1: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 00:13:50.37 ID:c2xfPIB40
艦これSS


SFな感じで

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420816420




2: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 00:16:16.38 ID:c2xfPIB40

提督「えーと、吹雪、でいいのかな?」

提督「本日より艦隊の指揮を執ることになった。よろしく頼む」

吹雪「はい!特型駆逐艦1番艦、吹雪です。よろしくお願いします、司令官」ペコリ

提督「おお……。艦娘を実際に見るのは初めてだが、可憐だ。感動した」

吹雪「ええと…//」

提督「期待しているぞ」

提督「……ふむ。じゃあ早速だけど、建造しようかな」

提督「妖精さん。最低値で、2回、よろしく」

建造妖精A「はーい」

吹雪(結構若い司令官さんだ)

提督「戦力を揃えるために、とりあえず3隻建造してみようと思うんだが」

吹雪「はい、それで特には問題ないと思います」

提督「まあ少し過保護……もとい慎重すぎる気もするが、吹雪も1人では寂しいだろう」

吹雪「あ、いえ、でも、間宮さんもいますし」

提督「ああそうだった。挨拶に行かないとね」

3: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 00:18:14.62 ID:c2xfPIB40

―食堂―

吹雪「間宮さんはこちらにいらっしゃるかと思います」

吹雪「間宮さーん!」

間宮「はーい!」パタパタ

間宮「あ、もうこちらにいらしていたのですね!」

間宮「給糧艦間宮です。皆さんの健康を精一杯守らせていただきます」

提督「本日付で着任した。右も左もわからないが、よろしく頼む」

提督「吹雪は挨拶を済ませたのか?」

吹雪「はい! 司令官がいらっしゃる2時間ほど前に」

提督(本部で合流したわけではないのか)

提督「なるほど。これから世話になるな」

間宮「いえ、こちらこそお世話になります」ペコリ

4: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 00:19:45.39 ID:c2xfPIB40
間宮「……あら?」

建造妖精A「……」テクテク

吹雪「妖精さん! もしかして……」

建造妖精A「いっせきできたー」

建造妖精B「できた」

建造妖精C「できてしまったふかくにもー」

建造妖精D「なかなかのじんそくさ?」

建造妖精E「かいてんりつあげないとゆーざーさんがはなれるです?」

建造妖精F「すぐにらんらんになりますゆえ」

建造妖精G「めでぃあみっくすでさくしゅすればもんだいないです?」

提督(アホみたいに早いな)

提督「吹雪、早速迎えに行こうか」

吹雪「はい!」

5: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 00:21:27.64 ID:c2xfPIB40

―工廠―

響「響だよ。その活躍ぶりから不死鳥の通り名もあるよ」

提督「ほう。いかにも何かやってくれそうな感じだ」

提督「フェニックスだし」

提督「かっこいい」

提督「我が鎮守府の初建造だ。来てくれてありがとう、歓迎するよ」

響「あなたが司令官かい?」

提督「いかにも」

響「いかにも何かやってくれそうな司令官だね」ニコッ

提督(かわいいな)

提督「気分はどうだ」

響「хорошо」

提督「そうか、それは何よりだ」


6: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 00:23:45.93 ID:c2xfPIB40

吹雪「……」ウズウズ

提督「紹介しよう。こちらにいる艦娘、特型Ⅰ番艦の吹雪だ」

響「!」

吹雪「吹雪です! よろしくね、響ちゃん」

響「……吹雪、なの?」

吹雪「うん」

響「私の、暁よりも、ずっとお姉ちゃんの、吹雪……」

吹雪「……うん!」

響「なんだろう、この気持ちは。よくわからない……。でも、悪くない」

響「хорошо」

提督「……」

提督「君たちは」

提督「君たちは自分たちのことを、どう理解しているんだ?」

提督「響。君が目覚めたのは今この瞬間だと思うが、君は自分の存在について何の疑問も抱いていない?」

響「私は……」

8: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 00:25:28.82 ID:c2xfPIB40

響「私は。私たちは、艦艇。そしてなぜか今、ヒトの姿をとり、あなたたちと話している」

響「でもそこに疑問を深くは感じないよ」

響「私は覚えてる。私はかつて響と呼ばれる船から、世界を見ていた」

響「私は生身で鏡を見たことがないからわからないけれど、多分その時も私はこの姿をしていたんだ」

響「誰もこの私を見ることはできないけれど、でも私は他ならない“響”だったから」

響「そしてみんなは私のことを船として見ていてくれたから」

響「だから何も怖くはなかった」

響「それだけだよ」

提督「……そうか」

提督「吹雪はどうだ?」

吹雪「そ、そうですね……」

9: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 00:27:43.71 ID:c2xfPIB40

吹雪「私には難しいことはわかりませんが、この姿にはあまり違和感がありません」

吹雪「響ちゃんの言う通り、もともとこんな感じだったような気がします」

提督「ふむ。なかなか興味深いね」

提督「いや、すまなかった! なんだか辛気臭い話になってしまって」

提督「私も、艦娘という存在がいまいちよくわからなくて、つい問うてしまっただけだ。あまり思い詰めないでくれ」

吹雪「いえ、私はぜんぜん大丈夫です……けど」

響「司令官。私はこういう話、好きだよ」~♪

吹雪(意外とおしゃべり、好きなのかなぁ?)

提督(ちょっとキャラが掴めたな)


10: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 00:29:12.62 ID:c2xfPIB40

―司令室―

提督「さて」

提督「吹雪は本部の方から色々説明を受けているとは思うが、今一度改めて私の方から話をさせてくれ」

提督「君たちは自分たちを“20世紀前半に造られた船である”と認識している。ここに間違いはないね」

響・吹雪「「はい」」

提督「だがここは2XXX年だ。君たちは妖精と呼ばれる超常的な存在者の力を借りて、再びこの世界に造られた」

提督「ヒトと交流する術も共に持ち合わせて」

提督「理由は勿論、戦うためだ」

提督「……今、海は深海棲艦と呼ばれる謎の存在によって支配されている」

提督「それに対抗する手段として、君たち艦娘がその先陣を切ることになる」

提督「そして君たちに指示を下す司令官がこの私だ」

提督「一応士官学校は出ているが、まああんなものに意味があるのかどうかはよくわからんな」

提督「頼りないかもしれないが、人類のために力を尽くさせてもらう」

提督「よろしく頼む」

響・吹雪「「よろしくお願いします!!」」

11: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 00:30:59.21 ID:c2xfPIB40

響「ところで司令官」

提督「なんだい響くん」

響「そんなに士官学校は、その、しょぼかったのかい?」

吹雪(響ちゃん早速先陣切ってるよ)

提督「んー……」

響「私の記憶にある士官学校はあらゆる意味で生易しいものではなかったと思うのだけれど」

提督「確かに。参照可能な資料を見る限り、20世紀における士官学校はそうした形態をとっていたのかもな」

提督「別に現代の士官学校がとりわけ厳しくなかったというわけでもないのだが……」

提督「何より致命的だったのは、私は士官学校を卒業しても提督になれなかった」

吹雪「えっ!? じゃあここに着任するまでは何をされていたんですか?」

提督「何というか、林業? 営林署で木を切ってた。ギーコギーコ」

響「じゃあ司令官は成績がよくなかったけど、海軍の人手不足から転職して中途採用されたんだね」

吹雪「!?」

吹雪「ちょ、響ちゃん!?」

提督「まあまあまあ。実際そんな感じだし。私は特に気にしてないよあはは!」

吹雪(大丈夫かな、この人が司令官で……)ダウーン

12: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 00:33:43.68 ID:c2xfPIB40

―工廠―

提督「んで」

那珂「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー☆」

吹雪「よ、よろしくお願いします!」

提督(なぜアイドルなんだ……)

提督「なんかこう、駆逐艦とか軽巡洋艦だとか、なんかないのか?」

那珂「軽巡洋艦のアイドル、那珂ちゃんだよー☆」

提督「そうか、結局アイドルなのか」

那珂「うん、よっろしくぅ~!」

提督「なら●●●しないのか」

吹雪・響「!?」

那珂「!?」

吹雪「し、司令官……?」

響(司令官はアイドルが●●●しないと思っているのか)

吹雪「(さ、さすがにセクハラになるんじゃ?)」

提督「(まあ聴け吹雪。彼女には真面目に仕事をしてもらいたい)」

提督「(ということで少し真面目になってもらう。矯正する。 教する)」

13: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 00:36:52.36 ID:c2xfPIB40

提督「で、どうなんだ?」

那珂「な、那珂ちゃんはー、あ、アイドルなんだから、し、しないもん……」フルエゴエ

提督「おお、それでこそトップアイドル。アイドルの鑑。さしずめアイドルマスターと言ったところか」

提督「今日はそんな那珂ちゃんの進水を祝って豪勢な食事にしよう!」

那珂「あ、あの~、お気遣いなく」ヒヤアセダラダラ

提督「どうした那珂ちゃん? 元気ないぞ、そんなんじゃダメだ」

提督「でもたくさん食べれば、元気が出るぞ」

提督「●●●は出ないが」

那珂「……て、提督」ガクブル

提督「なんだ?」

那珂「私、軽巡洋艦那珂は、本日を以ってアイドルを卒業します……」

提督「そうか、残念だ」

提督「那珂ちゃんの人間宣言だな!」

響(これは酷い)

吹雪(アイドルって人間じゃないんだ……)

提督(ちょっと遊b……いじめすぎたか)

14: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 00:39:36.22 ID:c2xfPIB40

提督「悪かった悪かった! 食堂に行って間宮さんから羊羹でももらってきなさい」

那珂「はい、いただきます……」トボトボ

提督「ふむ」

提督「しかしまあ“アイドル”という概念自体、随分付加的だな」

提督「まさか艦艇として造られた段階からアイドルとしての自覚を持っていたわけでもあるまい?」

吹雪「そのはずですが……」

提督(……じゃあそれは一体いつどの段階でどのようにして差し込まれた認識だ?)

提督(そこに何か艦娘の起源についての秘密があるのかもしれない)

提督(いいヒントをもらった)

響「司令官。いい顔をしているね」

提督「そうか? ありがとう」

27: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 20:37:03.56 ID:c2xfPIB40


提督「そして君たちはよくもこうぽいぽいと艦娘を造れるもんだ」

提督「なあ?」

建造妖精C「オゥッ!?」

提督(なんかさっきと印象が違うな)

提督「妖精さん、どうやって艦娘を造っているんですか?」

建造妖精L「あー」

建造妖精A「たたむー」

建造妖精N「ここたたむー」

建造妖精N「ここまがるー」

建造妖精A「ぶっこぬきー」

提督「わけがわからないよ」

建造妖精D「んー……」テクテク

提督「はぐらかされてしまった」

吹雪「でも、かわいいですよね」

響「……」コクコク

提督「一理あるな」

28: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 20:39:46.13 ID:c2xfPIB40

提督「まだ3隻目の建造まで時間がありそうだな」

提督「ちょっと鎮守府を散歩してみるか」

提督「吹雪、案内してみてくれ」

吹雪「はい、お任せください! 司令官」

―――
――


響「広い……」

提督「へぇ。武道場なんて用意されているのか」

提督(対人戦闘が想定されているのだろうか? 或いはただ何となく妖精が建ててみただけか)

吹雪「静かで落ち着きますね」

提督「きっとこれからもっと賑やかになるぞ」

―――
――


29: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 20:42:20.65 ID:c2xfPIB40

提督「ここが倉庫か」

吹雪「定期的に本部から資源が輸送されてくるみたいです」

提督「ああ。一応前もって聞いているよ」

―――
――


吹雪「どうでした司令官?」

提督「特に軍港として目新しいものはなかったが、実物を見るのは大事なことだ」

提督「いい所だと思う。ありがとう、吹雪」

吹雪「えへへ///」

提督「さてそろそろ最後の1人を迎えに行くか」

30: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 20:44:44.31 ID:c2xfPIB40

―工廠―

天龍「オレの名は天龍。フフフ、怖いか?」

提督「ああ、怖いな」シレッ

天龍「フフッ、ま、仕方ねぇなぁ~」

提督(何だコイツかわいいな)

吹雪「……か」

提督「か?」

吹雪「かっこいい~~~!!!」

天龍「お、おぅ……。ありがとよ///」

天龍「……ん?」

31: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 20:46:29.13 ID:c2xfPIB40

響「……」

天龍「おー? なんだなんだ? この天龍様が怖くて声も出なくなっちゃったかなお嬢さん?」

響「……」ギロ

天龍「」

天龍(えーなにこの娘ちょー怖い堪忍してつかぁさい……)

響「……」フッ

響「……」ニコッ

天龍「……か」

提督「か?」

天龍(かわええ~~~!!! だ、抱きしめたい! いや、だがしかし……)

天龍「フッ、この俺としたことがな……」ドキドキ

提督「(厨二病かな? 眼帯してるし)」

吹雪「(ですかねぇ?)」

32: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 20:48:36.10 ID:c2xfPIB40

―司令室―

提督「さてさて」

提督「現在我々の鎮守府は資源がたくさん蓄えられていると言える状況ではないのだが」

提督「遠征より先にまず実戦にあたってもらおうと思う」

提督「前もって演習を行うということも考えたが、実戦と演習は異なるし、実戦が想定されなければ演習する意味もない」

提督「また仮に実戦のための充分な演習を行うにしても、どこまでで充分かなどと判断がつくはずもない」

提督「過剰なリスクヘッジは作戦全体の進行を妨げることになる」

提督「そして何より」

提督「君たちは対話できる軍艦だ」

提督「君たちの容姿はやや幼く感じないわけではないが、私はそのことによって君たちの能力を判断したりはしない」

提督「ましてや子ども扱いするつもりもない」

提督「だから私は君たちの言葉を信じる。そしてその覚悟と力の程を実戦で私に示してもらいたいと思う」

33: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 20:50:40.19 ID:c2xfPIB40

提督「勿論連携や練度の部分で不足はあるかもしれないが、そういった部分は追々私と一緒に詰めていけばいい」

提督「鎮守府周辺海域は敵艦も少ないし、大事には至らないだろう」

提督「ひとまず、今の君たちにできることを精一杯、私に見せてくれ。今日に関しては危険があれば必ず撤退命令を出す」

提督「今回の作戦は鎮守府正面海域の制海権奪取だ」

提督「尤も、“奪取”と大仰に言うほどのことでもないが。深海棲艦はもともとこのあたりに強い影響力を持たない」

提督「また以前、ここから少し離れた場所で他の鎮守府との限定的な大規模戦闘があったようだが、その影響も特に窺えない」

提督「しかしくれぐれも油断はしないように」

提督「並びに、深海棲艦との戦闘後には艦娘を拾うことがあるらしい」

提督「これはまあなんというか、拾ってあげてくれ」

提督「第1艦隊旗艦は吹雪。以下、響、那珂、殿は天龍」

提督「交戦陣形は旗艦に判断を一任。敵艦影発見の通達と同時に無線封鎖は解除するものとする」

提督「封鎖解除以降は可能な限り、量子通信網を用いて戦況を直観的にモニタリング(DM)する」

提督「DMのリンク対象ノードは吹雪。モニターに基づき必要に応じて全体に音声指示を出す。」

提督「説明は以上。何か質問は?」

一同「……」

提督「いいな。1300、これより作戦を開始する!」

34: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 20:52:07.88 ID:c2xfPIB40

―母港-無線―

提督『どうだみんな。緊張しているか?』

吹雪「はい、少しだけ……」

那珂「私は大丈夫ですよ?」

響「問題ないな」

天龍「お、それじゃあ緊張してるのは吹雪だけってことか?」ニシシ

吹雪「え、そ、そんなぁ~」

吹雪「航行はともかく、ヒトの姿で海を滑るだなんて、私経験ありませんよ!?」

提督『いや、それに関してはみんな経験ないし、身体が覚えているらしいから大丈夫なはずだ』

提督『ほら、吹雪が先頭なんだから、早く行った行った』

吹雪「はぁい」

提督『残り3人も船間距離を意識して順次出撃せよ』

一同「了解!」

提督(さて、いよいよだ)

35: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 20:59:25.86 ID:c2xfPIB40

提督『各艦、常態のまま両舷原速で航行。船間距離に注意しながら隊列を整えよ』

吹雪「……基本陣形の展開を確認」

提督『よし。艤装展開! 艦船形態へと移行せよ!』

吹雪「了解。艦船形態へと移行」


海がまばゆい光に包まれる。
彼女たちの肉体に折り畳まれた超々高密度の情報が発露し、それが周囲に展開される。
船体はあらゆる物理の地平を超えて、瞬く間に構成されていくのだ。
かつて船だった“それら”は人の形を得、そして今再び船として顕現する。


提督『移行を確認した』

提督「……それが君たちの本当の姿か」

提督(壮観だな)

提督『これより無線は封鎖とする。深海棲艦との接触が予想されるポイントまで警戒を怠らず航行せよ』

―――
――


36: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/10(土) 21:02:25.94 ID:c2xfPIB40



『Direct Monitoring(DM)』

 DMとは、特定の内観を直接データとして抽出し、別の内観に対してそれを反映させる技術である。

艦娘の感性的直観の全般は人類(Homo sapiens sapiens)とは完全に合致しないことが予想されるため、

抽出データは視覚情報、聴覚情報のみに限定される。とりわけ触覚情報に関しては再現が困難である

ためこれを反映しない。なぜなら艦娘は、自身の船体状況を感覚的に瞬時に把握する能力を持つが、

その感覚を人類の感性直観に当てはめることが出来ないからである。本来であればこうした直観の

違和は研究によってここまで厳密に定義すること自体難しいが、それがひとえに可能になるのは

艦娘が言語能力を有し、かつ艦娘の直観全体の一部があくまで人類に準拠しているからであると言えよう。

したがって、艦娘の報告する船体の記述は人類の直観と合致するという意味で充分に客観的情報だが、

その情報を艦娘が取得する際、その情報が“艦娘にはどのように現われるのか”ということに関して

人類はおよそ問題を問い得ない。



・Reference
Nagel, Thomas. "What is it like to be a bat?"1974

41: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/11(日) 18:42:11.78 ID:OT3hKZMZ0

吹雪(こうして海を眺めるのもいつ以来だろう)

吹雪(かつても私は戦争に参加したけど、昔と今では何かが違う)

吹雪(いや本当は何もかも違うはずなんだ)

吹雪(私は現に今、乗組員なしでこの船を操縦している)

吹雪(他ならない、私自身の意志で)

吹雪(こんなこと、やったこともないのに)

吹雪(響ちゃんの言った通り、そこに何の違和感もない)

吹雪(それに敵も何だかよくわからない)

吹雪(深海棲艦……一体何なんだろう)

吹雪(敵はやっぱり……ヒト、なの?)

42: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/11(日) 18:44:12.90 ID:OT3hKZMZ0

吹雪(!)

吹雪(発光信号……)

天龍『そろそろ戦闘海域だぜ』

吹雪「はい、このまま単縦陣でいきましょう」

吹雪「戦闘を開始します」

―――
――


吹雪「敵艦見ゆ! 駆逐艦1。他、敵影なし。データベース(DB)参照の結果、イ級との判定。取舵20!」

響「主砲発砲準備完了。てぇー!!!」ドドーン!

那珂「着弾確認、目標中破」

提督(初戦でここまで正確に当ててくるか。判断も早い。まぐれか? いや……)

那珂「敵艦主砲発砲! 回避!」

ザバーン!

43: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/11(日) 18:47:11.20 ID:OT3hKZMZ0

天龍「大丈夫かっ!?」

那珂「被害ゼロです。てー!!」ドドドーン

那珂「は、はずれた……」

天龍「仕方ねぇなあ。オラオラ!!」ドドーン

吹雪「着弾を確認。目標沈黙。駆逐艦イ級の撃沈を確認しました」

提督(……なるほどね)

提督『ご苦労。みんなよくやった。拾得艦(ドロップ)はどうだ』

吹雪「なんか……敵艦が光に包まれて消えてなくなった後に、何か、何か浮かんでます」

提督(あれか……)

提督『那珂。常態に移行して回収してくれ』

那珂「了解!」

44: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/11(日) 18:48:54.94 ID:OT3hKZMZ0

那珂(ヒト……? 艤装があるから艦娘、だよね)

那珂「もしもーし! 起きてくださーい!」

??「……」

那珂(ひっ!)

那珂(……し、死んでる……)

那珂(……)

那珂(って、んなわけあるかぁー!!)

那珂(かわいい娘だ)

提督『何か不埒なことを考えてないか?』

那珂「うっわぁ!! 急に話しかけないでください! 心臓が出ます! 口から!」

提督『那珂ちゃんはいろんなものが溢れ出るな』ハッハッハ

那珂「う る さ い !」

那珂「もう……。とりあえず担ぎましたので、このまま艦船形態に移行して格納しちゃいます」

提督『ありがとう。頼んだぞ』

45: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/11(日) 18:51:36.19 ID:OT3hKZMZ0

提督『第一艦隊全艦に伝える。被害ゼロのこの状況につき、進撃する』

天龍「よっしゃぁ!!」

提督『天龍、話は最後まで聞け。死ぬぞ』

天龍「わ、悪い……」

提督『みんな本当によく動けている。私の指示なしであれだけ動けるなら戦闘を任せても全く問題ない思うが』

提督『次の戦闘では試しに指示を出してみる。よろしく頼む』

提督『今回は偵察艦だったが、次は現在この辺りを巡洋している主力が出てくるはず』

提督『引き続き気を引き締めて当たってくれ』

一同「了解!!」

―――
――


46: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/11(日) 18:53:59.66 ID:OT3hKZMZ0

吹雪「敵艦隊見ゆ! k」

提督『目標11時! 全艦面舵15! 響!』

響「発射準備完了。てぇー!!!」ドドーン

提督『先頭から順にホ級ハ級ロ級ロ級の3隻。ロ級の中破を確認。ホ級から攻撃、回避運動!』

ザバーン!

吹雪「大丈夫です。当たってー!!!」ドドーン

提督『ロ級中破。天龍!』

天龍「うっしゃぁっ! 天龍様の攻撃だ!」ドドーン

提督『ロ級2隻からの砲撃! かわせ!』

ザバーン!

47: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/11(日) 18:55:46.44 ID:OT3hKZMZ0

響「ロ級1隻撃沈」

提督『……那珂、3門目右1度仰角-1度で補正』

那珂「!? はい!」

提督『発砲合図は私が送る。左舷全斉射……』

提督『てぇー!!!!』

那珂「てー!!!」ドドドーン

響「ハ級大破炎上」

提督『雷撃に移れ。全艦発射!』

提督『!? 天龍!』

天龍「雷跡! くっ、避け切れない! ぐうっ!」ドカーン!

