2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/10(土) 14:34:16.33 ID:Q9BSG/7Jo

提督「ラジオ放送ですか?」

明石「はい! 最近開発した機器なんですけど、ちゃんと出来ているのか確認したくって……」

明石「試験的にこちらの執務室に置かせていただこうかと思いまして」

榛名「なんだかすごく複雑そうな機械ですね……」ツンツン

提督「はあ……まあ、置くぶんにはまったく問題ないんですけどね。
   駆逐艦の子たちもよく執務室に入ってきますし、変ないじられ方しても知りませんよ」

明石「あ、そこは大丈夫です。本格的な機器は機械室の方に置いてあって、そこから配線を引っ張ってきてるので。
   だからこちらの執務室に置く機器は卓上型マイクと、マイク録音の音量調節くらいなものです」

明石「希望があればこちらにレコード再生機器やCDプレーヤーなども置くことができますが」

提督「いや、ろくに音楽なんて聴かないものですからCDなんてとても……。
   念のため、わかりやすいように説明のシールを張っていただいてもよろしいですか?」

提督「ボタンとかバーがたくさんあってちょっとわかりにくいですし」

明石「ふっふっふ……お任せください! そう言われると思って用意してあるんですよぉ! はいはいほれほれ」ペタペタ

明石「音楽の話ですが、提督のほうから案がないならこちらの方でバックミュージックを手配しておきますね」

明石「やはり放送の裏が無音だとすこし寂しいものがありますから」

提督「あい了解です。相変わらず見事な手際ですこと……」




3: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:34:56.90 ID:Q9BSG/7Jo

榛名「でもですけど、いつも使っている府内放送ではだめなのですか? こちらも鎮守府内全域に通っていたはずですが……」

提督「あっちはどちらかと言えば連絡用回線として使用しているからな。
   週初めの方に、今週の艦隊編成だとか遠征の予定だとか……そうそう気軽に利用できるものではないし」

明石「そうでしょうね。強制的に開かれる回線なんだから私的に利用するわけにもいかないですから」

提督「職務連絡ならともかくとして、個人の配信を強制的に聞かせるのも悪いしな」

榛名「たしかに……その通りです」

提督「それに普段から連絡用回線を開いていたら、そっちの回線の放送に対する“慣れ”が出来てしまうからなあ。
   そういったものに慣れてしまうと、いざ緊急時となったときに緊張感を保てなくなる」

提督「まあ、いまみたいに週一で連絡用に使っているのも本当はあまり良くないんだけどな。
   朝食食ってる最中とか、食った後とかにみんなを集めて連絡事項を伝えたいところなんだが……」

明石「朝に弱い子たちとか、そもそも朝食をとらない子たちもいますからねぇ。普段から口を酸っぱくして言っているのですが……」


4: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:36:01.97 ID:Q9BSG/7Jo

明石「ああそうです、連絡用回線で思い出しましたが、こちらのラジオ放送は配信範囲を絞って放送することも可能です」

明石「配信範囲としましては鎮守府全域はもちろんとして、間宮食堂から鳳翔さんのお店までカバーしてあります」

明石「もちろんわたしの酒保にも流れるよう設定いたしました!」

提督「ん……それはたいへんありがたい話だとは思うんですが。この執務室から配信するんですよね?」

提督「時間にもよると思いますが、いつ配信するんですか?
   あんまり遅いと駆逐艦の子たちもお布団でしょうし、早ければ出撃や演習やらで閑散としていますし」

榛名「そうですね。お昼過ぎから夕刻まではみなさん出払っていらっしゃいますし……」

提督「それに誰がMCを務めるんですか? 自分は執務に追われていて厳しいですし」

提督「青葉でも呼びつけて特務艦扱いでやらせますか?
   ほかにも出たがりの艦娘に何名か心当たりがありますけれど……」

提督「それにさっきは問題ないと言いましたが、こちらの仕事の方に影響が出るようでしたらお断りしたいなあと。
   確認が必要な書類がたまっていて、あまり滞らせるようなことはしたくありませんし……」

明石「あっ、ちょ、ちょっと待ってください。順番にお答えしますね」

明石「まず時間に関してですけど、駆逐艦の子たちがおねむになる前……食後くらいですね。
   だいたい夜の七時か八時くらいを想定していただけると助かります」

明石「できれば毎日放送できるといいみたいです。夜間は深海棲艦の活動も大人しくなりますから」

明石「放送時間に関しては最低三十分、長くて一時間半といったところでしょうか。
   多少の前後は問題ないと思います。食事中に放送しても構わないようですね」

提督「(構わない……?)」

明石「つぎに司会進行――“MC”ですが、こちらは提督に務めていただくこととなっております。
   いまはわたしが口頭で伝えていますが、後ほど大淀を通して大本営の方から正式な辞令が出るはずです」

提督「えっ」

明石「任務としておりることになりますから、提督の確認が必要な書類は大淀とわたしの方で処理することが許可されました。
   とはいえ、必ず提督が目を通さないといけない書類は見ていただくことになると思いますが」


5: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:37:34.21 ID:Q9BSG/7Jo

提督「えっちょっと待って」

明石「はい、なんでしょう」

提督「さっきの機器は明石さんが試験的に開発したもの……じゃなかったんですか? それがなんで上からの辞令に関わって……」

明石「ああ……実は試験的に開発したと言っても、大本営からの命令で作製したものなんです。
   なんでも今後の活動においての参考にするだとかなんとか」

明石「ほら、連絡用回線を使っての連絡って記録として残るじゃないですか?
   今までにもそういった記録は残っているんですが、今回大本営が欲しがっているのは“艦娘たちの日常”だそうで」

榛名「榛名たちの日常、ですか」

明石「艦娘になった子たちの生活が気になるらしいです。艦娘の子を持つご家族の希望がとても強かったそうですよ」

明石「希望があったご家庭の方に、お子さんの所属する鎮守府のようすを収録したディスクを送るみたいです」

提督「お子さんの……うちに所属する鎮守府の家庭、つったら……」

明石「大きなご家庭だと、特にと言えば大和さんや如月ちゃんが該当しますね。あとは金剛さんたちなんかもそうです」

提督「げえっ……」

榛名「ああ……気にしてばっかりなんだから、もうっ……」

明石「もちろんそれ以外にも用途はあるみたいですけどね。艦娘の精神状態とかの確認にも使うみたいです。
   年も明けましたし、新しい試みをここいらで試してみようという話になりまして」

明石「とはいえ、あまり大きく構える必要はないですよ。あくまで“日常”がメインですから」

明石「へたに取り繕おうとした方が問題になるかもしれないですよ?」

提督「わかってますよ……ええっと、具体的な開始日時っていつごろからになりますか? できれば放送開始の日までに書類の方を片付けておきたいんですが……」

榛名「そうですね……年末年始で業者さんの出入りも多くありましたから、いつもより多く書類が積まれていますしね」

明石「明日ですよ」

提督「えっ?」

明石「明日」

提督「…………」

榛名「…………」


――――

――

6: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:38:35.72 ID:Q9BSG/7Jo



提督「(その日は秘書艦の榛名と二人で徹夜の作業だった)」

提督「(そして驚いたことに、明石さんの話を聞いた翌日、大淀さんが記録用のディスクと辞令書を届けに来た)」

提督「(どうやらホントの本当に今晩から放送を開始しないといけないらしい。辞令を確認して頭が痛くなった)」


榛名「提督……? あの、お口に合いませんでしたか……?」

提督「……ん、いや、このメシ食ったらラジオと思うとげんなりしてきてな。
   まさか特別佐官とはいえ、提督になってから放送部の真似事をすることになるとは思いもしなかった」

提督「今日に限ってすっげぇ時間経つのが早く感じる……」

榛名「ああ……そうですね……。で、でも、提督は学生時代には放送部だったじゃないですか。その経験を活かして、とか」

提督「いや……幽霊部員もいいとこだったろ、それを言ったら榛名だって一緒の放送部だったろ」

榛名「そ、それはそうですが……」

提督「二人して幽霊部員だったもんなあ……校則で必ず部活動に所属するように決められてたからなあ。
   叔父さんの伝手で卒業後鎮守府入りすることが決まってたから、二人とも勉強に明け暮れてたし」

提督「もともとこういう人の前に出て喋るっていうのは性に合わないんだよなあ……なんか、恥ずかしいし」

榛名「も、もう決まったことなんですから、頑張ってください! 榛名も応援していますからっ」

提督「あー、榛名はいい子だなあ……よしよし」

榛名「んっ……」

榛名「そ、それにはるな……提督の放送、ちょっぴりたのしみにしてたり……なんて」

提督「そうかあ……よしっ! 榛名が楽しみにしてるとなったら一肌脱ぐっきゃないだろ! 榛名の両親にも、榛名たちが元気にしてるってとこ伝えてやんないとな!」

榛名「ふふ……父や母も、久しぶりに提督のお声を聞きたがっていましたよ」

提督「そうかそうか……よし、今晩は二人で頑張って乗り越えような!」

榛名「……え? ふたり?」

提督「番組を進行するにあたってな、俺がMCを務めるのは決まってるんだが、ゲストとして艦娘を呼ばないといけない決まりでな」

提督「記念すべき栄えある第一回放送のゲストは…………榛名、お前だ」

榛名「えっ」

提督「うっふふふふふふ……お前ひとりだけ蚊帳の外にはさせないぜ……」

提督「まるで他人事みたいに言いやがってよお……ずっと一緒だからな榛名……うっふふふふふふ」

榛名「」




7: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:40:22.21 ID:Q9BSG/7Jo






ガチャ

金剛「brrrrr... ぅー。おはようございマース……」

比叡「金剛お姉さま! おはようございますっ」

陸奥「あらあら、お姫さまのお目覚めみたいね」

長門「おそよう、だ。さすがに遅すぎるぞ金剛、もうすぐ夕食だ」

伊勢「え、まさか今のいままで眠りこけてたってわけじゃないよね?」

金剛「コターツ……ヒエー、ちょっと詰めてくだサーイ……uhh...」ゴソゴソ

金剛「夢に落ちていたわけではないデース……ベッドの中でケータイをいじっていたらこんな時間になってただけデース……」

伊勢「うわぁ……」

長門「……それは実質寝ていたも同じだろう」

比叡「お姉さま……さすがにそれは自堕落すぎではないでしょうか」

陸奥「わたしたちもコタツで暖を取りながらテレビばっかりずーっと見てたわけだから、あんまり人のこと言えないけれどね」

伊勢「この時期は同じような番組ばっかりで飽きちゃうわねぇ」

日向「まあ、そうなるな」

長門「なにを言う。わたしはちゃんと日課のトレーニングを済ませてやってきたのだ。
   真の強さとは、まず自分を律することから始まる! こういった年始の休日でも気を抜かないことだ!」

陸奥「姉さんは気合入りすぎだと思うけどね。なによそのヘソ出しルック…… 女じゃないんだから」

長門「お前に言われたくない!」


8: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:41:51.69 ID:Q9BSG/7Jo

陸奥「わたしはさすがにオフの日くらいは厚着するわよぉ。誰に見られるってわけでもないし」

金剛「mmm... 見てるだけでこっちまで寒くなるネー。ナガトはいっつもお腹出してるけど寒くないノー?」

長門「これしきの寒さなど、どうにもならん。だいいち、日ノ本を背負って立つ人間が自国の寒さに震えてどうする」

長門「この程度、当たり前のことだ」

伊勢「こたつでぬくぬくしながら言われてもねぇ」

陸奥「寒いと思うなら服着たらいいのに」

長門「やかましい。心頭滅却すればと言うだろう、寒いと思うから寒いのだ」

金剛「oh... Japanese RIKISHI style...」

日向「まあ、そうなるな」

長門「力士ほどはだけていないだろう! まったく……すこしは夕立ら駆逐艦を見習ったらどうだ」

長門「彼女たちはこの積雪のなか、魚雷を使ってはねつき遊びまでやっているんだぞ」

伊勢「ドッジボール版はねつきだけどね」

日向「そもそも羽つきではなくぎょら付きだろう」

ポイイイイイイ ドゴーン マイクチェックノジカンダオラアアアア ドゴーン ギャアアアアアア 

金剛「あんなクレイジーガールと一緒にしないでくだサーイ! うぅ……日本の寒さはいつになっても慣れないデース……」



9: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:42:44.82 ID:Q9BSG/7Jo

伊勢「うーん、よくわかんないんだけど、イギリスの方が冬厳しいんじゃないの? ほら、冬のロンドンとかって言うじゃん」

日向「まあ、そうとも言うな……伊勢、みかんを取ってくれないか」

伊勢「もうすぐお夕飯だから我慢しましょうねー」

日向「ぶー」

比叡「そういえばたしかに、イギリスに渡英した学生時代の友達も寒い寒いってよく手紙をよこしてきますねぇ」

金剛「それはなんというか、ブリテンの冬は日本とはまた違うタイプの寒さデース」

金剛「あっちの国は凍てつくような寒さで、身体の外側が冷えていく感じデスがー……」

金剛「日本の冬は身体の芯から冷え込むような、そんな底知れぬ寒さがありマース……brrrr」

陸奥「ぶるぶる言って、ふふっ……まるでお牛さんみたいね」

金剛「牛みたいな した女に言われたくないデース……ノーウェイノーウェイxxxxing cold... うぅ……」

10: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:43:50.10 ID:Q9BSG/7Jo

ガチャリ


扶桑「あら……おこたが占領されているわ……」

山城「おねえさまっ、暖炉前のソファが空いているからあちらに座りましょう!」

扶桑「そうね……。あっ、そうだ編み物をいたしましょう。セーターを編んでいる途中だったの……お部屋から取ってくるわね」

山城「はいっ、わたしは温かいお茶の準備をしておきますね!」パタパタ

扶桑「お願いね、山城」ガチャ


金剛「あっちはおばあちゃんと孫みたいな会話してるネー……ヘイ山城! こっちに温かい紅茶が用意してあるネー!」

比叡「わたしが用意したものですけどね」

山城「あらごめんなさい。お姉さまは抹茶のおいしいお茶しかいただかない“純正”大和撫子なの……」

山城「あなたのような養殖“えせ”巫女ガールがたしなむ紅茶はきっとお姉さまのお口に合わないと思うわ」

金剛「……むかちーん!」ガタッ

陸奥「むけち――」

伊勢「やめなさい!」


金剛「Oh oh oh ooooh! さては去年の艦娘戦功ランキングで、わたしが扶桑を上回って入賞したことを根に持っているんですカー!?」

比叡「(……戦功ランキングってなんですか?)」

長門「(深海棲艦の撃墜数だ。どの艦種を撃墜したとかは艤装に記録として残るからな)」

長門「(強力な深海棲艦を数多く撃墜した艦娘には提督から褒賞を賜るんだ。いつも月末に発表しているが……知らなかったのか?)」

比叡「(……ああ! だから前お菓子の詰め合わせをいただいたんですね! 何のことかと思いましたよ)」

長門「(フッ……ちなみに金剛は昨年の年間“航空母艦”撃墜数トップだ)」

長門「(褒賞として希望の品物を提督からもらったそうだが……なにをもらったのだろうな)」


12: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:45:34.22 ID:Q9BSG/7Jo

金剛「New year を迎えたというのに、去年の恨みを持ち越すなんて一途なピュアガールネー! 除夜の鐘もゴンゴン泣いてるヨ!」

金剛「残念だけどわたしの心は提督とマイファミリーに捧げているからNO! なのネー」

比叡「おっ、お姉さま……っ」

長門「(感極まるなぁ)」ポリポリ

伊勢「長門さんも夕飯前におせんべいはやめましょうねー」

長門「…………む」


山城「はっ、よく言えますね! 扶桑姉さまが追い詰めた敵を横からかっさらっていっただけのくせして!」

山城「本来あの賞は扶桑お姉さまのものだったはずです! それをあなたみたいな…………!」

金剛「わたし? わたしのコト? オーケーオーケー! Come on Come on C'mon!! 遠吠えはなにを聞いても悪い気しないネー!」

山城「あなたみたいな…………っ」

金剛「Uh-huh?」

山城「この…………っ、いい歳してアレンジ巫女服着たコスプレ女になんかっ!!」

山城「年齢を考えたらどうですか? もう二十も半ばのくせしてみっともない恥ずかしい」

山城「いつまでも十代のころでいられるとでも思っているんですか? こころはいつでも十八歳なんですか?」

金剛「」


伊勢「あー歳いっちゃうかー」

日向「歳はまずいな。歳の話はいかんよ」

陸奥「誰もが触れないようにしていた話題だったのにねぇ」

長門「しかも発言が壮絶にブーメランしているな」


13: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:47:27.10 ID:Q9BSG/7Jo

伊勢「ちょっと! 金剛さんも山城さんもちょっとヒートアップしすぎ。もうすぐ夕飯なんだから仲良くしましょうよ」

日向「そちらで揉めているはずなのに、こちらにまでダメージが来るからやめろ」

比叡「そうですよ二人とも。新年あけてすぐ喧嘩では縁起が悪いです。おめでたい日なんですから」

山城「む……それもそうですね、ちょっと熱くなりすぎました。すみません、みっともないところをお見せしました」

金剛「」

陸奥「こっちは水揚げしたヒラメみたいになってるわねぇ」ツンツン

長門「塩でもかけていろ」

金剛「」ヒラメ



 ガチャリヌ

扶桑「あら……? みなさん、どうかなされましたか……?」

霧島「なにか言い合うような声が聞こえてきましたけど」

山城「お姉さま! お帰りなさい! あの……申し訳ないんですけど、お茶の方はもう少し待っていただいてもよろしいでしょうか」

山城「ちょっとトラブルがあって準備が遅れているんです……」

扶桑「あ……いいのよ山城。もう食堂の方に向かわないといけないから……」

日向「お? ということはもう夕食の時間か?」

霧島「はい、本日の当番の子たちが準備終わったからみんなを呼んで来いとのことです」

伊勢「お待ちかねね~。お尻に根っこが生えちゃうかと思ったわよ」ヨイショ

陸奥「ちょっとおばさんっぽいけどわかるわ。コタツとテレビだけで余裕で越冬できるわよねぇ」ムクリ

長門「さ、行くこととするか。小さな子らの前でだらしのない格好をするんじゃないぞ」

スタスタ   パタン


比叡「……霧島、榛名がどこにいるか知らない? 昨日からずっと見てないんだけど」

霧島「榛名は任務だかなんだからしいですよ。あまり要領を得ませんでしたが……夕食は執務室でとるようです」

比叡「ふうん……、そっか。じゃあ行こっか霧島」

霧島「あら、金剛お姉さまはよろしいんですか?」

比叡「金剛お姉さまは……ほら、あれ」

金剛「」ピチピチ

霧島「ああ、伝統のヒラメ芸ですか。新年早々から拝めるだなんて、今年は良い年になりそうですね」

比叡「そうだねぇ。お姉さまは当分あのままだと思うから先に行っちゃいましょ」

霧島「そうですね……では金剛お姉さま、お先に失礼しますね」

バタン

金剛「」










金剛「」



16: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:49:13.50 ID:Q9BSG/7Jo





 ざわ・・・
               ざわ・・・

         ざわ・・・


比叡「うっわー! 今日はまた一段と混んでるねぇ」

霧島「年末年始くらいは、できるだけみんなでご飯を食べるようにと提督から指示があったんですよ」

比叡「提督から?」

霧島「ええ。同僚としてではなく、“寝食をともにする仲間”という意識を強めて欲しいとのことで」

比叡「へえ……わたし個人としては、仲良くしたい子たちがたくさんいるから嬉しい話だけどね」

霧島「わたしも同意見です。……比叡お姉さま、あちらのテーブルが人少ないですしあちらにしましょうか」

比叡「おっ、人陰になっててよく見えなかったけどきっちり空いてるね。金剛お姉さまの席も確保しておこっか」

霧島「そうですね」


霧島「すみません、こちらの席よろしいですか?」

瑞鶴「――? ああ、霧島さんたちか。いいよ気にしないで」

翔鶴「今日はおふたりなんですか?」

比叡「いえいえ、あとから金剛お姉さまも来る予定です。榛名は用事があるみたいで来れないようですけど」

瑞鶴「あっ、それわたし見たかもしんない」

翔鶴「わたしも……。なんだか、提督と明石さんに両脇を抱えられて連行されていましたよ」

瑞鶴「なんか珍しかったよねー。榛名さんが真っ赤な顔で引きずられてるのって新鮮」

比叡「いったいなにしたのあの子……」

霧島「榛名が赤面すること自体はいつものことですが、引きずられているのは珍しいですね……」


18: 安価出しのときはageる予定です ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:51:25.84 ID:Q9BSG/7Jo

瑞鶴「でもこうやってみんな集まって食べるのってなんか面倒くさいなー。人がいっぱいいるところってあんまり好きじゃないし」

翔鶴「もう瑞鶴、そんなこと言わないのっ」

比叡「あはは、お気持ちはよくわかります。トレイを持って人ごみの中を歩くのってたいへんですしね」

瑞鶴「そうそう! 駆逐艦の子たちとか走り回るもんだからどんどんぶつかっちゃうし!
   それにたっくさん人がいるおかげで、注文とってもらうまでにすっごい時間かかるし!」

瑞鶴「高校の購買部かっての!」

霧島「そうですねぇ……艦種ごとにお昼の時間を少しずつズラすとか、もう少し楽にしてほしいものです」

霧島「とは言ってもみんながまとまった時間を取れるのは今のような年始ぐらいなものですし」

霧島「年末年始のイベントの一環として諦めて参加するしかなさそうです」

翔鶴「そうですねぇ。……でも、年始は深海棲艦が現れないというのは本当なんですね」

翔鶴「こうした平和な日々がずっと続けばいいんですけれど……」

比叡「年末年始はなぜか深海棲艦の侵攻がパタリと止むんですよねぇ。不思議なお話です」

瑞鶴「案外あっちも新年パーティーかなにかやってるんじゃないの?」


霧島「あ、パーティーで思い出しましたけど、今日から変わった催しを行うみたいですよ。
   今日からって言ってももう夜の七時前ですし、なにかあるとしたらそろそろだと思うんですが……」

瑞鶴「変わった催し?」

霧島「催しです。明石さんがなにやら妖しげな表情をして――」



 ザザ



 『……あーあー、テストテスト。明石さん、マイク音量大丈夫?』

 『……オッケーですか? え、もう始まってる!? …………はい。はい』



霧島「――――うわさをすれば、ですかね」

瑞鶴「え、なに、放送?」



19: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:52:30.48 ID:Q9BSG/7Jo




 『えー、海洋をたゆたう可憐な妖精のみなさまこんばんは! 本日この時間、ヒトキューマルマルの訪れをお知らせいたします!』

 『みなさま、新年あけましておめでとうございます! 昨年は大きな戦いが続き背筋も凍るような日々でございました』

 『今年もわが鎮守府は前進と飛躍に向け挑戦を続けます。なにとぞ、よろしくお願いいたします』


阿賀野「あらあら……これはこれはご丁寧にどうも~」ペコリ

能代「阿賀野姉ぇ、これ放送だから……」


 『さてさて、夜空を雪がくだり月がのぼりはじめたこのごろ』

『艦娘のみなさんの中には、出撃がないのをいいことに生活バランスが崩れてきた天龍ちゃんなどもいるんじゃないでしょうか』


天龍「っ……なんでオレ限定なんだよっ!」

電「……でも天ちゃんさんはお昼すぎまでお布団ごろごろだったのです」

暁「レディにあるまじき振る舞いね!」

龍田「おちびさんたちに揉まれてやっと脱皮したものね~」


 『すっかり寒くなってまいりましたが、みなさん風邪などはひかないようにしましょうね』

 『年は明けても冬はまだまだ明けません。長門さんや伊イクさんのようなおへそを出す格好はなるだけ避けてください』

 『僕の視線が刺さってアツくなるのは心だけ。身も心も暖まるような服装を心掛けてください』


陸奥「あはは、提督にまで言われちゃってるじゃない」

長門「ふん、どのような格好をしようがわたしの勝手だろう。なあイクよ! いるか!?」

イク「ハッチグーなの! イクはみんなに見られた方があったかくなれるのね!」

イク「提督もその熱く燃え上がるような心に身を任せてイクと楽しいことするのね~!」

イク「あはぁっ……イクの魚雷がっ……うずうず、してる、のぉ…………っ」ブブブ

イク「――んっ」

ゴーヤ「食事中はやめるでち!!」



伊勢「あなた、アレと同類なのよ」

長門「…………」



20: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:53:37.12 ID:Q9BSG/7Jo

 『師走を駆け抜け睦月となりましたが。年齢や上下なく、大人も子供もお互い睦まじく過ごしたいですね』
 
 『そうそう、睦月で思い出しましたがみなさん、食堂に飾られているカレンダーは確認しましたでしょうか』
 
 『昨年の年の暮れに写真撮影を行ったことは記憶に新しいですが、つい先日その写真を使用したカレンダーが届きました!』

 『一月を飾る人物は、輝かしき戦歴を持つ女性、一航戦の赤城さんです!』


吹雪「――あっ、本当です! 波立つ海を背景に……!」

白雪「ふふ、なんだか少し照れくさそうな表情ですね」

赤城「な、なんだか少し……晴れがましいですね」

加賀「(……さすがに気分が高翌揚します。これさえあれば…………提督のところにお伺いを立てませんと)」フンフン


 『なお、このカレンダーはこの一つしか作られておりません。間違っても僕のところに押しかけて製作を要求しないように』


黒潮「そんなヤツおらんやろ~」

望月「いくら欲しいって言ってもそれはちょっとヒくよねぇ~」

加賀「」

龍驤「なぁんや、ウチはちょっぴし欲しかったのになぁ」


 『このカレンダーにはみなさんの可愛らしい表情や、凛とした視線が封じ込められております。僕も手元に一つ欲しいくらいです』

 『とはいえ、僕がみなさんのカレンダーを所持していると知られたらどのような反応をされるか。クソ提督扱いは免れられません』

 『二月を飾る人物はまた来月のお楽しみということで。気になっていてもこっそりめくらないように!』


三隈「あら、それは残念です……」

鈴谷「……くまりんこって案外お茶目っぽいトコあるよネ」



21: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:54:44.62 ID:Q9BSG/7Jo

北上「っていうかこれなんなの? いつもの連絡じゃないよね?」

大井「くだらないことで北上さんのお食事を乱すようなら遠慮なくぶっ飛ばします」

木曾「おいおい物騒だな……ま、メシくらいは静かに食いたいと思う気持ちはわかるが」


 『さあさあみなさん、この放送に対して疑問を持ち始めてきたころでしょう。
  実は僕もあまりよくわかっておりません。指示されるがままに執務室から電波を飛ばしております。まるで傀儡のよう』
 
 『しかし指揮官の僕が状況を把握できないのは非常によくない。これはゆゆしき事態――ということで』

 『そんな僕のために、元きょ――えー、コトの発端である明石さんから説明をいただきたいと思います! 明石さん、どうぞっ!!』


 『――――』ゴソゴソ


 『ぇ――――ちょ――それくらいはって――――え、え、え――』ガタゴト


 『――――』ゴソゴソ


 『……え、えと、明石、です。皆さん、お食事中にどうもすみません』

 『なんだと思われているかもしれませんが、ええっと――――』



――――

――

22: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:55:53.00 ID:Q9BSG/7Jo



瑞鶴「なあんだ。つまり家族に送るため資料作りってこと?」

翔鶴「どうりで最近妙に外部への露出が多いわけね……」

 
 『カレンダーに使った写真も、それぞれのご家庭に送らせていただいてます。
  赤城さんのご両親は涙を流して喜んでいましたよ。家出同然で出て行ったものだからと心配されていたようです』


赤城「……お父さま、お母さま……」

隼鷹「へえ、なにそれ初耳。赤城さんって意外とおてんばなところがあったり?」

加賀「わたしと赤城さんはお互い家出娘ですから。家出して入った先が艦娘寮となると、勘当されて当然と思い込んでいましたが……」

龍驤「ほおー。そういやそういった身の上話ってあんまりしたことあらへんなぁ。よかったら今度じっくり聞かせてちょうだいや」

赤城「……そうですね、いまとなっては笑い話も多いものですから。また、まとまった時間が取れるときにでも」


 『ちなみにこちらの放送ですが、お気に召されないようでしたら消すことも可能です。
  部屋の入口にある電灯のスイッチの下の青いボタンを押せば消えるようになっていますので、そちらをどうぞ』

 『今日はみなさんにお知らせするためにこのお時間――食事中に放送することになりましたが、
  次回以降はだいたい食事が終わるフタマルマルマルくらいからの配信になりますので、ご安心ください』


木曾「なんだ、そりゃあ安心した。やっぱりメシの時間くらいは、な」

大井「……まあ、北上さんのお食事を妨げないのなら……食後のお茶の時間にでも聴いてあげなくは、ないです」

北上「大井っちは素直じゃないんだから~」



23: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:56:48.28 ID:Q9BSG/7Jo

 『お気に召さない声扱いされましたが慣れたこと』

 『MCはみなさまご存じ、“執務室のスタンプマシーン”提督が務めさせていただきます』


天龍「そういやアイツ、執務室にいる間はずっとハンコ押してるよな」

長良「押し方もいろいろ工夫してるみたいですよ」

由良「『建造率なんてのは単なる目安だ』って呟きながら大型艦建造の申請書をぶん殴ってたわね」

五十鈴「あとは勇気で補うつもりなのかしらねぇ」


 『突然始まったこの番組、内容は至極簡単なお話でございます』

 『MCであるわたくし提督と、抽選で選ばれた艦娘のかたがたがゲストとしてここ執務室でおしゃべりするだけ!
  もちろん、艦娘のみなさんや保護者のみなさまから寄せられた質問などにもお答えしていくつもりですよ~』


