちょっと頭軽くなった」
許嫁「だめです。まだ、無理ですよ」

男「……うー」
許嫁「おかゆ、食べれます?」

男「無理そう」
許嫁「じゃぁ、桃ゼリーならいけますか?」

439: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 21:34:51.35 ID:bPwomnRWP
許嫁「はい、どうぞ」
男「自分で食べれます」
許嫁「そうですか? では、はい」にこり

男「お手数かけます」もそもそ
許嫁「飲み物も置きますね」

男「……もぐもぐ」
許嫁「……」

男「ごちそうさまです」
許嫁「いえ。……大丈夫ですか? 着替えできますか?」
男「はい……」

許嫁「えっと、では、これに」
男「はい」もそもそ

許嫁「今のうちにシーツも変えますね。
 寝苦しかったでしょう?」

男「……」こくり

441: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 21:39:02.96 ID:bPwomnRWP
ぽむぽむっ

許嫁「はい。完成ですよ。どうぞ」
男「はい……」もそもそ

許嫁「何か欲しいものはありますか?」
男「ないです」

許嫁「では、また寝てくださいね」にこり
男「あの」

許嫁「……?」

男「あの……」
許嫁「はい?」

男「ネコとお昼寝」
許嫁「今日はしませんよ? ちゃんと見張ってます」
男「――そうじゃなくて、今度お出かけしましょう」

許嫁「はい」
男(……何云ってるんだ、俺。混乱中かよっ)

許嫁「早く、元気になってくださいね」なでっ

442: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 21:43:36.46 ID:bPwomnRWP
男(なんか、頭の中、ぐらぐらする……)

男(熱のせいかな、ぼんやり……)

男(くらくら……)

  ひんやり

男(気持ちいい……なんだろ……)

許嫁「もう少し、眠ると良いですよ」

男(なんだろ、冷たくて……)

  ひんやり

男(指先? 甘い匂い……。冷たくて、優しくて……)

男(あたま、くらくらする……)

443: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 21:48:47.70 ID:bPwomnRWP
――深更

男(……身体、軽くなった。峠越えたかな)

かちゃり、とてて

男(うー。トイレに行くのがこんなにすっきりするとはねー)

とてて

許嫁「――」

男(許嫁さん……)

許嫁「――」

男(また、あんな瞳で凝視してる)

許嫁「――」
男「許嫁さん」

許嫁「……え? はいっ!? 男さん」

男「真っ暗の部屋でどうしました」
許嫁「いえ。なんでもないです」にこりっ

448: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 21:53:51.20 ID:bPwomnRWP
許嫁「それよりどうしたんですか? 大丈夫ですか?」

男「うん。大丈夫。熱下がったみたい。
 ――それに、昼寝過ぎて、寝れないですし」

許嫁「そうですか」ほっ

男「……あの」

許嫁「そうだ。では、何か食べたほうが良いですよ。
 いま、おかゆを少し作りますから。すぐ出来ます。
 お布団に入っていてくださいね」にこっ

男「ううん、熱も下がったし。ここで待ってるよ」
許嫁「仕方ないですね。お茶を出しますね」

男「ポカリ自分で出すから、平気」
許嫁「はい。すぐに作りますから」

ぱたぱた

男「……」
許嫁「卵がゆでいいかしら」ぱたぱた

449: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 21:58:30.74 ID:bPwomnRWP
――深夜の食卓

男「ごちそーさまでしたっ」

許嫁「おそまつさまでした。……ありあわせで、
 こんなものでごめんなさい」

男「いえいえ、元気でました」

許嫁「では、お部屋に戻りましょうか」
男「あんまり眠くないんですけどね」

許嫁「ほとんど丸一日寝ちゃいましたしね」
男「ですね」

許嫁「もう1回着替えたほうが良いですね」
男「シャワー浴びたいですけど」
許嫁「んー。無理はしないほうが」
男「髪の毛はぬらさないようにしますので」

許嫁「では、タオルと着替えをもって行きますね。
 温度は高めで、すぐ身体を拭くかたちで」
男「はい」

450: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 22:02:29.61 ID:bPwomnRWP
  許嫁「いかがですかー?」