吹雪「天龍さん!?」

天龍「だ、大丈夫だ。中破だ」

提督(あれで中破だと? 何かあるな)

48: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/11(日) 18:56:54.95 ID:OT3hKZMZ0

響「3発の命中を確認。ホ級ハ級ロ級、共に撃沈です」

吹雪「やった、終わった。やりました司令官!」

提督『ああ、みんなよく頑張ったな。しかし祝勝は後だ。ドロップを確保し迅速に撤退するぞ。吹雪』

吹雪「はい!」

ホ級の撃沈地点に吹雪が近づくと、彼女を光が覆った。
光は徐々にその半径を殺がれ、最終的に甲板の上に収束していく。
吹雪は限定的に甲板に自身の常態を顕現させ
新たなる艦娘を出迎えた。










那珂β「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよ~! よっろしくぅ~☆」





一同「……」

提督『あー。こりゃまた』

提督は問題が山積みになっていくのを感じた。

54: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/12(月) 21:33:39.81 ID:zvBy/iwb0

―母港―

吹雪「作戦が完了しました」

提督「みんなお疲れ様」

一同「お疲れ様です!」

提督「早速みんなを労ってやりたいんだが、色々やりたいことが出来てしまってなぁ」

提督「とりあえず天龍以外は司令室で待機していてくれないか? あまり待たせはしないよ」

一同「了解です」

提督「さて」

天龍「なんだよ。ひとりだけ中破しちまった説教か?」

提督「いや、そんなことはどうでもいい」

提督「お前のありのままの姿を見てみたくなった」

天龍「!?」

一同「!?」

55: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/12(月) 21:36:43.26 ID:zvBy/iwb0

吹雪「し、司令官!?」

那珂「提督もなかなかやりますね~」ウリウリ

天龍「ちょ、まっ/// その、心の準備が……////」

響「天龍も満更でもないんだね」ニヤ

提督「あーお前らうるさい。いいから、天龍は早くドックに入れ」

那珂「キャー!!!」

天龍「お、おう……//」

提督「ほら、帰った帰った」

那珂「後でどうなったか、聞かせてもらうからね提督!」

提督「ああ、いくらでも話してやる」

天龍「それは……その。……困る」

提督「ほら行くぞ」

56: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/12(月) 21:39:13.14 ID:zvBy/iwb0

―入渠ドック―

提督(艤装はともかくやはり衣服も装甲として拡大解釈されているのか)

提督(この目で見るまでは信じられなかったが……)

提督(アレも妖精が創っているのだから、当然か)

提督「天龍」

天龍「ひ、ひゃい!」

提督「とりあえず艦船形態に移行してほしい。船体を見せてもらう」

天龍「え、あ、はい」

天龍「……」

天龍(いや、それはそれで恥ずかしいな)

57: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/12(月) 21:41:02.89 ID:zvBy/iwb0

提督「入るぞ、天龍」

天龍「あ、うん……」

天龍「ッ!」

提督「ちょっと狭いな」

天龍「しょうがねぇだろ……」

提督「でも、あたたかい」

天龍「う」

天龍「あんまり見られると、恥ずかしいって……」

提督「綺麗だと思うが?」

提督「ここ、動かすぞ」

天龍「あっ……! そ、そこは、さっきのでぐちゃぐちゃになっちゃってて……!」

天龍「だから、提督、ダメ――!」

58: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/12(月) 21:43:08.94 ID:zvBy/iwb0

ガチャ

提督「……」

天龍「……ぁぅ」

提督(……この区画、おそらくは元々存在していたものではないのだろうな)

提督(というよりもむしろ、“このような区分のされ方ではなかった”と言った方が適切か)

提督(兵装等危険物が着弾箇所から排除されている。着弾の直前に船体構造を自律的に、無意識に組み替えたのか)

提督(これだけの芸当をやってのけるなら機能的にそう簡単には沈むまい)

提督(最悪、火力を殺いででも航行を維持するなら中破でも進撃は可能か)

提督(大したダメージコントロールだ)

提督「びしょ濡れだな。妖精さんに綺麗にしてもらえ」

提督「色々と参考になった。ありがとう」

ガチャ

天龍「い、いや。それは別にいいけどよ……」

59: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/12(月) 21:45:13.99 ID:zvBy/iwb0

提督「手間をとらせて済まなかった。これより天龍は入渠。船体を修理する」

天龍「! お、おい! オレを戦線離脱させるな! 死ぬまで戦わせろよ!」

天龍「提督!!」

提督「落ち着けよ」

天龍「……」

提督「別に私はお前の矜持を踏みにじるつもりはない」

天龍「ならっ!」

提督「だがな天龍。想像してみろ」

提督「お前が大破した状態で進撃し、お前が撃沈する代わりに目の前の敵を殲滅出来たと仮定しよう」

提督「これをどう感じる?」

天龍「最高の死に様だな」

提督「ああ、そうだな。そうかもしれない」

天龍「

提督「だがそれで戦争が終わるわけじゃない」

天龍「っ!!」

60: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/12(月) 21:47:33.50 ID:zvBy/iwb0

提督「とりあえず戦術の話をしておこう」

提督「この戦いがいつ終わるかはわからない。長い戦いだ」

提督「天龍、“お前”が沈んだしたとしても“別の天龍”はいる」

提督「だがお前が培ってきた練度はタダじゃない。その分は無駄になる」

提督「当然、長い目で見ればたとえその戦闘で勝てたとしても非効率的だと言わざるを得ない」

提督「だから私がお前を撃沈させてもいいと判断出来る状況は、戦争に勝利出来ると確信した時だ」

提督「或いはお前を犠牲にしてでも、人類に利すると判断した際には」

提督「大破でも進撃させるよ」

提督「それが提督としての私の立場であり、私の為すべきことだ」

提督「私が預かっているのは、何もお前たちの命だけではない」

提督「だがそれは私だけではなく、お前たちにも言えることだと思う」

提督「違うか?」

天龍「……」

提督「死に場所なら私が用意してやるから安心しろ」

天龍「わかったよ……」

61: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/12(月) 21:50:04.65 ID:zvBy/iwb0

提督「天龍が魂を懸けて戦ってくれているということはわかる」

提督「お前たちはその戦争の最前線に立つ戦いの道具であり、駒だ」

提督「でも私は、上官ではあるがお前たちのことを戦友だと思っている」

天龍「!」

提督「結局戦争の道具なんてのは、私に関しても同じことが言える」

提督「鎮守府は沖よりは安全だが内地よりは、……危険な場所だ」

提督「敵が襲ってきた時には陸にいる人々を守るために、私も命懸けで戦うことになるだろう」

提督「だから」

提督「これからも頼んだぞ」

天龍「……」

天龍(まったく。敵わねぇなぁ)

62: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/12(月) 21:51:57.53 ID:zvBy/iwb0

―司令室―

提督「待たせたな」

提督「戦果報告はいいだろう。私が直接モニターしていたし」

提督「今回の反省点だが」

提督「まず我々の艦隊にはまだ戦艦、空母が進水していない。水上機開発もまだだ。ゆえに索敵範囲には大きく制限がかかる」

提督「敵泊地打撃作戦とかならまた話は別だが、基本的に敵艦影を発見したらこちらも発見されたと思え」

提督「それから報告の正確さも重要だが迅速さも必要だ。目まぐるしく変わる戦況に応じて報告・指揮に優先順位をつけろ」

提督「いいな、吹雪?」

吹雪「はい!」

提督「響は吹雪の指示にも私の指示にもよく動いてくれていた。次に何をすべきか見えているな」

提督「今日のMVPだ」ナデナデ

響「……Спасибо」

提督「まあそんなところか。この調子でこれからも頑張っていこう。戦闘に関しては以上だ」

提督「吹雪、拾得艦を呼んできてくれ」

吹雪「はい、ただいま」

63: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/12(月) 21:53:34.32 ID:zvBy/iwb0

夕立「こんにちは、白露型駆逐艦の4番艦、夕立よ。よろしくね!」

夕立「……ここは?」

提督「今日からここが君のホームだ。私はここで提督をしている」

夕立「あなたが、提督さん……?」

提督「ああ」

提督「我々は現在“深海棲艦”と呼ばれる艦隊と戦っている」

提督「先程彼らとの初戦を迎えたのだが、そこで君を、まあ文字通り拾った」

提督「こちらもわからないことだらけだが、仲間になってくれるか?」

夕立「……」

夕立「うん、いいよ!」

提督「ありがとう夕立。これからよろしく」

64: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/12(月) 21:55:31.27 ID:zvBy/iwb0

提督「さて、もうひとりか」

那珂β「んー? 何かなー?」

提督(頭が痛い……)

提督「君は川内型3番艦、那珂で間違いないね」

那珂β「うん、艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよ?」

提督「実はここにも那珂がいてな……」

那珂「那珂です」

那珂β「お? おお~????」

那珂β「那珂ちゃんがふたり!!!!」

響「司令官、またアレをやるのかい?」ワクワク

提督「いや、もうアレはいい。疲れた」

那珂「え」

提督「新しい方の那珂ちゃんは別室待機だ」

那珂β「えーつまんなーい。早くお仕事くださいよ提督!」

提督(ツッコミを入れる気力もない)

65: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/12(月) 21:57:13.41 ID:zvBy/iwb0

提督「那珂は行ったか」

吹雪「はい」

提督「吹雪、建造と拾得の資料を」

吹雪「こちらです」

提督「ありがとう。どれどれ……」

提督(この資料は正直真面目に読んでなかったな)

提督(同型艦ではなく、同一艦、か? あれはどう定義したらいいんだまったく)

提督(同じ艦船、同じ身体、同じ人格)

提督(再現可能であるということは元の情報がどこかにあるということか?)

提督「……」

夕立「提督さん、お困りっぽい?」

響「どうやらそのようだね」

66: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/12(月) 21:58:42.86 ID:zvBy/iwb0



『建造』

 艦娘建造には燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイト、開発資材の5つの資源を必要とする。逆に言えば妖精は

この5つの材料のみから艦娘を完全に構成する。その構成原理は不明。投入資材量のバランスによって

構成される艦種の確率分布をある程度コントロールすることが出来るが、実際に構成される船は完全に

ランダムである。



『拾得艦(Drop)』

 深海棲艦との戦闘後、当該の戦闘地点において一定確率で艦娘が構成されることがある。こうして拾い上げる船を

拾得艦と呼ぶ。構成原理は建造と同様に不明。

67: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/12(月) 22:01:04.12 ID:zvBy/iwb0



『重複艦』

 艦娘を入手する主な手段は2通りであるが、入手に際して艦娘が重複することがある。同じ艦娘を同一艦隊に

配属させることは指揮系統に深刻な問題を発生させる原因となるため、これを禁じる。また、複数の同一艦を鎮守府に

待機させること自体は可能だが、作戦の効率や居住キャパシティの問題から推奨されない。したがって、

重複艦は処分するのが一般的である。処分には解体と改修の2つの方法がある。解体は、艦娘の身体データと

人格データのみをサルベージし、他の情報を還元可能な分だけ資源に分解する。改修は、解体によって資源となる情報を

直接他の艦娘の強化に充てるものである。いずれも作業工程は妖精が請け負い、分離した身体は本部が回収を行う。

並びに、艦娘に対する事前報告の義務は定義されていないため、多くの場合凍結処理(昏睡)を行った後に

解体・改修のフェーズに移行する。加えて、指揮官の任意によって事前に同意を確認し処理後の記憶処置について

艦娘の希望を問うことも可能だが、処理の迅速さの見地から推奨されない。凍結処理後に解体・改修を行った場合、

艦娘は艦娘としての記憶を消去され、一般市民としての生活を送ることになる。

指揮官は艦娘に対していつでも凍結処理を行える。また同時に、いつでも解凍処理(起動)を行うことも出来る。

71: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/13(火) 18:39:38.60 ID:Bq2WB7EL0

提督「……」

提督(この資料は最も核心的な部分だけすべて、にべもなく“不明”とある)

提督(どの程度かはわからないが本部が伏せている情報は間違いなくある)

提督(しかしわからないことだらけだ)

提督「みんなは重複艦について、どう思う?」

那珂「どうって……」

吹雪「うーん……」

響「私は、別に何とも思わないけど」

吹雪「響ちゃん……」

響「私の分身が現われても、私自身が“どれが私だっけ?”なんて迷ったりするわけでもないし」

響「その新しい響が“響”としての記憶、私と同じ記憶を持っていたとしても」

響「彼女は私にはなりえないんじゃないかな?」

提督「……」

夕立「夕立には難しい話っぽい」

72: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/13(火) 18:40:37.26 ID:Bq2WB7EL0

提督「うん、やめよう」

響「司令官?」

提督「難しいことを考えるのはやめよう」

提督「結局はあるがままを受け入れるしかないじゃないか」

那珂「……まあ、確かにねー」

吹雪「そう、ですね」

提督「だから、あまり深く考えるな。そして、できることからやっていこう」

提督「とりあえず新しい方の那珂ちゃん……呼びにくいな」

提督「那珂βちゃん」

提督「……の件は保留だ。別に彼女がいても鎮守府が賑やかになるくらいで居住スペースも充分だし問題ないからな」

提督(いざとなったら凍結して改修か)

73: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/13(火) 18:42:16.78 ID:Bq2WB7EL0

提督「ところで実はみんなが出撃している間に任務申請をしておいた」

提督「明日には新しい船が1隻、着任しているだろう」

提督「今日はもう色々あって疲れたな。休もう。ひとまず解散だ」

吹雪「司令官、お仕事は大丈夫ですか?」

提督「そういえば秘書艦を決めてなかったな……。だがまあ今日はいい。これくらい、大したことない」

提督「吹雪には旗艦を任せたし、今日はゆっくりするといい」

吹雪「……わかりました。お疲れ様です! お先に失礼します」

提督「ああ、お疲れ様」

夕立「提督さん! 夕立、ここに来たばかりで、右も左もわからないから……」

提督「ああそうか。そうだな。それだったら――」

響「司令官が鎮守府を案内するといいんじゃないかな?」

夕立「あ! それいいかも~。提督さん、お願い!」

提督「」

夕立「……」ウルウル

提督「わかったわかった!」

響「……」~♪

提督(響め……。司令官も忙しいな)

74: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/13(火) 18:43:36.08 ID:Bq2WB7EL0

提督「鎮守府を案内する前に、見ていくか?」

夕立「うん?」

提督「今日の戦闘記録だ」

夕立「見る見る!」

提督「これが深海棲艦だ」

夕立「わあ……」

夕立「……」

夕立「夕立もこれから、この船たちと戦うんだね」

提督「怖いか?」

75: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/13(火) 18:45:22.55 ID:Bq2WB7EL0

夕立「ううん……」

夕立「みんながいるから、大丈夫」

提督「そういえば那珂とは……」

夕立「うん、第二艦隊、第四水雷戦隊だね」

夕立「さっきちょっと挨拶してきた」

夕立「なんだか、不思議な感じだったよ」

提督「そうか」

夕立「ほらほら提督さん? 早くまわろー?」

提督「ああ、そうだな」

提督(……気を遣わせてしまったか?)

76: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/13(火) 18:46:34.36 ID:Bq2WB7EL0

提督「ここは司令室。作戦の告知や事務を行う。仮眠室は隣にある」

提督「私の居室はこの廊下の奥になる」

夕立「んー! 夕立、突撃するっぽい!」ガチャ

提督「こらこら」

夕立「ここが提督さんのお部屋? なんだか地味っぽーい」

提督「……」ガックシ

夕立「提督さん、次行きましょう?」~♪

提督(自由だなぁ)

提督「楽しいかい?」

夕立「うん、とっても!」ニコッ

提督「まったく」

提督(でも、かわいいな)

77: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/13(火) 18:48:26.79 ID:Bq2WB7EL0

―――
――


提督「この階は艦娘の居室がある。もう一度訪れてるからわかるかもしれないが」

夕立「ここは大丈夫っぽい」

提督「洗面所、風呂も同じ階にある。使い方は他の艦娘たちに教えてもらうといい」

―――
――


78: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/13(火) 18:49:43.49 ID:Bq2WB7EL0

提督「ここは工廠だな。兵装も艦娘もここで造られる。改修や改造、兵装の転換などもここで行われる」

提督(そして解体も)

夕立「夕立もさすがに自分の姿にはびっくりしたけど、どうやってるの? すごいよね!」

提督「さぁ? 私にもわからんが彼らなら知ってるかもしれん」

提督「妖精さーん!」

妖精「はーい!」

夕立「お? んん~??」

提督「見ての通り、妖精さんだ。彼らが工廠のすべてを司っていると言っても過言ではない」

夕立「か、かわいい~~~!!!」

建造妖精A「ありがたきしあわせですな」

提督「妖精さん、今日この娘、海で拾ったんだ。ドロップだよ」

建造妖精B「どろっぷですと」

建造妖精C「なんと」

建造妖精D「おはじきににた」

建造妖精E「あまいおかしです?」

79: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/13(火) 18:51:29.83 ID:Bq2WB7EL0

提督「違うです。深海棲艦が落としたです」

建造妖精A「おとした」

建造妖精B「おっこちた」

建造妖精C「おっこちたからどろっぷです?」

建造妖精D「むだによこもじをつかいたいおとしごろ」

建造妖精E「ほっぺたおっこちるおかしくださいなー」

提督「……」

提督「と、まあこんな感じで愛くるしいやつらだが、仲良くしてやってくれ」

夕立「よろしくねー!」

―――
――


80: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/13(火) 18:53:16.76 ID:Bq2WB7EL0

―食堂―

提督「そして、ここが食堂だ」

夕立「わぁ……」

那珂「提督、おっそーい!」

提督「すまんすまん」

吹雪「ほら、夕立ちゃんも」

夕立「あ、うん!」

天龍「みんな揃ったか?」

響「……」コクコク

間宮「それでは」

那珂β「さっそく」

一同「いただきまーす!」

―――
――


86: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/14(水) 23:47:14.10 ID:Zw2J0QBF0

夕立「夕立もうお腹いっぱいっぽい……」

響「ごちそうさま」

吹雪「それじゃあお風呂にしましょうか」

夕立「提督さんも、一緒に入る?」

吹雪・那珂・天龍「「「え゛」」」

響「私は司令官ならいいよ」

提督「いやいやいや」

提督「私はひとりで入るよ」

吹雪「そ、そうですよ! 男子禁制です!」

夕立「ふ~ん……? なんだかざんねん」

那珂β「那珂ちゃんはぁ~、アイドルだからぁ~、ヌードとかはNGなんだよぅ?」

那珂「うるさいよ!」バキッ

那珂β「いった~い! 顔はやめて~!」

87: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/14(水) 23:48:28.89 ID:Zw2J0QBF0

―女湯―

響「……」ザバーン

吹雪「~♪」ゴシゴシ

夕立「ねぇねぇ吹雪ちゃん。提督さんって、どんな人?」ワシワシ

吹雪「うぇ? うーん。えーっと。私も今日初めて逢ったからよくわからないけど」

吹雪「なんか、提督業務は初めてで、士官学校を出たらしいけど成績が悪かったらしくて」

吹雪「土方……じゃなくって、林業? をされてたみたいで」

夕立「ふーん?」

天龍「んー……」ワシャワシャ

天龍「やっぱ成績悪かったっておかしくねぇか?」

天龍「今日の提督どうだったよ?」

吹雪「うーん確かに、あれで成績悪かったなら他の人はもっと優秀だったのかな、とは思いましたけど」

吹雪「なんか現実感ないですね」

天龍「だよなぁ」

88: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/14(水) 23:49:25.72 ID:Zw2J0QBF0

吹雪「あ、というかそもそも成績悪いとか言い出したのって響ちゃんじゃ!?」

響「うん? なんのことかな?」シレッ

天龍「そりゃ完全に思いつきだろー」

響「でも同調したのは他ならない司令官だよ」

天龍「むむ……」

那珂「やっぱり、提督にも秘密とか、あるんじゃないのー?」

那珂β「そうそう! 那珂ちゃんもアイドルだか(バキッ)pgrいったーい!」

天龍「成績なんか隠してどーする」

那珂β「那珂ちゃん、スリーサイズなら(ゴスッ)」ブクブクブクブク

響(スリーサイズ)ジロリ

吹雪(天龍さんはともかく……)チラ

夕立「?」

那珂・響・吹雪(夕立ちゃんは、意外と大きいよね)

89: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/14(水) 23:50:09.60 ID:Zw2J0QBF0

―男湯―

提督「ふぅ……」

提督「……」

提督(疲れた)

提督(今日の戦闘……)

提督(あれは軍艦の砲撃の命中率ではなかった。極めて高度な観測能力と演算能力がなければ実現不可能なものだ)

提督(自己修復のダメコンには明らかに演算リソースを注ぎ込んでいる感じだったし間違いないだろう)

提督(あれだけの情報処理能力をポテンシャルとして持つなら俺の音声指示はかえってタイムロスになる)

提督(DMでは反映範囲が吹雪の主観に限定されてしまう。後手後手だ)

提督(艦隊全体の能力を上げれば今日のような雷撃への対処ももっと向上するだろうな)

提督(……)

提督(艦娘とは何なんだろうな)

90: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/14(水) 23:51:00.49 ID:Zw2J0QBF0

~翌朝・早朝~

響「……ん」

響「……」

響(なんだか早く目が覚めてしまった)

響(……)

響「散歩でもしよう」

―――
――


―武道場―

響(?)

提督「ふっ、ふっ、ふっ」

響(朝からトレーニングする提督……)

響(そっとしておこう)

提督「ん?」

提督(気のせいか)

提督「シャワー浴びよう」

91: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/14(水) 23:52:18.17 ID:Zw2J0QBF0

―食堂―

吹雪「おはようございます、司令官!」

提督「おはよう、吹雪」

夕立「おはようございまーす! んん?」クンクン

提督「おはよう夕立。どうした?」

夕立「なんか提督さんからいい匂いがするっぽーい!」ダキッ

提督「え? ああ、さっきシャワーを浴びてきたからな」

天龍「おいおい、なに朝からいちゃついてんだー?」

提督「天龍。それに響、那珂も。おはよう」

響「おはよう司令官。天龍は朝からジェラシーみたいだね」

天龍「は、はぁ!? わけわかんねーし///」

提督「まあ夕立はかわいいからな、わからんでもないぞ」

那珂(何言ってんのこの提督)

夕立「っぽい?」~♪

那珂β「那珂ちゃんはぁ~、アイドルだからぁ~、ハグとかは(ドス)ぐえぇ……」

天龍(那珂、朝から容赦ない腹パンだな……)

間宮「朝ご飯、できましたよー!」

夕立「! ごっはんーごっはんー♪」

提督(お気楽だな)

92: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/14(水) 23:53:29.35 ID:Zw2J0QBF0

―――
――


―司令室―

提督「本日は後で駆逐艦娘が来るがその前に」

提督「建造だ!」

夕立「おお~……」パチパチ

吹雪「どんな感じでいきますか?」

提督「400/30/600/30」

吹雪「!?」

那珂「あっ……」

天龍(これアカンやつや)

響「司令官、場に運が溜まったよ」ニヤ

吹雪「……司令官、もう一度よくお考えになってみては……?」

提督「いいや。いいや! これでいく!」

提督「妖精さん、GO!」

建造妖精A「はーい」

吹雪「」

93: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/14(水) 23:54:37.37 ID:Zw2J0QBF0

吹雪「司令官……。艦隊運用の資源は……」

提督「大丈夫大丈夫! すぐ溜まるさ」

提督「なんと今日は遠征を予定している!」

提督「ほらどうした吹雪。元気ないぞそんなんじゃダメだ」

提督「練習航海を設定したから那珂βちゃんと行ってきなさい」

提督「那珂βちゃん? 吹雪を頼んだぞ」

那珂β「はいはーい! お仕事ですね? 私たちに任せてください! 行ってきまーす!!!」ビューン

吹雪「あ~~~~~~れ~~~~~~……」

夕立「あはっ吹雪ちゃんおもしろーい!」

天龍「提督、あんた鬼だな」

響「それで、司令官。大丈夫なのかい?」

提督「ふむ」

提督「鋼材は少し厳しいがまあ何とかなる数値だ。それに」

提督「闇雲に資源を溜めるのは私のポリシーに反する」

提督「みんなにはその分働いてもらうがな。頼りにしてるぞ」

94: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/14(水) 23:58:31.98 ID:Zw2J0QBF0



『書き溜め』

 SSの投稿量・ペースをあらかじめ定めておき、その設定量を上回って前もって保存しておく文章のこと。

SS投稿者は書き溜めを事前にしておくことで、安定的な精神状態で周期的投稿を実現することが出来る。

しかしリアルワールド(現実世界)での雑務によって書き溜めの量には増減が生じる。このSSにおける瞬間的な

最大値は30であるが、現在は――

403 - Forbidden



今宵はここまで。



アホなこと書いてないでもう寝よう。
明日は頑張る。多分。きっと。

98: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/22(木) 03:02:16.13 ID:3mv8pnXq0

那珂(この人意外と人使い荒いな)

コンコン

提督「お? そうこうしているうちに時間だ。全員整列!」

提督「入っていいぞー」

??「失礼します」

提督「ふむ。自己紹介をお願いします」

白雪「特型駆逐艦、2番艦、白雪です。よろしくお願いします」ペコリ

提督「よろしく白雪。我が鎮守府には吹雪がいるが、もう遠征の任務を与えてしまってな。今はいないんだ」

提督「あとで挨拶するといい」

白雪「はい。お気遣い、ありがとうございます」

99: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/22(木) 03:04:02.72 ID:3mv8pnXq0

提督「建造艦、そして拾得艦を除けば本日のフルメンバーが揃った」

提督「早速で申し訳ないが本日の作戦を言い渡す」

提督「今日は南西諸島沖の警備にあたり、敵前衛艦隊を補足出来次第、これを迎撃する」

提督「第一艦隊旗艦は那珂。以下、夕立、響、白雪。殿は天龍」

提督「旗艦の那珂にお願いしたいことは指揮系統の維持」

提督「他のメンバーにも自主的な判断力を求める」

提督「ゆえに、那珂をDMの参照ノードとするが極力指示は出さないのでそのつもりでいてくれ」

提督「何か質問は?」

一同「……」

提督「よし。作戦開始は1000。各自準備にあたれ」

一同「了解!」

100: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/22(木) 03:05:12.43 ID:3mv8pnXq0

―南西諸島沖―

那珂(今回は東側から巡回しているけど……主力部隊は現われるかな)

那珂(そろそろ来るかも)

那珂「!」

那珂「敵艦見ゆ! 目標2時! 取舵10! 各艦攻撃準備!」

那珂「てぇー!!!」ドドーン!

夕立「艦影3。ホ級、イ級、イ級」

夕立「イ級の大破を確認。敵艦発砲!」

響「くっ……。響、小破」ドーン!

夕立「夕立の出番ね!」ドドーン!

天龍「オレたちも続くぜ!」ドドーン!

白雪「主砲で弾幕張ります」ドドーン!

響「うてぇー!!!」ドドーン!

ザバーン!ザバーン!

夕立「被害ゼロ!」

那珂「イ級の撃沈を確認。雷撃準備!」

那珂「一斉発射!」

101: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/22(木) 03:06:01.46 ID:3mv8pnXq0

那珂「……」

那珂「残るホ級、イ級の撃沈を確認」

那珂「戦闘終了」

那珂「ふぅ……」

夕立「おぉ~勝てたっぽい!」

提督『那珂。それにみんなもお疲れ様』

提督『拾得艦を確認し、引き続き警戒にあたってくれ』

那珂「了解」

那珂「響ちゃん、大丈夫?」

響「問題ない。沈むはずもない」

那珂「そっか。でも無理しないでね」

天龍「白雪、どうだった?」

白雪「ええ。なかなか緊張しました」

白雪「私の攻撃が当たらなかったのが残念ですね」

天龍「今回はオレもはずした……」

天龍「夕立はちゃんと当ててきたな」

夕立「っぽい?」

102: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/22(木) 03:07:42.82 ID:3mv8pnXq0

―――
――


那珂「敵艦見ゆ! 右舷10度方向に敵艦影5隻! 攻撃準備!」

那珂(5隻……。大丈夫かな)

天龍「5隻たぁ滾るぜ。うてぇー!!」ドドーン

那珂「てぇー!!!」ドドーン

響「へ級、ホ級、ロ級、イ級、イ級を確認。てぇー!!」ドドーン

白雪「狙いよし、撃ち方はじめ! ッ! 敵艦発砲です!」ドドーン

響「うわっ」ドカーン

夕立「響ちゃんが大破!」

響「ぐっ。さすがにこれは、恥ずかしいな……」

夕立「うぅ~……。これでどーお!?」ドドーン

那珂「ロ級、イ級撃沈! 雷撃準備へ!」

那珂「全艦発射の後、回避運動!」

夕立「魚雷の発射を確認。……あっ、白雪ちゃん気をつけて!」

提督(!)