陽炎「え゛っ! パパやママも聞いてるのこれ!?」


 『いま、父や母がこのラジオを聴いているのか、と驚いた艦娘のかたもいるのではないでしょうか』

 『もちろんです! 末恐ろしいお話ではあるのですがこのラジオ、希望があったご家庭にも配信しております!』

 『とくにその中でも陽炎、黒潮、不知火の“陽炎三人衆”のご家庭からは強い希望がありました』


陽炎「」

黒潮「」

不知火「……本当に、恐ろしいことをしでかしてくれるものです」ガタガタ


 『なのであまり過激な問答は行いたくないものですね。
  最悪僕の首が飛ぶ可能性が――ああ、いや、首と身体が離れるようなことをしているつもりはありませんが』

 『みなさんで協力し合って、ウチがホワイトな職場だという理解を得られるよう頑張りましょう!』



24: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:58:02.92 ID:Q9BSG/7Jo

 『さて、問題である“ゲストの”選び方ですが……いたって単純です』

 『わたくしの手元に、全艦娘の名前が書かれた紙が入った箱がございます』

 『この中から無作為にいくつかを取り出しまして、そこに書かれた艦娘の方をお呼び立てするのです』

 『呼ばれた艦娘の方はおとなしく執務室まで来るように。これは指揮官命令でもあります』


満潮「……どうでもいいけど、この語り口クソむかつくわね。いっちょまえに司会のつもりかしら」

扶桑「まあまあ……こういうのもまた、新鮮で良いものよ……」

朝雲「わたしは最近来たばっかりだからよく知らないんだけど、いっつもこんな感じのひとなの?」

時雨「そんなことないんだけどね。…………緊張してるのかな?」

山城「まあ、実際にゲストを呼んで喋ってる間にもとの話し方に戻ると思うわ」

山雲「こちらで育てたお野菜もなかなか美味しいですね~」モソモソ


 『さてさて、前置きがずいぶん長くなってしまいましたがお待ちかね』


 『――――たたかう少女の安息所』


 『“ちんじふ裏らじお”、はじまります!』



25: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:58:59.74 ID:Q9BSG/7Jo


 『本日、記念すべき第一回目となります“ちんじふ裏らじお”』

 『いきなり始まったが、第一回を飾る記念すべきゲストは誰なのか……と申しますと』

 『こちらもみなさんご存じ金剛型第三番艦、鎮守府の最古参である榛名先生にお越しいただきました!』

 『み、みなさんこんばんはっ! 金剛お姉さまの妹の榛名ともうしますっ』


霧島「ああ、任務ってそういう……」

比叡「あは、あの子すごく緊張してるじゃない」


 『さ、お相手はわたくし提督とゲストの榛名さんでお送りしますこの放送』

 『この放送はみなさんの日ごろの悩みや相談、嬉しかったことや楽しかったこと……』

 『また、ゲストの艦娘のかたに対する気になることなど、なんでもお便りにて受け付けております』

 『ペンネームを添えて当鎮守府までお送りください!』

 『なお、宛て先を当鎮守府の住所で、宛て名を“ちんじふ裏らじお”と記入していただけると助かります』


大潮「……なんとなくですけど、朝潮ちゃんは実名で送りそうです」

霞「うわっ、ありうる!」

朝潮「し、失礼ね! わたしにだってそれくらいわかるわよ!」


 『――さて、番組の説明が終わりましたところで、一度五分間の休憩をはさむことといたします。もともと説明だけのつもりでしたしね』

 『お食事中のかたも、そうでないかたも御清聴いただきありがとうございました。またすぐ後にお会いしましょうそれではっ!』ブツッ


高翌雄「……あ、切れましたね」

摩耶「いきなり始まったと思ったらいきなり切れんのかよ。メシ中に騒がしいこったな」

鳥海「最初の放送ですし、いろいろ調整があるのかもしれませんね」

愛宕「パンパカしてるわね~」




26: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 14:59:42.83 ID:Q9BSG/7Jo



提督「うええ――いま入ってませんよね? ――ああ、超緊張したあああ……」プルプル

榛名「は、はるなも一言だけなのにすごく緊張しました……」プルル

明石「とか言ってノリノリだったじゃないですか。まだまだ始まったばかりですよ」

明石「……それにしてもえらく手慣れたものですねえ。その台本は提督自らが?」

提督「ええ、まあ……ですが徹夜明けのテンションで書いたので、正直自分自身なにが書いてあるか……」

提督「内容が支離滅裂になっていたり、わかりにくかったりしなければいいんですが」

提督「“MC提督”としてキャラ作ってないとまともに話せる気がしないですよ……」

明石「うーん、できれば普段どおりの提督が良いんですが――あっ、大本営からの電報が届きました」ビーッ

提督「うわっ! 大本営聞いてるんですか!? わざわざ!? 保護者へ送るデータとして置いておくだけじゃないのか……」

明石「まあ提督の立場を考えれば当然かと…………ありました。ええっと、読み上げますね」


 大本営“アリノ ママノ スガタ ミセルノヨ   オジゲンスイ ヨリ キタノクニカラ”


提督「うおおおおおおクソむかつくううううああああ!!」

榛名「提督っ、お気を確かにっ!」ユサユサ

提督「よりによってあの叔父さんに聞かれてるとはあああん!!」ガンガン

明石「うわぁ……上官とはいっても、肉親にあのテンションを聞かれるのは相当アレみたいですね」

榛名「叔父元帥さんは提督をからかうのが趣味のようなところがありますから……」

榛名「(……でもこういうふうにテンパる提督、ちょっとかわいいかも、です)」ニヤ

明石「――榛名さん?」

榛名「ひゃっ!? いいいい、いいえ!? 榛名は大丈夫ですけど!?」

明石「…………そうですか。なにかよからぬことを考えていた気配もしますけど」

榛名「そっ、そんなわけないじゃないですか、もうっ!」



27: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:00:26.16 ID:Q9BSG/7Jo

榛名「で、でも、こういうふうに肉親からの電報も届くのですね。自分の家から届くことを考えたら――」ブルッ

明石「ぞっとしない話ですね……」ビーッ

提督「う゛っ」

明石「また届きましたね。どれどれ……」


 “提督くんこんばんは。あけましておめでとうございます。体調にはしっかりと気を配っているでしょうか?”

 “提督くんの勤める鎮守府の放送を聞いて、こうして手紙を出そうと思いました”

 “昨年までの提督くんの活躍、たいへん心強く感じています。
  今年もその頑張りで、さらに大きく飛躍してください。
  そういえば提督くんは、学生のころも放送部に所属してみんなを楽しませるよう頑張っていましたね。
  提督くんの明るい言葉を聞いて、お元気だと知り安心しました”

提督「えっ」

 “榛名さんも一言ではありますが、元気そうな声を聞いて壮健と感じました。
  また、おふたりで学校まで顔を出しにきてください。教師一同楽しみに待っています”

榛名「えっ」


明石「――“高校時代の担任より”、ですって。恩師からのお手紙みたいですね」

提督「えっちょっと待っておかしくない? は!? なんで先生から手紙届くの!?」

榛名「そ、そうです! 公共の電波には乗せていないんじゃ……!」

明石「……お二人ともお忘れでしたか?」

提督「いやっ、忘れたもなにも言ってなかったんじゃ――」

明石「いえ、そうではなく……お二人の恩師、ですよ」

榛名「恩師? ――――あっ」

提督「――――うっわ、忘れてた! やっべ、そんな人にまで聞かれてんのかよ恥ずかしすぎる……」



28: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:01:30.40 ID:Q9BSG/7Jo

明石「世間というものは狭いものですねぇ……」ビーッ

明石「あっ、また届きましたね」

提督「――――」ビクッ

提督「明石、やめなさい」

明石「いえ、そう言われましても……。確認することもまた指令のうちですから……」

明石「お気持ちはたいへん理解できるのですけど。――ん、これは……」

提督「これ以上傷を広げてどうしようというのだね。ただちにその手を止めよ」

明石「そういうわけにもいきませんから! もう、聞かなかったとして怒られるのは提督だけじゃないんですよ!」

明石「うちの鎮守府に支給される資材だって減らされる可能性も大いにあるんですから!」

提督「あーあー聞こえなーい聞きたくなーい聞くわけにはいかなーい」

榛名「(丸まった提督かわいい)」

明石「往生際が悪いですよ提督! 休憩時間だって長くはないんですから!」

明石「それとも放送中に聞かされたいですか!?」

提督「…………悪魔かよ」


榛名「……提督、もう諦めましょう。榛名がついていますから!」

提督「……おン前、他人事だと思って!」

榛名「榛名は大丈夫ですから。ふふふっ」

提督「うぜえ! 今年いちばんのウザ榛名だわそれ! やめろ!」

榛名「ふふっ、明石さん、やっちゃってくださいっ」ニヤ

明石「…………えと、榛名さん、本当に良いんですか?」

榛名「ええ、キリがありませんから。ガツンといっちゃってください!」ニヤニヤ



29: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:03:01.47 ID:Q9BSG/7Jo

提督「榛名おまえええええっ!! ――明石ァ!!」

明石「ま、まあ本人からの承諾をいただいたなら……え、ええっと……」


明石「……『提督くん、榛名、あけましておめでとうございます――』」

榛名「――え?」

提督「ひいいぃ…………ん?」ムクリ


 “きみたちがうちを出ていってから、はや数年が経とうかと思います。
  お変わりありませんか? こちらは新年ということでみんなおおわらわです”


榛名「待ってください、これ聞かれちゃいけないやつです」

提督「続けてください」


 “いまとなっては昔の話になりますが。
  提督くんが叔父さんの鎮守府で世話になると聞いたときはとても驚いたものです。
  年若く未来も明るき少年が戦の世界へと身を投じるなんて。と、はじめは叔父さんに憤慨したこともありました”
 
 “ですが、わたしにとってもっと驚いたことは。
  榛名が提督くんの後を追って艦娘になると宣言したときのことです”
  

榛名「待っ…………て、提督っ!」

提督「よーしよしおとなしくしてろ……」

提督「――――な、榛名」ギュッ

榛名「ひあっ……ゃ、ぁっ……ま、まって、あかしひゃんっ」


 “金剛、比叡に続き榛名まで艦娘として命を賭すのかと。
  わたしは反対しました。うちの大社の離れの座敷牢に幽閉したこともありましたね”

 “運んだ食事まで断り、ひたすら訴え続けましたね”

 “艦娘として戦い敗れた“平沼”を失ったばかりのわたしは、艦娘という職業に忌避感を抱いていたから”


提督「(…………“ヒラヌマ姉さん”、か)」

榛名「…………」


 “わたしの言うことには決して逆らわなかった榛名が、そうまでするのかと。
  そうまでするほど提督くんのそばにいたいのか、と、そう問いましたね”


榛名「やっ――」


 “あなたは毅然としてこう答えましたね。
  “『提督のすべてが榛名のすべてであり、榛名のすべては提督のために――』”


提督「明石さんストップ! もういい、もういいです!」

明石「…………はい、わたしも少々過ぎたことをしてしまいました。申し訳ありません」



30: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:03:49.63 ID:Q9BSG/7Jo

提督「いや、まあ、自分は構わないんですが――――榛名?」


榛名「」


提督「…………」

明石「湯気が出そうな赤さですねぇ」

提督「……と、とにかく、もうこれ以上は誰の得にもなりません。
   明石さんも、これからはなるだけ無難そうなものを選んで聞かせるようにしてください」

明石「は、はい。気に留めておきます。それと、このお手紙は――」

榛名「――――」バッ

明石「あっ……奪われちゃいました。もとよりそのつもりでしたけど……」

提督「目にもとまらぬ速さ、さすがは高速戦艦……榛名、もうすぐ休憩あけるけど大丈夫か?」


榛名「」


提督「…………」ツンツン

提督「……だめみたいですね」

明石「え……っと、とにかく提督ひとりで間を繋いでください! わたしはこちらでお便りと放送機器を確認していますので!」

提督「え、ちょ、自分ひとりってそれはちょっと」

明石「――それでは再開します! さん、にっ」

明石「――――」イチ



31: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:04:35.28 ID:Q9BSG/7Jo



 提督『えー、みなさんこんにちは。いつもながらの提督です』

 提督『普段通りにやれ、との指令が届きましたので、ここからはいつもの提督がご一緒させていただきます』チラ

明石「(まる)」

提督「(……こくり)」

 提督『本来ならこのタイミングでゲストの艦娘と少し歓談する予定だったのですが、
    榛名さんは現在すこし席を外していらっしゃいますので、ひとつ飛ばして次のコーナーに入りたいと思います』


 提督『フリーのお便り紹介!』


 提督『こちらは視聴者のみなさんからいただいたお便りを紹介させていただくコーナーとなっております』

 提督『初回の放送なのに、なぜお便りが届いているのかというと……』

 提督『実はさっきの休憩、五分と長く休憩を取ったのは、こっそり裏方でお便りを募集していて、そちらの処理をするためだったんですよねえ』

明石「(こちら、一つ目のメールを印刷した紙です)」サッ

提督「(ありがとうございます)」サッ

 提督『いましがた処理が終わったところです。いやあ、実に緊張しますね。
    こうして“ナマの声”が直々に届くことはあまりありませんから、戦々恐々といった感じでございます』

 提督『それでは読み上げさせていただきます……』

 提督『え、えー……“提督さん、こんばんは”――はい、こんばんは!』


 “ちんじふ裏らじお、記念すべき第一回放送ですね!”

 “いつも艦娘一同、鎮守府生活を楽しませていただいております”

 “せっかくのラジオ放送、それも第一回目の放送なんですから、もう少し肩の力を抜いてリラックスしてはいかがでしょうか”

 “この放送を聞いている艦娘のみんなも、提督がそのように緊張していては楽しめないと思います”

 “提督の持ち味は、個性豊かなみんなを引っ張る明るさなのですから、もっとはっちゃけていきましょう!”


 提督『ラジオネーム、“工作艦のなかで一番かわいい女”――――ぶっ!!』

明石「(きゃぴっ)」

 提督『こンの……ははっ、いったい誰なんでしょうかねぇ、“工作艦のなかで一番かわいい女”さんは!』

 提督『いや失礼。いつも通りに見せかけても、どうやら僕のちっぽけな緊張なんて見抜かれているようですね……』

 提督『――でしたらっ! この際好きにやらさせていただきます!』

 提督『どうせ飽きたら切られる放送なんだ、俺の好きにやらせてもらうぞ!』

明石「(にこにこ)」


32: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:05:51.59 ID:Q9BSG/7Jo

 提督『それじゃ次のお便り拾っていきますよー!』

 提督『ラジオネーム、“うさぎの島村ダンディ”さんからのお便りです!』


 “提督さん、こんばんは”


 提督『はい、こんばんはー!』


 “このたび、娘の勤める鎮守府の長がラジオ放送すると聞いて、迷わずラジオを購入しに走りました”

 “娘はあまり手紙を寄越さないものですから、そちらではどのように過ごしているのかたいへん気になります”

 “こういった子を持つ親の感情、提督さんもわかりますよね?”

 “良ければ提督さんのほうから、家族にまめに連絡を出すよう言っていただけないでしょうか”


 提督『お、“うさぎの島村ダンディ”さんはうちの鎮守府にお子さんがいらっしゃるようで。
    どの子の親御さんかは存じませんが、お子さんにはたいへん助けられております』

 提督『うちの鎮守府はみんなが主役ですからね! どの子も目覚ましい活躍をしていらっしゃいます!』

 提督『しかしうちの鎮守府ではそうでも、遠く離れた親御さんからすればわからないことですよね。
    僕は未婚者ですので子を持つ親の心情はわかりませんが、その心中はお察しできます……が、しかし』

 提督『目まぐるしく駆け巡る日々のなかで、じっくり時間をかけて手紙を書くことは難しいことです。
    できれば、お子さんが帰省した際には叱らないでいてあげてください』

 提督『鎮守府でもみんな楽しそうに生活していますが、やはり心の底から安心できるのは親の膝元だけですから』

 提督『とはいえ、心配させるほど連絡を送らないというのは感心できませんね。
    この放送を聞いているかもしれませんが、艦娘のみなさんには改めて言いつけることにしておきます』

 提督『“うさぎの島村ダンディ”さん、ありがとうござ――』

明石「提督っ、うら、裏面を!」マイクオフ

提督「え、裏ですか? ……おっと、こんなところに」

 提督『――失礼、追伸がございました。読み上げます』


 “追伸、わたしは普段喫茶店のマスターとして生活しているのですが、この放送を店で小さく流してもよろしいでしょうか?”


提督「(喫茶店、うさぎ――――あっ)」

 提督『はは、ありがたいお話ではあるのですが、この放送はあまり長時間ではありませんよ?
    ですが、それでも良いというのなら大歓迎です。こちらからぜひお願いしたいくらいです』

 提督『いやしかし、うさぎのマスターですか。……いったいどなたの親御さんなんでしょうねぇ』

 提督『なあ、いったいどの睦月型なんだろうなあ~? なあ~?』

 提督『ていとくぅ~、わからないっぴょん!』




   ドタドタドタドタ バタバタ 

  『あんのクソ司令! 一発ぶん殴るっぴょん!!』 『卯月ちゃん落ち着いてっ!!』



33: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:06:46.67 ID:Q9BSG/7Jo

榛名「――はっ! 榛名はいったいなにを……」

提督「おっと……」マイクオフ

提督「いまオンエア中だ。榛名、復帰できるか?」

明石「榛名さん、こちらラジオプログラムです」

榛名「え、ええっと……? はい、お便り紹介ですね。了解しました!」


 提督『えー、さきほど榛名さんがお戻りになられました。ここからは二人での配信となります』

 榛名『榛名、ただいま復帰いたしました! お騒がせして申し訳ありませんっ』

 提督『それでは続いてつぎのお便りの紹介です』クイッ

 榛名『ラジオネーム、“ガス欠力士”さんからのお便りです!』

 提督『ガ…………ガス欠力士とはまた、ずいぶんインパクトのあるラジオネームですね』

 榛名『お腹ぺこぺこの力士さんなんでしょうか……“提督、こんばんは”』

 提督『おっ、こんばんは!』


 “ラジオ放送ですか、楽しみがひとつ増えた気がします”

 “わたしは一年ほど前にこの鎮守府に所属することになったのですが、みなさんと本当にうちとけられているのか不安です”

 “艦娘のみなさんはとても個性的なかたばかりで、わたしのような個性の薄い人間はついつい気圧されてしまいます”

 “みなさん良い人なのはとてもよくわかるのですが、なにかキッカケがないと話しかけられない自分が恨めしいです”

 “ほかの人が気を遣って話しかけてくれても、緊張してしまってうまく話せなかったりしてしまい……”

 “お話している相手がつまらなくなったりしないだろうか、とばかり考えてしまいます”

 “こういったとき、提督やほかのみなさんならどのように対処されているのでしょうか。やはり筋トレしかないのでしょうか”

 “追伸、この放送がわたしのような人見知り艦娘の相談所になる、というのは非常にありがたいお話です。たいへん感謝しています”


 榛名『――とのことです』

 提督『うーん。人見知りですか……うちの鎮守府はみんな仲良くしていると思っていたんですが、まだまだ見きれていないってことですかね』

 榛名『“ガス欠力士”という独特のネーミングセンスをお持ちですから、人見知りそうにも思えませんが……』

 提督『はは、そうだな。……たぶん、人見知りしてるんじゃなくって、本人がまわりに遠慮しちゃってるだけじゃないかな』



34: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:07:59.65 ID:Q9BSG/7Jo

 提督『気圧されてしまう、と本人も言っていることだし、相手のことをよく尊重する人なんだと思います』

 提督『どうやら筋トレがご趣味のようですし、そこから話題を広げていくのも手ではないでしょうか。
    たとえば、日ごろのトレーニングに誰かを誘ってみるだとか、模擬演習に付き合ってもらうとか……』

 榛名『でも、その“誘う”行為に勇気がいるんじゃないでしょうか? 人見知り、とおっしゃっていますし』

 提督『おっと、たしかにそうだな。ですが、みんなに溶け込もうと思ったら、その勇気を持つことが大切なんですよ』

 提督『“一緒にどうかな”という何気ない言葉ひとつで、あなたにかかった心の鎖は解き放たれるんです』

 提督『また、視点を変えてみるというのもひとつの手ですね。
    気の利いたことを話さなければ、と構えてしまうから、相手の反応が気になったりしてしまうんです』

 榛名『あっ、その気持ちよくわかります! 榛名も学生時代にそういうことで悩んだことがあって……』

 提督『お、じゃあ榛名さんはどういった解決法を?』

 榛名『榛名は……応援してくださった方がいて、そのかたが言ってくれた言葉なのですが』チラ

 榛名『“溶け込むことを考えすぎて、固くなってしまっている。
     どんなことにも自分らしく対応することで、みんなに自分を認めてもらうことが大事だ”』

 榛名『“また、常に相手を尊重する気持ちを忘れてはいけない”…………と』

 提督『……そうですね。相手を尊重し、認め合うことは非常に大切だと思います』

 提督『それに、無理に溶け込もうとして自分を曲げると、必ずその人に対する“違和感”がどこかに生まれるんですよね。
    そういった小さな“違和感”が後々、人間関係の不和となって表れてくるんです』

 提督『あれ、この人本当は無理してるんじゃないかな……とか、ただ話を合わせているだけで、本当は嘘をついているんじゃないか……とか』

 提督『そうなったらあとは悲しいだけですね。“ガス欠力士”さんはおそらくそういった綻んだ人間関係はお求めじゃないでしょう』

 提督『幸い、うちの鎮守府には無理してふるまっている艦娘はいないはずです。みんな自由すぎるからな!!
    なので“ガス欠力士”さんもあまり難しく考えずに行動してはいかがでしょうか』

 榛名『そうですね……“話す”のではなく、“聞く”ことから始めてはいかがでしょうか?』

 榛名『緊張してうまく話せないとおっしゃっていましたし、まず笑顔で人の話を聞くことを意識してはどうでしょうか。
    笑顔でうなずきながら話を聞いて、ときどき質問を返したりなんかをしていれば、自然と溶け込んでいくのではと思います』

 提督『おっ、いいですねえ! 話し上手は聞き上手とも言いますからね、それがいいと思います』

 提督『うちの鎮守府だと自主トレを欠かさない艦娘も多いですし、みんなで共同トレーニングなんかして互いに切磋琢磨出来るようになるといいですね』



35: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:09:57.70 ID:Q9BSG/7Jo

 提督『艦娘同士のさらなる団結、期待しております』

 榛名『“ガス欠力士”さん、ありがとうございました! ……提督、なんだかサマになってますね』

 提督『はは、さんきゅ。匿名で艦娘のみんなや保護者のかたと触れ合うのってなんか楽しいな』


明石「……提督、そろそろ“あのこと”を」

提督「あ、了解です。みんな食事中だしちょうど良いかもしれませんね」

榛名「(あのこと……?)」


 提督『みなさんにお伝えし忘れていました。この放送、ゲストとお便りがランダムで選ばれるシステムになっているんですが――』

 提督『“ゲストとして招待された艦娘”には、ここ執務室で、希望するメニューを食すことができます!』

 提督『たとえば、神戸和牛のサーロインステーキ。
    はたまた本場イタリアのパスタセットや、本場ドイツのラックスハムとチューリンガーの晩酌セットなど――』


 提督『すべて予算は“大本営が”“全額負担する”というご通達です!!!!』




明石「(!?)」

 榛名『ええっ!? そ、それは本当に……!?』

提督「……ウソに決まってるだろ。ある程度は経費として落としてくれるらしいが――」

提督「聞いてんだろクソ叔父さんよお。こうなったら、あの叔父クソ元帥からむしれるだけ――――むしる!!」

 提督『いやあ、さすがわれらが“叔父元帥”です! 太っ腹にもほどがある!』


明石「あ、あなたのほうがよっぽど悪魔ですよ……! わ、わたしは間宮券プレゼントとしか言ってなかったのに……」


 提督『また、“フリーのお便り紹介で”、“お便りを採用された艦娘”か、
    “お便りを採用された保護者の娘”には、甘味処・間宮の一品無料券が“三枚”郵送される手はずとなっております!』

 提督『こちらの無料券は、ゲストとして招待された艦娘のかたにも一枚プレゼントされます!』

 提督『間宮さんもなかなか大盤振る舞いしてくれるものですね!』

 提督『おっと、勘違いしていただきたくないところですが、けっして僕自身がお便りの主を知っている、というわけではないということです』

 提督『妖精さんシステムによって、誰も知らない宛て先へ届く仕様になっているのでご安心を』


明石「(妖精さんってすごい、改めてそう思いました)」


 提督『まだまだ冬本番とはいえ、間宮の冷たいお菓子には身を惹かれるだろお~?』

 提督『暖炉の前で、ロッキングチェア(揺り椅子)に揺られながら舐めるアイス――』

 提督『また、冬のコタツに身を隠しながら、こっそりかじるアイス最中――――魅力的だろお~?』

 提督『それがわが鎮守府ならできるッ! みんな、楽しいお便り待ってるぜ!』



36: 見にくいとかあったら言ってください ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:11:23.64 ID:Q9BSG/7Jo


明石「……お、おっけーです。食堂や甘味処・間宮の新作情報のCMを流しますので小休止入ります」

提督「……というわけで榛名、夕飯まだだろ? なんか食べたいものあるか?」

榛名「え、え、でも……榛名は抽選で選ばれたわけではありませんし、そういうのはずるいような……」

提督「気にすんな。俺は平等じゃない――いや、基本的には平等だが――榛名が絡むと平等にはなれん」

提督「それに裏を返せば、こんなお役目に強制的に付き合わされているわけでもあるわけだ。だから、好きにしろ」

提督「明石さん、これくらいはいいですよね?」

明石「え? ええ、もちろんです! 榛名さんにはいつも感謝していますし、これも任務のうちですからっ!」フンス

榛名「そ、そんな…………榛名なんかのために」

提督「それに一番目は榛名じゃないとなんかって感じだしな。さあさあ! 好きなものを頼むといい!」

提督「(まだ大本営に申告してないから、今回の経費は俺持ちなんだが――まあ、これくらいはな)」

榛名「そっ……そう言われましても、なんだか申し訳ないというか、なんというか……」

提督「遠慮しすぎるのもよくないぞ。さあ、なんでも好きなものを言え!」


明石「ん?」

榛名「いま“なんでも”……と、おっしゃいましたか?」

提督「え? あ、ああ……」

榛名「…………なんでも、と、いうのなら……」

榛名「…………むかし、提督が作ってくださった、オムライスがいいな、と」

明石「お、おむらいす?」

提督「……なんだ、そんなのでいいのか? 遠慮してないか? そのなんだ、もっと贅沢なものを頼んでもいいんだぞ」

明石「そうですよ、せっかくなんですから。あ、そうだ、間宮さんに頼んでいますぐ材料を取り寄せてもらって、すき焼きでも――」

榛名「いえ、いいんですっ!」

榛名「提督が作ってくださる、その、おむらいすが、榛名にとって……いちばんの、贅沢ですから」

明石「(…………あっ)」

提督「ふうん……まあ、いまに限った話じゃないが、ほかにもなにか希望があったらいつでも言えよ。できるだけ叶えてやるから」

明石「(うわぁ…………)」

榛名「…………はいっ!」



37: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:12:08.69 ID:Q9BSG/7Jo

提督「しかしオムライスか、久しぶりに作るな――ああ榛名、俺が作るとなると放送後になるが大丈夫か?」

榛名「はい、榛名はいつでも大丈夫です!」

提督「そうか、悪いな。……そういや明石さん、ずいぶん放送止めてますけど、大丈夫でしたか?」

明石「あ、はい! ですが、そろそろ戻っていただかないと……」

提督「小休止も終わりですかね。しっかし思いのほか喋れるもんだ……な、榛名」

榛名「昔とった杵柄、というやつですね。たった少しの機会、頭が覚えていなくても、あんがい身体が覚えているものですね」

提督「まったくありがたい構造だ。よしっ、放送再開します! 口を滑らせて首塚にはならないよう要注意で!」

榛名「りょうかいですっ」


――――

――


38: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:13:53.43 ID:Q9BSG/7Jo



 (数分前のおはなし)