男「はい、もうあがりますー」

  許嫁「タオルも着替えも準備してありますよー」

男「何から何までありがとうです」

  許嫁「いえいえ。お気使いなく」

男「でますよー」

  許嫁「はーい」

男「……っ」くるっ
許嫁「早く水気を拭かないと。はい、タオルです」

男「ど、どっ。どして」

許嫁「風邪でしょう? 目を離すのは心配です」
男「一人で出来ますからっ」

許嫁「わがままさんですねぇ」くすっ

452: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 22:08:01.90 ID:bPwomnRWP
許嫁「見ませんから、早く拭いて下さい」
男「やってますっ」

許嫁「はい、これパジャマですよ」
男「見て無いでしょうね」

許嫁「見ても良いではないですか」くすくす

男「良くないです。えーっと、心の準備が要るんです」
許嫁「わたしは準備出来てますよ?」くすっ

男「あー」
許嫁「よければ、今晩にでも」

男「……」
許嫁「まだ朝は遠いですし、ご奉仕しましょうか?」にこっ

男「許嫁さん」

許嫁「はいです?」

男「許嫁さんは、少しくらいは、その……
 俺のこと、好きな気持ち、あるんですか?」

454: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 22:12:19.74 ID:bPwomnRWP
許嫁「はい?」くすくすっ

男「……」

許嫁「男さんは不思議な事をいいますね。
 本人の意思を無視して娶わせるからこその
 許嫁でしょう? 私の気持ちの入り込む隙間など
 最初から無いんですよ?」にっこり

男(へこむな。ああ、もう。判ったよ!
 へこむよ、へこみますよ!
 好きだからへこんでるんだよっ。悪いかよっ)

男「でも、じゃぁっ」

許嫁「でも、わたしは『完璧な許嫁』ですから。
 閨ではべり、ご奉仕の夜とぎをしますよ?
 ……男さんはまだ風邪で身体が火照っていますよね?」ぴとっ

男「……っ」びきっ

許嫁「わたしのからだ……
 ひんやりして気持ちよいと思いますよ」にこり

477: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 22:58:38.21 ID:bPwomnRWP
 

男「そんなんじゃなくてっ」ぐいっ

許嫁「もうっ」

男「気持ちのほうが大事ですって」
許嫁「大事じゃないですよ」
男「大事ですっ」

許嫁「そんなの」くすくすっ 「私には必要ないんですよ」

男「――っ」
許嫁「男さん、怖い顔しちゃだめですよ」なでっ

男「ううっ」
許嫁「良いではありませんか。
 男さんは、年上は嫌いでもないのですよね?
 あんなに   なマンガ貯めてますものね」くすっ
男「それは……」

許嫁「わたしのこと、キライですか?」にこり
男「……」

478: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 23:02:12.16 ID:bPwomnRWP
許嫁「わたしはダメですか?」
男「ダメ……じゃないです」

許嫁「ですよね。時々見つめていてくださいましたもんね」にこっ
男「そうじゃなくて」

許嫁「男さんにくっつくと」ぴとっ
男「うー」

許嫁「すごくどきどきしてますよ?」
男「そりゃしますよっ」

許嫁「深夜の脱衣所で……。こうやって身体を寄せ合って……。
 微熱で身体があつーくて、いい匂いでしょう? わたし」
男「……っ」

許嫁「良いですよ?」すりすりっ
男「うぅぅっ」

許嫁「何でもいいなりになってくれる許嫁の
 柔らかぁい身体ですよ? しちゃいませんか?」にこっ

男「あああー。違くてっ!」

481: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 23:06:16.40 ID:bPwomnRWP
男「どーせバレバレだろうから云っておきますけれど
 俺は●●なんですっ。それから云っておくと、
 許嫁さんの事好きですから。めた惚れですからっ。
 引かれるくらい    妄想もしてますから。
 その辺●●ですからね、容赦ないっすからねっ」

男「でも、●●だから幻想持ってるし、
 なんかこーっ。上手く云えないですけれど
 そうじゃないのは判るんです。
 そんな風に誘われなくても、すっごい抱きしめたいですけど
 好きが無い限り絶対そっちには行きませんからねっ」

許嫁「好きになる必要なんて無いですのに」

男「必要で好きになったわけじゃありません」

許嫁「それは勘違いですよ。
 優しい言葉をかけられて
 毎日食事を用意してくれた異性だから、
 男さんは勘違いしてるんですよ」

男「勘違いのまま一生過ごすつもりですけれど何か?」

483: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 23:09:29.39 ID:bPwomnRWP
許嫁「好意なんか無くても抱けますよ」ゆらぁ