103: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/22(木) 03:09:46.30 ID:3mv8pnXq0

那珂「回避!」

――――。

白雪「くっ。白雪、中破しました。でも、ま、まだやれます」

那珂「ホ級とイ級の撃沈を確認」

夕立「へ級が遠ざかっていく……」

天龍「追撃は?」

那珂(……)

那珂「追撃せず、戦闘終了。提督、よろしいでしょうか?」

提督「ああ、いいだろう。みんなご苦労だった」

提督「第一艦隊は警戒を怠らず、母港へ帰投だ」

提督「響は、大丈夫か」

響「うん。なんとか、大丈夫だよ」

提督「そうか、無事でよかった」

104: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/22(木) 03:11:10.67 ID:3mv8pnXq0

―司令室―

ガチャ

提督「ふぅ……」ギシ

提督(さて)

提督(命中率が相当高いのは事実だが、現状はずす方が珍しい、というほどではないな)

提督(だがそれより気になるのは……)

提督(夕立……)

提督(……複数発射された魚雷の軌跡、採り得る回避運動から最も被弾する可能性の高い船を瞬時に算出した)

提督(被弾する可能性が高いということも含めて)

提督(魚雷が発射されてから着弾するまでには一定のタイムラグがあるが、あの場ではそれを埋めきれない、埋めにくい配置だったということか)

提督(……)

提督(同時に深海棲艦に対する評価も改めなくてはならない)

提督(奴らも艦艇として振る舞いながら人間には再現の困難な芸当を平気でやってのけてくる)

提督(その意味では艦娘と同等な部分があるのは確かだ)

提督(深海棲艦も得体が知れないな……)

111: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/28(水) 00:38:06.50 ID:AiHAQ4DV0

―――
――


―司令室―

那珂「作戦終了です。みんなお疲れ様」

一同「お疲れ様です」

提督「お疲れ様」

提督「響は手酷くやられたな。白雪と一緒にすぐ入渠してくれ」

響「Спасибо、司令官」

白雪「ありがとうございます、お休み致します……」

ガチャ

提督「夕立はいい動きだったな。今日のMVPだ」ナデナデ

夕立「えへへ」~♪

提督「現状の艦隊練度に対してより高度な操艦を要求することはない」

提督「少しずつ視野を広げていくことを意識してみてくれ」

112: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/28(水) 00:41:06.19 ID:AiHAQ4DV0

提督「そして今回の拾得艦は……」

睦月「睦月です。はりきってまいりましょー!」

提督「おお。また随分と元気な娘が入ったな」

神通「あの……軽巡洋艦、神通です。どうか、よろしくお願い致します……」

提督「私が提督だ。ふたりともよろしく」

那珂「あ……。お姉ちゃん……」

神通「! 那珂、ちゃん……」

那珂「……また会えたって、感じがする」

神通「はい、私m」

ガチャ

那珂β「おっつかっれさっまでーす!! みんな戻ってきたかな?」

神通「!?」

提督「また七面倒くさい……」

那珂β「おお??? あ、もしかしてお姉ちゃん!?」

神通「え? えぇ!?」

那珂「あー、ごめんねお姉ちゃん。私が色々説明するからとりあえず別室に……」

那珂β「那珂ちゃんにも、説明させ(バキッ)いったーい!」

ガチャバタン

113: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/28(水) 00:42:50.55 ID:AiHAQ4DV0

提督(まさかこんなことになるとは。完全に盲点だった)

提督「睦月、来て早々に騒がしくしてすまんな」

睦月「いえ、大丈夫です!」ニコッ

夕立「神通さん、混乱してるっぽい?」

天龍「ありゃちょっとしたホラーだな」

ガチャ

吹雪「お疲れ様です」

夕立「吹雪ちゃん!」

吹雪「あ、新しく着任された方ですか?」

睦月「はい、睦月です!」ペコリ

吹雪「吹雪です、よろしくね!」

提督「よし、吹雪と夕立は睦月を案内してくれ」

提督「それから……」

提督「夕立は1900に司令室へ来るように」

夕立「? はーい!」

ガチャ

114: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/28(水) 00:44:26.90 ID:AiHAQ4DV0

提督「さて……」

天龍「これからどうすんだ?」

提督「工廠へ向かう」

―――
――


―工廠―

金剛「英国で産まれた帰国子女の金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」

提督「金剛か。私は提督だ。よろしく」

金剛「……」

金剛「って……」

金剛「私、身体が……」

提督「どうだ、気分は?」

金剛「んー」

金剛「Great! 悪くないデス」

金剛「なかなかカッコイイ提督さんデスネー」

提督「あはは! 金剛は綺麗なだけでなく世辞もうまいな」

金剛「恐縮デス!」

115: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/28(水) 00:46:47.32 ID:AiHAQ4DV0

金剛「そちらの方は?」

天龍「オレの名は天龍。フフ……怖いか?」

金剛「Oh~天龍ー! 久しぶりネー!」

天龍「あ、ああ……」

提督(さすが戦艦。天龍のアピールを意に介さないスルースキル、最高だ)

提督「というわけで天龍。お前は金剛を案内しろ」

天龍「え、ええ~! 提督がやればいいだろ!?」

提督「残念ながら私は忙しい。というわけで頼んだぞ」

金剛「Wow! 鎮守府探険デスネー! 楽しみデス」

天龍(このためだけにオレを呼びやがったな提督)

提督(とりあえず無事戦艦が建造出来てよかった……)

120: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/31(土) 03:50:31.01 ID:pVpgD3gN0

提督「ふぅ……」

提督(忙しいとか言ったがまだ夕食まで時間あるな)

提督(どうしよう……)

提督(仕事するか)

提督(ついでに艦種も揃ってきた以上、もう少し戦術を考えてみるか)

提督(しかしやはり空母が欲しいな……)

―――
――


―食堂―

間宮「皆さん、お待たせしました!」

響「хорошо」

睦月「わあ!」

吹雪「今日も美味しそうです!」

提督「みんなちょっといいか」

提督「みんなもう挨拶は済ませているかもしれないが一応紹介を」

提督「今朝の建造で進水した金剛だ。みんな仲良くしてやってくれ」

金剛「金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」

一同「よろしくお願いします!」

121: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/31(土) 03:51:48.86 ID:pVpgD3gN0

提督「それからもうひとつ」

提督「色々悩んだんだが……」

提督「秘書艦を任命しようと思う」

那珂β「おお~!! これは那珂ちゃんの出b(ゴスッ)おぅっ!」

那珂「(お静かに)」

神通「(ま、まあまあ……)」アセアセ

睦月「(だ、誰になるんでしょう?)」

夕立「(やっぱり初期艦の吹雪ちゃんっぽい?)」

天龍「(まあこの天龍様だな!)」

吹雪「(……ちょっと緊張しますね)」ドキドキ

吹雪(でも、これは。おそらく……)

提督「秘書艦は……」

提督「夕立だ。よろしく頼む」

夕立「え」

夕立「えええぇぇ~~~!?」

金剛「Oh~! Congratulations!」

天龍「……なん……だと……?」

吹雪(やっぱり……)

提督「ま、そういうわけだ。時間をとって済まなかった。それではいただこうか」

122: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/31(土) 03:53:18.13 ID:pVpgD3gN0

―――
――


―女湯―

響「提督が秘書艦をつけるだなんて」ワシャワシャ

響「正直意外だった」

那珂「仕事出来そうだもんねーあの提督」ワシワシ

響「うん」

吹雪「それより夕立ちゃんが選ばれたことのほうがびっくりだったよ」ザバア

吹雪「呼び出しがあったからそんな気はしたけど」

天龍「はっはーん! さては吹雪は秘書艦やりたかったんだな?」チャプ

吹雪「え? うーん、まあ、そうですね」

天龍「おお? 否定しないんだな」

吹雪「? 否定したらおかしいですか?」

天龍「え? あ、いや……。そんなことはねぇが……」

白雪「秘書艦の仕事って、なんだか大変そうですね……」ピチャ

天龍「そういや具体的には何やるんだろうな。そんなに仕事があるのか疑問だが……」

123: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/31(土) 03:54:13.95 ID:pVpgD3gN0

―司令室―

コンコン

夕立「失礼します」

提督「夕立か。入っていいぞ」

ガチャ

夕立「お、お疲れ様です」

提督「お疲れ」

提督「なんだ? 緊張してるのか?」

夕立「ぽい……」

提督「あはは。別にとって食うわけじゃないんだから」

提督「それにこれからはここが夕立の仕事場でもある」

提督「少しはリラックスしてくれ。さすがにそれでは仕事がやりにくい」

夕立「あはは……」

提督「こっちにデスクを用意したから、座ってくれ」

124: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/31(土) 03:57:57.83 ID:pVpgD3gN0

ギシッ

夕立「……」

夕立「提督さんって、どんなお仕事してるの?」

提督「う~ん……」

提督「提督業務の最も重要な点は、作戦と艦隊運用計画の立案とその遂行にある」

提督「が」

提督「実際には事務作業が多いというのが正直な感想だ」

夕立「ふ~ん……? なんだか大変っぽい?」

提督「おいおい……。ひとごとなのか? 勘弁してくれ」

提督「これから秘書艦は夕立、お前になるんだから。提督業のお手伝いをするんだぞ」

夕立「あはは……ごめんごめん、わかってるよ」

提督「じゃあ、とりあえず報告書。特に資源運用に関しては事細かに本部に報告しなければならない」

提督「これが資源運用報告書だから」

夕立「え? ……うぇ~、こんなの書くの!?」

提督「書くんだよ! ほら、今から教えてやるから」

125: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/31(土) 03:59:04.72 ID:pVpgD3gN0

提督「ここ。毎朝1000時点での各資源数値」

提督「こちらがアクションリストになるから、各アクションごとの消費資源をこの欄に」

提督「出撃の際には内訳として、修理に使った資源を別途で入力する」

提督「もちろん各艦ごとにだ」

夕立「うへぇ……。む、無理っぽい……」

提督「泣きごと言うな」

提督「これ、今日私がメモしたものだからとりあえず参照してくれ」

提督「単純な出撃消費は航行距離と戦闘回数に比例するから、各艦の基本運用コストは暗記するように」

夕立「」

提督「出撃後は入渠ドックで修理資源量を確認すること。まあこれも経験を積めば自動的に算出出来ると思うが」

夕立「う。うえぇ~ん! 鬼! 悪魔! 提督!」

提督「うるさい」コツン

夕立「いた……い」

提督「いいから仕事しろ」

夕立「はーい……」

126: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/31(土) 04:01:16.88 ID:pVpgD3gN0

夕立「……」カリカリ

提督「……」ペラペラ

夕立「提督さんがやってるのは……?」ッターン

提督「こちらは資源運用計画書。さらに資源最終決算報告書」カタカタ

提督「艦隊練度報告書、任務申請書、作戦立案計画書、作戦結果報告書はもう済ませた」

提督「あとで資源入手報告書もやらせるぞ」

夕立「提督さんがやればいいんじゃ……?」

提督「まだ艦隊練度計画書とか全体報告書とか、色々ある」

提督「まだまだ夜は長いぞ」

夕立「うー、もう寝たいかも……」

夕立「……」

夕立「提督さんが夕立を選んでくれたのは、どうして?」

提督「……ん」

提督「……」



127: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/31(土) 04:02:15.68 ID:pVpgD3gN0

提督「今日の戦闘を見て、光るものを感じたから」

夕立「……それだけ?」フッ

提督「いや……」

提督「そばにおきたいと、思ったから……」

提督「……」

提督「すまんな。大した理由はないかもしれん」

夕立「そっか」

夕立「でも……嬉しかった」ニコッ

提督「そうか……」

夕立「私、提督さんにもっと頼ってもらえるように、いっぱい頑張るから!」

提督「……ありがとう」

―――
――


128: ◆2pHIc08LV13v 2015/01/31(土) 04:03:06.83 ID:pVpgD3gN0

提督「で、頑張った結果がこれか」

夕立「……くー…………くー…………」

提督「まったく……。世話の焼ける」

提督(仕方ない)

提督(今日のところは寝かせておいてやろう)

提督「……」

提督「よく頑張ったな。おやすみ」

提督(夕立の部屋は……)

―――
――


135: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/07(土) 09:16:56.90 ID:C5LmWfTf0

―食堂―

睦月「夕立ちゃん、昨晩はどうだった?」

白雪「お仕事、大変でしたか?」

夕立「もう大変なんてもんじゃないよー」

天龍「マジか」

響「司令官、なかなかやるね」

夕立「夕立ったら、よく覚えてないけど途中で寝ちゃったっぽい?」テヘヘ

吹雪「あはは……」

那珂「提督怒らなかったんだね」

那珂β「睡眠不足はお肌の敵なんだよー? よく寝た方がいいよ!?」

天龍「いやむしろよく寝てるんだろ」

金剛「ウーン……。夕立は自分の部屋で起きたのデスネ?」

夕立「うん、そうだよ?」

金剛「(なら提督が夕立を運んだのデスネー?)」

神通「(おそらくはそうかと……)」

金剛「(フフーン、これはおもしろいデスネ!)」

夕立「?」

136: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/07(土) 09:18:25.89 ID:C5LmWfTf0

―司令室―

コンコン

天龍「提督ー、入るぜー?」

提督『ああ』

ガチャ

提督「どうした? まだ朝礼までは時間があるが」

天龍「いや……。昨晩の夕立はどうだったかなって、気になって」

提督(?)

提督「へぇ。さすが天龍。後輩への気配りもちゃんとしているな」

天龍「別に、大したことねぇよ// 少し気になっただけだ」

提督「そうか。そうだなぁ」

提督「まあ初回だったしあんなもんだろう、という感じだ」

提督「今後も夕立に頑張ってもらうよ」

天龍「そ、そうか。ならそれはいいんだが……」

137: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/07(土) 09:19:23.38 ID:C5LmWfTf0

天龍(……?)

天龍「提督ー?」

提督「うん?」

天龍「前もちょっと気になったんだが、ここに掛かってる日本刀って、提督の私物なのか?」

提督「ん? ああ。それは“妖刀ハラキリ丸”だ」

天龍「はぁ!?」

提督「すまん、ちょっとした冗談だ」アハハ

天龍「まったく……」

提督「それの名前は知らん。もらいものだ」

提督「インテリアとして気に入ってるから飾っている」

天龍「ふーん?」

天龍「触ってもいいか?」

提督「どうぞ。怪我するなよ」

138: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/07(土) 09:20:38.52 ID:C5LmWfTf0

天龍「おお」

カチャ

天龍(インテリアの癖に真剣なのかよ。おっかねぇな)

天龍「提督はこれ使えるのか?」

提督「まあな。格闘術は一応習ったし」

天龍「……これ、ここで使う機会あるのか?」

提督「だからインテリアだって言っただろうが」

提督「使う機会はないだろうさ」

提督「しかし使う機会がなくとも、それが置いてあるだけで何となく身が引き締まる感じがしてな」

提督「錯覚かもしれんが」

天龍「まあ言わんとすることはわからなくはないぜ」

提督「そういや天龍も刀持ってたな」

天龍「ああ。これか」

提督「それはなんだ? 艦首に似ているようだが……」

天龍「オレにもよくわからん……」

139: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/07(土) 09:22:56.64 ID:C5LmWfTf0

―――
――


提督「全員集まったか」

提督「……先程妖精さんに建造をお願いした」

提督「夕立、報告を」

夕立「はい」

夕立「消費資材は400/30/600/30です」

夕立「今後は大々的に遠征による資源回収を行っていき、戦力の拡充を急ぎます」

夕立「ご理解ご協力をお願いします」

提督「というわけで第2艦隊の旗艦を那珂β。以下吹雪、白雪、睦月で遠征に出てもらう」

提督「こちらが本日のアクションプランとタイムスケジュールだ」

カサ

那珂β「……」

140: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/07(土) 09:24:28.30 ID:C5LmWfTf0

提督「何か質問は?」

那珂β「メンバーは固定で大丈夫なんですかー?」

提督「ああ。固定でまわしてくれ」

那珂β「那珂ちゃんりょーかい!! お仕事行ってくるねー!?」

提督「よし。第2艦隊は準備に入れ」

一同「了解!」

ガチャバタン

提督「さて残るは第1艦隊だが……」

提督「……本日は製油所地帯沿岸部の海上輸送ラインを防衛する」

提督「旗艦は那珂。以下、金剛、夕立、神通、響、殿は天龍」

提督「金剛は特に索敵を気をつけること」

提督「そして先制砲撃を敵艦に叩き込め」

金剛「Aye sir! 提督ぅー! まっかせるネー!」

提督「夕立は金剛のフォロー、響は神通のフォローを頼む」

夕立・響「了解」

提督「質問はあるか?」

提督「……よし。総員、出撃準備にかかれ!」

153: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/11(水) 23:36:58.55 ID:QSsteFuB0

―――
――


提督「……」

提督(吹雪の報告と既存資料では資源回収は近海の小島などで行うようだが……)

提督(資源の回収方法自体、ドロップのそれに近い)

提督(資源はおそらく構成されるものであって、発掘されたり精製されるものではない気がする)

提督(なら本当に製油所なんてものは実在するのか……?)

提督(海上輸送も、不可能ではないにせよどの程度の規模で展開しているのか不明だ)

提督(本部からの作戦立案参考資料、それに拾得艦の記述も……)

提督「……」

提督「……もしかして」

提督(しかしまだわからない。機会さえあれば問い詰めてやるか)

154: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/11(水) 23:39:14.68 ID:QSsteFuB0

―海上―

金剛『こうして海を進むのも久しぶりデスネー』

金剛『今は他ならない私の意志がこの船を動かしていると思うと感激シマース!』

神通『その気持ち、よくわかります』

夕立『……』

響(……)

那珂「みんな、戦艦の金剛さんが入ったからって油断しないでね」

金剛『那珂ちゃんは心配性ネー』

天龍『そろそろ第一目標地点だぜ』

夕立『気合入れていくよー?』

響『やるさ』

155: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/11(水) 23:40:19.62 ID:QSsteFuB0

金剛「敵艦隊発見!」

那珂「封鎖解除! 各艦攻撃準備!」

金剛「ホ級1隻、ハ級2隻! 発砲準備に移りマス」

提督『各艦に通達。金剛の砲撃後、すぐに追撃出来るように発砲準備。金剛の発砲後、調整し斉射』

提督『那珂と神通と天龍、響と夕立でそれぞれ第二波、第三波と追加攻撃』

金剛「発射準備完了。Fire!!!!」ドカーン!

ズドーン!

金剛「ホ級大破炎上デス」

提督『よし! やれ』

那珂「全艦発射用意……。てぇー!!!」ドドーン!

天龍「おらぁ!!!」ドドーン!

神通「当たってください!」ドドーン!

夕立「夕立たちもいくよー!」ドドーン!

響「無駄だね」ドドーン!

156: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/11(水) 23:42:39.37 ID:QSsteFuB0

金剛「Well done! ホ級、ハ級2隻の撃沈を確認」

那珂「戦闘終了」

神通「終わりました」

提督『みんなお疲れ。ひどいワンサイドゲームを見たが、素晴らしい動きだったな』

提督『特に金剛が容赦なかった』

金剛「Yes! 私の活躍見てくれた? もっと頑張るから、期待してネ!」

夕立「ほぁー。やっぱり戦艦ってすごーい」

天龍「しっかし、提督はなんで波状攻撃にしたんだ」

提督『まあ敵艦が少なかったし、確実に先手がとれたから、金剛の射撃に合わせて段階的に砲撃した方が
   命中率も上がるかと思ってな。事前に準備しておけば反撃される前に攻撃することも出来るし』

天龍「おおー」

提督(尤も、こんな戦術は艦娘でなければ簡単にうまくいったりはしないのだろうが)

提督『とにかく、無事で何より。拾得艦を確認して引き続き防衛を頼む』

一同「了解!」

提督『それから那珂』

那珂「はい?」

提督『……もし。もしも輸送船などを見つけたら、製油や深海棲艦の状況を伺ってほしい』

那珂「? 了解です」

157: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/11(水) 23:43:57.78 ID:QSsteFuB0

―――
――


那珂「あれ……。あれは」

金剛「輸送船……デスカネー」

那珂「これ……コンタクトとるには無線ですか?」

金剛「接近して拡声器を使うのはどうデショウ?」

夕立「なんかそれ、どこかのお国のサンゴ密漁の取り締まりっぽい」アハハ

金剛「なんデスカそれ……」

那珂『こちら、××鎮守府の第一艦隊旗艦那珂』

那珂『製油所からの海上輸送ラインの防衛中。応答お願いします』

輸送船A『こちら輸送船A。只今ボートで伺います。待機をお願いします』

那珂『了解です』

158: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/11(水) 23:45:03.54 ID:QSsteFuB0

―輸送船上―

輸送船員A「××鎮守府の那珂さんですね」

那珂「はい。現在海上輸送ラインの防衛中です。先程交戦もありました」

那珂「昨今の状況はどうですか?」

輸送船員A「特に目立った動きはないですね」

輸送船員A「こちらも兵装を全く積んでいないわけでもないですけど、やはり艦娘の皆さんがいていただけると助かります」

輸送船員A「ありがとうございます」ペコリ

那珂「いえ、そんな……。顔を上げてください」

輸送船員A「引き続き、防衛をお願いしていいですか?」

那珂「はい、私たちにお任せください!」ニコッ

輸送船員A(神様……)

輸送船員B(女神だ……)

輸送船員C(結婚したい……)

輸送船員D(那珂ちゃんのファンやめて那珂さんのファンになります)

159: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/11(水) 23:45:56.84 ID:QSsteFuB0

輸送船員D「時に、那珂さん。以前お会いした時と印象が違うようですが」

那珂「え」

輸送船員C「おい!」

那珂「あ、いいですよ。大丈夫です」ニコ

那珂「私、最近着任したばかりで……。まあ鎮守府の方も新しいんですけど」

輸送船員D「なるほど。つかぬことを伺ってしまいました。申し訳ない」

輸送船員B「……」

那珂「以前も別の私と会ったことがあるんですか?」

輸送船員D「はい。その時は、何というか、とても賑やかな娘という印象を抱いたので」

那珂「あはは……。まあそうですよね……」

輸送船員B「……最近、提督さんが新しく着任されたのですか?」

那珂「そうですね。あっ! そうだ」ゴソゴソ

那珂「一応こういう証明カードがあるみたいで。まさか使い道があるとは思いませんでしたけど」

輸送船員B「失礼します」スッ

160: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/11(水) 23:47:42.77 ID:QSsteFuB0

輸送船員ABC「……」

輸送船員B「なるほど。ありがとうございます」スッ

那珂「いえ」

那珂(あっ)

那珂「それから、製油所ってどんな状況なんですか?」

輸送船員A(!)

輸送船員B「それはちょっと私の口からは何とも……。こちらにも守秘義務がありまして」

那珂「あ、そうなんですか……」

輸送船員B「ですが、実際のところ製油所施設内のことは我々にもよくわからないんですよ」

輸送船員B「お力になれず、申し訳ない」

那珂「そうでしたか……。でも、ありがとうございます」

那珂「ではこちらは引き続き任務にあたります」

輸送船員A「よろしくお願い致します。それから、ささやかですが燃料を少しお分けします」

那珂「ありがとございます!」

輸送船員A「D。那珂さんのお見送りを」

輸送船員D「はっ!」

161: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/11(水) 23:49:08.12 ID:QSsteFuB0

輸送船員B「……そうか。人事異動があったのか……」

輸送船員C「みんな、やられちゃったんですかね……」

輸送船員A「俺たちが被害に遭う前の交代となると、海軍本部の対応スピードには頭が上がらないな」

輸送船員B「どうやって事後処理したんだろうな?」

輸送船員A「さあな。それより、最後の質問、どう思う?」

輸送船員C「どうって、何がですか?」

輸送船員A「今まであんな質問受けたことないぞ」

輸送船員C「え。いや、何となく気になっただけなんじゃないですか?」

輸送船員B「いいや。多分、その新任の提督に質問するよう言われたんじゃないか」

輸送船員C「それが、どうかしたんですか?」

輸送船員A「その理由が見えなくてな。あの質問の意味が」

輸送船員B「俺たちが製油所施設について知ってることなんて、妖精が出入りしているということくらいのもんだが」

輸送船員B「しかしそんなことを知りたがるあたり、変わってる。少なくとも俺はそんなことを知りたいと思ったことはない」

輸送船員B「タダ者じゃなさそうだ」

輸送船員A「かもな」

輸送船員C「……考えすぎでは?」

166: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/16(月) 22:52:28.35 ID:ybKHE1zn0

―――
――


―海上―

金剛「……」

金剛「! 敵艦影補足! ル級、チ級、ヘ級、ロ級、ロ級の5隻! 1時方向!」

一同「!」

那珂「……戦艦か。各艦攻撃準備!」

金剛「もう敵索敵範囲内に侵入していマス! 各艦警戒を厳に!」

提督(撃ち合いになるな……)

金剛「撃ちます、Fire!!!!」ズドーン!

金剛「ル級の発砲デス!」

神通「きゃあ!!」ドカーン!

金剛「神通!」

神通「……う、ぐっ。撃ちます!」ドドーン!

金剛「ル級中破。こちらは神通が中破。……続いてへ級が発砲!」

那珂「撃ちます!」ドドーン!

夕立「チ級も発砲!」

響「くっ……やられた」ドカーン!

167: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/16(月) 22:53:36.03 ID:ybKHE1zn0

天龍「チッ。うてぇー!!」

響「……こちら中破。続けて撃つ。てぇー!!」ドドーン!

那珂「こちら被弾! 小破です。ロ級は中破」

夕立「夕立撃つよー!!!」ドドーン!

金剛「ロ級2隻の撃沈を確認。私はあいつを仕留マス」

金剛「一斉射!!」ズドーン!