卯月「ふーっ、ふーっ! あのクソ司令官、一発入れてやらなきゃ気が済まないっぴょん!」


潮「お、落ち着いて卯月ちゃん……? それに、みんな卯月ちゃんだって気づいてないと思うよ……?」

卯月「じゃあなんで潮ちゃんはうーちゃんだって知ってるぴょん!? それに、あの状況で理解できない人は相当アレっぴょん!!」

潮「そ、それは…………」

卯月「うううぅぅっっ! 恥ずかしいやら悔しいやらでもうなにがなにやら……っ!!」ダンダン


初雪「(あぁ^~卯月がぴょんぴょんするんじゃあ^~)」

深雪「うっわー、卯月ちゃんも気の毒だなぁ。みんな聴いてる前で公開面談みたいなもんだろぉ?」

磯波「た、たしかに……そう考えたら、すっごく恥ずかしいです……」

敷波「たしかにあたしも最近実家に手紙書いてないけどさぁ……これはちょっとかわいそうな感じするよねぇ」


加賀「……駆逐艦の子たちは同情しているみたいですね」

飛龍「まあ、なんのメリットもなしにあの所業はねぇ……ちょっとかわいそうな気もするけど」

蒼龍「え、そう? わたしはけっこう楽しんでるよ! ほかの家庭の話って、なんだかほっこりするし!」

飛龍「のんきなもんだねぇ……。いざ自分の親から手紙来たところ想像してみてよ? みんなの前で読まれるんだよ?」

蒼龍「うっ、そ、それは……」

飛龍「でっしょー? 赤城さんだってそう思いますよねぇ?」

赤城「むぐむぐ……そうですねぇ。わたしも、できれば家族からのお手紙は私室でゆっくりと読みたいもので――」


  『“ガス欠力士”さん、ありがとうございました! ……提督、なんだかサマになってますね』

  『はは、さんきゅ。匿名で艦娘のみんなや保護者のかたと触れ合うのってなんか楽しいな』


加賀「……当の本人たちは、ずいぶん楽しそうにしていますねぇ」

飛龍「くうーっ! 多聞丸バスターをキめてやりたいっ」

赤城「もぐもぐ――ごくんっ」

赤城「……そうですね。本人たちは聞かれたくないお話でも、提督からすればただのお便り一枚ですから」

赤城「ここはひとつ、提督の暴走を止めるのも艦娘の務め――ということで、すこしお灸を据えることといたしましょう」

飛龍「おお、さっすが赤城さん! いざっていうときは頼りになっるぅー!」

飛龍「聞いた卯月ちゃん? 赤城さんが卯月ちゃんの仇をとってくれるってさ!」

卯月「お、お……ホントのホントっぴょん!?」

赤城「真剣と書いてマジです。卯月ちゃん、あとで提督にしっかり謝りに来させるから、ちょっとだけ待っていてね?」

赤城「きっと大丈夫、勝ちにいきます!」

深雪「うおおおお! さっすが赤城さんだああぁっ!!」

北上「おっ、鎮守府の頼れるお姉さんは違うねェ~!」



39: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:15:16.83 ID:Q9BSG/7Jo

加賀「赤城さん、お供いたします」

赤城「加賀さん? 上官への抗議なんて……付き合う必要はないですよ?」

加賀「いえ、赤城さん一人に押し付けるようなことは出来ません」

赤城「加賀さん……。……そうですね、行きましょう!」ガタッ

加賀「ええ。一航戦、出撃します」ガタッ


  …… チャララン

 『みなさんにお伝え忘れていました。この放送、ゲストとお便りがランダムで選ばれるシステムになっているんですが――』

 『“ゲストとして招待された艦娘”には、ここ執務室で希望するメニューを食すことができます!』


赤城「!?」

加賀「!?」


 『たとえば、神戸和牛のサーロインステーキ。
  はたまた本場イタリアのパスタや、本場ドイツのラックスハムとチューリンガーの晩酌セットなど――』


赤城「……ぅ…………ぁ……」

加賀「そんな…………そんなことが…………」


飛龍「しゅごひぃ……。――――はっ!! 騙されないでください赤城さん! これはあくまで、“招待された場合の話”です!」

飛龍「もし招待されなければその権利もなく、ただこうして、いつもと変わらない夕食を食べているだけなんですっ!」

飛龍「それはさながら、ショーウィンドウの向こうの宝石箱のように――っ」

飛龍「“自分ではない”ゲストとして招待された艦娘が、自分の想像のなかで、おいしくいただいているのを…………」

飛龍「ただ、こうして、……座して! 眺めることしかっ! 出来ないんです……っ!!」

飛龍「それは、決して、手の届くことのない――淡い蜃気楼……」

加賀「――――っ!」ハッ

赤城「……っ。さすが、です、飛龍さん。あやうく騙されるところでした」


深雪「おお、持ち直した! さすが赤城さんだ!」

敷波「こと食に関してはうるさい赤城さんが……。卯月、あんたは幸せもんだよ」ポン

卯月「あ、赤城さぁん……」ウルウル



40: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:16:19.43 ID:Q9BSG/7Jo



ビスマルク「へえ……Lachsかあ、こっちにあるものも悪くないけど、やっぱり独国で作ったものが最高よね!」

プリンツ「わかります、ビスマルク姉さま!」

赤城「(ぴくっ)」

ビスマルク「Thueringenも日本のソーセージじゃ再現できない味わいをしているし……」

プリンツ「そこに気づくとは……さすがです、ビスマルク姉さま!」

加賀「(ぴくぴくっ)」

ビスマルク「日本の食文化も素晴らしいものだけど、やっぱり豚の加工は我が祖国が群を抜いているわねっ!」

ビスマルク「それになにより、網でカリッと焼いたソーセージを、歯の先でぷちっ、じゅわっと噛んで――」

ビスマルク「肉汁がじわぁっ、と広がったお口に、ぐい……っとビールをあおるのがもう、最っ高に至福の瞬間なのよ!!」

プリンツ「んんぅ~っ! さっすがビスマルク姉さまですっ!!」

マックス「ein Idiot! あなたたちはちょっと黙ってて!」

レーベ「……ぼくはいま、ビスマルクのことがデーモンのように見えたよ」



隼鷹「なん…………だと…………」

飛鷹「あんたさっきまで興味なさげだったじゃないっ!」

隼鷹「いや……だって…………さぁ?」

龍驤「せや。これはしゃーなしやて」

千歳「濃厚なおつまみの話はずるいわよねぇ…………隼鷹さん、今晩いかがですか?」クイッ

隼鷹「おおお! いいねいいね最っ高だねぇ! 鳳翔さんにあれ作ってもらおうあれ! 揚げウィンナーと揚げソーセージ!」

千歳「くっはぁ、いいですね! ……でも、太っちゃうかも……」

龍驤「…………気にせんでええやろ。キミはどうせ腹より上にしか付かんのやから」



41: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:17:19.45 ID:Q9BSG/7Jo

蒼龍「で、ディナーの一言だけでみんな浮き足立ってる……」

飛龍「いつのもご飯もおいしいけど、献立がパターン化しちゃってるし……特別に取り寄せた豪華なディナーとあっちゃね……」

卯月「あ……赤城さんっ! まさか、まさかまさかディナーに釣られたり、なんか……しないよね……?」

赤城「…………」ギギギ

加賀「…………」ギギギ



赤城「あ……………………当たり前じゃないですか、そんなの、決まってます、ご安心くだ……っさい」ギギギ

深雪「持ちこたえたァーッ!! さすがあの一航戦だあ!!」

飛龍「(ためたなぁ……)」

加賀「ァ……あ、……あかぎ、さん。ここは誘惑のるつぼです。はやく、はやく執務室へ向かいませんと」

赤城「そう、ですね……このままでは、いけません。二重の意味で。立ち行きません」

赤城「加賀さん、行きましょう。この誘惑の連鎖――負の連鎖、みんなの怨嗟を断ち切るために」バッ

加賀「そうですね。終わりにしましょう、すべてを」バッ


 『また、“お便りを採用された艦娘”か、“お便りを採用された保護者の娘”には――』

 『甘味処・間宮の一品無料券が“三枚”郵送される手はずとなっております!』
 
 『こちらの無料券は、ゲストとして招待された艦娘のかたにも一枚プレゼントされます!』



赤城「ぅやあぁぁっっ!」ビクンッ

加賀「う……く、ふぅ……っ……」ビクンビクン

卯月「…………ぷっぷくぷー?」



42: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:18:19.15 ID:Q9BSG/7Jo

赤城「もう、だめ――っく、ぅ……あたま、まっしろ…………ふあっ」ビクン

加賀「ひ、きょう、なぁっ……! んんんぅっっ!」ビクビク


赤城「(単純に、考えて――お便りを採用される機会は、招待される可能性より――――高い)」

加賀「(自分の送ったお便りと――家族からの、お便り。とくに、さきほどの卯月さんのことを考えると……)」

加賀「(ことわたしたちに限っては――ほかの子たちよりも、高い)」

赤城「(家出娘同然のわたしと加賀さんは、家族から安否をたずねるお便りが来る可能性が高い)」

赤城「(家出したにも関わらず、家族を計算に入れるとは情けのない話ではあるのですが――)」

加賀「(“家族が勝手に送ってくる”ことは、仕方のないこと、です。けっしてわたしたちが悪いわけでは――)」


 ……  ……

深雪「赤城さん! 加賀さん! 二人とも大丈夫かよ!?」

深雪「二人がそんなんじゃ、卯月が浮かばれねぇよ!」

深雪「立って! 立ってくれよ! そしてあたしたちに、あたしたちの大好きな、あたしたちの尊敬する一航戦の姿を見せてくれよっ!!」

 ……  ……


赤城「深雪、ちゃん…………」

加賀「……そう、そうですね。わたしたちが……っ! ……動揺していてはっ、卯月ちゃんに、悪いもの……っ」グググ

赤城「ありがとう……深雪ちゃん。そして――卯月ちゃん、待っててね。わたしたちが、きっと、あかつきに勝利を刻むから――」グググ



43: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:19:17.32 ID:Q9BSG/7Jo


卯月「あ、もういいっぴょん」


赤城「――――え?」
加賀「――――は?」


卯月「よく考えたら、パパから手紙が届いたのってすっごく嬉しいことっぴょん。
   たしかに、みんなの前で読み上げられるのはちょっと、恥ずかしいケド……」

卯月「間宮の無料券がもらえるなら話は別っぴょん。うーちゃんのお小遣いじゃ、間宮さんの高級スイーツなんて、一年に何回食べられるか……」

卯月「そ、それに、パパだってうーちゃんが幸せになれるなら、喜んでくれるはずっぴょん」

卯月「しかも三枚も! みんな誘って一緒に行きたいっぴょん!」


深雪「…………」

赤城「…………」

加賀「…………」


飛龍「卯月ちゃん…………あなた、強い子ね」

赤城「」フラッ

加賀「」バタン

深雪「赤城さんたちが倒れたーっ!?」

蒼龍「二人はよく頑張りましたっ……もういい……! もう……休めっ……休めっ……!」




 『らーらら、ららら、らーらら、ららら』

 『甘味処・間宮! 冬の新作情報のお知らせっ!』

 『みなさん、新年あけましておめでとうございますっ! 甘味処・間宮です!』

 『新年を記念して、一月の間だけの特別パフェ! “おひつじさんのおひざもと”、新登場ですっ!』

 『なんとこの“おひつじさん”、例年の記念パフェとは違い、一回り大きなサイズとなっております!』

 『今年の干支は羊ということで、お羊さんの角を模したフルーツの盛り付けを行ってみました!』

 『綺麗な色合いにしようと、カラメルやお砂糖の装飾をふんだんに使っていて、
  ひとくち口に含んだだけでおひつじさんのマーチが聴こえてくるような、しっとりまろやかな味わいです!』

 『生クリームと、新鮮な果実が生み出す可憐なハーモニー! ぜひみなさんに味わっていただきたいです!』

 『以上、甘味処・間宮の、新作情報でした~!』

 『らーらら、ららら、らーらら、ららら』




赤城「」ビクンッビクンッ

加賀「」ビクビクビクッ

飛龍「死体蹴りがひどすぎる!!」


――――

――



44: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:20:02.56 ID:Q9BSG/7Jo


 提督『さて時刻も19時の半ばを過ぎましたころ、こちら、ちんじふ裏らじおです』

 提督『本日の放送は初回ということで、予定を早め早めに巻いてお送りします』


叔父元帥「くっくっく、ことのほか楽しげにやっているじゃあないか。なあ、大淀よ」

大淀「本当によろしかったのですか? あのような、予算を……」

元帥「かまわんかまわん。もともと可愛い甥っ子にお年玉をやろうと思っていたところ。ちょうどよかった」

大淀「……それならこちらとしても安心の一言、ですが」


 提督『さて、次のコーナーのご紹介といきましょう。こちらっ!』


 榛名『“きいてよていとく”のコーナーですっ!』


 榛名『こちらは、リスナーのみなさんから届いたお悩みを、提督とゲストの艦娘が思い思いの方法で解決していくコーナーですっ』

 提督『さっきまで届いていた“ガス欠力士”さんのようなお便りも、本当はこちらの管轄でしたね』


元帥「それより良かったのか、年明けともいうのに大本営までわざわざ出向いてきて」

大淀「はい、こちらも年末年始ということで事務作業が積まれておりまして……いっときの休息すら惜しいほどです」

元帥「ふうむ…………提督のぶんをお前が請け負っている形か? そのこと、あいつは知っているのか?」

大淀「いえ、わたしが勝手にやっていることです。それに……あの人はいままで頑張ってきましたから」

大淀「今年はとくに、スラバヤ沖やウェーク島、AL/MIや渾作戦まで、立て続けに大きな戦いが続きましたから……」

大淀「年始の、ちょっとした時間なんかには……息を抜いていただきませんと」

元帥「ふうんむ…………」




45: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:21:03.63 ID:Q9BSG/7Jo

 榛名『こちらのお悩み相談コーナーでは、フリーのお便りコーナーとは違い、
    本当にちょっとした、一言のお悩み事や質問を受け付けております!』

 榛名『また、こちらの“きいてよていとく”でお便りを紹介された艦娘のかたには、間宮券が“一枚”、贈呈されます!』

 提督『たとえばそうですね…………この手紙なんかは、こちらにあたりますね』


 “明日の食事当番が磯風になっとるんじゃけど、どやってやり過ごせばばええんじゃろか 浦風”


 提督『みたいな――――あっ、名前読んじゃった』

 榛名『あっ』


  『…………うらかぜ?』 『いやあ、アハハ。…………逃げるが勝ちじゃけえっ!』 『こら、おい待て!』

46: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:21:37.38 ID:Q9BSG/7Jo

 提督『……えー、さきほどのような短い質問やお悩みは、こちらのコーナーで処理することとなります』

 榛名『本当は名前なんて読み上げないから、みんな安心してね?』


  『あんなぁさらっと流しよったぞ!!』 『待て浦風止まれ!』 『ヤじゃっ!』


提督「……なんか、参加特典の件を話して以降、妙に騒がしいですね」マイクオフ

明石「(さもありなん、ですよ)」

榛名「でも、小休止の間にたくさんのお便りが届きましたね」モッサァ

明石「こちらも電子メールに多くのお便りが届いています。ケータイからのお便りが多数ですが。
   匿名ですから、日ごろ思っていたことを質問できるいい機会と思ってくれているのかもしれませんね」カチカチ

榛名「(匿名だと信じていたら公言されてしまった浦風ちゃん……)」ホロリ



47: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:22:28.75 ID:Q9BSG/7Jo

元帥「ほお、磯風か……久しいな。食事の当番ということは、それなりに上達はしたのか?」

大淀「あー……そう、です、ね……初期のころのような、バニラエッセンスとサラダ油を間違えるようなことは、もう」

元帥「……そうかそうか、あいつも成長しているのだな。……それと大淀、おまえいつまでここにいるつもりだ」

元帥「いくら仕事が多いからと言っても、それらはそちらの鎮守府でも処理できる案件だろうが」

大淀「いえ、こちらならばあがった書類をそのまま通せるので。好都合なんです」

元帥「好都合ねえ……そういやおまえ、そろそろ時間だが、なにか腹に入れておくか?」

大淀「……いえ、キリのいいところまで進めようかと思っています。それからでも遅くはないかと」

元帥「そうか。昨日はいつ寝た?」

大淀「…………」

元帥「まさかとは思うが、この暖房器具も置かれていないクソ寒い部屋で、夜通しの作業だったわけではあるまいな」

大淀「…………」

大淀「まさか」

元帥「…………そうか」


 提督『ちなみにこちらのコーナー、本日は席を外していらっしゃいますが――』

 提督『この鎮守府を、いつも陰から支えていただいている』

 提督『大淀さんも、準レギュラーとして出演していただける予定です!!』


大淀「えっ」


 提督『大淀さんはいっつも働きづめで、机に向かってばかりですからね』

 提督『お尻に根っこが生えちゃう前に、こちらに引っ張ってしまおうという作戦です!』



48: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:23:16.97 ID:Q9BSG/7Jo

元帥「――だ、そうだが?」

大淀「……そういうわけにもいきません。ここでわたしが仕事を放棄すれば、鎮守府にどれだけの負担がかかるか――」

大淀「むかしのように、提督に倒れてしまわれるわけにはいきませんから」

元帥「それならお前が代わりに、か? お前が倒れたら、あいつもずっとそのように気に病むと思うが」

大淀「わたしなら大丈夫です、慣れているもので」

元帥「(…………どこかの巫女娘と同じことを言いやがって)」

 
元帥「そうか。それなら気の済むまで任せよう――と、言いたいところだが」

元帥「いちど、電波に乗せてしまった発言を撤回することの手間、おまえなら理解できると思うが」

大淀「……それは、提督にお願いして撤回していただくほかありません」

元帥「あいつは意地でも撤回しないと思うがな。……ほら、聴いてみろ」トントン


 提督『大淀さんが放送に参加している間、その時間に行わなければいけない事務作業は――』

 明石『このわたし、明石先生におまかせくださいっ! すでに、一部の書類の引き継ぎは完了してあります!』

 榛名『ちなみにほかの作業も、このラジオが始まる前日に夜を徹して完遂させました!』

 提督『当ラジオでは、温かいお茶と冷たいお菓子を用意して大淀先生をお待ちしております!』


大淀「――――」

元帥「……おまえの疲労くらいは、あいつならすぐに見抜いてくる」

元帥「観念して、あいつの鎮守府へ戻ることだな。それにいつまで経ってもこの部屋を占拠されちゃかなわん」

元帥「年末の清掃も行き届いていなくてな。この部屋も片したいからさっさと帰ることだ」

元帥「…………」ペラリ

元帥「ふうむ…………」

元帥「見たところ、急を要する書の類はないようだな。積んである書類はこちらから郵送させよう」

元帥「張った肩でも揉みながら、その身一つで帰るがいい」

大淀「は――。……はい、し、失礼いたしましたっ!」パタパタ


元帥「…………」

元帥「……この書類、期日までに提出できる量ではないな。下地は出来ているようだし、こちらで引き受けることとするか……」


――――

――



49: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:24:21.66 ID:Q9BSG/7Jo

 提督『それではさっそくお便りを紹介していきましょう! 榛名先生、お願いします』

 榛名『はい。――それでは」


 “血のつながった姉が、いい歳してこんな季節におへそを出すスタイルをやめません”

 “見ているこっちが風邪を引きそうで困っちゃいます。言っても聞きません。どうすればいいでしょうか?”


 榛名『ラジオネーム“かたつむり”さんからのご相談です』

 提督『へそ…………いや、詮索はすまい』

 提督『よく、女の人は冬場にスカートを穿いたりなんかしますが、たしかに寒そうだと思うことがありますね』

 提督『女の人は男の人よりも熱に対する耐性が強いのでしょうか? そこのところは実際どうなんでしょう、榛名先生』

 榛名『そうですね……寒さに対する耐性のお話ですが、おそらく“慣れ”の問題じゃないかと思います』

 榛名『学生時代なんかは、制服のスカートがもともと膝上だったりしましたし……』

 榛名『寒いかどうかで言われるとすっごく寒いです! でも、我慢がまんと思っているうちに、というか……』

 提督『あー、なるほど。たしかに体育の時間とか、早朝のトレーニングなんかは、最初は寒く感じたりするけど』

 提督『過ごしているうちにまったく気にならなくなるっていう、そんな感じですかね』

 榛名『それは身体を動かしているから、というのもありますけど……そんな感じだと思いますっ』

 榛名『でもこのお便りの人は、この書き方だとおそらく普段着のお話をしているのですよね?』

 榛名『でしたら……そういった薄着が好き、なのか……服を着ていることがあまり好きじゃない、のか……』

 提督『なるほど、つまり 女だと』

 榛名『ちがっ!?』



  『ほら、やっぱり 女じゃない』 『むっ、わたしの話だったのか!?』 『イク、イくのぉ……っ』



50: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:25:51.66 ID:Q9BSG/7Jo

 榛名『あっ、そうです! その、可愛い服を着て見せたいお相手がいらっしゃるのかもしれません!』

 榛名『仲良くしたい相手や、想いを寄せている人の前では綺麗な格好でいたいものですし……』

 榛名『“服装は、ときには君に代わってものを言う”という言葉もありますし』

 提督『キングスレイか』

 榛名『はいっ!』

 榛名『ですからその方は、想いを言葉に乗せられない、照れ屋な女性なのではないかと思います!』

 榛名『そう考えると、ちょっと可愛く思えてきませんか? ……単純に、暑がりな方なのかもしれませんけど』

 提督『なるほどねえ…………そういった考え方もあるのか。
    いや、男はその点あんまり考えなくてもいいから気が楽ですね。暑いか寒いかですから』

 提督『うちの鎮守府にもずっとヘソ出してるビッグセブンがいて、お腹を壊すんじゃないかとヒヤヒヤしてたんですが――』

 提督『榛名の考え方を聞いたあとだと、なんだか少し可愛く見えてきましたね。
    誰に隠した想いがあるのかは知りませんが……普段をクールな情熱で過ごしている女性ですから、そういった一面は新鮮で』

 提督『今度会ったら一言褒めてみることにします。もともと綺麗な女性ですから』


 『ち、ちがっ……これはただっ、暑いだけだと……!』 『あらあら~』
   『……いっちょまえに照れてんじゃねーデス、xxxxin' RIKISHI』 『いつの間に!?』


 榛名『むっ…………て、ていとく、榛名はどうですか……?』

 提督『ん?』

 提督『…………』

 提督『よしよし』

 榛名「ぁ……、えへへ』


 『うわっ、あれ絶対ごまかしてますよね』 『榛名はいつからあんなにちょろくなったの……お姉ちゃんは心配ですよ』
   『というか電波に乗せてやらないでほしいデース……』


 提督『えー、相談者さんは、そのお相手に対する認識を改めてみてはいかがでしょうか?』

 提督『普段のなにげない仕草や格好一つが、その人の心情をあらわしているのかもしれません』

 提督『どうしても聞かないなら……あなたが暖めて差し上げるのも、また一つの手だと思いますよ!!』

 榛名『“かたつむり”さん、お便りありがとうございましたっ』


 『姉さん……わたし、勘違いしてたわ……』 『ま、まて、誤解だ』 
   『いいのよ姉さん……さあ、わたしの胸に飛び込んでいらっしゃい!!』 『陸奥がヤバい! ば、爆発するぞー!!』



51: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:27:17.23 ID:Q9BSG/7Jo

 提督『――さて、時間も押してまいりましたので次のお便りを最後にしたいと思います』

 提督『が、その前に“お便りを投稿するにあたっての大原則”。こちらを説明し忘れていましたね』

 提督『榛名、頼んだ』

 榛名『はいっ!』


 榛名『えと、この放送は、みなさんの日ごろの出来事、お悩みや相談のお便りなど……24時間いつでも受け付けています!』

 榛名『宛て先はここ提督鎮守府! 宛て名を“ちんじふ裏らじお”と記入していただけると助かります!』


 榛名『そしてお便りに関する原則ですが……大本営の方々や、保護者のみなさまもお聞きになっているので』

 榛名『“過度な、 ……   な表現”や“過度なグロ表現”は避けるようにお願いいたします!』

 提督『たとえ“空想上の、実際にはなかったお話”であったとしても、大本営の耳に入れば鎮守府を解体することになりかねませんからね』

 榛名『また、同一人物による複数の応募(連投)があった場合は、残念ながら違うお便りを採用させていただくことになります……』

 提督『目安としては、一個下にズラすことになりますね』

 提督『また艦娘抽選(安価)先が、艦娘の名前でない……たとえば、雑談であったりなんかしたときは、
    自動的に下にずらすことにします。雑談で埋まっていても問題ありません。ちょっと見にくいからミスしやすいくらいですね』


提督「(それ以前に、番組についての雑談が起こるほど、視聴者のみなさんから支持を受けられるかは別だけどな)」

榛名「(悲しいことを言わないでください……)」


 榛名『全体の流れとしましては、オンエア開始、ゲストの艦娘紹介、あいさつ』

 提督『その艦娘との慣れ初めや、その艦娘の立場や人物紹介、いつごろうちの鎮守府に着任したか、とか、そういった小話』

 榛名『その後、視聴者のみなさんからの“フリーのお便り紹介”のコーナーを経て――』

 提督『“視聴者からのお悩み相談”のコーナーに入り、終わりのあいさつ、ですかね』

 提督『場合によっては多少前後したり、一部飛ばして次のコーナーに入ったりすると思います』



53: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:28:20.79 ID:Q9BSG/7Jo

 提督『また、できるだけ差がないようにしたいですが、プレイの環境や、キャラクターの把握次第で厚みに差が出てしまうかもしれません……』

 提督『それに困ったら、本来付いていない設定を付与するかもするかもしれません。
    それは“ここの鎮守府ではそうなのだ”と、優しく見届けてあげてください。よっぽどなことはしないつもりですので』


榛名「(プレイ……? 設定とか……なんのお話でしょうか?)」


 提督『電波に乗せるラジオ放送ということで、艦娘のみんなが緊張してしまい、話し方や僕に対する呼び方が変わってしまうこともあると思いますが』

 提督『気になったり、あまりにも逸脱してしまっていたら、お便りにてお知らせください。すぐに修正いたしますので』


榛名「(て、提督の修正……ちょっと受けてみたい、です。いったいどんな……そ、そこはだめ、ですぅっ……あぁぁっ……)」テレテレ


 榛名『もっ、もし視聴者のみなさんから良さそうな提案があれば、積極的に採用していきたいと思っていますっ』

 提督『こういったラジオ放送や、鎮守府での日常を公開・投稿することは初めてになりますので……』

 提督『視聴者のみなさまがたには、温かい視線で見守っていただけると幸いです』

 提督『なお、ラジオ放送自体はほぼ毎日行っているという設定ですが、投稿自体はそれなりに間隔が空くと思います』


榛名「(投稿…………?)」

提督「(こうやって、ラジオの台本を作るのも楽じゃないんだ。個性豊かな艦娘ばっかりだから、ゲストに応じて書き替えないといけないし)」

提督「(場合によっては完全アドリブで動いてもらうことになるかもしれん。放送自体のクオリティーは落ちると思うけどな)」

提督「(まあ、放送事故にならない程度に間は繋いでみせるさ)」

榛名「(なるほど……頑張って、続けていきましょうね! 榛名も楽しみにしていますからっ)」

提督「(プレッシャーをかけてくるなぁ……)」

 

54: 書き溜めてはいましたが、20日近くでようやくこれなんです・・・ ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:29:16.15 ID:Q9BSG/7Jo

 提督『長々と説明してしまいましたが……次回以降はこの説明、ありません。今回は初回ということでしたから……』


 提督『第一回、“ちんじふ裏らじお”、いかがだったでしょうか。みなさん、楽しんでいただけましたでしょうか』

 提督『急な放送だったというのに、たくさんのお便りや、楽しみにしているというお言葉』

 提督『ありがとうございました!』

 提督『みなさんのご期待にそえられるよう、これからも切磋琢磨していく所存です』



 提督『さてっ、最後にもう一つ、お悩み相談を行ってシメにいたしましょう!』

 提督『危険が危ない暴走放送、しんがりを務める大取りのお便りはこちらです!』

 榛名『ラジオネーム“でちハム”さんからのお便りですっ!』


 “ほのぼのとした夕食の真っ最中に、同僚の 女がいきなりハンドサイズ振動魚雷を使って  ――”


 提督『それではみなさん、またあしたあああああああああ~~っっ!!!』

 榛名『明日の放送はフタマルマルマルに開始です! 艦娘のみなさん、心してお待ちくださいっ!』

 提督『それでは“ちんじふ裏らじお”、MCはわたくし提督と!』

 榛名『榛名でお送りいたしました! ばいばいっ!』


    ――――ちゃらら~ ちゃらら~



55: いざ投下すると少なく感じますね ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:30:28.62 ID:Q9BSG/7Jo

    ――――ちゃらら~ ちゃらら~



大井「…………なんだかんだ、最後まで聴いてしまったわ」

北上「とっくにゴハン食べ終わってるのにねぇ」

球磨「……へんに身内が出てくるから、いつ自分が呼ばれるかとハラハラするクマ」

多摩「お父さんやお母さんも聴いてるって聞いたらもう恐ろしくて聴いてられないニャ……」

木曾「……まあ、そうだな。授業参観ってぇ感じか……なんというか、気恥ずかしいな」


扶桑「そういえば……もうずいぶん長いこと、家族には連絡をしていないわね……」

山城「わたしもです、扶桑お姉さま……お姉さまがいつも隣にいてくれるから、ひとりって感じがしないから、寂しくなくって」

扶桑「ふふ、山城……わたしもよ」


武蔵「ふん、家族か……家を出てから久しいな。大和、お前はどうだ?」

大和「そうね。大和も……ここ最近は、もうずっとね。出ずっぱりだったものだから」

武蔵「やはりか。…………ふむ」

武蔵「あのラジオ番組に投稿されないよう、今のうちに一筆したためておくとするか」

大和「むっ、だめですよ武蔵! 家族への手紙は、そんな打算的なもので出すものではありませんっ!」

武蔵「…………そういうお前はどうなんだ」

大和「大和はいまから書きます!」

武蔵「ほれみたことか」


青葉「うう…………だめだったぁ…………」

衣笠「だから言ったじゃない……。今回は大本営も関わってるから、そうそう都合よくはいかないよって」

青葉「DJ提督のブロマイド、大量生産すれば儲けになりそうなのになぁ……」

衣笠「DJじゃなくてMCね。でも青葉は平気なの?」

衣笠「いつもはああして情報をばらまく立場だったけど、こと今回に限っては受け手じゃない?」

衣笠「きっと提督、ここぞとばかりに仕返してくるよ」

青葉「その点に関しては問題ないよ! 言われて困ることはやらないようにしてるから!」

衣笠「(ウソくせぇ……)」



56: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:31:17.00 ID:Q9BSG/7Jo

那智「ふむ…………父上からの便りか」

足柄「あら那智姉さん、その紙は?」

那智「いやなに、父上からの手紙だ。健康と食事に気を付けるのと……。
   このラジオ番組が始まるにあたって、ゲスト出演の期待が高まっているらしい」

足柄「げえっ! イヤよわたし、一回出たら死ぬまで実家のみんなにからかわれそうだし」

足柄「それにああいうのは“ガラ”じゃないし。あーいうのは羽黒みたいな子が映えるのよぉぉ~ん」ギュッ

羽黒「ぃひゃっ……ごっ、ごめんなさい、羽黒にはちょっと、荷が重いというか……」

足柄「えぇ~っ、絶対タノシイと思うんだけどなぁ~。ね、ね、一回出てみなさいよっ。きっと楽しいから」

那智「それはお前がだろう…………」

羽黒「ふええ……」

妙高「こーら。もう、羽黒をいじめないの」

妙高「それに一人とも限らないですよ?
   “艦娘のかたがた”とおっしゃっていましたから、ここにいる四人全員で出ることだってあり得るんですから」

足柄「いやー、四人も呼んだら収拾つかないんじゃないの? 羽黒とかずーっと黙ってそうだし」

那智「わからん。そこは提督の腕の見せ所、といったところだろうな」

足柄「ふうん……ま、そうなるわよね。羽黒、あんた自分が当たんないように祈ってなさい」

羽黒「(足柄姉さんがひとりで呼ばれますようにっ……)」



57: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:31:59.12 ID:Q9BSG/7Jo

那珂「はっ! これは那珂ちゃんがソロで呼ばれてオールナイト・ナカチャンライブを開催する予感……っ!」

神通「悪寒の間違いですね」

川内「えーっ、でもなんかそういうのいいな~! みんな夜中は大人しくって退屈だし、もっとドカーンと盛り上げてほしい!」

神通「そうですね……もし姉さんが呼ばれたら、提督に夜戦を挑んでみるのも手かもしれませんよ」

神通「提督、ああ見えて相当なやり手なようですから」

川内「それマジっ!? いいねェ、たぎってきたよ! パパたちに頼んで応募してもらおーっと!!」ドヒューン

神通「あっ……もう、せっかちなんですから」


矢矧「…………あなた、なかなかえげつないことするわね」

能代「あなたそんなに口八丁だった? もっとおとなしい印象があったけど」

神通「いいえ、ウソではありませんよ。提督は過去からずっと叔父元帥に鍛えていただいていたようですから」

神通「教科書にも載るほどの人物から、直接指導を賜っているのです。きっと生半可な実力ではありません」

矢矧「お、おお……なんだか毅然としてるわね」

阿賀野「神通ちゃんも提督とお付き合いが長いものね~。……でも、それで提督の強さ、はっきりと見てないの?」

神通「はい。あの人はあまり訓練にも参加したがりませんから……」

那珂「那珂ちゃん聞いたことあるけど、男と女が一緒に訓練するのはやっぱり……って抵抗があるみたい!」

能代「でも、そのわりには榛名さんや霧島さんと一緒にランニングしてたりするわよね。なんでかしら?」

矢矧「そりゃあなた…………ねぇ?」

神通「あの二人はとくに付き合いが長いですから。それこそ、わたしたちでは比較にならないくらい……」

酒匂「ぴゃぁーっ!」



58: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:33:09.34 ID:Q9BSG/7Jo

初春「ふむ……父上や母上も、この放送を聴いておられるんじゃな」

初春「だがわらわたちは、マメに文をしたためておるからの。実家から手紙が届くようなことは、おそらく…………」

子日「うーん、でもお父さんもお母さんも妙に提督のコト気にしてたし、全然あり得る話なんじゃないかなぁ」

子日「一回提督とお話してみたいっていつも言ってるしぃ」

初春「……ここで、提督に手紙を出すな。と言えば、おそらく逆効果になるのじゃろうな」

初春「このわらわが、運否天賦とはのう……だが不幸中の幸い、うちの鎮守府にはたくさんの艦娘が所属しておるからの」

初春「わらわたちが呼ばれる確率は高くないはずじゃ」

子日「それ、フラグっていうんだよ」

初春「この放送が終わったら……わらわ、実家にいる家族に手紙を出すんじゃ……」


白露「ううーん、どうせ呼ばれるんだったら一番がよかったなぁ~」

時雨「おや、白露はずいぶんと乗り気みたいだね。どういう風の吹き回しかな」

白露「いや、あたしはいつも包み隠さず生きようと心掛けてるからねっ!
   いまさらみんなの前で、どんなことを言われようとも微動だにしない自信があるよっ!」

時雨「うーん、それはみんなも一緒だとは思うんだけどね……」

時雨「ぼくはちょっと、みんなの前で親の手紙を読まれることには抵抗があるかな。やっぱり恥ずかしいよ」

村雨「時雨ちゃんは鎮守府に来るまでは、“ぼく”じゃなくって“わたし”って言っていたものね」

夕立「あたしも村雨ちゃんも今と昔じゃ性格真逆だったっぽい!」

村雨「そりゃ、妹がこぉんなに可愛かったらお姉さんしなくっちゃいけないじゃない?」ナデナデ

夕立「んふふ~」

春雨「は、春雨も、姉さんたちを追って着任したときは驚いちゃいました! 村雨姉さんは、もっと、そのぅ、おてんばだったので――」

村雨「あら、春雨ちゃんもいい子いい子してあげましょうね~」ナデリ

春雨「……んぅ」



60: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/10(土) 15:34:47.97 ID:Q9BSG/7Jo