男「出来る出来ないじゃなくて、やらないんですっ」

許嫁「わがままさんですねぇ」くすっ

男(あの目だ。……どんどん死んでいく。
 腐ってゆく……。許嫁さんの内側が、どろどろと
 くずれていっちゃうっ)

許嫁「売春婦に本気になるなんて、
 男さんは困った子ですね」くすくすっ

男「許嫁さんはそんなんじゃないですっ」

許嫁「そんなのなんですよ。
 お金で買われて、あなたにあてがわれてるんですよ。
 『完璧な許嫁』として。そういう役割の存在なんです」

男「許嫁さんは綺麗です」

許嫁「身体は綺麗なままですね。
 ――でもいずれにせよ同じこと。
 気持ちも、尊厳も、権利もお金で売り買いしている。
 そういうもので、その程度の存在なんですよ?」くすくすっ

485: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 23:13:19.71 ID:bPwomnRWP
男(黒い、洞穴みたいな瞳……)

許嫁「毎日のご飯、美味しかったですか?」
男「……はい」

許嫁「お弁当、たべてくれましたよね」
男「……はい」

許嫁「さらさらのシーツは気持ちよいですか?」
男「……はい」

男(紅い三日月みたいな、唇……)

許嫁「ふわふわのタオルに、
 アイロンがけしたシャツもいいものでしょう?」
男「……はい」

許嫁「たまに腕を絡めると、鼓動が早まりますよね?」くすっ
男「……はい」ぎりっ

許嫁「わたしは『完璧な許嫁』でしょう?」にこっ
男「……」

486: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 23:16:38.82 ID:bPwomnRWP
許嫁「もっと良い事を教えてあげますね」ぎゅっ
男(甘い……じゃなくて、ぎゅって。腕の中に、するんって!?)

男「ダメですよっ。許嫁さんっ」

許嫁「このまま腕の中でいさせてくれないと、
 教えてあげませんよ?」くすっ

男「……くぅっ」

許嫁「わたしはね、真っ黒なんです」

男「……」

許嫁「汚れてるんです。重油タンカーが難破した
 海の映像を見たことがありますか?
 流れ出した黒い油は海水や泥と絡み合い、
 ねっとりした汚れとなって魚も海鳥も絡め取るんですよね。
 ――あれと同じ。
 ううん、あれよりももっと私は汚れているんです」

許嫁「朝起きたとき、何気なく庭を見たとき
 料理の支度をするとき、
 そして何より1人で部屋にいるとき。
 判るんです。
 自分がどんなに汚れているか。
 どんなに取替えがつかないほど穢れているか」

488: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 23:20:45.52 ID:bPwomnRWP
許嫁「汚れているって判りますか?
 それはね――確信です。
 手に入らないという確信。
 どんなに望んでも、綺麗なものには触れられないという確信。
 だってこの手は汚れている。
 触れれば全てのものを汚染する。
 ミダス王は黄金のそれでしたが
 私のそれは汚泥。
 黄金は悲劇でしょうが私のそれは喜劇ですよ」くすくすっ

男「……」

許嫁「だってね」

許嫁「だってわたしは妬ましいんです。
 明るくて、きらきらしている男さんが」にこっ

男「――っ」

許嫁「毎日学校にいって、バイトが忙しくて
 外の世界があって、友達がいて、喜んだり
 落ち込んだりしている男さんが羨ましくて妬ましくて
 たまらないんですよ」くすっ

491: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 23:26:31.03 ID:bPwomnRWP
男「そんな……」

許嫁「だから」すりっ
男「――っ」

許嫁「男さんにこうして身体を重ねるのが嬉しいんです」
男「え?」

許嫁「男さん、私のこと好きですか?」にこっ
男「好きですよっ」

許嫁「こんなに汚いのに?」
男「汚くなんか無いですっ」

許嫁「汚いんですよ」くすくすっ
男「そんな……」

許嫁「だから、こうして触れるたびに
 男さんが汚れていくんです。
 男さんを汚すのは楽しい。
 男さんが穢れていくのが嬉しい。
 手に入らないから。
 あのきらきらは手に入らないけれど
 男さんはこうして汚せるから」くすくすっ