夕立「ロ級中破……。雷撃戦に移ります。続いてル級大破炎上。沈んでいきます」

天龍「那珂! 夕立! 準備はいいか!?」

夕立「いけるよ!」

那珂「当然!」

天龍「おっしゃあ! 魚雷発射!!」

168: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/16(月) 22:54:44.52 ID:ybKHE1zn0

夕立「へ級の魚雷発射を確認」

夕立「……神通さん以下取舵いっぱい。こちらも旋回して並行に航行することを提案します」

那珂「え? 陣形変えるの?」

夕立「ううん……。でも戦線離脱するならここで複縦にしても……」

那珂「……根拠は?」

提督『……那珂。夕立の意見具申を承諾しろ』

那珂「! はい。各艦旋回!」

夕立「……この方位で航行します」

那珂(! 雷跡が……)

提督(……なるほど)

提督(雷撃可能な艦が1隻なら発射は単純な扇状に……)

提督(よく見ている)

天龍「チ級のみ、撃沈を確認!」

那珂「了解です。このまま一度戦線離脱します」

那珂「夜戦追撃致しますか?」

提督『いや、敵艦隊には充分な打撃を与えた。撤退しろ』

那珂「了解。戦闘終了です」

金剛「やりましたネー!」

天龍「ふぅ……」

那珂「さて、索敵には注意して、帰りましょう」

169: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/16(月) 22:55:42.01 ID:ybKHE1zn0

―――
――


―司令室―

那珂「第一艦隊、帰投しました」

提督「ご苦労。お疲れ様」

提督「金剛、それから夕立は素晴らしい働きだった」

金剛「んーThank you 提督! もっと頑張るネー!」

夕立「提督さん、もっと褒めて褒めてー!」

提督「まったく……」ナデナデ

提督「神通と響は入渠。那珂はとりあえずこちらで待機だ」

神通「しばらく修理に専念します、すみません」

響き「行ってくるよ」

ガチャ

提督「さて、本題に入ろうか」

提督「那珂、報告を」

那珂「はい」

170: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/16(月) 22:56:38.09 ID:ybKHE1zn0

那珂「作戦遂行中、輸送船と接触しました」

提督「本当か?」

那珂「はい。燃料を少し分けてもらいました」

那珂「それから深海棲艦による大きな被害は見受けられなかったです」

那珂「ですが、製油所施設に関しては情報を得られませんでした」

提督「というと?」

那珂「守秘義務があるとのことです」

提督「契約先はどこだ?」

那珂「あ……。ごめんなさい。聞きそびれたというか、思いつかなかったです」

提督「まあいい」

那珂「でも、輸送船の搭乗員も製油所のことはよくわからないみたいです」

提督「ふむ。大して情報も持ってないのに守秘義務か。妙な話もあったもんだ」

提督「……ありがとう。参考になった」

那珂「いえ……。お役に立てず、すみません」

171: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/16(月) 22:57:35.25 ID:ybKHE1zn0

提督「では続いて拾得艦だな」

川内「川内、参上。夜戦なら任せておいて!」

那珂「お姉ちゃん! 私、那珂だよ?」

川内「お? おお~? 那珂ちゃん……?」

川内「ここは……?」

提督「私が提督だ。君にはこれからここで共に戦ってもらう」

提督「頼めるか?」

川内「……うん! 任せておいて!」

提督「そして私はデジャブを見たくない。那珂、頼んだぞ」

那珂「はい、了解です」

天龍(那珂は苦労してんなー……)

提督「それから……」

鳳翔「航空母艦、鳳翔です。不束者ですが、よろしくお願い致します」

提督「こちらこそ、よろしく頼む」

提督「これで全員か。とりあえず夕食まで解散」

提督「それと天龍。鳳翔を案内してやってくれ」

天龍「またかい……」

提督「すまんな。私はこれから工廠へ向かう」

172: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/16(月) 22:58:35.72 ID:ybKHE1zn0

―廊下―

夕立「今朝の建造だね」

金剛「提督は戦艦狙いデスネー。妹が来てくれると嬉しいのデスが……」

提督「さあ、どうだろうな……」

―工廠―

長門「私が戦艦長門だ。よろしく頼むぞ。敵戦艦との殴り合いなら任せておけ」

提督(また凄いのが来たな)

提督「私がこの鎮守府の提督だ」

長門「なるほど。まさか私がこのような姿をとるとは」

提督「冷静だな」

長門「まあな。不思議と……。だが今の私なら何でも出来る気がするよ」

提督「それは頼もしい」

長門「うん?」

金剛「おっひさしぶりデース! 金剛デース!」

長門「あ、ああ……。なんだ、その。お前はそんなキャラだったのか……?」

金剛「Boo! キャラとか言うなデース!」

173: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/16(月) 22:59:33.79 ID:ybKHE1zn0

夕立「駆逐艦夕立です。よろしくお願いします」ペコリ

長門「っ!」

長門「ああ。よろしく……」

夕立「?」

提督「さて、長門。まだここのことはわからないだろうから、金剛に案内してもらえ」

金剛「Yes! 鎮守府探険楽しいデスよー? 今度は私が案内する番ネ!」

提督「夕立は……。自由行動にしよう。休むといい」

夕立「やったー!」

長門「あ」

金剛「んー? どうかシマシタかー?」

長門「え、あ、いや、何でもない」

金剛「それじゃあ行ってくるネー!」

夕立「行ってらっしゃーい」

長門(夕立……かわいいな。あの娘に案内してほしかった……)

174: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/16(月) 23:00:48.59 ID:ybKHE1zn0

―司令室―

提督(輸送船、あり。製油所、あり……)

提督(俺の読みははずれていたのか……?)

提督(守秘義務の締結はまず間違いなく海軍本部だろう)

提督(海上輸送がある以上、その資源は本部に送られそこで管理され、)

提督(そして俺たちに配給されることになる)

提督(何より疑問なのは作戦参考資料に、俺たちの作戦前から海上輸送が行なわれていたように書かれている点)

提督(普通は逆だ。まず制海権を奪取し、その上で輸送ラインは確保される)

提督(ということは、ここから導出される可能性はおそらく2つ)

提督(1つは、俺が着任する以前は別の鎮守府の管理海域だったが、それが変更された)

提督(或いは、この鎮守府は新規のものではなく、かつて別の提督が使っていて、俺がそれを引き継ぐことになった)

提督(しかし俺にこの点を説明をしていないということは、他の提督にもしていないということだ)

提督(何を意図して……?)

提督(そして後者の場合、鎮守府だけ残して艦娘は全滅したということが考えづらい、ということ)

提督(艦娘は……)

182: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/18(水) 23:17:52.68 ID:xJjasxb40

―――
――


―食堂―

提督「食事前だがちょっといいか」

提督「朝礼での報告を忘れていた。実は夕刻に本部から新しく着任する娘がいてな」

提督「自己紹介を」

深雪「深雪だよ。よろしくな!」

一同「よろしくお願いします!」パチパチ

提督「まあ積もる話もあるだろう。あそこの席に座るといい」

深雪「サンキュー司令官!」

提督「それじゃあいただくとするか」

間宮「どうぞ、召し上がれ」ニコッ

183: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/18(水) 23:18:45.57 ID:xJjasxb40

吹雪「深雪ちゃん会いたかったよぅ……」シクシク

深雪「おいおい、何泣いてんだよー」ヨシヨシ

那珂「深雪ちゃん……」

深雪「あっ……」

那珂「ごめんなさい……」

深雪「ううん。謝らなくても、大丈夫だって!」

深雪「自分が、悪かったんだ」

那珂「深雪ちゃん……」

深雪「ほらほら! せっかく間宮さんが作ってくれたご飯が冷めちゃうって。食べようぜ!」

睦月「深雪ちゃん、これ、あげる!」

深雪「おー! いいのか? サンキュー!」

睦月「えへへ」

那珂(睦月ちゃん、天使過ぎる)

―――
――


184: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/18(水) 23:19:43.30 ID:xJjasxb40

鳳翔「ごちそうさまでした」

鳳翔「間宮さん。料理、とてもおいしかったです」

間宮「ありがとうございます。お粗末様でした」ペコリ

鳳翔「あ、あの……。間宮さん」

間宮「はい?」

鳳翔「もしよろしければ、料理を手伝ってもよろしいでしょうか?」

間宮「! 私は大歓迎ですけど……。提督は……」

鳳翔「提督。私、間宮さんのお手伝いをして、料理を習いたいです」

提督「ほう? 私としては特に反対する理由はないな」

提督「作戦遂行に負荷をかけない範囲なら、自由にしてくれてかまわない」

鳳翔「あ、ありがとうございます!」

提督「……ふむ。鳳翔がやりたいと思うなら、やりたいと思ったことを存分にやってみるといい」

提督「鳳翔の料理も楽しみにしているぞ。じゃあ」スタスタ

間宮「よかったですね」ニコッ

鳳翔「はい! これからよろしくお願い致します」ペコリ

間宮「いえ、こちらこそ。手伝っていただけるなんて、とても助かります」

185: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/18(水) 23:20:19.97 ID:xJjasxb40

―廊下―

提督「……」スタスタ

提督「ん?」

提督「あれは……響か?」

提督(あんなところで何してるんだ)

響「……」

提督(海を……見てる?)

提督「まだ時間はあるな……」

提督(話しかけてみようか)

186: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/18(水) 23:21:14.74 ID:xJjasxb40

―波止場―

提督「隣、いいか」

響「ん。司令官」クルッ

響「いいよ」

スッ

提督「海を、見てたのか」

響「うん。ちょっと夜風にあたりに」

響「この時間は結構好きなんだ」

響「昼から夜に変わる黄昏時。何だか世界が入れ替わるような気がして……」

響「夕暮れよりも暗く、夜よりも明るく」

響「群青色の空はひどく曖昧で」

響「吸い込まれそうになる」

提督「確かに。綺麗な空だ」

響「ここでぼーっとしながら、何かを考えたり、何も考えなかったりしてる」

提督「邪魔したか?」

響「いいや。そんなことないよ」

提督「そうか」

響「うん」

187: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/18(水) 23:22:02.61 ID:xJjasxb40

提督「響は、ここでどんなことを考えてるんだ?」

響「んー。色々だね」

響「自分のこと。他の娘のこと。敵のこと。提督のこと。世界のこと。色々」

提督「響には世界はどんなふうに見える?」

響「それはどういう意味だい?」

提督「そうだな……。船の姿をとったとき、世界はどう見える?」

響「なるほど。んー……」

響「普通に見えてるよ」

提督「?」

響「外界を普通に望む分にはヒトの時と変わらない」

響「身体がないから、なんだか幽霊にでもなった気分だね」

響「ただ……」

提督「ただ?」

響「例えば哨戒中なんかは違う」

提督「どう、違うんだ?」

響「うまく説明出来ない……」

響「端的に言ってしまえば、自分の周囲に関しては“すべて”見ることが出来るんだ」

188: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/18(水) 23:23:19.80 ID:xJjasxb40

提督「想像出来ないな。それが正しいとすればDMはそれ自体情報が限定されているし」

響「だろうね。でもこう考えてみればいいんじゃないかな」

響「例えば生まれてから右目でしか世界を見ることが出来ないヒトがいたとする」

響「このヒトと、例えば司令官は、一度に手に入れられる周辺情報の大きさに差があるよね」

提督「そうなるな」

響「そういう違いだと思う」

提督「そりゃ説明ざっくりしすぎだろ」

提督「しかしまあ、取得範囲に差があるだけで、取得の仕方と取得する対象が同じならそれだけの差に過ぎない……か」

響「同じであるかどうかはまた別の問題な気もするけど」

提督「それは確かにその通りだ」

提督「見てるものが事実同じだから指示を出し合えるのではなく、指示を出し合えるから結果的に同じだと言えてるだけだ」

提督「でも右目左目なんかより、扉を開けて部屋を見ることと、鍵穴から部屋を覗くことの違いと考えた方がわかりやす   いんじゃないか?」

響「そうだね。その発想はなかったよ。さすがは司令官だね」

提督「方位概念に関してはどうだ?」

響「問題ない。司令官だって左を向きながら歩く時に、前がどっちで自分がどちらに進んでいるかわからなくなった、な  んてことにはならないはずだよ」

提督「なるほど。左右を身体が定義するように、方位も船体によって正しく認識されるということか」

189: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/18(水) 23:25:38.64 ID:xJjasxb40

響「……」コクン

響「でも初めて出撃した時よりも、今の方がずっと多くのことが見えている気がする」

響「見ている範囲は変わらないはずなのに」

提督「視覚情報の処理が向上しているんだろう。視野に入っていることと認識していることは違うことだからな」

提督「船内は?」

響「それもあまり変わらないよ。船内がどうなっているかは触覚的にも視覚的にも把握できる」

響「ちょうど、目を開いていても閉じていても右手の形がわかることと似てる」

響「ただ入渠で整備される時は少しくすぐったくなったりするね」

提督「面白いな。くすぐりは自律神経が集まる人体の急所に有効だと聞いたことがあるが、整備も自身の危険部位を
   刺激されているからくすぐったく感じるのかもしれん」

提督「……その時、響はどうしてる?」

響「くすぐったいから逃れようとあれこれしているよ。妖精さんの前ではすべて無駄だけどね」

提督「……ふむ、なるほどね」

190: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/18(水) 23:26:54.67 ID:xJjasxb40

提督「さて、私はそろそろ時間だ」スッ

提督「響も、風邪をひかないうちに戻るといい」

響「うん。お疲れ、司令官」

提督「響」

響「なんだい?」

提督「また来てもいいか」

響「うん」

提督「ありがとう」

提督「おやすみ、またな」

響「おやすみなさい」

響「……」

196: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/20(金) 01:44:08.44 ID:44wTnK650

―司令室―

提督「さて」

夕立「提督さん、今日は何するのー?」

提督「お仕事です」

夕立「っもーう! そんなのわかってるよう」プクー

提督「はいはい。じゃあ今日はこの前やったもののおさらい」

提督「プラス、運用計画の参考資料作成だ」

夕立「し、仕事増えたー!」

提督「当然。どんどん増やすからそのつもりでな」

夕立「あいさー……」

提督「この参考資料は言ってみればデータ整理だな。あらゆる数値を整理して可視化する」

提督「私が推移の予測を立てて計画を練るために作る資料だ」

提督「これが出来るようになると次は運用計画書だが、こっちはまだいいだろう」

提督「準備はいいか?」

夕立「うぃっす……」

197: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/20(金) 01:44:56.92 ID:44wTnK650

夕立「……」カタカタカタカタ

提督「……」ペラペラペラペラ

提督「……」チラ

夕立「……」カリカリペラペラ

提督(泣きごと言ってた割には飲み込みが早いな)

提督(そのうち本当に仕事が出来るようになるかも)

夕立「……ん?」チラ

夕立「なーに? 提督さん。余所見してないで仕事してよー」ドヤッ

提督「ほーう? 言うな夕立。なら資源最終決算報告書と任務申請書も頼んだ」

夕立「うわーーーん!! 藪蛇だったっぽい!」

提督「まったく……。そういうセリフは俺より仕事早くなってから言え」

夕立「ぽいー……」

夕立「あら?」

提督「うん?」

夕立「今提督さん、自分のこと“俺”って言ったね」クスッ

提督「え? そうだったか? ……そうかもしれん」

夕立「本当の一人称はそっちなんだね」ニヤニヤ

提督「いいから仕事しろ」ペシッ

夕立「うぐぅ……」

198: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/20(金) 01:45:59.25 ID:44wTnK650

提督「で」

夕立「……すー…………すー…………」

提督「またこれか」

提督「仕事が出来るようになったことはいいことだが……」

―夕立の部屋―

提督「おやすみ」

夕立「……」ギュッ

提督「!?」

夕立「……ぅ……ん…………」

提督「」

提督(おいおい冗談だろう)

提督「おい、夕立、夕立! 起きろ!」ペシペシ

夕立「……うっ……うっ…………」

提督(起きない……。しかも離してくれない)

提督(上着を脱ぐんじゃなかった)

提督(……マジか)

提督(仕方ない……。離してくれるまで身体だけでも休めよう)

199: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/20(金) 01:46:48.66 ID:44wTnK650

―――
――


提督「……」

提督(朝だ……)

夕立「…………すぴー……ぐぅぴぃ……」

提督(やってくれたな夕立……)

提督(運動してシャワーでも浴びて、リフレッシュするか)

―――
――


―武道場―

提督「はっ! ふっ!」

ガチャ

提督「お?」

長門「提督か? おはよう」

提督「長門……。おはよう。朝早いな」

200: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/20(金) 01:47:37.49 ID:44wTnK650

提督「お前も運動か? 髪、束ねてるし」

長門「まあな。朝身体を動かすと、一日気持ちよく動けると響から聞いてな」

長門「今走ってきたから、クールダウンだ」

提督「そうか」

長門「提督」

提督「うん?」

長門「この身体は、その、普通のヒトとは違うのか?」

長門「呼吸、発汗、心拍、どれも正常に思えるが、しかし運動ではほとんど疲れなかった」

長門「それに見た目以上の強度と筋力があるように思う」

長門「試しに跳躍してみたんだが、凄まじかったぞ」

提督「はは、なるほど。その身体をそんな使い方するなんてな」

長門「おかしかったか?」

提督「いや、艦娘には可能なことなんだろう。気になる奴なら、それこそ長門のように確かめもするんだろうが……」

提督「今までうちに来た娘からそうした報告は挙がらなかったから、少しおかしくてな……」フフッ

長門「……なんだか馬鹿にされている気がするが……」

提督「いやいやいや。まあ確かに長門が朝早くからひとりでそんなことをしていたと思うと愉快ではあるが」クックックッ

長門「くっ……やめてくれ……/// 皆にも言うなよ!?」

提督「言うまい。それに、参考になったこともある」

長門「なんだ?」

提督「いや……なんでもないさ」

201: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/20(金) 01:48:13.33 ID:44wTnK650

長門「では、私はこちらで」

提督「ああ……」

カチャ

提督「ほう。木刀なんてあるのか……」

長門「……」

長門(会った時は気づかなかったが……)

長門(この提督……身体の芯にまったくブレがない)

長門「提督は、なにか武道を?」

提督「いや、武道なんてそんな御大層なものは知らない」

提督「さすがに軍人だから格闘くらいは出来るが」

長門「そうか」

長門(そんなレベルには見えないがな……)

202: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/20(金) 01:49:04.80 ID:44wTnK650

―食堂―

提督「おはよう」

天龍「おはよう提督。昨日は遅かったのか?」

提督「んん? なんだ、どういう意味だ?」

天龍「いや、なんか執務室の電気つけっぱなしだったみたいだぜ?」

提督(しまった――!)

金剛「Good Morning!!!! テートクゥー! なにやら不思議な言葉が聞こえてきましたネー?」

提督「な、なんだ?」

金剛「私のLadyとしての勘が告げていマース!」

金剛「昨夜夕立と何かありましたネー?」

提督「い、いや……」

提督(め、めんどくせぇ……)

金剛「Chi Chi! 私の眼はごまかせマセーン。今朝の提督の顔はお疲れ気味デース」

天龍「んん? まあ、言われてみれば確かに少し……」

金剛「Because! 大方、寝ぼけた夕立に捕まえられて眠れなかったんデスネー?」

天龍「え、そうなのか提督?」

203: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/20(金) 01:50:04.66 ID:44wTnK650

提督(朝っぱらから無駄に頭が回るなこの帰国子女は……。もういいやめんどうくさい)

提督「ああ、そうだ」

金剛「んー! やっぱりネー! さすがヴィッカ―ズ生まれの私の眼に狂――What's!!??」

天龍「て、提督!? マジかよ!?」

提督「ああマジだ。仕方がなかった。起きなかったし離さなかったからな」

金剛「どどどど同禽!?」

天龍「ま、まさか手を出したりなんか……」

提督「するかバカ」ゴツン

天龍「いてぇ」

金剛「まさか提督と夕立のrelationがそこまで進んでいるとは!」

提督「別に進んでない……」

提督「勘繰り過ぎだ」

提督「だいたい、私の顔が疲れているだなんて。そんなことがわかるほど私のことを見ていたのか?」

金剛「え! あっ……。いや。そんなことはないデスが……///」カア

提督「どうなんだ?」ズイ

金剛「え、あの、提督、近い…………デス……///」モジモジ

提督(大人しくなったか……)

天龍「……」

204: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/20(金) 01:50:44.57 ID:44wTnK650

川内「おはよーみんな。なんか夜戦の匂いがするねぇ~」

提督「おはよう川内。そんな匂いはないから安心しろ」

長門「なんだか騒がしかったな。朝から何を騒いでいるんだ金剛」

金剛「……何でもないデス」

提督「ほら、少し早く来たんだからみんなで飯の準備するぞ」

一同「はーい」

鳳翔「あ、皆さんおはようございます。今準備しますね」

提督「あ、鳳翔!」

鳳翔「はい?」

提督「あとで少し話がある」

鳳翔「?」

―――
――


211: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/23(月) 02:30:30.25 ID:cTxTy70G0

―工廠―

提督「やあ」

鳳翔「こ、こんにちは」

開発妖精A「おや」

開発妖精B「ていとくさんですな」

開発妖精C「かんむすさんもいらっしゃるようで」

開発妖精D「おしどりふうふですな」

開発妖精E「ほんじつはおひがらもよいゆえ」

開発妖精F「えいえんのあいをちかいます?」

提督「誓わない誓わない」

鳳翔「あ、あの……////」

提督「鳳翔も真に受けなくていいぞ」

212: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/23(月) 02:31:17.88 ID:cTxTy70G0

提督「今日は艦載機開発に来た」

開発妖精A「ついにぼくらのでばん」

開発妖精B「ぼくらでばんなかた」

開発妖精C「さいていちはかいはつにはいりますか?」

開発妖精D「かいはつしなくてもなんとかなるしすてむゆえ」

開発妖精E「しんこうがおそいのでは?」

開発妖精F「さあー?」

鳳翔「彼らは何を話しているんでしょう?」

提督「よくわからないことだ。気にしなくていい」

提督「ともかく、彼女に見合ったものをどうかひとつ」

妖精一同「「「はーい!」」」

―――
――


213: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/23(月) 02:32:03.01 ID:cTxTy70G0

提督「建造ではあまり気にならないが、妖精の仕事は本当にランダムだな……」

提督「しかし望みのものは手に入った」

提督「零式艦戦21型だ」

鳳翔「提督、ありがとうございます」ペコリ

提督「さっそく装備してみるか」

提督「艤装の、その矢2本か。1本には九九式艦爆が装備されている?」

鳳翔「そうですね。矢じりをはずすとこんな風に分離します」

提督「……摩訶不思議だな。装備するとこの模型は消滅し、矢じりとして矢と一体化するのか」

鳳翔「ん……。こちらの矢とそちらの矢では、反映される搭載数が違うようです」

提督「……なるほど。不便なもんだな。なんとかならんのか?」

開発妖精A「さあー?」

開発妖精B「ままなりませんな」

開発妖精C「じんせいはままなりませんゆえ」

開発妖精D「あんぱんのようなものですな」

開発妖精E「あまいあまーい」

開発妖精F「すうとしあわせになれるです?」

提督「人生論どころか麻薬にまで飛躍するのか……」

214: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/23(月) 02:33:08.72 ID:cTxTy70G0

提督「もっと大量生産出来ないのか?」

開発妖精A「んー」

開発妖精B「とらいあんどえらーが、ひつよう?」

開発妖精C「じょうほうがだんぺんてきすぎますな」

開発妖精D「かくりつぶんぷがきびしかた」

提督「どういうことだ……。そもそも矢とのこの連動はなんだ」

開発妖精A「ぜんたいのけいですゆえ」

開発妖精B「ごをたんどくでかんがえるのはだめとしかられました……」

開発妖精C「ちぇすのこまをひとつだけながめるのもおこられました……」

開発妖精D「このぶんだとしょうぎもだめなんだろうなー」

開発妖精E「ぼーどげーむ、やるです?」

開発妖精F「じんせいげーむだー」

提督「……」

鳳翔「提督……」

提督「いいさ。詮無いことだ。彼らには彼らの理屈があるのだろう」

提督(多分……)

215: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/23(月) 02:34:12.80 ID:cTxTy70G0

―司令室―

提督「それでは夕立。朝の報告を」

夕立「はい」

夕立「今朝は初めて意識的な装備開発を行いました」

夕立「合計消費資源は80/240/40/440」

夕立「また建造での消費資源は300/30/400/300です」

夕立「航空戦力の拡充も少しずつ進めていきますので、ご理解をお願いします」

提督「ありがとう」

提督「午後に本部からこちらに一人、軽巡洋艦が送られる」

提督「報告は以上」

提督「続いて作戦内容の説明に移る」

提督「まず遠征だが、第二艦隊のスターティングメンバーは旗艦吹雪、以下睦月、響、白雪、深雪、那珂βとする」

提督「今回はアクションによって作戦遂行人数とメンバーが変わるので、そこはこの書類をよく確認してくれ」

吹雪「……川内さんと天龍さんがローテーションですね」

提督「そうだ。何か不明な点はあるか?」

吹雪「ありません。大丈夫です!」

睦月「吹雪ちゃん、頑張ろうね!」ニコッ

吹雪「うん!」

提督「よし。第二艦隊は出撃準備にかかれ」

一同「了解!」

216: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/23(月) 02:35:18.90 ID:cTxTy70G0

提督「さて、残りのメンバーは全員第一艦隊となる」

提督「旗艦は那珂。以下長門、夕立、神通、金剛、殿は鳳翔」

提督「こちらが計画書だ」

提督「今回の作戦では南西諸島の防衛ライン上の敵侵攻艦隊を捕捉し、全力出撃によりこれを可及的速やかに撃滅する」

提督「本作戦から低速艦混成の編成になるが速力には注意すること」

提督「また鳳翔の着任により索敵が一気に拡大した」

提督「うまく調整してみてくれ」

提督「夕立は長門を、金剛は鳳翔のフォローを頼む」

長門(よし!)グッ

提督「何か質問はあるか?」

提督「……よし。第一艦隊、出撃!!」

226: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:40:05.67 ID:xT4ZXA290

―海上―

那珂(敵侵攻艦隊……。当然、戦艦や空母が出てくる可能性が……)

那珂『そろそろ予測された戦闘海域に入ります』

那珂『鳳翔さん。戦闘機を索敵機として……』

鳳翔「はい」

鳳翔(……一機、二機、三機)

鳳翔「発艦!」

長門(さて、どうなるか……)

那珂『各員、鳳翔さんからの伝達を待ち、攻撃準備を整えてください』

那珂『長門さんと金剛さんは』

金剛『OK! 先制を叩き込むネー!』

那珂『はい。お願いします』

鳳翔「………………」

鳳翔(私はここからの眺めを見たことがないはずのに……)

鳳翔(この既視感は……?)