霧島「みなさん、いまの放送を聴いて思い思いに語り合っていますね……」

比叡「でも驚いたよね。提督のあの語り口は聞き慣れてるけど、まさか榛名も一緒になって参加するだなんて」

金剛「ハルナはテートクの言うことなら無条件でなんでも従っちゃうネー。お姉ちゃん心配っ、もう……」

霧島「ん?」


比叡「金剛お姉さま、あの…………平気、ですか?」

金剛「ヒエー? …………hmm、なるほどネー」

金剛「ノンノン! テートクのことは大好きだけど、それはあくまで親愛の感情ネー!」

金剛「むかしはちょっと傾いてたときもあったけど、いまは、もう……」

金剛「それに、テートクもそうだけどハルナも大好きネー! むしろ大好き同士がくっついてお得な感じまであるネー」

霧島「……それなら良いのですが」

金剛「Heh,Heh... …………むしろキリシマの方が、わたしは心配ネー!」

金剛「わたしよりキリシマの方が、テートクとの付き合いが長いネー」

霧島「……ふふ、それこそ心配ご無用、ですよ。お姉さまに心配されるほどのことでもありません」

金剛「I see. ――――なるべく、遅くならないようにね」

霧島「……それに対しては、I know. ――ですかね」

金剛「hehehe...」

霧島「ふっふっふ……」

比叡「…………」

比叡「(ひええええええええ~~っ!! なにを話しているのかサッパリですううううう~~っ!!)」



金剛「さてっ、ヒエー、キリシマ! ハルナを呼んでお風呂にするネー!」

金剛「そこで根掘り葉掘り、どういう会話があったのか…………」ワキワキ

比叡「つぎは誰にお声がかかるのか…………」ワキワキ

霧島「…………」ワキワキ

金剛「テートク執務室に、突撃ネ~~っ!!」

比叡「おー!」
霧島「おー!」




85: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 04:52:47.51 ID:Tbod1Gqpo




提督「昨日はえっらいめに遭った……」カタカタ


提督「(あの放送のあと、ほとんどの艦娘が執務室に押し寄せてきてきた)」

提督「(なんでも、自分が指名されたときに保護者からの便りを読むのはやめてくれとの話だった)」

提督「(そういうわけにもいくまいよ……むしろ保護者からの便りはこのラジオ一番の華だろうが!)」

提督「(胸倉つかんでぶんぶん揺さぶられまくって脳みそシェイクになりかけるところだった。お前ら仮にも上官だぞ俺は……)」


提督「(夜が明けたとはいえ、、まだ頭の奥がちくちく痛む。久しぶりにあんなに長く喋ったからなあ……)」

提督「(とはいえ、俺の体調とは関係なく仕事は積もっていく)」ターンッ

提督「(今日みたいな日に限って榛名がいない。なにやらあの日の晩、オムライスをふるまって以降姿を見ていないのだ)」

提督「(今日の朝、執務机の上に“ハルナは預かったデース。返してほしければ婿に来ることデース”と書かれた怪文書だけが残されていた)」

提督「(婿ってなんなの。次代神主候補にでもさせられんの?)」


提督「(一日中キーボード叩いてると指先が崩壊するわ。なんかどんどんタイプミスが増えていくんだが)」カタカタ



86: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 04:53:52.73 ID:Tbod1Gqpo


 コンコン


提督「はいどうぞー」


 ガチャ


イムヤ「やっ、司令官! なんだかお疲れみたいね?」

提督「ん、イムヤか。ほかの連中はどうした?」

イムヤ「みんなはお風呂。わたしは今回無傷で帰ってこれたから、みんながお風呂入ってるうちに報告書まとめちゃおっかなって思ってね」

提督「なるほどね」

イムヤ「今日は榛名さんいないの? じゃあ、このパソコンちょっと借りちゃってもいい?」

提督「いいぞ。というかそのままずっと座っててくれ。そっちに転送する」カタカタ

イムヤ「えっ?」

イムヤ「えっ、なにこのファイル。なんかすごい勢いで増えていくんだけど」

提督「お前もこの鎮守府来て長いだろ。これ今日の秘書艦の仕事だから、頼んだ。榛名いないから代わりに頼む」ターン

提督「あとそっちのメールボックスのほうに、昨日の放送を聴いた保護者のみなさまから感想が届いてる」

提督「おそらくいま現在も受信している最中だろうから、目を通して整理しておいてくれ」

イムヤ「え、え、え、ちょっと待って!」ユーゴッタメール

イムヤ「イムヤ今週のオリョール海の戦闘報告が…………」ユーゴッタメール

イムヤ「やっ、止まらな…………っ」ユーゴッタ

イムヤ「ちょ、これ今日中に全部って無理が――――」ユーゴッタ

イムヤ「ホンっ……ト」ユーゴッタ

イムヤ「」ユーゴッ

イムヤ「」ユーゴッ



――――

――


87: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 04:55:41.56 ID:Tbod1Gqpo


ゴーヤ「てーとくぅーっ! 報告書持ってきたよぉ!」ガチャ

はっちゃん「はっちゃんも、今週のオリョール海の報告書完成、です」

提督「おっ、お前ら悪いな。正月だってのにわざわざオリョールまで足を運んでもらって」

イク「ホントなのね! たまのお正月くらいお休み欲しいのね!」

ゴーヤ「ブラックでち! ブラック鎮守府として大本営の艦娘協会に通報するでち!」

イク「これじゃじっくり時間をかけて道具で遊ぶ暇もないのね~っ!!」

提督「うるせえ! ブラックとか言うと憲兵が裸で飛んでくるからやめろ!」

はっちゃん「(おお、さすがのスルースキルです、さすがは提督)」


提督「それにオリョクルに関してもだな、よそ様と比べたらこれでもマシな方だと思えよマジで」

ゴーヤ「よそはよそ、うちはうちでちっ!」

イク「なのっ!」

はっちゃん「そうですよ二人とも。わたしたちはこうして班行動を許されていますけど」

はっちゃん「国外に配置されている、最前線の鎮守府に所属する潜水艦のみなさんは、みーんな個人行動ですから」

ゴーヤ「え、そうなの?」

イク「初耳なのね」

はっちゃん「はい。と言っても本やインターネットで得た情報なんですけどね」

はっちゃん「なんでも、鎮守府がメンテナンス中で、帰っても停泊するスペースがないなか出撃を求められたり」

はっちゃん「小破はおろか、かぎりなく大破に近い中破状態に陥っても、航行可能な状態であれば出撃させられるようです」

はっちゃん「一回の出撃で、一人につき燃料を千稼ぐまでは帰ってくるなとも言われているらしいですよ」

イク「千!?」

ゴーヤ「え、え、帰ってくるなって……じゃあ、補給とかは――」

はっちゃん「一切の禁止です。燃料や弾薬もすべて現地で自給自足」

はっちゃん「なかには深海棲艦から奪った特殊弾でまかなうために、自分で艤装と砲の口径を作り変えた子もいたようです」

はっちゃん「あまりの変容っぷりに、帰港の際に艤装を駆逐イ級と誤認されて、集中砲火を受けた末に、母港の海へ沈んでいったそうですが……」


はっちゃん「その鎮守府に所属する戦艦の人がオリョール海に出撃した際に、沈んだはずの潜水艦娘が敵深海棲艦を切り刻んでいるのを目撃した、という話がありますね」

はっちゃん「『これで提督も喜ぶでち……』『燃料を運ばないわたしに価値なんてないんだから……』とつぶやきながら、と」

はっちゃん「その目撃者の艦娘は、その潜水艦娘に瞳を向けられた瞬間に気絶してしまったようですが」

はっちゃん「その艦娘との最後の通信からは、『暁の水平線。やさしく迎えてくれるのは、海鳥たちだけなの?』という悲しげな音声が確認されるのみでした」

はっちゃん「それ以降の目撃情報はありません」

はっちゃん「あんがい、いまだにオリョールの底で彷徨っているのかもしれませんね」

はっちゃん「――新鮮な、燃料を求めて」


ゴーヤ「」

イク「」



88: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 04:56:30.65 ID:Tbod1Gqpo

はっちゃん「そういえば、その潜水艦娘の口調も、ごーやさんのような話し方だった、と言われていますね」

はっちゃん「もしかしたら、ごーやさんに親近感を抱いて、そのうち鎮守府に遊びに来るかも――」


ゴーヤ「ひいいいいぃぃっ」ガタガタ

イク「いやああああぁぁっ」ガタガタ


イク「ご、ごーやちゃん、こっち来ないでなの! なにかが移ってくるかもしれないの!」ガタガタ

ゴーヤ「なにかってなんなの!? そういうの見える体質なの!?」

イク「い、イク、黙ってたけど、けっこう霊感あるほうなの! いまのごーやちゃんからはよからぬものを感じるの!!」

イク「前々からみょーうに寒気がすると思ってたの!!」ガタガタ

提督「(それは単に薄着だからでは…………)」


ゴーヤ「待ってごーやを置いてかないで! ひとりぼっちは寂しいからぁっ! まってぇ!!」ダダダ

イク「ひいいぃぃぃ~~っ!! 言動が完全にオバケのそれなの~~っ!!」ダダ

ゴーヤ「死なばもろともでちーッ!!」

イク「ひやあああぁぁ~~っ!!」



はっちゃん「――――Verzeihung. 冗談です」



ゴーヤ「…………え?」ピタッ

イク「…………あ?」ピタリ


はっちゃん「本で読んだ怪談を、わたしたち風にちょっと改変してみたんですが……」

はっちゃん「思っていたより好評でなによりです。これで今年の夏の怪談大会も乗りきれますね」

ゴーヤ「え……あ…………ああぁぁ……」ヘナヘナ

イク「な…………なんなのねもう…………」ヘナリ


はっちゃん「Verzeihung(ごめんなさい)」

ゴーヤ「もうっ! 怖いから作り話はやめるでち!!」

イク「そういうのは夏にやってナンボなのね!!」

はっちゃん「アハ、ごめんなさい。悪ふざけが過ぎました」

はっちゃん「(…………実話、なんですけどね。まあ、言う必要も…………なさそうです)」


89: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 04:57:06.27 ID:Tbod1Gqpo

イク「こわかったの……。妙にリアリティのある話なのね」

ゴーヤ「同じ潜水艦娘として、妙に共感できる部分もあったでち……」

はっちゃん「あは、…………そうですね。こんなお話には、登場したくないものです」

提督「…………あー、なんだお前ら。意外と可愛いところもあったんだな。
   普段あれだけギャイギャイ騒いでるから、そういった感性はとっくの昔に捨て去っているものだと……」

ゴーヤ「ごーやたちだって女の子でちっ! ――というか、騙されないよっ! 怖い話して、オリョクルの日々から目を逸らせようとしてる!」

イク「――ハッ! そうなの! もとはと言えば提督がもっと休みをくれてたら、こんな怖い目に遭うこともなかったの!」

ゴーヤ「謝罪と賠償の意を兼ねて、ごーやたちのオリョクルの日々にピリオドを打つでち!」

イク「週休七日! これだけは譲れないのっ!」

ゴーヤ「しゅうきゅうなのかー!! もちろん有給休暇扱いでち!!」」

イク「提督の夜のお世話もさせろなのー!!」


提督「いまだかつてないほどにウザい。なんだこいつら」

提督「逆に全休になったとして、なにして時間潰すつもりだよ……」 

イク「そりゃ……ペットでも飼って優雅に過ごすの!!」

はっちゃん「(ペット……意味深ですね)」

ゴーヤ「そうでち! ごーや一回そういうのに憧れてたんでち!」

提督「そうですか…………」




90: びゃーっと書いたので誤字脱字あるかも ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 04:58:19.25 ID:Tbod1Gqpo

はっちゃん「まあまあ、お二人とも。はっちゃんも、休みが欲しくないと言ったら嘘になるけど、さっきのお話は嘘じゃないですよ」

ゴーヤ「でちっ!?」ビクッ

イク「なのっ!?」ビクリ

はっちゃん「……いえ、そちらではなく。最前線の潜水艦娘は――というくだりです」

はっちゃん「そういった子たちに比べれば、わたしたちのような、被弾したら即入渠、毎回補給を必ず受けられる――」

はっちゃん「それに、帰ったらおいしいご飯とあったかいお風呂が待っている。それだけでも、素晴らしいことだと思いませんか」

提督「……そういうのは、当たり前のことだと思うんだが」

はっちゃん「Nein. ……残念ながら、最前線でなくとも、潜水艦娘の酷使はあるようです」

はっちゃん「……秘匿資料で確認したこと、ですが。潜水艦娘の過労死が相次いでいるという文を見ました。
      過労死と一概に言っても、補給を受けさせない、疲弊していてもお構いなし、中破以上のダメージを受けていても関係なし」

はっちゃん「艤装が故障していない限りは、追い立てられるように鎮守府から出撃させられるようです。…………身体は、故障していてもです」

はっちゃん「そういったものも含めた“過労死”があまりにも多く、問題として表面化する前に対処しようという肚のようです」

はっちゃん「それに応じて、潜水艦娘の運用に関する規則なども、今後制定されるようです」

ゴーヤ「…………そうだったんだ」

イク「…………悲しい、ことなの」

はっちゃん「……はい。そういったところに配属されなかった、というのは……わたしたちは、最高に幸せだということです」



91: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 04:58:54.51 ID:Tbod1Gqpo


提督「…………」

提督「よく知っているな、伊8。どうやって、その秘匿資料とやらを入手した」


はっちゃん「…………」

はっちゃん「ひみつ、です」


提督「………………そうか」

はっちゃん「はい」


提督「そこまで知っているなら、こちらも知らないわけではないだろう」

提督「艦娘による情報の窃取は立派な軍紀違反だ。大本営に知られたらどうなるか、わからんわけでもあるまい」

はっちゃん「…………」

ゴーヤ「待っ……待って提督! そんなのおかしいよ!」

イク「たかが情報の切れ端ひとつでっ……」

提督「塵ひとつでも、だ。…………悪いが、見逃すわけにはいかない」

提督「伊8。……それと、この場に居合わせた伊58、伊19。お前たちに罰則を言い渡す」

ゴーヤ「そんなっ……!!」

イク「そんなのゼッタイおかしいの!!」



92: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 04:59:32.45 ID:Tbod1Gqpo




提督「伊8、伊58、伊19、東部オリョール海にて、貴重な資材の回収を命ずる」

提督「お前たちには今から艦隊を組んでもらう。たった三人でオリョールの海を渡ってくるのだ!」




ゴーヤ「ひっ――――えっ?」

イク「…………なの?」

はっちゃん「…………それで、良いのですか」

提督「良いも悪いもない。俺自身がこうした方がいいと考えて、こう命じただけだ」

提督「しかし、しくじったな……まさか重要な資料の内容を、“艦娘相手にうっかり口を滑らせてしまう”とは」

提督「これが上の耳に入ったらどうなるか……考えるだけでも憂鬱だ。こってり絞られるんだろうなあ……」

ゴーヤ「…………オリョクルでいいの? いまから?」

イク「…………ほんと?」

はっちゃん「…………」



93: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 05:00:40.00 ID:Tbod1Gqpo

提督「まあ、その、なんだ……みんなが遊んでいるなか、つらいとは思うが……」

提督「お前たちの働きは、確実に艦隊の強化につながっている。まさに縁の下の力持ちといったところだが――」

ゴーヤ「…………」

イク「…………」

提督「いま、鎮守府の台所事情が潤っているのも、ひとえにお前たちの活躍といっても過言ではない」

提督「お前たちの尽力がなければ、サーモン海域北方の攻略も計画段階で頓挫していただろうし……」

提督「そんな連中を、たかが情報窃取の罪でしょっぴくわけにもいかん。――いや、本来ならすさまじく重い罪なんだが」

提督「お前たちを大本営に引き渡せば、ここの鎮守府の運営が成り立たなくなる」

提督「軍紀違反者を引き渡せば報奨金が出るわけでもなし。……それで鎮守府が潰れるなら、いっそ飲み込んでしまった方が気が楽だ」

提督「たった数名の潜水艦娘と、この鎮守府周辺の制海権や、所属する艦娘すべて。……考えなくとも、どちらが重要かわかるものだ」

提督「だから、今回に限り見逃してやる」

はっちゃん「…………提督」

ゴーヤ「てーとくぅ……」

イク「…………」

提督「まあ、なんだ、あー……………」ポリポリ



提督「…………感謝してるぞ、いつもな」フイッ



イク「――――っ」

ゴーヤ「――――っ!!」

イク「提督~~っ!! 愛してるのね~~っ!!」ガバッ

ゴーヤ「ごーや頑張るから、捨てないでくだちぃぃぃ~~っっ!!」ダキッ

提督「うおおおおっ!!」バターン

はっちゃん「あっ、提督っ…………どうしましょう。はっちゃん、飛びつくタイミングを失ってしまいました……」


提督「おまえ、らっ! せめて乾いてから来い! 服が……ああっ! すっげえ濡れてる!!」

イク「濡れそぼったイクの身体を    味わうがいいのぉ……」

ゴーヤ「うりうり~」

提督「水着のまま身体押し付けてくんな! その…………ダイレクトに、当たる、というか……」

イク「当ててんのよ、なの」

ゴーヤ「提督はむっつりでち」

はっちゃん「いやらしいですね」


はっちゃん「……でも、ここまで濡れているなら大差ないですよね。提督、腕をお借りします」ギュッ

提督「やめんかお前たち! さっさとオリョクル行ってこい!」


94: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 05:01:33.06 ID:Tbod1Gqpo



イムヤ「う……電子の海……渡りきった、わよ…………」



はっちゃん「あ、イムヤさん。いたんですか」

ゴーヤ「秘書艦机に生えたイソギンチャクかと思ったよ」

イムヤ「だ、誰がイソギンチャクよっ! ……司令官、ファイルあがったから……確認して……」

提督「お、マジか――離せお前ら! ――どれどれ……。うん、きれいにまとまってるな」

提督「さすがイムヤ。この手の機械操作はお手のものだな。今後もこういう仕事が来たらお前を呼ぶのもありだな……」

イムヤ「それはさすがに勘弁してっ! 特定の単語に優先順位をつけて自動的に並び替えるシステム組んだけど、さすがに流用きかないから!」

イムヤ「去年のまるごと一年より、この数十分の方が頭使ったんだから……頭がフットーしそう……」

提督「お前……実はすごかったんだな……。正直、会議中にスマホいじってるだけのぐうたらだと思ってたわ」

イムヤ「べつにスマホとかで遊んでたんじゃないんだからっ! というか見てたの!?」

提督「そりゃ見るわ。目立つもの……とにかくサンキュな。お前、将来大淀さんコースに進める素質あるぞ」

イムヤ「わたしは人間だし、人間でいたいからむーり。お断りなんだから」

提督「そりゃ残念…………おらでち公! いつまでくっついてるつもりだ! さっさとオリョール行ってこい!」

ゴーヤ「んふふ~……提督、ありがとね」スリスリ

イク「一生ついていくの……」スリスリ

はっちゃん「わたしはいつも、あなたのそばに……」スリスリ

イムヤ「…………」

イムヤ「わぉ! 大漁たいりょうっ!」







イムヤ「なにこれ」

提督「いきなり素に返るな」



95: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 05:02:28.57 ID:Tbod1Gqpo



提督「(妙にむずがゆい笑顔を向けながら、退室していく潜水艦娘。水着のままだったし、その足でオリョールへ向かうのだろう)」

提督「(しかし、秘匿資料とは……俺が漏らした、ということはありえない。なぜなら、うちの鎮守府にそんな資料は存在しないからだ)」

提督「(俺が直接、叔父元帥から聞いた話だから。文書として受け取ったわけではない)」

提督「(それではいったい、その“秘匿資料”とやらをどこで見かけたのか――――)」



イムヤ「うええ…………仕事も終わったし、報告書も提出したからもういいよね?
    いむや、晩ごはんまでちょっと仮眠取ることにします……。もう二度と目覚めることはないと思うわ」

提督「永眠かよ……って、ちょっと待ってくれ!」

イムヤ「……なあに? もう、仕事とかはやめてよね。さすがに厳しいから」

提督「いや……しおい(伊401)はどこに行ったのかと思ってな。ゴーヤたちと一緒じゃなかったのか?」

イムヤ「しおい――ああ、そうよ! しおいはね、なんかちょっとひと潜りしてくるって言って、鎮守府近海に走って行ったわよ」

イムヤ「たぶんそのへんをふわふわしてるんじゃないかな?」

提督「ちょっとひと潜りってお前……寒中水泳かよ。おいおい、風邪だけは引かないようにって言っといてくれよ」

提督「あとしおいなんだが、連絡つけられないか? ちょっとした用事があってな」

イムヤ「んー……それは難しいんじゃない? あの子ケータイ持ち歩かないタイプだし、任務時間外は艤装の通信も切ってるみたいだし」

提督「艤装の通信までって……え、じゃああいつが危険に陥ったりしたときに連絡つかないってことでもあるのか」

イムヤ「まあ、潜るのは鎮守府周辺海域の近海だけだから、そんな思ってるほど危険はないと思うけど」

イムヤ「その辺にごくまれーに現れるのも、せいぜい駆逐イ級くらいなもんでしょ? しおい一人でも余裕で倒せるわよ」

提督「まあ、それは、そうなんだが…………まいったな」

イムヤ「……ま、晩ごはんの時間には帰ってくるわよ。なんなら司令官が呼んでたって、しおいが帰ってきたら言いつけておこっか?」

提督「ああ、そうしてくれると助かる……。話は以上だ、時間取って悪かったな」

イムヤ「んーん、気にしないで。それじゃイムヤ、失礼しましたーっ」バタン



96: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 05:03:14.37 ID:Tbod1Gqpo



提督「(正直、いまだに潜水艦娘との距離の測り方がわからない)」

提督「(イムヤは付き合いが長いから、なんとなくなあなあで付き合ってきているが――)」

提督「(ゴーヤやイク、はっちゃんにしおい。どいつもこいつも強烈な個性を持っている)」

提督「(まるゆはまあ、陸軍出身だからか、実直でいい子だし……まだ、扱い方はわかりやすい)」

提督「(さて、つぎのゲストは“伊401”、か…………どう喋ったものかな)」



――――

――



97: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 05:04:10.92 ID:Tbod1Gqpo



提督「(ゲストの抽選方法は、ただ一つ)」

提督「(明石さんが作ってくれた、全艦娘の名前を閉じ込めた箱。この箱に手を突っ込んで、無作為に、四つの紙を取り出すだけ)」

提督「(なかには白紙のものも入っていて、必ず四名の艦娘が、この執務室スタジオを訪れるというわけではなく――)」

提督「(今日のように、四枚引いてたうち三枚が白紙、一枚がアタリ――ということも、当然ありうる)」


明石「それでは本日の放送、開始いたします! 準備の方お願いします!」

明石「さん、に――」

明石「(いちっ! 提督、お願いします!)」


  ――ちゃーらら ららら~


 提督『――ラジオ放送をお聴きのみなさま、こんばんは! 本日の時刻、フタマルマルマルをお知らせいたします!』

 提督『食事中のかたも、そうでないかたも、お気分はいかがでしょうか!』

 提督『ちなみに僕は、いろんな意味で頭が痛いです。もうホント、寒いと体調が崩れやすいというのは本当のことで』

 提督『風邪をひいた、というわけではありませんが……みなさんも、体調にはお気をつけてくださいね』

 提督『元気が一番! よく寝て、よく食べる。規則正しい生活を送っていれば、病が入り込む隙間なんて出来やしません!』



提督「(“アタリ”を引いた艦娘は、俺から任意のタイミングで呼び出しをかけ、ゲスト出演の旨を伝える――)」

提督「(タイミングとしては、その日の放送の夕食前がベストだろう。
    ほかの艦娘に、出演が決まったという話をする暇もなく、夕食をとってしまって豪華なディナーが楽しめなくなる――ということも、ない)」

提督「(だから、そのタイミングがベスト――そう考えて、行動すること自体は、そうおかしくない話だと思う)」

提督「(夕食の時間に席を外したとしても、ほんの少し。
    夕食の準備が、艦娘と妖精さんの当番制……となれば、時間を外してしまったら、当番娘の姿はすでになく、妖精さんだけがてちてちしているだけ)」

提督「(妖精さんはあくまで補助的な存在であって、料理を作るのは艦娘なのである。
    妖精さんだけで料理を行うことはできないので、必然的に時間を外してしまうと、夕食を食いっぱぐれてしまうわけで――)」


98: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 05:04:50.05 ID:Tbod1Gqpo


 提督『そういえば僕は今日、少し外出する用事があって、鎮守府から離れて住宅街の方を通ったんですけど……』

 提督『右を見ても左を見ても門松だらけ。なかにはクリスマスの電飾をそのまま飾っているおうちなんかも……』

 提督『一年早いクリスマス気分。あのおうちは、一週間もすればまた年を越すのでしょうかと』

 提督『そんなに何度も年を越しちゃうと、正月のお雑煮だけで体重が――おっと、体重のお話はタブーでしたね』

 提督『正月太り、なんて言葉もありますけれど。原因は年末の忘年会や、新年のおせち料理、お餅――』

 提督『そういうふうに考えられがちですが、実は違うんです。“運動不足”なんですねぇ』

 提督『たしかに、おせちもおもちも高カロリーの食品として有名です。がしかし!
    いまさらカロリーがなんだと。カロリーなんか気にしていたら炭水化物が食べられません』

 提督『生きるために食べる。まさにその通りでございます! ですが、よおく考えてみてください』

 提督『もちろん、生きるために食べることは必要不可欠です。ですが、それなら栄養剤と、ちょっとした食事だけでよくないですか?』


提督「(…………ちらっ)

明石「(ばつ)」

提督「(…………)」


 提督『わたしたちはなんのために、お金を稼いでいるのか! 生活のため――衣・食・住のためです!』

 提督『そう、食事も含まれているんです。その食事というのは、生きるために最低必要不可欠、という意味もありますが――そうではない』

 提督『おいしいものを食べたいからなんです! 家族や友達、恋人たちとおいしいものを食べて生きる――』

 提督『そう考えたら、カロリーだけを気にして生きているかたも、また違う見方が出来てくるんじゃないんでしょうか』

 提督『おいしいもの、っていうのは不思議なものですねえ。ひとくち口に含んだだけで、ぱぁ……っと力が湧いてくるんですよ』

 提督『この間なんかですね、うちの鎮守府に“鳳翔”というきれいな艦娘のかたがいらっしゃるんですが――』


提督「(――おおよその艦娘は、夕食を食いっぱぐれないために、夕食の時間に合わせて帰ってくる)」

提督「(毎日の激戦を乗り越えて、任務に駆けずり回って、やっとの思いで帰った場所には、冷凍保存食)」

提督「(そういった思いをしたくないがために――――“普通は”帰ってくる)」

提督「(――――“普通は”、だ)」



99: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 05:05:37.02 ID:Tbod1Gqpo


鈴谷「……なんか今日の放送、昨日と比べておかしくない? なんかミョーにもの寂しいってゆーか」

鈴谷「提督のテンションもなんか妙だよね。焦ってるっていうか、なんていうかってカンジ」

三隈「そうですね…………言われてみれば、なんだか妙というのも頷けます。どうされたんでしょうか?」

熊野「もったいぶってる――というわけでも……なさそうですわね、あの調子だと。
   本日のゲストの艦娘が、まだお披露目されておりませんわ。後ほど行うのかもしれませんけれど……」

最上「ああ、だからかぁ。そもそも今日のゲストの艦娘って、誰なんだろうね? 提督からそんな話あった?」

三隈「いえ、わたしのほうにはなにも……。箱の抽選で決めると言っていましたよね」

三隈「もしかすると、いまから発表! ――なんてことも、ありうるのかしら?」

熊野「いえ、それはあり得ないと思いますわ。だって、わたくしたちはすでに夕食を済ませてしまいましたから」

鈴谷「あっ! そうだよね、だって呼ばれたコは、提督の部屋で豪華なディナーを楽しめるんだもんね!」

熊野「提督の部屋、ではなく提督執務室ですわ。提督の部屋だとその、なんだかいやらしい……」

鈴谷「あっ、くまのんむっつりぃ~。くまのんはいったいナニを考えてたのかなぁ?」

熊野「やっ、やかましいでございますですのことよ! なんなのかしらあなたマジなんなのかしら」

最上「熊野、口調口調!」

三隈「あらあらうふふ。くまのんさんは“むっつり”だったのですね」

鈴谷「やーいむっつりー!」

熊野「ぐっ……鈴谷みたいなおバカさんに言われるならともかく、三隈に言われると妙に悔しいですわね……」

鈴谷「わたしにも悔しがってよ!!」

最上「そこじゃないでしょ」



100: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 05:06:27.93 ID:Tbod1Gqpo