496: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 23:30:02.07 ID:bPwomnRWP
許嫁「重油のように汚れた私。売られた私。
 はした金のせいで全てを買い取られた私。
 いまだって自分自身を売り渡してる私ですから……」

男「……」

許嫁「嫌いになったでしょう?」くすっ

男「へ?」

許嫁「……ふふふ」にこっ
男「……」

許嫁「満足しました。男さんを一杯汚しましたし。
 いやーな気分になる話だったでしょう?」
男「……っ」

許嫁「これ以上からかうと、湯冷めしちゃいますね。
 いまのはみんな、冗談ですよ?」くすっ

男「……」

許嫁「いらなくなったら捨ててもいいんですよ」にこっ

501: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/06(水) 23:35:09.70 ID:bPwomnRWP
許嫁「許嫁である必要があるのは私。
 男さんの側にそんな理由は無いんですからね」
男「……そんなの」

ちゅ

男「――っ」

許嫁「云ってはダメですよ。
 その言葉は。
 その言葉はまだ汚れてないんですから。
 汚れていない人のために取っておかなければ」

許嫁「そうですね。許嫁とか婚約とか――
 クーリングオフのための期間でもあります」くすっ

許嫁「つまり、正しい使い方です」

男「……」

許嫁「赦して差し上げますから。大丈夫ですよ」にこり

男「許嫁さんっ」

許嫁「おやすみなさい。暖かくしてくださいね」

ぱたん

667: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 12:47:08.35 ID:JNqgVZluP
 

――夜明け前

許嫁(着替えと、身の回りの品と……)

許嫁(公共料金の振込用紙は、ここで……)

許嫁(そうだ。歯磨きを……いいか。あれも、私のものじゃない)

許嫁 くすっ

許嫁(私のものなんて、はじめからこの家には
 何にもありはしないんですけれどね……)

(そんな……)

許嫁(……あんなに言葉に詰まって)

許嫁(男さんは、本当に子供ですね)


668: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 12:50:45.89 ID:JNqgVZluP
だから。

許嫁(だから、赦して差し上げます)

許嫁(……呆れるほど、荷物無いですね)

許嫁(無理もありませんが)

許嫁(唐突に現れて唐突に消えて。
 通り雨のようなものですから……。
 きっと男さんも見逃してくれますね)

許嫁(見逃して、忘れて)

(許嫁さんっ)

許嫁(忘れて……)

(許嫁さんっ)

許嫁(わたしも良い加減、詮方ない事を……)

670: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 12:54:52.16 ID:JNqgVZluP
――前庭

かちゃり

許嫁「えっと。戸締りも、ガスも大丈夫」

許嫁「お世話になりました。……なんて」

男「やっぱり」

許嫁「男さんっ!?」

男「絶対出て行くと思いました」

許嫁「――。
 ちがいますよ? ちょっと朝市に仕入れです。
 今朝は美味しいマッシュルームオムレツを作ります。
 ですから少しだけ留守番しててくださいね」にこっ

男「その言い訳、事前準備のものでしょ」

許嫁「違いますってば」くすくす 

許嫁「ほら、私ぜんぜん荷物もっていませんよ?
 こんなので出ていくわけないじゃないですか」

男「許嫁さん」ぐっ

673: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 13:00:58.32 ID:JNqgVZluP
許嫁「まだ朝ですよ?」にこっ

男「まだ明けてもいません。俺、許嫁さんの部屋
 見せてもらいましたから」

許嫁「はい?」

男「布団の取り入れの時ですよ。あんな部屋、無いですよ。
 幽霊が住んでる部屋じゃないですか、あんながらんとしてて」

許嫁「あははは。酷いですよ、幽霊なんて」にこにこ

男「じゃなければ、『いつ居なくなっても良い』って
 思ってる人の部屋でしょう、あれ」

許嫁「――」

男「許嫁さんは完璧主義だから」
許嫁「……」

男「あんな話をして、出ていくつもりだったんでしょう」
許嫁「違いますよ、本当に」

男「信じませんから」

許嫁「どうしたんですか? そんなに怒って
 もしかして、添い寝してもらわないと眠れないですか?」くすっ

男「はい、そうです」

676: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 13:05:01.94 ID:JNqgVZluP
許嫁「え……?」
男「添い寝してもらいます」ぐんっぐんっ