鳳翔(それとも私は、本当は見ていたのでしょうか?)

鳳翔(……いいえ。今は戦いに集中しなくては)


227: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:41:18.71 ID:xT4ZXA290

鳳翔『見えました!』

鳳翔『二番機より。10時の方向。へ級へ級ハ級ハ級の複縦陣』

鳳翔『敵艦載機なし。このまま爆撃に移ります』

金剛『主砲発砲準備!』

鳳翔『攻撃隊、発艦!』

金剛『Standby!』

長門『いつでも来い』

鳳翔『攻撃開始地点へ到達、爆撃態勢に移ります』

鳳翔『爆撃開始!』

ドドーン!

那珂「封鎖を解除します」

鳳翔「ハ級一隻の撃沈を確認。反転します」

長門「あの位置か……」

提督『鳳翔が爆撃したところか。長門、狙えるか?』

長門「ふん、任せておけ。金剛!」

金剛「Roger that!」

長門「第一主砲発射!」ズドーン!

228: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:42:11.66 ID:xT4ZXA290

鳳翔「……目標、着弾地点から30の位置より右に20」

長門「次は当てる。第二主砲発射!」ズドーン!

金剛「撃ちます! Fire!!」ズドーン!

鳳翔「金剛さんの夾叉を確認! 敵艦、発砲しました!」

金剛「Great! 続けて第二主砲!」ズドーン!

神通「私も撃ちます」

鳳翔「へ級一隻撃沈」

金剛「Ouch! ちょっと被弾したネ」ガッ!

提督(弾道から逆算して……)

神通「撃ちます。当たってください!」ドドーン!

鳳翔「続けて旗艦へ級も轟沈」

那珂「主砲発射準備。てぇー!!!」ドドーン!

鳳翔「ハ級大破炎上。沈んでいきます」

那珂「敵艦隊、全艦沈黙。戦闘を終了します」

229: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:43:58.69 ID:xT4ZXA290

鳳翔「やりました!」

長門「ふん、まあこんなものだな」

提督『鳳翔、長門、実に見事な動きだった』

金剛「頑張りましたネー!」

夕立「……」

神通「夕立ちゃん……?」

夕立「何だか出番、なかったっぽい……?」ガーン!

神通「夕立ちゃんの顔が妖精さんみたいになってる!?」

那珂「ま、まあまあ。こういう時もあるよ」

提督『そうだな。自分が活躍できる時にしっかり活躍できることが大事だな』

夕立「ぽいー……」

230: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:45:09.63 ID:xT4ZXA290

―――
――


那珂「ん? あれは……」

長門「小島、だな」

那珂「……妖精さんがいるように思います」

那珂「ちょっと上陸してみます」

長門「お、おい。いいのか?」

金剛「ま、私たちが哨戒していれば問題Nothing!」

夕立「いってらっしゃーい」

那珂「え? みんな来ないの?」

長門「私は残ろう」

夕立「私も残るっぽーい」

長門「そ、そうか」ドキドキ

夕立「2人で守ってるよー」

金剛「Oh! それなら、じゃ、行ってくるネー!」

神通「行ってきます」

鳳翔「行って参ります」

長門(期せずして夕立とふたりきりになってしまった……)

長門(何を話せばいいんだろうか)ドギマギ

231: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:46:06.01 ID:xT4ZXA290

―小島―

那珂「ホントに……。こんなところに妖精さんが!」

はぐれ妖精A「かんむすさんだー」

はぐれ妖精B「みちくさ、たべる?」

はぐれ妖精C「たべてもげんきはでませんな」

はぐれ妖精D「たべれる? たべられる?」

はぐれ妖精E「ことばのみだれはこころのみだれ」

はぐれ妖精F「うちゅうのほうそくがみだられるー」

神通「皆さんは、ここで何を?」

はぐれ妖精A「なんだったか?」

はぐれ妖精B「さあー?」

はぐれ妖精C「みんなではがねつくってました」

はぐれ妖精A「そうだっような」

はぐれ妖精B「そうじゃなかったような」

はぐれ妖精D「それしかとりえがなくて」

はぐれ妖精E「だうーん……」

はぐれ妖精F「ぼくら、いらないこ?」

那珂「いらなくないです。大丈夫です」アセアセ

232: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:47:38.41 ID:xT4ZXA290

金剛「Well……皆さんはどうして鋼材を?」

妖精一同「「「…………」」」

妖精一同「「「さあー?」」」

金剛「さ、さあーって……」

那珂「あはは……」

鳳翔「それより、鋼材を“つくる”というのが気になります」

鳳翔「鋼は掘り出して加工するものではないのですか?」

はぐれ妖精A「あー」

はぐれ妖精B「はがねははがねからつくります」

那珂「なんですって?」

はぐれ妖精C「あと、うみからはがねをひろってきます」

神通「海に潜るんですか? 危ないです」

はぐれ妖精C「あぶないですか?」

金剛「海には、深海棲艦という魔物がいるんデスよー?」

はぐれ妖精D「もしかして、うみのかんむすさんたち?」

はぐれ妖精E「たまにまみえるかも」

はぐれ妖精F「みなさんかっこいいでざいん」

金剛「海の……艦娘…………」

那珂「…………」

233: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:48:55.65 ID:xT4ZXA290

はぐれ妖精A「みんなともだち」

はぐれ妖精B「じんるいみなきょうだい?」

那珂「……その、“海の艦娘”さんたちとはどんなやり取りを?」

はぐれ妖精E「なんでしたっけ?」

はぐれ妖精F「よくかんがえたことなかた」

妖精一同「「「…………」」」

妖精一同「「「さあー?」」」

はぐれ妖精A「いろいろおはなししましたが」

はぐれ妖精B「いろいろあそんでもらいましたが」

はぐれ妖精D「ぼくら、もてあそばれてばっかり」

はぐれ妖精C「でもそれがいいかもー?」

那珂「……は、話を戻しましょう」

那珂「海から鋼材を拾うというのは?」

はぐれ妖精C「うみのみずからはがねをひっこぬいてます」

金剛「What's!? か、海水から!?」

はぐれ妖精C「なにか、おかしかったですか?」

はぐれ妖精D「やっぱりぼくら、やくたたず?」

はぐれ妖精E「だうーん……」

鳳翔「そんなことないですよ!」アセアセ

234: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:50:01.73 ID:xT4ZXA290

はぐれ妖精B「ほんと?」

はぐれ妖精A「よかたよかた」

はぐれ妖精C「かんむすさんは、みんな、やさしいです」

那珂(いや、おかしいと言えば何もかもおかしいけど)

那珂(そもそも私たちの存在自体……)

那珂(ドロップだって、私の持っている記憶からは大きく逸脱しているし……)

那珂(それと似たようなもの……なのかな……)

那珂「やっぱり妖精さんたちはすごいです」

那珂「私たちにできないことを平然とやってのけます」

はぐれ妖精A「ぼくら、すごかった?」

はぐれ妖精B「たいしたことないですな」

はぐれ妖精C「きょうえつ、しごく?」

はぐれ妖精D「しごかれたいかもー」

はぐれ妖精E「これはおれいをしなくては」

はぐれ妖精F「おそなえものだー」

はぐれ妖精D「くもつくもつ」

はぐれ妖精E「しずまりたまえー」

はぐれ妖精B「なぜわがむらをおそうー?」

235: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:51:14.92 ID:xT4ZXA290

はぐれ妖精C「はがね、あげます」

那珂「本当ですか? ありがとうございます」ペコリ

はぐれ妖精A「こちらへどうぞー」

那珂「こ、これは……」スッ

はぐれ妖精B「あっしゅくしてます」

はぐれ妖精D「かくちょうし、つけました」

はぐれ妖精E「ごかんせいがありますゆえ」

はぐれ妖精F「かいとうできますな」

那珂(私たちの身体と同じ。物理的情報がそれ自体の中に折り畳まれているんだ……)

那珂「これ、ありがたく頂戴しますね」ニコッ

はぐれ妖精A「ではでは」

はぐれ妖精B「またあえる?」

はぐれ妖精C「またあそべる?」

那珂「うん!」

那珂「また、来ます」

236: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:52:13.27 ID:xT4ZXA290

―海上―

長門「ん。戻ったか」

夕立「おかえりー!」

長門(結局緊張して何も話せなかった……)

長門「どうだった?」

金剛「妖精さんから鋼材を貰ってきたヨー!」

長門「そ、それだけ?」

那珂「いや、かなり収穫はありましたよ」

神通「提督にはちゃんと報告しないとですね」

那珂「うん……」

長門「ほう……?」

鳳翔「とりあえず、進軍しましょうか」

夕立「れっつごー!!」

―――
――


237: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:53:27.37 ID:xT4ZXA290

長門「そしてまた、このパターンか……」

夕立「ふんふんふーん♪」

長門(自分も小島に向かうべきだったか?)

長門(しかし哨戒は必要だ。いつ敵が襲ってくるかわからん)

長門「……」チラッ

夕立「~♪」

長門(夕立は気にしてないようだが、これでは間が持たん!)

長門(いや、私の精神が持たん!)

長門(しかし話しかけるのは……)ドキドキ

長門「……」チラッ

夕立「うん?」

長門(目、目が逢ってしまったー!!!)ズキューン!

夕立「どうしたんですかー? 長門さん」

長門「い、いや……。ちゃ、ちゃんと哨戒をやってるかと思って」

夕立「やってますよぅ、もーう!」プクー

長門「そ、そうだな。悪かった……」

長門(マズイ、夕立の機嫌を損ねてしまったか! というか、哨戒出来てないのは私の方じゃないかー!)ガーン!

238: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:54:20.94 ID:xT4ZXA290

夕立「……」

夕立「“自分の甲板”に立つのって、気持ちいいですよねー」

長門「え?」

夕立「ほら。この姿にならないと、自分の甲板の上に立てないじゃないですか」

長門「ああ……。まあ、確かに。この姿に生まれ変わらなければ、経験出来ないことだったのかもしれんな……」

長門「かつて私に乗った幾人もの兵が見ていた光景を、否応なく想像させられる」

夕立「でも、なんか不思議ですよね」

夕立「私が私の上に乗っているだなんて……」

夕立「なんだかこの船は、私じゃないみたい」

長門「それは……どういう?」

夕立「だって、自分の姿なんて鏡がないと見られないはずのに、こうやって直接見ることが出来るなんて、不思議じゃないです

か?」

長門「それはまあ、そうかもしれん」

夕立「だから、夕立は、実は今下にある夕立とは別のものなんじゃないかなー…………」

239: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:55:23.49 ID:xT4ZXA290

夕立「なーんてね!」

長門「は?」

夕立「夕立、こういう難しい話はよくわからないっぽい!」

長門「おいおい、自分からその話を振ったんじゃないか」フッ

夕立「ふふ……。長門さん、やっと笑ってくれましたね」タッタッタ

長門「え?」

タッ

長門「お、おい!」

スタッ

夕立「ふぅー。着地成功ー!」

長門「な、何も、こちらまで跳んでこなくても……」

夕立「言葉だけじゃ、伝わらないことだってあると思いますよ?」

夕立「私は、もっと長門さんとお話したいです!」

夕立「長門さんだけじゃなくて、他の娘とも、そして……」

夕立「提督とも」

長門「夕立……」

240: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:56:21.40 ID:xT4ZXA290

夕立「だからこれからも、よろしくお願いします」ペコリ

長門「夕立……」ジーン

夕立「ぷはっ、長門さん、泣いてるんですか?」

長門「なっ! バカか、泣いてなどおらん! このビッグセブンが……。目にゴミが入っただけだ!」

夕立「あははー! 長門さんおもしろいかもー! みんなに報告しなきゃー!」

長門「おい、こら夕立ー!」

夕立「きゃー!! 長門さんこわいっぽいー!」

長門「待てー!!!」

夕立「長門さん! 哨戒ですよ哨戒! 哨戒しなきゃ!」アハハ

長門「ふふふ……。このビッグセブン、哨戒しながらお前をとっ捕まえるくらい、造作もないことだ……」

長門「いくぞ!」

夕立「わー!!!」

――――――――――

那珂「なーに甲板でいちゃついてんですかねーあのふたりは……」

金剛「Picnicと勘違いしているのデショウかー」ヤレヤレ

神通「まああのふたりに限って、哨戒を忘れてることはないでしょうけど……」

鳳翔「なんだか仲良くなったみたいですね」ニコニコ

241: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:57:39.10 ID:xT4ZXA290

―――
――


那珂「かなり進軍を進めました……」

那珂「各艦、警戒を厳に」

那珂「鳳翔さん、索敵をお願いします。敵艦載機に充分注意してください」

鳳翔『はい!』

鳳翔『航空隊、発艦始め!』

長門『……那珂、どう思う?』

那珂「先程の戦闘は明らかに偵察艦隊でしょう」

那珂「作戦書通りに侵攻艦隊が来るとすれば、空母や戦艦がいても何らおかしくはないと思います」

長門『なるほどな』

金剛『腕がなるネー!』

鳳翔『! 三番機より、敵艦隊見ゆ! ヲ級ヌ級リ級へ級ハ級ハ級の6隻』

長門『やはり来たか』

鳳翔『このまま航空戦に移ります』

鳳翔『偵察隊に従い侵攻! 敵戦闘機と交戦に入ります!』

242: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:58:30.37 ID:xT4ZXA290

那珂「封鎖を解除します」

那珂「提督、航空母艦2隻を含む艦隊と会敵しました」

提督『ああ。まずは健闘を祈る』

提督『各艦、対空戦闘準備』

提督『鳳翔は爆撃の準備も進めろ』

鳳翔「了解! 攻撃隊、発艦!」

提督『よし』

提督(先程は航空母艦がいなかったからな。ここからだ)

鳳翔「制空権争い、拮抗しています!」

提督『充分! そのまま爆撃態勢に移れ』

鳳翔「爆撃開始! 爆弾投下!」

那珂「敵爆撃機及び攻撃機接近!」

提督『各艦対空砲火! 撃ち落とせるだけ撃ち落とせ!』

金剛「Fire!!!」ズドーン!

長門「てぇー!!!!」ズドーン!

神通「撃ちます!!」ドドーン!

那珂「当たれ―!!!」ドドーン!

夕立「てぇー!!」ドドーン!

243: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/27(金) 23:59:28.66 ID:xT4ZXA290

ズドーン!

金剛「くっ!」ガツン!

金剛「残骸が接触! みんなは!?」

鳳翔「中破しました……。しかし、このまま沈む訳には参りませんっ!」

提督『状況は!?』

那珂「金剛さんが若干の被弾。鳳翔さん中破。敵艦隊はハ級を1隻撃沈しました」

提督『よし。砲撃戦だ! 長門!』

長門「もうやっている! 第一、第二主砲、斉射!!!」ズドーン!

夕立「へ級が発砲!」

神通「重巡リ級、沈んでいきます」

長門「ふん。きかぬ!」ガッ

夕立「ヌ級の発艦を確認!」

提督『かまうな! 今は撃ち続けろ!』

金剛「撃ちマス! 第三、第四主砲一斉射! Fire!!!」ズドーン!

神通「うてぇー!!!!」ドドーン!

244: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:00:42.89 ID:mhxNOFh30

那珂「ヲ級轟沈! ……長門さん!」

長門「またか。それで攻撃のつもりか!?」ガツン!

那珂「ハ級中破! 発砲してきます! うてぇー!!」ドドーン!

夕立「これでどう!?」ドドーン!

神通「へ級中破! 続いてハ級の撃沈を確認しました。ヌ級が攻撃隊を発艦。きゃあ!」ガガガッ

長門「しつこいな……。私が仕留める」

那珂「続けて撃ちます。てぇー!!!」

長門「これで終わりだ。てぇー!!!!」

夕立「鳳翔さん! くっ!」ドドーン!

鳳翔「あぁ!!」ドカーン!

長門「大丈夫か!?」

鳳翔「うぅ……。大破……しました…………」

那珂「ヌ級の轟沈及びへ級の撃沈を確認。敵艦隊、殲滅しました」

提督『鳳翔! 航行は可能か!?』

鳳翔「はい……。なんとか……」

提督『……長門、乗せてやれ』

長門「了解した」

提督『ふぅ。なんとか、終わったな……』

245: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:02:00.11 ID:mhxNOFh30

―司令室―

那珂「第一艦隊、戻りました」

提督「ご苦労。みんなお疲れ様」

提督「今日はみんなよく頑張ってくれたと思う。鳳翔もだ」

鳳翔「提督……。お言葉ですが……」

鳳翔「……私は、こんなにやられてしまいました」

提督「それがどうした」

提督「初の実戦であそこまでやれたんだ。誇っていいはずだ」

鳳翔「でも……。悔しくて……っ! うっ…………うぅ……」ポロポロ

提督「鳳翔。涙が溢れるのなら、それは自身の能力を卑下することなく、精一杯戦ったことの紛れもない証だ」

鳳翔「!」

提督「だから鳳翔。どうか、泣かないでほしい」

鳳翔「……はい!」

鳳翔「ですが、私が無茶をしては、ダメですね……。本当は今晩、皆さんに晩御飯を――」

提督「今日は特別サービスだ。鳳翔には高速修復材の使用を許可する」

提督「修復後は風呂にでも浸かって、ゆっくり身体と心を休めるといい」

提督「そして晩御飯、楽しみにしているぞ」

鳳翔「……ありがとうございます!」

ガチャ

246: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:02:59.18 ID:mhxNOFh30

那珂「へぇ。提督もいいこと言うじゃないですか」

提督「まあたまにはな」

提督「長門と金剛。働きとして申し分なかった。この調子でやっていってほしい」

長門「任せろ」グッ

金剛「任せるネー!」

提督「それと夕立、鳳翔が攻撃を食らう際にちゃんとフォローに入っていたな。偉いぞ」

夕立「…………でも、鳳翔さんを大破させちゃった」

提督「それでも褒めるには値すると思う」

提督「神通も、あのタイミングで反応出来ると望ましかった。那珂では間に合わなかっただろうからな」

提督「少なくとも、私はそのレベルを望む」

神通「はい、ごめんなさい……。精進します」

提督「うん、いい眼だ」

提督「細かい説教は後にしよう。私も航空戦のデータを分析しなくてはならないし、そのフィードバックが済んでからだ」

提督「それから任務申請をしておいたので、明日の朝には新艦娘が本部からやってくるだろう」

提督「こちらからは以上。何かあるか?」

那珂「はい」スッ

247: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:04:39.77 ID:mhxNOFh30

提督「なんだ?」

那珂「第一艦隊旗艦、那珂より報告させていただきます」

那珂「進軍中、2箇所の小島にそれぞれ上陸しました」

那珂「そこでは妖精が活動しており、資源をつくっていました」

提督「ほう? “つくっていた”というのは、加工していた、ということか?」

那珂「いいえ。文字通り、“創って”いるようです」

提督「なんだって?」

那珂「これは妖精との対話から得た情報ですが……。彼らが言うには、鋼材から鋼材を創れるのだそうです」

提督「……」

那珂「また、海水から鋼材を抜き出すことが出来るとも言っていました」

那珂「2箇所目の小島ではボーキサイトを創っていたようですが、ほぼ同様の解答結果が得られました」

提督「抜き出す、というのは面白いな。やはりドロップに近いように思う」

那珂「私も同じことを考えました」

提督「だろうな。んー……。前者についてはよくわからないが後者は……」

提督「確か資料上では“構成”とあった気がするが、実質的には“抽出”なのかもしれない」

提督「そう考えると色々と符合する点が見えてくるな。報告ありがとう。他には?」

248: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:05:47.95 ID:mhxNOFh30

那珂「はい。もう1点ありまして……」

提督「聴こう」

那珂「はい。それが、どうも妖精は、深海棲艦とも接触しているようです」

提督「なんだと?」

金剛「妖精たちは、深海棲艦を“海の艦娘”と呼んでマシタ……」

提督「なるほど。出航は陸からだから、君たちは差し詰め“陸の艦娘”と言ったところか」

提督「しかしよくよく考えてみると、奴らは洋上で会う時には艦船形態なわけだから、“艦娘”なのかどうかは見当がつかなか

ったな」

長門「そんな、バカな……」

那珂「でも可能性としては大いにあり得ますよね……」

提督「まあ、そうなるな」

提督「鹵獲してしまえばてっとり早いが……それも難しいだろう」

提督「だがこれに関しては一応資料がある。そこのモニターを見てくれ」

ピッ

提督「これだ」

249: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:06:48.37 ID:mhxNOFh30

神通「これが、深海棲艦……」

那珂「確かに、独特の……ヒト型をしていますね……」

提督「だが一方でヒトの姿からかけ離れてもいる。どう思う? 自分と同種の存在に見えるか?」

長門「まったく見えないな」

金剛「そんな質問、nonsenseデース……」

夕立「……」

提督「“海の艦娘”というのは彼らなりの比喩じゃないか?」

提督「深海棲艦の正体には諸説あるようだが、沈んだ艦娘の怨念、というのが通説だそうだ」

那珂「提督は、それを?」

提督「いや、さすがに鵜呑みには出来ないだろう。それで万事説明出来るというのなら盲目的に信じるかも知れんが……」

提督「何よりわかっていることが少な過ぎる」

提督「だからと言って、妖精の言葉を鵜呑みにするのも、ね」

提督「彼らの言葉は難し過ぎるからな」

提督「まあともかく。貴重な情報をありがとう。とても参考になった」

提督「報告は終わりか?」

那珂「あ! 結局、鋼材20、ボーキ15を妖精さんから戴きました。以上です」

250: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:09:29.90 ID:mhxNOFh30

提督「了解した。那珂は拾得艦を呼んできてくれ。これ以上待たせては申し訳ない」

那珂「はい、ただいま」

ガチャ

タッタッタ

??「失礼します」

??「……失礼、します」

提督「私がこの鎮守府の提督だ。とりあえず自己紹介を頼む」

??「堅苦しいのは苦手なんだが……」

提督「まあ、そう言わずに。何なら楽にしてくれていいぞ」

??「そ、そうなのか? じゃあ……」

摩耶「アタシ、摩耶ってんだ、よろしくな」

足柄「足柄よ。ふふ、よろしくね」

提督「ああ。ふたりとも、よろしく」

摩耶(なんかこの提督、ちょっと怖いな……)

足柄(なかなかいい男じゃない……!)

提督「那珂は摩耶を、神通は足柄を案内してやってくれ」

那珂・神通「「了解!」」

251: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:10:26.93 ID:mhxNOFh30

長門「これからどうするんだ、提督」

提督「本当は今すぐにでも工廠に向かいたいところだが、やるべきことが多いな。報告も長引いてしまったし」

提督「どうしたものか……」

提督「しかし先に工廠へ向かおう。やはり気になる」

―工廠―

加賀「航空母艦、加賀です」

提督「加賀。ようこそ、鎮守府へ」

加賀「……あなたが私の提督なの?」

提督「そうだ」

加賀「そう……。それなりに期待はしているわ」

提督「よろしく頼む」

提督「気分は?」

加賀「悪くないわね。この姿にはさすがに少し、驚いたけれど」

提督「結構」

252: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:11:29.43 ID:mhxNOFh30

加賀「そちらの方は……?」

提督「紹介しよう。左から順に戦艦長門、戦艦金剛、駆逐艦夕立だ」

長門「長門だ。歓迎するよ」スッ

加賀「長門……。ありがとう、よろしく」スッ

金剛「Hi! 金剛デース!」

加賀「金剛。あなた、そんな感じのキャラだったのね……」

金剛「な、長門と同じことを言われたデース」ガーン!

夕立「駆逐艦夕立です! よろしくお願いします」ペコリ

加賀「よろしく、夕立」

加賀(礼儀正しい娘ね……)

提督「ひとまず加賀のことは3人に任せる。鎮守府を案内してくれ」

提督「私はやることがあるので、また後ほど」スタスタスタ

金剛「……結構急いでマシタネー?」

夕立「多分、着任する軽巡洋艦のお出迎えっぽい?」

長門「ああ。得心した」

253: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:12:42.15 ID:mhxNOFh30

―司令室―

提督「そろそろ時間か」

コンコン

提督「入っていいぞ」

ガチャ

??「失礼します」

提督「本部から話は聞いているかもしれんが、私がこの鎮守府の提督を務めている」

提督「君は?」

龍田「初めまして、龍田だよ」

提督「龍田か。これからよろしく頼む」

提督「こちらには天龍が既に着任している。急いで呼んでこよう」

龍田「お気遣い、ありがとうございます」ペコリ

―――
――


254: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:13:36.40 ID:mhxNOFh30

ガチャ!