 コンコン ドウゾデアリマス


イムヤ「いむや、失礼しまーっす! あきつ丸ちゃん、いるかな?」

あきつ丸「おお、これはこれは、いむや殿。本日はどのようなご用向きでありますか?」

イムヤ「いや、用ってほどじゃないんだけど……しおい、見なかった?」

あきつ丸「しおい殿、でありますか……申し訳ない。自分には心当たりがないであります」

イムヤ「そっかぁ……まるゆちゃんはどう? しおい見かけなかった?」

まるゆ「しおいさん、ですか……? うーん……。ごめんなさい、まるゆもちょっとわからないです……」

イムヤ「そっか。うちに戻ってきてないから、てっきり潜り仲間のまるゆちゃんがいるとこだと思ったんだけど……」

イムヤ「どこいったのかなぁ……うん、二人とも、ありがとう。わたしはもうちょっとしおいを探して回ってみるね」

あきつ丸「急ぎのご用件がおありなら、こちらから力号を飛ばして探すでありますか?」

まるゆ「しおいちゃん、また潜ってるならまるゆもお手伝いしましょうか……?」

イムヤ「いや、潜ってるかどうかの目星すらついてないから、遠慮しておくね。その心はありがたく受け取っておくけど」

あきつ丸「そうでありますか…………」

イムヤ「二人ともありがとね。それじゃお邪魔しまし――――」


 『それで僕は言ってやったんですよ。“ふんころがしを詰めても弾薬の代わりにはなりませんよ”ってね!』


イムヤ「――あれ、二人とも、そのラジオ……」

まるゆ「…………」

あきつ丸「…………」

あきつ丸「ああ、これでありますか? なにやら提督殿が“らじお”を放送すると聞いたもので」

あきつ丸「工廠で転がっていた廃材をかき集めて、こうして使えるように改造してみたであります。ちょっと聞きづらいところもあるでありますが……」

まるゆ「まるゆも、がんばってオリョールをまわりました!」

イムヤ「なにその技術……。おほん、そんなことしなくても、提督か大淀さん、明石さんの三人に申請すれば備品が降りたのに。まだ遠慮してるの?」

あきつ丸「遠慮……と言われれば、おそらくそうであります。まだ我々は、この鎮守府に配置されて間もない新人兵でありますので……」

イムヤ「まるゆちゃんも水臭いわね。言ってくれればわたしたちも一緒にオリョール潜ったのに」

まるゆ「あ、あんまり大勢でいくと、潜航に必要な資材の消費が増えちゃうかなって……」

イムヤ「まるゆちゃんはそんなの気にしなくていーの。そういうのは大淀さんと榛名さんのお仕事だよ」

イムヤ「それにもともと、わたしたち潜水艦の資材消費量なんて微々たるものなんだから。遠慮しなくっていーの!」



101: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 05:07:40.97 ID:Tbod1Gqpo

イムヤ「それと二人とも、このラジオの電力って……もしかして、燃料を使ってる?」

あきつ丸「……ご明察であります。その通り、まるゆが拾ってきてくれる燃料を使用して動かしているであります」

まるゆ「だ、だめなこと…………でしたか?」

イムヤ「だめなことないわよ! ……でもそうね、今後もこのラジオを使っていくなら……。
     うん、わたしの方から司令官に言づけておくわね。このラジオに使うぶんの燃料を公費でおろすように言ってくるから」

まるゆ「え、ええっ!?」

あきつ丸「そんな、畏れ多いであります! ただでさえ、工廠に忍び込んで作ったもので……」

まるゆ「そ、そうです! それを言うならまるゆだって、本当は鎮守府に提出しないといけない燃料なのに……」

イムヤ「その考え方が水臭いっていうの。わたしたち仲間なんだから、変に遠慮されるとこっちが悲しいよ」

イムヤ「それに、そう思ってるなら……ちゃんと“鎮守府のもの”を使って、“一緒のもの”を使ってるっていう、さ」

イムヤ「そういう気持ちで、お互い仲良くなっていこうよ。そうじゃないと、わたしの背中預けられないんだからっ」

イムヤ「それに、拾ってから抽出もしてない粗悪燃料なんか使ってると、深海棲艦が寄ってくるかもしれないじゃないっ」



102: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 05:08:14.66 ID:Tbod1Gqpo


あきつ丸「い、いむやどの…………」ウルウル

まるゆ「いむやさぁん…………」ウルリン


イムヤ「……はっ。わたしなにクッサいこと言ってんだろ。潜水艦なんだから背中を預けるもなにもないのにね。あはは……」

あきつ丸「――――いむや殿っ!」ガバッ

イムヤ「……えっ、なに!? わたしなんかした!?」

あきつ丸「いむや殿のお心遣い、本当に感動したであります。感謝の言葉が、あふれて、なにも……」ウルッ

あきつ丸「――っ! 申し訳ないであります! いむや殿、本当に、これから、よろしくお願いするであります!」

まるゆ「まるゆもっ」ガバッ

イムヤ「ちょ……二人ともそんな、頭あげてよ!」

イムヤ「わたしはそんな、大したことも言ってないし、大したこともやってないし……」

あきつ丸「いえっ、このあきつ丸、感服したであります! よければまるゆ共々、これからもぜひ友誼を結んでいただけると嬉しいであります!」

まるゆ「いむやさんっ! よろしくお願いしますっ!」

イムヤ「ちょ……はわっ…………!」

イムヤ「も、もーうこうなったら、こっちも頭下げてやるわよ!!」ガバッ

あきつ丸「いむや殿!?」

まるゆ「いむやさん!?」

イムヤ「友達っていうのはね、対等であってはじめて成立するの! ふたりが頭下げるならこっちだって頭下げるわよっ!!」

あきつ丸「いむや殿ぉ…………」ウルルン

まるゆ「いむやさんぅ…………」マルユン

イムヤ「あーもうっ! なんなのあなたたち変わった子らね!!」


――――

――

 

103: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 05:09:03.81 ID:Tbod1Gqpo

 

イムヤ「(なーんてことをやってる間に、司令官のラジオは混沌を極めていた)」

イムヤ「(それも当然、ゲストの艦娘が少し経っても登場してこないし、名前も挙がっていないから)」

イムヤ「(今日の夕方、司令官はわたしに、しおいの所在を困り顔でたずねてきた)」

イムヤ「(おそらく“あれ”は、今日のゲストであるしおいに声をかけようと思っていたんだろう)」

イムヤ「(だけど肝心の、しおいの姿が見えない。だから、見つかるまで一人で間を繋ぐつもりなんだろう)」


イムヤ「(司令官が困り顔をするのはいつも、だれかを探しているとき)」

イムヤ「(海域攻略が難航していたり、資材が底を突きそうだったときも、けっして困り顔は見せなかった司令官)」

イムヤ「(わたしたちが緒戦で大破して、戦域からの撤退を余儀なくされたときも――困り顔なんて見せずに、むしろ心配してくれた)」

イムヤ「(――今日聞いた、はっちゃんのお話。かわいそうな潜水艦娘のおはなし)」

イムヤ「(あの話は、わたしも聞いたことがある。……というよりも、この鎮守府でなら、誰よりも詳しいのかもしれない)」


イムヤ「(同期だった、艦娘訓練施設の同期。同期の子はみんな、最前線に配備されていった)」

イムヤ「(その友達とも、離ればなれになってからも手紙のやりとりはしていた。最初だけだけどね。
     みんながみんな、悲鳴をあげる身体に鞭を打って戦っていた。――いや、鞭を打たれていた、のかな)」

イムヤ「(実際は、はっちゃんの話よりも、えげつない――)」


104: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 05:09:49.74 ID:Tbod1Gqpo

イムヤ「(オリョールの海を泳いでいると、たま……に、艤装の残骸みたいなものが、漂っていることがある)」

イムヤ「(散って行った先人のものなのか、深海棲艦の残滓なのか――どちらかは、しらないけれど)」

イムヤ「(いまとなってはわかるけど、どうやらあれは、艤装のもとになる廃材だったみたい)」

イムヤ「(その海域を侵略している深海棲艦のボスを倒すと、それ以降から、そういった“素材”が見つかるようになる)」

イムヤ「(同期の子たちは、その廃材を集めると少しの休みがもらえるから。血眼になって探していたみたいだけど)」

イムヤ「(その廃材、潜水艦の艤装に作り変えられて、潜水艦娘の適性がある子に与えられる)」

イムヤ「(当然、その子は潜水艦娘になる。そしてそうなったが最後――)」

イムヤ「(ろくに艦隊演習もさせてくれないまま、東部、オリョールの海へ沈められる)」

イムヤ「(廃材を集めている子たちは、自分の休みのために頑張っているけど。
     そうすることで、自分と同じ境遇に叩き落される潜水艦の子が増えることになる)」

イムヤ「(まるで、鉱山に閉じ込められた鉱夫のように――使われるのが、潜水艦娘。オリョール海から出られない)」


イムヤ「(……でも、司令官は違う。鎮守府が回っているのは、わたしたちのおかげと言うけど、本当は苦しいの、知ってる)」

イムヤ「(そんな司令官が、いま――――)」


 『いやあ、スカラベっていうんですよ。ふんころがし。すごいですよねスカラベ。なんか防御力上がりそうなんだもん』


イムヤ「(――――こんなバカになっている)」

イムヤ「ああもうっ、人がせーっかくシリアス醸し出してるときにーっ!」

イムヤ「わたしがしおい見つけ出してやるから、その馬鹿な口さっさと閉じなさいよーっ!!」


――――

――


105: ここまでです。残りはまた書いてそのうち投稿します ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/11(日) 05:11:34.89 ID:Tbod1Gqpo




 提督『――というわけで、いったんCMです。またのちほどお会いしましょう』


明石「……オッケーです! おもいのほか一般の視聴者が多かったので、深海棲艦の説明CD流して時間食います!」

提督「お願いします。…………はあ、マジでどうするんですかコレ。もうふんころがしストーリーのストックないですよ」

提督「そもそも艦娘の日常が欲しいのにふんころがし語ってどうするんですか。もうなにもわからない」

明石「諦めないでください! それに提督、本日の放送、現段階の時点ですでに、昨日の総視聴者数を上回っています!」

明石「みなさんこの放送に興味を持っていただいているみたいですよ! 良かったですね、提督っ」

提督「そうですか、それは良かったです。本当によかった……――期待してラジオ点けたらふんころがし談義だった以外はな!!」

提督「俺だってびっくりしますよ。艦娘の日常聴けるんだよって言われて。へーって言って。そんでラジオ点けたらふんころがしですよ」

提督「頭おかしいんじゃないですか馬鹿なんじゃないですか」

明石「お気をたしかにーっ!! そ、それに、現在アンケートを集計中ですけど、思いのほかふんころがし談義も人気が高いですよ!」

明石「ほ、ほら、このたくさんのお便り、全部ふんころがしですよ!」

 “ふんころがし期待” “これは興味深いラジオですね” “家族一同で楽しんで聴いています”

提督「バカじゃないの!!!」


112: 放送直前まで入りました。安価はとりません ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:39:02.39 ID:7FvMurJlo



 提督『フンコロガシというのはか弱い生き物です。脳は小さく、視力も弱い――』

 提督『ですが、本当に不思議な生き物です。生物学の分野では、このフンコロガシに対しての研究も進められております』

 提督『スウェーデンの大学もそのうちの一つです。
    さまざまな方面、角度からフンコロガシを研究しており、また、フンコロガシの生態を解明することによって、古代文明の輪郭が見えてくるのではないか――』

 提督『そうした研究に、情熱を捧げている人物たちです』


朧「――お待たせ。アイスティーしかなかったんだけどいいかな?」コト

潮「ありがとう、朧ちゃん」

曙「なんでこんな日にアイスティーなのよ……と思ったけど、この駆逐寮の談話室、暖房効きすぎてあっついのよねー」

曙「ホント、普段は資材を節約しろとか言っときながらこのザマ……あいつ、なに考えてんのかしら」

綾波「司令官さんは、綾波たちが快適に日常を過ごせるようにいろいろ気を揉んでいるみたいです。
   とくに、駆逐艦の子たちはまだ子供だからと、体調を崩さないようといろいろ考えているようですよ」

綾波「綾波にも直接、いまの生活になにか不満があるかどうかを聞いてきたこともありましたし……」


漣「サッー!」

潮「……漣ちゃん、それなあに?」

漣「ん? これはね、ガムシロップ! 漣にはまだまだ、ストレートのアイスティーは苦くて飲めないから……」

朧「市販で売っているものは苦いもんね」

敷波「お、ガムシロっていったら甘くなるやつ? いいなぁ、どこにあったの? あたしも欲しいんだけど、それ」

漣「ん。あのお茶とか紅茶とか入ってる棚あるでしょ? そこ開いて右上にたくさん置いてあったよ」

敷波「おっけ、ありがと。あたし取ってくるけど、ほかに欲しい人いる?」

潮「はいっ」

綾波「あやなみっ! 綾波もお願いします!」

敷波「二人だけかな? 曙はいらないの?」

曙「……なんでよ。これぐらい苦くもなんともないっての! みんなお子様なんだからっ」

曙「それに、あたしはこれぐらいがちょうどいいし。ガムシロップなんて……ふん、冗談じゃないわ」


敷波「おっけー、あたし、綾波、漣、曙で四つね。すぐ取ってくるから待ってて」

曙「ちょっと、なんでよ! いらないって言ってるじゃない!!」

朧「あ……ごめんね敷波。わたしがお茶持ってくるときにいっしょに持って来ればよかったのに」

敷波「気にしないで。それに人数分のお茶持ってくるだけで手いっぱいだったろうし……」

朧「ありがと。曙もごめんね、気が利かなくて」

曙「わたしはべつに苦くっても飲めるしぃー!!」



113: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:40:24.03 ID:7FvMurJlo

漣「うん、おいしい!」

潮「朧ちゃんはよかったの? その、ガムシロップ……」

朧「そうね。いつもなら入れてたんだけど……今日はなんとなく、こっちの気分だったかなって」

漣「あーあるよねーそういう日」

曙「わたしもそういう日だったんだけど! どうしてくれんのよ!」

漣「あーあるよねーそういう強がり」

曙「強がりじゃないわよ!」

綾波「曙さんはいつも見ていてほのぼのしますねぇ」

朧「そうだね」

曙「勝手にわたしでほのぼのしてんじゃないわよーっ!!」


 提督『そこで、驚くべき研究結果が出たというのはみなさんご存じでしょうか!』

 提督『なんとあのフンコロガシに対し、プラネタリウムを使用して研究を重ねたところによりますと』

 提督『脳も小さく、視力も弱い、あのフンコロガシが――。
    なんと“天の川”の輝きを手掛かりに真っ直ぐ進み、ほかのライバルのいる場所に円を描き、戻らないように移動していることがわかったのです!』

 提督『いや、アザラシや一部の鳥、そして人間が星々を道しるべに生きてきたことは知られておりますが――』

 提督『まさか、あの天の川を手掛かりにする生物は、このフンコロガシが初めてなんです!
    そして、丸めたふんの上に登って、ちょっとしたダンスを天の川に捧げる場面も発見されたり……』


曙「ていうかなんなのよさっきからこの放送!」

曙「前座のトークが長すぎるのよ! なんで十数分にわたってフンコロガシのくっだんない話を聴かされなくっちゃいけないのよ!!」

朧「そう? 普段聴かないような話だから、わたしはちょっと興味深いんだけど。
  提督って、意外とこういう小ネタというか、小話たくさん持ってるよね。博識なのかな」

潮「え、でも、こういうのって台本通りなんじゃ……?」

曙「こんなのは台本じゃないでしょ。だーれがこんなクソムシの話にオッケー出すのよ」

綾波「く、くそむし…………」

漣「曙ちゃん。そういうのはフンコロガシファンの人に失礼だから」

曙「フンコロガシにファンなんていてたまるかっての! ――ったく……ホントうっざい!」


114: ちょっと変わった書き方なので、違和感あれば言ってください ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:42:08.36 ID:7FvMurJlo



 提督『古代エジプト文明の人間は、フンコロガシが転がし続けている多摩――失礼、玉を太陽に見立てていた、という文献も残っています』

 提督『なんだかすごいですよね。フンコロガシはそんな時代から、天の川へ向けて真っ直ぐに生きていた、というわけです』

 提督『我々も時折、人生を見失ってしまうことがありますが――』

 提督『そういうときは、迷いを持たぬ小さな彼らを見習って、曲がらずに生きたいものですね』


木曾「いきなりなんか言い始めたぞあいつ」

多摩「なぜか多摩にまで飛び火してきたニャ!?」

球磨「うまいこと言おうとして言えてない感が半端ないクマ」

北上「ほらほら、十分経ったから交代の時間だよー、多摩ちゃん、どいてどいて! 火が飛んできたならもう寒くないでしょ!」

多摩「まだニャー! まだ五分も経ってないニャ!」モゾモゾ

北上「あっ、こら! ……コタツで丸くなるなんて、やっぱり猫じゃんか」

        猫じゃないニャ! >

球磨「多摩、往生際が悪いクマ。約束をちゃんと守らない子に育てた覚えはないクマ」

           いやニャ! >

球磨「まったくこの子は……。木曾、こっちは交代クマ」

木曾「さんきゅ、姉さん」

北上「もー。かくなるうえは…………」

北上「大井っち!」

大井「おまかせください!」


大井「ほらほら多摩さん、約束のお時間ですよー金剛さん風に言うとプロミスタイムですよー」ズルズル

多摩「にゃあああああぁぁぁぁぁ…………」ズルズル


115: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:42:51.20 ID:7FvMurJlo

北上「大井っちありがとー。……ふう、生き返った気分だよ~」

大井「いえいえ! 用があったらすぐに言ってください!」

多摩「いきなり引きずり出すのはやめてニャ…………」

球磨「約束を守らない多摩が悪いクマ。……ほら多摩、暖炉の前が空いてるクマ。一緒に行くクマ」

多摩「おお…………でも、寒くて一歩も動けないニャ…………」

球磨「もう……仕方ないクマ。お姉ちゃんが運んであげるクマ」


球磨「くまくまー」コロコロ

多摩「にゃああぁぁぁぁ…………」コロコロ


大井「…………」

木曾「…………」

北上「…………」


北上「――大井っちと木曾っちさー。考えてること当ててあげよっか? 当たるか当たらないかで賭けでね」

木曾「お断りだ。絶対に外さないだろ、それ」

大井「いくら北上さんの頼みと言っても……ハナっから勝ち目のない争いは、しないようにしていますので」

北上「そっかー、そりゃ残念だー」




116: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:44:21.99 ID:7FvMurJlo

北上「…………あー、あったまるねぇ。コタツはわびさびだねぇ…………」

木曾「……お前、結局、オレらが考えていたことって……」

北上「――言っていいの?」

大井「だめです」

木曾「ふたりの名誉のためにも、黙っといてやれ」

北上「だよねぇ…………」






北上「――――球磨さんは、フンコロガシだった…………?」


大井「あああぁぁ……ぁぁぁー…………」

木曾「おまえ、黙っといてやれって言っただろ!!」

北上「いやだって、そりゃ言いたくもなるでしょ! さっきから延々とフンコロガシの話されてるんだよ!!」

北上「球磨さんだってあの運び方、放送聴いてパッと思いついたやつでしょぜったい!!」

木曾「いや、にしたっておまえ……」

大井「……球磨さんも多摩さんも、暖炉という“熱源”に近づいたり、フンコロガシ談義の最中に転がされたりしていますし――」


北上「――球磨型軽巡洋艦は虫だった……?」


木曾「虫説やめろ! オレらまで被害を受けるだろうが!!」

木曾「そもそも、仮にも同型艦のワンツーにその扱い。礼を失しているぞ!」

北上「……たしかに。これ以上はやめとこっか」

大井「さすが北上さん。引き際を心得た賢明な判断です」

木曾「いや、明らかに手遅れだが……ま、この話が終わるならそれで……」

北上「大井っち、ミカン剥いてあげよっか」

大井「ぜぜぜぜぜひお願いしますううううぅぅぅ!!」

北上「あはは、大井っち必死すぎ。そんじゃミカン……っと」



117: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:44:48.26 ID:7FvMurJlo






木曾「――なあ、球磨姉さんがフンコロガシなら、多摩姉ぇは…………」

北上「……もおおーっ! なんで言うのさ!!」

大井「最低ですね木曾さん。礼を失していますよ」

木曾「悪いっ! これはオレが悪かった!! だからそんな眼でオレを見るなぁーっ!!」

118: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:45:40.46 ID:7FvMurJlo



時津風「なんでしれぇ、フンコロガシでガチトークしてるの……」

初風「たしかに勉強になるところも、あることにはあるけど……そろそろ苦しくなってきたわね」

雪風「ま、まさか、今日の放送はこのままずっと、なんてことも……?」

天津風「そんなこと、あってたまるもんですか!!」


舞風「んー……ところで、今日のゲストの予定だったひとって誰なんだろ? 野分知ってる?」

野分「いえ、野分はなにも。……だけど、想像することは出来ます」

野分「指名された艦娘は、司令の執務室で夕食ですから。食堂にいなかった艦娘――となるはずです」

野分「今日の食堂、ざっと見たところ、確認できなかったのは――」

浜風「鳳翔さん、雲龍さん、それと夕張さんと……しおいさん、この四名ね」

舞風「ふうん……いつもいない人ばっかだから、誰が指名されてるのかわかんないね」

舞風「あたしが指名されたら、執務室からこの華麗な舞を発信してやるのにさ!」クルン

野分「この放送はビデオ配信ではないから、いくら踊っても無意味よ」


 提督『フンコロガシも、なかなか詩人――いえ、詩虫ですね。彼らのように、ロマンティックに生きたいものです』


谷風「意味不明すぎワロタ」

天津風「あっ、そろそろヤバいわね。あの人、困ったらワケわかんないこと言いだすでしょ」

初風「さっきからなにを電波に乗せているの、あの人は…………」



119: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:47:40.82 ID:7FvMurJlo



浦風「なー磯風ぇ~。そろそろ機嫌なおしてくれんかのー」ユサユサ

磯風「しなだれかかってくるな、わずらわしい」

浦風「今日の夕飯、いつもと違って普通に食べれたけぇ、感謝しとるよぉ~」

磯風「“いつもと違って”、“普通に食べれた”、とはずいぶんなお言葉だな、浦風。
   お前には、この……我が父母が聴いている前でけなされたこの気持ち、わからんのだろうな」

磯風「おいたわしや、母上――あの放送を聴いていた、この磯風の家族は、いったいどのような気持ちだったのだろうな……」

浦風「じゃけぇ、悪かった言うとるじゃろが……」


磯風「この磯風が、国民たちの間で馬鹿にされている間、浦風、お前は間宮さんの新作パフェを頬張るのだろうな」

磯風「それは、この磯風の恥で食っていると同義だぞ浦風。みっともないと思わんのか」

浦風「そうじゃけ、悪かったと……」

磯風「――なんだ浦風その顔は。いたく不満げだな、開き直りか」

浦風「さっきからずぅっと悪かった言うとるじゃろーが! なしてそんな、ずっと怒っとるんじゃ!」

磯風「ふん、お前にはわからんのだろうな、この磯風の痛みが。いまの磯風の恨み、ナメないでもらおう」フンス

磯風「なしてそんな自信ありげなんじゃ…………」


磯風「ふん」

浦風「磯風ぇ~……――あっ、そうじゃ! なーなー磯風ぇ」

磯風「なんだやかましいな。この磯風、子供だましのご機嫌取りは通用せんぞ」

浦風「まだ子供じゃろーが……そうじゃのぉて――」ゴソゴソ

浦風「――――これじゃっ!!」



120: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:49:49.18 ID:7FvMurJlo

磯風「なんだそれは。“かたたたきけん”でもくれるのか? ふん、結局は子供だましではないか」

浦風「ふっふっふ……磯風なぁ、これなぁ……“甘味処・間宮”の“一品無料券”じゃっ!!」

磯風「――なんだと」

浦風「今朝、目が覚めたらうちのおでこに貼ってあったんじゃ!」


磯風「…………なにかと思えば、磯風の恥をダシにして得た切符ではないか。なんだ、感想でも聞かせてくれるのか?」

浦風「まだ言っとるんかそれ……じゃのうて、磯風。――お前も気づいとるんじゃろ? この紙を、ここで出した意味」

磯風「…………」

浦風「ホントは、こっそり使うてしまおかゆーて考えとったんやが……」

浦風「やっぱし、ちと気分悪ぅてなぁ。お詫びの意味も込めて、磯風。この券、受け取ってくれんじゃろか?」

磯風「…………」


磯風「い、らん。けっきょく、自分の恥を食っているのと変わらんではないか。
   それに、あんな……あんなカロリーの高そうなものを食べてしまっては、余計なバルジが出来てしまう」

磯風「だから浦風、それは浦風が使うと良い。この磯風、お前が幸せそうに頬張っているのを、真正面から恨めしげに眺めていてやる」

浦風「ガンコなやつじゃの…………そか、わかった」

磯風「それに、それでおさめたら、磯風が間宮券欲しさに意見を曲げたと思われてしまうではないか!」

磯風「なんだ浦風、この磯風が、その間宮券で意見を曲げるような人間に見えたか? 真っ直ぐ生きる“フンコロガシ以下”とでも言いたいのか?」

浦風「なにもそこまでは言うとらんじゃろ!」


浦風「もぉ……そこまで言うなら、仕方なぁね。うちがありがたく使わせてもらうことにするけぇ。ありがとな」ゴソゴソ

磯風「あっ」

浦風「いやぁ、実はうち、あんなたくさんフルーツ使ったパフェなんか食うたことのぅてなぁ」

浦風「きっと、一口食べるだけでとろけるような味わいなんじゃろなあ~」

磯風「うっ……むっ……」

浦風「磯風ぇ……ほんっとーに、いらんのけ?」

磯風「ぐっ…………」

磯風「(くそ、どこかのクソ元帥のような顔を…………!)」


磯風「――もらうに決まっているだろう! よこせっ」バッ

浦風「うひゃっ! ……磯風ぇ、ほんとーは欲しかったんじゃろぉ? んん?」

浦風「磯風は欲しがりじゃけぇなぁ~?」

磯風「やかましいっ! 浦風! 今度時間ができたら、この間宮券を使いに行くぞ!」

浦風「え、うちもか?」

磯風「当たり前だろう! あんなものを一人で食べきっては、磯風がドラム缶のようになってしまう!」

磯風「浦風は、その…………この磯風より、胸が少し太っている! だから、これ以上太っても大差ないだろう!」

磯風「“ふたりで”はんぶんこ、あの巨大なパフェを切り崩すぞ!」


121: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:51:17.96 ID:7FvMurJlo


浦風「…………んふ」

浦風「素直やないんじゃのう……もぉ、磯風は……ふふっ」

磯風「……ふん、なにがおかしい。もとはと言えば、お前が」


浦風「磯風、ありがとぉな」


磯風「う……む……」

磯風「――だが忘れるな! この磯風、いつか必ず“料理上手”と言われる女になってみせる!」

磯風「いまだ失敗も多いが…………練習に練習を重ね、いつかはお前をも追い抜いてみせるぞ!」

浦風「そっか、それは楽しみじゃけ」

磯風「うむ。すぐに唸らせてやるからな、覚悟しておけよ」


浦風「…………ちなみに、その失敗、っていうのは?」

磯風「――うむ。ご飯を焦がした!」

浦風「あかん、やっぱ才能ないわ」



 「なんだと!? ちょっと手順を間違えただけで、才能が――とまで言われる筋合いはないぞ!」

 「どこを間違えたらご飯を焦がすんじゃ! やっぱその間宮券返せ! そんな腕前の持ち主に食われるパフェが気の毒でならんのや!」

 「なにを言う! これはもう磯風のものだ! そもそも、よその人間をネタ笑いものにするお便りを出すなど言語道断!」

 「そっちこそなに言うとるんじゃ! “そもそも”で言ったら、磯風がそんなにクソみたいな料理の腕前してなければ、あんなお便り出さずに済んだんや!」

 「クソは言いすぎだろう! 撤回しろ!」

 「クソでもまだソフトな表現じゃ!」

 「浦風お前!! 誰がフンコロガシだっ!!」

 「じゃけぇそこまでは言うとらんじゃろー!!」



――――

――



122: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:52:49.16 ID:7FvMurJlo



イムヤ「――――はあっ、はあっ…………!」

イムヤ「(――だめだった。鎮守府の近海をすこし覗いてみたけど、こんな時間じゃホタルイカのコンサートしか拝めなかった)」

イムヤ「(艤装に暗視アシストの機能がついていても、いむやみたいな古い機構の潜水艦じゃ、限界がある)」

イムヤ「(でも、いくら古いって言ったって、しおいみたいなピーキーな機体、見つけられないわけないのに……)」

イムヤ「…………ああ、もうっ、じゃまっ!」

イムヤ「(潮がかった髪が、顔に貼りついて離れない。頬を伝って流れる海水が、へんに煩わしい)」

イムヤ「(もう一回、今度はもっと深いところまで潜ってみるのも――)」

イムヤ「(いや、それはだめ。あんまり深いところに進むと、いくらこの時期とはいえ、深海棲艦の出現地帯にまで足を踏み入れてしまうかもしれない)」

イムヤ「(へたに刺激して、もし、対潜水艦仕様の駆逐艦や軽巡洋艦の群れにぶつかったら…………)」


イムヤ「(海はだめ。そもそも、もうフタマルマルマルも半分を過ぎたころ。しおいだって、もうとっくに戻っているんじゃ)」

イムヤ「(……でも、戻っているったって、いったいどこに?)」

イムヤ「(艦娘食堂や、総合談話室。入渠ドックや潜水寮なんかの主要エリアは――明石さんが、おそらく妖精さんを放っているだろうし)」

イムヤ「(かといって、それ以外ならどこ? こんな時間に開放されている施設は、そう多くない)」

イムヤ「(だいたいの、艦娘向け施設は鎮守府庁舎内や、すぐ近くに置いてあるから。
     あってせいぜい、鳳翔さんや間宮さん以外の食事処、ちょっと専門的な百貨店――でも、そういうのは、こんな時間には空いていない)」

イムヤ「(ほかには、ええっと…………資材の搬入エリアとか、ちょっと大きめのプールしか――)」

イムヤ「(――――っ!!)」


イムヤ「(そういえば、あそこのプール施設には……自動的に、浄水されるプールがあったはず)」

イムヤ「(しおいはものぐさで、シャワーを浴びるのも面倒くさがる子だから…………)」

イムヤ「(もしかすると、そこで――)」

イムヤ「――――いかなくっちゃ!」ダッ


イムヤ「(もしかすると、もしかするかもしれない! 司令官、まってて。いまいむやが、助けてあげるから――!)」




123: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:54:10.97 ID:7FvMurJlo


 ガララ

イムヤ「はっ、はっ、はっ、はぁっ……」

イムヤ「しおいっ! いる!? いるなら返事してっ!?」


「――――っ!?」ビクッ

イムヤ「――ぁ……、よかったあぁ…………もうしおいっ、いるなら返事しなさいよ!!」


しおい「…………い、いむやちゃん……?」


イムヤ「そうよ、ほかに誰がいんのよ。それよりしおい、あなたこんな時間までどこに行ってたの!」

イムヤ「わたし必死で探しまわってたんだからっ」

しおい「そ、そっか……ごめんね? さっきまでちょっと外で潜ってて……さっき帰ったばっかり、で」

イムヤ「……? なによしおい。そわそわしてるけど、どうしたの?」

しおい「えっ!? えーっとー……いま着替えちゅう、だから。いむやちゃんが見てると恥ずかしいだけっ」

イムヤ「……なによあなた。いままでさんざん一緒のお部屋で着替えたこともあるっていうのに」

しおい「恥ずかしいったら恥ずかしいの! だからいむやちゃん、外で待ってて!」グイグイ

イムヤ「ちょっ、もう、押さなくったって出てくわよ――っていうかあなた、なんかにおうわよ!?」

イムヤ「それに、なんだかヌメヌメするし……ホントに浄水プール入ったの!?」

しおい「え、あ」


しおい「……えへ、じつは、潜ってるときに偶然燃料を見つけちゃったから。持って帰ろうと思って……」

しおい「そしたらスッテーンってこけちゃって。ちょっとかかっちゃったのかな。ごめんね、気にしないで」

イムヤ「ちょっとどころじゃないわよ! 今すぐ、さっと潜るだけでいいから浄水プール入りましょ! じゃないと何日かはそのニオイ残るんだからっ!」グイッ

しおい「ぁ――――待って!!」

イムヤ「わっ」ビクッ

しおい「あ……ごめんね! いまちょっと、プールのほうもベトベトになってて……。
    あとでわたし一人で掃除するから、掃除し終わったらそのときにゆっくりどぼーんすることにする!」