許嫁「ちょ。男さん……? あの、腕。腕痛いですっ」
男「もうちょっと辛抱してください」

許嫁「靴。ブーツ脱いで無いですっ」

男「足をつかなければいいでしょ」ひょいっ

許嫁「乱暴ですよっ。男さんっ」
男「お互い様でしょ。許嫁さんだって問答無用で
 あんな話をして、問答無用で出て行こうとしてた」

許嫁「冗談だって言ったじゃないですかっ」

男「じゃぁ、これも冗談ですからっ」

がらがらっ

許嫁「爪先でドアなんか開けて……」
男「お行儀の件は後で謝ります」

許嫁「降ろしてくださいっ」
男「はい」

ぽふっ

677: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 13:09:32.05 ID:JNqgVZluP
許嫁「きゃっ!」
男「大丈夫でしょ。ベッドですから」

許嫁「……っ」
男「手荒でごめんなさい」

許嫁「そうですか。ふふん。
 やっぱりご奉仕が良いんですか」くすっ

男「んーっと。そうなるのかなぁ」

許嫁「……良いですよ。それも勤めですから」
男「許嫁さん、脚ください」

許嫁「はい?」
男「靴脱がせますから」

許嫁「……っ」
男「編み上げブーツ、1人で脱ぐの大変でしょ」

許嫁「……うぅ」かぁっ
男「別に変な動機は無いですからねっ」

678: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 13:12:53.49 ID:JNqgVZluP
男「だいたい、ここを出てどこに行くんですか」
許嫁「出て行くつもりなんか無いって云いました」

男「行く場所なんてないんでしょ」
許嫁「……だからっ」

男「俺は汚れたりしませんからね」
許嫁「――っ」

男「だいたいあんな告白程度で俺が汚れたり
 許嫁さんが黒かったりするはず無いでしょう。
 そりゃ……。
 あんなに近くですりすりされたらですね。
 その……もにょもにょにもなりますけどね。
 ●●舐めたらダメですよ。
 妄想の中だと、あんなもんじゃ済まされませんよ。
 もう絵にも文章にもかけないほど
 けしからん事しまくりですよ。
 許嫁さんは……美人だから。
 その……。
 そういうことですよっ」

許嫁「……」

男「汚れ度で云うなら、俺のほうが汚れですからねっ」

683: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 13:19:37.95 ID:JNqgVZluP
許嫁「――」
男「それでも納得できませんか」

許嫁「……」
男「じゃぁ、ちゃんと云いますから。
 昨晩もいいますけれど。許嫁さんのことが好きです。
 お付き合いしてください」

許嫁「お付き合いしてるでしょう? 許嫁として」

男「好きになってください」

許嫁「許嫁には必要ない想いです」

男「俺が欲しいんです」
許嫁「――」

男「ただ欲しいんです」
許嫁「それは、子供の我がままですよ……」

男「ですよね。でも仕方ないでしょ。
 手段を選ぶ余裕無いんですから」

許嫁「はい?」

685: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 13:23:30.09 ID:JNqgVZluP

男「ちょっとだけでいいから好きになってください」
許嫁「ダメです」

男「じゃないと、このままベッドから出しません」

許嫁「えっと……」
男「出しません」

許嫁「朝ごはんが作れませんよ?」
男「小ネタ抜きで」

許嫁「――ふぅ。つまり、男さんは私としたいんですか?」
男「したいですけど、そういうのも抜きで」

許嫁「私が嘘をついたらどうするんですか?」
男「嘘?」

許嫁「――そうですね。私が、例えば。
 『そう』なって。おとこさんに『それ』を囁いて。
 一緒に眠って、睦言の帳を過ごして……。
 それで居なくなったらどうするんですか?」

男「寂しい気持ちですけど、ずっと待ってます」
許嫁「ずっと?」

男「ずっと」

686: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 13:30:23.49 ID:JNqgVZluP
許嫁「それじゃ騙され損じゃないですか」
男「そうかもしれないですね」

許嫁「全然脅迫になって無いですよっ」

男「そうかなぁ」

許嫁「そうですよ。男さんは私の事を誤解してます。
 わたしは私のことなんてどうだっていいんです。
 たしかにその……まだ未経験ですけれど
 守ってきたわけじゃない。
 あなたを傷つけるためなら、こんな身体幾らだって
 捧げてしまって悔いは無いですよ。
 そうでしょ?
 だって抱けば男さんは傷つくのだから」