天龍「た、龍田か!?」

龍田「天龍ちゃん? あまり騒がしくしては――」

ガバッ

天龍「……逢いたかった…………」ギュウ

龍田「あら~。提督さんの前なんだけどな」

提督「……天龍、龍田のことは任せたぞ」

龍田「はい、天龍ちゃんのことはお任せください」ニコッ

提督「あ、ああ……。任せたぞ」

提督(これじゃあどっちが新艦娘なのかわからないな……)

255: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:15:36.49 ID:mhxNOFh30

―――
――


―波止場―

提督「今日も来てたか」

響「司令官。今日もお疲れ」

提督「隣いいか」

響「どうぞ」

提督「……」

響「……」

提督「この前の話」

響「うん?」

提督「……船として世界がどう見えるかを尋ねたが、それは艦娘になる前もそうだったのか?」

響「それは……はっきりしない…………」

響「……これは、私自身の体感だけど、いいかな?」

提督「なんだ?」

響「私が艦としての記憶を持っていることは確かだけれど、私はその記憶に絶対の確証がない」

提督「それは結構一般論なんじゃないか?」

提督「誰しも皆、自分の記憶に確証があるだなんて言えないだろう」

響「そういう意味じゃない……と思う」

256: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:16:53.10 ID:mhxNOFh30

響「うまく説明出来ないかもしれないけど……」

響「まず端的に言って、記憶が断片的過ぎて細部までは思い出すことが出来ない」

響「でもその記憶が示す光景は、そうだね。まさに今私が見ているような見え方でしか見えてないよ」

提督「なら今と同じように世界を見ていたということか」

響「そう……なるのかな……」

提督「断言出来ないのか?」

響「うん」

響「いや勿論、解答自体は本当に単純なのかもしれない」

響「私は今と同じように世界を見ていた。それで終わりなのかもしれない……」

響「でも」

響「私はその光景が、紛れもない“響”が見ていた光景なのか、ということに関して確証が持てない」

提督「……」

提督「もしその光景が、響にしか見ることの出来ないものだったとしたら、それは響のものになるんじゃないか?」

響「うん、或いはそうなのかもしれない」

響「でも例えば、私の記憶にある光景は、私の乗組員が見ていた光景だとしても差し支えがない」

提督「ああ……。なるほどね。響の言いたいことが少しわかった気がする」

257: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:18:22.19 ID:mhxNOFh30

響「尤も、私はそれでも構わないけどね」

響「乗組員の記憶も、私の一部として考えることだって出来るし」

響「だからそれによって、私が私自身の存在に関して疑問を抱いたりはしないけど……」

提督「自分の記憶に、リアリティが持てないか?」

響「そこもまた微妙なところだね。司令官の方こそ、自分の過去にリアリティを感じるかい? 先程の一般論の話になるけど」

提督「はは。確かに、微妙なところだ。誰かの映した映像を今の自分が見ているようなものかもしれない」

提督「……なるほど。それもひっくるめて、響は自分を肯定出来ると」

響「……」コクン

響「それでも、記憶が乗組員のものと区別がつかないとしたら、それを響の記憶と言えるのかは常に疑問に思うよ」

提督「響にまつわる記憶、とは言えるかもしれない」

響「…………」

提督「! 響……。もしかして……」

響「そう」

響「私が、響の記憶を持つ存在が、この世界に複数いるのだとすれば」

響「私は外的にだけでなく、内的にも自分の存在を説明することが出来ない」

響「この事実と、私が私自身の存在に確信を持っていることとの間には、大きな隔たりがあるんじゃないかな」

258: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:19:54.21 ID:mhxNOFh30

提督「“響たち”が“響である”ということは、形状と記憶によってしか定義されていない……。或いは定義出来ない……」

響「それは……断言したくない…………」

提督「響……」

響「本来なら定義なんてその2つで充分だと思うんだ」

響「問題はむしろ、それすら説明足り得てないのかもしれないというところにある気がする」

響「理由は単純」

響「仮にここに“響”が10人いたとしても、“私”は他の響たちと自分を区別出来るから」

提督「それは何によって?」

響「それが説明出来ない……」

響「確信、臆見、doxa……」

響「そういうものだと思う」

提督「それが、とある響にはあり、他の響にはない、と?」

響「それはありえない……。少なくとも私の理性はそう言っている……」

響「ダメだね……。矛盾しているよ……」

提督「矛盾はしているが、ダメではないだろう。順当な帰結に思える」

259: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:21:26.72 ID:mhxNOFh30

響「……」

響「私にはそれがあって、彼らにはない、なんてことは考えられない」

響「他の9人にとっては、彼ら自身が自他を区別するにあたって確信を持っていなければならない」

提督「しかし“彼らの”確信は、君には与えられていないものだ」

響「そう」

響「でも多分、他の9人に聴けば、9人が9人、当然それがあると答えるはずなんだ。そうじゃないとおかしい」

提督「“確信している”という発言の意味が、それぞれで異なっているとしたら?」

響「いや……。それだと、なぜ“私”がそれを理解出来るのかが説明出来なくなる……」

提督「……私の見解を述べてもいいか」

響「是非」

提督「……私は、それはもはや“理解したつもりになっている”というだけのことだと思う」

提督「“私”からしてみれば、先程響が言った“確信を持っている”という発言さえ、確信のないものだ」

提督「私はただ、君の表明を聴いたに過ぎない」

響「私が嘘をついているとでも?」

提督「いや、そうは思わない。原理的な、可能性の話だ。疑おうと思えばいくらでも疑える」

提督「たとえこの場で響を、酷い拷問にかけたとしてもね」

響「……」

260: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:23:08.47 ID:mhxNOFh30

提督「完全に充足された他者理解は、原理的に否定されてるんじゃないか?」

提督「他者に対しては原理的にいくらでも疑うことが出来るということと、自分自身に対して全く疑う余地が存在していないと

いうことは、相即的なことなのだと思う」

提督「もし充足されたとしたら、それはもはや、他者ではない気がする」

提督「そして、あくまで自身の確信を、実在の地平に置くとするのであれば……」

提督「先程言った響の矛盾が、言語の限界であり……」

提督「――響の世界の限界なんだろうね」

響「………………」

響「そう、なのかもしれない……」

響「あまり受け入れたくないことだけど」

提督「そうだな……。すまなかった」

響「いや、いいんだ」

提督「……」

響「……」

提督「……私は、そろそろ戻るとするよ」

響「……司令官」

提督「うん?」

響「Спасибо」

響「その……」

響「また、来てほしい」

提督「ああ、わかった。また来るよ」

響(…………)

響(私は、司令官と、少しはわかりあえたんだろうか)

響(それとも、わかりあった気になっただけなんだろうか……)

テクテク

提督(響も、随分と強がっていたもんだな……)

261: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:25:11.54 ID:mhxNOFh30

―食堂―

間宮「お待たせ致しました。今日は鳳翔さんにも実際に料理を手伝ってもらいました」

鳳翔「はい。いくつかの品を作らせていただきました」

金剛「Wow! おいしそーネー!」

加賀「こ、これは……。さすがに気分が高揚します」

夕立「いいなぁー。私も料理とかやってみたいっぽいー」

金剛「あ! 今Nice ideaを思いつきマシター!」

金剛「今度私が皆さんに紅茶を振る舞うネー!」

足柄「お茶会? 大人の嗜みね」

天龍「お、いいじゃねぇか!」

天龍(いいこと思いついたぜ!)

那珂β(那珂ちゃんもイイこと思いついちゃったー! きゃは☆)

川内(何だろう……。なぜか不吉な予感が……)

提督「かまわんが、やるからには出撃ではそれなりの成果を出してほしいところだ」

金剛「Yes sir!」

―――
――


262: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:26:31.48 ID:mhxNOFh30

―駆逐艦の階・談話室―

コンコン

睦月「はーい!」

ガチャ

長門「失礼する」

吹雪「な、長門さん!?」

長門「よし!」

長門「今日は間宮に頼んでアイスを持ってきたぞ!」

長門「皆食べるがいい!」

響「хорошо」ヒョイ

白雪「わぁ! いただきますね!」パクー

深雪「いっただっきまーす!」

睦月「い、いいんですか?」

長門「かまわん!」ニカー!

長門「ちなみに私はもう食べた」

吹雪「い、いただきます」オズオズ

睦月「ありがとうございます」ペコリ

263: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:27:52.29 ID:mhxNOFh30

夕立「夕立ももらうー! いただきまーす!」パクッ

夕立「ん~~~! おいひー!!」

夕立「長門さんありがとー!!!」ダキッ

長門「よしよし」~♪

夕立「…………」

長門(まったく、駆逐艦は最高だな!)

長門(もう何も怖くない!)

吹雪「(長門さん……)」

睦月「(なんか急に……)」

響「(変わったね)」

夕立「それじゃあみんな、夕立はお仕事に行って参ります!」

睦月「夕立ちゃん頑張ってー!」

白雪「お疲れ様です、頑張って!」

夕立「行ってきまーす!」

一同「いってらっしゃーい」

長門(うぅ……。束の間のひと時……)

264: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:29:02.23 ID:mhxNOFh30

―司令室―

提督(鳳翔……。航空母艦は全員こんなことが可能なのか?)

提督(鳳翔で現状19機。初戦であれだけの数の艦載機を統一的に操って見せた)

提督(確かにまだまだ荒い部分はあるが、それにしても……)

提督(そして今回進水した加賀に至っては93機)

提督(凄まじい演算ポテンシャル、並列情報処理能力を持っているとしか……)

コンコン

提督(もう時間か)

提督「夕立か? 入っていいぞー」

ガチャ

夕立「失礼しまーす」

提督「さて、今日も今日とて仕事だ」

夕立「ぽいー」

―――
――


265: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:30:38.60 ID:mhxNOFh30

提督「……」カチャカチャカチャ

夕立「……」ペラペラペラペラ

提督(今晩は静かだな……。いつもなら文句のひとつでも垂れそうだが)

提督(仕事も順調過ぎる早さで進んでる。センスがあるのか、それとも……)

夕立「提督さん。ここまで、終わりました」

提督「今日は仕事が早いな。もう飲み込んだか?」

夕立「うん」

提督「…………元気が、ないように見えるが」

夕立「そりゃね……。今日はあんまり活躍出来なかったし」

夕立「それに鳳翔さん、大破させちゃったし」

提督「……」

提督「どちらも言った通りだ」

提督「1戦目は彼我戦力差と射程の問題があったし」

提督「2戦目に関しても、そもそも戦闘はチームワークだ。夕立が過剰に責任を感じる必要はない」

夕立「……ちがう。違うんだよ…………」ジワ

夕立「出来ると思ったのにっ!!! わかってたのに出来なかったのが、一番悔しいんだよぅ!!!!」ポロポロポロ

提督「!」

夕立「知らなかったなら覚えればいいよ……」

夕立「気づかなかったなら気をつければいいよ……」

夕立「でも……。でも……っ!!」ツー

提督「………………」

266: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:32:01.72 ID:mhxNOFh30

提督「夕立……」スッ

夕立「あ……」

ギュウ

提督「誇り高いな、夕立は。……本当に」

提督「幸いにも沈んだ船はない。まだまだやり直せるし、俺たちはもっと強くなれる!」

提督「だから」

提督「…………もし夕立が道を誤った時は、俺が正してやる」

提督「それじゃあダメか?」

夕立「ううん」グスン

夕立「……でも、約束してほしい」

提督「……わかった」

提督「約束だ」

夕立「……うん。約束……」

夕立「でも、今は…………ぅ……」

夕立「――――――――――!!!!!」



夕立は、ただただ、哭いた。

267: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:33:47.16 ID:mhxNOFh30

―――
――


提督「もう、いいか」

夕立「もう、少し……」

提督「おいおい……」

夕立「えへへー」

提督「ふっ。やっと笑ったじゃないか」

夕立「!」

提督「元気、出たか?」

夕立「……」

夕立「うん!」

夕立「提督さん?」

提督「どうした?」

夕立「ありがとね!」

提督「いいさ」

夕立「さ、仕事のあと片付けしなきゃ!」

提督「そうだな。だが、その前に……」

268: ◆2pHIc08LV13v 2015/02/28(土) 00:36:30.08 ID:mhxNOFh30

夕立「?」

スタスタスタスタ

ガチャ

??「「「「う、うわぁ!!!!」」」」

提督「おい、お前ら。何してる?」

金剛「あ、あはは~……」

金剛「ハイ」

提督「はいじゃないが」

足柄「ゆ、夕立ちゃんの泣き声が聞こえてー……」

長門「とても心配になったのだな」

川内「しかしいざ来てみれば何というか雰囲気的に夜戦的な匂いがアダッ!」ガッ

金剛「(Shut up. 川内?)」

川内「(おーけーおーけー……)」ヒエー

提督「はぁ……。まったく……」

提督「夕立? お前が私に何か鬼畜の所業をされて泣かされているのではないかと、みんな心配になって来たそうだ」

提督「愛されてるなー夕立」

夕立「み、みんな、ごめん。もう大丈夫だから。それに……」

夕立「提督さんは、すっっっっっごく! 優しいよ?」

川内(あ、コレほの字ですやん)

金剛(ぐぬぬ……)

長門(ぐぬぅ……。私もそんなこと言われたい……)

足柄(私も秘書艦やりたーい……)

276: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/14(土) 02:48:44.97 ID:Ode8XmZG0

ゾロゾロゾロ

ガチャ

提督「ふぅ。やっと帰ったか」

夕立「提督さん、片づけ、終わったっぽい!」

提督「うん、ありがとう」

提督「さて、私はもう寝る。夕立も、今日は早く寝た方がいい。さすがに泣き疲れたろう」

夕立「うん……」

夕立「……」

提督「? 夕立?」

夕立「え? あっ! ううん! 何でもないの!」

提督「……ぼーっとしてるな。やっぱりもう眠いんじゃないか?」

夕立「う、うん……。そうだね……」

提督「まさか、まだ気にしてるのか?」

夕立「いや、そんなことない……けど……」

夕立「……」

夕立「…………あの……ぁ……」

提督「うん?」

夕立「さっきのじゃ、その…………足りなかったかも……」

277: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/14(土) 02:50:13.81 ID:Ode8XmZG0

提督「なんだって?」

夕立「いや……だから…………その……」

夕立「……」

夕立「ゆ、夕立! こ、今晩は提督さんと一緒に寝たいっぽい!」

提督「!?」

夕立「……ぅ…………///」

提督「…………」

提督「上官が君のような幼い娘と褥を共にするなどと……。本気か?」

夕立「ほ、本気だよ!!」ジワ

提督「あーもう泣くな泣くな!」

提督「まったく……。急にどうしたんだ?」

夕立「だって、やっぱり不安で……」

提督(不安……か…………)

夕立「さっき、提督さんと一緒なら大丈夫だって、そう思えたの」

夕立「それはホントなの! 嘘じゃないの……。でも……」

夕立「これからまた独りになるんだって思ったら、なんだか怖くて……」

278: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/14(土) 02:51:28.26 ID:Ode8XmZG0

提督「独りって……。独りじゃないだろう。俺も、みんなもいる」

夕立「もう……。理屈じゃないんだよぅ……」ウルウル

提督(…………)

夕立「今日は怖いから、嫌な夢を見ると思ったの」

夕立「だから多分、独りじゃ眠れないっぽい……」

夕立「お願い。隣にいてくれるだけでいいから……」

提督(……そんなこと言われたら、断れないだろうが)

提督「はぁ……」

提督「わかったよ」

提督「ほら、部屋に来なさい」

夕立「……ぅ、ぁ…………ありがと……///」

279: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/14(土) 02:53:00.97 ID:Ode8XmZG0

―居室―

提督(どうしてこうなった……)

夕立「……寝巻を、着てきました」

提督「……他の連中に見つからなかっただろうな?」

夕立「うん、多分、ダイジョウブ……」

提督(なんか不安になるな……)

提督「ほれ、毛布だ」

夕立「あ、……ありがと」

提督「奥に入れ」

夕立「お、お邪魔します……」ゴソ

提督「入るぞ」ゴソ

夕立「うん……」

提督「……」

夕立「……」

280: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/14(土) 02:54:06.09 ID:Ode8XmZG0

夕立「提督、さん?」

提督「どうした?」

夕立「手を、握っても、いい?」

提督「……こうか?」ギュ

夕立「うん……」ギュウ

夕立「えへへ、ありがと」

夕立「……ん」

夕立「…………夕立、ったら…………提督さんが………………てくれれば……」

夕立「……私…………も………………しず………………」

夕立「……」

夕立「…………すぅ………………すぅ……」

提督(……寝たか)

提督(………………)

提督(寝顔、かわいいもんだな)

提督(これだけ無防備にされてもなぁ)

提督(……)

提督(俺が眠れる、わけがない……)

286: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/22(日) 04:08:49.03 ID:Es6z+7RL0

―――
――


―朝・居室―

夕立「…………んぅ……」

夕立「ん」モゾ

夕立「……」ボー

提督「ん? 起きたか」

提督「おはよう、夕立」

提督「今コーヒーを入れよう」

夕立「おはよーございます……」

夕立「あれ……なんで、提督さんが夕立の部屋……に……」

夕立「………………」

夕立「おわわぁーーーっ!!!!」

提督「ちょっと待て大声を出すな夕立それはマズイ!」スッ

夕立「んむぅ!」モゴモゴモゴモゴ

287: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/22(日) 04:09:52.19 ID:Es6z+7RL0

ジタバタ

夕立「ぷはっ!」

夕立「もう提督さんいきなり酷いっぽい!?」

提督「いや、それはこっちのセリフなんだが……」

夕立「というか、夕立ったら、そっか……」

夕立「……いやん///」ポッ

提督「はぁ……。自分から一緒に寝ると言い出しておいて今さらなに言ってんだ」

夕立「てへへ」

提督「ほら、コーヒー」スッ

夕立「ありがと」

夕立「フ―……フ―……」

提督「猫舌か?」

夕立「ぽいー」

夕立「はぁ~暖まる~……眠くなってくる~……」

提督「コーヒー飲んでから寝るのは昼寝だけだ。起きろ」

夕立「もうダメっぽい~」バサリ

288: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/22(日) 04:11:13.38 ID:Es6z+7RL0

提督「おいこら、布団に潜るな」

夕立「……」チラリ

提督「なんだ、その目は……」

夕立「……目覚めのキスとかしてくれたら、起きられるかも」ドキドキ

提督「…………ふん、いいだろう」

夕立「なんて冗談……ってふえぇ!?」

提督「じっとしていろよ」ズイ

夕立「あ、いやその、心の準備っていうかその」カアア

提督「…………」

夕立「……///」

提督「……既に起きているヤツを、どうやってキスで起こせばいいんだ?」

夕立「か、返す言葉もございません……」

提督「反省せよ」

夕立「ご、ごめんなさい」

提督「よろしい」

289: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/22(日) 04:12:11.13 ID:Es6z+7RL0

夕立「でも、キスで目覚めるなんてロマンチックじゃない?」

提督「そうかもな」

夕立「そこは認めてくれるんだ?」

提督「まあ、な。どういう原理で目覚めるのか、気になるところだが」

夕立「あははっ。原理とか考えちゃうあたり、提督さんには向いてないかも」ニヤニヤ

提督「……悪かったな」

夕立「ふふっ」

提督「どうした?」

夕立「ううん……。なんでも」

夕立「ただ、こーゆーの、なんかいいなって、思っただけ」

提督「そうかい」

夕立「……」

提督「……」

夕立「……今日は、いい朝だね」

提督「ああ。そうだな」

提督「……それを飲んだら、部屋に戻ること。いいな?」

夕立「はーい」

夕立「提督さん、コーヒーごちそうさま。おいしかった」ニコ

提督「うん。お粗末さまでした」

290: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/22(日) 04:13:40.26 ID:Es6z+7RL0

―――
――


―司令室―

コンコン

提督「入ってくれ」

??『失礼します!』

ガチャ

加賀「!」

提督「うむ時間通り。朝礼前だ」

提督「見ての通り、私が提督だ。君が……」

赤城「航空母艦、赤城です」

赤城「空母機動部隊を編成するなら、私にお任せくださいませ」

提督「よろしく赤城。だが、君だけじゃない」

提督「加賀と一緒に、よろしく頼む」

赤城「!」

加賀「赤城……さん……」

提督「ふたりには早速の実戦を頼みたいのだが、いけるか?」

赤城・加賀「「……」」

赤城・加賀「「はい!」」

291: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/22(日) 04:15:00.90 ID:Es6z+7RL0

提督「よし。夕立」

夕立「はい。今朝の建造での消費資源は400/30/600/30です」

夕立「任務遂行及び遠征のおかげで、各資源は充分な量です」

夕立「引き続きよろしくお願いします」

提督「ありがとう」

提督「さて、作戦内容の説明に入る」

提督「遠征メンバーは旗艦吹雪、以下睦月、白雪、深雪、龍田、那珂β」

提督「変更点としては、遠征の内容及びタイムテーブルに新しいものが追加されている」

ペラ

提督「こちらが計画書になる」

吹雪「ありがとうございます」

提督「遠征に含まない待機メンバーは後ほど発表するが、今日はあることをやってもらおうと思っている」

提督「第二艦隊に関しては以上だ。質問は?」

提督「……よし。第二艦隊、出撃準備!」

一同「了解!」

292: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/22(日) 04:17:11.99 ID:Es6z+7RL0

提督「待たせたな。続いて第一艦隊の発表だ」

提督「作戦の目標は、南西諸島海域への進軍。遊弋する敵艦隊群を迎撃し、海域攻略の布石を置くこと」

提督「旗艦は夕立。以下長門、金剛、那珂、赤城、加賀」

提督「赤城と加賀は艦娘としては初の実戦になる。那珂が2人をフォローして欲しい」

加賀「……随分見くびられたものね」

赤城「加賀さん!」

提督「ふっ。いい意気だ。そう思うなら、帰投後、見くびった私に詫びを入れさせる程の戦果を出すことだな」

加賀「いいわ。提督には泣いて謝ってもらいます」

提督「結構」

金剛(期待しているのデスネ)

提督「特に説明することはないな……。何か質問は?」

夕立「あ、あの……」

提督「なんだ?」

夕立「旗艦というのは……」

提督「うん? 能力的には問題ないだろうし、試しにやってみたらどうかと思ってな。いい経験になるだろう」

提督「私も大して深く考えてはいない。全員に旗艦を任せられる能力があるのが一番望ましいし」

提督「また加えて言うなら、別に那珂の評価を下げたからというわけでもないから、2人とも気にしなくていい」

提督「那珂は不満か?」

那珂「いえ……。私は精一杯、自分のベストを尽くすまでです」

提督「そういうことだ。何も怖れることはない」

夕立「……うん。夕立、頑張る!」

提督「よし。説明は以上。出撃準備にかかれ!」

赤城(提督……。ありがとうございます)

293: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/22(日) 04:21:05.22 ID:Es6z+7RL0

摩耶「で、アタシたちはどうするんだ? 待機か?」

提督「まあ待機と言えば待機だが、ボーっと過ごしていても仕方がない」

提督「というわけで……」

提督「演習だ」

天龍「へぇ。提督はてっきり実戦至上主義者なのかと思ってたぜ」

提督「確かに実戦で学ぶこと、実戦でしか学べないことも多いだろうがな」

提督「鎮守府周辺海域は一応制圧した。近海での演習の不安要素が極小になったということは大きい」

提督「戦力も増えたし、艦隊にも余裕が生まれたからな。演習に踏み切ったというわけだ」

天龍「なるほどな」

提督「ま、陸から距離が開くにつれ深海棲艦もより強力になるから、実戦前に鳳翔や、赤城、加賀にも演習をさせたかったというのが本音なんだが……」

提督「しかし航空戦力の重要性を鑑みて即投入した。鳳翔には少し悪かったと思っている」

鳳翔「いえ、そんな……」

提督「あの2人には期待半分、不安半分といったところだ。今後のためにも実戦でのデータは欲しかったし、色々と都合がよかった」

提督「鳳翔の活躍が予想以上だったからこそ可能になったことでもある」

鳳翔「うぅ……」

提督「鳳翔。断じて嘘ではないからな」

鳳翔「……はい」

294: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/22(日) 04:25:44.94 ID:Es6z+7RL0

提督「早速演習を始めたいところだが、私は第一艦隊の指揮を執る必要もある。常に直接演習を見ることは出来ない」

響「私が監督をすればいいんだね」

提督「…………さすが。察しがいいな」

提督「そう、その通り。実戦経験のある響に審判を任せたい」

足柄(すごいわね、この子)

提督「まずは旗艦天龍、摩耶、足柄チームと旗艦神通、川内、鳳翔チームに分けてやってみようと思う」

提督「今回は自軍での演習だからな。私は口出ししない。互いにメンバーだけがわかった状態でどこまで作戦を立てられるかも見る」

提督「まずは各チームに別れて作戦を立てることだ。装備を変えても構わない」

提督「尤も、我が艦隊はまだまだ装備に乏しいので実際にやれることは限られているが」

提督「演習には専用の代用弾を使う。本部からの特注品だ。工廠には既に置いてある」

提督「装備すると艦船形態での実弾がすべて代用弾に変換されるそうだ」

神通「それも妖精さんが?」

提督「普通に考えればそうだろうな」

提督「こいつが着弾すると、仮想化された損傷をシミュレートし、その度合いに応じて一時的に活動が制限される」

摩耶「なんかよくわかんねぇけど、すげぇな」

提督「私もこの資料を最初に読んだ時、普通に兵器運用出来るだろうと思ったが、どうもそれは無理みたいだ」

提督「まあそれはいい」

提督「それに加えて口頭でも判定は出すので、大破判定が出たら戦線離脱すること」

295: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/22(日) 04:28:44.08 ID:Es6z+7RL0

提督「大体の説明はこんなところだが、質問は?」

川内「はいはいしつもーん!」

提督「はいどうぞ」

川内「この班分けはバランス的にどうなの? なんか、モヤっとするよ」

提督「ふふ。川内は面白いことを言うなぁ」

川内「な、なんだよ!?」

提督「川内は進軍中に敵艦隊と遭遇しました。敵艦隊は潜水艦隊でした。川内たちは対潜装備を積んでいませんでした――」

川内「ああもうわかったってば! 悪かったよ、もう……」

提督「ヒトの話は最後まで聴くもんだぞ川内」

提督「ともかく、仮に実戦で敵艦隊の編成が割れていたとしても、それと対応する編成・装備をこちらが用意出来る保証はない」

提督「むしろ割れてないことの方が多いのだから、今私が挙げたような事態は極端な形とは言え、現実に充分起こり得ることだ」

提督「それでもどうしたら前を向いて戦えるのか、建設的に考える思考能力を君たちに求めたい」

提督「モヤっとするならちょうどいいくらいだ。ヒヤっとされても困るからな。勝機がないなら撤退した方がいい」

提督「そして、勝ってスッキリ出来るようによく頭を使うんだな」

川内「……確かに、提督の言う通りですね。……ごめんなさい」ペコリ

摩耶(ふぅん。やるじゃねーか)

提督「よし。各艦準備にあたれ。響は準備の間、私と監督方法の擦り合わせをする」

響「了解」

296: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/22(日) 04:34:33.90 ID:Es6z+7RL0



『代用弾』

 別名・侵食弾頭(侵食砲弾・侵食魚雷)。着弾した瞬間に船体のデータを読み取り、損害規模を算出し、その程度に

応じて船体の可動領域に制限をかける弾のことである。制限する時間は開発時に任意に設定することが出来る。原理的

にはクラッキングと類似のものであり、生体クラックの一種として定義出来る。しかし弾自体に解析機能を付加するこ

とは困難であり、また解析した情報を付加した方が効率的かつ現実的に運用出来たため、開発の際にはあらかじめ艦隊

のデータを控え、それを元にプログラムを構築する必要がある。したがって代用弾の開発は、艦娘の参照データを元に

損害シミュレーションをプログラミングし、それを再現するように妖精に依頼することで為される。この際、妖精は既

存の艦娘の実弾に、このプログラムの一連のデータ及びその概念自体を適用することで代用弾を産み出しているように

思われる。また、一度創出した以降も、妖精は資源のみから代用弾を構成することが出来なかった。並びに、代用弾の

装備は、常態において実弾に影響せず、艦船形態においてのみ、実弾を代用弾へと変換させる。加えて、艦船形態にお

ける代用弾の状態を検証することも行われたが、“代用弾”なるものは観測することさえ出来なかった。したがって代

用弾は、実弾と物理的に同じ性質を有しながらも、“代用弾として機能する”という点によってのみその意味・存在を

確定させていると言えるだろう。

305: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:28:52.86 ID:6fHK4vt60

―天龍チーム―

足柄「さて、どうしましょうか」

摩耶「……まあ、普通に考えて勝負の流れが決まるのは」

天龍「航空戦、だな」

天龍「火力はオレたちに分がある以上、向こうは長引くほど不利になると考えると思う」

摩耶「対空砲火でこっちの被害を極小に抑える必要があるな」

天龍「ああ。オレには艦娘としての戦闘経験があるが、この中じゃ一番耐久力がない」

天龍「それに旗艦だし、指揮機能を殺ぐためにも多分、狙われる」

足柄「私と摩耶で、それをフォローするということね」

天龍「そうだ。砲撃では鳳翔、神通の順に叩く」

天龍「みんな頼んだぜ」

摩耶「おう!」

足柄「ええ!」

306: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:30:07.24 ID:6fHK4vt60

―司令室―

響『各艦、配置につきましたか?』

響『これより演習を開始します。原則、判定の通達は私が行います』

響『また、両チームが戦闘領域から離脱した場合、或いはいずれかのチームが大破艦3隻となった場合、戦闘終了合図を通告します。皆さん、頑張ってください』

響『それでは、戦闘開始!』

響「司令官、こんな感じでよかったかい?」

提督「ああ、問題ない」

提督「さて、両チームがどう動くのか、見物だな」

―――
――


―鎮守府近海―

天龍「戦闘開始だ!」

天龍「各艦、対空警戒を厳に!」

摩耶「腕がなるぜ」

足柄「さぁて、どう出てくるのかしら?」

307: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:32:03.95 ID:6fHK4vt60

――――――――――

鳳翔「敵艦隊補足! これより攻撃態勢に入ります」

鳳翔「天龍、摩耶、足柄の順に単縦陣です」

神通「了解です。鳳翔さん、作戦通り、狙えそうですか?」

鳳翔「はい。やります」

――――――――――

摩耶「おいでなさったぜ」

天龍「対空砲火準備。てぇー!!」ドドーン!