124: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:55:05.16 ID:7FvMurJlo

イムヤ「……あー、そうだったの。そりゃたしかに入れないわね。
    でも、あなた一人で掃除する、なんて水臭いわよ。……あなたはいま油くさいけど」

イムヤ「わたしだけでも手伝うから。燃料こぼしたんでしょ? 一人じゃ到底拭ききれないわよ、それ」

しおい「い、いいからっ! とりあえず、このままだと寒くって風邪ひいちゃうから着替えさせてよおっ」

イムヤ「あ、ごっ、ごめんね! すぐ出てくからっ!」

イムヤ「あっ、それと! 司令官が呼んでたから、着替え終わったらすぐに連れてくから!
    そのヌメヌメしたもの拭いときなさいね! 匂いの方は……香水かなにか、さっと振りかけてあげるからっ!」

 バタンッ








イムヤ「(…………)」

イムヤ「(……うちの近海で、燃料なんてとれるエリアあったかな?)」


しおい「(あーあ、どうしよっかな…………これ)」



125: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:56:22.57 ID:7FvMurJlo




 提督『つまりフンコロガシとは無限の可能性であり、一歩違えば我ら人類がフンコロガシになっていたのではないかと――』チラッ


明石「(ばつ)」

提督「(…………)」

提督「(マジかよ…………これ二回目の放送だぞ…………)」

明石「(泣き言を言ってもなにも変わりませんから、頑張ってください)」

提督「(…………言ってくれるわ、マジで)」


 ドタドタ バタバタ


明石「――――っ!」

提督「――――きたかっ!?」


 バタンッ


提督「(――執務室の扉が開く音を聞いた瞬間。
    なにかがサーっと堰を切ったように流れてきて、すべてがスローモーションのように見えた)」

提督「(扉が開いて、真っ先に飛び込んでくるピンク色の髪――――)」

提督「(その、後ろ手に引かれた、小麦色に焼けた、少女の姿――――)」


126: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:57:07.09 ID:7FvMurJlo



イムヤ「司令官っ! おまたせっ!」

しおい「伊401、遅ればせながら、推参しましたっ!」



提督「(その少女の姿かたち、発されるその声を聴いた瞬間――)」


提督「お、おお――――」


提督「(――駆け巡る脳内物質っ…………!)」

提督「(β-エンドルフィン……! チロシン……! エンケファリン……!)」


提督「お、おおお、おおおおぉぉ――――」

明石「あ、あの…………提督? だいじょうぶ、ですか?」

イムヤ「この状態は――やばっ! 提督、しっかりしてっ!!」ブンブン


提督「(バリン……! リジン、ロイシン、イソロイシン……!)」


127: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:57:43.96 ID:7FvMurJlo

明石「どっ、どうなってるんですか!? 提督が、直立不動のまま――あ、まずいっ! CM入れないと、この様子がダダ漏れに――」カタカタ

イムヤ「司令官はたまに、危機に瀕した状態から脱出するとこうなるの!」

イムヤ「こうなったが最後、何時間か動かなくなることも……!」

明石「げ――。いむやさん、放送中に、提督がそんな状態に陥るのは非常にマズいです! なんとかお願いしますっ!」

イムヤ「な、なんとかって言っても! こうなったら榛名さんだって対処できないのに――」


しおい「えっと、あの、提督――――おこって、ますか?」

提督「――――」




提督「怒ってるわけないだろおおおおお!! しおい逢いたかったぞおおおおおおおっ!!!」

しおい「わぷっ……」


提督「寂しくて!!」

提督「恋しくて!!!」

イムヤ「涙そうそうかっ!」


128: ここまでです。つぎ放送編なので、それが終わったら安価になると思います ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/12(月) 02:58:29.16 ID:7FvMurJlo



 『しおい逢いたかったぞおおおおおおおっ!!!』

 『わぷっ……て、提督! ちかっ、ちかいよ!』

 『遠く離れてたまるものかよおおぉぉぉ……しおい、しおいいいいィィィィ!!』

 『んぐふっ……』

 『しおいはいい子だなああああ! すべっすべだあ!!』

 『ちょ、提督、あんまり触っちゃ…………! そ、それにしおい、臭くない?』

 『しおいが臭いわけないだろお! はああマジ助かったああぁぁぁ!』



榛名「…………」

金剛「…………」

霧島「…………」

初雪「(アカン)」



135: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:14:24.48 ID:HcHECrivo



 提督『さて、フタマルマルマルも終わりの刻が近づいてまいりました。フタヒトマルマルの足音が聞こえ始めてきたころ』

 提督『そういえば、番組開始直後にですけど、そのー……カロリーの話をしたじゃないですか。正月太りってやつなんですけど』

 提督『あれ、正月太りっていうのはですね――というより、正月に限った話じゃあないんですけど』

 提督『“脂肪がつく”というのはですね、みなさん、食べすぎたら“その翌日”には摂取したカロリーが脂肪に変わると考えていませんか?』

 提督『だから、よく食べた日には、よく動く。鎮守府近郊を走ったり、府内施設で筋力トレーニングに励んだり――』

 提督『それもたいへん良いことです。しかし、食べ過ぎた翌日に太る……たしかに、翌日に体重が増えていると感じること、多いと思います』

 提督『ですがそれ、実はほとんど水分なんです。食べ過ぎた翌日に、太ったと感じるそれは、ただの“むくみ”なんですよね』


明石「それにしてもいむやさん、本当に助かりました。提督、いまにも泣き出しそうな雰囲気でしたので……」

イムヤ「いいのいいの、気にしないで。司令官のお尻を持つのも、わたしたちの仕事なんだから」

イムヤ「それにしても、本当にしおいだったのね、今日のゲスト。……ホントちょうどよかったわね、夕飯食べてないでしょ?」

しおい「うん! もうお腹ぺっこぺこ!」

イムヤ「……それならそうと、潜ってないでさっさと帰ってくればよかったのに」

しおい「あ……あはは、まあ、ちょっとね」

明石「わたしもたいへんだったんですよ。夕食のとき、食堂に帰ってきているのではないかと思って、わざわざ食堂でずーっと待っていたんですよ!」

明石「潜り仲間のまるゆちゃんも、あきつ丸ちゃんと二人でぽつーんと食べていましたし……」

イムヤ「わたしも帰ってきてるものだと思ってさ。食堂行ったらしおい、いないんだもの。さっと食べてすぐにしおい探しに出てっちゃったんだから」

しおい「ごめんね? 今日はもう、部屋に置いてあるお菓子だけでもいいかなって思ってて」

明石「だめですよ、そんな食生活は。……ですが、やっぱりこの時間に放送するのはあまり良くないんでしょうか?
   昨日みたいに、みんなが食堂に会しているヒトキューマルマルの方が都合がいいのかも……」

イムヤ「あー、今日みたいにハチマルマルマルからだと、みんな自室か談話室だもんね。
    サプライズゲストみたいな感じにしたいなら、放送で呼び出しをかけるわけにもいかないし」



136: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:15:23.17 ID:HcHECrivo


 提督『食べたもの自体のカロリーは、だいたい腸に入ってエネルギーになるんですよ。
    そんで、食べ過ぎ……余分ですね? 余分は、糖分として肝臓に蓄えられることになっているんです』

 提督『この糖分は、頭を使ったり身体を動かしたりで消費されていくんですが……』

 提督『この、肝臓に蓄えられる糖分。だいたい一食から二食分まで蓄えられるんですね。
    それ以上になってくるとパンクしてしまうので、べつの部分に行き場を求めて定着していきます。これが、“体脂肪細胞”なんですよ』

 提督『じゃあその体脂肪細胞、いつ脂肪に変わるのか? ――それは、なんと“二週間後”』

 提督『今日食べ過ぎちゃったな……じゃあその分運動しよう! ――それだけだと、ちょっと弱い。
    食べ過ぎたなら、その後の二日三日で調整して、肝臓に放り込まれているうちに燃やし切ってしまうのが良いんです』


愛宕「(かりかり)」

高雄「(めもめも)」


摩耶「お、おい鳥海……姐さんたち、今までにないくらい真剣な眼差しなんだが」

鳥海「しっ、聞こえます! ……あのふたり、体型の維持には人一倍気を遣っているみたいです」

鳥海「わたしたちの見ていないところで、いろいろと努力しているようですよ」

摩耶「ふうん…………」

摩耶「努力ったってなぁ……なにも、あんなに鬼気迫るこたぁないだろ。
   だいいちあの二人、べつに太ってるわけでもねーだろーが。気にしすぎなんじゃねぇの?」

鳥海「いえ、なにやらあの二人、太りやすい体質をしているみたいで……。
   少しでも気を抜くと、むかし入っていた服が入らなくなる、とかでお悩みのようです」

摩耶「はあ、そんなもんか……あたしはべつに、食っても太らねぇからなぁ。あんましよくわっかんねーや」

鳥海「しっ! そんな大きな声じゃ聞こえ――――」

摩耶「あんだよ、これくらいどうってこたぁ――――」


高雄「…………」

愛宕「…………」

鳥海「」

摩耶「ひっ! わ、悪い! 悪かったからぁ! ごめんなさいっ! やだぁっ――」



137: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:16:17.91 ID:HcHECrivo


 提督『じゃあ、食べ過ぎてしまったらどうするか? そういうときは、脂質を出来るだけカットするんです。
    たとえば、揚げ物や炒め物を控えて、蒸し物や煮物を食べたり。脂身の少ないお肉や魚を選んだり――』

 提督『脂質をカットしたいときは、こっそり調理場にいる妖精さんに耳打ちするとよいですよ。
    調理担当の艦娘には伝えず、頼んだ艦娘の食事の脂質をできるだけカットしてくれるよう、融通してくれますから』

 提督『カットと言っても、タンパク質も減らしすぎは害になります。筋肉が落ちてしまいますからね』

 提督『そういうときは、大豆食品などを活用しましょう。豆腐ダイエットってことばもありますからね。豆腐メニューを中心に注文すると良いでしょう』


陸奥「……なにこのヘルシートーク。さっきのスカラベと比べたら雲泥の差なんだけど」

伊勢「わたしたちみたいな女の子には、こういう話題の方がありがたいわねぇ」

比叡「……うちにいたころ、提督が調理担当だった日。玉子や豆腐中心のメニューだったのは、提督なりの気遣いだったんでしょうか」

金剛「Huh! さっすがテートクネー。ヒエーとキリシマは肉料理ばっかりだから、そういうところも考えてくれてたってことネー」

霧島「提督、女子力高っけぇ…………」

榛名「さきほどのスカラベの話、この雑学量……さしずめ、提督は“scholar”といったところでしょうか」

日向「……スカラー、“学者”か。なかなかうまいことを考えるじゃあないか」


 提督『もちろん、食事だけの調整じゃなくて、運動や勉強による糖質の燃焼も大事ですよ!』

 提督『さあ、走れ走れ! お正月に“おもちタンク”と化した少女たちよ!』

 提督『諦め、諦観――――妥協の先には、眩しい体重が待ってるぞ!』


山城「すごくぶん殴りたいです」

日向「まあ、そうなるな」

扶桑「山城、落ち着いて…………」



138: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:17:13.33 ID:HcHECrivo

イムヤ「それじゃいむや、やることやって部屋に戻ることにします。司令官っ、放送は聴いてるから、がんばってね」

提督「――おう、悪かったな。本当に助かった」マイクオフ

明石「ありがとね、いむやちゃん。ゆっくり休んでいらっしゃい」

しおい「いむやちゃん、またあとでねーっ!」ブンブン

イムヤ「しおいは元気ねぇ……。ふわぁ……んっ――はぁ、わたしはもう、瞼が重くてたまんないわ……」

イムヤ「それじゃ、失礼しましたぁ……」バタン


明石「いむやちゃん、眠そうでしたね……お疲れでしょうか」

しおい「うん、しおいを探して走り回ってくれてたみたいだから…………」

提督「(…………夕食まで、寝てたんじゃなかったのか?)」


 提督『はてさて、ダイエットの話もほどほどに。そろそろ終わりの時間が近付いてまいりました』

 提督『みなさん、“ころがし裏らじお”、ご清聴ありがとうございました。
    たくさんの応援のお便り、僕の励みになりました。――――ほんとうに、ありがとう。ありがとう』

 提督『ここからは引き続き、“ちんじふ裏らじお”をお楽しみください!
    それではみなさん、“ころがし裏らじお”。またどこかでお会いすることがありましたら! ばいばいっ!』チラッ


  ――ころ~ ころ~ こーろがっしった、フー! こーろがっしった、フー!


明石「――はい、ジングル入れました。数十秒後に再開です。……しっかし、ずいぶん綺麗に繋げたものですね」

提督「あれ以上続いてたら、自分の気が転がるところでしたよ。――しおい、準備はいいか?」

しおい「うんっ! ――えっと、このプログラムの順番通りに進むんだよね?」

提督「ああ、だけどしおいのちょっとした感想とか、そういうのもアドリブで入れてくれてもいいんだぞ。
   この台本はあくまで“目安”であって、この通りに動かなくっちゃいけないとか、そういうのは無いんだからな」

しおい「りょーかいっ!」




139: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:18:57.44 ID:HcHECrivo


 提督『さー時刻はフタヒトマルマル! 夜の帳が降りたころ、ここ提督執務室では――――』


 ガチャン


ゴーヤ「てっいとくーっ! 潜水艦隊、ただいま帰還でちっ!」

イク「なのなのね~~っ!」

はっちゃん「ふたりともっ、いまはっ…………!」

提督「おわっ! ――お前ら、いまは放送中だぞ! 時間を避けるか、もっと静かに入ってこい!」


明石「ていとくっ、マイクの電源を!」

提督「おっと――危ないあぶない。それでなんだお前ら、揃いもそろって」

ゴーヤ「オリョール海への出撃報告書でちっ! あんまり時間なかったから、簡単に書いたんだけど……」

明石「あ、はい、それはわたしの管轄ですので、こちらで受け取っておきますね」

提督「お願いします。……よし、お前ら帰ってよし。食堂のほうに、お前らのぶんの夕食を頼んで置いてもらってあるから、先にそっち寄ってこい」

はっちゃん「Danke!」

イク「それはありがたいんだけどぉ~……ここで提督の放送姿、眺めてたらだめなのね?」

ゴーヤ「あっ、それごーやも見たいでち! 昨日の放送の段階で、どんなツラして放送してるのか興味あったの!」

提督「ツラってお前ぶっ飛ばすぞ」


明石「わかりました! ただし、みんな黙って見ていてね? これも一応、お仕事だから邪魔しないように!」

提督「……明石さん? いいんですか?」

明石「いいもなにも、もう放送止めてだいぶ経っちゃいますよ! ここで押し問答なんかして時間を食われるわけにもいきません!」

提督「…………それもそうか。お前ら、見ててもいいけど喋らずに黙ってろよ。お前ら喋り出すとキンキンうるせーんだわ」

提督「椅子ならそこの壁にパイプ椅子を掛けてあるから、自由に使え」

提督「あと水着のままじゃ寒いだろうから、そこの押入れから毛布でも取って巻いてろ。まったく…………」

イク「憎まれごとを言いながらも、しっかり気を遣ってくれる提督は好きなのね。ありがと!」

はっちゃん「でははっちゃんが毛布を取ってきますので、ごーやさんは椅子を並べておいてください」

ゴーヤ「りょうかいでちっ」


140: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:20:33.49 ID:HcHECrivo



 提督『えー、たいへん失礼いたしました。つい先ほど、オリョール海へと遠征に出ていた潜水艦が帰ってきたところです。その報告書を受け取っておりました』

 提督『大多数の艦娘は、年末年始には出撃しませんが……潜水艦の子らは、そういった時間にも資材調達のため頑張ってくれています』

 提督『本人たちには、身体を壊さない程度にやれと言ってはいますが……いやはや、指示している身として頭の下がるお話ですね』


龍田「へぇ…………潜水艦の子たちもたいへんなのねぇ…………」

天龍「(びくっ)」

阿武隈「(龍田さんの目がわらってないですぅ……)」

鬼怒「(いや、“嗤ってる”でしょ )」

由良「(あの人、なにかと潜水艦の子たちに突っかかるからね…………)」


 提督『その潜水艦の子たちですが、現在わたくしの真後ろで、楽しげに見学しております』

 提督『本来、見学は禁止なのですが――水着を着たまま、乾いた鎮守府の廊下を歩かせるのは少々気の毒でしたので。このようにいたしました』

 提督『まるで授業参観の日を思い出します。あのときの緊張感、いまでも忘れられるものではありません』

 提督『……えー、出鼻を挫かれましたが、いよいよみなさんお待ちかね!』


 提督『――――雫も凍る、こんな夜。爪先に灯す、小さな種火』


 提督『“ちんじふ裏らじお”、はじまります!』



141: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:22:01.61 ID:HcHECrivo

 提督『さて、本日が二度目となりますこの放送、“ちんじふ裏らじお”』

 提督『初速はまずまず。ですが今後、これからの加速も大事です! タービン周りもしっかり整備して、誰よりも速い電波になりましょう!』

 提督『第二回、40ノットをも超える、韋駄天の放送を制御してくださるのは、このお方!』

 提督『伊400型潜水艦の二番艦。鎮守府イチの潜り名人! ――――伊401先生です!』

 しおい『みんなー! ごきげんよう! 潜特型の二番艦、伊! 401です!』

 しおい『知ってる人も知らない人も、みんな気軽に、“しおい”って呼んでねっ』

 提督『――はい、この通り。しおい先生です! ……知らない人のために、彼女のことをかるーく説明しておきますね』


 提督『暗き海の底へと沈んで、音もなく忍び寄り――足元から銃弾のような魚雷をぶちカマす、潜水艦!』

 提督『まさに、“海のスナイパー”と称される彼女たちですが――彼女はそのなかでも、とくに潜り上手!』

 提督『なんと彼女、つい先ほどまで、うちの鎮守府の近隣を泳いでいたというのです!
    風も強く、波も高い――この極寒のなか、悠然と、です! もちろん、艦娘の艤装には体温アシスト機能も付いてはいるんですが――』

 提督『この冷たさのなかだと、どうしても冷気が肌を突き抜けてくるのです。
    ですが彼女は、寒がるどころか――気持ちいいとまで言ってのける。そんな“潜りの達人”なのです!』

 しおい『……えへ、なんだかちょっと、照れちゃうね。
     でも、こんな時期にしか見れないお魚さんたちもいるし、その子たちと一緒に泳ぐのはすっごく楽しいよ!』


 提督『……頼もしいお言葉です。
    彼女らのような潜水艦が、我らの海域のなかを巡回しているとあれば、深海棲艦も恐ろしくて近寄って来れないでしょう』

 提督『そんな頼もしい彼女ですが、実はさらに! ――ほかの潜水艦の子らとはまた違う、特殊な装備があるんです!』

 提督『その名も“晴嵐”!』

 しおい『晴嵐さん!』
 
 提督『見上げる敵の真上からの急降下爆撃――さらには航空魚雷による雷撃』

 提督『世界中でも、水上爆撃・雷撃を兼ね備えた機種自体は存在しているんですが――こと“晴嵐”に限っては、そういった機種とは一線を画しています!』

 提督『その名の由来は、隠密からの奇襲――“霞から、突然現れる忍びのごとく”、です。
    まさに晴れの日の、突然の嵐。いままでにも何度か、その光景を拝んだことがあります』

 提督『足元に食いついてくる潜水艦が、航空戦をも担ってみせる――。深海棲艦からすれば、これほど恐ろしいことはないでしょう』



142: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:22:39.96 ID:HcHECrivo


 提督『……こんな感じでしょうか。ここだけ切ってとると、まるで彼女が、天地揺るがす悪魔のように聞こえますが――そんなことはない』

 しおい『ん、んっ?』

 提督『等身大の彼女はこんなにも愛らしく、純粋無垢なのです! ああ、映像でお届けできないのがニクい!』ナデナデ

 しおい『んっ!? んー…………あふぅ』


伊勢「…………あの人って、あっちが素なの?」

榛名「ど、どうなんでしょうか……掴みどころのない、雲のようなかたですし」

金剛「ジャパニーズ・トーヘンボクっていうのかナー?」

霧島「うーん……、唐変木というよりかは、知っててベタベタしている感じもしますが……」

長門「なんだ、軟派男だったのか?」

比叡「ナンパともまた違うんですけどね。……ちょっと、難しい人なんです」

日向「…………提督を心配するのはいいが、その、なんだ……親戚のオバさんみたいだな」

金剛「」


143: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:23:41.31 ID:HcHECrivo


 しおい『んふふ――あっ、そうだ提督! おみやげがあるの忘れてたっ!』

 しおい『えと…………あった、はいこれ!』

 提督『お、ありがとう。――――これは、ヒトデ?』

 しおい『そう、ヒトデ! 潜ってたらね、綺麗な色だったから、つい持って帰ってきちゃいました!』

 しおい『それに、とっても柔らかいし――こうしてぷにぷにすると、びくびく動いてかわいいんですよ!』

 提督『たしかに、爽やかな色合いでいいな、このヒトデ。…………しおいはいい子だなぁ』

 提督『これで水槽展示室にいるヒトデたちも寂しくないだろう。しおい、サンキューな』


ゴーヤ「(水槽展示室? そんなのあったの?)」

はっちゃん「(ええ、専用のお部屋がありますよ。艦娘のみなさんが、あまりにもたくさん連れて帰るものだから設けたんです)」

はっちゃん「(いまだとペンギンとか、イルカとかもいますし……その様子は、さながら水族館のようですよ)」

イク「(イクはあそこ大好きなのね! 壁ぜんぶが水槽になってるし、水槽の奥が見えないほど広いのね!)」

ゴーヤ「(え、でもそういう動物って……保護法とか大丈夫なの?)」

はっちゃん「(ええ、そういった諸々は問題ありません。直にイルカと触れ合ったりもできますし、駆逐艦の子たちに大人気なんですよ)」

ゴーヤ「(へええ…………今度、まるゆちゃんも誘ってみんなで一緒に行くでち!)」



144: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:24:25.53 ID:HcHECrivo

 提督『そういやしおいとは、もうそれなりの付き合いになるな。いつからだったか……たしか、一昨年のクリスマスくらいから、か?』

 しおい『そうだね! あのときはイオナちゃんたちとか――』

 提督『しおい』

 しおい『わわっ! ――えっと、えっと……』

 提督『えー……海外の、特殊部隊の人たちと共闘したんだよな。実験的な兵装とかもたくさん積んであって、得られるものも多かった』

 提督『そのときにいただいたぬいぐるみ、まだ鎮守府に飾ってあるんですよ。いつかまた、会えるときが来ればいいですね』


ゴーヤ「(あ、やっぱり秘密なんだ。“霧の艦隊”)」

はっちゃん「(ja。さすがに、異世界の艦隊なんて言い出してはスケールが大きくなってしまいますから)」

イク「(また戻ってきてほしいのね! イオナちゃんがずうっといれば、オリョクルなんて行かなくて済んだのかもしれないのね!)」

はっちゃん「(……逆に、消費資材量を考えれば、むしろオリョクルの機会は増えそうな気がしますが)」

イク「(じゃあいいのね!)」

ゴーヤ「(薄情すぎでち……)」


145: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:25:11.30 ID:HcHECrivo

 提督『さ、時間も押していることですし、雑談もほどほどにいたしまして……』

 提督『――――なんですか? 有意義な雑談でしたね。非常に有意義でした。むしろ有意義でしかない』

 提督『それではこちらのコーナー入っていきまっしょうこちら!』サッ


 しおい『フリーのお手紙しょーかーい!』


 提督『こちらのコーナーでは、番組視聴者のみなさんからいただいたお便りを紹介させていただいて』

 提督『MCであるわたくし提督と、ゲストの艦娘とでお答えしていくコーナーです!』

 しおい『ズバッと言っちゃうよ!』



146: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:26:13.87 ID:HcHECrivo

 提督『へへ、覚悟してらっしゃい! それではさっそく一つ目のお便りに入りましょう!』

 しおい『しおいが読むんだよね? わかった! えっと……“提督さん、おはようございます”』

 提督『お、朝に書いたのかな? おはようございます!』


 “昨日今日と、二日連続のラジオ配信、お疲れ様です。楽しんで聴かせていただいております”

 “提督さんのところには、わたしの娘も含んだ、数多くの子どもたちが健やかに生活していると思いますが……”

 “どうでしょうか。なにか、提督さんにご迷惑などをおかけしていないでしょうか?”

 “海の上をはしっているとはいえ、まだまだ子ども。とくに、多感な時期にある子どもの相手なんかは大変だと思います”

 “わたしの娘も、華よ蝶よと愛情を注いでいたはずが――どういうわけか、気の強い子に育ってしまいまして”


『ふーん、なによ。ただの子育て相談? そんなの司令官個人に宛てればいいじゃない』 『まあまあ、そんなことおっしゃらずに……』


 “決してそんな子に育って残念、というわけではありません。むしろ、確固たる自分を持っていると、安心しています”

 “あの子は、いつも他人に強く当たってしまいがちですが、決して相手が憎いわけではないのです”

 “ただ、自分の感情をうまく表現できないから、強く当たってしまうだけなのです”


『知らないわよそんなの。勝手にしてなさいよ』 『おっ、叢雲はヤケに噛み付くなぁ』
  『だってそうでしょ? 感情表現が下手で強く当たっちゃうとか、そんなの子どもじゃないんだから』 『まだまだ子どもだけどね、わたしたち』


 “決して、あの子を苦手に思わないように、ほかの子たちに言って聞かせてくれませんか”

 “あの子のことを、勘違いしないであげて…………と”


『はっ、勘違いされたら結局そいつが悪いのよ。なんでわたしたちがそんなのを相手にしなくっちゃいけないわけ?』
  『だいたいなんなのよこのお便り。こんなの出された子がかわいそ――』


 しおい『ていとくー、これなんて読むのー? ――わかった、ありがとう!』

 しおい『えっと、以上! ラジオネーム、“あめのむらくも”さんからのお便りだよ!』


『――――』 『あっ、叢雲が逃げたぞ! 追え!』 『ふふっ、待って叢雲ちゃーん!』 『くんなー!!』


147: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:27:14.39 ID:HcHECrivo

 提督『えー…………。たしかに一部、気の強い駆逐艦の子がいますね』

 しおい『提督ってば、いつも追い掛け回されてるもんねー』

 提督『ああ、子どものハッスルに振り回されるのはちょっと身体がもたないが……精神面は、そうでもないですよ』

 提督『普段キツく当たってくる子たちも、不甲斐ない俺のことを想って叱咤してくれているんでしょうし』

 提督『好きの反対は無関心、とはよく言ったもので。本当になんの感情も持っていない相手には、そんな言葉を吐いてはくれないでしょうし……』

 提督『むしろ、言われるたびに嬉しくなっちゃいますね。ああ、この子はこんなにも俺のことを想ってくれているんだ――と』


 『うっわ、あのクズ提督、変 だったんだ』 『キモいわね。死ねばいいのにあんなクソ提督』 『かーらーのー!?』 『漣は黙ってなさい!』


 しおい『えー! しおいはなんかヤだなぁ、提督が怒られてるの。提督は悪いことなんて一つもやってないのに!』

 提督『いやいや、強く言ってくる子たちも、決して俺のことを悪く思って言ってきてるわけじゃないんだ。
    ただ、もっと俺に良くなってもらおうと、その子たちなりに激励――応援してくれてるってわけ』

 提督『しおいもわかるだろ? いむやとか、ごーやとか……そういうやつらに、こうしたらもっと良くなるのになぁ。って思ったら、すぐ助言するだろ?』

 しおい『……あー! そういう感じなんだね!』

 提督『そ。そういう感じ。この世界、ひとりがミスすれば……みんなに責任が返ってくる世界だ』

 提督『――“だれかのいのち”、という形でな。だから、厳しく言ってくるのは、誰も死なせたくないっていう優しさの裏返しからなんだよ』


 『――――ふぐぅっ』 『あっ……叢雲ちゃん、だいじょうぶ?』 『う、うん。ちょっとつまづいただけ……』
   『はあ……まじ、勘違いとかありえないんだけど』 『変 のうえに勘違い野郎だなんてね。最悪だわ』


 しおい『そうなんだ! じゃあ、霞ちゃんとか曙ちゃんとかは、きっと誰よりも優しいんだろうね!
     しおい、ちょっと勘違いしちゃってたかも……ごめんね! 霞ちゃん、曙ちゃん! それと叢雲ちゃんも!!』

 提督『…………ああ、そうだろうな!』


 『ツンギレ三銃士も、純真ガールの前では無力か……』 『ククク……ツンギレ軍団がやられたか。やつらはデレ勢のなかでも最弱』
   『うっさいそこ二人!!』 『その口塞いであげましょうか!?』 『素直じゃないっぴょん』 『ニヤニヤすんなクソ死ねっ!』



148: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:28:00.00 ID:HcHECrivo



 提督『なので、“あめのむらくも”さんも、どなたかの親御さんかは存じませんが……ご安心ください。
    わたくしどもは決して、その子のこころを見誤ったりはしません。ずっと付き合っていく相手ですから、大切に扱います』

 提督『安心して、お子さんのご活躍の報せをお待ちください。誰かを叱咤してくれるような子は、ひと一倍強い子ですから』

 しおい『もういいの? ――“あめのむらくも”さん、ありがとっ! また今度、お手紙くださいね!』


 提督『しかし、“あめのむらくも”さんかあ……あめ、という言葉は“天”を指す言葉でもあるが――しおいは知ってたか?』

 しおい『へー、そうだったんだ! じゃあ、むらくもの意味……はちょっとよくわかんないけど、天使みたいな人ってことかな?』

 提督『そうだな。“むらくも”…………おそらく、天から舞い降りた天女のような、そんな子なんだろうな!』

 しおい『おぉー! なんかすっごくカッコいいですね!』


叢雲「…………」プルプル

磯波「あ、あの…………叢雲ちゃん、ケガとかないですか?」

叢雲「…………っそ……」

初雪「え? なんだって?」


叢雲「いっそ…………殺しなさい…………」プルプル




――――

――


149: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:29:18.40 ID:HcHECrivo


 提督『しかし、あれだけやらかしたってのに、みんなよくお便りを送ってくれるなぁ。俺なんかもう冷や汗でビッチョビチョなのに』

 しおい『それはたいへんですね! さっそくいまからどぼーんしましょう!』

 提督『それはまた今度な。……さ、どんどんお便り読んでいこう。時間も限られてるしな』

 しおい『はーい……えっと、これでいいのかな? ――“提督さん、ゲストの艦娘さん、こんばんは!”』

 しおい『こんばんはー! しおいだよ、よろしくね!』


 しおい『ラジオネーム、“id= TR-1”さんからのお便りっ』

 提督『提督です。“TR-1”さん、こんばんは!』


 “艦娘と言えば、いまや国民的にも知られている存在ですね。僕もこの間、観艦式を見に行ったばかりなんです”

 “それで、自分とそんなにかわらない歳の女の子が、何百メートルも離れた的めがけて、正確に射撃を放っているのを見て驚きました”

 “艦隊演習なんかも見させてもらって、すっごく充実した日でした! ……ですが、近くで見れば見るほど、艦娘という存在がわからなくなってしまいました”

 “なんだか違う人種に見えてしまって、艦娘がすごく遠い存在に見えてしまい……護られているのにも関わらず、僕はなんて失礼な人間なんだと思いました”

 “僕は普段、艦娘の艤装を作っている企業に勤めています。そんな僕が、艦娘という存在を、淡く、ぼかしたように見てしまってはいけません”

 “もし良ければ、艦娘のかたがたが普段、どういった生活を営んでいるのか――普段、なにをしているのかを教えていただけないでしょうか?”