男「そうですね」

許嫁「その後で裏切るくらい容易いですよ」

男「ですね」

許嫁「じゃぁ、なんでそんなに馬鹿なんですかっ」

男「バカに理由は無いでしょ。
 頭が悪いからバカなんですよ」

許嫁「――っ」

688: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 13:35:27.42 ID:JNqgVZluP
男「だいたい、許嫁さんだって!
 云ってることもやってることも支離滅裂じゃないですか。
 完璧な許嫁とか云って、そもそも許嫁って
 結婚をする予定の相手ですよ。
 完璧な許嫁は完璧なお嫁さんになるのが当たり前の流れでしょ。
 完璧な許嫁だから結婚できないなんてどこのトンチですかっ」

許嫁「――」

男「それに本当に本当の完璧な許嫁だったら
 どうして俺のこと振り回すような、いたぶるような
 ことばっかり云うんですか。
 じゃれてくる犬に嫌がらせするようなっ」

許嫁「自分の事を犬にたとえて惨めじゃないんですか?」

男「この二ヶ月惨め過ぎて慣れました」

許嫁「それは、男さんが余りにも苛立たしかったからです。
 云ったでしょ? 羨ましくて、妬ましいですよ。
 男さんを。傷つけたくて、汚したいんですっ」

690: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 13:38:54.56 ID:JNqgVZluP
男「だったら、あんなに手の込んだお弁当
 作ってくれなくても良いじゃないですかっ」

許嫁「――っ」

男「あんなに丁寧に。お弁当なのにおかずを何種類も。
 バカだって判りますよ。大変じゃないですか、あんなのっ」

許嫁「それは……」

男「洗濯だって、掃除だって、庭の手入れだって。
 あんなに丁寧で細やかにやる必要、無いじゃないですかっ」

許嫁「それは、だって。許嫁の務めですから。
 『完璧な許嫁』のためには、そういうのが全部必要だから」

男「それが支離滅裂なんですよ。
 好かれたいのか嫌われたいのか、バラバラじゃないですか」

許嫁「――っ。それはっ」

男「でもお生憎様です。許嫁さんは餌あげすぎです。
 もう好きになっちゃいましたからね。手遅れです」

692: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 13:44:12.44 ID:JNqgVZluP
許嫁「……泣きそうな顔で、偉そうなことを」

男「放っておいてくださいよっ。
 仕方ありません。それじゃ、取って置きの賄賂です」

許嫁「はい?」

男「許嫁さんは、一生ずっと俺のこと汚し続けて、
 傷つけ続けて良いですよ。無制限に感受します」

許嫁「……男さんって」
男「絶句しないで下さいよ」

許嫁「本当にバカなんじゃないですか?」
男「疑問形じゃなくていいです。本人が保証します」

許嫁「だって、そんな……」

男「そんな?」

許嫁「男さんに何のメリットも無いでしょう。
 そんなことになったら『完璧な許嫁』なんて放棄しますよ?
 わたしは男さんが憎いんです。羨ましいんです。妬ましいんです。
 ご飯だって作りませんし、掃除だってしてあげませんよ。
 男さんは全然得なこと無いじゃないですかっ」

男「でも、許嫁さんにして上げられることって
 他になさそうでしょ?」

693: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 13:48:59.43 ID:JNqgVZluP
許嫁「……もう」
男「――」

許嫁「男さんは、本当に我がままさんですね」くすっ
男「自覚、あります」

許嫁「おまけに忠犬みたいな人です」
男「酷い云われようだ」

許嫁「毒気が抜かれますよ」
男「すみません」

許嫁「云い付けは、良く聞かないとだめですよ?」
男「えーっと。はい」

許嫁「――仕方ありません。
 飽きるまでは、付き合ってあげます」
男「飽きるまで?」

許嫁「ええ。あなたが、私に飽きるまで」くすっ

男「ずいぶんかかりそうですね」

許嫁「私の嫌がらせが尽きるのにだって、
 同じくらいかかりますよ」くすくすっ

698: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 14:03:27.69 ID:JNqgVZluP
――朝ごはん