摩耶「おらぁ!!!」ダダダダダダ!

足柄「くっ! 当たらない!」ドドーン!

天龍「ちょこまかと!」

摩耶「クソが……。おい、これじゃあ機銃を使った方がまだマシだぞ! 切り替えろ!」

天龍「今やってる!」バババババ!

足柄「着弾したのに! なんて操縦技術なの!?」ズダダダ!

摩耶(…………)

天龍「意地でも爆弾には被弾させないつもりか……」

摩耶「来るぞ!」

308: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:33:42.50 ID:6fHK4vt60

天龍「摩耶!!」

ガツン!

足柄「きゃあ! こ、これ結構痛いじゃない!」

摩耶「くっ……! う、動かねぇ……」

天龍「大丈夫か!?」

響『摩耶、中破。足柄小破判定です』

天龍(しくじった! 鳳翔さんの機動力を甘く見ていた。長期戦覚悟で高火力艦を叩かれるのも予想出来なかった)

足柄「私はまだまだやれるわ! ここから立て直しましょう」

摩耶(クソ……。“あの時”とは何もかも違い過ぎる! アタシ自身も、他の船たちも……)

――――――――――

提督「なるほど。神通も手堅いな」

響「今のは……? 天龍たちの対応が鈍かったように感じたけれど」

提督「……航空戦では天龍側が確実に不利だからな。おそらく、速攻で旗艦を潰されるのを嫌って3人とも意識が天龍に集中していたのだろう」

響「ああ……。その予想通りに事が進めば拮抗して、砲撃戦で天龍たちが優勢に立てた。……けど」

提督「神通はまず火力を殺ぐことを考えた。裏の裏を読んだとも言えるし、全く以って普通に攻撃してきたとも言える。その意味で手堅い。基本に忠実だ」

響「でも天龍の読みは……」

提督「勿論、失敗じゃない。多分、天龍側の事前の意識がなければないで、神通は可能なら天龍も狙うように指示していたと思う」

響「……航空戦と砲撃戦での有利不利でバランスをとったんだね」

提督「それだけじゃないさ」

309: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:35:15.42 ID:6fHK4vt60

響「? それはどういう――」

ピー!

提督「おっと、夕立たちが戦闘に入ったようだ。少し席をはずすが、後は頼んだ」

響「了解、司令官」

――――――――――

川内「やったね!」

神通「ええ、ひとまずは。鳳翔さん、ありがとうございます。最低でも持って行きたかったラインにまで届きました」

鳳翔「いえ。神通さんの作戦あってこそです」

神通「そんな、とんでもないです。ともかく、続いて砲撃戦を頑張りましょう」

――――――――――

天龍「敵艦見ゆ! 作戦通り行くぞ」

摩耶「おい! 鳳翔がもう発艦してる!」

天龍「……旋回して後から追撃するつもりか。演習なのをいいことに捨て身で飛ばしてきやがった……!」

足柄「弾幕を張りなさいな! 撃て! 撃てー!!」ドドーン!

摩耶「神通が発砲! てぇー!!!」ドドーン!

天龍「ぐあっ!」ガツン!

摩耶「天龍!」

響『天龍、鳳翔、共に中破です』

310: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:36:40.57 ID:6fHK4vt60

天龍「へへ……。深海棲艦なんかより、ずっとおっかねぇじゃねぇか。敵に回すとよ!」ドドーン!

ガツン!

足柄「う……この私が、ここまでやられるなんて……」

響『足柄、中破です。続いて川内、小破』

摩耶「! 艦載機が!」

天龍(ここまで動きを読まれているとはな)

天龍「対空砲火ー!!」ダダダダダ!

摩耶「くっそ動かねぇ!」

足柄「ちっくしょう……!」ズダダダ!

ガッ!

天龍「うぐっ……ぅ……」

響『天龍、大破です』

摩耶「天龍! 追わないのか!?」

天龍「……無茶だ」

足柄「鳳翔は着艦出来ないのよ? まだチャンスはあるわ!」

天龍「……オレはもう撃てねぇぞ。それでもやるのか?」

311: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:37:43.41 ID:6fHK4vt60

足柄「当たり前でしょ。ねぇ摩耶?」

摩耶「ああ。演習の時ぐらい、命懸けられないでどうすんだ?」

天龍「……確かに。神通たちにも失礼だ」

天龍「各艦面舵いっぱい! オレは殿につく」

摩耶「そうこなくっちゃな!」

天龍「…………あれは」

摩耶「はっ! あいつら、アタシたちを完全にぶちのめす気満々だぜ?」

足柄「ほら、追って正解だったでしょ?」

天龍「さすが神通だ。……やれるだけやってみろ!」

摩耶「おう!」

足柄「でも容赦ないわね……。おそらく最後の、第3次攻撃隊が来るわ」

摩耶「上等じゃねぇか。どうせ狙われるのはアタシら重巡2隻だ。今度は落とす!」

足柄「対空砲火準備!」

摩耶「てぇー!!!」

―――
――


312: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:38:53.60 ID:6fHK4vt60

―司令室―

響『戦闘終了です。皆さんお疲れ様でした。総員、帰投してください』

響「! 司令官」

提督「お疲れさん。こっちも、今1戦目が終了した。完全勝利だそうだ」

響「幸先がいいね」

提督「金剛が随分とはりきっていたようだからな」

提督「さて、みんなが帰ってくるまでにデータを見せてもらおうか」

―――
――


提督「今回の演習、神通チームの勝利だ。よくやったな」

川内「いよっし!」

天龍「くっ……。オレがもう少し色々考えていれば」

提督「いや、対応としては間違ってなかったぞ」

提督「航空戦では天龍側はどうしても不利なんだ。むしろ勝機を生み出す可能性を少しでも模索出来たなら及第点だ」

提督「それに……」

提督「実は重巡の2人には少し負荷をかけている」

提督「今回は主に君たちのための演習だからな。身を以って“艦娘”を知ってもらいたくもあった」

提督「摩耶はどうだった?」

313: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:40:17.02 ID:6fHK4vt60

摩耶「……なんつーか、全然違った。自分の砲撃精度も、アタシの記憶と合ってねーし、艦載機の動きにも驚かされたよ」

提督「足柄はどうだ?」

足柄「概ね摩耶と同じね。まあそれ以上に、そこの神通ちゃんに驚かされたのだけど」

天龍「砲撃戦で鳳翔が狙われるのを読んで、あらかじめ発艦させていたのか」

神通「はい……。演習でなければ出来ないやり方ですが、有効かと判断しました。ダメだったでしょうか?」

提督「いや。実戦でそれをやったら本気で叱るが、弁えているなら別に構わない。むしろ演習の特性を理解し、最善策を練り、勝利を導こうとする執念は敬服に値する」

提督「よくやったな」ナデナデ

神通「あぅ……///」モジモジ

提督「結果的には私が予想した以上の差が出たが、それは神通の頑張り分だな」

提督「と言うのも、元々天龍サイドと神通サイドでは戦闘経験に差がある」

提督「特に航空母艦の“艦娘”――即ち鳳翔が、どれだけ艦載機を動かせるかを神通が知っていたということは大きい」

提督「艦娘も深海棲艦も、かつての船とは似て非なる能力を持っている」

提督「このことは摩耶、足柄、川内にはよく自覚しておいてもらいたい部分だ」

提督「勿論、天龍にもな」

一同「「「「はい!」」」」

提督「ほら、鳳翔。君の力はみんなが認めるところだ。もう、怖くないだろ」

鳳翔「はい! ありがとうございます、提督」

315: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:41:20.21 ID:6fHK4vt60

提督「私からの話は以上だ。一旦、休憩にしようか」

一同「了解!」

―――
――


―カムラン半島沖合―

夕立「赤城さん、偵察機を」

赤城「はい。偵察隊、発艦!」

夕立「この海域の敵主力艦隊との交戦が予想されます」

夕立「先程の戦闘とは異なり、おそらく航空母艦が出てくるでしょう」

夕立「敵機発見後、速やかに戦闘フェーズに移行出来るよう準備を進めてください」

夕立「また砲撃戦では直掩機による支援を中心に添えながら、対空砲火は最小限に留めるよう努めましょう」

赤城「! 敵艦影発見! ル級ヲ級ヌ級リ級ハ級ハ級の計6隻」

赤城「航空戦に移ります。加賀さん!」

加賀「戦闘機、発艦始め。赤城さんの偵察隊に従い、侵攻します」

夕立「各艦対空戦闘準備を。航空戦終了直後の初動で後れを取らないように!」

一同「了解!」

夕立「無線封鎖を解除。敵主力艦隊と会敵しました」

提督『了解。戦闘指揮は任せるぞ。やれるか?』

夕立「勿論!」

316: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:43:07.92 ID:6fHK4vt60

赤城「続いて九九艦爆、九七艦攻発艦!」

加賀「敵戦闘機との交戦に入ります」

加賀(いける。今の私なら、やれる)

夕立「来るよ! 対空砲火準備!」

加賀「鈍いわね。徹底的に撃ち落とします」

赤城「そろそろ攻撃隊が抜けます」

加賀「制空権、確保しました。攻撃態勢に入ります」

夕立「各艦用意……。てぇー!!」ドドーン!

金剛「Fire!!!!」ドドーン!

長門「てぇー!!!!」ドドーン!

那珂「てぇー!!!」ダダダダダダダ!

ズドーン!

317: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:44:45.73 ID:6fHK4vt60

夕立「砲撃戦準備! 金剛さん!」

提督(対応が早い。見切っていたのか)

金剛「Roger that! 発砲準備!」

赤城「ハ級2隻大破炎上中! 沈んでいきます。並びにヌ級中破、艦載機発着艦困難です」

夕立「さすがです」

金剛「Burning Love!!!!」ズドーン!

長門「こちらはヲ級を狙う。てぇー!!!」スドーン!

赤城「長門さん、夾叉です」

那珂「ル級、リ級ともに発砲!」

長門「次は中てるぞ!」

ガッ!

加賀「うっ……。一撃でかすめてくるなんて、普通じゃないわね」

ガツン!

長門「ぐっ……。クソ! 煩わしい!」

夕立「!」

提督(あのリ級……。長門の照準を逸らしやがった……)

318: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:49:41.83 ID:6fHK4vt60

夕立「ヲ級が艦載機を発艦! 気をつけて!」

那珂「撃ちます。てぇー!!!」ドドーン!

夕立「! このままヌ級を沈めましょう。てぇー!!」ドドーン!

加賀「こちらの攻撃隊、既に発艦しています」

夕立「長門! 金剛! 機銃で牽制を!」

長門「任せろ!」ズダダダダ!

金剛「Aye sir!」ババババババ!

ガツン!

加賀「ぐっ! 大丈夫、残骸が接触しただけ!」

赤城「那珂さん夕立さんによりヌ級は撃沈、ル級は加賀さんにより小破です。こちらももう攻撃隊を出しています」

夕立「私がル級を牽制するよ。第1、第2主砲、撃てぇー!!」ドドーン!

夕立「ふふっ。今さら構えても遅いんだけど」ニヤリ

那珂「ル級に着弾! 続いて発砲! ヲ級も攻撃してきます!」

長門「夕立!」

夕立「当たらないよ! 長門さんはこのままル級を!」

ズドーン!

提督(砲塔を狙ったのか……!)

319: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:50:50.47 ID:6fHK4vt60

長門「主砲、一斉射! てぇー!!!!」ズドーン!

夕立「今日は随分狙ってくるのね……。そんなに私が邪魔かしら?」ズダダダダダダ!

金剛「撃ちます、Fire!!!」ズドーン!

ヒュン! ガツン!

夕立「ぐっ……。やって、くれたわね……」キッ

ビリッ

長門(なんだ、今のは……?)ゾクッ

那珂「リ級中破! 夕立ちゃん、発砲してくるよ!」

赤城「第3次攻撃隊、発艦始め!」

加賀「同じく攻撃隊、発艦!」

夕立「あはは。夕立ったら、本当に、今日は人気者みたいね?」

ズドーン!

那珂「赤城さん、加賀さん、牽制するので仕留めてください!」ドドーン!

赤城「任せて!」

金剛「夕立、大丈夫デスカー?」

夕立「平気。少し残骸が当たっただけ」

320: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:51:41.17 ID:6fHK4vt60

那珂「赤城さんが重巡リ級を撃沈。ル級も大破しました」

加賀「チッ。仕留め損なったわね」

那珂「敵艦隊、離脱していきます」

夕立「戦闘終了。提督さん、聴こえる?」

提督『ああ。お疲れ様』

夕立「撃退したと判断して、撤退していいかしら?」

提督『それで構わない』

夕立「了解。鎮守府へ帰投します」

夕立「ふぅ……。終わった」

夕立「みんな、お疲れ様!」ニコッ

赤城「やりましたね、加賀さん」

加賀「ええ。ひとまずは。色々と反省が必要なのがわかったわ」

加賀「提督に合わせる顔が……」

提督『加賀、気にするな』

加賀「なっ! な……あ……聴いていらしたのですか! くっ……///」

提督『ま、細かい話は後だ。とりあえず戻って来い』

一同「了解!」

321: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:53:26.11 ID:6fHK4vt60

―――
――


―司令室―

夕立「艦隊、無事帰投しました」

提督「ご苦労」

夕立「道中、高速建造材を拾得しました。妖精さん曰く、“ちょっとしたおすそわけ”とのことです」

提督「なるほど。相変わらずだな」

提督「第1艦隊帰投までに戦闘データを確認しておいた。結論から言って、各艦、申し分ない働きだった」

夕立「ありがとうございます」ペコリ

提督「決して油断していいような敵編成ではなかったが、全艦小破未満で事を終えたことにはただただ驚くばかりだ」

提督「夕立の戦況分析及び指揮も的確かつ適切だった。今後も同じようにやってもらいたいくらいだ」

提督「旗艦にした判断は間違ってなかったろう?」

金剛「Yes! 夕立は凄いネー!」

那珂「私も、夕立ちゃんならついていきたいって、思えるよ」

夕立「みんな……」ウルッ

長門「…………」

加賀「提督」

提督「なんだ?」

322: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:54:38.92 ID:6fHK4vt60

加賀「お言葉ですが、私は自分が思っていたよりも満足に動くことが出来ませんでした」

赤城「加賀さん……」

提督「加賀。それは嘘だろう」

加賀「嘘ではありません! 出撃前に大口を叩いたこと、反省しています。申し訳ありません」ペコリ

提督「加賀。これは命令だ。まず顔を上げろ。そして私の話を聴け」

加賀「ですが……」スッ

提督「もう一度言う。君は嘘をついている」

提督「君は艦娘として、かつてと同じかそれ以上に上手く動けたことを自覚しているはずだ」

加賀「それは……」

提督「聡い君のことだ。自身の能力の錯誤以上に、深海棲艦との戦いが厳しかったから、それに驚いているだけじゃないか?」

加賀「……」

提督「加賀。私は君たちに過去の戦いを忘れろ、とは言わない。だが何の因果か君たちは今、ここに呼ばれ戦っている」

提督「そのことと過去の事柄は、必ずしも同じ次元にあるものではない。純粋に比較するだけ、加賀自身が辛くなるだけだ」

提督「今一度、ここにいる全員に告げる」

提督「あるがままを受け入れろ」

提督「私から言えることはそれだけだ」

323: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:55:45.87 ID:6fHK4vt60

加賀「……わかりました」

赤城「加賀……」

加賀「赤城さん、私は、大丈夫」

提督「うむ!」

提督「他に、何か報告はあるか?」

一同「……」

金剛「ハイ!」ビシッ

提督「なんだ金剛」

金剛「あのー……約束通り、お茶会を開いてもいいデスか……?」

提督「ふむ。なんと言っても小破未満だからな。何も問題はあるまい」

金剛「Thank you 提督ゥー!! 大好きネー!」ダキッ

夕立「んなぁー!!!!」

金剛「今から準備してくるから、待っててくださいネー!」

金剛(あぁ! ……勢いに任せてダイタンなことを言ってしまいマシタどうしまショウ////)

夕立「提督さん! 拾得艦を呼んでくるよ!」イライライライラ

提督「あ、ああ……。頼んだ」

提督(なんなんだ……)

324: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:57:01.92 ID:6fHK4vt60

飛鷹「名前は出雲ま……じゃなかった、飛鷹です。航空母艦よ。よろしくね、提督」

提督「……出雲マンさん?」

飛鷹「ち、違うわ!」

提督「その、出雲なんちゃらってのは何なんだ?」

飛鷹「えっと……。私、もともと客船になる予定で……。その時の名前が“出雲丸”なの」

提督「なるほど。私が提督だ。よろしく」

提督「そして君は……」

北上「アタシは軽巡、北上。まーよろしく」

提督「北上か。よろしく頼む」

提督「さて、お茶会までに北上と飛鷹に鎮守府を紹介したいんだが……」

北上「あ、じゃあアタシは那珂ちゃんに頼むとするよー」

那珂「え?」

北上「いいでしょー?」

提督「え、ああ、まあ。那珂もいいか?」

那珂「大丈夫ですよ」

北上「それじゃあ行ってきまーす。よろしくねー」

那珂「うん、よろしく」ニコ

一同(物凄くマイペースだ……!)

325: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:57:48.73 ID:6fHK4vt60

提督「加賀。飛鷹を頼んでいいか?」

加賀「ええ。私が案内するわ」

飛鷹「よろしくお願いします」ペコリ

加賀「いえ」

ガチャバタン

赤城「提督」

提督「どうした」

赤城「金剛さんの手伝いに向かっても、いいでしょうか?」

提督「? 別に構わないぞ」

赤城「ホントですか!? それではお先に失礼致します」ペコリ

ガチャバタン

長門「どうしたんだろうか?」

提督「さぁな」

提督「さて、工廠へ行こうか」

夕立「ぽいー」

326: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:58:49.07 ID:6fHK4vt60

―工廠―

鈴谷「鈴谷だよー。よろしくねー!」

提督「よろしく鈴谷。私が提督だ」

提督「気分はどうだ?」

鈴谷「んー? まあまあかな。なんか不思議な感じ?」

提督「そいつは何よりだ」

提督「そして、ここにいる2人が、これからの君の仲間だ」

夕立「駆逐艦夕立です、よろしくお願いします」ペコリ

長門「戦艦長門だ。よろしく頼むぞ」

鈴谷「ほぉーっ、すごーい! 何これ、どうなってんの?」

提督「まあ話すことは色々あるな」

提督「長門、頼めるか」

長門「ああ。鈴谷。私がこの鎮守府を案内する。ついてきてくれ」

鈴谷「らじゃー! お願いしまーす!」

提督「よし。金剛たちは準備が終わったかな」

夕立「行ってみましょう?」

327: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 00:59:45.16 ID:6fHK4vt60

―屋上・テラス―

提督「ほう。これはなかなか」

金剛「あ! 提督ゥー! こっちに来るネー!」

提督「ふっ。やれやれ」テクテク

夕立「わぁ! すっごーい!」

吹雪「お疲れ様です、司令官! ごめんなさい、先にいただいてます」

提督「いや、構わない。冷めても勿体ないしな」

響「お疲れ、司令官。これはとてもおいしいよ」

提督「私もいただこうか」

金剛「長門も来たネー」

長門「ほう。これのことか」

響「そちらは、新人さん?」

鈴谷「うん! 鈴谷だよー。賑やかな艦隊だねー、みんなよろしくねー!」

足柄「ほら、立ってないで一緒にお茶を楽しみましょう?」

神通「ただいま椅子を持ってきますね」ニコ

鈴谷「あ! 大丈夫、私自分で持ってくるし!」

長門「まあまあ、今はいいだろう。大人しく待ってろ」

鈴谷「了解っす」

328: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 01:01:04.84 ID:6fHK4vt60

睦月「はぁ~……暖まります~」

長門「ジャムに種類があって面白いな」

摩耶「金剛、うまいぞ!」

金剛「摩耶、もう少しお上品に嗜んで欲しいデース……」

摩耶「わ、悪い……」

金剛「まず姿勢はこうデス!」

摩耶「こ、こう、か?」

龍田「ふふふ」

足柄「唐突に何かが始まったわね」フフッ

鈴谷「金剛さんのマナー講習会第1回目」ボソッ

睦月「あはは!」

長門「しかも、ちゃんと話を聴いて実践しようとする摩耶が微笑ましいな」ハッハッハ

摩耶「あ、あん? なんか言ったかよ!?///」テレッ

金剛「こーら摩耶! ちゃんとするネー!」

摩耶「わ! ごめん……」

金剛「ま、今日はこれくらいでいいデショウ。もっと見過ごせない方々がいますからネー……」

329: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 01:02:26.68 ID:6fHK4vt60

金剛「どうして……」

鈴谷「お?」

金剛「……どうしてお茶会なのに、横でバーベキューかましてる人達がいるのデスかー!?」

一同(みんながツッコミを入れたかったところに、ついに金剛のメスが!!)

金剛「天龍ー!?」

天龍「おお? なんだよびっくりするじゃねぇか」ハッハッハ

金剛「“おお? なんだよびっくりするじゃねぇか”……じゃねーデス!! びっくりしたはこっちのセリフデース!!」

金剛「What are you doing now!?」

金剛「これはお茶会への冒涜ではありませんか!?」

天龍「まあまあ別にいいじゃねーか。ほれ、金剛も1本どうだ!?」

金剛「イリマセーン!!!!」

金剛「あなたたちのせいでテラス一帯が肉臭いのデスよ!」

天龍「おう。お肉の香りで紅茶も捗るだろ」

金剛「ハ カ ド リ マ セ ン !」

天龍「なーんだよ金剛。オレは閃いたんだ。“お茶会”には“バーベキュー”が欠かせないってな」

金剛「どこからそのアイデアが降ってきたのか、私、気にナリマス!!」

330: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 01:03:43.49 ID:6fHK4vt60

赤城「私は最高のアイデアだと思いましたよー」モグモグモグモグ

吹雪(赤城さんってめちゃめちゃ食べるんですね……)

加賀「私も赤城さんに同意します」ムシャリムシャリ

金剛「ぐっ……。一航戦……! あなたたちもお肉の魔力に負けたのデスネ! 運命には抗えなかったのデスネ!?」

赤城「はて、何のことだか……。金剛さんのスコーンもおいしかったですよ?」

赤城「あ! 間宮さん、ありがとうございます!」

間宮「鳳翔さんと野菜を切っていますので、足りなくなったらいつでも声を掛けてくださいね」ニコ

赤城「はい、お気遣い、ありがとうございます」ペコリ

金剛「ムッキー! 負けた気分デース!」

睦月「ま、まあまあ、それくらいにして一緒にお茶、飲みましょう? 冷めちゃいますよ?」

金剛「うぅ~……。睦月だけが味方デス……」

睦月「よしよし」ナデナデ

深雪「ガンガン焼いてくけどいいか!?」

天龍「おう、いけぇ!」

加賀「お願いします」ワクワク

川内「このかぼちゃもらうねー!」

331: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 01:05:34.53 ID:6fHK4vt60

提督「お茶に肉か。世界観に差があり過ぎるな」

龍田「肉々しいですねー……」

飛鷹「もう少し落ち着いて食べられないのかしら」

摩耶「まったく、匂いが移りそうだぜ」

ダッダッダッダッダッダッダッダ

那珂β『みんなーお茶会、楽しんでるー!?』

天龍「な、なんだ!?」

提督「そういや那珂がいなかったな。何してんだ?」

那珂β『今日はー、みんなー、那珂ちゃんのために焼き肉パーティー開いてくれて、本当にありがとー!!』

提督「いや、開いてない開いてない」

金剛「頭が痛くなってキマシタ……」

神通「妹がご迷惑を……」

赤城「ふむ」ムシャムシャ

那珂β『那珂ちゃんのことがだーいすきな、ファンのみんなのためにー、今日はー、那珂ちゃんから、サプライズのプレゼント!』

那珂β『というわけで、リサイタルを、やりまぁす!』

金剛「誰か……あいつを止めるのデス……」ガクッ

睦月「ダメ、金剛さんが……死んじゃいます!」

長門「おい金剛、大丈夫か!?」

金剛「あぁ……最期は、……提督のそばで…………」

吹雪「ダメです金剛さん、目を覚まして!」

摩耶(何か始まった……)

提督(みんなお酒も入ってないのに錯乱してるなー)

332: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 01:06:48.71 ID:6fHK4vt60

金剛「提督……どうか武運長久を……。私……ヴァルハラから見ているネ……」

タッタッタ

??「とぅ!」

吹雪「あ、あれは?」

??「そいやー!」

バキッドカッゴスッ

那珂β「うにゃあぁぁあああ!!!!」

スタッ

那珂「悪は滅びた……」

赤城「……なかなか面白いですね」モゴモゴモゴモゴ

加賀「ぷっ……ぐ……ごほっ! ごほっ!」

赤城「どうしたんですか加賀さん」キョトン

加賀「ごめんなさい、ティッシュを……」プルプル

提督(なんだこれは、見世物なのか?)