 提督『お、企業勤めのかたですか。お疲れ様です』

 提督『艦娘の艤装作り、といえばもちろんあそこだけど――あんまり詮索するのはよしておきましょう』

 提督『つい最近の観艦式といえば、関西地区の鎮守府ですかね。
    あそこの艦娘はみんな、非常に練度も高く、また統率も出来ていて……うちの鎮守府としましても、見習うところがたくさんあります』

 提督『艦娘を遠く感じる、というのはよく聞く話ですね。あくまで、適性のある子が艤装の力を得ているだけで、中身は普通の女の子と変わりませんが――』

 提督『はたから見る分にはわからないものです。同じ姿かたちで、どうしてこうも違うのか…………とね』

 提督『僕もときどき、その姿を見失うことがあります。見失うとは言っても、人間として――ではなく、“女の子”としてなんですけどね、あはは』



150: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:30:05.08 ID:HcHECrivo

 提督『艦娘の日常……それは僕も興味がありますね。艦娘たちがどのようにコンディションを整えているのか――』

 提督『艦隊の総司令官である僕の前ではそんな姿、みんな見せてくれませんから。普段、秘書艦を務めている子も、あまり生活感を見せませんし……』

 提督『今回の質問、僕は管轄外ということでっ』

 提督『しおい先生、ここはひとつバシッと言ってやってくださいっ!』

 しおい『ぅえっ!? し、しおいの!? う、うーん……ふつう、かなぁ……?』

 提督『おいおい、しおいにとっては普通でも、俺や視聴者さんにとっては普通じゃないんだよ。どんな細かいことでもいいから、お答えしてやれ』

 提督『たとえば、この間どこどこへ遊びに行ったとか、どういう遊びをしたとか……。
    そう、年末年始はいつもと違って時間が多いじゃんか? オリョクル以外でやってることとか。なんかないか?』

 提督『日課になってることでもいいし』

 しおい『あ、日課だったら――――』

 提督『海に潜ってる、っていうのはナシな』

 しおい『…………むむむーっ!!』


 しおい『――――ぅあっ、そうそう! 普段って言っていいのかわからないけど……一週間に何回かかな?』

 しおい『金剛さんとか榛名さんとか、ビスマルクさんたちがしおいくらいの子をたっくさん集めて、お勉強会みたいなのを開いてくれてる!』

 しおい『しおいもときどき混ざってるんだけどね! 駆逐艦の子たちとか、一部の軽巡の子たちとかが集まってるんだー!』

 提督『――へえ、それは初耳だな。いったいなんの勉強してるんだ?』



151: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:31:07.86 ID:HcHECrivo

 しおい『えっとね、正しい日本語の使い方とか、外国語とか! あと数学も!』

 提督『…………思いのほかマジメで驚いた。え、なに? 敬語とか、英語とか教えてもらってるってこと?』

 しおい『うん! レーベちゃんとかマックスちゃんも来てて、ときどきドイツ語も教えてくれるんだよ!』

 しおい『金剛さんったらすごいんだよー、もうなに言ってるのか全っ然わからなくって!』

 提督『……それは教えてる意味があるのか?』

 しおい『晴嵐さんと二人でお勉強してるんだよ。晴嵐さんも、勉強になるってすっごい頑張ってるんです!』

 提督『え、晴嵐? 晴嵐って喋んの?』

 しおい『晴嵐さんたちは友達だもーん。もちろん喋ることもあるよ!』

 提督『そうだったのか…………』

 しおい『いくちゃんとかも、必死で辞書にライン引いてるよ! どこに引いてるのかは教えてくれないんだけどね』

 提督『なるほど』


 『つぎからは英語の担当を替えることにしましょう』 『WTF!! I'll,I'll do it right this time...sry,sorry...』 
  『少しは黙っていろ。ここはこのイングリッシュペラペーラなビッグセブーンが……』 『姉さんは座ってなさいね~』


 提督『ふうん、艦娘のみんなも勉強なんてするんだな。――いや、知ってることには知ってたんだが』

 提督『まさか海外の言葉も勉強中とは驚いた。こんな時代だしな、海外旅行なんて行けやしないし……』

 しおい『いつか、たくさんの国の子たちと喋ることになるかもしれないからって言ってたよ!』

 提督『それもそうか。どうだしおい、ついていけてるか?』

 しおい『しおいはばっちしです! もともとしおいはね、故郷にいたころは色んなお勉強を教えてもらってたから!』

 しおい『近所のお兄ちゃんとおじちゃんがね、いろいろ教えてくれてたんだ~』
 
 提督『へえ……ま、考えてみればそれもそうか。いまは艦娘になったとはいえ、昔は一般の子どもだったんだもんな』

 提督『たとえばじゃあ、どんなことを教えてもらってたんだ? 昔って言ったら相当小さなころだろ?』

 しおい『えっとねー、たしか英語だったと思うんだけど――――』








 しおい『“xxxxxxxコールド    ミニマイズ”って』

 提督『ちょっと放送止めて』



152: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:32:37.69 ID:HcHECrivo

しおい「ぅ?」

明石「ははははははい! オオッケーですうううう!!」

提督「ありがとうございます。――――しおい。え、xxxx……なにっ? いまなんて言った?」

しおい「“xxxxxコールド   ――」

提督「わかった! わかったありがとうしおい、頑張ったな!」ギュッ

しおい「んむっ。…………なんですか?」

提督「い、いや…………」


明石「しおいちゃん、ちなみにその言葉、なんて意味の言葉なのか教えてくれない?」

提督「そ、そうだな。あんまり聞かない言葉なもんだから、ちょっと驚いた。悪いなしおい、びっくりさせて」

しおい「あ、そうだったんですか。気にしないで! えっと、たしか寒すぎてなにかが萎んじゃった、みたいなことわざだったような……」

明石「――――“ナニ”が?」

しおい「なんだっけ……ええっと…………。……ごめんなさい、忘れちゃった」シュン

提督「…………そうか! 忘れちゃったならしょうがないな!」ナデナデ

明石「はいっ、しょうがないですよ、しおいちゃん!」ナデリ

しおい「んぅ……?」


提督「(ちょっと待ってください。しおいってそんなに進んでる子だったんですか?)」

明石「(そんなのわかりませんよ! 艦娘になる前のデータは大淀さんの手元に、大切に保管されてるんですから!)」

提督「(え……じゃあ、しおいが昔すっごい遊んでる子で、いまこうやって、わざと天然ぶってるってことも……)」

明石「(しおいちゃんがカマトトぶってるわけないでしょう! それに、昔って言ったらしおいちゃんも小学生くらいですよ!?)」

明石「(たぶん、純真なしおいちゃんに対して下劣なたくらみを持った男が、そこにつけ込もうとしたんでしょう!)」

明石「(なんという卑劣さ――いえ、狡猾さ! まさに変 さんですねっっ)」

提督「(どんだけキレてんだこのひと…………)」



明石「しおいちゃん。とりあえず、そのxxxxxなんとかっていうのは、人には言わないようにしましょうね」

明石「えっと、えー……――宗教的な言葉だから、あんまり人に聞かれちゃまずいお言葉なの。ね、提督?」

提督「――ああ、そうだ。言うなら金剛相手にだけ、な?」

しおい「はい、わかりましたっ!」


153: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:33:24.70 ID:HcHECrivo

 提督『えー、みなさん。度重なるジングルの濫用、心よりお詫び申し上げます』

 提督『ただいまこちらの方で時程の調整がございまして、先ほど完了した次第です。
    あきつ丸風に言うと、先ほど完了した次第であります。――さ、どこまでやったんだっけな』

 しおい『んーっと、金剛さんたちとのお勉強会!』

 提督『それだ! えーっと…………』ガサガサ

 提督『あった。――“TR-1”さん! このように、艦娘のみんなも、一般の子たちと変わらない生活を営んでいるんです!』

 提督『学校に通う、女子学生と同じく――難解な数式に頭を悩ませたり。筆者の思惑を読み取ろうとしたり』

 提督『互いにわからないところを教え合ったり! ……そういう意味で言えば、僕は校長先生ですか? あはは』

 提督『なので、“TR-1”さんも決して見誤らないで下さい、艦娘という少女たちを。
    ――そちらとこちら、互いに協力しあってこの戦乱、乗り越えていきましょう!』サッ

 しおい『手と手を取り合うこと、大切たいせつ、だよ!』

 しおい『“TR-1”さん、ありがとうございました! ――普段やってることかぁ、全然気にしたことなかったなぁ』

 提督『日常はあくまで“日常”だからな。意識して思い返そうとするとなかなか難しいもんだ』

 提督『だけど、常日頃から考えて行動して、意識に深く刻まれるような思い出を築いていきたいもんだな!』


 しおい『たしかに! ――――ねね、提督は普段どういう過ごし方してるんですか?』

 提督『オレェ? 俺はそうだな…………あれ、何してるんだっけな』

 しおい『ふふー、提督だって忘れちゃってるじゃないですか!』

 提督『はは、悪い悪い。自分で言っておきながらとはな…………それじゃ、次のお便り読んでいこうか』



154: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:34:35.84 ID:HcHECrivo

 しおい『えっと、じゃあ次のお手紙――あれ、こんなにたくさん……』ガサガサ

 提督『本当だな。ありがたいことだ……それじゃしおい、その中から一つ、好きなものを手に取るといい』

 しおい『うーんと、うーんっと……――それじゃこれっ!』


 しおい『えと……“id= I-OBQ”さんからのお手紙です!』


 しおい『“わたしの提督さん おひさしぶりです”』

 提督『わ、わたしの? ――“I-OBQ”さん、お久しぶりです! 昔会ったことある人かな?』

 提督『はは、なんか“OBQ”って、おばけみたいでかわいいお名前ですね!』

 しおい『ね、提督! この“id”っていうのはなんなのかな? さっきの人にもついてたんですけど』

 提督『ああ、これはな……ラジオネームを添付されなかったお手紙やメール――つまりは匿名ってことだな』

 提督『そういうのは、ハガキや受信先のIDでお呼びすることになっているんだ。
    あ、ちなみに、この“id”は暗号化されたものですので、個人情報が詰まっている……というわけではないので、ご安心ください』

 提督『あ、失礼。ご安心くださいであります、ぽつーん!』

 しおい『ぽっつーん!』


 『あきつ丸ちゃん、提督にやったらイジられるのね』 『光栄であります!』 『ぽつーん』


 “おひさしぶりです 提督さん 提督さんのご活躍 遠く離れたこの地でも 聞き及んでおります”

 “そちらに勤めている艦娘のみなさまが羨ましえです 艦娘のことを想え艦娘のために行動する”

 “雰囲気の良え職場だと こちらでも非常にうわさになっております”

 “今度 そちらにお邪魔させて――ただこうかと存じます 快く迎えて ただけると幸えでございます”


 しおい『なにこのハガキー! すっごく読みにくいんだよぉ!』

 提督『こら! そういうのは視聴者の前では言うな! たとえどんなに字が汚くても、あちらの言葉を汲み取るんだ!』

 しおい『でも見てよ提督これぇ! ぜんぜん読めないんだよ!』

 提督『おいおい、んなこと言ったって――――わっ、すっげぇ滲んでるじゃんか!』

 しおい『だよね!? もうしおいじゃ読めませんよー……提督、おねがいします~……』

 提督『おいおい…………まあでも、たまにいるんですよ。ハガキを書いてる最中にお水なんかこぼしちゃった人とか』

 提督『――じゃあ、このお葉書、ここからは僕が読み上げさせていただきますね』

 提督『“I-OBQ”さんもご容赦ください』



155: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:35:52.33 ID:HcHECrivo

 提督『えーっと……? なんて読むんだろうか…………』


 “提督さんと仲良くなるためにも 提督さんのことは今のうちによく知っておきた――です”

 “提督さんは もし あだ名で呼ばれるとしたら なんて呼ばれたですか? ぜひともお聞かせくださぃ”


 提督『んー、これは…………俺が、艦娘のみんなにどう呼ばれたいか、ってことかな?』

 しおい『提督が? ――うーん、たしかに提督が提督以外で呼ばれてるの聞いたことないかも、です!』

 しおい『いっつも司令官とか、提督とか…………そんなのばっかりだよね!』

 提督『まあ、腐っても鎮守府の最高司令官だからなあ。そんなやすやすとあだ名で呼ばれちゃ士気に関わるっつーか指揮に関わるっつーか』

 提督『うーんそうだなぁ……あだ名、か。こういうのを自分で考えるのってなんか恥ずかしいよなぁ』

 しおい『提督が呼ばれたいっていうなら、しおいもそれで呼んじゃうよ!』

 提督『はは、ありがとう。――――うーん、でもなぁ…………そう言われても、とっさに出てこないっていうか』

 しおい『あ、それじゃ提督! むかし呼ばれてたあだ名とか、なにかないんですか? 学校に通ってたときのものとか!』

 提督『昔のあだ名、か……うーん、そんなに交友関係が広いわけでもなかったからなぁ。
    一部はいまでも付き合いがあるけど、“提督”としか呼んでくれない関係だし、こっちも気軽に名前で呼べない間柄だしなぁ……』

 提督『榛ちゃんとか霧ちゃんとかは、むかしはよく名前で――――』

 しおい『…………はるちゃん? きりちゃん?』

 提督『あ、ごめん。榛名と霧島のことな? うーん、そうだな…………』


 『――はるちゃん、きりちゃん?』 『き、霧島? 紅茶が切れてしまったので、榛名は酒保へ……』 『あ、待ちなさい榛名! わたしを置いていかないで下さい!』
   『日向っ、霧島ちゃんつかまえて! わたしは榛名ちゃんをおさえるから!』 『まあ、ガッテンだな』



156: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:36:38.45 ID:HcHECrivo

 提督『うーん、そうだな。“親しみを込めて呼んでくれるなら何でもいい”ってことにしとこうかな』

 しおい『えー、なんか普通! もっと面白いのがよかったです!』

 提督『無茶言うなよ……まあ、たとえばだけど。司令官は司令官でも、イントネーションの違いってあるじゃんか』

 しおい『いんとねいしょん?』

 提督『電が言う“司令官さん”、いむやが呼ぶ“司令官”、時津風が叫ぶ“しれぇ”――』

 提督『同じ“司令官”でも、イントネーションの違いによって親しみが出ると思うんだ』

 提督『電がいきなり、凛々しい表情で“司令官、ご命令をどうぞ、なのです”とか言ったら驚くだろ?
    あれ、俺なんか怒らせるようなことしちゃったのかな、って。その日一日そわそわしちゃうと思うんだ』

 しおい『あっ、たしかに! みんな怒ってるときとかは喋り方がカタくなるもんね!』

 提督『そうそう、話し方にさ、その……雰囲気が出るじゃんか?』

 提督『たとえばしおいがさ、いきなり鈴谷みたいに――――』


 提督『“チーッス! 提督さぁ、しおいのマシェリ知らない? マジさぁ、ピンクのマシェリがさぁ~まじハンパないってゆーかぁ”』


 しおい『あっはははははははっ!! 似てる似てるっ!!』

 提督『だろ? 俺、鈴谷のモノマネ超うまいんだよ』


 『すずやそんなバカっぽくないし! そんなこと言ったことないしぃ!!』 『でもいつもマシェリなんでしょう?』 『そうだけどぉ!!』



157: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:38:30.35 ID:HcHECrivo

 提督『そういう意味で、“親しみを込めて”呼んでくれるならなんでもいいぞ。
    さすがにクズ提督とかクソ提督とかはさ、人の目もあるから場所を選んでほしいが……』

 提督『そういや昔、一人だけ“提督”のことを省略して“てっちゃん”って呼んでくるやつがいたなあ。…………もう、ずいぶん前の話になるけどな』

 しおい『おお、てっちゃんかわいい! いいと思います!』

 提督『マジ? あいつセンス狂ってたんじゃなかったのか――ってことで。
    “I-OBQ”さん、親しみを込めていただけるなら、“てっちゃん”でもなんでもいいぞ!』

 提督『見たところ、つぎに配属される子だったり、ほかの鎮守府からいらっしゃるお客さんってところかな?』

 提督『当鎮守府におこしいただいた際には、ぜひ賓客として迎えさせていただきますので。いつでもお待ちしております!』

 しおい『うち来たら一緒に遊ぼうね! いい潜りスポットとか、いい景色のとことか教えてあげるから!』

 しおい『潜水艦の友達みんなで鎮守府、案内してあげます!』


 「待ってるでち!」 「新しいお友達だったら嬉しいのね」 「はっちゃんも楽しみにしています」


 提督『――みんな楽しみに待っているようで。見える日を心待ちにしています』

 しおい『“I-OBQ”ちゃん、ありがとう! でもでも、おばけだったらごーやちゃんが泣いちゃうかもね?』

 提督『はは、たしかに。うちの潜水艦は深く潜るわりには怖いものが苦手だよなぁ』


 「くらいところを知っているからこそ、よくわからない存在なんでち!」 「海の深さよりもくらいところから出てくる存在なら――本当に恐ろしいのね」


 提督『ん。――後ろからきゃいきゃい騒いでくる声、みなさんも聞こえていると思います。
    また今度の機会、ごーやがこのラジオのゲストとして招待されたとき。その海の深さを存分に語っていただきましょう』

 提督『潜水艦娘にしか知りえない、海の神秘――僕も楽しみです。しおいはもう時間ないからこのまま押しちゃうけどね』

 しおい『ざんねん。どうせだったら暗視カメラでも着けて潜っちゃおっか?』

 しおい『いつも行ってるところでいいなら、だけどね!』

 提督『――え、それいいなマジで。艦娘視点での行動の記録や戦闘記録。すっげえ貴重なもんだと思う』

 提督『じゃけぇ、大淀さんに頼んで申請出してもらいましょうね~』

 しおい『ばっちり任せてっ』


158: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:39:25.80 ID:HcHECrivo

 提督『それじゃ、次がフリートーク最後のお便りかな。しおい頼む』

 しおい『はーい! …………それじゃ――これっ!!』


 “提督どの、こんばんは。ご無沙汰しております”

 “今宵は提督さんの御助言を賜りたく、こうしてお手紙にしたためた次第であります”

 “単刀直入に申し上げますと、第二次サーモン海戦――サーモン海域北方の攻略がままなりません”

 “こちらの鎮守府が持つ、最強最大の戦力――大鑑巨砲主義を基本とした、大型艦を投入してさえも、突破なりません”

 “第二次サーモン海戦をもっとも数多く制しているのは、提督どのもご存じ、元帥どのでありますが――”

 “次点で制しているのは、叔父元帥どのが直接指導なさった、提督どの。あなたでありますので。
  よければ、提督どのからの自由な観点で、なにかご指導いただければ、と”


 しおい『――ラジオネーム“id= DT”だって。なんか……提督の頑張りが、ぜーんぶ叔父元帥さんのものになってる気がして気に食わない』

 しおい『提督がすごいのは、提督のちから! 元帥さんの指導は、あくまでキッカケなんだから!』

 提督『こら、しおい。滅多なことを言うんじゃない』

 提督『しおいがそう言ってくれるのはありがたいが、やっぱりこの歳で戦功を積み立てられたのは、あの元帥どののご尽力のおかげだ』

 提督『俺の大きな戦功の大半は、たしかに叔父元帥どのの副官として務めていたころのものだからな。
    ここの鎮守府を任されるようになってからは、さほど大きな武勲は挙げられていないし』

 しおい『でも…………』

 提督『――ん。そう言ってくれるだけでありがたいよ』ナデリ

 しおい『んぅぅ……~~っ』

 

159: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:40:04.12 ID:HcHECrivo

 提督『――さて、サーモン海域北方――と言いますと、おそらく5-5エリアのことかと思います』


しおい「(5-5エリア、って?)」

明石「(交戦範囲に指定される海域は非常に多いですから。ひとつひとつ名前で呼んだら混濁する可能性がありますので――)」

明石「(便宜上、番号を割り振って呼ぶことにしているんです。たとえばそうですね……)」

明石「(それぞれの鎮守府からの、最寄りの海域は第一海域。
    その中で、近くから遠く――強力な深海棲艦の出現率がより高い場所ですね――に、1から4まで番号をふるんです)」

しおい「(うーん、じゃあ鎮守府の近くで、はじめて空母ヲ級が出てきたところ……は、1-4ってこと?)」

明石「(お、さすがしおいちゃん! その通りです。この1-4っていうのは、南西諸島防衛線のことを指すんですけどね)」

明石「(南西諸島、というと第二海域のことをも指しますから、ちょっとややこしくなっちゃうので数字で……ってことです)」

しおい「(なるほど! それならたしかにわかりやすいかも! わたしたちだと、潜ってるからどこからどこまでだか、わかりにくいときもあるし……)」


160: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:41:56.74 ID:HcHECrivo

 提督『――さて、“DT”さんは大艦巨砲主義、ということですから。おそらく大型戦艦四隻、大型空母二隻で挑まれているのではと思います』

 提督『その大艦巨砲主義編成――すみません、言いにくいので、大鑑編成で。
    大艦編成ですと、脆く狙われやすい航空母艦の艦娘を減らすことで、敵の機動部隊に接触するまでの被撃率を下げられる、というのと――』

 提督『敵の機動部隊との交戦。夜戦にまでもつれ込んだときの、殴り合いがメインとされているでしょう。ですが――』

 提督『立ちはだかる壁、戦艦レ級。――――ですよね?』

 提督『彼女の正体はいまだ解明されていませんが、鋭利な雷撃、豊富な艦載機、強烈な砲撃――どれを取っても超一級品です』

 提督『正直、我々の現在の技術では、彼女とまともに戦うことはおそらく不可能でしょう。
    何度もなんども繰り返し叩いて、艦隊総員で執拗に狙う――そうでもしないと、おそらく倒せない敵』


 『……ふん、次に相見えるときは、この武蔵が引導を渡してやる。――二度と現れぬようにな』 『ぜひ、大和にも噛ませてくださいね』


 提督『奇妙なことに、彼女はどんな海戦にも現れず、かの海域に鎮座していますが――まあ、これは置いておきましょう』

 提督『“DT”さんの大艦編成ですと、そのレ級と正面切ってぶつかることとなります。
    もちろん、進化した“弾着観測射撃”によって、その他の敵の脅威は薄まりましたが――――』

 提督『どうでしょう。ここはひとつ、視点を変えてみてはいかがでしょうか?』

 提督『レ級は脅威、確かにその通りです。ですが彼女はかの海域から出てこない――。
    となれば、レ級を上手にかわすこと。これが勝利のカギではないかと思われます』

 提督『敵の本隊をつぶせば、レ級もどこかへ消える――。ならば、レ級はこの際相手にせず、敵の本隊を優先的に叩きたいところです』


しおい「(どうしよう。すっごく真面目な雰囲気…………)」

明石「(提督はあれで考え込むタイプですから。一度語り出したら止まりませんし、あんまり熱中していたらこちらから止めてあげましょうね」

 

161: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:43:31.36 ID:HcHECrivo

 提督『一度視点を変えてみて、大型艦を減らしてみてはいかがですか? 大型戦艦二隻、高速の戦艦を一隻』

 提督『それと――潜水艦、三隻』

 提督『こちらの編成で挑まれますと、制空権を明け渡すことになります――。
    したがって、弾着観測射撃は不可能となります。戦線が一時的に麻痺する、夜戦を頼みに挑む編成ですね』

 提督『砲撃戦では役に立たない潜水艦を、なぜ入れるのかと言うと……“DT”さんも、すでにお気づきではないでしょうか?』

 提督『深海棲艦の性(さが)。習性――“潜水艦を攻撃できる艦種は、すべて潜水艦を狙う”ということに』

 提督『おそらく彼らは、許せないのかもしれませんね。自分たちが棲む海の深くに、突入してくる潜水艦が』


 『……勝手でち。もともと海は、ごーやたちのものだったのに』 『おいたには、おしおきが必要――ですね』


 提督『戦艦レ級は、区分上は“航空戦艦”です。もちろん、規格違いの能力や、雷巡のような飽和雷撃も行いますが――潜水艦に、攻撃できる者です』

 提督『もちろんこの手は、信頼できる潜水艦と、練度の高い戦艦の艦娘でなければ実行不可能です。
    この海域自体、生半可な艦娘では到達できない地域ではありますが――――』

 提督『この戦法は、鍛錬を極めた艦娘にのみ実行が可能な戦い方です。
    もし、未熟なものを連れていけば――レ級の餌食となって、暗き海の底へと沈んでいくこととなりましょう』


 提督『艤装に、直撃を一度までなら耐えられる“大破ガード”という装甲がついていても。
    もしかすると、レ級の猛攻に艤装が耐えられず、その装甲が貫かれ、一撃で沈むことになるかもしれない』

 提督『そういった信頼できる艦娘がいるなら――、一考の価値がある戦法なのはないでしょうか』

 提督『事実、前回の5-5海域を担当した僕は、その編成で海域を突破しましたしね』


 しおい『え、そうだったの!? はっちゃん、知ってた?』


 「Nein. はっちゃんにはお呼びがかかりませんでした……まだまだ、ということなのでしょう」


 提督『そうだな。指名したのは伊168、伊58、伊19の三人――潜水艦組のなかでも、とくに古い三人たちだ』


 「あのときは、本当に死ぬかと思ったのね」 「二度とあんな海域には潜りたくないでち」


 提督『僕は指揮艦艇に乗り込んで、一部始終を見ていましたが……。
    レ級が放つ大量の追跡魚雷をひきつけ、ドッグファイトを行う潜水艦娘どもの姿は、さすがに“クる”ものがありました』

 提督『――ああ、うちの潜水艦娘は、なんて頼もしいのかと。なんという素晴らしい仲間に支えられて、ここまで来れたのかと』

 提督『潜水艦娘の尽力もあり、レ級の勢力圏を一時的に抜けることが可能になりましたから。……いやはや、いまでも鮮明に思い出せます』


 「な、なんかちょっと照れるでち。やめるでち!」 「最近は褒め殺しに以降したの!? やめろなの!! いろいろむずむずするの!!」



162: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:44:50.15 ID:HcHECrivo

 提督『ただ、気候や天候、現れる深海棲艦の種類によって異なるので。一概にこれが最適解、とは言えません』

 提督『“DT”さんも、艦娘を死なせない程度に試行錯誤して挑まれるとよいでしょう。僕がこんなことを言っていいのかわかりませんがね……』


 しおい『…………えっと、提督? ちょっと質問していーい?』

 提督『ん、なんだ?』

 しおい『えと……提督はいつも、一か月に一回? だけ行ったりするじゃないですか。その、5-5もそうだし』

 提督『ああ、EO(エクストラ・オペレーション)海域のことな』

 しおい『そうそう! そのEO海域、なんで一か月に一回だけなの? それに出てくる敵も、みーんな強い敵ばっかりだし……』

 しおい『そんなに強い敵がいるなら、一か月に一回じゃ足りないんじゃないかなって思うんですけど』


 提督『んー。そこは俺もよくわかっていないんだけどな。なんでも――』

 提督『月に一回、その海域には“特殊”な深海棲艦が現れるんだ。補給艦なんだけどな?
    その、“普通とは違う補給艦”には、深海棲艦の情報がたくさんつまっているんだ。中の輸送物資なんかはそうだし、まず機構がほかの補給艦とは違う』

 しおい『ちがう補給艦?』

 提督『そう。それで、強力な深海棲艦は、その補給艦を護衛するために現れるんだ。レ級に関してはよくわかないが……』

 提督『それで、その補給艦の撃破、残骸回収や……可能であれば鹵獲、が鎮守府の最優先目標なんだ。
    鹵獲出来るに越したことはないが、護衛艦隊が強すぎて撃破だけ、というのが現実的な目標になってるんだけどな』

 提督『その補給艦は深海棲艦にとっても重要な存在らしくてな。激しい抵抗に遭うのはしおいも知ってる通りだと思うが』

 提督『その補給艦を一隻落とすごとに、大本営の方から“戦功の証明”として“勲章”が授与されるんだ。
    この勲章がたくさんあればあるほど、地位の証明になるから。多少の無茶な艤装改装だって、企業に依頼することも出来るようになるんだぞ』

 しおい『へえ! ……えーっと。それじゃ、ビスマルクさんとかの改装もそれなの?』

 提督『そうだな。この状況のなか、改装を海外企業に依頼するのは至難の業でな……勲章がたくさんないと、大型護衛艦隊を組めないんだ』

 しおい『おぉぉ~……よくわかりませんけど、提督って実はすっごくすごい人だったんですね!』

 提督『そうだぞ? だからみんな、クソクソ言わないようにしろよ』


 『うっざ! なんでことあるごとにこっち言ってくんのよ!』 『ちっさい男なんだから! そんなんじゃみんなついていかないわよ!』
   『でも二人は~?』 『うるっさいホント黙ってなさいっ!!』


163: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:45:52.09 ID:HcHECrivo

 提督『さっ、フリーのお便り紹介のコーナーはここまで! 一度、ちょっとしたコマーシャルとなります!』

 しおい『みんなここまで聴いてくれてありがとう! 後半もよろしくねっ!』

 提督『それじゃコマーシャル入ります。――――きゅーそくせんこー!』

 しおい『どっぼーん!!』


  ――ちゃらら~ ぐんぞう~


明石「はい、ジングルからCM入ります。――ふぅ、なんとか立ち行きそうですね」

提督「いやもうホント、助かりました。……しかしけっこう、自分に対するお葉書も来てるんですね」ペラペラ

ゴーヤ「ごーやたちも後ろでこっそり読んでたけど、提督向けのお葉書も多いでち!」

はっちゃん「若いお方ですから、みんな気にされているのでしょうね」

イク「何枚か、だれかの親から届いてたハガキとかもあったの! さすがにそれは見なかったけど…………」

提督「お、偉いぞ。お前らもようやくそういうのがわかってきたか」


明石「……えと、実はそこにあるお葉書が全部じゃなくって、ですね…………こちら、なんかもっ」ドサッ

提督「」ダンボール

しおい「うっわぁ、すごいたっくさんあるね! これ全部、このラジオ宛ての!?」

イク「うわぁ……ギッシリなのね…………」

ゴーヤ「なんかもう…………いっぱいでち…………」

はっちゃん「このなかから、少ししか紹介されないのですか……すこし、気の毒な感じもしますね」

明石「まあ、仕方ないことですけどね。――コーナーでも増やせば、また話は変わるかもしれませんけど」

提督「たしかにコーナーが二つしかないっていうのも、あんまりラジオっぽくないですもんねぇ……。
   かといっていいコーナーがすぐに思い浮かぶわけでもないですし。困ったものです」