許嫁「はい、召し上がれ」
男「えっと」

許嫁「バタートーストと麦茶です」
男「すさまじい勢いでグレードダウンしましたね」

許嫁「ええ。そうですね」にこり

男「え~……」
許嫁「はい?」

男「そのお皿の中身はなんですか?」

許嫁「モツァレラとトマトのオムレツですよ?」
男「――」ぐー

許嫁「欲しいですか?」にこにこ
男「すごく欲しいです」

許嫁「これは、チーズがとろっとして美味しいです」

男「美味しそうです」ぐー

700: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 14:08:24.69 ID:JNqgVZluP
許嫁「では、今日も云ってみましょう」くすっ
男「うぅぅ」かぁっ

許嫁「冷えるとチーズが固まっちゃいますよ?
 このオムレツ、丁寧に優しく焼いたんですけど……」

男「……俺は許嫁さんのこと好きです」ぷいっ

許嫁「腹黒で年上で嫌がらせ好きで
 ぜーんぜん完璧には程遠くて
 根暗で陰険でやきもち焼きですよ?」

男「それでも好きなんですっ、もう、毎日降参です」

許嫁「メンヘラ気味で放置しておくと
 何をしでかすか判りませんよ、わたしは」にこにこ

男「めたくちゃ大好きですっ! 惚れちゃってますっ!!」

許嫁「はい」にこっ 「沢山召し上がれ。オレンジも切りますね」

男「なんだかなぁ。もぐもぐ」

703: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 14:12:07.49 ID:JNqgVZluP
とててて

許嫁「オレンジ切れましたよ。ちょっとバンザイしてくださいね」
男「はい?」ひょい

すとんっ

男「って、え。えっ」
許嫁「ここに居ても良いですよね?
 膝の上に横座りって憧れていたんです」

男「それって」

許嫁「嫌がらせするのには便利ですから」にこっ

男「……結局負け犬っぽい、俺」

許嫁「文句があるなら、耳たぶを噛みますよ?」
男「ありません」

許嫁「なら、ご褒美に耳たぶをはむはむして上げます」
男「……」

許嫁「気にせずお食事の続きをどうぞ」にこっ

704: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 14:15:43.85 ID:JNqgVZluP
男「許嫁さんは、本当のトコはどうなんですか」
許嫁「はい?」

男「少しくらいは、その……」
許嫁「ああ!」

男「どうなのです?」
許嫁「お預けです」
男「はい?」

許嫁「その質問は、お預けです」にこっ
男「……うー」

許嫁「最初からずっと男さんが羨ましかったですよ。
 自分に無いものを全部持っているように見えて。
 妬ましくて、苦しくて、憧れました」

男「……」

許嫁「お預けじゃ、だめですか?」うるっ

男「判りましたッ。もうっ。追求しませんよっ」

707: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 14:20:48.29 ID:JNqgVZluP
許嫁「男さんは、良い子です」なでなで
男「……男友には見せらん無いよ、もう」

許嫁「代わりに添い寝しましょうか?」
男「――え」

許嫁「あ。ふしだらな事考えましたね」くすくすっ
男「それは。その……はい」

許嫁「ネコ昼寝のお供をさせてあげるってことですよ」
男「了解です」

許嫁「がっかりしないで下さい」
男「うー。遊ばれてる感が」

許嫁「急ぐと、すぐに飽きてしまいますから」にこっ
男「そう、ですね」

許嫁「ずっと、なのですよね?」
男「お約束どおり、ずっとで」

708: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/07(木) 14:23:49.45 ID:JNqgVZluP
許嫁「……今でもいやな夢で夜中に飛び起きます」
男「――」

許嫁「だから、ちょっとだけ待っていて下さい」
男「いくらでも」

許嫁「いくらでも?」
男「いくらでも。えーっと、嫌がらせを引き受けます」

許嫁「よく出来ました」にこっ
男「良いように 教されてる気がしてしょうがないです」

許嫁「嘆かないで下さい。大事に、大事に
 自分より大事に、傷つけますから。
 こうやって触れ合っていると、安心しちゃいます。
 ね?
 ――私たちって、いま完璧です?」

男「そうですね」きょろきょろ 「完璧です」
許嫁「じゃぁ、これが」 ちゅ 「完璧なご褒美です」

男「許嫁さんは最初から、なんていうか。完璧でしたよ」
許嫁「では次の目標は、男さんのための完璧な……」

//Perfect fiance ver.M
//end of log.

引用元: 新ジャンル「完璧な許婚」