金剛「ふぅ……危うく陸で轟沈するところデシタ。危なかった。私の心の平穏、お茶会という名の心のオアシスは無事守られマシタ。感謝シマス、那珂」

那珂「いえ、こちらこそ遅れてしまってごめんなさい。姿が見えなかったので、何か企んでいるとは思っていましたが、結局ここに現われるまでに見つけられなかったので……」

那珂「後でたっぷりお灸を据えておきますね」ニコッ

333: ◆2pHIc08LV13v 2015/03/31(火) 01:08:00.34 ID:6fHK4vt60

提督「ん?」

夕立「……」ニコニコ

提督「楽しいかい?」

夕立「……うん、とっても」ニコッ

提督「ふっ、そうか」



白雪「はぁ……。癒されますね……」

北上「あー……いいねぇ~……。ずーっと、ここでぼーっとしてたいよ」ボー



響「金剛、おかわり」

金剛「うん、今入れマスネー!」



赤城「鳳翔さんもお肉、いかがですか?」

鳳翔「ありがとうございます。でも、夕食が食べられなくなってしまいますので……」

加賀「お肉を食べてると、お酒が欲しくなりますね」

鳳翔「今度、飲み会でも開きましょうか」

赤城「いいですね!」



提督「…………」

提督(……どうしようもなく、平和だ)

―――
――


338: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/06(月) 03:27:09.22 ID:g3W406mG0

―波止場―

響「~♪」

提督「ご機嫌だな」

クルッ

響「……司令官。待ってたよ」

提督「お茶会はどうだった?」

響「あれはいいな。またやりたいね」

提督「……ちゃっかり肉も食べてただろ」

響「見られてたんだ。さすがに少し恥ずかしい……」

提督「あはは。食い意地が張ってると思われるのは嫌か?」

響「まあね。これでも、その……。心は女なんだと思う」

提督「そんなに卑屈になることはないだろう。響はとても女の子らしいよ」

響「……///」プイ

提督「ふっ……。そうやって照れるところもさ」

339: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/06(月) 03:28:35.54 ID:g3W406mG0

響「司令官は女たらしなのかい?」

提督「なんだ。たらされている自覚でもあるのか?」

響「その切り返しはずるい。返答に困る」

提督「ふははっ」

響「それだけの余裕があるなら、昔からそんななんだろうね」

提督「さあどうかな。身に覚えがないよ」

響「とぼけるあたりが最高に最低だね」

提督「響のその辛辣さは結構好きだ」

響「好きだなんて、軽々しく口にしないで欲しい」

提督「悪かったよ」

響「司令官は話をはぐらかすのが上手い」ムスッ

提督「お褒めに預かり光栄だ。でも響にその手は通用しないようだな」

響「褒めてないよ」

提督「これは手厳しい」

響「……ふふっ」

響「司令官とは何を話してても、楽しい」

340: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/06(月) 03:31:25.35 ID:g3W406mG0

提督「そうか。ありがとう」

響「……私が女だからかな」

提督「今度は私が返答に困る番だな」

響「一般論としてだよ。提督がどうという以前に、やはり私の意志は身体に大きく影響を受けてるんじゃないか、ってね」

提督「……つまり、女性として今在るということに疑問があると?」

響「女性としての心の動きを、私が今まさに感じ取っているからね。司令官に男を感じないわけではないし」

提督「微妙な言い回しをされたな」

響「直接的に言うのが単に恥ずかしいだけだよ」

提督「そこまで言えるなら同じことだろう」

響「司令官は機微という言葉を辞書で引いた方がいい……」

提督「ごめんよ」

響「……まあここまで言えるのも、男であるとか女であるとか以前に、私が提督を信頼しているからだけれども」

提督「面と向かって言われるのは少し照れるな」

響「ちょっとした仕返しだよ」

響「……ともかく、私は私自身がこの姿をとっていることに何ら必然性を感じない」

響「もし艦艇がヒトの姿をとったのだとしても、別様にもあり得たと考えてしまうんだ」

341: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/06(月) 03:32:27.62 ID:g3W406mG0

提督「それは自然な発想だろう。でも艦艇に魂があるのだとすれば、“響”の魂はその姿だったのかもしれんが」

響「ひとつの艦艇に無限個の魂が入っているだなんて、想像したくないけどね」

提督「そうだったな……。或いは魂を複製出来るなんてのは、オカルトにオカルトを足したようで決まりが悪い」

響「うん。だから、この前の話から自分で少し考えてみたけど、結局、私が“かつての響そのものである”ということはあまり重要なことではない気がする」

提督「それはどうして?」

響「もし“この”私がまさに艦艇としての響の魂だとして、この姿が偶然的に与えられたものだとしても、今あなたと話し、ここでこうして振る舞うこの姿こそが紛れもない私なのだと、そう納得せざるを得ないから」

響「多分私は、“自分こそが響である”という確信を、この姿なしに得ることは出来ないんだと思う」

響「……怖くなった」

響「そのことが少しだけ怖いんだ。過去が……。覗き込んだだけで吸い込まれてしまう真っ暗な奈落のような……」

響「司令官はヒトだからいいのかもしれない。“ずっと”ヒトだから」

響「でも! 艦の魂がヒトのカタチに宿るだなんて……。私は艦娘として目覚めてから事後的に、遡及的に自己の記憶をそう認識しただけかもしれない」

響「……それこそ司令官の言った通り、誰かの撮った映像を、さも自分が体験したものとして誤認するかのように」

提督「響……」

響「司令官」

響「響の記憶を刻まれた私が複製されてこの姿に宿るのと、ヒトであるこの姿の私に響の記憶が挿し込まれるのとでは、何が違うんだろうね」

響「……単なる艦艇としての響に、“私である”と意識する何かは、存在し得たのかな……」

342: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/06(月) 03:33:53.70 ID:g3W406mG0

提督「…………」

提督「それは確かに存在したのだ、と。響はそう考えたいんだね」

響「そうだね……」コクン

提督「……君は先程、自分の意志は身体に従属しているんじゃないかと、そう言ったね」

響「うん」

提督「響は意識を特権化し過ぎているような気がする。意志と身体を分離して考える必要はないのでは?」

提督「すべてひっくるめて、それが自分だと、そう自己肯定することは出来ないのかい?」

響「……それ以外に方法はないと思う」

響「でもそれは、私が本当に“響である”のかどうか、ということについて問わないということだと思う」

提督「ああ…………。そういうことか……」

響「どの道、私の採れる解釈は限られているんだよ」

響「私は私自身の存在を疑ったりはしない。でも私が“響である”ということには一抹の疑いを拭い切れない」

提督「……響の原初的なアイデンティティーが、艦艇としての響と女の子としての響の間で揺れているんだね」

響「……」コクン

提督「ひとつ質問がある」

響「なんだい?」

343: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/06(月) 03:35:11.09 ID:g3W406mG0

提督「その疑いを拭えないのは、自分が艦娘でなければ“かつて自分は響だった”という確信を持てなかったのではないか、という仮定に起因している?」

響「おそらくは、そう」

提督「君の持つ艦の記憶は、君の“過去の”意志について、何と言っている?」

響「……わからない」

提督「なら質問を変えよう。かつて君は自分が意志していたと思うか?」

響「………………」

響「うん。そう思うよ」

提督「……面白いね。いや、おかしいくらいだ」

提督「私も響も、言ってることと信じていることが、きっと逆だ」

響「私に関しては単に、解釈に迷っているだけだと思うよ」

提督「そうかもな」

提督「だが私は、違う。私なら、自分自身が意志しているとは考えない。否、考えられない」

響「それは……悲しい考えだね」

提督「響。君はたとえ乗組員が自分の進路を決定したとしても、それが他ならない“響”の意志であると?」

響「その通りだよ、司令官」

提督「……君の意志を響の乗組員数百名の創発として定義出来たとして、上位の意志である君が下位の意味、即ち乗員の意図を理解出来てもなお、それは自分の意志であると、そう言い張れるのか?」

響「出来るさ。何より私は、彼らの意図と挙動を理解出来ても、私自身の意志の発生を理解出来ないのだから」

提督「それこそが、自分に意志があることの何よりもの証拠だとでも?」

344: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/06(月) 03:36:33.40 ID:g3W406mG0

響「私は、そう思う」

提督「君にとって乗組員とは何だ?」

響「私の意志に、従う者のことだよ」

提督「……驚いたな。これは艦娘が人智を超えているからか? それとも、響の体感が特別なだけか?」

響「後者だと思うよ。単なる解釈の問題なんじゃないかな」

響「でもそんな私でも、ヒトの身体には軛のようなものを全く感じないわけでもない」

響「尤もそれは単に、おそらく偶然的なものだろうこの姿に対して制限を感じているというだけの話であって、この姿から導かれる諸々の感情も、意図も、行為も、等しく私のものなのだと、そこだけは胸を張って言えるよ」

提督「……私には響が眩し過ぎる。私には何も奪えない」

響「奪うという次元にすらないよ。彼らは元々私のものだった」

響「そして同時に、おそらく私は彼らのものでもあったのだろうけど、“私”にとってそんなことは問題ではないんだ」

響「彼らの意図と私の意図には、区別がない。このことは彼らの意図が私のものであると、そう私が恣意的に解釈するための妨げにならない」

響「だから当然、彼らの行為はすべて説明出来るし理解出来るよ。なぜなら、他でもない私が意志したことなのだから」

提督「それが響の、記憶なんだね」

提督「そして、彼らの意図を理解出来るのは、今自分が艦娘だからではないか、と」

響「そうだよ」

提督「それはとても興味深い見解だ」

345: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/06(月) 03:37:40.49 ID:g3W406mG0

提督「艦娘として生まれ、下層の意味を知り、それでもなお自分の意志を肯定出来るのは響の強さだと思う」

響「どうかな。さっきは私の感覚が特別だからと答えたけど、もしかしたら艦娘は皆、潜在的にはそう思っているのかもしれないよ」

提督「なぜ?」

響「そうでないと、今艦娘として操艦出来ないんじゃないかな?」

提督「なるほど」

響「航空母艦に関しては艦載機まで自分の意志で操っている」

提督「ああ。それは私も気になっていたところだ」

提督「今艦娘として何の問題もなく操作出来ているということの起源は、艦艇の時にまで遡れるのではないかと、響はそう言いたいわけだ」

響「私自身は、実はそうなんじゃないかって思ってる。いや、そう信じてる。そして、そう信じたい」

提督「その認識が誤認だったとしても?」

響「誤認だったとしても、だよ。私は、信じる心を大切にしたいんだ。ああ、そうか…………」

響「たとえ記憶に騙されていたのだとしても、過去に保証なんかなくても……」

提督「……確信さえ得ているなら、そこから考えられる諸々の事実よりも、確信そのものを肯定する……。そういうピュアな考え方、嫌いではないな」

響「うん。それだけで私の心は落ち着いた。僅かばかりの恐怖心も乗り越えられると、信じさせてくれた」

響「他ならないこの私が、――響なのだと」

346: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/06(月) 03:38:41.28 ID:g3W406mG0

響「…………司令官」

提督「ん?」

響「ありがとう」ニコッ

響「これでもう、瑣末なことに頭を悩ますこともないと思う」

響「司令官のおかげだよ」

提督「私はただ、話を聴いたに過ぎない」

響「ううん。それだけでよかった」

響「決して悩んでいたわけではないけれど、それでも、こんなに見晴らしが良くなるなんて」

響「……司令官にも、こんな気持ちを感じて欲しいと思った」

提督「はは……。私は、響ほどの主体性を持って自己規定することは出来ない」

響「司令官……」

提督「でも、そうだな」

提督「いつか見つけられるといいかもな。響のような、自分の明確な在り方を」

響「……うん!」

―――
――


347: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/06(月) 03:40:10.58 ID:g3W406mG0

―司令室―

提督「……」ペラペラ

夕立「……」カタカタカタカタ

提督「もう、秘書の仕事は完璧か?」カリカリ

夕立「んー……」カタカタ

夕立「そうでもないっぽい」

提督「妥協しないんだな」

夕立「まあね」

夕立「……」

夕立「なんだろう……」

夕立「最近、海に出ても、ここで仕事をしてても」

夕立「何となく、何かが足りない気がするの……」

提督「?」

提督「何かって、何が?」

夕立「わかんない……」

夕立「お仕事もっと頑張ろう、って。妥協なんてしない、もっともっと提督さんの役に立とうって、思うんだけど……」

夕立「私の、この気持ちは――」

コンコン

348: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/06(月) 03:41:02.58 ID:g3W406mG0

赤城『赤城です。長門さんもいます。ただいまお時間よろしいでしょうか?』

提督「いいぞ。入ってくれ」

ガチャ

赤城「失礼致します」

長門「失礼します」

提督「なんだ、どうした?」

赤城「ええっと、お仕事中ごめんなさい……。本当に、大した話じゃないんですけど」

赤城「あの、今度飲み会でも開こうかと、皆さんとお話致しまして……」

提督「の、飲み会?」

赤城「ええ。その、お仕事のある中大変かとは思いますが、是非、提督ともご一緒出来たらなと思う次第でありまして……」

提督「なるほど。業務に関わることだから、この場で進言したんだな」

赤城「はい……。ダメ、でしょうか?」

提督「はぁ。まったく……」

赤城「う……」

349: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/06(月) 03:41:51.88 ID:g3W406mG0

提督「意外と律儀なんだな。気にすることはないぞ。私も参加させてもらおう」

赤城「本当ですか!? やりましたね!」

長門「ああ」

提督「ふむ。夕立」

夕立「はい?」

提督「そういうわけで夜の時間を空けるために、明日夕立は出撃せずに秘書をやってもらう」

夕立「なるほー。了解でーす!」

赤城「ごめんね夕立さん」

夕立「大丈夫ですよ! 日中はみんな等しくお仕事なんですから」ニコ

赤城「ありがとうございます」ペコリ

提督「じゃあそういうことで」

提督「ところで長門は何しに来たんだ」

長門「赤城の付き添いだ。もしかしたら提督の機嫌を損ねるかと思ってな。独りで叱られるのは心細いだろう?」

提督「杞憂もいいところだ。揃いに揃って律儀なヤツらめ」

提督「話は終わりか?」

赤城「ええ」

350: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/06(月) 03:42:42.90 ID:g3W406mG0

赤城「では提督、明日は楽しみにしていますね」

提督「こちらこそよろしく頼む。戦果は――」

赤城「当然、心得ています」

提督「よろしい」

長門「……提督」

提督「うん?」

長門「……」チラ

夕立「?」

長門「いや、なんでもない……」

長門「私も提督と酌み交わす酒を、楽しみにしている」

提督「ああ」

赤城「ふふっ。では、失礼致します」

長門「失礼します」

ガチャ

提督「悪いな、負担をかけて」

夕立「ううん。夕立は大丈夫」

351: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/06(月) 03:43:55.72 ID:g3W406mG0

夕立「そうだ!」

夕立「もういっそのこと、夕立が提督業を引き継いじゃえばいいんじゃないかしら?」ワクワク

提督「……なんだって?」

夕立「夕立の、一日提督! 提督さんはゆっくりお休み」

提督「いやいや、さすがに休むわけにはいかない。夕立にすべてを任せるのもな」

提督「だが、まあ多少は任せてみるか」

夕立「本当に!?」

提督「ああ。出来そうな仕事だけ任せよう。事務と第一艦隊の管制は夕立に一任する。全体管理は私がやる」

夕立「やったー!」

夕立「提督さんの上着、着てもいい?」

提督「……別に構わないが、遊びじゃないぞ」

夕立「わかってまーす!」ニコニコ

夕立「ふんふーん♪ 楽しみ―!」

提督(夕立はもう事務仕事が早い。それより練度上昇速度が早いのも気になるが……)

提督(いくら夜に仕事が回せないとは言え、さすがに少し時間が余るだろうな)

提督(なんかやるか)

359: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/13(月) 18:56:54.50 ID:8UnX/sEh0

―――
――


―早朝・波止場―

提督「鈴谷か? おはよう」

鈴谷「おっ、提督じゃん。おっはよー」

提督「早いな」

鈴谷「んー……。なんか、あんまり寝付けなかったみたい」

提督「そうか。まあ着任したてなら、まだここでは落ち着けないだろう」

鈴谷「そうかも。そう言う提督は、フツーに朝早そうだよね」

提督「そうだな」

鈴谷「いつもは何してるの?」

提督「身体を動かしてる。今もここまで走ってきたところだ」

鈴谷「そ、そうなの? あ、もしかして鈴谷が邪魔しちゃってる?」

提督「まさか。私が勝手に立ち止まっただけだよ」

提督「鈴谷は散歩か?」

鈴谷「うーん、まあね」

360: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/13(月) 18:58:50.09 ID:8UnX/sEh0

鈴谷「……ねぇ提督」

提督「うん?」

鈴谷「今日鈴谷は、海に出られる?」

提督「いや、確か今日のところはその予定はない。すまんな」

鈴谷「そっか。そうなんだ……」

提督「……何か、気になることでも?」

鈴谷「うん……。長門さんとか、他の人にも色々話は聴いたけど、ちゃんと出来るかなってさ……」

鈴谷「ほら、今私ヒトの姿じゃん? でも、深海棲艦とは船として戦うんでしょ?」

鈴谷「鈴谷ちゃんと船になれるかなー、とか、操艦できるかなー、とか、さ……」

鈴谷「みんなは、何をどうすればいいのかは自然とわかるーとか、自分の姿を強く想うとそのまま船になってるーだとか、励ましてくれたけど、実際にやってみないことにはちょっと、ね」

提督「なるほど」

提督(記憶だけでは不安に思うもの、か……。響はどうだったのだろうか)

提督「こういうことは時間があるほど余計に気になって考えてしまうような気がするな」

鈴谷「それもあるかもねー」

提督「……」

361: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/13(月) 19:00:02.78 ID:8UnX/sEh0

提督「じゃあ、今からちょっと海に出てみるか?」

鈴谷「え、ぅぇえ!?」

提督「なんだ」

鈴谷「えっ、ちょっ……。いいのかなぁ……?」

提督「まだ時間はあるし、私が許可するんだ。問題あるまい。どうせ大して資源も食わん」

提督「ほら、艤装を取りに行ってこい」

鈴谷「え、う、うん……」

―――
――


鈴谷「こ、これでいいかな……?」

提督「ああ。じゃあまずは浮いてみよう」

鈴谷「うん……」

バシュッ

鈴谷「お、おお!」

鈴谷「なんか浮いてるー!!」

362: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/13(月) 19:00:59.99 ID:8UnX/sEh0

提督「そのまま前に」

鈴谷「前に……」

ツー

鈴谷「おおっ! おおお!?」

鈴谷「なにこれすっごーい! あはは!!」

提督「しばらくそうやって滑ってろ」

鈴谷「あはは! 提督、これちょー楽しいー!!」スイー

提督「そうかい」

提督(なんか心配して損したような……)

ジュバッ

鈴谷「うん! 確かに。何をどうすればいいか、わかる! 不思議とね!」

提督「気は晴れたか?」

鈴谷「そうだね~、最高かも!」

提督「そいつは何よりだ。その調子で頑張ってくれ」

363: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/13(月) 19:02:21.21 ID:8UnX/sEh0

鈴谷「ねぇねぇ提督さ」

提督「うん?」

鈴谷「提督も海の上、滑ってみない?」

提督「…………はぁ?」

鈴谷「ほら靴貸してあげるからさ。気持ちいいよ?」

提督「いや、何を言っているんだお前は……」

提督「サイズ合わないだろ。それ以前にそのヒールの高いローファーを私は履きたくない。何よりの極めつけは……」

提督「私は艦娘ではないから、その靴を履いたところで、多分浮けもしない」

鈴谷「えーっ!? いいじゃん面白そうじゃーん……。それにやってみないとわかんないよ?」

提督「いや流石に結果は目に見えているが……」

鈴谷「提督。仮説は検証されるためにあると思うなー?」

提督「それは正しいが今ここでは正しくない」

鈴谷「ほらっ、靴脱いで足出して!」ヌギヌギ

鈴谷「履いてみなよー。さきっちょだけでいいからさ、ね、ね、ね?」ズイズイ

提督(うるせぇ……)

提督「わかったよ」スッ

364: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/13(月) 19:03:29.33 ID:8UnX/sEh0

提督「これでいいか?」

鈴谷「うわっ、提督ヒールとか履いちゃうの? まじ? あは、きっもー☆」

提督「――――鈴谷?」

鈴谷「ぴ……っ」

鈴谷「ごめんなさい冗談ですいや冗談にしてもふざけ過ぎです調子に乗り過ぎましたごめんなさい」

提督「鈴谷ぁ。ここからだと資源運搬用のクレーンがよく見えるなぁ」

提督「あれにお前を、そう、例えば、――吊るしてやれば、気高さと哀愁さを兼ね備えた素晴らしい芸術作品が生まれそうな気がするんだ」

鈴谷「あはは……提督、冗談ですよね?」

提督「そうだ冗談だ」

鈴谷「は、ははは。で、ですよね……。でもちょっと笑えなかったっす」

提督「そうかすべってしまったか。残念だなぁ」

提督「この勢いならきっと海の上も滑ることが出来そうな気がするなぁ鈴谷」

鈴谷「ぜ、是非トライしてみてください」

提督「ああ、そうするよ」

鈴谷(ぁ、あぶなかったぁ~。さっきの一瞬の殺気は冗談抜きでヤバかった。……おしっこ漏れてないよね?)ゴソ

提督(ちょっと大人げなかったか)

365: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/13(月) 19:04:34.31 ID:8UnX/sEh0

カツカツカツカツ

チャプ

提督「……ほら、な? 浮かないだろう?」

鈴谷「ほ、ホントだ……。おかしいなぁ。鈴谷の小さい靴にでかい足を無理矢理捻じ込んで壊しちゃったとか?」

提督「反省が足りないようだな」

鈴谷「ジョークジョーク!」

鈴谷「でも故障じゃないとなると、なんでなんだろうね? 鈴谷は問題なく使えたのに」

提督「……艦娘は艤装なしに艦船形態には移行出来ない」

提督「常態における艤装は、ある程度の機能を行使出来るが、艦娘にしか扱えない……」



『ぜんたいのけいですゆえ』

『ちぇすのこまをひとつだけながめるのもおこられました……』



提督(……全体の、系)

提督「鈴谷。仮説とは、常に改訂され得るものだ」

366: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/13(月) 19:05:47.57 ID:8UnX/sEh0

提督「……おそらくだが、この靴それ自体には“水上を滑る”という機能は賦与されていない」

提督「この靴ひとつだけを取り出してどんなに観察しようとも、無意味なんじゃないか?」

鈴谷「え……。な、なんで?」

提督「さぁな。だがその靴が鈴谷の艤装の一部であるなら、それは鈴谷にしか使えないものなのだろう」

提督「それが強く規定されている、としか思えん」

鈴谷「う~ん。他の艦娘と艤装を交換して使えなかったら、そうかもしんないねー」

提督「おお、いい着眼点だな。今度やってみてくれ。宿題だ」

鈴谷「うえぇ~宿題とか、まじっすか」

提督「マジだ」

鈴谷「まあちょっと面白そうだし、やってみるよ」

提督「よし。じゃあ次は艦船形態に移行してみろ」

鈴谷「ラジャー!」

367: ◆2pHIc08LV13v 2015/04/13(月) 19:06:49.09 ID:8UnX/sEh0

鈴谷は俺から15mほど離れると、途端に艤装を展開した。


提督「おい馬鹿近過ぎる!!」


青白い強烈な光と共に、水飛沫がはじける。
思わず顔を腕で覆う。


提督「くっ……」


顔を上げるとそこには朝日に照らされる『鈴谷』の姿があった。
ある種の神々しささえ湛えているその姿に息を飲む。
即座に口をついて出そうになっていた悪態は、どこかへ消えていなくなってしまっていた。

ふと見ると、鈴谷が腰に手を当て、得意げな顔で甲板から俺を見おろしている。


鈴谷「ふふーん♪」

提督「……残念なヤツめ。ドヤ顔さえしていなければ見惚れていたものを」

鈴谷「え!? ちょっ、惚れるとか言うなし! ば、馬鹿じゃん……////」

提督(運動着で助かったな)


それにしても、清々しい朝だった。