明石「まあ、そのへんはおいおい考えていくことにしましょう。……コーナーを増やせるほど、視聴者が多いとも限りませんしね」

イク「え? でも、このお葉書とか…………」

はっちゃん「ぜんぶ同一人物が出しているかもしれませんよ」

ゴーヤ「ひぃっ!」


――――

――


164: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:47:35.22 ID:HcHECrivo



伊勢「――――さて。はるちゃん、きりちゃん。なにか言いたいことはあるかな?」

榛名「…………」セイザ

霧島「…………」セイザ

日向「まあ、そう黙るな」


扶桑「金剛さんは、あちらには参加されないんですか……?」

金剛「イエース。わたしとヒエーはもう知ってるデース」

比叡「まあ、さすがにもう慣れましたからね」

山城「…………あなたたちも大変だったのね。もっとお気楽なものだと思っていました」

金剛「あのテートクの周りでお気楽だったことがないネー。ある種の緊張感が常にあったデース」


長門「なんだ陸奥、わたしでは英語教師に足らないとでも言いたいのか?」

陸奥「いや、そういうわけじゃないんだけど……。姉さん、英語喋れたっけ?」

長門「当たり前だろう! ビッグセブンともなると、そういった教養も求められるものだ」

長門「お前もそのままではいかんぞ。ビッグセブンでいたいなら、常に自己研鑚の日々に明け暮れることだ!」

陸奥「いや、それはいいんだけど…………」

長門「なんせわたしは、あの金剛が直々に教えをつけてくれたからな。もうネイティヴといっても過言ではないだろう」

陸奥「あら、そうなの? ちょっと一回、英語で自己紹介してくれない?」

長門「任せろ! 聞いて驚くなよ!」


長門「ハロー! マイネームイズ、ナガート!」

陸奥「ふんふん」

長門「アイアムビッグセブーン!」

陸奥「あーうん」

長門「オウ! xxxxユーアーハン!?」

陸奥「…………」

長門「あいるxxxxゆーあっぷ!」

陸奥「わかった、わかったからもうやめて。悲しくなる…………」

長門「な、なんだ? いつになく悲しそうな顔をしてるではないか」

陸奥「わかったから。もう姉さんは、あの脳内フレンチクルーラーの言うことは真に受けちゃだめ。ぜったいだめ」

長門「う、うむ?」

陸奥「普段はしっかりした人なのに、どうしてかしら……仲間への信頼から、無条件に信じてしまうのかしら……」



165: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:50:08.23 ID:HcHECrivo



イムヤ「ふわあ~……ぁ。んんんーっ…………」ノビー

イムヤ「――――はぁ、つっかれた。さすがにこれだけの広さとなると一苦労ね…………」


イムヤ「(しおいは燃料をひっくり返したって言ったけど、べつにそこまででもなかったわね。入口からプールまで点々と零れてただけじゃないの)」

イムヤ「(…………それにしても、変なにおいね。燃料の匂いと言われれば確かにそうなんだけど)」

イムヤ「(なんか、あんまり嗅ぎ慣れない香りというか。……不思議と鼻持ちならないというか。べつにそんな、くっさいわけじゃないのに)」


イムヤ「とにもかくにも、プールの掃除終了っと! さ、わたしも着替えて部屋に戻らなくっちゃ――――ふわぁ~……」

イムヤ「ん、んんっ…………」ノビー


イムヤ「(――それにしたって、まさか司令官があんなふうに思っていてくれただなんて。
     オリョクルもそうだし、対レ級戦。わたしたちのこと、ちゃんと見てくれてたんだ……)」

イムヤ「(ああして日の目を浴びること、あんまりないからちょっと嬉しい。見てくれてる人がいるって、あんなに気持ちいいことなんだ)」

イムヤ「(いくがああやって、気を惹こうとするのもわかるなぁ……)」

イムヤ「…………ん。あ、あれ」

イムヤ「(またちょっとキツくなってきた、かな。まだ成長期なのかな? ふふ、司令官はおっきな女の子が好きみたいだから――)」

イムヤ「――ふぅ。いくら機能美に溢れる水着とはいっても、やっぱりこっちの私服の方が暖かいわねぇ。さ、帰り――――」ヌチャ

イムヤ「――――ひやああああっ!?」


イムヤ「な、なんだ燃料か……――燃料? なんで脱衣所に?」

イムヤ「しおいがこぼしたのって、プールの中だけじゃなかったんだ。もお、また掃除しなくっちゃ…………」

イムヤ「(もう私服に着替えちゃったし、このままでいいや。汚さないように気をつけなくっちゃ)」

イムヤ「(――もうっ、頑固な汚れねぇ! 燃料って、こんなに、ふき取りにくいっ、ものだったかなぁ!)」ゴシゴシ

イムヤ「(それに、よーく見るとすっごい落ちてるし! もうしおいったら、おっちょこちょいなんだから!)」

イムヤ「(もぉ、脱衣所のドアにまで……どうやったらこんなところにつくの、よっ!)」ゴシゴシ


 ガチャ


イムヤ「――――はぁぁ~」

イムヤ「(扉を開けたら、廊下にも点々と…………)」

イムヤ「(もうしおいったら。足裏に汚れをつけたまんま、裸足で戻っていったでしょう!)」


イムヤ「(あの子ったら、ホントにおっちょこちょいなんだから……――――ん?)」

イムヤ「(あれ…………わたし、ここに来るまで、こんな汚れ見かけたっけ…………?)」

イムヤ「(たまたま気づかなかっただけ? ――にしては、ずいぶん先まで汚れてる)」

イムヤ「(こんなにたくさんの汚れ、ここに来るまでずっと見落とすって……ありえる?)」


イムヤ「(……ま、いいや。とりあえずこのモップとバケツ持って、拭きながら帰りましょう)」

イムヤ「(あとでしおいにもキッチリ言っとかなくっちゃ。あの子、こういううっかりしたところ直せば、もっといい子になるのに)」

イムヤ「(掃除が終わったら、ちゃんとしおいに伝えてあげなくっちゃ。放送終わって、ここ来たら無駄足だなんてかわいそうだしね)」


イムヤ「さ、もうちょっと頑張りましょうか。――――うぅっ、今日は妙に冷えるわね……」



166: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:51:41.17 ID:HcHECrivo



 提督『さ、時刻はフタヒトマルマルを回りました。時計の針が150°を指したころ』

 提督『小さな駆逐艦の子たちはそろそろおねむでしょうか? まだまだ一人前のレディにはほど遠い。しっかり眠って早くビッグ・レディになってくださいね』

 提督『ここからは大人の時間。ムーディタイムです。――ですが、まだまだ小さな子どもたちも聴いていますので、節度を保った盛り上がりをしましょうね』


 提督『さ、フリーのお便り紹介はとうに終わりました。お次はこちらです!』


 しおい『“きいてよていとく”のコーナー! 略してK・Tー!!』


 提督『はい、ということでこちら、“略してKT”のお時間です。
    迷える子羊を、僕とゲストの艦娘が思い思いの手管手腕で捌いていきますこのコーナー』

 提督『さっそく一頭めのお悩みを解決していきましょう! しおい先生、お願いします!』


 しおい『はいっ、それではラジオネーム、“伊! 401!”さんからのお便りでーす!』

 提督『んっ!?』


 “晴嵐さんを見つめて離さない航空戦艦の人がいます。どうすればいいですか”


 しおい『――――だ、そうです!』

 提督『うおお…………いきなりぶっ込んでくるね、きみ』

 しおい『えへへ……でも、晴嵐さんが困ってるの! まるで野獣みたいな眼光だって言ってて怖がってるんです!』

 提督『そうか、それなら解決せざるをえないな。――ええっと、晴嵐を見つめてくる航空戦艦?』

 提督『すげぇな、オブラートがまったく役に立っていない…………えー、日向さん。やめましょう』


 『なんでそうなるんだ?』 『あなた、アレでバレないとでも思っていたの……』


 提督『妖精さんのコンディションは戦闘にも直接影響します! なので、即刻やめるようお願いしますよ!』

 しおい『晴嵐さんも悩んでるんだからっ。瑞雲ちゃんとは仲良くなってるみたいだけど、その主が怖いって!』


 『まあ、そうなるか…………』 『そうなるわよ』


 しおい『――でも、晴嵐さんに乱暴しないって約束してくれるなら、晴嵐さんを貸してあげてもいいよ!』

 しおい『晴嵐ちゃんも、いろんな人のところで戦った方が楽しいと思うし!』

 提督『…………だ、そうだ。感謝しろよ、日向』


 『おいおい! 悪くはない……悪い気持ちではないぞ! 意味もある!』 『ちょ、急に元気にならないでよ』



167: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:52:20.03 ID:HcHECrivo

 提督『しおい、良かったのか?』

 しおい『うん! 晴嵐さんも、しおいのとこばっかりじゃつまんないだろうし!』

 しおい『それにしおいもね、瑞雲ちゃんと遊んでみたかったし!』

 提督「そうか…………しおいはいい子だなぁ』

 しおい『ん~…………』


 『なんかあの子、やたら撫でられてない?』 『ずるいです』 『ずるいですね』
   『はーいキリハルはこっちねー』 『切って貼るみたいな名前だな』


 提督『それじゃ、お悩み相談もどんどんやっていきましょうね。えーっと、せっかくなんで今回は僕が選んでみます』

 提督『しおい、さっきのダンボール持ってきてくれないか』

 しおい『さっきの? わっかりました! 明石さん、ちょっと手を貸してー!』


168: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:53:33.06 ID:HcHECrivo

 しおい『提督お待たせしましたー! これぜんぶ紙なのに、すっごく重たいんですね!』

 提督『お、来た来た……いやみなさん。実はですねこの番組、応援やお悩み相談のお便りがたくさん来ているんですよ~』

 提督『大きなダンボール一つに入りきらないくらいの量でね。二回目だというのに、もう本っ当にありがとうございます。励みになります』

 提督『せっかくなんで、このダンボールから一つ選んでみようかと。…………それじゃ、これだっ!』

 提督『……本当に軽いなぁ。この軽さが積み重なって――この重さになっているんですねぇ。なんだかすごいです』


 提督『それじゃしおい先生、これをお願いします』

 しおい『はいっ! それじゃラジオネーム…………おおっ! すっごいっ!
     ラジオネーム、“id= I-OBQ”さんからのお便りだよ!!』

 提督『うわっ! すっごいな、さっき紹介した人じゃないか? ――あれ、この場合って、連続投稿にあたるんじゃないんですか?』

 提督『…………あ、この場合は問題ない? そうですか、失礼しました。それじゃしおい、頼んだ』

 しおい『なんかすごいね! 運命っていうのかな……――“てっちゃんさん また会えましたね”』

 提督『――――あ? あ、ああ、うん…………?』


 “てっちゃんさん また会えましたね”

 “てっちゃんさんは 輪廻転生というものを信じますか?”

 “みなさんは、亡くなったと思ってたらどこへ向かえば良えのでしょうか”


 提督『…………なんだ? どういうことだ?』

 提督『しかもてっちゃんって、ずいぶん早くレスポンスしてきたなぁ。いままさに聴いていてくれてるのかな?』

 しおい『最後の一文が、ちょっとよくわかんないね…………』

 提督『すみません明石さん、この場合…………はい、はい、了解です』

 提督『えーっと、“I-OBQ”さんすみません!
    こちらの落ち度ですが、質問の意図が上手に理解できなかったので、一部こちらの解釈で回答させていただきますね』


169: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:54:06.50 ID:HcHECrivo

 提督『輪廻転生、ですよね。亡くなった人が生まれかわって、また死する――その“念”は死せず、ということですよね?』

 提督『僕は信じますよ。だって、奇跡的にこの世に生を受けて、精一杯生き続けて――それで亡くなったら無に帰するなんて、寂しいじゃないですか』

 提督『ただ最後の一文、“亡くなったと思ってたらどこへ……”というのは、僕の考え方だとお答えできないですね。
    なぜなら、“亡くなったと思っていたら”というのはおそらく死後の状態ですよね? 死すれば生まれ変わるという僕の考えだと、その状態が想像しづらいです』


 提督『しおいはどうだ、もし自分が死んでしまったら――どうなると思う?』

 しおい『…………そうですね、うーん……しおいは提督とは逆です! 死んでしまったら、きっとべつのところへ行くんだと思います!』

 提督『くらいくらい、水の底のような場所か?』

 しおい『いえ、もっと明るくて――きれいなところです。みんなそこで、わらっているはずです』

 提督『…………そっか、そうだよな。ある意味、ずっと生きて、死んで、またすぐ生きてじゃ疲れちゃうもんな』

 提督『すこしくらい休ませてくれたって罰は当たんないよなぁ』

 しおい『うんっ』


 「――――なら、――――んで――――」


提督「――――?」

提督「しおい、なんか言ったか?」

しおい「えっ? ……ううん?」

提督「じゃあ、いまのはごーやたちか?」

ゴーヤ「――――う? ……ごーや? ごーやたちはなにも言ってないでち!」

イク「ダンボールの中のお葉書読むのに夢中だったのね!」

提督「…………そうか」

提督「(気のせいかな)」




170: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 00:55:32.65 ID:HcHECrivo



イムヤ「はぁ、はぁ…………ようやく、拭き終わったわ…………」


イムヤ「(どんだけ歩き回ったのよ、あの子……何十メートルも、あの燃料がベットリ)」

イムヤ「(それにときどき、転んだのかわからないけど……でっかく汚れてるところがあったし)」

イムヤ「(何かを引きずった跡みたいに、床に擦りつけられた汚れもあった。拭き取りにくいし、ホント勘弁してほしいわよ……)」

イムヤ「(さ、これが最後の汚れかな――うわ、部屋の前までびっしゃり……もう、しおいったら……)」


イムヤ「――――あれ?」


イムヤ「(ここ、しおいじゃなくて、あきつ丸ちゃんの部屋……? しおいったら、あきつ丸ちゃんの部屋に寄り道なんてしてたの!?)」

イムヤ「(それじゃヘタしたら、あきつ丸ちゃんからしおいの部屋まで、この汚れが続いてるってことも……はぁぁ……)」

イムヤ「(ま、愚痴ってても仕方ないよね……とりあえず、あきつ丸ちゃんの部屋の扉、拭かなくっちゃ。いちおう、あきつ丸ちゃんにも伝えておこう)」


イムヤ「(うわっ、ノックする場所ないな……もうべっとりじゃない……仕方ない。もう夜だけど、呼びかけるしかないわね)」


イムヤ「あきつ丸ちゃん、いる?」

イムヤ「…………あきつ丸ちゃーん?」ガチャ




――――

――


171: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 01:00:36.70 ID:HcHECrivo

 提督『“I-OBQ”さん、ありがとうございました! ――しっかし、思ったより早く会えましたね』

 しおい『そうですねー、実際に会うのがたのしみ!』


提督「(俺はちょっと不気味だが。ちょっと変わった人みたいだし、なんかしつこさが既視感あるっていうか…………)」


 提督『さ、しおい先生、つぎのお便りお願いします。まさか次も“I-OBQ”さんじゃないでしょうね』

 しおい『それだったらすっごく面白いんですけどねー……――あっ、提督! いまちょうど届いたメールがあるみたいです!』

 しおい『しおい、これ読んじゃいますね!』

 提督『はは、それだと“I-OBQ”さんの返事である可能性が濃厚になってくるな。身構えておかなくっちゃ』

 しおい『――――あっ、違う人ですよ! ざーんねん……えっと、“id: E”さんからのお手紙だよ!』

 提督『そうですか! いっやぁ残念だなぁウフフ』


 “オリョクル辛いでち なんとかしてほしいでち”


 しおい『――あれ? これって』

 提督『……おいおい。せっかくのお悩み相談なのに、まさか真後ろにいる人からのお便りだとは思いもしませんでしたよ』

 しおい『しおいはお隣でしたよ!』

 提督『しおいは良いんだ。いい子いい子』

 しおい『んにゃっ』


172: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 01:01:36.11 ID:HcHECrivo

 提督『えーっと、“E”さん。たしかに年末年始も出動させているのは申し訳なく感じるのですが、頑張ってください。
    もし本当に苦しければ、すぐにでも僕のところへ言いに来てください。ある程度の融通はいたしますので――って、これさっき執務室で言っただろ!』

 しおい『あ、それしおい知らないです! 初めて聞きました!』

 提督『いやしおいな、ごーやたち、今日執務室に乗り込んできてわーきゃー言い出したんだよ』

 提督『それで俺がな、ちょっと話したんだけど――まったく。懲りないやつだ』

 しおい『まあ、そこがごーやちゃんの魅力でもありますよね! ――あ、まだ続きがありましたね』


 “きょうもまた 燃料たくさんとってきたよ”

 “てっちゃんさん 提督のかわりに ほめてくれる? ぶたない? けらない?”

 “提督 わたしがんばるから ずっといつまでもがんばるから”

 “ごめんなさい”


 提督『…………おい、これシャレになんねえぞ。おいごーや! ちょっとイタズラが過ぎるんじゃないか!?』

 しおい『そうだよごーやちゃん! 提督はそんな乱暴しないんだから!』


「――――がう」

「…………ごーやさん?」


 しおい『…………ごーやちゃん、どうしたの?』


「ちがう」


 提督『…………え?』


「ごーや、こんなの書いてない。しらないよ」

「――――え?」



173: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 01:02:15.29 ID:HcHECrivo



 バババババ


 しおい『あ、あれ、印刷機が故障したのかな? 紙が――――』


 バララララ


 提督『――うわっ! なんだこれ!? 紙が流れ出して止まらねぇ!!』

 提督『明石さん、電源コード引っこ抜いてください! 停止ボタン押しても止まりません!!』


「もう抜いてます! それなのに…………!」


 “ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい”

 “ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい”

 “ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい”

 “ぶたないで けらないで まぶしい いやだよ なんでこんな ともだちだったのに あついよ いたいよ やめて やめて やめて やめて”

 “ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい”

 “ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい”

 “ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい”


 提督『これは――――すみません! 金剛姉妹、扶桑姉妹、それと伊勢日向! すぐに提督執務室へ集合してください!』

 提督『今回の放送はここまでですっ! 後日また説明いたしますので、それではっ!!』

 しおい『みんな、ばいばーい!』


――――

――

174: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 01:03:09.25 ID:HcHECrivo



 バタン


榛名「提督っ!!」


金剛「Emergency! ですカー!?」

提督「お前ら! 助かった、この現象…………!」

比叡「――――なるほど」

扶桑「…………見たところ、本体はここにはいないようです。ただ、限りなく近いところにいるようですね」

山城「ただ少し、厭な感じがしますね…………気配が強いです。さきほどの話、潜水艦ですよね?」

霧島「ええ。ですから念のため、潜水艦の子たちには護衛を付けた方がよろしいかと」

イク「え、え、え、どうなってるのね!?」

はっちゃん「…………」

ゴーヤ「ど、どうなってるでち?」


日向「やれやれ……念のため、日ごろから持ち歩いている甲斐があるというものだ」

伊勢「日向は短刀だから、後方の警戒をお願い。わたしは居合刀だから、前に立つわ」

日向「了解だ」

榛名「この様子だと、本体の方を先に見つけ出す必要がありますね」

金剛「でも、本体と言っても……この鎮守府の中を、こんな時間に探して回るのは至難の業デース」

扶桑「ですが、本体を叩かないことには、ずっとこのままですから…………」


 バタンッ


イムヤ「ししししし、しれっ、司令官っ!!」

提督「うわっ!! …………なんだイムヤか、用ならあとにしてくれ! いまかなり忙しいところだ!」

イムヤ「ちょっとどころの用じゃないのよ!! けほっ……と、とにかく来てっ!!」

提督「な、なんだってんだ今日は…………!」



175: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 01:03:45.03 ID:HcHECrivo





イムヤ「こ、ここっ! あきっ、あきつっあきつ丸ちゃんのへや、部屋にっ!」

提督「…………お前、ゴキブリが出たとかだったらマジで承知しないからな」

イムヤ「もっとデカいわよぉっ!!」


 ガチャリ


提督「あきつ丸、失礼するぞ! さっきからいむやが、この部屋行けいけってうるさくって――――」


あきつ丸「あっ、あふっ! くっ、くすぐったいであります!」

まるゆ「ひゃあっ! あっ、このラジオはだめだもんっ! あきつ丸ちゃんと、まるゆのものだからっ!」

駆逐イ級「…………」 ペロ

あきつ丸「ああっ! せっかく作ったラジオがベトベトであります~~っ!!」


提督「――――」


あきつ丸「あああ、食べちゃだめでありますっ! これはおやつではないのでありますーっ!!」

あきつ丸「だ、だめぇっ……そんな、だめでありますっ……!」

駆逐イ級「…………」ゴソゴソ


提督「伊勢、日向」

伊勢「了解してますよっと。それじゃ日向、そんときは援護よろしく」

日向「ああ、任せておけ」



176: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 01:08:39.41 ID:HcHECrivo



 ガチャ


しおい「提督、みんな、あきつ丸ちゃんの部屋でどうし――」

駆逐イ級「――――!」ガバッ

しおい「きゃっ!」ドタン


提督「しおいっ!! ――――伊勢!!」

伊勢「了解。ま、ちょっと痛い目みてもらうっきゃないわね」


しおい「まっ、待ってっ!」

提督「…………伊401、なぜかばう。そいつは深海棲艦だぞ」

しおい「そうだけどっ! ――この子、今日潜りに行ったときに、偶然見かけて……」

しおい「からだ中ぼろぼろで、砂浜で倒れてたの! いまにも切れそうな虫の息してて…………」

提督「――仕留めそこねたのか。なら、今すぐにでも」

しおい「まって、話を聞いて! ――最初からこの子、敵意なんてなかったの!
    しおいが兵装を向けても、倒れてこっちを見たままで。……なんだかその目が、すっごくかわいそうで」

しおい「それで、手当てしてあげたら…………いままでの駆逐艦とは違って、ウソみたいに懐いてくれたって、いう、か……」

提督「……それは、深海棲艦が、年末年始には沈静化するという性質からだろう」

提督「それに、こいつらには感情はないよ。かわいそうな目に見えても、それはただそういう形をしていただけだ」

しおい「きっと違う!」

駆逐イ級「…………」スンスン


ゴーヤ「……たしかに、沈静化するとは言っても、武器を向けたり、深海棲艦の領域内に入れば攻撃してくるでち」

イク「こっちが武器を構えても見てくるだけ、っていうのは……今までなかったのね」

イムヤ「…………」

はっちゃん「…………」

提督「――手当てした、か。いまはそうでなくても、傷が完治すれば悪鬼と化す可能性もある。
   それにもともと、こいつらは自然治癒能力が高い。手当てしたからといって、恩義を感じるわけもないよ」

提督「騙されるな、潜水艦娘。こいつらは、そういった人の感情につけ込んでくる」

駆逐イ級「…………」


提督「――――伊勢、日向」

伊勢「…………りょーかい」チャキ

日向「まあ、悪いが」ブンッ

しおい「――――っ!!」



177: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 01:09:07.64 ID:HcHECrivo






しおい「…………?」

しおい「て、ていとく…………?」


提督「…………」

駆逐イ級「…………」


提督「…………伊勢、日向。悪かったな。――おろしていいぞ」

日向「……いいのか?」

提督「ああ。――――たしかにこいつは、気に食わない瞳をしていやがる」

提督「ほかの深海棲艦のような、絶望と憎悪に満ちた瞳――ではなく、すべてを諦めた。そんな瞳でいやがる」

提督「俺はそんな瞳は嫌いなんだ。いますぐにでも斬って落としてやりたいが…………」

提督「あいにく、大事なゲストとリスナーが、やめてくれと頼み込んでくるもんでな。命拾いしやがって」

しおい「――――ていとく」



178: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 01:10:17.08 ID:HcHECrivo

提督「伊401、お前はこいつの監視員として、責を果たすことができるか?」

しおい「……っ! うん!!」

提督「うん、じゃなくって、“はい”だ。まったく…………」

提督「ただ、悪いが大本営に話は通させてもらうぞ。それでもし、手を下すことになっても知らん。
   それまでは、身動きの取れないよう縛ったうえ、強化ガラス製の水槽に入ってもらうことにする」

提督「翌日にはもう、大本営からの視察が来るだろう。それまではしおい、お前がしっかり監視しておけ」


提督「…………そうだ、ごーや、いく、お前らペット欲しがってたろ? ちょうどいいからしおいと一緒に見とけ」

ゴーヤ「え゛っ」

イク「思ってたのと違うの~~!!」

駆逐「…………」

イク「う゛っ……こうしてじっくり見ると…………――やっぱりかわいくないのね!!」


提督「はあ、大本営になんて言えば…………伊勢、日向、付き合わせて悪かったな。戻るぞ」

伊勢「おっけー」

日向「…………また会おう、名もなき駆逐艦よ」


提督「…………」

提督「しおい、念のため聞いておくが――その深海棲艦、駆逐イ級なんだよな?」

しおい「え? …………う、うん。ちょっと形が違う気もするけど、たぶんそうだと思います!」

駆逐イ級「…………」

提督「そうか。…………お前、駆逐イ級か」




――――

――


179: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 01:10:55.77 ID:HcHECrivo



明石「あっ、提督…………おかえりなさい」

提督「ああ、ただいま戻りました。榛名、その後はどうだった?」

榛名「提督が出ていってから少しして、パタリとやみました。いったいなんだったんでしょうか……」

比叡「――――まさか、ただの一時的な霊障だったり?」

提督「いや、そうじゃないんだが……。――念のため、お祓いの準備をしていてくれ。簡易的なもので構わん」

霧島「了解しました」


明石「…………一件落着、ですか?」

提督「というより、ひと段落……ですかね。まあ、もうさっきみたいなことは起こらないと思いますよ」

山城「なんだ、人騒がせな幽霊さんもいたものですねぇ…………それじゃわたしたちは、道具を取りに戻りますので」

扶桑「すぐに戻りますから…………」

提督「わかりました。お待ちしてます」

 パタン


180: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 01:11:54.24 ID:HcHECrivo

提督「金剛さんたちも。人払いの必要はないから、気楽にやってくれ」

金剛「Copy that. ……最近多いですネー。年末年始って、そんなに多くなかった気がしするデスがー……」

比叡「やっぱりお盆ですよねぇ。――それじゃお姉さま、準備しませんと」

金剛「オーケー! Heh,heh... テートクには久々に“袴姿”を見せることになりそうデース!」

霧島「鳳翔さんたちで見慣れていそうですけどね」

提督「あーあー、楽しみに待ってますよー」

 パタン


181: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 01:12:24.18 ID:HcHECrivo

明石「……念のため、わたしも機械室の方を見てきます。あっちに本体が置いてありますから……」

提督「あー……もしかしたら、最悪二度と放送できなくなる可能性だってありますからね」

明石「はい。早期対応できればなんとかなるかもしれませんから。――失礼します」

提督「はい、確認の方お願いします」

 パタン




182: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 01:13:17.13 ID:HcHECrivo



提督「…………それじゃ、っと」

榛名「提督? それは、いったいなにを…………?」

提督「ん? これはな……さっきの“E”さん、返事できなかっただろ? だから、こうやって返事を書こうと思ってな」

榛名「なるほど。――――あれ? でも、お便りを出した人の住所ってわからないんじゃ……?」

提督「いいからいいから。ほら榛名、お前も早く着替えてこい」

提督「榛名の袴姿、楽しみに待ってるからさ」

榛名「むっ…………もう、調子のいいことばっかり言って! なんだか誤魔化された気がします!」

提督「まあまあ……」

榛名「それでは榛名も、失礼します! またのちほどっ」

提督「おー、待ってるぞー」

 パタン



183: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 01:16:16.81 ID:HcHECrivo



提督「……まったく、派手に散らかしてくれたもんだなぁ」パサッ

提督「――――“ごめんなさい”、か。
   頑張ってるのはいつも、お前ら艦娘なんだけどなぁ。なにを謝ることがあるんだか」

提督「むしろ、謝るべきはこっちがわだっつの。みんなが前線で戦ってるなか、こっちは後方の指揮艇でひっそりだ」

提督「日ごろの軽い戦闘なんか、むしろ見に行ってすらない。オリョクルだって、そのうちのひとつだ」

提督「そんな、誰も見てないのに、“ごめんなさい”か。自罰的にもほどがあるんじゃねえの?」


提督「――――駆逐イ級、か。お前、なるならカ級だったんじゃねえの?」

提督「…………と、思ったけどお前、最後は“イ級”として沈んだんだったか。はは、誤認されたすえ、“輪廻転生”したあとも間違われてんのかよ」

提督「しかもヌメヌメしてやがるしな! 気の毒なこった。……まあ、お前とは直接面識がなかったけど。お久しぶり、じゃなくて初めまして、じゃないか?」

提督「まったく、今や俺も艦隊の最高司令官だーっていうのに、みんなの前でてっちゃんてっちゃん…………」

提督「それに、うちのしおいに懐きやがって。高くつくぞ?」


提督「ただ、じきにお祓いだ。お前のなかの、邪悪な“念”は、ほどなくして消滅するんだろうな」

提督「お前の生まれ変わりの肉体と、善の“念”はそのまま残ることになるが…………。
   正邪の念、どちらかが欠ければ、もうお前じゃなくなってしまうんだろうな」

提督「まあ、うちに来た以上は…………危害を加えないなら、好きに過ごさせるさ」

提督「そんな姿だと、味方として出撃なんか到底させられん。もし艦隊に組み込んだりして、友軍艦隊に目撃されたら、一発で反逆者扱いだ」

提督「前はクソ忙しかったと聞いたが、今度のお前は退屈に囲まれて死ぬかもしれんな。暇死だ暇死」


提督「“I-OBQ”とか“E”とか、自分でイ級のオバケっつっちゃってどうするよ。なあ?」

提督「偶然の一致かと思ったけどなあ……はああ、しっかしどうするかねえ、あの“イ級”の扱いよお…………」

提督「ヘタしたら俺、気狂い提督として後世に名を遺す可能性も――うわぁ、想像しただけでげんなりしてきた……」

提督「――――ん?」


 “ありがとう てっちゃん”


提督「――――ありがとうもクソもねえよ。どうしてくれんだお前よお」

提督「俺はお前の扱いを仰ぐために、大本営への手紙を書こうとしてるっていうのにさ」

提督「まったく…………」カキカキ


提督「……“大本営へ――うちの鎮守府にイ級が住み着きました。ヌメヌメするわ、生臭いわで困ってます。提督より”」



提督「…………」

提督「…………我ながら、これはないな」